【モバマス×餓狼伝説】ビリー・カーン「はァ?アイドル?プロデューサー?」 (1000)

【モバマス×龍虎の拳】リョウ・サカザキ「俺がアイドルのプロデューサー?」
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【モバマス×龍虎の拳】リョウ・サカザキ「俺がアイドルのプロデューサー?」【2】
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【モバマス×龍虎の拳外伝】不破・茜「うおおおおおおおおお!!」
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このSSは上記のSSの出来事・設定を引き継いだ続編となります。
モバマスと龍虎の拳~餓狼伝説シリーズのクロスオーバーです。


※注意

今作は龍虎の拳~餓狼伝説作間と同様の時間経過がある為、
作中に登場するアイドル達に実際の設定とは異なった年齢設定があります。
ご了承ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1522754322



帰依

神仏や高僧などのすぐれた者を信じ,それを拠り所にすること。
尊いものに対して、身も心も投げ出して、奉ること。

サウスタウン
酒場


カランカラン
マスター「いらっしゃい……空いてる席にどうぞ」

???「……ウィスキー、一番つええヤツ持って来い」

マスター「はいはい……」



ゴロツキ「……ギース・ハワードがテリー・ボガードに殺されてからもう半年だな」


ゴロツキ2「……どうやらあの男、今回は本当に死んだらしいな……以前も一回死んだふりをしてた事があったが、今回は確実らしい。ハワードコネクションの慌てっぷりを見てるとな」


???「……」
ピクッ

ゴロツキ3「良い事じゃねぇか!!長年この街を支配していたヤツが死んで、目の上のタンコブが無くなったんだ!ついに俺たちの時代だ!!」
バンバン

???「……」
グビグビ

ゴロツキ4「だけどよ、ギースをやったのはテリー・ボガードだぜ」

ゴロツキ3「関係ねえよ!テリー・ボガードはギースに個人的に恨みがあったから奴を殺しただけで、この街を支配してやろうなんて野心は持ってねえ!」

ゴロツキ2「……それもそうだな。って事は今この街は王のいない街……だったら俺たちにもチャンスはあるってことじゃねえか」

ゴロツキ3「そうだ!ギースの時代は奴の死とともに惨めに終わった!!これからは、俺たちがこの街の王だ!!」
ガタッ

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
ギャハハハハハハハハ
ガシャン

マスター「……最近、ギース・ハワードが死んで、またああいうタチの悪いのがでかい顔をしはじめたんだ。ただ飲んでるだけなら良いんだけど、やつらすぐ暴れるし、店のモノを壊すし……」

???「……」
グイッ

タンッ

???「……」
ガタッ
スタスタ

マスター「あっ、おい、兄ちゃん!」

???「……」
スタスタ

ゴロツキ「……あん?なんだぁ?兄ちゃん」

ゴロツキ2「俺らに何か言いたいことでもあんのか?」

???「……」
スタスタ

ゴロツキ4「……?」

???「……」
ガタガタ
ヒョイ

ゴロツキ4「モップ?俺らが割ったグラスの掃除でもしてくれんのか?」

???「……掃除……?……ああ……そうだな……」

???「薄汚ェゴミは……掃除しねえとな」
スッ

ゴロツキ「……あ?」

ゴロツキ3「んだとォ!!?誰がゴミだってんだ、言ってみやがれ!!」
ガタッ

???「自分で分かってんじゃねェかゴミがよぉ……一丁前に人間の言葉を喋ってんじゃねぇ……!」


ゴロツキ3「野郎!!ぶっ殺してやるぜ!!」





マスター「……」
ガタガタ

???「よォ……さっきの威勢はどうしたんだよ?」
ゲシッ

ゴロツキ3「」

ゴロツキ「が……は……」
ピクピク

ゴロツキ2「ひ、ひい……た、助け……」
ズリズリ

ゴロツキ4「あ……あ……」

???「どこの誰がこの街の王なのかって……聞いてんだよ」
グシャッ

ゴロツキ4「グェッ」

???「オラ……言ってみろよ、この街の王は俺達だってよ」
グイッ

ゴロツキ2「ひ……ひ……」
ジョ~

???「……汚ェな……ただただこの街を汚す……やっぱりテメェらはゴミだ」
ドグシャ

ゴロツキ2「」

ゴロツキ「や、やっぱり……あ、あんたは……ギースの……」

???「……他のゴミ共にも伝えとけ……例えあの方が死んでも……」

???「この街はギース様のモンなんだよ……永遠になァ!」
ブォン


グシャッ

???「……よォマスター、迷惑掛けたな……」
スタスタ

マスター「ひぃ!」
ビクゥ

???「店の修理代は……」



ビリー「ハワードコネクション、ビリー・カーン宛てに請求書回してくれや」

確かにそのプロデューサー達は存在した・・・

アイドルに全てを捧げたPがいた・・・

復讐に身を焦がすPがいた・・・

広告費など問題ではない

ただ勝者が輝き――

敗者がステージを降りていく

それだけである



餓狼伝説PRODUCE

とりあえず今日はここまで
今回はほとんど書き溜めとかが無いので更新クッソ遅いかもしれませんが
きなが~に付き合って頂ければ幸いです。

ギースタワー

リッパー「ビリー、昨晩また暴れたようだな」

ビリー「ああ?俺はただゴミを掃除しただけだ。ギース様の街でゴミを放置しとく訳にゃいかねえだろうが」

リッパー「……ビリー。別にお前のその『掃除』が悪い事とは言わないが、ギース様が去られた今、お前はこのハワードコネクションの取り纏めをやってもらわなければならないんだ。それを自覚しろ」


ビリー「まずそれが間違いだぜ。俺が取り纏めなんて出来る訳がねえだろうが。俺はただの凶器だぜ」

ビリー「ガラじゃねえし、なによりそんな器じゃねえ。それこそリッパー、アンタがやればいいじゃねえか」

ホッパー「……ビリー、確かにお前の言う通りだ。粗暴で頭の悪いお前よりもリッパーや俺の方がよっぽど社長に向いている。それこそコネクション内部にも経営に長けた人間はいくらでもいる」

ビリー「……クソムカつく言い方だが、そうだろ。だったら俺にやらす必要ねえじゃねえか」

リッパー「……だが、それは一般の会社の場合において、の話だ。場所がこのサウスタウンで、しかも会社がハワードコネクションとあっては、一般論は通用しない」

ホッパー「ハワードコネクションはここサウスタウンから、裏社会も表社会も支配してきた。その影響力は最早合衆国全土……いや、世界に及ぶ」

リッパー「しかしその影響力はギース様あってのものだ。表社会に対しては企業としての影響力を依然として持ち続けているが、裏社会はそうはいかない」


ビリー「……」

リッパー「嘗てギース様はこのサウスタウンの裏社会を支配した『組織』を力で従えた。時にはギース様自ら邪魔者を消し、そして時には俺やお前、『駒』を使って、だ」

ホッパー「つまり裏社会の連中は損得や利益では無く、力にのみ従う。だからギース様がいなくなった今、ハワードコネクションの裏社会への影響力は急速に失われつつある」

リッパー「だからお前だ、ビリー」

ビリー「ああ?」

ビリー「……」

リッパー「嘗てギース様はこのサウスタウンの裏社会を支配した『組織』を力で従えた。時にはギース様自ら邪魔者を消し、そして時には俺やお前、『駒』を使って、だ」

ホッパー「つまり裏社会の連中は損得や利益では無く、力にのみ従う。だからギース様がいなくなった今、ハワードコネクションの裏社会への影響力は急速に失われつつある」

リッパー「だからお前だ、ビリー」

ビリー「ああ?」

謎の連稿
なんかサーバーおかしくなっちゃった

リッパー「ギース様が去られた事により、今コネクション内で裏社会への影響力を発揮出来るのは『歩く凶器』と呼ばれたビリー、お前しかいない。こればかりはいくら経営手腕に長けようと、頭が切れようとどうにもならん」

ビリー「……要は裏の奴らをビビらせりゃ良いんだろ?だったら、俺が街でゴミ掃除すんのも別に良いじゃねえか」

リッパー「だから別に悪いとは言っていない。ギース様の街を汚されて腹が立つのは俺達も一緒だ」

ビリー「……」

ホッパー「だが、限度がある。コネクションのトップたらねばならないお前が、毎夜毎夜街を徘徊してゴミ掃除など馬鹿げている。もっと部下を使え。ギース様ならそうしただろう」

リッパー「それにいくらお飾りのトップとはいえ、やはり最低限の経営眼やリーダーシップは必要になってくる」

ビリー「……だからどうしろってんだ」


リッパー「だからビリー、お前には日本に向かってもらいたい」

ビリー「はあ?」

ビリー「全然意味がわからねェぞ」

リッパー「お前がギース様の部下になるよりもっと前……大体15年くらい前か。ギース様は武道の修行のために日本に飛んでいたことがある」

リッパー「期間は1年くらいだったが……ギース様はそこで無敵の強さを身に付け、帰って来られた」

ビリー「それと経営になんの関係が……」

リッパー「まぁ聞け。ギース様が日本で身に付けたのは武としての強さだけじゃなかった」

リッパー「どうもギース様はそこでアイドルのプロデュースをやっていたらしい」

ビリー・カーン「……はァ?アイドル?……プロデューサー?」

ビリー「なに言ってんだリッパー」

ホッパー「……まぁそう言いたくなる気持ちもわかる。俺達も最初は信じられなかったからな」

ビリー「ホッパー……お前まで……んな訳わかんねェ事を……」

リッパー「証拠ならある。まずこの記事」
パサッ

ビリー「……『覇我亜怒プロダクション、設立……代表はギース・ハワード氏』」

ビリー「……『アイドルグループReppu、オリコン初登場1位獲得、吹き荒れる烈風、その成功の秘訣をハワード氏に直撃……』」

ビリー「マジかよ……だ、だが……」

リッパー「まだある。……あれはギース様が日本から帰ってきてから半年ほど経った頃だった……このギースタワーに、二人の日本人の女が訪ねてきた」

ホッパー「二人はそのアイドルグループの元メンバーだと訴えた。しかしギース様は一顧だにせず二人を追い返した」

ビリー「……」

ホッパー「ちょうどその折、敵対勢力によるテロにその日本人が巻き込まれた」

リッパー「するとギース様は身を挺してその二人を守った……飛び交う銃弾の嵐からな」

ビリー「馬鹿な……ありえねぇ……」

ビリー「大体、ギース様はアイドルの話なんて、一度だってした事ねぇだろ……」


リッパー「ああ、その事件以降、ギース様は一言たりともアイドルの話を口にすることは無かった。だから我々もその件に踏み込む事は出来なかった」

ホッパー「そのまま十数年経ち……そして先日、ギース様が去られた折にギース様のデスクを整理していた時にこれが見つかった」
スッ

ビリー「……日本行きの航空券?……と、写真か?」

リッパー「ああ……写真には若き日のギース様と、そのプロデュースされていたアイドル達が一緒に写っている」

ホッパー「もしかするとそれはギース様が遺された何らかのメッセージかもしれない……そう考えた俺とリッパーはギース様と日本の関連を洗った。その結果が先ほどのギース様がアイドルをプロデュースしていたという事実だ」

ビリー「……なんで俺には教えなかったんだよ」

リッパー「お前は毎日夜な夜な街で暴れていたからな」

ビリー「……ちっ」

リッパー「だが、肝心の日本に何が隠されているかは俺達にはわからなかった」

リッパー「だからビリー、お前にはこの件の調査も兼ねて日本に向かってもらいたいんだ」

ビリー「……」

ビリー「わりぃが、他を当たってくれ。俺が日本に行った所で何がわかるわけでもねぇよ」


ホッパー「……ビリー」

ビリー「……今日はもう帰るわ。じゃあな」
バタン

ホッパー「……無理か」

リッパー「まぁすぐに首を縦に振るとは思ってなかった。説得していくしかない」

リッパー「ギース様が亡くなられて……今一番どうしていいかわからないのは奴だろうからな」

ビリー「……」
ツカツカ

ビリー(……日本?アイドル?何がどうなってやがる……あのギース様が他人を身を挺して守っただと?他者との絆を嫌うギース様が?)

ビリー(わからねえ……ギース様がそこまでして守るようなモンがあったってのか?)

ドン

チンピラ「いてっ……てめぇ、どこ見て歩いてんだコラ!」

ビリー「……ああ?」
ギロ

チンピラ「……うっ!?ビ、ビリー・カーン!?」

ビリー「俺ァ今死ぬほどイライラしてんだ……つまんねェ人生だったなお前?」

チンピラ「ひっ……うわああああ!!すいませんでしたああああ」
ダダダダダダダ

ビリー「チッ……イラつくぜ……」

ビリー「なんでこんな事になっちまったんだ……ついこの間までは俺ァ何も考えず、あのお方の命ずるまま邪魔な奴を片っ端からブチのめしてりゃ良かったのに……」


『だけどよ、ギースをやったのはテリー・ボガードだぜ』

ビリー「……そうだ」



ビリー「テリー……奴が……奴さえいなけりゃ……」

ビリー「テリー・ボガード……!」

サウスタウン



ロック「くっそー、今日もテリーからボールを奪えなかったよ」

テリー「ハッハッハ!まだまだそう簡単に負けてやれないぜ!そうだな、あと十年もすれば俺に勝てるかな?」

ロック「見てろよ、十年と言わずにきっと今に勝って見せるから……」

ロック「……でも、テリー、最近は妙に絡まれるよね……今日だって……」

テリー「……ああ、街の不良たちが最近は嫌に活発だ……」

テリー(ちょうどギースが死んでから……だな)

ロック「まぁテリーなら誰が来たって負けやしないけど……ふわあ……」

ロック「んん……なんだか、眠く……」
ウトウト

テリー「ん、今日も一日中運動してたからな……」

ロック「そうだね……テリー、おやすみ……」

テリー「ああ、おやすみ、ロック……」

テリー「……」

ロック「……」
スヤスヤ



テリー「……久しぶりだな、前のKOF以来か?」

ツカツカ
ビリー「……よォ。ガキは眠ったかよ」

テリー「ロックが眠るまで待っててくれたのか?良いとこあるじゃないか」

ビリー「ハッ……言ってもギース様の息子だからな。恩人の息子に今から起こる悲劇を見せちまうのは忍びねェだろ」

テリー「……って事は……やる気か?」

ビリー「なに寝ぼけた事言ってやがる。俺とてめェが顔を合わせたならやるこたひとつだろうが」
スッ

テリー「……別に俺としちゃあ、お前と必ず闘う理由なんて無いんだけどな」

ビリー「例えてめェに無くてもこっちにゃ大アリだぜ……ギース様の仇がよォ!!」
ビュッ

テリー「うっ」
シュッ

テリー「……やるしか、ないようだな」
スッ

ビリー「ハァッ!ンな事解かりきってただろうが!!今日こそブッ殺してやるぜ!テリィィィ!!」

ビリー「ッリャア!」
ビュッ

テリー「ふっ!」
サッ

テリー「パワーウェイブ!」
ドン

ビリー「ちっ!」
ダン

テリー「!」

ビリー「ハッ、Kill you!」
ギュン

テリー「見えてるぜ!クラックシューッ!」
ゴッ

ビリー「ぐあっ!チィ!」
ブオン

テリー「……!」
ヒュン

テリー「……粗いな。俺への憎しみばかりが前に出て、いつもの一つ間違えたら喉を貫かれるような『怖さ』が無いぜ」

ビリー「テメエ、余裕ブッこいてんじゃねえ!今すぐ黙らしてやらあ!」

テリー「……ビリー」




テリー「……ハァ……ハァ……」

ビリー「ハァ、ハァ……クソッタレが……」
フラ

テリー「……ビリー、ここまでだ……」

ビリー「……るっせえ!ッハァ!」
ビュッ

テリー「……!」
スッ
テリー「バーンナッコォッ!」

ズドッ

ビリー「ぐ……は……」
ドッ

テリー「……すまないな」

ビリー「……」

ビリー「……まち……やがれ……」


テリー「……!ビリー、もうやめろ……!」

ビリー「……うるせェ……畜生……」
フラ

ビリー「畜生……どうしてだ……どうしてギース様が死んで……テメェはのうのうと生きてやがる……」
ガクガク

テリー「……ビリー」

ビリー「テメェは……テメェが死ぬべきだったんだよ!」
グワ

テリー「!」

ビリー「オオオオオオオオオオオオ!!」

ビリー「ゴォトゥーヘェェェェェル!!」
ドドドドドドドドド

テリー「……!」

テリー「パワァー……ゲイザァァァァ!!」
ズドォォォン

ビリー「ウアアアアアアアアアア!!」
ドサァ

テリー「ハァ……ハァ……」

ビリー「ちくしょう……が……」
ガクッ


テリー「……やっぱ大した男だよ、お前は」

テリー「……」

『畜生……どうしてだ……どうしてギース様が死んで……テメェはのうのうと生きてやがる……』

『テメェは……テメェが死ぬべきだったんだよ!』

テリー(……それは……自分自身に言ってたのか?)

テリー(お前は死に場所を欲しがってるのか?ビリー……)

テリー「生きてても、死んでも街や人にこれだけの影響を与える……ギース、やっぱりサウスタウンはアンタの街だったんだな……」

今日はここまで

翌日

ビリー「……」
パチ

ビリー(ここは……俺んちか……?)
ガバッ

ビリー「痛ッ……」

リリィ「あ、兄さん、目を覚ましたのね……駄目だよ!まだ寝てなきゃ……」
パタパタ

ビリー「リリィ……俺は……どうやって帰ってきたんだ?」

リリィ「昨日の夜遅くに兄さんの会社の人が送ってきてくれて……会社のお酒の席で同僚の人と喧嘩になっちゃったって」

ビリー(……ってことはテリーの野郎、わざわざコネクションに連絡入れやがったのか……ほっときゃいいのに、余計な事しやがって)

リリィ「……もう、兄さん……無理しないで……ただでさえ最近は街の方も治安があんまり良くないみたいだし」



リリィ「もしも兄さんに何かあったら……私……」
ジワ

ビリー「す、すまねぇリリィ、昨晩は俺も酒が入ってカッとなっちまったみたいだ……もうこんな無茶はしねえさ」

リリィ「……本当?」
ジッ

ビリー「……ああ」

リリィ「……そうっ!じゃあご褒美に兄さんの好きな卵料理作ってあげるねっ!なにが良い?」
ニコッ

ビリー「ああ、久しぶりにオムレツでも食いてえな……」

リリィ「オムレツだね!うん、わかった!それじゃあ材料買ってくるから兄さんは大人しく留守番しててね!」

ビリー「ああ」




ビリー「……なぁ、リリィ」

リリィ「ん?どうしたの?」

ビリー「最近、不自由してる事とかねえか?困ってる事とか」

リリィ「うーん……さっきも言ったけど、街の治安が少し悪くなってきてる気がするけど……でも私は不思議と街でからまれたりしないんだよね。怖そうな人に声を掛けられても、大体名前を言うとみんな逃げていくの」

ビリー(そりゃ俺の妹に手なんか出したらどうなるのか、あの街に住んでりゃその辺の犬でも知ってらァな……あのパンツ野郎以外は)


リリィ「だから、いま取り立てて困ってる事と言えば……最近兄さんの帰りが遅い事が多いくらいかな?」

ビリー「……そりゃすまねェな……」

リリィ「……あっ、もしかして私の心配してくれてるの?」

ビリー「あ?ああ……」

リリィ「だったらもう心配いらないわ、私だってもう一人前なんだから!」

ビリー「……そうか。だったら良いんだ……」

リリィ「……?変な兄さん。じゃ、行ってくるね」

ビリー「ああ」




リリィ「……ねぇ、兄さん?」

ビリー「なんだ?」



リリィ「……私に隠してること、ない?」

ビリー「……」

リリィ「……ううん、やっぱりなんでもない。……無茶、しないでね?」

バタン
パタパタパタ

ビリー「……」


ビリー「そうか……考えてみりゃ、あいつも成長してんだな……」




ビリー「いつまで経っても成長してねェのは、俺の方か……」

ギースタワー

ガチャ
ビリー「……よう」

リッパー「ビリー!もう傷は良いのか?」

ビリー「別にどうってこたねェよこんなもん……あの野郎、手加減してやがったみたいだからな……ムカつくぜ」

ホッパー「全く、俺達に窘められたその夜にテリー・ボガードに挑むとは、本当にお前には何を言っても……」

ビリー「あー、待て待て。小言はまた聞く。それより今日は昨日の返事に来た」

リッパー「昨日の返事?お前は断ったはずだが……」


ビリー「……まぁ、心境の変化ってやつだ。行ってやるぜ、日本によ」


ホッパー「……!驚いたな」


ビリー「ただ……条件がある。俺がいねェ間は、リリィ……あいつの事を」

リッパー「ああ、わかってる。最高のボディーガードを付けよう」




ビリー「……なんだよリッパー、見せたいものって」

リッパー「これは、ギース様がプロデュースしていたReppuというグループのデビューLIVEの時の映像だ」


ビリー「……!」

ビリー(ギース様が……プロデュースしたグループ)


牙のない人に
興味はないの
good-bye boy 悪夢にまで怯えるといいわ


ビリー「……凄ェな」

ホッパー「わかるのか?」

ビリー「俺ァこう見えても音楽にゃうるせぇんだぜ?アイドルソングなんざ今まで興味も無かったが、こいつらの音は魂に響いてきやがる」

ビリー「実際に映像見て……これをプロデュースしたのがギース様ってんなら、納得のいく話じゃねェか。百聞は一見に如かずってか」




ビリー(……しかし、この黒髪の女と右端の茶髪の女……どっかで見たことがあるような……)

リッパー「で、だ。お前にはこの映像に映ってる金髪の娘……いや、15年前の映像だから今は娘という歳ではないが、この女性に接触してもらう」

ビリー「なんでこの女なんだ?」

リッパー「この女性は今、自らアイドルの事務所を設立している。だからお前はこの事務所に入り、プロデューサーとして活動しながら手紙の線の調査をするんだ」



ビリー「……はァ!?お、俺がアイドルのプロデューサーだとォ!?」


リッパー「そうだ。かつてギース様がそうしたようにな。それが、お前の社長として就任する上での修行にもなると判断した」

ビリー「いやいや、ありえねェだろ!確かに俺ァ日本に行くまでは承知したが、ンなことをやるとまでは」

リッパー「大丈夫だ、その間のハワード・コネクションは俺とホッパーで切り盛りする。お前は安心して行ってこい」

ビリー「……オイ、ホッパー!」

ホッパー「……ビリー、よく考えろ。これはお前が成長するチャンスなんだ」

ビリー「……成長……」

ビリー「……イヤイヤ、それでもプロデューサーはねェだろ……もう何がなんだか……」



リッパー「よし、確認だ。この女性の名は桐生つかさ……そして事務所は『RUNWAY』だ」



リリィ「ただいま……あら?兄さん?いないの?」
パタパタ

リリィ「ん?これ……手紙?」
パサ

リリィへ
仕事で少し家を空ける。
金も置いていくし、お前は何も心配しなくていい。
万が一何かあったら会社に連絡しろ。
ビリー

リリィ「……うそ」
ガクッ



リリィ「そんな……兄さん……!せっかく……一緒に……暮らせてたのに……!」
ジワ


リリィ「兄さん……!」

飛行機機内

機内アナウンス『まもなく当機は日本、羽田へと到着します。シートベルトを締め……』

ビリー(……この窓から見えるのが日本、か)

ビリー(かつてギース様がその腕を磨き……そして、アイドルをプロデュースした地……か)

ビリー(それを俺が?大体アイドルのプロデュースなんて何すりゃいいんだよ)

ビリー(……)

ビリー(何もわからねぇ……が……俺も恐らくこのままじゃあいけねェんだろう)

ビリー(何かを変えるため……この国は、その第一歩としては悪くねえのかもな……)



ビリー「……」

ビリー「……いや、それでもアイドルはねぇだろ……」

今日はここまで

日本
東京
駅前

ビリー「……」

ワイワイガヤガヤ


ビリー(人が多いな……だが……)

エーマジー?
スミマセンスミマセン!カナラズアスマデニハ…
ゴウコンイコーゼ!メンツタリネェンダヨ

ビリー(どいつもこいつも腐った目をしてやがる……ただ多いだけだ、この国の連中は……)

ビリー(……まぁどうでもいいか)


ビリー(なになに……『RUNWAY』は駅から徒歩2分か……随分便利の良いトコに構えてんじゃねェか)

ビリー「……芸能事務所『RUNWAY』……」

ビリー「……ここか。そこそこでけぇじゃねえか」



ガチャ
ビリー「……邪魔するぜ」


事務員「ひっ、ど、どなたさまでしょうか?」

ビリー「あん?俺は……」

ビリー(……そういやここはサウスタウンじゃねえんだったな)

ビリー「……すまねえな、俺はこういうモンだ。社長に取り次いでくんねェか?」
スッ

事務員「……ハワードコネクション!?あの、どういったご用件で……」

ビリー「チッ、面倒くせえな、余計な詮索しなくていいんだよ。社長はいんのか?いねェのか?」

事務員「ひいっ、しゃ、社長は今外出中なんです~!」
ビクビク

ビリー「いねェなら最初からそう言えよ……いつ戻るんだ」

事務員「ゆ、夕方には戻る予定です……!」

ビリー「そうか。んじゃ、時間つぶしてまた来るぜ」

事務員「は、はい……」

事務員(もう来ないでほしい……)



ビリー(……てっきり社長なら事務所から動かねェモンだと思ってたが……自分からあくせく働くタイプの奴か)

ビリー「……しょうがねェ、その辺で時間を……ん?」

ワイワイ


ビリー「おい、なんかやってんのか」

通行人「ドラマの撮影やってるみたいなんだけど、エキストラの人がヤバいっぽいよ」

ビリー「ヤバい?」

???「はぁーい♪アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆あはん♪バッチリ決まっちゃった☆どぉどぉ?」

エキストラ「……キ、キマってる」




通行人「キマってる」

ビリー「キマってんな」

監督「カットカットォ!おい!そこの変な服の子!ちょっと来い!」

???「ん?はぁとのコト?やぁん、カントクジキジキに演技指導ー!?よろしくお願いしまぁす☆」

ビリー「……アレで、エキストラ?」

通行人「らしいっすよ」

ビリー「……こんな国にもやべェ奴はいるもんだな……だが……」



ビリー(……ただ、腐った目をして、彷徨ってるだけの連中よりかはなんぼもマシ、か)

事務所

ガチャ
ビリー「よう、また来たぜ。社長サンは戻ってるか?」

事務員「ヒィ!ほんとにまた来た!しゃ、社長~!」
パタパタ

女性「……コイツか」
スタスタ

ビリー「……へっ、ようやくツラ拝めたぜ。あの映像は15年前のモンと聞いてたが、良い女じゃねえか」

ビリー「あんたがこの事務所の社長の桐生つかさか」


つかさ「……そうだけど」

ビリー「名刺は……もう渡してたよな。俺はハワード・コネクションのモンだ」

つかさ「ああ……知ってるよ。ギース・ハワードの右腕……ビリー・カーンだろ?」

ビリー「……なら、話は早ェ、アンタ、俺を……その、プロデューサーとして雇ってくんねェか」

事務員「え、ええええええ!?」

つかさ「……奥の社長室に来な」
クイ

ビリー「……」

社長室

つかさ「……それで?」

ビリー「は?いや、聞いてただろ。俺をプロデューサーとして雇ってくれって話だよ」

つかさ「いや、聞いたよ。それで?」

ビリー「それでってお前……」

ビリー(いや、これは日本に来る前の時点で予想してた事だ……思い出せ、こういう時は……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~



リッパー「……恐らく、いきなりプロデューサーにしろと言ってもあちらは難色を示すだろう。だからこれは社間交流のようなモノだと言うんだ」

ホッパー「向こうも元々ギース様の下で働いていた者の会社だ。だからハワード・コネクションと交流があっても道義的にそうおかしい話ではないだろう」

リッパー「それに、桐生社長はアイドル事務所以外にも幾つも事業を抱えている。だからここでお前を受け入れてくれるならば、ハワード・コネクションは事業提携の準備がある、というあちらにとってのメリットを提示するんだ」

ビリー「……」

~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ビリー「……という訳だ。いきなりの話だが、そっちにとっても悪い話じゃねェハズだ」

つかさ「……」

つかさ「浅いな」

ビリー「……あ?」

つかさ「大方会社のヤツに入れ知恵されて来たんだろうけど、ちょっと利益をチラつかせればこっちが食いついてくると思ってんの?」

ビリー「……」

つかさ「こっちは別に経営に困ってないし、別にギース・ハワードの名前で売ってもいない。安く見られたモンだな」

ビリー「……断るってのか」

つかさ「こっちが受け入れるかどうかはその人間を見て判断するのが当然だろ。それで、ハワードコネクションなんて言うからわざわざ会ってみれば……とんだチンピラだ」



ビリー「……あ?」

つかさ「これでアイツの右腕だったってんなら……随分と下らない仕事をやってたんだな、アイツ」

ビリー「……おい。元ギース様の部下だったか知らねェが、あの方を侮辱してタダで済むと思ってんのか」

つかさ「部下?違うね、元同僚だ。あたしとアイツは対等な契約関係だった。それを一方的に打ち切ってきたのはアイツの方だ」

つかさ「ただ……恨み言の一つこそあれ、アイドルの世界にあたしを引き込んだのはアイツだった。その点ではアイツに感謝の気持ちもあった……ついさっきまでは」

ビリー「……」

つかさ「けど、アンタを見たらそんな気も失せたよ。お引き取り願おうか。そして二度とウチの事務所に近づくな」

ビリー「……上等だコラ。てめェがギース様の関係者じゃなかったらこの場でブッ殺してた所だぜ」

つかさ「やっすい脅しだな。アンタがクチを開く度にアタシのアイツに対しての失望が深くなるよ」

ビリー「……てめェこそそのクチを閉じやがれ。じゃねェと脅しじゃ済まなくなるぜ……!」


つかさ「……アンタ、今三十くらいか?そのくらいの歳でそのザマじゃ、ただただアイツの命令聞くだけで、なんにもアイツから学ばなかったんだな」

ビリー「……!」

つかさ「右腕だって?笑わせんなよ、飼い犬だろ?ただのさ」



ビリー「――――――――」

ビリー「……」

ビリー「……飼い犬で結構。邪魔したな」
スッ

ビリー「ギース様があの街で何をしてたのか、どれほど偉大なのか……それも知らねェド素人とこれ以上やりあっても時間のムダだな、お互いに」

ビリー「じゃあな。せいぜいこの死んだ街で温ィ事やって良い気になってな」
ガチャ
バタン




つかさ「……」

事務員「……あの~、社長?さっきの人、鬼みたいな顔して帰っていきましたよ……」

つかさ「……ざけんなよ」

事務員「……社長?」

つかさ「あたし達を捨てて行った先で右腕にしてたのがあんなチンピラだって?本当に、ふざけるのも大概にしろよ……!」
ギリギリ


事務員(こ、こっちも鬼のような顔してる……)
ガタガタ

今日はここまで






リッパー『……そうか、それはこっちのミスだな、あっちの社長の人となりまで把握し切れていなかった』


ビリー「もうそんなモンどうでも良いぜ。俺ァ今度あの女と面合わせちまったら今度こそブチキレるかもしれねェ」

リッパー『待て、ビリー。また別の交渉材料を考える、お前は引き続き……』

ビリー「引き続き?引き続きなんだ、あれだけコケにされてまだやるつもりなのか?冗談じゃねェ、だったら別の奴にやらせろ。俺はもう御免だぜ」

リッパー『……ビリー、これはコネクションの為にだな』



ビリー「リッパー。アンタも理解してねェようだから教えといてやる」

ビリー「アンタやホッパーは仲間としちゃ信頼してるし、コネクションだってそりゃそれなりに大事に思ってる。けどな」

ビリー「俺が忠誠を誓ったのは、アンタにでもあの女にでも、コネクションにでも無ェ。あくまでギース・ハワード、あの御方本人に対してだけだ。あの人の命令だったらプロデューサーだろうがやってやるし、ムカつく相手にだって頭下げてやるさ」

リッパー『……』

ビリー「だが今回の件はあの方が直接下した命令じゃねェ。だったら俺は自分を殺してまで従う気は毛頭無ェ。……大体俺がこの世で一番嫌いなモンは、命令される事なんだからよ」

リッパ-『……ビリー、明日また連絡する。一晩頭を冷やして、もう一度考えてくれ』


ビリー「別に答えは変わりゃしねえよ」
ピッ



ツーツー
リッパー「……切れたか」

ホッパー「もう投げ出したか?」

リッパー「投げ出す以前に始まってすらいない。向こうの社長もかなり気が強いらしい。ビリーとやりあったようだ」

ホッパー「……だから言ったんだ。ビリーがギース様以外の命令で誰かの下に付くなんて無理だ」


リッパー「だが、やってもらわなければ。コネクションを守るためにもな……ホッパー、何か妙案は無いか?」

ホッパー「……正攻法では難しいだろうな。あいつは三十にもなって心の中はガキのままだ、一度ヘソを曲げたら意地でも動かないだろう」

リッパー「そうだな」

ホッパー「だから、搦手を使う。幸い、この世にはあいつに命令を出来る人間があと一人だけ残ってる」

リッパー「……確かにな。だが、恨まれるな……」

ホッパー「お互いさまだ。俺達もあいつの尻拭いは今まで大概やってきたからな」

プルルルル
ホッパー「……フロントから電話だ。……俺だ」

ホッパー「……ああ、わかった。こっちに繋いでくれ」
ピッ



ホッパー「……リッパー、手間が省けた。あちらからご連絡だ」

リッパー「可哀想だが仕方ない。彼女にも手伝ってもらおう」

ビリー(……チッ、イラつくぜ。どいつもこいつもよ)
ツカツカ

呼び込み「あっ、そこのお兄さん!おひとりですか!?ウチは一人からでも飲めますよ!どうですか~?」

ビリー「あぁ!?気安く話しかけんじゃ……」
ギロッ

呼び込み「ひぃっ!」

ビリー(……いや、酒か……そうだな)

ビリー「オイ、てめェから呼び込み掛けてきたってことはちったぁサービスしてくれんだろうな?」

呼び込み「え?も、ももも、もちろんです!!」

居酒屋
ワイワイ

ビリー(……なんだこりゃあ。酒飲み処には違いねえがバーとは明らかに雰囲気が違う)

ビリー(どいつも酒を飲んじゃいるが……さらにがっつりリメシ食ってやがる)

ビリー「おい、ここはバーなのか?レストランなのか?」

店員「えっ、いや、居酒屋ですけど」

ビリー(イザカヤ……どうやら日本独自の店みてェだな)

グビグビ
ビリー「……ふぅ」


ビリー(大人しいモンだな、この国の奴らは)

ビリー(大人数で大声出してる奴らはいるが……暴れてグラス割るような奴はいねえ)

ビリー(どいつもこいつも基本的には大人しく飲んで……ん?)

