【ガルパン】まほ「アンツィオ高校で幻の戦車道を撃破する」 (212)

・ガルパンSSです。まほチョビの可能性をどうでしょう。
・独自設定キャラ崩壊注意。
・モブに意味もなく名前がついてますが栄冠ナインの転生OBみたいなものです。
・適宜スカートを着脱して下さい。

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<中学2年の6月・名古屋市桜ケ丘中学校>

名古屋人1「千代美! 最後のベニヤ板持ってきたぞ!!」

安斎「よーし! それじゃ一気に仕上げちゃおうか! 翠はそっち持って!」

名古屋人2「はい!」

安斎「この秘密兵器と私の作戦さえあれば私達は絶対に勝てる!」

名古屋人1「そうだ! あの天下の黒森峰ユース相手に私達のフラッグ車で囮して時間稼いでる間に他のみんなでハリボテ陣地を展開して!」

名古屋人1「森の前で立ち往生させて持久戦に持ち込めば! 私達フツーの中学の戦車実習チームでも黒森峰に勝てる!」

名古屋人2「勝てます!」

安斎「その通りだ! さあ作業を進めよう!」

名古屋人1「…いやそんなコントじゃないんだから。ここまで付き合っといてなんだけどさぁ」

名古屋人1「そもそも最初の囮の時点で撃たれて試合終了じゃない?」

安斎「いやそこはこう、渚のドリブル走行でスイスイッとさ?」

名古屋人1「5人抜きなんてバスケの試合でも無理だっての」

安斎「いけるいける! ほら、球技やってる奴は戦車も上手いってよく言うだろ?」

安斎「まあぶっちゃけちゃうと、開始5分で即終了でも構わないっちゃ構わないんだけどな」

名古屋人1「はあ!?」

安斎「それはそれで美味しいだろ? こんな9時過ぎまで教室残って、せこせこ作業しといてさ」

安斎「その成果を試す場すらなく、はい終了ーってなったら」

名古屋人1「帰っていい?」

安斎「ダメ」

名古屋人1「ったく、こっちはバスケ抜けて来てるってのに」

名古屋人2「でも私、少し楽しいです。こうやってみんなで、夜の教室で一緒のことしてるって」

安斎「へへっ、だろう? この後は、ラーメン屋で祝勝会だ!」

名古屋人2「ラーメン!」

名古屋人1「祝勝会って」

安斎「祝勝会だ。何せ私達はもう勝ってるんだからな!」

安斎「だってそうだろう? ただの学校の授業で、ここまで楽しめてるんだ」

安斎「絶対に黒森峰の奴らより、私達の方が楽しんでる!」

安斎「それはもう、私達の勝ちと言ってもいいじゃないか! なあ!?」

名古屋人2「はい!」

名古屋人1「千代美って、ホントに独特だよなぁ」

安斎「よっし! 準備完了!」

安斎「そんじゃラーメン行くぞー!!」

<中学2年の6月・名古屋市桜ケ丘中学校戦車実習場>

<黒森峰ユース・フラッグ車車中>

まほ(おかしい…どうしてこうなった?)

まほ(これが本当に黒森峰の戦場だというのか…?)

まほ(一体どこで歯車が狂った…?)

まほ(…初手。敵フラッグ車の単身突撃。そこで撃破できていれば5分で終わる試合のはずだった)

まほ(疾かった。こちらの5輌の砲撃を掻い潜り、隊列を乱し、あまつさえこちらの1輌の履帯を切っていった)

まほ(一般中学の実習チーム相手に落伍車を出すわけには行かない。履帯の修理に時間を取られた)

まほ(その間に視界の悪い森を要塞化された。20輌近い戦車の防御陣形)

まほ(無論敵も実数は5輌。正体は戦車の写真を張り付けたベニヤ板)

まほ(ならば正面から打ち破るまでと進出した結果)

まほ(ベニヤ板の背後に隠れた本物の戦車の砲撃で、1輌を撃破されてしまった)

まほ(同時に茂みに偽装していた戦車に退路を断たれ、更に1輌失った)

まほ(辛うじて突破し森から脱出したものの…)

まほ(ベニヤ板の戦車。本物の戦車。ベニヤ板の戦車の背後に隠れた戦車。そして埋伏の戦車)

まほ(森に攻め入ることもできず、攻略の糸口も見いだせないまま、対峙を続けてしまっている)

まほ(3対5という、劣勢に立たされたままで…)

まほ(……)

まほ(初手の突撃に対処できなかったのは、疲労のためだろう)

まほ(2軍の練度を高めるために行われる、伝統の列島縦断遠征)

まほ(通過するすべての県で戦車道の試合を行う過酷な遠征…時には1日に2度や3度の試合すらこなす)

まほ(…試合ではないな。動く的を相手に数をこなすことだけを目的とした演習だ)

まほ(リトルのチームではなく戦車実習のある中学を相手に行うのは)

まほ(2軍とはいえ伝統ある黒森峰ユースが万に一つも敗れることがあってはならないからだ)

まほ(……)

まほ(例えここから逆転したとしても、監督からの叱責は免れない。チームの士気は最低だな)

まほ(叱責だけではない。黒森峰ユースの選手としてのプライドだってボロボロだろう)

まほ(……)

まほ(雑念を捨てろ、西住まほ。この状況を打開することだけを考えるんだ)

まほ(このまま対峙を続けていれば、先に倒れるのは間違いなくこちらだ)

まほ(考えろ。敵の思考を読み取れ。敵も強者。戦線を膠着させただけで満足している筈はない)

まほ(勝つための一手を必ず打ってくる筈。考えろ。次の一手を)

まほ(敵は今度は、何をしてくる…!?)

<桜ヶ丘中・フラッグ車車中>

安斎「なっ、なあ渚!? 翠!? こっ、これってかなりいい勝負だよな!? いい勝負してるよな私達!?」

名古屋人2「してます! してますよ千代美さん! あの黒森峰ユース相手に!」

名古屋人1「間違いなくいい勝負だ千代美! というかコレ、全部計算してやってたの!?」

安斎「ばっ、馬鹿言うな! 全部偶然だよ偶然! ただ私はこうなったらいいなぁ、とかこういう偶然が起きたらいけるなぁ、とかそんな感じでふんわりとさぁ!」

安斎「そっ、それが何だよこれ!? もうビッシビッシ決まっちゃって…うあ”あああああ”!? どうしよう!? どうしようこれ!?」

名古屋人1「どうしようってそりゃ、勝つしかないでしょ!! 次はどうする!? どうすれば勝てる!? 私今、かなり本気になってるよッ!!」

安斎「どうすれば勝てるって、そんなんわかるわけないだろ!? 私の予定じゃ開始5分で撃たれて終了ーっ、だったんだから!」

安斎「何なら昨日みんなでラーメン食べに行った時点で、もう満足しちゃってたんだものーぉ! 作戦なんて何もないぞ!?」

名古屋人1「はあ!? ホントに怒るよ千代美!!」

名古屋人2「考えましょう千代美さん! 千代美さんなら出来ます!」

安斎「いや無理だって! こっちはそんな、諸葛孔明じゃないんだぞぉ!?」

名古屋人2「いいえできます! 千代美さんの土壇場の作戦で、こっちは2台も落とせてるんですから!」

名古屋人1「そうだやれるよ千代美! 流れはこっちに来てるんだ!!」

安斎「そっ、そうか!? よしじゃあちょっと考えてみる!! 双眼鏡貸せ!」

安斎「……」

名古屋人1「どうだ? 千代美? 向こうはどうしてる?」

安斎「全員こっち向いてるな…でもってやっぱり」

名古屋人1「やっぱり?」

安斎「向こうの隊長、めっちゃかっこいい」

名古屋人1「……」バシッ

安斎「痛い! 今叩いたな!? 渚今叩いたな!?」

名古屋人1「本気になってるって言ったでしょ千代美!? ちゃんと考えてって!!」

安斎「考えたって出るわけないって! 無理だって!! 見ただろお前達も!? 5人で囲んでたのに突破されたんだぞ!?」

安斎「あんな、王子様みたいなの相手にして勝てるわけないって!!」

名古屋人1「王子様って!」

名古屋人2「千代美さんは恋愛小説の読み過ぎです! 確かに、凛とした美しさのある方だとは思いますが!」

安斎「だろ!? 翠もそう思うだろ!?」

名古屋人1「じゃあもう後で握手でもしてくればいいでしょ!? いい勝負だったなって!!」

安斎「握手!?」

名古屋人1「いい千代美!? 何でもとにかく楽しむって千代美の考え、千代美のそういうとこ、私も大好きだよ!?」

名古屋人1「でもね、試合に勝つってのもすごく楽しいんだ! 私は千代美にそれもわかってほしいッ!」

安斎「渚…」

名古屋人1「あんだけ遅くまでみんなで頑張ったんだ! せっかくここまで来たんだから! 絶対勝とうよ千代美!」

名古屋人1「もし勝ったらサイゼでホントの祝勝会だ! パスタ奢ってあげるよッ!!」

安斎「パスタ!!」

名古屋人2「パスタ!!」

名古屋人1「昼だったらスタミナ太郎でもいいよッ! だから勝とうッ!! 黒森峰ユースに!!」

安斎「よしわかった! じゃあ私達だけ後ろに回ろう! 射程ギリギリからあっちのフラッグ車を撃ち抜くんだ!!」

安斎「向こうはこっちの数も把握できてないと思うから、気づかれさえしなければそれで勝てる!!」

安斎「最後の作戦は立てたぞ! 私の仕事は終わりだ!! もう知らないぞ! 後は二人が頑張れ!!」

名古屋人1「よーしわかったッ! シュートポイントまでは私が引き受けた! そっから先は翠の責任だねッ!!」

安斎「外したら残念会は翠の奢りだな!」

名古屋人2「あ、酷い! 私だって戦車は素人なんですよ!?」

安斎「大丈夫大丈夫! 弓道とか華道とかやってる子は戦車道も上手いってよく言うだろう!?」

名古屋人1「ちゃんと狙える場所まで連れてってあげるから! そっから先は弓道と一緒だよッ!!」

名古屋人2「…わかりました! 覚悟を決めます! 絶対に、射抜いて見せます!!」

安斎「よーし! 最終作戦、発動だァーーーーっ!! デケデンっ! あったらっしっいーい! あさがいつものよーに、って痛い痛い! 叩くな渚!」

名古屋人1「本気だって言ってるでしょ!! 茶化すのはやめてって!!」

安斎「しょうがないだろぉ!? そんな、私、こんな緊張耐えられないんだって!! 素で無理なんだって!!」


<黒森峰ユース戦車隊の後背らへん>

名古屋人1「この辺りでどう? 翠」

名古屋人2「…まだです、あと100mお願いします」

安斎「だ、大丈夫か? 気づかれるんじゃないか?」

名古屋人2「あと100mです。それで間違いなく、100%、射抜けます!!」

名古屋人1「よしわかった! 近づこう!」

安斎「…なあ、渚」

名古屋人1「何? 千代美? アホなこと言ったらホントに叩くよ?」

安斎「いや、その…戦車道って楽しいな?」

名古屋人1「いっ、今更アンタがそれを言うの!?」

安斎「いや! なんというか、私はこう戦車の中でアレコレわいわいやるのが好きだったんだけど…こういう緊迫感も、なんかいいなぁってさ?」

名古屋人1「…あははっ! それは千代美、それが勝負の楽しさだよッ!」

名古屋人2「千代美さん、矢をお願いします」

安斎「おっ、ポイントに着いたんだな…よし、装填完了だ!」

名古屋人2「……」

名古屋人1「決めろよ、翠ッ…!!」

安斎「ちょ、ちょっとキューポラから出るぞ! 勝つんだったら生で見たい! 二の矢は要らないだろ!?」

名古屋人2「当然です…!」

安斎「ん…? ちょっと待て翠、渚…う、うわぁ!!?」ガタッ

名古屋人1「千代美!?」

名古屋人2「千代美さん!?」

まほ「……」

安斎「こっ…こっち見てるってぇえ”えええええええっ!!!」

まほ「撃てっ!!」



審判「フラッグ車走行不能! 黒森峰ユースの勝利!!」


<戦車実習場・黒森峰ベンチ>

カン督「何をやっとるんだ貴様らは!」バンッ

まほ「すみません、監督」

カン督「西住ィ! 貴様ァ、この遠征何のためにやっているかわかってるのか!?」

まほ「私達2軍の練度を高めるため…」

カン督「違うだろう!?」バンッ

カン督「この遠征はなァ! 黒森峰ユース、ひいては西住流の威名を全国に知らしめるためにやってるんだッ!!」

カン督「戦車やるなら西住流! 全国の中学生がそう思うような戦いを貴様らはせにゃならんのだッ!!」

カン督「それを何だあのザマは!? 素人の計略にまんまと乗せられやがって!!」

カン督「これじゃあ何のためにやってるのかわからんだろうがっ!!」バンッバンッ

まほ「すみません」

カン督「本当にわかってるのか!? 貴様の為にやってるようなモンなんだぞこの遠征はッ!!」

カン督「西住流の宣伝の為にこうやって毎日毎日車・試合・車・試合で…もうケツが痛いんだ俺は! もう車内で寝れないんだぁ、俺はァ!!」バンッバンッバンッ

まほ「……」

カン督「…なんだその目は?」

まほ「は…?」

カン督「なんだその目はと言ってるんだ! 貴様本当に反省してるのか!?」

まほ「すみません」

カン督「すまないならもう少しすまなそうな顔をしろッ!!」パンッ!

まほ「っ…!!」

カン督「フン! 少しはすまなそうな顔になったな西住! 俺は何考えてるかわからんような面をしてるヤツが大嫌いなんだ!!」

安斎「オラァッ!!」ドゴォ!

カン督「ぬおおっ!?」

まほ「!?」

名古屋人2「千代美さん!?」

名古屋人1「アンタいきなり何してんのさっ!?」

カン督「な、なんだ貴様は!? 背後からいきなり飛び蹴りだとォ!?」

安斎「うるさいっ! アンタこそ今何をした!? 女の子の顔にビンタだと!? 体罰だぞそれは!」

カン督「なっ!? 俺はただ不甲斐ない戦いをしたコイツの性根を叩きなおしてだなァ!!」

安斎「アンタ人間のクズか!? 何を叩きなおすっていうんだ!? ソイツはちゃんと戦って勝ったじゃないか!!」

まほ「え…?」

名古屋人1「落ち着いて千代美! こんなの運動部じゃ普通のコトなんだって!!」

安斎「普通なワケないだろうこんなこと!! ちゃんと勝ったのに! 何で褒めてやらないんだ!?」

まほ「ま、待って」

安斎「謝れよアンタ!! 隊長に謝れッ!! 土下座して謝れッ!!」

カン督「貴様ァ! 言わせておけば!!」ガタッ

まほ「待って、監督、待って」

名古屋人2「先生! 先生ーっ!!」

教師「どうした!? 何をしてる安斎!! やめなさい!!」

安斎「っ、先生だって! アイツが!!」

教師「いいからやめなさい!!」

教師「本当に、申し訳ございませんでした」

カン督「まったく、生徒の躾くらいしっかりして欲しいものですなァ?」

カン督「蹴られた腰がまだ痛みますよ? えぇ? 先生?」

教師「いや本当に、返す言葉もございません。普段はあんな子じゃないのですが」

カン督「まあ、パンツァーハイということにしておいてあげましょう。アンタの顔に免じてだ」

教師「本当に、申し訳ございません…ですが監督さん。どうか子供達の頑張りも認めてやってはくれませんか?」

教師「うちの子達も、夜遅くまで一所懸命に頑張って、今日の試合を迎えたんです」

教師「それは、おたくの子らも一緒の筈でしょう?」

カン督「フン、そんなこたぁわかってる。だがそんな甘ったれは黒森峰ユースじゃ」

カン督「黒森峰じゃあ許されんのだ。特に、西住の奴にはな。奴は徹底的に鍛えてやらにゃならん」

カン督「坊主の説教なら死んでからにして貰おう」

<戦車実習場・出口>

安斎「うぅ…先生にめっちゃ怒られた…」

名古屋人1「とーぜんだよ! 飛び蹴りはないって!」

名古屋人2「矢的先生、まだ謝ってますよ?」

安斎「けど私は間違ってない…だってビンタはやりすぎだろう!?」

名古屋人2「それは、確かに私もそう思いますけど」

名古屋人1「だから二人とも、そんくらい普通なんだって。あの隊長だって心の中じゃうるさいなぁくらいにしか思ってないよ」

安斎「うー、納得いかん…」

名古屋人1「それより、残念会千代美の奢りだかんね?」

安斎「ええ”っ!? な、なんで!?」

名古屋人1「作戦読まれて負けたワケだからね。じゃあ千代美の責任だ」

安斎「うぅ、泣きっ面に蜂だぁー…」

名古屋人2「渚さん」

名古屋人1「冗談だよ千代美! なんか美味しい物食べて、今日の事はさっぱり忘れよっ!」

名古屋人1「いつまでもズルズル引きずってたって、しょうがないでしょっ!」

安斎「…そうだな! よーし、行くぞーっ!!」

まほ「あのっ!」

安斎「ん?」

まほ「安斎、さん?」

安斎「おお! アンタはさっきの! 大丈夫か? ほっぺた、まだ痛むか?」

まほ「あ、ああ。大丈夫。このくらい、なんでもないから」

安斎「ホントか? ダメだぞ、嫌なことは嫌ってちゃんと言わないと! くっそ、あのヒゲめ。思い出したらまたムカムカしてきたぞ!」

まほ「大丈夫。大丈夫だから。その…ごめんなさい」

安斎「ん? 何がだ?」

まほ「私のせいで、怒られて」

安斎「ああ、いいっていいって! 全部あのヒゲが悪いんだから!」

まほ「次は!!」

まほ「次はちゃんと、あっさり勝つから!!」

安斎「…はぁっ!?」

まほ「……」

安斎「…えーと、西住さん、だったか? ひょっとして私にケンカ売ってらっしゃる?」

まほ「えっ? 違うよ。私がちゃんと勝ってれば、安斎さんも怒られずに済んだから」

安斎「ぷっ…」

まほ「…?」

安斎「あっはっはっはっは!!」

まほ「安斎、さん?」

安斎「いや、あのな西住さん? 私はいいんだ。けど、そういうこと他の子に言っちゃダメだからな?」

まほ「えっ?」

安斎「他の子も、曲がりなりにも勝つために頑張ってきてるんだからさ、そんな勝つのが当然みたいなこと言っちゃ失礼だろ」

安斎「うん、渚辺りが聞いたら絶対怒ってたな。二人とも先行っちゃったけど」

まほ「ご、ごめん」

安斎「…ふふっ! 戦車に乗ってた時は、あんなにかっこよかったのにな!」

まほ「えっ?」

安斎「いいよ、わかった! それじゃあ来年、もう一回勝負だ! けど、あっさりなんて勝たせてやらないから覚悟しとけよ!」

まほ「来年…わかった。来年、必ずまたここに来よう。その時、もう一度勝負だな?」

安斎「ああ、約束だぞ、西住!」

とりあえず、今日はここまでです。続きます。

遠くの星と地を這う屑に会話をさせておきたかったのです。

続きを投下します。


<中学3年の6月・名古屋市桜ケ丘中学校戦車実習場>

審判「フラッグ車走行不能! 黒森峰ユースの勝利!!」



まほ「安斎さんが、転校?」

名古屋人2「はい。去年の冬、お父様の仕事の都合で豊田の方に」

名古屋人1「ごめんね。わざわざ一軍まで連れてきてもらったのに。前もって伝えられればよかったね」

まほ「そうか…」

名古屋人1「けど千代美、あれから戦車道に嵌っちゃってね。向こうでシニアチームに入ったみたいだよ」

名古屋人1「愛知で一番のチームだって言ってたから、夏の大会には出てくるんじゃないかな?」

名古屋人1「戦車道の大会がどういうシステムなのかはわかんないけどさ、決着ならそこでつけられるんじゃないかなっ!」

まほ「わかった。ありがとう…二人は」

名古屋人1「ん?」

まほ「二人は本格的に戦車道をやるつもりはないのか? 二人とも、かなりの才能があるように思える」

名古屋人1「ありゃ、あの西住流にお墨付きを貰っちゃったな」

名古屋人2「これは光栄ですね」

名古屋人1「けど、私はバスケが本職だからね。高校も強いトコ行くから、こっからはこれ一本だよ」

名古屋人2「私も高校からは弓に専念します」

まほ「そうか。それは残念だ」

名古屋人1「中学まではある程度遊んでも居られたけどさ、高校に上がったらそうは行かない」

名古屋人1「こっからはホントにバスケオンリーだ。でも、それで本望だよ。アンタも似たようなもんでしょ?」

まほ「ん、そうだな。私にも、戦車道しかない」

名古屋人2「同じ一つの『道』を行く者として尊敬します。それにしても…何だか、前にも増して凛々しくなられましたね」

名古屋人1「こりゃ、千代美の奴も喜ぶぞ」

まほ「んん?」

名古屋人1「や、こっちの話! 応援してるよ、西住まほさん! 同じアスリートとしてねっ!」


<中学3年の7月・豊田市民運動公園戦車道演習場>

審判「フラッグ車走行不能! 黒森峰ユースの勝利!!」



3年生1「くそぉ負けた! やっぱバケモンだよ西住まほ!!」

3年生2「何であんなのと同じ世代になっちまったんだ…!!」

3年生3「何ぼやっとしてやがる1年! 薬莢と履帯拾ってこい!! ああ、ちっくしょお!!」ガンッ



安斎「ぜぇ…ぜぇ…どっこいせっ!! …っと」

1年生1「ちよちゃんセンパーイ、倒れないで下さいよー」

1年生2「ったく、履帯も満足に運べないでなんで戦車道やってんだか…もう」

安斎「よーし、もうひと踏ん張り…ふんっ…ぬぬぬっ…! ぬっ!? なんか急に軽く…し、汐華?」

1年生2「ほら、一緒に運びますから。全く、無駄なことばっかり…!」

ブロロロロ…

1年生1「ん? ありゃ黒森峰のジープ…?」

まほ「……」

1年生1「ぃいっ!? に、西住まほっ、サン!?」

まほ「ん、すまない。安斎千代美はいるか?」

安斎「ん? 安斎なら私だが…んん”っ!?」

まほ「安斎さん」

安斎「ちょ、ちょっと待て! 西住、か!?」

まほ「西住だ」

安斎「わざわざ、私に会いに!?」

まほ「約束だったからな」

安斎「…そうかそうか、私に会いに来てくれたのかァ…!」

まほ「お前は試合に出ていなかったがな」

安斎「ははっ、そう睨むなよ西住。そりゃ…」

1年生2「すみません」

まほ「ん?」


1年生2「安斎先輩は今、僕達と一緒に履帯を拾ってるんですよ。話なら後にして貰えませんか?」

1年生1「うおおおおおい汐華ァ!? オマエ一体何言っちゃってんのよ!?」

1年生2「だってそうでしょう? もたもたしてたら僕達まで先輩達に怒られてしまう」

1年生2「そうだ、一緒に履帯を拾って貰うとかどうです? それなら僕達は怒られずに済むし、西住さんも安斎先輩と早く話ができる」

1年生1「汐華ァァァァァァァァッ!!? いやホントすんませんコイツ頭がイカれちまってんですあとファンですサイン下さい鈴井ちゃんへって入れたヤツっ!!」

まほ「サインなら構わん。だが履帯拾いなど1年の仕事だろう? 流石にそれは無礼が過ぎるぞ」

1年生2「ええ、ですからそこで少し待ってて下さいって言ってるんです。すぐ終わらせますので」

まほ「ほう、すぐとはどのくらいの時間だ? うちの1年なら…」

安斎「待て待て待て! そうカリカリするな! スマン西住、すぐ終わらすからちょっと待っててくれ!」

安斎「よーしみんな! さっさと終わらせてしまおうかァ! 試合では負けたが気合と根性じゃ負けてないトコ黒森峰に見せつけてやろう!!」

1年生1「そうだそうだ! あの西住サンが見てるんだぞ気合入れろーッ!! てか西住サンお待たせなんてしたらそれこそ先輩達にブッ殺されるぞッ!!」

まほ「……」

ワイワイガヤガヤ…

まほ「…すまないな。運転手などやらせてしまって。もっと早く帰れる筈だったのに」

黒森峰選手「いいよいいよ。どうせ戻ったってしんどい反省会が待ってるだけだし」

黒森峰選手「だったらこうやって、あくせく働く若い子でも眺めてる方がずっといいよ」

まほ「反省会はちゃんとやるぞ。皆も待たせてある」

黒森峰選手「うげー、そりゃないよ隊長。勝ったのに」

まほ「どんな試合にも反省点はある。そこは徹底的に潰しこまなければならない」

黒森峰選手「そんなんじゃカン督みたいになっちゃうよー? あの子は相変わらず、あんなに楽しそうなのに」


安斎「こひゅー…こひゅー…いつもより速く動こうとしたらもうバテた…」

1年生2「さっさと終わらせるって言った人が一番最初にバテないで下さいよ!」

1年生1「ちよちゃんセンパイなんてほっとけ! さっきから西住サン全く表情変わってねーぞ! 我慢の限界が近そうだぞこりゃァーーーーっ!!」


黒森峰選手「私、あんな履帯もまともに運べない子に、履帯やられちゃったんだねぇ…去年さ」

まほ「履帯運びはお前も苦手だろう? 何だったら一緒にやってきたらどうだ?」

黒森峰選手「うちの履帯は重いんですぅー! あ、でも一緒にやるのは暇つぶしになりそうだ」


黒森峰選手「おーいチビッ子たちー! お姉さんが手伝ってあげるよー!!」


安斎「ふぅ…やっと終わった。待たせてゴメンな西住?」

まほ「いや、この程度なら構わん。思ったよりいい練度をしていた」

まほ「それよりお前は他に謝るべきことがある筈だ」

まほ「私はお前と戦うつもりだったんだぞ? それが1年に混じって履帯拾いなど」

安斎「いやあ、私もそのつもりだったんだがなぁ。こっちに越してきたときには」

安斎「隊長の座を乗っ取って、夏大会でお前と勝負だーって。入隊早々うちの隊長に一騎打ちなんて挑んでさ」

安斎「まあ、あっさり捻られたよ。やっぱ積み重ねってすごいな?」

安斎「汐華やミス…鈴井だってこないだまで小学生だったってのに、私よりよっぽど上手い」

安斎「でもってそんな強かった隊長達が、お前相手じゃ手も足も出ない…流石、西住まほだよな?」

まほ「!!」

まほ「安斎、お前私の名を…」

安斎「西住流の後継者。生まれついての戦車のり。履帯を担いで産まれてきた子…雑誌で読んだぞ」

まほ「……」

安斎「カレー好きなんだってな? お前」

まほ「…んん!?」

安斎「フッ…だがな西住! 西住流だろうが島田流だろうが私は負けん!!」ビシッ

まほ「!!」

安斎「こうやって下働きしながらでも、隊の蔵書なんかは全部読ませて貰ったからな!」

安斎「フフ、私が隊長だったらお前を下す戦術など10や20は軽く思いつく!」

安斎「それに強いチームで一から鍛えなおしたから、体つきだって大分マッチョになった!」ウデマクリッ

まほ(細い…)

安斎「…そもそも黒森峰と戦うのに西住流の劣化コピーじゃ勝てるわけないんだよなァ」

安斎「まあ隊長達も汐華達もリトルで西住流やってた教官に戦車のイロハを教わったんだろうからしょうがないっちゃしょうがないんだけど…」

安斎「でも私は同じ轍は踏まんぞ! だから高校は、西住流から一番遠いトコに行くことにした!」

安斎「私はプラウダ高校に行く! あそこなら戦車も黒森峰に劣らんし、隊員の練度だって高い! そして何より学費が安い!!」

まほ「安斎、高校でも戦車道を?」

安斎「当然だ西住! だから今度は、高校で勝負だな!!」

安斎「…まあ、今回は悪かったよ。約束破っちゃって、ごめんな?」

まほ「フッ…許すよ。先の楽しみが増えた」

まほ「次は高校だな?」

まほ「行くぞ」

黒森峰選手「あいよ! じゃあねー」

まほ「また会おう、安斎」

安斎「ああ、またな西住!!」

ブロロロロ…

<高校1年の8月・静岡県東富士戦車演習場>



審判「フラッグ車走行不能! 優勝は、黒森峰女学園!!」



<静岡県東富士戦車演習場・プラウダ側陣営>

プラウダ隊長「安斎千代美?」ワーワーギャーギャー

まほ「はい。プラウダ高校に進学すると言っていたのですが」ワーワーギャーギャー

プラウダ隊長「少なくとも我がプラウダ戦車隊にそんな名前の1年は入ってきていないな。戦車道を履修したのは間違いないのか?」カチューシャノイウトオリニシテレバカテタノヨ!!

まほ「はい、それは間違いなく」イイカラオトナシクシロイチネン!!

プラウダ隊長「…うちの戦車道も、今年は例年より履修者が少ない」ナニヨアナタサテハハイボクシュギシャネ!!

プラウダ隊長「同世代に、貴様が居るせいだと言うものもいるな? 西住まほ」イイカゲンニシロコノチビ!!

まほ「…買いかぶり過ぎです」チビトハナニヨデクノボー!!

プラウダ隊長「敗者の前で謙遜などするものではないぞ。3年間、隊長として黒森峰と戦ってきたが」ズウタイバッカデカクテアタマカラッポダカラコンナマケカタスルノヨ!!

プラウダ隊長「今までで一番の負けっぷりだった。1年隊長が相手だったというのにな」デクノボウノアツマリダカラクロモリミネニ9レンパナンテサレルノヨー!!

まほ「……」コノチビブットバシテヤル!!

プラウダ隊長「五月蠅いぞ静かにしろッッッ!!!」

ピタッ

プラウダ隊長「…理由は知らんが、うちの戦車道履修者は例年より少ない」

プラウダ隊長「だがその分入ってきた1年共は、揃いも揃って活きがいい」

プラウダ隊長「私は、あの五月蠅いチビに隊長を任せてみようと思っている」

プラウダ隊長「お前と同じ、1年隊長ということになる」

プラウダ隊長「遊んでやってくれ」

まほ「はっ」

まほ「…サンダースとの準決勝戦、観戦させて頂きました」

まほ「お見事でした。もしも十全の戦力で決勝戦に臨んでいれば…」

プラウダ隊長「無礼が過ぎるな。勝ったのは貴様だ、西住まほ」

まほ「失礼しました」

プラウダ隊長「…だが、この最後の夏に、ガイルの奴に一泡吹かせてやれたことは、素晴らしかった」

プラウダ隊長「私の3年間はそれで十分だ。打倒黒森峰は、あのチビに任せることにしよう」

プラウダ隊長「戦車道はいいぞ、西住まほ。良きライバルに恵まれれば、なお一層いい」

プラウダ隊長「貴様にも、そんな相手が出来るといいな?」

まほ「はっ…今日は、勉強させていただきました」

まほ「3年間、お疲れ様でした。ザンギエフ隊長」


<高校1年の9月・黒森峰女学園学園艦>

まほ(夏の全国大会が終わった。これで黒森峰は9連覇…)

まほ(だが、安斎は結局私の前に姿を現さなかった)

まほ(隊長として出てくるとは流石に思わなかったが、まさか一度も姿を現さないとは)

まほ(あれから戦車道のある学校全てに問い合わせたが、どこにも安斎千代美という学生はいないとのことだった)

まほ(安斎…お前は一体、どこにいったんだ?)

