ブルー「俺達は…」ルージュ「2人で1人、だよねっ!」『サガフロ IF】 (967)






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  /ヽ   /ヽ          ( ̄ ̄   ノ           /ヽ
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( <  , -、 | |〈  ノ , -、      l l<〉,へ-、 ヘ_  /ヽ- 、 (_  ,-‐' 〈_,ノ ,-―'フ  ,へ-、
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         l/                  ̄            ー'





[注意書き]


※一部のサガフロ 没ネタ

※クレイジー・ヒューズネタ があります

※オリジナル解釈と原作中に無い展開もあるのでご注意ください



※クレイジー・ヒューズ程じゃないけどキャラ崩壊もございます







           ※ - 序幕 - ※



  prologue<プロローグ> ~ 7歳の修士、忘れ去った思い出 ~











 その日は、一際暑い一日だった


 降り注ぐ猛暑が石畳を熱し、雑踏を奏でる靴底にさえ悲鳴をあげさせるのではないかと心配する程だった
額に浮き出る玉汗をハンカチで拭いながらも聖堂へ脚を運び、修士として勤行に励む者のあらば
快晴からのさして嬉しくも無い贈り物に根をあげ、ポプラ並木の木陰で涼を取る住民…


心なしか、夏の風物詩たちの鳴き声すら力無いように感じられる






その子供は修士のローブを身に纏い、そんな光景をぼんやりと眺めていた
 半刻ほどで時計の短針は正午を告げるだろう時間帯に噴水広場で座り込み
虫取り網や空っぽの虫籠をぶら下げた同世代くらいの少年たちが走り回る姿をただ、ただ見ていただけだった



「…どうしよっかなぁ」パタパタ



齢7歳、行き交う人々を眺めながら―――――彼は考えなしに飛び出したことをちょっぴりだけ後悔していた

歳相応に脚をばたつかせる、2本の脚が左右交互に宙を掻き分け、その度の影も動く


長く伸びた癖の無い銀髪、風に靡くキラキラとしたソレは噴水の水面に煌めく陽光の輝きにも勝るとも劣らない



「帰ったら、きっと先生達にまたお仕置きされるだろうなぁ…」



眼を細めて空を仰ぐように見つめる、眼界にはどこまでも蒼い空があり、その蒼さに吸い込まれていきそうな気さえした
 着の身着のままで森の奥の奥、誰に見つかることも無いであろう施設から大人の監視を掻い潜ってでも観たかった外


書物の上のインクでしか知り得なかった事柄や挿絵の中だけの情景、触れることができるのか、っと淡い期待を胸に
飛び出して来たが世の中というのはそこまで甘くなく

結局の所、知りたいと思った世界の1/10にすら満たなかった




…いや、1/10だから実りは有った、0じゃないのだから、有ったのだ








「…んんっ?」





彼はそれを見つけた


思えばそれは見えざる手によって手繰り寄せられたとも言えなくもない邂逅だった






 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
銅貨を数枚手渡し、これ見よがしに、それでいて贅沢に茹だる様な暑さに苛まされる者に見せつけて喉を潤す住人


猛暑日を肴に冷酒を嗜む、そんな夏の風物詩を満喫する通行人の顔が目に入る






その子供は修士のローブを身に纏い、木の根元に腰かけ書物を読んでいた
 半刻ほどで時計の短針は正午を告げるだろう時間帯にポプラ並木の木陰で捗らない読書にため息を吐いた
どうしても学院に居たくなかった、だから外へ飛び出したが失敗だったか、っとうんざりしていた



「……よくもまぁ駆けずり回れるものだ」



齢7歳、時折手にした書物から視線を外し―――――彼は何も考えずに溌剌と動き回る同世代に聴こえぬ言葉を放つ

歳の割りに大人びて見える彼は、そんな口調とは裏腹に羨望の眼差しを向けていた


束ね上げた長く艶やかな金髪は肩から流れるようで、丈夫な寿樹を背もたれにしていた彼の白い肌は雪のように美しい



「…我ながら馬鹿な事をした、抜け出せば帰った後がどうなるかわかるだろうに」



眼を細めて考えたくも無い事柄から逃避を図るように紙の上の文章へ眼を向ける
 この国一番の荘厳な創りの学院から、愛読書という名の教科書片手に窓から飛び出した


すこしだけ外の世界には興味があった、それが彼の知的好奇心を刺激する事もさることながら
気に入らない教師に教鞭を振るわれるのを嫌っていたという事も手助けしたのだ

何でも良い、何だって良いから適当な理由をこじ付けて逃げ出したかったのかもしれない




…我ながら馬鹿な事をした、と後々後悔すると分かっていてもせずにいられない若気のなんとやらだ








「……なんだ?」





彼はそれと目が逢った


思えばそれは見えざる手によって手繰り寄せられたとも言えなくもない邂逅だった







「ねぇキミ、僕と一緒に遊ぼうよ」

「お前と遊ぶ理由が無い、去れ」




初対面の少年に彼は手を差し伸べ声を掛けました

初対面の少年に彼はそれだけ言い放つと再び本に視線を戻しました




「えー、なんでさー」

「なら答えてみろ、俺がお前と遊ぶ理由があるか、言ってみろ」



少年は初対面の彼に問答を投げました

少年は初対面の彼からの謎かけの答えを探しました




「理由?そんなの簡単さ」

「簡単なモノか、嘘をつくな」



少年は初対面の彼に対して朗らかに笑いかけました

少年は初対面の彼に対してムッと頬を膨らませ怒りました










           「だって、キミはさっきから友達と遊んでる子をじーっと見てたもの」





少年は回答を口にしました

少年は回答を耳にしました




「どうかな?」

「…」



彼は口を開きました

彼は口を開けなくなりました





ずばり、彼の心の内を言い当てたのです、正解でした

ずばり、彼は言い当てられたのでした、驚きました


「本当は誰かと遊びたいと思ってるよね、でもお友だちがいないから一人で本を読んでる」

「仮にそうだとしたらなんだ、それとお前と俺が遊ぶ理由に繋がらないぞ」








首を振り、本の文面から視線をあげて銀髪の少年を見つめる

金色の糸がはらり、と肩から零れ落ちる




何処に行く宛ても無く、知り合いも居らず、頼れる者もなく、無計画に飛び出した

何をすれば好き事かもわからず結局のところいつもの書物を読み漁る"フリ"をするしかない




ただ、ただ…羨望の念に駆られて他者を見ているしかないだけの、そんな自分を








目の前の少年はそんな彼を言い当てたのだ




出会って間もない、名前も知らない彼に自分の立場を言い当てられた








「あるよ、僕も同じだから」

「なんだと」







「僕もお友だちがいないから、ぼんやり見てるだけしかできないから
                だから、僕とお友だちになってほしい、僕と遊ぼうよ」







「つまり、"お前とお友だちになればひとりで本を読む理由が無くなる"と」


「うん、僕もお友だちができて遊べるし、キミもじーっと見てるだけじゃなくて済むよ」



「それが"お前と遊ぶ理由"だというのか」


「そうだね、それが"キミと遊ぶ理由"になるね、ほらね簡単だったでしょ」



「面白い奴だな、いいだろう」

「ありがとう、キミも中々面白いと思うよ」





この時、しかめっ面しかしていなかった彼が初めて微笑みました、心からの微笑みでした

この時も、その前からもずーっと笑っていた彼は一層明るく笑いました、心からの喜びでした




同じ背丈、同じくらいの歳頃、両手を合わせてみれば鏡に触れたようにピッタリな手の大きさ





整った顔立ち、傍から見れば女の子に間違われてもおかしくない端麗さ
















           なにもかも "生き写し" のように そっくりな ふたり は 歩き出しました












 これは、15年後…此処、魔法大国の"リージョン"として名を馳せる[マジックキングダム]にて
運命の日を迎えであろう少年たち2人の忘却の彼方へ置き去りにされた思い出







      この運命的な接触から15年の歳月が流れる…


*******************************************************
――――
―――
――



【旅立ちの日 時刻 12時00分】



シュルッ…  スッ―――






              ブルー「…行くか」






 艶やかな蜂蜜色の髪を束ね、藍色の術士の法衣に裾を通し、22歳になった彼は長年暮して来た寮の部屋を発つ
後に使うであろう者の為に整理整頓をしっかりとし、修士修了の日を迎えようとしていた



教員a「修士ブルーよ、ついてくるが良い」



 重々しい声色が扉越しに彼を呼んだ、名を呼ばれた彼はゆっくりと瞼を開き廊下で待ち構える教員の後に続く





*******************************************************
【旅立ちの日 時刻 12時00分】



シュルッ…  スッ―――






           ルージュ「この部屋ともお別れか、なんだか寂しいなぁ」






 待っている間が暇なのか、するべきことない彼は癖の無い長く伸びた銀髪を弄っていた、朱色の術士の法衣に裾を通し
齢22歳の彼は椅子に座って脚をパタパタとさせていた
 時折欠伸をしたり腕を伸ばしたりと呑気に修士修了の日を迎えようとしていた



教員b「修士ルージュよ、ついてくるが良い」



 重々しい…が、何処となく哀しそうな声が彼を迎えに来た






コツッ…コツッ…




 教員b「…数年も前からお前には言っていたな、お前に双子の兄が居ること」


 ルージュ「はい、先生…えっと、僕と同じで兄も今日、学院を発つのですよね?」


 教員b「……そうだ、それと無理に敬語は使わんでもよい、いつものように話せ」



教員b「お前の兄は我々"裏の学院"と違い、"表の学院"で育てられた…
     我らが"裏"は学院の外へ出る事は禁じられている
      もっともそのことはお前が一番わかっているだろうから私からはこれ以上何も言わん」


ルージュ「兄のブルーは外へ―――」



教員b「……表と裏は違う、向こうは"リージョン"を出ることさえしなければ街を自由に出歩ける」


教員b「だがお前の兄はお前の事を名前しか知らない、顔も性格も、何もかもだ、お前と同じで、な」


それ以降だんまりを決め込む教師を見て、ルージュは肩を竦めそのまま歩く、これ以上は訊くだけ無駄なのだろうと




教員b「…」


教員b「これは独り言だ」


ルージュ「?」



教員b「私含め、一部を除いた殆どの者がお前を我が子のように想っている、よく立派に育った」

教員b「だから送り出すのが辛いのだ」




ルージュは"独り言"を聴いていた、此方から何かを口出しするでもなくただ聴くだけだった




教員b「修士修了式でお前は晴れてこの国の術士の1人となる、そして、何をすべきか勅令を授かる、それだけだ」




自分よりも一歩先を進む年上の人物は表情を窺えない、だが、その声だけはこれまでの"独り言"で一番哀しみに溢れていた




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【旅立ちの日 時刻 12時15分】

【BGM:ブルー編OP】
https://www.youtube.com/watch?v=bG-O7U2WWig&index=3&list=PL33021FE67F7DCC92


                『修士修了式 開会!』

            『終了者の氏名発表を主任教授から行います』




長い廊下を渡り、荘厳な大扉は開かれる、高い天井には天国に住まう住人たる天使たちが描かれていた
 そんな室内全域に響き渡るように開会式の発表は執り行われた


  『教授会による厳正な成績審査の結果、全会一致により今期の修士修了者を…』

           『修士ブルーに決定致しました』



            『 修士ブルー! 前へ! 』


ブルーは寡黙に、いや…普段冷静な彼でさえもこの時ばかりは緊張したかもしれない
 それだけ強張って見えたのだ、彼とて人の子だ

この優等生は"いつも以上に背筋を伸ばして"入室した


髭を蓄えた学会のお偉方は口元を綻ばせ拍手喝采で蒼の術士を歓迎する



      『ブルーよ…汝をマジックキングダムの術士に列する』

     『術士としての義務を果たし、キングダムへの忠誠を全うせよ』





 ブルーは表情にこそ出さないように努めていたが内心、打ち震えていた



自分は王国の為に…我が祖国の伝統と誇りある術士の1人となれた、と

祖国の名誉とさらなる躍進の為の1人となったのだ、と



それは中世の貴族が一国の妃に跪き、剣を天に掲げ命を賭す誓いを捧げる気持ちと通じているのだろう
 さながら物語の主人公か何かになったように義務と責任を背負うことに打ち震えた










     『慣例に従い、キングダムを離れ…リージョン界への外遊を許可する!』






"リージョン"界



この世界には混沌と呼ばれる漆黒の海がある、それは喩えるならば宇宙空間のようなモノで
 その真っ暗闇の空間に無数の"リージョン"と呼ばれる小さな世界がある





"混沌"を宇宙空間と喩えるのなら

"リージョン"はさながら暗黒の海に浮かぶ小惑星<べつせかい>である



機械技術が発達し、人工知能を搭載したロボットやサイボーグが生きる異世界が存在し

サムライ、忍者と呼ばれる風変わりな戦士が生まれ育った別世界もあり

ドラゴンやスライム、各種多様なモンスター種族が平和に暮らす小惑星も実在し

そして、此処…[マジックキングダム]の様に魔法大国として名を馳せるリージョンがあるのだ







このご時世、船<リージョン・シップ>に乗り、宇宙旅行…もといリージョン旅行なんてさして珍しくもなんともない

 されどもこの主任教授の御言葉を聴いて分かる通り、原則として[マジックキングダム]の住人は
船に乗り、他所の異世界へ気軽に旅行へ行くことは禁じられているのだ


外からの観光客は来るのに、内から余所へは許可なく行けない…この時勢にしては珍しく閉鎖的な部類の国家だ





   『修了者の第一の務めはリージョン界を巡り、術の資質を身に付けより高度な術を鍛錬することである』





資質、…焚火を起こそうと思えばそこには火種となるモノが必要となる、火種があって、燃えるモノがあり
初めてそこに大火を立ち昇らせる事ができる


資質を持つものは鍛錬を積むことで基本術以外の術、…即ち高位の術を操れるようになる
 それゆえに術士を志す者は喉から手が出る程に欲しいモノだ





 さて、22歳の若者に下された勅命は此処までを簡単に訳せば

国外へ旅立ち、術の資質を身に着けて最強の魔術師になって来い、簡単に訳せばそれだけだ




そう、これだけで終わる話ならば







              『……そのためには"あらゆる手段を用いてよい"』











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兄のブルーは幼少の頃よりそう学んだ、そしてそれは双子の弟であるルージュも同じである


目的達成の為ならば"あらゆる手段"を使う事も厭わないように、と


あらゆる手段…つまり人道に反する行いであっても、それを許可するというのだ






         ルージュ「あらゆる手段を…」ゴクッ







時を同じくして、全く同じ内容を聞かされていたルージュの顔は険しいものへと変わる

 彼もまたブルーと同じことを学びはした、しかし彼は"お利口さん"ではなかった



世の中の大半の人間は利益の為と他者を蹴落とし、時には何かしらの見返りを求めて動く、効率的な賢い生き方



生憎と、彼はその生まれつきの性格ゆえに他者を蹴落とす事よりも手を取り起き上がらせることをするのだ

何の見返りも無く、ただただ純粋な善意で他者に手を差し伸べる、全く以って非効率的なやり方

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                   『異例の事だが出発前に校長からのお言葉がある』





"裏の学院"でルージュがそれを聞き、ハッと我に戻ったころ

"表の学院"でブルーは、天を見上げ校長の言葉に意識を傾ける







                    - ブルー、貴方は選ばれし者です -


                      - 双子ゆえに魔力が強い -

                     - しかし、双子のままでは -

                   - 術士として完成することはありません -

                 - 貴方はその運命に従わなくてはなりません -



                       - 今日、別な場所で -

                    - 貴方の双子の片割れのルージュも -

                    - 同じように終了の日を迎えています -



                   - キングダムには不完全な術士よりも -

                    - 完璧な一人の術士を求めています -

                   - それは貴方だと信じてますよ、ブルー -









             - 行きなさい 資質を身につけ 術を高め そして――――  -













                双子の術士は同じ時間、同じタイミングで御言葉を耳にした












                   ル ー ジ ュ を 殺 せ !











                    ブ ル ー を 殺 せ !






魔術師を育成する学院の校長にしてこの国を治める者…

              …御国の最高権力者からの勅令、それは…







[双子の兄弟同士で殺し合え]という命令だった、22年間、彼等は生まれた時には既に施設に居た



一度たりとも出逢ったことの無い、双子の片割れ


名前しか知らない、赤の他人と変わりない相手



だけど、双子の兄弟


















      - 片方を殺して、自分こそが優れた魔術師であると、最強の証明をしてみせよ -














この物語は…

15年ほど前に、実は禁を犯して学院の脱走を試みた弟と兄が出会っていたという在りもしない物語




ただ、お互いに忘れてしまった

ただ、お互いが生き別れの家族だと知らない



たったそれだけの話




かくして、今日この瞬間、この言葉を合図に殺し合いは始まった



           - 国の威信を背負い、決闘に打ち勝ち生きる為に兄は旅立ち -


      - 兄弟殺しに躊躇いを感じながらも、国家反逆罪を恐れ戦う道を取るしかない弟 -







           ※ - 第1章 - ※



        ~ ファースト・コンタクト ~








 ルージュの足取りは酷く重かった


彼は先述の通り、"御人好し"と評されるタイプの人種だ

 温和でそして子供っぽさの残る純真さ、そんな彼に出逢った事が無いとはいえ(実際には会ってるが)
双子の兄を殺せと命を下されたのだ

 国家の最高権力者から直々の勅令、王国の意向に背く事となればどのような理由であれ
それは"国家への反逆"を意味する


平和なリージョンとして有名なこの王国に限った話ではないが国の"暗部"というのどこもそうだ
裏では人に言えない事が平然と行われるものだ


自分を迎えに来た教師の辛そうな声色、今ならあの意図も理解できる…


まだ見ぬ兄は殺し合いをどう思っているのか?生き延びる為にルージュを本気で殺すつもりなのか…




ルージュ「…ブルーを殺せ、か」トボトボ




出発前に教授等からいくらかの支給品を渡される

[バックパック]にいくらか詰め込まれた傷薬に精霊石、そして―――




ルージュ「…わわっ、1000クレジット」ジャラッ



教員c「国からの援助資金だ、最初の1ヶ月はそれでどうにかなるだろう
     その先は自給自足となる学院でサバイバルの心得は一通り学んだバズだ」


ルージュ「…1ヶ月かぁ」ジャラッ


教員c「それとこれも渡しておく」スッ



ルージュ「! この宝石は…」


白い手袋をはめた掌の上に輝く蒼い結晶…それは彼も見た事があった、魔術を学んできた彼にとって
それはある術を使う為にどうしても必要なアイテム


教員c「[リージョン移動]、知っての通りお前たちがそう呼んでいる<ゲート>の術を使う為の媒介だ」

教員c「これが無ければ一度行った事のあるリージョンへの瞬間移動も侭ならない、失くしても再発行はしない、良いな」


ルージュ「…はい」


銀髪の好青年は教員から重要なソレを受け取った、その直後だった
 昔から勘の良い彼が全身総毛立つような嫌な感触を覚えたのは



ルージュ「うっ…!?」

教員c「?…どうした」



ルージュ「…質問ですが、僕がこの旅で一度も<ゲート>を…ひいてはこのアイテムを使わないのは構いませんね?」


その質問に眉を顰めたが、別に構わないと答え聴き、ルージュはありがとう、と軽く会釈した
 この蒼い宝石から得体の知れぬ何かを感じた、願わくば資質集めの旅の最中で何処かに捨てても良いとすら思う程に

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ブルー「資質集めの旅か、証明してみせる…!」グッ



ルージュがシップ発着場へと歩き始めた頃、紅い宝石を強く握りしめ、彼は強く念じる






ブルー(祖国は不完全な1人の術士よりも完璧な術士を求めている)

ブルー(資質を集めろ?双子の片割れを殺せ?)




ブルー(俺こそが優れていると証明してやる、全ては国の為に!)






ブルー(そして…俺自身が生きる為に
      会った事も無い赤の他人同然の奴にみすみす殺されてなるものか!)




闘争心、互いの命を懸けた競い

優れているのは自分の方だと言ってくれた上層部への期待に応えるべくブルーは真っすぐに
自分が華やかに勝利という凱旋を通り、忠誠心を示すことに燃えていた

そして、同時に死にたくない、まだ生きて色んな世界を見たい


小さな望みもあった


だから尚更に負けられなかった、死ねばそこで終わる、どんな生物だってそうだから…







ブルーは意識を集中させる、頭の中に自分にとって連想しやすいモノを…"青"を


海…深海の奥底に居るイメージを思い起こす、そして空想の海にピラミッド状の抽象的な像を浮かべる


無数の三角形が姿形を変える、その"世界"を…その"リージョン"を象徴するヴィジョンへと変換するッ!








 ブルー「…さらば、故郷よ…必ずここに戻るその時までは…っ!」




ルージュ「バイバイ、マジックキングダム…必ず帰って来るからねっ!」







2人はそれぞれ行くべき世界を…進むべき小惑星<リージョン>目掛けて旅立った!

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                 ブルー「<ゲート>! …[ドゥヴァン]へ!!」シュンッッ!!




                 ルージュ「[ルミナス]行きのシップに乗せてください!」




*******************************************************



―――
――



【双子が旅立ってから…初日、18時27分】




「ピンポンパンポーン♪ Attention, please! Attention, please! お客様!
  本日は当機をご利用いただき誠にありがとうございます、[マジックキングダム]発、[ルミナス]便は間もなく
 [ルミナス]に着陸致します…機体が揺れますので、しっかりとお席についてシートベルトを着用お願い致します」






 キィィィィン…!  プシュゥゥゥゥ…






       ガヤガヤ…!



「着いたなー!ルミナス!此処で精神の修行かぁー!」
「ねぇ!陽術と陰術どっちにする?やっぱり光を操る術よね?恰好良いし!」
「ばっかだなー!恰好良いってったら影操る魔法だろぉ!!」



シップの着陸と同時に観光客や修行目的の客がなだれ込むように降りて来る、その中にも当然ルージュは居た





ルージュ「…すっげぇぇ!ルミナスに着いちゃったよ…術を使ってないのに!」キラキラ…!





マジックキングダムは機械科学に疎い、そして外遊を一部の者以外は許されない

つまり、まるで田舎から都会にやって来て大はしゃぎの子供よろしくと彼は浮かれていた


ゲートの術を使えば既に登録済みのこのリージョンへは一瞬で来られる、にも関わらず態々機械の船に乗って
混沌の海を越えて別の惑星に時間を掛けて来るなど非効率と言えよう




それでも彼は"アレ"を使うのが何故か気が引けたし、何より彼自身機械や外の世界の技術に興味があった



これがルージュと外界のファースト・コンタクトであった




「ねぇ?さっきの人なんだったんだろう?ほら?[オーンブル」の前に居た」ヒソヒソ
「ああ、随分前から此処に張り込みしてるパトロールさんだよ、なんでもリージョン強盗団を追ってるとか」ヒソヒソ
「妖魔だよな、あれ…俺、人間<ヒューマン>以外の種族見た事無くってさぁ」ヒソヒソ



ルージュ「…とりあえず、どうしよう」キョロキョロ



此処へ来たのは光の力を司る陽術の資質、もしくは闇の力を操る陰術の資質を得る為である
光と闇は裏表、どちらか一つの資質しか得ることができないのだ
 しかも出発前に兄ブルーの得た資質を得る事ができないと耳にした、…早い者勝ちの競争だから考え所だ



ルージュ「う~ん…」


発着場のラウンジの椅子に座り、悩む…


最終的には双子の兄と殺し合いをせねばならない、それを踏まえた上でどんな術を得るべきか
闘い方もある程度考えて置く必要がある








            緑髪の少女「……はぁ」トボトボ

            妖魔の女性「お辛いとは思いですが今はこれからを考え無くてはなりません」ギュッ



        緑髪の少女「…うん、そう…だよね、もうおばさんの家には帰れない、だからっていつまでも
                      くよくよする訳にいかないよね、いつも支えてくれてありがとう」ニコッ


            妖魔の女性「ふふっ、貴女様は笑顔でいらっしゃる方が素敵ですよ」






ルージュ「…」ポケー


ルージュ(…あの二人、珍しい人だなぁ…人間<ヒューマン>…じゃないよね?)




他のシップが次々と着陸し、ターミナルゲートはすぐに観光客の波でごった返し始めていた
そんな時、なんとなくぼんやりと眺めていた彼は2人組の女性が目に留まった



片方は紛れもなく妖魔だ

20代の女性で物腰が柔らかく、美しい女性
白いドレスに茶髪に着飾った花飾りがよく似合う女性が付き人を励ましていた


もう一人は10代半ばだろうか、緑髪の整った顔立ちでさっきまでがっくりと肩を落としていたが
付き添いの人に励ましの言葉を貰って笑顔を振りまく、その笑みは太陽のように眩しいものだった





ぐぅぅ~




ルージュ「っと、見とれてる場合じゃないや、まだご飯食べてなかったんだよねぇ
                  降りたら食べようと、シップ内の売店でお弁当を――」スッ








ルージュ「…!?あ、あれ? 僕のスーツケースが無い!?」



スリ「へへっ!見るからに旅慣れてない観光客だぜ」つ【ルージュのスーツケース】

スリ「早速[クーロン]の闇市あたりで売っぱらって―――へっ?」ガシッ






緑髪の少女「おい!見ていたぞ、さっきあそこに居た銀髪の人から盗んだだろ、返せ!」



スリ「な、なんだよお前!連れか!?離しやがれ!」ググッ

緑髪の少女「違う!ただ…そういうのは放っておけないだけだ!」ググッ




ルージュ「ああーーっ!僕の荷物!」




スリ「げっ!?…クソったれ!」バッ! タッタッタ…!




緑髪の少女「ふぅ…はいっ!これ!あなたのでしょ?」つ【ルージュのスーツケース】

ルージュ「あ、ありがとう…!いやぁ、まさか気づかれない内に盗られてたなんて」


緑髪の少女「リージョン旅行は初めて?観光客を狙うスリが多いから発着場は油断しちゃダメだ」


ルージュ「あ、あはは…お恥ずかしい」



 紅の術士は気恥ずかしそうに顔を朱に染めて後ろ頭をかいた、盗人から手荷物を取り戻してくれた
緑髪の少女はそんな彼をおかしくおもったのかはにかむ様に微笑んだ、そして――







  アセルス「私はアセルス、少し訳あって行く宛ての無い旅をすることになったんだ…」




 自己紹介をしてくれた、どのような訳があるか知らないが、それを口にする時に少しだけ目を伏せ
陰りのある顔を見せた



  アセルス「それと、こっちは白薔薇、私に付き合ってくてる人なんだ」

   白薔薇「白薔薇と申します、以後お見知りおきを…」ペコリ



白薔薇…そう呼ばれた妖魔の女性はやはりというべきか育ちの良いお上品なお辞儀をしてくれた
 外界に出て早々に盗難被害に遭うというアンラッキーに見舞われたが、端麗な顔つきをしたボーイッシュな少女
そして麗しの貴婦人とお知り合いになれたのだ、彼の旅立ちは幸先の良いものなのかもしれない





  ルージュ「僕はキングダムの術士ルージュだ、術の修行の為に各地を廻ってるんだよ」




彼は荷物を取り戻してくれた二人の女性に簡単な自己紹介をした



アセルス「へぇ…術の修行の為にか…(1人人称が僕か、変わったお姉さんだなぁー)」


ルージュ「?」キョトン



 若干違和感を感じたが、気にせず「まぁ、各地を廻ってるっていっても今日旅立ったばかりだけどね」と付け加え
紅き術士はふと気になった事を尋ねてみた




ルージュ「君も術の資質を集めているのかい?」




 [ルミナス]を訪れる者は大抵、陽術か陰術の資質を求め旅に出た者だ
とすれば彼女達もそうなのだろうか?そう思い立ってルージュは質問してみたのだ


もしそうならば、此処で出会ったのも何かの縁、協力して集めないかと誘おうかと考えた

 資質、それは生半可な覚悟では得られぬ試練を越えねばならないのだ1人より大勢の方が良いに決まってるし
ルージュ自身が純粋に彼女に恩返しをしたいとも思っている



アセルス「えっ!?えぇ…と」チラッ

白薔薇「アセルス様の御心のままに」



アセルス「ルージュ、私達はさっきも言ったように訳があって宛てのない旅をしてるんだ
       此処に来たのも…その成り行きで…」

アセルス「…資質集めをしに来たとか、特に明確な理由はないんだ…ただ逃げて来ただけ、でさ」



ルージュ「ごめん、言いたくない事だったら言わなくて良いから」




 ばつの悪そうな顔で途切れ途切れの言葉を発するアセルスは
自分が置かれている状況をどう説明すべきか言葉を選んでいるようだった



"逃げて来た" その一言がこの女性二人が何者かに追われる身であるという事を意味していた



アセルス「気を遣わせすまない、女性の1人旅は大変だろうけど、キミも修行の旅を頑張ってくれ」




ルージュ「うん!ありが―――じょ、せ、い?」



アセルス「?」



白薔薇「…アセルス様、お耳を」ヒソヒソ

アセルス「どうしたんだ、白薔薇……ん?………!?えっ、は!?っ?お、男の人!?」ヒソヒソ






ルージュ(…ははは、そっかー、僕女の子と間違われたんだー)ズーン


…やっぱり幸先よくない旅路だったかもしれない、これが彼の外界とのファースト・コンタクトであった




アセルス「ご、ごめ…っ!あっ、いや、だって髪だってサラサラで綺麗だったし
               顔も女の子っぽくて可愛い感じでそのつまりそのアレでえーっと」ワテワテ



自分の失態に真っ赤に染まった顔で両手を振りながら思いつく限りのフォローを入れようとする少女


が、思いっ切りその効果は願うモノとは真逆な効果した出していない




ルージュ「素敵なフォローをありがとう…」ズーン




これ以上は更に気まずくなると判断し白薔薇が二人の間に割って入るように
「アセルス様、陽術の館へ術だけでも見に行きませんか?」と声を掛ける、その助け船に乗るように
「あ、あーそうだった!資質はともかく白薔薇みたいに<スターライトヒール>くらい使いたかったからねー」と
抑揚の無い声でそそくさと逃げていく



アセルス「ま、またね!ルージュ!縁があったら何処かで逢いましょう!」




そういって発着場のセントラルゲートから[ルミナス]へと続く扉を開き彼女は出て行った



ルージュ「…」ポカーン


ルージュ「色々と忙しない子だったなぁ…」フゥ…


――キラッ


ルージュ「ん?」

ルージュ「これは…カフスボタンかな?」スッ



 床に落ちていたそれを拾い上げルージュは天上の灯りに翳す、赤紫の輝きを放つ宝石をあしらった見事な逸品
衣服の装飾品としてだけでなくコレ単体でも美術品として値が張るような代物だった




ルージュ(…あっ、これアセルスのだ)



 中世の貴族のような爵位の高い人物が身に纏うような衣装、言い換えると時代掛かった古めかしい…
ミュージカル劇場の舞台役者が着こなしてそうな服装のあの男装麗人の少女を思い返す

さっき大袈裟に両腕を振っていたがあの時に外れたのか…




ルージュ「走れば間に合うかな、落し物は届けてあげなくちゃっ!」タッタッタ!




…ルージュは"お利口さん"ではなかった

頭に馬鹿がつく程の御人好しだ、…そんな彼は思いもしなかっただろう



   …これが後の腐れ縁に繋がり、なおかつ資質集めの旅の長い長い寄り道になるなどと…

*******************************************************
―――
――



【双子が旅立ってから…初日、14時49分】




- [ドゥヴァン]には秘術と印術の手がかりがある、急げ!ルージュの得た術をお前が身に着けることはできないぞ! -


 表の学院に所属する教授等に背を押され、旅立ったブルーは<ゲート>を使い
占い師が集うリージョン[ドゥヴァン]へと舞い降りた



ブルー「…着いたか」



ルージュが[ルミナス]へ到達する時刻より時は遡る…彼はシップ発着場の手前に姿を現し初めてみる外界に目を配らせた
芝生の絨毯を踏み鳴らし、群れを成す矢印看板の示す方角へと歩き出す




      「へいっ!そこ行く綺麗な金髪ポニテのおねーちゃん!占いどうだい!」
      「俺も占えるぜ、骨占いだぜ、うん!明日も晴れだぜ」
      「ハープ占いどうですか~?」




ブルー「…」ムスッ


マスター「はいっ、コーヒーですよ」コトッ





ブルーはご機嫌ナナメだった、理由は至って簡単だ

来て早々に"綺麗な金髪のおねーちゃん"扱いをされたからだ



彼は男だ


が、端麗な顔、生まれつきの雪の様に白くきめ細やかな肌、そして蜂蜜色の艶やかな髪が見る者に女性の印象を与えさせた
奇しくも双子の片割れも今の自分と同じように、数時間後に女の子と間違われるのだが、それはまた別のお話である



外界に来て彼はすぐに疲れ切ったような表情だった


…祖国の為!

……上層部からの期待に応えるべく!

………誇りと伝統、名誉ある人間の1人としてっ!



と息巻いていたものの…来て早々にこれでは、と頭を抱えそうになった


まず、この[ドゥヴァン]というリージョンは風変りこの上ない土地だった

骨占いだの、植物占いだの…手相、ハープの音色だ、占星学だなんだと、何処もかしこも観光客を
見つけては頼んでもいないのに勝手に占っていくというのだ


此処を訪れた、何も知らないブルーは正しく、鴨がネギを背負ってきたようなモノなのだろう
詰め寄っては勝手に占い、「どうですか!!!ウチの占い素晴らしいでしょう!?でしょう!?アナタもどうぞ!」

と、訳の分からない"勧誘"をしつこく薦めて来るのだ、さっそくブルーは頭痛を覚えた




ブルー「手相図鑑に、星座の表…花の種…くそっ!いらんぞこんなもん!」イラッ


それらと一緒に手渡された契約書のような紙切れ、サインと朱印をすれば晴れてあなたも〇〇占いの同志ですっ!なんて
怪しい一文までついている



[ドゥヴァン]より先に[ルミナス]へ飛べば良かったかもしれないと浮かんできた悔恨の念を喫茶店のコーヒーで飲み流す




…甘い、砂糖とミルクの程よい甘味が彼の苦悩を溶かすようだった
齢22歳、術の修行に青春時代も何もかもを打ち込んだ"優等生"は甘党だった



同世代からの僻み、陰口…才ある者にはそれが付き纏う、更に努力家ならば尚更だった



いつの頃からか彼、ブルーは甘いモノを好むようになっていた、ブドウ糖の摂取は脳を活性化させるとはよくいったモノで
それをよく知らない子供の頃はとにかく甘いモノを食べれば頭が良くなる、というガセネタに踊らされたそうな


何れにせよ彼は甘いモノが好きになった、ソレだけの事だ



マスター「お客さん」


ブルー「ああ、良い味だったこれは少ないが受け取ってく――」





マスター「底の方にどろどろとしたのが残ってるだろう?」ニッコリ



ブルー「……」



財布からチップを差し出そうとするブルーの手が止まる、にっこりと爽やかな笑みで喫茶店のマスターは言葉を続ける


マスター「底に残ってる残りの形で運命を見るんだ、当店自慢のコーヒー占いさ!」フッ!




ブルー「…」







         " 貴様もか店主っ!! "





声に出さずとも目だけでブルーは訴えました


―――
――



「印術の誘いへようこそ!」

ブルー「…印術の資質について教えてくれ」ゲンナリ…



初日で既に疲れを覚え始めたブルーは気怠そうに尋ねる



すると、どうだろうか?

「ふふっ!流石印術、この間の金髪美女達と同じで訪れる者が多い!アルカナとは違うんですよ!はーっはっはっは!」


と高笑いまでし始めた…




さっさとこのリージョンから出て行きたい、ブルーの心境はその一言で埋め尽くされていた




「おっと、失礼…ふふっ、あなたの髪色を見て以前[クーロン]からお越しの3人組の女性を思い出しましてね」


ブルー「無駄話は良いから早く教えろ、頼むから」





「ええ…印術とは印(ルーン)の力、加護を得る術です、高位のルーンを召喚するには印術の資質を要します」


「また、印術の力とアルカナを呼び出す秘術の力は相反する為、どちらかを得るにはどちらかを捨てねばなりません」



「資質を得るには…この小石を以て各地にある4つのルーンに触れる必要があります」コロッ



そういって4つの小さな石を取り出す、何も描かれていない小石、だが微かに魔力を感じ取れた



「ルーン文字が刻まれた4つの巨石、"保護のルーン"は[クーロン]に、"勝利のルーン"は[シュライク]に
  "解放のルーン"は[ディスペア]に、そして"活力のルーン"は[タンザー]にあります」



「巨石に触れ、4つの小石が全てルーンの小石と変わった時、あなたは術の資質を手にすることになるでしょう」



ブルー「巨石を探すために世界各地を旅する、それが印術の試練か…良いだろう、寄越せ」

「ふふっ!印術の同志が増える事は歓迎です!どうぞ!」




 ブルーは小石を手にし、そして基本術の術書を購入する、資質は無くともこれで最低限の印術の術は唱えられる
 術の書物と同時に謎の契約書も手渡してこようとする相手を無視してテントを出る




ブルー「<ゲート>の術は一度行った事のある場所にしか飛べない、シップに頼ることになるな」



例外的に[ドゥヴァン]、[ルミナス]だけは初めから飛べる、手渡された媒介となる宝石に初めから登録さているからだ



ブルー「まずは[クーロン]だ、そこへ行ってみるか」




クーロン…九龍…九龍街、立ち並ぶ高層ビルに空は覆われ、ネオン輝く街並み、常に夜なのでは?と思う程の外観と
治安の悪さで有名なリージョンだ、彼も噂だけなら訊いた事があった


人間<ヒューマン>、妖魔、モンスター、メカ…各種多様な種族が共存し繁栄する暗黒街だと、彼は早速チケットを購入した


―――
――



「ぎゃーっはっはっは!こんな所に丸腰でくるなんて無用心なんじゃあねぇのか?ええっ!パツキンのチャンネーよぉ~」

「へへっ!此処を通りたきゃ通行料を払いな!1000000クレジットってトコを美人だから特別100に負けてやるぜぇぇ」



ブルー「」イライラ






早速、絡まれました。




発着場を降りて、まずブルーは驚いた

想像以上に人でごった返していたのだ、ネオン輝く街並みにスーツ姿のサラリーマン風の男から
スカートをたくし上げ胸元を寄せ、あからさまに"そういう金稼ぎ"を行うけばけばしい化粧の女たち

路上販売で声を張り上げ野菜を売るモンスター、汗水垂らして(るように見える)働くロボットたち


雑踏の伴奏に酔っ払いと売春を生業とする娼婦たちのコーラス、この汚れた都会のフルオーケストラに
平和なリージョンからやってきた青年は耳を塞ぎたくなった


耳はやられるは、目はネオン煌めくいやらしい看板やらの灯りでチカチカする


慣れるのに苦労しそうだ、と逃げるように裏路地にブルーは入り込んだ





そして、これである。





「あー、通行料が払えねーってんならそれで良いんだぜ?へへっ」

「そーそー、その代わりよォ、俺達とベットの上であつぅい夜を一緒に過ごそうぜぇ」




ブルー「」イライライライラ




何度も言うがブルーは男である、そして女性に間違われることは彼の密かなコンプレックスであった



「なぁなぁ、いいだるぅろぉぉ?こんな薄暗い所に一人でくるなんて、"そういう事"だろ?」

「ヒューッ!アンタみたいなネエチャンと一発よろしくヤれるなら本望ってもんさ!さぁ行こうぜ、愛の巣へな!」


              「「 ギ ャ ー ッ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ! 」」







 ブルー「」イライライライライライライライライライライライライライライライラ…ブチッッッ!!



今日だけで何度女と間違われたか分からない彼の堪忍袋はその卑下た笑い声を口火についに切って落とされたッ!

―――
――


黄金色の髪の女「あーっ!!!くっそぉ!!!ルーファスの奴!ほんっと腹立つ!!!」

紫色の髪の女性「…彼は昔からああなのよ、貴女だってわかるでしょ」





黄金色の髪の女「そりゃ分かってるさ!けど…けど…!
          エミリアは女なのよ!…あんな薬で眠らせて奴らに売り払うなんてっ!」ギリッ



紫色の髪の女性「…ええ、帰ってきたら謝らなくちゃいけないわね」






[クーロン]の街中を慣れた足取りで二人の女が歩いていた

犯罪が日常で財布の紐をきつく締め、隙を見せてはならないこの街で慣れた歩き方をする手練れの二人は愚痴を口にした



紫色の髪の女性「勝手な行動は許されない
         仮に出来てもラムダ基地に入る方法は今の所無し…エミリアを信じる他ないわ」

黄金色の髪の女「そんなの、わかってるよぉ…はぁー…」


紫色の髪の女性「今の私達に出来ることは彼女が帰って来た時
            次の作戦をスムーズにこなせるように準備をするだけ、ね?」

黄金色の髪の女「うん…」





             ――――ズドンッッ!!!



「「ぎゃーーーーーーーーーーっっッッ!!」」





黄金色の髪の女「!? な、なに今の悲鳴…」

紫色の髪の女性「…男性の声ね、それも二人…裏路地の方からだけど」


突然の悲鳴に驚く女と行き交う人々の騒音に紛れて僅かに聴こえた爆発音に首を傾げる女

それぞれがその方角を振り向くと…




ブルー「…」スタスタ



「「…」」



1人の人間とすれ違った、この街で見かけない術士の服装…


黄金色の髪の女「何事も無く悲鳴の方から来たわね…」

紫色の髪の女性「相当な腕前ね、パッと見ただけで分かったわ」


紫色の髪の女性「何にしても私達とは関わりの無い人間よ、行きましょう…」


―――
――



ブルー(チッ、薄汚い街だ、どいつもこいつも汚い…見た目も中身さえも)



虫の居所が悪いまま彼は路頭を彷徨う、術に関する情報を求め、此処にあると言われる"保護"のルーンを探し出すために
手当たり次第に声を掛け、聞き込みに回っていたが、これと言ってめぼしい収穫は無かった



 途中、宿を見つけ、10クレジットで宿泊できることも確認した
このまま実りが無いのであらば今日の探索は諦めようかと思った






「いらっしゃい!いらっしゃい!安いよ安いよ!」

「トリニティからの横流し品だよ~!リージョン界と統一する政治機関の開発した最新軍事品がなんとこのお値段!」

「革を買うよ!」

「わぁぁぁ…!すっごーい!メイレン!此処[スクラップ]よりも人が沢山だね!」

「そうね、そんなことより次の指輪よ、豪富が持っているっていう指輪を探しに行きましょう」

「足の装備品~!如何っすか~!大安売りだよー!」

「俺は見たんだ!アイツが鉄パイプを剣のように操るのを!」

「そこの宿屋の裏、ニワトリの後ろを通った所にある情報端末で調べたら?」

「ありがとうございます、ゲン様、行きましょう」

「おう!ん?にいちゃんどうした?」

「わりぃ!俺、此処のイタ飯屋に少し前に一緒に旅してた友達が居るんだ、久しぶりに会いたいし此処でお別れだ!」

「おう!そうかい!犬っ子とネエチャンには言っとくぜ!」

「サンキュー!」

「そこのお兄さん♡アタシとイイコトしない?うふっ」

「新聞!新聞はいらんかね~?巷で噂のアルカイザーの記事が載ってるよ![シュライク]で誘拐犯を倒したヒーローだ!」







全く以って騒がしい

だが、これだけ人が集まるのならこのリージョンが繁栄するというのも頷ける



ブルー「すいません、お時間よろしいでしょうか?」

「ん?なんだい?」


ブルー「私は故郷を離れ術を勉強する者なのですが、この街に保護のルーンがあると聴きやってきたのです
     何かご存じないでしょうか…」


「ん~…ルーンねぇ、あっ!そういうことなら裏通りの医者が詳しいかもしれないぜ」


ブルー「!本当ですか!ありがとうございます!」



猫被りのブルーはやっと有力な情報に辿り着いた…!

時刻は【18時03分】既に[クーロン]は闇夜に包まれていた

https://www.youtube.com/watch?v=HSh7-WrhFnk
[BGM:サガフロより…アイキャッチ専用曲]
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                                        , ソ , '´⌒ヽ、
                                 ,//     `ヾヽ

                                 ├,イ       ヾ )
                               ,- `|@|.-、      ノ ノ
                           ,.=~ 人__.ヘ"::|、_,*、   .,ノノ
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                       〈 :,人__.,,-''"ノ.。ヘヾi::::::ト
                        Y r;;;;;;;;ン,,イ'''r''リヾヽ、|;;)
                        ヽ-==';ノイト.^イ.从i'' 人

                         .ヾ;;;;;イイiヘr´人_--フ;;;)
     .,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.    .,,.          ヾ;;;|-i <ニ イヽニブ;;;i、
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  ,,il'    ,i||l   ,||l'  ,l|' ,,,,,. .,,,, ..,,,,,,   (;;ヾ'ゝ-'^    ,.イ;;;;;;;;;;;ヽ
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                    <::::::::::::/ | └、 |      `ブ <ヽ、'~

                     レノ-'  |`-、、__ ト、、_, -' ´ _,ノヽ~
                          ~` -、、フヽ、__ ,, -'´ ̄ル~'
                            ヘ`~i、 ̄ ̄リ ノヽ ̄~

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                           ` ̄        .ト、 .ヽ

                                      ヾ、.A
                                       .ヽノニ'


───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三

サガフロとかすげぇ懐かしい

主人公が皆、並行で進んでるっぽいなエミリア編が一番進んでるの?



曇天、[クーロン]の街並みはこの時期、雨季であった

 他の異世界<リージョン>と比べれば降水量の多い土地にあたり尚且つ双子が旅立ったこの時期は
陽光を遮る灰色の空が我が物顔で天空を支配していた


 裏通りに朽ち果てたメカの残骸は主人を失い破棄された者達の死骸と言えた、物言わぬ鉄屑と化したそれに群がるのは
同じく捨てられたロボットたちで、錆びた自身のパーツを外し使える部分を死骸から奪い取る

道端で自動車に轢き殺された野生動物を食い漁る鴉の群れと変わらない鋼鉄の人型共


その人型共となんら変わらない行為をする者は他にもいた


貧困から逃れるべく迷い込んだ憐れな観光客を狙う浮浪者、彼等もまた金目のモノになるロボットだろうと
財布をぶら提げた人間だろうと、奴隷として売り飛ばせるモンスター種族の観光者であってもお構いなく襲う







人心は荒んでいた



これは言ってしまえば一種の"病気"である、心の病










だからだろうか?

…ただでさえ無法地帯として名を馳せる九龍<クーローン>街の裏通りを『彼』が居城とするのは






ブルー「…」スタスタ…パシャ…






蒼の術士が水溜りを踏みしめる

地に降ろされる靴底の圧力で飛沫は飛び、へこんだ空き缶の真上を飛び越える



 彼は印術の資質を得る為、広いリージョン界の各地を巡り、印<ルーン>の文字に触れるという修行の旅路を進む
この暗黒街には保護のルーンが刻まれし巨石があるのだ


 疑問に思っただろうか? 裏通りはご覧の通り濁った水が降り注ぎ、衛生面はハッキリ言って最悪
…そこかしこに黴菌が繁殖する不衛生極まりない裏通りだ、雑居ビルの群れと曇天で滅多に射さない日光

それが悪循環を更に加速させていると言っても良い


そんな異世界<リージョン>でありながらも表通りの繁華街にはなぜか一滴も雨水は垂れないのだ、疫病どころか感染症一つ
裏通りから表通りに流れてこない





それは単に此処が"保護"されているからだ

昔々のそのまた昔、誰も知らない程の大昔から、強い魔力を秘めた文字によって




「おい見ろよ…綺麗な髪だなアレ…」
「へへ…金糸かぁ、売ったらさぞイイ値段のウイッグになるんだろうなぁ」



 汚れた段ボール、菌類の繁殖しまくったベニヤ板、その上に乗っけただけの瓦棒屋根
お世辞にも家屋とすら呼べないソレから無数の視線が術士を値踏みするように見ていた



 先程、ブルーが二人組の不幸なごろつきに絡まれた階段をゆっくりと降りていく最中
蒼の法衣に身を包んだ彼は自分の影が"何かの影"と重なるのを見た


小さな影は徐々に大きくなり、それは上空から飛来してくる鳥系のモンスター族の影であることに気がついた





「ケケケ!そこのお前、有り金全部出しな!!鞄も、そのひらひらの服も脱げ、靴も全部だ!!」

「オイオイ、待てよ相棒…独り占めは狡いぜ、久しぶりの金ヅルだ、俺にも食わせろよ」

「私も混ぜてよ…きゃははっ!」




 裏通りに巣食う者共は単独で犯罪を起こす者から種族の壁を越え、1つの目的の為に徒党を組んで襲う者も居る
舞い降りて来たのは人体に鳥のシンボルとも呼べる翼と鉤爪の足を持つ半人半鳥の[ハーピー]が2体

 紅髪を二つに結ったツインテールに露出度の高いアーマー右手には鈍い輝きの斧を携えた人間の女が
品の無い卑しい笑みを浮かべて舌なめずり…勝った後の戦利品分配でも考えているのだろうか


「俺も相棒も姐さんも気が短けぇからよ、分かったら早ぇとこ全部寄越しな、そうりゃ命は取らねぇぜ!ケケ」
















                ブルー「断る、失せろ蛆虫共」
















沈黙

ブルーを迷い込んできた馬鹿な旅人と嘲る笑い声はピタリと止み、雨音だけが場を支配する


 彼は頗る機嫌が悪かった、初日から何度眉間に皺を寄せたか分からぬ程に
そんな彼の声はゾッとする程に冷淡で、同じ血の通った人間とは思えない程に冷めていた





[ハーピー]に斧を持った女戦士[アックスボンバー]…裏通りは先述の通り浮浪者の巣窟である
だが此処に居る3体の実力はその中でも段違いだ


 電線の上から兎のようなつぶらな瞳で黄色い小動物に蝙蝠のような翼の生えた[ラバット]
犬猫程の背丈を持つ蛙[フェイトード]等が"自分達よりも圧倒的に強い"者に不遜な態度を取る術士を見ていた

ああ、あの金髪の人間は生きて帰れないだろうな、と憐れむ様に







その予測はすぐさま裏切られるのだが





「‥ケ、ケケ…てめぇ、許さねぇその綺麗なお顔ぐちゃぐちゃにしてやらぁぁぁああああああああ!!!!!!」

「アンタたち!!このクソッタレをやっちまいなぁァ!!」




 縄張りのボス気取りたちの顰蹙を見事に買ったブルーは涼しい顔だった
彼は目を瞑り、歌うように口ずさむ、右手の中指と人差し指を合せ自身の額に近づける…



             「ケェェェェェー―――――ッ!!」ヒュォォォォオオ



 鷹が獲物目掛けて行うような急降下、[ハーピー]の鉤爪はブルーの喉元を切り裂くため
先頭の1体に続き後続は心臓を鷲掴みそのまま抉る為にそれぞれ狙いをつけていた









          ブルー「『<インプロ―ジョン>』」キュィィィン 










ぼしゅっ、




音がした


 後続の[ハーピー]は目の前の相棒が光に包まれたのを間近に見た、光は相棒を取り囲む球体の檻のようになっていて
立方体…そう無数の正三角形と正五角形で形作る変形二十二面体のような檻だった

半人半鳥のモンスターを閉じ込めたそれは徐々に小さくなり、"消滅した"…中身ごと



"爆裂魔法<インプロージョン>"の檻に閉じ込められた憐れな一体は塵一つ残さずに"焼失"した、だから消えたように見えるのだ


     ブルー「…む?完全に消し飛ばせなかったか…頭部だけが残ったか…ちっ」


 光の檻が内部にある者を"爆裂"させる寸前に頭部だけが檻の外…範囲外に突き出ていた
だから首から下が忽然と消えた生首が宙を舞った







「う、ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア」




 戦慄した、突如として光と共に消えた相棒の首から下、残った頭部は首の付け根部分から血飛沫をあげて吹き飛ぶ
サッカーボール大の頭部は胴体がコンマ0.02秒で焦げ臭さすら残さずに焼失…否、消滅した為


 頭部の下はギロチンで切り落としたかのような断面図となった、そこから噴出する真っ赤な鮮血
空気でパンパンにした風船に爪楊枝で穴を空けた時のように、急降下していた筈の"ソレの一部"は逆に上昇した




上から無色透明な雨水とは別で紅い体液が降り注ぐ、[ハーピー]その様に半狂乱となり―――










               ブルー「『<エナジーチェーン>』…!」









ギュルッ! ―――ベシャッ ジタバタ…!



「あっぐぶゥ!?お、おごっぉ ォ こ"こ"こぉぉ"ぉ」ジタバタ






ブルーの術、[マジックキングダム]の技術によって生み出された科学的超能力<サイオニック>の力…!



指先から放たれる光り輝く念動力の鎖は相手との実力差も分からぬ愚か者の首を縛り上げた






べしゃ、ゴミが浮かぶ水溜りに絞殺刑に今この瞬間、処されんとする憐れな半人半鳥が墜ちた



「い、い いい"い"い"いいい""いいいい"いいいき"きぎき"きぃぃぃぃいィぃィ」バチバチッ



古い電線剥き出しになったコード…銅線に当たる部分に鴉や雀が引っ掛かった瞬間を見た事があるだろうか?
それが雨の日ならば尚更だ、電流が流れ瞬く間にローストチキンになる瞬間だ


 魔力の塊、念動力の力……蒼き術士の攻撃的な思念を鎖の形にしたそれは巻き付いた首元を焼いていた
焼け爛れていく首、絞めつけられ酸素供給ができなくなる気道

水溜りに落下した事で更に"感電"していく彼は先ほど弾け飛んだ相棒の顔と同じく苦悶の表情を浮かべていた




「…な、なんなんだいアンタはァ…」ガチガチ




人間の所業ではない、それが同じ人間の―――生きる為に強盗殺人を生業とする者の率直な感想だった



彼は蜂蜜色を束ねた髪は湿気と雨水で重みを増し、前髪から滴る水滴を鬱陶しそうに払う

 今しがた絶命した[ハーピー]2体を屠る時などさもどうでもいい、それより前髪から垂れて来る水滴の方が
面倒だとでも言いたげで…その仕草がより一層この人間には赤い血など流れていないのではないか?
血脈を循環しているのは冷水か、さもなくば人間<ヒューマン>と異なる種族、妖魔と同じ青い血でも流れているのでは、と?





ブルー「丁度いい、こういう事は地元の奴に尋ねるのが手っ取り早い」


ブルー「貴様、この辺りに医者は住んでいるか?裏通りに"ルーン"に詳しい医者が居ると聞いてきたんだ」


ブルー「さっさと答えろ…オイ聞いているのか」





「っ、の野郎……イイ気になってんじゃないよ!!!」




猫被りの時とは全く以って違う、礼儀正しい青年を"演じる"ブルーの本性…





「っずぁらああああああああああああああァ」ブンッッ



ずばっっ!蒼い法衣の左肩を切り裂く…じわりと蒼が赤く染まる




「はっ…ははははっ…」




なんだ、この冷血無比な術士にも紅い血が流れているのか
乾いた笑みが浮かぶ、目尻に涙が溜る、瞳の奥に詠唱を終えトドメを刺そうとする死神が焼き付く





ブルー「ふん、斧を振り回すしか能が無い女か、屑め」





ブルー「死ね」






取り繕う必要性が無い相手、体裁をなど気にする必要性の無い相手

それにだけ見せる"冷徹な男<ブルー>"の本性


今宵、暗黒街[クーロン]の裏通りに本日2度目の悲鳴が上がった

―――
――



ブルー「…」スタスタ…



ブルー(失せろと言った時に消え去れば良かったものを、答えろと言った時に答えて逃げれば良いものを)







くだらない事に術力を使った、くだらないモノで自分の手を汚した、不愉快だ、彼の心中にあるのはそれだ


先に言っておくが彼は裏通りの最奥に息を潜める様なクレイジーな快楽殺人犯とは違う


-『自分の目的を果たす為ならばあらゆる手段を用いてよい』-


自国で、国の最高責任者から言われた事、幼少の頃から学んだ教え




国家からの勅令、国の威信と名誉の為ならば何をしても良い、それが"正義"である、そう教えられて育った



"王国の術士"としてなら必要あらば100人だろうが1000人だろうが関係なく殺す、王国の忠実な術士としてなら、だ



襲われたから殺した、自分の命、ひいては国家の任務遂行の妨げになる障害物だったから消した、たったそれだけの話
そうでなくとも、どの道あの手の連中は迷い込んだ観光客の命を食い物にする


何れにせよ死傷者は出る、今回の場合それは相手側で、そしてこれ以上死傷者は出なくなるという話、たったそれだけ







ブルー「…」スタスタ…ピタッ

ブルー「…此処か」




雑居ビルに囲まれた裏通り、長い長い階段を降り、点滅する電子の輝きを見つめる
そのネオン看板は病院でお馴染みの十字のマークとは違っていた

喩えばアルファベットのNを反転させて少し傾けた見た目の文字




ブルー「…エイワズ…ふっ、此処にこの文字とはな」




それを見て鼻で笑った




エイワズ、ルーン文字の一つであり暗示する意味は『生命の樹』『防御』…そして『死』

命が生まれる場所であり、万病の攻め手から防御する為の場であり、そして最後は誰かに看取られて死を迎える…


蒼の術士は古びた診療所の戸を開く




まずブルーを出迎えたのは鼻につく消毒用のアルコールの匂いだった


 薄暗い病院のエントランスにして待合室となる間はパイプ椅子が数脚
机の上には人体について詳細が書かれた医学書が無造作に置かれていて、受付のには今時誰も使わないような黒電話
ダイヤル式の電話機の向こうに見える壺や壁棚板の上に陳列する薬瓶には元からこの医院に居た人物と来院した術士を映す


此処の責任者に話を伺いたいが受付には人影はなく、それどころか呼び鈴の一つだってありゃしなかった


訝し気に眉を顰めたブルーは何時頃から待っているのか分からない男に語り掛ける事にした、誰も居ないのなら
この人物に尋ねる他ないからだ、無論、礼儀正しい青年を演じて




ブルー「あのー、待ってるんですか?」




青白いカッターシャツ、俯いたままの青白い男はやけに肌が白かった

医院の薄暗さも手伝って気づけなかったのかもしれない





ごとんっ、男の首が取れて落ちた、先程の[ハーピー]のように


落ちたクルリと振り返る、ああ、暗さも手伝って気づけなかった



この男は肌が白いと思っていたが思い違いだった





振り向いたその男の生首は白骨だった







理科室の標本にありがちな頭蓋骨がケタケタ笑いだし、スゥーっと消えた



           ボォォン……!


                      ボォォン…!




それを合図にするかのように柱時計が音を鳴らし、その横にあったアルコールを溜めた洗面器にぴちょりと音がなる
何処か雨漏りでもしてるのか




ブルーは少しだけ目を見開いていた、狐にでもつままれたとでも言いたげな顔で固まっていた

彼とて人の子だ、人並みの感情は当然有していて、戸惑いもする


先の事が事だけに今のはブルーに少なからず情動を与えた
















 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ」















ブルー「」ビクッ


「次の方、どうぞ」




診察室、と札が掛けられた部屋の向こうから声が聞こえた



心臓に悪い所だ、固まっていた術士は気を取り直して、ドアノブに手を掛けた…



ギィィ、と木製の扉の軋む音を耳に彼が目にしたのは膝下まである白衣と流れる様な黒髪の後ろ姿



裏通りの闇医者「よろしい、早速手術だ、そこに横たわり給え」


ブルー「…外界の連中は人の話を聞かないものなのか」





[ドゥヴァン]の占い師共といい、ごろつき共といい、この無免許医師といい…額に手を当て、噂の闇医者をよく観察する


 風変わりな医師、医療費を取らずに難病を抱える患者を片っ端から治療する闇医者
裏通りに入る前、ルーンに詳しい医者が居ると知ってからある程度、どのような人物かさらりと聞き込みは行っていたが





ブルー「それとも、貴様が人間ではなく妖魔だからか?」


裏通りの闇医者「…ふむ、よくわかったな」ピクッ



ブルー「貴様から感じる魔力…いや妖力、人とは明らかに異質であることぐらいわかる」



ブルー「人間だろうと妖魔だろうとそんなことはどうでもいい、保護のルーンについて何か知っているか?」



裏通りの闇医者「[クーロン]の地脈には保護のルーンが刻まれている、その力がこの土地を栄えさせている
         しかしだ…近年この街の治安は悪くなる一方だ」



そう言って闇医師は…妖魔は振り返る、眼鏡を掛けた気品ある端麗な顔立ちは一目で彼が上級妖魔だと悟らせる



ヌサカーン「私の名はヌサカーン、君も知っての通り此処を根城に医師をしているモノだ」

ヌサカーン「尤も、君達の言葉を借りるなら私は"モグリ"という奴だがね」

ヌサカーン「どうだろうか、私は地脈に異常が無いか調査に赴きたいと前々思っていた、だが私一人では何分厳しくてね」



ヌサカーン「何があるか分からないから中々踏み出せず困っていた、そこへ君が都合よくやって来た」

ブルー「貴様なら道案内ができるという訳か」


少し考える素振りを見せ、ブルーは「良いだろう」と胡散臭いこの妖魔の医師と少しの間同行することにした


紫色の怪しげな炎が揺らめく燭台、二つの影が揺れ、妖魔医師は「よろしく、ブルー君」と笑うのであった





一旦此処まで

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『<エイワズ(ユル)>』

暗示:『生命の樹』『防御』『死』


───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


ヌサカーン先生宅の看板の文字が地味にルーン文字だったり凝ってる



>>32 名作ですね

>>33 YES、現在エミリアはラムダ基地潜入(?)の為、シップに乗せられてる…つまりアセルス達は…



妖魔、それは姿形こそ人間に酷似しているが異なる種族である


彼ら、彼女らに性別という概念は無い
女性的な容姿、男性的な容姿と身体の創りや人格そのものに差はあるが、世間一般的な人間の概念でいう性別とは違う






美麗の男性が同じく顔立ちの整った男と仲睦まじく暮らす様子を見ることもあれば

華奢な身体の女性が美しい人魚姫のような女性型の同種族と愛を育んでいたり…









傍から見ると怪しい関係を疑いたくなる種族であるが、彼等(彼女等?)には人類と同じ性別の概念は通じない






 人と比べて飲食を必要としない者、年中一睡も必要とせず生きることができれば、生殖機能が存在しない生態系だったり
大小なれど差はあるが根本的に人間<ヒューマン>と違うのだ





今、ブルーの目の前にいる眼鏡を掛けた白衣の医師も同じ

見た目こそ人間の成人男性に部類される肉体だが、何処か人と違う



血管は全ての妖魔に共通する青い血液が流れていて
見た目こそ年若い美青年だが年齢など、余裕で100歳を超えているのかもしれない





ヌサカーン「ふむ、…肩に切り傷があるな」ズイッ

ブルー「寄るな、食い入るように私の肩に顔を近づけるな」



若干引き攣った顔でブルーはこの妖魔から距離を置こうとする





ヌサカーン「なぜだね?…ん?あぁ……そうか、安心したまえ、私は"病気という存在を愛する者"でね」

ヌサカーン「世にも珍しい奇病や病状の患者と出会い、それを観察するというのが私の望みなのだよ」

ヌサカーン「従って君達、人間社会で言うところの同性愛とやらには興味の欠片も無いし、世間帯とやらも熟知している」



純粋に"興味の対象物である『患者』"を見たいからでありブルーが危惧するようなことはないと男性型の妖魔は告げる



無音、風も何も無い室内で妖魔の身に纏う白衣は不可視の力ではためき、蒼の術士の肩に幻想的な輝きの粒子を舞わせた



ヌサカーン「どうだね?ん?痛みは消えただろう」


左手で肩に触れる…なるほど、上級妖魔なだけはあると彼は思った



古びた廃病院に勝手に住み付き、勝手に改築した風変りの人ならざる者はしばしの間自身の根城を留守にする




懐に柄部分のスイッチを押す事により刃が出る光学兵器[レーザーナイフ]を忍ばせ、その手に大型の重火器[水撃銃]を持つ
 ブルーは記憶の引き出しから書物で知る限り妖魔という存在は機械音痴で有名だという話を引き出していた




ヌサカーン「…くくっ、意外かね?」


ブルー「!」



ヌサカーン「そう目を丸くされてはすぐにわかってしまうよ、ブルー…どうやら君は冷静に見えて感情的な人間のようだ」


ヌサカーン「……私も長い年月を人間社会で生きた、何より患者を観察するのが好きだった」


ヌサカーン「そうこうしている内に科学文明というモノにも詳しくなったのさ」





ブルー「そうか…」フイッ



それだけ言うと彼は絶え間なく水を地表へ注ぐ天を見上げた、いや、逸らした
あまりこの妖魔と長く話していたくない、自分の心の内さえ見透かされそうだから




ヌサカーン「くくっ…この[水撃銃]というのも中々に面白い、銃"火"器という部類でありながら高圧で水を飛ばし…
         ああ、面白いと言えば君の魔術もそうだ、魔術と銘打っておきながら科学的超能力<サイオニック>と――」




ブルー「なんでもいい、早く行くぞ…」スタスタ






どっと疲れた、初日からこれで本当に自分は資質を集めきれるのか…

勢いを増し始める降水量、水煙で眼鏡のレンズを曇らせながら不敵な笑みを浮かべる闇医者
目的を済ませて宿のシーツに顔を埋めたくて仕方がない旅の術士は目的地へと続く廃線へと続くマンホールを降りていく




 道中、海星の中央に蛸の様な口部(触手の下にある肛門のような部位)を持つモンスター[ゼノ]を初め
溶解液を飛ばす[スライム]…人に混じり金銭の略奪を働く下級妖魔らに襲われたが…




1人はもはや説明するまでもなく、もう片方の同行者も両手銃で向かい壁まで弾き飛ばし、解剖手術でも行うように手際良く
モンスター、あるいは人や妖魔の野盗たちを掻っ捌き、時には妖魔の術やカードを召喚する術で無謀にも襲ってきた
身の程知らずを次々と叩き伏せて行った








【18時53分】[クーロン]裏通りでの出来事であった…

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            …あっれれ~?おかしいなぁ?どうして僕こんなことになっちゃったんだろう?














時刻は完全に月が昇る【19時49分】


彼は"喫茶店"で項垂れる様に今現在の自分の状況を振り返った






そう…あれは遡る事、1時間と少し前…





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―――
――


【時刻 18時40分】


 此処、陰陽の術を操れる資質を求め各地より修行僧が集う異世界<リージョン>、[ルミナス]で紅き法衣に身を包んだ青年が
大慌てで走っていた行先は光の力の尊さを説く陽術の館



ルージュ「こんな高そうなカフスだもん、落とし主には届けなくちゃ…!」タッタッ…!



