ダイヤ「不死鳥の心を探して」 (13)

これから作る曲について、調べ物をしていて1つ知ったことがあります

フラメンコという言葉は古くは差別用語だったという説がある、と

荒くれもの、乱暴なものという意味らしいです

流浪の民が日々の生活を憂い、裸足を晒し、周りを鑑みず踊る

憂いのこもった悲痛な叫びの舞が今日まで続いてきたのでしょう

そんな悲しいダンスに私は…強く惹かれました

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1507185142

フラメンコはFlame、炎から来ているというお話があると花丸ちゃんに教えて貰いました

ルビィちゃんの髪は真っ赤で綺麗だから、きっと似合うずら

なんて花丸ちゃんは言ってくれたけど

のろまで、全てをなあなあで済ませてしまうルビィに

そんな熱い踊りは踊れるのでしょうか

炎なんて言葉を背負えるのでしょうか

そしてまるで透き通った水のような、触れたら切れる刃のような、お姉ちゃんは

そんな熱い気持ちを見せてくれるのでしょうか

自分の事を悲劇のヒロインだなんて思うつもりは毛頭ありません

産まれた時から敷かれたレールの上を走る…そう聞いていい顔をする人は少ないでしょう


人には天命があると…私は思っています

天より与えられた使命、人の生にてなすべき事柄

それを成し遂げてこそ人の命に意味が宿るのだと

齢幾許かの小娘の分際で…そのように考えて生きてきました

大した年月生きていない私ですが、その考えが変わるとは思えません

ただ

時には、敷かれた線路の脇に繰り出して

自由に踊ってみたくなる時も…あるのです

ルビィはお姉ちゃんに比べて、不出来でした

少しも出来ないわけじゃない、けどお姉ちゃんより出来が悪い

それが周りの評価でした

お姉ちゃんより出来なくてもしょうがない、お姉ちゃんなんだから

周りにいる人たちはみんな、口をそろえてわざわざそう言いに来ます

別に悲しくはありませんでした

別に習い事の出来にも、勉学の出来にもルビィは頓着してないのです

天地がひっくり返っても、この世界が終わりを迎えてもありえないことだけど

きっとルビィがお姉ちゃんより出来たとしても、多分同じだったと思います

それがきっと、ルビィがルビィたる由縁…執着がないのです

そんなルビィだから出来が悪いのか、出来の悪いルビィがそんな考えなのか分からないけど

ただ、できるなら…もう少しお姉ちゃんの横でお琴を弾いてみたかった

時々そんな風に、思ったりもします

昔から、似ていない姉妹だとよく言われました

性格も容姿も立ち振る舞いも全然違うと、周りに言われることは数知れず

その話になるたび私は乾いた笑いで返す他、ありませんでした

別に…あの子と私が似てる、とは思ってません

ただ

いつも寝坊してばかり、勉学の出来も特段良い訳ではなく、ただ気楽に生きるばかり

不肖の妹、黒澤ルビィ

でもそんなあの子の何気ない…ふとした時に見せる冷たく、哀しい目

未来を憂う哀しみの眼が

ほんの少し、自分に似ている気がして

申し訳ないけどちょっぴり、気に入ってました

ルビィとお姉ちゃんは全然違います

日々の生き方も、考え方も、将来も全部違う

きっと仕方のないことなんです

それぞれが、一人の人間、一人の少女

そうやって生きていくのが当然なんだから、しょうがないこと


でもルビィは寂しがり屋で、甘い人間だから

一人の寒さに凍えそうなとき

誰かにそばにいて欲しい

温かな手に包まれたい

そう思ってしまうんです

そして、きっと誰でもそう思うんです

ルビィが私のことをどう思っているのかは、分かりません

人間、声に出ていない自分への評価というものは案外気付きにくいものです

口煩い家族?お堅い姉?

大方そんな風に思ってるのでしょうか

実際のところ、人の気持ちは本人以外には分かりません

ただ、時々私が時々思う事

たまには、横並びで生きてみたい

たまには、手を繋いでいたい

そんなささやかな、弱々しい願いをあの子は…笑うでしょうか?

お姉ちゃんはほんの少し、人より強いんです

決められた道を往くのは、ルビィは好きではありませんでした

そんなルビィの前を行く、お姉ちゃん

固く、冷たい鋼鉄で出来たレールの上を1人歩こうとするお姉ちゃん

自分を殺して、孤高で歩いてる様に見えるお姉ちゃん

その内には、熱い、不死鳥の様に温かな心が宿ってるのをルビィは知ってます

私にはその血が流れていて…私はずっと見てきたから

こんな事を思うのは傲慢だけど

お姉ちゃんには幸せになって欲しいんです

お姉ちゃんと一緒に幸せになりたいんです


夕食を終えて、小休憩

姉妹2人の小さな会議が始まる

議題は、次に歌う曲のテーマについて




2人という少人数編成で歌う、デュオ


そのテーマ決定の期日が、刻一刻と迫っている


デュオのテーマというのは難しい


互いの色を消さず、けれどもぼやけること無く……そんな物を考え、産み出すのは至難の技である





けれど私にはひとつ、隠し球がある




「フラメンコなんて、どうかな!?」





突然の言葉にお姉ちゃんは目を丸くする

虚を突かれ、ぽかんとした後その端正な顔に珍しく浮かぶ目一杯の笑顔

その思った以上の反応にルビィは少し、戸惑いました


ダイヤはルビィの手を取り、ゆるりと動き出す

片や優雅にたおやかに、片や少しおどおどと

柔らかに、けれどもしっかりと手を繋ぎ、互いの心に秘めたる想いをステップにこめて、語り合う

なんて事はない、15年間共に生きて来たのだ

近く心が離れた時も、遠く声が届かぬ時も

きっと過ぎてしまえば、手を引いて歩き出す日が来るのだろう


後一歩、もう一歩と歩を進める


転ばないよう、真剣な目付きのルビィを見てダイヤは微笑む


ステージを彼女達色の真紅に染め上げる時を想いつつ


たった数枚の畳の舞台で踊り明かすのだった

おわり

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