まほ(……)グゥ…

まほ(腹が、減ったな)

黒森峰隊員「うまうま」

まほ「んん?」

黒森峰隊員「ん?」

まほ「珍しい物を食べているな。そんなもの、うちの食堂のメニューにあったか?」

黒森峰隊員「ああ、表の屋台で売ってたんだよ。真っ黒な人とえっらいかっこいい人がやってる屋台でさー」

黒森峰隊員「隊長も行ってみたらー? 言っとくけど、これはあげないからね!」

まほ「表の屋台か。わかった、行ってみよう」





安斎「アンツィオ名物鉄板ナポリタンだよー! 美味しいパスタだよー!」

まほ「…んん!?」

今日はここまでです。もう少し続きます。

お待たせしました。投下します。

<高校1年の9月・黒森峰女学園学園艦・正門前>

安斎「美味しいパスタだよー! アンツィオ名物鉄板ナポリタン!! お嬢ちゃん達もお一つどうだーーーーい!?」

まほ「…何をやってる安斎?」

安斎「おっ! 久しぶりだな西住! お前も一つどうだ? うちのパスタは美味しいぞ!」

まほ「そうか。なら一つ…いやパスタは後だ。それよりも何故お前がここにいる? ここは黒森峰の学園艦だぞ?」

まほ「プラウダ高校に入るんじゃなかったのか? 探しに行ったんだぞ、私は」

安斎「ああ、プラウダ。プラウダなー…フツーに受験で落ちた」

まほ「落ちた…」

安斎「戦車道に熱中しすぎて成績落ちてたの、気づかなかった。国語以外はボロボロだったよ」

安斎「だがな西住! 私はこうやって、アンツィオ高校でちゃんと戦車道続けてるぞ! シニアの監督が、推薦してくれたんだ!」

まほ「…戦車道?」

安斎「ああー、うちの戦車道は…」

先輩1「行列が溜まっているぞ、アンチョビ。何をやっている?」

安斎「っと、ごめんよリーダー! すぐ戻る!」

先輩1「…友達か?」

安斎「そうだ! 中学ん時の、友達だ」

まほ(友達…友達か?)

先輩1「…もうじきプロシュートも休憩から戻る。お前も昼飯にするといい」

安斎「ありがとうリーダー!」


安斎「戦車道に限らず、うちの学校は貧乏だからなぁ。どこの学科も生徒会も、予算を元手に屋台だしてどうにか活動費を捻出してるんだ」

安斎「それにしたって学内だけじゃ限界があるからな。こうやって、航路が重なった学園艦と併走して、料理や服なんかを売りさばいてね」

安斎「もっと人の多いとこだと、短期転校なんかを利用してサンダース辺りにテナント借りて出稼ぎなんてこともやってるみたいだけど」

安斎「うちは私と、先輩が8人だけだからな。こうやって屋台暮らしが精々さ」

まほ「…大丈夫なのか? 法律とか」

安斎「どうなんだろう? 陸はともかく、海の上だと大概の事がうやむやになっちゃうからなぁ」

まほ「んん」

安斎「ああ、もちろん厳密にはちゃんとやってるぞ! アンツィオは美食とファッションの学校だからな! そういうことへのノウハウはいっぱいあるんだ」

安斎「まあ、それ以外は何もないけどなぁ。戦車だってCV33が何台かあるだけで、汗水垂らして働いても、ガソリン代が精一杯…ほろり」

まほ「泣いているのか? 安斎」

安斎「いや! 泣いてなんかないぞ大丈夫だ! これもきっと戦車道だからな!」

安斎「ガソリンも弾薬もタダじゃない! 私達が戦車道をやれてるのは、周りの人達が応援してくれてたからだって、よーくわかった!」

安斎「戦車だって、探せばどっかにセモヴェンテやM13もある筈なんだ! 書類がちゃんと残ってたからな!」

安斎「だから西住! 来年の夏には…」


先輩2「チョビぃぃぃぃぃっ!!!」

まほ「!?」ビクッ

安斎「ヒエッ! 兄貴が帰ってきた!」

先輩2「マンモーニの分際でいつまで呑気に飯なんて食ってやがる!? リゾットもチョビを甘やかすんじゃあない!!」

先輩1「すまん」

安斎「ごめん、それじゃ私はまた仕事だ。来年の夏までには必ずアンツィオの戦車道を立て直す。そしたら今度こそ勝負だ!」

まほ「わかった…ところで安斎」

安斎「ん?」

まほ「何でアンチョビなんだ?」

安斎「安斎千代美だからアンチョビだってさ。酷いよな、女の子を魚呼ばわりだなんて」

まほ「魚?」

安斎「アンチョビは鰯の塩辛だ。食べたことないのか? なら今度ピッツァでも持ってきてやるよ」

<高校1年の2月・アンツィオ高校学園艦・大通り>

みほ「いいの? お姉ちゃん。勝手に他校の学園艦になんて入って」

まほ「大丈夫よ。向こうも普段は、勝手に入ってきてるんだから」

みほ「お母さんには冬の間に高校の練習を見ておけって言われて来てるのに…」

まほ「これも戦車道よ。本当に美味しいんだ、安斎の鉄板ナポリタン…どうしたみほ? 私、何か変なこと言った?」

みほ「ううん。ただ、よかったなぁって。お姉ちゃんにも、戦車道以外の友達がいたんだって」

まほ「んん」

みほ「お姉ちゃん?」

まほ「安斎もやってるよ? 戦車道」

みほ「ええっ!? だって、いっつも他の学園艦に乗り込んで、屋台やってるんでしょ? 安斎さん」

まほ「そうだよ。昼飯時や放課後を狙って、他校の生徒にパスタを売ってる…んん? どの辺が戦車道なんだろう?」

みほ「私が聞きたいよ、お姉ちゃん…」



安斎「う”あ”あああああ””ああああ!! 止まれぇ”ええええええぇ”!!!」ギャリギャリギャリギャリ



まほ「安斎!?」

みほ「エレファントとセモヴェンテ!? こんな街中に!?」

安斎「っ!? 西住ぃ”ぃぃぃぃっ!?」ギャリギャリギャリギャリ

まほ「安斎! 見てくれ私の妹だ!!」

安斎「わかったまた今度なぁ”ああああああっ!!!」ギャリギャリギャリギャリ

みほ「行っちゃった…アンツィオ高校、エレファントなんて持ってたんだ」

まほ「今日は帰ろう、みほ。安斎が、念願の戦車道をやれてるんだ。邪魔をしちゃ悪い」

みほ「うん、そうだね…でもセモヴェンテでエレファントを倒す方法なんてあるのかな?」

まほ「セモヴェンテが後ろを取ってた。だったら排莢口を狙えばいい…気づけるかな、安斎は」

みほ(そういえばさっきのエレファント、履帯に何か挟まってたような…人? ううん、そんなわけないよね…?)


――――大丈夫かい、千代美ちゃん…酷いこと、されやしなかったかい…?


――――ったく…しょうがねぇなぁ…


――――行け、チョビ…栄光は…お前にあるぞ…


――――ここから先には…行かせねェ…幽波紋の出力を最大だ…!


――――お前の放った機銃弾を…俺が磁力で引き寄せた…会長(ボス)をやったのは…俺の幽波紋だ…


――――重要なのはキミの好みだ…大事な青春…ちゃんと笑って過ごすんだよ…?

<高校1年の2月・黒森峰女学園学園艦・正門前>

まほ「何をしている? 安斎。屋台はどうした?」

安斎「西住…今日は屋台は休み…いや、閉店だ」

安斎「今日はお別れを言いに来たんだ、西住…私、戦車道辞めるよ」

まほ「…どういうことだ?」

安斎「そのまんまだよ西住。アンツィオの、私の戦車道はここでおしまいだ」

まほ「諦めるのか? らしくもない。私との約束はどうした? また反故にするつもりか? 来年の夏までに…」

安斎「ごめん…もう無理なんだよ西住。私はもう、戦車に乗れない」

安斎「先輩達はいなくなって…私は一人ぼっちになってしまったんだ。もうダメなんだ、西住…私は、学校にも居られない」

まほ(一人ぼっち? アンツィオは卒業が早いのか? いやそれよりも)

まほ「学校も辞めるのか? 安斎」

安斎「戦車道推薦で入ったからな。戦車道をやれなきゃお役御免さ」

安斎「それにダメだ。私はあそこにもう居たくないんだ。居たくないんだよ、西住」

まほ(挫折したものが学校を辞める…強豪校では珍しいことではない)

まほ(心折れたものが続けられるほど戦車道は甘くはない。いいこともきっとない。お互いに)

prrrrrrrrrrrrrrrrrr…

安斎「理事長から電話だ…もう行かなくちゃ。ごめんな、西住。約束守れなくて」



――――友達か?


――――そうだ!



まほ「だったら、黒森峰に来い安斎。無理に戦車に乗ることはない。お前だったら…」

安斎「ありがとう西住。でも無理だよ。うちには、弟もいるんだ」

<高校1年の3月・黒森峰女学園学園艦・正門前>

アンチョビ「アンツィオ名物鉄板ナポリタンだよー! 美味しいパスタだよー!」

まほ「安斎!」

アンチョビ「おお、西住! 久しぶりだな! お一つどうだ?」

まほ「パスタなんて後だ! お前学校は!」

アンチョビ「もちろん通ってるぞ! 戦車道だって見ての通り!」

まほ「安斎…大丈夫なのか?」

アンチョビ「…リーダーがさ、最期に理事長に頼んでくれてたんだ。戦車道特待の枠を残してくれるように」

アンチョビ「学校のみんなも、応援してくれてさ。どこも苦しいのに、カンパなんかしてくれて」

アンチョビ「街の人達も、卵とか野菜とか、安く入れてくれて…こんなことしかしてあげれないけどって」

まほ「安斎…」

アンチョビ「…私はダメだな、西住。私は何一つわかっちゃいなかった」

アンチョビ「先輩達だけじゃない、本当に、みんなが応援してくれてたんだ」

アンチョビ「だったら私は、先に進まなければならないに決まってる!」

アンチョビ「私は絶対に、アンツィオの戦車道を建て直して見せる”!! それが先輩達や…みんなへの…ふっ…ぐっ…ぅう”ううううっ…!!」

まほ「…看板、しまっておくぞ」

アンチョビ「っ…いいや逆だ西住!! 私には泣いてる暇なんてないんだからな!!」ゴシゴシ

アンチョビ「とにかくじゃんじゃんパスタを回すんだ! 今日は3割、いや半額…ええいもういい! 皆食べてってくれ! 今日はお代は結構だァーーーーーっ!!」

まほ「待て安斎、それじゃ前に進めてないぞ」

アンチョビ「いいんだいいんだ! 支えてくれてる皆に感謝を示す! それが我がアンツィオの流儀!!」

アンチョビ「ドゥーチェ・アンチョビの戦車道だぁーーーーっ!!!」

とりあえず以上です。駆け足ですがこれでアンチョビができました。
次回からはアンツィオの戦車道を作りたいと思います。

マジかー。書き溜め分全部吐き出します。








~~~~~~~~~~第二部・ドゥーチェ・アンチョビ戦車道スペシャル!~~~~~~~~~~





<高校2年の4月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>


ひな(ついにやって来たわね、アンツィオ高校戦車道科!)

ひな(私に特待枠をくれた唯一つの高校! 正直名前も聞いたことないけどこの際贅沢なんて言ってられない!)

ひな(強豪校の特待なんて夢また夢だしプラウダ高校は普通に受験で落ちた!)

ひな(戦車道は捨ててたかちゃんと一緒の高校に行こうかともかなり迷った!)

ひな(でも私は、やっぱり戦車道を諦めたくなかった! 戦車道をやりたかった!!)

ひな(無名校? 上等よ! だったら私が引っ張っていくまで!)

ひな(つくばシニアで一番の戦車乗りと言われたこの私が!!)

ひな(この私がアンツィオ戦車道の歴史を造るッ!!)

ひな「失礼します!!」

アンチョビ「フッフッフッフ、待っていたぞカルパッチョ! ようこそアンツィオ戦車道科へ!!」

アンチョビ「私がドゥーチェ・アンチョビだッ!!」ビシィッ

ひな(この女がドゥーチェ・アンチョビ…アンツィオ戦車道の現隊長!)

ひな(けどわかる! 体つきを見れば! 小学生からずっと戦車道をやっていた私にはわかる!!)

ひな(この女…大したことない! 少なくとも装填手としては私の方が遥かに上!!)

ひな(乗っ取ってやる! 正当な勝負を挑み、皆の眼前で撃ち破り、堂々と指揮権を奪う! 私が隊長になる!!)

ひな(…ん?)

ひな「…あの、アンチョビ隊長? 一つ質問してよろしいでしょうか?」

アンチョビ「何だ? 遠慮はいらんぞ何でも聞け! あと私のことはドゥーチェと呼べ!」

ひな「他の先輩方は、まだ来ていないのですか?」

アンチョビ「フッ…聞いて驚けアンツィオ戦車道科は私一人だ!!」

アンチョビ「ついでに言うと新入生もカルパッチョ! お前一人だ!!」

ひな「はあ!?」

アンチョビ「フッフッフッフ…特待枠はいっぱい用意して貰ってたのになァ…やっぱりネームバリューがないと人なんて来ないのかなァ…ほろり」


アンチョビ「というわけでカルパッチョ! お前には早速副隊長の任に就いてもらう! よかったなァ! 強豪校だったら入学早々こんな抜擢、絶対にないぞぉ!?」

ひな「ちょ、ちょっと待って下さい! 副隊長も何も、私と隊長しかいないって、二人だけってことじゃないですか!!」

ひな「それでどうやって戦車道やるって言うんですか!?」

アンチョビ「なぁに! 2人いればCV33は動かせる! 屋台だって大分マシになる!! 何とかなるさ!」

アンチョビ「…というより何とかしなくちゃ、だな。頑張ろう? カルパッチョ」

ひな「豆戦車1輌でどうやって戦車道やるって言うんですか…というか、よく見たら豆戦車と自走砲だけでまともな戦車なんて1輌もないし!?」

アンチョビ「ああ、こないだまでM13やエレファントやブラックプリンスもあったんだけど…先輩達が盛大にぶっ壊してっちゃってさ」

アンチョビ「でもCV33は7輌あるし、セモヴェンテだって3輌ある。戦車は割と選び放題だぞ?」

ひな「選び放題って、選んだってしょうがないでしょ! 選んだところで装填手砲手兼任の鈍亀自走砲が1輌ぽつんと演習場に佇むだけだもの!!」

アンチョビ「まあその自走砲だって満足に弾も撃てないんだけどな。ほら、出来たぞ」コトッ

ひな「…何ですかコレ? パスタ?」

アンチョビ「アンツィオ名物鉄板ナポリタンだ。本場イタリアの情熱で日本のイタリアンに本気で取り組んだ、先輩達の遺してくれた戦車道科のかけがえのない財産さ」

ひな「…いただきます」ムグムグ

アンチョビ「どうだ?」

ひな「美味しいです…」

アンチョビ「だろう? こいつを売りさばかないことには、満足に砲撃訓練も出来やしないんだ」

ひな「ブーッ!!」

アンチョビ「うわっ、大丈夫か!? 気管にでも入ったか!?」

ひな「ゲホッ、ゲホッ!! エホッエホッ! っ…ぐ…う、売りさばく!? さっきちょろっと言ってた屋台ってひょっとして…!?」

アンチョビ「そうだ! 軍資は全部自分達で稼ぐ! それがアンツィオの戦車道だ!!」

ひな「いーーーーーやーーーーーーーっ!!! 聞きたくない! もう何も聞きたくなーーーーーーい!!!」

アンチョビ「現実から逃げるなカルパッチョ! というか戦車道に限らずアンツィオじゃこれが普通なんだって!」

アンチョビ「渡された予算を上手く増やして、生活費から学費から全部遣り繰りする。なんたってアンツィオは商人の学校だからな!」

アンチョビ「そして特待生として入った以上、もうお前は戦車道からも逃げられない! 覚悟を決めろカルパッチョ!!」

ひな「そんなこと言ったって私戦車道しか知らないもん…お料理なんて出来ないもん…」

アンチョビ「大丈夫! ここをどこだと思っている!? 美食とファッションの学園、アンツィオ高校だぞ!!」

アンチョビ「出来なければ覚えればいい! 知らなければ学べばいい! 私だって料理なんてしたことなかったが半年で屋台を回せるようになった!!」

ひな「隊長…」

アンチョビ「だから一緒にパスタ茹でよう!!」

ひな「……」

アンチョビ「あ、じゃなかった! 一緒に戦車道やろう!!」ビシィッ

ひな「やっぱりいやーーーーーーーーっ!! 茨城に帰るーーーーっ!! たかちゃんといっしょの学校行くーーーーーっ!!」ダッ

アンチョビ「あっ、待て! 逃げるなカルパッチョ! お願いだから逃げないでくれーーーっ!! って力強っ!? 重戦車か何かか!?」ズルズルズル

ひな「カルパッチョじゃないもんひなだもーーーーーーん!! うわーーーーーーーん!! たかちゃーーーーーーーん!!!」ズルズルズル

アンチョビ「うっ、うわあああああっ!! たっ、頼むカルパッチョ! お前にまで逃げられたら私は本当に一人ぼっちになってしまうんだ!」ズルズルズル

アンチョビ「CV33さえ動かせなくなってしまうんだーーーーーっ!! 一人で屋台回すのだっていい加減しんどいんだーーーーっ!! うわーーーーーーん!!!」ズルズルズル


ひな「コホン…少々取り乱しました。申し訳ありません。戦車道女子としてあるまじきことでした」

アンチョビ「いや、こっちこそ先輩なのに泣いたりしてゴメンな? でも、これが今のアンツィオ戦車道の現実なんだ。わかってくれ」

ひな「受け入れる受け入れないは別として、とりあえず理解はしました。そうですよね、特待で募集かけて余るって時点で察するべきでした」

ひな「ですが隊長、隊長ともあろう方が人前で軽々しく泣くのはどうかと思いますよ?」

ひな「鉄の掟、鋼の心って習いませんでしたか?」

アンチョビ「ああ、ゴメンな。ちょっともう何だかいっぱいいっぱいでさ、脆くなっちゃってるんだ。ゴメンな。ドゥーチェなのに」

アンチョビ「というかカルパッチョ、お前も西住流なんだな?」

ひな「大抵のシニアチームは西住流ですよ? 島田流なんて教えられる人も少ないですし」

ひな「それと、カルパッチョと呼ぶのはやめて下さい」

アンチョビ「えっ? ダメか? ドゥーチェ徹夜して考えたんだけど。名前の『ひな』じゃ思いつかなかったから、苗字の方をもじって…」

ひな「ここから逃げ出すことは諦めました。ですが、ここのパスタ道に染まるつもりもありません」

ひな「私は私の戦車道をやらせていただきます。邪魔をするというのなら、隊長と言えども容赦はしませんよ?」ギロッ

アンチョビ「そっかー、カルパッチョは嫌だったか。じゃあ、しょうがないな」

ひな「…あの、隊長?」

アンチョビ「なんだひな?」

ひな「私今、かなり挑発的なことを言ったのですが」

アンチョビ「ああ、気にするな! シニアの時から私は、大体そんな感じの扱いだったからな! 戦車道のキャリアだって、お前の方が長いぞ」

ひな「いえ気にしましょうよ!? 隊長なんでしょう!? そんなんじゃ指揮権、奪われちゃいますよ!?」

アンチョビ「いるか? アンツィオ戦車道の指揮権」

ひな「…いらないです」

アンチョビ「ははっ、だろう? とにかく、私としてはひなが戦車道をやってくれるならそれで充分なんだ」

アンチョビ「はねっかえりなトコも、情熱の裏返しだろうしな。パスタは私が頑張って茹でるよ!」

アンチョビ「ただ、現実問題として私一人じゃお前を養いきれないから、一緒にパスタ茹でようって言っただけでさ」

ひな「…料理も覚えます。ちゃんと教えて下さいよ?」

アンチョビ「おう、任せろ!」

アンチョビ「あ、それとな、ひな。お前がお前の戦車道をやるのはいいんだが、西住流は越えてくれよ?」

アンチョビ「うちの戦車で西住流の劣化コピーなんてしても、黒森峰には絶対勝てないからな?」

ひな「黒森、峰?」

アンチョビ「私は黒森峰と戦いたい。ずっと待たせてる奴がいるんだ」

ひな「!!」

ひな「…本気ですか?」

アンチョビ「当然だ。そのために毎日、パスタ茹でながらでも戦術を考えてる」

ひな「こんな、現状まともに動かせるのが豆戦車しかない部隊なのに?」

アンチョビ「それも含めて考えてる。何とかしなくちゃって、言ったろ?」

ひな「何ともなりませんよ?」

アンチョビ「何とかするんだ…まあ、何ともなんなければそれはそれだけどな!」

アンチョビ「でも、出来ることなら何とかしたい。そのために、ずっとやってきたからな」

ひな「……」

アンチョビ「もしもひなが、本気でアンツィオを欲しいと思ったなら」

アンチョビ「私と一回だけ、図上演習で勝負してくれ。それだったらドゥーチェ結構自信ある」

アンチョビ「他の勝負は勘弁してくれよ!? 自慢じゃないが、絶ッ対勝てないからな!?」

ひな「…そうですね。それじゃあ、パスタがいっぱい売れて」

ひな「せめて砲塔のついた戦車が買えるようになったら」

ひな「その時に、改めて勝負を挑ませて貰いますね。ドゥーチェの座を賭けて」

アンチョビ「おう! 楽しみにしてるぞカルパッチョ!」

ひな「だからひなです、ドゥーチェ」


<高校2年の5月・アンツィオ高校学園艦・裏通り>

アンチョビ「ひぃふぅみぃ…ふぅ~、稼いだ稼いだ!」

アンチョビ「やっぱりサンダースはお金持ちだなぁ! 100円値上げしても飛ぶように売れる!」

ひな「……」

アンチョビ「これだけあればしばらくの間、演習費には困らないぞォ! 明日からじゃんじゃん戦車を走らせよう!」

ひな「…ドゥーチェ」

アンチョビ「おお、そうだなひな! 今日は久しぶりに余り物じゃない、なんか美味しい物を食べよう!」

アンチョビ「ピッツァとパスタをお腹一杯食べて、明日からはガンガン戦車道だァーーーっ!!」

ひな「限界ですよ、ドゥーチェ…」

アンチョビ「…ひな?」

ひな「やっぱり二人きりじゃ限界ですよドゥーチェ!!」

アンチョビ「な、なんだいきなり!? どうしたんだ!? 人がいないなんて今更じゃないか!?」

アンチョビ「あ、明日は久しぶりに砲撃演習も出来るぞ!? 二人乗りセモヴェンテにも慣れてきたじゃないか!」

アンチョビ「今更弱音なんて吐かないでくれよひなァ! それに人が少ないのも悪いことばかりじゃあないぞ!?」

アンチョビ「人がいないからこそ私達の屋台の稼ぎで、どうにかやれてるんだ!」

ひな「その屋台も限界だって言ってるんです!」

アンチョビ「や、屋台が限界!? 」

ひな「前から言おうと思ってたんですけど、うちの屋台、あんまし人気ないじゃないですか!!」

アンチョビ「なあっ!? な、何を言ってるんだカルパッチョ!? 今日だってこんなに稼いだじゃないか!!」

ひな「それはケチャップ舌のサンダース校だったからでしょう!?」

ひな「普段のアンツィオ艦じゃいっつも閑古鳥じゃないですか!!」

ひな「それと私はひなです!!」

アンチョビ「うぅ…それは、アンツィオに来る観光客はローマ気分を味わいに来てる訳だから」

アンチョビ「ナポリタンよりかはもっと本格的なイタ飯を食べたいに決まってる」

アンチョビ「でも! だからと言ってお金取れるようなのは鉄板ナポリタン以外作れないぞ!?」

アンチョビ「これだって兄貴にドヤされドヤされやっとこさ覚えたんだ!」

ひな「そこも問題なんです! うちのナポリタンはナポリタンの癖に妙に手間が掛かるんですよ!」

ひな「未だに私はお会計しか出来てないで、忙しいときはドゥーチェが一人でくるくる回ってるだけじゃないですか!」

ひな「今日だって、ホントはもっと稼げたはずなんですよ!?」

ひな「あとドゥーチェは教えるのが下手です!!」

アンチョビ「しょ、しょうがないだろ!? 私だってこの間まで料理素人だったんだから!」

アンチョビ「あとひな! 私も教えるの上手くないが、お前の不器用さも大概酷いぞ!?」

アンチョビ「特待に胡坐かかないで、料理の授業も受けた方がいいんじゃないか!?」

ひな「とっくの昔に受けてますよ! 足手まといなんて嫌ですからね! 受けてこのザマなんです!!」

アンチョビ「どっ、堂々と言うことかソレ!?」

ひな「鉄の掟、鋼の心です!」

ひな「とにかく! もう屋台も限界なんです! 二人きりでやるのもですし、ただの女子高生がやるのもです!」

ひな「これ以上はもう、短いスカートでパンツ穿かないでお店回すとかしかありませんよ!? やりますかドゥーチェ!?」

アンチョビ「な”っ!? だっ、ダメだダメだダメだーーーっ!! そんなこと、アンツィオじゃあ絶対に許さん!!」

アンチョビ「そっち方面に行ったら堕ちるのなんて一瞬なんだぞ!? 大事なお前にそんな真似させられるかーーーーっ!!」ギュウッ

ひな「だっ、抱きつかないで下さい! 私だって嫌ですよそんなこと! ですから!」

ひな「受講者を増やしましょう! この際戦車道経験者なんて贅沢は言いません! せめて料理が得意な人を!」

アンチョビ「…いや、それは無理だ」

ひな「どうしてです!? アンツィオは美食とファッションの学校なんでしょう?」

ひな「料理が上手い人なんていくらでも居るんじゃないですか?」

アンチョビ「いるさ。でも、みんな本気なんだよ。私達と同じくらい」

アンチョビ「アンツィオ高校は、戦車道じゃ無名の新参校かもしれない。でも料理と被服なら間違いなく名門だ」

アンチョビ「こんなノリだけどみんな本気なんだ。本物の料理人やデザイナーになるために毎日必死で頑張ってる」

アンチョビ「戦車なんて乗ってる暇はないんだ」

アンチョビ「それこそ、黒森峰の機甲科にパスタ茹でようって言うようなもんだ」

ひな「ですがドゥーチェ、こんなんじゃいつまで経っても砲塔のついた戦車なんて買えませんよ?」

ひな「それに、買えたとしても二人きりじゃ戦えません」

ひな「黒森峰に勝ちたいんでしょう? ドゥーチェ」

アンチョビ「受講者を増やす手は何となく思いついてるんだが、経営の方はなぁ…」

アンチョビ「…み、水着くらいで手を打てないかな? そのくらいならドゥーチェぎりぎり我慢でき…」

ひな「ダメです」ギリギリギリ

アンチョビ「痛い痛い痛い!! 装填手パワーで掴むなァ!!」ジタバタ

ひな「私の目が黒いうちはそんなことさせません…戦車道の沽券に関わりますから」

アンチョビ「さ、最初に言い出したのはカルパッチョじゃないかァ…」

ひな「物の例えですよ。それと私はひなです」

アンチョビ「うう…せめて相手にも何か旨みを用意できれば、料理できる子も呼べそうなんだけどなぁ」

アンチョビ「うちにはホントに何もないからなぁ…」

ひな「何だったら、戦車すらありませんしね…」

アンチョビ「あーあ…どっかに料理人とか落ちてないかなぁ。粗大ゴミで戦車道を作ろう! って」

ひな「何ですかそれ…」



上級生「テメェなんて出ていけッ!! 二度とその面見せるんじゃあないッ!!」


ガシャン

アンチョビ「うわっ!? 何だ今の!?」

ひな「二階から人が捨てられましたよ!? ゴミ捨て場に落ちましたけど…」

ガバッ

新入生「うるせぇ!! こっちこそこんなとこ願い下げだァ!! 精々将来、店を潰して泣きを見りゃあいいッ!!」

ひな「あっ、案外元気そう」

アンチョビ「お、オイ! 大丈夫かお前!? 怪我してないか!?」

新入生「ああ!? 何だよ!? アンタにゃ関係ねぇだろうが!!」

アンチョビ「ああ、オイ噛み付くな! そんな、ほっぺにぺパロニなんてつけて…って、額割れてるじゃないかお前! 血ぃ出てるぞ血!!」

新入生「へっ! こんなもん唾つけときゃあ治る! いちいち構うんじゃねぇ!!」

アンチョビ「ダメだッ!!!!」

新入生「!?」

アンチョビ「生ごみ袋に頭から落ちて! ばい菌なんて入ったらどうする!? それにな! 人間、血が出過ぎたら死んじゃうんだぞ!?」

アンチョビ「来い! うちで手当てしてやる!!」

新入生「お、おう…」



<アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>

ひな「はいっ、終わったわよ?」

新入生「……」

アンチョビ「手当は終わったか!? それじゃあご飯にしよう! 結局いつものナポリタンになってしまったがまあいい!」

アンチョビ「ぺパロニも遠慮せず食ってくれ! さっきからじっとこっちを見て、お腹空いてたんだろう?」

新入生「ぺパ、ロニ?」

アンチョビ「ほっぺにぺパロニつけてたからな! それじゃあ、ぺパロニとの出会いを祝して!」

ひなチョビ「「いただきます!」」

新入生「…いただきます!」パンッ

新入生「……」ガツガツガツガツ

アンチョビ「おお、いい喰いっぷり!」

ひな「どう? 美味しいでしょう?」

新入生「…麺は太麺、ピーマンに玉ねぎ…ハム…いや、魚肉ソーセージか…」

新入生「オーソドックスだが…地力のあるナポリタンだ…当たり前の具材に当たり前じゃないこだわりを持ってやってる…」

新入生「だからこそ…絡めた卵も活きるってわけか…」

アンチョビ「ぺパロニ?」

新入生「…アンタ、名前は?」

アンチョビ「私か? 私はドゥーチェ・アンチョビ!! アンツィオ戦車道の隊長だ!!」

新入生「戦車道…?」

アンチョビ「そうだ! 全国大会出場、いや優勝を目指してる!!」

アンチョビ「だがうちは商人の学校だからな! 軍資は自分で稼がなければならない!!」

アンチョビ「そのためにこうやって、屋台を引いてパスタを売ってるってわけだ!」

新入生「…なるほど。料理の為の料理ってわけじゃないんスね」

新入生「だから、こんなに地に足が着いてる。これは、先輩辺りから受け継いだレシピっスか?」

アンチョビ「うおっ!? な、なんでわかった!?」

新入生「これ一つ作るにしては時間かかり過ぎっスね。姐さん、手際悪過ぎっス」

アンチョビ「うっ…しょ、しょうがないだろう!? 料理なんて覚えたの、高校上がってからだったし」

アンチョビ「パスタがドームにならないだけ褒めてもらいたいところだ! なぁカルパッチョ?」

ひな「最初だけじゃないですか! あとひなです!!」

新入生「あっはっは! でも、アタシ好きっすね、コレ。上っ面じゃない、ちゃんと戦える料理だ」

アンチョビ「…戦える料理って何だよ? まさか、さっきみたいなケンカして窓からぶん投げられるような料理か?」

新入生「ッ…!!」ギリィ

アンチョビ「ん?」

新入生「…アイツらは酔っぱらってんスよ、姐さん。料理人ごっこをしてる自分達に」

アンチョビ「酔っぱらって、って」

新入生「だから採算も考えず高い食材ばっかりぶっ込みたがる…手間ばっか掛かる料理を並べたがる!!」バンッ

アンチョビ「!?」ビクッ

新入生「そりゃ見栄えはいいさ! メニューだってリストランテっぽくならぁ!!」

新入生「けどそれ作るのに客にいくら出させて何時間待たせるつもりだよって話だ!!」

新入生「アンツィオ艦でならやれるだろうよ! 客も観光で来てるわけだ! 財布も緩いし時間だって有り余ってる!」

新入生「けどそんなんで、ここを出てからやってけんのかよって! 観光名所の一等地なんかじゃあない!」

新入生「コンビニやサイゼが立ち並ぶ陸に上がってだ!!」

ひな「っ…!!」ビリビリ

新入生「ここはアンツィオ高校だ! 料理で食ってく術を学ぶ場所だ!!」

新入生「女子力ねーちゃん達が集まるお料理教室じゃない! そうだろう姐さん!?」

アンチョビ「お、おう…熱いなぁ、お前」

新入生「あっ、スンマセン! 好き勝手怒鳴り散らしちまって」

新入生「アイツらの言い分もわかるっちゃわかるんスよ。そういう食材の扱いや料理の練習も必要だって」

新入生「でもアイツらはやっぱダメだ。自分に酔って料理人気取りで、農家さんにも横柄な口利いてさ」

新入生「それでしょっぼい野菜を掴まされた挙句、まあいいやーでそれを客に出そうとまでしやがった!」

新入生「それでちょっとプッツン来ちまったんス。スンマセン、姐さん達にはとんだご迷惑をお掛けしました」ペコリ

新入生「あっ、でもケンカには勝ったっスよ? 1対5で4人も伸せば十分っしょ!」

アンチョビ「強っ!? い、いやケンカはダメだぞ! もっと大勢で仕返しに来たりしたらどうする!?」

アンチョビ「海の上じゃあいろんなことがうやむやになっちゃうんだぞ!?」

新入生「そん時はそん時ッスよ。あ、でもそー考えると長居しちゃ不味いっすね」

新入生「姐さん達にまで迷惑かかっちまう。スンマセン、お世話になりました。このご恩はいつか必ず」

アンチョビ「待て待て待て! お前はここに居ろ! 一人でフラフラするんじゃない!」

新入生「えー、でも大丈夫ッスか? 奴らここにカチコミ来るかもしんないっすよ? 怖くないっすか姐さん?」

アンチョビ「こっ、怖いわけないだろう!? 私はドゥーチェ・アンチョビだぞォ!? お前のことを守ってやる!!」

新入生「えー、ホントっすかー?」

ひな「大丈夫よ、向こうもあなたに勝ったって思ってる筈だから。傍から見てたぶんには、ね?」

新入生「あ?」

ひな「?」


アンチョビ「それよりぺパロニ! お前、その料理への熱い思い、うちで活かしてみる気は無いか!?」

アンチョビ「お前の見立て通り、うちのメンバーは料理に関しては素人に毛が生えた程度なんだ!」

アンチョビ「今の屋台の経営じゃ、新戦車どころか弾薬費すらままならん!!」

アンチョビ「お前のように料理だけじゃなく経営の事まで考えられる人間が入ってくれると非常に助かる!!」

アンチョビ「どうせ元のクラスに戻るつもりは無いんだろう!? だったらうちに来い!」

アンチョビ「一緒に戦車道やろう!!」ビシィッ

新入生「いいっすよー」

アンチョビ「…軽っ!? いや、ホントにいいのかぺパロニ!? 言っといて何だがうちの屋台はオンボロもいいとこだぞ!?」

新入生「ボロくてもちゃんと綺麗にしてる。だったら十分っす。必要だったら自分で稼いで直しますよ」

新入生「むしろオンボロ屋台に素人二人でよくここまでやれたと思います。こりゃ、よっぽど先輩達の遺したレシピと経営がしっかりしてたんだなって」

新入生「そこがしっかりしてるってなると、こっから更に収益を伸ばすには相当知恵絞んなきゃなんないっすね…いやぁ、楽しみだなぁ!」

アンチョビ「ぺ、ペパロニお前…ホントに、本ッ当にいいのか!?」

新入生「さっき言ったじゃないッスかぁ姐さん、ご恩は必ずって」

新入生「そっちこそいいんスか? 私、戦車なんて乗った事ないっすよ?」

新入生「小学校の実習も、保健室でサボってましたし。それこそ幼稚園の戦車ごっこ以来っすね」

アンチョビ「大丈夫だ! 戦車なら私とひなで教えられる!! それにお前の闘志はきっと戦車道でも役に立つ!!」

アンチョビ「スクールウォーズみたいなもんだ!!」

新入生「すくーるうぉーず?」

アンチョビ「えっ、知らないか!? ほら、アレだ…俺は今からお前達を殴る!!」

新入生「あぁ”?」ギロッ

アンチョビ「ぴぃっ!?」ビクッ

アンチョビ「ちょ、ちょっと待ってドラマの台詞だって! そんな睨むなって、ドゥーチェ殴り合いのケンカとか無理だから!」プルプル

新入生「…弱っ!? 戦車道って格闘技っすよね? こんなんで大丈夫なんスか?」

ひな「まあ、ギリギリ…ほんっとうにギリギリだけど、大丈夫…な筈。うん、多分?」

新入生「…ま、格闘技っても戦車に乗ってやるお嬢様のヤツだもんな。まあ、こんなもんか」ニヘラッ

カチッ

ひな「…そうね。戦車道は女子の嗜み」

ひな「少なくともハムを貼り付けてゴミ捨て場に落ちてるような、はしたない方は見かけたことないわね」

新入生「あぁん? 嫌に挑発しやがるじゃねぇか。一発撫でてやろうか?」

ひな「どうぞご自由に。できるものなら、ですけどね」

新入生「はっ…上等ォ!!」アリアリアリアリアリ!!

ひな「……」クルクルクルクルクル!!

新入生「…どうやら、目はいいみてぇだな。私のラッシュを全部躱すだなんて!」

ひな「時として砲の前に生身で立つこともあるのが戦車道。砲弾と比べれば人間の拳なんて止まってるようなものよ」

新入生「へっ、だったら…こういうのはどうだ!?」ギチィッ

ひな「!?」

ひな(こいつ、足を踏んで…!?)

新入生「これで得意の軽業は使えねぇな。これから一方的に殴られる気分はどうだぁ?」

ひな「…やるのなら殺すつもりでやることね。生かして帰せば、いつかあなたの部屋に榴弾が撃ちこまれることになる」

新入生「上等! こいつでさよなら(アリーヴェデルチ)だ!! …って」

アンチョビ「……」プルプル

ひな「あ…」

アンチョビ「コラーーーーーーーーっ!! ケンカはダメだって言ってるだろーーーーーーっ!!!」

新入生「す、スンマセン姐さん!」

アンチョビ「なんだよカルパッチョまでーーーーーーっ!!!」

ひな「ご、ごめんなさいドゥーチェ! 戦車道を馬鹿にされたんでつい…」

アンチョビ「ついじゃない!! 榴弾なんて撃ちこんだら死んじゃうだろう!! そんなこと嘘でも絶対言うんじゃない!!」

アンチョビ「ぺパロニもうちに来るならケンカなんて二度とするな! お前になんかあったら泣くぞ私は!?」

新入生「な、泣くんすか? 怒るんじゃなくて」

アンチョビ「泣く! 怒るし泣く!! だからケンカなんてもうするんじゃないぞ! いいな!?」

新入生「りょ、了解ッス…ごめんなさい、姐さん」

アンチョビ「全く! うちにはホントに何もないんだからな!? この上仲間割れまでしてたらいよいよもってどうにもなんなくなっちゃうだろ!?」

アンチョビ「…けど、これで仲間が三人だ。だったらいくらでもやりようはある!!」

ひな「ドゥーチェ?」

アンチョビ「いいか二人とも! このアンツィオには何もない! だが何もないってことは何でもできるってことだ!!」

新入生「おお! 何でもっすか!?」

アンチョビ「そうだ何でもだ! ここは言わば何もない一面の荒野! 何を建てようが私達の自由!!」

アンチョビ「戦車はカルパッチョ!! 料理はぺパロニ!! 二人ともそれぞれの場所で思う存分好き勝手に暴れろ!!!」

アンチョビ「二人の爆発力で前に進むのがアンツィオの、このドゥーチェ・アンチョビの戦車道!!」

アンチョビ「目指すは全国大会出場、いや優勝だ! 行くぞーーーーっ!!」

アンチョビ「デケデンっ! あったらっしっいーい! あさがいつものよーにはじまーるー!!」


新入生「…びびって怒って泣いて笑って、そんでもって歌まで歌いだして…戦車道やってる奴ってあんな感じだったかなぁ?」

ひな「うちのドゥーチェが特殊なだけよ。でも、何と言うか…すごいでしょう?」

新入生「ああ…すげーや。うん、すごい」

ひな「…私はひな。あなた、名前は?」

新入生「名前?」

ひな「ドゥーチェ、勝手に人にあだ名をつけるのよ。それもヘンテコなあだ名を。あなたもぺパロニなんて呼ばれるのは嫌でしょう?」

新入生「んーーーーー…私は」

ぺパロニ「私はぺパロニでいいや。うん、私は今日からぺパロニだ! よろしくなカルパッチョ!!」

ひな「私はひなって言ってるでしょう!?」

ぺパロニ「そっか! やー悪い悪い! でもってひな、ちょっと相談なんだけどさ?」

ひな「なぁに? 何となくで副隊長二人体制になったみたいだから、さっきの続きをする必要はなくなったわよ?」

ぺパロニ「おっ、気づいてたのか」

ひな「どっちが上かなんてこと、シニアチームでもよくあったからね。それで、相談って?」

ぺパロニ「や、一緒にカチコミ行かねぇか? 私がいたクラスの連中と、早めにケリつけておきたいんだ。逆恨みで、ここに乗り込んで来られる前にさ」ニヤッ

ひな「ちょっとぺパロニ…そういうことはドゥーチェのいないところで、ね?」ニコッ

アンチョビ「コラーーーーーーーッ! 聞こえてるぞ二人ともーーーーーーっ!! やめろって言ってるだろーーーーーっ!!!」

ぺパロニ「あっはっはっは! 冗談! 冗談ッスよ姐さん!」ケラケラ

ひな「そうですよ。私達、ドゥーチェを泣かせるようなことなんて絶対しませんから」クスクス

アンチョビ「ホントだろうなぁ!? いや本当にやめろよ!? ドゥーチェホントに泣くからなァ!!?」

アンチョビ「これ以上誰かいなくなるなんて、ドゥーチェ絶対やなんだからなーーーーっ!!?」

とりあえず以上です。割と致命傷を受けましたが、ちまちま書いていきたいと思います。

お待たせしました。投下します。

<高校2年の7月・大阪府立戦車道会館前>

女子アナ「日本各地で繰り広げられる乙女達の熱戦…今年も戦車道の季節がやってきました」

女子アナ「第62回全国戦車道大会。このVが放映される頃には決勝戦間近と言った所でしょうか」

女子アナ「覇者の子西住まほ選手率いる絶対王者・黒森峰女学園が史上初の10連覇を成し遂げるのか」

女子アナ「それともプラウダ高校が昨年の雪辱を果たすのか、はたまた今年もビックリするような大型補強を行ったサンダース校が来るのか」

女子アナ「今日ここ大阪会場で2回戦を行う関東の古豪、聖グロリアーナと知波単にも十分可能性はあります」

*このVTRは8月2日に収録されました。大阪会場2回戦は聖グロリアーナ女学園の勝利でした。

女子アナ「…まあ、そういった乙女達の激闘の行方は熱闘戦車道さん辺りにお任せするとして」

女子アナ「私達TVOではちょっと変わった戦車道をご紹介したいと思います」

女子アナ「といってもこの大会に出場している訳ではありません…見えてきましたね。あの屋台です」

女子アナ「M41型セモヴェンテが引っ張るこの屋台、実はあのアンツィオ高校の屋台なんです!」


女子アナ「アンツィオ高校と言えば美食とファッションの学校として有名ですが」

女子アナ「昨年より戦車道にも力を入れ始めました。では早速隊長のアンチョビさんにお話を…」

アンチョビ「……」ドキドキ

女子アナ「っと、その前にまずはこの戦車屋台のお味の方からご紹介しましょうか」

アンチョビ「ええっ!?」

女子アナ「すみませーん! この鉄板ナポリタンってのを一つ!」

ぺパロニ「あいよー!」

ぺパロニ「オリーブオイルはケチケチしなーい。具は肉から火を通すー。今朝採れた卵はトロトロになるくらいっ」

ぺパロニ「ソースはアンツィオ校秘伝トマトペースト。パスタの茹で上がりとタイミングを合わせてー」

ぺパロニ「はいっ、お待ちどう!」

女子アナ「澱みない手つきで今ナポリタンが出てきましたね。このトマトとオリーブオイルの香り!」

女子アナ「では早速、美味しい!」パクッ

女子アナ「…ってホントに美味しいわね? 食べる前に美味しいって言っとこうと思ったけど本当に美味しいです、コレ!」

ぺパロニ「へへっ、でしょう? 屋台で出すことを前提にいっちばん美味くなるように工夫しましたからね!」

女子アナ「ちょっとV止めて、ちゃんと味わって食べたい」

*止めません。食事シーンをたっぷりお楽しみ下さい。

女子アナ「なんでしょう、懐かしい感じのナポリタンなんですけどちゃんとイタ飯屋さんの味もして、こう…まるで戦車みたいな力強い味ですね」

女子アナ「それとこのお肉、ちょっと変な例えですけど…部活帰りにみんなで行ったラーメン屋さんみたいなガッツリ感がします」

ぺパロニ「おっ、お姉さんわかってるっスねぇ! 最初は自前の魚肉ソーセージを使ってたんですよ。ナポリタンですし」

ぺパロニ「でも戦車道やる娘たちってみんな運動してるわけじゃないッスか」

ぺパロニ「だったらガッツリ肉入れてあげた方が受けるんじゃないかなぁって大会に合わせてレシピ変えたんすよ。今んとこ大成功ッスね!」

女子アナ「あー、わかるわー。ラーメン屋さんのおじさんも、サービスで大盛りにしてくれたのよねー」

女子アナ「イタ飯屋さんのオシャレな感じじゃなくて、空きっ腹に勢いでぶっ込む感じの美味しさ…まさに戦車女子の為のパスタと言った所でしょうか」

ぺパロニ「戦車女子だけじゃないっすよー、日々戦う人の為のパスタっす! というわけでスタッフさん達もどうぞ!」

ゴトッ

*録画のままカメラを置く上島D。

ひな「……」キョロキョロ

オオーウメーナコレー! デショー? アノサツエイッテコンナンデイインデスカ!? イイノイイノウチハイツモコンナカンジダカラ!!

ひな「……」ヒラヒラ


――――何故アンツィオ高校で戦車道を?

アンチョビ「募集があったから、ですね」

アンチョビ「私は戦車道始めたのが遅かったんですよ。中3の春」

アンチョビ「強い高校には入れなかった。そんな時にアンツィオに声をかけて貰って」

アンチョビ「アンツィオの戦車道を建て直さないかって。それで今に至ります」

――――何故戦車で屋台を?

アンチョビ「アンツィオは商人の学校ですからね。活動費は自分で稼がなきゃならない」

アンチョビ「それでうちでもパスタを売ってたんですけど、どうにも売上が振るわない」

アンチョビ「アンツィオの屋台はレベル高いですからね。何かしないと、どうしたって埋もれてしまう」

アンチョビ「じゃあうちには何があるかって考えたら、戦車があるじゃないかと」

アンチョビ「それで、店先に飾っとくことにしたんです。アンツィオ戦車道ここにありって」

アンチョビ「お客さんには、サービスで乗せてあげたりもしてます。結構喜んで貰えてますね」

――――この先陸でも商売を?

アンチョビ「大会期間中だけです。流石に学業に差支えが出ますからね」

アンチョビ「でも、期間中はできるだけ多くの会場を回ろうと思います。もちろん東富士にも行きますよ」

アンチョビ「他校の偵察も兼ねてです。今年は屋台でくっついてくだけですけど、うちだって戦車道科ですからね」

アンチョビ「来年の夏には、絶対出場…いや優勝したい」

アンチョビ「けど、それとは別に、こんな戦車道もあるってことをみんなに見せたいって気持ちもあります」

アンチョビ「そっちのが、今は強いですね」

アンチョビ「何を言ってもうちは、まだ3人しかいませんから」

――――勧誘ですか?

アンチョビ「勧誘です」

アンチョビ「って言っても、シニアでバリバリやってたような子達はもう、強豪から声が掛かってるでしょうから」

アンチョビ「うちでは、大会の試合を見て自分もやってみたいって思った子とか、学校の実習が楽しかった子とか」

アンチョビ「そういう子達に戦車道をやらせてあげたいですね。絶対いっぱいいると思うんですよ」

アンチョビ「だって、楽しいですから。戦車道」

――――では、最後に一言

アンチョビ「こほん…諸君! アンツィオ高校戦車隊は諸君らの入隊を待っている!」

アンチョビ「今なら入隊すれば即レギュラーだ! すぐ戦車に乗れるぞ!!」

アンチョビ「戦車だったらいっぱいあるからな!!」

ぺパロニ「ちょっと待って下さいよ姐さん!」ズイッ

アンチョビ「な、なんだぺパロニ!? 今撮影中だぞ!?」

ぺパロニ「戦車はいっぱいあるって、うちには自走砲と豆戦車しかないじゃないッスか!」

アンチョビ「ば、バカ! そんなこと今言うことじゃないだろう!?」

ぺパロニ「ダメっすよー誇大広告なんてー。そんなことしたってすぐバレるんスから」

ぺパロニ「スタッフさん! あとでここにうちの戦車のテロップ入れといてください!」

アンチョビ「ぺパロニ―!! お前なんでそんな、まともにお前、もー…このアホーーーーーっ!!」

ぺパロニ「あっはっは! やだなぁ姐さん、私がアホだったら戦車道科潰れちゃうじゃないッスかぁ」

*アンツィオ高校戦車道科保有戦車はセモヴェンテ自走砲3輌・CV33豆戦車7輌です。

ひな「ついでに言うと戦車に乗る前にまずパスタ茹でなきゃなんですけどね」ニュッ

アンチョビ「カルパッチョお前もかーーーっ!?」

ひな「二人だけいっぱい映って羨ましかっただもん」

アンチョビ「なっ、あのクールでかっこいい副官カルパッチョはどこ行っちゃったんだよーーーっ!?」

ひな「そんな人最初から居なかったんじゃないですか? あ、たかちゃん見てるー?」ヒラヒラ

アンチョビ「ああ、もう…すみません今のとこ全部カットでお願いします。流石に恥ずかしすぎる」

*結局全部使っちゃいました。

アンチョビ「こほん…諸君! 何かを始めるのに遅すぎるということはないぞ!!」

アンチョビ「アンツィオ高校戦車隊はいつでも諸君らを待っている!」

アンチョビ「みんな! 一緒に戦車道やろう!!」



女子アナ「何かを始めるのに遅すぎるということはない。いい言葉ですね」

女子アナ「TVO川島瑞樹がお伝えしました」

<高校2年の8月・黒森峰女学園学園艦・機甲科学生寮>

まほ「……」

みほ「……」

黒森峰隊員「相っ変わらず変な戦車道やってんなぁ、千代ちゃんは」

みほ「あれ、戦車道なんですか?」

黒森峰隊員「そう! 変なんだー、あの子の戦車道は!」

黒森峰隊員「私と隊長がユースでやった時なんて、単騎で黒森峰の隊列に突っ込んで来たんだぞフラッグ車で!」

黒森峰隊員「で、稼いだ時間で森ん中に戦車の看板並べて伏兵置いて、あっという間に二輌撃破して」

黒森峰隊員「そのあと何かしてくんのかなーって思ってたらそのまま2時間何もしない」

黒森峰隊員「こっちはバス・戦車・バス・戦車でケツが痛ぇってのに2時間もだんまりだぞぉ!?」

黒森峰隊員「こっちのケツが万全だったら、最初の突撃の時にあっさり撃破されて終わってたのにさぁ」

黒森峰隊員「それが絶対上手く行くって自信あったのかねー? 開始5分で終わってたら、あの看板とか完璧無駄骨だったってのに」

みほ「安斎さんって、勝ったんですか? お姉ちゃ…隊長や、先輩に」

黒森峰隊員「バカ言っちゃいけないよ。アタシら黒森峰だぞ?」

黒森峰隊員「2時間たっぷり待たせた挙句、最後は思い出したようにフラッグ車が背後に回ってきて」

黒森峰隊員「後は我らがまほ隊長にあっさりぶち抜かれて試合終了!」

黒森峰隊員「隊長はさ、千代ちゃん大好きだからあれも全部計算だって言い張るけど」

まほ「……」

黒森峰隊員「アレ絶対思いつきだと思うなー。だって作戦で2時間待ちって、アタシが部下なら反乱起こしてるよ」

みほ「思いつきって、試合、だよね?」

黒森峰隊員「多分、負けるのとか失敗するのとか、全然怖くないんだろうねぇ」

黒森峰隊員「だからノリと勢いでどこまでも突っ走っていける。へんちくりんな作戦に全ツッパ出来る」

みほ「ノリと勢い…」

