【艦これ】提督「風邪をひいた日」 (51)
提督「頭が痛いし体に力が入らない……ごほっごほっ」
提督「しかし……これしきのことで軍務を滞らせるわけにはいかない……」むくり
――コンコン。
阿武隈「ていとくーっ! おはようございます!」
提督「……ああ、阿武隈。すまない……すぐ行くから」
阿武隈「……? 提督、声がかすんでますけど……入りますよ?」
ガチャ
提督「やあ、阿武隈……おはよう」
阿武隈「おはようございます……って提督! 顔真っ赤じゃないですか!」
提督「なに、気にすることはないさ。それより今すぐ行くから先に行ってくれ」
阿武隈「なに言ってるんですか! そんな高熱で仕事するつもりなんですか!」
提督「いやいや、そんな大げさなものではない、これくらいで休むわけには――」
阿武隈「ダメです」
提督「いやだから大したことは――」
阿武隈「ダメです、まずお医者さんに診てもらってください」
提督「……分かった」
阿武隈「じゃあ着替えたらさっそく医務室に行きましょう! 肩貸してあげますから!」
提督「いやそこまでしてもらわなくても良いんだが……」
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――しばらくして。
阿武隈「38.7度……今日はお休みしてください」
電「幸いインフルエンザではないとお医者さんが言ってくれたので、数日安静にしていれば大丈夫なのです」
提督「それなら仕事しても――」
阿武隈「ていとく?」
提督「ごほっ……そうだな、あまり心配かけても悪いし、阿武隈達にうつしても申し訳ないか」
阿武隈「そういうことじゃなくて、もっと自分をいたわってください」
電「大規模作戦の後処理も完了しているので、電達だけでもなんとかなるのです!」
阿武隈「そうですよ! 今の提督の仕事は休むことです! ね、電ちゃん」
電「なのです! 今日は電達に任せて欲しいのです!」
提督「……ありがとう、阿武隈。電」
阿武隈「ふふっ、任せて任せて!」
電「なのです! 阿武隈さんがいれば電達も大丈夫なのです!」
提督「……そうだな、阿武隈がいれば大丈夫だな」
阿武隈「って、二人ともなんでそこまであたしの名前を出すんですか」
電「阿武隈さんだからなのです!」
提督「阿武隈だからだよ」
阿武隈「なんなんですかそれぇ!?」
蒼龍「そうそう、私達に任せておけば安心だからさ」
熊野「そうですわね。私達がお互いにサポートしますから、数日くらい提督がいなくても問題ありませんわ」
阿武隈「二人ともいつの間にここに!?」
蒼龍「提督が風邪だと聞いたの。阿武隈の手伝いも兼ねてねっ」
熊野「私はカモミールティーを作ってきましたわ。体を温める効果もありますし、水分補給は大切でしてよ」
提督「……すまない、ありがたく頂くよ」
阿武隈「提督、食欲はありますか?」
提督「……なんとか食べられそうだな」
阿武隈「じゃあ、あたしは消化に良いものを作ってきますね」
提督「……なにからなにまでありがとうな」
阿武隈「気にしないでください。困ったときはお互い様です!」
蒼龍「阿武隈、私の分もよろしくね!」
電「なんで蒼龍さんの分を作る必要があるのです……?」
蒼龍「えー? だって阿武隈のごはんおいしいし」
阿武隈「はいはい、分かりましたよ」
蒼龍「やった! 阿武隈あいしてるぅ!」
熊野「はあ……蒼龍は調子良いですわね」
蒼龍「気にしない、気にしない。それで提督。私からは、はいこれ」
提督「……なんだこれ?」
蒼龍「あ、今じゃなくて後で開けてね」
提督「今じゃダメなのか?」
蒼龍「だーめ、後で」
提督「……よく分からんが、分かった」
電「司令官、電はそろそろ執務室に行かないといけないのです」
提督「ああ、すまないな引き留めてしまって」
電「気にしなくても大丈夫なのです! なにかあったらすぐに電を呼んでください、なのです!」
提督「ああ、分かった。電もあまり根を詰めないようにね」
電「ありがとうなのです、それじゃ行ってきます」
蒼龍「電ちゃん、おみやげよろしくねー」
電「なんで執務室からおみやげを持ってこなくちゃいけないのです……?」
熊野「蒼龍、あなたは行かなくて良いんですの?」
蒼龍「んー? 私は提督の看病というお仕事があるし」
赤城「ダメです」
蒼龍「って赤城さん!? どうしてここに!?」
赤城「阿武隈さんから提督が風邪をひいたと聞きまして、様子を見に来たんです」
提督「ごほっ……わざわざすまない」
赤城「いえ、お気になさらないでください」
赤城「蒼龍さん。提督が心配な気持ちは分かりますが、騒がしくては提督も休めませんよ」
蒼龍「んー、それもそっか。艦載機の整備とかもしなくちゃなんないし」
熊野「私も、瑞鶴と空母としての訓練があるんでしたわ」
提督「私は心配いらないさ。少し休めばなんとかなる」
蒼龍「そう? やっぱ心配だなあ」
赤城「心配し過ぎも良くありませんよ。周りが沈んだ気持ちでいると、病人にも悪い影響を与えますからね」
