巌窟王「旅行先間違えた」 アンジー「神様ですか?」 (827)

ニューダンガンロンパV3とFGOのSSです!
ので! 両作品のネタバレ注意!
今度こそ! 短くなる! はずだ!

ぐだ男「おうち帰る」 マシュ「は?」

の番外です

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1506772669

BB「……あー……あーあーあー……!」カタカタ

BB「やばいですー。処理が追い付かないですー。あーあー」カタカタ

巌窟王「……ふむ。お前がそこまで追い詰められているとは。薄ら笑いはどうした、ムーンキャンサー」

BB「あ。巌窟王さん……」

BB「いやー。実は今度、マスターが一週間くらいガッツリ休日取って家に帰ることになったんですよ」

巌窟王「なに?」

BB「で、それについていきたいから申請と許可の偽造を頼む、と言っているサーヴァントがたくさんいて……」

BB「ひとまず清姫さん、静謐さん、頼光さんの三人は無理やり適当な時代にレイシフトさせて封印しましたが……」

BB「それ以外にも色々と処理があって、頭が痛くなりそうなんですよー」ウィンウィン

巌窟王「既に痛そうだが」

BB「あー……ひとまずジャックさんとかは一緒に行かせても大丈夫かなー……」ブツブツ

巌窟王(既に大分キテるな。よりによってあの童女を同行させようとするとは……)

巌窟王「……」




巌窟王「その旅行、俺も同行させろ」

才囚学園 デスロード入口

赤松「なんでっ……どうして!」

最原「わざと出口をチラつかせておいて、希望を与えておいてからそれを奪う……」

最原「わかりやすく僕たちを追い詰めてるね」

王馬「あーあ。ガッカリだよ。赤松ちゃんの言葉を信用して損したなー」

赤松「そんな……もうちょっと頑張ってみようよ! みんなの力を合わせればきっと……!」

天海「……それは……どうっすかね。もうみんなも体力の限界っす」

白銀「滋味に無駄、じゃないかな……」

百田「て、テメェら……それでも男かッ!」

茶柱「女子もいますがッ!? 自分の基準で物事判断しないでください! これだから男死は!」


ギャースカギャースカ


赤松「み、みんな! 落ち着いて! 喧嘩しちゃダメだよ!」

王馬「まあ大体赤松ちゃんのせいだけどさ」

赤松「……わ、私の……」

最原「……どうしたらいいんだろう。もうこれ以上は、どうしようも」






アンジー「ねえねえー! アンジーにいい考えがあるよー!」

最原「えっ」

アンジー「さっき図書館からこんなもの持ってきたんだー!」キラキラキラ

真宮寺「……えーと、何々?」

夢野「英霊……召喚……?」

カルデア

巌窟王「クハハハハハハ!」

巌窟王「着替え! 準備完了!」シャキーンッ

巌窟王「お土産! とらやの羊羹!」バァーンッ!

巌窟王「パスポート! BBが偽造済み!」ジャジャーンッ!

巌窟王「その他色々と準備は万端だ! いつでも行けるぞ!」ギンッ!

BB「ふう。これで仕事の一つが片付きましたね」

BB「そうだ。ちょっとコフィンに入って貰えますか?」

巌窟王「コフィンに? 行くのは現代の日本だろう?」

BB「あー。いや。ちょこーっとコフィンを改造して、一つだけ単純な瞬間移動装置に変えておいたものがあるんですよ」

BB「これの動作が上手く行けば、もっと簡単に、申請と許可を偽造するまでもなくサーヴァントたちをセンパイに同行させられるので」

BB「一回、試してもらえませんか?」

巌窟王「いいだろう。ここまで世話を焼いてもらった借りもある。それを今この場で清算してやろう!」

BB「じゃ、まず荷物から……これ全部入るかなー」

巌窟王「俺の収納術を! 舐めるな!」ギュムギュム

巌窟王「よし入れた!」ガシャンッ

BB「じゃあ、行っちゃいますよー! それ」ポチリッ



バチバチバチッ!


BB「……ん? 成功したんですかね?」

真宮寺「……一応、興味はあるから魔法陣は僕が書いてみたヨ」

アンジー「おー! 凄い凄い! 是清やるねー!」

最原「うーん……無駄だとは思うんだけど……」

入間「召喚術、ねぇ……カルトブスに相応しいオカルティックな試みだな」

入間「どうせ何も起こらねぇだろうから、せいぜい大笑いしてやるぜ。ヒャーーッハッハッハ!」

王馬「入間ちゃん。お口臭い」

入間「」

獄原「なんか、段々わくわくしてきたよ! これが上手く行けば脱出できるんでしょ!?」ワクワク

東条「……魔法陣の掃除をするときは私に任せてちょうだい」

アンジー「じゃあ、行くよー!」

アンジー「――素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公……!」






最原(そう。このときの僕たちは、誰一人として思っていなかった)

最原(まさか、この召喚術がとんでもないものを喚んでしまうなんて……)

最原(まるで思っていなかったんだ)

赤松「……あれ。ねえ。なんか……魔法陣が光ってきてない?」

最原「えっ?」

ブワッ

アンジー「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ!」

春川「……何これ。明らかに不自然な風が……?」

星「渦巻いて、纏まって……こいつァ、何かやべぇかもしんねぇぞ?」

キーボ「一度中止させた方がいいのでは!?」

真宮寺「いや。実に興味深い! このまま続けさせてみようヨ!」ワクワク

最原(アンジーさんは周囲の異変をまるで気に留めず、どんどん詠唱を完了させていく)





アンジー「……汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」

アンジー「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!」


バチバチバチッ!


アンジー「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」


バチバチッ!


バシュウウウウウウウッ!

茶柱「ぎやーーー! 眩しいーーー! 目がー! 目がーーー!」ジタバタ

夢野「こ、これは……魔法か!? 魔法なのか!? ウチのアイデンティティがクライシスか!?」ガタガタ

最原「げほっ……砂埃が酷い……アンジーさんは!?」

アンジー「――」

最原「あ、よかった、無事……」

春川「いや、あれ無事? ある一点を見て固まってるみたいだけど」

最原「え? ある一点って、何を……」



???「クハハハハハハハハ!」



ブワァッ!


最原(再度大きな風が吹き、周囲を覆っていた砂埃が急激に晴れていく)

最原(その中心に立っていたのは、アンジーさんと、もう一人)

最原(明らかに僕たちとは年齢が違う、大人。しかし一目見ただけで何か異質だと感じる……)

最原(人間ではないナニカだった)

巌窟王「ついたぞ! ここが! 東京かッ!」

最原「……」

巌窟王「……」

巌窟王「……?」キョロキョロ

巌窟王「……東京ではないな! クハハハハハハ……」

巌窟王「間違えた!」ガビーンッ!

最原「何を!?」ガビビーンッ!




最原(これが出会いだった)

最原(そして、僕たちのロクでもない運命が、決定的に変わった瞬間だった)

最原(いや。その中でもひと際、変わった女子が一人)

アンジー「……」

アンジー「神様、ですか?」

巌窟王「……」

巌窟王「?」キョトン

最原(何を訊かれたのかわかってない顔してる……)

巌窟王「む。その本は……なるほど。タイミング良く瞬間移動装置と、魔術師の英霊召喚が混線したか」

巌窟王「クハハハハ! 不幸だな、女! 俺は! 貴様のサーヴァントではない!」

アンジー「神様だー!」


ダキッ


巌窟王「……」

巌窟王「?」キョトン

最原(アンジーさんに抱き着かれて、猶更状況がわからなくなったって顔だ……!)

巌窟王「待て。違う。放せ。俺は神などではない」

巌窟王「俺は……ふむ。なんと名乗ればわかりやすいか……」

巌窟王「……モンテ・クリスト伯が一番わかりやすいか?」

最原「モンテ・クリスト……?」

真宮寺「アレク・サンドル・デュマ・ペールの書いた小説だネ。日本では巌窟王の名でも有名だヨ」

真宮寺「しかしまさか……実在していたとは思わなかったけどネ」

白銀「待って。そのモンテ・クリストが目の前にいるってことは……!」

赤松「召喚は……成功!?」ガーンッ!

入間「んなわけあるか! なんかのトリックに決まってんだろ!」

入間「おいそこのチンコハット!」

巌窟王「よもや俺のことか?」

入間「テメェがマジで英霊だとかなんだとか、そんな存在だって言うんなら証拠でもなんでも見せてみろっつーんだよ!」

巌窟王「……」

入間「なんだ? できねぇーのか? そりゃそうだ。魔術なんてものがこの世に存在するわけが」



ボォゥッ!


チュウンッ! バキィンッ!


最原「入間さんのゴーグルの右目部分が謎の光弾によって割れたーーーッ!」ガビーンッ!

巌窟王「これで証明になったか?」

入間「」

巌窟王「まあいい。こんなものは気まぐれに過ぎない。遊んで悪かったな、ショッキングピンクの女」

巌窟王「さて。それでは俺は帰らせてもらう。これから旅行だからな」

巌窟王「……」

巌窟王「いい加減放せ」

アンジー「はい」スッ

巌窟王「クハハハハハハハ……それでは俺は……」

巌窟王「……」

巌窟王「……どこに向かって帰ればいい?」ハテ

最原「知らないよ!?」ガビーンッ!

今日のところはここまで!

巌窟王「こういうときは……」ゴソゴソ

巌窟王「これだ!」

天海「携帯? でもここだと圏外のはずじゃあ……」

入間「俺様のゴーグル……俺様の万能ゴーグル……」ガタガタ

ピピーッ

BB『あ、どうでした? 東京につきましたか?』

巌窟王「トラブルが発生して変なところに出たぞ」

東条「……通信できてるようね?」

天海「えっ」

BB『あー……うーん……どうやら特異点に似て非なるどこかに飛んで行ってしまったようですねー』

BB『帰還のプログラムを組むのも難しそうです。しばらくそのまま適当にブラブラしておいてください』

巌窟王「しかし魔力供給がなければ近い内に消滅するぞ」

BB『供給? あ、確かにカルデアからの供給は途絶えてます……が……?』

BB『あれ。おかしいですね。巌窟王さんへ魔力が流れて行ってますよ?』

巌窟王「何? そんなバカな。マスターがこの場にいない上、カルデアからの供給もないのでは……」

アンジー「……?」ゴシゴシ

赤松「アンジーさん? 何してるの? 右手の甲こすって」

アンジー「いや、なんか……熱くって……」ゴシゴシ

巌窟王「……」

巌窟王「……!?」ガビーンッ!

シャキィィィンッ!

アンジー「あ、なんか出たー」

最原「何かの……紋章?」

巌窟王「……」

巌窟王「再びトラブル発生だ。どうもカルデアのマスターとは別の人間と契約を果たしてしまったようだ」

BB『まー。そういうこともありますって』

巌窟王「クハハ! あって! たまるかッ!」ギンッ!

巌窟王「……だが、まあいい! こうなってしまった以上、仕方がない!」

巌窟王「女! 名を告げるがいい! お前を我が仮初のマスターとして認めよう!」

巌窟王「契約に従い、我が炎をお前に預けよう。お前の敵の悉くを葬り去ってくれる!」

巌窟王「できるだけ短時間でな! こちらにも予定がある!」ギンッ!

アンジー「わーい! 神様に認められたよー!」キャピキャピ

アンジー「……こちらは、夜長アンジー! 超高校級の美術部なのだー!」

巌窟王「神ではない!」

最原(もう何がなにやら……)

かくかくしかじかとらやのようかん

巌窟王「なるほど……集められた超高校級の生徒……脱出不可能の檻……脱出のためのコロシアイ……」

巌窟王「事情はすべてわかった。わかった、が……」

巌窟王「聖杯戦争ではなかったのか。それなら誰も彼もを殺せばすぐに終わったものを」

最原(凄い物騒なこと言ってる)

巌窟王「しかしそれならば話は更に簡単になったな。アンジー。不幸だと言ったことを素直に訂正させてもらおう」

巌窟王「巌窟王は脱獄の英霊だ。この程度の牢獄を破壊することなど造作もない」

百田「マジか!」

巌窟王「さあ! 魔力を回せアンジー! 我が宝具でお前を縛ることごとくを破壊してみせよう!」

アンジー「うん!」

アンジー「……」

アンジー「魔力を回すってどうやるのー? ジャグリング?」

巌窟王「……」

巌窟王「計画は頓挫したな!」ギンッ

赤松「早ァッ!?」ガビーンッ!

巌窟王「待て。まだ最終手段が残っていたな」

巌窟王「確かここに」ゴソゴソ

真宮寺「……確かに彼が魔術の神秘の塊って点に関しては、もう疑いようがないんだろうけどさ」

真宮寺「なんか段々グダグダになってきたネ」

最原(思ったより使えないぞ、この人……)

巌窟王「あった。これだ!」

東条「羊羹と……水筒?」

巌窟王「本来なら旅行の手土産にするつもりだったのだが、致し方あるまい」

巌窟王「アンジー。これをやろう。そして健やかに育つのだ」

巌窟王「あとは訓練をこなせば、いつかは我が宝具で牢獄を打ち破ることもできるだろう」

アンジー「何日後くらいにー?」

巌窟王「クハハ! 気が早いな! 一流の魔術師になりたいのであれば、どんなに努力しようと数年はかかるであろうさ!」

白銀「地味に気が長いよ」

巌窟王「俺も不本意だ!」ギンッ

王馬「結局閉じ込められた人が一人増えただけだったね」

赤松「い、いやでも! 戦力が一人増えたんだよ! これならあのデスロードを攻略できるかも、だし……!」

茶柱「巌窟王さんが男死って時点で既に望み薄なんですが」

巌窟王「……ふむ。あの出口、と書かれた看板の向こう側に行けばいいのか?」

巌窟王「ちょっと待っていろ。ひとまずアンジーと俺だけで充分だ」

夢野「んあ? いやそれはそれで危険すぎじゃろ……」

巌窟王「まあ見ておくがいい。アンジー、ついて来い」スタスタ

アンジー「はーい!」スタスタ

最原「あ……行っちゃった……」


ドカァァァンッ!
ドゴォォォォンッ!


王馬「……なんか順調に進んでるみたいだね」

真宮寺「これなら意外と行けるかも、ネ?」

数時間後

巌窟王「クハハハハハハ! デスロードは攻略したぞ! 攻略! できたが!」

アンジー「電子的なロックがされてる大きな扉が最深部にあって、攻略したとしても先に進めないよー」

赤松「そ、それって……」

巌窟王「無駄骨だったな」

春川「……ま、その情報は収穫だよ。だってもう赤松に強要されることもなくなるわけだしさ」

赤松「……」

王馬「はいはーい! 解散解散! お疲れさまでしたー! 続きはまた来週ー!」

天海「続けたところで希望がなくなっちゃったんすけどね」

赤松(無駄……? そんな)

赤松(私は……)

最原「赤松さん……」

巌窟王「……」

休憩します!

モノクマ「やっほーーーう! オマエラ、元気ー?」

モノクマ「みんな揃って疲れているだろうから、栄養ドリンクの訪問販売に来たよー!」

モノクマ「飲むと二分の一の確率で永遠に嗅覚が失われる可能性があるから注意が必要だけど!」

百田「どんなドリンクだよ」

モノクマ「……あれ? あれあれ……なんか思ったより元気だね。一体どうし……?」

巌窟王「……?」



モノクマ&巌窟王(なんだコイツ……)



星「おい。よくわからないものが、よくわからないものに出会ったぞ」

白銀「モノクマ。この人は巌窟王さん。アンジーさんの召喚術で出てきたの」

モノクマ「へー……召喚術……へー……」

モノクマ「??????」

最原「まったく理解できてない……いや確かに理解しろという方が不可能だけど」

巌窟王「おいアンジー。これはなんだ?」

アンジー「モノクマ。アンジーたちにコロシアイを強要している謎のクマだよー」

巌窟王「なるほど。コイツが……コイツが……?」

巌窟王「??????」

赤松「こっちもこっちで混乱してるね」

真宮寺「確かに一瞬思考が止まるようなトンチキさだけどネ……」

茶柱「よくよく考えてみると、こんなのにコロシアイを強要されている転子たちが心底情けなく思えてきます」

モノクマ「ま、いいや。別にいても」

モノクマ「ただ、この学園の中にいる以上は、暫定的に校則を適用するよ」

モノクマ「殺すのも殺されるのも生徒と同じ処理だからね」

巌窟王「アンジーが望まない限りは元より何をする気もない」

モノクマ「あれ? それってアンジーさんが望めば人を殺すってこと?」

赤松「えっ!?」

巌窟王「……それを望むような人間と誰が契約するか」

アンジー「そうだよー! アンジーは神様が望まない限りは人を殺したいと思わないってー!」

赤松「……」

モノクマ「……うぷぷ。本当にそうかな? オマエラもこんなのを簡単に信じちゃっていいの?」

東条「それは……」

百田「確かに急に現れた、俺たちの知らない別の法則を持つ誰かを簡単に信じろって方が無理だろうな」

アンジー「……解斗?」

百田「だから俺たちは、コイツを知る必要があるんだ。そうだな? 最原!」

最原「……えっ。僕?」

百田「コイツの尋問はお前に任せたぜ! 超高校級の探偵なんだから調査くらいお手の物だろ!」ニカッ

最原「えっ」

真宮寺「じゃ、後のことは任せたよ。僕はもう寄宿舎に行って寝るからネ」スタスタ

最原「えっえっ……」

最原「……」

最原「え、えっと。尋問とか専門外だから、僕もこれで……」

ガシッ

巌窟王「いいだろう! 全力でオマエタチの信用を勝ち取ってやろうではないか!」ギンッ!

巌窟王「さあ! 尋問を開始しろ! 最原ァ!」

最原(名前覚えられちゃったよ!)ガビーンッ!

食堂

最原「……モンテ・クリスト伯爵」

最原「十九世紀半ば、無実の罪で収監された元船乗り」

最原「地獄のような酷い環境だったシャトー・ディフに十四年もの歳月囚われた後、紆余曲折あって脱獄」

最原「同じく無実の罪で投獄されていたファリア神父から託された財宝を手にし、復讐を開始」

最原「本名、エドモン・ダンテス。復讐の最後の最後において愛と人間性を取り戻した男……」

最原「ここまでで何か間違っていることは?」

巌窟王「俺はエドモンではない!」

最原「え。モンテ・クリスト伯爵なのに?」

巌窟王「モンテ・クリストだからこそだ! 最後の最後に愛を得た男ではなく、この身は永遠の復讐者」

巌窟王「なればこそ、俺は間違ってもエドモン・ダンテスなどではない!」

最原(妙なこだわりだな……)

巌窟王「……コーヒーが冷めるぞ。話が長くなるようなら先に飲んでおけ」

最原「あ、う、うん」

最原(おいしい……)

最原「あなたの人となりはある程度、モンテ・クリストの小説の方を読めばわかるとして……」

最原「じゃあ次はサーヴァントの法則について聞いておこうかな」

巌窟王「マスターがいなくなれば魔力の供給がなくなり現界が保てなくなり消滅」

巌窟王「召喚術の中では最上級に位置するので、ソースがある限り威力が段違いの魔術が使い放題」

巌窟王「令呪を持っているマスターの補助があれば更なる出力が可能」

巌窟王「その他、切り離せない要素として聖杯などがあるが……」

巌窟王「考えるだけ無駄だな。今回の召喚には事故と例外が多すぎる」

巌窟王「この場における我がマスターの名は……もう言わずともわかるだろう?」

最原「超高校級の美術部である夜長アンジーさん、だよね?」

最原「サーヴァントとしての巌窟王さんのスタンスを教えてくれないかな?」

巌窟王「……理不尽な現実に立ち向かおうとするアイツは興味深いな」

巌窟王「ただ、その点においては貴様らも同様か」ニヤァ

最原(……楽しまれても……なあ……)

最原「そういえばさっきどこかに電話してたけど」

巌窟王「アレか。外に連絡できるかも、などとくだらないことを考えるなよ」

巌窟王「お前たちにとっては死後の世界と同じくらい分厚い隔たりのある世界に通じているだけだからな」

最原「相変わらず助けは期待できない、か」

最原「……巌窟王さんは僕たちに協力してくれるんだよね?」

巌窟王「まさか。再度言っておくが、俺は夜長アンジーのサーヴァントだ」

巌窟王「アイツの意思がオマエタチへの協力を示すのであれば、もちろん協力するが……」

巌窟王「当然、それは正確にはオマエタチへの協力ではない。アンジーへの協力だ」

最原「……」

巌窟王「……これ以上話せることはこちらには特にないと思うが」

最原「こっちもなんちゃって尋問だから聞けることほぼないよ……」

巌窟王「クハハ! そうか!」

巌窟王「ならば最後に教えておいてやろう。俺の目的はこの場からの脱出だ」

巌窟王「それの邪魔をするものは主に二つ。アンジーとの契約。そして物理的に俺を閉じ込める果ての壁」

巌窟王「俺たちとお前たちの利害関係はほぼ一致していると言っていいだろう!」

最原(もうアンジーさんのことを自分の仲間だと思ってるよ。『俺たち』って……)

巌窟王「これからよろしく頼むぞ? 最原!」

休憩します!

巌窟王「最原。こちらからも問いを投げかけよう」

最原「……え?」

巌窟王「何故こちらを見ない?」

最原「ッ!」

巌窟王「……いや。答える必要はない。気になっただけだ」

最原「……」

最原(……鋭いな、この人は)

巌窟王(魔力量に大した不満はないのだが、宝具を撃つには不安が残る……)

巌窟王(さて。脱出は一体いつになるだろうな)



ガチャリンコ


アンジー「終一ー! もう尋問終わったー?」

最原「あ、アンジーさん。うん、もういいよ」

アンジー「じゃあ神様! 行こう! 行こう!」グイグイ

巌窟王「あまり引っ張るな。マントが伸びる」

最原(なんかもう仲良しだな?)

寄宿舎

春川(はあ……変なことに巻き込まれちゃったな)

春川(もしも私の本当の才能がバレたりしたら、真っ先に狙われたりするのかな……)

春川(……やめよう。考えれば考えるだけ不安になる)

春川(一旦外に出て考えよう)ガチャリンコ

アンジー「神様ー! こっちこっち! こっちがアンジーの部屋ー!」グイグイ

巌窟王「ふむ。悪くはないな?」

春川「……」

春川「……!?」ガビーンッ!



巌窟王とアンジーが同じ部屋に入る様を目撃した春川はしばらく様子を見ていたが、どちらも朝になるまで出てこなかった。
二人が一体何をしていたのか。それを考えて余計に不安に陥ったが、相談する相手がいなかったのでストレスは溜まる一方だった。

巌窟王「……さて。我が仮初のマスター、夜長アンジーよ。俺とお前の契約はひとまず『脱出が完了するまで』のものだ」

巌窟王「こちらにも既にマスターがいるのでな。二人分の面倒を見るのは骨が折れる」

巌窟王「そこだけは勘違いをするな。俺とお前の関係は絶対に長続きしない」

アンジー「いいよいいよー! 仮に傍から離れても、アンジーは勝手に祈ってるだけだからねー!」

巌窟王「……その祈り、というヤツだが。アンジー。そもそも神をどのように定義している?」

アンジー「指針。羅針盤。北極星、のような誰か」

巌窟王「……なるほどな」

巌窟王(それなら、このごっこ遊びにつきあってやるのも一興か?)

巌窟王「……いいだろう。お前の願い、この俺が受け取った。こうなった以上、最後まで導いてやる」

巌窟王「もちろん、その願いの先に何があるのかまでは保証しかねるがなァ!」

アンジー「……願い?」ピクッ

巌窟王「む? なんだ?」

アンジー「アンジーは願わないよ? むしろ神様がアンジーに願うんでしょ?」

巌窟王「……なにィ?」

アンジー「ずっとアンジーはそうしてきたよ。神様の言う通り、何もかも」

アンジー「月曜日と水曜日のイケニエは欠かしたことはないし、神様の言う通り何日も何日も踊りあかしたりもしたよ?」

アンジー「だから神様に祈ったりはするけど、願ったりはしない。神様が人間に願うから。逆だったらおかしいでしょ?」

巌窟王「――」

巌窟王「それは……」

巌窟王(……正気で言っているのか、などと。こんなことを言う義理などない、な)

巌窟王「……まあいい。今日はもう遅い。ゆっくりと休むがいい」

巌窟王「歯磨きは決して忘れるなよ! 虫歯になると怖くて赤い婦長がやってくるからなァ!」ギンッ!

アンジー「はーい!」セッセッ

巌窟王「絵本の読み聞かせは必要か? マッチ売りの少女(著:アンデルセン)や醜いアヒルの子(著:アンデルセン)があるぞ?」

アンジー「おやすみなさーい!」スヤァ

巌窟王「……」

巌窟王「……」←手のかからないマスターでちょっと寂しい

翌日

最原「ふあーあ……昨日は色んなことが起こりすぎて疲れたな……」

百田「おう! 最原! 昨日の尋問はどうだった?」

最原「あ、百田くん。うん、あの調子なら……ひとまず信用してもいいと思う」

最原「少なくとも今すぐにどうこう、っていう意思は一切感じられなかったかな」

百田「そうか。ならひとまずはそれを信じた方がいいかもしんねぇな」

百田「おう! 信じるぜ! お前の尋問をな!」

最原(いや、そんな信用されても……)

百田「じゃ、さっさと食堂に行こうぜ。東条が何か用意してるはずだ」

最原「うん」


食堂


ドカァァァァァンッ!


夢野「ぐぎゃああああああああ!」ジュッ

百田「食堂の中で何か爆発が起こったと思ったら夢野が吹っ飛んできたーーーッ!?」ガビーンッ!

最原「夢野さーーーんっ!?」ガビーンッ!

巌窟王「見たか。これこそが我が身を焦がす毒炎!」

巌窟王「俺が俺である所以! 我が宝具、巌窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)である!」ギンッ!

百田「最原! アイツ何もしないって言ってたよな!? 最原ァ!」

最原「えっ? えっ? えっ……あれぇーーー!?」ガビーンッ!

夢野「く……お主、宝具の解放はできないのではなかったのか?」

巌窟王「クハハハハ! 勘違いをするな。これは未だ出力の五十%にも至っていない」

巌窟王「ただの人の身にして、まだ原型を保っているお前自身がいい証拠だろう!」

夢野「くっ……! 上には上がいる、ということか……!」ダンッ!

最原「ちょ……巌窟王さん!? なんでよりによって夢野さんをイジメてるの!?」

巌窟王「人聞きの悪いことを言うな。ただそいつに頼まれたから、我が宝具の一端を見せてやっただけのこと」

巌窟王「……何かヒントを得たようだな? 似非魔法使い」

夢野「似非ではない! 似非ではない……が……」

夢野「今の巌窟王に何を言っても空々しい、か」

夢野「いいじゃろう。今この時点では負けを認めてやるわ」

夢野「……必ず、脱出が終わるまでにお主に吠え面かかせてやるがの」

巌窟王「やれるものならやってみるがいい」ニヤァ

夢野「ふん……やれやれ。本当に面倒なことになったわい」フゥ


スタスタスタ


百田「……最原。アイツの背中、大きくなってないか?」

最原「うーん……なんでだろう。僕も今そう思ってた……」

巌窟王「……さて。食事の時間が遅れたな。東条、手間をかけさせた。もう持ってきてもいいぞ」パチンッ

東条「食堂ではもう二度と暴れないと約束してくれない限りは料理は出さないわ」

巌窟王「!?」ガビーンッ!

王馬「ぷぷーっ! 巌窟王ちゃんってば東条ちゃんの尻に敷かれてやんのー!」

真宮寺「まあ……食堂全体が焦げ臭くなってて、料理の味が半減してるからネ。この程度の叱責はあって当然だヨ」

巌窟王「……約束しよう」

茶柱「一体何を食べたらあんな……手から炎とか……凄く恰好いい……」ブツブツ

茶柱「……ネオ合気道に取り込みたいですね……」ブツブツ

最原「なんか凄い馴染んでる! 昨日の今日なのに!」ガビーンッ!

休憩します!

キーボ「……人間じゃないのに食事をとるのですか」

巌窟王「あった方がモチベーションが高まる。元人間の性だ。許せ」

巌窟王「なによりも、魔力供給元のアンジーが心もとないからな。外部からの供給があるのなら、それに越したことはない」

最原「あ、あれ。そういえばアンジーさんは?」

アンジー「ここにいるけどー?」ヒョコッ

百田「巌窟王のマントの後ろ部分から出てきやがった!」ガビーンッ!

最原「二人羽織!?」

アンジー「距離が近い方が魔力の供給っていいのかなーって思って、実験中ー!」

巌窟王「ほぼ意味がないことがついさっきわかったがな!」

最原(じゃあなんで今もやってるの? とか訊かない方がいいのかな……)

巌窟王「さて。こちらもできる限り短期間で脱出したかったのだが、どうも長丁場になりそうだ」

巌窟王「改めてよろしく頼むぞ。才囚学園生徒一同!」ギンッ

百田「……確かに信用してもよさそうだな。あの素敵笑顔を見るに」

最原「毎度毎度いい笑顔だね……」

巌窟王「食事をとった後はアンジーの訓練に入る。せいぜい上手く行くように祈っておくがいい」

アンジー「祈ってー!」キラキラキラ!

東条「ラタトゥイユよ」コトリ

巌窟王「クハハハハハハ……ハハハ……」シュン

最原「あれ。フランス料理なのに露骨にテンション下がった……」

巌窟王「……閉鎖空間……閉鎖空間でラタトゥイユ……か」モソモソ

最原「?」

休憩します!

BB『え? どうやったらサーヴァントが強くなるか、ですか?』

BB『そうですねー。場所によっては魂の改竄とかもできたのでしょうが……』

BB『ふむ。ひとまずド単純に言って、サーヴァントとマスターの絆を深めることが、そのままズバリ出力の上昇に寄与します』

BB『種火? QP? マネーイズパワーシステム? 時空によってサーヴァントの強化方法が違うのでなんとも言えません』

BB『現時点で巌窟王さんがいまいち全力を出せない理由として考えられるのは……』

BB『……』



BBの回想


クソしっちゃかめっちゃか宗教野郎「神! 最高ーーー!」ズガァァァンッ!

可哀想な星の触覚「ガトオオオオオオオオ!(怒)」

BBの回想終了


BB『……アレですね。マスターがサーヴァントの力を正しく認識できていない場合は酷いステータスダウンを引き起こします』

BB『そういう意味でも、絆を深めることは決してバカにできない修行方法になるかと』

中庭

巌窟王「……理解したぞ。つまり……こういうことだな!?」シャキイイイン

アンジー「たかーい!」ワーイ

赤松「……何してるの? アンジーさんを肩車して」

巌窟王「魔術の修行だ!」ギンッ

アンジー「修行なんだってー!」ニコニコ

赤松「えっ? これが?」

巌窟王「我が征くは恩讐の彼方!」ダッ

アンジー「はやーい!」ワーイ

赤松「えっえっ……質問する前に行っちゃった……」

最原「あ。赤松さん」

赤松「最原くん、何か用?」

最原「いや……ちょっと相談したいことがあって」

赤松「?」

最原「一緒に図書室まで来てくれるかな?」

赤松「う、うん……」スタスタ




巌窟王「クハハハハハハ! どうだ! 俺の力を理解できたか!」

アンジー「わかんない!」キラキラキラ

巌窟王「そうか! クハハハハハハ!」

巌窟王「失敗だ!」ギンッ!

最原「あれを邪魔しないようにこっそり行こう」

赤松「うん」

翌日

巌窟王「俺には魔力の自己回復スキルがある。微量なのでこっちに頼るにしてもやはり心もとないが……」

アンジー「……?」ニコニコ

巌窟王「何一つとして理解できてないな」

アンジー「うん!」

巌窟王「失敗だ! 次!」ギンッ!


翌々日

巌窟王「微量の魔力をやりくりして、なんとか分身体を一体作ることができたぞ!」

巌窟王2「これを大量に作り出すことこそが、我が宝具の到達地点の一つだ!」

アンジー「なるほどー。ところで神様?」

巌窟王「なんだ?」

アンジー「なんか凄く疲れて来たんだけどー……」ゼェハァ

巌窟王「無理をさせたな! 失敗だ! 次!」ギンッ


翌々々日

巌窟王「アンジーよ。適当な五桁の数字を言え」

アンジー「37564ー!」

巌窟王「クハハ! 覚えたぞ! この俺には忘却補正というスキルがある!」

巌窟王「恨みを忘れないためのスキルだが……ひとまずこういう応用も可能だ」

巌窟王「数時間後にこの数字を言って見せよう。しょうもない活用方法だが、証明にはなる」

アンジー「あ、ごめん神様。こっちが先に忘れちゃった……」シュン

巌窟王「気にするな! 人間は多くを忘れる生き物だからな! 次だ!」ギンッ!




星「魔術だなんだとかは俺にはさっぱりわからんが」

天海「少なくとも巌窟王さんのやり口が引くほど甘いことだけは伝わってくるっす」

星「凄まじくポジティブだな、あの男……」

天海「きっとあの二人には膝をつくって概念がそもそも存在しないんでしょうね」

星「ああ。ネタ抜きで尊敬するぜ。そこのところだけはな」

巌窟王「クハハハハハハ! 安心しろ! まだ時間は……」


prrr


巌窟王「む? メッセージか?」

BBからのメール『センパイがサーヴァント五騎を連れて旅行へと出発しちゃいました。お疲れ様です』

巌窟王「!?」ガクーンッ!

天海「膝をついたーーー!?」ガビーンッ!

星「あの巌窟王の膝をつかせるとは……どんな絶望的なメールだったんだ……?」

巌窟王「……いや……まだだ! これならば、猶更時間ができたと言えるだろう!」

星「ねーよ。そんなもん」

巌窟王「なに?」

天海「最近はアンジーさんにかかりっきりだった上に、モノクマが生徒だけしか集まってないときを見計らって言ったので無理ないっすけど」




天海「タイムリミットができたんすよ」

天海「……明日の夜十時までにコロシアイが起こらない場合は、俺たちは全員死亡するんす」

巌窟王「……アンジー? 本当か?」

アンジー「言い忘れちゃった。ごめんねー」

巌窟王「そうか」

天海「やっぱりなんか甘くないっすか?」

巌窟王「……あの計画を始動させる必要があるかもしれないな」

天海「なにか考えでも?」

星「ふっ。聞かせてもらおうじゃねーか」

巌窟王「卒業アルバムを作る」

星「……」

星「ふっ。聞かせてもらおうじゃねーか」

天海「星くん。なかったことにしても始まらないっす」

巌窟王「俺はマスターにこう言った。確かにこの状況は地獄だが、多少の楽しみはあってもいい、と」

アンジー「だからアンジーは神様に提案したんだよー! なら卒業アルバムを作ろうって!」

アンジー「脱出した後で写真を眺めてさー! こんなこともあったなーって、みんなで笑いあうんだよー!」キラキラキラ

星「……なるほどな。外に出た後の希望、か」

天海「赤松さんの『外に出たらみんな友達に』と並ぶ、新たな目標っすね」

天海「でも誰が写真を撮るんすか?」

巌窟王「安心しろ。俺にアテがある。黄金律にすべてを任せるがいい!」ギンッ

アンジー「いえーい!」

天海「……ふふっ。やっぱ、退屈しないっすね。みんな」

星「ああ。こんな状況でなければ、確かに友達になれたかもしんねーな」

巌窟王「……」

カルデア

BB「……やっぱりこれ、私が観測していない間は妙に時空間が乱れていますね」

BB「いや、私が観測していない間に乱れるのは納得できるとして」

BB「『観測者が現れた途端に時空が安定する』のは一体どういう仕組みなんでしょうか」

BB「……『固有結界』? いや、まさかね……」

BB「……まあ、巌窟王さんなら大丈夫でしょう」



才囚学園

巌窟王「BBにメールだな。ゲオルギウスがいれば万事解決だろう」メルメル

今日のところはこれまで!

食堂の外のテラス席

巌窟王「……ふむ。しまった。閉鎖空間内だとタバコが手に入らない」

巌窟王「残りの数を考えて吸う必要があるか……」スパー

獄原「あ。巌窟王さん」

巌窟王「獄原か。こんなところで何をしている?」スパー

獄原「ええっと、ゴン太は虫さんを探しているところだけど……」

獄原「アンジーさんは傍にいないんだね?」キョロキョロ

巌窟王「四六時中一緒にいるわけではないさ。アイツもアイツでプライベートはある」

獄原「そっか。プライベートは大事だよね。紳士を目指しているから少しはわかるよ」

獄原「……モノクマのタイムリミットのことは聞いた?」

巌窟王「難儀な状況に陥ったな。お前たちも」

獄原「うん。でもいざというときは、ゴン太がみんなを守るよ」

獄原「そのときは巌窟王さんも協力してくれるよね?」

巌窟王「……ふん……」

巌窟王(この問題は流石に誤魔化すことはできない、か)

巌窟王(今の状態で、アンジーだけを守ることだけは辛うじて可能だろう)

巌窟王(だが……全員を守る、となったら少し難しいかもしれない)

巌窟王(ならば攻めるか? なお難しいな。迂闊なことをして我がマスターのアンジーの責任問題にでもされたら終わりだ)

巌窟王(となれば、生徒たちが団結して『守る対象』から『共闘する駒』へ変化するのを期待するしかない)

巌窟王(果たして、どのような結果を産むか……残念なことにこれは時間が経たねばわかるまい)

巌窟王「待て、しかして希望せよ、だ」

獄原「?」

最原(各々、それぞれ思うことはありつつも時間は無常に過ぎていく)

最原(立ち向かう方法を模索する者。諦める者。状況をただ傍観する者……)

最原(僕は、立ち向かうことにした。勇気からではなく、何もしないことこそが怖かったからだ)

最原「この策が上手くいってくれれば……」

赤松「首謀者を捕まえることができるかもしれないね。凄いよ、最原くん!」

最原「……はは。ひたすら地味な小細工だけどね」

最原(あとは図書室で、首謀者が引っかかるのを待つだけだ……!)

最原(すべては図書室で決着する)

赤松「……」



その夜 アンジーの部屋


巌窟王「アンジー。一つ聞きたいのだが、図書室はどこにある?」

アンジー「んー? 地下ー! なんでー?」

巌窟王「……いや。なんでもない。まだな」

アンジー「?」

巌窟王(BBからの返事が来ない……大見得切ったが、断られる可能性を考えていなかったな)

巌窟王(その場合は独学でカメラの扱いを習得するか)

その翌日 午後九時三十分前後

最原(僕たちの立てた計画はこうだ。まず図書室に入間さん作成の隠しカメラを設置)

最原(首謀者はモノクマを大量生産するために、図書室の隠し部屋に必ず向かう、と仮定)

最原(隠し扉は本棚で隠されているので、その本棚が動いたタイミングで、僕の手元の防犯ブザーが鳴るように設定)

最原(隠しカメラと、センサー。その両方を使って二重に証拠を押さえ、首謀者を確保する)

最原(ひとまず地下室に続く階段傍の教室で、僕たちは身を潜める)

赤松「……最原くん。時間がありそうだから、一ついい?」

最原「ん?」

赤松「……巌窟王さんがさ。卒業アルバム作るって話、聞いた?」

最原「えっ」

赤松「外に出たときに、写真を見て『こんなこともあったな』って思い出にするんだってさ」

最原「それは……随分と悠長だね……」

赤松「うん。でも天海くんとかは乗り気みたい。あ、彼から又聞きしたんだけどね?」

赤松「……」

最原「……赤松さん?」

赤松「……あ、えーと、さ。なんだろ。その……こんなこと思っちゃいけないんだけどね?」

赤松「無力感……ってヤツ? そういうの感じちゃってさ」

赤松「まだ全然本調子じゃないんだって? 全然そんな感じしないよね。巌窟王さん」

最原「……もしかして、まだ気にしてるの? デスロードのこと」

赤松「気にしないって方が無理、だよね。だって……」

最原「強要されたって思ってないよ。僕は」

赤松「……無駄骨だったんだよ? 実質使えない出口に向かって頑張れって言ってたんだ。私」

赤松「だからさ。凄く嬉しかった。最原くんに『手伝って』って言われたときは」

最原「……もしかして、償いのために僕に協力を?」

赤松「はは。打算的すぎて失望させちゃったかな……」

最原「そんなことないよ! そんなことない、けど……」

最原「……そんなに気負わないでいいんじゃないかな」

最原「実はさ。巌窟王さんと会ってから、なんとなく気分が明るいんだ」

最原「『なんとかなるんじゃないか』って思えてきたんだよ」

赤松「え?」

最原「……実は図書室から、モンテ・クリスト伯を借りて来たんだ」

最原「結構面白くってさ。現実に起こったことなんだ、と思うとちょっと残酷なんだけど」

最原「この人と同一人物なんだ、って思うと、なんとなく心強く思えてきちゃって」

赤松「……」

最原「よかったら後で赤松さんにも」

赤松「そんな時間ないよ」

最原「え」

赤松「……」

最原(あれ……なにか気に障ること、言っちゃったかな……?)

赤松(……巌窟王さんが悪いわけじゃない。でも、私は……)

最原「……あ、あれっ? なにか教室の外が賑やかだな……?」

ガチャリンコ

最原「あれは……ゴン太くん、百田くん、春川さん、茶柱さん、アンジーさん、夢野さん、天海くん……」

最原「みんなしてどうしたんだろう? どんどん地下に向かってる」

赤松「なにかあるのかな?」

最原「ちょっと下に行って様子を見てくるね!」ダッ

赤松「あ! 最原くん!」

赤松「行っちゃった……」

巌窟王「……」スタスタ

赤松「……ッ! 巌窟王……さんも? 下に……」

巌窟王(写真術の本はあるだろうか)スタスタ

巌窟王「む? 最原。何をしている?」

最原「うわっ……!? 巌窟王さん!」

巌窟王「……賑やかだな? ゲームルームで何かやっているのか?」

最原「え、ええと……巌窟王さんは? 何をしに?」

巌窟王「野暮用だ!」ギンッ!

巌窟王「それで、質問に戻るが。お前、何をしている?」

最原「……」

最原「ちょっとね。大した用はないよ」スタスタ

巌窟王(……む。あの喧噪の中には入らないのか。上に戻っていく)

最原(ひとまず赤松さんのところに戻ろう)

巌窟王(まあいい。さっさと用を済ませてしまおう)スタスタ

階段脇の教室

最原「ふうっ……危なかった!」

赤松「あ、最原くん! 巌窟王さんとすれ違わなかった?」

最原「すれ違ったよ。バレそうになったけど、なんとか誤魔化した」

最原「あ。先に地下に行ったみんなのことなんだけど、どうもゲームルームに集まっているみたいで」


ビービーッ!


最原&赤松「!」




図書室の中


巌窟王「……? なんだ? これは。本棚が勝手に……」

巌窟王「隠し扉か? これは」

カシャッ

巌窟王「む? 今、本棚が光ったか?」

巌窟王「……!」



モノクマでもわかる写真術「」バァーーーンッ!



巌窟王「クハハハハハ! 見つけたぞ!」

巌窟王「む? 何故かカメラが設置されているな……まあいいか」

巌窟王「さて。早くこれを持ち帰って写真術を習得するとしよう」

グイグイ

巌窟王「むう。本と本の密度が強すぎて、無理に抜くと本を傷つけてしまいそうだ」

巌窟王「そーっと……そーっと」グイグイ


ガンッ!

休憩します!

ちょっと時間は遡る

最原「……誰かが本棚を動かしたんだ! すぐに行かないと!」ダッ

赤松「……」

赤松「……ごめんね」


ゴロンッ


地下

最原「……!?」

謎の音声『モンハナシャコのパンチ力はすさまじく、その勢いは水槽のガラスすら破るほどで』キィィンッ!

最原「うるさっ!? なにこれ! どこから……」


ギャースカギャースカ


最原「ゲームルーム……の奥の方のAVルーム?」

百田「おいゴン太! 音量がデカすぎる! ちょっとは下げろ!」

獄原「ご、ごめん! あ、でもなんか音量のツマミが壊されてて……!」

茶柱「じゃあ電源を落として……って、コンセントが機材の後ろのなんかゴチャッとした部分のあたりに隠れてよく見えないです!」

天海「最悪の場合は壊した方がいいかもしれないっすね」

茶柱「は!? 天海さん、なんて!?」

天海「ぶっ壊した方が! いいかもしれないっすねッ!」

茶柱「うるさーーーいッ!」バシーンッ!

天海「理不尽ッ!」ドガシャアアアンッ!

最原(天海くんがAVルームの奥の方の扉を壊して吹っ飛んだ! 多分茶柱さんがぶん殴ったんだろうけど!)

天海「痛い。とても痛い」ピクピク

赤松「最原くん、早いって……ってうるさっ! 何これ!」

最原「ひとまずあっちは天海くんたちに任せよう! 僕たちは図書室へ!」


ガチャリンコッ!


隠し扉の本棚「」ゴゴゴゴゴ

最原「遅かった!? もう閉まってる!」ダッ

最原「……?」

最原「……え?」

赤松「あ……?」



赤松「巌窟王……さん……?」

最原(僕たちが図書室に飛び込んで、隠し扉の本棚に近づいたとき、背の低い本棚に隠れて見えなかった影を見つけた)

最原(それは……)

最原(特徴的な帽子とマント。絶対に死なないと思われた英霊。モンテ・クリスト伯爵の変わり果てた姿だった)

最原(頭をカチ割られて……無残に死んでいた……)



第一章
私と僕(と俺!)の学級裁判 非日常編

今日のところはここまで!

最原「……う……」

最原「うわあああああああああああっ!?」



ガチャリンコ


天海「ど、どうしたんすか! こっちから叫び声が聞こえたんすけど」チミドローッ

赤松「きゃあああああああああああ!?」ガビーンッ!

巌窟王「天海、どうした? 傷だらけだぞ。他人のことを心配する余裕などあるのか?」シニカケー

天海「ぎゃあああああああああああああ!?」ガビビーンッ!

巌窟王「やめろ。傷に響く。騒ぐな。さわ……」

バタリッ

巌窟王「」チーン

最原(そこから僕が何を喚き散らしたのか、僕自身も覚えていない)

最原(ただ、気付いたら僕の周りには生徒たちが全員揃っていた)

最原(……長かったような、短いような時間だった)

モノクマ「えー。ごほんごほん。いやー、長かったねー! 長かった! ここまでくるのにかなり時間かかった!」

モノクマ「かかったけど……」

巌窟王「……」

モノクマ「よりによって最初の犠牲者、コイツかよ……反応に困るんだけど」

モノクマ「まあいいや! それじゃあみんな! 最初に言った通り! これでリミットは解除だよ!」

モノクマ「そして! なんと! 彼を殺した人は初回特典で外に出ることができるのでーす!」ギンッ

巌窟王(初回特典?)ピクッ

最原(やっぱり彼、生きてるよね……?)

天海(都合がいいので黙っておくことにするっす)シラー

アンジー「あーあー。初回特典! 初回特典ねー!」キラキラキラ

アンジー「……」

アンジー「なんだっけそれ」

キーボ「忘れたんですか? 最初の殺人においてのみ学級裁判は行われず、クロは外に出ることができる権利のことです」

アンジー「へー。聞いてなかったよー」

赤松「つい最近はずっと巌窟王さんと訓練(とは名ばかりのじゃれあい)を繰り返してたもんね」

モノクマ「それじゃあ、今回の被害者、モンテ・クリスト伯爵を殺した人は手をあげてー!」

巌窟王「……」

生徒一同「……」



……


モノクマ「……あれ?」

最原(なんで……誰も名乗り上げないんだ?)ゾワッ

モノクマ「……初回特典を蹴られちゃった。仕方ないね」

百田「お、おい。ちょっと待てよ、モノクマ」

モノクマ「待つ! 待った! はいもう終わり!」


ピンポンパンポーン


アナウンス『死体が発見されました! 一定の自由時間の後、学級裁判を始めます!』

最原「そ、そんな……!?」

巌窟王「始まるのか……学級裁判が!」ギンッ

茶柱「そんな! 巌窟王さんを殺した犯人を、命懸けで見つけろと!? そんなの……」

茶柱「……」

茶柱「……ん? なんか今、変じゃありませんでした?」

夢野「何がじゃ?」

茶柱「いや……まあいいんですけど……?」

真宮寺(死んでなくない?)

白銀(死んでなくない?)

東条(死んでないわね?)

星(死んでねーじゃねーか)

獄原(あー、無事でよかったー!)キラキラキラ

モノクマ(なんかいまいち絶望感が足りないな……? まあいいや)

モノクマ「それじゃあ、オマエラ頑張ってー! 巌窟王さんを殺した犯人をバンバン見つけちゃってくださーい!」

最原「そ、そんなこと……僕には……!」

巌窟王「――諦めるのか?」ザッ

モノクマ「……」

モノクマ「えっ」

巌窟王「それもいいだろう。つまらないが、結末は結末だ」

巌窟王「だがもしも! 貴様の心の中に恩讐の牙が残っているのであれば!」

巌窟王「俺はお前たちの手を取ろう! さあ! 血塗られたパズルを解き明かすのだ!」

最原「巌窟王さん……!」

アンジー「よーっし! 犯人をみんなで捕まえよー!」

生徒一同「おー!」

モノクマ「えっ。待って。待って。ねえ。誰が被害者だっけ? あれっ!?」

モノクマ「オマエなんで生きてるの!?」ガビーンッ

巌窟王「HPがギリギリ一桁くらいは残った」フラフラ

アンジー「令呪で回復させるねー」キンッ

モノクマ「」



巌窟王「……クハハハハハハ! 戻ったぞ!」シャキーンッ!

東条「……被害者が生きていた場合も学級裁判は行われるのかしら?」

モノクマ「い、いや。待って! 待って! ありえなくない!? 絶対に死んだはずなのに!」

モノクマ「……まあいいや! 悪いんだけど、被害者が生き返ったとしても学級裁判は行われるよ!」

モノクマ「こっちにもこっちの事情があるからね!」

巌窟王「いいだろう! このまま引き続いて貴様の傲慢さをこそぎ取ってやる!」

巌窟王「せいぜい足掻いてみろよ? 暖簾に腕押しではこちらもつまらないからなァ!」ギンッ

巌窟王(……しかし、一度死んだはず、か?)

巌窟王(妙だな。サーヴァントだからその程度の奇跡や偶然はあってもおかしくないが……)

巌窟王(なぜ、頭を強く打っただけで死にかけた?)

巌窟王(サーヴァントに神秘性の薄い攻撃は効きが薄いはず……)

巌窟王(……学級裁判の後で考察するべきだな)

休憩します!

モノクマ「なんか既にかなり吹っ飛んでる展開だけど……とりあえず渡しておくね」

モノクマ「ザ・モノクマファイルー!」テレレテッテレー!

赤松「何、これ?」

モノクマ「捜査に関してズブの素人のオマエラに対する救済処置」

モノクマ「死体に関する情報がつらつら書かれてるよ。読んでね!」

モノクマ「……アンジーさんが傷を回復させちゃった副作用として、もう『死体を調べる』ってことができないしね」

最原「あっ」

百田「巌窟王本人に聞けばいいんだから別にいいだろ」

百田「ていうか、巌窟王が生きてるんだから、今回の犯人はもうわかったも同然じゃねーか!」

巌窟王「見ていないぞ。死角から頭を打ちぬかれたようでな。残念なことだ」

百田「……」

春川「死人に口なし。あったとしても役には立たなそうだね」

砲丸「」ゴロッ

巌窟王「なるほど。この砲丸で頭を打ちぬかれたのか」

巌窟王「……妙だな。やはり何一つとして魔力的要素を感じない」

巌窟王「これで一体どうやって俺の頭を砕けるというのか……」

巌窟王「む? 砲丸に何かついているな?」

最原「巌窟王さん。その血塗れの砲丸がどうかした?」

巌窟王「いや……何か、繊維のようなものがついていてな」

最原「繊維? あ、本当だ」

巌窟王「この色合い、どこかで見たことがあるような」

最原「……」

巌窟王「……」





最原&巌窟王「あっ」

アンジー「神様ー! そのいかにも凶器な砲丸がどうかしたかー?」キラキラキラ

最原「わーーー!?」アタフタ

巌窟王「……」

巌窟王「クハハハハハハ! 不愉快だ! 消え失せろ砲丸!」ボオオオオッ!

夢野「巌窟王が砲丸を燃やしおったーーーッ!?」ガビーンッ!

百田「うおおおおお! 大事な証拠になにやってんだテメェーーーッ!」

巌窟王「もう調べ終わった後だ。詳細を聞きたければ俺かもしくは最原に聞け!」

巌窟王「『特に怪しいものはなかった』と言う他ないがな!」ギンッ

最原「が、巌窟王さん!?」

巌窟王「……」

巌窟王「『アイツ』は……ここではないどこかを調べに行ったか」

巌窟王「最原。顔を貸せ。上の教室がいいだろう」

最原「……うん」

地上一階 階段脇の教室

巌窟王「さて。俺は事態のすべてを見通したわけではないが、先ほどの砲丸の調査のせいで犯人がいち早くわかってしまった」

巌窟王「探偵の力を持っているお前ならば、猶更すべてが見通せただろう」

巌窟王「気分はどうだ? ああ、いや。いい。答えなくていい。どちらにせよお前は進むしかないのだ」

巌窟王「死にたいというのなら別だが?」

最原「……なんで……どうして彼女が巌窟王さんを……」

巌窟王「さて、な。それを知りたいのなら、やはり最後の最後まで真実を求めるしかなかろうさ」

巌窟王「……事件の全貌は掴めたのだろう?」

最原「うん。それは問題ないと思う」

巌窟王「ならば、お前がこれからやるべきことは一つ。倒叙法の推理小説を読んだことは当然あるだろう?」

巌窟王「それと同じく、ヤツのミスを調べることだ」

巌窟王「ひいてはそれが、ヤツの『殺意の行方』を知ることになるだろう」

最原「殺意の……行方?」

巌窟王「……喋り過ぎたな。さて。写真の現像が終わるまで、俺は地下に戻ることにする」

最原「え? 写真の現像?」

巌窟王「ああ。お前が呆然自失としている間に、赤松がカメラのすべてを回収していたぞ」

巌窟王「現像はモノクマに任せているそうだ」

巌窟王「……どうせ俺の予測通りのものしか映っていないだろうがな」

最原「……」

最原(殺意の行方……か)

最原(その後、色々なゴタゴタはありつつも捜査は滞りなく進んだ)


地下一階

入間「おっしゃー! ドモーンでの空撮、完了だぜ!」

白銀「ドローンね」

入間「ん? んー……本棚が階段状になってるぞ?」

白銀「えっ?」


ゲームルーム

百田「俺たちはモノクマに対抗できるように、戦えそうなヤツで集まって作戦会議をしようと思ったんだが……」

春川「その途中あたりで、自分は役に立てそうにないからってそうそうにAVルームに引きこもった獄原が映像を見始めたんだよ」

春川「大爆音で」

獄原「え、ええっと……なんか、トレイには既にブルーレイが設置されてて、映写機から何から何まで待機状態だったんだ」

獄原「トレイの方を親指で押せば自動で映像が流れるようになってた、ってことなんだけど」

獄原「いきなり大音量でモンハナシャコさんの映像が始まるし、電源スイッチやら取り出しスイッチやらが壊されてて操作できないし焦ったよ」

獄原「しかもリモコンもどこにも見つからなかったし……どこ行っちゃったんだろう」

天海「最終的には勝手に止まったっすよね。なんか」

モノクマ「ああ、ボクが止めたんだよ! うるさかったから! 予備のリモコン持ってたし!」ジャジャーンッ

最原(大体が予定調和だった)

倉庫

モノクマ「はい! 現像終了! これがあのカメラに収まってた写真だよ!」

百田「おーっし! これで巌窟王を襲った犯人の姿が見えるぜ! ……見え……?」

春川「……巌窟王が一人で図書室に入る写真」

春川「巌窟王の背後で隠し扉の本棚が動いて、巌窟王が目を丸くしてる写真」

春川「巌窟王が何故か上機嫌で本棚の隠しカメラの方に寄っている写真」

春川「その他は私たちが図書室へと入る写真とか、赤松がカメラを取り外す写真とか……」

入間「肝心の犯行の写真がねーじゃねーかよッ!?」ガビーンッ

巌窟王(やはりか……)

赤松「あれ? 最原くんは?」

入間「ダサイ原なら『ちょっと実験したいことがある』っつって地下室に残ってたぜ?」

巌窟王「俺が呼びに行こう」スタスタ

階段脇の教室

最原「……」

最原「聞こえる……足音や自分の呼吸音で、かき消されちゃいそうなほどに小さい音だけど」

ガララッ

巌窟王「最原。ここにいたか。何をしている?」

モノクマ「実験だって!」

巌窟王「モノクマとか? 随分と酔狂なマネをする」

最原「……好きでやっているわけじゃない」

最原「あと第一段階ですぐに実験は終了だしね。モノクマ」

モノクマ「はいはい! これが件のリモコンですよ!」ポイッ

最原「……停止ボタンは、これか……」ポチリッ

最原「……」ポチリッポチリッ

最原「……」ポチポチポチッ

最原「……止まった。やっぱりギリギリ届くんだな」

モノクマ「無駄に高性能にしたからね! でもまさか、ここからも届くなんてボク自身ビックリだよ!」

巌窟王「?」

最原「……そうだ。巌窟王さん。後でアンジーさんに言い聞かせておいた方がいいよ」

最原「未成年でタバコはダメだって」

巌窟王「何ィ?」

モノクマ「あ! そうだ! 言い忘れてた!」

モノクマ「昨日、アンジーさんに『神様がタバコを欲しがってるんだー』って言われたから渋々アンジーさんにタバコを渡したんだけどね?」

モノクマ「何を思ったのか、アンジーさんその場でタバコに火を付けようとしたんだよ!」

巌窟王「!?」ガビーンッ!

モノクマ「流石に学園長として放っておけないから止めようとしたんだけど、逃げに逃げられて、三時間も鬼ごっこするハメになったよ!」プンプン

巌窟王「く、クハハハハハハ……」

巌窟王「……言葉もない。後でアンジーには言い含める」シュン

モノクマ「よろしくね!」プンスカ

最原「……」

最原「何かの間違いであってほしいって、思った」

巌窟王「……」

最原「でも調べれば調べるほど、出てくるのは無実の証拠じゃなくって、やったっていう証拠だ」

最原「しかも、この計画から感じられるのは」

巌窟王「圧倒的な殺意。そして覚悟。ここまでの計画性は、初めてでは中々できない」

巌窟王「流石は超高校級と言ったところか?」

最原「……モノクマの言うおしおきは、処刑だ。もしも真相を突きつけたら……!」

最原「そんなこと僕には、とてもできない」

巌窟王「……」

巌窟王「真相を突き止めなければ、ヤツの思いを踏みにじることになるとしてもか?」

最原「……」

巌窟王「……最原。お前はもう少し、前を見るべきだな」

巌窟王「自分の都合のいい方向に考える、という意味でも」

最原「僕は……!」


モノクマ『えー! ではでは! そろそろ始めちゃっていいっすかー?』


巌窟王「む?」

最原「あ、あれ。モノクマ?」

最原「……あっ! いない! いつの間にか消えてる!」

モノクマ『みなさんお待ちかね! 学級裁判の時間ですよーーーッ!』




巌窟王「……待て。しかして希望せよ、だ」

最原「!」

巌窟王「もしもお前が真相に辿り着いたそのときには、我が恩讐の炎を目の当たりにすることになるだろう」

巌窟王「その結果なにが起こるかは……お楽しみだな?」ギンッ

最原「……」

最原「信じるよ。巌窟王さん」

巌窟王「任せろ。と言っても、結局のところはアンジー次第だが?」

今日のところはここまで!

今年新規ハロウィンやんないのかな……それは置いといてしばらくしたら書きます

モノクマ『それではみなさん! 中庭にある赤い扉へとお集まりください!』

モノクマ『裁判場が待ってるよ……うぷぷぷぷ』

巌窟王「さて。ヤツが呼んでいる。お望み通り姿を現して……」

巌窟王「……」

巌窟王「先に行っていろ、最原。俺は地下に用がある」

最原「え」

巌窟王「そんなに時間はかからない。早く行け」

最原「う、うん」スタスタ

巌窟王(誰もいない内に写真術の本を改めて回収するか)スタスタ

図書室

巌窟王「さて。改めて写真術の本を」

王馬「あっ」

巌窟王「む? 王馬? そこで何をして……」

モノクマでもわかる写真術「」メラメラメラ

巌窟王「……」

王馬「聞いてくれ巌窟王ちゃん! ちょっとしたお茶目のつもりだったんだ!」

王馬「巌窟王ちゃんがここに帰ってきたときに、この本が燃えてたらどんな顔するかなーって思っただけなんだ!」

王馬「ギチギチに詰まった本棚の中でこの本だけが不自然に中途半端に引き出された状態になってたからもしかしてって思って!」

王馬「その反応を見ると、やっぱり巌窟王ちゃんはこの本が欲しかったんだね! いやあ最後の最後に捜査に協力できて俺、満足!」シャキーンッ

巌窟王「うぐおうあああああああああああああッ!」orz



ショックのあまりしばらく立てなかった

十分後
赤い扉の向こう側

巌窟王「……」ズーン

赤松「巌窟王さんの顔が死んでない……?」

王馬「一体何があったんだろうねー」ケラケラ

アンジー「神様ー。神様ー。元気出そうー」ナデナデ

最原(ひたすらアンジーさんに背中を撫でられる巌窟王さん……悪いけどなんか笑えて来るな……)

最原(……)

最原「本当に……この中に犯人が……」

最原(いや、いるんだよな。僕はもうそれを知ってる)

最原(……前を向け、か。巌窟王さん、僕は……!)

モノクマ「それじゃあ! 裁判場に案内するよー! エレベーターに乗ってー!」

最原(覚悟を決めなければならない。そうでなければ僕たちは……ここで終わる……!)

夕飯の時間なので休憩!

チーンッ

真宮寺「凄まじく深いところに裁判場を作ってるんだネ」

夢野「トイレはどこじゃ?」

茶柱「あっちに見えますね。一緒に行きましょうか?」

モノクマ「みんなー! 待ってたよー! じゃあ巌窟王さん以外の全員は自分の名前の書かれた席についてー!」

巌窟王「予測できていたことではあったが、俺の席はないのか」

モノクマ「仕方がないからモノクマーズを組体操させて即席の椅子作ったからそっち座っていいよ」

モノクマ「ずっと練習していたんだ……! ボクの息子たちを褒めておくれよ!」

モノクマー椅子「……」プルプル

巌窟王「……」

巌窟王「いいセンスだッ!」ギンッ!

最原「褒めるのド下手だね」

最原(……巌窟王さん……)

最原(事故だったとはいえ、一方的に呼んでしまった僕たちに対して文句を言うでもなく、ずっと付き合ってくれていた大人)

最原(その巌窟王さんを、あんな方法で殺した人が……!)




最原(この中に、いる……!)

学級裁判 開廷!

モノクマ「まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう!」

モノクマ「学級裁判では、誰が犯人かを議論し、その結果はオマエラの投票により決定されます」

モノクマ「正しいクロを指摘できればクロだけがおしおきですが、もし間違った人物をクロとしてしまった場合は……」

モノクマ「クロ以外の全員がおしおきされ、生き残ったクロのみに晴れて卒業の権利が与えられます!」

モノクマ「……ただし、巌窟王さんの処理をどうするかまでは、まだ考えてないんだよね」

モノクマ「投票権も用意してないしなー」

巌窟王「構わん。どうせ俺はアンジーのサーヴァントだ。彼女の意思に寄り添おう」

モノクマ「あ、じゃあアンジーさんの投票のみ『二票分』としてカウントするから、よろしくね!」

百田「ちょっと待て! さらっと決められたが、その処理はかなり重要じゃねーか!?」ガビーンッ!

王馬「万が一、アンジーちゃんが犯人だった場合は、二人分の票で裁判の結果がひっくり返る場合もあるよね?」

巌窟王「仮にそうだったとしても、重要な決定において俺を動かすものは原則としてアンジーの意思のみだ」

巌窟王「少なくとも、この空間においてはな」

赤松「そこまで言うってことは、巌窟王さんはアンジーさんを信じてるってことだよね」

赤松「……容疑者から外していいのかな?」

春川「その点に関しては後で話せば? 議論を進めないと何とも言えないでしょ」

東条「そうね。ひとまず被害者である巌窟王さんの、事件前の行動から振り返ってみましょう」

東条「これは巌窟王さん本人に聞けばわかるから、普通の殺人事件よりは遥かに早く終わるはずよ」

巌窟王「その点に関し、俺から最初に言うことがある」

巌窟王「俺はお前たちの議論に本格的に参加するつもりは一切ない」

星「なに?」ピクッ

巌窟王「これはお前たちの議論であり、戦いだ。俺は俺の目的のために動く」

巌窟王「気まぐれに口を挟むことはあるかもしれんが、それだけだ」

天海「何のつもりっすか、巌窟王さん。被害者が生きている殺人事件なんて簡単だ、ってこっちは楽観してたんすけど」

巌窟王「タイムリミットの話を聞いたとき、俺は思っていた。お前たちは共に戦うに足る相手なのか、と」

巌窟王「アンジーに関しては、いい。俺のマスターだ。それ以外の選択肢など元から与えられていない」

巌窟王「ではお前たちは? 俺の力を貸すメリット……最低限でも足手纏いにならないだけの器はあるのか」

獄原「それは……!」

茶柱「確かに、転子たちは巌窟王さんと比べたら遥かに非力です」

茶柱「いえ、それどころかモノクマにすら負けているからこそ、コロシアイから抜け出すことができていないわけですしね……」

巌窟王「だから見極める必要があるのだ」

巌窟王「足掻いて見せろ。真相に辿り着け。その結果をもって、俺はお前たちを測ろう」

百田「へっ。なんてヤツだよ。こんな状況に陥ってまで俺たちを試そうってわけか」

百田「……いいぜ! 余裕ぶっこいたテメェに吠え面かかせてやる!」ニカッ

赤松「事件直前の巌窟王さんの行動……」

赤松「首謀者の確保計画を立てていた最原くんは、階段を下りる巌窟王さんと鉢合わせしたんだよね?」

最原「うん。そのときには確か、百田くんたち……作戦会議に集まった七人の生徒がゲームルームに固まっていたんだ」

最原「僕は計画が誰かに漏れる可能性を恐れて、早々に巌窟王さんと別れて赤松さんのいる上の階の教室へ戻った」

最原「その後の巌窟王さんの行動は、隠しカメラを見る限りでは……」

最原「多分、すぐに図書室に向かったんだろうね。なんでかはまだわからないけど」

夢野「んあー……なんかキナ臭いのう。赤松から聞いたが、図書室には隠し扉があったんじゃろ?」

夢野「巌窟王が何故、その図書室に向かったのか。ウチにはどうも引っかかる」

茶柱「ハッ! わかりました! 実は巌窟王さんは首謀者で、赤松さんたちの予測通り、あの扉に入るために図書室に向かったのでは!?」

最原「それは違う、と言える根拠があるよ。モノクマが現像した写真を見てほしいんだけどさ」

最原「……ほら。あの本棚が開いて、隠し扉が露出したのは間違いないんだけど」

最原「そのときの巌窟王さんは本棚に背を向けてるよね」

茶柱「それが?」

春川「隠し扉の本棚を動かすには、当然本棚を直接いじる必要がある」

春川「それにしては巌窟王と本棚の位置関係がおかしい……ってことでしょ」

最原「それに、このときの巌窟王さんの顔を見て欲しいんだけど……どう見ても、動いた本棚に対して驚いてるよね」

白銀「驚いてる演技、とかじゃないの?」

真宮寺「『隠しカメラ』なんだヨ? どこに向かって演技するんだい?」

白銀「あ、そっか。カメラがしかけられているって発想に至る方がそもそも無理なんだ」

キーボ「いえ。ちょっと待ってください。だとしたら猶更おかしいでしょう」

キーボ「巌窟王さんが一切本棚に触っていないのなら、何故本棚が勝手に動いたんですか?」

最原「……」

最原「首謀者が内側から開けた……そうは考えられないかな?」

赤松「えっ? そ、それって……!」

最原「僕たちが隠しカメラをセットしても無駄だった、ってことになるかな」

最原「だってもう、アレが機能しはじめたときには首謀者は中にいたんだからね」

赤松「……」

巌窟王「ふむ。ここから先は当事者ではないお前たちに解け、という方が無理な話だから補足だ」

巌窟王「本棚は確かに勝手に開いたが、その向こうにある扉は開かなかったぞ」

巌窟王「少なくとも、俺が目にした範囲では、な。開けられたのは本棚の部分のみだ」

最原「あ、じゃあつまり今の推理って……」

百田「正解ってことで間違いなさそうだな」

巌窟王「クハハ」

天海「何故本棚が開いたのか。その点に関して俺に心当たりがあるっすけど、ひとまずそれは置いといて」

天海「事件直前の巌窟王さんの行動を最後まで推測してみましょうか」

天海「隠しカメラの写真を見る限り、巌窟王さんは何故か隠しカメラの方に嬉々として寄って行ってます」

天海「これは巌窟王さんが頭をカチ割られて倒れていた位置とほぼ一致する……で、いいんすよね? 第一発見者の二人とも」

最原「うん。それで間違いないよ」

天海「そこから先の写真は、少なくとも隠し扉に向いているカメラには、ない」

天海「何が起こったのかは不明っすけど、この後で巌窟王さんは頭を砲丸で叩かれて、この学級裁判が始まった」

真宮寺「犯人が初回特典を蹴ったことによって、ネ」

真宮寺「……不可解だネ。今回の事件は謎が多すぎる。初回特典狙いの殺人なら、ただ後ろから不意打ちで襲い掛かるだけで済むのに」

真宮寺「これは明らかに『バレないため』の工作が多く施された殺人事件だヨ。最初から初回特典なんてないものとして考えてたような」

王馬「よっぽど俺たちを殺したかったのかなー? 酷いヤツもいたもんだよ、まったく!」

赤松「……」

赤松「ねえ。天海くん。さっき心当たりがあるって言ってたけどさ」

赤松「それってもしかして、犯人が首謀者である可能性のこと?」

最原「!」

天海「……鋭いっすね。その通りっすよ」

最原「……」

最原(犯人が首謀者、か)

最原(……だったら、ある意味救われてたんだけど)ハァ

休憩します!

