古畑任三郎「魔王さんを殺したのは……勇者さん、あなたですね」 (90)


……

古畑「え~……今回、私はある異世界にお邪魔しています」

古畑「いわゆる剣と魔法のファンタジー世界、というやつです」

古畑「もしも魔法があったらさぞかし便利でしょうねえ」

古畑「通勤は魔法でひとっ飛び、料理だって魔法でできちゃいます。そして、殺人も……」

古畑「しかし、かくいう私も一つだけ魔法を使うことができます」

古畑「完全犯罪を見破る、という魔法を」

……


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― 城内・応接室 ―

魔法使い「なるほど、妙な本を開いたら、この世界に迷い込んでしまったと」

古畑「そうなんです」

古畑「私の部下が最近魔術に凝ってるなんていって、変な本を開いてしまって」

今泉「ひ、ひどいなぁ~。開け開けって急かしたの古畑さんじゃないですかぁ~」

魔法使い「ハハハ、よくあるんですよ。そういうことって」

魔法使い「本に秘められていた魔力が、あなたたち二人をここに連れ込んだということでしょうね」

古畑「ですが、こちらのような言葉の通じる世界に飛ばされたのは不幸中の幸いでした」

今泉「こ、こういう奇跡ってあるんですねえ!」

魔法使い「その本に秘められてた力が、そうさせてるのかもしれませんね」

古畑「最初は夢かなにかだと思っていたのですが、やはりこれは現実だと思い直しまして」

今泉「この人、何度僕のほっぺたをつねったことか! ホントムチャクチャすんだから!」

古畑「それで、三日ほどこちらの世界をさまよってたわけですが」

古畑「町の人からこういうことはお城にいる魔法使いさんに相談した方がいいと伺いまして」

今泉「僕たち、帰れるんでしょうかぁ!?」

今泉「帰れないと、僕、ホームシックになっちゃいますよぉ~」

魔法使い「そうですねえ……」

応接室に一人の男が入ってきた。

ガチャッ

勇者「おい、魔法使い」

魔法使い「なんでしょう?」

勇者「あ、失礼……まだ来客中だったか。しかし、変わった格好をしているが……」

古畑「はじめまして、古畑と申します」

今泉「今泉です!」

勇者「はじめまして、勇者です」

魔法使い「異世界からこの世界に迷い込んでしまった方々なんですよ」

勇者「ああ、なるほど……どうりで」

勇者「魔法使い、パーティーの準備ができた。遅れず出席するように」

魔法使い「分かりました」

勇者「では失礼」

バタン…

今泉「今のが勇者ですか! す、すごいなぁ~、かっこよかったなぁ~、サインもらえばよかった!」

魔法使い「なにしろ彼は我が国の英雄ですから」

魔法使い「これまで何度も魔王の侵攻を阻止してきたんですよ」

古畑「ん~ふふふ、私もこの数日間で多少この世界のことを勉強いたしました」

古畑「なんでもこの世界では人と魔族がずっと対立しているとか……」

古畑「その中で特に活躍してこられたのが、あの勇者さんというわけですね?」

魔法使い「その通りです」

古畑「しかし、なにかバタバタされていたようですが? それにパーティーとは?」

魔法使い「実は今日、魔王がこの城に来てるんですよ」

今泉「えええええ~っ!? ラスボスがこの城来ちゃってるんですかぁ~!?」

古畑「魔王というのは、ん~、たしか魔族側のリーダーでしたね」

古畑「それがいったいなぜ?」

魔法使い「魔王直々に、人間側に話したいことがあるということで」

古畑「どんな話を?」

魔法使い「おそらくは停戦の申し出、でしょうね」

魔法使い「やっと人と魔族の完全和解に向けて、一歩前進といったところでしょう」

魔法使い「なので、我が国もパーティーを開いて魔王を歓迎しようと準備に追われているのです」

魔法使い「もうまもなく、城の中庭でパーティーが始まりますよ」

古畑「んふふ、それは結構なことです。おめでとうございます」

今泉「古畑さん、パーティーですって! パーティー!」

古畑「さっきからうるさいよ、今泉君」

古畑「ところで、私達の件は?」

魔法使い「ああ、お二人を帰還させることは可能ですよ」

古畑「ホントですか! よかったぁ~……」

古畑「一生ここで暮らすことになったら、どうしようかと思いました」

魔法使い「ただし、あなた方を元の世界に帰す術式は、複雑な手順を要するのです」

魔法使い「私も王国の魔法使いとして、パーティーには出席せねばなりませんので」

魔法使い「あなた方を元の世界に帰すのはそれから、ということでよろしいですか?」

古畑「もちろんです」

今泉「古畑さん、せっかくだからパーティーに参加させてもらいましょうよ! ねえ?」

古畑「図々しいよ」

魔法使い「いえ、かまいませんよ」

今泉「いやったーっ!」

古畑「すみません、ご迷惑をおかけして」

魔法使い「いいんですよ。それではパーティーが開かれる中庭まで一緒に参りましょう」

― 城内・小部屋 ―

二人きりで対峙する勇者と魔王。

魔王「ふん、人間どももケチなものよ」

魔王「俺が直々にやってきたというのに、こんな古びた石板一枚置いてあるだけの部屋しか用意せんとは」

勇者「城内で普段使われてない部屋というのはそうないんだ。仕方ないだろう」

勇者「そちらこそ、黒いマントにタキシードとは少々悪趣味なのではないかな」

魔王「せっかくの歴史的瞬間なんだ。これぐらいのおめかしはさせろ」バサッ

魔王「で、俺になんの用だ?」

勇者「念のため、鍵を閉めておく。誰かに聞かれたらまずいからな」ガチャッ

勇者「魔王……今日は何を話しにきた?」

魔王「決まってるだろう……人間と魔族の“完全和解”を提案しにきたのだ」ニヤッ

勇者「…………」

勇者「やめとけ、和解などお互いのためにならん」

魔王「お互いのため? お前のためにならない、の間違いだろう?」

勇者「!」

魔王「人と魔族が和解してしまったら、お前は国から今までのような厚遇は受けられなくなる」

魔王「それどころか、用済み扱いされてしまう可能性も高い」

魔王「だからこそ、お前は俺に、幾度となくこの国を攻撃させたのだからな」

魔王「最初の数回の侵攻は確かに俺自身の意志だが、あとはお前との裏取引によるものだ」

魔王「適当に攻め、頃合いを見計らって撤退という、大した被害も出ない馴れ合いの戦いを繰り返した」

勇者「…………」

魔王「おかげでお前はこの国の大英雄になれたわけだ」

勇者「お前にもそれ相応の金品は渡してきたはずだが?」

魔王「そうだな。おかげさまで俺もずいぶん潤った」

魔王「だからもう、八百長のような戦いをする必要はない」

魔王「これからは人と魔族が入り乱れた世界で大いに楽しんでやる」

魔王「パーティー会場で洗いざらい全部ブチまけてやるよ。そうなればお前は破滅だ」

魔王「ここにあるこの石板には『魔王を倒した勇者は……』などという一文が書いてあるが」

魔王「実際には勇者は魔王に倒されることになったわけだ!」

魔王「しかも、俺のこの鋭い爪ではなく、口によってな!」

魔王「アッハッハッハッハッハ……!」

勇者「…………」

勇者「……考え直すことはできないのか?」

魔王「いくら金を積まれても、無理だなぁ」

勇者「なら仕方ない」スッ…

魔王「そうそう、人間諦めが肝心――」



ザシュッ!!!



