バットマン「グランド……オーダー?」 マシュ「その2です」 (942)

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バットマン「グランド……オーダー?」
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バチバチバチバチ……ギュォォォォォォォォォォッ

カッ‼


???「……」シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……

???「んーっ、呼ばれたから来てみたけど……へえ~、ここがカルデアなんだ……
あ、ブルース! マシュ! 久しぶり!」


マシュ「……ブーディカ、さん……」

ブルース「……召喚は成功したな。私は行く」スタスタ

ブーディカ「……?」




ブーディカ「……ちょっとちょっと、どうしたっての? ブルースってあんな悲痛な感じの面構えだったっけ?」

マシュ「……ごめんなさい」クルッ、スタスタ

ブーディカ「あ、ちょ、ちょっとアンタまで……」

ドクター「ご、ごめんよ。皆に代わって僕が謝るから……ちょっと大変な時期でさ」

ブーディカ「大変な……時期?」



………………


ブーディカ「……ははあ、成程ね……」

ドクター「うん……ちょっとね」


ブーディカ(……う~ん、マシュの落ち込みっぷりにはアタシも一枚噛んでそうだな~……安易に自己犠牲を選んだのは不味かったかぁ……)ポリポリ


ドクター「……とと、ごめんよ。カルデアの施設について説明して回るから、来てくれるかな?」

ブーディカ「はいな」


職員B「あ、ドクター……に、英霊の方ですよね。連絡は受けてます」

ブーディカ「そそ、アタシはブーディカっての。よろしくね」

職員B「はい。私はここの職員で……え、英雄に対して名乗るほどの名前は無いのですが、働いています。案内しますので、どうぞこちらへ」

ブーディカ「何~? 別にかしこまる事ないのに」ウリウリ

職員B「そ、そんな事……いきますよ、もう!」


ドクター(ああ、このカルデアのムードが明るくなる感じ……何週間ぶりだろう……)ホロリ



ドクター(最近のマシュとブルースくん、互いに目が合えば一瞬で視線逸らすし……挨拶すら死にそうな声だし)

ドクター(所長も所長で、ブルースくんが帰って来てからはなんかピリピリしてるし)

ドクター(……レオナルドは、『秘密』を打ち明けちゃったから……ちょっと、今まで通りに接する事ができるか、分からないし)

ドクター(……わりと辛いんだよなぁ、カルデア内の空気……)


ドクター「はあ~……」

レオナルド「溜め息を吐くと幸せが逃げるぞっ!」バンッ

ドクター「うっひゃああああああああ!?」ビクッ


レオナルド「……どうしたのさ、辛気臭い顔して」

ドクター「な、なんだレオナルドかぁ……いや……その、さ」

レオナルド「何だよ、言ってみろよ?」

ドクター「……ほら、あの二人がさ。カルデアの雰囲気を支えてた、みたいなところ、あったし……最近、元気ないなって思ってね」

レオナルド「……マシュとブルースか。だなー、あと所長も何だかんだムードメーカーではあったしね」

ドクター「……なんとかしたいなぁ……」

レオナルド「……それには全く同意するよ」


レオナルド「……ただ、ロマニ。キミも抱え込みすぎるきらいがあるんだ、私には分かってるんだぜ?」

ドクター「ギクッ……」

レオナルド「……だからまあ、手分けしていこうじゃないか。私はマシュ、キミはブルース」

ドクター「そうなるよなぁ……オッケー、了解。……駄目でも悲観しないようにしないと」

レオナルド「よし。頼むぜ」



………………

マシュ「……」カチャカチャ……

レオナルド「や、マシュ。おはよう、隣良いかい?」

マシュ「あ……ダヴィンチちゃん。おはようございます。どうぞ」

レオナルド「ありがとう。豆のスープか、私もそれにしよっと」



マシュ「……」モグモグ

レオナルド「……それにしても、ブルースが帰って来て良かった」

マシュ「……」ピタッ

マシュ「……失礼します」ガタッ

レオナルド「お、おいちょっと?」

マシュ「……ごめんなさい」スタスタ



レオナルド(ええぇぇぇ……これ重症すぎるだろ……)


ブーディカ「ふんふんふ~ん……♪ あ、噂の天才女史だ。おはよう」

レオナルド「……ブーディカ! 前の特異点で世話になったって話のブーディカじゃないか! ここへ座りたまえよ!!」

ブーディカ「? う、うん……じゃあ失礼するよ」


………………

ブーディカ「あ~………やっぱりマシュ、塞ぎ込んでるんだ……」


ブーディカ(でもブルースまで塞ぎ込むなんてちょっと意外かも……)


レオナルド「そうなんだよ。それで、前の特異点を共に制覇したキミなら何か……知っている事とか、無いかと思ってね」

ブーディカ「うーん……無い事は無いんだけどなぁ……」

レオナルド「何でもいい、聞かせてくれ。状況打破の手掛かりにはなるさ」


ブーディカ「ほら、あの子……マシュはさ、アタシ達の自己犠牲を間近で見てきちゃったんだ」

レオナルド「ふむ……」

ブーディカ「あの子、特に純粋でね。多分、アタシ達『サーヴァント』が死ぬのも、嫌でたまらないんだと思う」

レオナルド「……それは確かに、本人も言ってたな……」

ブーディカ「……悪い事したかな……」

レオナルド「……どうだろうね。命の価値の話なら、私には少し判じかねる」

ブーディカ「……アタシも……」



レオナルド「……ただ、今を生きる人間を、少しでも長く見ていたいというのは分かるけどね」

ブーディカ「……それって、結局価値観の押し付けなのかなぁ」

レオナルド「……陳腐な答えだけど、人によるとしか言えないね」

ブーディカ「……」

レオナルド「……」

ブーディカ「……ごめんね、暗くして! ご飯食べよっと」

レオナルド「いいや、暗くしたのはこっちだ。豆のスープが美味しいよ、試してみるといい」




………………

ブルース「…………」カタカタ、カタカタ……

コンピュータ『ハッキング進捗率:58%』


ブルース(……カルデアのデータ最深部へアクセスできれば、職員達の弱点は知れるだろう。情報は集めておいて損はない……)カタカタ……


(((私達は仲間じゃなかったの……? なんでこんな武器が必要なの!?)))

(((嘘はいけませんわ、旦那様)))

(((私を怪物にしないでくれ)))

(((怪物は、自分以上の怪物には勝てん。お前はいつか敗れ去る)))


ブルース(……)カタカタ……

ガチャリ

所長「こんなところに居たの。ブルース」

ブルース「……オルガマリー所長か」ピッピッ、シュゥゥゥゥン……



所長「何、してたの」

ブルース「……本を読んでいた」

所長「……そう」

ブルース「……ああ」


所長「……」

ブルース「……」

所長「……なんで」

ブルース「……」

所長「なんで、嘘を吐くの?」

ブルース「……」


所長「必要だから?」

ブルース「……慎重な考えと、計算は必要だ。集団のリーダーなら分かるだろう」

所長「じゃあ、私を助けたのも計算? 必要無ければ、見殺しにしてたの?」

ブルース「そうは言ってない……」

所長「言ってるわよ、分からないの? アンタの慎重は『心を許さない事』だし、計算は『命の利用』。前の特異点でだって、そうだったじゃないの」

ブルース「……それは、致し方ない行動だった。世界の存続と個人の命を秤にかけた時、どちらに傾くかなど分かり切っている」

所長「だから死ぬの? そんな……機械みたいな理由で」

ブルース「……」

所長「……そう」



所長「けどね、ブルース。これだけは言わせて頂戴。
どれだけ、計算が得意なつもりでも……アンタは人間よ。絶対に」

ブルース「……」

所長「そして、私達も人間なのよ。その人間が……急に、仲間を失ったら、どんな気持ちになるか。考えてほしいわ」

ブルース「…………」

所長「……アンタのやり方、嫌いよ。大嫌い。……それだけ」スタスタ

ブルース「……」



………………


ブルース「……」スタスタ

レオナルド「あ、ブルース。やあ、今回のスーツの改造なんだけど、次のレイシフト先に合わせて……ブルース?」

ブルース「……ああ」

レオナルド「おーい、ちょっと。聞いてるー? ここの遮熱機能を……」

ブルース「ああ……スーツは、カラーリングを変えないように頼む」

レオナルド「いや、それは分かってるんだけど……」

ブルース「……すまない」スタスタ

レオナルド「ちょ、ちょっと? ちょっとーーーー???」



レオナルド「……なんだよっ、皆して殻に閉じこもっちゃってさ! 全く、私が天才だからって寄っかかり過ぎだ!」プンプン

レオナルド「……なんだよ、もう……」

レオナルド「……」


レオナルド(……分かってる。そりゃ、分かってるけどさ……)


レオナルド「……あーもー!」



………………

ブルース「……フッ! ハッ! シッ!」ドッ、ドシュッ、シュドドッ

サンドバッグ「」グォン、グォン……

ブルース「……!」ドッドッドッドッドッドッ‼

サンドバッグ「」グォォォォン……


(((お前は怪物だ)))

(((私を怪物にしないでくれ)))

(((逃げろマーサ、ブルース)))

(((父さんと母さんは何処だ?)))

(((世界は狂っている)))

(((無限の命)))


ブルース「…………」ピタッ

サンドバッグ「」ユラ……




(((異常者だ)))

(((あるいは、極めて正常か)))


ブルース(私は狂っているのか?)

ブルース(私は怪物なのか?)

ブルース(私は……本当に、世界を良い方向へ変えようとしているのか?)

ブルース(私には、信念があったハズだ)


(((死は恐ろしい。死は苦しい。死は認めたくない)))

(((命乞いして財布を渡していれば良かったのに、無駄死にだ)))


ブルース(……何処へ行った? 私の、信念は……)




ガサッ……


ブルース「……」チラッ

ドクター「やあ、ブルースくん。休憩かな?」

ブルース「……ドクター」

ドクター「全く、このまま夕方までずっとサンドバッグと格闘してそうだったからね。いつ声を掛けようかと」

ブルース「……」



ドクター「……ここ、座っていいかな?」

ブルース「……ああ」

ドクター「ん」

ブルース「……」



ブルース「……」

ドクター「……最近、あんまりマシュと、話せてない?」

ブルース「……」

ドクター「……なんて、分かり切ってる質問だったよね。すまない」

ブルース「……」



ブルース「……私は」

ドクター「……」

ブルース「私は、世界を良くしているつもりだった。マシュを助けたのも、その計算の内だった」

ドクター「……うん」

ブルース「……だが、世界は……」

ドクター「……うん」


(((アンタのやり方、嫌いよ。大嫌い)))


ブルース「……思ったように、ならないものだな」

ドクター「そりゃあ、ね。僕たちって、人間だし」

ブルース「……」



ドクター「……そうだな。キミの行動も、理解できるんだ。確かに理屈は通ってるし、間違っていない。それどころか、取り得る最高の行動だったとさえ言える。まるで機械みたいな精確さだ」

ブルース「……」

ドクター「……だけど、考えて欲しいんだ。人理を救う者が、人じゃなくなった時……救う事に、どんな意味がある?」

ブルース「……」

ドクター「……」


ブルース「……私には、理解ができない」

ドクター「うん。言ってる僕も、多分あまり理解できてない。ごめんよ。でも……でも、きっと大切な事だ」

ブルース「……そうか」

ドクター「うん」

ブルース「…………考えてみる」

ドクター「……うん。それと、言い忘れてたけど」

ブルース「ああ」

ドクター「おかえり、ブルースくん」

ブルース「……まだ少し、時間はかかる」

ドクター「待ってるさ。僕はドクターで、ロマンチストだからね」

ブルース「……すまないが、私はリアリストだ」

ドクター「あ、何だよ。今僕の事ちょっと馬鹿にした?」

ブルース「まさか。尊敬している」



………………

ブルース「ブーディカ」

ブーディカ「あ、ブルース。こんばんは……どうしたの、戦いに赴く前の戦士みたいな顔つきだけど」

ブルース「昼間の礼を欠いた行為を詫びる。すまなかった」

ブーディカ「え……いや、良いよ良いよ。気にしてないって、色々大変だったんでしょ?」

ブルース「その『色々』で相談がある」

ブーディカ「え、ちょっと……どうしたの? 相談?」



………………

ブーディカ「……はあはあ、成程ね……カルデアの面々に迷惑をかけた、と……」

ブルース「ああ。どうにかしたい」

ブーディカ「ふむ……どうしたいのさ?」

ブルース「分からない」

ブーディカ「えぇ~……そこ即答なんだ……」



ブルース「……分からない。どうすれば、人理修復へ最も有利に働くのか」

ブーディカ「……はあ?」

ブルース「……いや、すまない。失言だった」

ブーディカ「……う~ん……」

ブルース「……」



ブルース「……」

ブーディカ「……全部、計算を頭から取っ払ってみなよ。残ったものが、今やるべき事でしょ」

ブルース「……計算を……全て?」

ブーディカ「そう。忘れるんだ、全部。キミはどうしたい?」

ブルース「……」




ブルース「……」


ブルース(世界の救済を全て忘れ、カルデアの安全を考えず、自己の保身を無視した時……最後に残るのは何だ?)

ブルース(……マシュ、ドクター、レオナルド、オルガマリー所長、職員達、フォウ……全員の行動パターンを頭から取り去り、後に残るものは何だ?)

ブルース(私には何が残る? 私は……どうしたらいい?)



ブーディカ(これそんなに悩むところ……?)



ブルース「……」

ブーディカ「……あのさ、今にも人を殺しそうな顔になってるけど。もうちょっと気楽に構えなよ」

ブルース「キラク……」

ブーディカ「そうそう、気楽に。キミの決断で人類が滅ぶ、なんて局面でも無いんだしさ」

ブルース「だが、それは……その場面には、直結しうる」

ブーディカ「だったら、尚更だよ。最初から全部分かってる奴なんて居ないんだし、肩の力を抜いて……今の状況をジョークで笑い飛ばすとかさ」

ブルース「……四面楚歌だ」

ブーディカ「……それジョークじゃないし、笑い飛ばせてもないよね?」

ブルース「……」



ブーディカ「ま、最初からうまくいくなんて思ってないけど……」

ブルース「……すまない。ジョークはあまり得意な方では無い。ふざけたプレイボーイを演じる時は、アルフレッドと共に台本を用意していたりした」

ブーディカ「よく分かんないけど、諦めちゃ駄目だって。ちょっとずつうまくなるもんだから」

ブルース「……努力はする」

ブーディカ「そうそう、それが大事。……で、どうしたいのさ?」

ブルース「……ジョークを飛ばせる空気を作る」



………………

職員B「……うーん、つっかれた……」

職員C「気ィ抜くな、時代特定はまだ終わってないぞ」

職員B「うん……肩がこるな~」

職員A「……照明を少し強くするぞ」パッ


電灯「」パッ

ブルース「……」パッ

職員達「「「!!?!??」」」ビックゥゥゥゥゥ



職員B「ぶゅっ、ぶほっ、ブルースさん!? いつからそこに!?」

ブルース「……かなり前から居た」

職員C「かか、かなり前!? 全然気づかなかったんですが!?」

ブルース「部屋が暗かったからだ」

職員A「そっ、それにしては……アサシンみたいな気配の殺し方でしたけど……」

ブルース「……私の癖だ。謝る」



ブルース「……謝らなければならないのは、それだけではない。前の特異点では、迷惑をかけた」

職員C「……! そんな事……無いっすよ! 全然、なあ!?」チラ

職員B「そ、そうです! サポートが私達の仕事ですし!」ブンブン

職員A「はい。気にする事はないですよ」コクリ

ブルース「……だが、少しでも君達に頼るべきだった。私は少し、結論を逸った」

職員C「そ……それは……」



職員A「……まだ、そう思ってくれてるんだったら。次は俺達を頼って下さい、ブルースさん」

職員B「そ、そうです! 非力で、前線にも出て行けない私達ですけど……でも、私達はひとつです! ひとりで分からない事も、皆で考えたら解決できます!」

ブルース「……ありがとう。すまない」

職員C「謝らないで下さい! 次は俺達、ブルースさんにも切られないような強力な通信を用意します!」

ブルース「それは……」


(((肩の力を抜いて。ジョーク)))


ブルース「……耳が痛い話だ」


職員C「……は、はは」

職員B「う、うふふ……」

職員A「……ぷっ……」プルプル


ブルース(よし)


職員A(あの黒いスーツの耳って、何処なんだろうな……)プルプル


………………


ブーディカ(あ~……ブルースのジョーク作戦上手く行ってるのかな……すっごい不安……)




………………

レオナルド「……」カチッ、キュィィィィィィィン

レオナルド「……ふむ、断熱的な観点から見たら悪くないな。けど、防御力は……」

レオナルド「……う~ん、強化したブレーサーも壊されるくらい激しい戦いだしなぁ……いっそ魔法コーティングの素材で、重くとも断熱と防御に割り振って……」


ブルース「……多少の寒さなら我慢できるが」

レオナルド「ん……そうだね。キミはやせ我慢が大好きなようだから」

ブルース「それに対しては、反論のパターンがいくつかある」

レオナルド「客観的な事実さ。工房へようこそ、ブルース」



ブルース「……昼間は、悪かった」

レオナルド「別に、いいさ。気にしていないからね」

ブルース「それでも」

レオナルド「……はあ、キミも思い込みの激しい……まあ良いか。頑固なのは知ってたし……良いよ、分かった。許すよ」

ブルース「……ありがとう」



レオナルド「で、どうしたのさ? 急に来たけど」

ブルース「……」

レオナルド「……?」

ブルース「謝りたかった。前回の特異点での行動を」

レオナルド「……ああ、その事か。まあ、エンジニアとしては言う事はないさ。キミは無事で帰って来たし、スーツもボロボロだけど大方無事。さあ次の仕事にとりかかろう、ってなもんだ」

ブルース「……」

レオナルド「……エンジニアとしては、ね。私個人なら話は別だ」


レオナルド「まったく、聖杯持ちサーヴァントの前に立ちはだかるわ、マシュを庇って崩壊に巻き込まれるわ、時流の中から帰って来たと思ったら死ぬほど落ち込んでるわ……」

ブルース「……」

レオナルド「……挙句の果てに、こちらには何の説明もないと来た。別に説明をしろとは言わないが、こちらの気持ちだって考えて欲しいものだ」

ブルース「……すまない」

レオナルド「……いいよ、責めてもどうにもならないからね。元々レイシフトは危険極まりないものだ。まかり間違えば死ぬ、それも理解してた」

ブルース「……」

レオナルド「……でもね、ブルース。犠牲の上に立つのだって、辛いものだよ」

ブルース「……肝に銘じておく」



レオナルド「うん。……あーあ、そうは言ってもこれからも死線続きなんだろうなぁ」

ブルース「こちらもやわではない」

レオナルド「だから心配なんだって」

ブルース「……頼りにしているぞ、エンジニア」

レオナルド「私の胃痛が倍増するからやめてくれないかなー!」




………………

所長「……」

ブルース「……」

所長「……」

ブルース「……」

所長「……」

ブルース「……」

所長「な に か ? 」

ブルース「……」


ブルース(……かなり怒っている)



ブルース「……昼間は、悪かった」

所長「……」

ブルース「……前の特異点でも」

所長「……」

ブルース「……冬木でも。誰の気持ちも考えない行動をとっていた」

所長「……はぁ……」



所長「……こっちこそ、悪かったわね。色々、空気を悪くして……私も、まだまだ甘かったわ」

ブルース「……」

所長「計算と慎重さ。確かにそれは重要ね、ブルース。アンタに言われた事、ずっと考えて……それで、割り切ろうとしてた」

ブルース「……」

所長「……でもね、ブルース。やっぱり無理。私が所長の器じゃないっていうのもあるだろうけど、アンタが……アンタ達が死ぬの、耐えられないわ」

ブルース「……」



ブルース「……必ず、皆を生きたまま連れて帰る。約束する」

所長「……アンタはそう言ったら、絶対にするものね。でも……アンタも、生きて帰って来ないと駄目なのよ?」

ブルース「……ああ、勿論だ。誓う」

所長「…………そう。なら、良いわ」

ブルース「……」

所長「……ブルース」

ブルース「……」

所長「……ごめんなさい」



………………


ブルース「マシュ」

マシュ「……すみません、今忙しくて……」タッタッ

ブルース「……」


【キッチン】

ブルース「マシュ」

マシュ「すみません、後で……今忙しくて」タッタッ

ブルース「……」


ブルース(なら、マシュの分の仕事を事前に全て終える)ピッピッ

プルルル、プルルル


ブーディカ『はーい、もしもし?』

ブルース「手伝いが欲しい」




ブルース「……」ズダダダダダダダダダダ……

ブーディカ「うーん……文面が難しいなぁ」サッサッサッ


ブルース(この書類はこちらの棚。このハンコはここへ。あれの関連書類はE-0121の引き出しの赤いフォルダーに挟まっていたハズ。あの事象の参考文献はこの棚)ズダダダダダダダダダダ……


職員A「あの、TP現象についての書類を……」

ブルース「これだ」

職員B「機材の稼働に関しての許可書を……」

ブルース「これを」

職員C「シバのレンズ……」

ブルース「レンズの角度調整は既に終わっている。焦点の調整を」

職員C「あっ、はい」

ブーディカ「うーん……このハンコどこだっけ?」キョロキョロ

ブルース「これだ」

ズダダダダダダダダダダ……


ドクター「……ぶ、ブルースくん、今日はやけに気合が入ってるね?」

レオナルド「やる気があるのは良い事だ。よしよし、これで次のレイシフト先の特定も進みそうだね」

ブルース「……」ズダダダダダダダダダダ……


マシュ「おはようございます」ウィーン

ブルース「……」ズダダダダダダダダダダ……‼

AI『特異点の特定を完了。モニターに表示します』

マシュ「え……」

ドクター「うっそ、はやすぎない……?」

レオナルド「う~ん、三日分の仕事だったはずだが……」


所長「……お、終わったみたいね」

ブルース「……」シュゥゥゥゥゥゥ……

所長「ちょ、丁度良いからここでミーティングを開きましょう。全員、居るかしら?」


職員達「「「はい!!」」」

ブーディカ「はいはいっ」

ドクター「はい!」

レオナルド「はいな」

マシュ「……はい」




ガガガガガガガガ……ピラッ


所長「……解析結果によると、今回のレイシフト先は16世紀後半。座標は……ヨーロッパ、大西洋辺りの海洋です」ペラッ

ブルース「……」

ブルース(……これで、マシュと少しは落ち着いて話が出来るか?)


マシュ「……」



所長「観測結果によると、恐らく今回のレイシフトも過酷なものになります。ロマニ、レイシフト組の健康状態は?」

ドクター「両名ともに良好です。ただ、今回のレイシフト先は……海洋だという事で、湿気と潮風によるブルースくんへの健康状態への影響が懸念されます」

所長「……レオナルド、どうにかできる?」

レオナルド「対策済みだ。スーツの素材は断熱性と保温性に優れたものを採用し、乾燥機能もバッチリ。スーツの構造に圧縮した空気の層を作った事により、海水に浮く事も可能になった」

所長「流石ね。ではレイシフト組は解散とします。十分休んで頂戴」


マシュ「……」スクッ


ブルース(……)


ブルース「……」スクッ

ブーディカ「あっ、ちょっ」スクッ



………………

マシュ「……」スタスタ

ブルース「……マシュ、待ってくれ。話がしたい」

マシュ「……」ピタッ……クルッ

マシュ「……はい、なんでしょう?」ニコリ



ブルース「……前回の特異点での事を……」

マシュ「はい。大丈夫です」

ブルース「……いや、大丈夫ではなく……」


ブーディカ「やっと追いついた……あ、取込み中だった?」


マシュ「いいえ、話なら終わったところです。失礼しますね、『ブルースさん』」スタスタ


ブルース「……!」




ブーディカ「……あちゃあ、アレは相当……」

ブルース「…………」

ブーディカ「……ごめんね、アタシのタイミングも悪かったよね」

ブルース「……いや……責任は、私にある」



ブルース(……私の安易な自己犠牲が、彼女を追い詰めたのか……)


(((貴方をお守りするべきだったのに、私は死んでいた。私はきっと地獄へ堕ちるでしょうな)))


ブルース(……私は、考えられてすらいなかったのか。誰かを守りたいと願う者の、気持ちさえ……)


ブーディカ「……あのさ。仕方ないとは、言えないけど……」



ブーディカ「……アンタの気持ち、アタシは分かるよ。守ろうとして、事態が悪くなるってのも理解できる。でも」

ブルース「……」

ブーディカ「でもアンタも、分かるでしょ? 記憶っていうのは、人の心をえぐり続ける一番むごいシロモノなんだ。だから、やっぱりアタシ達、やり方を変えないと駄目なんだ。生きてる人間として……これから先、ずっとあの子の記憶に残る命として」

ブルース「……そうか。いや……そうだな」


ブルース「……命として……」


ブルース(……やはり、計算づくでは……うまく、いかないか)




………………


(((まさか。尊敬している)))

(((頼りにしている、エンジニア)))

(((必ず、皆を生きて連れて帰る。約束する)))


ブルース「……」


ブルース(……全て、計算から発した言葉だ。何も反省など出来ていない。何も変われてはいない。人間を計算し尽くし、その結果から出て来た言葉たちだ)


(((お前は怪物だ)))


ブルース(マシュには、計算から出た言葉が通用しない。彼女は……恐らく、私を見抜いている。私の言葉の底を見通している)


(((これは、私が私になるための……必要な、時間だ)))


ブルース(……そして、どうなった? 結果がこれだ。マシュの心はズタズタになり、私の言葉は届かない……)

ブルース(……計算と、理屈から出て来た言葉など……)

ブルース(……怪物には、相応しい末路なのかもしれないな……)



ピピピピ‼ ピピピピ‼


ブルース「……」ムクリ

時計『07:00』

ブルース「……」

モゾ。モゾモゾ

フォウ「フォウ」

ブルース「……おはよう」スクッ


ピーンポーンパーンポーン

所長『おはよう、朝の七時よ。これより30分後から、第三回レイシフト前、最後のミーティングを開始します。遅れないように。良いわね』



ブルース「……」スタスタ

フォウ「……」テクテク


マシュ「……」スタスタ……ピタッ

ブルース「……おはよう、マシュ」

フォウ「フォウ、フォーウ!」ピコピコ

マシュ「……」スタスタ

ブルース「……」

フォウ「フォウ……」シュン


ブーディカ「おっはよう! ……ってあれ?」

ブルース「……おはよう、ブーディカ」スタスタ

ブーディカ「ちょっと、なんで朝からそんな険しい顔……ちょっと」



………………

所長「……以上が、今回のレイシフトにおける概要となります! 何か質問は?」

ブルース「……」

マシュ「……」

ブーディカ「……」ダラダラ


ブーディカ(この二人の間に座るの、キツイなぁ……)ダラダラ

所長「……あの、ブーディカ、大丈夫? 顔色が酷いけど」

ブーディカ「あ、うん……ヘーキ……」


マシュ「……」

ブルース「……」


ドクター(……二人とも、いつもはあんな感じじゃないよね?)ボソボソ

レオナルド(やっぱりうまくいってないみたいだね、これ……)ボソボソ

ドクター(どうしよ……)

レオナルド(私達はどうにも出来ない……けど、せめて見守らなきゃ)



所長「それでは、レイシフト要員は九時までに準備を終わらせ、コフィンにスタンバイする事! 良いわね、以上!」


マシュ「……」スクッ、スタスタ……ガチャッ

ブルース「……」ジッ

ブーディカ「さ、さーて! アタシも準備しなきゃなー!」スタスタ

ブルース「……」スクッ


ドクター「……ごほん」カタカタ……

レオナルド「……ふぅ……」カタカタ……


カタカタ、カタ。カタカタ……


ブルース「……」ガチャッ、ガチッ。ガキリ

ブルース「……」シュルッ、シュッ。シュバッ


マスク「」

ブルース「……」スッ

バットマン「……」



………………

ドクター「時刻、08:58。ブルース・ウェイン、マシュ・キリエライト、ブーディカの三名がコフィンにスタンバイ完了」

職員A「存在証明式始動! 観測は順調!」

職員B「電子機器類に異常は認められません! AIによるウィルス検査もクリア!」

職員C「シバによる時代特定、良好! 16世紀後半の特異点をロック!」


所長「では……海洋へのレイシフト、カウントダウン開始!」

職員達「「「了解、カウントダウン開始!」」」


ドクター「……ああ、不安だ……二人の仲が」

レオナルド「そこはそれさ。割り切る部分はきっちりしなよ、私達はあくまでサポートなんだからね」

ドクター「うん、分かってるけど……うん、そうだね……」

レオナルド「……へたれるなよ、きっとうまくいくさ」

ドクター「……うん。よし、やらなきゃな」




(((記憶ってのは、人の心をえぐり続ける、一番むごいシロモノなんだ)))

(((失礼しますね、『ブルースさん』)))


バットマン(……拒絶か)


ドクター『レイシフト10秒前! 9! 8! 7! 6! ……』

バットマン(……いや、諦めるわけにはいかない)

ドクター『3! 2! 1!』

バットマン「……」グッ

『0』



………………

ザザァン……ザザァン……


???「ん~、あのBBAめ何処へ行ったのやら……」キョロキョロ

???2「キミがあそこで邪魔しなければ仕留められたんだけど?」

???3「メアリー、無理ですわ。虫には言葉なんて通じませんの」

メアリー「……キミは優し過ぎるよ、アン。銃で撃つとかしても良いのに」

アン「嫌です。銃が汚れます」

???「仮にもキャプテンなのにこの言われよう……でももっと言ってくだちい」デレデレ

メアリー&アン「……」サササ

???「うーん見事なドン引き! むしろ好きですぞ!」



???「っとと、風が出て来たな。帆を張れェ、野郎どもォー!!!」

海賊たち「「「ウッス!!!」」」ザッ、ザッ


???「うんうん、やっぱり海の上と海賊が一番! あ、でもチミ達も一番だからね、デュフフフ……」

アン「……見ちゃ駄目ですわよ、目が腐ります」

メアリー「そうだね。早く船の中に戻ろう」

???「ちぇー、つれねえでやんの。……おーい、そこのデカいのも、いつまでも寝てねえで起きろよぅ」


???2「……グルルルル……」



???2「……匂い」スンスン

???「あ? 匂いがどうしたってんだよ」

???2「匂いだ。知ってる匂いが来た……あっちだ」

???「……あっち? ほんとにござるかぁ?」

???2「オレを……疑うのか!」ドォッ‼

???「あっいえ、この黒髭の名誉にかけて疑ったりしませんとも。野郎ども、あっちだあっち。あっちに舵を取れ」

???2「……グルルル……」

黒髭「……にしても、疑ってるワケじゃねーけどよぅ。匂いで分かるってホント?」

???2「……嗅ぎ慣れた匂いだ。下水の中にも、散々漂ってきた匂いだ……」



黒髭「下水……いよいよ人間離れしてやがるぜ、その見た目も生活も……」

???2「……オレはもう一度、寝る……」ノッシノッシ

黒髭「あ、おい。胸元のペンダント、外して行かねえのか? 潰れっちまうかもよ?」

???2「これは離さない。絶対に離さない」

黒髭「あ、そう……好きにしてちょ。えーと、きら……きらー……キラークラッシュさん?」

キラークロック「……オレは、キラークロックだ」




第三章

封鎖終局四海 オケアノス

今回の更新はここまでです。
全然関係ないですけどローガン良かったです。涙腺爆発しました(クソ報告)
Way down we go好きな人もっと増えろ……

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF

今回の悪役の参考資料です。

https://www20.atwiki.jp/nijiame/

以前どなたか紹介して下さったこちらのサイトもとても良い感じです。【DC】の【キャラクターBios】のカ行に紹介が収納されているかと思いますので、読んでいただけるともっと楽しめると思います。


海賊「ふんふんふふ~ん♪ 海の上にゃならず者が似合う~……」

女海賊「うるさいよ、ボンベ! 歌ってる暇があったら舵取りに集中しな、さっきから向かってる先がブレブレじゃないのさ!」

ボンベ「うへぇ……でもいい歌でしょ、ドレイクの姉御ォ? こう、海賊の哀愁が漂ってるっつーか……」

ドレイク「フン、陸の詩人にアテられっちまったのかい? 哀愁なんて二の次で良いじゃないのさ、島に戻りゃあ逃げきれた祝いに酒宴だよ!」

ボンベ「アイアイサー! おっしゃあ、向かう先を定めて……おやぁ?」

ドレイク「……今度は何だい?」

ボンベ「いや、姉御。アレ、アレ」

ドレイク「あン?」ジッ……



ギュ……ギュイ……ギュイィィィィィ……

ボンベ「なんだありゃあ、甲板の上の空気が歪んでるみてえに見えますが」

ドレイク「……総員戦闘態勢! こないだ戦った髭みたいなのが来るかもしれないよ、注意しな!」


海賊達「「「ウッス!!!!」」」ザザザッ


ボンベ「え、ええぇ!? 舵取りはどうします!?」

ドレイク「離すんじゃないよ、アタシ達で片付ける!」

ボンベ「んな無茶な!」



………………

ギュォォォォォォォォォォッ‼


バットマン「ぐっ」ドサッ

マシュ「うっ」ドササッ

ブーディカ「おっとと……ってアレ? 陸?」スタッ


バットマン(……どういう事だ? 陸? 今回のレイシフトは海洋上に発生する可能性が高かったはず……いや、ここは)ムクリ


海賊達「「「……」」」ズラララララッ


バットマン(……甲板の、上……)

バットマン「……ドクター」

ドクター『……ごめん』

バットマン「構えろ! 海賊船の上にレイシフトしたぞ!」

マシュ「くっ……」スッ

ブーディカ「ええ~……いっつもこんな感じなの……?」スッ



マシュ「はあっ!」シュドッ‼

海賊A「うぎゃ!?」ドサッ

バットマン「ふっ!」シュッ

海賊B「いっ……うお!?」グルンッ、ドッサァ‼

ブーディカ「そぉらっ!」ガギィィン‼

海賊C「おお! おっぱいでか……」

ブーディカ「フンッ!」ドッシャア‼

海賊C「ひぃ!?」ドサッ


海賊D「な、なんだこいつら!?」

海賊E「ま、またバケモンだ……こんなの勝てねえよ!」


バットマン(このまま制圧できるか……?)


女海賊「フッ!」シュタッ

バットマン「!!」ズザッ

女海賊「……いきなり乗り込んできて派手に暴れてくれるじゃないのさ。何が目的だい?」

バットマン「……お前達のような小悪党に話す目的など持ち合わせていない」ジリッ

女海賊「へえ! 面白いじゃないか、このフランシス・ドレイクに向かって……小悪党だって?」ギロリ


バットマン(フランシス・ドレイク。世界一周を達成した初のイングランド人であり、スペインの無敵艦隊を破った軍略家でもある……だがその実態は、国家公認の私掠船船長。海賊の頭だ)

バットマン「……」

ブーディカ「……ちょっとブルース、煽ったのは不味かったんじゃない……?」

ドレイク「それじゃあ一発ぶちかましてやるよ! 小悪党の力を思い知りなァ!」カチャッ



ドレイク「オラッ!」パァン‼

バットマン「くっ……」バッ


海賊D「ヒャッハー!」ブゥン‼

海賊E「姐さんが戦うなら怖えモンはねえぜ!!」ブォン‼

ブーディカ「ほっ」ガギィィン‼


マシュ「はっ!」ドシュッ

海賊F「んげぇっ!?」ドサッ


ボンベ「とったりぃぃぃぃぃぃ!!」ヒュンッ‼

マシュ「!? しまっ……」


ガギィィィィィィィ‼


バットマン「……無事か、マシュ!」ギリギリギリギリ

マシュ「……!!」


(((さらばだ。マシュ)))



マシュ「……やめてくださいっ!!!」バッ

バットマン「っ」ドサッ


ボンベ「……え? あれ?」オロオロ

海賊G「へっ……?」

ドレイク「オラぼさっとすんな! チャンスだよ!」

海賊達「「「お、おお……?」」」


ブーディカ「ちょっと! 仲間割れしてる場合じゃないでしょ!?」ヒュンッ

ドレイク「チィッ、アンタは特別厄介だねえ!」パァンパァン‼

ブーディカ「っ」ギャギィン‼



ドレイク「あとボンベェ! アンタ舵から手ェ離すなって言ったのに何やってんだい!!」

ボンベ「すんません! でも我慢できませんっした!」

ドレイク「後で船底掃除だよ! 隅から隅まで掃除しとけ!」

ボンベ「ええ~!? そりゃないっすよぉ!?」

海賊達「「「はははははは!!!」」」


バットマン(……あちら側の戦意、雰囲気は最高に近い。こちらは……)スクッ

マシュ「……」

ブーディカ「……やるよ、反撃する」

バットマン「……ああ」


バットマン(……前の特異点のツケが回ってきたか……)



バットマン「ドクター。フランシス・ドレイクと遭遇、交戦中だ。彼女はサーヴァントなのか?」

ドクター『ちょっと待って、解析中……アレ、おかしいな? センサーが故障してる……?』

バットマン「……?」

ドクター『ご、ごめん! 解析が正常にできそうにない、センサーの異常としか思えない……』

バットマン「……了解した」

ドレイク「なんだい、敵を前によそみかい!?」パァン‼

バットマン「フッ!」シュポッガシッ、ギュルギュルギュルギュルッ



ドレイク「チッ、マストの上に……任せるよ、アンタ達!」

海賊達「「「ウッス!!」」」ヨジヨジ


バットマン(……跳躍で追って来ないところを見ると、彼女はサーヴァントではない可能性が高い)


ザザァン……ザザァン……


バットマン「……? アレは……」




マシュ「やあっ!!」ギャァン‼

海賊J「うぐ……!?」ドシャッ


ドレイク「ったく何なんだい、アンタ達ってのはいきなり出て来て襲い掛かってくるねえ! 髭の奴等と言い、そこらの海賊よりタチが悪いよ!」パァン‼

ブーディカ「くっ……髭のヤツラ?」ギャァン‼

ドレイク「? アンタ達、アイツらの仲間じゃ……」


バットマン「注意しろ! 別の海賊船が来るぞ!」

ドレイク「ああん!?」

海賊K「あ、姉御! マジです、向こうから……『黒髭』の旗が来ます!」

マシュ「……?」



ドレイク「ったくこのクソ忙しい時に……ホントじゃないか! ボンベ、面舵一杯! 全速でこの海域から離れるよ!」

ボンベ「アイアイサー!」ガシッ


グラグラッ

ボンベ「……!? あ、姉御、舵がききやせん! そ、それに進められてません!」

ドレイク「なんだって!? なんでまた……」


バットマン「……?」

バットマン(この揺れ……船の下に、何か居る……巨大な力を持つ、何かが)


ザザァン……ザザァン……

黒髭「フッフーンwwwwwwキラークロック殿の鼻に間違いは無かったですな、とうとうBBAを追い詰めましたぞwwwww」

???「どうする、俺も出るかい?」

黒髭「あっいえ、先生が出るまでもないですぞ。オラァ野郎ども、全砲門開け! 砲火準備ィ!!」

海賊達「「「ヒャッハー!!」」」ガパリ、ガパパパパパパパ……



ドタドタ、ギャリィン‼ ヤベエゾ‼ ヨウイシロー‼


マシュ「フッ!」シュドッ‼

海賊L「おぐっ!?」ドッシャア‼


ドレイク「チッ……手の空いてる奴等は大砲に回りな! 来るよ!」パァン‼

ブーディカ「ブルース! どうすんのさ!?」ギャガァン‼


バットマン「待て……フッ!」ドガッ

海賊K「おわあああああああ!?」ヒュゥゥゥゥ……ドサッ

バットマン「ドクター、センサーはどうだ」

ドクター『……よし、解析完了! あちらの船からはサーヴァント反応が複数!』


バットマン(……という事は、あちらが人理を乱す側なのか?)


ドクター『……ブルースくん、センサーの故障かと思ったが、これも報告する!』

バットマン「何だ」

ドクター『キミ達が乗っている船の下にも、サーヴァント反応がある!! それが船の進行を止めている!!』

バットマン「船を……止めている……?」




ドドドォン……


ドッガァァァァァァァ‼


ボンベ「ちくしょう、撃ってきやがった!!」

ドレイク「負けてられるかい、撃ち返しな!」


ドドォン‼‼

ゴン、ボシャァ……


ボンベ「駄目です! 砲弾が装甲に弾かれて海に落ちちまいます!」

ドレイク「チィッ、やっぱり相手にならないねえ! まだ逃げられないのかい!?」

ボンベ「やっぱり駄目です、進めません!」

ドレイク「カーッ、なんてこったい!」


バッ、バサササササササ……スタッ

バットマン「……」ムクリ

ドレイク「……」




ドドドドォン……ドッガァァァァァァァ‼ ドッガァァァァァァァ‼


バットマン「今は争っている場合ではない。手を貸せ」

ドレイク「へえ、言うねえ。さっきまで大喧嘩してた相手に手を貸すって?」

バットマン「……我々の間での争いは利にならないぞ」

ドレイク「…………どうだか。少なくともその眉間を撃ち抜きゃ、こっちはちょっとスッキリするかもね」チャキッ

バットマン「……」

ブーディカ「ブルース」

マシュ「…………」


バットマン「……」


(((逃げろマーサ、ブルース)))


バットマン「撃てばいい。それで解決するなら、そうしろ」

マシュ「……!」

ドレイク「……」カチャリ


バッシャァァァァァァァァァァ‼


???「グルルルルルルオアアアア!!」ドドッ‼

ドレイク「ちぃっ!?」ババッ

バットマン「!!」ジリリッ


バットマン(身体を覆う緑のウロコ、ワニじみた鋭い牙、2Mを超える巨体……!)


キラークロック「ヴォォォォォォォォアアアアアアア!! 見つけたぞ、バットマン!!!」ギラギラ



バットマン「……船を止めていたのもお前か!」

キラークロック「軽い仕事だ……お前を半分に食い千切るのと同じくらいな!」ブォンッ‼

バットマン「っっ」バッ

シュッ

バットマン「っぐ……!?」ビュォッ、ドガァァァァ‼

バットマン(馬鹿な、掠っただけで……!)ドサッ、ゴロゴロ


マシュ「っ、ます……」

ブーディカ「ブルース!」バッ


ドレイク「ワケが分からないけど、あっちで争う分には勝手にさせとくんだ! それより逃げるんだよ!」

ボンベ「駄目です、もう船が接舷寸前です! じきに乗り込んで来やすぜ!」

ドレイク「……余計なモンは全部船から落とせ! ちょっとでも速力を上げるよ! それと、火薬のタルを全部持ってきな!」

ボンベ「アイアイサー!!」


………………

黒髭「デュフフ、必死必死。野郎ども、休まず撃てぇい!」

メアリー「そろそろ乗り込みかい?」

黒髭「ん~……見た事ない猫コスプレのゴツイ男が居るから却下で。キラークロック殿にお任せして一旦様子見、それでも駄目なら我々の出番ですぞ」

アン「随分慎重ですわね?」

黒髭「グフフフ、キミ達を傷付けたくないからねwwwww」

メアリー「……」

黒髭「……それに、キラークロック氏って死なないし。オラ休むな! 撃て撃て撃てェい!!」


ドドォン‼ ドドォン‼


…………………

ブーディカ「っく!?」

キラークロック「退け、邪魔だ!」ドゴォン‼

ブーディカ「あぐっ……!?」ドッサァァァァァ

キラークロック「ウヴォォォォォォォォォォォオ!!! バットマン!!!」ドスドス

バットマン「……!」グ……プルプル、ドサッ

マシュ「……こっちです!」シュドッ

キラークロック「アァァァァァァァグゥゥゥゥゥゥ……」イライラ



海賊L「よっこらせ、よっこらせ……ありったけの火薬ダルですぜ!」ゴロゴロ

ドレイク「よし、左舷後方、下部に吊り下げなァ! いいかい、合図したら一斉に左舷後方の大砲を撃て! ボンベは舵につけ!」

ボンベ「左舷……つって、黒髭の船は右舷ですぜ!? どうするつもりですかい!?」

ドレイク「……イチかバチかだよ!」

ボンベ「……よっしゃあ! よく分かんねえ賭けは大好きだぜェ!」



キラークロック「……邪魔だ!」ガガァッ

マシュ「……!」ゴン‼ ゴォン‼

キラークロック「ヴォオオオオオオオオ!」ブォンッ‼

マシュ「っきゃあ……!?」ガガッ、ヨロッ

キラークロック「捕まえたぞ、このまま握り潰してやる……!」ガシ、ギリギリギリギリ

マシュ「あ……あぐ……」ジタバタ

キラークロック「……グルルルルル……」ギリギリギリギリ

マシュ「あ……」ジタ……

キラークロック「……グルルルルゥ……」ギリギリギリギリ……


バットマン「ジョーンズ……やめろ!」ムク……

キラークロック「……! オレをその名で呼ぶな……!」

バットマン「彼女を放せ、ジョーンズ!」スチャッ‼

キラークロック「オレは! キラークロックだ!」



マシュ(! 力が弱まって……! これなら!)ググッ‼

バットマン「シッ!」ヒュォンッ‼


バットラング「」ヒュォォォォォンッ

キラークロック「チィッ!」バッ


マシュ「っ」ドサッ

バットマン「無事か!」

マシュ「げほっ、ごほっ……」

キラークロック「……バットマン……!」




黒髭「ん~? ……向こうの船の動きが奇妙ですなぁ。オイ、キラークロックは避けて撃てよ?」

海賊達「「「ウッス!!!」」」

黒髭「むむぅ、何か妙な雰囲気ですなぁ……いや~な予感。さっさとケリ付けちゃうか。乗り込み準備を整えろ!」

??「どうする? おじさんも出ようか?」

黒髭「いえいえ、まさか。お手を煩わせるまでもないでござるぞ」



ドレイク「今だ! 取り舵いっぱァァァァァァいィ!!!」

ボンベ「アイアイサー!」ガラガラガラガラッ

グォォォォォォォォォォン……!


ドレイク「左舷後方の砲、撃てーーーー!!」

ドドドドォォォォン‼


グラグラッ、グォォォォッ‼


ドレイク「……ここだ!」パァン‼

火薬樽「」ドゴォォォォォォォォォォン‼


グィィィィィィィッ、ザザザザザザァァァァン‼

ドレイク「左舷のイカリ降ろせー!! ターンだ!」

ガギギギギギギギギギ‼


グォンッ

バットマン「うぐっ……!?」ゴロゴロッ

キラークロック「!?」ヨロッ


ドドォン……


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ‼


マシュ「!!」


マシュ(砲弾が……駄目、直撃してくる)


バットマン(マシュが……!)


キラークロック(……!)




バッ、ドゴォォォォォォォォッ‼


キラークロック「ガァァァァァァァァァっ……」ボッシャァァァァァン

マシュ「きゃ……!?」バシャァァァァァァン……

バットマン「っ、マシュ!」バッ


バットマン(しまった、マシュが落ちた……いや、キラークロックが砲弾から庇った……!? どういう事だ……!?)

バットマン(……混乱せず、落ち着け。切り替えろ。今すべき事は何だ……!)

バットマン「……」ガバッ


バットマン(……マシュの姿は見えない。海面だけ……飛び込むか? いや、それは……駄目だ、しかし……)


(((怪物め)))

(((お前は怪物だ)))


バットマン「……!!」ギリィ


ブーディカ「ブルース! ブルースってば!」



バットマン「……」クル

ブーディカ「ちょっと、不味いよ……」ジリジリ


海賊達「「「……」」」ジリジリジリッ


ドレイク「……さあ、さあ。もう逃亡完遂は目前だけど、アンタ達はどうしてやろうかねえ」

バットマン「……」

ブーディカ「……」


………………

黒髭「ちぇー、完全に勝ったつもりで居たのになァ。あんだけ近寄った状態で強引にUターンとか、ちょっと予想できねーし……」

黒髭「……それに、キラークロック殿には悪い事したでござるなぁ。あの砲弾が当たるとは……」


黒髭(……いや、当たる軌道じゃねえよなァ、アレは。明らかに、キラークロックは庇った……あの少女を)

黒髭「……ちぇー、分かんねえなーもー」

???「……こりゃ、参ったねえ。俺も出るべきだったよなぁ、すまんすまん」ポリポリ

黒髭「あーいえ、先生に出るな出るなっつってたのは拙者ですし。次は確実に仕留める、それだけですぞ」

???「……それ、何度か聞いたけど……」

黒髭「そうでしたかな? ふひひ、なら次こそ本当ですぞ」

???「……ま、次は俺に任せてね」スタスタ

黒髭「デュフフフフ……」


黒髭(……ち、やっぱ誤魔化すのにも限度があるよなァ。流石はギリシャの大英雄、ヘクトール様だぜ)

黒髭「……ふんふふんふふ~んっと」

今回の更新はここまでです。ガスライトのスーツ、探偵感マシマシで良いですよね……


ピチャン……ピチャッ……

「はあ……はあ……くっ……」

「だい、じょうぶ? えう、りゅあれ」

「っ……ええ、私は平気よ。……貴方こそ、平気なの?」

「ぼくは、かいぶつだから。どれだけ、やられても、へいきだから」

「……馬鹿ね」



………………

ザザァン……ザザァン……

マシュ「……」ピク

マシュ「う……うぅ……」ムク


マシュ(ここは……砂浜……小さい、島?)


ドス、ドス……

キラークロック「……起きたか、しぶとい奴だ」



マシュ「……! 貴方は……!」スクッ

キラークロック「フン、いきなり立ち上がれるなら大丈夫だな。勝手にしてろ」

マシュ「……? まさか、貴方……」


マシュ(助けて、くれた……? そういえば、あの時も、砲弾から……なんで……?)


キラークロック「何だ」

マシュ「何で、助けたんですか。私達は敵同士のはずです」

キラークロック「……知るか」

マシュ「し、知るか?」

キラークロック「知るか。いいか、お前はいちいち行動に『ああだ、こうだ』って理由を付けてるのか? 違うだろう」

マシュ「でも……!」

キラークロック「……」イラッ




キラークロック「いいか、オレが助けたいと思ったから助けたんだ。だったら……黙って助けられてろ!」

マシュ「な……なんてひどい理由ですか! そんな計画性のない……!」

キラークロック「お前が目の前で死にそうだったのが悪いんだろうが!」

マシュ「それは……放っておけばいいじゃないですか! なんで皆、私なんかを……!」

キラークロック「思い上がるな! 誰がお前なんかのために!」

マシュ「そ、それは矛盾があります!」

キラークロック「オレの気分が悪くなるから、オレのために助けたんだ! 良いから黙ってろ!」

マシュ「なっ、だ、黙りません!」

キラークロック「グルルルルルルルル……!」

マシュ「ぐぬぬぬぬ……!」




キラークロック「……」ザリ、ザリ

マシュ「……何をしているんですか」

キラークロック「この線からこっちは、オレの領域だ。入ってくるな」

マシュ「な……横暴です! 広すぎます!」

キラークロック「命の恩人だぞ!」

マシュ「自分のために助けたんでしょう!?」

キラークロック「グルァァァァァァ!! 頭と口ばかり回る小娘め!」

マシュ「く、口だけではありません! なんなら腕っぷしも……!」


キュルルルルルルル……

マシュ「あ……」

キラークロック「……」

マシュ「……///」カァァァァァ


マシュ(お腹、減りました……)



キラークロック「……助けない。自分で何とかしろ」

マシュ「元からそのつもりです。余計な心配です」スタスタ

キラークロック「フン……」


キラークロック(……なんでオレは、あんな小娘を助けたんだ……)ジャラリ

ペンダント「」パカッ

キラークロック(……チッ、このペンダントの写真の小娘に似てる、とかなら自分でも納得がいくのに……かけらも面影がねえ……なんで助けたんだ、オレは……)イライラ

キラークロック「……」

キラークロック(……オレは……この写真の小娘の事も、ちゃんと覚えていないのに……なんで助けようと思ったんだ……)



………………

ピチャン……ピチャッ……

バットマン「……ブーディカ。起きているか」

ブーディカ「は~い、お姉さんは元気ですよ」ヒラヒラ

バットマン「ドクター、アレから何日経過した?」

ドクター『キミ達が船底に拘束されてから三日。健康状態は……うん、下降気味だな……そろそろ陽光を浴びた方が良い』

バットマン「マシュはどうしている?」

ドクター『……無事だ。いや、あちらの……「黒髭」側の、ワニみたいな人と一緒に居るが、今のところはうまくやっているようだ』

バットマン「……キラークロックと……」


バットマン(……今すぐマシュを迎えに行きたいところだが、拘束されている身ではそうもいかない。……さて、どうしたものか)


ガチャッ

ボンベ「ウーッス、掃除の時間だぜぇー。ブーディカ姉さん元気ぃ?」

ブーディカ「あ、ボンベじゃん。いらっしゃい」

バットマン「……」



ボンベ「ったくよォー、ドレイクの姐御も人づかいが荒れえっつうかよー」ゴシゴシ

ブーディカ「大変だねぇ。ほれ、ちょっとモップ貸しなよ。牢屋から手の届くところは手伝うよ?」

ボンベ「えぇ~、ホントに? そんじゃあ頼みますぜ、船底も結構広くてさぁ」

ブーディカ「はいはい、っと。それじゃあやってこうか」ゴシゴシ

ボンベ「あいよーっと」ゴシゴシ

バットマン「……」



バットマン「……訊きたいことがある」

ボンベ「あん? なんだよ」ゴシゴシ

バットマン「……黒髭の、あの船。あの装甲は分厚いのか?」

ボンベ「あ~? あ~……いや、黒髭んとこの船はそうでもねえハズだぜ。だってあれほどの速力を常に維持できるんだ、あんまり分厚いと重くなるしな」ゴシゴシ

バットマン「……」

ボンベ「……うん? でもそうなると、おかしいな。俺達の砲弾を弾くくらいの装甲はあるハズ、なのになぁ……?」ピタッ

バットマン「……」



バットマン「……ドクター。あの時、レーダーに映っていた反応を……故障と思しきものまで、全て報告してほしい」

ドクター『え? ……了解。あの時映っていたのは……』

バットマン「……」

ドクター『……黒髭の「船」全体からの、異常な魔力反応。キミ達の船の下のキラークロック。そしてキャプテン・ドレイクからの魔力反応だ』

バットマン「……」


バットマン(船全体からの魔力反応……いや、しかし、恐らくは……)


バットマン「……ヤツの船そのものが、宝具という可能性が……」

ドクター『……成程、確かにそう考えれば辻褄は合う。異常に強固だった船の装甲、そしてあの速力にも説明がつく』



バットマン「……しかし、ドレイクからの魔力反応? 彼女はサーヴァントでは……」

ドクター『うん、これが故障かと思った一番の原因なんだけど……彼女から聖杯反応があったんだ』

バットマン「聖杯?」

ドクター『うん。でも、彼女以外にも聖杯反応があるから……観測結果が正しければ、この世界には二つの聖杯が存在することになる』

バットマン「……」



ピチャン……ピチャッ……



バットマン「……ボンベ。ドレイクは聖杯を持っているのか?」

ボンベ「聖杯ィ? なんだそりゃ」ゴシゴシ

バットマン「……輝く盃のようなものだ」

ボンベ「ああ、アレか! こないだ『ポセイドン』とかいう髭面のおっさんを倒して手に入れたんだ、すげえ戦利品だぜ!」

バットマン「……という事は……」


バットマン(……という事は、ドレイクが所持している聖杯は……この時代に元々存在するモノか)



ボンベ「アレを使えば、たちどころに飯やら酒やらが湧いて出る! どういうカラクリかは知らねえが、楽しけりゃあ問題ナシってモンよぉ!」ゴシゴシ

バットマン「……ふ、道理で牢に運んで来る食事の質も良いわけだ」

ボンベ「へっ、毎日似たようなモンでわりぃなぁ。おっとと、この穴も浸水しそう。釘と板持って来ねえと」バシャバシャ

バットマン「……」



バットマン「……ところで、この船は何処へ向かっている?」

ボンベ「あぁ、今は海賊島っつうトコに向かってんだ。海賊ばっか集まる島で、名前も海賊島! 分かりやすいだろ?」

バットマン「……」

ボンベ「……そんな分かりやすく嫌そうな顔すんなよ。ホラ、海賊っつっても気のいい悪党が多いし。何より資材やら飯やらがいっぱいある! 女も居る! 最高だぜ!」

バットマン「……」

ボンベ「……ご、ごほん。まあ、そういう事だから。下船できねえアンタらには関係ねえかもだけど、ちゃんと土産も持って帰っから安心しろよな」ガチャ、バタン

バットマン「……」




バットマン「……ドクター、マシュの……キラークロックの監視は頼む」

ドクター『ん……了解。何かあったらすぐ連絡する』

バットマン「有難う」


バットマン(……二度も両親を見殺しにしておいて……こうして心配する事も、おこがましいのかもしれないが……)

バットマン「……」


ブーディカ「ふぅっ! 掃除完了……ブルース? また凄い顔付きになってるけど」

バットマン「……問題ない」

ブーディカ「それはどうだろうね」




バットマン「……考えていた。自分が傷つけてしまった者を心配するのは、許されるのだろうかと」

ブーディカ「……キミ、いい加減すさまじい思考してるね。……そんなに難しく考える、普通?」

バットマン「……いや、問題はそれだけではない。私は……私である事によって、少なくない人間の人生を狂わせてきた。それが、今更……戻ろうなどと」

ブーディカ「……」



ブーディカ「……アタシ、ローマでキミを裏切って殺そうとしたじゃん」

バットマン「……」

ブーディカ「権利で生きてる人間は居ないよ。大切なモノを守ろうとするから、人間なんだ」

バットマン「……すまない」

ブーディカ「うん……ごめんね。できれば二度と、言わせないでね」




バットマン「……」


バットマン(……権利で生きている人間は居ない、か……)

バットマン(私は、許可が要るのだと思っていた。人は他者の悪意から幸運で逃れ、生かされているのだと思っていた)


(((大人しくしねえから……馬鹿な連中だ!!)))


