現在上映中の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』及びガンダム関連作品のネタバレ注意
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宇宙世紀0079、サイド3がジオン公国を名乗り地球連邦に対し独立戦争を仕掛けてから10日程過ぎた頃……。
ドズル 「次の出撃で俺の艦に乗りたいだと?」
ガルマ 「はい、僕も士官学校を出たれっきとした軍人です。ザビ家の名前だけで出世したくない」
ドズル 「お前はまだ若い。父上の傍にいてやれ」
ガルマ 「僕は確かにザビ家の末弟だ。でももう子供扱いは嫌だ」
ガルマ 「ドズル兄さんはどうすれば僕を一人前と認めてくれるの?」
ドズル 「そうだな……」
ギレン 「……で、お前はこの忙しいさなかにガルマ相手に3回も艦隊戦の模擬戦を行ったのか?」
ドズル 「ああ……あくまでシミュレーションだが……」
ギレン 「そして全敗したと?」
ドズル 「聞いてくれ、ギレン兄。あいつは只者じゃない。ガルマは戦術の天才だ」
ドズル 「指揮官として率直な意見を言う。参謀としてあいつが欲しい」
ギレン 「父上がガルマを前線に出すのを良しとするか」
ドズル 「それは……」
ギレン 「まあいい……。父上には私から話しておこう。聞いてくれるかどうかは分らんがな」
ガルマ 「ドズル兄さん、ありがとう」
ドズル 「ギレン兄にも礼を言っとけよ。父上を説得したのはギレン兄だ」
ガルマ 「分ったよドズル兄さん、ギレン兄さんに会った時にきちんとお礼を言うよ」
ガルマ 「それで、ドズル兄さんは今度の戦いでどんな作戦を立てたの?」
ドズル 「それなんだが……」
ガルマ 「ドズル兄さんの作戦を確認するね」
ドズル 「ああ」
ガルマ 「緒戦で敵のティアンム艦隊と開戦し、その後我が軍は殿を残してミノフスキー粒子を散布しながら撤退、敵から姿を晦ます」
ドズル 「ああ」
ガルマ 「これによりティアンム艦隊は我が軍が敗走したと思い込んでジオン本国を目指して追撃戦に移る筈」
ドズル 「ああ」
ガルマ 「しかしミノフスキー粒子により敵のレーダーから消えた我が軍は本国には撤退せず、レビル艦隊の予想進路に先回りして待ち伏せ、これを叩く」
ドズル 「ああ」
ガルマ 「確かにこれならレビル艦隊を叩けるだろうね」
ドズル 「ああ、これで連邦に大打撃を与えてやる」
ガルマ 「でもティアンム艦隊から撤退時に味方の殿は全滅するよ」
ドズル 「それは……」
ガルマ 「それにティアンム艦隊がもしジオン本国にそのまま侵攻したら――」
ドズル 「そうさせない為にレビル艦隊を叩く! そうすればティアンムは侵攻を断念し、レビル艦隊救援に向かうだろう」
ガルマ 「もしティアンム艦隊がレビル艦隊の敗北を尊い犠牲と考えてそのままジオン本国に侵攻したら?」
ドズル 「お前の言いたいことは分っている」
ドズル 「だが、艦数で敵はこっちの3倍いるんだ! ティアンム艦隊とレビル艦隊の両方を叩くなんて無理だ!」
ドズル 「戦いは数だよガルマ」
ガルマ 「数じゃない、戦術だよ」
ドズル 「そこまで言うには何か策があるんだろうな?」
ガルマ 「僕にはあります。あの連邦の軍勢を前に、勝利の絵を描く力がある」
ドズル 「勝算は?」
ガルマ 「僕の読みどおりに戦局が動いてくれれば、九割ほどで」
ドズル 「お前のいう通りムサイには通常ミサイルを廃して、代わりにビーム攪乱幕搭載ミサイル、迎撃ミサイル、チャフ、デコイを搭載出来るだけ搭載した」
ドズル 「総大将は俺だが、俺はお前の判断を信じお前の言葉で動く。頼んだぞガルマ」
ガルマ 「ありがとうドズル兄さん」
ドズル 「もしこの戦いに負け、ジオンが降伏するようなことになったら、俺もお前も戦争犯罪人として縛り首だ」
ガルマ 「構いません」
