ジュリア「我儘に奏でて」杏奈「自由に歌おう」【ミリマスSS】 (51)

『ジュリアさんとユニットを組むことになった』

それはあまりにも突然の出来事だった。
事務所でゲームをしていた杏奈の肩が揺さぶられ、連れて行かれたのは会議室。
疑問を浮かべる杏奈に告げられたのが、さっきの内容。

『……どうして、杏奈が……?』

当然、そんな疑問を抱いた。全く似ている要素も見当たらない二人。ユニットとして成り立っているかも分からない。
別に嫌ではなかったから直接言いはしなかったけれど、代わりにユニットのコンセプトを聞いたら『そのうち分かる』と流されてしまった。
その後はライブが一ヶ月後にあることと、そこでそれぞれの新曲を披露することを聞かされた。

「こうしてユニットとして一緒にやる事になったんだ。お互い頑張ろうぜ」

ジュリアさんは特に問題と感じていないのか、気さくに話し掛けてくる。
どう返せばいいのか分からなくて、小さく漏らすように「は、はい……」と返すのが精一杯だった。

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会議室を出てすぐ、ジュリアさんに「レッスンルームに寄っていかないか」と誘われた。
その言葉だけで察していたのかレッスンルームの予約は取られているし、断る理由も特にないので行くことに。

レッスン着に着替えてレッスンルームに入ると、既に着替え終わったジュリアさんがギターを片手に窓際にもたれ掛かっていた。

「よ、来たな」

手を上げて迎え入れるジュリアさんとは対照的に、杏奈の中では未だに疑問が渦巻いていた。

「何をするのか分からないって顔だな」
「え……」

そんな杏奈の疑問を表情から読み取ったのか、ジュリアさんはギターを構えながらそう告げる。

「ユニットって言ってもいきなりステージに立つなんて無理だろ?お互いの事を知るのが先さ」

それはそうだ。杏奈も色々なユニットで歌って来たけど、最初は歌もダンスも合っていなかった。

「あの、杏奈は……何をすれば……」
「ここで、歌ってくれよ。アンナの歌が聞きたい」
「ぇ……」

戸惑う杏奈を置いて、ジュリアさんがギターをかき鳴らす。
つられて、ギターの音に耳を傾けてみる。どこかで聞いたことがあるフレーズ。

ーー杏奈の曲だ。初めてのライブで歌った、杏奈の”憧れ”が詰まった曲。

ジュリアさんに視線を向けると、こちらを見返してウィンク。
なんとなくその意味を理解して、目を瞑って深呼吸をする。

パッと目を開いたら、さっきまでの弱い杏奈はもういなくて。

「ビビッといっくよー!」

掛け声と共に、アイドル”望月杏奈”の小さなステージが始まった。

「はぁ、はぁ……」
「……」

一通り歌い切ると、レッスンルームは再び静寂に包まれる。
杏奈の中に残るのは、さっきまで見えていたキラキラとした世界と達成感。それと疲れ。

歌うことに夢中で気にしていなかったけど、そう言えばジュリアさんが聞いてたんだっけ。
反応を伺うようにジュリアさんの方へと視線を向けると、目を瞑り何かを思案しているようだった。
ちょっと難しそうな顔。何を考えているのかな……ジュリアさんの考えてること、杏奈にはまだ分かりそうにない。

「歌い始めた瞬間、周りの空気も変わってーー思わず引き込まれちまったよ。これが、キラキラしてるってヤツなのかもな」

ジュリアさんはそう呟いた後、『やっぱあたしの見込み通りだったな』と笑う。
キラキラ……抽象的ではあるけど、実際そんな感覚を杏奈も感じてた。

それならさっきの難しそうな顔は何だろう?『見込み通り』というのも気になる。
でも、それを聞くよりも先に。

「杏奈が終わったら……次は、ジュリアさんの番……」
「あぁ……分かってる」

杏奈の音に染まった空気が、別のものに塗り替えられる。
ジュリアさんも笑顔は変わらないけど、その瞳の奥に火が付いたように見えた。

深呼吸して神経を研ぎ澄ませる。
曝け出されるジュリアさんの全てを聴いて、受け入れる準備は出来ている。

「聴いてくれ。『流星群』」

レッスンルームを出て事務所へと戻る途中、ジュリアさんの”音”について思い返す。

素人目で見てもギターはとても上手で、歌にも情熱というものが感じ取れて。
ジュリアさんはこういう人なのかな、というのは何となく理解した……と思う。

でも杏奈は、歌に”杏奈の音”を込めることが出来ない。
きっとこの曲は”杏奈の憧れ”で、”アイドル望月杏奈の曲”だけど……”杏奈の曲”じゃないんだ。

杏奈は“杏奈の曲”を歌ったわけじゃなくてーージュリアさんがそれに気付いていたとしたら?
聴いたあとの難しそうな表情に、そんな意味が込められていたとしたら?

