ダイヤ「聖なる献身」 (102)

~部室~




千歌「――みんな、久しぶり」

鞠莉「……」

曜「…うん、久しぶりだね」

梨子「意外と集まった…わね」

果南「…でも、全員ってわけじゃないよね」

千歌「まぁ…そうだけど……」


鞠莉「ルビィはやっぱり……」

花丸「あれからずっと学校にも来てないずら…」



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善子「定期的にずら丸と一緒にノートを届けに家に行っているんだけど…本人が出てきた事はないわ」

花丸「部屋にずっと引きこもっているんだって…」

鞠莉「そう…」

果南「流石に立ち直るには時間が掛かるよね…私達もまだ厳しいのに、妹のルビィじゃ……」

曜「まだ…遺体は見つかっていないんだよね? だったら――」

梨子「フロントガラスを突き破って崖から海に落っこちたのよ? 間違いなく即死だったと思う…」

花丸「ルビィちゃん……ずっと自分を責めてる。『あの時ルビィがお茶をこぼさなければ、お姉ちゃんはシートベルトを外さなかったのに……お姉ちゃんを殺したのは自分だ』って」

善子「でもさ……曜の言う通り、遺体が見つかってないなら生きている可能性だってゼロじゃないわよね!」

果南「……昨日、事故現場付近の海岸で人間の左腕が見つかったんだって」

曜・善子「「!!」」

千歌「まさか…その腕って」

果南「…うん、間違いなくダイヤの腕らしい。事故の時に切断されたってことだよね…」

曜「じゃあ…ダイヤさんは……もう…」

梨子「あの事故から二週間以上も行方不明となると生きている可能性は――」



千歌「その話は一旦そこまでにしよう」

曜「千歌ちゃん…?」

千歌「みんなに集まってもらったのは…今後のAqoursの活動について決める為だよ」

梨子「Aqoursの活動…」

千歌「本戦まで時間はまだあるけれど、このメンバーでラブライブを目指すのかどうかを決断しないといけない」

千歌「このまま解散するのか、8人で出場するのか。みんなはどうしたい?」


鞠莉「私は続けるべきだと思う!」

果南「私も鞠莉と同じだよ」

鞠莉「ここで辞めればダイヤは絶対に怒る。こんな形で解散するなんて望んでいないハズよ!」

鞠莉「みんなで優勝して……ダイヤの生きた証を残したい!」


花丸「マルは…今は決められないと思う」

曜「どうして?」

花丸「マルだって続けたいと思っている。でも、ルビィちゃんは? ダイヤさんのいないAqoursをどう思うかな…?」

鞠莉「それは…! …それは……」シュン

果南「……」

善子「まぁ…そうなるわよね」

梨子「ルビィちゃんが来るまで決定するのは無理だね…」

千歌「ルビィちゃん…――――」






~~~~~~~~~



黒澤母「――二人ともいつも来てくれてありがとうね」

花丸「いえ、お礼を言われるような事ではないですよ…怪我はもう治ったんですか?」

黒澤母「ええ、大丈夫よ。こんな怪我なんて時間が経てば勝手に治るから…」


善子「あの…ルビィさんは……」

黒澤母「……相変わらずよ。滅多に部屋から出てこないわ」


花丸「すうぅぅぅ――」

花丸「ルビィちゃーーーーん!!!! マル達に顔見せてくれるーーー?」




――シーン……




花丸「……ダメかぁ」

善子「そんなんで出てくるならとっくの昔に解決しているわよ」ハァ

黒澤母「ごめんなさいね。もう少しだけ待っていてくれる? あの子もきっと立ち直ってくれると思うから」

花丸「…分かりました。また来ますね」

善子「ルビィさんによろしく伝えておいてください」ペコリ

黒澤母「ええ、伝えておくわ。あ、帰り道には十分気を付けてね。ちょっと前に浦女の生徒が行方不明になったんでしょ?」

善子「気を付けます。ありがとうございました」


~夜~



ルビィ「――よし、完璧に書けた」


ルビィ(家の蔵から見つけたこの古い書物。ここには日本のとある地方都市で数十年に一度に行われる儀式について記されていた)

ルビィ(7人のマスターがそれぞれサーヴァントを呼び出し、持ち主のあらゆる願いを叶える聖杯を巡って争う『聖杯戦争』。これがこの地域でも古くから繰り返されている事が分かった)

ルビィ(所々文字が消えていて読めなかったけれど、周期的に考えて今度の聖杯戦争が行われるのは丁度この時期だった。聖杯戦争に勝って聖杯を手に入れれば…お姉ちゃんを生き返らせる!!)



ルビィ「召喚するための詠唱は覚えた。魔法陣も本の挿絵通りに書けた。後は間違えずに唱えるだけ…」

ルビィ「大丈夫、大丈夫。ルビィなら……出来る」

ルビィ「ふぅー………」グッ




ルビィ「――素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」






「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ」





『王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ』





ルビィ「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)」


「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)」


『閉じよ(みたせ)』






ルビィ「繰り返すつど五度。ただ、満たされる刻を破却する」






ルビィ「――告げる」

「――Anfang(セット)」

『――告げる』






ルビィ「汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に」






「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!」






ルビィ「誓いを此処に」



「我は常世総ての善と成る者」



『我は常世総ての悪を敷く者』






ルビィ「汝三大の言霊を纏う七天――」






ルビィ「抑止の輪より来たれ、天秤の守りてよ―――!!」

「抑止の輪より来たれ、天秤の守りてよ―――!!」

『抑止の輪より来たれ、天秤の守りてよ―――!!』



―――カッ!!






~~~~~~~~~



「―――…ほぅ、まさかこのクラスで召喚される日が来るとは…」


セイバー「サーヴァントセイバー、召喚に応じて参上した。君が私のマスターか?」


「その通りよ。バッチリお目当ての英霊を呼び出せて良かったわ♪」


セイバー「私がお目当てだって? 中々物好きなマスターだな……君ならもっと強力な英霊を呼び出せる触媒を用意出来ただろう?」

「知り合いの魔術師に相談したらね、これを渡されたの」ジャラッ

セイバー「っ!! なるほど」

「『これを使えば最強のサーヴァントを呼び出せる。あなたの勝利は約束されたわ!!』って言われちゃったらもうこの触媒を使うしか無いじゃない」ニッ

セイバー「やれやれ、いつの間にそのような評価が…」

「頼りにしているわよ、“ご当地英雄(ヒーロー)さん”?」





~~~~~~~~~



ルビィ「――ごほっ、ごほっ! せ、成功した…の?」


「サーヴァント、アーチャーです。本来の英霊とは少々異なる存在ではありますが、あなたが――」

「……えっ、る、ルビィ…?」


ルビィ「その声、その顔……うそっ―――」ジワッ



――ガバッ!



ルビィ「うあああああああああん!!!! お姉ちゃん、お姉ちゃああああぁぁぁん!!!」


ダイヤ「……ふふ、泣き虫なマスターですわね」ナデナデ

ルビィ「ごめんなさい! ルビィのせいで…ルビィのせいで!!!」

ダイヤ「……」





ダイヤ「……」キョロキョロ

ルビィ「……ぐすんっ。どうしたのお姉ちゃん?」

ダイヤ「…なるほど、私が召喚されたのはそういう事ですか」

ルビィ「?」

ダイヤ「ルビィ、この召喚の際に使用した触媒はなんですか?」

ルビィ「へ? 触媒??」キョトン

ダイヤ「サーヴァントを召喚するにはその英霊に縁のある聖遺物を触媒に用いる必要がありますわ」

ルビィ「そ、そうなの? 所々消えてた部分に書かれていたのかな…」

ダイヤ「今回はルビィが頭に付けているその髪飾りが触媒になったのでしょう。わたくしが召喚されたのはその触媒が原因ですわ」

ルビィ「髪飾り……お姉ちゃんがいつも付けてたこれが?」

ルビィ「いや、そんな事よりも! お姉ちゃんがサーヴァントになってるの!? 英雄でもないお姉ちゃんがどうして……!」

ダイヤ「…ええ、わたくしは英霊ではありません。とある英霊の魂と融合した結果、召喚されました」

ルビィ「とある英霊って?」

ダイヤ「今は言えません。知らない方がお互いの為です」

ルビィ「むぅ……」


ダイヤ「さて、サーヴァントを召喚したという意味……あなたはしっかりと理解しているのですか?」

ルビィ「うん。聖杯を勝ち取って、お姉ちゃんを生き返らせる。まさかそのお姉ちゃんがサーヴァントになるとは予想外だったけれど」

ダイヤ「よろしい。ならば、わたくしはマスターであるあなたを勝利に導く為にこの身を捧げましょう」

ルビィ「あ、でも戦うって事はお姉ちゃんが危険な目に……」

ダイヤ「それはお互い様でしょう。ルビィが気に病む必要はありませんわ」

ダイヤ「ルビィはわたくしが守りますわ。いざという時は任せなさい」

ダイヤ「ただ――」ボソボソ

ルビィ「え? 何か言った??」

ダイヤ「いいえ、なんでもありませんわ」

ルビィ「?」キョトン



~~~~~~~~~



~翌朝~




ルビィ「……んぅ……」


「――ビィ、――きなさい!」


ルビィ(うるさいなぁ…昨日は遅くまで起きてたんだから寝かせてよぉ……)ムニャムニャ




ダイヤ「起きなさい!!! 何時だと思っているのですか!!!?」グワッ!


ルビィ「ピギィ!!?」ドシーン!

ルビィ「いたた……何もベッドから落とさなくてもいいのに…」


ダイヤ「もう8時を過ぎているのですよ!? このままでは遅刻ではありませんか!」

ルビィ「遅刻ぅ? 何に遅刻するっていうの?」

ダイヤ「はい? …まさか、わたくしが死んでからずっと学校に行っていないのではありませんわよね……?」

ルビィ「それはまあ…儀式の準備で忙しかったから最近は不登校だったけど」

ダイヤ「……ほおぅ、黒澤家の次女たる者が学校をサボったんですか。なるほどなるほど……」ゴゴゴゴゴ

ルビィ「あ、あれ…ひょっとして……おこ?」ダラダラ



ダイヤ「さっさと着替えて学校に行きなさい!!! 今すぐ!!!!!」

ルビィ「は、はいぃぃぃ!!!」ドタバタ



~~~~~~~~~



ダイヤ「準備しながら聞きなさい」

ルビィ「ほぇ? 何かあるの?」ヌギヌギ


ダイヤ「聖杯戦争中、マスターはいつどこで他のサーヴァントに狙われるか分かりません。よってマスターと契約したサーヴァントは常に一緒にいるのがセオリーです」

ルビィ「じゃあ、お姉ちゃんも一緒に学校に行くの?」

ダイヤ「そうしたいのは山々なのですが……死んだはずのわたくしが学校に登校すれば学校だけではなく街中が大騒ぎになるでしょう」

ルビィ「でも、最終的には生き返るんだから関係ないんじゃない?」

ダイヤ「随分と強気ですわね。だとしても、今後の戦闘の為にもわたくしの存在は出来るだけ隠しておきたいのです」

ルビィ「じゃあ、霊体化すればいいじゃん。そうすれば見えなくなるから外に出られるよね」

ダイヤ「それが出来ないのですわ」

ルビィ「出来ない?」

ダイヤ「この敷地外での霊体化が不可能なのです。残念ながら原因は不明ですわ」

ダイヤ「ですので万が一、登下校中に敵サーヴァントと遭遇した場合はすぐに魔術による意思疎通をしてください。それでも間に合わないと判断したら、迷わず“令呪”を使いって呼び出しなさい」

ルビィ「令呪…この左手にあるやつだよね」チラッ

ダイヤ「三回限りのサーヴァントに対する絶対命令権ですが、私達の関係ならば使い果たしても問題は無いでしょう。大切に使うに越した事はないですがね」

ルビィ「分かった。危なくなったらすぐに使うね」



ルビィ「じゃあ、行ってきまーす!!」

ダイヤ「いってらっしゃい、ルビィ」フリフリ




~~~~~~~~~



千歌「る、ルビィちゃん!?」

ルビィ「お、お久しぶり…です。ご心配をおかけしてすみませんでした」ペコリ

千歌「あ、うん…ご丁寧にどうも」ペコリ

梨子「どうして千歌ちゃんも頭を下げるのよ…」


善子「二時間目が始まる前に突然登校してきたときには驚いたわ…」

花丸「うぅ…本当に良かったずら……もう学校に来ないんじゃないかと思っていたから…」グスン

曜「随分と変な時間に登校したね」

ルビィ「本当は行くつもりは無かったんだけどお姉……ゴホンッ!!」

曜「ん?」

ルビィ「あー…流石にこのままじゃダメだと思ったからさ。お姉ちゃんもきっと怒ると思うし」

ルビィ(実際に怒られたし)


果南「もうダイヤの死は乗り越えたって事?」

ルビィ「…それは」

果南「……ごめん、嫌な質問だったね。忘れて」

ルビィ「あ、あの、Aqoursの活動は暫く体力作りに専念してもいいですか? 運動不足でついていける自信が無くて…」アハハ

千歌「……え?」

ルビィ「あ、あれ? 何かマズい事言っちゃいましたか?」アセアセ

梨子「…実はAqoursの活動はまだ開始していないの」

ルビィ「そうなんですか?」

花丸「今後の活動についてはルビィちゃんが帰ってきてから決めようと思っていたから」


ルビィ「ごめんなさい! ルビィがずっと引きこもっていたせいでみんなに迷惑をかけてしまって……本当にごめんなさい」

千歌「そ、そんなに謝らなくていいよ! 帰って来てくれただけで嬉しいからさ…」

善子「またみんなで頑張りましょう。ダイヤの分まで、さ」

ルビィ「善子ちゃん……うん!!」






鞠莉「……」

果南「鞠莉? さっきから黙り込んでいるけど、どうしたの?」


鞠莉「…果南、ダイヤのお葬式の時のルビィの様子、覚えている?」

果南「そりゃまあ……あんなルビィは簡単に忘れられないよ」

鞠莉「正直、ダイヤの後を追って自殺する勢いだった。私はそう感じたわ」

果南「うん……だから花丸と善子が頻繁に家に行っていたんだよね」

鞠莉「そんなルビィが……たった一人でこんな短期間でここまで立ち直れるものなの?」

果南「一か月も経ったんだよ。それだけの期間があれば――」

鞠莉「昨日まで花丸達と会話どころか部屋に引きこもったまま顔も合せなかったのよ? ちょっと変じゃない?」

果南「…言われてみれば」

鞠莉「一体どんな心境の変化があったというの……?」



花丸「――あれ、ルビィちゃん左手に赤い痣が出来ているずら!」

果南「……っ!」

千歌「本当だ。凄く赤いけど大丈夫? 痛くない?」

ルビィ「へ、あ、あー…気にしないで。何とも無いからさ」サッ

千歌「曜ちゃんも手を怪我して包帯巻いているし……メンバー間で手に呪いでもかかっているのかなぁ」

曜「あはは…」

善子「それにしてもその痣……まるで――」

梨子「『紋様みたいでカッコいいかも!』なんて思ってないでしょうね?」ジトッ

善子「っ!!? ま、まっさかー! そそそんな事思ってないわよ」ピュー

ルビィ「大丈夫だからさ、心配しないで!」

鞠莉(手に赤い痣ねぇ…)