ティアンム (仕掛けてくるなら我が艦隊とレビル艦隊の合流前と思っていたが、合流後にしかけてくる気か……)
ティアンム (何か策があるのか、それとも破れかぶれか……)
ガルマ 「兄さん、モビルスーツ隊を発進させて下さい」
ドズル 「モビルスーツ隊、各機発進!」
シャア 「ガルマ、勝利の栄光を君に!」
コズン 「ラル隊長が出られない分、俺が頑張らねば……」
ガイア 「俺たち黒い三連星の出番だな」
マッシュ 「連邦め、一泡吹かせてやる」
オルデガ 「ここで手柄を立ててやるぜ!」
ガルマ (敵の布陣を見れば、強力な艦隊でもって、中央突破を図っているのが手に取るように分かった)
ガルマ (中央を全包囲するためには、敵陣の手薄い右翼と左翼を突破しなければならない。こちらの右翼と左翼にモビルスーツの精鋭を揃え、敵の両翼を突破のちに反転して背後につく)
連邦軍オペレーター 「敵艦隊、間もなく我が軍の有効射程距離に入ります」
ティアンム 「各艦、主砲砲撃用意……」
ガルマ 「今です、ビーム攪乱幕展開!」
ドズル 「ビーム攪乱幕搭載ミサイル発射!」
ガルマ (宇宙のど真ん中に、ジオン軍と連邦軍を隔てる巨大な見えない壁が出現した。僕が使ったビーム攪乱幕だ)
ティアンム 「撃(て)ーい!」
ガルマ (ジオン軍と連邦軍を隔離させるその壁は、敵主攻の砲撃を食い止めた)
ティアンム 「ビーム攪乱幕か……攻撃をミサイルに切り替えろ」
ガルマ 「お互い主砲を撃てない間に主砲の照準を敵艦隊に合わせて下さい。私の合図で一度だけ主砲を撃ってその後直ぐにビーム攪乱幕を張って下さい」
ジオン軍オペレーター 「ビーム攪乱幕、濃度30パーセント……20パーセント……10パーセント……」
ガルマ 「今です、主砲発射!」
ドズル 「全艦、主砲一斉射!」
連邦軍オペレーター 「前方熱源多数!」
ティアンム 「回避行動!」
連邦軍オペレーター 「間に合いません!」
ティアンム 「おのれ……被害状況は?」
連邦軍オペレーター 「本艦被弾、損害軽微。友軍の艦からも被害報告有り」
連邦軍参謀 「こちらも反撃を」
ティアンム 「元よりそのつもりだ。但しさっき命令した通りミサイルで攻撃しろ。どうせ敵はもうビーム攪乱幕を張っている」
ティアンム 「それからこちらもビーム攪乱幕を張るぞ」
ドズル 「敵は砲撃して来ぬな」
ガルマ 「こちらが既にビーム攪乱幕を張っていることを見越してます。敵も馬鹿ではありません。次はミサイルが来ます。迎撃準備を」
ドズル 「各艦、敵のミサイル攻撃に備えよ!」
連邦軍オペレーター 「我が軍の両翼、被害多数!」
ティアンム 「中央の航空隊を両翼にまわせ!」
ティアンム (幾ら中央の布陣を厚くしたとはいえ、両翼が脆すぎる)
レビル (数では我が軍が圧倒的に優っている。しかし主砲による砲撃はビーム攪乱幕に阻まれ、ミサイルはA.M.M. (Anti Missile Missile)とチャフで防がれる)
レビル (敵艦隊も防戦一方だがこれではお互い中央は膠着状態だ)
レビル (敵の新兵器、モビルスーツがこれほどの脅威となるとは……。これではこちらの両翼が持たない)
レビル (窮鼠猫を噛む……噛まれたな……)
ジオン軍オペレーター1 「迎撃ミサイル、残弾0!」
ドズル 「敵ミサイルはチャフとデコイで凌ぎつつ機銃で撃ち落とせ!、チャフは後どれだけ持ちそうか」
ジオン軍オペレーター1 「あと10分も持たないかと」
ジオン軍オペレーター2 「自軍右翼より友軍の発光信号!」
ガルマ (来た! この赤い光はシャアだ。敵の左翼を壊滅させたか)
ジオン軍オペレーター 「続いて左翼からも発光信号!」
ドズル 「紫の光か……黒い三連星からだな。どうやら敵の右翼を切り崩したようだ」
ドズル (前もってビーム攪乱幕搭載ミサイル、迎撃ミサイル、チャフ、デコイを積めるだけ積んでおいて良かった。ガルマのおかげだ)
ガルマ (戦局を動かすのはここしかない!)
