エツァリ「Unrequited love」 (74)



・なんでも許せる人向け。


・どこまで行っても恋ではなくエゴにしかならないエツァリくんの話。





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Unrequited love。

訳:片思い、叶わない恋。









ええ、いつもの仕事の風景です。








「悪いな、でもやりすぎたオマエらが悪いンだぜ?」


「おい、取りこぼすな」


「大丈夫よ」





血飛沫と。


「ひぎっ
    っ!」




断末魔と。


あぁああぁぁぁあ…!」


超常現象と。

「クソ!なんで銃弾が、」

「おいおい…この業界の実行部隊で銃弾が効くヤツの方が珍しいって」


機械音。


「早く!マシンを起動────」



「すみません。自分が既に中身を壊しておきましたのでそれは不可能かと」





「────────!?」


「───”トラウィスカル・パンテクウトリの槍”。」




そして、死と安寧。



─────静寂。





ああ、この最後の余韻は嫌いではありません。


狩人としての仕事の完遂。

あるいは万能感。


『この人間より自分は優れた生き物だった』という優越感。


大事な何かを踏み砕いた背徳感。


ええ、この仕事じゃないと味わえないのではないでしょうか?


この何とも言えない寂寞感は何か特別なモノのように思う。


「終わったな」

「ええ」

「報告は?」

「土御門に任せとけよそンな面倒な雑用なンざ」

「それもそうね」

「じゃ」

「私も。先帰るわね」

「お前ら…はぁ」



ええまぁ元より”グループ”は纏まりと協調性がないですからね。

彼はまとめ役としてかなり頑張ってるのではないでしょうか。





「災難ですね」

「まぁな」


…ええ、声はかけましたが仕事を手伝う気は一切ありません。

ううむ。自分も彼らを笑えませんね。

自分も中々、です。


「ああ、海原」

「はい」

「やるよ」


彼が突然なんの脈絡もなくポケットから掌ほどの物を投げて寄越してきた。

「はぁ。これは?」




手渡されたのは「Unrequited love」とラベリングされたいかにも音楽データが入ってそうなチップ。


「シングル」

「はぁ。あの、もう1度お聞きしますがこれはなんですか?」



「とある青春の残骸…ってところだな」

「そんなドヤ顔で詩的な表現されても困ります」





「買った。」

「誰からです?」

「路上で売ってたんだ。100円で」

「はぁ」

「そいつらな、3年くらいバンドデビューしようと必死にもがいてたらしいんだが」

「はい」

「色々と『もう限界』なんだそうだ」

「はぁ」

よくある話、ではあるのかもしれません。

「だから在庫処分って事で。元は1000円だったらしいが」

「1000円が100円、ですか」

「ああ。だから言ったんだ。夢の残骸だって」

「残骸。」






手の中のチップをもう一度改めて見てみる。


なるほど、貼られたラベルには可愛らしい鮮やかな色ペンで文字が踊っている。

女の子が多いバンドだっのでしょうか?