蒼龍「分かりました。それじゃあ、提督! お大事にね」
熊野「それでは、私もこれで失礼致しますわ。提督、ご自愛なさってくださいな」
提督「ああ、ありがとう。養生するよ」
赤城「すみません、騒がしくしてしまって」
提督「……なに、ちょっとくらい賑やかな位がちょうど良い。むしろ元気を分けてもらったよ」
赤城「ふふっ、そうですか。それは良かったです」
提督「ああ、良かったよ……ごほっ」
赤城「大丈夫ですか?」
提督「なに、これくらい……赤城、君にもうつると良くない、私は大丈夫だから」
赤城「阿武隈さんが来るまでここにいますよ。心配いりません、そう柔な鍛え方はしてませんよ」
提督「……強情だなあ」
赤城「それはお互い様です。提督、私は静かにしてますから少し眠ってはどうですか?」
提督「……いや、起きたばかりですぐには寝られそうにないな。とりあえず阿武隈を待つよ」
赤城「分かりました。それまではここにいますから、なんなりと仰ってください」
提督「ありがとう……そういえば、さっき蒼龍が言ってたこれはなんなんだろう」
赤城「開けてみます?」
提督「そうだな……すまない、頼む」
赤城「では……あら?」
提督「どうした?」
赤城「写真……ですね。去年のクリスマスパーティーで阿武隈さんがサンタ姿で、駆逐艦の子達にプレゼントを配ってます」
提督「へえ……電達、良い笑顔してるな」
赤城「ええ、本当に……それで、これは新年の晴れ着姿ですね。阿武隈さんと神通さんのツーショットです」
提督「相変わらず仲良いな、二人とも……いいことだ」
赤城「お次は……これは結構前の親善艦参加観艦式ですね。阿武隈さん、凜々しいですね」
提督「ああ、本当に惚れ惚れするな」
赤城「まあこの後、響ちゃん達にじゃれつかれて阿武隈さんは大慌て。それを見たザラさんは、呆気に取られてましたが」
提督「ははっ……そんなこともあったなあ。ついこの間のことだと思ってたのに、あれから随分経ったなあ」
提督「ザラもここに馴染めたようで良かった」
赤城「……ポーラさんの監督でそれどころではないのでは?」
提督「……いや、それは……」
赤城「ふふっ、冗談です。他の皆さんもフォローしてくださってます。大丈夫ですよ」
提督「……そうだな」
赤城「……これはこの前の海水浴のときの写真ですね。阿武隈さんが長良さん、五十鈴さんと一緒に写ってます。相変わらず駆逐の子達に引っ付かれてますね」
提督「阿武隈お姉ちゃんも大変だな」
赤城「でも楽しそうですよ、この子達。阿武隈さんのおかげですね」
提督「……さっきから阿武隈ばかりじゃないか?」
赤城「……それもそうですね。えっと……」
赤城「阿武隈さんが若葉さんとお昼寝しているときの寝顔、これは白露さんと時雨さんに指導してて、次も春雨さんに勉強を教えてて――」
提督「これは熊野や翔鶴達とお茶会……まさか全部の写真に阿武隈がいるのか?」
赤城「ですね――あら?」
提督「ごほっごほっ、どうした?」
赤城「提督、これを」
提督「ん? なになに」
『提督がとっても元気出る差し入れ。 鎮守府の皆にはナイショだよ! そーりゅーより』
提督「……おい」
赤城「元気出ましたか?」
提督「熱が上がった気がする」
赤城「それは大変ですね」
――コンコン
阿武隈「てーとく、お待たせしました。入りますね?」
赤城「阿武隈さん、どうぞ入ってください」
阿武隈「赤城さん? あ、入りますね」
ガチャ
阿武隈「お待たせしました! てーとく、雑炊作ってきましたけど……食べられそう?」
提督「すまないな……ああ、大丈夫だ」
赤城「それでは二人とも、私もそろそろ失礼しますね」
提督「赤城、ありがとう」
阿武隈「赤城さん、ありがとうございます」
赤城「いえ、私はなにもしてませんから。提督、お大事にしてください」
提督「ああ、ゆっくり休んで早く治すよ」
赤城「……ちゃんと治してから復帰してくださいね?」
阿武隈「そーですよ提督」
提督「信頼無いなあ」
赤城「いえ、信頼してますよ。阿武隈さんからの信頼には及びませんが」
阿武隈「ふえ!? あ、赤城さん!」
赤城「ふふっ、それではまた後で」
阿武隈「それじゃあ提督。お口に合うか分かりませんけど」
提督「大丈夫だ。阿武隈の料理に関しては全面的に信頼してるよ」
阿武隈「それなら良かったです……起きられますか?」
提督「ああ、それぐらい平気だよ」
阿武隈「……やっぱりちょっと辛そうです」
提督「たいしたことないよ、心配いらない」
阿武隈「食べられるだけで後は残して良いですから、栄養つけてくださいね」
提督「ああ、ありがとう……卵とネギが入った雑炊か。おいしそうだな」
阿武隈「体に良くて温まるかなって。ふー……ふー……。はい、あーん」
提督「え?」
阿武隈「ほら、てーとく。お口開けてください。あーん」ニコニコ
提督「あ、あーん……もぐ」
提督(はっ!? 笑顔と癒やしボイスの魔力に負けてつい!)