???「それでさぁ!!それっきり現場からつまみ出されちゃったの!ひどくね?」

店員「は、はぁ」



ビリー「……あいつは」


???「エキストラの癖に目立ちすぎって、わかってるっつーの!わかっててやってんだよこっちは!もうチマチマやってる暇はないっつーの!一発逆転狙わなきゃギリギリなんだよ!」



ビリー(昼間のやべえエキストラの女じゃねえか……)

???「大体、この店も一人から良いって言うからホイホイ付いてきたのにはぁと以外はカップルとかグループばっかりだし……ん?」
ジッ

ビリー「……!?」

ビリー(ゲッ、目が合っちまった)

???「……」
ツカツカ

ビリー(オイオイオイ、こっちに来るぞ……)

???「お兄さんも御一人様?ちょっと良かったらはぁとの話聞いてくんない?」
ドカッ

ビリー(隣に座りやがった)

ビリー「いやいや……何だよお前は……何だはぁとって……」


心「はぁとははぁとだろ☆アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆さとうしんことしゅがーはぁと☆」


ビリー「クスリでもやってんのかてめェ」

心「辛・辣☆後で覚えてろよ☆」


心「……いや、わかってるよ?周りが引いてんのは……いや、引かれてないし☆」

ビリー「……どうやら完全にキメちまってる訳じゃなさそうだな。なんでそんな痛々しい真似してんだ。コメディアン志望か?」

心「誰が芸人の卵だっつの☆はぁとは~アイドルになりたいの☆」


ビリー「……最近のアイドルってのはそういうのが流行ってんのか」


心「いや、別に流行ってない……ただ、もう年齢的にギリギリっていうか崖っぷちというか……」

心「っていけね☆ついスウィートじゃないリアル事情匂わせちゃった☆」

ビリー「……つまり、普通にやってもダメだから、そうやってトチ狂った恰好してクスリキメちまった痛々しくて頭のおかしい狂人を演じてるって訳だ」

心「うん、そう……って流石に言い過ぎだろ☆ぶっとばすぞ☆」



ビリー「……なぁ、何でそこまでしてアイドルになりてえんだ。自分がどんな目で見られてんのかは解かってんだろ。だったら……何がお前にそこまでさせる?」

心「ちょっ、マジトーンの話とかやめろよ☆軽くやってくれないとマジではぁと苦しいじゃん☆」

ビリー「……」

心「……単純にさ、楽しいんだよ。メチャカワで、きゅんきゅんのキャピキャピで」

心「だから、やめられないの!どんだけ引かれようが、笑われようが関係ない!このアイドル業界で生き残る為だったらなんでもしちゃう☆……裏工作とかでもさ」

ビリー「……へぇ」

心「……ってオイィ!はぁとに真面目に語らせといてリアクション薄いな☆」

心「そういう自分はどうなの?外国人が一人で居酒屋ってどういう状況だっての☆仕事?」

ビリー「……まぁそんなモンだ。もうすぐ国に帰る」


心「へぇ~……あ、そうだ、なんか芸能事務所のお偉いさんとかにコネとかない?菓子折りもって挨拶いくぞ☆」

ビリー「……ねェよ、んなモン」


心「なんだよ~使えねーな☆まっ、今日は飲も飲も!……お兄さんのオゴリで♪」


ビリー「図々しいぞてめェ」

心「いや~、今日ははぁとの愚痴を聞いてくれてありがと♪めっちゃお酒進んだわ☆」

ビリー「……そりゃ良かったな」

ビリー(チッ……一人で飲むハズだったっつーのに……とんでもねェ女に絡まれたもんだぜ)

ビリー(だがまあ……悪くねえ。悪くはねえ気分だ)


ビリー「じゃあな」


心「ちょちょちょちょ!そういやまだお兄さんの名前聞いてなかった☆」

ビリー「あぁ?俺ァもう国に帰るって言ったろ。名前聞いたってもう会う事なんざ無ェよ」

心「ツレないこと言うなよ~!っていうか人の縁ってのは馬鹿に出来ないんだよ?いつまたバッタリ再会するかわかんないんだし、名前くらい良いだろ☆」

ビリー「……縁、ねえ……俺は別にもうお前に会いたかねえが」

心「傷つくだろ☆良いからはよ教えろ☆」



ビリー「……ビリー。ビリー・カーンだ」

心「はいはい、ビリーさんね……俳優みたいな名前だな♪」

ビリー「ほっとけ……じゃあな、佐藤。せいぜいアイドル目指して頑張れや」
スタスタ

心「おう、当たり前だっての☆……ってオイ!誰が佐藤だよ!いや佐藤だけど!はぁとって呼べよ!オイぃぃ!!」

ギャーギャー




ビリー「……騒がしい女だったぜ」

ビリー(……もう会う事は無ェだろうが)

今日はここまで

翌日

ビリー「さて、帰り支度すっか……ん?」
プルルルルルル

ビリー「電話……リッパーからか。そういやまた掛けてくるって言ってたな……」
ピッ

ビリー「もしもし」

ホッパー『ビリーか。俺だ』

ビリー「んだよホッパーか。言っとくが俺は何言われようがもうやらねえぞ」

ホッパー『別にどうでもいい。だが、お前に伝えなきゃならない事があるんでな』

ビリー「あ?」



ホッパー『ビリー、お前の妹……リリィ・カーンが日本に向かっている』

ビリー「……ハァ!?」

ビリー「なんであいつが日本に!?どういう事だホッパーテメェ!」

ホッパー『作日、彼女から会社に連絡があった。お前の行き先を教えてくれ、とな』

ビリー「それで教えたってのか!?」


ホッパー『もちろん俺達も初めはなんとか隠そうとしたんだが、それこそお前を捜して世界を回りそうな勢いだったので、仕方なく行き先を教えた』

ホッパー『すると彼女は自分の眼で確認すると言い出した。彼女は現在日本行の航空機に乗ってる』

ビリー「……てめェ、ホッパー……!話が違うだろうが……!俺がいねえ間はリリィの事は頼むっつっただろうが!」


ホッパー『もちろん今現在も同じ航空機にボディガードは同乗している。……それに、お前はもう任務を投げ出すつもりなんだろう?だったら先に契約を破ったのはお前の方だ』

ビリー「……!」



ホッパー『伝えるだけは伝えてやったが、もう後はお前の好きにしろ。こっちに帰るも、故郷に帰るも、日本に残るもな』

ホッパー『……ああ、ついでに彼女にお前がなんの仕事で日本に行ったのかも聞かれたから、アイドルのプロデューサーをやってると教えてやったな』

ビリー「!?」

ホッパー『お前は本当の顔は妹には見せていないんだろう?ただでさえここ最近のお前は妹を心配させていただろうが、日本でしっかりと仕事をしているお前の姿を見せれば安心させてやれるだろうにな』

ビリー「……てめェら、そっちに戻ったら覚えとけよ……!」

ホッパー『お前がしっかり日本で勉強して帰ってきたなら、文句は聞いてやる』
ピッ



ビリー「……クソがあァァァァァァ!!」

ビリー(どうする!?リリィがこっちに向かってるだと!?プロデューサーをやってると聞いて!?)


ビリー(適当に言いくるめて一緒にサウスタウンに……)

~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~


リリィ『……私に隠してること、ない?』


リリィ『……ううん、やっぱりなんでもない。……無茶、しないでね?』


ホッパー『日本でしっかりと仕事をしているお前の姿を見せれば安心させてやれるだろうにな』

~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~



ビリー「……」



ビリー「くっ……!やるしか、ねえってのか……!」

事務所


つかさ「……」

ビリー「……」

事務員「……」


つかさ「……で?何しに来たんだよ。てか、良くもまぁまた顔出せたな」

ビリー「……」
ギリギリ

事務員(ひい~!凄い眼で睨み付けてる……ていうか本当に何しに戻って来たのこの人……)

ビリー「……」
スゥー
フゥ

ビリー「……まぁ、昨日の事は俺が悪かった。改めて詫びるから、俺をプロデューサーとして雇う件、考え直しちゃくれねえか」

つかさ「……は?お前昨日散々馬鹿にしただろ。温い世界だってさ。それなのにまだプロデューサーやる気なのか?プライドとか無いのか?」

ビリー「……それについても、謝る。厳しい世界だってのは……昨日聞いた」


ビリー「それに、まぁ……プライドというか、意地みてえなモンもあるつもりだ。だが……それ以上に大切な……壊したくねえモンがある。だからこうして頭を下げに来た」

つかさ「……へえ。お前みたいなタイプの男はくっだらねえメンツの為だけに生きてると思ってたんだけどな」



つかさ「だけど……それとお前を雇うのは話が別だ。お前みたいな粗暴な奴がアイドルと上手くコミュニケーション取れるとは思えないし、勤まるとは思えない」


ビリー「く……」

事務員(ホッ……良かった……)



つかさ「……だから、テストしてやるよ」

事務員「!?」

ビリー「……テスト?」



つかさ「ああ。……今日1日だけ時間をやる。どこからでも良いから、一人アイドル候補生をスカウトして来い」

ビリー「スカウトだと?」

つかさ「ああ。この短時間で女の子一人説き伏せるのは簡単な事じゃない。コミュニケーション能力が要る」

ビリー「そんなモン出来るワケ……」



ビリー(……いや、待てよ?昨日会ったあの痛い女……アイツなら……デビューのチャンスと言えば簡単に……)

ビリー「……いや、なるほど。やってやろうじゃねえか」

つかさ「……ああ、それと。連れてきた候補生はアタシが面接する。で、ダメそうだったら容赦なく不合格。もちろん連れてきたお前も不合格だ」

ビリー「……なんだとォ!?」


つかさ「いや、当然だろ。誰でも良いんだったらその辺のヤツに適当に声掛けてたら捕まるかもしれないけど、そんなんじゃ意味無いからな」

つかさ「アタシの眼から見ても通用しそうなヤツを明日までに連れてくる。それくらいしてやっと雇うに値するレベルだってんだよ」

ビリー「……」

~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~


心「はぁーい♪アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆あはん♪バッチリ決まっちゃった☆どぉどぉ?」


心「エキストラの癖に目立ちすぎって、わかってるっつーの!わかっててやってんだよこっちは!もうチマチマやってる暇はないっつーの!一発逆転狙わなきゃギリギリなんだよ!」


心「はぁとははぁとだろ☆アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆さとうしんことしゅがーはぁと☆」


~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~


ビリー(……無理だな)

ビリー「……オイ、もうちょっとハードルを……」

つかさ「ダメだ。後はもうバックレるも良し、ちゃんとスカウトするも良し。これ以外の条件は受け付けないからな」

事務員(……これなら無理そう。良かった~……この人怖いんだもん)


ビリー「……」

今日はここまで

街中

ビリー「オイ。ちょっとお話しねえか、お嬢ちゃん」

女の子「ひ、ひいいいいいい!」
ダダダダダダダ

ビリー「……」



ビリー「……ちょっと荒すぎたか?」



ビリー「……もしもし。ちょっと、そこのお嬢さん」

女の子「……はい?もしかして私……」
クルッ

ビリー「ええ……ちょっと俺の話を聞いちゃくれませんかね」
ニヤニヤ

女の子「ひゃ、ひゃああああああああ!!」
ダダダダダ

ビリー「なんでだコラァ!」

ビリー「……恰好か?まぁ確かに革ジャンじゃあ真面目な話とは思われねえかもな……」



ビリー「……しゃあねえ」

女の子「……」
スタスタ

ビリー「もしもし。そこのお嬢さん」

女の子「はい?私で……!!?」

ビリー「少しお話したいことがあってそこの喫茶店まで同行してほしいんですが、構いませんね?」
ズイッ


女の子「ひ、ほ、本職!ま、マフィアあああああ!!」
ダダダダダダダ

ビリー「!?ちょっ、待てや!真面目にスーツだろうがァァァァァ!!」

ビリー「クッソ……まぁ予想してたとはいえ、全然捕まんねえな……」

ビリー「つうかどいつもこいつも話も聞かねえで逃げやがる……根性なしどもが!」


ビリー「やっぱりその辺の女は駄目だな……もっと気が……というより意思が強そうな女じゃねぇと……」


ビリー(じゃねえと、あの女の面接なんざ通るわきゃねえ……)




ビリー「……」
ギロッ

通行人「ヒッ」
タタタタ


通行人「えー?マジー?それ最悪じゃない?」

通行人「マジマジ!ほんともう死んだほうがいいっていうかさー」
アハハハハ


ビリー(……やっぱり違ぇんだよな。どいつもこいつも温室育ちっつうか……何不自由なく生きてるって感じがしやがる)

ビリー(そんなザマであの女の出す試験なんて突破できるワケがねえ……もっとこう、血ヘド吐いてでも喰らいつきそうな、餓えた目をしたヤツはいねえのか……―――)
ドン



女の子「……あ」


ビリー「……ああ?おい、どこ見て歩いてやがる」

女の子「ご、ごめんなさいボーっとしてて……けど、あなただって道の真ん中で突っ立ってるのはどうかと思うよ」

ビリー「……なんだこのガキ……」

ビリー(……帽子を目深に被って……イモい恰好だなオイ。都会に出てきたばっかりです、みてえな)


ビリー「チッ……田舎モンが。ここはお前みたいなのが来るところじゃねえよ」
ツカツカ

女の子「……!」



女の子「……待ってよ」


ビリー「……あ?」

女の子「……田舎者じゃ悪いの?アタシだって、アタシだってアイドルになるんだから―――」


ビリー「……!」


ビリー(……コイツの眼は……)

ビリー「……お前」


女の子「……!」


ピピー
警察「あっ、お前だな!通報があった人身誘拐の海外マフィアというのは!大人しくしろ!」
ダダダダダ

ビリー「あ?」


ビリー「……ハァ!?誰が人さらい……俺が!?」

ビリー「ックソがァァァァ!!」
ダダダダダダダ


警察「待てえ!」
ダダダダ



女の子「……あ」
ポツーン



女の子「……人身売買?……マフィア?」

女の子「……何さ」

ビリー「ハァ……ハァ……やっと撒いたか……ったく、日本のポリ公しつこすぎんだろ……」


ビリー(……駅前はもう駄目だな。ポリが見張ってやがるし)

ビリー(……っていうかもう夜じゃねえか!どうする……!)

ビリー(……さっきのヤツは……まあまあイイ線行ってたと思うが……)

ビリー「……」



ビリー(ダメだ……もう時間がねえ……)

ビリー「クソッ……」


???「……アレ?そのバンダナは……」

ビリー「……あ?」
ジロッ

心「おっ、やっぱりビリカンさんじゃーん☆もう再会したな☆」

ビリー「てめェは……佐藤……!」


心「いや、だからはぁとって呼べっつったろ☆何してんのこんなところで?まだ国に帰ってなかったの?」

心「あ、ちなみにはぁとは今日もどこかで飲んだくれ……コホン、ひとり反省会を開こうと思って居酒屋探してたトコ☆もしヒマならまた一緒に飲まない?ビリカンさんのオゴリで☆」

ビリー「いや、聞いてねえしヒマじゃねえし図々しいしなんだお前」

ビリー「あいにく俺ァお前みたいなモンに付き合ってる場合じゃねえ……こちとらマジで深刻な問題が……」

心「お?どしたどした?悩みか?良いよ、聞いてやるぞ☆居酒屋で☆」

ビリー「……」
ジロッ

心「なんだよ☆そんな見つめんなよ☆もしかしてはぁとのコト聖母みたいに感じちゃった?って誰が一児の母だよ☆独身だよ☆」
クネクネ


ビリー(……コイツはダメだ……絶対合格出来ねえ……)

ビリー(……だが……もう時間もねえ……)

ビリー(どうする……!?)



『そうだ!ギースの時代は奴の死とともに惨めに終わった!!これからは、俺たちがこの街の王だ!!』

『ギース様がいなくなった今、ハワードコネクションの裏社会への影響力は急速に失われつつある』

『だからお前だ、ビリー』

『……無茶、しないでね?』

『日本でしっかりと仕事をしているお前の姿を見せれば安心させてやれるだろうにな』




『右腕だって?笑わせんなよ、飼い犬だろ?ただのさ』



ビリー「~~~~~~……」


ビリー「……そうだな。ナメさせちゃいけねえ。なんだってやってやる……」



心「……え?なんて?」

ビリー「……オイ佐藤。お前、アイドルになりたいんだったな?」

心「だからしゅがは……そうだよ☆え?なに?アイドルにしてくれんの!?コネあんの!?」


ビリー「ああ、でっけえチャンスだぜ。お前は確かアイドルになる為だったらなんでも出来るんだよな?」

心「マジでか!!ついにはぁとにもチャンスが!?」


心「……けど、なんでもってなにを?もしかして枕的なヤツ?う~ん、いやぁ~そ、それは~……」

ビリー「違ェよ。ただ……多少は自分を偽ってもらうけどな」

心「……どういうこと?」

ビリー「簡単なこった。俺はお前をアイドルにしてやる代わりにお前は俺をプロデューサーにする。ギブアンドテイクってやつだ」

心「……ちょっとよくわかんないから詳しく聞かせて☆居酒屋で☆」

ビリー「ンなヒマはねえ。ちょっと俺のホテルまでツラ貸してもらうぜ」
ガシッ

心「……え!?ちょ、ちょっと待って、これってやっぱり……!?」

心「ちょっ!だーれーかー!!よーごーさーれーるー!!」

ナンダナンダ
ザワザワザワザワザワ

ビリー「人聞きのわりィこと叫ぶな!トチ狂った女なんざ興味ないから黙ってろ!」ズルズルズル



心「……それはそれでちょっと凹むぞ☆」

今日はここまで

ホテル


心「……なーんだ、普通にビジホじゃん☆」

ビリー「そう言ってんだろうが」



心「……で?どうしたらいいの?」

ビリー「……案外アッサリしてんな」

心「まぁよくわかんないけど上手くいけばアイドルになれるんだろ☆ならOK☆」

ビリー「……よし。ならまず俺側の事情を話す。マジで時間がねえから手短にな」

ビリー(もちろん、全部は言えねえがな)





心「……はー、なるほどね~……国から出てくる妹に働いてる立派な所を見せたくてプロデューサーになりたいと……で、アイドルをスカウトしてくれば雇ってくれる約束を取り付けた……と……」

ビリー「……まぁそういうこった」

心「まぁ色々ツッコミどころがあるけど……ビリカンさん、今いくつ?」

ビリー「……三十だ」



心「いや~!きっついわ~!三十で無職で海外プラプラしてるのはきっついわ~!そりゃ妹さんも心配で様子見に来るわ~!」


ビリー「……あ?」
イラッ

心「いや、実際そうでしょ☆」

ビリー「テメーには言われたくないわ!いいトシこいて……いくつか知らねえが、そんな狂った恰好で狂った言動してるテメーだけには!」
クワッ

心「でもはぁとは二十……ゴニョゴニョ歳だから☆まだ三十代じゃありません~!」

ビリー「なーにがはぁとだ!なーにがゴニョゴニョ歳だ!世間的に見りゃテメーの方がヤベー奴なんだよ!」


心「そんなことないです~!三十で無職でバンダナ巻いて異国をうろついてる方がやべー奴です~!」

ビリー「てめェこのバンダナバカにしやがったな!?殺すぞ!それに俺ァサウスタウンに帰りゃちゃんと……」

心「ん?」

ビリー「……」

ビリー「……いや、なんでもねえ……」

ビリー(落ち着け俺……もう時間もねえのにアホとアホな言い合いをしてる場合じゃねえ……)
フゥ


ビリー「……まぁ、お互い崖っぷちってこった」

心「……うん。まぁここはお互い似た者同士ってことで☆」



ビリー(ウンザリするぜ……どうしてこうなった……)

ビリー「……話を戻すぜ」

心「うん。それで、はぁとはその社長の面接を受けて合格すれば晴れてアイドルになれっる☆ってことだよね?」

ビリー「ああ。で、俺はプロデューサーとして雇ってもらえる。winwinだ」



心「よーっし☆そんなら面接にはいつもの1億倍のシュガシュガスウィートで、もう甘すぎて社長がえずく程のしゅがはを……」

ビリー「待てや!」


心「ほえ?」

ビリー「もしそのノリで面接行ってみろ。120%落ちるぞ。間違いねェ」

心「ええええええええ!?じゃ、じゃあどうしたらいいの!?」

ビリー「……まずお前、いくつだ?」

心「いや、だから……二十ゴニョゴニョ歳」


ビリー「……」
ギロッ

心「ひっ……二十……ろくです……」

ビリー「二十六か……つってもこの国のアイドル事情なんざ知らねえが、大体アイドルってのはいくつくらいが相場なんだ?」

心「いや、最近は割と平均年齢高くなってきてるからしゅがはくらいの年齢は全然別にイケるし……」



ビリー「……」
ギロッ

心「ひっ……!いやホントなんだって!……ただ……まぁ若いに越したことはないっていうか……デビュー前なら尚更……」

ビリー「……なるほどな。あとは恰好だな。その服……」

心「おっ、わかるゥ?この服はなんと、はぁとの手作りなんだぞ☆衣装も自作出来てこのセンスとか……やばっ、天才すぎる~☆」

ビリー「ヘェ、そりゃスゲーな。着替えろ」



心「いや、なんで!?と~ってもスウィーティーだろぉ!?」
ガビーン

ビリー「うるせェ。……どうやらてめえは自分の痛さを客観視出来てねぇみたいだな」

心「ひどくない?」

ビリー「……よし、分かった。俺の記念すべきプロデュース第1号だ……今から明日の朝まで、徹底的にお前の『痛さ』を消し去ってやる!覚悟しやがれ!」



心「え、えええええ!!」

翌朝
チュンチュン

ビリー「……よし、こんなもんか……オイ、自己紹介してみろ」


心「……佐藤心、22歳です。大学を出たばかりで、今はデビューを目指して勉強中です。趣味はお裁縫と自分磨きです」

ビリー「おーし、いいぞ上出来だ。ていうかお前もあの痛々しい恰好やめて普通に喋りゃけっこうまともに見えんじゃねえか」

ビリー(……もしかしたら俺はこっちの才能があるのかもしれねえ……)

心「……そりゃどーも」

心(一睡もできなかった……スパルタすぎるだろ……)

心「……ていうか服も地味目だし髪もおろしちゃってるしそもそも歳はサバ読んでるし……もうほとんどしゅがは要素なくね?ていうかイイのコレ?バレないの?」

ビリー「いいんだよ。歳もお前が下手打たなきゃバレやしねェ。恰好もそれだったら『年齢よりも大人びている女』で通る」



心「……う~……でもぉ~……」

ビリー「お前はいつも通りやって、面接落とされたいのか?普段のお前がどういう評価をされてんのかわかってんだよな?」

ビリー「……それともなんだ?アイドルやるためだったらなんでもやるっつってたのはウソだったのかよ」

心「うっ……」

ビリー「……安心しろ。もしこのまま合格してアイドルになって、そんで売れたら後はお前の好きにできるだろうよ」

心「……ほんとぉ?なら頑張るけど……」

ビリー(……まっ、そうなる頃にゃ俺はもう関係無いだろうがな)

プルルルルル
ビリー「……電話か」
ピッ

ビリー「俺だ」

リッパー『ビリーか。リッパーだ』

ビリー「……なんだよ。今度はなんの悪い知らせだ」

リッパー『嫌われたものだな。……先ほどボディーガードから連絡が入った。もうじきお前の妹……リリィ・カーンが乗った飛行機が日本に着くそうだ』

ビリー「!」

リッパー『恐らく昼頃には事務所の方にやってくるだろう……お前の方の首尾はどうなってる?事務所に潜り込むことは出来たのか?』

ビリー「……それがよ」



リッパー『……なるほどな。テストを出してきたか……だが、もうスカウトは済んでるんだろう?なかなか手際がいいじゃないか。本当は向いてるんじゃないか?』

ビリー「……冷静に考えると向きたくもねえよ。それに面接はこれからだ。一応仕込みはしたが、あの女の目を誤魔化せるかどうかは正直五分五分だ」
チラッ


心「あ~落ち着かない……どうだろ?一回くらいしゅがってもバレないんじゃない?」
ソワソワ

ビリー「……2、3分くらいかもな」

ビリー「だが、もうコイツで行くしかねえ……もし上手くいきゃあリリィが着くまでには潜り込めるはずだが……もし失敗した時は……最悪力づくでなんとかする」

リッパー『……RUNWAYは日本に隠された謎を追うための重要な手がかりだ。極力荒事は避けろよ』

ビリー「アンタもホッパーもこっちの苦労も知らねえで無茶ばっかり言いやがる。どうかしてやがるぜ」

リッパー『そうだな。だが、必要なことだ。また結果が出たら連絡しろ。結果次第では、俺たちも準備をしなければならないからな』
ピッ

ビリー「……」


心「あっ、電話終わった?ねぇねぇ聞いてほしいんだけどさぁ☆今からの面接でほ~んの少し!ほ~んの少しでいいからはぁとの好きなように」

ビリー「佐藤」

心「はぁい♪」


ビリー「黙ってろ」

心「……」

今日はここまで

事務所

ビリー「……ここだ」

心「お、おお……そんなに大きくないのになんというか……超一流っぽい雰囲気が感じられる……ていうかここ……RUNWAY!?」

ビリー「……知ってんのか?」

心「いやいや、知ってるにきまってるだろ☆今一番勢いがあるプロダクションだし!ていうかビリカンさんそれ知らずにここ受けてたのかよ☆」


ビリー「……色々あんだよこっちにも」

心「いや~無知ってこわ~い☆けど、こんなところの面接受けられるなんてすごいことだし♪ビリカンさんもしかしてやり手なんじゃないの☆」

ビリー「うるせェ。今から面接なんだから大人しくしてろよ。……ボロが出りゃ終わりだからな」

心「お、おう☆やってやるよ☆」


心(……けど、アレ?RUNWAYの社長と面接ってことはもしかして……?)

ガチャ
ビリー「……よォ。来たぜ」

事務員「はいはい、どういったご用件で……ってきゃああああ!あ、あなたは!!き、昨日の……!」
ガタガタ

ビリー「……騒がしいんだよ。社長は?まさかいねえなんて言わせねェぞ」

事務員「あひぃ!しゃ、社長~!こ、怖い人が~!絶対に来るはずがないと思ってた人があああ!!」
バタバタ


心「……なんかあったの?」

ビリー「知らねえよ」

つかさ「……へぇ。まさかホントに連れてくるなんてな」
ツカツカ

ビリー「ケッ、どうやらさっきの事務員の反応見るに、俺はもう来ねえと踏んでたみたいだが、甘く見るんじゃねえ。オラこの通り……」

心「うおおおおお!やっぱり桐生つかさじゃん!!ガチで本物!はぁとの青春時代を彩った伝説のカリスマが今目の前に!!」
ドドドド
ガシッ

つかさ「!?お、おう……こ、この娘が……?」
タジッ


ビリー(佐藤ォォォォオォォオオオオオオオオオ!!!)

心「いやぁホントマジでファンです☆特にあのReppuのデビュー時には当時小学生だったはぁとのハートに衝撃を……ん?」
ポン

ビリー「佐藤……ちょっくら……アタマを……冷やそうぜ……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
ギリギリギリ

心「ひっ……」
ビクビクゥ

ビリー「……すまねえな社長サン。こいつあんたのファンだったみたいでちょっとのぼせ上がっちまったみたいだ。ホント普段はこんな感じじゃないんだぜ?なぁ?佐藤 心サン?」
ビキビキビキビキ

心「は、はいィ……」

つかさ「……まぁなんでもいいけど、今から面接だぞ。準備はいいのか?」

ビリー「もう落ち着いたよな……?大丈夫だよなァ?」
プルプルプル
ニッ

心「(眼が全く笑ってない……)は、はい……血の一滴まで冷えましたぁ……」


つかさ「……それならいいけど。奥の社長室だ。入ってこい」
ツカツカ

ビリー「……」
ギロッ

心「……」
プルプル

社長室

つかさ「……じゃあ、面接を始める。まず自己紹介から」


心「……はい。佐藤心、22歳です。大学を出たばかりで、今はデビューを目指して勉強中です。趣味はお裁縫と自分磨きです」


つかさ「……22歳?」

心「は、はいぃ!よく落ち着いてるって友達に言われますぅ!」
ギクゥ

つかさ「……ふーん」

ビリー(……年齢聞き直されたくらいでイチイチ動揺すんじゃねぇ……!語尾伸ばすな……!)

イライラ

つかさ「今の大学生くらいの奴らにはどんなアイドルが人気だ?自分の周りの話でもいい」

心「え”っ!?え、ええとぉ……十時愛梨ちゃんとかはもうすっごく人気です!」

つかさ「ふーん……まぁこないだの雑誌の調査でも1位だったもんな」

心「そうですそうです……まさにそのとおり……」

つかさ「じゃあ、自分自身はこういうアイドルになりたいっていう未来設計はあるか?」

心「……!」
チラッ

ビリー「……」
ギロッ

心「……」


心「……落ち着いてて……可憐な……そう、三船美優さんみたいな感じになりたいです……」

つかさ「……あー。彼女、なかなか良いよな。気は弱そうだけど意志は強いよあれは」

心「ほんと……同世代の希望の星っていうか……」

つかさ「ん?」

心「……はっ、いや、なんでもないでぇす!」

ビリー「……」

つかさ「……なるほどね。大体わかった。面接はこれでおしまい、おつかれさん」


心「お、おつかれさまでしたぁ……」
グッタリ

ビリー(……所々危ねぇ場面はあったが、全体的には無難な受け答えが出来てたハズだ……これなら……)


つかさ「さて、結果だが……」

心「……」
ゴクリ

ビリー「……」

事務員「……」
ハラハラ



つかさ「不合格だ。そっちのチンピラは言わずもがな」


ビリー「……ハァ!?」

心「……ええ!?」

事務員(イエッス!!)
ガッツポ

ビリー「おい待て。理由を聞かせてもらおうじゃねぇか……!」

つかさ「……理由?理由なら……そこのアンタが一番わかってんだろ?」

心「……!」


ビリー「……何が言いてえ」

つかさ「お前らがどんな話し合いをしたか知らないけど……アタシの目を誤魔化せると思ってたんなら……甘く見たな」

ビリー「……!」

つかさ「そっちのアンタが普段どんな様子か知らないけど、その顔は……嫌な奴と仕事をするか、やりたくない仕事をやらなきゃいけない時……そんな顔だ」

心「……いや……そんなこと……」

つかさ「はっきり言わなきゃわかんないか?……アイドルは嫌々やってる奴なんかが出来る仕事じゃないんだよ」

心「……!」
ダッ
バタン

事務員「あっ……」

つかさ「ほっとけ。……どこでとっ捕まえたか知らないけど、ここまで連れてきたところまでは褒めといてやる」

ビリー「……」

つかさ「ただ、彼女の望まないような事を無理強いさせようとしてたんなら……やっぱりお前にプロデューサーの資格はない」


ビリー「……」

ビリー(チッ……ンなこたぁ最初っからわかってんだよ……)

事務員(よかった~……さっきの女の人は気の毒だったけど……いや、きっとあの人もこの人に脅されて無理やり……)


バタン


つかさ「!」

事務員「ヒッ!」

ビリー「……佐藤……てめェ……その恰好……」


心「はぁ……はぁ……」


事務員(なんかすごい恰好で来たーーーーー!!羽生えてるーーー!!)
ガビーン

つかさ「……お前」

心「……今のはごめんなさい。面接でウソのはぁとを見せるのは、確かに社長に対しても会社に対しても、そして何よりアイドルに対して失礼だったと思う……」

つかさ(……はぁと?)