一瞬で首を斬られる魔王。

魔王「がっ……!?」

ドサッ…

勇者「…………」

うつ伏せに横たわる魔王の手に、剣を持たせる勇者。

勇者「この石板を倒して、と」ググッ…

ズシンッ

勇者「……これでよし」

勇者「鍵はこいつが持っている。あとはテレポートで部屋を脱出すれば……」



………………

…………

……

― 城の中庭・パーティー会場 ―

会場は城の人間が集まり、大いに盛り上がっていた。

ワイワイ… ガヤガヤ…

今泉「古畑さん、ここの食事うまいっすね!」モグモグ

古畑「よく食うね~、君は」

今泉「パーティーが終わったらといわず、しばらくこの世界にいるのもいいんじゃないですか!?」

古畑「じゃ、君一人だけそうしなさい。私は一人で帰るから」

今泉「ひ、ひどいなぁ~」

魔法使い「古畑さん、今泉さん」

古畑「なんでしょうか、魔法使いさん?」

魔法使い「あなた方のことを紹介したら、陛下がぜひお会いしたいというので。こちらへどうぞ」

国王「おお、そなたたちが異世界からの来客か」

古畑「古畑と申します」

今泉「今泉です!」

国王「特別な計らいは出来ぬが、せめてパーティーを楽しんでいってくれたまえ」

古畑「ありがとうございます」

今泉「あの、王様!」シュビッ

国王「なんだね?」

今泉「王様はレストランには行かれますか?」

国王「うむ、たまには」

今泉「これがホントの『王様のレストラン』……なんちて」

国王「は?」

古畑「君は黙ってなさい」ペシッ

今泉「いてっ!」

勇者「陛下、ご機嫌うるわしゅう」ザッ

国王「おお、勇者よ」

国王「魔王は単独で我が国に乗り込んできたが、一体何を話すと思う?」

勇者「一時的な停戦の申し出、というのが濃厚でしょう」

国王「停戦か……和解の申し出ということはないだろうか?」

勇者「完全な和解には、まだ段階を経なければならないでしょう」

国王「そうか……残念だ」

勇者「焦ってはなりません。真の平和とは、一歩ずつ成し遂げるものなのですから」

古畑「んふふふ、こんにちは~、勇者さん」

勇者「先ほどはどうも。古畑さん、でしたね?」

古畑「この国の大英雄にお会いできて、光栄です」

今泉「あ、僕も握手して下さい!」

勇者「かまいませんよ」

勇者「あ、そうだ。古畑さん達は元いた世界では何を?」

古畑「私たち……刑事をやっておりまして」

勇者「刑事?」

今泉「簡単にいえば、悪い奴を捕まえる仕事です!」

勇者「……ほう」

国王「なるほど、つまり君たちも勇者というわけだな」

古畑「いえいえ、とんでもない! 国を救ってらっしゃる勇者さんと並ぶなんて、とてもとても」

勇者「もうまもなく魔王も来ると思いますし、パーティーを楽しんでいって下さい」

古畑「ありがとうございます」



すると――



タタタタタッ

兵士A「大変です!」

勇者「どうした?」

兵士A「魔王がいる部屋をノックしてるんですが、まったく反応がないんです!」

勇者「鍵は?」

兵士A「部屋に案内する時、魔王に渡しているので、魔王が開けない限り中には入れません!」

国王「勇者よ、様子を見に行ってくれぬか」

勇者「かしこまりました」

魔法使い「私も参りましょう」

古畑「何かあったようですねぇ~。我々もついていってよろしいですか?」

勇者「どうぞ。ただしくれぐれもお気をつけ下さい」

勇者、魔法使い、古畑、今泉、兵士が魔王のいる小部屋へ向かう。

一行が部屋の前にたどり着く。

兵士B「返事して下さい!」ドンドンドン

勇者「どうだ?」

兵士B「ドアには鍵がかかってるし、返事もないんです」

魔法使い「私が中にテレポートしましょうか?」

勇者「いや、テレポートは魔力を大量に消費するから、むやみに使うべきではない」

勇者「ここは爆破呪文でムリヤリこじ開けてしまおう」

勇者「我が魔力よ、障害物を粉砕せよ!」



ボゥンッ!!!



勇者の魔法でドアが破壊された。

古畑「んん~……! これが魔法……!」

今泉「うわぁぁぁっ! すっげぇ~!」

― 城内・小部屋 ―

一行が中に入ると――

勇者「これは……!」

魔法使い「魔王が……!」

古畑「…………!」

今泉「ふ、古畑さぁん!」



石板に押し潰された形で、うつ伏せに横たわる魔王の姿があった。

勇者「ま、まさか、今の魔法で石板が倒れて……!? 私が魔王を殺してしまったのか!?」

勇者「悪いが、すぐあの石板をどけて、どこかに運び出してくれ!」

兵士AB「はっ!」

古畑「今泉君、君も手伝って」

今泉「ぼ、僕もですかぁ!?」

兵士AB「うんしょ、うんしょ」

今泉「重い~!」

まもなく石板は運び去られ、魔王の姿がより明らかになった。

魔法使い「やはり、魔王はもう死んでいますね」

勇者「くっ……なんてことだ……! 爆破呪文など使わねば……!」

魔法使い「いや、これは……魔王は石板に押し潰されて死んだのではなさそうですよ」

勇者「え?」

魔法使い「見て下さい。魔王の手には剣が握られています」

魔法使い「魔王の首からは出血もあります。この出血量、相当前から死んでいたようです」

魔法使い「しかも、この部屋の鍵は魔王が持っていた。誰もこの部屋には入れなかったのです」

勇者「つまり、これは……」

魔法使い「ええ、自殺ですよ」

勇者「これ以上我々と戦っても勝ち目は薄いから、せめてもの抵抗としてこの城で自殺、か」

勇者「なるほど、十分考えられるな」

古畑「――と決めつけるのはまだ早いのでは?」

魔法使い「え」

勇者「……なぜです?」

古畑「この死体、色々と不自然な点があります」

魔法使い「不自然? どこがですか?」

古畑「えぇ~……魔王さんの手には、まるで猛獣のような立派な爪が備わっています」

古畑「魔王さん、こんな爪を持ってるのに、どうしてわざわざ剣で自殺したんでしょう?」

魔法使い「!」

勇者「!」

古畑「それに、普通人が刃物で自殺する時は、首や心臓を“刺す”ものですが」

古畑「この首は明らかに横に斬られてます。スパッと」

古畑「んん~……そこがどうも引っかかるんですよねえ」

魔法使い「あのう、そんな細かいことはどうでもいいじゃないですか」

魔法使い「だいたい、あなたはよその世界の人間で――」

勇者「いやいや、我々とはちがう見識を持つ人の意見も聞いてみようじゃないか」

勇者「古畑さん、続けて下さい」

古畑「はい」

古畑「私も、刑事として人を自殺に見せかけて殺す、という事件に何度か出会ったことがあります」

古畑「もしかしたら、この事件もその類の可能性があるのでは、と」

勇者「ほう」

古畑「つまりですね。自殺か他殺かを結論付けるのはもう少し調べてからでも遅くはないのでは?」

魔法使い「調べるといっても……何を?」

古畑「たとえば……魔王さんが握っている剣に残っている指紋とか」

魔法使い「指紋? なんですかそれ?」

古畑「んん~……指紋をご存じない?」

古畑「人の指の跡はひとりひとり違うことを利用して、事件を捜査する手法なのですが……」

魔法使い「いや……聞いたことがないですね」

勇者「そういった技術は我が国には……」

古畑「んん~、そうですかぁ~」

古畑「他には……そうですねえ、この世界には魔法があります」

古畑「たとえば、魔王さんを殺した犯人が魔法でビューンと脱出するなんてことは出来ないでしょうか?」

古畑「これなら、この部屋に鍵がかかったまま逃げることができます」

魔法使い「ああ、なるほど。それなら考えられますね」

勇者「うむ」

魔法使い「では一応、“魔力の痕跡”の調査を行いますか」

勇者「よろしく頼む。私は陛下に、この事件のことを報告してくる」

古畑「お聞き入れ下さり、ありがとうございます」

やがて、部屋に今泉が戻ってきた。

今泉「あれ、何をしてるんですか?」

古畑「現場検証中。魔法使いさんの邪魔しちゃダメだよ」

古畑「しかし、大変ですねぇ~、魔法使いさん」

魔法使い「何がです?」

古畑「この世界には魔法がありますから」

古畑「魔法があれば、どんな犯罪もやりたい放題じゃないですか」

古畑「魔法で相手を殺して魔法で逃げてしまえば、絶対に捕まりません」

今泉「迷宮入り事件だらけになっちゃいますねえ~。怖いなぁ~」

魔法使い「残念ながら、魔法はそんなに便利なものではないですよ」

古畑「おや、そうなんですか?」

魔法使い「たとえば、今ここで私が古畑さんを炎の魔法で焼き殺したとしましょう」

古畑「私は焼かれるのはごめんだなぁ。今泉君、頼むよ」

今泉「えぇ~、なんでですかぁ!?」

魔法使い「じゃあ今泉さんを地獄の業火で消し炭にしたとしましょう」

今泉「ちょ、ちょっとぉ!」

魔法使い「私はその日のうちに捕まるでしょうね」

古畑「なぜです?」

魔法使い「今泉さんの灰に私の“魔力の痕跡”がバッチリ残っているでしょうから」

古畑「ほぉ~、なるほど……痕跡が残るんですか。指紋のように……」

古畑「では、こういうのはどうでしょう」

古畑「魔法使いさん、さっきあなたテレポートで鍵のかかった部屋に入ろうとおっしゃいましたね」

魔法使い「はい」

古畑「テレポートがどこかに瞬間移動する術だというのは、私にも察しがつきます」

古畑「これでどこまでも逃げてしまえばいいのでは?」

魔法使い「残念ながら、それは無理ですね」

魔法使い「テレポートはそう遠くまでは行けませんし、非常に魔力を消費します」

魔法使い「使えて“一日一回”ですから、どこまでも逃げることはできません」

古畑「魔力の痕跡は?」

魔法使い「もちろん床に残りますよ。調べればどこに飛んだのかまで特定できます」

古畑「それを消し去ったりする術は?」

魔法使い「ないですね。時が経つのを待つしかありません」

古畑「魔力の痕跡を残さず魔法を使う方法は?」

魔法使い「もしそんなのがあったら、私はとっくに魔法を犯罪に使ってますよ」

古畑「んふふふ、ごもっとも」

魔法使い「これでお分かりでしょう?」

魔法使い「ある程度魔法を使える者ならば、魔法を犯罪に使うなんてことはまずしません」

古畑「とてもよく分かりました……しかし、念のため調査はお願いします」

魔法使い「分かりました」

古畑「今泉を残しておきますから、好きにこき使って下さい」

今泉「えええ!? そんなぁ!」

魔法使い「じゃあ今泉さん、魔王の死体をちょっとどかして下さい」

今泉「ぼ、僕が!?」

魔法使い「そこの床も調査したいんで」

今泉「えぇ~、生き返ったりしないだろうなぁ」ズル…

今泉「わっ、マントの下にタキシード着てるよぉ、この魔王!」

古畑「それじゃ頼んだよ」

現場の調査は二人に任せ、古畑はパーティー会場へと向かった。

― 城の中庭・パーティー会場 ―

すでに魔王の死は伝わり、パーティーは中止となっていた。

ザワザワ… ドヨドヨ…

国王「そうか……魔王は死んでしまっていたか」

勇者「残念です……」

古畑「失礼いたします、国王陛下、勇者さん」

国王「おお、古畑殿」

国王「申し訳ない。異世界からの来客を、こんなことに巻き込んでしまって」

古畑「とんでもない。こちらこそ、大したお手伝いもできず申し訳ありません」

国王「今のところ、魔王は我が国への当てつけに自殺したというのが濃厚だと聞いておる」

国王「それにしても、魔王がこんな死に方をしてしまうとは……」

国王「これで魔族も、おそらく新たな魔王を立てて、人間達に牙をむくだろう」

国王「人と魔族の和解……全ては振り出しに戻ってしまったということか」

勇者「…………」ホッ

古畑「…………」

国王「ところで、古畑殿は元の世界に戻らなくてよろしいのかな?」

勇者「なんでしたら、魔法使い以外の術者を用意しましょうか?」

古畑「いえ、私はまだ気になることが残っているので……」

国王「今のこの状況ではとてもおもてなしは出来ぬが、くつろいでいってくれ」

古畑「お気遣い下さり、ありがとうございます」

勇者「…………」

― 城内・通路 ―

古畑「勇者さん、あの~……ちょっとよろしいですか?」

勇者「なんですか?」

古畑「このたびは魔王さんがお亡くなりになり、本当に残念でした」

勇者「ええ、これで人と魔族の和解への道は遠ざかってしまいました。悔しいです」

古畑「お察しします」

勇者「こうなった以上、いつ魔族がこの国を襲うか分かりません」

勇者「あなたも今泉さんを連れて、すぐに退散した方がいい」

古畑「これはこれは、ご忠告ありがとうございます」

勇者「で、話というのはそれだけですか?」

古畑「あ、すみません。どうしても伺いたいことがございまして」

勇者「なんでしょう?」

古畑「勇者さん、パーティーが始まるまでは何をなさってました?」

古畑「たとえば、あの応接室で私どもと顔を合わせた後、とか……」

勇者「どうしてそんなことを聞くんです?」

勇者「……まさか私が魔王を殺したと疑ってらっしゃるのでは?」

勇者「魔王の死因は倒れた石板によるものではない、というのははっきりしたでしょう」

古畑「いえいえいえいえ、とんでもない! あくまで形式上のことです」

勇者「……まぁ、いいでしょう」

勇者「城内を適当にうろついてましたね」

古畑「魔王さんにお会いには?」

勇者「今まで何度も戦った間柄ですが、今日は一度も会ってません」

古畑「一度も?」

勇者「はい」

古畑「そうですか、ありがとうございます」

勇者「じゃあ私はこれで」

古畑「あ、すみません、もう一つだけ」

勇者「……なんです?」

古畑「先ほど魔法使いさんがテレポートで、魔王さんのいる部屋に入ろうとした時」

古畑「あなた止めましたよね? なぜです?」

古畑「ドアを爆破するより、その方がよっぽどスマートだった気がしますが……」

勇者「あなたは知らないでしょうが、テレポートというのは非常に魔力を消費するんです」

勇者「それに、あの時の私は魔王が死んでるなんてことは知らなかった」

勇者「そんな中に魔法使い一人で飛び込むのは危険だと考えるのは当然だと思いますが?」

古畑「おっしゃる通り」

古畑「さすが勇者さん、英雄らしい賢明な判断です」

勇者「…………」

古畑「そういえば、さっき魔法使いさんはテレポートは一日一回が限度、とおっしゃってました」

勇者「ハハ、あなたも人が悪い。知ってたんじゃないですか」

古畑「一日一回というのは、勇者さん、あなたも?」

勇者「はい」

古畑「よろしければ、今テレポートを見せて下さいませんか? 私どうしても見たいんです」

勇者「……断る」

古畑「なぜ?」

勇者「なぜって、決まってるでしょう」

勇者「非常に疲れる魔法を、ただ見せるためだけに使うなんてバカバカしいじゃないですか」

古畑「そうですかぁ~、たしかにその通りです」

古畑「私、バカな頼みを申し上げてしまいました。本当にごめんなさい」

古畑「私てっきり、今の勇者さんは“テレポートを使わない”ではなく」

古畑「もしかして“テレポートを使えない”のかなぁ~、とふと思ってしまったもので」

勇者「…………」

古畑「どっちなんでしょう?」

勇者「あなたに話す義務はないな」

古畑「それはそうです。んふふふ、申し訳ありません」

勇者「…………」

タタタタタッ

今泉「古畑さぁん!」

古畑「遅いじゃないかぁ~、何やってたの」

今泉「何やってたのって、魔法使いさんを手伝ってたんですよ!」

今泉「あの人も穏やかそうな顔つきで、人使い荒すぎなんですもぉん!」

今泉「肩揉めだの、面白い話しろだの、疲れたから紅茶入れてこいだの……」

古畑「で、結果は?」

今泉「部屋の隅々まで調べましたが“魔力の痕跡”はどこにもありませんでした!」

古畑「……そう」

勇者「…………」ホッ

勇者「どうやら、自殺と断定して間違いなさそうですね」

勇者「さ、もう行っていいですか? 私は忙しいんだ」

古畑「あ、どうぞ、結構です。お引き止めして、申し訳ありませんでした」

古畑「…………」

今泉「古畑さん、まさか勇者さんを疑ってるんですか?」

古畑「ん~……まぁね」

今泉「どうして戦いをやめようって話を持ちかけてきた魔王を、勇者さんが殺すんです!?」

今泉「勇者っていったら、ゲームじゃ主人公なんですよ? 正義の味方なんですよ!?」

古畑「でもさ、倒される側からしたら、勇者もしょせんは殺人者……だよね」

今泉「う、うわぁ~、古畑さんひねくれてるなぁ~!」

今泉「僕、そういう考えよくないと思うな」

今泉「古畑さん、あれでしょ。桃太郎を読むと鬼が可哀想って思うタイプだったでしょ?」

古畑「うるさいよ」ペシッ

今泉「あてっ!」

今泉「でももし勇者さんが魔王を殺したとしたら、次はどうするんでしょうね」

古畑「どうするって? もう目的は果たされてるでしょ」

今泉「いや、ゲームだと、もっと強い裏ボスが出てくるのがお決まりなんですけどね。こういう場合」

古畑「そんなのがいるんだ」

今泉「おばあちゃんに付き合わされてるうちに、僕もゲームに詳しくなりましてね」エヘヘ…

古畑「君は少しゲームから離れなさい」

今泉「まぁいずれにせよ、いつまでもここにはいられないわけですし」

今泉「古畑さんもお土産の一つや二つ、見つけておいた方がいいですよ。僕みたいに」ヒョイッ

古畑「……なに、その石ころ」

今泉「さっき兵士の人達と石板運んでる時、石板壁にぶつけちゃったんです。その欠片!」

古畑「相変わらずろくなことしないねぇ、君は」

今泉「これ、僕の宝物にしちゃおっと!」ゴソッ