阿武隈「てーとく、熱くないですか?」
提督「阿武隈が冷ましてくれてるから、ちょうど良いよ」
阿武隈「それなら良かったです。ふー……はい、あーん」
提督「……もぐ」
阿武隈「えへへ、ちゃんと食べられるみたいで良かったです。これならきっと早く治りますね」ニコニコ
提督「ああ、阿武隈がここまでしてくれるんだから、早く治さないとね」
阿武隈「気にしないでください。あたしが勝手にやってることなんですから」
阿武隈「ふーふー……あーん」
提督「……もぐ」
阿武隈「味も提督に合ってるみたいで良かった。あーん」
提督(恥ずかしさと幸せ過ぎて死にそう)
提督「ごちそうさま……ありがとう、おいしかったよ」
提督(風邪で弱った体が、援軍の到着で喜んでいるみたいだ。相変わらず体は辛いが、さっきよりずっと良い)
阿武隈「はい、お粗末さまでした」
提督「ありがとう、ここまでしてもらってすまないな」
阿武隈「それは言わない約束でしょ、おとっつぁん」
提督「ワシが病弱なばかりにおまえには……って順番逆だなこれ」
阿武隈「ですねぇ、でも楽しければそれでOKです」
提督「阿武隈も忙しいだろう? 私は大丈夫だから――」
阿武隈「本当に大丈夫?」
提督「ああ、栄養もつけたことだし、少し眠るとするよ」
阿武隈「そうですね……ずっといても提督のお休みの邪魔になりますし。水分も適度に取ってくださいね?」
提督「熊野が水筒置いてってくれたから大丈夫だよ」
阿武隈「分かりました。なにかあったら呼んでくださいね」
提督「ああ、そうさせてもらうよ」
阿武隈「また様子見に来ますから、それじゃ提督。ゆっくり休んでください」
提督「色々とありがとうな」
阿武隈「はい! 提督、またね!」
――ガチャ。
提督「ふう……少し寝るとするか」
提督「こんな時間に寝るなんていつ以来だろうな……」
提督「電はもう、秘書艦としてとっくに仕事を始めてるだろうか」
提督「阿武隈はこれから駆逐艦の子達をまとめて訓練か……あの子達をまとめるのは大変そうだ」
提督「蒼龍は……ああ見えて人一倍努力する子だからな。一生懸命訓練に励んでいるだろう」
提督「明石や秋津洲、鎮守府に勤める人達もいつも真剣に務めてくれている……」
提督「私がこうして風邪をひいても安心して休んでいられる……本当に私は恵まれているな……」
提督「親父やお袋……元気にしているだろうか……」
提督「今度……また、あ……といっしょに……」
――し……い
――司令。
提督「……ん?」
磯風「司令! 起きろ!」
提督「……どうしたんだ磯風?」
磯風「やっと起きたか。どうしたじゃない。もうすぐ修行の時間だ」
提督「……修行?」
磯風「その通りだ……さあ、行くぞ道場へ!」
提督「道場? なんだそれは?」
磯風「決まっている! 一水戦道場だ!」
提督「一水戦道場!?」
磯風「ああ、そうだ!」
霞「その通りよクズ司令官! ボサッとしていると地獄行きよ!」
提督「地獄行きだと!?」
磯風「いやさすがに地獄行きはないが」
提督「そ、そうか……びっくりした」
磯風「だが、気を抜いていると四国行きだぞ」
提督「なぜ四国」
初霜「えー。こほん」
初霜「いよいよ始まった一水戦道場。別名、水雷戦隊の宴」
提督「なんでいきなりナレーションを始めるんだ!?」
初霜「あまたの苦しい修行を乗り越え、漢を上げましょう提督!」
磯風「いよいよだな……心が高ぶってきたぞ」
霞「ようやくね……待ちくたびれたわよ」
初霜「そうね……このときをどれだけ待ち望んでいたことか」
提督「君達心待ちにしてたの!?」
初春「待たせたな」
磯風「あなたは……初春師範!」
初春「うむ。これより修行を始める」
霞「まさか真っ先に初春師範が姿を現すなんて……」
初霜「早くも修行の厳しさが想像できるわ」
提督「え、そうなのか?」
磯風「やはり休日は道場修行に限るな」
初霜「ええ、本当に」
霞「霞は今年に入ってから、休日は毎日ここよ」
提督「どれだけハマってるんだよ!? それにさっきはようやくか、みたいな事を言ってなかったか!?」
初春「第一の修行! 駆逐艦二十人組み手じゃ!」
電「なのです!」
雷「いっきまっすよー!」
子日「子日、張り切っていきまーす!」
響「響だよ。ypaaa(ウラー)!」
若葉「駆逐艦、若葉だ」
暁「暁の出番ね! 見てなさい!」
白露「いっちばーん!」
時雨「にーばーん」
村雨「さんばーん!」
夕立「てーとくったら、結構頑張ったっぽい? 夕立さん、褒めて褒めてー!」
提督「逆になってるぅ!? それだと私が変な人みたいじゃないか!?」
春雨「ごーばーん! あ、お姉様に春雨スープ渡すの忘れてました……一度帰らないと」
提督「帰るのか!?」
五月雨「ろくばーん! 春雨、大丈夫です! こんなこともあろうかと既に阿武隈さんに渡しておきました!」
提督「しっかりしてるぅ!?」
海風「白露にいっちばーん! は譲れません!」ドンッ!
海風「……ななばーん!」
提督「律儀な子だ」
山風「おとーさん。おかーさんはどこ……?」
提督「そして山風はマイペースな子だなぁ」ナデナデ
山風「んー」
江風「……ぐー」
提督「寝てるのか!? 流石にそれは予想外だ!」
涼風「じゅーばーん! 涼風の本気、見せたげるっ!」
提督「まともで逆に不意を突かれた気分だよ……」
若葉「よし、皆突撃だ!」
暁「突撃するんだから!」
「「「おー!」」」
ドドドドドド――!
提督「って……おいちょっと待て!」
初春「まずは小手調べじゃ。歴戦の熱き駆逐艦二十人に揉まれよ!」
若葉「これが一水戦道場名物の一。なのです駆逐祭りだ」
電「なのです!」
夕立「なのです!」
村雨「なのです!」
時雨「なのですは譲れない」
提督「仮に軍人とは言え、駆逐艦二十人の相手が務まるわけないだろ! 一人だって無理だ!」
提督「ここは逃げるしか――」
初霜「ほんと、ツメが甘いのね」ガシッ
提督「なにぃ!? なぜ初霜が私を捕まえるんだ!?」
磯風「いつから磯風達が、修行を受ける側だと錯覚していた?」
霞「霞達も道場で教える側よ」
提督「なん……だと?」
初霜「初春が言っていたでしょう? 二十人だって。初春を抜いて私達を入れたらちょうど二十人よ」
提督「くっ、なんてことだ!」
不知火「ここで二十人しかいないと油断しましたね? 不知火もいます」ひょこ
提督「二十人も二十一人も大して変わらないぞ!? 私が手も足も出ないという意味でね!」
――ドドドドド!