鞠莉「ルビィ、今日の練習が終わったら理事長室に来てくれる?」

ルビィ「理事長室ですか?」

鞠莉「ほら、一か月も休んだから色々と…ね」

ルビィ「なるほど……分かりました。ごめんなさい」

鞠莉「いいのよ。これも理事長の仕事だからね♪」



~~~~~~~~~


~練習後~



ルビィ(ぐへぇ…まさかここまで体力が落ちていたなんて……昔のルビィはあの練習メニューについて行けたと思うと凄いな)

ルビィ「言われた通りに理事長室の前まで来たけど…鞠莉さんいないなぁ」キョロキョロ

ルビィ「もしかして中に居たりするのかな?」



――ガチャ



ルビィ「あれ、開いている。中で待ってればいいのか」


ルビィ「薄暗いな…電気のスイッチは――」




「――――やれやれ、マスターも嫌な仕事を押し付けてくれる」




ルビィ「っ!!! ど、どこから入って来たの!!?」

「ん? 近くにサーヴァントが居ないのか。随分と雑な護衛だな」

ルビィ(この人…サーヴァントなの!?)


セイバー「私はセイバーのサーヴァント。マスターに君をリタイアさせるよう命令されている」

ルビィ「っ!!!!?」ゾワッ

セイバー「だが、もし君がこの場で聖杯戦争から身を引くのならば何もしないで立ち去ろう」

ルビィ「…嫌だって言ったら?」

セイバー「……っ」ブウゥゥン

ルビィ(剣…いや、あれは双剣?)


セイバー「――仕方ない、ならばこうするしかないな!!!」ビュン!!

ルビィ「きゃああ!!」ドサッ

ルビィ(軽く振っただけで後ろの壁が裂けた!?)

ルビィ(や、ヤバイ!! 逃げなきゃ!!!)ダッ!!

セイバー「逃げ切れると思うか?」



――ビュン!

――ビュン!!

――ビュン!!!



ルビィ「う、うわあああああああああ!!!」ズザザザ

セイバー「よく避ける。だが、もう詰みだ」


ルビィ「はぁ、はぁ、はぁ!!」ガタガタ

ルビィ(このままじゃ殺される!! どうすれば…どうすればいいの!!?)


セイバー「今すぐ聖杯戦争からリタイアしろ。これが最後だ」

ルビィ「はぁ、はぁ……」

セイバー「どうした、早く答えろ」


ルビィ「……だよ」

セイバー「…何?」

ルビィ「――嫌だ……せっかくお姉ちゃんを生き返らせるチャンスを掴んだんだ! 簡単に諦めるわけにはいかない!!!」


セイバー「――残念だ」カチャッ


ルビィ(あ…――)




ダイヤ『――迷わず“令呪”を使いって呼び出しなさい』




ルビィ(っ!!! そうだ…令呪が――)



セイバー「悪く思うなよ!!!!」シュッ!!!!



ルビィ(令呪を持って命ず……)

ルビィ「―――来て、お姉ちゃん!!!!!」キュイィィィン!!


セイバー「っ!! 令呪による強制召喚か!!」バッ




――バチッ…バチバチバチッ




ダイヤ「――学校の廊下ですか…厄介な場所ですわね」

ルビィ「ほ、本当に瞬間移動してきた…!」

ダイヤ「怪我はありませんか?」

ルビィ「だ、大丈夫。転んで擦り剥いただけだよ」

ダイヤ「良かった。……貴様っ!!」ギロッ


セイバー「これが君のサーヴァントか。ん……お前、正規の英霊ではないな?」

ダイヤ「あなたには関係ありませんわ。ここでわたくしに倒されるのですから」ブウゥゥン

セイバー「弓……今回は君がアーチャーなのか」


セイバー「マスターからは命までは奪うなと命じられているが、サーヴァントが相手なら関係ない。君を始末すればそれでいいのだからな」カチャッ

ダイヤ「――喰らえ!!」パシュッパシュッ!!



ダイヤは瞬時に魔力で無数の矢を生成してセイバーを攻撃する。
目にも止まらぬ速度で放たれた矢はいくらサーヴァントと言えど回避は困難。

だが、真正面からの射撃では話は別だ。



セイバー「はあああ!!!」ガキン!カキン!

ルビィ「ウソ…あれだけの矢を全部弾いた!?」


ダイヤ(くっ! 正面からじゃ軌道が読まれるか!!)



セイバー「場所が悪かったな。ここは私の間合いだ!!」



――ガキンッ!!!



セイバーの斬撃を辛うじて弓で防ぐ。
しかしダイヤの筋力ではじりじりと押し負けていく。

このままではマズイ。
ダイヤは一旦鍔迫り合い中の弓を引っ込める。
支えを失ったセイバーが前方に体勢を崩したところを足で蹴り飛ばす。



セイバー「ぐッ!!?」


ダイヤ「場所を変えます、ついてきなさい!」

ルビィ「分かった!」



セイバー「――逃がすか!!」

ダイヤ「マズイ…!? ルビィ!!」ガバッ

ルビィ「え…?」



咄嗟にルビィを抱きかかえるダイヤ
直後に背後から無数の矢が二人に襲い掛かった。



―――ドスッ、ドスッ!!



ダイヤ「ぐああああ!!?」

ルビィ「お、お姉ちゃん!?」



数発が着弾。
ダイヤの左ふくらはぎと右肩に矢が突き刺さる。



ダイヤ「くうぅ…弓矢……ですって……? あなたのクラスはセイバーではないのですか…!」

ルビィ「大丈夫なの!?」

ダイヤ「勿論……ですわ。この肉体は頑丈ですから」



セイバー(こいつ……俺が弓矢を構える前に気が付いただと? 短時間の未来視が可能な千里眼を持っているのか)



ダイヤ(弓矢を使うセイバーなんて聞いたことが無い! この方は一体どこの英雄なのですか!?)



セイバー「……そろそろ終わらせよう。これ以上この場所を傷つけるのは私のマスターも嫌がるからな」

ダイヤ「終わらせるですって?」



セイバー「――ふッ!!!!!」ゴッ!!!


ルビィ(ま、魔力の量が跳ね上がった!? 宝具を使うつもりなの!?)

ルビィ「マズいよお姉ちゃん! こっちも宝具で対抗しなきゃ!!」

ダイヤ「……っ」

ルビィ「お姉ちゃん!!」





「――ストップよ、セイバー。もういいわ」




セイバー「……了解だ、マスター」

ダイヤ「マスターですって!? あ、あなたが……」





鞠莉「……久しぶりね、ダイヤ」


ルビィ「そ、そんな……鞠莉さんがセイバーのマスターだったなんて…!!」

ダイヤ「鞠莉さん! よくもルビィを!!!」ギロッ

鞠莉「怒るのは筋違いなんじゃない? これは聖杯戦争、マスター同士の殺し合いなんだから」

ダイヤ「っっ!!!!!」ギリッ

セイバー「動くな。我がマスターに手を出すなら今すぐ貴様の首を落とす」

ルビィ「お姉ちゃん、今は抑えて」

ダイヤ「ですが!! ……いえ、申し訳ありません」


鞠莉「ごめんなさい、私の言い方が悪かったわ。確かに私はセイバーを使ってルビィを襲った。でもそれはルビィを守る為でもあったの」

ルビィ「私を……守る?」

鞠莉「黒澤家が魔術師の家系であるのは知っていた。その末裔であるルビィがこの地域で行われる聖杯戦争を知らないわけがない。この戦いで勝利し、聖杯にダイヤの蘇生を願うつもりなのでしょう?」

ルビィ「……うん」

鞠莉「でもあなたはこの戦いの恐ろしさを正しく理解していない。早い段階で命を落としかねないわ。だから他の誰かに殺される前にリタイアさせるつもりだった」

ルビィ「……」

ダイヤ「なら、どうしてこのままトドメを刺さなかったのですか? わたくしにはセイバーの宝具を止める術は無かったのに……」

鞠莉「それはルビィのサーヴァントがあなただったからよ……ダイヤ」

セイバー「マスター、先ほどからこのサーヴァントをダイヤと言っているが……昨日話していたあの“黒澤ダイヤ”なのか?」

鞠莉「その通りよ、見間違えるわけがない……ダイヤ本人よ」

セイバー「そうか……ならばマスターの願いも――」


ルビィ「ね、ねえ! 話が読めないんだけれど……そもそもどうして鞠莉さんも聖杯戦争に参加しているの!!?」

鞠莉「ルビィと同じよ、ダイヤを生き返らせる為に参加したわ」

ルビィ「!」


鞠莉「ただね……内浦の聖杯ではこの願いは叶えられない」

ルビィ「……え、叶えられない?」

鞠莉「内浦の聖杯では人智を大きく超えた願いは叶えられない。その中の一つが死者の蘇生よ。現世に魂と遺体が揃っていれば話は別だけれど、ダイヤに関しては条件が揃えられない」

ルビィ「じゃあ……この戦いに勝利しても、お姉ちゃんは……」

鞠莉「生き返らせる事は出来ない……はずだった」

ルビィ「だった?」

鞠莉「聖杯の力で召喚されたサーヴァントなら、受肉させれば現世に留まり続ける事が可能よ。つまり、サーヴァントとなった今のダイヤなら生き返らせられる!」

ルビィ「!!!」パアァ

セイバー「ドヤ顔で説明しているが、この事実は昨日私が説明したものなんだがね……」

鞠莉「ちょっとセイバー!?」

ダイヤ「でしょうね。人間の蘇生が無理だと知っていたら、わざわざこの戦争に参加するはずがないですもの」

鞠莉「べ、別にその時はその時で違う願いを叶えてもらうわよ!!」

ルビィ「じゃあ、鞠莉さんはルビィ達の味方って思っていいの?」

鞠莉「勿論♪」


セイバー「マスターの願いが君の蘇生である以上、この先の戦いでは我々は協力することになるだろう」

セイバー「だが、いざという時は我がマスターの命を最優先とする。自分の身とマスターは自分で守り切れ」

ダイヤ「言われなくても分かっていますわ」

セイバー「その為にも一刻も早く己の力を使いこなせるようになるんだな」

ダイヤ「……ええ」

ルビィ「こ、これからよろしくお願いします。セイバーさん」ペコリ

セイバー「っ! あ、ああ」




ルビィ「あの、鞠莉さん」

鞠莉「どうしたの?」

ルビィ「今回の聖杯戦争に参加している人に私達以外の浦女生徒っていたりするの?」

鞠莉「……怪しい生徒はいる。しかもAqoursのメンバーよ」

ルビィ「えっ」

鞠莉「マスターかどうかを簡単に見極めるには令呪の有無を見ればいい。ルビィの場合は丸見えだったから一発で分かったわ」

ダイヤ「ルビィ……いくらなんでも不用心過ぎですわ」ハァ…

ルビィ「うぅ、ごめんなさい……」


鞠莉「まず怪しいのは、ルビィの令呪に真っ先に気が付いた花丸ね」

ダイヤ「花丸さんですか。確かに花丸さんの実家はお寺なので魔術師であっても不思議ではないですが……」

ルビィ「でも手に令呪があったら善子ちゃんが気付くんじゃないかな?」

鞠莉「まあそうだけど……何らかの手段で令呪を隠す事も可能だから何とも言えないわ」

ダイヤ「警戒するに越した事はないですわね」

ルビィ「……あ、怪しさでいうなら曜さんもそうなるよね。包帯で手を隠していたし」

鞠莉「その通りよ。タイミング的にも一番怪しいと思っている」

ルビィ「周りは敵だらけなんだ……なんか嫌だな」

セイバー「味方がいる君はまだマシな方だ。本来は全員が敵なのだからね」

鞠莉「できればこれ以上知り合いがマスターであるのは避けたいけれど、こればっかりはどうしようもないわ」

セイバー「もし、友人が敵として立ちはだかった時……君に戦う覚悟はあるか?」

ルビィ「……それは…分からないよ」

セイバー「ならば早めに決める事だ。本気で自らの願いを叶えたいのならばな」

ルビィ「……」

鞠莉「私も肝に銘じておくわ」





鞠莉「――ところで、どうしてダイヤはルビィの傍にいなかったわけ? 聖杯戦争中にマスターから離れるのは愚策よ」

ダイヤ「そうしたいのは山々なのですが……如何せん霊体化が出来ないものですから」

ルビィ「ほら、この街の人はお姉ちゃんの事知ってるからさ……」

鞠莉「ふむふむ……なら、ルビィが学校にいるときはセイバーと一緒に理事長室に籠っていればいいのよ!」

ダイヤ「はあ? ですから、家から出られないんですよ。どうやって理事長室まで行くのですか?」

鞠莉「そこはほら、髪形をちょいちょいーっとポニーテールにでも変えて、ついでに眼鏡とスーツに着替えれば……ほら! これなら別人よ!」

ダイヤ「勝手に髪をいじらないでください! ……ってこの一瞬でどうやってわたくしの服も変えたのですか!?」

ルビィ「おぉ……凄く大人っぽい!」

ダイヤ「そ、そうですか///」

セイバー「ガラリと雰囲気が変わったな。仮に怪しまれても、否定すれば問題無くやり過ごせるだろう」

鞠莉「そうそう、代わりと言ってはなんだけど、最近理事長としての仕事が多くてさ。授業中に二人でちょこっとだけ終わらせておいてね♪」

ダイヤ「ああ!?」

セイバー「……はぁ、一体サーヴァントを何だと思っているのやら」ヤレヤレ

鞠莉「じゃあ、今日は解散にしましょう。ダイヤは一時間目の授業が始まる頃に理事長室に来てね」

ダイヤ「全く……ええ、分かりましたわ」

ルビィ(本当に大丈夫なのかなぁ……)


~~~~~~~~~


~翌日 昼休み~



花丸「ルビィちゃん!!! さっき廊下でダイヤさんそっくりの美人秘書さんを見かけたずら!!!」

ルビィ(初日からバレてるじゃん!?)

