六花「勇太をなんとしてでも独占したい!」 (95)

六花「勇太をなんとしてでも独占したい!」

中二病でも恋がしたい!SS

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第1話「天使のお告げ」

現実は小説より奇なり。
そんなわけがない。
奇跡なんて軽々しく起きるはずがない。
でも今日は、学校帰りの今日は、ちょっと違うらしい。
ラッキーくじを引いたのか、アンラッキー地獄くじを引いたのか今の俺には見当がつかない。

なぜか俺には彼女がいるのに、別の女性の部屋にいるなんて。

丹生谷「入っていいわよ」
丹生谷の部屋の扉レバーを引くと、以前の部屋とは違っておしゃれなピンク一色の配色が多い部屋になっており、クマのぬいぐるみですらピンク色であるため随分TVで見た女のイメージらしい部屋に変化していた。しかも机の隅に手のひらサイズでインテリア用の電子キャンドルが小さくも強い黄緑色の光を放ち、また光るとキャンドルの中の∪模様もこれまたかわいくにじみ浮かぶのが見える。ずいぶんお洒落な部屋カラーだ。実際に見るとこんな現実あるんだなと感心する。
と思いきや?
何だこの段ボールの山は!!!お前引っ越しでもするのかよ!!!!
目の前に多数の雑誌が入った段ボールかける7つの箱が超高層ビルを建設している。丹生谷ともうお別れか元気でな、と思うが雑誌の中に恋愛関係の本で溜まっているのだ。
俺には彼女の、彼女がいるって自分で言うなんて恥ずかしいな。自分で思って自分で羞恥を感じるとはまた高度なプレイである。俺には世界で一番かわいいと思える彼女の、六花がいる。
実は昨日丹生谷から電話がかかってきて、甘えた声で「富樫くん、相談したいことがあるの。皆には内緒だよ♡」と言ってきて、六花がいるのにもしかしたらもしかしてと淡い期待を心の風船に膨らませた俺は、段ボールの中身と、まるでエサの罠にはまって動けなくなった動物を見る猟師のような丹生谷のにやけた不気味なスマイルで粉砕される。
丹生谷「どうぞお茶」
俺が何されるか不明で緊張のあまり正座すると「分かってるんでしょ」と暗い声で言われ、丹生谷はニコニコ顔のままお茶の入ったおぼんを床に叩きつける!おぼんがお茶でびちょぬれになる。俺の幸せな快楽物質は直ちに死に、内心ガクブルで心臓が一瞬停止する。
丹生谷「あんたいつキスすんのー!いい加減しなさいよゲルゾニ!」
足であんたの頭を踏みつけるわよ!と急に脅迫されたため、やばい!と思い俺は幼いサルのように両耳を伏せる。だが、まるで戦利品としてもらってきたかわいい木馬の中からアカイア軍が突然出てきて逃げ回るトロイア市民のように、俺は体が震えて縮こまり動かなくなったがそんなのを省みない非情な神経をしている丹生谷は女性と思えない力強い手で俺の左手をもぎ取り、最近どうなのよ!の声を脳内に共鳴させた。
丹生谷は俺の目に浮かぶ涙を察するとさすがにかわいそうだとおもったのか俺の場から離れる。実はこれ演技である。俺の幼稚園児みたいに体を縮こませ母性をくすぐる戦法にまんまと騙されるなんて愚かだなははは。わずかながらの兵力を託した富樫軍を結集し、間抜けな丹生谷女王を剣で斬る。
勇太「いきなりなんだよ!電話で相談があるから俺も力になりたいと思ってきたのに!」
丹生谷「小鳥遊さんが」
勇太「ん?」
丹生谷「富樫くん、あのね時間は有限だってこと分かる?今11月だしもうすぐ3月になるの。受験で1年間デートする暇がなくなるの」
なんか説教が始まったぞ。しかし内容が不明なので理解に好奇心が出る。だんだん落ちついたトーンで諭すように話しかけるので仕返ししてやろう戦闘意欲も次第に失せ、やけに俺の人生なのに考えてくれるんだなと尊敬する気持ちが温泉のように少し熱く湧いた。この人訳があって怒ったのかもしれない。
丹生谷「でね、あんたは小鳥遊さんのことどう思ってるの?いつファーストキスするの?ほっぺにチュウは聞いたけど」
そんなこと関係ないだろプライバシーポリシーに違反しているぞさっさと死ね。
勇太「できれば、ドラマみたいじゃないか?3年の高校卒業間際に、なんだかんだで関係の結露が実って桜の木の下とかで告白してゴールインみたいな……。かっこいいなー、なんて」
俺も可愛い♡と思うその発想力に、丹生谷は声を鈍器で殺したかのような口調で、は?と言い、俺を人間扱いしないサイコパスな真顔で見つめる。え、なんでこうなるんだよ?
丹生谷「はあ……。これだから中二病は嫌なのよ。なんとかなるーってなんとかしないとならないじゃん。知らなかったの?まあ、ゲルゾニだしねバカだから仕方ない。しかも受け身だし。そこは諦めるわごめんなさい。じゃあね、じゃあね富樫君大学に行く?働くの?それとも小鳥遊さんのイクメンになるの?」
何でさっきお盆たたきつけてと思ったら俺のこと将来まで介入したがるんだようざいよ。心の中で小石を蹴る。あの丹生谷はよく人の心に入りたがるデリカシーのない奴って知ってるけど今日は極めつけだ。甘い言葉に騙されて浮かれていた俺がバカだったよー!誰がこんな奴に答えるか!さっさと帰る!と憤慨する。でも言われればなんとなく不安がなかったというわけでもない。

うーんとしばらく考えて、あっ、今気づいた。将来か~。そっか高校で人生終わるわけじゃないんだよな。実はまだ高校二年生の秋になって大学や社会経験のことはまだボヤっとしか実感がわかないのだ。漫画の中の人の描くストーリーみたいに将来どうするかなんて俺から遠ざかった世にも奇妙な架空話みたいに思える。俺の高校の先生もクラスメイトもこれこれ大学に行きましたと熱く語っていたり、志望校に向けて勉強しているんだと嬉しげに話している友人など聞いただけでその後の続報もないから、大学時代何やるかってこと自体、上の空だ。俺も大人の将来のことなんか知らなくてもいいっていう皆の雰囲気に流されている。例えば、いままで高校生活が順風満帆で将来のことを少年ジャンプの最終回のように俺たちの旅はまだまだ続く!完みたいに考えていなかったのだ。だからその将来性のなさに丹生谷が激怒した、ということか。それなら合点がいくな。
勇太「俺はバカじゃないし。確かにキスもせず毎日無イベントで過ごす俺が悪かった。なんかしらアクションを起こさなきゃって思っていつか起こすよ。そうだな~半年後で良いだろう。ごめんな丹生谷。でも人間関係が原因でチア部辞めて演劇部に入りつつも俺たちの部活に入ってきては不倫するようなお前よりかはるかにましだ。グッバイモリサマー様^o^」
丹生谷はその発言にキレて、逆にキレすぎたのか落ち着いて、拳をグーにして彼女のきれいな肌のおでこに付け小声で変なことを言って、真顔のしおらしい女性の気品を醸し出す端正のある顔つきになる。その大人の女性のモデルのような一面を知らず俺はドキッとなる。
丹生谷「富樫君、小鳥遊さんのこと、本当に好き?」
勇太「うん、恥ずかしいけど正直は」
丹生谷「ねえねえどれぐらい好き?世界の中心で愛を叫びたいぐらい好き?」
勇太「懐かしいなぁあったそれ。えっと……。恥ずかしいから言わなくてもいい?秘密だからな」
丹生谷「そんな態度じゃ他の男性に取られるんじゃないの?」
勇太「ぐっ……。痛いとこを!でも関係ないだろ!」
丹生谷「でも小鳥遊さん、心の中では富樫君待っているわよ?普段顔に見せないだけで富樫君の告白をずっと待ち続けているのよ。いつ来るかな!今日だったらどうしよう!って。小鳥遊さんには富樫君しかいないって知っているでしょ。なのにかわいそう……」
勇太「ああ!わかったよ!!!俺が悪かった!言えばいいんだろ!!今回だけだぞ。はぁ……。すぅ。 誰にも負けないぐらい知ってる!宇宙で一番愛してる!!!! はい言った!」
狂った発言だよなと思うと、体の興奮も恥ずかしさで止まらなくなりその自分を戒めるべく重心の暴れ回る乗り出した体を元に戻す。
丹生谷「へえ~。じゃあその思い、いまから小鳥遊さんにしてみよっか?」
勇太「ええっ!!やだよ~!ほら、そんな勇気無いし。いつか、うん!」
丹生谷「大丈夫よ!大丈夫よ!あんた告白だってできたじゃない!未キスのこと聞いたけど富樫君やるときはやるって私感心しちゃったのよ!今度だってできるわよ!不可能じゃない!フレフレファイト~頑張る男の子に小鳥遊さんメロメロ!勇太の勇は勇気の勇!あんた部活で一番誇れる男の子なんだからできるわよ絶対!」
丹生谷って悪意なく俺のこと真剣に人間を見ていてすごくびっくりした。心臓に刺さる。
勇太「いやいやそんなことないって!そこまで褒められるほど人間出来てないし。丹生谷ほど評判良くないし…….。照れるだろやめろよ///」
丹生谷「じゃあ練習してみよ。六花愛してる。はい!」
急な拒否感が否めない。なんでそこまでして求めたがるんだろう?所詮赤の他人なんだしさ。でもそんな赤の他人に時間を削っておだててくれる。丹生谷ってそういう面あったよな。お節介だけど自分をのし上がらせることせず皆の事誰よりも心配していて。俺一人では怖いがそのやさしさが嬉しかった。俺の事一番知ってそうだし俺のためってわかってる。丹生谷もたくさん友達いるけど俺もその一人に入っているのかな。心のことできるだけ本番以外で言いたくないんだけど、そこまで背中を押してくれるならきっと何かがあっても助けてくれるだろう。甘えちゃダメなのかな。いいやひょっとしたら奇跡を信じてもいいかもしれない。そんな恩師に特別やらないこともない。
勇太「え、今。うーん。だめじゃないけど、そこまでいうならやらないこともないというか」
俺は少し咳払いをして、男の鈍い声を準備しきりっとした表情で、冷静な空間を構築する。
勇太「六花愛してる」
すっごく焼けるように恥ずかしいけど。もう二度と言うか!!
驚いたことに、真顔から高じた丹生谷は手を頬に挟み、頬も突然赤く染まり、目も大きくパッチリした。
丹生谷「えっ!!!!!!!!!!!かっこいいーーーー!!!!!!!きゃーーーーーーーー!」
丹生谷「すごい、富樫君あたしドッキドキになっちゃった!」
えっ!嘘だろ!あの丹生谷に、スタイルも顔もいいしクラスの仲が良くて成績も顔もいいすごいお方に褒められるなんて!俺は顔が赤くなってしまいこんな単純なことで幼稚園児のように喜ぶことがバレたくなくて手で覆い隠し、目にゴミが入ってうつ伏せになっただけなんだポーズをとる。
やったよ~感激だぜ~!あの丹生谷に感激されるなんて!今日は祝いコーラだ!!
よしっ!と親指でガッツポーズを取り、でも幸せすぎて怖くなりファイティングポーズを無意味にシュシュっと隠れて拳を突き出す。でも嬉しいな~!
丹生谷「よし、できてる。完璧」
何が完璧なんだと?疑問に思い、浸った照れと喜びもひっこんで顔を上げると、丹生谷は与えるように口角を上げる。
あっ……お前は……!時すでに遅し、丹生谷の座る後ろから携帯“刺客”を手に取り、じゃじゃーんっと効果音SEの鳴りそうな存在を見せつけた。まさか録音してないだろうなおい!その笑みが不敵に微笑を浮かべ、あーあ録っちゃった逆襲成功♡みたいな軽蔑の顔を見せる。

勇太「違う……。違うんだ!返せ!!!」
まずいまずいまずいまずい!!!こいつ何を企んでやがる!返せ!手を伸ばし避け続ける丹生谷のモノを死ぬ気で取りに行く。丹生谷から髪がなびいて良い匂いもするし、丹生谷のおめめぱっちりでかわいい小顔をドアップで見ると、遠慮したくなる気持ちも湧くがそんなの関係ない。ちょっと止めてキモイ!や!いや!きゃ!の女の子らしい態度を身代わりにしても無駄だ―!俺の黒歴史の代表格であるダークフレイムマスターの存在をあちこち広めやがって!もう俺は中二病から卒業したんだ!こんな笑顔振りまいて後から本心をズタズタに引き裂く心の悪魔に俺の人生を踏みつぶされてたまるか!それ返せ!
押している。この勝負だいぶ優勢だなと優越感に浸るとその思考は正しいのか不安になり、気が付くと戦闘の最中に、丹生谷の肩の上の空間に俺の腕が動き回るほど近くなり半場抱き合あおうとする二人みたいに見て取れる図ができてしまった。もし拍子に俺が倒れたら間違いなく勘違いされるような、セクハラじみた抱き合う状態の姿勢になる。というか俺が積極的に抱き合おうとしてるみたいじゃないか!!丹生谷も冷静になり体を丸めてきゃあああああ!と天井に向かって叫ぶ。知られたら逮捕行じゃんと肩を落とし急に青ざめる。あ、っと思った丹生谷は携帯を自ずから衿をつまんで奈落のホールに落とし、落ちた先の膨らんでいる胸を、下から腕で抱える体勢で胸がバウンドする。どうやら携帯を胸の中に入れたらしい。チャンスじゃん!場所が分かったらもらったあ、と疾風の風圧を押し飛ばし最後の手を伸ばす。
丹生谷「きゃ!」
抱えた胸を遠くに反らし本気でやめてほしい目つきで俺を見てくるので、俺は追うのをやめ手を下げる。
とすると、悲しそうな俺の顔を見て、おらおらみってみなさいよほしいんでしょハッ!と嘲笑みたいに笑みを浮かべる。
くっそーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!あああああああああああああああああ!
こいつ!こいつ卑怯だぞ!俺はぐぬぬ動画を見ているかのようにしばらく反抗的に眉をひそめて丹生谷を睨みつけるけれど丹生谷は口に手を仰ぎ、うんうんかわいそうだよね!と笑いながら見下すように見てくる。
丹生谷「これで分かったでしょ。消してほしかったら私の言うこと聞きなさい」
まるで誘拐犯のように!人の心がないのか!
丹生谷「小鳥遊六花さんに告白しなさい!この1か月間に!できたら私に報告すること!」
この内容だと無理じゃないけど、他人にせかされるなんて!命に代えるほど重要じゃないから放ってもいいか……。でも黒歴史が、しかも六花に先にネタバレされちゃなんかかっこがつかないからやだ!
仕方なく白旗を上げ、鳥の羽にインクをつけ羊毛紙に記載しポツダム宣言を受け入れる俺。
まあでも悪くはない気がする。大学前にキスして離れ離れになっておしまいよりかはキスして高校生活を一日一日大事にするというのも目の前のぼんやりとした不安への唯一の希望ができる。それにマンネリも避けられていいな最近ルーティンを感じてきたし。
勇太「わかった」
というと、なぜかホッとした顔つきになった丹生谷が今度はワクワクしてるのか肩を揺らして体を震わし、何かを考えているかと思えば段ボールから恋愛雑誌のおそらくサンプルだろう、1冊を弟子に伝授するかの如く重たい空気を醸しながら俺に渡した。
丹生谷「いい!わからないことがあったら、雑誌を見なさい!このために買って来たんだから!わかったわね!あんたの命運がかかってるんだからね!」
見出しを見るに風水だとか占いだとかの情報が大半占めてそうだけど。
丹生谷「それと、これ」
ねえ、それってやばい奴なんじゃ。丹生谷の持ってきたその紙、それはあらゆるものや行為を許す金ぴかの代名詞、お金を、しかも3000円を差し出した!
これには目をくらます。責任重大だろ。俺なんかがもらっていいのか働いたわけでもないのに。俺の目を真っすぐ見てくる本気のオーラをくぼみとってしまい思わず気が引けた。丹生谷の金なんだからその分使っちゃえばいいのに。だけど何も恐れずその姿勢を変えない態度に、俺は硬直し、成功を願っている思いが深層心理を動かす。
乱暴な性格でも六花と俺の将来のことを考えてくれる。丹生谷って根はやさしい奴なんだよな。やり方はあれだけどさ。俺にはまねできないけどそんな性格が好きだ。いつか六花にもしてあげたいと思っている。そして冷静になって考える。
いいのか、なんて聞ける立場じゃなかった。手に持っている3000円をしっかり受け取る。俺だって男だからやるときはやりたい。全力で!
丹生谷「絶対に小鳥遊さんを悲しませないでよ。もし電話一本でも貰ったら、もらったらぁあ!!藁人形にあんたの名前を消えないインクで書いて、久遠の因縁まで呪い殺すわよ!!!!!!」
ヒッ!
金銭を身代に告白を成功させろと負荷をかけたのかよ!怖いわ!心が波乱でもやもやするけど。よし、じゃあやってやるよ!そこまで願ってるんだ!誰もが見たことない恐ろしいレベルなんて玉じゃない告白ってもんをなあ、見せてやるよ!
3000円をポケットにしまい、再び顔を向けると一種の不安がよぎる。
そのやさしすぎる信念はあまりにも不気味すぎる。いいこと言っちゃって~実はまた俺からなんかせびり取ろうとしてるんじゃないか。
勇太「なんで俺のことそんなに気にかけてくれるんだ?他人だから関係ないだろ」
丹生谷「勘違いしないでよ。私はね、あんたのことが好きじゃなくって、いやそれに近いけど違うっていうか、不器用な人を見るとつい動きたくなるっていうか、みんな幸せであればそれでいいっていうスタンスで動いてて、そんな性格だから気にしないで」

目をそらした丹生谷は、うまく表現できたのか素敵な笑みを見せる。その笑顔が天使だった。なんだ勘違いか俺の悪い思い込みだったんだ。こんな大事な人を憎んでたなんて。俺にちょっかいかけるのも本当は身に関わっていることだった。嫌われてもいいから他人を助けたいってすごい人だと今気づいた。同時に俺は小さくなった。謝らねばな。俺が謝罪と感謝の意を込めてありがとう雑誌大事にするし今度デートするから期待しててほしいと頭を下げると、丹生谷は言葉を詰まらせ口を一回急にふさいでどういたしましてと好感のある礼儀をしてきた。顔は赤く火照っていた。その顔が裏を隠してお尻まで隠しきれてないような正直なものなんだなと俺でも分かり可愛いらしい。でも、だから気を付けてほしいという意味で忠告してみたいことがある。
勇太「お前気品上手に見えてひもとか無職とかダメ男好きそう」
はっ?と壊れた顔で、な、なな、な、、、なんですってー!と猿のように興奮すると段ボールや雑誌を俺の顔に投げつけてきた!痛い痛い血が出る!お前遠慮をしらないのか!どうして人は真実を告げただけですぐに発狂するんだ!?事実だっ痛い!ダメだ逃げねば殺されるう!と感じ段ボール1箱を抱えて丹生谷の部屋から一目散に、外まで逃げた。
モリサマー教徒布教用の本一式を抱え、安堵のため息をつき気が付くと空は夜になっていた。はあ、もう人はこりごりだよ。
あーあ日曜日をこんなゴミに費やすんじゃなかったと後悔しただいま、と家の扉を開けるとだーくふれいむますたーおかえりーとよちよち歩きのかわいい夢葉が来て合法的に抱き着いてくるので家族っていいなと感動する。あ、断じてロリコンじゃないぞ!あんなのと一緒にするな!
樟葉の作った料理がすでに置かれており、美味しかったと樟葉に伝えて、さあ勝負だ。
机に座った俺は、世界で、いや宇宙で一番かっこいい告白デートと告白内容を考える。一生に一度しかできないぞよく考えろ俺。段ボールから出した本の文下に色インクを塗り付箋を貼る。本やネットで彼女と飽きないデートテクニックものにふむふむと頷き箇条書きにした。人生かかる人って集中力すごいな、これが俺の限界を超えた力かと理解するほど汗を流して集中している。告白文も紙にかいてはくちゃくちゃにしてこれの繰り返し。そしてやっぱり重要なのがデートコースで、船だとか山の山頂のきれいな景色を見せるだとかプレゼントは宝石がいいかとか、滋賀県から出て大阪とか兵庫に行けば六花も喜ぶんじゃないかって、頭の中でゆうた―!きゃ!大好き!♡!の展開を思いついてはニヤニヤしている。こんな自分他人に見せるなどルイ16世並みのギロチンで死んでやる!ほっぺを叩いて真剣に取り組んで、でも告白と言えば「闇の炎に抱かれし者よダークフレイムマスターと恋人の契約を結べ!」ああああああああ恥ずかしい!!!!!頭が痛い。どうしてあんなことを言ったんだ!ああいかんこうしてはいられん時間時間。過去の現実を振り払う。
翌朝に、来週の日曜デートするよ六花と伝えて喜ぶアホ毛を見た後、毎日学校から帰宅するやいなや自室にこもって計画を立てては消しゴムを大量に消費し、愛用の自転車で経路などグーグルを調べてなんとなく曖昧にたどり着くぐらいでいいだろうと来て調査する。お昼に自転車をキコキコさせて近場の場所に行きつつ、でも学校帰りで早く家に帰ってまだ開封してないゲームしたいと思い、遠くから眺めるだけで満足したところもある。手に持った3000円はすぐに消失した。仕方ない、赤字覚悟で行くか。新作ゲームよさようなら。また半年後までさようなら。人生かかってるんだ。丹生谷の件もな。複数記述したデートコースを見てこれだけ弾丸があるなら六花も喜ぶと思った。だけれども、本番デート前夜それでも記述中に不安がよぎり鉛筆を置く。そして認めたくないという思いが噴出して頭を抱える。当日あれしてこれしてこうして、でも俺にできるはずがないんだよー!デートや告白に失敗したら終わりだよな?でもやっちゃうかもしれないよな。第一喜んでくれないかもしれない。それが一番気にかかるな。世の中そんなにうまくいくはずないもんね。奇跡なんて軽々しく起こせるはずがない。宇宙一の告白なんてないよ。ない…….ない……な……。

ああ、これで俺の青春は完結するんだなと思う。もう新しさを生むことも、広がることもないんだと。
その神経がいけなかったのかもしれない。
世界は亀裂を見せ始める。

誰も私を理解してくれない。勇太なら、わかってくれると思ってたのに

第2話「ダーク・ディスティニー・エクスペリエンス(世界がおままごとをする日)」

悪夢を見た。俺は暗闇の中でう~んう~んとうなされる自分、その光景を見る自分がいる、という光景を遠くから見ているというなんとも誰得な気持ち悪い夢を見た。心象は最悪だ。ん、何か音がするな、行ってみようと思うと世界が白くなり。
六花「ゆうた! ゆうたー!」
ん、ここは、現実世界……?
六花「ゆうた?」
目が開く。目の前には巨人のようなふるふる動く目が映っていた。
うわあああああああ!!!
ウサギもびっくりな高速跳力で俺の尻もちを一秒で高く上げ、逃げ足が光り、俺の手は一番遠くに退いていた。あ、とその巨人の姿を観察すると、なんだただの六花か驚かすなと、びっくりで心臓止まりかけになった脳はお怒りになる。
意外な反応すらしない六花は俺に目をくれず、俺のいた逃げる前の机を見渡し特にその絶対に見てはいけないシリーズの資料に目を通しそうになる。やばいーやばいー!!!
見ちゃダメえええええええダメなのおおおおおおお!!!!!!
六花もドン引きするレベルの速さで手で覆い隠し、最近暑いよなと会話しながら資料を集め本の下敷きにした。はぁ、はぁ、はぁ、これなら見れない。よし勝った!
六花は無言であった。恥ずかしい恥ずかしいバレバレじゃねえかよ!!
終始無言の微妙な緊張感が漂う。うっしまった!鳥の鳴き声が聞こえる。無言タイムの中、その静寂に開口したのは六花のほうだった。
六花「今日のデートってどうなったの?」
ん?あれ?変だぞ?まさか……まさか!
俺は時計を慌てて確認する。時計の針は残酷にもAM9時を指していた。
ああああああああ、デートが!動物園がー!ナガシマスパーランドがー!あれだけ朝早く起きて余裕をもって最後の選択をしようと思ってたのに!
というか何で俺の部屋に勝手に入ったんだよ!!今頃気づいたぞ!入るなよ!
俺の頭をわしゃわしゃ発狂する様子を、冷凍庫のような視線で向けられた。
六花「待ってるよ」
と、怒るのかと思いきや冷静な目つきで、某ヒューマノイドインターフェイスのような眉のびくともしない蒼い不変の瞳で俺に言い放ち、そして去った。
扉の閉まる様子を見ると、一人ボケっと見てる自分を知り頬をはたく。やってしまったのは仕方ない。やらなくちゃな。
早速デートに合うように俺も変身をしよう。お風呂に入り大丈夫大丈夫と唱えた後歯磨きをして、六花に見せたかったお気に入りの、闇!Tシャツ!冬バージョン!を着て、復旧不可な計画を再度立て直す。終わったらリビングに朝食がある。朝早くから樟葉が温かい愛をこめて作ったものだ。そのオムライスをむしゃむしゃ食べているがそれでは寂しいのでTVをつける。するとニュース番組に出くわした。
「では次のニュースです。最近世界中で観測されるようになった謎の音波についてです。俗称アポロカリスティックサウンドと呼ばれる音波が動画投稿サイトなどで話題となっております。こちらがその映像です。調査した地質学者の研究によりますと、大陸プレートの断層のズレを引き起こした際に宇宙空間へ反射した振動のサインの現れではないかという報告が上がり、あの東日本大震災とも強い関連性があったのではないかとの懸念がされております。地震と音波の関連におけるメカニズムについて、政府は全国の地質学者や海洋学者等を招集し調査会議を開く予定です」
へえ、アポロカリスティックサウンドかぁ。六花が聴いたら喜ぶだろうな。謎の現象とかってゆうた!ゆうた!ってキャッキャ言ってさ。思い出すだけで世界が喜びの黄色一色になるだろうな。まあでも頑張って日本の安全を守ってほしいとは思う。
今の時間が分かったことに満足した俺はTVを消して集中的に食べ続けようとする。だがそこで現在中学生でありその背丈を持つ妹の樟葉がやってきた。樟葉にどうしても六花の侵入経路について気になることを訊ねる。と、思ったけれどなんだか激怒している様子である。
樟葉「お兄ちゃん!六花ちゃんがね、まだ来てないですかってわざわざ私の方に尋ねてきたんだよ!悲しい顔してたよ!何してるの!」
え、あいつロープで勝手に入ったんじゃないのか!?上の七宮の部屋から勝手にロープで窓からって思ってたけど。俺と六花は同棲だけど、まぬけな寝顔まじまじとみられるのだけは嫌で金輪際ロープを使うな!って言ったきり夜どこも鍵をかけてるけど、たまたま昨日机の上でそれどころでなく爆睡したってことか。あいつ注意をちゃんと守ってたんだな……。
勇太「ごめんごめん。後で言っておく。樟葉にも迷惑をかけたごめん」
樟葉「人と用事するのに寝坊なんてお兄ちゃん失格だよ!」
すまない、ほんとすまないと謝罪し、オムライス難山を直視し高速でかきあげ口にほおばる。胃の中で膨らんでいくスライムの暴れる感触がして食べた気がしない。
目を横にやると樟葉は人差し指を高く上げ、そうだー、と思いついたようだ。
樟葉「お兄ちゃん今日学校じゃないの?」

え?

作業が止まる。今日は日曜日だよな……?
え?と二人の顔が合う。心配になり樟葉に体の向きを合わせると、樟葉は、あ、と思い出した。
樟葉「ごめん!なんか勘違いしちゃったみたい。てっきりお兄ちゃんが変な格好しているから中学の時思い出しちゃって。ははー」
くずはー。顔が赤いぞ。

突如顔に火を灯した樟葉は、許してねって控えめに手を合わせて祈りのポーズしたあと、手を振って違うから私じゃなくて偶然が悪かったんだよーと焦りのガードを張る。
そんなことさせるか!ホルホルしてやる!
勇太「クラスと順調なんて良いな。土日も勉強がしたいとかお兄ちゃん感激するぞ。そんなに学校が好きなら布団を学校に持っていけばいいと思うぞ!」
心に槍がささったのか、そこまで言うことないでしょ!と、むっ!と樟葉は幼稚園児のようにほっぺを膨らまして、私怒ってるんだからね!と示す。
樟葉「ふんっお兄ちゃん知らない!」
そう言い、その小柄な体の小さな足をどん!どん!言わせてリビングから退場し俺を一瞥した後、やっぱり怒った顔になって扉を強く閉める。俺のお母さんが「えーなになに喧嘩?それとも三角関係のアレ?」と、ニヤニヤしながら喋ってくる。それは決して親が言ってはならない第一位のセリフだぞ。帰ってくれ!ブラックジョークこの親にしてこの俺あり。
と、言ってる場合じゃない!急いで完食し、香水を全身および口内に行き渡らせムードを壊さないよう慎重に準備する。

全ての準備が整った後玄関に赴き、きっと一週間前から期待してて、今日のこの日をずっと待っていたんだろうなさあパレードの幕開けだ、おまたせと扉を開ける。
六花は間違いなくいた。六花は確かに笑った。
そして六花は間違いなく歩ける量ではないパンパンのバッグを持って押しつぶされていた。
六花「おはよウォータードラゴン……」
お前夜逃げでもするのかよ!笑顔が苦笑いになってるぞ!
ゴスロリ衣装もこれでは台無しである。ゴスロリ衣装って懐かしいな。俺が初めて六花の家にスマブラとか美味しかった暗黒ケーキを食べたとかの本格的に招待されたとき以来だなそのゴスロリ衣装。そうじゃなくて。
勇太「何で持ってきたんだ!?こんなに!」
六花「いや、デートするからって色々準備してたらいつの間にか」
勇太「あり得ねえぞ!なんでそうなる!」
すぐさま六花のバッグをつかみ取って下ろし、六花のああっという悲しい悲鳴を無視してジッパーを開ける。
こいつ片づけられないタイプの人間かよ。ああ、貴重な時間が、デートが。
中身を見ると、傘が出てきた。
六花「それはダメ。シュバルツゼクスプロトタイプマークツー。末長い相棒。今日は初心に回帰して初代大統領を持っていきたい」
あるか!アメリカ大統領がお前の家にいるのかよ!初号機じゃないのか。でも、マークツーだからー。ん?と六花の方を見ているとキラキラ瞳を輝かせている。
勇太「分かった!分かった!雨になるかもだし、よしとしよう」
歓声を横目に、手を戻すと次はなんだこれ?
六花「ロープ。これは現実世界がエマージェンシーモードにおいて、例えば闇の組織にライフルで狙われたとき自転車を盾に脱出し橋の下に落下すると同時に咄嗟に柱に絡める生命の維持に欠かせない大事な補助アイテム!これは持っていても損はないだろうと確約したい!」
よくそんなことすらすら言えるな。ある意味尊敬する。
ということはさ、実は俺、信用されてないんじゃないのかな。六花が自衛する心がけは良いんだけどさ、彼女を守る彼氏の俺の役割がなくって、じゃあ俺なんかいらないよねって落ち込む。肩が凝るな。信用されてないんだ。自転車の運転とかも何もかも。丹生谷に将来のこと考えていなかったの薄々にも気づかれていたのか。でも、そんなことを表に出して六花を悲しませたくない。ニコニコ笑顔でいいぞって言って、軽く喜んでいる。
勇太「じゃあ……次。これは……」
どうせ信用されてないんだ。
六花「天空に舞い降りし地上を制圧するためのパラシュート。これでいかなる組織の攻撃にも対抗できる!!!
ぴゅうううううううううバーンドドドドド!!」
俺は突如立ち上がり渾身のぐりぐり攻撃を浴びせ、あ~んゆうたー!と泣き叫ぶこの甘えびを粛正すべく「いらないだろ!」と喝を入れる。
うえええん、と泣いて無駄だ!信用どころか何も考えてないじゃないか!そっちの方が心配だよ!気を取り直して元に戻る。
勇太「これは?」
六花「ミニ大仏。窮地に陥ったら救済信仰する。主に宿題が提出に間に合わないとき使用する」
勇太「これは?」
六花「ぬいぐるみのおさるさん。泣きたくなるときがあるかもしれない」
勇太「これは?」
六花「本のカントの純粋理性批判。持ってるとかっこいい!人を殴れる!!」
俺はバッグをひっくり返して、せっかく詰めたのにと言葉に冷たく対応し、ゴミとゴミに分別する。
勇太「いらない!いらない!いらない!いらない!」
六花「ああああああ!!!!!」
六花の荒ぶる手を静止しつつ、最低限必要なものをジャッジメントする。
綺麗にまとまったバッグはすっかり身のこなしができ、俺でさえもうっとりする出来栄えになる。
勇太「ほらよっ」
六花「本当にいるもの?嘘じゃないよね!」
もう何にもコメントする気がなくなった。
六花「かるーい!」
小鳥遊六花さんは、高校二年ちぇいでありながら、軽くしてもらったバッグを背に持ってお尻フリフリダンスをしている。もういやだ。

ところで、時間。あ、そうだデートコースどうしよう。エスコートする時間も場所も、あのときに最終決断してればよかった。全くない。
勇太「六花。話したいことがあるんだけど。今日のデートはどこがいい?」
六花「う~ん。いろいろあるけど~」
勇太「動物園?遊園地?植物園?豪華客船?ビル?都市部?それともほかのところ?ナガシマスパーランドでもいいぞ?」
昨日の晩羅列した項目を滝を流すように話すが、六花はそんなことは聞いていない。
六花「公園に行きたい!」
え~!一週間待ってそれ!毎回行っているじゃん!赤字になっても行く気はあるのに!
もう人生に疲れて、人生ごと休みたい気分なので六花にお任せすることにした。
でも、六花がそう望むなら仕方ないやと思い、俺よりも本人の幸せを優先した。
これが宇宙で一番のデートか……なんかどうでもよくなってきちゃった。

かくして、外に出た俺たちであった。なんだか特別なんてない。ほんの日常。
別に期限は今日じゃない。明日でも来週でもいいし焦らずゆっくりやっていこう。それが俺たちの恋愛スタイルだ。となると一年後までひょっとしたら許可してくれるんじゃないかな。いや怒るよな丹生谷。
薄暗いマンションから出ると、外は光に包まれて、デート適正ばっちしの、偽りのひとつもない雲一つない青空一色の快晴だった。太陽の生暖かい抱擁してくれる母のような日差しが、俺たちの気分を活発的にさせる。長袖だけど風も11月にしては心地よいし、奇麗に彩られた新鮮な緑の草木が俺たちの行く道を迎えてくれる。俺たち二人だけでは釣り合わない素敵な世界を、贅沢にも横断し散策している。
六花「ゆうた危ない!ケーニギン・デア・ナハト!たああ!ふぅ、アタッカーのシールド転換に間に合った……。気を付けて!奴はレーザー使い。不可視境界線の管理局から送られてきた幹部候補のエージェント。耐性のある私の武器で反射を返せるがゆうたでは軽く肉バラにされてしまう!くっ、逃げ足の速い奴め!」
六花「いるんだろう?でてこい。確かに君は強かった。それは私も事実として受け入れよう。だが実態のフォルムを解除し空気中に離散しても、私の持つこの邪王心眼の真の力には透明などとっくお見通し!いでよ!!堕天より生まれし漆黒を大地に開放し、邪悪なサバトの全魔力を吸収したイービル・アイ!!!!頼むぞ、ミネルヴァの可動領域……ダーク・インフェルノ・ファイアバーニング!!!バアアアアアアアア!!!!」
六花「はぁ、はぁ、はぁ。激しい戦いだった……。奴の気体は蒸発した。二度とここには戻らない。呪術に洗脳されし気体より解放されし被害者の魚がボスニア海に姿形共にリターンしたが。なんとかわいそうな奴だ、ちゃんと幸せになるんだよ。今日も地球は救われた。うん、見晴らしがいい!」
とまあ誰も頼んでいないのに地球を救ってくれるのである。
俺は普通に歩きたいけど許さないらしい。ローラーシューズで、まるで俺の足の遅さをおちょくってるかのように六花は俺の周りをグールグル回っている。虚無な外でも元気な奴だ。「ごめん朝約束破って」と言ったがそんなことを聞きすらしない。
六花「勇太みてみて!」
こけたら危ないぞーと言う前に、駐車場の六花は半歩下がって三回転しフィギュアスケート技を披露しお手前の体の柔らかさを見せつける。その後全身を軽く上げて駐車ブロックにふわっとあがり「ほっ!」と笑いながら重力に落ち、それだけじゃなくブロックの左右を、体重をかけた急ハンドルでかわすドリフトで華麗に乗りこなした。最後のブロックを過ぎると一周小回りし体位置を合わせた後、股を強く広げシューズに負荷をかける。
とまって俺を見た顔が最高にスポーティーだ。
六花「どう!?どう!!?」
勇太「かっこいいよ!マジでかっこいい!!!」
言葉で言い表せないほど運動神経抜群だと理解させられるあいつの秀才さが目に見える。まるでプロの滑走をみているかのように無駄のない動きで鮮やかで美しい。
六花「よし、ついに完成したぞ……。これでいかなる闇の組織の銃撃にも無効になる!日ごろの成果を貫徹で、闇の使い手すら唾をのませたということは信憑性が外部から見ても高いということ!つまり完!」
勇太「お前のそういうところで株がガタ落ちしてるんだぞ」
六花「私のSスキル(素早さ)は4から5にレベルアップした!」
勇太「目で分かるのかよ!ああその前におめでとう。じゃなくて!」
六花「溜まったスキルで新たなスキルを開放できる。スキル解放!ダメージ転移!このスキルは自分の弱点を相手に転移することができる!宿題よ!消え去れー!」
勇太「まさかお前やってないのか?」
六花「くそっ、頭から囚われし過去が消えない。錬成失敗か……。うう、体中から血が噴き出してくるー!」
勇太「だーめーだ、もう写させてって言われても愛想が尽きたからな」
六花「そんな……。以前、錬金術で焼き殺したはずなのに、なぜ!?」
勇太「宿題は何度も蘇るわアホ!」
俺は六花の頭を毎度恒例本日初めて頭チョップすると、六花は「痛いよゆうたー!」といつもの涙目で返事してくれるので嬉しいというか安心するというか。
六花「こんなゾンビみたいなやつが正体だったとは……。もっと本体を焼く必要があったか。ゆうた、失われた遺骨”ドクロ”を持ってきてほしい。奴は液状の変異体。私の手布が未熟だったこともあるが。このまま放っておくと生易しいもんじゃない。おそらくこの町にとってまずいことになるよ、いいの?」
俺は遠くで土をついばみよいしょよいしょと頑張っているスズメに愛らしさを感じる。
六花「あーんゆうたー!」
あー、めんどくせ。

華麗に流れる透明な川の中を泳ぐ、レアキャラ率5%を誇る、翼を閉じて川に流されるカモを六花は見ながら目の輝きようが半端なく興奮し、カモ可愛い、こっち見て、飼っていい?と言ってくる。正確には“異方の地から訪問せし悪魔の一派”ふんっ!などと意味の分からんし喋ったらドヤ顔すな!と言わんばかりの知識自慢をしてきた。無論ダメなの分かっててこのセリフ言ってほしいんだろ。はいはいかっこいいなというと、六花はじゃあダイブするね!と言ってきたで、慌てて腕をつかんで強気にチョップを加えた。痛いっ!って言う悲鳴が面白い。
そういえば不思議に思ってたんだけど、こいつ俺と本気で、しかも本番デートで公園に行くなんて普通じゃあり得ないよな。六花といえども重い空気の理解をした反応はさすがにする。デート周期の空き具合から察せられるかとビクビク思ってたのに。今も理解していないかよこいつは。はぁ呆れたやつ。いやちょっと待て。別の方角からも考えられるよな。それも最悪な方に。もしかして俺の事、実は嫌ってるんじゃないか……。俺と金のかからない場所に行ってスピード遊びで業務的に楽しんで早々帰りたいみたいに思ってたりして。俺のトークがつまらなくてけど言えなくて……。うわあ。そう思うと横を歩く六花の姿に寒気を感じてきた。俺の足が六花の体温から遠ざかる。いやだめだ隠し事はなしだ。思えば本当になるんだ。絶対思うな!さすがに考えすぎだよ俺。でも半分、本当だと思いたくない。ええいっ。意を決して六花の肩を突き真実を問う。
勇太「最近学校楽しい?」
「うん!」と帰ってくるんだろうなぁ。
すると六花はなぜか下を向いて何も答えなかった。しばらくじっと立ち止まって。さっきの元気も急に喪失した。図星か!?六花かあ!?なんだよ!いじめられたのか!!?と強く怒鳴る。いじめは怖いけど、命より大事な彼女のためだ!絶対に倒す血みどろにして前歯2,3本、口を開けられないようにしてやる!と戦意に駆られて意気込んでいると首を横に振られた。違うのか……。「心配しないで」って言われても無理だよ。ああもうどうしよう!ところが急に六花は笑顔になり呪文を唱えて、はああ!封印!と言って俺の顔に手から光線を放ってきた!え、ええ!!?なんだこの変わり具合は?!そのあと大丈夫だ、と肩を叩かれる。あの、俺が心配しているんだが。
ああ~嘘だったのか。構ってほしくてやったってパターンか。今までも良くある構い方で時折猫パンチを加えて、魔族は永続、と謎の言葉を言って俺を怒らせてくるアレ。よかった演技で。でも妙にリアルだったよな……。これも演技だとしたら演劇部に入れるぞ。やっぱ違うよな。何か今までとは変なタイプだった。でも六花のことだし、いざとなったら自分から言うだろうな。
気を取り直して散歩している。おや、奇麗に並ぶ新築一軒家の並ぶ魚群住まいの中に、草がぼーぼー生えていて、電気もないだろう屋根がこびつき窓ガラスも古く誰も住んでいないと思われる一軒家を見かける。なぜあそこが取り壊されていないか不安になる。お化けがいたとしたら間違いなくここが除霊の原因だ。
六花「あ、あそこに空き家がある!宝あるかもしれない!」
勇太「ないわ!人の家に興奮すんな!仮に入ると案外住んでいたりしてるぞ」
六花「あそこでイベント発生して「町中の人を喰うモンスターが生まれているので退治してほしい」って掲示板があって、そこに六花率いる闇の魔族一行が退治して、町のみんなから褒められる。スイカとかメロンとかただでくれたら嬉しい」
勇太「あのなあ、その人たちも生活費削って渡してるからある意味悪いことだぞ。市民を苦しめるんじゃない。それに勝手に入るとか不法侵入だし窃盗罪も適応するぞ。第一あのゲームのRPGだから許されるの!考えを話すのもいいけど他の人達の苦労も知れよ」
六花「……」
勇太「たくよっ!」
六花「ゆうたってさ」
六花「ゆうたってさ」
六花「ゆうたってさ」
勇太「なに?」
六花「……。」
六花「夢がないよね」
ぐおおおおお。その言葉に深く突き刺さり地獄の炎に悶え苦しむ。俺は地面を見て失楽し一瞬走馬灯が見えてしまった。俺は一応な、ダークフレイムマスターって設定を持っていて最強の設定でとびっきりのブラックホールで宇宙を制覇したことだってある、ああ、ただの設定がただの飾りになってしまったか。中二病も恥ずかしいけど妄想ですら劣るって存在価値あるの?俺の人生もつまらん設定で終わるのかシクシク……。
六花は落ち着いたのか公園まで普通に歩行している。俺は絶望で死にそうな様である。誰か慰めてくれ。俺は顔を見上げると、のどかで小さな街中に、俺のその鼻先の方に街の人のおじいさんが杖をついて前を歩いている。だが突如、六花が身構える。
六花「ばきゅーん!ばきゅーん!」
やべえ!人に変なことやってる!
勇太「人に銃を向けてはいけません!」
六花「あ、今のかっこいい!」
勇太「かっこよくない!やばい人だったらどうするんだ!」
六花「その人が元グリーンベレー所属の陸軍で、私の撃ったのに素早く反応したらそいつは黒かもしれない!」
勇太「あるか!!そんなこと地球がひっくり返ってもないわ!」
六花「そして秀才をけなされたことから人類に逆怨みを持つことだけに生きてきて、波乱の中で血の滲む鍛錬を積み重ね、やがて富と権力の暴力により東京を恐怖に陥れついには世界を支配する。完璧な復習計画!その伏線を目撃中かもしれない!」
勇太「お前の方がよっぽど危険思想だ!」
六花「でも東京って、よく映画じゃハルマゲドンで消滅してるシーンがあるじゃん」
勇太「あれは映画だからな!」
六花「東京ばっかずるい!もっと別のところとか、私の町を破壊するとかしてほしい!」
勇太「お前どんだけ好きなんだよ!」