天海「この写真、そもそも『連射』の設定されてないんすよね。だったら確実に犯行の瞬間が捉えられてるはずっす」

入間「ああ! ダサイ原に渡したカメラには、切った後に三十秒のインターバルがあるからな!」

赤松「え。初耳だよ、それ」

最原「あれ? 言ってなかったっけ……?」

赤松「……最原くんって大事なところで抜けてるよね」

天海「なるほど。入間さんの証言を得て、なお確信したっす」

天海「犯人は間違いなく、このコロシアイの首謀者だとね」ズギャァァァンッ!

巌窟王「ほう……? 根拠を聞こうか」

天海「お言葉に甘えて」

天海「この本棚に近づく巌窟王さんの写真をよく見て欲しいんすけど……」

天海「不自然に明るくないっすか?」

天海「ほら。開きっぱなしの本棚に、巌窟王さんの影までできているっす」

アンジー「あ。本当だ。なんか光源がおかしいねー。これじゃあまるで、神様が向かっている本棚が光っているような……」

天海「実際間違いなく光ってたんすよ」

天海「……巌窟王さんが本棚に向かった理由がまさにこれっす」

天海「赤松さん。隠しカメラがフラッシュなんて焚いたりしたらカメラの意味がなくなるっすよね」

天海「つまり、このカメラはフラッシュが焚かれない設定になっていたはずっす」

赤松「う、うん。間違いなく切ったはずだよ。最原くんに言われたもん」

天海「それにも関わらず本棚は……いや、カメラはフラッシュを焚いた」

天海「ということはつまり、カメラの方に何らかの仕掛けがされていたってことっす」

天海「そうっすよね! 入間さん!」ズガァァァンッ!

入間「……」

入間「はい?」

天海「キミがこのコロシアイの首謀者……俺はそう主張するっす」

入間「えっ」

最原「えっ」

巌窟王「えっ」

モノクマ「えっ」

赤松「えっ」


……


巌窟王&最原(いや、ないだろ……)

王馬「そっかー。入間ちゃんが犯人だったのかー。よし、じゃあ投票しようか」

王馬「仮に犯人じゃなかったとしても口汚いメス豚女がこの世界から消えるのなら! 俺は喜んで投票するッ!」

入間「え? え? え? 何? なんて?」オロオロ

入間「ま、待て待て待て! 待って! お願い! 何が何だかわけわかんねーって!」アタフタ

天海「言い逃れはできないはずっすよ」

天海「赤松さんは上の階にいて、しかも最原くんとほぼ行動を共にしていたから犯行は不可能」

天海「下の階にいた人たちのアリバイは、俺が証明するっす。ゴン太くんは別室にちょっとだけいたっすけど」

天海「やっぱり犯行がほぼ不可能っすからね。AVルームから出るにはゲームルームを通るしかないんすから」

茶柱「あれ? AVルーム側にも扉があったはずじゃ……」

天海「忘れたんすか? あの扉、建付けが悪かったのか、ほとんど開かなかったんすよ」

茶柱「あ、そうでした。大爆音騒ぎのときに外側からガタガタしてましたね」

最原(……天海くんが吹っ飛んだ表紙に壊れた、あの扉のことかな?)

天海「さて。入間さんのアリバイは?」

入間「え、えーと俺様は……地下にいたぜ……?」

百田「あ? 何言ってんだ。作戦会議に来なかっただろ、テメェ」

入間「そっちじゃねぇ! 別の地下だ!」

最原(別の? ……って、もしかして)

最原「まさか……裏庭のマンホールの中のこと言ってるの? デスロードに通じてる」

入間「そう! それだ! 巌窟王が外からやってきた魔法陣はそっくりそのまま残ってたからよ!」

入間「それを開けて、俺様たちが向こう側に行けないかどうかの実験をしてたんだ!」

巌窟王「間が悪すぎるぞ発明家……カッドルス級か」

天海「それを証明する人は?」

入間「……」

入間「お空のお星さま?」

天海「決まりっすね」

入間「わーーー! わーーー! 待て! 待ってくれーーー!」アタフタ

最原「待ってよ天海くん。アリバイがないのと、カメラに細工できたのと……それだけしか根拠がないじゃないか」

赤松「そうだよ! 何より、私たちは巌窟王さんの死体を発見するまで入間さんが地下に降りるのを見てないんだよ?」

王馬「どころか、入間ちゃんは事件の後、間違いなく階段を通って地下に降りてきてたしね」

入間「そ、そうだ! モノクマにコロシアイが起こったって呼ばれて、裏庭から校舎に向かったんだぞ、俺は!」

入間「その途中で、俺様の姿を見たヤツが何人かいたはずだ! そうだろ!?」

星「……ああ。確かに、一人で地下に降りるのにまごついていた入間を、階段脇で見かけたが……」

キーボ「ボクと星くんと王馬くんを見て、微妙にホッとした顔をした後、悪態をついた彼女と合流して地下に向かいましたが……」

天海「ふむ。なるほど……」

入間「どうだチャラチャラヤリチン野郎! 俺様が犯人ってのは大間違いなんだよ! 今! 発言を撤回したら許してやるぜ! 半殺しで!」

天海「撤回……す……す……しないっす!」バァーンッ!

入間「何故ェ!?」ガビーンッ!

白銀「本当にね。なんで無駄にフェイント入れたのかな」

天海「……赤松さん。最原くん。地下に向かう通路が一つだけ……どうしてそう言えるんすか?」

天海「俺たちは地下のすべてを捜査することは不可能だったんすよ?」

最原「……そうか。天海くんは、隠し扉の向こうに『地下に繋がる別の通路』の可能性を考えてるんだね?」

天海「まず間違いなくあったはずっすよ。そうでなければどうやって説明するって言うんすか?」

天海「巌窟王さんが本棚をいじくってない以上、あれは間違いなく首謀者が開けたとしか考えられない」

天海「そして、本棚が開けられたのをトリガーにして、カメラがフラッシュを焚き、巌窟王さんの注意を扉から逸らし」

天海「カメラのインターバルを縫って、隠し扉から入間さんが堂々登場!」

天海「巌窟王さんを真後ろから襲撃して、そのまま隠し扉に戻って逃走」

天海「これが事件の真実っす!」

最原(……あるいはそういう真相もあったのかもしれないけど……)

最原(いや、入間さんが首謀者。そういう可能性も確かに消えないんだけど)

最原(今回に限っては、違う。犯人=首謀者という図式は成り立たないんだ)

最原(でもどうやって納得してもらおう。可能性自体は間違いなくあるわけだし……)

最原(最大の証拠品だった砲丸は巌窟王さんが燃やしちゃったしなぁ……)

アンジー「ねえー美兎ー。一つ聞きたいんだけどさー」

アンジー「終一と楓がカメラの作成を依頼したとき、その用途を聞いたりしたー?」

入間「あっ! そ、そうだ! 聞いてねぇ! この腐れアベックども、そこら辺はボカしてやがったんだ! な!」

赤松「腐れアベック……確かに言ってないけどさ」

天海「首謀者は何らかの方法を使って俺たちを、学園全体を監視しているはずっす」

天海「それで疑いを外すのは無理っすよ」

入間「ひ、ひいいいい……!」ガタガタ

巌窟王「……」

巌窟王「クハハハハハ! それはないぞ天海! 残念だったな!」

天海「えっ?」

巌窟王「実はな。視界の端でチラッと見ただけだが、あの本棚はすぐに閉まったのだ」

巌窟王「おそらく、俺が隠しカメラの仕掛けられた本棚の方に寄る、その写真のすぐ後にな」

最原&赤松「!」

天海「えっ?」

巌窟王「そうだな? 最原。赤松」

巌窟王「お前たちが図書室に入ったとき、既に本棚は『完全に閉まった後』だったのでは?」

最原&赤松「……」

赤松「うん! 確かにしっかり閉まってたよ!」

最原「ピクリともしてなかったよね! うん! うん!」

茶柱「まあ『隠し扉』ですからね。何もしなければ自動的に閉まるのは道理ですけど」

茶柱「……見たのは『本棚が閉まった瞬間』だけですよね? その向こうの扉から誰かが出てきたのを見逃した可能性は?」

天海「いや……今の巌窟王さんの発言ですべてがひっくり返ったっす」

天海「もしも茶柱さんの言う通りの順序で殺人が行われたとしたらおかしいことが一つどころじゃすまないっすからね」

春川「①巌窟王が隠し扉に背を向ける。②犯人が隠し扉から出てくる。③隠し扉が閉まる。④犯人が巌窟王を殺害……確かにおかしいね」

百田「あ? それで⑤犯人が隠し扉に入って全部お終い、だろ?」

最原「いや。ダメだ。時間が足りなさすぎる。何よりも非効率すぎるんだ」

最原「犯人が首謀者だった場合、③の工程が無駄すぎるんだよ」

春川「①巌窟王が隠し扉に背を向けて②犯人が隠し扉から出てきて③巌窟王を殺害し④犯人は隠し扉に戻り⑤本棚が閉まって終了」

春川「この③と④の間は、本棚と扉は開けっ放しじゃないとおかしいよ。すぐに赤松と最原が来ることすら首謀者はわかってるんだからさ」

春川「⑤の時点で最原か赤松が、本棚が閉まる瞬間とかを見てれば全然不自然じゃなかった」

春川「あるいは、隠し扉以外の方法で逃げる途中の犯人を見かけていれば、ね」

獄原「それはもう逃げた後だったんじゃ……」

天海「それはないっすよ。だって、図書室の二つの出入り口は隠しカメラで撮影されてましたし」

天海「仮にそれを何らかの方法でクリアできたとしても、誰にも目撃されずに出ることは、やっぱり不可能っす」

最原「階段から見て正面の出入り口は僕と赤松さんが使うからノーカウント」

最原「もう一つの方の出入り口も、天海くんがAVルームの扉を壊して廊下に転げ出た時点で、やっぱりアウト」

真宮寺「最原くんと赤松さんが扉から入った後、扉の影に隠れていた犯人が入れ替わり外へ……とかは?」

最原「ないよ。巌窟王さんの死体を見つけた後は混乱しっぱなしだったけどさ。それ以前の見落としはない」

天海「超高校級の探偵の名にかけて、断言できるんすか?」

最原「……」

最原(ここはハッタリを利かせた方がいい、か)

最原「うん。断言するよ」

巌窟王(それでいい)ニヤリ

休憩します!

最原(……)

最原(それにしても、やっぱりか。僕はともかく赤松さんには、巌窟王さんの嘘に乗る意味がない)

最原(このやり取りで完璧にわかったよ。犯人がわかっている人間は、現時点で砲丸を調べた僕と、巌窟王さんと、犯人自身のみ)




最原(やっぱり、砲丸を投げたのはキミだったんだね。赤松さん)

入間「ば、バカ松~~~! ダサイ原ぁーーー! もっと早くに言えよ、そういうことはよぉーーー!」

赤松「入間さんがそういう人柄でなかったら言ってたかもね……」

入間「ひ、ひでぇ!」ガビーンッ

赤松「よくそこまで自分を棚上げできるなって感心するよ……」

入間「……」

入間「あ、なんか気持ちよくなってきたかも……」ハァハァ

赤松「!?」ガビーンッ

最原(……どうすればいい。教室の通気口と、図書室の通気口が繋がっていることを指摘できるのは僕だけだ)

最原(そこから砲丸を放り投げれば、あとは自動的に砲丸が転がって、巌窟王さんの頭上に直撃する)

最原(……転がるときの音は、どうにでもできる。そしてそのトリックこそが、彼女を追い詰める最後の証拠を指し示すはずだ)

最原(巌窟王さんは何かをするつもりだ。その計画に僕は乗れるのか……?)

最原(……信じるとは言った。ああ、そうだ。僕は巌窟王さんを信じることは辛うじてできる)

最原(今の僕が信じることができていないのは……紛れもなく僕自身だ……!)

巌窟王「……」

巌窟王(最原は黙ることを選んだか? ……それもいいだろう)

巌窟王(所詮はその程度だった、ということだ。成長性はあるかもしれないが、今は興味を向ける価値がない)

巌窟王(逆に赤松はまだ見どころがあるな。さて……何故自分の首を絞めるようなことを言った?)ニヤリ

巌窟王(このまま入間にすべてを被せる道もあったはずだぞ?)

赤松「……」

赤松「とにかく、議論を続けてみようよ。そうしたら他の可能性が見えてくるかもしれないから」

天海「……結局、なんで本棚は動いたんすかね? こんなことをしたところで、首謀者に何の得が?」

赤松「……」

東条「そこは後回しにしましょう。現時点では突破口が見えないわ」

東条「他に何か、おかしいことは起こらなかったのかしら?」

夢野「まあ起こったのう。どう考えてもおかしいことが」

アンジー「ゴン太の大爆音ロードショー事件だねー! あれは本当に驚いたよー!」

真宮寺「聞かせてもらえるかな? 僕たちは一つでも情報が欲しいからネ」

獄原「うん! と、言っても本当に意味がわからないんだけど」

獄原「あのね。ゴン太がAVルームに入ったとき、映写機からトレイ、ブルーレイに至るまで全部用意された状態だったんだ」

獄原「電源はついてたし、トレイの上にブルーレイは乗ってたし、そのトレイを親指で押せばすぐにでも自動再生されるような状態でね?」

獄原「リモコンはなかったけど、まあ別にいいかって思って、ゴン太がトレイを親指で押して、映像が再生されたんだけど」

茶柱「……何故か大音量の設定になってたんですよ。お陰で耳が壊れるかと思いました」

アンジー「神った大爆音だったよねー! 音で平衡感覚を崩すって感覚を初めて味わったよー!」

茶柱「実はその大爆音が響く直前に、天海さんが『ちょっと用事がある』ってゲームルームを出て行ったんですが」

茶柱「天海さん。元は一体何をするつもりだったんですか?」

茶柱「転子が驚いてゲームルームを飛び出して、廊下側からAVルームに入ろうとしたときに鉢合わせしましたけど」

天海「……図書室に行こうとしただけっすよ。兵法書でも置いてあるかと思って。その途中であの大爆音っす」

天海「首謀者が何かしかけてきたのか、と考えて行動を一旦中止して、音源を意識してみたらAVルームからの音だと気づいて……」

天海「で、AVルームのドアを開けようとしたら開かなかったので、急いでゲームルーム側からAVルームに入ろうと引き返したってわけっす」

赤松「私たちが地下に行ったとき、確かに凄い音がしてたよね……」

春川「止めるのに随分と手こずったからね」

春川「電源ボタン、音量操作のツマミ、取り出しのスイッチのすべてが壊されてたから」

百田「電源コードを抜くのにも、機材の後ろのなんかゴチャッとした部分に隠れてる上に、手が届かないほど狭くってよ」

百田「コードを抜くにしても、機材を大胆に動かさないといけないって話になりかけてたよな」

天海「そのゴタゴタの中、俺が茶柱さんに理不尽に殴られて、AVルームと廊下を繋げるドアが派手にぶっ壊れたんす」

天海「痛みに悶絶している内に、最原くんの叫び声が図書室から聞こえてきて……」

赤松「……で、血塗れの天海くんが私たちに合流した、ってことね」

赤松「ビックリしすぎて凄い悲鳴出しちゃったよ……」

天海「その節は本当にすみませんでした……」

東条「……」

東条「待って。今、聞き逃せない情報が出たのだけど」

獄原「え?」

東条「天海くんはずっとあなたたちと一緒だったわけではなかったの?」

天海「……」

天海「あっ」ダラダラダラ

王馬「あれ。あれあれあれ? どうしたの天海ちゃん。凄い汗だよ?」ニヤニヤ

百田「あ、天海……まさかテメェ……!」

茶柱「天海さんが、犯人だったんですかッ!?」ガビーンッ!

巌窟王(クハハ。それみろ。最原。お前が口を開かないから愉快なことになってきたぞ?)

巌窟王(まあ、すぐに天海の容疑は晴れるだろうがな)

巌窟王(あのドアを開けるだけなら入口の隠しカメラは作動しない上に、砲丸を全力で投げれば俺を殺せるだろうが)

巌窟王(そのとき、隠し扉の本棚が障害物になって、天海が砲丸を投げたとしても俺に届かない……)

巌窟王(……)

巌窟王(あっ)

赤松「え? それは無理じゃない? だって……」

赤松「あっ」

最原「……」

最原「あっ」





三人(本棚は"なかったことになった"んだったーーー!)ガビーンッ!

休憩します!

天海「は、ははははは……何を根拠に……」アタフタ

天海「そもそも! 俺が図書室に入って巌窟王さんの頭をカチ割ろうとしたら、図書室の中に入らないといけないっすよね!?」

天海「そうなったら図書室の出入り口の隠しカメラが作動して……!」

東条「待って。ドアを開ける必要はあるけど、中に入る必要はないわ」

東条「ドアを開けるだけなら隠しカメラは作動しないはずよ」

天海「いや、それは……!」

東条「そして、砲丸は本来投げるもの。巌窟王さんとあなたの距離が離れていることは大した問題にならないわ」

東条「ついでに、巌窟王さんの頭に砲丸が直撃する前に隠し扉の本棚は閉じている」

東条「これは第一発見者の最原くんと赤松さん、そして被害者である巌窟王さん本人が証言しているわ」ズバァァンッ!

天海「……」

天海「ぬがっは!?」ガビーンッ!

赤松「ま、待って! 天海くんは犯人じゃないよ! ね! 最原くん!」

最原「えっ、それは……!」

最原「……」

赤松「……最原くん?」

最原(……天海くんを助けることは当然できる。しかも本棚が閉じていたという嘘を撤回せずに)

最原(そして、僕には助ける理由がある。天海くんは僕たちの仲間だからだ)

最原(……でも、僕は……!)

巌窟王「……」

巌窟王「迷うな、最原終一!」

最原「ッ!」

巌窟王「最後まで口を閉ざしていようかと思ったが、事がこう転んだ以上、仕方あるまい」

巌窟王「お前の力は確かに人を不幸にする。それをお前は恐れているのだろう」

巌窟王「だが、それがどうした! 悪のままでも正義は成せるぞ!」

巌窟王「……違う。訂正する。勝たなければ、歩みを止めたら正義になれない!」

最原「……巌窟王さん」

巌窟王「この状況はあまりにもおあつらえ向きだ」

巌窟王「天海を助けることを大義名分にして、真の犯人をお前は指摘できる!」

巌窟王「至極愉快。至極愉悦だろう! 何を迷うことがある!」ギンッ

アンジー「……さっきから何を言っているの? 神様」

百田「わかるように言え、巌窟王!」

巌窟王「いいだろう! つまりこういうことだ!」

巌窟王「真実から目を逸らすな! お前の戦いに手を貸すつもりはないが」

巌窟王「それ以外の部分では、俺がカタをつけてやる!」

最原「……」

最原「……東条さん」

東条「……?」





最原「それは違うぞ!」論破!

最原「……そもそもの話、巌窟王さんが地下に降りたことを知ってたのは、赤松さんと僕だけだよ」

最原「だって、巌窟王さんと別れたとき、ゲームルームからは誰も出てこなかったからね」

最原「いや、そもそも巌窟王さんが図書室を訪れたこと自体、僕たちには予想のできない『気まぐれ』のようなものだったはずだよ!」

最原「だって! まさかわざわざ巌窟王さんが卒業アルバムのために写真術を習おうとするなんて、誰が予測できるの?」

巌窟王「!?」ガビーンッ

最原「あ、ごめん。秘密にしておきたかった……? 本棚から一つだけ飛び出てたからわかったんだけど……」

巌窟王「振り返るな……ただの致命傷だ……!」ガタガタ

最原「ほ、本当にごめん……」

東条「それすら首謀者なら、監視を通じてわかったかもしれないわ」

最原「仮にわかったとしよう。でも、そんな素振りを天海くんは見せたの?」

最原「僕たちが持ってた防犯ブザーみたいに、本棚に誰かが近づくことを知らせる機械を天海くんは持ってた?」

最原「百歩譲って、タイムリミット寸前に扉に近づく人間を仕留めようと首謀者が考えたとしても」

最原「それなら百田くんの作戦会議に同行しようなんて考えないよ!」

最原「だって、行動が全部バレちゃうんだからさ! 適当な理由つけて断って、さっき天海くんが言ってたような……」

最原「地下に通じる別の入口を経由して、素直に隠し扉から出てきて、こっそり巌窟王さんを仕留めるよ!」

東条「それじゃあ、天海くんは首謀者ではない、ただの殺人を計画した一般生徒だったとしたら?」

最原「猶更ダメだ。本棚が勝手に開くことと、隠しカメラの位置を知らない」

最原「隠しカメラを前提とした計画を立てられないよ」

東条「……なるほど。納得したわ」

夢野「それ以前に、首謀者は隠し扉の中から本棚を操作した、という話ではなかったのか?」

真宮寺「いや。僕たちは向こう側を調べることができなかったからネ。他に可能性はいくらでもあるヨ」

真宮寺「遠隔操作説。センサー説。中から開けた説……本当にいくらでもネ」

最原「……本棚を動かしたのは間違いなく首謀者だよ。巌窟王さんが本棚を操作してないから」

最原「方法はわからない。真宮寺くんの言う通りだ」

最原「……でも今回はそれを考える必要はないよ」

最原「だって、首謀者と今回の犯人は完全に別人なんだから」

百田「……まさか、最原。お前……!」

キーボ「その口ぶり、犯人がわかったんですか!?」

最原(喉が渇く。唇が裂ける。目の焦点が定まらないし、運動しているわけじゃないのに呼吸が荒くなってきた)

最原(……それでも、もうこのまま慣性に任せて突っ走るしかない。巌窟王さんに背中を押された勢いが消える前に!)

最原「……巌窟王さんは、どうしてそんな大爆音の中、AVルームに顔を出さなかったのかな?」

天海「それは、そのときには既に巌窟王さんが死んでいたからでは?」

最原「違うんだ……そうじゃない。巌窟王さんにとって、その大爆音が『都合がよかった』からだよ」

アンジー「……都合がいい?」

最原「巌窟王さんは、出来る限り秘密裏に写真術の本を手に入れようとしてた」

最原「だから、あの大爆音騒ぎは都合がよかったんだ。他の生徒たちが全員そっちに向かうからね」

最原「あと、巌窟王さんの用事はつまるところ『本を回収する』。それだけだ。回収した後でゆっくりと顔を出せばいい」

王馬「なるほどねー。そういうことか。本気であの本が欲しかったんだね、巌窟王ちゃん!」ニコニコ

巌窟王「……」

最原「……ねえ。天海くん。フラッシュの件で、無意識に可能性を除外したんだろうけどさ」

最原「そもそも、隠しカメラのフラッシュをONに出来る人間が、もう一人いたよね」

最原「入間さん以外に」

天海「……」

天海「ははは……まさか。だって、その人のアリバイは最原くんが……」

最原「証明できないよ。ずっと目を離さなかったわけじゃないから」

赤松「……ふふっ」

最原「……」

最原「赤松さん。キミがこの事件の犯人だ」

休憩します!

赤松「……あははっ! そんなのおかしいよ」

赤松「確かに最原くんとずっと一緒にいたわけじゃないけどさ」

赤松「巌窟王さんの死体が発見されるまで、私は地下に行ってないんだよ? それでどうやって巌窟王さんを殺すの?」

最原「凶器が砲丸単体だけじゃなかったとしたらどう?」

赤松「……何のこと?」

最原「あの図書室全体が凶器だった。そう考えられるはずだよ」

入間「図書室全体が凶器だぁ……?」

入間「どういうことだ? 俺様はまさに全身が男子に対して特攻宝具だけどよ」

巌窟王「黙っていろ! 今は最原の見せ場だッ!」ギンッ

入間「ぎひい!」ビクウッ

アンジー(あ、なんか神様がめっちゃワクワクしてる……黙っとこ)

最原「さっき入間さんのドローンの空撮でわかったことだけど、あの図書室の本棚、僕たちには見えないところが階段状になってたんだ」

最原「そしてその階段の頂上は、図書室の通気口に通じていた」

最原「……図書室の通気口は、教室の通気口に通じてるんだよ。そこから砲丸を投げれば……!」

天海「まさか、巌窟王さんがいる場所まで砲丸が転がっていくっていうんすか?」

最原「うん。そうやって犯人は現場に近づくことなく巌窟王さんを殺害したんだ」

百田「んなバカな! そんな都合よく行くわけねーだろ!」

キーボ「確かに。条件が厳しすぎますね」

キーボ「まず①巌窟王さんが本棚に近づいていること。次に②そのタイミングを見計らって砲丸を投げること。最後に③砲丸の存在が殺害対象にバレないこと」

キーボ「……ざっと上げただけでもかなりの難易度です。砲丸と図書室の二つの凶器だけではどうにも」

最原「なるよ。凶器はまだある」

最原「……まず前提がおかしかったんだけど、犯人は本当に巌窟王さんを殺す気だったのかな?」

百田「あ? 実際巌窟王が死んでたんだから、そうに決まってるんじゃねーのか?」

最原「そうじゃない。僕はそう考えるよ」

最原「この殺人事件のテーマは『殺意の行方』だ。砲丸の先に、本当は誰がいるべきだったのか……」

最原「……突き止めて見せるよ。巌窟王さん」

巌窟王「やってみろ」ニヤァ

最原「まず第一のファクター。巌窟王さんを本棚に近づける方法だけど」

最原「これは赤松さんの仕掛けた『フラッシュをオフにしていない隠しカメラ』で可能だ」

最原「第二のファクター。そのタイミングを見計らう方法だけど……」

最原「これは赤松さんなら可能だよ。本棚が動いたタイミングで、僕の持ってた防犯ブザーが鳴るようになってたからね」

キーボ「……あれ? でも本棚が動いたのは首謀者が動かしたからで……巌窟王さんの意思とは無関係ですよね?」

最原「そこが問題だよ。『本棚が動くこと』がすべての始まりなのに、巌窟王さんは隠し扉を開ける術がない」

最原「この齟齬の正体は、巌窟王さんが首謀者ではなかったからなんだ」

最原「一体あそこには本当は誰がいるべきだったのか。ここまで来ればもう自明だよね?」

真宮寺「……ああ、そうか! そうか! 赤松さんは『首謀者を殺害したかった』んだネ!」

真宮寺「だからトリックの起点が隠し扉に集中してたんだヨ!」バァーーンッ!

巌窟王「……」ワクワク

モノクマ「あ。ポップコーンとコーラ用意してるけど、いる?」

巌窟王「頂こう!」

巌窟王「美味い!」テーレッテレー!

百田「おい。なんか巌窟王が超エンジョイし始めたぞ」

春川「自分の殺人事件なのに……」

夢野「なるほどじゃのう。首謀者は監視によって赤松の殺人計画の乗っ取りを思いつき」

夢野「巌窟王が図書室を訪れ、いい感じの位置に来たときに本棚を動かし、赤松の殺人計画を始動させた……」

夢野「んあー……こうなってくると、果たしてクロを赤松として考えていいか微妙ではないか?」

夢野「首謀者が本棚を動かしたりしなければ、赤松はそんなことしなかったはずじゃぞ?」

巌窟王「それに関しては後でモノクマに問い合わせるといい。ゲームの処理がわからなくなったときこそゲームマスターの出番だろう?」ボリボリ

入間「顔が変形するほどポップコーンを食ってやがる……」

アンジー「でも問題はまだ残ってるよねー。第三のファクター、砲丸の存在の隠蔽がまだだよー」ボリボリ

アンジー「砲丸を転がしたとなると、本棚の上の部分からゴロンゴロンと音が出て、うわ何このポップコーン神ってるうっま」ボリボリ

茶柱「いつの間にかアンジーさんも食べてますしッ!」

巌窟王「俺が分けた」

アンジー「神様ありがとー!」

キーボ「ちょっとは空気を読んでくれませんか!?」ガビーンッ!

獄原「待って。音なら大丈夫だよ。だってそのときはゴン太の大爆音騒ぎの最中だったんだからさ!」

茶柱「それです! ゴン太さんの見ていた映像が偶然、赤松さんの砲丸の音をかき消したんです!」

最原「……偶然? そんなものが存在するとしたら、そのときたまたま図書室を訪れた巌窟王さんだけだよ」

最原「あの大爆音騒ぎに関しても、赤松さんの計画の内だ」

赤松「ふーん」

アンジー「……」

アンジー「喉が渇いてきた……」

巌窟王「コーラもわけてやろう」シュンッ

アンジー「わーい!」

百田「もういい加減エンジョイするのやめろッ!」ガビーンッ!

星「ポップコーンのバター臭がひでぇ……」ゲンナリ

最原「ちょっと話は逸れるかもしれないんだけど、ひとまずこう仮定してみて?」

最原「赤松さんの手にAVルームの映写機を自由自在に操れる方法があるとする」

最原「次に、赤松さんは首謀者を殺したい。それも一部の隙もなく完璧に」

最原「赤松さんの中の首謀者の行動予測は……最悪なことだけど、僕が言ったことそっくりそのままのはずだ」

最原「『リミット直前に、人目を憚って隠し扉に向かうはず』。これを念頭に置いてトリックを構築したからこそ巌窟王さんへと殺意が向かったんだ」

天海「……」

天海「そうか。そういうことっすね! あの大爆音は砲丸の音を消す物理トリックであると同時に……!」

最原「『人目を憚って図書室に向かっている人間のみを選別する心理トリック』としての意味もあったはずだよ」

最原「そして、僕たちの考えた首謀者のプロファイルと、現実の巌窟王さんの行動の方向が奇しくも重なったから」

最原「……あんなことになったんだ」

王馬「超高校級の探偵である最原ちゃんはともかくとして、天海ちゃんまでそこに気付くなんて」

王馬「もしかしてキミも『人目をはばかる必要のある秘密』の持ち主だったりして……?」

天海「……深読みっすよ」

赤松「……うーん。本当にそうかな?」

赤松「最原くん、ちょっと考えが飛躍しすぎじゃない?」

最原「え?」

赤松「あのさ。思い出してほしいんだけど、最原くんが教室に戻ってきたときさ」

赤松「……そんな爆音、聞こえて来た?」

最原「……!」

赤松「聞こえてなかったはずだよ。だって私も聞いてないし」

モノクマ「地下の音は地上階へと届かないんだよ。構造上の理由でね!」

モノクマ「どんな大爆音も99.99%吸収する素材がそこかしこに使われてるから!」

星「つまりほぼ完璧な防音ってわけだ。仮に、最原の言う通り赤松の手に映写機の操作方法があったとして、だ」

星「……『地下で映写機が確かに動いている』という確信を得る方法が無ければ、それはトリックを瓦解させる大きな穴になるぜ」

最原「……あるよ。というか、モノクマが今言ったことがそのまま答えだ」

赤松「え?」

最原「音はわずかだけど、漏れる。確かに僕は聞いていない」

最原「でも、キミが聞いていないというのは嘘だろう? 超高校級のピアニスト、赤松楓さん!」

赤松「……!」

東条「……あら? 夜長さんが消えてるわね?」

春川「お腹いっぱいになったら眠くなったって言って、ほら」

アンジー「すぴー」スヤァ

巌窟王「……(静かにしろ、のポーズ)」

春川「巌窟王の膝の上に座って寝てる」

東条「……」





モノクマー椅子「お、重い……!」プルプル

巌窟王「耐えろ」

夕飯の休憩!

最原「みんながモノクマの現像した写真を受け取りに倉庫に行ったとき、僕は実験してたんだ」

最原「あの大爆音はどの程度、上の階まで響くのか。気になってさ」

最原「……僕も耳は良い方なんだ。かなり時間はかかったけど、ちゃんと聞こえたよ」

最原「下の階から響く、AVルームの大爆音がさ!」

赤松「……」

最原「あと、モノクマの持っていたAVルームの予備のリモコンも操作してみたよ」

最原「直線距離だとそんなに離れていない上に、モノクマが無駄に機能を高性能にしていたからか、教室からでもギリギリ指示が通った」

最原「ゴン太くんがトレイを押して、映写機を起動させたことこそが偶然だったんだよ! 本当は……!」

赤松「私が隠し持っていたリモコンで、AVルームの映写機を操作するはずだった、かな?」

赤松「うーん、それもやっぱり無理がないかな?」

白銀「え? 無理があるって、どこに?」

赤松「あのさ。そもそも犯人が、その発想に至ることができたのかなって」

赤松「普通教室からリモコンの指示が、地下のAVルームに通るなんて思わないよね?」

百田「……た、確かにそうだ。まさかモノクマに聞くわけにもいかねーしな」

百田「だって、今までの前提だと『赤松が殺したがってたのは首謀者』なんだろ?」

百田「モノクマにリモコンの有効範囲を聞くわけにはいかない。なら……!」

最原「赤松さんがリモコンの有効範囲や、そもそも大爆音が教室から聞けるってことを知る機会がない……か」

最原「……僕みたいに実験すればいいだけの話だよ。事件の前にね」

赤松「それ、いつのこと?」

最原「アンジーさんに聞いてみればわかるよ。アンジーさん!」

最原「あれ? 席にいない」

春川「最原。あっちあっち」

最原「……」

最原「寝てる!」ガーンッ

巌窟王「……アンジー。起きろ。我がマスター、夜長アンジーよ。出番だぞ?」ユサユサ

アンジー「むにゃ……眠いー」ウトウト

最原「え、えーと。アンジーさん。昨日のことを話してほしいんだ」

最原「モノクマと鬼ごっこをしてた、あのときのことをさ」

アンジー「うー……」

アンジー「えっとねー……神様がタバコを欲しがってるってねー……聞いてねー……」ウツラウツラ

アンジー「でねー……モノクマに頼めばもしかしたらくれるかもーって……言われてねー……」ウトウト

アンジー「……」スピー

巌窟王「これだけ聞ければもう充分だろう?」ニヤァ

獄原「聞いた? 言われた?」

キーボ「それって、誰に。まさか……!」

最原「……赤松さん。キミだったりしない? アンジーさんをモノクマに焚きつけたのってさ」

赤松「あー……確かにアンジーさんにそんなことを言った気がするなー……まあ世間話の一環だけどさ」

赤松「で? それがどうかしたの?」ニコニコ

最原「この後、モノクマとアンジーさんは三時間も鬼ごっこしてたんだ」

最原「その三時間があれば、実験はいくらでも可能なはずだよ!」

最原「……どころか、隠し扉とモノクマの因果関係を調べることすら可能かもしれない!」

赤松「アンジーさんにかかりっきりだったモノクマが、実験中に急に私のところに来たら作戦はそもそもアウト」

赤松「もしかしたら隠しカメラの計画も、もっと早い段階でバレていたかもしれない。それを調べる意味も含めた実験」

赤松「……そういうこと?」

赤松「は、はは……あはははははは!」

赤松「弱い……弱い弱い弱い弱いよ! ピアニッシモより更に弱く!」

赤松「ピアノ・ピアニッシモ級に本当に弱い!」

赤松「全部状況証拠じゃん! 何一つとして物的証拠がないでしょ!?」ゲラゲラゲラ

百田「お、おい。赤松?」

巌窟王「赤松、貴様……!」

巌窟王「アンジーが起きる。もうちょっと静かにしろ……!」

赤松「あ、ごめん」スンッ

茶柱「赤松さんも……大概弱いですね……」

最原「赤松さん。キミが何を言おうと、もう僕は真実から目を逸らさない」

最原「……まだ僕は僕自身を信じることはできないけど……」

最原「それでも、巌窟王さんを信じることはできる。彼に背中を押された以上は、止まることはできないんだ!」

赤松「……」

赤松「……また巌窟王さん、か……寂しいな」

最原「えっ?」

赤松「いいよ。そこまで言うのなら証拠を出してみて」

赤松「それで決着を付けよう。そして終わりにしよう」

赤松「……全部ね」

最原「……赤松さん、キミは……!」

巌窟王「最原。望み通りにしてやれ」

最原「!」

巌窟王「……それが彼女のためだ」

最原「……うん。わかった」

最原「決着を付ける。この事件に、決定的な終止記号を刻む」

最原「それが僕の戦いだ! 巌窟王さん!」

赤松「教えて。私が首謀者を殺す計画を立てた、その決定的な証拠って何?」

最原「……リモコンだ」

赤松「……」

獄原「それって、AVルームのリモコンのこと?」

王馬「そうか! 最原ちゃんはそれを、どこか重要な場所で見つけたんだね! 赤松ちゃんの部屋とか!」

王馬「だとしたらそれは重要で、決定的な証拠になるよ! 確かに!」

最原「いや? 見つかってないけど」

王馬「カーッ、ペッ」

百田「急にどうでもいい態度取るなよ! 最後まで聞け!」

最原「見つかってない、っていうのが重要でさ。さっきも言ったけど、赤松さんが犯人の場合はAVルームから大爆音が響かないとダメでしょ?」

最原「だとしたらリモコンは、砲丸を投げたその時点では確実に持ってたはずだ」

最原「その後は?」

東条「……処分するか……または……」

東条「ああ、そう。そういうこと、ね」

茶柱「えっ? 何? なんです?」オタオタ




最原「……すべてが終わるまで、ずっと肌身離さず持ち歩いているか、だ」

天海「……」

天海「赤松さん。さっきからの態度を見る限り、正直もうまともに反論する気すらなくなってるっすよね?」

天海「……見せてくれるんすよね。バッグの中身」

赤松「……はあ」


バサッ


最原(赤松さんが無造作にバッグを脱ぎ、それをおもむろにひっくり返す)

最原(何度か上下に振った後、それはゴロリと外へ出てきた)


ゴトンッ


獄原「……ッ!」

真宮寺「これが?」

獄原「うん……ゴン太は何回かAVルームで虫さんの映像を見てたから……間違いないよ……!」

獄原「AVルームの……リモコンだ……!」

巌窟王「……これで終わり、のようだな」

最原「うん。最後に僕が事件のすべてを振り返って……全部を明らかにして……」

最原「そうしたら、後は全部巌窟王さんに任せるよ」

最原「……そこから先は、巌窟王さんの戦いだ」

巌窟王「いいだろう。少なくとも、お前たちは合格だ」

巌窟王「……有終の美を飾れ。最原。それが勝者の権利だろう」

最原「うん」

赤松「……」

赤松(気に入らない。でも……仕方ない、か)ハァ

休憩します!

クライマックス推理

最原「まずは事件を最初から振り返ってみよう」

最原「モノクマからの動機としてタイムリミットを告げられた僕と『ある人物』は、首謀者を確保するために一計を案じることにした」

最原「そのある人物こそが、今回の事件の犯人だよ」

最原「まず図書室に隠しカメラをいくつかセット。そのとき、隠し扉に向いたカメラのみは犯人がセットしたんだけど」

最原「そのとき、あえてカメラのフラッシュが焚かれるようにしたんだ」

最原「後で首謀者を隠しカメラに誘引するためにね」

最原「でも首謀者確保計画は、どの時点でかはわからないけど結果的に失敗することになる」

最原「首謀者が犯人の殺人計画に気付き、それを利用してコロシアイを発生させるように仕向けたからね」

最原「次に、犯人は僕と別れた後、モノクマの気を引き付けて、更に殺人計画の精度を上げることにした」

最原「まずアンジーさんをモノクマに焚きつけて、その注意を逸らした後で……」

最原「地下のAVルームを使った実験を開始した」

最原「そのときにリモコンの有効範囲と、大爆音なら教室へと微かに音が届くことに気付き……」

最原「AVルームの機械一式に工作を仕掛けた後で、実験を終了したんだ」

最原「多分この時点で犯人は『首謀者は何かと理由を付けて、多くの人間を巻き込んで地下に行き、隙を見つけて隠し扉に行く』と想定してたんだろうね」

最原「そうでなかったら、こんな心理トリックは思いつかない」

最原「『地下に多数の人間が集まっていることが前提になった心理トリック』だからね」

最原「さて……ここから先は、犯人以外にも二人の人間の思惑が複雑に絡み合うことになる」

最原「それは首謀者と、被害者である巌窟王さんだ」

最原「作戦会議に参加するため、七人の生徒が地下に降りて行った後、僕はそれの様子を見に下へ向かった」

最原「その後で降りてきた巌窟王さんとは、僕が鉢合わせしてる」

最原「彼は卒業アルバムの制作のために、写真術の本をこっそり図書室から持ち出そうと考えていたわけだけど……」

最原「このとき、彼は僕たちが予測していた首謀者のプロファイルと同じ特徴、『人目を憚って図書室へと向かう人間』の条件に偶然一致してしまっていた」

最原「これが最大の不幸だよ。その点を首謀者に利用されてしまったんだ」

最原「僕が巌窟王さんと別れて上の階へと戻った後、巌窟王さんは図書室へと入り……」

最原「犯人が起動させる前にゴン太くんが映像を再生させてしまった」

最原「当然、巌窟王さんもその音を聞いていただろうけど、用事が済んでいなかったから後回しにしようと考えたんだろうね」

最原「何より、彼にとって好都合だった。秘密裏に本を持ち出そうと考えていた巌窟王さんは、このとき『ラッキー』だとすら思ったかもしれない」

最原「でも実際のところ、それはすべて自分の身に降りかかる悲劇の序曲にしか過ぎなかった……」

最原「巌窟王さんが図書室の奥のあたりまで本を探しに来たタイミングで、首謀者は隠し扉の本棚を開放した」

最原「その時点で、僕の手にあった防犯ブザーが鳴り始め、そして巌窟王さんに向かってカメラが切られ、フラッシュ」

最原「事件が大きく動き出すのはそこからだ」

最原「まずカメラの方に向かって……というより偶然そこにあった写真術の本に向かって巌窟王さんが接近」

最原「次に、僕が教室を急いで飛び出した後、犯人は地下から聞こえてくる微かな音を聞き取り、仕込みが既に終わっていることを確認した後……」

最原「教室の通気口に向かって砲丸を投げたんだ」

最原「砲丸は本棚の上に作られた階段を転がり、最終的に巌窟王さんの頭上へと落下」

最原「彼の命を無残に奪った……!」

最原「そして、大爆音騒ぎで右往左往している天海くんたちを後目に、僕たちは図書室へと直行」

最原「そこで事切れた巌窟王さんを目撃したとき、犯人が何を思ったのか……それはまだわからない」

最原「……でも、絶対に答えてもらうよ。最後の最後まで、僕は僕の戦いを貫く必要があるから」

最原「そうでなければ、僕は何も納得できないから……!」

最原「ここがキミの殺意の行方……その果てだ」

最原「超高校級のピアニスト、赤松楓さん!」


バキバキバキッ ガシャァァァァンッ!

COMPLETE!

今日のところはここまで!
……マチアソビのなんやかんやで石貰えないかなー

天海「それが……真相?」

天海「……いえ。そうとは限らないはずっすよ。やっぱり首謀者が巌窟王さんを殺したのでは?」

天海「例えばそう、赤松さんの殺人計画を利用するつもりなら、首謀者が自分で……!」

最原「ごめん。実はもうその可能性はとっくに消えてたんだ」

巌窟王「天海。お前のその推測はおそらく『首謀者が似たような砲丸を持って背後から襲撃』のようなものだろう」

巌窟王「だがその方法は前提として、赤松の砲丸が俺に直撃せずに外れる必要がある」

巌窟王「既に死んでいる人間を更に殺すことなどできないからな」

天海「……」

巌窟王「赤松が投げた砲丸は間違いなく俺に当たった。外れていない」

巌窟王「砲丸が外れていたとしたら、流石に俺も口を挟んでいるぞ」

最原(それに、巌窟王さんが燃やしちゃったけど、あの砲丸には一つの決定的な証拠が付いてた)

最原(赤松さんのベストと同じ色合いのピンク色の繊維。多分、彼女は替えのベストに砲丸を包んでたんだろうね)

赤松「あーあ。バレちゃったか」

赤松「……」

赤松「本当に気に入らないなぁ。こんなの私が望んでた最良の結末とはかけ離れてる」

茶柱「赤松……さん?」

巌窟王「見事なトリックだったぞ、赤松」

巌窟王「図書室全体に本で作った階段を仕込んだことではない」

巌窟王「図書室に一切足を踏み入れずに殺人を犯したことでもない」

巌窟王「お前のトリックの一番のキモは、あの大爆音を利用した物理、心理両用トリック」

巌窟王「……ククク。殺人の一番厄介な性質を教えてやろう」

巌窟王「人はな。人を殺すとどうしても自慢したくなるのだ。例えそれで不利に陥ろうとな」

巌窟王「一応言っておくが、最原が教室から大爆音を聞けたのは『探偵だったから』だ」

巌窟王「それを犯行に転用しようと思ってもできん」

巌窟王「……ピアニストたる優秀な聴覚を持っているお前でなければ、あのトリックは成立しえないのだよ」

赤松「……被害者が犯人を褒めるってどうなの」

モノクマ「議論の結果が出たようなら、投票タイムに行っちゃってもいいっすか!?」

赤松「そうだね。これ以上話すことは特にはないし」

最原「いや。まだあるはずだよ」

最原「……なんで初回特典を蹴ったの?」

赤松「……」

最原「罪悪感……なんておかしいよね。だってあのときモノクマ以外の全員は巌窟王さんが死んでないことに気付いてたんだ」

巌窟王「我が宝具の力が多少なりとも働いていたのかもしれんな。情報隠蔽、偽情報の開示など、その効果は多岐に渡る」

巌窟王「だが生徒一同にその力は向いていないぞ? よもや気付かなかったなどと言わないだろうな?」

赤松「……私もさ。ちょっとは役に立ちたかったんだ。巌窟王さんみたいに」

最原「えっ。それって……」

モノクマ「投票の結果、クロとなるのは誰なのか」

モノクマ「その結果は、正解なのか不正解なのかーーーッ!」

モノクマ「さあ! どうなんだーーー!?」

赤松楓:十七票

モノクマ「だーいせーいかーーーいっ! 巌窟王さんを殺した今回の事件の犯人は……」

モノクマ「超高校級のピアニスト、赤松楓さんだったのでしたーーーッ!」

百田「くっ……なんでだよ……!」

百田「首謀者を殺したかったっていうのはわかった。実際、俺たちもそのせいで随分苦しめられてるけどよ」

百田「テメェをそこまで駆り立てたものは、一体なんだったんだ?」

王馬「巌窟王ちゃんと最原ちゃんはずっと『殺意』って呼んでたものの正体って、要は『計画性』のことだよね?」

王馬「まあ確かに、相当な殺意に裏打ちされた集中力がないと、あそこまではできなかっただろうけどさ」

王馬「その殺意の源泉がなんだったのか。俺もちょーっと興味あるかな!」

白銀「……赤松さん。答えてよ。じゃないと私たち、何も納得できない……!」

赤松「……」

赤松「ずっと気に入らなかったんだ。急に学園にやってきて、デスロードをあっさり攻略されたときから」

最原「……!」

赤松「巌窟王さんはさ、凄いよね。本当に凄い」

赤松「本当に凄すぎてさ……私、バカなこと考えちゃったんだ」

赤松「『頑張ってきたことを否定された』ってさ」

春川「実際そうでしょ。私たちの頑張りなんて巌窟王の小さじ一杯分の苦労にも満たない」

春川「人間とはほとんど違う存在相手なんだからさ」

赤松「私はそこまで割り切れなくってさ……だから最原くんの計画を持ち掛けられたとき、思ったんだよ」

赤松「私にだって、できることがあるって」

最原「……だから、あんな計画を?」

真宮寺「嫉妬心、ってこと? まあ、わかるけどネ。あの時点までは赤松さんは僕たちの中心だったから」

真宮寺「その立場が突然揺らいだとしたら……多少は動揺するヨ。それは」

巌窟王「すべては俺のせいだ、とでも言うつもりか?」

巌窟王「クハハハハハハ! これは滑稽だな! コロシアイの渦中において、聖女のごとき清らかさを持っていた乙女が!」

巌窟王「よりによって俺の恩讐の炎によって心を、身を焦がされていたというのだから!」

巌窟王「これは傑作だ! なんという悲劇だ! 誰も彼もがお前に同情するだろうよ!」

百田「わかるように言え! 巌窟王!」

巌窟王「ごめんなさい!」ギンッ

茶柱「そ、それだけェ!?」ガビーンッ!

夢野「思わせぶりな長文が一言に纏まってしまったぞ」

白銀「台無しだよ。いろんな情緒が」

星「……本当にそれだけか?」

最原「え?」

星「巌窟王がカメラのフラッシュに誘引された……本当にそれだけだったのかと思ってよ」

星「そこには巌窟王の欲しかったものが間違いなくあった。だからこそトリックが上手く行ったんだぜ?」

最原「……星くん。まさか写真術の本を仕込んだのも赤松さんだって言うつもり?」

星「……可能性はあるのか。ないのか」

最原「ないよ。『トリックの起点が隠し扉』って点と『僕たちの味方でいるために卒業アルバムを作る巌窟王さん』の像が噛み合わない」

最原「あの本は正真正銘の偶然だったはずだ」

モノクマ「……」

最原「……そうだよね、赤松さん」

赤松「流石にそこまで計算できないし……」

赤松「それにさ。私は別に、巌窟王さんを殺したかったわけじゃなくって」

赤松「巌窟王さんを含んだ全員で外に出てさ……」

赤松「みんなで笑いあってさ。それを遠くから眺めて、自分のやったことを永遠に秘密にしてさ……」

赤松「その秘密があれば、みんなとだけじゃなくって、巌窟王さんとも対等に仲良くなれるって思って……」

巌窟王「なんだ。嫉妬心ではないぞ、それは」

赤松「えっ」

巌窟王「誰かに憧れ、誰かに近づこうとするその心は嫉妬心ではなく向上心だ」

巌窟王「……失望したぞ。思ったよりは醜くなかったな、赤松」

赤松「……」

赤松「ははっ。あーあ……なんかもう、完全に負けたって気分だな……」

モノクマ「はいはい! 話も一段落したところで、そろそろやっちゃいましょうか!」

モノクマ「わくわくドキドキのおしおきたーいむ、をね!」

獄原「えっ。お、おしおきって……!」

白銀「あ、赤松さんを処刑するつもり!? じょ、冗談だよね! だって!」

モノクマ「巌窟王さんが生きてる? 扉を開けたのが赤松さんではなく別人?」

モノクマ「いやいや……そんなの言い訳にならないよ!」

モノクマ「だって、巌窟王さんは『間違いなく死亡した』し、実行犯も間違いなく赤松さんだしね!」

モノクマ「過失致死も、この才囚学園では立派な殺人だとカウントするんだ」

モノクマ「なによりも……殺意自体は間違いなく本物だったしね」

百田「やらせるわけねーだろ! 赤松は俺たちが守る!」

茶柱「そうです! 彼女がいなければ、結局転子たちはタイムリミットで死んでいたはずです!」

茶柱「どうせ死んだ身! ならばこの命、惜しくはありません! いや惜しいですけど!」

獄原「ゴン太は紳士を目指しているんだ……ここで立ち上がらなきゃ、紳士じゃない!」

赤松「み、みんな! やめて! そんなことをしてほしかったわけじゃ……!」

巌窟王「ではどういうつもりだったのだ?」

赤松「えっ?」

巌窟王「今まで散々うじうじ言っていたが、結局のところお前に嫉妬心などなかった」

巌窟王「あったのは純粋な殺意。そして、コイツらを守りたいと思う献身だけだ」

巌窟王「俺にはそうとしか見えなかったぞ?」

最原「……うん。なんか、赤松さん。無理して悪ぶってる感じだった!」

最原「だったらもう、僕たちは迷わないよ」

赤松「み、みんな……!」

巌窟王「……クハハ。俺の見たかったものとはズレがあるが、まあいいだろう」

巌窟王「合格だ。才囚学園生徒一同! 故に!」

巌窟王「……下がれ。後はお前たちの得手ではない」

百田「何っ!?」

巌窟王「……」





巌窟王「殺してみろ、モノクマ。できるものならな」

休憩します!

三十秒後

エグイサルレッド「そいっと」バシッ

巌窟王「うわああああああ……」ヒューッ


ドカァァァンッ!


最原「が、巌窟王さーーーんッ!?」

百田「弱ぇーーーッ! あっさり吹っ飛んじまいやがった!」

王馬「まあ現実なんてこんなもんだよね」

モノクマ「それでは、張り切って参りましょう! おしおきターイム!」

赤松「ねえみんな。今回はこんな結果になっちゃったけどさ」

赤松「多分、巌窟王さんがいれば大丈夫だよ」

最原「赤松……さん……!」

赤松「信じてるよ。最原くん。最期くらい帽子を取ってる姿、見たかったな」


GAME OVER

アカマツさんがクロに決まりました。
おしおきを開始します。

ガラガラッ

巌窟王「ぬうううう……! しまった! アンジーを起こすのを忘れた!」バッ

最原「あ、あれっ!? 傷一つない!」

巌窟王「本来サーヴァントに対して神秘性の薄い物理世界の攻撃は効きが薄い!」

巌窟王「そんなことよりアンジーを起こせ!」

巌窟王「そっとな!」ギンッ

百田「すぐ叩き起こすに決まってんだろッ!」ガビーンッ!

茶柱「起きてえええええ! お願い、アンジーさん起きてえええええ!」ガクガク

アンジー「んー……」パチリッ

アンジー「あ、転子ー。ぼんじゅーる」

茶柱「ぼんじゅーる。じゃないですよッ! なんでフランス語!?」

巌窟王「アンジー! 練習の成果をここで試すぞ。ありったけの魔力をよこせ!」

アンジー「いいよー!」

アンジー「……」

アンジー「……渡し方がわからないから、勝手に持ってっていいよー!」キラキラキラ

真宮寺「これダメじゃないかな」

春川「ダメでしょ」

百田「あんまりネガティブなこと言うなって! 俺も不安になってきちゃうだろッ!」

ボォゥッ!

巌窟王「……ふむ……悪くないな」

最原「……あれ。なんかいつもより炎の出力が高いような……」

巌窟王「俺自身も驚いているが、意外とアンジーとの特訓に意味があったようだな」

最原「やっぱり薄々無意味なんじゃないかって思ってたんだね……」

百田「頼む! 巌窟王! 赤松を助けてくれ!」

茶柱「転子たちが助かったのも、全部彼女のお陰なんです! だから……!」

巌窟王「黙っていろ。そして目を離すな」

巌窟王「お前たちに、おおよそこの世のモノとは思えない、恩讐の炎の輝きを見せてやる!」ギンッ

ねこふんじゃった
超高校級のピアニスト 赤松楓処刑執行

赤松「う、あ……っ!」

赤松(く、苦しい……息が……!)

モノクマ「ラストスパートォ!」ランラン

赤松(みんな……!)




ドカァァァンッ!


巌窟王「……来たぞ。モノクマ」

モノクマ「……」

巌窟王「その女を返せ。俺が連れて行く」

モノクマ「懲りないなぁ、キミも」

モノクマ「モノキッド。やっちゃいなさい」

エグイサルブルー「ヘルイェーーーッ! フランス野郎のスムージーを作ってやるぜーー!」ガシャーンッ

モノクマ「……それ以上踏み込んだらエグイサルにうっかり踏みつぶされちゃうかもよ?」

モノクマ「わかったらさっさと後ろに下がって」

ザッ

巌窟王「何か言ったか?」

モノクマ「もういいや。やっちゃって」

エグイサルブルー「内臓を歯磨き粉のチューブみたいに捻り出してやるぜーーーッ!」ウイーーーンッ!

ガシッ

エグイサルブルー「……え。あれ。腕、片手で止められて……あれっ?」

巌窟王「邪魔だ」


ブチィィィィッ!


エグイサルブルー「ええーーーッ!?」

モノクマ「エグイサルの腕が引きちぎられたーーーッ!?」ガビーンッ!

巌窟王「クハハハハハハッ! これがサーヴァントの力だ!」

巌窟王「消え失せろ鉄屑! 虎よ――!」

モノクマ「それ壊したら取り返しつかなくなるぞ! アンジーさんの研究教室未実装とか!」

巌窟王「!」ピタリ

巌窟王「……」


ビュンッ


ドカァァァァンッ!


赤松「……! う、げほっげほっ……うえ……?」

巌窟王「迎えに来たぞ赤松。いい様じゃないか」

赤松「巌窟王、さん……?」

モノクマ「に、逃がさないぞ! エグイサル全員出動だ!」

エグイサルs「おー!」ガシャガシャガシャコンッ!

巌窟王「ふん。何匹揃おうがザコはザコだ……」

巌窟王(……いや、下手に壊して、それを口実にアンジーの研究教室の実装が遅れたり、なかったことになったりしたら面倒だな)

巌窟王「ちィっ。面倒な……!」

巌窟王(思ったよりまずいか? さっきの巨大ロボの腕を止めて引きちぎるコケ脅しの演出のせいで魔力は既に枯渇気味だ)

巌窟王(これを一体も壊さずに包囲網を突破するのは……)

エグイサルレッド「あれ? なにか、凄く困ってない?」

エグイサルピンク「チャンスよ! このままマグロの叩きにしちゃいましょ!」

エグイサルイエロー「モノキッドみたいな醜態を晒すわけにもいかんしのォ!」

巌窟王(調子に乗り過ぎたか……慎重に行かなければ、な)

百田「……巌窟王……赤松……!」

天海「ここで祈るしか、俺たちにできることはないんすか……!」

アンジー「……」

アンジー「……」ギリッ




処刑場

ドクンッ


巌窟王(……ッ! 魔力の供給量が上がった!)

巌窟王(行けるぞ! 腹八分目にも満たないが、これなら!)

巌窟王「赤松! 舌を噛まないように気を付けろ! このまま突破する!」

赤松「えっ?」

巌窟王「宝具、限定解放……」ボォォォッ

エグイサルブルー「うおおおお! お前を潰して名誉挽回だぜーーーッ!」ガシャァァァンッ!

エグイサルレッド「モノキッドー! 死亡フラグバリバリだよーっ!」

巌窟王「虎よ、煌々と燃え盛れ――!」

シュンッ

エグイサルブルー「お?」スカッ

エグイサルブルー「あ、あれ? ヤロー、どこ行きやがった!」キョロキョロ

モノクマ「……」

モノクマ(やば……ここちょっと危なさそうだから離れてよう)←巌窟王が何をしたか見えちゃった




エグイサルブルーのコクピット内

モノキッド「どこだ! どこ行きやがった、あのスカシ野郎ーーー!」

巌窟王「どこだろうな?」

赤松「え……ここ、どこ?」キョロキョロ

モノキッド「……」

モノキッド「……ええーーーッ!?」ガビーンッ

巌窟王「さっきダメージを与えた拍子にコクピットに隙間ができていたぞ? そして潜り込んだ」ニヤァ

モノキッド「あ、そ、そうか。それはよかったな」

モノキッド「それじゃあ俺は失礼するぜ! 優先席でなくとも優先的に席を譲る系男子だからなミーは!」

巌窟王「クハ。そんなタマにはとても見えないぞ?」ガシッ

モノキッド「あ」

巌窟王「燃え尽き果てろ。ここがお前の棺桶だ」ボォウッ

エグイサルブルー「ぐぎゃああああああ!」ボオオオオオッ!

エグイサルレッド「ええーーーッ!?」ガビーンッ

エグイサルイエロー「エグイサルが内側から火ィ吹きよったーーーッ!?」

エグイサルピンク「モノキッド! どうしたのモノキッド! モノキッドーーーッ!」



シュンッ

巌窟王「さて。今のうちに帰るぞ」スタスタ

巌窟王「お前のことを待っている人間がいる」

巌窟王「……短時間で済んでよかったな。人間、十四年も経つと待つことをやめるらしいぞ? 例外もあるが」

赤松「……」

赤松(これが英霊、巌窟王……!)

裁判場

巌窟王「戻ったぞ」

赤松「あ、み、みんな……!」

百田「赤松……ッ!」

茶柱「赤松さーーーんッ!」ダッ

最原(巌窟王さんが赤松さんを連れて来たとき、その周りに人だかりができるのは当たり前のことだった)

最原(……信じる、とは言った。でもまさか、ここまで上手く行くなんて誰も思っていなかった)

巌窟王「さて。処刑から帰ったお前は、帰りを喜ぶ生徒たちに応える義務がある」

巌窟王「俺はそんなものに連れ添う義理はないがな。至極面倒だ」

巌窟王「さあ。アンジー。帰るぞ。お前もきっと疲れただろう」

アンジー「神様」

巌窟王「なんだ?」

アンジー「祝ってー!」キラキラキラ

巌窟王「生還おめでとう赤松楓!」パァーンッ

天海「変わり身早いっすよ!」ガビーンッ!

東条「しかもそのクラッカー、どこから出したのかしら」

入間「……本当にすげぇな巌窟王は」

入間「英霊召喚か……魔術ってヤツも案外バカにできねぇ」

入間「……この閉鎖空間も悪かねぇかもな。よし」

入間「ね、ねえ。巌窟王……俺様の研究教室に来てぇ……その凄いカラダ、もっと見たいのお」ハァハァ

巌窟王「気安く近寄るな。邪気を感じるぞ入間」

獄原「うっうっ……ありがとう巌窟王さん……ゴン太……ゴン太は……!」ポロポロ

巌窟王「……」

巌窟王「む? なんだ? いつの間にか俺が囲まれているな?」

巌窟王「赤松を囲え赤松を」

百田「そうは行くかよ! テメェのことも俺たちは祝うぜ!」

白銀「あ、ありがとう巌窟王さん! 凄いよ、本当に凄いよ!」

白銀「巌窟王さんは本当に無敵なんだね!」

真宮寺「ククク……段々と勝算が見えてきたネ」

王馬「よーっし! みんなで巌窟王ちゃんを胴上げだーーー!」

巌窟王「よせ。やめろ。やめるのだ。よせ」


ワーーッショイッ

ドスンッ


王馬「重っ……」

巌窟王「だから言ったのだ……!」ガタガタ

キーボ「巌窟王さんが落下によって予想外のダメージを負ってますね」

巌窟王「どういう仕組みかはわからんが、生徒からの攻撃のみモロに食らうらしい……」

巌窟王「頼むからこれから先、俺のことを殺そうなどとは思ってくれるなよ?」

モノクマ「へぇ。それはいいことを聞いちゃったな」



才囚学園生徒一同「ッ!」ザワッ

巌窟王「モノクマ。何の用だ?」

モノクマ「何の用だって、酷いなぁ! 処刑を途中で滅茶苦茶にしたのそっちのくせにさ!」

モノクマ「しかも可愛い我が子が殺されちゃったし……およよ」

巌窟王「悲しむ演技はよせ。貴様、真っ先に事態を把握したくせに、避難しかしなかったろう」

モノクマ「だってボクの身が一番大事なんだよ! 子供よりも大事なモノクマより大事なものなんてこの世に存在しないんだ!」

モノクマ「それはさておいて、赤松さんを再度処刑するから、こっちに渡してくれない?」

赤松「……う……!」

最原「やっぱりそういう話になるよね……」

巌窟王「応じる気はないな」

モノクマ「ああ、そう。わかった。仕方ないね」

モノクマ「いいよ。赤松さんは見逃してあげる」

モノクマ「……でも、これで勝ったと思わないでね。オマエラに全員揃った脱出の目なんて万が一にもないし」

モノクマ「何よりも、こんな救出劇は徹頭徹尾無意味なんだからさ」

巌窟王「……負け惜しみにしか聞こえんな」

モノクマ「うぷぷ……せいぜい勝利に酔ってれば? すぐに足元を掬われることになると思うけど」

巌窟王「クハハハハ!」

最原(こうして第一の学級裁判は終わった……)

最原(確かに、事態は何一つとして好転していない。マイナスだったものがゼロに戻っただけだ)

最原(巌窟王さんの力も、未だに戻らない)

最原(だけど……)

赤松「もう一度信じてみる」

最原「えっ?」

赤松「最原くんを……巌窟王さんを……みんなを……!」

赤松「今度こそ地に足の付いた、私にできるやり方で」

最原「赤松さん……」

巌窟王「それでいい。反省会など外に出た後でやればいいのだ」

巌窟王「モノクマ! 貴様は言った! 全員揃っての脱出の目などありえないと!」

巌窟王「ならば俺のやることは一つだけだ! その傲慢さを必ず圧し折り、叩き潰し、地に引きずり降ろして泥を付け……!」

巌窟王「絶望の淵に叩き込んでやる!」

百田「わかるように言え! 巌窟王!」

巌窟王「つまりこういうことだ! 全員揃って脱出する! それが! この場における俺の理念だ!」

最原「……!」

巌窟王「……まあ個人的な目標は他にあるが……それはいい。追い追いな」チラッ

アンジー「んー? どしたの神様。なにかアンジーにしてほしいことがあるのかー?」

巌窟王「……やはり一朝一夕ではどうにもなりそうにないな、お前は」ナデナデ

アンジー「にゃははー! くすぐったいよー!」

巌窟王「さて。帰るぞ。特にアンジーは疲れただろうからな。早く休ませたい」

百田「お、そうだな! アンジーも功労者だ! ゆっくり休ませねぇと!」

最原「……ふう」



最原(みんなが巌窟王さんとアンジーさんに続いて外に出ていく)

最原(それについて行こうと歩みを進めたとき)

茶柱「最原さん。少しいいですか?」

最原「ん?」



最原(意外な人物に呼び止められた)

茶柱「あんまり長くなると怪しまれますので簡潔に」

茶柱「……天海さんはどうして図書室に行こうとしたんでしょうか」

最原「それは、さっき天海くん本人が……」

茶柱「えっとですね。大爆音騒ぎのとき、天海さんは片手に何故かモノパッドを持っていたんですよ」

茶柱「……本当に理由がわからないんですけど、気になって仕方がなくって」

最原「……」

茶柱「……うう。男死と二人きりで話しているだけで寒気がしてきます。それじゃあ転子もこれで」


スタスタスタ


最原(モノパッドを……持ってた?)

最原(校則はあそこに書かれているから生徒なら確かに見ないといけないけど)

最原(そんな頻繁に見なきゃいけない項目なんてないはずなのに……)

最原「……」

最原「後で考えよう」

謎の場所

??「……まさかあんなガバい計画が上手く行くなんて思わなかったなぁ」

??「ま、いいか。これはこれで面白いし」

??「最後の最後に全部ひっくり返す準備は既に整ってるしね」

??「……うぷぷ……うぷぷぷぷぷ……」

第一章

私と僕(と俺!)の学級裁判

END


残り人数

十六人+一騎


TO BE CONTINUED



巌窟王のクラッカーを手に入れました!

休憩します!

最原(誰一人として死なずに学級裁判とタイムリミットを乗り切った)

最原(そのあまりにも都合の良すぎる結末に、僕たちはつい楽観してしまったのかもしれない)

最原(僕たちは、勘違いをしてしまっていたんだ)

最原(巌窟王さんは希望だけど、僕たちと、この空間に希望はない)

最原(……あの最悪の事件が起こるまで、ずっと忘れていたんだ)


アンジーの私室

巌窟王(さて。そろそろBBに新しい学級日誌を送らねばな……)ガリガリ

巌窟王(後は誤字脱字のチェックを残すのみ。できるだけ早めにしなければ)

巌窟王「……」

巌窟王「ふむ。送信だけでなく受信もできないものか。何か物資でもあれば違うのだが……」

巌窟王「メールだけはしておくか」メルメル

アンジー「……すぴー」スヤァ

第二章
その限りなく地獄に近い天国に光は差すか

朝 食堂

東条「本当にいつも通りの食事でいいの? せっかくリミットを乗り切ったのだから、少しくらい豪華にしてもいいと思うのだけど」

赤松「あはは……今更だけど、独断で凶行に及んだことが恥ずかしいしさ……」

赤松「それに、巌窟王さんなら『脱出の目途も立っていないというのに祝杯とは、呑気なものだな』とか笑顔で言いそうだし」

最原「テンションが高いけど字面だけだと完全に嫌味なんだよね、巌窟王さんの言動」

百田「その巌窟王なんだけどよ。今日は食堂に来てねーのか? アンジー」

アンジー「あー! なんかねー! 用事が済んだらすぐ来るから食事の準備だけはしといてくれって言ってたよー!」

東条「用事……? どこかに向かったの?」

アンジー「いや、アンジーの部屋にいるけど」

春川「!」ピクッ

最原(なんでアンジーさんの部屋に……?)