善子「今朝からずっとその話題で持ち切りよ。鞠莉もよくあんなにそっくりな人を見つけたものよね」

花丸「理事長室で働いているらしいんだけれど、なんかもう一人一緒に働いているらしいよ。噂によれば長身の褐色系男子だとか」

善子「うそだぁ~。ここ女子高よ? 教員ですら全員女なのに鞠莉が男の人を雇うハズないじゃない」

花丸「だ、だよね。マルもそこは間違いだとは思うずら」

ルビィ(事実です。間違いなく男の人で鞠莉さんのセイバーさんです)


花丸「ルビィちゃんはもう見たの?」

ルビィ「あー、うん、見たよ。本当にお姉ちゃんそっくりで驚いちゃったよ」アハハ

花丸「……大丈夫?」

ルビィ「へ? 何が?」キョトン

花丸「あ、うんん、何でもないよ。気にしないで」


善子(ほらね、ルビィなら大丈夫だって言ったでしょ?)ボソボソ

花丸(そうだね…余りにもそっくりだったからちょっと心配だったけれど、大丈夫そうで良かったずら)ボソボソ

ルビィ「……二人で何を内緒話しているのさ」ムゥ

花丸「ごめんごめん、大した事じゃないよ」

ルビィ「ならいいけど……」



――ピーン、ポーン、パーン、ポーン♪



『一年生の黒澤ルビィさん、至急理事長室まで来てください』



花丸「あ、呼び出しだね」

善子「今度は何しでかしたの?」

ルビィ「何もしてないよ! 呼び出しイコールお説教なのは善子ちゃんだけだよ」

善子「なんですって!!」

花丸「騒がない」チョップ

善子「あだっ!?」

ルビィ「あはは……じゃあ、ちょっと行ってくるね」

花丸「行ってらっしゃ~い」フリフリ



~~~~~~~~~



~理事長室~



ダイヤ「……申し訳ございません。不覚にも入室を生徒に目撃されてしまいましたわ…」

セイバー「全く、何の為の千里眼なのやら」

ダイヤ「ぐふっ」グサッ

鞠莉「人の事言えないでしょ? セイバーだって何人かに見られているんだから」

セイバー「何!?」

ルビィ「うん、ルビィのクラスでも噂になっていました」

ダイヤ「……ふっ(笑)」

セイバー「すまない…マスター」


ルビィ「呼び出した理由はこれ?」

鞠莉「まあ、遅かれ早かれバレるのだから構わないわ。理由はこれじゃない」


ダイヤ「校内でマスターと思わしき人物を発見しました」

ルビィ「!? 浦女の生徒にマスターが……」

ダイヤ「生徒に目撃された際、一人だけ反応が異なる方がいましてね。恐らく私を目視した事でわたくしのパラメーターが表示されたのでしょう」

ルビィ「聖杯戦争に参加しているマスターが得られる能力の一つだったっけ」

ダイヤ「ええ」

鞠莉「他にも英雄に関しての知識も与えられているわよ。敵の宝具の真明が分かれば、そのサーヴァントがどこの英霊か一発で判明できるって寸法よ」

ルビィ「へぇー、そうだったんだ」

セイバー「サーヴァントが理事長室を出入りしていると知られた以上、鞠莉がマスターである事は向こうも確信しているだろう」

ダイヤ「ですから早急に対処すべきかと」

ルビィ「対処って……どうするつもりなの?」

セイバー「決まっているだろう。その生徒を――……む!?」

鞠莉「この感じ……まさか!?」



異変を察知した鞠莉は急いで扉を開ける。
廊下に出ると、校内が高濃度の霧で覆われていたのだ。



ルビィ「何…これ。どうして霧が……」

ダイヤ「マズいですわね……この霧、魔術に耐性の無い一般人にとって非常に有害ですわ!」

ルビィ「えっ!? じゃあ学校にいるみんなはどうなっているの!?」

鞠莉「急いで近くの教室に向かいましょう!」





~~~~~~~~~



ルビィ「――大丈夫ですか!!」ガラガラ



教室内に突入するルビィ達。
そこには床に倒れ込む二年生の姿があった。
弱々しく咳き込む者もいれば意識を失っている者もいる。
間違いなく校内いる生徒全員が同様の状況であるだろう



千歌「……ごほっ、ごほっごほっ………」

曜「うぅ………うっ」

梨子「………っ」

ルビィ「千歌ちゃん! 曜ちゃん! 梨子ちゃん!! しっかりして!!」

鞠莉「酷い……戦いに一般人を巻き込むなんて……!!」

セイバー「規模からしてこれは宝具による攻撃とみて間違いない」

ダイヤ「つまり、校内には敵サーヴァントが潜んでいるというわけですか」



『うふふふ…見ーつけた♪』



ダイヤ「んな!? どこから声が!?」

セイバー「構えろ!! 敵は恐らくアサシンだ! どこから攻撃されるか分からん!!」



セイバーは昨夜の戦いでも使用した白色と黒色の中華剣を召喚した。
ダイヤも急いで弓を構える。



セイバー「位置を掴めないのか!?」

ダイヤ「ダメですわ! 霧が濃すぎて全く視えません!!」

セイバー「くそっ! マスター、我々から絶対に離れるなよ!!」

ルビィ「お、お姉ちゃん…!」ガタガタ

ダイヤ「心配はいりませんわ。マスターはわたくしが必ずお守りいたします」

鞠莉「一体どこから襲って――」




――ヒュン…




ダイヤ「っっ!!!? 鞠莉さん!!!!!」

セイバー「っ!!!!」

鞠莉「へ?」



セイバーは鞠莉の足元を蹴り飛ばし、体勢を崩させた。
刹那、鞠莉の首があった場所を鋭利なナイフが空を斬る。
セイバーが対処しなければ今頃鞠莉の首はコロコロと廊下を転がっていただろう。

襲撃者は離脱を試みるが、セイバーがそれを阻む。



アサシン「うん、流石に速いね」

セイバー「逃がすわけがないだろう! マスターの命を狙った貴様は、ここで仕留める!!」



――ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!!!



セイバー(チィッ!! ここまで一撃離脱を徹底されては押しけれない!)

アサシン「あれれ、あなた、意外と弱い?」クスクス

セイバー「……安い挑発だな」

アサシン「っ」ピクッ



アサシンの動きが止まる。
間合いは十分でセイバー相手には隙と言えるほどのものでは無かった。



セイバー「おや、いいのか?」ニヤッ



――ビュン、ビュン、ビュン!!!



セイバーの背後から三本の矢が飛び出す。
攻撃のタイミングをじっと待ち構えていたダイヤによるものだ。

アサシンはなんとか頭と心臓を狙った矢を弾くが右肩を狙った一矢は被弾した。



アサシン「痛いなぁ……全く酷いよ」


ダイヤ「すみません…死角からの攻撃にも関わらず仕留めそこないました」ギリッ

セイバー「十分だ。この調子で頼む」




「あーあ…敵は理事長だけだと思っていたのに、もう一人いたなんて」



ダイヤ「……誰か来ますわ」

ルビィ「えっ……どうして普通に動ける人が――」

鞠莉「バカ!! あの子がアサシンのマスターだからに決まっているでしょ!?」



アサシン「お母さん!」

「アサシン、大丈夫?」

アサシン「うん、こんな怪我大した事ないよ。でも…ごめんなさい。まだ一人も殺せてないよ……」シュン

「気にしなくていいんだよ? いくらアサシンでも二体一じゃ簡単にはいかないもん」

「お母さん……えへへ」



鞠莉「あの子は確か……隣のクラスの子よね?」

ダイヤ「ええ。今朝目撃されたのもこの方ですわ」

ルビィ「どうして……どうしてこんなみんなを巻き込むような酷い事をするの!!?」

「どうしてか? そんなの手っ取り早く敵のマスターをおびき出す為に決まっているじゃない。現に成功しているわけだし」

セイバー「鞠莉が怪しいのは分かっていたのだろう? なら、襲うタイミングならば他にいくらでもあるはずだ」

「そんなの私の勝手でしょ。今やりたかったから実行しただけ」

鞠莉「こんな事をしてまで……あなたの叶えたい願望は一体何だというの!!?」


「願いか……」

「……私ね、この学校が大好きなんだ」

ルビィ「えっ」

「お母さんもおばあちゃんも浦女の卒業生でさ、子どもの頃から私もこの学校の生徒になりたいって思っていた。だから合格した時は本当に嬉しかった」

「……統廃合が決まったのを知って絶望したよ。私に出来る事があったら何でもしたいと思った」

「……でも、物語の主人公でもないモブキャラの私に出来る事なんて無かったんだ」

ルビィ「………」

「だから、Aqoursには凄く期待していたんだよ! この人達ならきっと学校を救ってくれる、モブキャラの私ではなく主役のあなた達ならきっと何とかしてくれるって!!」

「それなのに……それなのにあなた達は私の期待を裏切った」

鞠莉「それは――」

「精一杯頑張った結果だから仕方ない? 廃校を防げなかったら意味が無い!! 結果が全てなんだよ!! あんた達は失敗したんだ!!!!」

ルビィ「……うぅ」

「誰かに任せたのがいけなかった……大事な事は自分で何とかしなきゃいけないって思い知らされた」

「だから今度は私が救うの……この戦争に勝利して、聖杯の力で浦の星女学院が未来永劫続くようにしてみせる!!」

「理事長のクセにこの願いの邪魔をするつもり?」ギロッ

鞠莉「……確かに、私達は失敗したわ。あなたや学校の生徒全員の期待を裏切ってしまった……」

ルビィ「鞠莉さん……」

鞠莉「理事長としても本当に申し訳――」









ダイヤ「……学校を救う? それがあなたの願いですって? それは有り得ませんわね」



「……あ?」


ルビィ「お、お姉ちゃん!?」

ダイヤ「学校が好きな気持ちにウソは無いでしょう。ですが、あなたの願いは廃校を防ぐなんて大層なものではない」

ダイヤ「――いえ、寧ろあなたの願いは“既に叶って”います」

「………」

ルビィ「ど、どういう事? なんでそれが分かるの?」

「……あなたどこの英霊? 黒澤そっくりの姿をしていてさ……気持ち悪いんだよ」

ダイヤ「余程嫌われているのですね……まあ、無理もないですわ。それだけの事を以前してしまったのですから」

「……ああ?」

ダイヤ「あの時、あのクラスに居ながら、わたくしは見て見ぬ振りをしてしまったのですから……」

ダイヤ「ですよね、――さん?」

「っ!! あなた……本当に黒澤なの?」

ダイヤ「………」

「まあいいや。アサシン、今回は引こう。これ以上霧の展開を続ければ全員死んじゃうからさ」

アサシン「えぇー……そっか、分かったよ」スウゥゥ

セイバー「逃がすか!!!」

鞠莉「セイバー待って!」

セイバー「!?」

「またね。次は……絶対に殺すから」スウゥゥ



セイバー「霧と一緒に消えていったか……見逃して良かったのか?」

鞠莉「ええ。霧を消してくれるならその方がいいもの」


鞠莉「それよりも、ダイヤ」

ダイヤ「何でしょうか?」

鞠莉「あの子は一体何者? 知り合いだったみたいだけれど」

ダイヤ「………」



―――――――

―――――

―――



鞠莉「さて、説明してもらうわよ」

ダイヤ「……あの人は二年生の時に同じクラスだった ――さんですわ」

鞠莉「二年生の時……」

ダイヤ「鞠莉さんは内浦を離れていたのでご存じないとは思いますが……その……」

ルビィ「お姉ちゃん?」

鞠莉「歯切れが悪いわね。ハッキリ言ってよ」

ダイヤ「はい……その、あの子はいじめに遭っていたのです」

セイバー「ほう」

ルビィ「いじめって……浦女でそんな事があったの…」


鞠莉「待ちなさいよ! あなたが居ながらそんな……どうして何も対処しなかったの!?」

ダイヤ「申し訳ありません……その、当時のわたくしは周りに無関心というか…初期のAqoursが解散してしまった反動で……」

ルビィ「ああ、確かにあの時のお姉ちゃんは今よりちょっと冷たかったかも」

鞠莉「そう……私はこんな所でも迷惑をかけていたのね……」



セイバー「それで、アサシンのマスターが既に願いを叶えているという根拠はなんだ?」

ダイヤ「主な根拠はスキルであの子の思考を読み取ったからですが、それを確信に変えたのは理事長室で見つけたこの資料ですわ」

鞠莉「これは……先日行方不明になった生徒二人の名簿ね」

ルビィ「行方不明? そんな事件があったんだ」

ダイヤ「この二人の生徒はあの子をいじめていた二人ですわ」

鞠莉「!!」

セイバー「つまり、奴の目的は復讐だった」

ダイヤ「……ええ、その通りですわ」

ルビィ「じ、じゃあ……行方不明になったこの二人はもう――」

ダイヤ「死んでいる、もしくは死ぬよりも重い苦しみを与えられている可能性が高いでしょう」

鞠莉「サーヴァントがアサシンだからね……殺しに長けた英霊なら、どの程度までなら死なないかも熟知していてもおかしくない」

ルビィ「一体……どんな事をされているんだろう……」ブルブル



~~~~~~~~~



~???~


「――ねえ聞いてよぉ。今日学校でね、死んだはずの人間とばったり会っちゃったんだよねぇ~。しかも、その子サーヴァントになってたの。凄くない?」


「さ、サーヴァン……ト……?」


「あ、そっか、知らないか。サーヴァントっていうのはそこにいるジャックちゃんみたいな人の事だよ」


「ッッ!!?」ガタッ


ジャック「こんにちは、すっかり元気になったみたいだね♪」

「輸血も点滴も十分やったからもう大丈夫だよ」

ジャック「やった~あ!! また解体していいんだね!」

「う、うそでしょ……まだ、まだ私から……」

「当然でしょう? だってまだ胃袋と片目しか取り出してないんだもの」

「ええっと……あ、ほら。ちゃーんと瓶の中にホルマリン漬けして保存しておいたんだよ。見える場所に置いておくね」

「あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!? 私の!! 私のがえ゛じで!!!」

「うるさいなぁ……」


「――ジャックちゃん」

ジャック「うん、任せてお母さん」



マスターの合図を受けたアサシンはベッドに縛り付けた女生徒の腹部にナイフを押し当て――



「があ゛!? うううううああああ!! いだああああああああい!!!」

「えーー、それは錯覚だよ。事前に麻酔だってしてるし、ジャックちゃんの外科手術の腕は完璧なんだよ?」

ジャック「麻酔したの? 今日のお母さん優しいんだね」

「だって、麻酔無しでやったらもう一人の子みたいにショック死しちゃうでしょ。もっと色々するつもりだったのにさ……残念」

「し、死んだ……!? あの子が死んだあ!!!?」

「ああ、心配しなくてもあなたは“絶対に”死なせないから。だから大人しくしていてね」

「ひいぃ!!?」


ジャック「ねえねえ、今回はどこを解体すればいいかな?」

「そうだね……あ、二つある部位とかがいいんじゃない? 片方無くても大丈夫だもんね!」

ジャック「分かった! そうするね!」

「いやだ……いやだいやだいやだいやだいやだいやだあああああ!!!」

「もう……殺さないって言ってるのに、どうしてそこまで叫ぶかなぁ」


「ごめ゛ん゛な゛ざい゛……私が、わ゛だじがわ゛るがっだがら!!!」

「……そうだね。でも私は悪くないよ?」ニコッ


「も゛う゛……や゛め゛でぐだざい゛!!」

「――止めて?」ピクッ

「止めてって言ったの? あなたが? 私に対して?」

「……へ?」



――グチョッ!!



「あ゛があああ!!!?」

「私が止めてって言った時……お前は止めたか?」グリグリ

「ひぎいいい!! ぎゃあああああ!!!」

「止めなかったよね!! ならどうして私は止めなきゃいけないんだよ!!! ふざけた事抜かしてんじゃねえよおおおおおおお!!!」グリグリグリ

「ごお゛お゛お゛、がああああああ!!!!?」

ジャック「お、お母さん!? ダメだよ死んじゃうよ!?」


「ああ!? ……あ、そっか、そうだよ。絶対に殺さないって誓ったんだった」

「あぁ……危なかった。つい感情的になっちゃった。全く、変な事言わないでよね」

ジャック「落ち着いてくれて良かった」ニコッ

「ありがとうね、ジャックちゃん」ナデナデ

ジャック「えへへ///」


「うぅ……もう…いやぁ…………」

「……ジャックちゃん、始めよっか」

ジャック「――うん♪」