面白い奴だ呆れるぜ。
ヒートアップが燃え尽きたため少し無言の間が続く。
疲れてぼーっと歩くと、六花は遠くのぼやけたビルを見て何か思いついたようだ。
六花「あのね、ベル博士からもらった電力綱手で屋上の柱に綱手を飛ばして引っかかったのが分かり次第よじ登るの。夜の消灯を確認し、秘密で内部に侵入、そのあと爆弾を仕掛けてドカーンってやりたい!」
勇太「ベル博士って誰だよ!」
六花「ちなみにAボタン三回押すと空中で三回ジャンプできる」
勇太「うそっ、まじ!?人って空を飛べたのかよ!つうか俺もやりたいよ参加させて!」
六花「いや、う~ん。いいよ。おとり用としては役に立つ」
勇太「お、おとり!??」
恋人仲間だと思ってたのに、所詮は爆破用の一物だと思ってたなんてひどすぎる!!
六花「私の足を……引っ張らないでね♡」
勇太「六花に見放されたー!」
六花「骨だけは拾ってやるよ」
何を偉そうにー!
六花「いや単純にゆうたにケガさせたくないから。爆破に巻き込まれるのは私一人だけでいい。だって、大切なあいぼう?」
俺は冷気を放つ冷たいアイスの感触に当たったかのように口がこもった。こいつはこいつなりに俺を気遣っているんだと。大切にしたい思いが心の中でじわっと熱石のように熱く温まる。俺だって、俺だって!俺だって!!
六花の歩行する片腕を強く突いた。俺の生暖かい右腕が、六花の付属品のように小さくて壊れやすいけどどこまで愛したくてかわいらしいその左腕に熱源を与えた。もちろん彼女がローラーシューズだってこともありそこまでではないけど。
勇太「このっ!」
六花は火照った顔の俺の奇妙な行動に目を見開くが、その行動が愛から生まれたんだと理解したのか、今度は六花の方から俺の右腕に鈍く、だけど優しく当たる。
六花「こいつう!」
その手加減が嬉しくて俺はますますうれしくなる。腕に当たりたい。どんどん触りたい!どんどん知りたい!
俺たちは「りっか!」「ゆうた!」と言いながら腕を体当たりで実質くっつきあってるのだ。気が付いたら六花の顔もドアップで見えるぐらい、どんどん体の距離が小さくなって、彼女の真っ赤に染まった頬を見ると、俺もますます蒸発する。でも好きだなんて照れくさくて、真正面を見ることができないよ。
六花「ゆうた!」
勇太「りっか!」
六花「ゆーた♡」
勇太「りっか♡」
六花「ゆーた♡!!!!」
勇太「りっか♡!!!!」
六花「こっちの方が声が大きいー♡」
勇太「俺の方が声が強いー♡」
六花「こっちっー!」
勇太「おれだー!」
六花「きゃははっ!」
勇太「あはははは!」
六花「……」
勇太「……」
良い雰囲気だよな。手、繋ぐべきだよな……。
俺は心して目を強く瞑って、六花の大事な手にはいより、一瞬彼女の外郭を握ろうと思考が回る。怖さが好奇心を勝るけど。でも!妄想が現実に手を伸ばさせる。
あ、そうだ!思い出した!と六花は叫んでローラーシューズで体ごと回転し、思い出したことがある!と俺に話しかけたのだ。
ああああ……。さっきのムードが台無しじゃねえか!!
六花「ゆうた!あれやってない!本日のバトル!」
勇太「やらねえよ!あれ俺の善意でやってるからな!黒歴史に新たな一ページを加えたくないごめんだね!」
六花はうまくいかない人生にもがき苦しんだように下を向いて、少ししたら急になぜか明るい顔になる。そしてなんやら手をこまねいてこっちにこいよの合図しながら、気味の悪いにやけ顔を俺に向けてくるんだが。顔にスプレーかけたい。

六花「ふっふっふここで怖気づくとは卑怯なものだな少年よ」
勇太「その手には乗らん!」
六花「そうか。じゃあ特別にゆうた君に条件をあげよう。もし君が私の究極奥義“真剣白刃取り”に、ぷっ無様な姿だが突・き・通・せ・ば、君が願いうるすべての条件をかなえて差し上げよう」
勇太「むっかあああ!バカにしやがって!どうせお前負けるだろ!」
六花「怖いんだな?」
勇太「怖い訳がないだろ!じゃあやってやるよ!」
六花「所詮君は私に勝てっこないのだから、夢を見るのは滑稽なことだ諦めたほうがいい。でも報酬も無しに頑張らせるのもかわいそうだから、もしできたらなんでもやろうと思う」
勇太「何でもか?ほんとか?」
その中二病を今すぐ殺せ!殺してやる!DFMと略される前のきらめいた高校デビューを返せ!暗炎龍よ、今ここにさらば!
呼吸を整え、しっかり前を見る。
六花「さあ来い!男に二言はない!」
お前いつから男になったんだよ!俺は男と付き合う趣味はないぞ!
俺は六花のおでこに角度を合わせ、ゆっくりと慎重に片手をチョップの形にした刃を空に向ける。
勇太「ほんとうに、いいんだな?」
六花「ゆうた。ひょっとして本気?」
勇太「いくぞ。容赦はしないって言ったよな!」
六花「あ、あまりいたくしないで」
六花の顔がガタガタ震えて目から恐怖で涙を浮かべている。油断してるな、今だ!!
勇太「てやああああああああ!!!!」
腹から出したものすごい罵声と共に、刃が到達地点まで急加速で駆け寄る。六花の門が閉まる。刹那、六花に達成感のある不気味な笑みが垣間見える。
二つの風が十字に交差し、その風圧は勝者だけにしか分からない。瞬間の動作がパラパラ漫画のようにスライド式になる。門のひびの割れる感触を味わう。
かすかに鈍い音がした。後悔してもきしれないほどに。
銅鐸に打たれるおでこの鈍い音は天高く飛んで行ったのだ。
嘘なく、おでこに刃が透き通った。
六花「」ぱんっ
勇太「」どんっ
六花「いったあああああああああいいい!!!!あああああああああ!!!!」
勇太「やったあ!勝ったぜ!勝ったぜ!それじゃあまずダークフレイムマスターの呼び名永遠に禁止な!ついでに俺の召使になること。俺モンハンするから当番全部してなそれからそれから」
六花「ちょ、ま、あ、この勝負まだ終わっていない!シュバルツゼクスプロトタイプマークツー展開!シュバルツシルト!!グングニール!!!」
傘で俺の腹を突いた。痛い!痛い!
勇太「男に二言はないんじゃなかったのか!」
六花「か弱い女性なのにそんな暴力振るうなんてひどかった!!」
勇太「んなわけあるかー!」
六花「爆ぜろリアル!」
眼帯を開き禁断の金色を開放する。ひとたび晒すと世界に裂け目ができ震撼するらしい。
勇太「弾けろシナプス!」
六花「バニッシュメントディスワールド!!!」
勇太「はぁ、結局こうなるのかよ…...。」
六花はおでこに打たれた戦の傷跡を手で冷やしながらこちらを睨んでいる。

場所を変更しようということで空き地に移動した。
移動が整うとすぐ六花は俺の渋い顔を考えずシュバルツゼクスプロトタイプマークの傘を構えると猪突猛進で突撃してきた。
六花「アヴァロンスマッシュ!!」
正直やりたくないんだよな……デートの最後で体力の消耗が激しくなるの知っているし。
六花「喰らえ!はあああああ!」
俺との距離数センチまで近寄ると傘を俺の腹に突き刺し…..てはなくさすがに手加減で威力を落としてお腹をツンツンした。声の勢いとは裏腹だ。
勇太「やらんからな!」
六花は一瞬しゅん……とした顔になるとまた傘を構えて威嚇した。
すると今度は傘を捨てて掌を見て、俺の体に向けて腕を出した。
六花「ジャッジメントルシファー!!」
勇太「だからやらん!!」
うぅ……!強敵のような精神ダメージを受けるとまた落ち込んだ顔になる。
六花「ゆうたぁ!」
勇太「やりません!」
顎に手を当て少し考えたらしく後、その後手をポンっとして閃くと、再び傘を持ってニヤッと不気味な顔をした。そして傘を、風に任せて後ろに回して勢いをつけると再び前に出して。
六花「ポイズンミサイル!」
俺の心臓のある場所に急所の一撃を与えた。
勇太「あ    」
俺は一瞬で倒れはしなかったが心臓に悪い変化を感じて胸をさすって痛みを冷やす。
六花「はーはっはっは!!!毒の樹液に勝った者はいない!ゆうたは間もなく死ぬ!邪王心眼はいかなるときも最上級!!」
げほっ。げほっ。ごほ。
痛い。痛くて死の安らぎに吸い込まれる。六花……冗談にもほどがあるぞ……。
六花「はーっはっはっは!!もっと苦しめ!盛大に苦しめ!!!」
勇太「だから……やらん」
六花「ではもう一発!」
まずい!!やられる!!
勇太「あー!じゃあやってやる。今回だけだぞ」

勇太「ふっふっふ!待たせたな!邪王心眼よ!我がダークフレイムマスターが文字通り遊んでやろう!!」
六花「なぬ!?」
勇太「行くぞ!!!」
そう思うと世界は変化し、荒野の果てになる。空は曇り、草もなく、ビルの残骸と砂ぼこりが顕著だ。六花が月から飛んで剣をおろしてくる。俺は壊れたビルの屋上から雷を落とす。
六花「うわあああああ!!!!」
しめしめさっきの分を苦しむがいい!!!
プシューとなった六花が地割れを起こして地に落ちた。
六花「エマージェンシーモード・解!!」
すると六花の体から青色の波動が生み出されすべての傷が完治した。
六花「よかろう。相手にとっては不足ない」
そうにやっと笑ったのが印象的だ。
六花「禁断の魔術を解禁する。隠された死者の集いの目!ダーク・アイ3!!」
六花はお凸に埋められた第三の目を開放しその目がにょきにょき出てきた。
六花「アイビーム!!」
そのまんまじゃねえか!!!!
光線を飛ばされた危機感で飛んで逃げ、俺のいたビルを二つに裂いた。
六花「六花隊、出撃!」
大勢のミニ六花が俺に向かってビームを放ってくるが、俺の放つ覇気に押されて煙になった。雑魚め!
六花「ウォータープール!!」
俺を巨大な水泡に入れて窒息死させようとしてきたが泳ぎの天才で助かった。攻撃技と空間の把握のため六花と距離を取るように遠くまで離れる。
六花「逃がさない!!タイム・アウト!」
貴様!この技は何だ!
体が……体が動かないだと!!
六花は右腕で円形を描いた。そのつくった紋章が激しく光る。
すると俺のいるところまで来て、顔と体を使えなくなるまで殴った!!
くそっ!!やり返そうにもやれない!!!
六花は俺の顔の前に来て最後の一撃として、俺の頭上にピンクの玉を生成した。
六花「契約による漆黒の力。これが放たれると世界は滅ぶ!邪王心眼パーフェクト!!!」
うわっ!やられるっ!
勇太「ふふふっ」
六花「!?」
勇太「貴様、良い目をしているな」
六花「あ、」
勇太「説明しようか。俺の闇の力を開放した特殊能力、右目の異端“ギアス”で相手の近距離で接し、直接相手の目を見ると脳内までダークフレイムマスターの全てが洗脳され、お前の意思は永久凍結される」
六花「ああ……」
勇太「さあ心いくまで自分を殴るがいい!!」
六花「うわあああああ!!!!!」
六花は自分で自分を猛烈に殴りみっともない姿をした。
勇太「さあ私を楽しませろ!」
六花「ゆうたぁ……」
するとなんと六花はスカートを上げて白いパンツをちらりと見せてきたってえーーー!!!
六花「サービスシーン」
勇太「いらんわ!」
六花「甘い!」
ん?後ろだ!
勇太「くそっ!」
六花の剣を俺の突如生成した剣で受け止めた。
六花「ゆうた。仮に自分のことが直接相手に伝わるなら、集中できないようにすればいいのこと、命は助かったかもしれないね」
勇太「くそっ!騎士道のないやつめ!」
六花の剣を押し倒し後ろへと追いやると助走をつけてまた追いかけてきた。
勇太「無駄なことを。ダークフレイムマスターソードアロー!!!」
六花は飛んだそれを体ごと回転して避け俺の足元までやってきた。
再び衝突する剣。
勇太「ギアス!」
六花「お前相手に見なくても戦える!!」
勇太「くそっ!教えたのがあだとなったか!!」
六花は横からけりを入れ俺を最果てまで飛ばした。
ガードの魔法陣を展開する前での大技だったので致命傷を負った。
俺とぶつかった岩石が崩れ落ちてしまった。

呼吸がそろそろ持たない。決着をつけよう。
六花「どうした……。もう終わりか?」
勇太「あまり戦ったら後半戦持たなくなるぞデート。いやガチで。だからふふふっ。」
勇太「邪王心眼よ。貴様は強い。世界で最強なことを認めよう。だが所詮この俺様には勝てってこないのだ」
六花「なぜだ!」
勇太「クククッ。良い質問だ。お前の攻撃はあ・さ・いのだよ。それは俺を本気で殺すことのできない証。お前はすでに遠慮している。俺なら本当ならこんな雑魚一瞬で倒すところだったが力がすごかったのでな」
六花「邪王心眼はいつでも最強!」
勇太「その邪王心眼の火力が弱まっているのさ。知らないか!知らないか!フハハハハハ!どうだ他人にずかずかとプライベートを破壊される気分は!俺と一緒に闇落ちしないか!」
六花「だれかこんな卑劣なやつと!」
勇太「よろしい、じゃあ最後の勝負だ。剣を取れ。俺もする。それで世界の行方を決めよう」
俺と六花は意気込んでお互いを構え、風の音がよく聞こえた。
勇太「いくぞ!闇の炎に抱かれて消えろ!」
六花「邪王心眼はお前を超えるんだ~~~~!!!アヴァロンスマッシャー!!!」
鈍い音が交錯し、金属音の光が周囲に拡散し、お互いがそばを横切る。
はぁ……。はぁ……。はぁ……。どうしよう、倒れたほうがいいのか。
勇太「う……」バタッ
すると六花も倒れた。
六花「う……」バタッ
お前は生きろよ俺の分まで!!
そして元の空き地に戻った。
俺と六花は疲れて地面に横たわる。空が青い。汗が飛ぶほどの風が心地いい。
疲れたけど、楽しいな。
こうやってバカやるの楽しいな。
やっぱり俺には中二病の血が受け継がれている。
六花と激しくバトルして楽しくなって、こんなに幸せでいいのかな。

鳥が飛ぶ。天高く。まるで自由を知らない旅人のように。
翼を広げる音に顔をあげると、青空の小さな雲も、暖かな光を送る太陽もゆっくりと形と場所を変えて移動する。路上を見渡せば、青空の下、犬の散歩する人やランナーやおじいさんとおばあさん夫婦だったり自転車に乗る若い女性2名が通過していく。その動きの見方も感じ方も全く異なっては小さく消えていく。向こう側にある風力発電機も回転しては休止の繰り返し。俺にこの瞬間で今しかないその姿を見せたくて現れて、そして消えたのだろうか。なんも意味のなく、ただその流れる姿を知らせたくて。人も、川も、自動車も、全部。だけど急に俺のいるこのタイミングまで恣意的にワープしたとかってのはありえない。ただのすれ違いだ。でも、始まりは必ずあり必ず生まれ育地もある。皆、皆、ここにいる人たちは、動物は、無機物は、どんな生き方をしたんだろう?例えばあのおじいさんは?どうやってここまで生きたんだろう?どうやって人生の波乱を切り抜けてきたんだろう?あの子犬はどこの飼い主のだろう?もともとどこで生まれたんだろう?母親に見守られなくて寂しいと思ったりしないのかな?自転車の2人は?どこで知り合ったんだろう?どうやって仲良く笑う仲になったんだろう?喧嘩が起きたときどう回避したんだろう?観測できたものすべてしばらくすると見えなくなる。傍から見るとのうのうと歩き走り流れる何も苦悩を残さず一本道を通るような姿だ。だけどこの世界は全員に物語があって、それも納得のいく結果が必ずあって、遂行するに値する理由を動機にその過程がたまたま俺たちと遭遇したということ。そして最後は必ず終わり極小の姿になり果てそして見えなくなる。一本の蝋燭のように煌めく存在を明るく示しては勝手にいなくなる。誰にも知らせずに消えていく。六花と俺を置き去りにして。でも、ということは今のこの場所を通りすぎるまで生きられた何らかの理由を俺たちも使えば、きっと幸せに暮らしましたとさと昔話の文面通りに一生を過ごすことができるのだろう。新しく開かれた異世界への道を感じている。光で創られた太い道を前に、俺は少年的な好奇心に強く惹かれて佇んだ。最果ての頂点にある楽園を求めて人間的になる俺は思わずその手を伸ばしたくなる。奇跡的な温かみに触れたくて。それで終わりでいいのか。いや、まてよ。そもそも俺たちはそんなのと同じ人生を望んでいるのか?その道が楽しいなら楽しいで俺は何のために今六花とデートしてるんだ?六花は仮に選んだとして喜んでくれると思うだろうか?六花に選択を委ねる自体正しい行為といえるのだろうか?でもあの者達に憧れを持ったということは関心を捨てられずにはいられなくて。世界危機の概念をかき消す代わりに提供されるまさしく誰もが求める安住の地。六花の横顔を見る俺。流れるものと、六花。本当の道を行く理由を知っているはずなのに、その大切な欠片も理解しているはずなのに、俺の足は一歩も動かない。気が付くと夢の世界の虜となりありもしない虚構の音も聞こえる。踏切横の線路に電車が走っていないのに、一方通行の線路上を蒸気機関車が理解を超えた速度で、黒煙もなく一瞬で5つの車両が通り過ぎる。はっきりとそんな妄想が見える。見てはならない物を見ている気がする。でも食い込まれてしまうんだ。望んだわけじゃないのに、何か意味があるんじゃないかってかすかな期待が胸に警鐘する。そして意図は全く分からない。分からない。分からないから青空を見て、その変わらぬ青さに虚脱感を得た。
鳥が飛ぶ。そしていなくなる。ただ意味なく世界は偶然、その場所を通り過ぎるのみだった。

勇太?と下げた俺の顔の下から覗かれ慌ててにこやかな笑顔をつくった。どうやら偽の世界から連れ戻されたようだ。癖になるからやめようそれも今日に限って。うん、と決意し、あんなこんなやり取りで笑いあった後やっとの思いで公園についた。
かけっこにやや相応しい新緑に尽きる、思ったより広い公園だが期待を裏切られる。ずいぶん殺風景で日曜日なのに誰も園児すら一人もいやしないので、このあたりに行事かあるいは幽霊に食べられたのかってぐらい人工音の一滴も聞こえず、ちっぽけな俺たち二人でこの砂地にあふれた大世界をしばらく支配することに恐怖心を感じた。
情けなく俺の背が震えるのと対照に、世界の裏側の仕組みを知らない無知なる勇敢者は猛ダッシュのローラーシューズでぶっ飛ばし世界を冒険する。
六花「ゆうた!はやくはやく!」
勇太「おーい待ってくれ!」
全く、公園に来ただけで犬の駆け回るようにローラーシューズで何回も周る六花には呆れて嬉しさで満ちる。ある意味人生を楽しむ天才だよあいつは。
六花は砂場掘ったら恐竜の骨が出るかもしれない!と興奮気味に振り向いてダッシュをした後、遊具を目の当たりにして呆然とおぉ~と眺め、少しどれにしようかな♪どれにしようかな♪と体を小躍りさせながら暫くして少し考え、目的に向かって一直線にした。
六花「ゆうたー!すべり台!すべり台!」
勇太「俺走るのきついんだから、待って!」
ローラーシューズもあるのに俺の行き遅れを考慮しないんだからもう。息が苦しい。しかしこの年にしてぜいぜいはあはあいうってやばくない?
勇太「はぁ……。はぁ…….。」
六花「ゆうた!」
俺は両手を膝につけるのも理解しないようでやっと、やっと、ちょっとタンマ。やっとすべり台に……。ついた。
六花「ゆうた来て」
一人ですればいいじゃんとの意見も無視で呼び寄せる。
六花は、俺がそばについたのを確認して小さな歩幅で元気よく一歩一歩右足を上げ、左足を上げ、中間までくると一瞥し、ただ俺の顔をじっと見つめてくる。
登れってこと!?やれやれだぜ。
勇太「どうしてもっていうならこれっきりだからな!」
六花は倫理観がぶっ壊れてるからいいけど、俺は高校二年生にしてすべり台でまさか登るとは思ってなかったよ!卒業したの!六花が喜んでくれるならただでやってやるけどさ。
俺が片足をアルミニウム?に乗っかった音を聞くと、六花はまた一歩上がり最上階まで上り詰める。そして美しい景色に感銘を受けたようで、案の定滑る。滑る。俺なんのためにきたの!?
退屈なすべり台を登ってはやくあのベンチで休もうと思い色鮮やかな街中を眺めていると、サメのように見えない範囲から光速押し駆けジェットで、俺の背中にくっついてきた!
六花「ゆうた!あぶない!」
勇太「ぎゃあああ!お前が危ない!お前ヤバイ!すべり台から転落したらどうする!!」
六花「ちょっと待って、やりたいことあるの。これがやりたいから今日呼んだの。ゆうた、腕を水平にして」
は?は?は??意味が分からない。重要なことなのか?そうは思えんが。とりあえず従っておくか。
両腕をX軸に平行にすると「そのまま」と言われ、六花は空いた脇の下に手をまっすぐ伸ばす。
これって……?まさか!
六花「エンダーーーーーーーーーーーー!!!!!リアーーーーーーーーーーーーーーーー」
六花「エスポパー……ニャアアアアアアアン!ニャアアアアアアアン!!!ホオワアア……」
歌詞覚えてないんかーい!
なにこれ!?どこからどう見たら氷山に衝突する図が描けるんだ!!
六花「高いところに来たら一度はやりたくなるよね☆」
勇太「ならないからならないから!!せめて船の上だって!!そんなことやるの変人ぐらいだ!」
暫く脅迫的にこの形をつくられた後、そろそろやめていい?って雰囲気を出す。
腕がしぼんで終わりかと思ったその時、目がくらんで不意を突かれた。
その垂直な腕がクワガタのように絡めて収束し、俺の腹に優しく絡まる。
その柔らかい絆の手と細い腕は、後ろの頭と一緒にぎゅっと俺の腹を圧迫し、六花の生命の温かさを感じる。俺はこんなバカップルがやることを世界に晒しながら愛に焦げて顔が赤面し、周りに誰もいない運の良さに感謝する。腕の絡みつきはますます強くなる。
無垢で怠惰で嫌だと思ったすべり台は、ふとしたちょっとのきっかけで天国界の頂きに変化を遂げた。六花は無言のまま俺の愛を補給する。
俺は急ににやついた。ひょっとしたらデート史上最高に幸せかもしれない。ちょっといいかもって思った。へへっ!この気持ち誰にもあげないよ!
これが青春か。これが青春なのか?青春バンザイ!!!?(これでいいのかよ!)

さて二人の過熱も消滅したことだし、すべり台から六花と俺を下にした二段ロケット構えで膨大な風を浴び落ちる。六花の叫び声がかわいくて忘れられない。
六花「次は、次はねー、ブランコ!」
どうやらこの公園を支配する小さな国の王女様は一睡も休ませる気はないようだ。
ブランコまで駆け寄った後「ゆうたー!」と呼ぶ声が聞こえる。もっとほしいもっとくれというエロおやじ心丸出しで、今の自分は今の自分でも見てはいけないと思うほど人情の愛に溺れていた。
4人用のブランコに六花が好きなのを選択し、仕組みを理解してる最中なのか立ち止まった後ブランコに座った。なんだ、隣に座っていいのか?それとも背中押してほしいのか!?とその様子を垣間見て、向いた愛くるしい顔つきの方向によると背中を押してほしいようだ。
俺が六花の背まで移動すると、六花はびっくりした顔で「な、なんでわかったの!」と、探偵に犯行を見破られた犯人のように口を丸く開けていたが、当たり前だろ俺は以心伝心の力を授かった。さっきの愛の力でスキルを解放した!と答えると、興奮し拍手をされた。
六花「ゆうた、ついにESP(超能力者)に目覚めた!」
いやそれだけは、世間的にやばいので否定しておいた。
六花の背中をゆっくり押すと、ブランコはゆっくり反射していく。
六花「浮いてる!浮いてる!」
そうか!浮いてるのがいいんだな!よーし!
六花の振り子は、舞い戻るたびに柔らかいその背中を大きい手で空へ飛ばすとだんだん強く激しく周回し、気が付いたら六花は空を飛んでいた。まるでタケコプターか鳥になって上空を飛んでいるかのような、地については一生感じられないふわっとした感触をしているに違いない。
六花「みてみてー!六花宇宙飛行士!無重力の世界になった!宇宙にいるの!今木星の周りを飛んでる!」
あり得ないだろと内心笑いつつ、そうかそうかと六花の漕いでいる足の努力を消すように俺の手で柔らかく受け止め、そして弾く。六花のはしゃぐ笑い声が、世界の広さをドップラー効果みたく駆け巡る。
この光景、なんかまるでお父さんと子供みたいだな、ははっ。
あ、六花にはお父さんがもう……。死んだんだよなお父さん。記憶は幼いころだけだったようで気が付いたらお葬式だったそうだ。十花さんの情報で、お父さんといるときの六花はたいそう幸せだったようで。あいつの笑顔をまた見れてよかった、ありがとう。とイタリアに出国前の十花さんにいわれたときを思い出す。この笑顔はかけがえのない存在だったんだよな。六花はひょっとしたら俺をお父さん代わりに人生を楽しんでいるのかもしれない。ある意味六花にとっては永遠の呪縛、逃れられない悪魔の記憶にうなされ続ているんだろう。だからこんな公園ごときであんなに笑顔で……。
だとしたら責任重大だな。俺がいないとだめなんだ。もう悲しませることのないぐらい冒険をしよう。もう六花に不幸が訪れませんように!
その思いを太陽より強い希望を持って強く押した背中とは裏腹に、予想よりもはやく周回を遂げて黒い影が戻ってきてしまった。

そろそろやめていいって、先ほどと変わらぬセリフを、いや長すぎて飽きてきたんだけどどうしようと思った俺は何もしなくなり、六花が後ろを振り向いても別に思わん。頭がまたぼーっとすると、気が付くと六花はすでに降りていて、すべり台を指さした。
まーーーーたーーーーー!!!俺そろそろ飽きてきたんだけど!
しかし喜ばしいことに俺に「来いよ奴隷」みたいな合図はせず、六花はすべり台の上に登ると最頂の周りの柵を、大きな丸いお尻でよじ登りフワフワするゴススカートの絶対領域をちらっと見せてくるけど恥じらいのないのか気にせず外に降り立つ。そして六花は傘を、シュバルツゼクスプロトタイプマークツーを開くと自信満々な顔を見せて……やべえ!!!これやべえ!!!
俺はさっき老人のように肺活量が劣ってきたと言ったな。あれは嘘だ。本能のままに体が動き出し、全力を超えた神力で疾走し風圧を簡単に吹き飛ばす。俺の頭のハムスターの緊急回転で物体の空間配置を理解すると、六花の「はっ!」と言って傘を広げて空中落下する様の、下の地点まで華麗にスライディングを決める。土がえぐられ砂ぼこりも立つなか、落下した隕石のお尻部分と背中部分を両手で「どっこんじょ!!!」と、腕の骨が2,3本バキバキ折れる音を聞きながら衝撃を和らげ、俺の顔が憤怒の原始姿を取り戻す。世界が静止すると、六花は驚いた顔で俺に向ける。「大丈夫か」って聞くと、六花はうんと答える。
勇太「なんでこんなことしたんだ?」
六花「メリーポピンズのまね。ふわっと上空浮かぶの見てやってみたいと思った。現実って映画と違うよね」
勇太「そっか。もうバカだなあ」
と言って六花の頭に頭突きする。よかったほんとによかった。違和感を感じるだろうが、その笑顔だけで幸せになる。だけどちょっとだけ腕を休ませていいかな……?

勇太「休みましょう!お願いだから休ませてください!」
と嘆願すると、六花は俺に一回振り向くと無言になり前を見て「ドームがあるー!!」って言った。
いやだああああああああああああああああああああああ!!!!
俺は痛んだ腕をぷらんぷらんさせて痛みを11月の風で冷やしつつ、3歳児並みに頭と体力の等しい六花の元に行くが、何やら身構える体制になり後ろに回る。
勇太「ドームにさっさと入れよ」
六花「しっ。聞こえる!」
六花は薄暗いドームの入り口横で、ピストルの形をした手に、銃弾一式を挿入し確認した後リボルバーを回し、銃の命の矛先である射線を目で慎重に合わせる。じっと前を見続けるあまりの変化のなさに六花の画像認識にバグが起こったんじゃないかと心配する。
六花「なんかいる!」
えっ!?誰?
六花「3……2……1…..いくぞ!!」
六花「そこだー!!ばばばばばばばばばばーん!!!!!!」
六花「いた!ばばばばばばばばばーん!!」
六花「ゆうた!後ろから援護!!」
勇太「えっ?ばばばばばばばばーん!!」
六花「ばばばばばばばばばばばーん!!」
銃弾の落ちる音が目立ち、硝煙の匂いが立ち込まり、静寂が世に響き渡る。
六花「倒した!!」
六花「ゾンビが控えていたの!」
勇太「そうなの!?」
六花「やつはAP弾5発入れないと倒れない強敵の分野“クラス”だった。ふう危ない」
勇太「何でそんな奴がここに……あ!もしやこの公園に誰もいないってそういう…..」
六花「いや、全然違う!ゆうた才能ない!」
勇太「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした!」
六花「でも、協力に感謝する。ありがとう」
なんか褒められたし!うれしいけどなんかうれしくない!
謎の銃弾戦?は無事俺たちの勝利に終わり、俺は事の終止符を打たれたことにほっと一息がつく。そうだ、デートの告白の場所は例のあの場所にしよう。時間的にも門限大丈夫だし六花が喜ぶだろうなぁ。その中で勇太大好きって言ってくれたらもう……。
無言が続き、六花の背中をいいことに俺のカオスワールドが建設されニヤニヤしまくる。
俺が目の前の瞬間を見るや否や、前にあった六花のその拳銃の口を俺の目に向け、現実を突き付けられる。
殺される。え、なんで?六花??俺なにかした……?
何も返事をくれないまま、じっと俺の顔を見ている。恐怖で震え何も言葉ができない。少しの間が無限大に感じる。さっきまであった幸せはいとも簡単に死んでしまった。まっすぐ伸びる腕が彼女の本気度を表している。
六花は殺傷処分を下すような予断を許さない暗黒色の見開いた目つきで口を開く。
六花「犯罪係数10000000。執行モード、リーサルエリミネーター。慎重に照準を定め対象を排除してください」
え?なに?何語?
六花「バンッ」
その強く言い放った言葉が俺の心臓を停止させた。胸の中から熱いものを感じる。
勇太「……」
六花「……」
俺は前の光景が見えなくなった。
拳銃を長かった腕とともに折り畳み、そのピストルを空白の帽子に吊り上げると、その先の火をフッと吹き消し、俺の方を見てドヤっとシニカルに笑ってきた。
俺、騙されてたんだ。

六花はその成功したドヤ顔を見せると、再びドームの前に向き、何事もなかったかのようにゆっくりと暗黒の中に入っていく。
愛が、憎しみが、憎悪に変わるってことはこういうことか。ああ、そうなのか。
序列を成す歩き方の六花が一歩二歩、足跡を構築していく。俺はその序列に逆らい、しかし彼女に存在を気付かれないよう静かにその影の最短まで足をのばす。
彼女は一瞬振り向く、それが殺傷の合図だった。
俺は段々侵食していく影の実在へと猛烈に駆け寄り六花の横腹に触る。彼女の抵抗より早く爪の先を肌色に並べ、憎い脂肪を内臓までえぐり音階をつくる。
六花「きゃあああああああああああ!!!!」
クレーターが出没しては消えそれの繰り返しを、目に見えぬ移動速度で凌駕する。
勇太「こーちょちょこちょこちょ!!」
六花「いやあああっはっはっはっはっはははははははは!」
勇太「こちょちょこちょこちょこちょこちょ!」
六花「はははははははやめてきゃははははははは!!!」
勇太「こちょちょこちょこちょちょちょちょん!!」
六花「やはははははははははは、あーはっ、はっはっやん!!!」
勇太「ツンツンツンツンツン」
六花「いやいやあはははははははは、はははははっもうはははは」
俺は逃がすまいと六花の脇腹の前を4本指でしっかりつかみ、六花のしりに俺の下半身が抱くようにくっついて、親指を六花のふっくら柔らかいお腹の中央まで円周を描いて穴に落とす。六花は理性が飛んだあまり唾を止まらず出して、涙を流して顔が最高潮に赤くなる。
勇太「おへそが弱いのか?おへそが弱いのか?ツン!ツン!ツン!」
六花「きゃははははははははっ!あははははは!あん!あん!あん!」
六花のお尻が自由左右に動くせいで、俺の下半身が擦れるたびに刺激される。そして大きく太くなっていくが俺の理性が制御できない!どさくさだ!
俺の親指が深く沈むたびに、六花は「あんっ!」と天井を向いて体が跳ぶ。
勇太「こちょこちょこちょこちょこちょ!!」
六花「おねもうやめはっはっはっはっ!!!あん!はっはっはっはっ!!!!あん!」
勇太「こちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!」
六花「あはははははははははは!!!やん!」
勇太「はあ、はあ、はあこちょこちょこちょ!!」
六花「はあ、はああん!はははははっ!はぁ、はぁ、はぁ……」
勇太「はあ、はあ、こちょこちょ」
六花「やはははあああああ…….はははは……」
勇太「はあ、はあ……」
六花「ゆうた!もうや!」
六花が激怒したので、今日はこれにて終了とする。
腕はしおれ地に落ち、俺と六花は生暖かい空気を吐きながら、暗いアスファルトの中で横たわる。
六花がゆうた……。と呼んでくるその普通の顔が、愛らしすぎて愛くるしすぎて、疲れて髪ごと垂れた涙と唾だらけの懸命に呼吸する六花を、ハグしたくなる。そして優しく包み込む。
六花も拒絶せず、俺を優しく迎えてくれる。興奮が冷めた広大な世界なのに俺一人ぼっちでぽつんといるのが寂しい。誰かがほしくてたまらない。六花の温かさを永遠に感じたい。
しばらくお互いの生温かさを抱いた後、六花の静態にひびができたので俺の腕を元に戻す。六花は立ち上がり明るい表情で俺の顔を伺ったため、俺もそろそろ行こうかなって気分になる。
彼女を差し置いて光の出る先を体で掴もうと出口に行くと、何の拍子も感じぬままお腹の中に衝撃が走る。六花の小さい拳が奇麗に軌道を描いたようで腹の中に一発かまされた。もしやと恐怖にかられると六花は歯をうならせこちらを睨みつけていた。ってやばい!
宇宙の星からやってきた大怪獣の声をうぎゃああああ~~~と両手の指を張り上げ威嚇、その平手打ちを俺の全身に八つ当たりしてきた!いたい!いたい!いたい!いたい!
勇太「ごめんごめん!」
と言う割にあまりに痛かったので、六花の背中を丸めて横からテンポよく張り手を振り下ろし大怪獣の撃退に成功する。
六花「なんか違う!ゆうたが怪獣で私がウルトラマン!」
急に変なこと言いだしたので、お、おうと承知し、俺がうぎゃああ~~♡と両手を天高く上げ威嚇のポーズをとると、自称ウルトラマンさんは光速で俺の目の前に詰め寄り内臓に感触のある鈍い音をつくる。言葉が出なかった。みぞおちだろう。俺は声の出ぬまま正義のヒーロー六花さんの横に静かに倒れ生理的な涙をこぼした。呼吸のできない俺を横目にやったぜ!のどや顔をして腰に手をつけ自身を威張る。目の前がボヤっと薄れる。さっきはごめん、お前の価値は認めるぜ。あと数年は生きたかった……。

気が付くと声が出るぐらいには回復しており、またアスファルトの冷たすぎて露路の地獄にいるような寒さが体に滲むのが嫌で、六花と共についに、ついに、ついに!!ベンチという神様仏様に代表された腰と足の激痛を受け止めてくれる憩いの場にやってきた!!やったああああ!!!!HP全回復できる!!!嬉しくて俺は園児のように駆け寄り一番先に座る。悔しがった六花も慌てて二番乗りを名乗り出る。あ~。この痛みの退いて快楽物質の流れ背もたれに効くし重力に引っ張られるこの感触が心地いいなー。

何にも考えられなくなって無為に時間が過ぎ六花の名前すら思い出せなくなるほど頭がはたらかないのがいい。考えないってほんと最高。
六花「ゆうた」
勇太「ん、なに?」
六花「ゆうたに言わなきゃいけないことがあるの」
勇太「ん?」
六花「あの……私……私……」
やけに六花は顔の紅潮した緊迫する表情で俺に言いたいらしい。なんだろう?
ん?公園でいろいろやり尽し話し尽した六花に未だにやっていない隠し事があるとしたら?もしかして?もしや…..!?
こ……こく……告白!?
うわああああああああどうしよう!!!!!急に告白なんて聞いてないよ!!!!俺なんて告白すればいいのか決めてないし!!!決めたのもあるけど長台詞で今思い出すことなんかできないし!!!!今ここでうんっていっても記憶に残らな過ぎて六花が一番いやなことだし!結婚したらどうしよう!何も考えてないよ!焦って変な対応したら「勇太の最初のプロポーズもっとちゃんとしてほしかったな…...」って、幻滅するかもしれない!!!!!!!!!!そうなると婚約破棄、離婚は確定、これまで六花と話し合って笑って泣いて慰めて試練を数々乗り越えたときのあのときの記憶がパァ!!!!!全部パァ!!!!俺は何のために頑張って来たんだ!?!?六花がいなくなったら俺一人になってしまう!!こんな心の分かる気の合う女性他にはいないだろうし!ずっと一人寂しく死ぬうわああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!
頭の中でニワトリ(弱腰チキン味)が主人から脱走し駆け回る図が想像される!
六花「私!」
覚悟!うっ!
六花「火影になりたい!」
勇太「えっ?」
六花「この年で恥ずかしいけど……影分身が使えたらいいなって」
六花「ゆうたあのね!例えば私の目の前に闇の組織が襲い掛かってきたときとか、多重影分身の術を使えば、ピンチの際に色々便利だから」
六花「でも今更こんな低レベルな領域の技を誰もが知っているのに習得したいだなんて言うとゆうたにバカにされそうだって思って」
六花「でも言えてよかった」
へへっと六花は笑う
勇太「あのなあ、あのなあ……」
六花「なあに?」
勇太「心配かけるなああああああああああああああああああああああああああー!!!!」
俺は猛烈のぐりぐり攻撃を、今まで見たことのないぐらいの質量と硬度を回転させ六花のこめかみを変異するまで執拗に浴びせ、その押さえだけで六花の体重を持ち上げるほど復讐心に駆られていた。
六花「ごめんなしゃ~い!!!ごめんなしゃ~い!!!!!!」
ついには涙を大量に流し鼻水が美少女のあらん姿を崩壊し、ガチで泣き出してしまった。
やっと反省したか。
はぁ。はぁ。はぁ。疲れたもういやだー。
六花は、うえ、ぐっす、ぐっすんと嗚咽が止まらぬようだ。ほら拭けよっと、ティッシュを渡すと素直に応じる。
体裁の整った状態になりそうなので。
勇太「それ幼稚園児が将来はウルトラマンやプリキュアになるー!って言ってるようなものだぞ。現実にいやしないってのに。火影になるんてその該当例。ばかばかしいもう好きにしろ」
呆れてそんな言葉しか出ない。でも、言い返せないというのもムカつくので。
勇太「でもさお前、火影はともかく中二病だろ?忍者だろ?やりたい範囲大きすぎて収集つかなくなるんじゃないのか?どうせお前三日坊主で普通に戻るだろ!?」
六花「中二病でも忍者がしたい!」
勇太「あのなぁ…..」
これ以上言っても無駄か。
六花「邪王心眼に不可能はない!最強の忍びとして空白の8代目に君臨する!!もしなったら、クナイをシュシュシュってしたい!」
勇太「そっちが本音かよ!!」
勇太「あ、そうだ。六花、確か伊賀か甲賀の忍者の里で、薄給で人来ないから忍者募集してた、ってニュースを見たぞ。ここ滋賀県だし近いしやってみるか?」
六花「ほっ、ほんとにあるのーーーーーーーーー!!!!!」
バカでかい声で黄色の歓声なのか憧れなのか、子供の純粋なるキラキラな瞳で、薄汚れた俺の大人の視点を痛々しく刺してくる。う、やめてくれ、やめてくれー!
勇太「ご、ごめんうそ!」
六花「えっ……」
マイナスに功を制したというか、やばいぐらいに落ち込んでる。立ったアホ毛が一瞬で死んでしまったぞ。
勇太「うそ!ほんとはあるぞ!!」
六花「あるのーーーー!!!!!」
勇太「忍者の村にさ、当時の忍者の世界を再現したそういう施設があって、その人たちが上演時間毎に舞台ショーに上がって体で表現するから、運動神経いい六花も役に立つんじゃないのか!」
六花「マルチで取っ組むのはちょっと……キモイ。基本ソロ。あ、ナルトは別ね」
勇太「そっちの好みがあったのかよ!」