バットマン(……私は、間違っていたのだろうか。人には……私には、信じるに値する善性が残っているのだろうか)




………………

焚火「」パチ、パチパチ……


マシュ「……」モグモグ

キラークロック「……」モグモグ

マシュ「……」モグモグ

キラークロック「……」モグ……ゴクリ。ポイッ

マシュ「……」モグモグ……ゴクリ

キラークロック「……」ザリ、ザリ、ザリ……

マシュ「……あの、聞いても良いですか」

キラークロック「……」ピタッ




マシュ「その、ペンダント……」


ペンダント「」ジャラリ……

キラークロック「……」ジャラ……パカリ

少女の写真「」

キラークロック(……)


キラークロック「……知らねえ」

マシュ「……知らない?」

キラークロック「……覚えてねえ。多分、昔の事だ」



マシュ「……大事なもの、なんですか?」

キラークロック「なんで気にする? 関係ねえだろうが」

マシュ「……ですが、その……寝ている時も、大切そうに握り締めていたので……少し、気になって……」

キラークロック「……分からねえ。大事なモノだと思う。オレにとっては、多分……」

マシュ「……」

キラークロック「……オレの体質だ。記憶がどんどん抜け落ちて、衝動にすり替わる。人間を忘れて、人間を食いたくなる。このガキの記憶は、オレの食欲と入れ替わっちまった」ジャラリ


キラークロック(……ああ、似てる。オレの外見を気にせず、ものを尋ねて来る、あの目に。だから、オレは助けたのか……おぼろげにしか、覚えてねえのに)





(((……だから、いつか貴方が、皆にとってのかいぶつじゃなくなった時に)))

キラークロック「……」ジャラ……

マシュ「……すみません、無遠慮でしたよね」

キラークロック「……構わねえ」

マシュ「……」



キラークロック「……お前は」

マシュ「……」

キラークロック「お前は、どう思う。全員に、やり直すチャンスがあると思うか?」

マシュ「……それは……」

キラークロック「人間として、どう生きていくかも忘れて……怪物として暮らして来た奴が、人間に戻れると思うか?」

マシュ「……」



マシュ「私は……」

キラークロック「……」

マシュ「……ごめんなさい。分かりません」

キラークロック「……そうか」

マシュ「はい……」

キラークロック「……」



マシュ「……でも、信じるのは自由だと思います。たとえ戻れるのが、どれだけ先の話だったとしても。きっと未来は、分からないから」

キラークロック「……」

マシュ「……きっと、そうなんだと思います」

キラークロック「……そうだな」

マシュ「はい」

キラークロック「……すまねえな」

マシュ「……いえ」



マシュ「……」


マシュ(……マスターは……)

マシュ(マスターは、どうなんでしょうか……)

マシュ(……ご両親を目の前で二度も殺されて、それでも……戻れるのでしょうか)


キラークロック「……寝る」ノッシノッシ

マシュ「はい……おやすみなさい」


マシュ(私も……すべてを自分一人で抱え込んでいる事が、果たして正解なのでしょうか……)


(((さらばだ。マシュ)))

(((じゃあね、マシュ。元気で、ね)))


マシュ(……失う事を恐れて、誰かを遠ざけてしまう事は、間違っているのでしょうか……)



通信機「」ピピー‼ ピピー‼

マシュ「……はい、ドクター」

ドクター『もしもし、マシュ。今日も無事に乗り切れたかい?』

マシュ「はい。今日も、無事でした。……その、マスターは」

ドクター『ああ、ブルースくんも無事だ。何か現状打破の策があるらしくてね、またブーディカと話してるよ』

マシュ「……そう、ですか……」



(((……おとう、さん……おかあさん……)))


マシュ「……ドクター。聞いてほしい事が、あるんです」

ドクター『……うん、聞くよ。なんだい?』





………………

ザザァン……ザザァン……ユラユラ……ピタッ


バットマン(……船の揺れが止まった。という事は……)

ガチャリッ


ボンベ「あいよー、ただいまこの船は海賊島に停泊中ですよっ、と。ブーディカ姉さん、なんか買って来てほしいモンある?」

ブーディカ「あ、着いたんだ。そうだなー……特には無いから、楽しんで来なよ」

ボンベ「ね、姉さん……なんて無欲ないい人なんだ……おまけに器量良しだし……」


ガチャッ

ドレイク「オラァボンベ! 降りる前なのに船底で何してるかと思ったら……捕虜にほだされてんじゃないよ馬鹿!」ゴツッ

ボンベ「いてー!? こっちの姐さんは粗雑で怖えしよぉ……」ブツブツ

ドレイク「……へえ、遺言はそれでいいかい?」ギロッ

ボンベ「スンマセンっした! 姐さんが一番っす!」

ドレイク「フン……」



ドレイク「……アンタ達が逃げ出さないとも限らないからね。見張りをつけるよ」


海賊達「「「……」」」ゾロッ


ドレイク「ま、数日泊まってく予定だからね。陸のと少しずつ交代で見張りゃ、部下の不満も軽減できる」

バットマン「……ドレイク。話がある」

ドレイク「アタシが陸から戻った時に覚えてたら聞いてやるよ。それじゃあね、妙な真似すんじゃないよ!」スタスタ

バットマン「……」



海賊A「あー、皆陸に行ってんのになんで見張りなんか……」

海賊B「ちょっとの辛抱だろ。これが終わりゃあ、陸にあがって大騒ぎだ。酒と肉、そんで女!」

海賊C「違いねえ、ふひひひ……」



ブーディカ「……」チラッ

バットマン「……」コクッ

ブーディカ「……」ハァ




ブーディカ「……ねえ、皆……ちょっと、タノシイ事、しない?」

海賊A「あ?」クルッ

海賊B「何言ってんだ、ブーディカさん」

海賊C「ふ、ふひ……?」

ブーディカ「ほら、アタシも最近ずっと……楽しめてなかったからさあ。溜まってるんだよね」キュッ

海賊A「……おいおい、海賊相手にそれ言っちゃうのかよ姉さん!」

海賊B「へへへ、そういう事なら早く言えよ。俺達だって陸にあがれずに不満だったんだ、一緒に楽しもうぜ!!」

海賊C「ひひひー!! ふひひひ!!」



ガチャガチャ、ガチャリ


海賊A「ほら、てめえらも入れって!」

海賊B「おじゃまするぜぇ、姉さん……」

海賊C「ふひひひひゅっ……」

ブーディカ「ふふ、焦らなくても……」


ブチィッ‼


ブーディカ「……全員相手にしてあげるよ」ハラハラ……

海賊A「……え? あれ?」

海賊B「……う、腕、しばってた、縄……」

海賊C「ふ……ひ?」


ガチャン、ギィィィィ……

スタ、スタ


バットマン「……この錠前はピッキングが容易なようだ。交換をすすめておく」ボキボキ

ブーディカ「だましてごめんね?」


海賊A「……へ?」

海賊B「どういう事?」

海賊C「……?」


ドゴォッ




………………

バットマン「これはユーティリティベルト……見つけたぞ。ブーディカ、キミの武装だ」ガチャガチャ

ブーディカ「ありがとう。ふう、やっぱり盾と剣がなくちゃね!」ガチャリ

バットマン「……すこしのあいだとはいえ、先程はいやな役目を押しつけた。すまない」

ブーディカ「ああ、いいのいいの。ああいう視線には慣れてるし」

バットマン「……この後の作戦だが、やはりドレイクを追う」

ブーディカ「ホントに? この船、このまま頂いちゃったほうがいいんじゃない?」

バットマン「人手が足りない。それに、前の特異点と同じだとすると……敵が聖杯を所持している可能性がたかい。それなら、ドレイクの聖杯で対抗できる」

ブーディカ「なるほどね……よし、分かった。彼女を説得、って事になるかな?」

バットマン「……それを試みる」



ギャァァァァァァァァァ……


バットマン「……!」

ブーディカ「今の悲鳴、島の方からだ」

バットマン「……いやな予感がする」

ブーディカ「うん、行こう!」



………………

海賊D「クソッ、クソぉ! やっと陸にあがれたと思ったのに、なんだこのバケモン!?」

???「あああぁぁぁぁぁぁぁ!! しねっ、しねっ、しねえ!!」ブンブンッ‼

海賊D「うわぁっ!?」ドッサァ

海賊E「チクショウ、この……」

ドレイク「やめな! 危険だ、離れるよ!」

ボンベ「でも姐御ォ! こいつら海賊を……!」


???「フーッ、フーッ……!」ガシッ、ズルズル……

ボンベ「へ……? は、離せぇ! 助けてくれ! あそこには……あの迷宮には行きたくねえよぉ!!」ジタバタ


ドレイク「っ、ボンベ……」


ダダッ、ザザァ‼


バットマン「何が起きている」

ブーディカ「悲鳴が聞こえたよ、船長さん!」

ドレイク「なっ、アンタ達……」



ドレイク「……どうもこうも、見ての通りさ。海賊島に寄ってみりゃ、見た事もない怪物が棲み付いてやがる。知らずに上陸して、奇襲を受けたんだ」

バットマン「……先程、誰かが引きずられて行ったな。あの……大きな、人工の建物の中に」

ドレイク「ボンベだ。あの馬鹿、油断しやがって……」

バットマン「……」

ドレイク「……それより、なんで外に居る? どうやって逃げ出したんだい?」

バットマン「……」



ブーディカ「どうする、ブルース? あの建物……というか、迷宮。結構、めんどくさそうな雰囲気あるけど」

バットマン「……救出へ向かう」

ドレイク「ハァ? アンタ、何を……」

バットマン「救出へ向かう。ドクター、あの迷宮を解析してくれ」

ドクター『今やってみてる……アレはただの迷宮じゃないね。黒髭の船と同じく、全体からの異様な魔力反応。すなわち……』

バットマン「……迷宮が、宝具?」


バットマン(……迷宮にゆかりのある、史上の……すぐに思い浮かぶのはミノタウロスだが)


ドクター『あそこへ向かうのなら十分に注意してくれ。非常に危険だ。敵の手中へ飛び込むようなものだ』

バットマン「了解した。また連絡する」




ドレイク「本気でやる気かい? アタシが言うのもなんだけど、無謀すぎるんじゃないのかい?」

バットマン「お前に恩を売れる」

ドレイク「……ハ、生意気言うねえ。でも、それでも、だ。アンタにはそれ以上の理由があると見るよ」

バットマン「……それは、話す意味がない」


バットマン(……キャプテン・ドレイク。自分では気付いていないかもしれないが、ボンベが攫われたと話す時のお前の表情は沈痛なものだった)

バットマン(……これは良い機会だ。私は自分の善性のためにどこまでやれるのか、それを知るチャンスだ)




バットマン「……行くぞ、ブーディカ」

ブーディカ「はいはい。それじゃ、行こうか」スタスタ

バットマン「……」スタスタ



ドレイク「……」

海賊E「姐御、どうします?」

ドレイク「……馬鹿野郎、まかせっきりにできるか。こっそりつけていくよ」

海賊達「「「あいあいさー!」」」





………………


ピチャン……ピチャッ……


バットマン「……」ススス……

ブーディカ「……こりゃ、本当に迷宮だ。暗くて、じめじめしてて、入り組んでて……」コツ、コツ……

バットマン「血痕はこちらへ続いて……待て、止まれ」ピタッ

ブーディカ「……」スッ


ガサガサ、ドスドス……


???「くるな、かえれ!!」ワン、ワン、ワン……


バットマン「……」



バットマン(迷宮の中、音が反響して……何処から声が発されている?)


???「かえれ! かえらないと、ころす!」ワン、ワン、ワン……

バットマン「……お前が海賊をさらったのか!」

???「こいつらは、えうりゅあれを、きずつけたから、ころす! この島のやつらは、みんなそうだ!」ワン、ワン、ワン……

バットマン「……エウリュアレ……」


バットマン(エウリュアレ……確か、ギリシャ神話の……前の特異点で会ったステンノの姉妹神だったハズだ。ならば、話が通じるかもしれない)

バットマン「話がしたい! 私達は戦いに来たのでは……」

???「だまれ!」グオッ

バットマン「っ」

ブーディカ「危ないッ!!」ガギィィィィィィン‼



???「じゃま、するな!」ブンッ

ブーディカ「うっ!?」ズシャァァァ

バットマン「……!」


バットマン(キラークロックに勝るとも劣らない巨躯。頭から生えた巨大な角。手に持った巨大な斧。やはり、コイツは……)


バットマン「……ミノタウロスか!」

ミノタウロス?「うるさい!」ブンッ

バットマン「くっ!?」ババッ


バットマン(駄目だ、話が通じない……!)



ブーディカ「く……なんだか、力が抜けて……」ヨロ

ミノタウロス?「うるぁぁあぁぁぁぁ!!」グオンッ

ブーディカ「あっぐぅ!?」ドッガァァァァァァン‼

バットマン「! ブーディカ!!」

ミノタウロス?「ああっ!!」ブォン‼

バットマン「ぐあっ!?」ギャリィ、ドシャァァァァ……


ドクター『不味いぞブルースくん! その迷宮は内部に迷い込んだ者の力を制限するようだ! このままじゃ、ブーディカもキミも……!』



ミノタウロス?「……おまえ、つれていく。奥までつれていって、ころす」ガシ、ズルズル……

バットマン「……ぐ……」ズルズル……

ブーディカ「ぶるー……す……」


バットマン(……いや、むしろ僥倖。このままバットラングで痕跡を残しつつ、奥まで行く……)


バットマン「……」



………………


ミノタウロス?「えう、りゅあれ。また、もってきたよ」ズルズル……

バットマン「……」

エウリュアレ「……アステリオス。いくら男とはいえ、そんな生贄は要らないって言ったでしょう。そこらへんに放っておいて」

アステリオス「ごめん。でも、また、おそってきたから」

エウリュアレ「……キリが無いわよ。放っておきなさい……いえ、待って。妙ね、その男……」

バットマン「……」


バットマン(紫の髪。ステンノによく似た見た目。やはり、間違いなさそうだ)


バットマン「……」

エウリュアレ「……ステンノの匂いがするわね。立ちなさい」

バットマン「……」ス

エウリュアレ「……そうね、おかしな話。貴方、見た事あるわ。遠い世界、何処かの島で……また私(ステンノ)に会いに来たの?」

バットマン「……話をしに来た」

エウリュアレ「……ふぅん、ちっとも変わってないのね。……いいえ、少し変わったかしら? 妙な男ね」

アステリオス「……? どういう、事……? しりあい、なの?」

エウリュアレ「違うわ。もう一人の私と知り合いだってだけ。……でも興味深い。そう、それじゃあまだ世界を救う旅を続けてるのね」

バットマン「……力を貸してほしい」

エウリュアレ「残念ながらそれを決めるのは私達よ」



バットマン「……だが、このままでは世界が……」

エウリュアレ「世界。世界ね。それが私達にどう影響するの? 世界が私達に何かしてくれたかしら?」

アステリオス「……」

バットマン「……」


バットマン(……以前と同じ言葉は通用しなさそうだ。いや……自分が、それを言えるだけの精神状態にない……となると、本音を見つけなければならない)

バットマン(……私は、本当に世界を救いたいのか……?)


バットマン「……私は……」




バットマン「……」


バットマン(……だが、それは……)

バットマン(それは、おこがましいのではないのか? 覚悟はあるのか? 世界と一人を秤にかけるつもりなのか?)

バットマン(両親を殺した弾丸は、私の中で未だに進み続ける。いずれそれは、私の大切な者を殺すだろう。その覚悟はあるのか?)

バットマン(失う事を恐れず、大切なものを抱えられるのか?)

バットマン(その権利は、あるのか?)


バットマン「……私は……」



バットマン「……助けたい者が居る。そのために、力を貸してほしい」

エウリュアレ「……へえ。面白い目をするのね。でも……」


海賊達「「「オラオラオラァァァ!!!」」」ドドドドドドッ‼

アステリオス「っ」ガシャリ

ブーディカ「ブルース! 無事!?」

エウリュアレ「……少し、遅かったんじゃないかしら?」

バットマン「……!」



ドレイク「ほー、ほー。ここが最奥、迷宮の終わりってワケかい。案内ご苦労さん、猫野郎」パラララ……

バットラング「「「」」」バラララッ


アステリオス「やら、れた。ごめん、えうりゅあれ。ごめん、なさい」

エウリュアレ「構わないわ。……さあ、どうしようかしら」

海賊達「「「……」」」ジリッ


バットマン「……待て、待ってくれ。戦う為に呼んだんじゃない」

ドレイク「……あん?」




バットマン「彼らに害はない。むしろ、味方になりうる」

ドレイク「はぁ? 何言ってんだい、襲われた海賊が大勢……」

アステリオス「っ、おそわれたのは、こっちだ! ぼくが、水と食料をもらおうとしただけで、銃を向けて来て……いっしょにいるってだけで、えうりゅあれまで!」

ドレイク「……おかしいねえ、この島の連中は怪物が襲ってきたって言ってたけど」

アステリオス「ぼくは、なにもしてない! えうりゅあれを、まもりたかった、だけ!」

エウリュアレ「……口を挟むつもりはなかったけど、アステリオスの言う通りよ。外見だけで襲い掛かって来たのは、そちら側よ」

ドレイク「……なんだいなんだい、旗色が悪いねえ。それじゃあホントに、阿呆共が勘違いして襲っただけかい?」

バットマン「……ドレイク」



バットマン「この二人、そして私達も含めて……海に異常が起こっている事は、分かるはずだ」

ドレイク「だから何だい」

バットマン「協力が欲しい。黒髭を倒し、海を元通りにする」

ドレイク「……ったく、畳みかけてきやがるねえ。……ボンベは?」

バットマン「……」チラ

ボンベ「……zzz……」

ドレイク「……カーッ、さらわれといて呑気に居眠りこいてんだから世話無いね。
……分かった。いけ好かないけど、協力してやる」

バットマン「……助かる」

ドレイク「フン、せいぜい感謝しときな。後でがっぽり金を請求するからね」

バットマン「……悪党め」

ドレイク「褒めんじゃないよ」



バットマン「エウリュアレ。お前達は」

エウリュアレ「勿論、ついていくわ。ここに居ても面白くなさそうだし、それに貴方に興味もある……悪くないものが見れそうね」

アステリオス「ぼくは、えうりゅあれが、よければ……」

エウリュアレ「何を言っているの。私を守るんでしょう、絶対についてきなさい」

アステリオス「……! はい!」キラキラ

バットマン「……なら、これからよろしく頼む。アステリオス、エウリュアレ」




………………

マシュ「……?」パチ、ムクリ


マシュ(声が聞こえたような……でも、まだ夜中……)

マシュ(キラークロックさん……は、まだ寝てるし……誰でしょうか)



……~~~♪ ~~~♪ ~~~~……

マシュ「……?」


マシュ(歌声……? 森の奥から……それに、煙も……誰か、居る?)



