俺が伊吹翼と恋人になってから、長い時間が過ぎた
時には喧嘩して、時にはすれ違って、だけど最後にはお互いに謝って、仲直りして、一緒に笑って
そうやってずっと一緒に過ごしてきた
これはそんな俺と翼の、ある日の話だ
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翼と恋人になって1年が過ぎた頃、俺は一人町にいた
理由は簡単、今日は翼とデートをする日だからだ
…しかし
P「翼、遅いな…」
約束の時間を一時間以上過ぎているのに翼は一向に現れない
P「連絡すら無いのは気になるな」
普段なら遅刻するとしても必ず連絡はあった
しかし今日は一切の連絡は無く、こちらから送ったLINNEにも既読がついてない
…何か、あったのか…?
不安に駆られた俺は翼に電話をかける
しかし、しばらくコールをするも翼は電話に出ない
不安が大きくなり、通話を終了しようとしたその時だった
翼『もしもし…』
ようやく翼と電話が繋がる
P「翼!大丈夫か!?何かあったのか!?」
翼『んう…先輩…大声出さないで…頭痛いです…』
P「す、すまん…頭痛か?酷いのか?」
翼『はい…ちょっと熱、出ちゃいました…』
P「大丈夫なのか?」
翼『うーん…多分…それよりも、デートいけなくてごめんなさい』
P「そんなこと気にするなって、デートなんていつだって行けるんだから」
P「それよりも翼の体の方が大事だ」
翼『ありがとう先輩』
P「あんまり電話してても辛いだろうからそろそろ切るよ、翼、お大事に」
翼『はぁい』
翼との通話を終え、息を吐く
まさか熱を出していたとは
これならデートに来られないのも当然だし、連絡も出来ないだろう
P「…よし」
翼とデートが出来ないのは残念だが、新たにやることが出来た
なので俺は、薬局に向けて歩き出すのだった
P「お邪魔します」
翼から預かった鍵を使って、伊吹家に入る
熱を出した妹をほったらかして出掛けている薄情者の伊吹野郎から今日は家に誰もいないから好きに使っていいと言われている
なので俺はその言葉通り、好きに使わせて貰う事にした
翼の部屋をノックする
…反応は無い、どうやら寝ているようだ
P「入るぞ」
そっと扉を開け、部屋に入る
翼は…
翼「んん…」
…いた
ベッドで眠っているものの、熱のせいか苦しそうだ
体調が悪いのを家族には隠していたのか、誰かが看病した後も無い
なのでなんの処置もされていない、かなり苦しいはずだ
…可愛い妹の体調が悪いのを見抜けないなんて、やっぱり伊吹野郎は駄目だな
P「…」
翼の額に手を当て、熱を計る
P「…ん、結構高いな」
かなり高熱のようで、額がかなり熱い
早速買ってきた熱さまシートを、翼の額に貼る
翼「んっ…」
シートを貼ると冷たさからか、微かに翼が反応した
本来なら薬を飲ませた方が良いんだろうが…流石に寝ているのを起こすのは気が引ける
熱さまシートのおかげか気持ち表情が和らいだ翼の状態を見れば尚更だ
心細げに掛け布団の上に置かれた翼の手を握る
いつもはひんやりとしている手が、熱で熱くなっていた
翼「ん…」
手を握ると同時に、翼の目が僅かに開く
…しまった、起こしたか
目を覚ました翼が、ゆっくりと俺の方を向いた
そしていつもとは違う、弱った笑顔で
翼「あ…やっぱり先輩だぁ」
そう言った
P「やっぱり?」
翼「うん…だって暖かい手を感じたから…すぐに先輩だってわかっちゃいました」
P「そっか…」
翼「お見舞い、来てくれたんですね」
P「ああ、翼が熱を出したなんて聞いたらいても立ってもいられなくなってな」
翼「えへへ…嬉しいなぁ」
はにかむ翼
とびきり可愛い
P「翼、1度薬を飲んだ方が良い、食欲はあるか?」
翼「ん…良くわかんないです」
P「何か食べたいものとかは?」
翼「ステーキ…」
P「本当に食えるなら作ってきてやるぞ」
翼「うん…無理です…あんまり食欲無いかも」
P「簡単にお粥でも作ろうか、台所借りるぞ」
翼「はぁい」
翼の許可を得て台所に降りる
作るとは言ったものの、手元にあるのは所詮はレトルト
大した時間もかからず完成したお粥を手に、俺は翼の元に戻る
P「お待たせ、翼、レトルトで悪いな」
翼「例えレトルトでも、先輩が作ってくれたから絶対美味しいです」
P「翼…」
可愛いことを言ってくれる
P「体、起こせるか?手伝うぞ」
翼の背中に手を回して体を起こせるように支える
翼「ありがとう先輩」
P「食べられそうか?」
翼「えっと…あーんしてくれたら食べられるかも」
P「わかった」
スプーンの一口分に息を吹き、冷ます
P「ほら、あーん」
翼「あーん」
翼「あふい…あふあふ」
P「大丈夫か?」
翼「ん…でも、美味しいです」
P「美味しいって感じられるなら大丈夫だ、すぐに良くなるぞ!ほら、あーん」
翼「あーん」
ゆっくりと時間をかけながら翼にお粥を食べさせていく
そして
翼「ご馳走様でした」
P「お粗末さま、全部食べられたな」
翼「先輩が、あーんしてくれたおかげですね♪」
一旦ここまで
薬を飲ませた後、もう一度翼を寝かせる
P「翼、何か欲しいものは無いか?」
翼「んー、今は思い付かないかも」
P「そうか?まあ俺は今日一日一緒にいてやるから、遠慮なくわがまま言って良いからな」
翼「やったぁ!じゃあじゃあ、デートして、ステーキ食べて、スイーツ食べて~」
ここぞとばかりにわがままを言う翼
P「おいおい、まずは体を治してからだぞ?」
翼「はーい、楽しいデートのために頑張って治しちゃいまーす」
P「それで良い、病は気からって言うしな」
翼「じゃあ、一つだけ、元気が出るわがまま言っても良いですか?」
P「なんだ?」
翼「キス、して欲しいなぁ…だめぇ?」
P「しょうがないな…翼」
翼の頬に手を添え、そっとキスをする
翼「んっ…はぁ」
唇を離すと、翼の口から熱っぽい吐息が漏れる
翼「えへへ…やっぱりキス、好き」
P「俺もだ」
翼「もっとして欲しいなぁ…」
P「仕方ないな」
翼「ん…ちゅ…」
熱に浮かされているのか、翼がいつもより強くキスを求めてくる
翼「本当は今日、誰もいないから寂しかったんです」
翼「でもでも、先輩がこうやってお見舞いに来てくれて、一緒にいてくれるなら風邪も悪くないかも」
翼「なんて、えへへ…」
P「翼」
翼「でもでも、やっぱりわたし、先輩と一緒に元気にデートしたりいちゃいちゃしたいからちゃんと治しますね」
P「ああ、俺も元気な翼が好きだ、いちゃいちゃしたい」
翼「えへへ…」
翼の手を握りながら他愛ない話をしていく
毎日話をしているはずなのに話題は尽きないのだから不思議だ
P「翼は治ったら何処か行きたいところはあるか?」
翼「えっと、海!海行きたいです!」
P「海か、良いな」
翼「ちゃーんと新しい水着着ていきますから楽しみにしててね♪」
P「去年のプールで着てた水着も結構好きなんだけど」
翼「じゃあじゃあ、あれは夏休みにプール行ったときに着ますね」
P「それは楽しみだ」
しばらく翼と話していると薬が効いてきたのか、翼が小さく欠伸をする
P「そろそろ寝るか?」
翼「うん…先輩も一緒に寝る?」
P「とても魅力的な発言だが流石に風邪引いてる間は遠慮しとくよ」
P「一緒に寝たら自分を抑える自信が無いし」
翼「えー、わたし先輩になら襲われても良いよ?」
P「……………………さ、もう寝なさい」
翼「ぶー」
膨れつつも翼は目を閉じる
するとすぐに寝息が聞こえてきた
P「ゆっくりお休み、翼」
起こさないように頭を撫で、俺は翼の手を握る
こうやって誰かの看病をするのも悪くない
小さい頃に熱を出した俺をこのみ姉さんが付きっきりで看病してくれた事を思い出す
翼の手を握ったまま俺はベッドにもたれ掛かり、そのまま目を閉じた
P「ん…?」
ふと目を覚ますと部屋は夕日で染まっていた
時計を確認すると18時30分
翼の部屋に来たのが13時前後、眠ったのが15時位だったはずなので三時間程眠っていたことになるか
P「翼の様子は…」
翼を見るとかなり穏やかな寝顔をしている
熱さまシートを剥がして体温を確認すると、平熱から微熱くらいまで体温が下がったようだ
P「良かった…」
後はもう一度薬を飲んで安静にしていれば明日には完治してるだろう
翼「んん~…暑い…」
寝苦しさに目を覚ました翼が、パジャマの胸元のボタンを外していく
P「ちょっ、翼!」
翼「だって暑いんですもん…すっごく汗掻いてるからべたべたして気持ち悪いし…」
翼「お風呂入りたい」
P「駄目だ、熱があるから風呂は駄目」
翼「でも~」
P「身体くらいなら拭いてやるから」