東条「……何なら届けてきましょうか?」

アンジー「あー。そっちの方がいいかもねー。じゃあ頼んだよ斬美ー!」

アンジーの私室

BB『え? サーヴァントなのに普通に生徒に殺される?』

BB『いや殺されてる時点で普通じゃないんですけど、サーヴァントなのに普通に攻撃が利くのは確かにおかしいですね』

巌窟王「どうにか調査できないか?」

BB『んー。こっちもこっちで結構忙しいですしねー。旅行サーヴァントのみなさんのサポートとか』

巌窟王「そうか。なら自力でやる。元からそこに期待などしていないさ」

BB『む。なんか嫌味な言い方……』

巌窟王「それとは別に頼みたいことがあるのだが。物資をこちらに転送できないか?」

BB『……その程度なら、まあ。できなくもない、かな?』

BB『片手間にちょっと頑張ってみますね』

巌窟王「頼む」


コンコンッ


巌窟王「……通信を切る。せいぜい頑張るといい。どちらもな」

BB『はーいはいっ。言われなくともー。この手違いの責任くらい取りますってー』

プツンッ


巌窟王「……」ガチャリンコッ

東条「アンジーさんに頼まれて、食事を届けに来たわ」

巌窟王「ふむ。ご苦労なことだな。チップをはずもうか?」

東条「結構よ。食器は後で食堂まで届けてちょうだい。それじゃあ」スタスタ

巌窟王「クハハ。前回はラタトゥイユだったが、さて今日の食事は……」


激辛麻婆豆腐「」ドジャァァァァンッ!


巌窟王「……」

巌窟王「嫌われているのだろうか……」ズーン

カルデア

BB「さーてとっ。ひとまず物資の転送のテストをしてみますか。基礎理論の構築はもう終わってるから、後はもう簡単なはずです!」

BB「うーん。まずそこまで大きくなくって手頃な……アレですね。アレ」

BB「アマデウスさーーーん! アレ貸してくださーい!」スタスタ




才囚学園 図書室

天海「……」

天海(確かに、この無力感には耐え難いものがあるっす)

天海(前回の学級裁判では、入間さんを犯人扱いしたり、東条さんに犯人扱いされたり……!)

天海(くそ……! 才能がわからないとは言え、醜態ばかり晒してるっす!)

天海(俺も……俺にも最原くんのような才能があれば……!)

シュンッ

コンッ

天海「いてっ」

天海「……ん? あれ。何かが降ってきた……? なんで?」

天海「……なんすか、これ。仮面……?」

アマデウスの仮面「」バァーーーンッ!

昼あたり 中庭

巌窟王「さあ! 訓練の有用性は実証されている! アンジー! 続きをやるぞ!」

アンジー「おー!」

巌窟王「今回は特別ゲストも呼んでいる! 来い! 探偵!」ギンッ

最原「……なんで僕まで……?」

巌窟王「前回の学級裁判において、お前は重要な何かに気付いたようだったからな。その証言を今! ここでしろ!」

最原「え、えーと。わかった」

最原「といってもそんなに重要なことなのかわからないんだけど」

最原「……巌窟王さんが襲撃している途中で、ちょっと手こずってたときさ」

最原「アンジーさんがそれを見て、一瞬だけど確かに歯切りしたんだ」

最原「その瞬間から急に巌窟王さんの動きがよくなったんだけど……」

巌窟王「これだ! これこそが重要なのだアンジー! お前、あのとき何を考えていた?」

アンジー「……」

アンジー「にゃははー! 忘れちゃったよー!」

巌窟王「そうか! 忘れたなら仕方ないな!」ギンッ

巌窟王「……」

巌窟王「最原。推測してみろ」

最原「えっ」

巌窟王「もしもわからないなどと言ったときは……わかるな?」ゴゴゴゴゴ

最原「なんで僕にだけ厳しいの!?」ガビーンッ

最原「え、えーと、多分、感情の並みによって魔力の供給量に差が出てるんじゃないかな」

最原「もしもこの推測が当たっていたとしたら、実はアンジーさんはそこまで魔術師として未熟ではないのかも」

巌窟王「ほほう?」

最原「例えばさ。僕たち人間って、脳や声帯に何の異常もなかったとしても、精神の不調で容易く声が出なくなるってことがあるでしょ?」

最原「それと同じように、魔術回路や経験の問題じゃなくって、精神の方の問題でアンジーさんは全力を出せていない……」

最原「その枷があの一瞬だけ外れた。だからこそ巌窟王さんの動きが一瞬だけ劇的に良くなったんだ」

最原「とか……」

巌窟王「……」ゴゴゴゴゴゴ

最原「思ったり、したん、だけど……」ガタガタ

巌窟王「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

巌窟王「そういうこともあるかもしれんな!」ギンッ

最原(じゃあなんで無駄に威圧したんだよ! 怖いよ!)ガビーンッ!

巌窟王「一瞬だけ外れるような枷なら、そこまで重要なものでもあるまい」

巌窟王「気長に訓練しながら、アンジーのことを知っていけばいつかはたどり着けるだろう」ナデナデ

アンジー「にゃははー」

最原(めっちゃ撫でてる……)

巌窟王「さあ! 始めるぞアンジー! そして最原!」

巌窟王「訓練を開始する!」

アンジー「おー!」

最原「ナチュラルに巻き込まれたッ!?」ガビーンッ!



??「ふっ……気長に? ちゃんちゃらおかしいっすね」

??「この空間で、そんな悠長なことを果たして言ってられるんすか?」

巌窟王「何ィ?」

??「とーーーうっ!」


シュタッ


最原(草陰から出てきたのは……まあ声の時点でわかってたけど天海くんだった)

天海?「まだっすよ……まだあなたたちはベストを尽くしていないはずっす!」

天海?「さあ! 新兵訓練はもう終わりっす! 俺と一緒に新しい扉を開くとき!」ジャァァァンッ!

巌窟王「……」

アンジー「……」

最原「……」

最原(なんだかよくわからない仮面を付けている……天海くんだった……)

巌窟王「十七人目の……高校生だと……!?」

アンジー「アンジー以外にも閉じ込められた高校生が……!?」

最原「!?」ガビーンッ!

天海(ふっ。完璧っすね。この仮面の効果は劇的っす)キラーンッ

休憩します!

最原「え、い、いや。あれどう見ても天っ……」

天海?「そう! 俺こそがこの学園に閉じ込められた十七人目の高校生!」

天海?「キミたちを導くために現れたミステリアスボーイ!」

最原「いやだからキミ、天っ……」

天海?「才能不明! 本名不明! 素顔不明! すべてのミステリアスの生みの親ァァァァァァッッッ!!」

最原「だからキミって絶対に天海っ……!」

アマデウス斎藤「超高校級のミステリアス! アマデウス斎藤! ここに推参!」ドジャァァァンッ!

アマデウス斎藤「イエエエエエエエエエエエエエエエエイッッッ!!」ドカァァァァァンッ!

最原「……」

最原(救いようがないほどダサイーーーッ!)ガビーンッ!

巌窟王「アマデウス斎藤……!」

アンジー「気を付けてー、神様。敵か味方かまだわからないからねー」ゴクリ

最原(一丁前の注意力持ってるのに、なんで気付かないのかなぁ?)

アマデウス斎藤「この学園は……狂気に満ちているっす!」

アマデウス斎藤「いつ誰が死ぬかわからない緊張感と、一歩間違えれば花開く疑心暗鬼の畑」

アマデウス斎藤「そんな中、いつかわかるはずなんて希望的観測を持つことが、果たして正解なんすかね?」

巌窟王「ふん。いきなり現れて随分な言い草だな」

巌窟王「ならば問おう! アマデウス斎藤とやら! 貴様に一体どんな案があると言うのか!」

アマデウス斎藤「思い出しライトっすよ」

巌窟王「……思い出しライト?」

最原「あれ。アンジーさん。巌窟王さんに言ってなかったの?」

アンジー「だって明らかに神様とは関係ないと思って」

最原「あー……確かにね……」

巌窟王「む?」

アマデウス斎藤「思い出しライトのこと、最初から説明するっすよ」


かくかくしかじかしかくいさいとう

巌窟王「なるほど。生徒たちは記憶を奪われていた……そういうことか」

アンジー「でも神様には関係ないでしょ? 何も忘れないんだし」

最原「何より、明らかに別の世界から来てるしね。具体的にどこからとかはわからないけど、それだけはわかるよ」

アマデウス斎藤「もしも! 仮に! 他の思い出しライトを俺たちが見つけることができたなら!」

アマデウス斎藤「または! 思い出しライトによらずに記憶を取り戻すことができたなら!」

アマデウス斎藤「それはアンジーさんの中にある、何らかの欠落を補うカギになる可能性が高いっす!」

巌窟王「ふむ……」

最原「でも思い出しライトって、なんかあからさまな宝箱に入ってたし、管理は全部モノクマがやっているんじゃないかな」

最原「探せば見つかるって類のものだとは、とても思えないんだけど」

アマデウス斎藤「そこで俺は考えたっす! サーヴァントとマスターは不思議な絆で繋がっている!」

アマデウス斎藤「ときに! その絆はスキルを共有化することすらあるとか!」

天海(まあ図書室で読んだ知識の受け売りっすけど)

アマデウス斎藤「つまりこの閉鎖空間内で唯一、思い出しライトによらない記憶の復元を行うことができるとしたら」

巌窟王「我がマスターの夜長アンジーだけ……というわけか」

アマデウス斎藤「イィィィグザグトリィィィアッ!」ドカァァァンッ

最原(さっきから不自然にテンション高いなぁ)

アマデウス斎藤「と、いうわけで。お嬢さん、ちょっとこっちにおいでなさいっす」

アンジー「はーい!」

アマデウス斎藤「グンナイッ!」ガンッ

アンジー「ぐへあ」バタリッ

最原「アンジーさんが金属バットで殴られて気絶したーーーッ!?」ガビーンッ!

巌窟王「貴様……!」

アマデウス斎藤「こっちもグンナイッ!」ガンッ

巌窟王「」バタリッ

最原「巌窟王さんもーーーッ!」

アマデウス斎藤「ついでにグンナイッ!」ガンッ!

最原「何故ぶっ」バタリッ

アマデウス斎藤「……」

アマデウス斎藤「サーヴァントとマスターの絆は、ときに夢で繋がる」

アマデウス斎藤「ハブアナイスドリーム。三人とも」スタスタスタ

スチャ

天海「……俺にはこのくらいしかできないっすからね」

三人「」チーン

休憩します!
そろそろAP消費しないと

???「ひとつ、昔話をしてやろう」

???「他愛のない話だ。だが世界で最高の復讐劇であると宣う者もいる」

最原「……どこからか、声が……?」ムクリ

最原「……薄暗いな。なんだろ、ここ」

最原「石造りの……監獄?」

最原(……声のところにいるのは、アンジーさんと巌窟王さん……?)

???「ある海の傍らに愚かな男がいた」

???「誠実な男だった。この世が邪悪に満ちているとは知らぬ男だった」

アンジー「……」

???「故に男は罠へと落とされた。無実の罪によってシャトー・ディフに囚われて」

アンジー「神様」

???「十四年。監獄の日々を乗り越えて、監獄塔から生還した男は復讐鬼となった」

アンジー「神様……」

アンジー「……こっちを見て話してよ」

最原「……え?」

最原(……そうだ。なにかおかしいと思ったら、巌窟王さんはアンジーさんの方を向いているだけだ)

最原(見ていない。なにかアンジーさんの位置に、本来なら別の人物がいるべきのような違和感がある)

最原(いつも巌窟王さんが見せているような甘さの『質』が決定的に違う)

最原(それ以前に……)

アンジー「神様……アンジーはどうしたらいいの……?」

最原「……」

最原(アンジーさんと会話していない)

最原(あれは録画だ。ただの記憶を再生したもの)

最原(それも、目論見通りに行ってない。ただの巌窟王さんの記憶だ)

最原「……」

最原「いや、なんで僕まで見てるんだよ、これを!」ガビーンッ!

アンジー「あれ? 終一?」

最原(明らかに巻き込まれたッ! しかも特に何の伏線もなく無意味に!)

最原「アンジーさん! これは――!」



ザザザーッ!



アンジー「――!」

最原「――!」


最原(そこから先のことを僕は覚えていない)

最原(目覚めたときに、記憶を破損してしまったのかもしれない)

最原(ただ、それが本当に必要になったときには思い出すだろう)

最原(……僕たちは巌窟王さんの記憶を追体験した)

百田「おい最原。こんなところで寝てたら風邪ひくぞ」

最原「……」

最原「……今、何時くらい?」

百田「十八時くらいだな」

最原(結構長い時間気絶してたな。頭がまだガンガンするけど)

最原(巌窟王さんとアンジーさんはもう消えてるか……)

百田「しかしお前、なんだって寝てるときまで帽子つけてんだよ」

最原「これは……もう大した意味はないんだけど」

最原(真実から目を逸らさない。前向きに生きるって巌窟王さんに誓ったし)

最原(赤松さんの言う通り、食事時や屋内にいるときくらいには外した方がいいかも、なんだけど)

最原「……」

最原「帽子の意味が変わったんだ」

百田「ん? んー。よくわかんねーが、そうか」

翌日

アマデウス斎藤「はーーーっはっはっはっはっは!」

アマデウス斎藤「アマデウス斎藤提供の強化クエストはどうでしたか!?」

最原(また来てる!)←また呼ばれた

巌窟王「……奇妙なことなのだが……」

巌窟王「確かに出力が多少は上がった」ボォゥッ!

最原「えっ!? 嘘ォ!?」ガビーンッ

アマデウス斎藤「ふっ……満足っす。キミたちの成長を見れたことが、ね」パチーンッ

アマデウス斎藤「でもまだまだこんなもんじゃ終わらないっすよ!」

アマデウス斎藤「さあ! これからもレッツ! ダンシンッ!」

アンジー「踊るー!」

巌窟王「クハハハハハハ!」

最原「訓練はァ!?」ガビーンッ!



翌日も翌々日もアマデウス斎藤が来た。あと何故か最原は毎回巻き込まれた

休憩します!

とある朝 最原の私室

最原「……ふあーあ……また巌窟王さんの訓練に付き合わされるのかなー……」

最原「ん? なんだろ、これ。モノクマーズ……パッド……?」

最原「……」ポチリッ


百田解斗の動機ビデオ「」ジャジャーンッ

最原「え……?」



アンジーの私室

アンジー「うーん……おはよう神様ー」

アンジー「ん? なんか部屋がコゲ臭くない?」

巌窟王「気にするな! お前には関係のないことだからな!」ギンッ

巌窟王(確かモノパッドの破壊は校則で禁止されていたが……モノクマーズパッドについての記述は一切なかったから問題あるまい)

巌窟王(裏庭に残骸を埋めるか)

巌窟王「さて。俺は用がある。アマデウス斎藤には少し遅れると言っておけ」ガチャリンコ

アンジー「はーい!」

寄宿舎周辺

最原「大変だ! 今すぐ百田くんを探さないと!」ダッ

最原「ん? あれ。巌窟王さん?」

巌窟王「……」セッセッ

最原「え……そこで何してるの?」

最原「あれ。もしかして近くに落ちてるその、なんかブスブス言ってる残骸って……」

巌窟王「なんのことだ? 知らんな、モノクマーズパッドなど」ザッザッ

最原「こ、壊したの!? 校則は!?」

巌窟王「モノクマーズパッドだ。モノパッドならともかくとして、コレは問題あるまい」ウメルウメル

巌窟王「……あと最原。お前は何も見なかった。そうだな?」

最原「ええーーーッ!?」ガビーンッ!

数分後 食堂

最原(どうも、それぞれの大切な人が映った動機となるビデオが、それぞれの私室に入れ替えられた状態で配られていたらしい)

最原(……たった一人の例外を除いて)

赤松「え、えっと……私のモノクマーズパッドだけは、私の動機ビデオだったんだけど」

最原「えっ」

春川「……」

春川「それってさ。入れ替えられた状態で配られてるんじゃなくって、単純にランダムに配ってるんじゃないの?」

春川「だとしたら……」

真宮寺「僕たちが気付いていないだけで、十六人の中に自分の動機ビデオを持っている人間が確率上はもっと存在するかもしれない」

真宮寺「そういうことになるネ」

アンジー「え? なになに? さっきからみんなが何を話してるのかサッパリだよー!」

キーボ「は? 何って……動機ビデオのことですよ?」

巌窟王「……」シラー

最原「……」ズーン

星「……おい。十六人の中に、だと? 巌窟王はカウントしなくてもいいのか?」

最原「ええと、彼の場合はこの学園に来たのは例外でしょ? そもそも部屋に配られているんだから、パッドを配るべき場所が……」

最原「あれ」

最原(そうだ。巌窟王さんには私室がない。じゃああのモノパッドをどこで手に入れたんだ?)

最原(……)

最原(そういえば、そもそも巌窟王さんって夜はどこで眠ってたんだ?)

最原(……まさか……)ダラダラダラ

巌窟王「余計なことを言ったら……わかるな?」コソッ

最原「」

星「?」

巌窟王「俺には関係のない話だ。ここは席を外した方がいいかもしれないな」

巌窟王「そうだ。アンジー」

巌窟王「……」ゴニョゴニョゴニョ

アンジー「……」

アンジー「アンジー、ハ、ランタロウ、ノ、動機ビデオ、ヲ、手ニ入レテタ」カタコト

アンジー「スッカリ、ワスレテタ、ヨ」カタコト

最原(言わされてる感しかない!)ガビーンッ!

天海「えっ。俺の……?」

天海「そ、そこには何が映ってたんすか!? 俺の才能に関して何かわかったりは……!」

王馬「おーっと! 天海ちゃんストップストップ!」

王馬「これ以上突っ込んだらダメだよー。モノクマの思うつぼだよー?」

天海「ぐ……!」

東条「……私の動機ビデオも、私のものだったわ」

赤松「えっ」

東条「……だから、あらかじめ言っておくわね」

東条「アレは絶対に見るべきじゃないわ」

赤松「……う、うん。気分が良くなるものじゃないから……」

赤松「それにあのビデオって……ううん、なんでもない」

百田「他に自分の動機ビデオを配られたヤツはいねーのか?」


シーン


百田「……そうか。それならこの話はここで終いだな」

王馬「え? 嘘吐いてる人がいるかもしれないから、誰がどのパッドを持っているかくらいは確認した方がいいんじゃない?」

百田「しめぇだ! これ以上は状況が悪化するだけだぜ!」

王馬「ふぅーん」

最原「……?」

最原「赤松さん。言いたくなかったら別にいいんだけどさ。さっき何を言いかけたの?」

赤松「……」

赤松「あのビデオって多分……思い出しライトの効果もあるから、見ない方がいいと思う」



ギュンッ!


巌窟王「アンジーの動機ビデオを持っている者は今すぐ挙手しろ! そして動機ビデオをよこせ!」

巌窟王「さもなくば頭から湖沼をかけてやる! 残酷になァ!」ギンッ

最原「アンジーさんが絡んだ途端にコレだよ!」ガビーンッ

真宮寺「しかもおしおきが小学生のイタズラレベルだヨ」

巌窟王「最原! お前ならわかるだろう! アンジーの記憶は脱出に必須だ! ヤツもそう言っていただろう!」

巌窟王「手段を選んでいる場合か!?」

最原「いやまあ確かにそうだけど……!」

巌窟王「よもやお前か!? お前ではないだろうな!? いや、お前だ! お前が持っているのだな!?」ガクガク

最原「酔う! 酔うからやめて! そんなに激しく揺すらないで!」

入間「ああん、朝っぱらから激しいのなんて、最高ォ……!」





夢野「沈まれぇーーーいッ!」

最原&巌窟王「!」ピタリッ

夢野「この緊張状態じゃ! 巌窟王! 出せと言われて素直に出すわけがないじゃろう!」

夢野「それとも何か? 巌窟王はアンジーを人殺しに仕立て上げたいのか?」

巌窟王「……」

星「ふん。意外なヤツが声を上げたもんだな」

星「だがよ。別に動機ビデオを見たからって、すぐに冷静さを失うわけじゃねーだろう」

星「赤松と東条は確かにショックは受けただろうが、な」

夢野「じゃが危険すぎる賭けになることだけは確かじゃ。なので……!」

夢野「この空間には、今すぐに笑顔が必要だとウチは考えるぞ!」

夢野「笑顔は心を癒す。癒しがあれば、まだ立ち上がれる!」

夢野「そうじゃろ!?」

最原「あれ? なんか話が変な方向に……」

夢野「巌窟王! アンジーを借りるぞ! その他、希望者はウチについて来い!」

夢野「ウチのマジカルショーで、モノクマの作ったこのギスギス空気を粉砕する!」

夢野「これがッ! ウチの恩讐の牙じゃ!」ギンッ!

最原(なんか明らかに巌窟王さんの影響を受けて、テンションが変になってるーーーッ!)ガビーンッ!

最原(笑顔が悪人のものだ!)

巌窟王「……」

巌窟王「く、クハ……」

巌窟王「クハハハハハハハハ! いいだろう! やってみるがいい!」

巌窟王「お前の恩讐の牙とやらがどこまで通用するのか、この俺が見届けてやろうではないか……!」ギンッ

最原(すんごい乗り気になってるしッ!)ガビーンッ!

数十分後

最原「……結構な人数が夢野さんに付いてっちゃったね」

巌窟王「アンジーがいなければ訓練ができん。今日のところは訓練はなしだな」

巌窟王「アマデウス斎藤にその旨、伝える方法があるといいのだが……」

最原「……多分どこかから見てるから伝える必要はないんじゃないかな」

最原(というか天海くんも夢野さんの手伝いに行っちゃったし……)

巌窟王「さて。俺は……」カサリッ

最原(ん? 巌窟王さんのポケットから、紙が折れたみたいな音が……)

巌窟王「……適当に羽を伸ばすとしよう。子供のお守りなど、俺の得手ではない」

巌窟王「久しぶりにあの娘から解放されて清々としたしな」スタスタ

最原「……?」

休憩します!

BB?『え? 女性にプレゼントするならどんなものがいいか、ですか?』

BB?『うーん、そうですねー。巌窟王さんからなら大体の女性は喜ぶと思いますけど』

BB?『お顔立ちは結構端正ですしね。綺麗な花でも、美味しいお菓子でも、ちょっとしたアクセサリーでも嬉しいと思いますよ?』

BB?『何よりも、あなたは私にそれを問いました。少しでも喜んでもらいたいという、その心が一番重要です』

BB?『……え? なに? お前本当にBBか? ですって?』

BB?『声色が白い? 不必要に清純すぎる。邪悪さはどこ行った……?』

BB?『……もう。そこまで言ったらBBさんに失礼ですよ。あの子だってそこまで悪い子じゃ……』

BB?『あっ』


ブツンッ ツーツー


巌窟王「……」

巌窟王「絶対にパールヴァティー……だったな……」

巌窟王「……倉庫に行ってプレゼントを何かしら見繕うか」

巌窟王「そろそろ俺の食事を改善してもらわねば……朝から麻婆豆腐はいくらなんでもないだろう」

巌窟王「何らかの理由で嫌われているとしか思えん」

巌窟王「……いや、この世のすべての悪を体現せんとするアヴェンジャー故に、人々に嫌われるのはなんともないが」

巌窟王「あの女だけは敵に回すのは得策ではないからな。食事的な意味で」

巌窟王「なにかないものか……」スタスタ



体育館


夢野「かーっかっかっか! これじゃ! これこそが! 我が魔法の最終進化形態!」

夢野「やはりアンジーに協力を頼んだのは間違いではなかったぞ!」

アンジー「にゃははー! お褒めに預かり光栄だよー!」

天海「確かに美術的な観点から見ても、このステージは中々のモンっすね」

天海「あとは適当なBGMでもあればいいんすけど」

赤松「あ、私の研究教室から持ってくる?」

天海(……)

天海(やっぱみんないいヤツっすね。こんな素性のわからない俺を輪に入れてくれるんすから)

天海(いつかアマデウス斎藤ではない自分自身、天海蘭太郎のことも誇れたらいいんすけど……)

ザクッザクッ

最原(うーん……やっぱり燃やすのは、なんとなく良くない気がするんだよな)

最原(見る見ないに関しては、まだ決めることはできないけど)

最原(一応掘り返して、入間さんに修理を頼もうかな……重要な部分が残ってたら見れるかもしれないし……)

最原(……)

最原「動機ビデオ、か……もうあんなこと起こらない、よな?」




裏庭周辺

獄原「え……王馬くん。今、なんて言ったの?」

王馬「うん! バカなゴン太のためにもう一度言うね!」

王馬「みんながゴン太の研究教室の虫さんたちを殺したがってるんだよ!」キラキラキラ

獄原「ええっ!? そ、そんな! 酷いよ!」

王馬「そうだよね! 酷いよね! だから俺に、いい考えがあるんだ……」ニヤァ

休憩します!

超高校級の発明家の研究教室

入間「あー……? ダメだな。大雑把な理屈はわかるが、何がどうなってそうなるのかサッパリわっかんねー」

入間「英霊召喚……ただのテレポーテーションってわけじゃねーしな」

入間「おそらく魔法陣やアンジーの詠唱がどこか別の空間……大雑把に言えば集合的無意識にアクセスして」

入間「んでもって、そこに蓄えられた情報を基に英霊を呼び出したんだと思うんだが……」

入間「情報がどうやって血や肉、ついでに服になるんだっつの。情報熱力学が数百年進んでも絶対に再現不可能だぞオイ……」

コンコンッ

最原「入間さん? いる? ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

入間「確かに根本的に考えれば、この世の万物を構成する一番の下敷きは『概念』と言う名の情報だが……」

入間「その概念を自由自在に操ることなんて人間にできっこねー。ていうかこの世のどんな存在にもできてたまるか……」ブツブツ

入間「それに情報がそれ単体でエネルギーを持つっつってもエネルギー=質量×光速度の二乗……」

入間「言い換えるとエネルギーを物質に変えるためには信じられない莫大な量の……」

最原「入間さん! いーるーまーさーん!」

入間「……」

入間「ぷぎゃあ!? だ、ダダダダサイ原! いつからそこにいやがった!?」ガビーンッ!

最原「結構前からいたけど……」

入間「な、何の用だ? ハッ! 二人きりの密室……何も起こらないはずもなく……!?」

入間「まさか俺様をブチ犯しに来たのか!?」ガビーンッ!

最原「そんなわけないだろッ!」

入間「ひいいいい。じゃあなんだよう……ハッ! 二人きりの密室。そして後に残ったのは俺様の死体……」

入間「お、俺様を殺しに来やがったのか!?」ガビーンッ!

最原「そうでもないよ! ほら、これ!」

入間「……なんだ、そのガラクタ」

最原「多分、燃やされたけど動機ビデオの入ってるモノクマーズパッドだと思うんだ」

最原「これを僕が『偶然に』見つけてさ。入間さんなら修復できないかなって」

入間「ざっけんな。なんで俺様がそんなことしなきゃなんねーんだよ」

入間「……と、普段なら言うところだが、さっきの赤松の発言を聞いてみた限り、俺様にメリットがないわけじゃねーな」

最原「え?」

入間「……貸せ。やったらァ。ただし交換条件がある」スタスタスタ

最原(入間さんは僕の方にズカズカと歩み寄り……)

ガンッ

最原(僕の傍の壁に乱暴に足を叩きつけて言った)

入間「……この仕事が終わるまで外に出るな。それが条件だ」

最原「え」

入間「何故? とかどうして? なんざ訊くなよ。テメェに許された返答はYESかNOかの二択のみだ」

最原「……い、イエス」

入間「いいぜ。取引成立だ。やってやらァ」ヒョイッ

最原(あ、残骸を持ってかれた……)

入間「そうだ。条件を追加だ。『外から誰も入ってこないこと』」

最原「……え?」

入間「研究教室のドアの近くに、俺様が自作したストッパーがある。内側から起動させれば誰も入ってこねぇ」

入間「赤いボタンがあるだろ? 閉めるのマークがあるはずだ」

最原「ああ、これ……」

最原(……この閉めるのマーク、何をモチーフにしてるのかは聞かないでおこう)ポチリッ

ガシャァァアンッ!

入間「じゃ、始めっかー。ダサイ原。そこら辺でおったってるなり、座って俺様を視姦するなり好きにしてていいぜ」

入間「もちろん、俺様の邪魔をした場合も取引はナシだけどな」

最原「……?」

最原(なんだ? 入間さんは何を考えてる?)

一方そのころ 外

獄原「みんなに虫さんの良さをわかってもらうッ!」ドォォォォンッ!

夢野「ぐぎゃああああああああ!」

アンジー「秘密子ーーーッ!」

獄原「ついでにアンジーさんも確保ッ!」バァァァンッ!

アンジー「がっはーーーッ!?」

獄原「すぐに研究教室に連行!」シュババババッ




百田(やべぇ……やべぇよ……)ガタガタ

天海(逃げ切ってやるっす……絶対に!)

獄原「赤松さん確保!」シュババババッ

赤松「いやあああああああ!」


五分後

獄原「真宮寺くんとキーボくんを確保! キーボくん重ッ! いけどまあイケる!」シュババババッ

真宮寺「あー」

キーボ「重くないです! 重くないですよ!」

真宮寺「女子みたいな抗議だネ」


十分後

獄原「茶柱さん確保……星くんは……逃げられちゃったか」

茶柱「ああああああああ! 我魂魄百万回生まれ変わってもおおお!」

茶柱「星さんッ! 恨み晴らしますからねーーーッ!」

星(……やれやれだぜ)

十五分後

獄原「よーーーっし! 白銀さんも捕まえた!」

白銀「きゃあああああああああああ!?」

獄原「ついでにそこにいる天海くんも!」

アマデウス斎藤「え? 俺のことっすか?」

獄原「……え? 誰?」

アマデウス斎藤「初めまして。アマデウス斎藤っす」

獄原「あ、どうもこちらこそ」

白銀「へぇー。天海くんに似てるなー」

獄原「人違いしてごめんなさい! じゃあ白銀さん! 行こうか」シュババババッ!

白銀「ああああああああああ……!」

アマデウス斎藤「危なかったっす」フー

王馬「こうしてゴン太の研究教室には、ぞくぞくと生徒たちが集まってくるのでした」

王馬「にしし……さあて。お楽しみ会、そろそろ始めちゃおっかなー」



入間の研究教室

最原「……」

最原(気のせいかな。なんか外が騒がしかったような……?)

最原(まあ、いいか)


倉庫内

巌窟王「……」

巌窟王「……あまり悩むのも考え物だな。これにするか」

休憩します!

午後九時

最原「……」

最原「まだ外に出ちゃダメ?」

入間「ダメに決まってんだろ。メシならそこに倉庫から持ってきた保存食あるから適当に持ってけ」

最原「……」

最原「いい加減教えてくれないかな? 僕と一緒に閉じこもって何のつもり?」

入間「……タイミングを計ってただけだっつの」

入間「テメェ、最近あの褐色ド貧乳とよくつるんでたろ?」

最原「なんか、いつの間にかだけどね」

入間「だからよ。ちょこーっとアイツから血液抜き取れないかって思ってよ」

最原「え?」

入間「あのな。テメェ、なんとも思わなかったのか?」

入間「魔術回路……サーヴァントへの魔力供給……んなもん普通の人間が日常的にやるもんだと思うか?」

入間「それをやっている内に、アイツの身体に何らかの変化が起こっているかも、とか考えなかったのかよ」

最原(……)

最原(まったく考えてなかった。全然平気そうだったから)

最原(でもそうか。普段使わない……それもまともな理から離れた業を使っていれば、何か不具合が起こってもおかしくない、か?)

入間「今の俺様の興味の対象は主に巌窟王だが、次に興味があるのはアンジーだ」

入間「健康診断をするついでになんとかヤツの身体機能について解析してぇ」

入間「っつーわけで、なんとかヤツから血液を採ってこれねぇかと思ってよ」

入間「……つまりこれが取引だ。俺様はヤツを解析したい。ヤツは自分の体の変化を知ることができる」

入間「ギブ&テイクはこれ以上ないくらい成立してんだろ? 既婚者同士のセフレのような完璧な関係性だ」

最原「それちょっとしたきっかけで泥沼になる関係ナンバーワンだと思うけど……」

最原「でもなるほど。彼女の血液が欲しいけど、きっかけが今までなかったから僕に協力を、ってことか」

入間「その通りだ。悪くねー話だろ?」

最原「うーん」

入間「まあベストなのはヤツが丸ごとこの研究教室に転がり込んでくるか、あるいは……」

入間「……いや。これはナシだな。後で巌窟王にぶっ殺されちまう」ブルリ

最原「?」

入間「あと四十分くらいで修理は終了だ。それまでは適当にマスかいてろ」

最原「……いや。この取引が主題ならもういよいよ帰っていいような気が……」

入間「ハッ! ダメだね。何故なら……!」

最原「何故なら?」

入間「俺様、見られてる方が興奮するから……! さっきからもう二回くらいイッちゃってパンツの中も……」

最原「出してーーー! お願い! ここから出してーーー!」ガビーンッ!

大体同時刻
超高校級の昆虫博士の研究教室

アンジー「うわーーー! 秘密子が虫に埋まっちゃってるよー!」

真宮寺「がっ……ぎっ……!」ビクンビクン

茶柱「え。どうしたんですか真宮寺さん! ただでさえ気持ち悪いのに、更に気持ち悪い動きしてますよ!」

赤松「耳の中に虫が入っちゃったんだって! どうしよう! 誰か助けて!」

白銀「うふふふふふふ。花畑の向こうでカナタが手を振って……」

キーボ「白銀さんが変な幻覚見てまーーーすッ!」

獄原「とっても和むよ。みんなもそう思うでしょ?」

一同「思うかァッ!」

真宮寺「ぐ、は……! 王馬くんは確か、みんなの動機ビデオを取りに行ってるんだよネ……!?」ヒーッヒーッ

赤松「うん! でもなんか全然戻ってくる気配がないよね! なんか!」

真宮寺「し、仕方ない! もうこうなったら最後の手段だヨ……!」

真宮寺「夜長さん! 令呪でサーヴァントをマスターの手元に呼び寄せられるはずだヨ! だからそれ使って」

アンジー「え? やだ」

真宮寺「」

茶柱「な、なんでですかッ!? 巌窟王さんがいればこの状況をなんとかしてくれるはずですよ!?」

アンジー「だって令呪って三画しかなくって、前回の楓の件で一画使っちゃったから……」

アンジー「もう二画しかないんだよ。これ使ったら、もし次に神様が死んだら蘇ることができなくなっちゃう」

アンジー「だからやだ。アンジーが死んでも、コレだけは使わない」

赤松「……アンジーさん……」

真宮寺「その決意は美しいけどネ……! ひい! 服の中にむ、むむむむ……」

茶柱「いやーーー! お願い! 想像しちゃうから絶対に言わないでくださーーーい!」

大体同時刻
超高校級のテニス選手の研究教室周辺

ギャーギャー

巌窟王「……あちらの方が騒がしいな。約束の時間までに全員散ってくれるといいのだが」

百田「お? 巌窟王。何やってんだよ、もう夜の九時だぜ?」

巌窟王「百田か。フン、何。向こうの方が騒がしいな、と思ってな」

巌窟王「俺が倉庫にいる間に何かあったのか?」

百田「……」

百田「まあ……致命的なことは何も……」

巌窟王「……?」

巌窟王(まあいい。アイツは二人きりで話がしたいと言っていたのだ。この周辺をウロつくのはやめておこう)

巌窟王「そういえば、春川が自分の研究教室から離れていないと聞いたが……」

巌窟王「……ちゃんと食事は摂っているのだろうな?」ニヤァ

百田「……テメェ、焚き付け方がド下手だな。消えろっつーんならもうちょっと素直に言ってもいいんだぜ?」

巌窟王「ふん」

百田「まあいい。確かにそこは俺も気になってたところだしよ」

百田「あばよ」スタスタ

巌窟王(このプレゼントを喜んでくれるといいのだが)

大体同時刻 中庭のあたり

星「……ふっ。今日はいい星空だな……ん?」

アマデウス斎藤「……フッ……ハッ……とりゃっ……!」

アマデウス斎藤「……違うっすねー。もっとこうー、決めポーズにミステリアスさが足りないんすよねー……」

星「……」

星「なんだアイツは……見ない顔だが……あんなところで何やってやがる……?」

天海(……ハッ! 星くんがこちらを見ている……?)

天海(これは迂闊なことができない。身が引き締まるっすね……!)


星はしばらく見ていたが、特に害はなさそうなので、夜時間を過ぎたあたりで監視をやめた

今日のところはここまで!
続きは明日の夕方!

午後十時ニ十分

最原「はあ……はあ……はあ……なんか凄い匂いしてきた辺りでどうにか逃げ出すことができたな……」

最原「四十分くらい時間を無駄にした。とっくに修理終わってたのに」

アマデウス斎藤「……さて。この辺で決めポーズの練習は終了っすかね」

スチャ

天海「明日のためにそろそろ寝ないと……」

最原「……」

天海「……見ました?」

最原「いやそれ以前にもう正体バレバレだったから……」

天海「ふっ……流石は超高校級の探偵っすね……」

最原(いやもうそんなの関係ないと思う……)ズーン

天海「……前の学級裁判で大活躍だった最原くんにはわからないかもしれないんすけど」

天海「『誇れる自分』になりたかったんすよ。みんなの隣にいても霞まない自分に」

最原「……」

天海「だから仮面被って、自分自身の思い描く恰好いいヒーロー演じてみたりして……」

天海「……みんなの役に立ちたかったんすよ。それが俺の願いだったんす」

最原「別に。僕が活躍したのは、たまたま才能がその場に合致してたからでさ……」

最原「本当なら僕の力の出番がない方がいいんだ。羨ましがられてもさ……」

天海「……」

最原「……いや。ダメだな。ごめん。そんなことが言いたいわけじゃない」

最原「その気持ちが嘘でないのなら、凄く嬉しいし、心強いよ」

最原「心の底からそう思う」

天海「……!」

最原「次の訓練からは素顔でもいいんじゃないかな。協力者が増えたら、きっと喜んでくれるよ。二人とも」

天海「最原くん……!」

最原「……そうだ。天海くん。実はさ、アンジーさんの持っていた天海くんの動機ビデオをたまたま入手したんだ」

天海「ッ!」

最原「もう知ってると思うけど、動機ビデオは最初に、その動機ビデオを向けた対象の才能をモノクマが言うんだよ」

最原「百田くんなら『超高校級の宇宙飛行士である百田解斗くんにはウンタラカンタラ』って感じで」

最原「……見るときに僕が隣にいていいのなら、ここでコレを再生するよ。どう?」

天海「ああ、それで構わないっす! 全然!」

天海「俺は俺の才能を今すぐにでも知りたいんすよ!」

最原(早まったかな。でもこのままでも天海くん思い詰めちゃいそうだし……)

最原(ごめん、巌窟王さん)

最原「それじゃあ、再生するよ……!」

天海「お願いするっす……!」

ポチリッ

ザザーッ

最原「……あれ? 何も映らない?」

天海「えっ」

ザザッ

最原「あ、よかった映った映った」

天海「……ん? いや、あれ? これ本当に動機ビデオっすか?」

最原「……!?」



入間『お気の毒だが、この中の映像データは俺様が丸っと頂いたぜ! ヒャッハー!』

入間『中身を返してほしけりゃ、童貞ヶ原! さっきの俺様の取引内容を完遂してこい!』

入間『それまでデータは俺様にしかわからない秘密の場所に隠して誰にも手が届かないように保管しといてやっからよ!』

入間『じゃ、後は俺様のセクシーなピンク映像を入れといたから、それ見て奮い立て!』

入間『がーんばっ』キャルーンッ



最原「がーんばっ! じゃないよッ!」ガビーンッ!

天海「」

天海「こ、こんな……こんなのって……」ガタガタ

最原「あ、天海くん! ごめん! こんなつもりじゃ……!」

入間『……いいよ……もっと、こっちに来てぇ……!』

二人「!」ピクッ

入間『……見たいの……? じゃあ、恥ずかしいけど……んっ……!』ヌギヌギ

天海「……」

天海「どんな取引があったのかわかんないっすけど、お願いします。入間さんからデータを取り返してください」

最原「あ、う、うん」

天海「それまでこのモノクマーズパッドは俺が預かっておくっす」ハァハァ

最原(目が血走ってない?)

最原(……まあ、口を開かなければ確かに入間さんって美少女だからなぁ……)

夕ご飯の休憩!

寄宿舎

天海「……このピンクビデオ、なんかところどころ入間さんが『最原ァ』って甘い声で言ってるんすけど……」

天海「いや。なんとかしてみせるっす。『天海ィ』って言ってるように脳内再生させてみるっす」

天海「もしくは今すぐNTR属性を覚醒させてみせるっす」

最原「なんか僕取り返しの付かないことしちゃったかなぁ……?」

最原「あれ?」

アンジー「あ。終一ー。蘭太郎ー。やっはー」

最原「……アンジーさん。こんな時間に何してるの?」

天海「巌窟王さんに怒られちゃうっすよ?」

アンジー「あー。うん。それなんだけどさー」

アンジー「……」

アンジー「ううん、なんでもない。じゃ、おやすみ二人ともー!」

最原「……ん? うん。おやすみ、アンジーさん」

天海「おやすみなさいっす」

最原(そのときのアンジーさんに、何か違和感を覚えながらも、僕たちは自室へと帰って行った)

最原(……)

最原(もしも、ここでアンジーさんに疑問をぶつけていれば、少しは未来が変わったかもしれないのに)

夜時間 某所

ピチャッ

東条「……これは……さっきまでこんなものなかったのに」

東条「巌窟王さんのポケットから落ちたのね。迂闊だったわ」

東条「……大丈夫ね。靴の端しか汚れてない」

東条「……」

東条「おやすみなさい、巌窟王さん。夜長さんのモーニングコールがかかるまで、ピラニアでも眺めて楽しんでいて?」スタスタ

キーンコーンカーンコーン

最原「ん……八時か」

最原「ふあーあ……ひとまず体育館に行かないとなー」ガチャリンコッ

最原「ん?」

アンジー「……」ドヨーンッ

最原「!?」ガビーンッ

アンジー「あ、終一ー……やっはー……」

最原「どうしたのアンジーさん! なんか凄い衰弱しているっていうか……目のクマ凄いよ!? 大丈夫!?」

アンジー「あー、大丈夫大丈夫。ずっとここに突っ立ってただけだから」

最原「は!? まさか、昨日からずっと!?」

アンジー「うん、ちょっと……事情があって……」

最原「……」

最原「ねえ。巌窟王さんはどうしたの?」

アンジー「……」

アンジー「……秘密子のマジカルショーを見ながら話すよー。アレ、神様も楽しみにしてたから」

アンジー「見逃すわけにはいかないから」スタスタ

最原「……」

最原(あの分だと、昨日はアンジーさんのところに帰ってこなかったのか?)

最原(なんで?)

体育館

夢野「かーっかっかっか! よく来たな生徒一同! 夢野秘密子のマジカルショー! いよいよ開演じゃあ!」

夢野「開演……」

夢野「……だというのに……」

夢野「……何故巌窟王がいないんじゃあ!?」ガビーンッ!

最原(先に来ている可能性を信じたかったけど、やっぱりこの場にも巌窟王さんはいなかった)

最原(どころか、何人か来ていない生徒もいる)

最原(春川さん、入間さん、百田くん、王馬くん、どういうわけだか東条さんもいない)

最原(ただその代わり、意外な人が来てたりするんだけど……)

星「……」

真宮寺「意外だね。キミも来るなんて」

星「フン。何、こんなこともあるさ。昨日の夜遅くに招待状まで用意して誘われりゃあ無下に出来んしな」

最原「え? 招待状?」

夢野「星は消極的じゃからのう。ここまでせんと絶対に来ないと思ったんじゃ」

夢野「なんかもう暗~いオーラがこっちにまで伝染しそうなくらいじゃしの」

星「酔狂な女だ。本物がいるっつーのに、まだやる気になれるんだな」

最原(……星くんにしては大人気ない物言いだな。イラついてるのかな?)

夢野「……」

夢野「……これはウチが偽物ではない、という前提で話すぞ?」

星「……?」

夢野「偽物に本物が勝てない道理なぞ、どこにある?」

夢野「仮にそういう条理があったとして、それを振っ飛ばしてこその魔法じゃろ?」

夢野「ウチはな、確かに面倒くさがりじゃあ。本当にどうしようもなくの」

夢野「ついでにアンジーのような魔術回路とかそういうものも、ない。巌窟王に聞いた」

夢野「……じゃがそれがどうした! 本物じゃろうが偽物じゃろうが、人を笑顔にできなければ魔法じゃない!」

夢野「ウチはこの場で証明してやりたかったのじゃ。魔法のカタチは決して一つだけではない」

夢野「ウチだって本物の魔法使いなんじゃとなァ!」ギンッ

星「……」

最原(夢野さんが……初対面からは想像できないほど燃えている!)

最原(具体的に言うと熱い!)

最原(これは劣等感から来るものじゃなくって、純粋な闘争心だ!)

赤松「な、なんか。凄いね夢野さん。ちょっと感動しちゃったよ」

夢野「……ウチの魔法はもっとすごいぞ?」

夢野「上手く行ったら拍手喝采を! 絶対じゃぞ!?」

真宮寺「……で。あの天井につり下がってる、魚がいっぱい泳いでる水槽は何かな?」

夢野「ああ、アレか? ピラニアじゃ」

最原「ぴ、ピラニア!?」

夢野「魔法の流れを説明するぞ?」

最原(まず、夢野さんが僕たちの眼前にある巨大水槽の上部にあるカウントダウンスイッチを押す)

最原(そして夢野さんが巨大水槽に入って、水槽の前面、つまり僕たちに見えている面のカーテンを閉める)

最原(カウントダウンは一分で切れるようになっており、切れた瞬間に天井の水槽からピラニアが降ってくる仕掛けになっていた)

最原(もちろん、ピラニアが降ってきたら夢野さんの水槽の中にすべてが入るだろう)

最原(夢野さんはピラニアが自分の入っている水槽にやってくる前に、水槽から脱出しなければならないというわけだ)

最原(典型的な水中大脱出マジックだが……実際に目の前で見るのは初めてだ)

赤松「……」

赤松「え? 危ないよね、それ。大丈夫?」

夢野「ウチを誰だと思っとるんじゃ! ウチを誰だと……思って……」

夢野「……ウチ、誰じゃっけ……?」ガタガタ

真宮寺「恐怖のあまり記憶の混濁が見られるネ」

茶柱「今からでもやめてもいいんですよ?」

夢野「いや! やる!」

夢野「……」

夢野「アンジー。ウチの勇姿……後でしっかり巌窟王に教えておくんじゃぞ?」

アンジー「うんうんわかったー! わかっ……」

アンジー「……スヤァ」スピー

夢野「そして星」

最原(あれっ!? 寝ているアンジーさんはスルー!?)

星「なんだ?」

夢野「……目を離すな。一瞬たりともな。そして成功したら横着せずに拍手もするんじゃぞ?」

夢野「お主を笑わせることも一つの目的じゃからの」

星「……ふん」

夢野「それじゃあ、スタートじゃ! スイッチオーン!」ポチリッ

夢野「ふふふ……一分後が楽しみじゃなあ!」ガタガタ

獄原「青い顔だけど……アレ本音で言ってるよね?」

真宮寺「半分以上強がりだと思うヨ」

白銀「だよね」

夢野「……一分後が楽しみじゃなあ! 本当にッ!」

ザパーンッ

残り三十秒

最原「……」

最原(まだ出てこない)

茶柱「ね、ねえ。アレ、大丈夫なんでしょうか」

天海「仮にも超高校級のマジシャン。これも演出の一つだと思うんすけど」


ガララッ


百田「わりーわりー! 寝坊しちまってすっかり遅れちまった!」

百田「……ん? なんだよ、もう始まってんのかよ」

東条「ごめんなさい。遅れてしまったようね」スタスタ

獄原「珍しいね。百田くんならともかく東条さんまで」

東条「……言い訳はしないわ」

残り十秒

獄原「……もうダメだ! ゴン太は我慢できないよ!」ドンッ

最原(そう言うとゴン太くんは水槽の上部に一気に駆け上がり……ていうか一息で飛び上がり)

獄原「……えっ?」

最原(目を丸くした)

獄原「……えっ、えっ?」


タイムアップ!


ビシャビシャビシャッ ボチャンッ


キーボ「あっ! ピラニアが!」

獄原「……あれっ?」

白銀「あ、あれまずいよ! 早くカーテンを開けないと!」

茶柱「夢野さーーーんっ! 大丈夫ですかーーーッ!」


ジャッ

最原「……」

最原(僕は……悪夢でも見ているのだろうか?)

最原(今、目の前で起こっていることが何一つとして理解できない)

巌窟王「」プカー

最原「……巌窟王さん……?」

ピラニア「……」ガパァッ



ガブガブガブッ


最原(……気が遠くなりそうだった……)


その限りなく地獄に近い天国に光は差すか 非日常編

今日のところはここまで!
ハロウィン最後の追い込みしなきゃ……

最原(……)

最原(気付いたら僕たちの目の前で、巌窟王さんが骨になっていた)

最原(ピラニアに体の大部分を食べられてしまった)

夢野「……はら……!」

最原(また始まってしまうのか……しかも今度は正真正銘、生徒同士での疑いあい)

最原(前回の赤松さんのときみたいに、必要に迫られて仕方なく起こったものではない……)

最原(言い訳が不可能の、コロシアイ……!)

夢野「……はら……最原……!」

夢野「最原ッ! しっかりするんじゃ!」

最原「ッ!」

夢野「……水槽のガラスを割るって話になっておるぞ。聞いておらんかったのか?」

最原「え……あ……ごめん」

最原(ショックのせいで棒立ちになっていたみたいだ。さっきまで何か喚いてた気がするけど、全然覚えてない)

茶柱「早く下がってください! 行きますよ! せーのっ!」

獄原「それっ!」

キーボ「ぐああっはーーー!?」ブンッ


ガシャアアアアンッ

東条「アンジーさん! これで準備は整ったわ!」

アンジー「ほい来たー!」

最原「えっ」

キィンッ

アンジー「令呪を持って我がサーヴァントに命ず。蘇って! 神様!」

最原「……」

最原(……流石に骨になったら、巌窟王さんでも……)

ポウッ

百田「あ。光はじめたぞ」

最原「えっ」

真宮寺「あ、遅いけど再生が始まったネ」

茶柱「なんか何とかなりそうですね」

天海「よかったよかった」

最原「ええっ!?」ガビーンッ!

最原「ほ、本当だ。確かに再生してる……!」

最原(巌窟王さん、不死身すぎるだろ……)

最原「ん?」

最原(なんだろう。巌窟王さんの骨……手足が酷いくらい折れてるな?)

最原「……」

最原(……もしかして……)


prrrr! prrrrr!


最原「……携帯の着信音?」

夢野「んあー。誰じゃ? マジカルショーのときにはマナーモードにするべきじゃろ」

白銀「いや、待って。この才囚学園で通信機器の類はほぼ全滅だったよね?」

東条「一つの例外を除いて、ね」

最原「あ。巌窟王さんの携帯……」

アンジー「神様の再生にはまだ時間がかかりそうだから代わりに誰か出ててー」

最原「ええー……」

ポチリッ

最原「……もしもし」

BB『あ! よかった! 出てくれましたね!』

BB『巌窟王さんは無事ですか!?』

最原(ん? なんか既に事情がわかってるみたいな口調だな)

最原(ていうか電話口の人って女の人だったのか)

最原「ええっと、令呪でどうにか復活しかけてるみたいですけど……」

BB『……よかった、と言っていいのやら何やら。おかしいですね。流石に彼にも許容できないダメージがあったら普通に復活不可なんですが』

最原「え?」

BB『まったくもう。女の子へのプレゼントだの何だの、ふざけたことにかまけてるから、こんな目に……』

最原「プレゼント?」

BB『おや。聞いてなかったのですか。彼は昨日、こちらに女性が喜ぶプレゼントとはなんぞやと電話かけてきたんですよ』

BB『てっきり生徒の方にも多少は相談しているものかと思いましたが……』

最原「……」

最原(女性へのプレゼント、か)

BB『……まあいいです。聞きたいことは聞きました。巌窟王さんにバレない内に電話を切りますね』

BB『このことはご内密に』

最原「……わかりました」


ブツリッ

夕ご飯の休憩!

ネウロレベルのガバ推理要素だけど最低限矛盾させないようにちょっとメモ整理してから再開します。
あとパールヴァティはうちには来なかった。ガチャは悪い文明

モノクマ「……今度こそ死んだよね? 死んだはずだよね?」

最原「うわっ! モノクマ!?」

モノクマ「……うん。大丈夫。すぐに生き返りそうだけど死んでる死んでる。じゃあ……」


ピンポンパンポーン!


アナウンス『死体が発見されました! 一定の自由時間の後、学級裁判を始めます!』

最原「……また始まるのか」

百田「二回目だからこの際聞きたいんだけどよ。被害者が生き返った場合でも学級裁判が始まるってのも変な話じゃねーか?」

モノクマ「あー。うん。そうだよね。そこ疑問に思うよね」

モノクマ「この点に関してボクもあんまり詳しいことは言えないんだけどさ」

モノクマ「『被害者が生き返った場合でも学級裁判の結果は無効にはならない』っていう規定がキチンとあるんだよ」

天海「なんすかそれ。まるで『人が生き返ることを想定していた』みたいな無茶苦茶な規定っすね」

モノクマ「……そうだね」

最原(歯切れが悪いな……?)

最原(その内に生徒全員が体育館へと集まった。集まったんだけど……)

入間「……回復に時間がかかってるみてーだな。やっぱり巌窟王からの証言はアテにできそうにねーか?」

アンジー「うーん。学級裁判までには間に合うと思うんだけどー」

王馬「それにしても不幸だよね、巌窟王ちゃんも。二回も殺されちゃうなんてさ……」

王馬「いっそのこと、アンジーちゃんが生き返らせずに、そのまま眠らせていた方が幸せだったんじゃないの?」

キーボ「王馬クン。言い過ぎです」

王馬「修理すれば元通りのロボットにわかってもらおうなんて思ってないよ!」

キーボ「うぐうっ」

白銀「とにかく、これで全員揃ったわけだし……」

モノクマ「そだね。それじゃあ……モノクマファイルー!」テレテッテレー!

夢野「おお! これじゃこれじゃ! これがあれば事件も多少は楽に解決……」


モノクマファイル『被害者は巌窟王。死体発見現場は体育館。以上』


夢野「ざっつゥ!」ガビーンッ!

赤松「な、何コレ! 何一つとして新情報が書いてないよ!?」

モノクマ「文句しか垂れない生徒の口は嫌いだ。具体的に言うとウンコだと思ってる」

夢野「罵倒も雑いぞ! モノクマ! どういうことじゃ!」

モノクマ「悪いんだけど、生徒の公平さを欠くから、今回の事件に関してはそれだけしかモノクマファイルに書けないの!」

春川「……まあそれならそれでいいよ。私には最初からどうでもいいことだし」ザッ

百田「おいハルマキ! どこ行こうとしてんだよ!」

春川「……」ピタッ

最原「え? ハルマキ?」

春川「……その名前で呼ばないで。研究教室に戻るだけだよ」

春川「誰もあそこに入れたくないからさ」スタスタ

最原「行っちゃった」

最原「……百田くん。春川さんと仲良くなったの?」

百田「まあな。つっても昨日巌窟王に焚きつけられた勢いで、だが」

百田「……巌窟王……なんでこんな……」

最原「……」

百田「ま、過ぎちまったことは仕方ねぇ。後で巌窟王からの恨み言はいくらでも聞けるしな」ケロリ

最原「立ち直り早い」

百田「じゃ、一緒に捜査するとすっかー!」ガシッ

最原「うん! ……えっ? 一緒に?」

百田「じゃあこの周辺を調べるぞ最原!」

最原(……)

最原(気を使わせちゃったかな。確かにかなり陰鬱な気分だったけど)

最原(……やるしかないんだもんな)

最原(やるしかないんだ)

今日のところはここまで! 続きは明日!

最原(とにかく立ち止まるわけにはいかなかったので捜査はしっかりと行った)

夢野「ウチは使ってないけど、この水槽は上部横の部分がカパッて開いて階段のあたりにかくかくしかじか!」

夢野「ウチは使ってないけどな!」

最原「なるほど。水中脱出のトリックはこうなってたのか」

夢野「ウチは使ってないぞ!」

最原「……そうだ。夢野さん。夜遅くに招待状を星くんに渡したって聞いたけど、それっていつごろ?」

夢野「十時五十分くらいじゃったかの。ゴン太の昆虫で和もう会が終わった後すぐに招待状の制作にとりかかったんじゃが……」

夢野「結局二通しか作れんかったわい。来そうにないヤツ全員に配る予定だったんじゃが」

最原「……ところでその二通目って、誰に渡したの?」

夢野「春川じゃぞ。位置が割れておるから朝の七時のあたりに渡した」

夢野「他に聞きたいことがあればいくらでも聞けい。ウチのマジカルショーを台無しにしたツケは必ず支払わせるからの」

最原(凄まじい気合だ)

赤松さんの証言

最原「ところでその昆虫で和もう会って……」

赤松「おとーさんおとーさん! あそこに見えないのぉぉぉぉ!」マオオオオ!

最原「なんで急に魔王を唄い始めたの!?」ガビーンッ

赤松「……あ、ごめん。ちょっとトラウマが……!」ガタガタ

赤松「え、ええとね。昨日は王馬くんに騙されたゴン太くんが目に付いた生徒を片っ端から自分の研究教室に引きずり込んで……」

赤松「おとーさんおとーさん! 魔王が今、坊やを掴んで連れていくーーー!」マオオオオ!

最原「ごめん! 別の人に詳細聞くね! 思い出させてごめんなさい!」

最原(ひとまず結構な人間に、夜八時から夜時間の十時までのアリバイがあるらしかった)

最原(ザッと並べ立てると夢野さん、アンジーさん、赤松さん、真宮寺くん、キーボくん、茶柱さん、白銀さん……)

最原(それとホスト側のゴン太くん。王馬くんはしばらく研究教室に帰ってこなかったらしいけど……)

東条さんの証言

東条「大雑把にみんなからの証言を纏めてみたわ」

東条「巌窟王さんの目撃証言だったけど、一番新しいものは百田くんの午後九時の証言よ」

東条「夜時間に巌窟王さんを見た人は誰もいないみたいね」

最原「……」

最原(体育館は夜時間には封鎖されちゃうわけだから当たり前……なのかな?)

最原(なにか引っかかる。そもそも『時間による制限』がかけられてる体育館で殺人を犯すメリットなんて……)



アンジーさんの証言

アンジー「昨日、アンジーは……神様が帰ってこなくって……」

アンジー「ずっと寄宿舎の自分の部屋の前で……」

アンジー「……スヤァ」

最原「後で聞くよ」



体育館の水槽周辺のなんやかんや

最原「手錠とか落ちてるな」

百田「ガラスの板とかも落ちてるぜ?」

百田「あと体育館の上部の窓になんか……凄い負荷がかかったみてーな痕があんぞ」

真宮寺「あれ? 水槽を釣り上げるときに使ったロープが見つからないネ……」

真宮寺「あ、あった。けど……なんでこんなところに」

星「む……この手錠、見覚えがあるぞ」

最原「えっ?」

星「……興味があったら俺の研究教室に来な。面白いモンが見れるかもしれないぜ?」

スタスタ

百田「だってよ。どうする?」

最原「……行くしかないよ。もうここには証拠はないみたいだし」

百田「だな!」

赤松「あ、私もついてくよ!」


スタスタ……



キュインッ


巌窟王「クハハハハハハ! 戻ったぞ!」

茶柱「あ。復活しましたね」

巌窟王「さて! 我がマスター、夜長アンジーはどこか!?」キョロキョロ

真宮寺「そこでぶっ倒れてるけど」

アンジー「スヤァ」

巌窟王「そうか! クハハハハハハ!」

巌窟王「……マントを貸してやろう……硬い床では寝心地も最悪であろうからな」ファサッ

キーボ「服まで再生してるんですね……魔術というものはつくづく不思議です」

星への研究教室に向かう道中

王馬「ママーーー! 俺の万年筆がどこかに行っちゃっだヴぇうヴぁうあああううんっっっ!」ビャーッ

東条「学級裁判の後で探してあげるわ」

王馬「倉庫に作った俺の秘密基地に隠しておいたはずなのにぃいんヴぁすっ」ビャーッ

東条「……飴をあげるわ」

王馬「わーい」

百田「何やってんだテメェーら」

赤松「ていうか倉庫に秘密基地なんて作ってたんだ……気付かなかった……」

王馬「あ。みんなも見つけたら報告してね。俺の秘密道具の万年筆」

王馬「一度どこかに付着したら三日間は絶対に洗い落とせない特殊インク使用だからすぐわかるよ」

百田「クソ迷惑すぎるインクだな……」

百田「……ん? 倉庫?」

百田「そういえば巌窟王も……」

最原「え?」

星の研究教室 囚人の方

最原「……うっ!?」

赤松「何この臭い……!?」

百田「塩素系の漂白剤か? テニスウェアとか使うんなら、たまに世話になることもあるかもな?」

星「妙だな。前に来たときはこんな臭いはなかったはずなんだが……」

星「まあいい。とにかくあの手錠はこの研究教室から持っていったものだろう。調査するなら好きにしろ」

最原「ん……こっちの窓枠にも、なんか負荷がかかったような跡があるな」

最原(それに、この周辺の床にぶちまけられてるのってインク……?)

最原「……向こう側は……体育館の窓か」ズイッ

バキッ

最原「んっ?」

最原(窓枠に手をかけて少しだけ身を乗り出したとき、枠が少しだけ壊れてバランスを崩した)

最原「う、わっ……!」

最原(ただ壊れたのはあくまで少しだけだったので、すぐに体勢は整えることができたんだけど)

ヒラリッ

最原「あー……」

最原(帽子はプールへと落下した。あの分だとズブ濡れだろうな……)

アフロと化した百田「おお。最原。あぶねーところだったな」

最原「う、うん。なんか異常に劣化してるね、この窓枠も……」

最原「……?」

最原「なんでアフロになってるの?」

赤松「さっき何故か感電して……」

最原「え? なんで?」

百田「テニスの送球装置のコードとコンセントが不自然に壊れてやがった。ここの調査も終わったんならさっさと次に行こうぜ」

星「おい。待て。その前に一つだけ教えたいことがある」

百田「あ?」

星「実はシンク周りだけじゃなくってな。テニス選手の研究教室の方にも一つ、漂白剤の臭いがするものがあるんだよ」

最原「それは?」

星「ウェイト可変式のダンベルだ」

最原「だ、ダンベル……?」

星「分解してみたらジョイント部分に、微かだが血液が残ってた」

最原「!」

星「……あのダンベルのデザインは見事だからな。まさか犯人も分解できる品物だなんて思いもしなかったんだろう」

星「これは奴さんの致命的なミスってヤツだろうな」

百田「……星……」

星「なんだ? キラキラした目で見つめやがって……俺はただ、お節介なお前さんたちに多少は報いようとしただけ……」

星「それだけだ……」

赤松「……最原くん。帽子を取りに行こう?」ニコニコ

最原「……うん。じゃあ僕たちは行くね。星くん」

星「おう」

プール

最原「……」

最原「プールの方には特に目立つ証拠はない、かな?」

赤松「あれ……?」

最原「どうかした? 赤松さん」

赤松「えっと……道具置き場の浮き輪の取っ手部分に何か、激しく擦ったみたいな跡があって」

百田「お。マジだ。何か微妙に歪んでるような気もするな?」

最原「……」

最原(なんだ? 超高校級の囚人の研究教室と、体育館の窓枠に負荷がかかったような痕)

最原(その間にあるプールの浮き輪の取っ手部分にはやっぱり負荷がかかった痕)

最原(……そうか。トリックが見えて来たかもしれない)

最原「そうだ。どうにかして帽子を取らないと……」

赤松「……」

赤松「最原くんさ。もうこっちのことを見るのに、あんまり躊躇しなくなったよね?」

最原「えっ」

赤松「なんでまだ帽子を被ってるの?」

最原「!」

百田「?」

最原「ええと、それは……」

百田「前に『帽子の意味が変わった』だのなんだの言ってたよな? それと関係あんのか?」

最原「ッ!」

赤松「帽子の意味が変わった……?」

赤松(……そういえば巌窟王さんも帽子被ってたっけ……ああ、そういうこと)

赤松「へぇー」ニヤニヤ

最原「な、何、赤松さん。その笑顔」

赤松「最原くんって意外にわかりやすいなって思って! あははっ!」

赤松「いや、わかるよ。巌窟王さん恰好いいもんね」

最原「……ああ、もう!」

百田「???」

帽子回収後

最原「……やっぱりビッチョビチョだ」

百田「これもう今日の学級裁判では付けられねーだろ」

最原「……仕方ないから帽子はどこかに放置していくよ……」

最原「そうだ。そろそろ巌窟王さんが復活してるかもしれないから、体育館に行こうか」




体育館

最原「戻ってきた……のはいいけど」

最原「巌窟王さんは?」

獄原「えっと、アマデウス斎藤に会ってくるって言って、どこかに行っちゃった」

最原「天海くん?」

天海「……」サッ

最原(目を逸らされた。どうも言う機会逃したみたいだな)

最原(多分今日も訓練できない、って義理堅く言うつもりで行ったんだろうからなぁ)

最原「で。アンジーさんは……やっぱりまだ寝てるんだね」

アンジー「スヤァ」

百田「これ巌窟王のマントじゃねーか」

茶柱「あの人、本当にアンジーさんには甘いですね……」

中庭

巌窟王「……いないな。やはりこういうときの鼻は利くらしいな」

巌窟王「アマデウス斎藤……食えないヤツだ」フッ


ピンポンパンポーン



アナウンス『えー! ではでは! そろそろ捜査も一段落したようですので!』

アナウンス『良い子のみんな、集まってー! 学級裁判の時間だよー!』

巌窟王「……」

巌窟王(……今回の事件……俺はどういうスタンスでいるべきだ?)

巌窟王(……)

巌窟王(……ふん。こんなことに心を砕くなどバカらしいな)

巌窟王(俺はただ、俺のやりたいようにやるだけだ)

体育館

百田「……んじゃあ、いっちょぶちかましてくるか」

赤松「……最原くんさ。やっぱり帽子取った方が恰好いいよ?」

最原「はは。でも、その……やっぱりさ……」

最原「……被っていたいんだ。いざってときこそ猶更」

赤松「うーん。やっぱり初回特典蹴ってて正解だったな」

赤松「……まだ心配だよ。最原くん」

最原(……確かに。僕は巌窟王さんほどには頼もしくない)

最原(でもだからこそ、少しでもマネしていたかったんだ)

最原(……これじゃあアマデウス斎藤になってた天海くんにどうこう言えないな)

最原「裁判場に行こう」

赤松「うん!」

最原(裁判が、始まる……!)

茶柱「アンジーさーん。起きてくださーい。裁判が始まりますよー」ユサユサ

アンジー「あと五分ー」

最原「……」

最原(始まるッ!)ギンッ

赤松「最原くん。無理にシメようとしなくってもいいんだよ」

百田「しまらねぇな……本当……」

今日のところはここまで!

赤い扉の中

巌窟王「……来たか。遅いぞ」

百田「そう言うなって。色々収穫はあったんだからよ」

百田「今回もお前を殺した犯人をバシッと捕まえてやるぜ。楽しみにしてな!」

巌窟王「……」ニヤ

最原(なんか上機嫌そうだ……割と相性いいのかな、この二人)

巌窟王「む。最原。帽子を取ったのか」

最原「うん。なんか事故っちゃって」

巌窟王「……」

巌窟王「……『悪意の在処』を見誤るなよ」コソッ

最原「……」

最原(悪意の在処……?)

茶柱「巌窟王さん。アンジーさんが起きないのでおんぶで連れてきたんですけど」

巌窟王「起きろアンジー。そろそろ正念場だぞ」

アンジー「ふああー……い」

夢野「ゆるゆるじゃのう。これから命懸けの頭脳戦だと言うに」

天海「ははっ。でもまあ気楽でいいじゃないっすか」

巌窟王「行くぞッ!」ギンッ

学級裁判 開廷!