心「だから……今からは本当のはぁとを見て!別に不合格でも構わない……それでも……本当のはぁとを見てもらえたら満足だから……!」

心「……ビリカンさん、ごめんね?だけど……」

ビリー「……好きにやれや。もうどっちにしろ終わりだ」

心「……うん☆」


心「あー、コホン」

心「はぁ~い♪アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆さとうしんことしゅがーはぁとだよぉ!」
ズン

つかさ「……」

事務員「……!?……??」

心「身長は166センチ、体重はダイエットちゅうきろぐらむ☆3サイズは上から順にぼんっきゅっぼんっ♪」

心「さっきはちょ~っとだけ猫被ってたけどぉ☆これがホントのはぁとなの☆どうどう?ちょ~スウィーティーでしょ♪」

つかさ「……」

事務員(なに……これは……)

ビリー(改めて見てもすげェヤバさだぜ……)

心「……確かにみんなドン引きしてるのはわかってるよ☆ただでさえはぁとは26歳だし……ちょっぴりイタいかもしれないのはわかってるけど……」

つかさ「……」

ビリー「……」

心「それでもはぁとはこれで勝負をしていきたいの☆30歳になろうと、40歳になろうと、おばあちゃんになってでも構わない!だってこれがはぁとの目指すアイドルの理想だから☆」

つかさ「……!」

ビリー「……」

心「……以上です☆ありがとうございました♪」



つかさ「……」

ビリー「……」

つかさ「……その、しゅがーはぁとってのは……」

心「佐藤=シュガー、心=ハートです☆」

つかさ「年齢は、26?」

心「はい☆今度はガチです☆」

つかさ「……」

つかさ「……正気か?」

心「正気も正気、大マジだゾ☆」


ビリー(……やっぱり引いてやがるか……まぁそりゃそうか……)

つかさ「……面白いじゃん」
ニヤリ

心「……え?」

ビリー「なに……!?」


つかさ「その様子ならきっと色んなところで奇異の目で見られただろ。それでもそれを貫こうとする意志と肝の太さがあるんだったら、楽しみじゃん」

つかさ「少なくとも、さっきの面接の時なんかよりずっと面白い。まぁちょっとアクが強すぎる感はあるけどな」

心「え、ってことは……」

つかさ「ああ、合格だ。もちろんこれから色々乗り越えなきゃいけない課題は盛り沢山だが……しばらくはウチの事務所で面倒見てやるよ」

心「……マジすか」

つかさ「何度も言わせんなよ」

心「――――――――いゃったああああああああああ!!ついに!ついにはぁとがアイドルにぃぃぃぃ!!」

ビリー(マジかよ……信じられねぇ……)

事務員(……え?ってことは……)

事務員(ああああああああ!!ってことは……この怖い人も……)

つかさ「……ただし。今回の面接の最初の方針……アレはどっち主導だ?カーン、お前か?それとも佐藤、お前が自分で言い出したのか?」

心「……え?」

ビリー「……」

心(……もしかして、これってビリカンさん大ピンチ!?な、なんとかしないと……)

心「あ、あれははぁとが自分で……」

ビリー「俺の主導だ。……こいつを脅して、無理やり言わせた」

心(いや、男気ーーーー!だけど墓穴だろそれーーーー!!)
ガビーン

事務員(……や、やっぱり脅して無理やり……!……いや、正直演技させた理由はわからないでもないけど……)

つかさ「……」
ジロッ

ビリー「……」


つかさ「……これでわかっただろ?プロデューサーなんて、誰にでも務まる仕事じゃない。誰よりもアイドルのことを把握して、強みを生かして弱みをカバー出来なきゃいけない。アイドルを生かすも殺すもプロデューサー次第なんだよ」

ビリー「……」

心「……」



つかさ「……だから、プロデューサー見習いとしてお前をイチから鍛えてやる。お前にその気があるなら、だけどな」

ビリー「……なに?」

心「……!」

事務員「え」


ビリー「……どういうこった?俺ァ……」

つかさ「ああ、今言った通り今のお前がプロデューサーとして通用するとは思えない。けど、アイドルとして通用しそうな奴を連れてくればお前を雇ってやるって言ったのはアタシ自身だからな。だから見習いだ」

ビリー「……」

心「……いや、良かったじゃんビリカンさん!見習いだけど、それでも定職だよ!それならきっと妹さんも……」

ビリー「佐藤、てめェ余計な事を……!」



つかさ「……妹?」




ピンポーン

事務員「……」

つかさ「……おい。来客みたいだぞ」

事務員「……はっ。は、はい……応対してきますね……」
パタパタ

ビリー(……もしやこのタイミングは……)


ガチャ
事務員「……社長。なんか金髪のかわいい女の子が……ビリー・カーンはここで働いてますかって……」

つかさ(……ははぁ。なるほど……)

ビリー「……」

心「え?もしかして、妹さんじゃ……」

つかさ「……通せ」




リリィ「は、初めまして、リリィ・カーンと言います。そこにいるビリー・カーンは私の兄で……いつも兄がお世話になってます……!」
ペコペコ

つかさ「……あー。いや、なんていうか……」

心(なにこの娘、なかなかスウィーティーだな☆ていうか兄と違いすぎるだろ☆腰低っ)


ビリー「……リリィ。何しにこんなところまで来たんだ。何も心配は要らねえって手紙に書いておいたろ……」

リリィ「……ごめんなさい、兄さん。私、どうしても兄さんのこと心配で……だから会社の人に聞いたら、日本でプロデューサーをやるって聞いたから……いてもたってもいられなくて……!」
ジワ

ビリー「バカ、泣くなよ……ほら、コレ使え」
バサッ

リリィ「……うん、ありがとう兄さん」
フキフキ

ビリー「……すまねェな。お前には心配ばっかりかけちまう。……謝るのは俺の方だ」

リリィ「ううん……兄さんは、私のために頑張ってくれてるんだもん、兄さんが謝ることなんて何もないよ……」


心(……いや、美しい兄妹愛なんだけど……なんかはぁととの扱いの差があまりにもひどくね?もはや同じ人類として見られてなくね?)


つかさ(……これがあの狂犬じみた男のもう一つの顔か……)

リリィ「……それで、兄さん、本当にここで……その、アイドルのプロデューサーとして働いてるの……?」

心(あっ……そういえば話の途中だった……ビリカンさん……)

つかさ「……」

ビリー「……」



ビリー「……ああ。確かに今まで全く縁もなかった仕事だし、自分自身向いてるとも思わねえ。けどな」

ビリー「ここでプロデューサーとして働くことで……今の俺には見えてねえ何かが見られるようになる……そう今は考えてる」

つかさ「……」
フッ

心「……!」
パァッ

事務員(終わった……グッバイ私の平穏な生活……)
ガクッ

リリィ「そう……なんだ……」

ビリー「……そういうこった。改めて、よろしく頼むぜ、社長サン……あとついでに佐藤」


つかさ「……ふん。途中で投げ出すなよ」

心「扱い悪いな☆ついでかよ☆」

ビリー「……そういうことだから、リリィ、お前は安心してサウスタウンに……」

リリィ「……」


ビリー「……リリィ?」

リリィ「……あの、社長さん!」

つかさ「……ん?」

リリィ「あの、いきなり押しかけて不躾なお願いだとはわかってます……ですけど……!」

リリィ「どうか……私をこの事務所の所員として、雇ってください!お願いします!」
バッ

心「な」

事務員「……な」

ビリー「……なんだとォおおおおおお!?」

今日はここまで

ビリー「んな、なにを言ってんだリリィ!」

つかさ「……全く。突拍子の無さでは兄貴といい勝負だな」

つかさ「けど、あんたは何ができるんだ?ごくつぶしを雇うほどアタシは寛容じゃないからな」

リリィ「え、えっと……お料理とか……洗濯とか……」

心(家政婦かよ☆)


リリィ「うう……で、でも私!なんでもやります!雑用だって、お茶くみだっておトイレの掃除だって!絶対に文句は言いませんから!そうだ、お給料も要りませんから―――――」


つかさ「……」

ビリー(……そうだ、よく考えりゃこの女がハイそうですか、雇いますなんて言うワケがねえ……どうやらこれは大丈夫そうだな)


つかさ「いいよ」

リリィ「……え?」

ビリー「は?」


つかさ「さっきなんでもやるって言ったよな?だったらちょうどいい、経理を一人雇いたかったんだ」

ビリー「お、オイオイオイ社長サンよぉ、そんな馬鹿な話ねえだろ。俺の時と大分態度が違うんじゃねェか?」

つかさ「は?そんなの当たり前だろ?人を雇うのにその人となりを見て判断するんだから、お前はNGで彼女はOK。何もおかしくない」

ビリー「……」
イラッ

リリィ「……あ、あの、社長さん。私、経理の経験とかはないんですけど……家で家計簿みたいなのは付けてましたけど……」

ビリー「そ、そうだ!そんな素人に会社の経理を任せるってのか!」

つかさ「もちろんしっかりと経理を任せるのはある程度勉強してもらってからになるけどな。一人知り合いにそういうのが得意なのがいてな……彼女に付いて経理を学んでもらうことにする」

リリィ「そ、そこまでして頂けるんですか?あの、本当にありがとうございます!私、頑張ります!」



つかさ(……まぁあっちも忙しそうだからわからないけど……その時ゃアタシが教えりゃいいか)

ビリー「ば、バカな……ありえねえ……」
ヨロ

リリィ「……兄さん、私と一緒に働くの、イヤだった?……もしかして、日本に来たのは私と暮らすのが嫌だったから、とか……?」
ジワ

ビリー「!?い、いやいやいやいや!そ、そんなことがあるワケねえだろうが!ただ、俺ァいきなり住む国が変わっちまうとお前が大変だろうと思ってだな……!」
アタフタ

心(ププーッ!めっちゃ慌ててる☆)
クスクス

ビリー(なに笑ってんだ佐藤ォ!)
ギロッ

心「ヒッ」
ビクゥ

リリィ「……それなら大丈夫だよ!私、兄さんと一緒にいられるならどこだって、どんな暮らしだって構わないんだから!」


ビリー「そ、そうか……」


心(……しかしこの娘、兄貴の事好き過ぎだろ……)

つかさ(……まぁこの妹が近くにいる限り、こいつも無茶は出来ないだろ。良いストッパーだ)

つかさ「……よし。じゃあ改めて、芸能プロダクション『RUNWAY』は正式にお前たちを雇用する。まぁ全員見習いだが、これからの諸君らの成長に期待する」

心「はぁい☆任せて♪」

リリィ「頑張ります!」

ビリー「……」
ゲッソリ

つかさ「……返事がない奴は、解雇でいいんだな?」

ビリー「チッ……へいへい……」

リリィ「もう、兄さん!ダメだよ、ちゃんと返事しないと!」


ビリー「……ヘイ」


心「プププ……」




ビリー「……」
プルルルル


リッパー『俺だ。ビリー、報告待っていたぞ。どうだった』


ビリー「どうもこうもねえよ……」






リッパー『……わかった。ビリー、RUNWAYへの潜入成功、ひとまずよくやった』

ビリー「何がよくやっただよ……こんな事になるなんて聞いてねぇぞ俺ァ……」

リッパー『リリィ・カーンの動きに関しては俺たちも予想外だった。だが、お前にとっては悪いことだけでもないんじゃないか?』

ビリー「……あ?何があるってんだよ」

リッパー『お前は妹のすぐ傍に居られる』

ビリー「いや、だから……」


リッパー『彼女の身を守る上でこれ以上確実なボディーガードがこの世にいるか?俺は思いつかん』


ビリー「……」

リッパー『……まぁ任務の事はあるが、お前は妹との生活を楽しめ。幸い日本はサウスタウンに比べ平和な国だ、お前が少し我慢すれば妹に裏の顔を見られることはないだろう』
ピッ


ビリー「……ちっ」




つかさ「……」
ピッ
プルルルルル



『……もしもし』

つかさ「よっ、久しぶりだな」

『つかさちゃん!久しぶりだね!』

つかさ「ああ、前アメリカで一緒に飯食って以来だな」


『あれ?もうそんなに前だったかな?RUNWAY、好調そうだね』

つかさ「ああ、おかげさまでな。そっちは最近どうなの?」

『うん、こっちもおかげさまで。今は総帥がブラジルの方に視察に行ってるから、それの結果次第ではまた忙しくなりそうかな』

つかさ「へぇ~……ってことは世界にどんどん拡大路線か……こりゃあ有能経理部長が就いたおかげかな?」

『もうっ!おだてても何も出ないよ?』

つかさ「ははは……まぁ実はちょっと頼みたい事があってさ」


『……なるほど。うん、今週から私も日本支部の方に戻ってるから、週3日くらいならそっちのお手伝いは出来ると思うよ』

つかさ「ホントか?すっげえ助かる。けど、そっちの仕事は大丈夫か?負担になるようだったら……」

『ううん、大丈夫だよ。ブラジル支部の方が動き出すまではそんなに忙しくもないし、総帥もOKしてくれると思う。とりあえずまたそっちの事務所に挨拶で顔出しに行っていいかな?』

つかさ「ああ、じゃあよろしく頼むな」
ピッ


つかさ「……さて、アイツの加入は吉と出るか凶と出るか。お手並み拝見だな」

今日はここまで

翌朝
ホテル

ガチャ
ビリー「……」

リリィ「あっ、おはよう兄さん」

ビリー「リリィ……わざわざ部屋の前で待ってたのか」

リリィ「ふふ……今日は記念すべき初出勤だから、楽しみで……あっ、ネクタイ曲がってるよ?これじゃ桐生社長に怒られちゃうよ」
キュ

ビリー「あ、ああ」

ビリー(……こっちは憂鬱にも程があるぜ……勢いでプロデューサーになったはいいものの、あの女どんな無理難題を吹っかけてくるかわかったもんじゃねぇ)

リリィ「ところで兄さん、今日お仕事が終わったら不動産屋さんに行こう?どこか近くでアパートでも探さないと」

ビリー「……やっぱり同じ家に住むのか?」

リリィ「?当然でしょ?」

ビリー「……ああ、そうだな……」

事務所

ガチャ
心「おっはよぉーっ☆朝から元気にスウィーティー♪言えよ☆」


事務員「ヒッ、お、おはようございます」

つかさ「……おはよう」

リリィ「あ、おはようございます!えっと、す、すうぃーてぃー?」

ビリー「リリィ、言わなくていい。バカが感染るぞ」


心「ちょ、朝から辛辣☆覚えてろよ♪」

つかさ「……よし、全員来たな。初日からバックレる奴がいるんじゃないかと思って全くヒヤヒヤしたよ」
チラッ

心「……」
チラッ

ビリー「……こっち見んな」
イラッ

事務員(……出来ればサボってほしかった……)
ズーン

つかさ「さて、じゃあ勤務初日ということで、今日はお前らにウチの状況を話す」


つかさ「まずこの事務所RUNWAYは、ウチの所属のアイドル達が頑張ってくれているおかげで業績好調、非常に安定している」

つかさ「だが、業界的に見れば最大手の美城プロ等と比べればまだまだ……ウチの最終目標は当然業界№1だ」



つかさ「そこで諸君らにもRUNWAYを業界№1に押し上げるために協力をしてもらいたい、というワケだ」

ビリー「……ひとつ良いか」

つかさ「……なんだ?」

ビリー「他のプロデューサーやアイドル達はどこにいる?俺がここに来たときに、姿を見た覚えがねえ」

つかさ「……それも順を追って説明する予定だったが、まぁいい」



つかさ「ウチは一人のプロデューサーが一定の成果を挙げた場合、その担当アイドルごとこの本社から離して自分のオフィスを持たせる」


つかさ「だから今こっちの本社事務所の方に務めてるプロデューサーはいない……もちろん報告とか事務仕事でこっちにたまに顔出すことはあるけどな」

ビリー「……無駄に経費がかかるんじゃねぇか?」

つかさ「もちろん安くはない。だが、いつまでも本社に置いとくとどうしても馴れ合いというか、周りに甘える事を考えてしまう」

つかさ「それだったら、それぞれ疑似的ではあるが独立させて、同じプロダクション内でありながら競争意識を高めさせた方がいい」

つかさ「それぞれのプロデューサー達が挙げた収益は一旦この本社に集めるが、その後挙げた成績に応じてまた再分配する。成績がずっと悪けりゃ当然倒産、つまりこの事務所勤務に逆戻りだ」


つかさ「要はプロデューサー達をそれぞれ支社化させて回してるってことだ。その分権限も与えてる」

ビリー「……徹底した競争主義ってことか」

心「うへぇ~……厳しそう……」

ビリー「面白えじゃねぇか……独立の条件は?」

つかさ「……もう独立の事考えてんのか……まっ、そんくらいやる気がある方が良いけどな」

つかさ「お前は……そうだな、最低限プロデューサーとしての能力を身に着けて、5人……担当アイドル5人抱えられたら考えてやる」

ビリー「……5人だな」

つかさ「……まっ、まずは土台作りからだけどな」


ビリー(……ギース様の事を調べるにしても自由に動けるに越したことはねぇ……何よりこの女とずっと同じ事務所なんざ一日何回血管がキレるかわかったもんじゃねえしな)

ビリー(当面の目標はギース様の事を出来る範囲で探りつつ、どっかでアイドル候補をとっ捕まえる……これで行くべきだな)



つかさ「で、佐藤はまずはレッスンだ。どうやら話を聞く限り我流で今までやってきたそうだが、ちゃんとウチにはトレーナーがいるからな」

心「おお☆ついにはぁともレッスンなんてものを受けられる時が来たか♪頑張りまぁす☆」

つかさ「……ちなみにコイツが自分で仕事を取って来られるようになるまではずっとレッスンだから2人ともそのつもりでな」

心「……プロデューサー、できるだけ早くお仕事取ってきてね☆はぁと(年齢的に)あんまり時間がないから☆」

ビリー「……」

つかさ「……さて、リリィ、アンタは昨日言った通り、経理を学んでもらう」

リリィ「は、はい!がんばります!……それで、先生は……?」

つかさ「ああ……来てもらってる。美波!入ってきてくれ」



ガチャ
美波「失礼します……」
スタスタ

リリィ(わっ……すごく綺麗な人……)

心(……え?美波って……)

ビリー「……」

つかさ「今回リリィの教育係を引き受けてくれた、新田美波さんだ。元アイドルで、今は格闘団体の極限流ってところで経理部長をやってる」


美波「ただいま桐生社長にご紹介に与りました、新田美波です」
ペコ

ビリー「……!極限りゅ――――」

心「ああああああ!!そうだよね!?新田美波って、あの極娘の!5年前に急にアイドル引退した!」
ギャン

ビリー(……声でけえ)

つかさ「……ああ、その新田美波だ。私と美波はデビュー時期が近くてな。事務所は違ったが、まあ仲良くさせてもらってたんだよ」

心「え!?でもなんで急に引退しちゃったの!?結婚したからってウワサだったけどやっぱそうだったの!?」
ズズイ

美波「あ、あははは……いや、結婚とかは別にしてなくて……」
タジッ

つかさ「こら、佐藤。プライベートな事を聞くな、今回はあくまで教育係として、所属も違うのにわざわざ来てもらったんだ」

心「……はぁ~い……ごめんなさぁ~い……」



美波「……うん、結婚とかじゃないんだけど……アイドルの時にすごくお世話になった人のお仕事を、今度は私がお手伝いしたいって思ったの。アイドル活動もその時ちょうど節目の10年目だったし、これから先は私がその人の夢を一緒に叶えたいって」



ビリー「……それが、極限流か?」

美波「はい、そうなんです……貴方はもしかして極限流をご存じなんですか?」

ビリー「……まぁ、ちょっとな」



ビリー(……ギース様が時々話してた……もし極限流と闘う事があれば、決して油断するなってな)

ビリー(あのギース様が一目置いてた極限流……その関係者が俺の目の前に急に現れただと?)



ビリー(……この女……何か知っている?)

美波「……?」

今日はここまで

ビリー(……もしや俺とリリィが日本に来たのを聞きつけて、敵対勢力が送り込んできた刺客……?)
ジロッ

心「ヘイヘイヘイ☆プロデューサー、美波さん見つめてどうしたんだい☆やっぱああいうお色気ムンムンのお姉さんが好きなのかい☆」
ズイズイ

美波「お、お色気って……」
ポッ

心「けどはぁとだってちょっとその気になればこの通りすごいんだぞ☆あはん♪」
クネクネ

ビリー「……」

ビリー(五体に充実する気……素人じゃあねえ)

ビリー(だが、敵意が無さすぎるし何より普段から闘ってるって感じにゃ見えねえ……)

ビリー(……俺の考えすぎか?)



心「おーい☆聞いてんのか☆おーい!放置はやめろって☆やめろ☆やめろよ……寂しいじゃん……ね……」

リリィ「さ、佐藤さん、とってもセクシーですよ!」

心「あ、ありがとうリリィちゃん……でも、しゅがはのコトははぁとってよんでね☆」

美波「あなたがリリィさんだね?経理の経験はないって聞いてますけど、基礎の所からしっかりやっていきますから、心配しないでね」
ニコ

リリィ「は、はい!よろしくお願いしますっ!」
ペコ


美波「よろしくね……それと、ビリーさん……プロデューサーさんと心さんもよろしくお願いしますね」

ビリー(……まぁ警戒しとくに越したことはねぇか)

ビリー「……ああ。よろしく……」


心「よろしくお願いしますぅ☆それと、ちょっと後でL○NE交換しましょ♪」
ガシッ

美波「よ、喜んで」
タジッ

つかさ「さぁ、早速今日から仕事だ。佐藤はレッスン、リリィは美波に着いてOJT」

ビリー「……じゃあ俺は外でスカウトに……」
スッ
ガシッ

つかさ「寝ぼけたこと言ってんな?いくら人を集めても肝心の自分がポンコツだったら一生独立なんかさせねえからな」


つかさ「とりあえずしばらくはお前はアタシに着いてもらう。関係各所に挨拶まわり、業務内容の確認……やらなきゃならない事は山ほどあるからな?」
ニヤリ

ビリー(マジかよ……)

心「しゅがしゅがスウィーティー☆」

トレーナー「佐藤!ふざけてないで真面目にしろ!」



心「いや、あのこれマジでやってるんですけど……」





美波「うん、そうだね……この椅子の分は備品になるから……」

リリィ「えっと……貸借対照表の……資産のところに……」

男性「おお、桐生社長、いつもお世話になっております!」

つかさ「どうも、こいつがお話ししてた新しいプロデューサーです」

ビリー「……」

つかさ「……オラ、挨拶しろ」

ビリー「……どうも」

男性「そ、そちらがお話しされてた……いやあ、大分……その……迫力があるというか……とてもプロデューサーには見えないというか……」

ビリー「あ?」

男性「ひぃっ……」
ビクビクゥ

つかさ「あー、いや、すみません!愛想のないヤツで!ははは!ではまた行くところがあるのでこれで」

ビリー「……」
ジロリ

男性「……」
ビクビク



つかさ「……おい、カーン。お前なんださっきの態度は!取引先ビビらせてどうするんだよ!」

ビリー「いや、別に何も言ってねえだろ……ちっと睨んだだけだ」

つかさ「だからそれがダメだって言ってんだろ!ふざけんなよ、アタシの会社潰す気か?」

ビリー「チッ……あいつが俺の事をプロデューサーと認めねえなんていうからだよ」

つかさ「いや、そこまで言われてないだろ。しかも事実だろうが!いいか、お前みたいな見習い以下の半人前でも、会社名名乗って人前に出るからには会社の代表なんだよ」

ビリー「……」

つかさ「当然お前の態度は会社の態度、お前の悪評は会社の悪評になるんだよ。わかってんのか?ちゃんと頭に脳ミソ入ってんのか!」
コンコンコン

ビリー「……」
イライラ

ビリー「……ったく、そんな基礎的な事も教えてくれてないのかよ、お前のギースサマは?ええ?」

ビリー「……ギース様の名前を出すんじゃねえ……!」

つかさ「だからそういう事だよ。お前がギース・ハワードの右腕名乗ってアタシの前に現れた以上、お前の無能はアイツの無能になるってんだよ。同じことだ」

ビリー「……!」


つかさ「社会ってのはそういう事。別にアタシの会社じゃなくていい、アイツの……ギースの顔に泥塗りたくないんだったら、ちゃんとやれ。わかったな」
ツカツカ



ビリー「……クソ」

ビリー(……今までは、名前を名乗って舐めた奴らをぶちのめしてりゃそれがギース様の威名になってたが……今度は逆ってか)

ビリー(……ったく、つくづく嫌になるぜ……こりゃあクラウザーの野郎の所に潜入してた時の何十倍も難しい仕事になりそうだ……)


つかさ「おいカーン!ボサッとしてんな、次のトコに早くいくぞ!」

ビリー「はぁ……」
ツカツカ

夕方

ビリー「……」
グッタリ

心「……ちょ~きつかったんですけど……これ絶対明日筋肉痛ヤバイ」
グッタリ

リリィ「み、みなさんお疲れさまでした……」

つかさ「当面はこんな感じで動いていく。明日も9時半から勤務開始だから、遅刻すんなよ」

つかさ「で、美波はこっちに来られるのが週3日だから、明日は……」

美波「うん、今日教えたところを復習してもらうのと、事務仕事のお手伝いをしてもらってたらいいと思います」

リリィ「わかりました!美波さん、今日はありがとうございました!またよろしくお願いします!」
ペコ

美波「うん、こちらこそまたよろしくお願いしますね、リリィさん♪」

つかさ「美波、この後なんか予定入ってるか?もし何もなければディナー行かね?いい店が出来たんだよ」

美波「そうなの?うん、じゃあご一緒しようかな。色々話したいこともあるしね」

つかさ「よっしゃ、決まりだな。じゃあ解散!」

心「……お、お疲れさまでしたぁ~……☆」

ビリー「……」




ビリー(これは……地獄だ……)

今日はここまで

極限流会計部長ミナミィ(34)

https://i.imgur.com/u9FGcFP.jpg

https://i.imgur.com/nsecrkJ.jpg

都内
レストラン


美波「……雰囲気の良いお店だね。なんだかリラックスできるような……」


つかさ「だろ?店の坪数に対して席数を絞って、ゆったりできる作りにしてるんだと」

美波「そうなんだ……置いてる小物なんかも可愛いし、何かの参考になりそう」

つかさ「そうだな、ここの経営者はセンスあるわ……っと、美波、いろあえず乾杯しようぜ」

美波「あ、ごめん、そうだね。じゃあ……お疲れさま!乾杯」

つかさ「乾杯!」
チン

つかさ「……美波、今回の件は本当急だったのに引き受けてくれてありがとな」

美波「ううん、いいんだよ。総帥もOKくれたし、今はそんなに忙しくないから」

つかさ「リリィの方はどうだ?ちゃんとやれそう?」


美波「うん、基礎の所はすぐに理解してくれたし、多分すぐ実務レベルまでいってくれると思うよ。……なによりリリィちゃん、とっても頑張り屋さんで教え甲斐がありますし」

つかさ「そっか……まぁあいつはしっかりしてそうだったし大丈夫か」

美波「うん、周りの人にも気を使えるし本当にしっかりしてるよ」

つかさ「……けど、美波……リリィは今いくつだと思う?」

美波「……え?……十六、七くらい、かな……?」


つかさ「二十二だ」



美波「……ええ!?」

美波「あ、いえ、失礼しました……けど……なんていうか、その……」

つかさ「いや、わかるよ。幼く見えるよな。アタシも聞いた時驚いたもん」

美波「……」

つかさ「……で、兄貴はあの通りガラの悪いチンピラだからな。まぁ勝手に想像すんのは趣味じゃねえけど、色々あるんだろうな」

美波「……でも、あのお兄さん……ビリーさん?リリィちゃんの事、すごく大切にしてるみたいだった」

つかさ「……まぁ多分兄貴がすげえ過保護に……っていうかあんまり外に出さないようにしてたんだろうな。だから全然汚れてないし、なんというか……ちょっと世間知らずっぽい感じがある。幼さを感じるのは多分そのせいだと思うけどな」

美波「……確かにリリィちゃん、少し出会った頃のアーニャちゃんと似てるところがある気がする。なんとなくだけど……」


美波(すごく素直で頑張り屋なんだけど……時々寂しそうな眼をする事がある所とか……)



美波「……そういえばお兄さんの方はどうしてプロデューサーになったのかな?」

つかさ「……ああ。それをちょっと話そうと思ってたんだ。実はさ……」

美波「……なるほど。あのギース・ハワードさんの部下の……」

つかさ「ああ。実際本人はプロデューサーになりたくてしょうがなくて日本に来たって感じじゃないし、何か別の目的があるのは明白なんだが……まぁ妹のためっていうのはウソじゃないみたいだから一応様子を見る事にした」

美波「……なんだろう?話を聞く限りだとサウスタウンで普通の仕事をしていたようには思えないし……」

つかさ「まぁそういうワケもあったから今回のリリィの教育の件を美波に頼んだんだ。事後になっちまって申し訳ないんだけどさ」

つかさ「……もちろんこの話を聞いて、もう関わりたくないってんならそれは大丈夫だ。また別の手を考えるさ」


美波「……ううん、大丈夫。続けさせて?リリィちゃんはもちろんだけど、ビリーさんの目的も少し気になるから」


つかさ「……そっか、サンキュ美波」




美波「……ちなみに今の話、リョウさんに話しても大丈夫かな?もしかしたら何か意見をくれるかもしれないし」

つかさ「……!」

美波「……やっぱりダメ、かな?」

つかさ「あ、ああ、いや、全然話してくれていい。アタシもあの人の見解は聞きたいし……それより美波」

美波「?」

つかさ「お前、極限流総帥の事今はリョウさんって呼んでんだな。前は坂崎さんだったのに」
ニヤ


美波「……!」
ハッ

美波「……!いや!あの、ちょっとお酒が入っちゃったから!ちゃんと公共の場では『総帥』って……そ、そう!本部に行くと『坂崎さん』って呼ぶと振り返る人がたくさんいたから!べ、便宜上!ね!?」

つかさ「まあTPOは大事だよな。けど別に恥ずかしがることじゃねえじゃん。もうスカウトされてからかれこれ15年の付き合いだろ」

美波「……うう」
カーッ

つかさ「……はは、まぁ良い関係が続いてるようで何よりだよ」

美波「……つかさちゃん」

美波(そっか……ハワードさんはこの前亡くなられたんだよね……つかさちゃんは15年前に別れて以来……)

美波「……つかさちゃん。リリィちゃんの事は私に任せて?他にも手伝えそうな事があったら何でも言ってね。協力、したいから」

つかさ「……ああ。本当サンキュな、美波」




ビリー「……」
グター

リリィ「……兄さん、大丈夫?疲れてるみたいだし、部屋探しはまた今度にしよっか」

ビリー(ああ……そういやそれもあったな……)

ビリー「いや……大丈夫だ……」
ヨロヨロ

リリィ「ほ、本当に大丈夫……?」


リリィ「……あっ、それなら今日はご飯を食べに行こうよ!私、日本初めてだからこっちのお店はすっごく興味があるの!」

ビリー「そ、そうか?それなら今日はそうするか……」

心「はいはいはいはい☆はぁとも行きたいでーっす☆」

ビリー「来なくていいぞ」

心「早っ!冷たいぞ☆そんなこと言わずにさー、決起会的な感じでやろーよー☆」

リリィ「兄さん、私もはぁとさんと行きたいな」

ビリー「……まぁお前が良いなら別に」

ビリー(……なんかとんでもねえ呼び方が定着してやがる……)

心「やった☆さっすがリリィちゃん、とってもスウィーティー♪」

リリィ「はい♪」

心「ほら、兄貴の方もはぁとって呼んでいいんだぞ☆ほらほら☆呼んでみ☆つーか呼べ?」

ビリー「……」
イラッ

リリィ「えっと、社長と美波さんはもう二人で行っちゃったし、事務員さんは……」

心「事務員さんはさっきダッシュで帰ってたよ……なんか目が虚ろだった☆」

リリィ「そ、そうなんですか……じゃあ今日は3人で行きましょう!」

心「ようし、それならさっそく居酒屋に……」

ビリー「いや、待てや!なんで自然に飲もうとしてんだコラ!」

心「ええー?でもリリィちゃんもう成人してるし飲めるでしょ☆」

心「それに海外では居酒屋ってないんでしょ?最近居酒屋ってホント色んな食べ物あるし、もってこいだと思うけどな~?」

ビリー(……まぁ確かに居酒屋は俺も最初驚いたが……テメーは絶対自分が飲みたいだけだろうが)

リリィ「はぁとさんのオススメのところがあるなら、私はそこに行きたいな!ね、いいでしょ兄さん?」

ビリー「……」

居酒屋

リリィ「わ……!すごい……こんなにたくさんのメニューが……!レストランみたい!」

心「うんうん☆よろこんでくれて何よりだよ☆お兄さん☆生3つ☆」

店員「あの……失礼ですがそちらのお客様は未成年では……」

ビリー「あ?誰の妹がガキっぽいだとコラ」
ズイ

店員「ヒッ……す、すいません!」

心「……いや~もうホントボロクソ言われたの!真面目にやれ!とか正気か!?とかさ!」
グビグビ

リリィ「そ、そうなんですね……」

ビリー「……案の定一人だけ尋常じゃねえペースじゃねえか……」



心「でも仕方ないよね☆今までちゃんとしたレッスンとか受けたことないし☆これから慣れていけばいいわけだし☆」

リリィ「さすがはぁとさんとっても前向きなんですね!」

心「そうだろそうだろ☆もっとホメて☆」

ビリー「……」
グビ

ビリー「……リリィ、お前の方は今日はどうだった?あのセンセイは」

リリィ「うん、始めたばっかりだけど美波さん、とっても優しくわかりやすく教えてくれるから楽しかったよ!」

ビリー「そうか……何か探られたり、怪しかった所とかなかったか?」

リリィ「?何もなかったよ?……美波さんがどうかしたの?」

ビリー「……いや、別に何もねぇならいいんだ……ホラ、一応外部の人間だろ?だから一応、な」

リリィ「……それなら美波さんは大丈夫だよ!あの人は本当にあったかい人だって思うもの」

ビリー(……たった一日で大分懐いてるな……いや、まぁリリィは人に懐きやすくはあるが……)




心「プロデューサーまーた難しい顔してんね☆いっつも怒ってるか難しい顔してるかどっちかじゃん☆」

ビリー「半分くらいはテメーのせいだよ」

リリィ「……ふぅ、ごちそうさまでした!日本のご飯っておいしいんだね!私、日本食の勉強したくなっちゃった」

ビリー「ああ、いいんじゃねえか」

リリィ「ふふ、もしおいしく作れるようになったら、兄さんにごちそうするから楽しみにしててね!」

ビリー「ああ」

ビリー「……で」

心「う~……ギリギリ……崖っぷち……」
ブツブツ

ビリー「……酔いつぶれてんじゃねえかこいつは……」

リリィ「はぁとさん、ペースがすごかったから……」



ビリー「よし、帰るぞリリィ」
ガタッ

リリィ「え!?は、はぁとさんは!?」

ビリー「放っといたら誰か親切な奴が拾ってくれるだろ」

リリィ「だ、だめだよ兄さん!動けない女の子をそのままにしておくなんて……ちゃんと家まで送ってあげよう?」

ビリー(チッ……クソめんどくせえな……だが、確かにそのままこいつ放っておいて何かあったら桐生に何言われるかわかったもんじゃねえか……)

ビリー「……しゃあねえ、コイツは俺が引きずっていくから、リリィ、お前はもうホテルに戻ってろ」

リリィ「えっ、それなら私も一緒に……」

ビリー「いや、これ以上はもう夜も遅くなる。人通りが多いうちにお前はもう帰ってるんだ。良いな?」

リリィ「……うん、わかった。その代わり兄さん、はぁとさんよろしくね?」

ビリー「……ああ。しっかり送り届けてやるよ」




リリィ「……途中で捨てちゃだめだよ?」

ビリー「……捨てねえよ」


心「うう~……飲み過ぎた……気持ち悪い……」

ビリー「ったく……何をそんなにハメを外してんだてめえは……」
ガシッ


心「いやあ……リリィちゃんが良く話を聞いてくれて、随所でヨイショしてくれるからもう気持ちよくなり過ぎちゃって……水みたいにお酒飲んじゃった……」

ビリー「……決めた。もう二度とリリィをお前と一緒には飲ませねえ」

心「いや~カンベンして……!はぁとを褒めてくれる数少ない天使なんだから……」

心「……うぷ!ちょっ、ビリケンさん、一旦ストップ!波が、波が来そう!」
ウッ

ビリー「……はぁ。ちょうど公園だ、そこに便所があるから早く行って来いよ」


ビリー(……ハァ……俺はいったい何やってんだろうな。サウスタウンを離れて、こんな馴染みのねえ国に来て、馴染みのねえ仕事をやらされて、今は酔っ払い女に肩を貸して街を這いずり回ってる)
スッ

ビリー(これが成すべきことを成せず、死ぬべき時に死ねなかった結果だったってんなら……惨めの一言だぜ)
カチッ
カチッ
シュボッ

ビリー「……」
フーッ


ジャガジャガジャガ
ギュイイーン
オレノウタヲキケー

ビリー「……なんかうるせえな。ストリートか?……下手な演奏してやがる」

演奏男「……オイ、そこの兄ちゃん。聞こえてるぜ、誰の演奏が下手だって?」



ビリー(あ……?なんだ?)