~~~~~~~~~



~ダイヤ召喚の四日前~



果南「やっほ、今日も来たよ」

果南父「おお、いつも済まないな」

果南「娘なんだから親のお見舞いに来るのは当然でしょ?」

果南父「そっか……父親想いのいい娘に育ったものだ」ニッ

果南「でしょ? もっと褒めてくれてもいいんだよ!」ニッ

果南父「ふっ、調子に乗るな」



果南父「……なあ果南、大切な話があるんだ」

果南「……余命の事?」

果南父「なんだ……もう聞いていたのか」

果南「まあね。この前来た時に聞こえちゃった」

果南父「まじか……俺のこの一週間の葛藤は何だったんだよ…」トホホ


果南「もう……治らないんだよね」

果南父「らしいな。どうやら医者曰く、後一か月持つかどうか怪しいらしい」

果南「……へぇ、そうなんだ」

果南父「あれ……もっと取り乱すと思っていたのに、意外と冷静?」

果南「だって、泣き喚いたところで意味無いじゃん」

果南父「そりゃそうだけど……父親的にはちょっと寂しいというか」

果南「父さんの事だし余命一ヶ月って宣告されても二か月でも半年でもしぶとく生き続けるんでしょ? なら泣くにはまだ早いもん」

果南父「……ああ、そうだな! 柄にも合わず弱気になってたよ。悪かったな」


果南「……絶対に死なせるもんか」ボソッ

果南父「果南? 何か言ったか?」

果南「ん、何も言ってないよ」ニコッ

果南父「?」





~~~~~~~~~



「――見舞いは済んだか?」

果南「うん。待たせたね、バーサーカー」


バーサーカー「病院の近くにキャスターがうろついている。どうする?」

果南「冬木の地では全てのサーヴァントが召喚される前の戦闘は禁止されているけれど、ここではそんなルールは無い。目障りだからここで消そう」

バーサーカー「了解だ、マスター」


果南(待っててね、父さん。私が聖杯の力で不治の病だって治してみせるから。だから……だからそれまで……!!)



果南「行こう、バーサーカー。邪魔する奴は全員ぶっ潰す!!」

バーサーカー「――ああ、任せろ!!」


―――――――

―――――

―――


~対アサシン戦から五日後 浦女 屋上~



ダイヤ「………ッ」ギギギギッ

ダイヤ「――ふッ!!!!」



――パシュ!!!



ダイヤ「……当たりましたわ」

ルビィ「もしもし、鞠莉さん? どうですか?」

鞠莉『しっかり的の中心を射抜いているわ! 五発連続で的中よ』

ルビィ「ほぇ~、これで10kmも成功だね。ルビィにはどこを狙っているか全く見えないよ……」

鞠莉『アーチャークラスならこれくらい普通よ。ただ、これだけの距離でも高威力を保てるのは驚きね。用意した金属板を粉砕したんですもの』

ダイヤ「もう少し馴染めば、もっと遠距離からの狙撃も可能ですわ」

ルビィ「おお!!」

鞠莉『遠くから敵を狙えるのは大きなアドバンテージになるけれど……内浦の土地じゃ最大限生かすのは難しいかもね』

ルビィ「あー……そうかも」

ダイヤ「……む」

鞠莉『まあ、この調子で能力を引き出してきましょう。私達も一旦学校に戻るわね』

ルビィ「はい、待ってますね」




~~~~~~~~~



鞠莉「どう? ダイヤの成長は」

セイバー「及第点といった所だな。これなら単騎でも十分戦えるだろう」

鞠莉「そう、なら安心ね」



セイバー「マスター、少し話がある」

鞠莉「どうしたの?」


セイバー「――先日マスターと思わしき人物を発見した」

鞠莉「……へえ、流石ね」

セイバー「だが……その人物がだな……」

鞠莉「何よ、別に浦女の生徒だったとしても今更驚かないわよ?」

セイバー「……そうか、なら――」





「――そっか、やっぱりルビィだけじゃなくて鞠莉もマスターだったんだね」




鞠莉「……へ?」


果南「……そろそろバレてると思ったからさ、こっちから来たよ」

鞠莉「え、は、ええ? 果南? どうしてここに……隣にいる女の人は誰?」

バーサーカー「………」


果南「誰って……マスターならステータスが視えているでしょ?」

鞠莉「そんなハズが無い!! ……だって、だって、どうして果南が?」

果南「そりゃ、私が魔術師だからだよ」

鞠莉「嘘よ……私聞いてない」

果南「うん、だって言ってないもん。鞠莉だって私に言ってないよね?」

鞠莉「そう、だけど……え?」

セイバー「受け入れろ……私が疑わしいと思った人物は彼女だ。遅かれ早かれ戦う運命だったんだ」

鞠莉「戦う? どうして……果南の願いは私と同じダイヤの蘇生じゃないの?」

果南「……うん、違うよ」

鞠莉「じゃあ何を……」



果南「みんなには言ってないんだけどさ……私の父さん重い病気なんだ」

鞠莉「病気……」

果南「余命宣告も受けた。もう一か月ももたないんだってさ……」

鞠莉「その病気は治す事は出来ない……の?」

果南「……出来ないから聖杯の力にすがっているんじゃないか!!!」

鞠莉「ッッ!!」

果南「父さんが死ぬなんて嫌だ……父さんのはこの先もずっと一緒にいて欲しいの!!」

鞠莉「………ッ!!」



果南「私は私の願いを叶える為なら何だってする。邪魔する敵は誰だろうとぶっ潰す!」

果南「鞠莉はどっちなの? 私の味方?」

鞠莉「私は………ッ!!!」




果南「――そっか。鞠莉は私じゃなくてダイヤを選ぶんだね」

鞠莉「ち、違う! そんなつもりじゃ……」

果南「いいんだよ……分かっていたからさ。鞠莉と戦う覚悟はもう出来てる」

鞠莉「か、なん……」



果南「……バーサーカー」

バーサーカー「いいんだな?」

果南「――やれ、バーサーカー!!!」

バーサーカー「ガアアアアアアァァァァ!!!!!」


セイバー「来るぞ!! 腹をくくれ、マスター!!」

鞠莉「……ぅ」

セイバー「マスター!?」

バーサーカー「潰れて死ねえええ!!!」



接近してきたバーサーカーは鎖で繋がれた大きな鉄球を叩きつける。
人の頭部より一回り大きいその鉄球はその表面を無数の棘で覆われており、素手で防ぐのは不可能。
セイバーは剣による防御を諦め、辛うじて回避する。



セイバー(くっ!! この威力……直撃すれば一撃でやられかねない!! ただでさえギリギリの戦闘だというのに――)

セイバー「マスター!! 魔力供給が鈍い!!」

鞠莉「……うぅ、うぁ……」

セイバー「マスター!!?」


バーサーカー「はっ! 貴様のマスターは既に戦意喪失のようだな!! これならすぐに終わりそうだ!!」

セイバー「クソッ!!」



バーサーカーの猛攻をギリギリで捌き、耐えしのぐセイバー。
防戦一方ではジリ貧。
負けるのは時間の問題だ。



セイバー(一か八か、この一撃に賭けるしかない!!)ビュン!!ビュン!!



セイバーは二本の中華剣を宙に投げる。



セイバー「――鶴翼、欠落ヲ不ラズ(しんぎ むけつにしてばんじゃく)」



左右から同時に最大の魔力を込めて一投する。
弧を描く二つの刃は敵の上で交差するように飛翔。



バーサーカー「甘い!!!」



これを防ぐ。
武器を失ったセイバー目がけて突進するバーサーカー



セイバー「――心技 泰山ニ至リ(ちから やまをぬき)」



セイバーの両手には投擲したはずの中華剣が再び握られていたのだ。



バーサーカー「んな!? 同じ宝具がもう一対あるだと!?」


セイバー「――心技 黄河ヲ渡ル(つるぎ みずをわかつ)」


果南「ッ!!? バーサーカー、後ろ!!!!」

バーサーカー「!!?」



セイバーが使用している剣、『干将・莫邪』は夫婦剣である。
この二刀は磁石のように引き合う性質を持っている為、弾かれて背後に飛ばされても、手元の干将・莫邪に引き戻される。



セイバー「――唯名 別天ニ納メ(せいめい りきゅうにとどき)」

セイバー「――両雄、共ニ命ヲ別ツ(われら ともにてんをいだかず)」



全方位からの同時攻撃。
回避も防御も困難な一撃必殺の極致。



セイバー「――鶴翼三連(かくよくさんれん)!!!」


果南「バーサーカー!!!」



――パキンッ!!!



セイバー「ッッッ!!!!」



そんなセイバーの奥義をバーサーカーは鉄球を振り払う事で容易に防いでしまった。
原因は使用した武器の強度が圧倒的に不足していたからだ。



セイバー(やはり魔力供給量が足りない!! まともに武器が作り出せないか!)

バーサーカー「吹き飛べえええええ!!!!」



攻撃の隙を突かれ、腹部に強烈な拳を叩きこまれる。
肉を打つ鈍い音が響いた。



セイバー「ぐふッッ!!!」

果南「よし、このまま倒せ!!」



鞠莉「あ、あぁ……」

セイバー「おい、どうしたんだマスター!!」


鞠莉(ルビィに偉そうな事を言ったクセに……覚悟が出来ていなかったのは私の方だった)

鞠莉(私は……果南の願いを奪えるの? それでいいの?)



鞠莉(――出来ない……出来ないよ。私に果南の願いを奪う覚悟は……)




セイバー「――鞠莉!!!!!!」

鞠莉「ッッ!?」

セイバー「お前は何のために聖杯戦争に参加したんだ! 聖杯に何を願おうとした!」

鞠莉「そ、それは……」

セイバー「ダイヤを蘇生する為か? それが鞠莉の願いの全てだったのか? 違うだろ!!!」

セイバー「もう一度言う、鞠莉の願いは何だ!!!?」

鞠莉「私の……願い…」


鞠莉「………」


果南「鞠莉?」




鞠莉「……ああ、そうか、そうだったよ。私の願いは――」



――キュイィィィン!!!!



セイバー「ッ!! 来た!!!」



滞っていた魔力供給が解放。
セイバー本来の力が戻った。

鞠莉「セイバー! ……全力でやりなさい!!!」

セイバー「――了解だ、マスター!!」



セイバーは片手を突き出し、鞠莉から供給された魔力を大量に練り上げる。



セイバー「――――投影、開始(トレース オン)」

セイバー「――――全投影、待機」



セイバーの背後の空中に無数の剣が出現。
その全てがバーサーカーを狙っている。



果南「そんな……どうしてセイバークラスの英霊がこんなに多くの剣を持っているのさ!?」

バーサーカー「下がれマスター!! 私が全て撃ち落とす!!」



セイバー「――――停止解凍、全投影連続層写……!!!」



――ズドドドドドド!!!!!



背後に待機していた全ての剣が一斉に発射される。
その圧倒的な攻撃密度にバーサーカーは成す術もなく、体中を剣で串刺しにされる。

その一本はサーヴァントの心臓部ともいえる霊核を貫いていた。



バーサーカー「が……がはっ………」ボトボト

果南「あ、ああ……バーサーカー……」

鞠莉「勝負ありね。私の勝ちよ」

果南「……鞠莉いいい!!」ギロッ

鞠莉「……ッ」ビクッ


果南「まだだ……まだ負けてない……!!」

果南「―――令呪をもって命ずる、勝て、バーサーカー!!!」キュイィィィン!!


鞠莉(バーサーカーの傷はどう見たって致命傷。令呪を使っても動けないハズ!?)



バーサーカー「があ、ガアアアアアアアアア!!!!!」

セイバー「バカな……霊核を貫いたんだぞ!?」


バーサーカー「コロスゥ……コロス、コロスコロスコロスコロスコロス!!!!!」

セイバー「やっとバーサーカーらしくなったか……今度こそ仕留める!」カチャッ

鞠莉「魔力量が跳ね上がった……宝具が来る!!」



バーサーカー「我が瞋恚にて果てよ英雄(アウトレイジ・アマゾーン)―――!!!」



真名解放と共に猛スピードで突進するバーサーカー。
それは理性を失った獣、まさに狂戦士へと変貌した。


バーサーカー「アグゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

セイバー(攻撃が余りにも直線的過ぎる。所詮は狂戦士という訳か――)

セイバー「はあああ!!!!」



――バシュッ!!!!



バーサーカー「ッッ!!!」



すれ違いざまにバーサーカーの腹部と胸部を深く斬り裂く。



バーサーカー「――ア、グウアアアアアアア!!!!!!!」



しかし、バーサーカーは止まらない。
その視線、叫びはセイバーに対してではなく、その後ろにいる人物に向けられていたのだ。


セイバー「何!? こいつ、最初から俺を狙っていないだと!!?」

鞠莉(狙いは私か!!! 当然よね、勝つ為に一番楽なのはマスターである私を殺せばいいんですもの!)ギリッ

セイバー(クソッ、大失態だ!! このままではタッチの差で間に合わない!!!!)



果南「ダメだよ……どうして鞠莉を襲うの!?」

果南「やめて!!! 今すぐ攻撃をやめて、バーサーカー!!!!」キュイィィィン!!



果南は再度令呪を使用し攻撃の阻止を試みる。
だが、バーサーカーは既に攻撃モーションに入っていた。



果南「――鞠莉!!!」

鞠莉「………」ニコッ

果南(ッ!? どうして笑って――)



――ドスッ!!