その後展開はあらず再度無言になった俺たちは、二人で空を見上げ綺麗だね……と言葉を失った後、ふと腹に激痛が走る。胃の中に硬い縄で限界まで引き締められる痛む俺の腹は食物を欲していたのだ。ようやく出番だな。俺はバッグから弁当箱を持ち出した。
勇太「そろそろお昼にしないか」
六花「なにそれなにそれー!」
今日のこの日のために昨日時間を合間縫って作った最高級愛情弁当だ。樟葉の料理の終わりを見かねてキッチンに入り愛と蒸気で汗を流しつつ早急に仕上げたご飯おかずの二段重ねの特製品。なんとタコさんウインナー付きなのだ!金色を反射し持つと震えるいかにも柔らかそうな卵焼きに六花は驚いたようだ。早速六花は俺が弁当を置く前に箸を持つ。
六花と俺の膝の隙に弁当を置くと二人で青い箸とピンクの箸の二種類で持って弁当を食べる。と言いたいところだが俺が肉団子を頬張り感触を味わうと、なんだか六花はそうじゃないようで。地面を見つめ眉を垂らし先ほど弁当を見せた際の腕の高ぶりも静かに落ちていた。なんとか繋ぎ止めたいと六花の横顔を明るく見つめている。
勇太「なんだよ。どうしたんだよ」
六花「んーん。なんでもない」
六花は俯いている。楽しくなさそうに。じっと動かず俺の気遣いの終わるのを待っているように感じる。元気?って聞いたけどうんって、その顔で言われても嬉しくないよ。急に楽しさをなくすなんてよっぽどのことだ。お前本当にどうしたんだ。なにかあったか。俺の発言で傷ついた痕跡として考慮するもタイミングが不一致だ。不可解に訪れたこの現象をうまく解読することができない。でも愛らしい顔と気分の消失から見て今失望の最中に落とされた心理状態だと確信を持って言える。だがなぜ六花が生命の希望を捨てているのか、過去の映像を探っても見当もつかない。ずっと付き合って長年理解したつもりだったのに六花の気持ちが分からない。くやしい。なんだよ。なんだかもどかしさを感じる。六花の全てを理解しているつもりだったのに全然理解できていない。でも何か彼女の横顔を見ていると遠くの方から草花ではない生暖かい不思議な風や匂いを感じる。今の彼女はどっかでまるで俺が経験したことがあるような引っ掛かりのある何かに縛られた。なぜだろう?この世界の正体を俺は知っている。確実に覚えている……!なにもない空虚で覆われた真っ暗の雰囲気だったことはわかる。大切なクマさんだとかに家出されたときのあの雰囲気に近い。何かが俺を闇に誘うあの空間が懐かしくてぼやけてしまって、しかも今回は何か違うような感じがしてうまく思い出せない。誰かがいるようで誰かがいない、それも人間じゃない、虚構の空間の正体。真っ黒な優しくて、でも辛い……何かだった。封印?そうだ、封印したはずなのに……?黙示録を解放する妄想をするとなぜか俺の体は、まるで長い間遠距離の知人と再会し高揚する気持ちになったかのように躍起になる。でもそんな人も知る由もないし、封印も禁断も関連と一切ない。じゃあ、なんで。俺の身の世界に何かが起こっている。心臓のベル塔の警鐘におびえる俺がいる。公園の不動の周囲から何か恐ろしい敵意を感じる。誰かに見られている感じがする。誰かが俺たちを誘引している気がする。優しいなら、ただ見守っているだけなら臆病になる必要性もないのに。止めよう。知るだけ邪道だ時間の無駄潰しを今日に限ってしたくない。思わず俺もそれに引きずり込まれそうになるが今日だけは別なんだ。例の告白が待っている。それに丹生谷も陰で応援しているし俺の今の行動に間違いはないと思いたい。もし本当にクマさんみたいに失くしたんなら、それなら失くした分も新しいもので埋め尽しちゃえばいいんじゃないか?気軽にハイテンションで行こうよハイテンションで。
命の沈んだ彼女に、慰めにもならないけど大丈夫かって慰める。うん。と答えた彼女は虚ろげな瞳をゆっくりと俺の目に合わす。見上げた顔に太陽の光が差し、髪が風になびいて奇麗なお凸の形を見せる。そして彼女の眼帯と俺の目がぴったりと一致した。
勇太「瞳と瞳があった。これで契約完了だな」
そういうと六花は少し口を緩めて元気になる。
せっかく俺は恋人になったんだから。その意思が俺の腕を動かして、俺の青い箸を卵焼きに挟み六花の口元に優しく持っていく。
その真剣な俺の姿に驚いたのか六花は急に顔が赤くなって、周りの景色を首で確認したあと少しうずくまり、その麗しく柔らかい、卵焼きにも匹敵する唇へと連れて行く。
普遍で不変の悠長な顔で味わう予定が、口元と目元の上がりで台無しになったようだ。
勇太「おいしいか?」
六花「うん」
六花のちょっぴり薄い笑顔を見て嬉しくなったよかったと安堵する。やっぱり体力の尽きたせいだ気のせいだな。人間空腹だとおかしな未来を考えがちだ。六花もこの宇宙で最強の邪王心眼と称しながら本当は人間だった。弱い人間だった。
顔の紅潮を膨らます六花は今度は卵を持ち上げて俺の口に「あ~んして」と指示し、俺の口に大胆にも歯の中まで持っていく。やっぱこれ赤ちゃん扱いされているみたいでかっこ悪い。高校生なのにこんな幼稚なことをしてもらってと思うと胸に針が刺ささっているようでムズムズかゆい。その卵からなぜか口につけてない箸から六花の味がして喜びが止まらない。そして六花は俺の口に入れた箸を自分の口に含みペロッとひとなめする。六花の口に俺の温かい唾液が二色混じっているのを想像する。
勇太「恥ずかしいだろやめろよ!!!」
六花「いいじゃん別に」
と、目を反らしイヤミにニヤっとした表情で彼女は答える。なんか夜のことを想像するからやめろ!!!恥ずかしい!!!!!!
俺は六花に食べ物を持っていき、六花は俺に食べ物を持っていき「あ~ん」と首を伸ばす姿をお互いに愛らしく感じる。トマトを見ると「魔獣の卵みたい」と言われた。お前まだ好き嫌いあるのかよ!と、そう言おうと口を開くとあ~んされた。ふふんっドヤ顔される。策士め!食べ物をあげていく。その六花に持っていくのがあまりにもかわいくてハムスターが懸命にご飯を食べて少しずつ成長しているみたいに思えて「りっかたんご飯でちゅよ~」と言うと、ムッとした表情で口を堅くされた。それはいやなんだな。わるいと言い無言でご飯をあげる。

六花「タコさんウインナー。罪状、ウインナーなのにタコの形に擬態していたため。死刑」
六花「ウサギさんりんご。罪状、プリーステスの弁当を思い出せた。あとかわいすぎて食べるのが憎い。よって死刑」
勇太「ただでさえ食べられるのに罪着せるのひどくない!!?」
六花「ゆうた。死刑」
勇太「うわあ、巻き込まれた!!!」
六花「プ!クスクス」
なんだよそのあざ笑う嘲笑!そんなに俺が憎かったのかよ!おまえほんとおかしいわ!!
それで俺が笑うと六花も笑う。俺がツッコミで肩をポンと叩くと六花も俺の肌に触れる。
二人の気持ちが呼応する。楽しいな、ずっと楽しいな。時間が止まればいいのに。
不安な気持ちも芽生えたけど、最終的には触らずゴールすればいいだけの話さ。
俺は最後のミカンを六花にあげる瞬間、いつまでもこれが続けばいいのにって嫌な気分を感じる。それを笑顔を見せて封じ込めた。
ベンチの座りがそろそろ苦痛に変わって弁当を片付けるとふと六花の横顔が気になる。高校のランクが1つ上がるたびに顔つきが大人の顔に見えてくる。初めの頃より女の顔になったよなと不思議に憧れる。それでも中身は愛おしいのは変わらない。上品さは変わらないけどな。六花の顔が好きだ。中身も好きだけど。六花のとがった鼻を手でツンってしたい。怒られるからやらないけど。それでも知りたい触れたい衝動が抑えきれないほど溢れてくる。
勇太「りっか♡」
六花は、ん?とこちらを振り向くがその姿が愛らしい。俺が何も言わないのを確信すると再び前を向いた。
勇太「りっかー!!」
六花は、少し俺の大きい声に「なーに?」って問うけれどその真面目な顔が可愛い!!!!
勇太「りっかーー♡♡♡!!!」
六花は、何でもないのに呼んでくる大きい声に迷惑し、小さく眉をひそめて「だからなーに!」と強く言って怒っている顔がハムスターみたいでハグしたくなるほどかわいい!!!!!!!!!
勇太「りっかーーー♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡!!!!!!!」
六花「」チッ
怖い……。
舌打ちされた。出会って初めて、こんな恐ろしいオーラ見たことがない。

携帯で時間を確認する。そろそろ3時か。今日のデート日和な快晴の青空は、あと2時間も過ぎればオレンジ色に染まる。冬になるにつれて11月になるにつれて遊ぶ時間がなくなっていく。俺たちの寿命は一定に過ぎていくのになんて残酷な季節なんだ。
そろそろ公園出ようかと提案すると、ちょっと待って!と六花は慌て「ゆうたがいないとどうしてもできないの!」って困った表情になる。じゃあそれと引き換えにラストなっと言うと強気で頷かれた。それほど重要なことなのか!?
六花「あのね、宇宙のTV見てたら、すっごいんだよ!!!」
六花「なんとね!えーと、人が~光の速さで~行くと~過去に行けるんだって!すごくない!?」
勇太「ああ、アインシュタインの奴?相対性理論。一般相対性理論と特殊相対性理論に分類され、特殊相対性理論によれば、もし人間が光速で走ると重力が無限大になって過去に行けるかもしれないってやつ?」
六花「知ってた!ゆうた!ゆうた!」
勇太「高速で移動すると周りの景色が止まったかのように見えて景色が1点に見えるとかなんとか」
六花「時間停止の魔術!」
勇太「魔法なのか?高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない……のか?」
勇太「で、光速でも四次元空間には入れないけど別の空間にワープするらしいぞ。時間と空間は本来一定じゃなくて重力で捻じ曲げられてるって」
六花「んなもんどうでもいい」
勇太「これはアイムソーリー」
六花「いらない奴なんて重力を使用しなくても、不可視境界線の因果にいる同胞の力でなかったこと扱いにしてるから。今の日本の大企業に不祥事が生じているのも全て私の力が作用したもの」
勇太「こわっ!怖すぎてもやもやする。憎まれないように気を付けるわ」
六花「もし速く走るたびにその現象が少しでも観測されるなら光速移動の最中にいることが証明できるはず!ということは私の行きたかった異次元の彼方に行ける!すべての願望も因果の収束で叶う!異次元の世界で凸守とカレーを食べたい!」
勇太「んなもん行けなくてもできるだろ!」
六花「いやいや違うよゆうた。自分で買ったり作るんじゃなくて、異世界で歓迎されてちょっぴり味の変わったカレーを出されたのが食べたいの!邪王心眼の思惑が読み取れないなんてバカじゃない?」
勇太「じゃあ一生バカでいいわ!」
六花「それに…..」
勇太「ん?」
六花「んーん」
お前にも欲深さはあるんだなと胸をなで下ろすと、とにかくと言われ公園の砂場の中央まで来た。

はぁなんで俺がいないとできないのか、つまり二人で周りをグールグル走れってことだろ。俺は加速要員ってことで。じゃあいっそのこと手を繋いで走った方が早いんじゃね?重力を負荷したいんだろ?でも、何度もデート中手を繋いだことのある俺でも、やっぱり最初は勇気のないシャイボーイだ。さっき繋ぎ損ねたしなかなか言い出すにも臆病である。それに人の手を触るだなんてエロスケベ変態の烙印を押されるなんてごめんだ!学校で復讐に愚痴を吐かれかねない。でも、六花なら、ひょっとしたら俺のことを受け入れてくれるはず。手の先を六花まで伸ばして、そして柔らかく小さな手にぷるんっと当たった。六花が目を丸くし急に俺に目線を送るので、慌てて戻ろうと思った。矢先その手は優しく俺を包んでくれた。俗にいう、恋人つなぎってやつ?はぁ。なんだ結局杞憂じゃないか。六花は顔の火照った表情になり俺もつられて笑顔になった。恥ずかしいのか顔を反らされた。
六花「……エッチ!」
顔はわからないがぶん殴りたくなった!こらー!!!人の気になることを!!!
俺は潔白の男の子だし!お前変な顔になってたら絶対に許さないからな!
六花「いこう!手を繋いだら速度は2倍ってパーマンが!できたら恐竜に会いたい!」
ツッコむこと暇なく腕を引っ張られスタートした。砂の広場の中で一緒に回転し初めてでどうすればいいか分からず手がふらついて体ごと引っ張り引っ張られたが、2週目になると二人の距離が分かって同じ速度で走り同じタイミングで旋回し、それはタカを超え疾風の颯と化した。走った広場の足元の砂が空に舞いこんで小さく竜巻ができている。二人の熱い絆は風の厚い障害を容赦なく斬り裂き、重力の中心でもあるため徐々に重くなっているのが一目散に感じられた。
六花「大二宇宙速度展開!たああああ!」
見えるぞ見えるぞ……!歩行者の速度もまるで動いていないように感じ、重力で体ごと手の中に引っ張られる、光速限定の状態が!これ本当に四次元にいけるんじゃないのか!?
そんな、うそだろ!!!
回れ!回れ!回れ!何度も!何度も!何度も!
旋回の飛行機のごとく!光に!いける過去の世界へ!
おええ……。
タンマ!と精を込めて地面に指標を放ち、地面に映像が流動しているように今度は目が旋回している。
六花「おええ……」
お前もじゃねえか…..。なんで止めなかった。進むんじゃねえぞこれ……!?三半規管の器官の弱点の一致に同胞感を感じるがそんなの嬉しくない。
他人に見られたら即通報されるだろう。広場で二人の死体が静かに遺っている。俺の体が限界を超えて砂地に大の字でうつ伏せになっているが、六花も声がしないので無事に死んだらしい。
しばらくっていつを意味しているのか分からない。イエスキリストもびっくりの再生劇を起こし奇跡的に体調を取り戻した。俺は六花のゴス衣装の服についた砂をパンパンと取り払い六花の身長がシャキーンと伸びたのを見て、凝りて早くこの公園から出ようと決心する。
誰にも遊ばれず孤独にあるただ静かに目の前にいるすべり台やお砂場が無性に気になる。公園か……。無人の遊具を見ると懐かしいな。幼稚園児のとき園児服を着てよくすべり台や砂場でお山を掘ってトンネルを開発したっけ。あの時は良かったな。幸せな記憶がするんだから幸せだったんだろう。皆とよく遊んだなあ。それがいつもいつも楽しかった。でも小学生一年生になったとき皆でまたやろうかと思ったらドッジボールで遊ぶ人が大半で、砂場はいつも空気だった。皆いつも遊んでいたはずなのに、気づけば俺一人だけスコップで掘って。あまりに静かに1つ1つ掘って公園に響き渡る音が虚しくて自分も離れてしまった。それ以来もうやっていない。でも好きだと言える趣味もなかった。
それが小学4年生に響いた。俺はクラスメイトに話しかけられ、TVで見ていると言えばなに聞かれた。初めてだった。友達は一応いたが本音を言う仲ではなかったので普段一人で何かしていた。そんな俺にとってこの質問は天の輝きに見えた。俺はアンパンマンやドラえもんを見てるよと単純な発想で、もしやこの話を契機に友達が手に入るんだと心の底では期待したかもしれない。あの人たちの訪ねた真意のその期待と真逆の透かした答えだったのは今の俺からならわかる。いい返事はなかった。次にモンハンとかFFやってない?って言われるのに首を横に振ると、ああそうなんだと軽く微笑を出された後その人たちは友達のところに行ってしまった。正直、ショックだった。俺はまた一人になったことを再認識しさせられた。俺の見るものってそこで感じたもの含めて全部、実は間違いじゃないかって一人白い閉鎖空間に閉ざされた。自分が自分に対する罰。俺の知っていることは皆にとっての役立たずの前提知識。幼稚園児の見るアニメ系ばっかりの低次元のギャグで笑う自分が嫌になった。なんで俺は皆より価値観低いんだ。俺ってそんなにバカなのかよ。俺お前たちになんの悪いことしてないのに、なんで遠くに行っちゃうんだよ。少しは他のことにわいわい楽しんで気にかけてくれてもいいじゃないか。卒業ってなんだよそんなものあるわけがない。なんで幼稚園児が見てて良いのに俺が見ると悪いんだ?高年生対象に難病にでも降りかかるものなのか?あの人達が悪意なくて話しかけてくれたのは知っててうれしいと思った。でもなんか違うんだ。それだけで離れるなんて聞いてないよ。俺の知っている友達の定義と違う。俺は流行遅れの異端派の烙印を押され、趣味界の除け者にされた。流行に乗ればクラスの人気者になり賞賛され、流行に乗らなければ友達になる昇格すらない。無知なる人に自己責任と称し、愛の知を共有しない。おおらかな心を持つ人間は死んでしまった。いやもしくはそれは言語界の生み出した宇宙最初期から存在しない幻だったのかもしれない。最果ての結末、孤高の静寂の檻。その檻の製造主は彼ら。大人になったらゴルフだとかパチンコや芸能に趣味が走る大人って変だけど、どうしてそうなるのか分かってしまった。このときだ、この人たち普通人が狂ってるって思ったときは。でも別にモンハンもFFもやってみたら楽しかったよ。ずっとシリーズ買ってるし買う契機にはなったよ。
でもな、でもな、
どうして人は年を取るたびに狂っていくんだろうって思うんだ。


ずっと一人で遊んでいた。誰かが好きを分かってくれるって甘えた頃もあった。
もうあの楽しみをわかってはくれない。
わかる方が異端なんだ。
スコップも思い出も、全ておもちゃの中の宝箱にしまって。
そんな思い出封印してしまえ。

「ゆうた?ゆうた!」の遠くから強くなる掛け声でここに戻される。心配そうに眉をひそめて大丈夫?って声のトーンを落とされ、どうやら偽りの仮面を見破られ本気で心配しているその顔に気付いた。驚いた俺は何とか楽しいデートを繋ごうと声を高く大丈夫だよっ!と六花に明るくつき返す。さて行こうかとこの顔を反らし二人で手を繋いで公園から出ると、次何しようかと思い次の目的地を歩いて探求する。本屋行こうかな、それとも河原か?
あれこれ場所が浮かんでくる。ん?手を繋ぐ感触がない、あれ?六花がいない。気が付いたら公園の出口のところに座っていた。
勇太「おい何やってんだ!車に轢かれるぞ!」
六花「疲れたー!」
勇太「俺だって疲れたよ!」
六花「疲れたー!やー!」
勇太「帰るぞーバイバイ」
少し振り返る。俺がバイバイと言うたびに振り返るが、六花は一向に動く気配はない。
勇太「帰るからなー!」
はぁ。せっかく歩いたのにもう。たくっしょうがないな。ここ人気なくて良かったな。ここで許すから六花が調子に乗って暴れ「孫とおじいさんみたい」って丹生谷にからかわれるんじゃないかな。でもそんな葛藤どうでもいい。公園の近くの河原で横になろう。新緑の魔力を補給(六花曰く)
無言で背中を貸す俺に、無言で背中に登る六花。
持ち上げるには難ありだったが目的地を目指そうと膝を壊して頑張る。
ゆっくりと背中が上がり、重い足で一歩一歩歩けたことに感動していく。
すると、それに呼応したのか六花から言葉が飛んだ。
六花「あいしてるっ」
…..。
初めて背中に乗る六花を放り投げようと思った。

背中に無賃乗車する河原に突き落としたら面白い声を出しそうな生きていても大して恩恵を感じないお前の眼帯落としたいランキング第一位に輝くキングオブクソカスゴミリッカスゥゥゥゥゥ!は、カスとして輝くために、こうやって必死に精神をすり減らす善良な市民である俺の妨害をすることばかり図っている。
六花「ふー」
勇太「うぅうう!!耳をフーってしてはいけません!」
六花「私ね、小説家になろうと思う。ネットのやつで無料のいいしもべを見つけた!うへへ、ここに来てくれた読者をあんなことやこんなことで痛みつけて、一生社会に出れないようする!」
勇太「その前にメンタルがやられるぞ。十花さんに絞られて終わる」
六花「勿論ゆうたの名前入り!私とダブル主人公だもん!タイトルは『六花は勇者』!」
勇太「お前が救ったら世界が終わる!それって他の意味でアウトだから!それにまずお前がトラックに撥ねられろ!」
六花「行けー!ダークフレイムロボッターZ!!がしーんがしーん!」
六花は俺の唯一立っている健気な毛を(アホ毛ではない)、炎症も考えず強く引っ張って左右に動かしている。
勇太「それ以上やったらあとでお前のアホ毛引っ張って引っこ抜くからな」
顔の青くなったらしい六花は出っ張った俺の毛を元の地毛に戻すように優しく撫でてポンポンと埋める。
勇太「もう遅い!」
六花「私ね、運転できるようになったの!車の!」
え!
えっ!??二重の意味で驚きである!!
六花「カーブとかドリフトとかウインカー付け方とか知ってる!」
勇太「ああ、ゲームの話?DSとかPCゲーム系だったりの運転操作系のゲーム?」
六花「そうだよ。それがねーすごく面白くて。リアルなんだよ私が右に運転すると左によけたりとか。でも特にすごく面白かったのがね、赤信号で待っている人に車で突っ込んで隣の横断歩道までボーリングのストライクみたいに弾け飛んで最高だった!!」
口を開いて言葉を失った。かわいげのある六花ってこんなやつだっけ……。
六花「ねえゆうた同情してよ。宇宙人極秘マニュアルがとうとう休刊になっちゃった」
勇太「ええ!お前全巻持ってるだろ。前にマンネリ化したって聞いたけどとうとう」
六花「うんそうなの……。好きだったよ……。後で火葬しないと」
勇太「なんでそうなるんだよ!マニアならさ観賞用保管用布教用に取っておくべきだろう!こういうのは俺うるさいんだぜ!」
六花「ゆうた総理大臣。本の定価1本につき600並びに50円に対し、我が国家の歳入は100円しかなくこの国は貧乏です。是非DFMさんからの融資を申し出たいのですが」
勇太「俺は銀行じゃねーよ!暴落しろATM!」

そして河原の草原中央までついた俺は、ほら降りろと促してもカメムシのマネって言ってくるリッカスを下敷きに俺の両手両足を草地に伸ばして大の字になり「い、いたい、痛い!」の楽しい声を鑑賞した。俺の背中を殴るように動き出た六花は、目の前の河原の草原に走って満足している。安らかな青空、ああ背中が癒される。時計を見ると時刻は4時30分のそろそろ夕刻を指している。小学生らしき身長の子供が遠くの方で遊んでいるのを音で聞く。そよ風が気持ちいい、とくに背中に六花を乗せたので汗びっしょりだ。何もなく静かで何にも感じない世界。そのとき弁当の時の静かすぎる暗闇を思い出す。あれはなんだったんだろう?なぜ六花はあんなことに?普通じゃないのに普通だと思う謎の理由は?まあそのうち忘れるだろう。でも、ほんとにそれでいいのか……?
ん?そういえば六花は今どこにいるんだ?と、振り向くと車道の近くの草原に触って何かやっているらしい。
勇太「おーーーい!危ないぞ!!」
俺が手を振ると六花は手を振り返してくる。そういう意味じゃないっての!すぐに戻ってきた。六花は、横たわっている俺の腹を片手で上からかざすように回している。
勇太「なにやってんだ?」
六花「治癒魔法」
うい~ういうい~。
皮肉か!皮肉か!やるか!おっ!?
お前のせいで疲れたのに……。
六花のもう片手の方をなぜか背に隠しているので見ると、急に手を後ろに回して何やらして、俺の方に変なものを見せてきた。
六花「みてみてー!花輪できた!ウロボロス状!」
勇太「すげーな!ちゃんと8の字だ!」
ウロボロスといえば∞のマークに同じと覚えている。さすが六花だ、国語と社会と裁縫と運動神経に関しては世界一をとってもおかしくない!
六花はこれと言って、表彰する。平成29年11月うんにち、おめでとう!と俺何にもしてないのに敬具をもらった。俺は頭を下げ∞の冠をかぶりどこかの国の人になった。嬉しいけど嬉しいのかよく分からない。
六花「似合う」
俺の姿を誇るようなその嬉しそうな顔がたまらなく好きで、疲れが一気にちゃらになり、忘れられない一日となった。六花からの愛情プレゼンツはこれでおしまいだと思う。今日は遊びすぎたかな。色々あったよな。一週間待ってもらったお礼にお釣りが出ると思う。また今度草原や公園に来て一緒に遊ぼうよ。進化に向かって一歩一歩だけど。時々方角も間違えるけどでもなんとかなるさ。今も昔も未来もちょっとずつでも六花の進歩をまだ見てみたいと思った。

第3話 「恋の時限爆弾(神はあなたを助けない)」

気が付いたら夕陽が差し掛かる。太陽の天下も下り坂。あれだけ青かった空も威厳をなくして、世界がオレンジと黄金に近い色に染まり光の届かない位置にはうっすら影を落としている。しかし空の色はまだ水色で、その金色と水色が混じったこの町は自家製ダイヤモンドのじっと見たくなる暖かい輝きを放っていた。鳥の群れも1,2羽電線に止まり、気象の変化に仲間を呼ぶ鳴き声もまばらに聞こえる。髪をなびかせる風も、六花に気に掛けるぐらい11月の冬らしい寒さで、風も少し強くなったと断言できる。バタバタいわせる俺たちの服の羽ばたきで勢いを感じた。棒立ちする六花のゴススカートも前より大きく風に流されていてうっとおしいのか細く白い手で抑えていた。この町の活気ももうすぐだ。オレンジ色の引導でできた道を見渡せば犬の散歩連れや走るランナーが昼間よりは多く見かけるようになったように思える。その生命の力を示す太陽に照らされて、六花の横顔は金色に見えて、特に可愛らしい高い鼻のてっぺんがオレンジ一点に反射していて、頬は暗く大人に映る。六花のその美しく輝く宝石をどんな存在よりも見ていたいと思った。それも永遠に。これが本番の告白前の最後の、六花とデートしたときの最後の姿だと思うと胸がキュって苦しくなる。でもこれでいいんだ。俺は前に進みたい。そう決心したんだ。
ふう。と気を込める。緊張で心臓の高鳴る音が止まらない。いよいよ本番で、今夜が最後。時間って思ったより早いもんだなといまさら悟る。だが振り返るほど後悔はない。
このデートもあと少しで終息を決める。そしてその決断者は俺だ。
じゃあ、今度は俺の番だ!
六花!と叫んで、ビクッさせてしまって後悔する。
勇太「言いたいことがある。ついてきてほしい」
俺は強く濃く言い放つ。かっこよさに惚れされたい。
真面目な取引。その男を示した声と真面目な表情に、六花は揺れた。肩の少しも動かさず静かに見つめたまま俺の瞳と深く共鳴し合う。彼女の目と眼帯から透けて見える金色のオッドアイは澄み渡るきれいさだった。硬直した体の中からその唇が開く。
六花「はいっ」
確かめ合うような真面目な表情のその言葉に内心ほころびが起こる。嬉しい。やった!それと同時に安堵で肩が脱力した。1つ呼吸が深くなる。しかし弱みを見せぬ自分の維持に気楽な言葉は相性が悪かった。言葉を受け取ると俺は顔の見えないように背を返しその真意を出した雰囲気を崩されないよう六花を護った。陰でガッツポーズを取る。第一段階は成功した。しかしまずはここからだと息を引き締める。俺の意気込んだ声に真面目な話だと理解してくれて何よりだ。心配な悩みの種は、もしや不要かもしれない。岩も砕けた気楽な思考に足も軽く前へと動き出す。一歩一歩勢いをつけて鈍い足が加速していく。それに連られて六花も横に来た。
勇太「今日は楽しかったか?」
六花「同意する。ローラーの演技も褒めてもらい、バトルも楽しいと感じた。すべり台で一緒に滑り、ブランコに乗り、ドームで一緒になって、弁当を食べて走ったり。全部楽しいかったゆうた。最高の一日だと思う」
無表情から繰り出されたその言葉に笑顔が止まらず心が躍った。同時に来てよかったと感謝したくなった。
勇太「そうか。よかったな」
嬉しい気持ちが抑えられず六花の頭を優しく愛情の伝わるように撫でる。六花は無表情であるが目の大きくなる様が感情を表していた。
もうすぐ日も暮れる。例の拠点へと移るべくそれが次の合図だ。震える緊張を隠し俺が笑って手を差し伸ばすと六花も出して、自分にはないほのかな温かみのある温度が体に伝わった。それのおかげで当初付き合い初めて手を繋いだことを思い出す。手の繋ぐ繋がないで真剣に悩んでいたあの頃と比べて今では六花も俺も成長しているだと気づく。その過去が幼いと感じ愛らしくなった。二人で繋いだ点をぶらんぶらんさせて二人で笑い合う。はは、楽しいな。まるで本物の彼女みたいに感じる。こんなこと言ったら他の人に笑われるかもしれないけど。俺には遠い異世界的現象にしかなくあり得ないと理解していた。TVの人の特権だと思ってた。でもこれが言葉でいう「彼女」なんだと思うと、ついに蒸気に等しかった夢を現に掴んで俺の存在が大きくなった気がする。
六花「ゆうたはどうだった?」
勇太「同じく俺も。きゃっきゃっ楽しんで笑って、怒って泣いてさ。思い出すだけで一杯、六花といると。記憶溢れすぎて何も話せなくなったよバカだな俺。あー……。おかしいよなはははっ。またウロボロスの輪っか作ってよ。あれで今度は王様ごっこやろうぜ。楽しいから。でも今度はより最高の奴で。……。ありがとな一緒にいてくれて」
満面の笑みになるかと思いきや意外にも、そう、と言った。六花も疲れて表情をセーブしているのだろう。六花的に言うと、新たな敵を討伐すべく養成中だろうな。今日色々走ったからな。だがそんな無表情の中でも声帯で不快ではない範囲であることが共鳴者ゆえに分かり、俺と同じ安堵に包まれた気持ちなんだと理解できた。そっか。嫌じゃないんだ。もっと喜ばせてあげたい。六花の人生の最高に残る思い出を作りに行こう。
勇太「それにしてもウロボロスとかどうやって覚えたんだ?形が面白かった。あ、そういえばお前の作ったやつ綺麗だったな。無駄がないというか。六花は編み物がすごく得意で巻き方も床を見るように整然としててすご」
六花「今日の私は楽しかった?」
えっ  ?
勇太「なに?」
六花「……」
勇太「……」

六花「……」
勇太「ん?何バカなこと言ってるんだよ。いつも楽しいに決まっているじゃんか」
六花「……」
勇太「……」
六花「……」
勇太「あの……。今日に限らずさ。いつも中二病で魔力を出して剣の格闘を挑んでは敵を倒してて、すごい力の持ち主だと思うぞ俺は。だが、邪王心眼よ。気を付けるがいい!いつかこっそり手に入れたい俺の野望心の目覚めに覚悟することだな!いつでも邪魔してきていいぞ!その度に肉付きの強化する設定が真の地獄を呼び覚ますだからな!……。やっぱ恥ずかしい!恥ずかしいと思ったし黒歴史になるなぁこれ!あ、周りにするのはやめてくれよ悶え死にそうだからさっはは。どうしたんだよ六花。帰る?」
はははっと誤魔化して大きく速く前進する。

すると、その手がふわりと、空中で離された。

六花……?
六花はまた下を向いて俯いている。元気をなくしたのが俺でも分かる。
六花と離された手に重力に振り回されて、地面に衝突するー!と目を大きくしたが渾身のつま先のディフェンス的硬さでケンケンをして飛び、威力の弱まる時を見計らって両足でジャンプ。音が大地に響く。危な。なんとかなったけど怖かった。となると急に怒りの矛先を与えたくなりその根幹の先を見る。
しかし思ったよりも期待外れで透かされた。六花は今度は何かを見ているように首が予想より少し違う気がしてならない。
どうした?とその位置から軽く声をかけてみるがそこから動くことはない。ただじっと六花は一人世界を創りその中を見つめている。俺は無視されている……!焦燥と不安が混じり切っていら立ちが芽生え始めていた。
俺はすぐ足を六花に向けてその場所まで威嚇するように大股ステップで駆け出し、下にある変なものを目撃する。なんだこれ?これは……バッタの死骸?
勇太「これ見てたの?」
うん、と返される。
アスファルトの上に浮く小さな緑。2センチもない小さな体が静かに死んでいる。全身がもう潰れていて動くことはない。体のエキスがアスファルトにまるで雨に濡れたときの濃い透明の色を出して周囲に溢れた跡がある。バッタの骨も車か自転車に轢かれたようで、草の間を魅力的な高いジャンプで重力を気にせず飛んでいく、その強靭な後ろ足が体の中心と共に1ミリ以下の厚さで平らになっている。触角から足まですべて。もうこの世界に用済みの死骸。ハエがたかってきたが六花の突いて回す足で追い返した。ただ静かにじっと時間を感知せずに居る存在。誰かが掃除するか、アリか他の動物のエサとして最後を全うするのだろう。
勇太「バッタ。死んじゃったね」
六花「……」
俯きが止まらない。何かしとしとした雨のような感じがする。
勇太「悲しいね。昨日まで生きてたのに最後は死んじゃった」
六花「……」
勇太「悲しい?」
六花「……」
勇太「……。はぁ。あのなあ、バッタ死んだのは仕方ないけど、これで悩んでも意味ないぞ。自然界は厳しいんだよ。生きる者は生きる。死んだ者は死ぬ。弱いものは強い者に食べられるシビアな世界なんだ。もうどうにもなんないよ。そんなに見つめても。六花のことお空でありがとうって見ているよ。行こう?」
俺は手を差し伸ばした。これで次のステージに行けるんだと。その陰には内心腹が立っていた。良くわからな過ぎて。得体の知れないものを触っている気がして。しかも他人事とは思えない雰囲気の何かを体は知っている。理解したくない何かを知ろうとしているんだと。
でも返ってこない。一向に体勢を変えないでずっと俯いたまま。俺に幸と手と顔の向くことはもうない。
六花……?その氷のように冷たくなった体に触れることができるのは、六花を良く知らない人だけだと体が畏怖した。なにかが、なにかが起ころうとしている……?
勇太「どうした?もう帰るか?」
六花「……」
見るのが嫌だった。なくなってほしいと体が自然に退く。


勇太「辛かったな。さあ帰ろう。お家に帰って温かいご飯食べよう?」

その言葉に、唐突に六花の顔が上がった。







六花「バッタさんはもう戻らないの……!」


左目から一滴の涙が、六花の訴えと共に落ちる。

えっ……!?
衝撃が走る。地に弾けた一滴の涙に心が壊れる。
俺の呼吸は止まり、歓喜は死に、頭の流れも白色に凍結し、血脈の流れる妄想が頭の中に駆け巡る。
なんだよ。何が言いたいんだよ。
聞いてはいけないものを聞いている。明らかに。
生きた心地がしない。苦しくて吐きたい。
目の前の画面が揺れる。六花が2重に見える。動揺が隠し切れない。
心臓のドクドクする普段聞かない悪い音が全身に聞こえている。
耳をふさぎたい!六花を置いて逃げたい!怖い!
でも正解を言ったとしたらこの世が終わるような気がするんだ。
何を言ってほしいのか分からない。何を示しているのか分からない……!
お前は何を知っている!何を言ってほしい!!
聞くな!嫌だ!やめてくれ!!!

俺はただ六花の涙のぽろぽろ落ちていく涙を眺めるしかなかった。
見つめ合う中心を点に世界をカッターで引き裂さかれたような感じがする。
潤んだ瞳をすくって上げたくて、でも近づけなくて。
俺たちは一瞬で成り上がった虚無の世界をじっと静かに見ている。
分かっている。
おそらく回答を求めているのだろう。
事実と言えば事実だ。バッタはいない。この世界にはもう。
さっきの俺もそう言ったのだから、冷静じゃない今でもそうだと保証できる。
でも俺にはそんな資格はない。言う資格はゼロだ。
正当は必ずしも正当ではない。そんな回答を求めてないってそれは俺でも分かってる。
でも史実を覆られるわけでもない。これは現実だ。
勇気がでない。情けなくも口が震えるのみ。口の中で歯のガタガタする音がうるさい。
舌を切断できればよかったかと思うその逃げ腰な自分に自己嫌悪する。
俺にできることは。俺に託された回答は。


分からない。


勇太「すまん。答えられない」
俺が泣きたい思いで頭を下げると六花は激怒する様子もなく無返答だった。
暫く待つ。待つ。だが何もない。報酬なしと感じた俺は頭をあげると六花の口が待っていた。無表情に徹した顔で。しかし何かが死んだ感触で同時に怒っているとも取れる。

六花「ありがとう」

六花「これで分かった」

……。
なにが……?俺で何が分かるんだよ!?俺何も言ってないぞ!
嫌だ!嫌な予感がする!


勇太「なにが!!?」
荒い息をあげて唐突に強い質問をぶつける。
しかし彼女からのいい返事はもらえない。
絶壁を張るかのように、ここから先に行かせない。俺と六花を塞ぐ、強い意志。通称、怒り。
六花「行こう」
そう言って、自らこぼれた涙を拭いて、その潤った手で恐怖と絶望に消沈した俺の手を再度握ってくれる。俺の位置までゆっくりと来て、そしてエスコートしてくれた。意味が分からない。気味が悪い。そのヒントを探ろうとしても無表情だ。こんなに近くにいてその姿が恐ろしいと感じたことは今までない。何を理由にして?なにが?どうした?
俺と六花はただ歩いている。帰り道に沿って静かに握った手を少し揺らして。彼女を嫌に刺激させないためにも平静を装っているが今迄に遭遇したことのない理由に切迫している。それを思うと沈みかけている赤オレンジ色に放つ太陽が、エネルギーと希望と、そして抱擁の消滅を示した暗示に見えて、俺の未来予想図を彷彿とさせる。その欠けていく様が刑罰に一人残されていくようで寂しい。
いや気の持ちようだ。落ち着いて。六花はいなくなったわけじゃない。悩んでいる原因にはきっとなにが中心で埋まっていて、その何かを取り出せばめでたくハッピーエンドだ。世界の悪夢は終焉する。そうだ。終わるはず。終わっていいはず。ある、だから、する。六花と共にある揺れる足を見る。歩いていれば辛いけれどきっと家にたどり着く。説得できれば簡単なことだ。それで終わり!簡単なことじゃないか彼女一人を相手にして臆病すぎるぞ。簡単だ簡単……!でも……仮にそのハッピーエンドが俺にとっての本当の世界と相容れなかったとしたら。俺でも退治しきれない何かが阻んでいるとしたら。六花は幸せであってほしいけどその幸せを望むことは正しいのだろうか。そもそもこの六花は、今、楽しいか?
そう手を揺らして歩く。
だからせめて今だけでも幸せになってほしい。何かが起こる前の宴を思いっきり楽しめ。目の前を凛とさせた俺の強い意志が体を熱くする。

勇太「あ………….。あのさ……夕陽、赤いな。真っ赤だな。すごいな!あれだけの大空を真っ赤に染めるなんて。特殊能力なんて信じられないけどすごい力がはたらいている。あんな大空を一瞬で真っ赤に染めるなんてさ。綺麗だ。前にもさ、初めて抱き合う日に、こうやって屋上で夕陽眺めてたよなー。懐かしかったなぁ。あの時は愛し合う前だった。月日って流れるの早いよな」
六花「……」
勇太「…………」
反応なしか。目の前に火の立てを描こうとした希望が暗い灰になって燃え尽きる。
もっと惹きつけるのがほしい!
勇太「邪王心眼よ!くっ……!俺の右腕が、暴れようとしている!腕が赤光色に変わる兆候と血流が噴出しただと!あり得ない!やめろ!!この力は、この波動を感じたことはあるか!?得体のしれない闇の魔物を開放し雑魚共跡形もなく薙ぎ払う、恐ろしい炎と漆黒を司る龍のことだ!ひとたび目覚めればどうなるか分かっている!だが残念だったな。お前を利用すればこの世界はすぐに俺のものになる。なにせ俺は呪いという名の契約であのメフィストフェレスと結んだ偉大なる盟約の血を通わせているからな!簡単には死なんぞ!それにお前が死んだら俺も死ぬ。アイアムヨアファザー。意味がわかるか?全ては前世で繋がっていた。不可視境界線の管理局の者を脅して幾星霜の時を超えてこの世界に現れたのさ。お前が俺の邪気に加わるというならば世界の半分はくれてやろうじゃないか。全ては俺の欲望のため。悪いか?お前がここに来るのもお見通しだったのさ!そして何が起こるのかも!!怖くなったか邪王の喜色を持つ“ダークヒーロー”よ。因縁で結ばれた邪悪な敵対者め!恐怖にひれ伏すがいい!!!」
六花「……」
…….。
勇太「はっ!気を感じる。攻撃態勢を取れ!闇の炎を装着だ!現実世界の者にとってはかわいそうなことに洗脳攻撃に遭い見えないらしいが、実はこの世界を支配した4人の四天王が城の中で待ち構えている。とある機関の“電話”の精通によれば南極か北極の基地の中で、絶滅したはずの“神”を復興させるべく奴隷研究室を作ったとされる。指一本で地球の半分を壊せるという情報も承知済みだ。俺の持っている1つを含めて4つの玉を回収するらしい。バカだなあ。俺の通行を許すとは。世界の野望は俺にあり!いくぞ!邪王心眼の使い手よ!敵は強敵だ!お前のその封印解放で世界を震撼を終えたか?俺の闇の力がフルスロットル!燃えてきたぜ!共にあれーーーー!!」
六花「……」
勇太「はぁ……はぁ……はぁ……」
六花「……」
勇太「…...」
六花「……」
勇太「んっ!まだ効かないだと!気を送ったが桁違いだったのか!!お前はその辺のラスボスより強いモンスターだったのか!まぁいい。この地、本当は浮いていたんだがな、アトランティスの秘蹟の点在する場所で、森の守護神に管理された“魔洞窟”と呼ばれる最深部に、クリスタルの岩石に一つ刺さっている、選ばれたものにしか抜けない正義の神剣“エクスカリバー”が」

六花「あのさ、」

体が固まった。

言われる。
そのポーズを融解できない。
六花はその声と共になぜか空を高く見上げて、まもなく深淵に染まる深い夕闇を理解していた。

六花「空って大きいよね」

その声を機に、黙るしかなかった。

理解できない。
分からない。
俺に不満あるなら言ってほしいのに。
暗い影になった六花を熱気で問いただそうとしたが、瓶を棚から落とす行為に賛同できなかった。
確かに空は大きかった。深く、蒼く、深淵を広げていた。
俺の体の数兆倍ある空は俺の手を伸ばしても手に入らない。
涼しい風が俺の背に吹く。励ましにもならないよと地面を蹴った。


無言になることは死刑に等しかったが、地獄のようなロードを超えてようやく俺たちは家の場所に着いて、マンションのベランダを詳細な視覚で見れる範囲まで歩行した。ここまで長かったな。
六花…..。何があったかは分からない。六花なのに六花じゃない気がする。それもとびっきりの。明らかに様子がおかしい。疲れている、の一言で済まされない何かが眠っている。いや目覚めかけている。そんな彼女の顔を見るのが苦痛で苦痛だった。だけど彼女自身苦しんでいる。解決してほしいって感じが湧いてくる。俺の妄想甚だしいだろうが、でも放置しておくのもなんかなと気にかけてしまう。
彼女は気を失ったかのように元気を消失し、髪が口元に垂れて入っているのも気にせず、顔を見せぬままただ前を見るロボット人形。本当の病人患者に対してどう答えてあげればいいか。

勇太「着いたな」
六花「……」
勇太「今日は色々あったよな」
六花「……」

何もない。反応もない。腫れ物に触っている気分だ。
こんなの嫌なのに、
俺ならアニメでなら放っておくな助けに行け!って罵声浴びせているところなのに、
なんで同じ道を歩いているんだろう。なんで一言でないんだろう。

勇太「お家温かいな」
六花「……」

もう、ダメか。こんな掛け声にもされたことなんてない。暗い影が支配する中で、こんな隣で歩いている生きる気を感じない真っ暗の無機物な彼女だなんて嘘だと思う。怒ればそれだけ彼女を傷つけることになる。俺からの気遣いはすべて拒否されどうしようもない。このまま放置するのか。いや悲観するな、期日は高校3年生の終わるまである。その間に関係を修復できるチャンスはある……と思いたい。でも嫌な予感しかしないんだよな。もう手遅れかもしれない。過去に取り戻せない何かで躓いてもう手遅れだったりしてな。でもきっと奇跡が起こって……!自己満足なのはわかっているがそう祈るしかあるまい。優柔不断に波が移り俺の胃は荒れている。そう思いながらマンションの敷地内の自転車置き場を通り過ぎて、家の階段に一歩踏み入れる。強く、ダンッと。気落ちした状態でのその加重が嫌な意味で膝に痛みを増している。六花の笑顔……。これで明日以降持ち越しなんて嫌だ。
はぁ、どうしよう。この関係。








   !


何かが起きた!
裾が後ろに伸びている。何かが引っかかったような。
俺は意味不明な理屈と知りながらためらいのない何かを感じ振り向いた。
薄暗いマンションの階段の下から、夜の明かりで輝いたブルーブラックのうすいもやに何かが引っかかった。
その先には……小さく伸びて俺の裾をつかみ取っていた。
それは紛れもなく。
六花が待っていた。
その瞳は太陽や月よりも強かった。

六花「……」
六花は無言だった。ただ俺の裾を2,3回、しかもわかるように大きく引っ張って、怒りも涙もなく無表情のまま俺の方を静かに見つめる。六花が、俺を必要としている……!六花が六花に勝とうと攻撃している!暗さが暗さじゃなかった。少しの世界の選択を見直せたような気がする。ここが運命の分岐点なんだって、俺にさえ分かるよ。
六花「……」
何をやるか。決まっているだろやることなんて。階段を一歩降りた後、夜空と化した空が見えるまで昇降口の外に出た。
夜の深淵の空の中でブルーに光る異端的な星がいくつか見えている。
その星と街頭の光からは遠いけれど、でもそのおかげで六花の顔の表情まで理解できた。
六花は裾を離した。だが無言だった。俺の返答を待っているらしい。この場合はあの答えじゃなくて、別の答えでもいいと俺の勘が推測している。
勇太「元気?」
そう尋ねると、六花に無表情とはちょっと違うオーラを感じた。


初めて、
笑っているようで、
笑っていないような顔で、


「元気」と答えられた。


六花……?
お前本当に大丈夫か!?って問いたくなるが、また同じ答えをされるだろう。黙るしかない。
とにかく久しぶりに声を聞けたのはうれしい。疎遠の崩壊にはならなさそうだ。
しばらく無言だった。静寂の夜が心地よかったのもあるが。だが無言だったのであまりにも苦痛だったゆえに「今日はデート遅刻してごめん」と真正面に謝ると、その表情で首を横に振られた。その不気味な光景から早く避けたい気持ちが渦巻く。
そして言うタイミングを失った。彼女が目の前にいるのにいつ喋りかけたらいいか、嫌われるのが確定事項だからなおさらだった。でも何もしないのも評価を落とす一方なのも分かってる。
じっと六花を見つめているが、内心その顔が怖くて威嚇してる気分を感じている。
言うか言わないか。優柔不断に待っている。すると目に飛び込んだ。六花の手が俺の裾を掴んだ。ゴスの裾から漏れた白い包帯の結び目も揺れている。そして唇が開き懐かしい声が吹き飛んできた。
六花「言いたい、ある?」
えっ?とまた質問された。
言いたいこと?ここで例の質問の解答しろってこと?なぜここで?
いや違うな。何かあったな。これは違うぞ。何か忘れている気がする……?俺は六花に……思い出した。
勇太「もしかして夕方の俺の言ったこと?」
そう言うと六花はゆっくりと、目を大きくして俺の方を見つめた。これは明らかに興味を示している!
勇太「でもここじゃ言えない」
六花「知ってる」
答えた!ちゃんと答えた!!俺の口元が緩み心の中で歓喜が舞っている。例のことの内容を理解している、それが俺にもわかっていた。少し昔の出来事も、ちゃんと覚えてくれたんだ。
でもなんで?何でこんなこと知っているんだよ。どうしろっていうんだよ。仮に、もし気分の喪失が原因なら、わざわざ話のために場所を変えて体力を消耗する方を選ばないはず。
……。ああ、お前も本気か。望んでいる。彼女は。今夜は戦争になりそうな日だな。
確認をしておこう。勇気をもって。勇太の勇は、勇気の勇!
勇太「お前体調的に本気か?気分は悪いか?」
六花「私は気にしないでほしい」
勇太「そうはいったって!」
六花「ゆうたは?」
心にグサッと刺さる。俺が最強だって思われてないかのように。六花からこの質問は想定外だった。まるで見透かされたように。いつもなら完全無視のくせに。思わず腕が心臓を防御した。戦術の変化に追いつかず戦場の流れ弾に当たってしまった。だけどその場合は敵兵を撃ち殺せばいいだけの話。
勇太「俺も気にしないでほしいな」
六花「そう」
勇太「はぁ……。長旅になるけど服着替えるか?」
六花「いい」
門限はごまかし限界最長でも9時だ。そして携帯で確認するに今は5時30分。
勇太「寒いだろ。汚いだろ。遠慮しなくていいぞ」
六花「いい」
声がおかしい。こんな波長じゃなかったはず。なんかこいつ、遠慮している気がする。
六花「ゆうた。これお気に入り」
勇太「……」
俺の不安に答えたのか、またはその顔を速攻潰したいのかよく分からない。この六花は不気味すぎる。何かでいっぱいになった代わりに、何かが欠けたような気分だ。
勇太「六花、分かっているよな。これから」
六花「……」
勇太「場所、好きなのあるか?」
六花「ううん」
それは明確なのかよ。
勇太「今からの、お前こういうのずっと夢に見ていると思う。俺だってそう思ってるって」
六花「……」
横目になった。どうやら無回答でいくということか。
勇太「何に乗りたい?フェリー?ジェット?宇宙船?」
六花「……」
その言葉を耳にすると不満げな顔で睨みつけた。
なんだよ。
勇太「じゃあ俺の考えた、自転車で行く?地味だけど」
六花「うん」
……。何でここは黙らないんだよ。
勇太「でもな~。あそこはすごい場所だぞー。一般人でも入ったことは誰もいないっというおぞましい場所だ!こんなところを征服しに行くんだぜ俺たちすごいだろ!六花なら一発だろうがな!神聖な世界で闇の炎で目覚めた究極のドラゴンと戦おうぜ~!」





六花「ちゃんと答えてよ!!!!!」



六花は怒鳴った。飛んだ唾が俺の顔を弾いた。拳をグーにして自身のスカートを叩くように。誰かに通報されるほどのそのけたたましい声がマンションに響き渡る。その見たことのない声と感情に目を丸くした。なんでだよ!お前こういうの好きだったろ!?
あ、っと六花は口を押えて、体を反らして向きを俺の方から逃げていく。

……。理不尽だ。意味が分からない。この光景、理解不能な現象。
丹生谷「小鳥遊さん、待っているんだからね!」
その言葉が脳内に思い出される。正確にはそんな言葉は聞いていない。俺の中の丹生谷の話だ。誰かが今の俺のために叱りつけている。未来から飛んできたような変な感覚。
丹生谷……。こういうとき丹生谷だったらどういう対処しているかな。怒っているから相当なことで……。六花は本気なんだ。それ以外は不要だったんだ。最初からこじれた関係からの諦めリタイアを望んでいるのは、いじけた六花のほうじゃなくてそう思っている俺の方だった。六花は悪くない。現実逃避したのは俺だ。あいつは最初から訳があってあんなことをやっているんだ。やっぱり原因があるんじゃないか。それをないがしろに扱って俺というやつは。じゃあ、本気を行使しようか。おそらく一回目覚めたら世界は世紀末的に消滅するだろうな…..と意気込んで。
勇太「ごめん」
そうひと謝りしてから。
勇太「小鳥遊六花。いや邪王心眼。お前に話がある」
六花「うん」
勇太「世界の未境地まで行く準備はできてるか」
そうすると、六花の口元が、かなり、見えるほど大きくなっていった!
勇太「長い話になる。それを俺の刻印と共に受け入れるんだな。ラスト・ボスの大戦に備えろ」
すぐに彼女はマンションの方角へと顔を反らした。居ても立っても居られない、その顔は一瞬しか見れなかった。だが元気になったようでほっ、と安堵感が極まりない。
俺は一回六花とともに部屋に入り、自分の用意を済ませる。封印されしダンボール箱の中からチャカチャカ音をかき分けて、あった。段ボールの中から大事な宝物を、まるで財宝を奪うように手に取る。ガンと短ブレードと軍隊用ベルトを手に持ち、昔使っていたケースの紫色の布の中の、指定された形まではめ込む。おかえり俺の仲間たち。いい意味で言うなんて思ってもなかったぜ。恥ずかしいけど、でも今の俺は少しだけでもいいって思えるんだ。この道具、服。警察に捕まったらあれだけど、でも今日だけは国家権力を敵に回すのもかっこいいかなって心がくすぐられるんだ。ダークフレイムマスターの服を着て、キメ台詞を言った後ポージングと合わせる。うん、忘れていない。グローブをはめて、だけど心配だから手の甲にある紋章を確認してからもう一度指の先までしっかり引き延ばす。懐かしい姿を取り戻した。ダークフレイムマスターといえばこの相棒、例の巨大なソードを、傷のつかないよう玄関まで特別優待で持っていき、また部屋に戻る。もう持っていく物のないことを気持ちで理解して、だんだん緊張してきた。心臓を呼吸を正して労う。とうとうなんだな……。告白文を読む。しっかりと、じっくりと、ゆっくりと、ねっとりと。今日の朝からでは予想できない。頭に叩き込んだら。アレはあるな。絶対忘れるなよ!よしこれで準備OK!
携帯はどうしようか。この前携帯に鳴らされてファーストキスができなかったから。それを思うとこの折り畳んだ携帯が悪魔に見えてくる。運が悪そうだ。置いておこう。
幼稚園レベルの夢葉に俺遅れるから9時には戻るって、後ろ指をさされない年を狙って報告し、後でちゃんと言ってくれるかなと不安になりつつも漆黒の靴を履く。すると六花も、だがなんとそのままの状態ででてきた。
勇太「着替えなくてもいいのか?」
六花「これは私のお気に入りだから」
その意味……最初に俺が六花の部屋にお邪魔したときその服で、一緒にチョコレートケーキ食べたよな。俺に合わせてくれるように、六花も俺に合わせてくれる。その衣装は上級契約の時もそうだった。そして今に至ろうとしている。なんだか目がじわっと熱くなっていくものを感じる。ダメだ!弱みを見せちゃだめだ!
分かった先に降りると言い階段を降りる。昇降口まで降りたとき、あ、遠くに出かけるんだから自転車の鍵いるんじゃないかとドジを見せて、カタンカタンと階段の踏み鳴らす音が段々盛大になる。六花の行きとばったり交差する。自転車持ち上げて、出して、と六花に命令して時間短縮を図る。
鍵を取り再び玄関に行く。六花とどうしようか。あった鍵。不安だ、噛んだらどうしようか。でも今更だしなあ。ああだめだナーバスになるな俺!
ドンガラガッシャ―ンガッシャーンガッシャーンチャリンチャリンカタカタカタ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ああもう何やってんだよあいつ!!知らん!もう知らん!あいつが起こしたんだからあいつがやれ!!どうせこき使われるぞ!そう思い俺はじっと玄関で座り自転車の機械の音を聞く。一つの自転車の転げる音を聞く。女性の踏ん張る音が聞こえる。そしてまた自転車の転げる音を聞く。……。だけど少ししたらその声だけで音はしなくなった。地面を引きずる音を聞く。
……。暫くするとまた無音になる。何もない安心が不安を誘う。あいつ大丈夫か?


六花「いたっ!」


りっかぁ!!!!!!

はぁ!はぁ!はぁ!!!急いで階段を2つ股飛びし最短ルートで自転車置き場まで直行する。陸上選手もびっくりだ!荒い息でめまいがしてきた。事故現場を見ると、案の定転げた自転車の山ができてるよハハッ……。その中に3台上がった自転車と六花がいたので話さずにはいられなかった。
勇太「大丈夫か!」
六花「平気。鍵は見つかった?」

泣き言……言わないんだな。

六花「手に挟んだだけ」
勇太「いやいやまずいだろ!六花の身にあったら!」
そういうと六花はなぜかクスッと笑う。
六花「ほらこれ。なんでもないよ♪ふふっ」
勇太「うん分かった。でもな、あーあ。これ全部……こりゃ大変だな」
六花「大丈夫だよ。私が起こしたことだし私がやる」
勇太「りっか……」
いやだ。なにか薄気味悪い。後で何か企んでいるんじゃないかと思いたいくらい信じたくない。意に反したい。俺は反対側の遠くの倒れた自転車に手を付ける。はあ、たくっ、せーのっ!一人でも大きいから重いなあ。
俺たち一人一人で罰ゲームを行っている。そして静けさが時間を踊る。
勇太「お前を見ているとチャップリンの喜劇ショーを思い起こすよ」
六花「格別笑わせる気はない」
勇太「そうかい」
大きいサイズの自転車を六花ではさすがにできなかったので最後のそこらへんは俺も参戦した。
勇太「いくぞ」
六花「うんっ」
勇太「せーのっ!」
六花「せーのっ!」
阻む自転車の中に俺の対面に六花がいて、その真剣な顔もまた好きになる。すれ違うはずの二人なのに、なぜか手に遠くにあるのに心が近くにあるように感じる。
俺と六花は最後の自転車をあげて笑顔になった。久しぶりひまわり笑顔だった。
六花の持ってきた俺たち所属の自転車にカギを差してストッパーを蹴り上げる。両手で押し上げ持っていくとチリチリチリいうタイヤが自転車らしい。眠りし最強の高速移動機体が今幕をあげようとしている。それも俺を背に乗せて。俺はそんなロボットアニメの演出に最高にムラムラする。これも男のロマンだよな。

じゃじゃーんという効果音がまるでつくような。
勇太「月下氷人ちゃん2号でーす!」
六花の方を向いてそう大声で紹介するとおおっーという思いで拍手をされた。恥ずかしいけどすごく嬉しい!昔の顔だ!俺の心の中で月と太陽がワルツを踊っている。いつもの調子に戻って何よりだ。
勇太「邪王心眼よ!このエヴァに搭乗するのは久しぶりか?」
六花「な/// 何ら問題ない!」
ふふっノってきてる、ノってきてる!かわいい!
勇太「よし。ベーシック・インプット・アウトプット・システム略してBIOS作動する!」
六花「オペレーション・システムとの連結を確認!システムレジストリ運動の特殊最大値をマッハ5まで引き上げます!」
勇太「右!左!問題なし!滑走路を確保してくれ!」
六花「了解!プロテクトモードドライバの解除!ミサイル(V5)を30発搭載します!本来の走行形態にチェンジしました!」
勇太「ライセンス契約の確認!走行ルートの外部遮断を世界中に発布!エヴァをF34に空中転換する特許を申請!」
六花「戦略防衛機構スターウォーズ計画の発動を確認しました!反射衛星砲SDIの衛生レーダーを宇宙カメラに挿入完了!出発は問題ありません!」
勇太「目標とのズレ、ラグランジュポイントでの確認。誤差0%未満!」
六花「小鳥遊六花 完了!」
勇太「富樫勇太  完了!」

勇太「六花……これで、いいんだな?」
六花「うん!」
夜空の中へ飛び立つ雰囲気の、揺れた髪から見えた、この笑顔は大好きだ。

薄暗い夜の何のそので、六花が後ろに乗り、俺は前になりそして兼操縦士になり、ブレーキは、うん、大丈夫だ。重くて硬いペダルを一歩踏んでいき、だんだん強くし離陸を図った。
六花は俺の背なかに手を回すという形でついていくことにした。ケースを前のかごに置いて。後ろの身長をぽっかり埋める誰にもバレるほど大きい、そんなブレードを六花の腹にロープでくくって、それが六花のキャッキャッという言葉を作り出した。
こうして二人で逃避するのも楽しいなって思うんだ。でもちょっと寂しい。
勇太「ゆうた!いっきまーす!」
六花「 あ! りっか!いっきまーす!」
ついでにチャリのベルも鳴らしておいた。

最後の青春として。
後悔していない。
俺たちの最後の青春が始まる。
未だに経験してないこと、どんなことになるんだろう。
希望を夢に乗せて。
ワクワクが止まらない。
きっとすごいことになるだろうな。

第4話 「バニッシュオブゼウス;デイオブゼウス」
(蝶になった夢を見た人は、蝶になった夢を見ていたか、今の自分が蝶であるか分からない)

世界は暗黒に染まる。あれだけカラフルだった物体は今、黒または白の色を輝かせる。
この地球に住む者たちの昼間からでは観測できない異様な変化が影の支配によって訪れる。
あくまで仮の姿だった。世界は一つの姿だけが正解じゃない。
姿形も漆黒に染まり、この世界の本性が牙を抜く。
静まり返るこの町は今、終焉を迎えようとしている。

現実世界がもう一つの姿を見せる。

誰もが理解していたはずなのに、その空間にはまだ知られていない仕組みの謎が残されている。二人の乗った一台の自転車が漆黒の闇を斬り裂き運命のレールを開拓する。変わりゆく絶対を相対に変えた深淵の闇そして風を受けて体の血の盛り上がりようを体で感じている。自転車の走行で生じた風の反発は神の行くなとの警告であるとも体感できる。町の者は皆闇に飲み込まれて消えてしまった。あれだけ活気づいた人たちも街並みも通行人も同じ道路なのにそれを恐れてかいない。大空を舞う雲の形すら感知できなくなった。
そして人々は希望を求め光を町中に照らした。
ダイヤモンドの明るい点が漆黒に対抗するかのように点在して輝く。一軒家やマンションや電柱から一点を起点にして宝石が生まれる。
その光の司る様子は、住宅街のカーテンの閉まる影と2人の影を目にして、その中のカレーの匂いが鼻腔を刺激し、声も漏れている。巨大な建物のそびえたつ中に挟まれた今に、暗闇の中電気の付かない家は闇に殺されてしまったようだ。鳥の声も一切聞こえなくなった。夜中の静かに佇むにこやかな政治や治安ポスターが異様に怖い。足元を照らしドブに落ちることへの警鐘と保証をくれる自転車のライトが頼りだ。少年の群れやリーマンの帰りを風のぶれで横切り、誰かと衝突しそうな狭い住宅街の道路を抜けている。視界の悪い狭い道路の十字付近で足を落とし、いないと判断すると急に加速を始める。曲がりくねった狭くて長い一本道も自転車では一瞬だ。回転するタイヤに石の蹴とばした音が聞こえる。その音は闇に消えた。遠くから電車の音も聞こえ迷ったときの指標になる。横から見える巨大な小学校らしき建造物も真っ暗で死んでいる。土地の工事現場にブルドーザーが寂しく取り残されている。壁が壁だと分からない真っ暗な建造物を超え、行き止まりと壁を繰り返して巨大な光の行方を追う。空を見上げると飛行機の光がバチッと赤白く点滅し空の先へ進んでいる。俺の知らない道、でも何かあるか分からないドキドキする道。柵で囲まれた壁の間の狭い出口を出ると、巨大な建物およびその影を支配する点々としたオレンジ色の光達が並んでいた。
大道路だ。
冷たい風の、大きな暗黒の空に染まった中で。ヘッドライトの光をつけた車が多く行き交う。オレンジ色の道路に沿って立ち並ぶ街灯も宝石のような高級感を感じる。ネオン式の看板がカラフルなべたな色で展開する。足が止まった。未開領域に踏み入れた俺は茫然とした。ただ広い。ガタンガタンと昼間とは段違いの音を出しながら電車が走行し後に踏切が上がる。細長いバッグを持った部活帰りや黒い指定服姿の会社帰りと思われる人たちやお洒落なお姉さんが歩いてくる。大通りにしか見えないビルの屋上からの空港障害灯も赤く照らしているのが見える。ビルも町もコンビニも、皆昼間とは違った輝き方をしている。
道は長い。その道先の見えない暗黒が黒く不安を焚きたてる。その闇の先に行くとまたこの場所にループで戻ってくるかもしれない。
だが全速力で行く。今から行けば9時には十分間に合う。
この町ともお別れだな。
都市部にしかあらず近いけど手で掴めないそのビル群をゆっくり眺める。
俺はブレーキをしっかり持って、六花の後姿を確認して、そしてペダルを踏んだ。
勇太「よーし!じゃあいっちょ派手にやるか!」
六花「きゃあああははっ!」

ひかりこうしんきょく。
急げ!風のように!
ペダルを思いっきり何十回も回してその勢いはマッハ2を超える!
風がすごい!闇のコートがバタバタはためく!頭の前髪が風に押されて立っている!
この歩道は俺達のものだ!新幹線が通過するぞ!!
六花のぎゅっと抱く腕も強く絡まり、その嬉しい信頼感が足を増させた!
驚かれた顔もいざ知らず、右ブロックの学生たちを避け、左ブロックのリーマン達を避け、女性の道にちょっと横に避けていく!遠方の先にある踏切の手前まで高速ジェットでひとっとびだった!踏切の線路の上でふわっと浮かびジャンプ!俺たちは宙に浮いている!内心ヒヤヒヤしたがこの特殊な風に流れてるっていう感触のドキドキが楽しい!地に落ちた衝撃を俺と六花の尻で痛く吸引する!するとまた颯爽に走り信号機の青から赤に変わり横信号が黄色なのを確信し、ハイスピードを忘れない光速に近い高速でかき回してゴールイン!!その後の立て続けた信号機も止まることを止めて連続ゴールイン!ビュンビュンいう風で周りの自動車音が聞こえない!速すぎて誰もが止まったかのような不思議な印象を感じ俺ってこんな力があるんだとにこやかになった!六花の方も見るとにこやかに返された!すごく嬉しい!うおおおおおおお!!!さっきまであった建物が1秒後には別の建物に変わっていて見ることに全然飽きない!対向車線からパトカーがやってきたが、早すぎて見つからないレベルで風の塊を俺の周りにつくる!六花も嬉しそうでパトカーに手を振っている!ははっ!俺たちは特別なんだ!国家政府なんぞに捕まらないぜ!世界は俺を後にする!各々の車すら追いつくか追い越すほどに快感が楽しい!町の活気も薄くなり静かで暗い建物が怖いけどそれを気合いでかき消したい!でもこの瞬間青春しているだなって思って超嬉しい!嬉しい!嬉しい……!
勇太「りっかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
俺は深淵の夜空に咆哮した!夜空に響き渡る!
六花「ゆうたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
六花も続いて俺の後を追った!やっぱり共鳴者なんだな!
俺をぎゅっと挟んでいる手に、いつまでも愛したいって思うよ!
今だけだと分かってる!
でもこのまま最後まで突っ走りたいよ!!
ずっとずっと何よりも速く!
こんな幸せ、受け取っていいのかな……。
暗い世界の中でただ一つの光が、まるでE=MC^2を描くように普通を超えた速度で走った!!

……。……。どれぐらい漕いだろう。ずっと。ずっと。しばらくチャリを漕いでいた。はぁ、はぁ、はぁ。疲れてきた。傾斜がミリ単位少し高くなったのか動きずらいや。小さい3階建てが多く目立つ。町の変化も薄くなっていき、景色が大胆で大金をかけたものじゃなくなった。
郊外に来たようだ。
小さい一軒家やマンションが大半を占めるようになり、全国チェーン店の看板も多くなり興奮がなくなってきた。
左右から見える田んぼも数量的に多く見られる。
オレンジ色の街灯も先ほどよりはなくなってきたようで路上を飾るのみ。町も電気も付かないしなんだか暗くなったな。
俺達の明るさは先ほどと比べて小さくなった。星を見るとその変わらぬきらめきに羨望の目をあげる。でも六花の元気が戻って、それだけでも俺はうれしいよ。そういえばなんであいつは悩んで……。ああ、勢いが落ちるな、止めよう。後からでもいいや。六花も掴む腕が緩んでいる。つまらないんだろう。世界は静止している。
暗い中。
俺と。六花と。ただ世界に二人。
この町の住民は今度こそ町に飲まれて消えてしまった。
ただ2人寂しくぽつんといる。
他にいるのは、街灯と、夜の深淵だけ。
もうここには誰もいない。
誰にも見られない。誰にも感知されない。
確かに一人は寂しいけど、代わりといった変な感触に包まれる。
誰かに見られることのなく、目の前の、闇に抱擁されている気分を味わう。
一人じゃないよって、励ましてくれる。
大好きだよって、俺の体に闇が染み込む。
俺はそんな世界が好きだ……!
そう思うと途端に世界が変わる。
誰もない世界のはずなのに、ひそひそと誰かが俺にささやいている気がする。
勿論そんなのいないし架空の話だけど。
分かっているけど、時々分からないときがある。
そう、今だ。
始まった。
世界がおなじみの世界ではなくなる。オレンジ色を発光し幾多の平行線に追従する街灯も、それ自身の上半身の背を曲げて、それ自身をまるで手をこまねくように、光る頭を何度もお辞儀で招待されている。たくさんの街灯に一斉に挨拶されている。そして俺が笑顔になるとたくさんのカラフルな風船が真っ暗な俺の横を飛んでいく。現実世界のどこかを水泡に反映したシャボン玉もふわっと飛んでいく。真夜中の見えない夜が突然カラーでお城の目立つ遊園地“テーマパーク”に変わり俺たちを見えない世界に誘ってくれる。見知らぬ通行人や車の通過する群れは舞台役者。俺達のこの一瞬しかないムードのために歓喜で溢れさせるべく世界がわざわざ配置してくれた、夜空の見えない上から糸を垂らして動く影役お人形。慣れているんだ。この光景に億劫は感じていない。むしろ居場所に案内されているような優しさを感じた。
誰かが俺たちをここに来るように導いているんだ……!この世界を。
その光景を見ると、空が真オレンジか紫色の一色に染まったり別のに変わったりしている。
走っている横からドラゴンがやってきた。黒いドラゴンが。大きな翼を広げて黒い鱗を立派だと思う。その巨大な翼は町の建物をホログラムのように当たっても透かしている。俺に一目目を合わせて挨拶される。そして翼をばたつかせてこの巨大な夜空の真上へと消えて行った。
俺の耳の隣から少女たちの嬉しい騒ぎ声が騒いでいる。横を見ても誰もいない。おそらく魔法で消えたのであろう。そう思った方が合理的だった。ぼやけた暗闇から白い輪郭が人型に動いて。前へと飛んでスッと消えた。それはまさしく魔法少女だった。
騒いでいたのはそれだけじゃない。暗闇の中に動物や怪獣の鳴き声も変な音声に混じって映っている。マンションの玄関の奥でモンスターがうろついている。空気の亀裂を起こしたのはモンスターが喧嘩を始めているのだと思う。誰もいない公園には妖精たちが集まってダンスを踊っている。閉店している真っ暗な店の中では幽霊たちがお買い物を楽しんでいる。ぼやっと黄色く光る月を見上げると、その陰に自転車を漕いで浮くなぜか俺と六花の姿。
なんだか子供みたいだな。笑えるや。中二病は恥ずかしくて嫌だったけど、俺はこれに関しては寛容だった。中二病は世にないって否定したかったけどそれを認めた瞬間目の前が灰色になってしまった。そして自分の体すらびくびくと痙攣して、動かなくなりそうで怖かった。このままではこの世界どころか自分ですら本当に灰になってしまいそうでどうしてもこれぐらいは否定しきれなかった。でも認めてよかった。誰にも迷惑かけていないならなおさら。闇の中一人ぼっちで寂しい心の間を慰めてくれる大好きなパートナーたち。夜空を知るといつもこうなるんだ。名前を付けてないけど昔からずっといる、年々ごとに交代していくキャラクター達。でも消えた皆にもまた会いたいって思う。また遊びたいって。急に心の中で嫉妬が不安を警戒する。え?そんなに好きなら六花はどうだって?俺が俺に質問する。勿論好きだ。でもどちらかって選択を迫られるとどちらも嫌だから。両方好きかな。

でも現実世界のみんなも、みんなみんな大好きだし、尊敬している。
甘えた声とは裏腹に厳しいけど相談にのってくれる丹生谷。
いつも寝てばっかだけど誰もが困ったときはいいアドバイスをしてくれるくみん先輩。
髪がいつも暴れるけど部活が楽しいと思えるし本音を純粋に訴えたかわいいだけじゃない凸守。
明るく笑っては時々我慢するけど人生の生きる意味の良さを初めてくれた俺の恩師の七宮。
そして……。中二病でバカでトラブルにあっても、笑って、怒って、泣いて、一緒に解決して……、そんな姿が大好きで……、永遠に一緒にいてほしいと思える、六花……!
毎日が楽しかった……!
みんななしではここまでこれなかった。みんなの助けがあって登ってこれた。
みんなの明るい元気な顔が、この真夜空に一人一人フラッシュに映っていく。
嬉しいな。
これが夢なら、もう醒めてしまいそうだ。
俺は多くの人に支えられて幸せだった。
この広大な夜空を見てそう思うよ。
ありがとう。大人になっても忘れない。
いつかみんなにまた会いたい。
やがては恩を返せる大人になりたいな。
皆も、この町も、そしてこの町の人達も、
みんなに支えられて……。
みんな、
みんな……、
……。
大好きだーー!!!


漕いでいる。ずっと。もうずっと。だんだん漕いでいるのが自分であることすら分からなくなった。
はぁ…….はぁ……はぁ…….。きつい。
段々スピードが落ちてきた。もう何分漕いでいるんだろう。
先ほどから同じ街並みを見ている。
同じ風景に見飽きた。六花はもう反応がない。しがみついているだけ。
六花といえば……。今日の六花はおかしかった。
やけに俺に優待状を渡してくれたし、夕方の時のバッタの件もあるし、俺が元気と聞くと変な態度を取ったり、弁当の時だって変だった。いつも六花は変だけど、今日の変はあまり好ましくなかったな。
そういえば封印の話で。俺の趣味の合わないことから人を冷めた目で見るようになったことを思い出したあのとき。俺はあのとき語らなかった何か重大なことを忘れている気がする。その記憶は探っても出てこない。心がムカムカする理不尽な何かだった。何だったのか今は思い出せない。探せばあるかもしれないけど上手く出ない。そう考えているとその思考自体怒りに満ちてくる。体が思考のオーバーヒートへの対処を求めていた。
あ、と気が付くと結構進んでいた。ぼーっと自転車を漕いでいると時間と作業があっという間に過ぎていったのが嬉しい。
さて確認しよう。目的地のあの場所まで行くには例の大きな川を渡る必要がある。そうこの前偶然学んだ。
突発的に飛び出したけど、どこかは分からないが方角的に合っているはずだ。大きい川だから確認しなくても分かる、初めてから2回目に行く場所。でも位置を確かめる術もない。
そろそろ例の川が見えてもいいはずなのに……ボヤっと黒く見える遠くの先に何かが。
道にしてはずいぶん盛り上がっている。あのへんな奴。
あの坂は?
あの案内標識の位置…….。
あれは………….。
間違いない!
俺の行きたかった例の川だ!
間違いない!会える!会えるよ!
よし!あの川の橋を横に移って、以前行った橋の辺りにある、緑色の看板を見つければゴールは寸前だ!!
やった!ついに行けるんだ!
目からは一瞬で届くけど、肝心の自転車が重いし、背中汗びっしょりだし、肉が痛いし、もう疲れた。
でも六花と話すことがあったんだよな。使命忘れてない。今日の使命だけは俺が死んでも果たしたいぐらい極めて重要なんだ。
ラストスパートだ!!駆け上がれ!!!
俺はこのまっすぐな道路を車輪で踏みつけるべく、左側の道路を超重量で踏んで、自分でも火事場のバカ力を出しているのが分かる漕ぎまわしのスピードフル回転で、余った体力を全力投資する!
あと3/4……半分。頑張れ俺!六花のために!今後につなげるために!横に並ぶ電柱の大きさの変化を頼りにして。路上に誰もいないのが幸いだな!あと1/4……。くそっ、あとちょっと!真っ黒の中にうっすらした標識の文字が段々克明になってきた!信号機でもうすぐ!はぁ……はぁ……はぁ…….!
見えてきた!
あの坂だ!
坂の具体的詳細が目に見えてきた!ここの坂を上がればいいんだな!きつそう……。
全力で!これで燃え尽きても構わない!ゴールが目の前にある!!
走り出したときからずっと全力で行っていたものだから、足がチクチク痛い!その上呼吸もしずらい。でも休もうなんて情けない姿六花に見せたくない!!
ついに来る!あれは試練なんだ!俺はここを登れるか試されているんだ!
あの坂に、いざ!

太ももに重心がかかる!張り裂けそう!一歩ずつ踏むのが遅くなる!でもこれを超えたらその先は……!そう思うと。
踏まずにはいられない!
先程よりは遅くなったが、ハンドルを右左に大きくかじを取ってはその振動でタイヤを少しだけでも前に出す!1回、2回、3回!
目の前の景色がアスファルト斜面になったが、それも不安になるので上を見てそれを癒す。でも進んでいないという落差に絶望が入り込む。
地面と顔の距離が近くなりぶつかりそうだ。
あと半分!
1,2,3!
もうちょっと!
ぐっ……ぐぐっ……。
上の信号機まであと一歩!
いっけえーーーー!!

ぐるし……。はぁ…….はぁ……。

アスファルトの檻から抜け、目の前の景色は橋と、横を見れば川と山を映す、真っ暗だった。星空と月が感謝の労いか明るく輝いていて奇麗だった。
横からくる新しい風が心地いい。
建物もない、電柱もない、盛り上がった見晴らし良い、自由な道路。
ついた。
ついた!
ついたぞーーーーーーー!!!!

はぁ…….はぁ…..。六花に悟られないよう小さく疲れた呼吸をし、歓喜を心の底へしまう。でも背中の大きな揺れ動きで分かっているのが恥ずかしい。
信号機を超えた。

俺達は信号機の先にあるまっすぐにのびるその橋の真ん中へと自転車のカタカタをいわせた。

橋の道路の見えない真っ暗を唯一自転車のライトが照らしているのが救いだ。
真っ暗だけど美しい山や川の景色を堪能する。
いよいよか……。

あれ……?

ない

ない!

ない!!!!!!

橋が ない!!!!!!!!!!!


俺は左右の橋を確認した。やっぱりない。正確にはそれらしいあの橋が分からない。確かに以前行ったときと同じ川だと大きさで分かるし標識で見た。
でもこの真っ暗闇の暗さで左に3本、右に4本あるなんて聞いてないぞ!!それもあんな遠くに!!!
俺達は今左側の道路にいるがそんなの関係ない。
以前を考えよう。前行ったときは、あてずっぽうでたまたまあの橋の下り坂のほうが行くのが楽だと思って、その橋だけを渡って、そのことだけ考えてた。
あ…….。ミスった。
分からない!!道先が!これじゃどの橋に曲がればいいか分からない!!
そうだ!グーグルに聞いて……。やばい、しまった。
家に置いて来ちゃったあーーーー!!
心の中で叫ぶ俺。見透かされないよう平静を背負う俺。
どうしよう……。どうしよう!どうしよう!!

あ、六花の携帯が!……でもわざわざここまで来たのに、話し合いもいっぱいやることあるのに道が分かりませんでした、なんて言えるわけがない!信頼崩壊だ。六花の失望する顔が見たくない!邪魔なプライド云々関係なく六花の泣き顔を想像したくない!嫌だ!
何かヒントがあるはずだ!左右の橋を大きく首を振って確かめる。あのころ……、確か石造りで、今いるここほど巨大ではなく、また橋の上に何かかっているわけでもない。地面が普通のアーチ傾斜だったな。降りるときの大きかった緑色の看板が目印。あと坂道が有利ってことか。
緑は暗すぎて分からない。橋を見る。あたりは暗いしちかちか光っている右の横1番目は絶対ないな。左4番目は長さが違う。左2番目はアーチの盛り上がりがないな。確か傾斜感じたはず。右最奥の4番目は橋の上に架かっている除外。あの右2番目の橋は。あ。ちょうど電車がガタンゴトン鳴らして橋を通過した……だからなしか。電車に乗っている安全な彼らがうらやましい。左1番目は、勘だがないだろう。以前と違う気がする。
となると、左3番目、右3番目が候補か……。結構遠いぞ。何かないか目印。何かさっきの電車みたいに助けが……こない。待っても状況は変わらない。望遠鏡があったら看板分かったかもしれないのに!
遠いぞ。しかも行って戻ってくるって、そんな体力は使い果たした。バイクだったら違ったのに。それに時間が……。確実にオーバーする。俺達の今後に支障をきたすのだけは絶対避けたい。ダイスは1回しか振れない。だが間違った全てが終わりだ。
分からない、分からない、どうしたらいいんだよ。どうしたら。
俺は自分の不甲斐無さに憤慨し自転車のハンドルバーに殴りつけた。
ここまで来てダメなのかよ。六花。嫌だ。負けを認めたくない。俺は強い子なんだ。男の子なんだ。ああ、ちゃんと調べてくればよかった……。突っ走るなんて六花が喜ぶからと思ってやらなきゃよかった……。理解してたらこんなことには。俺が万能な人間じゃないから。万能だったら今すぐ解決してはい終わりになった簡単なことなのに……!これじゃあもう六花に顔向けできないよ!
自転車に伏せてただ疲れたことをアピールして、顔に血の通わない真っ青で、つまらない汗を背に垂らしながら、ほんとは目が潤ってきた……。
大きくなる夜空の下に、小さい自分。
非情にも刻々と時間は過ぎていく。時間は愛を反らしていく。
でも間違ったら終わりだから。
嫌だ。こんな情けない自分なんて死んじゃえ!!万能じゃない自分なんて!!
六花……。六花…………!


六花「ねえ」


その時六花の声に気付いた。周りの音が死んだ。不意の出来事に、乾ききった目で、目を合わせる。

六花「不可視境界線映ってる」

うん……。
その橋の下の水面には月模様の光る不可視境界線が波に揺れながら映っていた。

勇太「綺麗だな」
六花「……」
六花は何も言わなかった。ただ見てほしいのか六花は声をかけたようだ。ただ二人でじっと綺麗な川を見ている。
不可視境界線……。六花の追い求める異次元への扉。この世界に入ると平行世界に行くことができ、しかもどんな願いも叶うという。果したかった六花の願いは亡くなったお父さんに会いたいというただ一心で、何日も行き海から出る不可視境界線を見ていたそうだ。所詮は中二病で、そんな奇跡あり得っこないのに自身に異常な魔力を込めると信じて眼帯を付けて、それでも会おうとした。お父さんは六花に優しくて、風邪でも休まない永遠に死なない、特殊なヒーローだったんだ。憧憬の気持ちが俺にも温かく伝わる。六花のお父さんはすごい人だ。邪王心眼の笑顔を管理できるなんてこんな俺にはできっこないよ。
ただ眺める月の揺れが心地よかった。
なあ、不可視境界線よ。よく聞いてくれ。お前はそこに行けば何でも叶えてくれるのか。例えば凸守と行けばカレーを出してくれるってのも本当か?ないよな……。無謀だ。現実では無理だと知っている。必ず失敗するってわかっている。所詮俺たちがちまちましなきゃ軽々しく奇跡なんて起こせはしない。そうだな……不可能だ。ただの高校生だったら確実に不可能だな。だが今日は月が強い。覚醒の時だ。生憎この世のシステムをよく知っているあの邪王心眼がいる。世界を一瞬で書き換える力を放ち、そして不可視境界線の管理局からも追われることになった堕天使がお前の目の前に映っている。その瞳がお前の光の先にある幾多の平行世界と共鳴し、もし一瞬の奇跡を失敗した平行世界線からシフトできる強烈な力があったとしたら…..。万が一俺の気力の果てたあげく違った世界になれば六花と婚約解除することになる。今日だけは、今日だけは事情が違うんだ。六花が悲しむことになる。誰だっていい。信じたいんだお前を。いつも昼間の空から見ていたじゃないか。少しぐらい分けてもいいだろ。運命が壊れたってかまわない。今からの運は後で払う。勝手でごめん、そういう契約を交わしたい。闇の炎の使い手であるダークフレイムマスターの命令だ。神様。頼む。六花といい結果に行かせてくれ!力を月にぐっと強く手を伸ばして共鳴させる。
月の出る方向は……
左。

勇太「六花。元気が湧いてきた。ありがとう」
六花「なにより」
勇太「しっかりつかまっててほしい」
六花「うん。 あの、ゆうた……」
勇太「ん?」
六花「大丈夫?」
勇太「……」
いや、ずっと立ち止まっているから、そりゃ心配されたんだろう。バレてないバレてない。これぐらいの汚点ならかわいいほうだけどさ。うん、信じたい。
ここまで大丈夫だよな……。いや時間が押しているんだ。早くしないと時間オーバーだ。
勇太「うん、大丈夫だ!俺を信じろ!」
怖いけど。
六花「理解した」
ハンドルバーをしっかり握って、ブレーキを確認して、周りの人のいないのも首を振って、
勇太「他に言うことない?」
六花「特に。私は平気」
そして目の前にタカのような目つきで睨み付け、真っ暗闇の中の空間のありどころを知る。
勇太「いくぞー!最後の全速力だーーー!!!」
ここまでの距離とならハエに等しいさ!
大急ぎで巨大な橋の終わりまで走った。
この風を纏った勢いをつけたまま左の道路にかじを取る。
前はひたすら真っすぐで、止まらなくてもいいボーナスゲームだ。
カシャカシャする音をタイヤが火花を放ちぶっ壊れるまでひたすら立てて、風圧に負けない速さで駆けていく。
はやいはやいはやい!風をもろともしない!風圧で吹き飛ばされそうだ!
まず1番目!これは序の口だ!世界の末を超える!
次に2番目!これも違ったな!
胃が苦しい!呼吸とめまいがする!腰のキュッと抱かれるのもまた!でも立ち止まったら死ぬ!
首を上下に振り回しながら勢いを何とかつけて、筋肉が痛い!
飽きたなんて言わせない!もうすぐ!足を除けば目の前にある!3番目が来る!
あるか?あるか!あるか!?
お願いだ!不可視境界線!助けてくれ!何でもするから!
神様!!助けてくれ!!
ダメだ疲れた。あと300mを前に体力切れが起こり足を動かせなくなった。
残るは走ったおまけのみだ。
これで最後が決まる。見たいけど、見たくない。
ここまでの思い出ありがとう。
見たことのない景色。昼間とは違う姿になる世界。それがよくもわるくもあった。
神様に限って、裏切ることはないと信じたい!今日の今だけは!命令を聞いてくれ!
速度のあからさまな低下に、サドルについた尻を痛めて、ゆっくりとゴールに着こうとしている。
少し思ったよりかかったけど、着いた。
はぁ…….はぁ…..。止まったらめまいがひどくなった気がする。気持ち悪い。
例の橋の、下に向かう境の横断歩道につき、自転車を停止した。
こっからなら左右にありそうな看板と、バックで戻ることも容易だと思う。
例の緑の看板は……?
どこにあるんだ。暗くて見えない。町の中を左右探してもない。町の左右を探してもない!
えっ……?
えっ?
うそだろ……?

町の左右を確認してもなかったが、
その横断歩道の横の草むらに白く大きい何かがそびえ立っている。
緑の看板だ。

その緑の広告に思わず体が軽くなった。笑顔になった。
胃の和らいだ安堵感が俺を包む。
実際に言うことはできないので、心の中で、
勇太「りっか!ありがとう!ありがとう!」
と強く祈った。神様にも一生恩をきると誓った。もう二度としませんと教訓を得た。
その思いが自転車をカシャカシャさせて、目的のあの場所まで風を走らせた。

そう、俺の憧れの場所へ。

誰もいない。
先のぼやけて見えない真っ暗な夜。
郊外すら超えて。
アスファルトだけどその周りは。
見渡す限り畑だらけ。
でもさすがに不安になったので俺が「もうすぐ」と言うとその気持ちにこたえるように抱きしめが強くなった。
もう隣に電車や高速道路といった大きい建造物を見かけなくなった。住宅街もなく、車の音も聞こえなくなった。俺達だけの空間。
案内標識だけが救いだった。
闇の中でも映るカーブミラーで魔界でなく人間の住む世界だってわかった。
太ももの筋肉が張り詰めて激痛が走る中、
それでもあの山へ、
そのぼんやり見えてきた山の入り口までひたすら走る。
一直線から右に曲がった後、細い道路をくねって再度一直線だ。
あそこまで前方水平なのが幸いだった。
今回は以前の橋の下で告白したときと違う、俺の偶然見つけたところ。
その素晴らしさを分かち合いたい。
一台の自転車が虚無の路上を過ぎ通る。
そしてとうとう山の入り口まで、夢に見た光景が本当にやってきてしまった。
まさかやり遂げるなんてな。それを意味するのは……いまさら武者震いなんて遅いぞ。
久しぶりという声もかき消されるほど、呆然とした。11月の秋らしく落ち葉がすごい、目の前にはただカーブミラーと街灯がぽつんと光っているだけ、その先の入り口以降は静かで何も音も聞こえず真っ暗で見えない。俺達はそんな山の入り口を前にして、でも止まらずにはいられなかった。内心忘れたい気持ちでいっぱいだった。その葛藤を急な坂道にぶつける。
最後の全速力をぶつけることで頭の思考を止め、俺は大切な彼女のためにしっかりと汗と息を流しながら、硬くなりつつあるペダルを踏む。さすがにこたえる。最初はよかったけど、今のペダルじゃハンドルを急な左右に振っても、首を上下に振り回しても全然効果がない!空を何回見上げても全然上がる気配のない!辛い……辛い…...!息が……もう……!でも六花が……!ここまでかよ!ちくしょう!行きたいのに!行かなきゃいけないのに!ペダルが!ペダルがあ!!