 赤紫の宝石を握りしめた掌の中に、人の良い彼はスリから荷物を取り戻してくれた少女アセルスの後を追う
発着場から扉を勢いよく開き、ロープと丸太で組んだだけの簡素な吊り橋を渡って陰陽の分岐路へ向かう…その時だった



            ぞわっ…!



昔から彼は直感が優れていた

術士として霊感能力が高かったのも確かにあったかもしれないが野生の直感に近かった




背筋に嫌な感触が這う、走ったせいもあるかもしれないが額に玉汗が滲む、こういう時いつだって碌なモンに遭遇しない
22年間生きてきた彼の人生経験が警鐘を煩いくらいに鳴らす



 無意識にルージュは足を速めた、短距離走で後先考えずに力の限りを尽くすような疾走、丸太の吊り橋が揺れ
他の観光客から「何しやがる!」なんて罵声が飛ぶが脇目さえ振らない


            "まずい、このままじゃ手遅れになる…ッ!"


 根拠なんて無い、だが紅の法衣は更に加速する、銀の髪が靡く、息が苦しい…
だからどうした?後悔することになるよりはマシだ、歯を食いしばり彼はそこに辿り着いた!





               「逃がしませんよ!!」





その声が聞こえ、空間が歪みだしたのと同時だった

ルージュがグニャグニャと景色のブレる結界に飲み込まれていく二人の美しき女性たちの元へ滑り込んだのは――


―――
――




アセルス「きゃあああぁぁ!!」

白薔薇「アセルス様っ!」



 貴婦人の女性型妖魔と緑髪の10代半ばの少女が結界の中へと飲み込まれようとしていた

 彼女達は"追っ手"の魔の手から逃れる為に逃亡を余儀なくされていたが、此処に来て見つかり
邪魔が入らぬようにと閉鎖された異空間に引き込み始末するつもりなのだ

 レースカーテンのような影のベールに飲み込まる寸前、白薔薇は悲鳴をあげる少女の身を守るように抱く
彼女自身も追手の奇襲という恐怖に怖れを感じていたが腕の中で震える小さな少女を勇気づけねばと気丈に振る舞う

だから反射的に目と瞑らなかったアセルスと違い白薔薇姫は確かに見た、影に飲まれゆく自分達の元へ彼が走って来たのを





ルージュ「どぅおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!」ズサァ――!



スライディング、靴底がすり減り、シャッターの様な影の結界で完全に外と内が遮断される直前で紅き術士はやって来た



白薔薇「ルージュさん!?」

アセルス「…ぇ、…!?ル、ルージュ!?どうして!!」


恐る恐る目を開けたアセルスが知り合ったばかりの闖入者の登場に驚きの声をあげる

闖入者に驚いたのは二人だけではない




水の従騎士「なんですか、貴方は…」




それは清流のように穏やかにして静かな声に…聴こえないことも無いが、言葉を発する全身鎧固めの騎士から溢れる
敵意を見てしまえばそんな印象は何処かで跳んでしまう事だろう



一方でルージュはその鎧騎士を見て一瞬呆気に取られた

この騎士風の妖魔と思しき存在が「逃げて来た」と口にしたアセルス達を追ってきた者だと察することはできた


問題は…



ルージュ「……"青"」



青…蒼…ブルー…

そのカラーリングは嫌でも双子の兄を連想させる、言ってみれば彼にとって今一番見たくない色合いであった




水の従騎士「…何者か存じませんが、邪魔をするのならばその命、もらい受けます」チャキッ



白薔薇「従騎士!この御方は私達とは関係の無い方です、結界の外へ逃がしてください!」

アセルス「ハッ!そ、そうだ…!ルージュは関係ない!やめろ!」




なんで来たんだ!?と叫びたかった緑髪の少女は目の前の追手が黒鉄の剣の切っ先をルージュに向けたのを見て慌てた

自分達の所為で無関係な人間が巻き込まれ命を落としてしまう…っ!なんとしてでも逃がしてあげねばと考える





だが、ルージュは―――



ルージュ「いいや、関係なくなんて無いよ、目の前で物騒な恰好した奴が無抵抗の女性を追っかけ回してるんだ」

ルージュ「人間としてそんなの放っておけないッ!理由なんてそれだけ十分だ!」



正義感の強い、超が付くほどの御人好しはそれを見過ごせる程に器用な人間では無かった



ルージュ「それにね、その恰好!」ビシッ!



全身"青"を基調としたカラーリングの鎧騎士を指さし彼は言った




ルージュ「すっごい個人的な感情だけどさ、今一番見たくない色合いの人に言われると反発したくなるんだよねっ!」フン!




兄の件で思い悩んでいるというのに、ただでさえ蒼色を自分の抱えてる悩みで頭痛がしそうだというのに…!
そんな私情で彼はこの騎士のいう事なんて聞いてなんかやるもんか!と息を巻く



水の従騎士「…いいでしょう、黄泉の国で後悔なさるが良いっ!!」



その言葉を皮切りに騎士は玄武の盾を構え突撃してくる、狙いはルージュだ



アセルス「でやぁぁぁ!!」ディフレクト!

水の従騎士「ぐぅっ!」ギギッ…



 重厚な見た目に反し、敏速な動きで一気に間合いを詰めた鎧騎士は右腕の得物を天へ振りかざし唐竹割りの要領で
ルージュの頭部を叩き切る気でいた、だがそれに一早く反応したのは先ほどまで震えていた少女アセルスだった



 予想に反した動きに反応が遅れた好青年、目的を邪魔する者を排すべく動いた騎士の隙間に割り込むように
彼女は腰に下げていた血濡れの様に妖しく、それでいて美しい妖刀の刀身で黒鉄の刃を受け止めたのだ



アセルス「くぅぅぅ~っ」ググッ

水の従騎士「はッ!!」ガンッ!ゲシッ!



アセルス「きゃぅ!」



 大剣に近いソードの創りと刀に部類されるブレードでは質量にも差があった
何より彼女の細腕と見るからに逞しい騎士の剛腕では鍔迫り合いに持っていたアセルスが打ち負けるのも当然と言えよう


一瞬、腕を引いてその後に勢いをつけて押し返しアセルスが後方へ仰け反った隙をついて蹴り飛ばす


小さな悲鳴と共に尻餅をついたアセルス目掛けた刺突を騎士は繰り出す
 その一突きは態勢を崩した少女の身体を突き刺すことは無かった、何故ならば突如として伸びて来た念動力の鎖に
腕を絡めとられたからだ、彼女の胸部を貫き心臓の動きを止める筈だった一撃は大きく逸れ、大地に深く突き刺さる



水の従騎士「貴様…っ!」


ルージュ「アセルス!ごめんっ、助かったよ!!
       そして騎士さんとやら!狙うなら初めっから1人に絞っとかないとこんな風に横やり入れられちゃうよ!」


鎧越しに伝わる熱と締め付けられ軋み罅が入る鎧に更なる追い打ちが掛かるッ!


白薔薇「門よ!声に耳を傾け開きなさい!『<幻夢の一撃>』出でよ…!"ジャッカル"」


貴婦人を中心にサークル上の陣が展開される、異界より召喚されるは術者に仇なす者を喰い殺す魔狼
 その牙はルージュの<エナジーチェーン>で締め上げられた腕の罅に突き刺さった…!



 異形の魔獣が突き立てた牙は罅を更に広げ、冑に覆われ表情を窺い知る術はないが騎士が苦悶の声を漏らし
牡山羊を彷彿させる2本の角が生えた頭部を振るう姿を見るに恐らく皮膚にまで食い込んだのだろう





紅き妖刀を手にアセルスが咄嗟に機転を利かせた防御

あれだけ大口を叩いた癖に油断したッ!と舌を打ちながらも飛び退きエネルギー集合体で敵の腕を縛るルージュ

詠唱を終え、自身を中心とした陣で異形の存在を呼び出す妖<あやかし>の術でジャッカルを召喚した妖魔、白薔薇姫




 単純に力量差ならば騎士に分配が上がっていた
しかしながら古来より戦いというモノは数に左右される、如何なる兵<ツワモノ>も、百戦錬磨の英雄であろうとも
多くの敵の連携を前にしては辛酸を舐めさせられる事となる





 白薔薇「星光の加護よ、彼の者に安らぎを―――『<スターライトヒール>』パァァァァ!!



 澱んだ溝水のように一点の光さえ刺さない結界の中に一筋の輝きが降りて来る
それは従騎士の剛脚で蹴りつけられた腹部を押さえていたアセルスを温かく包み、光に抱擁された彼女の表情も和らぐ




アセルス「白薔薇!すまない……、私にはまだこの妖刀を、幻魔を扱い切れないのか…っ」



手にするは紅い劔、ただならぬ気配が漂う刃は何も答えてくれない



 先程、ルージュを護った紅き妖刀を鞘に納め、少女は右手を前に翳す…
何も掴んでいなかった筈のその手の中に突如として1本の長剣が姿を現した



ルージュ(…!何も無い空間から剣を取り出したっ!?)

白薔薇(っ、アセルス様…それは!!)



水の従騎士「…ほう、[妖魔の剣]を呼び出せるようになったのですね」

アセルス「だぁぁぁぁぁぁあぁあああああぁぁ!!」ヒュッ!スパッ!



水の従騎士「仮にもあの御方の血を注がれ、半分とは言え妖魔の仲間入りを果たされただけはある…しかし!」ガキィィン!


ルージュ「うおぉおお!?(なんて腕力だ、腕を振り回して縛ってる僕ごと)」




念動力の鎖が巻き付いた腕を大きく振り回し、ルージュごと振り回す
大地から足が離れ遠心力に翻弄されたルージュは堪らず術を解除し、地面に叩きつけられる


彼の身体が地につくのとは真逆だった、彼女が全く同じタイミングで地から飛翔したのは…!



 青年の肉体が地を2度跳ね、少女が剣の先を敵の顔面目掛け突き刺すような姿勢で跳び
妖魔が驚愕の表情のまま口元を手で覆い、騎士は自由になった利き腕の剣で迎え撃つ



これが一瞬の出来事であった










                        【< 妖 魔 化 >】







―――――――カッッ!!








 目を見開いた、春の若葉を連想させる綺麗な緑髪は暗色を深め、重力に反するように外側は逆立つ
その姿を見たルージュは勢いよく突きを放つアセルスの剣先を目で追う…


その刃先は水の従騎士の冑で眼の位置に当たる部位を突き刺すのは間違いなかった







剣先が届けばの話だ










水の従騎士「クゥォォオオオオ、ボッッッッッッ!!」ガコッ ブシャァァァァ!!!





口の部分がシャッターのように開く、人間とは違った歯並びの大口が顔を覗かせた


 消防車のポンプから噴き出す高出力の水圧、いや、それ以上の出力で
それこそ重火器[水撃銃]に匹敵する[水撃]が妖魔の騎士の喉奥から放たれたのだ



 鈍い音、障害物も何も無く、真っすぐ跳んでくるはずだったアセルスの右肩から骨が折れたような音がした
滞空中の少女の身体はさながら風を受けた風車のように回りながら弾き飛ばされる




そして追い打ちの一太刀がアセルスの身体を裂かんとする





時間を要する白薔薇の術は間に合わない

弾き飛ばされすぐさま態勢を整えて術を放とうとするルージュでも間に合わなかった





17歳の少女の鮮血が騎士の剣先に付着した




言葉を失った、自分の目の前で助けられたかもしれない人が命を落とす





深々と刃が通った少女の肉体が嫌にルージュの網膜に焼き付く、脇腹から臍の位置までざっくり…
やや、斜め上に胃腸から肝臓まで切ろうとでもしたのだろう



あれでは助からない




ルージュ「なんてことだ…」ワナワナ




 このような非道が許されようか、年端もいかない娘が目の前で切り殺されたて平然と何故できようか!?
握り拳を創り、彼は暴挙をあげた騎士を何としても葬らねばと怒りに震えた


 誰にでも優しい彼とて相手が微塵たりとも救いようの無い極悪非道の悪漢ならば手心など加えない
容赦なく爆裂魔法<インプロージョン>でその生命をも奪う事だろう



立ち上がり、彼が術を唱えようとしたその直後―――












                     "それ"は起きた











         ドクンッ!

                 ドクンッ






        ―――ゆらり…





本日何度目になるか、分からないがルージュは絶句した


何故ならば…











                 ドクンッ!

                     ドクンッ!



                ドクンッ!












            シュウゥゥゥゥゥ…!
























                  アセルス「」ユラァ…






























     明らかに致命傷を受けた筈のアセルスが立ち上がったのだっ!!その手に血染め色の妖刀[幻魔]を手にして!





                             ビチャッ!


アセルスの血が地面に落ちた…




アセルスの―――















ルージュ「紫色の血液…?」



妖魔の血は青色

人間の血は赤色




あの血はなんだ?





白薔薇「アセルス様…」





裂けた腹からは血液が滴る…そして驚く事にその傷口が尋常ではない速度で塞がっていくのだ、術の力じゃない


ジュゥゥ…!



ルージュ「あ、アセルス…キミは一体」



アセルス「」フラリ…フラリ…フラッ



意識が無い、何も答えず、虚ろな眼は何も映さない

ゾンビのように起き上がり、風に揺れる草原の芝のように左右に身を揺らし、そして―――






             アセルス「           」ボソッ








  彼女は誰に聞き取れる訳でも無い小声でつぶやいた

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               イ`ヽ、::ト、ヽ:\  .._    ̄ ニ´/ /ヽヽ_  -ー /
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亅   ヽ|f⌒ヽ `ー-、___` ̄`      ヽー、: :├──イ   { 〈 ヽ戈Zノ / l!     〉 }
`ヽ、   \ |   >、  (::(`¨     _∨: : :\  `ヽ    =≧=彳_ヽ′ノ    /ハ
   >、 j/| ∠   ` ̄{厂 > 、 {: : : : : : : : :.ト、  `Y  、_  ̄ _ - ´   ヽ_ノムノ
  |\」/   ヽ{f⌒i    / ̄   |:>'=-: : : : : :..:| f=ーハ     ̄  }    ,f´广´
  ヽ      \ ヽ  / 7ヽ  ハ: :..:∧ニニつ:.//: :..:/ ゝv'⌒)__ノ廴/>′
     ̄ ̄>、  入ノ`ー`ー': : | /  X/_: !: : : : :〈〈: :/    / >、ィ´⌒`‐ア〈
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          -    幻   魔   相   破   -









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気がついた時には全てが終わっていた



妖魔の騎士はもう動かなかった



蒼を基調としたカラーリングの鎧は音を立てて砕け、その破片が砂粒のように変貌する

流れ出した粒子は天へ昇り、蝶へと変わって何処かへ飛び去って消えゆく




幻想的な『死』だった…


後には彼が持っていた[玄武の盾]が転がっていた







意識を失ったアセルスもまた、元の[ルミナス]の風景に戻ったこの場所に倒れていた





「おい!何の騒ぎだ!」

「戦闘があったんじゃないのか…」

「誰か!警察を!IRPOのパトロール隊員を呼べ!」



ルージュ「騒ぎを聞きつけて人が…」バッ!



 倒れて動けないアセルス、その傍らに泣き出しそうな白薔薇
群がる群衆…パトロール隊員の要請、…穏やかじゃないのは確かだ



白薔薇「嗚呼…!そんな!」


白薔薇「厚かましいとは思われますが!お願いです!どうか人を近づけないでください…!」


白薔薇「今のアセルス様を人に視られる訳には!」






紫色の血液を流した少女…


人に視られる訳にはいかない…


シップ発着場の方から来る人集り、逃げ場がない…







    ルージュの中で答えは出た



ルージュ「白薔薇さんっ!アセルスの身体をしっかり掴んで僕に捕まってくれ!」つ【リージョン移動】



外界に出てからは一度たりとも使うまいと思っていた宝石を強く握りしめた



 涙ながらに悲願する貴婦人の妖魔、如何様な理由があるかまだハッキリと分かってはいないが
今、彼女らが民衆の眼に触れるという事は"泣くほど"の事なのだ


ならば誰の眼に触れることも無く脱出する手段を使う他ない

























                ルージュ「『<ゲート>』…[ドゥヴァン]へ!!」
























―――
――



時刻(アセルス達を連れて逃げた回想シーンから今、現在)【19時49分】





「お客さん、どうだいウチのコーヒー占い」ニカッ


ルージュ「あー、すごくいいです」グデー


白い歯を見せて笑うマスターを前に喫茶店のカウンターに突っ伏すようにルージュは疲労の混じった声を出す




ルージュ「…陰術か陽術の資質を取る為に[ルミナス]に行ったはずなんだけどなぁ…あれ~おかしいなぁ」

ルージュ「なんで僕ってば丸1日使ってこんな事になってんのかなぁ、あはははははー」(泣)




「ありゃ?間違ってコーヒーにお酒入れちゃったかな?お客さん?大丈夫ですか」ポリポリ




ルージュ「大丈夫です、それとお酒入ってないんで安心してください、うっ、うぅぅ…」ブワッ






カランカラン!




アセルス「…あのー…此方に銀髪の男の方はいますか?」


ルージュ「」ビクッ ハンカチ、トリダシ ナミダフキ!



ルージュ「やぁ!!もう平気なんだね!良かったぁ」


アセルス「ルージュ、…此処に居たんだ、白薔薇の手当のおかげでなんとか、それで目を覚ました後で聞いたんだ」

アセルス「資質、私達のごたごたに巻き込まれたから取りに行けなかったんでしょ…ごめんなさいっ!」ペコッ


ルージュ「…いや、そのことは良いんだ、自分から突っ込んでいったんだしさ」

ルージュ「それよりも大口叩いといて結局僕は何もできなかった謝るのは僕の方だ」


アセルス「…」チラッ

ルージュ「…マスター!コーヒー美味しかったし個性的な占いで楽しかった、また来るよ!じゃあね!」



緑髪の少女はチラリと喫茶店の店主を見た、目配せ…


此処じゃ話せない事があると暗に言いたいのだ、それを汲みルージュはアセルス、そして外で待っていた白薔薇と共に
神社の方へと歩き出す


白薔薇「ルージュさん…アセルス様のことでお話があります、ただ口外しないことをお約束願いた―――」

アセルス「いいんだ白薔薇、どうあれ巻き込んだのは事実だ、だから…私の口から"話す"」


白薔薇「…畏まりました」





神社の長い階段、紅葉が風に舞い、蒼白い月の光はそれを幻想的に染め上げる


アセルスは告げた…彼女達の立場を、包み隠さずに



*******************************************************


[BGM:主人公アセルスのテーマ(未使用曲) ]

https://www.youtube.com/watch?v=R9iIWQlZxzM





妖魔、人とは異なる種族が住まう世界<リージョン>がある


妖魔の王の中の王、"魅惑の君"と崇められるオルロワージュなる者の統治の元その地は悠久の時を流れていた


変わらぬ日々、代わり映えの無い行動、決められたルーチンワーク、住人も城の召使も騎士も皆が淀んだ時間を過ごす




時が止まったように動かない世界、何もかもが"いつも通り過ぎる"世界



そこで"人間の少女"アセルスは目を覚ます




彼女は困惑した、生まれ育ったリージョン[シュライク]の自宅ではない、見た事も無い天井、見た事も無い部屋での目覚め


彼女は思い出す、育ての親の叔母の頼みでお得意先に本の配達に向かった事を…


彼女は思い出す、その帰り道に





  命を落としたことを…






アスファルトの上を歩いていた、真夜中の道路上には自動車のライトもエンジン音も何も無かった

そう、音もなく、突如として現れた馬車に、馬に、轢き殺された





思い出して頭を押さえた、このご時世で馬車? …頭を強く打って記憶がこんがらがってるのか?ここは何処の病院だ?と



もしかしたら、自分はおとぎの国に迷い込んだ夢でも見てるのかもしれない、なんて楽観的な考えも持っていた

中世のお城のような内装を歩き…


棺桶に入ったたくさんの女性を見て青ざめるまでは





彼女は知る事になった


その城に住まう妖魔の君、オルロワージュの馬車に轢き殺され絶命した事を

そして、"暇つぶし"で城主オルロワージュに妖魔の青い血液を注がれ

半分人間で半分妖魔という、この世でたった一人の奇異の存在に変えられてしまった事を…っ!


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アセルス「お願い!この城から出たいの!叔母さんに…家族の所に帰りたいの!!」


白薔薇「アセルス様…」



妖魔の君より、教育係としてアセルスの面倒を見ることになった者が2人居る

1人はアセルスに武術を教えるようにと騎士を(尤も手当たり次第に圧倒的実力差のモンスターと戦わせるだけの人だが)




1人はアセルスに礼儀作法、妖魔の世界について教育するようにと99人居る城主の寵姫<ちょうき>…人の言葉で言う愛人
その99人の側室の中で誰よりも優しい姫、白薔薇姫が担当することになった



血液を体内に注がれたアセルスとは違い、妖魔の君に血液を吸われ…それこそ御伽噺の吸血鬼のように吸われた白薔薇姫は
人間としての人生を強制的に終わらせられ、妖魔へと変えられた


そんな白薔薇姫は故郷に、そして家族の元へ帰りたいと願うアセルスの姿にかつての自分を重ねたこともあり

彼女の脱出に加担する



そして、念願の[シュライク]へと帰郷できたものの…






アセルスの叔母「…アセルスは12年前に行方不明になったんだよ!あの時と変わらない姿なんて…私を騙す妖怪かい!」

アセルス「叔母さん…違う、違うの!私、アセルスだよ!生きてるんだよ…っ!」





アセルス「12年…、私が意識を失って12…年…?」


アセルス「白薔薇…どうして、教えてくれなかったの?」



白薔薇「…私達のリージョン[ファシナトゥール]では時間の流れなど意味を持ちません」

白薔薇「ですがそれ以上にアセルス様に…ショックを与えたくなかったのです」



眠り姫

もしくは、竜宮城から帰って来たばかりの浦島太郎か



母親代わりの叔母は白髪で、数日前までは同級生だった女子高校生は子供の母親…、街並みは所々変わっていて



アセルス「12年も歳を取らないなんて…やっぱり私はもう人間じゃないんだ…、化け物なんだっ!!」

白薔薇「そのような物言いをしてはいけません!」




城を抜けだしたことで、帰る場所を…迎えてくれる人も失くした自分の唯一の理解である白薔薇姫を奪い返そうと

従騎士たちがやって来る


自分はもうどこにも行けない、誰の元へも帰れない、だからアセルスは白薔薇を護る決意を…逃げ切る決意を胸にする


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   .o:%  ミミi{{ ;{{ゝ='フフ ,ノ ,}:八 ヽ,斗ぅ炒フ| : : : |X>: : :ハ/

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白薔薇「アセルス様…これから何処へ向かわれるのですか?」

アセルス「…何処だって良い、二人で逃げ切れる場所へ行くんだ…」


―――
――





そして二人が乗り込んだシップの行先は[ルミナス]だった…そこから先はルージュも知る通りである





ルージュ「そんなことが…」


アセルス「お腹、切られちゃったんでしょ?私」

アセルス「でも、この通り私はもうピンピンしてるんだ、血管を流れてる血だって人の赤と妖魔の青で紫」




アセルス「前にもお腹をグサッて刃物で刺された事があるけど、すぐに傷口が塞がってさ…ゾンビみたいに」





アセルス「気味が悪いでしょ?」



自嘲気味に笑った、それがなんとも言えない、…この少女が一体何をしたというのだ



アセルス「[ファシナトゥール]から逃げて来る前にこの妖刀、[幻魔]を手に入れた」

アセルス「逃げるなら少しでも万全の準備が必要だったからね…でも、困った事にこの剣は使いこなせてないし…
                       白薔薇を護るって言っときながら実際、騎士との闘いはあんなんだよ」


アセルス「私が劔を使ったんじゃない、私が劔に使われた、気絶したまんま、引き摺られるようにね」


アセルス「何から何まで駄目さ」





ルージュ「君達は、これからどうするんだい」



 彼には使命がある、祖国の最高権力者から双子の片割れを殺せ、と…国家が欲するのは完璧な1人の術士
双子の片割れを決闘を通じて打ち倒す事で唯一無二の最強を証明せよ、と



その勅令を無視すれば国家反逆罪として追手がやってきてルージュは始末される、それは兄ブルーにも言えることだが…









生き残るためには国の御言葉に黙って従い、各地での修行を終え、資質を集め、術を磨き兄を抹殺する事…






アセルス「もう引き返せないんだ、これからも追手から逃げ続けるさ、白薔薇と二人でね」

ルージュ「―――っ!」





目の前の彼女は、追手に追われる身の彼女は他人事とはどうしても思えなかった

未来の…そう、選択によってはこうなるであろう、未来の自分の姿なのだ





ルージュ「僕も…」


振るえる唇から声を絞り出す、止められない



ルージュ「僕も…君たちの旅路に付き合わせてくれないか…資質集めの旅で世界各地を歩き回る」

ルージュ「君達が安住の地を見つけるその時までボディーガードくらいにはなれる!」



アセルス「ルージュ……」


その眼差しには光があった、何かを見出したい

国を出て、これから誰かに言われた通りに決められたレールの上を歩くだけの人生、兄を殺すか殺されて終わるか



たったそれだけの『生』の中で何かを残したい、その何かを残せるかもしれない、そんな希望があった



 紅き術士の旅の最終目的を知らない半妖の少女は戸惑い、共に逃げて来た妖魔の貴婦人に目を配らせる
それを見かねた白薔薇は口を挟む


白薔薇「ルージュさん、わたくし達と共に行動をなさるという事は従騎士に襲われる危険があります」

白薔薇「それでも良いと仰るのであらば歓迎いたしますわ」


アセルス「し、白薔薇?」ギョッ


 目配せはした、危険に巻き込むのも吝かではないアセルスはこの男性にどうお断りの言葉を掛ければ良いか困っていた
しかし瞳の奥にある希望を見たような光に戸惑い彼女に助け船を出したが、予想に反した声が来たので驚いた



 白薔薇の姉姫…"44番目の姫"に勇敢な姫君が居る、噂で聞く限り城主に眠らされ続けている彼女に限らず
決意を持つモノの眼には通ずる物があるのだ、一歩たりとて退こうとしない強き意志を宿した目…それを彼女は知っている


恐らく、彼は『退かない』そういう目をしているのだと解るのだ



ルージュ「覚悟の上です、それでこの命を落とすというのなら…僕はそれまでの人間だったということだ」


ルージュ(そう、兄に殺される、国家反逆罪になり大勢の人間に囲まれ死ぬ、旅路の果てで死ぬ)


ルージュ(死ぬまでの過程で何かを作りたい、誰かの役に立ちたい…
         もちろん死なずに済む方法、兄を殺さずに済む策が見つかるならそれが一番だし)









ルージュ(それに、知ってしまった以上もう他人事とは思えない…!)





白薔薇「アセルス様、私からのご意見をお許しください…現状私達は行く宛ても無く、また頼れる人もおりません」


白薔薇「此処はルージュさんのご提案を受け入れるべきだと思いますわ、…アセルス様の心中もお分かりですが」



アセルス「……分かった」クルッ


アセルス「ルージュ、私達が安住の地を見つけるまで…お願いできる?」


ルージュ「ああ!当然だ」ニィ!




朗らかな笑み、青年は手を前に差し出し、少女もその手を握ろうと前へ――――





             「今だっ!!!」」ブンッ!




       プシュウウウウウウウゥゥゥ――――っ!


ルージュ「!?」

アセルス「な、なに!?」





 茂みの中から光る物体が飛んできた、それは月光に照らされて僅かに反射することから金属だと解することはできた
スプレー缶の噴出音の様なそれは二人の合間に飛んできて"ガス"を噴き出す


ルージュ「げほっげほっ…こ、れ――ぁ」バタッ

アセルス「ルー…げほっ!」


「おおっと、そこの嬢ちゃん動くんじゃない!」



 目が痒い、それと同時に襲ってくるの体内に妖魔の血が流れているアセルスでさえも意識を手放しかねない強烈な睡魔
茂みからガサガサと掻き分けて歩いてくる音と野太い男性を聴覚は認識する


「俺達は手荒な真似したくないんだ、それにそっちの白い子を視ろよ」


アセルス「し、白薔、ごほっ…」フラッ


 睡魔、"ガス"に遮られ視界が暈ける中、いつの間に白薔薇の身体を取り押さえたのか男が数人
白薔薇を拘束、口元を覆うようにハンカチのような布を押し当てているのが見えた


がっくりと項垂れるように、目を瞑った彼女…恐らくこのガスと同じ成分の薬を染み込ませた布で白薔薇を眠らせたのだ




アセルス「!白薔薇、しろばらああああぁぁぁぁ」


「うるせぇ!!お前も眠ってろ!!」


アセルス「ぅぐうっ!…‥っ!…!!…・・・っ・…」ジタバタ、…ガクッ





「ふぅ…いっちょ上がりか、へへっ…イイ女が3人も」





…3人、どうやらこの男達、全員女だと思い込んでいるようだ



「どれもこれも上玉だぜ…、にしても…聞いてた情報と違うな」

「ああ、[ドゥヴァン]の神社に[ファシナトゥール]から逃げ出した妖魔の姫が出没するって噂だったが…」チラッ

「この頭に花飾りつけてる奴じゃねぇのか?」
「俺に聞くなよ、噂だけで容姿とかは分らなかったしよ…そもそもガセネタの可能性があったろう?」



"[ドゥヴァン]の神社に妖魔の姫君が居る"…リージョン界で誰が流したか知らない噂…尤も眉唾物として扱われていたが



「っていうか、この銀髪のネーちゃん人間じゃねぇの?」

「なんだっていいさ、このレベルならヤルート執政官も満足するだろうよ」




「ああ、最近妖魔狩りに凝ってるっていうあの変態のな…あんなのが各地のリージョンの取締役、トリニティの執政だろ」

「政治家が軍事基地に自分のハーレム作って女と変態プレイとか…世の人々が聞けば税金返せって喚くよな…よいしょっ」


「おい!そっちの女たち運べや!…小型の高速艇をわざわざ借りてシップ発着場に止めたんだ」

「早いトコ運んで礼金貰おうぜ!」



「おう!あのシップならトリニティのラムダ基地まで1時間もしねぇつけるぜ」


―――
――

















            …まずは一つ目か、認めたくないが背を預けられる者が居るというのは悪くない














自然洞窟、人間がいつしか忘れ去ったそこは神秘的な世界だった


希少価値の高いレアメタル、鉱石、あるいは古代のお宝を求めた野盗、モンスターも徘徊していたが…






 それでもこの空洞は表の[クーロン]よりも居心地が良いと感じたのは保護の力だろうか…




ヌサカーン「ほう…大したモノだな」




 白衣の妖魔医師は目の前で荒れ狂うルビーの嵐に感嘆の声を漏らす
蒼の術士が唱えた魔術はその名を冠するにふさわしい輝きを見せた、朱色の太陽達…そのまんま、その通りだ


彼が言葉を切ると同時に巨大な宝玉が現出し、それは惹きあうようにぶつかり砕け、弾け飛ぶ




衝突の瞬間に出た火花は正しく日没の一瞬の煌めきに等しい光で、その残光は飛び散った無数の破片に乱反射する

物理法則を完全に無視した光の迸流、大気も何も無い無風の空間に渦巻く竜巻




熱を帯びた鉱物の棘は地脈から"保護の力"を喰らっていた巨虫たちを貫き、体内に熱を送る

 腹、胸、頭の三構造を持つ体節はどれもこれも針の筵の上を転がされたかのように穴だらけで
タンパク質の焼け焦げた異臭と白い煙が立ち上り始めていた、蚤虫に酷似したモンスターの死骸を見てから
ブルーは1匹だけまだ息のある蟲…[クエイカーワーム]を睨みつけた



ブルー「醜い粗虫め、今楽にしてやる…」



文字通り虫の息、放っておいても息を引き取るであろうモンスターに向けて爆裂魔法<インプロージョン>を打ち込もうと――



ヌサカーン「…ふんっ!!」シュバッ!


「ギィッ "ッ ッ」




ヌサカーン「たった一撃で沈む相手にそれはないな、仮にも医者を前にして瀕死の相手に追い打ちをかけるのはどうかね」

ブルー「……」



ブルー「……」プイッ



ヌサカーン「やれやれ…君は情けや人情とやらを学ぶべきだな」



手にした[妖魔の剣]を霧雨のように消し、妖魔は白衣をはためかせながら眼鏡越しに目の前の青年の後ろ姿を見る
 決して殺しを愉しんでいる訳ではない…、それは分かるのだが



ヌサカーン「人間にも様々なタイプが居る者だ、冗句の通じない相手などがな」



 他者に自分の心の領域を犯す事を一切許そうとしないタイプ、調和性が極端に低い人種
根が真面目過ぎるが故に手加減を知らぬ者…


束ねた金糸の髪が揺れる彼はその3点が見事に揃っているという…



ヌサカーン「私から君に診断結果を告げるべきかな?…君は人との繋がりを持つとイイ、さすれば自ずと心にゆとりが」
ブルー「どうでもいい話は後にしろ、それよりもルーンは何処だ」



やれやれ、と肩を竦め「まだルーンが何処にあるか気づかないのかね?」と妖魔医師は言葉を続けた




ブルー「なに?」ピクッ



ヌサカーン「」トントン



妖魔は何も言わない、ただ片足をあげて爪先で地表を叩く

革靴の底が2回音を鳴らし、術士はそれが意味する所に気がついた




ブルー「…!なんと」


ヌサカーン「この街が何故ここまで栄えたか理解できたようだね」




ルーン文字の刻まれた巨石に触れる、そのためにリージョン界を廻る旅をすることになった
巨石というからにはそれなりのサイズだろうと思ってはいたが…






           ブルー「この地脈そのものが保護のルーンだというのか」




"今自分が立っている大地そのものが"目的の大岩だったのだ


 地盤そのものが目的の石、大地には窪みがあった、1本の長い…川か何かが元は流れていてそれが干からびてできたと
そう思えるような痕があった、途中枝分かれのように三岐路になったような地層



もしもブルーが鳥か蝙蝠か…何れにせよ翼を持った生命体でこの地下空洞のこの場所を
少し浮遊して真上から見ればすぐに分かった事だろう



この場所こそが保護のルーン…<エオロー>の刻まれた巨石だと…!!












                フォン…!

      i⌒i    
. <^\ .|  |. /^>
  \     / .
    \  /   .
      |  |    
      |  |      フォン…!
      |  |    
..    弋_ノ    


  フォン…!



           『保護のルーン』を手に入れた!



https://www.youtube.com/watch?v=HSh7-WrhFnk
[BGM:サガフロより…アイキャッチ専用曲]
───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


                                        , ソ , '´⌒ヽ、
                                 ,//     `ヾヽ

                                 ├,イ       ヾ )
                               ,- `|@|.-、      ノ ノ
                           ,.=~ 人__.ヘ"::|、_,*、   .,ノノ
                        , .<'、/",⌒ヽ、r.、|::::::| ヾ、_,ニ- '

                       〈 :,人__.,,-''"ノ.。ヘヾi::::::ト
                        Y r;;;;;;;;ン,,イ'''r''リヾヽ、|;;)
                        ヽ-==';ノイト.^イ.从i'' 人

                         .ヾ;;;;;イイiヘr´人_--フ;;;)
     .,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.    .,,.          ヾ;;;|-i <ニ イヽニブ;;;i、
   ,,,'""" ̄;|||' ̄''|ll;,.  ,i|l          ,;;;;;イr-.、_,.-'  ./;;;;;;;;i
  ,,il'    ,i||l   ,||l'  ,l|' ,,,,,. .,,,, ..,,,,,,   (;;ヾ'ゝ-'^    ,.イ;;;;;;;;;;;ヽ
  l||,,.    l|||,,,,,,;;'"'  ,l|' ,|l' .,|l .,,i' ,,;"   ヽ;;;||、_~'   .|`i;;;;;;;;;;;;;|
  ''"   ,l||l""""'ili,,.. ,|l .i|' .,i|' .,||'",,. .,,.  |;ノ|_`"'---´ゝ  `_'''''''r-、
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                    <::::::::::::/ | └、 |      `ブ <ヽ、'~

                     レノ-'  |`-、、__ ト、、_, -' ´ _,ノヽ~
                          ~` -、、フヽ、__ ,, -'´ ̄ル~'
                            ヘ`~i、 ̄ ̄リ ノヽ ̄~

                            `|;;;;;;|ヽ~-←-ヘ
                             |;;;;;|    ヽ- ┤

                             l::::人    .ヽ  .|
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                           ` ̄        .ト、 .ヽ

                                      ヾ、.A
                                       .ヽノニ'


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乙乙
久々にサガフロやりたくなってきたわ


【時刻 21時23分】




 常闇の街は夜が深まるにつれ昼間以上の輝きと華やかさを増す
特に居酒屋、路上で鍋から湯気を湧き立たせる屋台には顔を赤くしてグラス一杯の焼酎を呷るスーツ姿が目に映った


闇医師ヌサカーンと別れ、1人[クーロン]の安宿へとブルーは歩いていた


 夜なのに昼間以上に明るくなる摩訶不思議な街はその特徴的な色を濃くしていた、路上で客引きをする売春婦
酔っ払い同士の殴り合いを肴に酒を呷りどっちが勝つか金銭を張る警官…数が明らかに増えていた


喧騒と欲望に塗れた暗黒街の小さな安宿、カウンターの向こう側には翼竜の姿をしたモンスター種族の店主が経営している



「1泊、10クレジットだよ」


良く言えば質素な、悪く言えばただの寝床が置いてあるだけの部屋を貸し与えるだけの宿
シャワー、食事等は別料金のオプション扱いだ



しかし、隙を見せれば無一文、裏通りを歩けば追剥の末に骸へと変えられかねない無法地帯で羽休めができる所とあらば
喩え雑魚寝しかできない粗末な場所であろうとも砂漠のオアシスに等しい楽園なのだ




部屋の鍵を受け取った後、シャワーと軽く胃に詰められる物を注文しようと思いながら荷物を整理していた時だった






ブルー「!?…無い、無いっ!!」ガサゴソ



ブルー「【リージョン移動】が無いだとっっ!!」



息を荒げ、何度も自身の荷物をひっくり返して鞄の底を漁る、目当ての宝石は出て来ない
ブルーは一旦呼吸を整え、考えられる可能性を一つ一つ挙げた…

盗まれた?いや、それは無い、此処がどういう街かこの数時間でいやという程に知った
それに、自然洞窟へ入る前に[傷薬]の確認等で一度鞄を見たが…その時は確かにあった…とすれば



ブルー「くそっ!!自然洞窟に落としたというのかッ!」


 ヒステリックに両手で自身の金髪を掴み、忌々し気に床を蹴り飛ばす
疲れた身体に鞭打って彼は既に目的を果たした筈の地下空洞へと再び赴くこととなったのだ…






災い転じて福となす、これは何処かのリージョンに伝わる諺だが、これが後々彼の資質集めの旅にまた関わって来る



無論、福となす方…つまり良い意味で



―――
――






黄金色の髪の女「…はぁ…モヤモヤするなぁ~」


紫色の髪の女性「そう」



黄金色の髪の女「そうって、ライザぁ…」



ライザ、と向かいの席に座る女を呼んだ女は机に突っ伏したまま洋酒入りのコップの淵を指でなぞっていた






ライザ「あと2時間するかしないかでラムダ基地にエミリアを乗せたシップが着地するでしょうね…」


ライザ「エミリアが自分の婚約者の仇、ジョーカーの情報を首尾よく掴めたとしてどう脱出するか」ゴクッ


ライザ「私達は現状、助けたくてもそれが儘ならない…
       基地から適当に小型艇でも奪ってエミリアが逃げて来るのを信じて待つ他ないわ」



口にアルコールを含んだ女が一呼吸おいて淡々と事実だけを述べる

仲間の1人が任務の為とは言え女癖の悪い事で有名な政治家の元へ薬で眠らされて売られたのだ
 表に出さないだけで心配してはいるのだろうが…




ライザ「それで、アニー…貴女はどうする気なのかしら?このまま私と朝までヤケ酒を交すつもり?」ゴクッ


アニー「…遠慮しとく」グデー




アニー「…」

ライザ「」ゴクッ、ゴクッ…




アニー「ライザ」

ライザ「なにかしら?」



アニー「暇」

ライザ「そう」





そっけない返事に黄金色の髪を持つ彼女はムッと頬を膨らませた


アニー「はぁー、もう良いよ…!本当はエミリアが帰ってきたら3人で行く気だったけど…」チャキッ


そういって、彼女はポケットの[レーザーナイフ]とは別で仲間達と同行中に街中で買った得物を…
机の脚の所に凭れさせていた[サムライソード]を手に立ち上がる



アニー「解放、活力は取ったけど、身近にある保護と[シュライク]の勝利は後回しにしてたからね」

アニー「自然洞窟のお宝さがしついでに行ってくるよ、ちょっと鬱憤晴らしたいしさ!」

アニー来た!

巨乳きたか!

う~ん、でかい

でもレッドの出番は少なさそう
というかなさそう

ルージュと組ませればワンチャン



 鬱憤を晴らす為、金銭を得る為、と威勢良く飛び出していった彼女の後姿をライザはコップを傾けながら見送った
ショートパンツにブラジャーの上から緑色のジャケットを羽織っただけの相変わらず露出度の高い彼女は店を出る前に
溌剌とした笑顔で「お宝みつけてくるから!楽しみにしてなよ!」とだけ言って飛び出す



ライザ「」ゴクッ



傾けたコップを卓上の上に置く、片寄った液体は水平になりイタ飯屋の照明の灯りを何処か寂しげに反射させる







「心配なら、ついていけば予感じゃないのかい?此処で独りでの飲んでたってつまんないだろう?」







ライザ「…珍客ね、今日は定休日なのだけど」ゴクッ





「いやぁ~![クーロン]に寄る機会があったもんでさぁ!久しぶりにエミリアに会いに来たんだよ!」



イタ飯屋…皆が犯罪履歴を持つ構成員であり、役に立たないパトロールや法律ではどうにもできない事柄を解決する
裏組織"グラディウス"の隠れ蓑である店内にやたらと明るい声が冴えわたる




 扉の前に居る珍客は紺色でボサボサの髪に民族風の帽子と服装…如何にも「田舎から出てきました」と言った風貌で
腰には使い込まれた剣が一本、その背中には彼の名前と全く同じ弦楽器が背負われていた





ライザ「そう、残念ね、エミリアは今"お仕事中"なのよ…それより、貴方まだ仕事が見つからないのかしら?」ゴク



弦楽器を背負ったニート「ありゃ?エミリア居ないのかー………仕事の方は、まぁぼちぼちな!」



ライザ「…貴方の言う通り、一人でお酒を飲むのも虚しいわ、面白いお話でも聞かせてくれないかしら?」





弦楽器を背負ったニート「おっ!なら今日の出来事を話すぜ!」


弦楽器を背負ったニート「[スクラップ]の酒場で出会った"指輪を集める奴"と"謎のメカ"と一緒に悪党を退治した話さ!」


弦楽器を背負ったニート「さぁさぁ!聞くも語るも愉快な物語の始まりだぜ!」ポロロン~♪






―――
――

ニート、一体何者なんだ(棒)

【時刻:22時14分】





アニー「[飛天の鎧]だ!」チャリッ!



軽快な足取りで自然洞窟へ脚を踏み入れた彼女を絶好のカモと勘違いし戦いを挑んだモンスター、野盗が返り討ちにされて
そこら中に転がる中、彼女は頬を綻ばせた


そんじゃそこらの出店では早々見つからない希少価値のある宝が湯水の如く湧いていたと言うべきであろうか
上機嫌で値打ちのある手土産を収穫し、もはやオマケと目当てが逆になりつつある保護のルーンを彼女は目指す




「くそ…!此処にも無い!」




アニー「ん?」スタスタ









ブルー「…考えられるとすれば、やはりあの粗虫共の所か…っ!」


アニー(あいつ…裏通りから出て来た奴か)コソッ





男性二人の悲鳴が上がった路地裏の方から何食わぬ顔で歩いてきた珍しい法衣の人物の顔はよく覚えていた
 妙に苛立った様子で辺りを散策する様子に眉を顰め、岩陰に身を隠す

術士の周りにはなんとも惨ったらしい死体が複数転がっており、それがアニーを警戒させる一因でもあった


妙な気配を感じるから戦闘の準備を、とヌサカーンに言われ、ルーンの地脈がある空洞へ入り込む前に[術酒]の瓶を開けた
 酒瓶を取り出す為に鞄を一度開けたが、あの時に何らかの形で彼の命の次に大切な国家からの大事な支給品を落とした


宿を飛び出てすぐにそう考えて再び最奥の此処まで彼は戻って来たのだ





 裏組織グラディウス、常に命の綱渡りを繰り返す組織に属するアニーは…いや、組織に属する前から厳しい環境で
育った彼女は人一倍、自己保存と自己防衛の本能に研ぎ澄まされている



だからこそ不用意にブルーには近づかない



下手な真似をすればすぐさま自分もあそこに転がる死骸の仲間入りを果たしかねないからだ


後退ろうと一歩脚を退いた、不味かった




                  ―――コツッ



ブルー「!? 誰だ!!」

アニー(っ!…アタシとした事が、しくっちまった…)チッ




アニー「あたしはこの奥にあるルーンを探しに来たんだ…そしたらアンタの姿が見えてね」ザッザッザッ…

アニー「先に言っとくけどその辺の野盗共と一緒にしないどくれよ…この通りだ」



両手を上げながら、ゆっくりとアニーは術士の前に出る

 隠れてやり過ごすことは不可能、逃げれば後ろから術を撃たれる可能性も無きにしも非ず…
ならば両手を上げて敵対の意志が無い事を示した方が良いと考えたのだ



ブルー「…証拠はあるのか?」ジトッ



アニー「あたしの鞄の中に[ドゥヴァン]で貰ったルーンの小石がある、それが証拠さ」
ブルー「出してみろ、ゆっくりとだ、妙な動きは見せるな」



ゆっくりと、その言葉に従うように鞄から小石を取り出す…


アニー「ほら、これさ…アンタその恰好からして術士だろ?術士がこんなとこに居るんだなら、同じ石を持ってるはずだ」



ブルー「…!("活力"、それに"解放"まで…)確かにそのようだな…」



ブルー「女、貴様も資質集めをしているようだな?」


アニー「…ああ、それとあたしはアニーって言うんだ、女なんて名前じゃないね」ムッ!




目の前の術士のやけに尊大な態度に内心怒りを覚える
上から目線で他者を見下したような眼差し、…ハッキリ言ってアニーにとって苦手なタイプの人種だ


ブルー「ならば訊くが、この付近でこれぐらいの大きさの宝石を見なかったか?」


アニー「…いや、見てないね」




 正直に言えば仮に見ていたとしてもシラを切ってやりたいと思ったが、相手の機嫌を損ねたくない
見ていたと言えば、案内しろと言われかねないし、もし道中拾っていたとして知らないと言えば「ならば鞄を見せろ」と
そう言われる可能性もある



ブルー「鞄の中身を見せろ」



ほれ、言わんこっちゃない

アニーは内心で愚痴る





アニー「…ほら?嘘はついてないだろう」


ブルー「…疑ってすまなかったな、どうにも気が立っているようでな」


アニー「…ふぅん?」


これは意外だ、偉そうな態度が鼻につく奴だと思っていたが、謝るとは…



ブルー「こちらに非があるならば謝罪の一つでもいれるのが筋だ、…顔に出てるぞ貴様」ジロッ


アニー「そ、そう…」ギクッ




ブルー「それにしても、そうなるとやはり…」ブツブツ

アニー「…あのさぁ、アンタ落し物ってことはこの奥まで行ったの?」


その宝石とやらをこの自然洞窟で落としたというからには一度ここに脚を踏み入れたという事、それが意味するところは
この術士もルーンを求め此処へ来たばかりか、事を為し終えた後のどちらかである


ブルー「ああ、そうだが」


アニー「だったらさ、あたしを保護のルーンのある所まで案内してくれない?その代わりアンタの探し物を手伝う」


アニー「あたしは保護のルーンに触れられるし、アンタは探す目が増える、悪くないと思うけど?」



ブルー「ふむ?」



 道中、野盗やモンスターの群れを剣の錆にしてきたアニーではある、だが予想を超えて広がる大自然の地下迷宮と
敵意を以て襲い来る者達の数の多さに少しだけ疲れの色が出ていた


突破できるかできないで言えば目的を果たしてライザの元へ帰る事はできる

しかし、1人だと威勢よく此処へ来たものの流石に疲弊の色が滲んでくるのだ



見る限りこの術士は相当の手練れ、ならば戦力として申し分ないし、それはこの術士ブルーにとっても同じ事が言えた





            露出度の高い女…見るからに頭の悪そうな女


アニーは世の男が見れば放っておかない容姿だ、女としての魅力があるのだが…

如何せん、目の前の男は例外中の例外、世の全ては知性で決まると判断する男で外見的な容姿には目もくれない




 この場にもし、リージョン界を魅了した元スーパーモデルの金髪美女が居たとしても『頭の悪そうな女だ…』と
鼻で笑うような男である




上記の通り、ショートパンツに上半身はブラジャーにジャケットという肌の露出の多い姿はブルーにとって最悪な第一印象
しかも、岩陰に隠れて此方を窺っていたのだから尚更である




…当然ながらブルーとしては、「こんな女と行動なんぞ共にしたくない」というのが本音なのだが




ブルー「…いいだろう」



[術酒]はヌサカーンと来た時に使った、宿から此処まで全速力で悪鬼の如く駆け抜けて立ちふさがる者を術力の限り屠った
術力が底を尽きればブルーは戦力を失い窮地に立たされることになりかねないのだ

不本意ながら、剣を手に此処まで来たであろう女を利用する他ない



それに、この徹底した合理主義者にはもう一つだけ目論見があった




アニーの持っている"活力"と"解放"のルーンだ





 リージョン界の何処かにある巨石探しの旅路で、ブルーは初日で残り3つの内2つの在処を知る事が出来るのだ
双子の弟が今、どれだけ資質集めの旅を進めているのかは知らないが



 自分の名を告げ、[マジックキングダム]から資質集めの修行の旅をしている事を語り、他愛の無い会話をすること早数分
彼が"活力"や"解放"に関する情報を聞き出そうとしたところで―――






ブルー「所で、訊きたいのだがその小石――」

アニー「おっ!こんなとこにクレジットが落ちてるなんて使ってくださいねっていってるようなもんじゃん!」チャリッ









ブルー「…先程は言いそびれたが貴様の集めているルーン―――」


アニー「500クレジットだわ!」ダッッ! チャリッ!










ブルー「……見たところ既に"活りょ―――」イライラ

アニー「[術酒]だわ!…飲めるのかしらねコレ」チャリッ!









ブルー「………貴様の持っている"解ほ"―――」イライライライライラ…!

アニー「[星屑のマント]じゃん!!これで軍資金もかなり財布の中に貯めとける!」チャリッ!

アニー「ふふっ、これで大儲けね」ニィ








   ブルー 「 い い 加 減 に しろ ! !!さっきから金、金、金!と守銭奴か貴様はッ!!」




キレました。




アニー「~っ!んな大声出さなくったって聞こえるっての!!」キーン


 両手で耳を押さえる女をしり目に肩で息を切る術士、フラストレーションを一気に解き放つ
その怒声は薄汚れた都会の地下に存在する大迷宮に響き渡り反響させる






ブルー(…っく、これだから薄汚い街の女はッ)ギリッ





アニーに背を向け、見えない様にブルーは端麗な顔を歪める…顔は見えずとも歯軋りは聴こえているかもしれない



表の街並みで見かける売春婦を汚物でも見る様に彼は見ていた、金の為に身体を売る女
そんなにまでするのか、と





冷ややかな眼差しは背後の女を見ない、見ないが「どうせこいつも薄汚い下賤な者だろう」とアニーを見下していた



"この時までは"





アニー「っ!」チャキッ

ブルー「!」バッ!




「きぃぃぃーー!!」キコキコ…!




アニー「…チッ、アンタがバカでかい声出すから余計なモンが来たじゃない」

ブルー「ふん…!悪かったな」プイッ







一言でいうとソレ


真っ白な体毛、長くうねうねと動く尻尾、それは紛れもなく白猿そのものであった
奇妙な点を挙げるとすれば、その猿は人類に利器(?)に跨っている事だ…


頭に[ヨークランド]の民族衣装を連想させる帽子を被り、一輪車を乗りこなす猿…[モンキーライダー]だ



アニー「2匹か、お互い一匹ずつ片づけるわよ」


ブルー「ああ、そっちは任せた」



アニーが[サムライソード]を手に地を蹴り、それを皮切りにブルーも術を口ずさむ



「ウキャキャ!」


大道芸の荒業か、ペダルを漕ぎながら突撃してくる白猿は一輪車に跨ったまま跳ぶ、でこぼこ状の石床を器用に走りながら
ペダルに両脚を乗せたまま猿は人の背丈を優に二回りを越える大ジャンプを果たす


「キッキィィ~っ!!」



高く飛び上がるライダーはそのまま鍾乳洞に在りがちなつらら状に垂れ下がった鍾乳石にしがみつき
公園のブランコで子供が遊ぶ様を再現するように猿は動きをつける、後退、前進、それを生かし

ニタニタと笑いながら猿はアニーを車輪で踏みつけようと勢いをつけて強襲を仕掛ける――――ッ!





             ジュバッッッ




「キッ きゃ?」ブシャアアアアアアアアアアアアァァァ




[モンキーライダー]の網膜に映った映像は…



アニーが[サムライソード]で何も無い空間を切った光景



[モンキーライダー]の鼓膜に飛び込んだ音声は…



見えない真空の刃が自分目掛けて飛ぶ音





気がつけば白猿の視界は180℃反転していた、地表に居るはずのアニーを見つめていた二つの眼は天上を見つめていた


 黄金色のショートヘアーを揺らしながら彼女が放った[<飛燕剣>]は…剣気によって生じた真空の刃は
猿の首をスッパリと切断した、天井の洞窟生成物に

べちゃり、と音を立てて何かが突き刺さるが見るまでも無い

 頭部の無い遺体がアニーの数㎝先に落下し、紅い水溜りを創る
そして主を亡くした一輪車はカラカラと音をたてながら何処へなりと駆けた



…派手な音がアニーの後方から鳴り響いた、きっと壁にでも衝突したのだろう




アニー「ふぅ…掃除完了っと…」クルッ



ブルー「…先を急ぐぞ」



プスプスと煙を上げる焼死体を背にブルーが声を掛ける



アニー「ちぇっ、先に仕留められる自信あったのに」

ブルー「誰も競争なんぞしてはおらんだろうが…」




ブルー「」スタスタ…

アニー「」テクテク…








アニー「…アンタ、は……さ…その、"家族"とか居るの?」テクテク…


ブルー「なんだ藪から棒に」スタスタ…


アニー「良いから、答えなよ、別に減るもんじゃないしいいだろ?」




ブルー「……」







ブルー「居る、」






――――――物心ついた時から…施設暮らしだった、祖国の学院で…自分は育った


―――――――祖国は自分の親代わりだ、自分を育ててくれた父親であり、母親である


――――――――― 子供は…子供は大恩ある親に尽くす義務がある…
              だから俺は…祖国の誇りの為に尽くし、国家の為に身を粉にする、それが俺の誇りでもある






             だから俺は…――――-






ブルー「たった"1人だけ"…居る」









             ― 名前しか知らない、顔も見た事無い双子の弟<ルージュ>を殺す ―





      ―――弟を殺して、自分こそが優れた人間である証明を掴む、そして祖国に求められる完璧な魔術師となる







後ろを歩く女は目の前を歩く男の顔を見ることはできない

もし見たのならどれだけ険しい顔だったかを知れただろう






アニー「たった"1人"…?」



アニー「…そう」


アニー「…」





アニー「あたしさ、どうしてもお金が欲しいのよね」テクテク…


ブルー「なんだ突然、話の前後が繋がらない――」スタスタ…














     アニー「あたしには弟と妹が居る…あたしが稼いで養わなきゃいけないのよ、あたし達、親いないから」




                      ブルー「…」ピタッ







"弟"という言葉に反応するように、男は足を止めた




アニー「二人共施設に預けててさ、こんな街だから費用も馬鹿にならない」

アニー「身体の弱い妹は[ヨークランド]の裕福な家庭に養子になったから一安心なんだけどね」

アニー「弟の方はまだ小さくて、そんでもって手が掛かる悪ガキで」



アニー「こんな街で女が小遣いを稼ぐなんて殆ど決まってる…男に身体を売るか荒っぽい事をするかの二つ」


アニー「あたしだってこれでも女だからね……腕っぷしでヤバい橋を渡る方を選んだわ」



アニー「アンタの言う通りあたしはお金にうるさいの、気分を悪くして悪かったわね」




アニー「…」

アニー「ああ!!やめやめ!こんな湿っぽい話、らしくない!」



数分前、アニーはこの不遜極まりない男に驚かされた


今度はブルーが目の前を通り過ぎて行った女に驚かされた



「薄汚い街の女」「どうせ肌の露出の多いその恰好…表に居た醜い売春婦共と同じだろう」と見下していたが…




その考えは改めざるを得ない、人は外見に寄らない、目に見える物、言動だけが全てではない




ブルーにとって今日一番の外界で驚かされた事、一番の衝撃との出会い、ファーストコンタクトだ










ブルー(…露出度の多い女には違いないがな)














  この世に かみ が居るとするならば、なんと数奇な巡り合わせを用意したのだろうか…




  奇しくも此処に居る者は…【弟を自らの手で殺す為に戦う男】と『弟たちが生きれるよう食わせていくために戦う女』









    これほど奇妙な組み合わせがあるだろうか…














2名は自然洞窟の奥、[クエイカーワーム]が巣食っていた空洞内へと到達する


ブルー「!! 【リージョン移動】…此処にあったのか!」ダッ!




やっぱアニー良いな





          「ギュィィイイイイイイイ イ   イ イ "ィイ "ぃ 」シュバッ


             ブルー「 ?!ぐ、がっ ぁ!?」ド ゴ ッ





地下空洞の最深部に落し物はあった

彼は敬愛する祖国からの支給品という命の次に大切なそれをここに至るまでに術を乱発し文字通り血眼になって探し求めた








だから、気が抜けた、有り体に言えば完全に"油断していた"




 妖魔医師と一度ここに来た時、ブルーは自身の唱えられる最高位の攻撃術を放った…目に見える物全てを巻き込み
広範囲に渡る灼熱の宝玉の嵐、熱を帯びた鉱物の破片は蟲の群れを物言わぬ亡骸へと確かに変えた


辛うじて生きていた粗虫もヌサカーン医師の一太刀で生命線を断ち切りそれを締めに殲滅したと思った





 先入観や思い込み、これほど恐ろしいモノは他にあるまい…入口から一直線に入って来たブルーの鳩尾目掛けて
突進してきた巨蟲のモンスターは何処に潜んでいたのか、はたまた彼等が一度地上へ帰還していた合間に余所から来たのか




アニー「!!―――っくぉぉっっらぁぁ」シュパッ!ザシュッ!


「ギッッ!」ガシュッ!ジュブッ



アニー「おい!しっかりしろ!生きてるのか…おい!返事をしろって!」



 目の前を歩いていた蒼の術士が猪を裕に上回る大型の昆虫モンスターの突撃で跳ね飛ばされると同時に
彼の後ろをついて来ていた彼女は脊髄反射で[サムライソード]を鞘から引き抜き蟲の前脚を切り飛ばした



 大胆不敵に思い切った踏込、そして股下から頭部目掛けた切りつけ、剣術における"逆風"という名称のそれを放つ


前脚を切り飛ばされ血飛沫を上げる蟲を見据え牽制しつつも彼女…アニーは後方の術士に声を掛ける


ブルー「…ぅ、粗蟲共…まだ居たのか…っ」ヨロ…


アニー「…生きてるんだね、良かった」ホッ



腹部を抑えながらも返事を帰してくれた男の顔はまだ見れない、だが生きている事が確認でき安堵した



アニー「目の前で死なれたりされちゃ、流石にあたしも夢見が悪いからね」チャキッ





「ギィィ…」ギチギチ
「ギュゥゥィイイイ」カサカサ…





 刺々しい触覚のような手足、牙をギチギチと鳴らし威嚇をする[ワームブルード]の群れ
前方に2体、右斜め後ろに前脚を切り飛ばした1体…羽音を響かせながら降りて来るのが1体…計4匹の巨蟲がお出ましだ




ブルー「…おい、ゴホ…女」


アニー「…あたしは女なんて名前じゃないね、なんだよ」


ブルー「さ、っきので、上手く声を――うぐっ…だ、せん  ゲホッ」ビチャ…


アニー(コイツ血ぃ吐いてんのか…)




 目を離せば彼奴等はなだれ込む様に襲ってくる、後ろの魔術師は察する所、術を唱えようにもそれが儘ならないときた







ブルー「整うま、で…ッ 時間が居る、時間を稼げ」

アニー「言ってくれるじゃん、難しい注文をさぁ…!」ダッ!





 要点は確かに聴いた、女手一人で馬鹿デカイ蟲の化け物を4匹相手にしろと言っている
術の使えん魔術師など恰好の餌食でしかない、ならばこそアニーが猛進し後方のブルーに近づけさせない、それしかない




<うらぁぁぁ!! ガキィィン ザシュッ!
<キイイイィィ ィ ィ ィ ィィ ィ!!







ブルー「ゼェ…ゼェ、くっ…」スッ!バッ!



ブルー([ドゥヴァン]で買った術書が功を成すようだな…!)シュッ!サッサッサッ!





 シップに乗っていた合間に術書を開き、内容を頭に叩き込んだ彼は両手を動かす
幼子のあやとりを初めとする手遊びや手話のように忙しなく動かし、"印"を表す


それはかのリージョンでは"九字護身法"などと呼ばれる式の築き方だ




ブルー(印を構築した…あとはこのまま印を切りれば…)ゴホッ



永い詠唱はできない、短く、それでいて今の自身を癒す方法…!






           ブルー「…生命を繋げ…っ [活力のルーン]!!」






 素早く印を切り、短く喉の奥から捻り出すように声を捻出する

基本術の一つにして自身の細胞を活性化させ身体の損傷を癒す印術[活力のルーン]目の前に出現するライトグリーンの光は
ルーンの文字を宙に描き、ブルーの身を包む…すぐさま自身の身にせいの力が漲って来るのを感じ取る




―――
――




    キィン…!



                 パァァン…!







     アニー「あうっ!」ドサッ


 アニー「~っ、こいつ…他の奴よりも強い…どうして…」ハッ!?










  「ギッ~ギイギイィ…!」バタタタタッ![アシスト]!


  「ギイイイイイイイイイイイイイ――――ッィイ!」"STR UP!"."QUI UP!"."INT UP…










アニー「くそっ!こいつら仲間同士で互いに強化させてるからか!」




「キシャアアアアアアアアアアアァァァァァアアアアア!!」バタタタタタッ!ガリッ



アニー「なっ!―――きゃあああっ!!」ガシュッ



猛スピードで突っ込んできた1匹に肩を喰われる

鍛え抜いた反射神経で掠る程度には留めたものの羽織っていた緑のジャケットが裂け、露出した肩肌からは血が滲みだす





アニー「い"っ‥‥、こ、こんのぉ!クソ蛆虫ぃぃ!あたしのお気に入りだったってのに!!」






肩の痛みを気に入りの服を破かれた怒りで紛らわす、目尻に浮き出た涙を振り払うように渾身の一撃を打ち込む






        アニー「喰らええぇぇぇぇ!!![稲妻突き]ぃぃぃ!!」ダンッッ――ギュンッッ!!



             「ビギィィッ!?―ギッ」ブチュンッッッ!!グシャ!




雷光一閃


刺突技を十八番とする彼女が可能な限りの瞬発力を発揮し稲妻の如く突っ込む






 [仲間の体術使い]と[銃火器を巧みに扱うスーパーモデル]等と共に

"多くの剣術を閃き"[達人]の域に到達した彼女の剣先には闘気が渦を巻き、稲妻が迸る突きの一撃は滞空する虫の胴体を
ものの見事に吹っ飛ばす、頭部、腹、なんやようわからん昆虫系モンスターの臓器が散乱する



同胞の贓物と血飛沫の雨に臆んだか、後に続いて追い打ちをかける予定だった1匹の動きはやや鈍いモノとなる


勢いを落とした突撃など多くの修羅場を潜り抜けて来た彼女からすればスローモーションで―――






         アニー「ふっ!!―――」サッ




くるり、踊るような足さばきで回避行動を取ると同時に手早くジャケットの内ポケットから[レーザーナイフ]を取り出し
グリップを握り締めてボタンを押す


このご時世何処にでもあるビーム兵器の大して珍しくない駆動音と同時にナイフの柄から先に光り輝く刃先が伸びる








 ――――――クルッ…ザシュッ! ガシュッ!





           アニー「…[かすみ青眼]っと!」ボソッ





遠心力を上乗せした両手の得物で害虫を一匹スライスする




アニー「これで2匹、あとは―――」キッ!




害虫を2体駆除し、すぐさま[<アシスト>]で肉体を強化された粗虫共を睨みつける


アニーが振り返ると同時に虫の一匹(最初にブルーに突撃して彼女に脚を切り飛ばされた奴)が強化された奴の頭上を
忙しなく飛び回っていた



すると何ということだろうか、強化済みの[ワームブルード]の身体についた切り傷が癒えていくではないか…っ!!






アニー「…[<マジカルヒール>]回復までできんのね、随分と多芸な事で」チッ!



最初に仕留めとけば良かったと舌を打つ、芸達者の蟲は凝りもせずアニー目掛けてその巨体で体当たりを仕掛ける


当然ながら彼女もそれに対して迎撃すべく剣を構え地を蹴る…










…が!











          ヒュンッ! ヒュンッ―――!






             アニー「!!」






強化された蟲の背後から飛んでくる力の塊、それはモンスター特有の技[エルフショット]であった―――ッ




 飛んできたエネルギー弾の直撃はもはや免れようがない、それでも抵抗すべく刀身で2発叩き落としたが残りは全弾被弾
後方から放たれた援護射撃に遅れて強化済みの蟲がアニーの身体を撥ね飛ばす


血を吐いて仰け反る様な恰好で吹き飛ぶ彼女に[エルフショット]を放った蟲が牙を突き立てるべくアニー目掛けて羽ばたく




 余程、片足を切り飛ばされた事でも根に持っているのか
その執念の赴くままに接近し柔らかな人間の女性の肌に[毒液]滴るその牙を…!








            ブルー「爆ぜろ、[インプロージョン]!」キュィイイイン!