バーサーカー「が……あ、き、れう、す………」スウゥゥ……

鞠莉「……ごふっ」ボトボト



力尽きたバーサーカーはそのまま消滅した。
ヒットの瞬間、頭部に不自然な仰け反りがあり、鞠莉の体を引き裂くまではいかなかったものの、腹部には剣が突き刺さっていた。

崩れるように倒れる鞠莉。
果南とセイバーは急いで鞠莉のもとへ駆け寄った。



セイバー「マスター!!?」

果南「うそ……鞠莉、鞠莉!!!!」

鞠莉「………」

果南「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!! しっかりして!! 目を開けてよ!!!」

鞠莉「………」

果南「……うぅ、ひっく……お願い……目を……開けてよぉ……」ポロポロ




鞠莉「…………うる、さいなぁ」

果南「!!?」

鞠莉「大、丈夫よ……大した怪我じゃ、ないから」

果南「嘘つかないでよ!! 直撃じゃないとは言えバーサーカーの宝具を喰らったんだよ!?」

鞠莉「でも……生きてる。味方の援護に助けられた……わ」

果南「味方?」

セイバー(ヒット直前……側方からバーサーカーの頭部に高速飛んできた矢が突き刺さっていた。ダイヤの狙撃に助けられたというわけか……)

鞠莉「鍛えたかいがあったわね? 後で……一緒にお礼を言いましょう……セイバー……」

セイバー「……ああ、不甲斐ないサーヴァントで申し訳ない」

鞠莉「ふふ……次は、守り切って……ね?」


鞠莉「……果南、私の事……恨んでる、よね?」

果南「………」

鞠莉「まあ、当然か……願いを叶える機会奪ったんですもの。このまま殺されても文句は無いわ……」

果南「そんなことは……」


鞠莉「小さい頃から三人一緒に過ごしてきた……すれ違っちゃった時期もあったけれど、千歌っち達のおかげで仲直り出来た」

鞠莉「まだ果南やダイヤ、みんなと一緒にやりたい事や行きたい場所が沢山あるのよ。この夢は……いつか叶うと思っていた……」

果南「………」

鞠莉「私は取り戻したかった……私の願いはもう一度当たり前の日常を過ごすことだった」

鞠莉「……でも、果南に嫌われちゃったら本末転倒よね」

鞠莉「全く……他の参加者の願いは聞くものじゃないわね。決心が……揺らいじゃう…」

果南「ダメだよ。他の人がどんなに素晴らしい願いを掲げていようが、自分の気持ちは絶対に曲げちゃいけない」

鞠莉「……果南?」

果南「私が最初に自分の願いを伝えたのは、心のどこかで鞠莉だったら同情してくれる、勝ちを譲ってくれると思ったからだよ。……汚いでしょ?」

果南「なりふり構わず戦った結果、私は負けた。でも、これで良かったと思っているよ」

鞠莉「良かった? お父さんを救えなかったのに……?」

果南「私にとってダイヤも父さんも同じくらい大切なの。選ぶことなんて出来ない。それでも叶えられる願いが一つしかないなら選ぶしかない……」

果南「だから、鞠莉の願いを知った時は憎さ半分、嬉しさ半分だったんだよ。だって、勝っても負けても私の願いは叶うんだもん」

果南「だから、絶対に勝ち残ってね。他の敵に負けたりしたら絶交だから」

鞠莉「ふ、ふふ……絶交かぁ……こりゃ、負け……られ……な………い」ガクンッ

果南「鞠莉!?」

セイバー「大丈夫だ。会話の最中に自身で治癒魔術を使用していたからな。出血も止まっている」



セイバーは果南から鞠莉の身柄を引き取る。
傷は塞がったとは言え、一応病院での検査は必要だからだ。



セイバー「よっ、ふむ……予想以上に軽いな。もっと食事の量を増やすか……」

果南「あ、あの……鞠莉のサーヴァントさん!!」

セイバー「……何だ?」

果南「……鞠莉をよろしくお願いします」ペコリ

セイバー「心配は無用だ。なんせ、私はマスターから最強のサーヴァントとの評価を受けているからね。もう二度と、マスターは傷つけさせやしないさ」

果南「……はい!!」



~~~~~~~~~


~ダイヤ召喚の前日~



「――――ごッッ!!!?」ボトボト

ライダー「ま、マスター!!」

ジャック「あれれ、当たっちゃった」

「あーあ、サーヴァントのクセに易々マスターに致命傷を与えてしまうとは……あなたを召喚しなくて良かったわ、ライダー」クスクス

ライダー「あぁ、ああああ!!! マスター……マスター!!!」

「ぐふぅ……す、すまない……私が、油断したばかりに……」


「あなたも悪いのよ? 安易な正義感で首を突っ込まなければ殺されずに済んだのにさ」


「……高校生の誘拐現場を目撃したんだぞ? それを見逃せる人間がどこにいる!?」


「その結果がこれよ! ホント、馬鹿だよねぇ~」


「く、そぉ……」


「ジャックちゃん、早く処理してよ」

ジャック「うん、任せて♪」


ライダー「やらせない……やらせて堪るか!!」

「――令呪を……もって、命…ずる」


「ッ!! ジャックちゃん!!」

ジャック「させないよ!!」


「この場から離脱しろ、ライダー!!」キュイィィィン!!

ライダー「何で!!? マスt……」シュイン


「……理解出来ない。どうしてサーヴァントの方を逃がした?」


「お前を……止める為…だ。きっとライダーは……私……よりも優秀なマスターと再契約して、お前を……!!」


「ふ~ん、そっか」

「――やっちゃえ」


ジャック「バイバイ」ニコッ



――グチャ!!




~~~~~~~~~



曜「あちゃー、すっかり遅くなっちゃった。お母さん、怒ってるだろうな……」

曜「でも、このまま走って帰れば何とか間に合うかも!?」

曜「よし! 頑張って走――」


「――う、うあああああああああ!!!!?」


曜「うええ!? そ、空から女の子が!!!?」



――ドシーン!!!!



曜「痛てて……もう、手から血が出ちゃったよ。何するんだよ!!!」

「……う、うぅ……」シュウゥゥゥ

曜「えっ……ひ、酷い怪我!? それに何か体が消えかかってるよ!!?」

「あう……、あな、た……は?」

曜「大丈夫ですか!? 今救急車呼びますから!!」

「意味無い……よ」

曜「ならどうすればいいんですか!? 私に出来る事は!?」

「……じゃあ――」




―――――――

―――――

―――


~対バーサーカー戦から二日後~


千歌「曜ちゃん、曜ちゃん!!」

曜「ん、なーに?」

千歌「今日の放課後なんだけど、練習休みじゃん? だから梨子ちゃんと一緒に家に来ない?」

曜「あー、ごめん。ちょっと約束があるんだよね」

梨子「誰かと会うの?」

曜「まあね。みんなは知らない人だよ」

梨子「そっか……残念ね」

千歌「ふーん……そうなんだぁ」

曜「じゃあ、また明日ね~」

梨子「バイバ~イ」フリフリ

千歌「………ばいばい」ジーッ



千歌「――怪しい」

梨子「はい?」

千歌「幼馴染センサーが反応してるんだよ! 曜ちゃん、何か隠し事しているぞ……」ゴゴゴ

梨子(アホ毛がぴょこぴょこ跳ねているのはそのせいなのね……)


千歌「追うよ」

梨子「追うって曜ちゃんを?」

千歌「当然だよ! 曜ちゃんが何を隠しているか突き止めるんだよ」

梨子「ええっ……それはどうなの?」

千歌「早く準備して! 見失っちゃうから!」

梨子「もう……分かったわよ」ハァ


~~~~~~~~~



千歌「曜ちゃん、家に入って行ったね」

梨子「そりゃ自宅だし当たり前でしょ」

千歌「さて、どんな服装で出てくるかが肝心だよ」

梨子「普段私達と会う時とは明らかに違ったらどうするつもり?」

千歌「それは……その後会う人がどんな人かどうかによるよね」

梨子「長身の爽やか系イケメンだったら?」

千歌「はぁ? 曜ちゃんが男の人と会う訳がないじゃん」ケラケラ

梨子「でも、もし会ったら?」

千歌「………」ニコッ

梨子「ッッ!!!?」ゾワッ

梨子「―――……あ、会うわけないわよね! あはは、変な質問してごめんね?」

千歌「そうだよ~、梨子ちゃんったら全くもう」

梨子(曜ちゃんも大概だけど、ひょっとしたら千歌ちゃんの方が重いんじゃ……)



曜「――行ってきまーす!!」



千歌「ああ!! 出てきたよ!」

梨子「服装は……いつも通りのボーイッシュな感じね」

千歌「そうだね。これなら――」

梨子「待って。まだ誰か家から出てくるわ」



曜「ほらほら、早く行くよ!」グイグイ

「分かってるって! そんなに焦らせないでよ、曜ちゃん!」

曜「もう、ずっと家に居たのにどうして準備してなかったのさ! アストルフォちゃん!!」ムスッ

「あはは……申し訳ない」



千歌「……な、あ、そんな……」ガタガタ

梨子「嘘よ……曜ちゃんに限って……あり得ない……!」


千歌(曜ちゃんが――)

梨子(曜ちゃんが――)









千歌・梨子((私の知らない女(男)の子と一緒に同棲しているなんて!!?))

千歌(何なの!? あのピンク髪の子は!!? 曜ちゃんと同棲とか羨ましすぎるんだけど!!)

梨子(まさかあれが曜ちゃんの異性のタイプだったとは……いや、仮にもスクールアイドルなのよ!? 例え“男の娘”だとしても異性の方とのお付き合いは問題よ!!)


千歌「曜ちゃんがぁ……私のようちゃんがぁぁ」ウルウル

梨子「いや待って、決めつけるのはまだ早いわ」

千歌「……グスン、どーして?」

梨子「確かにあの子は曜ちゃんの家から出てきた。でも、だからと言って同棲しているとは限らない。もしかしたら遠い親戚かもしれないわ」

千歌「!!」

梨子「このまま様子を見ましょう。真相を突き止めるのよ!!」

千歌「梨子ちゃん……うん! やろう!!」




~~~~~~~~~



曜「今回も沼津まで来たけれど……見つかるかな?」

アストルフォ「ごめんね? また付き合わせちゃって」

曜「いいのいいの! 私が近くにいないと実体化出来ないんでしょ? 早く新しい“ますたー”を見つけないとね!」

アストルフォ「……うん、そうだね」



千歌「あの二人は誰かを探しているみたいだね」

梨子「マスターって聞こえたけれど……」

千歌「マスター? ご主人様を探しているの?」

梨子「し、知らないわよ」

千歌「あ、誰か近づいて来る! あれは……ルビィちゃん?」



ルビィ「あれ、曜ちゃん?」

曜「ルビィちゃん! こんなところでどうしたの?」

ルビィ「ルビィは鞠莉ちゃんのお見舞いに行っていたんです。ちょっと色々と用事もあったので」

曜「そうなんだ。確か明後日には退院するんだよね?」

ルビィ「そうだよ。鞠莉ちゃんは今すぐにでも出たくて仕方ないみたいだけど……」

曜「あはは、鞠莉ちゃんらしいや」


ルビィ「ところで……隣にいるその方は………ッ!!?」ビクッ

アストルフォ「………」ジッ

曜「ああ、紹介するよ。この人は――」

アストルフォ「あれれ、僕の事覚えて無いの?」

曜「へ?」

ルビィ「ええ!?」

アストルフォ「そんなぁ……ちょっとショックかも」ブーブー

ルビィ「ん、んん?」

ルビィ(変だな……一度も会った事ないのに)