今日はここまで

>>312
こんな会計部長いたらどんな手使ってでも経理部に異動するわ

ビリー「なんだてめえは……本当の事言っただけだろが」

演奏男「それが聞き捨てならねえってんだ!この俺の魂のロックンロールをバカにしやがって許さねえ!」

ビリー(……ったく、とんでもねえバカがいやがるんだもんな……どうする?二度と歌えねえ身体にしてやるか?)

ビリー(……だが、俺から手ェ出したとなるとめんどくせえ事になりそうだな……と、くれば……)

ビリー「よぉ、許さねえとどうなるんだよ?え?」

演奏男「そんなもん決まってんだろうが!」

ビリー(ちょっとでも手ェ出そうとしたらその瞬間蹴り倒してノド踏みつぶしてやる)

演奏男「ホラ」
スッ

ビリー「……あ?」

演奏男「お前が演奏するんだよ。人の演奏をバカにするくらいなんだから当然お前は俺より上手いんだよな?ああ?」

ビリー「は?ふざけんなよ、なんで俺がそんなことを……」

演奏男「出来もしねえ癖にバカにしやがったのか?はーっ、だったらさっさと消えやがれ負け犬が!」

ビリー「……んだとコラてめえ!マジでブッ殺すぞ!誰が演れねえっつった!」


演奏男「だったら演ってもらおうじゃねえか!俺のギター貸してやるからよ!」



ビリー「……」

ギャラリー1「お?違うやつが演るみたいだぞ」

ギャラリー2「見た目はなんかパンクっぽいが、どんな演奏するんだろうな」


ビリー(クソが……どいつもこいつもバカにしやがって)
ビィンビィン

ビリー(誰が出来ねえだと?誰が負け犬だと?誰がギース様の顔に泥塗ってるだと?)

ビリー(言わせねえ……もう二度と言わせねえぞ、んなコト……!)
ギュイン

ビリー「俺はァ!ヘビメタキングだアアアア!!」
ギュイイーン

ギャラリー「!?」

ビリー「てめえらに見せてやる……本物のロックをなァアアアアアア!!」


ビリー「I'm gonna bust you so bad!!」
ギャギャギャギャギャ

ウオオオオオオオオオオオオオオオオ

演奏男「ば、バカな……!なんて熱いプレイなんだ……!」

ギャラリー1「と、とんでもねえ瞬間に居合わせちまった……」

ギャラリー2「ああ……ヘビメタキングさんの降臨の瞬間に……」


ビリー「ロックの源泉は怒り……そう、怒りだ!!」
ギャギャギャギャギャ

ビリー(まずは……桐生!てめえ、ボロクソ言ってくれやがって……!)

ビリー「ファイヤ!」
ギュイイーン


演奏男「な、なんか熱くねえか!?てか、本当に火が出てないか!?」

ギャラリー1「あれはヘビメタキングさんの演奏の力で、熱を火に具現化してるんだ!」

ギャラリー2「うおお!煉獄の炎を顕現させるなんて地獄の王だぜヘビメタキングさんはー!」

ビリー(次に……リッパー、ホッパー!てめえらの企みのせいで俺ァこんな目に!)

ビリー「ファイヤ、ファイヤー!!」
ギャギャギャギャギャギャ

演奏男「す、すげえ!照明道具もないのにあいつの周りに光柱が見える!」

ギャラリー1「あれはヘビメタキングさんの熱い演奏で地球が興奮して潮噴いちまったんだ!」

ギャラリー2「うおお!地球を感じさせちまうなんてヘビメタキングさんはなんてテクニシャンなんだー!」

ビリー(そして何より……!一番腹が立つのは……!)

ビリー(ギース様を守れなかったのにのうのうと生き残ってる……この俺自身……!)

ビリー「死ぃぃいねェェェエエエエエエ!!!」
ギュイギュイギュイギュイギュイ
ギュイーーーーン

ビリー「ウラアアアアアアアアアアア!!」
ブォン
グッシャア

演奏男「うおおおおおおおお!お、俺のギターが地面に叩きつけられて破壊されたー!」

ギャラリー1「いや、アレはギターがヘビメタキングさんのあまりの演奏力に己を恥じて自ら命を絶ったんだ!」

ギャラリー2「うおお!ギターに命を吹き込んだ上に自殺させるなんてもはや神だヘビメタキングさんはー!!」


ウワァァァァァァ……




心「……ふぅ、ごっめ~んビリカンさんお待たせ☆ちょっとリバースしてきたら大分落ち着いた……あれ?なんか人だかりが……」

ウオオオオオオオオオオオオ
ヘビ!メタ!キング!
ヘビ!メタ!キング!



ビリー「GO TO HELL!!」
ビシッ

ウオオオオオオオオオオ
ゴートゥーヘル!
ゴートゥーヘル!
ゴートゥーヘル!

心「……なんだこれ……」

警察「コラアアアア!!お前たち騒ぎ過ぎだ!!大人しくしろおお!!」
ピーーー

ヤベエ!
ポリダ!ニゲロ!



ザワザワザワ
心「ちょっ!これヤバイやつだろ!ビリカンさん、こっち!早く逃げよう!」
ガシッ

ビリー「見たかコラアアアア!これが本物のロックだアアアアア!!」
ビシッ

心「いいから!そういうのはマジでいいから!!」
ズルズル


ギャーギャー






女の子「……こ、これが本物のロック……」

女の子「か……かっこいい……!」
プルプル

今日はここまで

翌日

事務所
社長室



ビリー「……」

つかさ「……」

つかさ「……なんで呼ばれたかは……わかってるよな?」

ビリー「……検討もつかねえな」


つかさ「いやいや、昨晩は大活躍だったそうじゃん、ヘビメタキングさん?」

ビリー「知らねえな」

つかさ「ふーん……しらばっくれようってか」
スッ
ポチポチ

つかさ「ホラ」
パッ

『今○○公園ヤバイ事になってる!なんかヘビメタキングって人が現れたみたい!』

『うおおおお!ヘビメタキングさん最高!』

『ゴートゥーヘル!ゴートゥーヘル!ゴートゥーヘル!ヘビメタキングさん!!』

『ヘビメタキングさんとかいう歩くロック』


ビリー「……」


つかさ「この通りバズりまくってる。大したもんだ、もうプロデューサー辞めてミュージシャンやれば?」

つかさ「ちなみに写真もバッチリだ。最近のスマホのカメラは綺麗に映るな?」

ビリー「……」

つかさ「んで、さっきウチの事務所に警察から注意が入った。まぁ昨日アタシと一緒に結構な数挨拶回ったもんな。お前の顔は割れてる」

ビリー「……」

つかさ「別にアタシもお前のプライベートにまで首突っ込む気はないけどさ、問題起こしたり騒ぎになったりすんのはダメなんだよ」

ビリー「……」

つかさ「もう次はないからな。わかってるだろうけど」

ガチャ
バタン
ビリー「……」

心「……お疲れプロデューサー☆やっぱ怒られちゃった?」

ビリー「うるせえよ……しかし昨晩は俺も酒が入って少しどうにかしてた……」

心「まぁストレス溜まってたんだろ☆昨日のアレでちょっとは解消できたんじゃないの」


ビリー「……」



ビリー(俺とした事が……あんな事でまた桐生に小言を言われ……これじゃあいつまで経っても独立できねえ……)


リリィ「あ、兄さん……社長さんとのお話終わった?」

ビリー「リリィか……どうした?何かあったか?」

リリィ「うん、今ね……事務所に女の子が来てるの。『ヘビメタキングさんに会いたい』って」



ビリー「……は?」

リリィ「ちょっと何言ってるかよくわからなくて……だからとりあえず社長さんに報告しようかと思って」

つかさ「ヘビメタキング宛の客だって?」
ツカツカ

リリィ「あ、社長……そうなんです、女の子なんですけど」

つかさ「ほら見ろカーン、早速ワケわかんないのが来ただろ。こうやってアタシらの貴重な時間が奪われていくんだよ。どこから聞きつけたか知らないけど、お前が撒いた種なんだからお前が対応しろ」


ビリー「チッ……もうその話題は勘弁だぜ……適当に追い払ってやる」


リリィ「え?ヘビメタキングさんって兄さんの事なの?」


心「そっとしておいてあげよう、リリィちゃん……☆」
ポン

ビリー「……」
ガチャ

女の子「……あ!ほ、本物のヘビメタキングさんだ!間違いない!」


ビリー(まだガキじゃねえか……コイツ昨日あの場にいたのか……)




ビリー「……おい。お前どうやって俺がこの事務所にいるって嗅ぎ付けた?」

女の子「え?えーっと……昨日ヘビメタキングさんが警察の人から女の人と一緒に逃げて行ってるの見て」


女の子「それで女の人すごい恰好してたから調べたらこの事務所が出てきて……もしかしたら同じ事務所のミュージシャンかもと思って」

ビリー(……じゃあ佐藤の恰好のせいじゃねえか……畜生、迂闊だった……!)




ビリー「……とりあえず、帰れ」

女の子「ええ!?ど、どうしてですか!?苦労してやっとここまで来たのに!」

ビリー「いや、こっちは頼んでねえよ……ていうか、なんだ?お前何しにここまで来たんだ?」

女の子「だからそれはヘビメタキングさんに会いに……」


ビリー「俺に会いたかっただけなら、もう目的は果たしたろ。帰れ」

女の子「ああ!ちょ、ちょっと待って!ただ会いに来ただけじゃなくて!」

ビリー「……じゃあサインか?わかった、じゃあそれ持ってとっとと帰……」

女の子「あの!ちょっと聞いてください!」

ビリー「……なんだよ」



女の子「……コホン」

李衣菜「あの、私、多田李衣菜っていいます。音楽が大好きで、普段から色んな音楽聴いてるんですけど、今は特にロックが好きで……で、最近は聴くだけじゃなくて自分で演奏したいって思ってたんです」


李衣菜「それで昨日の夜、ヘビメタキングさんの演奏をたまたま通りかかった時に聴いて……すっごい感動したというか……そう!共感しました!」


李衣菜「だからその……お願いです!私を、ヘビメタキングさんの弟子にしてください!」


ビリー「……はぁ!?」

今日はここまで

ビリー「いやいや弟子ってお前……何の弟子だよ」

李衣菜「え?何って……ロックのですよ!ほかに何かあるんですか?」

ビリー「あ、ああ……そりゃそうだよな」

ビリー(一瞬棒術の方かと思っちまった……ンなわけねえだろ)



ビリー「……いや、ダメだろ。帰れ」

李衣菜「ええーーーー!!?な、なんでですか!?もう私そのつもりだったのに!」

ビリー「なんでじゃねえよ。つうかなんでもうその気になってたんだよ、そっちの方がなんでだよ」

李衣菜「お、お願いしますよ!どんな厳しい特訓でも受けますからーーーー!」

ビリー(……いや、待てよ?)

ビリー「……おい、お前もしかしてこの事務所に入りてえって事か?」

李衣菜「へ?いえ、別にヘビメタキングさんの弟子になれるならそこまでは別に考えてなかったですけど……あ!そうか!同じ事務所の人間じゃないと弟子にするのはNGって事なんですね?事務所的に!」


李衣菜「そういう事ならハイ!私事務所入ります!それならOKですよね?」

ビリー(……桐生は俺に対応しろっつったからな……どう扱ってもいいってこった)

ビリー(……上手くコイツを俺の担当アイドルに出来りゃ独立に一歩近づける。少々アホっぽいが見た目は悪くねえ)

ビリー「おい、お前……名前なんて言った」

李衣菜「李衣菜ですよ!多田李衣菜!リーナって呼んでください♪」

ビリー「……よし、じゃあリーナ、お前ちょっとついて来い」

李衣菜「はい!……あれ、事務所の中に入んないんですか?」


ビリー(事務所の中はアイツの目があるからな……外で話をつけねえと)


ビリー「腹減ってんだろ、メシおごってやる」


李衣菜「え?さっきご飯食べたばかりだから別に……」


ビリー「……」
ギロッ

李衣菜「ひいっ!な、なんですか!?」
ビクビクゥ

李衣菜(なんか普通の人の眼じゃないんですけど!?)

李衣菜(……あ、だからこそあんな演奏が出来るんだよね。つまりロックな眼ってああいう事なんだよね!)

李衣菜「うーん、ロック!ヘビメタキングさん、ロック!」

ビリー(なにいってんだこいつ)

ファミレス


李衣菜「なんか普通のファミレスですね……なんかこう、ロックっぽいお店かと……」

ビリー「さっきから何わけわかんねえ事言ってんだお前は……今からお前を面接してやるんだよ」


李衣菜「……え!?面接あるんですか!?もう事務所に入れるものだと思ってたのに!」

ビリー「そんな甘ェ話があるかよ……てめえに素質があるか見とかねえとな」




ビリー(まあよっぽど酷くなきゃOKだけどな……とにかく早く人員が欲しいからな)

ビリー「……で、お前……ロックロック言ってるがどのジャンルが好きなんだ?」


李衣菜「へ?ジャンル?ジャンルはロックですよ?」

ビリー「いや、ロックにもいろいろあんだろ……俺見て共感したってんならメタルきかと思ったが……そうでもねえのか?」


李衣菜「……!ああ!ジャンルってそういう!そ、そうですね!へ、ヘビメタも好きですし……あとユーケー?UKロックも!最近は!聞きました!」

李衣菜(そういう単語があるっていうのを!)

ビリー「……?へえ、俺ァイギリス出身でな。何聴いたんだ?」

李衣菜「え!?」

李衣菜(UKロックてイギリス関係あるの……?)

李衣菜「え、ええっと……ちょっと名前は忘れちゃいましたね……ほら、私すごいたくさん聴くので……!」


ビリー「……」

ビリー(こいつ……もしや……)

ビリー「へえ、そうなのか……いや、まあでもヘビメタが好きなら俺と話が合うかもな」

李衣菜「で、ですよね!へ、ヘビメタ最高!」

ビリー「俺ァ特にセックス・ピストルズが好きでな。かなり影響を受けた」

李衣菜(あ、そのグループは名前聞いたことがある!どっかで!)


李衣菜「そうですよね!セックス・ピストルズ、めちゃめちゃヘビメタですよね!」

ビリー「……おっと、間違えた。俺が影響を受けたのはガンズ&ローゼスだった。セックス・ピストルズは俺の趣味のパンクの方だった」


李衣菜「へ?」

ビリー「いや、メタルとパンクは本来相容れない仲なのにな?やってる音楽はヘビメタなのに趣味はパンクなんて、それこそ昔は両陣営のヤツから襲撃されたくらいだ」

李衣菜「……」

ビリー「……おや?ロックに詳しいはずのリーナさんからさっきセックス・ピストルズがめちゃめちゃヘビメタなんて聞いた気がするぞ?こりゃあ聞き間違いか?」

李衣菜「……そ、そう!聞き間違い……セックス・ピストルズはパンク!そう!」

ビリー「……ガンズ&ローゼスは?」

李衣菜「……パンク?」

ビリー「……セックス・ピストルズは?」


李衣菜「ええっと……ヘビメタ……いや、パンク……」
プスプス



ビリー「リーナ」

李衣菜「……へ?」


ビリー「てめェド素人かもしくはニワカだろ」

李衣菜「……!?」

李衣菜「に、ににに、にわか!?そ、そんなことないですよ!な、なにを根拠にそんな……!」

ビリー「……UKロックのUKってのはなんだ?」

李衣菜「……ウルトラカッコいい?」


ビリー「……悪いことは言わねえ、アーティストはやめとけ」

李衣菜「な、なんでですかーーーー!」

ビリー「まぁ別にロックや音楽の知識だけがアーティストの素養とは思わねえが……お前は多分向いてねえ」

李衣菜「な……ひ、ひどいです……!確かに知識がちょっとアレなのは認めますけど……そんなにハッキリ言うなんて……!」
ジワ

李衣菜「もういいです!こんな、こんな事だったら会いに来なければ良かった……!」
ガタッ

ビリー「……待て」

李衣菜「……なんですか!」


ビリー「まぁ確かにアーティストは向いてないだろうが……アイドルはいけるかもしれねえ」


李衣菜「……アイドル?」

ビリー「ああ……紹介が遅れたが、俺はこういうモンだ」
スッ

李衣菜「え、名刺……今更……ビリー・カーン……プロデューサー……!?」



李衣菜「ええ!?ヘビメタキングさん、ミュージシャンじゃなかったんですか!?」


ビリー「ああ、昨晩のは……まぁ……趣味というか……成り行きだ」

李衣菜「そ、そんな……」




李衣菜「……けど、アイドルなんて……私がなりたいのはアーティストだし……」



ビリー「……リーナ、てめえは何のためにアーティストになりてェんだ?」

李衣菜「え?だからそれは……ロックっていうか、音楽をやりたいから……」

ビリー「アイドルだってステージに立って歌いもすりゃ演奏だってやる。なんの違いがある?」

李衣菜「……でも、アイドルがロックなんて……なんかイメージが……」


ビリー「……そんな固定概念に捕らわれてるような奴のどこがロックなんだよ?」



李衣菜「……え?」

ビリー「アイドルがロックやっちゃいけねェなんて誰が決めた?やればいいじゃねえか、誰にも文句を言わせねえ実力つけて、ステージの上で堂々とよ」

李衣菜「……!」

ビリー「そういう人が通らねえような道を無理やり突き進む……そういうのが本物のロック魂ってもんじゃねえのか?リーナさんよ」

李衣菜「あ……あ……」
プルプル



李衣菜「そ、そうですよね!!それもう最高にロック!!いやー、さすがヘビメタキングさんは言う事がロック!!」

ビリー「お、おう」

李衣菜「そう、形じゃない!ハートが大事!それこそがロック!」

ビリー「……じゃあ、アイドルやるな?」


李衣菜「はい!もちろんです!私絶対ハンパない音を鳴らせるアーティスト……じゃなかった、アイドルになりますから、私、多田李衣菜をデビューさせてくださいっ!」

ビリー「……よし」



ビリー(……よしよし、我ながら良く言いくるめたもんだぜ……まぁ適当にロックロック言っただけだが)

ビリー(実際話してみたら想定よりアホっぽくて面食らったが……まぁとにかくやる気と、一日で場所突き止めてくる執念がある。意外と化けるかもしれねえ)



ビリー「じゃあひとまず契約しに事務所に行くぞ……ん?携帯が……」
スッ


履歴
着信 クソ社長  1分前
着信 クソ社長  3分前
着信 クソ社長  5分前
着信 クソ社長  7分前
着信 クソ社長  10分前
着信 クソ社長  15分前
着信 クソ社長  18分前
着信 クソ社長  20分前
着信 痛女    22分前
着信 リリィ   22分前
着信 クソ社長  24分前
着信 クソ社長  30分前
着信 クソ社長  31分前
着信 クソ社長  32分前


ビリー「……」

李衣菜「そ、それ……やばくないですか?登録名もだけど……」

ビリー「……いや、いい。とりあえず事務所いくぞ」

今日はここまで

事務所

つかさ「……で?事務所に入れるって?」

ビリー「ああ」

つかさ「……はぁ。勤務初日の夜に大騒ぎして、変なの事務所に呼び寄せて、突然消えたと思ったらスカウトしてきたって……マジでいい度胸してんなお前」

ビリー「お前が対応しろつったんだろうが。この通りだぜ」

つかさ「……素質は?」

ビリー「まぁ少々アホだが……やる気はあるだろ。佐藤と似たようなタイプだ」

つかさ「……まぁビジュアル面は特に問題ないし、お前が連れてきた奴をアタシがまたいちいち面接しなおすのもアレだし、好きにしろよ。面倒見るのはお前だしな」

ビリー「へっ……そりゃ良かったぜ」
スッ

つかさ「……カーン」

ビリー「……あ?」

つかさ「……ちゃんと話はしたのか?」

ビリー「当然だろ。十分話し合ったうえで合意したんだよ」

つかさ「……まぁ今回、契約まであっさりこぎつけた事は褒めといてやる。……だが」



つかさ「いくら早く独立したいからって適当に手当たり次第人員を集めるようなマネはやめろよ」

ビリー「……どういう事だよ?」


つかさ「お前自身の手に負える人間かどうか……そういうところも考えて決めろって事だよ。じゃないと……結果的にみんな不幸になる」


ビリー「……ワケわかんねえ事言ってんじゃねえよ」
ガチャ
バタン

つかさ「……」



李衣菜「ほ、本当に普段からその恰好なんですね~……」

心「どういう意味だよ☆もしリーナちゃんもこういうの着たいならはぁとが作ってきてやるぞ♪」

李衣菜「い、いえ、私はもっとロックっぽい衣装が……ってええ!?それ、自作なんですか!?」

リリィ「すごいです、はぁとさん!」

心「おお、良いリアクション☆それに比べてあの鬼プロデューサーの塩対応と来たら……」

ビリー「鬼で悪かったな」
スタスタ


心「きゃっ☆聞かれちゃった♪」

ビリー「何がきゃっ、だ……話はついたぜ」

李衣菜「!ってことは……」

ビリー「ああ、リーナ。お前はこれからここのアイドルだ」

李衣菜「……!やったーーーー!ありがとうございます!」

リリィ「おめでとうございます、リーナさん!」

李衣菜「はい!これで有名人になったって友達に自慢……エフンエフン夢への扉が開いたって報告できます!」





心「……よく社長説得出来たね?連絡がつかなかった時相当怒ってたよ?」
ヒソヒソ

ビリー「……まぁそれに関しては死ぬほど小言を言われたが……スカウトに関しちゃ別に、もう俺に任せるような口振りだったがな」


心「……ってことはプロデューサーとしてちょっとは認めてもらえてるってことじゃん?良かったじゃん☆」


ビリー「……どうだかな」


ビリー(最後よくわからねえ説教もされたしな……)




李衣菜「改めまして、多田李衣菜です!心さん、リリィさん、ヘビメタ……いえ、プロデューサーさん!これからよろしくお願いしますね!」

ビリー「……ああ」



ビリー(……あと三人)



美波「……」
ピッ
プルルルル



『もしもし、俺だ。美波か?』

美波「はい、お疲れさまです総帥。今ちょっとお電話大丈夫ですか?」


『ああ、大丈夫だ。昨日はすまなかったな、メールで軽く返事しか出来なくて。その件か?』


美波「そうなんです。ちょっと昨日メールで送ってた内容に加えてちょっと事情が分かってきて……相談があるんですけど」




『ビリー・カーン……ああ、俺も直接会った事は無いが、噂は聞いてた。アイツの……ギースの右腕として、主に暗殺や荒事をやっていたってな』

美波「……暗殺……」


『凄腕の棒使いらしくってな。ギースに敵対する奴を影に日向にその棒で消してきたって話だ。で、付いた渾名が……なんだっけな、『歩く凶器』だったか』

美波「そんな……そんなに危険な人だったなんて……」

『いや、まぁ全部噂だ。俺は直接そいつに会ったわけでもないし、どういう男かはわからん。美波は実際会ってみてどうだった?』

美波「……あの場では、妹さん……リリィさんが居たから、その、ぶっきらぼうだけど優しいお兄さん……っていう風に見えました」

『美波が実際に会ってそう感じたのならそれも間違いなくその男の顔だろうな』

美波「ただ……私を見るときの感じはどうも疑っているというか、探っているというか……そういう風にも感じられました」

『そうか……まぁ噂がどの程度本当かは知らないが、全くのウソって事もないだろう。警戒しとくに越した事はないだろうな』



美波「……その、ビリーさんの噂とか、その辺りつかさちゃんは……」

『彼女なら当然把握してるだろう。それでも事務所に置いてるって事は様子見か……もしくは何らかの考えがあるんだろう。実際そいつは事務所に置いといて危険そうか?』


美波「……リリィちゃんがいる間は、大丈夫だと思いますけど」


『そうか……それなら美波は一応そのまま手伝いを続けてやれ。もし雲行きが怪しくなったらすぐに教えてくれ。俺が日本に行く』


『……まぁ妹が傍にいるなら大丈夫とは思うけどな。兄ってのは、そういう生き物だ』

美波「……目的は何なんでしょう?」

『さあな……まぁ本人が乗り気じゃないってんなら誰かの指示だろう。ギースの遺言か、組織の命令か……目的までは、正直俺も検討もつかない』

美波「そうですよね……」

『ああ。参考にならなくて申し訳ない。ただ……』

美波「……ただ?」



『俺も奴に最後に会ったのは15年前が最後だが、奴はサウスタウンに帰ってから一切日本に向けた動きは見せてなかったはずだ。だからギースの絡みで日本というのは……考えづらいと思うがな』

美波「……なるほど。つかさちゃんとまた話してみます、ありがとうございました総帥」

『ああ。……なんで今日はやけに総帥を強調するんだ?』


美波「……いえ、お仕事のお電話だったので公私を混同しないように気を付けないとって思いまして……」


『?まぁいい……じゃあ仕事以外の話をするか。最近のみんなの調子はどうだ?』


美波「そうですね……あ、加蓮ちゃんの映画主演の話ってもう聞いてます?」

『ああ、それは本人から電話で聞いたな。気合が入ってた』


美波「それと……あっ、悠貴ちゃん今アメリカにいますよ」

『何?……あぁ、世界陸上か。メインキャスターになったんだったな。それなら本部に帰るついでに顔見に行くか。有香もこないだアメリカ来たしな』


美波「そうですね、今は格闘技系のサポーターであっちこっち行ってますから」

『なんだ、みんな忙しそうで何よりだが……』


『……拓海はまだ連絡取れないか?』


美波「……そうなんですよね。美世さんが定期的に連絡を試みてくれてるんですけど……」


『……まったく。いきなり旅に出るって姿を消したっきり連絡もよこさないなんてな……まぁアイツなら大丈夫だろうが』

美波「……総帥も唐突に山籠もり始めたりあまり拓海ちゃんの事は言えないと思いますけど」



『……返す言葉もないな』


『い、いや!だが今回のブラジル視察は本当に有意義だったぞ!早速一人活きのいい門下生も見つけたし、次回の支部はここで問題ないだろう』


美波「え?まだ支部もできてないのに門下生が入ったんですか?」


『ああ、現地でいきなり勝負を挑まれた。めちゃくちゃな奴だったが、筋が良かった。で、負かしたその場で入門を申し出られた』


美波「な、なんかすごい人ですね……」


『ブラジル支部が出来るまでは本部に預けるつもりだから、美波も本部に行った時は稽古をつけてやってくれ』

美波「も、もう!私は経理部ですっ!」

『ははは、そうだったな。これからも頼りにしてるぜ、美波経理部長!』

美波「……ふふ、任せてください、リョウさん。……またこちらに来る時は連絡くださいね」



リョウ『ああ』

今日はここまで

スタジオ

トレーナー「……多田、わからない事は素直にわからないと言え。なんか知ってる感を出すな」

李衣菜「……うう、すみません……教えてください……」

トレーナー「佐藤!息切れが早い!体力不足だぞ!」

心「ひいひい……まあはぁとは常に全力だから燃費が悪いって言うか……」



李衣菜「はぁ……はぁ……ダンスレッスンとか、こんなにキツいんですね……」

心「そうでしょ……けどリーナちゃん、ボーカルレッスンはかなりサマになってたな☆」

李衣菜「そ、そうですか?そうでしょそうでしょ!スタジオでのボーカルレッスンは実はやったことあるんです。歌はけっこう自信あるんですよ!」

心「へぇ~……羨ましいなオイ☆はぁとはトレーナーさんに怒られてばかり……けどめげない☆往生際の悪さこそはぁとの真骨頂だから♪」

李衣菜「いやあ~、心さんのそういう所、すっごくロックだと思います!」

心「おう☆ありがと♪……褒められてるんだよね?遠回しに貶されてないよね?」

李衣菜「何言ってるんですか!最高の褒め言葉じゃないですかー!」

心「お、おう☆なら良かった☆」

つかさ「……戻ったぞ」

ビリー「……」
グッタリ

リリィ「あ、社長さん、兄さん、お帰りなさい、お疲れさまです」

つかさ「ああ、お疲れ。美波は今日はもう帰ったか?」

リリィ「はい、一通り教えてもらってたんですが、ご自分の職場の方から急に連絡が来たみたいで」

事務員「社長によろしく伝えるように言付かってます」

つかさ「そうか。まぁ美波も忙しいなか時間を割いて来てもらってるからな。今後こういう事があったら、リリィに事務仕事もちょっと教えていってくれな」

事務員「……はい」

リリィ「事務員さん、よろしくお願いしますね!」

事務員「あ。はい、こちらこそ……」

李衣菜「プロデューサーさん!お疲れさまです!」


ビリー「……ああ」

李衣菜「お疲れのところごめんなさい!今日はボーカルレッスンにダンスレッスンを受けました!」

ビリー「ああそうかよ……」

李衣菜「……それであの……いつからプロデューサーさんにギター教えてもらえるんですか?」

ビリー「……はぁ?俺がお前にギター教えるなんて一言でも言ったか?」

李衣菜「……ええ!?教えてくれないんですか!?そ、それじゃ話が違いますよ!ロックなアイドルを目指せって言ってくれたのはプロデューサーさんじゃないですか!」

ビリー(……そういやそんな事も言ったかも知れねえ……)

ビリー「……俺がお前にギターを教えるようになるのは、お前が最低限アイドルとしての実力をつけてからだ。それまでは一切教えねぇ」

李衣菜「ええ~……アイドルとしての最低限って、いったいどのくらいですか?」


ビリー「……そうだな。お前がCDデビューでもしたらその時は一人前と認めてギターを教えてやるよ」

李衣菜「……言いましたね!よーっし、それならCDデビュー目指してがんばるぞー!」

ビリー(……扱いやすいのは別に良いが……こいつは疲れるな……)

つかさ「……偉そうな事言ってんな。お前こそ、早く仕事の一件でも取ってきて一人前のプロデューサーを名乗れよ」
サッサッ

ビリー「チッ……」

リリィ「……あれ?桐生社長、なにされてるんですか?」

つかさ「ああ、選考書類の確認だ」

ビリー「……選考書類ってこたぁ誰か新人でも入れるのか?」

つかさ「……まぁお前みたいなボンクラは知らないだろうけど、こう見えてウチの事務所はそれなりに有名でな。アイドルになりたいって応募が結構来る」

つかさ「で、そういった応募書類を選考して、オーディションを定期的に開いてる。そこでアタシの目に留まった奴はアイドルとして採用して、相性が良いと判断したプロデューサーにつける」


ビリー「……!ってことは俺が苦労しなくとも勝手にアイドルが補充されるって事じゃねえか!先に言えや!」

つかさ「……お前話聞いてた?それとも理解するアタマがないのか?『相性が良いと判断したプロデューサーにつける』って言っただろ」

ビリー「……あ?」



つかさ「この世のどこにお前みたいなチンピラと相性が良いアイドル候補生がいるんだよ。ていうかそんなのいても怖くて採用できないわ」

ビリー「……」

つかさ「まあそういう訳で明日の午前中はオーディションだ。アタシは一日動けないから、お前は邪魔にならないところでテレアポしてろ」

ビリー「……」

翌日

ビリー「……」

ビリー「……クッソだりぃ……」

ビリー(なんだこのテレアポとかいうクソ不毛な作業は……退屈過ぎて死にそうだぜ)
チラッ

事務員「そこは……そうして……」

リリィ「はい……はい……」

ビリー(……今日はあの極限流の女は来てねえのか)

ビリー(事務員の女はリリィにかかってる……)

ビリー(時間は昼前か……オーディションももうじき終わりか……)

ビリー(……)




ビリー(サボるか)

事務所前

ビリー「……」
カチッ
シュボッ

ビリー「……」
フゥー

ビリー(……ったく、タバコ一本事務所の中じゃ吸えねえとはな……喫煙室作れや)

ビリー(……しかし結構な数オーディションに来てやがったな……この国のガキはそんなにアイドルになりてえもんなのか)

ビリー(……いや、ガキじゃなくてもういい歳こいた奴もいたか)
フゥー

ビリー(……しかし、この事務所のどこがそんなにいいのかね……あの女の下でやりたくなるか?普通)

ビリー(……まぁどうでもいいか。俺ァさっさとアイドル集めて、独立して、調査したらこの事務所とはおさらばだ)



ビリー(……ん?)

女の子「……」
ソワソワ

ビリー(……なんか事務所の前でまごついてる奴がいるな……応募者か?)