「アギッ!」ボンッッボジュッ





…粘り気の強い[毒液]が滴るその牙は彼女の身体に突き刺さらなかった




短い断末魔、一瞬の焦げ臭さを残し、この世から消え失せた


片脚を切り取ばされた恨みよりも、不意打ちで鳩尾に一撃喰らわされた魔術師の方が根に持つタイプだった、それだけの話






ブルー「ふぅーっ…このクソゴミ蟲共が…此処に保護のルーンがなければこの場所諸共消し飛ばしてやりたい所だ」




見るからに青筋を立てて、惜しみなく不機嫌を表現する術士は目だけで人が殺せそうな視線を残りの害虫に向ける




アニー「なぁ…こいつはあたしにヤらせてくんない?」




腹部を片手で抑え、同じく怒りで肩をわなわなと震わせる黄金色の髪をした女がゆっくりとブルーの背後に近づいてくる

ブルーは呆れた、この女の耐久性に





自分でさえああなったというのに、強化された彼奴の突撃を直に受け止めてその程度で済んでるのか、と







                      ブルー「勝手にしろ」

                      アニー「ん、わかった」



                      「ギッ!?ギイイイィィ!?」









元より、お宝さがしに加えて鬱憤晴らしの為に来たのだ
蟲如きにコケにされては財宝の他に苛立ちまでお土産にしてしまう、怒りの一撃をお見舞いせねば



不穏な空気を感じ取ったのか、モンスターは脇目も振らずに一目散に逃げ出そうとする



アニー「逃がすかぁぁぁぁ!!」



 剣を構える、達人の域に到達した彼女が閃いた一つの到達点
無駄なく敵の急所のみを狙い、生命活動の源となる部位を確実に寸断する手法








       アニー「だあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」シュバッ!















                   [デッドエンド]ッッッッ!!











 地下空洞内全域に轟くような音、天井すれすれまでに跳躍した彼女の身体は逃走を試みる小蟲の一生に幕を下ろした



―――
――


https://www.youtube.com/watch?v=L-oSUIEn218
[BGM:クーロン]



【クーロン:発着場前】



ブルー「まさかあんなところに抜け道があるとはな」

アニー「大昔の地下鉄だからね、こうやってシップ発着場に繋がってる場所もあんのよ」



 お互いに目的を果たした男女は[クーロン]の街へと戻って来ていた、アニーは同僚のライザから教わった道を使い
蒼の術士と共に帰って来たのだ


アニー「あのデカイ蟲が保護のルーンになんかしてるから、街の治安が悪くなるんでしょ?」

アニー「なら、これで安心して暮らせる奴もちょっとは増える、良い事ね」




自分の後ろについてくる術士から聴いた話からそんなことを考える、お宝は手に入るし運動にもなった
挙句にはこの街で暮らす人々の平穏にもつながる良い事じゃないか、と




ブルー「…」スタスタ


ブルー「おい、おん………アニー」






「おい、女」と言いかけて改める、初めて目の前を歩く女の名前を尊大な態度の術士は口にした





アニー「な、なにさ?」




この無礼極まりない男が急に改まったので内心驚きを隠せない、とりあえず返事を返してみれば








ブルー「癪だが、貴様には一つ借りができたな…」

ブルー「粗虫の最初の不意打ちからあれだけの数に囲まれれば俺も命を落としたやもしれん」




ブルー「礼を言わせてもらう」




アニー「お、おう……気にすることないっての…」



偉そうな態度が鼻につく男ではある、が最初の邂逅の時もそうだったが自分に非がある時は素直に謝るのが筋だと述べたり
この男は変なところで真面目だ



ブルー「この借りはいつか何らかの形で貴様に返させてもらう」

アニー「そ、そう?(なんか調子狂うわね)」




借りを返す、かぁ…しかし、返してもらうにしたってどうする
どうせな貰うのなら満足のいくものが良いと思うのが人の常





アニー「……!ねぇ!アンタさ!その恩返しだけどなんでも良いの?」

ブルー「? ああ、可能な事であるならばな」



命を救う、これに匹敵する恩ならば返してやってもいいと思うし、何よりこの女は"[解放]のルーン"、"[活力]のルーン"

ブルーが喉から手が出る程欲しいモノの情報を彼女は二つも有しているのだっ!






…要するに、純粋に恩義に報いてやるのが半分、もう半分は貴重な情報源の機嫌を損ねたくないという利己的な考えなのだ








アニー「ふっふっふ…なんでも良いのね♪」ニシシ




―――この時ッ!アニーの頭上に豆電球が灯るッ!



アニー「じゃあ、あたし含めてあたしの仲間達をディナーに連れてって欲しいのよ!アンタの出費で」


ブルー「晩飯を奢る程度で良いというのか?その程度なら構わんが」




アニー「OK!契約成立ね!取り消しは無し!」つ【紙切れ】




ブルー「? なんだこ―――」





ブルーが手渡されたのは一枚のチラシだった…先程のリージョンシップ発着場で誰でも気軽に貰えるチラシ







アニー「すっっっごくお金の掛かる豪華客船での食べ放題バイキングディナー」

アニー「いやー、一度で良いから皆で行きたかったのよねぇ~♪」





ブルー「  」





そのチラシにはこう書いてありました






                         【チラシ】

  ~『美しき白鳥のフォルム、展望台から一望できるリージョンの空!満点のサービスに豪華三ツ星ビュッフェ』~


     ~『 [マンハッタン]発の宇宙船<リージョン・シップ>  《キグナス号》で優雅な一時を! 』 ~
            ※三ツ星ビュッフェは別料金となり、クレジットはお一人様――――




アニー(…エミリアが帰って来た時に、詫びの一つは要るだろうとは思ってたし…)

アニー(グラディウス皆でちょっとした旅行みたいで良いわよね!)ニシシ♪


アニー(不本意だけどルーファスの奴もこのキグナスって船に乗せてやって、皆でご馳走ね)




───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三

      【解説:アニーの閃き率】

どの主人公を選んでも印術の資質入手EVで仲間に出来る子、ラッキースケベの主人公曰く「う~ん、でかい。」

仲間キャラそれぞれに閃きやすい系統というモノが存在する、"体術" "剣技" "銃技"…その中で彼女は剣

とくに[突き]系の剣術を閃きやすいというが…



   実 は そ ん な こ と は な く 寧ろ 全仲間キャラの中で閃きが一番悪い

 というのも彼女だけが閃きの系統が異質、剣とか銃とかそういうレベルじゃなくて

 彼女は 『[名前がカタカナ]系の技』 を閃きやすいという 何故か独特の系統が設定されてるらしい


 だから漢字の刀技や剣技も新技が覚えにくいらしく
       代わりに[ディフレクト]とか[ロザリオインペール]等の名前がカタカナは閃きやすいという噂



           , _,r '' ´ ̄ ̄ ̄`ヽ、

          //               \
         _//                  ヽ---イ
        /            \ \\  \ヽ
      / /        / |     ヽ ヽ ヽ   l l
      l//      / |  ト 、 ヽ  |l  |ハ | | |
      | |   /  / /| |  | `、 || | |イ} リ | | |
      | |   |   | ハ |⊥|-- | || / ,ィ〒| /| リ
      | |   |   | { l八,⊥= l /|/ ヒj_ K |/
      | |      |川 リィlトイ:} リ/〃   、 "VV
      リ} l     ||ト|ヽ ゞ='´     ′ ハ ト==‐
      〃|| |    ヽ \`ヽ、""   ー一  /| | |
        |j/ /  ヽ\ヾミ        /| | |/
        // / │ | | hヽ ‐- ..__, イ {/イ
       //// ∧ | | lTリ____」 │  | {〃
      |/|/ / /川川/ナ人____| ̄`Y | ヽ、_
      |l | / ///レ┴┴‐tュ_r‐┬r)〉  ト|ヽ、_ノ
      l! | / //      \┴┴'⌒ヽト、
          | { ケ/>====t \   \ \
          〈rイノイ´ ̄ ̄ ̄|L -ヘ ___>‐、ヽ、
           〈 〈 |       └┬⌒〉      ヽ `ヽ、
            ヽ| |  , ---- 、|  |       }     ヽ、_
            ヽV , ---- 、)  |        /     /フ二入
             |Y      |   |     ∧   // 〃    `丶、
             | |      |  |二>--イ ヽ` '‐|レ/_          `>- 、
            /│       |   |-──┤   \//″ ` ''‐ 、 __/    ``ヽ.
            /   |      |    lニニニl  /// |    ,、‐ ''´     `ヽ、    ヽ
            \  |     |    l     レ'  | || | ,  '´             /       |
              ヽ_|       l    \  /|   ノノ/      /      |_i    |
              |     |一''´ ̄ ̄ _l |ァ-イ/         | {        | |l、__/ lハ
             / ̄ ̄ ̄ヽ---─ ''´ |」k/|==ァ     V       し1 / 丁7
             〉‐───く __r─ニロテ7 /|) 〃      /        / 〃 / /
             L -──‐、_)テ }} // |// ∨ ̄了    /         しl |_/‐'
              レ── 、|〉   }}厶//レ'   ヽ 〃    /          /
              |       ん~┬〒イ  |    ヽ-─┐/         /`丶、
               |      /   / |  | |   |       \ //           /    `ヽ、
                |     /   / |  | |  |      ヽ/           /        \
             j     ハ  / │ l |  ヽ      /,'          /    /      ヽ
            ∧   / `、   |  | ヽ   \   / !           / __/ノ      |
           / ヽ二二ソ  \      \   `ニン |       /´              |
        rr '´       |     \         __ノ   |       /            /
        //ヽ__人   ノ      `ー‐ '´ ̄ ̄    /|      /            /
       / / /  , `'"            ____,.  '´  │     /               _/
      (_/    ̄       rァ⌒ト-‐''´  /     j       /        ,  '"´
                 _,ノ /    /      / /    /_...  --‐ ''´
               , イ   //    /      r'´ ̄ ̄`ヽ、/
            //  / |「レ== 、_ ヽ、___, イ       ヽ
            厶/ |< M Lト=ッ7/7| _.. -'´ /         /个L
            | ∧//ヽ|ラ‐イ//|し1´    〈 ┬‐ 、  (( イ/| 〉〉
            レ冖\__/Jl」 ̄      /   ト|`Tヒ// |しノ
            `ヽ⊥ -‐'´           |__  \\//大」
                            ├  ``ヽ、 ̄|/ ⌒⌒ヽ、_
                            | r─、    ̄ ̄二二ー‐ヽ
                            ヽ三三 r─‐ 、` ー----ハ

                                  ``<┬三三三ヽ/
                                     ` ーニニソ

───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三

そんな特殊な閃き条件ついてたのかこの子……

はへ~知らんかったわ

乙乙
でもカタカナ技ってあんまり強いの無いのよね……それでもスタメンだけど
オチはレッド編に繋がるフラグかな?

今回も乙

「貴様の名前が気に食わん」をどう料理するかが楽しみだ

















    …うぐっ!? 痛い…? 僕はどうなったんだ…?確か[ドゥヴァン]の神社でアセルスの身の上話を…














痛みで覚醒した僕はゆっくりと瞼を開いた、紅葉の香りが鼻をくすぐったあの神社の前とは全く違う光景だった


無骨な鋼鉄の部屋、まるで僕が本で読んだ牢屋みたいな何も無い部屋で


  [マジックキングダム]の寮部屋みたいな二段ベッドが幾つかあって…僕はその寝具の梯子部分に縛られてたんだ





目の前には知らない男の人が数人いて、なんだか困ったような顔で僕を見てる…




*******************************************************
―――
――



【双子が旅立ってから…2日目、夜明け間際 4時27分… トリニティの軍事施設があるリージョン [ラムダ基地] 内部】




「やっと目ぇ覚ましたぞ…」ハァ

「…で、こいつどうすんだよ……つーか誰だよコレが女とか言った奴」




ルージュ「???」キョロキョロ




 ラムダ基地…赤焦茶色の岩肌だらけのその土地に築かれた前線基地には
この広いリージョン界を束ねる政治機関"トリニティ"の執政官が着任している…現状この基地に居る執政官は…まぁ、その









…実に評判がよろしくない




その理由は…










「どうするよ、あの変態になんて言い訳すんだ?」

「どうったて…なぁ…」


「さっきの妖魔の女たちはヤルート閣下のハーレムに送ったが…この男は…」ウムム…





…税金で創られた軍事基地に美女を集めハーレムを築いているという悪評が出回っているからだ
 物的証拠が無い為、誰も検挙できないでいるが噂自体は広まっている、これで変態執政官と名高い彼のハーレムから
半ば拉致監禁に近い形で連れられた女性が基地内から脱走し証言でもすればお巡りさんが手錠を持って動くだろうが…



ルージュ「!妖魔の―――アセルスと白薔薇さん!!彼女達を何処へやったんだ!」ギッ!ギッ!




 縄で両手両足を拘束された彼は華奢な身体を精一杯動かし、反抗的な態度を露わにする
穏やかな眼つきを鋭いモノへ変えて目の前の男衆を睨み恫喝するのだが…



「あー、ったくうるせなぁ!あの女共ならこの基地のお偉いさんトコに連れてったよ」

「女好きのドスケベ野郎だ」



特に臆することも無く、縛られた男一人、術さえ使われなければどうとでもなるだろうといった風である

う~ん、でかァァァァァァい。説明不要!




ルージュ「…あなた達はこんなことをして…恥ずべきだと思わないのかっ!!」



 男達の口から飛び出す内容を整理して凡そ分かった事、それはこの男衆は所謂人攫いのようなモノで
自分達はその"ヤルート閣下"とやらの基地に連れて来られたということ


そしてその閣下とやらが無類の女好きということもハーレムという単語からよくわかる、手癖の悪い男だ




「思わんね、正義感なんぞじゃ腹は膨れん、おまんまの食いっぱぐれだけはお断りだ」

「そんなことよりもこいつの処遇をどうするかだ…」ハァ



ルージュ「くっ…なんて奴らだ!」ジタバタ




「…」ジーッ


「あん?どうしたんだ…」


「いやさ、この男…本当に女みてーな顔してんなぁって……思ったんだけどさ」













「こいつ女の恰好させてヤルート閣下に引き渡せば良くね?」





「…」ピタッ
「…」ピタッ


ルージュ「…」ジタバタ…ピタッ








 刹那、凍り付いた…
威勢よく暴れていたルージュもまるで[停滞のルーン]でも使われたんじゃないかと見間違う程に微動だにしない




ルージュ「」ダラダラ…



「いやさ?だって…あのヤルート閣下だぜ?妖魔狩りにハマるような変態度だぞ?なんかもう男の娘です!とか言ったら」



ルージュ「」ダラダラダラダラ…


滝のように汗が噴き出る、止まらない…

寝落ち?


―――
――





「出ろ」




アセルス「…」テクテク






アセルス(意識を失ってあの後、目が覚めたら此処に連れて来られた…)


アセルス(白薔薇の安全を確認して助け出すまでおとなしくしなきゃ…っ)ギリッ


アセルス(…あいつら、ルージュを女の人と間違えて連れて来たって言ってたから此処にルージュも居るはずだし、まず)















           トリニティ軍人?「こんな連中に捕まってしまうなんて…まだまだだね君は」フゥー










アセルス「?」


 俯き気味だった半妖の少女はその声に顔を上げた、声の主は深々と帽子を被り軍服をピシッと着込んだ少し色黒の男性で
妙に親しげに話し掛けるこの男性が何者であったか記憶の引き出しを漁り答えを探そうとしていた



少考、一呼吸の間を開けて結局誰だか分らなかった彼にアセルスは



アセルス「誰?」



そのまま抱いた疑問を言葉にして投げかけるしかなかった



色黒の男は「ふふっ」と…そう、まるで悪戯が成功して喜ぶ無邪気なお子様染みた含み笑いを浮かべ帽子を取る

 アセルスはこの時、漸く声の主が誰であったか思い出した、逆立った赤紫色の髪、悪戯小僧と名付けたくなる笑い…
一度見たらそれはもう忘れられない衝撃的な恰好のアイツだ


…今はその衝撃的過ぎる恰好じゃないからこそ、規則遵守を体現したような出で立ちだから思い至らなかったのやもしれん











     乳首にお星さまを付けた上級妖魔「この程度の縛めなんて、ちょっと力を入れるだけで破れるのに」ヤレヤレ



      アセルス「ゾズマっ!!!此処で何をしてるんだ!!」






帽子を取り、逆立った赤紫の髪を、そして「ふぅー、この堅っ苦しい服は嫌だねー」と服を脱ぎだす上級妖魔



アセルスが[ファシナトゥール]で出会った男性型の妖魔

 彼曰く「自分は此処のナンバー2で自分を止められるのは妖魔の君だけ」との事、自由を誰よりも愛し
自分を束縛する者を嫌う、興味がある事にはとことん首を突っ込むスタイルで俗にいう美男子という顔立ちであり
上半身裸で乳首にお星さまをつけるという一度見たら誰もが通報したくなるようなスタイルを進む自由人である





 ゾズマ「別にアルバイトとかそんなんじゃないよ…よいしょっと」ドサッ


 アセルス(!私達の荷物…)


 ゾズマ「妖魔を弄んだ連中に、火遊びが過ぎるとどうなるか思い知らせてやるのさ」


 ゾズマ「もう数人侵入して手筈を整えているところだ」フフッ



 アセルス「…ふぅん、随分と仲"魔"思いだな」



何考えてるんだか正直よう分らん露出狂くらいにしか見てなかったがちょっとだけこの自由人の評価が彼女の中で上がった



 ゾズマ「さぁ~どうかな♪とにかく楽しい宴になりそうだよ」ニヤニヤ







 アセルス「…」





 アセルス(こいつめ、何やらかす気だ…?)





決して長い付き合いとは言えないがある程度この上級妖魔の事で分かった事がある


コイツがこういった悪戯を思いついたような悪ガキめいた笑みを浮かべる時は大抵ロクでもない事を起こす時だと

先程上がった評価がまた元の位置に戻りそうだ





アセルス「君、この先に白薔薇が居るのかい?」スタスタ…


「はい、ゾズマ様がご確認なさっております、白薔薇姫様の他、お連れの方もいらっしゃいますよ」


アセルス「そうか、ありがとう、此処から先は私一人で行けるから君はゾズマの所に戻ると良い」


「畏まりました」スゥ…


アセルス「…消えた、アイツ何人この基地に妖魔を潜入させたんだ…」スタスタ…



扉を潜ればそこは……





アセルス「 」







アセルス(う、うわぁ……)ヒキッ




 如何にも成金趣味の部屋だった、いや下手するとそれより酷い、天井にキラキラ光るカラーボール
一昔前に流行ったディスコかと見紛うような内装で女の子が1人の肥え太った醜夫を満足させる為にいやらしく踊っている



醜夫「そらそら~もっと踊らんか!生皮剥いで釜茹でにしてしまうぞ~」


「いやぁ~ん、ヤルート様ってば~そんなことしないでぇ」



 軽口のように飛び出た恐ろしい拷問に掛けられまいと媚びを売った声色でバニーガール衣装の女が
扇子を仰ぐ東洋風の礼装に身を包んだ女が愛想笑いを浮かべご機嫌取りと来たものだ




ヤルート「ぐへへ…そういわれちゃぁなぁ」デヘヘ

道化師のような仮面をつけた男「……ヤルート閣下、そろそろ取引を」



ヤルート「まぁ待たれよジョーカー殿、もう少し余興をお楽しみくだされ…ぐへっ」ゲヘゲヘ!



 歯磨きなんて生まれてこの方一度たりともしてないんじゃないかと思うような粘りっ気の強い唾液が
前歯にこびり付いているのを見てアセルスは嫌悪感を露わにする

脂ぎった手で近くにいた10代半ばの少女を抱き寄せ頬ずりする様はなんともまぁ……


アセルス(あからさまに嫌そうな顔してるよ…)


ヤルート「ゲへへ、最近身体の発育がよくなったんじゃないのか~」


「や、ヤルート様に美味しいご飯を頂いているからです…」


ヤルート「おお!そうか!そうか!うむ!そっちの女子も近くに寄れ」

「は、はいぃ…」



アセルス(…あ、あまり目を合せない様にしよう)ゾーッ


中央で椅子に踏ん反り返りハーレムを楽しむ醜夫、仮面の所為で表情は窺えないが呆れの色が見て取れる男性
そんな二人を余所にアセルスは白薔薇を探す…



アセルス(…!居た、あんな隅っこに!…でもルージュは何処に居るんだろう)キョロキョロ



バニーガール、民族衣装の少女、ヤルートの趣味でランドセルを背負い腿が良く見えるスカートの女子大生程の人
誰も彼もが拉致同然に連れられたのだ…


そこにはアセルスが嫌悪感を拭えない理由がもう一つある





それは、自分の今の境遇の元凶たる魅惑の君と通ずる所があるからだ





 先程ゾズマに荷物を返してもらった、当然[幻魔]だって手元にあるし
あそこのドスケベ魔人に対して峰内でも叩き込んでやりたいのが率直な感想だ鞘から引き抜かなければ
妖刀に引き摺られることもないだろうし…

ただ、軍事基地のお偉いさんにそれをやれば周りの連れて来られた人に危害が無いとは言えない、だから堪えるしかない



アセルス「ごめん、そこを通して…!」



半妖の少女は水着姿で踊る少女等に道を譲ってもらい漸く辿り着いた

白薔薇姫はベリーダンスを隣に居たセーラー服の銀髪美女と踊っていた



アセルス「白薔薇!私だよ…!」ヒソヒソ

白薔薇「!…アセルス様!ご無事で何よりです!」ヒソヒソ


白薔薇「此処に連れられた方々はこの戯れが終われば自分達に与えられた部屋へ戻されるそうです」

白薔薇「ですのでその時が来るのを待ち、隙を見て逃げ出しましょう」ヒソヒソ

アセルス「うんっ!」ヒソヒソ


 逃げ出せる好機を怪しまれぬよう他の者に混ざり踊りながら待つ白薔薇のすぐ横でアセルスも彼女の真似をする
舞などこれといってできるモノは無いが、白薔薇の動きを真似るぐらいならばなんとかなると考えた


アセルス「……ねぇ、ルージュは何処にいるの?この基地の何処かに捕まってるんでしょ」ヒソヒソ


白薔薇「…ルージュさん、ですか…」


アセルス「…? 白薔薇?」

何故か苦笑する白薔薇に首を傾げた、白薔薇の視線の先がある一点へ向けられる、その先を目で追えば-――



セーラー服を着た女子大生くらいの年頃の銀髪美女「……///」プイッ




アセルス「……」

アセルス「あっ(察し)」

ルージュとんだ災難だなww

>男性型の妖魔

男性器の妖魔に空目した

乙乙
白薔薇のベリーダンスは開発2部ネタかな?



"それ"に気がついて間抜けな声が出た

緑髪の少女はさっきから白薔薇姫の隣で舞っていた銀髪美人が誰なのか、漸く悟った




アセルス「……」


アセルス「えーっと、そのぉ…なんていうか、うん、似合うよ、うん」



白薔薇(アセルス様、フォローになっておりませんよ…)



 さて、読者諸氏は既にお気づきの事だろう、この麗しの銀髪美女が何処の誰なのか…
彼女、否、"彼"は顔を赤らめていた、名は体を表すとよく言ったものだが赤色を冠する名を持つ彼は若干半泣きだった


なにゆえ自分はこんな所でこんなワケのわからない恰好をさせられているのか?


理不尽だ、と彼…ルージュは心底そう思った





ルージュ「…素敵なフォローをありがとう」ズーン

アセルス「あっ、そ、その…なんかごめん」アセアセ




どんよりとした顔で力無く笑う彼を見てアセルスは強引に話題を変える、変な気まずさに耐え切れない、空気を変えねば!



アセルス「ル、ルージュ…私!荷物を取り戻したんだ!あの[ゲート]って術を使う為の道具も入ってる!」ボソボソ

ルージュ「!…どうやって?」ボソボソ


アセルス「此処に知り合いが居て、そいつが持って来てくれたんだ」

アセルス「詳しくは私も知らないけどもうじき何かを起こすらしい、その隙がチャンスかも」



この場で直ぐにでも別のリージョンへ移動するのは容易い、が…




アセルス「…相談があるんだ」






アセルス「此処に捕まってる女の人達…皆を連れて移動ってできる?」


ルージュ「此処に居る全員を…」


此処に居る女性は皆が、アセルスやルージュ達と同じだ






何の前触れも無く人攫いに捕まり、此処に監禁された謂わば被害者なのだ、同じ女として、そして…

魅惑の君、オルロワージュの居城に軟禁されて十数年…家族との繋がりを断たれたアセルスだからこそ救いたいと願った



アセルスの境遇は知っている、だから彼女の心情は紅き術士にも妖魔の貴婦人にも当然汲み取れる
白薔薇はアセルスの望みを叶えてあげたいし、ルージュもこのような状況を見過ごせない



ルージュ「…できないこともない、けど全員を一か所に集めなければならない」チラッ



 気持ちとしては彼女の頼みに快くYESと言いたい、しかし重々しく開かれた口から出た言葉はこの無駄に広い娯楽室で
両手で数えきれない人数の女性を一切、不審に思われる事無く集めて術を発動させるという到底不可能である事を
VIP席に座る執政官と傍らの仮面の男を見ながら言った




最悪、あの醜夫はどうとでもなる…問題はそこじゃない





ルージュは…いや、白薔薇姫もアセルスも奇妙な仮面をつけた男を警戒していた、確か"[ジョーカー]"と呼ばれていた


被り物の下がどのような表情を浮かべているか分からない、だが…妖魔の二人も、魔法大国出身の青年も分かるのだ
 あの仮面男の前で妙な動きをすれば命取りになる






 ウィーン!



アセルス/白薔薇/ルージュ「「「!」」」



3人がどうすべきか思い悩んでいた最中、事態は好転することになる

アセルスが入って来た入口の扉が開かれたのだ…そこにブロンドの髪を結った幸運の女神様をお通しするかのようにッ!













   元スーパーモデルの金髪美女(うわー、悪趣味な所…あの怪物がトリニティの執政官??)スタスタ…












 童話で喩えよう、雑踏といっそ耳障りなくらいにい煩いオーケストラ賑わう舞踏会にシンデレラが舞い降りた
伴奏を奏でる音楽家も政略結婚を狙う口煩い政治家の話術もハイヒールの雑踏さえもピタリと止まる



瞬き程の僅かな合間、ルージュ等も拉致監禁された沢山の女性も、ヤルート執政官も



……そして、ジョーカー、もその姿に目を奪われた…



ヤルート「―――ハッ!」


ヤルート「如何ですかな?私のコレクションは?」



 入って来た女性にヤルートは惚けた、艶のあるブロンドの髪を結わせたポニーテールが歩くたびに揺れ
しなやかな身体のラインがくっきりと強調された煽情的な踊り子の装束
透けて見える空色の薄布は腰回りをより色っぽく、くびれも上半身に実ったたわわな果実も魅せる露出度で―――



――いや、一番は"女"の部位を前面的に押し出した美貌じゃない、雰囲気だ




例えば同じ美人美女でも歩き方一つで感じる印象が違う



同じ顔立ちでも前を見て朗らかに微笑みながら歩く女と、鬱蒼とした顔でオドオド歩く神経質な女じゃあ抱く感情が違う


舞台役者が一つの劇、芝居でその役を完璧に演じるように、そのものに為り切っているように…目の前の美女は歩く



心の底から『美しい』『綺麗だ』そう感じ取らせるオーラがあったのだ…!





アセルス(うわぁ…綺麗なヒトだなぁ…//)ポーッ

白薔薇「…アセルス様、舞わねば不審に思われますよ」ボソ

アセルス「ぁ、う、うん…!」


相手方に気付かれないように脇腹を小突く白薔薇とアセルス、ルージュもハッと我に返り止めていた動きを再開する

それは水溜りに投じた一石から生まれ出る波紋のように広がり、止まっていた全ての女性等の動きを、執政官達を動かす






ジョーカー「…流石はトリニティ第三執政官のヤルート閣下、良いモノを飼っておいでです」




 被り物に隠された顔は相変わらず読み取れない…筈だが、心なしか仮面の男の声がほんの少しだけ感情を持った
そんな風にルージュは感じた



ヤルート「それでは今日は特別に1匹、お持ち帰りになるとよろしい!ジョーカー殿!」ゲヘ!ゲヘ!


気分を良くした醜夫は来客のジョーカーに揉み手をしながら愛想笑い、対照的に入って来た女は心を波立たせる







元スーパーモデルの金髪美女(ジョーカー…っ!!)






波立った心を落ち着けようと彼女は演技に全意識を集中させる、でもなければ歯軋りが聴こえてしまうだろうし
 今にも自分の婚約者を殺害した憎き仮面男をこの手で縊り殺さん勢いで飛び掛かってしまいそうだったから…



ヤルート「いやぁ…丁度鮮度の良いのが入荷したようですな、おい、お前何かやってみせろ!」


鮮度の良い入荷品の出来をまずは知ろうとヤルートは命じる、その声に彼女はハッとする



ヤルート「んん~?どうした?早くしないと生皮を剥いで釜茹でだぞ!」



元スーパーモデルの金髪美女(やっぱりヒドイ所だぁ~!ルーファスの奴…帰ったら覚えてなさいよ!)


 彼女の頭の中には常にサングラスを外さないロン毛男が浮かび上がる、帰ったら真っ先にグラサンを叩き割ってやろう
そう決意を固めながら「舞わせて頂きます」と初々しくお辞儀をする


今は上司への恨み言は後回し、最優先は役を演じ切ることだ





そうこうしてればグラサンの上司と、気の合う仲間…[ライザ]そして[アニー]が助けに来てくれると信じて…




 軽やかな足取りで中央のダンスステージに飛び乗り金髪美女は舞う、この人の邪魔をしてはいけない
舞い込んだ白鳥に魅了された女性たちは彼女の為に十分なスペースを開けようと静かにその場を離れていく…




これはなんだ?

踊りか?

それとも劇か?



ゆったりと降り立った女性は明るく、この世の幸せは此処に在る、とでも言いたな表情で舞うのだ



まるで女が求める最大の幸せ、愛おしい男との結婚を控える女が魅せるような顔



幸せの絶頂に居る、しかしその後の舞は一変、至福の丘から絶望と哀しみの奈落への転落
エキゾチックな衣装の彼女は天を仰ぐように…どうかこれは悪い夢で目が醒めれば幸せに戻れるますようにと

乞い願う女性を演じた、満ち足りていた表情も今は演技なのか本当に泣きそうなのか分からない顔立ちであった









 結婚を控えた幸福な女、突然の悲劇、絶望に打ちひしがれ、一筋の光が差す…女がゆっくりと再生に向かって立ち上がる





踊りというよりも寧ろオペラ座や歌劇に近かった


それも迫真の演技だ、特に何かを決意した女がゆっくりと再生に向かっていく様は鬼気迫る物すら感じる


起承転結、物語性のある舞いだった…疑問なのは『起』『承』『転』こそあれど『結』の部分が無いことだ




ジョーカー「…美しい」ボソ

ジョーカー「見事な舞い、これを頂きたいですな」




ヤルート「い、いや、ま、待ってくれ!これはワシも気に入った、中々に食欲をそそられるぞ!」

ヤルート「代わりにアレなんてどうだ!?[ファシナトゥール]から命からがら盗み出して来た女だ!」

ヤルート「妖魔に血を抜かれて体質が変化しているのだ、中々興味深いぞ」



 想像以上に見栄えの良い女が手に入った
執政官は思わぬお宝を客人に横取りされては堪らんと上擦った声でアセルス等を指差す、『特別に1匹持って帰ると良い』
そう言った手前、この仮面をつけた上客に前言を撤回する訳にいかない

 雇った男衆がその辺のリージョンから偶然見つけて来た妖魔の女を
妖魔の総本山[ファシナトゥール]から命懸けで盗んできました!とちょっとでも箔がつくように嘘を付け加える

それだけ手放したくないのだ



そんなこんなで指差され夏祭りの出店で売りに出される兎や雛鳥か何かの如く指定されたアセルス等はギョッとした


これはマズイ


そう感じた次の瞬間…っ!







    ズ ド オ オ オ オ オ オ ォォ ォ ォ ォ  ォ ォン







基地全体が揺れた、電気系統に異常が出たのか次々と天井の照明が切れていく




ヤルート「な、何事だ!?」

元スーパーモデルの金髪美女(グラディウスだわ!!)パァァ…!

アセルス(…ゾズマか)ハァ…



狼狽える執政官

仲間達が来てくれたと勘違いし、花が咲いたように喜ぶ金髪美女

「ああ、これか…アイツめ、無茶苦茶な」とため息を吐くアセルス




ジョーカー「トリニティの基地で非常事態とは、世も末ですな」

ジョーカー「ヤルート閣下の足元も意外と脆いのやもしれませんな」クルッ




仮面の男が呟くと同時に全ての照明が切れ、室内は闇に包まれる



 悪趣味な娯楽室が闇に包まれる、静寂を破ったのは誰の甲高い悲鳴だったか
それはルージュ等にもヤルート達も金髪美人にも分からない、唯一つ理解できたことはそれを切っ掛けに拉致された女性が
一斉に非常灯目掛けて駆け出したという事だけだった


 川の流れを塞き止めていたダムというのは一度決壊すれば後は濁流が止め処なく溢れるモノで狭い出入口からは
女達が凄まじい勢いで飛び出していった


その中には騒ぎに紛れて部屋を脱するルージュ、アセルス、白薔薇の3人

次に遅れてヤルート執政官、ジョーカーの姿もあった、3人とは別の方角へ逃げていく姿は人の波に紛れ目撃できなかった





ルージュ「おわっとと…」ヨロッ


ルージュ「ふぅ…なんとか逃げられたけど…これじゃ」チラッ




あちらこちらと逃げ惑う人影を見て彼はバツの悪そうな顔をする、これでは到底[ゲート]の術で全員を逃がすなどできない


アセルス「…」

白薔薇「アセルス様…時には妥協も必要に迫れるときもございます」




アセルス「分かってるよ…、理解はできる、理解だけなら」




 これ以上は此処に留まる訳にはいかない、この騒ぎで基地全体は臨戦態勢に入る…モタモタしてればそれだけ逃げ遅れる
奥歯を噛み締めその場を去ろうとした時、彼女等は声を掛けられた







    元スーパーモデルの金髪美女(…!人が3人、留まってるわ)タッタッタ…!



    元スーパーモデルの金髪美女「早く逃げて!」ハァハァ…!








息を切らして金髪の美女は駆けて来る、その手には何処に隠しもっていたのか黒光りする厳つい銃火器が握られていた
3人を逃げ遅れた人と判断したのか、軍人たちがやってくる前に逃げろと促す

基地内部に居る以上それはあまり意味を成さない忠告なのだが…




ルージュ(この人…さっきの…)

アセルス「貴女は逃げないの?」




元スーパーモデルの金髪美女「私…ふぅ…私は、ね――――」



一呼吸置いて、金髪の美女は悪戯を好む年上の女性の様な笑みを浮かべて告げる



https://www.youtube.com/watch?v=4TJsob5IMSo&list=PL33021FE67F7DCC92&index=8
[BGM:主人公エミリアのテーマ]


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                ,.z、   ____
                 .<  ´ ̄     >.、
             ,.イ    y _         >.、
         ,.イィ  ィ、 y / ィケヘ  ー 、   >.、>z、  ,
        ̄ /   l .rミ.y///∧ ヤ ヘ  ヘ ヽ  、 ヘ   ̄
.         /,イ   .l .!ヤ/////ヤ.!ーヘ  ヤ ',  \ヘ
        /ィ , /  ! !´´` ̄ ̄ リ!  ヤ .リ ',     iヘヤ
         / ,'/チ/l !シ l      |! __ヤ l!ヾ、,.ク   l ヘ
.        / .l//イ l .l ゞ、     サ _,,,.._l! !イ癶ゝ  l!
.          |/イ / .! !ー \     l ヘ:::cじ>=≠   ヘ
       / !/l,'ノ、.!、 ィ=、      ーメリイイイ入 !ヽ.\
.          | , ,イヤ!.ヘ    ノ      'ノイoイ  ヘリ ゝ         『私はこれから、お仕事♪それじゃ!』
            !,イ .! l!ヤ゚ヤ、  ` 、   ,  イ.ll l !    ヘ、
         メ,.イサ」ヘl:l:Y>    ̄ イ,イ.サイ:l     ヘ \
          ィ  ィリ_ 〉ヘl:lヘリl:l:o><  ,.イリzl.',       ヽ、
      /   /r _以ー‐七ァ入。メァ'゚ーo7:.:.キj       >z-
   rーイ、   ,.孑チ:.:.:.:.:.:./イ ,.ィ!ー‐゜゚´ .ム:.:.:.リ\      ∧
  」∧_ \_入<:.:.:.:.:.:.:/_  .〈_/   / リ:.:.,イ!:.:.:.キ      .リ
.  l7  /☆ Y:.:.イ >:.:.,イ   ヽ   イ __ ム:.:.:.:.:.:.:.:.:ヤ、     ハ
.  〉<ヽヤ  イイ ´:.:./      ` ´     .,' .:.:.:.:.:.:.:.:.:_jヤ ヽ   ,イ.リ
  l:.:.:.:.:. ̄ヽ〈ヽ,>チ、   .:       /:.:.:.:.:.:.>¨ ̄ーハ     .!
 ノ:.:.:.:.:.:.:.:.:/γ: : : :ヽヽ  /´ ,.斗ー,、 /:.:.:.:.:.:.:.∧.:.:.:.:.:.:.:,イ   ./
 リ:.:.:.:.:.:.:.:.:.l ;: : : : : : :ヽヾ<><´ヘ:.ソ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:∧.:.:.:.:.Y  イ,イ
 l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.lヘ: : : : : : : :Y: : : : : : : : :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.___ヤ=У,イ イl′

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ぱからっ…!ぱからっ…!


金髪の美人が片手に拳銃…[アグニCP1]を持ちながらその場を去ろうとした時だった、その蹄音が耳に入ったのは

 目と耳に悪いハイテクな機械仕掛けの灯りとけたたましいアラーム音が鳴り響く軍事基地にミスマッチした足音に
彼女は首を傾げた、幻聴か?とゆっくりと音のする方へ視線を動かせば






「ヒヒィィィィー―――z_______________ンンッ!!」パカラッ!パカラッ!





元スーパーモデルの金髪美女「ぇ、えええぇぇっ!?!?」





馬だ。


いや、こんな所に馬が走って来たというだけでも驚きなのだが何よりもその額には一本の角が生えている

それはモンスター種族の中でもそれなりに高位の存在として知られる有名な獣…一角獣[ユニコーン]そのものだった!




この基地で軍が飼育しているだとかそういう情報は一切無い、人間を襲う意志に満ちている血走った目
 どうみても人間社会で暮らす種とは違う、野生のソレだ


剛脚と言っても過言ではない2本の前脚を振り上げ目の前に居る金髪美女の頭部に蹄を振り下ろさんと動く[ユニコーン]
 あれが直撃すれば美女の脳天は憐れ、柘榴のようにパックリかち割られてしまうであろう






                ―――ズドンッッ!


「ギュゥゥグゥゥゥ―――ッ!?」ブシャァァ



突然の事でルージュは無論、白薔薇姫も対応に遅れた、アセルスでさえ[ディフレクト]することが間に合わない…!
その一瞬誰もが目を覆う悲劇が到来すると皆の脳裏に過り掛けた…


が、それは一発の銃声と共に打ち砕かれる


右眼を寸分違わず、針に糸を通すような[精密射撃]で撃ち抜いたのだ、金髪美女が



 誰も彼もが反応に遅れた中、敵に一番近い位置に居た彼女が脊髄反射で射抜く、一角獣の眼球が付いていた部位からは
血飛沫が噴出し、痛みと奪われた視力で大きく目測を誤った蹄の一撃は彼女の真横―――何も無い地面を叩き割る




元スーパーモデルの金髪美女「―――全く、潜入捜査だからってこんな拳銃しか渡されなかったっていうのに!」



"いつもの彼女なら"今手にしている[アグニCP1]なんて威力の低い安物とは雲泥の差がある高火力の銃を両手に構え
お得意の[二丁拳銃]捌きを披露した事だろうが…生憎と彼女の手によく馴染んだ愛銃はサングラスを掛けた上司が
薬で眠らせてこの基地へ送り込む前に没収したという…


不満を口にしながらも彼女――エミリアは持ち前の気丈さと共に後ろの3人にコイツを片付けるの手伝って!と声を掛けた

───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


           \   今 回 此 処 ま で !  /

           lヽ     ,_
           ヽ\゛⌒::て     _
            {`´::ノ ⌒i::}   /::::::`ヽ
            シ゛    }シ⌒` ̄ヽ:::::::|
            /  ● , '      }::::::::し
             /   /      .|´⌒´
           ヽ、/{     ___,、 l
                    | i`‐´| | {  } {
                   } {  } {_{  }_{
                  }_{  }_{;;} {;;;;}
               {;;;;}. {;;;;}
───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三

乙乙
やっぱエミリアは銃持ちか


ユニコーンには気の毒だがまあ前に出てくるのが悪いよね






                「フゥーッッ…!フゥーッッッ!」ギリッ






本来ならば眼球が"あった"部位からは止めどなく、油のようにどろりとした粘度の高い血液が、

そしてボタッ、という音と共に腐れて腐汁が溢れ潰れたトマトを思わせる眼球だったモノが落ちる








目の前の4本脚が息を荒げ熱り立ち発砲した女を睨むのも当然と言えた。






エミリア「…」チャキッ!




それに対し彼女、エミリアは臆することなく無言で銃を構え続ける


エミリア「貴女達、得意な分野は何?…見たところ術士の人もいるみたいだけど」

アセルス「…一応剣を、後ろの二人は術がメインだ」バッ



[幻魔]をいつでも鞘から引き抜けるように半妖の少女も抜刀の姿勢に入り、後ろの人間と妖魔も術を発動させる態勢へ移る



エミリア「…分かったアイツの足止めをする、貴女はあいつに一太刀浴びせて頂戴!後ろの二人も術で彼女を援護して!」





言うが早いか、それを合図に一角獣は額に生えた雄雄しい[角]の先端を戦槍の如く憎き相手の銅目掛けて突っ込む…ッ!


  「ギィヒィィィィィン!!」ダンッ

  エミリア「遅いっ!」ズダダダダダッ!!




 槍と銃、近接武器と飛び道具…ただの馬ではない4本足の瞬発力を以てすれば銃弾に勝ることすら可能であったが
相手はそれ以上の反射神経の持ち主であることは先の眼球を撃ち抜いた件でもハッキリとしていた



場数が違う、この女相当の修羅場を潜り抜けているのだ…レベルに差があり過ぎる




片手銃で[早撃ち]からの[地上掃射]という荒業を実践するエミリアの真横をアセルスが駆け抜ける!
 地団駄を踏む様に忙しなく四股を動かし、被弾しないように努める[ユニコーン]の喉元目掛け横凪に一閃
紅い劔の軌道上にワンテンポ遅れて一角獣の鮮血が後を追うように迸る


白薔薇「光熱よ降り注げ…っ!―――『<太陽光線>』」



 白薔薇姫が手を天に翳す、掲げた右手は太陽へ手を伸ばす女神の絵画を連想させ――掌は小さな淡い光に包まれ
その輝きから直径20㎝相当の光球が生み出される

風船が浮力を持って地を離れるように彼女の手から浮かびあがり…っ!






         ドジュウウウウウウウウゥゥゥゥ!!



「ぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいじぃぃじゅぅぅいいいいいいーーーっ」




熱線を放つッッ!アセルスが切りつけた剣傷をなぞっていく光線は肉の焼ける音と血の蒸発する異臭を漂わせる
『<太陽光線>』が照射されるタイミングに合わせて飛び退いたアセルスお嬢は生き物が焼ける匂いに顔を顰めたが
幸いにも他の3人は後方支援に徹している為、敵の最前線にいる彼女の顔を見る者はいなかった


陽術の神秘が純白の毛並みを黒く焦がし、肌を焼き、皮膚の裏側を―――傷口から焦熱が入り込む



外と内、両方への攻めに悶え苦しみ奇声を上げる[ユニコーン]は首を狂ったように振り回す
 苦し紛れの挙動、出鱈目に振り回す角の先端は宛ら執拗に肌を焼く光を薙ぎ払おうとしているようにも思えた




ルージュ「…これで、眠ってくれ!!『<インプロージョン>』」キュィィィン!!



 人に仇なす野生のモンスターとは言え、その有様にはさしものルージュも憐れみを覚えたのか、最後にそう言ってから
爆裂魔法を発動させる、二十二面体の光の檻が一角獣の棺となり―――獣を一瞬でこの世から消し去った







  せめて、痛みも苦しみも感じる間も無く、逝けるように彼がそんな念を込めて放った即死の魔術である







エミリア「」ポカーン


エミリア「貴女…、すごいじゃないの!なぁんだ!一撃でそれができるなら早く言ってよね!」


ルージュ「えっ、あ…はい」



"貴女"…金髪の女性の自分を見る目とニュアンスから…『ああ、またか…』と彼はうんざりした顔をした



エミリア「? ああ、自己紹介が遅れたわね!私はエミリアよ!貴女達は?」

アセルス「私はアセルス!そして」クルッ


白薔薇「白薔薇と申します」


エミリア「そう!(白薔薇…凄いあだ名ね)」


アセルス「そっちの銀髪の人はルージュっていうんだけど…その人は…その男の人なんだ」





エミリア「へぇ!アセルスに白薔薇ちゃん!そしてルージュ…」










エミリア「…」













エミリア「ごめん、もっかい言って?」



ルージュ「僕は男なんです…今、こんな格好だけど、無理矢理着せられたんです…」





今度はアセルスではなくルージュ本人が答えた














エミリア「ええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」









仰天、そりゃそーだ、こんなセーラー服の似合う銀髪女子大生としか思えない人間が男とか誰も信じない


エミリアは色んな意味で叫んだ


『なにそれ!?似合い過ぎでしょ!』とか…『えっ、あの怪物<ヤルート>ってそういう趣味もあったの?』とか…




とにかく驚いた、目を白黒させた



ハハハ、と乾いた笑みを出し始めたルージュを見て、ハッと我に返り彼女は
『それにしてもなんであんなのが基地に居るのかしら?』と目をそらしながら口にした



感情豊かな人なのだろう、表情をコロコロと変えるエミリアを見て率直な感情を胸にアセルスが回答を述べる


アセルス「きっとゾズマ―――私の知り合いの妖魔なんだけどね、そいつがこの基地を大騒ぎにしてやるって言ってた」


アセルス「さっきの[ユニコーン]もたぶん、アイツが連れ込んだんだ」




エミリア「えぇ!?グラディウス関係無いの!?」ガーン

エミリア「…ルーファス達はなにやってるのよぉ…」ハァ…



がっくり肩を落としてグラディウス…後に説明されたが、彼女エミリアが所属する組織らしい…そのグラディウスとやらが
自分を助けに来なかったことに落胆した


エミリア「…あぁっ!もうっ!良いわ!」キッ!

エミリア「貴女達、此処から出たいんでしょう?
      私はこれからあのヤルートの奴をとっ捕まえて色々聞き出さないといけないの!」


エミリア「荒っぽいことになるから、何処かに隠れるなり避難した方が良いわ」






アセルス「ヤルートを捕まえるの…?」

アセルス「ルージュ!白薔薇!」バッ!






振り返ったアセルスの眼を二人は見つめ返す

分かってる、手伝いたいのだろう…






白薔薇「アセルス様のご随意に」ペコリ
ルージュ「まぁ、見過ごせないよね!」ニコッ


アセルス「…ふたりとも、ありがとう」




  アセルス「エミリア!ヤルートを捕まえるなら私達も手伝うよ!……あんな奴は許しておけない!」



"あんな奴は許しておけない"その一言にはアセルスの個人的な感情も含まれていた



かくして、旅のトラブルはまだまだ続くのであった…

―――
――







           ※ - 第2章 - ※



        ~ 交叉するキグナス号の紅蒼 ~




















            [活力のルーン]を手に入れた!














…まさか、このような事になろうとはな


塞翁が馬、とでも言えばよいのか?






 今なら、この不快な空間に居る事すら笑って許してやれる程だった























     弦楽器を背負ったニート「いやぁ~良かったじゃんか!探してたルーンが手に入ったんだろう?」











                       ブルー「…」





今なら、この不快な空間に居る事すら笑って許してやれる程だった

彼は今現在、自分がこんな気色の悪い生物の体内に居る原因の一人を不問にしてやろう、と考えた







なぜこんなことになったのか?そう…あれは時を遡る事数時間前、まだ[クーロン]に居た頃だ…














【双子が旅立ってから…2日目、早朝 朝6時27分  [クーロン:安宿]】
*******************************************************



 
 7時前に蒼き術士は起床し、気怠そうにラウンジへ脚を運んだ…薄っぺらい食パンにキツネ色の焦げ目がついていて
その上に溶けだしたバターの乗ったトーストが一枚、レタスとミニトマトだけのサラダが注文<オーダー>した朝食だった




昨晩は…疲れた、術力を使い果たす程には戦闘を重ね、肉体にもダメージを負い…ついでに悩みの種が出来た



ブルー「…不味い」モグモグ



味気ない、値段の割にカロリーが全くない薄いトーストと酸味の無いドレッシングの掛かったサラダという最低な朝飯だ
 淵が少し欠けたカップに注がれた苦みを喉に流し込む…角砂糖もミルクもついてこない100%のブラックは否応なしに
ブルーの瞼の裏に残る微睡を吹き飛ばす


 この安宿は食事等のオプションは別料金制になっている、それは以前書き記したことだろう
サービス自体は決して良い店舗とは言えないがそれでも物足りなそうな顔で頬杖をついている彼が
文句を言わずとも済む献立くらいは用意できた、金さえ払えば




ブルー「世の中、金か…チッ」ゴクゴク




肉体、精神ついでに悩みの種を作って来た一夜、その悩みの種というのが…





   - アニー『ん?"[解放]のルーン"と"[活力]のルーン"について教えて欲しいって?』 -


   - アニー『…ふっふっふ…良いわ、教えたげる、あっちの方に"イタ飯屋"はあるでしょ?そこ行ってみな』 -


   - アニー『そこに[解放]のルーンに詳しい女が居るのよ、…ついでに[活力]にも』 -


   - アニー『案内料は高くつくけど、その女にしか案内できないから、んじゃ!そういうことで~♪』 -











  ブルー「 お 前 じ ゃ な い か !!ふざけるな!!!」机ダンッ!!



空になったコップを半ば叩き付けるように怒りと共に机を叩く



早速そのイタ飯屋に脚を運んでみればどうだ?シップ発着場で別れた女が何喰わん顔で店前で壁に寄りかかって
彼が来るのを待っていた、別れ15分も経たない再会であった

しかも開口一番にこう言ったのだ



   - アニー『よく来たわね、待ってたわよ?解放のルーンは刑務所のリージョン[ディスペア]にあるわ』 -

   - アニー『そ!アタシがその案内人の女ってワケ!んで案内にはとーぜんお金が要るわ、これも商売なんで♪』 -


ちろっと舌を出して、監獄に潜入するには定期的に行われる電気系統の修理点検や配管工に扮して入る他ない事

それをやるには彼女…アニーの協力が必要不可避という事を知らされたのであった



 ぴしっ、叩きつけた衝撃で元から欠けてたが安っぽい瀬戸物に罅が入る…

ブルーは額に手をやり深くため息を吐いた、これはいけないカルシムと糖分が絶望的に足りない


旅立ちから僅か2日で資金難に陥るなど誰に想像できようモノか



 無駄な出費が出そうになった所で冷静になろうと努める、如何せん彼は冷静さを象徴する色を名に持ちながら
直情的な一面がある……というよりも神経質な所があるのだ


今まで国家の誇る優等生として学院に大事に育てられた温室育ちのお坊ちゃんだったのも加味しているのだろうな




豪華客船のチケット代とバイキングディナーの料金…それに加えて[ディスペア]への潜入費用
 家族を養うべくお金が必要なアニーへの支払金は今のブルーの手持ちでは…"ギリギリ足りない"


いや、頑張ればどうにかできそうではあるが、その日から路上ホームレス生活まっしぐらである














           ブルー「…金を稼ぐ方法…そんなの俺は知らんぞ…どうすりゃいいんだ…」











そうなのだ、ブルーは"温室育ち"なのだ


両親がいない、物心ついたころから国家の保護施設に居て、『親』である御国の為に奉仕する、それがブルーだった

周りの学友の中には街でアルバイトというモノをやっていたのをブルーは聞いた事があった


自分でお小遣いを溜めて欲しいモノを買ったり、友達と遊んだり……だがブルーにはそれが無い

 欲しいモノなど無いし、特別仲の良い友人と呼べる間柄の人物も居なかった、青春の大半は術士としての学に励んだ
修行の日々、魔術の学問を追い求める、それだけ



ある意味で欲の無い男だった。



そして、『普通の人』とは明らかにズレていた、世間を全く知らない、善くも悪くも俗世に疎かった






  天才であると同時に努力家でもあった、…だが融通が利かない

   なんでも知ってるようで、本当はなんにもわかっちゃいない…"世間の一般的な事"を何一つ分かっちゃいない


  22歳になって金銭を稼ぐ方法をまったく分からない…そんな現実に天才は打ちのめされた



途方に暮れる、と言った所だ

頭抱えて少しの間一考するも、濁り模様の思惑に光明が射すことはなかった




ブルー(…考えても仕方あるまい、今できる事をせねば)




今できること、修得可能な術の資質を手にすること…即ち陰陽のどちらかの資質を取得することだった




太陽の力、光を司る"陽術"

影を、闇の力を操る"陰術"



どちらを取得するかブルーは既に決めていた…宿でチェックアウトを済ませ『<ゲート>』で[ルミナス]へと飛ぶ










もう一度言おう、ブルーはあらかじめ取るべき資質を決めていた

そこまでは良かったのだ…








悪い事や不都合というのはどういうワケか一度起きるとドミノ倒しのように連動するようで…

[ルミナス]に到着したばかりのブルーは…







        ブルー「封鎖中だと!?おい!どういうことだ!!!」


  「お、落ち着いてください!…コホン、お客さん見たところ術士の御方ですよね…なんとも間が悪い」

  「いえ…昨日、このリージョンでちょっとした事件があったらしんですよ」

        ブルー「事件だと?一体なんだというのだ!」





  「それが…昨日の19時近く吊り橋の先、分岐路付近で戦闘行為があったらしいんですよ」

        ブルー「なっ!?修行者の聖地[ルミナス]で戦闘行為だと!?どこの馬鹿だ!」




おずおずと答える職員の口から告げられた事実にブルーは激昂する
 術士にとっての聖地と言っても過言でないこの地は…ルミナパレスとオーンブル以外は非戦闘区域と指定されている
にも関わらず戦闘を行うなどよっぽど非常識な輩に違いない、もし会おうものなら殴りつけてやりたいと思った



…ちなみ、その非常識な輩は今、緑髪の半妖少女、頭に花飾り乗っけた妖魔、金髪美女と軍事基地に居る



「詳しい詳細は不明ですが…妖魔が関わっているとかで…今、IRPOの方にも捜査してもらっているのですが…」



そこまで言って職員は首を横の振る…



「誠に申し訳ございませんが、お客様の安全の為です…テロの可能性もありますので…当面の間は陰術も陽術も…」



ブルー「~っ!くそっ!!」






術さえ使えば[ルミナス]にはいつだって飛べる、それは分かるがこれは何とも間が悪い話だ…


結局ブルーは[クーロン]に戻って銭を稼ぐ方法を調べるか、他のルーンを探す旅に出るかしかない訳だ









クレイジーなIRPO隊員「はぁ~…ったく、なーんもわかんねぇ、か」

無口な妖魔のIRPO隊員「………」

クレイジーなIRPO隊員「あぁん?なんだって……マジか、妖魔の君絡みか…めんどくせぇ」

クレイジーなIRPO隊員「お前は引き続きこっちの調査やっといてくれ、俺?俺は別件でこれから[マンハッタン]だよ」

クレイジーなIRPO隊員「前々から話に挙がってたろ?ミス・キャンベルの件だ…ちょっくら行ってくるわ」






遠目にIRPOの捜査官と思わしき人物が何やら話し合っているのが見えた、だがそれはブルーには関係の無い出来事である

しばらくしてから来るしかない、ブルーはすぐに『<ゲート>』の術で飛び去った



―――
――


【双子が旅立ってから…2日目 朝7時14分】



弦楽器を背負ったニート「あ"ぁ"~…」ヨロッ

弦楽器を背負ったニート「飲み過ぎたぁ……」



弦楽器を背負ったニート(酒には自信あったんだけどなぁ…ライザ飲み比べ強すぎるぜ)



 [クーロン]の屋台が立ち並ぶ通りで空がぼんやりと明るみだした頃…

 如何にも二日酔いです、といった風の男が1人歩いていた、ぼさぼさの長く伸びた髪に田舎者丸だしな服装
民族風の帽子を頭から落とさないように抑えながら彼は電柱やら建物の壁やらに無許可に張られた広告や求人のチラシに
視線を泳がせていた






弦楽器を背負ったニート(なぁんかエミリアは仕事で今は居ないっていうしなぁ、近場に寄ったから顔見せに来たけど)


弦楽器を背負ったニート(こりゃクーン達についてくべきだったかな…)ポリポリ




弦楽器を背負ったニート(…んと、何々?頭を取り外して笑える人大歓迎…ヌサカーン院…なんのバイトだよ…)チラッ



弦楽器を背負ったニート「…面白そうな事ねぇかな…」スタスタ













弦楽器を背負ったニート「…やっぱ、艦長さんトコにでも行ってみるべきかね」スタスタ













何処か不思議な男だった、飄々としていて、不思議と目を向けたくなる…そんな気にさせる男が歩いていた

 田舎から就職の為に上京してきたが、未だ職にありつけないでいる彼は
ひょんなことから出逢ったとあるリージョンシップの艦長の事を思い出した


自分の父親の知り合いらしい女性、そしてあまりにも無唐無稽な話を語り出した反トリニティの旗を掲げるリージョンの人






―――そこまで考えて彼は首を振った







弦楽器を背負ったニート「これからどーすっかなぁ…―――」




両腕を組んで後頭部に当てながらブラブラと街中を歩いていた彼は妙な気配を感じた

妙な、としか言いようがない、風も何も無い室内で木の葉が風に舞っている、そんな矛盾した感覚

彼はその方角へ目を向けるすると…




   ブルー「…いっそのこと先に[勝利]のルーンを探すべきか…」ブツブツ



何も無い空間から1人の人間が音も無く現れた、それをみて彼は思った『面白いモノを見つけた』と




弦楽器を背負ったニート「なぁ!!!そこのアンタ!!」キラキラ!


ブルー「!?!?」ビクゥ!!




 朝っぱらから大音量の音声がブルーの鼓膜に直撃する、考え事をして足元を見ながら歩いていたのも相まって
その大声は効果抜群だった、術士が無駄に肺活量の高い人物の方を振り向くと




弦楽器を背負ったニート「今のスゲーな!どんな手品だ!?あっ!その恰好…はは~ん分かったぞ術士だろ~!」ニヤニヤ


ブルー「…」










ブルー(なんなんだこの男は)



変なの目をつけられた、瞬時に悟った彼は『すいません、先を急ぐ身なので』と逃げる様に立ち去ろうとするが…





弦楽器を背負ったニート「~♪」テクテク

ブルー「…」テクテク





ブルー( な ぜ つ い て く る !! )



ブルー「あの、僕に何か用ですか?」クルッ

弦楽器を背負ったニート「ん?別に俺はあっちの方角に用事があるだけだぜ」




ブルー「そうですか…」

弦楽器を背負ったニート「おう!ところでアンタさ!」





1つ、失敗を犯した

此処で振り返ってこの男に声を掛けた、そのまま無視して相手が諦めるまで歩けば良いものの…

ブルーはこの男に『会話を切り出させる機会を与えてしまった』のだ




      成績優秀で融通が利かない世間知らずの天才

      田舎からやってきた無職<ニート>…なのだが、世間を巧く乗れる男



アニーに続く後の腐れ縁その2との出会いだった


いい根性してんなアニーww

乙乙
ボれるとこからはボっておく精神
そしてここでリュートか、続き楽しみ

続き来てた





弦楽器を背負ったニート「その法衣、[マジックキングダム]の人だろ?俺、前に観光に行ったからよくわかるんだ~」


ブルー「…そうですが何か?」



好奇の目に晒されるのは好かない、見世物小屋の珍獣じゃないんだぞ、と苛立ちが滲みだしそうなブルーは
さっさと会話を切り上げてしまいたかった





この返答はミステイクだった





弦楽器を背負ったニート「ふぅん…やっぱそうか~[ルミナス]とも[ドゥヴァン]とも違うからそう思ったんだよな~」

























弦楽器を背負ったニート「あの国ってさ、国民は他所のリージョンへ外出が禁止されてんだろう?アンタ何者なんだい?」

                    ブルー「!」ハッ!





[マジックキングダム]は国の最高機関である"学院"が定めた者以外、リージョン界の外遊を許可されない
ブルーの返答はこの男の興味心を更に掻き立てる返答だったのだ







ブルー「…貴様」ジロッ




空気が変わった、眉間に皺を寄せ不機嫌を露わにするブルーに動じない男は呑気な声調で
「おいおい、そんな怖い顔しなさんなって、単なる興味本位さ」と笑うのだ




怖いモノを知らないのか、それともこの男が大物なのか、その態度が彼は気に喰わなかった




だから…ちょっと脅してやろう、と彼は考えた、無論この鬱陶しい男を遠ざけたいのもあった


ブルー「…故郷のちょっとした風習でな、俺は外界でより高度な術を学ぶために資質を得る旅をしている」


弦楽器を背負ったニート「へぇ~、それにしても『俺』かぁ、なんとなく思ったけどやっぱ猫被りだったんだなアンタ!」


ブルー「」イラッ


へらへらと笑いながら横を歩く男にムッとしながらも話しを続ける

ブルー「己の術を磨き、どこまでも洗練しそして…」




弦楽器を背負ったニート「そして?」ワクワク










          ブルー「故郷の慣例に従って、自分の身内を殺す」









御伽噺に出て来る魔女か何かだ、口元を歪めて悪い魔女が魅せる様な笑みを浮かべる

彼の予想通りとでも言うべきか、目の前のボサボサ髪の男は面食らったような顔で立ち尽くした




ブルー「国の習わしで、双子が生まれた場合…片割れがもう片方を殺すという風習なんだ」

ブルー「分かったか?血が繋がった相手を殺すという宿命なんだお前に構ってる暇なん「アンタ双子なのか!すげー!」





ブルー「……は?」




弦楽器を背負ったニート「いやぁ~俺んトコの地元にも双子が居るんだけどさぁ、双子って珍しいからなァ」

弦楽器を背負ったニート「それにしても双子同士で争うって物騒だな、もっと平和的に解すりゃいいのに」






ブルー(…な、なんなんだこの男は!!)




頭痛がしてきた、自分からこの話題を振っといてなんだが、このノリは何だ!?


弦楽器を背負ったニート「宿命の対決かぁ…あっ、そういや俺まだ名前言ってなかったな俺、リュートってんだ!」

リュート「兄ちゃんアンタは」





ブルー「……なんでお前に名乗らねばならんのだ」


ペースが乱される、艶やかな金髪を鷲掴むように頭を抑え、この―――…鋭いんだか天然ボケなんだかよく分からん男に
目線も合わせずに答える




リュート「えぇー、別に良いだろう減るもんじゃねーしよぉ……なら、そうだな…」ジーッ




ブルー「…」アタマ、イタイ




リュート「よしっ!」グッ



リュート「アンタ蒼い服着てるから、ブルーな! Mr.ブルー!」ニカッ!



ブルー「っ!?」ドッ!




すっ転びかけた、本当にペースが乱される


リュート「んん?どうしたんだ?」


ブルー「…いや何でもない」


―――
――




リュート「って訳で俺は故郷から就職できる場所を探して旅してるってワケさ!」

ブルー「朝っぱらから酒臭い匂いを漂わせてる奴が言う台詞じゃないがな」




二日酔いのリュートに指摘する、終始調子を狂わされっぱなしの彼は、追い払うことを諦めた…



リュート「それにしてもアンタも銭稼ぐのに困ってんだなぁ」

ブルー「ふん…」



観念したブルーは口数の多い男を話しながら歩いていた、昨日のがめつい女に関する愚痴や[ルミナス]に行ったのに
無駄足だった事…

誰でも良いから胸の内を吐きたかった、追っ払えないなら精々コイツを話し相手ぐらいにしてやろうと開き直ったとも言う




リュート「しっかし、アンタ聞けばとんでもない女にふっかけられたんだな、そんな簡単に用意できないぜ?」

ブルー「ああ、まったくだ…」ハァ…




リュート「俺の知り合いにもお金が好きな女が居るけど…」


ブルー「はっ!そんな奴がこの世に何人も居るなんぞ考えたくも無いことだがな!」




鼻で嗤う金髪の術士は知らない、実は今隣を歩いている男の知り合いの金に目が無い女が同一人物であることを


リュート「…お金、金…カネ…」










リュート「!」(豆電球)ピコンッ!




リュート「なぁ!!さっきの術![ゲート]だっけ?あれって一度行った事ある場所ならどこでも行けるのか?」ガシッ


ブルー「なんだ突然藪から棒に…」



肩を強く掴まれ訝し気に眉を顰めるがそんなの知った事かとリュートは続ける








      リュート「俺とコンビ組まないか?今日一日でアンタを大金持ちにしてやれるぜ!」ニィ!!


                ブルー「…どういうことだ?」







リュート「へっへっへ!なぁに!真面目に働くのも良いことだけどさぁ~、こういうのは財テクってのがあるんだ」


リュート「良いか!兄ちゃんよォ、まずアレを見な」びしっ



ブルー「?」チラッ





         金券ショップ:クーロン店『 金、銀、プラチナ…なんでも買います! 』ドンッ☆






ブルー「…あれがどうかしたか?」


リュート「移動しながら話す!まずはシップ発着場だ!そこから[ネルソン]へ行くんだよ!」ダッ

ブルー「お、おい!待て!まだ俺はお前と組むなんて一言も言ってないぞ!説明しろ!!」ダッ!