モノクマ「えー! ではでは! 最初に学級裁判の簡単な説明から行いましょう!」

モノクマ「学級裁判では、誰が犯人かを議論し、その結果はオマエラの投票により決定されます!」

モノクマ「正しいクロを指摘できればクロだけがおしおき。だけど、もし間違った人物をクロとしてしまった場合は……」

モノクマ「クロ以外の全員がおしおきされ、生き残ったクロだけに、晴れてこの才囚学園からの卒業の権利が与えられるのです!」

モノクマ「……なお。闖入者の巌窟王さんもこのルールが暫定的に適応されているのをお忘れなく」

春川「巌窟王が自殺だった場合は、ってこと? その可能性は……」

最原「ほぼ最初から除外していいと思う。万が一、アンジーさんが復活させなかった場合はそのまま死亡なわけだし」

最原「何より、あそこまで肉体を損傷した上で生き残れるなんて巌窟王さん自身も知らなかったはずだよ」

星「根拠があるみてーだな。聞かせてもらおうじゃねーか」

最原「……口止めされてたけど、この際言うよ。巌窟王さんの携帯電話に出たんだ」

巌窟王「何ィ?」

巌窟王「……何か吹き込まれなかったか? 正気を保てているか? 誰にも明かしていないはずの秘密を握られて脅されたりしていないだろうな?」

最原「そんなに危険な人だったの!?」ガビーンッ

最原「だ、大丈夫だったよ。それより電話の内容だったんだけどさ」

最原「巌窟王さんが復活不可避の損傷を負ったはずなのに、令呪で蘇ったことに意外そうな反応をしてたんだ」

最原「つまり厳密に言うと、巌窟王さんは復活できるはずがない。なのに、復活した。原理不明なままにね」

百田「仮にアンジーに対して絶対の信用を置いてたとしても、原理不明の仕掛けに命をかけるほど巌窟王もバカじゃねーってことか」

王馬「電話口のその人が嘘を吐いてる可能性は? 唯一、ホームとの連絡がつく巌窟王ちゃんの仲間でしょ?」

王馬「つまり生き残るのが一人だけっていうルールの範疇の外の存在だよ? 信じていいと思う?」

最原「仮に巌窟王さんが自殺するとして、ここまで大がかりなことをする必要があったのかな?」

最原「もうちょっとコンパクトかつ楽な方法があったような気がするけど……」

アンジー「もし仮に神様がクロになるんだとしたら、自分自身じゃなくってアンジーを真っ先に殺すと思うけどね」

巌窟王「……」

百田「おい。否定しろよ巌窟王」

巌窟王「無理だな。俺をこの空間に縛っているものの中には、確かにアンジーとの契約がカウントされているのだ」

巌窟王「まだその気になっていないだけで、脱出するだけならアンジーを殺した方が早い」

巌窟王「……まだな」

赤松「そんな気ないくせに、無駄に悪ぶるよね。巌窟王さん」

巌窟王「ふん」

最原「つまり巌窟王さんの合理性に照らし合わせるなら、いくらなんでも自殺なんて方法は取らないんだよ」

天海「そもそもイメージにあわないって理由で弾いていい可能性ではあったと思うんすけどね」

東条「一応、これで足場は固まったと見ていいわ。無駄ではないでしょう」

真宮寺「それじゃあ、次は何について話せばいいかな?」

白銀「うーん。モノクマファイル、今回は新情報がないからね……死因、死亡推定時刻、死体の細かな状態……」

白銀「前回は書かれていたことがスッポリ抜け落ちてる。これじゃあわからないことだらけだよ」

夢野「少なくとも、巌窟王がピラニアに食われた時点では、巌窟王は間違いなく死んでいたはずじゃぞ」

夢野「あのピラニアは死肉しか食らわんからのう」

茶柱「えっ? そうなんですか!?」


ポンッ


夢野「ここに比較的腹が膨れていないピラニアが一匹入った水槽がある」

茶柱「いつの間にッ!?」ガビーンッ

王馬「うわー。忘れたころにマジシャン設定をぶち込んで来るよね」

夢野「魔法じゃ魔法。で、この水槽にウチが手を入れても」チャポンッ

夢野「御覧の通りじゃ。まったく反応せん」

百田「っつーことはつまり、巌窟王が死んでいたのは相当前ってことだな」

赤松「私は夢野さんの手伝いに叩き起こされて、体育館のドアが開くまでずっとドアの前に立ってたんだ」

赤松「だから……巌窟王さんが死んだとしたら……」

天海「昨日の夜時間より前ってことになるはずっすよね」

巌窟王「……?」

王馬「それじゃあ、その線で議論を進めてみようか! 昨日の巌窟王ちゃんを最後に目撃したのは……?」

百田「俺だ!」

王馬「嘘……だろ……? 百田ちゃんっ、なんで巌窟王ちゃんを殺したんだよぉ!」ブワッ

百田「殺してねぇーよッ! 目撃したかって話だっただろッ!」ガビーンッ!

百田「俺は昨日の午後九時前後に、巌窟王が星の研究教室近くにいるのを見かけたぜ!」

百田「っつーことは巌窟王の死亡推定時刻は」

東条「午後九時から午後十時の夜時間までの間に限定されている、ということになるわ」

東条「もちろん、これは百田くんの証言を信じるならば、の話になるけど」

王馬「でも『生き残るのはクロ一人か、シロ全員か』ってルールがある以上、共犯はほぼ成立しないよね?」

王馬「つまり百田ちゃんの目撃証言より前の目撃証言は、いよいよ信用していいと思うよ?」

百田「俺の証言を信用されねーのは甚だ不満だが、俺より前に巌窟王を見たのは……」

白銀「あ。私だね。最後にゴン太くんに捕まった私が、巌窟王さんを倉庫で見てるよ」

白銀「あれは大体七時だったけど……そういえば、何か探していたみたいだったけど。何を探してたの?」

巌窟王「……言う必要があるか?」

白銀「ナイデスゴメンナサイ」ガタガタ

夢野「怖がりすぎじゃ怖がり過ぎ。これでも結構愛嬌あるぞ?」

夕ご飯の休憩!

最原(……巌窟王さんが倉庫にいた理由。多分、電話口の女の人の言う通り『女性へのプレゼント』を物色してたんだろうな)

最原(その途中で王馬くんの秘密基地を見つけて……秘密基地だとは知らずに万年筆を持っていったんだろう)

最原(待ち合わせの女性……まず間違いなくあの人だろうけど……)

最原(まだ決め手が足りないな。巌窟王さんの死亡推定時刻について異論はあるけど、このまま議論を進めよう)

最原(これが犯人の退路を断つ布石になるはずだ……!)

巌窟王「……」

巌窟王(俺が死んだのは夜時間の最中だ。そのことにあの探偵が気付かないはずがない)

巌窟王(何を考えている……?)

最原「ひとまず議論を進めてみよう。余程の矛盾が出ない限り、百田くんの証言は信用する方向で」

百田「最原……!」

最原「だって、百田くんの証言が本当だとすると謎が一気に簡単になるからね」

獄原「そっか。昆虫で和もう会に参加してた人たちは……」

キーボ「八時から十時までは完璧なアリバイができています」

キーボ「なお、アレのことを知らない人たちに説明しておくと、昆虫で和もう会そのものが始まった時間は八時ですが」

キーボ「ゴン太くんによる生徒の収集が始まったのは六時からです。早い人はそこからのアリバイがあることになりますね」

真宮寺「ひとまずそこは面倒だネ。今は省こう。昆虫で和もう会の参加メンバーは……」

赤松「夢野さん、アンジーさん、真宮寺くん、キーボくん、茶柱さん、白銀さん、あと私……」

赤松「最後にゴン太くん……あと一人の王馬くんは、動機ビデオを取りに行っちゃったからアリバイはほぼないんだ」

巌窟王「昆虫で和もう会……」

最原「?」

巌窟王「和めたか? アンジー」

アンジー「和めたよー!」キラキラキラ

巌窟王「獄原ァ!」ギンッ

獄原「えっ、な、何?」

巌窟王「……後でモンテ・クリストの財宝の一部をやろう」

獄原「え? 本当? やったぁ!」

茶柱「そんなおじいちゃんのお年玉感覚でェ!?」ガビーンッ!

最原(悔しいけど凄く興味ある!)ウズウズ

白銀「……議論を元に戻そう? 他にアリバイがあるのって誰?」

十分後

ゴン太は黄金律(E-)を手に入れた!

獄原「わーい」

最原「えーと、整理するね。昆虫で和もう会で完璧なアリバイができているのが八人」

最原「東条さんは午後八時からは王馬くんと追いかけっこしてたから、百田くんの証言が真実だとするとアリバイがある」

最原「僕と入間さんはずっと研究教室に引きこもってたから、こっちは白銀さんの証言がある限りはやっぱり完璧なアリバイ」

最原「次に――」

百田「巌窟王に焚きつけられた直後に、俺がハルマキのところに遊びに行ったんだよ」

百田「巌窟王と別れてから十分も経ってねぇ話だ。巌窟王の死体を体育館に仕込むのはちょっと無理がねぇか?」

春川「……そのときは大迷惑だと思ったけど、今からしてみると結構ラッキーだったのかな」

春川「バカとハサミは使いようってヤツ?」

百田「誰がハサミだ!」

春川「バカの方でしょ。どう考えても」

最原「これで十四人のアリバイがある。あとは……」

星「俺と天海のアリバイの確認……の番ってわけか」

天海「……!」

星「残念だが、俺にはこれと言ったアリバイはねぇな……少し妙なモンをずっと眺めてたからよ」

キーボ「妙なもの……ですか?」

星「信じられねーかもしれないが……見たことのない高校生が中庭で妙な動きをしてやがったんだ」

星「なんか変な仮面被ってハイテンションでボーダーのシャツの下にサルエルパンツを着込んだ天海っぽい印象を与える高校生だ」

最原「アマデウス斎藤じゃんッ!」ガビーンッ!

獄原「星くんもアマデウス斎藤に会ってたの?」

星「会ってたってのは違うな。九時前後の時間に、星でも見て気分転換しようと思ったら……いたんだよ」

星「月の光で仮面を輝かせながら妙な色香を纏った男子高校生……ありゃ只者じゃねぇ……!」

星「アマデウス斎藤っつーのか。一体、何者なんだ。ヤツは」

最原「天海くんだけどッ!?」ガビーンッ

裁判場全体「……」

裁判場全体「えっ?」

最原「えっ?」

巌窟王「最原。アマデウス斎藤の正体が、天海蘭太郎だと言ったか?」

巌窟王「……その根拠はあるのだろうな?」

最原「えっ」

獄原「そ、そうだよ! アマデウス斎藤が天海くん? どうしてそう思ったの?」

最原「えっ。えっ」

白銀「うーん……確かにアマデウス斎藤と天海くんは……一致している部分もなきにしもあらずな感じだけど……?」

白銀「最原くん。地味に発想が飛躍しすぎじゃないかな?」

最原「いや天海くんで間違いないし、なんでみんなわからないんだよッ!」

最原「ね! 天海くん!」

天海「えっ。何のことっすか?」

最原「!?」ガビーンッ

アンジー「終一ー」

最原「あ、アンジーさん……!」

アンジー「たまには推理が外れることも、あるぞ?」

最原「」

最原(そこからの議論はほぼ不毛な流れだった)


議論スクラム!
アマデウス斎藤の正体は?

天海だ!
最原
赤松
百田
春川
王馬
入間
キーボ
真宮寺


天海じゃない!
アンジー
夢野
獄原
白銀

東条
茶柱
天海


最原(これまでの人生で経験したことのない不毛さだった)

巌窟王「モノクマ! 俺も議論に参加させろ! 天海じゃない派の方だ!」ギンッ

モノクマ「ダメ」

最原陣営「これが僕(俺様)(私)(俺)たちの答えだッ!」

最原(しかも不毛なだけでなく滅茶苦茶長かった)


理論武装!


天海「どうして俺がアマデウス斎藤だと思ったんすか?」ブワァァーッ!

最原「くそっ! しかも無駄に難易度高い!」

最原(そしてすべてが決着に辿り着くころには……)



クライマックス推理!

割愛!


最原「これで証明できたはずだ……何か反論があるなら言ってみてよ」

最原「"超高校級のミステリアス"! アマデウス斎藤! ……いや、天海蘭太郎くん!」


バキバキバキッ!
ガシャァァァァンッ!

COMPLETE!

天海「ぐああああああああああ!」

最原(議論は三時間経過していた。モノクマは寝ていた)

モノクマ「ぐー」スヤァ

アンジー「そ、そんな……!」

巌窟王「バカな……バカな……!」

巌窟王「天海、お前が……アマデウス斎藤だと……!?」ワナワナ

最原「はあっ……はあっ……! あー、長かった! みんな、納得してくれた!? 天海くんがアマデウス斎藤なんだよ!」

巌窟王「黙れッ!」

最原「!?」ビクゥッ

巌窟王「……少し……時間をよこせ……!」クッ

夢野「うっ……うっ……」エグエグ

最原「ええーーーッ!? そこまでショックだった!?」ガビーンッ!

巌窟王「天海。答えてみろ。お前の口から直接聞きたい」

巌窟王「何故身分を偽ったりした? お前の手腕は確かだったのだぞ?」

巌窟王「……素顔でも、充分俺たちは受け入れたはずだ」

天海「……」

天海「自信が……なかったんす……!」

天海「二人の隣に立つ能力が、俺には欠如してたから……だからッ!」

アンジー「……蘭太郎ー」

アンジー「じゃあ、これからは素顔で一緒にいていいよー」

天海「えっ?」

アンジー「アンジーも、神様も、蘭太郎のことを全部許すよ」

アンジー「だからもう、泣かないで。これからもずっと私たちの傍にいてよ」

アンジー「……ダメ?」

天海「……うっ……」

天海「ううううう……!」ポロポロ

夢野「よかったのう! 天海! よかったのう!」





巌窟王「……アンジー。それでは事前に練習した通り、これを付けろ」ポイッ

アンジー「あいさー」パシッ

天海&夢野「えっ」

巌窟王「クハハハハハ! アンジーは許すと言ったな!」

巌窟王「悪いが俺にそんな気はない! 復讐者だからな!」

アンジー「じゃあちょっと蘭太郎ー。動かないでねー!」ガシッ

天海「えっ。アンジーさん。なんで俺を羽交い絞めに?」

天海「ていうかそのガスマスクはなんなんすかッ!?」ガビーンッ!

巌窟王「地獄の底へと滑落していけ……」

巌窟王「くしゃみでッ!」ギンッ

天海「ちょ、その手に持ってるの、まさか」

巌窟王「疑似宝具、展開!」

巌窟王「粉よ、延々と降り注げ(オレフル・コショー・フル)!」パッパッ

天海「こしょうびんんんんぎゃあああああああああああ!」

茶柱「きゃあああああああ! くだらないけど超エグいーーーッ!」ガビーンッ

天海「あぎ、がああああ……ぐじょんっ……ぐじょんっ……!」

天海「息がっ、息ができなああああああっぐじょんっっっ!」

天海「あああああああああ……!」




最原「……」

最原「イヤな……事件だったね」

百田「現実逃避すんな」

春川「まだ終わってないしね。事件」

今日のところはここまで!

天海「……ぐじゅんっ……ぐじゅんっ……」ビクンビクン

最原「あそこまで徹底的におしおきする必要あったのかな」

巌窟王「十七人目の高校生などと、一歩間違えれば場を混沌の渦に陥れかねない嘘を吐いた罪は重い」

赤松「まあ……一歩間違えたら取り返しが付かないかな……」

最原(というか混沌の権化みたいな巌窟王さんがそれ言うんだ……)

最原「えーっと、じゃあこれで……アリバイがあるのは……」

王馬「全員だよね。ただし、百田ちゃんの証言を信じるならば、の話だけど」

王馬「逆に言えば、百田ちゃんの証言が嘘だった場合は消去法で確実に百田ちゃんが犯人なんだけどね!」

百田「ああ!? な、なんだとっ!?」

最原「確かに、他の人のアリバイは実質完全に証明されたようなものだからね」

最原「だって、百田くんの証言が本当だった場合は昆虫で和もう会に参加してた人たちのアリバイは完璧だし」

最原「百田くんの証言が嘘だった場合は、百田くんが犯人ってことだから、その他の人間はどっちみち全員シロになっちゃう」

最原「……ただし。僕は百田くんが犯人だとはとても思えないんだ」

最原「最後の目撃者が怪しいって展開になることは誰にだってわかったはずだよ?」

最原「それにも関わらず百田くんは証言した。逆説的に百田くんの証言は真実味があるんだよ」

百田「最原……テメェ……」

王馬「探偵の最原ちゃんがそこまで無駄に先読みすることすら計算の内だったとしたら?」ニヤァ

最原「……」

最原(巌窟王さん自身が証言してくれればいいんだけど、果たして彼はそこまでしてくれるかな……?)

最原(頼むだけ頼んでみる、か?)

最原(……いや。まだだな。最後の最後に確認すべきことが残ってる)

最原「ねえ。ゴン太くん。アンジーさんを捕まえたタイミングと、そのときの詳しい状況を教えてほしいんだけど」

獄原「えっ? なんで?」

最原「ごめん。今のうちに確認しておかなきゃいけない気がするんだ」

王馬「……ねえ。何のつもり? 話を逸らそうとしているの?」

最原「確認が済んだら、すぐに本筋に戻るよ」

獄原「え、ええと……」

獄原「アンジーさんは夢野さんと一緒に、体育館で捕まえたよ。一番最初だったから午後六時のことだったかな?」

獄原「場所がわかっていたから一番簡単だったんだ」

最原(マジカルショーの準備で頑張ってたからな、二人とも……)

最原(これで充分か)

最原「ありがとうゴン太くん。じゃあそろそろ百田くんの証言が本当かどうか確認しようか」

王馬「どうやって?」

最原「……巌窟王さんに聞くんだよ」

王馬「……教えてくれるかなー?」

巌窟王「……」

巌窟王「さっきから話を聞いていれば、お前たちは何を無駄なことをやっている?」

赤松「えっ?」

巌窟王「俺が死んだのは夜時間だぞ? 何故よりにもよって夜時間以前のアリバイを必死に証明している?」

百田「……」




百田「は?」

裁判場全体「はあああああああああっ!?」ガビーンッ

モノクマ「……むにゃ……あ、そうだ。寝る前に忘れてたことあった」

モノクマ「巌窟王さん。自分の死亡推定時刻についての情報はもったいぶってね」

巌窟王「何ィ?」

モノクマ「だって今回のモノクマファイルの情報に死亡推定時刻に関する項目は入れてないんだ」

モノクマ「生徒同士の公平性を保つためにね」

巌窟王「つまり、今まで生徒たちが夜時間以前のアリバイの話題しか口にしていなかったのは……」

モノクマ「うん。犯人の偽装工作か、偶然の産物かはこの際置いておくけど、そういうふうに見えていたからなんだ」

モノクマ「だから裁判を盛り上げるためにも、この情報はあんまりみだりに出さないでね。もちろん巌窟王さんの協力次第だけど」

巌窟王「もう言ったぞ」

モノクマ「あ、遅かった。うぷぷぷぷ」

巌窟王「クハハハハハハハハ」

百田「テメェら実は仲いいだろッ!?」ガビーンッ

赤松「じゃあ、今までの議論は全部……!」

東条「すべて無意味だったようね」

最原(……)

最原(それはどうかな?)

休憩します!

最原「ところで巌窟王さん。もしも『自分の死亡推定時刻が最大の謎だった』っていう事実を事前に知ってたら」

最原「……百田くんの目撃証言について訊かれたとき、どう答えてた?」

巌窟王「答えるわけがあるまい! それが犯人の偽装工作ならば、被害者の俺が答えるのは筋違いにもほどがある!」

巌窟王「後悔……義憤……怨恨……それらマイナスの感情はすべて俺の力の糧だが」

巌窟王「この場においては必ずしも当てはまらないのだからな!」ギンッ

百田「わかるように言え! 巌窟王!」

巌窟王「穴があったら入りたい」

白銀「あ、恥ずかしいんだ……」

巌窟王「犯人に対して非常に申し訳ないと思う」

茶柱「被害者なのに!?」ガビーンッ

アンジー「神様ファイトー! おー!」

巌窟王「……遺憾だが、この場においては俺もモノクマと同じスタンスだ」

巌窟王「裁判の結果は、俺の行動を決める指針となるだろう」

巌窟王「一応言っておくが、アンジーの現状の魔力供給では、この場にいる全員を救うのにはとても足りない」

巌窟王「そして、犯人を救うかどうかはアンジーと俺の裁量一つだ」

入間「正しいクロを指摘できなければクロ以外の全員おしおきのルールが適応されたら……」

王馬「俺たちはみんな仲良くおしまい。ちゃんちゃん!」

入間「うええー。死にたくねぇー……」

王馬「でもそれって『生き残るだけ』ならクロ側が異常に有利なゲームだよね」

王馬「だって、もし仮にしくじっても巌窟王ちゃんが助けてくれるんだからさ……」

王馬「……おっとごめん。犯人の百田ちゃん! 気を悪くした?」

百田「だから俺は犯人じゃねーって言ってんだろッ!」

百田「だが夜時間に犯行が行われたとしたら、かなり問題だぜ」

春川「ほとんどの人間は夜時間のアリバイなんてないわけだしね。全員寝静まっているだろうし」

春川「部屋の中に自分以外の誰かがいる場合は別だけど、そんな危険なマネをするヤツなんて……」

春川「……い、な、い……?」ガタガタ

アンジー「あれ。魔姫ー。なんでこっち見て震えてるのー?」

最原「……議論を進めて行けば見えてくるんじゃないかな。本当に夜時間に誰もアリバイがなかったのか」

百田「何か心当たりでもあんのか?」

最原「ひとまず巌窟王さんは夜時間の最中に死んだ。その前提で話を進めてみよう」

最原「もしそうだったとしたら、逆に絶対に犯行現場になり得ないのは体育館だよね」

最原「じゃあ巌窟王さんはどこで死んだんだろう?」

真宮寺「それ以前に、夜時間以降に死体を体育館に運ぶ方法があるかも疑問だヨ」

最原「……」

星「俺の研究教室で犯行があったんじゃねーか?」

最原「!」

星「水槽の中に落ちていた手錠。あれは俺の研究教室にあったもんだ」

星「しかも、俺の研究教室と体育館には無視できない一つの関係性がある」

入間「肉体関係か?」

王馬「一生でいいから黙っててくれないかな」

入間「ぴぎい!」

最原「……単純に『近い』んだよね。もしもこの二つを繋げる方法があるとしたら……」

最原「……そうだよ! 実際に繋がってたんじゃないかな!」

赤松「繋がってた? それって、どういうふうに?」

最原「これまでの痕跡から考えてみると……多分、星くんの研究教室と体育館はロープウェイで繋がってたはずだよ」

春川「……ロープウェイ?」

最原「多分、犯人は星くんの研究教室に巌窟王さんを呼んだ後で、巌窟王さんを殴るなりして奇襲」

最原「その後、星くんの研究教室にあった手錠を使って抵抗を弱め、溺死にでもさせたんだろうね」

最原「その後、犯人はどうにかして体育館へと巌窟王さんの死体を運び込もうとするわけだけど……」

最原「このとき、いくつか痕跡が残っているんだ。まず一つ目に、巌窟王さんが殺害現場に持ち込んだ、ある物が見逃せない証拠を作ったんだよ」

赤松「ある物?」

最原「巌窟王さんが倉庫で見繕って、犯人へと手渡そうとしたプレゼント……」

最原「王馬くんの秘密道具の万年筆だよ!」

王馬「えっ?」←初耳

巌窟王「んっ?」←青天の霹靂

王馬「……巌窟王ちゃん? なんで俺の秘密基地から万年筆を持ってってるの?」

巌窟王「待て。あそこは秘密基地だったのか? ただのガラクタ置き場かと……」

巌窟王「それ以前に、待て最原! 何故お前がそれを知って……!」

prrrrrr!

巌窟王「なんだこんなときに」ピッ

BB『ごめんなさーい! 私が教えちゃいましたー! 許してください!』キャピンッ

巌窟王「」

最原「え、ええと……多分電話口でネタ晴らしされたんだよね。うん、実はその人から聞いたんだ……」

巌窟王「……」ズーン

最原「その人がどうやってこの状況を見ているのか、興味は尽きないけど今は置いておこうかな」

白銀「巌窟王さんが誰かにプレゼントを渡そうとしてた? それって……」

白銀「……女性相手なら尊いし、男性相手なら……」

白銀「……」

白銀「ブッ!」ゴバッ

茶柱「急に鼻血吹き出しましたーーーッ!?」ガビーンッ

白銀「なんだよ……結構(私の性癖に)当たんじゃねぇか……」

白銀「止まるんじゃ……ねぇぞ……」キーボーオーノーハナー

茶柱「そして死んだーーーッ!」ガビーンッ



白銀は閉鎖空間のストレスから軽度に腐っていた

最原「その万年筆のインクが曲者でさ。一度どこかに付着したら三日間は洗い落とせないらしいんだ」

最原「そのインクがどこについてたかっていうと……星くんの研究教室の窓付近の床なんだよ」

最原「多分、犯人がそこから巌窟王さんの死体を運び出すときに、ポケットからうっかり万年筆が落ちて」

王馬「万年筆が壊れて中身が全部出ちゃったんだね」

王馬「……ん? じゃあ俺の万年筆って」

東条「順当に考えれば今ごろどこかのゴミ箱の中でしょうね」

王馬「酷いよおおおおおおおおおお!」ビャーッ

最原「倉庫の中に秘密基地作った王馬くんも悪いと思うけど……」

最原「えーと。それで痕跡は他にもあるんだ」

最原「星くんの研究教室の窓枠にかかった負荷の痕跡。体育館の窓枠にかかった負荷の痕跡……」

最原「そしてプールの倉庫に仕舞われてた浮き輪の取っ手にも同様に負荷がかかった痕」

最原「……ピラニアの水槽を天井に釣り上げるのに使ったロープも不自然に位置が移動してた」

最原「これらを全部加味して考えてみるに……やっぱり結論は一つだけなんじゃないかな」

最原「それに、僕の推理が正しければ、マジカルショーで急に巌窟王さんの死体が現れたことも説明が付くしね」

百田「そうか。あの窓枠とピラニアの水槽は位置が近い。犯人はピラニアの水槽に巌窟王の死体を入れたのか」

茶柱「えっ。待ってください。それだと巌窟王さんの死体がピラニアに……」

真宮寺「食べられないヨ。水槽の中に残ってた硝子の板で、ピラニアのいる部分と巌窟王さんの部分を仕切ってただろうからネ」

獄原「……そっか。ピラニアさんと一緒に何か大きなものが落ちて来たと思ったけど、あれって……巌窟王さんの死体だったんだ」

白銀「押し出されて密度が増したピラニアの影に隠れて、巌窟王さんの死体も見えなくなるだろうしね……」フラフラ

茶柱「……後でレバ刺しでも食べましょうか……」

最原「……」



最原「犯人は星くんの研究教室と、体育館の間をロープウェイで移動したんだ!」

星「なるほど。俺の研究教室と体育館の窓だと、俺の研究教室の方が高いからな。一方通行だがトリックは成立させられる」

百田「決まりだ! 犯人は巌窟王の死体を、星の研究教室から体育館まで直に運んだんだ!」

アンジー「……」

アンジー「うーん、本当にそうかなー?」

最原「えっ?」

真宮寺「おや? 夜長さんには、何か反論があるみたいだネ」

アンジー「いや、痕跡は残っているから、トリックが使用されたという一点のみは賛成なんだけどさー……」

アンジー「それ、かなり難しくないかなって思っただけなんだよねー」

最原(難しい……?)

巌窟王「……アンジー。余計なことを言うな」

アンジー「おっと。ごめんなさい神様」

春川「……前から訊きたかったんだけど、夜長はなんでソイツのことを神様って呼んでるの?」

巌窟王「その説明は面倒だ! 省け!」ギンッ

最原「……」

巌窟王(……アイツはもう犯人の正体に目星はついている)

巌窟王(今の段階でも犯人を指摘できるはずだ。何故それをしない?)

最原(……待てよ。巌窟王さんを見て気付いたけど、アンジーさんが言った『難しい』の意味って……!)

最原「体格……?」

巌窟王「!」ギクリ

最原「そうか。手作りのロープウェイで、ただでさえ足場が不安定なのに、巌窟王さんの体を乗せた状態でロープウェイを使うのは……!」

入間「犯人自身の体重も加わっていたはずだから、発車、走行中、停車のいずれにおいても危険度は高ぇーだろうな?」

入間「言うなれば……夜の田舎道を全裸で歩くようなスリル……あぁん、想像しただけで……!」

王馬「入間ちゃんって本当存在自体が不快だよね」

入間「」

アンジー「ちなみに神様の身長は185cm、体重は75kgだよー!」

巌窟王「アンジー!」

アンジー「……ごめんなさい」シュン

最原(……? なんだ? 巌窟王さんのさっきからの態度……)

最原(焦ってる?)

百田「確かに不可能じゃないにしろ、かなり難しそうだな……」

春川「そもそも、最原の推理が間違ってるって線は?」

赤松「痕跡がこれだけ残っているんだから、今更その線を考えるのは難しいと思うんだけど……」

巌窟王「どうでもいいではないか! 俺の死体はロープウェイで運ばれたのだ!」

巌窟王「その点を加味するに、既に怪しい人物を指摘することすら可能なはずだが!?」

最原「……」

最原(やっぱりだ……巌窟王さんは何かを隠している!)

最原(確かに今の段階でも犯人を指摘することは可能だけど……)

最原(……?)

最原(……そう、か! 巌窟王さんが隠したいのって、もしかして!)

休憩します!

アポクリの録画溜めてたことに今気づいた……ちょっとこっち消化してくるんで続きはかなり後!
新オープニング楽しみだなぁ。

こっちの続きは本編の方で見れるし別にいいよね!

最原「……事件の全貌が見えたかもしれない」

茶柱「わかりました! やっぱり最原さんの推理が間違っていたんですね!」

最原「違くてさ。そもそもの話、僕たちが星くんの研究教室に目を付けたのって、水槽の中に手錠が落ちていたからだよね?」

最原「僕たちはさっきまで、巌窟王さんを溺死させるときに、抵抗を弱めるために手錠を付けたものだと思っていたけど……」

最原「だとしたら、どうして手錠が水槽の中に落ちてたのかな? 溺死させた後でしまえばよかったのに」

巌窟王「……」ギリッ

東条「そう言われると不自然ね……単純に鍵が見つからなかった、という可能性は?」

夢野「星に嫌疑をかけるため、あえて残しておいたとも考えられるのう」

最原「多分これは犯人のちょっとした工作の副産物だよ」

百田「ちょっとした工作、だと?」

最原「……ひとまず、最初から考えてみよう」

最原「巌窟王さんの、本当の『死因』からさ!」ズバァァァンッ!

巌窟王「ぐぅっ……!」グサッ

入間「水の中にいたんだから溺死だろ? あったりまえじゃねーかダサイ原」

最原「それなんだけど、モノクマファイルには巌窟王さんの死因が書かれてなかったんだよ」

最原「というか全体的に、今回のモノクマファイルは当てにならないほど情報がなかったよね?」

百田「死亡推定時刻すらわかんなかったからな……犯人のトリックの要なんだから当然だけどよ」

キーボ「……この話運びからすると、最原クンにはもうわかっているんですね? 巌窟王さんの本当の死因が」

巌窟王「……話を脱線させるな。もう犯人など決まっているだろう」

最原「……」

最原「巌窟王さんの本当の死因は『失血死』だ」

巌窟王「ちぃっ……!」

赤松「し、失血死? 溺死じゃなくって……?」

最原「星くんの研究教室のシンクを調べた人ならわかると思うんだけど、あれって事件発覚後には過剰なほど洗浄されてたんだよ」

百田「ああ。すっげー薬品臭かったな。多分アレは漂白剤、か?」

最原「変だよね。ただの溺死なら、こんなにシンクを洗う必要なんかないのに」

最原「逆に言うと、あのシンクは洗われる前は、なにか取り返しの付かない汚れがビッシリ付いてたんじゃないかな?」

最原「つまり……巌窟王さんの血で汚れていたはずなんだ!」

最原「いや、それどころじゃない。多分、巌窟王さんの血でシンクが満たされていたはずだ!」ズバァァン!

茶柱「み、満たされていたッ!?」ガビーンッ

白銀「血液でッ!?」ガビーンッ!

真宮寺「ククク……なるほどね。話が見えて来たヨ」

真宮寺「犯人は巌窟王さんの血液を抜き、体重をその分だけ削減した……最原くんはそう言いたいんだネ」

真宮寺「でも最原くん、その推理には穴があるヨ」

最原「犯人は血を抜いて巌窟王さんの体重を軽くしたいのに、人体から血液を抜くと死んでしまう……って点なら解決できるよ」

真宮寺「え?」

茶柱「えーっと……最原さんは当たり前のことを何しみじみと言っているんですか?」

春川「医学的に、人体から血液をすべて抜くのはほぼ不可能って話だよ」

春川「まず出血が起こるのは『心臓が動いている間のみ』だからね」

百田「終一の推理は『巌窟王の死体を軽くするためには血液を抜く必要があるが、血液を抜くと血流が止まる』っつー矛盾があるわけか」

最原「平気だよ。それでも人体はかなり軽くなるはずだ」

最原「巌窟王さんが死にそうになる度に『蘇生』させればいいんだからさ!」

巌窟王「よせ……その先は地獄だぞ」ギリィッ!

最原「星くんの研究教室には送球装置があったんだけどさ。それのコンセントが不自然に切断されていたんだよ」

最原「多分、犯人は巌窟王さんの体を生きた状態でシンクに固定して、手首かどこかを切り裂いた後、水をためたシンクに手首を突っ込ませたんだ」

最原「おそらくそのときの巌窟王さんの姿勢は、傷が心臓の位置より低くなるように、身をシンクの淵に寄りかからせる形になっていたはずだよ」

最原「気絶させた巌窟王さんの死体から血液を抜いていく過程で、巌窟王さんが死にそうになったときに……」

最原「犯人は切断したコンセントを使って巌窟王さんの体にショックを与えたんだ」

入間「……は!? なんだその超原始的AED! マジで言ってんのか!?」ガビーンッ

最原「乱暴でも後遺症が残ってもどうでもよかったはずだよ。だって、最終的には殺すんだからさ。いくら乱暴でも構わない」

赤松「……ちょ、ちょっと待って。最原くん。何を言って……!」

最原「こうやって犯人は、巌窟王さんの体から血を抜き、死にそうになったらショックで蘇生させ……」

最原「また血を抜いて、死にそうになったらショックで蘇生させ……」

最原「それを何度も何度も繰り返して……!」

東条「待って。仮にそれで致死量を遥かに超える量の血を抜いたとしても、まだ彼の体はかなりの重さが残っていたはずよ?」

東条「そんな工作をしたところで、気休めにしかならないわ」

最原「……」

最原「折りたたんだんだ」

キーボ「は?」

巌窟王「ッ!」

最原「巌窟王さんはマントを着こんでて、その体は水槽の中でもほとんど隠れてたけどさ」

最原「そのときの巌窟王さんの五体は、果たして無事だったのかな?」

白銀「ピラニアに食べられちゃったわけだから、地味に無事じゃないよね?」

最原「その前は?」

赤松「……ピラニアに食べられる前の、巌窟王さんの状態?」

王馬「うーん、わからないなー……『誰かさん』がアンジーちゃんを急かして、巌窟王ちゃんをさっさと蘇生させちゃったからね」

王馬「ほとんど検視はできなかったんだよねー。誰かさんのせいで!」

最原「……」

最原「僕は……覚えてるよ。巌窟王さんの骨、特に手足の関節や骨は、外れていたり折れていたり、酷い有様だった」

アンジー「アンジーも覚えてるよー! 神様のことを一瞬たりとも見逃せないからねー!」キラキラキラ!

アンジー「あ、なんならその光景を絵に描いたものを持ってきてるけど?」

赤松「い、いい。見たらなんか気分悪くなりそうだから……」

百田「……終一。折りたたんだって、まさか……!」

最原「重さを軽減できたら、次は大きさだ。そのときの巌窟王さんの状態が無事だったとは思えない」

最原「不自然に残ったあの手錠は、多分留め金の代わりに使われたんだ」

最原「巌窟王さんの死体は、あの時点では『自分の胴体を自分の手足でがんじからめに縛り付け、それを手錠でロックする』ような姿勢だったはずだよ」

赤松「えっ!?」

天海「……それは……想像もしたくないっすね……」

天海「だとすると、巌窟王さんがさっきから妙に焦っているのは、それを思い出したくないから?」

春川(いつの間にか復活してた……)

アンジー「神様には忘却補正があるから、元から何一つとして忘れないってー!」

巌窟王「……」

王馬「にししっ! いやぁ、そうかそうか! わかっちゃった! 巌窟王ちゃんも優しいよねー!」

王馬「ねえみんな! 仮に最原ちゃんの推理が本当だったとしたら、犯人はどんな人物だと思う?」

茶柱「ど、どうって……」

赤松「ここから出るためだからって、私たちを信じてくれていた巌窟王さんを拷問じみた手段で殺して……」

赤松「しかも、殺した後も巌窟王さんの体をまるで物みたいに扱って……!」

赤松「……」

王馬「許せない。いや……そうは思ってないヤツも『怖い』とは思ったはずだよ」

王馬「思い出してほしいんだけど、巌窟王ちゃんの理念は『全員揃っての脱出』でしょ?」

王馬「だとしたら、間違っても言えないよねぇ……自分を殺した人間が、まさかそんな残酷なヤツだったなんて!」

巌窟王「……」

東条「確かに……ここまでの蛮行を犯した人間と、今まで通り接することができる人なんていないでしょうね」

春川「今回のクロもどうせ巌窟王が助けるんだと思っていたけど、この分だと考え直した方がいいかもね」

巌窟王「春川……」

百田「で? どうなんだ巌窟王! お前、本当にそんな酷ェ殺され方したってのかよ!」

百田「それでもお前は黙ってるってのかよ!」

巌窟王「……」

赤松「巌窟王さん、答えて……! 全部覚えてるんでしょう? だったら……!」

最原「……その献身は、間違ってるよ」

巌窟王「何?」

最原「いくら僕たちを助けるためだからって……自分のことをそこまで犠牲にするなんて」

最原「自分の死の真相を隠そうとするなんて……!」

最原「そんな献身なら、僕たちはいらないんだ!」

巌窟王「――」

巌窟王「くは……は……」

巌窟王「クハハハハハハハハハハ」

巌窟王「クハハハハハハハハハハハハハハ!」



巌窟王「違う、違う違う!」反論!

巌窟王「献身……献身と宣ったか? よりにもよってこの俺にッ!」

最原「えっ?」

巌窟王「ならば答えてやろう。俺の死因は溺死だッ! それ以上でも以下でもない!」

最原「う、嘘だ! それなら何で、さっきの巌窟王さんは焦ってたんだよ!」

巌窟王「そんなことはどうでもいい! 被害者の俺自身が証人だ!」

巌窟王「お前の推理は間違っているぞ! 一丁前に調停者を気取るな、探偵!」ギンッ!

最原「……」

最原「曲げる気はない」

巌窟王「なにィ?」

最原「僕は……僕自身のために、この主張を曲げる気はない」

最原「真相を知らなきゃ、僕たちは前に進めない!」

最原「どんな罪を犯したのか知らないと、僕たちは何も許せない!」

最原「何よりも、あなたの名誉のためにも、この裁判は中途半端なところで終わらせちゃダメなんだッ!」

巌窟王「……許すため、と来たか。俺には永遠にない発想だな」

巌窟王「いいだろう。そこまで言うのならば覚悟を決めろ。俺は容赦はしない」

巌窟王「貴様の推理で! 俺の反論を! 見事斬り伏せてみせろッ! 最原終一ィ!」ボウッ!

キーボ「……んっ?」

入間「どした、キーボ」

キーボ「いえ。何か……今まで視界に自分でも気づかないノイズがあったようなのですが」

キーボ「それが急に晴れたような……」

入間「は?」

百田「……」

赤松「最原くん……! 勝てるの?」

最原「勝つ? 違う……真実はいつも、たった一つだけだ」

最原「それをわかってもらう。巌窟王さんに」

最原(そうだ。僕は……!)

休憩します!

反論ショーダウン真打!

巌窟王「シンクが過剰に洗われていたからなんだ!?」

巌窟王「送球装置の電源周りがどうした!?」

巌窟王「それが俺の証言を撤回するに足る証拠か!?」

巌窟王「弱い弱い弱い弱い……あまりにも!」

巌窟王「俺の証言を崩すには、何一つとして足りていないぞ!」

最原(引くわけに行かない!)

最原「でも逆に、巌窟王さんの証言を証明する証拠もないよね?」

最原「モノクマファイルにも死因は書いてなかったんだからさ!」

巌窟王「ふん。俺とお前の立場が対等なつもりか?」

巌窟王「俺は被害者で、お前は第三者だ」

巌窟王「つまり! 『決定的な証拠がない』限りは被害者の俺の証言の方が有効だ!」




最原「その言葉、斬らせてもらうッ!」ズバァァァッ!

最原「巌窟王さんの証言を撤回させる決定的な証拠ならあるよ」

最原「星くんの研究教室にあったダンベルだッ!」

巌窟王「ぐうううう……っ!」

赤松「えっと、あの分解できるダンベルがどうかしたの?」

最原「犯人はシンクに巌窟王さんの身を乗り出させる形で、血を流させた」

最原「でもそれって、最低限手首の部分だけはシンクの底付近に固定しないとダメなんだよ」

最原「じゃあ、犯人は一体そのとき、どんな道具を使ったんだと思う? どんな方法で?」

百田「ロープでシンクに固定……いやダメだな。胴体はともかくとして、手首はシンクの底に固定しねぇとなわけだし」

百田「……あ、あああああっ! そうか! それでダンベルか!」

百田「ダンベルに巌窟王の手首を括りつけた状態でシンクの底に沈めれば……!」

最原「テグス。ロープ。ガムテープ……括りつけるときに使うものは、処分が簡単なものでいい」

最原「更に、蘇生させたときに巌窟王さんの意識が覚醒したとしても、そのときはダンベルを持ち上げられないくらい衰弱してるはずだから問題ない!」

巌窟王「……バカな。ダンベルが使われた痕跡があるのか?」

最原「あるよ。アレも漂白剤臭かった」

巌窟王「く、クハハハハハハ! 血の痕が残ってたわけではあるまいに、それでは何の証明にも……!」

赤松「いや、待って。あったよ、血の痕なら!」

巌窟王「な、にィ……!?」

赤松「あれってウェイト可変式だったから、分解ができるんだよ」

赤松「実際に星くんが私たちの目の前で分解したとき、ジョイント部分には間違いなく血の痕があった!」

赤松「なんであんなところに血の痕ができるのか、ずっと疑問だったけど……」

赤松「今わかったよ。血が溜められたシンクに丸ごと沈んでいたときに、ジョイント部分に血が沁み込んだんだ!」

巌窟王「ぐああああああっ……!?」

百田「巌窟王。もうお終いだ。ここまでの議論でハッキリわかった」

百田「……真実に近いのは終一の方だ! お前の優しい嘘じゃねぇ!」

最原「!」

巌窟王「……そうか。なるほど。それが……お前たちの出した答えか……」

巌窟王「……」

巌窟王「で?」

最原「え?」

巌窟王「その証明に、一体どんな意味があったというのだ?」

百田「何って……お前の死因がわかったんだぞ。議論が発展したってことだ」

巌窟王「クハハハハ! 百田! お前は何も気づいていなかったようだな……!」

巌窟王「いいか! 先ほど東条が言ったように、そんなものは気休めにすぎない!」

巌窟王「つまり犯人がやったということを証明したところで、本筋とは何の関係もないのだ!」

巌窟王「第一、その漂白剤の臭いをお前たちは正しく認識していたのか?」

巌窟王「シンク周り……それだけではなかったはずだ」

最原「そうだね。今から考えると、多分あのインク周りも漂白剤で洗われていたはずだ」

巌窟王「犯人が漂白剤を使って現場を掃除した……それだけの証明でよかったのだ」

巌窟王「お前たちがやったことは、必要のない残酷な真実を無邪気に暴いただけに過ぎない!」

巌窟王「……それがどんな意味を持つかも知らずに、な」

王馬「そだねー。最原ちゃんは今の推理で完全に暴いちゃったわけだ」

王馬「犯人が、自分の計画を成就させるためにはどんなことでもやる悪魔みたいなヤツだってね」ニヤァ

最原「……」

巌窟王「この時代に産まれた人間にはわかりづらいか? 無理もない。人口は七十億を超えたらしいからな」

巌窟王「いいか! いかに俺に強大な力があろうと! お前に! どれだけの才能と知性があろうと!」

巌窟王「絶対に曲げられない現実というものがある!」

巌窟王「『孤独こそが死、そのもの』。これは極限状態であれば絶対に誤魔化せない法則だ!」

星「……孤独が……死、か……」

巌窟王「許す。ハッ、それもいいだろう。やりたければやればいい」

巌窟王「だがお前一人の許し程度では、何も変えることはできないのだ」

巌窟王「何一つとして……何一つとして、なァ!」ギンッ

最原「……」

最原(僕のやったことは、間違いだったのか……?)

最原(僕は……!)

百田「……違ェな。巌窟王。一人じゃねぇ」

最原「!」

巌窟王「……?」

百田「俺も許してやるよ。終一が許すっつーんなら……俺もコイツの考えに乗ってやらァ!」

百田「前の学級裁判で言わなかったか? テメェに吠え面かかせてやるってよ!」

最原「……百田くん?」

巌窟王「……クハハ……」

巌窟王「クハハハハハハ! 一人、二人、まだだな。まだ足りないぞ!」

巌窟王「まだ……まったく……!」

赤松「さ、三人なら、どう!?」

最原「赤松さん!」

赤松「……ねえ。もう、いいよ。巌窟王さん。見てられない」

赤松「もう見てられないよ……巌窟王さんが自分を責めるのを見るの……やだ……!」

巌窟王「……」

巌窟王「好きにしろ。もう呆れて物も言えん」

巌窟王「……若いとは恐ろしいものだな。お前たちは何も知らないのだ」

巌窟王「人間の残酷さも。酷薄さも」

巌窟王「……知らないままで良かったのだ」

アンジー「……神様……」

最原「……」

最原「もう、犯人はわかってるよ。多分、トドメも刺せると思う」

最原「巌窟王さん。僕たちは絶対にそんなものに負けたりしないよ」

最原「……絶対にだ!」

巌窟王「……」

休憩します!

最原「……」

最原(と言っても決定的な証拠がないんだよな)

最原(議論の中で口を滑らせてくれることを期待したけど、それもなかったし)

最原(……間違ってはいないと思うんだよな……)

最原(……仕方ない。ちょっとだけカマをかけるか)

最原「あのぶちまけられたインク……わずかだけど飛び散った先で不自然に途切れてたんだ」

赤松(あれ? そうだったっけ?)

百田(そうだったのか? まったく気づかなかったぜ)

最原(嘘だけど)

最原「犯人は浮き輪をカゴの代わりにしたロープウェイで巌窟王さんを運んだ」

最原「だとしたらさ。犯人はそのとき、足はどうしてたんだろうね」

夢野「んあ? 足、じゃと?」

最原「犯人はおそらくヒールの高い、尖った靴を履いてたはずだ」

最原「だとしたら靴は星くんの研究教室側に置いておくしかない。そんな靴で浮き輪に乗って穴が開いたら取り返しが付かないんだから」

最原「どうせロープの回収のときに星くんの研究教室に寄ることになるわけだし、放置のデメリットは最初から無いも同然だ」

最原「……巌窟王さんの万年筆が落ちて壊れてインクがぶちまけられるなんて夢にも思ってないはずだし」

最原「……この中でヒールの高い靴を履いてたのは……誰?」

入間「……お?」

入間「お、お、おおおお!? 俺様ッ!」ガビーンッ

最原「あ、入間さんも履いてたね。そういえば」

入間「ひぎい!? 忘れられてた!?」

百田「ん? 入間じゃなかったのか? じゃあ他にヒールが尖った危険性の高い靴を履いてんのは……」

星「……」





星「おい東条。呼ばれているみたいだぜ?」

東条「……」

東条「私が怪しいのかしら?」

東条「……そう。なら、私の靴を心行くまで調べてもいいわよ。何も出ないでしょうけど」

最原「うん。それじゃあちょっと脱いでもらっても構わないかな?」

ゴソゴソ

東条「はい。どうぞ」

最原(……体温が残ってて無駄にぬくいな……)

最原(でも確かにインクの痕は残ってない)

最原(ただ……やっぱりだな)

最原「綺麗な靴だね」

最原(不自然なくらいに)

最原「うん。じゃあ返すよ。ごめんね、こんなことして」

東条「いいのよ。みんなのためですもの」

最原「じゃあ改めて」

最原「東条さん。なんで巌窟王さんを殺したの?」

東条「……」ピクッ

東条「……まだ疑っているのかしら? 私を?」

最原「いや、まあ……大きさと重さを軽減したって言っても、人体の総重量に対する血液の量なんてたかが知れてるからさ」

最原「さっき入間さんが言ったように不可能ではないにしろ、難しいんだよ。巌窟王さんを運ぶのって」

最原「東条さんも言ってたでしょ? 気休めにしかならないってさ」

最原「こんな難しい犯罪を成立させるには、東条さんみたいな完璧なメイドでもないと無理じゃないかなって」

東条「……それだけかしら?」

最原(まだある。まだあるけど、どの情報をどの程度出すかを考えてるところなんだ)

最原(……やっぱりアレだよな)

最原「東条さん。今日、マジカルショーに遅刻してきたけどさ。なんで?」

東条「……」

東条「目覚まし時計の電池がたまたま今日切れたのよ。それで起きれなかったの」

最原「百田くん。朝は東条さんと一緒だったよね? 何か気付かなかった?」

百田「あ? いや、別に、いつも通りだったぜ? 強いて言うなら……なんかいい匂いがしてたかもな?」

百田「風呂あがりみてーな?」

春川「なんかイヤだね。百田が女子の匂い云々言うのって」

茶柱「死んでください(絶望)」

百田「なんでだよっ!」ガビーンッ!

最原「じゃあ次。アンジーさん。昨日のことを教えてほしいんだ」

アンジー「ほよ? 昨日? 昨日って言ったら……」

アンジー「あっ」

夢野「ん? なんじゃ今の『あっ』は。何かおかしなものでも見たのか?」

アンジー「……いや。見てないよー?」

夢野「なんじゃ。紛らわしいのう」

アンジー「……見てないのが問題なんだよ」

茶柱「は?」

アンジー「アンジー、昨日、斬美の姿を見てない」



裁判場全体「!」ドヨッ

最原(最初から東条さんのことを疑っていたわけじゃない。むしろ、最初に僕が疑っていたのは春川さんだった)

最原(でも捜査を進めて行く内に『あれっ』て思ったんだ)

最原「アンジーさんが言ってる『昨日』ってさ。巌窟王さんを心配して、外に出てたあの夜のことだよね?」

アンジー「うん。色々あってゴン太の昆虫で和もう会が終わってねー、その後」

アンジー「すぐに思ったんだよ。『大変だー! 門限過ぎてるー! 神様に怒られるー!』って」

赤松「ああ。そんなこと言ってたね……青い顔で」

真宮寺「完璧に子供扱いだよネ」

アンジー「で。アンジーの部屋に帰ったんだけど神様がいなくってー!」

夢野「んあ? アンジーの部屋なんじゃから巌窟王がいなくて当たり前……」

夢野「……」

夢野「一緒に住んでおったのか?」




裁判場全体「!?」ザワザワッ

巌窟王「……む? なんだ? 何故全員こちらを見る?」

茶柱「念のために訊いておきますが、手は出してませんよね?」

巌窟王「……は?」

白銀「あ、この反応は大丈夫だよ。何を訊かれたのかまるでわかってなさそうだし」

茶柱「どっちにしろ巌窟王さんは後で転子が処刑しますが、まあそれは置いといて……」

茶柱「そう、か。そうですね。アンジーさんは徹夜で寄宿舎の自分の部屋の前にいたんでした」

茶柱「八時より前に起きて、体育館もしくは食堂に向かった人たちは全員彼女の姿を見ていますよね?」

赤松「そ、そうか! じゃあアンジーさんって、もしかして!」

最原「証明困難な夜時間のアリバイを証明できる唯一の人間ってことになるんだ」

東条「それはどうかしら? 夜長さん自身が犯人である可能性だって……」

最原「ないよ」

東条「……!?」

最原「絶対にない」

最原「確かに巌窟王さんが夜時間の内に死んだってことになって、それ以前のアリバイは重要ではなくなったけど」

最原「それにしたって限度はあるんだ。だって体育館に仕込みをする時間が犯人には必要だからね」

春川「ピラニアの水槽への細工。体育館の窓枠への仕込み……確かにこれは夜時間以前にやらないとダメだね」

最原「夢野さんとずっと一緒に行動してたアンジーさんには不可能だよ」

夢野「……そうじゃな。いくら何でもアンジーがウチの近くでそんなマネしたら気付くわい」

夢野「アンジーは犯人ではないとウチが証明してやろう」

最原「更に、アンジーさんはそのまま夢野さんと一緒に、夜時間になるまで昆虫で和もう会に監禁されてたんだ」

最原「……絶対にないんだよ。アンジーさんが犯人である可能性はさ!」

東条「……なるほどね」

最原「その潔白のアンジーさんの証言なら、ほぼ完全に信用してもいいと思うよ」

東条「……」

アンジー「ちなみにー! アンジーが昆虫で和もう会から解放されたのが十時十分くらいでー」

アンジー「その後、全力疾走で寄宿舎に戻ったからー、帰還は十時十五分くらい!」

アンジー「確か斬美は夜時間になるまで小吉と追いかけっこしてたんだっけー?」

アンジー「……じゃあ、夜時間に入ってから、アンジーが帰ってくる十五分の間に斬美は自分の部屋に入って眠ったんだよね?」

アンジー「……そうじゃなかったらなんなの?」ギロリ

東条「それは……」

東条「いえ。夜長さんが私の姿を見ていないことは問題ではないはずよ」

東条「私は間違いなく夜長さんの言う通り、その十五分の間に自分の部屋に帰って寝る支度を整えたのだから」

東条「本当に重要なのは……」

春川「……他に見ていない生徒がいないか、ってことでしょ。わかってたよ、こういう展開になることは」

アンジー「そだねー。大体みんな夜時間になってからはー、素直に寄宿舎に帰っておねんねしてたねー」

王馬「その理屈で言うと、夜時間以前のアリバイはほぼ東条ちゃん頼りだった俺は、夜時間以降のアリバイは完璧だよね!」

王馬「だって校舎ではゴン太とずっと一緒で、寄宿舎に帰るときもそうだったからさ……」

王馬「……虫嫌い」ボソッ

獄原「え。王馬くん、今なんて?」

王馬「虫大好きーーー!」

獄原「ゴン太も大好きだよ!」

アンジー「えっとねー。他に見てない生徒はー……」

アンジー「うん! 魔姫だね! それだけだよー!」

春川「……」

王馬「つまり、犯人はこの二人に限定されたってことだね! いやー、お手柄だよ最原ちゃん!」

春川「……ッ!」

最原「いや。春川さんは犯人じゃないよ」

春川「え?」

百田「そうだ! ハルマキは犯人なんかじゃねー! コイツの目を見ろ! 綺麗じゃねーか!」

春川「バカでしょ」

最原「いや、そんな理由じゃなくってさ……」

最原「夢野さん」

夢野「んあ? ウチか?」

最原「春川さんに招待状を渡したとき、何か変なことはなかった?」

夢野「変なこと? いや、特に何もなかったが」

最原「本当に? 絶対に?」

夢野「……しつこいぞ。一体ウチに何を言わせたいんじゃ?」

最原「……」

夢野「……なかった。いつも通りの仏頂面で、招待状も迷惑そうに受け取っておったぞ」

夢野「来なかったがの」

春川「仕方ないじゃん……研究教室、離れたくなかったし……」

最原「じゃあやっぱり春川さんは犯人じゃないよ」

東条「何を言っているの? 一体、何の根拠があって……!」

最原「臭い」

東条「ぐぅ!」グサッ!

最原「塩素系漂白剤の匂いって、一度付いたらしばらく取れないんだよ」

最原「特に、人体についた塩素系漂白剤の匂いは、短時間で落とすのならそれなりの準備が必要なんだ!」

最原「あんなに大がかりに漂白剤を使った掃除をしたら、使った本人もかなり臭ったはずだよ!」

最原「でも、春川さんに会った夢野さんは、そんな臭いを嗅いだの?」

夢野「いや? 別に、そんな臭いはしなかったぞ?」

最原「……そもそも夢野さんが春川さんに会えたこと自体がおかしいんだよ」

最原「だって、そんな臭いをさせているところを誰かに見られでもしたら一瞬でお終いだ!」

最原「それが取れるまでは絶対に、どこかに身を隠すはずだよ!」

東条「事件が起こったのはシャワールームだったのでしょう?」

東条「更に、寄宿舎でなくとも、私の研究教室には洗濯機があるわ。服の臭いもそちらで処理できる」

東条「わざわざ私室に戻らなくっても……!」

最原「そんなことをしている最中を見られたら、いよいよ終わりじゃないか!」

最原「間違いないよ! 犯人の私室には、体に付いた臭いを落とす準備が一式、全部用意されていたはずだ!」

王馬「なるほどねー。俺も無駄な時間は使いたくなかったから東条ちゃんの私室までは入らなかったし」

王馬「全然気付かなかったや。そんな準備してたんだね、東条ちゃん」

赤松「あ、そっか。東条さんは自分の動機ビデオを持ってたからピッキングの必要がなかったんだね」

赤松「その理屈で言うと、私がなんで昆虫で和もう会に巻き込まれたのか疑問だけど……」

王馬「お題目上仕方なかったんだよ。みんなの虫さんを殺す気を無くそうって企画だったんだからさ」

最原「……」

最原「東条さん。巌窟王さんは『女性へのプレゼント』を倉庫で見繕ってたんだ」

最原「それって巌窟王さんが『女性と待ち合わせしていた』ってことだよね?」

最原「百田くん以外の全員の夜時間以前のアリバイが証明されたのは、キミにとって最大の不幸だったはずだ」

最原「だって百田くんは女性じゃないんだ! 巌窟王さんと待ち合わせしてないんだよ!」

真宮寺「逆に、その待ち合わせしていた女生徒が、事件と関係ない可能性は……」

真宮寺「ククク。あるわけないか。だって事件に関係なかったら、今ごろとっくに『待ち合わせしていたのに来なかったんだ』って証言してるからネ」

東条「……くぅっ!」

最原「あるいは、平穏無事に自分の部屋に戻って、滞りなく臭いを除去することさえできたら、そう証言していたのかも」

最原「でもそれはできなかった。アンジーさんがずっと、翌朝の八時になるまで自室の前にいたから!」

最原「自分の身の潔白のためには『自室でずっと寝ていたんだ』って証言するしかない!」

最原「そうだよね! 東条さん!」

東条「私は……!」

東条「……」

東条「すべて……状況証拠だわ」

最原「決定的な証拠はない。そう言うつもり?」

最原「……」




最原(実はその通りなんだよなぁ。どうしよう)

最原(僕が東条さんを疑うに至ったきっかけはたった一つ)

最原(東条さんが巌窟王さんと約束していた女生徒だったのはほとんど間違いないのに、その証言をしなかったから)

最原(昨日、巌窟王さんは何か紙のようなものを持ってたけど、多分あれが手紙だったんだろう)

最原(アレを誰にも気づかれずに渡せるのは、食事を配膳してた東条さんだけ。その他に巌窟王さんに何かを渡した素振りを見せた女生徒はいない)

最原(でもこれは僕の勝手な予測だし、手紙も当然処分されてるだろうしな……)

最原(あと一歩……足りない! なにか、決め手が……!)

星「なあ。東条。さっきの最原の言葉、覚えてるか?」

星「犯人はロープウェイを使ったとき、靴を脱いでたんだぜ?」

星「万が一、靴をプールに落としたら終わりだから持ち歩きもしてなかったはずだ」

星「犯人はわずかな重量すらも潔癖に削減しかかってたことは犯行手順を振り返れば明らかだしな」

東条「……!」

星「だとしたらその道中、足は無事だったんだろうな?」

星「いや……急いでいたからおそらく無事では済まなかったはずだ」

最原「えっ」

星「……裸足になってみろ。ちょっとでも荒れていたら終わりだ」

東条「……ううっ!」

最原「え? 嘘……あるの!? 傷が!」ガビーンッ!

東条「うう……うううううう……!」ダラダラ

星「……ふっ。美味しいところをうっかり持っていっちまった。悪いな、最原」

最原「い、いいんだよ。まごついてた僕が悪いし……」

最原「……」

最原「ありがとう、星くん」

星「いいさ。それに……ヤツを孤独にはさせないんだろ?」

星「その覚悟があるのなら……充分だ」

最原「……」

最原「東条さん。終わりにしよう」

最原「最後に僕が事件を振り返って……全貌を明らかにして……!」

最原「それでハッキリさせるんだ」

最原「『悪意の在処』……その正体を!」

残りはクライマックスだけだけど、寝ます!

バカな……heaven's feelが満席……!?
どうしても見たいとなったら終電逃す……だと!?

ここまで来て引き下がれないだろ……! 劇場限定礼装まで貰っちまったんだからよォ!

CM

クレオパトラ「くっ……うおおおおおおおお!(HFのチケットを買いながら)」

映画館職員「はい。今日の午後十一時から上映となります。チケットのキャンセルはできないのでご注意ください」

白銀「なっ……何やってるんですか……クレオパトラさぁん!」

クレオパトラ「なんて声ェ……出してるんですの。白銀ェ……!」

白銀「だって……だってぇ……!」

クレオパトラ「私は……最後のファラオ……クレオパトラなのですよ……この程度の夜更かし……(美容には)なんてことない!」

クレオパトラ「行きますわよ……映画が……待ってるんです……!」

クレオパトラ「それに……!」

クレオパトラ(わかったのです。英霊には睡眠時間など不要。終電を逃すのも……まあ漫画喫茶とかに泊まればなんとか……)

クレオパトラ(え? 漫画喫茶にスパの類はない? 枕も布団も申し訳程度の薄さ? そんな!)

クレオパトラ(……まあ! なんとかなります!)

クレオパトラ(止まらない限り……映画は見れます!)

クレオパトラ(だから……!)


上映中


クレオパトラ「止まるんじゃあ……ないですわよ……」スヤァ

白銀「だから言ったのにーーー!」ガビーンッ


上映中の寝落ちは多大な損失を産みます。


劇場版Fate/staynight Heaven's feel
大好評上映中

クレオパトラ「劇場限定礼装も……忘れちゃあ……ダメですよ……」スヤァ

クレオパトラ「あと青少年は東京都青少年の健全な育成に関する条例によって深夜の映画館立ちよりは禁止されてます……」

白銀(地味に寝言が酷いな……)←本当は入っちゃダメ

ヒャア! 我慢できねぇ初日だァ!
ってことで今日のところはこれまで。

……なんとかなる。終電なくっても死には……しない……はず……

クライマックス推理

最原「それじゃあ、昨日の朝から事件を振り返ってみよう」

最原「動機ビデオや夢野さんのマジカルショーのゴタゴタで目が眩んでいる中、巌窟王さんを呼び出した女生徒がいた」

最原「多分、秘密裏に二人きりで会いたいとでも言ったんだろうね。そうしておけば巌窟王さんは秘密を洩らさないから」

最原「ただ、ここで犯人に一つ目の不運があった」

最原「巌窟王さんは確かに生徒に対して無防備に相談したりはしなかったけど、電話で『女性へのプレゼントの相談』をしてしまったんだ」

最原「巌窟王さん自身もそこから秘密はバレることはないとタカをくくってたんだろうけど、これが犯人に訪れた一つ目の不幸だよ」

最原「巌窟王さんが倉庫で何かを探しているのを白銀さんが目撃し」

最原「百田くんが『倉庫にいた』と巌窟王さんから聞いただけなら、この真相に辿り着けなかったかもしれない」

最原「犯人が女性だって真相にね」

最原「そして巌窟王さんが殺害現場に持ち込んだ万年筆が、後々犯人に最大の不幸を呼び込むことになるんだ」

最原「犯人は約束通り呼び出し場所に現れた巌窟王さんに奇襲をかけ、気絶させたはずだ」

最原「その後、犯人は巌窟王さんの手首を切り裂き、シンクに水を溜め、ダンベルで手首をシンクの底に固定したんだ」

最原「そして巌窟王さんの体の中から血液を抜き出し、彼が死にそうになったところで蘇生させるということを繰り返す拷問じみた殺害を決行した」

最原「これは、後々行うトリックのために、犯人が少しでも巌窟王さんの体重を減らそうと考えた結果行われたものだよ」

最原「そのときの証拠は、血の溜められたシンクに沈んでいたダンベルのジョイント部分に血痕として残っている」

最原「こうして巌窟王さんの体重の削減を終えた犯人は、更なる削減を始めた」

最原「……巌窟王さんの『大きさ』の削減だ。死後硬直が始まる前に四肢を折りたたみ、手錠で固定して小さく纏めたんだよ」

最原「こうして二重に巌窟王さんの体へ工作を終えた犯人は、その死体を担いで星くんの研究教室の窓へと向かった」

最原「そこには犯人が事前に作ったロープウェイがあったはずだ。体育館、研究教室の窓枠と、浮き輪の取っ手に凄まじい負荷がかかった痕があったけど」

最原「あれはそのトリックを使った際にできたものなんだよ」

最原「犯人はヒールの高い尖った靴を履いていたから、星くんの研究教室でそれを脱いでから浮き輪に乗ったはずだよ」

最原「そしてそのとき、巌窟王さんのポケットから思いもよらないものが落ちた」

最原「それとは知らずに持ってきた王馬くんの秘密道具」

最原「三日間は絶対にインクの落ちない万年筆だよ」

最原「ともあれ、犯人はロープウェイを使うことによって体育館に移動した」

最原「夜時間に生徒が立ち入るのはアウトの校則はおそらく死体には適応されないんだろうね」

最原「そうでなければ口を滑らせた巌窟王さんの証言と話が絶対に食い違うから」

最原「犯人は窓枠からできる限り体育館に入らないよう注意しながら、マジカルショーの要であるピラニアの水槽の中に巌窟王さんの死体を入れた」

最原「事前に仕切りを作って、ピラニアに死体が食べられないようにしてからね」

最原「そしてここから犯人の隠蔽工作が始まった」

最原「まずダンベル、シンクなどの『夥しい血のついたもの』を徹底的に塩素系漂白剤で洗浄」

最原「もしかしたらインクの方も洗おうとしたかもしれないけど……絶対に落ちないからね。諦めたんだ」

最原「隠蔽工作が終わったころには、犯人自身も相当漂白剤の臭いがついてただろうけど……」

最原「自分の部屋にはそれを落とす準備が一通りされていたから、自室にさえ帰ることができればまるで問題はない」

最原「……そう。問題はないはずだったんだ。最後の不幸がそこに待ち構えてさえなければ」

最原「帰ってこない巌窟王さんを心配したアンジーさんが、ずっと自室の扉の前で待ってたんだよ」

最原「もしも漂白剤の臭いを漂わせているところをアンジーさんに見られたら、計画はすべて台無しだ」

最原「……かと言って、シャワールームに戻るのも、超高校級のメイドの研究教室の洗濯機を使うのも論外」

最原「星くんの研究教室のシャワールームは事件現場だし、洗濯機で服を洗うとしても乾かす手間がある」

最原「仕方がないから犯人はアンジーさんが寄宿舎から立ち去るときを、身を潜ませてじっと待つことにしたんだ」

最原「それは夢野さんのマジカルショーが始まる八時のことだった」

最原「やっとアンジーさんが立ち去った後、すぐに犯人は自室へと戻り」

最原「用意しておいたものを使って漂白剤の臭いを短時間で片付け」

最原「服は丸ごと着替えて急いで外に出て、途中で出会った百田くんとも合流し、マジカルショーに何食わぬ顔で現れた」

最原「……あとは夢野さんのマジカルショーのクライマックス、ピラニアが仕切りと死体ごと水槽に落ちればすべてカタが付く」

最原「時間制限の設けられた体育館での死体発見は、普通に上手く行けば『夜時間以前にアリバイのない人間』を狙い撃ちにできる最高のトリックだ」

最原「でもこれも不運に見舞われた。百田くん以外全員に、偶然にもアリバイができてしまったんだよ」

最原「巌窟王さんと約束していたはずのない、男子生徒の百田くんのみアリバイがない……」

最原「白銀さんが目撃した巌窟王さんはプレゼントを物色中で」

最原「百田くんが巌窟王さんを目撃したとき、つまり午後九時の女生徒は誰一人として約束に動いていない」

最原「なら消去法的に巌窟王さんが約束をしていた時間というのは夜時間ということになり、死亡推定時刻も完全に一致する」

最原「巌窟王さんが約束していた女生徒が事件に関係のない可能性は『その女生徒が名乗り出していない』という事実が裏付けてしまっている」

最原「……犯人は女生徒。そして漂白剤の臭いを身に纏っている。更に朝の八時まで自室に戻れていないから、それまで臭いは取れていない」

最原「アンジーさんが証明した夜時間以降のアリバイのない人間で、この条件に一致する人はたった一人しか存在しない」

最原「……"超高校級のメイド"、東条斬美さん!」

最原「今回の犯人は、キミしかいないんだよ!」


ガシャガシャガシャッ

バキィィィンッ!