初霜「なのです!」
若葉「なのです」
村雨「なのですフェスティバル~」
春雨「なのですカーニバル~」
響「なのです」
時雨「なのです」
五月雨「なのですっ」
白露「いっちばーんなのです!」
暁「どう考えても、暁がなのですってことよね!」
子日「無駄無駄無駄っ! なのですっ!」
電「なのですなのですすーぱーなのです!」
霞「あーもうなのですばっかり! なのですあるのみよ! やるわ!」
提督「やめ、やめろ……うわああああああ!」
提督「なのです禁止……はっ、ドリームか!? ごほっごほっ……なんていう夢を見ているんだ私は」
提督「ん……なんか重いぞ?」
若葉「ぐー」
響「すー」
山風「むにゃ……」
提督「……なんで駆逐艦の子達が三人も、私のベットに潜り込んでいるんだ」
提督「もしかしてあんな夢を見たのは、この子達に乗っかられたりしたからかもしれないな……」
提督「おーい……みんな起きろ……」ゆさゆさ
響「う……ん?」
若葉「提督……?」
山風「おとーさん……? おはよう……」
提督「なんで三人ともここで寝ているんだ……?」
響「風邪のときは、温めたほうが良いって聞いたからだよ」
若葉「若葉達が湯たんぽになっていたんだ」
提督「風邪がうつるからやめなさい……」
山風「おかーさんに頼もうと思ったけど、忙しそうだったから……」
提督「それはもっとやめなさい、いろいろとまずい」
提督「それに三人もいたらベットが狭かっただろう? 大丈夫なのかい?」
響「大丈夫だよ、不死鳥の名は伊達じゃない」
提督「不死鳥関係あるのか……?」
響「温まると思うよ」
若葉「燃えると思うぞ」
山風「おとーさん、燃えちゃやだ」
響「ごめん、私は実は燃えたりしないから」
山風「そうなの……? 響、嘘ついちゃだめ」
響「……ごめんなさい」
提督(おお、山風に響がタジタジになってる。なんか新鮮だ)
――コンコン。
鳥海「司令官さん、鳥海です。入っても良いですか?」
響「鳥海さんかい? 良いよ、入っても」
提督「なぜ響が答える……まあ良いけど」
――ガチャ。
鳥海「失礼します……あら? 響さんに若葉さん、山風さん。どうしました?」
若葉「提督の湯たんぽになってたんだ」
鳥海「まあ、それは楽しそうですね。司令官さん、慕われてますね」
提督「……そうかなあ?」
阿武隈「もー、提督のお休みの邪魔しちゃダメでしょ。それに風邪がうつっちゃうかもしれないじゃない」
響「大丈夫だよ。そんな柔な鍛え方してないさ」
若葉「光合成すれば大丈夫」
山風「若葉……葉緑体持ってるの?」
阿武隈「風邪と光合成がどう関係してるんですか」
響「阿武隈さんエネルギーを小まめに補給すれば、風邪なんて吹き飛ぶよ」よじよじ
阿武隈「こーら、あたしによじ登ろうとしないの。休んでいる提督が近くにいるんだから」
山風「じゃあ後で肩車して、おかーさん」
阿武隈「もう、しょうがないですねえ。分かったよ」ナデナデ
山風「んー」
響「じゃあ私も」
若葉「若葉もだ」
阿武隈「えへへ、分かったよ。でもまた後でね」
鳥海「阿武隈さん、すっかりお姉さんですね。ほほえましいです」
阿武隈「そんな大したものじゃないですよ」
鳥海「あ、司令官さん。午前中の執務は滞りなく終わりました。電さんからの伝言です」
提督「了解した。わざわざ済まないな」
鳥海「いえ、通り道ですから」
響「はらしょー、このおにぎりは最高だ」もぐもぐ
山風「響、なに食べてるの?」
若葉「それ阿武隈さんが作ったおにぎりじゃないか?」
阿武隈「ってもう。お行儀の悪いことしないの」
響「お腹が空いたからつい……」
阿武隈「ほら、ちゃんと食堂に行って食べないとダメだよ、ねっ?」
響「了解。響、出撃する」
若葉「目標、鎮守府食堂の戦闘糧食」
山風「阿武隈さんの鮭おにぎりー、わーい」
響「それじゃあ司令官、お大事に」
若葉「なにかあったら響に言ってくれ」
山風「自分じゃないんだ……まあ良いけど」
響「なんで私に振るんだい? まあ良いけど」
若葉「別に若葉に言ってくれても良いぞ。 まあ良いけど」
鳥海「若葉さん、そこで『まあ良いけど』はおかしいです」
若葉「そうか……? まあ良いけど」
山風「きりがない……」
響「ほら、もう行こう。司令官をゆっくり休ませてあげないと」
山風「鳥海、おとーさん、おかーさん……またね」
トテトテトテ――
鳥海「ふふっ、かわいいですねえ」
阿武隈「そうですよね。振り回されて大変でもありますけど」
鳥海「なにかあれば言ってくださいね。微力ですが、なにか手伝えると思います」
阿武隈「はい、ありがとうございます」
鳥海「それでは、タオルはここに置いておきますね」
阿武隈「あ、はい」
鳥海「それでは司令官さん。お大事にしてください」
提督「ああ、鳥海ありがとう」
鳥海「いえ、なにかあれば言ってくださいね、阿武隈さんに」
阿武隈「鳥海さんまでそのネタ引っ張るの!?」
鳥海「ふふっ、冗談ですよ。私にもなんでも仰ってくださいね。それでは」
阿武隈「てーとく、調子はどう?」
提督「……ああ、少し食べて休んだら幾分良くなったよ。まだまだ本調子とはほど遠いけど」
阿武隈「それなら良かったです。提督、結構汗かいてますか?」
提督「……まあ、響達が引っ付いてたみたいだしね。おかげで体が冷えることはなかったよ」
阿武隈「子供は体温高いですからね。ちょっと着替えた方が良いと思ったので、提督の着替え持ってきましたけど」
提督「すまない、ありがとう」
阿武隈「もう、提督。ありがとうだけで十分ですよ。それで、着替えられそうですか?」
提督「ああ、それくらい一人で大丈夫だ」
阿武隈「でも、ずいぶん汗かいてますから、体拭いた方が良いかもしれないですね。あたし蒸しタオル持ってきました」
提督「タオルまで持ってきてくれたのか。何から何までありがとう」
阿武隈「えっと……でも自分じゃ拭きにくいですよね。あたし、拭きますね」
提督「え? いやいやいや、それはいくらなんでも――」
阿武隈「もう、あんまり無理しないでください……その、これは看病なんですから」
提督「いや、だが――」
阿武隈「ほら、遠慮しないでください。ボタン外しますね」
提督「む……なんだが恥ずかしいな」
阿武隈「そ、そういうこと言わないでくださいよぉ。あたしまで意識しちゃうじゃないですか」
阿武隈「うわ、やっぱり汗かいてますねえ。これはやっぱり拭いた方が良さそうです」
提督「そ、そうか」
阿武隈「それじゃまず手足から拭いてきますね」
提督「あ、ああ」
阿武隈「よいしょ……提督、冷たくない?」
提督「いや、大丈夫だ。ほどよく温かくて気持ちいいよ……」
阿武隈「えへへ、それなら良かったです。ポンポンっと――はい、腕はこれでOKです」
阿武隈「ズボンめくりますね」
提督「いや足は自分で――」
阿武隈「こう見えて、電ちゃんとか風邪がひいたときに体拭いてあげたりして、慣れてますから。任せて任せてっ」
提督「そういう問題じゃ……」
阿武隈「っと……提督、寒くないですか?」
提督「大丈夫、むしろ暑いかもしれない」
阿武隈「うーん、やっぱりまだ体温高いですね」
阿武隈「はい、足も拭き終わりました。次はシャツ脱がしますね。手早く済ませますから。てーとく、バンザーイして」
提督「こ、こうか?」
阿武隈「はい、バンザーイ。わ……てーとく、体ガッチリしてますね」
提督「そうか? そう言ってもらえると嬉しいが……」
阿武隈「って、すみません! 早く体拭かないと! えっと、失礼しますね」
提督「あ、ああ。よろしく頼むよ……」
提督(うう……一生懸命に体を拭いてくれている阿武隈を見ると……嬉しい反面、非常に気恥ずかしい)
阿武隈「てーとく、わきのところも拭きますね」
提督「……ああ。ありがとう」
阿武隈「こういうところは汗かきやすいですからね。はい、それじゃもう片方も」
阿武隈「うん、これでOKです。じゃあ背中拭きますね」
提督「頼む……っ!?」
阿武隈「手、後ろに回しますね」
阿武隈「汗凄いですねえ。やっぱり拭かないと体冷やしちゃいそうでしたね」
提督(阿武隈の顔が近い……いいにおいがして、ただでさえぼーっとしている頭がくらくらする……)
阿武隈「よいしょっと……あともうちょっとですからね」
提督(阿武隈の体温と声、背中をふく手つき……心地よくて安心する)
阿武隈「はい終わりましたよ、てーとく」
提督「……」
提督「てーとく? 冷えちゃいました? 乾いたタオルでさっと拭いて、すぐに換えのシャツを――」
提督「阿武隈……」ぎゅっ
阿武隈「ふえ? ……てーとく?」
提督「……!? す、すまないっ、すぐに離すから――」
阿武隈「大丈夫ですよ、てーとく」ぎゅっ
提督「阿武隈……?」
阿武隈「風邪のときは、心細くなりますよね。あたしも経験あるから分かります」
提督「……そう、だな」
阿武隈「はい。てーとくが安心するまで、こうしてますから」
提督「でもなんだか……これじゃあ子供みたいだな」
阿武隈「そうですか? てーとくがこうして甘えてくれるのって、あたし的には嬉しいです」
提督「そうなのか? ……ああ、たしかに阿武隈が甘えてくれると私も嬉しいな」
阿武隈「えへへ、ですからお相子です」
提督「ああ……」
阿武隈「でも、まずシャツ着て、ズボンと下着も替えないと体冷やしちゃいますね」
提督「……そう、だな」
阿武隈「それに体起こしたままだと、辛いですもんね。えと……横になったらまた抱きしめてあげますね」
提督「いやさすがにそれは……非常に魅力的な提案だけど」
阿武隈「うーん。たしかに、あたしもずっといるわけにもいかないですもんね……それじゃあ、また後で」
提督「……いや、だから」
提督(頭がぼーっとしてきた。体拭いてもらって、不快感が取れてまた眠気が出てきたかな……)
提督「……それじゃあ、楽しみにしてるよ」
阿武隈「はいっ、では早く着替えましょう! えっと、あたし後ろ向いてますから」
提督「あ、ああ。手早く着替えるよ」
提督(なんというか気恥ずかしいなこれ……しかし、体が重くて上手く動かない)
提督(なんとかズボン脱げたし、つぎは替えの下着を……)
提督(……そう言えば、阿武隈も忙しいはずだ。いつまでも私についてもらうわけには行かないよな)
提督(体も拭いてもらったんだし、もう外に行ってもらった方が……)ぼー
提督「阿武隈、もう良いよ」
阿武隈「あ、着替え終わりました?」くるっ
提督「いつまでもついてもらうわけにもいかないし、阿武隈は自分の……?」
阿武隈「……え? ふえ? きゃあ!?」くるっ!