マシュ「……」ガサ、ガサガサ

~~~♪ ~~~♪


マシュ(声が近くなって……綺麗な歌……それに、これは……竪琴の音でしょうか)


???「~~~♪ ~~~♪」ポロン、ポロン……


マシュ「……」

マシュ(誰でしょうか……開けた場所に、一人……)ガサリ


???「~~……誰だい?」ポロン……ピタッ

マシュ「あ……」



焚火「」パチ、パチ……

マシュ「すみません、その……お邪魔をするつもりは無くて」

???「ふぅん……そうか。良い声をしているね。キミ、アビシャグに似てるなぁ。本物だったりする?」

マシュ「あび……え?」

???「失礼、名乗りが遅れたね。僕はダビデ。羊飼いだ」

マシュ「だ、ダビデ!? 羊飼いじゃなくて王様ですよね!? イスラエルの……!」

ダビデ「ははは、リアクションの大きい娘は嫌いじゃないぞ。うーん、でも僕は王ってよりは羊飼いで居たい派だから、あんまり大きく扱わないでくれ」

マシュ「は、はあ……それで、なんでダビデさんがここに?」

ダビデ「それはね。……とある『箱』を守ってたんだ」

マシュ「はこ……?」



ダビデ「ああ、世にも恐ろしい死の箱さ。触れるモノすべてに死を運ぶ、凄まじいシロモノ……大げさじゃなく、触ったら本当に死ぬんだ。誰だろうと関係なく、一発でね」

マシュ「そ、そんな恐ろしいものを守っていたんですか!?」

ダビデ「そうなんだよ、僕もひとりでは心細かった。だけど良かった、キミが来てくれたなら心強い。どうか一緒に箱を守ってくれないか?」

マシュ「……それは……そうしたいのはやまやまですが、私にもやるべき事がありまして……」

ダビデ「そうか……残念だけど、しょうがないか。もうちょっと歌を聴いて行くかい?」ポロロン

マシュ「いえ、私は……」


マシュ(そろそろキラークロックさんが起きて来る。居ないと、怪しまれるかもしれない……)

ダビデ「……ん、ちょっと待った。なんだこの音……」


マシュ「え? ……あっ!!」



マシュ(船の音だ。マスターが……迎えに来てくれたんだ)


マシュ「み、味方です! 行きましょう、ダビデさん!」

ダビデ「ちょ、ちょっと待って。せめて焚火を消してから」ザッザッ

マシュ「ほら、行きましょう!」

ダビデ「走らないでくれ、頼むから……」



………………

黒髭「……それにしても、明け方の空に煙を上げるなんてナイス判断ですぞ、キラークロック殿!」

キラークロック「……オレじゃねえ」

黒髭「へ? それじゃあ誰が……」


ガサガサ、ガサガサッ‼


マシュ「ますた……あー……」

ダビデ「ぜえ、ぜえ……アレがキミのマスターかい? ずいぶん、その……小汚い外見だな……」


黒髭「おやぁ? おやおやおんやぁ~~??」

キラークロック「……」

マシュ「そん、な……」

ダビデ「え? ナニコレ? どういう状況?」


今回の更新はここまでです、お付き合いいただきありがとうございました


………………

ドレイク「休むんじゃないよ、さっさと運べェ!」

海賊A「あいあいさー……重いなあチクショー」ズシズシ

海賊B「釘くれー、釘」コンコン、コンコン

海賊C「げっ、船尾もひでえぞコレ。おーい、木ィもっと切り出せって」


バットマン「……船はもう少し軽量化した方が良い。ここと、ここの……船室を削る」

ドレイク「でもねえ……それしちまうと、野郎どもの寝る所が無くなっちまうからねえ」

バットマン「なら、ここの大砲を船首に移動させて……」

ドレイク「へえ、船首に。面白いねえ……良し、なら船尾と船首にそれぞれ大砲をつけるってのはどうだい?」

バットマン「悪くない。それなら少しウェイトを削れる」

ドレイク「決まりだね!」



ブーディカ「はいはい、切った木はアタシが運ぶよー」

海賊D「ええ~? 流石のブーディカ姉さんでも無理っしょ!」

海賊E「そうそう、男の俺らが頑張るって!」

ブーディカ「あははは、平気平気」ガシッ、グォンッ

海賊D「……へっ!?」

海賊E「き、木を一本丸々……!」

ブーディカ「軽い軽い!」スタスタ




バットマン「黒髭の船は恐らくこちらを追跡してくるだろう。海上で接舷させてはならない」

ドレイク「……でも、こっちにもそこそこの戦力が集まって来たんじゃないかい? ほら、この小僧と小娘が居るだろ?」

エウリュアレ「失礼ね! 誰が小娘よ、この牛女!」

アステリオス「うし……ぼくは、おとこだよ?」

エウリュアレ「アステリオスには言ってないわよ!」

ドレイク「あーあー、悪かった悪かった。レディとボーイが居るけど、それでも負けると踏んでるのかい?」

バットマン「……万全を期した時、正面からの戦いだと勝率が少し低い。
あの時、レーダーで確認できただけでも、あちらの船にはキラークロック含め『5人』のサーヴァントが居る。できれば大砲でサーヴァントを一騎倒したい」


通信機『』ピピー‼ ピピー‼


バットマン「……すまない、少し離れる。戻って来たら続きを話そう」スタスタ



バットマン「もしもし、ドクター。何かあったのか」

ドクター『ブルースくんッ、大変だ! マシュが……』ブツッ

???『もしも~し? 拙者、マシュのカレシなんですけどぉ~~~wwwww ちわーっす、聞こえてますゥ?』

バットマン「誰だ」

???『おおぅ、怒らないでくれよ。俺は海賊、黒髭だ。アンタがマシュちゃんのマスターって事でいい?』

バットマン「マシュはどうした。何をした」

黒髭『だーいじょうぶだって、今のところはな。だからそんな怖え声出すなよ、ビビっちまうぜ。……なあ、大事なマシュちゃん、返してほしいよなあ?』

バットマン「……」

黒髭『今から指定する座標に来てちょ。あ、下手な抵抗や攻撃があったら、このコ容赦なく殺すからそのつもりで。メモ取る用意できてるぅ? それじゃ言いますよ~ん』



………………

バットマン「……」スタスタ

ドレイク「お、帰って来た。おう、それじゃ続きを……」

バットマン「……作戦を変更する」

ドレイク「は?」

バットマン「黒髭に人質を取られた。作戦を変更し、救出作戦を立てる」

ドレイク「はあ? ちょっと待て、どういう……」

バットマン「とにかく作戦を変更する。絶対に見捨てるわけにはいかない人員だ」

ドレイク「……はー、はいはい。まあ、こっちも船員を助けられた借りがあるからねえ……」

バットマン「今晩には出航する。準備を急がせてくれ」

ドレイク「はいはい、今晩ね。……今晩だってえ!?」




………………

バットマン「ドクター。マシュは無事なのか」

ドクター『大丈夫だ、今も観測している。ひどい待遇は受けていないよ』

バットマン「状態は。怪我はないか」

ドクター『大丈夫、むしろ好待遇と言っても良い。あちらの……キラークロック? さんが、船長を脅してそうさせてるみたいだ』

バットマン「……海賊の船だ。何があってもおかしくはない」

ドクター『……ブルース、大丈夫だ。彼女だってタフだし、覚悟をしてレイシフトしている。何かあったら必ず連絡を入れる』

バットマン「彼女が死ねば……それは、私のミスだ」ググッ、プル……

ドクター『……』



バットマン(……私のミスだ、だと? 笑わせる。何もかも私のせいだ。マシュを傷付け、遠ざけ、殺そうとしているのは……結局は、私ではないか)

バットマン(……私の、大切な者になったから、マシュは……)

バットマン(昔からそうだった。私は何ひとつ変わらない。雨が降りしきる闇の中、両親を見殺しにしたあの頃から、なにひとつ……)


ドクター『……ブルース。これは躊躇っていたが、言わせてもらう。前の……キミを救出した特異点で何があったのか、マシュから聞いた』

バットマン「……」



ドクター『キミの気持ちは分からない。絶対に分からない。ご両親を殺されて、どれだけショックなのかも分からない。キミが人間の善い側面を……可能性を信じなくなってしまったのも、理解はできたって分かる訳もない』

バットマン「……」

ドクター『だけど……でも、これだけは言わせてもらうぞ、ブルース! キミがどれだけ疑っていようと、キミは紛れもない善人だ! 善人で、変人だ! そうでなきゃ、猫の仮装をして世界を救おうとしたり、人を遠ざけておきながら馬鹿みたいに心配したりするもんか!』

バットマン「……違う、私は……」

ドクター『違わない! キミは僕たちが信じるブルース・ウェインで、キミが疑うブルース・ウェインだ! 慎重で、計算高くて、人の気持ちが分からない馬鹿で、でもどんな時だって絶対にあきらめない男だ! だから……』

バットマン「……」

ドクター『……だから、自分だけの責任なんて、言わないでくれ。僕たちは、何があっても仲間だろう』

バットマン「……」



バットマン「……」


バットマン(……信じる事が怖くなったのは、いつからだったか……)


バットマン「……」

バットマン「……」

バットマン「……ドクター」

ドクター『……ああ』

バットマン「ありがとう」

ドクター『……ああ!』



………………

ザザァン……ザザァン……

ドレイク「風がきつくなってきたねえ……帆を畳みな! 漕ぐよ!」

海賊A「へええええ~~~っ!? でも姐御ォ……」

ドレイク「なんだい?」

海賊B「疲れますぜ、手で漕ぐのは~」

ドレイク「ぐちゃぐちゃ言うんじゃないよっ、アンタらのために命懸けようとしてた男の一大事なんだよ! 海賊にも矜持ってモンがあるだろ!」グワッ

海賊C「ひええっ、怒らせちゃまずいって。行こうぜ」


バットマン「……」

ドレイク「あん? 何だい」

バットマン「いや……」



バットマン「私は今まで、海賊というものを少し……誤解していたかもしれないと思ってな」

ドレイク「誤解ィ? どんな風に?」

バットマン「もっと……何も考えず、破壊活動にいそしむ連中かと思っていた。何にも構わず、突っ込んで行くような奴等かと」

ドレイク「ハッ、間違っちゃいないよ。向かう先が破滅でも、お宝があったら突撃するのがアタシら海賊さ」

バットマン「……人生の意味を、考えた事はないのか」

ドレイク「カーッ、辛気臭くて嫌になるね。人生の意味なんて後付けで結構。あとで見返して、自分なりに満足できりゃあそれで良いのさ。ただ、通す筋は通させてもらう。それだけだよ」

バットマン「……」


ドレイク「……そういうアンタはどうなのさ。人生の意味をグチグチ考える男かい?」

バットマン「どうだろうな。……考えては来たが、見つからない」

ドレイク「ふーん。ま、そんなモンだろうよ。猫のカッコしてうろついてんだし」

バットマン「これはコウモリだ」

ドレイク「はあ? それがかい?」

バットマン「猫は空を飛ばない」

ドレイク「飛ぶ猫も居るよ」

バットマン「それは……今後に期待しておこう」




バットマン「……少し、飲まないか」

ドレイク「はあ? アンタ、酒飲むのかい?」

バットマン「今日は飲みたい気分なんだ。聖杯で、出せるんだろう」

ドレイク「ふぅ~ん、まあいいや。……サシで飲むのに覆面は無いだろ、脱ぎなよ」

バットマン「……」スッ

ブルース「ああ。飲もう」



ドレイク「何がいい? 色んな種類があるけど」スッ

ブルース(本当に、何もない空間から酒瓶が……やはり本物の聖杯だったか)


ブルース「そうだな。……オススメはあるか?」

ドレイク「そうだねえ、やっぱりラム酒とか王道だねえ! ほら、一本開けなよ」シュッ

ブルース「フ……有難くいただこう」パシッ



………………

ブーディカ「ブルース~? 何処に……あ、居た居た! ……ってお酒くさっ!?」

ブルース「ブーディカ。よく来たな、飲むか?」

ブーディカ「……キミ、顔真っ赤なんだけど」

ドレイク「まだまだ飲んだうちにも入らないよ! ほらもっと飲め!」

ブルース「まあ焦るな。こう、栓を開いてだな……」ドバドバドバ

ドレイク「フゥーッ!! ラム酒の滝だー!!」パチパチパチ

ブルース「……ふ、ははは。どうだ、まさに浴びるように飲んでやったぞ」ヨロ

ドレイク「あっはははははは、いいねえ! アンタの事嫌いだったけど今気に入った!」バンバン


ブーディカ「……ちょっとブルース」ガシッ、ズルズル……

ブルース「?」ズルズルズル……

ドレイク「また来いよー!」ヒラヒラ



ブーディカ「……どうしちゃったのさ、ブルース。アンタってばそんなんじゃなかったでしょ」

ブルース「……酒を飲みたい時くらいあるだろう。私は今夜がそうだっただけだ」

ブーディカ「そういう事を言ってるんじゃないよ! 明日にはマシュを助けなゃ駄目なのに、どうしてキミがこうなの!?」

ブルース「……」

ブーディカ「……私が言いたくないけど、正直がっかりしてるし、見損なったよ。なんで……」



ブルース「……すまない」

ブーディカ「……もういいよ。ごめんね、私が期待しすぎたよ」スタスタ

ブルース「……」


ブルース(……なんで、か。それは、ブーディカ。理由は決まっている)

ブルース(明日が、32年前のあの日と同じになるかもしれないからだ。だからこそ、私は……)


酒瓶「」コロコロ……

ブルース「……もう、残ってもいないか」


ブルース(……だからこそ、打てる手は全て打つ)


………………


ザザァン……ザザァン……

マシュ「……」ジャラジャラ


マシュ(……この手錠……力が入りにくい姿勢なのもあって、力んだ程度じゃ外せませんね……こんな事なら、もっと清姫さんの縄抜けを……)


(((清姫は死んだ)))


マシュ(……何を考えていたんでしょうか、私は。戦場で、人の死を悲しんでいる暇なんか……無いのが、普通なのに)

マシュ(マスターの気持ちも考えず……未熟な気持ちのままで、人に悲しみを押し付けて……だから、これはきっと、罰なんだ……)ギュッ


ノシッ、ノシッ

キラークロック「……飯だ。生きてるか」スッ

マシュ「……キラークロックさん」



キラークロック「フン……捕まって気分が沈むのは分かるが、死にそうなツラはやめろ。こっちも飯が不味くなる」ドシリ

マシュ「すみません……ありがとうございます」カチャ

キラークロック「……」モグモグ

マシュ「……あの、すみません。こっちの羊肉のスープがキラークロックさんのご飯で、そっちのカビたパンが私の食事じゃ……」

キラークロック「お前の勘違いだ。黙って食え」モグモグ

マシュ「は、はあ……」

キラークロック「……食え。明日にはお前をあっちへ引き渡す。この牢屋も、それまでの辛抱だ」

マシュ「……はい」


???「あ、ワニさん。こんなところに居たんですのね」

???2「おや、囚人と仲良く食事かい? 楽しそうだね」

キラークロック「グルルルルル……何しに来た、アン、メアリー……!」

アン「まあ怖い。私達だって、囚人が年頃の女の子と聞いてお話してみたくなっただけですわ」

メアリー「キミこそ何をしにここへ? ただの囚人に、随分肩入れしてるじゃないか」

キラークロック「……関係ねえ。黙ってろ」

アン「へえ~……」

メアリー「ふ~ん……」

キラークロック「……」

マシュ「……?」

キラークロック「……チッ」



アン「うふふっ、囚人の貴女にはろくな食事が用意されないだろうと思って……はーいっ、ラム肉のスープを持ってきましたわ!」

メアリー「ふふっ、黒髭から奪ってきたんだ。あの時の間抜け面と言ったら無かったよ……って、あれ?」

マシュ「あ、あの……やっぱりこのスープ、船員用の食事だったんですか?」カラカラ

キラークロック「……」スン

アン「……あら、あらあらまあまあ!」

キラークロック「黙れ」

メアリー「これは興味深いね。コワモテ男の優しい気遣いってところかな?」

キラークロック「黙れ!」

マシュ「す、すみません! 食べてしまって……」

キラークロック「黙れ! お前も!」


ダビデ「あーあー! 僕にも羊肉のスープがもらえればなー!!」カンカンカンカン‼



<ギャーギャー‼ ワーワー‼


黒髭「……う~む、スープ返してって言いに行ける雰囲気じゃないですなあ。うん、諦めてパンを食べよう……」モシャモシャ

???「あらら、スープ取られちゃったの? オジサンの、良かったらあげるけど?」

黒髭「む、ヘクトール氏。いえいえ、拙者はパンで大丈夫でござる。むしろカビの生命力を受け継いでパワーアップしますぞwwwwwwww」

ヘクトール「へ、へえ……まあ、それで良いなら良いけどよ。腹壊すなよ?」

黒髭「デュフフ、サーヴァントとなったこの身に心配はご無用。ヘクトール氏は明日の人質受け渡しに備え、英気を養ってほしいですぞ」

ヘクトール「……それこそ、心配ご無用ってね。俺の『不毀の槍』(ドゥリンダナ)は伊達じゃないぜ」

黒髭「……むふふ。期待しておきますぞ」

ヘクトール「へっ……」



………………

ザザァン……ザザァン……

バットマン「……」


バットマン(……そろそろ、指定された海域へ到着するか。……)


バットマン「……頼んだぞ」

海賊A「へ、へえ……努力します」

バットマン「……今は良いが、もっと背筋を伸ばして立て。それと、口元は引き締めろ」

海賊A「へい……」

バットマン「……そろそろ入れ替わるぞ。服を脱げ」

海賊A「へいへい」



………………

黒髭「……ってな感じに、入れ替わり作戦とかやってくるかも知れないから……その時はキラークロック氏、嗅覚での特定よろしく!」

キラークロック「……フン、任せろ」

黒髭「それで、そろそろ……おっ、見えた見えた。BBAのゴールデンハインド号ですな。よーし、人質受け渡し準備ィ!」

海賊達「「「ウッス!」」」


黒髭「むふふ、もうすぐ思い切り暴れられますぞ」

キラークロック「……フン」

メアリー「今回は」

アン「私達も出ますわ。退屈でしたもの」

ヘクトール「おじさんも暴れ回っちゃおっかなあ~。暇してたしねえ」ゴキゴキ

黒髭「……これ、オーバーキルでは……な~んて油断してると足元をすくわれるのが海賊の世界。敵戦力の確認にうつりまーっす!」



黒髭「んー、んー……!! 待った待った待ったァ!! あちらの船にエウリュアレたんを確認ンンンンンンンンンンンンンンンンン!!」

キラークロック「えう……何だと?」

ヘクトール「ほォ、あのエウリュアレが……なんだ、素直についていく奴でも見っけたのかねえ」

黒髭「おおっ、あの黒猫のコスプレ筋肉ダルマの傍に居やがる! ナイスですぞキャットマン! ロリをありがとう神よ! ……いや、ロリ女神よありがとう!! 合法万歳!!」

メアリー「キモッ」

アン「吐き気がしますわ」

黒髭「そーと決まったら早速マシュちゃんの引き渡し条件を引き上げますぞー!」




………………

ザザァン……ザザァン……


ボンベ「接舷しやすぜ!」

ドレイク「……イカリ降ろせー! 帆を畳めー! 船をとめろ!」

海賊達「「「あいあいさー!」」」


黒髭「おーい! 聞こえるー!?」


ドレイク「聞こえてるよ、髭野郎! 何が欲しいんだ、言ってみな!」


黒髭「BBA!! 我々の要求はただ一つ! 聖杯をこっちに寄越す事と、エウリュアレたんをこっちに渡す事! ……二つだコレ!!」


ドレイク「はあ!? エウリュアレを……」



ドレイク「……どうする、女神サマ。アンタも狙いみたいだ」

エウリュアレ「……どうするの」

アステリオス「だめ、いかないで。ぜったい、だめ」

海賊A「……だが、やるしかない」

アステリオス「きけん、だよ! えうりゅあれが、きずつけられたら……」

海賊A「……奴等には渡さない。約束する」

アステリオス「……っ」

エウリュアレ「信じていいのね?」

海賊A「策はある」




………………

黒髭「それじゃ、エウリュアレちゃんを頑丈な縄で縛って連れて来てちょ! こっちのマシュちゃんも縛ってそっち連れて行きますからね~ん」

マシュ「……っく……」ジャラジャラ

敵海賊A「オラッ、暴れんじゃねえ!」

キラークロック「グルゥ……」


ドレイク「条件がある!!」

黒髭「なんじゃい!!」

ドレイク「こっちのエウリュアレと聖杯が板を渡る間、マシュも同時にこっちに渡しな! 信用できないんでね!!」

黒髭「……ふむ。オッケー、了解!」



海賊A「……聖杯は持った。エウリュアレ、準備は良いか」

エウリュアレ「やるしかないんでしょう。やるわよ」




ギィィィィ……バタン‼ バタン‼

黒髭「よしよし、二つの架け橋(板)完了。それじゃ、同時に渡ってもらおうか!」

敵海賊A「オラッ、お前が先に登れ!」

マシュ「う……」ソロソロ


マシュ(船が波で揺れて、バランスが……)


海賊A(……2船の手摺の間に板を架けたか。少しのよろめきで落ちる)

海賊A「エウリュアレ」

エウリュアレ「嘗めないでちょうだい。たとえ手が縛られていたとしても、問題にもならないわ」スッ




海賊A「……」スタスタ

マシュ「……」ソロソロ

エウリュアレ「……」スルスル

マシュ「……」ソロソロ

海賊A「……」


キラークロック「……?」


キラークロック(なんだ、コイツは……この匂い……クソ、アルコール臭がキツすぎるぞ)




マシュ「……」ソロソロ


マシュ(……戻った、ところで……どうしたら、マスターと……)


海賊A「マシュ」

マシュ「……え?」



黒髭「へ?」

ヘクトール「んっ?」

キラークロック「……!!」




ブルース「伏せろ」パシ、ブシュゥゥゥゥゥゥゥ


ヘクトール「煙幕ゥ!?」

キラークロック「撃て!」

黒髭「チィッ」パァン‼


マシュ「きゃっ!?」チュイン‼

エウリュアレ「私は気遣わないの?」スッ

ブルース「弾なら見切れるだろう」

エウリュアレ「……生意気ねえ」



キラークロック「ヴォオオオオオオオオオオオオオ!!!」ダダッ

黒髭「馬鹿、行くな! テメエが乗れば板が折れる!」ガシッ

ヘクトール「おじさんが行かせてもらおうか」タッ


マシュ「マスター!?」

ブルース「もうブルースさんとは呼んでくれないのか?」ニヤリ

マシュ「何を……なんで!?」

ブルース「助けに来た……ッ!?」ババッ


ガィン‼

ヘクトール「チッ、殺気で気付かれたか。やるねえあんちゃん」ヒュンヒュンッ

ブルース「……お前は……」



ヘクトール「なあに、ただのしがないオッサンさ。けど交渉決裂とは悲しいねえ、マシュの嬢ちゃんは引き続きこっちで預かるぜ」ヒュンヒュンッ……スッ

マシュ「マスター! くっ……」ジャラジャラ

ブルース「……そうはさせない。絶対に返してもらう」スッ


ブルース(煙幕も晴れ始めた。ここからが本番)


エウリュアレ「私も加勢しようかしら?」

ブルース「……船の制圧へ動け」



海賊達「「「うおおおおおおおお!!!」」」


ドレイク「飛び移れ飛び移れ! ロープも使って乗り移るんだよ! あっちの船を乗っ取りなァ!」

アステリオス「おおおおおおおおお!!!」ドスドスドス


黒髭「おいおい、結局こうなんのかよ! まーいいや、総員やっちまえ!!」

アン「ふふっ、血が滾りますわっ!!」

メアリー「さあ、誰からやるかな……!」

キラークロック「ヴォオオオオオオオオオオ!!!」ドシドシ



ブルース「ハッ!」ヒュッ

ヘクトール「うおっ、良い動きするじゃねえの!」タタッ、ヒュォンッ

ブルース「ッ!」バッ


ブルース(驚異的な平衡感覚。加えて槍という長リーチ。二つの板を飛び移りながら攻撃を繰り出してくる……)


ヘクトール「そら、そらそらそらっ!」タッ、タタッ、ヒュンヒュンヒュン‼

ブルース「くっ……」ザザッ、ジリッ、シュッ


ブルース(スーツが無い分も、こちらが遅れを取る……)


ヘクトール「とったァっ!」ブンッ

ブルース「!!」


ブーディカ「はッ!!」ガギィィィン‼



ブルース「……!」

ブーディカ「……はいはい。どうせキミの言う事だからね、どれもこれも計算の内なんでしょ」

ブルース「……違う。計算ではない」

ブーディカ「じゃ、何さ」

ブルース「信じていた」

ブーディカ「……ふん、ばーか。後で昨晩の乱れっぷりをマシュにも言いつけてやる」チャキッ

ブルース「それはやめろ」

マシュ「なっ、なんですか! 乱れ……とは! 聞き逃せません!」

ブルース「何もない。気にするな」


ヘクトール「あ~あ~、オジサンそっちのけで話すのはやめてくれないかなぁ……」ポリポリ



ブーディカ「フッ!」ヒュンッ‼

ヘクトール「ッ」ギャリリィン‼


グラ……


ブルース「うっ……」ヨロ

マシュ「あぶ、ない……」ヨロヨロ


ブーディカ「はあっ!」ギャギャ、ガァン‼

ヘクトール「ううぉっ!? ムチャクチャな攻め方してくるねえ!?」タタッ

ブーディカ「今度こそ守りたいモノ守るって誓ったからね! 髭オヤジ一人には負けらんないよ!」タッ、ヒュンッ

ヘクトール「滅茶苦茶に言ってくれるじゃない……のッ!」ヒュンッ、ガガァン‼


グラグラッ




キラークロック「ウヴォオオオオオオオオオオ!!!」ブンッ

ドッガァァァァァァ‼


海賊B「ひっ!?」

海賊C「怯むな、やっちまえ!!」ダッ

キラークロック「邪魔、だ!」ガシッ、ドゴォ‼


アステリオス「あああああ!!」ブンッ

キラークロック「!!」ガシッ‼

アステリオス「し、ね……しね、しねえ!!」グググググ‼

キラークロック「グルルルルル……!!」グググググ……



黒髭「にわかに怪獣大戦争じみた様相を呈して来ましたな! ヘクトール殿、さっさとケリをつけてくれたら嬉しいですぞ!」



ヘクトール「無茶言いなさんな! 本気のオンナは怖えんだよ!?」ガガッ、ギャリィ‼

ブーディカ「目ェ逸らしてんじゃないよッ!!」ギャリギャリガガァンッ‼

ヘクトール「ひえ……」タタッ



黒髭「ヘクトール殿、絶対女房の尻にしかれるタイプですよね。そうですよね」

パァン‼

黒髭「あっぶね」バッ

ドレイク「ほらよ、お望みの聖杯だ。アタシと一緒じゃちと不満だろうが、付き合いなよ」カチャリ

黒髭「……ドレイクめ、来やがったか」カチャリ




エウリュアレ「ほらほらほらッ!」シュパパパパパッ


アン「きゃっ! 全く、鬱陶しい小娘ですこと! 胸も板みたいに!」

メアリー「……アン、後で話し合いが必要だね」ズドンズドン、カチャリ

アン「あら、いやですわ。メアリーの事は言ってません」ズドンズドンズドン‼


エウリュアレ「悠長に談話かしら? のんびりしてるのね」ヒュパパパパパパパ


敵海賊B「ぐわああああ!! か、身体が……!」シュバッ

敵海賊C「があっ!? て、テメエ何しやがる!?」ドサッ


アン「……ちぃっ、あの矢には催眠作用でもあるみたいですわ。射抜かれた連中が同士討ちを……」

メアリー「矢に被弾したヤツは撃ち殺すよ」カチャリ


エウリュアレ「せいぜい手の届く範囲の仲間を殺しなさい。この戦場は掌握しつつあるわ」シュパパパパパッ




ブーディカ「そぉらっ!」

ヘクトール「うおっ!?」ガギィィィ‼


ヘクトール(ちっ、武器が長物だからなぁ。懐に入られりゃ弱い……!)

ブーディカ「容赦しないよ!」ググッ‼

ヘクトール「そりゃどうも!」ガッギャ‼


ブルース「フッ!」シュパッ

バットラング「」ヒュォォォォォッ


ヘクトール「ッチィ!?」ガガッ‼

ブーディカ「そこっ!!」ズバァッ‼

ヘクトール「うぐっ……」ヨロ、タタッ

ブーディカ「逃がすか……!」ダッ





ヘクトール(もう少し、もう少し誘い込む……)


ブーディカ「そらそらっ!」ヒュンヒュンッ‼

ヘクトール「っかかったァ!!」ガッ、ズォォッ

ブーディカ「なっ……」


ブーディカ(切っ先が、船の手摺に嵌まった……)グッ


ヘクトール「一瞬の隙が命取りだ、悪く思うなよッ!」グンッ

ブルース「そちらがな!」ヒュンッ‼

ヘクトール「っ!?」ガッ



ブルース「ハッ!」ヒュゴッ

ヘクトール「ははっ、一瞬ビビったが……嘗めないでほしいもんだ!」ガシッ、グルンッ

ブルース「フンッ!」グルンッ、スタッ

ヘクトール「ああ!?」

ブルース「シッ!」ヒュドッ

ヘクトール「っ……ああそうか、嘗めてたのはこっちって事か! 良いぜ、なら認めて……全力で潰してやろうじゃないの!」チャキ、ヒュンッ

ブルース「くっ」


ブルース(しまった、避けられない……)






マシュ「ます、たー!」ドンッ

ヘクトール「なっ……」ザシ、ググッ


マシュ「っ」ズルッ

ブルース「……!!」


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ、バッシャァァァァァ……


ブルース「マシュ!」


ブルース(助けなければ。海へ飛び込め。飛び込んで助けろ。彼女を、助けろ)

ブルース「……っ……」

ブルース(……だが。ああ、だが……)






ブルース(その権利は、あるのか?)





ブルース(二度も両親を見殺しにした私に、まだ大切な者を守る権利はあるのか?)


『ぼくのせいだ』


ブルース(計算ではここに残り、ブーディカと共に戦うのが最も勝率を上げる行為だ)


『お前は怪物だ』


ブルース(……ああ、そうだ。今更、戻るなど、なんと都合の良い話だったんだ。所詮、私は……)


ドシュッ



ポタ、ポタ……


ヘクトール「……」

ブーディカ「……」

ブルース「……ブーディカ……」


ブーディカ「……か、はっ……」




ヘクトール「……弱ってる奴を殺すのは、あんまりやりたくなかったんだが」グ……

ブーディカ「……抜か、せるか。この、槍はもう、アタシの、モノだ……」グググググ……ブシッ、ブシィ……

ヘクトール「……」グググググ……


ブーディカ「……ブルース、最期に、ね。話、聞いて」

ブルース「……令呪を……」

ブーディカ「……お願い、だから、聞いて。命と、引き換えの、呪いをかける」



ブーディカ「……アンタが、なんで悩んでたのか、分からない。けど、なんで立ち止まったのか、わかる。アンタ、ずっと、気にしてたもんね。権利が、どうとか」シュウシュウシュウシュウ……

ブーディカ「……あの、時は、否定、したけど。分かるんだ、アンタの気持ち。一度、失敗したら、もう戻れないみたいな、気がするの。でも……」

ブーディカ「でも、人には、チャンスがある。アンタにとって、これが、そうなんだ。ブルース」シュウシュウシュウシュウ……

ブルース「……!」

ブーディカ「……だから、お願い。マシュを助けて」シュゥゥゥゥゥゥゥゥ……




(そうだ。何を躊躇っていた、お前は)


 彼は目を見開き、消える彼女に背を向けて板を蹴った。波打つ海がどんどん近付き……その表面を突き破り、ブルースは飛び込んだ。


 沈むマシュから、気泡のしるべが昇ってくる。彼は強く水を掻き、深く、深く潜ってゆく。


 海の中はまっさらな闇を思わせた。ずっと上で響く潮の音。対して、水深が深くなればなるほど音は遠のき、光は消えてゆく。マシュが、大きな闇へと飲まれて行く。


(((大丈夫、闇の中には何も居ない)))

(違う)

 ブルースは過去の残響を否定する。違う。闇の中には恐ろしい魔物が棲んでいる。それは今日まで、幼いブルースの心を捕えたまま、ずっと離していなかった。

(((おとう、さん……おかあさん……)))

(今度こそ)


 清姫の涙がよみがえる。アルフレッドの死に顔が浮かび上がる。トーマスが膝から崩れ落ち、マーサが泣きながら倒れ伏すのが見える。頭を振り、幻覚を追い出す。

 自分の中にあるのは、両親を殺した弾丸だけではないハズだ。計算だけではないハズだ。疑心だけではないハズだ。不確定な自分を、信じろ。


 マシュが目を開き、何かを叫んでいる。気泡が大きく広がり、それを突き抜けてブルースが潜る。


(手を伸ばせ)

 どちらへ向けた言葉だったか。ブルースの腕が、マシュをとらえた。




………………

ヘクトール「……」

ヘクトール(……ったく、アイツらは死んだのやら生きてんのやら。にしてもまあ、ホントに覚悟を決めた女ってのは怖えな……)

ヘクトール「……いや、違うか」

ヘクトール(覚悟を決めた英雄ってのは、なんでこうも……)


黒髭「ちょっとー! ヘクトール殿、終わったならこっち!」

ヘクトール「あー、へいへい……」スタスタ


ヘクトール(……こりゃ、そろそろ潮時だなぁ。あの連中を呼んでおいてよかったぜ)



………………


バシャアッ‼


マシュ「げほっ、ごほっ、ごほ……」

ブルース「っは……はっ……マシュ……マシュ! 無事か! マシュ!」ジャブジャブ

マシュ「ぶ、じです……」

ブルース「拘束を解くぞ! 良いな!」

マシュ「はい……うぷっ……」ジャバジャバ

ブルース「良し……良し、良かった……!」ジャラジャラ

マシュ「……!」ジャバッ



マシュ「わたし、は……ごめんなさい、わたし……!」

ブルース「マシュ、聞いてほしい。言いたい事が、山ほどあった」

マシュ「……」

ブルース「……山ほどあった、はずなんだ。分からない。何を言えば良いのか分からないが、とにかく、言わせてくれ」

マシュ「……」

ブルース「私はお前が大切だ」

マシュ「……!」




ブルース「お前が大切で……恐らく、これからも、お前が目の前で危険だったら、考え無しに庇うかもしれない。それを、伝えておきたかった」

マシュ「……」バシャッ、ドッ

ブルース「……お前が大事なんだ、マシュ。お前を助けさせてくれ」

マシュ「……っ」ドッ、バシャッ

ブルース「……マシュ」

マシュ「っ! っ!」ドッ、ドッ

ブルース「マシュ、私に心臓マッサージは必要無い……」

マシュ「分かってます! 殴ってるんです!」ドッドッ

ブルース「……そうか」



ザザァン……ザザァン……


マシュ「私……」ドッ

マシュ「そんなの、私……!」ドッ、ドッ

マシュ「わたし、だって……!」ドッ

マシュ「私だって、大切に、決まってるじゃないですか……!」バシャ、バシャ……

ブルース「……すまない。マシュ」

マシュ「謝らないで、ください……」バシャリ……



マシュ「……私、強くなります」

ブルース「……」

マシュ「……強くなって、マスターを守れるようになります」

ブルース「……」

マシュ「……だから、待っててください」

ブルース「……」

マシュ「……待たずに、庇ったりしたら、ひどいですよ」

ブルース「……善処する」

マシュ「絶対です」

ブルース「ああ、絶対に善処する……方向で、検討する」

マシュ「……知りません」

ブルース「船へ上がるぞ。掴まれ」

マシュ「……」ギュッ

ブルース「……」シュポッガシッ


ギュルギュルギュルギュルッ




ドレイク「ちいっ、こんだけやっても劣勢か!」

黒髭「フフーン、所詮勢い任せの雑な作戦ですぞwwwwww拙者の敵ではござらんwwwwwwww諦めてエウリュアレ殿と聖杯を……!」


「マスター! 指示を!」


黒髭「ををおおおおお?」


バットマン「私は盾を取り戻す、マシュはエウリュアレを庇いつつ甲板を制圧しろ!」

マシュ「はい!」

黒髭「何だとぅ!? ついこの前までコンビネーション最悪だったのにぃ!?」

キラークロック「……」フッ




バットマン「ドクター、マシュの盾の位置を特定してくれ」ピッピッ

ドクター『待ってくれ……よし、その足元、直下の船室だ』

バットマン「良し……」プシュー

敵海賊D「やすやすと」ダッ

敵海賊E「行かせるかよォ!」ダダッ

ヘクトール「そういうこった!」バッ


バットマン「だが、行かせてもらう」ポチッ

ドドドドドォ‼
敵海賊D「ぐわあああっ!?」ドシャッ

敵海賊E「ひょえええええ!?」ドサッ


ヘクトール「なっ……」ズサッ


ヘクトール(甲板が円形に爆発しやがった……!?)





パラパラ……


バットマン「……レオナルド、爆破ジェルの威力を上げたな?」

レオナルド『報告が遅れてすまないね、すっかり忘れてた。上げたよ、爆発半径はそのままで衝撃を底上げした』

バットマン「助かった。……盾は……あった」ガシッ

盾「」ガシャリ

バットマン「よし、後はマシュへこれを届ける……」

「おーい! 僕も助けてくれー!!」

バットマン「……?」


バットマン「……誰だ」スタスタ

???「良かった、来てくれたのか! 僕はダビデ、お宅のマシュちゃんと一緒に捕まってた羊飼いだよ。ここから出してくれ、頼む!」

バットマン「……ドクター、解析を」

ドクター『うん、完了してる。マシュとのやり取りもある程度見ていたが、彼は一応こちらの味方みたいだ』

バットマン「……牢を開けるぞ。離れろ」

ダビデ「了解、優しく頼むよ!」


ヘクトール「そうはトロイアが許さねえって話だ!」スタッ、ヒュンッ

バットマン「!!」ガキィィィィン‼



バットマン「……トロイアの戦士か、お前は」ジリッ

ヘクトール「へっ、マイナーなオジサンだから名前なんざ意味ねえぜ。アンタは何処の英雄だ?」

バットマン「……」


バットマン(……槍……トロイア……駄目だ、浮かばない)


ダビデ「やっちゃえ! 負けるな黒猫くん!」

ヘクトール「名乗らねえなら、こっちから行くぞォ!」ヒュンヒュンヒュガガッ‼

バットマン「ッ!」ギギィ、ギャァン‼



バットマン「シッ!」ヒュンッ

バットラング「」ヒュォォォォォッ

ヘクトール「へっ、玩具だなあ!」バッ


バットマン「そこ……!」シュポッ

ヘクトール「遅いッ!」バッ、ヒュゥン‼

バットマン「!!」シュッ、ギュルギュルギュルギュルッ

ヘクトール「とどめだ……!」グワッ


ヘクトール(いや。不味い)


ヘクトール「ふッ!!」ダダッ


大砲「」ガラガラガラガラッ‼


ヘクトール「……」


ヘクトール(成程。一発目のシュリケンで大砲の固定具を破壊し、二発目のよく分からんロープ発射器具で大砲を引き寄せ……)


バットマン「ここで爆破ジェルだ」プシューッ、ポチッ

ドドォン‼


ヘクトール「大砲発射ってワケかい!!」バッ


ドッガァァァァァァァァァァ‼


ヘクトール「うぐ……!」ギュリィッ、ズシャシャシャシャシャシャシャ……


バギャ、ボッシャァァァァァン……



………………


マシュ「はあああっ!」ヒュンヒュンッ、タッ、ドドッ

アン「くっ……ただのか弱い女の子、というわけではなかったんですのね……!」ダッ、ババッ、ズドンズドン‼

メアリー「くっ、こんなに体術が……」ズドンズドン、バッ

マシュ「ふッ!」ヒュッ、タタッ


マシュ(盾が無くても、戦える……! それを証明してみせる!)ダッ


キラークロック「……ウォオオオオオオオオオオ!!」ドスドスッ

マシュ「!!」バッ

キラークロック「ナマイキな、小娘め。かかって来い!」ググッ

マシュ「キラークロックさん……!」スッ



アステリオス「……うぐ……」プルプル……ドサッ

エウリュアレ「アステリオス……!」


マシュ「……!」ヒュッ、ドドドッ

キラークロック「カユいぞ!」ドッガァァァァァァァァァァ‼

マシュ「くっ……」バッ、シュドッ

キラークロック「ウガアアアアアアアア!! ちょこまかと!!」ブォンッ

マシュ「ハッ!」ダッ、シュバッシィィィィン‼

キラークロック「うぐ……! 小娘……!」ガシッ、グググググ……


マスト「」メリ……メリメリメリメリメリ……バキャッ‼


黒髭「ちょっとキラークロック殿ォ!?」

ドレイク「なんだいありゃあ……!」


キラークロック「行くぞ!」ググッ

マシュ「くっ……!」


マシュ(マストの攻撃は素手では受け止められない! ここは……!)



「マシュ!」

マシュ「!!」

バットマン「盾だ!!」ブンッ

盾「」ヒュゥゥゥゥッ


マシュ「ありがとうございます!!」パシッ


マシュ(これなら……!)


キラークロック「ウオオオオオオオオオオ!!」ブォンッ‼

マシュ「はあああああああっ!」ドギャギャギャギャギャギャギャ‼


マシュ(駄目……これでも、受け止めきれない……!)ズシャシャシャシャシャシャシャ‼


キラークロック「……!!」ピクッ、ババッ

マスト「」ドッサァァァァァァァン


マシュ「え……?」

キラークロック「黒髭!! 奴等だ!!!」



黒髭「何ィ!? マジで!?」ダダッ

ドレイク「お、おい!?」

黒髭「……マジじゃねーか」


黒髭(ヘクトールは何処だ? 何処に……)


黒髭「……全員警戒しろ! 『アルゴナウタイ』が来やがったぞ!」

バットマン「……?」


バットマン(アルゴナウタイ……アルゴノーツ……確か、ギリシャ神話の、英雄達だったか)


スタスタ

ダビデ「すぅーっ……ふう、久々の美味しい空気だ。
……アレ、皆止まっちゃったな。僕が有名すぎたのが駄目だったか?」ポリポリ

バットマン「違う……アレは」


ザザァン……ザザァン……

ドレイク「なんだいあの船……バカでかい……」

バットマン「嫌な予感がする。ドレイク、船員の戦闘をやめさせろ」

ドレイク「あ、ああ。野郎ども! 戦闘やめ! 新しい敵に備えな!」

ボンベ「あ、新しい敵って……アレですかい?」

ドレイク「……分からないよ、まだね。でも……アタシも、凄まじく嫌な予感がするよ」タラ……


マシュ「マスター、アレは……」

ダビデ「おいおい、なんだよ。自由になってそうそうにこんな……アレは何だ?」

バットマン「分からない、油断するな。ドクター、解析を」

ドクター『……今やってる。新しく現れた船にはサーヴァント反応が四つ。気を付けてくれ、とても嫌な気配だ』




ザザァン……ザザァン……


???「ふん、それでおめおめと逃げ帰って来たわけか」

ヘクトール「……イアソン様は厳しいねえ。けど、俺だって孤立無援の中で気ィ張りっぱなしだったんだ、頑張った方だと思うよ」

イアソン「使えんコマの癖をしやがって、口だけは達者な事だな。まあいい、使えない奴は使えないなりに後で働いでもらおう。
……ヘラクレス!」

ヘラクレス「……」ズシ、ズシ

イアソン「黒髭の船へ行け。エウリュアレ以外、皆殺しだ」

ヘラクレス「……■■■■■■■!!」ダッ


バットマン「!! 何か跳び上がったぞ!」

黒髭「こっちに来やがる……!」


キラークロック「……ウォォォォォォォォオオオオオオ!!!」ブ ォ ン ッ ‼


マスト「」グォォォォッ‼


黒髭「あー!! 拙者の船のマストがーー!!!」


ヘラクレス「……」ズバァッ‼

マスト「」バキャッ……バッシャァァァァァン


黒髭「うおい。マジかよ」


ヘラクレス「……!!」ドシッ‼

キラークロック「……」

マシュ「……」

バットマン「……」

ドレイク「……」

エウリュアレ「……」



イアソン「聞こえるか! 愚昧な者共!」


ドレイク「否定できないねえ」

ボンベ「まあしょうがねえっすよ」

ドレイク「アンタに言われたかないよ」


イアソン「今、そちらへ送り込んだのはヘラクレス! 最強の英雄だ! ソイツはお前ら全員を殺すまで止まらない! このイアソン様の足を舐めて、部下になると誓える者だけ……生かしておいてやろう!」


ドレイク「……だってさ。どうする?」

バットマン「断る」

ドレイク「だろうねえ。先手必勝!」パァン‼



ヘラクレス「……」パシ

ドレイク「うへえ……弾を摘み取りやがった」カチャリ


ドクター『……ブルース、あちらの船に聖杯反応だ。この海の異常は、連中によって引き起こされた可能性が高い!』

バットマン「……了解」


イアソン「馬鹿な奴等め! 力の差を分からせてやれ、ヘラクレス!!」


ヘラクレス「■■■■■■■ーーー!!!」ゴォッ


マシュ「敵サーヴァント、来ます……!」

バットマン「構えろ!」

キラークロック「ヴォオオオオオオオオオオオオオ!!!」ダッ



アン「そこでこそ!」ズドンズドン‼

メアリー「気配を殺してた僕達の出番ってワケさ!」ズドンズドン‼


ヘラクレス「……」ギャギャリィン‼


アン「……うそでしょう」

メアリー「ノールックガード……」


キラークロック「ガアッ!!」ブンッ‼

ヘラクレス「!!」ガシッ‼

キラークロック「……グルルルルルルルルァ!!」グググググ‼‼

ヘラクレス「■■■■■■■!!」グググググ‼


アステリオス「……はあっ!!」ブンッ

ヘラクレス「っ」シュッ、バゴォ‼

アステリオス「あうっ……」ドシャァ

キラークロック「余所見か、余裕だな」ガシ、グイッ

ヘラクレス「……!!」ズバッ

キラークロック「効くかよ!!」ドッシャァァァァァァン‼




バットマン「……!!」

ヘラクレス「……」グッタリ


バットマン(首の骨が折れている。……死んだか)


キラークロック「フン、雑魚が……」

黒髭「フーッ、無茶をし過ぎですぞキラークロック殿!」

キラークロック「この程度の傷ならすぐに治る……!?」


ヘラクレス「■■■■■■■ーーーーー!!!」ズバアッ‼

アン「え……?」ドシャッ

メアリー「アン!?」




キラークロック「バカな、確かに……」

ヘラクレス「■■■■■■■!!!」シュバ、ドゴォ‼

メアリー「がっ!?」ゴキャリ

キラークロック「クソがア!!」ブンッ

ヘラクレス「……!!」ガシ、ズバァッ

キラークロック「っがぁぁ……!?」ヨロッ


バットマン「何……!」

マシュ「キラークロックさん!!」ダダッ

バットマン「待てマシュ!」ガシッ



ヘラクレス「■■■■■■■!!」ブォンッ

キラークロック「うぐっ……!」ドサッ


イアソン「馬鹿が! ヘラクレスは十二の命を持っているんだぞ、一度死んだくらいでどうにかなるものか!!」


バットマン「十二の命……!?」


バットマン(聞いた事はある。ライオン、暴れ牛、人食い馬、ケルベロス……神から与えられた試練をこなした英雄、ヘラクレス。どれも過酷で、並の者なら死ぬような試練ばかりだったと……)


バットマン(つまり、このヘラクレスは……あと十一回殺さねば、死なないのか?)


バットマン「……無理だ。我々の船へ戻れ、撤退するぞ!」

ドレイク「アタシもそう思ってたよ! 撤退開始!」

ダビデ「大賛成!」

ボンベ「あいあいさー!!」



ヘラクレス「!!」ババッ

バットマン「……!」ピタッ

ドレイク「そこを退きな!」パァンパァン‼

ヘラクレス「……」ギャギャギャンッ

ドレイク「チィーッ、ただじゃ帰らせてくれないってか!」

ヘラクレス「……ッッ!!」ダダッ

エウリュアレ「え? きゃっ……!」



アステリオス「えうりゅあれっ!!」ガガァン‼

エウリュアレ「アス、テリオス……」

ヘラクレス「■■■■■■■ーー!!」ゴォッ

アステリオス「ここは、通さない……!」ギャリギャリギャリギャリ








イアソン「さて、ヘクトール。使えんお前に仕事の時間だ。ドゥリンダナで黒髭を殺せ。そうすれば、クィーンアンズリベンジ号も消え、余計なモノは海の藻屑と化す」

ヘクトール「へいへい……」ガシャリ


ヘクトール「……」スッ


ヘクトール(黒髭サンよ、アンタに恨みはねえ。むしろここまで全く裏切る隙すら見当たらなかった、最高のリーダーとすら言えるが……ったく、こればっかりは立場を呪うぜ)


ヘクトール「『標的確認、方位角固定……』」


黒髭「……っ」ピリピリッ

黒髭(あ、これやべえ)


ヘクトール「『不毀の槍』(ドゥリンダナ)!!」ブォンッ



黒髭「……チッ」


黒髭(ただで死ぬかよ、クソッタレが)


黒髭「どうせ躱せねえなら……ここで一発、狙い撃ちだァ!」カチャリ



槍「」ヒュォォォォォオォォォォォォ‼

黒髭「……!!」カチッ、パァン‼

槍「」ドシュッ‼

黒髭「っぐ……」


ヘクトール「……っ」ドシュゥ


ヘクトール(へ……最後の弾丸を避けるのは、野暮ってモンだよなぁ……)フラ……



イアソン「何をしているんだ、本当にお前は使えん奴だな! あの程度の弾丸すら躱せんのか!!」

ヘクトール「……大技の後ってのは硬直するもんですぜ、イアソン様よ」

イアソン「口ごたえするな! ……まだ消えんのか、あの忌々しい船は!」

ヘクトール「だから、宝具の魔力は本人が死んだ後もちょっと残留するから……」

イアソン「ええい、うるさい! お前は次の宝具を放つ準備をしろ!」

ヘクトール「……ダメージも負ったんで、ちょい時間掛かりますよっと」

イアソン「使えん……使えん、使えん使えん使えん!! どいつもこいつも! ヘラクレスは何をもたもたしている!!」




キラークロック「……」グ、プルプル……


キラークロック(血が足りねえ。起き上がれねえ。クソ、前にもこんな事があった気がする……)

キラークロック(黒髭の野郎は何をして……ああ、やられちまったのか。……チクショウ)

キラークロック(天罰にしちゃあ、タイミングが悪すぎる……せめて……)

キラークロック(せめて、あの小娘を……逃がしてから……)プルプル


キラークロック「ッグゥ……」ドサッ




ヘラクレス「■■■■■■■……」ギャリィン‼

アステリオス「うあ……」ドサッ


エウリュアレ「そこ!」シュパパッ

ヘラクレス「■■■■■■■!!」グンッ、ドゴォ‼

エウリュアレ「きゃっ……!?」ヒュォッ

マシュ「っあぶない!」ガシッ、ゴロゴロッ


バットマン「フッ!」シュパパパッ

バットラング「「「」」」ヒュォッ

ヘラクレス「……」ギャリリリィ‼


アステリオス「よく、も、えうりゅあれを!!」ガバッ、ブォンッ

ヘラクレス「■■■■■■■!!」ガギィ‼





イアソン「……あの牛の角が生えたバケモノ。さっきから目ざわりだな……ヘクトール! 宝具で殺せ!」

ヘクトール「……へいへい。でもこっから撃つとヘラクレスに当たるかもしれねえけど」

イアソン「構わん! 一度や二度くらいでは奴は死なん!」

ヘクトール「……りょーかい。『標的確認、方位角固定……』」ズォォォォ


ヘクトール(クソ、やっぱ黒髭の弾丸が痛むねえ。だから狙いが甘くなるのも仕方ねえな、うん)


ヘクトール「『不毀の槍』(ドゥリンダナ)!!」ブォンッ‼




ヒュォォォォォオォォォォォォッ

アステリオス「っ」ガバッ

ヘラクレス「!?」


ドシュッ‼


アステリオス「……あぐ……」ジリッ

ヘラクレス「■■……」ヨロッ


エウリュアレ「あっ、アステリオス……!」

バットマン(アステリオスと、ヘラクレスの胴体を……槍が貫通して……)


アステリオス「にげ、て」



バットマン「……!」

アステリオス「にげ、て。こいつは、くいとめるから」

エウリュアレ「なにを……何を、馬鹿な事を言ってるの! 逃げる訳がないでしょう! 一緒に……」

アステリオス「ます、たあ。おねがい。にげて」

バットマン「……!!」

アステリオス「ぼくは、だいじょうぶ。かいぶつじゃなくなって、しねるから」


キラークロック(……かい、ぶつ……)


バットマン「……すまない、アステリオス」

エウリュアレ「はあ!?」


バットマン「撤退しろ! ドレイク、船を移るぞ!」

ドレイク「っ、おうよ! 野郎ども、さっさと船を移りな!!」

ボンベ「で、でも姐御ォ! 牛の坊主が……」

ドレイク「さっさとするんだよ! 坊主が稼いだ時間を無駄にするんじゃない!」


エウリュアレ「嫌よ! アステリオス! このまま逃げるわけには……」

バットマン「マシュ、エウリュアレを」

マシュ「っ……はい、失礼します」ガバッ

エウリュアレ「やめて! 離しなさい! アステリオス!」


アステリオス「……」ニコリ



アステリオス(えうりゅあれ、なかないで。ぼくは、だいじょうぶ)

アステリオス(むかしは、みんなに、かいぶつってよばれてたけど。えうりゅあれに、あすてりおすって、よんでもらえて、うれしかった)

アステリオス(だから……だから、もう、だいじょうぶ。ぼくはもう、しねるよ)



マシュ「……っ」チラッ

キラークロック「……」フッ


キラークロック(行け、小娘。生き延びろ)


マシュ「……」


ゴゴゴゴゴゴ……ズズズズズズズズ……



イアソン「……フン、ようやく沈み始めたか」

ヘクトール「一応進言しときますと、あのレベルの大船が沈む時は海に大渦潮ができますから離れた方がいいかと……」

イアソン「言われなくても分かっている。おい、方向転換してこの海域を離れるぞ」

ヘクトール「ヘラクレスは?」

イアソン「奴なら後から泳いで追いつく」



ドレイク「出発ーーーーー!!!! 全速で渦から離れろーー!!」

帆「」バサァッ‼


バットマン「……」


黒髭の船「」ズズズズズズズズ……ズズズズズズズズ……


バットマン「……」


バットマン(あまりにも、失ったものが多い……)


エウリュアレ「アステリオス……」



バットマン(……だが、得たものもある)


バットマン「……」ツカツカ

ダビデ「へ? え?」

バットマン「……」ガシッ

ダビデ「うっぷ!?」

マシュ「ま、マスター!?」

バットマン「息子の事を洗いざらい吐け。ダビデ王の息子、ソロモン王の事を」グイッ

ダビデ「そ、ソロモン!? なんで今!?」

バットマン「とぼけるつもりか!?」グインッ、ドッ‼

ダビデ「ぐあ……!?」


ドレイク「おいおい! なんだ、やっと面倒が終わったと思ったらもめごとかい!?」




バットマン「お前の息子が、この事態を……全て引き起こしているんだ。良いか、三つ数えてやる。それまでに吐かなければ、お前もあの海の大渦の中に叩き込んでやる」

渦「」ズォォォォォォォォォオ……

ドクター『ブルースくん!? どういう事だ、なんでそんな……』

ダビデ「は、吐けって言われてもだな……なんだ、身長体重収入とかかい?」

バットマン「……1……」グイッ

ダビデ「うわっ!? 待て待て、本当に何の話か分からないんだ! 僕は息子の事にはあまり関わって来なかったし、これからもあんまり関わりたくないと思ってる! 多分ろくでなしだし!」プラァン……

バットマン「2……」グググググ……

マシュ「待って下さいマスター! 彼は無関係です!」

バットマン「……」チラッ

マシュ「……」

ダビデ「マジだよ、僕は何も知らない……落としたって何の得にもならないぞ」バタバタ

バットマン「……」ジッ……



バットマン「……悪かった」スッ

ダビデ「ごほっ、ごほ……ああ、全く! いきなり怒気全開で胸倉をつかんで来るんだ、死ぬかと思ったぞ!」

バットマン「少し焦っていた……」


バットマン(……自分で思った以上に、焦燥が……)


(((犠牲の上に立つのだって辛いものだよ)))


バットマン(……)


バットマン「……とにかく、すまない。平気か」

ダビデ「サーヴァントじゃなかったらとっくに心臓がとまってるよ! あーあー、今日は久々に生娘抱き枕が無いと眠れなさそうだ!」

バットマン「それは許さない」ピッピッ




バットマン(……ヘラクレス目掛けて投擲したバットラングに小型の接着盗聴器を混ぜた。アルゴナウタイの事情も少しは盗み聞きできるはずだ)ピッピッ、チュウィィィィィィィィィ……


ドクター『ブルースくん、さっきの……ソロモンがなんとかっていうのは』

バットマン「……何でもない。気の迷いだ」

ドクター『そうかい? それにしては随分はっきり……』

バットマン「少し疲れていた。……一度に色々な事が起こり過ぎたんだ」

ドクター『……そうか』

バットマン「そうだ。すまないドクター、盗聴器を起動させ、録音を開始してくれ」

ドクター『オッケー、了解した』



バットマン「……マシュ達は休んでいろ。疲れただろう」

マシュ「は、はい……あの、マスターは?」

ドレイク「おいおい、キリキリ働いてもらわないと困るよ!」

バットマン「私が後で三倍働こう。それより、今はやるべき事がある」

ドレイク「……冗談のつもりだったんだがねえ。このまま続けて何かするつもりかい?」

バットマン「この程度は疲労の内には入らない。それよりも、敵の狙いを探るのが先だ」


チュウィィィィィィィィィ……ザザッ……


バットマン(……よし、電波をとらえたぞ……!)




『ザザッ……ようやく帰って来たか、ヘラクレス!』


バットマン(早い……もう復活して船へ戻ったのか。これは確か、イアソンの声……)


イアソン『遅すぎるぞ! それで、あの小娘女神はどうした? 箱は?』

ヘクトール『……アイツらは逃げおおせましたよ。沈む寸前に船を移って』

イアソン『なんだと……!? ヘラクレス! 貴様、何も持たずにおめおめと帰って来たのか!』

ヘラクレス『■■……』

???『ふふ……大丈夫です。つまりこれは、「箱」と「女神」があちらの船に一緒に居るという事……襲って略奪すれば、何もかもうまくいきます』


バットマン(……誰だ、この声は……女の声?)



イアソン『メディア……そもそもだ。そもそも、「箱」に「女神」を触れさせれば無敵になれるというのは、本当なんだろうな?』

メディア『ああ、愛しいイアソン様……私が貴方様に嘘を吐くハズがありません。どうか信じて下さい。箱と女神が接触すれば、貴方様は真に無敵の存在になれるのです』

イアソン『……フン、そうだったな。神の操り人形になったお前が、嘘なぞ吐くはずもない。分かり切っていた事か。
おい、進路を変えろ。あの女神共を追うぞ』

ヘクトール『はあ~あ……ザザッ……ザザザザザザザザ……』


チュウィィィィィィィィィ……ブツッ


バットマン「……」


バットマン(盗聴器の電力が尽きた。が、有益な情報も手に入った)



バットマン(奴等の狙いは箱、そしてエウリュアレ。……『箱』とは何だ……?)

ドクター『ブルースくん、こちらでも音声を聴いてみた。恐らく、箱に関してはマシュとダビデがよく知っているはずだ』

バットマン「……本当か」

マシュ「は、はい。というか、キラークロックさん達に捕まる直前、ダビデさんから少し聞いただけですが……」

バットマン「……」

ダビデ「……櫃の事か。アレは、だな……なんというか、僕とセットで召喚されて、力を殆ど持って行かれた恐ろしいシロモノなんだが」



ダビデ「古代イスラエルには言い伝えがあった。アカシヤの木でできた櫃、『アーク』には決して触れてはならないと」

ダビデ「中身も伝承で伝わっているだけだ。マナを納めた壺、アロンの杖、十戒の石板。……なにしろ櫃を開けた者が居ないから、それすら本当かどうかは分からない」

ダビデ「だが、ひとつだけ、その櫃に関する真実がある。それは、触れたら死ぬという事だ。誰が触ろうと、どんな理由があろうと、どんな道具を使おうと死ぬ。災いで守られた櫃だ」

ダビデ「……だから、僕は櫃を守っていた。間違っても誰か触らないように、と」


バットマン「……」



バットマン「……奴らの狙いは、エウリュアレ。お前を櫃に触れさせる事らしい」

エウリュアレ「私を……? 何故?」

バットマン「そうすれば、奴らの首領……イアソンに、無敵の力が付与されると」

ダビデ「まさか。馬鹿な、そんな事はあり得ない。たとえ女神が触れようと、死んで終わりさ。魔力を全部吸い取られて昇天しちゃうよ」

バットマン「……櫃に、そのような力は無いと?」

ダビデ「無いね。召喚されたのは外面の櫃、災いの部分だけだ」

バットマン「……」

エウリュアレ「……あちらの勢力の誰かが、嘘を吐いているとか?」

バットマン「……だとすれば、何のために……」



バットマン「……それに、問題はそれだけではない」

マシュ「はい。ヘラクレス……ですよね」

バットマン「……十二回、殺さなければならない。キラークロックが一度、そしてアステリオスが一度。計二回削ったが……単純に計算しても、あと十の命が残っている」

エウリュアレ「……」シュン

バットマン「……」チラ


バットマン(……)フム


バットマン「……この話はまた今度にしよう。とにかく、今日はよくやってくれた……各自ゆっくり休んでくれ。ドレイク、この後少し話し合うぞ」


ドレイク「マジで? アンタ、ホントにどういうスタミナしてんだい……」



………………


ザザァン……ザザァン……


バットマン「……」

ドレイク「……あの時の航行速度から見て、アルゴナウタイの船がこっちに追いつくのは時間の問題だよ。どうする?」

バットマン「……」

ドレイク「……おーい、アンタ。聴いてるかい?」

バットマン「……ああ、聞いている。打開策は……考え得る限り、25通りある」

ドレイク「へえ、そんなに?」



バットマン「そこからギャンブルの要素を取り除いた場合、策は5つに減る」

ドレイク「ふむ……?」

バットマン「……そして、より確実な手段を取るなら、策はひとつ。つまり……全戦力で、一気にヘラクレスを潰す」

ドレイク「……まあ、確かにね。でもそれが可能かい?」

バットマン「正直に言うが、他に思いついたのはあまりに非現実的すぎる……これが一番マシだ」

ドレイク「ふぅむ……」



ダビデ「ヘラクレスを『櫃』に誘導して触れさせるっていうのはどうかな?」

バットマン「駄目だ。間違って我々が触れないとも限らない。それに、敵に櫃のありかを教えるような真似は絶対に出来ない」

ダビデ「まあそうですよね!」

バットマン「…………私も一瞬は考えたが。やはり、リスクが高すぎる。すまない」

ダビデ「うん……いや、そこまで傷付いてないからそんなにフォローしなくて良いよ」

バットマン「そうか」

ダビデ「うん」


バットマン「……恐らく、あちらの『十二回蘇る』という能力は、聖杯があるからこそ保証されている」

ドレイク「そうなのかい?」

バットマン「十中八九はそうだ。……ならば、こちらも聖杯の力を使うまで」

ドレイク「聖杯……っつうと、アタシの?」

バットマン「……ああ、その通りだ。もしもし、レオナルド」ピッピッ

レオナルド『はいはーい、レオナルド・ダ・ヴィンチちゃんですよー?』

バットマン「頼みがある」





………………

ザザァン……ザザァン……


エウリュアレ「……」ボー

バットマン「……ここに居たのか。明日の作戦を……」

エウリュアレ「……」

バットマン「……すまない。邪魔をした」

エウリュアレ「良いのよ。……ちょっと、そこに立ってて。聴かなくて良いけど、聞いて」

バットマン「……」



エウリュアレ「……前、私(ステンノ)が見た世界の中に……月に愛されて、狂った男が居たわよね」

バットマン「……」

エウリュアレ「神はそういう存在なの。誰かを愛したら、その者の人生を狂わせてしまう。だから、私、諦めて……ずっと、目を閉ざして生きてきた」

バットマン「……」

エウリュアレ「でも……でもね。今回、ようやく、見つけられたの。馬鹿で、とろくて、でも純粋で、とても……とても、優しい子を」プル……

(((えう、りゅあれ)))

(((ぼくは、えうりゅあれを、まもりたかった、だけ)))

エウリュアレ「……私、分かってたつもりだったのよ。愛したら、狂わせる。破滅させてしまうって」

バットマン「……」



エウリュアレ「……本当に、馬鹿よね」

バットマン「……」


バットマン「……理性と、エゴだ」

エウリュアレ「……え?」



バットマン「理性とエゴだ。お前は理性で愛さず、エゴで愛した。アステリオスも同じだ」

エウリュアレ「……」

バットマン「……恐らくそれは、とても大切な事なのだと思う。誰かを愛する時、人は正常では居られない。愛された者も、恐らくは……変わってしまう。そこに、人間や神といった違いはない」

エウリュアレ「……」

バットマン「……だから、……だから、お前は間違っていない。だから、アステリオスは、最期まで笑っていたのだろう」

エウリュアレ「……っ……」



エウリュアレ「わたし……私、あの子を、愛しく思ってよかったのかしら」

バットマン「きっと、良いハズだ。権利で生きる者は居ない」

エウリュアレ「……私、間違っていなかったのかしら」

バットマン「少なくとも、私から見れば……」

エウリュアレ「……」



エウリュアレ「ふ、ふふふ。貴方、変わったわね」

バットマン「……」

エウリュアレ「あはははは……そうよ、そうね。少なくとも、ああ、世界は主観的でしかないのだから……」

ツー……

エウリュアレ「……ああ、だから、アステリオス。さよなら」ポロ……




バットマン「……エウリュアレ」

エウリュアレ「……ええ、何かしら」クルッ

バットマン「明日、作戦を実行する」

エウリュアレ「ええ。良いわ、奴らを叩きのめしてやりましょう」

バットマン「……頼りにしている」




………………



ヘクトール「前方に船舶を確認! ありゃあ……あー、ゴールデンハインド号だ」

イアソン「フン、ようやく追いついたか。……ん? アレは……停泊しているのか?」

ヘラクレス「■■……」

ヘクトール「そうですねえ、島に停まってます。……待った。島の沿岸にエウリュアレを確認」




エウリュアレ「……視認されたわよ」

バットマン『了解。そのままそこで待機してくれ』

エウリュアレ「はいはい」

マシュ『今更ですけど、これ本当に上手く行きますか……?』

バットマン『……信じろ。コイツの実績は相当なものだ、改造も済んでいる』




イアソン「……罠か」

ヘクトール「う~ん……あんまり近寄らん方が良いだろうなあ……」ポリポリ

イアソン「フン、ならばこのヘラクレスで蹴散らすのみだ。どんな罠だろうと、吹き飛ばしてやれ!」

ヘラクレス「■■■■■■■■■■!!」ダンッ





エウリュアレ「ヘラクレスが跳び上がったわ。此方へ来る」


バットマン『了解。始動させる……マシュ、しっかり座れ』

マシュ『は、はい』





ドッサァァァァァァァン……


ヘラクレス「■■■■■■■……」ムクリ

エウリュアレ「こんにちは、その節は世話になったわね」

ヘラクレス「■■■■■■■!!」ドスドス

エウリュアレ「ふふっ、良いわよ、もっとこちらへ来なさい……そして……」



……ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……

ヘラクレス「……?」ピタッ




……ゥゥゥゥゥゥウウウウウ……


ヘクトール「……? なんだこの音は……獣の雄たけびか何かか?」

イアソン「なんだというのだ、ヘラクレス! 止まらず、エウリュアレを……!」

ヘクトール「ちょい待ってくださいな、嫌な予感がビンビン……」



……ゥゥゥゥゥゥゥウウウウウオオオオオオオオオオオ……‼‼‼



ヘラクレス「……?」ジリッ

エウリュアレ「あら、貴方にも聞こえたかしら? そうね、アレは……とてつもなく悪趣味だけど、面白い形をしているわよ?」

ヘラクレス「……」





イアソン「ヘラクレスッ!! さっさとエウリュアレを連れてこい!!」



ヘラクレス「■■■■■■■■■!!」ドスドス

エウリュアレ「あらあら、クスクス。焦っては駄目。だって……」


グゥウウウウウウウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオ‼‼‼‼



ドシュッ、ギギギギギギギギギギギギギィィィィィィィィ‼‼


ヘラクレス「!!」バッ

バットマン(遅い……!!)グイッ


ドガガガガガッ‼‼





ヘラクレス「……」ドシャッ、ドササササァァァ……


バットマン「……よし、これであと9度の命だ」

マシュ「こ、これ、こんなに、揺れるんですか」

バットマン「シートベルトを締めろ。これからもっと揺れるぞ」


ヘラクレス「……■■■■■■■■■!!」ムクリ




イアソン「なんだ、あの、鉄の塊は……」

ヘクトール「ううおぉ……また、なんつー戦車を……」



バットモービル「」ドドッ、ドドッ、ドドドドドドドドド……


バットマン『……覚悟しろ』



今回の更新はここまでです。お付き合いいただきありがとうございました


………………

ザザァン……ザザァン……


(化け物め! 殺せ!)

『なん、で。ぼく、なにも、してない』

(あの子が殺されたのも、あの化け物のせいよ!)

『ただ、触れようと、しただけ、なのに。かんたんに、くずれてしまう』

(生贄を捧げます。どうか鎮まり給え)

『ぼくは、いらない。いけにえなんて、いらない』

(やだ! やだあああああ!! 来るな、化け物おおおおおお!!!)

『やめて、いたい、いたい。ころさないで。ぼくは、なにも、しない』

(怪物)

『ちがうよ、ぼくは』

(お前は怪物だ)

『ぼくは、ただ』

(怪物め、死んでしまえ)

『みんなみたいに、みんなとおなじになりたくて』

(あの迷宮には近寄るな。怪物が棲んでいる)

『ただ、かいぶつを、やめたかっただけなのに』




ザザァン……ザザァン……

(……お前なら治療できるだろうが)

(いやぁ、でも正直拙者のこまやかな愛の対象外って言うか~)

(つべこべ抜かすんじゃねえ。オレがお前を助けたんだぞ)

(ちぇっ、強引でござるなぁ……)

アステリオス「……?」




アステリオス「う、うぅ」ムクリ

黒髭「あっちょっと! まだ動いたら駄目でござる!」

アステリオス「ここ、は」キョロキョロ

キラークロック「……フン、しぶとい野郎だ。生き返りやがった」

アステリオス「ここ、は……おまえ、たちは!」ザザッ‼



アステリオス「ここ、は、どこだ! なんで……うっ」ズキッ

キラークロック「……静かにしてろ。面倒な奴め」

黒髭「ったく、なんでキラークロック殿はイチイチこういうのを助けたがるんだか……」

キラークロック「……黙ってろ」

アステリオス「えう、りゅあれは……えうりゅあれは、どこ……」

キラークロック「無事だ。逃げおおせた。……あの偏屈コウモリ野郎のところなら、まだ安全だ」



アステリオス「……なんで」

キラークロック「ああ?」

アステリオス「なんで、たすけたの。ぼくは、てきだよ?」

キラークロック「……」

黒髭「そーそー! 助ける必要性皆無だったのに、なんで拙者と牛小僧をおぶって泳いできたんでござるか!」

キラークロック「……ムカついたからだ」




黒髭「え?」

キラークロック「ムカついたからだ。お前が」

アステリオス「……え?」

キラークロック「それだけだ」

アステリオス「……」

黒髭「……え、拙者は? 拙者はなんで?」

キラークロック「お前はついでだ」

黒髭「酷くないですかな!!??」




キラークロック「理由なんざ、後で考えてやる。お前はとっとと傷を治せ」

アステリオス「なおして、どうする、の」

キラークロック「悔しくないのか。あの連中はお前を見下してたぞ。取るに足らない化け物が数匹片付けられたと喜んでいたぞ」

黒髭「……」

キラークロック「……復讐だ。滅茶苦茶にしやがって。奴らはいつもそうだ……自分達と違うから、見下しやがって……目に物を見せてやる」

アステリオス「……」

キラークロック「……自分と違うモノに何が出来るのか、見せつけてやる」



………………

黒髭「……」ヌリヌリ

アステリオス「いたっ……」ビク

黒髭「あーあー動くんじゃねえよ、動かねえだけでだいぶマシになんだから」

キラークロック「……」

黒髭「……」チラ

キラークロック「……」

黒髭「……はぁ」



黒髭「んで、どうして助けたか、そろそろ教えていただけます?」

キラークロック「……何がだ」

黒髭「俺らをだよ。もう何のかかわりもねえだろ、ほっときゃ良かった。テメェだけ生き残っちまえばよかっただろ」

キラークロック「……」

黒髭「俺は船と一緒に沈んだ方が良かったぜ。船長として、船と共に最期を迎えられねえのは恥だ」

キラークロック「……下らねえプライドで死ぬのか。じゃあ今からでも遅くない、そこに海がある。溺死すりゃあいい」

黒髭「……」

キラークロック「……」

アステリオス「……」



キラークロック「……チャンスだ」

黒髭「ああ?」

キラークロック「チャンスだ。オレは証明がしたかった。全員に、やり直すチャンスがある事を」

アステリオス「……?」

キラークロック「……ムカついたんだよ。どいつもこいつも、満足そうな顔で、自分を誤魔化して死にやがって……」

(((だから、いつか貴方が、皆にとってのかいぶつじゃなくなった時に)))

キラークロック「……」ジャラ……


黒髭「……」

キラークロック「……オレは、まだ、怪物だ」

黒髭「……はあ? はあああ~~~~~???」



黒髭「何を言うかと思えば……くっだらねえ、見た目の割りに繊細なヤロウだな」

キラークロック「……何だと」

黒髭「取り繕おうとすんじゃねえっつってんだよ! 過去は変えられねえ、俺達はワルだ! この牛の小僧だって、どんだけ取り繕おうが所詮人殺しの怪物だ!」

アステリオス「……」

黒髭「……けど、それがどうしたんだ? ああ? 神サマとかいう大層立派な阿呆から見れば、俺達は皆一緒らしい。なら、あとは俺達のエゴ次第だろうが!」

キラークロック「……」

黒髭「その顔をやめろっつってんだ、ワニ男! 怪物上等、悪党上等! 俺達はどう足掻いてもワルだ、なら……だからこそ、それなりに通す筋ってモンがあるだろうが!」



キラークロック「……なりたくてなったんじゃねえ」

黒髭「どうせ世界は過程より結果だ、バカヤロー」

キラークロック「クソが……クソが、お前はいつか食い千切ってやる」

黒髭「ああ、俺もお前は嫌いだよ」

キラークロック「フン……」



……ォォォォォォォォオオオオオオン……


キラークロック「今の、聞こえたか」

黒髭「おう、聞こえたぜ」

キラークロック「行くぞ」

黒髭「よっしゃあ!」



黒髭「何を言うかと思えば……くっだらねえ、見た目の割りに繊細なヤロウだな」

キラークロック「……何だと」

黒髭「取り繕おうとすんじゃねえっつってんだよ! 過去は変えられねえ、俺達はワルだ! この牛の小僧だって、どんだけ取り繕おうが所詮人殺しの怪物だ!」

アステリオス「……」

黒髭「……けど、それがどうしたんだ? ああ? 神サマとかいう大層立派な阿呆から見れば、俺達は皆一緒らしい。なら、あとは俺達のエゴ次第だろうが!」

キラークロック「……」

黒髭「その顔をやめろっつってんだ、ワニ男! 怪物上等、悪党上等! 俺達はどう足掻いてもワルだ、なら……だからこそ、それなりに通す筋ってモンがあるだろうが!」


338は無視して下さい。


アステリオス「……」

キラークロック「……お前はどうする」

アステリオス「……ぼく」

キラークロック「……」

アステリオス「ぼく、も、いきたい」

キラークロック「……なら、来い。連れて行ってやる」

アステリオス「うん」




………………

ドドドッ、ドドドッ、ドドドドドドドドド……

コンピューター『ボディ損傷率、10%』

バットマン「マシュ、集中しろ。このモービルの頑丈さはお前にかかっている」

マシュ「は、はいっ! く……」ガシャリ

レオナルド『エンジンの調子はどうだい?』

バットマン「悪くないが、音から察するに前部エンジンが少し損傷している。修理は可能か」

レオナルド『無理だね、使い捨てと割り切ってくれたまえ。一秒の稼働でも甚大な負荷がかかっている、何もしなくても走っているだけで壊れるさ』

バットマン「了解した。早期決着を試みる」カチャカチャ、カチャカチャ……グイッ



バットモービル「」ギュォン、ギュオン……グォォォォォオオオオオオオオッ‼



ヘラクレス「……■■■■■■■■■!!」ムクリ


バットマン(推察するに、奴が一度死んでから生き返るまでのタイムラグは10秒ほど。できれば反撃する暇もなく潰すのが一番だが、そう上手くもいくまい)


バットマン「……無駄な接触は避ける。ガトリング砲展開」

コンピューター『ガトリング砲、展開します』


砲台「」カパッ、ウィィィィィィ……



ヘラクレス「■■■■■■■!!」ドスドス


マシュ「きっ、来てますよ!! 敵!!」

バットマン「見えている。ガトリング砲発射開始」ポチッ

コンピューター『ファイア』


ガトリング砲「」ババババババババババババババババババ……‼


ヘラクレス「■■■■■■■!!」ギャリリリリリリリリリリィ‼


マシュ「ぜ、全部見切って弾いてますよ!?」

バットマン「狙い通りだ」グイッ


バットモービル「」グォォォォォオオオオオオオオッ‼




マシュ「あああっ、当たります! 轢いちゃいます!」

バットマン「このままだ。コンピューター、轢殺の成功率は」

コンピューター『敵、こちらを目視。体格、技術レベルから計算中……轢殺成功率、55%』

バットマン「轢いた後も射撃を続行するぞ」


バットモービル「」ギュオオオオオオオオオオッ、ガガガッ‼


ヘラクレス「■■■■■■■!!」ドドッ、ゴロゴロ……


ガトリング砲「」ババババババババババババババババババ……


ヘラクレス「……」チュゥン、ドドッ、グチャチャチャチャ……


バットマン「……」


バットマン(……7、6、5……)


ヘラクレス「■■■■■■■!!」ガバッ


バットマン(残り8つ)



イアソン「な、な、な……なんだアレは!」

ヘクトール「いや、俺に訊かれても……分かんねえとしか言えねえっつうか……」

イアソン「なんでもいい、さっさと何とかしろ! 使えん奴だな!」

ヘクトール「あいよ……」カチャリ


ヘクトール(正直、アレを吹き飛ばせる気がしねえんだけど……)

ヘクトール「『標的確認、方位角固定……』」


バットモービル「」ギュオオオオオオオオオオッ‼


ヘクトール(ち、よく動きやがる……)


ヘクトール「『不毀の槍』(ドゥリンダナ)!!」ブォンッ‼




ガッシャァァァァァァァ‼


バットマン「……! ヘクトールの槍か」

マシュ「きゃっ!? す、すみませんマスター、貫通されました!」

バットマン「問題無い。コンピューター、損傷率を」

コンピューター『損傷率37%。ガトリング砲破損。走行に問題はありません』

バットマン「……ドレイク、エウリュアレ。プランBを開始するぞ」ピッピッ

ドレイク『オッケー、プランBだね。野郎ども、イカリをあげろ、帆を張りな! 大砲の準備だ!』

エウリュアレ『……入るわよ、開けなさい』




バットマン「第二砲門、開け。ヘラクレスをその場に縫い付けろ」


ガトリング砲「」カパッ、ウィーン……ババババババババババババババババババ‼


ヘラクレス「■■……!!」ギャリギャリギャリギャリィン‼



装甲ハッチ「」プシュー……


エウリュアレ「邪魔するわよ!」ガタッ

マシュ「うわわっ、せまいですね……」ガタガタッ

バットマン「エウリュアレ、何処かへ掴まれ。飛ばすぞ」ガチャ、ガチャリ。ポチッ……グイィィィッ



エンジン「」ドドォッ、ドドドドドドドドォッ‼

バットモービル「」ギュオオオオオオオオオオッ‼



イアソン「なんだ、奴らめ……逃げる気か! 逃がすな、ヘラクレス! 潰せ!」


ヘラクレス「■■■■■■■!!」ダッダッダッダッ



バットマン(……瞬間ブーストでも問題なく追尾してくる脚力。つくづくサーヴァントはムチャクチャだ)カチャカチャ、ポチッ


コンピューター『レーダーに飛行体を感知』

バットマン「……」グインッ


槍「」ドサァッ‼


バットマン(……加えて、ヘクトールの槍攻撃の支援は続いている。やはり、これではガトリング砲の照準もブレる……)


バットマン「……ドレイク、準備は良いか」

ドレイク『はいよ、いつでも!』

バットマン「砲撃を開始しろ」

ドレイク『野郎ども! 地獄を見せてやりな!!』

ボンベ『あいあいさー!!』



ドドォン……ドッサァァァァァァァン‼ ドッサァァァァァァァン‼


イアソン「!? なんだ、奴らは何をやっている!?」

ヘクトール「ありゃあ、船が戦車と並走しながら大砲を撃ってるねえ……やっこさん方、どうあってもここでヘラクレスを潰すつもりらしい」

イアソン「ぐ、ぐぬぬ……どんなに足掻こうと、所詮は猿の浅知恵だ! ヘラクレス! 戦車を潰せ!」



バットマン(……やはり、あのイアソンは自ら戦場に出る、またはヘクトールを此処に参加させて一人になる根性がない。このまま並走し続け、ヘラクレスを潰す)ポチポチッ

コンピューター『アラート。アラート。多数の飛行体を感知』

マシュ「マスター、砲弾が!」

バットマン「……ッ!」グインッ


砲弾「「「」」」ドッサァァァァァァァン‼


エウリュアレ「荒っぽい運転ね!」

バットマン「コンピューター、ヘラクレスは何処だ」

コンピューター『頭上です』

バットマン「……!!」



ヘラクレス「■■■■■■■!!」ヒュオオォォォォッ


バットマン「くっ!!」グイインッ


バットモービル「」ギュリリリリリリリリィィィィ‼


ヘラクレス「っ!」ドッサァァァァァァァン‼


バットマン「ガトリング砲撃て!」

コンピューター『第二砲門、射撃再開』


ガトリング砲「」ババババババババババババババババババ‼

ヘラクレス「■■■■■■■!!」ギャリギャリギャリギャリィン‼


砲弾「」ヒュォォォォォンッ

ヘラクレス「!?」ドグシャァッ‼


バットマン「……」

バットマン(残り、7つ……!)





槍「」ヒュオオォォォォッガガッ‼

バットマン「なっ……」

コンピューター『ガトリング砲、第二砲門破損。予備武装展開』

エウリュアレ「昨日準備をしたにしては、すごく武装が整ってるのね?」

バットマン「……すまない。予備武装は……」


装甲ハッチ「」プシュー……


エウリュアレ「……なんで出入口が開いたの? なんで私の椅子がせり上がっているの?」

バットマン「予備武装はお前だ。そこから弓を射るんだ」

エウリュアレ「……アナタ、後で覚えておきなさいよね」

バットマン「ムチウチに注意してくれ」ガチャ




ヘラクレス「……■■■■■■■!!」ガバッ

エウリュアレ「く……!」シュパパパパパ……

ヘラクレス「■■■■■■■!!」ガキィィィィン‼

エウリュアレ「ナマイキ……!」


バットモービル「」グォォォォォオオオオオオオオッ‼


エウリュアレ「あうっ!?」ガゥンッ

ヘラクレス「■■■■■■■!!」ドスドスドスドス‼


砲弾「」ヒュォォォォォンッ

ドッサァァァァァァァン!


エウリュアレ「全く……! 騒がしい戦場ね!」ムクッ


エウリュアレ(狙って……! 狙って、撃つ……)カチャ……




槍「」ドッサァァァァァァァン!


コンピューター『アラート。アラート。飛行体感知。飛行体感知』

バットマン「くっ……」グインッ、グインッ

マシュ「わ、わわわ、わわわわわ……!」ガックンガックン

エウリュアレ「ちょっと! 狙い撃ちさせる気はあるの!?」

バットマン「お前の腕による!」グインッ

エウリュアレ「……言ってくれるわね!」

バットマン「……マシュ!」

マシュ「はい!」

バットマン「エウリュアレをシールドで守れ! モービルへの加護は今は一旦良い!」

マシュ「了解しました!」




マシュ「失礼します!」ガバッ

エウリュアレ「……良いわよ、そのまま……」


エウリュアレ(盾のおかげで風圧も無い。砲弾も、槍も降って来ない。あるのはただ、目の前の敵と私)


ヘラクレス「■■■■■■■!!」ダッダッダッダッ


エウリュアレ(……よくもやってくれたわね、アステリオスを。お返しをたっぷりあげるわ……)ググググググッ


エウリュアレ「シッ!」ヒュパゥンッ


矢「」ギュォォォォォッ、ドシュッ‼


ヘラクレス「……■、■……!?」ドサッ

エウリュアレ「……ごめんなさい、心臓を奪っちゃったかしら」フッ

マシュ「お、おおお……カッコいい……」



バットマン(あと6回……!)


バットマン「ドレイク、あと6回だ。攻撃の手を緩めるな」

ドレイク『あいよ! 野郎ども、気張りな! ここが正念場だ!』

ボンベ『ウッス! 牛小僧の仇、取ってやろうじゃねえか!!』

海賊達『『『オオオオオオーーーー!!!』』』



イアソン「……こ、この……! カス共が、クズ共が、ゴミ共が……!!」ワナワナ

ヘクトール「……」アチャー

イアソン「ヘラクレスッ!! 手を抜くんじゃないッ!!」



ヘラクレス「……」ピクリ


バットマン「……マシュ、エウリュアレ、戻れ……嫌な予感がする……」カチャ、カチャリ

マシュ「……」ゴクッ

エウリュアレ「……」スチャッ


装甲ハッチ「」プシュー……ガコン



ヘラクレス「……」ムクリ



ヘラクレス「……」ジリ


ドクター『……ブルースくん、ヤバいぞ。ヘラクレスの魔力が、膨れ上がって来ている……』

バットマン「……」

ドクター『仮説として、考えられるのは……十二の試練も終盤になり、何か……リミッターのようなものが、解放されて……』


バギャンッ‼


ヘラクレス「■■■■■■■■■!!」ガンッ、ガンッ、ガンッ‼

バットマン「何……!?」

バットマン(一瞬で、モービルに取りついて……)


エウリュアレ「何をしてるのっ、さっさと走らせなさい!」

バットマン「ッ!!」グインッ


バットモービル「」ギュオオオオオオオオオオッ‼




ヘラクレス「■■■■■■■!!」ガン‼ バキ‼ バキャリ‼

バットマン「ク……振り払うために蛇行するぞ、掴まれ!」カチャッ、ポチポチポチッ、グイッ

エウリュアレ「何処に!?」

マシュ「ハッチが壊されます、壊されます!!」

バットマン「マシュ、盾に意識を集中させろ! モービルの強度を限界まで上げるんだ!」グイグイグイッ‼

マシュ「っはい!」ガシャリ



バットモービル「」ギュオオオオオオオオオオッ、グインッ、グイングイングインッ


バットマン「……!!」グイイイイイイイン……‼

マシュ「あわわわわわ……」ガックンガックン

エウリュアレ「この、ヘタクソ、二度とこんなのに乗らないわよ!」ガクガクガクガク

ヘラクレス「■■■■■■■!!」ガギン‼ ガギリ‼ ドゴォッ‼


バットマン(振り払えない……!)



バットマン「マシュ! エウリュアレ!」

マシュ「行けます!」

エウリュアレ「ええ!」

バットマン「頼んだぞ!」

マシュ「はいッ!」

装甲ハッチ「」ゴゴン、プシュー……

マシュ「ハアッ!」ババッ

ヘラクレス「!!」バッ

エウリュアレ「そこッ!」シュパッ

ヘラクレス「■■■■■■■!!」ガギィン‼




マシュ「たあっ!」ヒュンッ

ヘラクレス「■■■■■■■!!」バッ、ブウン

マシュ「っく……!」ガギィ‼

バットマン「……もう少し、もう少しだ……!」

ドレイク『マシュと女神サマが上に乗ってるけど、砲撃は!?』

バットマン「継続しろ! 二人共、砲弾に注意しろ! コンピューター!」

コンピューター『聴いています』

バットマン「ロケットブースターの使用可能回数は!?」

コンピューター『計算中……あと4回です』

バットマン「……燃料はできる限り温存する……!」



マシュ「やあっ!」ガガッ

ヘラクレス「■■……!」ガギン‼


砲弾「」ヒュオオォォォォッ


ヘラクレス「!! ■■■■■■■!!」ガッギャァァァン‼

マシュ「そこっ!」シュドッ‼

ヘラクレス「■■!?」ヨロッ

エウリュアレ「降りなさい」シュパッ

ヘラクレス「……!!」ドシュゥッ、ドッサァァァ‼


バットモービル「」グインッ、ギュゥゥゥゥン……

バットマン「よし……」

コンピューター『ボディの損傷率をチェック中……損傷率76%。次にまた大きな衝撃が加われば、走行に問題が出る可能性大』

バットマン「二人とも降りろ。次がモービルの最後の一撃だ」




ヘラクレス「……」

バットモービル「」ドドッ、ドドッ、ドドドドドドドドド……



バットマン(ヘラクレスの命はあと5つ……)カチャ、カチャリ。ポチッ

コンピューター『緊急脱出装置、準備中』

バットマン「ありがとう」

コンピューター『短いお付き合いでした』

バットマン「……悪くない働きだった」

コンピューター『それはどうも』



ヘラクレス「……■■■■■■■■■!!」ムクリ


バットマン「行くぞ、ロケットブースターを作動させろ!」グイン

コンピューター『了解。ロケットブースター作動』


バットモービル「」グォォォォォォオ……ゴォォォォォォォオオオオオオオオオオッ‼


ヘラクレス「■■■■■■■■■!!」バッ


バットマン「……!!」ポチッ

コンピューター『グッバイ』


バシュゥッ




バットモービル「」ゴッシャァァァァァァァァァ……ゴアンッ、ゴアン……


バットマン「……」バッ、バサササササササ……スタッ

マシュ「無事ですか、マスター!」

エウリュアレ「ふん、しぶといのね」

バットマン「まだ終わっていない。ヘラクレスの命はあと4つだ」


ゴアン、ゴアン……ガシャリ、ドス、ドス


ヘラクレス「……■■……!!」ドス、ドス

バットマン「……」

エウリュアレ「……」

マシュ「……」




イアソン「は、はは、ははは……!! カス共が、いくら無い知恵を絞ったところで……ヘラクレスには勝てんッ!! 見ろ!」

イアソン「あの妙な戦車も破壊されたッ!! ヘラクレスの命はあと4つも残っている! あーはははははは!! 楽しませてもらったぞ、ゴミ共!!」

ヘクトール「……一応、俺も加勢に行った方が良いんじゃ……」ポリポリ

イアソン「馬鹿め、お前が居なくては誰がこの俺を守る? メディアのような貧弱な女では無理だ」

メディア「……」ニコニコ

ヘクトール「……」ポリポリ



バットマン(……さて、どう動くか……)

マシュ「マスター、下がってください……危険です」ジリッ

エウリュアレ「……」ググッ

ヘラクレス「……」





ヘラクレス「■■■■」スッ

エウリュアレ「……?」ジリッ


バットマン(なんだ……? 今まで、片手で構えていた大剣を……両手で、構えた……?)

ヘラクレス「■、■、■」ジッ

マシュ「……!!」


マシュ(本能が警鐘を鳴らす。アレは何度も、自分が体験してきた感覚……それまで力押しだった構えに、明らかな違いが生まれている……!)

マシュ(アレは、技術の、芽吹き……!)ゾワッ


ヘラクレス「……」ダンッ

マシュ「ッエウリュアレさん下がって!!」ババッ‼


ガッギャァァァァァァァァァ‼



ドクター『ブルース! 危険だ! ヘラクレスの魔力がなおも増大して……』


バットマン「マシュ!」

マシュ「あああああああ!!」ガギィン、ギャリィ、ガガッ‼

ヘラクレス「■■■■■■■!!」ブン、ブォンッ、ダッ

マシュ「くっ、マスター! エウリュアレさん! 支援をお願いします!」ジリッ、ダダッ

バットマン「シッ!」シュパッ

エウリュアレ「そこ……!」ヒュパパパパパッ‼


矢「「「」」」ギュゥゥゥゥンッ

バットラング「」シュンッ


ヘラクレス「■■■■■■■!!」グルッ、ギリリリリリリィン‼


バットマン(……! たった一閃で弾いた!?)


ヘラクレス「■■■■■■■!!」ダンッ

バットマン「!!」

マシュ「行かせないッ!!」ガギィ‼



ヘラクレス「……!!」ググググググッ

マシュ「……!!」ギリギリギリギリ……!


マシュ(猛獣を相手にするのとはわけが違う。これは、命を懸けた戦士のやりとり……!)グググググ……


ヘラクレス「……!」グオッ

マシュ「なっ……」ヨロッ


マシュ(しまった、引き込まれ……!)

ヘラクレス「……」ブンッ


バットマン「させるか……!」シュパッ

ヘラクレス「■■ッ!」ギャリィンッ

エウリュアレ「かかったッ!」シュパパッ

ヘラクレス「■■■■■■■!!」ドシュシュゥ、ドサッ



バットマン(ヘラクレスの命、あと三つ……!)


ヘラクレス「……■■■■■■■■■!!」ムクリ

バットマン「蘇生までの時間も短くなっている……! マシュ、まだいけるか!」

マシュ「はい!」

エウリュアレ「ふぅっ、働かせてくれるわね!」

ヘラクレス「……」グム、グムグムグム

バットマン(……?)




イアソン「ハーハハハハハ! 馬鹿共め! とうとうヘラクレスを本気にさせたな!」

ヘクトール「こりゃ、やべえな。船をちょっとでも島から離した方がいいんじゃないですかい?」

イアソン「必要ないッ! 虫けら共が潰れる様を見ていてやろう!」




バットマン「不味い、何か来るぞ……!」

ドクター『魔力反応、急激に増大! ヘラクレスの宝具が来るぞ!』

バットマン「……!! マシュ、『令呪を以て命ずる』!! 宝具を解放しろ! エウリュアレ、下がれ!」

エウリュアレ「ええ!」

マシュ「っはい!」


マシュ(ブーディカさんは居ない、私の盾を支えてくれる人は誰一人いない……! それでも、やらなきゃ!)




マシュ「真名、偽装登録……!」


マシュ(私が、私がやらなきゃ……!)


パシ

マシュ「……?」

バットマン「一緒に支えるぞ、離すな……!」

マシュ「……! はい!」ガシャリ


マシュ(……そうだ、一人じゃない……! 信じて、戦うんだ!)



ヘラクレス「■■■■■■■!!」ググググッ、ダンッ‼


マシュ「『ロード・カルデアス』!!」ギュオオオオオオオオオオオ‼





ヘラクレス「■■!」ギャリィ‼

マシュ「っ……」ギギッ

ヘラクレス「■■■■!!」ギャリィ、ガァン‼

マシュ「く……!」ジリジリ

ヘラクレス「■■■■■■■■■■■■■■!!」ギャリィ‼ギュリィ‼ギィン‼ギャガァン‼バギィ‼ドゴォッ‼

マシュ「おも、い……!」グググググ

バットマン「……諦めるな……いつか終わる……!」グググググ……!


ヘラクレス「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ……


バットマン「う……うぐ……」ヨロ

マシュ「……あああああああ!!」ググググググググ‼




ゴォォォォォォォ……

マシュ「……っはあ、はあ……!」シュゥゥゥゥゥウウウウ……

バットマン「……っぐ……」ドサッ


ヘラクレス「……」ドシ



エウリュアレ「良い余興だったわよ、勇者(ヘラクレス)。そしてよくぞここまでの力に至ったものです」

ヘラクレス「……」

エウリュアレ「ええ、私も閉ざした目を開く時が来た……!」

マシュ「……えうりゅあれ、さん……?」

エウリュアレ「離れていなさい。放つわ……『女神の視線』(アイ・オブ・ザ・エウリュアレ)!!」ギュドォッ


ヘラクレス「ッ」ギュガガガッ、ドッサァァァァァァ……




マシュ「や……やった、やりました!」

エウリュアレ「ふっ、こんなものよ」

マシュ「やった……って、そうだマスター! マスター、ご無事ですか!」ガバッ、ユサユサ

バットマン「う……あ、ああ、無事だ、少し気を失っていただけだ……」

マシュ「やりました、私達、ヘラクレスを……!」


バットマン「……っ、マシュ! 伏せろ!」

マシュ「え?」


ドゴォッ‼



マシュ「あぐっ……」ドササササァァァ

エウリュアレ「なっ……」

ヘラクレス「■■■■■■■!!」ドッゴォ‼

エウリュアレ「うっ!?」ドシャアッ、ゴロゴロ……


バットマン「マシュ! エウリュアレ!」

ヘラクレス「■■■■■■■!!」ゴォッ


バットマン(しまった、宝具を防いで油断したか……! 奴にはまだ、二つの命が残っている!)





マシュ「……」

エウリュアレ「……」


バットマン(……二人共、動かない……)

バットマン「……」ジリッ

バットマン(私も、下手には動けない……動作ひとつが、死に直結する)

ヘラクレス「……」ドス、ドス


ドレイク『……ブルース』

バットマン「撃て!」ダッ

ヘラクレス「■■■■■■■!!」ダダン‼



イアソン「ひゃははははははは!! 虫けらが、一匹になった途端に逃げ始めやがった!」

ヘクトール「……」ジッ

ヘクトール(いや、アレは……)



砲弾「」ヒュォォォォォンッ、ドッサァァァァァァァン……

バットマン「くっ……」ダダダッ

ヘラクレス「■■■■■■■!!」ガシッ、ブォン‼

バットマン「ぐああ!?」ドッサァァァ、ゴロゴロッ

ヘラクレス「……■■!」ドシ、ドシ

バットマン「く……ぐ……」


バットマン(もう少し、もう少しだ……!)


砲弾「」ヒュオオォォォォッ


ドッサァァァァァァァン‼


ドレイク「何やってんだい、しっかり狙いな!」

ダビデ「そうは言ってもだな……!」ゴロゴロ、ガチャリ




砲弾「」ヒュォォォォォンッ、ドッサァァァァァァァン……


バットマン「……もう少し……」ジリ、ジリ……

ヘラクレス「……■■■■■■■■■■■■■!」ドスドス、ガシ


バットマン(ここだ!)


バットマン「コンピューター!」ガバッ


バットモービルの残骸『聴いています』バチチッ


バットマン「燃料も使って自爆しろ!」

バットモービルの残骸『喜んで』バチバチ、ギュィィィィィィィィッ



ドガァァァァァァァァァァァァッ‼

ヘラクレス「■■■■■■■!?」ゴォッ、ドッシャシャシャシャシャシャ……



バットマン「く……」ゴォォォォォ……ピタッ

バットマン(……これで、ヘラクレスの命は、残りひとつ……!)

ドゴッ


バットマン「っぐ……!?」ドサァッ


ヘラクレス「■■■■■……」ユラユラ、ガシッ

バットマン「が……」ギチッ、ギチギチ

バットマン(そんな、馬鹿な……蘇生が早すぎる……!)


通信機『ザザッ……ブルース、ブルース!』


ドレイク「砲手! 何ちんたらやってんだ、アイツが死んじまうよ!」

ダビデ「待て……今撃つ」シュッ、シュゥゥゥゥゥゥゥ……ドドォン‼


砲弾「」ヒュォォォォォンッ、ドッサァァァァァァァン……

ドレイク「馬鹿! 外しっぱなしじゃないか! お前に砲手を任せたブルースがどうかしてたんだ!」

ダビデ「……」

ダビデ「……いいや、彼の計算通りさ」ガチャリ

ドレイク「はあ!?」




ヘラクレス「■■■■■■■……!」ギチギチギチギチギチ……

バットマン「あ……あが……ぐ……」ガシ、グググググ……


バットマン(……視界が、ぼやけ……狭くなって……)



砲弾「」ヒュォォォォォンッ

ヘラクレス「■■■、」ドガァッ、ドササササァァァ

バットマン「っげほっ、ごほ……」ドサッ



ダビデ「いやー当たった当たった! うん、絶好調だな!」

ドレイク「な、何ィーッ!? さ、最後の一発だけ側頭部に大当たりかましやがっただってえ!? どんな手品を……」

ダビデ「いやあ、ゴリアテの逸話、知らない? 僕は石を五個投げて、四個外れたけど最後の一つがゴリアテの急所にクリーンヒットしたっていう話」

ドレイク「……そういや、聞いた事があるような」

ダビデ「うん、今日の僕も逸話通りで大変結構だね!」



バットマン「……っく、ごほ……」ムクリ

バットマン「……マシュ、起きろ。エウリュアレ」ザシザシ

マシュ「う、うぅ……マスター?」

エウリュアレ「くっ……ちょっと動けないわね……」ピクピク

バットマン「負ぶってやる。次はアルゴナウタイの船だ、行くぞ」


ヘラクレス「……」シュウシュウ……シュゥゥゥゥゥゥゥ……




イアソン「ヘラクレスが……うそだ、ヘラクレスが負けるハズがない……」

ヘクトール「どうします? アイツら、こっちに来てますけど」

イアソン「あ……ば、馬鹿共! なにをぼさぼさしている、ここから離れるぞ! 策を練り直す!」

舵手「……? だ、駄目です!? 船が進みません!!」

イアソン「進まないだと!? 何を言っている、何が原因だ!」

舵手「分かりません! これは……船の下で、何かが進行を止めているとしか……」

イアソン「……なんだと……?」



ドレイク「ようやく追い詰めたよ、クソ野郎どもめ……」

ボンベ「どうします、姐御?」

ドレイク「接舷させな。……海賊の本領発揮だよ!」

ボンベ「あいあいさー! 野郎どもォ、海賊稼業のお手本を見せてやれェ!」

海賊達「「「ウッス!」」」



イアソン「クソ、クソ、クソ……どれもこれも皆、お前が無能なせいだぞ!」

ヘクトール「ええ、俺? ……いや~まあ、否定はしねえけど……それより、船の下。もっと警戒した方が良いぜ」

イアソン「何を言って……」



バッシャァァァァァ……


ガシ、ガシ、ガシ……ドスッ


キラークロック「……よう、また会えたな……お待ちかねの怪物だぜ」ズ、ズ……

黒髭「呼ばれて飛び出てーってヤツでござるぞ! 槍の返却サービスでござる、今なら弾丸のおまけつき」

アステリオス「……こん、にちは」


イアソン「あ……ああ……ヘクトール! 殺せ!」

ヘクトール(……どう考えても、殺されるのは俺らでしょ……)ポリポリ


メディア「……」ニコニコ



今回の更新はここまでです。連投本当に申し訳ない……お付き合いいただきありがとうございました

………………

 所詮、もがいても報われない。

 所詮、手を伸ばしても届かない。

 大切な記憶は、ウロコの海へ飲まれて行く。思い出せるのは、自分が怪物という事くらい。

 鏡を見れば、鋭い牙が映る。身体を見下ろせば、硬いウロコが目に入る。

 何を間違ったのだろうか。前世で大罪でも犯したのか、それとも生まれたのがそもそもの間違いだったのか。

 何処かで聞こえた声。お前なんか産まれなければ良かった。怪物。悪魔の子。気持ち悪い。早く死ね。

 何を間違ったのだろうか。オレも自分を誤魔化して、周りにヘコヘコしていれば良かったのだろうか。牙を折り、ウロコを剥ぎ、痛みを隠して笑みを浮かべれば、それで普通になれたのだろうか。


(((だから、いつかあなたが、皆にとってのかいぶつじゃなくなった時に)))


 クソくらえだ、盲目のカス共め。オレを見ろ。オレは……



………………

ドクター『待った、アルゴナウタイの船の上に新たな反応を確認!』

バットマン「解析を頼む」

ドクター『……これは、黒髭とキラークロック、そしてアステリオスくんのものだ!』

エウリュアレ「……アステリオス?」ピクッ、モゾモゾ

バットマン「まだ動くな、傷は深い」

エウリュアレ「馬鹿ね、もう半分治ったわよ。それで、アステリオスというのはどういう意味かしら?」ヒョコ

ドクター『恐らく彼は生存したんだ。向こうの船に乗って……今、戦っている』

バットマン「……急ごう」スタスタ

マシュ「ま、マスター。休息は……」

バットマン「後で取ろう。今はアルゴナウタイが先だ」



………………

ヘクトール「ほっ、そぉらっ!」ダッダッ、シュバッ


ヘクトール(うーん、こりゃ無理だ。いくら防衛戦が得意とはいえ……)


キラークロック「グルルルルルルァ……」ガシッ、ブォンッ

大砲「」ゴゴォッ

ヘクトール「うっお!?」ガギャァ、ドッシャシャ

黒髭「へいへーい! ピッチャービビってるゥ!」パァンパァン

ヘクトール「ぴっ……?」ガキィ、ガガァン

アステリオス「うるあああああっ!!」ドゴシャァッ‼

ヘクトール「うおっち!?」ガッシャァァァ、ゴロゴロッ


イアソン「馬鹿が! 何をしている! 本当にお前は使えん奴だな……」

メディア「……」ニコニコ

イアソン「……メディア、ヘラヘラするな! お前も戦え!」

メディア「はい」ニコニコ




バットマン「船へ上がるぞ、掴まれ」シュポッガシッ

マシュ「はい」ギュッ

エウリュアレ「……」グッ

バットマン「フッ!」ギュル、ギュル、ギュル、ギュギュ……

マシュ「……いつもより上昇が遅くありませんか?」

バットマン「総重量がオーバーした。少し遅れる」ギュ、ギュギュ……ギュルギュル

マシュ「へ!? そ、そうですか……」カァァ

バットマン「……?」

エウリュアレ「……貴方ねえ、乙女相手に……言葉を選びなさいよ」

バットマン「? ……三人の上昇は流石に想定されていないだけだ。引き上げサポート付きならもっと速く上がる」

マシュ「い、いえ、気にしていませんので……」

バットマン「……次はアップグレードさせておく」ギュル、ギュル、ギュギュ……

エウリュアレ「……」ハァ





メディア「どれほど傷付いても、癒してさしあげます……」ポゥ

ヘクトール「……はいよ、ありがとさん。それじゃあもうちょっと頑張るかね……」ムクリ

キラークロック「なら、一撃で潰す……」ドシドシ、ブォンッ

ヘクトール「っとぉ! 迂闊な一撃だな……貰ったァ!」ズバァッ‼

キラークロック「グルゥ……」ヨロ

黒髭「ホヒョーッ!」ババッ

ヘクトール「おっと、行かせねえぜ!」ガギィン‼

黒髭「そのメディアとかいう女が生命線ですな? ならば最初に潰すべし!」

ヘクトール「できるならヨロシクってとこだな!」グイッ

黒髭「是非とも!」バッ、ドゴォ‼

ヘクトール「ほっ!」バシィ



スタッ

バットマン「……」

マシュ「到着です!」

エウリュアレ「……アステリオス、アステリオス!!」


アステリオス「……えう、りゅあれ」

ヘクトール「やべえ奴らまで来やがった……!」

メディア「……」ジッ


メディア(近くで見ればより分かる。油断ならない目付き……やはり間違いない。あの方が警戒するよう仰っていた存在)


イアソン「クソ、クソ、クソがあ!! 何もかも上手く行かん……! 何故だ、何故だああああああああ!!!」ダンダン




バットマン「降伏しろ。勝敗は決した」

イアソン「降伏……降伏だと、馬鹿め! こちらにはこれがある!」バッ

聖杯「」カッ

イアソン「貴様らなど! 聖杯の絶大な魔力の前には、ごみ屑同然だ! 塵と消えろ!」


影A「……」ズォォォッ

影B「……」ムクリ

影C「……」ドス、ドス

影D「……」ユラリ


バットマン(シャドウサーヴァント……)

バットマン「マシュ、エウリュアレ。やれるな」

マシュ「はい!」

エウリュアレ「任せてちょうだい!」



マシュ「たあっ!」シュドッ

影A「……」ヨロッ

影B「!!」ブゥン‼

マシュ「はっ!」ガキィン‼

影C「……」シュッ

マシュ「……! しまっ」

キラークロック「グルォォォォォォオ!」ガシッ、グッシャァァァァァ‼

影C「……」ドサッ

マシュ「キラークロックさん!」

キラークロック「いつまでたっても甘い小娘だ!」




アステリオス「うるああああ!!」ドッシャァァァァ‼

影E「……」ガギィ、ババッ

アステリオス「らあっ!!」ブンブンッ

影E「……」ガシ、シュドッ

アステリオス「っぐう……」ジリッ

エウリュアレ「そこ……!」シュパッ

影E「!?」ドシュウ、バタッ

アステリオス「……えう、りゅあれ」

エウリュアレ「余所見をしない! まだ来てるわよ!」

影F~H「「「ッ!!」」」ババッ




イアソン「はは、ふはははははははは!! 下らん、このまま影が制圧しつくして……!」



ドレイク「野郎ども!! 向こうの船を乗っ取りなァ!!」

海賊達「「「あいあいさー!!」」」ドドドドドドドドッ‼



イアソン「なっ……屑以下の連中め、この俺の船に土足で……! クソ、聖杯!」

聖杯「」パァァァァァァ

イアソン「もっとだ、もっと力を出せ! 奴らを殲滅……!」

バットマン「……そうはさせない」バサササササ、スタッ

イアソン「なんだ……! なんだ、貴様は!」

バットマン「私の名など知らなくとも良い。貴様が生み出した影のひとつだ」

イアソン「こ、この……!」ブンッ



バットマン「……」スッ、グルリ、パシ

イアソン「なっ」

バットマン「いくら素早かろうと、いくら力があろうと……そこに技術が無ければ、所詮は児戯」ゴキリ

イアソン「ぐああああああああ!?」バッ、フラフラ

バットマン「……ブーディカを殺した報いは受けてもらうぞ」ジリジリ

イアソン「ブーディカだと……!? 知らんぞ! 知った事か! 屑が何人死のうと、俺には関係ない!!」ブォン‼

バットマン「……」スッ、シュルッ、ゴキリ

イアソン「あが……!?」ヨロヨロ

バットマン「……さあ、両肩の骨は外した。まだ使える部位はあるか?」

イアソン「嘗めるな……!」ダン、ズォッ

バットマン「そうだろう、蹴りだ」スルリ、ゴキッ

イアソン「ひっ……」ドシャッ

バットマン「もう片足も残っているな。その骨も外す」シュルシュル、ゴキリ

イアソン「ぐあああああ……や、やめろ! 欲しいモノならやる! 聖杯か! くれてやる!」

バットマン「……責任者には一通りの責任を取らせる。当然だ」ガシッ

イアソン「ひ、ひぃっ……」


メディア「……」ニコニコ


バットマン(……!!)ゾワリ



バットマン「ッ!!」ババッ

メディア「あら、終わりですか? もっと痛めつけても良かったんですよ?」ニコニコ

イアソン「め、メディア! 貴様、見ていて助けなかったな!? 愚図め、早く俺を治療しろ!」

メディア「……」ニコニコ

バットマン「……お前は何だ……」

メディア「私はメディア。魔女メディア」


バットマン(メディア。確か、神アフロディテによってイアソンに恋をさせられた、コルキスの姫……だが、肝心のイアソンに裏切られ、離別)

バットマン(……少なくとも、狂気の姫ではなかったハズだが……この目は、明らかにおかしい)


メディア「……」ニコニコ

バットマン(……)




メディア「……ふふ、面白い人ですね。本当に笑わない、何一つ感情を表に出さない……」

バットマン「……」

メディア「本当に……まだ、冷たい雨の中に居るみたい」

バットマン「……どういう事だ。何故知っている」

メディア「あの方は何でも知っていますよ? 私の過去、貴方の過去、人類の過去……愚かな軌跡を」

バットマン「あの方だと……」

メディア「貴方はもう知っていますよね? ふふ……そうです。圧倒的な力を持つ、あの方」

イアソン「くそ、何を言っている!? さっさと俺を治せ、でなければ船が制圧されるぞ!」

メディア「もう遅いですよ、イアソン様。見て下さい、甲板に居る8割が敵の海賊達……きっと彼らは、私達を切り刻むでしょうね。痛みを想像するだけで、身の毛がよだちます」

イアソン「クソ、クソ、クソォ! 使えん奴らめ、使えんカスめ……!」

メディア「……ふふ」




ヘクトール「チ……限界か」シュウシュウ……

黒髭「ほい、お疲れさん。……次はもっとマシな形で会いたいモンだぜ」

ヘクトール「まーそうだね、おじさんもそう思う……にしても、やっぱり最後に残るのはメディアか。やっぱりオンナは怖いねえ」シュウシュウ……

黒髭「……うーむ、それについては否定できませんな。怖いオンナは多いですぞ」

ヘクトール「ははっ……それじゃ、一足先に失礼しますよ」シュゥゥゥゥゥゥゥ……

黒髭「はいはい。拙者もすぐに行きますぞ」


キラークロック「グルルルルルル……」

影W「……」シュゥゥゥゥゥゥゥ……

マシュ「はあっ、はあ……」

影X「……」ドシャッ



アステリオス「やっ、た……」

エウリュアレ「少し、きついわね……」ヨロ

アステリオス「っ、だいじょうぶ?」ガシ

エウリュアレ「……ええ、平気よ」




メディア「……」パシッ

聖杯「」パァァァァァァ……ピタッ

イアソン「は、はやくしろ。死んでしまうぞ」

メディア「……」

イアソン「メディア! 貴様、使えんだけでなく耳まで聞こえなくなったのか! 早く! 俺を! 治せ!」

メディア「……ふふ、ふふふふふ。大丈夫ですよ、イアソン様。どれだけ痛くても、治してあげます」ドシュッ

バットマン「!?」

イアソン「あ……がはっ……なに、を……」プルプル



メディア「本当の私はずっと昔に殺されている。イアソン様に恋をする呪いを神々にかけられた時から、私はずっと死んだまま」

メディア「愛しています、イアソン様。心の底から、殺したいほど。心が壊れてしまうほど」

メディア「……だから、復讐します。私を殺した世界に復讐するのなんて、当然ですよね?」

メディア「ああ、イアソン様、痛いですか? 痛いですよね? でも大丈夫です。すぐに治します」

メディア「治して、殺します。私、アナタのために魔女になったんですから」



イアソン「き、貴様……初めからそのつもり、だったんだな……!」

メディア「初めから……?」

イアソン「女神を櫃に触れさせれば、無敵になれるというのも……全て嘘っぱち、だったんだろう!」

メディア「ああ、イアソン様……貴方に嘘など吐きません。この不安定な世界の中、女神などという大きな存在が櫃に触れ、消滅すれば……その消滅は、世界を巻き込む。この世界が消える。人類が消える」

メディア「ほら、敵が居なくなるでしょう? 貴方は無敵の存在になれた」

イアソン「こ、この……! 魔女め! お前は嘘つきの魔女だ! 化け物め! 怪物め!」

メディア「……そう呼ばれるのも、初めてではありません」ニコリ

バットマン「……そいつを離せ、メディア」

メディア「ふふ、断ります。敵を気にかけるなんて、本当におかしな人……」

バットマン「離せ。聖杯を渡せ」スッ

メディア「断ります」ニコ




メディア「イアソン様を触媒に……もう、召喚しています」

バットマン「……何だと」

イアソン「ひっ……い、いやだ! 助けて、助けてくれ!」

バットマン「……」ジリッ

イアソン「俺はッ、俺はまだ何も成し遂げていない! 俺は今度こそ、誰もが俺を敬い、満ち足りて争いの無い、理想の国を作るハズだったんだ! これは俺の、二度目のチャンスだったはずなんだ!!」

メディア「……それは叶わない夢なのです、イアソン様。だってアナタには為し得ない」

メディア「アナタは理想の王にはなれない。たとえ人々の平和が手に入っても、また自分の手で壊してしまう。アナタの魂は、運命は、絶望的なまでにねじ曲がっているから」グチャッ

イアソン「ひっ……何する、やめろ、やだ、身体、溶ける……!?」グチャ、グチャチャチャ……

メディア「聖杯よ。我が願望をかなえる究極の器よ。
顕現せよ。牢記せよ。これに至るは七十二柱の魔神なり」


バットマン(七十二……魔神……!)


バットマン「全員構えろ! 来るぞ!!」



イアソン「が、ぎ、が、あ、ぎいいいいいいいいいいいいいいい!!」グチャチャチャチャチャ

メディア「……戦う力を与えましょう。抗う力を与えましょう。ともに、滅びるために戦いましょう」

メディア「さあ、序列三十。フォルネウス。その力を以て、アナタの旅を終わらせなさい」

イアソン?「あ……が……」グチャチャチャチャチャ……ズオオオオオオッ


マシュ「あ……に、肉が、盛り上がって……柱のように……」

バットマン「……古代ローマで観測したものと同じか……!」

ドクター『魔神……! これで二柱目か……! 本当に居るのか、そんなものが……!』



フォルネウス「……」ズォォォォ……



ドレイク「アレ、倒せんのかい?」

バットマン「……以前戦った時は、物理攻撃も通用した。だが、あの時は弱っていたと……」

ドレイク「よっし、それならやるしかないねえ! おい野郎ども! ここが意地の見せ所だ、悪魔なんぞに負けられないよ!」

ボンベ「ひゃっはー! これだから海賊はやめらんねえぜ!」

ドレイク「ほら、ブルース、マシュも! しっかりしな、これをブッ倒すためにやってきたんだろ!?」

バットマン「……ああ、その通りだ。行くぞ、倒す!」

マシュ「はい!」

エウリュアレ「ええ!」



フォルネウス「消滅を提案する」ドドドドドッ

マシュ「っあ……ぶない!」ガギャギャギャ‼

キラークロック「ヴォオオオオオオオオオオオオ!!」ドスドス、ガシッ

フォルネウス「無意味なり」ドォッ‼

キラークロック「ッ……」バシィ

エウリュアレ「そこ!」シュパパッ

フォルネウス「動体、発見」ガキィン


マシュ「くっ、歯が立たない……!?」

フォルネウス「聖杯の使い方も知らぬ下等生物。我が力の前にひれ伏すが良い」



バットマン(やはり、前の個体と比べて隙が少ない……あの時のレフの言葉は強がりでは無かったか)


バットマン(……だが、船上に出たのが運の尽きだ)



アステリオス「……うるあああっ!!」ガギィ、シュバッ

フォルネウス「無意味である……すべての行為は」ユラ、ドドドドドドドドッ

黒髭「ほれほれぇーい! ホヒョーッ!!」バシッ、ドゴッ

フォルネウス「……」グラッ

メディア「『補修すべき全ての疵』(ペインブレイカー)」ポゥッ

フォルネウス「……無益である」ポゥゥゥゥッ


マシュ「くっ、与えた傷が治っていく……」

キラークロック「なら、先にあの女を殺す」ドシドシ



メディア「……」

キラークロック「……」ガシッ

メディア「……」プラァン……

キラークロック「……?」


キラークロック(なんで抵抗しねえ……?)


メディア「殺さないのですか?」

キラークロック「……ナメるな」ギチギチギチ……

フォルネウス「……」ドドドドドドドドッ

キラークロック「チイッ」バシィ

メディア「っ」ドサッ

黒髭「ちょっとキラークロック殿、手ぬるいのでは~!?」

キラークロック「うるさい。次は殺すだけだ」ドスドス

フォルネウス「……無意味、である」ドドドドドドドドッ

キラークロック「クソが……」ババッ




黒髭「いまいち火力が足りないでござるな……」


砲弾「」ヒュオオォォォォッドッガァァァァァァァ‼

フォルネウス「ぐ……」グラリ

ドレイク「ハッハー! 喰らいな!」パァンパァン‼


黒髭「って言った途端にこれでござる」


ダビデ「よーし、あんなデカい的は外す方が難しいね。皆、どんどん撃っちゃえ」

海賊達「「「おおーーー!!!」」」ガチャガチャ



フォルネウス「不利……」グラグラ

アステリオス「まよえ……さまよえ……しねえっ!!」ズォォォォォォォッ

アステリオス「『万古不易の迷宮』(ケイオス・ラビュリントス)!!」ゴァッ‼

フォルネウス「ぐ……魔力の、著しい減少……呪いを受けている……」

メディア「治療を……」

キラークロック「おっと、今度こそさせねえぞ」ガシッ



キラークロック「……」グイッ

メディア「っ……」

キラークロック「……ッグルァァァァァァァ!!」ドッシャァァァァァァァアン‼

メディア「あぐっ……」ゴシャッ

キラークロック「……けっ、歯ごたえのねえ奴だ」


フォルネウス「不利である……」

黒髭「今更怖気づいたかよ、遅いぜ……行くでござる行くでござる! 『アン女王の復讐』(クイーンアンズ・リベンジ)!」ドドドドドドドドォォォォォォッ‼

フォルネウス「ぐ、わ……」グラグラグラッ

マシュ「ここです……!」ドシュッ、ガガガッ、ドッゴォ‼

エウリュアレ「もらったわよ」シュパパパパッ

ドレイク「オラオラオラァ!」パァンパァン‼

フォルネウス「……」グラグラグラ……



フォルネウス「……下等生物共が、足掻くものだ……!」グムグムグム


ドクター『マシュ、注意して! フォルネウスと名乗った柱の中、聖杯反応が急激に増大してる! 反撃が来るよ!』

マシュ「っ、了解! 皆さん、下がって……」


ドッゴォォォォォォォォォォォォン‼ ドガァァァァァァァァァァァン‼


マシュ「ふぇっ!?」グラグラ

キラークロック「……なんだ、船底が……爆発しやがった?」グラグラ




………………

バットマン(火薬庫は爆発。さて、次は)

ドクター『ブルース!? 何やってんの!?』

バットマン「この船を沈める」

ドクター『しず……へ!?』

バットマン「沈める。これで少なくとも有利な戦場にはできる」

ドクター『有利な……どういう事だい?』

バットマン「……キラークロックが強いのは水中だ。陸上であれほどの戦闘力なら、戦場を海中へ移せば敵無しになる」

ドクター『成程……で、沈めるのかい?』

バットマン「……聖杯の恐ろしさは知っている。魔神ともなれば使い方も熟知しているだろう。まともにやり合うのは危険だ」ザシザシ


バットマン(よし、このまま……船体へ穴をあける)プシューッ、ポチッ


ドッガァァァァ‼



………………

マシュ「あわ、わわわ……」グラグラ

バットマン「……すまないな、今戻った。ドレイク、我々の船へ戻るぞ」

ドレイク「へっ……? 何してたのさ?」

バットマン「船を破壊していた。この船は沈む」

キラークロック「何……?」

バットマン「……行くぞ、マシュ、エウリュアレ。ここにはとどまれない」


ドドォォォォォン……ドッガァァァァ‼ ドッガァァァァ‼


フォルネウス「……無意味である」

バットマン「やはり移動は出来ないようだな。好きにすると良い、船と共に沈むのは実に船長らしい振る舞いだ……元、船長だったか」

フォルネウス「策など、無意味だ」

バットマン「……意味を考えないだけだろう。さらばだ」




エウリュアレ「アステリオス! 行くわよ!」

アステリオス「……ご、めん。えうりゅあれ。ぼくは、ワルだから」

エウリュアレ「え……?」

アステリオス「だから、いっしょには、いけない。えう、りゅあれは、ワルじゃ、ないから。ここで、さよなら」

エウリュアレ「……なに? どういう事なの……? さよ、なら?」

マシュ「エウリュアレさん! 急いで!」

エウリュアレ「どういう事なの、アステリオス! なんで……」

アステリオス「……たすけたい、ひとが、できたんだ」

エウリュアレ「……っ……」



アステリオス「でも、それは……いままでの、ぼくじゃ、むりだから。だから、行って、えうりゅあれ」

エウリュアレ「……二度も、別れさせるなんて。貴方、最低よ」

アステリオス「ご、めん」

エウリュアレ「……良いのよ。さようなら、アステリオス」

アステリオス「さよなら、えうりゅあれ」




黒髭「あーあー、沈みますな。どうします?」

キラークロック「……お前の船を出せ。それに乗れば良い」

黒髭「ええー!! アレ、聖杯無しじゃ維持するのキッツイんですぞ!?」

キラークロック「文句言うんじゃねえ。やれるんだろうが」

黒髭「そりゃまあ、やれますけど……」

キラークロック「なら、やれ。どうせ長くはかからねえ」

黒髭「……あいよ」ズォォォォォォォッ





バットマン「……」


バットマン(黒髭達も宝具を発動し、自分の船に乗ったか。計算通り)

バットマン(……そして、魔神柱。奴らは動けないというのも、計算通り……だが、一つ心配なのは)



メディア「……」


バットマン(……彼女のとどめを刺し損ねている、という事か)


バットマン「……大砲の準備をしろ。嫌な予感がする」

ドレイク「アタシもだよ。野郎ども、大砲準備!」



ズズズズズズズズ……バシャァァァァァン……


メディア(……)コポポポ……

メディア(……)

メディア(……落ちていく)

メディア(闇の中へ、落ちて行く)

メディア(魔女になっても構わないと思っていた私は)

メディア(あの日、愛しい人のために、その汚名すら心地良く感じていた)


メディア(押し付けられた、偽物のエゴのせいで)




メディア(あぁ……憎い。憎い。愛に応えないあの方が憎い)

メディア(呪いをかけたこの世界が憎い。私を殺したこの世界が憎い)

メディア(こうして伸ばす手に、たとえ権利が無かろうと……)

メディア(私は、憎んでやる。それが私のエゴ)


メディア(さあ、大きくなれ。海を呑み、空を衝き、嘘で固まる世界を見下ろせ)

メディア(魔神柱、フォルネウス。私と同じ絶望を、世界へ)ポゥッ





ゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……‼


バットマン「……なんだこれは」グラグラ

マシュ「う、海が……揺れてる……!?」

ドレイク「しっかり掴まりなァ!! 落ちるんじゃないよ!」



キラークロック「……」

黒髭「うーん、やな感じ」

アステリオス「……なにか、くる!」



バッシャァァァァァァァァァァ……‼‼





フォルネウス「……」ズォォォォォ……


バットマン「……あのサイズは……想定外だ」

マシュ「う、うそ……あんな、大きな……」

ダビデ「ちょっとヤバイぞ! なんだアレは、大きすぎるんじゃないのか!」

ドレイク「……おー、おー。面白い事になって来たねえ!」

ボンベ「姐さん、ヤバくないっすかアレ!?」

ドレイク「そりゃヤバイさ。分かり切ってた事だろう、やっちまうよ!」




黒髭「えぇ……でっかい」

キラークロック「フン……海中なら敵にもならねえ」

アステリオス「いけ、る。やれる」




フォルネウス「は、はははは……今、私は無限の観測を得たり……今こそ、過去、未来、現在のすべてを見通す目を得たり」



ドレイク「帆を張りなァ! 目玉が多いだけの肉塊にビビってられるかってんだ!」

ボンベ「よっしゃぁ! こうなりゃヤケだ、やっちまうぞテメェら!」

海賊達「「「オオオオオオーーーー!!!」」」

帆「」バサァッ‼

ダビデ「砲手もラクじゃないね!」ガチャガチャ

ドレイク「泣き言は後にしな!」

ダビデ「はいはい! 狙って……砲火!」ドドォォォォォン‼


フォルネウス「フハハハハハハハハ! 痒い! なんと痒い砲撃よ!」ゴォン、ゴォン……

フォルネウス「そら、おつりをくれてやろう!」ドドドドドドドドォォォォォォッ‼‼


ドッガァァァァァァァ‼ ドッガァァァァァァァ‼


ドレイク「おわっ!? やりやがった、アイツ……! 沈没しちまうね」

バットマン「船体左側の重荷は全て降ろせ! バランスを取り、少しでも沈没までの時間を延ばすぞ!」

ドレイク「はいよ!」



キラークロック「……オレが潜れば、一発でカタがつく」

黒髭「おう、まあせいぜい暴れてこいや。一応ここは守っておいてやるよ」


フォルネウス「フハハハハハハ!! そこのワニは未だに自分の犯した罪すら知らず、のうのうと生きながらえるか!」


キラークロック「……ああ?」

フォルネウス「私は知っている。私は観測した。貴様が忘れた最悪の罪を。そのネックレスに隠された闇を!」

キラークロック「……どういう事だ。何を知っていやがる」

黒髭「キラークロック殿、あんまし聞かない方が……」

キラークロック「黙ってろ! どういう事だ! お前はコイツの何をしってる!!」




フォルネウス「忘れたのか! 本当に!?」

キラークロック「……ぐ……」ズキン


(((だから、いつか貴方が、皆にとってのかいぶつじゃなくなった時に)))


キラークロック「…………うぐ……」ドサッ


(((撃て)))

(((撃て! 逃がすな!!)))

(((こちら――地区――ブロック、応援を……)))


フォルネウス「ならば教えてやろう! 貴様は食ったのだ、その少女を! 貴様が自分の巣に非常食じみて置いていたその少女を、食ったのだ!!」

キラークロック「……!!」



バットマン(不味い……! キラークロックが麻痺すれば、作戦が機能しなくなる!!)


バットマン「ジョーンズ! 違う! お前はホームレスの夫婦に捨てられた子供をかくまっていた!」

バットマン(アレは、ジョーンズがキラークロックとして世に知られる事になった、最悪の事件……)

バットマン(自分の巣へと帰ろうとしていたキラークロックは、通行人にその異様な風貌から怯えられ……何もしていないのに、警察へ通報された)

バットマン(最悪なのは、警察だった……! 腐敗が進んでいた警官たちは、まるでゲームを楽しむかのように、ジョーンズを攻撃……! 大人数の攻撃に瀕死となったジョーンズは、それでも何とか巣に帰り……)


フォルネウス「笑わせるな! 望まれてもいない善意など、ただの傲慢だ! 世界は過程ではなく、結果! お前は少女を監禁し、食いつくした化け物だ!」




キラークロック(……思い出した)

キラークロック(あの日、オレは死にかけて……身体を引きずって、帰ったんだ)

キラークロック(……血が足りなくなったからなのか、死にかけていたからなのか……オレは本能的に、目の前にいたガキに喰らい付いた)


(((あ……)))


キラークロック(思い出した。ああ、クソ、なんで忘れてたんだ、オレは)


(((だいじょうぶ。こわくない。いたくないよ。おんがえしって、いうんだよね)))


キラークロック(血に染まった顔。痛みでひきつった笑み。だが、アイツは笑っていた)


(((これね、今日、渡そうと思ってた、ネックレス)))

(((……だいじょうぶ。貴方は皆と少し違うだけ)))


キラークロック(どうしてどいつもこいつも、自分を誤魔化して笑うんだ。もっと、生きたかったクセしやがって)


(((だから、いつか貴方が、皆にとってのかいぶつじゃなくなった時に)))



フォルネウス「怪物め! 貴様は怪物だ!!」


ネックレス「」ジャラ……パカリ

少女の写真「」

キラークロック「……」

キラークロック(やっぱり、そうなのか?)

キラークロック(オレは所詮、怪物なのか?)



黒髭「下らねえ」

フォルネウス「……何?」

黒髭「クソ下らねえ!! おいキラークロック、テメエはなんでそこに膝ついてる!? アホか!? さっさとあの肉の柱をぶっ潰しに行け!」

キラークロック「……」

黒髭「……いい加減女々しい野郎だな、テメエも! 良いか、上等だっつってんだ! おう、確かにテメエはそのガキを食ったんだろうよ! 捨てられてたのを拾ったのだって、あっちは助けて欲しくなかったかもしれねえ! けどな、それがどうした!」

黒髭「俺達はワルだ! エゴが赴くままに、奪って押し付け生かして殺す! 上等だろうが! それ以上に高等なモノなんざ、望むんじゃねえ!」

キラークロック「……」

黒髭「立て! 自分勝手がどうした、傲慢がどうした! 常連だろうが、笑い飛ばせ!」




アステリオス「だい、じょうぶ」

キラークロック「……」

アステリオス「過去は、変えられなくても、今は、きっとかわるよ」

キラークロック「……」ムクリ

アステリオス「だから、世界を呪わないで。きっと、かいぶつなんて、どこにでもいるから」

キラークロック「……フン」


キラークロック「知ったようなクチ利きやがって。あとで全員、食い千切ってやる」ドシ、ドシ


黒髭「……へっ」ニヤリ





フォルネウス「まだ立ち上がるか。その見た目と同じ、醜悪なまでの執念」

キラークロック「全身が目で出来てるクセに、何も見えてないらしいな! オレを見ろ!」

キラークロック「オレは、美しい!」ダンッ、バッシャァァァァァァァァァァ‼



バットマン「……良し、ようやく始動だ。ダビデ、砲撃を休むな」

ダビデ「はいはい……」


ズズズズズズズズ……


バットマン「……船の水を掻き出す。マシュ、シールドで船の穴を塞げるか」

マシュ「は、はい! 頑張ります!」

ドレイク「掻き出すっつって、どうやって……」

バットマン「大丈夫だ。バット吸水ポンプがある」

ドレイク「バット……は?」

バットマン「……ジョークだ。スーツのポンプ機能を使い、ある程度運んで外へ排出する」




キラークロック(……でけえ肉の柱だ。食い甲斐がありそうだぜ)ゴポポ……

フォルネウス『無意味である』

キラークロック(……ソイツはオレが決める。黙って食われろ)ギュォッ、ガブッ

フォルネウス『ぐぅっ……小癪な』

キラークロック(……!!)グイッ、ブチィッ

フォルネウス『おのれ、下等生物の分際で……!!』

キラークロック(不味い肉だ……これをずっと食い千切るってのは、気が滅入るぜ)ペッ



――――――

ドレイク「放てー!!」

海賊達「「「オラオラオラァ!!!」」」ドドドドォン‼


フォルネウス「痒いと、言ったはずだ……ぐぅ!?」ドドドォ……グシャァッ‼


アステリオス「……ぼくの、宝具、きいてるみたいだね」ニヤリ

フォルネウス「貴様……魔力を……」

エウリュアレ「良いわよ、アステリオス。そのまま弱らせておきなさい」シュパパパパッ

フォルネウス「ぐああああああ!?」ドシュシュシュシュッ



フォルネウス「おのれ……海の藻屑にしてくれる……!」

フォルネウス「焼却式『フォルネウス』起動!!」ドドドドドドドドドドドドッ‼

ドレイク「っ……ありゃ、耐えられないよ!」

バットマン「……くっ、こちらはまだ復旧が完全ではない! なんとか逸らせないか!」

ドレイク「無茶言うな、ぶち当たる……」


ドッガァァァァァァァ‼


ドレイク「っく……」

ダビデ「わわっ、やばいぞ!」


マシュ「マスター!」

バットマン「……!!」


ボンベ「やべーぞ、船体が真っ二つだ!」





バットマン「……いや、まだだ」シュポッガシッ

グラップネルガン「」ギュギ……ギギギギギギギギギギギ……

バットマン「マシュ、手伝ってくれ! 船を戻す……!」

マシュ「は、はい!」ガシッ、グググググ……

ドレイク「よしな、無茶だよ!」

バットマン「知っている! だがここでこの船を守らなければ、ドレイク、ボンベ、お前達皆が海に落ち、フォルネウスに殺されるだろう! そんな事はさせない!」グググググ……

ドレイク「あ、アンタ……」

バットマン「……いつか言ったな。人生の意味など後付けで良いと。私は逆なんだ。納得と理解ができなければ、私の人生ではなくなる……ここで守らなければ、私ではなくなる!」グググググ……‼

マシュ「……マスター……!」グググググ……

ドレイク「……くっ、でも無茶なのには変わりないよ!」

バットマン「ぐっ……もってくれ……!」グググググ……


ロープ「」ブルブルブルブル……ブチィッ‼


バットマン「っぐあ!?」ドッサァ

マシュ「きゃあ!?」ドシャッ



ゴズズズズズズズズズズズ……‼





ドレイク「くっ……船を捨てろ! ゴールデンハインド号を捨てろ! 全員海へ飛び込め!」

ボンベ「ご、ゴールデンハインド号を……捨てるだって、姐御!? そんな事はできねえよ! ずっとコイツと旅して来たじゃねえか!」

ドレイク「馬鹿野郎! 命と船のどっちが大事なんだい! 飛び込むんだよ!」ガシッ、ドッ

ボンベ「うわぁぁぁぁぁぁぁ……」ボッシャァァァァン

海賊A「姐御!」

海賊B「姐御ぉ!!」

ドレイク「飛び込みな、さっさとしな! 船は後でいくらでも手に入る……!」


ドレイク(……クソ、この船はひとつきりだよ! チクショウめ!!)ググッ



バットマン「ドレイク」タタッ

マシュ「……ドレイクさん」

ドレイク「アンタ達も、急いで海に。アタシは船員が全員居なくなったのを確認して、最後に飛び込むよ」

バットマン「……すまない。フォルネウスの力の増大を予測し切れなかった」

ドレイク「後にしな。さあ、早く!」

ダビデ「え、マジで僕も行くの?」

エウリュアレ「冷たそうね。私は遠慮するわ……」

バットマン「……」ガシッ、グイッ

ダビデ「うわあああああああぁぁぁぁ……」ヒュゥゥゥゥゥゥゥ……

エウリュアレ「貴方本当に覚えてなさいよ!」ヒュオオォォォォ……





黒髭「……ドレイク……」

アステリオス「いか、ないの?」

黒髭「……ばーか、あの女があの程度でやられるワケねえよ。太陽を落とした女、フランシス・ドレイク。オレの憧れだぞ」

アステリオス「……」

黒髭「……だから、黙って見てりゃあ良いのさ。聖杯は相応しい奴のところにしか行かねえんだからよ。それよりほら、大砲準備の手を休めては駄目でござる!」

アステリオス「ごめ、ん」ゴロゴロ

黒髭「ほれいっちに、いっちに!」ゴロゴロ




ドレイク「……世話になったね」

ドレイク「無茶ばっかり押し付けた。その度に、アンタは期待に応えてくれたよ」

ドレイク「……だがまあ、結局はこうなっちまった。できれば、アンタと最期まで……旅をしたかったんだけどねえ」

ドレイク「……じゃあね」バッ、バッシャァァァァァァァァァァン……


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ズズズズズズズズ……



ドレイク(……冷たいね、海は……)

ドレイク(ああ、チクショウ。もっと力があれば……全員守れたんだろうけどね)


聖杯「」パァァァァァァ……

『願え。全員を助けたいと願え。暗い海の底から引き上げたいと願え』

ドレイク(……こりゃ、さしずめ悪魔のささやきってところか。いいねえ、これでこそ……)

ドレイク(……けど、アタシは『結果』は願わないよ。過程も無くお宝を手に入れても、何の楽しみも無いからねえ……)

ドレイク(……だから黙って、その分の力だけ寄越せ……!)グググググ……




フォルネウス「ハハハハハハハ……あとは海中のワニ男だけだ。実に手応えの無い、弱敵であった……?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


フォルネウス「……?」



黒髭「なー? だから言ったでござるよ」

アステリオス「……う、ん」



バッシャァァァァァァァァァァ‼



黒髭(……光り輝く船体……まさにゴールデンってか)

黒髭「……チッ、流石だぜ」クシャクシャ




ドレイク「……っふぅ! 海水浴びてサッパリしたよ、ありがとね!」

フォルネウス「なんだと……貴様も、聖杯を使いこなすというのか!」

ドレイク「使いこなすってのが何なのかは知らないけどねえ、生憎こっちはうまい話には飛びつかないように鍛えられてんだ。ロクな事になった試しが無い!」

フォルネウス「おのれ、無為な虫けら一匹の分際をしおって……! ちっぽけで無意味な人生を送るというのに!」

ドレイク「言っただろ? 人生の意味は、後から誰かが見つけてくれる。なら、こっちは一瞬を全力で生きるだけさ!」

ボンベ「あ、姐御ぉ……一生ついていきやすゥゥゥゥゥゥゥ!」

海賊達「「「うおおおおおおおおお、姐御おぉおおおおおおお!!!」」」

ドレイク「おら、泣いてる暇があったら大砲の準備をしやがれ!」



バットマン「げほっ、げほ……」バシャッ

マシュ「っはあ、はあ……」

ダビデ「あ゛~……死んでない……」

エウリュアレ「最悪よ。髪がびしょびしょじゃない」ポタポタ


ドレイク「無事かい、水を飲んじゃいないかい」

バットマン「ああ、無事だ……助かった」

ドレイク「礼なら後でたっぷりもらうよ。立ちな、行くよ」

バットマン「……ああ!」




黒髭「よーしアステリオス二等水兵! 帆を張れェい!」

アステリオス「……どうやって張るの?」

黒髭「あっ、拙者が張ります……」ゴソゴソ


ドクロの帆「」バサァッ‼


アステリオス「おおー……ワルだ」

黒髭「にししし、ワルでござる。さあ、BBAと肩を並べて戦うZE!! 大砲よーい!」

アステリオス「はい」ゴロゴロ

黒髭「……撃て!」



ドレイク「まだだよ、もう少し……もう少し、待て……」

ボンベ「……」ゴクリ

海賊A「……」ウズウズ

海賊B「……」ジッ

ドレイク「……撃てェーーーー!!」

ボンベ「撃てェ!!」ドドドドォン‼




フォルネウス「ぐ……」ドシュシュ、グラグラ……


キラークロック(フン、ざまぁないぜ……もっと喰らってやる)ブチッ、ブチィ

フォルネウス『やめろ! 無益である!』

キラークロック(生憎だな、怪物には言葉が通じねえんだ)ブチッ、ガシッ、ブチチチチチ……


フォルネウス「ぐわあああああああああ!!!」



ドレイク「……畳みかけるよ! 帆を張りな、面舵一杯!」

ボンベ「どうするんで?」

ドレイク「船首の大砲用意! 突っ込むよ!」

ボンベ「ひゃっほう! 流石姐さん!」



帆「」バサァッ‼



バットマン「マシュ、念のため船へ加護を」

マシュ「はいっ! 真名、偽装登録……行きます! 『ロード・カルデアス』!!」ギュォォォォォォォッ

バットマン「全員しっかり掴まれ!」




ドガァァァァァァァァァァァァァァ‼

バットマン「うっ……」グラッ

マシュ「マスター!」ガシッ


フォルネウス「うぐ……」グラ、グラァ……


フォルネウス(負けると言うのか!? 全力の魔神が、このような……連中に……!?)


バットマン「……マシュ! 船首へ駆けのぼれ、トドメだ!」

マシュ「はいっ!」

バットマン「『令呪を以て命ずる』! 全ての魔力をマシュの膂力へ変換しろ!」

マシュ「はあああああああああっ!!」ダダッ



フォルネウス「馬鹿な。馬鹿な、あってはならない現象である……!」


ドレイク「撃てェー!!!」

黒髭「撃てェい!!」

バットマン「マシュ!」

キラークロック(やれ、小娘)



マシュ「はあああっ……!」シュッ


ドシュッ‼




バットマン「……」

ドレイク「……」

黒髭「……」


マシュ「……」スタッ

フォルネウス「……馬鹿な」ドバッシャァァァァァァァァァ……


聖杯「」プカ……


マシュ「……聖杯、確認。回収します」


ボンベ「……やった」

ドレイク「やった」

黒髭「よおっしゃああああああああああああああ!!」

アステリオス「やっ、た!!」

バットマン「……やったか……!」




ドクター『お疲れ様、マシュ、ブルースくん! 聖杯の回収を確認、その特異点もじきに修正される!』

バットマン「……」

マシュ「やりました、マスター!」タタッ

バットマン「……ああ、よくやってくれた」

ドレイク「よくやったね、マシュ、ブルース! お疲れさん!」バシッ

バットマン「ああ、そちらも……世話になった」シュウシュウシュウ……

マシュ「ドレイクさん、ありがとうございました。ダビデさんも、エウリュアレさんも……」シュウシュウ……

ドレイク「……なんだいアンタら、身体が……」

バットマン「……長くは留まれない。礼の話は、悪いが……」シュウシュウ……

ドレイク「……なるほどねえ、踏み倒されちまうってワケか。アンタも相当なワルだねえ」

バットマン「……いつか返すさ」フ



エウリュアレ「……」チラ


アステリオス「……」フリフリ


エウリュアレ「……ふふっ」クス


バットマン「……そろそろ消えることになる。会えて良かった、ドレイク」

ドレイク「ああ、こっちも会えて良かったよ。アンタみたいな堅物、博物館に飾りたいくらい貴重だけど……まあ、また会えるさ。じゃあねブルース」ギュッ

バットマン「ああ……またな」

ドレイク「ほら、マシュも。アンタ、最初は根性なしの小娘かと思ってたけど、なかなかやるもんだね。会えて良かったよ、若い頃を思い出した」ギュッ

マシュ「わぷ……は、はい。私も、ドレイクさんのように素敵な女性に出会えて良かったです」

ドレイク「そうかい? そりゃあ……」


ドレイク「海賊やってた甲斐があるってもんだよ」ニィッ



ギュォォォォォォォォォォォォッ




………………


バットマン「……」ムクリ

マシュ「……」ムクッ


ドクター「!! ブルースくんとマシュが帰還したぞ!」

レオナルド「お疲れ様、二人とも」

所長「……お帰りなさい!」

フォウ「フォウ、フォーウ!!」ピョコピョコ


マシュ「……マスター」

バットマン「……ああ、ただいま」





………………


黒髭「ふー、終わった終わった。キラークロック殿、最後にマシュちゃんに会いに行かなくて良かったのでござるか?」

キラークロック「……良い。オレは満足だ」

黒髭「無欲でござるなぁ……ひとなめくらいは許して貰えたと思いますぞ」

キラークロック「食い千切るぞ」

黒髭「ごめんなちい!」



エウリュアレ「……アステリオス!」タッタッ

アステリオス「エウリュアレ……」

エウリュアレ「ようやく終わったわ! まったく、貴方に言いたい事がたくさんあったのよ? 私を置いて行こうとするし、私を放っておいてむさくるしい男達を優先するし……!」

アステリオス「ごめん、なさい。でも、だいじょうぶ。ぼくは、ぼくだよ」

エウリュアレ「……分かってるわよ! もう、これからは絶対に私から離れない事! 私を護るんでしょう?」

アステリオス「うん、これからはいっしょ……」

エウリュアレ「……それなら許してあげるわ!」

アステリオス「あり、がとう」ニコ




黒髭「……チェ―ッ、クソ。リア充末永く爆発しろ!」

キラークロック「うるせえぞ」

黒髭「キラークロック殿はモテ男だから拙者の気持ちわかりません~~~~!!!」


ドレイク「おーい、髭野郎!」


黒髭「はうあっ!?」


ドレイク「悪くない共同戦線だったよ! じゃあね!」


黒髭「ほ、ほああっ!? そ、そんなもんこっちこそ悪くなかったわ! じゃあなBBA! 二度と来るなよ!!」

キラークロック「……」

黒髭「……うぇへへへ、悪くなかったって……」ニマニマ

キラークロック「気色悪い」

黒髭「ひっど!?」




エウリュアレ「……ねえ、アステリオス」

アステリオス「うん?」

エウリュアレ「……私も、貴方みたいだったらなって」シュウシュウ……

アステリオス「……えうりゅ、あれは、今のままで、いいよ」シュウシュウ……

エウリュアレ「……そうよ、そうね。貴方も、ね」シュゥゥゥゥゥゥゥ……

アステリオス「う、ん。きっと」シュゥゥゥゥゥゥゥ……





………………


ザサァン゙……ザザァン……



ゴポポポポポ……コポポポポ……


メディア(……)

メディア(……私では、及びませんでしたか……)

メディア(……ですが、ブルース。そしてマシュ。貴方達では、あの方には敵わない)

メディア(あの方にとっては、目的の前の障害など、塵にも等しい)

メディア(ああ……どうか、彼らの道が、余計な希望を持たぬものでありますよう……)


ゴポポポ……コポポポポ……





第三章

封鎖終局四海 オケアノス


生存者 マシュ・キリエライト ブルース・ウェイン

死者 ブーディカ



今回の更新はここまでです。お付き合いいただきありがとうございました。

・ブルースの年齢を示唆するような描写は時々ありますが、特にそれを本筋へ絡めるつもりはないので読者の皆さんで納得できる年齢として読んで下さい。
・このカルデアでは、サーヴァントは一度消滅すると基本帰って来ません。これまで何の説明もなく申し訳なかったです。
・イアソンは好きです。


ブルース「……」

マシュ「……」

ブルース「…………」

マシュ「…………」

ブルース「………………」

マシュ「………………」

所長「あの……廊下で何やってるの?」



ブルース「オルガマリー所長か。……いや、イメージトレーニングの特訓だ」

所長「イメージトレーニング?」

ブルース「そうだ。自分と相手の行動を計算し尽くし、現実的空想空間において敵を打ち倒す。……まあ、言うなれば戦う前のリハーサルのようなものだ」

所長「はあ……?」

マシュ「……」ムムム

ブルース「それが一瞬で出来るようになれば、戦闘においてはかなり有利。マシュにはそれを会得してもらう必要がある……これからの戦いの為にも」

マシュ「……」ムムムム……

ブルース「マシュ、蹴りを繰り出した後の動きに隙が多い。盾は取りに戻るな」

マシュ「はい。……え? なんで私の考えてる事が分かったんですか?」

ブルース「……」

所長「相変わらずよく分からない事をやってるわね……ほどほどにしてよ」スタスタ



マシュ「……」タラ……

ブルース「……集中力が落ちてきているぞ、マシュ。疲労が溜まって来たか?」

マシュ「っ……少しだけ」

ブルース「休みを入れよう。脳が疲れを感じたら、それは感覚以上に酷使している証拠だ」

マシュ「はふっ……分かりました」

ブルース「確か、レオナルドが紅茶と茶菓子の再現に成功していたハズだ。良い休憩になるだろう、行ってくると良い」

マシュ「はいっ。……あの、マスターは?」

ブルース「私は……いや、私も行こう」スクッ




………………

レオナルド「おっ、工房へいらっしゃい。二人一緒とは珍しい……いや、最近はそうでもないかな?」

ブルース「紅茶の茶葉をもらえないか? 休憩を入れたい」

レオナルド「良いね~、私もそろそろ休もうと思ってたんだ。ちょっと待ってくれ……おーい、ロマニ」ピッピッ

内線「」ピピピッ、ピピピッ……ガチャッ

ドクター『もしもし? レオナルドか? 今忙しいんだ、お遊びの連絡ならまた今度に……』

レオナルド「おやおやぁ? なら私、マシュ、ブルースだけでティータイムを楽しむとしようか」

ドクター『残念だがそう……なに? 今なんて?』

レオナルド「いやぁ~実に残念! 皆で紅茶を飲んでワイワイ過ごそうと思ったんだが! キミが忙しいなら無理強いは……」

ドクター『……いやいやいや!! 待て、今ちょうどキリの良いところまで終わったぞう! ははは、皆でそちらへ行けそうだ!』

所長『ちょっとロマニ? 全然終わってないじゃないの!?』

ドクター『所長……! お願いです! ここまでの記録はつけてますから! ちょっと休むだけですから!』

所長『アンタねえ……!』

レオナルド「ははは、期待せずに待ってるよ。それじゃあね」ガチャッ



………………

レオナルド「……」ニコニコ

ドクター「……」ダラダラ

所長「……」ギロッ

職員A「……」フム

職員B「……」オドオド

職員C「……」ポケッ



給湯器「」ピィィィィー……

ブルース「……」コポポポポ……



マシュ「……」カチャカチャ

茶菓子「」ズラッ



ブルース「……」カチャ

カップ「」コトリ

ブルース「……」チョポポポポポ……

紅茶「」ホワァ……

ブルース「……」

ブルース(アルフレッドほど上手くは注げないか)



マシュ「……」カチャカチャ

ミルク「」コトリ

ブルース「砂糖は……」

マシュ「右上の引き出しから二つ隣です」

ブルース「ありがとう」ゴソ



マシュ「はい、お待たせしました。紅茶と茶菓子です」カチャカチャ

職員B「うわあ~、香りとか本当に紅茶ですね。魔術で再現されたなんて信じられないです!」

レオナルド「フフン、そうだろうそうだろう。まあ天才だからね、私。できない事とか滅多に無いし」

ドクター「……美味しいぞ、コレ……美味しいぞコレ!」ズズ

ブルース「私も失礼しよう……」スッ

職員A「お菓子も程よい甘さで……再現率が高いですね」サクサク

レオナルド「勿論ほぼ完ぺきさ。こだわったからね」

職員C「これうめえ……あっ、これもうめえ」モシャモシャ

レオナルド「ははは、ゆっくり食べたまえ。また余裕が出来たら作ってみるよ」カチャ

マシュ「……あまくて、おいしい……」トローン



ブルース「……」カチャリ、チラッ

所長「……」ジッ


ブルース(……?)

ブルース「飲まないのか、所長」

所長「……え? 私? あ、私は、その、あの……」チラッ

マシュ「……?」

所長「……いえ、私はやっぱり結構よ。失礼するわね」スッ、スタスタ

ブルース「……」

マシュ「……どうしたんでしょうか」

ブルース「……」



レオナルド「? どうしたんだ、二人共。ティータイムだぜ、飲んで食べて大騒ぎしろよ」

ブルース「……すまない、私も失礼する。素晴らしい紅茶だった」スッ

マシュ「あ、ま、マスター」

ブルース「マシュ、ここに残っていろ。まだ休憩は必要だ。レオナルド、紅茶と茶菓子に礼を言う」

レオナルド「いや、いいけど……どうしたんだ」

ドクター「ブルースくん?」

職員達「「「?」」」

ブルース「……少し、調べなければならない事があったのを思い出しただけだ」スタスタ



ブルース「……」ピッピッ

コンピューター『ハッキング進捗率:89%』

ブルース「……」


ブルース(今夜にでもカルデアへのハッキングは完了する。データ最深部へアクセスし、所員達の弱点を見つけ出す……)


ブルース「……」


ブルース(……信用と保険は別物に考えるべきだ。ここには怪しい要素が多すぎる……先程の所長の、あの態度)

ブルース(マシュを見る目は怯えたものだった。だがマシュにその自覚は無さそうに見える……オルガマリー所長は、何かを隠しているか、それとも負い目を感じているのか。アレは自分の罪に怯える目だ)

ブルース(それがカルデアの根幹に関わるものならば、今夜絶対に明らかにする。……場合によっては……)

ブルース「……」ピッピッ


ブルース(……場合によっては、所長を……)




………………


所長「……」コツ、コツ

自動ドア「」ウィー……

所長「……」コツン……コツン……


蒼い球体「」ポゥン……ポゥン……


所長「……」ピトッ

所長「……」プルプル


バットマン「オルガマリー所長」

所長「……」ピクッ



バットマン「……こんな夜中に、地下へ降りて何をしている」

所長「……」

バットマン「……カルデアの施設を案内された時には、こんな部屋は紹介されなかったと思うが。秘匿の必要があるのか?」

所長「……」

バットマン「……どうなんだ、所長。この秘密を暴かれる事が、お前にとってそれほどの恐怖なのか」

所長「……ええ、そうね。恐ろしい。怖いわ」プルプル……

バットマン「……それは……」


バットマン「それは、自分達が造りだした『マシュ』という人間が、自分達に復讐するかもしれないという恐怖か?」



バットマン「2000年。初代所長『マリスビリー・アニムスフィア』による計画……
『英霊を人間に』。このコンセプトの元、最適な身体で造りだされた赤子に英霊を融合させる実験が続いていた」

所長「……」

バットマン「この赤子はデザインベビーと呼ばれ、寿命は長くとも30歳ほど……だが、この実験の唯一の成功例であるマシュの場合は、更に短い。英霊との融合実験段階で、その寿命は更に十年ほど縮んだ」

所長「……」

バットマン「2000年、マシュに英霊が憑依……彼女に憑依した英霊の真名は不明。だが誇り高い英霊だろう。この施設の非人道的なやり方に怒り、協力を拒否。今はマシュの中で眠っている」

所長「……」

バットマン「これらは全てカルデアのデータベース最深部に収められていた。これは本当か? 全て、真実なのか?」

所長「……」グッ、プルプル……

所長「……ええ、本当よ」



バットマン「……」

所長「全て事実よ。父はそういう男だったの。裏で非人道的な実験を繰り返し、悪びれない男だった。私はそういう男の、実の娘なのよ。私の事、軽蔑した? 怒ってる? ……信用できなくなったわよね。どうする? ここからつまみ出す?」

バットマン「……勝手に話を進めるな。お前の事は信頼しているし、敬意を持っている。お前の優しさと誇りは知っている」

所長「……なら、どうするっていうのよ」

バットマン「マシュを恐れる必要はない。そう伝えに来た」

所長「……」

バットマン「彼女は純粋だ。憎しみを抱いて育ったなら、ああはならない。彼女はお前の事も信頼している……それは分かっているだろう」

所長「……っ……」



所長「……のよ……」

バットマン「……」

所長「怖いのよっ、たまらなく怖いの!! あの子の目を覗き込むのが怖いの! 父が犯した罪が、私に降りかかってくるのが怖い!」

バットマン「……」

所長「あの子がいつか私を殺しに来るって……運んできてくれたお茶だって飲めない、一緒に話だってできるわけがないっ!! だって、だって、殺されるから! 父がたくさんの赤子を殺して来たのと同じように、私も!!」

バットマン「オルガマリー所長」

所長「私は結局……」

バットマン「所長!」

所長「っ……」ビクッ



バットマン「……恐怖に飲まれるな」

所長「ごめん、なさい……」

バットマン「……謝る必要は無い。だが、恐怖と戦う事を諦めるな。父親の行いが間違いでも、自分は正しい行いを選択できるはずだ」

所長「……」

バットマン「選択に自信が無い時は、頼れ。共に考える事ができるだろう。正しい決断が下せなくても、責任は共に負えるだろう。ただ……ひとりで悩むのは無しだと、自分で言っていたぞ、所長」

所長「っ……」

バットマン「たとえ恐怖を理解する事が不可能でも、歩み寄る事は可能なハズだ。手を伸ばせ、オルガマリー所長」

所長「……」




所長「……なんで」

バットマン「……」

所長「なんでそこまで、言ってくれるの」

バットマン「……私に勇気を思い出させてくれたのは、所長。お前達だ。なら、今度は私も手を伸ばす」

所長「勇気……」

バットマン「そうだ……敬意を持っているというのは、本当だ。私はお前を尊敬している」

所長「……そう。貴方、嘘をつかなくなったのね……」

バットマン「……誰かに言われてな」

所長「……分かったわ」



所長「けど、いきなりは無理。怖いもの」

バットマン「分かっている。だからこそ、少しずつ、慣れていってほしい。きっとマシュも、それを望んでいる」

所長「きっと……か」

バットマン「……? 何だ」

所長「いいえ」


所長(……マシュには、心を開いてるのね)


バットマン「……さあ、戻るぞ。もう真夜中だ」

所長「ねえ、ブルース」

バットマン「どうした」

所長「……いいえ、何でもないわ」


所長(私も……欲張っても、いいのかしらね)




………………


マシュ「……」ムムムム……

ブルース「マインドセットだ、マシュ。精神を慣れさせろ」

マシュ「……」ムムム……

ブルース「……」

マシュ「……」ムム……

ブルース「……少し休憩にするか。これは難しい訓練だ、一気にやってもあまり効果は無い」

マシュ「っふぅ……これ、かなり……体力を使いますね」

ブルース「よくやっている方だ。……確か、この前の紅茶がまだ残っていたな……」カチャカチャ


コツ、コツ……

所長「……あ」

マシュ「あっ、オルガマリー所長」

ブルース「……」


………………

マシュ「……はい、どうぞ所長。紅茶です」コトッ

所長「あっ、ありがとう……」ビクビク


所長(これは無害これは無害これは無害……)プルプル


マシュ「……?????」




ブルース「……」バシッ

所長「え?」

マシュ「え?」

ブルース「……」ズズッ……

ブルース「……」コトッ

マシュ「あ、あの、それ所長の紅茶のつもりだったんですが……いえ、注ぎ直しますけど」コポポポポ……

ブルース「……そうだったのか。すまない、気付かなかった」スッ

所長「え、ええ……?」パシ


所長(ちょっと!? ブルース!?)ヒソヒソ


ブルース「……」サラサラサラ……ペラッ


紙『大丈夫だ。お前も飲める』


所長「え……?」


所長(ま、まさか毒味のつもりで……?)



マシュ「はい、所長……あれ? マスター?」スッ

ブルース「ありがとう」パシ

マシュ「え、ええ。良いんですけど……え?」

ブルース「……私が紅茶を注ごう。座ってくれ、マシュ」

マシュ「はい……え? 今日、何かおかしくないですか?」

ブルース「脳を酷使した直後は違和感を覚えるものだ。休ませろ」



所長「……」チラッ

紙『大丈夫だ。お前も飲める』

所長「……」ゴクリ


所長(だ、大丈夫よね。ひ、ひとくちだけなら……)


所長「……」ズズ


所長「……あっ、美味しい」ズズ、ゴク




ブルース「……」チラ

所長「……」モグモグ、ゴクゴク

ブルース「……」フッ

マシュ「……??????」


マシュ(何かおかしい……何かが決定的におかしいですよ……?)


所長(っていうかこれ間接キスじゃないの?)ピクッ


所長「ぶっふぅはぁ!?」ビシャーッ

ブルース「!?」

マシュ「!?」





その後。

マシュへの態度は普通になったが、ブルースに対してはしばらく挙動不審になった所長だった。


今回の更新はここまでです。お付き合いいただきありがとうございました


 踏み込みが床を砕く。私は身体を捻り、豪速で迫る拳を躱す。

「動きが甘いぞ」

 敵は直前の重い動作からは想像もできないような軽やかなステップで軸をずらし、反撃を封じるチョップを繰り出す。私は盾でそれを防ぎ、何とかスピードを見極める。

(必然的対応をさせる)

 その動きから学ぶべき事は多い。既に彼はマントを翻し、こちらの視界を潰している。

 五感を駆使。私は盾を構えつつ、裏でカウンターの拳を構える。だがいつまで経っても攻撃が来ない。

 後方、質量が空気を裂く音。裏拳でバットラングを弾く……爆発。爆破ジェル塗布済み。爆風に体幹が揺らいだその瞬間、足払いが足元を刈った。

「きゃっ……」

 完全にバランスを崩したところへ、強烈な背負い投げが……


「……しゅ……マシュ」

「反撃を……反撃を……え? あれ?」




マシュ「あれ? ここは? すごく強くてズルいマスターは……?」

ブルース「……ズルではない。常に打てる手を打っているだけだ。
その様子から察するに、どうやら想像の世界へ入り込んでいたようだな」

マシュ「想像……あ、そうでした。イメージトレーニングしてたんでした」

ブルース「……良いかマシュ、想像が自分の世界を侵食する事はままある。だが、この場合はその限度を定めるべきだ」

マシュ「限度……ですか?」

ブルース「そうだ。マシュ、お前はよくやっている。常人より遥かに飲み込みが早い。だからこそ、その弊害がある」



ブルース「想像で現実が見えなくなってはならない。逆もまた然りだ。適度な集中、そして自己を分析する計算。戦いの中では不可欠だ」

マシュ「う……」

ブルース「……立ってみろ、マシュ」スッ

マシュ「は、はい」スクッ

ブルース「……良いか、大事なのは原因と結果であり……」



ブルース「たとえば……拳をこちらへ打ち込め」

マシュ「はい……え?」

ブルース「打ち込め。対処する」

マシュ「で、でも……」

ブルース「……では、軽く、ゆっくりと拳を突き出せ」

マシュ「は、はいっ。えい」ソォーッ

ブルース「……この時点で、反撃の方法は数パターンある。人間である私は、おそらくテコの原理で投げ飛ばすのが一番だろう。
では投げられた時、マシュ。お前はどうする?」

マシュ「え、えーっと……受け身ですか?」

ブルース「……気を遣うな。もっと攻撃的で良い」

マシュ「手を掴み返して勢いで倒れ込んで腕ひしぎに……」

ブルース「そうだ。思考のパターンを作れ。攻撃する時は攻撃の『結果』を、防御する時は防御の『結果』を想像しろ。惰性で考えていては理想の戦場は作れない」



マシュ「……」

ブルース「……考えろ。お前は今、どうしたいのか。どうしたらその結果へ持って行けるのか。そのために打てる手はなんだ」

マシュ「……」

ブルース「……そのためのイメージトレーニングだ。想像とは、自分が持ち得るもうひとつの世界だ。世界の理想に合わせるな。世界を理想に合わせろ」

マシュ「……よし、やってみます!」

ブルース「その意気だ。……よし、組手といこう」

マシュ「はい! ……え?」

ブルース「組手だ。戦いながら結果を想像しろ」

マシュ「え? え? 無理です無理!!」

ブルース「……無理と断じるのは、一度やってみてからだ。いくぞ」




………………

マシュ「……」

ブルース「……」


所長「……言い訳があるなら、今の内に聴いておくけど……!」プルプル



ブルース「……少し、戦闘訓練に熱が入り過ぎた」

所長「少し。少しね。へえ、少し熱が入り過ぎたと」

ブルース「……」

所長「じゃあアンタ達は、少し熱が入っただけで壁のパイプを何本も叩き折ったり!」

パイプ「」ボロッ

所長「シミュレーション装置を叩き壊したりするワケね!」

装置「」ボロボロ



所長「見なさい! パイプなんて蒸気が噴き出しっぱなしじゃないの! これもう!?」

レオナルド「あっ、良ければ私が直す……」

所長「黙ってなさい、今叱ってるでしょう!!」グワァッ

レオナルド「はい」

ドクター「ま、まあまあ。そんなに怒らなくても……」

所長「」ギロッ

ドクター「と思ってたけど気のせいでした、存分に叱ってやって下さい」




………………

所長「だいたいアンタ達はねえ……」ガミガミ

ブルース「……」


マシュ(あ、脚が痺れてきました……)ピクピク

ドクター(なんで僕まで……なんで僕まで)


レオナルド「なんで私まで……」

所長「黙って聞く!!! アンタもねえ!!」

レオナルド「はい」


レオナルド(うーん藪蛇。口を挟んだら説教が長くなるタイプだコレ)

所長「マシュ! アンタも……」

マシュ「は、はいっ!!」ビクゥッ

ブルース「……」

ブルース(……よし、マシュにも話しかけられているな。態度は普通になったようだ)




………………


所長「……であるからして……!!」ガミガミ

職員C「あ、あのー……」

所長「何よ」キッ

職員C「ヒッ……いえ、あの、晩御飯できたって知らせに来ました」

所長「あ、え? もうそんな時間?」チラッ

時計『19:00』


マシュ「……四時間みっちり、お説教でした……」グッタリ

ドクター「ごめん、正座のせいで足の感覚ないから立てない……」プルプル

ブルース「……膝に悪いな、この姿勢は……」スクッ

レオナルド「私なんて、『パイプから漏れる蒸気のせいで部屋が霧掛かってきたから』って、パイプの修理しながら説教聞かされたんだぜ? 気持ちはカオスのど真ん中さ」

所長「……続きはご飯の後で。良いわね?」

マシュ「まだやる気なんですね……」





………………

ブルース「……」

レオナルド「豆のスープも悪くないな、これ」モグモグ

ドクター「美味しいなぁ……みんなと何か食べてる時ほど幸せって思える瞬間はないよ」

マシュ「分かります……」

職員A「ですね。脳が休まります」

職員B「あ、わ、私もです……」

職員C「うめぇ……あったけえ……」

所長「……まあ、気持ちは分からない事も……」

ブルース「……」


ブルース(豆のスープか……アルフレッドが病気で動けない時は、こういう慣れない料理をしたものだった……)


ブルース「……ああ、いい味だ」





ピーンポーンパーンポーン……

スピーカー『特異点、特定完了。特異点、特定完了。所長、職員は結果の確認をしてください』

ドクター「ん“ん”っ、もう!? うちは職員のみならずAIも優秀だな……」

レオナルド「ん、AIの自動進行機能か。よし、丁度食べ終わったし確認に行こう!」

ドクター「ちょっと待って……ブルースくん、マシュ。召喚システムを試してくれ、きっと十分な量の電力が確保されているはずだ。僕たちはその間に協議を進める!」

ブルース「了解した」

マシュ「はい」

ドクター「うん、よし。それじゃあ行こう!」スクッ

レオナルド「よしよし、AIが出した結果の答え合わせもしてやらなきゃあな!」スタスタ




………………

ブルース「……食べたか、マシュ」

マシュ「は、はい。ごちそうさまでした」カチャ

ブルース「行くか。……召喚がうまくいけばいいが」

マシュ「大丈夫です。何があっても守ります」フンス

ブルース「頼りにしている」スタスタ

マシュ「えへへ……あっ、待って下さい」タッタッ




………………


バチバチバチバチ……ギュォォォォォォォオォォォッ


カッ‼


???「……ふー、やれやれ。海が終わったと思ったら今度はよく分からない施設か……おっと、そこに居るのは」

ブルース「ダビデ……お前か」

ダビデ「ブルースにマシュか。キミたちに召喚されるとは……奇妙な縁もあったものだね。けど、悪くないな」

マシュ「ダビデさん! お久しぶりです」

ダビデ「やあマシュ。キミがお望みとあらばいつでも竪琴を奏でよう……羊飼い、ダビデ。僕はやるよ。かなりやる」



ブルース「……すまないが」

ダビデ「なんだ? 遠慮なく言ってくれ」

ブルース「戦闘能力はあるのか?」

ダビデ「ホントに遠慮なく訊くなぁ、キミは!」

ブルース「……」

ダビデ「この前の特異点では『櫃』に力を奪われていただけさ! 単独で召喚された今、僕はあの時の数倍は強いと思ってくれていい! その辺の石ころを投げても砲撃レベルさ!」

ブルース「成程。期待しておこう」

ダビデ「乞うご期待だ。きっとキミも目を剥くぞ」





………………

ウィーン

ブルース「入るぞ」スタスタ

ドクター「やあ、ブルースくん。召喚は無事に終わったよう……だね……?」

ダビデ「やあ、どうもどうも」ヒラヒラ

ドクター「……ブルースくん、よりによってそいつを召喚しちゃったのか。前回の特異点で全く活躍してなかったじゃないか!」

ブルース「? ああ、そうだな……だがサーヴァントだ」

ダビデ「おいおいおい! なんだキミは、失礼な奴だな!? 出会って五秒で役立たず呼ばわりか!?」

ドクター「おあいにく様、僕はソロモン王のファンだけどダビデ王は嫌いなんだ!」

ダビデ「なんだって? あのろくでなしのファンとは、さてはキミは……」

ドクター「あっ……」

ダビデ「……キミもろくでなしだな?」

ドクター「ダビデ王よりマシだー! 生娘を毎晩侍らせるってどういう神経してるんだい!?」

ダビデ「モテない男のひがみか! そうなんだろ! 安心しろ、手は出してないぞ! 出さなくてもよりどりみどりだったし!」




所長「……なんなのコイツら」

レオナルド「さっさと話を進めよう。馬鹿二人は置いておいて」




所長「はい、静かに。今回のレイシフトの説明を行います」

ドクター「ふん……なんでダビデ王なんか召喚しちゃったんだ」ブツブツ

ブルース「……そこまで嫌いだったとは知らなかった。すまない」

ドクター「……」

ブルース「……?」


ブルース(ここまで気が立っているドクターも珍しいな……よほどダビデが嫌いなのか。異性が周囲に多く居ても、良い事など無いというのに……)

ブルース(……それにしても、ソロモン王のファンか。この事件の真相が、いつか全て明らかにされた時……ショックで倒れなければ良いが)


所長「今回特定された時代は……」




所長「時代は十九世紀後半。場所は産業革命真っ只中のロンドンです。相手の狙いは明らか、産業革命を阻止して我々の技術レベルを致命的に遅らせる……」

ブルース「決めつけるには尚早だが」

所長「ぐ……まあ、そうね。実際に赴いて真相を確かめてもらうのは、ブルース。貴方達レイシフト要員に任せます」

ブルース「……ああ」

所長「ロマニ! マシュとブルースの健康状態はどう?」

ドクター「……あっ、はい! 二人とも健康状態は良好です!」

所長「なら良いわ。レイシフト要員は解散とします、しっかり休んで明日のレイシフトに備えて。
次、サポート班! 明日の動きを確認するわよ!」


ブルース「……」スクッ

マシュ「あ、待って下さい」スクッ

ダビデ「あっちょっと待ちなって、僕も行くぞ」


ドクター「……」ムスーッ……



レオナルド「……なあ、ロマニ。嫌うのも分かるけど」

ドクター「分からないだろ」

レオナルド「……分からないけど、落ち着けよ」

ドクター「……」

レオナルド「……マシュもブルースもびっくりしてたぜ」

ドクター「………………
……はあ、だよなあ。気を付けないと……」ガシガシ




………………

ダビデ「ところでマシュ、今夜僕の寝床に……」

ブルース「……」ピクッ

ダビデ「……来なくても今日はひとりで眠れそうだな!」

ブルース「……そうか、何よりだ。どうしても眠れないようだったら私を呼べ。夜通し見張っておいてやる」

ダビデ「……勘弁してくれ……」


マシュ「??? え、えっと……では、私はこれで失礼しますね」

ブルース「……ああ。良い夜を」

マシュ「は、はい。また明日」

ブルース「また明日」

ダビデ「じゃあブルース、また明日に!」スタスタ

ブルース「お前の部屋はこっちだ」ガシッ

ダビデ「引っかからないかー!」

ブルース「油断も隙もない奴だ……」ズルズル




………………


ブルース「……19世紀頃、ヨーロッパでは大規模な産業の変革が発生……これを産業革命と呼び……」ペラッ

ブルース「……蒸気機関の発明、改良が進められ……手工業から機械工業への発展が……」ペラッ、ペラッ

ブルース「……この事が、消費者や生産者の立場をより強固に決定づけ……貴族、中流、労働者などの階級が……」ペラッ


ブルース「……」チラッ

時計『2:13』

ブルース(そろそろ休むか。レイシフトへ向け、体調は万全にしておきたい……)パタン


ブルース「……」


ブルース(……不安が、襲ってくる。何もかもが上手く行っていると、絶対に、その反動が来るという不安が……)

ブルース(今のこの瞬間、私は確かに幸せなのかもしれない)

ブルース(だが、心のどこかで、もう一人の私が冷たく嘲る。しょせん儚い夢なのだと)

ブルース(……破滅は、足音をたてない……)





………………

ソロモン「もう一度言ってみろ」

???「俺が向かう。お前の策だけでは上手く行く保証がない」

ソロモン「……虫けら相手に、策だと? 笑わせる。賢いつもりか」

???「そう言って、いくつの特異点を突破されてきた? 残りは四つ。お前の策は確かに上策ではあるが、万全を期しているとは言い難い」

ソロモン「……」




ソロモン「……お前にはバビロニアを任せる。そう言った」

???「奴らがそこまで到着する前に決着をつけるのが最善だ。俺は常に最善を好む」

ソロモン「だからお前が出ると? お前が消滅した時、誰が責任を取る?」

???「俺は死なない。少なくとも、人間の状態で一度は破った相手だ」

ソロモン「……何を恐れている?」

???「俺に、恐れはない。だが奴らに……植え付ける必要がある。道の先には破滅が待っているという恐怖を」

ソロモン「面白い。……実に面白いぞ」




ソロモン「良いだろう。せいぜい奴らを破滅の道へ誘い込め」

???「……朝飯前だ」

ソロモン「……」


ソロモン(……フン、何をするつもりかは知らんが……折角この私のサーヴァントとして召喚してやったのだ。ここで実力をハッキリみせてもらおうか……)


ソロモン「では、ベイン。お前をロンドンへ飛ばす」

ベイン「……」





………………

ブルース「っ」ガバッ


時計『07:00』ピピピ‼ ピピピ‼ ピピピ‼


ブルース「……」


ブルース(嫌な夢を見た……気がする。なんだったんだ……)


ポロン、ポロン、ポロロン♪


ダビデ「おはようブルース、爽やかな目覚めをお届けするダビデサービスだよ」ウィーン

ブルース「……成程、悪夢を見たわけだ……」ドサッ

ダビデ「ちょっと? 僕への扱いが全般的に酷くない?」

ブルース「いや……良い音色だ。とても癒される」

ダビデ「取ってつけたような感想だなー!?」





ピーンポーンパーンポーン……


レオナルド『おはようカルデア。外は生憎の吹雪だが、インドア派な我々には無関係だ。これより第四回レイシフト前、最後のミーティングを始める。管制室へ集合してくれ』

ダビデ「だってさ」

ブルース「……行くぞ」ムクリ

ダビデ「はいよ」スクッ


自動ドア「」ウィーン……





マシュ「あ、マスター、ダビデさん。おはようございます」

ダビデ「おはようマシュ。今日も綺麗だ」

マシュ「へっ!? あ、は、はい、ありがとうございます……?」

ブルース「……おはようマシュ。体調に異常は無いか」

マシュ「はい……いえ、奇妙な夢をみたような気がするんですが、忘れちゃって……」

ブルース「……そうか。まあ、所詮夢だ」



フォウ「……フォ~~ウ……」モゾモゾ

ダビデ「ちょっとタンマ。なんだこの獣、今どっから出て来た?」

マシュ「わわ、フォウさん。最近は隙があったら私の身体に潜り込もうとしてくるんですよ」

ダビデ「う……羨ましいぞ! 僕もその谷間にダイブ……」

ブルース「……」ピクッ

ダビデ「……するのはやめておくよ!」

ブルース「賢明な判断だ。流石は王だな」

ダビデ「いや、王ってのはやめてくれ……僕は羊飼いだから……」




………………

ドクター「……来たね」

ブルース「遅くなったか」

レオナルド「いいや、時間通りだ。おはよう」

ダビデ「おはよう! ところでキミの名前を聞いていなかったね、美しい人!」

レオナルド「ははは、私は中身がオッサンだから口説くのはやめとくんだな」

ドクター「見境がないな……これで偉大な存在っていうんだから歴史だっていい加減なものだよ」ブツブツ

マシュ「あ、あははは……」



所長「はい、無駄話はやめ! これより第四回レイシフト前、最後のミーティングを始めます! 全員居るわね?」


職員達「「「はい!!」」」





所長「今回のレイシフト先は19世紀後半のロンドン。解析していく内に、この特異点は霧に覆われているという事が判明しました」

ブルース「……霧?」

所長「ええ。とても濃い霧で……朝昼晩、晴れる事のないものよ。魔術の関与があるかどうかまでは判明しませんでしたが、その線も十分考えられる」

ブルース「ふむ……」


ブルース(……)


マシュ「五感、ですよね」

ブルース「……そうだな。視界が効かないとなると、音だ」

マシュ「はい!」


所長「レーダーも一応強化済みだけど、過信は禁物よ。令呪は三画まで。生身でのサーヴァントとの交戦はできるだけ避ける事」

ブルース「了解した」

所長「良いわ。じゃあ、サポート班!」

職員達「「「はい!!」」」

ドクター「はい!」

レオナルド「はいな」





………………


所長「レイシフト要員は09:00までに準備を整え、コフィンへスタンバイを済ませる事! では動いて!」


マシュ「……お先に失礼しますね、マスター」

フォウ「フォウ、フォーウ!」

ブルース「ああ、あちらで会おう」

ダビデ「えーっと、これに入れば良いのかい?」

ブルース「そのボタンは押すな。ここの赤いボタンだ」

ダビデ「えっと……おお!」

コフィン「」プシュー……

ダビデ「いいなあコレ! ワクワクするぞ……よーし。ダビデ、いきまーす!」

ブルース「……あちらで会おう」プシュー……



ブルース「……」ガチャリ、シュルッ。ガキ

ブルース「……」ガキリ、カチッ。スチャッ

マスク「」

ブルース「……」スッ

バットマン「……」



ドクター「……よし、全員スタンバイできたね」




ドクター「時刻、08:57。ブルース・ウェイン、マシュ・キリエライト、ダビデの三名がコフィンにスタンバイ完了」

職員A「存在証明式、稼働開始! 肉体観測、順調!」

職員B「電子機器類、異常なし! 電力量チェック……クリア!」

職員C「シバの時代特定も良好です! 19世紀後半、特異点のロンドンを捉えています!」


所長「では……ロンドンへのレイシフト、カウントダウン開始!」

職員達「「「了解、カウントダウン開始!」」」


ドクター「……」

レオナルド「……やっぱりダビデは嫌いかい?」

ドクター「好きにはなれない。僕には無理だ」

レオナルド「まあ、仕方ないけど……サポートの手は抜かないように」

ドクター「当然だ! ブルースくんとマシュを守らなきゃ!」





(((破滅は足音をたてない)))

(((ベイン。お前をロンドンへ飛ばす)))


バットマン(……いや、ただの夢だ)

ドクター『レイシフト10秒前! 9! 8! 7! 6! ……』

バットマン「……」

ドクター『3! 2! 1!』

バットマン「……」グッ

『0』




………………


バットマン「……」ムクリ


バットマン(硬い地面……いや、石畳か。レイシフトは成功したようだが)


バットマン「……マシュ。ダビデ。何処に居る」

バットマン(見えない……酷い霧のせいで、視界は3~5メートルほどに制限されてしまう)



バットマン「何処だ、マシュ、ダビデ」スタスタ

バットマン(はぐれたか? レイシフトはランダム要素もあるらしい、こういう事も起こらない訳ではないのだろう……)

バットマン「……ドクター、マシュとダビデの位置を割り出せるか?」

通信機『ザザッ……ザザザザザザザ……』

バットマン「……駄目か……」スタスタ


バットマン「……?」チラッ

バットマン「……!!」ダッ




マシュ「……あ、ああ……」グッタリ

バットマン「マシュ。どうした。何があった」タッタッ

マシュ「ます、たー……私は、もう……」プル、プルプル……

バットマン「……!? 馬鹿な、どこでこんな傷が……」


バットマン(明らかに致命傷だ。何故だ? 誰が?)


強盗「……馬鹿な奴だぜ。お前を守るために俺に飛び掛かってきやがった」

バットマン「……!?」


バットマン(こいつは、あの時の……両親を殺した、あの……!)





強盗「大人しくテメェを差し出しときゃ良かったのによ」

バットマン「……どういう事だ……何故……」

マシュ「ますた……さよなら……」シュウシュウ……

強盗「ほら、またテメェのせいで人が死んだ。感想はどうだ?」

バットマン「……違う、違う! こんな……」

バットマン(齟齬だ。齟齬がある。銃声すらなかった。もみあう音さえ聞こえなかった。理性を失うな、ブルース……!)


(((……スター! マスター! おきて……)))

(((……不味いぞ、何かきてる……)))


バットマン「……!!!」




ドクター『ブルースくんのバイタルに異常が……なんだこの霧は!? 凄まじい毒性反応だ……今解析にかけてる!』

バットマン「……ばかな、……ありえない……」

マシュ「マスター! ドクター、マスターが急に倒れてうわ言を……」

ダビデ「霧の向こうからすごい量の足音だ! 何か来るぞ!」

マシュ「っ……マスター……!」

バットマン「マシュ……マシュ、マシュか!」ガバッ

マシュ「ま、マスター!?」

バットマン「……起きたぞ、状況を!」ムクッ

ダビデ「起きてくれてよかった! 何か来るぞ!」


ザン、ザン、ザン、ザン、ザン……



ドクター『毒の解析が完了した! これは……どうやら、脳に著しいストレスを与えるガスが霧に混じっているようだ。具体的に言うならば、対象に恐怖を体験させるガスだ! サーヴァントならともかく、人間が吸えばイチコロだぞ!』

バットマン「……覚えがある」

ドクター『そうか……ってなんでキミ、立ってられるんだ!? 常人なら発狂モノの恐怖がキミを襲ってるハズだぞ!?』

バットマン「毒物影響下の自覚はある。だが想像で世界を塗りつぶしはしない……」

マシュ「……!」

バットマン「やるぞ、マシュ、ダビデ。この状況に対処する……」





『ハハハハハハハハハハハハハハハ!! 苦しいか、バットマン!』

バットマン「……この声は……」

『チチチチチ、誤魔化しても駄目だ……お前の心臓は既に掴んだ。恐怖しているな? 身体の震えは隠せても、心の震えは決して隠せない……』

バットマン「……スケアクロウだ。全員構えろ、サーヴァントも来るぞ!」

『さあ、教えてやろう……この世のたったひとつの真実! 恐怖を!』


バットマン「……警戒しろ……」

マシュ「はい」スッ……

ダビデ「……」


ザン、ザン、ザン、ザン、ザン……



ロボット軍団「……」ザン、ザン、ザン、ザン、ザン……


マシュ「……な……」

ダビデ「冗談だろ、この量……」

バットマン「……」



「さあ」


スケアクロウ「恐怖しろ」スー……

バットマン「!!」バッ





第四章


死界魔霧都市 ロンドン


今回の更新はここまでです。お付き合いいただきありがとうございました


………………

ベイン「……」ドシ、ドシ

ベイン「……」グルリ

ベイン(……霧が深い。それにこの気に入らない匂い……恐怖ガスが霧に混じっているのか)

ベイン(サーヴァントの身体というのは、どうやら毒物にも耐性が付くらしい……)

ベイン(それに、目や耳も実に良く利く)ピタッ


ベイン「誰だ。こそこそつけて来ているのは」

???「おやぁ? バレてしまいましたか、これは失敗! ワタクシとっても反省しておりますぅ!」



ベイン「……お前は」

???「申し遅れました、ワタクシはメフィストフェレスなる者でして。人の破滅を見るのが三度の飯より大大だーい好きなだけの道化師ですぅ!」

ベイン「ほう……フフフ。人を不快にさせるピエロならよく知っている。それで、そのお前がどんな用で俺の前に立ったんだ?」ゴキゴキ

メフィストフェレス「あぁいえいえ、決して敵意はございません。ただアナタ、破滅の匂いがとっても濃いので……ついつい来ちゃったんですよう。許していただけますかぁ?」ヘラヘラ

ベイン「……」



ベイン「……良いだろう。お前に役割を与えてやろう、ピエロ」

メフィストフェレス「ワタクシはメフィストフェレスですが……」

ベイン「俺が通った後を破壊して回れ。人が居れば特に残酷に痛めつけて殺せ。悲鳴を上げさせろ」

メフィストフェレス「……へえ」

ベイン「時には殺さず、瀕死の状態で道に転がせ。目印をつけていけ。そうすれば……」

メフィストフェレス「そうすれば?」

ベイン「……もっと面白い奴らが現れる」

メフィストフェレス「ウフフフ……なんだか、ワタクシよりよほど悪魔っぽいですねえ」

ベイン「では行け。俺は『準備』を整える」





ベイン「……」ドシ、ドシ


ベイン(連中のアジトまでの道中、まずすべき事は、バットマンの側に付きそうな野良サーヴァントの撃破)

ベイン(その後、それ以外の反抗勢力を各個撃破……まとまってしまう前の撃破が好ましいが、さてそう上手くいくか)

ベイン(『B・P・M・S』からの連絡によれば、サーヴァントによるレジスタンス団体は今のところひとつ……俺がバットマンを倒すのと、そいつらがバットマンに接触するのはどちらが早いか……)


ベイン「……やはりあのピエロを焚きつけたのは正解だったか」ドシ、ドシ


ベイン(事態は常に不利な方向へ進むと見た方が良い。バットマンの悪運の強さは天性のものだ)

ベイン(……だが、俺はお前の弱点を、恐怖をよく知っている。今回の特異点が今までのように簡単に行くと思うな、ミスター・ウェイン)



ドドォォォォォォ……ドッガァァァァァァァ……ヒャハハハハハハハハ‼ アヒャハハハハハハハハハ‼


ベイン「……」フッ



………………

バットマン「ダビデ! ロボット達を寄せ付けるな! マシュ! スケアクロウを抑え込め!」

ダビデ「了解……そらっ!」ヒュンッ


石「」ヒュォォォォッ


ロボットA「ガガガッ!!」ドガッシャァァァァァ、プシュー‼


バットマン(あのロボット……破壊された瞬間、蒸気が内部から噴出した? つまり蒸気機関で動いているという事か……?)


マシュ「やああっ!!」ブォン

スケアクロウ「フハハハハハ!! ならば、もう一度霧の中に身を浸そう……」ズォォォォ

マシュ「くっ……敵、視認不可能! ドクター、レーダーはどうですか!」

ドクター『……駄目だ、まともに機能しない! 霧が含む魔力がこちらの想定以上に高濃度だ、対応は急いでいるが……視野以上には広がらないと思ってくれ!』

マシュ「……っ……マシュ・キリエライト、これより敵の追撃に……」

バットマン「待て! 互いに目の届く範囲から離れるな、ここではぐれたら終わりだ!」




マシュ「ですがマスター! これでは……」

バットマン「……落ち着いて凌ぐんだ。戦況に変化が現れる瞬間は必ず来る。それまで絶対に焦ってはならない……」

マシュ「っ……はい」

バットマン「よし、ダビデ、マシュ。固まるぞ、このまま……」ドクン


(マシュの焦る心がこのまま膨らみ、いつか手の届かない場所まで行ってしまうのでは?)


バットマン(……くだらない想像だ……現実を把握しろ)


(手の届かない場所で、そのまま殺されてしまうのでは?)


バットマン(……集中しろ!)


マシュ「マスター! 敵ロボット、腕の武装を展開しました!」


ロボットB『ロックオン』ウィーン、ガチャリ……


マシュ「あれは……銃です!」

バットマン「マシュ、ダビデの防御を! ダビデ、そのまま攻撃を続けろ! 狙うのは足元だ!」

ダビデ「りょーうかい……フッ!」ビュオッ




ロボットB『発射』バババババババ


マシュ「くっ……」ガギギギギギギギギギギギ‼

ダビデ「そぉらっ!」ヒュンッ


石「」ヒュゥゥゥゥゥゥッ


ロボットB『ガガガガ!』ドガァッ


バットマン「良し……」ドクン


(あれは銃だ。私の両親を殺したのと同じ凶器だ)


バットマン(……違う。今はマシュも居る。守る盾だ)


(だが、その彼女を守るのは誰だ? あの夜と同じように、撃たれて倒れないのか?)


バットマン(……黙れ! 彼女は私が守る、そんな事はさせない……!)


スケアクロウ「恐れているな? 聞こえるぞバットマン」

バットマン「……!!」




スケアクロウ「私の目は誤魔化せない……見えている。今は堪えていても、この注射針を刺せばたちまち正体を現すだろう」カチャ……

バットマン「……」スッ

スケアクロウ「くくく……抵抗できるつもりか? 私は強大な身体能力を手に入れた……サーヴァントという身体は素晴らしい!」

マシュ「マスター! 下がってください!」ババッ

スケアクロウ「おおっとぉ、こちらでも忠実なコマドリを飼っているようだな。そろそろ一人では無力だと気付いたか」

マシュ「……」ガシャリ

バットマン「マシュ、注意しろ。奴の注射……あれは恐らく、恐怖ガスを濃縮させた液体だ……打たれれば、危険だ」

スケアクロウ「くくく……相変わらず恐怖には敏感なようだ。良いぞ、流石はバットマン……」




スケアクロウ「……さあ、恐怖を体験する準備は良いか」

マシュ「……」ジリッ

バットマン「……ドクター、地形の観測を……」



ガッシャァァァァァァァァン‼ オラオラオラァァァァァ‼



バットマン「!?」バッ

マシュ「え……?」


ロボットC『ガガガッ!』ドドッ、ガシャァァァァ

ロボットD『ギギゴゴゴ……』プシュー……

???「雑魚どもが、引っ込みやがれ! 俺の獲物はテメェらじゃねえ!」ブンッ、ガッシャァァァァァァァァ‼


ダビデ「おいおい誰だ、あんなに大量のロボットの群れを……うおっ!?」ドドッ

???「おら退けェ!!」ダダッ



スケアクロウ「……おっと、招かれざる客だ。流石に分が悪い……また会おうバットマン」ズゥゥゥゥ……

バットマン「待て!」ヒュンッ

バットラング「」ヒュォォォォォオォォォォォォ……スカッ



???「ああクソっ、また逃げやがったのか!
……なんで逃がしたんだテメェら!!」ガァッ

マシュ「ご、ごめんなさい!?」

バットマン「……」

???「チッ……腰抜けが。盾ヤロウも居るってのに、それを使いもせずに……」

マシュ「え……えっと、私ですか?」

???「お前以外に誰が盾を持ってんだよ……ああ、チクショウ、気に入らねえ奴の匂いだらけだ此処は!」

バットマン「お前は誰だ。ここで何をしている」

???「あん? 俺は……」




???「俺はモードレッドだ。アイツらと戦ってる」

バットマン「モードレッドだと? ……イングランド、円卓の騎士の……あのモードレッドか」キッ

モードレッド「そうだ。なんか悪いかよ」

バットマン「……」


バットマン(……モードレッド。最も勇猛な騎士とされた、騎士王の息子……)


モードレッド「……睨みやがって、やるってのか」ガチャリ


バットマン(……そして、騎士王を殺した裏切りの騎士)


マシュ「ご、ごめんなさい。その、マスターは……普通に見つめるだけで睨んでるみたいになっちゃうので……」

フォウ「フォウ、フォーウ」ピョンッ

モードレッド「うわっぷ!? ったく、なんだってんだ……」





ダビデ「……ブルース、あの凶暴そうなかわいこちゃんは味方か?」

バットマン「……さあな。今のところは警戒しておくのが妥当だ」

モードレッド「フン、どうもそっちの黒いのとはそりが合わなさそうじゃねえか」

バットマン「原因は自分がよく分かっていそうだが」

マシュ「ま、マスター……」

モードレッド「……あぁ?」ギロッ

バットマン「……」



モードレッド「……チッ、使えそうな戦力ならジキルのところに連れて行ってやろうと思ったのによ」

バットマン「……判断するのは私だ。使えるか使えないか……それを決めるのは単純な力だけではない」

モードレッド「力がねえヤツなんざ興味もねえな」チャキリ

バットマン「こんな挑発に乗ってやすやすと剣を構える、それがお前の弱さだ。力があってもそれでは先が思いやられる」

モードレッド「……」ピキッ

マシュ「マスター、それ以上は……」

ダビデ「おいおい、何か余裕がないなぁ。ブルース、もうちょっと大人の対応を……」




バットマン「……余裕……」

モードレッド「……」


(コイツが裏切って私達全員を皆殺しにする可能性もある)


バットマン「……いや、そうだな……すまない。少し……思考が偏っていた」

モードレッド「……フン、めんどくせえ奴」

マシュ「すみません、マスターはその……顔見知りというか……」

モードレッド「良いぜ、そっちが妙な動きをしたら叩っ斬ればいいだけだ。ついて来いよ」

バットマン「何処へ」

モードレッド「俺達の家へだ」





………………

ドクター『らしくなかったじゃないか、ブルースくん』

バットマン「……そうか? いや、そうだな……少し、過敏になっていた」スタスタ


バットマン(らしくないと言えば、ダビデに対するドクターの対応もおかしかったように思うが……)


バットマン「……常に最悪を想定してしまう。人の考えなど、ひと呼吸で変わってしまうものだから」スタスタ

マシュ「……」スタスタ


ドクター『……ひと呼吸で、か。確かにそうかもしれないね……』






ドクター『ところで、毒の影響はどんな感じだい?』

バットマン「理性的な恐怖とそうでない恐怖を見分けるようにしている。この霧が少しでも薄くなればまだマシだろうが……それこそ、呼吸の度に毒を吸入している状況だ。この対処法がいつまで持つか……」

ドクター『うーん……こっちで解毒剤を研究してみるよ。完成したら成分を表示する。そちらでも精製できるよう、出来るだけ容易に手に入る成分を選択してみる……』

バットマン「……そうか」フッ

ドクター『なんだい?』

バットマン「初めてドクターらしい言葉を聞いた気がしてな」

ドクター『そう!? ……えへへ、そうかなあ。プロっぽかった?』

バットマン「ああ。……ありがとうドクター、よろしく頼む」

ドクター『うんうん、任せてくれ!』

ダビデ「へえ、頼もしいな。優秀なドクターなんだ」

ドクター『うるさいぞ!』

ダビデ「ちょっと!? 対応が違い過ぎるだろう!?」




ダビデ「だいたいなんだってキミはそんなに僕に辛く当たるんだ!」

ドクター『自分の胸に手を当てて訊いてみたらいいと思うな! 無自覚たらしネグレクト王! 女の敵! モテない男の敵! 人類の8割を敵に回してるのを自覚しろよ!』

ダビデ「ちょっと待った!! なんだか不名誉な称号ばっかりだが、ちゃんとした功績だって残してるんだからな! 味方だってそれなりに多いさ!」

ドクター『昔の王様だったらどんなに少なくても何かしらの功績は残してる! それなりって言ってもどうせ味方は羊ばっかりだろう!?』

ダビデ「羊を馬鹿にしたな!?」



ギャーギャー‼ ワーワー‼



モードレッド「なんだアイツら」

マシュ「あ、あはは……け、喧嘩するほど仲がいいとも言いますし」

モードレッド「……どうでも良いけどうるせえんだけど……」

マシュ「それは……っ、構えて下さい。前方から何か来ます」





ガシャン、ガシャン、ガシャン……


自動人形A「……」ガシャン、ガシャン

自動人形B「……」ガシャン、ガシャン

自動人形達「「「……」」」ガシャン、ガシャン、ガシャン



マシュ「あれは……機械の人形でしょうか。マスター、指示を」

バットマン「……」


バットマン(……関節部分から噴き出す蒸気。これも蒸気機関か……)


モードレッド「オラァ!」ブンッ、ガッシャァァァァァァァァ‼

マシュ「も、モードレッドさん!? まだ敵と決まったわけじゃ……」

モードレッド「チンタラしてんのが悪りいんだろうが! 敵か味方か分からなきゃ、取り敢えずぶっ壊せばいいんだよ!」

バットマン「……」





マシュ「マスター、どうしましょう」

バットマン「……あの人形は敵だ。殲滅するぞ」

マシュ「了解しました!」ガシャリ

モードレッド「そぉらっ!」ブンッ、ゴッシャァァァァァァァ‼

ダビデ「せいっ!」ヒュンッ

石「」ヒュォォォォォンッ


人形D「ギギギギーーー!!!」ガッシャァァァァァァァァン‼


マシュ「……たああああっ!」タッタッ、ブォンッ‼





………………


???「……アリス、アリスは何処だ……これだけ広い図書館なら、本くらいあるハズだろう……」ガサゴソ

???2「全く、これだけの本の海の中から特定のものを探し出すだと! 本を元の棚に戻すマナーの良い連中ばかりではなかっただろうに、よくもまあ!」ガサガサ

???3「あら、おじさま達。そこで何をしていらっしゃるの?」

???「キミは……あぁ、キミも物語の一部か。手伝ってくれ、不思議の国のアリスが……時代脚色の極めて少ないモノがここにはあるハズなんだ」

???2「マッドハッター! 誰彼構わず声を掛けるのはやめろと……む、そこに居るのは……また、面倒な奴だな」



???3「めんどうなやつ……私の事かしら、小さな紳士さん」

???2「俺は小さな紳士などという間抜けな名前ではない。全く……」

???3「ごめんなさい、小さな紳士さん。でも、名前が無ければ、どう呼べば良いのか分からないの」

???2「……呼ぶならせめてアンデルセンと呼べ。お前はそこで何をしている」

???3「わたし? 私はありす(わたし)よ、アンデルセンさん」

アンデルセン「……はあ!?」

マッドハッター「なんと! キミがアリスだったか……!」バタバタ




アンデルセン「まっっっっっったくなんて事だ! この狂人に適当に付き合ってやっているつもりが、まさか本物のアリスに出会ってしまうとは……」

マッドハッター「はやくお茶の準備をするんだ、アンデルセン! アリス、ああアリス。キミと会いたかったよ、ずっと夢見てた!」

???3「……おじさま。これがあなたの夢だったのね。でもごめんなさい、私はありすだけどありすではないの」

マッドハッター「なんと……だが良い、アリス。僕はそんな事を気にしない。キミが誰かの為の物語であるならば……こうして共に紅茶を飲む事に、意味はあるのだ」

アンデルセン「……『誰かの為の物語』(ナーサリー・ライム)か。何故狂人はいつも詩的なんだ、世の中の皮肉を感じざるをえん」

???3「ナーサリー・ライム……すてき。私も、そうなれるかしら」

アンデルセン「……全く、さっきまで正体不明だった少女に名前まで付けたか。マッドハッター、お前さては相当頭が切れるんじゃないのか」

マッドハッター「はやく! 紅茶を用意してくれ、アンデルセン!」

アンデルセン「……そんなワケがなかったな」コポポポポ……

マッドハッター「さあ、聞かせてくれ。キミが知るアリスの全てを!」




………………

ベイン「……」ドシ、ドシ……ピタッ


ベイン(……)


ベイン「……」スッ



……、…………タンッ


???「っ」ギュォッ


ベイン「フン」ガシッ、ドシャァッ

???「いたっ……!」ドサリ





ベイン「霧を使って上手く立ち回ったつもりか? 足音をあれほど派手に立てているようじゃ……フフフ、甘いな」グググググ……

???「はなせ!」ジタバタ

ベイン「そちら次第だ。……さあ、名前を言え。その名に価値があれば、上手く使ってやる」ググッ

???「くぅっ……わたしは、ジャック……ジャック・ザ・リッパー」

ベイン「……ほう、切り裂きジャックか。史上稀に見る犯罪者……その正体がここまで幼い少女だったとはな」パッ

ジャック「っ」ババッ

ベイン「良いだろう。お前の事は見逃してやる。何処へなりと行くがいい」




ジャック「……どういうつもり」

ベイン「利用するまでもないという事だ。お前の恐怖は皆を巻き込む」

ジャック「……」

ベイン「フフフ、その目。そして後世に伝わるほどの犯罪。お前が何かにとりつかれたように人を殺して回った理由、それは執着心だ」

ジャック「……なにをしってるの」

ベイン「……」ジッ




ベイン「頬にはねた血液。血の指紋。つい先ほど殺人を犯したが、かなり抵抗を受けたようだな。初撃からこれほどに抵抗するのにはそれなりの体格が必要になる……つまり大人だ。
漂う香水の匂い、また女性をやったようだな」

ジャック「……」

ベイン「英霊は全盛期の姿で召喚される。全盛期が『幼い子供』? ……想像力を生業とする者ならともかく、アサシンでそれは考えにくい。子供時代が幸福の絶頂だったとも考えられるが、その線で行くと『その姿』で大量殺人鬼のように歪み果てる理由もない」

ジャック「……」

ベイン「つまりお前は不幸な子供、殺人のターゲットは女性。子供時代に死亡したか……それとも、まともに成長すらできなかったか。いずれにせよ、大人の女性、自分の母親に強い恨みを……」

ジャック「……」シュン


ベイン(……)


ベイン「……違うな。お前は捨てられたのか、物心がつく前に」




ジャック「っ……なんでわかるの」

ベイン「……」


(((父さんは何処なの?)))


ベイン「見れば分かる。そうか、成程……フフフ、面白い。どうやら俺は勘違いをしていたようだ」

ジャック「どういう事」

ベイン「行け。お前と同じ目をした男を知っている」

ジャック「……?」

ベイン「殺せ。お前にとっての『親』を探して回れ。そうすればきっと、目的がお前を見つけるハズだ」

ジャック「……」

ベイン「それとも、ここで俺と無益な闘いを繰り広げでもするか? 俺は全く構わんが」ゴキゴキ

ジャック「……」ジリジリ



ジャック「……」ジリジリ……ズォォォォ……

ベイン「……行ったか。賢明な判断だ」


ベイン(尤も、少し残念でもあるが……主を持たないサーヴァントというのは、あの程度のものなのか)


ベイン「……まあ良い。行くとしよう……鼻が利くというのは、良い事だ」ドシ、ドシ


………………


ナーサリー「それでね、ありすったら……」

マッドハッター「ほうほう……?」

アンデルセン「……待て。何か来るぞ」ピクッ




マッドハッター「アンデルセン、今良いところじゃないか。席を立つにはまだ早い」

アンデルセン「嫌な予感がする……おい、図書館の扉はきちんと閉めただろうな」

マッドハッター「勿論だ。カギを閉めて、誰も入れないようにしたとも」

アンデルセン「……クソ、なんだこの寒気は……特大の不吉がやってくる前触れのような……」


ドゴッシャァァァァァァァァァァ‼


アンデルセン「……!! 今の音は、正面玄関の……!」

マッドハッター「なんだ、誰だ!?」





ベイン「……俺の嗅覚によれば、此処に誰か居るハズだが」ボキボキ


アンデルセン「誰かは知らんが、お前の来る場所ではないぞ筋肉ダルマ!」ギュギュギュォッ


光弾「」ギュォォォォォォォォッ


ベイン「ほう」ドドドッ……シュゥゥゥゥゥゥゥゥ……


アンデルセン「……クソ、付け焼き刃とはいえこうもあっさり弾かれるとは!」


ベイン「いや、効いた。なかなか良い攻撃だったぞ、小僧」ドシ、ドシ


マッドハッター「騒がしいな、誰が……!! べ、ベイン……!?」


ベイン「ジャービスか。お前もこっちに来ていたようだな」


ナーサリー「……お、おじさまがもう一人? 随分、その……いかつい見た目ね」


マッドハッター「お逃げ、アリスの分身さん! アイツは危険だ、悪いドラゴンだよ!」

ナーサリー「わ、悪いドラゴン……とても怖いのね」

ベイン「フフフ、まだ物語に没入するクセが治っていないようだな。骨を何本折られるまでそうやっていられるか、数えてやろう」

マッドハッター「……! アンデルセン、お前も逃げるんだ」

アンデルセン「……マッドハッター」

マッドハッター「アリスを頼んだよ! 必ず生き延びてくれ、彼女は私の全てなんだ!」

アンデルセン「……分かった。陳腐な言葉になるが……また会おう」

マッドハッター「……」




ナーサリー「アンデルセン、駄目よ! このままじゃマッドハッターさんが危ないわ!」

アンデルセン「馬鹿め! 奴は危険を承知で時間稼ぎを引き受けたんだ、さっさと奥に潜り込むぞ!」パシッ、ダダッ

ナーサリー「おじさま! 乱暴は駄目、絶対に駄目よ! 私、怒るんだからあああぁぁぁ……」ズルズルズルズル



ベイン「……お前程度で時間稼ぎになると思ったのか、ジャービス」

マッドハッター「……ならないかもしれないな。でも、こうして……」チリン……チリン……

ベイン「……っ……しまった、マインドコントロール波か……その立ち位置も、計算して……」ヨロ

マッドハッター「……さあ、精神の世界へ旅立つとしよう。そこでなら、私もキミと対等以上にわたり合えるかもしれない……」チリン……チリン……

ベイン「……ぐっ……」ドシン……






(((お前の名はベイン)))

(((意味は『破滅』)))

(((お前は父親の罪を償うために刑務所に居る。それを忘れるな)))

(((でも、父さんは何処なの?)))

(((……アイツは……)))



(((あ……が……)))

(((ナメるな。僕はお前の道具じゃない)))

(((やりやがった! たった8歳のガキがアイツを殺しやがったんだ!)))

(((悪魔め! こっちに来るな!)))

(((……孤独は恐ろしいか?)))

(((……ヴェノム注入計画を……)))

(((バットマン。ゴッサムを恐怖で支配する鉄の男)))


ベイン「……!!」カッ





ベイン「……」ガシッ

マッドハッター「な……!? ば、馬鹿な……悪夢から、これほど早く目覚めるだと……」

ベイン「悪夢か……フフフ、ジャービス。俺は慣れている」グググググ……

マッドハッター「……あ……あが……」ジタ……

ベイン「……この世に現実以上の悪夢など、存在しない」ゴキリ

マッドハッター「…………」

ベイン「……」ポイッ

マッドハッター「……」ドシャッ



ベイン「……」ムクリ

ベイン(広大な図書館の奥まで逃げ込んだか……)

ベイン「フン」

ベイン(そこまで生に執着するならば、好きにするがいい……追って潰す価値もない小物共だ)


ベイン「……」ドシ、ドシ


ティーカップ「」カチャ……




………………

モードレッド「おーい、帰ったぜ」トントン

ドア「」ガチャ……

???「やあ、お帰り……うん? お客さんが多いようだね」

バットマン「……」

マシュ「こ、こんにちは」ペコリ

ダビデ「やあ、どうも」ニコッ

???「……信用できる人達なのか?」

モードレッド「良いから入れろって、何かあってもぶった切れば良い話だし」スタスタ

???「あっ、おい。……はあ、仕方ないな。どうぞ」

バットマン「……失礼する」スタスタ




………………

???「ソファが空いてるから、座って。お茶はお出しできないけど……」

マシュ「いえ、お構いなく。大丈夫です」

バットマン「……話は聞いている。モードレッドと二人、霧に覆われたこのロンドンで、未だに抵抗活動を続けているとか……確か、名はジキルと」

ジキル「ああ。抵抗活動と言っても、霧の原因の調査に出かけたり、目に入った機械軍団を破壊したり……そんな事ばっかりだけど。名乗り遅れた、僕はヘンリー・ジキル」

マシュ「マシュ・キリエライトです」

ダビデ「ダビデだよ。ほら、イケメン美声超強肩で有名な……」

バットマン「私はブルース・ウェインだ。調査で何か分かった事はあるか?」

ダビデ「遮らないでくれるかな!? ホラ今名乗ってる途中だから!」




ジキル「分かってきた事は多い。まず敵はひとつの団体だけじゃなくて、野良サーヴァントにも居るらしく……爆弾で人を殺す者、鋭利な刃物で人を解体する者、帽子で人を操る者が居るようだ」

バットマン「帽子で……人を?」

ジキル「ああ、失礼。帽子のサーヴァントは『居た』と言うべきか……最後の情報では、図書館に入っていったっきり姿を現さないらしい」


バットマン(帽子……マッドハッターか。図書館に入っていった……という事は、またアリスでも探しているのか)


バットマン「すまない。話を切ってしまった。それにしても、何処からそんな情報を仕入れるんだ?」

ジキル「僕は一応、この時代に生きる人間でね。霊薬調合の心得があって、科学者として身を立てているんだ。ツテもそれなりにあるよ」

バットマン「ツテが……」


バットマン(おかしい……ヘンリー・ジキルはもう少し前の時代、物語によって創作された人間だと思っていたが……同姓同名の別人か?)




ジキル「だから、この霧がロンドンを覆った時も、いちはやく研究に乗り出せた。この霧……僕たちは『魔霧』と呼んでいるんだが、これは膨大な魔力と、人を恐怖に陥れる毒を含んでいるらしい」

バットマン「……」

ジキル「最初期はロンドンのあちこちで暴動が起きた。恐怖で我を忘れた人々が、互いに殺し合っていた。だが、それも沈静化しつつある……いや、暴動が起きるほどの人数がロンドンに居ないんだ」

バットマン「死んだのか」

ジキル「僕の試算でも、数十万単位の人間が死んでいる。恐怖毒だけでなく、濃厚な魔力も、耐性の無い人間を蝕んでいるんだ。このままではロンドンがもぬけの殻になるのも時間の問題だろう」

バットマン「……それを止めるために、私達が来た」

ジキル「そうだね。それじゃあ、そろそろそちらの話を聞かせてもらえるかな?」

バットマン「私達は……」





………………

モードレッド「へえ、特異点ね。他に七つもこんな場所があんのか?」

マシュ「はい。三つは既に私達で解決しましたので、残りはこのロンドンを含めて四つです」

ジキル「世界に打ち込まれた七つのボルトのひとつ。それがこのロンドンか……」

バットマン「私達は、この特異点の原因である聖杯を探している。……協力を要請したい」

ジキル「もちろん、願ったり叶ったりだよ。こちらとしても、この魔霧は取り除きたいものだしね」


モードレッド「……フン」

バットマン「何か異論があるなら聞くが」

モードレッド「ああ? ねえよ、ほっとけ」

バットマン「……」

モードレッド「……」

ダビデ「ほ、ほーら! 同盟締結! イェー! 仲良くしよう、な!?」

モードレッド「……チッ」

バットマン「……」





ジキル「魔霧の発生源だが……突き止めようにも、そう派手には動けない。だが、モードレッドから聞いた話によると……どうやら首謀者は『B・P・M・S』と、イニシャルで呼び合っているらしい」

バットマン「本当か」

モードレッド「嘘なんか吐くかよ。あのスケアクロウってヤツが笑いながら言ってたんだ。多分本当だろ、間抜け面だったし」

バットマン「……」


バットマン(B・P・M・S……Sはスケアクロウか。では残りは……)


バットマン「思い当たる人物は居るか」

ジキル「残念だけど、知り合いに当てはまりそうな人は居ない。
……魔霧発生から三日、掴んだ手掛かりはこれだけだ。スコットランドヤードに連絡しようにも、彼らも霧のせいで碌に動けない。政府からの支援も、魔霧が阻んでいる状況だ。動けるのは実質、今ここに居る人員だけだと思ってくれ」





フォウ「フォウ……」

ジキル「……そして、さっそくだけど頼みたい事がある。良いかな、ブルース」

バットマン「聞こう」

ジキル「さきほど、ツテから連絡を貰っていると言ったが……できれば、その人物の保護を頼みたい」

バットマン「……保護か。誰だ、それは」

ジキル「彼の名はヴィクター。ヴィクター・フランケンシュタイン」





………………


ベイン「……ここがお前達のアジトか。随分こじんまりとしたものだな」

P「……地下へ行けばもっと大きな空間があります。それよりようこそ、ミスター・ベイン。歓迎しますよ」

M「生憎『B』と『S』は席を外しているが……よく来てくれた。これで我らの計画はより盤石なものとなるだろう」

ベイン「御託は良い。仕事だ。今、最も計画の邪魔になっているのはどいつだ?」

M「……成程、聞いていた通りの男だな。では本題といこう」




M「我々の動きを監視し、その情報を反抗勢力へ流している者が居る。そいつの始末を頼みたい」

ベイン「誰だ。そいつの名を言え」

M「スイス人の科学者。死体を繋ぎ合わせ、至高の魂を作り上げようとした哀れな男」

ベイン「……」

M「ヴィクター・フランケンシュタインだ」



今回の更新はここまでです。お付き合いいただきありがとうございました

https://www20.atwiki.jp/nijiame/

マッドハッターもキャラクターBiosに説明が収納されていると思いますので、興味があれば是非ご覧ください

いえ……ごめんなさい、マッドハッターはやはりアーカムシリーズをプレイして頂くのが分かりやすいと思います。
面倒な方は調べなくても、マッドハッターはここからの話に一切かかわらないので大丈夫です

誤りを見つけたので訂正させて下さい。

513

所長「見なさい! パイプなんて蒸気が噴き出しっぱなしじゃないの! これもう!?」



所長「見なさい! パイプなんて蒸気が噴き出しっぱなしじゃないの! これもうまともに機能してないわよ!?」

すみません、またキャラ会話のミスです……

576

???2「……呼ぶならせめてアンデルセンと呼べ。お前はそこで何をしている」

???2「……呼ぶならせめてアンデルセンと呼べ。お前は何だ」

に脳内補完をお願いします


………………

バットマン「……」スタスタ

モードレッド「……」スタスタ

バットマン「……」スタスタ

モードレッド「……チッ」スタスタ

マシュ「あ、あのー……」

モードレッド「あ? んだよ」

マシュ「いえ、その……道はこちらで合っているのでしょうか」

モードレッド「ん、おぉ。そうだな、こっちで合ってる。……ジキル、花屋の看板が見える方だったよな?」

通信機『ああ、そうだね。そこから少し行った場所にヴィクターの家があるハズだ』



ジキル『ブルース、簡易の恐怖ガス緩和剤の効果はどう?』

バットマン「……かなりマシだ。だが……時折、発作じみて幻覚が現れる。しばらく外に居れば、すぐ効果切れになるだろう」

ジキル『そうか……やはり本格的な解毒剤が必要なようだ。こちらでも研究を進めてみる』

バットマン「頼んだ。帰ったらまた血液のサンプルを提出する」

ジキル『ああ、よろしく頼むよ』





バットマン(……?)


バットマン「……なんだ、この匂いは」

マシュ「……うっ、何かが焦げる匂い……?」

モードレッド「……言われてみりゃ、なんだこれ。気持ちワリい匂いだな」

ダビデ「……肉が焦げる匂いだ、これは……」




プスプス……ガラガラッ


ダビデ「……おい、ブルース。見ろあれ」

バットマン「……」

ダビデ「まるで爆弾で吹っ飛ばされたみたいな家屋だ、こんなの普通じゃないぞ」

バットマン「……あぁ、普通じゃない。ジキル、聞こえるか」

ジキル『ああ、聞こえているよ。なんだ?』

バットマン「確か、爆弾を使って人を殺害するサーヴァントが居ると言っていたな」

ジキル『……そうだな、そういうサーヴァントも召喚されているみたいだ』

バットマン「……この惨状はそいつの仕業に違いない」

マシュ「酷い……」グググッ

バットマン「……深呼吸しろ、マシュ。好ましくない緊張は取り除け……被害を少しでも抑える方法を考えよう」




モードレッド「どうするよ? 爆弾魔は放っておくか、それとも……」

バットマン「……ここはやはり、」

マシュ「追いましょう。放っておけません。絶対に」グググ……

バットマン「……?」

マシュ「あ……いえ、ごめんなさい。判断は、マスターに委ねます」

バットマン「いや……止めるべきだろう。私もそれに賛同する……ジキル、少し保護に遅れが生じるが、構わないな」

ジキル『分かった。ヴィクターも心配だが、爆弾魔の手掛かりを掴んだなら是非そっちを解決してくれ』

バットマン「良し……犯人の追跡を開始する」




モードレッド「けどよ、追跡っつったってどうやって……」

バットマン「……方法はある」スタスタ

モードレッド「あ、おい。……んだよ、一人行動大好きかよ」

バットマン「お前達は立ち入るな。現場の保存状態が良いままで観察したい」



バットマン(破壊の痕跡に触れれば、犯人の足取りも分かる……)スタスタ

残骸「」パラパラ……

バットマン「……」ガシッ、ズズズ……


父親の死体「」

母親の死体「」

子供の死体「」


バットマン「……」スッ、カチャカチャ


バットマン(……惨いものだ。父親と母親は子供を庇おうとしたのだろうが……爆弾の威力が大きすぎた。衝撃で子供も死亡、両親は爆発の直撃を受けて遺体の大部分が欠損……)


(逃げろマーサ、ブルース)

バットマン(……)





(ブルース、これ以上私達のような悲劇を繰り返させないで)

(ブルース、頼む。私達は苦しんだ。お前も苦しんだじゃないか。これ以上何故戦う必要がある?)


バットマン「……」


マシュ「……マスター? 大丈夫ですか?」

バットマン「ああ、大丈夫だ。こちらには来るな。手掛かりを掴んだ」

ダビデ「本当かい、やるな」

バットマン「あぁ……」





バットマン「まず、爆弾は東南東の方角で爆発した。爆破の衝撃がリビングを突き抜け、机の上にあったと思われる新聞紙、帽子、人形が吹き飛んでいる。
だがこの家から見た東南東の建物は無事なものばかりだ。これほど無差別な破壊を繰り返すならば、通り道にあったものは全て爆破するだろう。という事は犯人は正反対の方向から来たんだ」

マシュ「……」

バットマン「……恐らくあの位置に窓があった。窓から……西北西から対角へ爆弾を放り込み、この家を爆破」


バットマン(通り魔的、何の準備も許さないほど唐突な犯行だったのは両親の身体の向きから分かる。咄嗟に子供を抱きかかえたは良いが、爆発の衝撃が来た方向をカバーしきれていない)


バットマン「……そして破壊の痕跡はこの家から西へ、西へと続いている。つまり、西へ行けば犯人を追える」

モードレッド「いちいち回りくどい野郎だな。最初から西に行けって言えよ」

バットマン「行くぞ」

モードレッド「……待てよ? それじゃあヴィクターの家にも近付くじゃねえか。一石二鳥ってヤツか」

バットマン「……」


バットマン(……あまりにも出来過ぎた偶然だ。何か……何か、重大な事を見落としている気がする……)


(((ベイン。お前をロンドンへ飛ばす)))


バットマン「……」


バットマン(嫌な予感がする)




バットマン「……全員、警戒してくれ。何か、出来過ぎている……」

モードレッド「出来過ぎている、だあ? ったくテメェは、自分の幸運も素直に受け入れられねえのか」

バットマン「……世界に運は無い。だが策略は存在する。誰かが私達を誘導しているとは考えられないのか」

モードレッド「考えすぎだろ。見た目が陰険だと考え方まで陰険になんのかよ」

バットマン「陰険で結構だ。だが危険なのは、影と執念、カリスマを併せ持った男だ。今回の敵にそれが居る可能性は高い」

モードレッド「だから何だ、剣で吹き飛ばせばいいだろが」

バットマン「謀略で絡まった剣にどれほどの力がある」

モードレッド「教えてやろうか」チャキ

マシュ「お、お二人とも、落ち着いて下さい!」

バットマン「……」


(消せ。不穏分子だ。ここで消せ。マシュ、ダビデが居れば十分な戦力だ。いつ裏切りを受けるか分かったものではない)

(マシュが死ぬぞ。ダビデが死ぬぞ。それは何故だ)

(モードレッドが裏切るからか? それとも、私達が永遠の命を持っていないからか?)


バットマン「……」

モードレッド「……」





ポロン、ポロン……ポロロン……

~~~♪ ~~~~~~~♪

バットマン「……!」

モードレッド「……ああ?」

ダビデ「~~~~♪ ~~~~~♪ ……っと。どうだい、落ち着いたかな?」

バットマン「……」

モードレッド「……チッ、なんだってんだよ」

マシュ「ダビデさん……」

ダビデ「二人とも、ちょ~っと余裕が無さすぎるなぁ。ほら、深呼吸深呼吸。力んだ体をリラックスさせるんだ」





バットマン(……)スー、ハー……

バットマン「……そうだな。悪かった」

モードレッド「……フン。どうせ行くしか無いんだろ、行くぞ」

マシュ「……マスター」

バットマン「迷惑をかけた。すまない……」

ダビデ「いいや、良いのさ。久しぶりに歌えて気持ち良かったし」ポロロロロン♪

バットマン「……行こう」





マシュ「あ、あの。マスター」

バットマン「どうした、マシュ」

マシュ「今、マスターが苦しんでいるのは……私が、爆弾魔を追うように提案したから、ですか?」

バットマン「……苦しんでいる?」

マシュ「その……さっき、家の瓦礫を覗き込んだ時から、雰囲気が険しくなったというか……」


(((ブルース、これ以上私達のような悲劇を繰り返させないで)))


バットマン「……お前の責任ではない、マシュ」

マシュ「ですが……この霧もそうです。マスターの、負担なら……私の我儘で、傷付けているなら……」




バットマン「……大丈夫だ。私はそうやわではない」

マシュ「……」

バットマン「マシュ、不安は分かる。人が死ぬ霧の中、出歩く危険性も理解している。いつ敵が濃霧の中から湧いて来るか、気が抜けない厳しさも」

マシュ「はい……」

バットマン「……だがお前は、訓練を積んできた。霧の中に足音が響けば聞こえる耳を持ち、敵が襲って来れば切り返すだけの技術を身に付けた」

マシュ「そう……ですよね」

バットマン「ああ、そうだ。……それに、何かあれば……ごほん、あぁ。たよ……たよr……力を合わせよう」

マシュ「……はい! そうですよね、力を合わせれば……!」

バットマン「……ああ。お前は優秀だ、マシュ」



マシュ(そうだ……私はもう、あの時とは違う。だから……だから、先輩のような事には、ならない)







………………


ヴィクター「……ああ……私の、私の試みは……とうとう、失敗に終わったか」

???「……ぁ……ウゥ……」モゾモゾ

ヴィクター「ふ、くくく。私が、作りたかったのは……完璧な乙女だったと、いうのに……何処で間違ったのだろうな、私は」

???「……ウゥゥ……」シュン

ヴィクター「……そうだろう、涙も流せない乙女よ。望まれずして生まれた乙女よ。お前は、私の……人生をかけた失敗作だったのだ」

???「……」





ドシリ、ドシリ


ドア「」ガチャ、キィィィィ……


ベイン「……」ドシ、ドシ

ヴィクター「……そうか、もう来たか。はやいのだな、破滅というものは」

ベイン「ヴィクター・フランケンシュタインだな。殺しに来たぞ」

???「……ウゥ……!!」バチバチバチバチッ

ベイン「……?」


???「ウゥゥアアアアアアアーーーー!!!」バチバチバチバチバチバチ、ギュアアアアアアアアア‼

ベイン「!!」






………………


チリ……チリチリチリッ……

バットマン「……? 注意しろ、何か奇妙な音が……」


ドドドォォォォォォォォォン‼ ドッガァァァァァァァ‼


バットマン「!?」

ダビデ「なんだアレは……断続的な発光が見えるぞ」

マシュ「あれは……スパーク?」

ドクター『……! 注意してくれ、その先で感知できるほど魔力反応が急激に増大してる! 戦闘だ!』





モードレッド「っしゃ、突っ込む……」

バットマン「待て! 迂闊に突撃するな、罠の可能性がある!」ガシッ

モードレッド「ああ!? 離せ腰抜け、指図すんじゃねえ!」バッ

バットマン「待てモードレッド! 戻れ!」

モードレッド「終わってから聞いてやる!」ダダッ





マシュ「マスター、どうしますか!」

バットマン「……仕方ない、追うぞ。ダビデ、マシュ、位置を整えろ! モードレッドを……」


ドクター『待った、待った! 前方の戦闘とは別、高速で君達に近付く魔力反応がある!』


バットマン「……敵か」

ドクター『サーヴァント反応! これは……注意しろ、恐らく爆弾魔だ! 高濃度の魔力を両手に……!』


「ヒャハハハハハハハハハハ!」ババッ


マシュ「危ない!」ガガッ、ドッゴォォォォォォォォ‼

バットマン「っ」ゴォッ

ダビデ「うわっぷ……!」ゴォッ、ジリッ




???「どぉーーーも!! そろそろ遊び疲れていますが、ここまで来て下さったことに感謝しますよォ!!」

バットマン「お前は誰だ、何故邪魔をする」

???「ひひひひひひっ、あの方の言った通り! 面白い目をした人に出会えましたよォ、感謝しなければねぇ? 破壊活動の結果死んでいった数百の命にも意味が生まれたというものですゥ!」

マシュ「……数百……!」グググッ

バットマン「あの方とは誰だ。そいつの命令に従って破壊を繰り返していたのか」

???「ウフフフフッ、さあどうでしょうね。ほら、ワタクシって気まぐれなところがございまして。命令のためなのか、自分の快楽のためなのかワカリません」

バットマン「……!」






(おいバッツ、今誰を思い浮かべた? ウフフフ……俺をあんなユーモアの無いピエロと一緒にするなよ、笑えないぜ)


マシュ「……マスター、攻撃の許可を」

バットマン「待て、マシュ。迂闊に近付くな」

マシュ「でも!」

バットマン「深呼吸しろ。力んでいるぞ」

マシュ「っ……すみません……」

ドクター『……解析中。気を付けてくれ、目に見えない魔力塊がそこら中に仕掛けられている』

ダビデ「うへえ、良い趣味してるなアイツ……リアルマインスイーパーってところか」

???「ではではぁ、そろそろこのメフィストフェレス、戦闘を開始しますよォ!!」ババッ



メフィストフェレス「ほぉれっ!!」パチンッ

虚空「」ドッガァァァァァァァ‼

マシュ「っきゃ……!」ズサッ

バットマン「注意しろ! 奴の爆弾は不可視だ、迂闊に動くと……!」

メフィストフェレス「動かなければ良いと言う話でもありませんよォ!」パチンパチンッ

石畳「」カッ
虚空「」カッ


バットマン「……!!」

ダビデ「させるかッ!!」ヒュンッ

石「」ヒュォォォォォンッ


ドガガァァァァァァァァ‼





バットマン「っつ……」ゴロゴロッ


バットマン(ダビデの石に弾き飛ばされたか……!)

ダビデ「平気か、ブルース!?」

バットマン「大丈夫だ、礼を言う」

マシュ「くっ……」ムクリ

メフィストフェレス「ヒャハハハハハハハハハハ! 早くも満身創痍ですか、まだまだ爆弾は残ってますよお?」ユラユラ

バットマン「……」





バットマン「……奴から一定の範囲内の無機物は、自由意志で爆発物に変えられるようだ。いや、魔力を仕込んで爆発させると言うべきか」

メフィストフェレス「ほう、慧眼ですね。くふふふ、やはり面白い」

バットマン「……マシュ、盾を置くんだ。メフィストフェレスに肉弾戦を仕掛けろ。ダビデ、中距離から攻撃だ」

マシュ「はい!」

ダビデ「オッケー、やってやろう……」

メフィストフェレス「ウフフフ、そう上手く事が運びますかねェ?」

バットマン「……」




マシュ「はああっ!」タンッ、ドドォッ‼

メフィストフェレス「シャッハァ!」ガシッ、ブォンッ‼

マシュ「てやぁっ!」グルッ、ギュォンッ

メフィストフェレス「うッ」グォッ、ドッガァァァァァァァ‼


石畳「」バガァッ‼


マシュ「まだだ……!」

バットマン「マシュ! 深追いするな! ダビデ、投擲を!」

ダビデ「言われなくてもッ!」ギュンッ

石「」ヒュォォォォォンッ


ゴッシャァァァァァァァ‼


バットマン「……どうだ」


ダンッ‼

メフィストフェレス「ッはァァァァァー!! 後ろですよぅっ!!」ブァッ‼

バットマン「!?」ババッ





ダビデ「しまった!」バッ、ガガッ

メフィストフェレス「ほぉら、チクタク、チクタク……」パチン

竪琴「」カッ

ダビデ「……!!」バッ


ドッガァァァァァァァ‼

ダビデ「ぐわああああああああああ!!」ゴロゴロッ


バットマン「ダビデ!」

マシュ「マスター! 下がってください! こいつは私が……!」ダッ





メフィストフェレス「ハハハァー!! 命を持つ痛みすら叫ばず!!」パチンッ


虚空「」カッ

ドガァァァァァァァァ‼


マシュ「っ……」ズサァッ、ダンッ


メフィストフェレス「果てには死が待つと言うのに、私の破壊行動に怒りを燃やす! それがアナタ達の弱点だ!」パチンパチンッ

バットマン「……!!」

虚空「「「」」」カッ


ドドドドドドドガガガガガガァァァァァ‼‼



マシュ「……!!」ジリジリッ

バットマン「マシュ!」

メフィストフェレス「そしてェ!! ……挙句迷いがありますねぇ? そこの猫のコスプレさん……くふふ」





バットマン「……何の話だ」

メフィストフェレス「目が語っていますよォ。貴方は納得できていない。恐怖の中で誰かが死ぬ想像ばかりしている」

バットマン「……」

メフィストフェレス「爆弾で死ねた人は幸せですよ、ウフフ……この魔霧の中、恐怖に目を見開き、親や子を手にかけて死んでいく者は少なくない。
貴方は恐怖を抑え込んでいる。ですが、それもいつまで持つでしょうねえ? この霧は見えていた幻を消し、見えなかった真実を暴き出す……」

バットマン「……」

メフィストフェレス「貴方も本当は気付いているんじゃないですかァ? 限りある命なんて、所詮……」

バットマン「……!」

マシュ「……マスター! 指示を!」






バットマン「……マシュ」

マシュ「敵の策略です! 気をしっかり!」

バットマン「……」

ドクター『ブルース!』

バットマン「……ああ! 『令呪を以て命じる』! 魔力をマシュの膂力へ変換しろ!」

マシュ「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」ダダッ

メフィストフェレス「ヒャハハハハハアーーーー!! 真実から目を逸らしますか! それもまた、人間らしい……ですが、甘い」バッ

マシュ「何……」

メフィストフェレス「迂闊にこの範囲まで踏み入って来たのは愚策としか言えませんねえ。さて、問題です。ワタクシ、一度でも『人間』を爆弾に変えられないと言ったでしょーうか?」パチンッ

マシュの右手「」カッ

マシュ「……!」




メフィストフェレス「さあ、ドッカーン……うぶっ」

マシュ「……因果応報です……!」ガシッ

メフィストフェレス「……へえ、良い目をするじゃないですか……!」ギチギチギチ……


バットマン「マシュ!」ダッ

マシュ「マスター、離れて……」


ドッガァァァァァァァァァァ‼






バットマン「……っ」ゴゥッ


煙「」モクモク……


スタ、スタ。スタ、スタ


メフィストフェレスの死体「」スタ、スタ。スタ……ドシャッ


バットマン「……マシュ! マシュ、何処だ!」ダダッ

「ここです……」

バットマン「マシュ!」





バットマン「……マシュ」

マシュ「無事です……くっ……」ドクドク……


バットマン(右手首から先が欠損……出血が激しい)


バットマン「動くな。『令呪を以て命じる』、回復しろ」ポゥッ


マシュ「……ごめんなさい、マスター」ジュウゥゥゥゥゥゥ……

バットマン「……私の事前準備が甘かった。余裕も殆どない状態だった」

マシュ「……いいえ、それは……私もです」ジュウゥゥゥゥゥゥ……

バットマン「……」





バットマン「……マシュ。お前には、恐怖ガスは効いていないんだったな」

マシュ「……はい。効いていません」ジュゥゥゥゥ……

バットマン「勘違いなら言って欲しい。だが、お前は……お前も、普段より少し、焦って見えた。爆弾の事を聞いた瞬間に、表情が変わったように見えた。
……何か恐れているのか、マシュ」

マシュ「……それは……」ジュゥゥゥ……

バットマン「……」

マシュ「……」

バットマン「話せないなら無理強いはしない。ダビデを探すぞ。その後にモードレッドだ」

マシュ「……はい」

バットマン「右手は治ったか。動かせるか」

マシュ「はい。……すみません、マスター」

バットマン「……謝るな。誰しも言えない事の一つや二つはある」スクッ






バットマン「……ダビデ! 何処だ!」スタスタ


バットマン(目視した限りでは致命傷は避けていたハズだ。……何処に行った……)


「こっ……だ、こっち……」


バットマン「……!! ダビデ、そこか!」タッタッ






バットマン「……」タッタッ

バットマン「……」タッタッ……ピタッ


バットマン(おかしい)

バットマン(私はロンドンに居たハズだ)

バットマン(なのに何故、私は……)

バットマン(何故、雨が降る裏路地に立っている?)



ザアザア……ザアザア……






父親の死体「ブルース……」ズリ、ズリ

母親の死体「ブルース……お願い……私達を、これ以上苦しめないで……」ズリズリ

バットマン「……」ヨロ

父親の死体「永遠の命……それさえあれば、私達は……」ガシッ

母親の死体「お願い、繰り返させないで……私達を、助けて……」ガッ

バットマン「…………」ジリ、





マシュの死体「マスター……私は、もっと生きていたかった……」

バットマン「……マシュ……」

マシュの死体「あなたが、悲劇を選んだから、私は……私達は……」

ドクターの死体「ブルースくん……」

所長の死体「ブルース……」


バットマン「……」


バットマン(恐怖ガス緩和剤の効果が切れた……そのせいで皆が死んだ? 違う、現実を正しく認識しろ……マシュは死んでいない……はずだ)


(だが、死ぬのも時間の問題だ)





(マスター……きて……起きて下さい、モードレッドさんが……!)

(ブルース、頼む……なんだアイツ、強過ぎるぞ……!)


バットマン(……ダビデの声……マシュの声……永遠を拒否すれば、彼らは死ぬのか……)

バットマン(……違う。使命がある。忘れるな、起き上がれ……!)


母親の死体「ブルース……」

父親の死体「ブルース」


バットマン「……」スーッ、ハーッ……


バットマン(……精神を安定させろ。すべき事は何だ。ブルース・ウェインはまだ心を殺す術を忘れていない。バットマンになれ)


バットマン「……」ムクリ




………………


バットマン「……っ、起きたぞ、状況を……!」ガバッ


モードレッド「っぐあ!?」ドッシャァシャシャシャシャ‼

バットマン「なに……」

マシュ「マスター、起きてくれましたか! 先程から謎のサーヴァントが出現、苦戦を強いられています!」

ダビデ「石が当たっても通じないぞ……!?」

モードレッド「チックショウ、あの大男……! ヴィクターをやったのもアイツか……!」ギリィ


ゴキリ、ゴキリ

ドシ、ドシ


「ハハハハハハハハハハ! 随分かゆい攻撃を繰り出すものだな!」ドシ、ドシ





バットマン「……あの声は……!」


バットマン(間違いない。ヤツだ。今戦っても勝ち目が薄すぎる)


バットマン「っ、ダビデ、マシュ! 一旦退却するぞ!」ダッ

マシュ「ま、マスター!?」

バットマン「このままでは勝てない! 退いて対策を立て直す……」ピタッ


ガシャリ、ガシャリ。プシュー……


???「……逃亡は、無駄である」ガシャリ、ガシャリ

バットマン「……」


バットマン(退路を、断たれた……)





「フハハハハハハハハハハハ! 怖いかバットマン……聞こえるぞ、悲鳴を飲み込む音が!」


バットマン「スケアクロウまで来たのか……」

???「貴様らに恨みはない。ただ、悪と悲劇ばかり産むこの世界に恨みがあるのだ」ガシャリ、ガシャリ

バットマン「……」ジリッ

???「我が名はチャールズ・バベッジ。蒸気王。我が夢の世界はすぐそこに。蒸気があまねく地上を覆い、悪が土を踏む事はない。貴様らの命は、その礎。尊い犠牲だ」

バットマン「……」


バットマン(チャールズ・バベッジ。共同計算機、コンピューターの始祖。彼の発明が寿命に間に合ってさえいれば、世界を変えたとも言われる人物だ……真の天才であり、数学者)


バベッジ「……」プシュー……


バットマン(……全身に機械の鎧を纏っている理由は不明だが、あれは容易には破れそうにない……)






スケアクロウ「フハハハハハ! さあ、お前の破滅が歩み寄っているぞ……!」ズォォォォォォ……


マシュ「くっ……」ジリッ

バットマン「固まれ、ダビデ、マシュ、モードレッド」

モードレッド「ちっ……」チャキッ

ダビデ「ヤバそうだな、これは……」



ドシリ、ドシリ。ドシリ、ドシリ。



「手は出すな。俺一人で相手をする」ドシ、ドシ






バットマン「……」

「フフフ、バットマン。俺を忘れたか? 俺はお前を忘れたことなど無い。召喚された時から、この瞬間を待ち望んでいた」ドシ、ドシ

バットマン「……」

「お前を殺せば、きっと世界は終わるのだろう。悲しむべき事だ。だが、それがどうした」

マシュ「……」ゴクリ

「俺にとっては、さして大事でもない。世界の破滅も良いだろう、見てやろう。所詮守るべくもない。何故なら……」

モードレッド「……」ジリッ


ズォォォォォォ……


ベイン「……俺は、ベインだ」



バットマン(ライダージャケットで覆われた異様な巨躯。マスクで隠した素顔。かつて私を打ち破り、ゴッサムシティを悪の淵へ叩き込んだ男、ベイン……)





モードレッド「……御大層な名乗りは終わったかよ、デカブツ」

ベイン「待ってもらえて光栄だ。尤も、お前の実力では不意討ちでも俺には勝てんが」

モードレッド「ほざけ……!」ググググッ

バットマン「落ち着け! 奴の口車に乗るな、危険だ……!」

モードレッド「クソ……」

バットマン「マシュ……ヤツを相手に、決して盾は手放すな。得意な武器が無くなれば即、敗北だと思え」

マシュ「……はい」ガシャリ


マシュ(こんなに緊張しているマスターを見るのは、初めてです……)


バットマン「モードレッド、お前は少し様子見をするんだ」

モードレッド「……チッ……」

バットマン「……ダビデ、耳を貸せ」

ダビデ「オッケー、悪だくみは大好きだ」





ベイン「秘密の小話は終わったか、バットマン」

バットマン「……」

ベイン「そのようだな。では……仕掛けさせてもらうとしよう」

マシュ「行かせません……!」バッ

ベイン「ほう、まずはお前か」


バットマン(マシュの盾と身体能力で時間を稼ぎつつ、モードレッドにヤツの格闘パターンを読ませる。……頼みの綱はダビデだが、働くか……)


ベイン「……」


ベイン(……)ニヤリ




ベイン「……」ジリッ

マシュ「!」スッ


マシュ(打ち込んで来る……! 受け切ってみせる!)ガシャリ


バットマン「……!!」


ベイン「……」スーッ……


ダ  ン  ‼


マシュ「っ」

ベイン「フンッ!」ギュゴォッ‼





盾「」ガッ、ビリビリビリビリビリッ

マシュ「あ……」ビリビリビリビリビリ


マシュ(ただの掌底、なのに……衝撃が全身を突き抜けて、動けない……!)ヨロ


ベイン「トドメだ」ス、スーッ……ドシン


モードレッド「させっかよ!」ブォンッ


ベイン「ふっ」ガシッ





モードレッド「……クッソ、放せ、ちくしょうめ……!」グ、グイッ

ベイン「俺に飛び掛かりたい衝動を抑えていたのは流石だ、騎士よ。名前も知らんが……高名なのか、それとも血筋でも良かったか」

モードレッド「……! 黙れ、テメェに何が分かる……!」

ベイン「分かるとも。プライドの高さが災いして真の実力を出し切れていないところも、仲間を見捨てる事ができない騎士道精神も……まるで生前、誰かに認められていた自分を再現しようとしているようだ。涙ぐましい」

モードレッド「テメェ……! 殺す、殺してやる、ぶっ殺す!!」ジタバタ

ベイン「ハハハ……!」グイッ、ブォン

モードレッド「っぐが……!」ドッシャァァァァァァァ……





ベイン「さて、次は……」

バットマン「フッ」シュポッガシッ

ベイン「待ちわびたぞ、バットマン」ガシッ、グイッ

バットマン「っく……」グォンッ

ベイン「……フン!!」ドッゴォ‼

バットマン「が……!?」ビュォッ、ゴッシャァァァァァァァ‼


バットマン(駄目だ、強化済みスーツ越しでも内臓が形を……あばらが外向きに……)グラリ、ドシャッ


バットマン「……く……ぐっ……」ピッピッ、ギュォォォォォッ


バットマン(スーツのアイソメトリック力を最大に……肉体の変形を防ぐ……)


ベイン「……今度は信念だ、バットマン。お前は肉体をいくら潰しても這い上がってくる。ならば、精神を先に潰す」ドシ、ドシ


バットマン「……」ヒューッ、カヒュッ……


バットマン(ダビデ、時間は稼いだぞ……今しかない!)




マシュ「行かせません……!」バッ

ベイン「お前は俺に負けた。これ以上は無駄だ」

マシュ「行かせません!」

ベイン「……聞く耳がないようだな。ならば、お前の背骨から……」



石「」ヒュォォォォォォッ


ガッシャァァァァァァァァァァ‼


ベイン「!! 何!?」バッ





ダビデ「よっし! どうだブルース、やってやったぞ! 僕にかかればこんなものだ!」

ベイン「き、貴様……俺の背中のタンクを……!?」ヨロ

バットマン「……よくやったぞ、ダビデ……!」


バットマン(ベインの超人的身体能力は、筋力増強剤『ヴェノム』に依存している。今、背部にあるそのタンクを破壊した……!)


バットマン「マシュ、モードレッド、チャンスだ! 仕掛けろ!」

マシュ「はい!」

モードレッド「……のヤロウ!!」ムクッ





モードレッド「オラァ!」ヒュォンッ

マシュ「たああっ!!」ブンッ


ドガッシャァァァァァァァァァァァァァ‼


煙「」モクモク……


バットマン「……やったか」




ドゴッ


マシュ「あぐっ……」ドドッ、ゴロゴロゴロ……

バットマン「何……!?」





ギリ、ギリギリギリギリ、ギチギチギチ……


「成程、確かに弱点だ。俺の背中のタンクは常にヴェノムを供給し、俺を強くする。これが無くなれば、俺は弱くなる」グググググ……


モードレッド「……何だと……!?」ギリギリギリギリ


ベイン「だが、バットマン。言っていなかった事がある」バサッ

ライダージャケット「」バサァ……

ベイン「俺のタンクは特注品でな。一度稼働させて循環を始めさせない限りは、全く意味のないシロモノなんだ」


バットマン「……馬鹿な……」


空のタンク「」パリ……


ベイン「今回、俺はサーヴァントになってから、このヴェノムタンクを一度も使っていない。この意味が分かるか?」


バットマン「モードレッド! 逃げろ!」

ベイン「徒労だ。何もかもな」




モードレッド「この野郎!!」ググッ

ベイン「フフフ……!」グイッ、ドッゴォ‼

モードレッド「ぐが……!」ドゴシャァァァァァァァ‼

バットマン「……ドクター、ドクター! 今回の特異点は攻略不可能だ、マシュだけでもそちらへ帰せ! ドクター! 聞こえないのか!!」

ベイン「馬鹿め。俺が通信妨害を怠らないと思ったのか、バットマン。リドラーが特定した周波数に対策を施してある。俺の周囲で通信機は使えん……」ピピー‼ピピー‼


影『……』ヴゥゥゥゥン……


ベイン「……今度は俺への通信か。せわしないな」






影『お前に任せていたバビロニアの戦線が押されつつある。これはどういう事だ』

ベイン「……用を済ませればすぐに戻る」

影『さっさとしろ。貴様が大丈夫だと保証したんだぞ』

ベイン「焦るな。俺が戻れば元通りだ……」ピッ

影『……』シュゥゥゥゥン……


ベイン「……無粋な者も居たものだ。だが、これで水入らずか?」ドシ、ドシ


バットマン「……くっ……」


バットマン(マシュ、モードレッドは気絶……私はスーツで辛うじて意識を保っている状態……これでは……!)


ベイン「万策尽きたか。ならば死ね」

「まだだ!」バッ






ダビデ「……僕がまだいるぞ、大男くん!」

ベイン「……興味が無いな。お前には」

ダビデ「そうかな? 僕はダビデ王だ。キミがおおよそ想像もしないような荒事を潜り抜けてきた! キミみたいな大男だって初めてじゃないさ!」

ベイン「それは面白い。では、その経験を使って俺を打ち倒せるか?」

ダビデ「……いや、この間合いでは難しいかな!」

ベイン「そうか。では、遠慮なく死ね」ドシ、ドシ

ダビデ「……!」



バチバチバチバチバチバチィッ‼





ベイン「っ……」バチィ‼

ダビデ「おっ……! 救援!?」

???「ゥ、ウー……!」バチバチバチバチバチバチ……

ベイン「チッ……! フランケンシュタインの怪物か。仕留め損ねていたとは、俺もまだまだ……」ジリッ

???「ゥゥゥゥゥゥゥァアアアアアアアアアアアア!!!」バチバチバチバチィァ‼

ベイン「……!」バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂィ‼






ベイン「……やってくれるな、怪物め!」バチィ、ドゴォ‼

???「ぅ、ぁ……」ドシャッ

ダビデ「ええーい! やっぱり僕がやるしかないか、こういう役割は……!」バッ

バットマン「ダビデ……」

ダビデ「ブルース、皆を頼んだ! 僕はやっぱりこうなるらしい! 戦いの中で死ぬなんて、柄じゃないんだけどね!」

バットマン「……!」


ベイン「邪魔をするなら、へし折ってやる!」ガシッ、グイッ

ダビデ「ぐあああっ……」ブラァン……





バットマン「……っ」


バットマン(時間を無駄にするわけには行かない! 確か、この年代のロンドンには既に下水道が発達していたハズ……)プシューッ、プシュー……


ダビデ「……ブルース、息子の事は、頼んだ」ギチギチギチ……

バットマン「……!」

ダビデ「アイツ、考えすぎて、こじれる事が、よくあるからなぁ。キミくらい、頑固な奴にしか、直して、やれない」

バットマン「……」

ダビデ「……じゃあな、ブルース」

バットマン「……さらばだ、ダビデ!」ポチッ


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ、ガラガラガラガラガラガラ……



ベイン「終わりだ!」グィンッ、ドッシャァ‼

ダビデ「ぐああああ!!!」ゴギッ……






バットマン「ぐぅっ……」バシャッ

マシュ「……」バシャッ

モードレッド「……ぐ……」バシャアッ

???「ぅ……」バシャン


バットマン(流れが速い……これは、恐怖ガスの廃液が流れているのか……!)


バットマン「く……」シュポッガシッ

ギュルギュル……ギュギュギュ……

モードレッド「ぐ……」ザバザバ……

マシュ「……」バシャシャ……

???「……ぅぁ……」グタッ……


バットマン(このまま、流れて……逃げ切れるか……液を飲まないように気を付けても、気化したものが肺を侵す……)





マシュ「先輩……ごめんなさい……私が……私が……」

モードレッド「……父上……なんで……」

バットマン「……今、連れて帰ってやる……マシュ、モードレッド……」

バットマン「大丈夫だ、まだ……すまない、ダビデ……」

バットマン「……ドクター、私のバイタルチェックを……」

バットマン「……」


(((ブルース)))

(((ブルース、お願い……)))


((ブルース))

(ブルースくん)

(ブルースくん!!)



通信機『ブルースくん! 返事をしてくれ! バイタルサインが滅茶苦茶だぞ、何があったんだ! ブルース!!』

バットマン「……」


ザアアアアアアアアア……ザアアアアアアアア……





………………

ベイン「……」ブンッ

ダビデ「……」ドシャッ

ベイン「……この下はどうなっている」

スケアクロウ「恐怖ガスの失敗作が流れている。たとえサーヴァントでも、発狂は免れないだろう……フフハハハハ……」

ベイン「そうか。……これなら、アイツが言っていた意味も分かる。障害にすらならん、下らん相手だ……俺はバビロニアへ戻る」ドシ、ドシ

バベッジ「……一つだけ良いか、ミスター・ベイン」

ベイン「何だ」

バベッジ「ヴィクターはどうなった?」

ベイン「殺した。歯ごたえの無い男だった」

バベッジ「……そうか。さらばだ、ミスター・ベイン。二度と会わない事を願おう」

ベイン「フン……」ドシ、ドシ……ズォォォォォォ……





ベイン「……」ドシ、ドシ


ベイン(バットマン。そして、あの盾の少女……マシュ。面白い)


ベイン「ここまで来い……」


ベイン(生き延びろ。生きて此処まで来い)


ドシ、ドシ。ドシ、ドシ……


霧「」ズォォォォォォ……


今回の更新はここまでです。お付き合いいただきありがとうございました

生存報告です。申し訳ありません、忙しさにかまけて更新が遅れています。失踪はしないので気長に待っていただけると幸いです。


………………

M「……つまり、こういう事か。ベインが潰したと断言できるのは、結局、敵サーヴァント一騎だけだと」

スケアクロウ「ただ座しているだけの者よりよほど誇るべき成果だろうさ、ククク」

M「……」ギシッ

P「落ち着きなさい。次の手を考えねば」

M「……ふん。バベッジ、聞こえるか」ピピッ

バベッジ『聞いている』ブゥン

M「植物園へ向かえ、奴らが賢いなら、そこへ来るはずだ」

バベッジ『……了解した』



P「……」

M「言いたい事があるなら言うが良い、パラケルスス」

P(パラケルスス)「いえ……ただ、変わったのだと、実感しただけです」

M「……人は変わってしまう。ならば、気高いままで仕事を終えたい」

パラケルスス「……」

スケアクロウ「……」




M「結果、自分が変わってしまったとしてもだ。……過ぎた贅沢だと、思わないでもないのだがね」

パラケルスス「……贅沢ですか」

スケアクロウ「……見てきたハズだ、マキリ。人間の本質は恐怖だ。絆、博愛、平和。そんな綺麗事を囁いていた連中が、一口でもガスを吸えばどうなった?
結局、世界は嘘で覆われているのだ。見栄えだけは良い、輝かしい嘘でな」

M(マキリ)「……そう、だったな。ああ、無論、我々の目的が揺らぐ事はない」

スケアクロウ「……私は行く。恐怖ガスを更に改良しよう」スタ、スタ……

パラケルスス「……」




マキリ「……」

パラケルスス「……悪は止まれない。私がそう言ったのを覚えていますか」

マキリ「……覚えている。勿論だ」

パラケルスス「ですが、毒がその分量によって薬にもなるように……必要悪というのは、存在するのです。
今、その魂が悪に染まっていても。きっと世界は良い方向へ変わっているのです。変化に犠牲は、つきものですから」

マキリ「……ふふ、魂か。なあ、パラケルスス」

パラケルスス「はい、マキリ」

マキリ「私の理想は──」



………………


ゴポッ、ゴポポポポポ……


(ブルース)

(ブルース)

((バットマン))

バシャアッ、ポタ、ポタ……

((坊ちゃま……))

(((ブルース)))

(((お父さん……)))

(((逃げろ)))


バットマン「……」ポタ、ポタ……

???「ぅあ……」バシャバシャ……

バシャ、バシャ……


???2「おーい! こっちだ、こっち! 運んできてくれ!」





(((ハハハァー!! 命を持つ痛みすら叫ばず!)))

(((果てには死が待つというのに、私の破壊行動に怒りを燃やす! それがアナタ達の弱点だ!)))



???「う……」バシャバシャ

???2「酷いな……ブルースが特に不味い。早く緩和剤を打たなきゃ」カチャカチャ

バットマン「……ぐ……」



(((貴方も本当は気付いているんじゃないですかァ? 限りある命なんて、所詮……)))


(((今度は信念だ、バットマン。お前は肉体をいくら潰しても這い上がってくる。ならば、精神を先に潰す)))

(((お前を殺せば、きっと世界は終わるのだろう)))


(((世界は狂っている……貴様は狂っていない)))

(((こちらへ来い、ブルース)))

(((ブルース)))


(((逃げろマーサ、ブルース)))




バットマン(……)

(((私達はお前にそうなって欲しくなかった、ブルース)))

バットマン(……)

(((ただ、お前が幸せに生きてくれれば、それだけで良かったのに)))

バットマン(……)

(((……だが、もう良いんだ。こっちへ来い、ブルース。一緒にいこう。もう、これ以上苦しむ必要はない)))スッ

ブルース(……)

(((ブルース、大丈夫よ。お母さんだってついてるわ。こっちへいらっしゃい)))


ブルース(……)


バットマン(……違う)




(((ブルース)))

バットマン(向き合え。真の恐怖とは何だ。私は何を恐れている)

(((ブルース、こっちへいらっしゃい)))

バットマン(一時の暖かさでそれを誤魔化すな。私は何を恐れている。仮面を剥がれる事か? それとも)

(((ブルース)))

バットマン(また、闇の中で動けなくなる事か?)



バチチィッ、ドクン‼


バットマン「ッ!!」ガバッ

???「ゥー……」バチ、バチチチ

???2「ブルース!」



バットマン「ここは一体……ジキル博士?」

ジキル「僕だよブルース。通信が途切れたから、電波の発信源を追って駆け付けた。助けてくれたのは、この子だけど」

???「……」

バットマン「……」チラッ


排水口「」バシャシャシャシャ……


マシュ「……」グタッ

モードレッド「……」グッタリ


バットマン「……本当に、お前が?」

???「ウ!」コクコク




バットマン「……ありがとう、あのままでは死んでいた。助かった」

???「ウゥ……」フリフリ

バットマン「ジキル、恐怖ガスの緩和剤はまだあるか? マシュとモードレッドも恐らくガスの影響下にある」

ジキル「駄目だ、ストックの一本分は既にキミに使った。何処かに隠れて調合しないと」

バットマン「そうか……」


通信機『』ピピー‼ ピピー‼

バットマン「もしもし、ドクターか」ピッ

ドクター『ブルースくん! 良かった、応答しました! 生存を確認!』

所長『ブルース! 生きてたのね……!! どうして連絡しなかったの!? マシュは!?』

レオナルド『ほら言ったじゃないか、絶対生きてるって』

ドクター『何度もバイタルを確認してたクセによく言えるな!?』

レオナルド『恐怖に勝るのはいつだって事実さ……早速だが、状況を確認したい。良いね、ブルース』

バットマン「ああ、報告する」




………………


ドクター『……成程、ベイン。それにB・P・M・Sのうちの「B」、バベッジの登場か』

レオナルド『サーヴァント三騎を相手に全く退かず、それどころか遊びじみて返り討ちにしただって? そのベインというヤツは何者なんだ、ホントにただのサーヴァントなのかな?』

バットマン「……怪しいものだが、生前から考えると妥当な強さではあった」

レオナルド『うーん……滅茶苦茶だな。ブルース、キミは平気かい?』

バットマン「一撃もらったが、スーツのアイソメトリック機能で持ちこたえている」

ドクター『……そのまま休んでいて欲しいところだが、マシュのバイタルがひと呼吸ごとに悪化している。可及的速やかに屋内へ退避してくれ』


ジキル「ここから近いのは……図書館だな。こちらとしても、広めのスペースを確保したい」

バットマン「分かった、では行くぞ。ジキル、モードレッドを頼む。私はマシュを担ぐ」

ジキル「了解。よいしょ……うっ、重いな……」ガシ、グイッ

モードレッド「……ちち、うえ……」グタッ




バットマン「……」ガシ、グイッ

マシュ「……先輩……」

バットマン「……」スタ、スタ

マシュ「……ごめんなさい……」

バットマン「……」




コツ、コツ……


ドクター『ブルース、その……肝心な時にサポートが行き届いていなかった。すまない』

バットマン「……あぁ、大丈夫だ。私も、現場で常に策を考えるハズが、犠牲を出しながらの撤退になってしまった……まるで最悪を受け入れたようだった。情けない話だが」ポタポタ、グイッ

ドクター『……』

バットマン「……それに、フランケンシュタイン博士を助けられもしなかった。すまない」

ジキル「……良いんだ。キミ達が帰って来た、それで十分だよ」

???「……ゥ……」フリフリ

バットマン「……良ければ、キミの名を教えてもらえないか」

???「ふらん……」

バットマン「フランか……」




バットマン「ダビデを……ダビデを助けようとしてくれた事に、感謝する。ありがとう」

フラン「……ゥ」

ドクター『……ダビデも、消滅したんだね。アイツ、最期に何か言ってたかい?』

バットマン「あぁ。息子を頼むと、そう言われた」

ドクター『えっ……息子って、そ、ソロモンを?』

バットマン「ああ、そうだろう」




ドクター『……そうか、そんな事を……』

バットマン「ドクター、やはり……ダビデは、お前が思っているほどは、悪い奴ではないと思う」

ドクター『……そう、か。
……そうだね。僕も少し、言い過ぎたかもしれないなぁ』

バットマン「……」

ドクター『……ありがとう、ブルース。ごめんね』

バットマン「謝る事ではない。ダビデにも息子を思う気持ちがあった、それだけの事だ」

ドクター『そうだね……』




バットマン(しかし、今回の黒幕がソロモンだと直接ダビデに明かした事があっただろうか)

バットマン(……覚えはないが、第三特異点であれほど強く問い詰めたのだ。何かしら察するところはあったのだろう)


ジキル「あれが図書館だ、ブルース。もう少し踏ん張ってくれ」

バットマン「ああ、大丈夫だ……」

フラン「ウ!」スタスタ




バットマン「……」


霧「」ズォォォォォォ……


街路「」……、…………


バットマン(私達以外の足音などしていない。その筈だ、だが……この胸騒ぎは何だ?)

バットマン(また恐怖ガスの幻覚か? いや、それにしては……)


ジキル「どうした?」

バットマン「……」

フラン「?」

バットマン「……いいや、何でもない。行くぞ、止まらず」スタスタ





………………


ナーサリー「……」

アンデルセン「……ほら、紅茶だ。飲め」カチャ

ナーサリー「いらないわ。紅茶なんて……」パシッ

アンデルセン「いつまでヘソを曲げているつもりだ、お前……」

ナーサリー「いつまで、ですって?」

アンデルセン「……」

ナーサリー「……マッドハッターさんが帰ってくるまでにきまってるわ」




アンデルセン「……死人は戻らん」

ナーサリー「じゃあ……じゃあ、どうして助けに行かせてくれなかったの!? 私、わたしは……私は、ようやく『物語』になれたのに……っ」ギュッ

アンデルセン「……」

ナーサリー「これじゃまた、誰も読んでくれない。誰も私を見てくれない。誰も……」ブルブル

アンデルセン「いつまでも同じ事を言うんじゃない。あそこで無駄死にするのがお前の役割だったなら、とっくに放り出してる」

ナーサリー「……だからあなたは嫌いよ、アンデルセン」キッ

アンデルセン「フン……」




アンデルセン「……?」ピクッ

ナーサリー「? アンデルセ……」

アンデルセン「静かに。……チッ、侵入者か。動くなよ、俺が向かう」

ナーサリー「わたしも向かうわ。一人は駄目よ、ぜったい駄目」

アンデルセン「座っていろ。マッドハッターの最期の言葉まで無碍に扱うつもりか」

ナーサリー「……大人ってズルいわ、だから嫌いなの!」

アンデルセン「奇遇だな、俺も理想論ばかりの子供は大嫌いだ!」ガチャッ、バタンッ‼

ナーサリー「っ……」




………………

ドクター『……すまない、感知が遅れた。図書館内の魔力反応に揺らぎが出た。キミ達は何やら結界じみたものを踏み越えてしまったようだ』

バットマン「ジキル、確か図書館に居るサーヴァントは……」

ジキル「ああ、帽子をかぶった男だったハズだ」

バットマン「……」


バットマン(マッドハッターの仕業か? いや、だが奴はわざわざこんな回りくどい事をする性格ではなかったハズ……)


バットマン「ドクター、図書館内のサーヴァント反応をサーチできるか」

ドクター『待ってくれ、今やってみてる……うぅ、相変わらずノイズまみれだな。恐らく二人居るぞ、それで……この体格、どっちも子供みたいだな』

バットマン「子供?」


バットマン(……マッドハッター……ではない?)




ドクター『あぁっ、駄目だ! ノイズが激し過ぎて捕捉しきれないぞ……二階に居るらしい事は分かったんだが』

バットマン「十分だ。……二人とも注意しろ、この建物も安全という訳では無さそうだ」

ジキル「困ったな……」

フラン「まも、る」

バットマン「……行くぞ」スッ


裏口「」ガチャ、ギィィィィィィィ……






コツ、コツ……コツ……

蜘蛛の巣「」ハラリ

ろうそく「」ユラァ……


バットマン「……」


バットマン(やはり、つい先ほどまで人が居た痕跡がある)


ジキル「うわっ……酷い状態だな、ここは……」

バットマン「迂闊に動くな。……それと、扉をきちんと閉めてくれ」

フラン「ウ!」ガチャン


裏口「」ガチャリ





バットマン「……そこの机の上を片付けるぞ。マシュとモードレッドを寝かせる」

ジキル「ああ、緩和剤製作のスペースも作らなくちゃな」

フラン「きたない……」ガサゴソ

バットマン「……いや、待ってくれ。少しだけ」スタスタ


バットマン(机の上にあるのは……赤ずきん、蟻とキリギリス、赤い靴、ある母親の物語……『あ』から始まる本ばかりか)ペラ

バットマン(読まれた形跡はどれも古いものだ。各ページの湿り気、クセの付き方から判断して……恐らく、他の本を探す際に本棚から放り出されていたのだろう)ペラ、ペラ

バットマン(では目的の本とは? ……考えるまでもない。『アリスズ・アドベンチャー・イン・ワンダーランド』『不思議の国のアリス』。マッドハッターの愛読書)

バットマン(……だが、捜索は途中で打ち切られたようだ。中途半端に残ったあ行の本棚、冷めたままで放置された紅茶とカップ……急な来客でもあったか、それとも)


ビュォォォッ……

本「」パララララララ……

バットマン「……風?」

ジキル「扉か窓でも開いてるんじゃないか?」





バットマン「……ここに残っていてくれ、見に行く」スクッ

ジキル「了解。緩和剤も調合を開始するよ」

バットマン「頼んだ。フラン、ここの守りは任せた」

フラン「まかせて!」フンス

バットマン「……」スタスタ



ヒュォォォォォォォォォオオオ……


裏口「」……キィ……





コツ、コツ……


バットマン(何かが起こったのは間違いない。ここにあるのは三人分の足跡だ。本を蹴飛ばし、垂れたインクを踏みながら『その現場』へと急いだらしい)コツ、コツ

バットマン(ここまで急ぐとなると、敵か)


ドクター『気を付けてくれ、ブルース。二階のサーヴァント反応がひとつ減った』

バットマン「……了解。慎重に行動する」コツ、コツ


ビュオォォォォォッ……


バットマン「……これは……」ピタッ


バットマン(凄まじい攻撃力でもって図書館の正面玄関が破壊されている。粉々の木片を踏みながら侵入者は入って来た……脳内で木片を元の位置に再構築。足跡を分析する……)

バットマン(……この足の形は、ベイン)ピクッ

バットマン(成程、ようやく事態が把握でき始めたぞ。図書館に居た三人は団結してベインを攻撃したんだ……しかし、我々が遭遇したベインには傷一つ付いていなかった。虚しい抵抗か)

バットマン(図書館には未だに二つのサーヴァント反応。つまり、ひとりを犠牲に残りが逃げた……さあ、犠牲になったのは誰だ?)


ビュォォォォォォオオッ……


帽子「」コロコロコロ……

バットマン「……」パシッ


バットマン(……マッドハッター)




???「……手を上げろ、黒猫男」

バットマン「……」


バットマン(しまった、後ろを取られた……)


???「手を上げろと言ったんだ、聞こえなかったか」

バットマン「……」スッ

???「聞き分けの良い奴だ。敵か味方か分からない状況ではこうするのが賢明でな」

バットマン「……我々は味方の可能性が高い」

???「さあ、どうだろうな……少なくとも、その帽子にすぐ目を付けた時点では怪しいものだが」

バットマン「……」





バットマン「マッドハッター。そうだな」

???「……なんだ、お前もあの狂人の知り合いか?」

バットマン「古い付き合いだ……嫌になるほどのな」

???「含みのある言い方だな。どうしてアイツの知り合いはマスクしか居ないんだ」


バットマン(マスク……という事は、やはり)

バットマン「……やはり、ベインも来たのか」

???「ますます怪しいな、お前は。何故そこまで知っている? 何故ここに来た? 何故黒猫のコスプレなんだ?」

バットマン「それは……」


ドゴォォォォォォォォォォォォ……


バットマン「……!!」バッ




???「ええい、今度は何の音だ!?」

バットマン「あれは……!」


バットマン(しまった、ジキル達が居る方角……!)ダッ


???「待て、動くな! 今の音は何だ!?」

バットマン「敵だ! 侵入を許した!」

???「敵だと!? お前達はどうなんだ!」

バットマン「敵ではない!」

???「その証拠は!」

バットマン「恐れている! 悪いが行くぞ!」ダダッ

???「待て!! ええい、待てと言っているだろう!!」ダッ





………………

ジキル「くっ!?」ガギィ‼

???「フッ」クルクルスタッ、ダダッ

フラン「!!!」ガッギャァァァァァァ‼

???「やああっ!」ガギャギャギャギャ、ズバァッ

フラン「ッ……」ドサァッ

???「解体するよ」スッ


バットラング「」ヒュォォォォォォォッ


???「っ!!」ガギャア‼


バットラング「」クルクル……カラン


バットマン「……間に合ったか!」ダッダッ





バットマン(幼い姿、両手に握ったナイフ……乾いた血が体に点々と散っている)


バットマン「何者だ」

???「……わたしたち?」

バットマン「……」ジリッ


バットマン(……私達、だと? 複数? 二人以上がこの場に襲ってきたのか?)




ジキル「来てくれて助かった……急にそこの少女が襲ってきたんだ、恐らくはサーヴァント」

バットマン「……一人でか?」

ジキル「ああ、恐らくは彼女が『ジャック・ザ・リッパー』だろう。まだ新聞が刊行されていた頃に、容姿を見たという者のスケッチが載っていた」

バットマン「……成程、了解した」


バットマン(……この位置は不味い。下手に動けばジャックがモードレッド、マシュを人質にとる)


ジャック「……」ジッ




ジャック「あなたなの?」

バットマン「……?」

ジャック「あなたが、わたしたちのお母さんになってくれるの?」

バットマン「……私は男だが。『お母さん』とは、何だ」

ジャック「ずっと探してた。どれだけお腹を開いても、どうしても見つからなかった」

バットマン「……探していた?」

ジャック「うん。だって、帰りたいもん」




ジャック「……あぁ、やっぱり、その目。私達のおかあさん。全部を諦めて、仕方がないって思ってる目」

バットマン「……私にも諦めていないものはある」

ジャック「じゃあ、諦めてねッ」ダンッ、ギュオッ‼

バットマン「ッ」ガギィィィィィィィッ、ゴロゴロッ


バットマン(良し、喰らい付いた)


バットマン「ジキル博士! マシュとモードレッドを安全な場所へ! フラン、ジャックを抑えるぞ!」ゴロゴロ、スクッ

ジキル「了解!」

フラン「ウァァァァァ!!」ババッ

ジャック「邪魔だよ!」ヒュンッ





ジキル「よい……しょっ!」グイッ

モードレッド「……クソ……俺の、価値……!」ブラァ……

ジキル「……大丈夫、助けるから」スタ、スタ


ハイド(((助けるだって? おいおい、よく言えるな)))


ジキル「……黙れ、違う……」スタ、スタ


ハイド(((何が違うんだよ、後ろじゃ戦いの音が響いてるぜ? 『あの薬』を飲めよ……そんで加勢しろ、それがベストだ。ベストを尽くさない人間が未来を語る資格はない。そうだろ?)))


ジキル「……僕には僕の役割があるんだ。黙って、従え……!」


ハイド(((ケッ……)))




バットマン「くっ……」ガギィ、ギャリギャリギャリ

ジャック「このまま……!」ギリギリギリ

フラン「させない!」ブォンッ

ジャック「!!」ババッ、スタッ

バットマン「……」


バットマン(やはり熟練したサーヴァント相手にはかすり傷一つ負わせるのも難しいか……ならば)スッ

バットマン(マッドハッターの帽子を使う)





バットマン「フラン、少しの間の時間稼ぎを頼む。ドクター、私の脳波の観測を」スチャッ

ドクター『え、え、え!? わ、分かった!!』

フラン「わかった!」ブォン、バチバチバチバチィッ

ジャック「っ、電気……」ジリッ

フラン「ここからは、通さない!!」ダン‼


バットマン(……肉体面で捉えられないなら、精神面から捕捉する……!)ギュゥゥゥゥゥォォォォォォ……


ドクター『ブルースくん、β波が危険域だ! ……え、安定した!? どういう事だ!?』

バットマン「まだ大丈夫だ、ドクター……!」ギュォォォォォォォォォォ……

ドクター『ど、どうなってるんだ!? 何だその帽子!?』





フラン「ハアッ!」ブォン‼

ジャック「っ」ババッ、タタッ

フラン「ウァァァァアアアアアアアア!!!」バチバチバチバチバチィ‼

ジャック「遅いよ」タタッ、ダダッ


フラン(当たらない……!?)


ジャック「そろそろ、終わらせるね」タンッ

フラン「!!」バッ

バットマン(っ、間に合わない……!)ギュォォォォォォォォォォ……


光弾「」ギュドドドドォッ‼

ジャック「!!」バッ


???「……フン、間に合ったようで何よりだ」シュゥゥゥゥゥゥ……




バットマン「お前は……あの時の、子供か」

???「子供ではない。アンデルセンと呼べ……全く、追いついてみればこれだ。図書館で大乱闘とは不届き千万、せめて本の無い場所でやれ!」

フラン「ウゥ……」

バットマン「……協力如何による」

アンデルセン「小生意気な男だ、お前は!」

バットマン「同意してもらえたようだな」


ジャック「……解体するひとが、増えただけだよ」カチャッ

アンデルセン「フン、少女の殺人鬼か。今度お前を題材に小説でも書いてやろう」

バットマン「構えろ。来るぞ」




ジャック「……」タタ、スゥッ

フラン「ウゥ……!」ダッ

バットマン「待て、追うな。奴の戦略だ」バッ


バットマン(真正面から掛かって来ず、障害物の陰に隠れ、気付かれない内に敵の命を掠め取る……生粋のアサシンだ。迂闊に誘い出されれば破滅する)


アンデルセン「どうする、見失ったぞ」

バットマン「…………アンデルセン、フラン。固まれ。あちら側の本棚を破壊し尽くせ。策がある」

アンデルセン「全く、本に対する冒涜だ!! ……商売敵の本ばかりだから喜んでやろう」ギュォォォッ、ドシュシュゥッ

フラン「ウ、ウゥ!」ブォンッ、バキャァ‼


本棚「「「」」」」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ドッシャァァァァァァァアン……‼




………………

ジャック(……あっちにわたしたちは居ないのに、本棚を倒してる……足音も聞こえなくなってこっちには好都合だけど)


ズグググググググググ……ドッシャァァァァァァン……


ジャック(自暴自棄、なのかな。ヤケになっちゃったんだね、かわいそう……すぐに片付けてあげなきゃ)タタ、タタタタ……



バットマン(当然そう考えるだろう。だが派手な動きに気を取られ、私を見失うようでは甘い)プシューッ、プシュー……カチャカチャ、ピンッ





ジャック(あの位置を取れば……)タタタッ……


ジャック「……?」ピタッ


ジャック(……これ、ワイヤー? 罠だ)ジッ


カタッ

ジャック「!!」バッ


バットマン「……」コソコソ


ジャック「……見つけた」ダンッ





バットマン「!!」ガギィィィィィィ、バッ


バットマン(誘導成功だ)


ジャック「ひとりだけ、逃げようとしてたの? わるいお母さんだね」クルクルッ、スタッ

バットマン「……さあ、どうだろうな」

ジャック「でも、解体して、かえるから」

バットマン「母は変えられない」

ジャック「かえれるよ。これからはずっと一緒だもん」


バットマン(……机の上に乗った。ジャックの精神捕捉にはまだ時間が掛かる。作戦通り)




バットマン「フッ!」シュババッ


バットラング「」ギュギュォォォォォォッ‼


ジャック「!!」ガギャッ

バットマン「フッ!」スタッ、ヒュンッ

ジャック「あたらないよ!」シュンッ、ヒュォッ

バットマン「くっ……」ギャリリリィ‼


バットマン(良し。高所レベルは同程度を確保。机の上は足場が制限される分、ジャックも迂闊に大幅な回避、攻撃はできない……ならば近距離戦闘、身体能力の差は技術と予測で誤魔化し互角の戦いに持ち込む!)





ジャック「っ!」ババッ

バットマン「シッ」シュババッ


バットラング「「「」」」ヒュオォォォォォォォオォォッ


ジャック「あたらないって言ってるよ!」バッ

バットマン「無論そうだろう!」ヒュンッ

ジャック「ふっ」パシッ

バットマン「……!!」グッ、グッ……

ジャック「……駄目だよ、お母さんは人間だもん。わたしたちには勝てないよ」ググググググ……

バットマン「……そうかもしれないな、ジャック・ザ・リッパー」

ジャック「……」

バットマン「だが、後ろに注意しておいた方が良いだろう。リバースバットラングは『帰って来る』」

ジャック「!?」バッ


バットラング「「「」」」グォンッ、ヒュォォォォォォォォオッ‼





ジャック「っくぅ!?」ガギギギギィ‼

バットマン「そこだ……!」シュポッガシッ、ギュチチィ‼

ジャック「ぐ……なにを!」

バットマン「フラン、今だ! 思い切り叩き込め!」


ダッダッダッダッダッダダンッ‼

フラン「ウゥゥゥゥゥゥァァァアアアアアアアァァァア!!」バチバチバチバチィッ、ドッゴォォォォォォォォ‼





モクモク……バチ、バチチ……


バットマン「……どうだ……」

フラン「……」バッ


バチ、バチバチチ……ジリッ


ジャック「……きか、ないよ……!」バチチチチチ……ググググググ……‼

フラン「……!」




バットマン(ならば)


バットマン「アンデルセン! 二階のサーヴァントを借りるぞ!」

アンデルセン「!? 待て、それは……!」

バットマン「最終手段だ! フラン、机の端を叩け! アンデルセン、私を撃て!」

フラン「!?」

アンデルセン「なにぃ!?」

バットマン「やれ! 策があると言っただろう!」

アンデルセン「つくづく狂った熱の男だ! どうなっても知らんぞ!」ギュギュギュオォォォッ‼

フラン「ウ、アアアアァァァァ!!!」ドッシャァァァァァァァァン‼





(ここだ)


 一瞬を捉える。ブルース・ウェインは投げ技の厳しい修行を思い出していた。血反吐を吐きながらも起き上がり、何度も投げられたあの修行だ。身体が覚えている。


 重心が全てだ。ジャックを腕に捉え、倒れ込む準備をした。フランのメイスが机の端を叩き、シーソーじみて逆の端を跳ね上げる。バットマンのマントが翻り、凄まじい勢いで重心が移動する。二者が空中へ放られる。

 光弾が肩に着弾。ブルースは衝撃を受け、まるで水の流れのようによどみなく回転した。ジャックを腕に捉えたままだ。ブルースは遠心力、重心、そして筋力の最高パフォーマンス点を計算した。

 その瞬間、バットマンは目を見開いた。そしてジャックの身体を僅かに引っ張り上げ、巴投げのように頭上へ、天井へと放った。


 三人の全力が乗算され、一瞬の回転の中から砲弾じみてジャックが弾き飛ばされた。天井を突き破り、少女は二階へと放り込まれた。数秒遅れ、コウモリの騎士も羽を広げ、急制動で二階へと突入した。





ジャック「ごほっ、ごほっ……」ガラガラ……

バットマン「……」バササササッ、スタッ

ジャック「……くっ」キッ

バットマン「……」


バットマン(……ジャックの精神捕捉にはまだ掛かるか。警戒が激しいと捕捉も遅れるらしい……)ジッ





???「……どなたかしら?」

バットマン「……お前が、第二のサーヴァントか」

???「第二の……? よく分からないけど、私にはナーサリーという名前があるのよ。それに、その帽子を何故貴方が被っているの?」

バットマン「深い理由がある、ナーサリー。だが今は力を貸して欲しい」

ナーサリー「……」チラッ


ジャック「……」ボロッ


ナーサリー「……いたいけな少女を敵に回して、そんな説得では無理よ」ジッ


バットマン(成程、アンデルセンが共闘を勧めなかった理由か)




バットマン「……私はマッドハッターの……友人だった」

ナーサリー「……嘘はそんな嫌そうに言ったら駄目よ、黒猫さん」

バットマン「嫌な思い出もある」

ナーサリー「……」

バットマン「……嫌な思い出だけだ。敵同士だったが、守るべきものは必ずしも相違していた訳ではない」

ナーサリー「今回は何を守っているの?」

バットマン「世界だ。手を貸してほしい」

ナーサリー「……わたし、子供だけど、大丈夫かしら?」

バットマン「世界の危機に立ち上がらせないというのは、いくら子供でも酷なものだ……」

ナーサリー「……ええ、勿論よ! 手を貸すわ、黒猫さん!」




ナーサリー「さあ、そういう理由よっ。名前を聞かせてちょうだい、そこのあなた」

ジャック「……ジャック・ザ・リッパー」

ナーサリー「まあ……大量殺人のあのジャックなのね」

ジャック「邪魔をするなら、解体するよ」カチャッ

ナーサリー「でも私だって負けないわ。ご存知かしら、お姫様だってスカートを上げれば走れるのよ」

ジャック「……? よく分からないけど、邪魔するんだね。なら、容赦しないよ」ジリッ




ナーサリー「……」ヒュオォォゥゥ……

ジャック「っ」ダンッ

ナーサリー「くるくるくるくる回るドア……」バッ、ギュォォォッ


光弾「」ギュドドドドッ


ジャック「あっ……!?」ギャリィ‼ ギャリィン‼

ナーサリー「行き着く先は、鍋の中!」パパパッ

パキィィィィィィ……

ジャック「つっ……!?」


ジャック(手が、凍った……!?)




バットマン(いいぞ、このまま……)


ジャック「っ、こんな程度!」バキャァァァァァ、ブンッ

ナーサリー「きゃっ……!?」ドサッ

ジャック「わたしたちは、かえらなきゃ駄目なの! 邪魔しないで!!」ダンッ

ナーサリー「……! 駄目よ、私にだって世界があるもの!」スクッ、ギュォォォッ

ジャック「じゃあわたしたちの世界は何処なの!? 消えるのが世界のためなの!? そんな世界なら、最初から……」ブォンッ


(((捉えた)))


ジャック「っ!?」ビクッ

ナーサリー「……?」


(((捉えた。捉えた)))


ジャック「……え? なに、これ」ジリッ

(((捉えた捉えた捉えた捉えた捉えた捉えた捉えた捉えた)))

ジャック「……なに。なんで」

(((捉えた捉えたお前の捉えた捉えた精神を捉えた捉えた見せてもらう捉えた捉えた捉えた)))


バットマン(捉えたぞ、ジャック・ザ・リッパー。精神に動揺をきたしたな……見逃すものか)





ジャック「……やだ。やだよ、何……なんで」ペタン

バットマン「このまま、精神の深層へ潜り込む……ドクター。10分経過しても私が戻って来なかった場合は、スーツの蓄電機構を解放し、電気ショックで呼び戻してくれ」ギュォォォォォォォォォォ……

ジャック「……う……」ドサッ

バットマン「……ナーサリー、見張りは頼んだぞ」ギュォォォォォォォォォォ……

ナーサリー「ど、どうなって……どうするつもりなの?」

バットマン「……」


バットマン(このまま戦意の元を取り除く。もしくは、精神を崩壊させる)ジッ




──────

『産めるワケがないでしょう、自分ひとりが食べていくのに精いっぱいで……』

『愛してる。愛してる。ごめんね、ごめんね……』

『大丈夫よ、愛してるのは貴方だけ』

『堕ろすわ』

『……許して、お願い……許して……』

『神様……』


バットマン(……)

マッドハッター『やあ、バットマン。お前なら必ず来ると思っていたぞ』




マッドハッター『そうだな。例えば赤ずきんは、男に襲われる少女としてその物語が解釈される事が多い』

バットマン『……お前は、マッドハッター? 死んだハズだ』

マッドハッター『勿論死んだ。肉体はね。だが見ろ、お前は私の帽子を被った……そこにあった残留思念が、私を形作っている。どうだ、ロマンチックだろう?』

バットマン『……』

マッドハッター『……そして、アレを見ろ』


『愛してなんかなかった』

『父親なんて分からない』

『だけど出来た。だから堕ろす』

『悪い事だけど、胎児に意識なんて無いでしょう? だから、これは罪じゃない。……罪じゃ、ない』


マッドハッター『うーっ、これはロマンチックには程遠いな……なあバットマン、人を最も苦しめる恐怖とは何だと思う?』

バットマン『……』

マッドハッター『……それはな、罪の意識だ』




マッドハッター『勿論、サイコパスを自称する人間は多い。だが良心の呵責は大なり小なり無意識下に積み重なるものだ。人生の澱みと言い換えても良い……ウフフフ、物語に入り込む際の足かせになるから、私は切り捨てるがね』

バットマン『何が言いたい』

マッドハッター『何が? 言いたいか、だって? バットマン、もう明白だろう! ここはあの殺人鬼の深層心理じゃないのさ。澱みはもっと下の部分にある。もっと降りる必要がある』

バットマン『……もっと降りる?』

マッドハッター『そうとも。集中を深めろ、ウサギに導かれる少女の如く……私はついて行けないが、「そこ」に辿り着けるハズだ』

バットマン『……』ジッ

マッドハッター『……そうだ、深めろ……』






………………

ちがう。

ちがうよ。迷惑なんてかけない。だからやめて。

産まれたい、それが一番強い望みだったのに。

どうしてこうなの? 何が駄目だったの? わたしたちが、悪い子だったから?

それとも、世界が駄目だったの?





なら、わたしたちが消えたんじゃない。おかあさんが消えたんだ。だって、まだわたしたちはここに居る。

だから、探さなくちゃ駄目。探して、探し出して、もう一度一緒になる。

そして、今度こそ、一緒に────





バットマン『……それがお前か、ジャック』

ジャック『……』

バットマン『娼婦達が妊娠し、堕胎する。その水子の霊が集まって出来たのが、お前という存在なのか』

ジャック『……おかあさんに、会うんだ。だって、そうしないと、私達はずっと迷子だから』

バットマン『……』

ジャック『会って、もう一度、産んでもらうの。そうしたらやり直せるから。もう一回、やり直せるから』

バットマン『……』





バットマン『……いいや』

ジャック『……』

バットマン『死者は帰らない。絶対に』

ジャック『……じゃあ、どうすればよかったの? わたしたちは死んだまま? 産まれたかったのに。忘れ去られたままになっておけばよかったの? それが世界なの?』

バットマン『だが、殺しは正当化されない』




ジャック『殺しじゃない。帰りたかっただけ』

バットマン『被害者達は死んでいったぞ。訳も分からず、理由も分からず』

ジャック『……わたしたちだって……! わたしたちだって、生きたかった! でも叶わなかった! だって、生まれる前から、世界が終わっていたんだもん!!』

バットマン『……』

ジャック『……お母さんは泣きながらわたしたちを殺したよ。知ってるもん。だから、帰らなきゃ。帰って、安心させてあげるの。そうすれば、もう一度やり直せるから』




バットマン『……』

ジャック『……だから、あなたも、おかあさんになってね。わたしたちを、受け入れてね』

バットマン『……』

ジャック『一緒に、幸せをやり直そうよ。おかあさんとなら、大丈夫』

バットマン『……』




バットマン『……私の目』

ジャック『……?』

バットマン『諦めた目だと言ったな。それは間違いだ』

ジャック『何が言いたいの』

バットマン『能動的に人を変える事などできない。だが世界は変えられる』

ジャック『……』

バットマン『変えてみせる。お前達の世界が破滅しているならば、救う』

ジャック『無理だよ』

バットマン『できる。私も無理だと思っていた』

ジャック『……』




ジャック『……でも、おかあさんのところに……戻らなきゃ』

バットマン『……』

バットマン『……ならば、私が母親になろう。私の手を取れ、ジャック』

ジャック『……え……』

バットマン『今度こそ、お前を置き去りにはしない。お前を腹に宿す事はできないが、共に戦う事はできる』

ジャック『……』

バットマン『……親の愛が信じられないなら、私は諦める訳にはいかない』






ジャック『……信じて、いいの?』

バットマン『決して後悔はさせない』

ジャック『ほんとう? ほんとうに? 今度こそ、捨てられないの?』

バットマン『……マーサの名にかけて、誓おう』

ジャック『わたしたちは、まだ幸せになれるの?』

バットマン『お前が諦めないのならば、いつまででも』

ジャック『そう、なんだ……まだ……』




ジャック『……』

バットマン『……行くぞ、ジャック。手を取れ。あちらでもまだやるならば、相手はしよう』

ジャック『うん……』キュッ

バットマン『……』ギュォォォォォォォッ

ジャック『今度は、捨てないでね』

バットマン『……勿論だ』


ギュォォォォォォォォオオオオオオオ……





………………

フラン「……ウゥ!!」ダダダッ

アンデルセン「ナーサリー! 怪我は無いか!!」タタタ

ナーサリー「大丈夫よ、平気……だけど、二人が」

ジャック「……」

バットマン「……」

アンデルセン「でかしたぞ、チャンスだ。今の内にこの殺人鬼を放り出すとしよう」

ナーサリー「駄目よ! この黒猫さんとジャックは今戦ってるの、起こしちゃ駄目」

アンデルセン「おのれ……これだから! 低い可能性に賭けられるかと言うのだ、全く!」

ナーサリー「駄目なのっ!!」

アンデルセン「駄目なものか!!」

ナーサリー「ゼッタイダメ!!!」

フラン「ウゥ……」




アンデルセン「この……」

ナーサリー「分からずやさんの……」


バットマン「ッッ!!!」ババッ、ズササァッ

ジャック「ッ!!」ダンッ、クルクル……スタッ


アンデルセン「!?」

ナーサリー「きゃっ!?」

フラン「!!」スッ




バットマン「……ハァッ、ハァッ……」ジリッ

ジャック「……」ジッ

アンデルセン「おい。どうなっている」

ナーサリー「……」

バットマン「……ジャック。答えを聞こう。これを続けるならば相手になる」

ジャック「……」

フラン「……」





ジャック「……勝ち目もうすいし、やめるよ」パッ


ナイフ「「」」カラン、カラン


バットマン「……そうか。なら、やめよう」スッ

ジャック「……」

バットマン「……」

ジャック「……っ、おかあさん……っ!」タッタッ、タンッ

バットマン「……」ガシッ

ジャック「おかあさん、おかあさん……おかあさん……」ギュゥゥゥゥゥッ……

バットマン「……大丈夫だ、ジャック」



アンデルセン「……ナーサリー、一部始終を見ていたんだろう。なんだこれは」

ナーサリー「さっぱり……だけど、素敵」

アンデルセン「ワケが分からない事を素敵で済ませるんじゃない!」

ナーサリー「もう! だから人魚姫はバッドエンドになっちゃったのよ!」

アンデルセン「現実をしっかりと……ああクソ、お前はリメイク版でも観ていろ!」



ダダッ、ガチャリ‼


ジキル「ブルース! 加勢に……え?」

バットマン「……大丈夫だ、博士。少し時間をくれ」

ジャック「……」ギュゥゥゥゥゥゥゥ……

ジキル「……え? どういう……え?」

アンデルセン「ようやくまともな感性の男が来たか! こっちへ来い、貴重なんだ!」

ジキル「……???」

フラン「ウゥ……」






………………


ジキル「……うん、結論から言うと……やっぱり解毒剤の精製が不可欠だ。二人の精神状態は安定しつつあるが、いつまた恐怖に飲まれるか」

バットマン「……やはりか。ドクター、聞いているか」

ドクター『あぁ、勿論。そちらでも準備しやすい成分の解毒剤を模索しているが……どうにもね。できるだけ簡易化した成分表を送る』ピッピッ

バットマン「……どうだ、ジキル博士。これを作るのは可能か?」

ジキル「……うーん……少し厳しいな。東南アジアとかアメリカ辺りにしか自生していない植物の成分が含まれてる」

バットマン「そうか……いや待て。キャプテンドレイク……大航海時代の名残だ。世界中の植物が植物園に集められているハズ。そこにも無いか?」

ジキル「ああ! そこならあるハズだ、きっと見つけられる!」

バットマン「良し。ならそこへ向かうとしよう」





………………

バットマン(……植物園は少し遠い。巡回する自動人形、ロボット達とはあまり遭遇したくない)

地図「」ペラ……

バットマン(……ロボットの武装は遠距離もカバーしてくる。直線の道は避け、曲がり角の多い道を採用しつつ……)

バットマン(……しかし、無理だ。最低でも何度か戦う事になる。消耗した状態で、B・P・M・Sの面子に出くわさないとも限らない)

バットマン(……)




モードレッド「おい。オレ達を連れて行かねえなんて言うんじゃねえだろうな」

バットマン「……モードレッド。回復したか」

モードレッド「恐怖なんざ、下らねえ。行けるぜ、オレは……ちょっと取り乱してただけだ」

バットマン「……」

モードレッド「連れて行け。戦力になる。今度こそ負けねえ」

バットマン「……当然、そうする。休む暇などないぞ」

モードレッド「上等だ……」




………………

バットマン「マシュ。行けるか」

マシュ「! マスター……はい。その、ご迷惑をおかけして……」

バットマン「大丈夫だ。行けるなら準備をしろ。まずは植物園へ向かう……長丁場になる」

マシュ「……はい。平気です」

バットマン「今からちょうど15分後、全員で出発だ。正面玄関で会おう」スタスタ

マシュ「……あの、マスター!」




バットマン「どうした」クル

マシュ「……」

バットマン「……どうした、マシュ」

マシュ「……あの、ベインさんに……手も足も出ずに……負けてしまって」

バットマン「……」

マシュ「……これから先、ずっと……戦って、勝っても、いつかあの人が立ちはだかるんじゃないかって」

バットマン「……」




バットマン「……きっと奴は、そうなるように全力を尽くすだろう。もう一度ベインと闘うその時は来る。だが、マシュ」

マシュ「……」

バットマン「我々は破滅の為に戦っているのではない。この戦いの先にあるのは破滅ではない。乗り越えるべき壁だ」

マシュ「……」

バットマン「それに、戦いだけが全てではない。作戦で勝てる事もある……悲観するな、奴は完璧ではないさ」

マシュ「……はい」

バットマン「15分後だ。正面玄関で会おう」スタスタ





バットマン(……きっと奴はもう一度現れる。ベインは)

バットマン(作戦で勝てる事もある。事実だ……だが、言っていない事実もある)

バットマン(戦略的視点ですら、ベインは私と拮抗、または上を行く)

バットマン(……果たしてこの恐怖は、恐怖ガスの影響によるものか。それとも……)


バットマン「……破滅が待つ、か」





(((お前を殺せば、きっと世界は終わるのだろう。悲しむべき事だ)))

(((だが、それがどうした)))

(((世界の破滅も良いだろう、見てやろう。所詮守るべくもない)))


バットマン「……」


バットマン(破滅に身をさらし、世界を守る。その価値は、あるか?)



今日の更新はここまでです。マッドハッターの帽子の能力を拡大解釈してすみません……ジャービスファンの方、どうか怒らないで。

あと遅れてすみません。待って下さった方本当にありがとうございます

(やっっっっべ完全に忘れてた)

(何かしら後付けの理由を付けますので何卒……何卒……)


「見てくれ、チャールズ」

 この少女(フラン)は最高傑作になる……そう言う男の笑顔は、屈託のないものであった。私にはその作品の素晴らしさが分からず、首をかしげるばかりであったが。

「ははは。これはイヴだよ、チャールズ。もう少しで、私は完璧だった人類を造り出せる」

「イヴ。最初の人類か……ヴィクター、そんな事が可能なのか?」

「勿論だとも! 私はこれで世界を変えてみせるぞ!」

 ヴィクターは笑っていた。私も笑みを浮かべ、激励の言葉を口にしたのだと思う。

 一人が世界を変えられる。その時の私達は、まだそう信じていた。



「見るがいい、チャールズ」

 世界の真実は恐怖だ……そう呟く男の目は何も映していなかった。霧に飲まれて行く街の中、人々は怖気づき、殺気立ち、隣人や家族を手にかけた。

「これが真実だ、チャールズ。嘘のヴェールをはぎ取れば、世界は容易く崩れ去る」

「……では、やはりこれが真実だったのだな。スケアクロウ」

「勿論だとも。世界はとうに終わっていた」


 スケアクロウは無表情に言った。我も無感情に、諦めきって世界を見下ろしていたのだと思う。


 世界を変える事などできない。我々は、結論に達してしまっていた。





 私は、星を目指していたのだと思う。

 蒸気機関はいつか天を超える。そして、あの輝きの元へ至れるのだと、そう信じていた。


 いつからか、蒸気が空を覆うようになっていった。我々では無理だ。仲間の研究者の誰かが、そう呟いたのを聞いた。地を走り、海を渡ろうとも、星へ至る事だけはできなかった。


 人々は星に目もくれない。たとえ一人で星に手を伸ばしても、世界は変わるハズもない。


 いつからだろうか。蒸気が空を覆うのを、言い訳じみて見つめていたのは。






………………

チュゥン‼ ドッガァァァァァン‼

ロボットA「殲滅、シマス」ババババババババババ

ロボットB「……」ガシャン、ガシャン



バットマン「無事か、博士!」ズシャシャッ

ジキル「っ、ブルース。ああ、こちらは大丈夫だ!」チュウン!バチュン!!

バットマン「ジャック、出過ぎるな! マシュはアンデルセン、ナーサリーを庇いつつ防御を! フラン、モードレッド、まだ掛かるか!?」



フラン「ゥウ……!!」ブォンッ、ガッシャァァァァァ

モードレッド「うっせェぞ! 今やってんだろうが!!」ガシャァァァァ、ガッキャァァァァァァ‼

自動人形A「……」ウィー、ウィー

自動人形B「殺害」ウィー……ココココココ……




バットマン(……ジリ貧。ジャックの働き次第……いや、賭けはしたくない。何処か、挟み撃ちにされにくい場所は……)


看板『UNDER GROUND』

バットマン「……!! 全員、地下鉄のホームへ飛び込むぞ! 急げ!」

モードレッド「あぁ!? 敵に背中を見せるってのか!?」

バットマン「戦略的撤退だ、大局を見失うな! マシュ、宝具を解放できるか!?」

マシュ「可能です!」

バットマン「今すぐ解放しろ! 全員、タイミングを合わせて撤退に動け!」

モードレッド「クッソが……!!」ギリッ




マシュ「真名、偽装登録……行きます! 『ロード・カルデアス』!!」ゴォォォォォォォォォォォォォォッ‼

バットマン「今だ! 全員階段を降りろ! フランは待て!」

フラン「わかった!」


ナーサリー「お先にごめんなさいっ!」タタタッ

アンデルセン「手を引くな! 転げ落ちるわ!」ヨロロッ

ジャック「さきに行ってるね、おかあさん!」タタッ

モードレッド「チクショウが……」ギリィ、ダダッ


バットマン「……よし、マシュ! いつでも防御を解放して良いぞ!」

マシュ「……! ……!! 分かりました、もう少し……ふぅっ」ブゥン……ガギャギャギャギャギャギャ‼




バットマン「フラン、今だ! 辺り一帯の霧に電撃を走らせろ!」

フラン「ウゥゥゥゥゥゥァァァアアアアアアアァァァア!!!」バチバチバチバチバチバチバチィィィィィ‼


霧「「「」」」バチチチチチチチチチチチチチィ‼


ロボット達「「「ズズズズズズズズズズググググググググ……」」」バチ、バチバチ……

自動人形達「「「ガガガガガピピピピピ……」」」ビリビリビリビリ、ビリ……


バットマン「今だ、マシュ、フラン! 地下鉄へ!」

マシュ「はい!」ダダッ

フラン「ウゥ……」バチ、バチバチ……フラッ

バットマン「……! 行くぞ」ガシッ、タタタ

フラン「ごめん……」ヨロヨロ




ドクター『無事かい、ブルース!?』

バットマン「あぁ、無事だ。霧の魔力伝導率が極端に高いという発見のお陰だ……」コツコツ

ドクター『良かった……そこは何処だい、霧ほどじゃないけど電波状況が悪いな……』

バットマン「……地下鉄のホームへ降りている。これからもっと悪化するだろう。少し通信を切る」ピッピッ

フラン「……もう、大丈夫」

バットマン「そうか。いきなり無理難題を吹っ掛けて悪かった……ゆっくりでいいぞ」

フラン「ウゥ……」フリフリ




バットマン「全員無事か」

マシュ「はい!」

ジャック「へいきだよ」

ナーサリー「居るわっ」

アンデルセン「……暗いな、ここは」

フラン「ウゥ」

モードレッド「……居るよ」


バットマン「……地下鉄への降下は予定とは違うが、まあいい。このまま、できるだけ植物園に近い駅に出るぞ」

全員「「「はい!(了解)」」」




看板『→Next Sta.BAKER STREET』


ポスター『なんと言っても19世紀! 地下鉄(The tube)はロンドン市民のたしなみ』

ポスター『生活にお困り? なら、スコットランドヤードが解決します!』

ポスター『日々の癒し、新たな発見……王立キュー植物園は二駅先』


バットマン「……少し歩くようだ。どうだマシュ、追手の足音は聞こえるか?」

マシュ「……微かに聞こえます。ですが、まだ電撃から復旧し切っていない……混乱が生じているようです」

バットマン「良し……全員並びを崩すな。このままチューブの中を進む」




アンデルセン「本当に真っ暗だな、ここは……ランプを持ってきたのは正解だった」カチャ、ポウッ

ジキル「なんと言っても19世紀だ。ありがたいよ」コツコツ

フラン「ウゥ」コクコク


マシュ「……」コツコツ

モードレッド「……」ズンズン

バットマン「……」


バットマン(……闇は想像の余地を与える。マシュとモードレッドが恐怖に掻き立てられていなければ良いが)コツ、コツ……




ナーサリー「まぁ……本当に管のようになっているのね! おもしろいわっ」

ジャック「おもしろーい!」

「おもしろーい!」
「……しろーい……」
「……ーい……」(反響)


ジャック「……!!」キラキラ

ナーサリー「まあ、響いて返って来るのね! まるで何人もジャックがいるみたいだわ!」キラキラ


アンデルセン「……お前達の能天気さは本当に……世界の危機だというのに、頭が痛くなってくるぞ」

モードレッド「……」イライラ





アンデルセン「む、これは」

ジキル「……蒸気車両だ。機関車がチューブを塞いでる……どうする、ブルース」

バットマン「待ってくれ、少し……ドクター、聞こえるか」

ドクター『ザザ……聞こえる……シグナルは悪いけど……ザザザッ……』

バットマン「私達の目の前にある車両内部をスキャンできるか。何か罠が無いとも限らない」

ドクター『りょうか……ザザッ……ノイズ……酷いが、断片情報を……ザザザザ……み合わせた結果、そこは……ザザザザザザ……問題無い』

バットマン「……行くぞ。車両内部を通過する」ガチャリ、ギィィィ




ジキル「……まだ石炭が生きている。つい最近まで稼働があったんだろうね……無茶をしてたものだ」コツ、コツ

ナーサリー「すごいわ、本当に本の中みたい……」テクテク

ジャック「見て見ておかあさん、ぶら下がれるよ!!」ブラァ

モードレッド「……チッ……」

バットマン「つり革で遊ぶのはやめr……怪我をするぞ、気を付けるように」スタスタ


バットマン(……蒸気機関車か。現代と近代の橋渡し……確かにここは歴史のターニングポイントだ)

バットマン(しかし、木製のチューブに蒸気機関車とは。確かに、開発されたばかりの地下鉄では火事が絶えなかったと聞くが……やはり、余計な危険を招く前に迅速な退出が望ましい)スタスタ


モードレッド「……着いたぜ。逆の端っこ、機関車両だ」

バットマン「出るぞ。あまり音を立てないように」スタ、スタ

マシュ「了解です」

バットマン「ジャック。分かったな」

ジャック「はーい」




モードレッド「……」ズンズン

バットマン「待てモードレッド、あまり急ぐな」

モードレッド「ああ?」ピタッ

バットマン「ついて行けない者が出ると言ったんだ。スピードを合わせ、ゆっくりと進むぞ」

モードレッド「チッ……ノロいな、チクショウが」

バットマン「……」



………………


コツ、コツ……


バットマン「……待て、一旦止まれ」

モードレッド「あぁ?」ガチャリ

バットマン「定期確認だ。マシュ、何も聞こえないか?」

マシュ「……いいえ、何も聞こえません」

バットマン「……良し、進行を再開する」

モードレッド「……んだよ、クソ……」ブツブツ……

バットマン「……苛立つな。慎重に行かなければ……」

モードレッド「うるせえ、分かってる」

バットマン「分かっていたらそんな言葉は……」

モードレッド「うるっせえってんだよ!!!」




壁「」ワァン……ワァン……ワァン……


モードレッド「……」フーッ、フーッ

バットマン「……何を恐れている」

モードレッド「……誰が、何を、怖がってるだと?」チャキッ

バットマン「今のお前は異常だ。何を苛立っている。何を焦っている」

モードレッド「誰が!? 怖がってるだと!!?」

バットマン「傍目にも明らかだ。ベインに負けてから、お前は……」

モードレッド「テメェ!!」ガシッ




マシュ「も、モードレッドさん!」ガシッ

モードレッド「離せ! テメェもういっぺん言ってみろ……オレが、なんだってんだ!!」バッ、グイッ

バットマン「お前の行動が士気を乱すものになると言っている。緩和剤は打ったハズだ、恐怖を抑えろ」

モードレッド「クソが……! テメェがオレに指図すんじゃねえ!」

バットマン「私が気に食わないだけか? ならば指揮はアンデルセン辺りに任せよう。それで満足か?」

モードレッド「おちょくってんのか……!!」ギリィ

バットマン「……そうではないのだろう。だから言っている、モードレッド。恐怖を抑えろ。飲まれるな」

モードレッド「テメェがオレの何を知ってんだ!!」バシィ





ワァン……ワァン……ワァン……


バットマン「……」ジリッ

モードレッド「……」ギリッ

マシュ「……」

アンデルセン「……」

ナーサリー「……」


暗闇「」…………、……

ジャック「……?」


蒸気「」ズォォォォォォ……





暗闇「」……、……、……

マシュ「……? これは」


蒸気「」ズォォォォォ……


アンデルセン「何だ。下らん諍いの次はボヤ騒ぎか?」

ナーサリー「待って。何か聞こえてこない?」

ジャック「……これ、足音だ。後ろから」

バットマン「しまった、チューブ内で声が反響して地上に届いたか……走るぞ」

マシュ「待って下さい、前方のホームへ降りて来る足音も……!」

バットマン「全速力だ! 挟み撃ちにされる前に全員目的地のパディントン駅を目指せ!」ダッ

モードレッド「クソ、チクショウが……!」ダンッ





ガシャ、ガシャ、ガシャン……


ロボットC「発見、発見。全個体へ通達。チューブ内をパディントン方面へ向かって走る標的たちを発け……ガガピー!」バガガッ

アンデルセン「ふうっ! 少し遅かったか、恐らく地上のロボット部隊が地下鉄へ降りて来るぞ!」タタタタタタタ

バットマン「走れ、走れ!! 全員止まるな!! 行け!!」ダッダッダッダッダッ

マシュ「ま、マスター!」

バットマン「どうした!?」

マシュ「前方、暗闇の中に何か見えます!!」

バットマン「何……」






 恐怖ガスの幻覚だ。そう返そうとしたブルースは、闇に目を凝らし、瞬時にそれを撤回した。

 ジャックも、ナーサリーも、アンデルセンも、モードレッドも止まる。ジキルはつられて『それ』に気づき、見上げるように首をのけぞらせる。


 それは暫時、身動きを止めていた。抵抗勢力が此処に来ると分かっていて、待ち伏せていたかのようでもあった。

 それが身じろぎした時、闇が波打ち、何倍にも大きく見えた。実際それは巨人じみて、その場に居る誰よりも大きく、質量も備えていた。関節部が駆動し、蒸気が噴き出す。

(怪物だ)

 恐怖が囁いた。それは伝播し、抵抗勢力の誰もが共有する感覚となった。

 ガシャリ。機械の鎧が軋み、蒸気のエネルギーが満ち満ちてゆく。闇を切り裂き、真紅のモノアイが点灯する。それはブルース達を睥睨し、敵意でもって輝いた。


「我が名は、チャールズ・バベッジ。蒸気王」

 蒸気が噴出する。立ち上がった怪物は、紳士然とした態度で名乗りをあげた。





バベッジ「やはり生き延びたか。……いや、最初からベインは貴様らを殺す気などなかった。ならば当然と言うべきであろう」

モードレッド「……!」ギリィ

バットマン「どういう事だ。何故ベインは私達を生かした」

バベッジ「……問いに価値無し。我は貴様らを止めるためにこそ此処に居る。植物園で解毒剤を作らせる訳には行かない」

フラン「どうして」

バベッジ「……ヴィクターの娘か。何故ならば、この世界に価値が無いからである」

フラン「……」





バベッジ「貴様らが歩む世界は夢を切り捨てたそれである。悪が真実となり、希望が偽善となる。そんなものを認めるわけにはいかない」

マシュ「そんな事は……」

バベッジ「数列と同じなのだ、年若き乙女よ。もはや予測はついている。勇者はおらず、恐怖がのさばる。人々は目を伏せ、星を目指さず死んで行く。そんな世界に、どれほどの価値がある?」

フラン「……」

バベッジ「だからこそだ。恐怖が真実になってしまったのならば、それを変える。世界にとっての悪であろうと、我々にとっての正義である」ガシャリ



ロボットD「……」ガシャリ、ガシャリ

ロボットE「……」ガシャリ、ガシャリ

ロボット達「「「……」」」ガシャン、ガシャン、ガシャン


バットマン(……挟撃。圧倒的不利。チューブからすぐに脱出しなかったのは悪手だったか)


マシュ「囲まれました、マスター……指示を」

バットマン「全員構えろ。モードレッド、ジャック、フランはバベッジを。アンデルセン、ジキル、マシュ、ナーサリーはロボット達を片付けるんだ」


全員「「「……」」」ジリッ


モードレッド「……ウォラァァァァァァッ!!!」ブォンッ

バベッジ「フン!!」ズォッ


ガッギャァァァァァァァァァァァ‼‼





ロボットD「標的捕捉、捕捉、捕捉」ババババババババババ……

ロボットE「捕捉、捕捉、捕捉」ババババババババババ……

マシュ「くぅっ!?」ガギャギャギャギャギャギャ‼

バットマン「耐えてくれ、マシュ……! アンデルセン、ナーサリー! 牽制しろ! ジキル、怯んだ個体を共に仕留めるぞ!」バッ

アンデルセン「簡単に言ってくれるッ!」ギュギュォッ

ナーサリー「ええ、いくわよ!!」ギュォォォッ‼


光弾「「「」」」ゴォォォォッ、ドガァァァァァァァ‼


ロボットD「!」ヨロッ

ロボットE「!!」グラリ

ジキル「そらっ!」ガシ、ズガガッ

ロボットD「グギギ……」ドッサァァァン

バットマン「……ここだ!」バシ……ゴギャリ

ロボットE「捕捉捕縺ョ縺薙」バチバチバチ……ギュギギギギギ……




ジャック「やあっ!」ヒュヒュヒュンッ

バベッジ「……この鉄の鎧には、効かぬ!」ガギャギャギャ、ブォンッ

ジャック「っ」タンッ、クルンッ

モードレッド「……ならオレはどうだ、機械ヤロウ!!!」ギュォッ

バベッジ「軽い! 腰の入らぬ剣戟など!」ブォンッ、ゴォッシャァァァァァァァァ‼

モードレッド「ぐっあ……!?」ゴォッ、ドガァァァァァ……


モードレッド(……クソ、手が震えやがる……!)プルプル……


バベッジ「やはり、不可能なのだ。人は内なる恐怖には勝てん」ブシュー……


バチ、バチチチチチチチチ……


バベッジ「むっ……」

フラン「ゥゥー……!!!」バチチチチチチチチィ……‼

バベッジ「……ヴィクターの娘。立ちはだかるか」




バベッジ「見たはずだ。勇猛な騎士でさえ、自らの恐怖に押し負けた。生まれたばかりのお前は尚更であろう」

フラン「……こわく、ない!」

バベッジ「意地を張るのはよせ。フラン、お前は我が友の作品。壊したくない形見なのだ」

フラン「私はモノじゃない!!」

バベッジ「……謝罪する。だが、結果は変わるまい」ブシュー、ガチャリ……

フラン「変える!!」カチャッ

バベッジ「ああ、無知より尚愚かである。事実を知ってしかし足掻くその熱は、若さである。……よかろう、一撃で沈めてくれる!!」ブォンッ




フラン「っ!!」ブォンッ、ガギャァァァァァァァァ‼

バベッジ「……やはり非力。我が蒸気機関のパワーの前では、なべて赤子の手を捻るが如し」ブシュー、ギリギリギリギリギリ……

フラン「ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……」ギリギリギリギリ、ジリジリジリッ

バベッジ「……フン!!」ブォンッ、ドゴォッ

フラン「うぁっ!?」ゴシャシャシャ、ドガァァァァァ‼

モードレッド「っ、フラン!!」

バベッジ「次は貴様である」ブシュー……





ジャック「させないよっ!」タタッ、ギュォッ

バベッジ「貴様の刃。通らぬと言ったハズだ」ガギャァァァァァ、ブォンッ

ジャック「っく……」クルクル、スタッ

バベッジ「千日手も良いが、我は早々に決着を望む」ガシッ、グォッ

ジャック「あっ!?」ブラァン

バベッジ「……ぬぅぅぅぅぅん!!」ブンッ、ゴッシャァァァァァァァァァアアア‼

ジャック「あぐっ……」ガシャァァァァァァ……




モードレッド「テメェ……!」プル、プル……


モードレッド(……駄目だ、脚が、すくんで、動かねえ……)


(((無価値)))


モードレッド(やめろ。オレは無価値じゃねえ)


(((所詮はアルトリア王の影)))


モードレッド(クソ!! なんでいつもこうなんだ! オレはただ……)


(((お前を騎士とは認めまい)))


モードレッド(……ただ、あの人を……)



ブシューッ、ガチャン、ガチャン……ブシューッ……

バベッジ「トドメである」ガチャン、ガチャン……






バットマン(……不味い、アレではモードレッド達が負ける!)ドクン‼


(((ブルース、皆を頼んだ!)))


バットマン(……)ドクン……


バットマン(前方にはバベッジ。巨体。蒸気で稼働する鎧。圧倒的なパワー。
後方にはロボットの群れ。重武装。長距離をカバーする銃。
こちらの残存勢力、マシュ、アンデルセン、ジキル。モードレッドは攻撃を受け、移動不可。
チューブ内。ならば結論はひとつ)


バットマン「……マシュ、バベッジを抑えろ。アンデルセン、ナーサリー、ロボの群れを退けろ。ジキル、行くぞ」

ジキル「え……?」




バットマン「行くぞ。これしかない。頼めるな、マシュ」

マシュ「……はい。大丈夫です、マスター。行って下さい」ガチャリ

アンデルセン「なんだ。死ねという命令か」

バットマン「……それはお前達次第だ」

ジキル「ブルース、どういう事だ!? 残しては行けない!」

バットマン「だがこのままでは勝てもしない」






バベッジ「逃走。実に人間らしい選択である」ブシュー、ガシャン

マシュ「あなたの相手は私です!」ダダッ、ガシャリ

バベッジ「良かろう。せめて苦しませまい」


アンデルセン「行くと決めたなら早く行け! そう長く活路は開いておいてやれん!」ギュギュギュオッ‼

ナーサリー「心配ご無用よ、私達は強いもの!」ギュォォォッ‼

光弾「「「」」」ゴォォオォッ‼


ロボットE「ガガガッ……」ヨロッ

ロボットF「ギギ……」


バットマン「行くぞ、ジキル博士」

ジキル「無理だ! 皆を置いて行ける訳が……」

バットマン「議論する時間はない。……すまない、アンデルセン、ナーサリー、マシュ」

アンデルセン「フン……早く行け!」

バットマン「行くぞ」ガシッ、ダッダッダッ

ジキル「離してくれブルース!! 待ってくれ……待ってくれ!!」ズル、ズルズル、ヨロヨロ





バベッジ「哀れ也。主人が去って尚、勝てぬ戦いに身を投じる貴様は……どこにそんな忠義を持つ?」

マシュ「勝てない戦いとは思っていません! 必ず、勝ちます!!」ガシャリ

バベッジ「ならばその希望を持ったまま、力尽きるが良い。後悔など持たぬうちに、片付ける」ブシュー……


モードレッド(……、……)プル……






モードレッド(……ハッ、そりゃあ、そうだ。勝てるワケがねえ。この物量差で、この実力差。オレが万全の時だって、勝てたか怪しいもんだ)


バベッジ「そこだ!」グォンッ、ブン‼

マシュ「きゃっ!?」ガガガッ、ドサァッ


モードレッド(誰だって逃げるさ。ブルースのヤロウだって、オレだって……オレだって、生身の時なら、ケツまくって逃げ出してただろうよ……)プル、プル……

モードレッド(……そうだ。そうして、オレは……また、自分の価値を消してしまう)


バベッジ「フン!」ギャギャァ、ドッサァァァァァァァン‼

マシュ「うっ……く……!!!」ギリギリギリギリギリギリ

バベッジ「無益だ。楽になるがいい」ギリギリギリギリ……ブシュー……

マシュ「……!!」ギリギリギリギリ……‼


モードレッド(ああ、クソ)プル、プル……

モードレッド(怖えな、チクショウめ)ギリィ……


ブゥゥゥゥゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオ‼‼‼






ワァン……ワァン……


モードレッド「……は?」

マシュ「!! アンデルセンさん!」ギャリィ、ババッ

アンデルセン「ああ、分かっているさ! ナーサリー、ジャックを避難スペースへ!」

ナーサリー「分かってるわっ!」ガシ、ズルズル

アンデルセン「俺はフランか! ええい、重たいな……!!」グイグイ


バベッジ「……? 何をするつもりだ」

マシュ「まだ逃がしません!!」ブォンッ‼

バベッジ「くっ……」ガギィ‼



トンネル内「」……‼ ……タン‼ ……タンッ‼ ガタンッ‼





ブゥゥゥゥゥオオオオオオオオオオーーーー‼ ガタンガタン‼ ガタンガタン‼ ガタンガタン‼


バベッジ「!! まさか、貴様!!」ギャリィ‼

マシュ「そのまさかです! モードレッドさんっ、退避スペースへ……失礼します!!」バシッ、ダダッ

モードレッド「なんだ、何を……アレ、は」


蒸気機関車「」ガタンガタン‼ ガタンガタン‼ ガタンガタン‼


ロボット達「「「」」」バギャッ、ドギャギャギャギャギャ‼





バットマン「もっと石炭を入れろ! 出力を最大に保つんだ!!」ガシャ、ガシャ

ジキル「やってる、よ、これしんどいな!!!」ガシャ、ガシャ


バットマン(……直線上。バベッジ、その巨体は避難スペースには潜り込めまい。そして、同じ蒸気機関ならば……負けは、ない!)



蒸気機関車「」ガタンガタン‼ ガタンガタン‼ ブゥゥゥゥゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオ‼


バベッジ「おのれ、貴様!!! 蒸気圧、最大……!!」ブシューッ、ブシューッ‼


バベッジ(間に合わない……!)


