モバP「愛海の乳首が取れた」 (25)
ある日のことでした。
モバPが事務所に入ると、一人のアイドルがソファに浅く腰掛けていました。
そのアイドルは、テーブルの上に置かれた何か小さなモノを一心不乱に見つめています。
「……愛海?」
それは、棟方愛海でした。
「……」
愛海は何も反応せず、テーブルの上をじっと見つめています。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1521816897
「どうしたんだ、一体」
心配になったモバPは、愛海の後ろに回ると、愛海の眺めているモノを観察します。
小さな、丸いモノ。
可愛いピンク色です。
「……プロデューサー」
ようやく、愛海が口を開きました。
「おう、どうした、愛海。悩み事か?」
「乳首、取れちゃった」
「そうか、そりゃ……ちょっと待て」
モバPは、首をぐるりと回して天井を見上げます。
そしてゆっくりと十秒数えると、再び愛海を見ました。
「もう一度聞くぞ」
「うん」
「何があったんだ、愛海」
「乳首、取れた」
「取れたのか」
「うん」
「取れちゃったのか」
「取れちゃったんだよ」
「どっちだ」
「左」
「左の乳首か」
「うん」
「なんでだよ」
「お山をね、最近誰も登らせてくれないの」
「登らせてくれないのか」
「仕方ないから、最近自分のを登っているんだよ」
「自分のを」
「うん」
「それで?」
「毎日登っていたらね」
「おう」
「取れた」
「なんでだよ」
「プロデューサー」
「おう」
「乳首って取り外しできたのかな」
「取り外しできる乳首は聞いたことないなぁ」
「あたし、もしかしたら地球人じゃないのかな」
「可能性はあるかも知れないな」
「ウサミン星人は取れるのかな?」
「それは菜々に聞かないとわからないなぁ」
「聞いてきてよ」
「ちょっと待ってろ」
モバPはレッスン場へ向かいました。
そして、10分後。
「おかえり、プロデューサー」
「おう」
「どうだった?」
「取れないって、菜々さん言ってた」
「菜々さんなら間違いないね」
「おう」
「プロデューサー、ほっぺた赤いよ」
「殴られた」
「菜々さんに?」
「おう」
「ごめんね」
「いや、それは別にいいよ」
「ありがとう」
「地球人もウサミン星人も乳首は取れないとわかったが、どういうことなんだ」
「あたしにもわからない」
「よし、もう一度整理してみよう」
「うん」
「状況を説明してくれ」
「誰もお山に登らせてくれないから、自分のお山を登っていたんだよ、毎日」
「ふむ、そこまではさっきも聞いた」
「それで、今日もいつものように登ろうとしたらね」
「うん」
「乳首が取れた」
「よし、わからん」
「地球人もウサミン星人も乳首は取れないんだよね」
「そうだな」
「ウサミン星人には聞いたんだよね」
「おう。菜々にな」
「地球人には?」
「……それは盲点だったな」
「聞いてくる?」
「ああ、ちょっと待ってろ」
「どこ行くの?」
「この時間なら……美波がボイストレーニング中かな」
「いってらっしゃい」
「おう、行ってくる」
モバPはトレーニングルームへ向かいました。
そして、10分後。
「愛海、絆創膏持ってないか」
「あるよ、ほら」
「ありがとう」
「どうしたの?」
「ものすごいジャンプからきれいな弧を描いて蹴られた」
「美波さんに?」
「アーニャに」
「ああ」
「うん、仕方ないな」
「蹴られただけで済んだならね」
「そうだな、その通りだ」
「きれいだったの?」
「きれいだった。通りすがりの南条が見とれてたよ」
「ジャンプキックを見慣れている光ちゃんが見とれるなんて、本物だね」
「おう、アクションにも挑戦させたいな」
「乳首の謎は残ったね」
「そうだな、謎は未解明だな」
「ねえ、プロデューサー」
「うん」
「乳首のないあたしでも、アイドル続けられるのかな」
「……何言いだすんだ、お前」
「だって、あたしの乳首、取れちゃったんだよ? 乳首のとれるアイドルなんて聞いたことないよ」
「いないってのは、やっちゃいけないって意味じゃない」
「だって、だって」
「なあ、愛海。俺には、乳首がとれるお前の気持ちはわからないかもしれない。しかしなあ、アイドルを頑張っているお前は本物だ」
「プロデューサー……」
「なあ、愛海」
「うん。なんだか吹っ切れたような気がする。プロデューサー、あたし、頑張るよ」
「そうだ、その意気だ。乳首なんてアイドルに関係ないことを証明してやれ」
「うん!」
「おっと、だけど、一つ約束してくれ」
「なに?」
「もうセルフ登山は止めるんだ」
「え」
「右の乳首まで無くしてしまうわけには行かないだろう」
「そっか……でも、寂しいな」
「寂しいか」
「他の人のお山はやっぱりダメなんでしょう?」
「そうだな、アイドルのお山はな」
「アイドルで、無ければ?」
「なに?」
「たとえば……」
「いや、皆まで言うな。たしか、ちひろさんが受付にいたな……ちょっと待ってろ」
モバPは受付へ向かいました。
そして、10分後。
「すまん、やっぱダメだって」
「そっか。ところで、救急車呼ぶ?」
「あ、いや、このくらいの怪我なら大丈夫だ」
「すごいね」
「ありがとう。……まあ、というわけで、セルフ登山は禁止、替わりのお山も無しだ」
「……うー」
「だがな、愛海。お前が何か大きな仕事を成功させると、登山を考えてもいいってちひろさんが」
「え、本当!?」
「ただし、本当に大きな仕事だし、そんなにたくさんは困ると」
「うん、わかった。それは我慢するよ、多分」
「そうか、わかってくれたか」
「うん、セルフ登山は我慢我慢」
「おう、頑張ろうな」
「我慢我慢」
二人は一緒に頑張ろうと、改めて誓ったのでした。
その数日後。
モバPが事務所に入ると、愛海がソファに浅く腰掛けていました。
愛海は、テーブルの上に置かれた何かの塊を一心不乱に見つめています。
「……愛海?」
「登山はね、我慢してたんだよ?」
「おう」
「……」
「愛海?」
「陰毛、全部抜けちゃった」
「そっち方面に行ったかぁ」
終われ
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません