【ガルパン】奇妙な夢 (44)

全編夢オチの短編集
ひまつぶしにどうぞ

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1 愛するが故に

ケイ「アリサ、ボーイフレンドができたってホント?」

アリサ「え、ええまあ…」

ケイ「例のタカシって人?」

アリサ「…そうです」

ケイ「へぇ~良かったじゃない!どっちからアタックしたの?」

アリサ「私からです、この前の寄港日一緒に出かけた後に」

ケイ「アリサも見かけによらず大胆ね~」

アリサ「隊長には私がどう見えてるんですか…」

ケイ「ゴメンゴメン、ジョークよジョーク」

ケイ「それにしてもアリサに彼氏ねぇ…」

ケイ「盗聴するほど好きになるなんてさぞイケメンなんでしょうね」


アリサ「盗聴は大洗の子たちが勝手に言っただけですよ…」

アリサ「でも見た目も中身もカッコいいです、恋人補正を抜きにしても」

ケイ「もう、ノロケちゃって~」

アリサ「…会ってみます?」

ケイ「盗っちゃうかもよ?」

アリサ「隊長はそんな人ではないですし…」

アリサ「それにそんなこと、私がさせませんから」

ケイ「ふふ…」

アリサ「これから私の部屋でタカシとご飯を食べる予定なんですけど、一緒にどうです?」

ケイ「いいの?ああ、でも…」

ケイ「そんな長居はしないから安心して!二人のラブタイムを邪魔する気はないわ!」

アリサ「まだそこまでの関係じゃないですよ…」


ガチャ

アリサ「どうぞ」

ケイ「お邪魔しま~す」

アリサ「適当に座っててください、私はちょっとトイレに」

ケイ「ええ」

ケイ(いつ来てもよく片付いてるわね)

ケイ(私は片付けが苦手でいつも部屋がグチャグチャだから羨ましいわ)

ケイ(それにしても例のタカシはいつ来るんだろう?)

ケイ(どこかで待ち合わせるのかと思ったけどそんなことなかったし…)

ケイ(かといってここにいたわけでもない)

ケイ(まさかどこかに隠れているかしら?)

ケイ(ベランダかクローゼットか、それともベッドか…)


ケイ(ベランダにもクローゼットにも誰もいない)

ケイ(クローゼットは収納ボックスとまとめた古雑誌が置いてあったから隠れられそうになかったし…)

ケイ(となるとこのベッド?)

ケイ(でも特別ふくらんでいるようにも見えないけど…)

ケイ(ちょっと布団をめくってみよう)

ケイ「…え………」

首無しタカシ「」

ケイ(ジーザス!何これ?リアルな人体模型?そんなバカな!)

ケイ(ちょっと触った感じとか何よりこの首の断面…)

ケイ(ゴムとかシリコンとかそんな人工物じゃ…)