六花「あの、」

勇太「えっ?」

六花「降りようか?」

あ…...。
完全に忘れてた。
六花に気遣われたじゃないかあ!俺こそ、ちくしょうじゃないか!ちくしょうめ!
俺達は自転車を降りて、六花はロープ越しのソードを揺らしながら、ともに自転車を押して歩いている。入口からくねった暗い山道を登る。自転車の重い傾斜の深くなる一方、山の入り口以降は静かすぎる。カタカタカタという音のみが支配しているありさまだ。風の音すらしない、動物の音も落ち葉の音もしない。クマやヘビが出たらと思うとおぞましくなるが11月に限ってないと思いたい。もしでたら一目散に手を繋いで出よう。山の中での自転車のライトが頼りだった。でもダークフレイムマスターの真の力が発揮されたのか、なぜか夜でも蒼く目の前が映っており視界に不満はない。先ほどの荒い息も今になるとほんの少しだけ回復しているのが分かった。

まっすぐ行くと再び曲がる道があり、そこに森の中に、巨大な柵の中に、例の場所が見える。

禁断の扉だ。

人間の立ち入ることのできない、選ばれし者のみが入れる場所。立入禁止と書いてある。
俺の身長の2,3倍はある輪っか模様の、巨大なオレンジ色の柵から真っ黒い森林の枝が多く突きさしている。その柵の中の立入禁止を命じる看板マスコットのおじさんが、夜中にひっそりとぼうっと浮かんでこちらを見ているような恐怖心を感じた。監視カメラを確認する。ここには……ないな。
すいた穴は柵の上の深淵だけだった。
自転車を押し上げて一本道をカーブしたところに、それはあった。
そしてたどり着いた。
俺はぼんやりただ眺めるしかなかった。目の前の光景が本物になるとはと感嘆しつつ、今からそれになるんだって実感が今も湧かない。普通ラスボス前ならセーブしてやる気になるのに、今はこんなことやり遂げてもいいのかと感動が薄れている。
取りあえず重いので、自転車をふさふさした落ち葉のある草木へゆっくりと二人で降ろす。
勇太「ばいばいエルメス。少し待っててくれ」
六花「月下氷人ちゃん二号でしょ」
くすくすっと笑われた。
ううんっ。ここはウケ狙いだったけど笑ってくれてよかった。六花が横で笑ってくれるだけで嬉しい。そう満足する。

だって、もう


予感が、嬉しくとも感じない未来を描いていたのだから。

少し立って休んだあと、気分もリターンしたし行くか。
あの場所へ。
六花「ねえ」
六花は腕を震わせてオレンジの柵を指差す。
勇太「うん。そうだよ」
六花「ほんとに?」
勇太「ほんとに」
六花「許可とかは……?」
勇太「ダークフレ……」
怒られそうだよな。
勇太「許可もらいに行ったところで許してくれるわけないだろ」
六花「……。でも!なにかあるかもしれないよ!」
勇太「大丈夫!その辺は偵察済みだ!」
それは確信して言えるほど本当だった。
六花「監視カメラ!」
勇太「ないよ。この森には」
六花「うっ……」
俺だって夜中に森の中をうろつくなんて色々怖いさ。でもそれだけ好奇心も勝る。
勇太「嫌だった……?」
さすがに女の子だから別の場所が良かったかな。いや、でもあの六花がこれぐらいで怖がったか?
六花「ううん。そんなんじゃなくて。何かこう、怖い予感がするの。何か怖い気が。物体じゃなくて」
勇太「大丈夫。考えすぎだろ。監視カメラはないよ。捕まらない」
六花「いや……」
少し考えているようだ。
六花「あ、でも。ありがとね」
例を言うなんて。俺のことなんか無視して楽しんでればいいのに。
勇太「六花らしくないぞ!へへっ!」
ノってくれたらいいな。あ、そうだ。
勇太「邪王心眼に告ぐ!よくぞここまで我慢した!貴様に真実の扉を開ける雄志はあるか!?」
六花「……」
ノるかと思ったら、途端にその気は失せて何の面白みを感じていない真顔になった。
しゃーないな。場所が場所だから。俺もこの先は怖いけど行くしかない。
確か親鳥は小鳥に餌の与え方を教えるんだったな。
このままいても始まらない。六花を無視しよう。
俺は柵を前にして、爽快に登る。怪盗になり家の中によじ登っているドキドキ感がある。
あ!という六花の奇声を背に、オレンジ色の柵は輪だらけになっているので手と靴の裏を引っかければ、少し滑るけどそこは手の輪っかを頼りに、右に登り、ふっ!左登り、あとちょっとだ。右を掴んで、左を掴んで。
どうしようこっから。次で最後だけど股でよじ登ればいいのだが何せ掴むものもない。諦め……せっかくここまで来たのだからやってみよう。死なないように。俺は揺れた衝撃を利用して空中にのし上がると、その重力を利用するように股をクリップのように柵を挟む。頂点に来た。見晴らしは……周りは森だらけだった。
勇太「六花―!来いよ!」
六花「でも……」
勇太「何があっても保証するからさー!おいで!」
六花「何かあるかも……」
勇太「うん!ほらっ!」
六花に遠くだけど手を差し伸ばす。早くしてほしい。股が痛い!!!
六花は意を決すると、ゴス衣装の黒いリボンを揺らして、六花の頭にある黒い髪飾りを揺らして、後ろに回り助走をつけた後ジャンプし、その助走を無意味にした少し上の場所に輪っかを引っかける。そして俺と同じくよじ登る。
勇太「ん!」
手を差し伸ばした俺の長い手に、六花の顔が向けられて、細い腕を出して二人の絆が一つになった。離すもんか!と俺が引っ張ると六花も片手をしっかり震わしながら、六花が宙に浮く。つないだ手はずっと離れなくて、柵の間を六花の股もクリップみたいに挟んだ。俺も痛いので提案する。
勇太「せーのっ!」
六花「せーのっ!」
飛んだ。共に。2,3メートルある柵から落ちたときの衝撃で、足がジーンとなった。あまりの痛さに顔を手で覆う。
痛いっ!痛い!痛い!
その勢いが収まると、六花と顔があって爽快な笑顔を見た。素敵だ。可愛い。

夜の道を歩く。異次元の狭間にある、立入禁止の先へ。
崖でも崩れているかと思ったらそうでもないらしくこの一本道の道路を歩くには支障はなかった初めては。だから今回も大丈夫だろう。
六花は俺の後ろで左右をちらちら見ながら震えたような顔をしているので、抱こうとすると平気と言われた。せっかくのデートっていうのに……こんな不便な場所に案内した俺が悪いけど。
長い道の中を左右の草木が分ける。葉のちぎれる音が俺たちの踏み歩いた軌道だ。
風に揺られて多数の木がカサカサ静かに音を立て、蒼い道を枝型に黒く塗る影も変化している。
なぜか車の音も風の音すらなく、俺たちが世界に取り残された怖さを感じている。無音の世界。宇宙空間に行くとどうなるかっていったら、たぶんこんな感じなのだろう。孤独に飢えた最果ての場所。
そして突然カラスの鳴き声が響き、それも大量のが響き、襲われるかと避難しようと思ったが急に静かになる。
草木の実が、なぜか季節外れの、トリカブトの花や、桑の実が、白黒ながらも左右一面に広がっていて、
俺たちを歓迎しているようだ。山に来ればあり得ないことも常識で信じられなかった。これを見たのは植物図鑑以来だ。
森林の隔てる巨大な枝の隙間から、見渡すと空に漆黒に沈んだ星の精細に輝く光、そして月の光。いつもいるメンバーに安心を覚えた。
異常な光景が普通の光景だった。俺は童話の世界に迷い込んだのかもしれない。あの月だって本当は違うのかもしれない。世界でたった2人だけ。生きているのは2人だけ。普段うっとおしい人間関係も寂しさで欲しがりたくなる。中二病……。俺にとっては最大の汚点で、思い出したくもない、自己承認欲求丸出しの恥ずかしい病。闇の炎もドラゴンも世界を変えた事実もない。ほんの凡人だ。俺はもう卒業したんだ。でも六花はこの空虚な現実世界なのに面白さを闇の力を開放することで精いっぱい喜んでいた。ありもしないのに笑えるって不思議だった。尊敬の的だった。俺もそうなりたいって思い出させてくれた。大切な宝物。六花の中二病を、終わるまで、そして終わってからも大事にしたい。ずっと。永遠に。だから六花の好きなような世界になってしまえばいいのに。ドラゴンも魔法少女もいる毎日冒険できる特別な世界に。笑いとワクワクが止まらないだろうな。空虚の現実でも、俺たちがしんとした足音のみが響く夜の森を歩いている傍らで、実は人間の立ち入らないここに宇宙人や幽霊が人知れず夜の葉をならし、山月記の虎やトトロが黒い木の陰からこっそりと俺たちの歩く姿を見ているかもしれない。いや、そうじゃない。実際にいるんだ。忘れたくない世界の妄想。実際よりちょっとだけ見えない場所にいるだけなんだ。その温かい気持ちに六花の望んだ世界とリンクして、俺も心が若返ったようなドキドキが堪らなく嬉しい。真っ暗闇の世界が虹色に輝いている。この気分、久しぶりだ……!
改めて、六花と出会えたことに感謝し、大好きで、早く仲直りしたいと思った。

そして道の最後にある、
森を超えた先にある、
途中で景色の遮断された、
地面の広がらない、
崖。
狭いけど、
草木と花でいっぱいで、
電気すら見えないが遠くの山もうっすら空の境界の線で見える、
見晴らしのいいところ。

俺はその崖を前に、六花に体をくるりと回して見せ、手を大きく広げて、六花の動きを止めた。
闇のコートとゴシック衣装が風に揺られる。

六花も、俺も、何一つ抜けない、真剣な表情だった。




言いたいことがある。


教えてくれ。


本当の話を。







なにがあった……?





第5話 「Vanishment This World !」

勇太「ここ綺麗だな」
六花「……」
俺は来てすぐ話し合うのもあれだと、良心と、ここを見せたかった自慢心と、現実逃避の逃げ心に駆られて、六花と並んで静かな夜の崖の先を堪能した。
ケースとソードを置くことすら頭になく眺めた。
当然夜なので山の形すら分からない。川の音もしない。無音。
それでも崖周囲の蒼い草や花の場所から遥か遠くの深淵を見ているようで手で掴んだら闇の世界を支配している感覚になりそうで好きだ。あの頃が覚醒するようなかっこいい漆黒の深淵。六花もうっとりすると思ったんだ。
隣に彼女といるのに無音の雰囲気が怖くて、逆に彼女の闇の力に包まれているようでいい。
冷たい空気が頬に張りつめて凍る。太ももが凍る。緊張で鳥肌が寒くチクチクする。
六花「ここを見せたかったの?」
勇太「どうだ!かっこいいだろ!闇の世界を空から見下ろしている気分でさ」
六花「うん。私も好き」
壊れそうな声の薄いその笑顔に、苦労して来てよかったと思った。嫌いじゃなくてよかった。
勇太「でも、他が良かった?」
六花「ううん。勇太がいい」
勇太「そっか。地味な場所だけど俺こういうの好きなんだ」
二人でくっつくように立って、静かに見下ろす。ただじっと見下ろす。
……。
景色が変わらないのでそろそろ飽きてきた。その心一緒だろうな。何かが変わりそうで嫌だ。無音がまた緊張を招く。
六花はロープで巻いた剣を草木に落とし、俺は闇のコートと拳銃一式バッグを草木の奥に置き、はめたグローブの中をちらっと確認し、「ゆ」のマジックで書いた右手の紋章を確認する。闇のコートの袖の中にある包帯の存在もちらっと見てなびく包帯を裾の中にしまい込む。いつもの世界に抗うかっこいい俺の格好だなと思うと心がホッと温かくなった。俺は持ってきたケースを邪魔にならないところに置き取り出して、ベルト周りに付け替え剣や銃を入れる。そして大剣も少し重いけどそこに降ろした。例の四角いアレは持ってるな。
よし準備完了だ!
六花も眼帯を外してはまたつけ位置調整をしているようだ。目をくしくしして顔を整えている。
二人は見つめ合って話す機会をうかがっている。怖いけど俺からエスコートしよう。
震える声で。
勇太「えっといい話?」
六花「待った」
六花は数歩俺から離れた。
六花「大丈夫」
背を向いてトコトコと歩くその距離感は本気度を示しているのだろう。何があっても大丈夫なように。
勇太「いくぞ。あ、俺から話す?六花?」
六花「勇太が先で良い」
勇太「俺が先って……」
俺の話す内容例のアレだぞ。六花を差し置いてできない。
勇太「ごめん、あ、あれ……」
なんて言ったら今後に支障をもたらさないか。
六花「あ。勇太が無理って言うなら」
六花は優しく笑うが、まるで誰かを歓迎するお姉さんみたいな薄い笑顔。
六花「じゃあ私から行くね。あまりいい内容じゃないよ」
勇太「うん」
六花「嫌われても構わないって思っている」
勇太「うん……」
六花「覚悟をある?」
勇太「うん」
だんだん落ちようとしているジェットコースター。ここで決めなくちゃな。男だ。六花を守りたいんだろ?
六花は身震いをした後小さく深呼吸をした。彼女の足が少し震えているのが分かる。
六花「質問があるの」
勇太「うん」
六花「……。やっぱり問題ない」
勇太「えっ!?」
六花「……」
勇太「放っておける問題か」
六花「違う、そうじゃなくて」
六花は拳を心臓に当てて、ゆっくりと呼吸し、そして俺を見る。
俺は息をのんだ。その音が分かるくらい暗く静かだった。
六花「言うよ……」
勇太「うん……」


六花「ゆうたは……」


六花「ゆうたはさ……」



六花「死ぬの……?」

勇太「えっ……?」

予想外だった。愛し合う二人だったら、その質問といえば将来のこと、数学の問題のできなさから大学入試に受からないこと。大人になってからどうするかということ。そういう類のことならとっくに準備はできていた。六花は突き詰めれば今日の不審もこの根幹から来ているのだ、と全く正解だと言ったら胃がもやもやしていたが、とにかく回答をする予定だった。俺達で支え合って例えきつくても乗り越えて物語を築いていこう。きれいごとでしか解決できないけどそうするしかないって思ってた。理想の崩れた今、理解不能な現象に拍子を抜かれている。
でも、死ぬってなんだよ。しかも俺が。

勇太「死ぬって、俺生きてるぞ。ほらっ」

六花「ううん。ゆうたはいつか死ぬの……?」

なぜそこまで。あっ、「死ぬ」といえば……なにかがふわっと、例の夕方を思い出す。そう機械に潰されたあのバッタの死骸のことだ。無残にもすりつぶされて幸福な最期を送れないと目の当たりで分かった、かわいそうなバッタだった。
夕方の質問の続きか……。要するにバッタは死んでいますか、死んでいませんか。それだけの話だ。でもだからなんで俺が含まれてんだよ。……。何かがひも解くような変な感じがする。

勇太「六花。
落ち着いて聞いてほしいんだけどな、
夕方の話、
はぁ…….すぅ。
バッタは死んだ。
もう生き返らない」

六花「うん、
そうなんだ。
やっぱりそうなんだ。
でもゆうたなら……
そう思ったけど……
うっ……!」
その言葉を聞いた六花は言葉を失ったかのように口を開けて、手で頭を塞いだ。

勇太「六花!?」
助けたい衝動で体が動き出す。しかし後ろ足が震えの痙攣で動きを縛る。
六花「それじゃ……もう私は……」
どうすればいい。どうすればいい。なんて励ましてあげればいい。落ち着いて考えろ。
六花は回答を求している。バッタの件と、俺の件……。そして「死」。何かが結びついて分からないような。でもこんな俺じゃ六花の期待に応えてあげるの無理なのかな。そう思うと自分が小さくなって極小まで潰されていく妄想が走る。未来の俺がどんどん潰されていく。まるでバッタみたいに……。
あ!!
勇太「バッタの件!」
衝動的に質問し、六花をびっくりさせてしまった。再び冷静になり時間を置く。
もしかして六花は、「俺が死ぬ」ということを恐れているんじゃないか。六花のお父さんはもう他界していない。その時の恐怖が再度出たのかもしれない。確かに俺も怖いもんな。大好きな人が消える悲しさ。
再び深呼吸。割れやすい花瓶を慎重に持つように。
勇太「もしや俺の死が嫌なのか」
六花は途端に目を大きくし、静かな空間に明るさを灯した。
勇太「やっぱりそうなんだな!」
六花「うん」
ああ!突破口が見えてきた!
六花が微笑んでいる。六花の気持ちと少し合った気がする!
六花「バッタとゆうた、いつか、死ぬ?」
喋った!喋った!これで解決の道が開いている!!仕組みさえわかると極めて簡単だった。誰もいない夜中に俺も何回もベットの中で考えて、それもデートを始めたときから全て、六花の顔を思い浮かべるたびに感じる「彼女は今いない」寂しさを、心の手合わせから離れていく寂しさを、言ったらはっとして喜ぶだろうなという未来予想を含めてぶつけてみる。
勇太「ああ!そうだよ。生きる者いつかは死ぬ。バッタさんみたいにな。俺だって死ぬよ将来。じゃないとおかしいだろ?」
六花「……」
勇太「だからさ、生きる時間は限られてる。俺と六花のこうやって過ごす時間も限られてる。だからさ、その時が来るまで一緒に遊ぼう?」
六花「そうじゃダメなの……」
えっ……。なんで?漫画でもCDでもよく聞く、いいと思える解答だろ?二人はいつまでもいれないから、ともに楽しもうじゃないのか?共感できるだろ?できないのか?なんで!?
勇太「違う?」
六花「ううん、それは正解。だけど大きい」
大きいってなんだよ。間違ってないんだろ。でも俺の死に大きいも小さいもないぞ。死んだらそれで終わり。死ねば体が大きくなるとかそんな童話の国の話はないとさすがに常識ぐらいはついているだろう。でもなんでだ……。この話に、大きんだろ?何が足りないんだ……?

アイデアが枯渇してしばらく無言になる。読み探り合い、睨み付け合いが胃を苦しくする。こいつ何隠しているんじゃないかって。俺を騙してどっかに行きそうで、怖いんだ。
すると六花が突如幕を切った。
六花「もう、この話終わりにしよう。苦しいだけ」
勇太「なんだと……。苦しくなんかあるか!頑張ってここまで来てるじゃんか!」
六花「でも、これ以上言ったら。これ以上言ったら……あぁ」
何か思い詰めているらしい。頭を抱えては俺の掛け声に反応しない。
話しかけようとしたが一向に俺と対話してはもらえない。
一方的にクイズをもらって、一方的に押しのけられる。内心俺で遊んでいるのかと疑惑が湧いてきた。
でもそれは最初に思った愛の定義に反している。六花は苦しんでいるんだ。苦しいから殴りたくなるんだ。彼女が苦しんでいるのに、何俺はのんきに不満をたらしているだよ!
勇太「六花。困ったことがあったら俺と話してもいいんだぞ!一人で悩むなんて言語道断だ!頼りにならないかもしれないけど愚痴なら聞きたい!」
その期待をへし折る如く、六花は首を横に振った。
六花「無理」
勇太「どうにもならないってダメだろ諦めちゃ!隠し事はなしなんだろ!俺に話せよ!」
六花「無理」
勇太「俺を信用できないのかよ!まさか誰かにいじめられたのか!?」
六花は首を横に振った。その勢いはあまりにも切ない。
仕方ない……。俺の呼吸が浅いことを今確認した。こんな狂犬みたいな顔、丹生谷だったら頬をはたかれるだろうな。がっつきすぎて逆に打ち明けたくないんだろう。俺だったらその気持ちになっている。
六花「もっと強い」
意外な声に驚いた。打ち明けてくれた。しかもヒントをくれて。でも分からない。質問の意図が相変わらず。
もっと強いってなんだよ。六花になにしたんだよ。
勇太「丹生谷のことか?」
六花「ううん」
勇太「凸守?十花さん?」
六花「あの方」
誰?あの方って誰だよ。落ち着け俺。あくまで六花を慰めるのが俺の目的だということを忘れるな。橋渡しだ。俺は六花の横にいられるだけでいいって過去の俺はそういったじゃんか。そうだな、六花の特別なことで敵わないといえば……六花について隠されたことを知らない、六花に一番よく接している、愛情あふれるクラスメイト。候補は、一人いた。
勇太「風鈴ちゃん?」
六花「違う」
即答だった。
六花「人間じゃない」
人間じゃないって誰……?ああ、六花の頭の世界のことだな。
勇太「不可視境界線の人達か?」
六花「……」
なぜ黙るんだよ。違うならまた違うって言うはずなのに。
勇太「正解なのか?」
六花「いや、うん……。いや、むしろずれてる。現実」
六花「でも……」
自分の口から教えないってことは何か理由があるはずと思いたい。
人間じゃない。人じゃない。もう候補ないじゃないか。無機物が六花に影響を与えるなんて、大切なものしかないだろう。
勇太「何か失くした?」
六花「うっ……」
ビンゴ。濁った川が少し奇麗になった感触を味わう。心の中で歓喜が湧いている。矢が的に命中したようだ。やっと。その反応は今までで初めてだった。進展に少し希望のドキドキ感が湧いてくる。
勇太「手伝おうか?」
六花「そうじゃない。実際のものじゃない」
六花「あと、ごめん……つらい……」
勇太「あ、ごめんな。少し休憩するな」
漆黒の無音の崖の横で立ったまま、六花と俺は互いに目を合わせられなくて、
無言のまま。

そのぽっかりと空いた夜空にスライドして焦燥と不安が俺を襲う。大丈夫だよな……。
六花「空」
んっ?
六花「大きい」
勇太「うん」
見渡すと、夜空の深淵に溶け込んだ星の光がどういう理屈か青白く光っている。
なぜ宇宙は黒いのにその中を蒼く光っていているか不思議で綺麗だと思う。
この光は相対性理論によると今見えている光はすでにその惑星にいないという驚愕した、現実でもファンタジーに近いまだ知らなかった奇跡の魔法。

六花「この世界」

勇太「ん?」

六花「この世界」

ずっと黙ったままだった。何も出ない。
この世界がどうした……?
反応がない。ただじっと星空を見上げる。


もしかして……

これが答え?

勇太「それが正解?」

六花「……。うん」

一気に不安が溶けた。肩の盛り上がりが失せる。少なくとも対人面でやられたわけじゃなくてよかった。ほっと安堵感が白い雲になって夜空に溶ける。うまく答えに導けなくて不穏のまま帰るってことを想定していたから嬉しい気持ちでいっぱいだ。勝利の歓喜と未解決の不安で俺の精神は壊れかけている。これだけ人の話に危機感を感じたのは、六花との告白する勇気より何も勝っていなかった。しかしまた疑問が生じる。世界ってなんだよ。この世界か?日本か?ヨーロッパか?あの世界のことを意味しているんだよな。地球のマップを広げたやつという解釈で良いんだよな。世界と六花って想像の天秤が合わなさすぎる。意味が分からない。何かされたって何がされたんだよ。第一動かないんじゃないか。
勇太「空……世界?」
六花はオーバー表現でゆっくりとうなずいた。それが根幹であると俺にもわからせるように。
勇太「尋ねるけど、これが悩み?」
うん、と頷かれた。
勇太「ごめん。長年付き合ってきて思うんだけど、お前の意図が分からない」
六花「そう……」
なぜそんな悲しそうな顔をするんだよ……。

六花は一瞬笑顔になっていた。俺はこの瞬間を逃さなかった。
六花「ゆうたは、こういうの経験したことない?」

出口を求められた。嬉しかった。
でも。
まるっきり分からない。質問も質問の意図も分からないと理解できないほうが正常だ。さっきから意味不明の質問されているが、どうしたら戻るのか。
勇太「ごめん。ない」
六花「やっぱり……私一人だけなのかな……。でもそれだと仮定が違うから……えっと……」
辛そうだ。助けなきゃ。
勇太「もしよければ、話にのってあげようか」
六花「それで解決するの?」
勇太「いや……」
六花「ゆうたじゃ……。これは確定だと思う」
勇太「すまん」
六花「あ、ごめん。攻撃的だった。ごめんね」
勇太「いや真実を捕まえるとか云々なしでさ、六花の思うとおりにならないかもだけど、でもそんな顔が嫌なんだよ。元気だったあの頃の顔がまた見てみたいな。何度でもいうぞ。愚痴なら受け入れるぞ。彼氏の役目だからな」
六花「ん……。あ、でも無理だよ」
勇太「何があった?」
六花「話せない。言いたいけど」
勇太「俺は待っているから。いつでも話していいぞ。もしかして女性の話だった?」
六花「違う。安心して。むしろゆうたに話したかった」
勇太「あ、えっと、うん。ありがとな」
照れるなあ。信頼されてたんだ俺。
六花「それに、あの……そんなに気を遣わなくていいから」
勇太「今のお前じゃ……。そうか、気を遣うか……」
六花から気を遣うって。お前は確か、そんなやつじゃなかったよな。そんな言葉なんて俺に一言も出なかった。せめて一週間前は違ったけど。よし、質問事項は固まった。六花を刺激しないやつ。

勇太「どうした?お前、前と違うんじゃないか。迷惑~なんて七宮以来だぞそんな考え他人から聞いたの。あれか。異端ってやつか?」
六花「ゆうたから見ればそう見えたの?」
勇太「えっ……。うん」
唐突な言葉に思考が回らなかった。上手くない方向に行ってしまったことは理解できる。六花俺のこと気遣ってたのかよ。その言葉を聞いてもう一つ思い出したことがある。夕方の「今日の私は私らしかった?」って。迷宮推理の謎の言葉。六花は六花だろ。当たり前だって感想を抱いたあれだった。まさか。俺の頭の中で変な言葉が浮かぶ「装い」?でもうまく情報とリンクしない。
勇太「ああ、な。お前はそんな奴じゃなかった気がするんだ」
六花「なんかごめん……」
問いただしたい。突き詰めたい。衝動心が理性を鈍くする。
勇太「六花。いや、小鳥遊六花よ。そろそろ正体表したほうがいいんじゃないか?」
ふっ。かっこいいだろ。
六花「別に……」
なんだよ。喜ばないのかよ。しかも今のお前は、昔のお前なのかよ。仮定が現実になってしまったことに体内が悲鳴を上げている。こんな変な六花正直受け入れられない。彼氏に気を遣うなんて会いたくないって言われていることと同じだ。でもあったんだから何かすればまた戻る……可能性だって。
でも、これじゃもう策もない。ひとつぐらい突破口見つけてもいいじゃないか。
勇太「解決できないからって口につぐむなんてしなくていいのにさ。概要だけでも教えてもらえないか。そろそろ限界だ」
六花「無理だよ。強すぎる」
勇太「いや、せめて教えてもらってもいいじゃないか!」
六花「ゆうたを巻き込みたくない」
勇太「もうすでに巻き込んでるだろ!何を言ってるんだよ!相談すればきっと奇跡だって!」
六花「起こせっこない」
勇太「まだ始まったばかりだろ!」
六花「ダメ!これは私の問題!」
勇太「ダークフレイムマスターの命令だ!汝よ!その封印された扉を開けよ!」
六花「いや!ゆうたが!!ゆうたがダメ!!!」
勇太「俺はどれだけ傷ついてもいいんだよ!!!六花の悲しむ顔が一番心に響くんだよ!そんなに俺のことが信じられなかったのかよ!!!!!!」
あ……。不満だ。生理的な不安と精神的な荷担が怒りに変わってしまった。
六花もビクッと体を動かして、手の震えの止まらない様子を映し、言いたいことがあるように口ごもる。髪の下から汗がふき出て、呼吸も乱雑だった。
六花「そんなに言うならさ……」
六花「そんなに言うならさあ!!!!」
六花「うっ......ひっぐ……ぐす……」
六花「傷つけたくないのに……。傷つけたくないのに……!」
六花「はぁ…….はぁ……」
六花「じゃあさ、言うよ」
六花「ゆうたのせいだからね……」

六花「ゆうた。ゆうたはダークフレイムマスターなの?」

勇太「……」
六花の不自然な汗と荒い息を出す覚悟の姿と、その理解不能な質問に言葉が詰まった。まさかお前がその言葉を口にするなんて生涯聞くはずなかった。決して気づくはずのない意味。六花の口にされたら最も嫌だった言葉。ああ、分かったぞ。お前それ……。何が言いたいかうっすら絶望感が伝わってくる。どこかひびが割れて崩壊しかけている。ダメだ希望を持て何とかなる。今の嘘だ。フェイクだ。俺の聞き間違いで正解だ。六花に限ってそれはない。絶対にないだろう。仮に正しかったとしたら凸守はどうするんだよ。あいつは置いて自分だけって友達のやることじゃないだろう。六花はそういうことはしないはずだ。あったら連絡があって七宮と一緒に悩んでってのが掟、パターンだ。絶対にない。絶対にない。はぁ…….。平常心。昔を思い出せ。
勇太「そうだ!よくぞ見破った!ふっふっふ。貴様のために特別にお答えしよう!俺は中の暗炎龍を呼び覚ます闇の力を受けた、ひとたび目覚めれば世界は崩壊すると言われる、それゆえに不可視境界線の管理局に追われた、選ばれし人間のふりをした……融合体の悪魔“魔王”だ!」


怒涛と猜疑の混じった人間らしい顔を俺に向けた。


六花「ないよ……そんなの……」


勇太「えっ……」

六花?お前六花なんだよな?お前、今一番言っちゃいけないこと言っただろ。やばい、信じたくない。いやだ、いやだ、いやだ。この世界は邪王心眼に支配されているって思ってるんじゃないのかよ。設定でも本気でそう思っているだろ。毎回周囲に迷惑かけて。長年一緒に居るはずなのにこいつの思考が分からない。明らかに目の前にいるのは六花じゃなくて、六花の振りをした誰かだ。誰かなんだ。俺の六花ならそんなこと言わない!六花はそんなやつじゃない!!でもダークフレイムマスターって言葉知ってるなら過去の俺も知っているのが筋だと思うから。ああ、止めてくれ。すなわち……同一人物……。
でも待ってくれ。ひょっとしたら六花の思い違いかもしれない。
ここは質問をひねり何とか導き出せばいい。
だが頭がくらくらしていいのが思いつかない……。
勇太「お前がほんとにあるって言うから本当なんだぞ!」
六花「嘘」
勇太「闇の力が覚醒してないだけ!いつか目覚めるんだ!」
六花「嘘。だったらもう目覚めてもおかしくない」
勇太「知ってるだろ?不可視境界線、海の向こうで一緒に見ただろう!?」
六花「嘘」
勇太「えっ……。お父さん見たんだろう?」
六花「嘘……」
勇太「いや」
六花「正確には私の作り出したお父さん。この世にはいないって知ってる」
勇太「えっ……」
六花「ないの……」
勇太「あるぞ!あるぞ絶対!」
信じたい!信じたい!夢は夢じゃなくて本当にあるって頭の中で何百回も見たことあるじゃないか!!?証拠があるんだからできるんだよ!中二病はないって言ったけど、今は撤回する!虫が良すぎるかもしれないが今は本気なんだ!できる!
六花「ほんとにその力あるの?」
勇太「も、もちろん!」
六花「ゆうた。最後の頼みがあるの。私に……気づかせてほしいことがあるの……。ゆうたならできると思う。その理屈がほんとにあるってゆうたが言うならそれは本当になるとさっき言ってくれた。本気で覚醒できれば世界が崩壊するのって簡単だと思う」
怖い。怖い怖い。六花の顔を見るのが怖い。行動するのが怖い。誰かに死刑宣告を迫られた心臓の止まる感触がする。目の前がおぼつかない。俺は意図せず震える掌を見る。目の前に光る紋章のようなものは何もない。そうだ、何もないんだ。
六花「それに、私はゆうたを信じてるから」
勇太「俺は……えっと」
何かがなくなるようで怖かった。一秒たりとも行動を送らせたかった。それで時間切れになってほしかった。
六花「お願い。さっさとやってほしい……」
勇太「六花……」
六花「……」
勇太「うん……」
できっこないの現実を見る心と今ならできる期待に苛まれて心の中がぐちゃぐちゃだった。視界がおぼつかない。揺れている。これで全てが決まるんだ。奇跡さえ起こせばいいんだろ。それなのに俺の自慢の右腕は小刻みに震えている。でも覚悟を決めなきゃ理解されてしまう。俺は前に、重い手を、ゆっくり出して、漆黒の深淵の前にかざし、波動を出す準備を作った。肩の上下する様を見て呼吸が整うのを待つ。世界を変えられる、とっておきの必殺技。
勇太「闇の炎に……」
終わってくれ。なくなってくれ。
勇太「抱かれて、消えろーーー!!!!!!!!」
指先を大きく広げて、深淵の先を飲み込むぐらい、血を全力で手に込めた。山びこの反射を受け付けないほどに。血脈がこれほど浮くのかってくらい薄赤い線がよく見える。これが俺の本気だ。世界よ、消滅してしまえ。潰れるぐらいに手を込める。自分が自分に罰を与えているように。痛くて痛くてしかたない。お願いだ、来てほしい。何らかの偶然で、隕石が落ちてきたり、ビームが深淵に放ったり、突然能力が目覚めて、ブラックホールの球体を産み出す、
そんな世界に、
そんな世界に……、

なってほしかった……。
無音。無力にも風すら吹かない。世界の変化は見られなかった。震える手から何も出ない。赤や青の光線が出ない。分かっている。努力不足ですらない。修行すればできるものじゃない。普通の人にない俺だけ特別な力を実は隠し持っているんだと甘い気に誘われて。かっこいいと思って編み出した単なる遊び。最初から分かってたんだ。これは単なる「設定」だ。

勇太「ごめん……ごめん……」
六花「やっぱり、ないよね」
勇太「でもいつか目覚めたりするかも……しれないかもしれない」
六花「ううん。分かったから。ゆうたが無理しなくていいよ。ありがとね」
すると六花は耳の後ろにある白い輪を外し、邪王心眼を封印する眼帯を右手の掌に持ち、きゅっと握ってまた開いた。
六花「分かったでしょ」
六花「私は言いたくなかったんだけどね……言いたくなかったんだけどね」
六花「結構我慢したんだよ……。ずっとずっと思って。でもようやく理解できたんだよ。理解してくれる人がいたんだよ」
六花「私ね、今最高にね……嬉しいよ…..」
六花「はいこれ……あげる……」
笑顔で笑って、瞳から涙がぽろぽろと降らしている。差し出されたのは、あの眼帯だった。虚しく、くしゃくしゃで、何の用もなくなった、白いゴミ。
六花「ゆうた……好きだから」
いやだ……いやだ、いやだ!六花のこの顔なんて見たくなかった!何で笑うんだよ!!何で泣くんだよ!!目の前が涙でぼやけてくる。
勇太「受け取れるわけないだろ!」
ううんと首を振られて、ふるふると震える手で俺の元へそっと差し出す。
勇太「嫌だからな!絶対したくないからな……!」
それでも弱く伸ばす腕が痛々しくて、
もう見たくなくて……。
こんな思いをするならさっさと受け取ったほうがいいと思って。
こんな世の中なくなってしまえばいいと呪って。
悔しくて悲しくて、苦しい感じが首と体ごとキュッと縛られて、
六花との笑いあった思い出を駆け巡らせる中で、
正常に動かなくなった俺の震える手を、
そっと前に出して。

そしてその大事な、白いものは、
役目を終えたかのように、
ぽたっと手に渡った。

勇太「六花……六花……!」
嗚咽と叫びが止まらず、その弱くなんも力も感じない白い眼帯を手で熱く握りしめて、胸に付ける。
なんも感じないのに、胸からほのかな温かみが出てる。出てるんだよ……!
どうして……どうして……六花が……!
六花「うっ……ひぐ……ぐす……あぁぁ……あぁぁ……」
六花……六花……!
ああ、どうして……!
六花「はぁ……。はぁ…….。はぁ……」
六花は圧迫した辛い息をもらしながら涙を流して、でも今まで見せなかった優しい表情で、泣き崩れる俺の前に撫でるように挨拶をした。
最高に、笑って。
六花「ゆうた。あのね」
「ゆうた、落ち着いて聞いてほしいの」
「口を挟まないでほしい……。これは私が決断したことだから」
「今の私は、もう昔の私じゃないから……。交代したから」
「私に……ゆうたを愛する権利なんかないよ……。無力なんだよ……」
「ごめんね。ゆうたのためなんだよ。意地悪じゃないよ……」
「ゆうたに、辛い思いは、私も見たくないんだよ……」
「じゃあ。いくよ。していい……?」
「ゆうた……元気?今の私は元気だよ」
「ゆうた。いっぱい笑いあって……怒られて……でも一緒にドラゴン召喚して、ありがとう……」
「私はゆうたに感謝してる。みんなにも感謝してる」
「ゆうたが隣にいたからメンバーが増えたんだよ。私一人じゃ申請もできなかった」
「お父さんが亡くなったとき、ゆうたの信じる理想が私の希望だったよ」
「私が数学ができないとき、そっと手を差してくれてありがとう。大変だったと思う」
「携帯のメルアド交換したとき、これからずっとずっとお喋りできるんだって、すごく嬉しかったよ……」
「夜の橋の下で告白されたとき、愛されてるって気持ちを初めて知って人っていいなって感じられたんだよ……」
「初めて手を繋いだとき、守ってくれる優しさでその夜浮かれてたんだよ……」
「笑って、泣いて、これから毎日続くんだって……。人生が楽しく思えたんだよ……」
「ずっとずっといて、楽しかったよ……」
「中二病だった、あの頃の私をずっと忘れないでね……」
「短い間だったけど、ありがとう……」
「ゆうたのこと、絶対に忘れないよ」
「ずっと友達でいようね……」
「さよなら……」

おい待てよ!
話したい!……話したい!……
でも話せない……!勇気がでない……!
心の中がマグマのようにぐつぐつ湧いてくる。
今までのことは何だったんだよ。
ここまで一緒に来たのに。
こんなちっぽけな理由で、
裂いていいはずがあるか!!!!!!!
……許さない!!
勇太「なんだよそれ!そんな結末!一方通行だろ!お前だけ決めて勝手に逃げるなんてずるいぞ!話しかけていいだろ!俺には何にもわかんないと思う!ああお前の言っていること普段も今も全然わかんないよ!お前になにがあったんだよ!死ぬとか大きいとか今の私とかなんなんだよこれ!分からないからって教えないっての最高に嫌なんだよ!頼むよ!お前は強いよ誰一番!話の内容が何かあったか俺も六花も逃げる卑怯者だって笑われてもいいだろ一緒に居るんだからさ!受け止められるよ!さっきも言ったじゃんかよ!これしか正解ないんだよ!また一緒にいたいんだよおお!!!」

勇太「なんだよ!!!!なんだよお!!!!!!」

俺は六花の前で怒鳴った。腹の中に溜まった泥を全て投げつけた。それでも六花からの返事もない。ダークフレイムマスターでもないただの高校生の無気力な俺の気持ちを投げてしまった。全然分からない理由を、中二病を勝手にやめてしまったことに腹立ってぶつけてしまった。六花は涙を流してそんなの分かってる、現実を知ったような、理想を全否定されたような、嫌で嫌で受け入れたくない醒めた顔で俺の怒りを聞き取った。
六花は無言で受け取って、口をもごもごさせながら、聞かなかったように背を向けた。
俺は好きだ。好きだから……!傷つけるんだ!それ以外に理由は見当たらなかった。俺の全てが怒ってる!復讐を誓っている!
六花の頭をぶん殴りたかった。後ろを向いた六花の頭を殴りたかった。そして違うって言わせたかった。中二病を理解している、マスクを被ることも知らない六花に戻したかった!もう一度笑ってほしかった……!
でも大切だから、大切な六花の選んだ道だから。言っただろう。たとえ誰かの人生を真似ようと、六花の幸せな道を選ぶって……。六花がいいって言うならもうそれに従うしかないんだ。
でもな、でもな、それを理解した途端、体が止まって理不尽で死んでしまう。
勇太「でも、そんなの嫌だ……。あんまりだ……」
背を向いた六花のもとに、俺のこぼれた声が体を動かして、後ろから抱いた。
その背はもう冷たく、氷のように。六花ではなく、本当に別人の誰かだった。
六花の匂いがするのに、頭も体も同じなのに、別人の誰かを抱いているようだった。
もう一度、王子様のキスの温かみを感じて。戻ってほしい……!
六花「離して。私の意思は変わらない」
勇太「中二病じゃなくたって、お前がお前さえいれば、もうどうだっていい!」
六花「私は……私は……」
勇太「また一緒に学校行こうな。皆に話せば分かってくれるよ。もど……らないかもしれないけど、でもあの人たちは良い人たちだって俺は知ってる」
六花「分かっている。でもゆうたが大事なの」
勇太「俺なら平気さ!ほら抱いてるだろ!元気がなきゃできないだろ!」
六花「違う。今のゆうたは強がりだよ……。お父さんが……。もう私のお父さんいなくて。ゆうたも、ゆうたも!あの大きなものに飲み込まれて死んでしまう。だったら……!」
勇太「俺はここにいるだろ!」
六花「うぅ……うぅ……」
まずい……。このままじゃ六花がどっかに行ってしまう。これだけ投資した時間も愛も全て水の泡になって消えてしまう。俺にとっては六花だけが居場所なんだ。
六花「やっぱり私たちは会っちゃいけなかったんだ。不可視境界なんかもともとの私の理想をはめ込んだ都合のいい現実でしかなかった。私はこんなバカだ……!」
六花が段々離れていく!黒い空間の中から米粒になるほど小さく消えていく!こんなに愛を感じているのに!こんなにも近くにいるのに!

六花「別れよう。金輪際合わないように」
いやだ……いやだ…..いやだ…..!
 や

六花「別れよう。もう別れよう……ゆうた」

信じたくない!信じたくない!信じたくない!
俺を離さないでくれ!一緒にいてくれ!!
いやだ!いやだあああああああああああああああああああ!!!!
おい!やめろ!!



勇太「僕と付き合ってください!」



離れてお辞儀する俺。そしてプレゼント用に買った高価な指輪の箱を開いたのを差し出して。

あ…………。
俺は今、言葉を喋ったと思う。それがなんだか本能では知っていると思う。その本能が一番まずいときに作用したのもそれも理解できている。この後何言われているかも分かっている。
頭を下にした草木の見える場所で。
声が震える。体が震える。目玉が小さくなりきつく搾り取られている。生きる気がしない。心臓の音が響き渡っている。呼吸は口でするしか集中が持たなかった。何もかも失った悲鳴を感じている。
やっちゃいけなかった……。止めるべきだった!!
ばかやろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
なんで……なんで……!