黒森峰隊員「で、転んでも躓いても前に進めちゃうから…気付いたらパスタ屋の店長なんかに収まっちゃったりするワケだ」

みほ「ぶっ…!!」

黒森峰隊員「うん。千代ちゃんが気付いてないだけで、アレやっぱ戦車道じゃないねぇ」

黒森峰隊員「ありゃパスタ道だ」

みほ「っくっくっく…パスタ道っ…パスタ道って…!」

黒森峰隊員「だって考えてもごらんよ? 千代ちゃんアレでどうやってうちと試合するのさ?」

黒森峰隊員「料理対決でもするか? 自慢じゃないがうちの隊員は戦車以外何もできないぞ?」

黒森峰隊員「隊長、みほちゃん、ついでに私で、千代ちゃん一人にあっさり全滅するぞ?」

黒森峰隊員「フラッグ車走行不能! アンツィオ高校の勝利!!」

みほ「あっはっはっは!! いいなぁ、安斎さんのパスタ道…!!」ジワッ

黒森峰隊員「…みほちゃん?」

みほ「あっ…あれ? どうして私…そんな…泣くようなこと、何もないのに…」ポロポロ

まほ「みほ」

みほ「お姉ちゃ…隊長」

まほ「明日も早い。今日はもう休みなさい」

みほ「了解…おやすみなさい、隊長。先輩」

まほ「ああ、おやすみ、みほ」

黒森峰隊員「…みほちゃん、限界だね」

まほ「言うな。みほも、西住の娘だ。耐えねばならん」

黒森峰隊員「…みほちゃん、ほとんどボッチ飯だよ。たまに小梅ちゃんが一緒だけど」

黒森峰隊員「後は、ルームメイトの逸見ちゃんがツンデレしてるくらい」

黒森峰隊員「でも今のみほちゃんじゃ無理だ。ツンデレの相手なんてする余裕はない」

黒森峰隊員「…私らだけのときくらいお姉ちゃんって呼ばせてあげなよ? 西住の娘なんでしょ?」

まほ「みほは、歯止めが利かなくなる。先輩連中に隙を見せるわけには行かない」

黒森峰隊員「…撃てば必中守りは堅く、進む姿に乱れ無し。鉄の掟、鋼の心」

まほ「……」

黒森峰隊員「鉄の規律と乱れなき連携。それを支える鋼の練度。常人が超人を打倒する為の流派」

黒森峰隊員「…嫌な使われ方、しちゃったね」

まほ「だが、それも明日で最後だ」

まほ「明日が終われば、先輩連中は引退する。二度とみほに近づくこともない。近寄らせはしない」

黒森峰隊員「そうだね。みほちゃん、よく頑張ったよ…うん、よく耐えた!」

黒森峰隊員「明日は絶対勝つよ! 私達の手で、みほちゃんを守るんだ!」

まほ「当然だ。みほは私が守る。もう二度と、誰にも指一本触れさせはしない」

まほ「先輩連中にも、OG連中にも、お前にもだ」

黒森峰隊員「えっ、ちょっとタンマ、わっ私も!?」

まほ「当然だ。私の妹だぞ」

黒森峰隊員「そりゃないぜ! 私にもちょっとくらい撫でさせておくれよぉ!」

まほ「ダメだ。私の、妹だ」

まほ「明日が終わって、先輩連中を追いだしたら…安斎の店で祝勝会だ」

まほ「なんだかんだで、まだみほに食べさせてやれてないからな。安斎のパスタ」

まほ「ヘリで呼びつけて、私達だけの為にひたすらパスタを茹でさせてやろう」


<高校2年の8月・静岡県東富士戦車演習場>

ぺパロニ「…ふぅ、やっぱ雨だと客足鈍るっすねぇ」

アンチョビ「そうだなぁ。ま、おかげでゆっくり観戦できるんだ。何事もプラスに捉えていこうじゃないか」

ぺパロニ「そうっすね。いっそ、店閉めちゃいましょうか?」

アンチョビ「そうだな。どうせならちゃんと客席で見たいもんな。私達だって戦車道科だ」

ぺパロニ「了解! ちょっと待ってて下さい」



ひな「いよいよですね、決勝戦。プラウダが意地を見せるか、それともやっぱり黒森峰か」

アンチョビ「なんだひな、お前西住流のくせして、黒森峰応援しないのか?」

ひな「別に西住流ってわけじゃないですよ。習った教官が西住流ってだけで」

ひな「それにしたってどれだけ真っ当なのか、言うなれば西住風ですかね」

アンチョビ「曖昧だなぁ。パスタか何かか?」

ひな「ふふっ、それにいずれ黒森峰を倒すんでしょう? 私達」

ひな「だったら応援なんてしませんよ。するのは偵察です」

アンチョビ「そっか、そうだよな…よし! 偵察はひなに任せた!!」

ひな「ふふっ、了解です。西住さんの応援は、よろしくお願いしますねドゥーチェ」

アンチョビ「おう任せろ! 史上初の10連覇だもんなぁ。西住の奴、いったいどんな顔するんだろうなぁ」

アンチョビ「フフッ、楽しみだなぁ」

ぺパロニ「片付け完了っと。そんじゃ、客席行きましょう姐さん!」

アンチョビ「おう、行こうか二人とも! 私達のライバルが、栄光をつかむところを見に!!」

ひなぺパ「「了解!」」


アンチョビ(…それにしても、嫌な雨だなぁ。大丈夫か? 路面とか川とか…)








審判「ふ、フラッグ車行動不能! 優勝は、プラウダ高校!!」






とりあえずここまでです。アンツィオ戦車道ができましたので
次回からはまほチョビの種を蒔いていこうと思います。

ドゥーチェ・アンチョビはアンツィオの風が育てた。
投下します。


<高校2年の8月・静岡県東富士戦車演習場>

アンチョビ(何が…何が起こった!?)

アンチョビ(試合は黒森峰が優勢だった筈だ…川岸にプラウダのフラッグ車を追いつめて)

アンチョビ(あと一撃、あと一撃で黒森峰が優勝するところだった)

アンチョビ(あと一撃で、西住が10連覇を…)

アンチョビ(先行していた黒森峰の戦車が、谷川に落ちた)

アンチョビ(雨で水量が増していた谷川に…)

アンチョビ(そして黒森峰のフラッグ車から、選手が一人、飛び出した)

アンチョビ(雑誌で読んだぞ…今日のスタメンでもアナウンスされた…)

アンチョビ(西住みほ…フラッグ車の車長…西住の、妹だ)

アンチョビ(川に落ちた戦車を助けるために、仲間を助けるために、飛び込んだんだ)

アンチョビ(西住の妹は、無事だった)

アンチョビ(仲間達と一緒に、水面まで上がってきた)

アンチョビ(けどその時にはもう…黒森峰のフラッグ車はやられていた)

アンチョビ(審判の声が、聞こえた気がする…)



アンチョビ(試合、続いてたのか!?)



アンチョビ(待て待て待て! 何でだ!? 何で試合が続いてるんだ!?)

アンチョビ(戦車が川に落ちたんだぞ!? 完全に水没してたんだぞ!?)

アンチョビ(何で誰も止めないんだ!?)

アンチョビ(審判は何やってた!? プラウダ高校もなんで撃った!?)

アンチョビ(人間、水に溺れたら死んじゃうんだぞ!?)

アンチョビ(どうして、誰も…!!)

声「あーあ、何やってんだよ西住妹ー!」

アンチョビ(!?)

声「お前のせいで負けたじゃねぇかー!」

アンチョビ(待て…)

声「戦車が水に落ちた程度で取り乱して…これだから近頃の若い娘は!」

アンチョビ(こいつら…)

声「西住の娘のせいで10連覇ならずか…ハハッ、こりゃえらい騒ぎになるぞ!」

アンチョビ(何、言ってるんだ…!?)

声「死ぬ覚悟もない娘に戦車なんて乗って欲しくないなぁ、あーおもしろくない!」

アンチョビ(覚悟だと…!?)

声「おい西住姉妹の顔撮っとけ! 東京戻ってすぐ記事出すぞ!!」

アンチョビ(やめろ…なんでそんな…!!)

声「こりゃ号外だ! 黒森峰まさかの決勝敗退! 戦犯は西住妹!!」

アンチョビ(やめてくれ…そんなの…!)

声「西住ー!! 戦車辞めちまえーーーーっ!! 」

アンチョビ(そんなの…!!)

声「そのまま川に戻って死ねーーーーーっ!!!」

カチッ








ごめん…兄貴…リーダー…












ブッ殺すッッッ!!!







ぺパロニ「テメェ今なんつったァーーーーっ!!!」ガシィ!!

アンチョビ(!!)

観客「うぐっ!? な、なんだオマエ!?」

ぺパロニ「うるせぇ! 今なんつったって聞いてんだよ!?」

ぺパロニ「西住何やった!? 仲間助けただけだろーがッ!! それの一体何が悪いってんだよッ!!」

ぺパロニ「仲間の命より勝ちが大事だってのかよ!? たかが試合の一勝じゃねーかッ!!」

アンチョビ(ぺパロニ…)

ぺパロニ「それにテメェ西住の何だってンだよ!? 黒森峰の、戦車のなんだってんだよッ!?」

ぺパロニ「客席でビール食らって管巻いてるだけのオッサンじゃねーかッ!!!」

ぺパロニ「そんなに言うならテメーが戦車に突っ込んでって死ねッ!!」

観客「っ、このガキ!!」

ひな「やめなさいぺパロニ」ガシッ

ぺパロニ「ひな! けどコイツ!!」

ひな「ちょっと飲み過ぎちゃっただけよ。本心からの言葉じゃない」

ひな「戦車道を応援してくれる人が、そんなこと言うわけないもの。でしょう? お兄さん」ニコッ

観客「お、おう…そ、それをこのガキ」

ひな「ですが、あまり飲み過ぎない方がいいですよ? 他にも飲み過ぎた方、結構いらっしゃるみたいですし」

チョットゴメンヨ! オレノカメラガ!? ナンナンダヨテメーラ! ジュウドウロクダンカラテゴダンニンゲンイチモンジハヤト! オナジクオレジャーナルノキドシンジ!!

ひな「怖い人に絡んじゃったりしたら、取り返しのつかないことになっちゃうかも、ね?」ニコッ

観客「…!!」ゾクリ

ひな「…帰りましょう、ドゥーチェ」

アンチョビ「あ、ああ…すまない、カルパッチョ。だが私は」

ひな「ひなです。ここにいてもきっと、どうにもなりません。西住さんも多分…ですから」

アンチョビ「…わかった」

ぺパロニ「おいオッサン!! テメェ顔覚えたからな!! 二度と戦車道見に来るんじゃねーぞ!!」

短いですが今日はここまでです。

投下します。

<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>

新聞『家元断言「犠牲なくして勝利なし!」西住妹勘当か!?』

新聞『チームメイト涙の激白! 西住妹は空気が読めない!』

新聞『聖グロOG会会長も喝! 堕落した現代戦車道!』

新聞『西住姉疑惑のMVP! 西住流と高校戦車道の闇!』

新聞『近づくもの皆傷つける! ボコから探る西住妹の異常行動!』

新聞『カチューシャ・プラウダ 奇跡の逆転V!』

新聞『失踪の戦犯西住みほ、萩原雪歩激似AV転向!              はよ』

アンチョビ「……」

ひな「ドゥーチェ」ヒョイッ

アンチョビ「あ、おいひな。まだ読んでる途中…」

ひな「こんなもの読んでたって、いいこと一つもありませんよ」ビリビリビリッ

ひな「それより発注してた砲弾が届きました。砲撃演習、やりましょう?」

アンチョビ「そうだな…ちょっと待ってろ、今準備する」フラフラ

ひな「……」



ひな「…ドゥーチェ」ギュッ

アンチョビ「おっ、なんだ? 珍しいな、ハグだなんて。お前もようやくアンツィオに…」

ひな「戦車道、嫌いになっちゃいましたか?」

アンチョビ「!!」

ひな「失望しましたか? 戦車道に」

アンチョビ「……」

アンチョビ「…普通のコトなんだろう? こんなこと」

アンチョビ「部隊が一丸となって勝利を目指す。負けたのなら、原因を徹底的に洗い出す」

アンチョビ「隊の皆の日頃の努力を無駄にしないためにも、勝利を目指すことこそが隊長の義務」

アンチョビ「隊員は勝利の為に己を捨てて隊に忠誠を尽くす」

アンチョビ「そして戦車道の試合は十分な安全確認の下に行われているから危険は一切ない」

アンチョビ「審判の判断は絶対である。誤審は在り得ない」

ひな「…そうですね。私も、戦車を始めた時からずっと、そう教わってきました」

ひな「リトル・シニアとずっとやってきて、先輩にも後輩にもなった」

ひな「隊長役にも隊員役にも、紅白戦ですけど、審判役をやったことだって」

ひな「だから、気持ちがわかっちゃうんですよ。いろんな人の気持ちが」

アンチョビ「ひな…」

ひな「全国大会の決勝戦、それも史上初の10連覇が懸かった試合」

ひな「黒森峰は絶対に勝ちたかった。でもそれ以上にプラウダ高校だって勝ちたかった筈なんです」

ひな「東のプラウダ西の黒森峰と称されながら、もう9年も優勝してない。まして10連覇を眼前で成し遂げられるなんて耐えられない」

ひな「そんな矢先に目の前にあんなチャンスが転がり込んできて、しかも審判は試合を止めてない」

アンチョビ「…撃つか」

ひな「…撃ちます。戦車道をやってきた者なら、誰でも」

ひな「でも審判も、試合を止めることはできなかったと思います」

ひな「西住さん、みほさんが川に飛び込んでから、フラッグ車が撃たれるまで、一瞬でしたから」

ひな「審判からは水没した戦車の状態は確認できないし、みほさんは搭乗員を救助できて『しまった』」

ひな「生身の人間一人で救助できる程度の事態なら、それは事故ではない。ただの行動不能である」

ひな「戦車道の審判なら、そう判断します」

アンチョビ「…結果論じゃないか」

ひな「結果論です。ですが、戦車道にまぐれなし。あるのは実力のみ」

ひな「だから、黒森峰側も黙って結果を受け入れるしかなかった」

アンチョビ「受け入れる、か…」

アンチョビ「なあ、ひな…受け入れてるのか? これ」

ひな「…受け入れられてませんね。それでも、前に進み続けるしかないんです」

ひな「西住流に後退はありませんから…でも」

ひな「ホントは言うほど強くないんですよ、戦車道やってる子って」

ひな「多分、この敗北は今まで誰も経験したことのないくらい、重かったんだと思います」

ひな「だって、史上初だったんですから」

ひな「期待が大きければ大きいほど、失望もまた大きくなる」

ひな「戦車道の試合は隊員達だけのものじゃない。監督やコーチ、整備サポート、OG、後援会…」

ひな「黒森峰ともなれば、西住流の総本山ともなれば、それこそ膨大な数の人間が関わっている筈です」

ひな「だからこそ、誰もが自分の身を守るために…誰かを生贄にしなければならなかった」

アンチョビ「…仲間を生贄に、か」ギリッ

ひな「……」

ひな「…或いは、仲間じゃなかったのかもしれません」

アンチョビ「何? そりゃどういうことだ、ひな?」

ひな「……」

アンチョビ「ひな?」

ひな「…戦車道は、団体競技です。団結の力が個人の才能を凌駕することもままあります」

ひな「特に西住流は、そのための流派と言われていて、だからこそ多くの人が集まった」

ひな「努力と連携で、常人でも天才を倒せるようになるから…」カタッ

アンチョビ「…ひな?」

ひな「…ドゥーチェ、戦車道チームでは、よくあることなんです」カタカタ

ひな「才能があって、戦車道も大好きで、そんな風にして入ってきた子が」カタカタ

ひな「妬みや嫉みで爪弾きにされて、孤立して、やがて戦車道を嫌いになって出ていく」ガタガタ

アンチョビ「ひな」

ひな「光の巨人じゃない。仮面の戦士でもない。人間なんです」ガタガタ

ひな「人間の集まりなんです。私達は」ガタガタ

アンチョビ「ひな」

ひな「お願いです、ドゥーチェ…!!」ガタガタ

ひな「どうか、戦車道を、嫌いにならないで下さい…!!」ガタガタ

アンチョビ「……」ギュッ

ひな「ドゥー、チェ…?」ピタッ

アンチョビ「私の大好きな役者さん…うん、役者さんがこんなことを言ってたんだ」

アンチョビ「『誰かに失望しそうになった時には、その人が今までしてくれたことを思い出して、感謝の気持ちで許そうと思う』」

アンチョビ「『人を嫌いになりたくないから』…だそうだ」

アンチョビ「正直、私だって今もへこんでる。でも、戦車道を嫌いになりたくない」

アンチョビ「だから、大丈夫だ。私も、戦車道を好きでいたい。これだけは間違いなく、胸を張って言える」ポンポン

ひな「っ…!!」

アンチョビ「…ありがとうな、ひな。私の為に、話したくないこと、話してくれて」

アンチョビ「絶対、アンツィオの戦車道は、そうじゃない戦車道にしよう」

ひな「ドゥーチェ…」ジワッ

アンチョビ「私達の手で、そんなことしなくてもいい戦車道を作り上げるんだ! な?」

ひな「ドゥーチェぇ…!」ポロポロ

アンチョビ「あっはっはっは! ほらほら泣くな! そんなんじゃ砲を撃たせてやらないぞ!?」バシンッ

ひな「っ…!!」ゴシゴシ

ひな「はい…!!」

アンチョビ「ぺパロニも屋台から呼び戻せ! 一週間ぶりの、念願の砲撃演習だぞォ!」



アンチョビ(そうだ…嫌なとこいっぱい見せられたけど、やっぱり私はまだ戦車道を辞めたいとは思わない)

アンチョビ(戦車道をやりたい。戦車道を好きでいたい)

アンチョビ(でも、一体どうすればいいんだろう…? 戦車道を好きでいるためには…)

お待たせしました。今回は以上です。

投下します。


<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>

ぺパロニ「…ふぅ、仕込み完了っと!」

ぺパロニ「スンマセン姐さん、待たせちゃって。そっちは終わりそうっすか?」

アンチョビ「ああ、今終わったとこだよ。9月の売上、いい感じだな」

ぺパロニ「秋は長期滞在のお客が多いっすからね。ここらでちょっと変化球なものも食べたくなってくるんスよ」

ぺパロニ「ちゃんとした箱の本格イタリアンがいつでも最強なわけじゃない。現にサンダース辺りじゃうちが最強でしょう?」

ぺパロニ「屋台の和製イタリアンでも、腕と戦術次第で十分戦える。戦車道と一緒っすよ、姐さん」ニカッ

アンチョビ「ははっ、そうだな…けどペパロニ、お前だってホントは本格的なイタリアン、作ったりしたいんだろ?」

ぺパロニ「そりゃそうですよ。でもご心配なく! 屋台で出せる本格イタリアン、ちゃんと研究始めてますから!」

ぺパロニ「材料の使いまわしと仕入を工夫すりゃ、ピッツァはともかくパスタは行けそうなんスよねぇ」

アンチョビ「ピッツァは無理なのか?」

ぺパロニ「流石に屋台に窯は置けませんからねぇ。材料の使いまわしにも限界ありますから」

ぺパロニ「それこそ、うちの戦車道に、考えなしにポンとティーガー持ってくるようなモンですよ」

ぺパロニ「ちゃんと運用できる下地を作ってからじゃないと、大枚叩いてお荷物を抱えるだけ。そんなことすると、店が潰れるんスよ」

アンチョビ(そういえば、書類上では確か炊事車両が何台かあったな。いずれ、もっと人が増えたら探してみるか)

アンチョビ(…昔っからこんな感じの戦車道だったのな、アンツィオ高校)

ぺパロニ「とにかく、料理の事は私に任せて下さい! 絶対に、姐さんやひなにひもじい思いはさせません!」

アンチョビ「はは、ありがとうなぺパロニ。お前が居てくれて、本当によかったよ」

ぺパロニ「へへっ、もっと褒めていいっすよ姐さん!」

アンチョビ「…なあ、ペパロニ」

ぺパロニ「姐さん?」

アンチョビ「お前戦車道、好きか?」

ぺパロニ「戦車道って、うちでやってる戦車道っすか?」

アンチョビ「そうだ、その戦車道だ」

ぺパロニ「んー…そうっすねぇ」

アンチョビ「……」

ぺパロニ「うーーーーん…」

アンチョビ「……」

ぺパロニ「むむむ…」

アンチョビ「…お、おいぺパロニ?」

ぺパロニ「むむむーーーーん…」

アンチョビ「そっ、そんなに悩むことか!? ぺパロニお前、うちに不満でもあるのか!?」

アンチョビ(いっ、いやよく考えたら不満ないわけないよな!? というか不満しかないよな!?)

アンチョビ(屋台はあんなだしメニューも1品だけだし戦車もお財布もああだから、現状一番働いてるのぺパロニだし!)

アンチョビ(おまけに私の思いつきで戦車道大会にくっついてくなんて無茶もしたからお財布ますます苦しいし!)

アンチョビ(けっ、けど今ぺパロニに愛想尽かされたらうちはもう…!!)

アンチョビ「ぺっ、ペパロニ!」

ぺパロニ「好きですね」

アンチョビ「へっ…!?」

ぺパロニ「うん、私は戦車道好きっすよ! 姐さん!」

アンチョビ「~~~~~~っ!!」ペタン

ぺパロニ「って、どうしたんスか姐さん? そんなフニャっちゃって」

アンチョビ「お、お前なぁ~~~~…!!」プルプル

アンチョビ「何でそんなに悩んだんだよ!? 不安になるだろォ!?」

ぺパロニ「やー、何か姐さん真面目な顔していきなり聞いてくるもんだから」

ぺパロニ「だったら私も本気で考えなきゃなって。スンマセン、姐さん」

ぺパロニ「でも大丈夫です! 私、ちゃんと戦車道好きっすよ姐さん!」

アンチョビ「ならいいんだが…でもホント、なんでそんなに悩んだんだ? あんなにウンウン唸ってるお前なんて初めて見たぞ?」

ぺパロニ「んー、一個ずつ考えてたら時間かかっちゃったんすよねー」

アンチョビ「一個ずつ?」

ぺパロニ「戦車道の何が好きって、まずCV33でかっ飛ばすのが一番好きで」

ぺパロニ「次に機銃をブッ放すのが好き。なんかアリアリアリアリッって感じで好きなんすよねー」

ぺパロニ「装填は別にそうでもなくて、砲を撃つのはまあ普通」

ぺパロニ「だから砲を撃つのは姐さんやひなにいっぱいやらせたいなーとは思います。ウッキウキでやってますもんね、二人とも」

ぺパロニ「戦車の整備はけっこーワクワクして、でも整備自体はそんなに好きじゃない」

ぺパロニ「けどこれやったらどんだけいい感じの走りを見せてくれんのかなーとか考えながらやると楽しいからセーフ」

ぺパロニ「戦術とか作戦とかは、ぶっちゃけあんましよくわかんないッスね」

アンチョビ「オイ」

ぺパロニ「でも姐さんが楽しそうにアレコレ話してるの見るのは好きなんで眠くはならないッス」

ぺパロニ「ひなの話は完全にダメっすね。細かすぎて眠くなっちゃう」

アンチョビ「…なんかひなの方が精巧な作戦立ててるみたいじゃないか、それだと」

ぺパロニ「あはは! 姐さんの話は感覚的なんすよ。だから私でもついてけるんです」

ぺパロニ「…てか、その与太話みてーな姐さんの話をひなが細かく詰めていくってのがうちの流れなんじゃなかったんすか?」

アンチョビ「ちーがーう! 私はそんな、要介護隊長じゃあないんだぞ!? なんだよ与太話ってーーーーっ!!」

ぺパロニ「あっはっはっは! なーんだ、そうだったんスかぁ!!」

ぺパロニ「…でもってそうやって姐さんを支えて戦車をガッチリ固めてるひなは大好きで、先頭に立っていっつも何か頑張ってる姐さんのことは超好きっすね!」

ぺパロニ「だから全部ひっくるめて、私は戦車道が好きってなったわけっす!」

アンチョビ「そうか…お前も結構考えてるんだな」

ぺパロニ「へへ、他でもない姐さんの問いかけでしたから。本気で頭回しましたよ。私、姐さんのコト超好きっすから!」

ぺパロニ「…だから姐さん、誰かをぶん殴るなんてことは、私に任せちゃ貰えませんか?」

アンチョビ「!!」

アンチョビ「ぺパロニ、お前」

ぺパロニ「私、笑ってる姐さんが大好きです。涙目でプルプル震えてる姐さんもムキーッてなって怒ってる姐さんも大好きです」

ぺパロニ「けどあんな真っ黒な目ぇした姐さんは初めて見ました。こりゃヤベーって」

ぺパロニ「こりゃ、あんまし見てたくないなって、それで私が行ったんですけど。多分ひなも気付いてたと思いますよ?」

アンチョビ(そうか…それでひなは)

ぺパロニ「私に言わせりゃあんなゴミクズ野郎ぶん殴られて当然だって思いますけど」

ぺパロニ「姐さんはあんなゴミでもぶん殴った後引きずるんじゃないっすか? 姐さん、誰にでも優しいっすからね」

アンチョビ「いや、そんな…」

ぺパロニ「しかも姐さん、あんとき拳握ってましたけど、何か変でしたよ? いやそれで人殴ったら絶対怪我するだろって握り方で」

ぺパロニ「だから、人を殴るなんてのは私の仕事なんです。姐さんはそんなことしちゃダメっすよ。ね?」

アンチョビ「ぺパロニ…」

ぺパロニ「私はいいんですよ。元々がこうですからね。『やめろこのバカロニ!』とでも叱ってくれれば、それで十分ご褒美っすから!」

アンチョビ「…ありがとう、ペパロニ。でも、やっぱりダメだよ。私も、ぺパロニが人を傷つけるとこなんて見たくない」

アンチョビ「この話はなしだ。ごめんな。せっかく心配してくれたのに」

ぺパロニ「…へへっ、姐さんならそう言うと思ってました」

ぺパロニ「ま、大丈夫っすよ! 姐さんの隣にはいつだって、私が立ってます。姐さんの気持ちなら、隣に居れば大体わかるッスから」

ペパロニ「姐さんが本気でブチ切れたら、私がすぐにビシッと、ね?」

アンチョビ「はは、だからダメだって…ホント、ありがとな? ペパロニ」

ぺパロニ「へへ、鍵掛けて帰りましょう、姐さん。明日も早いんすから!」

ペパロニ「明日も戦車道、頑張りましょう!」

ここまでです。あの事件は黒森峰だけじゃなくみんなにとって大事件だったと思う

投下します。今回はほとんどチョビの独白です。


<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・アンチョビの部屋>

アンチョビ(一個ずつ考える、か…)

アンチョビ(そもそも私は戦車道の何が好きだったんだっけ…?)

アンチョビ(……)

アンチョビ(まずいなぁ…全部好きだぞ。戦車走らすのも戦車弄るのも戦車砲撃つのも)

アンチョビ(キューポラから身を乗り出して、景色が流れていくのを見てるのも楽しいし)

アンチョビ(煤だらけの戦車をバラして手入れしてやるのも、何か手のかかる弟みたいで大変だけど好きだ)

アンチョビ(まあカルパッチョみたいにうっとりとしながらやれる境地にまでは至れてないけど)

アンチョビ(砲を撃つことなんてもう、最高だ。あんな遠くのものを自分の引き金一つでバシャっとできるなんて)

アンチョビ(ちょっと間抜けだけど、人間ってすごいなぁって思える)

アンチョビ(…うちじゃあめったに砲撃演習できないから、余計に楽しく感じるな。もっと大きい砲だったら、もっと楽しいんだろうなぁ)

アンチョビ(ペパロニはああ言ってたけど、ティーガーとか欲しいよなぁ。せめて重戦車が欲しい)

アンチョビ(うちでも運用できる重戦車とかないかな? 今度探してみよう)

アンチョビ(…作戦を考えるのは…好き、というより得意だな)

アンチョビ(砲を撃つのも戦車を走らせるのも大好きだったけど、大体いつも私より上手いヤツ居たからなぁ)

アンチョビ(渚にせよ翠にせよ、汐華やミスターにせよ…今だって装填はカルパッチョのが早いし走りじゃペパロニのが速い)

アンチョビ(1年の時の、先輩たちと居たときくらいじゃないかなぁ。私が戦車で1番だったのって)

アンチョビ(そもそもメローネ先輩くらいしか、まともに戦車乗ってくれなかったのもあるけど)

アンチョビ(…戦車に触れて、戦車を動かす楽しさは戦車道が私にくれるもの)

アンチョビ(だったら作戦を考えるのは、戦車道で私ができること…?)

アンチョビ(たぶん、そうだ。私だってホントは、ティーガーらへんのThe戦車みたいなのをズラッと並べて)

アンチョビ(並み居る敵を装甲と火力でガンガン押しつぶしていくような戦いをしてみたい。そっちの方が気持ちいいし、かっこいいもの)

アンチョビ(それこそ、西住流みたいな…)

アンチョビ(けど、それをやってもうちの戦車じゃ黒森峰には絶対勝てない)

アンチョビ(というよりどこの戦車でも勝てない。それをやらせたら黒森峰が、西住が最強だ)

アンチョビ(だから絶対に同じことをしちゃいけない。同じことをしたって勝負にならない)

アンチョビ(じゃあどうするかどうすれば勝てるかってあれこれ考えるのは…やっぱり最高に楽しい)

アンチョビ(ダメだ、キリがない。やっぱり私は戦車道が好き。こんなにモヤモヤしてても、どうしようもなく好きなんだ)

アンチョビ(…逆に考えるんだ。戦車道の何が嫌だったか。なんで私はこんなに悩んでるんだ?)

アンチョビ(……)

アンチョビ(一番堪えたのはやっぱりあの野次だ。あの瞬間私は間違いなく心の中で『思った』)

アンチョビ(…兄貴と違って、『思った』ところで私に何ができた訳じゃあないけれど、それでもそのくらい嫌だったんだ)

アンチョビ(その後の、どんどん話が大きくなっていったのも嫌だった)

アンチョビ(西住を、西住の妹をみんなして好き勝手に、遠巻きに囲んで叩く様なんて、最悪だ)

アンチョビ(西住の妹は、みほはただ、仲間を助けたかっただけなのに)

アンチョビ(…そうだ、戦車道で一番嫌いなところは)

アンチョビ(一つ間違ったら人が死んでしまうところだ)

アンチョビ(カーボンのせいで忘れがちだけど人間は死んでしまうんだ)

アンチョビ(履帯に巻き込まれても、機銃で撃たれても、砲弾の破片が刺さっても)

アンチョビ(鉄の箱に閉じ込められたまま、水の中に沈められても)

アンチョビ(他にどんなに楽しいことがあったとしても、人死にを出してまでやることじゃない)

アンチョビ(やっていいことでもない。だから私は、戦車道を嫌いになりそうだったんだ)

アンチョビ(そうだ、戦車道で一番、何よりも私が好きなのは)

アンチョビ(人と親しくなれるところだ。仲間ができるところだ)

アンチョビ(戦車の中の、あのせまっ苦しい空間で)

アンチョビ(戦況次第じゃ何時間も何も起きない、あの退屈な時間の中で)

アンチョビ(私は初めて、友達を作れた)

アンチョビ(中学に上がって、戦車に乗るまで、友達と言ったらりぼんとなかよしと『あの番組』だけだったもんな、私)

アンチョビ(それが初めて、人の輪の中に入れた。中学の、実習チームの二人なんて、今でも連絡取っている)

アンチョビ(カルパッチョもペパロニも、部下じゃない。大事な、仲間だ)

アンチョビ(それに、西住…私はあいつともう一度会いたくて)

アンチョビ(それで…)








アンチョビ「んん!?」






アンチョビ「ちょっと待て! 今日、何日だ!? ひょっとして、まさか…!!」ガバッ

アンチョビ「うあ”あああああっ!! や、やっぱりだ…!!」

アンチョビ「あと10日で、黒森峰と航路が重なる…西住が…!!」






―――西住が、やってくる。




<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>

ペパロニ「姐さーん! 週刊誌と新聞、バックナンバーあるだけ買ってきたっすよー!!」

アンチョビ「そこに置いといてくれ! 後で全部読む!!」バババババッ

ひな「やめてくださいドゥーチェ! そんなの、そんなの読んでも何にもなりませんよ!!」

アンチョビ「いいやダメだ! 目を逸らしちゃダメなんだ私は!」

アンチョビ「私なら大丈夫だ! 何があろうと戦車道を嫌いになることはない!」

アンチョビ「最悪、そんなに嫌なら辞めてしまえばいい! でもあいつは、あいつは…!!」




アンチョビ「あいつは一生、戦車道するんだ!!」

今回は以上です。俺、このSSを書き上げたら初めてドラマCD買うんだ。

投下します。まほチョビの可能性を考える上で
チョビが愛知で産まれたことには重要な意味があると思うので
このSSには愛知に縁のあるキャラがちょこちょこ出ています。

<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・例の公園のベンチ>

アンチョビ(ダメだ…あれから新聞や、いろんな雑誌を読んだけど)

アンチョビ(どの記事も西住を、みほの行動を否定している…)

アンチョビ(特に戦車道の大家や強豪のOGなんかは酷い叩きようだ…)イクヨトーチャン!

アンチョビ(覚悟が足りない…自覚が足りない…)バッチコーイ!

アンチョビ(戦車道って…強豪校って…)ヒュッパシィッ

アンチョビ(というよりスポーツやるって、そういうことなのかな…?)ナイスボール!ヒュッパシィッ

アンチョビ(……)

アンチョビ(ああやって楽しそうにキャッチボールなんてしてる子供も、いつかはああいう風になるのかな…?)モウイッキュウ!

アンチョビ(野球も、色々厳しいって言うもんなぁ…)スッポヌケター!

ビュンッ…ポテッポテッ…

アンチョビ「あ…ボールがこっちに…」

父親「すみませーん!」

アンチョビ「あ、大丈夫ですよー」ボールヒロイ

アンチョビ「必殺ドゥーチェボール!!」ブオンッ

バスン! コロコロ…

アンチョビ「あ…」

父親「地面に直撃…」

子供「あっはっはっは! おねえちゃんへたくそー!」

アンチョビ「う…ちょ、ちょっと待ってろ!」ヒョイッ

アンチョビ(とはいえどうする!? 私、球技は全部ダメで、それで中学の選択でも戦車道を…)




通りすがりの長期滞在者「貸してごらん」




アンチョビ「あ、はい」

シュッ…パシィッ

アンチョビ「!!」

アンチョビ(お父さんの構えたグローブに一発で入った。すごいコントロールだ)アリガトウゴザイマシター!ナゲサセスギニキヲツケテネ

通りすがりの長期滞在者「それじゃあね」

アンチョビ「あのっ、すみません!」

通りすがりの長期滞在者「ん?」

アンチョビ「おじさん、高校で野球部だったりとか、しました? 凄い球、投げてましたけど」

通りすがりの長期滞在者「…そうだねぇ、高校でもやってたね。野球」

通りすがりの長期滞在者「それが、どうかしたかい?」

アンチョビ「その…母校が弱かったりすると、やっぱり嫌、ですか?」

通りすがりの長期滞在者「母校…母校かぁ」

アンチョビ「負けたりしたら…何か言いたくなったり、しますか?」

通りすがりの長期滞在者「うーん…そもそも僕の母校は、強かったからねぇ。それに、勝ち負けはしょうがないよ」

通りすがりの長期滞在者「どんなに強くても、どんなにいい選手を揃えても、いつでも絶対勝てるとは限らないからね」

通りすがりの長期滞在者「…何か、悩んでるのかな? おじさんでよければ話くらい聞くよ?」

アンチョビ「あっ、すみません」

アンチョビ「…私、戦車道やってて、ずっと夏大会のことで悩んでて…」

通りすがりの長期滞在者「戦車道…ああ、黒森峰の、あの」

アンチョビ「はい。うちは戦車道そんなに盛んじゃなかったから、そんなことなかったんですけど…友達が、黒森峰に居るんです」

アンチョビ「中学の時にもアイツ、勝ったのにビンタとかされてました。今回も、OGとか師範みたいな人達がみんなして西住を叩いてる…」

アンチョビ「スポーツって、そういうものなんですか…? 勝つことって、そんなに大事なことなんですか?」

通りすがりの長期滞在者「…戦車道は、伝統ある武道だからね。黒森峰と言ったら、僕でも知ってるような名門だ」

通りすがりの長期滞在者「まして10連覇の懸かった試合で負けたとなったら、それはすごい騒ぎだろうね」

通りすがりの長期滞在者「すごいね、10連覇。巨人でも果たせなかった偉業だ」

通りすがりの長期滞在者「そんなものが目の前にぶら下がってたら、どんな綺麗ごとだって吹っ飛んでしまう」

通りすがりの長期滞在者「絶対勝て、何としても勝て、どんなことをしてでも勝て、ってね」

アンチョビ「…そうです、か」

通りすがりの長期滞在者「でもね、それは精々1チーム、1校程度でしか通用しない考え方なんだ」

通りすがりの長期滞在者「競技全体のことを考えれば、勝つことより大事なことはある」

アンチョビ「!!」

アンチョビ「な、なんですか!? それって!」ズイッ

通りすがりの長期滞在者(おお、近いなぁ)

アンチョビ「……」ジッ

通りすがりの長期滞在者「…その競技を楽しんでもらうことだよ」

アンチョビ「楽しんで、貰う?」

通りすがりの長期滞在者「勝負である以上勝つことは確かに大事だ。でも、勝利を目指すのはあくまで勝つことが楽しいから」

通りすがりの長期滞在者「そのための練習が、自発的な努力を通り越して強いられる苦痛になっては本末転倒だ」

通りすがりの長期滞在者「『何としても勝て』が『どんなことをしてでも勝て』になって『勝つためには何をしてもいい』になる」

通りすがりの長期滞在者「挙句それが『勝ったものは何をしてもいい』『負けたものには何をしてもいい』になってしまったら、スポーツなんて害悪でしかなくなってしまう」

アンチョビ「害悪…」

通りすがりの長期滞在者「そういうやり方しか知らない人間を作ってしまうのなら、社会教育上よろしくないと言われても何も言い返せないよ」

通りすがりの長期滞在者「現に、僕の母校の野球部は、強かったけどなくなってしまった」

アンチョビ「ええっ!?」

通りすがりの長期滞在者「優勝もしたし、プロ選手だっていっぱい出したのにね」

アンチョビ「っ…ごめんなさい! 嫌なこと聞いてしまって!」バッ

通りすがりの長期滞在者「はは、いいんだよ。高校野球だけが、野球じゃないからね」

通りすがりの長期滞在者「…競技を楽しんでもらう。綺麗ごとに聞こえるかもしれないけど、実はスポーツの未来を考えると、本当に大事なことなんだ」

通りすがりの長期滞在者「勝ち負けしかないんじゃ、戦争だ。戦争、したい?」

アンチョビ「…したくありません」

アンチョビ「戦車道は戦車を、兵器を使います。でも、戦争じゃないと思いたい…戦争なんかに、したくない!!」

通りすがりの長期滞在者(戦争なんか『に』、したくない…ね)

通りすがりの長期滞在者(そっか、この子…)

通りすがりの長期滞在者「…大丈夫。野球だって強い兵士を作るためだった頃があった。でも、ちゃんとスポーツになれたからね」

通りすがりの長期滞在者「スポーツだったら勝ち負けだけじゃない。プロならまた違った話になってくるのかもしれないけど」

通りすがりの長期滞在者「それでも、嫌な思い出しかないスポーツを、わざわざ見に来る物好きが何人いるのかと…わかるかな?」

アンチョビ「…競技人口の、問題。そっか! だから楽しんで『貰う』って!」

通りすがりの長期滞在者「そう」ニッコリ


通りすがりの長期滞在者「もっとも、現場に近ければ近いほど勝利至上主義に陥りやすい」

通りすがりの長期滞在者「結果を求められる日々じゃ、そんなこと考えてる余裕はないからね」

通りすがりの長期滞在者「それでもようやく、最近は変わりつつあるんだ」

通りすがりの長期滞在者「現役の一流選手達が言葉を発し始めている。かつての名選手が指導者として、野球をより良いものにしようとしだしてる」

通りすがりの長期滞在者「ずいぶんと、時間が掛かってしまったけれどね」

通りすがりの長期滞在者「…だからこそ、僕は戦車道も、もっと色々聞いてくれればいいのにって思う」

アンチョビ「聞く?」

通りすがりの長期滞在者「そう。この国のスポーツとして、そして娯楽、或いは興業として」

通りすがりの長期滞在者「野球はずっと考え続けてきたんだ。勝利至上主義の問題も、誤審の問題も、或いはもっと嫌な問題もね」

アンチョビ(誤審の問題…そういえば渋谷凛のラジオでも、よくゲストに呼ばれる人が誤審されたって…)

通りすがりの長期滞在者「もちろん、全部に答えを出せてるわけじゃない。どの問題もまだまだ根深い」

通りすがりの長期滞在者「それでも失敗談くらいならいくらでもしてあげられる」

通りすがりの長期滞在者「戦車道は確かに伝統ある武道だけど、それでもまだまだ若いスポーツなんだから」

通りすがりの長期滞在者「まだまだこれから、成長していくスポーツなんだからね」

アンチョビ「成長…だったら!」ズイッ

アンチョビ「どうすればいい!? どうすれば戦車道は変われる!? 聞かせてください!」

通りすがりの長期滞在者「…変えたいのかい? 戦車道を」

アンチョビ「嫌なんだ、私は…! 勝ったのにぶたれて! 好きで戦車道始めたのに、重荷になって、嫌いになって出て行って!」

アンチョビ「出る杭をみんなで囲んで打って、嫌なつながりばかりできて! 挙句大事な仲間を助けただけなのに、吊るし上げを食らう!」

アンチョビ「そんな戦車道、私は嫌だ…!!」

アンチョビ「私はアンツィオのドゥーチェだ…ドゥーチェ・アンチョビだ!!」

アンチョビ「うちの戦車道には何もないけど…それでもせめて、入ってきた子には戦車道を楽しんで貰いたい!!」

アンチョビ「一緒に喜んで一緒に笑って、一所懸命に頑張って、一生の仲間を作りたい! 作ってもらいたい!」

アンチョビ「私は…戦車道をずっと好きでいて欲しいんです!!」

通りすがりの長期滞在者「おお、正解全部言っちゃったね」

アンチョビ「えっ!?」

通りすがりの長期滞在者「それが正解だよ、アンチョビさん」ニッコリ

通りすがりの長期滞在者「勝つことよりも大事なこと。強い選手を育てることよりも大事なこと」

通りすがりの長期滞在者「それはその競技をずっと好きでいてもらうこと」

通りすがりの長期滞在者「小学校、中学校、高校、大学、そしてプロ…レベルが上がるにつれて、選手人口は減っていく」

通りすがりの長期滞在者「でももしも選手として引退した子たちが、それでもその競技を好きでいてくれれば」

通りすがりの長期滞在者「その競技はどんどん盛り上がっていくはずだ」

通りすがりの長期滞在者「スポーツは、選手だけじゃできないんだから」

アンチョビ「!!」

アンチョビ「知っていた…私、知っていたのに…!!」ヒザギュウッ

通りすがりの長期滞在者「僕も、野球をやってるすべての子供たちに、ずっと野球を好きでいてもらいたい」

通りすがりの長期滞在者「たとえ選手を卒業しても、あの頃の僕らを懐かしめるような野球をしてほしい」

通りすがりの長期滞在者「そして次の子供たちにも伝えてほしい。野球はいいぞ、野球は楽しいぞってね」

通りすがりの長期滞在者「それで親子で球場に来てさ、プロのプレイを見て、それでまたその子に野球をやってみたいと思ってもらえたら」

通りすがりの長期滞在者「こんなに素晴らしいことはないじゃないか。ね?」ニッコリ