アリサ「……見ましたね」

ケイ「ひっ…ア、アリサ…」


アリサ「気付かなきゃタカシが来ないのを適当にごまかそうと思ってたのに」

アリサ「“好奇心は猫を殺す”ってこういうことですかね」

ケイ「アリサ…こ、これは何…?」

アリサ「隊長のお察しの通りですよ」

ケイ「じゃああなた、殺したの?…タカシを」

アリサ「そうです」

ケイ「ど、どうして…そんなこと…」

アリサ「…私に振り向いてくれなかったからですよ」

アリサ「私が告白した時、タカシは誰が好きだと言ったか分かります?」

ケイ「えっ…?」

アリサ「あなたですよ、隊長」

アリサ「“今はケイさんが好きだから、君とは付き合えない”って、そう言ったんですよ」

ケイ「……」


アリサ「だから殺したんです」

アリサ「“一緒にいる”ことを諦めきれなかったから」

ケイ「でも…こんなことしてタダで済むと思ってるの…?」

アリサ「思ってませんよ」

アリサ「タカシが…“人間として生きてる”タカシが消えてもう二週間ぐらいですからね」

アリサ「そろそろ警察とかも動き出す頃でしょう」

アリサ「どうしても追い詰められたら“タカシ”と海に飛び込みます」

ケイ「そんな…!」

アリサ「でもその前にあなたも消さなきゃならない」

ケイ「…えっ」

アリサ「こんなの見られた以上生かして帰すわけがないでしょう?」


ケイ「ま、待って落ち着いてアリサ」

ケイ「私はここで何も見なかった、そういうことにするから…ね?」

アリサ「…今までお世話になりました、隊長」ドッ

ケイ「うぐっっ!!…いつの間に…包丁なんて……」

アリサ「…あなたが憎い」

アリサ「私には無いモノを全部持ってて、それを鼻にもかけず明るく振る舞う」

アリサ「それにタカシの心まで奪い去っていった」

アリサ「そんなあなたが!私はどうしようもなく憎い!!」ゴリッ

ケイ「がっっ…」バタ

アリサ「大丈夫、ですよ、私は、あなたのこと、尊敬してますから」グサッグサッ

ケイ「うっ、ぐっ、がっ、ごぉっ、あ゙っ」

アリサ「あなたの死体を、魚のエサになんか、しませんから」グサッグサッ

ケイ「っ、っ、っ……」

アリサ「あなたも“ずっと一緒に”いてもらいます、隊長」

ケイ「ごふっ……」

アリサ「安心してください」


ケイ「…うわあああああ!!!」

ナオミ「わっ、どうしたのいきなり」

ケイ「はぁはぁはぁ…ゆ、夢…?」

ナオミ「ああずいぶんうなされていたよ」

ケイ「はぁ、なんだ…」

ナオミ「寝るのは結構だけど」

ナオミ「自分からテスト勉強に付き合ってといったのに、開始10分で居眠りし始めて…」

ナオミ「その上図書館で叫びながら目覚めるのはどうかと思うな」

ケイ「ゴ、ゴメンナオミ」

ナオミ「まあいいけど…どんな夢を見てたの、そんなに汗かいて」

ケイ「アリサに刺されて殺される夢を…」

ナオミ「それはまた…変わった夢ね」


ナオミ「殺される夢は実は吉夢だというし良かったじゃない」

ナオミ「今度のテストもうまくいくかもね、寝てても」

ケイ「うっ…ゴメンってナオミ、今度バーガーおごるから」

ナオミ「ふっ、ちょっとからかってみただけだよ」

ナオミ「それにしてもアリサか…」

ケイ「?」

ナオミ「ケイは聞いてない?アリサのボーイフレンドの噂」

ケイ「えっ」

ナオミ「この前の寄港日に告白して付き合い始めたらしいよ」

ナオミ「あの例のタカシってのと」

ケイ「…えっ」


2 ボイスジャック

「…子……麻子!」

「ほら、起きて!」

麻子「んぁ…」

沙織(cv:ささきいさお)「昼寝の時間は終わりだよ!もう授業始まるんだから!」

麻子「!!!???」

麻子(沙織がどこかで聞いたことのある物凄いダンディーな声で喋っている…)

麻子(寝ぼけているのか?それとも耳か頭がおかしくなったのか?)

優花里(cv:大塚明夫)「冷泉殿に起きていただかないとⅣ号は動きませんからね」

華(cv:山路和弘)「また私が運転しましょうか?」

みほ(cv:玄田哲章)「麻子さんがどうしても起きないならお願いしようかな」

麻子(なんだこれは…どういうことだ)

麻子(あんこうチーム全員が顔に似合わぬ重厚な声になっている)

麻子(いくら低血圧とはいえ、ここまで盛大に寝ぼけたことは今まで無かったんだが…)

麻子(とりあえず起きよう)


沙織(cv:ささきいさお)「あっ、やっと起きた」

麻子「な、なあ沙織」

沙織(cv:ささきいさお)「ん、何?」

麻子「体の調子はどうだ?風邪ひいて喉がイカレたりしてないよな?」

沙織(cv:ささきいさお)「うん大丈夫だけど…どうしたの?まだ寝ぼけてるの?」

麻子「いやなんでもない、気にしないでくれ…」

麻子(さすがに頭が冴えてきたから寝ぼけてるわけじゃない)

麻子(音は普通に聞こえてるし、別に頭がおかしくなった気もしない)

麻子(となると…)

麻子(…いや何が起きているか分からん、とりあえず授業だ)


みほ(cv:玄田哲章)「麻子さん、右に回避!」

麻子「あ、ああ…」

>典子(cv:池田秀一)「隊長、我々はどうすれば?」

みほ(cv:玄田哲章)「引き付けている二両をC地点までそのまま誘導してください」

>典子(cv:池田秀一)「了解しました!」

麻子(…この異常な状況にも慣れつつある)

麻子(人間の適応力ってすごいな)

麻子(どうやら他のチームの人たちもあんこうチームの面々のようになっているようだ)

麻子(でも私の声が変わっていないことを指摘してくる人はいなかったし)

麻子(逆に自分や周りが渋い声で話していることに違和感を感じているような人もいなかった)

麻子(…やっぱり意味が分からん、なんだこの状況は)


沙織(cv:ささきいさお)「いや~戦車の後のお風呂はいいね~」

華(cv:山路和弘)「そうですね」

麻子(結局よく分からないまま戦車道の授業は終わった)

麻子(…頭が痛い、それに眠くなってきた)

沙織(cv:ささきいさお)「麻子、こんなところで寝たら溺れちゃうよ!」

麻子(そんなことは分かってる、でもどうしようもなく眠いんだ…)

華(cv:山路和弘)「麻子さん、お気を確かに!」

優花里(cv:大塚明夫)「冷泉殿!」

みほ(cv:玄田哲章)「麻子さん!」

麻子(うるさい、もう話しかけないでくれ…)

麻子(私までダンディーボイスで話しだしそうになるじゃないか…)

ゴボボボ…


麻子「…もがっ……」

麻子「……」

麻子(…おかしな夢だった)

麻子(この前沙織が見たいって言って、見に行った映画のせいか?)

麻子(銃声やら爆発やらでロクに寝られなかった記憶しかないが…)

麻子(まあいい、目が冴えてしまっているから学校行く準備でもするか)

麻子(…本当に夢から覚めたよな?私まで謎の声変わりしてないよな?)

麻子(cv:中田譲治)「あー、あー……」

麻子(cv:中田譲治)「…な…」

麻子(cv:中田譲治)「なんじゃこりゃああああ!!!」


3 一人にしないで

「きゃー!忍様ー!」

「カッコいいですー!」

典子(今日は文化祭だ)

典子(河西がバンドの助っ人としてステージに上がっている)

典子(制服の上着を腰に巻いて、腕まくりをして…)

典子(確かにカッコいい、騒がれるのも分かる気がする)

典子(でも、どうしてだろう)

典子(胸がモヤモヤするというかなんというか…)

典子「……」

典子(そういえば佐々木と近藤はどこにいるんだろう)

典子(ちょっと探してみよう)


典子(…佐々木は演劇部の助っ人として体育館にいた)

 あけび「ヨカナーンの首を!」

典子(“サロメ”という劇らしい)

典子(佐々木は主役のサロメを演じている)

典子(普段の佐々木から想像できないオーラ…)

典子(知らなかった、こんな演技力があったなんて)

典子(…そういえば一年生の三人のことはよく知らないな)

典子(私だけ学年が違うというのもあるだろうけど…)

典子「……」

典子(…近藤はどこだろう)

典子(さっきからメッセージを送っても既読にならないし…)


妙子「キャプテン!」

典子「おお!近藤!」

妙子「メッセージに気づかなくてすみません、ちょっと忙しくて…」

典子「忙しい?」

妙子「はい、私のクラス模擬店やってるんです」

妙子「かき氷なんですけど予想外に売れて」

典子「ああ…9月も終わりに近いのに今日は暑いからな~」

「妙子ちゃーん!」

妙子「あっすいませんキャプテン、休憩は終わりみたいです」

妙子「また後で!」

典子「……」

典子(行ってしまった…)

典子(…部活の時とはまた違う楽しそうな顔)

典子「はぁ…」


典子(昨日は三人とも私が見たことのない表情をしていた)

典子(まさかバレーやめたりとかは…)

典子(…ないない!部を復活させるまで私についてきてくれるはずだ)

典子(はずだ…)

典子(それにしてもあの三人遅いな)

典子「……」

典子(あっ、来た!)

典子(あれ?なんで三人とも制服のままなんだ…?)


典子「遅いぞ!早く着替えて…」

忍「…すみません、キャプテン」

妙子「私たちバレーをやめることにしたんです」

典子「え…な、何言って…」

典子「部を復活させるまで一緒に頑張るって言ってくれたじゃないか…!」

あけび「でもなかなか人は集まらないし…」

忍「チームとして対外試合もできてないじゃないですか」

典子「それは…まあそうだけど、でもどうして!」

あけび「演劇部から正式に部員になってほしいと言われたので…」

忍「私は軽音楽部からスカウトを受けました」

妙子「もっと放課後に同じクラスの友達と遊びたくなったからです」


典子「そんな…」

忍「短い間ですけどお世話になりました」

妙子「私たちはやめちゃいますけど…」

あけび「応援してますよ、キャプテンのこと」

典子「ちょ、ちょっと待って…」

典子(ダメだ、三人を引き留められない)

典子(元々私が無理に引き込んだんだ…)

典子(…嫌だ……)

典子(私はまた一人になるの…?)

典子「待って!」

典子(聞こえていない…三人の背中がどんどん遠くなっていく…)

典子(お願いだから待って、私を一人にしないで…)

典子(寂しいよ…)

典子(近藤、河西、佐々木…)

典子「……」


典子「…まって……!」

典子(…なんだ、夢か)

典子(もう朝練の時間だ、早く学校に行かないと)

典子(あれは本当に夢?体育館に行っても誰もいないとか…)

典子(…とりあえず行ってみよう)


典子(…あっ!)

あけび「おはようございます!」

妙子「珍しいですね、キャプテンが最後なんて」

忍「早く四人で練習しましょう!」

典子(“四人で”…)

典子「ひっく…うう……」

妙子「わっ、どうしたんですか急に泣き出して!?」

典子「三人は…ずっと私についてきてくれるよね…?」

あけび「当たり前じゃないですか」

忍「卒業するまで、いや…」

妙子「卒業してもついていきますよ、キャプテン!」

典子(ああ良かった、やっぱりあれは悪い夢だったんだ…)

典子(よし!キャプテンとしてこの三人のためにも頑張らないと!)


4 泥水

「それでまたあの子が…」

「ふふ、いつもしょうがないわね」

「まったく笑い事では…!」

オレンジペコ「……」

オレンジペコ(なにかおかしい)

オレンジペコ(普段と特に変わりないはずなのにどこか違和感を感じる)

オレンジペコ(気のせいだろうか…)

「あらどうしたのスプレモ、そんなに黙りこくって」

オレンジペコ「はいぃ?スプレモ?」

「あなた自分の名前を忘れてしまったの?」


スプレモ「あの一応確認ですけど、お二人の名前は…?」

ブルーマウンテン「私はブルーマウンテンで、彼女はマンデリンよ」

マンデリン「先輩の名を忘れるなんて感心しないわね」

スプレモ「す、すみません」

スプレモ(どういうことなの…)

スプレモ(ダージリン様がブルーマウンテンで、アッサム様がマンデリン?)

スプレモ(イギリスがモデルの学校でコーヒー由来のニックネームなんて)

スプレモ(って、あ!)

スプレモ(よく見たら今飲んでいるのはコーヒー!)

スプレモ(クラブハウスの名前に真っ向からケンカを売るチョイス…)

スプレモ(一体どうなっているの?)


ブルーマウンテン「今日も良い香りね」

マンデリン「ええ」

スプレモ(良い香りもなにも、目の前にあるのはネスカフェバリスタ!)

スプレモ(うちの財力なら本式のエスプレッソマシンだって導入できるだろうに)

スプレモ(ダージリン様、もといブルーマウンテン様はいつからそんな貧乏嗅覚に…)

スプレモ(というかブルーマウ…ああ、めんどくさい!)