六花「ごめん……無理……」


うぅ……ぐす……うぅ……。うわぁああああ!!!
心の中で嘆き叫んでいる。情けない姿をしている。現実ではかっこいい男性としてただ声を震わしている。
こんなにかっこつけなくてよかったのに!俺はバカだ。世界一のバカだ!
中二病なんて、やっぱりないんだろ!
こうなることは目に見えていたはずなのに、なぜ告白したんだろう……。
俺の冷たい涙が頬をたらして、夜中の風に乗ってどっかに消えて行った。
六花は再び背を反らして、俺の見えない方に顔を移して、嗚咽の声が少し聞こえる。
六花も俺も同じ気持ちなのに、同じ共鳴者なのに、どうしてこうも分かり合えない……。
夜の広がる黒い空を見上げて、闇のコートだった羽織るものがなびいている。
見上げることで、乾燥した空気に涙が枯れていった。
きっとあの空では、まだこうなっていない六花と心が深く共鳴している。あの蒼い星の光は今ここにいるようで実はいないように、過去を巡って平行世界の彼方に、俺の哀しみと未来への警鐘は、ずっと通じている。
そういう……
設定だ……。
六花は疲れたのか、俺を背にして腰を下ろし、草原の上に座った。
俺はそんな小さい六花を受け入れられなくて、でも足もそろそろ限界だったのが分かって、六花の近くに座った。やっぱりこの座り方は何か違うんだ。なにかが寂しい。
やっぱり六花がほしい。ぎゅっと握った感触が愛しい。
六花の眼帯……握りしめていた。中二病、俺一人。愛する人は今この手にある。
かっこいい……そう言われた昔を思い出す。もしかしたらかっこよさに惚れて……。

淡い期待を馳せて、六花のぬくもりと頭の匂いを感じる眼帯を、俺は装着した。

勇太「後ろ、いい?」
六花は答えなかった。俺は六花の背の後ろに座って、最初は嫌われるかと思ったが反応がなかった。二人のすれ違う背を互いにくっつけて、おなじみのゆっくりできる温かみを感じた。そして頬もじわじわと赤く染まった。ゴススカートの少女と闇のコートを着た少年が安心感を交換している。今しかない時間。ずっとこうだったらいいのにな。
何もない夜空から星の光と目の細胞のみで蒼く俺たちを映している。寒いけど誰もいない静まった夜空が奇麗だ。
勇太「綺麗だね」
六花「……」
勇太「星も、月も、奇麗だね」
六花「……」
六花の嫌悪感の反応がないからいいんだろうな。無言でも宝物だと思う。
勇太「俺達、別れちゃったね」
六花「……」
勇太「あの……」
六花「…………」
勇太「将来どうする?」
あ、まずい。調子に乗った。知らない人に話しかけられたようなもんだな。
六花「……」
勇太「ごめん。黙るよ」
六花「……」
勇太「……」
話したい。話したい。笑いたい。怒られたい。でも。 それはできない。
ふとっ、夜空を見上げるときれいだ。
現実もこんなにきれいだったらいいのに。
その憧れる心が、体がスッと浮かんで、夢の世界に連れて行った。
美しい楽園のこと。6......5……4……とカウントダウンが頭で到来する。
また、例のアレが始まる。
俺の口からなぜかこぼれる。心が共鳴を欲しがっている。

勇太「空が奇麗だ。真っ暗で綺麗だ。今更だけどさ、禁断の森の先の崖って、巨大なドラゴンがいたり、前作主人公がいたり。そうであってもおかしくないよな。でもいないんだよな……」
「星が奇麗だ。あの星はギリシャ神話とか、過去に見たらしい神を映しているけど、実際はその人の妄想に過ぎない。ただの自然現象を神と崇めるなんておかしいよな。ははっ……」
「……。夜はいつまで続くんだろう。ひょっとしたら永遠かもな。誰かを生贄に捧げなきゃ朝はやってこない。そういうのもいいかもな」
「……。でも永遠じゃない。必ず朝はやってくる。永遠なんてものは存在しない。俺達はいつか死ぬ。どれだけ約束しても最後の時はやってくる。笑ったあの頃は返ってこない。皆後悔しながら歩いている。この草木だって花だって、いつか枯れて死んでしまうんだ。町を歩く人だって、道を歩くおじいさんもおばあさんも、みんな笑顔だった。二人でゆっくり歩いて、楽園の彼方まで歩くんだ。犬を連れて散歩する人も、自転車で平行に走る二人組も、いつか離別か葬式で永遠に会えなくなる。残酷だよな。楽しかったのに。走っている車も、回っている風車も、いつか壊れて粗大ごみ扱い。大企業だって買収されるとか倒産するとかで死んでいく。それなら日本もいつか壊れるんだろうな。この地球もいつか自転ができなくなる。太陽もあと50億年すれば燃え尽きて消えてしまう。この宇宙だって250億年の歳月。いつかは消えてしまうんだ。皆、どれだけ頑張っても、やがては砂に等しくなる……」
「それなのに、それなのに……!俺たち何のために生きているんだろうな。努力したら無駄じゃないかって思うんだ。愛する人の誰かのために生きたって、その人は永遠に生きられるわけじゃない。何かが、天罰的な理由で偶然殺されるんだ。悪いことしてないのに」
「じゃあさ、最初から会わなかったほうがいいじゃん。最初からこの地球をぶっ壊して、ここに生まれた犠牲者を生まなかったほうが幸せだった。社会の慣習に浸るなんて無駄そのものでしかなかった。地球を破壊すれば、ハッピーエンドだ……」
「だけど。この町にもいいことあったよ。俺のお母さんお父さん妹。丹生谷も凸守もくみんも七宮もナナちゃん先生も、この町の学生やサラリーマンとか働く人達も、みんなのいるこの町が好きだ。そびえ立つビルも畑も夜景も奇麗で美しかった。ずっと守りたい」
「悪いことあったけど、それだけ素敵なこともあったよ。恨みたくないんだ」
「恨みたくないから攻撃されないって理由にはならないのかな。なんで、運命は、その希望すらも奪っていくんだろうなって。受験や仕事で頑張ったらはいそれで終わりなんて……それが憎くて憎くて、誰かを殴りたい!死なすまで殴りたい!ひどすぎるじゃないか!どこに槍を向ければいいんだよ!彼女を守っても、最後は骨になって終わり!って……」

「永遠じゃないのにここにいる意義はなんかない」

「夢を見たらダメなんだって……」

「認めるのが」

「嫌だ……」











六花「私は……!」


えっ……。
六花が突然振り向いた。
俺を抱いて、
俺の肩に頭を乗せて、
耳元で、
泣き声で殴るように訴えている……。

六花「ゆうたがいい!」
六花「このゆうたじゃなきゃダメ!!」
六花「ゆうた!ゆうた!ゆうた!!!」
六花「お願い……」
六花「どっかいかないで……!」
その怒涛の迫る切実な思いに、返す言葉がはたらかなくて抱きしめが強くなった。
六花の泣いた訴えに俺の体も一緒に揺らいだ。
持ち主の動きに察したのか眼帯が小刻みに揺れる。

六花「かっこいいから、ずっといてほしいの……!」
「あのね、あのね、ものすごく怖かったんだよ!」
「聞いて!」
「ゆうた!怖かったよ!食べられそうな気がしたの!!」
「一週間前ね、」
「ゆうたとデートする約束してすごく嬉しかったよ!もしかしたらいいことあるんじゃないかってウキウキしてたんだよ!それを聞いた朝楽しかったのに……楽しかったのに…….」
「その日があと何日続くんだろうって私は欲張っちゃったの!!ごめんなさい!!!!!!」
「ゆうたといつまで一緒にいられるかってカレンダー見たら、急に卒業するゆうたの姿を連想して!」
「ずっと一緒に居ようってゆうたの言葉がほんとだと思って……」
「でもそれも限界があるって思ったら……」
「皆そうじゃないかって怖くなったの!!」
「今生きている皆もやがては必ず死んでいくのに、何も知らないようにただ歩いていて喋ってるクラスメイトの皆が怖くなって!」
「町に行ったら見ず知らずの人もみんなあんな風に死んでいくと思うと嫌で……」
「みんな自分で大学選んで、仕事を探して、結婚して、どこか遠いところに行くんだって」
「大好きなゲームしても倒れるモンスター殺したらもう生きられなくなるって思うとすぐにとめて!!」
「何にもできなかった。楽しいって思うときがなくなった。怖かった……!」
「ベットで一晩中泣いたよ」
「いつかみんな知らない理由で死んでいくんだって……ずっとそればっかり考えてた」
「私の技でも補助技でさえも効かないものがこの世界を支配してるんだって……」
「そう思うと頭が苦しくなって」
「泣いた涙も声も枯れて……」
「そのときやってきたの」
「私と同じ姿をした私が。もう泣かなくていいって手を差し伸ばしてくれたの」
「邪王心眼だったころの私を削除する代わりに、この世界に耐性をつけて、気づく前と同じ人生を送れると、私が、私に言ってきたの」
「嬉しかった。みんなに相談してもみんなもまた犠牲者だから意味がないって臆病になって。それが唯一の希望だった」
「それで、昔の私でいう“契約を交わす”という行為をしたの」
「封印したの」
「初めはよかった。不安になることもないし、変にドキドキすることもなくなった。皆に注目されることもなくなった」
「ゆうたに気遣われないように平静を装うことができて嬉しかった」
「でもね、クラスメイトの笑っている姿が、なんでみんな死んでいくのにのんきに笑っていられるんだろうって。関わるのが嫌になったの!」
「そうすると目の前が灰色になったような気がして、体がまるで機械を動かしているみたいに感じて。腕一本なくなっても代わりはいくらでもいるって思っちゃったの!!怖かったの!!体の痛みさえ分かんなくなって!」
「私が私じゃないような気がして気持ち悪かった!」
「でも寂しいから普段の私を演じて……。行き場なかった」
「誰も私を理解してくれない…….」
「でも、ゆうたなら、ゆうたなら分かってくれると思ったのに……!」
「やっぱりこの世界に、私……」
「中二病はないんだね……」
「私の技も世界も。結局は幻で……」
「信じたものは全然なくって。死には抗えなくて」
「手を出しても出ない。それはただの幻だった……」
「不可視境界線に祈っても無駄だった……」
「笑えるよね。ないものを信じて。ないものがあるって言われても信じられないよね……」
「中二病って意味、やっと分かったよ。私、成長したよ……」
「ゆうたでも、どうしようもないこと……」
「でも、ゆうたがいてくれたら、本当にあるって思えた。人生が楽しかった!」
「私とゆうたを……偶然、会った……。その言い方が正しいよね……」
「またあの頃に戻りたい……」
「でも、ないんだよね……。病気なんだよね。この世界を探しても」
「だから、ごめんね。さっき技を出してほしいって、ゆうたがきついのに、結果わかってたのに、少し期待しちゃった……!」
「イライラさせちゃった。ありがとう。ごめんなさい」
「私が全部悪いの」
「……。でも、」
「私は、どうすればいいの……!?」
「どこに行けばいいの!!?」
「うぅ……うぅ……ぐす……」



「私……」



「私……」







「幸せすぎて、おかしくなっちゃった……!」



六花の悲痛な大きな叫び声が巨大な夜空に共鳴する。
彼女の大粒の涙が俺の肩を痛く冷やす。
六花の俺の抱きしめる強さが悲しくて俺も涙をぽろぽろと落とした。
そうか……。そうだったんだな……。
六花……知ってしまったんだな……。
中二病……正体……存在……。
死に恐怖を覚えて……。
永遠の呪縛を抱えて、悩んで、笑って装って……。
俺のせいで……あのとき俺がデートしようって言わなかったら……。
なんで……なんで俺は……。
六花は今をずっとずっと待ち続けたような、
大きな怒りと悲しみと無力への抵抗を混ざり合ったような我慢の泣き声を放った。
その声が俺の心臓を潰していく……。
勇太「辛かったよな。辛かったよな……」
その言葉で六花の頭を撫でると六花の子供のような泣き叫びが激しくなった。
俺も涙が溢れて、その悲しい気持ちに嗚咽をもらした。
男らしくないけど、今は体裁なんてどうでもよかった。
ずっと長くこの悲しみに浸っていたい。ずっと共感していたい。でも目を覚ましたくない。
どうしようもないこの気持ち。
治ることなんてないこの気持ち。
でも俺ではどうにもできない……。
だから六花は話さなかったんだ……。
ああ、六花の気持ちようやくつながったよ。やっと分かり合えたよ……。
話せなかったの、辛かったよな……。認めるの、嫌だったよな……。
六花も悪くない。俺も悪くない。誰も悪くない。
その慰めも言葉で上手く言えないから、六花の体をギュッと忘れるぐらい抱き続けた。
六花「ゆうた…...。ごめんね」
「私の知っている邪王心眼は、もうとっくに削除しちゃった」
「もういないの……」
言わなくていい。分かってるさ。認めたくないよ。嫌だよ。
でもこれがほんとなんだよ……。
俺は駄々を込めるように六花の気持ちを抱いて温めた。
ずっとずっと長く。この変化を受け入れられるまでいよう。
でも受け止めてしまったら、俺と六花の楽しい毎日がすべて消えていく。
嫌だった。堪えられなかった。
でも受け入れるしかなかった。
この気持ち……冷たくて……怖い……。

俺と六花はずっと泣いた。抱いた。枯れるまで泣いた。涙なんて分からなくなるぐらい泣いた。
涙も枯れて、ただ体を互いに温め合っている。顔は恥ずかしくて見せられない。
ずっと肩の上で。
頭が働かなくなる。何も考えられなくなる。そうするとぼうっと真っ暗がぼやけてくる。
ああ、始まった。俺の中二病。俺の独善。変なものが現実に見えていく。
六花もいつか俺と離れ離れになる。結婚しても、最後はお墓。
楽しい毎日は今日で幕を閉じた。
笑いあった日々は、写真になって、死という火に燃やされていく。
知ってしまったこれ以上楽しく過ごしていけるわけがない。
あのとき、その時がやってくるまで楽しめばいいって気軽に言った自分が信じられない。
六花は体だけが残って、心はそれを装った違う人になっている。
俺はあの六花が好きだったんだ……。ああ、そうなんだ。
バカだけどないものを信じるあの六花じゃなきゃだめだったんだ。
中二病の六花は、どっかに消えてしまった。さよならも言わずに消えてしまった。
今いる六花は新しい六花。彼氏として受け止めなければならない。
でもそんな六花が受け入れられないよ!
でも受け入れたいよ!
どっちだよこの!
喧嘩をするな。二人とも。葛藤が噴火してうるさい。黙ってほしい。俺の憩いの人を返してほしい。でも正解は見つからない。
みんな、みんな、こうやって、現実を受け入れて、魚のような目をしながら生きて、乗り物に揺られて、そして死んでいく。
希望と努力と成功体験を乗せた車両に乗せた多数の蒸気機関車が、一人一台の乗務員を先頭に、俺の漆黒の目の前に展開されていく。走っていく。どれだけ努力しても、どれだけ傷ついても、どれだけ脱線から回避しても、所詮は走っているレールの先の下から突然黒い穴が開いて、車両は黒い穴へと無力に落ちていく。最後の駅にはたどり着かない。
そもそも存在しないんだ。
駅というのは、
俺の幻だ……。
六花の体を強く抱きしめる。怒りと悲しみにまみれて。
この六花はもはや別人。俺の知る六花はもういない。
ああ、言うぞ。

六花は、死んだ。

六花もこの道を通ったんだ。六花はあの先に待っている。天国に待っている。

俺も死のうか。

嫌だ。嫌だ。認められない。
体が拒否反応を示す。
知りたくなかった……!
認めたくない……。
守るべきものはない。俺には心から守る存在が一人もいない!
俺はあの六花が好きだったから。六花……邪王心眼……。
俺も悪くない。六花も悪くない。じゃあ誰が悪いんだ。
いったいこのレールを作ったのは誰が原因なんだ!?
このレールを作ったのは、お前たち、町の人間じゃないか。
クラスメイトで中二病だー!叫ぶけど何が悪いんだ?ないけどさ、もし六花が死んでも指摘してそれでもけらけらと笑うつもりか!!愛し合って支えて生きていくのが一番平和で、俺たちの夢見る町、世界の在り方だと思ったのに!!お前らは本当に人間なのか!?人間の血は通っているのか!!悪魔の間違いじゃないのか!!!
そうだ。
六花は死んだんじゃない。
六花は殺されたんだ。
周りの人に。
そうだ、思い出した……。高学年になって趣味が俺とずれていって、誰も構わず一人ぼっち生きていく寂しい世界。それに続きがあった、それだけじゃなかった。俺は友達というグループが嫌いになった。一緒に居るのは楽しかったけど、必ずいじり、いじられ役が存在してて、そのいじり役がへらへらと笑って、バカだとか死ねとか、気軽に言ってくるんだよ。いじられ役も調子に乗って何も言わず平気なふりして、殴られても必ず言葉を発しなかった。異様な空間だった。寒気がした。だから俺はそういう友達から自ら浮きたいって思えるようになった。今のメンバーじゃそういうこともなくなってすっかり忘れてた。
お前たち人間の常識は狂っている。
俺だけにしか分からない。
例え立場があってもやっていいことと行けないことの違いが分からない。
こいつらに愛を感じない。
全員滅ぼすべきだ。
いやだ。でもみんな好きだ。でも、みんな死ね。でも、好きだ。
でも、
でも……
頭がおかしい。
助けてくれ!
俺はどうしたらいい!!
六花を失った今、俺は何をするために生きればいいんだ!!
会いたいよう……会いたいよう……。
星に願っても、あれは、ただの、光だ……。
この世界は、
終わってしまったんだ。
勇太「あ」
気が付いたら別の世界に行っていた。俺はさっきまであそこにいたのに、白い世界、まるで天国のような、草木と花が無限に広がった場所に今俺はいる。
理屈不明な場所にいる。風の感覚が分からない。
ここは俺の呼んだ世界。ありもしない無力が創り出した世界。
今の俺は狂人だって知っているよ。
ゆうたという声に急いで振り返って見ると、この六花は六花の形をしていた、違う誰かだった。真っ黒だった。墨を全身で塗られたような、本来生きてはならないはずの構造を持つ生物が俺に声をかける。輪郭が黒く塗られていてそのほかは真っ白だ。
その真っ黒い六花は俺に両手を差し出す。求められているようで操られたように手を出した。六花は笑ったように思える。でも分からない。固く握ると温度を感じず、六花は回る。俺もダンスをするように回る。花畑の中で、ずっと、ずっと、代替の六花を噛みしめるように回る。楽しい。嬉しい。六花がそばにいる。この六花は自信満々だから俺の真の心を知っていると思う。その六花だと思う。来てよかった……。ああ、嬉しいよ。目の前が回転する。画面を構成する光の速さががずれていく。忘れられる楽園。同じ景色が同じように回転していく。このまま時を忘れて死にたい……。

でも、あの六花はどうなるんだろう。

機関車。
そもそもあのレールは誰が作ったんだろう?
レールはできてもすぐに消滅するなら俺も生まれていないはず。
なんで努力すると成功する場合があるんだろう?なんでレールは今存在するんだろう?
このレールは誰の持ち主なんだろう?
原始人か?宇宙か?神様か?誰の所有者だ?
本当に、世界は、偶然でできているのかな?
誰かの意思に誘われて、周りの人は敵だと思ってたけど、本当は敵だと思わせる誰かさんに周りの人の感情を操作されたって言えるんじゃないかな。
生きる人はみんな死ぬ。不滅の太陽ですらいつか死ぬ。みんなに時間の流れに死んでいく。時間の力に流されていく。時計の円盤の上に町や国やヨーロッパや世界があって、巨大な秒針が一歩一歩動くたびに、みんな流れるプールのように形ごと変化するほどに流されて、真っ黒くて大きな、時間という巨大な存在に流されて死んでいく。時間は力なのか?
部活も町も国家も人は敵じゃない。本当は犠牲者なんだ。時間に殺されているんだ。
予めすべての人生のイベント予定は決まっていて、それに誰かさんのレールを乗せて走らされているとして。視点を変えて、俺はその道を歩くんだからそれには代償としてエネルギーがなくなる。体力が消える。もし神が望んでいる未来と、俺が望んでいく世界が一致したとしたら…..!

神=エネルギー 

あ。はぁ.......。はぁ......。俺は恐ろしいことを知った気がする。そして何がしたいか分かっている気がする。
六花を殺したのは、万能な存在、時間という巨大で万能なエネルギーで皆を流していく。神だ。神が六花を死へと導いた。神が六花を殺したんだ!!悪くないのに誰もかもこんなレールに乗せて殺した、神が憎い!事実を知ったんだ、あのころにはもどれない。六花はいない。
それを思った瞬間黒い六花はなくなり、花畑は闇の色に染まり、怪物のように植物の花が天へと伸びる。花畑から羽ばたいて一斉に自由に飛び出した旅人のような鳥たちは、醜く太い植物のツタにとらわれると真っ黒い墨になって、そしてぽたぽたと地に落ちていく。
もうどうでもいい。
もはや美しいとは思わない。
神の数式で作った花束が好きになれない!

今日の夜は、事情が違う。
奇跡なんて神様が起こしたダイス遊びでしかない。
軽々しくふざけた事実が皆の行方を支配している。
俺は足元にある古びたラッキーくじを強く踏みつけた。
もう六花のくじは……ない!!!!


神を殺したい!

楽しい花畑が一瞬で悪夢の世界に変わってしまった。真っ黒い閉ざされた空間の中にただ一人ここにいる。俺の周りにたくさんのクマさんのようなものが増えていく。何で俺はこんなゴミみたいな世界に生きているんだろう。さっさと死ねばそれで終わる。今ここに俺も六花も、何か理由があってここに来たんだろうか。もし神様が意図的に運命を空の上から眺めて操っているなら、この周りにある草木も花もなんらかの事情を生ますために作られてる。人も町も、世界史も日本史も、経営や政治の流れも、石ころも北極も、宇宙もビックバンも、有限なパターンに始まって有限に終わるはずだ。ここにあるもの全部。意味があってこんな配置なんだ。これが宇宙の始まりを示す証拠。すべては伏線だった……。なら、皆意味があってここにあるんだ。生まれたことには意味がある!!
なら、神が俺をこの崖の出る場所まで呼んできたのには理由がある。
じゃあ、俺って何のために生まれてきたんだろう。
俺の生きる目的、大好きな目的って何だろう?
なんのレールを生むために生まれたんだろう?
もしレールができたとしたら、いずれ宇宙みたいに滅ぶのだろう。
全てレールはなくなるんだろうな。
だけど、もし、
レールは有限だけど、
もし無限に近いほど有限に伸びるレールがあったら……。
全てのレールを創った根幹すら覆す全能の力があったら……。
現実には見えないけど、逆に神様が見えないように隠したとしたら……。
理想と妄想と現実も全て俺を軸に回る。新しい世界だったら…….。
普通の人には見えない、
選ばれし者だけに託された、
特別な能力を開放できるなら……。
何がしたい?

中二病でも。
そう思うと花畑は一気に溶け、元のいた六花と抱き合う自分に戻った。
無言で六花と抱き合っている。
俺は幻想、無駄じゃなくて、そんな世界じゃなくて。
この世界のレールが間違った方向に行ってしまっただけだ。
あるんだ。本当はある。忘れちゃいけなかった。
闇の力は、ある。
俺は六花から離れて、心配そうなその顔を見つめた。
俺は元気だった。にんまりしていた。嬉しかった。
その元気を六花に見せた。笑った。

六花「ゆうた……?」

六花の黄金の目が寂しく映る。

勇太「大丈夫だ。俺が助ける」

勇太「なくなったら、またつくればいいから」

夜空の真っ暗な世界の中で、ただ2人佇んで、闇のコートが勢いよく揺れる。
俺にある白い眼帯を外して存在を確認した後、お前の力を借りると言ってまたつけた。

何がしたい?
六花……。

ありがとう六花。
昔の俺を思い出す。
虚しい力。だけど無駄じゃなかった。
誰も殺したくない。この世の全てを愛したい。
六花が本音を言ってくれなかったら分からなかった。
だから言うね。
六花のこと、皆のこと、町の人、この世界の人、この宇宙
きれいだった
永遠に
愛してるよ

付けている眼帯を信じる。俺は無言で手を前にかざす。漆黒の深淵に闘志を燃やす俺がいる。
もう俺は間違っていない。だから呪文を言う必要もない。
自分の力を信じる。
六花には見えないかもしれない。
俺のやっていることはバカかもしれない。
でも、違うんだ。
探せばあるのに簡単に諦めた俺が悪かったんだ。
使う理由が間違っていただけなんだ。
強大な力過ぎて遠慮していたんだ。
でも使い道がやっと分かったよ。
妄想なんて現実のちょっと外れた裏側にあるだけだよ。
希望を信じてほしい。
俺は光でできた愚かな世界に鉄槌をかましたい。


俺は神になりたい!

俺の体に秘めし闇の力が勢いよく燃え盛っている。
思いっきり手を前にかざして力を込めた。
革命だ。
闇の力を開放する。
闇の気をまとった空気が俺の周囲を纏って広い夜空へと拡散した。
何も変哲もないマジックで右手に書かれたゆの紋章が俺のグローブの下から闇色に輝きだす。
右手の出した先から黒く重たい大きな穴を開いた。
悲しくて呪いたくて誰かを殴らざるを得ない救いようのない世界。
強力な力を持つ暗炎龍の真の開花に向けて、世界を真っ黒に吸引する。
草木も花も木も激しく揺れ、雲の形すら変異して。俺の手の中に吸引されていく。
闇の力が降りかかった瞬間、畑も町もビルも学校も空間が黄色い光の泡になる。
そして黄色く泡立った空間から幾多の光が吸い込まれその跡地は無の黒になる。
その光の泡の中から、数式の微分や積分などすべての学問のエネルギー式の文字が泡の中に浮かんでは大きくなって、極小の光粒となって黒い穴に入っていく。
光が情報に変わり、俺の宇宙すら滅ぼす黒い穴の中に吸い込まれる。
だんだん巨大な形の穴になって俺の上にある夜空の全てが穴の中心点になってしまった。
大きさすら分からずもう穴の周りを吸い込まれながら回転する光の道筋でしか確認できない。
愛してるから殺したい。その思いは間違いじゃない。
でも今日から否定するんだ。
ルイ16世のフランスもトロイア戦争も、
殺し合いと服従だった世界の過去も、
そして火山と海の時代を超えて、
宇宙の始まりすらも、
真っ暗に吸い込んだ。
この世界は真っ暗で、音もせず、残されたのは俺達2人しかいない。
俺達は現実世界では目にしない、愛の物理法則によって生きている。

六花に顔を向ける。

不安な顔だった。

そして俺は首を振って。言った。

「好き」

その黒い穴を創った手を上に上げて、

穴の中で回転する世のすべてを、

空中に放った。

宇宙の全ての情報が一点に天高く飛んでいき、そして真っ黒な空間中に拡散した。

手の中の衝撃で痛みが走る。だが、世界を再構築する神になった今、たいしたことなかった。

黒い中から、俺の身長の10の何乗もする巨大な暗炎龍が、怒涛の声とともに出てきて、黒い炎を小さい情報の塊に吹いて溶かしながら空を舞う。世界の情報を恨むように、世界の存在を祝福するように。世界の情報は、数式となって線となって画像となって、連続する画像という動画となってまばらに小さくちらばり、動画同士がくっつき合い立方体のパッケージを形成する。俺の過去に見た昔の姿も白黒色に見れる。好きだったあのころ。そして消える。俺は今、暗炎龍をこの目で見ている。暗炎龍は黒い大空を飛んだあと俺の顔を見て宙返りし、俺たちを背中に乗せて空を散歩する。風はないが、臆病はない。漆黒の世界に数えきれないほどの透明な立方体が宙に浮いている。夢かもしれないけれど、でも気持ちは夢じゃないって分かるんだ。この気持ちは中学生より久しぶりだ。昔も今も中二病でいた時代が大好きだ!
宇宙の始まり。俺の手で全ての立方体をチリ一つなく一点に集めると、巨大な宇宙の卵になる。それに向かって暗炎龍が全てを吹き飛ばす闇の炎を吹くと、卵の殻も中身も黄金色を放ちながら空間中へと吹き飛んでいく。数光年先の遠くあった卵の欠片が一瞬で近くに来たので六花の後ろ姿を確認する暇すらなかった。風という巨大な音の衝撃を黄金と共に受けたので俺は腕で顔を守りコートがばたつく。しばらく守って振動の終わったことを理解しふと目を開けると、深淵の漆黒の世界がカラフルに色づき光った。呆然とした。美しかった。この世では見たことのない人たちや生物の姿が見えて。堪能した直後、巨大な光の衝撃に世界が真っ白になり、俺と六花は宙に浮かんで、
そして、世界が戻った。
俺はあの深淵と崖の上にいることを再確認した。
世界改変は終わった。
もう理不尽な理由で悲しむ人はいない。全てが俺の予定調和になった。俺の意のままに全てを操れるようになった。俺は、万能だ。全てを守る万能だ。この世を支配する救済の神そして悪魔の両制を持つ、主だ。
気づくと、手をかざしている俺の腕がピリピリ痛む。なので下に降ろした。
終わった。中二病はなんじゃない。どこかに本当に合ってそれが隠されているだけ。
そうするように、世界ごと書き換えた。
理不尽な理由でも天国のお花畑で踊れるように書き換えた。
存在する、ただそれだけで永遠の暴力を受ける被害者になるんだから。
そして天国で憎しみと快楽のない感情になったとき、自己の記憶を真っ白に掻き消して、本当の天国、永遠の無知に閉ざされるようにした。
繰り返される生と死の惨劇を愛の理由で受け止めた。
間違って神のリンゴを食べ物として認識できなかった、隠された新しい世界へ
現実逃避しないことはその狭い空間にいようと現実逃避することと同じだった。
だから価値観の逆転、生まれること自体の善と悪の転化、それが世界を救済するキーだった。
輪廻転生の否定、極楽浄土より上の階級を、俺は創生した。

闇のコートと眼帯が風にあおられ共に揺れる。
近くにいた六花を見て安堵した。
勇太「六花。」
六花「ゆうた……」
勇太「俺はこの世の王になった。邪王心眼、ありがとう」
そういって眼帯を渡す。六花は元の邪王心眼のような格好に見た目上ではなった。
六花「あれは……すごかった。暗炎龍、あれが」
勇太「見えたか。やはり力の持ち主だな。闇の力すごいってお前いってたろ?」
六花「うん!えっと……聞いていい?本当に死なないの?」
勇太「死ぬように見せかけて。本当は天国に行く。本当に天国に行く。だから実質死んでない」
六花「うん!!!」
勇太「他に質問は?」
六花「ないよ!」

勇太「これでずっと一緒だな」

六花は今まで見せなった、被りじゃなくて、満面の笑みで俺を抱いた。
六花「ゆうた!!!!!ゆうた!!!!!!!」

六花は泣きじゃくっている。嬉しさと涙で溢れている。俺もつられてしまった。
六花がいなかったら、こんなところまでいけなかった!!
心が温かい。好きだ!六花!
六花「ありがとう!ありがとう!!!」
勇太「嬉しい。終わったんだ」
六花「寂しかったよーーーー!!!!!!怖かったんだよーーー!!!!」
勇太「六花……!六花…….!」
六花「闇の力凄かった……!あんなの見たことなかった……!」
勇太「そうか特異能力はまだあったんだな。邪王心眼消えてないじゃんか」
六花「私、ゆうたがどこかに行くかって怖かったの……!世界が変になるのが怖かった!でもゆうたすごくかっこよかった!」
勇太「お前を置いてどっかに行くはずがないだろ」
六花「うぅ…….うぅうう!!!」
勇太「終わったんだから喜べって。ずっと一緒だろ?死んでもずっと俺の隣」
六花「だってだって!」
勇太「バカ、俺も泣きそうになるだろ!涙こらえているんだぞ!」
六花「やっぱりこのゆうたがいい!」
勇太「俺も邪王心眼がいい!ダークフレイムマスターに従う六花がほしい!」
涙が出そうだけど、このあとの本当の気持ちのために我慢した。
嬉しすぎて苦しかった。
六花は泣きじゃくってすごくかわいかった。
でももう二度と悲しませたくなかった。喜んだ顔が見たい。
いつまでも俺を愛して、悲しみは全部俺のためにしてくれる。
尊敬するし、そんな六花に尊敬されたい。
ずっと守りたい。
いつまでもずっと一緒に居たい。
何があってもこいつを守る。
これが俺の、新しいレール。
目的だ。
決めた。六花がいい。

そういえば邪王心眼の返還、まだだったよな?
涙で肩も胸も、雨に濡れたみたいになってるな。
勇太「うん。落ち着いた?」
六花「うん……」
勇太「長くなったんだけど、今度は俺から話があるんだ」
六花「うん……待ってた!」
ありがとう、と言って少し整理しよう。
これからのこと。
恋人でなく、婚約者として受け入れること。
それは多大な責任を負うことになる。
俺はそれを分かっている。だからここまで付き合ってきた。
六花のケガも看病し、俺のリストラも想像がつかないけど埋め合わせがいるんだ。
お金の問題。親戚の問題。俺だけじゃ無理だと思うけど、二人なら空を飛んでどこまでも行ける。
絶対に守る。
富樫家と小鳥遊家が繋がる。怖いけど、皆優しい一面があるから大丈夫だろう。
俺は六花のお父さんみたいに立派になれるだろうか……。
ううん、幸せにしたい!信じたい!
もう未来に恐れたりなんてしない。六花が好きだから、最後まで看取るんだ。いったら天国で遊ぶんだ。そして天国で彼女の本当の死を看取るんだ。笑顔で。
もう死は怖くない。
だから六花が死ぬまで、俺も永遠に生きる。
俺が責任を取る。

その思いを込めて、六花に眼帯を渡す。
付けた六花の顔が、いつものように思える。
そのいつものが、俺にとっての宝物だ。

闇のコートのポケットにその貴重なプレゼントは残っていた。形を確認する。
六花は死んだ。文字通りに死んだ。今の六花は俺に気を遣う遠慮を知った違う六花だ。
記憶はあっても、もう中二病の異世界に対するあのドキドキした気持ちは得られない。
なら死ぬ前の六花と同じぐらいの気持ちをもう一度プロポーズして、新しい六花に、以前の六花の中二病のあのころの全部を凌駕した気持ちと融合させてしまえばいい。
もう一度、最初のプロポーズを六花にする。
大好きって告白する。
六花を、宇宙で一番喜ぶようなデートにしたい!
今日の今から!
勇太「あの……。いいか」
六花「うん……」
勇太「したいことが2つある。まずは普通の俺からでいいか?」
六花「うん」
その顔がすごく喜んでいて俺も嬉しいよ。
勇太「気持ちを確かめる」
六花「うん」
勇太「俺は六花のことが好きだ」
六花「……。うん」
勇太「中二病であってもなくてもお前のこと好きだったけど、でも中二病なお前じゃなきゃダメなんだ」
六花「うん」
勇太「何かあると思う、この先」
六花「うん」
勇太「でもそのたびに守るからな。絶対だぞ。闇の力で跳ね除ける」
六花「ふふっ!うん」
勇太「隠してたことがある。強がってごめん。橋のルート途中道が分かんなくなった」
六花「うん。あのときのゆうたは怖くて話しかけにくかった」
勇太「ごめん」
六花「でも今のゆうたは優しい。ゆうただからここまで来れた」
勇太「ありがとう。言いたい」
六花「うん」
勇太「浮気は絶対しない。六花の悲しむ選択肢を選びたくない」
六花「うん」
勇太「富樫家として責任とる。小鳥遊家を守る」
六花「嬉しい」
勇太「うん。俺は普段完璧じゃないけど、でも愛したいって気持ちは本当だから」
六花「うん」
勇太「その愛で強くなって、いつかはどこまでも行けると思う」
六花「うん」
勇太「だから……」
六花「……」
勇太「次、どうぞ」
六花「あ、」
勇太「うん!」
六花「私は……あのとき、全部言っちゃった。携帯のとき自由に話せるってドキドキしたとか。忘れたなら言うよ?」
勇太「ははっ。すでに共鳴してる!大丈夫!」
六花「あの!」
勇太「うん」
六花「ゆうたが好き。ダークフレイムマスターの中二病のゆうたが好き。私も同じ気持ち。今の優しいゆうたと同じぐらい好き」
勇太「ありがとう。うん」
六花「あ!あの、ごめんよりありがとうだよね。世界書き換えてくれてありがとう嬉しい!」
勇太「うんっ。六花のためだから」
六花「ゆうた……!やっぱり私もゆうたがいい!!」
勇太「……。照れる!」
六花「ゆうたの照れた顔も大好き!」
勇太「おちょくるなって!」
六花「私は……色々とドジでバカだけど、それでもいい?」
勇太「当たり前だろ!闇の力で背を合わせて戦おう!一緒に世界変えようぜ!邪王心眼!」
六花「くすっ!ぷふふっ!さっき完璧じゃないって!もう笑ったじゃん!」
勇太「ごめんごめん!」
六花「そんなゆうたが好きです」
勇太「……。うん、ありがとう。……俺も六花が好きです」
六花「あ……ありがとう。なんかドキドキして急に怖くなってきた」
勇太「今日からずっと一緒だ!」
六花「ゆうた。信じてる!ずっと離さない!」
勇太「世界の果てまで一緒に渡るぞ!!」
六花「ゆうた!」
勇太「六花!」
六花「……」
勇太「……」
六花「……。終わった」
勇太「……。分かった。よし」

深呼吸。ミスするな。今は渡すだけでいいんだ。
俺は髪を整えて、闇のコートを調節して、口の中の息を強く吐いて追い出した。
冷たい空気が染みる。この漆黒の深淵の夜空の、俺の属性に似た小さくて大きな世界の中で。
勇太「まずは渡したいものがあるんだ……。もうとっくに見ただろうけれど」
勇太「はぁ……。すぅ……」

勇太「受け取ってください!」

俺は、前に両手に持って指輪の入った箱を差し出した。
六花の大好きで、今も大好きな、見せたかった白と黒色の指輪。
白い蝶の模様の縁取りで、蝶の体の中心から縦横に十字架が重なっている。
その蝶の体の真ん中と十字架の交差するところに、小さな赤い宝石が点一つある。
内心恐怖と期待が止まらない。
だけど好きっていう気持ちがそれを上回った。
世界を改変した男だ。六花を守れるならなんでもする。

六花「……」
六花は言葉を発しなかった。無言の人の象徴らしく最後を飾った。
その代わり冷たく小さい手が俺の箱の下の手を握って。
そして俺の手を抱くように大切に柔らかい掌で挟んだ。
それが、サインであると、俺は気づいた。
六花は、涙をこぼしていた。顔が赤くなっていた。
そして六花は箱ごと自分の胸の中に抱いて持って行った。
六花の顔が笑った。大きく。嘘偽りない、白昼夢で見た、青空のように。
六花「つけていい?」
子供と大人の混じったような嬉しい声が印象的だ。
勇太「ああ」
六花「えっと、薬指……」
六花は箱を肘で持って、指輪を右のほうに……。
勇太「ああ!違う!」
台無しじゃんか!ああここまで必死にやったのに!
勇太「これは左の薬指のほうにはめる」
六花「ほうっ」
勇太「よくよく考えればこれ彼氏がつけさせるものだよな」
六花「ミスったねゆうた」
勇太「うるさいっ!」
六花「ははっ」
勇太「ははっ」
勇太「よし。手を出して」
六花「やっぱり、小指がいい」
勇太「えっ。でも小指じゃ」
六花「小指じゃないとダメ」
勇太「でも……」
六花「今だけでもいい?」
勇太「あのときか……」
橋の下で背中に抱かれて、互いに小指で抱き合った、あの日。
忘れない。ずっと忘れない。大切な思い出。
勇太「分かった」
そういって、小指に手を近づける。
六花の体のぬくもりを感じる。大好きって匂いが感じる。
六花の細くて小さくて白い、今にも割れてしまいそうな大切な白い手。
美女だけがいいじゃない。心が合っているから。合わさるまで苦労したなあ。もうあんな苦労はできないんだなあ。そう思うと……今感動して目の前が見えない。
そして潤う瞳の中、
指輪をそっと近づけて、
小指のなかに、そっと、
未来を信じるように、
入った。
俺と六花は見つめ合って笑顔になった。心が通い合ったこの温かさ。暗澹の黎明。
六花「……。きれい」
勇太「そうだろ。特注品なんだぜ」
六花「うわ~」
六花が小指を回すと赤い宝石がキラッと光ったように見える。指輪のサイズの不一致で落とさないように薬指に小指の先をつけてロックしている。夜空の月に照らされて、月の黄色い光もまた宝石に反射する。
勇太「なくすなよ」
六花「うん!ゆうたとの契約の証」
勇太「でも宝石よりも六花の命の方が大事だから。火災とか一家とかさ。また買う」
六花「そ、そんなに大事にされると、私、そこまで価値がないんじゃないかって、照れる」
勇太「ははっ。お前は宇宙で、誰よりも、一番、愛している!」
六花「えっ/// 私も……ゆうたが……好き!」
勇太「はははっ」
六花「はははっ」
勇太「さて、もう1つのやつ」
六花「もう一つ?」
勇太「まだ言ってないのあるだろ?」
六花「?……あ、」
勇太「ほらここっ」
六花「あ」
勇太「俺今震えてるんだぞ!」
六花「あ、あ、ああ、うん」

俺は少し躊躇って、お得意の睨みつけポーズでかっこいい俺を演出する。ふっ。
でも、誰もいないのにきょろきょろ確認している。体が拒否反応して体がぼおっと熱い。
告白文は大丈夫だ。例の三行。今日のこと。そして俺の気持ち。
信頼するんだ俺を。
六花が好きなら俺も応じよう!
もう封印なんてしない!それなら世界の常識ごと改変してやる!
恥ずかしいけど中二病でよかった!
永遠でありたいと思いたい!
その思い、飛んでいけ!

勇太「邪王心眼よ!」

「貴様の邪王心眼の奪還に成功した!」

「世界を構築したならず者、特に不可視境界線のラスボスと格闘し、しかもそれは貴様自身だった。そしてその化け物は巨大な怪物に化け、この地球すらも覆い、この世界の真実を知った俺を精神汚染で殺害を図った!」

「だが我がダークフレイムマスター。その脅迫にも屈せず、闇の炎で魔力を宇宙の改変する用途に込め、暗炎龍の息吹によって、奴らの撃退どころか平行世界線の存在全てから追い払うことに成功した!」

「我が無限神話は、実話となり、そして神に等しい力を得たのだ!我の新しい王座も赤く素晴らしい!この世の運命はもはや我の者!我の気分次第で殺すことも容易だ。貴様の邪魔する敵陣を粉々に砕こう!」

「そしてダークフレイムマスター。後々新しい名を王座にふさわしい2つ名にしようと考案中だ!それはいい!ともかく我と共闘し愛の魔力を供給してくれた貴様に褒美をやろう!」

「これが最後の攻撃だ!喰らえ!愛のリンク!もうお前は離れられない!!!!!!幾多の平行世界線より来訪し、学校というイリュージョンの世界で貴様という刺客と巡り合い、クラスメイトという名の管理局の妨害による精神汚染をくぐり抜け自己を貫いた。それは愛の力だと知り、因縁の敵対者として顔すら忘れなかった!そんな成長した今、貴様に勝てるものといえば神に匹敵する俺しかいないだろう!恋人契約、神の離反から生まれた堕天使。世界改変キーの産みの親であり古来からの願いを持つ永久に世界を愛するその精神に惚れた!貴様の最強の力がほしい!永遠の千切れぬ絆をもって、強大な力を生み、この世の森羅万象を一緒に支配しよう!これから返還の儀式を行う!今から合言葉を言う!小鳥遊六花、俺との上級契約を超えた永遠契約を命ず!」


「神の理に抗い闇の世界に束縛されし堕天使、邪王心眼!」

「新たな神我がダークフレイムマスターの闇の炎と一つになり
我々の理想の宇宙を再現化する使命を誓え!」

「絶対に消えぬ永遠契約による愛の刻印を 刻め!」



六花「はい……」
そのはいという言葉が、今までの誰よりも心の中にドキドキと浸透していった。不安と期待の新しさを体の中で今覚えている。
六花は涙を流して優しく笑っていた。
優しく俺を見る大人のような気持ちと、嬉しくてはしゃぎたい気持ちの混ざった、一生忘れられない顔だった。
緊張がその笑顔で全て溶けた。
いつもの六花だ。でも、未来でも変わらぬ六花だ。
結婚しても、変わらない。変わらせない。
六花の眼帯の中から消滅した邪王心眼がもう一人見ている気がした。

六花「目を閉じて」
勇太「うん」
ファーストキス。
今まで小指の重ね合わせから頬にキスまでいった。
今度は六花から愛のアプローチを迫られる。慣れているけどドキドキする。
初めてのキス。
俺の手の全指先を腰につけ垂直に強く力を込めて変な顔にならないように気配り。
俺にとってのかっこいい六花は、今のしっかり見つめる顔だろうから。
大好きな人はいつも希望を信じているから。
六花、初めてをください。
六花「いくよ」
勇太「うん」
世界が途端に真っ黒になる。真っ黒の中で六花の輪郭だけが緑色の光を放ち、なくなった。
目を力強く込める。しかし顔がしわしわにならないように。
ずっと待つ。ずっと待つ。六花を信じて。
真っ黒。心臓の音が六花と共鳴している。
足音が聞こえる。
匂いが伝わる。
髪が当たる。

あったかい

やわらかい


その初めてに目を開けてしまったが、六花は瞑っている。
この感触は初めて。
生暖かいキスが俺の神経を興奮させる。
口が溶接したようにゆっくりと、ねっとりと、乾いた唇に愛の水を撒かれる。
鼻のてっぺんが共に当たって柔らかい感触を味わう。
冷たい頬が柔らかい。頬に流れる一筋の水も冷たくて嬉しい。
俺の唇が六花の唇の肉に吸い込まれる。
俺の口は緊張してぴくぴく微動作している。
六花から感じる、温かい信頼感。
頭の中でソーダが弾けるような新鮮さを感じる。
愛されているんだ。
呼吸が六花に当たるのが恥ずかしくて息を止めてしまった。
彼女は生きているんだ。この気持ちは今だけしかないんだ。
こんなに小さい体。抱きしめると壊れてしまいそうな、切ない気持ち。
一瞬が永遠に感じられた温かさ。
一度くっついた愛は、もう永遠に離れない。
人を信じるってありもしない理想を描くんだな。
高校二年間、ともに歩いた毎日。
あるはずないだろうと思っていた今日は、違う予想で本物になった。
俺と六花の新しく刻み込んだ、新しい一ページ。
愛するっていいな。
ずっと、ずっと、これが永遠になりたい。

そして六花は瞑って離れ、俺を見るとにこっと笑った。
六花「嬉しい……」

その顔にキュンときた。
愛がぐつぐつ噴き出しそう。
伝えたい!忘れたくない!平常心な自分を我慢できない!
六花が、大好きだ!
俺は六花が大好きなんだ!!
愛したい!ずっといたい!
体が六花の体温を求めている。六花が好きだ!邪王心眼が好きだ!!