アストルフォ「まあいいや。曜ちゃん、別の場所に行こう」グイグイ

曜「え、あ、うん……またね、ルビィちゃん」

ルビィ「ま、またね~」




千歌「移動した! 行こう梨子ちゃん!!」

梨子「ええ!」




ルビィ「………今のって」




ダイヤ「――恐らく真名を隠したかったんでしょうね」


ルビィ「お姉ちゃん……いいの? 街中でルビィに話しかけちゃっても」

ダイヤ「問題ありません。“たった今”周囲に居た知り合いが全員立ち去りましたから」

ルビィ「曜ちゃんも聖杯戦争に参加しているって事なのかな?」

ダイヤ「それは違うでしょう。仮にそうだとしたら、曜さんに余程自信があるか、相当の馬鹿かですわ」

ルビィ「あはは……」

ダイヤ「ですが、隣にいた彼女がサーヴァントなのは間違いない。ルビィだってステータスが視えたのでしょう?」

ルビィ「う、うん。確かに視えたけど……」

ダイヤ「何か気になるステータスが視えたのですか?」

ルビィ「えっとね、ステータス欄が変な風になっていたの。色々な項目に落書きみたいなのが書かれていて……」

ダイヤ「自身のステータス欄を改ざんするとは」

ルビィ「敏捷性とか幸運とかは視えたけれど、いくつかは全く分からなかった」

ダイヤ「全てのステータスが隠れていたのでは無い? 随分と中途半端な」

ルビィ「特に性別の部分の落書きが酷かったよ」

ダイヤ「性別……ですか? 一体何の為に……」ムムム

ルビィ「取り敢えず追いかけてみる?」

ダイヤ「ええ、気が付かれない距離から追跡してみましょう」




~~~~~~~~~



梨子「数時間フラフラ歩いているだけで何もしなかったわね」

千歌「結局、曜ちゃん達の目的が分からなかった……」

梨子「道のり的にも多分このまま家に帰ると思うよ。どうするの?」

千歌「……でえい!! こうなったら正面突破だ! 直接曜ちゃんに問い詰めてやる!」

梨子「千歌ちゃん!?」

千歌「おーーーーい、曜ちゃーーーーーん!!!!」




曜「残念だったね……今回もダメだった」シュン

アストルフォ「簡単に見つからないのは分かっていたからさ。曜ちゃんが気にする事じゃないよ」

曜「アストルフォちゃん……でも、次こそは見つけようね!!」

アストルフォ「……うん、ありがとう♪」ニコッ



――…おーーーーい、曜ちゃーーーーん!!!!



曜「あれ……この声は――」


千歌「曜ちゃん!!」

梨子「ま、待ってよ千歌ちゃん!」ゼエゼエ

曜「え、ええ!? どうして二人が……千歌ちゃんの家で遊んでたんじゃ!?」

千歌「そんな事はどうでもいい! 曜ちゃん、単刀直入に聞くよ!!」

曜「は、はい!!」ビクッ


千歌「その子は一体誰なの!? どうして同棲してるのさ!!?」

曜「同棲!? べ、別にそんな事は……」

千歌「誤魔化しても無駄なんだからね! その子が曜ちゃんの家から出てくる所もちゃーんと確認済みなんだよ!」

アストルフォ「あー……家からずっとつけてたのは君たちだったのか」

曜「アストルフォちゃん!? 気が付いてたなら先に教えてよ!」

アストルフォ「いやー、何だか面白そうだなぁって思ったからさ」

梨子「曜ちゃんとその人との関係に文句は言うつもりは無いけど、曜ちゃんは一応アイドルなんだよ? 異性の子と街中を二人きりで歩くのは良くないわ」

曜「あはは、ごめんごめん。……ん、異性の子?」

千歌「梨子ちゃん何言ってるの? どこに男の子がいるっていうのさ」

梨子「そのアストルフォっていう子に決まっているじゃない! どう見たって男の子、いや男の娘じゃない!!」

千歌「はあ? 梨子ちゃん……大丈夫?」

曜「いやいや、男の娘ってさ……意味が分からないよ」

アストルフォ「ほえぇ……こりゃ驚いた」

曜「ごめんね。梨子ちゃんも悪気が合って言ったわけじゃ――」




アストルフォ「よく僕が男って分かったね? 初見で見破られたのは初めてかも」



曜「ほら、アストルフォちゃんだってこう言って……え゛!?」

千歌「嘘でしょ!!?」

曜「そ、そんな……だって、ウソおお!?」

アストルフォ「ほら、曜ちゃんが着替えるとかなんかは部屋から出て行ったじゃん。きっと気が付いてないんだろうなーって思ったし」

曜「え、え、えええええええ!!!!? 最初に言ってよ!!!!!!」

アストルフォ「えへへへっ、ごめん♪」テヘッ

千歌「おぉ……男の子だって分かっていても可愛いと思ってしまう」


梨子「それで、そのアストルフォ君とは一体どういう関係なの?」

アストルフォ「えー、ちゃん付けでいいんだよ?」

梨子「アストルフォ“君”とは、どういう関係なのかしら?」

アストルフォ「ちぇー、ダメかぁ……」

曜「うーん、どうやって説明すればいいんだろう……?」

アストルフォ「まあ、簡単に言えば居候だね! 新しいマスターを見つける為に一時的に住まわせてもらっているんだ」

千歌「その“ますたー”って何?」

アストルフォ「……ごめん、詳しくは言えないんだ」

曜「何だか訳ありって感じなんだよね。初めて会った時も傷だらけの姿で空から落ちてきたんだよ?」

千歌「『親方! 空から女の――』」

梨子「止めなさい」


千歌「でもまあ、想像していた関係とは違うみたいで安心したよ~」ホッ

曜「どういう意味?」キョトン

千歌「なんでもなーい」

曜「えー、教えてよ千歌ちゃん」

千歌「いやだよ~だ。恥ずかしいから絶対に教えないもん」ニシシ


アストルフォ「ふふ、仲がいいんだね。この子達の為にも早くマスターを見つけないと……」







梨子「あれ? 何かおかしくない?」

曜「何がおかしいの?」

梨子「何だか、霧が出てきたような……」

アストルフォ「ッッ!!」ゾッ


千歌「……なんだか……力が……抜け……て」ドサッ

梨子「あ……れ、意識……が………」ドサッ

曜「えっ、二人ともどうしたの!?」

アストルフォ「大丈夫、霧の吸い込んだせいで意識を失っただけだよ。今から連れ出せば助かる」

曜「私は平気なのは……何で?」

アストルフォ「仮契約とは言え、曜ちゃんは僕のマスターだからだよ。魔術師では無いけれど、少しだけ耐性が付与されたんだと思う」

曜「魔術師? 何の話をしているのさ?」

アストルフォ「ごめん、詳しく話している時間は無いみたい……」カチャッ



――ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ



アストルフォ(最悪だ……まだマスターが見つかっていないのに!! アサシンに見つかった)ギリッ



ジャック『――その子が、あなたの新しいマスター? 前のより弱そうだね』クスクス



曜「ど、どこから声が――」


アストルフォ「曜!! 二人を連れて今すぐ逃げるんだ!!」

曜「二人を連れて!? 無理だよ!!」

アストルフォ「無理でもやって!! このままじゃ奴に殺される!!!」

曜「殺されッ……!?」



状況が理解できない曜。
だが、アストルフォの鬼気迫る表情と言葉に押され、行動に移す。
一先ず、千歌と梨子を抱きかかえて運ぼうとする。

しかし、いくら曜でも、意識を失った女の子を二人も抱えるのは筋力的に困難だった。



曜「ぐ、ぐううう……流石に二人を抱えるのは、キツイ……!!」グググ

アストルフォ「早く!! 敵が襲ってくる前に!!!」

曜「そんな事……言われても!!」



ジャック『大変そうだね? じゃあ、早く終わらせてあげるよ』カチャッ

アストルフォ「ヤバイ……何か来る!!?」




霧の中に姿を眩ますジャック。
このアドバンテージを最大限に生かすべく、宝具による先制攻撃を仕掛ける。



ジャック『比よりは地獄。“わたしたち”は炎、雨、力――殺戮をここに』

ジャック「解体聖母(マリア・ザ・リッパー)―――!!」




アストルフォ「ッ!!! 曜!!!!!!!!」

曜「えっ?」



――ザクッ!!!



アストルフォ「………」ボトボトボト

曜「何? 何が起きたの? 今の音は――」

アストルフォ「………何でも……ない。曜は……そのまま………進め」

曜「アストルフォ……ちゃん?」

アストルフォ「いいから行けよ!!! 早く!!!!!」

曜「わ、分かった……」



ジャック「凄いね。お腹から中身が零れ落ちているのにまだ死なないなんて」

アストルフォ「……ごほっ、だ、この程度で、死ぬなら……サーヴァントになんか……なってない!!」

ジャック「うふふ、思う存分解体させてね?」

アストルフォ「曜は……殺させない!! 今度こそ……僕が絶対に守り切ってみせる!!!」

ジャック「……」ニヤッ





~~~~~~~~~


曜「はぁ、はぁ、くっうぅ……お、重い……千歌ちゃんも梨子ちゃんもちょっと太った?」

千歌「………」

梨子「………」

曜「はは、聞こえていたら怒られるね」


曜(何だろう……凄く嫌な予感がする。何となくだけど……もう二度とアストルフォちゃんとは会えない、そんな気がする)

曜(このまま私だけ逃げていいの? 私に出来る事は何も無いの?)

曜(まだ……アストルフォちゃんの事、全然知らないのにここでお別れなの……?)



ガクンッ



曜「あれ……いきなり力が入らなくなった……よ……?」ドサッ

曜(何で、さっきまで平気だったのに……)



アストルフォ『仮契約とは言え、曜ちゃんは僕のマスターだからだよ。魔術師では無いけれど、少しだけ耐性が付与されたんだと思う』



曜(耐性が消えた……つまりアストルフォちゃんとの契約が切れた? じゃあ、アストルフォちゃんは……どうなったの?)

曜(ヤバッ……い、しき……が………)




――ちゃん! ――ようちゃん!!




曜「………誰? 誰が……呼ん、で………」






――曜ちゃん!!!!





~~~~~~~~~



ジャック「ふふふ~~ん♪」

アストルフォ「……ひゅーっ、ひゅーっ」



ジャックは鼻歌交じりにクルクルとアストルフォの左腕を回している。
圧倒的な力の差に成す術無く敗北。
アストルフォは文字通り“解体”されてしまった。



ジャック「武器もまともに生成できないくらい魔力が枯渇していたなんてね。弱すぎて欠伸が出ちゃった」

アストルフォ「……うる、さい」

ジャック「宝具も武器も使えない状況でよくここまで耐えられたね。しかも宝具もまともに喰らったのにさ、ちょっとショック……」

アストルフォ「……ごほっ、へへ……大した宝具じゃ……なかった、ね」ニヤッ

ジャック「むっ、怒ったよ!!」


ジャック「――こうなったらさっきの子も解体しちゃおう」

アストルフォ「!?」

ジャック「実はお母さんから浦女の生徒を何人か襲うように言われているんだ。丁度いいからあの子にするよ」

アストルフォ「や、やめ……ろ……! 曜に……手を…出すな!!」

ジャック「そのまま指を咥えて見ていなよ。あ、ごめん、もう咥える指は無かったね!」ケラケラ

アストルフォ「き、貴様アアアアアア!!!!!」

ジャック「まだ元気いっぱいだね。……うるさいから黙らせよう」カチャッ



アストルフォ(ちくしょう……僕は、また守れないのか……何が英霊だ、何がサーヴァントだ……僕は……無力だ)

アストルフォ(お願いだ……誰でもいい、誰でもいいから……曜ちゃんを、僕の友人を守って下さい………)



ジャック「――バイバイ」グシャ

アストルフォ「――か、はっ……!!?」



――ビュン!!!



霧の向こう側からジャック目がけて高速で矢が飛来する。
掌を貫き、持っていたナイフが吹き飛ばされた。



ジャック「ッ!!? この矢は!!」

アストルフォ「……?」



ダイヤ「見つけましたわ、アサシン……いえ、ジャック・ザ・リッパー!!」

ジャック「へえ……学校の時以来だね。もしかしてあの時より矢の威力も精度も上がった?」

アストルフォ「あ、あな……た、は……?」シュウゥゥゥ

ダイヤ「安心してください。曜さんはわたくしのマスターが保護しました」

アストルフォ「……そっか、あり、が……と……」シュウゥゥゥン……


ジャック「消えちゃったね。しぶといサーヴァントだったなぁ」

ダイヤ「………ッ」ギロッ

ジャック「そんなに睨まないでよ。でもさ、アーチャーなのに正面に出てきていいの? 遠距離攻撃が売りなのにそれを捨てるなんて」

ダイヤ「ええ、これが最善の策ですので」



ジャックは前へ飛び出す。
最短距離でダイヤの首元を狙う。

対するダイヤは武器を収め、両手をだらりを落とす。



ジャック「――――取った!!!」ビュン

ダイヤ「あなたも言えた立場ではないでしょう。アサシンの強みは、気配遮断からの不意打ち。正面から襲い掛かるのは愚策では?」

ジャック「ああ?」イラッ

ダイヤ「うらああああああああ!!!!!」グシャ!!



ダイヤはジャックの攻撃を躱しつつ、渾身の右ストレートを頬へ叩きこむ。
完璧に決まったカウンターパンチ。
その場でふらつくジャックに対し、今度は顔面に拳を入れる。



ジャック「ぶっ、ぐふぅ!? か、はっ……!!?」

ダイヤ「遠距離でちまちま狙って倒したら、あなたを殴れないでしょ」バキッ!!

ジャック「痛ッ!!? アーチャーのクセに弓矢を使わないの!?」

ダイヤ「はっ!! アーチャーが弓矢を使う訳がないでしょう!!!」



殴る、殴る、殴る。
防御の隙も、反撃の機会も、撤退さえも許さない猛攻。

セイバーから教わったのは弓の技術ではなく、近接戦闘だった。
素手での戦い方を叩きこまれたダイヤに圧倒されるジャック。



ダイヤ「無関係の生徒を危険に晒し!!」バキッ!!

ダイヤ「大切な友人の命まで狙った!!!」グシャ!!

ジャック「ごっ、ごほっ、ごほっ」ボタボタ


ダイヤ「そんなあなたを……わたくしは絶対に許しません。一発ぶん殴らなきゃ気が済まない!!!」グシャア!!!!!



地面に叩きつけられるジャック。

ダイヤの力強いパンチを全て浴びた彼女は既に虫の息だった。






ジャック「う、あ、うぅ………はは、なら一発だけで許し……てよ」ドサッ

ダイヤ「黙りなさい。貴様の言い分など聞く耳持ちません」

ジャック「酷い……なぁ。こんな幼い……女の子をボコボコにして……楽しかった?」

ダイヤ「……いいえ、最悪の気分ですわ。もう二度とごめんです」

ジャック「だろう……ね。まさか……素手で倒される……なんて………」

ダイヤ「この距離ならば、矢は絶対に外しませんわね」ギギギギッ



―――ドスッ!!!



ジャック「ッ!!! ごめんなさい、お母………さん」シュウゥゥゥン

ダイヤ「……消滅を確認。アサシンのサーヴァントを撃破しました」




~~~~~~~~~



ルビィ「お姉ちゃん!! 良かった、無事だったんだね!!」

ダイヤ「当然でしょう。わたくしが負けるはずがありませんわ」

ルビィ「そりゃそうだけど……無傷で帰って来てくれて良かった」ニコ

ダイヤ「サーヴァント2騎の消滅を確認しました。片方はアサシン、もう片方のクラスは不明ですが、曜さんの隣で歩いていた人物でした」

ルビィ「……そう」


ダイヤ「曜さん達の容態は?」

ルビィ「うん、霧の毒の影響で意識を失っちゃったけれど、今は顔色も良くなってきてる。もうじき目を覚ますと思うよ」

曜「……う、ううん………」

ダイヤ「曜さんが起きそうですわね。隠れてきますわ」ササッ



曜「あ……れ、私……どうやってここに?」

ルビィ「曜ちゃん」

曜「ルビィちゃん……? 千歌ちゃんと梨子ちゃんは?」

ルビィ「隣で寝ているよ。二人とも無事だから安心して」

曜「そっか……良かった」ホッ


曜「ねえ、アストルフォちゃんは? さっき沼津で私と一緒にいた子なんだけど……戻って来てない?」

ルビィ「………」

曜「やっぱり……アストルフォちゃんは――」

ルビィ「大丈夫、アストルフォちゃんは無事だよ」

曜「!」

ルビィ「二人が探していたマスターが駆けつけてくれたんだ。アストルフォちゃんはその人と一緒に行っちゃった」

曜「ああ……見つかったんだね」

曜「またいつか、会えるかな?」

ルビィ「……うん、きっと会えるよ」ニコッ


曜(………そっか、アストルフォちゃんはもう―――)

曜「ふふ、ありがとう、ルビィちゃん」ニッ




~~~~~~~~~



「ちくしょう……ちくしょう!!! ジャックちゃんが、ジャックちゃんがああああ」

「どうして……どうして私の学校を救う願いを邪魔するの!?」

「許せない……私に逆らう奴らは全員消してやりたい……消してやる!!!」



???「ほう、物騒な望みを抱くマスターだな」

「誰!!?」

ランサー「私はランサーのサーヴァントだ。貴様のその願い、私が叶えてやろう」

「どうしてあんたが……そもそも、元のマスターはどうするの?」

ランサー「先日バーサーカーに致命傷を負わされてな……ついさっき死んだ」

「へー……マスターを簡単に死なせるんだね」

ランサー「元々相性が悪かったんだ。それに守る価値もないマスターだった。だが、君は違う。君となら大丈夫だと確信している」

「ふ~ん……まあいいや、仕方ないから契約してあげるよ」

ランサー「ふっ、よろしく頼むぞ、マスター」ニヤリ



――

――――

――――――



ダイヤ『随分と暗くなってしまいましたわね』

ダイヤ母『あっちこっちお店を周ったから仕方ないわよ』

ダイヤ『ルビィが悩みすぎなのですわ……結局最初のお店にあった服を買ったではありませんか』

ルビィ『うぅ……ごめんなさい』シュン

ダイヤ母『いいのよ、折角の買い物だもの』

ダイヤ『お母様は運転に集中して下さい。この辺りは見通しが悪いせいで事故が多いのですから』

ダイヤ母『はーい♪』


ルビィ『お姉ちゃん、お茶残ってる? ルビィの無くなっちゃって……』

ダイヤ『ありますわよ。どうぞ』

ルビィ『ありがとう』

ルビィ『ゴクッ、ゴクッ……んぐっ!!? げほっげほっ!!!』

ダイヤ『あぁ!? 何ぶちまけているんですか!?』

ルビィ『ご、ごめ……げほっ、変なところに、入っちゃって、げほっ、げほっ』

ダイヤ『ちょっと待っていなさい』カチャッ

ダイヤ母『えー、お客様、走行中にベルトを外して立ち上がると大変危険でーす』

ダイヤ『からかわないで下さい。外さなきゃタオルが取れないんだから仕方ないでしょう!』

ダイヤ『あーあ……白いセーターにしみが残ってしまいますわ』フキフキ

ルビィ『うりゅ……ごめんなさい』

ダイヤ母『可哀想に……さっきから謝ってばかりじゃない』

ダイヤ『帰ったらすぐに洗いましょう』

ルビィ『うん。しみがちゃんと落ちるといいなぁ……』



――ププゥゥゥゥゥ!!!!!



ダイヤ母『――へあっ』ゾワッ

ダイヤ『はい? なんて気の抜けた声を――』

ルビィ(へ? どうして目の前に車が――)



――キキッーーーーー………ガシャーン!!!!