ガルマ 「全両翼、反転攻撃! 敵中央を包囲します!」
中央が防戦でもちこたえている隙に、こちらの精鋭部隊の右翼と左翼が敵両翼を突破。
そのまま敵中央の真横と背後につき、包囲網を完成させる。
包囲殲滅陣の完成であった。
味方の被害は数えるほどに収まり、圧倒的劣勢ながらも連邦に致命的な打撃を与えた戦いは、宇宙世紀の全史を鳥瞰しても、この戦いが初のことだった。
これが、のちに史上有名な戦いとなる、ルウムの会戦である。
この戦いでガルマが採用した戦術・包囲殲滅陣は、対艦隊戦用の最も効果的な戦型として、後世まで高く評価・研究されることになった。
時代を越える才能が、ここに誕生した。
ゴップ 「ティアンムは戦死、捕虜となったレビルは奪還したものの……」
レビル 「ジオンに兵あり! このまま抵抗を続けても勝ち目はありません!」
ゴップ 「連邦も厭戦ムードになった……」
ドズル 「勝った! 連邦に勝ったぞー! うおおおーっ!」
テギン 「ガルマ、お前のおかげだ」
ギレン 「父上」
テギン 「どうしたギレン?」
ギレン 「ガルマの功績を無駄にしない為にもこの機を逃さず地球に侵攻しましょう」
ガルマ 「ギレン兄さん、それは止しましょう」
ギレン 「何故だガルマ? 今こそ圧政に苦しむスペースノイドを解放する時ではないか。そしてそれを出来るのはザビ家だけだ!」
ガルマ 「僕も同じ気持ちです。だからこそ、講和の条件としてジオンの自治権とスペースノイドの連邦議会への参加を認めさせるのです」
ガルマ 「それ以上を望めば連邦は態度を硬化させるでしょう」
キシリア 「連邦が徹底抗戦するとでも?」
ガルマ 「はい、いずれ連邦もモビルスーツを開発するでしょう。そうなれば国力差でジオンは負けます」
ギレン 「包囲殲滅陣を以てしてもか?」
ガルマ 「はい。包囲殲滅陣は自軍の両翼が敵よりも機動力と突破力に勝っていることが前提です。敵もモビルスーツを開発すれば今回のようにはいかなくなる」
ガルマ 「それにこの戦争で何十億人もの尊い人命が失われました。これ以上ジオンが戦争継続を望めば、ザビ家は好戦的な独裁者と見られるでしょう」
テギン 「ガルマの言う通りだ。講和に向けて動くように」
ギレン 「ハッ!」
こうして地球連邦とジオン公国との間に終戦協定が結ばれた。
数年後、ガルマ・ザビは史上最年少で連邦議会議員に選ばれることとなる。
シャア 「おめでとう、ガルマ。いやこれからはガルマ先生とお呼びするか」
ガルマ 「止めてくれよシャア。今日は来てくれてありがとう」
シャア 「君独りか?」
ガルマ 「ああ、今イセリナは地球に里帰りしているからね」
シャア 「喧嘩したのか?」
ガルマ 「まさか! 彼女が地球で出産したいって言ったから実家に帰しただけさ」
ガルマ 「喧嘩でも別居でもないよ。僕は彼女を愛してる」
シャア 「ほう……」
ガルマ 「実は今日は君と二人きりで会いたかった」
シャア 「……」
ガルマ 「済まなかった、シャア! ザビ家の人間として謝罪する! 許してくれとは言わない! 謝らせてくれ!」
シャア 「何故君が床に手をついて私に頭を下げる……」
ガルマ 「君の名は……本当の名前は……」
シャア 「知っていたのか……」
ガルマ 「ああ、最近知った。君がジオン・ダイクンの遺児だと」
シャア 「では問おう、我が父ジオン・ダイクンを暗殺したのは君の父上か? それともギレン総帥か?」
ガルマ 「分らない、ただ状況証拠を考えればザビ家の人間が殺したと考えてもおかしくはない」
ガルマ 「現在僕等ザビ家は君の父上の名を冠したジオン公国を統べているのだから」
ガルマ 「そして僕が今立っている場所は、本来なら君か君の父上が立つべき場所だ」
ガルマ 「君がサイド3を追われて辛い日々を過ごしている間、何も知らずに僕は銀のスプーンを与えられ……」
シャア 「君はズルい男だ」
ガルマ 「?」
シャア 「私はザビ家を憎んでいた。君のこともはなから利用するつもりで接近した」
シャア 「しかし君は随分と立派になった。嫌味な位にだ」
