時刻はまもなく午後三時。
業務に支障が出るほどではないが、なんだか小腹が空いてきた。
頂き物の羊羹があったな、いやいやここはスポンサー様提供のケーキを、なんて思案していると、くう。と、急かす腹の音。
いやいや待て待て、焦るんじゃない。俺は腹が減っているだけなんだ。
ああ、だがしかし、迷ってしまってとてもじゃないが決められない。
そうだ、こんな時に助けてくれるヒーローがいたはずだ!
いざ呼べその名を高らかに!
「助けてスイーツファイブ!」
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なんて雰囲気を作って叫んでみる。
すると。
「アタシを読んだか!」
真後ろから声が響いた。
「うおおわあっ!?」
「うわあっ!? 何!?」
驚きに声を上げると、相手もつられて同じく驚く。
姿を改めると、スイーツファイブのリーダー、南条光だ。
「え、いや、ゴメン。まさか本当に来るとは思わなくって……と言うか、いた?」
「え? あ、うん。なんかプロデューサーが一人でブツブツ言いながら部屋中歩いてて、どうしたのかなー……って」
見られてーら。恥ずかしい。
「邪魔しちゃ悪いかと思ったんだけど、助けを求める声が聞こえたからさ。呼んだでしょ?」
「いや、本当にいるとは思わなかったんだけど、まあいいか。実は──」
かくかくしかじか
「事情はわかったよ…… 。そういう事ならスイーツファイブに任せて!」
ありがてえ、ありがてえ。
「じゃあ、ちょっと出撃翌要請するから」
そう言ってスマホを取り出す。
「ちょっと待っててね!」
そして、スイーツファイブの他の面々へだろう、電話をかけ始めた。
あ、この子が自分でやるんじゃないのね。
prrr──
もしもし、志保さん? あ、今スイーツファイブの……え、撮影のイメトレ? パフェの食べ歩き? ……そっかごめんなさい! 頑張ってね!
「槙原さんは忙しいって?」
「なあに、よくあるよくある! 次だ!」
prrr──
法子ちゃん? 光だけど、今大丈夫? あ、有香さん達とドーナツショップに並んでる? あ、ううん、全然! 大丈夫だよ、気にしないで! それじゃ!
「ドーナツは無し、と」
「想定内だ! ヒーローは一度や二度じゃくじけない!」
prrr──
かな子さん! 助けて! お腹を空かせた人が……え? いや、かな子さんじゃなくて……ダイエット中? 衣装が? ああ……が、頑張ってください!
「……ダンスレッスンだけじゃなく、ランニングも基礎メニューに加えるか」
「えっと……もうすぐだから! もうちょっとだけ待って!」
prrr──
愛梨さん! 今大丈夫ですか!? はい、プロデューサーがお腹を空かせてて……はい、スイーツファイブとして……え、イヤだ?