~~~~~~~~~



ルビィ『………う、うぅ………』

ルビィ(体中が……痛い……何が、起きたの……?)


ルビィ『あれ? ……今日って、赤いセーターだったっ……け?』



――ポタッ、ポタッ



ルビィ(――ああ、これ全部……ルビィの血か………)


ダイヤ母『う、うぅ……』

ルビィ(お母さん……? 良かった、生きている)ホッ


ルビィ『お、おねえ……ちゃん? 大……丈夫……?』



――シーン……



ルビィ『お姉ちゃん? どうして返事を――』


ルビィ(待って……どうしてフロントガラスに穴が空いているの? そのガラスにあんなに血が付いているの?)

ルビィ(逆走してきた車を避けて、ガードレールにぶつかった。人を轢いたわけじゃないからあんな所に血が付く訳がない)

ルビィ(――じゃあ、あの血は? お姉ちゃんは? お姉ちゃんは……どうなったの??)





―――――――

―――――

―――



~対アサシン戦 翌日 夜中~



ルビィ「――――うわああああ!!!?」ガバッ

ダイヤ「る、ルビィ!? どうかしましたか!?」

ルビィ「はぁ、はぁ、はぁ……ゆ、夢……また……」

ダイヤ「怖い夢を見たようですわね。どんな夢を?」

ルビィ「……あの事故の夢だよ」

ダイヤ「……そう。やはり、よく見るのですか?」

ルビィ「……」コクン

ダイヤ「……そうですか」


ルビィ「ねえ、お姉ちゃんはやっぱり……あの事故で死んじゃったんだよね?」

ダイヤ「……ええ。事故の衝撃でフロントガラスを突き破り、崖下の海へ落下しましたわ。その際に左腕を失いました。それは見つかったんですよね?」

ルビィ「うん」

ダイヤ「海に叩きつけられ、そのまま沈んでいきました」

ルビィ「じゃあ、溺死ってこと?」

ダイヤ「いいえ、血の匂いで寄ってきたサメに食されました」

ルビィ「ッッ!!?」ゾワッ


ダイヤ「徐々に意識が遠ざかる中、私は……」

ダイヤ「………」

ルビィ「お姉ちゃん?」

ダイヤ「何でもありませんわ。まあ、色々あって英霊の座に入る事が出来ました」

ルビィ「お姉ちゃんは別の英霊の力を借りているんだよね? そろそろ教えてよ」

ダイヤ「うーん……いや、ここまで来たら秘密のままで突き通しますわ」

ルビィ「ええぇ……がっかり」ムスッ

ダイヤ「ふふ、そう拗ねないで下さいな」

ルビィ「いいもん、聖杯戦争が終わったら絶対教えて貰からね!」

ダイヤ「いいですとも。その時は必ず」フフッ


ルビィ「今はバタバタしてるから自由な時間がないけれど、それももうすぐ終わる。お姉ちゃんは全部終わったらまず何がしたい?」

ダイヤ「そうですわね……ああ、新しい服が欲しいですわ。毎日スーツは窮屈で仕方ないので」

ルビィ「なら最初にするのはお買い物だね! 約束だよ?」

ダイヤ「ええ、約束ですわ」ニコッ


ダイヤ「さあ、まだ夜中です、もうひと眠りできますわよ」

ルビィ「はーい……お休みな――」



――ピカッ!!!


再び眠りに就こうとしたその時、外から白い光が差し込んできた。
その光は日中の太陽の光よりも眩かった。
いきなり真夜中から昼間に切り替わったと錯覚するほどである。



ルビィ「うわ眩しッ!? 何なの一体?」

ダイヤ「違う……何も感じないんですか!?」

ルビィ「感じるって何を……んな!? このとんでもない魔力は何!!?」



――プルルル、プルルル



ルビィ「もしもし鞠莉さん!?」

鞠莉『ルビィ!! 外の異変には気が付いているわね!!?』

ルビィ「うん、あれは一体何なの?」

鞠莉『セイバー曰く、あれは宝具による攻撃らしいわ』

ルビィ「ほ、宝具!? あんな巨大な塊が!?」

鞠莉『残ったサーヴァントはランサーのみ。あれだけの宝具が使えるとなると、相当の強敵よ』

鞠莉『目測で直径500メートルを超えている。しかも今も大きくなっているわ』

ルビィ「あれより大きくなるの……」

鞠莉『あんなものが落ちてきたら、地図上から内浦が消滅するわ!! それだけじゃない、余波で周辺の地域も壊滅する!!!』

ルビィ「んな!!!?」

鞠莉『発生源は淡島神社よ! 私も急いで向かっているから、今すぐ準備して!!!』

ルビィ「分かってる!! 直ぐに向かう!!」




~~~~~~~~~




ダイヤ「この先に最後のサーヴァントがいるんですわね……」

セイバー「凄まじいプレッシャーだ……姿が見えないにも関わらず足がすくみそうになる」

鞠莉「珍しく弱気ね? 大丈夫なの?」

セイバー「問題無い。聖杯まであと少しなんだぞ? ここで負けるわけにはいかないさ」


ルビィ「そうだ……この敵を倒せば、お姉ちゃんを取り戻せるんだ!!」

ダイヤ「……」


鞠莉「ルビィ、ダイヤ、よく聞きなさい」

ルビィ「?」


鞠莉「――いい? 私達の敗北はそのまま内浦の人々の死を意味するわ。私達は絶対に負けるわけにはいかない事を改めて肝に銘じておきなさい」

ルビィ「………ッ!」ブルッ

ダイヤ「ルビィ、恐れる必要はありませんわ。もしもの時はわたくしの“とっておきの一撃”がありますから」

ルビィ「とっておき……あ、遂にお姉ちゃんの宝具が見られるんだね!」

ダイヤ「……ええ」ニコッ

ルビィ(あれ、今の笑顔は何だか……?)



セイバー「さあ、行くぞ!!」

鞠莉「ええ!!」

ルビィ「う、うん!!」

ダイヤ「参りましょう!」



~~~~~~~~~


ランサー「――――来たか」


ルビィ(綺麗な白馬……持っているのは槍、なのかな?)


鞠莉「セイバー……彼女は本当にランサーなの?」

セイバー「………バカな、そんな!?」

鞠莉「せ、セイバー?」

セイバー「見ただけで分かる……奴の持っているその槍、その聖槍からして間違い無い!!」

ダイヤ「あの白銀の甲冑を身に纏った騎士は一体誰なのです?」


セイバー「あの聖槍は“ロンゴミミアド”星の聖槍にして星を繋ぎ止める嵐の錨。あんなものを持っている英霊など一人しかいない!!」

セイバー「――アルトリア・ペンドラゴン……奴はブリテンの騎士王だ!!!」


鞠莉「どうして……ブリテンの王様だった貴女が、多くの人々の命を奪おうとするの!?」

ランサー「理由か? そんなものは簡単だ。我がマスターがそれを望んだからだ。もっとも、上空のあれは令呪を全て使用し、残りの魔力も一滴残らず行使して作り上げてしまったからな……既にマスターは息絶えてしまった」



ほら、そこだと指を刺す。
その先には見るも無残に痩せこけた元アサシンのマスターが倒れていた。

憎き敵ではあったが、その惨さに流石のダイヤも顔を歪ませる。



ダイヤ「今すぐ攻撃を中止しなさい!!」ビュンビュン!!



無数の矢を連続で放つ。

これまでの訓練により、弓の威力は飛躍的に向上。
その矢は音速を超え、大地をも割る。

だが、そんな矢をランサーは造作もなく全て弾き飛ばす。



ダイヤ「このっ!!?」

ランサー「無意味だ。止めたいのならば力尽くで止めてみせよ!!」




ランサー「――聖槍、抜錨」



聖槍にかけられていた拘束が解放され、槍全体が美しく光り輝く。
同時に魔力の量が爆発的に跳ね上がった。



セイバー「クソッ!! 全員俺の後ろに来い!!!」

ランサー「貴様らと戯れるつもりは無い。この一撃で葬ってやろう」


ダイヤ「あの魔力量……マズいですわ!! こうなったらわたくしの宝具で――!!!」

セイバー「ダメだ!! まだ命を懸けるには早い!!」

ダイヤ「ですがッ!!」


ランサー「消えろ!!!!」



眩い光と共に、強力なビームを発射。
回避は不可。
喰らえば即死。
であれば、正面から受けるしか無かった。

セイバーはその攻撃に対し、右手を突き出す。



セイバー「――――I am the bone of my sword……」

ダイヤ(魔術詠唱? 一体何を……)




セイバー「“熾天覆う七つの円環”(ロー・アイアス)――――!!!!!」







――ドゴゴゴゴゴッ!!!!!




セイバーの右手から七枚の光の盾が花弁のように展開した。
熾天覆う七つの円環。
一枚一枚が城壁と同等の防御力を誇り、セイバーが現状使用できる最強の防具。

最強の矛と最強の盾の衝突。



鞠莉「あ、アイアスの盾ですって!? あなたギリシャ神話の英霊なの!!?」

セイバー「残念ながら違う!! これは私が魔術で投影した宝具だ!!!」

鞠莉「投影!? これって投影魔術なの!!?」

セイバー「マスター!!! 魔力の供給に集中してくれ!! このままじゃ……持たない!!!」



――パリンッ!!



ルビィ「花弁が割れた!?」

ダイヤ「鞠莉さん、セイバー!!」



――パリン、パリンッ!!!



セイバー「ぐっ、ぐおおおおおおおおぉおお!!!!!」

鞠莉「う、ぐう……ガンガン魔力を持っていくわね。これだけ使ってるんだから絶対に防ぎきりなさい!!!」




――パリン、パリリンッ!!!



セイバー「があああああぁああああああああああ!!!!」





~~~~~~~~~


ランサーの攻撃が止まる。

四人は生き残った。
ただ、この攻撃を防ぐだけで鞠莉とセイバーの魔力の半分以上を消費してしまった。



ランサー「……ほぅ、我が聖槍の一撃を防いだか」

セイバー「……はぁ、っは、ぁ、ぐ―――」ガクッ

鞠莉「は、ははは……大量に魔力を消費してぎりぎりだなんて、シャレにならない……わ」ガクッ


ランサー「いいだろう、次こそは宝具にて貴様達を消し去る」

ダイヤ「今のが……宝具による一撃では、無かった!?」

ルビィ「じゃあ、次の攻撃は……」

セイバー「……ああ、残念ながら、あれ以上の攻撃を防ぐ盾は持ち合わせていない」


ダイヤ「――ならばっ!!!」ギギギッ

セイバー「無駄だ、通常の君の矢では彼女の体に届かない」

ダイヤ「ではどうするのですか!?」




セイバー「まあ待て、手が無いわけじゃない」

ダイヤ「!!」

鞠莉「へぇ……まだ奥の手を残しているのね?」

セイバー「当然だ、“あるに決まっているだろ”」

セイバー「……だが、分かっているなマスター」グググ

鞠莉「……ええ、分かってる」



最後の力振り絞り、立ち上がる鞠莉とセイバー。
立ち上がる強敵を前に二人は不敵に微笑んだ。





セイバー「――魔力を回せ、決めに行くぞマスター!!」

鞠莉「OKよ!! セイバー!!!!」





残り魔力はあと僅か。
もう宝具を放つだけの量も残っていない。

それでも、鞠莉には三画の令呪が残っている。
その一つ一つには非常に強力な魔力が込められており、サーヴァントに対して本来では不可能な事でさえ可能とする。



鞠莉「――令呪をもって命ずる、セイバー、宝具にてランサーを討て!!」キュイィィィン!!




セイバー「――――投影、開始(トレース オン)」



セイバーは自身の宝具を持たない。
イメージを元に、魔力のみで物体を作り出す“投影魔術”を使用し、今まで目視した宝具を模倣しているだけ。
剣であるならばほぼ全ての武器を投影可能だが、目視で構造が読み取れない神造兵装は完全な再現が出来ない。



セイバー「――ぐ、ぐあああああああああああああ!!!!!!?」バチバチバチ



だが、今セイバーが行っているのは、その神造兵装の投影。
彼が唯一、己の世界(心象世界)にストックしている一刀。
それを、令呪の力で強引に投影する。



セイバー「――は、ぁ、ふうぅぅ………」バチ、バチバチバチッ

ランサー「なるほど、“聖剣”の方を造り出したか。だが、そんな模倣品で本当に倒せると思っているのか?」

セイバー「確かにな、俺の投影じゃ真に迫ることは出来るが、完全な再現は無理だ。令呪の力で半ば強引に造り出したこれも、君の聖槍には到底及ばないだろう」

セイバー「――だがな」バチバチッ

鞠莉「重ねて令呪をもって命ずる!!!」キュイィィィン!!

ランサー「何!?」



――バチ、バチバチッ、バチ!!!



セイバー「――これならどうだ?」カチャッ

ランサー「安直な考えだな……足りなければ増やせばいいと思ったか? いくら模倣品とはいえ、真に迫っているのだろう? ならば、それを一人で二本も扱える訳がない」

セイバー「分かっているさ。ほら、受け取れ」ヒョイ

ダイヤ「ちょっ!? 聖剣をそんな無造作に投げないで下さい!!」パシッ

セイバー「真名は知っているな?」

ダイヤ「当然ですわ。これ程の聖剣、見ればすぐに分かります」

セイバー「ならいい。贋作且つ一回きりの使い捨てだが、真名解放は出来る」

ダイヤ「全く……あなた、そんでも無い英霊ですわね」


ダイヤ「マスター、これから大量の魔力を消費します。少ししんどいと思いますが、我慢して下さい」

ルビィ「大丈夫! 遠慮しないで使い果たしちゃって!!」




ランサーの聖槍が再び輝き始める。
そして、空高く舞い上がった。

両陣営、宝具の発動準備に入る――




ランサー「――――最果てより光を放て」



セイバー「――――束ねるは星の息吹」






ランサー「――其は空を裂き地を繋ぐ、嵐の錨!!」



ダイヤ「――輝ける命の奔流。受けるがいい!!」








ランサー「最果てにて(ロンゴ……)――――」

ダイヤ・セイバー「“約束された(エクス……)――――」







「輝ける槍(ミニアド)――――!!!!!!」

「――――勝利の剣(カリバー)!!!!!!」



二つの聖なる光が、お互いの存在を打ち消さんばかりに鬩ぎあう。



ダイヤ「あああああああああああああああ!!!!!!」

セイバー「うおおおおおおぉぉぉおお!!!!!」


ルビィ(体中の力が抜ける……想像以上の消費量だ……よ)ガクンッ

ルビィ(でもダメだ!! ここで頑張らなきゃ……負けるわけにはいかない!!)


ルビィ「――お姉ちゃん!!!」

ダイヤ「くうぅぅ!!!」



ルビィ(そんな……二人がかりで押されてる!?)

ダイヤ「ダメ、押し負ける―――」








セイバー「――マァァスタアアアァァァァ!!!!!!!!」




鞠莉「最後の令呪よ!!! 私の魔力、一滴残らず使い果たしなさい!!!」

鞠莉「だから……勝て!! セ、イバー―――………!!!!!」キュイィィィン!!



令呪による最後のブースト。
セイバーは正真正銘最後の手段を取る。

投影宝具という強みを最大限に生かした裏技。
宝具を敢えて破壊することでその魔力を爆発的に開放する。


―――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)


この一撃によりランサーの宝具を吹き飛ばす。
残った宝具はダイヤの聖剣ただ一つ。



ランサー「んな!?」

ダイヤ「―――いっけえぇぇぇぇ!!!!!!!!」



―――カッ……!!!!



聖剣から放たれる光が、ランサーの全てを包み込みこむ。
――そしてその身体を跡形も無く消し去った。

ダイヤ「っ……あ、く、はぁ……―――」ドサッ

ルビィ「は……はぁ―――勝った、の?」

鞠莉「ええ、ランサーは完全に消滅した。私達の……勝利よ!!」


セイバー「……役目は果たせたようだな」シュウゥゥゥ…

ルビィ「セイバーさん……体が……」

セイバー「元々、自壊前提の投影だったんだ。まあ、マスターの望みを叶える為にも、俺は消えなくてはならなかったから丁度いいさ」

鞠莉「……セイバー」グスッ

セイバー「ふっ、そんな顔をするな、マスター」

鞠莉「あなたがサーヴァントで良かったと、心から思っている。私達に力を貸してくれて……本当にありがとう」

セイバー「サーヴァントがマスターに力を貸すのは当然の事だ」

鞠莉「それでも、感謝している」

セイバー「……ああ、素直に受け取っておこう」


セイバー「―――アーチャー」

ダイヤ「………」

セイバー「いや、黒澤ダイヤ。これで君は聖杯の力で受肉出来る」

ダイヤ「……ええ」

セイバー「だが、運命というのは残酷だな……最後の最後で上手くいかない」

ダイヤ「……全くその通り…ですわね」

セイバー「後悔しない方を選べ。マスターを……鞠莉を頼んだぞ―――」シュウゥゥゥン……