スプレモ(ダージリン様はコーヒーが苦手なはず)

スプレモ(砂糖とミルクを大量投入しないと飲めないから、それを隠すために紅茶を常飲しているぐらいだし)

スプレモ(大体この二人とも“コーヒーは泥水”とか公言していたはずなのに…)


スプレモ「あのブ、ブルーマウンテン様…」

ブルーマウンテン「何かしら?」

スプレモ「紅茶は召し上がられないのですか?」

マンデリン「……」

ブルーマウンテン「…ついに正体を現したわね」

スプレモ「え?」

マンデリン「ケニア、ピーベリー、やっておしまい!」

ケニア「はい、ただいま!」

ピーベリー「ついにボロを出しやがりましたですわー!」

スプレモ「え?…うわっ!」

スプレモ(ルクリリ様とローズヒップ、もといケニア様とピーベリーに取り押さえられた!)


ブルーマウンテン「前々からあなたのことは怪しいと思っていたのよスプレモ」

ブルーマウンテン「もとい、オレンジペコ」

オレンジペコ「!」

マンデリン「私たちコーヒー党の中枢にまでスパイを送り込むとは…」

ブルーマウンテン「ティーレジスタンス共も侮れませんわね」

ケニア「こいつどうしますか、ブルーマウンテン様」

ブルーマウンテン「ただ帰すのも惜しいし“お仕置き”でもしましょうか?ねぇ、マンデリン」

マンデリン「準備は完了しております、ブルーマウンテン」

ブルーマウンテン「さすがね、さて…」

ブルーマウンテン「紅茶なんて泥水を信奉する輩には神聖なるコーヒーの洗礼を施さないとね」

オレンジペコ「意、意味が…もがが…」

ピーベリー「ブルーマウンテン様、やっちゃってくださいですわ!」

オレンジペコ(え、まさかコーヒーを飲まされるの?)

オレンジペコ(私もダージリン様ほどじゃないけどコーヒーはちょっと…)

オレンジペコ(ちょっとどころじゃない!本当に苦いのダメだから!)

オレンジペコ(お願い、やめて…)

オレンジペコ「いやあああああっ!!!」


オレンジペコ「がっ……」

オレンジペコ(…夢?)

オレンジペコ(…疲れてるのかな、私)

オレンジペコ(あっもうすぐ朝のティータイム!)

オレンジペコ(早くクラブハウスに行かないと!)


オレンジペコ(あれ?)

ケイ「グッモーニン、ペコ!今日もよく晴れてるわね!」

オレンジペコ「おはようございます…」

オレンジペコ(そうだ昨日ケイ様がダージリン様を訪ねてきてそのまま泊まったんだった)

オレンジペコ(ん?だとすると…)

オレンジペコ「あの、ダージリン様はどちらに?」

ケイ「あ~ちょっと身支度に手間取ってね、そろそろ来るはずだけど」

ダージリン「…遅くなって申し訳ありません」

ケイ「もう~遅いよダーリ~ン」

ダージリン「誇りある名前を勝手に略さないでくださる?」


ケイ「いいじゃない、お堅いこと言わないでよ」

ダージリン「はぁ…あ、そうだわペコ」

オレンジペコ「はい?」

ダージリン「今朝はお茶を淹れなくてもいいわ」

ケイ「私がコーヒー淹れてあげるから、楽しみにしといて!」

オレンジペコ「!?」

ダージリン「私はコーヒーが苦手だと何度も言っているでしょうに」

ケイ「え~私の淹れたコーヒーでもダメ?」

ダージリン「それは…まあやぶさかではありませんが…」

オレンジペコ「!!??」

オレンジペコ(そ、そんな…)

オレンジペコ(“朝は日の出でも朝食でもなく、一杯の紅茶から始まるのよ”と常々言っているダージリン様が…)

オレンジペコ(それに、一瞬だけ見せた“雌”の顔…)

オレンジペコ(私はまだ夢を見ているのだろうか…?)