COMPLETE!

休憩します!

東条「……」

東条「そう。それがあなたの出した答えなのね」

最原「うん。ここまで来ると、被害者に巌窟王さんを選んだ理由もなんとなくわかるよ」

アンジー「……取り返しが付くからじゃなかったのー?」

アンジー「ああ、いや。ちょっと真面目になるね」

アンジー「取り返しが付くからじゃなかったの?」

アンジー「……ねえ?」

東条「……」

最原「復讐されたくなかったから。でしょ?」

最原「東条さんは巌窟王さんが死なない可能性にかけてたんだ」

最原「アンジーさんを急かした理由も、死体の情報を隠滅するためじゃなくって」

巌窟王「……自分のやったことの成否の確認、か」

星「裸足になってくれるな?」

東条「もういいわ。ここまでにしましょう」

東条「……プールサイドって、滑らないように摩擦を付けて、ちょっとザラついていたでしょう?」

東条「体育館の窓枠から飛び降りて、着地したときに右足をちょっと擦過してしまったの」

東条「そこまで酷い傷にはなっていないけど……確かに傷にはなっているわ」

茶柱「……今のって」

獄原「認めた……ってことだよね?」

東条「それに、この服は脱げないわ。メイドとしての誇りだし、それに」

東条「……恥ずかしいし」

最原「あ、う、うん。確かにそのタイツを脱ぐとなると、かなりスカートが……」

夢野「言わんでいい言わんでいい。転子にぶん投げられるぞ」

茶柱「がるるるるるるるる!」

最原「……」

最原「ご、ごめん」

巌窟王「クハハハハハハ! 良い趣味をしているな、最原!」

巌窟王「だがいいぞ! 男なら仕方のないことだ! 他者の肌を見たい、触れたいと思うのは当然の――」

茶柱「巌窟王さぁーん?」スタスタ

巌窟王「クハ?」

茶柱「キエエエエエエエエエエエ!」ブンッ

巌窟王「ぐあああああああああああ!?」


ドガシャアアアアンッ!


真宮寺「……終わったネ」

天海「事件? 巌窟王さん? どっちが?」

キーボ「いや、まあ……どっちもでしょうね……」

モノクマ「ぐー……ハッ! 寝てた!」

モノクマ「あ、いい感じにもう議論の結果が出たみたいですね?」

モノクマ「それでは、お手元のスイッチで投票してください!」

モノクマ「必ず誰かに投票してくださいね。さもないと、死が与えられちゃうからね?」

モノクマ「……投票の結果、クロとなるのは誰か!」

モノクマ「その結果は、正解なのか不正解なのかーッ!」

モノクマ「さあ! どうなんだー!?」

巌窟王「……」←茶柱という血文字のメッセージを床に書いて事切れている

東条:十六票
巌窟王:一票

結果は……大正解!

モノクマ「なんとっ! 今回もだいせいかーい!」

モノクマ「今回の事件の犯人は……超高校級のメイドである、東条斬美さんなのでしたーッ!」

東条「……」

茶柱「……改めて現実を突きつけられるとショックですね」

茶柱「東条さん。教えてくれませんか? 何故こんな凶行を……!」

茶柱「みんな、転子たちに世話を焼いてくれる東条さんのことが大好きだったんですよ?」

茶柱「きっと巌窟王さんだって……!」

入間「その巌窟王、そっちで死んでるぞ……?」

王馬「正確に言うと茶柱ちゃんに殺されたんだけどね」

赤松「生きてる! 生きてるよ! 痛みに耐えて大人しくなってるだけで!」

巌窟王「床が……硬い……」

アンジー「膝枕貸してあげようかー?」

巌窟王「厚意に甘えよう」

最原「ごめん! せめてこっちの話には最低限参加してくれないかな!?」ガビーンッ!

東条「一刻も早く外に出なければならなかったのよ」

東条「……どうしても……何を犠牲にしたって……!」

白銀「それって、もしかして」

星「そうか。例の動機ビデオだな? そこには一体何が映ってたっていうんだ?」

星「……俺たちの最大の味方だったアンタが、一気に敵に変わっちまうような内容」

星「……聞かせてくれねーか?」

東条「言っても信じてくれないでしょうね。だから、動機ビデオを直接見た方が速いと思うの」

モノクマ「あ、映像データならこっちにあるから、それを裁判場上部のモニターに大写しにするね!」

モノクマ「これが! 東条さんの動機ビデオでーっす!」

五分後

最原「……」

最原「はあ?」

最原(思わず素っ頓狂な声を出してしまうような内容だった)

最原(とても現実味がなくて、ともすればバカバカしいとも言える内容)

最原(でもこれが現実だったとしたら、これ以上にない動機になってしまう)

赤松「東条さんが総理大臣……?」

赤松「え、つまり……えっ?」

王馬「そっか。なるほど。東条ちゃんはここにいる十六人の命と、外にいる国民の命を秤にかけたわけだ」

王馬「……ま。国民の方に秤が傾くのは当然かな。最大多数の最大幸福ってヤツだね」

巌窟王「なるほど。そして、国民の方に万全の状態で戻るのであれば俺の存在は邪魔だな」

巌窟王「どれだけ立派なお題目があろうと、我がマスターの命を危険に晒したのであれば復讐しないわけにもいくまい」

巌窟王「禍根を完全に断つためであれば理論上の最善手ではあったわけだ」

アンジー「痛いの痛いの飛んでけー」ナデナデ

キーボ「凄い頭撫でられてますが、患部ってあそこなんですかね?」

茶柱「いや。体全体がビターンッてなったので体全体です」

最原「ああもう! ちょいちょいアンジーさんに膝枕されてる巌窟王さんに意識が行って集中できない!」

夕飯作るので休憩!

東条「だから私は、どうしても外に出なければならなかったのよ」

東条「……例えあなたたちに恨まれようと」

東条「あなたたちの屍を踏みにじることになろうと……!」

最原「……それは」

最原(これ以上、言葉を続けることはできなかった)

最原(これは命を賭けた戦いであり、コロシアイだ)

最原(……巌窟王さんに助けられる可能性など度外視した、鉄の覚悟に支えられた犯行)

最原(動機ビデオを見ていない僕に、反論の余地はない)

赤松「違う」

最原「……え?」

赤松「それは違うよ東条さん!」

赤松「だって……誰かを犠牲にして、その人を仮に助けることができたとしてもさ!」

赤松「助けた後はどうするの!? 一生、そのために犠牲にした何かを背負って生きて行かなきゃならないんだよ!」

赤松「ダメだよそんなの……絶対にダメ!」

東条「……背負う覚悟ができていなければ、こんなことは初めから――!」

赤松「それに! そんなの無責任すぎるよ!」

東条「……は?」

赤松「『国民のために才囚学園のみんなを犠牲にした』って、どういうことかわからないの!?」

赤松「『国民のせいで才囚学園のみんなは死んだ』って、簡単に言い換えることができちゃうんだよ!?」

赤松「自分一人で背負うとか、そんなのただの格好つけだよ!」

赤松「あなたのやろうとしたことは、自分の大事なものに汚い泥をかけるようなものなんだよ……!」

赤松「自分で自分の大事なものを汚すとか……そんなバカなことをするのは……」

赤松「私だけで……充分だよぉ……!」ポロポロ

最原「……赤松さん」

巌窟王「……」

東条「優しいのね、あなたは」

東条「……でもお願い。泣かないで、赤松さん」

東条「私はそんな涙を向けられる資格はないの」

東条「……今までも、今も、これからも……!」

赤松「東条さん……!」

東条「……やめてって言ってるでしょう」

東条「お願い。もう私に優しくしないで」

東条「決心が鈍るから」

巌窟王「!」

最原(……これって……)

最原(悲しい人だな、東条さん。しかも律儀だ)

最原(まだ諦められないんだね)

モノクマ「じゃ、大体の疑問が解けたところで、そろそろ行っちゃいましょうか!」

モノクマ「ワックワックドキドキのおしおきタイムでーっす!」

百田「来やがったな、この野郎! テメェの思い通りに行くと思うなよ! なあみんな!」

王馬「は? みんなって誰?」

百田「あ?」

春川「……本当に助けていいと思う?」

百田「は、ハルマキ? 何言ってんだよ。東条は仲間だろ? 助けて当たり前じゃねーか!」

天海「そうっすね。仲間なら助けて当たり前っすよね」

百田「おお! 天海はよくわかってんじゃねーか! なら」

天海「……仲間なら、ね」

百田「……おい。なんだその言い方は」

百田「まさか、東条はもう仲間なんかじゃねーとでも言うつもりか?」

星「おい百田。それ以上はやめておけ」

星「……それ以上の言葉は、この件を無かったことにする言葉だ」

星「巌窟王が殺されたこと。東条が俺たちを殺そうとしたこと。東条の覚悟を無かったことにすること」

星「赤松の涙を無かったことにする言葉だ」

百田「……ッ!」

星「……禍根はある程度は残してこそ価値がある」

百田「ざ……っけんなよ! それじゃあ東条が!」

最原「悪いけど、僕も星くんと同意見だよ」

百田「終一?」

最原「……東条さんのやったことは、無かったことにしちゃいけない。禍根だって当然残る」

百田「……」

最原「無かったことにする必要も、ないしね」

百田「!」

巌窟王(……ほう)

東条「……そう。それでいいの。私はもう、あなたたちに助けられる価値のない存在」

東条「あなたちを裏切った人間」

東条「……ズルいわね、赤松さん。あなたのせいよ?」

赤松「え?」

東条「あなたがあんな優しいことを言わなければ、私は何が何でも同情を引いて……みんなを扇動して、足掻いてみせたでしょう」

東条「私の覚悟に一滴の躊躇を生んだのは、あなたの言葉」

東条「……あなたみたいな人が、この空間では一番恐ろしいのかもしれないわね」

赤松「……!」

東条「一人も仲間がいなくなっても構わない」

東条「後ろ指を差されても構わない」

東条「……どんなに汚れても、絶対に辿り着いてみせる」

東条「私は……私は……!」

最原(東条さんのやろうとしていることに見当は付いたけど)

最原(僕はそれをあえて見逃すことにした)

百田「おい、東条! 何をする気だ! 待――!」

最原「百田くん」

百田「なんだよっ!」

最原「……最後までやらせてあげよう」

最原「ケジメはどんな形でも取らなきゃいけない」

最原「……彼女の悪意の在処は、あの鉄の決意だ」

最原「なら最後の最後まで足掻かせて……全部無駄だったことを心底から思い知らせて……絶望させて……」

最原「……決意を、叩き潰すんだ」

百田「アイツは何一つとして間違っちゃいなかったんだぞ」

最原「わかってるよ。わかってる。でも……」

最原(やらないと。やらせてあげないと、ダメなんだよ……!)

東条「生き残ってやる」

東条「逃げて、逃げて逃げて逃げて逃げて……!」

東条「絶対に死ねない。死んでたまるものかッ!」

東条「四肢が折れようと、血をどれだけ流そうと……絶対に生き残ってやるッ!」ダッ

モノクマ「えっ」

白銀「……逃げ……た……?」

真宮寺「……無様で醜いネ。どこまで逃げたところで果ての壁に阻まれるのに」

夢野「口調の割には上機嫌そうじゃな……って、そんなこと言ってる場合じゃないぞ!」

夢野「東条! どこに逃げるんじゃ! そんなことしなくっても巌窟王が……!」

巌窟王「助けんぞ」

夢野「……んあっ!?」ガビーンッ

アンジー「神様?」

巌窟王「……これでいいのだろう? 最原」

最原「よくないよ。よくないんだ。でも……!」ギリィ

最原(全員揃って、ここから出るためには……これしかないんだ……!)

モノクマ「……まあいいや。超高校級のメイドである、東条斬美さんのために」

モノクマ「とっておきのおしおきを、用意させていただきましたーーーッ!」

茶柱「巌窟王さん! 本気じゃないんでしょう! 東条さんがいなくなったら、転子たちは……」

茶柱「今まで、何のために議論してきたんですかッ!」

巌窟王「……」

茶柱「最原さんっ! なんとか言ってください!」

茶柱「アンジーさん! あなたの言うことなら巌窟王さんだって……!」

アンジー「……」

茶柱「なんで……誰も何も言わないんですか?」

茶柱「……!」ダッ

春川「よしなよ。巻き込まれたくないなら行かない方がいいって」ガシッ

茶柱「だって、こんなの、あまりにも……!」ポロポロ

モノクマ「それでは! 張り切って参りましょう! おしおきターイム!」

東条「死んでたまるか……死んでたまるか……」

東条「死んでたまるかああああああああああ!」



トウジョウさんがクロに決まりました。
おしおきを開始します。

苦悶の糸

超高校級のメイド
東条斬美処刑執行

東条「死ねない……死ねない死ねない……国民の皆様のところに戻るまでは……!」ダッ

東条(いつの間にか私は、よくわからない空間に来ていた)

東条(どれだけ逃げても追ってくる国民の影。アレに捕まったらおそらく八つ裂きなのだろう)

東条(最終的に、廊下の前と後ろを固められて身動きが取れなくなった)

東条(……まだ、死ねない。決意は無駄にできない)

東条(気が付くと、目の前に茨でできたロープが垂れ下がっていた)

東条(どう見ても罠だけど、縋りつかないわけにも……いかない。掴んだときの痛みはどうでもいい)ブシュッ

モノタロウ「えーっと……嬲り殺し用の障害物のスイッチってコレだったっけ?」

モノダム「ウン。ソレデイイヨ」

モノファニー「あ。モノスケは観察係ね。上手く操作できるように、穴の真下から指示してちょうだい!」

モノスケ「ええで! ワイに任しとき!」



苦悶の糸上部

東条「……」

丸鋸「」ウィイイイインッ!

チェーンソー「」ギイイイイイイッ!

東条「……止まれない……私は……」


ブシュッ! ザシュッ!

東条(……痛い)

東条(凄く……痛い。信じられない)

東条(でも……止まれない)

東条(私は……!)


ザクザクザクッ


東条「ううっ……ああああああああ!」

東条(痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い!)

東条「……助け……」

東条「……」

東条(……そんなこと言う資格、私にはもうなかったか)

東条(死ねない。死ねない。だから上に向かわないと……上に……上に……)

東条(……逃げ切って、皆様のところに戻って……守らないと……)

東条(そうでなければ私は何のために……仲間を裏切ったのか……)

チカッ

東条「!」

東条(空が見える。やっと、脱出できる!)

東条「やっ――!」

東条「……え?」

東条「……絵?」

東条(……まあ、そうよね。罠に決まって……)

東条(ああ。茨の糸が切れそう。ここまでどれだけ昇ってきたのかしら)

東条(落ちたら……死ぬ?)

東条「う、い……ひ……いや。切れないで。私は死ねなっ……!」

ブチッ! ブチブチッ


東条「――!」

東条「お願い……誰か……」ガタガタ

東条(死ねない死ねない死にたくない死ねない死ねない……?)

東条(……あ、あれ? 今、なんて思ったのかしら)


ブチブチブチッ!


東条「……にたくない」

東条「誰か……助けて……」

東条「死にたくないッ!」


ブチイッ!


東条「あ――」

東条(切れちゃっ……た)

「――まったく我慢強すぎるな。あの人間城塞を思い出したぞ、東条」

モノスケ「お?」


ブワアッ!


バキバキバキバキバキンッ!

モノスケ「ぎゃああああ! なんか凄い風がーーー!?」ガビーンッ!

モノタロウ「ええーーーッ!? 嬲り殺し用のギミックが勝手に大破していくーーー!?」

「クハ……クハハハハハハハハ!」

「クハハハハハハハハハハハハ!」


ガシィッ

東条「……?」

東条(……あ、れ。死んでない……?)

「だが東条!」

東条「え……?」




巌窟王「俺を! 呼んだな!」ギンッ!

東条「……巌窟王、さん」

巌窟王「さぁて、それではここから手荒くなるぞ?」

巌窟王「もしかしたら先ほどまでの処刑の方が生温く感じるような地獄の業火だ」

巌窟王「……ついでにアイツらの内の一匹を屠ってみせよう」

東条「なんで……?」

巌窟王「愚問だな! 死ねない、ではなく『死にたくない』と言ったのだ、お前は」

巌窟王「それが答えだ! 俺を殺してみせた鉄の決意はその瞬間に死んだ!」

巌窟王「ならば、処刑はもう完了したも同然だろう!」

巌窟王「さあ! フィナーレだ! このまま地獄に共に戻るぞ! 東条ォ!」ギンッ

東条「……う……!」

巌窟王「……泣くな。笑え。二度と見られない最高の復讐劇だぞ?」ニヤァ

モノスケ「うう……メガネメガネ。メガネはどこや! ワイのメガネ!」

モノタロウ「モノスケー! 早くしないと! なんかあのお姫様抱っこしてる凄い恰好いいヤツがロックオンしてるからー!」

モノファニー「頑張ってー! あと少し左よー!」

モノスケ「わかっとるわそんなこと! あんまり急かすなや!」カシャッ

モノスケ「あ、今なんか手に触れた。これや!」


ガシャンッ


モノスケ「え。何今の音?」

最原「……」ニジリニジリ

最原「あ。ごめん。うっかり踏みつぶしちゃった」

モノタロウ「ええーーーッ!? なんでここに!?」

最原「いや、あのままだと茶柱さんが春川さんを振り切りそうだったから……」

最原「落ち着かせるために代わりに僕が来ただけで……説明する必要もないな」

最原「巌窟王さーん! お膳立ては整ったよー!」

巌窟王「上出来だ! 最原ァ! そこから離れているがいい!」

巌窟王「さあ東条! 特等席から見ているがいい! これが俺の宝具……」

巌窟王「虎よ、煌々と燃え盛れッ!」


ビュンッ!


モノスケ「うお……うおおおおおおおおおお!?」



ドカアアアアアンッ!

巌窟王「……クハハ。脆いな。あまりにも」

巌窟王「さて。あと残るところは三匹か」

モノタロウ「いや。ゼロだよ。すぐに逃げるからね」

モノファニー「撤退よー!」

モノダム「ワー」


ピューッ


巌窟王「……ふん」

東条「……え、と。巌窟王、さん」

巌窟王「もう何も言わなくていい。早く仲間たちのところへ戻るぞ」

東条「私は……」

巌窟王「裏切り者だから、か? ならばもう一度やり直せばいい」

東条「!」

巌窟王「……そうだろう? 最原」

巌窟王「ン? 最原?」

最原「」チーン

東条「……多分だけど、吹き飛んだモノスケの頭がモロに後頭部に当たったようね」

巌窟王「だから離れていろと言ったのだ」

最原「う、うう……大丈夫。気絶はしてないから」フラフラ

巌窟王「戻るぞ」

最原「うん」

剣豪やるから今日のところはここまで!

裁判場

獄原「……あっ! か、帰ってきた……帰ってきたよ! 三人とも!」

百田「終一ィ! 東条! 巌窟王!」ダッ

ガシッ ブンッ

百田「ぐえっ」

赤松「え。百田くん、なんでいきなりすっ転んでるの?」

百田「い、いや。なんかいきなり体がフワッて」

茶柱「ちょーっと百田さんはそこで寝転んでてくださいね。転子がまず最初に言いたいことがあるので」スタスタ

百田「茶柱?」

茶柱「……最原さん」

最原「……」

最原(何か言ってくるなら茶柱さんだろうな、とは思っていた)

最原(彼女は巌窟王さんのマントにくるまれているズタボロの東条さんを一瞥し、泣きそうな顔になってから僕を見る)

最原「あの――」


パァンッ!

茶柱「……何が……ケジメ?」

茶柱「何が禍根? 何が……絶望ですか……!」

茶柱「あなたは……ッ!」

最原「……う」

最原(グーパンより平手打ちの方が、精神的に何倍も来るな……)

最原(それよりなにより、茶柱さんが泣きながら、震えた声で語りかけてくるのが、辛い)

茶柱「東条さんを許すって言ったじゃないですか!」

茶柱「なのに……こんなの! こんなに東条さんをボロボロにして!」

茶柱「あなたは……転子たちは! 人を裁けるほど立派な人間じゃないんですよ! 誰一人として!」

茶柱「すぐに助けていれば、東条さんは、こんな……!」

巌窟王「茶柱。仕方が無かったのだ」

茶柱「……」

巌窟王「先ほど最原は言ったな? 無かったことにする必要はないと」

巌窟王「……罪を無かったことにするのと、罪を許すことはまったくの別だぞ」

巌窟王「罪を許すために必要な痛みもある」

茶柱「詭弁です」

巌窟王「にべもないな。だが事実だ」

巌窟王「……有耶無耶にしたら、同じことの繰り返しだったぞ」

茶柱「……」

東条「茶柱さん……」

茶柱「わかってるんですよ。こっちだって!」

茶柱「でも……納得できなくって!」

茶柱「こんな酷い手段しか用意できない自分が悔しくって!」

茶柱「転子は……無力で……拳の振りどころもなくって……!」

茶柱「おかしいですよ。東条さんも、最原さんも、巌窟王さんも……誰も間違ってないのに、なんで傷つくんですか」

茶柱「こんなの本当に地獄ですよ……!」

巌窟王「……茶柱。お前は根本的な見誤りをしているようだな?」

茶柱「え?」

巌窟王「修正すべき間違いならあるだろう」

茶柱「……それって……」

モノクマ「……」

モノクマ「あらら。また助けちゃったんだ?」

巌窟王「……赤松のときと答えは同じだぞ」

モノクマ「別にいいよ。赤松さんのときとは違って、生かすメリットもこっちにあるしね」

モノクマ「うぷぷ。次の被害者も決まりかなぁ?」ニヤァ

東条「!」

モノクマ「流石に、巌窟王さんも生徒から東条さんを庇うことはできないよね。なんでか知らないけどさ」

モノクマ「あ、それとも東条さん。また殺ってみる? 外に出たいって意志、それ自体は変わってないでしょ?」

東条「私は……!」

白銀「……ちが、うよ」

モノクマ「ほえ?」

白銀「私たちは……もうこんなこと絶対にしないよ!」

白銀「だってそうじゃないと、今までのことが全部無駄になっちゃうもん!」

春川「……そう、だね。同じことの繰り返しは誰でも御免でしょ」

百田「白銀……ハルマキ……!」

獄原「無力……そうだね。その通りだよ。でもゴン太たちは強くなれる!」

獄原「生きている限り、負けないんだ!」

赤松「ゴン太くん!」

モノクマ「……へえ? やってみれば?」

モノクマ「その表情が絶望に変わる瞬間は、そう遠くないと思うけど?」ウププ

最原(……なんだ、このモノクマの態度。前回の学級裁判のときも思ったけど)

最原(余裕すぎないか?)

巌窟王「……ああ。そうだ。言い忘れていたぞ、モノクマ」

巌窟王「先ほど俺が言った許しに必要な痛み云々は、あくまで一般論だ」

モノクマ「?」

巌窟王「俺は何も許さない。復讐者だからな」

巌窟王「だが憎しみの対象を見誤るような蒙昧でもない!」

巌窟王「俺が赤松から受けた痛み……東条から受けた痛み……!」

巌窟王「そのすべてを、何倍にもして貴様に返してやろう! 必ずな?」

モノクマ「……」

モノクマ「うぷ」

巌窟王「クハ」

モノクマ「うぷぷぷぷぷぷぷぷ……」

巌窟王「クハハハハハハハハハ……」

モノクマ&巌窟王「ハーーーッハッハッハッハッハッハッハ!」


ガコンッ

モノクマ「あぎゃっ! 顎が外れ……! 今日はここまで! バイバーイ!」



ドロンッ


最原「あ、行っちゃった」

最原(さて、後は……)

東条「……」

最原(……東条さん、どう接すればいいかな)

最原(もう大体全部、カタはついたと思うけど)

巌窟王「おい。東条」

東条「……何かしら?」

巌窟王「そのマントはお前に預ける。必ず洗って返せ」

巌窟王「それと……」

東条「……?」

巌窟王「……次はもうちょっとまともな食事をよこせ」

東条「!」

巌窟王「朝から麻婆豆腐はいくら何でもないだろう……」

東条「えっ? 好物だと聞いていたのだけど」

巌窟王「何ィ?」

王馬「俺知ってるよ! ゴン太がそう東条ちゃんに吹き込んだんだよね!」

東条「いえ、王馬くんから聞いたのだけど」

巌窟王「……」ジーッ

王馬「……」ダラダラダラ

王馬「死んでたまるかああああああああああ!」ダッ

巌窟王「我が征くは恩讐の彼方!」バッ


ドタドタドターッ


百田「……マイペースすぎんだろ。アイツら」

春川「なんか全部バカらしくなっちゃった。東条。上についたら何か作ってくれる?」

東条「……それは依頼と受け取って……いいのかしら?」

真宮寺「いいんじゃない? 少なくともキミのことを怖いと思っている人間はいても」

真宮寺「怒ってる人間は一人もいないヨ」

入間「あ? いや俺様は怒ってるぞコラ! 貴重な一日を無駄にさせやがって!」

東条「……ふふっ……あはは……ごめんなさい」

東条「埋め合わせは、必ずするわね?」

東条「それと、ありがとう。私のことを許してくれて」

茶柱「転子たちは謝るべきなんですけどね。東条さんに酷いことをしたのは事実です」

茶柱「というか! 東条さん怪我してますからね! 依頼を断ってもいいんですよ!」

東条「いえ。全力を尽くすわ」

東条「休むのは……まあ、後にさせてちょうだい」

東条「……一からやり直すんですもの。これくらいは!」ギンッ!

茶柱「うう! 転子が押されかねないほどの気迫……!」

最原「……はあ」

最原(よかった。なんとかなりそう、かな?)

最原(これで全部元通り……)グニャァ~

最原(あれ。目が回る……)フラッ

アンジー「お疲れさまー、終一ー!」ガシッ

最原「アンジーさん?」

最原(……アンジーさんに抱き留められてしまった)

アンジー「さっきのダメージがまだ残ってるんだねー! 神様の攻撃の余波をモロに食らったダメージ!」

アンジー「止めは転子のビンタかなー!」

茶柱「……あ、謝りませんからね。最原さん」

最原「はは……うん。それでいいよ」

夢野「さて。上に帰ったら最原はそのままベッドに直行じゃな」

夢野「一番頑張っておったしのう」

天海「今回も大活躍でしたね、最原くん!」

最原「いや大活躍だったんじゃなくって大半はアマデウス斎藤に無駄な手間を取られて」

天海「さあ! 帰るっすよ! 俺たちの地獄へ!」シャキーンッ

天海「いつか全員で脱出してやるんす!」

最原(話を逸らされた!)ガビーンッ!

アンジー「じゃ、終一はアンジーが責任を持って部屋まで送り届けるよー!」

百田「おう。頼んだぜ!」

星「……ふん。まあ、悪くない日だった、か」

最原(そして僕たちは上へ戻る)

最原(いつ終わるともしれない地獄の日々に)

最原(それでも、いつの日か絶対に、みんなで出られる日が来る)

最原(……僕たちは、そう信じることが段々できるようになってきた)

最原(なってきた……のは、いいんだけど)



最原の私室 夜


アンジー「終一……一緒にドロドロになっちゃおう?」

最原「……」

最原(あのダルダルの黄色いパーカー以外『何も』身に纏っていないアンジーさんにベッドの上で追い詰められている)

最原「……」

最原「なんでーーーッ!?」ガビーンッ!

アンジー「んとねー! 疲れた! から! 粘膜接触で魔力の回復を図るのだー!」

最原(そういえばあの本にそんな記述があったかもしれない!?)

最原「……いや! 待って! 確かアレって魔力供給のパスをどうこうするって記述だった気がする!」

最原「粘膜接触で魔力の回復ができるとは……書いてなかったような……!?」

最原「いやそれ以前に粘膜ってどこの粘膜!?」

アンジー「終一ー……」スリスリ

最原(聞いちゃいない)

アンジー「……終一も服を脱いで?」

最原「ま……待って待って。落ち着こう。落ち着いて話をさせて」

最原「そうだ! そんな理由でこんなことしちゃダメだよ! もっと自分を大事にして!」

最原「いくら巌窟王さんのためだからってさ!」

アンジー「……誰でもいいってわけじゃないよ?」

最原「えっ」

アンジー「……アンジーの目を見て……今は終一しか映ってない」

アンジー「ねえ……きっと楽しいよー?」ツツーッ

最原(熱い息を吹きかけられて、指先で首筋を撫でられる)

最原(ま、ずい。なんか段々なにも考えられなくなってきた)

最原(ていうか誰でもいいってわけじゃないってどういう……)

アンジー「……終一……」

最原(アンジーさんの顔が段々とこちらに近づいてきて……)


ピピピピッッ ピピピピッ


アンジー「……あ。門限だ」

最原「え」

最原(アンジーさんのポケットから聞こえる電子音で止まった。多分この音は目覚まし時計だ)

最原(……目覚まし時計を持ち歩いてるの?)

アンジー「じゃ、アンジーもう帰るねー!」セッセッ

最原「あ、う、うん」

アンジー「ぐっばいならー!」

最原(アンジーさんはせっせと服を着込んで、手際よく僕の部屋から出て行った)

最原(……ただ。本当に急いでいたのだろう)

最原「……パンツ……忘れて行ってる……」ズーン




アンジーの私室

アンジー「……あ。パンツ忘れちゃったー。終一の部屋に」

巌窟王「そうか。すぐに殺して取り返してこよう」

食堂

王馬「……にしし……障害があればあるほどゲームは盛り上がるもんだからね」プシューッ

王馬「みんなが寝静まってる内に、どんどん盛り上げていこっかー!」プシューッ

王馬「よし! これでOK! 完璧! 誰が見てもすぐにわかるよね! これで!」

カランッ

王馬「このスプレー缶はもういらないや」

王馬「明日がとても楽しみだなぁ……」ニヤァ



食堂の壁『春川魔姫は超高校級の暗殺者!』

第二章
その限りなく地獄に近い天国に光は差すか

END


残り人数

十六人+一騎


TO BE CONTINUED



巌窟王のマントを手に入れました!

今日のところはここまで!



最原「……ふあーあ……昨日は……本当に酷い一日だった」

最原(雨降って地、固まるの諺のように行ってくれれば重畳なんだけどな)

最原(さて。昨日は東条さんもあんなこと言ってたけど、怪我も酷いから無理はさせられない)

最原(まだ八時になってないけど、今のうちに食堂に行って……東条さんを無理やり休ませるか、さもなくば手伝うかはしよう)

最原(……昨日の茶柱さんの涙が、まだ僕の心に残ってる。あの選択を間違いだとは思わないけど……罪悪感を覚えないかどうかは別だ)

最原「さて。行こう」

ガチャリンコ

巌窟王「……昨日はアンジーが世話になったようだな?」ゴゴゴゴゴゴ

最原「」

巌窟王「共に来い」

最原(死んだな僕)



第三章

Unlimited 在校生 Works



百田「ふあーあ……昨日はいい一日だったぜ。結果として東条の悩みとも全力でぶつかり合えたしな」

百田「さぁって! 今日も一日、ぶちかますとするか!」

ざわ・・・ざわ・・・

百田「……ん? なんだ? 騒がしいな」

キーボ「あっ! も、百田クン! 大変です! 食堂に……!」

百田「ん?」



数分後 食堂

百田「なんだこりゃ……壁一面に、文字? スプレーかこりゃあ」

星「いや。それよりも書かれている内容の方が問題だぜ」

白銀「春川魔姫は……超高校級の暗殺者!?」ガビーンッ

入間「こりゃあ、ひょっとするとモノクマの新しい動機ってヤツじゃねーのか?」

百田「……あ? なんだそりゃ。なんでコレが動機になんだよ」

星「忘れたわけじゃねーだろう。俺たちはコロシアイを強要されているんだぜ」

星「そんな中、もしも春川の才能が実際に超高校級の暗殺者だった場合は……」

赤松「……いや。関係ないよ。そんなの。春川さんは春川さんだもん」

赤松「第一! これが本当かどうかなんて、春川さんに訊かないとわからないし!」




春川「……なに、これ……」

赤松「あっ」

王馬「うん! 赤松ちゃんみたいなこと言う人が出るかと思って、連れて来たよ! 件の春川ちゃん!」

百田「おいハルマキ。コイツは……」

春川「……!」

ダッ

百田「ハルマキ!」

王馬「ありゃりゃ、逃げちゃった。認めたようなモンだよね、コレ!」

百田「クソッ! 待てよハルマキィ!」ダッ

星「……」

星「おい王馬。コレを書いたのはアンタだな?」

王馬「え? 違うよ? 何を根拠に言ってるの?」

星「今までモノクマは動機の提示を、俺たちの真正面からやっていた」

星「全員に。平等に。同時に。わかりやすくな」

星「だがコレはどう見ても春川を狙い撃ちにしている。モノクマの署名も一切ない」

星「そして……春川の才能の真実を知っている生徒は、俺とアンタだけだ」

白銀「えっ!? そ、それって、どういうこと……!?」

王馬「……にしし……俺から説明しよっか」

星「あっさり認めやがって……食えない野郎だ」

入間「なー。東条はどこ行ったー? 俺様は腹が減ったぞー」

赤松「空気……読もうよ入間さん……」

寄宿舎周辺 中庭への階段寄り

百田「ああ、くっそ足速ェ! 止まれハルマキィ!」

春川「……」ピタッ

百田(お。止まった)

春川「……アレ。本当だよ」

百田「そうか」

春川「……誰だか知らないけど、やってくれたね。私の努力が全部パァだよ」

百田「……まさか、あの研究教室の中って」

春川「『色々』ある」

百田「……そうか」

春川「……引いたでしょ? 引いたよね」

春川「当たり前だよね」

百田「……ハルマキ。俺ァ――」

春川「もう私に近づかないで。私は……」

春川「……せっかく、みんな結束しそうだったんだよ。私がいたら邪魔だよ。どう考えてもさ」

百田「そんなこと――!」

春川「あるんだよ」

百田「……」

百田(そう言うなり、ハルマキは再び、走り出そうとした)

春川「だから、もう私に関わらな――」



巌窟王「クハハハハハハハハ!」ビュンッ


ドカァァァァァンッ


春川「ひでぶっ」

百田「ハルマキが超速度で走る巌窟王に轢かれて吹っ飛んだーーーッ!?」ガビーンッ!

春川「ごはっ」ベシャッ

百田「ハルマキ! しっかりしろ! ハルマキー!」

中庭

巌窟王「戻ったぞ! 倉庫から持ってきたマシュマロだ!」ギンッ

アンジー「神様ありがとー!」

最原「……えーと……何これ……」

真宮寺「焚火」

天海「鉄串」

東条「あとキッチンペーパー、新聞紙、アルミホイルで包んだキャンプ用の食材よ」

焚火「」パチッパチッ

最原「朝からやることじゃ……ないよ……明らかに」

獄原「でもちょっとワクワクするよね!」



ハルマキィィィィィ!


最原「ん? 遠くで百田くんの声が聞こえたような……」

巌窟王「始めるぞ!」ギンッ!

休憩します!

まだ剣豪が二番勝負までしか終わってないんで……
ていうかパライソちゃんが女性か男性かすらわかってない情弱マスター状態なので今日はここまで!

なんかセルフ誕生日プレゼントで買った石で武蔵さん二人来ちゃったんで、うどん食べてから更新します

夢野「んあー。巌窟王が最原を取り調べするらしいぞ? 楽しみじゃのー」

茶柱「はあ。いや、それの何が楽しみなんです?」

夢野「なんでも巌窟王がアンジーから『取り調べと言ったらカツ丼だよねー』って言われたらしくての」

夢野「で。東条に頼もうにも凝った料理ができないくらい手がボロボロじゃろ?」

夢野「カツ丼はやめよう。誰がやっても知識があればできるそれなりのものにしよう」

夢野「じゃあ焚火囲んで色々焼いて食べることにしようってなったんじゃ」

茶柱「発想にちょっとスキップかかってますね」

夢野「冒険の経験やフィールドワークの経験のある真宮寺と天海」

夢野「なんかもう見た目からして野趣溢れるゴン太とかも巻き込んで」

夢野「今は中庭あたりでもう色々やっておるころ……?」




百田「ハルマキーーー! 目を開けろってハルマキーーー!」

春川「」チーン

百田「ハルマキーーー!」

夢野&茶柱「」




中庭

巌窟王「夢野が遅いな……後で五月蠅いだろうから茶柱も誘ってくると言ってたはずだが……」

巌窟王「まあいい! 取り調べを開始する!」ギンッ

アンジー「吐けー!」

最原「……取り調べとは名ばかりだよね」

真宮寺「焚火を囲んでマシュマロ焼きつつ下らない話に興じる……」

天海「ノリが修学旅行の『お前誰好き暴露会』のまんまっすよねー」フーフー

東条「……」ボッ

最原「東条さん。マシュマロを火に近づけすぎ。引火してる……」

東条「……ごめんなさい。普段はこんな失敗しないのだけど」

最原(やっぱり怪我が尾を引いてるのか。包帯だらけだし……)

獄原「でもなんでゴン太たちのことまで誘ってくれたの?」

巌窟王「ついでだ。お前たちに話しておかなければならないことがあってな」

天海「それは?」

巌窟王「俺のホームからここに物資が転送されてくる」

最原「!」

巌窟王「……だが、前回の天海の仮面のように、アレは学園のどこに出るかは大雑把にしか決められないらしい」

巌窟王「最低限、現状で足を運べるどこかに転送するとは確約させたが……足で探すにはそろそろ学園が広すぎるからな」

真宮寺「なるほど。そこで僕らの出番というわけだネ」

天海「具体的な物資の内容は?」

東条「モノによっては状況の打開を図れるかもしれないわね」

巌窟王「カメラとプリンター。そして写真術のマニュアルだ」

最原「期待して損した!」ガビーンッ!

アンジー「卒業アルバムの野望は未だ潰えてないのだー!」キラキラキラ!

最原(……っと。そうだ。野望でなんとなく思い出した。そこまで大仰なものじゃないけど)

最原(アンジーさんの血液をどうにかして採取したいって入間さんから依頼されてたんだったな)

最原(報酬は天海くんの動機ビデオデータ……昨日は色々なゴタゴタがあったからできなかったけど)

最原(……普通に健康診断に誘う感じでいいか)

巌窟王「最原。何をアンジーのことをじっと見ている?」

最原「……い、いや。なんでもないよ」

巌窟王「……」ジーッ

最原「……」ガタガタ

巌窟王「そうか!」ギンッ

最原(無意味な間を置くのやめてほしいなぁ。寿命縮むから)ズーン

東条「……」ボッ

天海「東条さん。またマシュマロに引火してるっす」

東条「ごめんなさい……」

獄原「アルミホイルの方はまだかな」ワクワク

休憩します!

カルデア

BB「さてと。転送終了。どこに行ったかまではわかりませんが……」

BB「引き続き片手間にこの空間の解析を進めますか」

BB「多分、かなり答えは単純で、単なる並行世界だと思うんですけど……」

BB「それも剪定事象みたいな『何らかの理由で手が届かなくなったレベルの別世界』じゃない……もっと普通の」

BB「……ダメだ。今一歩足りませんねー。明らかに手がかりが不足してます」

BB「それにしては何か、世界観が滅茶苦茶すぎるんですよね。まるで、そう」

BB「この学園だけじゃなくって、外の世界まで誰かに用意されているような……」



才囚学園

春川「……ハッ!」パチリ

百田「おお! 気が付いたかハルマキ!」

夢野「ふいー、ひやひやしたわい。怪我も特になさそうじゃの」

茶柱「……ん? でも何か様子がおかしくありませんか?」

百田「んなことねーって。な、ハルマキ」

春川「私は誰?」

百田「」

茶柱「」

夢野「」


春川は記憶を失った

数時間後

巌窟王「……行くぞ」

天海「ええ。ここから先は……」

真宮寺「競争、だネ」

東条「全力を尽くすわ」

アンジー「みんながんばー!」キラキラキラ

最原「うん。えーっと……頑張るよ。片手間に」

最原(というか物資一つ探し出すのに凄い無駄にやる気出してるなぁ)

巌窟王「さて。ひとまず食堂に道具を片付けに行くか」

東条「洗い物は……」

最原「当然僕たちがやるよ。東条さんは無理しないで」

東条「……」



食堂

最原「春川魔姫は……って、え!? 何これ!?」ガビーンッ

巌窟王「残酷なことだ」

天海「マジっすか!」

赤松「みんな気づくの遅いよ!」ガビーンッ!



情報はやっと全員に行き渡った

獄原「よし! ゴン太も頑張ろう! 卒業アルバムって楽しそうだしね!」キラキラキラ

獄原「まずは外を虱潰しに探して……」フラッ

獄原「ん……なんだろう。一瞬、目が霞んだような……気のせいかな?」



夢野の研究教室

夢野「この五円玉をじーっと見ていると、ほら、段々と記憶が蘇って……」チクタクチクタク

春川「ううっ……確か私は超高校級の暗……」

百田「……」

春川「……パンマンだったような」

茶柱「誤魔化し方下手すぎますね」

夢野「くっそーーー! 失敗じゃ!」

百田「いやこれ以上ないくらい成功してっから安心しろ!」

今日のところはこれまで! 続きは明日!
せめてパライソの真名が出るところまではやりたいなぁ

巌窟王「今日のところは訓練は休んで、物資の探索をするか」

アンジー「にゃははー! 神様と一緒ー!」

巌窟王「……なるほど。学級裁判を一つの区切りとして、学園の区画が解放されていくのか」

アンジー「いつも神様はこういうときに部屋に引きこもってたから知らないよねー!」

巌窟王「俺にもやることがあるからな」

アンジー「……ねえ神様ー。楓の学級裁判のときに言ってた個人的な目標って、なに?」

巌窟王「言う必要はないな」

アンジー「アンジーにできることは」

巌窟王「ない」

アンジー「……命令されれば何でもするよー?」

巌窟王「ない」

アンジー「……」

アンジー「……」ムク

巌窟王「む? 今むくれたか?」

アンジー「にゃははー! まっさかー! 神様の言葉でむくれることなんて未来永劫ありえないよー」

アンジー「……超高校級の美術部であると同時に、超高校級の巫女だからね」

巌窟王(初耳だ。話半分に聞いた方がいい事実かもな)

アンジー(明らかに信憑性に乏しいから聞き流そうって顔してる……)

アンジー「確か終一が新しい区画を開放させているはずだよー。何よりも優先させるって言ってたし。行ってみよう!」

巌窟王「……今度こそお前の研究教室があればいいがな」

アンジー「そだねー!」




新しい区画

巌窟王「む? これは……見た限り超高校級の民俗学者の研究教室か?」

真宮寺「……」ゲシッゲシッ

真宮寺「ダメだ。扉が開かないネ。木製に見えるのにそうじゃないみたいだ」

入間「燻蒸消毒機能つってたな? 超高校級の民俗学者らしいクソ陰気な機能だぜ」

入間「ま、中に閉じ込められてるキーボはロボットだ。燻蒸ガスくらいヘーキだろ」

巌窟王(あそこにいるのは真宮寺と入間か)

アンジー「美兎ー! 是清ー! どうかしたかー!」

真宮寺「朝に聞いた物資の捜索しているついでに、自分の研究教室が実装されているって聞いたから覗いてみたんだけどネ」

入間「それに同行してやってた俺様がたまたま見つけた燻蒸機能スイッチを押してな」

入間「で。その燻蒸消毒にキーボが巻き込まれた状態で研究教室が閉鎖されちまったってわけだ」

巌窟王「燻蒸……」

アンジー「博物館とかがたまにやってる消毒方法だねー。有毒ガスで建物の中を満たして虫、カビ、その他美術品に有害なものを除去するんだよー」

真宮寺「流石は超高校級の美術部。詳しいネ」

モノクマ「ちなみに、この燻蒸消毒で使うのはボクが制作した万物に終焉をもたらす猛毒……」

モノクマ「モノクマ印の地球環境破壊ガスだから、人間なら一息吸えば一発で死ぬよ。虫やカビなら言わずもがな!」

モノクマ「ま、赤外線センサーで『中に人がいるかどうか』を判別してから消毒作業は行われるから大丈夫だけどね!」

巌窟王「ほう」

アンジー「仮に神様が閉じ込められても大丈夫だよねー? 毒利かないもん」

巌窟王「巌窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)は防毒の効果があるからな」

巌窟王「第一、俺が使う炎は毒入りだ。仮に俺を毒殺するのであれば物理法則に則った通常のものは話にならない」

真宮寺「それも巌窟王さんの毒炎を凌駕するものでなければ不可能、か。大分難易度高いネ。覚えておくヨ」

入間「で。この燻蒸消毒機能の解除はどうすんだ?」

モノクマ「一度発動したら三十分経つまで解除できないよ!」

巌窟王「……真宮寺。燻蒸消毒が始まってどのくらい経った?」

真宮寺「もうすぐ三十分だネ」


カシャンッ

ガララッ


キーボ「う、うわああああん! 死ぬかと思いましたーーー!」

入間「お。出てきやがった」

入間「あー。ちょっと見せてみろ……相変わらず凄いカラダ……!」ハァハァ

入間「っと、いけねぇ。軽くだ軽く。本格的なコトは俺様の研究教室で……じっくりしっぽり……!」

真宮寺「ガスの除去は終わっているのかな」

モノクマ「最後の十分でガスを除去しにかかるから大丈夫だよ!」

キーボ「ずっと叫び続けてたのに全然返事も助けも来ないから本当に怖かったです!」

アンジー「うーん。でもコレ便利だけど危ないよねー」

真宮寺「中に人がいるときは使えない以上、大丈夫じゃないかな」

キーボ「ぼ、ボクは……」

入間「大丈夫だったじゃねーか。そもそも毒ガスが利かないのなら考慮にすら値しないっつーの」

キーボ「ロボット差別です……」シュン

アンジー「あれ? いつもより元気ないぞー、どしたー」

キーボ「もう叫び疲れてしまったので……」

真宮寺「あ。そうだ。二人とも。奥の方に超高校級の美術部の研究教室もあったヨ」

巌窟王「行くぞアンジー!」ダッ

アンジー「おー!」ダッ

真宮寺「……ククク。仲良きことは美しきかな、だネ」

入間「も、もう我慢できない。ここでおっぱじめちまおうぜ……!」

キーボ「え。ちょっと。入間さ……うひゃあああ!?」

真宮寺「これは美しくない」

休憩します!

超高校級の合気道家の研究教室

最原「……ふう。これで今回の解放された場所は全部かな」

最原(物資は見つからなかったな。だとすると既に解放されていた既存の場所にカメラ類が転送されている可能性が高いけど……)

最原(通りすがりでも見かけた覚えはない。ということは『既に解放されている場所』で尚且つ『僕が行ったことない場所』の可能性が高い)

最原(……ついでだ。春川さんの研究教室に行こうか)

茶柱「転子の研究教室がついに実装ですってーーー!」バターンッ

最原「あ。茶柱さん」

茶柱「……」

ガチャリンコ

最原(無言で出て行った……まあ謝らないとか言ってたしな)

最原(……仕方ないか。間違ってないからって、正しいわけじゃない)

最原「……仲直りは無理だろうな。ただでさえ男子が嫌いだし。茶柱さん」

超高校級の暗殺者の研究教室

カメラ類「」ドーンッ

東条「……見つけた。こんな物騒な場所に……」

東条「早くこれを巌窟王さんに届けないと」

ズキッ

東条「……ダメね。この手じゃ。うっかり落として壊したりしたら取り返しが付かないもの」

東条「あとどのくらいで治るのかしら」




夢野の研究教室

夢野「よいかー。この五円玉をじーっと見つめるんじゃぞー……」

夢野「スリー。トゥー。ワン。ヒミコ!」カッ

春川「ぐー」スヤァ

夢野「なんか想像以上に催眠術がハマりすぎて楽しくなってきたのう」

百田「遊んでんじゃねーよッ!」ガビーンッ

夢野「スリーサイズを上から順に言えー」

春川「ななじゅうな――」

百田「起きろハルマキィ! これ以上は夢野のオモチャになるだけだぞ!」ガクガク!

超高校級の美術部の研究教室

巌窟王「ふむ。チラリと見ただけだが、真宮寺のよりは幾何か施設が大人しいな」

アンジー「充分! 充分だよー! これで今までできなかったこともたくさんできるようになるー!」

巌窟王「……嬉しいか?」

アンジー「うん! それもこれも神様のお陰だよー! ありがとねー!」

巌窟王「……」

巌窟王「なんとなく思っていたのだが、やはりな」

アンジー「ん?」

巌窟王「アンジー。お前からの魔力供給は、お前が表に出す感情の量に比例するらしい」

アンジー「……元から抑えてないけどー?」

巌窟王「さて。それはどうだろうな」

巌窟王(それに、ここから先は言うつもりはない。言ったところで自傷行為に走られても面倒だからな)

巌窟王(……どうやら怒りや悲しみ、不満やフラストレーションの爆発、漏洩が鍵になっている)

巌窟王(今まで絆を育んできたのは決して無駄ではない)

巌窟王(……先ほどはむくれていないと否定されたが……その虚栄、いつまで続くかな?)

巌窟王(俺は聖女などに仕える気は毛頭ないのだ)

アンジー(……神様が何を考えてるのか、なんとなくわかるよ)

アンジー(怒れと言われれば怒るし、喜べと言われれば喜ぶのに……)

アンジー(……どうして願ってくれないの? アンジーの何が悪いの?)

アンジー「……感情、か」

アンジー(……あの夢や、学級裁判での頑張りを見てから、終一の顔が脳裏にチラつくんだよねー)

アンジー(終一なら教えてくれるのかなー。頭いいし……ね)

巌窟王(猛烈にタバコ吸いたくなってきた……早く脱出をしたいものだ……)

食堂

白銀「……なんかさ。地味に歯車が軋んでいる気がするんだよね」

星「そりゃそうだろう。いくら上手く行こうが、同じ空間に十六人も閉じ込められてるんだ」

星「人間関係はイヤでも進展する。その過程で何かが軋むこともあるだろう」

白銀「……元には戻れないのかな」

星「無理だろうな」

星「それに……なんだろうな。アンタがそういうのを一番楽しんでいるように見えるぜ」

白銀「……気のせいじゃない?」

白銀「……気のせいだよ」

星「……」



星(そろそろ、嵐が来るかもな)

星(東条のときとは比較にならない嵐が……)

今日のところはこれまで!

夕飯の時間

春川「へえ。ここが食堂……いっぱい人がいるね」

茶柱「まだ治ってないんですか」

夢野「まだ治っておらんぞ」

最原「どうしたの春川さん」

百田「……巌窟王にやられた……」

春川「……で。食事ってどうするの? 作るの? 誰かが作ってくれるの?」キョロキョロ

最原「い、いや。東条さんはまだ怪我が治ってないから無理……」


トントントン


最原「あれ。包丁の音?」

王馬「あれれー。東条ちゃんが料理してるー」

東条「ええ。心配かけさせたわね。簡単なものしか作れないけどすぐに用意するわ」

獄原「だ、大丈夫? 無理しなくっていいんだよ?」

東条「無理なんかしてないわ」

獄原「よかった! それなら安心だね!」

アンジー「……安心だー! 全部元通りだよー!」

茶柱「……?」

最原(元通り……本当に?)

三十分後

最原「おいしい……」

最原(味噌汁と焼き魚とご飯……シンプルだけど間違いなく美味しい)

最原(流石に米はとげないから、これだけはレトルトみたいだけど)

東条「よかった。みんなのお口にあって何よりよ」ピクッピクッ

赤松「……待って。東条さん、手が震えてない?」

東条「!」

茶柱「すいません。その手袋の下、見せてくれませんか?」

東条「……今は食事中よ。見ない方がいいわ」

夢野「んあ? どういう意味じゃ?」

星「……」

入間「?」モグモグモグ

最原「……やっぱり元通りとは行かないよね。そう簡単には」

天海「見せてほしいっすね。今すぐに。じゃないと逆にメシが喉を通らないっす」

東条「……」


スッ


ボタッ


入間「んなっ! うえ……!」

キーボ「入間さん。余計なことを言うくらいなら目を背けていてください」

入間「……あーはいはいわかってるっつーの!」

最原(東条さんの手袋の下は包帯でグルグル巻きだった)

最原(……しかも、その手袋が真っ赤に染まって、赤いモノが滴り落ちている)

最原(手袋の中にもいくらか溜まっていたようだ。そちらからも垂れている)

茶柱「酷い。そんな手でどうやって……!」

東条「倉庫から持ってきた痛み止めで、なんとかなったわ」

白銀「それってダメージそのものが無効化されてるわけじゃないから! 絶対!」

百田「無理に手を使って傷口が開いたってのか……バカ野郎!」

東条「大丈夫よ。細心の注意を払っていたから、料理の中には入ってないわ」

百田「そういう問題じゃねーんだよ! 誰か手当できるヤツは……!」

天海「俺がやるっすよ。簡単なものしかできないっすけど」

春川「……なんでこんなに傷だらけな人に料理させてるの?」

夢野「完璧にシクッたわ。東条! しばらく料理はしなくてよいぞ!」

東条「でも……」

茶柱「でもは禁止です! 天海さん、よろしくお願いします」

天海「心得たっす」

東条「……ごめんなさい……」

茶柱「……」ギッ

最原(う。凄い目でこっち見てるな、茶柱さん……)

王馬「にしし! 東条ちゃんを止めなかった時点で同罪なのに、最原ちゃんに八つ当たり? 良い身分だね! 茶柱ちゃん!」

茶柱「ッ!」

最原「王馬くん!」

王馬「ん? なあに? 庇った礼なら後で講座に振り込んでくれればいいよ?」

最原「礼なんか……!」

赤松「……やめようよ。誰も悪くないんだからさ」

最原「……」

最原(クソ……!)

赤松「……そ、そうだ! さっき東条さんから預かったんだけどさ!」

赤松「カメラとかその他の機器が学園に届いてたんだよ!」

赤松「今は私が預かってるんだけど……」

赤松「巌窟王さんはどこ?」

アンジー「しーらない!」

赤松「そ、そっか」

アンジー「届け物ならアンジーが預かるよー!」

赤松「じゃあ……お願いしようかな」

春川「巌窟王って誰?」

最原「春川さん本当に大丈夫?」

どこかの教室

巌窟王「ニコチンが足りなさ過ぎてイライラするが、アンジーが真似するので吸うわけにはいかない……!」ガタガタ

モノクマ「偉いですねー。ちなみにこの学園に来てから、あなたが禁煙していることはキチンと把握しています!」

モノクマ「身内に祝ってもらうのも禁煙のモチベーションを上げる一つの方法ですよー」

モノダム「頑張レ。頑張レ」

モノファニー「大丈夫よー! アタイたちがついてるわー!」

モノタロウ「依存症に負けるなー!」

巌窟王「クハハ……祝い、か……考えておこう」



依存症のカウンセリングを受けていた

休憩します!

数十分後

アンジー「じゃ、すぐに取りに行くけど……大きいのならバッグを用意してから行くよ?」

赤松「そうだね。結構かさばるから運ぶものがあるといいかも。そんなに大きくなくてもいいけど」

アンジー「そかそかー! じゃ、倉庫に寄ってから行くねー!」ピューッ

最原「……」

最原(今は傍に巌窟王さんはいない。チャンスかな)スッ



倉庫

アンジー「ふんふんふーん」ゴソゴソ

最原「……アンジーさん。ちょっと話したいことがあるんだけど」

アンジー「ん?」

最原「あのさ。実は……」

アンジー「あ。待って。終一、そこから先は急ぎじゃないなら今度にしてー?」

最原「え」

アンジー「アンジーも終一に用があったんだー! 明日になったら裏庭のあたりに来てよー!」

最原「……できれば巌窟王さんはなしで話したいんだけど」

アンジー「!」

アンジー「……」ニコニコ

最原(……なんだ? 不機嫌になるのならわかるけど、明確に上機嫌になった?)

アンジー「いいよ。じゃ、そういうことで……ね?」

最原「うん」

茶柱「……東条さん、心配ですね。あのままだとずっと傷口開きっぱなしにしそうで」

夢野「そうじゃのー。じゃ、見張りを立てるとするか」

茶柱「見張り?」

夢野「『明日マジカルショーをするので手伝ってくれ』という名目でヤツを一日中傍に置いておく」

夢野「当然、重労働はナシの方向じゃ。これなら問題ないじゃろう」

百田「お? ハルマキの記憶の復元はどうすんだ?」

夢野「……忘れとったわ。さて……」

茶柱「あ。じゃあそちらは私が担当します。体を動かせばフッと戻る何かがあるかもしれません!」

茶柱「転子の研究教室に案内しますとも!」

春川「研究教室ってなに?」

百田「……頼む。なんかもう色々不憫だ……」

ちょいちょい本編を見ながら『ああこんなフラグ立ってたな』って参照しながら書いてるので大分手間がかかる……
忘れがちだけどコレ番外編なのよね!

続きは明日!

モノクマ「お疲れ様でしたー。次のカウンセリングの予約はよろしいですかー」

巌窟王「どうせ暇だろう。そんなものはいらん」

モノクマ「またのお越しをー」

モノタロウ「あ、これ気休めの飴だよー。タバコ欲しいときになったら舐めてねー」

パクッ

巌窟王「……」ナメナメ

モノファニー「一も二もなく舐め始めたわね……」

モノダム「本当ニ辛インダネ」

巌窟王(帰るか)スタスタ


アンジーの部屋

巌窟王「……」ガチャガチャ

巌窟王「鍵がかかっているな。まだ帰ってきてないのか」

巌窟王「門限までには帰ってくるだろうが……」

ガチャリンコ

赤松「じゃあ、アンジーさん。結構重いけど頑張ってね」

アンジー「もっちもちー! じゃ、ぐっばいならー!」

巌窟王(なんだ。赤松の部屋にいたのか)

アンジー「おお! 神様! ジャストタイミングー!」

巌窟王「少し待ったぞ」

赤松(そこは正直に言っちゃうんだ……)

アンジー「この鞄の中にねー! 斬美が見つけたカメラ他の機材が入ってるよー!」

巌窟王「……何?」ゴゴゴゴゴゴ

巌窟王「アンジー。その言葉、偽りはないだろうな」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

巌窟王「俺を騙したが最後、臓腑を生きながら炭化させられる地獄の苦しみを味わうと知っての言葉か?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

赤松(なんで無駄に脅すの!? 怖いよ!)ガビーンッ!

アンジー「騙してないから怖くないよー」ケロリ

赤松(アンジーさん凄い平然!)

巌窟王「そうか」

巌窟王「……」

巌窟王「飴をやろう」

アンジー「わーい!」

アンジー「おいしー!」ナメナメ

赤松「……前々から思ってたけど仲いいよね。二人とも」

巌窟王「それで、俺がいない間に何か変わったことは?」

アンジー「あのねー。斬美がねー……」


ガチャリンコ


赤松「……二人して部屋に入って行った……本当に一緒に住んでるんだ」

赤松「あれ? でも巌窟王さん、鍵は?」

モノクマ「スペアキーの類は用意してないからアンジーさんと一緒に入るしかないねー」

モノクマ「巌窟王さんだけが部屋に残る場合は後でアンジーさんが戻ってきて、巌窟王さんを外に出してから閉めてるよ」

赤松「へー」

赤松「……うわっ! モノクマ!」

モノクマ「なんかもう神出鬼没が当たり前すぎて、そんな反応が懐かしくも嬉しいなぁ」

休憩します!

カルデア

BB「……何回も見返してやっと掴めましたよ」

BB「この空間、あの白黒クマの許可が出ない限りは死人でも外に出れない結界になってるんですね」

BB「偶然か必然かはわかりませんが……魔術の神秘の塊のサーヴァントすら外に出さないとは恐るべし、です」

BB「……ただやっぱりあそこまで損傷して復活できる仕組みの方はわかりませんけど……」

BB「うーん。お茶でも淹れてきましょう。続きはそれから」スタスタ



五分後


ナーサリー「BBー。暇なのだわー。またスミソニアンにハッキングしてお友達と遊ばせて……」

ナーサリー「あら。いない」

ナーサリー「……ん? でも何かの映像をつけっぱで外に出て行ったみたいなのだわ」

ナーサリー「コピって部屋に持ち帰ってみましょう」カタカタ


ピロンッ

後にBBは語る。『月の聖杯戦争出身の英霊は機械に強いからイヤなんですよ』と。
女神たち中心に才囚学園の記録は大人気となった。

翌日

百田「……一晩寝た内に記憶がこっそり戻ったりとかは」

春川「してない」

百田「だよなぁ」

茶柱「では、春川さん。転子の研究教室へとお連れしましょう!」

茶柱「あ。朝ごはんは事前に教室に運んでおいたので」

百田「……しかし、テメェ大丈夫か? ハルマキは超高校級の暗殺者だぞ?」

茶柱「はい? よりによって百田さんがそれを言いますか?」

茶柱「……いえ。平時であれば転子だって警戒してますよ。拘束した方がいいとすら思ってます」

茶柱「でも転子は最原さんのやり口を認めたくない」

茶柱「『許しに何らかの代償が必要』とか神様かヤマの言い分ですから」

茶柱「……愚かでも何でも、転子は一方的かつ無条件で人を信用したいのです」

茶柱「最原さんのやり口は……転子にとっては外道のそれにしか見えませんでした」

百田「……アイツだって悩んでたんだぜ?」

茶柱「……許すきっかけがあれば」

百田「お前――!」

茶柱「……失言です」

春川「???」

百田(……アイツは怒ってるんじゃないな)

百田(いやまあ実際に怒っちゃいたんだろうが、もうそれは学級裁判で終一を引っ叩いたときに清算できてる)

百田(今のアイツはただ『東条のために怒っている』だけで『怒っているから怒っている』ってのとは違う)

百田(終一は……まあ気付いてるだろうが、許してくれなんて口が裂けても言わないヤツだよな……)

百田「……探すか。終一」

百田「案外、早く仲直りできるんだぜ」



アンジーの私室

巌窟王「クハハハハハ! 読める! 読めるぞ! コレがカメラというものか!」

巌窟王「BBには礼を言わねばなるまい! 我が黄金律で! 桜の木を一本丸ごと送ろう!」

巌窟王「アンジー! 外に繰り出すぞ! 今から卒業アルバムの制作計画を実行に――!」

アンジー「アンジー今日用事あるからパスするよー」

巌窟王「予定があるなら仕方ないな!」ギンッ

巌窟王「さあ! 始めるぞ! 俺一人で!」

休憩します!

CM

ピロロロロロ…アイガッタビリィー

BB「クレオパトラさぁん!」

クレオパトラ「!」

BB「何故あなたは映画を見たにも関わらずその記憶がないのか」

BB「何故帰った記憶がないのか」

BB「何故化粧のノリが普段より今一なのくわァ!」

白銀「……!? それ以上言うなー!」ダッ

BB「その答えはたった一つ」

白銀「やめろー!」

BB「あはぁー……」ニヤァ

BB「クレオパトラさぁん! あなたが映画の最中で……うっかり寝落ちしてしまった女だからだァーーー!」

BB「あーっはっはっはっはっはっはっは!」

クレオパトラ「私が……映画の最中で寝落ち……? 嘘よ。私を騙そうとしている……!」

白銀「そそそ、そうだよ! クレオパトラさんはまだ劇場に行ってないだけ……!」

ポロッ

クレオパトラ「あら? ポケットから何か落ちて……」

来場記念ポスカ『HFの映像化! 叶わない願いなんかじゃなかった! byこやまひろかず』

クレオパトラ「うわあああああああああ!」←劇場で寝落ちしたことを思い出した

白銀「クレオパトラさーーーん!」ガビーンッ

上映中の寝落ちは多大な損失を産みます。


劇場版Fate/staynight Heaven's feel
大好評上映中


白銀「また行こう?」

クレオパトラ「はい……」エグエグ

一切完勝! やっとだぜ!
さておき、今回のガチャで仲間に入ったパライソちゃんを育成しにかかるのでもうちょっと後

夢野「というわけで、じゃ。今日はウチに付き合ってもらうぞ。東条」

東条「ええ。依頼とあらば」

夢野「と言ってもそこまでの重労働はさせる気は……」

夢野(……いずれバレることではあるが気遣ってることをわざわざ口に出すこともないか)

夢野「なんでもない。本題に入るぞ」

夢野「次のマジカルショーは屋外でやる。風船にガスを入れて入れて入れまくるのじゃ!」

東条「了解」

夢野「……やってやろうではないか。利用されたままでは終われないからのう!」

東条「利用してごめんなさい……」

夢野「違う! 東条ではなくモノクマに言ったのじゃ! やるぞ! まずは材料を倉庫に調達じゃ!」

東条「ええ」

校舎内

巌窟王「ふむ。卒業アルバムはまず『どんな場所で学びを受けたか』を知るために校舎を撮影するものなのか」

巌窟王「ではひとまず校舎内を撮影して……」

ズルウッ ゴチンッ

王馬「にしし! いやあ、巌窟王ちゃん! 言い忘れてたけどそこ、シャンプーをたまたまぶちまけちゃったから足元注意だよ!」

王馬「いやあ! 遅かったかー! 言うの遅れてごめんね巌窟王ちゃん!」

王馬「巌窟王ちゃん? がんくつ……」

王馬「……死んでる……」

※別に死んでなかった

数十分後

巌窟王「……ハッ! また燃やされたいか王馬ァ!」ガバァッ

巌窟王「くっ。逃げたか……相変わらず逃げ足の速いヤツめ」

巌窟王「カメラは無事だったな」

巌窟王「……む? 外で何かやっているか?」




裏庭

最原「……遅いな。アンジーさん」

アンジー「やっはー! 終一! 遅くなってごめんねー!」スタスタ

最原「あ! アンジーさん!」

アンジー「いやぁー。おめかししてたら遅くなっちゃってー!」

最原(おめかし? なんで? 確かにいつもより気持ち綺麗だけど)

最原「ええっと。実はアンジーさんに頼みたいことがあるんだけど」

アンジー「……内容が見事一緒だったらビンゴー! だねー!」

最原「え?」

夕飯の休憩!

夢野「ゼハー……ゼハー!」ヒューヒュー

東条「喉から酷い音がしてるわよ。やっぱり私がそのボンベを……」

夢野「よい! この程度軽い軽い!」ヒューヒュー

夢野「ウチを誰だと思っておる……超高校級の魔法使い、夢野秘密子じゃぞお!」

夢野「この程度の重みで音を上げていたら巌窟王に笑われてしまうわい!」

東条「……」

夢野「安心しろ東条。ウチらは仲間じゃろう」

夢野「仲間なんじゃから……ウチらのことを信じてもいい!」

夢野「一度や二度の裏切り程度、なんてことない!」

夢野「いざとなったら巌窟王が助けてくれる!」

夢野「ウチらがそれに応える方法は、信じることじゃ」

夢野「手がボロボロで……体もボロボロで……心もボロボロで……」

夢野「これじゃあ助けてもらった価値なんてないって思っておるのなら大間違いじゃ!」

東条「……!」

夢野「助けられたからには無価値ではいられないなんて、とんだ誤解じゃ」

夢野「価値があるから助けたんじゃろッ! だから……ごめんなさいとか、言わんでいい!」

夢野「笑ってほしいんじゃ! みんな! お主に! だから、ウチは……!」フラッ

夢野「うわわっ」

東条「夢野さん!」


ガシッ


巌窟王「……これを運べばいいのか?」

夢野「んあ……巌窟王」

巌窟王「その体格でよくやる。興が乗ったぞ、夢野」ニヤァ

巌窟王「ヘリウムガスのボンベか? こんなものを何に……」

夢野「……ま。後のお楽しみじゃ」

夢野「まったく美味しいところばっかり持っていく天才じゃのー、お主」

巌窟王「クハハ」

東条「夢野さん」

夢野「なんじゃ?」

東条「……ありがとう」

夢野「……礼なら巌窟王に言えばよいのではないか? 結局ボンベ運べなかったしのう」

東条「それもだけど、あの……」

夢野「さっさと行くぞ。今日の夜までには完成させたい」スタスタ

東条「……そうね。そうしましょう」フッ

巌窟王「笑ったな?」ニヤァ

東条「!」

巌窟王「……アイツの魔法とやらもバカにできないのかもな」

東条「……憧れている人が隣にいるから頑張れるのでしょう?」

巌窟王「誰のことだ?」

東条(……とぼけてるんじゃなくて本気でわかってないわね、これ)

休憩します!
この後、巌窟王サイドで何が起こるのかは大体本編の通りなので最原サイド行きます。
後で

裏庭

最原「ということで、アンジーさんに血液を提供してもらいたいっていうのが僕の頼みなんだけど」

アンジー「ふーん。蘭太郎の動機ビデオと、美兎の研究のために、ねー」

アンジー「……ちょっとそれは無理かなー」

最原「え」

アンジー「いや、多分ね。神様がこの場にいたら『いい機会だ、受けるがいい』って言うと思うんだけど」

アンジー「アンジーは……やめた方がいいと思うなー」

最原「あれ」

最原(基本的に巌窟王さんの言うことには逆らわないアンジーさんが、珍しい)

アンジー「美兎が本当に欲しいのはアンジーのデータじゃなくってー……」

アンジー「ううん。これ以上は言わない方がいいや」

最原「……?」

アンジー「あ、でもでもー! こっちの要求を聞いてくれるのなら考えてあげてもいいよー!」

最原「ん」

最原(譲歩案を出してくれるのは助かるな。天海くんの正体を知るためには、ある程度無茶な条件でも飲んでもいいし)

最原(コロシアイを強要されてる状況下だ。命より軽いものなら……)

アンジー「結婚してー」

最原「……」




最原「は?」

今日のところはここまで!