女の子「……うう……」
ウロウロ

ビリー(……)
フゥー


女の子「人がこんなに……やっぱり私なんかが……無理だよぉ……」

ビリー(……まーだまごついてやがる……受ける気がねえならさっさと帰りゃいいのによ……)


ビリー「……チッ」
ポトッ
グシグシ


ビリー「……おい。さっきから事務所の前で目障りなんだが」

女の子「きゃあっ!?す、すみませんっ!ごめんなさいっ!許してくださいっ!」

女の子「わたし、アイドルになりたいなんて……もう二度と言いませんからっ……!」

ビリー「……ったく、どいつもこいつも声かけただけで……」

女の子「あ……ご、ごめんなさい大きな声出しちゃって……ここの関係者の方ですか……?」

ビリー「まぁ不本意ながらそうだが……そっちこそなんだ?オーディションの応募者か?ウロウロしやがって」

女の子「あ、は、はい……ですけど、もう帰ろうかと……」

ビリー「そうかよ。だったらさっさと帰れ。視界でウジウジされてるとタバコが不味くてかなわねえ」

女の子「は、はい……ごめんなさい……」

ビリー「……」

女の子「……」

ビリー「……いや、帰れよ。なにしてんだ」


女の子「……うっ、うう……」
グスッ

ビリー(……いや、なんでだよ)

通行人「まあ……あの子泣いてるわ……」
ヒソヒソ

通行人「あの男が……?警察か……?」
ヒソヒソ


ビリー「!?……チッ、おいお前!とりあえず事務所入れ!」
グイ

女の子「いたっ……う、うう……」
グス

ロビー



ビリー「……何がしてェんだお前は」

女の子「ご、ごめんなさい……」



女の子「……私、小さい頃から引っ込み思案な性格で……弱気で、人前に立つこともなくて、ダメな子なんです……」

女の子「こんな私を見て周りの人も怒ったりして……」

ビリー「……まぁそうだろうな。見ててイラつくからな」

女の子「う、うう……で、でも……いつかきっと違う自分になれたらって……弱虫な私から変われたらって……」

ビリー「……んで、自分を変えるきっかけを作るためにこの事務所に応募したってか?」


女の子「……はい。けど、書類をポストに入れるだけで勇気を使い果たして……まさかオーディション審査に進むなんて思わなくって……」

女の子「……あの時の私、どうにかしてたんです……こんな私が……アイドルなんて……」

ビリー「……お前、名前は?」

智絵里「えっ?……ち、智絵里です……緒方、智絵里っていいます……」

ビリー「……」

今日はここまで

ギース様「サウスタウンで格闘の王者決める大会するでー!」

世界中の猛者「うおおおおおおおお!!!!」

っていう街だからな…

ビリー「……で、どうすんだ?受けるのか?帰るのか?」

智絵里「……帰ります。いろいろ話せて、すっきりしました……」

ビリー「そうかよ。じゃあな」

智絵里「……」
スッ

智絵里「……」

ビリー「……」

智絵里「……」

ビリー「……いや、だから早く帰れよ。邪魔なんだよ」

智絵里「……っ」
スッ




ビリー「言っとくが、こっから先もお前みたいな弱虫が生きやすい場所なんざねェぞ」

智絵里「……!」


ビリー「まぁこの国は平和みてえだから命まで取られる事ァねェだろうが」

ビリー「それでも、どこに行っても争いやイザコザはある。牙を剥けねェ草食動物は逃げ切れなきゃ喰われるだけだ」


智絵里「……う……」


ビリー「まぁせいぜい逃げ切ってみろや。ただ、逃げた先に安住の地が待ってるなんて思うなよ。今度はまた別のモンから逃げる日々だ」

智絵里「う……うぅ……」
グス

ビリー「泣こうが喚こうが誰も助けちゃくれねえ。てめえを助けてくれるのはてめえだけだ」

智絵里「……わたしは……どうしたらいいんですか……」

ビリー「知らねえよ。俺に聞くな」

智絵里「……」
グス




ビリー「……喰らいつけや」

智絵里「……え?」

ビリー「てめえは今回そのクソ小せえ勇気を振り絞って応募したんだろ。んで、運よくオーディションまで漕ぎ着けた」

ビリー「てめえの無くなる寸前だった牙で噛みついたわけだ」


ビリー「だったら、後は喰らいつけや。相手を殺せるまで、喰らいついて、喰らいついて、喰らいつけ」


ビリー「それで相手を殺せりゃお前の勝ちだ。居場所は、自分で勝ち取った先にしかねえ」



智絵里「……!」

ビリー「……最も、アイドルなんざになった日にゃ、そっから先に待ってるのはまた戦いの日々だろうが……それでも逃げ続けるよりかは、幾らかマシな場所だろうよ」

智絵里「……」

智絵里「……やっぱり、受けます」

智絵里「……私なんかの牙が……いや、牙なんて呼べないですけど……歯が立つなんて思えないですけど……」


智絵里「それでも……もう私も逃げたくない……変わりたいから……」

ビリー「……だったら、急いだほうが良いんじゃねえか。この事務所の社長は、そういうの死ぬほどうるせえぞ、多分」

智絵里「……!い、急がなきゃ……!」

智絵里「……あの、ありがとうございました」
ペコ

ビリー「目障りだっただけだ。とっとと行け」
シッシ


智絵里「……はい!」
タッタッタ


ビリー「……」

ビリー(チッ……あんなのに構うなんて、俺の方こそどうにかしてるぜ)

ビリー「これも佐藤とかリーナとかのせいかね……」
ゴソゴソ

ビリー「……ん?」



ビリー(……タバコ、切らしてんじゃねえか。最悪だぜ)

数日後
事務所


つかさ「……カーン、社長室に来い」

ビリー「あ?なんだよ、なにも問題起こしてねえぞ俺ァ」

つかさ「いいや、大問題を起こしてくれた。いいから来い。社長命令だ」


ビリー(……なんだよ……心当たりがねぇぞ)

心「まーたなにかしちゃったのかプロデューサーは……リリィちゃん、兄貴がクビになってもリリィちゃんは事務所に残ってね(泣)」

リリィ「え、ええ!?」

事務員「!」
ガタッ

李衣菜「プ、プロデューサーさん!私まだギター何も教えてもらってないですよ!」

ビリー「クビ前提でああだこうだ抜かすんじゃねえ!佐藤、戻ったら覚えてろ!」
ズカズカ

社長室

ガチャ
ビリー「……」

つかさ「座れ」

ビリー「……マジで何もやった覚えはねえぞ」
ドカッ

つかさ「……緒方智絵里って娘を知ってるか」

ビリー「……チエリ?」

ビリー(……そういやこないだ事務所前でまごついてた奴がそんな名前だったな)

ビリー「ああ、知……」

ビリー(はっ……こりゃあ罠か!)

ビリー(ここでうっかり知ってると言っちまうと、こないだ俺がテレアポをサボってたのがバレる……!)

ビリー「……いや、知らねえな」

つかさ「へえ……。じゃあこないだテレアポをやってない時間はお前は完全にサボってた訳だな。クビだ」

ビリー(もうバレてんじゃねえか!)

ビリー「チッ……あの小動物を知ってたらどうしたってんだ」




つかさ「……彼女を採用することに決めた」

ビリー「……へぇ。そりゃ意外だな」

つかさ「……なんでだ?」

ビリー「別に……ああいうタイプはアンタは嫌いそうだと思ったからだよ」

ビリー「ウジウジして、ハッキリしねえ……踏ん切りをつけられねえタイプだったろ」

つかさ「……それがお前が彼女と話した印象か?」

ビリー「?違ったのかよ」

つかさ「まあ確かに話し方にも自信の無さはありありと見て取れたし表面的にはそういう印象も仕方ないとは思うが」

つかさ「オーディションではなんというか……執念みたいなモノを見せてくれたよ。何としてもこのチャンスをものにする……そんな執念をさ」

つかさ「だからアタシは採用する事にした」



ビリー「……そうかよ」

ビリー(……へっ、ちゃんと喰らいつけたみてえじゃねえか。へえ、あの小動物がねぇ……)
フッ

つかさ「……何ニヤニヤしてんだ、気持ち悪いな」

ビリー「……してねえよ。で、なんで俺にそんな話聞かせんだ」



つかさ「……採用の連絡を彼女にしたら、どうもお前の事だと思しき男の話を彼女がするもんだからな。お前のおかげで合格できた、ってさ」


ビリー「……別に俺ァちっと説教かましてやっただけだ。感謝される謂れなんざねえよ」

つかさ「それでも、お前みたいなボンクラの説教で背中を押された娘がいるって事だ。その事実は変わらねえから」


ビリー「……おいおい、もしかして俺のコト褒めてんのか?」


つかさ「アタシは事実でしか物事を判断しないだけだ。出来るやつは出来る。出来ない奴は出来ない。それだけだ」

ビリー「……そりゃギース様のマネか?」

つかさ「……あ?」
ギロッ

ビリー「……」

ビリー「……んじゃあもう話は終わりか?出てくぜ」
スッ

つかさ「……待て、カーン」

ビリー「……なんだよ?」

つかさ「……お前、あの娘の面倒をみきれる覚悟はあるか?」

ビリー「……はァ?」

今日はここまで

つかさ「本人の希望でな。お前が一応ウチ所属のプロデューサーである事を話したら、ぜひお前の下でやりたいってさ」

ビリー「……そんなに優しく説教したつもりはねェんだが……ドMなのか?アイツ」



つかさ「……アタシは正直、反対だ。アイドルとしての素質はあると思うし、お前の下でやりたいっていう彼女の気持ちも汲んでやりたい。ただ――――」

つかさ「彼女が抱えてる気持ちは、正直かなり重たいものがある。それを抱えきれる人間ってのはウチの事務所でもかなり限られてくると思う」

つかさ「これは何もお前がダメだからって話じゃない、彼女自身が少し難しい子って事だ」


ビリー「……」


ビリー「……まあ俺もそんな重てえモンを背負わされるのはまっぴらゴメンだが……」

ビリー「それでアイツ自身は納得できるか?」

つかさ「……!」

ビリー「あのガキに会わせろ。で、話す。俺のやり方を聞かせて、でアイツが納得できねえんなら別のプロデューサーに回せ」

ビリー「もしそれで納得するってんなら……別に俺が面倒見てもいい。……そもそも先に所属している奴も、崖っぷちにニワカとポンコツ揃いだからな」

つかさ「……まぁ一番のポンコツは未だに仕事の一件も取ってこれないお前だけどな」

ビリー「るせえ」


つかさ「……けど、良いだろ。彼女を事務所に呼び出すから、お互い納得できる話し合いをしろ」

ロビー


智絵里「……あっ……!」


ビリー「……よう。来たかよ」

智絵里「あ、あの!この前は本当にありがとうございましたっ!あなたのおかげで、私……勇気が出せてっ……!」
ペコペコ

ビリー「俺ァ別に何もしてねえ。結果的に受かったって事はお前が元々そういう実力を持ってたってこった」

智絵里「そ、そんな事……!私一人だったらそもそもオーディションを受けることすら……!」

ビリー「……落ち着けや。で、とりあえずそこ座れや」

智絵里「あっ……ご、ごめんなさい……」
ストッ




ビリー「……で、とりあえず合格おめでとさん」

智絵里「あ、ありがとうございます」
ペコ

ビリー「なんでも聞くところによるとしつこく喰らいついたそうじゃねえか」

智絵里「そ、そんな喰らいついただなんて……ただ振り落とされないようにって、必死で……」

ビリー「別に言い方は何でもいいんだよ。結果としてお前の牙はあの社長に届いた、そういうこった」

智絵里「は、はい……ごめんなさい」

ビリー(……別に怒ってるわけじゃねえが、すぐ謝るなこいつは……)

ビリー「で、本題だ。お前、俺の下でやりたいらしいな?」

智絵里「は、はい……!あの時はプロデューサーさんと知らずにごめんなさい……」

智絵里「けど、私はあの時本当に諦めてたんです……だけど、プロデューサーさんの言葉ですごく勇気づけられて……」

智絵里「だから、プロデューサーさんとだったら、きっと私も変われる……そう思ったんです……!」



ビリー「……」

ビリー「……お前、チエリって言ったか」

智絵里「は、はい」

ビリー「俺ァついこないだプロデューサーになったばかりで、お前の前にとりあえず2人アイドルを抱えてる」

智絵里「え?そ、そうなんですか……?」

ビリー「んで、とりあえず現状としては俺はとっとと担当アイドルを増やしてェ。だから俺としては別にお前が俺の下に来たいってんなら断る理由は無ェ」

智絵里「ほ、ほんとですか……!」
パァッ

ビリー「……だが、これだけは言っとくぞ」

ビリー「俺は、自分の為だけに動く。お前らの為に動いてやる気は毛頭ねえ」


智絵里「え……!?」

ビリー「何を言ってるかわかんねえってツラだな?」

ビリー「まぁ後で文句を言われても困るからな、一応お前には言っといてやる」



ビリー「俺は俺自身の目的の為にプロデューサーをやってる。もちろんそれはお前らの力になりたいとか甘っちょろいもんじゃねえ」


智絵里「……」

ビリー「だから基本的にはお前らに対して興味もねえし、こっちから干渉する気もねえ。一応プロデューサーとしての仕事としての最低限はこなすつもりだが、それ以上をやるつもりはねえ」


智絵里「……」

ビリー「それにもしお前らが俺の目的を果たす上で不要になったり邪魔になったりすりゃあ、その時は……」

智絵里「……!」

ビリー「……その時は容赦なく切り捨てる。必要ねえモンをとっとく趣味は無ェ」

智絵里「……う……」
ジワ


ビリー「……だが」

智絵里「……」

ビリー「もしお前らが俺の目的を果たす上で必要で在るなら、在り続けるなら」

ビリー「そん時ァ俺は動いてやる。まごついてるなら尻だって叩いてやる」



智絵里「……!」

ビリー「……それでも良いってんなら、来い。これは強制でもなんでもねえ、俺じゃなくてもっと親身なプロデューサーは、他にいくらでもいるだろうよ」

智絵里「……」

智絵里「……構わないです……」

ビリー「……あ?」



智絵里「それで、構わないです……!だから、私をプロデューサーさんのところに置いてください……!」

ビリー「……後悔しねえな?この通り俺ァ優しくもなんともねェぞ?」

智絵里「はい……そんなプロデューサーさんだからこそ、私も変われると思いますから……」

ビリー「……そうかよ。じゃ、とりあえず……まぁ、ヨロシクな」


智絵里「はい……!あの、私の事拾ってくれて……ありがとうございます……」

ビリー「……だから、不要になったら捨てるっつってんだろ。礼なんか言うんじゃねえ」

智絵里「は、はい、ごめんなさい……」
ペコ

ビリー「チッ……」

ビリー(なんかやりづれえぜ……)

ビリー「……っつー訳で、新しく入った」

智絵里「お、緒方……智絵里です……!あの、必死に頑張りますのでどうかよろしくお願いします……!」
ペコ

心「……か……」

智絵里「……え?……か……?」

心「か~わ~い~い~!とってもスウィーティ~☆」
ギュッ
ナデナデ

智絵里「ふぇ、えええ?」

心「オイオイオイプロデューサー☆こんな愛らしい生き物どこでどうやって捕獲してきたんだよ☆正直今までと毛色違いすぎんだろ♪」
ナデナデナデ

智絵里「ひゃ、ひゃあああ」


李衣菜「心さん、それは正直ブーメランっていうか、ちょっと自分も傷つけてません!?」

ビリー「……まぁ色々あったんだよ」

リリィ「わぁ……可愛い……!智絵里ちゃん、よろしくね!」

智絵里「は、はいぃ!……え?あ、あなたもアイドルなんですか?プロデューサーさんは、2人って……」

リリィ「?……ううん、私は経理見習いで、私はビリー兄さんの妹なの」

智絵里「……え?け、経理……ええ?妹さんなんですか……!?」

心「うんうん、驚くのもわかるよ。アイドルじゃないの!?ってのと似てなさすぎだろ!?ってのでダブルパンチだよな☆」

ビリー「佐藤、しゃべるな」

心「まぁともかく……智絵里ちゃん、よろしくな☆ツインテールの先輩として、色々教えてやるぞ☆キャラ付けの方法とか☆」

李衣菜「智絵里ちゃん、よろしくね!一緒にロックなアイドル目指そう!」

智絵里「きゃ、キャラ付け……?ロ、ロック……?よ、よろしくおねがいします……!」
ペコペコ



つかさ(……まぁまぁ不安だな)

今日はここまで




レッスンルーム


智絵里「はあ……はあ……」

李衣菜「智絵里ちゃん、レッスンお疲れ……ってうわ!顔色すっごい悪いけど!」

智絵里「あ……ごめんなさい……ちょっと貧血気味で……」

心「ちょっとちょっと大丈夫?初レッスンだからって無茶しちゃった?」

智絵里「わ、私……運動とか苦手で……今日のダンスレッスンでもトレーナーさんにため息つかれちゃって……」

心「まぁ初めてだったしだいじょぶだいじょぶ~!はぁとなんて毎日なんかのレッスンで怒られてるし☆」

李衣菜「そうそう!私だって怒られてるし!ボーカルレッスン以外!」

心「しれっと自慢を入れるのやめろ♪」
ズビシ

智絵里「みなさんは……強いんですね……」

心「ん~……強いっていうか……鈍感というか……慣れてるだけって感じかな?怒られるのにも、失敗にも☆」

心「この事務所に入る前からけっこう色んなエキストラとかで活動してたけど、そのたびいっつも怒られたし☆もうキャリアが違うよね、失敗の」


李衣菜「す、すごい自信……ロックですね……!」

智絵里「……そうですよね、弱音なんか吐けない……そんなんじゃ、トレーナーさんにも、事務所にも……プロデューサーさんにも見捨てられちゃいます……!」

心「いや、なんか重いゾ☆そんな深刻に考えすぎない方が良いって!」




李衣菜「そういえばプロデューサーさんがレッスン見に来た事って無いですよね」

心「言われてみれば確かに……営業で忙しいんじゃない?……あんまりレッスンとか自体に興味なさそうだけど」

智絵里「……」

『俺は、自分の為だけに動く。お前らの為に動いてやる気は毛頭ねえ』


智絵里「……あ、あの、プロデューサーさんって……どういう人なんでしょうか……?」


心「……シスコン?」

李衣菜「ヘビメタキング!」

智絵里「……??」

李衣菜「……へぇ~、プロデューサーさん、リリィさんを安心させるためにプロデューサーに……ミュージシャンじゃダメだったのかな」

心「まぁミュージシャンって収入安定するイメージないし、やっぱ身内として考えたらプロデューサーの方が安心じゃん?アイドルやってるはぁと達が言える事じゃないけど☆」

智絵里(……妹さんのため?)



李衣菜「けどプロデューサーさん、別にお金に困ってる感じじゃないですよね」

心「それな!こないだリリィちゃんがビリカンさんとマンション決めてきたって聞いたから見てみたらさ、駅近オートロックのかなり良いマンションだったよ。はぁとが住みたいくらい」


李衣菜「そんなマンションに二人で住めるくらいお金持ってるのに収入の安定を求めてプロデューサーになるっておかしくないですか?」

智絵里「確かに……。じゃあプロデューサーになった理由ってなんなんでしょう……?」


心「……まぁあんまり深入りするもんじゃないんじゃない?今見てる感じではリリィちゃん第一主義って感じはするけど、こうしてはぁと達をスカウトしてくれてるんだからプロデューサーのやる気がないってこたないでしょ☆」

李衣菜「……そうですね!あの人についていけばきっとロックなアイドルになれる……それは間違いないだろうし!」


心「そうそう☆とりあえずはぁと達は毎日頑張って力つけてこ♪」



智絵里(……そう、だよね)

智絵里(今はなんとか必死に頑張って……振り落とされないように、しがみついて……ううん、喰らいついていくしか……ないよね)


数日後

つかさ「……みんな、おつかれさん。今日は重大な発表がある」

心「じゅ、重大な発表……?まさか、プロデューサーさんがついにクビになるとか……」

つかさ「それは別に重大でもなんでもないな。紙切れ一枚掲示して終わりだな」

心「ですよねー☆」

ビリー「てめえら……」
イライラ

つかさ「で、本題だが……ついに、そこのプロデューサーもどきが仕事を一件取ってきた」

李衣菜「ええ!?ほ、本当ですか!」

リリィ「やったね、兄さん!」

ビリー「おう」

つかさ「取ってきた仕事はバラエティのゲスト枠……しかも人気番組だ」


心「おおー!やるじゃんプロデューサー!」

智絵里「す、すごいです……!」

ビリー「……つーか、俺のクビより俺が仕事取ってきた方が重大発表ってどういう事だコラ」


つかさ「それだけ驚いたって事だ。一生まともな仕事なんて取ってこれないと思ってたからな」


ビリー「……」
イラッ

李衣菜「ちなみにどんな番組なんですか?ロックな感じですか?」

つかさ「日曜夜にやってる紀行バラエティだ。『とときんの西へヒガシへ』って聞いた事あるだろ?」


心「あー!もともと深夜枠だったけど愛梨ちゃんが人気になってからゴールデン枠に移ってきたあの!ガチ人気番組じゃん!」

ビリー「その番組のディレクターって奴ににたまたま会えたんでな。ちょっと脅……熱心に営業かけてやったらこの通りだぜ」

つかさ「……だが、今回の出演枠は一人だけだ。だからお前たちの中で一人だけ出る事になるが……」

ビリー「……今回は佐藤、お前が出ろ」

心「!」

ビリー「俺らに取っちゃ初の対外的な仕事だ、失敗は許されねえ。お前はデビューこそ最近だが、芸能活動自体はまぁまぁやってるらしいからな、お前がまあ……現状では一番マシだろ。リーナもチエリも、まだ経験が足りねえ」

李衣菜「……うーん、まぁ確かに歌番組とかならともかく、いきなりバラエティはちょっと自信ないかも」

智絵里「わ、私も……そんな、バラエティなんて、ムリです……!」
ブンブン

心「……しょうがないな☆そういう事ならはぁとが出てバッチリ決めてやるよ☆すっごい爪痕残しちゃう♪」


ビリー「……佐藤、もう一度言うが失敗は許されねえぞ。わかってんだろうな?」
ゴゴゴゴゴ

心「ちょっ、凄むなよ☆任せて任せて、そういう後がない感じには慣れてるから♪」


ビリー「不安しかねえよ」

プルルル
ガチャ
事務員「お電話ありがとうございます、RUNWAYです……はい、はい……桐生ですね、はい……少々お待ちください」


事務員「社長、外線1番にお電話です。先ほどお話していた番組の……十時愛梨さんのプロデューサーさんからです」

つかさ「十時愛梨のプロデューサー?わかった、ありがとな」



心「……なんだろうね?」


ビリー「ケチでもつけてきやがる気じゃねえだろうな」

つかさ「……はい、はい……ええ、構いません。丁度今事務所にプロデューサーも出演予定のアイドルもいますので……ええ、はい……こちらこそ、よろしくお願いします」
カチャ

つかさ「……今話してた十時愛梨とそのプロデューサー……いや、彼の場合プロデューサーって呼べんのか……?今からわざわざウチに挨拶に来てくれるそうだ。カーン、佐藤、お前らも一緒に応待しろ」


心「え!?とときんがここに来るんすか!?」

李衣菜「ほ、本当ですか!?やばっ、一緒に写真撮ってもらお!」

ビリー「……おい、今更俺が聞くのもなんだが、十時ってのはそんなに大物なのか」

心「だから何度も言ってるけど、今一番勢いあるアイドルだから!つーかそれ知らないでこの仕事取ってきたのかよ!?」

ビリー「知らねえよ。番組内容も正直よくわからねえまま仕事とってきたからな」

李衣菜「さ、さすがプロデューサーさん……サイコーにロック……!」
プルプル

つかさ「アホなだけだろ。とにかく早く準備しろお前ら」



つかさ「……よし、じゃあカーンと佐藤はこのまま応接室に居ろ。もうそろそろ来るはずだ……」

ピンポーン
つかさ「……言ってるそばから来たか」


リリィ「あっ、私出ますね……」
パタパタ



心「おおう、なんか緊張してきちゃった……ねえプロデューサー、ちゃんとはぁとの事フォローして☆」

ビリー「下手踏んだらどうなるかわかってんだろうな」

心「ない!気遣いが!」

リリィ「いらっしゃいませ……あれ?あなたは……!」


「おお!?リリィちゃんじゃねぇか、なんでこんなトコに!?」


愛梨「あれ~?プロデューサーさん、お知り合いですかー?」

「おう、愛梨ちゃん!リリィちゃんとはサウスタウンの……外国の格闘大会に出た時に知り合ってだな……」




心「……なんか玄関口で盛り上がってるっぽいけど、なんかあったのかな?プロデュ……ほあっ!?」
ビクビクゥ

ビリー「……」
ギリギリギリギリギリ


ビリー(この……暑苦しい声は……)
ギリギリギリギリ

ビリー「……」
ギリギリギリ
ツカツカ

心「……あっ、ぷ、プロデューサー!?応接室で待ってろって社長が……オイィ!?」


バァン


つかさ「……!?おいカーン、応接室で待機してろって……なっ!?」
ビクッ

リリィ「あ、兄さん!」

???「おお!?兄貴までいるじゃねえか!?何がどうなってんだ!?」


ビリー「それは……こっちのセリフだぜ……!」
ゴゴゴゴゴゴ


ビリー「この……パンツ野郎がァァァァァァァ!!!!」
ブオン

ジョー「うおおおおおおお!?」
ビュッ

今日はここまで

ジョー「オラオラァ!」(尻出し)
とときん「おらおらぁ~」(ペローン)

いけません! いけませんよ!

愛梨「きゃあ!?」

ジョー「い、いきなりなにすんだこの野郎!危ねえじゃねえか!」

ビリー「うるせえ!!危ねえのはてめェだこの年中パンツマンが!どっから湧いてきやがった!!」

つかさ「や、やめろカーン!!いきなり客人に殴りかかるなんて何考えてんだお前は!」

ビリー「うるせえええ!こんなパンツ一丁の客人がいてたまるかよ!!てめえまたリリィ狙ってこんなトコまで来やがったか!今日という今日こそブッ殺してやる!!」
グワッ

リリィ「止めて!兄さん!」
カッ

ビリー「うっ……リ、リリィ……!」
ピタッ





つかさ「……いや、本当にウチのバカが大変な失礼を……バカは外に締め出しましたので何卒ご容赦を……」
スッ


ジョー「いやいや、頭を上げてくれよ。あいつとも、リリィちゃんとも知り合いなんで、気にしてねえ」

つかさ「……本当に申し訳ない」

ジョー「あー、社長さんあんた年上だろ?全然タメ口で話してくれていいぜ。ってか、俺もうタメ口で話してるし」

つかさ「……じゃあ遠慮なく。アンタ、世界的にも有名な格闘チャンピオンなのに全然気取った所がないな」

ジョー「堅っ苦しいのが苦手なだけだぜ!それに最近は表の大会にはほとんど出てねえしな」




心(ほえ~、生とときんだ……おっぱいでっか……超スウィーティー……)
ジロジロ

愛梨「……?」
ニコニコ

心(それと……ジョー・ヒガシ……こっちも超有名人だよな……普段格闘技とか見ないはぁとでも知ってるもん……)
ジロジロ

ジョー「……ん?俺の顔になんかついてるか?」

心「い、いやいや、なんもないです☆」



心(……けど、パンツ一丁なんだよな、この人……)





ビリー「畜生……なんであのパンツ野郎が……!」

李衣菜「か、顔が怖いですよプロデューサーさん……けど、『とときんの西へヒガシへ』って、十時愛梨ちゃんとジョーさんが毎回ゲストを呼んで色んなところをぶらつくって番組ですよ」


ビリー「……なんだとォ!?あのパンツ野郎、芸能人なのか!?」


智絵里「げ、芸能人っていうか……かなり有名人さんですよ」

李衣菜「私も詳しくは知らないですけど……なんかボクシングとかムエタイとか、そういうので最年少で世界チャンピオンになったって事でかなりテレビで報道されてたんですよ」


李衣菜「それで明るくて喋りも上手いって人気で、最近は色々テレビにも出てて……ていうかプロデューサーさん、チャンピオンと知り合いなんですか!?」


ビリー「なんてこった……あのパンツ野郎が……」


李衣菜「聞いてない……」


ガチャ
つかさ「……おい、狂犬。入ってこい」

ビリー「……あ?」

つかさ「先方はさっきの事は気にしてないからお前も交えて話がしたいと言ってくれてるぞ。良かったな、向こうが出来た人間で」

ビリー「この世の何処にパンツ一丁でうろつく出来た人間がいんだコラァ!」



ジョー「……さて、じゃあそろそろ番組の話を……めっちゃ睨んでるじゃねえか」

ビリー「……」
ギロリ

つかさ「……カーン、今度また手を出そうとしたらマジでクビだからな。わかってんだろうな」

ビリー「チッ……大体お前、なんでそんなことしてんだよ。本業はどうした」

ジョー「いやそりゃお前も人の事言えねえだろうが……」

ジョー「愛梨ちゃんとは、たまたま友達と俺の出た格闘大会の観戦に来てたところで知り合ってな。そん時は愛梨ちゃんもアイドルじゃなかったんだが、ホアが惚れ込んでな」

ビリー「ホア……ホア・ジャイか?」

ジョー「ああ、肩書は一応俺がプロデューサーって事にしてるが、実際はホアがほとんど取り仕切ってる。実際俺はタレント活動みたいなモンしかしてねえんだ」


ジョー「ホアには俺のセコンドやってもらってたんだが、今じゃセコンド兼敏腕マネージャーだぜ。俺と愛梨ちゃんのスケジュール管理はアイツがやってる」

愛梨「ホアさん、いつも張り切ってますよねっ!なんか、『格闘チャンピオン×天然巨乳女子大生の組み合わせ……いける!外すワケがねェ!』って」

ジョー「はっはっは!愛梨ちゃん、似てるぜ!あいついっつも言ってるもんな!」

愛梨「よくわかんないですけどね~♪」

ビリー(……つまりアイツのせいか……次会ったら消すか……)



心「……ちょっと!悪い顔になってんぞ」
ペシッ

ジョー「……しかし、俺も驚いたぜ。お前たちが日本にいるなんて……しかも芸能事務所にいるなんてよ」


ビリー「……こっちにも色々あんだよ。これ以上悩みのタネを増やしたくねえからお前には一刻も早く消えるか死ぬかしてほしいんだが」

つかさ「……」
ジロリ

ビリー「……」
チッ



心(……けど、あんまり仲良さそうな感じじゃないとは言え、日本の格闘チャンピオンと知り合いなんてこのプロデューサーの人脈謎すぎんだろ、しかもリリィちゃん絡みっぽいし)

ジョー「……さて、話が逸れたが、この『とときんの西へヒガシへ』って番組の概要は知ってっかな?」

心「良く観てるし知ってます☆」

ビリー「……さっき聞いた」



ジョー「ああ、なら話は早え。ホントにテレビで映ってるあの感じまんまだ。俺と愛梨ちゃんと、ゲストで町の色んなトコぶらついて色々する。それだけだ」

ビリー「……そんな番組のドコに需要があんだよ」

心「いやいやプロデューサー!これが意外と面白いんだって!なんというか、肩肘張らずに観られて日曜の夜にもってこいなの!」

心「ちびまる○ちゃんとサザ○さんで憂鬱になった心に丁度良い癒し番組なの!」


ジョー「番組見てくれてるようでうれしいぜ!で、今度出演してもらう時にぶらつく場所は……京都に決まった」

今日はここまで




つかさ「……ったく、最近ほんの少しだけお前の評価を見直してきてたってのに本当にどうしようもない男だなお前は」

ビリー「……こっちにも色々事情があんだよ」

リリィ「もう、兄さんったら……ジョーさん、とっても親切でいい人なんだよ?」

ビリー「リリィ……今後俺のいない所でアイツに会ったり連絡してきたらすぐに俺に教えろよ。ちょっと向こうと話し合わなきゃいけないからな」



心(……この兄貴だとまともに恋愛とかできそうにないな~……)



ビリー「……だが、今度からあのパンツ野郎は京都とかいうとこに行くんだろ?だったら、しばらくはアイツのツラ見なくて済むワケだ」


つかさ「は?何言ってんの」

ビリー「あ?」


つかさ「いや、お前も佐藤と同行するに決まってんだろ。寝ぼけてんのか」

ビリー「なんでだ!?仕事はもう取ってきたんだからあとは佐藤がやるだけだろうが!」

つかさ「バッティングしている仕事があるわけでもなくて尚且つ初めて取ってきた大きな仕事で、同行しないわけないだろ」

ビリー「冗談じゃねえ、何が悲しくてアイツの顔見にわざわざ遠方まで行かなきゃいけねえんだよ」



つかさ「……じゃあしょうがない、リリィに行ってもらうか?」

リリィ「え?」

ビリー「……!?」


つかさ「先方とも浅い仲じゃないみたいだし、この狂犬が行くよりはよっぽど現場が円滑に進むんじゃね?リリィには悪いけどさ」

ビリー「……待て。わかった。行く。その代わり、絶対リリィは事務所から出すんじゃねェ」

つかさ「信用できねえ。また突発的に殴りかかったりするんじゃないのか?だったらお目付け役でリリィを……」


ビリー「だからわかったっつってんだろうが!絶対にあのパンツ野郎に手は出さねえし、佐藤のフォローに徹する!これで良いんだろうが!」

つかさ「……約束だぞ。佐藤、なにかあったら逐一報告しろ。然るべき対応をするからな」

心「は~いっ☆」



リリィ「……残念だなぁ。お仕事とはいえ、兄さんと一緒に京都って所行ってみたかったな」



ビリー(……そりゃあのパンツ野郎がいねえ所ならどこにだって連れて行ってやりてえがよ……)

李衣菜「……けど、とときん……いや、愛梨さん可愛かったですね~。私一緒に写真撮ってもらいましたよ」

智絵里「……すごくマイペースな感じだったですけど、堂々としてて……いるだけで雰囲気が和むっていうか……」

つかさ「……なんていうか、彼女は『愛される存在』として完成されてた。あんなん誰が見たって好きになるって話だな」



つかさ「実際にマネをするのは無理だろうし必要もないが、彼女から学べる事は多いはずだ。佐藤、せっかく一緒に仕事が出来るまたとない機会だ、しっかり勉強してこいよ」

心「任せてっ☆同じツインテール族として、とときんに負けない存在感見せるから☆」

つかさ(……微妙に伝わってない……)


ビリー「手は出さねえ……手は出さねえ……足は……?」
ブツブツ

心「爪痕!爪痕!」



つかさ(……こいつら本当に大丈夫か……?)