金転がしか、俺はジャンク屋で稼いでたなあ



―――
――




…これ弦楽器を背負ったニートことリュートとの出会いであり、今現在巨大生物[タンザー]に飲み込まれた発端である

割愛するが、リュートと名乗る青年の提案はこうだった




[ネルソン]というリージョンがあり、そこでは金塊を一つ500クレジットで購入できる…

世界を統括する政治機関…トリニティに属さないリージョンの為、グローバル通貨であるクレジットが手に入らない
つまり他所のリージョンから輸入ができない

そこで観光客に地元の品とクレジットの交換を求めるケースが多いのだ




金塊、金のインゴットが1つ辺り500という価値に対し、此処[クーロン]街における金相場は1000…

早い話が安い所から仕入れて物価の高い土地で売り払う、単純な転売という事だ


[ネルソン]は今説明した通り、少々特殊なリージョンで片道だけでも船の乗り継ぎが必要という手間の掛かる土地だ



船賃と時間、人件費を考えるなら大抵の人は素通りしていく、資産家が一気に買い占めて一気に売り払う
極力、安くないだろう船賃を払って何度も行ったり来たりしない、という前提で漸く利益を取れる




そう…"何度も船賃を払って往復するから収支差益があまり良いモノと呼べない"のだ






なら交通費用が無料<タダ>だったら?余計な経費が無ければその分黒字が増えるのは当然と言えよう


この案に術士は目を丸くした、このちゃらんぽらんなニート…中々面白いことを考えるじゃないか
ブルーはこれに承諾、さっそく船に乗り込み一攫千金目指して船内で身を休める事にした

















 世の中、甘くない

 乗った船が童話のピノキオに登場するオバケ鯨よろしく船を飲み込む怪獣[タンザー]に飲み込まれるアクシデントと遭遇







  ブルー「 ど う し て こ う な っ た !!」

  リュート「いや~、ついてないなぁ!」ハッハッハ!




 巨大生物[タンザー]…あらゆる生物が生存不可能な混沌の海に唯一耐性がある生物であり
その体内は一つのリージョンとも呼ばれていた


がっくりと膝をついて項垂れる金髪術士の隣で何が可笑しいのかお気楽に笑う男、その少し先には他の乗客達が
困惑の色を浮かべ、思い思いに不安を口にしていた


「ここは何処だ!」
「ひょっとして[タンザー]とか言うのに飲み込まれちゃったの!?」

「嘘だろ…俺は船乗りたちのホラ話だと…」









緑の獣っ子「あれ~?…ねぇメイレン、僕達[ヨークランド]に行く予定じゃなかったの?ここが[ヨークランド]?」

チャイナドレスの美女「違うわ…此処は[タンザー]よ…予定と違ったけど此処にも"指輪"があるわ」







リュート「ん?あれは―――…」

ブルー「…いや、こういう時こそ[ゲート]で脱出すれば」ブツブツ…







   「おらおら!!全員動くんじゃあねぇぞ!船から積み荷を降ろせぇ!」
   「へっへっへ…久々のシップだぜ…酒や食料はたーんとあるだろうなァ」



見るからに柄の悪い…ヨレヨレの服を着た男達、恐らく"不幸にもタンザー]の先住民となってしまった輩"なのだろう


   「このバケモンに飲み込まれてから俺達の食糧も底をつきかけてたんだ…天は俺達を見捨ててねぇぜ!」へへっ

   「オラァ!ハチの巣にされたくなけれりゃ全員荷物を寄こしなァ!ついでに金目のモンもだーーーっ!」ズドドド




リュート「おい、ブルー、いつまでもそうやってぶつくさ言ってる場合じゃないぜ?」ポンポン

<ヤメロー
<逆らう気か!?この獣!


ブルー「そうだ、此処にはアニーから聴いた話だと[活力のルーン]があるはずだ、ならば不運なんかじゃ――」ガバッ!

ブルー「…?なんだあの連中は」


<ほー、アンタら強いね


リュート「此処の先住民じゃないか、…ってかお前今アニ「ちょっと待ったぁ!」



     ザワザワ…

              …誰?


弁髪の男「その女についていってはならん!」



弁髪の男「その女は悪名高いリージョン強盗団のノーマッドだ!」


「強盗!?」
「マジ!?」
「いい女だ…」ポーッ


ノーマッド「ああ、そうさ、あたしゃ外じゃそれなりに悪さしまくったさ」

ノーマッド「言い訳する気はさらさらないけど、どうすんだい?ちんたらしてたら[タンザー]の奥まで飲まれちまう」

ノーマッド「あたしについてくも良し、そのハゲ頭についてくのも良しさね」





弁髪の男「ハゲではないッ!!」




ノーマッド「ふんっ!」シュタッ!



ざわざわ…がやがや…



リュート「ほへ~…なんか俺らが喋ってる間に色んな事が起きてんな~…ってブルー?」チラッ











ブルー「…」スタスタ




リュート「あっ!?おい!勝手に独りで何処行く気だよ」トテトテ…!




ブルー「ふん、外野共が何をしようが知ったことか、俺は此処でルーンを見つけてあとは[ゲート]で出て行く」スタスタ



先の喧騒…弁髪の男と此処に呑まれたらしい強盗の女首領との小競り合いだの、なんだのは微塵も興味が無い
 自分の目的をとっとと達成して此処を出て行くだけである…[ネルソン]の金塊の売買に関しては何でもリュートに
コネの効く人物がいるらしい、リュートくらいは連れてってやろう、彼はそう言いて他の群衆とは違う道を―――


2人で[タンザー]奥へと歩いていくのであった





そして―――今現在




         リュート「いやぁ~良かったじゃんか!探してたルーンが手に入ったんだろう?」






                       ブルー「…」


金転がしの利益を思えばこの程度苦労でもなんでもないどころかルーンまで手に入るとかいいことづくめであるんだよなぁ

乙乙

ブルー編だとそのまま本当にリージョン移動でフェイオン見捨てるから仲間にできないんだよなぁ




   リュート「しっかし凄かったなぁ!…あの術、[ヴァーミリオンサンズ]だっけ?」


 時折…足元にある無数の網目模様じみた緑色の血管が脈を打っていた
それは偏にこの巨大生物[タンザー]がちゃんと生きている証拠であり、ぶよぶよとした毒々しい肉の壁も
天井から垂れ下がった人間<ヒューマン>の肝臓に似た何かも規則的に動いていた


生物の体内に居るというのは本能的に居心地が悪い



今居る所が身体の部位で言うところの胃、消化器官にあたるのならば尚更であった




術士ブルー、放浪の詩人…もとい就活中の男リュートは[タンザー]内部の最深部へと脚を踏み入れた

磯巾着のような触手蠢く入口に自ら飛び込み別の区画に移動する事もあった、胃液の様な粘液で滑る下り坂も降りて行った
そうして、到達したのが通称"スライムプール"と呼ばれる場所だ


…尤も、この二人は此処に詳しかった先程の弁髪の男…フェイオンという名なのだが、その男を無視して手探りで来たから
そのような名称で呼ばれている事など露知らずなのだが



胃の消化液の代わりをしているのかどうかは分からない、だが此処に誤って入り込んだ者は
無尽蔵に湧いてくるゲル状モンスター[スライム]の群れに囲まれ四方八方から[溶解液]を噴きかけられて溶かされるだろう






 - アニー『―――ってわけよ、ヤバかったわマジで…全体攻撃無いとキツイわよ[活力のルーン]…』ハァ -





 ブルー(…早速情報が役に立ったか)





ブルーは予め此処に一度来た経験のある人物から覚えている限りの道順と対策を聞いていた
だから、弁髪の男達を無視して勝手に此処まで来れたのだ

そうでなければ、何の手がかりも無しでルーンを探すなどと言う無策には走らない


以前、此処に来たというアニーは自身含めた3人組で、剣、銃、拳で無限湧きの[大スライム]に苦戦したそうな





 複数の[大スライム]とその後ろに更に一際大きい[特大スライム]…それ等は
自分達に生を与えてくれる大事な物を護っていた

キラキラと輝く結晶体、水晶玉にも見えるその中に刻まれた"活力"を意味するルーン文字を




リュート「真っ赤なデケェ宝石が出てきて、バーン!って割れて皆ぶっ飛ばしちまうんだもんなぁ~」

リュート「俺も覚えらんないか?あれが出来たらスゲーだろうしよぉ」



ブルー「貴様には無理だ、あれは【魔術の"資質"】を持った者だけが扱える高位の術だ」

ブルー「魔術の"資質"は[マジックキングダム]で生まれた人間にしか授かる事ができん、諦めろ」




 単細胞生物の群れを昨日の粗蟲共と同じく、自身が使える最大火力で消し飛ばし
粘液のプールから新たな生命を持って再誕する前に手早くルーンが刻まれた結晶体に[触れる]…これで手持ちの小石に
2つ目のルーンが刻まれた[保護]と[活力]…



 後は[解放]と[勝利]だけだ…それでブルーは【印術の"資質"】を会得できる…っ!
祖国の勅令に、育ての親への奉公がまた一歩出来る訳だ




ブルー「ふん…、用が済んだならこんなとこに長居は無用だ、リュート掴まれ、此処を出るぞ」つ【リージョン移動】




ブルー(身体中がベトベトだ……くそっ!一度シャワーを浴びたいくらいだ)チッ



リュート「おう、今行く…ぜ?」


ブルー「どうした!さっさとしろ!」

リュート「…なぁ、ブルー、アンタ「なんだ歯切れが悪い、さっさと言え」



リュート「んー、まぁいいや、アンタ早く出たそうだし後で言うよ」スタスタ



コイツは何を言ってるんだ?身体中、粘液塗れでどろどろのぬとぬと状態の術士が少しだけムッとした顔になる
彼は目の前のお気楽者が何を言いたがったのかすぐには察せなかった


舌打ちするくらい、早く帰って湯浴みをしたいと考えていたのも相まったのだろう










リュートが蒼いの術士の足元を凝視していた理由……水溜り(?)を踏みつけたブルーの脚に"そいつ"が這っていた事に






   [タンザー]帰りのお土産「…(´・ω・`)ぶくぶくぶくぶー。」ピトッ ヨジヨジ…







…こうして[ゲート]の術で 2 人 と "1 匹"  が[タンザー]から脱出したのであった











【双子が旅立ってから2日目 朝 10時25分  ブルー[タンザー]脱出】


―――
――

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                オマケ【術士が去った後の[タンザー]】


 【双子が旅立ってから2日目 朝 10時 26分】


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弁髪の男「ハイーーーーッ!!」ヒュッ!ゲシィッ


「ウゲェ!?」ドゴッ

「野郎!―――おぼげぇ!!」ドシャッ!




緑の獣っ子「…ふぅ、フェイオン!大丈夫?」



 [あびせ蹴り]を強盗団の一人にお見舞いした男は背後を狙われていた、凶器を振り下ろされるよりも先に
緑色の影が弁髪の男―――フェイオンを救うべく背後から不意打ちを仕掛けようとした相手の鳩尾目掛けて飛び出した




フェイオン「すまない、クーン助かったよ」


クーン「えへへ!褒められちゃったぁ!」



チャイナドレスの美女「クーン!フェイオン!まだ終わってないわ!和むのは後よ、後!」ジャキッ



ケモ耳と尻尾の生えた緑の子供とフェイオンに声を張り上げながら前方に[アグニCP1]を構え直す
3人は今現在リージョン強盗団の女首領ノーマッドを追っていた

ノーマッドが所有する"指輪"を手に入れる為だ



フェイオン「くっ、しかし…数が多すぎるメイレン!」


メイレン「ええ、雑魚に一々構っている時間は無いわ、そうこうしてる内に彼女は更に奥に逃げてしまう…っ」ギリィ




チャイナドレスを着た紫色の髪を結った美女が儘ならないこの状況に奥歯を噛み締める
このままでは"指輪"に逃げられてしまう、と




               グラッ…!





その矢先だった、突然、[タンザー]が苦しみ出すかのように暴れ出したのだ!


体内に居る彼等彼女等、皆に聴こえる程の唸り声を、…身体全体の細胞が地震災害に遭ったかのように揺れ動き
その場で交戦していたあらゆる者達が思わず、蹲る程の揺れ…






それもその筈だ



[タンザー]の体内、奥部で広範囲に渡る、とんでもない火力の全体魔術をどっかの金髪の蒼法衣の男がぶっ放したのだから








「な、なんだってんだ!今のは!!」

「う、うるせー!俺が知るかよ、んなことより野郎共を」










「てっ、てぇへんだ!てぇへんだぁぁァーーーーーーーーーーーーー!!」ハァハァ…!







「おお!丁度いい所に!お前!加勢し「ばっきゃろぉ!!それどころじゃねぇ!!フェイオンの旦那ァ!後生だ!」バッ






フェイオン「な、なんだ…一体?」

メイレン「気を付けて、私達を油断させる罠かも」ジャコッ!チャキッ!


フェイオン「ま、待ってくれ…相手はあの通り土下座までしてるんだ話くらい聞くんだメイレン」ガシッ

クーン「そうだよ、メイレン!鉄砲を下ろしてあげて」



メイレン「…引鉄は引かないわ、でも牽制の役目はさせてもらうから」



フェイオン「…昔からそうだった、こうなると君は梃子でも動かないからな、分かった」




フェイオン「すまない、そのままの状態で話してくれ!何があった!」





「い、今の揺れで…お頭が!お頭が[タンザー]に喰われちまったんだ!」

「な、なんだってーーー!?」
「お頭がァ!?」


フェイオン「何!?ノーマッドの奴が!?」

メイレン「!?!?!?"指輪"がっ!?」


クーン「??? 何言ってるの?ボク達は[タンザー]に飲まれてるでしょ?」



「い、いやそういう意味じゃなくてよぉ…なんか[タンザー]の器官だか何だか、にウチのお頭が喰われかけてて…」

「あぁ!!んなこたぁどうでもいい!頼む!フェイオンの旦那ぁ、俺達じゃどうにもできねぇ!お頭を!!」


フェイオン「うむ!例え悪党だろうと善人だろうと関係ない!あんな奴でも助けねば!」

メイレン「ええっ!指輪を手に入れなくちゃ!」

クーン「ああ!待ってよぉ~!」

~ オマケ1 完~ 
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おみやげはブルーが持っていったからクーンはもらわずにすむな
やったねクーン餌の取り合いにならずにすむよ!
ブルーさんは御愁傷様です

そういえばスライムついてきてたなww
乙です

このメイレンさんの執着心・・・例のアレに冒されるの早すぎませんかねぇ(困惑)
乙乙

メイレンは許さない(半ギレ



 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
 露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
 額に浮き出る玉汗をハンカチで拭いながらも聖堂へ脚を運び、修士として勤行に励む者のあらば
 快晴からのさして嬉しくも無い贈り物に根をあげ、ポプラ並木の木陰で涼を取る住民…



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が石畳の広場を歩く







    【わぁ!見てよ!広場に青いシートが敷いてあるよ!キミの服と同じ色だね!!】
    『…何の変哲も無いブルーシートだろ、大袈裟な…』


    【えへへ~!僕はお外で遊ぶ事ってあんまりないから色んな物が珍しいんだ】
    『そうか、…どうやらアレは露店のようだな、縁日にはまだ早いが他所のリージョンから来たようだ』


    【他所のリージョン!?凄い凄い!見てみよう!】
    『お、おい!引っ張るな!』



    「いらっしゃい!色んな品があるよ!」



    【わぁ…これ何ですか!】

    「それはおもちゃのピストルだよ、空気しか出せないけど恰好良いだろ?」

    『…ふむ、[ワカツ]剣道?…面白い本だな』

    「ほー、キミ[ワカツ]流の剣術に興味があるのかい?いやー[シュライク]書店から買った甲斐があったね」



    【? 露店のおじさん、この本は?】ペラペラ


    「あー、それは―――!?」





    【…?なんでこの女の人達みんな服脱いでるんだろう?】キョトン


    【ねぇキミ、なんでこの人暑いの?】スッ


    『……なんだ、この本、文字が全く書かれていない上に下品な女達の絵だけ…』ペラペラ


    『無意味な本だな』ポイッ




    「あ、あー、キミたちこれは見なかったことにしてくれ!なっ!」アセアセ

          【『???』】


―――
――

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―――って、ってば、ねぇ!ルージュ! 起きて!!そろそろ到着するよ!!























              ルージュ「…むにゃ?」パチッ













アセルス「はぁ~、漸く起きた…確かに[ラムダ基地]でのドタバタで疲れたけど、油断し過ぎだよ」

アセルス「また荷物盗まれるよ?」



ルージュ「…あー、ごめん、なんか小さい頃の夢見てた…」ゴシゴシ


白薔薇「夢ですか?」



ルージュ「うん、夢だから顔がぼんやりとしか思い出せないけど…昔、仲の良い友達と遊んだ夢…」ふわぁ…







エミリア「3人とも![クーロン]行きのチケットどうにか手に入ったわ!」タッタッタ…!










【双子が旅立ってから2日目 朝 11時17分  [マンハッタン]:ショッピングモール】




 都市型リージョン[マンハッタン]…リージョン界を統括する政治機関"トリニティ"の御膝元であり
また最先端科学の髄は此処に在りとさえ言わしめる程に発展している


貿易センタービルが立ち並ぶ大都会の中央にはトリニティの"セントラルゲート"が聳えている
 今現在、彼等はショッピングモールの真ん中で別行動を取ったエミリアを待っていた



白薔薇(人がたくさん居ますわね…)キョロキョロ



[ファシナトゥール]から数百年余りは他所のリージョンに出た事が無い妖魔の姫君は現代の発展に目を丸くしていた

 何処もかしこもも、人、人、人…居眠りをしていたルージュとアセルス等と共に待つ傍ら、摩天楼を一頻りに眺めては
ある一点に目を向けた





白薔薇(…?あの塔、…いえ、"ビル"というのでしたね、妖魔の気配がしますが…)





妖魔は機械音痴の種族、それもあってこのリージョンでは妖魔は特に珍しい
…従って、"何故か大勢の妖魔が集まっている"場所が嫌でも目に付くのだ






後に、とある出来事が切欠で昇る事になるビル…"キャンベル貿易ビル"である




ルージュ「すいません、僕達の分のチケットまで確保して頂いて」


エミリア「いいーの!いいの!ヤルートの件を手伝ってくれたお礼も兼ねてるから」


 パチッとウインク一つ、金髪美女は朗らかな笑みで返してくれる…あの後、結局ヤルートには逃げられ
エミリアも追っていた仮面の男ジョーカーに関する情報は得られず終いに終わった


唯一の救い、とでも言えば良いのか…捜査中にアセルスの知り合い…ゾズマに出逢い
『モンスターを侵入させて基地を混乱させたんだから責任ぐらい取ってよね!!』と強気に出たアセルスが
拉致監禁された女性たちの身柄保護、そして基地から脱走の手助けをゾズマ率いる部下の妖魔達に手伝わせた事ぐらいだ






…どうでもいい話だが、最初ゾズマの恰好を見たエミリアは黄色い悲鳴をあげて銃をフルオート射撃しそうになったそうな


女装男子に続き、上半身裸で乳首に星型ニップレスという色黒イケメンという時代を先取りしたファッションの妖魔と遭遇



なんというか、その後もどっと疲れた様子で「ばかやろー…」と力無く嘆く姿が物悲しかった





ルージュ「ほんっとうにすいません!!」ペコッ ペコッ

アセルス「私からも本当にごめん!私のトコの変態が!」ペコッ ペコッ



エミリア「い、いや!良いから!二人共顔上げて!周りの人の目線が痛い!?」





      エミリア「白薔薇ちゃん!この二人をどうにか…ってあれ?白薔薇ちゃんは?」








ピタッ、助けを求めだしたエミリアのその一言が"皮肉"にも目の前の二人を止めた




周りはこれでもかと言わんがばかりの人混み、その雑踏溢れる賑わいの中に花飾りの貴婦人の姿は―――無い





アセルス「し、しろばらぁぁぁぁぁ!!!」

ルージュ「白薔薇さんがいなくなったぁ!」ガーン!?






…妖魔は機械音痴の種族である、そして浮世離れした妖魔の姫君は絶賛、機械仕掛けの摩天楼で迷子となっていた


―――
――





白薔薇「」ポツーン


白薔薇「こ、此処は一体どこなのでしょうか…」オロオロ







Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「…んで、次は何処行くんだ?」テクテク



記憶喪失のロボット「レオナルド博士にメモリを増やして頂きました」

記憶喪失のロボット「その点を踏まえ次は[シュライク]、その次に[シンロウ]へ行く事を推奨します」


Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「なら次は[シュライク]だな…っと」

記憶喪失のロボット「どうされましたか?」


Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「…いや、派手な格好だなって、あんまジロジロ見るのも悪ぃな、行くぜ!」

記憶喪失のロボット「はい」




白薔薇姫の姿はこの通り傍から見て目立つ、おとなしくしていればすぐに3人に見つかるのだが
 見慣れぬ環境…[ファシナトゥール]ではまずお目に掛かれないメカの存在が彼女を"じっと"はさせなかった

人は自分にとって慣れぬ物、理解できない物を見ると興味を示すか、訳も無く畏れてそれから遠ざかろうとする心理が働く


彼女が前者か後者か、どちらの心理が働いたのかは分からないが、その場でとどまるという事はさせなかった

ワカツの剣豪!ワカツの剣豪じゃないか!

ちょいちょいサブキャラが出てくるのが楽しいな

乙乙
ゲンさんはカードと小石両方取って先にスタメン入りだったわ

物語が交差してる感じがすごくいい








クレイジーなIRPO隊員「さぁ~て…キャンベル社長のトコに行く前にちと早いがちょっくら昼飯にでも―――」スタスタ












白薔薇「」オロオロ



クレイジーなIRPO隊員(なんだぁ?ありゃぁ…映画の撮影か何かか?)




 近未来都市の摩天楼に一人の貴婦人が居る、通りがかりの男はその麗しの美人をマジマジと見つめていた
ブロードウェイのミュージカルシアターから舞台衣装のまま女優さんが逃げ出して来たのか、と通行人なら皆が思う

 男は全身黒づくめ、靴もジーンズもダークカラーで統一していて襟元に毛皮が付いた革ジャケットを羽織り
裾口から先の手首もこれまた真っ黒なグローブという服装だった

唯一、暖色が見えるとすれば、襟元の毛皮と紅いネクタイ…そして外側が少しはねたショートヘアのくすんだ金髪だ



ポケットに手を突っ込み、先程まで煙草をふかしながら歩いていた彼は遠目に見える"問題の企業"を目指していた

職業柄、いつも手帳と何処のリージョンでも使用可能なタブレット端末…そして、腰ベルトの背には銃が備わっている






彼は[IRPO]隊員だ



I…inter<インター>

R…region<リージョン>

P…patrol<パトロール>

O…organization<オーガニゼーション>






即ち…混沌の海に浮かぶ無数の惑星<リージョン>を跨いで、日々犯罪者を追い続けるリージョン警察である


 今日、彼は[IRPO]本部から[ルミナス]で起きた戦闘騒動の調査後
すぐに此処[マンハッタン]にある、とある企業を捜査する手筈だった、吸い殻をポイ捨てしたいトコだったが
 仮にも市民のみなさんを護るお巡りさんがそれをやると苦情が来るから面倒臭がりの性格である彼は渋々と
最寄りのコンビニによって煙草の吸殻を捨て、仕事前にお気に入りのファーストフード店にでも入ろうかとした矢先だった



クレイジーなIRPO隊員「…あー、そこの麗しいお嬢さん、何かお困りですかな?」ニッコリ


白薔薇「?」キョトン



紳士スタイルで美女に接する下心丸出しな隊員Hさん



クレイジーなIRPO隊員「あぁ、失礼、私はこういう者でしてね」ピラッ


黒ジャケットの男はそういうと腕に[IRPO]の正式隊員であることを証明する腕章を見せる、これに白薔薇はしばし戸惑った




彼女は外界を、世間一般の常識を知らない

無知という訳ではない、数百年あまりの悠久の時を鎖国状態のリージョンで過ごしたからだ



稀に[ファシナトゥール]にIRPO隊員が来る事があってもその腕章が何を意味するのか、知らぬのだ



白薔薇(…!そうですわ!アセルス様が教えてくださいましたわ、これは確かパトロールの御方の!)ハッ!


白薔薇「刑事さん、でよろしいのですね?」


クレイジーなIRPO隊員「ええ!そうです!見たところお困りのようですが、何かありましたか?」



男は大袈裟に両腕を広げておどけてみせる、芝居じみたその仕草に緊張が解けたのか白薔薇も小さく笑い
仲間とはぐれてしまった事を告げた



クレイジーなIRPO隊員「なるほど、…お仲間さんのお名前は?」スッ



情報端末を取り出す、全パトロール隊員に配布されたタブレットは各リージョンの住人は無論、シップ発着場から
下船したお客の情報も問い合わすこともできる

パスポートの偽装、違法シップの運用を想定してだ

パトロール隊員はあらゆる権限を持たされており、隊員1人の権限で企業、店舗の営業停止から突然の立ち入り捜査まで
許可されている……簡単に言えば、この広いリージョン界でほぼ何でもできる権力を持っている


 それゆえに権限の悪用や、"収拾がつかない状態"にならぬようにと、隊員は増やし過ぎず…それでいて
人格面、能力全てが厳選されている





余談だが隊員は全部で な ん と "6 名" …いや、1人殺害された、とのことで5名である


数多の惑星<リージョン>に対してたった5~6名ほどしか任命されない、逆に言えばそれだけ権限を持った者達なのだ





白薔薇「…その機械は?」


クレイジーなIRPO隊員「ん?ああ、これは発着場から来た人達を調べる機械でしてね」

クレイジーなIRPO隊員「あぁ…妖魔の方ですか、通りでお美しいと思いましたよ」ピッピッ


人助けの為であって悪用する訳じゃないのでご安心を、と笑う男に白薔薇はどう答えるべきか困った








[ラムダ基地]から船を奪ってなんとか逃げ出して来た自分達をどう説明する?

もっと言ったら、12年前に行方不明となったアセルスの名前なんて出せるかッ!面倒な事になるに決まってるッッ!

エミリア、ゲンさん、ヒューズ、あぁそうか ブルーが印術√だからか

なんか誰の名前出しても面倒くさそうww

エミリアなんて無実なのにヒューズに刑務所送りにされたもんなw

>>173
何言ってるか分かんなかったけど秘術イベントで仲間に出来るキャラって今気がついた



 しばしの戸惑い、その一考に革ジャケットの男は少しだけ眉を顰めた、名前を言うのに何を躊躇う必要がある?
腐っても厳選される程には有能な刑事さんのようだ







   白薔薇「私のお連れの方なのですが…その"ルージュ"という殿方なのです」


クレイジーなIRPO隊員「ほー、ルージュ…フランス語で赤ですか」ピッピッ





クレイジーなIRPO隊員「………」ピッピッ




クレイジーなIRPO隊員「お嬢さん、お間違いはありませんかね…?ウチの機械に、"ルージュって名前が出ない"ですがね」







空気が変わった。









白薔薇「それもその筈ですわ」

クレイジーなIRPO隊員「はぃ?」



白薔薇「その御方は術士の方なのです、昨日[ルミナス]で出会い術の修行の旅にお付き合いすることになりまして」

白薔薇「ルージュさんは[ゲート]という術でリージョン間を移動できるのでして」

白薔薇「私達はシップに乗ってきたわけではないのです…だからどうご説明すればよいのか迷いました」



クレイジーなIRPO隊員「…」



男は下顎に手を当て考えた、なるほど、それなら入国…もといリージョン入りしても記録に残らない訳だ
術による移動事態はトリニティの制定した法律上、違法でも何でもない

名前を端末で検索しても情報が無いから徒労に終わる、彼女が名前を出すのに躊躇ったのも全て辻褄が合う









   クレイジーなIRPO隊員(俺の勘が告げてやがる…どうもそれだけじゃねぇな…それに[ルミナス]から来ただと?)


   クレイジーなIRPO隊員「なら此処は一つ、元来た道を戻ってみるってのはどうかな?」


   クレイジーなIRPO隊員「お連れさんとはぐれたんなら、向こうも探してるだろうし…可能性が高いと思うぜ?」






クレイジーなIRPO隊員「自己紹介が遅れたが、俺はヒューズって言うんだ、麗しのお嬢さんお名前をお伺いしましょうか」



ニィ、と男は…ヒューズは笑う、…コードネーム、一度キレたら手の付けられない男<クレイジー・ヒューズ>

本名ロスター捜査官の通称だ



白薔薇「白薔薇と申します」ペコリ



ヒューズ「白薔薇さん…う~ん、なんとも可憐なお名前だ、おっと途中から敬語じゃなくなってるがすいませんね」

ヒューズ「俺はどうにも敬語って奴ぁ苦手でしてね、教養の無さは多めに見てくださいよ、っと」



へへっ、と笑うヒューズ、ふふっと笑う白薔薇…



 掴みは上々、綺麗な女性に良い男アピールができたヒューズは此処でもう一押し
紳士的にエスコートして差し上げようと手を差し伸べる




うんうん、これも警察として当たり前の事だ、なーーんにも下心なんて無いモンねー、と内心で呟きながら




































   アセルス「この痴漢めぇぇ!!白薔薇から離れろおぉぉぉぉ!!」ゴスッ!!!!

   ヒューズ「へっぶぁぁぁぁっ!?」ボキャァ!!





鼻の下が思いっ切り伸びまくっていたお巡りさんに清々しい程に右ストレートが決まった





アセルス「このっ!このっ!このぉ!!!白薔薇逃げて!!」


白薔薇「あ、あのぉ…アセルス様」オロオロ


ヒューズ「ひでぶっ!?おい、おま――ちょ、やめ、あっぶぅ!?」












  ヒューズ「 や め ろ っって ん だ ろ が ッ!!こ の コ ギ ャ ル が ぁぁぁ!!」クワッ


   アセルス「きゃあああああああぁぁぁぁ!?!?」







ルージュ「白薔薇さんっ!やっと見つけ―――…えっとこれはどういう状況?」


<キャー!ヘンタイー!

<ウルセー!!



白薔薇「…何から説明すればいいのか」



―――
――





アセルス「ごめんなさい!ごめんなさいっ!」

ヒューズ「…あぁ、俺も悪かったわ」ポリポリ



アセルス「白薔薇を保護してくれてた人に、あんな早とちりを……」



どうにも白薔薇絡みになるとアセルスは冷静さを欠く傾向があるがある…ルージュは短い間だが一緒に居て分かった
アセルスの事情は知ってるし[ファシナトゥール]から此処に至るまでに幾度となく支えられてきた謂わば心の支えなのだ






――――もしも…もしも、だ








【白薔薇姫が "何らかの形" でアセルスの元から引き離されてしまったら】きっとアセルスの心は折れてしまうのでは?


そう一抹の不安さえも感じてしまう程に依存している傾向にあるのだ



ヒューズ「ま、お連れさんが見つかって良かったじゃねぇか」


白薔薇「はい」

アセルス「あの…!お礼とお詫びも兼ねて何かできませんか」



自分の早とちりで傷つけてしまった人に出来る限りのお詫びをしようと申し出るアセルスに対して


ヒューズ(血の気が多い娘だが、なんだい良い子じゃねぇか…)


ヒューズ(まだ子供だが後数年すりゃあいい女だな)ウンウン



アセルス「あの…?」


何故か自分を見て頷いた男に疑問符を浮かべる、殴った頬が傷むのだろうか?公務執行妨害とやらで逮捕されるのか?



ヒューズ「んじゃ、ご厚意に甘えて昼飯でも奢ってもらうか!」ニシシッ


ヒューズ「俺の気に入ってるファーストフード店があってな、そこでハンバーガーでも…」














          蒼褪めた、サーッと音が聞こえるくらいにみるみるうちに顔から血の気が引いた









読者諸氏、彼…クレイジー・ヒューズを知る人が居れば彼がどのような人物で過去に何をやったか知っていることだろう



彼の眼は人混みの中にある"一人"を捉えた、向こうはこちらに気づいていなかったのが幸いだ




モノクロ写真のように回りの風景だけは色をなくし、その人物だけは色があった…




リケーネカラーリングのスカートに緑色の上着を羽織り、艶のあるブロンドの髪を靡かせながら歩く見返り美人



[ラムダ基地]で着ていた衣装から本来の私服姿に着替えた"元スーパーモデル"…そして…





 ヒューズが冤罪で証拠も何も無いと知っていながら、キレて裁判もせず刑務所…[ディスペア]送りにした女エミリアだ





ヒューズ「」ダラダラ…


あっ不味い、見つかったら俺間違いなく殺られる、不良警官は思った

 汗が止まらない、なんか見つかったら関節技キメられそうな気がする
…もっと言ったら投げ技を極めた人物にしかできない一人連携技を喰らって頭蓋骨が陥没しそうな気がする



アセルス「ヒューズさん…や、やっぱり私が殴った所が痛かったんじゃ…」




ヒューズ「いや、違うんだ…なんつーか、ちょっと腹が痛くなって…あ、今度会えたら、なっ!お礼そん時で良いから!」

アセルス「えっ、あの、待って!」



ヒューズ「じゃ、じゃあな!!!」ダッッ!!





ルージュ/アセルス/白薔薇「「「…」」」ポカーン





エミリア「此処に居たのね!!白薔薇ちゃんが見つかって良かったわぁ…?どしたの3人共」ハァハァ…


ルージュ「いえ、なんでもないです…」


何がどうしたというのだ?3人共首を傾げるばかりであった…

―――
――



アセルス「白薔薇、今度ははぐれないようにしてね?」

白薔薇「申し訳ありませんでした…」



エミリア「さて、[クーロン]行きの船がもうすぐ出るけど…貴女達…[クーロン]へは何しに行くの?観光とか?」



[シュライク]行きのシップが滑走路から飛び立ち混沌の海へと飛んで行ったのを発着場のカフェレストランの窓際の席から
眺めながらエミリアは尋ねてみた


エミリアは[クーロン]に詳しい、というより詳しくなったという方が正しい…






  エミリア「私の仕事仲間が[クーロン]に居るのよ、それであの街には詳しくてね、観光名所巡りならできるわよ♪」


  ルージュ「仕事仲間、と言いますと、その"グラディウス"…ですっけ?」



法律で裁けない者や解決できない事件を"法に反する手段"を以て解決する組織…ルージュは小声で組織名を口にする




  エミリア「そっ!仕事仲間で…ライザ、それからアニーって気の合う女友達も居て、…後、女心の分からない上司も」




アセルス(うわぁぁ…エミリアさん、すっごく嫌そうな顔…)



 緑髪の半妖少女は目の前の綺麗なお姉さんがご機嫌から不機嫌に一変するのを垣間見た

基地から脱出の際、サングラスを掛けた彼女の上司に睡眠薬を盛られて寝てる隙に人攫いに自分を売り飛ばさせて
あの悪趣味なハーレムへ潜入させたという話は半ば愚痴のような形で聴かされはしたが…


 アセルスは自分達の目的を話す、という名目で話題を変えた方が良さそうだなーと
フォークに刺したハムエッグを口に運びながら考えた


ルージュ「僕は術の資質集めの旅を続けていて、リージョン界を廻る旅をしてます」

ルージュ「[クーロン]には情報収集のためにも前々行ってみたいとは思ってました」



そんな彼女の考えを察したのか紅き術士が先に口を挟む、


エミリア「…術の資質、ねぇ」んーっ



頬に手を当てて少し考える、それからエミリアは自分のポケットから"あるもの"を手渡したのだ



ルージュ「名刺ですか?」パクッ


ほうれん草とベーコンのキッシュを頬張りながら術士は小さな紙に書かれていた文を黙読する



ルージュ(…お困りごとなら何でも解決!裏組織 グラディウス![クーロン]イタリア料理店、詳しくは店前の女まで!)




ルージュ「あの、これは…?」

エミリア「名刺よ」



ルージュ「いえ、そうではなく…」



裏組織が住所とか堂々と書いた名刺作るなよ…、ツッコミを入れたいと思うのは野暮だろうか
岩塩の塩っ辛さだけがやけに舌に残るキッシュだ、ハズレメニューを頼んだかなと水で口直しをする


エミリア「何かあったらそこを頼ると良いわ、私が居なくても、その名刺さえ見せれば」

エミリア「グラディウスの誰かがちゃんと手を貸してくれるから」



 ウチは術の資質を取りたいって人のために手助けもしてるってアニーから聴いたのよ、お金は取られちゃうけどね
それだけ言うと元モデルはカフェオレのカップに口をつけた








この段階ではまだ誰も知る由もないことである




後にエミリアから貰ったグラディウスの名刺が、 "悪の組織と戦う正義のヒーロー" を幹部のアジトまで導く事になると



なるほど、そう繋げるか



白薔薇「そういえばルージュさんは秘術と印術どちらを取得なさるのですか?」


 至極まともな問いが飛んできた、エミリアの友人のアニーさんとやらが術の資質集めを手伝う仕事も請け負っている
それは今聞いたが、問題はそれが『印術』なのか、はたまた『秘術』かだ


パチクリ、それを聞いて再びパニーニを口にした貴婦人を見返した



そうだった…よくよく考えてみたらまだ印術にするか秘術にするか決めてないじゃないか……



エミリア「ルージュ、あなたは希望とかあるの?」

ルージュ「実の所、とくには無くて…」




 ただ双子の兄とは相反するモノでなくてはならない…被ったら早い物勝ちの競争になること必須で、そうなってしまえば
先に相手に取得され、これまでの苦労が水の泡に終わる

そんなリスクだけは極力可能な限り避けたい


第一、ルージュは祖国からの使命にあまり乗り気じゃないのだ…


会った事が無いとは言え、双子の兄弟をこの手で殺めるなどと人道に反する行いだと重々承知している
できることならこのまま修行の旅が終わらなければいい




それこそ[ルミナス]で適当な旅人を見つけて『資質集めの旅をしてるんです!協力して一緒に集めよう』とでも言い
 その後、旅人の背中についてって自分の使命すっぽかして一生終わりの見えない旅をしたって良いとすら思ってる


…思ってはいるけど現実問題そうは行かない


国家反逆罪で追われたくないから、体裁だけでも良いから取り繕うしか無いのだ、少なくとも今現在は



エミリア「…印術は、正直オススメできないわね」


ルージュ「何故ですか」



エミリア「んー、私と仲間二人が印術の試練に挑戦してるのよ、ほら」つ『ルーンの小石』×2


ルージュ「!? "解放"と"活力"のルーン!!凄い!昔、学校の本で見たのと同じだ!」



エミリア「…この二つ、滅茶苦茶厄介な所にあったのよにあったのよ」ハァ…



余程苦々しい思い出なのかエミリアは重いため息を吐く

1つは自分の復讐劇の序幕が上がった場所、2つは気色悪い巨大生物の体内のこれまた気色悪いゲル状モンスターのプール




エミリア「強制じゃないけど…私は秘術にした方が良いんじゃないかって思うのよ」






エミリア「それに、秘術の試練だけど、その内の1つは何をすれば良いのか知ってるわ」



ルージュ「試練の1つを知っている!?」ガタッ


アセルス「わっ!!ルージュ!突然身を乗り出さないでよ!飲み物が零れるでしょ!」



ごめん、と矢継ぎ早にアセルスを制しエミリアに続きを話して欲しいと促す




エミリア「私、ある任務でカジノのバニーガールをやってたのよ!」

ルージュ「……」




ルージュ「は、はぁ…?」



とりあえず、黙って続きを聞く事にした、細かい事は敢えて触れずに


エミリア「そのカジノ…[バカラ]ってリージョンなんだけど、そこの地下に金を集めるのが好きな精霊ノームが居たわ」


エミリア「金よ、金塊!…あの人(?)達はとにかく金が好きで」

エミリア「"たくさん"の金を持って来た人間には快く秘術の試練…アルカナのカード集めの1つ"金のカード"をくれるわ」


ルージュ「た、たくさんの金ですか…」





金塊をたくさん…そんなお金が何処にあるというんだ!!!




ルージュは頭を抱えたくなった、奇しくも今日、全く似たような悩みを双子の兄も抱えたという…









白薔薇「これでは足りませんか?」つ『金』×2




エミリア/ルージュ「「えっ」」


アセルス(あ、[ファシナトゥール]から逃げ出す時に飛ばし屋さんに払った貴金属…そういえばまだあったんだね)





白薔薇「ルージュさん、これでよろしければ…」


ルージュ「い、いやいや!受け取れませんって!」



アセルスと白薔薇は妖魔の王から逃げている最中、安定した衣食住だって保証できない、いつ終わるやも分からぬ逃亡生活

先立つモノが必要になるに決まってる、そんな人から何故これを受け取れようか…




ルージュ「二人共、お金は必要になるでしょう!!そうでなくてもこんな高価な…」



白薔薇「私もアセルス様も命を賭してまで助けて頂いたのは事実です」

白薔薇「であるならば今度は私がアセルス様の分も含めその恩をお返しするのが道理です」



ルージュ「で、でもですね―――」



白薔薇「では、こうしましょう、私は『秘術の資質』を得たいと思っています」

白薔薇「この金はその為に使用するモノであって貴方にはお渡ししません、私が"個人的"にノームへお渡しします」



白薔薇「これで如何でしょうか」



ルージュ「…(唖然)」



アセルス「…」フゥ…


アセルス「『君も術の資質を集めてるのかい?では協力して集めよう』」

アセルス「ルージュ、キミ自身が言った言葉だ、"協力"して集めよう…白薔薇はこうなると退かないんだ」



困ったように笑う緑髪の少女を見て、「参った、降参だ」と手をあげる術士
「アセルス様にこうなると退かないんだ、と申されますとは…」苦笑する貴婦人

これは面白い人達に出逢ったと笑顔でカップを傾ける金髪美女…



まだ100%秘術にするとは決まっていないが
どちらかといえば"アルカナ"のカード集めにするのも良いかなと彼は思い始めていた



昼、12時49分、シップ発着場のカフェレストラン…滑走路から飛び立つ宇宙船<リージョン・シップ>が一望できる窓際の一角は
談笑に包まれる温かな空間だったという…



















           ドォ ォ ォオ オオオオオオオオ オオ オオ オオ   オオ  ン!!!!














――――それは、何の前触れも無く起きた







エミリア「っ!!な、なんなのよ!今の音は!!」



店内、いや、発着場そのものさえ揺れる大きな振動、カップの中身がテーブルの上に零れる

アセルスは傍らに居た白薔薇の手を握り、周りを警戒する…そしてルージュは…!
















ルージュ「! み、みんな、見てくれ!あのビル!! あの一番大きな建物から煙が出てるぞ!!」












「て、て…!!」






「テロだぁーーーーーーーーっ!!!!」



「た、大変だぁぁぁぁ!!!!!」



「う、嘘だろぉ!あの建物は…っ、トリニティの中枢が!セントラルゲートが!!!」


「爆破テロ!?どうなってんだよぉ!!」
「お、落ちつけって!事故か何かかもしんねぇだろ!」




誰が開口一番にそう叫んだか、正午の穏やかな談笑など、いともたやすく消し飛んでしまった

そこかしこから悲鳴があがり、民衆はパニックに陥っていた…


―――
――


                 マム   マム \ / `マム:::::  |l;  /
                     マム    丶マムヽ    マム  マム/|
           \     __マム  冫ヽ\  |\   /|  マム     ボッゴォォォン!!

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    .|i  |i-三.|i _ニ|i―ニミヽ .|i`ト、..i| `.i|  人__      }   Tヽイ ≧=-
    .|i  |i_.=-.|i ̄ !|i     `ヽ|i` 、...i|i、  |  |i /i|`ト、 _,. ´   / ヘ ヘ
    .|i=-|i   |i   !|i__   !|i>...!i| `i!|  |i' |iヘ  Y ̄`ヽ ̄   ヘ^丶   バッグォォン!!
    .|i  |i_-ニ!|i-ニ .|i ̄ ̄> !|i    |`'守| /` |i  ー'ト  i| ヘ     j
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【双子が旅立ってから2日目 昼 12時49分  [マンハッタン]:セントラルゲート前】



「た、たすけてぇぇぇ!!」



ヒューズ「IRPOの者だ!!一般人はさっさと現場から離れやがれ!!…クソったれッ!!キャンベルどころじゃねぇ!」


ヒューズ「おい!そこのアンタ!車どかすの手伝え!救急車が怪我人運べねぇだろ!」


ヒューズ「…あ"ぁ"ん"!?決まってんだろ壊れてんだから手で押すんだよ馬鹿野郎!!力入れろ!」ググッ!!




<ピーポー! ピーポー!

<ウゥーーー、ウゥーーー!!





「救急隊です!怪我人は!?」

「消火栓にホース運べ!急げ!」


「まだ中に人が居るんだ!お願いだ早く」


「おい!肩貸してくれ!この子両脚が潰れてるんだ!」



「生き残ったのはこれだけか…」

「何がどうなってるんだ…うぐっ」









「あ、嗚呼…! レオナルド博士がまだビルの中に閉じ込められてる!!」

「うっ…、駄目だ…見ろよ、あの爆発をよぉ」

「…博士のラボがある階が粉々に吹っ飛んじまったぁ!!」


「そんな、レオナルド博士が…」








この日、政治機関の中枢で爆破テロが起きるというリージョン界を震撼させる事件が発生した


これによりトリニティ上層部は、テロ実行犯の逃亡阻止、また他のリージョンで何らかの事件が起こる事を危惧し
トリニティ政府に属する全リージョンのシップの運行を丸一日ストップさせるという異例の法令を発した


犠牲者は数え切れず、その人数は裕に数千人規模…!





死亡者リストにはロボット工学の権威、[レオナルド]博士…レオナルド・バナロッティ・エデューソン氏の名前も載った




政府の対応は早かった


爆破テロの実行犯、あるいは支援する組織が他所のリージョンで犯行を犯した際、逃げ場を潰して置くためにも
また、発着場、移動中の船内で爆破を起こされる二次被害が起きてはどうしようもない




ルージュ一行の居る発着場にも当然ながら、シップ運行緊急停止の法令がすぐに届いた
厳戒態勢が敷かれ、こうなってはどんな船も気づかれずに離陸は不可能である






エミリア「……なんか、大変な事になっちゃったわね」




 発着場のターミナルでは見当違いなクレームを、罵声の数々を同じく被害者である発着場職員にぶつける旅行客
理不尽な怒りを受けてなお、歯を食いしばりひたすら平謝りを続ける職員の光景がいつまでも続いていた


本来の持ち場から立ち往生を余儀なくされた旅行客にブランケットとクッションを配るキャビンアテンダントの女性

怒鳴り散らしてもどうにもならないと漸く悟り、一夜を発着場で過ごそうと不貞寝を始める客達

サイレンの音が今だ鳴り止まない街に勇気を振り絞って踏み出し、空いている格安宿を探しに出る者達…etc




アセルス「みんな、ピリピリしてるね…」



眉間に皺を寄せている男達を見て居心地の悪さを覚える女性陣…いや女でなくとも人の怒声なんて聞いて良いモンじゃない



ルージュ「[クーロン]経由の船も欠航…僕らも此処で一日足止め、か…」






ルージュに至っては術で他所へ行ける、が…[ゲート]は一度行った事のある場所にしか瞬間移動できない

つまり[ルミナス]か[ドゥヴァン]にしか行けない
仮に行った所で全シップが運行を停止されているのだから他所へは旅立てない


 こんな非常態勢が敷かれてる中で悠々と飛べる船があるとすれば、トリニティに属さない[ネルソン]の船か…
海賊が乗った違法シップくらいである





アセルス「はぁ…明日まで[クーロン]はお預けか」



エミリア「…そうだ」




ふとエミリアはさっき聞けなかったことを訊こうと思った

ルージュが[クーロン]に行きたがる理由は知った、だがアセルス達はどうして[クーロン]に行きたがる?


多種多様な種族が暮す街だから身を隠すのに丁度いい?ルージュの手伝いか、…いや
どちらかと言えば彼の方がアセルス等を手伝ってる方だし


エミリア「ねぇ、アセルス達はどうして[クーロン]を目指す気になったの?観光じゃないなら――」





     アセルス「…私が[クーロン]に行こうと思ったのは私の身体を"診て"もらうためなんだ」




     エミリア「診てもらう…って貴女」








アセルス「ルージュは知ってるし、エミリアさんにも基地から逃げる時簡単に説明したでしょ?」


アセルス「私は妖魔から元の人間に戻りたい」


アセルス「普通に歳をとって、普通に生きて、普通に死ねる身体に戻りたいんだ」

アセルス「剣で刺されてもゾンビみたいに塞がったり、血の色が紫だったりしない……元に戻りたい…っ!」ギュッ!






白薔薇「…[クーロン]にはゾズマの知り合いで上級妖魔の身でありながらも人の社会を好み、医者として働く方がいます」




エミリア「…ゾズマ、ああ、あの…」




白薔薇「…た、確かに人間社会で暮らしたがる変わり者という点でゾズマとは気が合ったらしいのですが!」

白薔薇「人間社会に順応なされている御方です、きっと服装は人と変わりませんよ、たぶん」





一瞬死んだ魚みたいな目をしかけたエミリアにすかさずフォローを入れる白薔薇姫、最後は妙に語気の弱い言葉だった…







白薔薇「コホン、兎に角、まずはその御方にお会いして、アセルス様の御体を診察して頂く事」


白薔薇「それが[クーロン]を目指す私たちの理由です」




アセルス「うん、…今は藁にも縋りたいんだ、人間のお医者さんじゃどうしようもできない、なら1%でも賭けたいから」



アセルス「だから[クーロン]に住んでるっていうそのお医者さん…名前は…確か」





その続きは白薔薇姫が答えた




       白薔薇「…妖魔医師 [ヌサカーン]様ですわ」

>旅人の背中についてって自分の使命すっぽかして一生終わりの見えない旅をしたって良いとすら思ってる
だから誰彼構わずついていってたのかルージュ……


一気に色々繋がってきたな



【双子が旅立って2日目 午後15時20分】



 結局、今日一日は機械仕掛けの摩天楼で足止め…
ルージュ等一行はエミリアの誘いで裏組織"グラディウス"の[マンハッタン]支部で一夜明かす事になった


 此度のドタバタ騒ぎでどこのホテルも空きは無い、路上のベンチや飲み屋街の看板を抱き枕にして倒れる旅行客すら居た
自棄酒もここまでくればいっそ清々しいモノだ




ルージュ「…それじゃ、明日はどうにかして[クーロン]のヌサカーン先生?って人に会いに行くとして」

ルージュ「僕は今の内に術を使って[ドゥヴァン]へ行こうと思うんだ…印術か秘術か、気になる方を取って来るから」




エミリア「二人は任せて頂戴、此処なら妖魔の1人、2人来たって平気だから」



 追われる身にある妖魔二人が匿ってくれる金髪美女達に恭しく頭を垂れる、行く宛てもなく、保護してくれる人も居ない
そんな彼女等にとってエミリアの誘いはこれ以上ない申し出であった


一夜限りとはいえ、安心して眠りにつけるのは有難い







             ルージュ「[ゲート]!…[ドゥヴァン]へ!」ヒュン!!





 光の粒子に包まれて、何光年と先の遠い宇宙<ソラ>の先にある他所の小惑星<リージョン>へ瞬間移動したルージュを見届け
エミリアは受話器を取り、ダイヤルを回す…


アセルス「エミリアさん、何処へ電話を?」

エミリア「うん?あぁ、友達の所にね、…ほら?今日の騒ぎでシップのチケットが駄目になったからそのことで」




…プルルル! プルルルル!


エミリア「…もしもし!」








  受話器の向こうの声『エミリア!!!アンタ無事だったのね!!』



  エミリア「ええ!なんとか命からがらね、それとジョーカーの件だけど…収穫は無かったわ」



  受話器の向こうの声『…そっか、いや、そんなモンどうだって良いわ!無事で良かった、ライザも心配してたわ』


  受話器の向こうの声『あ、言っとくけどライザはグルじゃないからね…』


  エミリア「うん…」

おお、続き来てる





   エミリア「もう、ニュースになってると思うけどさ」


   受話器の向こうの声『ええ、シップが全便欠航でしょ…本当災難よね』



   エミリア「なんとかならない?できれば早めに[クーロン]に帰りたいのよ…」


   エミリア「訳あって連れてかなきゃいけない子が居て」



   受話器の向こうの声『ふーん…OK!アタシに任せな!何人だろうと問題無く[クーロン]に連れてくから!」



   エミリア「本当!?…詳しく事情は聴かないのね」



   受話器の向こうの声『なぁに言ってんのよ!アタシとエミリアの仲じゃん!気にしないっての!』






   エミリア「ありがとう、アニー」





   受話器の向こうの声『お安い御用よ、明日の便で帰れるように手配しとく!で?連れは何人』






―――
――



【双子が旅立ってから2日目 午後16時01分】


ルージュ「…」



「では!この4枚のカードを…ってお客さん聴いてます?」


ルージュ「え、あ、あぁ…ごめんなさい、少しボーっとして」


「なんだか顔色が優れませんが…ハッ!?まさかルーンの誘いのテントで怪しい勧誘でも受けたんじゃ!」


ルージュ「ははは…いえ、そういうんじゃないんで」


「あそこは悪徳ですからねー!それに比べて秘術は素晴らしいぃ!!」

「誠実、安心、最高の術ッ!あんなオンボロテントとは大違いです!あなたは実にお目が高い!!」ドヤァ


ルージュ「ははは…」




"既に双子の兄がやって来た"その事実を先程、そのオンボロテントで聞いた…自分を殺す為に旅立った双子の片割れの事を


…夢でもなんでもなく、本当に自分の兄が資質集めの旅、――自分を殺す旅路ををしてると実感を得る証言だった



出逢った事はなくとも、血の繋がりがあるのならばあるいは―――心の何処かでそんな淡い期待はあったかもしれない









 だが、実際に兄…ブルーの姿を見たという人間の証言を聞いてしまうと






「お客さん、本当に大丈夫ですか、冗談じゃなく本当に顔色悪いですよ…まるで」





まるで死人か何かだ



 そう言いかけて、慌てて取り繕うように「そんな時こそ!『杯』の術は如何ですかー」と誤魔化す目の前の人間に
気にかけて頂きありがとう、と愛想笑いをしてルージュは出て行く…





ルージュ(…ここに、本当に兄さんが来たんだ)フラフラ







                   ドンッ!










ルージュ「あっ!…す、すいません!よそ見してて」





余程、精神的にキていたのだろう…覚束ない足取りの彼は小さな少女とぶつかってしまった…








      転生した幼女巫女「……おぬし、嫌なニオイがするな」


      ルージュ「ぇ?」パチクリ


      転生した幼女巫女(…オルロワージュの匂い、いや…これは残り香というべきかのう)


      転生した幼女巫女「おぬし、最近妖魔か何かと知り合いになったか?」


      転生した幼女巫女「悪いことは言わん碌な目に遭わん内に縁を切るのじゃな」




出会い頭に奇妙な事を言われたものだ、紫色の髪…小さな背…しかし、目先の子供から感じる大人びた物腰




ルージュ「…あの、つかぬ事を窺いますか貴女は」




どう見ても自分よりも年下だ、だがこの人物には"目上の人に対する態度"で接せねばいけない、直感的に彼はそう思った




転生した幼女巫女「なに、そこの神社で巫女をやっておる身じゃ、忠告はしたからな」クルッ ザッザッ




ルージュ「あ、ちょ、ちょっと待ってください!…行っちゃったよ」



ルージュ「…どういう事だろう…」




<まぁまぁ!かてぇ事言うなって
<リュート!!貴様ァ!




ルージュ「なんだかあっちの方が騒がしいな…はぁ…僕も帰ろう」


―――
――

*******************************************************
【双子が旅立って2日目 午後15時31分】







リュート「いやぁ!にしてもアレだな!俺達はやっぱ運が良いよなぁ!」テクテク


ブルー「…」テクテク



リュート「俺達が[ネルソン]で金を買って、んでその直後だろ?なんか[マンハッタン]でテロがどうとかって」

リュート「シップは全便欠航、俺達はこの機に乗じて金塊を転売しまくる」

リュート「他の資産家は他所のリージョンに行けないから実質俺達の独占だったよな~、金融市場」




ブルー「…」テクテク





   [タンザー]帰りのお土産「…(´・ω・`)ぶくぶくぶくぶー!」





ブルー「貴様はいつまで俺達の後をついてくるんだ」イラッ




  [タンザー]帰りのお土産「…(´;ω;`)」ブワッ


  リュート「オイオイ、ブルー…何もそんな冷たい言い方するこたぁないだろう?見ろよ?」

  リュート「このスライム泣いてるだろ」



  ブルー「俺には違いがさっぱり分からん」




 [タンザー]から脱出の際、ブルーの脚に引っ付いていたモンスターが1匹、ぬるぬるとしたゲル状のボディー
それ以上でもそれ以下でもない、そう[スライム]だ



スライム「ぶくぶくぶく…;つД`)」ポロポロ…



リュート「なぁブルー、こいつの目を見ろよ?こーんな円らな瞳なんだぜ?涙ぐんで、可哀想に」


ブルー「そいつの何処に目玉がついてるのか分からん、強いて言えばそのヌメッとした粘液が噴出してる所か?」



ゲル状生物の…顔?にあたる部分から湧き水のように粘液が出ている、そこが眼なのか…?




リュート「なんでもお前に一目惚れしたらしくスライムプールから出て来てお前についてきたってよ、健気だろ?」

スライム「ぶくぶー (`・ω・´)」キリッ



ブルー「俺はお前が何故『ぶ』と『く』しか発音できない生物がそう言ってるように思えるのか不思議だ、病気か?」




リュート「いや、俺ン所にモンスターの知り合いが多くて自然と分かるようになったっつーか、それよりもどうだ」

リュート「こいつを連れってやろうって思わないのかい?こんなに一途なんだぜ?」



ブルー「思わん」キッパリ



リュート「思う、だって!?良かったなァ!連れてってくれるってよ!」

スライム「ぶくぶーーーー!(`・ω・´)」



ブルー「言ってないだろうが!!」

リュート「ハハハハ!まぁまぁ!かてぇ事言うなって」ヒョイ(スライム抱き上げ)


スライム「Σ(・ω・ノ)ノ!ぶくっ!?」ビックリ!


リュート「そーれっ!」ポーン ベチャッ!



朗らかに笑いながら、抱き抱えたスライムちゃんをポーン!とブルーの肩目掛けて放り投げるリュート
べちゃっ!!ミネラル成分満載の可愛い可愛いスライムちゃんがブルーの肩に着地!



     ブルー「リュート!!貴様ァ!」

スライムの表情……?言葉……?
こればっかりはブルーに全面的に同意するぞリュート……





 キィィ―ィィイイィン…!





ブルー「!」ピクッ





リュート「わわっ、悪かったって!確かに悪ふざけが過ぎ…ってあり?」

スライム「(。´・ω・)?」ノソノソ



 肩に乗ったモンスターを払いのけ、拳を強く握り後ろのお気楽男を怒鳴りつけた所で術士は魔力を感じ取った
それは…自分がよく使う[ゲート]の力と同じような









  ブルー「いや…まさか、…"居た"、というのか?」バッ!







急に熱が冷め、忙しなく周囲を、人の姿を探すかのようで、身構えていたリュートは思わず尋ねた



リュート「誰か知り合いでも見かけたのか?」



ブルー「…」

ブルー「…いや、気のせいだ」



リュート「そうか?一儲けができてすぐにこのリージョンに飛んだからてっきり此処に知り合いか誰か居て探したのかと」

ブルー「違う、そんな理由じゃない」スッ


術士が首を振り、蒼い法衣の袖先はこの土地で一番小高い場所を指さしていた
 鳥居の先にポツンと居を構える祭神の家、此処の観光地の1つともされる神社であり、彼が[クーロン]に戻らず
此処へ寄り道に来た理由の一つであった



ブルー「以前訪れた時には留守だったようだが、あそこの社に居る巫女が『"時術"』…『"空術"』に関して知っている」

ブルー「そう聞きつけてな、今日ならば帰ってきていると聞いたんだ」


リュート「ふぅん?」



 噴水広場を突っ切って、左手にアルカナ・パレスそして昨日の喫茶店を、と横切り奇妙な狛犬(?)達の間を抜けて
年中紅葉が頂上からヒラヒラ舞ってくる山の石段を登っていく…


―――
――


*******************************************************

【同時刻:マンハッタン 『キャンベル・ビル :社長室』




「しゃ、社長!例の物はなんとか回収し終えました!」




 機械仕掛けの摩天楼、そのリージョンの一等地にあたる立地条件で尚且つ大規模の高層ビルがある
大手ブランドメーカーとして名を馳せる、大企業"シンディー・キャンベル氏"の経営する会社だ

社長室内に慌ただしく駆け込んだ女性社員の声に落ち着きなさいな、と背を向けたまま口を開く



女社長「今日、[クーロン]行きになる筈だった品物は全品回収したのね?」


「は、はい……それにしてもとんだアクシデントでした、まさか爆破テロが起きてシップの立ち入り調査とは」




 ギィ、音を立ててキャスター付きのリクライニングチェアが向きを180℃変わる赤紫の帽子を被り
女社長ことミス・キャンベル氏は妖艶な笑みを浮かべて煙管<キセル>を吹かす…


キャンベル「うふふ…それもまた一興というものよ」ニコッ


「は、はい…//」ドキッ


キャンベル「あら?顔が赤いわね…階段を駆け上がるのに息を切らせたのかしら…それとも」スッ



煙管を手にしたまま、女社長は立ち上がる
 高そうな絨毯の上をゆったりと歩き、女性社員のすぐ間近で立ち止まる…品定めでもするように
息の上がった顔、少しはだけたカッターシャツから脚の爪先までをじっと眺める




キャンベル「私に逢いたくて堪らなかったのかしらねぇ?」クスクス


「しゃ、社長!お戯れを…」



キャンベル「あら、冗談ではないわよ、私の眼をごらんなさい」







女性社員は目の前の美しい瞳を見つめた、そして思うのだ「ああ、いつ見てもお美しい、ずっと眺めていたい」と






  まるで "蜘蛛" に絡めとられた蝶にでもなった気分だ



同じ女性でありながら、こうも夢中にさせられる、その辺の人間には決して感じられない色香に惑わされる
 …この会社に居る多くの人材がそうであった


キャンベル「…貴女、この後空いてるかしら?」

「はい?…あっ、いえ、あ、空いてますが…」









          キャンベル「――――――」ボソボソ



               「~~~~っ!!///」







 - 貴女さえよければ、私の愛する人にならない?その気があるなら今夜、社長室にいらっしゃい -




耳元で愛の言葉を囁く



「あ、あぅ…」



言葉は女性社員の胸に火を灯す、耳たぶから顔全域が真っ赤だ




キャンベル「冗談ではなくてよ?…ふふ、貴女みたいな可愛い子は食べてしまいたいと思うわ」



ミス・キャンベルが舌なめずりをする、唇の端から反対側まで紅い舌の動きを目で追ってしまう…
 胸の動悸が収まらない、火照った身体が時よ、過ぎ去れ、陽よ今この瞬間に沈めと願ってしまう程に熱い
夜の冷えた外気に肌を晒したくて仕方ない、この女性の前で晒したいと強く想わずに居られない



キャンベル「どうかしら?……この世の物とは思えない多幸感を教えてあげるわよ」スッ…ススッ



ゆっくりと腕を女性社員の背に回し、後ろ首を撫でる…獲物を捕食せんとする蜘蛛の動きそのものだ



「わ、わたしでよろしければ…!!!」


キャンベル「ふふっ、良い子ね…そういう子は好きよ」ナデナデ


キャンベル「楽しみにしているわ、今夜をね」


「は、はい!…し、失礼しました…!」ダッ


キャンベル「まぁ、あんなに慌てて走ってしまって…そんなに恥ずかしいのかしらねぇ」




キャンベル「…今夜、私の元に来れば貴女に至福を与えることを約束するわ…」







     キャンベル「我らが【ブラッククロス】の劣兵として生まれ変われる至福を、ね」ジュルッ



…もう、後ろ姿さえ見えなくなった女性社員に、女社長はそう呟いた




キャンベル「…あの子を初め、社員の4割は事実を知らないわね…」スッ



煙管を再び口につけ、椅子に腰を下ろす背凭れに身体の重心を預け室内に誰も居ないことを再度確認して独り言ちる
 "表向き"は新作のブランド物バックに欠陥があったため、出荷前に全品回収という筋書きだ



だが、本当の所はそうじゃあない





[クーロン]の"シーファー商会"なる場所にあるブツを発送する手筈だった…法律に触れるヤバい奴を、だ


偶然にも今回のテロ騒動で全便欠航、立ち入り調査が起きた為、事が発覚する前に社員に急ぎで
 欠陥品のブランド物の衣服や鞄を回収、世間様に自社のお株が下がってしまうようなお恥ずかしい事がばれる前に
引き取りをしました、とでも普通の社員は思っているだろう





 まさかこの会社が国際的な犯罪組織の武器を秘蔵に創り

  組織の支部に送っていると…犯罪の方棒を担がされているなど夢にも思うまい






キャンベル「さて…」カタカタ



煙管を置き、オフィスデスクのPCを立ち上げ、明日のリージョンシップのデータを見る…



キャンベル「まったく…シュウザーも急な注文を寄越すものね…戦闘員の育成がうまく言ってないのかしら」カタカタ



キャンベル「……明日、[クーロン]にあれだけの荷物を積載しても問題なく、その上で最短で到達する船は―――」









――――液晶画面には、白く美しい白鳥のフォルムを模った船が映し出されていた







キャンベル「リージョン・シップ『キグナス号』…ええ、今日のテロ騒動で配達できなかった分はこの船に乗せましょう」





社長室で…人ならざる女社長は魔女のような唇を釣り上げて笑う


―――
――

















            …俺は何をしてるのだろうか














俺には使命がある


国家から、"親"である祖国に忠義を尽くすという大事な責がある






 だというのに、どうしてこうなった…




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―――
――




【双子が旅立ってから2日目 夜19時07分 [クーロン] アニー視点 】





- エミリアも御人好しよねー、潜伏先に基地で知り合った男女3人を連れてきたいか -

- ブルーの奴に『キグナス号』の乗船代を約束させたけど、流石に明日までに用意しろー、とか無理よね -




- しゃーない

  そんときゃアタシのポケットマネーで建て替えときますかね、っと!このお惣菜半額シールじゃん!ラッキー! -





 九龍<クーロン>街にあるスーパーマーケット、そこは一般的な主婦もよく出入りする"普通"の店舗であった
大概、この街の店と呼べるモノは普通じゃない…マンホールの下で本物の拳銃の取引が行われたり
裏通りで政府軍の兵器が横流しで売られたり、白衣を着た怪しい学者風の男が[裏メモリーボード]を売ってたりする


 一見普通の飲食店にしか見えないイタリアンレストランだって金さえ振り込まれれば違法捜査やらなんやらを行う
裏組織があったりするのだから困る



買い物籠を腕にぶら提げ、"次の仕事"があるまで長期休暇の女が1人、仲間の無事を確認できたことからその祝いも兼ねて
ちょっとした酒盛りをしようとつまみを買いに来ていた


 活発な印象を受ける短髪の金髪ショートヘアー、男が見れば釘付けになるだろう裾の短いショートパンツに
ブラジャー一枚の上に緑のジャケットを羽織っただけのいつものラフな恰好




昨晩、ブルーと共に粗蟲の群れを撃退した女性アニーであった



余談だが、蟲に破かれたジャケットは自分で塗って縫合したらしい



アニー(エミリア帰還祝い、うんっ!パーッと飲み明かそうっと!)


緑の買い物籠の中は缶飲料(チューハイ)や酒瓶が数本、あとは缶詰の類や閉店間近の値引きシール付きお惣菜で埋まる


アニー(店が閉まるギリギリだと財布に優しいから良いわよね~、人参に大根、胡瓜、生野菜スティックも悪くない)ヒョイ



 瞬く間に籠の中身は埋まっていく、片手で持つには少し重くなった籠を両手で持ってレジへ運び会計を済ます
郵便局で施設に居る弟にも生活費の仕送りも済ませた、やるべきことは完璧、あとは友人…ライザ辺りを誘って
朝まで酔いつぶれてしまおうという算段だったが



アニー「えっ、ライザ来れないの!?」

受話器から聴こえる声『ごめんなさい、ルーファスと作戦の相談があって』

アニー「! へぇー、ルーファスとねぇ~」ニヤニヤ

受話器から聴こえる声『…作戦の相談だけよ、他意はないわ』


アニー「わかってるわ、ちょっとからかいすぎたわ…それじゃ!頑張ってね!」

ちょっと、アニー!と受話器から聴こえてくる声を半ば無視して通話を切る
『close』と書かれた看板をぶら提げたイタ飯屋に帰って1人寂しく、店内で飲み会か、とアニーは夜空を仰いだ






 - 独りで酒飲みかぁ…エミリアの帰還祝いをライザと祝うつもりだったけど、しゃーない、か… -






彼女は賑やかな雰囲気や盛り上がる事が好きだ


宵が深まれば輝きを増すネオンの煌めきも、この暗黒街の喧騒――住んでいる人々の営み―――も好きなのだ




どうにも湿っぽい空気というのは性格上、嫌いで…寂しがりなのかもしれない



酒は飲めば、気分が高揚してくる

嫌な事も辛いことも一時の思考の揺らぎに任せて投げだせる、だが、親友と隣同士、語り合って飲む酒は何よりも旨いのだ




身内を養う為、命を担保にして出稼ぎを行う人生を選んだ彼女が明日を生きていく上で学んだ事だ


誰かと飲んでふざけ合って、愚痴を聞いたり言い合ったり、それこそが最高の肴なのだと






アニー「他の連中もみーんな、次の作戦に備えて他所のリージョン…船は動かないから当然帰ってこないし、参ったわね」




ガサガサと両手のビニール袋が音を鳴らす、デザートを買おうにもお気に入りの物が売り切れていたから
多少、出費が上がるが一度荷物を置いて近場のコンビニエンスストアで適当に洋菓子でも買って行こう


ぼんやりとそんなことを考えながらアニーはイタ飯屋へと向かっていた





        その矢先である…




リュート「んじゃ!またなブルー!ほら行こうぜスライム!(金塊で)臨時収入も入ったから飯たらふく食わせてやるよ」

スライム「ぶくぶく…(´・ω・`)」シュン


ブルー「やれやれ…そいつを連れてさっさと行ってくれ」スタスタ




アニー「…ブルーに、リュート?何、アイツ等知り合いだったの?」ハテ?


アニー「…」

アニー「!!…ふふ!暇そうな奴みーっつけた!」ニヤリ




酒というのは誰かと飲んでこそ楽しい物である

  特に普段スカした態度の奴が酔いつぶれて醜態を晒せば、それは最高の笑いの種(酒の肴)になる

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                                        , ソ , '´⌒ヽ、
                                 ,//     `ヾヽ

                                 ├,イ       ヾ )
                               ,- `|@|.-、      ノ ノ
                           ,.=~ 人__.ヘ"::|、_,*、   .,ノノ
                        , .<'、/",⌒ヽ、r.、|::::::| ヾ、_,ニ- '

                       〈 :,人__.,,-''"ノ.。ヘヾi::::::ト
                        Y r;;;;;;;;ン,,イ'''r''リヾヽ、|;;)
                        ヽ-==';ノイト.^イ.从i'' 人

                         .ヾ;;;;;イイiヘr´人_--フ;;;)
     .,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.    .,,.          ヾ;;;|-i <ニ イヽニブ;;;i、
   ,,,'""" ̄;|||' ̄''|ll;,.  ,i|l          ,;;;;;イr-.、_,.-'  ./;;;;;;;;i
  ,,il'    ,i||l   ,||l'  ,l|' ,,,,,. .,,,, ..,,,,,,   (;;ヾ'ゝ-'^    ,.イ;;;;;;;;;;;ヽ
  l||,,.    l|||,,,,,,;;'"'  ,l|' ,|l' .,|l .,,i' ,,;"   ヽ;;;||、_~'   .|`i;;;;;;;;;;;;;|
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                     /::::::::/i´「`-、|     \\_,_._ンヽ- 、
                    <::::::::::::/ | └、 |      `ブ <ヽ、'~

                     レノ-'  |`-、、__ ト、、_, -' ´ _,ノヽ~
                          ~` -、、フヽ、__ ,, -'´ ̄ル~'
                            ヘ`~i、 ̄ ̄リ ノヽ ̄~

                            `|;;;;;;|ヽ~-←-ヘ
                             |;;;;;|    ヽ- ┤

                             l::::人    .ヽ  .|
                             ///     ヽ .|
                            ノ´/      .ヽ  |
                           ` ̄        .ト、 .ヽ

                                      ヾ、.A
                                       .ヽノニ'






              今 回 は 此 処 ま で !!





                次回!飯テロ(酒飲み)回!



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ブルー逃げてー!

いやむしろ捕まってしまえブルー!

続きまだー


―――
――



ブルー「しかし…あの男が居なければこうも短期間で金を工面することはできなかったのも事実か」スタスタ



 バチバチ、と消えかけのネオン看板の下で座り込んだ浮浪者の視線が突き刺さる
荒んだ眼差しが注がれているのは彼の片手に引っ提げられた黒いアタッシュケースだった…


[ネルソン]で購入した金塊を無法都市[クーロン]で売り捌いたのだ、当然ながら"鼻の利くハイエナ"達の間ですぐ噂になる

 近場の店で売られていた黒革のケースに眼を惹かれた彼は財布に到底収まらない額のクレジットを収納する為に
即決で買い取り、札束を入れ店を去った



世間知らずの魔術師お坊ちゃんをお金に困った方々が、これまたよろしくない感情の入り乱れた眼差しで見送った










…スライムとリュートが一緒だったため手出しはしなかったが

単独である今の彼はまさしくサバンナの真っ只中を歩く高級和牛肉と同じである、後ろからブスリとやって金を盗るだけだ










ブルー(…チッ、汚らわしい)


ブルー(人をジロジロと、敵意と欲望の籠った目線…本当に汚らしい、俗物共め)






 彼とて殺意に気がつかない訳では無い…襲い掛かって来ようものならその場で焼殺死体に変えてやろうくらいの気がある

さて、どうしてくれようか?そう考えていたら…殺意とも敵意とも違う、…欲望は含まれる声と視線が背後から掛けられた










           アニー「ブルー!!良い所であったわね!」タッタッタ!




ビニール袋引っ提げた金にがめつい女が、良からぬ事を考えながら走って来たのだ…



ここ、九龍街で喧嘩を売るとヤバい奴リストに含まれる裏組織の女が

つい最近も数人の男をぶちのめして刑務所送りになったばかりのヤバい奴が、だ

その姿を確認してある者は舌を打ち、ある者は苦々しい思い出をぶり返してブルーの尾行を止めた
 アニーの知り合いであり、金を持っている人物から金品を毟り取るという行為は…
自分のタマを投げ捨てるようなモンであると、金と命を天秤に掛けて割りに合わないと判断したのだろう

キター

アニーの獲物を横取りとか遠回しですらない自殺という暗黙の了解さすがです





 ブルー「貴様か、アニー…」(すごく嫌そうな顔)


 アニー「何よ、その顔」



 アニー「ってか、その鞄どうしたのよ?随分良いモンじゃん」




本革製のアタッシュケース、それはビジネスに成功した経営者のトレードマークと言っても過言ではない

 安物の鞄ゆえに『間違って知らない誰かの鞄と取り違えましたー』などと言った不測の事態を
避けるという理由もそこにはある、値が張るものであればあるだけ仕事上の大事な書類の入った鞄を見失うリスクも減る


儲けている人間程ブランド品を好むが、何もただ単に成金趣味という訳では無いのだ




…このような土地では逆に悪手かもしれんが





ブルー「あぁ…これか、丁度良い嵩張るからな貴様にさっさと渡してしまうか」

アニー「はぃ?」




ブルー「ほら、約束の金だ、[ディスペア]への潜入に必要な費用、先日の礼代わりの船賃もそろって入ってるぞ」




アニー「…なっ!アンタ、マジで用意したワケぇ!?」ガーン


ブルー「…貴様が要求したんだろうが、要らんなら別に良いんだぞ」イラッ


アニー「あぁ!!嘘嘘、要るから!…っつーか見ろって!アタシ両腕塞がってるじゃん!」つ『ビニール袋』

ブルー「むっ」




アニー「はぁ…参ったなぁ、あわよくばアンタに荷物持ちさせようって思ってたのに」

ブルー「そんなこと考えってたのか貴様」




アニー「でも、そうねー…金払いの良い客はアタシ好きよ、特別に飲み会に付き合わせてあげるわ!」ニィ!



勿論、あたしの奢りで酒も飯も食わせてやる、感謝しなよ、などと言い出したが、むしろそれが本命である

べろんべろんにブルーを酔わせて、ダウンしたところを壮大に笑ってやろうと思っている
気前のいい客だから気に入った、酒と飯を奢ってやると一見善意に見えて相手を後々小馬鹿にするための口実を作る気だ



アニー「ほら、昨日イタ飯屋覚えてるでしょ、そこ行くわよ」ダッ!


ブルー「あっ、おい!」タッタッタ!


アニー「その重たい鞄でいつまでも手を塞ぎたくないんでしょ!なら置いて手も自由になる一石二鳥じゃん!ほら早く!」



―――カラン、カラン





ブルー「ほう?中々悪くない店じゃないか」





『Close』そう書かれた札付きの戸を開錠して、店内へ脚を踏み入れた蒼の術士の感想は好意的なモノだった


 入口から入ってすぐの所にイーゼルに掛けた黒板があり、描いた者は絵心があるのだろう素人目から見ても
才あるデザインのチョークアートが施されていた

 赤茶色の床タイルは仄かに薄暗い照明に当てられて雰囲気が出ていてカウンター越しに見える
石窯や木製ピザピール・パドル等調理器具への拘りも見て取れた


厨房奥では当店自慢のミートソースが仕込まれて、置いてあるのだろう何やら良い匂いがした


 四枚羽の天井扇風機<シーリングファン>によって効率よく室内に行き届いた暖房の温かさは夜は冷え込みの増す九龍街を
歩いてきた来店客への気配りが行き届いていた




アニー「よっと!さぁ~てブルー、どうやって一日で大金稼いだのよ?銀行強盗でもしたの?」クスクス

ブルー「おい、人聞きの悪いことを抜かすな」


ムッ、と眉間に皺を寄せて不機嫌を露わにする男に「冗談だってば、カリカリすんのはカルシウム足りてない証拠よ?」と
ビニール袋をカウンターレジの横に置いてアニーはケラケラと笑う



アニー「でさぁ、悪いんだけど中身だけ確認させてもらって良い?職業柄ね、こーいうのって見とかないいけないのよ」



偽札をつかまされたり、ずっしりと思い鞄をいざ開けてみたら中身は札束じゃなくその辺のスーパーのチラシの山でした
なんてことがザラなのが裏稼業というモノだ


ブルー「ふん、勝手にしろ」ドサッ


アニー「はいはい、じゃあお言葉に甘えて勝手にさせてもらいますよーだ」カチャッ パカッ!




    札束の山『 』




アニー「…」スッ


アニー「…本物みたいね」

ブルー「当たり前だ、前金で払ったんだ…仕事はしてもらうぞ」



アニー「OK、契約成立よ…代金はしっかり頂いたわ」


アニー「どうやって稼いだか知らないけど、実の所助かったわ…急遽明日までにシップの乗船代が欲しかったのよ」

ブルー「なんだと?」


アニー「友達が今色々あって[マンハッタン]に居るの、その子が連れを3人連れて[クーロン]に帰りたがってたのよ」

アニー「なんにしても助かったよ、自分のポケットマネーから立替たとしてかなり今月ピンチになる所だったわ」




その鞄諸共くれてやる、無駄に重い荷物を手放す為にブルーは彼女にそう言い放つ

その言葉にアニーはヒューッっと口笛を1つ、彼の持って来たアタッシュケースをレジ裏に置いて飲み会の準備を始める






アニー「っと、そうだったわね」ハッ!

アニー「あたしのお気に入りのデザート売り切れてたからコンビニ行こうと思ってたんだ、ねぇ!」


ブルー「なんだ」


アニー「お高い鞄を丸ごとくれた釣銭って訳じゃないけどさ、アンタもなんか奢ってやるからついてきなよ」

ブルー「荷物持ちなら御免だが」

アニー「わぁってるっての!」



カランカラン…!



 イタ飯屋の出入口を1組の男女が出てベルが鳴る、鍵を一度施錠し戸締りを確認したうえでアニーを先頭に歩き出した
魔術師はルーン探しの為に一通りこの無法都市を散策したものの地元民と比べれば圧倒的に土地勘が劣る


 徒歩10分もしない内に二人がとある店舗に辿り着く、緑、白、空色、3本カラーリングの横縞が印象的な看板灯が見えた
幟が立ち並ぶ店先には『家庭ごみの持ち込みを固くお断りします』と書かれたゴミ箱が綺麗に並び
その隣には煙草に火をつけながら屯うガラの悪い若者が座り込んでいた






ブルー「」ポカーン…キョロキョロ


アニー「ん?なんか欲しいモノでもあったわけ?」


ブルー「いや…この『"こんびにえんすすとあ"』とやらは…随分と変わった店なのだな、と」キョロキョロ







[マジックキングダム]にはコンビニという物が存在しない

異文化交流…ちょっとしたカルチャーショックを受ける魔術師、慣れた手つきで緑の籠に次々と甘味を放り込む女
なんとも奇妙な組み合わせであった


ブルー(…なるほど、確かにこの街は人口が多いし生活リズムも皆バラバラだ)

ブルー(24時間営業でも利用客はある程度確保できるか、人数も必要最低限で人件費も――)う~む








アニー(…こいつ、何そんなに難しい顔してんの?、そんなにコンビニが珍しい文化なのかしら)ヒョイ、ガサゴソ







ブルー「むっ!!!」




『プッチンプリン』



ブルー(カスタードプティングか…)ジーッ



アニー「何か欲しいモンでもあった――――ぷっ!!」



不愛想な男が棚に置いてある商品を1つマジマジと眺めていた、何かと思えばそれはお子様なら誰もが喜んだことだろう
お皿にひっくり返してポキッ!とやるあの3個入りのプリンだったのだ


アニーは思わず笑いそうになって口を手で押さえた(堪えきれなかったが)





ブルー「…なんだ、貴様悪いか」ギロッ


アニー「…くっ、ぷぷ、…い、いえいえ、なぁ~んにも悪ぅございませんよ?人それぞれですし」プッ ククッ…





 [ドゥヴァン]のカフェで砂糖とミルクたっぷりの珈琲を褒めちぎったストレスを貯め込みやすい優等生は迷わずプリンを
アニーの籠に入れてやった


レジで会計を済まし二人は荷物を置いてきたイタ飯屋前へと再び戻る、アイスクリームを購入した事もあって若干急ぎ足で
帰路についた彼女は鍵を開けて店内に入る…その彼女の後ろを根に持ったてるのか膨れっ面の魔術師が追う



アニー「…」

アニー「」チラッ





ブルー「…人が何を喰おうが勝手だろうが…そもそも、それを言えば…」ブツブツ






アニー「…」




 - なんだよ!姉ちゃんに関係ねーじゃん! -

 - うるせぇよ!好きなモンは好きなんだし仕方ねーじゃん!ふんだっ! -




アニー「そういうとこ、似てんのよね」ボソ

ブルー「は?」


アニー「なんでもないわ」


―――
――





ストトトトトト…!

ストンッ!




アニー「ほいっ!一丁あがり!」つ『生野菜スティック』


人参、大根、胡瓜、セロリ、買ってきた野菜を5㎝ほどに均等に切り分け、透明なグラスカップに入れておく
小皿にそれぞれマヨネーズとケチャップ…オーロラソースを乗せて運んでくる


テーブルの上には半額シールの惣菜たち…焼き鳥だったり、コロッケや胡椒を利かせたイカ下足炒め
麻婆茄子と皿に薄く切り分けたチーズやハム等が並べられた




ブルー「アニー…これは、どうやって飲むんだ?」つ『缶チューハイ』

アニー「はぁ?どうって…普通に開けて飲むんだろ」



ブルー「…俺は生まれてこの方、缶を開けた事が無いんだ」

アニー「はぁ~…ほれ、貸してみな…イイ?ここん所にプルタブってのがついてんでしょ?これに指を引っかけて」プシュ

ブルー「!…こうやって開けるのか」



アニー「アンタ、よくそんなんで世間に出て来れたわね、術よりまず一般教養を学びなよ」ヤレヤレ プシュッ


ブルー「…善処はする」









アニー「それじゃ!乾杯!」

ブルー「ああ、乾杯」










ブルー(……)


<んん~!!うまいっ





        ブルー(…俺は…)


        ブルー(…俺は何をしてるのだろうか)





ブルー(俺には使命がある)

ブルー(国家から、"親"である祖国に忠義を尽くすという大事な責がある)












ブルー(だというのに、どうしてこうなった…)チラッ







アニー「んっ、んっ…んぅ?何よ、アンタ飲まないワケ?」キョトン

















この女には【利用価値】がある



コイツが居なければ刑務所のリージョン[ディスペア]に潜入できない

"解放のルーン"を手にできなければ試練はクリアできない





それに、頭の悪そうな女だが…剣の腕は立つ、戦闘の際いざとなればコイツを囮や盾代わりにして保身に走ることもできる

…だから、"上辺っ面"だけでも取り繕い、友好的な関係を築いておいて損は無いのだろう







こいつの戯言に適当に付き合い、今のような突発的な誘いにも顔を出してご機嫌取りせねばならんのが癪だが…



せめて…[ディスペア]潜入、そしてルーン取得まではこの女の顔色を窺わねばならんな

用済みになったらすぐにでもこんな奴、こっちから捨てて――――





アニー「ちょっとぉ!!聞いてんのかって!」

ブルー「…」

ブルー「聴こえているぞ、叫ぶな」



アニー「缶持ったまんま微動だにしないし、呼んでも返事しないし、そりゃデカイ声だって出すに決まってんじゃん」

ブルー「すまなかった、少し考え事をしていてな」










ブルー(…こんな下らん茶番に付き合う時間が惜しいというのに)

ブルー(俺が呑気にこんなことをしてる間にもルージュは資質を集めているかもしれんというのに…!)






アニー「だったら飲みなよ?酒飲みなんて一人でやってもつまんないから暇そうなアンタ誘ったのよ?」フゥー


アニー「酒は誰かと騒いで飲むのが一番楽しいからね」ゴクゴク




ブルー「…」ゴクッ



 缶に口をつける…祖国には缶飲料はあった、免税店や他所のリージョンからの観光客を狙った店先で扱われる事が多く
基本的に魔法薬を瓶詰で保管していた歴史から塩漬け、酢漬けのピクルスなどは皆、瓶と最先端魔法技術で保存してきた

学院の学生寮で育った彼は缶を見る機会こそあれど口にしたのは初だった





ブルー「美味い…」





自然と口に出していた言葉だった



アニー「でしょー、食わず嫌いせずまずは何でも飲んだり食ったりするもんなのよ、缶持って硬直してたけどさぁ」

アニー「自分トコじゃ珍しい文化だからって偏見を持つのはよくないわ、うん」ゴクゴク





…別に動きを止めていたのはそういう理由じゃなかったのだが

黒い背景に桃と柑橘系のイラストが描かれたチューハイ、香りも果物の独特のフレーバーを活かし初心者でも飲みやすい物
一方対面する女の手には対照的に白に染め上げた缶でまろやかな喉ごしのサワーだった




ブルー「……まぁ、見た目だけで判断するのは誤りがあるのは確かだな、貴様の言う通りだ」ゴクッ



 目の前の人物の第一印象は「ガサツな女」「頭の悪そうな奴」「どうせ男に身を売ってるような奴」だったが
正しく見た目で判断してはいけない例だったと、打ちのめされたばかりである





ブルー「……貴様には兄弟が…『弟』が居た、のだったな」


アニー「ん、そうよ…前に話したじゃんか」ポリポリ



 頬杖を突きながら金髪の女はスティック胡瓜にマヨネーズをつけて食べていた
意外にも話しを切り出した男を少し意外そうに見ていた彼女に彼は続けた









    ブルー「お前にとって、『弟』というのは…自らの身を削ってでも守るべき存在なのか?」







ブルー(…俺は、本当に何を言ってるんだろうな)






 アニー「そんなん当たり前じゃん、『家族』なんだから」ポリポリ







女は男の質問に、さも事も無げに言ってのけた





 アニー「前にも話けど、あたしには妹と弟が居んのよ、んで妹は[ヨークランド]の金持ちの家に養子になったけどさ」

 アニー「悪ガキで小さい弟はあたしが養うしかないのよ」




前にも話された事だ、両親が居ないから長女である彼女が年下二人の面倒を見ていると





 ブルー「お前はその養育費を自分の為に使おうと思わんのか?」

 ブルー「今までつぎ込んできた仕送りの額がどれ程かは知らんが人間1人を食わせて行けるだけの金額だ」

 ブルー「命の危険を冒す職務などせずとも穏やかな土地で平穏に過ごせるだろう」




 ブルー「そいつの事を見捨てたとしてもそれを責める人間が、そのような環境がお前のすぐ傍にあるとでもいうのか」




この無法都市で、明日を生きるためなら隣人から財布を掠め盗るような街で


…そうでなくても365日、常に誰かが貧困の中でその命を消してしまうような土地で
誰に自身の生命を優先することを咎められようか?

ブルーが言ってるのはそういうことだ




アニー「…」ゴクッ



アニー「ま、アンタの言い分も分からなくないよ…そりゃあ誰だって自分で頑張って稼いだお金を自分の為に使いたい」

アニー「そう思うことは間違いじゃあないし、こんな街なら…ましてやあたし等みたいなのは庇護されない」

アニー「自分の身の安全も生活の保証も何もかも全部自分でどうにかするっきゃない」




アニー「ああ、アンタは間違ったことは言ってないよ…けどね、そういうんじゃないんだよ」




ブルー「…なんだというのだ」








アニー「そうだねー、あたしは頭良くないからさ、巧いこと説明できないけど、強いて言うなら『心』ね」


アニー「あたしの『心』がそうしたいから、損得とかそういう話じゃないのさ、…それじゃ納得できない?」







ブルー「……俺には理解できん、そこまでして『弟』を守ろうという思考が」








                弟<ルージュ>を殺す



その【思考】で祖国を出た男には、女の『感情』が今一つ理解できずに居る




アニー「ああああ!!もうっ!あたしは楽しく酒飲みたいの!なに!暗い話してんのよ!」


アニー「やめやめ!湿っぽいのは本当嫌いなんだってば!」ゴクゴクゴク!



ブルー「そんなペースだと酔いが回るぞ」ゴクッ

アニー「うっさい!!…あ、空になった、次の空けよ」ゴソゴソ






コンコン!!



<おーい!!アニー!エミリアー!ライザー!誰か居ないかー!開けてくれぃ
<ぶくぶくぶー!


ブルー「…この声は」




アニー「はいはい、今開けるわよ…」ガチャガチャ



ブルー「お、おい…」









             バーーーン!!





リュート「イエーイ!アニー!久しぶりだなぁ!!さっき、そこの店でおっちゃんが蟹の安売りしてたんだ!」つ『蟹』

スライム「ぶくぶくぶー!(`・ω・´)」つ『白菜、ネギ、しらたき…etc鍋セット』





リュート「いやぁ!色々あって金塊売りまくって臨時収入があってさぁ、景気よくパーッと…んあ?」チラッ

ブルー「…」ゴクゴク



リュート「ブルー!お前こんなとこに居たのかよ!丁度いい!お前も鍋パーティー参加な!!」


スライム「ぶくぶくぶくぶく!(/・ω・)/」ワーイ!ワーイ!





ブルー「貴様、この女と知り合いだったのか…」

ブルー(…あの時、リュートが言ってた知り合いの女ってアニーの事だったのか)




リュート「おう!そうそう…いやぁ~!なんつーか奇遇だよな!」

アニー「そうね、人の縁って不思議よね~」ポリポリ



ブルー「…酔いが回ってきたのやもしれんな、頭が痛くなってきた」




自分は酒には強い筈だったんだがな、とため息交じりにブルーは席を外す、少し夜風に当たって来たいと一声かけて




<リュート、このスライムなに?

<ブクブクー

<面白れぇ奴だろ!話し見ると結構楽しい奴だぞ!



ワイワイ…ガヤガヤ…!



―――
――




【店の外】



ブルー「…ふぅ…ドアの向こうから声が丸聴こえだ」カラン



 氷の入ったミネラルウォーターを口に含む…昼も夜も変わらない明るさが変わらない常灯の摩天楼で
イタ飯屋の壁に背を預け、騒がしい女と男、そしてゲル状生物の声を聴く








ブルー「…やれやれ、まったく喧しいったらありゃしない」ゴクッ

ヌサカーン「ほう?その割には中々にキミは楽しそうにしているがね?」

ブルー「フッ、まさか…そんな事あるわけないだろう…」ゴクッ





















ブルー「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」ブ―――ッ!!!


ヌサカーン「口に含んだ水を勢いよく噴き出すのは上品とは言えないな…」ヤレヤレ





ブルー「貴様ァ…!いつからそこに居た!」


ヌサカーン「うん?あぁ…今来たところだ、此処の店は良い所だ、偶にサングラスの店長が作ったグラタンが恋しくなる」






気がついたら、当たり前のように自分の隣に居た上級妖魔…そう、あの粗蟲共の元へ共に行った妖魔医師ヌサカーンだ


相変わらず白衣を身に纏い、そしてブルーの隣に違和感なくブランデー入りのグラスを持って立っていた





ヌサカーン「キミ、気づいていないのかもしれんがね、彼等の声に耳を傾けていた時何処となく楽しそうに見えていたよ」

ブルー「そうか、そう見えたのならば眼科へ赴くことを奨めるぞ、闇医者」



ヌサカーン「中々にイイ傾向だ、他者との交流、会話は自分の感情に彩をつける」

ヌサカーン「現にキミは【呆れ】や【驚き】時に【怒り】そして……相手の思考が読めない事から【戸惑い】や【疑問】」

ヌサカーン「様々な『感情』を抱き始めているではないか、交流の無い者は次第に心を閉ざしていく」


ヌサカーン「キミの心に巣食い始める病の予防薬になるだろう」ゴクッ



ブルー「突然現れて訳の分からないことを抜かすな」








    ヌサカーン「そうかね…まぁ、良い、今日はキミにしばしのお別れを告げにきたのだよ」


       ブルー「"お別れ"…だと?」






ヌサカーン「うむ、実は…訳あって私はしばらく[クーロン]を去る事になったのだ」

ヌサカーン「勘違いしないでくれたまえ、ただ[ヨークランド]に病気の少女が居ると今日来院した者に言われてな」

ヌサカーン「少し往診をしに行くのだよ」




ブルー「ふん!そんなことをわざわざ俺に言いに来たのか、暇してるようだな藪医者」



ヌサカーン「本当ならキミの旅に同行しようかと思っていたのだがね、キミは中々興味深い人間だからね観察したかった」


ブルー「それを聞いて尚更安心した、さっさと往診に行くがいい、そして戻って来るな」





ヌサカーン「やれやれ冷たいものだ、……結構な長旅になるんだがなぁ」

ヌサカーン「[ヨークランド]で患者を診た後で、もう一人気になる患者が居るから…本当に当分の間戻って来れんのだよ」



ヌサカーン「しばらくの間、私の病院に留守にしている、という主旨の書置きは残しておくが」

ヌサカーン「念のためキミに伝えておこうと思ったのだ、何かあっても私は居ない、とね」スゥゥ…






それだけを言い残し白衣の男は影となって消えた、後には空になったグラスだけがアスファルトに取り残された…




ブルー「…夜風に当たりに来たというのに、余計に気分が悪くなったな」チッ

ブルー「戻るか…」








               蟹すき鍋『  』グツグツ…!





リュート「豪富さんトコかぁ…そういやぁ俺が旅に出る時よりも前に言ってたっけなぁ、施設から女の子引き取ったって」

アニー「ええ…その子ウチの妹よ、生まれつき身体の弱い子だったのだけど」



アニー「それにしてもリュートが引き取り先の人の事知ってるなんてね、本当アンタ顔が広いわね」

リュート「[ヨークランド]は俺の地元だし、まぁ知ってるさぁ~…と!そろそろカセットコンロの火弱めようぜ!」カチッ


スライム「ぶくぶく(・ω・)/『お皿&ポン酢』」








ブルー「今、戻ったぞ」ガチャッ カランカラン…



リュート「おう!丁度いい感じ煮えて来たぞ!」

アニー「ブルーの分の小皿とポン酢もあるからね」スッ


―――
――



リュート「うめぇ!!」ガツガツ!

アニー「あっ!蟹取り過ぎよ!!」

ブルー「元はリュートが持って来たモノだろう」モグモグ




―――――騒がしい空気



『…おい、見ろよ、ブルーだぜ』
『学院の成績トップ、首席は揺るがないってあの…』
『アイツ気に喰わないよな、あのお高くとまった態度…ちょっと勉強できるからって』



リュート「ほらほら、もっと喰えよ!よそってやるから」スッ

ブルー「なっ!?貴様!勝手に人の皿にそんな大量に!」



――――馴れ馴れしい連中


『なんでアイツに勝てないんだよ、俺達だって必死で勉強してんのに』
『あいつ、死なねぇかな…』



アニー「それでさ!その時エミリアってばおかしんだよ!」あははっ!

ブルー「そのエミリアという女がどんな奴かは知らんが聞く限り頭の悪そうな奴なのは分かった」


―――人の気も知らないで絡んでくるこいつ等…













      スライム(素面)「ぶくぶくぶーー!(*´ω`*)」モグモグ しあわせ~♪



      アニー(ほろ酔い)「よーしっ!3番!アニーちゃん!いっきまーす!」

      リュート(酔い)「いいぞ!そん次俺な!4番リュート、歌っちゃうからヨロシクぅ!!」




<あーっははは!!





   ブルー(素面)「…」パクッ モグモグ…ゴクゴクッ










   アニー(ほろ酔い)「ジャグリング!そらそらぁ!!この酒瓶をお手玉のように落とさず回し続けるわよ!!」

    リュート(酔い)「おおおっ!すげぇぇぇ!!!」









――――………





―――…妬みも僻みも無い…純粋に接して来る馬鹿共










          -ヌサカーン『ほう?その割には中々にキミは楽しそうにしているがね?』-



ブルー「…ふ、馬鹿馬鹿しい…そんなことあるものか」ゴクッ


リュート「おおっ!ブルーが笑ったぞぉ!」アハハッ

アニー「マジ!?仏頂面のブルーが!よっしゃ!なんかテンション上がって来たわ!」



ブルー「笑ってなどいない、貴様らいい加減酔いを覚ませ…水置いとくぞ」ハァ…






俺には使命がある


国家から、"親"である祖国に忠義を尽くすという大事な責がある







こんなことをしてる暇なんて無いのに、…くだらない、こんな馬鹿馬鹿しい茶番劇に付き合って…それで―――
















―――――それで、このふざけた空気が、少しだけ悪くないとも思ってる

















            …俺は何をしてるのだろうか














           …本当に何をしてるんだろう、…酔いが回ったな、悪酔いしてるようだ





―――
――

【クーロン:イタ飯屋前】

リュート「うげぇ…飲み過ぎたぁぁ…ぶ、ブルー…歩けねぇ…手伝ってくれぇぃ」

ブルー「マヌケが、一人で這ってでも帰れ」スタスタ







アニー「あたた…頭痛い……なんか予定と違ったような…いたた…」ヨロッ


スライム「ぶくぶく!(;゚ω゚)」ササッ!ピトッ

アニー「あっ、転びそうな所、支えてくれてありがとう…」



スライム「ぶくぶくぶく(;´ω`)」ススッ

リュート「あ、肩(?)貸してくれんの?わりぃ助かる」フラフラ


―――
――

【クーロン:シップ発着場前】


クーン「あーっ!先生!待ってたんだよ!」

ヌサカーン「クックック!済まないね、知り合いに別れを告げて来たところだ」

フェイオン「準備はよろしいですね、ヌサカーン先生」

メイレン「さっ!シップに乗り込みましょう!」



―――
――

【マンハッタン:グラディウス支部】


ルージュ「…」

白薔薇「こんな所で何をなさっているのですか?」


ルージュ「星空を、眺めていたんです………そうしたい気分だったもので」

白薔薇「何か悩み事、ですか?」

ルージュ「まぁ…」



アセルス「あっ!二人共こんなとこに居た!晩ご飯ができたってよ」

エミリア「明日には宇宙船<リージョン・シップ>『キグナス号』で[クーロン]に行けるわ、ご飯を食べて寝た方がいいわ」


アセルス「はいっ!…[クーロン]かぁ、ヌサカーン先生って人になんとしても会わなくちゃ!」グッ

―――
――


【マンハッタン:キャンベル・ビル】

「社長!停泊中の『キグナス号』に例のブツの詰め込み完了しました!警察にも見られていません!」

キャンベル「ウフフ!いい子ね…後は貴女に任せるわ!可愛い子猫ちゃんを待たせてるからね」

「はっ!」



―――
――




アニー「調子に乗り過ぎたわね…」フラッ…



アニー「明日はエミリアを迎えに行くために始発で[マンハッタン]に行って合流してから『キグナス号』に乗るのに」


アニー「……ブルーの奴、ぜんっぜん酔わないし……うぅ、飲み過ぎたわ…んっ?」











        紙袋『  』





アニー(カウンター裏の…あたしがブルーから受け取った鞄の横に、これ…あのコンビニの包装?)ガサッ…パサッ











  -『アニー へ

      此処に酔い止めの薬を置いておく

      飲んで治してさっさと[ディスペア]潜入の用意を進めろ ブルー』





アニー(…あぁ、アイツ夜風に当たりたいって出て行ったわよね…)

アニー(蟹すき鍋がに煮えるまで戻ってこないのは遅いと思ったら)




アニー「……命令口調なのはアレだけど、一応ありがとう、ってとこかしらね」


―――
――



リュート「ブルー…ありがてぇ、ありがてぇ…」

ブルー「酔い止めの薬くれてやったんだ、さっさと帰れ」

リュート「何だかんだ言いつつ、薬買って俺を待っててくれるなんてありがてぇ…流石相棒だぜぇ」グスッ

ブルー「良いから!さっさと帰れ!…まったく、金塊の件はこれでチャラだ」スタスタ






各々の夜は更け、そして…朝はやってくる…双子の旅立ち、三日目

        …運命の交差点<ターニングポイント>――― 紅と蒼の道がほんの僅かに重なり合う『キグナス号』の日が…

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            今 回 は 此 処 ま で !



               __
              ,-‐'´::::,ゝ    _γ:ヽ   ,.ィ
            l::::::,' ̄`⌒`ヾ{:::`:,、⌒/ /
            {::::ノ      {γ´ {_;;ヽ<´  <生命の雨
             ヽL_      |    ヽ::}
                 '-l_.iヽ     ヽ ━  l
                  {;;;} `ー---、ム    }、
                      {;;;;}` ̄I;;;}


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おつ

乙十字乙
アセルスェ…、ヌサカーンはブルーとクーン主人公でしか仲間にできないキャラなんだよな

乙乙
キグナスと言えば赤も……?


赤と言えばブルーとスライムも運命の赤い糸で繋がってるという感じになってるなこれ
ブルーは色が気に食わんと言いそうだけど

キグナス強襲イベント楽しいよね、スポット参戦だけどエミリア以外最後まで仲間にできないアセルス姉ちゃんや他主人公と夢の共演できるし

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               オマケ②【妖魔医師、ヌサカーンの診断書<カルテ>】


 【双子が旅立ってから2日目 夜 9時 54分】


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その日は多くの人間にとって"散々な1日"だったことだろう


 政治の中枢たるリージョンで大規模な爆破テロが起きた、それによって各地のリージョンでシップの運行が停まった
この御時世で宇宙船<リージョン・シップ>が全便欠航となれば流通は当然ストップするのだから堪ったもんじゃない


物販店からはいつもなら棚に陳列している商品が企業や工場からの出荷が来ないという嘆きを体現するようにガラ空きで
 仕事帰り、あるいはこれから出勤予定"だった"スーツ姿のリーマンが会社から居酒屋の暖簾の奥へと姿を消す




誰も彼もが立ち往生、明日まで何処にも行けず帰れずという不測の事態に陥った

もし幸運があるとすれば目的地に丁度到着したところでシップの運行停止に巻き込まれた者等だろう









「お客さん!ワタシ身体よく効くクスリ持ってるネ!今なら安くしておくヨ!」


フェイオン「すまないが他を当たってくれ」










暗黒街[クーロン]…大通りで堂々と"おクスリ"を販売する怪しい男の誘いを突っぱねる弁髪の男は仲間達の元へ急いでいた



フェイオン「いかん、情報収集にかなりの時間を喰ってしまった…メイレンが怒っているだろうなあ」タッタッタ






彼は今日のまだ朝陽が昇り始めて、そう長くない時間までずっと巨大生物[タンザー]の体内に居た男だ



ひょんなことから、どこぞの蒼い術士と弦楽器を背負ったニートのおかげで久しく見る事の叶わなかった日光を拝んだ



 巨大生物の体内から脱出した後、彼は恋人であるチャイナドレスの似合う彼女と滅びゆく故郷を救うべく旅する少年等と




 【 全 て 集 め る と ど ん な 願 い も 叶 う 魔 法 の 指 輪 】 を集める旅に同行した




モンスター族の少年への恩返しと恋人の女性を護る為の同行だ





そんな彼は…今、汗水たらして長らく目にしていなかった人間社会の人混みを掻き分けていた

汗水たらして、と今しがた表現したが何も全速力で走っているから汗をかいたというわけではない




これは恐怖から来る冷汗だ、彼は知っている……自分の恋人は怒ればどんな怪物よりも恐ろしいヒステリックを起こす事を



 男は恋人の女が取った宿が見え始めた所でラストスパートと謂わんばかりに過去最高の脚力で駆け出し
自分達の部屋へ転がり込む様に入り込んだ







    フェイオン「メイレン!遅くなってすまな「こんのぉ大馬鹿ぁぁぁ!!!」ぐぎゃあああああああっ!!」








 メイレン「情報1つ見つけて来るのに何時間かかってんのよォ!!ええ!?」メキメキ


 フェイオン「おぎゃあああああああぁぁぁ腕があああああああぁぁぁ変な方向にぃいいいいいいいいっ!」





 クーン「わぁ~!すっごーい!僕だってあんなふうに腕を曲げられないのに…フェイオンは身体が柔らかいんだね!」






 バンバン!「ギブ!ギブ!降参だ!たすけてぇぇぇ!!」と男の悲痛な叫びが宿の一室に木霊する最中
純真無垢なピュアっ子で獣っ子な緑色の少年が目の前の惨事を見て目を輝かせていた





メイレン「まったく……[ヨークランド]で"指輪"を持ってる大金持ちの豪富…その養子の女の子を治せそうな医者を探す」


メイレン「私達がわざわざ一度[クーロン]までシップに乗って逆戻りしてきたのはその為なのよ?」



クーン「僕たち運が良かったよね!!僕たちが丁度[クーロン]に戻ってきたら、船がぜーんぶ動けないんだもん」



メイレン「…クーンはポジティブで良いわね」ハァ


クーン「???」ニコニコ



メイレン「この暗黒街は大勢の人間が集う、此処を探せばあるいは…と考えたわ」

メイレン「実際、この街に妖魔の医者が居ると小耳に挟んだこともあるしね…」




メイレン「その人の居場所を手分けして探しましょうって所までは良かったわ、ええ…」


メイレン「でもね、…なぁんで探し出して2時間で私達が掴めた情報を8時間近くかけて見つけられてないのよ!!」ギリギリ



フェイオン「うぎゃああああああああああああぁぁぁぁ死ぬぅぅぅぅうううううううう!!!!」ジタバタ



―――
――



メイレン「ぜぇ…ぜぇ…まぁ、良いわ、私は今からクーンと例の医者の所に交渉に行くから…」


メイレン「あなたはシップ発着場で[ヨークランド]行きの始発のチケットを手に入れて来るのね」



フェイオン「ま、待ってくれメイレン……始発のチケットは誰だって喉から手が欲しい筈だ、簡単に手には――」ボロッ




メイレン「 」ギロッ



フェイオン「ひぃぃ!?分かった!なんとかする!なんとかするから!なっ!?」土下座





クーン「わぁ~!こういうのって『かかあてんか』っていうんだよね!」



メイレン「クーン、変な言葉を覚えてきちゃ駄目よ、さぁ行きましょう…フェイオン」

メイレン「場合によってはこの部屋を交渉材料に使う事ね」


フェイオン「へ?」



メイレン「あなたも見たでしょうけど…どこもかしこも事前に宿泊施設は今日のゴタゴタで帰れない旅行客で満室よ」

メイレン「この状況で宿をとれるのは、お金が腐る程あるって奴かあるいは"早いもん勝ち競争"に勝てた人よ」





メイレン「路上で寝てればいつ身ぐるみ剥がれても、…いえ、人身売買にすら持ってかれるかもしれないこの無法都市」


メイレン「宿部屋をあげるからチケットを譲ってくださいと頼み込めば、始発便に乗れるかもしれないでしょう?」




フェイオン「!!…なるほど」



メイレン「うまくやりなさい、…期待してるわよ」ボソ




―――
――


【クーロン裏路地:ヌサカーン病院】



ヌサカーン「…それにしても彼、ブルーと言ったか…中々興味深い身体だったな」カキカキ



白衣を着た長髪の人物、その眼鏡のレンズに映っているのは現在進行形で綴られていく自分の筆跡で埋まっていく診断書だ


ヌサカーン「…彼は中身が半分、いや…あの国家は確かにそういうところがあったな…」

ヌサカーン「そういえば[シュライク]の例の研究所にも裏で資金提供を行っていたのだな、ふむ…そう考えるならば」ピタッ




妖魔医師はインク壺に筆を戻す、上級妖魔であるがゆえに彼は力の流れを探ることに長けていた

彼がこの街の地脈を流れる"保護"の力を捉え、それが弱まっていることも察せられたように…





ヌサカーン「……これは、どうしたことだ?こんなドス黒い力の塊は久しく診ていないな」




妖魔の中でも変わり者、そう評される彼の生きがいは…


『誰も見たことの無い世にも奇妙な病原菌と遭遇したい』

『不治の病と呼ばれる病魔を治してみたい』

『未知との遭遇を愉しみたい』


と言ったものだった



彼はこの世で一番"病気を愛する医者"なのだ





病気を殺す、が…同時に病気を美しい女性か何かのように愛しているのだ、医者が一番病んでる、ヤンデレ





ガチャ!



クーン「あなたが…ええっと、ぬさかーん先生?入口の仕掛けすごいね!ボクすごくビックリしちゃった!」

メイレン「…あの悪趣味な仕掛け…はぁ、いいわ、文句を言いに来たんじゃないし」ゲンナリ






ヌサカーン「……」ジーッ


クーン(ボクの顔何かついてるのかな?)キョトン


ヌサカーン「…」クルッ…スタスタ ジーッ

クーン(あ、ボクを無視してメイレンの方をジーって見始めちゃった、ちょっと悲しい)ショボーン




メイレン「…?」


ヌサカーン「……」ジーッ






   ヌサカーン「…… "君が患者か"?」


  メイレン「違うわよ…私のどこをどう見て患者だと思ったのよ(こいつヤブ医者かもしれないわね)」




ヌサカーン「そうか…それは失礼した(…ふむ、自覚症状なし、か)」





妖魔医師は至って身体は健康そのものと呼べる女性を見た…







いや、厳密に言えばちょっと違う…女性の"薬指についてるモノ"を診た…







クーン「あの!先生はよくわからないけど、すごいお医者さんなんですよね!!」

クーン「えっとね!えっとね![ヨークランド]って所に身体の弱い女の子が居て、その子に変な病気が憑いてるの」

クーン「どんな願いも叶う"指輪"の力でその子は死なないで済んでるけどそれも時間の問題で苦しそうで…」





クーン「お願いだよ、助けてあげて…あの子はちゃんと皺くちゃのおばあちゃんにならなきゃだめなんだよ」




自分の故郷の惑星<リージョン>……寿命で惑星のコアが持たないリージョン、滅びゆく[マーグメル]を少年は思い出す

指輪を全て集めて故郷を救う、だがその為に病気の少女を生き永らえさせている指輪を取り上げるのはまた違う




ちゃんと大人になって、お婆ちゃんになって、そして穏やかに眠らなくちゃ駄目だとクーンは言う
 それに対して医師は眼鏡の位置を指先で少し上げなおして―――





ヌサカーン「往診は基本的にしないことにしている、例外はあるがね」




メイレン「相手は大富豪の娘よ、報酬は思いのまま」


ヌサカーン「ふむ、報酬か…興味深い患者だな」





半分本当で半分嘘だ

報酬で"指輪"を仮にもらえたら、それは興味深い…だが医師は何も指輪の力で願いを叶えたいなどといった理由ではない


この医者は今、"一番興味深い患者"の旅に同行してその病の進行状態を間近で観察したいのだ

その病は"指輪"が深くかかわって来る…実に興味深い





[ヨークランド]に居る患者も確かに興味深いが、むしろそっちはオマケ程度にしか見ていない、大本命は目の前に居る






メイレン「ではヌサカーン先生、私達と共にご同行を―」


ヌサカーン「あぁ、待ちたまえ…少し時間をくれ、この街に昨日知り合ったのだが[マジックキングダム]の術士が居てね」


ヌサカーン「しばしの間、[クーロン]を離れると別れを告げてきたいのだ、構わないかね?」



メイレン「ええ、問題ありませんわ、準備は大事ですものね」


ヌサカーン「では先に宿にでも戻っていると良い…君たちは見たところ他所から来たのだろう?」


メイレン「いえ…シップ発着場で落ち合いましょう」


ヌサカーン「ふむ、分かったではまた後程」






ヌサカーンは二人の背中を見送る、眼鏡のレンズには去っていく少年と患者の背が小さくなっていくのが映る





ヌサカーン「さて、まずは書置きだな…私が留守の間にヒューズの奴がくるかもしれん、っとその前に診断書も書かねば」






妖魔医師の脳裏には『ぬーべー!助けてくれぃ!』などと叫びながらタダで診察してもらおうとする不良刑事の顔が浮かぶ
あれで[IRPO]隊員なのだから不思議だ

そういいつつも何だかんだでタフで面白い奴リストに含まれる彼の為に一応書置きは残しておく

しばらく留守にするぞ、と




ヌサカーン「双子…命、…[シュライク]にある[生命科学研究所]への裏金と技術提供による…」カキカキ



ヌサカーン「大昔に滅んだリージョンの伝承に残る技術…同化、継承、7人の英雄、皇帝… 死によって 力の譲渡」カキカキ



ヌサカーン「同じく死によって、資質の…技術の髄を寄せたコレにより本来ならば得られぬ筈の――…」カキカキ


ヌサカーン「ふむ、こんなものか、…まだ時間がある、さっきの患者の診断書も書いておくか」ペラッ カキカキ







その後、ヌサカーンは"診断書"をいくらか書いてから鞄に一頻りの荷物を纏めて自宅を後にした




なお、此処で詳細を語る必要が無い為、大雑把に書いておくがフェイオンは
 その後、家族8名で狭い客室に雑魚寝するしかなかったらしい大家族と宿部屋の権利を譲る交渉で
見事シップの一室を得てメイレンに褒められ、シップ発着場にやってきたヌサカーン医師共々にシップの客室に入り
始発の時間まで一夜を明かしたらしい


~ オマケ2 完~ 
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フェイオンは悪い人じゃないんです
ただちょっと運が悪くて不器用なだけなんです
がんばれフェイオン

実際フェイオンいいヤツだよな
自分から協力を突っぱねるブルーにも嫌な顔ひとつしないで道案内して、それ以外の主人公6人の仲間になってくれる。

…ん?診断書に書いた内容ってロマサガ2のアレか?






僕が祖国[マジックキングダム]を旅立って今日で3日目になる



国家からの支給品としてもらった資金、[リージョン移動]媒介用の宝石、医療品を入れた[バックパック]





そして…今、僕のこれまでの資質集めの旅を書いている小さな手帳














 誰に書けと言われた訳じゃない、ただ僕が自主的に書きたいから書いているんだ

 いつまで続くか分からない旅路だけど、その終着点が見え始めて、その時、この手帳を僕が見返して


 「あっ、あの時はこんなことがあったんだなぁ~懐かしいな」と思い出を振り返って笑う事ができるかもしれないから












           …あるいは―――













           ――…あるいは、もしかしたら…ううん、やめておく、縁起でもないからね!




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―――
――



【双子が旅立ってから…3日目、朝7時20分】




ルージュ「」パシャッ!バシャバシャ


ルージュ「…あ、また寝ぐせが…髪長いのも問題だよなぁ」つ『ブラシ』




 エミリアが所属する裏組織の支部でお世話になり、そして陽が昇り始め
人々の生活音が目覚ましのアラーム代わりに鳴り始める頃、紅き術士は洗面台の鏡に映る自分と睨めっこをしていた



瞼裏に残った眠気を洗顔で共に洗い落とす、サッパリとした気分で仲間達が待つフロアへと降りていくと



エミリア「あら、おはよう…ってあなたアホ毛みたいに寝ぐせがピンっとしてるわよ」クスクス


ルージュ「あはは…一応濡らしたんだけどなー」ポリポリ



エミリア「それと…はい、これっ!」っ『乗船チケット:キグナス号』&『キグナス号パンフレット』


ルージュ「ありがとうございます…へー、白鳥の形をしたシップかぁ」ペラ


エミリア「ええ…サービスも充実してる、とてもいい船なのよ」




いい船だ、目の前の金髪美女はそう告げるのだ、一瞬だけ哀しそうな顔をしたのを彼は見逃さなかった


 エミリアが裏組織に入った経緯は…婚約者である男声を殺害され、その濡れ衣で刑務所[ディスペア]に送られたこと
そして刑務所からの脱獄にアニー、ライザという2名の女性の助力を得て成功

後に婚約者の仇"ジョーカー"という仮面の男をこの手で討つべく、アニー等が所属する組織に加入したという






…キグナス号、この船には事件が起きる前に、エミリアが婚約者のレンという男性と共に乗っていたそうだ




同僚の女性二人にもそのことは話していないらしく、ある意味辛い思いをさせる船旅になってしまうのだろう

亡くなった彼氏との思い出の船に乗船するのだから…





エミリア「そ・れ・よ・り!!フライトまでまだ時間があるわ!街に出て何か朝食を取るなり旅支度をするべきよ!」




溌剌とした持ち前の性格で彼女は術士の背を叩いて、そう促す


もしかしたら強引に話題を変えたかっただけかもしれない…それを彼が計り知ることはできないが



最先端科学のリージョンを自負するだけはあり、人々の従来は目を目を見張るものであった
 シップが運行を再開した[マンハッタン]のモール街を歩く経営者の靴音、重たい荷物を運ぶロボットの機械音
田舎から上京してきた所謂"おのぼりさん"という人なのだろう、恰好からして[京]から来た人なのだろうか



ルージュ「…護身術ですか」


エミリア「ええ、ルージュは術士なのはわかるわ…でもね、いざという時に術力が切れてしまったら、その時どうするの」



ルージュ「それは…」

アセルス「エミリアさんは銃が無くても体術が使えるんですよね?」



エミリア「ええ、ライザ…ああ、私の同僚の女性なんだけどね、彼女に色々と技を教えてもらったのよ」



「…変な覆面つけられたけど」と何か遠い目をして明後日の方角を向き始めたエミリアを尻目にルージュは考えた
もしも肝心な時に術力が切れてしまったら…

魔術師が力を使い果たして術を使えない…それは銃弾が切れ補充すらもできないピストルと同じだ

その時点で戦いに置いて"敗け"が確定してしまう



ルージュ「そうか、…ならば僕も自分だけの武器を手にするべきなのか」

ルージュ「…よし、決めた!」



ルージュ「エミリアさん、銃を手に入れられるお店ってありませんか!」


エミリア「なんであの時"仮面舞踏会"と"仮面武闘会"を間違えたのかしらね…ハァ…えっ?何ごめんよく聞いてなかったわ」


ルージュ「銃ですよ、銃!銃なら剣や体術と違ってあまり身体を鍛えていない僕でも望みがあるかもしれないと…!」


エミリア「う~ん、銃ね…実際使った事無い人は分からないと思うけど」

エミリア「あれって発砲の時、反動で肩とか結構持ってかれるのよ?」

エミリア「私も組織に入って間もない頃、射撃訓練で腕がパンパンになるほどやったし…」

エミリア「…なんにしてもこのリージョンじゃ難しいわ、[クーロン]なら顔の利く店もあるし」う~ん


エミリア「低反動で負担の少ないのあるか聞いてみましょう?」

ルージュ「本当ですか!?ありがとうございます!!」




アセルス「ルージュってばはしゃぎ過ぎだよ、子供じゃないんだからさ」クスッ

アセルス「ね!白薔薇もそう思わない――――」クルッ




『現在パーティーメンバー』

ルージュ
エミリア
アセルス
白薔薇 ←(迷子)


アセルス「……」


アセルス「し、しろばらあああぁぁぁぁぁ!!!!」ガーン

―――
――







  わらわら…

             がやがや…

         ざわざわ…

                                 わいわい…!


















白薔薇「」ポツーン




白薔薇(ど、どうしましょう…また皆さんとはぐれてしまいましたわ…)オロオロ











            『 待 て や ァ ァ ァァ!! ゴ ル ァ ァァ!!!』



            『お、俺がなにしたってんだよォ!!!!』







白薔薇「! この声は…確かヒューズさん?…まぁ!なんという幸運でしょうか!!」ダッ!









迷子の迷子の白薔薇姫さんは、知り合いも何もいない大都会のど真ん中で独り

しかし、これは僥倖か…?昨日お近づきになった不良刑事の怒鳴り声が聞こえて来たではないか?


困り果てた彼女は知り合いの声と、必死な年若い男性の声がする方へ駆けて行った









   ヒューズ「こんの餓鬼ァ!!人突き飛ばしといて逃げるたぁどいう了見だァァァ!!」カチャ! ダダダッ








   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「ひぃぃぃーーー!そりゃ俺がわりぃけどよぉぉ!」


   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「知らないおっさんが銃構えて走ってきたら逃げるだろうがぁ!!」









  ヒューズ「 誰 が お っ さ ん だァ!!俺ぁ 2 7 だあああぁぁぁぁ!!」バキューン!!



  サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「うわぁああああああああ!?!?おっさんじゃねーか!!」ヒョイッ










 サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「くっそぉ…!なんなんだよぉ一体!?」ぜぇぜぇ


 サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「俺はキグナス号の積み荷の事を知りたいだけだってのに!!」



  ヒューズ「…あ"?キグナスの積み荷だぁ?」ピタッ









   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「はぁ…ッ!はぁ…?なんだあのおっさん動きが止まった?」

   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「とにかく逃げねぇと!この曲がり角を曲がればっ!!」バッ!













           白薔薇「えっ」バッ!


   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「なっ!?―――あ、危ない!!ぶつかるッ!」



なんてベタベタな

レッドキター

ルージュとレッドなら衝突せずに済むな

遂にレッド登場かwktk

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  父さん、母さん、藍子――――――












            ――――――俺は、俺は…絶対にブラッククロスを許さねぇ!必ず仇をとってみせる!!














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【  双子が旅立つ  "数日前"  朝9時27分 】


『レッドの回想:[シュライク]の高速道路』









 都市型リージョン[シュライク]…経済特区として知られ、自然環境も整った緑溢れる街
ロボット産業を始め、生命の神秘を日夜追究する研究所も存在し独特な食文化や歴史もある平和な土地であった






 四輪駆動のエンジン音を響かせながら一台の自動車が高速道路上を走行する、乗っているのは二人組の男性
運転席でハンドルを握る男はまだ年若い19歳の子供、その横には壮年の男性―――子供の父親が乗っていた


ありふれた光景だったとも、この街じゃさして珍しくもない

 親子で自家用車に乗ってドライブなんて何の変哲もない普通の事だった、だから神妙な顔つきの父親を横目で見る
若者もこの後に起きる悲劇など予想だにしなかった





       バイオメカニクスの権威、  小此木<オコノギ> 博士





助手席に座る父親は誰もが知る著名人だ

彼はその腕に茶封筒を抱き抱えるように持ち重々しくその口を開いた




小此木博士「これは…Dr.クラインが悪の秘密結社ブラッククロスの幹部と結託している証拠だ」


小此木博士「この封筒を[IRPO]本部に持って行けば彼の悪事を阻止できる」







小此木烈人…愛称でレッドといつも呼ばれていた少年は訝し気に父親に尋ねた




レッド「父さん…なぜそこまでしてそこまでしてDr.クラインに拘るんだい」


小此木博士「彼と私は共に学んだ仲だ、だが彼は研究の為ならば手段を択ばなくなっていった」


小此木博士「私は…それを知りながら止めることができなかった、私には学会から疎外されていく彼を救えなかった」





小此木博士「私は彼にこれ以上悪事を重ねて欲しくない、あんなふうになってしまっても、彼は私の友だ…」







自らの知的好奇心の為、飽くなき探求心の為、―――道を踏み外し外道の道に堕ちても

それでも掛け替えのない友だから、博士は自分の気持ちを打ち明けた














               ヒュッ!ゴスッッッッッ





レッド「なァッ!?」ギュルルルゥ





哀しみ、憐れみ…そのどちらともつかない表情<カオ>の父を横目で見やった僅かな瞬間だった


突如として真上からボンネットに"鋼鉄製の何か"――今思えば、鎧武者の甲冑のようにも見えた――それが飛びついてきた



ずっしりと重みのある金属の塊が飛来し、乗用車は嫌な軋音をあげてバランスを崩した
真冬の凍り付いた路面を夏用タイヤで走ったような嫌な感覚、ブレーキペダルを踏み、ハンドルを正面に戻そうともした





だが、その金属製の人型は腕を振り上げ、車体に拳を叩き込み配線をブチブチと引き千切って操縦不能にして飛び去った






親子の乗る乗用車は長いカーブで蛇行し、最後にはカードレールを突き破って崖下に真っ逆さま

少年が最後に見たのは金属製のボディーと、その脇に抱えられた父の姿だった







     キイイイイイィィィィ   ガシャァン



―――
――





レッド「…ぅ、…ぐ」ムク


どれだけの時間意識が沈んでいたのだろうか、彼が眼を覚ました時視界に飛び込んできたのは木漏れ日の射す緑の屋根

身体を動かしてみる、奇跡的に目立った外傷は無い、上体を起こせばフロントガラスの破片がパラパラと頭から落ち首を
動かせば拉げた自家用車が黒煙をあげていた…本当によく無事だったものだ




レッド「いってぇ…」



レッド(くそっ…何が起きたってんだ、車運転してたら時代劇の鎧武者みてーなのが降って来て)




レッド「はっ!?父さん!…父さん!!!!」





レッド「くそぉっ!やられた!!ブラッククロスの奴らめ…」ダンッ



拳を大地に叩きつけ、歯軋りを1つ…あの鎧武者は、恐らくブラッククロスの手の者に違いない

証拠品をパトロール隊員に渡す算段を何処で知ったか知らないが連中はそうなる前に彼等親子を亡き者にしようとしたのだ





レッド「…!」ゾワ






そこまで考えて彼は背に薄ら寒いモノを感じ取った



犯罪組織は証拠隠滅の為に自分達親子を襲った…そして父の身柄拘束、ならば…









――――ならば、自分、父と来て"次は何を狙う"







レッド「…か、母さん、藍子…!!」ワナワナ






ブラッククロスの次の狙いは、恐らく小此木博士の妻と娘…即ちレッドの母と妹だ



レッド「ち、ちっくしょおおおおおおぉおぉぉ!!!」ダッ!



その場から彼は走り出した、ペース配分も何もあったもんじゃない、喉が痛くなる程の全力疾走

茂みを掻き分け、郊外にある一軒家へ、家族が居るはずの自宅へと





レッド「ハァハァ…!」



[シュライク]郊外の美しい森林、その中に佇む豪邸…まだ自分が幼かった頃はすぐ外で木登りや蝶々を追いかけたあの道





レッド「…ハァ、うぐ!」ドテッ ズサーッ




まだ赤子だった妹を抱き微笑を浮かべる優しい母、休日には自分を肩車して森の中を散策した父との思い出





レッド「……こんなとこで転んでる場合じゃねぇんだよ」ググッ





学者である父の所へ都心部から自転車で本の配達に来る憧れのアセルス姉ちゃん、よくヒーローごっこに付き合ってくれた










何もかもがレッドの脳内で鮮やかに輝いていた、在りし日の思い出が




立ち上がり森林の悪路を走る、何度も転び、泥にまみれ、傷を作っても止まらずに…



寿樹の香り…花の匂い、













焦げ臭い匂い、何かが燃える音





自宅に近づけば近づくほどに【当たって欲しくない予測】が現実になっていく




乗用車の襲撃から崖下への転落、眼が醒めた時はまだ木漏れ日の射す時刻で…彼が自宅へと戻った時は既に夕刻であった




              オレンジの空、茜色の雲…そして

                            空の色と同じように燃え上がる実家が…


【  双子が旅立つ  "数日前"  夕方16時47分 】




  【炎上する小此木邸 前】






パチパチ…メラメラ





現実は…残酷だ、さっきまで彼の脳裏には家族との温かな思い出が美しい鮮やかな景色があった


だが、目の前の鮮やかな"赤"はそれを否定する


頬に飛んできた火粉が当たる、熱い、ああ、熱いとも…痛いくらい熱い


これが崖下に転落し未だ昏睡状態の自分が見ている夢、幻ではなく無情な現実なのだと嫌でも彼に悟らせる痛みだ

















  レッド「う、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――ッ!!!」










それを目の当たりにして彼は折れてしまった、膝から崩れ落ち、大粒の涙を流した



屋敷は全焼、あれではもう母も妹の藍子も……


泣くしかなかった、ただただ哭くしかなかった






しかし、世界はどうやら彼に悲しみ途方に暮れる時すらも与えてくれぬようだ…燃え盛る炎の篝を背に彼の元へ影が伸びる


項垂れていたレッド少年の頭上から声が浴びせられた





              「キサマ、小此木博士の息子だな、死ね 母と妹の後を追わせてやる」






レッドはゆっくりと顔を上げた、赤々と燃える炎を背に揺れ動く人影がこちらに歩いてくる
眼を擦り、涙を振り払い暈けて見えた輪郭はしっかりとその姿を現した…


 思わず声を漏らし掛けた、何せ自分の目の前には自分よりも一回りも身の丈がある大男が立っていて
その男は両腕が義手だったのだから


義手…それも"普通の"ではない、事故で腕を切断し生活が儘ならない人間が手術で義手や義足をつけること自体は
なんら普通の事と呼べたが、目の前の男のソレは明らかに日常生活が目的で造られたソレとは異なっていた






人間にあるべき腕が無く、肩から先は無機質な金属…手首の先は鉤爪で、刃先には血糊が付着していた



自分の数歩前に男が来たことで漸く焦げ臭さと共に生臭い血の匂いが鼻孔に入り込んだ…
 よく見れば男の口元にも血液が付いていた、ギラついた眼差しでレッドを見下ろし、口元の血をジャムでも舐めるように
ペロリと舐めていた異様な人物



その両隣には護衛であろうか、顔すらも覆いつくす全身青タイツの人物が二名
 青の生地に黒い帯が交差するように腹部、そして頭部についているのがなんとも奇妙な出で立ちだ










 いや、この際そんなことはどうでもいい、重要なのはそこではなく――――










       レッド「…てめぇ、今…なんっつった」








ゆっくりとレッドは立ち上がった、青筋を立てて、未だかつてない程の怒りを、腸が煮えくり返る程の憎しみを声にした






  ――――死ね 母と妹の後を追わせてやる



目の前の人物は間違いなくそう言った、それが意味する事はつまり



   「フン、なんだ落下の衝撃で耳がイカレたのか、天国の母と妹の元へ送ってやると言っているんだ」






プツン、頭の中で何かが弾け飛んだ音がした

全身の血流が一瞬だけ真逆になったかのようだ、冷静さも思考も要らない、ただ「コイツをぶちのめす」それだけがあった





レッド「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァぁぁぁぁァ!!!!」




やんちゃ坊主でよく喧嘩もしていた、著名人の父を護りたいと空手教室や銃の訓練もまともな学び舎で習った事がある






そんな彼の怒りの一撃は
















               ドゴッシャアアアアアアァァァッッッァァァアアア――――ッ!!!










                  「今、何かしたのか?」ニィ


                    レッド「うっ!?」















怒りの一撃は…腹部に放った渾身の蹴りは、あまりにも無力だった




                   「死ね」ザシュッ



小五月蠅い便所蠅を叩き落とすように軽く振るった左腕、5本指の鉤爪は自分の力が一切通用せず唖然とする
レッドの肉を一振りでズタズタに裂いた



ずしゅり、身体が痛い、あまりにも呆気ない




レッド(…俺、死んじゃうのかよ)





ドサッ…




横たわった彼が真っ先に思ったのはそれだ、生温かい…自分の血ってこんな感じなんだな、血は温かくて抜け出ていく度に
身体が氷漬けになるみたいに冷たくなってく




            「へっ、口先だけの餓鬼が…」レロォ…



鉤爪の男は刃先に付着した血を舐め取り、踵を翻す…この傷じゃ助かるまいと判断したのだろう






レッド(うそだろ、俺まだ死にたくねぇよ…まだ俺は…俺は…)









レッド(おれ、は…みんなの、父さん、母さん、藍子… あいつ、まだカタキ…)













ズリッ…グッ、グググッ



    「…あぁ?」ピタッ


    「……ほー、まだ立ち上がるのか、まるで生まれたての子鹿だな」クルッ









      レッド「ハァ…ぜぇ、み んな   カタ キ…てめぇ、だけは…っっ」プルプル




     「健気だなぁオイ、泣かせるじゃあねぇか、その敬意に表して確実に殺してやる」


鉤爪の男は両腕を組むような姿勢を取る、そして肩を竦めると―――



  ガシャッ、ガコンッ…!




レッド「な、んだと…!!」




「へっ、面白れぇもんみせてやるよ!ゆけぃ!![クロービット]」



男の義手が外れ、そしてその両腕は――――ッッ!!




クロービット『』ヒュンッ ヒュンッ

クロービット『』ヒュンッ ヒュンッ




レッド(義手が飛んでやがるッ!―――俺の方に回転しながらマズイッ)




鉤爪の男の両肩、腕が外れた部位は機械で出来ていて…大男は所謂サイボーグという奴だった






  悪の秘密結社ブラッククロス、狂気の科学者クラインが手を貸す前から人攫いを積極的に行い

  攫った人間を改造手術で怪人に改造する……まるで日曜日の朝に特撮ヒーロームービーでやってるようなふざけた話だ



  だが、その狂った内容を現実<リアル>で、三次元でやってるから警察も血眼になって探す犯罪組織なのだ





 父から聴かされた時は最初あまりにも馬鹿馬鹿しい話だと思い冗句か何かだと思ったが…
機械男をこうして見せられては信じざるを得ない





 「な?面白れぇだろ、俺様の腕はこの脳髄の遠隔誘導操作システムで動いてるんだ…あの世で家族に自慢しな」



クロービット『』グルグルッ ギュゥウウウ――z__ン!  ドブッジャアアアアアア!!

クロービット『』グルグルッ ギュゥウウウ――z__ン!  ドブッジャアアアアアア!!



レッド「ぐっぁああああああああああああああああぁぁぁ……」パタッ



採掘ドリルよろしく螺旋を描きながら飛んできたソレは無慈悲にも彼の胃腸、肺に大穴を開け、男の元へ戻っていく


断末魔、そして―――家族の仇をとることすら叶わず朽ちていく自分の非力さに涙しながら彼は地へと伏した…


















              正義のヒーロー「シャイニングキィィィィイイイク!!!!」シュピーン!ゴシャッ!!!






                  「おごぁァ!?!?!?!?」












レッド(…ぁ、? なん だ  だれか  いるの か  もう みみ も まともに きこえな )





              正義のヒーロー「くっ、遅かったか!シュウザー!!私が相手だ!」




              シュウザー「うぎ・・ぎぎ、キサマァ…」ギロッ






その時、何処からかともなく一人の男が現れた全身鎧スーツを身に纏う男は光り輝く蹴脚[シャイニングキック]を放った
鉤爪のサイボーグ…[シュウザー]は脊髄から脳に痛みという電信信号を伝わらせた人物を恨みがましく睨みつけた




   シュウザー「きえええええええええぇぇぃぃいい!」ヒュッ シュバッ!


   正義のヒーロー「遅いっ![ブライトナックル]!!」


全身鎧スーツの闖入者目掛けて貫手、からの袈裟切りを繰り出すもそれを見越した動きで闖入者は紙一重に躱す
 そして光り輝く拳を勢いよく踏み込んできたシュウザーの下顎目掛けて打ち込む

敵の上半身はこちらへの踏み込みで、自身の拳は一回りも大きい巨体の下顎へ、お互いの体格差と動きを利用した拳は
下顎をぶち抜く、敵の方から正面衝突しにきたようなものである




  シュウザー「か"っ"…ぐ、ぶ」ツー――ッ、ポタッ


  シュウザー「俺様の顔に、よくも…クソ覚えていろ!!」バッ!ギュルルルル



唇の端から血を垂れ流したサイボーグは片脚を軸に独楽<コマ>のような大回転、砂埃を舞わせそれを煙幕代わりにし
護衛を連れて去って行った




 正義のヒーロー「取り逃がしたか…、いやそんなことよりも…!」バッ



 正義のヒーロー「おい!君しっかりするんだ!おい…しっかりしろ!!」




レッド(瀕死)「 」




 正義のヒーロー「いかん、このままでは助からない……ならば」カッ!!!



レッド(瀕死)『  』パァァァァ…!


レッド(?)『』ガシィィン!!





 正義のヒーロー「おい、しっかりしろ!"アルカイザー"」





レッド(?)(ある、かいざー?)





薄れゆく意識の中、レッドは暗闇に差し込む光を見た、あの落下事故で目覚めて最初に木漏れ日を見た様に






そして違和感に気がつく






レッド(?)「…うん?」ガシャッ

レッド(?)「アンタ…なんだそのふざけた格好は…俺にもこんなもの着せてふざけてるのか!」ガシャガシャ





 違和感、それは…目覚めてすぐ目の前にいる全身よろい鎧スーツという
まるで特撮物に出てくるヒーローのようなコスプレをした男と全く同じような衣装を自分も着ているということだ


つま先から肩まで全身に頑丈なアーマー、頭部はバイザー付きでユニコーンの角が生えたようなヘルメット






 正義のヒーロー「混乱する気持ちは分かるが、…いいかよく聞け、君の命を救うにはこれしか方法がなかった」


 正義のヒーロー「本来は君にその資格があるか調査し、宇宙<ソラ>の彼方にある[サントアリオ]のヒーロー協会に行き」


 正義のヒーロー「審査が通り次第、力を分け与えヒーローにするのが正式な手順だ、だが細かく調べる時間が無かった」




にわかに信じられないような話だった、目の前のコスプレ男は宇宙の彼方にあるヒーローのリージョンからやってきた

 フィクションでは無い、正真正銘本物の正義のヒーローで、悪の組織ブラッククロスと戦っていた最中で
瀕死のレッドとこうして出会い、彼にヒーローに変身する力を授けたのだという


この鎧スーツ男…名をアルカールというらしいが







レッド改めアルカイザー「ま、待ってくれ話を整理させてくれ……すると俺は本当にヒーローになっちまったのか?」



アルカール「そうだ、君は今日から正義の使者『アルカイザー』だ」




アルカール「ヒーローになってしまったからには"ヒーローの掟"に従わねばならない!」


アルカール「【ひとつ、ヒーローにふさわしくないと判断されれば君は消去される】」

アルカール「【ふたつ、一般人に正体を知られた場合は記憶を全て消される】」





悪の組織に、特撮番組に登場する変身ヒーローのお約束みたいな"掟"…いよいよ以って現実かどうか頭が痛くなってきた


頭痛がする、痛いのならこれは残念ながら現実なのだろう…信じがたいが




…信じがたいが消えかけていた命の灯を救われたのもまた事実、そして






アルカイザー「…なぁ、ヒーローは強いのか?俺を強くしてくれたのか?」




あの時、朦朧とする意識の中、光り輝く脚で自分の技が通用しなかった家族の仇を"ヒーロー"は確かに圧倒していた



アルカール「…君が今何を考えているのか大体予想はつく、ヒーローの力は『正義の為』に使わなくてはならん」







        アルカイザー「ブラッククロスの奴らをこの力でぶちのめすッ!!!」ギリィッ!!


   アルカール「復讐はいかん!!正義の戦い以外に力を使えば君は消されてしまうのだぞ!」







   アルカイザー「はっ!どのみち俺は死んでたんだろう、ブラッククロスは…ブラッククロスだけは絶対許さねぇ!」






―――
――



その日から、小此木烈人…レッドは父親の親友だったらしいホークという人物の誘いで

[キグナス号]という船の機関士見習いとして住み込みで働き各地のリージョンを転々とする日々を過ごした








あの日の事は一日たりとも忘れない、家族を殺され、復讐を誓ったあの時の気持ちを…!





ある時は巨大カジノのリージョン[バカラ]でシュウザーを見たという情報が入り
 そこでブラッククロスの戦闘員と怪人を倒し、またある時は[シュライク]に戻り女児誘拐事件を起こした戦闘員たちを
ヒーローに変身して次々と打ち倒していった


…その時は誘拐された女児の証言や、都市型リージョンということもあり大々的に新聞にも載ったが

変身した姿を見られなくて良かった…








そして、時は現在に戻る




[マンハッタン]の爆破テロでシップの運行が一日遅れたが彼は[キグナス号]と共にやってきた

そして…ひょんなことから船内に大量の密輸武器を見つけてしまった!!何処かで戦争でもやるというのか
こんな物騒なブツを一体どこの誰が持ち込んだのだッ!


家族の仇への復讐心は忘れない、だがそれとは別に元から彼は正義感の強い男だった


だから今回の密輸武器の真相を突き止めるべく、[キャンベル・ビル]に向かう矢先で妙な不良刑事に追い回された、と


そして―――


















           白薔薇「きゃ、きゃああああ!!!!」


        レッド「う、うわぁぁぁぁぁ…あ、ぶつかる訳にぁ行くかぁぁぁぁ!!!」キキィ―ッ!!



───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


                    今回は此処まで!!!



『BGM:サガフロより…戦え!アルカイザー!』

https://www.youtube.com/watch?v=ZqhEamURFyM



  液晶画面の前に居るちみっこの諸君ッッ!!今日はみんなのヒーロー、アルカイザーについて解説するッ!


 説明しようッッッ!!アルカイザーとは!!正義のヒーローが住むリージョン[サントアリオ](原作中名前しか登場しない)からやって来た
正義のヒーロー、アルカール男爵から力を授かった小此木烈人<オコノギ レット>少年が変身した姿であるッ!





彼は一部のイベント戦闘を除き全ての戦闘で『変身』コマンドが使用可能なのだ

【人間<ヒューマン>】【モンスター】【妖魔】【メカ】その4種族のどれにも属さない【ヒーロー】という特殊な種族であり
専用技ヒーロー技という特殊な技術を閃くぞ!



レッドは変身に1ターン消費してしまうが、変身した場合はHPが全回復し


  『 最 大 HP が 2 5 0 も 上 昇 ! 最 大 VIT 7 5 更 に 他 の ス テ 値 が 全 25 上昇 』

  『 気絶(即死)、石化 、睡眠 、麻痺 、毒 、精神(魅了や混乱)といった全状態異常が効かなくなるのである』




ただし、ヒーローに変身した場合戦闘終了時にステ値が上昇しないので基本は生身で殴り合いをした方が良い

噂によると変身時に自動的に装備される[レイブレード]等のヒーロー装備によってステ補正が付くから成長しないシステムだとか…
サガフロは基本的に装備すると大幅に能力値が上がる武具を装備すると成長の妨げになる

アセルス編で調子ぶっこいて[幻魔]頼りにしてるとアセルスが修行不足になりやすいとか…

結論:ヒーローたるもの日々の鍛錬を疎かにしてはならないッ!


なお、変身シーンを一般人(仲間キャラ)に見られる訳にはいかない為、味方がレッドの変身を目撃できない状態でない限り変身はできない

※ヒーロー協会は『見られさえしなければOK』のスタンスらしく、仲間が麻痺、暗闇、睡眠、石化、戦闘不能、混乱など
 仲間が全員レッドの変身を認識できない状態異常なら可能
 ちなみに、人間、妖魔、モンスターは駄目だが、メカには見られても良いらしい、命令を固く守るロボットは人に言いふらさないし、無機物だからである
───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三

                      }  ヽ    |∨/ //    ____
                      }   `、  ./ /∨// , ・'"    `、
                      ヽ  ,r'´/~ヽ|//|///        |

                       ヾ/|‐/_,/ ||//|<_ ..-‐=、    `ヽ、
                  _........-―‐i / /  |.|~`/,r―-)    }}――‐-=}、_
                   ̄ ̄ ̄ ̄|ソ ./ .//|_/ }_/、   /li     //  ヽ、
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                 ,、o     {`'~>‐'´ `ヽ-.、   ヽ〈、 ̄~ ,'.l´}`lz、  |
             _,..-''"`}l     .人 |~ヽ   `、/ヽ、  | .|    ヽヽヽヽヽ./
            _}}__  }ヾ_  / >-' .`、   .`、 ヽ__ノノ}    <ヽ```ヽ/
          /  }}  `ヽ、~} / .,/ ./    `、   }    <ー'、     ̄ ̄ヽ
      ,xー=x、_..-、,r}ヾ、  ``}}ー'|,-}___  }ー--/    .∧_|        `、
     /   //  `==ヾ、   }}    |`'´`ヽ_)'<三彡}     .| .|    、     .`、
   ./    //   〉=/ r-,'~)、__..‐'‐、 /~/_`ヽ__)ヽ、,..'|" ノヽ  .`、     `、
  ./    //_,.-||// ,' ,' / |~})   >'-/__  ̄)ー-、 ) `-{´ .`、  .`、     `、
 / ,.-'´ ̄ ̄    // ) `ー'-'-'/=ー-='―' .ノ_  ̄ (~`、   ./.}   `、  `、     `、
/ /          ̄ </~ヾ、/| ̄フチフく´   `ー、ヽ ヽ  / /,--、 |   `、     |
               ヽ  ./|.,ト/ /,.|   ̄`ー―.'-‐'´ ̄~~| ,' |  .ヽ.|    `、    |
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                .,rl_/ /ー―'''´        ∧  } }    } ``‐--‐ヽヽ_,、
                ./ / /             .〈  } / /    .}      ヽ /
                }__}´ /´               } } { .{     /
             /},-、 /                 `-'ヽ {   ,〈

        }ヽ_..'// .}'/                     |ヽ  ./ |
        |~ヽ /´ 〈___/|/                     ヽ.}_/__ノ
        `ー``―'―‐'

───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


変身システムはレッド一人だけになるまで追い詰められた時にお世話になったのでよくできてるなぁと思いました

テロ後のレオナルドはシステム的にはやはりロボ扱いなんだろうなぁ……

真・アルフェニックスは前情報なしで閃きたかった……




全身全霊を掛けた急ブレーキ、靴底の踵部分が一気に数㎝すり減り、路面はマッチ箱を擦ったかのような跡と摩擦熱が残る
あわや惨事になる寸での所で彼と彼女は激突を免れた



レッド「だ、ダイジョウブ、か?」



恐る恐る、眼を開いた白薔薇に対して、心拍数が2倍速でリズムを刻む彼は片言ながら尋ねた…



白薔薇「は、はい…」




レッド「よ、良かったぁ~」ヘナヘナ


とりあえず、女性を全力で跳ね飛ばさなかった事に心底安堵したようで、彼はその場にへたり込んだ
 そんな二人の元へ遅れてやって来るのは不良刑事ことヒューズであり手にした銃を下げ目の前に奇妙な光景に眉を顰める



ヒューズ「…昨日のレディか、また迷ったんですか?」

レッド「うげっ!?お、おっさ―――ごほんっ、知り合いなのか?」



 どうやら目の前の貴婦人はこの不良刑事の知人らしい
怒り狂って先程までレッドを焼き焦がそうとしていた凶悪な重火器は――知り合いの前だからか――既に彼を狙っておらず
兎にも角にも事態が自分にとっていい方向に転がりそうな気配を少年は感じ取った


…此処で間違っても「おっさん」などと言って怒りの導火線に再点火しない限りは




白薔薇「まぁ…!ヒューズさん!またお会いできましたね!」ニコッ

ヒューズ「へへっ!いやぁ~連日のように美人さんに巡り合えるとは俺もツイてますなぁ、はっはっは!」


白薔薇「そちらの方はどうかなされたんですか?なにやらお急ぎで逃げていたようですが」


ヒューズ「え、あ、あ~、いやね?ここは大都会でしょう?白薔薇さんと同じようにこの坊主、迷子になってたんですよ」

ヒューズ「それで俺がいち警官として道案内してたってワケで」




レッド(このおっさん…よく言うぜ)




っと、見た目麗しい貴婦人の前でマジメな警察を演じ始めたおっさんに内心毒づいたが
それで自分が助かるならば何も言うまいとレッドは合わせる事に決めた



レッド「いやー、そうなんですよ、俺、あのビルに行こうとして、急ぎの用だったんで全速力で走ってて…」

レッド「本当にすいません、さっきはぶつかりそうになって」ぺこっ


白薔薇「いえいえ、良いんです、私もぼんやりと歩いていたのが悪いのですから」


ヒューズ「(…そう来たか)くぅ~…なんて良い人なんだ、オイ小僧、次からは気ぃつけて歩けや!」

レッド「わかってるって…んじゃ俺は急ぎの用なんでこれで!」タッタッタ!


道すがりの女性を利用したようで気が引けたが、ともかく彼は不良刑事のリンチから逃れるチャンスを生かし、場を去った





             アセルス「白薔薇ぁぁぁぁ!!!!!」タッタッタ!

              ルージュ「や、やっと見つけた…」ゼェゼェ




白薔薇「まぁっ!アセルス様!ルージュさんもエミリアさんも!」


ヒューズ「げっ!?エミリア…!!」ビクゥ


ヒューズ「な、仲間が来てくれてよかったじゃないですか!じゃ、俺はこれで!」ビシッ!ダッッ!







アセルス「駄目じゃないか!!勝手に居なくなって!」

白薔薇「も、申し訳ございません…」

エミリア「まぁまぁ…それより行きましょう?」






―――
――



【双子が旅立ってから…3日目、朝8時07分 :[マンハッタン]シップ発着場】



アニー「着いたわね![マンハッタン]」

サングラスを掛けた男「そのようだな…、後2時間もすればエミリア達と合流し[クーロン]に帰る事になるだろう」


アニー「じゃあさ!!それまで買い物楽しんできても良い!?此処のアクセサリーショップ人気高いんだよね~」

アニー「風邪で寝込んだライザの分までなんかお土産買ってあげたいし」

サングラスを掛けた男「好きにしろ」



サングラスを掛けた男「君はどうする?ライザのチケットが余ったからとアニーに連れられたのだろう?」




ブルー「…別に」






元は自分の金で買った乗船チケットだ、急遽来れなくなったアニー等の仲間の1人の代わりに自分が乗る事になった

 この3日間で"保護のルーン"…なにより遭遇できるかどうかさえ怪しい[タンザー]の体内にあった"活力のルーン"を発見
その功績は大きいと言っても良い、そして…



サングラスを掛けた男「…それにしても中々感心した、君のような男が居るとは…勝利こそ男のロマン!分かっているな」

アニー「うわっ、出たよ…ルーファスの病気が」ハァ~


ルーファス「アニー、何を言うか、勝利は良いモノだ、女のお前には分からんだろうがな…!」

なんであんなに勝利フェチなんだろうなこのグラサン






"勝利のルーン"



 印術の資質を修得する為に乗り越えねばならぬ4つの試練、その内2つは既に乗り越え、もう半分は今この場に居る男女が
試練の成功へと繋がる鍵を握っている


刑務所への潜入はアニー、そして…―――この日の朝、ブルーが知り合ったルーファスというサングラスの男



 彼はどういう訳か"勝利のルーン"が刻まれている遺跡によく赴き
観光目的で訪れた男性客に『勝利ッ!それは男の勲章!そう思わんかね?』と問うらしい…それだけ聞けば変質者である




 先述の通り、この3日間で試練を2つも踏破したのは功績として大きい、陰と陽の資質は先日の事件が切欠で今は誰ひとり
修行することができない為、ブルーもルージュも指を咥えて待つか他の資質集めに奔走する他ない…

先に[ドゥヴァン]で小石を受け取り、既に半分試練を終えたブルーには余裕があった


仮にルージュが秘術ではなく印術の試練を選択していたと仮定しても、追い抜かれることはほぼ無いに等しいし

 万が一にも弟が兄より優れていてこの3日間で秘術の4試練を全てクリアしてたとしてもだ
[ルミナス]の封鎖が解除されるまで暇を持て余すのだ









ブルー(術の鍛錬…それと、術力が切れて魔術が使えなくなった時の対処法を練るなりしようと考えていたが…)



ブルー「ルーファス、本当に"勝利のルーン"について詳しいんだな?」





ルーンの刻まれた巨石付近は力に引き寄せられてモンスターが出没する、粗蟲共然り、スライムプール然りだ
前情報を得られるならば、聞いておいて損は無かろう…



ルーファス「ああ、何度か[武王の古墳]には潜ったことがあるからな、経験譚を聞かせてやろう」



腕を組み相変わらずサングラス越しの眼はどうなってるのか分からんが微笑を携え、それはそれはご機嫌といった様子だ








アニー「ルーファス!!ちょっと買い物行ってくるからねーーー!」



ルーファス「ああ!…さて何から話したものか…まず、入口から入って左側の奥に宝箱が3つある部屋があるがそれは」


―――
――







ルージュ「お、おぉ…!あれがキグナス号!!」





シップ発着場の展望エリアから眺める宇宙船<リージョン・シップ>の機影に銀髪の彼は目を輝かせた

 白く美しい白鳥をモチーフにしたデザインは実に見栄えの宜しい外装であった、一眼レフカメラを手に
その姿を写真に収めるマニアのシャッター音が激しいのも頷ける



白薔薇「…綺麗ですわ」

アセルス「どう?機械にもああいうのがあるんだ」

白薔薇「ええ…[ファシナトゥール]に居た頃は全く想像もつきませんでしたが…これは」




エミリア「…」


エミリア(キグナス、か……レン、私達あの日、二人で一緒に乗ったわね…パトロール隊員なんて危険な仕事辞めてって)


エミリア(私があそこであんな事言わなければ喧嘩なんてせずに済んだの…?)


エミリア(気まずさも何も無く、もっと陽の高い内からウェディングドレスを持って家に行けて…そうすればレンも)ジワッ


エミリア「…っ!」フキフキ


エミリア「いつ見ても!綺麗な船よね!!!三人共!売店でも見に行かない?観光ガイドとか必要でしょ」ニコッ






「…おい、あの船か?」ヒソヒソ
「ああ、情報は確かだぜ…」ヒソヒソ
「よし、ノーマッドのお頭に報告だ」ヒソヒソ









様々な思惑、想い、人々を乗せて、白鳥の乗降口は閉ざされていく…








【10時25分】 [マンハッタン]発 [クーロン]行き便は今、大空の彼方へとその翼を広げ飛び立った…









混沌、それは雲が悠々と流る青空を突き抜けた先にある"空の先にある空"の事だ



 その空間は死が充満していて、あらゆる生命は放り出された瞬間に身体が圧縮されて潰れ、消滅すると学者は説いた
大気圏、という世界<リージョン>を覆うフィールドバリアに護られているからこそ地上の生物は生きていける


だが大気圏の外、即ち混沌の空では身体が重力の激流に常に晒され肉も骨も軋み縮み、最後は圧縮されて粉微塵となり死ぬ

どこかのリージョンでは混沌の事を"宇宙空間"という名称で呼ぶようだが…それは少数派である











ブルー(悪くないな)






死の空を白鳥を模した光り輝く箱舟が渡航していく

 金の髪を束ねた魔術師は船内を暇つぶしがてらに散策していた
オーバーワークな鍛錬も祖国からの任務も今日は遂行しない、適度に急速を取らねば効率が落ちる…

テラスから眺める空は、月並みな言葉しか出せないが綺麗だった

 雲を突き抜け、星が矢の様に眺める自分達の視線から外れていく…
こんなにも美しいというのに、外は一歩出れば身体が朽ちて死に至る空間だというのだ



紙コップに入った甘いカフェラッテを傾け、彼は穏やかな時間を過ごして居た…思えば初めてかもしれない
祖国に居た時は術士としての学業に明け暮れ、寝ても覚めても参考書の文面とにらめっこで


いや、遠い昔、学院を抜け出して同い年の誰かと遊んだような気がするが…この歳になってからは初めてだ





アニー「あっ!居た居た!アンタねぇ!勝手に居なくなって探したわよ!」タッタッタ!


ブルー(…鬱陶しい女が来たか)ハァ…


アニー「ちょっと、なにさ、その顔…露骨に嫌そうな顔を」


ブルー「別に、それより何か用があって来たのか?」ゴクッ



面倒臭い、そんな態度を顔に思いっ切り出しながら紙コップを口元に運び甘味を嗜む
 相変わらずの不愛想な男に少しだけムッとしつつも金髪の女は答えた


アニー「あたしの知り合いとこの船で合流する予定って前言ったじゃん?」

ブルー「ああ(聞く限りで頭の悪そうな女か)」


アニー「時間帯も丁度いいしバイキングを楽しみながらって思ったのよ、ブルーも来る?」


ブルー「結構だ」


豪華客船のビュッフェは彼自身も興味はあるが、アニーだけでなく更にうるさそうなのが一緒なのは御免だ、そう思った


きたきた

キター‼



アニー「そうかいそうかい、ならそこに1人で居るんだね」

 折角人が飯に誘ってやったのに、と文句の1つ言ってやりたいが…
此処で騒ぐのも他の乗船客に迷惑だな、と彼女は慎む事にした

上司であるグラサン男はVIP専用の部屋で趣味の東洋刀を磨いている頃だろう…隠れ刀マニアで[シュライク]まで赴いては
[刀]を何処かの古墳から拾ってきたがっていたそうな…



青い法衣の男に背を向け、彼女は階段を下りてレストランへ向かっていく













アセルス「…美味しい」

エミリア「ふふっ!なら良かったわ」クスッ




レストランは人気が高く、昼食を求めてやって来た家族連れも含め大盛況と言っても良いだろう
銀食器で切り分けたガレットを一口、アセルスお嬢は蕩けるようなチーズとハムのハーモニーに正直な感想を漏らした


エミリア(この子も歳相応な笑顔をよく魅せるようになったわね…)

エミリア(突然、拉致同然で連れてかれてしかも人間としての生涯を奪われて…)ホロリ



アセルス「それにしてもこの料理…なんだかクレープみたいだね」

白薔薇「これはガレットですわ、痩せた土地で栽培が可能な粉を練った物で何世紀もの時を得てクレープになったのです」


アセルス「ふぅん?要するにクレープの御先祖様なんだ」クルクル


切り分けて生地で半熟卵<スクランブルエッグ>やハム等を巻いて食べる料理をマジマジと見つめる

まだ[シュライク]で普通の女子高校生として暮らしてた頃、帰り際に寄っていた屋台で売られてるホイップクリームだの
苺やバナナを包んだデザートの元となった物なのか、と感慨深げに眺めてそれからもう一口、噛み締める





白薔薇「それにしてもルージュさん、船内を探検したいだなんて」

アセルス「ルージュもあれで結構子供っぽいとこあるからなー…」



 この場に居ない紅い魔術師は目を爛々と輝かせて船内を歩き回っている
機械文明がそれほど盛んではないリージョンからやって来たのも相まって色々と見て回りたいのだろう



特に、医務室前で[医療用ロボット]を見た時なんか視線がもう釘づけで―――





アニー「エミリアーーーーっ!!」パタパタ…


エミリア「んん?アニー!アニー!!」ガタッ


アセルス(走って来る女の人、あの人がアニーさんか…綺麗な人、っていうか胸が大きい…)じーっ



【双子が旅立ってから3日目 午後13時40分】




レッド(…まさか、この船に兵器が積み込まれてるなんてな、クソ!キャンベルビルの社長め)

レッド(あのヒューズって刑事のおっさんと成り行きで一緒に行ったけど証拠もつかめない以上何とも言えなかったし)



ホーク「レッド!作業が雑になってるぞ!」


レッド「あ、わりぃ…」

ホーク「気をつけろ、俺達機関士は船に乗ってる客の命を預かる身でもあるんだからな」


レッド「ああ!」


―――
――



アニー「そう…アセルスちゃん、だっけ?今あの白い人に連れてかれた子」

アニー「彼女も相当苦労してるのね」

エミリア「事情は分かったでしょ?この子を[クーロン]の闇医者の所に連れて行きたいの」

アニー「ええ!そういうことならお姉さんも協力しちゃうわよ!」フフンッ

エミリア「さっすが!アニー!話がわかるわ!」



アニー「所で?あと、1人居るんじゃなかったの?」


エミリア「ああ、術士が1人居るんだけど…今は船の中を散歩中よ」





アニー「へえ?…"術士"…奇遇ね、あたしも今は連れに術士の男が居るのよね…」

エミリア「あら?本当に」



―――
――



ルージュ「凄いなぁ、モニター画面をタッチすると船の案内図がでるんだぁ」ピッ!ピッ!



白薔薇「あら、ルージュさん」

ルージュ「お二人共、どうしたんです?」


アセルス「あ、うん……調子に乗って食べ過ぎちゃって///」カァ///


―――
――


「うん?」

「どうした」

「機長、未確認シップ急接近が衝突コースに入ります」

「なんだと!コンマ1回避、エマージェンシーパルスで警告!一体どこのヘタクソだ…」

―――
――


ルージュ「ほらほら!これ凄いでしょ!ボタンを押すと船の見取り図が」ピッピ!

白薔薇「まぁ…!機械というのは不思議ですわね」

アセルス「う~ん、二人にはそんな風に見えるのか…」



―――
――




ブルー「…」テクテク


ブルー(道に迷った…)ズーン





<ほらほら!これ凄いでしょ!ボタンを押すと船の見取り図が

<まぁ…!機械というのは不思議ですわね









ブルー「うん?なんだ曲がり角の先に人が居るのか…丁度いい、此処がどの辺なのか訊くか」スタスタ


―――
――




アニー「それでさぁ!その男…すっっごく嫌味な奴なのよ!…変なとこで律儀だけどさ」ハァ

エミリア「何か話聞く限りその術士の人、かなりアレな人ね」


アニー「うん…悪い奴じゃないんだろうけどね」


エミリア「アニーってば、飲みすぎじゃないの?」

アニー「べっつにー、ちびちび飲んでるから良いのよ、それに迎え酒だから飲んだ方が良いのよ」






エミリア「あ、術士同士なら魔術とか共通の話題があるじゃない?アセルスの連れの彼と会わせてみない?」

アニー「うーん?あの協調性ゼロ男とぉ~」ヒック


エミリア「丁度この船に乗ってるんでしょ?これも何かの縁って奴よ」

アニー「うーん、アイツとねぇ…」

―――
――



「だ、駄目です!回避パターンに追随してきます!進路を押さえています…これは!!」

「海賊船<パイレーツ・シップ>か! 緊急事態発令、全乗客・乗員を速やかに固定位置に!急げ!」


なんと言うニアミス
てかもしかしてアニー置いて一人で脱出するのかブルー……いやいやまさかね



【双子が旅立ってから3日目 午後13時48分】




 豪華客船の順風満帆な渡航は一転、最悪のアクシデントを迎える事となる

 機長の的確な指示によって突如として鳴り響いたアラートは旅行客のアルバムに忘れられない思い出の一頁になるだろう
未来予想図を語らう新婚旅行に出ていた男女、子供連れの裕福な一家、経費で優雅な船旅を楽しんでいたリーマン


酷く耳障りなサイレンと慌ただしく逃げ惑う乗客、そんな群衆を避難誘導する乗組員







   ――――混沌の大海原をフライト真っ只中、逃げ場の無い宇宙船<リージョン・シップ>内部は"檻"と呼んでも良い





近くに着陸可能な小惑星<リージョン>は無い

 これが普通の水面を走る帆船で、しかもただ座標しただけとあらば、救命ボートなり何なり出すだろうが
生憎とこれは星空を走る船、もっと言えば後ろからは武装した海賊船…乗客を乗せて緊急艇を射出しようものならどうか?



…まぁ明るい結末にはならないな






「大変だー!海賊だぁ!パイレーツが船を襲いに来たぞぉ!!」





乗客の誰かがその言葉を叫んだ、次に叫んだのは女性だった、お決まりのように「きゃー」なんてシンプルな悲鳴


 毛を逆立てた猫が飛び跳ねるが如く椅子から立ち上がるスーツ姿の男、酒気を帯びた真っ赤な顔が真っ青になる中年女性
子供を抱き抱え妻の手を引き何処かへ逃げようとする旦那、我先にと他人を押し退け、押し倒し逃げる自分勝手な輩






 阿鼻叫喚の絵図と化したレストランに取り残されたエミリアとアニー…
二人の女性もまた騒ぎの渦中から抜け出そうと藻掻いていた




「ひ、ひいいいぃぃぃ、た、助けてくれぇぇぇ!!」バタバタ

「ど、どけぇぇ!!俺が先だぁぁ!!」ドガッ




エミリア「きゃあっ!?」ドサッ!

アニー「エミリアっ!――――あたしの連れに何すんだこのクソ野郎!!」バキャァ!!


「うげーーーーっ!!」ベキッ!ズサァ―――ッ!!



アニー「エミリア、大丈夫?立てる…」スッ

エミリア「い"っ…あ、脚が…」ズキッ



アニー「さっきのハゲおやじに突き飛ばされた時、思いっ切りぶつけたから…そん時に挫いて、くそっ」

アニー(武器はルーファスの所に置いて来てる…よりによってこんな時に)ギリッ






エミリアの肩に手を貸し友人をどうにかして安全な所へ移動しよう、彼女がそう判断すると同時に船体は大きく揺れた


―――
――



「コンマ5最大減速後にコンマ3回避だ!それから1コンマゼロの緊急出力で振り切る!」


「りょ、了解!パターン準備完了ですカウントダウン開始しま―――」




     ド ガァ ァァ アアアアァァァァ―—…ッッ!




「こ、攻撃です!パイレーツが砲撃を うわぁっ!」グラッ


「い、いかん…!カウントダウン停止しろ!ミニマムドライブまで減速だ………くっ、これでは奴らに乗り込まれるな」

「き、機長…」


「…おお、神よ」



―――
――



ブルー「うぐっ…」ドガッ


ブルー「なんだ…さっきからこの揺れは…海賊が外から撃って来てるのか!」



<あ、アセルス様!此処から離れましょう!
<わかった!二人共行こう!
<う、うん!あっちに乗組員さんが居るから僕たちも!

<タッタッタ…!



ブルー(あっちに行けば良いのか、…とんだ船旅だな)チッ


今しがた壁に打ち付けた背中を擦りながら蒼き術士は声がした曲がり角の先に行こうとしたが…




ウエイトレスの少女「! あ、あんなところに逃げ遅れた人が! そこの人!!!こっちへ早く来てください!!」


彼は自分を呼び止める声に脚を止め、振り返った、紺色のショートヘアーに如何にもウエイトレスですと主張する
白いフリフリのホワイトプリムを頭に付けた娘と……医療用ロボットが一機


ウエイトレスの少女「此処からなら向こうの東ブロックより西ブロックの避難エリアが最寄りです!」


ユリアか?

ユリアとBJ&Kだろうな
そういやゲームでは思わせ振りなわりにあっさりフェードアウトしちゃったなユリア

―――
――



ドカッ!バキィ!


「うわらばっ!?」
「おぎゃっ」
「あばっぷぅッ」




ヒューズ「ふぃーっ、…よう、小僧」コキコキ







キグナス号を襲撃した海賊が優先的に狙ったのは機関室、そして機長らの居る操縦室だ

機関士見習いのレッド少年は世話になった父の友人ホークを人質に取られ両手を上げて降伏することを余儀なくされていた
そこへいつの間に紛れ込んでいたのか、あの不良刑事が瞬きする間もなく相手を叩き伏せたのだ


レッド「ヒューズのおっさん!アンタもこの船に乗り込んでたのか!」


ヒューズ「だ・か・ら!俺はおっさんじゃ―――ああ、このやり取り何回やらせんだボケ!」

ヒューズ「いいか、連中の狙いはこの船に積み込まれた密輸武器だ」


ホーク「海賊共が情報を掴んだのか?」



 ホークが帽子を被り直し、刑事に問う「ああ、だが情報を流したのはキャンベル社長さ、あの女、大したワルだ」と頭を
掻きながら刑事は吐き捨てる様に返答を返した



レッド「!キャンベルが海賊を使って武器の密輸売買してるって情報を隠滅しようとしてたのか!!」


ヒューズ「まっ、そういうことだわな、偶々この船に乗り合わせた乗客の皆さんにゃいい迷惑だ」




ヒューズ「ざっと見て来たが奴ら迅速だったぜ、ブリッジの占拠から避難区画に逃げ遅れた乗客を船室に押し込んで人質」

ヒューズ「こりゃモタモタしてたらあの女社長の犯罪を暴く為のブツも海賊がお持ち帰りしちまう」





レッドは正直言って碌な印象の無いヤクザ染みたこの男を初めて見直した、これでも厳選された刑事なんだな、と




ホーク「そこの配管から上へ伝って行けばレストラン方面へ出られる、どうする?」



レッド「決まってんだろ!ヒューズ!海賊共をとっちめるんなら俺も協力するぜ!」



 ヒューズはしばし、考えたがこの船に詳しい奴が1人でも居れば策は練りようがある
連れて行く価値があると判断し同行を許可した



ヒューズ「いいだろう、やり方はお前に任せるぜ、機関長のおっさんは此処を見張っててくれ」




 動力室のパイプダクトをよじ登り、天井の小さな緊急用の出入口に手を触れる
有事の際に天井扉を潜り狭い道を進んでいけばレストランに置いてあるピアノの真下に出て来れる仕組みだ

乗組員だけが知っている緊急避難ハッチ、レッドは機関長に手渡された工具で天井の戸を開けて入り、その後を刑事が続く



レッド「…まさか、ガキの頃みたスパイ映画みてぇな事するなんてなぁ」

ヒューズ「へっ、スパイ映画か…笑える例えだぜ、全く」



レッド「この真上だな、今開ける」カチャカチャ

ヒューズ「おう、匍匐前進で狭い中を野郎のケツばっか見んのも嫌だからな早めに頼むぜ」



 カチャカチャ…!カチッ!




  レストランフロア緊急ハッチ『 』パカッ!





―――ヨジヨジ、ゴソゴソ…ヒョコッ!





レッド「 」キョロキョロ


レッド「よし、誰も居ない!」バッ!


ヒューズ「……めっちゃくちゃだな、料理の乗ったテーブルひっくり返ってらぁ、勿体ねー」キョロキョロ



刑事は、ホルスターからIRPO隊員に支給される[ハンドブラスター]の電源を入れる
 敵を痺れさせるパラライザー形態から電光剣と化すソード形態にもなる多様性のある重火器だ



レッド「野郎共め…!通路を楽器で塞いでやがる」

ヒューズ「コンサート用の楽器か、出鱈目に積み上げてバリケードのつもりか」



レッド「…右側の通路と左側の通路、どっちから攻める」

ヒューズ「右だな、俺の勘だが左は奴さん達が見張ってると見たね」




スタスタ…!



ヒューズ「! 待ちな」ガシッ

レッド「おわっ!」

ヒューズ「声出すんじゃねぇ!…ほれ見て見てろ、俺の勘は正しかったろう、曲がり角の向こう」スッ

レッド「あぁ!人影が…」

ヒューズ「この船の構造上、どう見る?」

レッド「…この先に行けばグルっと回り込める…俺とアンタでアイツを挟み撃ちにできそうだ」

ヒューズ「決まりだな、レッドお前はあっちから行け」

ここ無言で目配せかハンドサインしてんのかと思ってた






「ふわぁ…眠ぃ…」

「おいおい、気ぃ弛み過ぎだろ、そりゃあ長ぇこと[タンザー]の中に居たってのぁ、あったがよ」

「いいじゃねぇか、あのくっせぇ空間からやっと出られたんだぜ、リラックスしたってバチ当たらねぇだろ~?」






客室の前に二人、見張りが居た

 彼等の頭領が目的の"ブツ"を回収して出て行くまでの僅かな時間、退屈で欠伸が出る程に何も無いだろう時間が刻一刻と
過ぎていくのだろうとボヤいていた…



ましてや戦い慣れした輩が自分達を挟み撃ちにする気だなどと思いもしなかった








レッド「うおおおおおおおおおっ!!」バッ!



「なッ、だ、誰だてめぇ―――へげっ!?」ゴベキャッ



ヒューズ「おっと、援軍呼ばれちゃ堪んねぇからな、ちょいとばかし"おねんね"してなァ!」蹴り!


「はごっッ!」









 奇しくも、怠惰を貪りたがったサボりたがりの海賊の願いは叶う事となった
刑事の蹴りと後ろから猪突猛進で殴りかかって来た少年の手によって




レッド「ふぅ…呆気なかったな」

ヒューズ「なぁに、案外こんなもんよ…援軍呼ばれりゃそんな軽口も叩けねぇ状況になってたのはこっちだぜ」



 防音仕様の船室内では恐らく、他の下っ端共が屯ってトランプ遊びでもしてんだろう?っと
扉の前に居た二人を縛り上げながらヒューズは口にする



ヒューズ「こういうモンは各個撃破が基本だ、馬鹿正直につっこみゃやられんのは俺達だ」

ヒューズ「極力、見張りの奴さん達に見つかんねぇように動く、良いな?」


レッド「ああ」


バキッ! ゴスッ! タァンッ!

<て、敵襲
<言わせねぇぞオラァ!


ガシッ!グワァン!  ゴシカァン!

<警察舐めんな!




ガチャッ!



ウエイトレスの少女「ひっ!」ブルブル





レッド「ユリア!無事だったかっ!!」


ユリア「…ぇ、レッド?…レッドなの?」オソルオソル





 船室に押し込まれたウエイトレスの少女は何時海賊の男達に乱暴されるのかと肩を震わせていた
扉が開かれ人影が駆け込んできた時、反射的に目を瞑った彼女は聞き覚えのある声にゆっくりと目を開けた



ユリア「レッド!あぁ…!助けに来てくれたのねっ!ホークは無事なの!」ジワッ

レッド「ああ!ホークのおっさんは無事だ!他の人達は?」


ユリア「そ、それが分からないの…」

ユリア「私、BJ&Kと一緒にお客様の避難誘導に当たって…そ、それから逃げ遅れた人を案内してたら見つかって」ブルブル


レッド「ユリア…大丈夫だ、俺達が来たから…」ギュッ

ユリア「…レッド」





ヒューズ「あー、あー…うぉっほん、キミたち青春すんのは良いんだがね、TPOを弁えちゃくれませんかねぇ?」




レッド/ユリア「「あっ//」」




ワザとらしい咳払いと棒読みな刑事の発言に少年少女は照れくさそうに離れる、小声で「く、くそぉ…おっさんめぇ」っと
レッドの恨み言が聴こえた気がしたがヒューズは気にしない



ヒューズ「んで?ウエイトレスのお嬢さん、あー、ユリアさん?覚えてる限りで海賊共の動向や気になることは?」


ユリア「わ、わかりません…海賊たちは積み荷が目的みたいで私達は皆、船室に押し込まれて…」



ユリア「あっ…!あの!見つかった時に一緒に居た蒼い服を着た術士風のお客様とはぐれたんです!」

ユリア「なんとか捕まらずに逃げてくれたのなら良いんですが…もしかしたら船内の何処かに隠れてるかもしれなくて」


ヒューズ「ふむ、逃げ遅れた一般人の乗客ね、…要救助者か、貴重な情報感謝しますよお嬢さん」




レッド「わかったよ、俺達が探してくるからユリアは此処で待っててくれ!じっとしてるんだぞ」

ユリア「うん、…レッド、気をつけてね」


レッド「ああ!任せとけ!」ニィ!


タッタッタ…!バタンッ



―――
――







    ヒューズ「 こ の こ の ぉ ! 羨 ま し い じゃ ー ね か ! 小 僧 !」グリグリ







レッド「痛ぇぇ!!いででででで!や、やめろってば頭ぐりぐりすんな、おっさんてめぇ!!」


ヒューズ「くぅ~!あんな可愛い子ちゃんとよぉ!これだから最近のガキは!」グリグリ



レッド「離せっての!!」バッ




レッド「ぜぇ…ぜぇ…ったく、それより話聞いただろ?逃げ遅れた客がまだ船の中うろついてるかもしれねぇって」

ヒューズ「だな、一般人の救助も警察のお勤めだ…他の客室も回るっきゃねーな、こりゃ」


レッド「…あ、そうだ、ヒューズ、隣の部屋に行こう、戦力になりそうな奴が居るんだ!」タッタッタ!


ヒューズ「あん?…なんだぁ?"医務室"?」


レッド「とりあえず入れよ」ガチャッ!




―――
――



【キグナス号:医務室】



レッド「えっと…」キョロキョロ

ヒューズ「何探してんだよ」


レッド「…あっ!いたいた!アイツだ」





医療用ロボット(節電モード)「 」シーン


レッド「…良かった、パイレーツ達に壊されてない、電源を切られてるだけだ…」カチカチ!ポチッ!

ゴシカァン‼



ウイーン、という起動音と共に1台のメカがスリープモードから目を覚ます
丸っこいボールのような足が3つ、その中心はチェスの駒で言うポーンを逆さまにしたような体型

両腕を挙げて、動作確認を行い、そして開幕一言が…








医療用ロボット「異常ありません。」


レッド「異常大ありだろう!ちょっとついてこい!」ガシッ





丸っこい、愛嬌のあるロボットを掴み、医務室を出ようとするレッド少年に刑事は口を挟む




ヒューズ「おい、レッド…そいつ役に立つのか?」


レッド「ああ、立つさ…こいつは[BJ&K]、正式名称は[Black Jack&Dr.K<ブラックジャック &ドクター ケー>]」

レッド「ウチの船に派遣されてる医療用メカで最終兵器だ」


ヒューズ「最終兵器ぃ?こいつが?」



レッド「ああ、こういう緊急事態を想定してこいつには[圧縮レーザー砲]が装備されてるんだ」

レッド「どんな敵が来てもコイツのレーザービームでイチコロだぜ」




医療用ロボット…確かに怪我を負った場合、居てくれれば心強い事この上無いだろう
しかし、[圧縮レーザー砲]…


その名前を聞いてヒューズはギョッとした



それは正式な軍隊で戦闘メカに搭載される[破壊光線銃]に負けずとも劣らない重火器装備ではないか…!
風の噂では[クーロン]の闇市場でさえ、早々お目に掛かれない武装だ




ヒューズ「マジかよ…なんつーモン装備してんだよ、ってかソレ本当に医療メカかよ」


レッド「燃費の割りに凶悪な破壊力だからな……」

レッド「まぁ、俺も初めて知った時『コイツぜってぇ戦闘メカの間違いだろ』って思ったけどな」



BJ&K「」じーっ


BJ&K(?…解析結果、体調安定、怪我人無し…非常事態ゆえに体温、脈拍の乱れあり…生体反応…???)




2人のそんなやり取りの中、医療メカはレッド少年を"診て"奇妙な違和感を察知していた…

この時、それは『戦闘による緊迫や呼吸の乱れ等から来るモノ』、とその程度にしかまだ認識していないが…

―――
――



【キグナス号:客室 ブルーの居る場所】



ブルー「…っち、面倒な事になったものだな」




あの後、ウエイトレスの少女ことユリア、そして隣に居た医療用メカと移動していた最中に海賊に見つかり彼は
ユリアと"ワザとはぐれた後"追って来た下っ端を"追って来れない身体"にした




ブルー「[タンザー]に飲み込まれ、ハイジャック事件に巻き込まれる…どうにも船には縁がない様だ」ぽふんっ




 自室のベッドに腰掛け、大事な荷物の入った[バックパック]を確認する…祖国からの支給品は無事だ
先日、粗蟲共の所で[リージョン移動]を落としたばかりで次は海賊に奪われましたなど、笑い話にもなりゃしない

今度からは肌身離さず持っておこうと術士は宝石を握りしめ、固く誓った








――――バンッッッ!!





「ヒャッハー――!!見ろよォ!!まだこんな所に乗客が居たみたいだぜェ!!」

「もうこの階の奴ぁ全員連れてったと思ったがこいつぁ運が無かったなァ!」ケラケラ!

「おっ!見ろよ!あの金髪のチャンネー!手に綺麗な宝石持ってんじゃんか!」









                  ブルー「…あ"?」ピクッ








チャンネー


ブルーの横顔を見て、見回りに来た海賊共は"逃げ遅れた女"が居る、そう判断したようだ




そして、その"チャンネー"は眉間に皺を寄せた、キレる数秒前である



「へへっ、そいつをこっちに渡しなぁ・・・そうすりゃ乱暴しないでやるぜ」スチャ

「おう、貰うモン貰ったら後はこの部屋に監禁する程度で済ましてやっからよぉ!アヒャヒャヒャ!




―――
――



レッド「見張りが向こうを向いてる間に走り抜ける、ちょっとヒヤッとしたかな…」

ヒューズ「見つかればリンチ確定だ、[ロックバブーン]や[ドラゴンミニー]とかあれこそ集団で来られたら勝てねぇ」

BJ&K「…」ウィーン




2人(と1機)がキグナス号の廊下を、それも丁度とある客室前を歩いていた時だった




バゴンッ!!








      「うわらばっ!!!」「あべしっ!」「ひでぶっ!」ドキャ―――z____ンッ!!







レッド「うわっ!な、なんだぁ!?」




「「「――――――」」」ピクピク…



BJ&K「生体反応あり、3名とも昏睡状態、身体中に火傷、感電の痕が見受けられます」


レッド「こ、この部屋から吹っ飛んできたぞ…」




―――
――



ブルー「…ふぅー」


ブルー(アイツ等何処かで見た気がしたと思ったら[タンザー]に呑まれた時に居たな…)

ブルー(まぁどうだって良いか、くだらんことに術力を使ってしまった)



ガチャッ



ヒューズ「ちょっとお邪魔するぜ、部屋の外に吹っ飛ばされた連中…アンタがやったのかい?」

ヒューズ「おたく相当強いねぇ、協力してもらえないかい?」



ブルー「関わり無いな」シレッ



…面倒なことに巻き込まれそうだ、瞬時に判断した彼は一言そう言い放った

タンザーから脱出したと思ったらブラッククロスに木っ端微塵にされると考えてみると少し哀れな未来が待ってるなこいつら……

ここで夢の共演……はさすがに無いか

ブルーとレッドだけはどの主人公選択しても仲間にできないんだよね…




    レッド「シップが動かなきゃ困るだろ!!」バッ!





 腕を組んだまま、術士は刑事と自分の間に割って入って来た年若い男を一瞥した
齢は20になるかならないかと言った所なのだろう、血気盛んで如何にも無鉄砲な男なのだろうと彼の第一印象は決まった





ブルー(……『シップが動かなきゃ困る』か)




彼の手には輝きを秘めた宝石が握りしめられている、祖国からの支給品である魔術の媒介だ
 念じれば何時だってブルーは[ゲート]の術で脳裏に浮かべた景色へと瞬間的に跳べる




つまる所、宇宙船<リージョン・シップ>が動けようが動けまいが彼には正直何の関係も無く、1人でさっさと脱出可能という














だが…







ブルー(…ちっ、この船にはあの女が居る)




このハイジャック騒動に共に巻き込まれた金髪の女の顔が過った


 印術の試練の内、"解放のルーン"を得る為には某刑務所に潜入せねばならない
――そして唯一の架橋である守銭奴のお嬢ことアニーを置き去りにして行った場合


最悪…奴に連れて行ってもらえない可能性も浮かび上がるのだ



 今、双子の方割れが資質集めの試練をどれ程成し遂げているのか分からないが、印術を諦めて秘術へ鞍替えするとなれば
ここまでの労力はとんだ徒労に終わる
 そればかりか、ルージュの方が先に秘術を取得してしまえば……



"双子の片割れが修得した資質は取ることができない"……置き去りにして脱出するのはリスキー過ぎる





      ブルー「……そうだな、協力しよう」



彼は、刑事と少年…そして医療メカと共に同行することを決めた

おお、もしかして理由があるから我慢できる……?

なんかすごいお祭りゲーとか特別編って感じがするの好き

このあと名乗って気が変わるんじゃないかい?



レッド「本当か!?ありがとうな!」

ブルー「有事だ、やむを得ん」スッ


レッド「いやぁ、助かるぜ…ええっと」スッ



 術士は宝石を大事に仕舞いこみ、[バックパック]を背負う、まだ名も知らぬ少年と刑事に向き合い…
少年が差し出した握手の右手に目を向け、名を名乗ることにした



ブルー「自己紹介がまだだったな、ブルーだ」



ヒューズ「俺はヒューズ、見ての通り[IRPO]所属の刑事だ、そっちの小僧はレッドってんだ」


















                  ブルー「赤<レッド>…だと…?」ピタッ













差し出された右手に答えるべく手を伸ばし掛けたブルー……だが、その手が先方の挨拶には答えず、空虚を掴む事となる





レッド…red… 赤



少年の名を聞いてあからさまに術士は怪訝な顔をする

"苛立ち"…表情どころか体全体から醸し出す不愉快だと言いたげな空気に、若干少年は気圧された


レッド「ど、どうしたんよ?」







ブルー「…」


ブルー「やはり、やめた」


レッド「はぁぁぁぁぁ!?なんでだよっ!!」



ヒューズ「おいおい、術士さんよぉそりゃまたどうしてだ」

ブルー「気が変わった、それだけだ」



レッド「何言ってんだよ!アンタさっき協力しようって言っただろう」




―――パシンッッ!




レッド「~っッ!」ビリッ










   ブルー「貴様の名前が気に喰わん」








差し伸べた右手は…友好の挨拶は白い手で弾かれた、乾いた音が響いた船室…一瞬の静寂と張りつめた空気



 小此木烈人<おこのぎ れっと>…通称レッド少年は…目の前の男を睨みつけた
突然の仕打ちだった、此方に一体なんの非礼があったというのか、アイスブルーの瞳はゾッとする程に冷たく

それこそ、親の仇でも見るかのような眼つき…叩かれた手の甲の痛みも熱もサッと引いてしまう程に凍てついていた




ブルー「失せろ…俺は貴様らと共に行動はせん」


ヒューズ「…おたく、"赤"って単語に恨みでもあんのかい?えらく冷たい目だな」


レッド「なんだってんだよ…くそっ!」



ブルー「……」


ブルー「船が賊共に占拠されたままなのは此方とて都合が悪い、だが俺は俺で独自に行動する」

ブルー「分かったら、さっさと出て行け」プイッ



ヒューズ「…はぁ~、レッド、理由は分からんが奴さんは梃子でも動きそうにない、諦めようぜ」

レッド「…わかったよ」



スタスタ…



ブルー「行ったか…俺もアイツ等を探しに行かねばな」




レッド「何なんだよアイツ…」ブツブツ

ヒューズ「まっ、世の中色んな奴がいるってことだろ」



納得いかない、口に出さずとも表情で隣を歩く刑事に訴えかけるも「俺にぶー垂れ顔見せるなよ」と肩を竦められるだけだ
 感じの悪い陰気な奴に遭遇した、レッドはそう思って忘れることにした…パイレーツ共の事に切り替えようと…



この時、彼は思いもしなかったであろう





後に"家族の仇"が待ち構える建物に乗り込む際に、術士ブルーと手を組むことになる等と…






―――
――




白薔薇「厄介なことになりましたね」

アセルス「…うん、ルージュとはぐれるし、偶々逃げ込んだ部屋でこうして息を潜めたけど…」

白薔薇「海賊がまだ出歩いているかもしれませんからね…」


アセルス「まさか、あんなに強いのが沢山出てくるなんて思わないし、まだ大人しくしていよう」






―――ガチャッ



アセルス/白薔薇「!?」



アセルス「まさか――!この部屋に居るのがバレたのか!白薔薇は武器を持って私の後ろに下がって!」つ【幻魔】チャキッ






レッド「いてて…なんでこの廊下あんなに敵ががうろついてたんだ?この部屋は逃げ遅れた人は――――!?」



アセルス「海賊めっ!!出て行けぇぇぇ――――!!!」ブンッ


レッド「うわっ!?」



鞘に納めたままの【幻魔】を鈍器代わりにッ!アセルスは突然の来訪者目掛けて一太刀振り下ろすッッ!



レッド「ウオオオオオオオオオオオオォォォ!!」ガシィィン!

アセルス「なっ――素手で受け止められた!?」



真剣白羽取りであるッ!!



         レッド(あ…危ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!)グググッ!

       アセルス「こ、この…!離して!離しなさいっ!!」グググッ!



アセルスは腕に力を籠めるも、レッドが両手で掴んだ妖刀は大岩の下敷きになった西遊記の孫悟空のように抜け出せない









          レッド「ぐぅ、ぐぎぎぎぎ……あ…?…アセルス姉ちゃん?」


           アセルス「くぅぅぅぅ…って、ぇ…? うわぁッ」スポンッ! ――ドサッ








レッドは入室と共に襲い掛かって来た襲撃者の顔を見て、―――思わず手の力を抜いた

アセルスは鞘による殴打で気絶させようとした来訪者の声を聴いて驚き、―――引っ張った[妖魔]ごと後方へすっ飛んだ






レッド「ね、姉ちゃん!大丈夫か?」


アセルス「…?誰?」




尻餅をつきながら、自分を覗き込んでくる顔を見る―――自分の名前を知ってる彼を思い出そうとするが記憶に出てこない

ふと、自分は12年間も歳を取らずに意識不明状態だったのだからそれもそうかと思い当たった…記憶にある顔の筈が、無い




レッド「やっぱり!やっぱりそうだよ!!俺だよ、烈人…おこのぎ れっと!」

アセルス「おこのぎ――――」ハッ!





レッドにとっては、実に12年ぶりの…

アセルスにとっては、ほんの僅か数日前の…


―――奇妙な再会となったのである…




アセルス「烈人くん!ああ!小此木先生の所の烈人くんか!…大きくなったな~、いやぁ全然わからなかったよ」

アセルス「でも目の辺りなんか変わってない感じかな」



彼女がまだ人間だった頃、[シュライク]の街で普通に女子高校生として生きてた頃によく遊んであげた7歳の少年
確かに、よく見れば顔に面影がある…



アセルス「…てっきり海賊が来たのかと思って、ごめんね?」

やはり我慢できなかったか……まあアニー見捨てて脱出しないだけマシか

キグナスクリア直前でアセルスから木陰のローブ借りパクするのはいい思い出



レッド「ははは!さっきのは驚いたよ、昔のチャンバラごっこを思い出すなぁ~本当よく遊んでもらってさ」

レッド「姉ちゃん全然変わってないよな~髪の色は緑じゃなかったけど…」


 後ろ頭を掻きながら10歳年上の、それでいて憧れだった近所のお姉さんとの記憶を思い出して
レッド少年は気恥ずかしそうに笑った













そして、"違和感"に気が付いて、ピタリと顔に浮かべた笑みを消した








レッド「…い、いや、ちょっと待てよ、いくら何でも変だぞ!?」ハッ!







同じくしてアセルスの顔からも笑みが消えた、12年の時を経て、"自分を知ってる人"に巡り合えた安堵が失せた

分ってしまったのだ、そうだとも、…人間が、普通の人間が10年近く年を取らない筈がないのだのだから








レッド「どう見ても高校生くらいだ!!もう10年以上も前の話だっ!」


アセルス(…あぁ…)







悪意は、あったわけじゃない



好きで傷つけたというのでもない




誰が悪い、という話でもあるまい






レッド「貴様っ!何者だ!!」バッ!



レッドは飛び退き、大好きだった近所に住む憧れのお姉さんに化けた"何者"かに向け拳を構える










アセルス(…そう、だよね…私は―――私の存在は、"おかしい"んだよね…)








白薔薇と[ファシナトゥール]を脱し、故郷の[シュライク]へ帰って来た時…彼女は自宅で育ての親の叔母に会った

少しだけ老けた叔母に、10年近く前に行方不明になった―――死亡者扱いされた――娘と同じ姿の化け物が現れた






そう言われた時のアセルスの心情とくれば、胸の奥を抉られたような心持ちだった





そして、今…再び、自身の存在を否定された

人間じゃない、自分は【バケモノ】になってしまったんだと打ちのめされる想いを再び…っ






        白薔薇「お待ちください!」



レッド「あ、アンタは…」

ヒューズ「この船に乗ってたのか!」




白薔薇「この御方は…本当にアセルス様なんです、複雑な事情があって齢を取らない肉体となり眠り続けていたのです」


レッド「そんな眠り姫みたいな話を信じろっていうのか…ぃ…」




 眠り姫、童話のタイトルがパッと思い浮かぶような御伽噺<オトギバナシ>さながらな事を言われ率直な感想を述べたが


……そこまで言いかけてレッドは、ふと『宇宙の彼方からやってきた正義の味方に命を救われ変身ヒーローになった』と
自身も大概、夢物語な体験をしてるではないかと思い当たり、否定できなくなった





レッド「………」


レッド「ほ、本当に…姉ちゃん、…なん、だな?」



アセルス「…」…コクッ


レッド「…そ、そうか……ごめんよ、俺ヒドイ事言っちまった…」ペコッ





ヒューズ「はぁ~…お前らなぁ、今そんなこと言い合ってる場合じゃねーだろう」


ヒューズ「白薔薇さんに、アセルス、だったな……あの銀髪小僧と、もう一人は?」




銀髪小僧、…はぐれた紅い魔術師ともう一人…ヒューズにとって会いたくない人物ベスト1に入る女性を尋ねた



アセルス「それが二人共はぐれちゃって…」


レッド「? 知り合いが船の何処かに居るのかい?」


白薔薇「はい、金髪の女性と、紅い服を着た魔術師の方です…」




ヒューズ「まーた、船内にいる逃げ遅れの要救助者が増えたワケか」


ヒューズ「おう、二人共ここで待ってろよ…こういうのは野郎の仕事だからな、行くぞレッド」

レッド「ああ!アセルス姉ちゃん!それに白薔薇さんだったな!二人共此処に隠れててくれよな!」



アセルス「何処に行くつもり!」



レッド「ちょっくら船を取り戻しにだ!」

ヒューズ「ハイジャック犯を逮捕してボーナス貰うんだよ、かつ丼くらいは奢ってやるぞ」




アセルス「私達も行くわ!はぐれた仲間をどのみち探すつもりだったし、それに烈人君を放っておけない」

白薔薇「アセルス様の御命令とあらば御付きします」スッ




ヒューズ「…」ピタッ


ヒューズ「おい、こいつぁ映画やドラマじゃねーんだ、マジモンの実戦だ」ギロッ




アセルス「…私だって、戦える!」




レッド「…姉ちゃん」


BJ&K「…生体反応異常数値」ウィーン





レッド「…わかった一緒に行こう、いざとなったら、後ろに下がってコイツに怪我を治してもらう」

レッド「ヒューズ、今は戦力が欲しいんだろ?」


ヒューズ「……はぁ、わぁーったよ、好きにしろい」

―――
――




「ひぎぃぃぃぃぃぃ――――ギッ」ボッブジュシュッッ





 蟲型モンスターが悲鳴を上げたのは、頭部が光の牢獄に囚われたからであった
球体状の発光する檻は一瞬縮み上がったかと思えば勢いよく破裂した、"中身"と一緒に弾け飛び

後には頭部を失い、手足をバタバタさせる胴体が残った…脳が焼失させられても少しの間動くのは虫ゆえの生命力の高さか


それをやった張本人は手で鼻を覆いながら、血の匂いと醜いソレの最期の"もがき"から顔ごと背けた






ブルー「…気色の悪い奴らめ、…やけに屯って居るから乗客を閉じ込めているのかと思えば」



 階段を下り続けて、パイレーツの手下どもが妙にうようよ居る通路だと、…目的の人物が囚われているかもしれない
そんな可能性が浮かび、正面から出向き残さず駆除して行ったものの




ブルー「動力室か、…当てが外れたな」クルッ



宇宙船<リージョン・シップ>の心臓部と呼べる部屋を見張っていただけだったようだ





物言わぬ屍と化したモンスターの群れを横切り、階段を上がる

…彼は共に乗って来たアニー、ルーファスを求め船内を廻っていた






ブルー「…ん?」テクテク…ピタッ



ブルー(展望エリアに居るあの後ろ姿は…あの時のウエイトレス…確かユリア、と言ったな)






ユリア?「……」



ブルー(逃げ遅れか、一応世話になった身だ…適当な部屋まで連れてってやるか)テクテク


ブルー「おい」


ブルーはユリア、と思われる後ろ姿に声を掛けました…





           ユリア?「…ふ、ふふふ、うふふふ!まだ捕まってない乗客が居たのね」ニヤッ


たまに親切心を出したらロクでもない目にあうとかブルーさんマジふんだりけったり





くるり、その後ろ姿は此方へと振り向く



フリルのついた可愛らしいウエイトレス衣装も艶のある黒髪にもそぐわぬ顔がそこにあった






骨、それ以上でもそれ以下でも無い顔立ち…というか皮膚が無い、人間<ヒューマン>の肉体ではない



船内のスタッフルームから盗って来たのか、衣装を纏い鬘を被った[スケルトン]系譜のモンスターがそこに居たのだ








         ユリアに化けてた海賊「BINGO!」バッ!


          隠れていた海賊A「はーっははは!まんまと引っ掛かったな!マヌケぇ!!」バッ

          隠れていた海賊B「こうやって目立つ格好で突っ立ってればアホが釣られると思ったぜェ!」バッ







   化けてた海賊「くっくっく!我らノーマッド海賊団!死の属性トリオ!」

   隠れていた海賊A「俺達のチームワークから逃れられた奴ぁ今まで一人も居ないんだよォ!!」

   隠れていた海賊B「テメーの不幸を呪うんだなァ!!」








      海賊s「「「金目のモン頂いた後、ふんじばってやんよぉ!!覚悟しやがれッ!!」」」ヒャッハー!
















              ブルー「『<ヴァーミリオンサンズ>』」キュィィィィン!





 化けてた海賊「へっっぶぅ!?」
 海賊A「まそっぷ!?」
 海賊B「ギエピー!?」
 


ひどすぎるッピ!





ブルー「…なんだったんだ、今のは」スタスタ…





 やけに自信満々で襲ってきた海賊は見事なチームワークで他界した、横一列に並び最大火力の直撃で同じタイミングで
仲良く消滅したそうな…



―――
――






レッド「」キョロキョロ…

レッド「おっし!!VIPルームエリアは見張りが居ねぇ!皆!いいぜ!」サッ!



ヒューズ「ふぅーっ…VIPルームね、客室に酒のボトルでもありゃ景気づけに貰ってきたいモンだ」

レッド「[IRPO]本部に請求書出すぞおっさん」


アセルス「此処以外は全部見回ったの?」


レッド「ああ、レストランもユリアやBJ&Kが居た医務室、会計室…大体全部みたさ」

レッド「だから、その連れの人が何処かに隠れてるならこの階の可能性が高い筈なんだ」


ヒューズ「こっち側は来なかったからな…」





『VIPルーム扉前』






レッド「…みんな準備は良いか?」チラッ

アセルス「うんっ!」

白薔薇「はい」


レッド「海賊が待ち受けてるかもわかんないからな、せーので行くぞ!」

―――
――



【VIPルーム内部】



ルーファス「ふむ、それにしても君は運が良いのだな船内を逃げ回っていたら此処に辿り着いたとは」

ルージュ「いやぁ…本当に助かりました、仲間とはぐれて心細かったんです」」ペコッ、ペコッ

ルーファス「何、エミリアの知人ならそれくらいどうということはないさ、それで?行くのかね」


ルージュ「はい!外の様子も落ち着いたようですしそろそろ探しに行こうかと」

ルージュは秘術だから勝利に興味持つことはなくて残念だったなルーファス




 サングラスを掛けた男性にとう告げて彼は扉の前に立った、無論この部屋を出て仲間を探す為だ
しかし、彼がその扉を開けることは無かった


ガチャッ!バンッッ!