巌窟王「……理解に苦しむな。またやるのか。マジックショー」

夢野「マジカルショーじゃ! ……とかお主に言ってもなんか虚しいが……」

夢野「細かいことはよいか。今度は屋外で、この大量の風船を使ったショーをするんじゃ!」

巌窟王「アンジーはどうした? 今回は手伝っていないのか」

東条「捕まえようとしたのだけど、断られてしまったの。何か用事があったようね」

巌窟王「ふむ。今日は妙に落ち着かない様子だったからな。ヤツもヤツで何か考えているのだろう」

巌窟王「まあいい。我が仮初のマスターの理念に従い、お前たちが望むのなら手を貸してやらないこともないが?」

夢野「お主本当にアンジーのことが大好きじゃのう」

巌窟王「俺が? クハハ、まさか!」

巌窟王「俺のマスターは過去現在未来にただ一人。あれとはお互いの利害の一致に伴った薄っぺらな関係しかない」

巌窟王「この関係に抱く想いも、同様に薄っぺらなものだとも」

巌窟王「大体アレは共に歩むにしては幼過ぎる。雛鳥のように後ろをヨチヨチ歩きでついてくる程度が関の山だろうよ」

東条「その割には甘やかしているように見えるけど」

巌窟王「サーヴァントだからな!」ギンッ!

百田「まあ、確かにアンジーに対して特別扱いはしてねぇだろうな」

百田「テメェは俺たちのことみんなが大好きなんだもんな! わかってるぜ!」ニカッ

巌窟王「……気持ちの悪いことを言うな」

夢野「百田。お主どこから湧いて出てきた」

百田「終一を探してたら派手な風船が大量に見えたからよ。ちょっと寄ってみただけだ」

夢野「ついでじゃ。百田も手伝うがよい。風船がもっと大量に必要だから……って、あ!」

フワッ

夢野「あー。一個無駄にしてしまったわい」

巌窟王「クハハ! 任せろ! あの程度の高さ、造作もない!」

ドンッ!

東条「……跳んだわね」

夢野「あ、キャッチした」

百田「おお。無駄に一回転して校舎の屋根に着地したな」

巌窟王「クハハハハハ! どうだ!」

百田「無駄にテンション上げてるなー」

夢野「造作もないって自分で言ってたのにのう」

東条「巌窟王さん。そこ結構な急斜面になってるから、気を付けて降りてね」

巌窟王「任せろ! 昇ったのだから降りることなぞ更に容易い――」

巌窟王「む?」

巌窟王(裏庭に誰かいるな……あれはアンジーと最原か?)

巌窟王(一体何をして……)

アンジー「終一ー! アンジーのお婿さんになってー!」キラキラキラ

最原「ええっ!?」

巌窟王「!?!?」ガビーンッ!


ズルゥッ


百田「足を滑らせたーーーッ!?」ガーンッ!

夢野「言わんこっちゃない!」

ベシャッ

最原(ん? なにかがどこかで落ちたような音が……)

最原(それどころじゃない!)

最原「ど、どういうこと!? それが交換条件!? 冗談だよね!?」

アンジー「やだなー。こんな冗談言わないよー。仮にそうだとしたら悪趣味すぎるしー」

最原(確かにこれが嘘だったら下手したらトラウマものだよな……)

アンジー「なんならここで証明できるけどー?」

最原「え」

アンジー「……アンジーの言葉が嘘じゃないって」

アンジー「『どこまでやれば』本当だと認めてくれる?」

アンジー「……なんでもするけど?」

最原「」

最原(身の危険を感じる……!)

休憩します!

最原「なんで僕なの? 僕なんかしたっけ?」

アンジー「学級裁判で神様とは違う答えを出した」

アンジー「それ以前にもあったけど、このときピンと来たんだよー!」

アンジー「二人が揃えば無敵だってさー!」キラキラキラ

最原「いや、僕は……」

最原(そんなに大したことはしていない。絶対に)

アンジー「神様は間違えない。神様は強い。神様は救ってくれる」

アンジー「でもね。できないことはあるよ。だからアンジーたちがいるの」

アンジー「あとアンジー一人にもできないことはあるし……」

アンジー「だから、ね? 終一がいれば安心なんだー」

最原「要は勧誘じゃ……いや、そうだよ! これ勧誘だよ!」

最原「別に結婚する必要はないよね!?」

アンジー「あるよー」ダキッ

最原(問答無用で抱き着かれた!?)ガビーンッ!

アンジー「……神様はすぐに帰っちゃうから」

最原「……」

最原「まさかアンジーさん、寂しいの?」

アンジー「別にー。真の絆は別れた程度で消えたりしないしねー」

アンジー「でも一つくらい手元に残る絆があってもいいかなーって」

最原「そういう理由ならお断りだ」

アンジー「!」

最原「……僕は巌窟王さんの代わりになれないよ」

アンジー「……」

アンジー「ふぅん……」ニヤァ

スッ

最原(離れた……)

アンジー「……」


スタスタスタ


最原(そして俯いたまま、どこかに行ってしまった……)

最原(……言い方がキツすぎたかな。でもこれ以上どう言えば……)

アンジー(わざとだよ。わざとアンジーは自分でも『これはないな』って告白をしたんだよ)

アンジー(……ああ。なんか……いいなぁ。終一はいい。凄く)

アンジー(心臓がドクドク言ってる。顔から火が出そう。体がとってもふわふわしてる)

アンジー(もちろん、あの打算的な言葉に嘘はない。ないけどー……)

アンジー「……」

アンジー(神様がアンジーに願わない理由は、アンジーになにか悪いことがあるから)

アンジー(終一は悪いことを見つける天才)

アンジー(そしてきっと……神様はアンジーが『終一が欲しい』って言ったら相談に乗ってくれる。優しいから)

アンジー(……この関係性はきっと運命だよ。だからー)

アンジー「諦めるとは言ってないよー。一言も。一っ言も、ねー……」ニヤァ

巌窟王サイド

巌窟王「」チーン

夢野「たたたたた大変じゃあ! 巌窟王! 死ぬな巌窟王おおおおおお!」

百田「東条! 俺たちはどうしたらいい!?」

東条「夢野さんは倉庫から布製の担架を持ってきて」

夢野「わかっ……!」

夢野「いや担架!? 布製の!? それって運ぶ人間が二人必要なヤツじゃろ!?」

東条「二人いるわよ? 私と百田くん」

百田「東条は除外に決まってんだろ!」

夢野「ウチは……ウチは……!」

夢野「見せてやるわい! 魔法のパゥワーをなぁ!」ギンッ

百田「ヤケクソになってんじゃねーよ! 無理なら無理って言っていいかんな!?」

夢野「うわああああああああん! 担架ーーー!」ダッ

百田「よし。アイツは行ったな……俺は他の人手を探して来る! 安心しろ! アテはある!」

東条「よろしくお願いするわね」

東条「さて。私は簡易的に応急処置を……この包帯で……」マキマキ

包帯ぐるぐる巻き王「」チーン

東条(ミイラ男みたいになってしまったわ……)

超高校級の合気道家の研究教室

百田「ハルマキ! 茶柱! いるかーーー! 大変だ! 巌窟王が」

茶柱「チェスト竹●房ォォーーーイッ!」ブンッ

百田「え。茶柱今何を投げ……」


ガンッ


百田(薄れゆく意識の中、俺は思った……)

百田(そういえばネオ合気道って木刀までならOKって言ってたな)バタリッ

百田「」チーン

春川「はあ……はあ……いや木刀をぶん回すならともかくとして投げるってどうなの……」ゼェゼェ

茶柱「はあ……はあ……春川さんが意外にできる人だから仕方なくって……!」ゼェゼェ

百田「気絶している場合じゃねぇ!」ガバリッ

百田「おい! 事情は後回しにするが人手が必要だ! どっちか俺と一緒に来い!」

茶柱「今いいところです! 決着が付くまであと幾分かかかるので、そこで見学してた真宮寺さんに頼んでください!」

百田「おお! ジャストタイミングだな! 真宮――」

真宮寺「」チーン

百田「死んでるーーーッ!?」ガビーンッ

春川「なんかいつの間にか死んでた」

百田「明らかにテメェらの巻き添え食らったんだろ! 起きろ真宮寺ィ!」

真宮寺「うう……世界は危ないものでいっぱい……」

百田「違う! ここだけが特別に危険なだけだ! 起きろォ!」ガクガク



結局巌窟王の搬送は時間がかかった。大事には至らなかった

休憩します!

東条の私室

包帯王「……ハッ! 今、何時だ?」ガバァッ

東条「起きてすぐの一言がそれなの?」

包帯王「……夢野のマジッ……」

包帯王「マジカルショー。見逃すわけにはいかないだろう?」

包帯王「……」

包帯王「ところで何故俺はこんなところにいる?」

包帯王「確か夢野の風船を取ったあと名状しがたい何かを見たような……?」

東条「何を見たのかは知らないけど、その後あなた屋根から落ちたのよ」

包帯王「……」

包帯王(……忘れたフリをしただけだ。我が身の忘却補正が恨めしい)

夜 屋外

赤松「あ! 来たよ、巌窟王さん!」

包帯王「来ないと思ったか?」ギンッ

夢野「前回は来なかったじゃろ、お主」

東条「……」

夢野「……何度も言うが、気にするな東条。アレはモノクマのせいじゃからな!」

夢野「気にしているヤツなぞ……」

王馬「……」ニヤニヤ

包帯王(夢野。『誰もいないぞ』と言ったらアイツが絶対に『えー! 俺は気にしてるよー!』と傷口を開きにかかるぞ)ヒソヒソ

夢野(今気づいたわい)

夢野「……王馬くらいしかおらんわッ!」

王馬「!?」ガビーンッ!

夢野「……かっかっか」

王馬「……気にしてる、わけ、ない、だろ……」ヒクヒクッ

獄原「王馬くん。笑顔が物凄く引きつってるよ。大丈夫?」

王馬「先読みされたのがめっちゃ不満……」ガタガタ

包帯王「クハハハハハハ!」

夢野「かーっかっかっかっかっか!」

入間「ところでテメェなんで包帯グルグル巻きなんだよ。コンドームのコスプレか?」

包帯王「……?」

包帯王「……!」

バサッ

巌窟王「……」

最原「気付いてなかったんだ……」

巌窟王「他に気になることがあったから、な」

最原「え? 何それ?」

巌窟王「……」

巌窟王「言う義理があるか?」ギリィッッッ

最原「!?」ビクゥッ!

アンジー「にゃははー! 今度は全員揃ってるねー!」

真宮寺「ククク。ま、前とは違うからネ。僕たちは」

白銀「そうだね! 巌窟王さんのお陰で、段々一つに纏まってきたって感じがするよね!」

星「……ふっ。悪くはねー、か」

天海「で? 今度はどんな魔法を見せてくれるんすか? 夢野さん」

夢野「今度? 違う……ウチは本当の魔法なぞ、まだ一度も見せたことはないぞ?」

夢野「全てが終わったとき、お主はこういうじゃろう」

夢野「『産まれてこなきゃよかったっす』となァ!」ギンッ

天海「笑顔は!?」ガビーンッ!

夢野「始めるぞ!」

夢野「じゃあひとまず手始めに……」ゴソゴソッ

最原(ん。帽子の中を漁り始めた)

ズルウッ

夢野「モノクマから貸してもらった倉庫のアイテムカタログじゃ」デンッ

最原(既にこれがマジックだな……凄い分厚い)

ズルゥッ

夢野「人数分あるぞ?」デンッデンッデンッ

最原(もう既に凄い!)

春川「何コイツ。マジシャン?」

茶柱「夢野さんは超高校級のマジシャンなんですよ!」

夢野「魔法使いじゃ魔法使い!」プンプンッ!

夢野「じゃあまず、巌窟王! 欲しいものがあったら言えい! そのカタログの中からの!」

巌窟王「コーヒーミルがあるな」

夢野「……目ん玉飛び出させないよう気を付けるんじゃぞー?」ギュムギュムッ


パァンッ


巌窟王「!」

最原(割れた風船の中からコーヒーミルが! カタログと同じヤツ!)

夢野「プレゼントフォー・ユー! じゃ!」ニコニコ

巌窟王「……」

巌窟王「フッ……悪くない」

夢野「ここまでやれば、後に何が起こるのかはわかるじゃろう?」

茶柱「夢野さぁん!」

春川「この『たのしいどうぶつえん』って本が欲しいんだけど」

夢野「あ。お主ら二人は強制的に医療グッズ限定じゃぞ」

茶柱&春川「」

夢野「ボロッボロじゃからな」

茶柱&春川「」ズーン

最原「……喧嘩でもした?」

百田「そういうわけじゃねーんだが……」

夢野「さあ。まだ風船は大量にあるぞ! カタログに書いてあるものなら何でも出してやろう!」

夢野「これがウチの! 魔法じゃぞ!」

巌窟王「……」ニヤリ

最原(滅茶苦茶上機嫌だ……)

キーボ「あ、あの! じゃあボクは……」

パァンッ

夢野「オイルをやろう」

キーボ「……」

最原(滅茶苦茶複雑そうだ……ていうか返事を聞く前にやってるし)

夢野「さあ! どんどん行くぞ!」

最原(その後も夢野さんの魔法は続いた)

最原(前みたいな悲劇は特にない。ただ夢野さんが生徒の要望に応えてどんどん風船を割って、中からプレゼントを出して配るだけ)

最原(……平和だった。こんな状況でも、確かに)

真宮寺「東条さん。昨日とは別人みたいになってるネ」

東条「!」

真宮寺「……ククク。顔が晴れやかになってるヨ。僕にはわかる」

東条「ええ。夢野さんのお陰よ」ニコリ

真宮寺「……」

夢野「かーっかっかっか! さあ! 風船は残り僅かじゃぞう!」ニコニコ





真宮寺「……完璧、だネ」

東条「どうかした?」

真宮寺「なんでもないヨ」

休憩します!

巌窟王「……」



巌窟王の回想


ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ「さあ! プレゼントをどんどん配りますよー!」

JDASL「え? なんですかししょー。あのなんか黒炎出してる怖い顔のおじさんにもあげてきなさい……?」

JDASL「え。あの正気ですか。サンタって子供にしかプレゼントは……いや、いいですけど……」

JDASL「あ、あの……プレゼント……さっき王妃様に貰ったとっておきのマカロンなんですけど……」

JDASL「……うう……後で私が食べようと思ってたのに……え? いい? くれてやる?」

JDASL「貰ったものをどうしようが俺の自由だろうって……? ば、バカにしないでください!」

JDASL「それはそれとして論理は完璧ですから貰いますけどね! 返しませんからね! いいんですね!?」

JDASL「や、やったぁ……」


回想終了


巌窟王「……」プッ

最原「何か思い出し笑いしてる……」

夢野「さて。風船も残り一個じゃのう」

夢野「……今までの学園生活の立役者である巌窟王にやろうかの?」

巌窟王「辞退しよう。それは我がマスターのアンジーに渡せ」

夢野「了解じゃあ。ではアンジー。他に欲しいものはあるか? 既に結構渡しておるが」

アンジー「うーんとねー……」

アンジー「終一!」

夢野「そうかー。最原かー。よし、それじゃあ」

夢野「は?」


パァンッ


最原「……」

巌窟王「……」






一同「……」

一同「……ゑ?」

最原(最後の風船は割れた。だが中身が現れることはなかった)

夢野「それって……どういう意味で?」

アンジー「お婿さんに欲しいなー。終一が」

赤松「……」

巌窟王「……」

最原(そして……みんなの視線がこちらに向く……)

最原(僕はいつの間にか冷や汗でビッショリで……いつの間に流れていたのかまったくわからなくって……)

巌窟王「最原」

最原(その声を聞いた途端に震えが止まらなくなった)

最原(もう熱いのか寒いのかわからない。熱砂の砂漠のど真ん中のように熱いし、冬の湖の中のように冷たい気もする)

ポンッ

巌窟王「……返事は?」ゴゴゴゴゴゴゴ

最原「さっき伝えました……」

巌窟王「なんと?」

最原「断ったんです……」

最原(涙も止まらない。後ろから肩に手を置かれているけど振り向けない)

最原(ここが地獄かな?)

最原(おかしいなあ。さっきまで僕たちは……)

最原(束の間の平和を甘受してたはずなのになぁ……)

巌窟王「……」

巌窟王「……そうか……」

巌窟王「よし。燃やすぞ?」

最原「」

赤松「やめてーーー! お願い、巌窟王さん落ち着いてーーー!」ガビーンッ!

百田「アンジー! 冗談だよな!? 冗談なんだろ!?」

アンジー「冗談じゃないよー! 本当に終一と結婚したいんだってー!」キラキラキラ

キーボ「わあ。素敵な笑顔」

入間「ダサイ原にとっては悪魔の笑顔だけどな……」

春川「えーと、なに? 状況がよくわからないけど……」

春川「おめでとう?」パチパチパチ

王馬「おめでとー!」パチパチパチ

アマデウス斎藤「静まりたまえー! 静まりたまえー!」

獄原「その仮面まだ持ってたの!?」

最原(こうして夢野さんのマジカルショーは混沌の内に終わった)

最原(アンジーさんの爆弾発言による余波を残して……)

最原(後に何が起こったのかは覚えていない)

最原(あまりにも……大騒ぎしすぎて疲れたので、バッタリ気絶するように眠ったこと以外は覚えていない……)

巌窟王「我が霊基を犠牲にしてでも、この学園を破壊する……最原ごと……な」

白銀「もうやめて巌窟王さん! 最原くんの精神的ライフポイントはゼロよ!」

巌窟王「はなせ!」

夢野「じゃあ後片付けは明日に回して今日はもう解散じゃあ。めんどい」スタスタ

真宮寺「真っ先に逃げちゃったネ」

東条「……ふふっ……」

今日のところはここまで!

ハロウィンが……来る……!
待っていた。私は待っていたぞ、ソロモン!

翌日 食堂

赤松「で。えーと。昨日は色々あったけど」

アンジー「終一ぃー」スリスリ

最原「……」ズーン

赤松「されるがままに抱き着かれてるね。最原くん……」

百田「おい。こんなところ巌窟王に見られたら、またアイツ怒るぞ」

アンジー「あ。大丈夫。今日の神様は部屋で不貞寝してるから」

夢野「メンタル弱ァ……」

アンジー「少し経ったらモノクマにカウンセリング頼んでるから部屋に来ないでくれって」

星「本当にショックだったんだな……」

東条「まあ……彼は夜長さんのことを相当可愛がっていたから当然と言えば当然かしら」

王馬「それを横からかっさらうとか、最原ちゃんも相当命知らずだよねー!」

王馬「……」

王馬「本当に死にたいの?」

最原「ガチトーンで問いかけるのやめて……!」ガタガタ

最原「ええっと、アンジーさん。僕はそろそろ……」

アンジー「どこ行くのー? アンジーもついていくよー!」キラキラキラ

最原「あの……本当に迷惑じゃないっていうか、迷惑じゃないんだけど僕たちは離れてた方がいいっていうか……」シドロモドロ

最原「いややっぱり迷惑なので近づかないでくれると嬉しいなぁ!」

真宮寺「もう形振り構ってられないんだネ」

春川「百田。私、思い出した。ああいうのをスケコマシっていうんでしょ?」

百田「あんまり思い出しても嬉しくない知識だな……」

茶柱「……」

最原「……」

茶柱「……ハッ……」スタスタスタ

最原(めっちゃ見下した笑み浮かべてどこか行っちゃった……)

数十分後 屋外

夢野「と、いうわけで! 後回しにしたマジカルショーの片付けを開始する!」

夢野「が! その前に!」

最原「その前に?」

夢野「……ウチの研究教室から手品用の鳩が一匹いなくなったんじゃ」

夢野「最原。片手間に探してほしいんじゃが」

最原「う、うん。任せてよ」

最原(鳩……?)



同時刻 アンジーの私室


モノクマ「どんな気分ですか?」

巌窟王「シャトーディフにとらえられた数年後並みに頭が重い……」

巌窟王「未来に希望が持てない……これが現実なのか……」

モノクマ「明日はアンジーさんも一緒にカウンセリングした方がいいかもしれないですねー」

巌窟王「段階をいくつか吹っ飛ばしてるな! 真面目にやれ!」

モノクマ「はぁい」

休憩します!

中庭

最原「……鳩……鳩か……安請け合いしちゃったけどそうそう簡単に見つかるわけないよな」

最原「というか既に外に逃げちゃった可能性もあるし……」


ドガシャーンッ!


入間「あああんじゃこりゃあああああああああッ!」

最原「!?」ビクゥッ

最原(今の声……研究教室の方か?)

バターンッ

入間「ち、ちくしょう! やりやがったな! やぁりやがったな、ちくしょーーー!」

入間「……ハッ! ダサイ原! テメェの仕業かァ!? ああん!?」

最原「え? 何が?」

入間「とぼけてんじゃねぇ! 俺様の研究教室から巌窟王と同じ色の……!」

入間「……な、なんでもねぇ……!」

入間「……クソッ……クソッ……ふざけやがって……! 燃やされる前に取り返さねぇと」ブツブツ

最原「……?」

最原(不満気な声を漏らしながら、入間さんは自分の研究教室へと戻って行った)

図書室

天海「さーてと。それじゃあ俺はいつも通り、魔術に関する書籍の再分析を……」

天海「……ん……?」

天海「あれ。これは……そんな!?」

天海「ページがいくつか破り取られてる!? なんで!?」ガビーンッ



中庭

最原(そう。この時点で、わかってもよかった)

最原(一度狂った歯車は、元には戻らないんだってことを……)

最原(……わかってもよかったんだ)

今日のところはここまで!

王馬「完成! 悪の総統印の落とし穴ー!」

獄原「ええっ!? 土を掘ってみれば虫さんがいるかもって王馬くんが言ってたから掘ったんだけど!?」

王馬「ああ、ごめんねゴン太。今のは嘘なんだ。冗談だよ」

獄原「冗談だった! よかった!」

白銀「王馬くーん。こんなところに呼び出してなんのつもりー?」スタスタ

獄原「あれ。白銀さんも呼んでたの?」

王馬「ちょっと用事があって……ああっ! 白銀ちゃん! あそこに!」

白銀「え?」

王馬「あそこに野生のマフィア梶●がーーー!」ビシィッ

白銀「マフィアさーーーん! 羽海野チカ先生のサインくださーい!」ダッ


ズボォッ


白銀「きゃー!」

王馬「……マフィアのサイン貰いなよ……まあいいや」

王馬「悪は滅びた。このまま放置して帰るぞ、ゴン太!」

獄原「……」

王馬「ん? どうした木偶の坊?」

獄原「う……」


バタリッ


王馬「……は? ゴン太?」

三十分後 獄原の私室

東条「過労ね」

白銀「か、過労!? なんで!? ゴン太くんがそういうのと一番無縁そうなのに!?」

獄原「う、うう……最近は巌窟王さんに憧れて、トレーニングしてたからかな……」

獄原「寝る前に腕立て伏せ一万回腹筋一万回スクワット一万回背筋一万回インナーマッスル強化トレーニングもろもろ多数とか……」

王馬「わかっていたことだけどやっぱりお前、バカだろ」

獄原「ご、ごめん……」

白銀「って言ってる割には部屋まで運んだり東条さん呼んだり……男のツンデレ?」

王馬「やだなー。俺が優しいからだよ。もう白銀ちゃんにはわかってたことだと思ったんだけどなー」

白銀「え。やさしさ? どの口が?」

王馬「ショック!」

夕方 食堂

鳩「くるっぽー」

夢野「おお! ハトムギ! 帰ってきたか!」

最原「ええっと……近くの木に留まってたからどうにか連れてきたけど」

最原「ハトムギ……」

夢野「よくやったぞ最原。後で撫でてくれてもよいぞ?」

最原(僕が撫でる側かよ)

最原「……巌窟王さんが食堂にいないのはともかくとして」

最原「他にもアンジーさんやゴン太くんがいないな」

東条「獄原くんは……しばらく食堂には来れないと思うわ」

王馬「アイツは過労でぶっ倒れてるからね」

百田「なにぃ!?」


ヤイノヤイノ


最原「……」

最原(……なんだろう。特に何が起こったってわけじゃないんだけど……)

最原(イヤな予感がする……)

アンジーの研究教室

ボオッ


巌窟王「これは……!」

アンジー「どう? これがアンジーの……神様に捧げる、本気だよ……」ニヤッ

巌窟王「……なんてことを……アンジー……!」

アンジー「罰は受ける。だから神様、どうか……」

アンジー「アンジーの話を、聞いて?」

最原(……水面下で何が起こっているのか、なんて僕たちに知る由はなく)

最原(知ることができたとして、何を変えられたわけでもない)

最原(次の日の夜。僕たちは直面しなければならなくなる)

最原(……多くの人間を巻き込んだ『最悪』の事件に)

今日のところはここまで! パソコン調子悪い……

パソコンの調子が悪いので、休日でも更新頻度は、落ちるぞう!

翌朝

最原「……」

最原(体が……重い)

最原(何故だろう。昨日からイヤな予感が止まらない)

最原(……周期的にはそろそろモノクマの動機の提示があってもおかしくないころだけど)

最原(……警戒はしておこう。とにかく、朝ご飯を)ガチャリンコ



巌窟王「……」ゴゴゴゴゴゴゴ

最原「」

巌窟王「……すぐに済む。時間は取らせない」

最原(瞬殺的な意味で?)

巌窟王「……」ポンッ

最原「え」

最原(肩に手を置かれた……そこから炭化させられるのかなー。急所を燃やされてサクッと逝きたいんだけど)

巌窟王「……」

巌窟王「アンジーを……頼んだ……」

最原「え」

巌窟王「不本意だ。不本意だが……!」

巌窟王「マスターの意志を曲げる矜持を俺は持たない。故に、これ以上は何も言うことはない」

巌窟王「……本当に……不本意だ……」スタスタ

最原「いやそんな悲しそうな顔されても……」

最原「待って。行かないで。あの!」

最原「だから僕、断ったんだってーーーッ!」ガビーンッ!

ハロウィンに取り掛かるので更新はしばらく後!
また小出しシナリオだろうからすぐだろうけど……

人理滅ぼそう

食堂

最原「……あの……アンジーさん……」

アンジー「なぁに、終一ー? なんでも言ってー! 未来の夫婦なんだからねー!」キラキラキラ

最原「くっつくのをやめてください……」

アンジー「それはヤダ」

赤松(ガチトーンだ……)

最原「だから僕は巌窟王さんの件が仮になかったとしてもアンジーさんとは付き合えないんだって……」

アンジー「終一ー」スリスリ

最原「主従揃って話を聞かないなぁ、もう!」

王馬「巌窟王ちゃんは? どうしたの?」

百田「……さっき学園の屋根で寂しそうに空を見上げているのを見たぞ……」

春川「凄い遠い目をしてたね」

天海「……ちょっと様子見てくるっす。相談したいこともあるので」スタスタ

白銀「でも凄いよねアンジーさん。この前までは最原くんからアンジーさんを殺してでも奪い取る勢いだったのに」

最原「元からもらってない……!」ガタガタ

白銀「どうやって説得したの?」

アンジー「……秘密ー!」

アンジー「真面目な話、ちょっと言えないような手段だしさー……」

アンジー「神様から本気で心配されちゃう始末だったし……」

アンジー「……だから、ね? アンジーの犠牲のためにも、お願い。お婿さんになってー!」キラキラキラ

最原「知ったことじゃないッ!」

真宮寺「最原くんも最原くんで、なんか不自然なくらい拒絶してるよネ?」

真宮寺「そんなに仲悪かったっけ? あるいは他に好きな人がいるとか?」

最原「いや、それは……!」

最原(アンジーさんの告白の理由が死ぬほど不誠実だったからなんだけど……)

最原(……万が一巌窟王さんの耳に入ったらマズイよな。代わりがいるだなんて思われたくないだろうし)

最原「……」

赤松「え? 本当に好きな人がいるの?」

最原「いないけどさ!」

入間「……くそ……見つからねぇ……ちくしょう……善行詰んだ俺様になんて仕打ちを……」ブツブツ

鳩「くるっぽー」

夢野「なんか調子悪いんじゃよなー。変なものでもついばんだかー?」

東条「吐き出させてみせましょうか? いっそのこと出るまで待つのも手だとは思うのだけど」

王馬「……で。ゴン太はどうしたんだっけ?」

星「過労でぶっ倒れてるって話だったろうが」

最原「……」

最原(……やっぱりいつも通り平和、だよな。気のせいだったのかな)

アンジー「にゃははー!」

最原「本当に離れてよ……!」

茶柱「……」

茶柱「……フッ……」スタスタ

最原(アンニュイな笑み浮かべてどっか行っちゃったよ……)

屋外

天海「それでーーー! よく見てみたら破り取られたページっていうのがー!」キィィィン!

天海「目次を見てみる限り『令呪の移譲』についての項目でー!」ポヒュンポヒューン!

天海「なくなったページがページっすからー! 凄いイヤな予感がするんすよー!」ポヒュキィィンッ!

巌窟王「……」ボーッ

天海「ダメだ。聞いてるのか聞いてないのか全然わかんない……」

モノタロウ「ねー。そろそろエグイサル返してー。お父ちゃんから他の拡声装置を何かしら借りてくるからさー」

天海「ごめんなさいもうちょっと……」

休憩します!
もしかしたらそのままハロウィン漬けかも

夕ご飯食べたら更新します!

百田「さてと。色々ゴタゴタがあったが、今日こそは終一を見つけて茶柱のところにけしかけてやるぜ」

百田「終一ー! どこだー!」

赤松「さっきアンジーさんから逃げて全力疾走してたけど……」

百田「アイツ本当に面倒ごとに巻き込まれる天才だな……」

アンジー「終一ー。どこー?」キョロキョロ



超高校級のメイドの研究教室

最原「……しばらくクローゼットの中に隠れていよう」

数時間後

トントントントン

最原「……ハッ! しまった、寝ちゃってた」

最原「ん……包丁の音?」

最原(……ちょっとだけクローゼットを開けて覗いてみよう)

茶柱「食材を切るときは猫の手……食材を切るときは猫の手……!」

東条「ふふ。そう。上手よ、茶柱さん」

最原(……茶柱さんが東条さんと料理してる……)

東条「ごめんなさい。手が無事だったなら手伝わせたりはしなかったのに」

茶柱「いいんですよ! むしろ転子は東条さんの役に立てて嬉しいくらいです!」

最原「……」

茶柱「……でもゴン太さんの過労を治すためとは言え、これから深夜までアク取りでしょう?」

茶柱「大丈夫ですか? なんなら転子も手伝いますが……」

東条「いいのよ。仕事ですもの。なにより私がやりたいの」

茶柱「でも……」

東条「……みんな優しすぎるわね。本当に」

東条「大丈夫。自分を犠牲にしすぎるようなことは、みんなのためにもしないわ」

茶柱「……ん……ちょっとは立ち直ったようですね」

茶柱「よかった。でも、転子は結局なにもしてあげられませんでした」

茶柱「……それが心残りです」

東条「その言葉だけで充分すぎるわ」

東条「でもそうね、もしも私のために何かをしたいというのなら、もう一つ」

茶柱「なんですか?」

東条「……最原くんのことを、あんまりイジメすぎないであげて?」

茶柱「ッ!」

最原(……別にいいのに。茶柱さんは僕を責める資格がある)

最原(というより、彼女みたいな主張を持っている人間がいないと、逆にこの空間が狂っていくだけだ)

最原(……許してくれなんて言えないしね。図々しすぎて)

東条「思うに、私だけじゃないのよ。自分を傷つけることで罪悪感を軽くしようってもがいてる人は」

東条「最原くんは、茶柱さんに憎まれることを当然のことだって思っているんでしょうけど」

東条「茶柱さん。あなたも……」

茶柱「……許したいと思っているのに、きっかけがないからできない」

最原「!」

茶柱「東条さんにはかないませんね」

東条「メイドですもの。このくらいは当然だわ」

茶柱「……そうですね。東条さんも、もう大丈夫そうです」

茶柱「あの男死のことは心底気に食わないのですが、東条さんがそう言うのであれば」

茶柱「……許す努力はしてみます」

最原「……」

最原(僕は許されていいのかな)

最原(よく……わからないや)

最原(茶柱さんは凄いなぁ。あんなに怒ってたのに、僕のことを許す努力をするって?)

最原「……う……!」ポロッ

茶柱「じゃあ転子はこれで! 東条さんも本当無茶しないでくださいねー!」

東条「大丈夫よ。まだ無茶をすると手から出血してしまうもの」

東条「この痛みがリミッターになってくれるわ」

茶柱「あんまり使ってほしくないリミッターですね……」

茶柱「じゃ、転子は行きます。お疲れ様でしたー!」ピューッ

東条「また明日、ね」

東条「……さてと」

東条「そろそろ出てきたら? 最原くん」


ガチャリンコ


最原「……」グスッ

東条「なんでそんなところに……」

最原「アンジーさんから逃げてた」

東条「そう」

最原「……本当凄いね、茶柱さん。僕を許すって?」

最原「間違ってないだけで、東条さんに酷い傷を負わせたのは事実なのにさ」

最原「別に許さなくってもよかったのに……」

東条「最原くん。いいのよ」

最原「……」

最原(……何一つとしてよくない。僕は、そうとしか思えない)

東条「……みんなに許されるチャンスをくれたこと、感謝してるわ」

最原「やめてよ。キミを助けたのは巌窟王さんだ。それに東条さんが僕に感謝なんかしたらさ」

最原「……なんか共謀してたみたいに見えちゃうよ。東条さんもそれはイヤでしょ」

東条「ふふ。そうね。だから一度きりしか言わないわ」

東条「それに、私を助けてくれたのは確かに巌窟王さんだけど……」

東条「あなただって、巌窟王さんと同じくらい格好いいのよ?」

最原「僕が?」

東条「ええ」

最原「……」

最原「はは。面白い冗談だね、それ」

東条「えっ」

最原「……もうこれ以上は話さない方がいい、よね」

最原「必要もなさそうだ。キミはもう大丈夫」

東条「待って。冗談のつもりじゃ……」

最原「……じゃあね」スタスタ

東条「……」

東条「卑屈すぎ……ね」

最原(……僕は正しくない。でも間違ってもいなかった)

最原(大丈夫。もう東条さんは裏切らない。自分を無暗に傷つけたりもしない)

最原(……少し早めだけど、僕は部屋に戻ることにした)

最原(アンジーさんとも鉢合わせず。このまま僕は……時間を潰して……)




数時間後 夜時間 三つの空き部屋


ギコ……ギコ……


真宮寺「ふう……こんなもの、かな」

真宮寺「さて。誰かに気付かれる前に片付けないと」セッセッ


ガララッ


真宮寺「……ッ!?」

アンジー「あれれー? 是清ー! こんなところで何してるのー?」

真宮寺「……」





ガンッ!

今日のところはここまで!

最原「……ん……?」

最原(時間は十一時五十分……なんだかすごく中途半端な時間に起きてしまった)

最原「……睡眠が浅いのかな。寝なおそう」

最原「……」スヤァ


ドンドンドンッ

ピンポンピンポンピンポーン!


最原「!」ガバァッ

最原「……誰だ? こんな時間に」

ピンポンピンポンピンポーン!

最原「はい! 今出るからそんな慌ててインターホン押さないで!」

ガチャリンコ

茶柱「た、たたたっ、大変です最原さぁん!」

最原「……茶柱さん? 珍しいね。時間も変だけど」

茶柱「そ、そんなことを言っている場合じゃなくって! 早く! 外に出て!」

最原(その慌てようは尋常ではなかった。段々と頭が冴えてくる)

最原「何があったの?」

茶柱「て、転子の……転子のッ!」

茶柱「超高校級の合気道家の研究教室が燃えてるんですーーーッ!」

最原「……」

最原「はあッ!?」ガビーンッ



寄宿舎の外


最原「……た、確かになにか焦げ臭い! 尋常じゃないくらい!」

最原(ついでに中庭の方角が妙に明るい気がする!)

茶柱「転子は他のみなさんも起こしてくるので、最原さんは研究教室の方へ!」

茶柱「人数集めて消火活動すれば、どうにかなるかもしれません!」

最原(そんなレベルだとは思えないけど……でも様子も見たい。乗ろうか)

最原「わかった! 先に行ってるね!」ダッ

茶柱の研究教室「」ボオオオオッ!

最原「う……なんだこれ。不自然なくらいに炎上してる……」

最原「なんでこんなことに――!」


オオ……オオオオオ……!


最原「ん? この声……なんだ?」

巌窟王「おおおおおおおおおお……ッ!」

最原「……巌窟王さんの声? どこから……?」キョロキョロ

最原「……」

最原「嘘でしょ」

最原(燃え盛る研究教室の中。黒い炎がチラりと見える)

最原(何度も僕たちを助けてくれた、あの黒い炎は見間違えるはずもなく……!)

最原「巌窟王さん!? 何してるの!?」

巌窟王「うおおおおおおおおおおおおお……!」

最原(その炎の主はしかし、出てくる気配が何故か無かった)

最原「……そうか。茶柱さんが慌ててた理由がなんとなく理解できた!」

最原「中に巌窟王さんがいるからか!」

最原(なんで中にいるのかは皆目見当も付かないけど)

茶柱「さ、最原さぁん! ひとまず夢野さんと百田さんを連れてきましたよー!」ドタドタッ

夢野「なんじゃあ!? こりゃあ!」ガビーンッ

百田「おいおい! 冗談だろ! あん中に巌窟王がいるってのかよ!」

巌窟王「うおおおおおおおおおおおおおお……!」

茶柱「あの声と炎の色を見ても、まだそんなことが言えると!?」

百田「マジかよ」

最原「色々質問があるけど、最初にこれだけは」

最原「人数が少なくない!?」

茶柱「今は赤松さんが転子の代わりに部屋を回って人を集めてます!」

最原(じゃあ後から増員が期待できるってことかな)

最原「茶柱さん! 状況を教えてくれない!?」

最原「何があったの!?」

茶柱「ことの発端は今から大体十分前のことでした。寝付けなくって、転子が寄宿舎の外に出たんです」

茶柱「外の空気を吸って気分でも入れ替えよう……とか、そんな理由で」

茶柱「そのときちょうど寄宿舎へと戻ってきていた巌窟王さんと顔を合わせました」

茶柱「そのときです。どっちが先に気付いたのはもうまったく覚えてませんが、転子の研究教室が炎上していることに気付きました」

茶柱「二人して研究教室まで走って行って、それで……」

茶柱「巌窟王さんが炎の中に『何か』があることに気付いて、言ったんです」

茶柱「『人手が必要かもしれない』と」

茶柱「……聞き返す前に巌窟王さんは一人で……ん? うん……ええ」

茶柱「『一応一人で』中に入っていってしまいました」

最原(なんかところどころ不明瞭っていうか、あえてボカされた部分がある気がするけど)

最原「なるほど。大雑把な事情はわかったよ」

百田「とにかく、中に巌窟王がいんだな!? ならさっさと鎮火させるぞ!」

夢野「このままじゃ巌窟王のスモークステーキの出来上がりじゃあ! 一刻を争う!」

夢野「このあたりに水道は……!」

茶柱「一番近いものはあっちにあります! バケツもいくつかそこに!」

夢野「バケツリレーの開始じゃあああああああッ!」ダッ

百田「行くぞおおおおおおッ!」ダッ

最原「……」

最原(なんだ? 巌窟王さんは何に気付いた……?)

巌窟王「……やはり見つけたぞ。これは……!」

焼け焦げたペットボトル「」ボロッ

巌窟王「だが『ヤツ』が見つからない! どこだ。どこにいる!」

巌窟王(火事で発生する有毒ガスは問題なく無毒化できるが……それはそれとして熱い)

巌窟王(この火事を発生させたのは間違いなく生徒だ。ならば俺がその影響を受けるのも必定)

巌窟王(あまり長い時間はかけられないな)

巌窟王「……何故だ。何故魔力の供給が安定しない……こんなときに……!」

巌窟王「うおおおおおおおおおおおおッ!」

休憩します!

十二時五十分

最原「ダメだ! 全然鎮火しないよ!」

赤松「なんならさっきより火力が上がってる気もするんだけど……!」

百田「……ごほっ……ごほっごほっ……!」

百田「やべ、ちょっと出た」ゴシゴシ

春川「百田?」

百田「ヘーキだ! まだやれるぞ! 俺ァ!」

巌窟王「おおおおおおおおおおお……!」

天海「……妙っすね。一体あの中で何をしてるんでしょう。巌窟王さんは」

最原(もしかしたら何かを言っているのかもしれないけど……)

最原(それを聞き取れる程度には巌窟王さんの声が漏れてきてくれないんだよな)

最原(そうか。火事って結構、音も凄いんだな)

午前一時十分

夢野「よしキーボ! 行けい! 今こそ救助ロボの力を見せるときじゃ!」

キーボ「そんな目的のために作られたわけじゃありません! 無理です! 死にます!」

最原「……」

最原(いつの間にか人が増えている……のは、赤松さんが声をかけてくれたおかげだろうけど)

最原「……?」

最原(人が……減ってる気がする)

最原(いや、最初のときと比べると間違いなく増えてる。んだけど……)

最原(さっきいたはずの人がいなくなったりしてないか?)キョロキョロ

最原「茶柱さんは?」

夢野「んあ? 転子?」

キーボ「さっき『ちょっとしたらすぐ戻ってきます』って言って、どこかに走って行きましたが」

最原「……」

最原(待てよ。巌窟王さんの『人手が必要になるかもしれない』って、どういう意味だ?)

最原(てっきり火事をどうにかするのに、って意味だと勘違いしてたけど……!)

最原「……茶柱さんを探して来る!」

夢野「んあ?」

最原「ごめん、時間はかけないから!」

最原(考えろ。こんなときに茶柱さんが現場を離れるに至った理由……!)

最原(……そうだ。赤松さんが生徒を呼んだのは寄宿舎の中でのことだ)

最原(だとすると寄宿舎にいない人間は当然呼べない)

最原(じゃあ、茶柱さんは『赤松さんでは呼べない人』を呼びに行ったんじゃ……)

最原(もしかしたら倉庫に何か便利な道具……消火剤とかを取りに行ったのかもしれないけど……)

最原(どっちにしろ空振りにはならない。僕が行くべきは……!)




超高校級のメイドの研究教室

茶柱「……おかしいですね。ここで料理しているはずなんですけど……」

茶柱「女子トイレにも姿はありませんでしたし……」キョロキョロ

茶柱「ううーん。引き返すべきですかねー……?」

茶柱「あれ。なんでしょう。この掃除道具用ロッカー……なにか……変ですね?」

超高校級のメイドの研究教室周辺

最原「ふう……ふう……疲れてきたな……ちょっと走り過ぎたかも」

最原「でも急がないと、だよな。巌窟王さんをあのままにはしておけないし……」


……アアアア……!


最原「ん?」

茶柱「……いやあああああ……!」

最原「……茶柱さんの声? いや……」

最原「悲鳴?」

最原「……!」ダッ

最原(気付いたら走り出していた)

最原(……段々と茶柱さんの声が大きくなっていく)

茶柱「誰か……誰かああああああああ!」

茶柱「お願い! 誰か助けてえええええええ!」

茶柱「誰か……誰かああああああああ!」

最原(辿り着いた先は、超高校級のメイド教室の入口)

最原(悲鳴は中から聞こえてきている)

最原(僕はそのドアノブを握ったとき、手に汗をかいていたことに気付いた)

最原(……疲れ? 違う。僕は……ドアを開けたくなかったんだ)


ガチャリンコ


最原「茶柱さん! どうか……した……?」

最原「え?」

最原(その先にある光景を、僕は一番見たくなかった)

茶柱「あ、あ、あう……最原、さん……!」

茶柱「助けて……!」

最原「……」

最原(助けを求められているのに、足がすくんで動けない)

最原(ドアを開けた先にいるのは、血塗れの茶柱さん……?)

最原(違う)

最原「東条さん……?」

最原(血塗れで、ぐったりしている東条さん。それを抱いて泣きじゃくっている茶柱さんの姿だった)

最原(……僕は……巌窟王さんの言葉の意味を、勘違いしていたんだ)



第三章

Unlimited 在校生 Works 非日常編

休憩します!

最原(東条さん……)

最原(超高校級のメイドとして、僕たちに奉仕してくれていた女の子)

最原(……責任の大きさを利用されて、僕たちを裏切りはした。でも罪悪感も呑み込んで、先に進める人だった)

最原(これから、いいことがいっぱいある。あるはずだったんだ。なければいけなかったんだ。この人は)

最原(その東条さんが――)

茶柱「最原さん……!」

最原「……死んでるの?」

茶柱「……」

茶柱「動かなくって……ぐったりしてて……」

最原「……」

最原「嘘だ……こんなの。起きてよ……東条さん!」

最原「目を開けてよ、東条さんッ!」





東条「了解したわ」スック

茶柱&最原「え゛」

東条「……頭がくらくらするわね。ごめんなさい。次の指示を貰う前に治療してもいいかしら?」フラフラ

最原「……」

最原「生きてるじゃんッ!」ガビーンッ

茶柱「う、うえええええええええん! よかったあああああああああ!」ダバーッ

茶柱「え、ええと! 治療できる人……天海さんを呼んできますね! ちょっと待っててください!」ダッ

最原「あ、う、うん!」

東条「……つっ……!」

最原「大丈夫? 東条さん……って」

最原(そんなわけがない。どう見ても無事じゃない)

最原(ただ、傷口からはいまいち殺意を感じないのも確かだ)

最原(……手加減されてる?)

最原(大雑把に見て、血が流れ出てるのは頭部。出血は酷そうだが、意識もハッキリしているし、止血さえすれば現時点では問題はなさそうだ)

最原「……他に怪我はない?」

東条「手が……痛いわ」

最原「手?」

東条「両手が……ちょっと動かすのを躊躇する程度には、痛いの」

最原「……手袋を取って見せてくれる?」

ボタボタッ

最原「……!」

最原(手袋の下には包帯。これは前に見た通り)

最原(ただ、その包帯ごと手が真一文字に切り裂かれていた)

最原(両手ともに)

東条「これは……どういうことかしら?」

最原「……」チラッ

最原(考えろ。茶柱さんは東条さんを抱きしめていた)

最原(抱き上げた……って感じじゃない。どこかから東条さんが落ちて来るか倒れて来たのを受け止めてああなった感じだ)

最原(だとすると、その前の東条さんはどんな状態だった?)

最原(……すぐ近くに掃除道具を入れる縦長のロッカーがある。ドアは開かれていて、モップが倒れて飛び出している)

最原(床には引きずったような痕……)

最原(後で茶柱さんから訊かないとなんとも言えないけど、茶柱さんが発見するまで東条さんはこの中にいたのかな)

最原(……いや。いたはずだ。ロッカーのドアの隙間に固まった接着剤がついてる)

最原(多分これでドアを固定して東条さんがドアに倒れ込み、外に飛び出すのを防いだんだろう)

最原(……わからない。なんでこんなことを……?)

最原(……いや。心当たりはある。最悪の可能性だけど)

最原(でも現段階で東条さんを見つけたのが僕と茶柱さんだけでよかった)

最原「……」

最原「東条さん。お願いがあるんだけど」

東条「何かしら?」

最原「包帯は持ってるよね。自分で自分の傷を治療するためにさ」

東条「……そうね。手から出血したときのために、替えの包帯は常に携帯してるわ」

最原「だったらさ――」

午前一時ニ十分

巌窟王「……もう、いいな……これだけやれば充分だ。ヤツはここにはいない!」

巌窟王「クハハ……やってくれたな。誰だかはわからないが、随分とナメた真似をしてくれる……!」

巌窟王「さて。後は脱出するだけだが……」

巌窟王「難しいか? これは」

巌窟王「……」

巌窟王「また始まるかもしれないな。学級裁判が」

巌窟王「すまない。アンジー」

今日のところはここまで!

刑部姫出ねぇ!
あ、間違えた。フラグ管理が間に合わねぇ!

ちょっとガチャって来ます!
違う! メモ帳にメモって状況整理します!

百田「……」

百田「なんか巌窟王の声が聞こえてこなくなったぞ? 気のせいか?」

白銀「た、多分コレ、気のせいじゃないよ……!」

星「ちっ。このままだと、鎮火した後で巌窟王の焼死体を拝む羽目になるぜ」

キーボ「入間さーーーん! 大変ですー! ここを開けてくださーい!」バンバンッ

天海「……入間さんの研究教室って鍵あったんですっけ?」

夢野「どうでもよいわ! とにかく水をかけ続けなければいかんぞ!」

赤松「でもそのころまでに巌窟王さんが生きてるかどうか……!」


バシャァッ


春川「?」

百田「……」ポタポタッ

春川「百田? なんで急に水を被ったの?」

百田「行く!」

春川「は?」

百田「うおおおおおおおおおおお!」ダッ

春川「……はあッ!?」ガビーンッ

午前一時三十分

ボオオッ

巌窟王「……くっ!」

巌窟王(笑い話にもならんな。恩讐の炎で万物を焼き尽くして来た俺が焼死などと……)

巌窟王(あと一歩が果てしなく遠い。ここまでか?)

巌窟王(……ふん。考えるだけ無駄だな。俺に諦める権利などないのだから)

ガクリッ

巌窟王「……足に力が入らなくなってきたな」

巌窟王「ならばもう、這っていくしかないか?」

百田「そんなことはねぇぞ! 巌窟王!」

巌窟王「!」

百田「助けに来てやったぜ! ありがたく思え!」ニィッ

巌窟王「……」

巌窟王「ふっ。バカめ」

百田「んだとコラ!」

巌窟王「……あと十メートルほど前進したい。肩を貸せ。そこからは俺がなんとかする」

百田「お? なにか奥の手があんのか?」

巌窟王「機会は一度きり。かつ一瞬だ。そこですべてが決まる」

百田「へっ。そういうの俺の大好物だ! やってやらァ!」グイッ


ズリッ……ズリッ……


百田「……こんなボロボロになるまで、ここで何してたんだよ」

巌窟王「おそらく気付くヤツは気付いたはずだが……」

巌窟王「……アンジーは外にいたか?」

百田「あ? いや……悪ィ。よくわかんねー。誰がいたか、いなかったとか、この混沌だと判別しづらくってよ」

百田「最低限、夢野とハルマキがいたことは覚えてるんだが……」

巌窟王「そうか。それなら……やはり俺はハメられた、ということだろうな」

百田「……あー?」

巌窟王「外に出てから話そう。とにかく前へ!」

百田「おうっ! ……っと」フラッ


ガシッ


春川「……もう片方の肩は私が持つから。しっかりしてよ」

百田「は、ハルマキ!? なんで……」

春川「こっちの台詞なんだけど。殺されたいの? ほら。前に行くんでしょ」

百田「……ははっ!」

巌窟王「……」ニィッ

百田「見ろよ巌窟王……俺たちは、強ェだろ?」

巌窟王「ああ」

百田「……助けてよかったって思うだろ?」

巌窟王「そうだな」

百田「……だから、俺たちもお前のことを助けてやんよ。それが仲間だからだ」

巌窟王「……そうか」

百田「とか言っている間にもうそろそろじゃねーか?」

巌窟王「よし。一度、俺から離れろ。二人とも」

巌窟王「……よくやった」

春川「……上から目線がムカつく」

巌窟王「そう言うな。許せ」ニヤァ

巌窟王「さて。奥の手を出そう」ゴソゴソ

モノダム「ムグー! ムグウー!」ジタバタ

百田「」

春川「」

巌窟王「それでは行くぞ。思い切り! 大きく振りかぶって!」ギンッ

巌窟王「せーのっ!」

百田「待て」

巌窟王「ム?」

百田「なんだそれ?」

巌窟王「モノダムだ。俺の予備のマントでグルグル巻きにして身動きを取れなくした状態の」

春川「いやまあ何をしようと文句はないんだけど、一応聞いておくね」

春川「そいつをどうする気?」

巌窟王「こうする気だ!」

巌窟王「疑似宝具、展開!」

巌窟王「ヘラクレス直伝!」

巌窟王「オリジナル『ブーメランサー』改め……」

巌窟王「友よ、お前のことは忘れない(ブーメランサー・モノダム)!」ブンッ



モノダム「ムグウーーー……」


カッ!

ドカァァァンッ!

百田「……壁に大穴が開いたな」

春川「外が見えるね」

巌窟王「何をしている! 走れ!」

巌窟王「あと三秒ほどで屋根が落ちて来るぞ! 潰されたいのか!」

百田「そういうことは先に言えェ!」ガビーンッ


ベキミシミシッ


春川「という会話をしている内にもう余裕が――」

百田「ぎゃああああああああ!」

巌窟王「クハハハハハハハハ!」



ドガシャアアアアアッ!



――モノダムは星になった。巌窟王という友を救うために。

きっと、彼らは生涯忘れない。自分たちのことを救ってくれた、あの優しいナマモノを……

休憩します!

気にするな!

巌窟王「クハハハハハハ! 脱出できたぞ! 俺自身信じられん!」

百田「たっく……よく考えれば壁壊したら、そりゃあ天井が降ってくるわな。考えなしにもほどがあるぜ」

巌窟王「だが生きているぞ。全員な。結果こそがすべてだ」

巌窟王「……いや。過程を蔑ろにするわけではないが、な」

百田「ああ。とにかく生きてりゃ儲けモンだ! な、ハルマキ!」

春川「」チーン

百田「ハルマキィーーーッ!?」

巌窟王「む?」

モノダムの首「」ゴロッ

巌窟王「ふむ。どうやら逃げるとき勢い余って、モノダムの首に足を引っかけて転び、地面に突き出た尖った岩に額をしこたま打ち付けたようだな」

春川「」ダクダクダク

巌窟王「引くほど流血しているな」

百田「死ぬなハルマキィーーーッ!」

春川「……ハッ!? 私の名前は春川魔姫! 超高校級の暗殺者」ガバリッ

百田「うおおっ! 急に起きた!」

春川「そ、そう……思い出した! 私はこの前、巌窟王にハネ飛ばされて……記憶を……!」

春川「……」チラッ

巌窟王「?」

春川「フンッ!」ブンッ

巌窟王「がはぁ!?」ゴキィッ

百田「ハルマキの上段回し蹴りが見事に決まったーーーッ!?」

春川「これでチャラ」フン

巌窟王「」チーン

ドタドタドタッ

夢野「んあ! 天海! こっちじゃこっち! なんか凄い音がしたと思ったら脱出しておるぞー!」

天海「了解っす! 応急処置でいいのならすぐに……!」

茶柱「いやいやいや待ってください! こっちの方が先ですってば! 東条さんの研究教室で……!」

巌窟王「……なんだ? 騒がしくなってきたな」

真宮寺「ククク。おかえり、巌窟王さん。みんな心配していたんだヨ?」

茶柱「……ああ、もう! いいです! 確かにこっちも治療必要そうですもんね!」

茶柱「じゃあせめて巌窟王さんだけでも連れて行きます! 彼が傍にいれば安全ですからね!」

天海「いや、そんなこと言われても……」

百田「……んだよ。他に誰か怪我してんのか?」

赤松「実は、超高校級のメイドの研究教室で東条さんが……」

かくかくしかじかえりえり~

巌窟王「……」

巌窟王「天海を連れて行くぞ」ガシッ

天海「え。百田くんと春川さんは……」

巌窟王「応急処置なら自分でできるだろう?」

春川「……はいはい。行ってらっしゃい、巌窟王」

百田「おう! 後のことは俺たちに任せておけ!」

茶柱「こっちです、こっち!」ダッ

巌窟王「行くぞ、天海!」

天海「はいっす!」

巌窟王(……やはりアンジーはいなかった)

巌窟王(やはり俺は誰かにハメられたのだ)

巌窟王(……しかし本当の標的は俺ではない。決して)

巌窟王(だとすると、真の標的は……!)

今日のところはここまで!
ミッションは全部片づけたので、あとはゆっくりメカエリチャンを育てられる……

超高校級のメイドの研究教室

最原「……遅れてくれて逆に助かったけど……茶柱さん遅いな」

東条「ここから中庭まではそこまで距離はないはずだけども……」

最原(……仕込みは上々。あとはコレが役に立たないのを祈るばかりだ)

最原「手は大丈夫?」

東条「痛みはまったく引いてないけど大丈夫よ。治療自体は上手くいっているわ」

最原(やっぱり大丈夫じゃないな……思ったより怪我が酷かったから当然か)

最原(……血塗れの包帯、落とさないようにしないとな)



ガシャァァアンッ!


最原「!?」ビクゥッ

巌窟王「しゃらくさい! ここからロープを下ろすから全力で登れ、天海!」

天海「了解っす!」

最原「巌窟王さんが窓ガラスを破壊してやってきたーーー!?」ガビーンッ!

天海「すぐに行くっすよー! 東条さー……」


ブチッ


巌窟王「む。急に軽くなったな。下りたのか?」

天海「わあー……」


ベシャッ


最原「落ちてるんだよッ!」ガビーンッ!


天海は後で普通に階段からやってきた

午前一時四十分

天海「なんだ。頭の怪我は既に最原くんが応急処置したんすか」

天海「……適切っすね。これなら大丈夫っすよ。本当なら一度病院に突っ込んで検査とかさせたいところっすけど」

最原「そっか。よかった」

天海「俺は茶柱さんから『東条さんが誰かに襲われて凄い怪我してる』としか聞いてないんすけど……」

天海「頭以外にどこか怪我はないっすか?」

東条「……」チラッ

東条「ないわ。どこにも。頭以外はいつも通りよ」

巌窟王(……何故今、最原に視線を投げかけたのだ?)

巌窟王「まあいい。最原を借りるぞ。後のことは天海に任せておけ」

最原「え?」

巌窟王「……アンジーが行方不明だ。これだけ言えばわかるか?」

最原「!」

最原「……うん」

巌窟王「行くぞ!」

アンジー捜索道中

最原「というか結局、なんで巌窟王さんは炎上中の研究教室なんかに突っ込んだの?」

巌窟王「ことの発端は……ひとまずあまり言いたくはないのでボカすが」

巌窟王「アンジーの作品が発端だ」

最原「作品?」

巌窟王「様々な要因が積み重なって、俺とアンジーは頻繁に別行動を取るようになっていた」

巌窟王「ふと俺はアンジーに用ができてアンジーの研究教室へと向かったのだが……」

巌窟王「どれだけ待ってもヤツがそこに現れることはなかった」

最原「あれ。確かアンジーさんの門限って」

巌窟王「夜時間。つまり十時だ」

巌窟王「……だがヤツは創作活動に打ち込みたいと言うので条件付きで夜時間の延長を認めさせた」

巌窟王「条件は二つ。創作しているときは鍵を閉めること。研究教室の鍵は俺に預けること、だ」

巌窟王「創作途中での外出は……トイレなどもあるだろうから黙認せざるを得なかったが」

巌窟王「もしかしたらどこかですれ違ったのかもしれないと考え、俺は一度寄宿舎に戻った」

巌窟王「……そこであの火事だ」

最原「なるほど……」

最原(アンジーさんは巌窟王さんのことを徹夜で待ってたりしてたけど、巌窟王さんは堪え性なさそうだしな)

最原「アンジーさんへの用って、出迎え以外でのことで?」

巌窟王「……」

最原「ああ、やっぱり出迎えだったんだ」

巌窟王「それ以外にもあるぞ。関係ないので言うつもりはないがな」

最原「でもそれって火事を発見するに至った経緯であって、火事に突っ込んだ理由ではないよね?」

巌窟王「……」

最原「それも言いたくない?」

巌窟王「……」

最原(露骨に話を打ち切ってる……余程答えたくないのかな)

最原(でもなんとなくわかった。巌窟王さんが研究教室に突っ込んだ理由)

最原(アンジーさんの所在をさっきから異常に気にしてるって点を考えれば明らかだよな)

最原「火事の中にアンジーさんのパーカーでも見えたの?」

巌窟王「……似たようなものだ」

最原(やっぱり)

巌窟王「……無駄話はこれで終わりだ。早くヤツを探すぞ」

巌窟王「死んではいない。死んではいない、はずだ」

最原「……」

最原(凄く不安そうだ。こんな巌窟王さん見たことない)

最原(……早く見つけないと)

休憩します!

最原「……」

最原(こうして眺めてみると……超高校級のメイドの研究教室から超高校級の美術部の研究教室までの道って)

最原(ほぼ一直線だな。迷わない。普通の学校なら一階から二階、三階に上がるときは別の階段があったりするのに)

最原(間には超高校級の昆虫博士の研究教室や、超高校級のテニスプレイヤーの研究教室もあったりして……)

最原(……見通しがいいのに隠れやすい。隠れる人間には妙に優しいな)

最原(あそこより奥の区画はまだ解放されていないわけだから、奥に何人いるかを予測するのも……工夫すればいくらでもできそうだな)

最原(袋小路になっているわけだし……)

最原(……)

最原「超高校級の美術部の研究教室周辺に行こう」

巌窟王「そこにアンジーがいるのか?」

最原「可能性は高いと思う」

最原(……間に合ってくれ!)

巌窟王「……ム。赤外線センサーがなくなっているな?」

最原「赤外線センサー?」

巌窟王「さっきこの階段の周辺にあったのだが……今はどうでもいいな」

最原「……」

最原「それってさ! 巌窟王さんがアンジーさんを出迎えしたときはあった!?」

巌窟王「なかったな。俺には忘却補正があるからまず間違いないぞ。あったのは俺がここから寄宿舎に戻るときだけだ」

最原(確定! アンジーさんはここより上にいる!)

最原「急ごう!」

某所

ウゾウゾ……ウゾウゾ


アンジー「う……あ……?」

アンジー(……気持ち、悪い……体中に何かが張り付いてる気がする……)

アンジー(暗い……気持ち悪い。頭が……ふわふわする……)

ギシッ

アンジー(……よくわからないけど、体が動かない……?)

アンジー(縛られてるの……?)

ウゾ……ジュルッ……

アンジー(やだ……離れてよ……)

アンジー(怖い……)

アンジー(……でも何か、助けを呼んだらいけない理由があったような……?)

アンジー(そもそもどうしてこんなことになったんだっけ……?)

休憩します!

後のことは大体本編の通り!
今日のところはここまで!

巌窟王の影響をモロにうけてる生徒のログ

最原
本当は帽子を付けていたいが赤松にからかわれるので外している。人の視線に関しては気合で慣れた。
アンジーのアタックに関して一番困ったことは巌窟王に目の敵にされたこと。割とショックだった
本人は巌窟王の背中を追いかけているつもりだが、割と独自の方向に暴走しがち。気持ちは本物なので無自覚に味方を作る。

夢野
巌窟王に対して『お主にとっての魔法使いとは』と訊ねたことがあるが、そのときイリヤを連想した巌窟王が『作詞?』と答えたためたまに作詞している。赤松協賛。
なおイリヤはネロとかエリザの歌の作詞とかしている。

入間
第一印象でこそ魔術に対して懐疑的だったが、今となっては全力で魔術を解析しにかかっている。伊達に発明家やってないので解析力は折り紙付き。
巌窟王の見立てでは魔術回路の質と量は両方ともに『アンジーよりかなり下』くらい。

天海
アマデウスの仮面を外した後は全力で巌窟王のサポートに回る。
才能を思い出せていないため他の生徒に対して引け目を感じているが、できることをしようと考え方を変えようとしている。
アマデウスの仮面そのものを手放す気はない。

獄原
凄まじいトレーニングの結果、過労で倒れることとなった。
未だに誰一人として知る由もないが、この後、彼は超ゴン太として復活を遂げることとなる。
半分嘘である。

アンジー
段々『自分の感情』を表に出すようになってきている。だがそれを指摘すると仮に巌窟王が相手だったとしても否定する。
それ自体が感情の証明になっているということに彼女が気付くことはない。
『巌窟王に甘やかされている』という理由でカルデアの女神連中から目を付けられている。好奇の視線的な意味で。

その内入る。
寝る!

超高校級の美術部の研究教室周辺

最原「ここからは別行動を取ろう! ここまで絞り込めれば、本腰入れて探せば見つかるよ!」

最原「身軽な巌窟王さんは超高校級の民俗学者の研究教室を調べてて! あっち広すぎるから!」

巌窟王「了解した」

最原(アンジーさんの研究教室は巌窟王さんがいたから除外)

最原(残るは三つの空き部屋と、謎の超巨大な機械があったあの部屋のみ……)

最原(……三つの空き部屋の方を調べよう! 確かあそこは床下にスペースがあったはずだ!)ダッ



三つの空き部屋:中央

最原「あれ……なんだろう。微かに何か燃えたような臭いがするような……?」

最原「……それどころじゃないな。床板を剥がしてみよう!」

最原「アンジーさん! いる!?」ガリッガリッ

最原(……結構隙間なくピッチリ並べられているから爪が引っかからないと、いまいち剥がしにくいな……!)



「む……ん……」



最原「!」

最原(……いた。いや、絶対にいる。微かな声だから聞き逃しそうだったけど)

最原「……ッ!」ガリィッ

最原(無理でもなんでもいい。とにかく自分の手が傷ついてでも、急いで床板を取っ払う)

最原(だけど床下は思ったよりも遥かに薄暗かった)


モゾッ


最原(床下に何かが蠢いているということ以外は何も見えない)

最原「……そうだ! 蝋燭! 燭台!」

ガッ

最原(そして僕は蝋燭で床下を照らして……)

最原(照ら……して……?)

最原「……え、あ、ひ……!?」

超高校級の民俗学者の研究教室

巌窟王「……なんだこれは。アルミホイルの……破片?」

巌窟王「何故こんなものがここに……」

最原「うわあああああああああああああッ!?」

巌窟王「!」



中央の空き部屋

最原「あ、あ、ああ……?」ガタガタ

最原(僕が見ているものは現実か?)

最原(……いや……夢なんかじゃない。この手に刻まれた傷が、痛みがそれを証明している)

最原(床下に広がる光景は、明らかに常軌を逸していた)

最原(……常軌を逸して、グロテスクだった)

巌窟王「最原、ここかッ!?」ガララッ


ズンズンズンッ


バキィッ!