5 ペコ愛ずる女王

オレンジペコ「……」

ダージリン「……」

ダージリン(ああ、たまらない…)

ダージリン(前を歩くペコから漂ってくる甘い香り)

ダージリン(鉄と油の匂いに混ざって私の鼻腔をくすぐってくる)

ダージリン(なんて、すばらしいのかしら!)

ダージリン(体の奥の方がきゅっと熱くなる)

ダージリン(汗ではないナニカが滴り落ちるのを感じる…)

ダージリン(…はっ!)

ダージリン(私は何を考えているのかしら、はしたない)

ダージリン(ペコは可愛いけれどただの後輩、それに同じ女の子)

ダージリン(それなのに…)


オレンジペコ「…どうされました、ダージリン様?」

ダージリン「え、えっ何がかしらペコ?」

オレンジペコ「どこか上の空といったご様子だったので…」

ダージリン「あぁ…そう!ちょっと戦術について考え事をね、おほほ…」

オレンジペコ「?…それならいいですけど…」

ダージリン(…ほっ、なんとかごまかせたようね)

ダージリン(それにしても私を見上げてくるペコの目…)

ダージリン(私に邪な思いを抱かれているとは露ほども考えていない純真な瞳…)

ダージリン(あぁっ、ぞくぞくするわ!)

ダージリン(私のこの想いをぶつけたらペコはどんな顔をするかしら?)

ダージリン(ペコの目はどんな風に曇るのかしら?)

ダージリン(それとも…)

ダージリン(私がペコを愛しているように、ペコも私を愛してくれるかしら?)


ダージリン「……」

ダージリン(…制服に着替えてから不快な匂いが消えてペコそのものの香りが強くなった)

ダージリン(頭がクラクラする)

ダージリン(私の邪心を食らって肥え太った魔物が、今にも私を乗っ取ろうとしている)

ダージリン(ペコの淹れてくれた紅茶も、ケーキも、サンドウィッチも)

ダージリン(ただの水や粘土のようでまるで味を感じない)

ダージリン(このままでは自分でも理解できない行動に走りかねない…)

ダージリン(…そうだわ)

ダージリン(ペコの香りをこんな焦らされるような形で嗅がされるのがいけないのよ)

ダージリン(きっとそうよ!)

ダージリン(いっそのこと思う存分、この乾いた心が潤うまで堪能できれば…)


オレンジペコ・アッサム「……」

オレンジペコ「(アッサム様…)」

アッサム「(何かしら?)」

オレンジペコ「(今日のダージリン様、ご様子がおかしくないですか?)」

アッサム「(ええ、やけに静かで心ここにあらずというか)」

オレンジペコ「(どうされたんでしょうか?)」

アッサム「(さぁ…でもダージリンだって色々と思う事があるのでしょう)」

アッサム「(いつも悠然としているけど、完璧超人というわけではないはずだから)」

オレンジペコ「(それならいいのですが…)」

ダージリン「…二人とも」

オレンジペコ・アッサム「「!」」

ダージリン「忘れ物を思い出したから少しロッカールームに行ってくるわ」

アッサム「え、えぇ…」


ダージリン「……」

ダージリン(私が声をかけた時やたら驚いていたわね…)

ダージリン(大きな声を出したつもりはなかったのだけれど)

ダージリン(そんなことよりペコのジャケットよ)

ダージリン(…きっと素晴らしいはずだわ)

ダージリン(歩く時に起こるわずかな気流にのってくる香りだけであれだけ昂るのだから…)

ダージリン(きっと…)


ダージリン(確かペコのロッカーは…ああ、これね)

ダージリン(さっきまでペコが身につけていたジャケットは…)

ダージリン(…あった)

ダージリン(はぁ…手に持っただけなのに胸が高鳴る、頭が煮え立つ!)