ガルマ 「……」
シャア 「私は君の姿を見て大悟したのだよ。この男なら父が為せなかった夢を為せるのではないかと」
シャア 「私とて父の遺志を継ごうとしたが、自分が父の遺志を歪めて受け止めていることを否定出来なかった」
ガルマ 「シャア……」
シャア 「ガルマ、君に忠告する」
シャア 「もし君が将来変節して為政者として相応しくなくなれば、私は君を討ち、ザビ家を討つ」
シャア 「それが嫌なら励むことだ。地球と宇宙で人間同士がいがみ合い、届く範囲のスペースで増えては滅ぶこの連鎖を断ち切って見せろ」
シャア 「君が本当に贖罪する気があるのならそこまでやって貰わんとな」
ガルマ 「シャア……」
ガルマ 「ああ、やってみせるさ」
こうしてザビ家とダイクン家の確執に終止符が打たれた。
その後ガルマ・ザビはシャア・アズナブル改めシャア・ダイクンと共にスペースノイドとアースノイドの融和を目指して尽力、スペースノイド初の連邦議会議長としてその名を遺した。
そしてアムロ・レイは父テム・レイと同じく技術者となり、平凡ながらも幸せな一生を終えた。
これにて終わり
駄文にお付き合い頂きありがとうございました
シャアはガルマを討ったことを結構気にしてたのではないかと思いつつ書きました
おまけ
『誕生、赤い疾風』
シャア 「ふむ、ここは疾風戦術を取ろうと思う。私の機体のリミッターを外してくれ」?
整備兵 「リ、リミッターを……ですか?」
シャア (私の言葉に整備兵達は困惑の表情を浮かべる。それも無理からぬ事)
シャア (常識的に言ってリミッターはパイロットと機体を守るための物。それを外す、など命を捨てるのと同じ)
シャア (けれどもだ)
シャア (リミッターがあろうともエンジンが暴走して自爆するヅダのような機体に乗るパイロットだっているし、機体の動きも制限がかかり、鈍くなる)
シャア (それならリミッターを外して俊敏性をあげた方が効率的だ)
シャア 「皆も覚えておくがいい」
シャア 「私は何物にも縛られるつもりは無い。私は自由に天駆ける大宇宙の戦士だ」
シャア 「忌まわしきリミッターを外した今、もう私を縛るものは何もない。俊敏になったこの機体を使い敵軍を倒そうではないかっ!」
こうしてリミッターを外したシャアの機体はパイロットの技量も伴い通常の三倍のスピードを獲得、ルウム戦役にて戦艦5隻を沈める武勲を立てた。
ジオンのエースパイロット「赤い疾風のシャア」の誕生である。
そしてシャアはこのルウム戦役にて、初めてガルマの戦術の技巧に触れることになった。
シャア 「凄い……。連邦との戦いで、こんな戦術を敷く者がいるのか……」
彼はジオン公国宇宙軍に所属し、自ら進んで会戦に志願した変わり者の青年だった。
シャア 「そうか……。敵両翼の戦力が薄いことを逆手にとって、中央はハナから捨てて挑んだんだな。これが選択と集中か」
彼の真の名は、キャスバル・レム・ダイクン。
ジオン・ダイクンが正当後継者は2人。その誉れ高き選良、第一子である。
ガルマの才能を目の当たりにしたキャスバルは以後、ガルマに付き従う一士官のように、彼の戦場を追い続ける。
キャスバルがガルマと並び立つ将に育つまでには、もう少し時間を待たなくてはならなかったが。
これにておまけも終わり
読んで下さった皆さんありがとうございました。これからHTML化依頼出します。
以下、ガンダム関連の過去作です。
クェス「始まりの物語」 シャア「永遠の語」
クェス「始まりの物語」 シャア「永遠の物語」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1429448585/)
シャア・アズナブル 「見せて貰おうか、『◯◯◯◯◯!』の劇場版とやらを」
シャア・アズナブル 「見せて貰おうか、『◯◯◯◯◯!』の劇場版とやらを」 - SSまとめ速報
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