巌窟王「ぐあああああ! 床板が抜け……違う! この部屋ではない! 隣か!」


ガララッ


巌窟王「最原! ここだな!? 何が……?」

巌窟王「……アンジー?」

最原(巌窟王さんと共に深淵に目を奪われる。そこにいたアンジーさんは、着衣が乱れていた)

最原(パーカーは限界まではだけ、ビキニはズレて、上履きも脱げて転がって裸足だ。いつもより露出度が上がっているように見える)

最原(だけどそれを呑気に眺めていられる状況ではない)

最原(アンジーさんの健康的な褐色の肌には、ところどころ『くっついていた』)

最原(あれは……)

巌窟王「ヒル、か……?」

最原(そう。血を吸い上げ、丸々と太っているヒル)

最原(……アンジーさんは荒縄で縛り上げられている状態だ。無抵抗に……血を吸われていた)

最原(あまりにも酷い光景だった)

休憩します!
……ここから非日常編スタートでもよかった気もする

巌窟王「……」

巌窟王「獄原を呼ぶ必要があるな。こういうのはヤツの得意分野だろう」

最原「今すぐ燃やすわけにはいかないの……?」

巌窟王「……燃やしたところで傷口から延々と出血するだけだ」

巌窟王「安心しろ。すぐに戻ってくる」グシャッ

最原「……」

最原(頭を乱暴に撫でられた……)

最原「……巌窟王さん」

最原(気付いたときには巌窟王さんは消えていた)

最原「……僕は……やっぱり無力なのかなぁ……」

最原「うっ……ううっ……!」

アンジー「……む……ん……?」

最原「!」

最原(アンジーさんの目が薄く開いた。薄暗くて今一判別しづらいけど、視線がこちらに向いている気がする)

最原「アンジーさん!」

アンジー「む……んん……」ギシッ

最原「あ……口になにかハメられてるの?」

最原「待ってて、今それは解くから……体の方は……」

最原「ごめん。ヒルを毟り取られたら出血が酷くなるだけだから、今は我慢して」ガタガタッ

最原(床板を更に剥がす。一枚、二枚剥がれれば、後は簡単にどかすことができた)

最原「……随分と本格的な猿ぐつわだな……」

最原(口の中に丸めた布を突っ込んでから、それを吐き出させないようにぐるりと布で口周辺を巻くタイプだ)

最原(口の中に含ませる布の量によっては、これだけで体力が消耗する)

アンジー「……ぷ……は……しゅう……いち……」

最原「アンジーさ……!?」

最原(酒臭ッ!?)

最原(猿ぐつわを解いた瞬間に充満する酒の臭いに、思わずむせ返りそうになる)

最原(……いや、気付いてなかっただけで、もう既に臭っていたのかもしれないが、それにしても凄まじいアルコール臭だ)

最原(一番酷い臭いの元は)

最原「……猿ぐつわの布に……何か沁み込ませてあるな。これはワイン?」

アンジー「あ……うう……」

最原「……」

最原(泣いている場合じゃなくなったかもしれない)

最原(なんだか次は凄く……)

最原「腹が立ってきた」

最原(何かの間違いで鼻が詰まってたら窒息死していたかもしれない。布を誤飲してもやっぱり窒息)

最原(……仲間のことをなんだと思ってるんだ……!)

アンジー「終、一……お願いが、ある、の……」

最原「なに? 口の周りがベトつくんなら、ハンカチがあるから……」

アンジー「そうじゃ、なくって……令呪……!」

最原「……ん?」

アンジー「令呪、あげるから……アンジーの替わりに……神様を、守って……」ポロッ

アンジー「アンジーがいなくなっても、令呪を引き継いだ誰かがいれば、神様は消えないから……ひっく……!」ポロポロッ

最原「……」

最原「大丈夫。アンジーさんは死なないから」

最原「もう僕が見つけたから」

最原「すぐに巌窟王さんがゴン太くんを連れて来るよ。そうしたら助かるから」

アンジー「えうっ……アンジーは……ひっく……アンジーは……」ポロポロッ

最原「……」

最原「泣いちゃダメだよ。水分は大事だからさ。今は」スッ

最原「僕がいるから、もう怖くないよ」

寄宿舎

巌窟王「獄原! 悪いが緊急事態だ! 今すぐ俺と共に来い!」ドンドンッ

巌窟王「……ええい、時間も惜しい。ドアを破壊してでも連れて……!」

ガチャリンコ

巌窟王「?」

巌窟王(ドアの鍵が開いている?)

巌窟王「獄原?」

獄原「……むにゃ……」スヤァ

巌窟王「……無事だな」

巌窟王(しかし、枕元に置かれているこの大量の炭酸飲料はなんだ? いくつか飲みさしだが……)

巌窟王(……)

巌窟王「王馬の見舞いか。なるほど。鍵をかけるのを面倒臭がったな?」

獄原「……ふあ……ん? 誰かに担がれて……る……?」

巌窟王「我が征くはアンジーの傍ら!」ズダダダダダッ

獄原「……」

獄原「なんだ夢か!」

巌窟王「夢ではない! ひとまず事情を今から説明する!」

巌窟王「このまま俺に身を任せていろ! そうら、すぐに到着だぞ!」ギンッ

獄原「え、え? 何っ……ええっ!?」ガビーンッ

中央の空き部屋

ガララッ

巌窟王「連れて来たぞ! 最っ……!」

アンジー「終一。好き。本当に好き……大好き……」

最原「……最初からそう言っていれば……」

最原「あっ」←巌窟王と目があった

巌窟王「……最初からそう言っていれば……?」

巌窟王「何だと言うのだ? なんだと……」ガクリッ

バターンッ

巌窟王「」チーン

最原「魔力不足から来る体力不足と心労のダブルパンチで倒れちゃったーーーッ!?」ガビーンッ

獄原「ごめん! 巌窟王さん! 今はそれどころじゃないから放置させてもらうよ!」

獄原「すぐにヒルさんをアンジーさんから離すね!」ダッ

今日のところはここまで!

午前二時

獄原「……ひとまずヒルさんをアンジーさんから離して、ヒルさんの抗凝固作用を持った唾液を分解する酵素も投与したから大丈夫……」

獄原「……って言いたいんだけど、ちょっとコレ手遅れだったね」

最原「は?」

巌窟王「……アンジーはまだ生きているぞ?」

獄原「うん! わかる! それはわかるんだけど……! いや、ハッキリ言って助かる余地はあるんだけど」

最原「逆に言えば『助かる余地が多少はあるって程度』には消耗してるってこと?」

巌窟王「……」

巌窟王「待て、しかして――」ポワッ

アンジー「うぐっ……!」

巌窟王「……ダメだな。この消耗状態では、本末転倒になりかねない」

最原「何しようとしたの?」

巌窟王「回復宝具を使おうとした……が、無理だった。仕方がないな」ポチポチ

BB『はーい! いつもニコニコあなたの傍に寄り添う後輩、BBちゃんでーっす!』

巌窟王「我がマスターが死にそうだ。助けてくれ」

BB『……え。あの。いつものクソ迂遠な言い回しと、チクチク責めて来るハイテンションな嫌味はどうしました?』

巌窟王「頼む」

BB『……』

BB『わかりました。おふざけなしで行きますよ。何が必要です?』

巌窟王「泥酔した状態で出血している。水分と輸血の設備だ」

BB『はいはいっと……あー。カルデアの礼装の類は転送できませんよ。アレに手を付けたら本気でデリートされちゃいます』

BB『カルデアに縁のある人間しか使えませんしね』

巌窟王「わかった」

巌窟王「治療設備が届く。今度は気合を入れて俺の近くに転送されるように手配するようだ」

最原「……助かるかな?」

巌窟王「死ぬと思っているのか? 俺のマスターだぞ?」

巌窟王「俺が死なせない」

最原「……」

最原(ピンチのときに巌窟王さんほど頼りになる人はいないよな……本当になんとかなる気がしてきた)

BB『はい! 転送しましたよー! あんまり大量には送れないのですが!』

巌窟王「あるだけマシだ。さあ! どこに転送されて」

ヒュンッ

グシャッ


巌窟王「ぐああああああああああ!?」

最原「巌窟王さんが設備の下敷きにーーーッ!」ガビーンッ!

巌窟王「ぐううううう……!」

巌窟王「クハハハハハハ! 幸運だった! 俺が下敷きになったお陰で機材と輸血パックは一切無事だぞ!」

最原「凄くポジティブ!」

BB『私が指示しますので、ひとまずテキパキやっちゃってくださーい』

獄原「アンジーさん! 助かるよ! 巌窟王さんが助けてくれるよ!」

アンジー「……うん……」




最原(こうして混沌の内に始まった夜は、ひとまずの終わりを告げた)

最原(でも……アンジーさんはまだ助かっていない)

最原(これからどう転ぶかも不明瞭だ)

最原(そして……この状況を心の底から面白がっているヤツが一人いた)

最原(……半分くらいの確率で乗ってくるとは思っていたけど)



モノクマ「うぷぷ……これだね……全員生き残っちゃったお陰で用意した動機がパァになっちゃってたけど」

モノクマ「……これを動機にしちゃお。それを望んでいる人もたくさんいるみたいだしね……」

モノクマ「うぷぷ……うぷぷぷぷぷ……」

休憩します!

こんにちは! 私、マスター!
こっちは宝具2の武蔵ちゃんの前でうっかり召喚されちゃって心臓麻痺寸前の過呼吸な刑部姫!
そして今日の更新は夕方な予定なの!

午前二時十分

巌窟王「……」

巌窟王「顔色が良くならないぞ」

BB『ああーっ……コレ、現実的な治療の範囲だと危ないかも……!』

巌窟王「何……?」

BB『本当に消耗しきってるっていうか……バイタルは機械越しにモニタできてるので治療に全力は尽くしますけど』

BB『助かるかどうかは五分五分と言う他に……なさそうです』

最原「そんな!」

獄原「な、なんとかならないの!? 巌窟王さんの友達なら、魔術でもなんでも使うとかさ!」

巌窟王「友達ではない。そしてそれは不可能だ」

巌窟王「……そういうモノを送ったとして、使える人間がいない」

BB『ただコレは現状は、の話です。他に味方に付けられそうな人とか設備とかありませんか?』

巌窟王「……」

巌窟王「モノクマ……しかいないだろうな」

最原「最悪な着地点だ……!」

モノクマ「はいはーい! お呼びしましたかー!」ボヨーンッ

獄原「うわっ! 出た!」

モノクマ「で? なに? 用があるの?」

巌窟王「アンジーを助けろ」

モノクマ「いいよ!」グッ

巌窟王「これでよし」

最原「……」

最原「は?」

最原「はあ!?」ガビーンッ!

最原「いやいやいや! 巌窟王さん! 何もよくないけど!?」

最原「モノクマ! 確かお前、生徒同士のコロシアイには関知しないって校則で……!」

モノクマ「あー。うん。それはそうなんだけどさ……」

モノクマ「オマエラがコロシアイを成立させる前に見つけちゃったから、もうコロシアイに関しては『破綻した』とみなしたよ」

最原「校則に関してはそれで納得するとして、だ!」

最原「何を企んでる!? 怪しすぎるぞ!」

モノクマ「あ。バレた。いや、アンジーさんの体の中に謎の改造を施そうとか考えてませんよ?」

巌窟王「……そんなことをしたら確実に貴様を燃やすぞ」

モノクマ「まあ大丈夫! アンジーさんは一〇〇%治すから!」

モノクマ「ただし……最原くんが察した通り、タダで、とはいかないなぁ……?」ニヤァ

最原「……!」

モノクマ「そこまで理不尽なことを要求する気はないよ。むしろ、オマエラの利になることかもね……?」

巌窟王「言ってみろ」

モノクマ「アンジーさんを殺そうとした『未遂犯』を議論すること。これがボクの提示する条件だよ」

最原「……議論? えっと、それって……」

獄原「学級裁判みたいに、ってこと?」

モノクマ「エサクタ!」

モノクマ「もちろん未遂だから正しい犯人を指摘したとしてもおしおきはなし」

モノクマ「間違った人間を犯人扱いしても、これまたおしおきはなし」

モノクマ「ただし……多数決によって選ばれた生徒が、犯人かそうでないのか、の成否の確認のみは通常の学級裁判と同様」

モノクマ「つまり『一〇〇%公正に』行われるよ」

モノクマ「謂わば疑似学級裁判だね」

最原「疑似……」

最原「……これがお前にとって、どんな得になるんだ?」

モノクマ「あらら。凄い疑り深いね。人生損するタイプ」

モノクマ「……これがボクの提示する新たな動機だから、とだけ言っておくよ」

最原「!」

モノクマ「トリックが破綻しちゃった犯人にとっては『やり直し』のチャンスだしね。コレ」

巌窟王「……確かに、このままアンジーがズルズル死にかけの状態のままだと……」

最原「そうか。アンジーさんの口から犯人の名前が漏れるんだ。もしかしたらトリックも全部喋られるかも」

最原「そのまま死んじゃったら学級裁判は盛り上がらない。だからモノクマはアンジーさんの治療を申し出たんだな?」

最原「……治療するって名目で隔離して、アンジーさんの記憶に『何か』するために」

巌窟王「生徒たちの記憶を奪ったモノクマだ。再度記憶を封印すること程度、容易いだろうな?」

モノクマ「うぷぷ」

モノクマ「そこまでわかっているんなら、ボクの提示する条件の前提もわかってるよね」

巌窟王「アンジーに『誰にやられたのか』を訊ねるのもアウト。そういうことだろう」

モノクマ「イグザクトリー!」

モノクマ「アンジーさんの声で、誰が犯人かを聞いた人間が一人でも出た場合、この取引はナシだよ」

モノクマ「すべて白紙に戻してもらう」

モノクマ「……それでもいいかもね? 助かる確率はゼロじゃないんでしょ?」

BB『コイツ……』

巌窟王「飲もう。アンジーは連れていけ」

最原「巌窟王さん!」

巌窟王「……ただし。助かったアンジーの身に、何か余計な付録でも付いていたら……わかるな?」

モノクマ「うぷぷ。大丈夫だよ! ボクは殺人ドクターの異名を持つからね!」

最原「殺しちゃってるじゃないか!」

最原「いや、それ以前に……!」

巌窟王「文句は受け付けない。犬にでも食わせておけ」

最原「……」

獄原「ええーっと。で、どういうことになったの?」

モノクマ「こういうことになったの!」


ピンポンパンポーン!

モノクマ『死体が発見されまし……あ、ごめん! 誤報です!』

モノクマ『死体は発見されませんでしたが、これより、一定の捜査時間を設けます!』

モノクマ『疑似学級裁判に関する資料をすぐに全員に配りますので、詳細はそこを参照してくださーい!』


ブツンッ


最原「……モノクマ」

モノクマ「なぁに?」

最原「いつまでもお前の思い通りになると思うなよ」

最原「こんなところ、いつか絶対に抜け出してやる」

最原「……絶対にだ!」

モノクマ「……うぷぷ。無理なのになぁ……! オマエラはどこまで行っても、ボクの肉球の上で踊ってるだけなんだよ」

モノクマ「うぷぷぷぷぷ……あーっはっはっはっはっは!」

休憩します!

疑似学級裁判概要

・正しいクロを指摘してもおしおきは行われません。
・間違った生徒をクロと指摘した場合においてもおしおきは行われません。
・上記のルールの都合上、間違ったクロを指摘した場合はクロが誰なのか周知されません。
・ただし、多数決によって指摘された人物がクロだった場合は『正解である』と必ず周知されます。
・なお、被害者である夜長アンジーさんの発言権は確実に制限されます。ご了承ください。


最原「……シロにとっては危険人物を知るチャンスで、クロにとってはやり直すチャンス、か……」

最原(ミスリードだな。実際のところ、これでせっかく沈静化してた生徒間の軋轢が更に深く、強くなる)

最原(……でも、乗らないわけにもいかないよな)

最原「調査を始めるよ。ひとまず、今夜何があったのかを一から調べなおす」

最原(いや……今から考えると、遡る時間が一夜で済むかどうか疑問だな……)

モノクマ「それじゃあ、さっそくアンジーさんを集中治療室へ――!」

最原「待って。アンジーさんの体でまだ調べられてないことがある」

最原「それが終わるまではここで治療して」

モノクマ「薄い本みたいに?」

最原「うるさい!」

巌窟王「……最原」

最原「ん?」

巌窟王「変な気を起こすなよ……」ゴゴゴゴゴゴゴ

最原「大丈夫! 大丈夫だから!」アタフタ

数分後

最原「頭の出血痕は打撃によるものだな。それと、口の中が荒れ放題だ。何か棒みたいなものを入れられて引っ掻き回されたような」

最原「……あとやっぱり酒臭い。未成年にしてはありえないレベルだ」

モノクマ「これも消耗の理由だね。ただ出血しただけなら、ここまで危険なことにならないよ!」

BB『大分強いお酒をガバガバ飲まない限りはこうはなりませんよ。血中アルコール濃度もアホみたいに高いです』

最原「猿ぐつわに沁み込ませてあったワインは……どう考えてもダメ押しだな」

最原「これに沁み込ませた量だけじゃ、どうしたって足りない」

巌窟王「……」

最原「……巌窟王さん?」

巌窟王「もういいか?」

最原「あ、ご、ごめん! もう大丈夫だよ! モノクマ!」

モノクマ「オーキードーキー!」

アンジー「……神、様……」

巌窟王「もう何も喋るな。次に会うときまでにすべて片付けておいてやる」

アンジー「……」コクリ

最原(アンジーさんはモノクマに連れられて、どこかに行ってしまった)

最原(巌窟王さんの脅しもある。多分、大丈夫だ。そう信じるしかない)

今日のところはここまで!

さりげなくBBも捜査に加わってるのな。そういえばダンガンとfgoの時間の流れってどんな感じになってるんだろう

>>652
整合性を考えるだけ無駄レベル。
監獄塔のときに似た状態(ただしカルデアから誰かに見られているときは比較的安定している)

BB『しかしおかしいですね。縄みたいなもので縛られていた割には抵抗の痕が少ないような……』

最原「え?」

BB『まったくない、というわけではないんですが、微妙に少ないんですよ。擦り傷が』

獄原「……アンジーさんは消耗してたんだから当然じゃない?」

最原(いや……それはおかしい。だってアンジーさんが縄で縛りつけられていたのは……)

最原「おっと。そうだ。荒縄も調べないと」

巌窟王「……これは超高校級の民俗学者の研究教室にあったものだな」

獄原「え? そうなの?」

最原「それ、間違いない?」

巌窟王「我が忘却補正にかけて断言しよう」

最原「……そうだ! 疑似学級裁判のことが周知されたのなら、一番に見なきゃいけないところがあったんだ!」

巌窟王「どこだ?」

最原「東条さんの研究教室! 行ってくるね!」ダッ

巌窟王「ふむ……手分けした方がいいか?」

巌窟王「……そうだな。こちらは獄原から話を聞こう」

獄原「え? ゴン太に?」

巌窟王「あのヒルについてだ。そもそも虫の類はこの学園に『ほぼ』存在しないのではなかったのか?」

獄原「う、うん。ゴン太の研究教室にいるもの以外はね。あのヒルさんも間違いなくゴン太の研究教室にいたものだよ」

巌窟王「昆虫ではないな? ついでに言うと『虫』かどうかも怪しいぞ」

獄原「確かに、ハッキリ言ってヒルさんを虫と言い張るのはクモさんやカニさんを虫と言い張るのと同じくらい強引だけどさ」

獄原「いたんだから仕方ないよ」

巌窟王「……ふむ」

巌窟王「あのまま誰にも見つからなければ、アンジーはどうなっていた?」

獄原「死んでいた……と、思う……」

獄原「なんでかはわからないけど、ヒルさんが限界を越えて血を吸っていたんだ。あのままだったら確実に助からなかったよ」

獄原「……あ、あれ?」

巌窟王「どうかしたか?」

獄原「ヒルさんが一人見当たらなくって……おかしいな。アンジーさんから引き離したときはいたのに」

巌窟王「……逃げたのではないか?」

獄原「うーん。お腹が壊れそうになってたから、それは考えにくいんだけど」

獄原「おーい! 出てきてよー!」

巌窟王「ふむ。どうせこの場にはまだ調べるべきことがある」

巌窟王「ついでだ。そいつも探してやろう」

獄原「名前はヒル御前だよ!」

巌窟王「ヒル御前! 出てくるなら今のうちだぞ! クハハハハハハ!」ギンッ!

東条の研究教室

最原「……さてと。東条さん、まだいる?」

東条「ええ。ここに」

茶柱「あ! 最原さん!」

最原「え? 茶柱さん?」

最原「……そういえば、天海くんを呼んだ後、どこに行ってたの?」

茶柱「倉庫で飲み物とか治療道具とか見繕ってたんですよ。それより!」

茶柱「なんですか、疑似学級裁判って! アンジーさんは無事なんですか!?」

最原「……一応」

茶柱「ハキハキ言いなさい!」

最原「命に別状はないよ。治療をしているのはモノクマだけど、こういうときのアイツは約束を破らない」

東条「……口惜しいわね。私の手が無事なら――」

最原「東条さん!」

東条「……あ。ごめんなさい。そうだったわね」

茶柱「?」

最原(さてと。東条さん、茶柱さん以外にも、捜査のためにここに来た人が何人かいるな……)

最原(……しっかり観察しないと)

今日のところはここまで!
続きは……明日?

真宮寺「……」ゴソッ

真宮寺「……?」

最原(割と素直に引っかかってくれたな……ゴミ箱に注意しすぎだ)

最原(犯人はキミだな。真宮寺くん)

最原「茶柱さん。ちょっと確認したいことがあるんだけど」

茶柱「なんです?」

最原「ここに来たのっていつ?」

茶柱「……最原さんとそんなに変わらないですよ」

最原「そっか。じゃあちょっと頼みたいことがあるんだけど」

茶柱「?」

最原「……ここじゃなんだから、ちょっと外に出て話そう」

茶柱「変なことしたら被害者第三号にしてやりますよ?」

最原「しないって!」

巌窟王サイド

巌窟王「ヒル御前は見つからなかったが……色々とわかったことがあったな」

BB『どう考えてもアンジーさん、この部屋でぶん殴られてますね』

獄原「凶器の床板。床下の血だまり。この二つがあるのなら、ほとんど決まりなんじゃないかな……」

巌窟王「それと、さっきから気になっていたのだが……何かコゲてる臭いがするな」

獄原「巌窟王さんのマントじゃない?」

巌窟王「……」

BB『いえ。臭気はこの部屋からも間違いなく』

BB『……この部屋で何か燃えたんでしょうか。ライトでもあれば焦げ跡を探せますよ?』

巌窟王「もういい。見つけた。証拠写真も今撮ろう」カシャッ

巌窟王「こんなことのために転送したものではないのだがな」

ガララッ

百田「巌窟王! アンジーはどこだ!?」ドタドタッ

巌窟王「今はモノクマが治療している。命に別状はないだろう」

百田「……クソッ! あんなヤツに頼らなきゃいけねーなんてよ……!」

春川「ここが事件現場?」ヒョコッ

巌窟王「というよりは発見現場だが……その認識でも間違いはないかもな」

キーボ「証拠が残っているかもしれません! 今こそ追加されたボクの機能を見せるとき」ビカーッ!

百田「いぃーーったい目がァーーーッ!?」ギャァァァ!

春川「うっさい」ベシッ

百田「ごめんぬッ!」

百田「とにかく、ここの調査は俺たちに任せろ! 巌窟王!」

百田「俺たちが付いてる! 今回の事件もぜってぇー見つけるかんな!」

巌窟王「……」フッ

BB『機嫌いいですねー』

巌窟王「黙れ」

休憩します!

茶柱「……その程度なら別にいいですけど、でもそんなウソにどんな意味が?」

最原「ハッキリ言って、怪しい人は三人くらいいるんだけどさ」

最原「……絞り込むには足りないんだ。決め手が」

最原「多分、そのウソがあれば炙り出しできる」

茶柱「その三人の中に、もしかして東条さんも入ってたりします?」

最原「するよ」

茶柱「……ヌケヌケと良くもまあ。本当に死にたいんですか?」

最原「ごめん。でもだから必要なんだ。茶柱さんの協力がさ」

茶柱「……」

茶柱「大前提として、その計画には」

最原「東条さんには事前に言ってあるよ」

茶柱「東条さんが噛んでるのなら……仕方ないですね」

茶柱「……いいでしょう。協力します。でも一言だけ言わせてください」

最原「なに?」

茶柱「サイッテーです」

最原(……仲直りできると思ったんだけどなぁ! 泣きたい!)

再び東条の研究教室

最原「さてと。それじゃあ引き続き調べないと」

天海「あ。最原くん。戻ってきたんすね」

最原「ん。天海くん」

天海「……それじゃあ、俺はこれで。ここはもう結構人手足りてるっぽいっすし」

天海「俺は中庭の方に戻って、あっちの捜査に加わることにするっす」

天海「バトンタッチってことで」

最原「あ……そっか。天海くん、茶柱さんが来るまで東条さんの傍にいてくれたんだね」

最原「……ごめん。二人きりにさせちゃって。怖かった?」

天海「凄く怖かったっすよ!」

天海「……東条さんに事情を聞いてみたら、誰に襲われたのかわからないって話じゃないっすか」

天海「正体不明の殺人未遂犯。一体、誰なんでしょうね」

最原(……アンジーさんに殺意があったことは間違いないんだろうけど)

最原(東条さんの方に殺意は無さそうなんだよな。ただ気絶させて閉じ込めただけだ)

最原(……誰にやられたのかわからない、か。おおよそ予想通りだけど、東条さんから詳しい話を聞かないと)

東条「いいわよ。いくらでも話すわ」

最原「あれ。口に出てた?」

東条「エスパーだから」

最原「え」

東条「……当然冗談よ」クスリ

最原(東条さんだと冗談に聞こえない……)

今日のところはここまで!
続きは明日の夜!

東条の証言

東条「料理をしている最中で、ドアがノックされたのよ」

東条「入ってもいい、って言っても一向に入ってくる気配がなくって、ノックだけが延々と聞こえて来たの」

東条「もしかしたら両手が荷物で塞がっているのかもしれない、と思ってドアに近づいて、ノブを捻ったところで……」

東条「逆にドアを思い切り開けられて、額を思い切りドアにぶつけてのけぞって」

東条「そのまま『誰か』が馬乗りになって、私の頭を思い切り殴打したの」

東条「……薄れゆく意識の中、無念だけがあったわ」

東条「『私らしい報いではあるけど、これ以外の方法で恩を返したかったわね』って」

最原「うん。本当に無事でよかった」

東条「犯人の顔は見ていないわ。仮に見ていたとしても、何かで顔を隠していたでしょうね」

最原「ところで、ついこの学園の食事事情を知っている東条さんにもう一つ聞きたいんだけどさ」

最原「お酒ってどこで手に入る?」

東条「……アンジーさんは泥酔していた、とモノクマから聞いたから、当然聞かれると思ったわ」

東条「手に入る……というよりは、既に私が管理しているのよ」

最原「え?」

東条「開けゴマ!」

カッ

ゴゴゴゴゴゴゴ!

ガシャンッ

最原「なんか凄い大仰な仕掛け扉が現れたーーーッ!?」ガビーンッ!

茶柱「凄い! 声帯認証なんですか!?」キラキラキラ!

東条「いいえ。リモコンで開閉するわ」シャキーンッ

最原「え!? じゃあ今の開けゴマってなに!?」

東条「ノリよ」

最原「ノリ良いな!?」ガビーンッ

真宮寺「う。凄くヒンヤリした空気だネ」

東条「ワインセラーなのだから当然よ」

東条「ちなみにこの隠し扉、別に私自身は隠していたわけじゃないから、知っている人は知っているわ」

東条「『絶対に飲酒目的では使わない』と契約書にサインさせた後で入間さんにも渡したりしてたし」

最原「ん? 待って。飲酒目的でないなら入間さんはワインを何に使ったの?」

東条「発明品、と言っていたかしら。燃焼促進剤に転用するとか言ってたわね」

最原「……」

最原(燃焼促進剤、ね)

最原(ひとまずここで調べられることはコレで全部、かな)

最原(僕も天海くんが行った中庭に行ってみよう)

最原(そもそも僕の視点では、あそこからが事件の発端だしな)

最原「茶柱さん。まだ聞きたいことがあるから、良ければ僕と一緒に中庭まで来てくれないかな?」

茶柱「……チッ」

最原(凄い顔で舌打ちされた……けど拒絶はされてないみたいだ)

最原(OKでいいのかなぁ……)

最原「じゃ、じゃあ。行こうか?」

茶柱「ヘラヘラしなくても大丈夫です。別に仲良くする気ありませんので」

最原(ぐはぁ)

休憩します!

巌窟王サイド 真宮寺の研究教室

BB『BBちゃんスーパーまとめタイーム!』

BB『巌窟王さんが何故か火事場に突っ込んだと思ったら東条さんが襲われててアンジーさんが殺されそうになってましたとさはい終わり!』

獄原「そんなことが起こってたなんて……全然気付かなかったよ! 不甲斐なさ過ぎてごめん!」

巌窟王「フン。バカめ。もとより生徒たちに大した期待など寄せてはいない」

巌窟王「お前たちは足手まといにならなければそれでいいのだ」

獄原「足手纏い……?」

獄原「ゴン太たちのことか……」


ドシュウウウウッ!


獄原「ゴン太たちのことかーーーッ!」ドカァァァァァァンッ!

BB『あ、あれ!? 巌窟王さん! 学園のどこかから、ていうか巌窟王さんの周囲に謎の高エネルギー反応があるんですが!』

BB『具体的に言うとカルデアのログに残っているゲーティアとかティアマトよりヤバい感じの!』

巌窟王「ゴン太しかいないぞ。計器の故障だろう」

獄原「ハッ! ゴン太は一体……?」

BB『あ、消えた』

獄原「……でも調査なら巌窟王さん一人でもできるんじゃないかな。ゴン太がいたところでそれこそ……」

獄原「足……で……まと……」ユラァ

巌窟王「いや。獄原は俺の傍を離れるな。証拠の信用が下がる」

巌窟王「お前は俺の見つける証拠が確かにここにあったことを証明するためにここにいる」

獄原「ああ、そっか。巌窟王さんが犯人って可能性もあるからね」

巌窟王「逆に、お前が犯人である可能性もある。つまりこれはお互いの潔白を証明するための相互扶助、と言ったところか」

獄原「うん! 全力でそーごふじょするよ!」

巌窟王「やはり間違いなく、あの荒縄はこの研究教室にあったものだな。それと……」

巌窟王「……先ほどのアルミの破片が気になるな。少しこの研究教室を調べてみるか」

巌窟王「BB。ここの情報は記録しておけ。後で最原に纏めて渡す」

BB『アイアイ』

刑部姫をレベルマックスにさせつつ続きは明日!

東条の研究教室

真宮寺「……」

真宮寺(どうしようか。利用価値があるから彼女を殺すのは後回しにしたけど、今は偶然にも二人きりになってしまったわけだし)

真宮寺(捜査中に東条さんが今度こそ死んだら、茶柱さん大泣きするかなァ……)ゾクッ

真宮寺(ここで殺すメリットは皆無なんだけど)

白銀「さあ! じゃあ引き続き捜査を続けようか!」

真宮寺「あれ。いたのキミ」

白銀「え。酷くない?」

中庭

最原「……ほぼ鎮火してる?」

夢野「お主が立ち去った後で色々あってぶっ潰れたんじゃ。その直後から火の手が弱まってのう」

茶柱「ああ……さっきまでそれどころじゃありませんでしたけど、こうして見ると泣けてきます」

茶柱「転子の研究教室がぁ……」

最原「でも何か不自然だな」

夢野「具体的にはどこがじゃ?」

最原「……あれ。巌窟王さんの炎じゃない?」

夢野「さっきまで巌窟王がそこにいたんじゃ。残り火ではないのか?」

茶柱「それなんですが……転子の勘違いでなければ、あの炎は巌窟王さんが中に入る前からあったものです」

最原「……それ本当?」

茶柱「嘘を吐く理由がありません」

最原(段々見えて来た。いや、予測できてきたかもしれない)

最原「ところで……赤松さんと星くんは入間さんの研究教室周辺で何してるの?」

赤松「入間さーん! いい加減出てきてよー! いるのはわかってるんだよー!」ドンドンッ

入間「この研究教室はテメェらのような貧乳モンキー共には解放してねぇんだよー!」

入間「なんだ疑似学級裁判って! 命がけでないのなら、んなもんに俺様が参加してられるか!」

星「……」

星「いや。俺は見ているだけだぜ」

最原「あ。そうなんだ……」

星「後で天海が倉庫からバールを持ってきてドアをこじ開ける手筈になってるし、俺の手は必要ねぇだろう」

最原(うーん。あっちの方は三人に任せよう)

最原(今は夢野さんにもいくつか聞いておきたいことがある)

休憩して……映画館に行ってきます!

最原「夢野さん。マジカルショーのときのカタログ、まだ持ってる?」

夢野「なんじゃ? あんなもの今更どうするんじゃ?」

最原「えっと、そのカタログの中の赤外線センサーの項目が見たくって」

夢野「どれどれ」ニュルンッ

最原(いつの間にか分厚いカタログを持ってる!)ガビーンッ

夢野「ああ。これじゃな。コレは確かアンジーと入間に渡したぞ」

最原「入間さんとアンジーさんに?」

夢野「ちなみに有効範囲は……」

夢野「お主なら知っておろうな。首謀者探しのときに使うことを検討したのではないか?」

最原「有効範囲が嘘みたいに狭すぎるのと、二対だから意外と目立つっていう二つの弱点があったからね」

茶柱「有効範囲?」

最原「ええっと、仮に誰かがセンサーに引っかかっても十m離れてたら警報器が鳴らないんだよ」

最原「だから赤松さんの学級裁判のとき、コレを使うのは諦めたんだ。僕らは教室に張る予定だったからね」

茶柱「十mじゃあ……確かにほぼ役立たずですね」

夢野「まあ、入間はコレを改造して『学園中どこにいても警報器が鳴るように有効範囲を広げられるぜ』と息巻いておったぞ?」

夢野「欲しいというのであれば入間に頼んでみてはどうじゃ?」

最原(そんなことも言ってたかもな?)

最原「ところで夢野さん。センサーを配った順番は? アンジーさんと入間さんのどっちに先に配ったか覚えてる?」

夢野「入間の方が先じゃったぞ。後からアンジーが入間の貰ったセンサーをじっと見た後『アレと同じの欲しい』と言ってきたから間違いない」

最原(ビンゴ。となると……やっぱり入間さんから話を聞かないとな)

最原「あ。最後にもう一つ。本当に関係ないことかもしれないんだけどさ」

最原「僕が見つけたあの鳩、元気?」

夢野「元気じゃぞ。東条協力のもとに異物を吐き出させたからの」

最原「結局、何を食べてたの?」

夢野「さっぱり意味がわからんが……」





夢野「アルミホイルの破片を食っておったな」

今日のところはここまで!

最原「で、えーと……まだ入間さんここを開けないの?」

赤松「うん。なんか完全に何もかも面倒くさいって感じで外のものを完全シャットアウトしてるね!」

赤松「アナ雪のマネしても全然ダメだよ! ギリギリでノッてくれたときは『もしや』って思ったんだけど!」

最原「……」

最原「えーと、ちょっとみんな、ドアから離れてくれるかな? 考えがあるんだけど」

赤松「ん? うん。わかった。何するの?」

最原「ちょっと内緒話を……」

最原「入間さん」

入間「あ? ダサイ原か?」

最原「……」ゴニョゴニョゴニョ

入間「ッ!」


ガショーーーンッ!


入間「ウェルカムトゥようこそ俺様パーク!」

赤松「一瞬で開いたーーーッ!?」ガビーンッ

入間「で! 例のモノは……ああ、いい! 言わなくていい! 後で貰うからな!」

入間「ボンクラども! 聞きたいことがあればなんでも言え! 答えてやるかどうかは別だけどなァ!」ヒャッハー!

赤松「え? なに? なんかかつてないほど上機嫌になってるよ!?」

星「……何を言った?」

最原「ごめん。言いたくない、かな……」

星「そうかい。じゃあ何も聞かねーよ」

最原「入間さん。確認したいことがあるんだけど、アレって入間さんの発明品?」

入間「アレ? って、なんだ。茶柱の研究教室が燃えてんじゃねーか、なにが……」

入間「あっ」

赤松「ん? えーっと……私には燃えカスしかないように見えるんだけど」

星「……」

星「いや、そうか。わかったぞ。お前さん、なんてくだらないものを作りやがる」

赤松「ん?」

入間「……あひい……な、なんて……なんて酷いことを……!」ガタガタ

最原「その反応、やっぱり」

入間「巌窟王と同じ色の炎を出す俺様の燃焼促進剤がーーーッ!?」ガビーンッ!

赤松「……はい?」

星「なるほど。段々繋がってきやがったぜ。複数の事件がいくつかのファクターで」

最原(そろそろ固まってきたかもしれない。すべての事件の犯人が、同一犯って可能性に収束してきた)

最原「入間さん! 聞きたいことがもう一つ!」

最原「入間さんの研究教室から、他に盗まれたものは!?」

入間「ね、ねぇよ……ねぇけど……ねぇように見えるけど?」

最原「ちょっと今すぐ赤外線センサーを分解してみて欲しいんだけど!」

入間「あ? あのロリペド女から貰ったヤツのこと言ってんのか?」

入間「……ちょっと待ってろ。えーと確かこの辺に。あった」ヒョイッ

入間「分解分解ヨーソロー」バラッ

入間「あ?」

最原「……どう?」

入間「……俺様のほどこした改造が綺麗さっぱり『元に戻って』やがる……!」ガタガタ

入間「え? なにこれ。新手のホラー? それが見えたら終わり?」

赤松「それ、最初から改造してなかったり……」

入間「んなわきゃあるか! 間違いなく改造したっつーの!」

最原「……よし。これも大体予想通り」

最原「ええっと、入間さん。最後に、入間さんが作ったこの扉の『鍵』をもう一度見せてほしいんだけど」

入間「お? おお……」

入間「あっ」ピコーンッ

赤松(ん? 何この反応)

入間「いいぜいいぜ! 入れ入れ! そしてじっくりしっぽり眺めていけ!」

赤松「あ、じゃあ私も……」

入間「ダサイ原限定だ! ド貧乳松! じゃあな!」

ガシャンッ

赤松「ええーっ……」

赤松「……天海くんまだかなー……」

入間「……おい。なんだよこの気持ち悪ィの……」

最原「入間さんが欲しがってたものだけど……」

入間「ざけんなよ……俺様が欲しかったのは……」

最原「いや、大事なのはコレの中身でさ……」

入間「……お? おお……おおおおおおお!」

入間「すごいのほおおおおお! ずっと……ずっと欲しかったものが、おほおおおおお!」




天海「バール持ってきたっすよー」スタスタ

赤松「天海くん。今すぐこの扉破壊して」

天海「え。脅すだけって予定じゃ」

赤松「破壊して。コン・パッショーネな感じに破壊して」

天海「いやわけわかんないんすけど」

赤松「すぐ」ギンッ

休憩します!

ガシャコンッ!

天海「あ。開いたっすよ」

赤松「……そう」

天海(なんか凄いデストロイヤーな目つきしてたんすけど……怖ァ……)

最原「……なるほど。やっぱり前に見た通りだな。外から鍵を操作する機能がないんだね」

入間「たりめーだろ。あくまで俺様が引きこもれればいいんだからよ」

最原(入間さん以外の誰かが引きこもったときに外から開けられなくなるっていう欠点は……)

最原(……どうせ想定してないんだろうな。入間さんのことだし)

最原(……取引は終了。疑似学級裁判が終わったタイミングで天海くんに渡そう)

天海「?」

最原「そうだ。入間さん。最後に一つ」

最原「……燃焼促進剤にお酒使った?」

入間「カッシェロ・デル・ディアブロだろ? 使ったぜ。ていうか使い切ったぜ」

天海「……チリワインのことっすか? どこからそんなものを」

最原「学級裁判のときに言うよ。使い切ったってことは……」

入間「ああ。新しく『アレ』を作るんなら再度あのメイドババァに頭下げなきゃなんなくなるからよ」

入間「……だからブチ切れてたんだ。わかんだろ?」

最原「入間さん。あの燃焼促進剤のことが重要になるかもしれないから、原材料を書いたメモか何か持ってきた方がいいよ」

入間「あー?」

最原「……あ、じゃあ僕はこれで。もう一度、超高校級の美術部の研究教室のあたり調べて来るね」スタスタ

茶柱「ついて行きますよ。証拠の信用を落とさないためにはツーマンセル以上での行動が重要ですので」

天海「……」

赤松「……気に入らないな」

天海「何がっすか?」

赤松「なんか……追い詰められれば追い詰められるほどさ」

赤松「最原くんのやり口が段々巌窟王さんに似ていくんだよ」

赤松「……似合ってないのに」

巌窟王サイド

巌窟王「……詳しく調べてみても綺麗なものだったな」

巌窟王「なんなら、事件以前よりも綺麗になっている。逆説的に何かあったということか」

獄原「でもそれを証明できないよね。巌窟王さんの記憶を覗く方法はないんだし……」

巌窟王「……消毒機能のセンサーは赤外線を探知するんだったな……」

巌窟王「獄原。キーボを呼んでこい。すぐに確かめたいことがある」

獄原「うん! わかった! キーボくーーーん! こっちに来てーーー!」ボエエエエエッ

巌窟王(耳が痛い)

五分後

キーボ「は!? また燻蒸消毒機能に巻き込まれてみろって!? なんで!?」

巌窟王「なに、確かめたいことがあるだけだ」

キーボ「……それ、事件に何か関係があるんですか?」

巌窟王「さて、どうだろうな。まあ無駄にはなるまいよ。それと」

巌窟王「頼みたいことが一つ。キーボ。中にいる間、前と同じように『大騒ぎ』していろ」

キーボ「……わ、わかりましたよ」

巌窟王「操作パネルはアレだな。よし」ポチポチ

巌窟王(……センサーは全部で八つ。床の四隅に四つ。天井の四隅に四つ……)

巌窟王(これに感知されると燻蒸消毒機能は働かない、だったな)

巌窟王「三十分後にまた会おう! なぁに、すぐに済む!」ギンッ

キーボ「うう」

ガシャァァァンッ!

キーボ「行ってしまいました……ここ雰囲気的にも凄いイヤなんですよね。怖くて」

キーボ「まったく。巌窟王さんも人間ではないのだから、多少はボクの気持ちがわかると思ったのに」

キーボ「ああ、この後、またあのなんか宇宙的恐怖を感じるような虹色のガスが出てきて……」

キーボ「あれ」

キーボ「……?」

キーボ「出てこない? 何も?」

休憩します!

最原サイド 研究教室に行く道中

茶柱「……」

茶柱「何を渡したんですか? 入間さんに」

最原「アンジーさんの血液。前からの取引だったから」

茶柱「……言いたくないって言ってくれれば、こっちだって知らないままでいてあげたものを……」

茶柱「取引の内容は?」

最原「天海くんの動機ビデオのデータと交換。なんで入間さんが持っているかは……色々あったと言うしかないな」

茶柱「……」

最原「どうやって採取したのかは聞かないの?」

茶柱「ヒルでしょう」

最原「ああ、うん。流石にわかるか……」

茶柱「……ゴン太さんが怒りますよ」

最原「流石にヒルをどうこうする気はないよ。入間さんに言い含めておいたし。必要なのは中身だけ、だ」

茶柱「次に、アンジーさんに無許可でこんなことをしたら……」

最原「当然、巌窟王さんは激怒するだろうね」

最原「……でもやれたんだから仕方ないよ」

茶柱「……」

茶柱「巌窟王さんに告げ口しないとは思わないんですか?」

最原「それならそれで仕方ないかな」

茶柱「あなた……!」

茶柱「転子のことを利用しないでくださいよ! ふざけないで!」

最原「え? 利用? したっけ?」

茶柱「だから、その顔! なんかもう『自分は裁かれて当然の人間です』ってツラ! 凄いイラつきます!」

最原「……実際そうだし」

茶柱「そうですね! でも転子は! だからと言って、最原さんのことをぶん殴ったとしても!」

茶柱「その罪悪感を清算したりはできないんですよ……!」

茶柱「ふざけないで……! 転子はあなたのことを」

最原(許したいと思ってた、でしょ)

最原「それ以上は言わないで」

最原「……甘えちゃいそうだしさ」

茶柱「甘えていいんですよ! なんでもかんでも背負いすぎです!」

茶柱「あなたのやり方は巌窟王さんみたいな『いくら背負っても折れない強いヤツ』の立ち回りです!」

茶柱「あなたは……!」

最原「弱い、けどさ……いいよ別に。どうせ、この学園にいる間だけだ」

最原「……ごめん。心配かけさせちゃったかな?」

茶柱「まさか」

茶柱「ただ……絶望的に似合ってないだけです」

最原「……」

最原(……無理なものは無理、か。マネくらいはできると思ったんだけど)

最原「調査を続けよう。それで犯人を見つけて……」

茶柱「……またあんなことをするんですか?」

最原「……」

茶柱「……呆れ果てて涙も出てきそうですよ」

茶柱「もうちょっと弱くていいんですよ。人間なんですから」

茶柱「矛盾だらけだろうが問題はありません」

茶柱「ただ……重荷を背負いすぎるのはやめた方がいいです」

茶柱「自分が泥を被れば周りが上手く行く、とか傲慢です」

茶柱「……あなたなら実際上手くできてしまう辺りが本当に救いようがないところですが」

茶柱「お願いですから自分の身も顧みてください。あなたも仲間なんですから」

茶柱「上から目線でなんでもかんでも救おうと思わないでください。転子たちそこまで弱くありません」

茶柱「……わかりましたか?」

最原「うん」

最原「……はは。男子が嫌いなだけで本当に優しいな、茶柱さんは」

茶柱「ウッゼー。本当に。最終的にはコンクリの床の上で投げ技ですよ?」

最原「ほ、本当にやめてね。死ぬから」

今日のところはここまで!

超高校級の美術部の研究教室周辺

最原「よし、来れた、と」

茶柱「結構時間かかってます。早めに済ませられるのなら早めにしましょう!」

最原「うん! そのつもり……?」

最原(……酒の臭いがする?)

最原(こっちから?)

茶柱「あれ? 最原さん? どこに?」

最原「えっと……スライド錠のところから臭いが……」

最原「……カバン、かな。なんか見覚えあるような……」

最原(そうだ。確かアンジーさんが使っていたヤツだ。巌窟王さんの写真機材一式を輸送するときに使った……)

最原「中身は……」ゴロンッ

最原「……ワインの瓶? しかもかなり度数が強いヤツだな」

最原「一本丸ごとなくなってる……」

茶柱「これ、もしかしなくっても……!」

最原(でもなんでこんなところに。研究教室の外、スライド錠のドアの手前なんかに……?)

最原「スライド錠のドアは……閉まってるな」ガタガタ

最原「……事件当時はどうだったのかな」

最原「確か巌窟王さんは……」

茶柱「ところで最原さん」

最原「なに?」

茶柱「研究教室の中から声が聞こえるんですけど……」

最原「ん? 誰かいるんでしょ?」

茶柱「なんかギャーギャー言ってるんですが……」

最原「……え」

研究教室の中

王馬「ぎゃああああああああ! 痛い! コメカミぐりぐりマジ痛いーーー!」

獄原「王馬くーーーんッ!」

巌窟王「解放されたくば今すぐ蝋燭を離せ。この責め苦が延々と続くだけだぞ……!」グリグリグリ

王馬「百田ちゃんパースッ!」ポイッ

百田「えっ」

百田「アツゥイ!」キャッチ

春川「でもキチンとキャッチできたじゃん。今のうち」

百田「お、おう! じゃあ――!」

巌窟王「よせ! やめろ! それを見るな!」

巌窟王「『それ』に火を付けるんじゃない!」


ボォウッ


春川「――」

百田「……そう、か。こういう仕組みに……アンジーはこんなモンまで作れたのか」

巌窟王「……!」

百田「……わぁーってるよ。一応やってみただけだ。すぐに消すっつの」フッ

研究教室の外

最原「……」ガチャガチャ

最原「開かない。中から鍵がかけられてるみたいだ」

茶柱「中に誰かいることは間違いないんですけどね。何してるんでしょう」


ガチャリンコ


最原「あ。開いた」

百田「お。終一。戻ってきてたのか」

最原「あ。百田くん」

最原(――と、奥には王馬くん、春川さん、ゴン太くんと……)

巌窟王「……」

最原(なんか顔に手を当てて凄い凹んでる様子の巌窟王さん)

最原「何があったの?」

百田「アレだアレ」

最原「アレ?」



巌窟王のろう人形「」デデーンッ!



最原「うわあビックリした! 何アレ!?」

春川「夜長が作ったらしいよ。凄い似てるよね」

最原「に、似てるなんてものじゃないよ! 生きてるって錯覚するくらい凄い良くできてる!」

王馬「アンジーちゃん、本当に巌窟王ちゃんのことが大好きだったんだろうね」

王馬「四六時中凝視してなければ才能があろうがなかろうが『この段階』までは行けないって」

巌窟王「……フン」

王馬「でも……見れば見るほど悲しくなってきちゃうよね……だって」

王馬「これがアンジーちゃんの遺作なんだと思うと、本当に残念で無念で俺はッ! 俺はァ……!」

百田「死んでねえよアホウ」

春川「……でも凄い技術力だよね。あんな仕掛けどうやって……」

巌窟王「やめろ。みだりに話すな」

最原「……やっぱり何か機嫌悪いよね? 何があったの?」

最原「あと百田くん。なんで蝋燭なんか持ってるの?」

百田「……まあ色々あったんだよ。必要になったら裁判中に話す」

最原「そ、そう?」

休憩します!

最原「……巌窟王さん。あのさ。このカバン、見覚えがあるよね?」

巌窟王「む……? アンジーのカバンだな」

巌窟王「今朝はアンジーの私室の隅にあったはずだ。何故お前が持っている?」

最原「今朝は、か……」

最原「あ、さっき研究教室の外……スライド錠のドアの前に放置されていたのを見つけたんだ」

百田「外だと? アンジーの研究教室の中にあるんならギリギリ納得できなくもねぇけどよ……外だと?」

王馬「……」

王馬「ねえ巌窟王ちゃん。確かアンジーちゃんのことを探しているときに、この研究教室に寄ったんだったよね?」

王馬「アンジーちゃんがいないことを確認した後、巌窟王ちゃんはこの研究教室の鍵をどうした?」

巌窟王「流石にこれ以上の門限の延長は認められない、と思ったからな。鍵を閉めて下の階へと降りたぞ」

巌窟王「こうしておけば研究教室に戻ったアンジーも気付くだろうからな。俺が研究教室を訪ねて、入れ違ったことを」

最原(ということは……!)

キーンコーンカーンコーン!

モノクマ『えー! それではみなさん、そろそろ始めちゃいましょうか!』

モノクマ『前代未聞の疑似学級裁判を!』

モノクマ『犯人を議論したいのなら裁判場を貸してあげてもいいよ! 面白いしね、うぷぷ!』

モノクマ『ていうか強制的に議論させるけどね! 何が何でも! 議論させるけどね!』

モノクマ『いつも通り、裁判場へ続く赤い扉へとお集まりくださーい!』




最原「……時間か」

茶柱「行きましょう。後のことは裁判中に明らかにするべきです」

茶柱「……気楽に行きましょうよ! だって、今回は誰も死んでなかったんですから!」

百田「アンジーからしたらとんでもねぇ話ではあるが……確かにな。今回は命がけってわけでもねぇし」

春川「……」

春川「そんなスタンスでいいのかな」

王馬「足をすくわれちゃう……かもよ?」

百田「うっせー!」

最原「行こうか」

巌窟王「……」

赤い扉の中 エレベーター周辺

白銀「あ! やっとこれで揃ったね!」

入間「おっせーぞ短小共! どこでシコってやがった?」

最原「いや、ごめん……ちょっと誤算があって」

巌窟王「三十分は意外と長かったな」

キーボ「……置いてかれるかと思いました。本気で……!」

巌窟王「犠牲は無駄にはならなかった。許せ」

キーボ「もう! もう!」プンスカ!

赤松「何があったの?」

最原「なんか、キーボくんが真宮寺くんの研究教室に閉じ込められてたみたいで……」

入間「ん? ああ……」

最原(……ん。なんか入間さんが妙な反応見せたな)

最原「……後でいいか。そのための学級裁判だし」

裁判場到着

モノクマ「おかえりー! 待ってたよー、オマエラー!」

東条「……二度と帰ってきたくはなかったけどね」

夢野「仕方ないじゃろう。一応、必要なことじゃ」

王馬「アンジーちゃんの治療と引き換えの議論だっけ? 面倒臭いなぁ。巌窟王ちゃんの友達も意外と役立たずだよね」

prrrr!

巌窟王「なんだ?」ピッ

BB『覚えてろ王馬小吉……! 地べたを這い、泥水を啜ってでも、今の台詞を後悔させてやる……!』

王馬「だってさ! 口は災いの元だよゴン太! 謝れ!」

獄原「ご、ごめん!」

百田「お前だお前ッ!」

巌窟王「コイツのことは気にするな。半分以上口だけだ」

白銀「残りの半分は!?」ガビーンッ!

モノクマ「あ。巌窟王さん。もうモノクマーズの数が足りなくって組体操で椅子を作れなくなっちゃったから」

モノクマ「代わりにアンジーさんの席についていいよ」

巌窟王「……了解した」

モノクマ「うぷぷ……死んではいないけど、やっと一人欠けたね……学級裁判っぽくなってきました!」

百田「にゃろー、最低な喜び方してやがる」

天海「気にするだけ無駄っす。無視しましょう」

巌窟王「……さあ。本番はここからだ。才囚学園生徒一同!」

巌窟王「議論を始めるぞ! 隣人を疑い、隣人を信じ、隣人を庇い隣人を糾弾する……」

巌窟王「喉が焼け付くような陰惨な裁判を繰り広げようではないか!」ギンッ

百田「わかるように言え、巌窟王!」

巌窟王「いいだろう、つまりこういうことだ!」

巌窟王「『狂気の有無』を、計りとれ! 俺が重要視するところはそこだけだ!」

最原「狂気……狂気、か」

最原(……あるに決まってる)

最原(そして、それを証明しきったときに僕は……その狂気の所有者を許せるだろうか)

最原「……うん。わかった。見つけるよ、犯人」

最原「前みたいに!」





最原(三度始まる。極限の議論、狂気の演目)

最原(僕たちの……学級裁判が!)

アストルフォの霊衣が解放……だと……?
ちょっと記事読んでくるから休憩!

巌窟王 エドモン・ダンテス

我が名は巌窟王(モンテ・クリスト)。
愛を知らず、情を知らず、憎悪と復讐のみによって自らを煌々と燃え盛る怨念の黒炎と定め、すべてを灰燼に帰すまで荒ぶるアヴェンジャーに他ならない。
この世界に寵姫(エデ)はおらず、ならばこの身は永劫の復讐鬼で在り続けるまで……というのはカルデアでの話。

旅行先を間違えたとはいえ、一応旅行は旅行。偶然出会った生徒たちとの出会いはそれなりに大切にしている。
『旅の恥はかきすてと言うだろう?』

絆LV1
マスターはサーヴァントのステータスを見ることができる。ただしアンジーはその権利をすべて放棄した上で巌窟王との契約を履行。
結果、実質上の巌窟王のステータスはすべて『不明』となった。
実際のところ、まともに測定はできない。なにせアンジーの都合、もとい感情で簡単に上下するので……

絆LV2
基本的に人理焼却が行われた世界にしか存在できないエクストラクラス故に、自らのマスターもカルデアのマスターただ一人と定義している。
だが事故ったものは仕方がないので、アンジーにもそれなりに世話を焼く。
さながら兄か父のように見えるが、本人にそれを指摘しても否定するかはぐらかすだろう。
なお、ここまでする理由は特にない。強いて言うなら『巌窟王自身が想像するサーヴァントのヴィジョン』を正直に実行しているだけ。
極論、契約したのが王馬だったとしても似たようなことになっただろう。(契約者がアンジーで本当によかったとは思うが)

絆LV3
宝具の解放はほとんどできないと言っていい。
巌窟王は本来、檻に対してこれ以上のない特攻を持つが、その効力すら実質ほとんど死んでいる。
モノクマの校則が強力なのか、それとも別の理由があるのかは定かではない。
なお、脱出の意思が死んでいるわけではない。檻は檻。巌窟王故に必ず破壊してみせる。

絆LV4
モノクマは巌窟王にとって、存在自体が許せない不倶戴天の敵である。
世界にあまねく理不尽と悪意の具現そのものである彼を、巌窟王は何をどう間違っても許さないだろう。
見逃すことはありえない。何故なら自らは間違っても『エドモン・ダンテス』などではないのだから。

人間性を取り戻し、見逃すなんて展開は――

絆LV5
?????????

続きは明日!

学級裁判 開廷

モノクマ「えー! 今回はまったく関係ないルールが多数ありますが、一応、学級裁判の簡単なルールをいたしましょう!」

モノクマ「学級裁判では『誰が犯人か』を議論し、その結果はオマエラの投票により、決定されます」

モノクマ「正しいクロを指摘できれば、クロだけがおしおき。だけど、もし間違った人物をクロとしてしまった場合は」

モノクマ「クロ以外の全員がおしおきされ、生き残ったクロだけに晴れて卒業の権利が与えられます!」

BB『えー。ではここから先は私が補足をば』

BB『しかし今回の学級裁判はあくまでも疑似です。どのような結果になろうとおしおきはありません!』

BB『ただし学級裁判の公平性のみは通常時と同様。投票された人間が犯人だった場合は、その結果が周知されます!』

モノクマ「わかりやすい補足をありがとう! えーと……誰オマエ?」

BB『エデかもよ!?』キャピーンッ

最原「はっ!? この人が!? 嘘でしょ!?」ガビーンッ!

巌窟王「もちろん嘘だ。吐き気を催すような嘘だ」

巌窟王「……AIは嘘を吐けないのではなかったのか?」

BB『えー? そんなキャラ設定ありましたっけー? 忘れちゃいましたー』キャルンキャルン

王馬「俺は興味が無かったから全然捜査してないんだけどさー。今回の学級裁判で議論するのって『どの犯人』のこと?」

巌窟王「……ふむ。なるほど。様々な事件が多発していたからな」

巌窟王「いいだろう。まずは『何が起こったのか』を簡単に纏めるぞ」

BB『あのー。モノクマさん。ちょっとコネクターとか貸してくれません?』

BB『裁判場の上部のモニターを使えれば手っ取り早いんですが』

モノクマ「え? アレ使いたいの? うん、わかった。使っていいよ!」ポイッ

BB『よしっと……じゃあ巌窟王さん。デバイスと席についてる端子をコネクターで繋いでくださいな』

巌窟王「繋いだぞ」カチッ

BB『じゃあみなさーん! 裁判場上部のモニターをごらんくださーい!』

モノクマ「あ。ウイルスを仕込んだりしたらデバイスをドカンするからよろしくね?」

BB『そんな小細工しませんってー』



モニター「」ブゥンッ……




赤松「あ。アレって……才囚学園の全景のCG……?」

百田「すげーな。よくできてやがる」

最原(……本当に何者なんだろう。この人。並大抵の技術力じゃないよな……)

BB『まず最初。第一の事件が発覚したのは十一時四十分ごろ』

BB『アンジーさんを探して彷徨っていた巌窟王さんと、偶然そのとき外に出ていた茶柱さんが第一発見者』

BB『超高校級の合気道家の研究教室が大炎上しており、巌窟王さんが何かに気付いて燃える研究教室へと吶喊』

BB『面喰った茶柱さんが寄宿舎へと戻り、最原さんを中心とした生徒たちを叩き起こし、消火活動を開始しました』

BB『あ。補足したいことがあったらなんでも言ってくださいね。このまとめ、巌窟王さんの証言から再構成したものなので』

茶柱「今のところ事実と食い違うところは一切ありません」

百田「でも結局、巌窟王はなんで炎の中に突っ込んだんだ?」

BB『おっと。補足は受け入れても質問は後回しでお願いします。続けますよー』

BB『消火活動は中々捗らず、一時間以上かけたものの研究教室は尚も大炎上』

BB『そんな折り、茶柱さんが消火活動から消えていることに気付いた最原さんが、彼女を探し始めたのが第二の事件発見の発端です』

BB『これも巌窟王さんからの伝聞ですが……ここから先は最原さんと茶柱さんから直接聞きましょうか』

最原「うん。そういえば巌窟王さんには簡単にしか言ってなかったしね」

あ、遊戯王の時間だ!
続きは後で!

最原「僕が中庭から全力疾走で東条さんの研究教室に向かったのが一時十分ごろの話だよ」

最原「そのとき、僕は茶柱さんが『東条さんを呼びに行ったんじゃないか』って推理してて、実際それはドンピシャだったんだけど」

最原「……東条さんの研究教室で、僕は目を疑うようなものを目にしたんだ」

茶柱「血塗れの東条さん、ですよね。本当にビックリしましたよ。掃除用具を入れるロッカーを開けたらいきなりですもの」

東条「……世話をかけたわね。本当に」

入間「んだよ。掃除用具のロッカーの中に何があったんだ?」

入間「……ハッ! ま、まさか……全――!」

茶柱「違います」

入間「まだ言い終わってないのに!?」ガビーンッ!

最原「うん! 絶対に違うと思う!」

最原「……その瞬間は見てないけど、茶柱さんが言っている『いきなり』って」

茶柱「東条さんが倒れ込んで来たんですよ。ぐったりと脱力した状態の」

赤松「気絶してた……ってこと?」

BB『これが第二の事件。東条さんの襲撃事件のあらまし、ですかね』

茶柱「……」

茶柱(ここですね)

茶柱「ええっと、そこから転子と最原さんの『二人がかりで』東条さんを応急処置」

茶柱「しばらくして落ち着いたあたりで転子は中庭へと戻ったんです」

最原(……よし。茶柱さんは忘れてないな)

天海「それって、俺を呼んで本格的に治療を施すためっすよね」

天海「……期待してくれるのは嬉しいんすけど、俺も東条さん以上のことはできないんすよね」

天海「しかし二人がかりで……っすか。てっきり茶柱さんはテンパってすぐに外に出たモンだと思ってましたよ」

茶柱「ハンッ! 男死が勝手なイメージで転子を語らないでください!」

BB『じゃあ話を元に戻しますよー。ここから先は巌窟王さんもやっと帰還。事件に本格参戦です!』

百田「俺とハルマキに感謝しろよ巌窟王! 俺たちがいなきゃ今ごろこんがりローストだぜ?」

巌窟王「クハハ。思い上がりもそこまで行くと滑稽だな。恩着せがましいぞ百田」

春川「強がりだけは一級品だね」

BB『巌窟王さんが火事の研究教室から出てこれたのは一時三十分くらいですねー』

BB『そのとき巌窟王さんは消火活動に参加していた生徒を全員認識したはずです。忘却補正もあるので、この点に関しての証言は後で行いましょう』

BB『そして一時四十分に紆余曲折ありながらも天海さんが東条さんのもとへ到着』

BB『巌窟王さんはなおも発見できなかったアンジーさんを探すため、最原さんを連れて調査を開始』

BB『ついに恐怖の第三の事件発覚に至るのです……!』

東条「泥酔した状態のアンジーさんが、三つの空き部屋の中央の床下で、無抵抗に血を吸われていた……」

王馬「ゴン太の研究教室にいたはずの医療用ヒルに、だっけ?」

赤松「あ、あれ? ちょっと待って王馬くん。ヒルだとは確かに説明受けたけどさ」

赤松「……出所がどこかなんて聞いたっけ?」

王馬「ああ。それに関してはこう答えるよ。俺はヒルがゴン太の研究教室にいたのを知ってたんだ」

最原「あのさ。この場でハッキリさせておきたいんだけど」

最原「疑似学級裁判のことを聞いたとき、どの程度事件の情報をモノクマから聞いたの?」

白銀「アンジーさんが殺されかけたってこと。アンジーさんが発見時どういう状況だったのかってこと」

白銀「あとは第一発見者が最原くんと巌窟王さんだった、ってことだけかな」

真宮寺「東条さんの襲撃事件に関しては、茶柱さんが中庭に戻ってくるなり慌ててまくし立てたこと以上の情報は知らなかったヨ」

真宮寺「まあ、後で調査はしたけどネ」

最原(なるほどね……)

BB『さて。まとめは大体こんなものでしょう。あとは巌窟王さんが写真を撮ったりしてたので、必要とあらば上のモニターに情報を追加しますよ』

最原「ええっと……やっぱり名前を知らないのは不便だな」

最原(何回か巌窟王さんが『ビィビィ』って言ってるのは聞こえたけど)

最原「とにかくありがとう。助かったよ」

BB『どういたしまして!』

王馬「で。結局、俺たちはどの事件の犯人を議論すればいいの?」

王馬「確かにすべての事件が一夜に起こった以上、同一犯の可能性は高いけどさ」

王馬「高いってだけで、三つの事件の犯人がすべて別人って可能性も否定できないよね?」

モノクマ「お答えしましょう! 今回の疑似学級裁判で議論すべきは、夜長アンジーさんを殺そうとした未遂クロです!」

モノクマ「あまりお勧めはしませんが……一切の議論なく適当に犯人を決めて投票するのもアリっちゃアリですよ」

モノクマ「その場合、アンジーさんを人数に含めれば十七分の十六の確率でハズレですけどね!」

真宮寺「もしも正しいクロを指摘できれば周知される、とは言うけどさ」

真宮寺「それって裏を返せば、投票した人がシロだった場合は『シロだということが周知される』って認識でいいんだよネ?」

モノクマ「もちろん。ま、ほとんど意味ないと思うけどね」

百田「たった一人の犯人を見つけ出すための裁判なわけだからな」

星「……後でアンジー本人に聞けばいい話じゃねーのか?」

モノクマ「悪いけどそれは不可能だよ。アンジーさんの事件に関する記憶は奪っちゃうからね」

モノクマ「もしも正しいクロを指摘できれば、意味がないから奪わないけど。無駄な労力とリソース使いたくないし」

星「なるほどな。エグイ真似をしやがる」

巌窟王「さあ。前提はすべて出そろったぞ。議論を本格開始するに不足したものは何一つとしてない」

天海「そっすね! じゃあさっそく議論を開始して……!」

王馬「いや議論するまでもないだろ! こんなグロい殺し方でアンジーちゃんを殺そうとするのは……!」

王馬「超高校級の昆虫博士の獄原ゴン太しかいねぇーだろうがよォーーー!」ズバァァァンッ!

獄原「ち、違うよ! ゴン太は虫さんに人殺しをさせたりしないんだッ!」アタフタ

春川「でも現実に、あの医療用ヒルは獄原の研究教室で育てられていたヤツだよね?」

獄原「う、うん。そうだけど。でもそもそも、ゴン太の研究教室にいたヒルさんを全員かき集めたとしても」

獄原「あんな……人一人を殺せるような量の血を吸ったりできないんだよ!」

東条「……確かに。獄原くんの研究教室にいたヒルだけで人を殺せるとは思えないわね」

東条「体格の小さい星くんなら別だけど、今回襲われたのは夜長さんなのだし」

最原「ゴン太くん。発想を変えてみよう。どうやったらあの数のヒルだけで人を殺せるようになるのか」

獄原「い、イヤな発想の変え方だね……」

最原「ごめん。でも超高校級の昆虫博士であるキミの力が必要なんだ」

巌窟王「……例えば、だが。ヒルが飲んでいたアンジーの血液に何らかの『混ぜ物』がしてあったとしたら、どうだ?」

最原「……?」




赤松「あれ……意外とゴン太くんのヒルのこと知ってた人多いね」

東条「獄原くんが定期的に他の生徒に対して『献血』をお願いしていたから。その弊害で、ね」

赤松「け、献血……」

やっと本編に追いついた……今日のところはここまで!

短い話のはずなのにスレがそろそろ尽きるぞ。
まあいい! 第三章が終わったら節目だしな! 第四章は本編でやった通り入間がとんでもないアホをやらかすせいで即終わるし!

第四章が終わったら! スレ変えるよ!

最原「アレしか考えられないよね。発見時のアンジーさんは何故か酷く酔っていて、酒臭かった」

最原「……多分、ヒルを狂わせた元凶は『アンジーさんの血中アルコール濃度』……平たく言えば酒だよ」

百田「さ、酒だぁ?」

獄原「あ、そっか。それならありえるよ」

獄原「ヒルさんたちにとって、アルコールは麻薬に等しいからね」

獄原「もしも血を吸われている人の血中に、大量にアルコールがあったとしたら……」

獄原「うん! あの数のヒルさんたちだけでも、一人を殺す程度なら充分足りると思うよ!」キラキラキラ

王馬「空気読めよゴリラ! そんな誇らしげに言うな!」

最原(今日の王馬くんは当たりが強いなぁ)

獄原「ご、ごめん」

王馬「まあそれは置いといて……酒? 学園の中に酒なんてあったっけ?」

最原「あったと思うよ。さっき『酒の持ち主本人』から教えられたから間違いない」

東条「……私の研究教室の隠し扉の先よ。今まで言う機会がなかったけど、ワインセラーがあったの」

天海「東条さんの?」

東条「……でも私は犯人じゃないわよ」

天海「さて、それを決めるのは、俺でもキミでもないっすけどね」

東条「……」

茶柱「で、でも本当に、アンジーさんはお酒を飲んだっていうんですか?」

春川「あるいは血中に直接注射された……とも考えられない?」

巌窟王「いや……アンジーは間違いなく酒を口から飲んだはずだ」

巌窟王「最原。その根拠、お前なら答えられるだろう?」

最原「……」

最原(なんだ? さっきからの巌窟王さんの態度。まるで僕を試しているような……?)