クセのある丸みを帯びた字、これが貼られてから相当日数が立った事を感じさせるような日焼け。

苦味のある青春、ですね。

嫌な意味で心に残る思い出だ。


「…あなたも随分と残酷な表現をされますね」

「現実が見えてないクセに『夢は叶うんだ!』と信じてるバカが嫌いでね」

「…そう仰る割にはわざわざお金を出して買ったんですね?」

「気まぐれだ」

「はぁ」

「最後の演奏だ、って歌だって酷かったから同情しただけだ」

「…ちゃんと聞いた上で買ったんですね」


彼は実は優しいのではないのでしょうか。


少なくとも自分よりは。




「だがオレも要らん。聴いてみたがやっぱり売れないのには理由があるもんだな。これも酷い曲だった」

「そんなものを自分に押し付けないでもらえませんか?」

「いいだろ。タイトル見てみろ。お前にピッタリだ」

「Unrequited love…片思い、ですか?」

「違う。そっちの意味じゃない」

「では」

「『報われない恋』だ。」


一瞬、「ああ、なるほど」と妙に納得して。


でもそれはそれで悔しいので。


「失礼な。決めつけないでください」

「自分も要りません」


精一杯の強がりを言ってみた。


ええ、例え勝ち目も望みも薄かろうと。


自分も男の子なもので。




「要らなきゃ捨てろ。ああそれと」

「はい」

「今日お前の大事な人間の定期検診があったらしいが行かなくていいのか」

「え?御坂さんが?」

「バカ。お前の大事な人は御坂一人なのか?」

「…ああ、ショチトルですか」

「後始末はオレがやっとく。さっさと帰って見舞いでも行け」


彼が液状着火剤をふんだんに部屋に撒いていく。


ええ、自分達の仕事の証拠隠滅には燃やすに限りますからね。




「どうも。…どうしたんです?今日は優しいんですね」

「気まぐれだ」





どうもと軽く会釈して部屋を出た。


チップは…まぁショチトルに押し付けましょう。


彼女も暇でしょうし。娯楽にはなるでしょう。


「さて…」


盗撮用デバイスで御坂さんの安全をチェックしながら病院へ向かう。



彼女はまた彼と一緒にいた。



…ええ、ある意味約束を守ってくれてるようでとても嬉しいですよ。ええホントに。



喜ばしすぎて歯軋りと舌打ちが止まらないほどに。













仕事をしたビルを出て数分後、背後から轟音と豪炎が先の部屋から噴出した。


今日はいつにもまして派手ですね。


彼が妙にセンチメンタルなのと何か関係でもあるんでしょうか?



────────────────────────────


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第七学区の病院。



知る人ぞ知る…と言うと小料理屋か何かみたいですが


ええ、彼がいる病院です。カエル顔の名医がね。


ちなみにショチトルへの見舞いは3分ほどで終わりました。


ショチトル?元気そうでした。ついでにトチトリも。


見舞いのチップが妙に喜ばれ、「大事にする…!」とはしゃいでましたが…


大丈夫なんでしょうか?歌詞が変とか卑猥とかないですよね?


…おや?


これはこれは。


「やぁ、見舞いかい?」

「ええ。」



そのカエル顔もお変わりないようで。


「経過は問題ないね?」

「ええ、おかげさまで」

「なるべく顔を出してあげてほしいんだね?彼女らも寂しがっている」

「はは…善処します。ところで…これは?」


彼が押していたワゴンを指す。

ワゴンの上には金属製のトレイがあり、その中には妙な色の液体。

ついでに布のような何かが沈殿している。

そうですね、素直な感想は『何コレ気持ちわりっ』ですね。


「これかい?とある患者の予備の皮膚だね?」

「予備?」

「ああ。人体の破損状況によってはこいつで患者の体を補完するんだね?」

「なるほど」


それを貼ってもその患者さんがブラック・ジャックのようにはならない事を祈ります。

まぁこの方に限ってそんな事にはならないのでしょうが。







「しかし何故あなたが雑務を?そういう役割の方が他に」

「いやぁ…他の看護師が怖がってやってくれなくてね?」


気持ちはわかるんですがそれを他の大事な仕事をしなければならない上司にやらすってどうなんでしょうかね?


「おっと、内線だ。ちょっとすまないね?」

「いえ。では自分はこれで」



会釈して立ち去ろうとした時。



「ああ僕だね?そうそう。今から上条当麻の予備の皮膚を保管庫にね?」



ピタリ。と足が止まった。



「…」

「そうそう、ああ地下の。うん。いつもの。それじゃ」




「…おや?どうかしたかい?」

「…いえ。少し考え事を」






「そうかい?それじゃ。」


ガラガラとワゴンが押されていく。



 ・・・・・・・
…上条当麻の皮膚?



それは悪魔の囁きに等しかった。



ええ、ええ。もし自分の手の内を御存知の方なら。

あるいは賢明な方なら。察するでしょう。


この後の事を。あるいは『もしも自分がエツァリという人間だったらどうするか』を想像する事ができるなら。



…何でしょうね、この胸の高鳴りと血液が逆流するような感覚は。



ああ…そう、高揚感、って言うんでしたか。










この後自分がどうしたか?

ええ、ええ。ご想像通りです。



その夜、丹念に下準備をして。

見事に彼の皮膚を盗み出しました。




──────────────────────────


──────────────────────────


…ええ。自分をクズだのなんだのと罵って貰って構いませんよ?