アンチョビ「はい…! 私も、戦車道を好きでいてもらいたいです! これから入ってくる子たちにも…西住にも!」

アンチョビ「っ…おじさん!!」

通りすがりの長期滞在者「ん?」

アンチョビ「おじさん、しばらくこの艦に居ますか!?」

通りすがりの長期滞在者「ああ、いるよ。少し遅めの、夏休みなんだ。毎年お邪魔しているね」

アンチョビ「でしたら、これ! うちの屋台のチラシです! よかったらいらしてください!!」バッ

アンチョビ「いっぱいサービスしますから!」

通りすがりの長期滞在者「ありがとう。今度寄らせてもらうよ」

通りすがりの長期滞在者「迷いはもう、晴れたかな?」

アンチョビ「はい! 見つかりました! 私の戦車道!!」

通りすがりの長期滞在者「そっか。じゃあよかった。頑張るんだよ」

アンチョビ「はい! 本当に、ありがとうございました!!」バッ

タッタッタッタ…


通りすがりの長期滞在者(姫川さんと、同じ目だったな)

通りすがりの長期滞在者(あの子もきっと、自分の好きを、自分の楽しいを、みんなに伝えていける子だ)

通りすがりの長期滞在者(これからの戦車道界にとって、ああいう子がいることはきっと大きな財産になるだろうな)

通りすがりの長期滞在者(これからのスポーツなんだから、色んな人材を抱えていかなきゃいけない)

通りすがりの長期滞在者(…ホントは今回の件も、勝利至上主義の問題でもなく、誤審の問題でもなく)

通りすがりの長期滞在者(もっと嫌な問題が絡んでるんだろうし)

通りすがりの長期滞在者(…太刀打ちできるのが児玉さん一人きりじゃ、厳しいんだろうなぁ)

通りすがりの長期滞在者(……)





prrrrrrrrrrrrrrrrrr…







―――もしもし、僕だ











――――僕は西住みほさんの行動は、全てのアスリートが規範とするべき、スポーツマンシップに則った素晴らしい行動だったと思う




















――――任せたよ、タツナミ















ピッ

通りすがりの長期滞在者(…それにしても)




―――おじさん、高校で野球部だったりとか、しました?




通りすがりの長期滞在者(時代は流れていくんだなぁ)

通りすがりの長期滞在者(せめて、いい方向に行ってくれていれば、いいんだけれど)








―――その日からしばらく













――――強い雨が続いた。







<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>

ペパロニ「姐さん雨っすよ雨! 戦車全部洗っちゃいましょう!!」

アンチョビ「はあっ!? 何言ってんだお前!?」

ペパロニ「水道代の節約っすよ! 結構馬鹿にならないんですから!」

アンチョビ「馬鹿! 風邪ひいたらどうするんだ!」

ペパロニ「平気っすよー! 何とかは風邪ひかないって言うじゃないっすか! ほら姐さんも!」

アンチョビ「オイ! 私までバカ扱いか!? ったく、ひなも何か言ってやってくれ…」

ひな「合羽着れば大丈夫ですよ。はい、ドゥーチェの分!」

アンチョビ「おいおい、お前までそんな…」

ひな「ふふ、たまにはこういうのもいいじゃないですか。ね?」

アンチョビ「うー…わかった。その代わり、やるからには徹底的に行くぞ!!」

アンチョビ「全部の戦車を表に出せーーっ! 顔が映るほどピッカピカにしてやるんだーーーっ!!」

ペパロニ「へへっ、了解っすよ姐さん!!」

ガラガラガラガラ…

ひな(ペパロニったらあんなにはしゃいじゃって)

ひな(でも、当然かな。ようやく消えたんだもんね。あの日からずっと、刻まれてた)

ひな(ドゥーチェの眉間の皺が)

ひな(よかったわね、ペパロニ)

アンチョビ「おいひな! 何をやってるお前も来い! 一人だけサボりなんて許さないんだからな!!」

ひな「ふふっ、今行きますドゥーチェ♪」


アンチョビ(そうだよ、戦車道だって完璧じゃない。いいところもあれば悪いところもある)

アンチョビ(でも、だったら、これで完成ってわけじゃないはずだ)

アンチョビ(だったら悪いところは変えられる。変えていっていいはずだ!)

アンチョビ(壊れているなら直せばいい。汚れているなら洗えばいい)

アンチョビ(受け継いだものを先に進めるのが私たちの使命なら)

アンチョビ(私は戦車道をもっといいものにしたい!)

アンチョビ(西住、お前が一生戦車道するなら、私は戦車道がお前にとって好きでいられるものであってほしい!)

アンチョビ(…ん?)



――――こんなの運動部じゃ普通のコトなんだって!!


――――大丈夫。このくらい、なんでもないから


――――犠牲なくして勝利なし!


――――生まれついての戦車のり


――――西住流の後継者

カラン

ペパロニ「ん?」

アンチョビ(西住、お前は今、何を思ってる…?)

アンチョビ(西住、お前…ひょっとして)

アンチョビ(戦車道…好きなままか?)

アンチョビ(だったら私は…私の戦車道は…)



アンチョビ「…お前の、敵?」キュ

ペパロニ「…姐さん?」

アンチョビ「あ、いや何でもない! 独り言だ!」

ひな「……」


<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・ひなの部屋>

ひな(…ドゥーチェの眉間に、また皺が出来た)

ひな(全国大会決勝戦…ドゥーチェは悩み続けてる…あの日からずっと…)

ひな(ああいう風になった子を、私は何人も見てきている…)

ひな(みんな、戦車道を辞めていった…)

ひな(…ペパロニがよかったんじゃない)

ひな(うれしかったのは…私だ)

ひな(いつの間にか私、こんなにドゥーチェのことが好きになっちゃってたんだ…)カタカタ

ひな(いつも楽しそうなドゥーチェを)カタカタ

ひな(戦車道を楽しんでるドゥーチェを)カタカタ

ひな(戦車道は楽しいって、そう教えてくれるドゥーチェを)カタカタ

ひな(…ドゥーチェがいなくなってしまうのが、怖い)ガタガタ

ひな(私達のドゥーチェでいて欲しい…でも、私じゃ…私達じゃドゥーチェを…!!)ガタガタ


コンコン


ひな「!!」

ペパロニ「ひな、まだ起きてるか?」

ひな「ペパロニ?」ガチャ

ペパロニ「ちょっと、頼みたいことがあるんだ」

ひな「頼みたい、こと?」

ペパロニ「明日からサンダースで屋台だろ? だったらさ…」

今回は以上です。
なお、今回のモブの元ネタはあくまでゴーゴー!ゴジラッ!!マツイくんであり
実在の人物団体素晴らしい先輩とは一切関係ありません。

投下します。サンユキ好き


<高校2年の9月・サンダース大付属高校学園艦・正門前>

アンチョビ「いいか!? この2日間は何よりも大事な2日間だ!」

アンチョビ「この戦いの如何によって我々の秋の活動が決まると言っても過言ではない!」

アンチョビ「抜かるなよ二人とも!」

ペパロニ「任せてください姐さん! こっちはもうバッチリっすよ!!」

ひな「……」

アンチョビ「カルパッチョ?」

ひな「…あっ、すみません。了解です、ドゥーチェ」

アンチョビ「…大丈夫か? 朝もちょっと遅れてきたし、具合悪いなら…」

ひな「いいえ大丈夫です! 問題ありません!」

アンチョビ「そうか? 無理するなよ? ダメそうだったらすぐ言えよ?」

ひな「大丈夫です! いっぱい稼ぎましょう、ドゥーチェ! 私達の戦車道のために!」

アンチョビ「…よし、そうだな! やるぞ二人とも! 目指せ週3砲撃演習! いや週5、いいやいっそ毎日だーーーっ!!」




サンダース生「やってるね、千代美ッ!」




ひな「!!」

アンチョビ「おお、いらっしゃい! いやちょっと待て、お前授業は? 12時にはまだまだ早いぞ!?」

サンダース生「へへっ、ちょっとお腹減っちゃってね!」

アンチョビ「お前、授業抜けてきたのか?」

サンダース生「固いことは言いっこなしッ!」

アンチョビ「はぁ…お前なァ、サンダースのくせにウチみたいなこと言って」

ペパロニ「まあまあ姐さん! せっかく来て下さったんスから! ちょっとお喋りでもしてきたらどうっスか?」

アンチョビ「はあ!? お前あとちょっとでお客さんが押し寄せてくるってのに」

ひな「こっちは私達だけで大丈夫ですから、ね? ドゥーチェ」

ペパロニ「はいはい席の準備できましたよ! パスタもすぐ、アッツアツのを二人前、持ってきますから!」

サンダース生「お、サンキューペパちゃんッ!」

アンチョビ「お前らなぁ…」


サンダース生「やっぱ千代美んとこのパスタは美味しいなァ! 肉たっぷりってのがまた嬉しいねッ!」

アンチョビ「フッフッフッ、そうだろう? うちのパスタは戦うみんなのためのパスタだからな!」

アンチョビ「どこの学園艦行っても大人気だ! 特にサンダースは売上いいぞ!」

アンチョビ「アメフト部とかめっちゃ食うからな!」

サンダース生「アメフト部かぁ、鉄馬あたり黙々とすごい量食べそう」

アンチョビ「鉄馬は食うぞォ! その半分でいいからキッドにも食欲分けてやれってくらい食う!」

サンダース生「やっぱり! 知波単とかも行ってんの?」

アンチョビ「知波単かー、知波単は航路が読めないからなぁ。なっかなか行けてないんだよ」

サンダース生「そっか。や、翠のヤツが海の上でも濃い味のものが食べたいって嘆いてたからさ」

アンチョビ「翠に会ったのか!?」

サンダース生「ん、実家帰った時に偶然。346プロにスカウトされたって言ってたよ?」

アンチョビ「346プロぉ!?」

サンダース生「1年の子と歩いてたら2人とも声かけられたって。戦車道の子だって言ってたけど、千代美知らない?」

アンチョビ「戦車道っても知波単には行けてないからわからないぞ…いや、というかやるのかアイドル?」

サンダース生「や、弓に専念したいから断ったって。そしたら来年の夏また来るってさ」

アンチョビ「マジかー、いやすごいな…何部門とか言ってた?」

サンダース生「それが、翠のやつ、クール部門だってさ」

アンチョビ「クール部門!? クール部門ったら346の花形じゃないか! 渋谷凛とか高垣楓とか!」

アンチョビ「…ホントにクール部門なのか? あいつ、外見はともかく中身は食いしん坊の天然じゃないか」

サンダース生「あっはっはっは! やっぱり千代美もそう思った!?」

サンダース生「私もさ、どっちかというとあんた中身はパッションじゃないって言ったら『着ぐるみなんて着ません!』って」

アンチョビ「着ぐるみって、鈴帆サン以外にもなんか居るだろパッション。ほら、きらりんとか本田未央とか猫耳とロックのコンビとか…」

アンチョビ「城ヶ崎美嘉…はLippsだし、クールだよな? 後は…」

サンダース生「んー、キュートだったら島村卯月とかウサミンの人とかすぐ出てくるんだけど」

サンダース生「…そうだ! あの子がいたじゃん! ほら、スポーツニュースによく出てる…ああ、ダメだ名前出てこない!」

アンチョビ「スポーツニュース…ああ! あの子か! 突撃レポとかよくやってる野球の子! 畜生の子!」

サンダース生「そう! 野球で畜生の子! 千代美名前出るッ!?」

アンチョビ「…ダメだ出てこない! 畜生の名前が出てこないぞォ!!」

サンダース生「あーちくしょう! なんて名前だっけあの畜生! 顔は浮かぶのに全然名前が出てこないッ!!」

アンチョビ「ちくしょう、なんか妙に悔しいぞ!」



サンダース生「…あー、これは重傷だね」スッ



アンチョビ「へ…ひゃっ!?」

サンダース生「美味しいもの食べてお喋りしても消えない。こりゃ確かに重傷だ」サワサワ

アンチョビ「お、おい? 何のつもりだ? 人の眉間をいきなり撫でて…」

サンダース生「はぁ…千代美」

アンチョビ「な、なんだよ…?」

サンダース生「どう考えてもおかしい」

アンチョビ「へ…?」

サンダース生「どう考えても、普通じゃないよ。千代美」

アンチョビ「普通じゃ…? あっ」

――――こんなの運動部じゃ普通のコトなんだって!!

アンチョビ「オマエ、なんでそのこと…」

サンダース生「眉間の皺。アンタ昔っからそう。何か悩みを抱えてると、ずっと眉間に皺寄せてる」

アンチョビ「眉間っ…!?」バッ

サンダース生「普段はノリと勢いでガンガン突っ走って行っちゃう子なのに、一回悩み出すと長い。なまじ頭がいい所為なのかな?」

サンダース生「でもって、一人で悩んだからって別に何かいい答えが浮かぶわけでもないのに周りには隠す」

サンダース生「けど隠し事も下手だから、結局周りに感づかれてご飯奢られて取り調べをされる。ホント、一個も変わってないねー、アンタ」

アンチョビ「うぅ…そんなに隠し事下手か? 私」

サンダース生「普段あんだけ騒がしいヤツが眉間に皺寄せて黙り込んでみ? 心配通り越して若干怖かったよ私は」

アンチョビ「待て、黙り込んでなんかないぞ!? 私はいつも通り…」

サンダース生「そーいう空元気も無理する理由も全部バレバレで、だから余計に心配するんだって」

アンチョビ「う…」

サンダース生「ほれ、白状してみ? 後輩には無理でもさ、中学の友達にだったら話せるでしょ?」

サンダース生「ま、私の考えは最初に言った通りだけどね。どんな強豪校でも、あんなのは普通じゃない。普通であっちゃいけないよ」

アンチョビ「…それはわかってる。私だってあんな戦車道はいやだ。私は戦車道を変えたい」

アンチョビ「私はもっと、戦車道をいいものにしたい。ずっと、好きでいられる戦車道に」

アンチョビ「それは、私がずっと戦車道を好きでいたいし、みんなにもずっと戦車道を好きでいてもらいたいから」

アンチョビ「でも何よりそう思うのは、この先一生戦車道する西住に…西住が、一生好きでいられる戦車道をして貰いたいから」

アンチョビ「でも…」

――――大丈夫。このくらい、なんでもないから

アンチョビ「ひょっとして、全部余計なお世話なのかなって。西住にとっては、こんなの全部、なんでもないことなのかなって」

アンチョビ「だったら私は、今の戦車道を変えたい私は、西住の敵じゃないかって」

アンチョビ「戦車道はスポーツだけど、伝統のある武道でもあるから…」

アンチョビ「そう考えたら、すごい不安になって…明後日、黒森峰に屋台で行くんだけど」

アンチョビ「…怖いんだ。西住に会うのが。今の西住を見るのが」

サンダース生「んー、なんでもないことないと思うなぁ。だって、アンタが言ってる西住って、あの西住さんでしょ?」

サンダース生「だったらなんでもないなんてことないよ」

サンダース生「私の知ってるあの人は、自分を庇って先生に怒られたアンタを、心配して謝りにくるような子だ」

サンダース生「そこでの約束を果たすために、わざわざ1年後、1軍率いて実習チームと戦いに来るような子だ」

サンダース生「今の西住さんとは会ったことないからわかんないけどさ、少なくとも中学ん時の西住さんは、とびっきり優しい子だったと思う」

サンダース生「だったらなんでもないなんてことない。妹さんがあんなことになって、なんでもないなんてことは」

サンダース生「人間そうそう変わるもんじゃないってのは、今のアンタが証明してるじゃないのさ?」

アンチョビ「…アイツは私とは違う。何にもないアンツィオ戦車道の隊長じゃない。黒森峰の、隊長だ」

アンチョビ「今回のことで思い知らされた。西住流は、重いんだ」

アンチョビ「だって、みほを、西住の妹を切り捨てたのは…」

――――犠牲なくして勝利なし!

アンチョビ「西住の、母親だぞ? だったら西住だってそうなったって…」

サンダース生「そうしたくないから、そうなって欲しくないから戦車道を変えるんでしょ? 千代美は」

サンダース生「だったら、そんなとこで怯んでる場合じゃないよ」

サンダース生「ぶつかってごらんよ、千代美。アンタ、悩んで物事をどうにかできる子じゃない」

サンダース生「あの頃みたいに、ノリと勢いと精一杯の強がりで、周りみんなを巻き込んで」

サンダース生「ガツンとぶつかっていけばいいじゃないの。それが一番、アンタには合ってる」

アンチョビ「…ぶつかって、伝わるかな? だってアイツは」

――――生まれついての戦車のり

アンチョビ「―――なんて言われて…」

サンダース生「違うよ千代美。人間だ」

サンダース生「どんな強豪校でも、どんな伝統校でも」

サンダース生「ロボットじゃない。マシーンじゃない。私達はちゃんと、人間だ」

サンダース生「押しも押されぬ強豪校、サンダース大付属高校女子バスケットボール部キャプテン」





サンダース生「愛野渚が保証するよッ!!」





アンチョビ「!!」

サンダース生「どんな競技も、結局最後は人と人だ。人間の関わり合いだ」

サンダース生「だったらさ、私はアンタほどのアスリートを見たことがない」

――――西住流の後継者

サンダース生「人と人なら、安斎千代美は世代最強だ」

サンダース生「黒森峰の重戦車でも、アンタの想いは止められない」

サンダース生「現に私たちは一回、黒森峰に勝ってるじゃない」

サンダース生「確かに作戦読まれちゃって、戦車の白旗は上がったけどさ?」

サンダース生「結局アンタはこうやって、西住さんのそばに居られてる。西住さんを想えてる」

サンダース生「だからあの試合は、アンタの勝ちだったんだ」

サンダース生「勝ち目はある。だったらもう、怯む理由はない」

サンダース生「西住さんの敵になっちゃいなよ、千代美。そんでもって、また勝つんだ」

サンダース生「勝ってまた、二人で笑いあうんだよ。戦争じゃない、戦車道だからこそできる」

サンダース生「それがアンタの、戦車道だよッ! 千代美ッ!」




アンチョビ「うぅ…渚ぁ”ぁ…」ボロボロ

サンダース生「…やっと泣いたね、千代美。これで一安心だ」ミケンサワサワ

サンダース生「それじゃ…」グググッ


デコピンビシィ!!


アンチョビ「いっだぁ!!?」

サンダース生「……」

アンチョビ「な、なんで!? デコピンなんで!?」

サンダース生「後輩に泣いてるとこなんて見せないッ! 『キャプテン』なんでしょッ!?」

アンチョビ「はっ!」

コツン

サンダース生「千代美千代美千代美ィ~~~~…こっからは同じ『キャプテン』としてのアドバイスだよ」

サンダース生「アンタは確かに恋する乙女かもしれないけど、同時にあの子らの『キャプテン』なんだ」

アンチョビ「うっ…」

サンダース生「あんまり不安にさせちゃダメッ! アンタを慕ってついてきてくれる、大事な仲間なんでしょッ!?」

アンチョビ「…まさか! オマエが今日ここに来たのって!」

サンダース生「まったく…ひなちゃん泣きそうな顔してたよ、かわいそうに。今度こんなことになったら、デコピンなんかじゃ済まさないからねッ!?」

アンチョビ「ッ…!!」ガタッ


キーンコーンカーンコーン…


サンダース生「ほら、話はおしまいッ! さっさとあの子らのとこに行くッ!!」パシン

アンチョビ「っ…ありがとう渚! 明日も来てくれるか!?」

サンダース生「当然っ! 部活終わりの、腹を空かせたうちの部員を全員つれてくよッ!」

アンチョビ「ようしわかった! 腹いっぱいごちそうしてやる!!」ダッ

アンチョビ「……」

ひな「ドゥーチェ…」

ペパロニ「……」

アンチョビ「二人とも…」

ギュウッ

アンチョビ「ありがとう。心配かけて、ごめんな」

ひな「ドゥーチェぇ…」ボロボロ

ペパロニ「…おかえりなさい、姐さん!」

アンチョビ「ああ…待たせたな、2人とも!!」バッ

アンチョビ「アンツィオ戦車道のドゥーチェ・アンチョビ!! 完ッ全ッ復ッ活だぁーーーーーっ!!!」ビッシィ

ひな「ドゥーチェ!!」

ペパロニ「姐さん!!」

ゾロゾロ…ガヤガヤ…オイ!キョウドゥーチェキテルゾ!ワァイ!ノリコメー!

アンチョビ「ペパロニ! カルパッチョ! 『アレ』をやるぞ覚悟を決めろ!!」

ひな「了解!!」

ペパロニ「そうくると思ってましたよ姐さん!!」

ゾロゾロ…ガヤガヤ…

アンチョビ「よく来てくれたな諸君! 今日はドゥーチェ・アンチョビの復活祭っ!!」

アンチョビ「大盛特盛全部無料だッ!! 皆腹いっぱい食ってってくれーーーーーーっ!!!」

ウオオオオオオオッ!!

屈強なアメフト部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強なバスケ部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強なボクシング部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強なベースボール部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強なボディビル部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強なレスリング部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強なプロレス部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強な対戦車道部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強なタカシ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

アンチョビ「お、おい止めろ! なんだこのノリ!? こんなとこで大騒ぎしちゃ迷惑だろーーーーっ!?」

ひな「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

ペパロニ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

アンチョビ「オマエらまで、ああもう! なんだかよくわかんないけどしょうがないなぁ! こうか!? こういうノリでいいのか!?」バッ!ビシィ!

とにかくなんかマッチョで屈強な胃袋共の野太い大合唱「「「「「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」」」」」






サンダース生(ホントはこういうとき、先輩なんかが支えてくれるといいんだろうけど…みんな、いなくなっちゃったからなぁ)

サンダース生(リゾット先輩もホルマジオ先輩も…プロシュート先輩も。みんな…)

サンダース生(それでも…アンタは、独りぼっちなんかじゃないッ!)

サンダース生(私だって、話くらいならいくらでも聞くよ。千代美の戦車道のOGだからねッ!)

サンダース生(頑張れ、千代美ッ!)



アンチョビ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」ババッ!ビシィ!






―――そして、その日がやってきた





<高校2年の9月・黒森峰女学園学園艦・正門前>

アンチョビ「……」

ひな「あの、ドゥーチェ」

アンチョビ「なんだ?」

ひな「屋台の方は大丈夫ですよ? ドゥーチェは早く西住さんのところに…」

ペパロニ「そうっすよ! 何だったら私が呼んで…」

アンチョビ「いや、いいんだ。こうやって、ここで待ってるのが一番いい」

アンチョビ「ここでこうして、パスタを茹でていれば」

アンチョビ「アイツは絶対、ここに来る。来る気がするんだ、私は」

ひな「そう、ですか」

アンチョビ「まあ、来なかったら来なかったで、今度は私から会いに行くけどな!」

ペパロニ「わかりました。でも来たらすぐ、外れちゃって下さい。後は私達で十分っすから」

アンチョビ「ああ、頼むぞ」



アンチョビ(そうだ…アイツはいつだって、来てくれた)

アンチョビ(中学3年の、シニアチームで履帯拾いしてた時も、プラウダに落ちてアンツィオでパスタを茹で始めた時も)

アンチョビ(アイツは私に、会いに来てくれた)

アンチョビ(だから来る。今日だって。絶対に)

アンチョビ(…正直、来なかったら、その時は)

アンチョビ(その時は、きっと…)



ペパロニ「姐さん」

アンチョビ「!!」

ペパロニ「来ましたよ、西住さん」

アンチョビ「来たか! どこだ!?」

ペパロニ「向こうです、ほら」

アンチョビ「向こう…?」

ひな「っ…!!」




アンチョビ「んん!?」



―――手には一刀



―――斃すは五人



―――魔都上海に



―――報仇雪恨の剣が哭く




―――昔見た、俳優目当てで見てしまった



―――トラウマ物の映画の一節が、頭によぎった






アンチョビ(でも…)




アンチョビ(それでもお前は、来てくれた)

アンチョビ(そんなになっても、来てくれた)

アンチョビ(私に会いに、来てくれた)

アンチョビ(だったら、希望はある。勝ち目はある)

アンチョビ(これも戦車道…いや、これこそが)




まほ「安斎」

アンチョビ「久しぶりだな、西住。肉増し大盛でいいな?」





アンチョビ(これこそが私の戦車道!!)

今日は以上です。チョビは共学なら早いもの勝ちだと思う。

投下します。共学はサンダースだけっぽいですね。金回りの良さもその辺に理由があるのかも。


まほ「」モグモグ

アンチョビ(痩せたな、西住…いや、引き締まった…違う、こういうのは、研ぎ澄まされたって言うんだな)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(前見た映画の、黒野玄武みたいに…大事な人を失って、全部自分で背負い込んで)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(刀か剣かに、成り果てて…)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(でも、私は…)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(私はお前を知っている。こんな顔した、お前を私は知っている)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(そうだ、全部、思い出した)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(あれこれいっぱい悩んだけど、結局何も、変わってなかったんだな)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(お前の今も、私がお前に、してやりたいことも)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(あの頃の私らから、少しも)

まほ「」ゴクン

アンチョビ「…美味かったか?」

まほ「美味しかった。具が、肉に変わったんだな」

アンチョビ「ああ、そっか。お前に食わせたのは初めてか。今年の夏からレシピ変えたんだよ」

まほ「私は、今の方が好きだ」

アンチョビ「へへ、みんなそう言うよ。うちに来る子は、大体みんな腹ペコだ」




アンチョビ「…みほは、大丈夫なのか?」






まほ「」

アンチョビ「……」

まほ「みほはもう、戦車には乗れない」

まほ「今は阿部さん、お父様の友人が、匿ってくれている」

まほ「ほとぼりが冷めたころに、どこか遠くの、戦車道のない学校に転校する予定だ」

アンチョビ「そっか、お父さんが守ってくれたか…じゃあ、一安心だな」

アンチョビ「…なあ、西住。中学の時の、私達の最初の約束…まだ覚えてるか?」

まほ「もう一度、戦車道でお前と戦う」

アンチョビ「そうだ…私、あの時言ったよな? 西住。あっさりなんて勝たせてやらない、って」

アンチョビ「…やっぱり、変わらないよ西住。お前に、黒森峰に、あっさりなんて勝たせてやれない」

まほ「」フッ

アンチョビ「今年の夏は、ずっと屋台を引いてたんだ。それで、戦車道大会にくっついてってさ」

アンチョビ「結構な数の子達が、戦車道やりたいって言ってくれた。うちに来てくれるって言ってくれた」

アンチョビ「いよいよ来年の夏は、うちも大会に出場できる。随分と待たせちゃったけど」

アンチョビ「シェフ大泉夏野菜スペシャルより、時間掛かっちゃったけど」

アンチョビ「やっと準備が整った。アンツィオの戦車道が出来上がった」

アンチョビ「来年の夏大会、そこでもう一度、戦おう」

アンチョビ「私達の約束を果たそう。勝負だ、西住」

まほ「安斎」




まほ「お前も私の、敵になるんだな」




アンチョビ「え…?」

まほ「今までありがとう。ごちそうさま」ガタッ

アンチョビ「待て待て西住! どうしてそうなるんだ!? なんでそんな…」

まほ「私は西住流そのものだ。そして、伝統ある黒森峰戦車隊の隊長だ」

まほ「あのような形で10連覇を逃してしまった以上、来年こそは何が何でも優勝しなければならない」

まほ「常勝不敗・西住流の戦車道を、今一度体現しなければならない」

まほ「勝利こそが黒森峰に求められるものであり、一度敗れれば全てを奪われるというのなら」

まほ「私は勝ち続ける。それが西住流の宿命ならば」

アンチョビ「西住、お前…」

まほ「立ち塞がる全ての敵を叩き潰して前に進む。勝利を、栄光を持ち帰る」

まほ「それが私の使命であり、唯一の存在意義」

まほ「そして、私が、道半ばで去らざるを得なかったみほのためにしてやれる、ただ一つのこと」

まほ「敵を倒す。勝利する。それが、西住流」

アンチョビ「っ…!!」

まほ「さよならだ、安斎。次会うときは、敵同士」









カチッ









アンチョビ「ちーーーがーーーうーーーーだーーーーろーーーーっ!!!」バンッ

まほ「!!」ビクッ

アンチョビ「おかしいぞお前! なんでそんな…お前はアレか!? 孔濤羅か何かか!?」

まほ「こん、たおろー?」

アンチョビ「映画の主人公だよ! ほらあの、黒野玄武と葛之葉雨彦がチャンバラして楊菲菲と三船美優がめっちゃ怖かった…って、そんなんどうだっていいんだ西住!!」

アンチョビ「おかしいだろ!? なんでみほが死んだみたいなこと言ってるんだよお前!? みほ、死んでないよな!? 生きてるよな!?」

アンチョビ「お父さんに匿ってもらって、ほとぼり冷めたら転校できるんだよな!?」

アンチョビ「なんでそんな死んだみたいなこと、みほは戦車道に葬られたみたいなこと言ってんだよおかしいだろ!?」

まほ「だがみほは、もう戦車に乗れない」

アンチョビ「戦車に乗れないからって死ぬわけじゃないだろ!? というかこんな目に遭うようなら戦車なんか乗らない方がいいんだよ!!」

アンチョビ「あんな、仲間助けただけで袋叩きにされるような戦車道なら、やらない方がいい!!」

アンチョビ「そもそもあれだっておかしいぞ!? たかが高校生のスポーツだろ!? なんでそれであんな大騒ぎしてるんだ!?」

アンチョビ「騒ぎ方にしたっておかしいよ! フツーなら戦車道の安全性とか競技のルールとか、そっちの方で騒ぐだろ!?」

アンチョビ「なーんーで! 取り組む姿勢がーとか心構えがーとか、そういう戦犯叩きで盛り上がっちゃってんだよ違うだろ!?」

アンチョビ「誰かが死んだわけでもないし、戦争に負けたわけでもない! なんでここまで、アレか? 金でも賭けてたのか!?」

アンチョビ「たかが毎年やってる戦車道の大会で、9年連続で優勝した高校が10連は流石に無理でしたってそれだけのことだろ!?」

アンチョビ「巨人軍でも9連覇だぞ!? それで誰か巨人の選手を叩いたか叩かないだろう!!」

アンチョビ「そもそもそこが一番おかしいんだ西住! なんで黒森峰だけ負けちゃいけないんだよ!?」

アンチョビ「前に私言ったろォ!? 他の子も、曲がりなりにも勝つために頑張ってきてるんだから、そんな勝つのが当然みたいなこと言っちゃ失礼だって!!」

アンチョビ「ほかの学校は勝ったら喜んで、なーんーで黒森峰だけ勝って当然みたいな扱い受けてんだよなんだよお前使命って!!」

アンチョビ「そんなに勝つのが大事ならカールでもB29でも江田島平八でも好きなもん持ってくりゃいいじゃないかええ!?」バンッ

アンチョビ「勝ってるチームを見たいならそれこそ巨人戦でも見てりゃあいいんだよ!」バンッ

アンチョビ「高校戦車道は誰のためのもんだ!? 金出してる後援会か!? 客席でビール飲んでるおっさんか!?」

アンチョビ「違うだろ! 高校戦車道は、私達のものだ! まず私達が楽しめなきゃダメなんだよ西住!!」

アンチョビ「言ってみろ西住! お前戦車道楽しいか!? 言ってみろ!!」

まほ「安斎、競技歴の浅いお前は知らないかもしれないが、戦車道はそういうものじゃないんだ」

まほ「全てを捨てて勝利を目指す。それこそが西住流、それこそが戦車道」

まほ「誰が何を言おうと、それは決して変わらない。変えることはできない」

アンチョビ「ほら見ろ西住! やっぱりお前も嫌なんじゃないか!! そんなこと言うなんて、辛いって言ってるようなもんだぞ!!」

アンチョビ「嫌なことは嫌と言えって、私言ったろ!?」

まほ「辛くないとは言わない。これも戦車道だ」

アンチョビ「違う! 辛いなら変えろ西住! お前は西住流を継ぐんだろ!? だったらお前が変えなきゃダメなんだ!!」

アンチョビ「うちのパスタを見ろ!! 兄貴に教わったレシピじゃ魚肉ソーセージ使ってたんだ!!」

アンチョビ「アンツィオの本格イタリアンの向こうを張って、とことん洋食屋のナポリタンを究めようとした結果の自家製魚肉ソーセージだ!!」

アンチョビ「アンツィオに来る観光客はローマ気分を味わいに来てるから本格的なイタ飯を食べたがる!」

アンチョビ「けど別荘構えて長期滞在するような世代の人にとっては、こっちこそが本物のイタリアンだ! 屋台で箱と戦うならこっちに賭けるのが正解だってな!!」

アンチョビ「でも、私が本気で戦車道を建て直そうとして、戦車道大会についていくって言い出した時、ペパロニがレシピを変えたんだ!!」

アンチョビ「戦車道女子は運動してるんだから、ガッツリ肉が入ってた方がいい。今の子には昔ながらの魚肉ソーセージよりも、とにかく肉だってな!!」

アンチョビ「それでお前はなんて言った!? 今の方が好きだって言ってくれただろ!? うちのパスタ、美味くなっただろ!?」

アンチョビ「変えちゃいけないものだってそりゃ間違いなくあるよ西住! でもな、全部が全部変えちゃいけないなんてことはない! いやむしろそれじゃダメだ!!」

アンチョビ「受け継いだものはさらに先に進めなくてはならないんだよ、西住!!」

アンチョビ「私達の戦車道はまだまだ、まだまだこれからなんだから!!」


まほ「」

アンチョビ「ハーッ…ハーッ…!!」

まほ「もし」

アンチョビ「!!」

まほ「もしお前の言うとおりだとして、私にいったい何ができる?」

まほ「妹一人守れなかった、この私に」

アンチョビ「守れなかったなんて言うな、西住。お前が戦車に乗る限り、みほは戦車に乗らずに済むんだから」

アンチョビ「戦車道辞めなきゃなんないのはちょっと残念かもしれなけど、別に戦車道が世界の全てってわけじゃない」

アンチョビ「新しい場所で、きっとまた何か別の、楽しいことを見つけられるはずだ」

アンチョビ「西住、お前は知らないかもしれないが、世の中楽しいことはいっぱいあるんだ」

アンチョビ「そしてこの先の、みほが傷を癒すための時間は、全部お前の頑張りが作ったものだ」

アンチョビ「お前はちゃんと、みほを守れるんだよ、西住」

まほ「みほを、守れる」

アンチョビ「そうだ。だからその孔濤羅キャラ止めろよ。その、色々…」

まほ「?」

アンチョビ「っ…とにかく!! みほはもう大丈夫だ! だから次はお前なんだよ西住!」

アンチョビ「お前は一生戦車道するんだろ? だったら辛いままの戦車道じゃ絶対ダメなんだ!」

まほ「安斎、私なら大丈夫だ。今までずっと、こうやってきた」

アンチョビ「いーや、大丈夫じゃない! 絶対大丈夫なんかじゃない!!」

アンチョビ「今までったってたかだか17年だろ!? 一生が、何年あると思ってるんだ!?」

アンチョビ「そうやって辛いのに辛いって言わないで! みんなしてずっと無理して我慢してきちゃったから、今の戦車道は辛いものになっちゃったんだよ!」

アンチョビ「私はな、お前が頑張ってるってことを皆に認めさせたかったんだ! お前が辛いの我慢して、それでも戦車道頑張ってるって認めさせたかったんだよずっと!」

アンチョビ「だからあっさりなんて勝たせてやれないんだよ絶対! 黒森峰の、お前のもたらす勝利が、当たり前なんかじゃないって言いたいから!!」

アンチョビ「何だよ勝ったのに勝ち方が悪いってビンタとか! 今思い出しても腹立つぞあのヒゲめ!!」

まほ「安斎、そんな昔のことを」

アンチョビ「今も大して、ひとっつも変わってないだろ!? だから!!」





アンチョビ「いい勝負をしよう、西住!! 私とお前で、いい試合をするんだ!!」




まほ「!!」

アンチョビ「あの決勝戦からずっと考えてたんだ。結局何がよくなかったのかって」

アンチョビ「ルールの問題とか安全性の問題とか、スポーツマンシップとか勝利至上主義とか」

アンチョビ「いろんな問題が出てきちゃったけど、まあそれはおいおいやるとしてだ!」

アンチョビ「とりあえず今はお前といい試合がしたい!」

アンチョビ「あんな試合じゃダメだったんだ、西住! 常勝不敗の西住流、絶対王者黒森峰の連覇の最後は!」

アンチョビ「あんな、勝った方も負けた方も見てる方も皆して首を傾げるような試合であっちゃいけなかったんだよ!」

アンチョビ「だからやりなおそう! 来年の決勝戦、お前と私とで、最高の試合をするんだ!!」

アンチョビ「別に結末はどっちでもいいんだ! 覇者黒森峰が栄光を奪い返したっていい! まったく無名のアンツィオが、新時代の扉を開いたっていい!」

アンチョビ「でも、いい試合をしよう西住! 観客みんなが総立ちで、拍手なんかしちゃうような試合をだ!!」

アンチョビ「見てるみんなが戦車道っていいなって思えるような試合をだ!!」

アンチョビ「それこそみほが、もう一度戦車に乗りたくなるような試合をだ!!」

アンチョビ「私とお前とでやるんだよ西住! やりなおすんだよ西住!!」

アンチョビ「黒森峰が弱くなったなんて口が裂けても言わせない! 西住にビンタなんか二度とさせない! でも黒森峰だけが戦車道じゃない!!」

アンチョビ「周りが黒森峰に追いついた! だからこれから、もっと戦車道は面白くなっていく!! もっといいものになっていく!!」

アンチョビ「そう思わせるような試合をだ!! 私はお前と、西住まほと二人でやりたい!!」

アンチョビ「それが!!」





アンチョビ「私達の戦車道の、第一歩だ!!」






まほ「…今年の黒森峰は」

まほ「ザンギエフ隊長とガイル隊長…二人の巨人の殴り合いの、間隙を縫って優勝をくすねていた去年までの黒森峰とは違う」

まほ「リトルの頃から私自らの手で鍛え、私と共に戦い抜いてきた精鋭だ」

まほ「間違いなく、ここ10年で最強の、黒森峰戦車隊と言える」

まほ「勝てるつもりか? 安斎」

アンチョビ「フン! 私を誰だと思ってる!? アンツィオのドゥーチェ・アンチョビだぞ!!」

アンチョビ「お前を下す戦術は、今や100や200は下らん!!」

アンチョビ「何せ私は、あの日からずっとお前のことだけを想って戦車道をしてきたんだからな!!」

アンチョビ「だから負けない! 私のアンツィオ戦車道は絶対に負けん! いや、勝つ!!」

まほ「そうか…だったら」ガタッ

まほ「今から私たちは敵同士。次に会うのは、戦場だな」

アンチョビ「…そうだ、次に会うのは戦場で、私たちは敵同士」

アンチョビ「でも、これは戦争じゃない。殺し合いなんかじゃ絶対ない」

アンチョビ「お互い全てを出し切って、持ってる全部でぶつかり合って、最高の勝負が終わったら」

アンチョビ「私はお前にパスタを茹でてやる。今よりもっと美味くなった、アンツィオの料理を振る舞ってやる」

アンチョビ「全部出し切りお腹を空っぽにしたお前に、腹いっぱい食わせてやる。私だって腹いっぱい食べる」

アンチョビ「そうやって、互いを労い讃えあうんだ」

アンチョビ「私達がやるのは戦争じゃない。殺し合いでも潰し合いでもない」

アンチョビ「なあ、西住!」










アンチョビ「一緒に戦車道やろう!!」









ラジオ「それでは今日のラストナンバー、アイドルがひたすらカラオケしてるだけのCDより」

ラジオ「新田美波・アナスタシアで『No.1』。マキハラノリユキさんの名曲だね。これ歌ってる時の二人、なーんか気になるなぁ」

ラジオ「『凛の気になるりん♪』本日のゲストはヒライケンさんでした。どうもありがとうございました」アリガトウゴザイマシタ

今回で第2部完結です。一番辛い思いをしていたまほを、きっと誰かが支えてたはず。

鬼哭街に堕ちそうなまほをチョビは皆から貰った全ての力で引っ張りました。
投下します。今回から第3部です。まほチョビの種に水をやります。