俺は勢いのまますぐに抱いて愛を伝えて……。
互いに小さい声で嬉しく泣いた。
勇太「六花!六花!六花!!」
六花「ゆうた!ゆうた!ゆうた!」
勇太「ずっと好きだから!永遠に好きだから!」
六花「ゆうた!ずっと忘れない!忘れたくない!」
二人で静かに泣いた。悲しくて、嬉しくて。
涙は枯れてもう出ないと思ったのに……全然違った。
六花「私もゆうたを守りたい!ダークフレイムマスターでもどっちでも大事……!」
勇太「お前だって邪王心眼の発動のたびに喜んでいるんだぞ!調子に乗られるのが怖くてさ……!でも健気な六花が好きだ!無邪気に遊ぶ六花が好きだ!」
六花「嬉しい……嬉しい……勇太に触れられた……」
勇太「うん。俺も。嬉しい!そうだ、あの時以来。闇の炎に抱かれて消えろ!って覚えてる?」
六花「うん!嬉しかった!大好きだった!覚えてる!」
勇太「嬉しくてさ、その夜ドキドキして眠れなかったんだよ!」
六花「私も!あれが好きだった!思い出してる!今も最高!」
勇太「永遠だからな!永遠契約だからな!ずっと愛してる!六花!」
六花「私も愛してる!ゆうた!」
抱き合う気持ちの快楽と安心感が堪らなく嬉しかった。この気持ちずっと浴び続けていたい。
二人で静かに抱き合い続けると、会話がなくなって。でも心は通じ合っていた。いつまでも離さないよって。愛している。
勇太「……」
六花「……」
勇太「もういい?」
六花「うん」
勇太「……」
六花「……。あの、」
勇太「うん?」
六花「邪王心眼、開眼」

六花は眼帯を外すと、黄金の瞳が月よりも強く輝いていた。
世界を変えそうなほどに。

勇太「そうか」

勇太「お帰り」


勇太「邪王心眼……」


六花「ただいま!!帰れたよ!ゆうた!ゆうたがいなかったら!!」
勇太「うん……うん……!」
六花「世界がバラ色に満ちていく!私には教会が見える……!」
勇太「俺もそう見える!」
六花「私はこれでも、いいの?」
勇太「うん。邪王心眼、ありがとう!」
六花「やっぱりこの世界が好き!カラフルが好き!」
勇太「俺も大好き!だけど六花がずっと好き!!!」
六花「うん……!ずっと……!嬉しいの!私が帰ってきたの!私の邪王心眼帰って来たよ!!みんなに迷惑かけたってわかる六花と邪王心眼の使い方の知っている六花が合わさったよ!どっちも嫌いだけどどっちも好き。名付けて、新六花!」
勇太「ははっ。六花らしいや。中二病な六花も遠慮する六花も大好き!」
六花「えへへそんな/// 生まれたので今日を第一婚約記念誕生日とする」
勇太「え、なんで……?あ、今日生まれた日と婚約記念日がダブっているからか」
六花「うん。誕生日が別にあるって自分が二人いるみたい……」
勇太「はははっ。来年どうしようか迷っちゃうね」
六花「ゆうたより私の方が今結構混乱している。常識わけわかんない。どっち信じればいいの?まだ邪王心眼の力が弱ってる」
勇太「ははっ。ゆっくりいこう。ずっと一緒だよ」
六花「ずっと…….。あの、一緒に同じ大学に行く?」
勇太「いや、結婚するからいかなくてもいいんじゃないか?行きたい?」
六花「東大行ける!まだ本気を出していない!」
勇太「いけないだろう!」
六花「でも世界改変の技でできるじゃん」
勇太「こらっ!不正に頼るな!」
六花「あぅ……」

勇太「はぁ……。いい気分だったのに……!」
六花「それにしてもさ、」
勇太「ん?」
六花「居場所見つかって嬉しい」
勇太「ははっ。ああ、そうだな。一緒だな」
六花「私達、本当に結婚するの!?」
勇太「ああ!契約だからな!将来の住み家どうしようか?」
六花「うん助かったよ~。結婚するとなると正直不安で。洗濯物とか料理とかめんどくさくて、邪王心眼の本気が薄れてしまう」
勇太(30)「はぁ……。疲れた……」
六花(30)「ぎゃはははっ!働かないで食う飯はおいしいなあ!」
六花(5)「ゆうたーお腹空いた!」
勇太(4)「ポテイトとコーラ!」
六花(3)「わたちのふく、くざい」
六花(2)「びえーーん!!!ぎゃああん!!」
六花「って。はははっ!」
勇太「……」
六花「……」
勇太「……」
六花「……」
勇太「……。別れよう」
六花「えっ……」
勇太「……」
六花「……」
勇太「……」
六花「待って!待って!」
勇太「……」
六花「お願いだから~!冗談だから!~」
勇太「冗談に聞こえなかった!」
六花「何でもするから~!絶対!」
勇太「お前の絶対は信用ならん!」
六花「そんなぁ……!」
勇太「じゃあやるか?」
六花「仮に魔力…….ごめん。働いたとして場所ないと思う」
勇太「はぁ……。家事やるな?」
六花「……。はい……」
勇太「よし」
六花「ほんと!?」
勇太「うん。一緒に行こう」
六花「ゆうたありがとう! それと、もう一つ聞いていい……?」
勇太「ん?」
六花「光の者から聞いたんだけど……赤ちゃん何人つくる?」
勇太「は?」
六花「教えてもらった……。もう聞かないで///」
勇太「あ……」
六花「……」
勇太「ああ……!」
六花「……///」
勇太「にぶたにーーーーーー!!!!!!!」
こうして俺たちの日常は戻った。
六花「言いたいの!」
勇太「うん」
六花「……ずっとありがとう!」
勇太「邪王心眼、ありがとう!!これからも!」

その笑顔が素敵だった。
二人で握手したり抱き合ったり泣きあったり、色々あった。
二人は黙って夜空を見る。
「月が奇麗ですね」ってからかうと、「ゆうたそれ分かって言ってるの?」とバカにされた。
真っ暗な夜空に、反するように光る星。光る月。
なびく風が汗を冷やす。木の揺れが俺たちの愛をささやいている。
ずっと黙って。ずっと温かくて。
でも、そろそろ潮時かな。
無事全てが終わった。
結局、ダークフレイムマスターのソード持ってきたけど使わなかったな。
まあ、終わりよければすべていいんだ。


この世界は俺を軸に回っている。


永遠に止まることを知らない。


六花と、俺が、永遠に回る。


そんな世界が、好きだ。









少し思った。
現実は幸福と不幸の揺れの繰り返しだというのに、
世界が終焉を迎えるぐらいの幸せを享受して、
本当にいいのかってことを。

第6話 「ラグナロク」






ギャラルホルンの笛が鳴る。


なぜか気になって夜空を見渡す。
空気が静かだ。
思ったより静かだ。
まるで空気が死んだように感じるな。いや、静かすぎないか。
すると突然大量のカラスが鳴きだした。カァカァカァと激しく、不安を煽るように、または誰かを守るように。その突如の現象にビクついて六花と顔を合わせて森の方を見た。森の左右を見たけどカラスの動きは全くない代わりに暗くて何も見えない。大きくてうるさい音が頭の中に響いていく声に耳を塞いで、しばらくすると突然泣き出すのをやめて一斉に静まり返る。徐々に静まるのではなく一斉に。明らかに夜明けが近づいたから活発になる声じゃなかった。むしろ悲鳴に近かった。理解不能な自然現象に俺たちは気持ちを頷いて確認し合う。
何もない。何も聞こえない。でも明らかに聞こえなさすぎる。
この何も見えない真っ暗な夜空の中なのに、何もないのに何かがいる。
胃がキュって痛くなった。汗がたらたら流れる。呼吸が酸素を求めたがる。本能的危機感。
急にふわっと少し風が強くなる。崖の向こうの真っ黒いおそらく山や川から風が吹いている。
俺と六花は茫然として、逃げたくもあったがなぜかこの光景をこの目で確認したいと思った。

何かが始まる。
何かが起ころうとしている……。

カウントダウンが始まる。勘だ。

6………………………………!
5………………………….!!
4……………………!!!
3………………!!!!
2…………!!!!!
1……!!!!!!




変な音が聞こえる。

変な音が。
だんだん強く!
工事現場の音のような。牛のもうという低い声のような。仏教のお坊さんの低い声のような。船の沈むときのきしむ音のような。怪獣の弱ったときの声のような。今の人語では的確に合わせられない音が響いている!
一度鳴っては止み、また一度鳴る。それの繰り返し。
こんなときにこんな山全体に音を出す人なんていない。絶対無理だ。
不気味な音が山にこだまする。あんなにバカ広いのに空にこだましている。でも暗すぎてどこで発生しているか分からない。山と空の境界線を見ても格別変化は見当たらない。
いったい何が起ころうとしているんだ……。周りの人の騒ぎ声の一つもなくただ俺達2人だけなので余計に精神が凍る。先に殺されるとしたら真っ先に俺たち2人だ。張り詰める凍った空気の中闇の中が叫んでいる。
地震のようなゴゴゴッのような音も多重に加わる。
ドン。ドン。ドン。という太鼓か大砲の打った連続した低音も鳴り響く。
理解不能な不協和音の総演奏。
明らかにやばい!逃げたほうがいい!
暗闇の中で早期に察した。
さっさと荷物をまとめて早く出よう。
すると仏教徒のような、巨大な声が届いて思わず体を止める。逃げたら殺される。
それが足を固くした。
いや、でもあり得ないはずだ。自然なら自分が動かないかぎり何もできないはずだ。
相手が死という概念ならまだしもたかが巨大な音が耳に入るだけで死ぬなんてことはない。
その音を耳にしながら、その死を予感する雰囲気を受け入れたくなくて、一人俺の草花を踏む人工音で台無しにするムードを作ったが、あの音より極小粒だと知ると逆に怖くなり、俺は急いで荷物を取りに行く。
鳴っては終わり、終わってはまた鳴る。

六花に出す声も出なかった。何が起こっているか知りたかった。その場から動いたら殺されそうだった。ケースとソードを異例事態の興奮によるバカ力で持ってきてまた崖の中心に持ってきた後、ただ呆然と立ち尽くす。
こんな音あっていいのかよ。六花の顔に振り向くとやはり彼女も不安げな顔をしていた。
自然界の音か。世界のテロか。人間の仕業か。
分からない。分からない。だから恐怖で先を見たがる。闇の先を。体が凍る。
ひゅううと前より風も強くなってきて目が開けにくくなった。
草も木も揺れる音が大きい。
夜空はいつも星と月なのに山を見渡しても変化らしきものは見当たらない。
アンゴルモア大王か?
分からない。なぜか真っ先に出た。さっきまで平穏だったこの理不尽な音を聞いて鳥肌が止まらず寒くなってきた。
そうだ、この音どっかで聞いたことがある。何かが俺の記憶を呼んでいる。
俺とこの音が出会ったのが確かこれで2回目になる。いつ聞いた。
音……電波……電気……TV。そうだ!TVのニュースだ!
アポカリプティックサウンド。TVで特集されていたがその内容が思い出せない。
まさにTVの音とよく似ていた。同胞でしかも公的な存在を見つけて笑顔が少し出る。でも死への恐怖を感じているのは変わらない。
仏教徒のような音が響き渡る。山中に。
この後この異変を感じて誰かツイッターにアップするだろうか。こんなでかい音俺達だけが気づいて皆は気づかないなんておかしい。でも生きて帰れるだろうか。
その音の響きが徐々に収まってくる。風もだんだん収まってくる。
内心嬉しさと次に来る不安で感情が揺れていた。
風を除いて本当に山にこだました仏教の謎の音だけはなくなった。
巨大な振動。一回一回の音が長く全部で7回は鳴ったと思う。
なんのせいだろう。六花と俺は互いに存在を確認し合った後話すことすらできず、心で帰ろうと指示をした。
そのとき風当たりが強いと思った。ひゅううという音が急に増してきたと思う。
真に受けて目がかすむ。目を拭う。
深淵の先を見ても先程と変わらぬ景色で、雨雲らしいものすらない。
そこから急に風が吹いている。しかもだんだん強くなってきている。分からない。分からない!
耳の中で風のゴゴゴという強風限定だったはずの音が聞こえている。かなり強くなっている!闇のコートが揺れに揺れている。このまま強くなれば飛んでいきそうだ。六花を見るとゴスリボンが激しく揺れる。六花の顔も腕でガードしているためこちらを見てくれないし、合図すら困難だ。
とうとう強風になってきた。ケースとソードが俺の足元から微量に動くのを確認した。呼吸するのが息苦しい。立っていられなくなりそうだ。
風を腕で必死に守る。まるで11月なのに台風みたいだ。こんなの天気予報ですら聞いていない!
ゴゴゴッという音がまたまた耳の中に響いた。
しかし前回と違い、これはまるで地球自身が揺らされているようだ。

えっ……。
なにこれ……?





何かが起こる。
何かが


くる!


揺れた!


地震だ!


ゆっくりと、次第に激しくなって地面を揺らされる!
地面が急速に揺らされて視界がはちゃめちゃになる。立っていられなくなる。
勇太「伏せろ!」
渾身の叫びでそう言い、俺は草地に伏せて雑草の根を頼りに、強風であおる風を受けながら必死につかんだ。この現象、間違いない。
地震が来た!
まずい!やばい!こればっかりは冗談で済まされない!
風に加えて地面が揺れている。しかもだんだん強くなっている!!
死ぬ!下手したら振動で崖の方に落とされる!嫌だ!誰か!
地震で体が上下左右に直に揺れている!体が魚のように跳ねらされている!
見えない崖の深淵に落ちる自分を想像したくなく、その思いが雑草を掴む手を強くする。
揺れている間この崖自体が割れるんじゃないかという不安で頭がいっぱいになる。
揺れている。ただ掴むだけで精いっぱい。振り回されたら一巻の終わり。安全装置のないジェットコースターだ。
俺の足元にあるソードたちも前に揺れては後ろに行っていつ落ちるか分からない。
数秒経ったが収まる気配がない。むしろ強くなっている気がする。
六花「ゆうたー!」
助けを求める声が聞こえる。だが強烈な地震で立つこともできない。振り向いたらその油断でどこかに吹き飛ばさそうだった。手を伸ばすこともしがみつくのでいっぱいだ。
のびる草木が目の眼球辺りにあたってなおさら恐怖心を感じる。
俺は伏せた。伏せ続けた。地震と強風の収まるのを知っているから。待った。
しばらくするとだんだん揺れが収まって、少し揺れながらも歩けるぐらいにはなった。
これでようやく立てるな。早く帰ろう!命あっての六花が!
俺の本能的行動でソードとケースを持って六花に「大丈夫か!」と強く叫ぶと、うんとうつ伏せながらも六花は言った。
行こう!
誰かが俺の足を見ていたらしい。
地面がまた揺らいだ!。今度は想像もできないほど激しく揺れて!
俺の頭の中に土砂災害の文字が映る。
俺は左右に揺らされて転倒した。膝に打った。痛い!痛い!こんなときに!
それを気にする暇も与えず地震はまた大きく激しく揺れる。
両方の手で精いっぱい根っこを掴んだ。足はフラフラ上下に揺れている。藁でもすがる思いというのはこれを意味しているんだと言わんばかりに。
左右の揺れで視界も確認できない。でも気を抜いたらずるずると崖か森の方かに落ちる賭け事になるためずっとへばった。でも、手が痛い!死にたくない!ぬるぬるしている手の油で滑りそうだ!掴みにくい!地震に揺られて掴んだ根っこも奥の方が出て揺れ始めている。俺も揺れを直に感じている!揺れている中今更草の変更をするのはできないと判断した。もう限界だった。
六花は大丈夫か?大丈夫なのか!?崖の下に行く大きな物体を見つけられないからまだしがみついていると信じたい。でも、もし……!
視界がどこを指しているか分からない!揺れている!
死ぬ!殺される!
ああ、サウンドが鳴る前に帰ろうってかっこよくいってればこうなってなかったのに!
さっきまで順調に、やっと解決したと思ったらそこで本当に死ぬはめになるなんて。ここまでの俺の告白は何だったんだよ!まだやることあるんだよ!こんな目に会いたくなかった!
右の根っこが千切れた。俺は目を丸くした。右が手ぶらになった。しかし揺れと強風で掴めない。
死を覚悟した。ああ本物の死だ。
揺れと共に、左の草を軸に時計盤のように回転する。行っては戻り行っては戻り。今どこにいるのか分からない!右の手は視界の分からないままがむしゃらに掴もうとすると頭では掴んだ場所にあるはずなのにそこにない!
どうしよう!このままじゃ崖に落とされる!六花に会えなくなる!六花がいなくなってしまう!
激しく揺れているし、風がきついし、前が分からないし、気持ち悪い。精神的にもきた。
こんなことどうしようもない。いつか俺か六花が崖から落ちるんだ。

やっぱり無力だったんだ……。六花を守れなかった……。俺のやってたことは無駄に等しかったんだ……。中二病はあるって思っても今闇の炎がでてなきゃ意味がないんだ!でも情けないことに立つことすらできない……。意のままに地震が消せない……。魔法は嘘だったのかよ……。所詮俺の調子に乗ったことだ。やっぱりあれは夢じゃないか……。壮大な夢だった……。六花の笑顔が見たい。邪王心眼で吹き飛ばしてほしい。ああ、こんなときだけ他力本願で……。こんなんじゃ今も未来も守り切れない……!俺は神になったって、これじゃ無力と同じじゃないか。
神。
あっ。
もしこの世界が何らかの規定事項で、全ての出来事が始まったときからすでに定まっているとしたら、俺がこの惨劇の中にいるのも誰かの仕業によるもの。それは神だ。
でもその邪悪な神は俺が神になることで消滅した。
全ては平等に死ぬことを約束して。天国へ誘ってそこで真の死を行う世界改変を行った。
そして神は俺をこんな目に遭わせて殺そうとしている。
待った。本当に殺そうとしているのか?それ以外が本当の理由だって、規定事項の隠された確率パラメーター調整の中にあるだろうか。
なにか。なにか俺の中の何かを殺そうと思っているんじゃないか。
それは分からないけれど。
地震と強風を起こしてまでも。
俺は誰にも負けない万能の神になったはずが、細工を凝らして今死ぬ運命に晒される。
何らかの欠陥をついたんだ。俺達の。
ああ、俺が弱いからじゃない。神が起こしたんだ。
世界を勝手に変えられて怒っているんだ。
ああ、なるほど。
叛逆。

なるほどな、すべてわかったぜ!!!

俺は万能のはずなのに、それでも足りない何か。
俺は怖い死にたいって言ってたけど、そして神様が狙い通りに仕組ませた大切な何か。
自分に欠けた、大切な何か。六花にとって、大切な何か。
神は俺から奪おうとしている。それさえあれば世界なんて簡単だからな!
そういう視点から見れば、神が俺に試練を託したともいえるだろうな。
傲慢な神様め。
この世界の支配権は俺だ!

お前は六花を殺した!永遠に忘れない大罪だ!

だからお前は、

俺達が殺してやる!


揺れる草を目前に睨みつけて、でも口元はニヤッとした。
揺れはまただんだん小さく弱くなっていく。
これはいいチャンスだな。ずいぶんと舐められたものだ。
揺れるけれど、前後に衝動をつけて振幅させれば浮かぶ。
うつ伏せの状態をさすって手を地に付けながら慎重に右足を伸ばしにいく。
六花「ゆうた!ゆうた!」
手を地に付けながらも今度は左足をゆっくりあげていく。
俺は小刻みに揺れる大地の上で、正気が正気じゃないまま、背中を丸めて、立った。
六花「ゆうた!危ないよ!」
俺はもう聞き入れなかった。ただ思念が俺を動かした。
六花「怖いよ!伏せよう!待とう!ねぇ!」
六花はビクビクと臆病にも震えている。

この世界はもう俺だけのものじゃない。
新しく降臨した神がいる。
ふと聞いた情報だが、一度その神を怒らせると世界はたちまち震撼するらしい。
黄金のオッドアイが水の彼方に浮かぶ不可視境界線と繋がって、平行世界の彼方から仲間がやってくるらしい。
一つ言う。俺はその仲間だ。
そして向こうの世界で戦争に生き残った、最強が口癖の、いつも世界を滅ぼしたがる天使だ。
相手に恩赦を感じないとき、奴は本気を出して空間も技も“巨大化”する。
お前はその神を怒らせているんだぞ。
分かっているのか。
そいつは、暴れると俺でさえ手に負えないぞ。
世界を漆黒と愛で満たす、神を超えた天使と悪魔の融合体になりつつある。
猶予をやる。本当にいいのか?
……。
ないんだな。
じゃあ、目にもの見せてやる!
邪王心眼の、真の様ってやつを!

六花「ゆうたぁ!ゆうたぁ!!」
小さく揺れる大地。
大事にしてくれてありがとう。
俺のことなのに心配してくれるなんて高校入学前の俺に聞かせたいな。
俺はなれ合いが嫌いでな、とかっこつけてたけど、やっぱり一人じゃダメだった。
六花が好きなんだ。
愛されてるなら、愛したい。
人を愛するには、それなりの資格が必要だって今気づいた。
受験じゃない、国家資格でもない、それよりも得られにくい大切なもの。
俺達にない、何か。
俺が六花に振り向くと、ふと世界は真っ白になる。穏やかだった。
白い空間の中で、今揺れている地震も森も真っ白に消え、いるのは俺と六花の二人のみ。
俺は一歩、二歩、普通に歩くように行って。
うつ伏せた六花の元へ。
その弱りきった小さな体に、大きな手を差し伸べる。

勇太「俺の力、見る?」

俺の手に、涙ながら小刻みに震えた六花は、
誰かを信じるように、
手を差し伸ばして。
六花の温度が伝わる。
大きく引っ張った。
ずっと離さなかった!

六花の笑った顔が好きだ。
生理的って言っていいのか、母なる母体に包まれているみたいで安心するんだ。
俺の声掛けで六花が微笑むと一緒に居てよかったって感じる。
怒った顔も、泣いた顔も全部好きだ。
でも一番は、やっぱり笑った顔だ。
その笑いの根底は、いつも謎の力を出してはありもしないビームを放出する。見えないものへのマネ。
呆れるけれど、現実が毎日同じでつまらないって思ったとき、よく元気だなって尊敬するんだ。
その意思に憧れたんだ。俺のほしくて手に入らない。手に入れてしまったら社会的にやばい。だから一緒に居るという形で、しかも性格もN極とS極みたいに合うんだから楽しいよ。
中二病を取り戻した今、再び亀裂を起こそうとする誰かさんがいる。

六花を守りたい。

二人だけの世界を守りたい。

それが希望に繋がるのなら。

いつまでも一緒に居たい。

これが俺の思い。


俺のレール!


人生における周囲の人がないと断言した。
それを考えるのは中二病だけだって。
でもそれは一般人がないないと言い張ったのをまんまと洗脳を信じた愚民だったからだ。
あるぜ。忘れなきゃな!
中二病はバカにされたがちだけど、生きる意味を教えてくれた!

俺は、誰もがないと主張する、まさに闇の中に消えて封印されたはずのアイデンティティ、

隠された、黒い存在理由“ブラックレーゾンデートル”

を持ってしまったんだ!

その思いは。

六花を守る。
俺は六花を守りたい!


その使命は、
無限大!!!

揺れる。小さく。
予感がする。心臓の心拍数が波となって、それだけじゃないと訴えている。
これが最後の命だと分かる。
俺は六花を、俺のケガした膝をカバーするように、一緒に背中を抱え合う。
崖の先に向かう。

毎日たくさんのことを話した。笑った。
でもそれだけじゃ想いは伝わらない。
俺の気持ち、受け取ってほしい。

六花が足を一歩前に出す。
六花が変でもいいじゃないか。

俺が足を一歩前に出す。
俺が変でもいいじゃないか。

六花と俺は前に一歩一歩ずつ前に出る。
つまずきながらも、後悔を恐れて何もしないよりは、嬉しかった。

だんだん小さく歩けるほど揺れながら、崖の先へと一歩一歩ゆっくり歩く。
恥ずかしいけどさ、楽しいんだ。あの世界も。六花のことを思うと毎日が楽しい。

崖の先が近づく。重たい剣を拾って。
中二病でも、ゆっくりと一緒に歩いていけば、一つの道になって、レールになって、

崖の先端に来た。
その物語は、一緒に完結する!

ゆっくりと、そう思うと、六花も口元に笑みを浮かべる。
崖の先端へと連れて行った。
周囲は異常だった。だが六花の震えはなかった。
感じる体温が温かかった。
そして小さく揺れている中、崖の先端に着き、目の前の深淵を見て、剣を確かめた。
手にした俺のダークフレイムマスターのソードが夜空に蒼黒く光っていた。

深淵と地震。小さく揺れる中で、崖の先に、二人の少年少女が剣を持っている。
勇太「するぞ」
六花「うん」
何やるかは、俺たちだから分かっていた。
体がペタついていた。一生離れないほどに。
六花は眼帯を外し、ポケットにしまった。
俺のダークフレイムマスターのソードに、六花の細く小さな手が一緒になった。
一緒に手でギュッとソードを握りしめる。

しかし。刹那、不安がよぎる。
やって大丈夫かって……。
あっ。
丹生谷「勇太の勇は勇気の勇。でしょ!」
そんなことこの前聞いたな……。フフッ。忘れていた……。ありがとうな。
勇太「そっか……勇気の勇か……。ダークフレイムマスターか」
勇太「ブレイブ……。ダーク、マスター……」
勇太「神よ!よく聞け!今日からこの宇宙の主になった、新たな俺の二つ名を発表しよう!」
勇太「聞いて怯えるがいい!!」
勇太「俺の真の覚醒したその名は、ダークブレイブマスターだ!!!!!!覚えておけ!」
勇太「俺がこれを口にした瞬間、すべての存在は俺のために輝き、お前の宇宙は終焉する!」
六花「ゆうた……」

俺の声が響くと同時に。
地震の揺れが猛烈に強くなる。神の王座を守るように。この世の悲鳴を響かせるように。
立てなくなるぐらいに激しくなる。
足をこわばらせた。
でも今の俺たちは違うんだ。臆病じゃないんだ。剣を持って。
何度だって立ってやる。超えてやる!
邪王心眼の黄金の瞳に星空と月の光が結集する。
その思い、もう以前の領域を超えている。
俺達は恐れない!もう六花は臆病じゃない!新しい六花はもう臆病になる必要はない!
だって、
俺が一緒にいるから!

勇太「爆ぜろリアル!」
六花「爆ぜろリアル!」
揺れる大地の深淵の前に剣を向ける。

勇太「弾けろシナプス!」
六花「弾けろシナプス!」
共に剣を持ち上げる。

勇太「バニッシュメント!!!」
六花「バニッシュメント!!!」
剣の矛先を天に上げる。

勇太「ディス!」
六花「ディス!」
衝動をつける。

さよなら俺の青春。
忘れないよ。

ありがとう、
昔の、
俺。


剣を振り下ろす。

勇太「ワああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
六花「ワああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

勇太「……ルド!!!!!!」
六花「……ルド!!!!!!」


その声が剣の斬り落ちると共に深淵の夜空に響き渡ると、
大地震は突如として勢いをなくし。
そして揺れは小さくなり、揺れを感知できなくなった。
地響きの音もしない。
ただ静かで。
前に見た。
起きる前と同じ風景。

勇太「はぁ……はぁ……」
六花「はぁ……はぁ……」

しーんと辺りが静まっている。
呼吸を整えた。
その光景全体を二人でぼーっと見ていた。
何も起こらない……。
何もない……。
何も。
はっ……!目がはっと驚いて俺が六花に振り向くと、六花もまた俺に笑顔で振り向いた!


勇太「やったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
六花「やったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

俺は六花と共に抱いた!はしゃいだ!嬉しくて涙が溢れた!

勇太「勝った!!!勝ったあああああああああああああああああ!!!!!!」
六花「ゆうた!!勝ったよ勝ったあああああああああああああああ!!!!!!」

勇太「勝ったんだ!!!ああ勝ったんだ!!!!!!」
六花「勝った!!!!勝った!!!!!!!!」」

勇太「勝ったよ!六花勝ったよ!」
六花「勝利!!!やったよゆうた!!」

勇太「勝った!勝った!勝った!」
六花「私達倒せた!勝った!」

勇太「俺も勝った!あいつを倒せた!」
六花「六花も勝った!勝った!」

勇太「俺たちの力で勝った!!!!」
六花「勝った勝った!嬉しいゆうた!」

勇太「倒せたんだ!俺たちがあいつを倒したんだ!!」
六花「私達本当に勝った!倒した!」

勇太「俺達倒したよ!自然を倒したよ!すごい……!」
六花「邪王心眼の力ってすごい!ダークブレイブマスターも強かった!」

勇太「ああ。すごいだろ!でも、ダークブレイブマスターは真に覚醒したときに現れるから、今はダークフレイムマスターだな」
六花「私、ゆうたに会えて嬉しい!!!!」

勇太「六花……会えてよかった!よかった……!!」
六花「ゆうた!!ゆうた!!大好き!!!」

その喜びのあまり今度はなぜか悲しくもないのに涙が出て、歓喜が失せてしまった。
その思いに、抱きしめがギュッと強くなった。涙をぽとぽと落として。

勇太「うん……ぐす……。六花が無事で本当によかった……」
六花「ゆうた……会えなくなるかもって思った。ゆうたがいてほんとよかった……」

勇太「辛いときもずっといてほしいと思った!やっぱりお前が大好きだ!離れたくない!」
六花「嬉しいよう!嬉しいよう!!私もゆうたがいてほんとに嬉しい!!!ずっと好き!!好きだよ…….」

勇太「あのとき崖から落ちるかと思った。六花の顔を浮かべると怖かった……」
六花「ゆうたが突然立って怖かった!でも昔を思い出して私あそこまで行けた……」

勇太「でも一緒にいてくれてよかった!お前がいなりゃ俺の人生はダメなんだ!」
六花「ゆうたが強くなかったら、私……私……」

勇太「あのな。絶対にお前を守る……!守りたい!この気持ち。例えるとしたら宝物……」
六花「私も!ずっとそばにいたい。ゆうた温かい。優しい。大好き……!」

俺と六花は途端に静かになり、
静寂の月と星のある夜空の下、
涙を流して温かい愛を感じるキスをした。


それが終わると不思議に見守られている温かい気分になって、
六花が笑顔になると、俺も笑顔になった。

「膝大丈夫?」と聞かれて「ああ、誤魔化しなく大丈夫だよありがとう」と言うと顔を反らして照れた六花がかわいかった。宝物だ。俺は六花の後ろを向き夜空を見上げて口を開け、ケガした膝を風に当て、冷たい夜空に枯れた声を癒し涙を乾かした。疲れたんだろうな体も心も。こんなこと今までなかった。
六花はまた眼帯をつけた。いつもの風景が帰ってきた。
今日はいっぱいあったな新しい発見。色々な六花。もう語り切れない。
夜空はなんて綺麗で、大きいのだろう。俺の体の数兆倍はある。
でもその深淵の夜空が、見守られている気分で今とっても気持ちいい。

六花「あ……」
六花の声がした。

六花「ゆうた。ねえゆうた……あれ」
呼ばれたので振り返る。
これ……。

勇太「うわぁ。」
六花「……」

目の前の景色に言葉を失った。
山の向こうに巨大な、あり得ないほど巨大な、
光の柱が、
見渡す限界の山のその奥を超えた、おそらく海か別の市からか、
黄緑色の縁の、黄緑色の光の柱が、
目に見えるほど大きく立っている。

山全体も闇が黄緑がかってうっすらと緑色に、昼間で見るような明度になっている。
俺と六花もその光に照らされて黄緑色になっている。
莫大な光。
こんな自然現象は教科書やTVでしか、いやそもそも知らない。
こんな大きく天に伸びる黄緑色の光、見たことがない。
その光は雲の先を突き通している。
俺達は知らない。ひょっとしたら世界初かもしれない。
俺達にはまだまだ知らないことがあるんだってその広大な光に知らしめされた。
六花「きれい……」
俺はこんな美しい光、まるで人工的にしか再現できない光が今あるということに絶句した。
美しすぎて絶句した。
勇太「知ってる?」
六花「ううん」
絶えることなくまっすぐに太く伸びて、気象さえも変えそうだった。
六花「不可視境界線みたい……」
勇太「ああ。光だ。希望が伸びている」
こんな奇跡、あっていいのかよ。ここが現実じゃない気がした。でも隣に六花がいる。
俺の見ているものは実物だ……。
じゃあ。
勇太「不可視境界線……ひょっとしたら俺たちが起こしたんじゃないか?」
六花「えっ?」
勇太「俺たちが覚悟を決めて倒したから……あるんじゃないか?」
六花「さすがにあの量……。いや、ダークフレイムマスター、あるかもしれない」
勇太「俺たちが倒す前はなかった……。俺たちが崖に来なかったら見なかった……」
六花「ゆうた!!私たち本当に神になったんだよ!本当に神の力持ったんだよ!」
えっ……。
信じられなかった。この手にあるなんて理解できなかった。
でも信じられる確証はあった。だって今日の出来事は本当だから。
勇太「そうだよな……!そうだよ!俺たちの神の力が効いたんだよ!闇の炎は本当にあった!!!!」
六花「ゆうた!今、信じられないの!!すごくすごく怖くて嬉しいの!」
勇太「俺達は神になってしまったんだ!世界を思い通りに変える神に!」
六花「やった!ゆうたのやったこと本当に本当にだった!死んでもまた会える!!!」
勇太「世界の理……本当に創り変えちゃったよ!やばいよ!俺達凄いよ!」
六花「やったー!!ゆうた!!ありがとう!!!!!」
勇太「六花!大好きだよ!!!言葉で言い表せないよ……!愛してる!!!」
六花「私も、世界変えてくれてありがとう!!!……愛してる!!!」


深く抱きついて。体の温かさを分かち合った後に、また黄緑の光柱を一緒に眺める。
六花「不可視境界線……」
勇太「うん……綺麗だ……」
六花「ねえ。不可視境界線に行ったら、確か何でも願う。そうだよね……?」
勇太「あ、ああ……。そうだよ。どうしたんだ?」
すると六花は立って、眼帯を外して、黄緑色に燃え盛るまっすぐな光に、メガホンのように手を当て、静寂な夜に大きく呼吸を吸うのが分かった。
六花「パパー!!!パパいるんだよねー!!この気持ち届いているんだよねー!!!私に大好きな人ができたのー!!!パパと同じぐらい強い人なのー!!私が泣いてもすねても一緒にいて嬉しいのー!!!パパのこと疑ってごめん!!!でも会えると思ってたー!!!!パパに言いたいことあるのー!ゆうたと私は!!!!」
六花「結婚します!!!!」
六花「今すっごく幸せだよ!!!!!この世にないぐらい幸せだよ!!!!パパ、私を産んでくれてありがとう!!!!!ゆうたのことずっと守るからー!ずっと愛しているからー!!!!パパのことずっと忘れないからー!!!!!」
六花「パパ!!!!ありがとう!!!!!!!!また会おうね!!!バイバーイ!!!!!!」
六花「はぁ……。はぁ……。はぁ…….。けっほけほっ。はぁ……」
その言葉を横に聞いて、俺は思わず顔が赤くなった。火照りながらも。
勇太「それじゃ俺も……」
六花がこちらを見つめた。彼氏としてご挨拶しなきゃな。
勇太「俺は富樫勇太と言いますー!!!はじめましてー!!!!このたび六花の彼氏となりました!!!!!六花はできないところがたくさんありますがー!!!!でも愛だけは世界中の誰を探してもいません!!!!そんな六花が俺のことを愛してくれて幸せですー!!!!!俺達は結婚します!!!今日の試練を乗り越えて決めましたー!!!!何があっても絶対に守ります!!!!!絶対に幸せにします!!!!!だからお義父さん!!!」
勇太「ずっと空で俺達のことを見守ってくださいー!!!!!!!!!」

荒い呼吸だけが残り、その雄たけび声が緑の柱に響いたのを確認した。
六花を見ると、泣いていた。顔を隠して泣いていた。静かに泣いていた。
俺は六花を優しく抱きしめた。耳元で愛してるって小さく言って抱きしめた。
抱きしめが強くなった。苦しくなるほど。夢に見た六花との抱きぐあい。
体が温かかった。責任を持った愛は、今までより最高に温かかった。嬉しかった。
六花「愛してる……ゆうた……」
その泣いた大粒の冷たい涙に連られて俺も涙をたくさん落とした。
この一瞬しかない愛情。これが愛なんだ。今までの関係の崩壊から漏れた愛。
大切にしたい。俺は六花の頭を優しく撫でた。その体がまた小刻みに震えて嗚咽を漏らす。
六花の涙がぽたぽた草に落ちて今度は六花が俺の頭を撫でてくれた。
俺も嬉しくて涙がでた。俺の存在が許された気がした。大変多くの粒が落ちた。守られるのが嬉しいなんて今まで感じたことがない。
胃のぎゅっとしまる締まりが弱くなった。だからまた泣いた。
すごく嬉しい……。すごく嬉しい……。
どちらの愛が強いかなんてわからない。互いに尊敬しあうのが嬉しかった。
六花のぬくもり。六花の匂い。六花の涙。ずっと忘れたくない。
二人でその抱き合いを、その熱が終わるまで、長く、長く、温かく愛し続けた。

俺達は何の微動だもなく静かになる。そして抱き合いを解いた。
六花をずっと愛したい。もっと感じ取りたい。
俺は六花にキスをしようとすると、六花は俺の唇に人差し指を当てた。
六花「ダメっ。これからずっと楽しむの」
その姿がやけに大人っぽかった。俺の瞳が揺れた。頬が赤くなった。六花に何もできない尊敬の色気を感じた。
そうだな。これからだよな。お菓子の欲しかったおまけは、お菓子を食べてからだよな。
その意図が分かると俺はニヤッとして、六花もまた微笑んだ。
初めて先を越されたような気がした。六花は成長しているんだって嬉しくて胃がもぞもぞくすぐったかった。
でも、最高に幸せだった。

二人で、奇麗な不可視境界線を眺め続けて、いつまでも光るよなって感心する。
あっ……。その光が山の下から溶けてなくなり、やがて上も、黄緑色の光柱がなくなった。
その光景を二人で見る。
六花「綺麗だったね」
勇太「光ってたな。こんなあり得るんだ」
そうだ。

勇太「また……会えるよな?」


六花「終わりはないよ。ゆうた」

そうだね、と笑って返した。

さて、全てが終わったか。
六花はまた眼帯をつけた。いつもの六花だ。まぎれもなくいつもの六花だ。
長かったな今日の一日。
そういえば今何時だろう。9時を超えているのは体で感じている。
勇太「六花。悪い、携帯持ってないんだ。今何時?」
今、と言って六花はポケットの携帯を取り出す。
六花「今、0時」
勇太「ふぇっ!?門限超えてるじゃん!やばいやばいやばい!!!」
六花「ゆうた……ちょっと、邪王心眼も衰退するかも……」
そして携帯を見せられた。
着信履歴……件。
そのずらっと並んでいる模様に驚いて心臓が止まった。数字は覚えられなかった。六花の中二病のなくなったころやアポカリプスティックサウンドを超えたのはまず分かる。顔から血がなくなっていく。
勇太「ああ……」
六花「ゆうた!どうしよう……!」
勇太「あああ……」
どうしよう?どうしよう?俺も考えてなかった!まさか門限超えるとは思ってなかった!
体が重い。もう絶望しかないだろこれ!!
勇太「なんでそんなにかかったんだ?」
六花「さぁ……?」
六花に尋ねても首をかしげた。
まぁいいやって、六花の携帯を持って、俺がやるから安心しろってかっこつけたけど怖いや。でも六花を守るって決めたんだ!これぐらい造作のないことだろ!!!いざとなったら神の力で吹き飛ばしてやるー!そう震える手を押さえて家に電話をかけたところ案の定「どこいってたのー!!もう!!」と激しくお叱りを受けて内心ビクビクだった。「早く帰ってきなさい!」と内容2分で済まされ、電話先なのに謝罪のお辞儀をしてしまった。でも帰っても今日は眠いし詳細は明日じゃないと長すぎて話せない。今日は疲れすぎて叱られるのが嫌なので玄関からこっそり入り明日謝ろうと六花に相談した。すると六花も頷いたのでそうするように頭をタイマーセット。
でもなんで0時なんだろう。そんなにかかることしたっけ……?せめて10時ぐらいだろ。自転車で帰れば疲れてることも入れてざっと2時間は余裕で逝く。なんでだよ……。やばいな……。俺達の愛が緻密過ぎたからってジョークにしては11月だし山奥だし寒すぎていれないはずだと思うんだけど。何したっけ?
六花「ゆうた、空、綺麗」
のんきな奴だなこんなときに。羨ましくもある。
空は。星が奇麗だ。月が奇麗だ。思えばこの崖の夜空の景色から喧嘩が始まって、神になって宇宙が変わって、済んだら不思議な音を聞いて……語り切れないな。今日が雨じゃなくてよかった。俺は蒼い夜空が好きなんだ。天国に行けば六花とあの先に行きたいって思えるほど好きなんだ。皆が静寂している中、世界の色は真っ黒に染まり、現実世界がもう一つの姿を見せて、その中で一人、安永の地を支配する。俺は王になる。それが好きなんだ。
六花も月が好きで、だから相性もばっちりだな。もっぱら中二病ってこともあるが。
六花「ゆうた。神になった」
勇太「お前もな。夜空好きか?」
六花「うん!きれい!」
勇太「そうか。嬉しい……」
六花「この世界は全て私たちが操作している。神の感触が分からない」
勇太「はははっ」
その中二病が世界を変えて神になった。俺はそう思っているよ半分。もう半分は理性。
六花「ゆうたがここにいるのも私たちが導いた」
勇太「そうだな。ありがとな俺達」
あっ……。思い出した。今ここに起きているのは全て理由がって起きていることなら……?
勇太「世界改変……」
六花「えっ?」
勇太「もしかして、世界改変で時間が過剰に進んだんじゃないか?」
六花「えっ…….」
勇太「やっぱり俺達神になったんだよ!やったー!ほんとじゃん!」
六花「すご~い!邪王心眼ですら……うぅ……コメント困るけど、すごい!すごい!」
勇太「時間飛んだよ!すごいな!」
六花「時間すら操れるようになった。すごいこの力!なんでもできる!」
勇太「ひょっとしたら改変時に別の平行世界線に宇宙空間ごとワープしたんじゃないか?」
六花「さすがに魔力“エネルギー”足りないはずじゃない?」
勇太「思えばきっとある!信じようよ!」
六花「うん!」

でも疲れたな……。肩が脱力する。足がいたい。膝のけが治ってきたな。六花もしおれてきて座って佇んでいる。落ち込んでいるって言った方が正しいな。タンク切れ。
俺は深淵へと向くと、六花は立って俺の方に手をかざした。
六花「魔力を補給」
勇太「ははっ。何だ元気か」
じゃあ俺も魔力を補給。
二人でお互いに、真剣な表情で自分の右手を顔に向けて手に力を込めてかざした。
六花「はぁあああああああ!!!!!」
勇太「はぁあああああああ!!!!!」
力がみなぎった気がした。中二病の技だけど、実際にはビームとかないけどさ、六花を見てハイテンションになった。やっぱりあるんじゃないか。
現実からほど遠いけど見えない場所に隠れてる。俺は選ばれし者だったんだな。
俺が元気よく微笑むと、六花は指輪を自慢したいのか見せてそして笑って、小指にあった指輪の赤い宝石が、愛の誓いによる魔力に強く共鳴した。


勇太「ダークフレイムマスターは最強!」


六花「邪王心眼は最強!」



さて帰るか、心配してるし。
そう思い、ソードとケースを持ってきて、今は俺が持とうと提案し、崖の上の夜空を眺める。
ここともお別れか。寂しいな。また来たいけど、もうないんだな。
でも後悔はしていない。新たな始まりだと思う。ここも永遠になくなりませんようにって願っておこう。
星と夜空が奇麗だ。俺達の帰りを見守っている。森の木もサラサラ静かな音がしている。
ありがとう。俺の告白地。
…….。
帰るか。
草を踏んだその一歩、

世界は真っ白になった。

俺は理解不能な空白の場所にいる。天国といえばこの空間サイズからして合っている気がする。何も音がしない。間違いない。宇宙の創生時に現れた真っ黒い空間サイズそのものだった。俺は体がゆっくりと回転していた。どこが地面なのか不明だった。すると巨大な、白い服を着た人の形をした何かが遠くから流れてくる。いや俺が流されているんだ。白いドレスをひらひらさせていた。その巨大な体から一点の強い光が光ると、巨大な黒い墨のようなものが彼女の体から出て彼女の周りを流動し、それは水の軌道を描いたようなまるで模様を表す、翼をはためかす黒い蝶のような墨の流れ模様になった。その宇宙サイズの視界に入りきらない人は巨大な手を開いて向けて、俺の体を手で包み込む。巨大すぎて顔が分からなかった。世界は手の中に包まれてまた真っ暗になる。するとまた真っ白になって、その巨大な人はいなかった。その代わりに誰かがいた。俺と同じぐらいの身長の、誰かが俺に向いていた。誰かに似ていた。誰かは分からない。白いドレス、大きく細い腕、見覚えある足、誰かに似た腰つき、大きなお胸、そして蒼色の髪。大人らしき人で顔は怖くて見なかった。
輝くネックレスの真珠がきれいだった。口紅で塗られた麗しい唇を見て、なにかが惹かれる。
俺がその人を見つめると、静かな時間が経ち、その人は口を開いた。

「幾星霜の時から探してやっと繋がりました」

「未来の私を……」

「よろしくね……」


何だと思った瞬間、
下の空白から急激な光と衝撃が走り、
世界が真っ白になった。

六花「ゆうた!ゆうたぁ!」
勇太「あっ」
その声で目覚めた。俺は六花との崖の場所にいる。袖をゆすられても気づかなかった。俺は茫然として立っていたらしい。
六花「どうしたの?」
そう聞いてくるので言おうとしたが、でも分からないだろうと思って首を横に振った。
今のは何だったんだ……?おとぎ話のような世界に本当に行った気がする……。体がそう覚えてる……!何を頼まれたのか、いや何があったのかすらどんどん消えて、分からないや。何があったか分からない。きっと疲れて幻覚を見ていたんだろう。だったらおとぎ話だってそりゃ感じるな。ああ、いけない。運転大丈夫か?こけたら洒落にならない。よし、頬をはたいて。
行こう!
六花にそう言って、すでに自身の腹をロープで巻いたケースを持つ六花にそう言うと、俺達は深淵の場所を後にした。楽しかった。もう一度体験するって言ったら嫌だけど、でもラブラブした雰囲気はまた楽しみたいと思った。
あの真っ白い空間。分からない。
でもな、なんだかとっても温かい気持ちだったってことは覚えている……。

自転車を運転して帰ると、風が気持ちよくて、車も人も誰もいない。
一瞬で建物が別の建物になる。それがカラフルで格別楽しい。
まるで暗炎龍に乗って冒険しているみたいだ!
俺達の自転車は暗炎龍だ!
この支配された道を渡りゼイゼイ言った後、
そして家に、着いた!!!!!!!!やった!
喜びもつかの間急に胃が痛くなり、家に電気がついてないのを確認すると、午前3時の六花の携帯にため息を吐きつつ、そっと自転車を置いて、俺が謝罪するからと言って、ドアを前に六花を見返してうんと頷かれ、キイと玄関を開ける。
夜中、真っ暗で誰もいない、六花に目でメッセージを送った後、忍び足で入る。

すると勝手に電気がついた!!!