翼「え?もしかして先輩が拭いてくれるんですか?」
P「ああ」
翼「じゃあじゃあお願いしますね」
P「任せろ」
と、簡単に身体を拭くと言ったものの
P「…むう」
翼の綺麗な背中を前にして、俺は硬直していた
確かに何度も見た背中なのだが、やはり綺麗なのだから仕方ないじゃないか
翼「先輩、まだですか?」
P「あ、ああ、すぐ拭く」
湿らせたタオルで翼の背中に触れる
翼「ひゃっ」
P「大丈夫か?」
翼「ちょっと冷たかっただけだから大丈夫です」
P「続けるぞ」
翼「ん、冷たくて気持ち良い…」
P「ホントはぬるま湯の方が良いんだが」
翼「ぬるいのはやです」
P「知ってるよ」
ある程度背中が拭き終わり、前は翼に任せる
翼は不満そうだったが、結局自分で体を拭いた
翼「ちょっとすっきりしたかも」
P「拭かないよりは断然良い」
翼「ねえねえ先輩」
P「ん?」
翼「今日、泊まってくれるよね?」
P「…ふむ」
確かに明日は休みだし、部屋は伊吹野郎の部屋に泊まれば良いか
P「俺は問題ないけど、伊吹が部屋を使わせてくれるかd」
翼「え?わたしの部屋に泊まるんですよ?」
P「えっ」
一旦ここまで
結局泊まることになった俺は、帰ってきた翼の家族に話を通した
最初は反対されると思ったのだが、翼がお願いしたからか一瞬で許可が降りた
…伊吹家、翼が好きすぎるだろ
…まあ、看病するなら都合が良いのは間違いないんだけど
翼「そういえば先輩がお泊まりするのって初めてですよね?」
P「言われてみればそうかな」
翼が泊まりに来ることはあっても俺が泊まることは無かったはずだ
翼「うー、先輩といちゃいちゃしたいなぁ」
P「治ってから存分にな」
翼「!ねえねえ先輩、早く治す方法ありましたよ」
P「早く治す方法?」
翼「先輩がわたしをぎゅーってしてくれたら早く治るかも」
P「何でまた」
翼「だって、病は気からって言ってたじゃないですか、だからわたしが嬉しくなったら治るのも早くなるかもって」
P「…ふむ」
一理ある
翼「わたし、先輩をギュッてしながら寝たいなぁ…ダメぇ?」
P「わかったわかった、そこまで言うなら一緒に寝ようか」
翼「えへへ、先輩ありがと」
翼のベッドに入って向かい合う
そして翼を抱き寄せた
翼「先輩の胸の中、暖かいなぁ…すっごく落ち着きます」
P「そうか?」
翼「うん」
翼が胸の中で頬擦りしていてくすぐったい
P「さ、そろそろ寝なさい」
翼「はーい」
P「翼」
翼「?」
そっと翼の額にキスをする
翼「あ…」
P「お休み」
翼「えへへ…お休みなさい」
翼を抱き締めながら目を瞑る
少しの静寂の後
俺の意識は途絶えた
…なんだ
頭がボーッとする
そして頬に感じる謎の感触
俺は気怠さを感じながらゆっくりと目を開ける
翼「あ、起きちゃった」
P「ん…翼…?」
少しずつ意識が覚醒していくが、体全体を支配する倦怠感は取れる気がしない
…これは、やらかしたかな
翼「おはようございます、先輩」
P「おはよ…調子はどうだ?」
翼「先輩が看病してくれたからすっかり良くなりました」
P「そりゃ良かった…うん、熱も無さそうだな」
翼の額に手を当てる
ひんやりしていて気持ち良い
P「…」
翼「先輩?固まっちゃってどうしたんですか?」
P「いや…何でもない」
P「翼が治って良かったよ」
翼「えへへ…先輩、快復祝いに早速デート行きましょ!」
翼とデート
行きたいのは山々なのだが…
P「ごめんな翼、今日はちょっと用事があるんだ」
翼「えー!…うーん、用事があるなら仕方ないなぁ」
少し不満そうな翼
しかし今の体調でデートに行こうものなら間違いなく死んでしまうだろう
P「それに快復したといっても病み上がりだから、今日は大人しくしていなさい」
翼「はーい…」
渋々ながらも言うことを聞いてくれる翼
P「よーし良い子だ」
翼の頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細める
とても可愛らしい
翼「ねえねえ先輩、キスしましょ?」
P「ふむ…」
翼の風邪は治ったようだし、キスしても移すことは無い…はずだ
翼「ねえねえ先輩、だめぇ?」
P「良いよ、おいで」
翼「はーい!…んっ」
P「んっ」
唇が触れるだけの、啄むような簡単なキス…ではなく