その場でぶんぶんと頭を振って、頭の中に浮かんだ思考を振り払う。
思考を続けていたら、杏奈が杏奈でいられなくなるような気がしたから。

杏奈の考え過ぎだと、このままでいいんだと自分に言い聞かせて……考えることをやめた。

次の日もスケジュールに二人でのレッスンは無くて、代わりにジュリアさんにレッスンルームに誘われた。
胸の内ではまだ少しモヤモヤとしていた。でもジュリアさんとーーそれから自分自身に隠すように、少し無理をして明るく振る舞った。

だって杏奈が気にしてちゃ、自主レッスンも出来ないから。
ステキな”自分の音”を持ってる、ジュリアさんの邪魔だけは絶対にしたくなかった。

また、昨日と同じように歌を歌った。
昨日と同じ曲を、昨日と同じ気持ちで歌った。

同じように歌ったはずなのにーー昨日よりもキラキラは薄れ、疲れが増えていた。
ジュリアさんは昨日と変わらず、難しそうな表情で唸っていた。

意を決して、ジュリアさんに問い掛ける。
昨日と何が違うのか、どうすればキラキラを取り戻せるのか。知りたかったから。

「あ、あの……っ。何が、ダメでした……か……?」
「あ、いや。ダメって訳じゃ無いんだ。ただ……」
「……ただ……?」

ジュリアさんは少し狼狽えるも、覚悟を決めたように言葉を投げかけた。

「今日の歌……アンナが、見えなかったんだよ」

「ぇ……?」

杏奈が見えない。
意味が分からず、思わずそんな声が漏れる。

いや、意味は分かっていた。きっと隠していただけ。

「目の前で歌ってるはずなのに」

やめて。

「まるで、壁の向こうにいるみたいに」

暴かないで。そうしたらきっとーー

「ーー存在が、遠く感じたんだ」



「ぅ、あ……」

杏奈が考えないようにしていたことが、一つ一つ胸に突き刺さる。
次々と突き刺さって、その度に傷口が広がって。

限界だった。

「ッ……」
「えっ……?お、おい!アンナ!どこにーー」

思わず、杏奈は背を向けて走り出した。
迫り来る恐怖から逃げるように。

「…………」

レッスンルームから逃げ出したアンナを追いかけることも出来ず、再び窓際にもたれ掛かる。
追いかけても良かったが、今のあたしはアンナのことを何にも分かっちゃいない。声を掛ける資格は無い。

どうしようかと悩んでーーあたしはこの場にいる、最も自由で頭の切れる人物に声を掛ける。

「…………いるんだろ」
「あ、バレてた?さっすがジュリアーノ♪」

物陰から姿を現したのは翼。隠れるのが相当上手かったのか、ついさっきまで分からなかったけどな。

「……アンナ、何を考えてるんだろうな」
「昨日の歌で分かったんじゃなかったの?」
「おま、昨日も覗いてたのかよ……あたしにはさっぱり分からないんだ」
「ふーん?」

翼は後ろに腕を組んだまま、あたしの隣まで歩み寄ってくる。
そのままあたしと同じように壁にもたれ掛かり、身振りで続けるよう促してくる。

「なんか、アンナとあたしの間に壁を感じたんだ。遠目に見てた頃は分からなかったけど、まるで心境を知って欲しくないみたいに」
「……杏奈は、そういう子だよ。きっとね」

そう言えば翼はアンナと交流があるんだったか。ならコイツに聞くのが手っ取り早いかもしれないな。

「翼。アンナは壁を作って、一体何を隠してるんだ?」

アンナの歌を聴いて、パフォーマンスを見て、浮かんだ純粋な疑問。
それを聞いて、今まで特に表情も変えていなかった翼がーー遠くを見るように、少し悲しそうに告げる。

「多分、杏奈はーー」

ーーもう一人の自分を、無理矢理隠してるの。

その言葉を聞いて、あたしは脳が揺さぶられるような衝撃を受けた。

ドアが閉まる無機質な音を聞き流しながら、とにかく一歩でも早く離れるために走り続ける。
なんで。どうして。自分に対する疑問が湧き上がってくるが、答えが出てくることはない。

「……杏奈ちゃん?」

ふと聞こえた声に一瞬立ち止まり、顔を上げる。
目の前には心配そうにこちらを覗き込む百合子さんの姿があった。

「杏奈……急いでるから」

先程までの醜態を見られていたという羞恥と百合子さんにこれ以上見て欲しくないという想いから、飛び出すのは拒絶の言葉。
言い残して通り過ぎようとした杏奈を見て、百合子さんはーー

「待って、杏奈ちゃん……」
「離してよ……っ」

勢い良く飛び付いてきた。
なんとかもがいて逃れようとするけど、百合子さんは後ろからがっちりと杏奈を抱きしめて離さない。

「離さないよっ。杏奈ちゃんの考えてることは分かってないかもしれないけど……今の杏奈ちゃん、凄く辛そうに見えるもん」

耳元から聞こえる優しい音。でも杏奈は出来るだけ聞かないようにする。
これは杏奈の問題だから。杏奈が悪いから。

だから耳を傾けちゃ、甘えちゃいけないのに……。

「何があったのか、教えて?それとも、私じゃ頼りないかな」

そんなに優しくされたら、辛くなっちゃう。
気付けば涙がぽろぽろと出て来ててーー

「っと…………大丈夫、私はここにいるから。だから、我慢した分一杯泣いていいんだよ」

百合子さんの胸の中で、声を殺して泣いていた。

「もう一人の自分……それってどういうことだよ?」
「そのままの意味だよ」

聞き慣れない単語が飛び出して、あたしは思わず聞き返していた。
しかし返ってくるのは答えではなく肯定。疑問を解決するには至らない。

それを察したのか、翼が口を開いた。

「ジュリアが杏奈を選んだ理由って、何?」

「そりゃあの力強い歌声とダンスだな」

迷わず答える。アンナの歌声とダンス。
その中に見えた情熱ってヤツに、あたしは揺さぶられたんだ。

「普段あんな調子の杏奈がそれを出来ると思う?」
「普段は隠してるだけじゃないのか?」
「その認識が間違い」

真っ向から否定されて一瞬顔を顰める。
しかしすぐさま表情を戻し、翼の発言に耳を傾ける。

「普段は体力を温存してるんだよ。そしてステージでは温存した体力を使ってパフォーマンスをするの。隠してるんじゃなくて、温存しないとステージで歌って踊れないと思ってるから」

「……でもそれで歌って踊れてるなら、悩みも何も無いんじゃないか?」
「それもそうなんだけどね」

まるで『そうだったら良かった』とでも言いたげな口調で翼は続ける。

「その通りならあんな勢い良く出て行ったりしないと思う」
「そりゃ、そうだけど」
「きっと理由があるはず。でも私には分からないや」
「……結局は話を聞いてみるしかないってことか」

とは言えすぐに話しかけても拒絶されるのは目に見えている。話すにしても時間を置く必要があるだろう。
いや、そもそもそんな深刻な悩みならあたしに話す訳が無い。そもそもアンナと話をしたことすら数える程しかないんだし。

「うーん、アンナと仲が良い人を頼るしかないか」
「……まぁ今の杏奈に話しかけても、ね」

そう言いながら翼が立ち上がり、「行こっか」と促す。

「行くって、どこに?」
「決まってるでしょ。杏奈のことを一番知ってる人のところ」

「落ち着いた?」
「……ん」

杏奈が落ち着いたタイミングを見計らって百合子さんが腕を緩める。
でも杏奈が離れないことが分かると、ふふって小さく笑いながら抱き締めてくれた。

誰にも話したくないようなこの黒い感情も、百合子さんならきっと受け止めてくれる。
そう思えたから、杏奈は百合子さんにこの話をすることを決意した。

「それで杏奈ちゃん、何があったの?」

杏奈が話そうと決意したことすらも読み取って、話しやすいようにって質問してくれる。
やっぱり百合子さんは杏奈のことを理解してくれてるんだ、って。そう思ったら、すんなりと言葉が出てくる。

「百合子さん、あのね……」

「……なるほどね」

杏奈の全てを聞いた百合子さんは真剣な表情で唸りつつそう零す。

「杏奈、どうすればいいか分からないよ……っ。杏奈が悪いのに、逃げ出してジュリアさんにも迷惑かけて……」
「……多分だけど。ジュリアさんは最初から見抜いてたんじゃないかな?杏奈ちゃんのこと」

最初から見抜いてた……杏奈が”アイドル望月杏奈”として歌っていることを?
だとしたら尚更杏奈を選ぶ理由なんてない。杏奈みたいに回りくどいことしなくても歌える人を選ぶべきだもん……。