な、何で……アタシですか? いや、確かに練習はしてますけど……はい……はい、わかりました、頑張ります。
嫌な言葉が聞こえたが、気にしないことにしよう。
「どうだった?」
「他の人みんな忙しいみたいで……愛梨さんはわかんないんだけど」
どうにも歯切れが悪く、もじもじとしている。まあ製菓要員いないもんね、どうするんだろう。
十時さんについてはわかんないんだな? 本当だな? と確認する勇気はとても無く、続きを促す。
「だ、だから……アタシがホットケーキ作っても、いいかな? 食べてくれる?」
「ぐぅっ」
「えっ?」
あまりの可愛さに、思わず変な声が出る。
頬を赤らめ上目遣いでそんな言い方……ふう、致命傷ですんだぜ。
「だ、大丈夫……?」
落ち着け、俺はプロデューサー。プロデューサーはうろたえない。
「いや、何でもない。作ってくれるならありがたくいただくよ」
「そ、そう? じゃあ、ちょっと待っててね」
そう言い残し、調理場へ小走りで駆けてゆく。
いやあ、怖いね、クリティカル。
──
「お待たせーっ!」
「お邪魔しまーす」
30分ほどで、南条さんが戻ってきた。
お腹の空き具合は、もはや小腹ではなく中腹と言えるほどだ。
「お疲れ様。では早速…….おや?」
1人、増えている。
「何の用だね本田くん。私はこれからおやつタイムなのだが」
「ふっふっふ、さすがだね、プロデューサー。この世紀の美少女本田未央ちゃんを前に、よくそんなセリフが言えたものだね」
何やら意図を含んだ笑みをこちらに向ける。いや、本当に何しに来たんだろう。
「用件は?」
「うっす! ぴかるんがホットケーキ作ろうとしてたんで、ハッパかけたっす!」
「アタシ一人でできるかなって思ってたんだけど、未央さんがアドバイスしてくれたんだよ」
あ、そうなんだ。ありがとうございます。
「まあ、ほんとにちょっとアドバイスしただけだけどね。手は出してないから、純度百パーセントぴかるんのホットケーキだよ!」
「でも、おかげでうまく焼けたんだ! ありがとう、未央さん!」
「なーに、いいって事よ! お礼に今度、私にもホットケーキ食べさせてね!」
「うん!」
勝手に盛り上がる二人を見て、相性いいなーこの子ら。今度ユニットでも……なんて考えていると、クルリとこちらに向き直る。
「よーうし、さあ行けぴかるん! プロデューサーにおみまいしてやるのだ!」
「ああ! 行くぞ、アタシの必殺ホットケーキを喰らえ!」
そう言って、焼き立てのブツをこちらへ突き付けてくる。
え、[ピーーー]の? 死ぬの? 俺。とは口には出さず突っ込みを入れつつ。
「いただきまーす」
見た目は均一なきつね色をしており、中までムラなく火が通っているのがわかる。
その上に乗っている溶けかけのバターと、しっとりと染み込んでいるメイプルシロップの美しさたるや。
皿を持った時の重量感も良く、しっかり食べ応えがありそうだ。
バニラビーンスの甘い香りを楽しみつつ、フォークを立てる。サクリ、と音がした。
一口程度のサイズに切り分け、バターの欠片を乗せ、口に運ぶ。
瞬間、口の中で感動が沸き立った。
表面はサックリ、しかし中はふんわり。ほのかなバターの塩みが、メイプルシロップの甘さを引き立てる。
これは、すばらしいものだ。
「うーまーいーぞー!」
思わず立ち上がり叫んでしまう。
「本当!?」
ああ、本当だとも、南条さん! 君のホットケーキは最高だ!
「やったー!」
そう言って、嬉しそうに跳ね回る南条さん。見ていてこちらも嬉しくなる。
「そんなに美味しいの? どれ、私も一口……」
「触るなちゃんみお、これは俺のだ」
ホットケーキに伸びた手を、ピシャリと諫める。
「えー、一口くらいいいじゃん、ケチ!」
「いいわけないだろ、これは俺のために作ってくれたホットケーキだぞ!」
「ちぇー。ぴかるん、今度私のも作ってよね、絶対」
「うん、約束だ!」
ゆーびきーりげーんまーんと小指を絡めて歌い始めた。仲いいねえ、君ら。
「よし、約束! じゃあまたねー!」
指切りを済ませると、それだけ言って、もと来た廊下を走っていった。
本当にこれだけのために来てくれたのか。
「美味しいホットケーキ焼いてあげなよ、南条さん」
「うん、頑張る! お母さんと特訓だ!」
「よし、その意気だ! また俺にも食べさせてね!」
「ああ!」
こうして世界は救われた!
ありがとうスイーツファイブ!
僕らのヒーロー、スイーツファイブ!
劇場版 アイドルマスター シンデレラガールズ Sweetches対スイーツファイブ~世界最後の日~を見るまでは [ピーーー]ない
本田さんが来てくれたのはダイス神のお導きです
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