古畑「ま、好きにしなさい」

― 城内・キッチン ―

テーブルに大量の料理が並んでいる。

今泉「うわぁ~、おいしそうな料理がいっぱいだなぁ」

メイド「だけどパーティー中止になっちゃったから、出せなくなっちゃいましたけどね」

メイド「こんなに料理が残って、シェフもガッカリしてましたよ。よかったら食べて下さいよ」

今泉「いいんですか!?」

メイド「どうぞどうぞ。ただし、こっちのケーキは食べないで下さいね。あたしのだから」

古畑「君もよく食うねえ~」

今泉「残り物は別腹!」

古畑「ん~……君、ちょっと聞きたいんだけど」

メイド「なんでしょう?」

古畑「たとえば……魔王さんが死ぬことによって、勇者さんが得することって何かあるかな?」

メイド「ええ、ありますよ!」

古畑「! ……教えてもらえる?」

メイド「これは噂なんですけどね」



今泉「うまい、うまい」モグモグムシャムシャ

メイド「勇者様って、自分が必要とされるために、自分の地位を守るために」

メイド「魔王に頼んでわざと王国を攻撃させてたって噂があるんですよ」

メイド「だから、最近の戦いでは魔王がすぐに撤退することが多くなったって」

古畑「んん~」

古畑「それが本当だとすると、魔族と停戦や和解するなんてのは勇者さんにとっては面白い話じゃないね」

メイド「はい、勇者様としてはずっといがみ合いが続いた方が好都合でしょうね」

古畑「なるほどぉ~」

古畑「……とりあえず動機はあるわけ、か」



今泉「いくらでも食べれちゃう」バクバクムシャムシャ

― 城内・通路 ―

勇者「…………」スタスタ

古畑「どうも~」ヒョコッ

勇者「古畑さん、またあなたですか。てっきりもう元の世界に帰られたのかと思いましたよ」

古畑「私すっかりここが気に入りまして。もう少しだけここにいようかと思いまして」

勇者「……今度はなんの用です?」

古畑「実は先ほど、あなたに関するよからぬ噂を小耳に挟んだもので……」

勇者「ああ、私が魔王に持ちかけていたずらに戦いを長引かせてるという噂ですね」

古畑「ご存じでしたか」

勇者「そりゃもう。嫌でも耳に入ってきますよ。そういう根も葉もない誹謗中傷がね」

勇者「しかし、これだけは断言しておきましょう」

勇者「私は自分の地位なんかにこれっぽっちも執着してはいないと!」

古畑「いえ、私そんなつもりじゃ。お気を悪くされたらすみません」

勇者「で、それだけじゃないでしょう?」

古畑「はい、これだけお伺いしたいと思いまして」

古畑「仮に魔王さんが自殺したとして、なぜあんなおめかしをしてたんでしょう?」

古畑「普通、これから自分が死ぬって時にあんな派手に着飾るでしょうか?」

勇者「そりゃ、最期の時だ。タキシードぐらい着たってバチは当たらないでしょう」

古畑「あれ、あれれ、おかしいですねぇ~」

勇者「何がです?」

古畑「どうして勇者さん、魔王さんがタキシードを着ていたことをご存じなんです?」

勇者「!」

古畑「あなたは先ほど今日魔王さんには一回も会っていないとおっしゃってた」

古畑「魔王さんの死体はうつ伏せで、詳しく調べなければタキシードを着ているなんてことは」

古畑「分からなかったはずです」

古畑「私も今泉が死体を動かした時、はじめて知りました」

古畑「現場の捜査に参加しなかったあなたが、魔王さんがタキシードを着ていたことを」

古畑「なぜ知っているのですか? んん~これは妙だと思いませんか?」

勇者「…………!」

勇者「実は……会うというほどではないが、見たんですよ」

古畑「見た?」

勇者「この城に来ていた魔王を、チラッとね」

古畑「そうですか、そうですか。それならば何もおかしくはありません。失礼しました」

勇者「……なるほど、これがあなたのやり方か。古畑さん」

古畑「え?」

勇者「こうやって人にまとわりついて、ボロを出すのを待つ。これがあなたの戦術というわけだ」

古畑「いえいえ誤解ですよ、私はそんな」

勇者「あなたがいた世界でも、こうやって犯人を暴いてきたのだと容易に想像できますよ」

古畑「そんな、想像でものをおっしゃらないで下さい」

勇者「……いいですか」

勇者「あの部屋には鍵がかかっていた。魔王は中で死んでいた。しかも鍵を持ったまま」

勇者「魔王を殺して部屋の鍵がかかったまま外に出るには、テレポートしか手段はない」

勇者「だが、部屋からは魔力の痕跡は一切発見されなかった」

勇者「いいですか、これが事実なんですよ」

古畑「おっしゃる通りです」