阿武隈「てててて、てーとくなんでズボン履いてないんですかぁ!?」
提督「す、すまん阿武隈、つい頭がぼーっとして!」
阿武隈「あ、す、すみません……提督が風邪なのに、つい」
提督「ごほっごほっ……いや、今のは私が全面的に悪い」
阿武隈「そ、それじゃお互い様ということにしましょう、ええ」
提督「そうだな……」
阿武隈「ところで、てーとく、その、えっと……あの……それ、辛いですか?」
提督「いやいやいや、あのですね。これは好きな女性に密着されて起きた致し方ない現象であり、決して邪な考えを抱いていたわけではなく……」
阿武隈「……べ、別に、あたし的にはOKです……よ?」
提督「理解を示されても、それはそれで恥ずかしいんですけどぉ!? ぐっ、ごほっごほっ!」
阿武隈「ふええ!? てーとく、しっかりしてくださいっ!?」
――数時間後、夕方。
提督「ああ、まだ恥ずかしい……」
提督「そろそろ電達も仕事を終えるころかな……だいぶ体も楽になった」
――コンコン。
電「司令官、入っても良いですか?」
提督「電かい? ああ、入っておいで」
――ガチャ。
電「失礼するのです」
暁「司令官、調子はどう?」
提督「ああ、ずいぶん良くなったよ。ありがとう、雷、電」
電「それは何よりなのです」
暁「でもまだまだ休んでなきゃだめよ、司令官。えっと……まだ熱もあるのよね?」
提督「だけど、37度台まで下がってるよ」
暁「だからって油断しちゃダメじゃない! ちょっとしたことで、悪化しないとも限らないんだから」
提督「あはは、そうだな。暁の言うとおり、ゆっくり養生するとしよう」
電「司令官、今日のお仕事は滞りなく終わったのです。司令官さんの印鑑が必要なものだけ別にしてありますけど、それも急ぎのものはないのです」
提督「ありがとう。電がいてくれて本当に良かったよ」
電「電は別に大したことはしてないのです。皆さんが手伝ってくれたから、司令官がいなくてもなんとかできただけなのです」
電「電は司令官や暁ちゃん、阿武隈さんや皆さんがいないとまだまだなのです」
暁「もう、何言ってるの。電はここの秘書艦なんだから、もっと胸を張らないとダメじゃない」
提督「そうだぞ。電を、私も皆もとても頼りにしているんだからな」
電「ありがとう……なのです」
磯風「司令、失礼するぞ」
電「あっ、磯風ちゃん。こんばんはなのです」
阿武隈「提督、具合はどうですか?」
提督「ああ、かなり良いよ。皆のおかげでゆっくり休めたからね」
磯風「それは良かった。やはり司令あってこその我が鎮守府だからな。なにかあったら大変だ」
提督「あはは、それは大げさだよ。でもそこまで言われたからには早く治さないとね」
暁「だけど無理しちゃだめなんだからね、司令官」
磯風「暁にも手伝ってもらって、消化に良さそうな食事を作ってきたぞ」
提督「本当、今日はなにからなにまでしてもらって申し訳ないな」
磯風「何を言う。普段から司令にはこの鎮守府を支えてもらっているんだ。風邪の時くらい周りに頼れ」
暁「司令官、食べられそう?」
提督「せっかく暁達が作ってくれたんだろう? 喜んで頂くよ」
暁「本当!? 良かったあ!」ぱあっ
磯風「そう言ってもらえると、作った甲斐があるな」
提督「それじゃあ頂きます……うん、おいしいな」
暁「やったあ! ……はっ!? い、一人前のレディーの暁が作ったんだから、当然よね!」えっへん!
磯風「こうして誰かに食べてもらえるなら、師匠(阿武隈)に料理を教わって良かったと思えるな。それが病人の司令の役に立てたのなら、なおさらだ」
阿武隈「えへへ、暁ちゃんも磯風ちゃんも頑張って作ってくれたんですよ」
提督「ありがとう、暁、磯風」
暁「こ、これくらい大したことじゃないわよ」
磯風「なに、この程度改まって礼を言われるほどのことじゃない」
阿武隈「暁ちゃん、えらいえらい。ありがとうね」ナデナデ
暁「ふえ? ……えへへ、阿武隈さんってばくすぐったいわ、もう」
阿武隈「そう? でも暁ちゃん頑張ったもんね」
暁「うん! でも阿武隈さんがちゃんと教えてくれたからよ」
阿武隈「でも上手にできたのは、磯風ちゃんと暁ちゃんが頑張ったからです!」
暁「そうかしら? ……ありがとう。ねえ、阿武隈さん、暁にまたお料理教えて!」
阿武隈「もっちろん!」
磯風「暁、この磯風も微力ながら力になるぞ」
暁「いいの? 磯風、ありがとう!」
暁「それで、どう司令官? 一人前のレディーの暁が作った料理だから、栄養や食べやすさもしっかり考えてるのよ!」えっへん!
提督「あはは、そうだな。元気出てきたよ。ごちそうさま」
電「やっぱりお姉ちゃんは凄いのです!」
暁「これくらい当然よ!」
提督「ありがとうな暁」ナデナデ
暁「ふわ……えへへ……はっ!? だから、頭をナデナデしないでってば! 暁はもう子供じゃないって言ってるじゃない!」
暁「阿武隈さんも司令官も、なんですぐに暁の頭をなでるの? もう!」ぷんすか!