~~~~~~~~~~第三部・対決列島<The Battle Of Tanks!>~~~~~~~~~~







<高校2年の9月・黒森峰女学園学園艦・警備ゲート>

アンチョビ「でっ、出入り禁止ィ~~~~!?」

黒森峰風紀委員「先日機甲科よりアンツィオ高校関係者の一切の乗艦を禁止するよう要請があった」

黒森峰風紀委員「今後アンツィオ生を艦内で発見した場合黒森峰防諜プログラムⅠが適用されることになる」

黒森峰風紀委員「例外は一切ない。即刻アンツィオ艦に戻られよ」

ひな「そんな…!!」

ペパロニ「姐さん…」

アンチョビ「―――」

アンチョビ(いやいやちょっと待て! どうしてだよ西住!? なんで、なんでそんな!!)

アンチョビ(ちゃんと伝わってなかったのか西住!? いやそもそも私、言いすぎだったか!?)

アンチョビ(私はただ、お前と二人で戦車道をもっといいものにしていきたいって)

アンチョビ(そのために来年の夏、最高の試合をしようって)

アンチョビ(私はお前の味方でいたいって、一緒に戦車道やろうって)

アンチョビ(それだけ伝えられればいいって思ってたら、お前が予想以上に孔濤羅っぽくなっちゃってたから!)

アンチョビ(孔濤羅道をAvanti!しちゃってたから!)

アンチョビ(こっちも馬鹿野郎! 戻れ! 即刻戻れ! って…)

アンチョビ(それで、言いたいこと全部言っちゃって…)

アンチョビ(…でも、思い返せば何様のつもりだって感じだよな)

アンチョビ(戦車道戦車道言ってるけど、大会どころか練習試合すらできてないような学校のヤツが)

アンチョビ(黒森峰や西住流はおろか、戦車道全部にあれこれものを言うなんて)

アンチョビ(これじゃ、野次を飛ばした連中と一緒だ…)

アンチョビ(味方でいたいなんて言いながら…結局私も、あいつの敵になってるじゃないか…!!)

アンチョビ(あいつが辛い思いしてるって知っていながら、あいつを全部否定して…!!)

アンチョビ(…嫌だ)

アンチョビ(言い過ぎたのなら、謝りたい。伝わってないのなら、伝えたい)

アンチョビ(こんな…こんな終わり方は絶対に…!!)

アンチョビ「絶対に嫌だ!!」ダッ

ひな「ドゥーチェ!!」

黒森峰風紀委員「…戦術電光服、起動」バチィ!

ペパロニ「!!」ザッ

ペパロニ(風紀委員3人、姐さんにぶつかる前に全員…!!)ドドドドドド…!!

アンチョビ「ううううあ゙あ゙あ゙あああああっーーーー!!!」パタパタ





黒森峰隊員「千代ちゃんストーップ!!」




アンチョビ「!!」ビタッ

黒森峰隊員「あー、よかった間に合った! やっぱりここにいたよ千代ちゃん!」

アンチョビ「お前…!」

黒森峰隊員「はいはい風紀のみんなもバチバチ止める! チョビ取歌なんて私が絶対許さないよ!?」パンパン

黒森峰風紀委員「了解」スッ

アンチョビ「おいお前! これはいったいどういうことだ!? 私、西住に嫌われ…!」ジワッ

黒森峰隊員「ああ違う違う、そうじゃないよ千代ちゃん。これはなんというか、うーん…」

黒森峰隊員「黒森峰病、って言えばいいのかな?」

アンチョビ「黒森峰病? なんだよ、それ」

黒森峰隊員「やー、この間新体制の方針を決めるブリーフィングがあったのよ。色々ごたついてたせいで、まだだったからさ」

黒森峰隊員「そこでまほちゃんが…」



まほ「来季の仮想敵には新たに継続高校とアンツィオ高校を加えようと思う」



黒森峰隊員「って。継続はともかくアンツィオも? ってみんなしてざわついてたのよ」

黒森峰隊員「何ならアンツィオって戦車道あったの? なんて子もいてさ」

黒森峰隊員「料理対決かもよ? って言ったのはこの私だ」ビシィ

アンチョビ「オイ」

黒森峰隊員「そんな中、まほちゃん一人が大真面目な顔をして」



まほ「アンツィオ高校はこの2年間、打倒黒森峰だけを考え戦車道に打ち込んできた」

まほ「黒森峰の王座奪還にとって最大の、他の四強以上の脅威となる」

まほ「少しでも侮る気持ちがあるのなら、今ここで捨てて貰いたい」

まほ「私は、アンツィオとの戦いは、黒森峰戦車隊の総力を賭した戦いになることを想定している」



黒森峰隊員「ってさ」

アンチョビ「西住…」

黒森峰隊員「そしたら副隊長の逸見ちゃんが…」



エリカ「では、アンツィオ高校も黒森峰防諜プログラムⅠの対象に加えるということで、よろしいでしょうか?」



黒森峰隊員「って。言った瞬間、ブリーフィングルームが凍りついたよ」

黒森峰隊員「この訓練バカ、今いったい何言った? って。や、誰も口には出してないよ?」

黒森峰隊員「逸見ちゃん1年だけどムッキムキで超こえーもん、腹筋とかもうバッキバキだし」

黒森峰隊員「でも、言った瞬間逸見ちゃん自身もヤベッって顔してさ、慌てて『今の発言は取り消します』なんて言ったんだけど」

黒森峰隊員「嗚呼、時すでに遅し。まほちゃんはこないだまでみたいな光を失った瞳で『よく言ってくれたエリカ』ってね」

黒森峰隊員「果たして黒森峰の誰一人として望んでない、アンツィオ屋台の出入り禁止ってな状況が出来上がったわけさぁ」

黒森峰隊員「安くて美味いアンツィオ屋台を締め出すなんて、セルフ兵糧攻めもいいとこだよう…」ションボリ


アンチョビ「いやいやちょっと待ておかしいだろ!? 誰も望んでないんなら止めればいいじゃないか!」

黒森峰隊員「そこが黒森峰病なんだよ千代ちゃん…ほら、うちら骨の髄まで西住流でしょ?」

黒森峰隊員「少しでも勝利が近づくのなら、なんだってやっちゃう。というより、やらずにはいられない」

黒森峰隊員「どんなに些細なことでも、どんなに嫌なことでも、勝利の可能性が1%でも上がるのなら」

黒森峰隊員「気づいてしまってはやらずにはいられない。それが黒森峰病、西住流の宿命さぁ」ガックリ

アンチョビ「そっかぁ…」

黒森峰隊員「…まほちゃんのこと、嫌いにならないだげてね?」

黒森峰隊員「あの決勝戦からのまほちゃん、ホントに戦車だけになっちゃってさ」

黒森峰隊員「映画のげんげんみたいで、見てらんなかったもん」

アンチョビ「んん?」

黒森峰隊員「それが、こないだ千代ちゃんと会ってから、ちょっとだけ元気になって」

黒森峰隊員「戦車ばっかなのは相変わらずだけど、それでも確かに、目に光が戻った」

黒森峰隊員「たぶん、誰かがどうにかしなかったら、まほちゃんホントにひどいことになってたと思うから」

黒森峰隊員「だから、うちの方からこんな仕打ちしといてなんだけど」

黒森峰隊員「これからも、まほちゃんと友達でいてくれたら嬉しい、な…?」

アンチョビ「…フン! 私を誰だと思っている!? 私はアンツィオ戦車道のドゥーチェ・アンチョビだぞ!」

アンチョビ「これが西住の本気なら、堂々と正面から受けて立つまでだ!!」ビッシィ

アンチョビ「こんなことで怯むくらいなら、そもそも私は戦車道続けちゃいない! あんな屋台まで引いてさぁ!!」

アンチョビ「来年私はこの黒い牙城に攻め込んで、必ず西住の前に立つ!!」

アンチョビ「今年の決勝戦はアンツィオと黒森峰とで最高のヤツをやるんだ! それまで西住はお前に預ける! 頼んだぞ!!」バッ

黒森峰隊員「私ぃ!?」

アンチョビ「…いや、ホントに頼むぞ? 映画のげんげんって、黒野玄武のことだろ?」

黒森峰隊員「!!」ピキーン

アンチョビ「ホントに今の西住、ちょっと油断するとすぐ孔濤羅っぽくなりかね…」

黒森峰隊員「何!? 千代ちゃんも神速一魂好きなの!?」ガシィッ

アンチョビ「うわっ!? な、なんだよ!? なんだよいきなり!?」ビクッ

黒森峰隊員「鬼哭街のげんげんよかったよねー! もう血ぃドッバドバ吐いちゃって、セクシーエロいっ! 危うく失神するとこだったよ私は!」ブンブンブンブン

アンチョビ「やーーめーーろーーーゆーーーらーーーすーーーなーーーーっ!!」ブンブンブンブン

アンチョビ「私は別に、あの映画だって黒野玄武と葛之葉雨彦が出てたドラマが好きだったから見に行っちゃっただけで!」ジタバタジタバタ

アンチョビ「お前みたいに特定のアイドルが好きってわけじゃない! そんな仲間を見つけたみたいなテンションで掴むな! 放せ!!」ジタバタジタバタ

黒森峰隊員「ありゃ、残念。せっかく仲間が増えたと思ったのになぁ」パッ

アンチョビ「はぁ…はぁ…くっそ、お前中学ん時より力強くなったな? こないだ履帯運びやった時には手伝いに入った割に私と一緒にぐったりしてたのに」

黒森峰隊員「うちの履帯は重いからねぇ、自然と鍛えられちゃうわけさ。これでも黒森峰じゃみほちゃんの次に非力だったんだぜ?」

黒森峰隊員「まあ…今では黒森峰で一番非力な子になりましたがね」トホホ

アンチョビ「でも、西住との付き合いなら一番長いだろ? 頼むぞ、ホント」

黒森峰隊員「んー…まあ、やれるだけやってみるよ。やれるだけね?」

アンチョビ「オイ! なんだよそのはっきりしない返事!? あっ! まさかお前!!」

アンチョビ「やめろよな!? ボロボロの西住見てセクシーとかエロいとか言うの! そんなの絶対ダメなんだからなーーーーっ!?」

黒森峰隊員「み、見ないよそんな! そんな邪な目でまほちゃん見てたりしたらまず逸見ちゃんが黙ってないもの!!」

黒森峰隊員「超怖いんだぞ逸見ちゃん!? 趣味なんてボクササイズだぞ!? 暇さえあればサンドバック叩いてんだぞぉ!?」

アンチョビ「そ、そうか。ならいいんだ」

アンチョビ(そんなに怖いのか逸見ちゃんって子…ボクシングでムキムキったら、鷹村守みたいな感じなのか?)

アンチョビ「とにかく! 頼んだからな!? それと、戦車道もちゃんとやれよ!?」

アンチョビ「こんだけ決勝決勝言っといて! あっさり2回戦負けとかやらかしたら絶対許さないからな!?」

黒森峰隊員「オッケー! そっちはバッチリ任された!」

黒森峰隊員「ま、うちとアンツィオがやれるとしたら多分1回戦だろうけどさ」

アンチョビ「何だと!? うちはそんなに弱くない! いや、強い! やるなら絶対決勝戦だ!!」

アンチョビ「おい行くぞペパロニ! カルパッチョ! 次西住と会うのは、夏の全国大会決勝戦!!」

アンチョビ「屋台ができないなら帰って戦車の特訓だ!!」



ペパロニ「何言ってんすか、姐さん」



アンチョビ「へ?」

ペパロニ「今日分の材料捌いてからじゃないと帰れないっすよ。大赤字ッス」

ペパロニ「戦車乗れなくなっちゃうッスよ?」

アンチョビ「ええっ!? ちょっと待てうちってそこまでカツカツなのか!?」

ペパロニ「ま、戦車乗れなくなるってのはウソですけど、今日分の材料捌かなくちゃってのはホントっす!」

ペパロニ「食材は鮮度が第一っすからね! ほら姐さんも準備しちゃって下さい!」

アンチョビ「そ、そんなこと言ったってめっちゃ怖いクローンみたいな風紀委員の人達がゾロゾロと…」

ひな「この辺ならどうですか?」ガラガラ

黒森峰風紀委員「いや、もう少し左…そう、ここだ。ここならアンツィオ側だし、屋台があっても通行の邪魔にならない」

黒森峰風紀委員「というわけで特盛肉増しを人数分頼む。電光服を使うと腹が減って困る」

黒森峰隊員「あっ、私も私も! 大盛肉増しひとーぉつッ!」

ひな「…だ、そうですが、どうしますドゥーチェ?」

ひな「黒森峰に食わせるパスタなんかねぇ! なーんて、言っちゃいます?」

アンチョビ「っ、そんなの…」



アンチョビ「そんなの答えは、決まってるだろーーーーーーーっ!!」






アンチョビ「みんな寄っといでーっ! アンツィオ名物鉄板ナポリタンだよーーーーっ! 美味しいパスタだよーーーーーっ!!」




今回は以上です。ありがとうございました。
ちなみに、このSSでは直下履帯子はまほと同い年設定です。

投下します。ムキムキだしバキバキだけどモリモリではないからセーフ。


<高校2年の1月・熊本・西住邸周辺>

まほ(…疲れた)

まほ(お母様に付き添われての、黒森峰隊長としての挨拶回り)

まほ(宗家の師範方や後援会、OG会、スポンサー企業…会う人会う人全てが、私に求めてきた)

まほ(来年こそは優勝を、黒森峰に栄冠を、絶対勝利を西住に、と)

まほ(当然だ。理由はどうあれ、私は負けたのだ)

まほ(皆で必死に積み上げてきた10連覇という栄光、私は全て台無しにしてしまったのだから)

まほ(それでも私を叩こうともせず、変わらぬ支援の約束と、励ましの言葉をくれたこと)

まほ(感謝こそすれ、それを重荷に思うことなどあってはならない)

まほ(あってはならないのだが…)

まほ(疲れた…)

まほ(年末年始の自主練期間。そこまでのハードワークをした覚えもない)

まほ(人と会う程度で疲れ果てるほど、軟な鍛え方をしてきたつもりもない)

まほ(…人から期待されることにも慣れていたはずだ。私はこれまで、ずっとそうしてきたのだから)

まほ(生まれた時から17年間、ずっと…)

まほ(…まさか、たかだか4か月程度でこうも弱るなんてこと)

犬「ワンッ!」

まほ(……)

まほ(いや、理由はわかっている。原因なんてわかりきっている)

まほ(みほだ)

まほ(みほがもう、ここにいない。ここにもう、帰ってこない)

まほ(それだけで、心がもう息苦しい)

まほ(喪って初めて分かった…私はみほを守るつもりが、私もみほに守られていたんだ)

まほ(みほと居る時だけ、私は戦車を降りられたんだ)

まほ(みほを喪った私は、もう戦車から降りられなくなってしまったんだ)

まほ(学校に居ても、隊に居ても、家に帰っても、こうして犬の散歩をしている時でさえ…)

まほ(まるで直下の部屋に飾ってある、がんだむの戦車みたいに)

まほ(心が、もう息苦しい)

犬「ワンワンッ!」

まほ(……)

まほ(この息苦しさをどうにかする作戦が、一つだけある)

まほ(だが、それをすることは許されない。西住流を継ぐ者として、戦車道を嗜む者として)

まほ(そしてそれ以上に、みほの姉として。みほを救えなかった、不甲斐ない姉として)

まほ(…それよりなにより、人としてもう、ダメだ)

まほ(それでも、心が、もう、息苦しい)

まほ(明後日の朝には学園艦に帰る。それまで耐えれば、私の勝利だ)

まほ(学園艦に帰ってしまえば、この欲求に苛まれることもない)

まほ(大丈夫、耐えられる。耐えることは、得意だ)

まほ(けど…)

まほ(耐えきった先に、何があるのだろう?)

まほ(このまま学園艦に帰って、隊に戻って…その先私は、どうなってしまうのだろうか?)

まほ(今までどおりに、ちゃんとやれるのだろうか?)

まほ(……)

まほ(心が、もう)

犬「ワンワンワンッ!」ダッ

まほ「あっ、おい待て」



ワイワイガヤガヤ

アンチョビ「みんな寄っといでーっ! アンツィオ名物イタリアン屋台だよーーーーっ! 戦車のパスタだよーーーーーっ!!」

ワイワイガヤガヤ



まほ「んん!?」

ひな「ドゥーチェ! あれ!! 来ましたよ西住さん!」

アンチョビ「おお! やっぱり来てくれたか!」

ペパロニ「よかったっすねぇ、姐さん」

まほ「安斎!」

アンチョビ「久しぶりだな、西住! あけましておめでとう!」

まほ「ん、あけましておめでとう…いや、違う、安斎。どうしてこんなところに?」

まほ「お前の実家は、愛知じゃないのか?」

アンチョビ「フッフッフ、我がアンツィオ戦車隊はこの冬の間秘密の強化合宿を行った!」

アンチョビ「その名もアンツィオ対決列島! この2ヵ月間戦車屋台で日本中を駆け回ったんだ!」

アンチョビ「…まあ、黒森峰ユースのアレを参考にしてな? 今日はその締めくくりだ」

まほ「2ヵ月間って…学校は? それに正月だって」

ペパロニ「学外実習の申請出してちゃんと稼いで帰れば、うちは単位貰えるスよ、西住さん。アンツィオは商人の学校っすからね」

ひな「お正月は私の実家でちゃんとしましたよ。ドゥーチェもペパロニも別にいいって言うから」

ペパロニ「うちの実家は年末年始忙しいからなぁ。行っても邪魔っつわれるだけだし」

アンチョビ「うちの実家も正月は誰もいないんだ! あ、弟は帰ってたかも」

ひな「まあおかげ様で私は存分に、たかちゃん成分を補充できたんでいいですけど…何ですか? その目」

アンチョビ「いや、まあ…うん」

ペパロニ「ひなの意外な一面を発見、っつーか…ねぇ?」

ひな「別にいいじゃないですか! 私だって四六時中、鋼の戦車女子ってわけじゃないんですよ?」

ひな「実家に帰って幼馴染に会えば、あんな感じにもなります!」

アンチョビ「いや、別に悪いとは言ってないぞ! うん! そういうのは大事だ!」

ペパロニ「つーかお前、最近は言うほど鋼の戦車女子でもねぇだろ? 割と寝坊もするようになったし。私と殴り合いしたときと比べてだいぶ緩々に…」

ひな「うっ…来年からはビシビシ行くから。ドゥーチェの側に立つ鋼の副官に戻るから」

ペパロニ「どーだかねぇ…はいよっ! 秘伝スープパスタにアラビアータお持ち帰り用、お待ちどう!」オオウマソー! コレホントニヤタイノパスター!?

まほ「…それで、私に何の用だ? 合宿の締めくくりと言ったが、まさかこの西住のお膝元で、私に勝負でも挑むつもりか?」

アンチョビ「フッフッフ、そう逸るなよ西住。お前との決着は全国大会の決勝戦でちゃんとつける」

アンチョビ「まあ、どうしてもと言うのならこの場で受けてやらんでも…いや、止めだ止め。せっかく会えたってのに、こんなんじゃダメだ」

まほ「ん?」

アンチョビ「ほら、学園艦に帰ったらまた敵同士でさ。今年は2月とか3月にも多分会えないだろ? 黒森峰の防諜何とかがあるから」

アンチョビ「そう考えたら、なんか寂しくなっちゃって、辛くなっちゃってさ?」

まほ「!!」

アンチョビ「熊本行けば、ひょっとしたら会えるかもって。それで最後にここに寄ってから帰ることにしたんだ」

アンチョビ「ホントに会えるなんてな…うれしいよ、西住」

まほ「安斎…」

アンチョビ「鉄板ナポリタン大盛卵増しお待ち! …さ、次は西住の番だな。何にする?」

アンチョビ「ペパロニの営業努力で、メニューもかなり増えたんだ! どれもとびっきり美味しいからな!」

まほ「いや、安斎、今日は…」





しほ「まほ?」

ひな「!!!???」

アンチョビ「ん?」

まほ「お母様」

アンチョビ「…ぃい゙っ!?」

ペパロニ「……」

まほ「どうしてこちらに…?」

しほ「…この西住の地に、断りもなくイタリア戦車が入り込んでいると聞きました」

しほ「まさか…貴女だったとはね。アンツィオ高校のドゥーチェ・アンチョビ」

アンチョビ「ぅええっ!? わ、私のこと、ご存じで…!?」

しほ「連盟でも話題になっているわ。どこの支援も受けず、全くのゼロから戦車道を立ち上げようとしている学校があると」

しほ「どこの傘下にも入ろうとしない、戦車道があると」

まほ「っ、お母様!」

しほ「これが戦車屋台…セモヴェンテは公道用にカスタマイズしたのね?」

アンチョビ「えっ、ええ、まあ…もっ、もちろん試合の時には元に戻しますよ!? ルール、いえ掟ですからね! 鉄の掟鋼の心って! あっはは!」

しほ「……」

アンチョビ「はは…え、えと…その…」

アンチョビ(うゔあ゙ぁああああああっ!? マズイマズイマズイ!! これはマズイぞぉ~~~~っ!?)

アンチョビ(そうだよなぁ! 西住の土地にイタリア戦車で入り込んだりしたらこうなるよなぁ! なんで気づかなかったんだよ私のバカ!)

アンチョビ(どうするどうするどうする!? アンツィオの学外実習許可証があれば大体の問題はクリアできるけど!)

アンチョビ(こういうシマとか縄張りとかそういう問題までクリアできるのか!? 多分そういう問題じゃないよなコレ!?)

アンチョビ(あっ、アレか!? このままじゃ私達、海か風呂かに沈められるのか!? いっ、嫌だぞそんなの!)

アンチョビ(コンクリ塗れも泡塗れも、どっちも嫌だ! 絶対に!!)

アンチョビ(いや、私はいい! せっ、せめてペパロニとカルパッチョだけでも!!)

しほ「…菊代」

アンチョビ(っ、ひぃいいいいいいいいっ!!!)