翼「ちゅ…んっ、れろ」
舌をねじ込むような力強いキスだった
…まずい、熱以外の理由で頭がくらくらしそうだ
くらくらが頂点になったとき、俺は翼から口を離した
体調の悪さがピークになったなこれは
P「はっ…翼」
翼「キス、止めちゃうんですか?」
P「ああ」
翼「えー!昨日デート行けなかったし、もっとキスしましょうよ~」
P「そうしたいのは山々なんだが…悪いな翼、そろそろ限界みたいだ」
翼「限界?」
P「すまん、もう無理…」
そう言って俺は翼のベッドに前のめりに倒れ込んだ
翼「え?せ、先輩?」
倒れた俺を翼が揺する
やばい目が回って視界がぐるぐるする
翼「お、お兄ちゃん!お姉ちゃん!助けて-!」
翼が伊吹と義姉さんを呼ぶ声がする
俺はそれを聞きながら
意識を落とした
目が覚めてから聞いた話だが
俺が風邪で死んでる間翼が看病に来ていたらしい
俺の風邪が治るまで帰ってくるなと言われたと言っていた
流石に俺に風邪を移したことはかなり怒られたんだとか
しょんぼりする翼を慰め、看病してくれた感謝を伝える
それからだろうか、翼が更に甘えたがりになった気がする
まあ、甘えられるのは嬉しいので役得と言ったところか
翼「ねえねえ先輩」
P「ん?どうした?」
翼「もしまたわたしが風邪引いちゃったら、看病してくれますか?」
P「もちろん、俺に風邪が移るとしても、絶対看病に行くぞ」
翼「じゃあじゃあ、風邪が移ったらわたしもぜーったい看病しに行きますね!」
P「ああ、待ってるぞ」
翼「約束の指切りしましょ!」
P「よし」
翼「指切りげんまん、嘘ついたら…」
P「嘘ついたら?」
翼「んー…ちゅっ」
不意に、翼からキスが来る
翼「…凄いこと、しちゃいます」
P「…これは、約束守るのが難しくなりそうだ」
結局指切りはすることなく
俺達はその日一日、お互いのものを移しあった
「って事があって…あれ?」
美しい金の髪のセミロングの女性が、口をつぐむ
さっきまで話していた小さな少女は先程までとは違い、穏やかな寝息を立てていた
「お休み」
女性はその女性の額にキスをすると、立ち上がって部屋から出て行った
「ん、寝ちゃったのか?」
部屋から出た女性は、お粥を持った男と鉢合わせる
「うん、寝ちゃいました」
「そっか、なら寝かしといてやるか」
二人はリビングに移動し、テーブルに着いた
「お粥、どうしようか」
「あ、捨てちゃうくらいならわたしに食べさせて欲しいなぁ」
「良いぞ、ほら」
男は女性の方へお粥を差し出す
「えー、食べさせてくれないんですか?」
「自分で食べなさい」
「わたし、食べさせて欲しいなぁ…だめぇ?」
「はは、翼のだめぇ?って言うの久しぶりに聞いたな」
翼「わたしも、久しぶりに言った気がします」
「仕方ないな、ほらあーん」
翼「あーん…ん、美味しい」
「それは良かった」
お粥を食べ終え、さっと洗い物を済ませた後再度席に着く
「そういえばさっき、あの子に何を話してたんだ?」
翼「お母さんが昔熱が出た時に、お父さん…Pさんに看病してもらって安心したからあなたも大丈夫だよって」
P「…そっか」
翼「まあ途中で寝ちゃったんですけど」
P「それで良いさ、風邪を治すなら、寝るのが一番だ」
娘の快復を祈って目を瞑る
翼「でもでも、絶対に良くなるおまじない、してあげました」
P「絶対に良くなるおまじない?」
そんなのあったのか、と思った次の瞬間
翼「ん」
翼の唇が、俺の額に触れていた
P「…なるほどな」
P「なあ翼」
翼「?」
P「あの子の風邪が治ったら、一緒にワールドブックスにでも行かないか?」
P「俺達の思い出のアルバムを持ってさ」
翼「わあ!すっごく楽しみ!」
あの子にも見せてあげたい
お前のお母さんは、こんなにも素晴らしい人だよって
そして俺もまた…
立ち上がり、娘の様子を確認する
穏やかな寝息を立てている娘を見て、自然と笑みがこぼれた
翼「早く良くなってね♪」
捲れた布団をかけ直し、娘の頭を撫でる翼
P「さて、明日に備えてそろそろ寝る支度をしようか」
翼「はーい」
翼と一緒に寝室に戻る
そして一緒に布団に入り、俺達はどちらからともなく
キスをした
尾張名古屋
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