電「暁ちゃんがいい子だからなのです!」
暁「むー……」
磯風「……師匠、磯風の頭も撫でてくれないだろうか」
阿武隈「はい、磯風ちゃんもいい子です!」ナデナデ
磯風「……なるほど、悪くないな」
阿武隈「電ちゃんもありがとね。電ちゃんがいてくれたから、提督がいなくても鎮守府の皆が安心できました」ナデナデ
電「はわー……ありがとうなのです!」
暁「……むー」
提督「あはは。暁、もっと阿武隈に素直に甘えても良いんだぞ」
暁「もー、司令官ってば!」
瑞鶴「おーい、みんな! お風呂沸いてるわよーっ!」
電「あ、瑞鶴さん。ありがとうなのです」
阿武隈「提督、お風呂はどうしますか?」
提督「そうだな……だいぶ良くなったし、入ろうかな」
磯風「風邪のときに風呂か? あまり良くないと聞いたが」
阿武隈「そこまで熱が高く無ければ、入り方を間違えければ良いみたいです」
磯風「そうなんですか? 師匠は何でも知ってますね」
阿武隈「いえいえ、以前電ちゃんが風邪引いたときに調べただけですから」
電「あの時はありがとうなのです」
暁「磯風の口調が丁寧だと、すっごく違和感あるわね……」
暁「でも司令官。本当に大丈夫? お風呂場で倒れたりしないわよね?」
提督「平気だよ。心配しなくても大丈夫だ」
暁「そうだ! 暁が司令官の背中を流してあげるわ!」
提督「いやいや、そんなことしなくていい」
瑞鶴「提督さん……まさかいつも駆逐艦の子達に背中を流させてるんじゃ」
提督「そんなわけないだろう」
瑞鶴「ふふっ、分かってるわよ。ジョーダンだって、ジョーダン」
暁「もう、司令官ってば暁じゃ頼りにならないっていうの? 良いじゃない、暁が一人前のレディーだってこと証明して見せるんだから!」
提督「あー、あのな暁」
阿武隈「提督は大丈夫だから、ねっ?」
提督「阿武隈の言うとおりだ。気持ちはありがたいが、暁が心配しなくても私は大丈夫だよ」
暁「……そう?」
瑞鶴「提督さんがこう言ってるんだから、大丈夫よ。だから、提督さんの代わりに阿武隈の背中を流してあげてね」
阿武隈「なんであたし?」
暁「分かったわ! 暁が阿武隈さんの背中を流してあげるんだから!」キラキラ
阿武隈「なんでそんなにノリノリなの!?」
電「電も阿武隈さんの背中を流すのです! 電の本気を見るのです!」
阿武隈「電ちゃんまで!?」
雷「二人ともずっるーい! 雷も入れてもらうわよ!」
響「響だよ」
若葉「若葉だ」
初霜「初霜です!」
子日「子日だよっ! ねのひー! ね・の・ひーっ!」
島風「島風です! おねーちゃん、ほら早く早くーっ!」
白露「いっちばーん!」
時雨「いっちばーん」
春雨「春雨もお供します!」
霞「霞出るわ! 見てらんないったら!」
山風「おかーさん、一緒にお風呂行こ……」
瑞鶴「例によってどっから出てきたのよアンタら!?」
村雨「ほらほら、早く行きましょ! 入浴剤もおニューのシャンプーもあるんだよ!」
阿武隈「えっと、それじゃあ提督、失礼しますね」
提督「ああ、ゆっくりしておいで」
瑞鶴「阿武隈一人じゃあの子達全員見るの大変そうだから、私も行ってくるわね。翔鶴姉も呼ぼうかしら」
提督「ああ、すまないが頼んだ」
瑞鶴「はーい、提督さんも湯冷めとかしないようにね」
提督「ああ、ありがとう……さて、私も行くとしようか」
――神通行きます!
――なんで神通まで!?
提督「……なんか聞こえたようが気がするが、気にしないでおこう」
妖精さん「ていとくさん、ていとくさん」
提督「妖精さん、どうしたんだい?」
妖精さん「わたしたちがつきそってあげるです」
提督「良いのかい? 私をそこまで気に掛けてもらわなくても大丈夫だよ?」
妖精さん「ていとくさんには、いつもおせわになってるので」
妖精さん「んだんだ」
妖精さん「てーとくさんいないと、このちんじゅふなりたたぬ」
妖精さん「それに、あぶくまさんもかなしむのです」
提督「そうか、それじゃあお願いしようかな」
妖精さん「おまかせあれ」
妖精さん「どろぶねにのったきぶんでおーけーです」
提督「あはは、それを言うなら大船だよ」
妖精さん「きゃはー」
妖精さん「まちがえたー」
提督「にしても、妖精さんは阿武隈になにかあるのか?」
妖精さん「おかしくれるです」
妖精さん「このまえあたまなでてくれた」
妖精さん「んーと、んーと」
妖精さん「よじよじ」
妖精さん「やめてー! ひびきちゃんいきなりのぼってこないでー!」
妖精さん「なのです! なのです!」
妖精さん「いっちばーん!」
妖精さん「かすみね、ほんとはあぶくまさんだーいすき!」
妖精さん「ふええええ! みんなおもいー!」
提督「なにやってるんだ?」
妖精さん「あぶくまさんごっこ」
妖精さん「さいきんぶーむ?」
提督「妖精さんにまで、そんな認識されてるのか阿武隈……それと霞」
――その後。
提督「ふう……やはり風呂は良い」
提督「しかしノドが乾いたな……熊野の水筒は飲みきってしまったし」
提督「たしか常備してあった飲料水があったはず……」
――コンコン。
阿武隈「提督、すみません……まだ起きてますか?」
提督「ああ、大丈夫だよ」
――ガチャ。
阿武隈「失礼しますね。夜中にノドが乾いたときに困るかなって思って、水筒持ってきたんですけど」
提督「それはありがたい。ちょうどノドが乾いていたんだ」
阿武隈「ふふっ、それは良かったです。もしかしたらもうお休みになってて、起こしちゃうかなってちょっと心配してたんです」
提督「いや、本当にありがたいよ。さっそく少し頂いてもいいかな?」
阿武隈「もちろんです! はい、どうぞ」
提督「……はあっ、染み渡る。ありがとう、阿武隈」
阿武隈「いえいえ、それじゃあ提督、ゆっくり休んでくださいね」
提督「あ……」
阿武隈「ふえ? 提督、どうかしました?」
提督「い、いやなんでもない。おやすみ、阿武隈」
阿武隈「……そう言えば、昼間に約束してましたね」
提督「約束……って」
阿武隈「はい、約束を破るわけにはいきませんから」
――数分後。
阿武隈「そ、それじゃ失礼しますね……」
提督「あ、ああ。いらっしゃい」
阿武隈「こうやって一緒のお布団にいるって、恥ずかしいです」
提督「それは私もだよ」
阿武隈「でも、とても心がポカポカしてきますね」
提督「それも同じだ」
阿武隈「えへへ……」ぎゅー
阿武隈「てーとく……どうかな?」
提督「とても安心する……」
阿武隈「それなら嬉しいです。あたしも……とっても幸せな気分です」
提督「本当に今日は、阿武隈にお世話になりっぱなしだな」
阿武隈「普段はあたしが提督のお世話になってますから、お返しです」
提督「私は大したことしてないと思うが」
阿武隈「ううん、あたしがここに着任してから、ずっと信頼して、励ましてきてくれたじゃないですか」
提督「それは、提督として当たり前のことだろう」
阿武隈「それでも、あたしにとってはとても嬉しかったんです」
阿武隈「提督の期待に応えようって思って、だからずっと頑張って来られたんですよ」
提督「そうか……なら、ずっと私を信じて来てくれて、こちらこそありがとう、だな」
阿武隈「それなら、お互い様ですね。ありがとう、提督」
提督「そうだな……」ぎゅっ
阿武隈「ふふっ、てーとく温かいです」
提督「そりゃ熱があるからな」
阿武隈「もー、てーとくのバカ……」
阿武隈「提督、病人なんですから早く寝てくださいね」
提督「ああ、とても心地良いからすぐ寝られそうだよ……」
阿武隈「はい。早く元気になってくれると、みんなもあたしも嬉しいです」
提督「そうだな……早く、治さないとね……」
阿武隈「はい……おやすみなさい、てーとく」
――翌朝。
春雨「お姉様(阿武隈)、どこに行ったのでしょう? いつも司令官を起こすのは阿武隈さんですけど……」
――コンコン。
春雨「司令官、春雨です。お体の方は大丈夫ですか?」
春雨「……司令官?」
春雨「はっ!? まさか司令官、夜中に急に風邪をこじらせて!?」
春雨「お姉様と結婚(ガチ)する約束も果たせず、遙か空の国へ旅立ってしまったりしたのでは!?」
春雨「そして早朝、司令官の姿を見たお姉様は後を――そんな!?」
ガチャ!