~~~~~~~~~



ルビィ「セイバーさんの最後の言葉……あれは一体―――?」

ダイヤ「戦いはまだ終わっていない、という事です」

ルビィ「終わってない?」

ダイヤ「気が付きませんか?」

ルビィ「? 特に何も変わってないよね?」

鞠莉「嘘でしょ……どうしてランサーを倒したのに空のあれが消えて無いの!!?」

ルビィ「!!!」


ダイヤ「ゆっくりではありますが、徐々に落下していますわね。このペースならあと30分で地上と接触するでしょう」

鞠莉「なら、急いで街の人々を避難させなきゃ!!」

ダイヤ「こんな明け方に街の人々を全員避難させることが可能だとお思いで? 余りにも時間が足りない」

ルビィ「ならどうするのさ!!?」



ダイヤ「わたくしの宝具を使います」

ルビィ「宝具!」

ダイヤ「恐らく、あの程度の規模なら相殺出来るでしょう。魔力が枯渇した今、残りの令呪の使用は不可欠ですけれど」

ルビィ「なら早速―――」


鞠莉「ルビィ待ちなさい」

ルビィ「?」


鞠莉「さっきダイヤが宝具を使おうとした時のセイバーの言葉、聞き逃さなかったわよ」

ルビィ「……あ」

鞠莉「『まだ命を懸けるのは早い』。確かにセイバーはそう言っていた。ダイヤの宝具は……命と引き換えに使用するものなんでしょ?」

ダイヤ「………」

ルビィ「答えて……答えてよ!!!」



ダイヤ「――わたくしは“戦いを終わらせる英雄”から英霊としての力を借りました」

鞠莉「“戦いを終わらせる英雄”……?」

ダイヤ「古代ペルシャの伝説の大英雄と言えば分かりますか?」

ルビィ「――……『アーラシュ・カマンガー』。なら、お姉ちゃんの宝具は……」

ダイヤ「……まあ、そう言う事です」

ルビィ「でも待ってよ、それじゃあ!! ……何の為にここまで戦って来たのさ!? 聖杯はもう目の前なんだよ!! あと一歩で……お姉ちゃんが居る、元の日常に戻れる!!」

ダイヤ「………」

ルビィ「認めない……他の手段を考えよう!!」

鞠莉「いいえ、もう内浦を救うにはこれ以外の方法は無いわ」

ルビィ「鞠莉さん!? 鞠莉さんだってお姉ちゃんを生き返らせる為に頑張って来たんでしょ!?」


鞠莉「………ぅ」ポロポロ

ルビィ「ッ!? 鞠、莉……さん」

鞠莉「……それでも、ダイヤの宝具以外に方法は無い……のよ」

鞠莉「でも、ダイヤもあんまりじゃない。私が問いたださなかったら、何も言わずに死ぬつもりだったのでしょ?」

ダイヤ「申し訳ございません……絶対に反対されると思ったので」


鞠莉「もう……これしかないんだよね」

ダイヤ「……ええ」



ダイヤ「事故の際、冷たい海に沈みながら、わたくしはずっと願っていました」

ダイヤ「もう一度、あともう一度だけルビィに逢いたい。鞠莉さんやAqoursのみんなに逢いたい。強く、強く、ただそれだけを強く願っていましたわ」

ダイヤ「どうして彼が力を貸してくれたのか分かりませんが、そのおかげでこうしてもう一度逢うことが出来ました」

ダイヤ「やり残した事は無い……とは言えません。振り返れば、後悔ばかりの人生でした」

ダイヤ「―――それでも、わたくしはこの人生に満足しています。だって、わたくしの願いは、もう叶ったのですから」ニコッ



ルビィ「……何、それ………」

ダイヤ「ルビィ?」

ルビィ「何、何なの……自分は満足しただって? ふざけないでよ……ふざけんな!!!! 勝手に自分だけ満足しないでよ!!!!!」

ルビィ「ルビィはまだ満足なんかしてない!! ……まだ一緒に居たいんだ! 新しい服を一緒に買いに行く約束は!? やり残したことだって沢山あるんでしょ!? だったら簡単に生きるのを諦めないでよ!!!」

ルビィ「ルビィを……ルビィをまた、置いて逝かないでよぉ……」ポロポロ

ダイヤ「………ッ」









ルビィ「……なんてね」グシグシ

ルビィ「今のは間違いなく本音だけどさ、これしか方法が無いのはルビィでも分かる」

ルビィ「でも……それでも自分の気持ちを伝えなきゃ、一生後悔すると思ったから。だからごめんなさい、最後に困らせるようなこと言っちゃって」

ダイヤ「……いいえ、話してくれてありがとう」



ルビィ「あーあ、折角聖杯戦争に勝ち残ったのになぁ。残念だけど、“今回”は諦めるしかないか」

ダイヤ「……“今回”は?」

ルビィ「だって、なにも今回が最後の聖杯戦争じゃないでしょう? なら次回また勝てばいい」

鞠莉「確かに聖杯戦争は一定の周期で行われるけれど……でも次回は―――……少なくとも60年以上先よ?」

ルビィ「うん、知ってるよ。だから……次に会う時のルビィは、よぼよぼのお婆ちゃんになってるね」

ルビィ「ルビィが付けてるこの髪飾りがあれば、お姉ちゃんをサーヴァントとしてもう一度召喚できる」



ルビィ「今度も絶対に聖杯を勝ち取ってみせる。だから、だからね……もし、もしも次の聖杯戦争でもルビィがマスターに選ばれたら―――……その時はまた、お姉ちゃんの力を貸してくれますか?」ポロポロ

ダイヤ「……ええ、勿論ですわ」ニコッ

ルビィ「えへへ、ありがとう」


ダイヤ「ふぅ……ルビィ、時間がありませんわ。そろそろお願いします」

ルビィ「………っ」ゴシゴシ


ルビィ「第二の令呪をもって……命、ずる……」

ルビィ「……う、……うぅ………」ポロポロ

鞠莉「ルビィ……」


ルビィ「大丈夫、大丈夫だよ。もう、決めたから」グシグシ




ルビィ「―――……令呪をもって命ずる、お姉ちゃん、宝具にて迫りくる脅威を排除せよ」キュイィィィン!!




ルビィ「重ねて命ずる、私達を……内浦の人々を、救って―――!!!」キュイィィィン!!




~~~~~~~~~




ダイヤ「……そろそろ、二人は安全なところまで避難しましたかしら? 相殺時の衝撃に巻き込むわけにはいきませんからね」

ダイヤ「ふぅ……結局、最後はまた独りですか。覚悟はしていましたが、やはり寂しいですわね」

ダイヤ「……本当にこれで良かったのでしょうか―――?」



『――ああ、胸を張れ。お前は間違っちゃいねぇさ』


ダイヤ「!! あなたは……」


『生前はどこにでもいる普通の女の子が、自らの命と引き換えに大切な人を守る決断をしたんだ。例え同じ力を宿した子が100人いても、その決断を出来る奴なんて一人もいないさ』

『やるべき時にやる奴が、英雄と呼ばれる。お前はもう、立派な英雄だよ』


ダイヤ「ふふ、伝説の大英雄のお墨付きとは……光栄ですわ」


『……すまなかったな。俺の宝具がこんな極端なもののばっかりに、辛い選択をさせちまった』


ダイヤ「とんでもないですわ。力を貸して下さったのが貴方だったからこそ、こうして守ることが出来るのですから」


『そうか……役に立てて良かったぜ』ニッ



『――……さあ、最後の大仕事だ! 俺が隣で見届けてやる。ぶちかまして来い!!!』


ダイヤ「ええ!! やってやりますわ、存分に!!!!」



ダイヤは天空に向けて矢を構え、真名を解放する―――







ダイヤ「―――陽のいと聖なる主よ。あらゆる叡智、尊厳、力をあたえたもう輝きの主よ」

ダイヤ「我が心を、我が考えを、我が成しうることをご照覧あれ」








ダイヤ「さあ、月と星を創りしものよ。我が行い、我が最期、我が成しうる聖なる献身を身よ」

ダイヤ「この渾身の一射を放ちし後に―――」






ダイヤ「―――我が強靭の五体、即座に砕け散るであろう!!」






ダイヤ(お別れです、ルビィ。……愛していますわ―――)









ダイヤ「“流星一条(ステラ)ァァァァッ―――!!!!!!」






ルビィと鞠莉は確かに見届けた。
朝焼けの空を駆けていく七つの光を。

二つの宝具は完全に消滅した。


こうして、ダイヤは二度目の死を迎える。
内浦を救ったこの英雄の名は内浦の歴史には残らない。
誰の記憶にも残らない。

“英雄・黒澤ダイヤ”の名は二人の記憶にだけ残るのだった―――



―――――――

―――――

―――



果南「やっほ、鞠莉」フリフリ

鞠莉「早かったわね。手続きはもういいの?」

果南「うん、後はやるから先に帰ってもいいってさ」

鞠莉「なるほどね」


鞠莉「病院の人達、驚いていたでしょ?」

果南「そりゃねぇ……朝起きたら父さんの病気が綺麗さっぱり消えているんだもん」

鞠莉「聖杯の力は本物だったってわけね。良かった良かった♪」


果南「鞠莉達の願いは、その……残念だったね……」

鞠莉「……仕方ないわよ。内浦を救うにはあれしか方法が無かったんですもの」

果南「ルビィがまた学校に来なくなったよね。流石にこのままもう………」

鞠莉「ルビィなら心配は要らないわ。今はちょっと疲れちゃっただけで、もうじき帰ってくるわよ」

果南「どうして言い切れるのさ?」



鞠莉「―――…だって、あの子にはもう明確な目標があるんですもの♪」ニッ



~~~~~~~~~



ルビィ「………」ボーッ



―――ザッ、ザッ、ザッ



善子「こんな所にいたのね」

花丸「今日も一日中、海を見ていたの?」

ルビィ「善子ちゃん、花丸ちゃん……」


善子「もう三日も休んでいるじゃない。そろそろ出席日数がヤバイんじゃない?」

ルビィ「……善子ちゃん程じゃないよ」ジトッ

善子「……むぅ、毒舌を吐けるくらい元気なのね。安心したわ」


ルビィ「………」

花丸「………」

善子「………」


花丸「―――色々、大変だったみたいだね」

ルビィ「えっ」

花丸「大まかな事は鞠莉ちゃんから聞いたよ。話せない事も多かったみたいだから詳しくは分からなかったけれど……ルビィちゃんと鞠莉ちゃんが内浦を救ってくれたんだよね?」

ルビィ「……うん」

花丸「そっか……ありがとうね」ニコッ



ルビィ「――ルビィね、立派な黒澤家の跡継ぎになろうと思う」

花丸「……うん」

ルビィ「お姉ちゃんみたいに……ううん、お姉ちゃんが今までやってきた事をお姉ちゃん以上に頑張ってさ」

ルビィ「頑張って、頑張って、頑張って―――……お父さんもお母さんも認めて、今はいないお姉ちゃんも安心できるような……立派な跡継ぎになってみせる」

ルビィ「何年かかっても……必ず」

花丸「うん……マルも応援するずら♪」


善子「なら、まずはダイヤみたいに学校で一番成績を取らなきゃね。今まで休んで遅れた部分は大丈夫なのかしら?」ニヤニヤ

ルビィ「うっ……そ、それは……」ダラダラ

花丸「大丈夫ずら。ルビィちゃんが困った時はマルと善子ちゃんが助けるから」ニコッ

善子「ふん、仕方ないから手伝ってあげるわよ! その……友達、だから!!」プイッ

ルビィ「二人とも……ありがとう」ニッ



ルビィ(お姉ちゃん……ルビィ、頑張るから。どんなに辛いことがあっても頑張るから)

ルビィ(だから―――……)





『―――ルビィなら大丈夫です。わたくしも応援しますわ』




ルビィ「!!」キョロキョロ

善子「ルビィ?」

花丸「どうかしたずら?」

ルビィ「……ううん、何でもない」



ルビィ「―――ありがとう……じゃあ、またね、お姉ちゃん」ニコッ









おわり

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