勇者「どうしても私を犯人にしたかったら、私がどうやって魔力の痕跡を残さずテレポートしたか」

勇者「証明してみせて下さい」

古畑「分かりました……証明してみせます」

勇者「楽しみにしていますよ」

― 城内・キッチン ―

今泉「で、あるんですか、証拠?」モグモグ

古畑「……ないね」

今泉「じゃあ、どうしようもないじゃないですか。もう帰りましょうよ~」

古畑「君一人で帰っていいよ」

今泉「またまた強がってぇ~。古畑さん、僕がいないとダメじゃないっすか~」

古畑「私がいつ君を必要とした?」

今泉「あ、このケーキ食べちゃおっと」パクッ

メイド「やだ、ちょっと! このケーキはあたしのですよ!」

今泉「え!?」

メイド「だから分けておいたのにぃ~! 髪は薄いくせに食欲だけはあるんだから!」

今泉「うぐぐぐ……」

古畑「何やってるんだよ、君は」

今泉「ごめんごめん、だけどこうやって削れば、口つけたのはなかったことになるから」

メイド「なりませんよ!」

今泉「ごめんちゃーい!」

古畑「…………!」

古畑「ちょっと待って」

古畑「君、今なんていった?」

今泉「ごめんちゃーい!」

古畑「違うよ、その前」

今泉「え? えぇと、削れば口つけたのはなかったことになるから……って」

古畑「…………」

古畑「……そういうことか」

古畑「今泉君」

今泉「なんです?」

古畑「さっきの石ころ、貸してもらえる」

今泉「いいですけど……どうすんですか、こんなもん」


……

古畑「見知らぬ異国どころか異世界で起こった、この不可思議な事件……」

古畑「ん~、私にもようやく真相が見えてきました」

古畑「果たして勇者さんは、真の勇者なのか、それともただの殺人者なのか……」

古畑「どうぞ解決編をお楽しみ下さい」

古畑「古畑任三郎でした」

……

― 城内・小部屋 ―

二人きりで対峙する古畑と勇者。

勇者「なんですか、古畑さん。人をこんなところまで呼び出して」

古畑「お忙しいところすみません。どうしてもお話ししたいことができたもので」

勇者「ほう? 事件の捜査は進展したんですか?」

古畑「はい、とても大きく進展しました」

古畑「魔王さんを殺したのは……勇者さん、あなたですね」

勇者「…………」

勇者「お話を伺いましょう」

古畑「あなたはまず、この部屋にいた魔王さんを訪れました」

古畑「大事な話があるからと、鍵をかけました」

古畑「ここでおそらく、魔王さんはパーティーで停戦あるいは和解を提案することを話したのでしょう」

古畑「さらに、今までの戦いは勇者さんとの八百長だったこともバラす、と」

古畑「それをされたら困るあなたは剣で魔王さんを殺害し、死体に剣を握らせた……」

古畑「ここまではよろしいですね?」

勇者「続けて下さい」

古畑「さて、あとはどう脱出するかです」

古畑「そのままテレポートを使ったのでは、魔力の痕跡が残ってしまう」

古畑「たとえば魔法使いさんが部屋を調べれば、何があったのかはバレバレです」

古畑「そこであなたはこの部屋にあった石板を魔王さんの上に倒し、その上に乗って」

古畑「テレポートしたのです」

古畑「こうすれば、部屋の床に痕跡を残さずテレポートすることができます」

勇者「…………」

古畑「そう、あなたがこの部屋のドアを開ける時、爆破を起こす魔法を使ったのは」

古畑「“石板はドアを開くための爆発によって倒れた”と我々に印象づけるためです」

古畑「魔法使いさんのテレポートをあわてて止めたのも、このためです」

古畑「もし元から石板が倒れていたのが分かってしまったら」

古畑「この石板を足場に犯人はテレポートした、という真相にたどり着かれるおそれがありますからね」

古畑「しかし、まんまとこれらをやり遂げたあなたは」

古畑「魔王さんを押し潰している石板をいち早く部屋から片付けるよう、兵士の方々に命じました」

古畑「この瞬間、この部屋から魔力の痕跡が検出されることは絶対になくなったわけです」

古畑「私もうっかりしてました」

古畑「現場保存は捜査の鉄則だというのに、あの場の雰囲気にすっかり飲まれてしまってました」

古畑「しかし、先ほどうちの今泉がメイドさんのケーキをつまみ食いして」

古畑「自分の食べた箇所を削ってつまみ食いをなかったことにする、などという」

古畑「みっともない真似をしたおかげで気づいたのです」

古畑「テレポートしか脱出の手段はないのに、なぜ魔力の痕跡はどこにもないのか?」

古畑「それは……痕跡は現場からすでに削り取られてしまったからなのだと」