しほ「今日はここで食べていきましょう」

菊代「はい、奥様」

アンチョビ「…へ?」

まほ「お母様?」

しほ「まほも掛けなさい。ご近所様の目もあります。立ったまま物を食べるなど許しませんよ」

まほ「はい」

アンチョビ「……」

しほ「メニューはこれね。まほ、おすすめを教えなさい」

まほ「…申し訳ありません、お母様。私も、今のメニューを見るのは初めてで」

アンチョビ「どれも全部美味しいですよ! うちは屋台ですけど、美味いと思えたものしか出しませんから!」ズイッ

ひな「ドゥーチェ!?」

アンチョビ「なんでしたら、上から全部順番に作りますよ。もちろん1皿の量は減らして」

アンチョビ「それで3人でちょっとずつ、シェアして食べるとかやるのはどうでしょう!?」

まほ「安斎!?」

アンチョビ「せっかく3人いるんだからそうしろよ西住! 私達が精一杯工夫して増やしたメニューだぞ? 私はお前に、全部味わってもらいたい!」

アンチョビ「今日を逃したら、次は夏大会が終わるまで食べさせてやれないんだからな!?」

まほ「待て、待て安斎、それはいい。それはわかってる。でも今は、お母様が」

しほ「そうね、そうしましょうか」

まほ「お母様!?」

しほ「ただし、量を減らすなどという気遣いは無用です。全部1人前で出してちょうだい」

アンチョビ「うへへ、了解であります大隊長殿! 行くぞカルパッチョ!」

ひな「りょ、了解ドゥーチェ!」

アンチョビ「頼むぞペパロニ!」

ペパロニ「任せてください姐さん!! アンツィオのマカロニ魂、見せてやりましょう!!」

アンチョビ「おお、そうだ! 行くぞ二人とも! 見せつけてやろう!!」




アンチョビ「これが私の、ドゥーチェ・アンチョビのアンツィオ戦車道だぁーーーーーーっ!!!」

しほ「ふぅ…こんなに思い切りイタ飯を食べたのなんて、学生以来ね」

アンチョビ「やー、私もこんなの初めてでしたよ。なぁ、ペパロニ?」

ペパロニ「うっす、見事な食べっぷりでした! サンダースの運動部だって、並の連中じゃこうは行きません!」

しほ「当然です。まだまだ、老い衰えるつもりなど毛頭ありません」

しほ「2人とも、食べたりないということはありませんか? 遠慮は要りません、足りなければ追加の注文を」

まほ「大丈夫です、大丈夫ですお母様」

しほ「そうですか。菊代は?」

菊代「私も、十分に頂きました。奥様」

しほ「そう…それでは」



西住一家「「「ごちそうさまでした」」」



しほ「…ところで安斎さん、一つだけ聞いてもいいかしら?」

アンチョビ「なんでしょう?」

しほ「戦車道は、楽しいですか?」

アンチョビ「…はい! とっても!」

しほ「そう、それはよかった…まほ」

まほ「はい、お母様」

しほ「私達は先に帰ります。貴女もあまり遅くならないように」

しほ「行くわよ、菊代」

菊代「はい、奥様」

菊代「今日は本当に、ごちそうさまでした」

<高校2年の1月・熊本・西住邸周辺>

しほ「…どう見る? 菊代」

菊代「とても美味しかったですよ、奥様。屋台の強みを生かしていけば、東京でも十分戦えるかと」

しほ「菊代」

菊代「…安斎さんとペパロニさんは私達と喋りっぱなし。あとの一人も、一言も声を発することなく黙々と」

菊代「戦車での長旅だというのに、屋台の器具は固定すらされていない」

菊代「スープパスタのブイヨンは、注ぎ足し注ぎ足しの秘伝の物と言っていましたね」

菊代「…恐らく、すでに」

しほ「そう…」

<高校2年の1月・熊本・西住邸周辺>

アンチョビ「ふぅ…それじゃ、ぼちぼち店仕舞かな」

ペパロニ「あ、じゃあ店の方は私がやっときます。ひなは戦車の方を…って、いつまでへにゃってんだよひな!?」

ひな「うう…無理言わないでよペパロニ。さっきまでいったい誰の相手をしてたと…」フラフラ

ペパロニ「誰って、西住さんのお袋さんだろ?」

ひな「っ、ペパロニあなた知らないの!? 今の方は! 西住流次期家元、西住しほ師範!」

ひな「全国大会での島田流家元島田千代との激闘や、高校戦車道連合を率いての女子では初の天挑五輪大武會出場!」

ひな「他にも伝説を挙げればきりがない! 戦車道をやるものにとっては憧れの、雲の上の存在よ!」

ペパロニ「そ、そんなにスゲー人だったのか! でも、うーん…?」

ひな「なぁに? その顔?」

ペパロニ「いや、なんつーか…私ら、フツーに喋っちゃってたけど? 何か割と普通の、友達のお母さんっつーか」

ひな「っ、あなた達はあの人の凄さを知らないからよ! 全盛期のしほさんはマウント斗場にも勝ったんだから!!」

ペパロニ「えっ!? マジ!? うおおそりゃスゲー!!」



まほ「安斎」

アンチョビ「ん? どうした西住? やっぱり食べ足りなかったか?」

まほ「そんなわけあるか。それよりお前、今日の宿は? どこか当てがあるのか?」

まほ「無ければ、うちに」

ひな「!!」ビックゥ!

アンチョビ「あー…その申し出は嬉しいんだがな、西住」

アンチョビ「実は時間がかなりやばい。明日の朝までに佐多岬につかないと、新学期までにアンツィオ艦に帰れないんだ」

アンチョビ「だから今夜は、寝ずに走ります。過酷な合宿の、スタートです」グッ

まほ「…そうか」

アンチョビ「なんだ西住? そんな顔して…寂しいのか?」ニヤッ

アンチョビ「だったら2月も食べに来い。連絡橋のこっち側で、また屋台やるからさ?」

まほ「…いや、そういうわけにはいかない。私は黒森峰の隊長だ」

まほ「言い出した私がそうでは、皆に示しがつかないだろう」

アンチョビ「そっか。まあ、そうだよな。本気なんだもんな」

アンチョビ「嬉しいよ西住、ようやく私は、本気のお前と向き合えるんだな」ニコッ

まほ「!!」

アンチョビ「だがな西住! うちだって負けちゃいないぞ、42人だ」

まほ「42人?」

アンチョビ「この合宿で色んな中学校を回ったんだ。42人、来年は今ある戦車を全部動かせるだけの人数が揃う」

アンチョビ「これでようやく、世代屈指の技巧派策士ドゥーチェ・アンチョビの真髄をお見せできるというわけだ!」

アンチョビ「喜べ西住! そして恐れおののけ震えて眠れぃ!!」ビッシィ

まほ「……」

アンチョビ「…いや、震えて眠るってのはダメだな。ちゃんと眠れよ? ぐっすり眠れ」

アンチョビ「お前はただでさえ、どうやったって頑張り過ぎちゃうんだからな?」

ひな「ドゥーチェ! そろそろ時間が!!」

ペパロニ「行きましょう姐さん!」

アンチョビ「それじゃ、またな西住。ちょっと寂しいけど、次に会うのは夏大会だ!」

ギャリギャリギャリギャリ…

まほ「……」


<高校2年の1月・熊本・西住邸>

まほ(…解った)

まほ(あの日、私の隊が2輌の損害を出したとき)

まほ(私は安斎に勝てなかったと、そう思った)

まほ(だから私は、安斎との約束に拘った。翌年には1軍を率いて再び名古屋を訪れ)

まほ(豊田のシニアチームも完膚なきまでに叩きのめした)

まほ(プラウダに行くと言うのなら、そのプラウダ高校も全国大会決勝戦で打ち破った)

まほ(そしてアンツィオ高校。安斎の準備が整うまで、私は待ち続けた)

まほ(偏に、あの日の約束を果たすために)

まほ(だが、違ったんだ。本当はそうじゃなかったんだ)

まほ(あの日、私の隊が2輌の損害を出したとき)

まほ(あいつは私を庇ったんだ。叱責される私を)

まほ(戦車道では当たり前で、西住を継ぐ者としては当然で)

まほ(それでもあいつは、私を庇ったんだ)

まほ(戦車に乗らないあいつは、戦車の中にいる私を)

まほ(生まれて初めて、私は誰かに、庇われたんだ)

まほ(西住流も黒森峰も関係ないと、私自身を庇ってくれたんだ)

まほ(みほを喪った時にも、西住流の私からさえ、私のことを庇ってくれたんだ)

まほ(西住流を継ぐ者として、黒森峰の隊長として、強く気高くある私の中で)

まほ(それを息苦しく、辛いと思う私だって、確かに存在したんだ)

まほ(私すら気づいていなかった、それに気づいたのはきっと、みほと安斎だけだったんだ)

まほ(だから私は、安斎を…)

まほ(……)

まほ(安斎が、必要だ。戦車に乗ったドゥーチェ・アンチョビではない)

まほ(安斎千代美が、私には必要なんだ)

まほ(黒森峰に再び栄冠をもたらす為にも、常勝不敗・西住流の戦車道を体現する為にも)

まほ(みほを喪った今の私には、今の弱い私には、再び強い私に戻るためには)

まほ(安斎千代美が必要なんだ)

まほ(隊に戻ったら、仮想敵からアンツィオ高校を外そう)

まほ(いや、安斎を黒森峰に呼ぼう。望むのなら、後輩二人も一緒でいい)

まほ(それで、一緒に戦車道をやるんだ)

まほ(大体なんだ、42人って。ほぼ1年生だけのチームでどうやって戦うつもりだ?)

まほ(他の学校ならいざ知らず、この私が率いる黒森峰戦車隊を相手に)

まほ(そもそもお前は何回約束を破った? というより本当に約束を守る気はあったのか?)

まほ(名古屋の時も豊田の時もプラウダの時も、挙句アンツィオでも結局2年間、パスタを茹でてただけじゃないか)

まほ(きっと今回だってどうせ、期待させるだけさせておいて1回戦か2回戦あたりであっさり負けるに違いない)

まほ(…いや、止そう。安斎はずっと、無理をしてきたんだ。私のために、無理をしてくれたんだ)

まほ(私が戦車に乗っていたから、戦車から降りられなかったから、前に進むことしかできなかったから)

まほ(追いつくために安斎は、無理をして戦車を用意したんだ)

まほ(アンツィオ高校なんかに行って、屋台を引っ張りパスタを茹でて、他にもきっと、色々な、私の知らない苦労をして)

まほ(それだけやって、やっとの思いで、あんな短砲身のセモヴェンテ1輌を用意して)

まほ(それで私に、会いに来てくれたんだ。私のために)

まほ(…今度は、私が迎えに行く番だ。もう二度と、安斎に苦労をさせはしない)

まほ(ティーガーだろうがパンターだろうがエレファントだろうがマウスだろうが、好きなだけ乗せてやる)

まほ(みほの代わりにお前を求める。私はきっと酷いやつなんだろう)

まほ(そのことを私は忘れない。それでも安斎、私にはお前が必要なんだ)

まほ(だから私は、お前に私の全てを捧げる。私の全てをお前にやる)

まほ(だから安斎、どうか、私を…)





しほ「まほ、話があります」


しほ「隊と共に暮らし、戦車と共に旅をする」



しほ「人馬一体、島田の境地に至る修行」



しほ「私達西住が、決して敗れてはならぬ相手」



しほ「全国大会で、アンツィオ高校と当たることがあれば」



しほ「西住流を継ぐ者として、全力で叩き潰しなさい」



しほ「いいですね、まほ」




まほ(なんで…どうして…どうしてお前は、島田流に行ってしまったんだ…?)




まほ(どうして…どうして私は、西住流なんだ…?)




まほ(あんざい…おまえは…ひどいやつだ…)



しほ(私はみほを、実の娘を、この手で殺めた)

しほ(本当は、みほが正しいと解っていたにも関わらず)

しほ(西住流を、戦車道の未来を守るために)

しほ(この罪は消えない。死ぬことすら私には許されない)

しほ(ならばせめて、私は戦車道を守ろう。西住を守ろう)

しほ(みほの犠牲を、無駄にしないためにも)

しほ(私の残りの人生の全てを賭して)

しほ(それが私の背負いし罰)

しほ(私にできる、私に許された、ただ一つの償い)



しほ(けれど、もし…)

しほ(もしもう一つだけ許されるのなら…)

しほ(まほだけは、一人残った、まほだけは…)

しほ(どうか…)


まほ(今夜は、みほの部屋で寝よう)

まほ(それで、全てを忘れよう。今夜…いや、今日と明日)

まほ(みほに包まれて眠る。それだけで、私は強くなれるから)

まほ(強い私に戻れるから)

まほ(私にはもう、何もない。西住流の他に、何一つとして残ってはいない)

まほ(なら、今日と明日…いや、この家に帰ってきたときだけ)

まほ(それで私は、ちゃんとやれるから。ちゃんと耐えていけるから)

まほ(…形見を一つだけ。それでこの家を出ても、学園艦に帰っても)

まほ(隊に戻っても、皆の望む西住まほでいられるから)

まほ(みほのぬくもりを、一つだけ)

まほ(それで、元の私に戻れるから)




まほ(また、頑張れるから)









―――――この無常の世界は守りきれなかったものばかりさ









ラジオ「おーいえー! って、2番はおーいえー言わないんだね、残念」

ラジオ「というわけで本日のラストナンバー、お送りしましたのはアイドルがひたすらカラオケしてるだけのCD2より」

ラジオ「南条光で『DIE SET DOWN』でした。うん、なんだかやけくそっぽさが楽しい歌だね。おーいえーのとことか。今度私も、歌おうかな」

ラジオ「というわけで『凛の気になるりん♪』本日のゲストはオダユウジさんでした。どうもありがとうございました」アリガトウゴザイマシタ



ペパロニ「…姐さん」

アンチョビ「なんだペパロニ?」

ペパロニ「何か今日、西住さんと会えてよかったっすね。本当に」

アンチョビ「そうだな。ホントによかった」

ペパロニ「…お母さんも、案外ふつうっしたね」

アンチョビ「そうだな」

ペパロニ「最初、姐さんが前みたいに『ブッ殺した』モード入っちゃうんじゃないかって、心配してたんすよ、私」

アンチョビ「はぁ!? なんで!? 私はむしろ殺されるんじゃないかって…」

ペパロニ「でも、なんつーか…普通でしたね、ホント」

アンチョビ「…そうだな、なんでだろうな。なんか、食わせなきゃって使命感、湧いたよな?」

ペパロニ「あ、やっぱり姐さんも感じました? 私もこう…」

ペパロニ「こいつにスパゲティを食わしてやりたいんですがかまいませんね! みたいな、魂の叫び、感じたっす」

アンチョビ「…多分、似たもの母娘なんだろうな」

ペパロニ「っすね」

アンチョビ「…頑張るぞ、ペパロニ。今年の全国大会、絶対に、西住と最高の試合をやるんだ」

アンチョビ「こうして楽しくやれてるのも、料理上手くなったのも、友達ができたのも」

アンチョビ「お前たちと出会えたのも、西住を好きになれたのも」

アンチョビ「全部戦車道のおかげなんだ。私の全部は、戦車道に貰ったものなんだ!」

アンチョビ「だから今度は、私が戦車道に恩返しする番だ。私達のアンツィオ戦車隊の手で、新しい戦車道の世界を見せてやるんだ!!」

ペパロニ「了解っす、姐さん。明日からまた、頑張りましょう」





アンチョビ「…おい」

アンチョビ「寝たのかペパロニ!?」

ペパロニ「ZZZ…」

アンチョビ「おい寝るな! 起きろペパロニ! 話をしてくれよペパロニーーーっ!!!」

ペパロニ「ZZZ…」

アンチョビ「いやホントに頼むよペパロニ! ドゥーチェももう限界なんだって! 一人で運転なんてしてたら、もう寝ちゃうんだって!!」

ペパロニ「ZZZ…」

アンチョビ「くっそう、ダメか! ひなも早々に、真っ先に寝ちゃったし!!」

ひな「すぅすぅ…」

アンチョビ「なんだよ一番体力がありそうな顔して真っ先に寝るとか! お前ホントに、たいっがいゆるゆるだぞ!」

ひな「んぅう…」ゴロン

アンチョビ「何が鋼の戦車女子だよ! 入学当初の、あのクールでかっこいい副官カルパッチョはどこに行っちゃったんだよーーーーっ!!」




アンチョビ「…くっそう、こんだけ騒いでもまったく起きない。というより私も…眠く…」コクリ

アンチョビ「あきらめて…ここをキャンプ地とする…か…?」コクリ

アンチョビ「…いいやダメだダメだダメだ!!」ブンブン

アンチョビ「私達は帰るぞ! アンツィオに帰るぞ! 絶対に帰るぞーーーっ!!」

アンチョビ「でけでん! っかわのみなぁもぉにぃい! ほおっぺたちかづけて…ぇ…」



カクン



ガシャン!!

アンチョビ「!!」ビクッ

グラサンの屈強な黒のカリスマ「ガッデム! 免許持ってんのかゴルァ!!」

アンチョビ「うああああああっ! や、やっちゃったぁーーーっ!!?」




――――この後、事情を聴いた心優しいグラサンの屈強な黒のカリスマが佐多岬まで運転してくれました。

今回は以上です。ありがとうございました。

投下します。全て理由あってのことだったのは間違いありません。

<高校2年の3月・大洗女子学園艦・校門前>

ペパロニ「…とりあえず昼の波はおしまいみたいっすね、姐さん」

アンチョビ「あとは放課後までパラパラと、か…」

ペパロニ「結構渋い感じっすねぇ、大洗。放課後はトッピング増し無料で在庫掃いちゃいましょう」

アンチョビ「そうだな、こうなったらちょっとでもお客さんに喜んで貰おう。明日の仕入れもちょっと考えないと…はぁ」

ペパロニ「…残念っしたね、姐さん。今年の2月は、西住さんに会いに行けないで」

アンチョビ「こうなる覚悟はしてたよペパロニ。アンツィオ屋台は戦車道だけじゃないんだ」

アンチョビ「黒森峰が出禁だって話なら航路を変えてでも他を探すのが当然だろう?」

ペパロニ「…っすね」

アンチョビ「あっはっは、そんな顔するなよペパロニ! どのみち西住は来なかったさ! 何せ今のアイツは本気の西住まほだからな!」

アンチョビ「今私達にできるのは、じゃんじゃんパスタを回して演習費を稼ぎ出すこと! 何せ4月になれば一気に大所帯だ!」

アンチョビ「今まで埃被ってた残りの戦車たちも、全部動かせるようにしてやらなくちゃだもんな!」

アンチョビ「…まあ、カルパッチョ抜きの二人体制で余裕で回せてる時点で、売上は渋いことになりそうだけどなぁ」ガックリ

ペパロニ「そういやうちはスパイとかいいんすか? ひなのヤツ、整備にかこつけて格納庫にたかちゃん連れ込んでると思いますけど」

アンチョビ「大丈夫だ。大洗に戦車道はないし、それにそもそもうちの戦車の編成なんて、調べる気になればすぐ調べられるだろ」

アンチョビ「誰かさんがTVで宣伝しちゃった所為でな」ギロリ

ペパロニ「あっはっはっは! そういやそうでした! やー、懐かしいっすねぇ!」

アンチョビ「ペーパーローニー! まあでも、そのおかげでその後の勧誘が上手く行ったってのはあるけどな」

ペパロニ「でしょう? やっぱ嘘なんてついてもダメなんですって!」


杏「やあやあ、チョビ子ゥー!」


アンチョビ「!!」

ペパロニ「あぁん? なんだテメェ、姐さんをチョビ子呼ばわりなんて」ギロリ

桃「…!」ザッ

アンチョビ「お、おい止せペパロニ! 生徒会長の角谷さんだぞ!!」

杏「かーしま」

桃「はっ」スッ

アンチョビ「ほっ…」

杏「そんで、まだやってるかいチョビ子? 生徒会の仕事で、お昼ずれちゃってさぁ」

アンチョビ「お疲れ様です、角谷会長。まだまだやってますよ。何にします?」

杏「あー、そんな堅苦しくしなくていいよー。タメ年なんだからさぁ」

ペパロニ「えっ、姐さんとタメ年!? オメェ、1年じゃねぇの!?」

アンチョビ「なっ、何言ってるんだこのバカロニーーーーーっ!? すみません会長! こいつペパロニなもんで!!」

杏「あっはっはっは! いいよいいよ。そんじゃ…この鉄板ナポリタンを」



杏「肉抜き卵抜き自家製魚肉ソーセージトッピング山盛りで」




ペパロニ「!!」

アンチョビ「はい! かしこまり…」

ペパロニ「姐さん!!」ガシッ

アンチョビ「…ペパロニ?」

ペパロニ「下がっててください、姐さん。この人の相手は、私がします」ドドドドドド

杏「んっふっふっふ…!」ゴゴゴゴゴゴゴ

アンチョビ「えっ、ちょっと待てなんだこの空気!? お、おいペパロニ!?」ビクビク

桃「お前には私の相手をして貰おうか、安斎」ズズズズズズ

アンチョビ「ぴぃっ!? こ、こっちにも来たァ!? や、止めろ! そういうの無理なんだって!」

アンチョビ「ドゥーチェそういうノリは無理なんだってばぁーーーーーーっ!!!」




杏「ふぃー、ごっつぉさん。美味しかったよ」

ペパロニ「へっへっへ、でしょう? これが本物のナポリタンっすよ会長サン」

杏「いい後輩連れてんだねぇ、チョビ子。この子の腕ならどこでもやっていけるよ」

アンチョビ「ふふん! そうだろうそうだろう! うちの自慢の後輩だ!!」

ペパロニ「うへへ、姐さんに褒められた」

杏「そんでさ、こんだけ美味しいナポリタンをこの値段で出して…実際どうなのよ?」

アンチョビ「どうって、何がだ?」

杏「ちゃんと儲かってんの? チョビ子んとこはパスタ道科ってわけじゃないんでしょ?」

アンチョビ「当然だろ! 全ては戦車道全国大会に出場、いや優勝するためにやっていることだ!」

アンチョビ「まあいろいろ無茶な合宿とかしたせいで結構カツカツだけど、それでも演習費くらいなら余裕で稼げてるぞ!」

アンチョビ「そして今のペースなら念願の秘密兵器導入だって夢じゃあない! 相手チームの恐れおののく姿が目に浮かぶわ!!」ビシィ

ペパロニ(姐さんも結構ノリと勢いで余計なこと言っちゃうよなぁ)

アンチョビ「でもなんでそんなこと聞くんだ角谷? なんか欲しいもんでもあるのか?」

杏「んー、うちでも戦車道やろうかなって」

アンチョビ「!!」

杏「色々聞きたいことがあるんだよね、アンツィオ戦車道の救世主ドゥーチェ・アンチョビにはさ」

杏「それも込みで大洗の航路をアンツィオに寄せ…」

ガシッ

アンチョビ「戦車道はいいぞ! これからどんどん盛り上がっていくスポーツだ!」

アンチョビ「角谷、一緒に戦車道やろう!!」ギュッ

杏(うおっ、ちけー)

杏「やー、でもそんなに簡単に始められるもんなの? 実際のところさー」

杏「大洗でも昔は戦車道やってたみたいで、戦車はあるっぽいんだよ」

杏「でも実は私、ただやるだけじゃなく、優勝したいんだよねー。戦車道で」

桃「っ…」

アンチョビ「いいねぇいいねぇ! やるからにはてっぺん目指さなくちゃだよなぁ!」

杏「そうそう。で、どうよ? 実際。戦車さえあれば、できちゃうもんかね? 戦車道」

アンチョビ「できるできる! 最初の戦車さえあれば、戦車道なんて案外簡単に始められちゃうもんなんだ!」

アンチョビ「最初の研修なんかも1日で終わるぞ。座学なんて全然なくって」

アンチョビ「『戦車なんてバーっと動かしてダーッと操作してドーンと撃てばいい!』ってな感じの挨拶みたいな話があるだけで」

アンチョビ「後はもう戦車乗ってみんなで模擬戦だ!」

杏「えぇ…マジ?」

アンチョビ「マジマジだ! 私は中学の実習とシニアに入った時との2回初回研修受けたけど、2回ともそうだったから間違いない!」ビシィ

アンチョビ「違う人だったけど、どっちの時もいい感じの自衛官のお姉さんが来てさぁ。多分、連盟に電話すれば学校まですぐ来てくれるぞ」

杏「学園艦でも?」

アンチョビ「多分来る。輸送機に戦車乗っけて飛んでくるんだもの、教官。で、戦車落として帰ってったなぁ。2回ともそうだった」

杏「はは、想像つかないや」

アンチョビ「すぐに実物見られるって! 戻ったらすぐ電話してみろよ!」

アンチョビ「それにな、角谷。いきなり始めて優勝したいならやるべきは戦車道だ。これは絶対、間違いない!」

杏「んー、なんで?」

アンチョビ「他のスポーツだったら、それこそ小学生のころからずっとやってないと試合なんてできないだろ?」

アンチョビ「小学生のころからやってた奴らが強豪校に集まって、そういう学校が優勝争いをしてる」

アンチョビ「そこにぽっと出の学校が優勝したいったって、どうにもなんない」

アンチョビ「あ、でもあれだな。渋谷凛のラジオによく出てる野球選手の人とか、無名校を一人で甲子園まで連れてったとか…」

杏「!!」ギラリ

アンチョビ「なんて人だったかは忘れちゃったけど…」

杏「タダノカズヒト投手だね。八千代松陰高校をほぼ単身で甲子園に導いた後、立教大学に進学」

杏「怪我などの理由でドラフトには掛からなかったけど単身渡米して野球を続け」

杏「07年、ついに北海道日本ハムファイターズに1位指名」

杏「NPBでは通算18勝して日本シリーズにも出場したけど、14年に戦力外通告を受ける」

杏「それでも独立リーグに移って17年に現役を引退するまで決して野球を手離さなかった、不屈の男だ」

アンチョビ「お、角谷野球詳しいのか?」

杏「野球はあんまし。でもネットの人気者だからねぇ、タダノは。チョビ子も今度調べてごらんよ」

アンチョビ(ネットの人気者かぁ。1年生もいっぱい入ってくることだし、そういう流行の情報も調べておいた方がいいのかな?)

アンチョビ「って、話逸れたな。とにかく普通のスポーツはそれこそ小さいころからの繰り返しの練習があって初めて試合になる」

アンチョビ「けど戦車道は違う。いや、もちろん練習は大事だぞ? でも何というかアレだ」

アンチョビ「普通の人がいきなり始めても、ちゃんと試合ができるんだよ、戦車道は」

アンチョビ「理由は簡単。戦車は近代兵器だからだ。普通の人が戦争に参加するようになってから造られた兵器だからだ」

アンチョビ「武術を究めた無双の武将が一人で何千人も倒してた時代とは違う、一般人が兵士として、戦地に出てった時代の兵器だからな、戦車ってヤツは」

アンチョビ「だから訓練をすれば誰でも動かせる。十年や、二十年なんて修行はいらない」

アンチョビ「アクセル踏めばちゃんと走るし、狙って撃てばちゃんと当たるし、撃って当たればちゃんと倒せる」

アンチョビ「150kmのボールを投げたり40ヤードを4秒台で走ったり、ベンチプレスで100kg持ち上げたり、或いは身長を190cmにしたり」

アンチョビ「そういうのよりはよっぽどちゃんと、人間が出来ることなんだ。戦車を動かして戦うってことはさ」

アンチョビ「どうだ角谷? 出来そうな気がしてきただろ!?」

杏「チョビ子こそスポーツ詳しいじゃん。アメフトとか野球とか」

アンチョビ「…サンダースで屋台やってるとさ、運動部の子達が楽しそうに話してくんだ。部活のことをさ」

アンチョビ「ごっつい体でわらわらやってきて、バカ話で笑いながら大飯を食らってく。すっごい楽しそうに…ホント、青春って感じでさ」

アンチョビ「そういう楽しみって、運動できる子だけのもんだと思ってたんだ」

アンチョビ「そういう子達が集まって輪を作って…私みたいにあんまし動けない子はそれを外からずっと眺めてて」

アンチョビ「でも戦車道なら、誰だって輪に入れる! いや面白いぞ、ホントに!」

アンチョビ「私の中学時代の実習チームなんて操縦手はバスケ部で砲手は弓道部、そんで車長の私は図書委員だ!」

アンチョビ「フッフッフ、何を隠そうこの編成で私はあの西住まほに勝ったからな!」ビシィ

杏「えっ、マジ?」

アンチョビ「…いや、正確には負けちゃったんだけど、ほぼ勝ちかけた! あの黒森峰の西住まほにだぞ!」

アンチョビ「どうしてそういうことになるのかって言うと、戦車道が最高のチームスポーツだからだ!」

アンチョビ「戦車道はホント、色んなことが詰まってるからな!」

アンチョビ「体力や運動神経、集中力なんかはもちろん要る、スポーツだからな。でも作戦を立てたりシュトリヒ計算したりなんかは完全に優等生の領分だ」

アンチョビ「でもって戦車の整備や知識なんかはマニアの子達の領域で、相手と戦う闘争心なんかはそれこそ『俺は今からお前たちを殴る!』の世界だろ?」

アンチョビ「ホント、色んな子達が関わっていける、交わっていける。それが戦車道の一番いいとこ、最高に楽しいとこなんだと私は思ってる」

アンチョビ「黒森峰みたいに戦車一筋の子達を集めれば話は早い。でも、普通の学校でも戦車隊は作れる。大洗にもいるだろ? 色んな子達がさ」

杏「…いるね。色んな子達が」

アンチョビ「フフ、そういう子達のいいところをうまく組み合わせてやれば、どんな学校でも戦車隊は作れる。戦車道はできる!」

アンチョビ「どうだ角谷!? 戦車道やりたくなってきただろ!?」

杏「まあ、できるのはわかったよ。サンキューチョビ子。でもさぁ、できるのと勝てるのは違うでしょ?」

杏「学園艦を挙げて取り組むからには結果が欲しい。やるからには絶対したいんだよねぇ、優勝」

アンチョビ「優勝か…ふっふっふ、角谷。私はあえて断言するぞ。ぽっと出の学校でも、戦車道なら優勝できる!」

アンチョビ「言ったろう? 戦車は撃って当てれば倒せるんだ。一騎当千の武人の戦いじゃない。戦車隊を作れたのなら、あとはココの使い方さ」アタマツンツン

アンチョビ「もちろん戦車隊の練度は重要だ。装甲も火力も大切だろう。でも、どんな戦車でも撃って当てれば倒せるのなら」

アンチョビ「最後に重要になるのは隊長の立てる作戦だ。特に、装甲と火力と練度に恵まれた学校ほど、奇策には弱い!」

アンチョビ「宣言するぞ、角谷。今年の戦車道全国大会、西住率いる最強の黒森峰を破り優勝するのは!!」スッ

アンチョビ「このドゥーチェ・アンチョビ率いるアンツィオ高校だぁーーーーっ!!」ビッシィ

ペパロニ「おお、姐さんカッケーっす」

アンチョビ「ふっふっふ! そうだろうそうだろう! それじゃあ一丁アレをやるか!? せーの!」

アンチョビ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」ウデブンブン!