京都

心「到着……と。いやあ、新幹線は早くていいな☆……ちょっと身体がキツいけど☆ね、プロデューサー☆」


ビリー「……」

心「……おいおいプロデューサー☆無視かよ☆新幹線でもずっと塩対応だったし何か言いたい事でもあんのかよ☆」

ビリー「……別に何もねえよ」

心「嘘つけよ☆ホラ、言ってみ?実はやっとはぁとの魅力に気が付いて、意識しちゃって話せないとか?」
クネクネ

ビリー「……」
ツカツカ

心「ああん!もう!待てっての☆」
タタタ

ビリー「……」
スタスタ

心「……」
スタスタ




ビリー「……余計な事しゃべると、あの女(社長)にあること無いことチクられちまうからな」

心「……ああ。そういうコト」


心「別にチクったりしないよ。そりゃ隠し切れないような問題起こしちゃったらどうしようもないけど……」

ビリー「……」

心「はぁとはさ、こう見えてもビリカンさんに感謝してるんだぞ?今こうやってロケとかで京都に来てるのだって、ちょっと前じゃ考えられなかった。それもあの時、ビリカンさんと会えたからだしさ」


ビリー「……」

心「だから、ビリカンさんにはクビになんてなって欲しくない。そりゃ普段は茶化したりもするけどさ」

ビリー「……」

心「だからさ、桐生社長を逆に見返せるくらい今回のお仕事がんばろ?チャンピオンとはなんかワケありっぽいけどさ、はぁともフォロー出来そうな所はフォローするから!ねっ☆」

ビリー「……」
フゥ

ビリー「……てめえなんかにフォローしてもらうほど俺も落ちぶれちゃいねえよ

心「あ!なんて言い草だこら!せっかくはぁとが苦しいマジトーンで……」

ビリー「うるせえ。オラ、さっさといくぞ佐藤。俺をなめんじゃねえ、仕事はキッチリこなしてやる。パンツ野郎がなんぼのモンだコラ」


心「……そうそう、その意気☆じゃあ、はぁとのフォローもよろしくな♪」


ビリー「知るか」

ビリー(……チッ、佐藤なんぞに諭されるとは……俺もヤキが回ったもんだぜ)
スタスタ

現場

愛梨「……あっ、来ましたよ!お~い♪」
ブンブン



心「とときんがすっごい手ェ振ってくれてる……くそっ、可愛いな☆オイィィ☆」
ブンブン


ビリー「……なんでだろうな、同じ手ェ振ってんのにお前とあっちじゃこうも違うのは」

心「ほっとけ☆」


ジョー「……よぉ。来ねえんじゃねえかと思ってたぜ」


ビリー「当然俺も来たかなかったが……リリィがいねえならまぁお前もちょっかい出せねえしな」

ジョー「へっ……リリィちゃんがいねえのは残念だが……まぁ安心したぜ」

ビリー「あ?」

ジョー「なんでもねぇよ。よーし、準備が出来たら撮影スタートだ」

愛梨「は~い♪」

心「よっし、ついにはぁとの全国デビューだ……気合入れてメイク直さなきゃ」

ジョー「ヨッシャー!という訳で今回も始まったぜ『ととヒガ』!今回はここ、京都に来てるぜ」

愛梨「は~い♪では、今回のゲストを紹介します!佐藤 心さんです、どうぞ♪」



心「はぁ~い♪アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆さとうしんことしゅがーはぁとだよぉ!」

ジョー「うおっ、これはまた濃いのが来たな!」

心「言い方☆はぁとは~、アイドルの卵なの☆これを機にはぁとの顔と名前を憶えてね♪トシとかその辺のデータはHPに載ってるけどあんまり気にすんなよ☆」

ジョー「うんうん、そうだな!大事なのはトシじゃなくてハートだよな!はぁとだけに!ってか!なははははは!」

愛梨「うふふふ♪今回も楽しくおさんぽできそうですね♪」

心「よろしくおねしゃす☆」



ビリー(……なんだこの地獄絵図……もとい、頭のネジが外れた空間は……)

ジョー「京都は俺の実家からもそんなに離れてねえんだが、意外と行った記憶がねえんだよな~」

愛梨「ジョーさんは大阪のご出身でしたね~。はぁとさんは京都に来たことは?」

心「はぁとは出身も長野なんであんまり縁がなくて~☆小学校の時修学旅行で行ったのが最後の記憶かも」


愛梨「私も実はあんまり縁がなくって。けどそれなら全員新鮮な気持ちで楽しめそうですねっ♪」
ニコッ

心「天使かよ」(そうだよね~☆張り切っていくぞ☆)


ジョー「急にどうした!?」

愛梨「見てください、なんだか古くて立派な建物がいっぱいですよ!」

心「う~ん、確かに!全然名前とかわからないけど、とにかく立派だな☆」

ジョー「いかにも京都って感じだな!」



ビリー(……いつまで経ってもこの頭ユルユルな感じで進行すんのか……番組のスタッフも誰一人として突っ込まねえし、笑ってやがる……マジでいつもこうなのか……)

愛梨「……あっ!和菓子屋さんがありますよ♪」

ジョー「おっ、しかもかなり立派な店構えだなおい」

店員「いらっしゃいませ~……え、パ、パンツ……?」

店員2「……あ!?チャンピオンととときんやん!これもしかして例のあの番組!?」

ジョー「例のあの番組だぜ!カメラも入っても大丈夫っすか?」

店員「別に大丈夫だよね?」

店員2「い、いや、一応女将さんに確認せんと……少々お待ちくださいな……」
ドタドタ





店員3「……お待たせしました、撮影大丈夫です。アレやったらお菓子の説明とかも私がしますので」

ジョー「んじゃあ、この店の看板メニューってなんすか?」

店員3「それやったらやっぱりこの八つ橋やなぁ。ウチの看板で、他の店とは違った深い甘みと皮のモチモチ感が自慢です」

愛梨「へぇ~……じゃあ私この八つ橋頂きたいですっ!」

心「はぁともそろそろスウィーティー分が欲しいぞ☆」



愛梨「……んっ、甘くておいし~い♡」

心「ホントだ、超スウィ~ティ~♡」

愛梨「私、普段は洋菓子ばかり食べてたんですけど和菓子ってこんなに美味しいんですね~♪」

店員3「喜んでもらえて何よりです」

心「……アレ?チャンピオンは八つ橋食べないの?」

ジョー「ああ、八つ橋も気になるが俺はこっちも気になってな」
スッ

心「そ、それは……」


ジョー「そう……タイガキィィィック!!」
ズバ



心「!?」

愛梨「ジョーさん?急にどうしたんですか?」

ジョー「……いや、たい焼きって聞こえなかったか?」

愛梨「あ、聞こえたかもしれません~♪」


ジョー「……そう、たい焼きだ!いやあ、おれにとっちゃあコレの方が馴染み深い気がするぜ!……うん、甘え!」


店員3「そ、そのたい焼きもしっかり甘く、しっぽまで餡子の詰まったウチの自慢の一品で……」



ビリー(……あの店員、まだ長々と菓子の説明をしてやがる……店のPRに必死なんだろうが、どうせ全部使われやしねえよ)

ビリー「……にしても長ェな……ん?」

スッ
店員「はい、お茶と八つ橋どーぞ。番組スタッフの人?」


ビリー「……まぁ関係者は関係者だが、番組のスタッフじゃあねえ」


店員「ふーん、だからほかの人達から離れてるんだ。……どっこいしょ」
ストッ

ビリー「……お前この店のスタッフだろ。サボってていいのか」

店員「ああ、今はあの通りお母さんが説明に夢中だからさー、あたしの出番はないよね~。っていうか奥に引っ込んでろって言われちゃったし」

ビリー「……ここの娘かよ」

店員「うん、ここの看板娘。……まぁ正直そんなに熱心でもないんだけどさ」


ビリー「……」

店員「お兄さんもなんだか他のスタッフの人たちと違って、あんまりノリノリじゃないみたいだね?」

ビリー「……まぁ気乗りはしてねえが、仕事だからな。やらねえとうるせえ奴もいるしな……」

店員「……へえ。ちょっとだけお兄さんの立場はあたしに似てるかも」


ビリー「……ああ?実家暮らしでぬくぬくしてるガキが生意気言うんじゃねえ」

店員「むっ……言ってくれるね~……いや、そりゃそうか。社会人の苦労とあたしみたいなのを同列に扱われたくはないよねそりゃ」



ビリー「……変なガキだな」

店員「あはは、それ言ったらお兄さんも変だよね。だってしゃべり方とかのガラ悪すぎるんだもん」

ビリー「ほっとけ。……どうやらやっと話が終わって移動するみてえだな、茶と菓子は礼を言っとく。ありがとよ」
スッ

店員「あっ、待ってよ。お茶とお菓子のお代にさ、お兄さんの名刺ちょーだい」

ビリー「ああ?……チッ、ホラよ」
ピラッ

店員「おおきに~♪じゃあ、お仕事頑張ってね」





店員「……ビリー・カーン……プロデューサー……」

店員「へえ……あの人がねえ……人は見かけによらんな~」

今日はここまで



ジョー「……そろそろ腹減ってきたな」

愛梨「そうですね~、さっきお菓子を頂いてからずいぶん歩きましたし……お昼にしますか?」

ジョー「はぁとちゃん、京都での有名なメシって言ったらなんだっけ?」

心「えっ、京都……京都って言ったらやっぱり和菓子のイメージが……あとは奈良漬けとかぶぶ漬けとかの漬物……あっ、あと湯葉とか!」



ジョー「なるほどなぁ、湯葉か……」

心「思いつくの大体そんな感じじゃない?他は……あれ、とときんは?」



愛梨「あっ、みなさ~ん♪あそこのお店すっごい人気らしいですよ♪今地元の人に聞きました!」
ブンブン

愛梨「教えてくれてありがとうございますっ!番組も良かったら見てくださいね♪」
ギュッ

通行人「は、はわわ……とときんが……俺の手を……」
プルプル


心「自由☆」


ジョー「流石だぜ」

店内

愛梨「……お店の外観もそうでしたけど、中もとっても京都らしくて落ち着きますね~」


ジョー「んで、ここの看板メニューが……はみ出し天丼?」

心「何がはみ出してんだろ?」

ジョー「まぁ、この俺の生き方以上にはみ出してるモンなんてこの世にねェけどな……」
フッ


ビリー(何言ってんだアイツ。バカなのか?)



ジョー「けど、すげえ心惹かれるな……俺はこれにするぜ!」

愛梨「じゃあ私もそれで~」

店員「お待たせしました、はみ出し天丼3人前です」
ゴトッ

ジョー「こ、こいつぁ……中央に座す天を貫く大天ぷら……」

愛梨「わぁ……すごいインパクトですね……」

ジョー「確かに……衝撃度で言ったら俺のスクリューアッパーに匹敵するぜ……」

心「これ、何の天ぷらなの?」

店員「こちらは穴子を一尾丸ごと使ってます」

心「まるごと」





心「はぁ、はぁ……すごいボリュームだった……けど美味しかった……」


ジョー「ネギもかけ放題だったしな。けど俺はまだまだ食えるぜ」



愛梨「ふぅ、ごちそうさまでした~。……ごはんを食べ終わると、身体が暑くなってきちゃいますね……」
ヌギッ

心「ちょっ!?ダメでしょ!?」



ジョー「確かにな……俺も熱くなってきた」
ヌギッ

心「アンタはもっとダメだろ!?これ以上は放送事故だろ!!?」

ジョー「いやあ、冗談だよハハハ。毎回メシ食ったらこれお約束の流れで、本当には脱がねえよ」

愛梨「私は本当に暑いんですけどね~」

心「ああ……良かった……」

心(そういや確かに毎回放送でこのくだりやってたような……けど実際に目の前でやられるとマジで焦る……色んな意味で)



ビリー「……!」

スタッフ「……!」


心(ああ……プロデューサーもなんかモノ投げようとしてスタッフさん達に静止されてる……それはアンタが正しいよ……)

事務所


李衣菜「……はぁ……。今頃プロデューサーさん達は京都か……いいなぁ……きっとおいしいものとか食べてるんだろうなぁ……」

美波「ふふ、李衣菜ちゃん、お腹空いたの?」

李衣菜「あ、美波さん……いや、そんなこと無いですよ!それを口にするのはあんまりロックじゃないっていうか……ただ、今日もハードなレッスンを乗り切って、少しだけ……」

美波「そうだね、今日もみんなレッスン頑張ってたみたいだし……この後どこかにご飯でも食べに行きますか?私、ご馳走するよ」

李衣菜「えっ!ほ、ホントですか美波さん!」

美波「うん、もちろん。智絵里ちゃんも、リリィちゃんも、事務員さんも……良ければみんなで」



智絵里「わ、私もいいんですか……?」

リリィ「わぁ!ぜひ♪」

事務員「わ、私も!?」

美波「うん、人数は多い方が楽しいし……桐生社長もどうですか?」

つかさ「……あー、悪い。この後人に会う約束があってすぐに出なきゃいけねえ。みんなで行って楽しんで来てくれ」

事務員「え?今日はこの後外出の予定は聞いてませんでしたけど……」

つかさ「ああ、さっき急きょ連絡が入ったからな。……茄子さんがどうしても会わせたい人がいるってさ」



美波「……茄子さんが?」

つかさ「ああ。そんなこと滅多にないからな、行かない訳にはいかねえしな」
ガタッ

つかさ「じゃあアタシはもう出る。みんなは楽しんで来てくれ。戸締りだけ頼むな。美波、これ」
スッ

美波「え?……もう、私がご馳走するって言ったんだから良いのに」

つかさ「ただでさえ世話になってるのにこっちの方まで世話になれるわけないだろ。それでみんなをちょっと良い店に連れて行ってやってくれ」




つかさ「……それと、また近い内に相談するかもしれないから、その時はまた……頼むわ」

美波「……うん、それは構わないけど……」



美波(茄子さんが会わせたい人って……いったい誰だろう……?)

今日はここまで

京都



愛梨「……あれ?何か面白そうなお店がありますね?」


ジョー「……なになに、着物のレンタル?」

心「へぇ~、色んな着物からレンタルして着られるんだ……面白そうじゃん☆着たい着たい♪」

愛梨「私も着てみたいです~♪……ちょっと暑そうですけど」

ジョー「よっしゃ、それなら着てみようぜ!」

スタッフ「こういう柄の物だったり……変わり種だとこういう物も……」


心「や~ん超スウィ~ティ~☆」

愛梨「ええ~?こんなのもあるんですか~?和服って懐が深いですね♪」





ビリー(……結構時間かかりそうだな)


ビリー「……」



ビリー(……さっきまで余裕がなかったから気づかなかったが……この京都ってトコの建築物や装飾……)


ビリー「確かにギース様の趣味だなこりゃあ……」



ビリー(俺はさしてこっちの文化にゃ興味は無ェが……見ると頷かざるを得ねえ。ギース様はこの文化にかなり影響を受けてたんだな……)


ザッザッザッ
ジョー「よぉ。京都は楽しんでるか?」


ビリー「……パンツ野郎。てめェさえいなきゃ心から楽しめたかもな」


ジョー「こえー顔すんなよ。今日は同じ仕事一緒にやってる仲じゃねえか」


ビリー「ケッ、誰がてめェなんかと好き好んで仕事なんかやるかよ」

ジョー「ツレねえなぁ。……じゃあお前、本当は何しに日本へ来てるんだ?まさか本当にただアイドルのプロデューサーをしに来たってんじゃないよなぁ?」

ビリー「……おい。余計な詮索をすんじゃねえよ」


ジョー「そういう訳にもいかねえだろ。ギースが死んで、しばらくサウスタウンで暴れてたって聞いてたのが急に日本にやって来てプロデューサーだ。なんか良からぬことを考えてるかもしれねえと思うだろうが」



ビリー「……てめェ、じゃあもし仮に俺が良からぬ事を考えてたとしたらどうすんだ?」

ジョー「そん時ゃ俺が止めなきゃなんねえだろ」


ビリー「……上等だぜ。俺ァ本当はてめェをブチのめしたくて仕方がなかったんだ。今すぐにでもなぁ」

ジョー「おいおい、早まんなよ。俺は別にお前とこの場でやりあう気なんかねえぜ?」


ビリー「笑わせんじゃねえ。俺からすりゃ、ギース様に刃向かったうえにリリィに近づく悪ィ虫……てめェを生かしとく理由こそありゃしねえんだぜ」
ジャラ

ジョー「……やっぱ持ってきてんのか、ソレ」

ビリー「たりめェだ……銃を家に忘れるハンターがいるかよ?」



ジョー「……」

ビリー「……」


タタタタ

心「よーっす☆プロデューサー☆どーよ見てコレこの白無垢♪超スウィ~ティ~だろ☆」
ズイ

ビリー「なっ……てめえ、佐藤……!」

ジョー「おっ!はぁとちゃん、すげえ綺麗じゃねえか!まるでさっきまでとは別人だぜ!」

心「なんか引っかかるな☆けど、そうだろそうだろ♪」


心「で、どーよプロデューサーは☆惚れたろ?惚れなしたろ?惚れなおしたって言え☆」

ビリー「……チッ。いくら見た目が小奇麗になっても、中身が同じじゃなぁ……」

心「ちょっ、どういう意味だコラ☆どう見ても中から外まで大和撫子だろが☆」

ビリー「へェ……大和撫子ってのはてめェみたいな喧しくて痛ェ女の事を言うのか。勉強になったぜ」

心「むっか~☆マジでぶっとばす☆」

ギャーギャー

ジョー「……へっ」





愛梨「……っはい!という訳で着替えました!すっごく可愛いです!暑いけど!」

ジョー「ったはー!愛梨ちゃん、和風メイドか!」

愛梨「はい♪メイド服は一度着させてもらったことありますけど、今回は和風です♪」


心「そしてはぁとは白無垢ドーン☆」

ジョー「すげえぜ!どっからどう見ても大和撫子だぜ!喋らなけりゃ!」

心「おい☆」

ジョー「いやあ、二人ともすげえ似合ってるぜ。この最強チャンピオンの俺様だが、この二人とサウスタウンにある腕相撲マシーンにだけは勝てそうもねえぜ!」

心「……そういやチャンピオンは和服着ないの?」

ジョー「ああ、俺は正装っていうか、堅苦しい恰好は大の苦手だからな」

愛梨「ああ、それわかります~」



心「いや、正装っていうか現状服そのもの着てないじゃん……パンイチじゃん……」




カメラマン「……はい!撮れ高OKでーす!お疲れさまでしたー!」



ジョー「お、なんだよもうおしまいかぁ?」

愛梨「お疲れさまでした~♪これでやっと薄着に……」
ヌギッ

心「だめだっての!せめて家に帰ってからにして!?」
バッ



ビリー「……撮影終わりか?なら、さっさと東京に帰るぞ佐藤」


心「ええ~!?もう帰んの!?ちょっと撮影長引いたことにしてさ、1泊くらいしてもいいんじゃないの!?]



ビリー「何が悲しくててめェと1泊しなきゃいけねえんだ。泊まりたいならお前一人で残れ、俺は帰る」


心「冷たすぎんだろ☆帰ればいいんだろ帰れば!」

ジョー「おっ、もう東京戻んのか。じゃあなはぁとちゃん!」

愛梨「またお仕事でご一緒できたら嬉しいです♪」

心「もちろん☆今回のコレが放送された暁にははぁとの人気急上昇、きっとすぐに再共演できるはずだから☆」


ジョー「すげえ自信だな!……それと、はぁとちゃん」

心「ん?」

ジョー「……アイツの事、よろしく頼むな」

心「……なんの事かはぁとわかんない☆……けど、任せといて♪じゃあねっ」
タッタッタ


愛梨「……?どうしたんですか、ジョーさん?」

ジョー「いや、なんでもねェさ」


ジョー(……ギースが死んで、自棄を起こしちゃいねえかと心配だったが……なんだかんだ、前に進めてそうじゃねえか)

ジョー「復讐なんて生き方はくだらねえぜ……このままいい方向に言ってくれりゃいいんだけどな」


ジョー「……っと、リリィちゃんにメール打っとこ」

ジョー(今度、メシにでも行こうぜ……っと)

今日はここまで

翌日
事務所





つかさ「……佐藤、撮影ご苦労さん。どうだった?」


心「いや~、すっごく楽しく撮影できました☆チャンピオンもとときんもすっごく撮影慣れしてて、気を遣ってもらってたっていうか♪」

つかさ「そうか……そこの狂犬は先方に失礼はなかったか?」


ビリー「……」


心「いや、全然!それどころか撮影の合間には二人で談笑とかしてましたし!ねっ?」


ビリー「……別に談笑した覚えはねえよ」

つかさ「……まぁ問題を起こさなかったならそれでいい。今後も別の現場で顔を合わせるかもしれない相手だからな」


つかさ「とにかく、初めての大きな仕事だったんだ。これからその経験と反省を活動に活かせよ。以上」


心「はぁい☆失礼しま~す☆」


ビリー「……」






ビリー「……別に借りを作ったなんて思っちゃいねェぞ」

心「ん~?はぁとは別に何も言ってないのにそんな事言ってくるのは、借りを作っちゃったって思ってるって事かな~?」

ビリー「……」
イラッ

心「だから安心しろって☆別にはぁとははぁとが見た事実をありのまま伝えただけだし。貸しを作ったなんて思ってないっつの♪」

ビリー「まっ、もしプロデューサーが勝手に借りを作ったなんて思っちゃってるなら……これからはもっとはぁとに優しくしてくれていいんだぞっ☆」
キャピッ

ビリー「……」
スタスタ

心「あっ、全然思ってねーなコイツ!待てコラ☆やっぱ貸し!貸しひとつな!」
タタタタ


ビリー「ケッ」
ズカズカ




ビリー「……」



ビリー(最近はようやくボチボチ仕事も取れだしてきてあの社長の同行もなくなったが……)

ビリー(新しいメンバーのスカウトが全く進まねェ……それに伴って調査も全然進まねェ……)


ビリー「……ったく、どうしたモンかね……」



つかさ「おい、カーン。いいか?」

ビリー「うおっ!?なんだよ、何もしてねェぞ俺は」

つかさ「いや、何もしてないのは問題だろ。ちゃんと働け」

ビリー「……なんだよ」

つかさ「ああ、明日なんだが、定例のアイドルオーディションを開くんけど」


ビリー「……ああ、毎月のアレか……もうそんな時期かよ……」

ビリー「……で?また邪魔にならないようにどっかで大人しくしてろって話か?言われなくても……」

つかさ「いや……明日のオーディションにはお前も審査員として参加しろ」

ビリー「……なんだと?どういう風の吹き回しだよそりゃあ?」

つかさ「いや……本当はアタシもそう思うんだけどな。けど、こないだの佐藤の出演した『ととヒガ』も結構評判が良くてな。多田や緒方もレッスンに取り組む姿勢が良いってトレーナーから報告が来てる」

ビリー「……つまり?」

つかさ「つまり、お前のトコの担当アイドルがみんな頑張ってるから、もしかしたらお前はアイドルを見る目だけは確かなのかもしれないってコトだ。だから明日のオーディションをお前にも見せてみようってな」



ビリー「……だけ、ってのはご挨拶だが……このオーディションは採用になっても所属先はアンタの胸三寸だろうが。参加することの俺のメリットが見当たらねえ」



つかさ「確かに所属先を決めるのはアタシだが……お前を参加させるって事はお前の意見にも耳を貸すって事だ」

つかさ「採用・不採用はもちろん、所属に関してもお前がどうしても欲しいって候補がいれば、検討しないこともない」

ビリー「……」

ビリー(この女の事だからどうせ実際に俺の意見を取り入れるなんて事は実際にはなさそうだが……スカウトが行き詰ってんのも事実だな……)




ビリー「……わかった。参加してやる」

翌日

女の子「よろしくおねがいします!」

つかさ「はい、よろしく。ダンスが得意ってことだから、早速見せてもらおうか」

女の子「はいっ!」

ビリー「……」




女の子「……ありがとうございました!」

ビリー「……」

つかさ「はい、どうも」




つかさ「……どうだった?」

ビリー「……別に。普通だな」

つかさ「……」

女の子「よろしくお願いします」

つかさ「はい、よろしく。歌に自信がある?」

女の子「はい、アマですけどグループ活動の経験もあります」

つかさ「なるほど……じゃあ聴かせてもらえる?」



女の子「-------♪……ご静聴ありがとうございました」

つかさ「こちらこそどうも。結果はまた連絡するから」

ビリー「……」

つかさ「……カーン」



ビリー「歌上手ェな。以上」

つかさ「……」




女の子「……ありがとうございましたっ!」


つかさ「はい、どうも。……おいカーン」

ビリー「……あァ?」

つかさ「あァじゃねーよ。せっかく参加させてるのになんの反応もなし、やる気ないのか?」



ビリー「……なんも感じねえから仕方ねえだろうが」

つかさ「……全員お前の想定する水準以下だってのか?」

ビリー「そもそも俺の中に想定する水準なんてねェし、今の連中だってアンタがオーディションまで進めてんだから実力あるんだろ。アイドルとしてならそれこそウチの奴らより上なのかもしれねえ」

つかさ「……じゃあ何も感じないってのはどういう事だ」

ビリー「……まぁ強いて言うなら俺が見てんのは、そいつ自身の……闘争心っつうか……渇きっつうか……なんかそういうモンだ」


つかさ「……ハングリー精神か?」

ビリー「まぁそういうもんか……どいつもこいつも次があると思ってるっつうか……死んでもここに受かるっていう気概をイマイチ感じねえ」

ビリー(……チッ、本当なら適当に褒めてさっさと人員を回してもらうべきなんだろうが……ピンと来ねえからその気にもならねえ)


ビリー(……って何考えてやがるんだ俺は……!嫌々やってるプロデューサー業でピンと来るも何もねえだろうが……!)


ビリー(ったく、ありえねえ……本気になりかけてるってのか、この俺が……)



ビリー(……本来の目的を忘れんじゃねえ、とりあえず次の奴は褒めて、なんとか俺のとこの所属になるように仕向けるか……)



つかさ「……もう次で最後だ」



ガチャ
女の子「失礼します!……え?」

ビリー「……あ?」

つかさ「?……じゃあ自己紹介を」

忍「……あっ、く、工藤忍です!アイドルになりたくて上京してきました!よろしくお願いします!」



ビリー(……こいつ、どこかで……?)

今日はここまで

途中でビリーが急にキャピッとしたから何事かと思った

>>711
ほんまや、ビリーに謎の属性を付与してしまった
恥ずかしい

>>693
訂正

ビリー「まっ、もしプロデューサーが勝手に借りを作ったなんて思っちゃってるなら……これからはもっとはぁとに優しくしてくれていいんだぞっ☆」
キャピッ


心「まっ、もしプロデューサーが勝手に借りを作ったなんて思っちゃってるなら……これからはもっとはぁとに優しくしてくれていいんだぞっ☆」
キャピッ

つかさ「はい、よろしく……じゃあダンス審査を行うので、準備が出来たら言ってくれ」

忍「はいっ!」

ビリー(……ダメだ、思い出せねえ……どっかで見た記憶があると思ったんだが)

忍「……はい!よろしくお願いします!」

~♪

忍「……ッ」

つかさ「……」

ビリー(……固ェな。別に悪かねェとは思うが……先に受けていた奴の方がまだ完成度が高え)

忍「……うっ……くっ……」
フラッ

ビリー(そもそも足元が覚束ねえ……大丈夫かこいつ)

つかさ「……おい、ちょっと大丈夫か……」

忍「……!」
キッ

つかさ「……!」

ビリー「……!」


忍「……っはぁ!」


ビリー(……なんだその眼は。一体、何をそんなに必死になってやがる)

忍「……っあ……!」
ガク

つかさ「……!大丈夫か!おいカーン、医務室に……」

ビリー「……」
ガタッ

ビリー「……」
ツカツカ

忍「うっ……くぅ……」



ビリー「そこまでかよ」

忍「……え……?」

つかさ「……カーン?」


ビリー「そこで終いか。まだ曲は続いてんぞ」

忍「……!」

つかさ「おい……!」


忍「……まだ、やれます……!」

ビリー「そうかよ」

つかさ「……」


忍(……やばい……足に全然力が入らない……)

忍(あんまりご飯食べられてなかったから?緊張のせい?……せっかくオーディションまで進めたのに、本番でこんな事になるなんて……)

忍(……たぶん、合格はもう無理なんだろうな。途中からもうフラフラしちゃってたし、倒れちゃうし……)

忍(……けど、このまま何もできずに終わりなんて……そんなの、絶対イヤ……!せめて、1曲だけでも踊り切って……)

忍「……っ」
ヨロ
ドサッ

つかさ「……!医務室へ!」

ビリー「……踊り切ったじゃねえか」

つかさ「……」


医務室

忍「……あれ……ここは……」

ビリー「……やっと起きやがったか。医務室だ」

忍「……アタシ、ダンスしてて、倒れちゃって……そのまま……」

ビリー「記憶はしっかりしてるみてェだな。まあ概ねその通りだ」



ビリー「そして俺はあのクソ社長に『気絶するまで踊らせたのはお前なんだから目が覚めるまでお前が看てろ』と言われこうなってる訳だ」

忍「あ……ご、ごめんなさい、アタシのせいで……」

ビリー「別にお前のせいじゃねえ」

忍「……今日、ご飯、あんまり食べてなくって……お金もなかったし、緊張して食欲もなくて、だから、ちょうどいいやって思って……」

ビリー「……」

忍「よくよく考えれば大事なオーディションの日にそんなコンディションで臨む事事体が甘いなって思う。ホント……何してんだろアタシ……」

ビリー「まぁそりゃそうだ。実戦の場では相手はこっちの事情なんて関係ねえ。どんなコンディションだろうが負けりゃ全て終わりだ」

忍「……」

ビリー「……ただ、なんでお前がそんな状態になってんのかって話ではある。見たところ成人してるようにゃ見えねえが、親はいねえのか?」

忍「……」

忍「……アタシ、家出同然で田舎を出てきたの」

ビリー「なんでだ」


忍「そりゃアイドルになるためだよ!……けど」


忍「アイドルになるって話したとき、誰にも……親にも賛成してもらえなかった。だから、もういい!って家を飛び出してきたの」

忍「……あのさ、人違いだったら申し訳ないんだけど……あなたと一回、駅の前で会ったの、覚えてない?」

ビリー(……ああ。やっぱりあん時のガキだったのか。帽子を目深に被ってたから気づかなかったが……眼だけは良く覚えてる)

ビリー「……まぁそんなこともあったかもな」

忍「ちょうどあの時……田舎の青森を飛び出して東京に着いたばっかりだった。そしたらあなたはいきなり田舎者呼ばわりしてきて……」

忍「あの時は大声出しちゃってごめんなさい。まさか芸能事務所の人だったなんて」


ビリー(……まぁあの時点では俺も事務所所属ではなかったけどな)

忍「……はぁ、それにしてもこんな肝心なトコで倒れちゃうなんてな……今日はほんとにすみませんでした。体調戻して、また別の事務所受けてみます」


ビリー「……待て」

忍「え?」

ビリー「なんでそんなにアイドルにこだわる?親元離れて、安穏な生活捨てて、メシも満足に食えねえでぶっ倒れるような目に会ってまでなりたいもんか?」

忍「……アタシの地元ってほんと、ド田舎って感じでさ……オシャレなお店とか、楽しい場所とか全然なくて……海と山と、広い空だけ」


忍「だからアタシにとって、テレビの中の世界がすべてで……そこで歌うアイドルは、遠い国のお姫様みたいに輝いてて……憧れだったの」


ビリー「……憧れだけで我慢できるモンか?」

忍「……確かに親に完全に否定されて……ムキになっちゃったってところもあるかもしれない。けど……あのアイドルへの憧れは、アイドルになって輝きたいって気持ちは、きっとウソじゃないから……」

忍「だったら、アタシはそれに向かってやれる事は何でもやりたいの。自分の気持ちにウソをついたまま、笑顔で生きていけないから」

ビリー「……」

忍「……あはは、なんでこんな事まで話しちゃったんだろ。それじゃアタシはもう帰るから……」

ビリー「……もし、お前にその気があるなら」

忍「……え?」

ビリー「1週間後、またここに来い。今度は体調を万全にしてな。せめて実力を出し切ってから不合格だと言われなきゃてめェも悔やみきれねえだろ」

忍「……そ、それって……もう1回チャンスをくれるって事ですか!?」

ビリー「……言っとくが合格させてやるとは言ってねえぞ。飽くまで再受験だ。ダメなら落とす。それだけだ」

忍「……は、はいっ!ありがとうございます!また1週間後、よろしくお願いします!失礼しました!」
ペコ
ガチャ
バタン


ビリー「……」

ビリー「……何を考えてんだろうな、俺は」

今日はここまで




つかさ「……1週間後に改めてオーディション、か」


つかさ「あの娘にはお前の興味を引く何かがあったか?」

ビリー「そんなんじゃねえよ。ただ話の流れでそうなっただけだ」


つかさ「ただの話の流れでわざわざ時間を取ってやるほどお前は甘いヤツだったか?」



ビリー「……チッ」


ビリー「……執念だ。目的の為に地べたを這ってでも、泥を食ってでもやってやるっつう執念を見た。それが理由だ」

ビリー「……ただ、さっきのフラフラのダンスじゃ誰も納得しねえだろ。アイツ自身もな」



つかさ「……ふうん。まあいいよ。ただ、アタシは見ない」

ビリー「……なんでだ?」

つかさ「アタシとしては、さっきのダンス中に一度倒れた時点であの娘のオーディションは終わってる。ダンス自体も特に目を見張るようなモノでもなかったしな」

ビリー「……」

つかさ「……だから、あの娘の合否はお前に全部任せる。で、もしあの娘を合格させるならお前が面倒を見ろ。不合格ならお前がしっかりあの娘に伝えろ。いいな」

ビリー「……言われるまでもねえ」






ビリー「……」

心「よーっすプロデューサー☆社長のお説教は終わった?」

ビリー「別に説教されてた訳じゃねえよ」

李衣菜「えっ、違うんですか!?」

智絵里「……」

ビリー「……なんだてめェら雁首揃えて」

心「……ほら、智絵里ちゃん☆」

智絵里「あ、あの……」

ビリー「なんだよ」

智絵里「……み、みんなでご飯に行きませんかっ」



ビリー「……ハァ?」

ジュージュー
心「……いやー、やっぱたまには肉食べないとな☆」

ビリー「……こりゃどういうつもりだ?」

李衣菜「いやあ、たまにはプロデューサーさんと色々お話しする時間がほしいなってみんなで話してたんです」

心「それならご飯でも食べに行こうって、智絵里ちゃんが自分から提案してくれたんだぞ☆」


智絵里「……うう」

ビリー「……ふうん」

智絵里「……あ、あの……ご迷惑でしたか……?」

ビリー「……別に。そこの肉焼けてんぞ」
ヒョイ
パクッ

心「あ"あ"あ"あ"!!それはぁとが育ててた肉なのに!!」


ビリー「うるせェ、ポケーっとしてる方が悪いんだよ。……オラ、お前らも焦げる前にさっさと食え」
モグモグ

智絵里(……良かった)