春雨「ダメですお姉様早まって……あれ?」
阿武隈「すーすー」
提督「……すー」
春雨「……やだ春雨ってば、恥ずかしいです」
春雨「それにしても、どうしてお姉様が司令官のお布団に?」きょとん
阿武隈「えへへ、てーとく……」ぎゅー
春雨「それにしても、お二人とも幸せそう……」
春雨「……」モゾモゾ
春雨「えへへ、お姉様と司令官と川の字です」
春雨「あったかーい……」
春雨「……すー」
――十数分後。
――コンコン。
電「司令官、電なのです。ちょっと早いですけど、心配で見に来たのです」
電「……司令官、失礼するのです」
――ガチャ。
春雨「くー」
時雨「すー」
白露「ぐー」
島風「にひひー……すー」
暁「すやすや……」
電「これはいったいどういうことなのです!?」
阿武隈「あ、電ちゃんおはよう」
提督「ああ、電。おはよう……まあ驚くのも無理はない」
電「なんで司令官が起きてて、阿武隈さんも一緒で、司令官の部屋のベットで暁ちゃん達が寝てるのです?」
阿武隈「春雨ちゃんが最初にベットに潜り込んできて、それから次から次へと……ついさっきなんとか抜け出したところです」
提督「本調子だったら少しくらい好きにさせても良かったけど……さすがに今は辛い」
阿武隈「提督、取りあえず水分補給してください。はい、これ」
提督「ああ、助かる」
電「……大変だったのです」
電「司令官、体調はどうですか?」
提督「ああ、だいぶ良くなったよ。今日はなんとかなりそうだ」
電「良かったのです。でも、今日はまだ休んだ方が良いのです」
阿武隈「昨日はちょっとしか食べてないから、体力回復してないんじゃないですか?」
提督「それは大丈夫だが、皆にうつるのが心配だな……暁達大丈夫なのだろうか?」
電「……たぶん平気だと思うのです。電達は普通の人達より丈夫なのです」
――ガチャ。
響「……うらー」
阿武隈「あ、響ちゃんおはよう……あれ?」
響「……阿武隈さん、おはよう」
電「響ちゃん顔が真っ赤なのです!?」
阿武隈「ええっ!? やっぱり風邪がうつったんじゃない!」
響「これくらい……だいじょう……ぶ」くらくら
電「全然大丈夫そうじゃないのです!?」
――数十分後。
阿武隈「響ちゃん、おかゆできたよ」
瑞鶴「提督さんの次は響か、鎮守府に風邪が蔓延(まんえん)しないといいんだけど」
響「……あーん」
阿武隈「もう、しょうがないですねえ。はい、あーん」
響「もぐもぐ……すぱしーば……」
瑞鶴「甲斐甲斐しいわねえ、阿武隈は」
暁「もう! なにが不死鳥の名は伊達じゃない、よ! 完全に司令官の風邪がうつってるじゃない!」
阿武隈「暁ちゃん、響ちゃんは風邪なんだから、あんまり騒いじゃダメだよ」
暁「あ、ごめんなさい……響、ごめんね。暁だって司令官のベットで寝てたりしたのに」
響「……私こそ、ごめん」
阿武隈「うん、暁ちゃん偉いです」
暁「もう、暁は一人前のレディーなんだから、素直に反省して当然じゃない」
提督「私も風邪をうつしてすまないな、響」
響「いいさ、これは自業自得だよ……私が全面的に悪いさ」
電「響ちゃん……」
雷「響……」
響「阿武隈さん、ぎゅーってして欲しい」
瑞鶴「甘えん坊か!?」
阿武隈「えへへ、ぎゅー」
響「はらしょー」
瑞鶴「まったく、辛そうなのに安心しきった顔しちゃって……」
瑞鶴「提督さんにとっても、響にとっても阿武隈が一番の特効薬のようね」
これで終わりです。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
季節の変わり目です、皆様体調には気をつけてください。
SS書いてて、秋刀魚を全然集めてないです(汗)
>>30
誤り
提督「ああ、ずいぶん良くなったよ。ありがとう、雷、電」
↓
正
提督「ああ、ずいぶん良くなったよ。ありがとう、暁、電」
失礼しました。
なのですなのですすーぱー乙なのです
駆逐艦娘達とくんずほg、組み手したい
皆様、乙とコメントありがとうございます。
>>50さん
阿武隈「乙ありがとうございます、ところでちょっとこっちに」
神通「はい、少しお話するだけですから」
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