最原「ええっと……うん。アンジーさんの口の中は、何かを無理やり突っ込まれたみたいに荒れ放題だったんだ」

最原「多分だけど、あの荒縄で雁字搦めに縛り上げた後で、無理やり酒瓶を口の中に押し込まれたんだろうね」

夢野「き、聞けば聞くほど、今回の犯人はエグすぎるぞ……!」ガタガタ

キーボ「……そういえば、あのアンジーさんを縛り上げた荒縄。あれは真宮寺くんの研究教室にあったものでは?」

真宮寺「あ、本当だ。よく気づいたネ」

百田「なんだ? 今回の犯人は、やたらあっちゃこっちゃから材料を調達してんな」

春川「獄原の研究教室の医療用ヒル。東条の研究教室の酒。真宮寺の研究教室の荒縄……」

春川「どれも鍵がかかってない研究教室だから、これで容疑者を限定するには弱すぎるけど」

最原(無視するのは無理、っていう程度には気になるな……)

BB『……あ! 巌窟王さん! ひとまずちょっと席を外すので、画像データの操作とかお願いしますね!』

巌窟王「俺はお前ほど芸が細かいわけではないが……まあいいだろう」

BB『あー、もう忙しい忙しい……!』

白銀「ね、ねえ。その人一体何をしている人なの? 仕事的な意味で」

巌窟王「そうだな。一言で言うと……」

巌窟王「……」

巌窟王「一言では言えんな!」ギンッ

天海「皮肉なことにその答えが既に一言っすね」

最原「ええっと……それじゃあ巌窟王さん。上部モニターの操作はお願いするよ」

王馬「議論を続けよっか」



カルデア

イシュタル「……今からBBの部屋に行くわよー」

ナーサリー「役者交代! 楽しみね、楽しみなのだわ!」ルンルン!

最原「……アンジーさんの襲撃事件に関しては特に謎はないよね」

赤松「え? そうなの?」

春川「まあ……襲撃場所はまず間違いなく、夜長が見つかったあの部屋だし」

春川「ヒルに殺人を委託した理由も大体わかるしね」

キーボ「というと?」

春川「暗殺者、つまり第三者に殺人を委託した人間がやることなんて決まってるでしょ」

春川「対象の死亡推定時刻にアリバイができるよう立ち回ることだよ」

星「となると、逆に怪しいのは……消火活動に参加していた人間ってことになるか?」

夢野「んあ? 何故そうなる?」

天海「あのタイミング、つまり夜に人が集まるイベントなんてアレ以外になかったっす」

天海「もしもアンジーさんが、あのままヒルによって失血死させられてたとしたら……」

赤松「あ。ほとんどの人にアリバイがない……!」

天海「それはそれで犯人にとって有利っすけど、でもわざわざヒルを使う理由としてはお粗末っすよね」

獄原「でもヒルさんの噛み傷は独特なんだよ? 計画が全部終わった後、アンジーさんをゴン太が見れば殺害方法はわかるはずだし」

獄原「そしたら死亡推定時刻にこれと言った意味がないってすぐにバレちゃうんじゃないかな」

春川「どうとでもなる」

獄原「え」

春川「……死体の状態を死後に変化させる術なんて、それこそ無数にあるわけだし」

春川「家庭で手に入る範囲の洗剤だけを組み合わせて、人体をドロドロに溶かしたこととか一度や二度じゃないよ?」

赤松「ど、ドロドロ!?」

東条「……最悪、水に漬けておくだけでも人体は二目と見られない有様になるわけだし」

東条「なによりこれはあくまで『殺人未遂事件』。この後どうなる予定だったのかを考えることに価値はあっても――」

巌窟王「現状に大した意味はない、か」

巌窟王「……」

最原「巌窟王さん?」

巌窟王「いや……ふとアンジーの声が聞こえないな、と疑問に思っただけだ」

巌窟王「いなくて当たり前だというのに」ズーン

白銀「アンジーさん難民になってる!」ガビーンッ!

赤松「だ、大丈夫!? 巌窟王さん、アンジーさんの代わりに私が頭撫でてあげようか!?」

巌窟王「やめろ……」

夢野「なんならウチのことを撫でてくれても構わんぞ!」

ギュンッ

巌窟王「……」ナデナデ

夢野「おおー。これは中々……」

最原「夢野さんを撫で始めたッ!?」ガビーンッ!

天海「割と本気でロスってるっすね。かなり症状が重篤っす」

巌窟王「……」

巌窟王「虚しい……」ズーンッ

夢野「んあっ!?」ガビーンッ!

ギュンッ

王馬「あ、元の席に戻った」

夢野「ウチの小動物的かわいさの何が不満じゃと……!?」ガタガタ

茶柱「夢野さんは可愛いです。巌窟王さんにはそれがわからないのです」

休憩します!

巌窟王「……謎なら一つ残っているな。アンジーの事件に関しては」

星「今は少しでも手がかりが欲しい。なんでも言え」

巌窟王「アンジーが具体的にいつごろ襲撃されたか、だ」

王馬「ああ、そっかー。それ大事だよねー」

百田「アンジーが襲撃を受けたタイミングによっては、他の事件との関連性も見えてくるだろうからな」

百田「確かにそこは絶対に判明させるべきだぜ」

赤松「うーん……アンジーさんが襲撃されたタイミングか」

最原「……それを示す証拠ならあったかもしれない」

最原「ほら。茶柱さん、アレだよ」

茶柱「……ああ、アレですか!」

茶柱「って言っても他の人にはわからないので、詳しく言いなさい! 詳しく!」

最原「ご、ごめん! ええっと、超高校級の美術部の外にあった、アンジーさんのバッグだよ!」

百田「あ? ああ、そういやそんなもんもあったな?」

赤松「アンジーさんのバッグって……前に私の部屋から写真機材を運ぶときに使ったアレ?」

巌窟王「ああ。間違いないな。具体的に言うと……」

ナーサリー『コレのことね! みんな、上部モニターに注目して?』

真宮寺「最近、何度かコレを使っている姿を見たことがあるヨ。確かに夜長さんのものだネ」

巌窟王(む? 今の声は誰のものだったか……?)

最原「この証拠品は発見された場所と、内容物が重要なんだよ」

最原「まず発見場所はさっき言った通り、超高校級の美術部の研究教室の外だったんだ」

天海「外? 中ならわかるっすけど……」

白銀「それで、バッグの中には何が入ってたの?」

最原「ワインのボトルだよ。しかも度数がかなり強烈なヤツ」

最原「中身は全部なくなってたけどね」

王馬「へえ」

百田「ってことは、アンジーを泥酔させた酒ってのは……」

最原「間違いなくコレだよ。東条さん、どう?」

東条「そうね。確かにそれは私の研究教室のワインセラーにあったものよ。保証するわ」

赤松「……よくわからないよ。なんでアンジーさんのバッグにワインのボトルが?」

最原「多分、犯人に襲撃されたとき、アンジーさんはこのバッグを背負ってたんだ」

最原「アンジーさんを殴って気絶させた後、犯人はあちこちから必要なものを持ってきてたけど……」

最原「その一連のアイテムは、すべてこのバッグで輸送していたんだろうね」

最原「それで、このバッグがなんで研究教室の外に置かれていたのかって言えば……」

巌窟王「俺が外に出るときに、研究教室のドアを閉めたから、だろうな」

巌窟王「本来であれば、そのバッグは『アンジーが良く行く場所』にあるのが自然だ。ボトルごとそこに移動させる腹積もりだったのだろう」

春川「でもそれは無理だった。他に処分できそうな場所も思いつかなかったから、スライド錠の前に置かれてたってこと?」

百田「……待てよ。確かにこれで『一連の工作が終わった時間』が『巌窟王が去った後』ってことはわかったけどよ」

百田「それでも肝心の『アンジーが事件に巻き込まれた時間帯』がまだ限定できてねーぞ」

茶柱「あ、本当です! 全然気づきませんでした! これだけだとまだ……!」

最原(いや。限定できるはずだ。でもこれを指摘すると……多分巌窟王さんがまた怒るだろうなぁ)

最原(……話を逸らそうか。巌窟王さんの様子を見よう)

最原「アンジーさんのバッグを犯人が使ったってことは、つまり犯人に襲われたときにアンジーさんがコレを持っていたってことだよね」

王馬「でもそれって凄い偶然だよねー。赤松ちゃんのバッグみたいに、四六時中持っていたわけじゃないし」

最原「……アンジーさんが襲われたこと自体が偶然だったとしたらどうだろう」

春川「何か心当たりがあるの?」

最原「いや……でも何か、今回の事件は『まともな計画性』があまり見えてこないなって思ったんだ」

最原(僕の推理通りの真相なら、犯人はそれぞれの事件で一石二鳥、三鳥を狙いすぎてる)

最原「突発的な犯行だったんじゃないかな。だって、巌窟王さんはアンジーさんが研究教室の外に出ることを良しとはしてなかったよね?」

巌窟王「……ああ。できるだけ研究教室の傍から離れるな、とは言ったな」

巌窟王「ただし『真っ直ぐ寄宿舎へと帰る場合』は別だぞ。あそこから寄宿舎への道はほぼ一本道」

巌窟王「俺がアンジーを迎えに行くタイミングとぶつかったとしたら、ほぼ確実に顔を突き合せることになるからな」

天海「アンジーさんはバッグを背負い、研究教室から寄宿舎へと帰ろうとしていた」

天海「だけどその道中、何故かアンジーさんは三つの空き部屋の中央の部屋へと寄って……」

天海「何故か襲撃され、殺されかけた」

白銀「うーん。地味によくわからないな。アンジーさんは空き部屋で何を見たんだろ」

星「むしろ『そこで誰が何をしたのか』が気になるがな。アンジーが殺されかけるほどの秘密……余程犯人は見られたことが気に食わなかったんだろう」

赤松「むしろ『誰かと待ち合わせしてた』って線はどう? ほら、前の巌窟王さんの事件みたいにさ」

百田「あのアンジーがか? 巌窟王に無許可で?」

巌窟王「ありえんな」

赤松「……うん。確かにありえなさそうだね。アンジーさんが巌窟王さんより優先させる物事なんて、最原くん以外に思いつかないし」

王馬「あ! じゃあ犯人は最原ちゃんなんじゃない!?」

最原「え?」

茶柱「そうなんですかッ!? 騙されかけましたよ最原さん!」

最原「い、いや。僕じゃないけどッ!?」ガビーンッ

春川「……これ以上夜長の事件に関して議論してても埒が明かなさそうだね」

最原「う、うん。だからさ。この証拠品から見えてくる別の現場に、そろそろ目を向けてみようか」

最原(……ちょっと遠回りになるけど仕方ないな。本当なら『襲撃された時点でバッグに何が入ってたか』を議論するのがいいんだけど)

最原(巌窟王さんのスタンスが見えてこないからな)

最原「ワインのボトル……これを調達したのがいつだったのかを議論することが、アンジーさんの襲撃の時間を特定することに繋がるはずだよ」

夢野「ハッ……そうじゃった! それがあったわい!」

今日のところはここまで!

白い髭のダンディの策略でまだ家に帰れてない。ちょっと待って

白銀「そっか! アンジーさんのバッグを奪ったことが始まりなら……!」

最原「少なくともアンジーさんが襲われた時間は、東条さんが襲われる時間より前ってことになるよね」

百田「東条! どうなんだ?」

東条「私が襲われたのは十一時ニ十分前後のことよ。残念ながら凶器はわからなかったけどね」

春川「東条の研究教室と、空き部屋の間を何回も往復する途中には、凶器なんていくらでもあったはずだよ」

春川「……私の研究教室とか」

百田「全部終わった後で、軽く水洗いして元に戻せば立派な証拠隠滅になるだろうな……あれだけ凶器があれば」

王馬「まったく! 持ち主として、もうちょっとしっかり管理しててほしいよね!」

春川「……」ビキッ

赤松「いつも通りの王馬くんの悪口だよ。そんな目くじら立てないで……」アタフタ

巌窟王「……東条が襲われているころ、となると。俺は美術部の研究教室にいたな」

巌窟王「だがいつまでたってもアンジーが戻ってこなかった。故に俺は……」

茶柱「鍵を閉めて、寄宿舎の方へとアンジーさんを探しに赴き、あの火事を発見した……」

茶柱「むむ? でもおかしいですね。襲われて、その後アンジーさんはどこにいたんですか?」

最原「気絶した状態で空き部屋の床下に放置されていた……って考えるのが自然じゃないかな」

最原「もしかしたらその時点で、縄で縛られて、猿ぐつわもされていたかもしれない」

最原「あそこから真宮寺くんの研究教室は目と鼻の先だし、それに……」

天海「万が一、巌窟王さんがアンジーさんを床下で発見したとして、その時点では外傷は頭の傷のみ」

天海「学級裁判が起こらない以上は『後でアンジーさんに事情を聞いた巌窟王さんが激怒する』以上のトラブルは起こらないってことっすね」

キーボ「それ普通に死活問題ですよね?」

王馬「命懸けの謎解きゲームをやるよりは遥かにマシなペナルティだと思うけどね」

赤松「でも、よく巌窟王さんに見つからずにアンジーさんを隠せたよね」

天海「相当運が良かったのか……いや、あの階の構造を考えるとそうでもないっすね?」

星「超高校級の美術部の研究教室は、現状では学園の一番奥の部屋だ」

星「アンジーを襲った後で、空き部屋から出たときに巌窟王の後ろ姿でも見ていたとしたら……」

夢野「少なくとも、巌窟王がアンジーを探しているということ『だけ』は丸わかり、というわけか」

巌窟王「勘のいいヤツなら、その後俺が研究教室に残ってアンジーを待つことも予測できたかもしれんな」

巌窟王「……あるいはそれが犯人の最大の賭けだったのか」

白銀「随分とピーキーな立ち回りだね……」

最原「いや。巌窟王さんの行動を更に限定する方法なら、まだあったはずだよ」

巌窟王「……なに?」

最原(……ダメだ。外堀を埋める形じゃ埒が明かない)

最原(もう少し踏み込んでみるか……! 巌窟王さんの反応が気になる)

今日のところはここまで!

赤松「どういうこと? 巌窟王さんの行動を限定する方法って……」

入間「バイブのスイッチでも見つけたか?」

天海「入間さーん、入間さーん。ステイ。それ以上口を開くとまた王馬くんに罵倒されるっすよー」

王馬「やだなー! ゲロ臭い口臭の入間ちゃんのことなんてバカにできるわけないじゃん! ゲロ臭さが移るー!」

入間「手遅れじゃねーかッ!」ガビーンッ!

最原「限定……というよりは特定に近いかもしれない」

最原「ほら。巌窟王さん、超高校級の美術部の研究教室に行く途中の階段でさ、無くなったものがあったじゃない?」

巌窟王「……もしや赤外線センサーのことか?」

東条「赤外線センサー?」

最原「うん。夜時間に人を訪ねようって考える人なんてほとんどいないだろうし……」

最原「赤外線センサーに反応があったら、それは高確率で『巌窟王さんが去った』ってことになる」

春川「そんなものがあったの?」

巌窟王「ああ。我が忘却補正にかけて断言しよう。アンジーの研究教室のある階層へ続く階段には赤外線センサーが配置されていた」

巌窟王「……」

赤松「あ。また急に黙っちゃった」

夢野「またアンジーロスか? 世話が焼けるのー」

茶柱「いやいや。流石に巌窟王さんもそこまでじゃ……」

巌窟王「……」ズーン

キーボ「いや確かに実際そうじゃなかったんでしょうが、夢野さんの発言がスイッチになって再発したようですね」

王馬「全裸土下座で謝れよ夢野ちゃんさぁ!」

夢野「ううっ……ご、ごめんなさ……巌窟王……」ヌギヌギ

白銀「やめてーーーッ! 児ポ法に引っかかる! 児ポ法に引っかかっちゃうからーーーッ!」ガビーンッ!

巌窟王「だが、あの赤外線センサーが現れたのは」

最原「わかってる。『巌窟王さんが研究教室を去るとき』で『巌窟王さんが階段を上ったとき』は無かったんだよね」

最原「次に、僕と一緒にアンジーさんを探すときには消えていた」

星「巌窟王を警戒してたにしちゃ、何か行動がチグハグだぜ」

赤松「そこまで警戒するのなら、最初から赤外線センサーを付けておけばいいって話だしね……」

夢野「そもそもあの赤外線センサーは『有効範囲が異常に狭い』んじゃぞ。犯人自身の立ち回りも相当限定されるはずじゃなあ?」

入間「ま、俺様にかかりゃあ、あんなガラクタ同然のセンサーでも華麗に改造できっけどな」

最原「それだよ!」バンッ

入間「ひいいいいッ!? いきなり大声出すんじゃねーよぉ!」ビクウッ

入間「あ、ちょっと濡れた」

赤松「最悪だ! モノクマ! 替えのパンツ持ってきて!」

モノクマ「ごめんボクも関わりたくない!」

最原「入間さん。あの赤外線センサーを夢野さんのマジカルショーで貰ったとき、なんて言ってた?」

入間「も、もう覚えてねーけど……?」

夢野「一字一句とはいかんが、ウチは覚えておるぞ」

夢野「『俺様にかかりゃあ学園中どこにいても警報器が鳴るようにできるぜ』とか言っておったな?」

入間「実際できるし、したし……なんか元に戻っちまったけど」

百田「あ? 元に戻った?」

最原「そうなんだよ。入間さんの改造を施したはずの赤外線センサーは、事件発覚後には何故か元の何の変哲もない状態に戻ってたんだ」

最原「多分、誰かが『未改造のセンサー』と『入間さん改造のセンサー』をこっそり入れ替えたんだと思う」

キーボ「ということは……!」

最原「うん。あのセンサーに誰かが引っかかったら、学園中どこにいても巌窟王さんの行動を特定できるんだよ」

休憩します!

真宮寺「でも一体どのタイミングでそのすり替えは行われたのかな?」

百田「巌窟王がアンジーを迎えに行ったときには、階段にそんなもん仕掛けられてなかったんだろ?」

百田「じゃあ東条が襲われた十一時ニ十分より後じゃねーのか?」

春川「バカでしょ。夜長を襲った後で入間の研究教室に行って、わざわざ階段に戻ってセンサーを取り付けるとか」

春川「そんな危険なマネをするくらいなら何もしない方がマシだよ。だって巌窟王とバッタリ出くわしたら最後なんだからさ」

最原「そのすり替えなんだけどさ。発覚したのが事件後なんだよ。入間さん、改造するだけ改造して、その後まったく使ってなかったんじゃない?」

入間「ああ。よくあることだぜ? 俺様は捕まえた魚にエサをやるのは面倒なタイプなんだ」

入間「犬なら話は別だけどな! バターとかガンガンやるぜ?」

キーボ「第一、入間さんは事件の最中、ずっと研究教室に引きこもってましたよね?」

キーボ「火事の間、ボクは定期的にドアを叩き続けてましたからわかります」

東条「そうなると……話がおかしいことになるわね」

東条「夜長さんが襲撃されたのは偶然の可能性が高いのに、改造センサーのすり替えが行われたのは、どの事件よりも前の話……」

最原「あ。待って。僕は『誰かが』センサーをすり替えたって言っただけで『犯人が』すり替えをやったとは言ってないよ」

天海「え? それ、どういうことっすか?」

最原「改造センサーを取り付けたのは犯人だろうけど、それにしてはタイミングがチグハグだ」

最原「でも全然不自然じゃないんだよ。犯人と改造センサーのすり替えを行った人物が、別人なんだからさ!」

巌窟王「……」

最原(……やっぱり巌窟王さんは知ってたな。この調子だと)

最原(改造センサーのすり替えを行った人物は間違いなく……!)

赤松「……もしかして、アンジーさんってこと? 改造センサーのすり替えを行ったのって」

最原「そう考えるのが一番妥当だよ。犯人視点で考えてみるとわかりやすいかな」

最原「センサーを取り付ける前と、センサーを取り付ける後……その間に何があったのか」

最原「その時点では犯人は赤外線センサーを持っていなかった。だからセンサーを取り付けるという発想が無かった」

最原「でもアンジーさんと犯人の間で何かが起こり、犯人はアンジーさんを襲撃」

最原「その後、巌窟王さんがアンジーさんを探していることに気付いた犯人は……」

最原「どうにかして巌窟王さんの動向を遠隔で特定する方法はないかと考えて、手始めに手近の材料を探し始める」

最原「……アンジーさんのその時点での持ち物の中に、赤外線センサーがあったんじゃないかな」

最原(なんでそんなものを偶然持っていたのかは気になるけど……多分、入間さんに返すつもりだったんだろうな)

最原(……入間さんが気付く前にこっそりと)

百田「でもそれってよ、犯人がアンジーの持っていたセンサーのことを入間が改造してチューンナップしたってことを知らねーとおかしいよな」

百田「本来のセンサーの機能って信じられないくらいショボかったんだろ?」

巌窟王「……犯人は知っていたのかもしれんな。アンジーがすり替えを行ったことを」

夢野「入間がセンサーを改造すること自体は、マジカルショーに参加していた人間……つまり全員知る機会があったはずじゃ」

夢野「……というか、今から考えるとアンジーの言動もその時点でなにか不可解じゃった」

最原「入間さんがセンサーを受け取った後で、アンジーさんは夢野さんから『アレと同じのが欲しい』って注文されたんだよね」

夢野「あのセンサーそのものは倉庫にいくらでも替えがあった。すり替えは誰にでも可能だったと言えるんじゃが……」

夢野「……アンジー、ハッキリ言って隠す気皆無じゃな。わかりやすすぎるぞ」

星「ある意味で入間のことを舐め切ってた、と言えるかもしんねーな。気持ちはわからんでもねーが」

入間「ち、ちくしょう! ふざけやがってあのサイコカルトブス!」

休憩します!

最原「ええっと、入間さんが研究教室に引きこもり始めたのって具体的には」

入間「夜時間より前だな。その後は寝落ちてたぜ。キーボがドアをガンガン叩いてるときは流石に目が覚めたが」

入間「面倒だったので居留守を使ったぜ!」

天海「あのドアって内側からしか鍵が掛けられないから、鍵がかかってる時点で居留守として破綻してるんすけどね」

赤松「これまでわかっている犯人の足取りを考えると、火事の間中ずっと一所にいるわけにはいかないから……」

赤松「入間さんは犯人じゃないのかな?」

キーボ「ボクもずっと入間さんの研究教室の前に張り付いてたわけじゃありませんが」

キーボ「でもボクが扉を叩くタイミングで都合良く研究教室に戻ってドアを閉めるのって凄い労力ですよ」

キーボ「入間さんのアリバイだけは真の意味で完璧かもしれません」

星「逆に、あの消火活動に参加していた連中は『いつ欠席しようがほぼお構いなし』だ」

星「巌窟王が研究教室から脱出した後は混乱も収まって、誰がいるかを判別できるようになったが……」

最原「そこだよね。鎮火もしくは巌窟王さんが脱出した後でやっと個々人のアリバイが成立し始める」

最原「……その時間帯にアンジーさんが死ぬように調整すれば、殺人の委託にも意味が出てくるんじゃないかな」

真宮寺「ククク……でもちょっと待ってくれないかな。話が段々軌道に乗り過ぎてきたからネ」

百田「ん? 何か異論でもあんのか真宮寺」

真宮寺「いや……ただ消火活動に参加していたヤツが逆に怪しいって論法はちょっと乱暴すぎるんじゃないかなって思っただけだヨ」

真宮寺「ちょっと話を巻き戻させてもらうけど、犯人は夜長さんを泥酔させるお酒をどうやって調達したっていうの?」

春川「それは……東条の研究教室に行って、東条を引っ叩いて気絶させて、隠し扉の向こうから悠々と奪ったって話じゃないの?」

真宮寺「かもネ。それに対する反論はないんだけどさ」

真宮寺「もう一つ可能性があるんじゃないかなって思ったんだヨ」

王馬「それって東条ちゃんがすべての事件の犯人である可能性のこと?」

東条「……それは」

王馬「ないない! ありえないよ! だって東条ちゃんは俺のママなんだよ!」

百田「違ぇーけどな」

王馬「仮に前回の超残酷な事件の犯人だったとしても、外に出ることを諦めきれてないとしても」

王馬「全身を切り刻まれたり心をぶち折られたりの蹂躙の末に心を若干病んでしまったとしても」

王馬「なんかもう犯人臭が凄すぎて逆にあるよね!?」

百田「どっちだよ」

最原(ハッキリ言って、この謎はそこまで難しくない。だって途中で破綻したから。故に肝があるとしたら絶対にここだ)

最原(何が何でも押し通してくると思ってたよ真宮寺くん)

最原(さて。ここからが正念場だ。決定的な証拠は何もない)

最原(……一言でも間違えたら真実は永遠に闇の中だ)

最原「東条さんが犯人って……待ってよ。だって彼女は」

真宮寺「怪我をしていた? 掃除用ロッカーに閉じ込められてた?」

真宮寺「前回の裁判で改心した?」

真宮寺「いやいや……楽観的すぎるネ。そんなの全部嘘かもしれないじゃないか」

茶柱「あなた……それ以上口を開いたら、転子のネオ合気道で床と仲良しにさせてあげますよ?」

茶柱「もしくは壁と抱き合う面白新体操でもさせてあげましょうか?」

百田「どんな新体操だよッ!」ガビーンッ!

休憩します!
え? 今日は切嗣の誕生日なの?

巌窟王「……」ジーッ

東条「……あまり私のことを見ないでくれると嬉しいのだけど」

東条「照れるわ」テレッ

赤松「怖いんじゃなくて!?」ガビーンッ!

巌窟王「安心しろ。お前のことは恨んではいない。疑ってもいない」

巌窟王「……真実がどうあれな」

最原(現状は、って言ってるも同然だな。本当に東条さんが犯人だった場合は……)

最原「前回の学級裁判がどうあれ、今回もそうって考えるのはそれこそ乱暴じゃない?」

真宮寺「ククク。まあ確かに、説としてはどっちもどっちかもネ」

最原(譲る気が更々ないな……)

最原「このトリックは『アンジーさんの死体を後で加工する』って工程があったはずだ」

最原「だから、東条さんが気絶させられた状態で掃除箱のロッカーに入れられたのも当然意味があるはずなんだよ」

真宮寺「東条さんがアンジーさん死亡時点でのアリバイがない状態を作り出すため、だよネ?」

真宮寺「でもこれはこれで、話が上手く纏まりすぎてる気がするんだよネ」

最原「……」

春川「確かに。何か事件が起こったときに前科者を疑うのは当然の流れではあるよね」

春川「議論する価値くらいはあるんじゃない?」

巌窟王「無条件に信じるよりはマシか」

東条「……私は犯人じゃないわ」

東条「今度こそ。あなたたちを裏切ったりしない」

王馬「嘘臭いなぁ……」ニヤァ

百田「黙ってろ!」

獄原「えーと、それじゃあ……何をすればいいの?」

最原「東条さんの証言の中に、信用できるものがあるかどうかを議論しよう」

最原「でも確か巌窟王さんは」

巌窟王「先を急いでいた上に、俺が調べたのはアンジーが見つかった階層が中心だ」

イシュタル『ああー……東条がいる階層に関する写真はほとんどないわねー』

巌窟王「……」

巌窟王「イシュタルか?」

イシュタル『げげっ!? ナーサリーのときは反応しなかったのになんで私だけピンポイントでわかるのよ!?』

巌窟王「ナーサリーライムもいるのか。いいかイシュタル。間違っても機械をいじるなよ」

巌窟王「貴様はパソコンを適当にいじって壊した後で『何もしてないのに壊れた』と言うタイプの英霊だからな」

巌窟王「ブルーレイレコーダーすらまともに扱えないだろう」

イシュタル『ちょ、見て来たみたいに言わないでよ。実際そこまで酷くないし!』

ナーサリー『安心して! 私がいれば何も問題はないわ!』

最原「……何人いるの? 電話の向こうに」

巌窟王「ざっと百人ほどだ」

キーボ「なんでそう意味のわからない冗談を言うんですか」

巌窟王(冗談なら笑えたのだが)

巌窟王「気を取り直して始めるぞ!」

獄原「東条さんは誰かに殴られて気絶した後、ロッカーに閉じ込められたんだよね?」

東条「犯人の顔、凶器、その他色々はいまいち思い出せないわ」

百田「凶器が見つからねぇのは、誰かがどこかに処分したからだよな」

百田「……そうだよ。東条に凶器の処分は不可能じゃねーか? ハルマキの研究教室に片付けるっつったって……」

茶柱「あ。そうですよ! 東条さんは血塗れで、転子が発見したときもほぼ傷は塞がりかけでしたが出血中ではあったんです!」

茶柱「傷そのものは本物でしたから、アレを作った後で凶器を片付けるのは……」

春川「廊下に血痕が残るから危険、か」

春川「……いい根拠なんじゃない? 私も廊下に血痕があるのなんて見てないし。掃除したにせよ、そこそこ距離があるから時間がかかるしね」

天海「……」

天海「いや、その、実は……」

白銀「さっきは言い忘れてたんだけど、私たち凶器は見つけてた……んだよね」

最原「え?」

天海「ほら、俺って東条さんのところに駆けつけるときに、窓から入ろうとして転落したじゃないっすか」

天海「そのときに視界の隅に何か黒光りするものが見えて、急いでたから無視したんすけど……」

天海「入間さんの研究教室が解放された後で気になって、窓の下の方に戻ったんすよ。そしたら」

最原「……あったの!? 凶器が!?」

天海「転落したとき折れた枝の隙間からバッチリ見えてたので回収してきたっす」


ゴトリ


天海「……新しい証拠。血塗れのハンマーっすよ」

真宮寺「掃除する範囲の問題も、一部屋だけならほぼ問題にならないんじゃない?」

真宮寺「ククク。というか東条さんが発見された場所がそもそも掃除用ロッカーだしネ」

白銀「バックトラックよろしく、血痕を掃除しながら掃除箱に入れば……掃除用具も片付けられるよね」

天海「だって掃除用具入れのロッカーっすもんね」

最原「……!」

茶柱「さ、最原さん! 何か反論はないんですか!?」アタフタ

最原(ある!)

最原「天海くん。それってただの凶器であって、東条さんを疑う理由には足りないんじゃない?」

最原「むしろ東条さんに疑念を向けるための偽装工作の一つだとも言えるはずだ!」

天海「……」

最原(まずいな。僕の説も『こういう解釈もできる』っていう説の一つに過ぎない)

最原(みんな東条さんを疑って……)

百田「それだけか終一?」

最原「えっ」

百田「早くなんか言え! 東条に投票されちまうぞ!」

赤松「凶器があったところで自分自身を殴るってことが本当に可能なのかな?」

赤松「いや、東条さんには可能そうだけど、でも……!」

獄原「ゴン太も……一度裏切られたからって、東条さんのことを疑うのは……無理だよ」

茶柱「最原さん……!」

夢野「なんか言えい最原! これで打ち止めではないじゃろう!」

最原「……」






巌窟王「何を意外そうな顔をしている?」

最原「巌窟王さん?」

巌窟王「……お前も信じたいのだろう? 東条を」

巌窟王「ならば、それに追従したいと思う人間が現れて当然だ」

巌窟王「東条を信じたいという願望だけではない。コイツらは、お前を信じたいとも願っているのだ」

巌窟王「……忘れるな。この場に敵なぞ、モノクマ以外に誰もいない」

最原「ッ!」

星「そうだな。俺たちだって東条のことを信じたい」

星「……信じたいから疑ってるんだ」

キーボ「この場に敵なんて誰もいない……? それって犯人も含めて、ですか?」

真宮寺「ある意味、それを知るための学級裁判だよネ」

真宮寺「……この学級裁判が終わったときどんな結末を迎えるのか、それが楽しみだヨ。僕は」

入間「ド変態野郎が。理解できねー趣味だぜ」

春川「……自分で自分のことを殴ることは可能だよ。多分、東条だって……」

白銀「うん。私だって東条さんが再びこんなことをしたなんて思いたくないけど……」

天海「それでも、前回の学級裁判の件があるんすよ。無条件に信じるわけにはいかないんす……!」

王馬「……あれ?」

天海「ん? どうしたんすか? 王馬くん」

王馬「……あ! 気付いちゃった気付いちゃった!」ピコーンッ

白銀「え? 気付いたって……何に?」

王馬「みんな! 裁判場をよく見てよ!」

王馬「意見が真っ二つに割れてるよ!」

最原「あっ」

百田「っつーことは……!」




モノクマ「簡単なことだ! 友よ!」待った!

休憩します!

モノクマ「はいはい一旦ストップー! いい具合に現場が乱れてきたからねー!」

モノクマ「それではお待ちかね、才囚学園の誇る『変形裁判場』の御登場でーっす!」

百田「いや誰も待ってねーよ!」

巌窟王「モノクマ。今回の俺はアンジーの代理出席だ」

巌窟王「……参加しても文句はあるまい?」

モノクマ「当然です!」

巌窟王「……」ワクワク

巌窟王「……」ソワソワ

赤松「明らかに楽しみにしてるね」

天海「前回の学級裁判のときにモノクマに詰め寄ってたっすからねー」

最原「……東条さん。当然、自分の潔白を主張する側だよね?」

東条「……最原くん」

最原「お願いだ。東条さん。僕たちのために戦ってよ」

最原「そのために僕はいくらでも力を貸す」

東条「……ええ。もちろんよ。私を救ってくれたあなたにこそ、私の滅私奉公は相応しい」ニコリ

最原(東条さんは絶対に犯人じゃない。議論が続けばそれがわかる)

最原(とにかく……今は議論を続けさせるために、一時的にでもいい!)

最原(みんなに納得してもらわないと!)

意見対立

東条は犯人なのか?


犯人だ!
真宮寺
王馬
入間
天海
白銀
春川

キーボ

犯人じゃない!
最原
百田
赤松
東条
獄原
茶柱
夢野
巌窟王

スクラム開始!

今日のところはここまで!

天海「『凶器』のハンマーは研究教室の近くで見つかったんすよ?」

最原「東条さん!」

東条「『凶器』の処分を私がやったという根拠としては弱いわね」

入間「アンジーを泥酔させた『ワイン』は東条の研究教室のものだろ?」

最原「赤松さん!」

赤松「『ワイン』だけで決めつけるのは無理だと思うけど……」

白銀「東条さんなら掃除用ロッカー周辺の血痕の『掃除』もできたよね?」

最原「ゴン太くん!」

獄原「犯人にだって『掃除』はできたはずだよ?」

春川「東条は誰かに発見されることを予測して『掃除用ロッカー』に隠れたって可能性は?」

最原「茶柱さん!」

茶柱「転子が『掃除用ロッカー』を調べたのは偶然ですよ。予測できるはずがありません」

キーボ「犯人ではないと言うのなら『根拠』を示して欲しいのですが……」

最原「夢野さん!」

夢野「その『根拠』を示すために議論を進めようと言っているんじゃ!」

王馬「なにか事件が起こったときに『前科者』を疑うのは当然でしょ?」

最原「百田くん!」

百田「『前科者』だからって疑うのもそれはそれで危ねぇなあ?」

星「一連の事件が『東条』に可能だったのは事実だろう?」

最原「巌窟王さん!」

巌窟王「『東条』以外にも怪しい者はいたはずだぞ」

真宮寺「彼女は『消火活動』には参加していなかったはずだよネ?」

最原(僕が!)

最原「むしろあの『消火活動』に参加していた人こそが怪しいんだ!」



全論破!

『これが僕(私)(俺)(転子)(ウチ)(ゴン太)たちの答えだ!』


BREAK!

最原「お願いだみんな! 東条さんのことを信じてよ!」

最原「議論をもう少し進めれば、彼女が犯人じゃないことを証明できるはずなんだ!」

天海「最原くん……」

王馬「でもさぁ最原ちゃん。東条ちゃんが前回、殺意丸出しで俺たちのことを蹴落とそうとして、巌窟王ちゃんを殺したことを忘れてないよね?」

王馬「確かに結果的に全部無事で済んだとは言っても、アレを全部引きずらずに議論するってのは、それはそれで不可能だって」

東条「……」

夢野「そうじゃの。ウチらは全員、確かに東条に殺されかけた」

夢野「……じゃが殺されかけただけじゃぞ! 巌窟王を殺したことはともかくとして起こってない出来事に関して責めるのは論外じゃ!」

王馬「それ言ったらさぁ。今回の裁判だってそもそも『未遂事件』を議論してるんだよね?」

王馬「アンジーちゃんのことを直接見たわけじゃないけどさ。相当グロテスクな有様だったんでしょ?」

王馬「『結果的になんともなかった』ってことがそんなに重要なのかなぁ?」

王馬「未遂だったから許すっていうのは、偽善以外の何物でもないはずだよ?」

百田「ハッ! 俺たちのやっていることが偽善なら、テメェの言っていることは欺瞞だぜ王馬!」

百田「俺は! 終一を信じる! そして終一が信じた、東条のこともだ!」

赤松「……ね。今回の裁判は命がけじゃないんだしさ、もうちょっと肩の力抜いて行こうよ」

赤松「それで、この前の裁判のときみたいに仲直り。私たちならきっとできるって!」

王馬「……」

王馬「……綺麗ごとだなぁ。甘ぇよ」

白銀「だがその甘さ、嫌いじゃないぜ!」クマー

真宮寺「何故今いいセリフを……」

休憩します!

王馬「まあそれはそれとして、巌窟王ちゃん。前回事件の被害者であるキミの口から言いたいことはないの?」

巌窟王「……?」

星「……おい。まさか質問の意図自体わからないとでも言うつもりじゃ……」

巌窟王「……」

星「言うつもりみてーだな……」

巌窟王「アレはもう終わった事件だろう。俺が口を挟める余地が一体どこにある?」

巌窟王「何よりも議論を脱線させるべきではない。禍根は確かに残っているが、それはモノクマに叩き込むべきものだ」

巌窟王「……何度も言わせるな。俺の敵はモノクマただ一匹のみだぞ」

最原「巌窟王さん……!」

巌窟王「念のため言っておくが、敵の敵だからと言って味方だなどと勘違いするな」

巌窟王「俺は夜長アンジーのサーヴァントだ。お前たちのことなど……」

百田「わかってる! つまり味方ってことだな!」

巌窟王「……」

春川「かつてないほど苦い顔になってる」

赤松「百田くんはさ。空気を読むべきだよね」

百田「?」

春川「議論を進めること自体は構わないけどさ。でも他に事件に対する疑問点とかある?」

最原「……火事だよね」

茶柱「転子の研究教室大炎上事件……ド派手な割に話題に上がるのが最後になってしまいましたね」

真宮寺「普通に考えるのなら、校舎から注意を逸らす目的と、アリバイを確保する目的のために犯人が燃やしたって考えるべきだけど」

真宮寺「この場合、まず大前提として誰かが火事を『発見』する必要があるよネ?」

百田「まあ、ヒルに殺人を委託した最大のメリットが無くなっちまうしな」

入間「火事の第一発見者って二人いたよな? 巌窟王と……ん? 茶なんとかだったか?」

茶柱「茶柱ですッ! 茶柱転子!」

王馬「……ってことは、まさかの茶柱ちゃんが犯人説浮上!?」

茶柱「へ?」

巌窟王「……」ジーッ

茶柱「いやいやいや違います違います違いますってェ!」

巌窟王「違うと言っているぞ」

獄原「よかった! じゃあ違うね!」キラキラキラ

巌窟王「クハハハハハハ! 違うな!」ギンッ

赤松「巌窟王さんって、たまに信じられないほど単純になるよね。普段は言動が滅茶苦茶遠回しな割にさ」

最原「そもそも、ずっと気になってたんだけどさ。なんで夜時間に寄宿舎の外に出ようって思ったの?」

最原「巌窟王さんの場合はアンジーさんを探すためっていう明確な理由があったけど」

茶柱「……」

最原「茶柱さん?」

茶柱「死んでください……」ギリギリギリ

最原「なんでッ!?」

茶柱「最悪な……最悪なところにツッコミを入れてくれましたね……これじゃあ話さなきゃいけなくなるじゃないですか」

茶柱「茶柱転子がこの事件の最中、ずっと抱えていた秘密を」

キーボ「茶柱さんの……秘密?」

茶柱「告白しましょう。茶柱転子は……実は……」ガサッ

最原(そう言うと茶柱さんはポケットの中から、一枚の紙を取り出した)

茶柱「最原さんへ。今までずっと探偵として学級裁判での余計な推理、本当にありがとうございま死ね」

最原「は?」

茶柱「前回、前々回も色々と余計でうざったくって重要な嫌われ役を引き受けてくださり、その心労はいかほどなのか転子には想像が付きません」

赤松「……え?」

茶柱「特に前回の東条さんの事件のときの、あなたのクソみたいな提案は、転子の中に殺意が産まれるには充分なイベントでした。くたばれ」

百田「……ん?」

巌窟王「……手紙だな?」

ナーサリー『手紙なのだわ』

イシュタル『手紙ねぇ』

ナーサリー『いい感じのBGMを流して雰囲気を盛り上げるのだわ!』ポチッ

春でも夏でも冬でもないアンジェラ『はいけえーこの手紙ー。読んでーいるあなたはぁー』

最原「え。何コレ。何の話ッ!?」ガビーンッ!

茶柱「でも、転子にはとてもマネできないことをしてくれたのも確かです」

茶柱「転子では、東条さんを救うことはきっとできなかったでしょう」

茶柱「……転子には、その能力が致命的なまでに欠けていました。心だけでは無理だったのです」

東条「……これ、謝罪文ね?」

最原「くたばれとか言ってなかった?」

茶柱「結局のところ、人間は適材適所。そして、綺麗ごとだけでは生きていけないのです」

茶柱「でもそれはきっと、人間は全員汚いマネをしないと生きていけないという意味ではなく」

茶柱「……あなたのような汚れ役を引き受けてくれる優しい大馬鹿がいるということなのです」

最原「……」

茶柱「あなたが救ったのはきっと東条さんだけじゃない。転子他、この学園にいる生徒全員があなたに救われたのです」

茶柱「転子はずっと考えてました。誰も汚れない方法はなかったのかと。でもいつまで経っても答えは出ませんでした」

茶柱「そして、いつまで経っても答えが出ないのであれば、すべてが手遅れになってしまうのです」

茶柱「……答えを出せるあなたのことが、きっと転子はずっと羨ましかった」

茶柱「だから今までキツく当たってしまった」

最原「茶柱さん……」

茶柱「……転子は今この場をもって、あなたに対する禍根を捨てることにしました」

茶柱「でも一つ条件があります」

茶柱「……次にああいうバカなマネをするときは、巌窟王さんだけではなく、転子にも、いや他の誰かにも相談してほしいのです」

茶柱「一人だけで汚れ役を実行するとか、そういう恰好いいマネを独り占めさせられません」

茶柱「転子たちは確かに巌窟王さんほどに力はありません。ですが、仲間のことを思っているのは事実で、真実です」

茶柱「忘れないでください。あなたが汚れを引き受けようと思ったとき、その背中を見ている仲間がいることを」

茶柱「転子たちも、あなたのことを助けたいと思っていることを」

茶柱「次に、あなたへの謝罪を」

茶柱「最原さん。本当に、すみませんでした」

茶柱「最後に、この一言だけ伝えさせてください」

茶柱「……ありがとうございました」

ウッウッ グスッ グスッ

夢野「い、いや、転子……なんで唐突に手紙を読みだしたのかさっぱりわからんが、なんか謎に涙が出て来たぞ」グスングスン

百田「ああ。心が籠ったマジな手紙だったぜ」スンスン

真宮寺「ひっく……な、なるほど……茶柱さんが今まで何を思っていたのか、よく伝わってきたよ……誰かタオル持ってない?」ポロポロ

モノクマ「わあ凄い。一瞬で裁判場の空気がしんみりムードに」

巌窟王「……」

赤松「もしかして巌窟王さんも泣いてる? 帽子深く被って真上見てるけど」

巌窟王「巌窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)は精神干渉系のスキルを軽減する。小娘の手紙程度で泣きはしない」

最原(微妙に涙声になってない? いや気のせいか?)

茶柱「えー。というわけで、転子はこの手紙を何度も何度も手直ししてて……」

茶柱「で。ずっと机に向かってたから疲れちゃって、外の空気吸おうかなーって外に出たところで」

巌窟王「俺に会ったというわけか……」

茶柱「ええそうです……って、なんで帽子深く被って真上見てるんですか」

巌窟王「アイマスク代わりだ。あまりの退屈さに眠くなってしまってな」

茶柱「ちょ、ちょっと……もう……確かに慣れないことしたなって思いましたけど」オロオロ

星「気にしないでいい。明らかな強がりだからな」

茶柱「へ?」

最原「え、ええと……あの、茶柱さん……」

茶柱「返事は後! 議論を再開しますよ!」

最原「え、ええーっ……」

休憩します!

最原「ええっと、じゃあ議論を元に戻すけど……」

イシュタル『確か茶柱と巌窟王が火事を認識したのが十一時四十分ごろの話よね』

ナーサリー『ええ。その時点で茶柱の研究教室は不自然に大炎上していたと彼から聞いているわ!』

イシュタル『この場に信長がいなくて良かったわねー。アイツ、笑顔で自分の死ネタをぶち込んで来るからたまに空笑いしか出てこなくなるのよ』

ナーサリー『持ちネタが増えるのはいいことなのだわ! 私もあと十回くらい死んでみようかしら!』

イシュタル『はいはーい。危ないブラックジョークはそこまでよー』

真宮寺「巌窟王さん。何なのこの人たち」

巌窟王「俺に! 訊くな!」ギンッ!

百田「話がここまで戻ってきたところで、やっとこの疑問にとっつけるかもな」

百田「結局、なんで巌窟王は炎上中の研究教室に入ったんだ?」

最原「……」

最原「心あたりが……あるかもしれない」

春川「……うっ……ぐすっ……」

春川「その心当たりって?」キリッ

最原「切り替え早いのか遅いのかよくわからないな……」

最原「えと、アンジーさんを探しているときにさ、巌窟王さんに確認したんだけどさ」

最原「なんで大火事の研究教室に突っ込んだのかって」

最原「……具体的には何も教えてくれなかったけど、なんで入ったのかを遠回しに一応教えてくれたよ」

赤松「え? アンジーさんを探すためだよね?」

最原「は?」

赤松「だって火事の研究教室の中からずっと『アンジー! どこだ!』って叫びがちょいちょい聞こえて……」




裁判場全体「……」

赤松「……」

赤松「えっ!? 聞こえてなかったの!?」ガビーンッ

夢野「言うのおっそいわァーーーッ!」ウガァッ!

赤松「ご、ごめんなさぁーーーい!」

天海「俺たちは消火活動の途中、たまに聞こえてくる巌窟王さんの咆哮しか聞こえてなかったっす」

天海「だから誰一人としてその真意に気付けなかった。でも気付いてた人もいたんすね!」

最原「む、無駄に遠回りしてしまった……!」

赤松「え? え? ちょっと待って、本当に聞こえてなかった? 本当に? 誰も!? 一人くらいはいたでしょ!? ねえ!」

百田「……俺よー。お前のことをずっと『自称ピアノバカ』だと思ってたんだけどよー」

百田「実際本当にバカだったな……」

赤松「がはあ!?」グサァッ

春川「やめてよ百田! アンタにバカ呼ばわりとか、自殺するしかなくなっちゃうから!」

百田「ハルマキも歯に衣着せることを覚えようぜ!」

最原「……まあともかくとして……」

最原「そうなんだよ! 巌窟王さんはアンジーさんを探してたんだ!」

百田「でもよ。アンジーを探してたからって、なんで巌窟王が燃えてる研究教室の中に入ったんだ?」

百田「それも隣にいたはずの茶柱に大した説明もなしに。相当慌ててたとしか思えねーぞ」

最原「……多分、見えたからだよ。炎上中の研究教室の中に、アンジーさんに関連してる何かが」

巌窟王「……」

最原「茶柱さん。教えてくれないかな。炎上中の研究教室で、何か気付いたことはない?」

茶柱「気付いたことって言っても……そんな大したものは見てませんよ?」

茶柱「ただ妙なことがたった一つあったってだけで」

星「妙なこと?」

茶柱「あの研究教室、何故か黒く燃えてたんですよ」

王馬「はえ?」

茶柱「ええっと、だから……巌窟王さんが入る前から、巌窟王さんと同じ色の炎を出して燃えている部分があったんです」

キーボ「え? それって……」

入間「ッ!」

天海「巌窟王さん。何か心当たりはないっすか?」

巌窟王「……」

最原(またダンマリ、か……)

今日のところはここまで!

最原「……なんとなくさ。巌窟王さんが今回の裁判で、どういう話題になると黙るのかわかってきたよ」

最原「アンジーさんに不利益になるようなことは口を閉ざしてるよね?」

真宮寺「え? そうなの?」

巌窟王「……」

星「なるほどな。赤外線センサーの話題に入ったとき、最初の内こそ饒舌だったが……」

赤松「アンジーさんがすり替えを行ったって話題に入ったときは黙ってたね……」

巌窟王「……ふん。だが義理に欠いたつもりはないぞ。そもそも赤外線センサーの話題が出たのは俺が覚えていたからだろう?」

百田「そりゃそうだな。その件のセンサーを見たのがそもそもテメェしかいなかったわけだしよ」

最原「今回の場合、その巌窟王さんと同じ色の炎っていうのがそうなんだろうね」

最原「アンジーさんにとって不利益になるもので、なおかつアンジーさんを想起させるもの」

巌窟王「……」

夢野「また黙ったぞ」

王馬「こんなときになってまでアンジーちゃんを守りたいんだねー。随分と頑固っていうか律儀っていうか……」

最原「もうこの際、単刀直入に聞いてしまおうか」

最原「巌窟王さん。アンジーさんが入間さんの研究教室に忍び込んで、色々盗んだことを知ってたよね?」

入間「は?」

巌窟王「……」

最原「……やっぱりね」

入間「ま、待て! アンジーが俺様の研究教室から盗んだ、だァ!? まさかセンサーだけじゃなくって……」

最原「巌窟王さんの炎と同じ色を出して燃える燃焼促進剤」

最原「……ここまで来たら間違いないよ。アンジーさんはそれも盗んでたんだ!」

百田「あ?」

春川「……あっ」

王馬「……あー」

白銀「あ、あれ? 何人か変な反応してる人がいるけど……どうしたの?」

百田「心当たりがあってよ。入間! 本当にそんなもん作ったのか?」

入間「作った! でも無くなった! いつの間にか! う、嘘だろ……ショックすぎて涙が出て来たんだが……!」

真宮寺「ちょっと待ってほしいんだけど、本当に巌窟王さんの炎色を出す方法がそれしかなかったわけじゃないよネ?」

真宮寺「仮に、夜長さんが入間さんの研究教室からそんな燃焼促進剤を盗んでいたとして……」

真宮寺「それ以外にも二通り、その炎色を出す方法があるはずだヨ」

白銀「え? 二通りもあるの?」

真宮寺「まず一つ目に、巌窟王さん本人が研究教室に着火させた場合」

真宮寺「そして二つ目に、入間さんが新しく、その燃焼促進剤を作って使用した場合」

真宮寺「ああ、この二つ目の可能性には『燃焼促進剤はすべて盗まれたわけではない』というパターンも含んでるヨ」

春川「その辺、どうなの入間?」

入間「俺様の燃焼促進剤は2Lのペットボトルに入れて保管してたんだが……」

入間「それ一本ですべてだぜ。ついでに、新しくも作ってねぇ! そこのメイドババァに問い合わせればわかるはずだ!」

東条「……えっ?」

入間「えっ?」

王馬「いや、なにもわかってないって顔してるけど」

入間「ええっ!?」ガビーンッ

休憩します!

入間「忘れたとは言わせねぇーぞ! テメェ、俺様にワインを渡す交換条件として色々クドクド言ってたじゃねーか!」

入間「目の前で燃焼促進剤の原液に加えるためのワインを、材料になる部分とそうでない部分に分離させるところも見せただろ!」

東条「……ああ。そうね。確かに」

東条「入間さんは私の渡したカッシェロ・デル・ディアブロを間違いなくすべて消費していたわ。何を作るためだったのかは今知ったけど」

夢野「かっしぇろ……なんじゃ?」

天海「チリワインっすよ。意味は悪魔の蔵。あまりにも美味すぎて泥棒が多発したから、ワインを守るために流した嘘が由来っす」

最原「あの蔵には悪魔が出るって噂だよね。登校中の電車の広告に書かれてたから知ってるよ」

天海「あ。最原くんって東京出身っすか? もしかしたら同じ電車に乗ってたかもしれないっすね」

巌窟王「……悪魔の蔵、か。さて、果たして東条の隠し酒蔵に立ち入った悪魔とは誰なのだろうな?」

東条「ともかく、カッシェロ・デル・ディアブロに関しては、私の襲撃後でもほぼノータッチだったわ」

入間「俺様の燃焼促進剤はその『悪魔の蔵』のワインじゃねーと作れねぇんだよ! だから新しく作った可能性はナシだ!」

真宮寺「そうなると、次の可能性は巌窟王さんが放火した可能性だけど」

イシュタル『あっあー。ごめんなさーい、ちょっと口を挟んでいいかしらー?』

ナーサリー『オズの魔法使いから耳よりの情報よ!』

白銀「え? オズの魔法使いって詐欺師じゃなかった?」

イシュタル『あのね? 仮に巌窟王の炎で何かに着火したとして、燃えているものから黒い炎が出たりはしないのよ』

イシュタル『だって一般的な炎色反応とは別物なんだもの。その炎は巌窟王の精神性そのもの。木造建築物を発火させたところで……』

ナーサリー『ええ! 絶対に、素敵な彼の素敵な炎と同一なものにはならないわ! なんなら裁判場で試してみたらどうかしら?』

赤松「……って言ってるけど」

百田「だとすると……だ」

百田「アンジーが燃焼促進剤を盗んだかどうかはこの際置いておくとして、盗まれた燃焼促進剤が使われたってことだけは確かだぞ!」

王馬「いやー……百田ちゃん。キミはもうわかってるはずだよね」

王馬「ついでに春川ちゃんも、さ」

春川「……うん。燃焼促進剤を盗んだのは夜長だよ。間違いない」

最原「心当たりがあるって言ってたね。聞かせてくれるかな?」

春川「超高校級の美術部の研究教室に入ったヤツなら知ってると思うんだけどさ」

春川「夜長のヤツ、巌窟王の蝋人形を作ってたんだよ。それも完成度が狂気じみてるの」

百田「ああ。初めて見たときはマジでビビッたぜ。いや……初めて見たときっつーか」

王馬「そうだねー。あれって初めて見たときは『あれ? 巌窟王ちゃんじゃん』って思うんだけど」

王馬「よくよく見てみると蝋人形だってことに気付いて、そのとき初めて凄い驚くんだよねー」

百田「そうそう! そんな感じのヤツだ!」

キーボ「その蝋人形がどうかしたんですか?」

百田「……手の平に、芯があったんだよ。普通の蝋燭みてーな芯がな」

最原「え?」

最原「……まさか! それって!」

今日のところはここまでにしてクリスマスイベントに備えるぜ!

選択肢
1)火を付けるとすぐ溶ける
2)火を付けると黒い炎が出る
3)火を付けると笑う

最原「黒い炎が出た……とか?」

百田「ああ。ドンピシャだ終一」

春川「いや。微妙に間違ってるよ。最原」

最原「え?」

百田「何言ってんだよ。間違いねーって」

春川「百田。確かにアンタは間違ってない。ただ最原の方は認識にズレがあるんだよ」

春川「アレは実際に見るのと見ないのとでは決定的に違うんだって」

王馬「あー。物凄く抽象的だけど、春川ちゃんの言ってることもわかるなー」

王馬「ただ『火を付けると黒い炎が出る』ってだけだと薄っぺらなくらい凄かったんだよね、アレ」

王馬「字面だとそうとしか言えないんだけどさ」

巌窟王「……アンジーは……狂っていた」

最原「!」

巌窟王「俺を再現するためだけに、ありとあらゆる手段を使い、常人には困難な計算を感覚と肌と経験則で踏破し」

巌窟王「……アレを作ってみせたのだ」

赤松「巌窟王さん?」

巌窟王「ここまで暴かれたら、もう黙っている方がアンジーにとって不利益だろう」

巌窟王「入間。この裁判の結果はどうあれ、後でアンジーには謝罪させよう」

入間「認めるんだな? 俺様の研究教室から燃焼促進剤と、赤外線センサーを盗んだことを!」

巌窟王「……」ポイッ

焼け焦げたペットボトル「」カランッ

入間「……これ……は!」

巌窟王「燃える研究教室の中で見つけた。見覚えがあるな?」

入間「間違いねぇ! 燃焼促進剤を入れていたペットボトルの容器だ!」

星「……完全に決まったな。巌窟王が証言した以上、もう疑いの余地はねーはずだぜ」

星「犯人の一連の工作にな」

最原「……」

獄原「あ、あれ? 今度は最原くんが黙っちゃったよ?」

最原「……」

赤松「最原くん? どうかしたの?」

最原「……」






最原「わかった。アンジーさんが、なんで空き部屋に向かったのか」

最原「まず、アンジーさんは研究教室の外に出たんだ。そのときの持ち物は、犯人の一連の工作を振り返ればわかるはずだよ」

キーボ「巌窟王さんの行動を特定するための赤外線センサー。研究教室の放火に使ったと思われる燃焼促進剤」

キーボ「この燃焼促進剤はアンジーさんが研究教室の中にいる可能性を巌窟王さんに示すブラフの意味もあったはずです」

百田「まあ、巌窟王はアンジーが盗んだことを知ってたわけだしな。充分ブラフにはなるか」

春川「でもブラフにしてはあからさますぎるよね? ちょっとは疑ったりしなかったの?」

巌窟王「もちろん疑った。だが……一割だろうが一分だろうが、アンジーが中にいる可能性がある以上は」

東条「サーヴァントとして突っ込まないわけにはいかなかった、というわけね」

最原「実はアンジーさんの持ち物がもう一つあったとしたら、どうだろう」

巌窟王「もう一つ?」

最原「多分、アンジーさんはあの蝋人形を作るときに、テストのために蝋燭を空き部屋から持ってきてたんじゃないかな」

最原「実際にそのギミックを起動させてみたりしたはずだよ」

巌窟王「そうだな。確かにヤツは……」

巌窟王「……バカな! 何故俺は今まで気付かなかった! 忘れてはいなかったというに!」

獄原「え? どうかしたの?」

最原「そうなんだよ。あの研究教室の近場で蝋燭……あるいは火種を調達しようと思ったら空き部屋が一番手っ取り早いんだ」

最原「そして、一連の工作アイテムをアンジーさんが持っていたとすると、彼女は研究教室から出るとき何を考えていたのかもわかる」

最原「……後片付けだよ」

遊戯王を見てきます!

夢野「じゃが巌窟王は研究教室の外に出るな、と言い含めておったんじゃろ?」

キーボ「いや。ただ『帰る場合に関してはその限りではない』と付け加えておいたはずです」

キーボ「だとすると、帰り道の途中にちょっと立ち寄る程度の位置にある空き部屋に向かうのは自然ではないでしょうか」

天海「蝋燭を戻すだけなら一分もかからないっすからね」

天海「そこで犯人と鉢合わせ。何かが起こってアンジーさんは気絶させられた……」

最原「具体的に何が起こったのかまでは、僕にもわからない。でも推測はできるはずだよ」

最原「巌窟王さん! ゴン太くん! あの部屋、何か臭ってたよね?」

獄原「……あ。そういえば、何かコゲ臭かったよね。火事から戻ってきたっていう巌窟王さん以外にも何かが燃えた痕跡があったよ」

巌窟王「BBにも臭気計で確認させた。あの場で何かが燃えたのは間違いないようだ。それも事件の起こった前後のかなり真新しいタイミングで」

最原「……巌窟王さん。あと一つ確認させてくれるかな」

最原「僕の叫び声を聞きつけて、駆けつけてくるときに変な物音が聞こえたけどさ」

最原「……床が抜けたりしなかった?」

巌窟王「……抜けたな」

最原「……犯人が何を考えていたのかは流石にわからない。でも何か、そこそこ労力がかかることをしていたんだとしたら」

最原「例えばそう。床の横木を切る、みたいな力のいる作業をしていたとしたら……」

最原「……予測は無意味だな。じゃあこう言おう」

最原「アンジーさんのことを犯人が殴ったとき、床には何か『燃えやすいもの』が置かれていたはずだ」

最原「『重労働をして体が温まってきたから脱いで畳んでおいた服』とか、そんなものがさ」

真宮寺「なにか随分と確信を持った言い方だネ。燃えた布のカスでも見つけたのかな?」

最原「それは見つけてないよ。でもこう考えると納得できるんだ」

最原「犯人が研究教室を燃やした理由……そこに裏の目的があったのかもしれない」

東条「裏の目的……?」

最原「犯人はアンジーさんを殴った。それも何の計画性もなく突発的に」

最原「床に蝋燭が転がり、犯人が呆然としている内に火は燃え広がった」

最原「そして、その小火を慌てて処理している内、犯人の体のどこかには無視できないレベルの傷が残った」

最原「……つまり、火傷だよ。多分、手のひらか手首かにできたんじゃないかな」

最原「後でアンジーさんの学級裁判が起こったときに、議論が発展して『火傷したヤツが怪しい』ってことになったときを犯人は恐れたはずだ」

最原「だから、犯人は火傷を負ってもおかしくないシチュエーションを作り上げた」

茶柱「……アレはアリバイ工作以外に、自分の傷の言い訳への意味もあったと?」

王馬「おっとー! じゃあつまり、怪しいのは春川ちゃんか百田ちゃんかなー?」

百田「この火傷は巌窟王を助けたときに負ったモンだぞ!」

春川「ついでに言っておこうか。確かに私たちは煙や火に燻されたけど、手の平とかは無事だよ」

春川「普通、慌てて小火を処理しようとしたら真っ先に火傷する部位は緊張のせいでずっとグーだったからね」

巌窟王「あるいは、俺に肩を貸したときに腕を掴んでいたりな」

入間「じゃあ! この中で火傷を負っているヤツが犯人でブッ決まりなんだな!?」

入間「おっしゃーーー! 全員全裸になりやがれーーー! 俺様がケツの穴まで観察してやっからよー!」

赤松「やだよ! 普通に!」

最原「それに、もうその必要はないよ。だってもう、ずっと前の段階から犯人なんて一人しかいないんだからさ」

真宮寺「え?」




最原「……真宮寺くん。キミなんじゃないの? 悪いんだけど、ちょっとその手の包帯を取ってくれる?」

真宮寺「……」

真宮寺「えっ」

百田「真宮寺が……犯人だと?」

真宮寺「待ってヨ。なんでそう思ったの?」

最原「かなり話は巻き戻るんだけどさ。一人だけこの議論中に気になることを言ってた人がいたんだ」

赤松「それが真宮寺くんってこと?」

最原「いや。違うよ。東条さんだよ」

東条「え?」

最原「あのときの言葉がずっと引っかかってたんだ。ほら、いつ赤外線センサーのすり替えが行われたのかって話題のときに」

最原「キーボくんが火事の間中はドアを叩いていたって話を聞いたときに――」



東条『そうなると……話がおかしいことになるわね』

東条『夜長さんが襲撃されたのは偶然の可能性が高いのに、改造センサーのすり替えが行われたのは、どの事件よりも前の話……』



百田「それがどうしたんだ? 入間は言ってたじゃねーかよ、引きこもり始めたのは夜時間より前だってよ」

最原「うん。そう。それを知ってたなら全然不自然な発言じゃない」

最原「ただこの発言が裁判中に出たのは『入間さんがいつから引きこもっていたのか』の発言をする前なんだよ」

最原「東条さんは学級裁判以前から知ってたんだ。少なくとも今夜『入間さんはずっと研究教室にいた』ってことを」

東条「……ええ。そうね。知ってたわ。だって彼女は」

入間「俺様の、この学園に来てからの最高傑作が盗まれたんだぞ。警戒して当たり前だろうが!」

入間「だから、この事件以前から俺様は自分の研究教室に立ち寄る頻度を滅茶苦茶上げてたんだ!」

最原「あの階層ってアンジーさんと真宮寺君の研究教室以外には、かなり大きな機械があって、入間さんは定期的にそれの調査もしてたよね?」





入間「んなモン休止に決まってんだろ! 少なくとも無邪気にやってられる気分じゃなかったんだからよ!」

最原「それだけ聞ければ充分だよ」

最原「……犯人がアンジーさんを殺す決断を下したとき、おそらく一連の工作はかなり巻きで行われたはずだ」

最原「だとするとさ。少なくとも東条さんが襲撃された十一時ニ十分から大雑把に逆算したとしても」

最原「アンジーさんが襲撃された時間はかなりの確率で夜時間ってことになるよね?」

最原「……アンジーさんが普段は絶対に順守していた門限を超している時間だ」

王馬「それが何?」

最原「いや。ただ犯人が『アンジーさんを突発的に襲うほどの何かを空き部屋でやっていた』と仮定したとして」

最原「入間さん、アンジーさんがやってくるはずがないと犯人が確信していたとして」

最原「それでもまだ不十分だよね。だって一人、その階層にやってくる可能性がある人間が残ってるんだからさ」

茶柱「……あ」

茶柱「そうか。真宮寺さんですね!? あの階層に用がありそうな人なんて他にいません!」

最原「犯人がそこまで警戒心を弱めていた理由として考えられるのは、犯人が真宮寺くんがやってくるわけがないと確信していた場合か」

最原「……犯人が真宮寺くん自身だった場合の二通りだよ」

真宮寺「……」

真宮寺「ククク。超高校級の探偵のキミとしてはあまりにも弱い根拠だネ」




最原(わかってる! だってコレはこじつけだ!)

最原(決定的な証拠は何もないんだから!)

今日のところはここまで!

真宮寺「……ククク。ま、気にすることはないヨ。誰にだって間違いはあるし……それに」

真宮寺「今回の事件は間違っても次がある」

最原「!」

真宮寺「……ククク、ククククククク」

最原(……逃げられるな。このままだと)

最原(そしてまた繰り返される、かな?)

最原「……」

最原(ちょっとでいい! 真宮寺くんのことを揺さぶることさえできれば……!)

最原(ギリギリのところまで追い詰めることさえできれば! アレを使えるのに!)

真宮寺「この分だと、犯人が火傷した可能性っていうのも疑わしい――」






巌窟王「我が征くは恩讐の彼方!」反論!

最原&真宮寺「え?」

巌窟王「いや。最原は間違ってないぞ? 間違いなくお前が犯人だ。真宮寺是清!」

最原「……」

最原「えっ? 巌窟王さん? 何言ってるの?」アタフタ

百田「テメェが言い始めたことだろうが」

巌窟王「最原。証拠が足りないと言うのなら、俺の証拠を分けてやろう」

最原「!」

巌窟王「俺はお前を信じよう。探偵として!」

巌窟王「……調停者の類は(ほぼ)気に食わないが、現時点では仕方あるまい!」

巌窟王「仮契約だ。我が炎を存分に使うがいい!」

最原「……それって」

巌窟王「この裁判の最中のみ、俺はお前に応えよう」

巌窟王「サーヴァント、アヴェンジャーの名にかけて、だ!」

最原「……」

最原(……負けられなくなったな)

最原(綱渡りに近い議論になるけど、このまま突っ切る!)

最原(そうでなければ僕たちは……この裁判を乗り切ったとしても!)

最原(……欠けてしまう。絶対に!)





学級裁判 中断

カルデア劇場

ナーサリー「さあ! イシュタル! 始めましょう! 一体何から話そうかしら!」ワクワク

イシュタル「……えっ。何このコーナー。え? 何?」アタフタ

ナーサリー「学級裁判の合間には、こうやって与太話を挟むものだと聞いたのだわ!」

ナーサリー「なんかダークネスで胡乱なブラックでギリギリのトークを繰り広げればいいって聞いたの!」

イシュタル「誰から!?」ガビーンッ!

ナーサリー「うふふ、良い調子よイシュタル! 流石は闇属性の女神なだけあるわ!」

イシュタル「闇じゃないのだけど! どちらかというと光属性なのだけど!?」

ナーサリー「闇属性の女神はみんなそう言うのだわ……」

ナーサリー「ていうか神って大体闇属性な気がするの。アンデルセンとか」

イシュタル「アンタの作者(かみ)の内一人と一緒にしないでくれる!? ていうか何このコーナー……え!? 見られてんの!?」

イシュタル「……」




イシュタル「金星の女神、イシュタルですっ! 光属性よ!」キラキラキラ

ナーサリー「みんなの物語、ナーサリーライム! 病み属性ね!」キラキラキラ

短い話のはずなのにもうこんなにスレが使われちゃったのは、どう考えてもスレの方が短いから。『僕は長くない』。
さておき、ペース配分が面倒臭くなったので一回切って別スレに移動します!

このままだと余計に中途半端なところで切れちゃうしね!


次回

巌窟王「亜種並行世界!」 アンジー「虚構殺人遊戯:才囚学園ー!」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年10月20日 (金) 01:28:51   ID: _Lq2Zndl

催眠術かけてる夢野かわいい

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