ダージリン(……)

ダージリン(ん~~~!!!♪)

ダージリン(ペコの香りが体全体に染み渡っていく)

ダージリン(心が満たされていく)

ダージリン(でもどうしてかしら…)

ダージリン(どうしてまた渇きを感じ始めているのかしら…)

「…ダ、ダージリン様……」

ダージリン「!」


オレンジペコ「それ私の…」

ダージリン「これは、その…」

オレンジペコ「忘れ物なんて嘘だったんですか…?」

ダージリン「……」

オレンジペコ「今日様子がおかしいと思っていたらこんなことを考えていたんですね」

ダージリン「……」

オレンジペコ「なんとか言ってくださいよ!」

オレンジペコ「この、変態っ!」

ダージリン「っ、ペコ…!」

オレンジペコ「きゃあああっ!」


オレンジペコ「ど、どいてください!何するんですか!」

ダージリン「…あなたが悪いのよ」

オレンジペコ「え…?」

ダージリン「あなたの目、あなたの唇、あなたの声、あなたの香り…」

ダージリン「あなたの全てが私を狂わせたのよ」

オレンジペコ「ひっ…!」

ダージリン「可愛らしい悲鳴ね、ペコ…」

ダージリン「食べちゃいたくなるくらい」

オレンジペコ「どうして…私の知るダージリン様はこんなこと…」

ダージリン「“心には魔物が棲む、その魔物は闇を食らって肥え太りやがて全てを飲み込む”のよ」

オレンジペコ「それは…誰の格言ですか…?」

ダージリン「私よ、それに…私自身のことでもあるわ」


オレンジペコ「くっ…ううっ……!」

ダージリン「ああ、私のかわいいペコ」

ダージリン「泣かないでちょうだい、私にすべてを委ねてちょうだい」

ダージリン「私の“愛”を受け止めてちょうだい、ペコ…」

ダージリン(怯えた目、少しずつ流れる涙、力なく抵抗する細腕…)

ダージリン(今私はペコを支配しつつある)

ダージリン(…この制服邪魔ね)

ダージリン(どうせ今の時間ここには誰も来ない)

ダージリン(それなら…)

ダージリン(肌と肌を直接触れ合わせて“愛して”あげても誰にも見られないわよね…)

 「……ジリン…!…オレ…ペコ……!」

ダージリン(!、アッサムが来たのかしら…)

オレンジペコ「っ!」

ドンッ!

ダージリン「きゃあ!」

ダージリン(そんな…組み敷かれた体勢からこんなに突き飛ばせるなんて…)

ゴンッ!


ダージリン「…はっ……!」

ダージリン(夢…?)

ダージリン(なんて奇妙な夢…)

ダージリン(ペコ相手にあんな…)

ダージリン「……」

ダージリン(あぁ…ティータイムの途中でイスに座ったまま寝てしまっていたのね)

ダージリン(…外が随分暗くなっている)

ダージリン(ペコもアッサムも私を置いて帰るなんて薄情ね)

ダージリン(さて私も帰らないと…)

ガキン!

ダージリン(両手両足が手錠でイスにつながれている!誰がこんなこと…)

「目を覚まされたんですね、ダージリン様」

ダージリン「ペコ…」

オレンジペコ「ずいぶん長くお眠りになっていたので分量を間違えたかと思いましたよ」


ダージリン「分量?どういうこと?それよりペコ、これを外してちょうだい!」

オレンジペコ「嫌です、ダージリン様には“教育”が必要ですから」

ダージリン「“教育”…?」

オレンジペコ「…どうして、気づいてくれないんですか?」

ダージリン「な、何に?」

オレンジペコ「私の気持ちに、ですよ」

オレンジペコ「アッサム様よりも、ルクリリ様よりも、聖グロリアーナ、いえ世界のだれよりも…」

オレンジペコ「ダージリン様の近くにいてダージリン様を愛しているのに」

ダージリン「ひぃっ…!」

オレンジペコ「可愛らしい悲鳴ですね、ダージリン様」

オレンジペコ「でも…すぐに別の悲鳴をあげることになりますよ」

オレンジペコ「ああ、そんなに怯えないでください」

オレンジペコ「痛めつけたりはしませんから」

オレンジペコ「だから私にすべてを委ねてください」

オレンジペコ「“私のダージリン様”」

ダージリン(何なのよこれは…)

ダージリン(お願い、夢なら覚めて…!)

以上です
ちょっと危ない表現あって注意書きするの忘れたけど
許してくださいなんでもしますから

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