勇者「……よくできた推論だ。しかし、肝心の石板がなければ――」

古畑「あります」

勇者「え……」

古畑「あの石板はおそらく、すでにあなたが埋めるなり砕くなりして処分してしまったでしょう」

古畑「ですが、ここにその欠片があるのです」ヒョイッ

古畑「今泉が土産にするといって、こっそりくすねていたものです」

古畑「魔法使いさんに聞いたところ、これは石板の一部で間違いないそうです」

古畑「あとはこの欠片から、あなたがテレポートを使った痕跡が発見されれば、事件は解決です!」

古畑「……いかがですか?」

勇者「…………」

勇者「……お見事です」

古畑「ありがとうございます」

勇者「いつから私が犯人だと?」

古畑「一緒に魔王さんのいた部屋に入った時からです」

古畑「あの時、あなたは“私が魔王を殺してしまったのか”といいました」

古畑「石板が爆破で倒れたことをより強く印象付けるためにおっしゃったのでしょうが」

古畑「あの時点で魔王さんが死んでると断定するのはいくらなんでも早すぎでした」

古畑「せめて“魔王、しっかりしろ!”などというべきでした」

勇者「……参ったな。最初からお見通しだったというわけか」

古畑「……はい」

勇者「それともう一つ、こんなところに私を一人呼び出して」

勇者「もし私が逆上して襲いかかってきたら、証拠を奪おうとしたら、とは考えなかったのですか?」

古畑「考えませんでした」

勇者「なぜ?」

古畑「なぜなら、あなたは真の勇者だからです」

古畑「なんの力もない私を傷つけるような人ではない、と思いました」

勇者「どういうことです?」

古畑「ご自分でお気づきかは分かりませんが、あなたは二度ほっとなさっています」

古畑「一度目は、国王陛下が魔族との和解は振り出しに戻ったといった時」

古畑「二度目は、この部屋に魔力の痕跡がなかったのが判明した時です」

古畑「二度目の時は、作戦が成功したことへの安堵のように見えましたが」

古畑「一度目は違いました。心の底から人々のためを思っての安堵に見えました」

古畑「あの時、私はあなたが単に保身で殺人をするような人ではないと感じたのです」

古畑「教えて頂けますか? ……本当の動機を」

勇者「古畑さん、一つの集団の平和を維持するために必要なものは何かご存じですか?」

古畑「……いえ」

勇者「それは“共通の敵”というやつです」

勇者「共通の敵がいれば、その集団はその敵に向かって一つにまとまることができるのです」

勇者「それは人だけでなく魔族も同じこと」

勇者「本来どう猛な魔族が魔王を中心に一つになっていたのは」

勇者「魔王のカリスマのおかげなどではなく、人間という共通の敵がいたからなのです」

勇者「つまり、人と魔族が対立しているからこそ、二つの集団はまとまってこれたのです」

勇者「それがもしも人と魔族が完全和解などしたらどうなるか……」

勇者「真の平和が訪れる? いいえ、それこそ人と魔族の入り混じった社会で無数の対立が生まれ」

勇者「制御不能の混沌と破滅の世が始まるでしょう」

勇者「私はそれを……どうしても防ぎたかったんです」

古畑「魔王さんに頼んで、たびたび戦いを起こしていたのもそのためだったんですね」

古畑「あなたのおっしゃることはよく分かりました」

古畑「あなたが単に保身や名誉欲で殺人をする人ではなくてよかった」

古畑「やはりあなたは私が思った通りの方でした」

勇者「光栄です」

古畑「私は部外者です。まもなくこの世界を去る身です」

古畑「この世界の行く末やあなたの主義について、どうこう言うつもりもそんな権利もありません」

古畑「しかし……しかし、それでもなお、あなたはこんな形で魔王さんを殺した責任は取らねばならない」

古畑「……そう思います」

勇者「その通りですね」

勇者「あの石板にはなんと書いてあったかご存じですか?」

古畑「いえ」

勇者「実は『魔王を倒した勇者は、さらなる強敵に出会うであろう』と書いてあったのです」

古畑「ん~、今泉が裏ボスなどといってましたね」

勇者「裏ボス……裏ボスか、なるほど」

勇者「私はたしかに魔王を倒しましたが、古畑さん、あなたという裏ボスには勝てなかったようだ」ニコッ

古畑「…………」ニッコリ

勇者「では、参りましょう」







~ END ~

この事件は創作であり古畑任三郎は架空の刑事です

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