十花「どこ行ってた!」
玄関の床の上に、十花さんが威厳を放って立ちはだかっていた!!!!!
やばい!!やばい!!ガチやばい!!!!殺される!!
十花「今何時だと思ってるんだ!!!」
聞いてない!聞いてない!第一に十花さんはイタリアに行ったはずじゃないのか!!
十花「ああ、その顔は。イタリアから日本に用事があるついでに飛行機でここまで来た」
十花「心配したんだぞみんな!」
頭が凍ってさっき何するか忘れた。俺が行動するんだったよな。
十花「皆にも連絡して!警察呼ぶところだったんだぞ!」
そうだったのか!このこと知ってるのか!
それじゃ結構やばい事態になっているんじゃないか!
騒動に目が覚めて、目をこしこし拭いて母たちもパジャマ姿で集まってきた。
勇太の母「やっと。もぅ、今日は夜勤ないのに……」
樟葉「なにっ……」
夢葉「う~ん」
十花さんに話すと真剣な話なので分かってくれると思うが、みんながぞろぞろ来た。た!でも迷惑かけたってことはわかる。素直に謝罪しよう!六花を守るんだ!絶対に!俺が悪いんだと説教喰らうのは俺だけでいい!!六花に指一本触れさせない!それが一番手っ取り早い!!そう決めたんだろ!

言おう!!!

十花「何があった!!!」
……!うん!

勇太「ご」
六花「ごめんなさい!」

世界が凍った。
仰天だった。意外だった。意外過ぎて頭が固まった。
六花が俺の前に立って頭を下げている。
あの六花が……!
その光景に俺は背中が後ろに反る。

あの六花が、
あの十花さんに、
初めて頭を下げている!!!

えっ……と思ったのは俺もだが、十花さんも後ろに引いて驚いていた。
六花のその水平に下げた角度が本気だった。
今まで十花さんから叱責を受けることから逃げていたのに、今日の六花は変わった。
いや、今日で変わったんだ。
将来に立ち向かうその姿勢、小さいけど意思が誰よりも強い。
俺を守りたいって気持ちが強く伝わる。
中二病も守りながら俺も自分も守りたい。
少しづつだけど、大人になっていく。
六花は、成長したんだ……。
十花さんは言う言葉を失ったのか、
十花「き、今日はもう遅いから。明日聞く。さっさと寝ろ」
とたじたじで言って、俺の母も樟葉も夢葉も、驚いていた。その顔が忘れられない。
そのあと部屋に戻りパジャマ姿に着替えた後、
十花「でもその前に」
十花さん特製の鉄の“お玉”を見せて、俺と六花は抱き合って小刻みに震える体を共鳴し合う。
愛情を込めたお玉で、程よいリズムに乗って、お凸に殴られ、今日は許してもらった。
ポクッ、ポクッ、ポクッ、ポクッ、チーン、
六花「あぅ……」
勇太「あぅ……!」
十花「お前はしっかりしろ!」
ガツン!
勇太「あう!!!!!痛っ!何で俺だけ!」

第7話 エンディング
現在の俺と六花は登校中だ。珍しいことに雪が降っている。ぽつぽつと道路に溶けていく。
今日の六花はマフラーを揺らして温かい格好をして、とってもキュートだ。
六花は手を開いて雪のしみる冷たさを感じて楽しんでいる。
何も変わらない世界。何の変哲もない面白くもないいつもの光景が今日だけは特別で嬉しく思う。
俺が六花を見るたびに六花はお腹を手でさすっていて、今日に雪が降るぐらい、昨日のしかも山奥でいたんだから体調崩すの当たり前だよなごめんと憐みの目を送った。
俺は唇に人差し指を当てる。この当たった温かい感触、本当にキスしたんだ。しかも2回も。嬉しいけど若干実感がわかない。でも昨日を思うと唇がかゆくなるのでおそらくそういうことだろうか。
朝の通学路。俺が朝早くから学校の人に用事があると言って一人で行くというと、六花も一緒に行くと言って今ここを歩いている。
ランラン♪気分で元気に登校中といえばそうじゃなく、やはり昨日に遭った不安と興奮で夜も一睡も眠れず、結局3時間ほどしか眠れなかった。はぁ、十花さんになんて説明しようか。それだけで気が重くなる。目の下のだらんと重い黒い物がそれを指し示している。
それにしても未だに昨日のことが信じられない。宇宙一のデートにするぞ!と意気込んだら公園に連行されたあげく六花が中二病を卒業して俺は悲しみのあまり精神が崩壊して、そうと思ったら元に戻って新しい六花が誕生し、俺と六花はなぜかこの世の神になって、婚約プロポーズと初めてのキス、その後アポカリプスティックサウンドという謎の音に遭遇し地震に見舞われる。実に散々であり得ないこと満載な一日だっだ。体験したいと言えばもうごめんだね。
登校中朝練なのか部活バッグを抱えた朝早くから出かける俺の学校らしき生徒が「昨日凄かったよねー」と会話をしている。ああ、昨日の滋賀大地震すごかった。朝のTVで気になってつけたら話題になっていた。だが例の光柱の件で見たものはツイッターを見ても誰もいないらしい。そんな一日に耐えた自分に拍手のエールを送りたい。勿論過去の自分に。十花さんの手短な話によると俺の捜索の件、一家だけでなく七宮や凸守皆巻き込んでしまったらしい。そのことに関してはすまんと思っている。六花の着信履歴にも俺の母以外にもあったそうだ。でもみんなに一人一人謝罪してこれこれ~!と言って果たして信じてもらえるだろうか。というより前にめんどくさいという言葉が立つ。まあお礼として最後の帰宅までが遠足だから頑張るか。重い腰を上げようか。でも今日は寝かせてほしい。ちょうど一時間目が眠れる授業だから寝よう。
六花「昨日すごかった!早くソフィアに報告したい!でも今できない……。はっ!不可視境界線の管理局の妨害工作に遭っている!!」
勇太「あるか!」パシッ
六花「あぅ……ゆうた!痛い!」
ははっ。いつもの調子が戻って何よりだ。新しい六花も昔の六花と何一つ変わらない。ひょっとしたら遠慮する六花が再現しているのかもしれないけど六花の顔を見るとそんなことはないだろう。これでよかった。俺は中二病と、六花といて幸せなんだなって改めて感じて幸せだった。中二病が好きなんだ。素直になれて、その機会が得られて俺はうれしい。
六花は吐息を空に向かって吐く。すると白い息が出た。
六花「見て見てドラゴン」
そう言って六花はにこやかになる。その顔が大好きだ。
雪が降っている。珍しいことに11月なのに、それも昨日山奥にいたのに、今信じられないが降っているのだ。誰か変人が現れて私は真人間になります!と宣言したのだろうかこの天変地異は。ああバカらしいまた俺の中二病の妄想に磨きがかかっている。恥ずかしいなもう。雪が降っている。でも昨日のことを学んだから、ひょっとしたらあと1か月後に俺のベットの下にサンタさんがやってきてこっそりクリスマスプレゼントを置いてくれるかもしれないな。でもやっぱりもらうのは、は。
六花「ゆうた」
ん?と話しかけられたので振り向き、どうした?って言うと特にないと言われた。
何の話してたっけ?そうだ、ノルウェーだがスウェーデンだかしらないが、そこに住むサンタさんがいるかもしれないって俺は思うんだ。トナカイをかまくらに隠して実は人間に見つからないようにNASAの衛生をくぐり抜ける特殊訓練部隊SANTAの訓練を行っているかもしれない。我ながらバカだなあと思うけど。だけど俺は神になったんだからそれぐらいの見せてほしい要望は望めばでるのかな?迷惑だろうか。実は人間に売り出された過去があっての危機感だったり。いやいやそもそも出やしないよ。そんなのあるわけない。苦労して稼いだ親が買ってきてくれるからクリスマスプレゼントはあるんだよな。俺が神になったのは実際なのか嘘なのか、覚醒しない限り分からないしもう覚醒するのはいやだ。実際に宇宙の創造とか見たけどまるで昨日のことが白昼夢すぎて分からない。目の前の車を浮け!と念じても浮くわけでもない。やっぱり昨日のことも、もしかしたら俺の記憶の中の出来事だったりするかもな。
六花「ゆうた。」
今度は袖を引っ張りながらなので、なに、と振り向くと無言で無視された。なんだよ。
でもなサンタさん、いてもいいなって思う。サンタは実は世界改変をする前から透明になる技を習得していて見えないだけかもしれない。だから世界改変しても俺の神になった目で見ても、何も変わらないけどな、観測不可能なんじゃないかって思うんだ。そう思うと胃のイライラが穏やかに収まるんだ。
六花「ゆうた!!!」
かなり怒鳴り散らす声で言われたので俺もとうとう不機嫌になり「なんだよさっきから!!」と怒鳴り返すとまたまた無視された!こいつは遊び呆けては俺に不快なトラブルばかり持ち込むことしか考えないんだからな!!

まあ、ヒートダウンしよう。なんだっけ。ひょっとしたら俺達は神様だけど、それを観測する世界がちょっとだけ、ずれているだけだったりするかもしれない。神の座に座り闇の炎を実際に放ち世界を変える俺。ドキドキする子供心がクラスメイトの一人としての大人の常識に揺れる。そう思うと笑ってしまった。
すると、横から足に激痛が走る。無論六花が横から相当強く蹴ったらしい。こいつ!!
六花「すまない。不可視境界線の管理局に体を操られていた」
嘘だろ!と叱ったところ、六花は頬を赤く膨らませて、ぷくうっと子供かっ!って言いたくなる怒りの態勢で反感を売った。そしてなんと俺の近くまでやって来て手提げの俺のバッグを無理矢理奪って、自分の胸に奪い返されないよう強く抱きしめた後また頬を膨らませてきた!!!!ムッカついた!!!!
勇太「なんだよさっきからもう知らん!!」
こいつの我儘横暴ぶりにもううんざりだ!!六花なんか消えてしまえばいいのに!!けりを突然入れられて謝らないし!ひりひりして痛いし!最悪だぞ!昨日あれだけ愛を誓ったのにこんなやつだったのかよ!!!
もう話しかけないでおこうと心に誓って六花から距離を取る。距離を少しづつだんだん遠く離れて水平に歩く。こいつも俺の顔見ないし、知らん!
無言の時間が過ぎていく。俺達の愛が冷めていくのが分かる。昨日のことも嘘だったように。
……。
六花……。
六花が話しかけることも二度とない……。
寂しくなんか……。
俺は六花の近くまで歩いて、ごめん、一緒に歩こうと言って手を差し出す。
すると六花は突然ひまわりのような晴れた笑顔で「一緒♪」とにこやかに返されたので、俺もつられて笑顔になった。全く駄々こねて。六花は独占したい!って気持ちが本当に強いんだからな!もう少し選び方あるんじゃないかなって思うのだが、でもそれでも胸がキュンと好きになった。


学校の教室に着いた。まだ誰もいないのが緊張感を漂わす。
バッグを机の上に置いた六花は、すぐさま部室へと駆け込みコタツの中に入るという。凸守と七宮に早く教えたいからってじっと待機するなんて元気あるんだな。寝るなよ火傷するぞと言って六花は颯爽と教室から出て行った。
学校の人に用事があるんだった。待ち合わせを携帯でしたので俺もバッグを置いて少し待つ。
人が段々教室に入ってくる。
そしてその影が来て教室に入り、バッグを置いた。
誰もいない中、話しかけるのは今!
俺は茶色の髪をした女性に話をかけた。
勇太「丹生谷!」
丹生谷「あっ!富樫君!」
実に丹生谷らしい、可愛らしい声で挨拶してくれるもんだ……な!
丹生谷「おはよう!」
勇太「お前人の彼女に何教えてんだよ!」
丹生谷「はっ?」
勇太「六花に変なこと教えただろ!」
丹生谷「え……知らないけど」
勇太「だから教えただろ!」
丹生谷「分かんない。昨日大丈夫だった?」
勇太「あ、捜索してくれたのかありがとな。じゃない!あれだ!」
丹生谷「あれ?」
勇太「あれだよあれ!」
丹生谷「あれー?意味わかんない~」
勇太「あの~その。あれ~のことなんだけどな」
丹生谷「富樫君、ねえ私をからかってるの?内容言わなきゃわかんないでしょ!」
勇太「いやいや。えっと」
丹生谷、赤ちゃんの作り方知ってるか?って堂々と言えるか!
人も聞いているのにそんなの質問したら変態扱いだろ!六花の泣き顔も想像してしまう!!
仮でも社会的以上に殺されるかもしれない!泣かれるのはもっと嫌だ!
公共秩序に反しているしひそひそと「うわ~あいつが丹生谷さんを泣かした変態?」なんて滅相もない!
でもどうしよう。六花に赤ちゃんの知識あのくっだらない知識を教えたの明らかにこいつしかいない!間違ってたら裸になって冬の校庭10周してもいいぜ!!
俺は無言になって考えた後、肩をゆすってくる丹生谷をなだめた。
丹生谷に一応助けてもらったし尊敬してるから親交を深めたいと思っている。いつか恩返ししてやりたいしな3000円分。それに朝っぱらから下ネタ言うなんてさすがの俺も元気ない。

俺は目の前で無言になったが、いい案が浮かばなかった。
でも六花同様に、大切な友達だから傷を入れたくなかった。
だから口ではない方法なら守れると思った。
丹生谷には昨日の夜に沢山ヒントもらったからな。
これからもずっと友達であってほしいと思う。
その分の恩を返したいと思う。
六花のあれ。ポーズだけでいいんだ。
友達だから分かってくれるよ。甘えてもいいんだよ。
その枠組みの中から俺の訴えたい六花の変化のことを分かっててくれればいい。
でも言葉で伝えるのですら赤く恥ずかしいので。
俺は見るのが恥ずかしくて照れて丹生谷の前から顔だけ反らした。
丹生谷に、
友達だから、
傷つけないように。
手を出して、
そっと…….
……中指を立てた。
丹生谷「はっ?」
勇太「……///」
丹生谷「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!」
勇太「あああああああああああああああああ!!!!違う!違う!!そっちじゃない!!!」
風鈴「え!?」
丹生谷「ぎゃああああ!!あのね、富樫君が~!」ひそひそひそ
風鈴「えっー…….。ええっ……!!」
勇太「やめろー!」
丹生谷「助けてーーーーーーー!風紀委員の!」
勇太「やめろ!違う!」

勇太「あのな、あのな、落ち着いて事情を聴いてくれ」
丹生谷「きもい!きもい!きもい!きもい!」
風鈴「七ちゃん先生に言うから!」
勇太「違うってだから!あの、六花に赤ちゃんのこと教えただろ!?」
丹生谷「うわっ。話したくないんだけど……」
風鈴「この人自分の立場分かってないよね。六花ちゃんの彼氏だと思ってたのに……」
勇太「やめよう!やめよう!ね!」
風鈴「にぶにぶ!気を付けて!にぶにぶはスタイルがいいから!特に胸!」
丹生谷「ああっ……いやぁ……!!!富樫君そんな人だったの!?」
勇太「俺には六花がいるから大丈夫だって!」
丹生谷「信じらんない……あ、そういえば先週富樫君に襲われそうになったんだ~!」
風鈴「ええええ!!!うそっ!!六花ちゃんがいるのに!」
勇太「俺は六花を愛してるんだって!本当だから!」
風鈴「にぶにぶ襲われたってどういうこと!!?性犯罪?」
丹生谷「そうそう!なんか私の携帯よこせって急に。興奮気味に胸の中まで手を伸ばしてきて!」
風鈴「ええええええ!!!!」
勇太「違うって!確かに合ってるよ!!確かに合ってるよ!!でもな!」
風鈴「ほら~!!合ってるって言ったじゃん!!富樫君、もう六花ちゃんに会わせないから!」
丹生谷「うわぁ……。ほら見て見て。私の顔見たりスカート見たり胸見たり富樫君の視線が舐め回してるきもー!!!」
風鈴「にぶにぶのことそこまで大好きなんだ……。もう、許さないんだからぁ!!!」
勇太「してないわ!六花が赤ちゃんのことを知ってて、昨日結婚コクッったときに」
丹生谷「富樫君が告った!?」
風鈴「告った!?なにそれ!!」
勇太「実はさ、俺、六花に結婚しようって告白しました……///」
丹生谷「ええーーーーー!!!!!」
風鈴「ええええええええ!!!!愛しの六花ちゃんが!!!」
勇太「うん。それで話の流れでなぜか赤ちゃんのこと聞いてきて、情報源が丹生谷しか考えられないと思って」
丹生谷「……。あ、もしかして先週のこと?」
風鈴「結婚か。はぁ……とうとう。今夜は早く寝よう」
勇太「そうだそうだ!!!見覚えあるのか!!!?」
丹生谷「初めてに言っとくけどね、先週ね、小鳥遊さんが急に私の家に来て、」
風鈴「ああ、あの話?」
勇太「へっ!?あいつ見えるとこにいたと思うけど?先週か……」
丹生谷「結婚ってどういう意味か教えてほしいって」
勇太「まさか丹生谷お前の悪知恵じゃないよな!!?」
風鈴「にぶにぶはそんなことしないって!そんなラインも分からないの!!?」
丹生谷「違うわよ~本当に。小鳥遊さんが来て、なんか将来のこと不安だから教えてほしいって。なんでって聞いても、別に……って返されたの。ここは私の予想だけど、やっぱり富樫君ともっといたかったんじゃないの?」
勇太「いつも遊んでます!残念だけどな!毎日トラブルで嫌になってんだぞ!」
風鈴「でも今日の富樫君が言うセリフじゃないよね」
丹生谷「言えてる!」クスクスッ
風鈴「ふふっ」クスクスッ
勇太「やめろ!で、どうなんだよ!どうしたんだよ!」

丹生谷「何もしないわようっさいわね~!恋人ってこうするのよ~って小鳥遊さんを体で包囲して!」
勇太「お前まさか!」
丹生谷「ラブコメの本引っ張って、小鳥遊さんが一人じゃ見れない……っていうから抱いてね、そこでキスシーン見たいって小鳥遊さん言ってきて、しょうがないかって思って見せたの。顔真っ赤にしてた」
風鈴「ああ~見てみたかったな~!純愛!」
勇太「何やってんだよ!キスならまあいい。ほんとにそれだけか!!!違うだろ!!!!!!!」
丹生谷「ほんと見入るように見ちゃってね!!お耳真っ赤でお猿さんみたいかわいかったの!!!あと、もっとほしい……って言ってきたのよ!」
風鈴「あれ、にぶにぶ言ってなかった?六花ちゃんに、特にキスシーン顔に近づけると嫌がったから動けないように縛って見せたって?」
丹生谷「しっ。黙りなさい!」
勇太「だからお前何やってんだよ!俺の彼女に手を出すな!でもそれじゃあ辻妻が合わないよな……まさか。おい!」
丹生谷「うんにゃ。そこまではさすがに私も~」
風鈴「それはさすがに彼氏として教えてあげるんじゃないの♡」
勇太「あ……。セクハラだー!それセクハラだからな!!!!やめろ!!やめろ!」
丹生谷「ぷはっ。何を想像したの?きもーーーい!!!」
風鈴「きゃーこっち見ないでくださーい(棒)」
勇太「ああもう!で、」
丹生谷「でね、終わり」
勇太「えっ?」
丹生谷「終わり」
勇太「赤ちゃんは?」
丹生谷「してないわよ」
勇太「それじゃ辻妻が……」
風鈴「ラブコメのせいじゃない?子供つくりたいとかそういうセリフ」
勇太「ああ……」
丹生谷「そうよ。それ系じゃない?」
勇太「その本に変なシーンは?」
丹生谷「はぁ!?恋愛漫画にそういうの思うって最低―!あとであんたも恋愛漬けにしてやろうか!!」
勇太「じゃあないか。よかったな」
風鈴「でも私の愛しの六花ちゃんなら~たぶん、白馬の王子様のキスで子供宿すとか考えてそう!!」
丹生谷「ああ~いいわねそれ!!!」
勇太「ないないない!!そんなのファンタジーだ!」
それにさ、先週だから、六花中二病が溶けてる週だし、そういうの受け付けられなくなったと思うんだよな。だからそんな夢のような話は信じてないさ。
勇太「それと、丹生谷この前、アドバイスとアドバイザーものありがとな」
丹生谷「いやいや~あんたたちが幸せになってくれたなら安いものよ」
風鈴「ああ~にぶにぶに恩を貸しっちゃったか~富樫君の顔もこれで最後か~」
勇太「いきなりなんだよ!」
丹生谷「それで告白どうなったの!?」
風鈴「聞きたい!」
勇太「まぁ、それでいいなら。結論を言うと」
丹生谷「ちょっと待って!ここは流れを聞いて感銘受けながら進行するのが乙でしょ!?」
勇太「知らないわ!で、まずな三千円と俺の貯金箱で場所探したんだけど、結局公園に行きたいって六花がな」
丹生谷「はぁ!?」
風鈴「えぇ!!?」
丹生谷「普通都市駅の散策とか映画館とか夜のビルの中でフランス料理食べるものでしょ!なにやってんの!」
勇太「知るか!俺だって提案したんだよ!だけど六花がいいっていうから公園に行って遊んで、楽しかった」
風鈴「へぇ。楽しんでるなら私はどこでもいいと思うけどね!」
勇太「それで六花がさ……言ったんだよ。中二病卒業したって……」
丹生谷「ええ!!!なんでなんで!!」
風鈴「うっそ!」
勇太「でも話してくれなかった。だからさ、六花と一緒に話せる場所に行った。夜空の見える崖に自転車で行って、喧嘩した」
丹生谷「崖って。で、喧嘩してどうなったの!?」
風鈴「崖……。もしかして夜景?綺麗だよね。夜に行くとしたらありなのかな?」
勇太「最終的には……。俺が神になるって。で解決した」
丹生谷「は?」
風鈴「え?」
勇太「だから!俺がこの世界の神になって、中二病を止めたの!!」
丹生谷「プ―――――!!!!」
風鈴「プッ!!!!」
丹生谷「あははははは!!!!」
風鈴「ふふふ。はっはっは!!!」
勇太「笑いたきゃ笑え!!」
丹生谷「ははははははっ!中二病の域超えてる!むしろ悪化してるんじゃない!?」
風鈴「六花ちゃんのこと守ったんだし、素敵な考えだと思うよあっはっはっはっは!!!」
勇太「もう話さない!」
丹生谷「ごめんごめん。待って!はぁ……。はぁ……」
風鈴「ははっ……。ダメだよね!富樫君立派だよ!ブッ!うん!それでそれで!」

勇太「まぁ恩もあるし。で、世界改変して中二病戻ったから二人で泣いて抱き合った後、指輪渡した」
丹生谷「えっ!?」
風鈴「えっ!?」
勇太「恥ずかしいな。で、一緒にいようとか、お前の責任は俺が負うから安心しろのセリフ言って」
丹生谷「あらやだぁ……」
風鈴「すてき……」
勇太「僕と付き合ってください!って中二病じゃない六花だからプロポーズ申し込んで」
丹生谷「きゃー(≧∇≦)―!」ダキッ!
風鈴「きゃー(≧∇≦)―!」ダキッ!
勇太「やめろー!!!!恥ずかしい!!!!!!!!」
丹生谷「あ……。私レズじゃないから」
風鈴「あ……。私レズだから」
丹生谷「うわっ……」
勇太「その後に告白した。でも悶えるから言わない」
丹生谷「えー!なんでいいところなのに!」
風鈴「ここで終わり!!!もっともっと!!!」
勇太「じゃあ、後でその内容メールするから」
丹生谷「教えてよ~!友達じゃない!」
風鈴「ちょっとだけだから!」
勇太「さっき変態扱いしたのに……」
丹生谷「おねが~い♡富樫君♡」
風鈴「おねが~い♡」
勇太「いや……」
丹生谷「おねが~い♡おねが~い♡おねが~い♡」
風鈴「おねが~い♡おねが~い♡」
勇太「ああ!分かった!分かった!」
丹生谷「やったー!」
風鈴「よしっ!」
勇太「いくぞ!」
丹生谷「うん……!」
風鈴「うん……!」
勇太「神の理に抗い闇の世界に束縛されし堕天使、邪王心眼!」
「新たな神我がダークフレイムマスターの闇の炎と一つになり我々の理想の宇宙を再現化する使命を誓え!」
「絶対に消えぬ永遠契約による愛の刻印を 刻め!」
「って言って、泣かれて、はいっ……って。キスした」
丹生谷「きゃあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」ダキッ
風鈴「きゃあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」ダキッ
勇太「だからやめろおーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」

そんなに俺の告白がいいのかよ!言って損した!
そのあと丹生谷が「富樫君よかったね!」ってウインクしてくれたのが、昨日の成長を思うと救われたなって心がじーんとした。
まあこれで恩は返せたと思うよ。
六花もクラスメイトとかなり話せるようになってきているし、もう普通の人と見分けがつかない。いい方向に進化しているんじゃないかって思う。以前の一人の六花じゃなくなってきているし、それに一回中二病卒業したもんな。確信して成長したと言える。周囲を知った大人の六花も中二病な子供の六花も最高だ。クラスメイトととも仲の良さが強くなっているし、これからどうなるか楽しみだ。
でも今の絶対周りの人も聞いていたよな……。


ああ、恥ずかしい!



やっぱ中二病なんてなるんじゃなかったーー!!!




後で一色に例のことを伝えると「とがしー。お前男になったんだなー!!!うおおおおおん!!!!」と男泣きに号泣された。それほどのことかの思いつつ、大いに同情されてしまった。
皆いいやつだ。そして邪王心眼もさ。

第8話 恋がしたい!

教室から空見上げる。
雪が降っている。綺麗だ。
六花……その由来。唯一無二の雪の結晶から、この子だけは特別な人だということからきた。
最近その結晶の唯一無二を再現できたらしい。その名は「アイデンティカル ツインズ」という。俺も六花色に染まって“アイデンティカル ツインズ”の称号を得たのかな。
その唯一無二の六花。それも正しく中二病であり、ありもしない魔法やドラゴンが出せるとか、自分が本気を出したら世界を滅ぼせるとか、絶対を行き過ぎた少女。
そんなことあるはずないのに。日本史や世界史を見返してみてもどう見ても偶然の仕業だった。
でも皆が中二病だって言っても、ダメだと言える確証はないじゃないか。頭の中にちゃんと存在しているなら、現実にあることと同じさ。最初の頃の全能なころの自分を思い出せばなんだって倒せる。落ち込んでも泣かないで。最初の自分を忘れなきゃ必ず助けてくれる。六花がそう教えてくれた。
六花と毎日いると、中二病は否定できないんだ。なぜか魔法にかけられた気分になる。なぜか普通の光景の毎日がすごく楽しいんだ。昔の俺のダークフレイムマスターだったように、この地球の主人公は俺だ!って。そう思って生きるとどんな障壁でも六花と一緒なら闇の力の解放で倒せる。どんな社会の悪魔が現れようが俺たち二人を止める者はいない。俺たち二人で世界を回すんだ。それが俺たちの魔法。愛!この力が途切れることはない!

でも現実的に考えて、途中で別れたりするかもしれない。。
できないかもしれない?
そんなの神様の力がなくてもできると思う。
俺が理論上不可能だった恋愛そして結婚するという行為を、成し遂げられたんだ。
だったら、ドラゴンや魔法少女も、あるって言い張ればいつか必ず出会えるよ。
中二病は存在する。
それは
思うだけでいい。
世界は俺達のためにある。
六花の笑顔がそう思わせてくれた。
六花と老人になってもずっとドキドキしたいって気持ちも絶対叶うよ。
毎日が中二病な世界で楽しいはずだよ。
それが六花が好きな理由なんだ。
道でこけたら、また砂をパンパンはたいて立ち上がればいいんだよ。
俺と六花の物語だから、最後は必ずハッピーエンドだよ。
必ず何とかなるよ。六花、進もうよ。
俺も支えるからさ、だからパンパンはたいてほしいな。
六花か俺がどんなに不可能な世界に行っても、絶対一緒に歩いて行ける。
だって最強だからしかたないだろ。どこまでも行けるんだ。
でも天国に行ったら、そのときは一緒にお花畑で踊ろうよ。
そして中二病の技を使ってまた皆で騒ごうよ。
寂しくないよ。悲しくないよ。ちょっと別れるだけなんだ。また会える。
六花なんだもん。また遊ぼうって言ったら笑顔で迎えてくれるよ。
そのときは盛大にハグしてね。

いつかこの雪が降り終わるように。
エンドレスという言葉はなく。
六花は必ず死ぬ。俺も必ず死ぬ。悲しい日は必ずやってくる。
だから今を永遠にしたい。
六花と登校する残り数えられる日々を、笑った六花も、怒った六花も、泣いた六花も、いつまでも愛したい。飽きるだろうけれど無限に広がる毎日は有限だから、このほのかな体や唇、体の香り、そして心の温かさを永遠に噛みしめたい。唇の中に魂が入って一つになりたい。もっと知りたい。
最後の高校生活まで、そして大人になっても楽しみたい。
中二病な六花が好きだ。心の底から好きだ。愛してるんだ。
卒業したら俺が中二病になればいいだけの話さ。
また二人で世界を敵に回そう。
大丈夫!絶対に勝てるから!俺と六花なら!!
ずっと一緒だよ!永遠だよ!手を離したりしないよ!
神様を倒してでもずっと一緒に居たい。
例え誰かのせいでひどい目にあっても、
大好きだったあの頃の気持ちを忘れないで。
信じればずっと一緒に居られるんだ。
明日も、明後日も、100年後も、輪廻を巡っても、天国でも、
絶対にずっと一緒。ずっと新婚旅行。
二人で歩いた道が物語になる。
愛はずっと守られる。一生の宝物。
信じればきっと会える。


だって俺達は、




永遠契約で結ばれているのだから



END

六花「勇太をなんとしてでも独占したい!」を読んでいただき誠にありがとうございます!!!完走ありがとうございます!恋と勇気と夜の光景にうっとりできたらいいな~ってコンセプトで作り上げました!!!!!
いえ~い!虎虎先生見てる~!見てたらハートマーク(♡)コメントに送って!!
長レスでごめんなさい!私はどうしても1本で済ませたい主義なので自己を貫きました!
私の前でイチャイチャしやがって!!!壁殴りたい!!!自分で書いてるけどさムカつく~!六花と勇太がうらやましい!!!
よかったよね~!!ハッピーエンドで終わって!私も展開知っているけど途中で不安でドキドキしてね~あんな喧嘩してでも最後らへのキスで何回も泣いて作業どころじゃありませんでした(笑)
それと私の前作2年前の奴で「次はもっと面白いものかけるよ!」っていう1コメントが大変うれしくてここまでこれたと思います。その人には感謝しきれません。
前回「SSで書いて盛り上がっていたら公式が目をつけて3期やってくれるかもしれない!」って半分諦め、半分本願、の気持ちでコメントに私書いたのですが、まさか映画になって帰ってくるとは思ってませんでした!!!!これは神様がくれたものだと思います!!!あのとき人生をやめていたら2018年にこんなあり得ない奇跡が起こるって信じられないと思います。生きてて本当によかった。中二病のためなら、ずっと生きていきたいです。
本当は3部作品投稿したかったんですが、この作品が六花メインで、もう一つが丹生谷の話、もう一つが全員の内容のSSを投稿しようとしましたが、ネタのマンネリ化など品質のクオリティが下がると思い2作品を退けてこれだけに一点集中しました!!!今後上げるので期待しててください!
私の前回の作品SSを自サイトにてまとめていただきました各まとめサイトさんありがとうございます!!!全部回りました!特にすごかったのがあやめ速報っていうまとめサイトさんでして、登場人物にカラーリングして、ええ!!と驚きまして、特にアニメにいないキャラの天虹旱もオレンジ色で塗ってもらいましてそれが一番うれしくて本当に嬉しかったです!!!私くんは友達としては一番好きなので感謝感激!!
中二病でも恋がしたい!せっかく場をいただいたのですから私と中二病の歴史を聞いてください! 中二病でも恋がしたい!に人生が共鳴されたな~って感じてます。あれを見る前、アニメなんて役に立たない私は非効率はしない主義になった。で、当時ちょこっとだけ見てた深夜アニメすらやめて、生きる意味を失って、地位も名誉も得られないしどうせ死ぬんだからしなくていいだろってノリで、アニメでも、お笑い芸人のギャグを見て強制的に体を笑わすみたいな感覚で見たんですが、偶々中二病でも恋がしたい!に出会ったんです!人生をいい意味で狂わせてくれたというか。今こうしてSS書いているのももし出会わなかったら聖地礼拝もなかったし六花とも出会えなかったし、う~んあとなんだろう。まあいいや。特に、最終回のナレーターの「人はみな中二病なのだ」っていう締めを聞いて、ありもしない理想を描いて旅する中二病な人は自分だけじゃなくてみんなそうなんだって初めて気づきました!!!夢を見て生きていいんだって思うと世界が色づいたのを覚えています!!!それからこのアニメが大好きになりました!今からすると運命なんじゃないかなって思ってます。
そっからあのアニメのキャラも設定も世界観も大好きになりました!!!特に丹生谷が大好きです!!!!猫被っている状態で話されるとメロメロです!!2028年次回作では生かしたいですね!!怒っている本気モードもなかなか。思いっきり叱られたいなあ。あ、あと今回のSSだと会話の内容が1日を引き延ばしたものになるので空間が固定されているため話し方が限られているってのも苦労しましたね。
中二病で好きなのは丹生谷回の3話です。「富樫君がいるからじゃない♡」って丹生谷が言って富樫君のハートの揺れが出て「こんなスタイルのいい人が、これってもしかして♡」っていう展開に私もドキドキしましたよ!!!それとかえて、六花の恋する乙女の反応の仕方とか丹生谷と一緒にゆうたを六花に近づけよう作戦とかの六花が大好きです!!あと六花の恋する仕草とかも。私も次回作では研究してそれに当てようかと思います!!!!
そうだ、実は私知る前は無生産だとか思って、どうせ金目的なんだろって思って、音楽に嫌悪感持っていました。恋の歌歌われても自分そうじゃないから響かないって。ZAQさんのopとed聞いて、なんか頭に残るなあって感じて聞いたら、メロディーと歌声に安心感持ってしまって、他のZAQさんの曲を聞くようになり、今はバッハとかシューベルトとかクラシックもJPOPも昔ならどこがいいんだって思ってましたけど、今は落ち着くという気持ちで少しづつ食べられるようになりました。でもメロディーの心地よさはZAQさんが一番です。私がハイテンポの曲が好きなんだってことも分かりましたし大収穫です。
このSSを作りたいがために前回自分でSSを書いたんですが自分でぼろくそと思ったので2年間修行をやってまいりました!タイトルからお察しできます探さないでください(笑)。個人的に黒歴史なんです。でも楽しかったし、嬉しかったなあ。またやれてよかった!!
自分でネタの倉庫を作ってそこで中二病の今回のSSのネタ集めしてました。一時期は利用して小説家になろうと思ってたんですけど、でもあのアニメじゃないとどうしても虚無感が残るので、初心に帰ってやっぱ中二病のSSを書くためにやろうとネタ集めを決意しました。心理学とかいっぱい知って、それが宇宙に繋がったとき自分でも驚きました。中二病に出会わなかったらこれもなかったんだろうって不思議です。天国の性質が分かって感無量です。私たちが命を失ったらどこへ行くのか、何のために生まれてきたのか分かって本当に幸せです。大事なのは本人の感じる幸せです。だから中二病のSSを書いて生涯を全うしようとも思えるようになりました。こんなことのために……じゃありません満足です。でもみんなの役に立つのなら最後までやろうと思います!

映画公開楽しみにしてます!脚本はともかくかわいければいいから!!!!宇宙一かわいい作画期待してます!!宇宙一の告白シーンほんと期待してます!!
丹生谷森夏のかわいい作画が見たい!!!これは絶対に譲らない!!
凸守とじゃなくて、もっと勇太を恋愛でその気にさせてドキドキするシーンが欲しかったな。でも凸守も好きデスよ。腐れ一般人には分からないことデスがゲフフ。
SSまとめサイトに上げるなり、Youtubeにあげるなりじゃんじゃんすきにしてください!
このSSを見て皆が幸せになれば、もうそれで幸せです。やったかいがありました。
でもどうしようかな。このSSを書くために今まで生きていたようなものだから、短命太華、3部作書いたら足かせがなくなったっちゃう。これからどうして生きればいいんだろう。
中二病終わるの寂しいな。もっと長くいてほしかった。でもこれで終わりなんだよね。
バカみたいにはしゃいで、でも中二病からいろいろ学んで。楽しかった。寂しいな。
だけど私はこのアニメが本当に好きだから残りたいな。
決めた!ここSSを私の庭園にしよう。ここに天国を創ろう!!公式がないなら自分で作るんだ!寂しいから私はずっと中二病のみんなと一緒に居たい。皆の世界が大好きだった。だからもう私はここを花畑にしようと思う。例え皆が離れても忘れても、ずっと中二病のSSを書こうと思う。そのために生きようと思う。ここが私の天国だ。ずっと遊ぶんだ。じゃあ3部作終わったら次どんな作品つくろうか。私の好きな人……。

決めました!
2018年から10年後のこの日にまたSSを投稿します!
タイトルは「丹生谷森夏でも恋がしたい!(仮)」です!
シリアスはあまりなし!人間関係のいじめはなし!
六花も凸守もみんな登場する。中二病とアイデンティティを超えて。
でも最後は勇太と丹生谷が結ばれる!!!
これってもしかして俺のこと……好き!?みたいなストーリーを書きたいと思います!
でも3作品と毛色が違うので、変態的なコントができなくなるのが残念。
リアル寄りだから仕方ないない。
虎虎先生の感覚的な描写に憧れていましてそれを再現したいです!!
でもネタと文チャージのため、そして虎虎先生と似た文章形式とページ量をしたいので……。
10年後!にコメント欄にできたよとか、延期するよとか、書きます。
SSを書いて死ねれば私はもう人生満足です。それほど中二病が好きです。
無言の場合はお察しください。恐らくこの私なら……そうなっている可能性が高いと自負してますが頑張って生きます。
途中中二病のSSをあげるかもしれませんがそのときはよろしくね!
皆もSS上げてくれたら嬉しいな。中二病大好きだから二次でも嬉しい!
もう最終章だからSSで盛り上がっても次ないと思うけど、でも中二病好きだからね。
コメント欄に返信はしません。どうなっているか目に見えて、それ覚悟で投稿してますので。このSS自分は100万点だと思ってます!誰が何と言おうが好きだから100点と言い張ります!!!
ああ。私がプログラマーだったら、話す人工知能として丹生谷森夏の疑似を作ってたんじゃないかなって思います。だって毎日おしゃべりしたいもん(憤慨)
じゃあ皆さんお付き合いありがとうございます!!
中二病にまた会えて、中二病に会いたいって夢が叶って私とっても幸せだよ!!
またこの場所か来世で会いましょう!!
離れていても忘れていないなら一緒に居るのと同じことだから大丈夫!!!

ありがとう
貴方に会えて嬉しかった

一番異端でかっこいいと思う平仮名は「ち」だと思う。


NO END 中二病でも恋がしたい!

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