心「そういやリリィちゃんは?今日来てないの?」

李衣菜「いや、それがリリィさんは今日は美波さんと事務員さんと3人で事務室女子会やるって事だったんで」

智絵里「……仲良いですよね、事務室のみなさん」

ビリー(……リリィがあの極限流の女にあんまり懐きすぎるのは好ましくねェんだが……そのうちそれとなく釘刺しとくか……)



李衣菜「……そういえばプロデューサーさん、前から聞きたいことがあったんですけど」

ビリー「なんだよ」

李衣菜「プロデューサーさんって全然私たちのレッスン見に来ないですよね?なんでですか?」


智絵里「……!」


心(おおう!これ悪意なしでそのままストレートにぶっこむんだから李衣菜ちゃんすごいな……まぁ聞きたいところではあったけど……)


ビリー「またワケわかんねェ事を聞いてきやがるなお前は」

李衣菜「?何がですか?」

ビリー「なんで俺がお前らのレッスンを見る必要があんだよ。ちゃんとトレーナーはいるんだろうが」


李衣菜「いや、私たちがちゃんと頑張ってるか、とか気になりませんか?」

ビリー「別にそれを俺が直接見る必要はねえだろ。お前らのデキが良いか悪いかはトレーナーが判断して俺に報告が来るからな」

智絵里「……」

心「……それは、そうかもだけどさぁ」


ビリー「……お前ら、もし勘違いしてるようだったらいけねえから一応言っとくけどな」

ビリー「お前らが普段レッスンが上手くいってようがなかろうが、そんなモンは特に意味なんかねえからな」

李衣菜「え……?」

ビリー「お前らの評価はあくまで仕事の結果だ。仕事をこなせりゃ有能、失敗すりゃ無能だ」

ビリー「プロセスが評価の対象になるのはアマチュアまでだ。お前らはこのアイドルで食っていくつもりなんだろ。だったらそれは程度がどうであれプロだ」

智絵里「……」

李衣菜「……」


ビリー「プロだったら結果で語れ。仕事は失敗したけどレッスンは頑張ってました、なんて言っても誰も聞く耳なんか持ちゃしねェんだからよ」

心「……まっ、その結果で語ろうにもなかなか仕事自体が入ってこない状況なんだけどな☆」

ビリー「心配すんなよ。そろそろお前ら全員に仕事を持ってきてやる……せいぜい覚悟してろ」





心「あっ、仕事で思い出したけど……今日のオーディションってどうだったの?」

ビリー「あ?」

李衣菜「そういえば!新しい仲間は増えそうなんですか!?」


ビリー「お前らが心配するコトじゃねえよ……ただ、1週間後にひとりもう一回見る予定はある」


智絵里「……それって今日医務室に運ばれてた子ですか?」

ビリー「……さぁな」


心「なにカマトトぶってんだよ☆お~し~え~ろ~よ~♪」


ビリー「佐藤。金置いて帰れ」


心「そこはせめてご馳走して☆」




ビリー(……さて、アイツは合格くれてやれるほど仕上げてこれるかね)

今日はここまで

事務所



忍「……失礼しまーす」

ビリー「……来たか」

忍「あっ、ええと……プロデューサーさん!よろしくお願いします」

ビリー「今回はちゃんとメシ食って来たかよ」


忍「あ、はい!せっかくチャンスをもらったのにまた同じ失敗で潰すなんて馬鹿らしいですし……あれ?今日は社長さんはいないんですか?」

ビリー「いねえ。お前の合否の判断は俺に任されてる」

忍「……!そ、そうなんですね……!」

ビリー「……つまり、選考方法も俺の好きにして良いってこった」

忍「……え?」

ビリー「外に出るぞ。準備しろ」

忍「……!?」

公園



忍「……ここは……」

ビリー「この公園は夜になると色んなミュージシャン志望やらストリートダンサーやらがパフォーマンスを始めやがる」

ビリー「そんな奴らが毎日いるもんだから、ここのギャラリーは妙に目の肥えたヤツも多い」

ビリー「で、お前もこの中に混じってパフォーマンスをしてみろ。ダンスでも良いし、歌でも何でもいい。とにかくお前の存在をアピールしろ」

忍「……!」

ビリー「で、お前が存在感をアピール出来るようだったら合格だ」

忍「い、いきなりストリートだなんて……」

ビリー「出来ねェか?ならオーディションは終わりだ。帰っていいぜ」

忍「そ、そんな……!」

ビリー「……ここを見りゃわかるだろうが、世の中にゃデビューをしてェ、己の存在を世に示してェって奴がゴマンといる」

ビリー「だったら、この中で抜きんでているモノがなきゃデビューなんて出来るわけねェだろうが」

忍「……」

ビリー「で、どうすんだ。やんのか?やらねえのか?」




忍「……やります。……やらせてください……!」

ビリー「……あっそ。じゃあ頑張れや」
スタスタ

忍「……え?……行っちゃった……」


忍「……」
ポツーン

忍「……」
キョロキョロ

「俺のォォォ歌を聴けェェェェ」

「ワン・ツー!ワン・ツー!レッツダンシング!」



忍「……ここにいる人たち……みんなライバルなんだ……!」

忍「……よし!私も、とりあえずダンスしよう!」

忍「……はっ!」



「……お?なんだなんだ?初めて見る娘だが、ダンサー志望か?」

「ちょっと見てみるか」



忍(……!ここのギャラリーの人たちは目が肥えてるってプロデューサーさん言ってたな……よし!やるぞ!)





「……行くか」

「ああ」





忍「っはぁ、はあ……!」

忍(……そんな、踊り始めた時は結構ギャラリーの人いたのに……みんな居なくなっちゃった……!)



忍「……」
キョロキョロ

忍(プロデューサーさんもどこにもいない……?)

忍(ううん、きっとどこかから見てるはず……だったら、このままじゃ絶対まずい……!)

忍(だったら曲を変えて……!)



男「……おいおい、なんか一人で踊ってる女がいるぜ」


男2「マジだ、誰も見ちゃいねえのに健気だねえ~」

男「そんな健気さのご褒美にさ、どっかイイトコ連れてってやろうぜ。騒ぐならちょっと黙らせてよ」

男2「そうだな、こんな時間に女一人でストリートてのは危険だって事も教えてやらねえといけねえしな、経験として」

男「じゃあさっそく……」
トントン

男「……あ?なんだ――――」
クルッ
ドス

男「―――――――」
ドサッ

男2「あ?どうし」
ドス

男2「―――――――」
ドサッ

ビリー「……まぁこういうヤツもいるわな」

ビリー(面倒だが、俺がやらせてる以上、やってる間は守っといてやる。さて、いつまでやれるかね)


ビリー「……しかしこいつらここに捨てといたら警察来るか?」

ビリー「……まぁ酔っぱらいって事にすりゃいいか」



忍「……」

忍(誰も見てくれない……!)

忍(どうして……アタシのダンスじゃ誰の心も動かせないの……?)



忍(……ううん、ダンスだけじゃない……!まだ歌がある……!)

忍(せっかく貰ったチャンスなのに、やれる事を全部やらないで終わるなんて……悔しすぎる……!)



忍「……あ、あ……コホン」



男7「お、見ろよひとりで歌ってる姉ちゃんがいるぞ」

男8「よっしゃ、じゃあカラオケ連れ込んでそのまま」
ドスッ

男7「えっ、なに」
ドスッ



ビリー(……歌に切り替えたか……だが、さっきまでのダンスのがまだマシだったな……こっちはまだまだ全然訓練が足りてねえ)

ビリー(……)

ビリー(しかしよくバカが釣れんな……)

忍「~~~♪」

「……」
スタスタ

忍「~~♪」

「……」
スタスタ


忍「……~♪」


「……」
スタスタ


忍「……」


忍「……うっ」

忍(誰も、聴いてくれない)

忍(誰も、アタシの存在なんて目に入ってない)

忍「うっ、うう……」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~




『ながアイドルのんてのれっこねだろ!分不相応の夢ば見らの!』


忍『やってみなきゃわかんねでしょ!大体、わぁはもうこった田舎うんざりだの!』


『生意気言うんでね!この家さ残って、家業ば継いで、みんなおめの為に言ってらんだど!』


忍『もういい!絶対東京でアイドルさなて、おどもおがも見返して見せらんだはんで!』



~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

忍「……やっぱり、アタシじゃ分不相応だったの……?」

忍「……」




ビリー「……ここまでか」

ビリー「……まぁ長く保った方……」

ビリー「……あ?」

忍「……~~」

忍「~~うっ」

忍「~~」



ビリー「……歌ってやがる。ベソかきながら……」

ビリー「……」




忍「……」



ビリー「……」
ツカツカ

忍「……あ……プロデューサーさん……」

ビリー「……」

忍「……ダメだった……どんなに踊っても……歌っても……誰も足を止めなかった……!」

ビリー「……そうだな」



忍「……ううん、わかってる……いや、思い知らされた……」

忍「今のアタシにそんな実力なんてないってことは……」

忍「アタシに、人より抜きんでたものなんて……ないって事は……」


ビリー「……確かにお前の歌も、ダンスも、ヘボだ。そんくらいのレベルならその辺に掃いて捨てるほどいやがる」

忍「……う……」

ビリー「じゃあ、どうする?アイドルは諦めるか?」




忍「うう……けど……いやだ……アタシ……!」


忍「あんな風に……アタシも輝きたい……!」

忍「たとえ誰にお前は無理だって言われても……アタシはアイドル諦めたくない……!」


ビリー「……」




ビリー「……合格だ」

忍「……え?」


ビリー「明日から、やる気があんなら事務所に来い」
スタスタ

忍「……待って!全然意味がわかんない……どういうことなの……?」



ビリー「……言ったはずだが?抜きんでたものがねえとやっていけねえってな」

忍「いや……だから……アタシは歌もダンスも……抜きんでてなんか……」



ビリー「執念だ」



忍「……執念?」

ビリー「てめェはこないだのオーディションの時、フラフラになりながら最後まで一応踊り切って見せた」

ビリー「その理由を聞いたらお前は憧れだと言った。だから試したんだよ」

忍「……」

ビリー「耳触りの良い、ただ綺麗なだけの憧れじゃねえ……実際の自分が置かれてる現実、見たくねえもの……それを目の当たりにしてもてめェはアイドルを目指せ続けられるか?」


忍「……!」

ビリー「結果、てめェはどん底でも足掻き続けた。未だアイドルを諦めねえと言った。だったらそりゃもうその諦めの悪さは執念だ。俺が認めてやる」

忍「……それが……私が抜きんでてるもの……?」

ビリー「……まぁ今俺が担当してる奴らは同じ位の執念を持ってる。だったらやっていけんじゃねえのか、お前も」

忍「……プロデューサーさん」





ビリー「……ただし」

ビリー「今俺が買ってんのはお前の執念だけだ。それが折れた時……お前を事務所に置いとく理由はねえ」

忍「……!」

ビリー「……失望させんなよ」

忍「……はい!」

ビリー「……じゃあな」
ツカツカ



忍「……あの!プロデューサーさん!」


ビリー「……」
ピタッ

忍「アタシ!これからもっと頑張るから!今はまだまだ不出来だけど……きっと、事務所に入れて良かったって思わせて見せるから!」

ビリー「……」

ビリー「……当然だろうが」
スタスタ

忍「……ありがとうございました!」
ペコッ




ビリー「……さて、あの社長になんて説明すっかな……」
スタスタ

今日はここまで

事務所


忍「はあ、はあ……」



心「おーっす、お疲れ忍ちゃん☆」

智絵里「お、お疲れ様です……」

李衣菜「どうだった?初レッスンは!」

忍「あ、えっと……心さん……と李衣菜ちゃん、智絵里ちゃん……お疲れさまです!ちょっと……いや、かなりキツかったかも」

心「はぁとって呼べよ☆まあ慣れるまではきついよな~、トレーナーさん厳しいし」

智絵里「けど、初めてなのにずっとトレーナーさんの指導に付いて行ってました……すごいと思います」


忍「あはは、厳しいけど楽しかったよ!……けど、上京してきてからお金がなかったんで、ちゃんとしたレッスンとかは受けられてなくて……独学というか、自己流でこそこそやってたんだけど、やっぱりプロのレッスンは全然違うね」



李衣菜「あ、そっか。忍ちゃんは一人暮らしなんだっけ」

忍「うん。けどアパートの壁が薄くて、隣の人の迷惑になるから家じゃダンスとか歌の練習はできなくて……」

心「あ~!わかるわ~!貧乏暮らしあるあるわかるわ~!けど、夢さえあればアイドルの卵は生きていけるの☆」


忍「えっ、心さんもそういう経験あるんですか!?」

心「あるある☆っつーか何ならリアルタイム♪積み重ねた苦節の時間が違うからな☆」

忍「ぜ、ぜひ聞かせてください!何か参考になるかも……」



智絵里「……あ、あの……ところでプロデューサーさんは……?」

李衣菜「ああ……そういえばさっき社長室に呼ばれてたような……」

心「あっ……」


社長室


ビリー「……なんの呼び出しだよ。採用したのが悪かったか?」

つかさ「別に。もうお前のスカウトや採用についてとやかく言う気はない。別件だ」

ビリー「……なんだよ」

つかさ「この画像が匿名でウチのHPのメールフォームから送られてきた」
スッ

ビリー「……こいつは……!」

つかさ「公園……だな。お前がガラの悪い男をシメてる所が写ってる」

ビリー「……!」

ビリー(どういうこった……?あの周囲で写真を撮ってるような気配はなかったはずだ……)

つかさ「お前な……自分の立場わかってんのか?前にも言ったよな?お前が問題起こしたらウチの評判が落ちるんだよ」

ビリー「……」

つかさ「それをこんなどこで誰が見てるかわかんねえトコで揉めやがって……お前はもうクビだ」

ビリー「……!」




つかさ「……と言いたいトコだが、さっき工藤に確認した。昨夜はこの公園で工藤のテストをしたそうだな?」

ビリー「……ああ」

つかさ「……ったく、なんでわざわざこんなトラブルになりそうなところでテストをするかね」

ビリー「……てっとり早く根性が見られそうだったからな」

つかさ「それで結局揉めて写真撮られてりゃ世話ないだろうが……」

つかさ「……いいか、今回が最後だぞ、不問にするのは」


ビリー「……!不問にしてもらえんのか、意外だな……なんでだ?」

つかさ「確かにお前は馬鹿で粗暴でどうしようもないやつだが、昨日に関しては工藤を守るために動いたんだろう。このシメられた奴らもケガはなかったみたいだからな」

ビリー「……」

つかさ「もちろん、2度目はない。大体、わざわざトラブルになりそうなところでテストをする方が間違ってるからな。お前の頭が悪いという結論に変わりはない」

ビリー「……」
イラッ


ビリー(……だが、入った当初に比べりゃ随分信用されたモンだな……)

つかさ「……それと、この写真じゃあハッキリお前だと断定できるほどの鮮明さはない。正直強請りのネタにするには弱い」



ビリー「……もうこの写真で強請られてんのか?」

つかさ「いや……特に何か要求がきてる訳じゃない。各マスコミに送られたって感じでもない」


つかさ「……お前、この写真が撮られた時周囲にそういう気配はしたか?」

ビリー「……いや、無かった。言っとくが俺はそういうのには鈍い方じゃねえ、居たらすぐ気づいたハズだ」

つかさ「……って事は恐らくこの写真は望遠カメラで撮られてる。アタシも現役だった頃はよくこういうので狙われた」


つかさ「……まあこの通り外では誰に見られてるかもわからないんだから、今後は一切の揉め事は禁止だ。どんな理由であれな。もし今度そういうのが発覚したらウチはお前を切り捨てるからな」

ビリー「……へいへい」

ガチャ
バタン


つかさ「……」

つかさ(……この写真を撮った奴……一体何が狙いだ……?)

短いけど今日はここまで

ビリー「……」
ピッ
プルルルル


リッパー『俺だ』

ビリー「リッパーか。報告だ」




リッパー『……なるほどな。写真か……』

ビリー「桐生も言ってたが、望遠カメラってので撮られたんだと思うがな。周りに居たんなら俺が気づかねえハズはねえ」

リッパー『だが、鮮明に撮れていない写真をわざわざ事務所に送ってきた理由はなんだ?特に要求もないんだろう』

ビリー「それがわかんねえからアンタに聞いたんだろうが」

リッパー『……』

リッパー『……警告……いや、あるいは予告かもな』


ビリー「予告?」

リッパー『その写真、お前が気づかなかったというんだから恐らく望遠カメラで撮られたのは間違いないだろう。しかしそれでいて鮮明に写っていないのは予告だからじゃないか』

ビリー「……これからもっと言い訳のできねえ写真を送ってやるぜって事か」

リッパー『あるいは、いつでもその気になればそちらを潰せる……そういった宣言なのかもしれない。昨今はそういったスキャンダルはあっという間に広まるからな』

リッパー『ましてやイメージ商売の芸能事務所だ、暴力沙汰や黒い交友のスキャンダルは致命傷になりかねん』

ビリー「……随分ナメたマネしてくれるじゃねえか……一体どこのどいつだ……」

リッパー『落ち着け。そうやってお前が熱くなって暴れたりしたら、それこそあちら側の思うツボだろう』

ビリー「だが、このままほっとくワケにもいかねえだろうが」

リッパー『この件に関してはこちらから独自に探ってみよう。相手はライバルとなる芸能関係のところか、お前個人に対して恨みを持つ者か、はたまたタチの悪いイタズラか……可能性はいくらでも考えられるが』

ビリー「……」

リッパー『……ああ、わかってる。お前が心配しているのは妹の身に危険が及ばないか、だろう?』

ビリー「……チッ」

リッパー『それに関しても手を打っている。実はこちらから何人かの調査員は日本に滞在させているから、そちらに彼女の周囲には気を配らせている』


ビリー「いや、聞いてねえぞそれ」

リッパー『言ってなかったからな。だが、お前の日本行きの条件にボディガードを付ける約束があったからな。それは引き続き履行中だ』

ビリー「……」

リッパー『だからお前は引き続きプロデュース活動を続けろ。今回の娘で4人目なんだろう?なら、あと一人で目標の5人目じゃないか』

ビリー「……ああ」

リッパー『それで独立できればお前の活動ももう少し自由度が上がるだろう。犯人探しはそれからでも遅くはない』



ビリー「……そうかね」

リッパー「……」


ホッパー「……」



リッパー「……ホッパー、どう見る?」

ホッパー「芳しくないな。ビリーの写真を事務所に送ったという事は少なくとも内部事情を多少なり掴んでる人間ということだ。それが芸能関係者ならまだいい」

リッパー「ああ……普通の企業相手ならコネクションの力を使ってどうにでもできる。だが……」

ホッパー「問題は……普通の相手じゃない場合。つまり、ビリーが本来相手にしてきていた人種だった場合だな」

リッパー「普段のビリーなら全く問題はないが……今はビリーは問題を起こせない。しかし、そういった手合いはコネクションの「表」の力で抑えられない」

ホッパー「ビリーを無駄に焚き付けなかったのは好判断だったな。頭が切れる相手なら、ビリーが動けば却ってボロが出て付け込まれていたかもしれない」


リッパー「ああ……だが、相手の調査は急がなければな。ビリーにはああ言ったが、事が起こってからでは遅い」

ホッパー「そうだな。出来れば俺たちだけで、秘密裏にカタをつけられれば望ましいが……」

数日後
街中

ビリー「……」

ビリー(あれから特に何か要求が来てる様子でもねぇ……何だってんだ一体……)

李衣菜「……プロデューサーさん」

ビリー(だが、確実に俺を張ってる人間はいるハズだ……警戒しとくに越した事はねえ)


李衣菜「……ちょっと、聞いてます?プロデューサーさん?」

ビリー「……ああ?」

李衣菜「ああ?じゃないですよ!なんで私の初めてのお仕事がLIVEじゃなくて街中でのグラビア撮影なんですかって聞いてるんです!」

ビリー「……んだてめェ、俺が苦労してやっと取ってきてやった仕事にケチつけようってのか」

李衣菜「いや、それ自体はありがたいですけど……もっとこう、ロックな感じなお仕事が……」

ビリー「……じゃあ何だ?お前はこの仕事はロックじゃねえ、だからやる気が出ねえって言ってんのか?」

李衣菜「……いや、そういうわけじゃないですけど……」

ビリー「だったら、お前の好きにやれ。舐めたクチ聞いたからにはさぞかし上手くできるんだろうよ」


李衣菜「……え?いや、私そんなつもりで言ったんじゃ……」

ビリー「どうした?出来ねえのか?そのくせ偉そうなクチ叩いたのか?」

李衣菜「い、いや……」

李衣菜「……もう、なんなんですか……!……けど、こないだ宣材写真撮った時と同じ感じでやればいいんでしょ……」



李衣菜「えっと……カメラマンさんは……」

カメラマン「……」


李衣菜「あっ、あなたがカメラマンさんですよね?よ、よろしくお願いします」

ビリー「この通り本人はこの仕事は余裕らしいからコイツの好きにやらせてみてくれや」

李衣菜「ちょっ、プロデューサーさん……!」


カメラマン「……別に、いいけど」



李衣菜「……」

カメラマン「……」
パシャ


李衣菜「……あれ?おかしいな……なんだかあんまりかっこよくない……」

李衣菜「……あの、もう一回お願いします」

カメラマン「……」


ビリー「……」
カチッ
フゥー

李衣菜「……」

カメラマン「……」

李衣菜(……なんで?私は精一杯ロックな表情してるはずなのに。全然かっこよくない……)

李衣菜(……まさかカメラマンの人、手を抜いているんじゃ……)
チラ

カメラマン「……なに?」


李衣菜「……っ!な、なんでもないです……」

カメラマン「……もう満足した?だったら別の撮影場所に移りたいんだけど。ここの1枚でどれだけ時間かけるの?」

李衣菜「……!そ、そんな言いぐさって……じゃあカメラマンさんはこの写真かっこいいって思いますか!?」

カメラマン「全然思わない」

李衣菜「だ、だったら……!」

カメラマン「この仕事を舐めてる子なんて、どんな風に撮ったってカッコよくなんか写らないよ」

李衣菜「えっ……」


ビリー「……」
フゥー


カメラマン「だってそうでしょ?君の独り善がりで……それでいて本心では自信もない……そんなんじゃいい写真なんて撮れるわけないじゃん」

李衣菜「うっ……」


李衣菜「……ごめんなさい……」

カメラマン「……」


李衣菜「……私、今回のお仕事がグラビアって聞いて、そんなの私のイメージじゃないじゃんとか思って……」

李衣菜「カッコいいロックな私を目指してるんだから、アイドルの可愛い感じの写真なんて、違うって……」

ビリー「……」

李衣菜「でも、違ったんですよね。そんな実力も経験もないのに、理想ばっかり一丁前で……そんなの全然ロックじゃないですよね」

李衣菜「……その、もう大分時間も押しちゃったんですけど……撮ってもらえませんか。私、ちゃんと指示も聞いて、全力でやります……!だから……」


カメラマン「……」





ビリー「……もしもし。今しがたようやく撮影が終わった」

つかさ『随分かかったな。お前なんか問題起こしたんじゃないだろうな?』

ビリー「俺じゃねえよ。リーナの方だ」

つかさ『多田が?』

ビリー「……だが、まあいい薬になったんじゃねえか。結果としちゃあ悪くねえ」

つかさ『……なんだか知らないけど、まぁいい。今日はもう遅いから、多田を送って上がれ。報告は明日聞く』






李衣菜「……ふう……やっと終わったぁ……!」

ビリー「やっと終わったはこっちの台詞だコラ。いつまで時間かける気だ」
ツカツカ

李衣菜「あ、プロデューサーさん……すみません……」


李衣菜「私、今日全然ロックじゃなかったですよね……あのカメラマンの方の方が、ずっとロックでした」

ビリー「……あっちもプロだぜ。てめェみたいなペーペーに舐めたクチ利かれちゃ腹も立っただろうよ。俺なら殴ってたかもしれねえ」


李衣菜「うっ……だ、だからすみませんってば……」


ビリー「……だが、今日のでよくわかっただろ。お前はまだまだ半人前以下、ロックだなんだって吠える以前の段階だってな」



李衣菜「……確かにそうかもですね。私、アイドルやってやる!っていうロック魂が欠けてたのかも」

李衣菜「……よーし!これからは私、心を入れ替えて、全力でアイドルリーナをやります!その気持ちが本当のロックですよね!」

ビリー「遅ェよ。次また舐めたような態度見せやがったら事務所から叩き出すからな」

李衣菜「もうそんな事しませんってば!よーし頑張る……」
グ~

ビリー「……」

李衣菜「……いや、まあずっと撮影してましたからね……えへへ……」

ビリー「……チッ……」







李衣菜「それじゃプロデューサーさん、お疲れさまでした!それと、ごちそうさまでした!」

ビリー「うるせえ。とっとと帰って寝ろ」

李衣菜「はい!おやすみなさい!」



ビリー「……ったく、遅くなっちまったか……ん?」



男「……」

男2「……」

ビリー(……なんだ?あいつら……)


男「……我哋嚟喇」
ツカツカ

男2「……了解」
ツカツカ

ビリー「……あ?」

男「……死!」
スッ

ビリー「……!」

事務所

つかさ「……」
カタカタカタ

つかさ「……ふう。もうこんな時間か……ボチボチ帰る準備を……」

ピンポーン

つかさ「……客?この時間に……?」

つかさ「……」

つかさ(なんだ?この胸騒ぎは……)

ピンポーン

つかさ「……」

つかさ(……多分、ロクな客じゃねえな)

今日はここまで

路上


キン
カラン


男「……!」

ビリー「……」

ビリー(コイツ、こんな街中で迷わず刃物出してきやがった……表の人間じゃねえな)

男2「你安全嗎?」

男「係……」


男「呢度一定殺……!」
スッ

男2「哦……」

ビリー「……なに言ってんのか全然わかんねえが、殺る気マンマンって感じだなオイ……」

ビリー「……だが、面白ぇ……最近コソコソ俺の周りを嗅ぎまわってたのはてめェらだろ?だったら……こっちから探す手間が省けた」
スッ

男「……!」

男2「棒……」


ビリー「ひとまず軽くブチのめして……あとは洗いざらい吐いてもらうぜ!言葉わかんねえけどなァァァァァ!!」
グワ

事務所


つかさ「……どうぞ」
コト

男「……へっ、社長サン自らもてなしてくれるとは嬉しいねえ……」


つかさ「……ただの水だよ。こんな時間じゃなくて、事前にアポ取ってくれてれば事務員にコーヒーでも淹れさせるんだけどな」

男「そりゃあ無理な相談だぜ……俺ァ本来はこの国の土なんざ踏めねえ程顔が割れちまってる……裏の連中にはな」

つかさ「……そうなのか?だったら、今から警察に電話したらアンタを捕まえてくれるのかね」

男「オイオイ、カンベンしてくれよ社長サンよぉ。せっかく危険を冒してまでここを訪ねたってのにそりゃねえぜ」
ニヤニヤ

つかさ「……ご用件は?」

男「ツレねえな……まぁいい。だったらこっちも単刀直入に用件を言わせてもらおうか」

つかさ「……」

男「悪いことは言わねえ、この事務所を俺に譲りな」

つかさ「……なんだと?」

男「もちろんタダで、とは言わねえ……ホラよ」
ゴトッ
パカ

つかさ「……なんだこの金は?」

男「買収金だよ。ざっと一億ある……」

つかさ「……舐めてんのか?」

男「いやいや、怒んなよ……もちろん事務所を譲れって言ってもここから出ていけって話じゃねえ、経営権だけ俺によこしなって話だ。アンタ達はこれまで通り働いてもらってて結構だぜ」

つかさ「……そういう話じゃねえよ……いきなり現れたどこのチンピラかもわかんねえ奴がアタシの事務所をよこせだなんて……舐めた事言ってんじゃねえって話だよ……!」

男「クックック……そう怖い顔すんなよ……綺麗な顔が台無しだぜ?」

つかさ「……今すぐ帰れ。じゃないと、警察に連絡するぞ」
スッ

男「オイオイ、警察警察というが……警察を呼ばれたら困るのはアンタの所も同じだろ?」

つかさ「……なんだと?」

男「最近、一匹犬を飼い始めただろ?手の付けらんねえ狂犬をよ……」


つかさ「……何のことかわかんねえな」


男「ヒッヒッヒ……隠してもムダだぜ、俺はアイツの事は知ってる……どういう人間かってのもな」



つかさ「……例の写真……アレはお前の仕業か……」

男「おいおい、人聞き悪ィな。おたくの飼い犬がヨソの人間の手を噛んでる所をたまたま撮っちまったから、世間に言う前に飼い主に報告してやったんだぜ。感謝してもらってもいいくらいだ」

つかさ「お前……!」
ギリ

男「まあというわけで後ろめたいのはお互いさま……ここはひとつ大人同士の話し合いで済ませようや」
ニヤニヤ

つかさ「……お前、何が狙いだ?」

男「……何?だから言ってんだろ、この事務所を……」


つかさ「そうじゃない……お前がアイドル事務所を経営ってツラか。ウチの……何を狙ってる?」


男「……へっ、まあアンタに言ってもわからんだろうが……」



男「アンタが飼い始めた犬……アイツの元飼い主、今はもうくたばっちまったが……そいつが生前持ってたお宝を俺は追ってる」

つかさ「……」

つかさ(……あいつが生前もってたもの……?)

男「それを頂く為に俺は数年前から動き始めたんだが……その在処を聞き出す前にそいつはあっけなくくたばっちまった。そこで俺は大層落ち込んでたんだが……そんな折、あの飼い犬が急に日本に飛んだと聞いた。しかも、アイドルの事務所ときた」

つかさ「……」

男「この話を聞いた時は腹を抱えて笑ったモンだが……同時にある可能性に気が付いた。この事務所に、何か宝の重要な秘密が隠されてるんじゃねえか、とな」

つかさ「……!」

男「そう考えれば合点がいく。あの狂犬がこんな所でアイドルのプロデューサーごっこをしてるなんてのも、ここの調査の為の偽装の為ならな」

つかさ「……」

男「だから、俺はこの事務所に隠されているであろう宝が欲しい……」

男「まあそれに加えて、この事務所も大人気だって言うじゃねえか。だったらついでにその経営権も頂こうと思ってな」

つかさ「……」

男「どうだい……全部正直に話したんだ、事務所の経営権、俺に譲ってくれるよなァ……?」



つかさ「……」
スクッ



バシャッ

男「……おいおい、冷てえじゃねえか」

つかさ「そりゃちょうど良かったな。その沸いた頭もちったあ冷えたろ。良かったな、夜に来て……これが昼だったらあっついコーヒーぶっかけてた所だ」

男「……」

つかさ「帰りな。お前にくれてやるもんなんて、今ぶっかけた水が最初で最後だ。それ以外に……何もお前には渡さない」

男「……ヒッヒッヒ、アンタいい女だが……あんまり頭は良くねえようだな。ザンネンだぜ……」
ニヤ

つかさ「……」

男「出来れば穏便に、無傷でこの事務所を手に入れたかったんだが……社長サンが血の気が多いと従業員は大変だなオイ」
スクッ

男「また来るぜ……まぁ、次ここに来る頃にゃ……きっとアンタは俺に事務所を差し出すだろうよ」

男「最後に……名刺を置いていくぜ。またな……」
スタスタ

ガチャ
バタン


つかさ「……」



路上

男「ガハッ……」

男2「グ……ウ……」


ビリー「……おいおい、オネンネの時間にゃまだはええぜ……」
ザッザッザッ


グイッ
男「グ……ア……」

ビリー「オラ……誰に命令された?てめえらは何モンだ?言え……」

男「……」
ギロッ

ビリー「……わざわざ喋られるように手ェ抜いてボコってやったのにその態度はいけねえなぁ……なら、もうちっと痛めつけねえとダメか……?」
ギリギリギリ

男「ア……ア……」


ビリー「腕や足の一本や二本へし折りゃ喋る気になるか?ああ……?」
ギリギリギリ

男「……!」

警察「……コラーー!そこのお前たち、いったい何やっとるかーー!!」
ピーーー

ビリー「……!?」

男「……!」
バッ
ダダダダ

ビリー「……テメッ……」

男2「……!」
ダダダダダ

警察「こらああああ!待て貴様らああああ!」
ダダダダダ

ビリー「チッ……キショウがあああああ!!」
ダダダダダダ






ビリー「ハァ……ハァ……ポリは撒いたが……結局あいつらにも逃げられちまった……」

ビリー「……クッソが!いつもいつも俺の邪魔しやがってポリの野郎……何が法治国家だ!」
ガン

ビリー(……他の連中は?リリィは無事か?)

ビリー「……」
ピッ
プルルルル




美波「いけない、事務所に忘れ物しちゃった……つかさちゃん今日夜遅くなるって言ってたけど、まだ事務所にいるかな……」
タタタ

美波「……あ、まだ事務所明かりが点いてる……良かった……」
ピンポーン

シーン

美波「……あら?」

美波(無人……?……ううん、つかさちゃんが電気を点けっぱなしで帰るなんてあんまり考えられない……もしかして寝ちゃってるのかな?)

美波(……だったら風邪を引いちゃうかもしれないし、電話してみようかな)
ピッ
プルルルルル

美波「……出ない」

美波(……何だろう、なんだか嫌な予感がする……)
スッ

カチャ

美波「……!カギ、開いてる……」

美波「……ごめんなさい、失礼します……」
ガチャ


美波「……つかさちゃん?」
キョロキョロ

美波「……!」

美波「……つかさちゃん!?」
ダッ


つかさ「……」


美波「つかさちゃん!しっかりして、つかさちゃん!」

つかさ「……あ、美波か……」

美波「つかさちゃん……どうしたの!?すごい汗……熱は……?」
スッ

美波(……冷たい!?そんな……けど……どこにも外傷は無いのに……!)