バットマン「降りろジキル!!」バッ

ジキル「ふえっ!?」ゴォッ

バベッジ「っ」グォォッ

ゴッシャァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアガガガガガガガガガガガガガガガ……ドガァァァァァァァァァァァァァァ‼






………………

……ゴゴゴゴゴゴ、ドサァァァァ……


ズリ、ズリ……ズリ、ズリ……


バットマン「……くっ……ぐっ」ズリ、ズリ


バットマン(間一髪で脱出……とは、いかなかったか。衝撃で全身の傷が開こうとしている)


パチ、パチ……ボボゥッ、バチバチ……ゴゴゴゴゴゴゥッ


バットマン(……やはり、火事は免れんか……早く脱出せねば)ズリ、ズリ


ゴゴゴゴゴッ、ガラガラガラ……

バベッジ「……きさ、ま」ガシャリ、ガシャリ……

バットマン「しぶとい奴め……」




バベッジ「そんかい、りつ、9、7%……おの、れ。我が理想は、終わり、を、告げようと、している」ブシュ、ブシュッ、ブシューッ

バットマン「……理想だと。諦めきった世界へ進むのが、お前の理想だったとでもいうのか」

バベッジ「世界に、守るべきものなど、なくなって、しまったのだ。悪と、死が、入り乱れる、あの世界には、何も」ギュ、ギュギュギュギュォォォォォォォォーン……グググググッ

バットマン「……」

バベッジ「もはや、損壊は、止まず。貴、様を、道連れに、する……!」ブォンッ

「ウゥッ!!」バッ

バベッジ「……!!」ピタッ





パチ、パチパチ。ゴウッ、ゴゴゴゥ……


フラン「……」ジッ……

バベッジ「……フラン……」

フラン「……」

バベッジ「……ああ、そうか。止まってしまったか」シュウシュウ……

フラン「……ウゥ……」

バベッジ「……口惜しいな。やはり、世界は諦めた者へは冷たいのだ」シュウシュウ……

バベッジ「口惜しいな、ヴィクター。口惜しいな、スケアクロウ」

バベッジ「……さらば、我が理想よ」シュゥゥゥゥゥゥゥ……

フラン「……」





バットマン「……二度も助けられたな、フラン……くっ」ググッ、ムクリ

フラン「無理、駄目」スッ

バットマン「いいや、平気だ……他の者は?」

フラン「今、列車の残骸を、退かしてるところ」

バットマン「そうか……いいか、すぐに出なければ。火災で酸素が無くなって動けなくなる……行くぞ」スタスタ……ヨロッ

フラン「!!」ガシッ

バットマン「すまない、大丈夫だ……」


バットマン(……いかん、体も限界が近い……)フラフラ






モードレッド「ぐんぬぬぬぬぬ……!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴッ

ジキル「うぅぅぅぅぅ……」グググググググッ

列車「」ギゴゴゴゴゴゴ……ゴロォ


ジキル「よし、やった!」

モードレッド「おら、出ろ!」

マシュ「あ、有難うございます!」

ジャック「ありがとう!」

アンデルセン「おい何だ!? 今度は本当に火事か!?」

ナーサリー「大変……早くここから出なきゃ」




バットマン「全員無事か」

マシュ「マスター! はい、無事です!」

ナーサリー「無事よ。……あなたこそ、大変みたいだけど」

バットマン「平気だ。全員今すぐここから出るぞ、チューブ内は危険だ」

ジャック「さんせい!」

バットマン「よし……パディントン駅は、すぐそこに……」グラッ


グラグラグラッ、ゴゴゴゴゴゴゴ……‼


モードレッド「っ、あぶねえ!」ダッ

バットマン「っ!?」ドサッ

ジキル「うわっぷ!?」ドサァッ





炎上する瓦礫「」ガラガラガラ……ゴゥッ、ゴゴゥッ

バットマン「なっ……しまった、分断されたか。マシュ! 聞こえるか!」


マシュ「は、はい! 聞こえます!」


バットマン「パディントンに近いのはそちらだ、そこからキュー植物園へ向かって安全を確保してくれ! こちらは一旦別の駅から退出を試みる! 後で合流しよう!」


マシュ「了解しました! どうかご無事で、マスター!」


バットマン「ああ! ……急いで出るぞ、危険だ」

モードレッド「おう」

ジキル「ああ。……行くとしよう」





タタタタタタ……


バットマン「……っく……」ダッダッダッ……フラッ

モードレッド「っ、おい。シャキっとしろ」ガシッ

バットマン「すまない、大丈夫だ……平気だ。行ける」

モードレッド「……いいや、無理だな。オレが抱えてやる」

ジキル「そうだね。僕には重すぎる」

モードレッド「ハ、正直な奴……」

バットマン「……すまない」

モードレッド「……」ガシッ、グイッ





ゴゴゥッ、ゴゴゴゴ……

ダッダッダッ


モードレッド「……オレ、お前の事、もっと根性無しだと思ってたよ。何かあったらすぐ戦場から逃げ出す奴だと思ってた」ダッダッダッ

バットマン「……」ユッサユッサユッサ

モードレッド「だから、まあ、なんだ。……悪かったな、いろいろ。突っかかって」

バットマン「……」

モードレッド「……何か言えよ」

バットマン「……いや、気にしていない」

モードレッド「嘘つけ」

バットマン「気にしていない」

モードレッド「素直じゃねえ奴!!!」



ジキル(……なんでお姫様抱っこなんだ……???)タッタッタッタッ





モードレッド「見えたぜ。出口だ」

ジキル「少し、どこかの家屋で休みを入れたい。ブルースの回復薬も作ってやらないと」

バットマン「そうだな……地上に出たら、一旦降ろしてくれ。慎重に行動しなければ」

モードレッド「なんにせよ、植物園には行かねえと駄目なんだ。準備は整えねえとな……おう、階段のぼるから揺れるぞ」

バットマン「それは、あまりにも今更な警告だと思われる……」

モードレッド「何だと!?」

ジキル「ちょ、ちょっと声を抑えめにだな……」



看板『Sta.BAKER STREET』


ゴゥッ。ゴゴゴゴゴゥッ、パチパチ……


今回の更新はここまでです。お付き合いいただきありがとうございました

すみません、808ですが

バットマン(こちらの残存勢力、マシュ、アンデルセン、ジキル)

バットマン(こちらの残存勢力、マシュ、アンデルセン、ナーサリー、ジキル)

に脳内補完を願います。

あげちまったすみません!!

すみません、疲労を言い訳にはしたくないんですが結構描写の抜けがあります……

図書館での対ジャック戦で突如バッツが本棚を倒す指示を出していますが、これは「一定の方向の遮蔽物を破壊し、ジャックの隠れる場所をある程度予測可能にする」といった戦略も当初書く予定でした。ちょっと描写のし直しを試みます。

726の書き直しです。


………………


ジャック(……あっちにわたしたちは居ないのに、本棚を倒してる……足音も聞こえなくなってこっちには好都合だけど)


ズグググググググググ……ドッシャァァァァァァン……


ジャック(自暴自棄、なのかな。ヤケになっちゃったんだね、かわいそう……すぐに片付けてあげなきゃ)タタ、タタタタ……



バットマン(当然そう考えるだろう。だが派手な動きに気を取られ、私を見失うようでは甘い)プシューッ、プシュー……カチャカチャ、ピンッ

バットマン(隠れる場所も制限される。つまり、この後ヤツが来るのは……)カチャリ……

以上とさせていただきます。後からの手直しを何度も見せてしまいお恥ずかしい。続きも今書かせていただいています。



………………

ホムンクルスA「……」ドシ、ドシ

ホムンクルスB「……」ブォンッ

モードレッド「クソ!! ロボットの親玉を片付けたと思ったら今度はこれかよ!!」ガギィ‼

ジキル「物量が……!!」シュバッ

モードレッド「チクショウ、おいブルース! 一網打尽にする作戦考えろ!!」

バットマン「何処かで屋内へ退避するぞ、無用な戦闘だ」

モードレッド「ああ!? 腰抜けか!!」

バットマン「大声を出すな、もっと呼び寄せるぞ。後退開始」




ジキル「ええいっ」ババッ


ジキル(駄目だ、いつものような力が出せない……!)


バットマン(……?)


バットマン「博士。後退するぞ、怪我は無いか」

ジキル「あ、ああ。大丈夫だよ」

バットマン「……行くぞ」




ジキル(生物を切ったら……)

ジキル(『殺す』という行為を認識してしまったら……)


ハイド(だよなぁ、気持ちイイもんなあ?)

ジキル(違う……)

ハイド(おっと、俺を否定するのか? 暴力の快感を?)

ジキル(僕はジキルだ。しっかりしろ)

ハイド(そうとも。俺はお前だ)

ジキル(違う!)

ハイド(本当に思ってるのか? 俺とお前は違うなんて)


ジキル「黙れ!! ……あっ」

モードレッド「……?」

バットマン「博士?」





ジキル「い、いや……なんでも、ないんだ」

バットマン「……恐怖ガスの影響か。手早く建物を見つけて休もう」

モードレッド「なんだよ、早く言えよ」

ジキル「……そうだな。ごめん」

モードレッド「ったく、これだから……」

バットマン「謝る事ではない」

モードレッド「オレの台詞を遮るんじゃねー!!」




バットマン(しかし、手ごろな建物が少ない……)


バットマン「……駄目だ、こちらの建物も返答はない」ドンドン

モードレッド「なー、いつまでやるんだ……」ドンドンドンドン

バットマン「住人がこたえるまでだ」ドンドン


バットマン(……しかし、非常時なのは住人も同じか。こんな時に、誰かを助けようなどという考えの方が貴重……)ドンドン


ガチャリ

ドア「」ギィィィィィ……



バットマン「……何?」

バットマン(ひとりでに開いた?)




モードレッド「おっ、開いたな。じゃあ入ろうぜ」

バットマン「待て、罠かもしれない。ドクター、聞こえるか。内部のスキャンを……」

ドクター『もう済ませてあるよ。罠の類は見受けられない』

バットマン「成程……モードレッド、内部の物音は」

モードレッド「んー、あー……何も聞こえねえ。誰も居ねえと思うぜ」

バットマン「入るぞ。ジキル博士、私とモードレッドの間に」

ジキル「了解」

モードレッド「うし、行くぞ」ガチャッ


ドア「」バタンッ


表札『221B』




………………


スタ……スタ……

バットマン(……本当に誰一人居ない。とても静かだ)


ギシィッ‼

ジキル「うっ!?」ビクッ

モードレッド「あ、わりぃ。気ィ付けろよ、階段のここ軋むぜ」ギシ

バットマン「……」



バットマン(家の何処かで誰かが身じろぎする気配すらない。本当に無人のようだ……)





ジキル「……良かった、二階には十分なスペースがあるね。よし、回復薬と緩和剤の調合を開始する」

バットマン「頼んだ。こちらはマシュ達との連絡を試みる」

モードレッド「なんでも良いけど早くしろよ」

バットマン「お前は引き続き警戒を頼む」

モードレッド「はいはい……」





ジキル「……」チョポポポポ……キリン、カチャカチャ


ジキル(恐怖ガス……僕の不調は本当にそれだけだろうか。もっと根本的な何かに根ざしていないだろうか)プル……

ジキル(僕は何を怖がっているんだ。本当に恐ろしいのは一体何なんだ)

ジキル(ハイド? 殺人? それとも……)


ジキル「……」グググ……


ジキル(……人を、殺せない事か?)




バットマン「もしもし、マシュ。聞こえるか」ピッピッ


マシュ『あっ、マスター! ご無事でしたか!』

アンデルセン『いちいち声がデカいぞ盾女!!』

ナーサリー『あなたの方が大きな声よ、アンデルセン!!!』

フラン『ウゥ、ウ……』

ジャック『みんな五月蠅い、おかあさんの声が聞こえないよ』


バットマン「……全員無事なのは分かった。今どの辺りだ」




マシュ『あと数ブロック進めば植物園に到着します。先程から敵の様相が変わって……ホムンクルスが多く襲ってきています』

バットマン「そうか。こちらも同じような状況だった、今は家屋に間借りして回復薬と緩和剤の作成中だ。良いか、少しでも無理だと感じたなら即座に逃走するんだ」

マシュ『はい、了解しました! ……え? アンデルセンさん? 代わりたいんですか?』

バットマン「……?」

マシュ『え、えーっと……マスター。アンデルセンさんが少し話したいそうです』

バットマン「分かった。代わってくれ」





アンデルセン『もしもし、ブルースか。聞こえるか』

バットマン「もしもし、アンデルセン。何かあったか」

アンデルセン『気付いているとは思うが、戦力不足だ。分断された今、こちらの面子では火力不足に陥りやすい』

バットマン「……」

アンデルセン『加えて、バベッジの待ち伏せだ。奴らは植物園を守る気で居たらしい。あの機械紳士が敗れた今、更なる戦力を追加してくるだろう。このホムンクルス達はその前兆だ』

バットマン「……ああ、気付いている。だが進んでくれ。お前がブレインの役割を果たせば、不足の無い集団にはなれる」

アンデルセン『……お前、機械のようだと言われた事は?』

バットマン「回復すればすぐに追いつく、植物園で会おう。通信を切るぞ」

アンデルセン『ああ待て。ジャックが声を聴きたいと……』

バットマン「会ってから話すと伝えてくれ」ピッピッ





バットマン「ジキル博士、回復薬と緩和剤は……」

ジキル「……」

バットマン「……ジキル博士?」

ジキル「……え? あ、ブルース。大丈夫、回復薬は出来上がったよ。服用してくれ。緩和剤はもう少しかかる」スッ

バットマン「ああ……博士、疲れているのなら」

ジキル「いいや、大丈夫。……大丈夫だ」




モードレッド「らしくねーな、調合中に上の空なんてよ。なんかあったのか?」

ジキル「い、いや。何も」

モードレッド「ホントかぁ?」

ジキル「な、なんでもないって……」

バットマン「調合が終わってからにしてやれ、モードレッ……」



ギシィ‼

ジキル「!!」

バットマン「……」チラッ

モードレッド「……」コクッ





バットマン(階段が軋んだ。誰かが上がってきている)


バットマン「……」スッ

モードレッド「……」カチャリ

バットマン「……」


バットマン(回復薬を服用し、もしもの時に備える……)ゴク、ゴクリ……



ガサガサ、ゴソゴソ……

「フォウ、フォーウ!」

???「こら、暴れるな。全く、街中に面倒の種がたくさん転がってる……」

「フォウ、キュ、フォーウ!!」

???「……おや、参ったな。扉が開きっぱなしじゃないか、誰がこんな……な、だ、誰だ!?」

バットマン「……?」


バットマン(……一般人? ……それに、)

バットマン「フォウ?」

フォウ「フォウ、フォーウ!」タタッ





バットマン「失礼した、ミスター。我々は決して怪しいものではない……こちらへ来い、フォウ」

フォウ「……」テシテシ

???「怪しいものではない? よく言えたな、キミ、その恰好で!」

バットマン「……」

モードレッド「ははは、言われてやがる。ザマァねえでやんの」

ジキル「申し訳ありません、お邪魔でしたらすぐに失礼させていただきます」

???「いや……いや、まず君達は何者だ? どうやら、その獣とも知り合いのようだし」

フォウ「フォウ?」パタパタ

ジキル「……」

モードレッド「……」

バットマン「……」




???「いいか、こっちはこのふざけた霧の原因を調べるためにずっと駆けずり回ってたんだ。そこへこんな怪しい集団が現れたら、逃がさないのが普通だ」

バットマン「……ミスター、虚勢を張るものではない」

???「そうかな? 僕は元軍人だ。銃の扱いだって、慣れてるさ」カチャリ

バットマン「……」


バットマン(……少しでも情報が必要か)


バットマン「……分かった、話そう」

ジキル「ブルース」

バットマン「勝手に間借りしていたのはこちらだ。それに、彼は当事者だ……知る権利がある」

???「賢明だ。どうぞ話して」






………………

???「れ、レイシフトに……えー、特異点、それに……なんだ、カルデア?」

バットマン「そうだ。信じたか?」

???「……参ったな。僕の同僚が似たような事を言ってた……『今日は未来の分岐点だ』と。口からの出任せなら良かったが、そうは見えないし」

バットマン「では、こちらから出せる情報は以上だ。私はブルース。こっちがモードレッド、ジキル」

モードレッド「おう、このモードレッドに武器を向けるたぁいい度胸……」

ジキル「ヘンリー・ジキルです。よろしく」

モードレッド「まだオレが!! 喋ってるっつーの!!」

???「ああ、こっちこそ失礼。僕はジョン・ワトソン、軍医をやってて……なんというか、今は事件をまとめてるところかな。ああ、本業は医者だ」

バットマン「ジョン……ジョン・ワトソン? シャーロック・ホームズの、あのワトソン医師か?」




ワトソン「ああ、そうだ。キミも僕の小説のファンかい?」

バットマン「……」


バットマン(ジョン・ワトソン。コナン・ドイルの推理小説、『シャーロック・ホームズ』の語り手となる人物だ……確かに、物語の中では彼が全ての記録をつけていた設定になっていたが)


ワトソン「なら、前回の事件簿も読んでくれただろうね? 霧の中で、殺人鬼との追いかけっこ! なんと犯人は小さな子供だった……スリル満点、こんな事件の只中じゃなければ大うけだったハズさ」


バットマン(ジャックの事か……彼女が味方だとは言わない方が良さそうだ)


ワトソン「私はこれでも見たものを記録する能力に長けていてね、スコットランドヤードにもスケッチを送って大変貢献した……ええと、ここにも残っているハズだからキミ達の警戒のためにも一枚……」

バットマン「いや、良い。それよりもドクター、彼は……『シャーロック・ホームズ』は今、何処に居る?」




ワトソン「なんだ、やっぱり君達も依頼人だったのか! 残念だが、今彼はここには居ない。ロンドン中の資料を集めたり、面倒の種を摘んだりで大忙しだ」

バットマン「資料を?」

ワトソン「ああ、いや、この霧の原因を調査するためにね。彼が言う事には、『この霧がひとつの事件で完結するハズがない。背後にもっと大きな陰謀があるハズだ』と。ははは、毎度常人には及ばぬ思考を働かせる男なんだ」

バットマン「……そうか」

モードレッド「ハッ、変人ってヤツか」

ワトソン「うむ、我が友ながら否定できないな。……ああいや、待て。そういえば、妙な連中に会ったらこれを渡せと言われていたな」ゴソゴソ……スッ

バットマン「……? これは?」パシッ

ワトソン「さあ。何やらびっしりと書かれているが、私には何のことやらサッパリだ。だけど、必ず渡せと」





紙切れ『潜入して盗み聞いたところ、やはり彼は既に死んでいる。では奴はどのようにして十の指輪を操るのか?
アトラス院にて待つ S・H』

バットマン「……」

ジキル「潜入して、……なに?」

モードレッド「縦読みだ。知ってるぞ、そうなんだろ?」


バットマン(奴。彼。十の指輪)


バットマン「……成程、理解した。燃やして構わないな」

ワトソン「え? あ、ああ……構わないが、理解できたのか?」

バットマン「キミ達の持っていないピースを丁度私が持っていた。それだけだ」ボゥッ





モードレッド「おい、どういう意味だ? これが分かったのか?」

バットマン「ああ、分かった。尤も、彼も分かっていて敢えて私に問うたのだろう」

ワトソン「あー、シャーロックが? つまり、どういう事なんだ?」

バットマン「……つまり、」


通信機『マスター! マスター、救援を……っぐ!?』ザザザッ

バットマン「……!!」

ジキル「今のは……!」




バットマン「すまないミスターワトソン。邪魔をした。ジキル、恐怖ガス緩和剤の摂取は完了したか?」

ジキル「ああ。いつでもいける」

ワトソン「まっ、待て。どういう事だ、何が起きている?」

バットマン「……説明は、いずれ彼がするだろう。さらばだ」ダッ

モードレッド「邪魔したな!!」ダダッ

ジキル「失礼します」タッ

フォウ「フォウ、フォーウ!」ピョンピョーン





シーン……

ワトソン「……」

ワトソン「……ええいっ、じっとしていられるか! どうしてどいつもこいつも蚊帳の外に置いておこうとするんだ!」

ワトソン「えぇーと、銃、ステッキ……トップハット、良し!」

ワトソン「待っていろよ、私だってシャーロックに及ばないまでも、真実に対する探求心はあるとも! ハドソンさん、出かけます!」ドタドタ


シーン……


ワトソン「……ああ、居ないんだった。ええいもう!」ガチャリッ


ドア「」バタン‼





…………十数分前……


マシュ「ふう、ホムンクルス達は予想外でしたが……思ったより楽に突破できましたね。そして、アレが」

アンデルセン「ああ、アレが植物園だ。おい、へっぽこドクター」

ドクター『……あれ、もしかしてそれって僕の事? だとしたらショックなんだけど!?』

アンデルセン「お前以外に居るか。植物園の内部をスキャンできるんだろう、やってくれ」

ドクター『ぐぅ……分かったよ、やるよ……はいはい、内部に魔力反応はなし。探してる植物は奥の方にあるみたいだ』

アンデルセン「成程な。良いだろう、マシュ、フラン、俺の前に立て。ジャックとナーサリーは俺の後ろだ。行くぞ」




………………


マシュ「……」コツ、コツ


マシュ(この建物、曲がり角が多い。障害物が多すぎて、敵に隠れる場所を与えてしまう)

マシュ(……それに、嫌な予感がする。何か、凄く嫌な予感が……)


アンデルセン「おい、マシュ! こっちだ、目当ての植物を見つけたぞ!」

マシュ「あ、はい! 今行きます!」


マシュ(考えすぎ……なのかな)




ジャック「……うーん、これ? あんまりきれいなお花じゃないね」

ナーサリー「そんな事はないわ、どんなお花も綺麗になれるの」

アンデルセン「全く……! 無駄口を叩かず少しでも採集に精を出せ!」ブチブチ

フラン「うるさい……」ブチブチ

マシュ「……」ブチブチ


マシュ(……何かがおかしい。何か……恐怖ガスを受けてから、思考が鋭敏になってる。たとえば)

マシュ(さっきから、どうしてスイレンの水面にさざなみが立っているんだろう)






マシュ(水面の近くには……通気口だ。金網にはボルトが外された痕がある)

マシュ(ダクトは上に続いてる。何処に出るんだろう? さっきから感じるこの違和感は何?)


(((運などない。だが策略は存在する)))


マシュ(……マスターなら、どう考える? この違和感……偶然? それとも、)



ドクン


マシュ(外された金網。波立つ水面。罠ひとつない植物園。私達でも突破できたホムンクルス)


マシュ「皆下がって!!! 攻撃下です!!!」ババッ

アンデルセン「っ!!?」ババッ

フラン「!!」ザザァッ‼

ジャック「!」タンッ、トトッ

ナーサリー「きゃ!?」ヨロ、タタッ


ガッシャァァァァァァァァァァン‼






霧「」ズォォォォォォォオ……


???「フフフハハハァ……少しは賢い者が居たようだ」

???2「慢心はなりませんよ、ジョナサン。彼らはバベッジを打倒した」

スケアクロウ「ンフフフフフフ……期待しておこうじゃないか、なあ、パラケルスス。彼らは恐怖に抗えるかな?」


アンデルセン(……B・P・M・Sの内の二人! スケアクロウ、パラケルスス!!)


アンデルセン「手に余る」

マシュ「マスター! マスター、救援を……っぐ!?」ガギィン‼

スケアクロウ「ヒャハハハハ……練られた動きだ、女ぁ!」ヒュンヒュンッ

マシュ「くぅっ……!?」ガガッ、ガギィィ‼




マシュ(鎌。中距離の武器……近寄れない。私が苦手とする武器)ガィン‼ ガギィン‼


ジャック「たぁっ!!」タンッ


水「」ギュギュ、ズォッ‼


ジャック「!!」

ナーサリー「ジャック危ないっ!!!」バッ

ジャック「くっ……」ドドッ、ゴロゴロッ

パラケルスス「おや、躱しましたか。この一撃で一人は持って行くつもりでしたが、なかなか思うようにいきませんね」

ナーサリー「あなた……!」

パラケルスス「私はパラケルスス。元素を操る魔術師。どうぞお見知りおきを」


アンデルセン(……ブルース達はベイカーストリートへ出た。ここへ来るまでにかかる時間は……15分、20分。間に合わん、確実に俺達が殺されている)




アンデルセン「戦いをやめ、交渉する気は?」

マシュ「あ、アンデルセンさん?」

フラン「ウゥ……?」

パラケルスス「……?」

スケアクロウ「耳を貸すな、パラケルスス!!」

パラケルスス「逸ってはなりません、ジョナサン。……交渉ですか?」

アンデルセン「俺達は、仲間の内で最も強い連中の情報を売る。そいつらはここには居ない」

マシュ「な……! 駄目です!!」

アンデルセン「黙っていろ! 今ならおまけで、俺の命もくれてやる。さあどうだ、のるか、そるか」

ナーサリー「駄目よ! 絶対にダメ!! 切り抜ける方法があるハズよ!」

アンデルセン「……」




アンデルセン(いつもながら、子供の理想論だ。切り抜ける方法などない。マシュ、フランも薄々それに勘づいている。俺達は、勝てん)

アンデルセン(モードレッドやブルースが居れば違っただろうが、奴らは今、ここには居ない。ああクソ、ないものねだりはガキの思考だ!)

アンデルセン(あとはどうなるか。フラン、マシュ、ジャック、ナーサリーをどうにかしてこの場から逃がせないか。こいつらがどれほどの脅威として認識されているかにもよるが……)


パラケルスス「……」

スケアクロウ「……」






パラケルスス「……気高い行いですね。ですが、……面白い話を、して差し上げましょう」

アンデルセン「……?」

パラケルスス「恐怖ガスが変えてしまった人の中には、アナタのような勇気ある人も居た」

スケアクロウ「パラケルスス!!」

パラケルスス「言わせてください、ジョナサン。……恐怖を経験し、彼は変わってしまった。勇気は打ち砕かれ、絶望と攻撃性のみが残った」

スケアクロウ「……」

アンデルセン「……」

パラケルスス「彼が最期に何と言ったか、知りたいですか? 『あぁ、神様』、それだけです。自分のしたことを認識した彼は自殺した」

アンデルセン「……」

パラケルスス「人間は弱すぎる。いともたやすく変化し、自分がそれに耐えられない。悪に染まった魂を、善良な心は直視できない」

スケアクロウ「……」

パラケルスス「……失礼しました。ではやりましょうか、スケアクロウ。終わらせる」





アンデルセン(やはり話など通用せんか!)


アンデルセン「クソ!!」ババッ、ギュォォォォォッ

スケアクロウ「フン、効かないぞ!」ガギギィィィ、ヒュォンッ‼

マシュ「たあっ!」ガギィン‼

スケアクロウ「小娘、邪魔だァ!!!」ヒュンヒュンヒュンッ



パラケルスス「心苦しいですが、新たな世界の礎となって頂きます」パパパパッ、ギュゥゥゥゥゥ……

ナーサリー「迂闊に近付いちゃ駄目、嫌な感じがするわ!」

ジャック「く……」ジリッ

フラン「ウゥゥ……」ジリジリ


パラケルスス「土、水、火。これで十分でしょう」ボボボボボォォォォッ‼

ナーサリー「!!!」ギュギュギュオッ、


ドドドドォォォォォォォォ……




フラン「う、ウゥ……!」ゴロゴロッ

パラケルスス「……おや、アナタは……?」

フラン「……」ムクリ

パラケルスス「……ホムンクルスではない? ですが、真っ当な人間でも、サーヴァントでも……」

フラン「ウゥァ!!」バチバチバチバチィ‼

パラケルスス「……」ギギィィィ、パァン

フラン「……!!」ブォンッ

パラケルスス「……成程、アナタも作られた存在でしたか」ガギィィィィィ‼

フラン「アァァァァァ!!」ギリギリギリィ

ジャック「やあっ!!」ダダンッ、ギュォォォッ

パラケルスス「遅い」パシ、ブォンッ

フラン「ぐ……!?」ドシャァッ

ジャック「うわ!?」ドシャシャッ




スケアクロウ「ヒャハハハハハハハ! 脆いものだな!!」ヒュンヒュンヒュンッ

マシュ「くっ……」ギギィン‼ ギュリィン‼

アンデルセン「マシュ!」ギュギュオォォォオッ‼

スケアクロウ「効かないと言ったハズだぞ!」ギャァン‼

マシュ「たあっ!」ブォンッ

スケアクロウ「のろいわ!!」タタッ

マシュ「……ふー……」ジリッ



マシュ(苦手な中距離戦。素早い相手。油断すれば恐怖ガスの濃縮液を注射され、戦闘不能)

マシュ(……認めるしかない。苦手な局面だ。でも、だからこそ……)

マシュ(何度もイメージトレーニングしてきた)



マシュ「……」スー……

スケアクロウ「……?」


スケアクロウ(なんだ、この雰囲気の変わりようは……まるで、これは……バットマン?)




スケアクロウ「こざかしい! 私の動揺を誘うつもりだったか、残念だったな!!」ヒュンヒュンヒュンッ

マシュ「……」ガギガギガギィ‼ ギィン‼

スケアクロウ「私には恐れるものなど何もない! もはやバットマンでさえ、私の恐怖ではないのだ!!」ヒュンヒュンッ

マシュ「……」ギギギィン‼

スケアクロウ「死ね! 死ね、小娘!!」ババッ、ヒュゥンッ

マシュ「……!!」ダンッ、ジリリッ


スケアクロウ「!!!」ドクン


ドクン……


スケアクロウ(この間合い。この構え。繰り出した鎌は戻せない)ドクン

スケアクロウ(この、小娘。いや、コイツは……私が想像していたより、はるかに)ドクン、ドクン


マシュ「はああっ!!!」ダダンッ、ゴォッ

スケアクロウ「ぐうわああああ!?」ドゴォ、ゴシャシャシャシャシャシャァ……




アンデルセン「……なんだと、驚いた」

マシュ「はーっ、はーっ……」ジリッ


マシュ(相手の全ての行動を予測し、瞬時に対応策を立てる。防御から反撃に転ずる隙を意図的に作り出す)

マシュ(言うのは簡単ですが、脳への疲労蓄積が……マスターはこれを毎回やっているんですか……)ヨロ



パラパラ……


スケアクロウ「貴様、貴様ァ……!!」ヨロ、ヨロ

マシュ「次で終わりです、スケアクロウ!」

スケアクロウ「黙れ! まだコレがある!」バッ、プシュッ

マシュ「……!?」


マシュ(注射針を……自分の心臓付近へ、刺した!?)




パラケルスス「!! スケアクロウ、それはまだ時期尚早です!」

スケアクロウ「ク、ククク、式の組み立ては既に済んでいる。あとは実験だけだ……私は研究に献身的なのだ」ググ、ググググ……

マシュ「どういう事ですか!? 何故自分に恐怖ガスを……!?」

スケアクロウ「ククク……恐怖にかられただけで全てのヒトが狂暴になると思ったか? 否、否、全くの間違いだ! 私は人の凶暴性を引き出す成分も含めていた! そして、これが!!」

空の注射器「」カラン……

スケアクロウ「はははハはハハハハ!! 終ワりだ、嘆くがいい! 怯えルがイイ!! 我こそはスケアビースト! 恐怖ノ化身! 恐怖と暴力の象徴だ!!」ググ、ググググググ……

マシュ「……な……」

スケアビースト「……ぐ、グググ……」シュゥゥゥゥゥゥゥ……


スケアビースト「……フシュルルルル……」ズオォォォォォォ……



ナーサリー「……なんてこと、あれじゃあまるで童話に出て来るモンスターそのものじゃない……」

ジャック「……おおきい」

フラン「ウゥ……」


アンデルセン「……これは」


マシュ(勝てる? いや、厳しい。使える環境も少ない)


スケアビースト「アァァァァァァァァァァァグォォォォォオォ!!」ブンッ

マシュ「っ!!」ガギィィィィィ‼


マシュ(速く、重い! 危険すぎる!)




アンデルセン「こっちだデカブツ!」ギュギュギュオォォオッ

スケアビースト「……」ドドドッ……シュゥゥゥゥゥ……

アンデルセン「……クソ、弾かれてばかりだな! やはり俺に戦闘は無理か……!」

スケアビースト「グググ……」ブォンッ

アンデルセン「うお!?」ババッ

マシュ「そこ!!」ブォンッ

スケアビースト「……」ガシッ、ドゴォ

マシュ「あぐっ……!?」ドシャシャシャ……

スケアビースト「グルロォォォォォォォオォアアア!!」ダダンッ

ナーサリー「え? きゃっ!?」

ジャック「あぶないっ!!」ダンッ、バッ

ナーサリー「うッ」ゴロゴロッ




フラン「ウゥゥゥゥゥアアアアア!!」バチバチバチ、ブォンッ

スケアビースト「……」ガシッ、ドッシャァァァァァ‼

フラン「うぁ……!?」ゴシャッ、ゴロゴロ……

スケアビースト「……ぐ、グググ。死ネ、小娘共……」ドシ、ドシ

パラケルスス「……」


パラケルスス(……味方とはいえ、迂闊に近寄らない方が良さそうですね。今のアレはジョナサンではない)


マシュ「っ!」ダダッ、ザザァ‼

スケアビースト「…………!!」グググ、ググググ……





スケアビースト「ハァァァァァァァ……」フシュルルルルルルル……

マシュ「……!?」ジリ


マシュ(なに、これ……吐息? 黄色い、吐息が……)


マシュ「!!!」


マシュ(不味い……これは、恐怖ガスの、濃厚な……!)


マシュ「……、」ヨロ、





アンデルセン(しまった!!)タタタッ


マシュ「……」グラリ、ドサッ

スケアビースト「……死ネ……」グググッ


アンデルセン「マシュッ!!!」ダンッ、バッ

スケアビースト「グルォア!」ブォンッ、ゴシャァ‼

アンデルセン「うぐあ……!?」ゴシャァァァァ……





パラケルスス(致命打)


アンデルセン「……か、はっ……」プル、……


アンデルセン(クソ、全滅か……!? いや、まだ可能性はある!!)


アンデルセン「……なー、さりー、ナーサリー」ヒューッ、コヒューッ

ナーサリー「う、うぅ……あ、アンデルセン!?」ムク、タタッ

アンデルセン「ナーサリー、聞け、いいか……」




ナーサリー「どうして、なんで、なんで貴方まで」

アンデルセン「いいか、ナーサリー、聞くんだ。お前の、結界でここを覆い、ブルース達の到着まで、持ちこたえさせるんだ」シュウシュウ……

ナーサリー「いや……いや! できる訳ない、できない! なんで私をおいていくの!? また、これじゃあまた、偽物のお話になっちゃう……!」ポロ……

アンデルセン「ナー、サリー、いいか。できるわけがない、とか、無理とか、いうのは、汚い大人の言い訳だ。お前は子供の夢だ。ひとつひとつが、本物なんだ」シュウシュウシュウ……

ナーサリー「……!!」

アンデルセン「……頼めるな、ナーサリー」

ナーサリー「……」……コク、コクコク

アンデルセン「なら、良いんだ。ああ全く、ガラではなかった……」シュゥゥゥゥゥゥ……




スケアビースト「……」ドシ、ドシ

ナーサリー「……」ボソボソ……

パラケルスス「……?」


ナーサリー「……白黒マス目の王様ゲーム……走って走って鏡の迷宮」


パラケルスス(……)ピクッ

パラケルスス「スケアビースト!」

スケアビースト「!!」ブォンッ

ナーサリー「みじめなウサギはさよならね?」グシャアッ


カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ


パッ




パラケルスス「……? ここは……」


スケアビースト「……」ドシ、ドシ

ナーサリー「……」ボソボソ……

パラケルスス「……?」


ナーサリー「……白黒マス目の王様ゲーム……走って走って鏡の迷宮」


パラケルスス(……なんだ、今のは……? 確かに殺したハズ)

パラケルスス「スケアビースト!」

スケアビースト「!!」ブォンッ

ナーサリー「みじめなウサギはさよならね?」グシャアッ


カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ


パッ



スケアビースト「……」ドシ、ドシ

ナーサリー「……」ボソボソ……

パラケルスス「……!?」

ナーサリー「……白黒マス目の王様ゲーム……走って走って鏡の迷宮」


パラケルスス(どういう事だ。何が起きている。これは。これは、何だ)

パラケルスス「スケアビースト! 急ぐのです!」

スケアビースト「!!」ブォンッ

ナーサリー「みじめなウサギはさよならね?」グシャアッ


カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ


パッ




スケアビースト「……」ドシ、ドシ

ナーサリー「……」ボソボソ……

パラケルスス「時間を繰り返すとでも……何度もさせるものか!!」ギュギュオォォォッ


ナーサリー「……白黒マス目の王様ゲーム……走って走って鏡の迷宮」パパァン

パラケルスス「何……!」


パラケルスス(弾いた……? 今の攻撃を弾かれたら、ここからでは、何の攻撃も……)


スケアビースト「……」ブォンッ

ナーサリー「みじめなウサギはさよならね?」グシャアッ


カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ


パッ




パラケルスス(馬鹿な)

カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ

パッ


パラケルスス(馬鹿な。こんな事が)

カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ

パッ

パラケルスス(これでは倒せない。逃げられもしない)

カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ

パッ

パラケルスス(刻一刻と、理想が遠のいて行くというのに……!!)



カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ

パッ




………………


ドクター『……ブルースくん、急いでくれ。アンデルセンの魔力反応がロストした』

モードレッド「……」ダダダ……

ジキル「……」タッタッ

バットマン「……了解した」ダッダッ


バットマン(待っていろ、今向かう……!)ダッダッ



看板『王立キュー植物園 この先2ブロック』


今回の更新はここまでです。お付き合いいただきありがとうございました

復活してた……!?
しょしょしょ少々お待ちを、別に油断してたとかそういうのではないので……!!

sage忘れてたすんません!!!


………………

バットマン「……これ、は……植物園のハズだが」

フォウ「フォーウ……」ピコピコ

ジキル「結界で覆われてるね。ちょっとやそっとでは壊れないモノだ。この性質、時間も分断してるのか……?」

モードレッド「ブラックボックスってか。この感じ、多分ナーサリーのヤツだな……どうする?」

バットマン「ドクター、この結界に入る方法は?」ピッピッ

ドクター『通常なら入れない……けど、マシュが持ってる通信機が中継の役割を果たしてて……えーと、端的に言うとブルースくん、キミだけが入れる』

バットマン「成程」



バットマン「では、私が先に行く。二人は結界が解けた後に来てくれ」

モードレッド「おう、分かったぜ」

ジキル「分かった。……気を付けてくれ、ブルース」

フォウ「フォウ、フォーウ!!」パタパタ

ドクター『本当に気を付けてくれ。その結界の中は、繰り返された時間のせいで座標も時流も滅茶苦茶だ。正直、キミを送り込むのだって……』

バットマン「必ず戻る、ドクター。マシュの観測を続けてくれ。私はそこへ辿り着く」

ドクター『……頼んだよ。……僕、卑怯な立場だな、ホントに』

バットマン「最も苦しい立場だ。……行ってくる」ズォォォォォォォォォォォ……




………………


所長「……」ジッ

ドクター「……」チラッ


ドクター(所長は……あのお茶会以来、取り乱す事が少なくなった。今、ブルースくんが結界の中へ入っていったのだって……いつもなら、必死で止めてた)

ドクター(でも、今は落ち着いてる。いや……落ち着こうと、してる)


所長「何よ」

ドクター「い、いいえ!」


ドクター(……やっぱり、マシュへの態度が普通になったのと関係してるのか)




職員A「……ブルースさんの肉体、観測順調……結界のはざま、虚数空間へ移入開始。肉体を存在防護式で覆います」カタカタ、カタカタ

職員B「電子機器の稼働式にIF欄を追加。非存在の存在特定を開始」ピッピッ

職員C「シバのレンズを一枚、虚数空間の観測にあてます。角度調整」カタカタ、タンッ


ドクター「……レオナルド、そっちは?」

レオナルド「んー? 順調だ、機器に異常なし。……そっちはどう?」

ドクター「ああ、こっちにも異常はない。……うん、順調だ」

レオナルド「そうか。……キミ自身はどうだい、ロマニ?」

ドクター「僕? なんで僕が……」


ドクター(……)





ドクター「……あぁ、ダビデの事かい?」

レオナルド「……」

ドクター「そうだな、僕たちのサポート不足もあっただろうね。ベインとかいう化け物も出て来たらしいし、消えたのも、仕方ない。割り切ってるよ」

レオナルド「…………」

ドクター「……確かに、ちょっと言い過ぎたけど、それだけだ。サポートに戻るよ」

レオナルド「……」


レオナルド(素直じゃないよなぁ、カルデアの面子って)




職員C「……ま、待ってください。おかしい、計器の故障……いや、これは……」

レオナルド「どうした?」

所長「まず報告をしなさい」

職員C「きょ、虚数空間内に魔力反応を観測しました!」

ドクター「何? 虚数空間の、中にだって?」

職員C「機器の誤作動……いえ、反応がどんどんブルースさんに近付いています! これは……!?」

ドクター「くっ、ブルースくん! 聞こえるか、ブルースくん!?」





………………

バットマン「……」


バットマン(また、この空間か……土の橋じみたものが、闇の奥までずっと続いている)

バットマン(闇の中には、ばら撒かれたような光の粒たち。星々。……時流に流された時の事を思い出す……)


(((おとう、さん……おかあさん……)))


バットマン(……進み、先に待つものを確かめる)


バットマン「……」スタスタ


通信機『』ザザザ……ザザザザ……




バットマン「……」スタスタ

バットマン「……」スタスタ……ピタッ


ダビデ「……」


バットマン「……ダビデ?」





ダビデ「ん? おや、キミもここに? 流された……ワケじゃ、無さそうだな」

バットマン「何をしている? 何故……いや、確か、以前も……」


バットマン(そうだ。以前も、消滅したサーヴァントがここに……)


ダビデ「はは、『絆』がロープみたいになってるのかな。また会えて嬉しいよ」

バットマン「……ああ。……すまない。ベインに対抗もできず、お前を失った」

ダビデ「会って早々に雰囲気を暗くしようとするな!? いや、キミらしいけど……良いのさ、後悔はない。進もうブルース、そのために来たんだろう?」

バットマン「……ああ」




バットマン「……」コツ、コツ

ダビデ「……正直、キミが時流に流されないのはおかしいと思ってる。精神が強靭だと言っても、限度があるからね」テクテク

バットマン「……?」

ダビデ「あー、つまりだ。キミの精神や肉体は、とある目標に引力じみて引き付けられているんだ。とても大きな目標だ」

バットマン「目標……」

ダビデ「うん、そうだ。信念と言い換えても良いかもしれない。……言わずもがな、かな? 多分、マシュだね」

バットマン「……」





バットマン「私が、マシュに……」

ダビデ「ははは、あくまで予測の話だよ。でも、キミ、彼女が大事だろう?」

バットマン「ああ。私は彼女が大切だ」

ダビデ「それは、ある意味では、世界の理を超えた思いの強さだ。……ブルース、確認をしておきたい。野暮な事でも、残酷な事でも。これは僕の役目だと思うから」

バットマン「何だ」

ダビデ「キミは、世界が滅んでも……彼女を助けたいと思うかい?」





バットマン「世界が、滅んでも……?」

ダビデ「うん。世界と彼女を秤にかけた時、彼女を助けるかい?」

バットマン「……」


バットマン(考えた事は、あった。何度もその瞬間はシミュレーションしてきた。その選択の瞬間、私自身が冷酷であれるように。最善の選択を行えるように)

バットマン(マシュだけではない。所長も、ドクターも、レオナルドも、職員達も……全員だ。全員を、秤にかけ続けて来た)


ダビデ「ああ、うん。分かった」

バットマン「……まだ何も答えていないと思うが」

ダビデ「その沈黙が答えみたいなものさ……」




ダビデ「そうか。良かった」

バットマン「何がだ」

ダビデ「キミをマスターに持てて良かったって事さ。全く、キミって性急だって言われた事無いか?」

バットマン「……」

ダビデ「あるんだ……その誰かさんも苦労してるね。こりゃこの先大変だ」

バットマン「……悪かった」

ダビデ「別に謝れとは……あぁほら、着きそうだ。僕はここでお別れだね」

バットマン「……必ず世界を、」

ダビデ「救え、とは言わないさ。ただ、自分で考えて欲しい。自分のために戦えないヤツが、世界を救えるハズもないしね……そうだろ、ブルース?」

バットマン「……恩は返す」

ダビデ「カッタいなぁ!!」




………………

バットマン「……」スタッ

バットマン(あの妙な空間を抜けた。ここは……植物園内部か)キョロキョロ


空間「」グニャァァァ……

空間「」バチッ、バチチッ‼


バットマン(……急がなければ。良くない事が起きているようだ)スタ




ドシ、ドシ……


バットマン「……」スッ


スケアビースト「……」ドシ、ドシ

ナーサリー「……」ボソボソ……

パラケルスス「くっ……」ジリッ



バットマン(マシュ、ジャック、フランは倒れている。ナーサリーは何かを詠唱中……アンデルセンは、居ない。間に合わなかったか)チラ

バットマン(敵対しているのは、スケアビーストと……白衣の男。十中八九『B・P・M・S』の一人。成程、ナーサリーの能力に賭けたかアンデルセン)

バットマン「……さてどう救出するか」




スケアビースト「……」ドシ、ドシ


バットマン(このままではナーサリーが殺される。だが私一人飛び出したところで、叩き潰されて死ぬのがオチだろう)

バットマン(経路を算出。モードレッドがこちらに辿り着くまでの最短時間、最長時間それぞれの計算。そして時間稼ぎ……久々に搦め手と行くか)プシューッ……

バットマン(……)シュポッガシッ、ギュィィィィィィィィッ





………………

パラケルスス(あれから何分が経過した? いや、何時間? 分からない。ただひとつ言えるのは、敵の増援は確実に到着しているであろうという事……)

パラケルスス(ナーサリー。油断していた。まさかここまで、てこずるとは……まだ計画は最終フェイズに入っていない)

パラケルスス(スケアビーストには言葉も通じない。……申し訳ありません、マキリ。私の、迂闊……)


ドドォン……‼

スケアビースト「……!?」

ナーサリー「っ」

パラケルスス「何の音だ!?」





 植物園二階から突如響いた爆音に、その場に居た全員の視線が飛んだ。その隙に、倒れていたジャックがまず闇に引きずり込まれた。

「一体……」

 ナーサリーが呟き、しまったと口を抑える。詠唱が途切れた。ブラックボックスじみた結界が解除されている。つまり、もう、時間のループは行えない……

 その事実に、次いでパラケルススが気付く。今の爆音が何であろうが、チャンスだった。即座に行使された魔法、炎が飛び出しナーサリーを狙う。スケアビーストがそれに追従するかのように飛び掛かる。

 が、更なる破壊音が響いた。パラケルススは構わず攻撃を続けようとし……おのれの迂闊を、またしても呪った。破壊されたのは、二階の足場の、片方の留め金。振り子運動に乗り、破城槌じみて、パラケルススへ足場が追突した。

「っぐぅ……!?」


 吹き飛び、転がるパラケルスス。スケアビーストが思わず振り返る。その瞬間、さらに闇から腕が伸び、今度はマシュとフランを二人引きずり込んだ。


 ナーサリーはハッと後ろを振り返る。闇から歩み出る者があった。それは夜に混じるコウモリのように、瞳だけを光らせ、じわりと染み出すようであった。

「よくやった、ナーサリー」

 いかつい見た目に反し、優しい声がかけられる。ナーサリーは安堵と、重圧と、悲しみが一気に胸の中で爆発するのを感じ、大粒の涙を流しながら声を上げる。

「ご、めんなさい、アンデルセンが、アンデルセンが……」
「分かっている。大丈夫だ」

 大丈夫ではない。だが、ナーサリーは安心してしまう自分の不甲斐なさに更に涙をこぼす。スケアビーストが振りむき、口から黄色いガスを漏らしながら唸る。

「バァァァァァァァァット、マン……!!」
「待ちかねたか、スケアクロウ。来たのは私だけではない」

 バットマンが言い放つのと同時、怒れる闘牛じみた豪快な足音が廊下から響き始める。パラケルススは起き上がりながら、それを見る……全身から殺気を放ち、大股で駆けて来るモードレッドを。


「吹っ飛ばしてやらァ!!」


 彼女は叫び、剣を抜き放った。その刀身を赤いスパークが走った。





モードレッド「死ねェ!!」グオォォッ

スケアビースト「!!」ガッ、ギリギリギリギリィ‼

モードレッド「……随分好き勝手やってくれたみてえだな、オレの仲間に……」ギリギリギリギリ……

スケアビースト「グルォァ……」ギリギリギリギリ……フシュゥゥゥゥッゥ……

モードレッド「うっ、なんだこいつ、ガス吐きやがった……!?」

バットマン「吸うな! 恐らく高濃度の恐怖ガスだ!」

モードレッド「おせえよ! 吸っちまったぞ……ぐぅっ、ふらつく……」

バットマン「チィッ」シュパパパッ


バットラング「「「」」」ヒュオォォォォォォッ


スケアビースト「!!」パシシィ‼




モードレッド「っ、クソッタレがァっ!」ブォンッ

スケアビースト「ガアッ!?」ドサァッ、ゴロゴロ……

モードレッド「くっ……ちくしょう、俺に近付くんじゃねえ……」フラフラ

スケアビースト「ぐっ、くっ……」スルスルスル……

スケアクロウ「……ぐぅぅぅ……」グッタリ


パラケルスス「しまった……!」


パラケルスス(スケアビーストの維持時間が限界か……! 形勢も最早逆転、逃げるしかない!!)




パラケルスス「スケアクロウ! 撤退です、このまま理想を潰えさせるわけにはいかない!」

スケアクロウ「……行け……置いて……行け」

パラケルスス「何を馬鹿な……!」ガシッ、グイッ

スケアクロウ「……」グッタリ


バットマン(逃げられる)

バットマン「ナーサリー、追撃を行えるか!?」

ナーサリー「魔力が、足りなくて……!」

モードレッド「……クソ……! クソ、俺から……! 俺から、離れろォォォォォオオォォォ!!」ギュィィィィィィィィィ‼


バットマン「何を……!」

バットマン(まさか、宝具を発動しようとしているのか!?)




モードレッド(大丈夫!! 大丈夫だ!! オレは平気だ……! 平気だ! 吹き飛ばす! 父上……違う、敵を! 今の敵に集中しろ!)

モードレッド(今、戦場から逃げる腰抜けが敵だ! 逃がしてたまるか! 吹き飛ばす! ツケを払わせる! フラン達にやった事を償わせてやる!)


モードレッド「離れろブルース!! 撃つぞ!!」ギュイィ、グォォォォオォォォォオォォ

バットマン「……!! 伏せろナーサリー!!!」ガバッ

ナーサリー「きゃっ!?」


モードレッド「『我が麗しき父への叛逆』(クラレント・ブラッドアーサー)!!!」ギュガガガガガァァァァァァァァァァァァァッ‼






パラケルスス(計算、通り)ニヤリ


バットマン「……!?」



パラケルスス「その宝具、頂きます。『元素使いの魔剣(ソード・オブ・パラケルスス)』」ギュォォォォォォォォォォォッ‼

短剣「」パキ……パキィ……

パラケルスス「霊子解析……侵食、完了」キィィィィィィ……ン


モードレッド「馬鹿な、止められた!?」

バットマン「モードレッド、かわs……」


パラケルスス「『我が麗しき父への叛逆』(クラレント・ブラッドアーサー)」ドガガガガガガガガガガガガガァァァァァァッ‼





パラパラ……

パラケルスス「……ふぅっ、これで逃げる時間は稼げたハズ」

スケアクロウ「……下ろせ、パラケルスス。一人で歩ける……」

パラケルスス「スケアクロウ、回復しましたか。共に施設へ戻りましょう、我らの理想にはいささかの揺らぎも……」

スケアクロウ「いや、無理だ。バットマンが来た……バットマンが、来た。最善策を取らなければ、終わりだ」

パラケルスス「……」

スケアクロウ「ここで分かれて、混乱させる。お前は戻れ、パラケルスス。私は、別の方向へ行く」

パラケルスス「……そこまで恐ろしい相手なのですか、あの男は」

スケアクロウ「どんな窮地でも乗り越え、我々を止めに来る。行かなければ……少しでも、理想の世界の可能性を上げねば」

パラケルスス「……」




パラケルスス「……私は」

スケアクロウ「……」

パラケルスス「私は貴方を、心から尊敬します。同志スケアクロウ」

スケアクロウ「尊敬は要らない。お前達の理想を作るがいい」

パラケルスス「……さらばです、スケアクロウ」ダッ

スケアクロウ「フン……」





スケアクロウ「……」


スケアクロウ(……そうだ。世界の本質は今見ている、霧がかった恐怖のるつぼであるハズなのだ)

スケアクロウ(奴らがその目に宿す強い希望など、所詮はまやかしに過ぎない)

スケアクロウ(世界は終わる。私は、奴らの『理想の世界』とやらには行かない。ここで死ぬ)

スケアクロウ(ありったけの恐怖と共に、死ぬのだ。真理を見た私に、後悔など無い……)


スケアクロウ「……そうだ、最初からそうだったのだ……」ヨロヨロ






………………

バットマン「モードレッド、無事か!!」ダダッ

モードレッド「……ぐっ、大丈夫だから、近寄るんじゃねえ……」グッタリ

バットマン「傷の様子を見せろ」ガシッ


バットマン(……宝具の跳ね返しを受けたが、鎧が殆ど受け止めている。うまく受け流したようだ)


モードレッド「俺はいい、クソ、追わねえと……!」グ、プルプル……

バットマン「ああ、すぐに追う。……マシュ達の様子も見なければ……」

ジキル「みんな! ようやく見つけた……!」タッタッ

フォウ「フォウ、フォーウ!!」テテテ

バットマン「ジキル博士、フォウ、無事だったか」

ジキル「置いて行かれて、ずっと彷徨ってたんだ……! この中迷路みたいだし!」ゴホッゴホッ

フォウ「フォウ、キュ、フォーウ」パタパタ




ジャック「おかあさん! おかあさん!」タタッ

フラン「う、ウゥ……!」ムクリ

マシュ「……マスター?」フラフラ


バットマン「起きたか。ダメージはどれほど受けた?」


ジャック「ぜんぜんへいきだよ!」

フラン「問題、ない……」

マシュ「……ガスを吸ってしまいましたが、戦えます、私は大丈夫です」


バットマン「よし。ならもう一度役割ごとに再編成を……」

ドクター『もしもし、ブルースくん! 大変だ、霧の中の魔力反応を追跡していたんだけど……二手に分かれた!』

バットマン「何だと?」





バットマン(……流石に真っ直ぐ帰るほど油断しきってはいないか。ならば……)


バットマン「予測進路をレーダーに表示してくれ。二手に分かれて追う」

ジキル「な……それは、無茶じゃないか!?」

バットマン「やらなければ、ジキル博士。このまま振り回され続ければ、奴らの方が準備を整えてしまうだろう。奴らが何をするつもりにしても、我々は敵に時間を与え過ぎた」


バットマン(そう、時間を与え過ぎた。嫌な予感がする。妙に素直に引いて行ったベインも、油断できない要素の一つ……)


バットマン「とにかく、奴らの目論見は達成寸前だろう。奴らが世界を壊す前に、こちらが出向いて阻止しなければ」


バットマン(見る限り、マシュ、モードレッドは恐怖ガスの影響下。能力的には半減したとみていい……)


バットマン「ナーサリー、恐怖ガスの解毒剤の原料は手に入れたか?」

ナーサリー「え、えぇ、勿論よ。はい、これ……」スッ

ジャック「あっ、わたしもがんばったよ! これ!!」

バットマン「よし……」






ジキル「……分量、30グラム……」

ドクター『ステロイドを』

ジキル「成程……ブルース、ちょっといいかい?」

バットマン「どうした、ジキル博士」

ジキル「植物の量が足りない。解毒剤は作れるが、これではせいぜい一人分のみだ。……どうする」

バットマン「……」

モードレッド「俺達には要らねえ。戦えるのに、そんなモン要るか」

マシュ「……はい、平気です。それより、マスターこそ……」

バットマン「……」




バットマン「ジキル博士、緩和剤は何本ある」

ジキル「一応、三本持って来てるけど……」

バットマン「マシュ、モードレッド、私でそれを飲む。私達三人がスケアクロウの追跡にあたる。ジキル、ナーサリー達と共にパラケルススの追跡を頼む」

ジキル「ぼ、僕が!?」

バットマン「キミなら大丈夫だ。通信機を持ってくれ」スッ

ジキル「や、やるだけやるけど……」パシッ

バットマン「では解毒剤の精製を、博士。完成し次第、追跡を始めるぞ」






………………


ワトソン「全く、何だ今の爆発は……ロンドンはどうなってしまうんだ」


ワトソン(ホームズ、これは大変な事件だぞ。こんな時に君は一体どこへ行ってしまったんだ……)


チュドォォォォォォォォォン……


ワトソン「……また! あれは植物園の方か、うぅむ……」

ワトソン「……今回行くのは僕だけか。ホームズのファンにはウケないだろうな!」スタスタ


今回の更新はここまでです。お付き合い有難うございました。
なんだかスレがバグってますかね……? 更新にも一苦労だったので次の更新の時は次スレを立てますね。

うぅん、どうしましょうか……歴が浅いので、情けないですがこういったトラブルへの対処方法が浮かばず……

スレ立てすらできないという現状……申し訳ない、言われた通り大人しく書き溜めに専念します

バットマン「グランド……オーダー?」レオナルド「その3だね」
バットマン「グランド……オーダー?」レオナルド「その3だね」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1542694051/)

立っ……うぅむ……調子が微妙なところですが、一応貼っておきます

HTML化依頼も出してきます。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年02月02日 (金) 01:15:26   ID: Ldrca1FL

失踪だけはするな(脅迫)

2 :  SS好きの774さん   2018年03月11日 (日) 11:35:23   ID: -S1sw9OY

信じている

3 :  SS好きの774さん   2018年04月10日 (火) 00:29:53   ID: Zl3293Rl

待ってる

4 :  SS好きの774さん   2018年04月21日 (土) 17:26:14   ID: DBOLLpqU

作者のバットラング(生存報告)ありがたいわ
いつまでも待ってるよ

5 :  SS好きの774さん   2018年06月10日 (日) 23:26:30   ID: 0dhr3CtM

久々に更新されてるゥー!

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