ルージュ「ほぐっ!?」ゴッッッ



鈍い痛みが頭部に走る、開けようとした扉が勢いよく開いた、開けたのはルージュではない廊下に居た人物だ



レッド「あっ…」




ルージュ「~~~っ」(頭抱えて蹲り)


レッド「そ、そのわりぃ…」アセアセ




 扉の眼と鼻の先に誰か居るとは思わなかった、その人物が海賊共の仲間かどうかは知らないが
レッドはそれよりも先に罪悪感が勝り、相手を警戒よりも謝る事を優先した…



この時、ルージュは顔を伏せていたから瞬時には気づかなかった




"さっき"見た顔と瓜二つだ、と




アセルス「ルージュ!ルージュじゃないか!」

白薔薇「まぁ!こんなところにいらっしゃったのですね!」



レッド「えっ!?ってことは探してる人なのかい?」

ルージュ「う、うっ…その声は、二人共無事だったんだね…」


レッド「あー、ルージュ…でいいんだよな?その、本当ごめん、まさかドアの前に居るとは思わなくて」

ルージュ「い、良いんだよ、僕も悪かったから…」スッ






レッド「!?」ギョッ


ルージュ「…? 僕の顔に何かついてるの?」



レッド「ぇ、あ、違う…けどよ…」



"すこし前に会った感じの悪い奴"と似通った顔

ただ、アイツよりかは眼つきがきつくなくて、なんだか温厚そうな人柄だな、と少年は思った
涙目で見てくるのと、罪悪感の所為かもしれないが…

 兎にも角にも彼がルージュ、という人物に対して抱いた感情は対立的ではなかった
ブルーの不遜極まりない態度の後でもブルー似の顔に悪い感情を持たなかったのであった



レッド(…にしても、似すぎだろ)

レッド(世の中、自分にそっくりな人間が3人は居るってよく言うけどなぁ~)マジマジ




マジマジと銀髪の魔術師を眺める



蒼い法衣、金を束ねた髪…凍り付くような鋭い眼差しと人を寄せ付けない冷たい雰囲気


紅い法衣、流れる銀の髪…どこか人懐っこそうで誰とでも手を取り合ってくれそうな人柄




まるで正反対だ、なのに…"似ている"のだ、不思議なことに



白薔薇「あのー…彼がどうかなさったんですか?」

アセルス「あ!わかったぞ…そりゃ確かにルージュは女の子みたいな顔してるし初見じゃわかんないよね私も間違えたわ」




勝手に自分の中で答えを出して勝手に納得するアセルス姉ちゃん

…そう考えるのも無理はないだろう、まさか彼の双子の兄とこの船で出会いましたなどと普通思わない、世の中狭すぎだ




ルージュ「えぇ…僕、男だよ…」ゲンナリ




またか、また間違われたのか…、げんなりとした表情でアセルスの言葉に続けていく術士


そんなコント漫才染みた緊張感の無い会話が繰り広げられる中、ヒューズが1人の男をじっと見ていた…








ヒューズ「‥ほー、まさかお前が乗ってるとはなぁ、ルーファス」ニヤリ

ルーファス「…腕利きパトロールがこんな所でなにをしている?さっさとシップを取り戻せ」






方やエリート警察、方や裏社会の組織の幹部…




ヒューズ「今やってるとこだ、実を言うと戦力がちと足りてなくてな、どうだ?協力しないか」

ルーファス「…"連れ"が奴らに捕まったようだ、協力させてもらおう」ハァ…





"連れ"……サングラスの男は金に煩い部下の女と、スーパーモデルの顔を思い浮かべながらため息を吐いた





レッド「って!オイ!おっさん同士で勝手に話を進めんなよ!」


ヒューズ「お前等が漫才やり始めたからだろーに」

ヒューズ「それにな、こいつは結構使える男だぜ」


ルーファス「君は?」


レッド「レッドだ、こっちは医療ロボのBJ&K、それから…」



アセルス「アセルスよ、彼女は白薔薇」

白薔薇「以後お見知りおきを」ペコッ



ルーファス「…ふむ、とすると君達がエミリアの言ってた連れか」


ヒューズ「」ギクッ


ヒューズ「な、なぁ?ルーファス、この船ってエミリアどっかに居んのか?」

ルーファス「居る、というよりも捕まっている連れの1人がそうだ」




ヒューズ「そ、そかー、たははは…」

ルーファス「お前の自業自得だ、IRPO隊員の特権で裁判なしに留置場送りにしたんだ半殺しくらい覚悟しとけ」


ヒューズ「うぐっ!?…海賊共を逮捕したら即逃げるわ…」




ルーファス「さて、よろしく頼むよレッド君達」




 妖魔2人、メカ1人、そして人間<ヒューマン>が4人…これだけの人数ならば海賊に太刀打ちできなくも無い
戦いに置いて必要な物は古来より『数』と謂われている


かの異世界<リージョン>でもとある老人が『どんな勇者も多くの敵の連係には耐えられんものだよ』と格言を残す程だ




必要最低限の人員はそろったかもしれない、だがそれでも後もう一押しだ

 敵だってアホじゃない真正面から行けば敵の[ガンファイター]共の火線真っ只中だ
それこそ飛んで火にいるナントヤラで蜂の巣にされてしまう




白薔薇「それで、どうなさるおつもりなんですか?」

ヒューズ「ああ、クソ真面目に行きゃ、あっという間にお陀仏だ…他に通路ねぇのか?」




レッド「他に…」ウ~ン

レッド「…」



レッド「いや待てよ!確か下の方に非常用の通路があるんだ!船がドライブ中でもそこからなら!」ハッ!


―――
――



【キグナス号:操縦室】


ノーマッド「"ブツ"の積み込みはまだ終わらないのかいっ!」


海賊A「もう少しですお頭」


ノーマッド「ったく、チンタラしてたらサツが来ちまうだろうに」


ノーマッド「ま、いざとなりゃあこの人質共を使うがねぇ」ニィ




「ひっ!」ビクッ
「なんで…こんなことに、私は旅行を楽しんでただけなのに」グスッ


海賊B「ぶつくさ言ってんじゃねえぞ人質共!撃ち殺されてぇのか!ああ"?」ジャコッ



「ひぃぃっ!!」
「~~~っ」プルプル

アニー「…」
エミリア「…」

「こ、殺さないで…」ガタガタ


海賊B「けっ!」チャキッ、スタスタ…




「もう、もうやだよぉ…」
「うっ、ううっ…」

エミリア「…アニーごめんね、私が脚を挫いたりしなきゃ逃げれたでしょ?」ヒソヒソ


アニー「ダチ見捨てて逃げる程アタシは腐っちゃいないよ」ヒソヒソ


アニー「何度も一緒に組んでヤバい橋を渡った仲じゃんかよ、だから今度も運命共同体って奴だわ」ニィ


エミリア「アニー…」

アニー「大丈夫、まだルーファスや…期待していいか分かんないけど知り合いの魔術師が居るわ」

アニー「海賊共が吠え面かくのを楽しみにしましょう」フフッ


エミリア「ふふっ、それもそうね、こんな時だからこそ前向きにならなくちゃね」




―――
――



【双子が旅立ってから3日目 午後16時10分  キグナス号:非常用通路前】


レッド「着いた、ここがそうだ」

ルージュ「此処から、操縦室に行けるの?」

レッド「ああ…けど、覚悟を決めた方がいいぜ」

ヒューズは一度ちゃんとエミリアに半殺しにあっといたほうがその後の責任回避的にいい気が……



レッド「この非常通路を通れば操縦室に辿り着ける、…海賊もまさかこの通路から人が来るなんて思わない」

ルージュ「うん?そういう場所程普通は警戒するんじゃないの?」



 至極尤もらしい意見だ、機関室から配管をよじ登った所にある業務員しか知らない隠された緊急脱出用通路なら兎も角
こんな船内の誰の眼からも見える位置に堂々と扉があるのだ




レッド「言ったろ、覚悟決めた方がいいって」

レッド「このドアの向こうは"船外"だ…混沌<宇宙空間>の海をドライブ中に宇宙船<リージョン・シップ>から出れば…」



ヒューズ「おいおいおいおい!ちょいと待てって…この船は普通に渡航中だせ?」

ヒューズ「んな状態で外になんざ出たらどうなるか分かってんのか?」





混沌の海…見渡す限りが闇である空間、星々<リージョン>の合間にある暗黒の海


そんな所に生身の生物が出れば瞬時に身体が圧縮され、最後は消しゴムになって消滅する…塵どころか脳細胞1つ残らない




ヒューズ「混沌に飲み込まれるのはごめんだぜ、まだ敵さんの弾掻い潜る方がマシってもんだ」


カンベンしてくれよ…と大袈裟に腕を振るう、他の面子も顔色は優れない



レッド「俺にも詳しいリクツは分かんないけど、船の周りにリージョンと同じでフィールドが張られてるんだ」

レッド「だから短時間なら外に出ても大丈夫だってホークが言ってたんだ」



 機関士であり上司の言葉を口にするレッド少年、この非常用通路は本当に有事の際にしか使われない
仲間が述べているように、生身で混沌の海に出るのだ


 短時間は大丈夫だと言っても、"あくまで短時間"だ…道中で立ち止まったり、何か躓いたりしようものなら
その場で身体は圧縮され、暗黒海の地平線の遥か彼方に消え去り、THE・ENDである




ルーファス「立ち止まらずに駆け抜ける、そういうことだな」


アセルス「うっ…それしかないんだね」



レッド「姉ちゃん…危ないし、今なら引き返せる、俺達が後はなんとかすっからさ」

アセルス「…いや、私も行くよ!」


ヒューズ「はぁ…腹括るしかねーな」





一同は、扉の前に立つ…レッドが戸を開ける為に手を伸ばす…後ろで息を飲む音、駆け抜ける準備をする者

…全員が覚悟を決めた




…ペタペタ


カモフック「お頭~!」ペタペタ





彼は[カモフック]見ての通り、モンスター族でありノーマッド団の一員である

http://epsaga.sapp-db.com/zukan_det.php?no=512&tid=2
※参考画像


 海賊帽子を被り、右腕が"フック船長"宛らの鉤爪で二足歩行で語尾が「~カモ」という団員きっての愛苦しさである
キュートな足をペッタペッタ鳴らしながら彼はノーマッドに積み荷の積み込み作業が終わった所を報告しに来たのだ



カモフック「"ブツ"の積み込み終わったカモ~!」

ノーマッド「あぁん"?終わったかもぉ?ハッキリしなこのバカチン!」バキッ


カモフック「ふげっ!?い、痛いカモ…」


ノーマッド「荷物運ぶのに時間を掛け過ぎだよ!仕事は迅速にやんな!」

ノーマッド「…チッ、パトロール隊員の小型艇がこの船に取りついてたって報告が今更来たんだ…」

ノーマッド「こうして正面口に[ガンファイター]を配備して見張っちゃいるが…どーにも嫌な予感だ」




 腕を組み、女海賊は苛立ちを隠さないでいた
海賊の勘が知らせている、雲行きが怪しいと……パトロール隊員もそうだが、それ以上に操縦室のモニターに映る
混沌の地平線を彼女は眺めていた…


何も見えない、映らない暗黒の宇宙…胸騒ぎはその深淵の先にあるようでならなかった



ノーマッド(…なんだってんだい、援軍のパトロールでも来るってのかい…)





闇の向こうに、何か、自分達のとって好からぬ者がいる気がしてならない

嘗て、海賊として強奪を行った帰り道[タンザー]に飲み込まれたあの日のような…言い知れぬ悪寒がするのだ




ノーマッド「気分が悪いったらありゃしない、おい!カモ!酒持ってきな!」イライラ


カモフック「わかりましたカモ…」トボトボ








結論から言おう

リージョン強盗団、ノーマッドの勘は正しかった





今、この瞬間も離れた宇域からキグナス号の様子を監視する一機の機影がある

…それは軟骨魚介類の鱏<エイ>の様な形をした漆黒の機体であった

勘が良くても回避しようがなければなぁ……





ガチャッ!ドタドタドタ…!





カモフック「…?なんか下の階が騒がしいかも」ペタペタ


カモフック「かもっ!?!?」








ヒューズ「動くな!パトロールだ!全員手を上げろ!」カチャ!


ノーマッド「なっ!こいつら…どっから沸いて出たんだいッ!カモ!やっちまいなっ!」バッ!

レッド「あっ、待て!」



カモフック「行かせないかもぉ!!」ガコッ ヒュッ!





 気の抜けた声とは裏腹に、茶色の体毛を逆立たせ海賊の一員は敵意を"文字通り"飛ばして来た
先述したが[カモフック]の右腕は鉤爪になっており、彼奴の右腕は着脱が可能なのだ

右脚を前に出しのめり込むように踏み込んで、その勢いを活かしながら右手首を軽く曲げる
投球でスナップを利かせて変化球を投げるのと同じ様に…


金属製の鉤爪は遠心力を伴い、空を切りつけながら舞う、彼奴の独自の戦法[ブーメランフック]だ!



   レッド(!? 腕を…金属の腕を飛ばして来やがったッ!)









           -『へっ、面白れぇもんみせてやるよ!ゆけぃ!![クロービット]』 -






   レッド「…っ、義手を…飛ばす…攻撃っ!」ピタッ





ふと、彼の脳裏には1つの風景が思い起こされた、炎上する自宅、白髪の大男…あの忘れもしない家族の仇の顔がッ!



ヒューズ(あんの馬鹿っ!何棒立ちしてんだ!)

ヒューズ「レッド!避けろォ!」


レッド「―――ハッ!う、うわぁぁ!」







        アセルス「――-―危ないっ」ディフレクト!

         レッド「ね、姉ちゃん!?」





ヒューズにも、ルーファスでさえも反応しきれない速度で前に出る人物が居た
 それは引き抜いた妖刀と人ならざる者の血が混ざったアセルスだからこそ可能な反射速度であった

女性の細腕が繰り出したとは思えない劔の一閃、刀身は輝く義手を弾き飛ばし幼馴染の身を守る盾となる



カモフック「おおっ!?や、やるぅかも~!」バッ!カポッ、カチャッ タァン!タァン!


二足歩行の鴨はその場で高く飛び上がり器用にも宙に跳び、そのまま弾き飛ばされた義手を手首が離れた右腕に装着する
 左腕のライフル銃で銃を撃ち始めたヒューズ、[サムライソード]片手に接近を試みるルーファスを牽制しながら



レッド「姉ちゃん…すまねぇ!油断した!」

アセルス「気にしなくていい!白薔薇!ルージュ!アイツの動きを!」



白薔薇「はい!」ポォォォ!
ルージュ「任せてよね!」キュィィン




ルージュ「『<エナジーチェーン>』

白薔薇「其、御心は我の前に伏せよ!―――『<ファッシネイション>』」





深紅の魔術士は指先から人の念動力による鎖を――

薔薇の淑女は妖魔が扱える妖<あやかし>の魅了術を―――



                           ―――――それぞれ、放つッ!





ヒュッッ バチィィ!!


カモフック「はぎゃぁッッ!」ビリィィ!!



金属製の鉤爪の先端部に念の鎖が絡みつく、そして身体全身に伝わる電流に鴨は身を焦がし…
 プスプスと焦げ臭い匂いを漂わせる彼奴の瞳にハート型の薄いピンクの光が飛び込んでくる



カモフック(―ぉ、ぉあああぁつ!!)クラッ




がくがく、と脚を震わせ、惚けた顔で天井をぼんやりと眺める海賊…淑女の放った魅了魔法にに骨抜きにされた彼目掛けて




          BJ&k「圧縮レーザー、発射します」ピピッ ビーーーッ!!



 光学兵器の輝きは真っすぐ、[カモフック]目掛けて飛んでいく




    ボジュッッッ!!



 アセルスの剣技や白薔薇の妖術、ルージュの『<エナジーチェーン>』…ヒューズの体術やルーファスの[稲妻突き]
そしてレッドの鍛え抜いた拳による一撃


 この面子の中で恐らく尤も高火力であろう物騒な代物を搭載した医療メカは惚けた顔で棒立ちの鴨を
こんがり焼けた香ばしい北京ダックに変えてやった




カモフック「…ゲホッ…やばい、かも」




嘴を開けば、喉の奥から真っ黒な黒煙が出てくるという漫画タッチな見た目と化した彼は今更ながら数の上での不利を悟る




カモフック「し、下っ端かもーん!!」ダッ!







ソルジャービル×4「「「「キィーーーーッ!!」」」」





レッド「あっ!あんにゃろう手下を呼び出して自分だけ逃げやがった!」

ルージュ「くっ!!マズイぞ…アイツ、人質が居るところへ向かったんだ!」


ソルジャービルA「キッキィー」ダダダダッ



 槍の先端に勝らずとも劣らない[クチバシ]を吐き出す様な姿勢で突撃を始める兵隊達
それを蹴り飛ばすレッドとヒューズ、嘴を刀の鍔で受け切って殴りつけるルーファス、単純な戦力で言えばこの様に
攻撃を防ぎつつ返り討ちにてきる程度……


つまり、何ら問題無く倒せる"雑魚"だ




本当に単なる時間稼ぎだ、…そう逃げ出した鴨にとって時間さえ稼げればいいのだ














人質の首元に刃を押し当て戻って来れる時間だけの時間さえ稼げれば…っ!!




カモめ、大人しく北京ダックになっていればよかったものを……


 リージョン強盗団、ノーマッド一味は悪運の強い奴か否かで言えば…まぁ強い方なのだろう
[タンザー]に飲み込まれても、"指輪"を探しに来た緑の獣っ子たちに助けられることもあり、こうして外に運よく出れた


そんな彼等も今日ばかりは運に見放されていたのかもしれない



 レッド少年、武装した医療メカ、刑事のヒューズ、妖魔二人組に紅き術士、裏組織の幹部…早々たる顔ぶれが
寄りにもよって今日同じ船に乗り合わせたのだから



カモフック「これで逆転のチャンスかもー!今に見てろ~」ペタペタ…!



そして、人質が一か所に集められているスペースに裏組織の構成員が二人、つまりアニーとエミリアである












カモフック「…かも?」








     ガンファイターの残骸×2『  』プシュー プスプス…







そして、…そして、もう一人




この船には寄りにもよって、厄介な人物が後1人、乗り込んでいる



…非常口から突っ込んで来た襲撃者たち以外に、まさか"それとは別で単独行動してる奴"が居るとは思わなかったのだ












        ブルー「…ほう?蛻の殻だったからな、人質を置いて海賊共は皆逃げたと思ったが…」

        ブルー「ちゃんと見張りを置いていたようだな」








…神は言っている、オマエは此処で北京ダックになる定めだと

まるで逃げた先にケンシロウでも待ち構えているかのような絶望感

逃げ出した先に楽園なんてありはしないのさと言わんばかりの絶望

ある意味なおさら悪いところに突っ込んだなww

知らなかったのか?大魔王からは逃げられない

期待

―――
――




アセルス「うぐっ…!」ズサァァ!!


ソルジャービル「クワアアアァァァ!!」ヒュッ!











ルーファス「背がガラ空きだ」ザシュッ!スパッ



 ソルジ/ャービル「 」(真っ二つ)



アセルス「あ、ありがとうござい「身の丈に合った武器を使え、でなくばいざという時に死ぬぞ」ダッ!


アセルス「っ!」



 これまで、幾度となく戦闘を重ねてそこそこ戦える力を得たと思っていた…
手にした妖刀[幻魔]も最初期と比較すれば扱えはしていた


 だが、わかる人間には分かるのだ、"アセルスは剣に引き摺られている"っと
達人の眼から見れば使用者の技量が武器と釣り合わないと



ヒューズ「おう、あんま気にすんなよ野郎はいつもあんな感じでな、昔っからデリカシーってのがねぇのさ」ガシッ バキィ!

ソルジャービル「ほか"っ」ゴキャッ




 鋭い[クチバシ]の突きを繰り出して来た兵の下顎から脳天をぶち抜くようなアッパーカット
頭部が天を見上げるを通り越し背後を見据えるようになった、脊髄があり得ない曲がり方をしている…



ソルジャービル「」ドサッ



ヒューズ「ふぃーっ…朴念仁なんだよ野郎は、あんなんだから13歳年下の鉄の女に関節技キメられんの、さッ!!」ブンッ!




ソルジャービル死骸「 」グワァン!!


ヒューッ!ドガッ!!! ぐべぇ!? ドシャァァ!!




BJ&K「レーザー標準、OK、発射します!」ギュィーーン!



チュドーン! ぎぃびぃいいいいいい!?!?



ルージュ「大分…よっと! 数が減って来たね!!」サッ! ゲシッ!!


 突っ込んで来た敵を避けに蹴り飛ばし、それをすぐ傍で彼同様に術で援護していた白薔薇が切りつける
サングラスを掛けた男が一刀両断した個体、不良刑事の剛腕で撲殺された者…



レッド「どっせいぃぃぃ!!!」シュバッッ!



ソルジャービル「ぅぎゅッ!!―――ぎ、ぎゅ」バタッ




ソルジャービル「き、キィイイイイイイイイイイイイイイイ!!」



 残すは1体、次々と倒れる同胞を見て破れかぶれとなったか
見境なく突撃を繰り返す…此処までくれば勝敗など決まった様なものだ



ルーファス「ヒューズ!行けッ!道を塞いでいた障害は粗方排除した!コイツ1体どうという事は無い!」



先の[カモフック]が人質を取って戻ってくれば戦局は一変、此方は手出しもできず一方的に嬲られる可能性はあり得る
 敵の半数以上は既に落ち、この状態であれば人員の一人二人追跡に欠いたとしてもさして問題は無いだろうと判断した



ヒューズ「へっ!あんがとよ!お前ん所の店で今度お高いメニュー注文してやるよ!」ダッ!


ルーファス「注文するより飲み食いしたままのツケをいい加減払え!」バッ!カキィィン!!ブンッ!






ルージュ「アセルス!レッド!僕がルーファスさんを援護する!君達も行くんだ!」

白薔薇「この中で脚が速いお二人ならば間に合います!さぁ!」



レッド「すまねぇ!恩に着る!BJ&Kお前も来てくれ!」ダッ!

アセルス「分かった二人共!後で合流しよう!」バッ!

BJ&K「了解、戦闘行為を一時中断します」ウィーン!




 捜査官ヒューズの後をレッド、アセルスが追い、人質に万が一の事があった場合を考え医療ロボを連れて戦線離脱をする

 持久走なら術士の自分よりも体力がある少年少女(後、疲れという概念が無いロボット)に任せるのが賢明だろうと
紅き術士は、未だ死に物狂いで抵抗を続ける[ソルジャービル]と対峙する壮年の援護に回った



―――
――




タッタッタ…!


ヒューズ「…?なんだぁこりゃ」



        北京ダックにされた者「 」ブスブス…



ヒューズは困惑した、鴨が一足早く人質を確保し最悪の展開を想定していた為…これは何とも面食らった様な感覚だ



[カモフック]はもう何処にもいない

代わりに黒ずんだ鴨肉が焦げ臭い匂いを漂わせながら転がっているだけだ




よく目を凝らすと顔が"あった"と思われる部分から、此処で恐ろしい何かがあったのだろうと苦悶に満ちた表情が伺えた




レッド「ヒューズぅぅぅ!!…ぜぇ、ぜぇ…!人質はみんな無事なのか―――…?えっ、こいつは…」

アセルス「…うわっ…なにこれ、死んでる………うっ」




 犯罪者ではあった、しかしながらさっきまで生きてて人語を喋ってた生物が此処まで惨ったらしく死んでいるというのは
流石にキツイ光景であった、モンスターの命を奪うことを体験して来たアセルスお嬢でさえ口元を覆う死にざま



BJ&K「…ピピッ!生体反応なし…」

BJ&K「死因、焼殺、外肉に留まらず、胃腸、肝臓…内肉まで完全に焼かれていると判断、死亡推定時刻は…」





ヒューズ「…こりゃあ、本当にすぐのすぐだった見てぇだな、まだほんのり熱が残ってらぁ」ピトッ



死骸に手を触れ、それからカモフック……だったモノ、の瞼をせめて閉じさせる

眼を見開いたまま絶命していて、食品店で売ってる水揚げされた魚…いや、調理済みの塩焼きみてーな目だと思った




「ひ、ひぇぇぇ…!」ガクガク!

「う、うわぁぁぁ…!なんだあの死骸はぁ!?」



ヒューズ「んん?…人質の皆さんか? あー!うぉっほん!皆さん!落ち着いてください!IRPOの者です!」バッ!



刑事が[IRPO]捜査官であることを証明する腕章を見せ、解放された人質を宥め始めた
 聞くところによると、金髪の中世的な顔立ちをした人物が部屋に入って来て、人質一人の縄を解いた後




 『何があったか知らんが、見張り一人置いて海賊共は撤退したらしい…無駄に疲れた、俺は自室で寝る、後は任せたぞ』




とだけ、知り合い?らしき金髪の女性にそれだけ告げて足早に去っていた、らしい


「あ、あの死体…あの刑事がやったのかな?」ヒソヒソ

「うわぁ…ヒくわ…」ヒソヒソ



ヒューズ(えぇ…なんか、俺が虐殺したみたいな流れになっちゃってるよオイ…)


なんだこれ懐かしいうえに面白い
期待



ヒューズ(捕まってた人質に怪我人は無し、か…)


ヒューズ「負傷者はいねぇ見てぇだ…おいレッド!逃げたノーマッドの奴を追――」チラッ









エミリア「けほっ、けほっ…ちょ、ちょっとなによ、この焦げ臭い匂い…」

アニー「うえ…っ、本っ当鼻にくる匂いじゃん…くっそ、ブルーの奴~…助けに来たかと思ったら人に全部押し付けて」









ヒューズ「レッド、ノーマッドを追うぞ、めちゃくちゃダッシュで」ガシッ


レッド「えっ、お、おわぁ!?」


アセルス「あっ!?ふ、二人共!?」



<嬢ちゃんとメカは人質の面倒みてくれーーーッ!





 ぞろぞろと部屋の奥から出て来た人質の皆さん、その中で一人、ブロンド髪の美人を目にするや否や逃げるように刑事は
走り去っていった
 後には唖然とした顔で残されたアセルスと、テキパキ人質の健康チェックを行う勤勉な医療メカの姿あった




―――
――


【双子が旅立ってから3日目 午後17時37分  キグナス号:展望デッキ】



レッド「くそっ!」ガンッ


 逆立った黒髪の少年は握り拳を作り、下唇を悔しそうに噛んでいた…そんな彼の横に立つ刑事はデッキの窓から
遠ざかっていく1機の船体を眺め心底、憂鬱そうに溜息を吐いた


ヒューズ「逃げられちまったな、積み荷は奪われちまってこれであの会社がクロだって証拠はパーだ」


ヒューズ「…後は何処の惑星<リージョン>に逃げるか知らんが海賊共をとっ捕まえて吐かせるしかねぇな」


…めんどくせぇ、とぼさついた髪を掻きながら、「エミリアとは相乗りだし、今日も厄日だぜ…」と彼は呟き
窓硝子から背を向けて退室しようとした直後であった




  レッド「!? ヒューズ!!なんだあれは!!」





逃げた海賊の船に近づく1機の黒い機影をレッドが見つけたのは―――!

逃げ足早いなヒューズ……



混沌の空間を漆黒の鱏<エイ>が泳いでいた、バーニアスラスターを吹かし白亜色の炎が箒星の輝きを創り前方へ進む



プロペラ式の海賊船とステルス機能を始めとした科学の最先端を織り込んだ漆黒の機体では距離が縮まるのは当然であり
 魚介類を模した機体は生物で言う口にあたる部位を海賊船に向ける



バチッ



星が弾けたような眩さだった、喩えるならば夏の夜に火をつけたばかりの一本の線香花火


見渡す限り闇しかない空間で光の華が咲いた






漆黒の機体から放たれた破壊光線は、寸分違わず"獲物"を花火にしてしまったようだ


一瞬の光、上がる火の手、赤々と上がる火柱にミニチュア人形の影が、遠目に見ていた彼等の眼には映った






…混沌<宇宙空間>の中を、―――生物が生きられない空間で生身の人間が船から放り出されたらどうなるか
それこそ先刻、レッドが全員を引き連れて、非常口から突入する前に説明した通りである




ヒューズ「…あれは、"ブラックレイ"…捜査官の間でも与太話だと噂されていたが…実在したのか…」


ヒューズ「ブラッククロスの戦闘シップが…!」



レッド「…ブラッククロス」ピクッ




両親と妹の仇である悪の秘密結社の名前…レッドはそれを聞いて青筋が浮かぶ想いだった



レッド「…キャンベル社長と、ブラッククロス…」




少年も刑事も考えることは一緒だった、あまりにも状況が出来過ぎている

武器の売買を行っていた会社の女社長からのリーク

それで積み荷(密輸武器)を奪いに来た海賊…

その海賊船を粉微塵にした犯罪組織の戦闘シップ



ヒューズ「…ま、あの女社長はクロだと睨んでたがね、目論見通り証拠は隠滅、ってことか」

レッド「シーファー商会」ボソ


ヒューズ「あ"?」


レッド「言ってたろ、[クーロン]のシーファー商会ってトコと取引してるって、キグナス号の次の目的場は[クーロン]だ」


レッド「…ブラッククロスとキャンベルは繋がっている、となればその商会も怪しいもんだ、停泊中に降りて調べてやる」

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       , -/  rュ  レ'´  \: : : : :\  \
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     ,:⌒7 l rュ    . -‐   ___V‐:': : :,ハニニム
      ー{   ー─一 ´  . -=ニニニ -=≦ニ}ニニj
       ≧=-------=ニニニニニニニ} ̄ ¨¨¨  ̄
          ̄ ̄ ¨¨¨¨¨¨  ̄ ̄



 T-260G「…ゲン様、私達出番が少ないです」

 ゲンさん「うぃーっく!酒だ酒ぇ…」





              今 回 は 此 処 ま で !!  次回 3章



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ゲンさんは秘術で出番があるだろうがT-260Gは……

乙乙!

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  何か忘れてると思ったら、リージョン強盗団 ノーマッドに関してのちょっとした解説を書き忘れてた




 【リージョン強盗団ノーマッド】は作中で登場する場面が大きく分けて2カ所です




 ① キグナス号

 ② タンザー




 サガフロは7人の主人公が居て、プレイヤーはその7人から1人選んで各主人公のシナリオを進めていく

 当然選んだ主人公次第では発生しないイベントやそもそも行けないリージョン等もある


例)クーンが[ファシナトゥール]や[時間妖魔のリージョン]に行けない等



原則的に一部を除いて術の資質集めイベントは誰であっても行うことは可能です

その中で"印術"を得る為、各地にある石の試練を通過する際、必ず[タンザー]には立ち寄ることになります





印術の試練を開始して、[勝利] [解放] [保護]何れかのルーンを1つ取得した状態でシップに乗ると強制的に

事故率が高いと(悪い意味で)有名なシップ、スクイッド型に搭乗します…



タンザーに飲み込まれ、そこで開幕早々にノーマッド一味に絡まれるというのが全主人公共通のシナリオです


※主人公によってはノーマッド一味の部下と戦闘になる

正義感の強い、クーン、アセルス、レッド等は乗客を脅す部下たちに突っかかり


逆に、我関せずのスタイルを崩さないブルー、呆れ顔で静観するエミリア、穏便に済まそうとするリュート等々…











さて、既にお気づきかもしれません…






>※主人公によってはノーマッド一味の部下と戦闘になる
>正義感の強い、クーン、アセルス、レッド等は乗客を脅す部下たちに突っかかり





レッド主人公の場合、自由行動が可能になるのはキグナス号強襲事件の後です…タンザーに行けるようになるのはその後


そう… "ブラック・レイによって粉微塵にされたはずのノーマッドが平然とタンザーの内部に居るのです!!"


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 タンザーに飲み込まれた後のレッド自身の台詞からも、あの時のパイレーツか!と発言する辺り

 サガフロ時系列的にノーマッドがタンザーに飲み込まれたのはキグナス強襲後の出来事…











 つまり、船が砲撃で粉微塵にされ、全員が混沌の海<宇宙空間>に放り出された直後

 死ぬより早くタンザーに飲み込まれ助かるという悪運の強さが分かるワケですね…



 女頭領、ノーマッドの悪運高さはこれだけに留まらず


 彼女が持つ【全て集めるとどんな願いも叶う魔法の指輪の1つ『盗賊の指輪』】を求めて来たクーンに追い詰められ


 タンザー内部の消化器官に喰われ、一定ターン以内にタンザーの器官を戦闘で倒せないと
 ノーマッドが飲み込まれるという結果に終わるのですが


 何故かクーン編のEDで普通に生存してる姿が確認できるという…







            \  すっごーい!   /

                     i`ヽ   ,`ヽ
            ,,,-、   .iヽi  ヽノ   }
            |  ` ‐-+、        i,-,  ,ノ⌒i
        __,-‐―!    { `ヽ :::.  _,,{_ノ_ i   }
       ヾ、:.:.:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.ヽ   ヽ、., '     ヽ、__{
          ,‐ミ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ、   ノ            }
        ,-‐'  `ヽ‐-:::::::::::::::::::_{`´   ,、        ノ
      `ヽ、:.:.:.:.::.:.:::::::_,. -‐ ´ }    | ` 、   / {
         ` ‐- 、;;;;:{     人  {  ● ` ´ ●
              ヾ   } (  ヽ-、!        ノ
               }  ├i `‐-、  ` --─一´
           ,-‐‐´  _ノ .|  { !,, ,,-‐''´
           {`‐-< ̄   .{  {  X  } ヽ
           ヽ  ノ       ヽ_>‐{ !⌒   ヽ
            `´           { ノ''ヽ ̄`―´
                     `‐、  }
                       `´



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異能生存体かな?

星の海を股にかける大海賊だから多少はね?



 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
銅貨を数枚手渡し、これ見よがしに、それでいて贅沢に茹だる様な暑さに苛まされる者に見せつけて喉を潤す住人




 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が石畳の広場を歩き、木陰でお互いに笑い合っていた






    『そのおもちゃよっぽど気に入ったんだな』ペラッ
    【そーれ!バーン!バーン!…えへへ!露店のおじさんがサービスでくれたもんね!】カチッ!


    『ああ、何故か服を着てない女の本を返しただけでな』
    【不思議だよねぇ~、キミはその[ワカツ]の剣術の本面白いの?】


    『そうだな…魔術とは違い、闘気というモノを操る剣術は興味深い』
    【剣かぁー僕は運動神経よくないからなぁ…それに剣より銃の方が何か恰好良いもん】カチッ!カチッ!


    『フッ、飛び道具など術があるだろう、実用性を考えれば懐に入られた時の為の剣が良いに決まってる』
    【むぅ!意見が別れたね…】








    『…久々に笑った気がするな』
    【えっ?】






    『学院で同じ歳の奴らと話してて此処まで楽しいと思ったことはなかった…本当何故だろうな』

    『心が晴れ晴れとしているんだ…なんで安心するんだろうな』
    【……へー、不思議、僕もなんだか安心するんだ】


    【なんだかずーっと昔に落として無くなっちゃった宝物をタンスやベッドの裏で見つけたみたい】


    『…ぽっかりと、空いた何かが埋まった感じ、か?』

    【! そーそー!すごいね!今僕の考えてる事と同じだよぉ!…いやぁキミ人の考えを読むの巧いね】



    『いや…そうじゃないんだ…別にお前の思考を当てたワケじゃない…ただ』
    【?】






    『俺が、純粋に今、思ったことなんだ』


―――
――













パチッ…


         …? …あぁ、そうか鴨肉を焼いた後、アニーに丸投げして仮眠を取るため客室に戻ったんだな














時計は……【20時15分】…とんだアクシデントに見舞われたモノだ


陽の高い内に[クーロン]を出て帰って来るのが夜中とは…






…丁度今、発着場に着陸するとアナウンスも流れて来た…荷物を持って降りる支度でもしておくか









           ※ - 第3章 - ※



    ~ 資質を得る、という事…ぶらり、いい旅夢気分 ~




いよっ!待ってました!

素早い復帰で嬉しい
続きも待ってます!

【双子が旅立ってから3日目 午後20時28分】




 仮眠を取り、目覚めてすぐの身体は節々がまだ少し鈍ったように思えた
術士は気怠げに蒼の法衣をはためかせながら発着場を後にした…目指す先は自分が金塊で得た資金にモノを言わせた安宿だ


 長期滞在、という形で宿室を確保した彼の半ば仮住まいと化したオンボロ宿屋へと向かう最中
ふと見覚えのある後ろ姿が目に留まった






リュート「はーい!皆さん拍手拍手!スライムの曲芸だよ~!この輪っかを見事潜り抜けたら拍手~」

スライム「(`・ω・´)」キリッ! ピョーンッ!



シーン…




 路上のど真ん中で曲芸とやらをやっている1人と1匹が居た、彼等の手前には空っぽの蓋がくり抜かれた缶詰の缶がある
おそらく道行く人の御捻りを入れて貰う為なのだろう…今のところの儲け?空っぽであることから分かる通りだ




リュート「…ちぇっ、世知辛い世の中だなぁ…」ポロロン♪

スライム「(´・ω・`)」シュン…





ブルー「…」







ブルーは見なかったことにした、というか他人のフリをした、知り合いだと思われたくない








リュート「おぉっ!?オイ見ろよスライム!ブルーだぜ!帰って来たんだな!おーい!ヤッホー!」手フリフリ

スライム「(`・ω・)ぶくぶくぶー!」ピョーン!ピョーン!



ブルー「畜生ッ!」




だが、人混みに紛れて姿を眩ませるのが間に合わなかった

敢え無く彼は、センスが無くて売れない路上パフォーマーの知り合いという奇異の眼で群衆の注目を浴びた



―――
――


リュート「はっはっは!なんだよ、そう怖い顔すんなよ~俺達、一緒に大金稼いだ仲だろ、相棒?」ニコッ

馴れ馴れしく肩に手を置き笑ってくる男を恨めし気にブルーは睨みつけた



 2人(と1匹)は[クーロン]の寂れた通りにある、おでん屋台の古木を組んで作った簡素な長椅子に腰掛けていた
悪態を吐いてすぐに立ち去ろうとしたが弦楽器を背負った無職にしつこく付き纏われ
最終的に折れて少しだけ話に付き合うという所に落ち着いたのだ

 眠らない魔都の雑踏や目が白黒するようなネオンライトが仮眠明けの覚醒し切ってない脳に嫌に響く
せめて静かな場所に移動しろ!とキレ気味に抗議した結果が寂れた通りのおでん屋の屋台に移動した経緯であった




…まぁ[クーロン]で"まともな静かな場所"など無いに等しく、今彼等の居る場所も比較的に静かな場所でしかないのだが



裸電球を針金で吊るしただけのか細い灯りと古めかしいラジオから流れる時代遅れの選曲がこれまた哀愁を漂わせていた
 おでんと書かれた赤提灯と紺色の暖簾…夕食をまだ取っていない彼は何か軽く胃に詰められるモノは無いかと思っていた
空腹を埋めれるのであれば店の外装なぞどうでも良かった、味さえ悪くなければ何でもいい


トクトクトク…


 硝子のコップに注がれる焼酎とやらを呷るように飲むリュート…飲み始める前からコイツは酔ってるのではないかと
ちびちびと飲みながら横目でブルーはこのプー太郎を訝しんだ


リュート「いんやぁ、災難だったなぁ~船がハイジャックされたんだろう?」

ブルー「まったくだ…[タンザー]の件と良い、これと良い…どうも俺はシップと相性が悪い」



味の染みこんだ煮卵を割りばしとやらで器用に食っていくリュート
その横で味噌という調味料を塗ったくった"デンガク"という食べ物にがっつくスライム


箸、という食器を使うのはブルーにとってあまり馴染が無くどうにもモノを巧くつかめなかったがそれでも意地になって
串のように突き刺さずに苦戦しながらも大根を口に放り込んだ

 昨日の蟹すき鍋の時と良い、このリージョンの人間は何故ナイフやフォークでなく箸などという物を愛用したがるのか
言葉には出さずに少しだけ呆れとも感心ともどちらともつかない感情を抱いた





ブルー「…味は、悪くないな」モグモグ





食べ辛いのが難点だが、祖国の料理に勝らずとも劣らないなとオンボロ屋台のおでんを彼は高く評価した



リュート「だろぉ?なんだって食ってみるもんさぁ~、えーっとどこまで話したっけ?」

リュート「あー、そうそう船がジャックされた話だな、そんで犯人たちと戦ったんだろう?」


ブルー「まぁな、奴らなど術で一網打尽だったがな」フッ


リュート「う~ん、術かぁ…便利だよなぁ、やっぱ使えた方が就職に役立つよなァ」



[マジックキングダム]は完全な術の実力社会主義だ、魔術師としての才能の有無で将来性が決まる節がある
故にリュートのぼやきを相槌を半分流しで聴いていたブルーはそれには心の中で頷いた




リュート「しっかし考えてみると便利そうだけど、術だけってのも問題なんじゃないのかい?」

リュート「肝心な時に術力が切れて、うわーガス欠だーってなったら困るし術を反射したり効き目の無い敵と会ったら?」



ピタリ、不慣れな箸の動きが止まりブルーは眼を丸くした…
馬鹿だ馬鹿だと思っていた男が意外にも的を得た質問をしてきたのだから



ブルー「貴様の言う事も一理あるな」




ブルーは術が使えなくなった時、自衛の手段が恐ろしい程に無くなる


 それは以前、アニーと二人で[保護のルーン]があった空間に行ったときに証明されている
巨蟲の一撃で術の詠唱ができない状況に陥ったあの時同様に喉や、肺をやられれば立ちどころに蹂躙される未来しかない


術の使えない術士など、非力な人間でしかないのだから…





彼は昔、本で学んだことがある…世には己の術力全てと引き換えに全てを焼き払う『<塔>』という術が存在すると


高位の術士が使えばその火力たるや現在確認されている術の中で隣に並ぶモノはいないと評されるほどである

使えばありとあらゆるものが屈服すること間違いなしだが、これは本当に最後の切り札と言っても過言ではない






もう一度言うが己の術力全てと引き換えに、だ




 短期決戦や1対1のサシでの勝負ならともかく、その後も敵の増援が控えて居たりと
長期戦を想定した場合に使えばどうなるか…


ガソリンが底を尽きた自動車が荒野のど真ん中に置き去りにされるようなモンである





ブルー「術に頼らずに戦う術を手にすることを考えねばな…」



顎に手を当て、空腹さえも忘れ黙り込む―――武器…銃、は…不要だな、とバッサリ考えから外す

 手頃で使いやすいだろうが…それでも敵との相性がある
例をあげれば[スケルトン]種のようなモンスターには銃撃は効果が薄い



…すぐさま浮かんだのは、剣だ



 運命のいたずらか、彼は自分の幼い日の夢を見た…顔はぼやけていて思い出せないが自分と同じ年頃で銀髪の少年と
祖国を廻って遊んだ一夏の思い出


記憶の中の自分は[ワカツ]剣術の本を読んでいて
その中には術の力とはまた別の闘気なるモノを用いた特殊な攻撃がある事を知った


よくよく思い返せばアニーが虫共に対して撃ち放っていたのもそうだ




ブルー「…アニーか、女の腕力でも技と速さを生かして十分に立ち回る…」フム



ブルー(癪だが奴に相談してみるか)


 隣の席で考え事に耽っているブルーのおでんを盗み食いしようとするリュートに気づくことさえなく
ブルーは今後の予定を決めた…

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―――
――


【双子が旅立ってから3日目 午後20時20分】


噂通りの場所だなーっと、観光パンフレットを片手にルージュは呟いた

 乗客の大半はまだまだ警察…即ち[IRPO]の事情聴取を受けている中、ハイジャック騒動で刑事に協力したルージュ等は
優先的に手短な手続きだけで解放された…「面倒だがこれも規則なんでな、まっ!ちったぁ融通は利かせるぜ!」と
ヒューズ刑事の計らいで長い列に並ばされることなく済んだわけである



暗がりの街に目が痛くなる程の光の渦、耳鳴りを覚えそうなくらいに様々な音が流れていく



エミリア「ささ、こっちよ!着いて来て銃を販売してる店を紹介するから」


ルージュ「はいっ!ところで、ルーファスさんは?」

エミリア「うん?ああ、アイツならアニーと先に帰ったわ」


ルージュ「アニーさん…確かエミリアさんのお友だちの方ですね、僕はまだ一度もお会いしていませんが」

エミリア「ええ、あの海賊たちのドタバタで結局紹介できなかったわね…」


エミリア「この街で困った事があったら彼女を頼ると良いわって会わせてあげたかったんだけどねー」


ルージュ「この名刺を渡せば良い、んでしたっけ?」


エミリア「そうよ、私があげたグラディウスの名刺ね…あの子いつもイタ飯屋の前に立ってるから」

エミリア「なんかあったらエミリアから紹介を受けたって言って名刺を差し出すと良いわよ」



エミリア「それにアセルスと白薔薇ちゃんはもう彼女と面識があるし協力を取り付けやすい筈よ」




エミリア「…ところで二人は?」




約束通り、銃を扱う店を紹介してくれるとルージュは金髪美女の後をついてく…

…何故、マンホールの下へ降りて行こうとするのか疑問に思った所で話題に上がった同行者の話を振られた





ルージュ「あの二人は別行動中ですよ、心配だからついて行こうとかと言ったら、問題無いと言われまして」

ルージュ「なんでも、このリージョンにお住まいの"ヌサカーン"というお医者様の元を尋ねるそうでして」



エミリア「妖魔医師って白薔薇ちゃん言ってたわよね…アセルス、人間に戻れるのかしら?」

ルージュ「……僕には、何とも言えません」






ルージュ「…あの、さっきから気になってるんですが、なんでマンホールの下へ降りるんですか?」

エミリア「あ、この街の武器屋はマンホールを下りた下水道にあるのよ」ヒョッコリ


地中から顔をだした土竜のようにひょっこりと顔だけ出して引き攣った顔のルージュにエミリアは答えた

―――
――

【双子が旅立ってから3日目 午後20時20分(ルージュ&エミリアが武器屋に行く同時刻)】



ポツッ…ポツッ…




 光化学スモッグに薄汚れた街の配管から濁り水が流れ落ち、それは雨水が生み出した小さな溜まり場に行きつく
無数の交差する電線の上には行き倒れの人間そのものを喰らわんとする鴉が眼を光らせており…

常人ならば誰も好んで通りたくないだろうそんな裏通りを一組の女性たちが歩いていた


一人は美しい貴婦人のような出で立ちで頭に白い薔薇の飾りをつけた淑女

もう一人は可憐さよりも凛々しさの方が前に出る整った顔立ちで緑髪が目立つ少女





 綺麗な花には棘がある、などとはよく言ったモノで…一見すれば彼女等は治安の悪いこの街の通りでは
恰好の餌に見えるだろうが、この二人は人間<ヒューマン>ではない、妖魔だ


不用意に敵意を以て近づけば、路地裏に転がる冷たい骸になるのはこっちである



丁度、彼女等二人の眼界にある建物の主と同じ…危険な人物なのだから








アセルス「…此処が、そのヌサカーンって人の…」ゴクッ


白薔薇「はい、妖魔医師ヌサカーン様ですわ、この御方ならばあるいは…」





アセルスは一度だけ白薔薇の顔を見た、自分に付き添ってくれたこの姉の様な優しいヒトを

…固唾を飲み、不安とも期待とも取れる奇妙な感情を胸に暗黒街にひっそりと存在する闇医師の居城の門戸に手を掛けた




ガチャッ!ぎぃぃぃ…







アセルス「た、たのもーーーーっ!」

白薔薇「…アセルス様、それでは道場破りか何かですわ…」





…アセルスお嬢は緊張していた



アセルス「あ、あぁ…!そ、そうだね!ごめんくださーい!どなたかいませんかー!」




 薄暗い室内、古びた柱時計に古き良き時代からあるダイヤル式の黒電話
鼻につんっ!と来る病院特有の薬品臭さ…病院の立地条件も相まって院内は不気味そのもので
10代半ばの少女アセルスは歳相応の反応をするのも無理は無かった





アセルス「…あのー…どなたか、…い、いらっしゃいませんかー…」ピトッ

白薔薇「アセルス様、大丈夫ですから」ナデナデ




 さっきまでの威勢の良さはどこへやら、普段は勝気でモンスターとの戦闘にもめげない彼女が語気を弱め
姉代わりの貴婦人の腕にぴたりと、夏場の樹に止まった蝉か何かようである

そんなアセルスを教育係の白薔薇姫は微笑ましくなでるのであった、そして…





白薔薇(それにしても、変ですわね…)ハテ?



白薔薇(ゾズマから聴いた話では来客を驚かせる"おもてなし"に精を出す奇人だとはお聞きしていましたが…)


白薔薇(にしては、あまりにも気配が無さすぎる…何処かに隠れている、ような感じにはとても)






そして、黒電話が置かれた受付机の上に置かれた来客者に宛てたであろう…この病院の主の文を見つけた












【 ちょっと、[ヨークランド]まで緑の獣っ子と往診に行ってきます

      あと各地を廻って奇病を抱えた女性客を診るので しばらく [クーロン]に帰りません ヌサカーンより】














アセルス「 」( ゚д゚)

白薔薇「…あらあら、まぁ…」







……かくして、アセルスの人間に戻れるかもしれない、という期待はいともたやすく崩れたのであった

あの仕掛けはリアルにビビる

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―――
――


【双子が旅立ってから3日目 午後20時20分(ルージュ組、アセルス組がそれぞれ同時進行中)】




「ブラッククロスぅ~?知らねぇな」スタスタ…

レッド「そうか、ありがとう」







暗黒街[クーロン]…海賊騒動の件を終え、レッド少年は自分の家族の仇である悪の秘密結社の情報を掴もうと
 キグナス号乗務員が次の小惑星<リージョン>へ旅立つ前の休息期間を利用して一人、…いや一機と闇市を歩いていた





BJ&K「…」ウィーン


レッド(…あの後、医務室でコイツに『異常発見、特殊な…』と言われかけた時はビビったな)



 医療ロボット、BJ&K…彼はレッドの生体反応を見て、通常の人間とは違う事に気が付いた
レッドが遠い宇宙の何処かにあるヒーローの惑星<リージョン>から来た人物に力を託され一命を取り留めた人間だと
機械ゆえに生体反応から分かったのだ



レッド(バレたら俺はヒーロー協会の掟とやらで抹消されちまうからな)

レッド(咄嗟にそれ以上喋るな、喋ったらお前をぶっ壊す、俺の傍から離れても壊すっつっちまったからな)




 後ろ頭を掻きながら、乱暴な事を言ったもんだと彼は少し後悔した
そして医療ロボは「命令内容が不正ですが壊されたくないので私もついていきます」と律儀についてくるという



「…ひひっ」
「くすくす♥」





レッド「…」スタスタ




 齢19、まだ大人になりきれない年頃の彼は…正直に言うとこの街の雰囲気に少しだけ気圧されそうではあった
物陰でまだ年若い彼を見ながらほくそ笑む男女の声色や目線、その全てが
まだ大人になり切れない彼の少年の部分に触れてきそうで心細さはあった





BJ&K「…ピピッ、人の大規模な集まりを確認、情報収集に適しそうですよ」

レッド「!」ハッ

レッド「あ、あぁ…ありがとうな」





…たとえ、メカでも今は"独り"じゃなくて良かった、彼は思った



情報収集に勤しむ少年は医療ロボと共にひたすら暗黒街を渡り歩く、彼はメカと違い人間<ヒューマン>だ

 動けばカロリーも消費する、あの騒動でそういえば何も食ってなかったなと身体が空腹の音で知らせ出した頃
適当に眼に止まったコンビニエンスストアで何か軽いモノを買って行こうと歩きだした





「へっへっ…よぉ!見ろよあの頭!」

「ヒューッ!まぁ~ったく奇妙なヘアースタイルだぜぇ!!鳥の巣かww」
「ちっげーよ、サボテンだろぉ?」



「「「ぎゃーはははははっwwww」」」






…治安の悪い街でこの程度のゴロツキ共はまだタチの良い方だろう

どこの惑星<リージョン>にもまるでお決まりのようにいるコンビニ前で屯うガラの悪い若者という奴だ

 緑、白、空色、3本カラーリングの横縞が印象的な看板灯の下
『家庭ごみの持ち込みを固くお断りします』と書かれたゴミ箱の前に座り込み煙草の吸殻をこれでもかと言わんばかりに
撒き散らしているモヒカンヘアー達



レッドは何も言わずに彼等に背を向けた



「サボテンくぅ~ん、アタシ等とあそんでかなぁ~い…イイ事してあげるわよ!キャハハ」

「おい俺らが遊んでやるっつってんだ、無視すんなよ、なんとか言えよォ」




背を向けたレッドは無表情で静かに歩き出した



「へへっ、そんなこというなよなァ~ビビッて逃げちゃうよ、弱虫くんなんだから、あっ!もう逃げてるか」


「「「「ぎゃーっはははははwwww」」」」


―――
――



暗がりの道を白熱灯の灯りを頼りに階段を降りていく、小さな安宿の横をレッドとBJ&Kが降りていく


レッド「…」



レッド「……昔の俺なら、蹴り入れてたな、オレも大人になったということか‥‥フッ」




[シュライク]に住んでた頃、まだ学生時代だった頃なら余裕でシメてただろうなと思った

…ヒーローになってから何が切欠で抹消されるか分からんと慎重になっていたのはあるかもしれない




以前の自分なら考えるよりまず行動だったが、少しだけ考えるようになった、そんな気がするのだ



「聞いたか?この街の裏通りに居た闇医者が他所のリージョンへ行っちまったとよ!」

「あ~、あの奇病フェチで無一文でも診察してくれる変人の…勿体ねぇ」




「俺は見たんだ!アイツが鉄パイプでロープを切るのを!アイツぜってー[ワカツ]の剣豪だって!」




「さっき変な路上パフォーマーが居たんだけどさぁー、あの芸クッソつまんなかったわよねぇ」
「あっ!わかるぅ~!」




レッドは歩いた、だが…得られた物は全くと言って良い程に何も無かった…

―――
――




レッド「…収穫無し、か…しゃーない、戻るか」クルッ



スタスタ…


白熱球の灯りに照らされた階段を昇り来た道を戻る…、一度通った道を戻るという事は当然ながら先のコンビニ近くを
通るわけで、当然―――




「お、お、おぉ…サボテンくん戻って来たよぉ…スゥ、ハァ…」



―――当然、ガラの悪い連中がまだそこには居た

透明なビニール袋に何か透明な液体が入っていて、彼等は"ソレ"の匂いをしきりに嗅いでいた


「へ…ふえへへ」スゥ…ハァ


「おひゃ、らいふえげ」





レッド少年は露骨に顔を顰めた、彼はヒーローになる前から正義感の強い男だった
 だから目の前の"行為"を行う集団に心底嫌悪感を抱いたのだ




レッド(こいつら、"ヤク"やってやがるな…)



犯罪都市[クーロン]では日常茶飯事な光景だが、観光客からしたらひどく不愉快な光景である
 これ以上、この手の輩に関わり合いたくないとその場を離れようとしたレッドは次の瞬間信じられないモノを目にする


「う、ウゴゴ…ウウゲエエエエエエエ」…ベキッ、 ベコッメキョ…グッ ボコボコ


「きゃあああああああああぁぁ!」

「らんらー。ろうしたんら?おまえあー ―――ウゲッ」ガッ!




レッド「!? な…なんだぁ!?あれは!!」


【双子が旅立ってから3日目 午後20時29分】



エミリア「どうかしら?」

ルージュ「色々種類はあるけど、いきなり強い銃はやっぱり扱い辛さもあるし」


ルージュ「これにしときます!」つ 【アグニCP1】


エミリア「確かに初心者向けではあるわね…ね、基本的に店頭に並ぶ銃は此処ぐらいしか良い店は無いわ」

エミリア「もし、それに慣れたら新しい銃を新調しに[クーロン]にくると良いわよ」


ルージュ「この場所以外にはないんですか?」



エミリア「…んー、銃、といえば銃だけど
       メカにパーツとして組み込んだ方が良さそうな重火器専門の店が一応裏通りにあるのよね…」


エミリア「横流し品で正規軍から色々と強いのを取り揃えてるけど…重火器は、ねぇ…」


ルージュ「何か不都合が?」キョトン

エミリア「いや…戦闘が終わった後の成長性が…」ブツブツ



ルージュ「???」


―――
――


ルージュ「それでは!エミリアさんお元気で!」ペコリ

エミリア「ええ、術の修行の旅ってのはイマイチ私には分からないけど大変なんでしょう?頑張るのよ!」



 腰まで伸びた白銀の長髪は去っていくブロンドの女性に礼を告げ、裏通りに住まう医者の居城へと向かうべく踵を翻す
おそらく、緑髪の少女らが居るからだ…待つよりどうせなら迎えに行った方がいいと判断してだ





タッタッタ…!

ルージュ「うん?」クルッ





巡礼者「 」バッッ! ドンッ



ルージュ「うわっ!」ドサッ


ルージュ「いたた…な、なんだぁ?あの人…凄く急いでるみたいだけど、人にぶつかって謝りもしないなんて…」ムゥ…


「てめぇ!!待ちやがれェ!!」タッタッタ!


ルージュ「…あれ?この声は…」ハッ!





レッド「でめぇ!!そこの巡礼者風の男ぉ!麻薬売りは貴様だな!!」タッタッタ!



ルージュ「君は…確かレッド!レッドじゃないか!」ダッ!



レッド「―――あっ!アンタは確かルージュ…だったな!丁度いい!アイツ捕まえんの手伝ってくれ!」ダッ!




 見知った顔の少年が一人の巡礼者を追っていた
紅き術士は自分の名と同じ意味合いを持つ少年と奇しくも早い再会を果たす


 何事かと魔術師は少年に並走するように走り、事態を問うと追跡に夢中だったレッド少年は横目でチラリと
自分についてきたルージュの存在に漸く気づいたのだ…そして第一声が「アイツ捕まえんの手伝ってくれ!」なのだから
術士は目を丸くした





レッド「話せば長くなっちまうから手短に言う!アイツはこのリージョンで麻薬<ヤク>を売ってんだ!」

ルージュ「麻薬だって!?」

レッド「ああ!」




マンホール下の武器屋で銃を品定めしていた合間に、レッド少年は奇妙な光景を目の当たりにした

あの屯って居たガラの悪い若者たちの内の一人が突然、"変貌"するという怪奇だ



 腕や顔…いや、身体全身の皮膚がボコボコと沸騰した鍋底の熱湯のように泡立ち膨れ上がり、瞬く間に人間から怪物へと
その姿を変えていき、手当たり次第近くにいた通行人を襲い始めたのだッ!



それは"ただの麻薬"ではない…飲む者の細胞を意図的に変質させ、人体を改造し化け物を生み出すという―――






レッド少年が追い続ける悪の秘密結社【ブラック・クロス】の人物が新薬の実験、組織の資金を集める為の物だったァッ!





 群衆の眼があるが故に"アルカイザーに変身することができなかった"彼はそのまま生身で改造戦士と化した男を倒し
事の成り行きを見ていた巡礼者風の装いをした男を見つける…そして奴こそが薬物を売っていた張本人と聴き

被害の出た一般人の治療をBJ&Kに任せ一人で追跡していたとうのが此処までの経緯であった







ルージュ「麻薬だなんて…っ!そんなの放っておけない!わかった!」ダッ!

レッド「っ!すまねぇ…恩に着るぜ!」





共闘はした、が出会ってそこまで過ごした時間は僅かだというのに…普通、こんなヤバい事件に首を突っ込んでくれる奴は
いないというのに、ルージュはレッドの突然の申し出に快く頷いてくれたのだ


"正義の心"を持つ少年と共に並走するこの紅き魔術師も、…彼もまた正しいと思う行動の為に動くタイプの男だった…っ!
レッドは心の中で、この青年の純粋な心に感謝した



 鮮赤と深紅が暗黒街の闇を切り裂く様に並走する、ネオンの輝きも何事かと窺う人々の顔も目に映るモノ全てが
線になっては視界の端から逸れていく


竹笠の後を追い、街の闇へ奥へと進んでいく――ネオンの輝きも人の気配も失せ、ついには街の裏通りへと入り始めた頃だ







レッド「チクショウ!!…見失っちまった」ギリッ

ルージュ「レッド!落ち着くんだ!…僕達は此処までアイツとはそれ程距離に差をつけられずにつけて来た」

ルージュ「とすれば、何処かに隠れて息を潜めているんだ!」


レッド「あ、ああ…一体どこに」キョロキョロ




長い階段、雑居ビルの天辺まで一気に駆け上がれる錆びついた梯子…開きっぱなしのマンホール、候補など幾らでもある




ルージュ「危険ではあるけど、手分けして探さないか?」

レッド「二手に分かれるのか」

ルージュ「ああ、事前に裏通りは治安が悪いとは聞いていたけどキミと僕ならきっと余程の事が無い限りはきっと…!」


 レッドは[ソルジャービル]達との戦闘を顧みる、術士として後衛を務めながらも
懐に飛び込んで来た敵兵を避けて蹴り飛ばした姿を見るに護身術も多少は齧っている…ならば行けるか?と


レッド「わかった、その手で行こう無理はするなよ!危険だと思ったらすぐに退いてくれ」

ルージュ「うん、キミも気を付けてね」




互いに頷き、捜索を分担して行う事にした―――異臭のする配管が剥き出しの路地裏を一人ルージュは歩く…


"麻薬の売買"という悪行を許すわけにはいかないと、彼はつい勢いでレッドについて来てしまったが
 結果的に言えばこの裏通りの何処かにまだ居るかもしれない仲間のアセルス等をほったらかしにしてしまったことに
今更ながら後ろめたさを覚えた




ルージュ(緊急事態だったとはいえ、やっぱり悪い事だったかな…あとで二人と合流したら謝ろう)タッタッタ…


―――
――

時を同じくして…そのアセルスお嬢は…



「ひひひ、ね、ねぇ?そこのお嬢さんたちイイモノ売ってるんだけど買わない?今なら安くしておくよ」ヒヒヒ


アセルス「 お 断 り し ま す ! 」



あからさまに怪しい白衣の男に商談を持ちかけられていた

「…ちぇ、いいよ…[裏メモリボード]を50クレジットなんて破格なのに」ブツブツ スタスタ…


白薔薇「変わった方が多いリージョンですわね」

アセルス「…はぁ、ヌサカーンってお医者様が居ないのに変なのは居る、か」ガックシ…



一筋の希望が見えたと思えば、それは此処に在らず
目に見えて落胆する少女を見て白薔薇姫は暫し迷った、項垂れた緑髪が雨に濡れ余計に悲壮に見えてしまう


白薔薇「アセルス様、まだ手が無いワケではございません…」

アセルス「白薔薇…?」





白薔薇「望みは薄いかもしれませんが、良き知恵をお貸しくださる方に心当たりがございますわ」

アセルス「誰なの?その人は…」



 厳密に言えば知恵を貸してくれそうなのは"2人"だ、2人ではあるが…その内の一人[零姫]と呼ばれる女性が現在消息不明
何処かで生きていることは間違いないのだが、白薔薇はその人物が何処にいるか知らない為、残る一人の名だけを挙げた









 白薔薇「その御方は…妖魔の君の一人、氷炎の小惑星<リージョン>、[ムスペルニブル]に城を構える御仁」







        白薔薇「人呼んで、指輪の君…ヴァジュイール様に御座います」






アセルス「ヴァジュイール?え、でも妖魔の君って」

白薔薇「はい、…オルロワージュ様と同じく頂点に立たれる御方です」





それを聞いてアセルスは身の毛もよだつ怒りに駆られた、オルロワージュと同じ妖魔の君!?冗談じゃないッ!

 自分の都合だけで女の人を攫って、あまつさえ勝手に人間を辞めさせて自分の愛人に仕立てる奴と同格の妖魔なんて
そんな碌な奴じゃない!山豹を思わせる彼女の怒りに貴婦人は「どうかお怒りを鎮めください…」と宥める



白薔薇「ヴァジュイール様に限らず、妖魔の君と呼ばれる方々は
       全てがオルロワージュ様と同じ思想をお持ちではありません」




ある者は修行に明け暮れ術の道を究めて最終的に自身の"時"を停めたり

"退屈"を何よりも嫌い、客人を手厚く持て成し"興"に何よりもめり込むなど…その考え方は千差万別であると



 そして指輪の君も、相当な変わり者として妖魔の中ではあらゆる意味で有名な人であり
また人間から見て寛容な大人物と評する声もあるのだ…(一方で勝手に人をテレポートさせる自己中心的との声もあるが)




白薔薇「あの御方のお眼鏡に叶えば…あるいはお力添えを頂けるかもしれません」


ひょっとしたら零姫の事も何か存じていて、せめて居場所くらい教えて貰えるのでは?と淡い期待も貴婦人の中にはあった
無論、彼が彼女等を気に入り、良き友として見てくれるならばの話だが…

つ【ハイドハイドハイドハイドビハインド】



アセルス「…白薔薇がそこまで言う人なら…」



 納得、とまではいかないのも無理はない、彼女の境遇の元凶たる妖魔の君が如何様な存在か
彼女の知る最たる例が魅惑の君だけなのだから気持ちも分らなくはない膨れっ面のアセルスお嬢は渋々と頷きながらも
裏通りから[クーロン]の繁華街へと通ずる道へ向き返った



アセルス「なら帰ってルージュと合流しよう、そろそろ銃も手に入ってる頃だろうから…」



タッタッタ…



白薔薇「そうですわね――――アセルス様」


タッタッタ…


アセルス「!」ピクッ



タッタッタッタッタ…!!





 その足音に初めに気が付いたのは白薔薇姫だった
同じく妖魔と化したアセルスも遅れて此方に何者かが走って来る音に気が付く、犯罪都市の裏通りだ浮浪者の一人二人が
金品目当てに追剥をしたとしても何ら可笑しなことは無い


白薔薇は静かに[フィーンロッド]に手を伸ばす

同じくアセルスお嬢も侍が腰に差した刀に手を伸ばすように白薔薇姫と同じ武器の柄を握りしめる









       -『身の丈に合った武器を使え、でなくばいざという時に死ぬぞ』-





あの一件…キグナス号でサングラスを掛けた男、ルーファスに言われた言葉だ

妖刀[幻魔]を完全に扱い切れていない自分では…この武器に頼り切った自分ではいつか、地に膝をつくことになる
己自身が強くなり、成長した時こそ[幻魔]を手に戦おう、彼女はそう誓い、此処へ来る前に武器を新調したのだ


[幻魔]は今、ルージュの[バックパック]に預けてある



だから妖刀の力には頼れない、信ずるべきは己の力、ただそれのみッ!


アセルス(…落ち着け私、…そんじゃそこらの奴になんか負けっこない)キッ



 西洋剣の構えを取る白薔薇姫、侍が抜刀する様を彷彿させる東洋剣のスタイルで身構えるアセルス…同じ武器にして
全く異なる剣術の形を取る女性二人が目にした突然の来訪者…それはッ!



            巡礼者「 」タッタッタ…!


アセルス「ふえ!?…お、お坊さん…?」キョトン





意外ッ!それは巡礼者ッ!