「その上で、杏奈ちゃんが気になったんじゃないかな。理由は分からないけど……少なくともジュリアさんは、”杏奈ちゃん”に惹かれたんだと思う」

「杏奈、に……?」
「だから、そうやって自分を隠さないで。ありのままの杏奈ちゃんをぶつけよう?きっとジュリアさんもそう思ってるはずだよ」

百合子さんはそういうと、おもむろに後ろへと振り返る。

そしてーー虚空に問いを投げ掛けた。

「そうですよね?ジュリアさん」

「……バレてたか」
「ここ廊下だし、足音で分かりますよ。翼もね」
「ちぇ。うまく隠れられたと思ったのになー」

物陰から出てきたのはさっきまでレッスンルームにいたはずのジュリアさんと、何故か不貞腐れた様子の翼。

「ほら、杏奈ちゃん」

意図しない対面に困惑してしまいどうすべきか迷っていると、百合子さんがぽんっと背中を叩く。
殆ど力は入っていないはずなのに、押し出されるように体が動く。

「ぁ……ぇと……」

さっきまでは言おうと思っていたこと、沢山あるはずなのに。
頭が真っ白になって、言葉が出てこない。

やっぱり杏奈は我儘だ。自分だけ分かってもらおうとして、いつも他人に頼ってばかり。自分ひとりじゃ何も出来ない。

「ーー我儘でもいいんじゃないか?」

「えっ」

突然ジュリアさんにそう言われ、思わず声を漏らす。

「言いたいことは全部言えばいいし、やりたいことは全部やればいい。そのくらい我儘になってこそアイドルだと思うけどな」

「さっきはアンナが悩んでることも知らずに色々言っちまって……悪かったな」

「あ、あれは杏奈が悪いのっ」
「いいんだよ、そうやって抱え込まなくても。言いたいことは全部言ってスッキリしようぜ」

ニカッと笑うジュリアさんが眩しい。アイドルとしての方向性は違うけど、杏奈が憧れていた輝きがそこにあった。

『言いたいことは全部言えばいいし、やりたいことは全部やればいい』
その一言が頭の中で反芻して、本当にいいのかなって悩んで。

「杏奈ちゃん」

いつの間にか横にいた百合子さんが、また後押ししてくれる。
でも今度は押し出されることはない。きっと、これは杏奈が自分で踏み出すべき一歩。

「あ、あのっ!杏奈……」

だから勇気を出して……その一歩を踏み出した。

「っ……ジュリアさんと、歌いたい……です」

あなたの輝きに魅入られて、憧れたから。

「最初は杏奈なんかじゃ釣り合わないって、思ってたけど……でも」

あなたの隣で、音を奏でたいって思ったから。

「やっぱりキレイな"音"を持ってるジュリアさんと、ステージで……輝きたいって」

あなたと一緒に、輝きたいって思ったからーー

「だから、杏奈と一緒に……歌ってくれますか?」

ちょっと我儘だけど、言いたいことは全部言った。
ありのままの杏奈を……"望月杏奈"を、ぶつけた。

「あぁーーあたしも、アンナと一緒に歌いたい」

だから、その言葉が耳に入ってきて……本当の意味で、"望月杏奈"が受け入れられたように感じた。

自分を隠すために作り上げた壁を全て取っ払って、見えた景色はとても綺麗で。

「そうと決まればレッスンルームに戻ろうぜ。さっきから歌いたくて堪らないんだ」

隣で歌いたいと思ったから。例えそれがどんなに難しいことであっても、歌うって決めたから。
それを拒むことは……もう、ない!

「……うん!杏奈も早く歌いたいなっ♪」

「アンナ、緊張してないか?」

月日は流れ、待ちに待った本番のステージ。
衣装に着替え、メイクを終えーー舞台袖で、開演の時間をただ待っている。

「杏奈は、大丈夫……です」

いつもは緊張してたはずの本番直前。
もちろん少しは緊張もしてるけど、今回はそれが気にならないくらいワクワクが大きかった。

あれからもレッスンは一度も行われなかった。その代わりにジュリアさんと毎日歌った。
流石にレッスンの時間を取らないことに不安を覚えたから聞いてみたけど、「二人の自主性に任せる」としか返ってこなかった。

でも今はそれでいいのかなって思ってる。だってーー

(歌いたいから歌うだけ、だもんね)

あの時のジュリアさんの言葉。
好きなように歌って、好きなように奏でる。ジュリアさんとなら、それすらも綺麗な音になる。
やりたいことをやるというのは、こんなにも楽しいんだから。