美波「……一体、何があったの……?」

つかさ「……今までも、色んなチンピラや……ヤクザが事務所に来た事はあった……」

美波「……え?」

つかさ「……けど……あいつはダメだ……あいつは……絶対に関わっちゃだめだ……」

美波「……つかさちゃん、落ち着いて……何が……」


つかさ「あいつと……カーンを会せたらダメだ……絶対にとんでもないことになる……!」
ガシッ


美波「きゃっ……お、落ち着いて、つかさちゃん……これは……名刺……?」




美波「……山崎……竜二……?」




山崎「……」
ザッザッザ

男「ハァ……ハァ……」
ダダダ

男2「ハァ……ハァ……」
ダダダ



山崎「……ああ?」

男「(はあ、はあ……すみませんボス……)」

男2「(ビリー・カーンの襲撃に失敗しました……)」

山崎「(……てめえら、外で話しかけるなって言っておいただろうが……それに襲撃の指示なんて出した覚えはねえ。俺はアイツをマークしとけと言っといたハズだが)」

男「(す、すみません……ですが、夜にあの男が一人だったので……いけると思って……)」

山崎「(確かにアイツはワンコロだが……狂犬だぜ。お前らの手に負える相手じゃねえと散々言っただろうが)」



男2「(すんません……け、けどボスならアイツだって軽く殺せるはずです!その……『左』さえ抜けば!)」



山崎「……」
ピクッ

男「(そ、そうだ……確かにアイツも強かったが、本気を出したボスには足元にも及ばない!)」


山崎「(……おい、お前ら……お前らとはどれくらいの付き合いになる?)」


男「(え?え、ええと……5年くらいです)」

山崎「(そうか……5年か……)」




山崎「それじゃ、お疲れさん」
ヒュン

男2「(……え?ボ……)」
パンッ

男2「グエッ」
ドシャ

男「(……!?ボ、ボス!?)」

山崎「……」
ブン
グシャ
ブン
グシャ


男2「」
グシャ
グシャ
グシャ




男「(ボ、ボス……!?)」
ガタガタガタ


山崎「ヒヒヒヒ……!てめえら言ったことも満足にこなせねえゴミクズがよお……俺の『左』がなんだって……?」

山崎「俺の左がどうしたって……きいてんだァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアア」
グシャグシャグシャ

男「ヒッ……ヒィィィィィィイイイ」
ダッ

山崎「ヒィィィヤァアアアアアアア!!」
ズバッ


ガシッ
男「……ア……」






山崎「……フゥー、フゥー……」

山崎「……」
ピッ

山崎「(……俺だ。ビリー・カーンに新しく見張りを2人つけろ。喧嘩っ早くねえヤツだ。……ああ?死んだよ。路地裏に死体を捨ててあるから回収して処分しとけ)」

山崎「(それと、香港から人数を日本によこしとけ。近い内に始める……祭りをなぁ)」
ピッ



山崎「……ヒヒヒ、見とけよ……最後に笑うのはボガードでもハワード・コネクションでもねえ……この俺だ……!」

今日はここまで

翌日
事務所


ビリー(……結局昨日は俺の所以外には襲撃は無かった……どういうこった?結局俺個人に恨みを持ってる奴の仕業って事か?)

リリィ「おはようございまーす、出勤しました」

美波「リリィちゃん、プロデューサーさん、おはようございます」

リリィ「あ、美波さん、おはようございます……今日は朝からですか?」

美波「うん……今日は桐生社長がお休みだからね」

ビリー「……何?俺ァ昨日のうちは今日は出勤するように聞いてたが」

美波「……今朝ちょっと体調崩されたからお休みするって連絡があったんです。今日は極源流の方は簡単な業務だけだったので、私が代わりに朝のカギ開けを」


ビリー「……あの滅多な事じゃ休まなさそうな女がちょっと体調を崩したから……一応部外者のアンタにカギの管理を、なあ」

美波「……はい」

リリィ「に、兄さん……どうしたの?」

美波(やっぱり疑ってるよね。カーンさんは鋭そうだし……)

美波(けど……)


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1日前
事務所

つかさ「アイツと……山崎とカーンだけは絶対に会わせちゃいけねえ……」

美波「つかさちゃん……でも、どうする気なの……?」

つかさ「……アイツは……山崎は日本の裏社会では本来表を歩けない立場だと言っていた。なら、アイツが表立って行動するような事はほとんどないハズだ」

つかさ「カーンには極力外での活動は控えさせて……それ以外のあっちのアクションはアタシがブロックする」

美波「……外での活動を控えさせるって言っても……カーンさんはプロデューサーなんだから限界があるよ」

つかさ「だったら、トラブルは一切禁止させる。例えどんな些細な揉め事でも起こしたらクビだって伝えて……」
フラッ

美波「……!つかさちゃん、大丈夫!?」
ガシッ

つかさ「……だい、丈夫だ……くそっ……なさけねえ……」

美波「……多分、その人の良くない気に当てられちゃったんだと思う……」

つかさ「……全く、こんなことになるんだったらアタシも格闘技かなんかやっとくべきだったな……」

美波「……私はその山崎さんって人には会ってないからなんとも言えないけど……でも普段気を感じない人が当てられるくらいだから、やっぱり私たちじゃどうしようもないかもしれない……」



美波「……とにかくつかさちゃんは明日は休んで。事務所は私が見ておくから……」

つかさ「……くそっ」

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美波「……」

美波「……最近桐生社長もお疲れだったから……休みを取るように私が言ったんです」

ビリー「……」


リリィ「……確かにずっと働き詰めでしたもんね。いつ休んでるかもわからないくらい……」



美波「……そう。だから、今日はお休みをあげてください。私が出来る限り代わりに対応しますから」

ビリー「……別に俺ァあの女が事務所にいねえならそりゃどっちかって言ったらせいせいするくらいだが」

美波「……プロデューサーさんには、改めてトラブルは起こさないように、と伝言を預かってます」

ビリー「チッ……」


美波(……カーンさんは全然納得いってないみたいだけど……でも、これで良いんだよね?つかさちゃん……)

普通に寝落ちしちゃってた
短いけど今日はここまで


心「……そっか、社長は今日はお休みかぁ……」

忍「まぁでも休んでる日を見たことないくらいだったし、ちょうど良いんじゃないですか?」

美波「もし何かわからないこととかあったら、私か事務員さんに聞いてくださいね。プロデューサーさん、今日のみなさんのスケジュールは決まってますか?」


ビリー「……いや、特に撮影とかは入ってねえ。レッスン日だ」

心「おいおいおい、プロデューサー☆そんなんではぁと達大丈夫かよ☆営業が足りないんじゃないの?」

李衣菜「お仕事!お仕事がしたいです!」

ビリー「……」

ビリー(……図らずも今日は桐生がいねえ、状況は不透明だが事務所周りの調査をすんなら今日を逃す手はねえだろう)

ビリー(……それにもし俺個人を狙ってる奴がいるなら、一人で外にいりゃ相手も何か動いてくるかもしれねえしな)


ビリー「……ちょっくら営業に出てくるぜ」
ツカツカ


心「……え?もしかして怒った?ちょっ、冗談だって☆わ、わかってる!プロデューサーが頑張ってる事はわかってるって!」
アセアセ

忍「……心さん……」

智絵里「……ひどいと、思います……」

李衣菜「うわー、プロデューサーさんかわいそうですよ」

心「オイィィィ!李衣菜ちゃんも一緒に言ってただろが☆やめろや☆」

ビリー「……」


ビリー(あの事務所を調べんなら設立当時の状況から把握すんのが一番だな)


ビリー(あの事務所が正式に設立されたのが14年前……ギース様が最後に日本に居たのが15年前……正直言って何かを仕込む時間は無いように思えるが)

ビリー(当時の設立メンバー……元グループの同僚の……鷹富士……ナス?と兵藤レナ……)

ビリー(鷹富士の方は7年前にアイドルを引退後所在は不明……兵藤は8年前に同じくアイドルを引退後、都内でダーツバーを経営……)

ビリー(……接触できそうなのは兵藤か。だが、バーなら夜にならねえと開かねえだろう)

ビリー(……)


ビリー(……それまではスカウトがてら、街でも歩くか。もしかしたらそれ以外にも釣れるかもしれねえ)

都内

ビリー「……」
ツカツカ

ビリー(……考えてみりゃ日本に来てからもすぐにこうやってスカウトの為に徘徊してたんだったか……)

ビリー(……しっかし、この俺がアイドルのプロデューサー、か……改めて信じられねェな)

ビリー(初めはこの歩いてる奴ら見ても、全員生きてても死んでる人間にしか見えなかった。いや、実際大半はそうなんだろう)

ビリー(だが、この中にもいるのかもしれねぇ……牙を研いでる餓えた狼が……)

女の子「うん、とりあえずおなかすいたーん♪」



ビリー「……あァ!?」
バッ

女の子「うわっ、ちょっと急に大きな声出さないでよ」
ビクッ

ビリー「いや、いきなりなんだてめェは!刺客か!」

女の子「刺客って……お兄さん何か狙われるような事したの?」

ビリー「……誰だお前は」

女の子「誰って、傷つくなー。ホラ、覚えてない?あたし、あたし、あたしだよ」

ビリー「……」
ギロッ

女の子「目つき悪っ」


ビリー「……お前……京都の和菓子屋の娘か……?」

女の子「おー!良く思い出しました~!けど、ちょっと遅いかな」


ビリー「……あの時はお前和服着てたろ。恰好が違いすぎて思い出せなかった」


女の子「あ~、確かにそれはあるかもね。前は店に立ってる時だったし、今はこんなにカジュアルだし?」


ビリー「……で、その和菓子屋の娘が何の用だ。旅行か?」

女の子「……あ~、それがさ……あれから色々あって実家追い出されちゃったんだよね」

ビリー「……何?」

女の子「んで、どうしようかと途方に暮れてたらお兄さんの名刺が出てきてさ」

ビリー「……ああ、そういや名刺渡したかもしれねえな」

女の子「で、その名刺を頼りに東京まで来てみたは良いものの、なんやわけわからん迷路みたいな駅で迷うし、お腹は空くしで今まさに倒れそうだったんよ」

ビリー「……いや、待て。なんで俺の名刺を頼りにすんだよ」

女の子「いや、お兄さん、アイドルのプロデューサーらしいじゃん?だからさ、あたしの事アイドルとして雇ってくんないかな?って思ってさ」

ビリー「……いきなり随分都合のいい話だな。俺もてめェも互いの事を何も知らねえのによ」

女の子「ああ、ごめんごめん。そりゃそうだよね」

周子「あたしは塩見周子。こう見えて和菓子屋の看板娘やってました~♪なんてね」

ビリー「……」




ビリー「……お前がアイドルをやるってのはただ食いっぱくれたくねえからか?」

周子「え?うーん……まぁそういう事になるのかな」

ビリー「……悪いが半端な覚悟の奴を取れるような状況じゃねえんだ、今のウチの事務所はな」

ビリー「別の事務所のオーディションでも受けな。ツラはまあ良いんだから、どっかには受かるだろうよ」
ツカツカ


周子「えっ……あ……」




周子「ええ……」
ポツーン

ビリー(……まぁハングリー精神って言やあハングリーだが……あいつの場合は日々の衣食住が確保出来ちまったら満足するタイプだろう)



ビリー「……さて、兵藤がやってるっつうダーツバーは……」



周子「あー、そのダーツバーならここから20分くらい歩くね。少し外れにあるんだよ」


ビリー「ああそうなのか……って、なんだてめェは……まだいたのかよ」

周子「うん、この辺は散々道に迷って歩いたから、もう覚えたんだよね」


ビリー「いや、ンな事聞いてねえよ。なんでついて来てんだよ」



周子「ちょっとちょっと、お兄さん、さっきのあたしの話聞いてた?」

ビリー「あ?」

周子「あたし言ったよね?おなかすいたーんって」



ビリー「……だから何だよ」

周子「いや、見捨てていくの?おなかすいたん言ってるのに」
スタスタ

ビリー「知らねえよ」
ザッ

周子「……お茶とお菓子」

ビリー「……なに?」
ピクッ

周子「前京都に来たとき……あたしお茶とお菓子出してあげたのに……」
ジッ

ビリー「……」

周子「それなのにお兄さんは東京に着いたばかりでお腹を空かせてる可哀想な子を見捨てていくんだ……へぇ……」


ビリー(なんだこいつ……)

ビリー「チッ……だったらメシでもおごりゃ良いのかよ……」

周子「ゴチになりまーす♪」
コロッ

ビリー「……キツネが」

今日はここまで

ファミレス



周子「うーん、美味しい」
モグモグ

ビリー「……」


周子「お兄さんは食べないの?」
モグモグ

ビリー「……俺はいい。食ったらさっさと帰れ」

周子「お兄さんが行きたいダーツバー、夕方過ぎからじゃないと開かないしそんなに急がなくてもいいって」

ビリー「……さっきも思ったが、お前そのバーに行ったことがあるのか?そもそもいつこっちに来た?」

周子「東京に着いたのは昨日だよ。で、迷ってこの辺りウロウロしてたら、知らないお姉さんに声かけられてそこのダーツバーに連れてってもらったんだ」

ビリー「……なんだそりゃ。何者だよその女」

周子「いや、ほんと面識も何もないんだけど急に話しかけられてさ。でも面白い人だったよ、すごい独特でなんか急に科学っぽいこととかしゃべってたけど」

周子「で、その人とバーの店主の人が知り合いだったみたいでさ。元アイドルとかで……あたしはあんまりそういうの興味無かったから知らなかったんだけど」

ビリー(……どうやら兵藤のバーで間違いないようだな……)

ビリー「……お前をそのバーに連れってった女の名前とか聞いてねえのか?……どんな見た目だった?」

周子「んにゃ、名前は聞いてないなー……あんなにお世話になったのに。バーの近くのホテルまで連れてってくれた後は、ほんと急にいなくなっちゃった」

周子「見た目はこう、髪にウェーブが掛かってて、ちょっとツリ目で……すっごい美人だった」

ビリー(……日本に来る前に見たギース様の作ったユニットの映像の中にそんな見た目の奴がいたな。って事は元メンバー同士で接触があったって事か)



ビリー「……そこまで聞けりゃ十分だ。情報料としてのメシ代を払うくらいの価値はあった」

周子「……逆に聞きたいんだけどさ、お兄さんはアイドルのプロデューサーなんでしょ?なんかバーに行く用事あるの?」

ビリー「てめェにゃ関係ねえ。深入りすんな」

周子「……そんなん言われたら余計気になるやん」


ビリー「……」
スッ
ツカツカ




周子「……一万円も置いてっちゃった。デザート食べてもまだお釣りがくるよ」

周子「……深入りするな、ねえ……少なくともアイドルのプロデューサーの発言ではないかなー」

ビリー「……」
ツカツカ
プルルルル

ビリー(……事務所から?誰だ……?)
ピッ

ビリー「……俺だ」

美波『……もしもし、新田です』

ビリー「……あんたか、何の用だ」

美波『いえ、何の用というか……プロデューサーさんの方は特に問題なかったかな、と』

ビリー「……桐生の言いつけか?心配しなくとも別に問題起こしちゃいねェよ」

美波『……そうですか。お仕事中にすみません。営業、頑張ってくださいね』



ビリー「……なぁ、アンタ、何を隠してる?桐生から何を聞かされた?」

美波『……ごめんなさい、私からは、何も』

ビリー「……」
ピッ


ビリー(……極限流の女と桐生は隠してやがるようだが……何かあったのは間違いねえ)


ビリー(まあ別にあっちが話す気がねえなら俺は勝手にやらせてもらうだけだ……俺のやり方でな)

ツカツカ


ビリー「……ここか。随分わかりにくい所に構えてんな」

ビリー(……時間は……17時30分過ぎ。開いてるか?)

ガチャ
キィ

バタン
ビリー「……」

女性「……あっ、いらっしゃい、けどごめんなさい、ウチは開店は18時からで……」

ビリー「……アンタ、兵藤レナ、だな?」

レナ「……ええ。あなたは?」

ビリー「……俺はハワード・コネクションのもんだ。アンタに2、3聞きたいことがある」

レナ「……ああ、あの人の……じゃあアナタがつかさちゃんの言ってた問題アリのプロデューサーさんかしら」

ビリー「(……!)桐生から俺の話が出てんのか」

レナ「そりゃ元同僚だしね?たまには一緒にお酒を飲んで近況報告をすることもあるわよ」

ビリー(……どうする?俺がこの女と接触したと聞いたら桐生は不審に思うだろうが……)

レナ「……何か聞きたい事があるんでしょ?だったらそこのカウンターに座りなさいよ」

ビリー「……」


レナ「……心配しなくとも、お客さんと話した事なら誰にも喋ったりしないわよ。お客さんと話した事なら、ね」

ビリー(……そういうことかよ)

ビリー「……ウイスキー」

レナ「……はい、お待ち遠さま」
スッ


ビリー「……早速だが、聞きたいことがある」

レナ「もう、忙しない人ね」

ビリー「アンタはギース様が日本でプロデュースしたアイドルユニット……その一員だった。間違いねえな?」

レナ「ええ、そうよ。まっ、ユニット自体はたった一年足らずで解散して……私はアイドルも8年前に辞めちゃったけど」

ビリー「そのユニットが解散してから今まで、ギース様と接触した事は?」

レナ「……一度だけあるわよ。ただ、解散してからそんなに経ってなかったから、それ以降長いこと会ってないわね」

ビリー「その時に、何かギース様から受け取ったりしたか?」

レナ「……いいえ?そもそも解散の時もあの人は相談もなしに一人で勝手に決めて、最後に会った時も特に何も受け取ってはいないわ」



ビリー「……本当か?」

レナ「ええ。……なんなら最後に決別の言葉は貰ったけどね」

レナ「あの人から貰ったものは本当にそれが最後。それから今に至るまで、結局あの人は私たちに手紙の一枚もよこさなかった」

ビリー「……恨んでんのか?」

レナ「さあ、どうでしょうね。私はあの最後の言葉でもう割り切ったつもりだったけど……つかさちゃんはあの場にはいなかった」

レナ「だから、あの娘の中には多分今でもあの人に対する強い感情が残ってる。それが恨みなのか、憧れなのか……或いはその両方なのか……そこまでは私にもわからないけどね」

ビリー「……桐生のプロダクションの設立にギース様は関わってねえのか?」

レナ「ええ、一切ね。……まあさっき言った、あの人に対する正とも負ともつかないエネルギーが彼女に自分のプロダクションを作らせた……そういう意味ではあの人が作らせたと言っても過言じゃないと思うけど、これをつかさちゃんが聞いたら怒るでしょうね」


ビリー「……」

ビリー(……この女が言ってることが本当なら、あの事務所にギース様が何かを隠した可能性は低い……じゃあギース様は日本に一体何の用があったんだ……?)

今日はここまで

ビリー「……」

レナ「……ずいぶん難しい顔をしてるけど……もしかしてアテが外れたかしら?」

ビリー「……そうかもな」

ガチャ
カランカラン


レナ「あら、いらっしゃい……ってあなたは」

周子「どもー」

レナ「もうお嬢ちゃん、昨日は同伴者が居たから入れてあげたけど、本当は未成年が一人で来ちゃダメなところよ」

周子「いやあ、同伴者ならそこにいますから大丈夫ですって~」

ビリー「……またお前か。今度は何の用だよ」

レナ「あら、あなたたち知り合いなの?」

周子「いやね?さっきファミレスでご馳走になっちゃって……お釣り渡しに来たんだ」
ツカツカ

ビリー「……釣りなんていらねェからそれ持ってとっとと帰れ」




周子「……ねえお兄さん。勝負しようよ」

ビリー「あぁ?勝負?」

周子「うん、ダーツ勝負。お兄さんが勝ったらあたしは大人しく帰る。あたしが勝ったら……アイドルとして雇ってくんない?」

ビリー「……なんだそりゃ。つうかお前まだウチでアイドルになる気でいやがったのか」

周子「まあね。そりゃあたしだって全然知らないところよりはちょっとでも縁があるところでやりたいし」


ビリー「……お前の事情なんて知らねえよ。さっきも言ったが、今は半端な覚悟のヤツの面倒を見てるヒマは……」

周子「……わかった。じゃああたしが勝ったらオーディションを受けさせて?それなら良いでしょ?」

ビリー「……」

レナ「良いんじゃない?勝負受けてあげたら。ここまで言ってくるならあながち半端な覚悟ってワケでもないんじゃない?」


ビリー「……部外者が口を挟んでくるんじゃねえよ」

レナ「あら、ここは私のお店よ?部外者なんて心外ね」

周子「……どうかな?お兄さん」

ビリー「……」

ビリー「……ハァ。悪いが今日はもうこれ以上考え事をしたくねえ……俺が勝ったらさっさと帰れよ」

周子「……!ふふ、勝負だね」

レナ「それじゃ、不正がないか私が立ち合い人をやるわ」

周子「ルールはシンプルにCOUNT-UPでいいかな?」

ビリー「何でもいいんだよ、さっさとやるぞ」

レナ「……一応COUNT-UPのルールを説明しておくわよ。お互い順番に、8ラウンド×3スローを投げ合い、合計得点の高い方の勝ち」


周子「それじゃ、お兄さんからお先にどーぞ」

ビリー「……」

ビリー(ったく、なんでこんなことに……俺ァそれどころじゃねえってのに……)
ビュッ

ビリー(ギース様はそもそもあの事務所を把握してたのか?日本に一体何の用があったのか?今事務所を狙ってる奴の目的はなんなのか?)
ビュッ

ビリー(……こんなもん下手したら俺がこの事務所にいる必要も消えるかもしれねえ……そうなりゃもうアイドルのプロデューサーなんざ続ける必要も……)
ビュッ

周子「……」

レナ「……」

周子「……お兄さん、もしかしてダーツやったこと無い?」

ビリー「……ああ?」


レナ「……1本も的に当たってないわね」

ビリー「……ああ、本当だな……気づかなかった」

周子「……ふふ、お兄さん、一体何を考え事してるかわからないけど……」

周子「そんな状態でしゅーこちゃんに勝てると思わないことだ……よっ!」
ビュッ

ビューン


レナ「Bull!お見事!」

ビリー「……何?」

周子「それっ」
ビュッ
トン

ビュッ
トン


レナ「……1ラウンドが終わって、0対98ね」

ビリー「……」

周子「いや~、これは余裕かな?」

ビリー「……あ?」

周子「ごめんねお兄さん、初心者ならハンデあげないとダメだったかな?」


ビリー「……てめェ、余計な事言ったな。何の勝負にしろ、この俺にハンデなんて言葉口走るたァな」


ビリー「……ブッ潰してやる」
ギロッ

周子「……そうこなくっちゃね」



ビリー「……」
シュッ

トン

レナ「12のダブル……24点ね」

周子「おっ、やるじゃん」

ビリー「チッ……」





レナ「5ラウンド終わって268対464……ちょっと厳しくなってきたかしら」

周子「いや、すごい上達だと思うよ。急にだもん」

ビリー(ちっ……的にゃ当たるが……軌道が安定しねえから得点も安定しねえ……)

ビリー(それに対してあのガキは安定して90点前後取ってきやがる……このままじゃ勝てねえ……)



ビリー(……勝てない?負ける?この俺が?)

周子「まっ、けどこのままいけばあたしの勝ち……ん?」

ビリー「……ざけんな」

レナ「……!?」

ビリー「負け犬にはなんの権利もねえ……負け犬には何も得る資格はねえ……」
ブツブツ

ビリー「ただ喰われるだけだ……負け犬はよ……!」
ギラッ



ビリー(あの的のど真ん中……あそこは……敵の喉……!)
グググ

ズバッ
ビューン


周子「なっ……!」

レナ「Bull……!だけど、このフォームは……?」

ビリー「……ヒヤアアア!」
ズバッ
ビューン

レナ「Bull!……身体全体を使って……投げるというより押し出すかのように……!」

周子「……!」

ビリー「アアアァァオ!」
ズバッ
ビューン

Hattrick!

レナ「Hattrick……!全てBullに……!」

周子「……すっご」

ビリー「……」
ザッ

レナ(よくわからないけど……あの独特の投げ方で、発射点の高さそのままの軌道で的の中央を射抜いた……!)

周子「……これは、やばいかも?」





レナ「……7ラウンドが終わって、568対612……一気に詰まったわね」

周子「……あっちゃー……まさかあれから全部Bullなんて……」

ビリー「……」
ザッ



レナ(……すごい集中力ね……それにこの気迫……いや、殺気……これが彼本来の顔ということかしらね?)


ビリー「……ィヤアアア!」
ズン
ビューン


Hattrick!


レナ「……結局あれから一度も外さなかったわね……これで718点……」

周子「……で、あたしが今612点だから……最低106点必要ってことか……」

周子「やれやれ……まいったなー……いつの間にかあたしの方が追い込まれてるじゃん」

ビリー「……てめェが悪いんだぜ。余計な事ほざきやがるからだ」

周子「まさに墓穴を掘っちゃった感じだね」

ビリー「……一体いつまでそうやってナメてるつもりだ?」

周子「……」
スッ

周子「……」
スゥー

周子「……ふうー」

周子「……それっ!」
ビュッ
ビューン

レナ「Bull!これであと58点……!」

ビリー「……」

周子「……てりゃっ!」
ビュッ
トン

レナ「真ん中……けど、わずかにズレた……!得点は……4点……!」

周子「ありゃ……よりによってそっちに行っちゃったか……じゃあ次Bullでも負けじゃん」

レナ「……もう彼女が勝つには19か20のトリプルに当てるしかない」

周子「……」
フゥー

ビリー「……」

周子「……いくよ」
スッ

ビリー(……最後まで、そっちで通すってか)

周子「……それっ!」
ビュッ

トン

ビリー「……!」

レナ「20の……トリプル……をわずかに外れてシングル」

周子「~~~……あっちゃあ、ちょっとズレたか~……」


レナ「718対686で……お兄さんの勝ち、ね」



ビリー「……」


周子「いやー、完敗だったよお兄さん。ダーツは自信があったんだけどなー」

ビリー「……」

周子「まっ、でもこの勝負を言い出したのはあたしだし……大人しく帰るよ。残念だけどね」

ビリー「……」

レナ「周子ちゃん……」

周子「お姉さんもありがとね。じゃ……」
キィ
バタン


レナ「……」

ビリー「……ったく、あのキツネが」



周子「……」

周子(あーあ。これからどうしよっかな……)
スタスタ

周子(正直他にアテなんかないし……けど実家には帰れないし……とりあえず働かないとご飯食べられないな……)
スタスタ




客引き「社長!ウチのお店寄ってってくださいよ!若くてかわいい娘揃ってますんで!」

男「ほんとか~?どれ、ちょっと顔だけでも見て行ってやろうか」

周子「……」
ポケー

周子(……って!何考えてんのあたし!水商売なんて……!)
ブンブン


チャラ男「ねえねえ、もしかして君こういう仕事に興味あんの?」
スタスタ

周子「……!」

チャラ男「それだったらさぁ、ウチのお店で働かない?お嬢ちゃんめちゃくちゃ可愛いし、すげえ稼げるよ」
ニヤニヤ

周子(……うそ!?東京こわーーー!)

周子「い、いや……あたしはそういうのは良いんで……」
スッ

チャラ男「いやいや、釣れねえ事言わないでよ。どうせお金困ってるんでしょ?」
ガシッ

周子「痛っ……ちょっ……」

チャラ男「なんならもっと稼げるオシゴト紹介してやるよ?……ちょっと辛いかもだけどさ」
グイ

周子「……!」




「おい」

周子「!」

チャラ男「……なに?」


ビリー「……その手を離せや」

周子「……あ……!」


チャラ男「……お兄さんこの娘の彼氏か何か?」

ビリー「ンなわけあるか。バカも休み休み言え」

チャラ男「だったらどっか行ってくんね?先に唾つけたのこっちなんだけど」


チャラ男「……それとも何?痛い目見ないとわからないタイプ?」
グッ

周子「……ちょっ、やめて……!」

ビリー「……」
キョロキョロ

通行人「……」
ザワザワ

ビリー(……流石に人目が多すぎる。……しゃあねえ)



ビリー「……おい。お前さっき先に唾付けたのは自分だって言ってたが……そりゃ違うぜ。このガキは俺が先にスカウトしてたんだ……アイドルにな」

周子「……え?」

チャラ男「……アイドル?アンタ、何者だよ」

ビリー「俺ァこういうモンだ……ほらよ」
ピッ

チャラ男「……RUNWAY、プロデューサー、ビリー・カーン」

チャラ男「……RUNWAYって、あの?」

ビリー「ご存知みたいで光栄だぜ。こいつは今からウチの事務所に連れて帰る所だったんだよ」

チャラ男「……チッ、本物かよ。おいお嬢ちゃん、これからはフラフラこんなところ一人で歩くなよ。怖い目に遭うからなぁ?」
スタスタ



ビリー「……ケッ、怖い目に遭わずに済んだのはてめェの方だっつの。命拾いしやがって」
ペッ

周子「……お兄さん、どうして」

ビリー「……」
ジロッ

周子「……あ、いや、助けてくれてありがとう……」


ビリー「……まったく、手ェ抜いて負けて、それで危ねェ目に遭ってんじゃ世話ねえな」

周子「……え?」

ビリー「さっきのダーツ。てめェは騙しとおせた気でいたかもしれねえが、自惚れてんじゃねェぞ」

周子「……何の話かな」

ビリー「とぼけんじゃねえ。てめェ、利き手は左だろ。なのにずっと右で投げてやがった」

周子「……!いつ気づいたの?」

ビリー「バーに行く前のファミレスで左で食ってたのもそうだが……職業柄、相手の利き腕がどっちかくらい、動きやクセでわかる」

周子「……」

ビリー「ギリギリまで追い詰めりゃ左で投げるかとも思ったが……結局最後まで右で投げやがった」

ビリー「てめェ、何考えてやがる?それで結局勝負にも負けて……何も考えてねえのか?」



周子「……フェアじゃないじゃん」

ビリー「……何?」


周子「今回の勝負はあたしから持ち掛けてさ、しかもダーツはけっこう得意なんだよ。そんなあたしに一方的に有利な状況じゃあさ……騙したみたいじゃん」


周子「……まっ、要はあたしの自己満足だし、しかも負けちゃってるしね。結局はお兄さんの言う通り何も考えてないだけだったのかも」

ビリー「……」

ビリー「フェアじゃねえ、か」
フッ

周子(……笑った?)


ビリー「……だが、一つだけ教えといてやる。この世は勝ち負けが全てだぜ。勝つのに卑怯もクソもねえんだよ」

周子「……」

ビリー「勝たなきゃ、何も守れねえし何も得られねえ……矜持と結果を両立できる人間なんて、ほんの一握りだけなんだよ」


ビリー「……だからてめェも矜持を守っていきてえなら強くなれ。……アイドルとしてやってくつもりならな」


周子「……!……お兄さん、それって」

ビリー「……別にまだ雇うと決めたわけじゃねえぞ。一応オーディションしてやるってだけ……」



周子「……」
スッ
ピッ


『……おい。お前さっき先に唾付けたのは自分だって言ってたが……そりゃ違うぜ。このガキは俺が先にスカウトしてたんだ……アイドルにな』

ビリー「……おい。なんだその録音は」

周子「いや、さっきアイツに手首掴まれた時とっさにね。なんかの証拠になるかと思って」

ビリー「……」

周子「……この通り、あたしの事アイドルとしてスカウトしたって言ってるよね?ね?」
ニヤリ


ビリー「……この、狐女が……!」

周子「ふふ、これからよろしくねお兄さん……いや、ビリーさん♪」

今日はここまで

なんか気づいたらだいぶ埋まってたので次スレ建てました。
続きは次スレで投下します。

【モバマス×餓狼伝説】ビリー・カーン「はァ?アイドル?プロデューサー?」 2
【モバマス×餓狼伝説】ビリー・カーン「はァ?アイドル?プロデューサー?」 2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529157813/)

残りは何かこのss関連で質問などあればこのスレ内で答えます。
特になければ埋めます。

当SSシリーズ内設定による年表


2008年 
ユリ・サカザキ、Mr.BIGに誘拐される。

リョウ・サカザキ、ロバート・ガルシア、BIGに誘拐されたユリを救出する。

リョウ、Mr.カラテ(タクマ・サカザキ)と闘い、龍虎乱舞に覚醒し破る。


2009年 
ギース・ハワード、第1回キング・オブ・ザ・ファイターズを開催。

リョウ、ギースと闘い追い込まれるも、龍虎乱舞で破る。

ギースはその後すぐに日本へ。

ロバート、グラスヒル・バレーでワイラーを龍虎乱舞で破る。

事件後、ガルシア財団はロバートを次期当主に指名。


2011年 
リョウ、ロバート来日 6810プロダクション設立

新田美波・向井拓海・中野有香・乙倉悠貴・北条加蓮の5名で『極限drea娘』を結成 

ギース、周防辰巳を殺害。リョウ達への当てつけに覇我亜怒プロダクション設立。

一ノ瀬志希・兵藤レナ・桐生つかさ・木場真奈美・鷹富士茄子の5名で『Reppu』を結成

ギース、クイーン・オブ・ザ・アイドルズを開催。

ギース、『Reppu』の解散を発表。志希、レナは美城プロに移籍。

リョウ、ギースと闘い、当て身投げに敗れる。ギースはサウスタウンへ帰還。

レナ、茄子、ギースに会うためにサウスタウンを訪れ、今生の別れを告げられる。



ギース、ジェフ・ボガードを殺害する。

2012年 
原田美世、アナスタシア、6810プロに入社。

つかさ、芸能プロダクション『RUNWAY』を設立。


2014年
つかさ、アイドルを引退、社長業に専念。

2015年
真奈美、アイドルを引退。ボイストレーナーに転身。

ビリー・カーン、ギースに拾われ部下に。

2016年
志希、アイドルを引退。定職には就かずフラフラする。

リョウ、プロデューサーを引退、本格的に道場の経営に移る。

2017年
美代、アイドルを引退。カーマン・コールに代わり6810プロの運転手に。

2018年
レナ、アイドルを引退。ダーツバーを開業。


2019年
茄子、アイドルを引退。


2021年
ギース、再びキング・オブ・ザ・ファイターズを開催。

ジェフの敵討ちに来たテリー・ボガードと闘い、敗れる。ビルから落下し死亡と発表される。


美波、アイドルを引退。極限流に所属し、経理担当となる。

2022年
拓海、アイドルを引退。その後失踪する。

2023年
ヴォルフガング・クラウザー 、テリーに敗れる。クラウザーはその後自決。

2025年
ギース、復活。秦兄弟を破り秘伝書を全て揃える。
テリー、ギースの息子ロック・ハワードを引き取る。



2026年
ギース、自身が開催した最後のキング・オブ・ザ・ファイターズでテリーに敗れ、自ら死を選ぶ。



ビリー、来日。「RUNWAY」に入社。

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