ペパロニ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

ひな「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

アンチョビ「ってカルパッチョ、こっち来てたのか?」

ひな「はい、全戦車の整備完了しました。これでいつでも、新入生を迎えられます」

アンチョビ「おおそうか! ご苦労だったな!」

アンチョビ「ようし、今一度みんなで! 全国大会優勝を目指してのドゥーチェコールだぁーーーっ!! せーの!」

杏「ねぇ、チョビ子。それ、うちでやらない?」



アンチョビ「…へ?」

杏「うちにおいでよ、チョビ子。後輩も一緒にさ。たった2人しかいないんでしょ?」

杏「来年度大洗女子は学園の総力を挙げて戦車道をやる。アンツィオ以上の支援ができると思う」

杏「戦車だって、地元のスクラップ工場を通せば大洗に持ち込める」

杏「優勝するなら、戦車道やるならアンツィオじゃなくてもいいでしょ?」

アンチョビ「……」

杏「うちにおいでよ、安斎。大洗で、一緒に戦車道やろう」


アンチョビ「…いや、それはできない」

杏「……」

アンチョビ「うちには来年、私と一緒に戦車道をしてくれるって仲間が39人入ってくる」

アンチョビ「全国大会や、冬の合宿で、私自ら声をかけて、そしてその声に応えてくれた大事な仲間達だ」

アンチョビ「その子達を裏切ることはできないよ」

アンチョビ「それに、私はアンツィオに育てられたんだ。ドゥーチェ・アンチョビはアンツィオの風が育てた」

アンチョビ「黒森峰でもプラウダでも、私はきっとダメだったんだ。アンツィオだったから私は、安斎千代美はここまで来れたんだ」

アンチョビ「だから、私の歩んだ戦車道は、私を育てたアンツィオ高校に捧げたい」

アンチョビ「私はアンツィオのドゥーチェ・アンチョビだ」



杏「…そっか、ごちそうさん」ガチャ

アンチョビ「明日も食べに来い、角谷。私が読んだ入門書、全部やるよ」

杏「え?」

アンチョビ「初回特典ってやつだ。このドゥーチェの注釈入りだぞ!」

杏「ちょっと待って、いいの?」

アンチョビ「大洗に転校することはできないが、それでも私は嬉しいんだ」

アンチョビ「一緒に戦車道をやる仲間が増えたことがな!」

アンチョビ「わからないことがあったら何でも聞け! 私にわかることなら全部教えてやる!」

アンチョビ「そんでもってもし全国大会で当たることがあったら」

アンチョビ「その時はこのドゥーチェ・アンチョビが直々に、戦車道の楽しさを実地で教えてやろう!!」ニカッ

アンチョビ「戦車道はいいぞ! 戦車道は楽しいぞ!」

アンチョビ「角谷、一緒に戦車道やろう!」

杏「…サンキュー、チョビ子」

桃「…よろしかったのですか?」

桃「安斎千代美は現高校戦車道で唯一、うちに来てくれる可能性のあった隊長」

桃「どんな手を使ってでも引き入れるべきだったのでは」

杏「どんな手を使ったって無理だよかーしま」

杏「だから私達はこうやって、戦車道やろうとしてんじゃないか」

桃「…そうでしたね、会長」

杏「ま、チョビ子の言を信じるなら、戦車道自体は始められそうだし」

杏「後は在校生の中からやれそうな子を集めるしかないでしょ」

杏「かーしまは、チョビ子の入門書で猛勉強よろしくー」

桃「はっ」


prrrrrrrrrrrrrrrrrr…


杏「っと、小山から電話だ。もしもーし」

柚子「朗報です会長! 新年度から我が校に…!!」








柚子「西住みほさんが転校してきます!!」


<アンツィオ高校学園艦・アンチョビの部屋>

アンチョビ(タダノカズヒト、検索っと)

アンチョビ(お、なんだろうこの動画? ドラマかな?)

アンチョビ(いい声してるなぁ…そういえば渋谷凛もしきりに声を褒めてたっけ)

アンチョビ(野球選手なのに俳優もやってたんだ…二足のわらじですごいなぁ)

























アンチョビ「う”あ”あああああ””ああああああああああああ!!!!???」




アンチョビ「なっ、な”あ”あああああ””ああああああああああああ!!!!???」




アンチョビ「わ”あ”あああああ””ああああああああああああ!!!!???」







ペパロニ「どうしたんすか姐さん!?」ガチャッ

ひな「大丈夫ですかドゥーチェ!?」

アンチョビ「うわああっ!! み、見るなぁ! 見るんじゃなぁい!!」

ペパロニ「…何見てんすか? 姐さん」

ひな「なんだこれは…たまげたなあ」


<おまけ・少し先の未来・大洗女子学園艦>

杏(…ホントにバーッと走らせてドーンと撃ってで座学が終わった)


杏(確かにそれで動かせちゃったけど…)






杏(…大丈夫なのかなぁ、これ)

今回は以上です。ありがとうございました。

投下します。まほチョビは超隠しルートです。
アンツィオをちゃんと育てないとたどり着けないんです。

<高校3年の4月・アンツィオ高校学園艦・アンチョビの部屋>

アンチョビ「この子はアマレット、この子はパネトーネ…この子はジェラート先輩と同じ名字だから、ジェラートでいいな」

アンチョビ「…鈴井はやっぱり、どうしてもミスターって呼びたいなァ。食べ物じゃなくても…イタリアっぽければ別にいいか!」

アンチョビ「よし、イタリアっぽさマシマシでミスタにしよう! 奈良はナランチャ、汐華はジョバーナ…いや、名前から持ってきてジョルノだな!」

アンチョビ「うーん、去年と違って人数多いからソウルネーム考えてやるのも大変だなァ…うへへ、今から会うのが楽しみだぁ!」

コンコン

ひな「失礼します、ドゥーチェ」ガチャ

ペパロニ「こんばんはっす、姐さん」

アンチョビ「ん? おお、どうした二人とも? ドゥーチェは今新入生の子達のソウルネームを考えるのに忙しいんだ」

ペパロニ「おっ、恒例のアレっすね! どれどれ…食べ物くくりじゃないんスか姐さん?」

アンチョビ「ああ、そいつらは中学時代からの後輩だ…いや! ダメだぞ!? 鈴井のヤツは絶対にミスタって呼ぶんだ! そこだけは譲らん!」

ペパロニ「や、別にいいっすよそんなん…何スかそのこだわり?」

アンチョビ「…小さいころ、ムンクさんになりたかったんだよ私は」

アンチョビ「まあこんだけ人数増えたからな。その辺はもう緩々で行こうかなってさ」

アンチョビ「で、どうしたんだひな? 何か用事があったから来たんだろ?」

ひな「はい、単刀直入に言います。イメチェンしましょう、ドゥーチェ」

アンチョビ「…はい?」

ひな「イメチェンです、ドゥーチェ。イメージチェンジ。よりアンツィオ戦車道の総統として相応しいドゥーチェへと」

アンチョビ「おいひな…それじゃまるで、私がドゥーチェに相応しくないみたいじゃないか!」

ひな「はい。今のドゥーチェでは、この先のアンツィオを率いていくことは不可能かと」

アンチョビ「なあ゙っ!? お、おいカルパッチョ、お前…」プルプル

ひな「覚えていますか? ドゥーチェ。去年の今頃、私達2人が出会った日のことを」

アンチョビ「…そんなの、忘れるわけないだろ? 私にとって、初めての後輩だったんだからな、お前は」

アンチョビ「確か、『茨城に帰るーーーーっ!! たかちゃんといっしょの学校行くーーーーーっ!』って大泣きしたっけなお前」

アンチョビ「そんでもって私も『お願いだから逃げないでくれーーーっ!!』って、2人して泣いちゃって…いやぁ、懐かしい」

アンチョビ「でも、アンツィオに残ってよかったろ?」ニカッ

ひな「それはまあ…って、そっちじゃないんです! 思い出してほしいのは、その前! その前の私の態度です!!」

アンチョビ「その前…? んー…」


―――そうですね。それじゃあ、パスタがいっぱい売れて

―――せめて砲塔のついた戦車が買えるようになったら

―――その時に、改めて勝負を挑ませて貰いますね。ドゥーチェの座を賭けて


アンチョビ「はっ!? まさかカルパッチョお前、いよいよこのドゥーチェの座を狙って!?」バッ

ペパロニ「何!? ひなテメェ、姐さんの寝首をかこうってかァ!?」ザッ

ひな「違うわよペパロニ。今更そんなことしないわ。私だって、ドゥーチェのこと大好きだもの…そう、『私は』ね」

アンチョビ「『私は』って…それじゃあまさかペパロニが!?」

ペパロニ「いやいや姐さん! 私が姐さんを裏切るわけないじゃないッスかぁ! 流石に怒りますよ?」

ひな「…でもペパロニ、あなた最初にドゥーチェと出会った時にこう言ったでしょう?」


―――弱っ!? 戦車道って格闘技っすよね? こんなんで大丈夫なんスか?

―――びびって怒って泣いて笑って、そんでもって歌まで歌いだして…戦車道やってる奴ってあんな感じだったかなぁ?


ペパロニ「あー、そういや確かに。最初はそんなこと思ったっけなぁ」

アンチョビ「お、おいペパロニ?」

ペパロニ「基ッ本的に弱そうなんすよねぇ、姐さんは。そこがかわいいんスけど」

アンチョビ「ペパロニ!?」

ひな「そう、そこなのよペパロニ。ドゥーチェはいっつも笑ってて、優しくて、楽しそうで…もちろんそれがドゥーチェのいいところなのは解ってますよ?」

ひな「でもそのせいでドゥーチェは…はっきり言って威厳ゼロです。戦車道の隊長に必要不可欠な威厳が全く、なくなっちゃってるんですよ」

アンチョビ「威厳ゼロ…」

ひな「想像してみてくださいドゥーチェ。あなたはアンツィオ戦車道科の新入生です。中学時代はバリバリ戦車道やってました。今日は初顔合わせです」

ひな「ガレージに入ったらツインテールの隊長がチョビチョビニコニコしながらパスタ茹でてました。さあどうします?」

アンチョビ「ニコニコはともかくチョビチョビってなんだよ…パスタ食べて自己紹介?」

ひな「はい0点。正解は勝負の二文字です…いえ、ひょっとしたらパスタ食べてから勝負かもしれませんけど」

ひな「普通、戦車道やってる子は我が強いんですよ。常に自分が一番でありたい。強い自分でいたい」

ひな「それは戦車女子の美徳でもありますが、同時に欠点でもある。だからこそ、そんな彼女達を束ねる隊長には威厳というものが必要不可欠なんです」

アンチョビ「威厳…」

ひな「…あの頃からは信じられないことですが、この一年でアンツィオ戦車隊は大きく変化しました」

ひな「39人の新入生を迎えればもう、9輌の戦車を運用できる立派な戦車隊です」

ひな「資金だって、あと少しで新戦車だって導入できるくらいにまで貯まりました」

ひな「しかも私達には他校にはない、自力で軍資を稼ぎ出せるという強みまである」

ひな「私が入ってきたころの、ドゥーチェがオンボロ屋台で一人でパスタを茹でていたころとは違う」

ひな「アンツィオ戦車隊は、十分に魅力的な部隊になったんです…そう、乗っ取るには十分過ぎるくらいに」

アンチョビ「……」

ひな「ですから! イメチェンが必要なんですよ、ドゥーチェ」

ひな「私とペパロニは、ドゥーチェのことが大好きです。ドゥーチェの凄さも優しさも、全部全部知ってます」

ひな「でも、新入生たちはそうじゃない。だからドゥーチェは、変わらなければいけないんです」

ひな「大きくなったアンツィオ戦車隊を率いるにふさわしい、強くて大きな鋼のドゥーチェに!」

アンチョビ「強くて大きな鋼のドゥーチェ…!!」ゴクリ

ひな「私も、偉大なドゥーチェの側に控える鉄の副官に戻ります。そしてペパロニも、屋台の気のいい姐さんの顔だけじゃなく、戦車隊に相応しい顔を持たせます」

ペパロニ「えー、私も?」

ひな「…立ち振る舞いは私が教えます。小学生の頃から戦車道の世界に首までずっぽり浸かっていた、この私が」

ひな「これがアンツィオ戦車隊戦車担当副隊長としての、この私の最初の大仕事。そしてここまで連れてきてくれたドゥーチェへの最初の恩返し!」

アンチョビ「!!」

ひな「…やってくれますね? ドゥーチェ」

アンチョビ「ひな…ようし、お前の思いはよくわかった!」

アンチョビ「私だってチーム・ナックスに憧れた身だ! 完璧に演じてやるさ!!」

アンチョビ「大きくなったアンツィオ戦車隊を率いるにふさわしい、強くて大きな鋼のドゥーチェというやつをなァ!!」ビッシィ

<高校3年の4月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科格納庫>

ひな「ひぐっ…ぅううううっ…うわああああああんっ!!!」ボロボロ

アンチョビ「あー…」

ひな「返してよ…私達のドゥーチェを返してよぅ…うああああああんっ!!」ギュウウ

アンチョビ「よしよーし、大丈夫だぞー。お前たちのドゥーチェはどこにも行かないぞー」ナデナデ

ペパロニ「やー、姐さん…っと、いけね。ドゥーチェだドゥーチェ…ドゥーチェ、演技上手いっすねぇ? 超意外っしたよ」

アンチョビ「フフン、こう見えて演劇とか結構興味あったからな! 実は割と自信あったぞ」

アンチョビ「戦車道始めてなかったら、大学なんかで演劇研究会に入るつもり…っ、いだだだだっ! 泣くのはいいけど装填手パワーで絞めるなひなぁ!!」ジタバタジタバタ

ひな「ひっく…ひっく…ドゥーチェは一生戦車道するんだもん…演劇部なんかにあげないもん…!!」ギチギチミシミシ

ペパロニ「あー、アレっすね。姐さ、ドゥーチェ戦車女子をダメにする電波とか出してません?」

アンチョビ「おいなんだ? 今度は人を怪人扱いか? まあ、言いたいことはわかるけど」

ひな「ぅう…違う…違うもん…ダメじゃないもん…ダメになんてなってないもん…」グスングスン

アンチョビ「よしよし…しっかし、そんなに怖かったか? こう、ひなの言う隊長イメージに私なりの鋼のドゥーチェ分を加えて演じてみたんだけど…」

アンチョビ「まさか言いだしっぺのひながここまでダメージ食うとはなぁ」ナデナデ

ペパロニ「あー、怖いッつーかなんつーか…嫌、ッスかね?」

アンチョビ「嫌?」

ペパロニ「去年の決勝んとき、姐さんブチ切れたじゃないっすか。あんときと似た感じっすね」

アンチョビ「ああ、あれかぁ…あれと同じかぁ。そういえばあの時もひなはこんな感じになってたなぁ」

アンチョビ「じゃあアレか? ペパロニも嫌か? 勝利第一の西住風アイアン・ドゥーチェは?」

ペパロニ(あ、やっぱり西住さん意識してたんすね姐さん)

ペパロニ「あんまし見たくないっすねぇ。必要ならしょうがないっすけど」

ペパロニ「でもぶっちゃけ、あんなん見るくらいなら調子こいた1年坊を片っ端から焼き入れて回る方がずっとマシっすね」

ひな「ぐすっ…私もやる…さっきまで新入生だったものを辺り一面に転がしてやる…!」ギラリ

アンチョビ「なっ、ダメだダメだダメだ!! そんなこと絶対にダメだ2人とも!! そんなんやっちゃあ2年前に逆戻りだぞ!!」

ペパロニ「えー、でも戦車道チームならちょっとくらいそういうのもアリなんじゃないすか? それこそ黒森峰辺りじゃ…」

アンチョビ「っ…」


(筋肉モリモリマッチョマンの逸見エリカとさっきまで新入生だったものが辺り一面に転がるイメージ)


アンチョビ「いーや、ナシだナシ! 例え黒森峰がそうだとしてもアンツィオじゃそんなの絶対に許さん!」

アンチョビ「大体黒森峰と同じことやったってうちが黒森峰に勝てるわけないだろ!?」

アンチョビ「むしろ黒森峰で逸見…逸見サンがその筋肉と剛腕で新入生達を大虐殺しているならうちは逆をやらねばならん!!」

アンチョビ「黒森峰が力と恐怖で支配するのなら、うちは…うちは、なんだろう?」

ペパロニ「いや、私に聞かないで下さいよ。話してんの姐さんじゃないっすか」

アンチョビ「うーん…上手くは言えないけど、アレだ。すごーい!とたのしー!で支配しよう!」

アンチョビ「いや、支配ってのも違うな。何だろう? 何て言えばいいんだろうな? むむむ…」

ペパロニ「姐さん…姐さんも戦車女子ダメにする電波にやられてません?」

アンチョビ「やられてない! まあ、とにかくアンツィオはそんな感じで行きたい! それがアンツィオの戦車道だ!」

ひな「…それで、具体的には何をするんです? ドゥーチェ」

アンチョビ「お、復活したなカルパッチョ」

ひな「ひなです。さっきまでの私は忘れてください。それで、いったい何をされるつもりですか?」

アンチョビ「ふっふっふっふ…聞いて驚け! 在校生VS新入生、2対5の模擬戦だ!!」

ひな「2対5の模擬戦!?」

ペパロニ「正気っすか姐さん!?」

アンチョビ「ああ、正気だペパロニ! これで勝ったら新入生たちも絶対、私達のことを凄いと思うだろ? 私達のことを認めるだろう?」

ひな「いえ、それは認めるでしょうけど…」

ペパロニ「勝てるんスかドゥーチェ。大見得切って負けたら超かっこ悪いっすよ?」

アンチョビ「西住は中学ん時、こっちの5輌の包囲をほぼ単騎で突破したぞ? それにペパロニ、お前ケンカなら1対5で勝てるって言ってたじゃないか」

ペパロニ「いや、そりゃ素手なら5人でも10人でも辺り一面に転がしてやりますけど、ねぇ?」

ひな「…何か作戦がおありなんですね? ドゥーチェ」

アンチョビ「作戦、というよりは策略だな」ニヤリ

アンチョビ「まず一つ、この新歓模擬戦は豆戦車のみを使おうと思う。ひな、お前リトルやシニアで、豆戦車どれだけ乗った?」

ひな「それは…」

アンチョビ「ほとんどないだろう? うちの新入生達もきっとそうだと思う。豆戦車なんて言うと低く見られがちだけど、あれはあれで特性ってヤツはある」

アンチョビ「操縦と機銃とで戦う豆戦車の戦い。そこに慣れない最初の最初だからこそ、この模擬戦は私達に有利なはずだ」

アンチョビ「何せ操縦なら、私達は強豪校にだって負けないくらいの訓練を積んできているからな。そうだろう!?」

ひな「…確かに。『校外実習』の名目で1日中戦車を走らせられた私達は、その点では通常の授業も受けなければいけない強豪校よりも恵まれていますね」

ペパロニ「まあ途中でパスタ茹でたりもしてたッスけどね」

アンチョビ「次に一つ、今年の新入生は結構バラバラなところからうちに入学してくる点」

アンチョビ「リトルやシニアの経験者もそこそこまあまあいるけれど、一つのチームからまとめての入隊は、それこそ豊田シニアの奴らくらいだ」

アンチョビ「つまり、大半の車両は互いの癖もわからないまま模擬戦に挑むことになる。まして車間の連携など望むべくもない」

ひな「対するこちらの2輌は阿吽の連携で戦いに臨める…!!」

アンチョビ「その通り! 2対5の戦いと言いつつその実この模擬戦、2対1を5回繰り返すだけというわけだ!」

ペパロニ「なるほど! だったら楽勝ッスね姐さん!」

アンチョビ「2対1×5の状況に持っていくには地形の把握が最も重要となる…だがその点ここアンツィオ演習場は我々の庭も同然! これもまた一つ!!」

アンチョビ「ちなみにこちらのチーム分けはひなとペパロニで1輌、私の1輌には豊田のジョルノを機銃手につけようと思う」

アンチョビ「人が足りないから顔見知りの後輩を引き入れる。何の不自然もない行為だが…これで豊田シニアの連携も阻害できる」

アンチョビ「以上、3つの策略を以てこの新歓模擬戦は我々の勝利で終わるというわけだ! どうだ? すごいだろう!?」

ひな「すごいですドゥーチェ!」

ペパロニ「姐さんちゃんと作戦考えられたんすね!」

アンチョビ「当然だ! 私だって戦車道がやりたくて、こうして頑張ってきたんだからな! 念願の、我が校初の模擬戦だ! 作戦を立てるこっちだってこう、気合がな!!」ビシィ

アンチョビ「…まあ、半分くらいだまし討ちみたいな感じになっちゃうのは申し訳ないから、最後にはネタばらししようと思うけどな」

ひな「ええっ!? そんなことしたら…」

アンチョビ「いや、そうした方がいいんだ。この模擬戦の目的は私達が勝つことじゃない」

アンチョビ「あくまで私達が、アンツィオ戦車道が弱くないということをわかってもらうこと」

アンチョビ「一緒にやっていけばもっともっと強くなっていけるってことをわかってもらうことが目的なんだ」

アンチョビ「そしてもっと言えば、作戦次第で戦力差なんていくらでも覆せるってこと、つまりアンツィオの戦車道を知ってもらうことが目的なんだ」

アンチョビ「だから、ちゃんとネタばらしはしなきゃダメだ。敵じゃなくて仲間なんだからさ」

ひな「…ですが、それをしてしまえば模擬戦での勝利の意味が半減してしまうのでは?」

アンチョビ「まあな。だから、半減する前に次の作戦を実行するんだ」

ひな「次の作戦? それはいったい」

アンチョビ「決まってるだろう?」ニカッ



アンチョビ「みんなで美味い飯を作って食べる! それが私達の戦車道だ!」

<高校3年の4月・アンツィオ高校学園艦・戦車道演習場>

アンチョビ「こぉらーーーーーーーーーっ!!」



アンチョビ「誰だ機銃弾出しっぱにしたヤツはぁ! こんなとこ置いてちゃ危ないだろぉっ!!」



アンチョビ「脱いだ服はちゃんと畳めぇ!! いやその前に戦車乗るときは脱いじゃダメだ!! 怪我しちゃうだろぉ!!」



アンチョビ「お前ら約束の時間だぞーーーっ!! 時間になったらちゃんと集まれぇーーーーーーっ!」



アンチョビ「今はドゥーチェが大事な話してるんだぞォ!? 時間だからって勝手に解散するなぁーーーーっ!! いや時間守れとは言ったけどぉ!!」



アンチョビ「好き放題勝手に走り回るなーーーーっ!! 孤立したらすぐやられるって模擬戦で教えただろーーーーーっ!!?」





アンチョビ「あーーーーーもーーーーー! ちーーーーがーーーーうーーーーだーーーーろーーーーーっ!!!」





ペパロニ「やー…今日も頑張ってんなぁ、姐さん」

ひな「そうねー。今日も今日とて、みんなのドゥーチェとして頑張ってるわねぇ」

ペパロニ「結局、全部要らなかったな。演技の練習とか、アイアンドゥーチェとか」

ひな「あら、模擬戦は大成功だったじゃない? ドゥーチェも『これがアンツィオ戦車道だぁーーーーっ!!』なんて大はしゃぎしちゃって」クスクス

ペパロニ「でもアレだろう? 私が言うのもなんだけど、あんなノリで大丈夫なのか? 戦車道って」

ひな「大丈夫よ。みんな、あんなノリでも戦車を動かすのは好きな子ばっかりだから」

ひな「走り込みなんかの地味な基礎練も、ジョルノがいい具合に皆を挑発してくれてるし」

ペパロニ「あー、アイツいいよなぁ。アマレット達、アイツにだけは負けたくねぇって躍起になって走り込んでるもんなぁ」

ペパロニ「あとアレだな。エッタとかリコとか、あの辺の幸薄そう組にも負けたくねぇって」

ひな「ふふ、あの子達もまだまだ伸びるわよ? 中学3年間のブランクがあるわけだしね」

ひな「料理の方はどうなのペパロニ?」

ペパロニ「とりあえず、アマレット、パネトーネ、ジェラートはイケるな。食うのが好きなら、作るのも大体覚えるのは早ぇ」

ペパロニ「他は全員、去年のお前並だ」

ひな「あら、パスタドーム?」

ペパロニ「ま、5月までには全員形にするけどな! せっかくドゥーチェが食う量の多い船舶科の学食当番取ってきてくれたんだ」

ペパロニ「これだけ人手が多くなって、屋台だけで養うのはもう無理だ。この仕事を逃すわけにはいかねーよ」

ひな「ええ、燃料も弾薬も、びっくりするくらいの早さで減ってくものね…やっぱり列島縦断合宿、無駄だったんじゃないかしら?」

ペパロニ「馬鹿言え。あれやったからこそ、こういうメンツが揃ったんだろうが」

ひな「ふふ、それもそうね」


ペパロニ「…ひな、お前さ。こうなることわかってただろ?」

ひな「ん?」

ペパロニ「うちらで顔見て声かけた奴らだ。姐さんの寝首をかこうなんてのはいないって、わかってたはずだろ?」

ペパロニ「そんなギラギラした、『真っ当な』戦車女子はうちになんてそもそも来ないだろ」

ひな「私は来たんだけど…まあ、豆戦車と自走砲しかないって知ってたら絶対来なかったでしょうね」

ペパロニ「お前、なんであんな、鉄のドゥーチェなんて言い出したんだ?」

ひな「そうねぇ…ホントはこの機会に、ドゥーチェを自分好みの隊長に仕立てて遊ぼうかなとか思ってたんだけど」

ひな「まさか、あんなにドゥーチェが演技上手だったなんて…完全に油断してました」

ペパロニ「それで泣くとか、バカじゃねーの?」

ひな「はい、馬鹿でした」

ひな「…でもね、ペパロニ。普通はこうじゃいけないのよ? あんな風に、隊長がみんなにがなってるのに」

ひな「誰も何も堪えてない。そんなんじゃ戦車隊は、やっていけないの」

ひな「少なくとも、普通の戦車道ならね。普通の戦車道なら、それこそ力と恐怖と規律とで、まとめ上げなきゃやっていけない」

ひな「少なくとも私は、そういう戦車道の中で生きてきた」

ペパロニ「……」

ひな「…不安、だったのかな? このままでいいのかなって。このままで大丈夫なのかなって」

ひな「せっかくここまでドゥーチェが育んできたアンツィオ戦車道が、バラバラのメチャクチャになってしまう」

ひな「そんなのは絶対嫌だったし、そうなったときのドゥーチェを見るのはもっと嫌」

ひな「だったら、私も何かしなくちゃなって。私には何ができるかなって」

ひな「でも、そんな心配要らなかったみたいね…」

ペパロニ「昔お前の言った通りだったろ。ドゥーチェはすごいんだ」

ひな「ええ、本当…何だかんだでドゥーチェはちゃんと考えてて」

ひな「1年生の子達も、出自も考えもバラバラでも、ちゃんとみんなで戦車に乗れてる」

ひな「お昼や夕方には、パスタを茹でたり、屋台をやったり、ちゃんとやれてる」

ひな「ちゃんとみんなで、ドゥーチェの下でまとまれて…」




アンチョビ「だーーーかーーーらーーーーっ!!」

アンチョビ「おやつを減らさないと新戦車買えないんだって! うちはお金ないんだって!!」

1年生A「えー、でもペパロニ姐さん言ってましたよー? この調子なら新戦車買えるって」

1年生B「そーそー、今年の冬にはバッチリ金貯まるってさー!!」

アンチョビ「冬じゃ間に合わないだろーーーーーっ!?」

1年生C「間に合わないって何に?」

1年生D「何にでしょう?」

アンチョビ「何にでしょうって、夏大会に決まってるだろーーーーっ!!?」

1年生E「別に夏大会に間に合わなくったっていいんじゃねーの?」

アンチョビ「ぬなぁ!?」



ペパロニ「まとまれて?」

ひな「……」スッ

パンパン!



ひな「はいみんな聞いてー! ドゥーチェはねー! 3年生なのよー!」

ひな「今年の夏大会で引退しちゃうのー!」

1年生E「えっ!? ドゥーチェ3年生だったのかよ!?」

1年生G「僕らの2年上なんですから3年生に決まってるでしょう」

1年生I「ひな姐さん達と同い年かと思ってた」

ひな「みんなー! ドゥーチェだけ新戦車に乗れないの、かわいそうでしょうー!?」

1年生A「そりゃかわいそうだ」

1年生C「かわいそうっす!」

ひな「だったらみんなー! おやつ我慢できるよねー!?」

1年生B「じゃあしょうがねーか」

1年生D「そうですねー」

1年生H「ひな姐さんが言うならしゃーねーかー」

ひな「ありがとうみんなー! ほら、ドゥーチェもありがとうしましょうねー?」

アンチョビ「ああ、ありがとう皆…ってオイ! 私にまでそのノリでしゃべりかけるのはやめろ!」

アンチョビ「お前たちもここは幼稚園じゃないんだぞー!? 栄光のアンツィオ戦車隊なんだぞー!? 少しは恥ずかしいと思えーーー!!」


カンカンカン!!


ペパロニ「オメーら! いつまでもグダグダやってんじゃねーぞ飯の時間だーっ!!」

ペパロニ「さっさと支度しろー! 今日もビシビシ行くからなァーーーーっ!!」

アンチョビ「あっ、おいペパロニ! 私の話はまだ…」

1年生A「ペパロニ姐さーん、たまには学食行きましょうよー!」

1年生B「私らもうくたくたですよー!」

1年生C「せっかくアンツィオなんだからー」

ペパロニ「ダメだ! てめーの飯も作れねー分際で学食なんざ10年早ぇ!!」

ペパロニ「ここはアンツィオ高校だ! 料理で食ってく術を学ぶ場所だ!!」

ペパロニ「学食よりも美味い飯を作るくらいの気合を持てーーーっ!!」

1年生H「そんなん無理だぜペパロニ姐さーん!」

1年生E「マルガリータが食いたーい!」

ペパロニ「ピッツァなんざ100年早ぇ! いいからまずはパスタを覚えろ!!」

アンチョビ「いやいやちょっと待てペパロニ! だったら今日はピッツァにしよう!」

ペパロニ「いやちょっとダメっすよ姐さん、こういうのは順番に…」

アンチョビ「せっかくピッツァのリクエストがあったんだ。だったらこの機に覚えさせた方がいいだろ?」

アンチョビ「5月には学食やんなきゃなんないんだからな!」

ペパロニ「えー、私にも段取りがあるんスけど」

アンチョビ「そんなの気にするな! こういう時こそノリと勢い、そうだろう!?」

アンチョビ「いいかよく聞け諸君! パスタは一応卒業だ! 今日から炊事訓練はピッツァをやるぞ!!」バッ

1年生H「ヒャッホーイ!」

1年生E「さっすがドゥーチェ! 話がわかるゥ!!」

ペパロニ「ちょっ、姐さんそんな勝手に!」

アンチョビ「その代わり! やるからには本気でやるぞ! 学食なんかよりずっと美味いピッツァを焼くんだ!!」

アンチョビ「いいかお前らー! 今夜は夜通しピッツァ焼くぞぉ! ひたすら焼いて食って焼いて食ってを繰り返す!!」

アンチョビ「おやつを減らす代わりに食事はきっちりガッツリ採る!!」

アンチョビ「今夜は夜通し、ドゥーチェ・アンチョビのピッツァ祭りだーーーーっ!!」

オオーッ!!

アンチョビ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」ウデブンブン

1年生達「「「「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」」」」

アンチョビ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! …ほらペパロニもーっ!!」グイッ

ペパロニ「姐さん…ったく、しょうがないなぁ…ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

アンツィオ戦車隊「「「「「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」」」」」




ひな(撃てば必中、守りは堅く、進む姿に乱れなし。鉄の掟、鋼の心)

ひな(西住流に限らず、戦車道とは力と恐怖と規律で形作られるもの)

ひな(程度の差はあるかもだけど、それが普通の戦車道…)

ひな(でももしも…)

ひな(もしも『好き』と『楽しい』だけで、それでまとまれる戦車道があるならば)

ひな(それはきっと、全く新しい戦車道の世界…)

ひな(ねぇ、ペパロニ。ねぇ、ドゥーチェ)

ひな(戦車道に詳しくない二人にはちょっとわからないかもしれないけれど)

ひな(実は私達、すごいことしようとしてるのよ?)

ひな(変で、あり得なくて、とても変で)

ひな(それでも…)

アンチョビ「カルパッチョー! お前もピッツァは苦手だろー!? いつまでも幼稚園のお姉さんモードで眺めてるんじゃないぞーーーっ!!」

ひな「はーい、今行きまーす」



ひな(それでも、あなたなら。あなたとなら、きっと…)





――――その半月後




――――そんな私の馬鹿げた幻想は




――――木端微塵に粉砕されることになるのでした





絹代「吶ッ喊ッ!!」



今回は以上です。ありがとうございました。

お待たせして申し訳ない。リアル多忙につきまともに創作できてない状態です。
秋頃に戻れたらいいなと。

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