ステージの開演時間が間近になって、ステージへと出ていく準備は整った。
ここから見える大量の観客席は人で埋まっていて、このステージがかなりの規模であることを伺わせる。

「お客さん、いっぱい……」
「何千……いや、何万人いるんだろうな」
「分からないけど……杏奈、早く歌いたい!」

開演時間が近付くほどに、待ちきれないくらいにワクワクしてくる。
早く歌いたい。早く奏でたい。

もう抑え切れないくらいに、ワクワクが大きくなってーー

「……行くぞアンナ。あたし達の全部、ぶちかまそうぜ!」
「うん!杏奈、ビビッといっくよーっ!!」

時が来ると同時に飛び出していく。

いつもよりもキラキラしたステージで、スポットライトと歓声を浴びて。

「一曲目から飛ばしていくよー!」

"望月杏奈"が"アイドル望月杏奈"を受け入れて、初めて気付いたこのキモチ。
言いたいことを言うのは、やりたいことをやるのは……こんなにも楽しいことなんだって。

その全部を、この歌に込めて届けるよーー

「ーー聞いてくださいっ!『ENTER→PLEASURE』!」

「おはようございます……」

いつもより早足で辿り着き、事務所の戸を開ける。
いつもならこんなに急がないんだけど、今日だけは別。

「お、来た来た」
「杏奈おはよー」
「おはよう、杏奈ちゃん」

既にジュリアさんと翼と百合子さんの三人はソファーに座っていて、奥に置かれたテレビを見ている。

テレビに映るのはーーこの前のライブの映像。自由に歌って奏でた、杏奈とジュリアさんのライブ。
ライブ中は全く見えてなかったけど、映像を見る限りはお客さんも盛り上がっていたらしい。

「流石杏奈だよねー。ステージの上だとキラキラしててさ」
「ジュリアさんも凄かったよね。ギターの音と合わさって、思わずテンション上がっちゃう」

翼と百合子さんが感想を伝え合う中、ジュリアさんが立ち上がる。

そう、杏奈はライブ映像を見に来たわけじゃない。

「ん、アンナ」
「……うんっ!」

ちょっとハイテンションになりつつ、杏奈も歩き始める。
このあとは恒例となったジュリアさんとの約束が待っているから。

「そうだ、アンナもギター弾いてみるか?」
「わー!いいの!?弾いてみたい!」
「決まりだなっ」

あれから杏奈達は、時々レッスンルームで一緒に歌っている。
ジュリアさんと二人で歌うことが楽しくて、終わらせたくなかったから。ジュリアさんも同じように考えていたらしく、毎日とはいかなくてもこうやって時々歌うようになった。

お昼はレッスンルームが埋まってるから、予約が無い朝か夕方の短い時間だけ。
それでも、歌いたいと思って歌う時間はとても楽しいから大切にしてる。

「え、ジュリアーノも杏奈もどこか行くのー?」
「今からレッスンルームに行くのっ」
「最近レッスンルームで歌ってるんですよね。杏奈ちゃんから聞きました」

言いたいことは全部言って、やりたいことは全部やる。
きっとこれもその内のひとつ。

この時間は、そうやって杏奈が少しだけ我儘になったから手に入ったもの。
でも楽しいんだから、ちょっとくらい我儘でもいいよね?

「それじゃ、早く行こうぜ」
「うん!」

レッスンルームに向かう時間さえも待ち切れなくて、勢い良く事務所を飛び出した。

終わりです
シリアス書くのは慣れてないのですが、なんとか間に合って一安心。

杏奈ちゃん誕生日おめでとう!

素の杏奈がアイドル杏奈を受け入れる展開いいね
乙です

>>1
望月杏奈(14) Vo/An
http://i.imgur.com/ZMrpvBi.jpg
http://i.imgur.com/471KyIG.jpg

ジュリア(16) Vo/Fa
http://i.imgur.com/TvYzzK4.jpg
http://i.imgur.com/RFKYqp1.jpg]

>>15
伊吹翼(14) Vi/An
http://i.imgur.com/JUAw9ZX.jpg
http://i.imgur.com/wM2O5h6.png

>>19
七尾百合子(15) Vi/Pr
http://i.imgur.com/kQEEf3G.jpg
http://i.imgur.com/o3k8t5t.jpg

>>7
『流星群』
http://www.youtube.com/watch?v=Hstu1RmC0BU

>>41
『ENTER→PLEASURE』
http://youtu.be/u3uoAuKOsDg?t=110

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