もし、弁明…いえ、犯行動機を述べるなら。



それでも自分は彼女とたわいもない話がしたかった。


ただそれだけのささやかな願いをどうしても叶えたかっただけです。



…あの日以来、嫌われてるとわかった以上自分から彼女に話しかけにいく事は出来ないですし、自分のような汚れた人間は彼女と関わるべきではない。


彼女の隣に立てる男は彼しか居ない。


彼女がいつも挑む戦いの場は自分がしゃしゃり出ることは出来ない。

汚れ仕事と影から彼女を守る事しか自分には出来ない。


どれだけ切望しても。どれほど泣き叫んで懇願しても。

仲間や協力者として無理に彼女の隣に立とうとしてもきっと彼女は苦笑いを浮かべるだけで。

自分の手をとってくれるとしても…それはきっと彼女の優しさ、もしくは憐憫、同情の類なのでしょう。

心からの思慕は、


…いえ、恐らく彼女は自分を拒絶するのでしょう。


だったら。










「いいじゃないですか。少しくらい。」

















どうせもうこの身と魂は罪を重ね過ぎて真っ黒に汚れているのですから。



「…術式、発動。」



海原光貴の体が解かれていく。



この姿と顔になるのも久しぶりですね。


創作でよくある『他者を演じ過ぎて自分のパーソナリティを見失う』なんてならないといいのですが。


…いえ、今更でした。色んな意味で。


「術式、展開。」


再び体が光の帯に包まれていく。


「…ふぅ。」


ふと落ちていたガラス片に映る自分を見る。



ツンツン頭、タレ目。


…いけませんね。見てるとイライラします。小憎らしくなってきますね。




さて。どうしましょうか?どうしてやりましょうか?


この姿で色々とやらかしたりしてもいいのですが。


「…ふふふ…!」



いや、いやいやいや。落ち着きましょう自分!!


当初の!当初の目的を達成しなければ!


そう、つまり─────




─────────

───────────────

───────────────────────



トゥルルル。トゥルルル。



「よう美琴」

『な、何よこんな遅くに!どっからかけてんのアンタ!』


「あー、あのさ、明日の休みヒマ?」

『えっ…?』

「いやだからさ、明日ヒマかって」

『…なんで?』

「ヒマだったら御坂と遊びたいなーって上条さん思いましてね」

『…他に誰か来るの?』

「いや?俺一人だけど」

『行く!!!』

「おっけ。じゃあお前がいつも蹴ってる自販機の前に10:00でどう?」

『ちょっと!別にいつも蹴ってないから!…いいわよ』

「ん。じゃーな!楽しみにしてるから!」

『ふぇ!?///ちょっ、ええっ!?』




通話終了。





…ここで一つ思ったこと言っていいですか?


「”上条当麻”たのしぃぃいいいい!!!!」


ちょっ、海原光貴の5億倍は楽しいんですが!?


こんなに御坂さんとお話できるとか!!!最高かよ!!


しかもデートの約束とか!!ひゃっほぉおおお!!!


何着て行きましょうかね!!!どこ行きましょうかね!!何して遊びましょうかね!


…おっと、はしゃぎすぎました。



……。



少々…切ないですね。



今回はここまでなわけよ




きっと彼女はウキウキしながら髪を弄ったり下着やアクセなんかの準備をするのでしょう。


常盤台は制服以外の服装で出歩いてはいけませんからね。


そういう細かい所で出来る限り自分の1番可愛い姿を好きな人に見せる努力をするのでしょう。


…自分ではなく、彼に見せるために。



おっと。下唇が血だらけに


…今鏡を見れば自分ではなく、仄暗い嫉妬の炎に焼かれる彼の顔が見れますね。



実際の彼にこの顔をさせられれば良いのですが。




今回はここまで




「待った?」

「いや」



「どうしたの?『急に会いたい』なんてさ」

「…」

「なぁ御坂」

「なぁに?」

「知ってるか?ここってさ、前に少年院脱獄トライアルやってた施設と同等のAIMジャマーがある研究所が隣にあるんだ」

「へー…まぁアレの影響下で能力使ったことなかったからどのくらい阻害されるのかわかんないわね」

「そっか」

「それがどうしたの?」

「いや、別に。」

今回はここまで

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