…身構えていたアセルスは毒気抜かれたような顔をした、浮浪者―――もしくはオルロワージュの放った刺客かと!?―と
本気で身構えていた分、草鞋で水溜りの上をばしゃっ!と踏み歩くお坊さんの登場に目を丸くした


勿論、単に獲物を油断させる為だけにそのような恰好をしていて、そこから懐に忍ばせた刃物でグサリ!なんてことも考え
すぐに緩んだ気を引き締めたのだが…




タッタッタ…


シーン…




白薔薇「…行ってしまわれましたわね」

アセルス「…そ、そだね」カァ///





 ただの通りすがりの坊さんだったようだ
自分達二人の真横を素通りして走り去る姿を見て水溜りに映る自分達の姿が滑稽に見えた


思い出したらなんだか顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなってきた…






タッタッタ…!


アセルス「ってまた足音―――」









ルージュ「ハァ…ハァ……って、あ、あれ!?二人共!?」タッタッタ


アセルス「ルージュ!?なんで此処に…迎えに、来た、の?」


ルージュ「いや、人を追っかけてたら―――そうだ二人共!この辺で笠を被って、棒を持った人が走ってこなかった!?」

白薔薇「その御方でしたら彼方へ向かわれましたがどうかなさいましたか?」スッ


白薔薇姫の指差す方向を見てルージュは簡潔に理由を説明する



ルージュ「時間が無いから手短に言う、アイツは街で麻薬を売ってたんだ!レッドと捕まえる為に追ってる!」

アセルス「烈人くんも!?」




アセルス「それだけ聞ければ十分だ!白薔薇!私達も追おう!麻薬なんて売る奴は放っておけないって!」

白薔薇「アセルス様の御命令とあらばご一緒します」



ルージュ「二人共、巻き込んでごめん!ありがとう!」



三人が早速、巡礼者を追おうとしたその時だった























ゾワッ










三人の中でいち早く"ソレ"に察したのはルージュだった





それは彼自身が魔術師だからなのか、単に彼という人間の[霊感]が高かったからなのか、昔からそうだ

[ルミナス]でアセルス等があの全身青色で統一した妖魔…[水の従騎士]が正に彼女等に襲われる直前がそうだった



嫌な予感を直感的に察知することができた



背筋に嫌な感触が走り思わずルージュは立ち止り身震いした

次に気が付いたのは上級妖魔である白薔薇だ、最後に気が付いたのはアセルスお嬢





ルージュはゆっくりと、ゆっくりと裏通りの…薄汚れた街角の小さな一角を見た、降りしきる雨、雨樋<あまどい>から
伝ってくる汚水に晒され…錆びて腐り切った鉄材や何かの工事で使う気だったのか
キノコや苔、黴菌<かび>が繁殖してもはや使い物にならない角材



…その角材の上に腰を下ろして座りながら此方を眺める"ソイツ"とルージュは目が逢った


黴菌<カビ>だらけで、毒々しい茸が生えて…胞子のようなものをふよふよ漂わせていたソイツと…










               「ふしゅるるるる…終わりだ!!」








妖魔だ、見た瞬間に理解した
今までアセルス等を追って来た刺客たちの中でもコイツだけは"別格"だ、と


騎士と呼ぶには細い体つきで、手に持った武器が杖である所からも魔法使いといった印象が強い


全身が緑系統の配色でこの濁った雨が降りしきりコンクリートジャングルではその姿はさぞ目立つ
 しかしながら、初めからそこに居るという気配を感じさせない、奇妙なこの感覚…


目の前にいるのに、居ない


魂だけのお化けか何かと対面しているように錯覚する、手を伸ばせば触れられず、雲をつかもうとでもしてるんじゃないか
そう思わせる程にソイツは…存在感を消していた、視界に入っているのに




森の従騎士「我こそは森の従騎士…主の御命令に従い、姫を取り戻しに来た邪魔立てする者は排除する」フシュルルル





白薔薇を庇うように前に出るアセルス、いつでも術を放てる姿勢に入るルージュ…一斉に戦闘態勢に入る



ルージュ(…なんだ、アイツの身体の周りに浮いてるあの白いのは…)ゴクリッ




白銀の魔術師は森の従騎士と名乗った妖魔の風貌に言いようの無い不安を抱いた…
緑色を基調とした身の周りに蛍のように薄らと半透明で光る"何か"が浮いてるのだ、直感的に分かる


"アレに触れてはいけない"




森の従騎士「立ち塞がるか、ならば死ね」コォォォォ…
白薔薇「! お、お二人共!一か所に固まっていてはいけません!散開してくだ―――」




騎士を名乗る者がどのような攻撃を放つか
  ――いや術を唱えるのか?ならば相手が先に詠唱を終える前に術を反射する術を掛ければ良い!

と、紅き術士も、体術や杖を用いた棒術が来るなら[ディフレクト]しようと構えていた麗人の少女も浅はかな考えでいた



あろうことか敵が仕掛けて来た戦法は術でもなければ剣技や棒術のような物理攻撃ですらなかった



    パカッ


従騎士の仮面の唇にあたる部位…マスクが音を立てて開いたのだ





 森の従騎士「ヴァアアアア アアアアアアア"ア""アアア アアアアア""アア"" ア"ア"ア  ア" ア ア""」キィィン





怒声、悲鳴、絶叫、奇声


無数の音が、騎士の声帯から同時に発せられ

それは無数の糸が絡み合い帯を造る様なうねりとなった…特定の魔物が使う技、音波攻撃の[スクリーム]だ



 本来であれば不可視の衝撃波…もとい"音撃波<ソニックウェーブ>"は大気を震わせ空間をも歪め――そう喩えるならば
真夏の猛暑日に遠くの景色がぐらぐらと揺らいで見える陽炎現象に似たモノが垣間見える

輪っか、円環状の振動が相手の口部から放たれ波状に広がる様に伸びていくのが確かに認識できる




…もう一度言うが波状に広がるように伸びていく、[スクリーム]は大勢の敵を巻き込む範囲攻撃の一種として界隈で有名だ



一番後ろに居た白薔薇姫、その彼女を庇うように前に出ていたアセルス、そしてその二人より前に居たルージュ




直撃だった、音の振動が身体全身に響き渡り…銀髪の好青年は自らの身体から嫌な音が鳴るのを直に感じた
ビリビリとした痺れ、鈍い痛み、手足の指、関節が思う通りに動かなせない





ルージュ「――」ドサッ





硬い地面に前のめりに倒れ、血反吐を吐き出す…まだ意識はあるが受けたダメージは彼自身が思う以上に深刻だった

骨に罅、振動は体内を駆け巡り、内臓、脳…あらゆるものを文字通りシェイクしていった




アセルス「――っ ハァ、―フゥーッ…ぐぅ…ハ、  る、るーじゅ?」


偏に魔術師が盾になったのもあるが妖魔の血で人間<ヒューマン>ではなくなったアセルスと
一番後ろに居た妖魔の白薔薇姫だけである、まともに動ける状態なのは…



ルージュ「 」ピクッ、ピクッ




アセルスの目の前には目は焦点があわず、地に伏せたまま痙攣する親友の姿だ
上記の通り、体内にもダメージが行き届いている所為か彼は起き上がることもできずにいる

気絶はしていない意識は確かにある…だが指先から膝や肘、身体の自由がもう効かないのだ



アセルス「」プッツン



アセルス「あぁぁぁぁああああァァァ―――ッ!!お前ぇぇ!!よくも…っ!!」ダッ!!



目の前で親友がやられたッ!!激昂したアセルスは感情のままに[フィーンロッド]を構え突っ走る

 重傷のルージュを見て彼の生命を繋ぎとめようと迅速に回復術の詠唱に入った白薔薇はそれを見て何かを叫ぼうとして
一瞬躊躇った…森の従騎士の事は彼女がよく知っている、故に最初の[スクリーム]が来ると分かった時点で「散開しろ」と
そう言いたかった、間に合わなかったが


そして今回も音撃波から立ち直り、すぐにでも伝えるべきを伝えるべきだったがそれよりも生死に関わる彼を救うのが
最善手だと判断した…

事態は一刻を争う、1秒でも早く回復術を紅き魔術師に掛けねば手遅れになってしまう…っ!
アセルスに何かを叫びたかった白薔薇姫は『伝えるか』『ルージュを見殺しにするか』を天秤に掛けた結果、詠唱を続けた



だからこそアセルスが今行った、森の従騎士に対して行なってはならない禁忌<タブー>を伝えきれなかった

炎と水は2人でも楽勝なクソザコなのにこいつからいきなり難易度はね上がるんだよなぁ

森の従騎士>>>(越えられない壁)>>>>>>>猟騎士


セアト・・・。



助走をつけてアスファルトを蹴り、[フィーンロッド]の先を目前の敵の喉首目掛けて突き立てる


ガッ!!


アセルス(くっ…か、堅い!喉に全然突き刺さらないなんて!)


 苦虫を噛み潰したような顔をする彼女を見て従騎士の仮面は再び口元を開く
アセルスは口部が再びオープンフェイスになったことをみてゾッとした、この至近距離であの[スクリーム]を浴びるのかと

動揺の走るアセルスの意に反して目の前の騎士は――――!



森の従騎士「――――くくっ…」ニタァ




…アセルスお嬢の警戒した攻撃を放たなかった、いや放つ必要が無いのだ
彼奴が態々口を露わにしたのは…そのほくそ笑みを見せつける為だ



 アセルスの瞳に白い光の球が映った、自分と敵の合間に割って入って来た発光体
常に森の従騎士に纏わりつく様に浮いていた光るソレの正体をこの時、間近で見て漸く分かった







                  首だけの骸骨「ケカカ…」ボォォォ





アセルス「ぁ―――」


頭蓋骨が宙に浮いていた―――歪んだ並びの悪い歯並び、生身の人間なら突き出た鼻がある部位はガッポリと穴なっていて
その奥の空洞までくっきりと見える、眼球が収まっているはずの空虚には何も無い筈なのに

そこには確かにアセルスを凝視する目玉があるようにさえ錯覚する…っ!!







        白薔薇「『<スターライトヒール>』―――アセルス様ぁぁ!!!」パァァッ!

      森の従騎士「汝、呪いあれ『<カウンターフィアー>』」ボソッ






2人の詠唱が終わるのはほぼ同時であった奇跡の星光が傷つき倒れたルージュに生命を宿し

蚊の鳴くような呟きで囁かれた呪いの言葉が頭蓋骨を模った怨讐の思念に勅令を下す


ボッ!バシュッ!バシュッ!


 光と化した生首が流れ星のように一筋の線を描き少女の体内に入り込む、防具をすり抜け
肉体すら関係無いと言わんばかりに彼女の胸の中に入っていく


   "呪い" が アセルス の 精神 に 入り込む ! アセルス の 精神 が 侵食 されていく !



     アセルス「―――――――――」



 森の従騎士を知る人物であれば対峙した際に決して行ってはならない禁忌<タブー>を誰もが熟知していた



 何故ならばソレがこの刺客の代名詞と呼んでも過言でない程に凶悪極まりなく、又、これまでに屠られてきたであろう
数多の標的達が苦しめられた戦法であるからだ

 ["カウンターフィアー"]その名に違わぬ性能を持つ不死の属性を持つモンスターが使う技
我が身に直接触れた相手に等しく精神汚染の呪いを掛けるのだ…
肉を切らせて骨を断つとは諺で言うが、これは骨を切らせて心を折るとでも言うべきか



 ―――ドクンッ!
    ――――ドクンッ!






      アセルス「は、はぁぁぁ―――はがあか"あぁ――――ッ!」




呪いを一身に受けた少女の眼は瞳孔が開き、悲鳴とも咆哮とも分からぬ叫びを空へ向かって放つ
 傷は癒え一時とは言え昏睡していたルージュが立ち上がり状況を飲み込もうとする最中で白薔薇がアセルスの名を呼ぶ



 アセルス「―――っ」ブツブツ ブンッ!ブゥンッ!



何かを小さな声で呪詛しながら手にした武器をあらぬ方向へ振り続ける少女はこちらへと向き返りそして



 アセルス「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!来ないで!私は人間…人間よ、バケモノなんかじゃないっ」ブツブツ、フーッ フーッ


 ルージュ(! なんだ、正気を失っているのか!?)


 アセルス「あああああああぁぁぁぁぁ!!来るなぁ!」ダッッ! グンッ!!



 精神に潜り込んだ呪いの影響で【混乱】したアセルスが刺突を構えて白薔薇に一直線に駆け出す
この瞬間、紅き術士は何が最適解か判断するのが僅かに遅れた

錯乱状態のアセルスが唯一の回復術の使い手である白薔薇へ攻撃
更に森の従騎士は泣きっ面に蜂とでも言うのか毒素をばら撒く[胞子]を構えていると来た

騎士を止めるか、アセルスを止めるか







 ルージュ「 ぼ、僕を護れッ!『<サイコアーマー>』!!」PSY UP!! VIT UP!!





 光の帯が術者を包み込んでいく…輝く環が脚の爪先から頭部まで覆い尽くし終えた後ルージュは己の術で
身体中を駆け巡る霊感能力の上昇と、肉体の強度が増した事を実感する



 ルージュ「くっ…!間に合えぇぇぇ―――っ!!」ダッ



視えざる強固な鎧を装備した彼はアセルスお嬢と白薔薇姫の間に割って入れるようにアスファルトを蹴る



 ふよふよ、緩やかに毒素をばら撒く死人茸の胞子が降って来る、冬の頭頃に見受けられる可愛らしい粉雪の様に
ファンシーな見た目とは裏腹な殺傷力を持つそれを浴びてしまう前に為さねばと脚を動かす




―――グシュッ!




 ルージュ「こっっ、ぁ――」ブジャッ!

 白薔薇「る、ルージュさん!!」


 ルージュ「いい!!肩がやられただけそれより下が――」



下がれ、言い切る前に[胞子]は無慈悲にもその場にいた3人に降り注いだ
 肉がジュウウウ!と音を立てて溶解する音、焼ける痛みに声を押し殺せない、ルージュも白薔薇もアセルスさえも



ルージュ「」ドサッ

白薔薇「」ドサッ

アセルス「」ドサッ…カランッカランッ



 術士も妖魔の貴婦人も武器を取りこぼした少女の姿も、森の従騎士の仮面奥にある瞳には映っていないのだろう、と
倒れた一行には冷たい雨が降る中で表情が一切窺えない騎士が何の感動も無くその様を見ているように思えた



アセルス「ぅ、うぅ… ふたり、とも、ごめんなさい…」


白薔薇「…正気に戻られたのですね」
ルージュ「…キミは悪くない、って暢気な事言ってる場合じゃないよね」チラッ



誰一人動けなかった…反省会なんてしてる場合ですらない、頭ではわかる


だが身体は言う事を聞かない、小指一本すら動かない、頭は動くというのにだ



 諦めの境地…っ! もはや悟りのような心境…っ!

      勝機を見いだせないからこそそんな事を言っていられる…っ! 絶対絶命の万事休す…っ!



倒れた一行の視線は皆、一点を見つめていた


森の従騎士「……」カシャッ


 従騎士の仮面は先程見せた口部の動きと同じように目元を開かせた、此処で初めて3人は自分達を見つめる
騎士の眼つきを知る事となる…


ゆっくりと取るに足らない虫けらを見るような眼つきで此方を観ながら歩み寄り
致命傷となるであろう[スクリーム]を直撃させるべく口部マスクを開いた森の従騎士の姿だ


誰もが思った、『嗚呼…ここで全滅するんだな』と


パカッ…!

森の従騎士「任務は遂行する、邪魔者は始末…そして、白薔薇姫様…[ファシナトゥール]へお戻りを…」スゥゥゥ


これからの大絶叫の為にと肺に多量の空気を取り組むべく騎士は大きく息を吸い込んだ…























            「させるものかぁぁぁぁ!!シャイニングキィィィィックゥゥ!!!」ドウッ!























        ドゴシャァァァッッッッッッツ!!!! !  !  !     !












騎士は三人にトドメの一撃を繰り出すことはできなかった、否、逆に"奇妙な闖入者"に一撃喰らわされた



【双子が旅立ってから3日目 午後20時58分 (森の従騎士戦 開始直後)】



 ばしゃり、降り頻る雨のレースカーテンを掻き分ける様にレッド少年は犯罪都市の裏通りを疾走していた
偶々繁華街で出会った気の良い術士とは二手に別れて捜索しようという提案を受けた後だった



 レッド「くっ…見失っちまったってのかよ」



 目立つ格好、走り辛い見た目に反して男二人を振り切る脚力を持った巡礼者風の姿は既に影も形も無い

元より入り組んだ土地であったし、雑居ビルの屋上まで伸びる錆びた非常階段や鉄梯子、下水道へ繋がるマンホールと
逃げようと思えば何処にでも行けるし身を潜めることも容易いのだ

追跡対象を見失った彼は小さく舌を打ち、両手をズボンのポケットに入れて空を仰ぐように見つめた


喉の奥が少しだけ痛かった、こんなことは学生時代に誰にも負けまいという意志を持ったままゴールテープ切った時以来だ



僅かに開いた唇から零れる吐息は寒空の下で吐く白息に似ていて、煙雨に紛れて薄くなり消えていく…
 その様子をぼんやりと眺め、運動後の脳に酸素が回り始めた頃に彼はルージュの方は巡礼者を見つけられたのかと考えた



 レッド(此処でボケっと空見上げててもしゃーないか)



 少年は麻薬売りを追って全速力でかっ飛ばして来たが、そもそも奴がこちらの方面に逃げたという確証が無い
枝分かれした何処かの小道でルージュの向かった方角に逃げ去ったのかもしれない

ズボンに手を突っ込んだまま首を横に振って逆立った髪から水分を飛ばす、踵を返して来た道を歩み始めた時だった――















 -   ヴァアアアア アアアアアアア"ア""アアア アアアアア""アア"" ア"ア"ア  ア" ア ア""  -









  レッド「っ、な、なんだぁこの頭が割れそうな甲高い音は!?」キィィン





耐えかねてポケットから取り出した手を耳に当てる


…それは厳密に言えば"音"ではなく"声"だ
少年の見やる方角で今この瞬間にアセルス等を追って来た刺客の一人が[スクリーム]を放ったのであった



 レッド「…音が鳴り止んだ…?あっちの方角で何かあったのか」ダッ



休めていた脚に再び鞭を打ち、彼は何らかの事体が起こったと思わしき現場へ駆け始める




  レッド(くそっ!なんだってんだ…胸騒ぎがするぜ)ハァ…ハァ…



 自分でさえ自覚できる程に動悸がする、それは碌な休息も取らずに肺を酷使しているからでもはない
レッドは奇妙な既視感を覚えていた、あの日―――



   レッド「くそったれ、これじゃあまるで…っ!!」



――あの日、自分の家族を失ってしまった日と同じじゃあないか!!


 敬愛する父を自家用車の助手席に乗せて高速道路を走ったあの日

 悪の秘密結社なんていう餓鬼向けの番組に出てきそうなふざけた連中が突然やって来て父を、母を、妹を…

 レッド少年の家族とありふれた平穏な日常を焼き切った忌まわしき日を連想させるには十分だった…っ!




 郊外にあった小此木邸が炎に包まれ、赤焼け空に立ち昇っていく火粉、両腕が義手の大男の姿
組織のシンボルマークを表すバツ印を強調した全身タイツの戦闘員、己の腹部を抉る鉤爪…


どれもこれも忘れたいと思っても忘れえぬ記憶だ


 降っているのは建物が燃える煤でも火粉でもない、自分の頬にあたるのは濁った空が落とした涙滴
水分が火事の熱気で飛ばされ乾き切った空気とは真逆のじめりとした湿り気と水滴なのだ


だが、胸は煩いくらいに脈打つのだ…っ!


ここで走らなければ後悔する、間に合わなければ自分は"また失ってしまう"と警鐘を打ち鳴らしているのだ…ッ!



 レッド「…!なんだ、何か光が見えるぞ!」タッタッタ!


 雑居ビルで構築されたコンクリートジャングル、鉄骨と石材の雑木林を抜けた先に一点の星光を見た
それは[スクリーム]で危うく命を落とし掛けたルージュを救うべく白薔薇が唱えた[<スターライトヒール>]の輝きだった



 ―――間違いない、あれは"戦闘"の光だ


この先で戦闘行為が行われている、では誰だ?一体どこの誰が何者と対峙しているのか…






           アセルス『は、はぁぁぁ―――はがあか"あぁ――――ッ!』

            白薔薇『アセルス様ぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!』




 レッド「ッッッ!?」ビクッ




それは…幼少の頃、家族同然のように遊んでくれた"近所のお姉ちゃん"の悲鳴とその人の名を呼ぶ悲痛な叫びだった


 行方不明者として扱われて12年、生存はもはや絶望的で死亡者扱いされていた人、実姉のように慕ってきた人との再会は
家族を失い悪の組織への復讐心に燃えるレッド少年にとって何よりも心の救いだった


その彼女が…!そのアセルスが…っ!! この瞬間、今度こそ生命を断ち切られてしまうかもしれない場面に直面したッ!




 レッド(な、なんだよこれは…っ)



 息が詰まる、息が止まる、次々と飛び込んでくる景色――アセルスが錯乱して味方に刃先を突き立てようとする所
銀髪の術士が防御術を掛け身を挺して仲間を救いに行く場面、だが虚しくも敵の一撃で全員が倒れていく景色



無意識に強く握る拳があった、沸々と込み上げる激情があった




 キグナス号で共に海賊共と戦った仲だ、3人共戦闘に関してはそこそこやれる実力はあったのは彼とて知っている
だが、目の前の緑を基調とした魔導士を思わせる姿の妖魔は複数人を一度に相手しこうも打ち負かしている

恐らく、レッド少年一人が戦闘に加わった所で付け焼刃程度のモノだろうな










"レッド"であるならば、な









 レッド(…か弱い女に加勢するんだ、なら"ヒーローの掟破り"なんて言わねぇだろ、アルカールよ!!)グッ!







              レッド「 変 身 ッ!! ア ル カ イ ザ ー !!」カッッッッ!!ピカーッ!!







―――
――




森の従騎士『任務は遂行する、邪魔者は始末…そして、白薔薇姫様…[ファシナトゥール]へお戻りを…』スゥゥゥ


 [変身]が終わると同時に駆けだす、ただの人間<ヒューマン>から変貌した彼は生身の時とは比較にならない速度で地を蹴る
肉体に滾るエネルギー、全身を駆け巡るエナジーッ!全てが物の僅か数秒で人間の領域を超え、"超人"のラインを跨ぐッ!





       正義の使者――アルカイザーッッ!!ここに推参ッッッ!!





          アルカイザー「させるものかぁぁぁぁ!!シャイニングキィィィィックゥゥ!!!」ドウッ!





森の従騎士「なに!?まだ仲間が居たの、か"ぁ!?」ドゴッ


音撃波<ソニックブーム>を繰り出す寸での所で不発に終わる、闖入者の光り輝く蹴り[シャイニングキック]が炸裂したからだ

 オープンフェイスとなったマスクの瞳が初めて驚愕の色を覗かせた
振り向いた先に只ならぬ熱量を帯びた蹴りが迫っていたのだから仕方がない、強襲に近いソレを胸部に受け
森の従騎士は大きく身を仰け反らせながら水溜りに後ろ頭から突っ込んだ





             ドバシャアアアアアア―――z_____________________ァァァァッッッ!!






森の従騎士「ぐ、ご…き、貴様…何者だ…っ」ワナワナ



濁り水から顔を揚げ、トドメを刺すところで壮大に邪魔をしてくれた闖入者を怒り心頭の眼で睨みつける


 先述、奇妙な闖入者と称したがその出で立ちが正しく奇妙そのものであったからだ
赤とオレンジ、暖色系のカラーリングの脚部から頭部まで一切肌の露出が無い全身鎧
無論その人物の素顔も決して見ることができないフルフェイス仕様のヘルメットでバイク乗りが被るそれと同じ様に目元は
バイザーになっていて着用者の眼にはどう映るのか分からないが此方から見る限りは背中にはためくマントの色と同じ
孔雀青色の淡い輝きを放っている…、兜の天辺には鬼、否、一角獣のソレに見える角があり、耳の付け根の裏には翼が…


 ユニコーンとペガサス…有名な神話の生物の象徴を模した飾りをつけ、その鮮紅色のスーツを纏った拳から稲妻が迸る


彼が―――この惨状に対して抱いた怒りをそっくりそのまま表すように…



      アルカイザー「何者か、だと…?」





                      }  ヽ    |∨/ //    ____
                      }   `、  ./ /∨// , ・'"    `、
                      ヽ  ,r'´/~ヽ|//|///        |

                       ヾ/|‐/_,/ ||//|<_ ..-‐=、    `ヽ、
                  _........-―‐i / /  |.|~`/,r―-)    }}――‐-=}、_
                   ̄ ̄ ̄ ̄|ソ ./ .//|_/ }_/、   /li     //  ヽ、
                        .ヽ ./_//)'/ヽ_,r‐' \ヽ__.//  __/    .|
                 ,、o     {`'~>‐'´ `ヽ-.、   ヽ〈、 ̄~ ,'.l´}`lz、  |
             _,..-''"`}l     .人 |~ヽ   `、/ヽ、  | .|    ヽヽヽヽヽ./
            _}}__  }ヾ_  / >-' .`、   .`、 ヽ__ノノ}    <ヽ```ヽ/
          /  }}  `ヽ、~} / .,/ ./    `、   }    <ー'、     ̄ ̄ヽ
      ,xー=x、_..-、,r}ヾ、  ``}}ー'|,-}___  }ー--/    .∧_|        `、
     /   //  `==ヾ、   }}    |`'´`ヽ_)'<三彡}     .| .|    、     .`、
   ./    //   〉=/ r-,'~)、__..‐'‐、 /~/_`ヽ__)ヽ、,..'|" ノヽ  .`、     `、
  ./    //_,.-||// ,' ,' / |~})   >'-/__  ̄)ー-、 ) `-{´ .`、  .`、     `、
 / ,.-'´ ̄ ̄    // ) `ー'-'-'/=ー-='―' .ノ_  ̄ (~`、   ./.}   `、  `、     `、
/ /          ̄ </~ヾ、/| ̄フチフく´   `ー、ヽ ヽ  / /,--、 |   `、     |
               ヽ  ./|.,ト/ /,.|   ̄`ー―.'-‐'´ ̄~~| ,' |  .ヽ.|    `、    |
                \/〉´`l //ソ     ./~`ヽ___|,' |   `、   `、   ./
                 |/  .|/ ./    /      ./ .|  }    .}`、   `、 ./
                .,rl_/ /ー―'''´        ∧  } }    } ``‐--‐ヽヽ_,、
                ./ / /             .〈  } / /    .}      ヽ /
                }__}´ /´               } } { .{     /
             /},-、 /                 `-'ヽ {   ,〈

        }ヽ_..'// .}'/                     |ヽ  ./ |
        |~ヽ /´ 〈___/|/                     ヽ.}_/__ノ
        `ー``―'―‐'


     アルカイザー「正義の使者ッ!アルカイザー!悪を挫く為に此処に見参したっ!!」バッ!



       森の従騎士「せ、正義の使者…だと?」





 ルージュ(う、うぐっ ぅ…い、一体何が起きたんだ…)チラッ



 毒素の塊を浴びて身体中、焼けるような痛みが走る…意識が朦朧とし掛ける最中、紅き魔術師は…赤い正義の姿を見る
自分達は今まさに死刑を執行される所だったがマントを靡かせる……男性?…なのだろうか?


全身鎧の所為で性別は分からない、―――いや、身長、体格の良さ、後は声の低さでやっぱり男性なのだろうな

"聞き覚えの無い声"だが、彼は何者だ…友人とか知人とかではないし、助けてくれる理由は一体何なのか…



 ルージュ(い、いや…そんな事どうでもいい、この機を逃すわけには――確か[傷薬]が僕の[バックパック]に)ゴソゴソ



 従騎士の注意は幸いにも目の前の謎の人物に向いている、気取られない様に薬を出して自分の体力を回復させる
そして、脚が動く様になったらヒーラーの白薔薇姫も目覚めさせなくては…っ!!








  森の従騎士「…ならば問おう正義の使者とやら、貴様なにゆえこの者達に肩入れする、無関係な者共であろう」

 アルカイザー「無関係?いいや、違うね」


  森の従騎士「なんだと?」ピクッ



 アルカイザー「目の前で殺されそうになっている人が居てそれを見て見ぬフリをするなど俺にはできない」

 アルカイザー「そんな人が居ると知ってしまった以上は、俺にとってもう"無関係"ではないッ!」



  森の従騎士「…ふっ、まるで人間<ヒューマン>の子供向けに造られた三文芝居の脚本をそのまま読んだような台詞を…」

  森の従騎士「話しにならんな、くだらん正義感で我ら妖魔の問題に首を突っ込んだ事を、死んで後悔するがいい!!」


 アルカイザー「むっ!?」ヒュバッ!



 従騎士は杖を振り翳す、するとアルカイザーが立っていた地点に妖気が収束され、それは蜘蛛の巣状に展開される
取り込んだ者の生命力を絡め捕り奪い去る呪法の一種[エクトプラズムネット]だ
 一早くそれに気が付いたヒーローは呪いの網が完全に広がり切る前に跳び発ち難を逃れようとする
そして鞘から光り輝く劔[レイブレード]を引き抜き、勢いに乗って敵に切りかかる…っ!!



  森の従騎士(…くくっ、愚か者め、そうやって私に近づく者は誰であろうと――――)









 …森の従騎士を知る人物であれば対峙した際に決して行ってはならない禁忌<タブー>を誰もが熟知していた

何故ならば触れた者を【混乱】させる[カウンターフィアー]こそがこの刺客の代名詞と呼んでも過言でない程の戦法だから




それは、自他認める戦法であり

必然、この騎士にとっても今まで多くの敵を葬り去って来た実績共に不動の"勝ち確パターン"という奴だと自負していた

















―――――――――――――――――――… それゆえに …―――
















  森の従騎士(…待てよ、そういえば何故こやつは先の蹴りを私に放った時に…ッ!?)ハッ!











 …良く言えば自分の力に絶対的な、確固たる自信を持っていた

 …悪く言うならば、慢心、驕りでもあった



 迫りくる正義の使者の[シャイニングキック]をその身に受けた時、想定外の事態であるが為に気が回らなかった
自分に触れた者には何時だって必ず[カウンターフィアー]が発動して如何なる相手にも精神汚染の呪いが張り込む筈だった

だが実際はどうだ?

この全身鎧兜の人物は錯乱しているか、否、正気を保ち続けている
 従騎士はこの時点で気が付くべきだったのだ…、自分の必勝パターンが既に崩されているという事実に…ッッ!!




 積み上げて来た勝利の数だけ、『嗚呼、この闘い方をすれば絶対に勝てる、負ける通りなどありえない』と
信頼も等しく積み重なる…空気が1%も入っていない風船がはち切れそうな程に膨らんでいくのと同じで
騎士の油断もまた大きく膨らんでいったのだ


自分も認めるし、周囲の他人もまた、"こいつの戦法には隙が無いな"と認めたが故に誰も咎めない、忠告しない


自他認める戦法である――――それゆえに――――気が付くのに遅れた


生涯で全くもって一度たりとも予測しないレベル…っ!


想定する必要性が消え失せてしまった可能性…っ!



  森の従騎士「ぅ、ぅううおおおおおおおおおおおおおっっ!?」バッ!


騎士は淡く輝く空色の劔が身体を裂かんとする直前で、漸く"手遅れな受け身の姿勢"を取り始めた



        ズバシャァァァッッッッッ


  森の従騎士「ふ ぐっぅおお お おお"お  おお"おぉォ"ォ""ォ!!」



[レイブレード]の輝刃は相手の左肩から右脇腹まで大きな切り傷を生み出し、妖魔特有の青い血液が噴き出る
 半妖のアセルスの筋力を以てしても刀身が突き刺さりさえしなかった騎士を名刀で豆腐でも斬るかの如くやってのけた


  森の従騎士「ふ、ふしゅるるるる…っ、ギ、キ"サマ"アァ"…」ボタ…ボタッ…


 アルカイザー「その傷だ、帰還してすぐに手当すれば助かる…だから二度とこの人達に手を出すな!」


  森の従騎士「ふ、ふざけ"るなぁ"ぁああ あ あ !!ふしゅるるるるるぅぅぅ!」



 激昂すればするほどに青い血が傷から噴き出す、だが青い噴水の勢いと同じく騎士の怒りは収まらなかった
これまで上から受けた勅令はいつだって熟して来た誇りに罅を入れてくれたのだ

もう輝かしい誇りではない、埃を被った誇りだ

戦績に塗られた泥も、おめおめと逃げ帰ったとあれば主に始末されどちらにせよ退路など無い事も
 なによりもくだらん正義感で首を突っ込んで来た部外者という存在が一番、癇に障る



  森の従騎士「コロ"して"やる…っ コ"、コロ"ス、殺すッ…白薔薇姫以外全員だ
             黴<かび>と毒茸の菌糸に塗れて蛆虫の沸いた死骸にしてやるッ」ギリィ



 アルカイザー「……ならば、仕方ない」スチャ




 どういう訳か知らないがこの全身鎧スーツの戦士には[カウンターフィアー]が…いや、"『【状態異常】が効かない』"
一撃で意識を刈り取るべく[エクストラズムネット]を試みても恐らく先程の様に[見切り]をつけられるだろう



  森の従騎士「ならばこれはどうだ鎧の戦士よ!」ビュオオオオォォォ



杖を手にした腕を前に突きだし円を描く様に杖を旋回させる、無風の筈であるコンクリートの渓谷に小規模の竜巻が発生し
気流の塔は倒れ、縦から横へ……アルカイザー目掛けて獲物を丸のみにしようする蛇のように伸びていくッ!!


      ズバッ!  ズババッ
                     スパッ


 アルカイザー「くっ、[強風]か…!だがこれしきの事で!」ズバッ! ズシュッ!



 喩えるなら渦中にいるヒーローは見えない換気扇のプロペラで幾度も刻まれているようなモノで、腕をクロスさせ
身を守る自身の身体にも切り傷が走り、赤い血液が滴り始める


だが、騎士の狙いはこれではない





  アルカイザー「…!なんだと!!」



 アルカイザー…否、"レッド少年"がバイザー越しに見た光景はこともあろうに、自ら使用した[強風]を利用して
倒れたままの"アセルス姉ちゃん"目掛けて飛んでいく森の従騎士の姿であった


   森の従騎士「ならば…キサマのそのくだらん正義感を利用させてもらおうではないか!!」



 自らの技で我が身を切り刻んででも人質を取る、―――任務はあくまで"白薔薇姫を[ファシナトゥール]に連れ帰る"
邪魔をする者は排除しても良いという命令であった

 なにより、従騎士の主人…セアトはアセルスお嬢が気に喰わなかった
願わくば外界に出て不慮の事故で死んでくれればとすら切に願う程だ、邪魔をしたから排除したとすればさぞ喜ばれる


二重の意味でアセルスを人質に取るのは都合が良かったのだ



只でさえ[レイブレード]に切られた箇所が痛む上、自滅同然の[強風]に自ら巻き込まれたダメージで仮面下の顔を曇らせる
しかし、リスクを背負ってでもやる価値がある…


今から少女を人質に鎧男を嬲った時の苦渋の色、そして死の寸前で少女の首を折り曲げて殺してみせた時の反応が楽しみだ


騎士はほくそ笑みながら未だ倒れたままの緑髪の少女目掛けて一直線に――――ッッ!!











              ルージュ「[エナジーチェーン]っ!」ギュイイイィィン






  森の従騎士脚部「」グルンッ!ギュルルルッ

    森の従騎士「―――!?!?お、お前は…まだ息が―――ッ!」




 ルージュ「…さっき[サイコアーマー]を掛けた分、VIT<丈夫さ>が上がってたんだ今度は失神しなかったさ!」ブンッ!


 森の従騎士「ぐ、ぐおおおおぉぉぉぉ!?」グワァン!!



  アルカイザー「すまない助かった!恩に着るぞ![ディフレクトランス]!!」ダンッ!




 漁師の一本釣りよろしく、念波の鎖で脚を取られた騎士は渦の中から上空へ弾き飛ばされる
そこへ追い打ちで大地を蹴り上げ、雑居ビルの壁すらも利用した三角飛び蹴り…[ディフレクトランス]を繰り出すッッ!



 本日二度目の光り輝く蹴り技を喰らい、更に上空へと押し上げられる騎士は粉々になった仮面の破片
青血を口から吐きだしながら自分が人質にしようと目論んでいた少女が[スターライトヒール]で生気を取り戻し
立ち上がる姿をしっかりと見た





     アセルス「……皆には、本当迷惑かけてばっかりだったわね…」スチャ!



     アセルス「だから、最後くらいは…取り戻さないとね」




静かに、目を瞑り両手は拾い上げた[フィーンロッド]の鞘を握りしめる、刀身は空を差し

掲げるように自分の額へと運ぶ―――その佇まいは中世の貴族騎士が神に祈るように剣を掲げるようにも見える





  森の従騎士「おのれ…っ、おのれ…おのれ、おのれぇぇぇぇぇェェェェ!!」





オープンフェイスの従騎士は血走った眼で少女を睨む、彼奴の周囲には[カウンターフィアー]の怨念が未だ嘗てない程蠢く


祈るように目を閉じ姫騎士は精神を研ぎ澄ます、武器に想いを込める…強い敵意、降って来る殺意を退けるべく





  森の従騎士「ならばせめてお前だけでもみ、み、みぃ、道連れにぃぃぃいいいいい!!」




  アセルス「打ち砕けぇ!![ファイナルストライク]-―――っ!!」










                 ――――-カッッッッ!!










アセルスは、祈り…手にした剣…いや杖<ロッド>を天へと投げた、神話に語り継がれる戦女神の投擲槍のように





[フィーンロッド]は騎士の心臓に突き刺さる、そして膨大な熱量と光の迸流…稲妻が踊り、力が螺旋を描く


―――
――






 「ンッンン~、アセルスってばやるねぇ~♪こりゃ頑張って頼まれ事早めに終わらせて見に来た甲斐があったよ」



 雑居ビルの屋上でその様子を一人の妖魔が眺めていた、褐色の肌に黒髪を結った美青年…ではあるのだが
上半身が裸で唯一肌を隠すのが乳首の位置につけたお星さまという誰がどう見ても変態にしか見えない残念な美青年だった



 ゾズマ「いやぁ、これで従騎士を3人もやったのか…しかし森の奴、飼い主同様にやっぱり見苦しい妖魔だったね」

 ゾズマ「…そして、彼女達は今後どうするつもりか、これまた見物だね」シュンッッッ!!



見物人はそれだけ言うと姿を消していった…


―――
――


【双子が旅立ってから3日目 午後21時18分】


――――ザァァァァァァァァ

     ――――ザァァァァァァァァ




     アセルス「…」ジッ




光が収まった


常雨の犯罪都市[クーロン]の空に最後の従騎士が散ったのだ



  ルージュ「や、やったの…か?」ヨロッ


   白薔薇「はい、気配はもう微塵も感じませんわ…今ので完全に消滅したに違いありません」



  ルージュ「お、終わったぁ…」ヘナヘナ、べしゃっ



 水浸しの地面に両膝を着く、思いっ切りずぶ濡れになるけど構うものかっ!と銀髪の術士は天を仰ぐ
ジッと空を見つめていたアセルスも緊張の糸が解けたのか胸を撫で下ろしホッと安堵の吐息を漏らす、そんな彼女を見て
微笑ましい表情で見守る白薔薇、そして―――




  ルージュ「えっと、アルカイザー…さん?ありがとう、助かりましたよ…」ペコッ


  アルカイザー「いや、礼には及ばない、偶々アイツに襲われている君達の姿を見つけたから救援に入っただけさ」

  アルカイザー「それより、キミのさっきの術…良かったぜっ!!」ニィ


  ルージュ「えっ、い、いやぁ~それ程でも…あはは///」テレッ



 照れくさそうに右頬をポリポリとかく紅き術士に赤き正義は手を伸ばす、そしてヒーローは言うのだ
「本当にナイスファイトだった、キミがいなければこうはならなかっただろう」と


 …正義のバイザーの下にある、"本当の彼"―――――"素顔であるレッド少年"――は実姉のように慕ってきたアセルスを
人質に取られることだけは何が何でも避けたかった




  アルカイザー「本当に助かったよ」スッ




……"また失ってしまう所だった"




 二度も家族を失うあの恐ろしさを痛感させられる所だった



  ルージュ「……よっと!立たせてくれてありがとう」ザバァ、…ポタッ ポタッ


  ルージュ「段々思い出してきたよ、新聞紙やテレビのニュース、それにこの惑星<リージョン>でも貴方の噂は聞いてた」

  ルージュ「確か、[シュライク]って惑星<リージョン>で子供の誘拐事件を解決したヒーローが居るって」



  ルージュ「この星<リージョン>に来たのも何か事件がとかで?」


  アルカイザー「…ああ、実はパトロール中に麻薬の密売「ああああぁぁぁぁ!!」




…正義のヒーロー、アルカイザーは麻薬密売組織の調査をしていた時"偶然"妖魔に襲われている一行を見つけ救援に来た

…と、言う体裁にしておこう、そう思い立ちその内容で話し始めた時だったアセルスの甲高い声が上がったのは




  ルージュ「ど、どうしたんだ!?」





  白薔薇「あ、実は…」チラッ









  アセルス「わ、私の武器が……」


 [ファイナルストライク]を放って壊れたフィーンロッド『 』ボロッ



  ルージュ「うわっ、なんだコレ、もう使い物にならないじゃないか…」

  アルカイザー「きっとさっきの技を使用したことで耐え切れずに自壊したのだろう…」
  アルカイザー(…ビビったぁ、てっきりアセルス姉ちゃんに正体バレたかと、俺が掟で抹消されちまう)ドキドキ



  アセルス「ルーファスさんに言われたから、[幻魔]を扱う前に自分自身を鍛えようとしたけど…これじゃ」




身の丈にあった武器を使え、使い手が未熟では折角の剣も錆びつかせてしまうだけだ
 少女は助言を聞き、まずは剣術の基礎を磨こうと簡単な武器で心身共に鍛えるつもりであったが…肝心の武器がこれでは



  ルージュ「……」


  ルージュ「アセルスの武器もそうだけど、全体的に今の僕達自身にも問題があるのかもしれない…」



 顎に手を当てて術士は現状の問題点を挙げる、まず防具面に関してだが"耐性防具"が非常に乏しい
先の戦闘に関しても誰か一人が[音波無効]効果のある装備を付けていたらどうだろうか?[スクリーム]の直撃を受けても
助かり全滅の危険性が大幅に減ったのではないだろうか?


このパーティはその辺の工面が全くと言って良い程にできていないし、入手できる機会さえもなかった
 装備に関して仕方ない部分もあるから置いておくとして次に重要な問題があるとすれば"回復術"だ

誰か一人が倒れた、そうなった場合は[傷薬]片手に床に伏した仲間の元へ駆けつける必要がある


その倒れた誰かしか回復薬を持っていなかったら?あるいは回復術の使い手だったら?


 アセルスだけが無事で、ルージュ、白薔薇が先に戦闘不能になっていれば間違いなく戦線復帰は不可能で
チェスや将棋で言うところの"詰み"という状況であった筈だ


せめて全員が緊急時に備えて仲間、あるいは自分自身の傷を治癒する手段を持っていることが望ましいのだ





  ルージュ「…せめて僕かアセルスが白薔薇さんと同じように[スターライトヒール]を使えればいいのだけど」




……生憎とその[陽術]を覚える為の施設は、全身青一色の従騎士と乱闘騒ぎを起こした所為でしばらく封鎖中
資質も取れないし、術単品でテイクアウトもダメといった状態なのだ


今回は偶々強いヒーローが駆けつけてくれたから事なきを得たが、いつもそのような幸運が起きるとは限らない……
















            アルカイザー「ならば[京]に行ってみるのはどうだろうか?」








              ルージュ/アセルス/白薔薇「「「え?」」」






   アルカイザー「リージョンシップ『キグナス号』の次の目的地だ、なんでも全体的に"和"をイメージした惑星で」

   アルカイザー「毎年、各地の惑星<リージョン>から修学旅行の学生や観光客で賑わう」


   アルカイザー「ただの観光目的ではなく、そこでは[心術]の"資質"を得られる修行場もあるんだ」


   ルージュ「[心術]の資質…!」






――資質


[マジックキングダム]を旅立った双子の術士ブルー、ルージュの両名がこの旅で得るべき必要なモノ

資質を厳しい修行の末に得た人間は、その力を発展させてより高位の術を練りだす事ができる…魔術師として資質は大事だ
しかも人間の内なる心に眠る力、精神に宿る潜在能力を引き出す[心術]となれば身体の傷を癒すこともできる


…行って損はない筈だ




 アルカイザー「キミは見たところ術士だろ?なら今の話で[京]に興味が沸いたのではないだろうか?」

 アルカイザー「広い"宇宙空間<混沌の海>"から旅人もそれ目当てでやって来る、優れた剣や装備品の情報も恐らく」


  ルージュ「なるほど…」
  アセルス「[京]…か」



 リージョン界は広い、宇宙<ソラ>に煌めく数多の星々の数だけ知的生命体が生きる異世界<リージョン>がある
であらば[クーロン]では知り得なかった情報を知る機会もまたあるかもしれない



   白薔薇「アセルス様はどうなさいますか?」

  アセルス「…私は、行ってみたい」



 指輪の君、と呼ばれる上級妖魔の居城の門戸を叩くべく[ムスペルニブル]へ行くにしても準備だけは万全にしておきたい
白薔薇姫の事は当然ながら信頼しているが、あくまで白薔薇姫のこと『は』であって基本妖魔は信用したくない


鬼コーチだったり、突然背中を剣で突き刺すセアトだったり、半裸の変態だったり…etc



……


 まぁ、準備は大事だ、その人が半妖から人間<ヒューマン>に戻れる方法を知っていたとして教えてくれる保証はない上
知らなかったら知らなかったで無事に帰してくれる保証も無いのだから


 この時のアセルスは知らないが、実際問題ヴァジュイール氏は自分に無礼を働く者をその力で
何処ぞへと強制的に転移させる気難しい人物なのだ、丸腰で行ってモンスターの巣窟に飛ばされた日は堪ったモノではない




   アセルス「あっ、ルージュは…どうするの」


   ルージュ「とーぜんっ!僕も着いてくよ!此処まで来ちゃったら乗りかかった船って奴でしょ!」


  アルカイザー「話しは決まったようだな」ザッ



三人の旅の方針が決まった所で窮地を救ったヒーローはマントを翻し背を向ける



   アセルス「あっ、アルカイザー!…その、本当にありがとう!私達を助けてくれて!!」


  アルカイザー「当然の事をしたまでだ、麻薬組織の一員を追跡する任務がある、俺はこれで!――とうッ!」シュバッ!




  ルージュ「わわっ…すっげぇ、ビルの壁を山鹿みたいにピョンピョン蹴って飛んでっちゃったよ…」ほえ~

  ルージュ「参ったな、めちゃくちゃ有名人だしサインとかもらっとくべきだったかな…」


   白薔薇「何にせよ今日はもうこの街で宿を取ってお休みになりましょう…皆さんずぶ濡れですし」

  アセルス「あはは…そうだね」クスッ


びっしょりと濡れた自分達を見て、アセルスは笑う


つられて術士も貴婦人も笑った





世界は雨だが、心はカラリとした空模様だった―――それは困難を乗り越え、お互いが無事であるからこそなのだろうな





  きっと …きっと この何が起きても大丈夫、不思議とそんな気になる瞬間だった…






 ルージュ「それにしてもあんな戦闘の後でも麻薬組織の一員を探す任務にすぐ戻るなんて」テクテク

 ルージュ「お休みも無くてヒーローって大変なんだなぁ…」テクテク







 ルージュ「……」テクテク


 ルージュ「………」テクテク






  ルージュ「………あれ?僕なんか大事な事忘れてるような?」ハテ?











―――
――







    巡礼者「  」タッタッタ…!




   レッド「ちっくしょう!!待ちがやれぇぇ――ッッ!!ぜぇぜぇ…!」ダダダダッ!


   レッド「見失ったのをやっと見つけたと思ったらこんな時間に……くっっっそぉぉぉぉ!!」ダダダダッ!











…ルージュがレッドの事を思い出し、慌てて宿を飛び出したのは深夜0時をとっくに過ぎ

麻薬密売人も[京]行きのキグナス号の乗客に紛れて完全に撒かれて

某ボクサー漫画の「燃え尽きたぜ…真っ白にな」状態で項垂れるレッドを丁度、おでん屋の屋台で発見したそうな…





*******************************************************



                 今 回 は 此 処 ま で !




   ルージュ、アセルス、白薔薇はレッド(あとBJ&K)の乗るキグナスに乗ってそのまま[京]へ向かいます













  森の従騎士「カウンターフィアー!」

  アルカイザー「あ、自分…原作のゲームシステム的に【混乱】とか状態異常効かないッス」

  森の従騎士「\(^o^)/」


*******************************************************


いつも楽しみにしています

乙でした
ところがどっこい、レッドはレッド編でしか登場しないから、残念ながらこのSSみたいな展開にはならないんだよなぁ…

乙乙
こういうゲームではできない展開が熱くて面白い


―――
――


時間は少し遡る、ルージュ一行が森の従騎士を撃破する数分前の事――




【双子が旅立ってから3日目 午後21時12分(アセルス、[ファイナルストライク]発動直前)】





リュート「げへへぇ、ブル~ぅ、もう一件くらい"はしご"しに行こうぜ、いい店知ってるんだ」


ブルー「やかましいッ!このへべれけ男がっ!…梯子酒がしたいなら一人で行け俺を巻き込むな」チッ


リュート「へべれけってなぁ~俺酒は強い方なんだぜぇ、酔ってなんかいねぇよ[ヨークランド]魂なめんなよぉ」


スライム「(・ω・)ぶくぶくぶー」リュート ノ ニモツ ハコビチュウ




リュート「大体、お前こんな時間から何処行くんだよ…どう見ても安宿の方角じゃないだろう」

ブルー「…」スタスタ


ブルー「…力」


リュート「あい~?」
スライム「(。´・ω・)ぶく~?」キョトン?



ブルー「…力をつけたいんだ、今以上の力を」


リュート「…」
スライム「…」



ブルー「術が使えない局面とやらを想定したとき俺が生存できる可能性は絶望的になる」

 ブルー「…何が何でも俺は生き延びる、ルージュを殺して、俺が故郷に帰る為にも…っ」



 リュート「…あー、お前さ」ポリポリ

 リュート「なに、他所の国の風習だとか、ルールだかにあんま干渉する気はねぇけども」


 リュート「一つの事に囚われ過ぎなんじゃねーの?」



  ブルー「なんだと…?」


  リュート「お前見てるとそう思うんだよなぁ、良くも悪くもストイックでこう疲れねぇか?」


  リュート「……まぁ部外者の俺がとやかく言うのもあれだけどさ」


  ブルー「貴様はさっきから何が言いたいんだ」




   リュート「人生ってのはいつだってギャンブルなんだぜ?どんだけ万全を期したって100%成功するなんて」

   リュート「そんなモンは何処の誰が決めたんだい?」


  リュート「完璧にしたつもりでも失敗する時は失敗するし、逆に中途半端な奴が人生の成功者になることだってある」


  リュート「そりゃ準備しときゃ確率は上がったかもしれねぇけど…どうせ運なら最後の大勝負が来るまでの間に」

  リュート「人生たーっぷりと甘い蜜吸っときたいって思わねぇか?」

  リュート「ん~、よくある子供向けの質問なんかであるだお、もし明日世界が滅ぶなら貴方は何したいですか~的な」


  ブルー「…くだらん」


  ブルー「本当にくだらんな、ああ、餓鬼向けの莫迦な問答だ」クルッ、スタスタ…



  リュート「あっ、オイ!待てってよぉ~!」タッタッタ…!


  ブルー「…酔っ払いとの無意味な会話に付き合う程暇じゃない」スタスタ


  リュート「だ~か~ら!酔ってねぇよォ!!なんか、なんかよ…その、アレだよ!アレなんだよ!!!」ハァハァ…!

















   リュート「――"お前の人生"、それでいいのかよ…!」



      ブルー「…」スタスタ…ピタッ










  リュート「俺は、なんだその、基本的に自分が楽しいことやって好きな事やって
               んでもってソレで食っていけたら最高の人生だなってのが俺の自論なんだ」


  リュート「お前のその、双子の弟さん…ルージュって奴とそう遠くない未来で殺し合うん…だ…ろ?」


  リュート「さっきも言ったが人生ってのはいつ何が起きるか分からない、それこそマジに運否天賦のギャンブルだ」


  リュート「…ルーレットを回して球っころが赤に入るか青に入るかみたいなモンなんだ」


  リュート「お前が強いのはそりゃ一緒に[タンザー]で暴れた仲だからわかっけど」


  リュート「万が一にだって負けちまう場合もある、そん時の走馬燈って奴が楽しい思い出の1つも無かったら―――」




   ブルー「 黙 れ ッ !!俺が負けるだと!?俺がアイツより劣っているとでもいうのかっ!!」



リュート/スライム「「!!」」ビクッ



     ブルー「…ハァ…ハァ…っ」ハッ!


<ザワザワ…
<ナニナニ、喧嘩?イヤネェ
<でけぇ声だなァ


    ブルー「―――くっ!」ダッ!


   リュート「あ、待てって!」
   スライム「(;´・ω・)ぶくぶー!」


 …らしくない、このちゃらんぽらんな男に対しては怒声を浴びせることも多々あるが此処まで感情的に怒鳴るのは
自分らしくない、蒼き術士は自己嫌悪を覚えつつも人の大海を掻き分け突き進む


   ブルー「くそ…なんだっていうんだ!人生はギャンブルだの万が一にも俺が負けるだのと…ッ」ブツブツ



   ブルー「………俺が、負ける?」ブツブツ、ピタッ

   ブルー「俺が"死ぬ"、というのか…この俺が、……」



   ブルー「……」



   ブルー「…はっ!はははっ、なにを馬鹿げた事を…」

   ブルー(そうとも俺が負ける筈が無い、小さい頃からずっと鍛錬に打ち込んで来たんだ…)

   ブルー(周りの奴らの妬みや僻み、…陰口だってそんなものは聞き流して来た、できない奴らとは違う)

   ブルー(……ずっとそうしてきたじゃないか、寝る間も惜しんで血反吐を吐いてでも修練に明け暮れて)

   ブルー(それで…―――)





     - 『…おい、見ろよ、ブルーだぜ』 -

     - 『学院の成績トップ、首席は揺るがないってあの…』 -

     - 『アイツ気に喰わないよな、あのお高くとまった態度…ちょっと勉強できるからって』 -

     - 『なんでアイツに勝てないんだよ、俺達だって必死で勉強してんのに』 -

     - 『あいつ、死なねぇかな…』 -





   ブルー(……)





- リュート『俺は、なんだその、基本的に自分が楽しいことやって好きな事やって
               んでもってソレで食っていけたら最高の人生だなってのが俺の自論なんだ』 -


- リュート『万が一にだって負けちまう場合もある、そん時の走馬燈って奴が楽しい思い出の1つも無かったら―――』-






  ブルー(………)

  ブルー(くだらない、努力した奴は報われる筈だ、対価を払うからこそ見返りがある…俺は、勝てる筈なんだ)




「おおっ、なんだ雷かぁ~?裏通りの方が一瞬光ったなぁオイ」グビグビ、ウィック
「へぇー雨ならともかく雷たぁこの街じゃあ珍しいぜ、ぎゃははwww」



  ブルー(…うん?)チラッ、ジーッ





一瞬光った[クーロン]裏通りの方角『 』…シーン



  ブルー「…今、強い力の暴走があったな、ヌサカーンの家の方だ……」

  ブルー「いや、俺には関係の無い話か…」テクテク




 時を同じくして抹殺対象であるルージュの旅の同行者が放った[ファイナルストライク]の閃光を背にブルーは歩き出す
向かうべき先はこの数日既に何度も足を運んだ店先、緑白赤の三色旗<トリコローレ>だ


―――
――




  エミリア「うおらあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!![ジャイアントスイング]ぅぅぅぅ!!!」ブゥンブゥン!

  ルーファス「 」グルンッグルンッ!




  ブルー「 」




 『close』ではなく普通に『open』の札が掛かっていた、蜂蜜色の結った髪を持ち蒼の法衣に包まれたブルーは普通に
飲食店の店を開けました、そして思う『あれ、俺間違ってファイトクラブのドア開けちゃった?』と



剣術を教えてくれそうな知り合いを訪ねてイタリアンカフェレストランの戸を開けば、レスリング大会が行われていた

な、なにを言ってるのかわからねーと思うが催眠術とか超スピードじゃあry



  エミリア「睡眠薬盛られて直後にヤルートのハーレムに送り込まれた恨みぃぃ!!忘れてないわよぉ!!」ブゥンブゥン!

  ルーファス「 」グルンッグルンッ!



  エミリア「キグナス号じゃ海賊騒動のドタバタでこの"お礼"をしてやれなかったけどね!」

  エミリア「この機に乗じて有耶無耶になんてさせないんだからぁぁ!」

  エミリア「喰らいなさいぃライザ直伝怒りのプロレス技ぁぁぁ!!」キィーーーッ




   ドゴンッ! ボッゴンッ!! ゴシャァァ! メメタァ! ゴシカァン!



  ブルー「 」ボーゼン


 アニー「ヒュー♪ヒュー♪いいぞぉ!エミリアぁ!やっちまいなぁ!グラサンなんて叩き割っちゃえ」イエーイ

 ライザ「良い機会だから、女心を理解しない男はそうなるって叩き込んでやりなさい」


<オトコ ナンテー!![スープレックス]!!
<エ、エミリ――ゴボッ!?


  アニー「あっはっはっはww―――ん?」チラッ


  ブルー「 」ドンビキ


  アニー「あっ!なんだよブルーじゃないの!今ウチの上司と同僚が武闘会やってるとこなのよ」
  ライザ「あら、噂の術士さんね話は聞いているわ」ペコッ


  ブルー「あ、あぁ…」


引き攣った顔で奥の惨状を見ながら美人二人に返事を返す、妖艶な大人の色香を魅せる紫髪を持つライザ
 溌剌とした活力にあふれる魅惑的な女のアニー…そして元スーパーモデルの美女エミリア

男であれば誰もが脚を運びたがる甘い蜜蜂の巣のような店なのだが――



  エミリア「でぃぃいいいいえええええぃ!!!   [ D  S  C ]!!!」豆電球ピコン!



ズサァァーーーーーッ!! ガッ! ガシッ!ギュルンッ!ヒューッ ズッッッゴンッ!グッ! ドッッッゴンッ! グルンッグルンッ!ブンッ! タンッ!ガッ!


                 ゴッッッッッッッッッッ ッ  ッ ッ  ッ ッッ!




  アニー「き、決まったァ!!エミリアの[DSC<デンジャラス・スープレックス・コンボ>]だぁ~!」ガッツポーズ!グッ!

  ライザ「ええっ!!ルーファスがそこそこの実力者だったから閃いたのね!!!おめでとう!!!」



ルーファス「 」ダメージ11243… - LP2



  エミリア「や、やったわッ!ライザ、アニー!遂に…遂に[DSC]をマスターしたわッ!!」


  エミリア「こんなに、こんなに…嬉しいなんて…グスッ、アニー、私少し泣く」
  アニー「うん…私でよければ胸くらい貸すって」


  エミリア「―――ふぅ、泣いてすっきしたわ、ライザ!次の技は!」


ルーファス「 」ドクドク…


  ライザ「もういいわ、貴女は免許皆伝よ…」フフッ

  エミリア「ライザ…」

  ライザ「これ以上何かを背負う必要はないわ」

  アニー「こんな時に変な言い方だけど、楽しかったよ、エミリア」


  エミリア「アニー…みんな、みんなのこと忘れないからっ!!」



ルーファス「」


  ブルー(……)

  ブルー(……え、これは…なんなんだ?)アゼン


 イタリアンレストランの室内でちょっとしたコント劇場が繰り広げられている様を見せつけられてブルーは困惑した
何故か[ヨークランド]の片隅にある小さな教会が背景に見えて、エンディングテーマが流れてる気さえする

やだ…なにこれ…

ジョーカー撃ち殺しエンドの方じゃないですかやだー


――-
――



【双子が旅立ってから3日目 午後22時11分】



アニー「悪いわね客のアンタにまで手伝ってもらっちゃって」

ブルー「いや、構わん…(なんで俺がこんなことを)」


小劇場後の店内は―――局地的なハリケーンでも到来したかのような惨状だった、お洒落なパイン材の円卓は綺麗な半月に
 四脚の椅子は三脚だったり二脚に早変わりで、しかも[ジャイアントスイング]の余波で椅子やらテーブルの木片
更には硝子コップや純銀製の食器<カラトリー>が東洋文化の手裏剣の様に壁や天井に突き刺さているのであった


…今更ながら蒼き術士は背筋に嫌な汗が伝うのを感じた


 見物人二人と同じく出入口付近に居たから良かったものの数歩先――例えば料金でも払ってどっかの席に着き
暢気にディナータイムでも過ごしてたら額にスプーンの一本でも突き刺さっていたやもしれん



ブルー「こっちの破片は箒で全部掃いたぞ、…この店いつもこんななのか?」

アニー「サンキュー、まぁ客居なくて暇なときとかね…大丈夫よ、ちゃんと一般客巻きこまないように加減してるから」


ブルー「……」ジトーッ


アニー「…いや、そんなジト目で見ないでよね、マジだからさ」



ブルー(…あの頭の悪そうな女といい、こいつといい…それにサングラスの男を介抱しているライザという女)

ブルー(こいつ等、相当戦い慣れてるな……この実力者揃いが単なるウェイトレスの訳が無い、何なんだこの店)ジトーッ





妖艶な大人の色香を魅せる紫髪を持つライザ

溌剌とした活力にあふれる魅惑的な女のアニー

そして元スーパーモデルの美女エミリア





男であれば誰もが脚を運びたがる甘い蜜蜂の巣のような店なのだが――


        ――――――暗黒街[クーロン]にある法律で裁けぬ者にも鉄槌を下す裏組織…"グラディウス"の支部…




それこそが妖香漂う蜜蜂の巣の実態なのだ…

言葉通り"蜜蜂の巣"だ…拾った小石を投げたり、枝で突くような真似をすれば泣きっ面を見る事になる



  アニー「でさ、アンタ此処へ何しに来たのよ…あ、もしかして[ディスペア]潜入の用意はできたかって催促?」

  アニー「まだ作業員に変装する為の一式やIDカードできてないんだから待っててよね」


  ブルー「いや、それもあるが…」



 …術が使えなくても、戦いたい…[剣術]や[体術]…いや最悪[銃技]に詳しい奴を教えて欲しかった訳だが

この店に来たのは本当に彼にとって"大当たり"だったかもしれない、それぞれの分野に特化した人材が居るのだから




  ブルー「貴様に借りを作るのは癪だがアニー、貴様に剣術を教わりたい」

  アニー「わーお、上から目線だなこの野郎」



しれっと言い放った言葉に、いらっと来るがこの男はこういう奴だと出掛けた言葉を飲み込んだ…
 この無礼極まりない大層ご立派な術士様がどんな心境の変化で剣術を学びたいかくらい聞いてやろうじゃないか、と



  アニー「一応聞いとくわ、理由は?」

  ブルー「……」









  ――自分の弟を殺す為





  アニー「…ん?なによアンタ理由も言えないワケ?そんな奴には教えたくないわね~?借り作るの癪らしいしぃ~?」




ワザとらしく人差し指を右頬につけてお道化てみせる守銭奴に術士は言った



  ブルー「……同郷の者でな、どうしても勝ちたい競い相手が居るんだ、そいつとの試合に勝つためだ」


  アニー「…? 故郷の競い相手と試合??? なによアンタ…熱血スポ根物の少年漫画みたいな事やってんのね」


  ブルー「報酬は弾む、頼む」




 帰って来た返事に「へぇ、以外だわ…」と目を丸くしてアニーは呟く
この冷血男は誰だか知らんが故郷に居る知人と試合をするために力をつけているのかと…

よくある不良が夕暮れの河川敷げ殴り合うアレか、とそう解釈した





『同郷の者』『競い相手』、『試合』――まぁ嘘は言ってない


ただ"詳細説明"……そして最終的に"敗者の末路"に関してを省いただけだ、訊かれなかったから答えなかった、それだけ



  アニー「まっ!金払ってくれるっていうならみっちり!アタシがしごいてやるわ!」フフンッ♪

  ブルー「ああ、それと剣術の他に体術にも詳しそうな奴が居ると思うのだが…」チラッ


  アニー「あ~、アンタが見てる従業員以外立ち入り禁止ドアの先に居る2人ね」


  アニー「ライザは体術専門だけど、さっきルーファスをヤったエミリアは寧ろ[銃技]専よ」


  ブルー「…エミリア、か…そういえばリュート達と蟹鍋を囲んだ時にチラッと話してたな…あの女が」

  アニー「体術習うならライザだし、銃のプロなら彼女ね」


  ブルー「…今は[剣術]だけでいい、余裕を持てそうなら他の分野にも手を伸ばす」


ガチャッ、パタン…


  ライザ「アニー片づけは終わったようね?それとブルーさん、でしたねお見苦しい所をお見せして申し訳ありません」

  アニー「あのグラサンどうだった?流石にやりすぎたかもってエミリアと介抱したんでしょ」

  ライザ「1日寝てれば何事も無かったかのように復帰してるわよ」



 従業員以外お断り、そう書かれた扉の向こうからライザと呼ばれた紫髪の女性が戻って来た
身内にお恥ずかしい場面を見せて申し訳ないと頭を下げた彼女に蒼き術士も首を振って返す


   「アニー、ライザ、お客さんまだ居る~?なんか私が荒しちゃった店内の片づけ手伝ってくれたってお礼とか――」



最近、"グラディウス"に加入したブロンドの美女エミリアもまた扉の向こうから姿を見せた―――そして…









      エミリア「………っ!  ―――ぇ、ぁ、なんで?」



      ブルー「?」






金髪美人は一瞬、時でも止まった様に彼の顔を、蜂蜜色の髪を持つ端麗な顔を見て息を呑んだ




     アニー「あぁ、そう言えばキグナス号の時は紹介できなかったわね」

     アニー「ほら?アタシさ言ってたじゃんか、食べ放題ビュッフェのあの席で―――」























      エミリア「ルージュ!こんなところで何をしているのよ!アセルス達は一体どうし―――」



       ブルー「―――――――――――――――――――――――――――――――」












  逆鱗に触れる、という言葉が世には在る、もしも触れたならば身を以て知るだろう祟り神に容易に手を出したことを





 電光石化の動きだった、破損していない椅子に腰かけていた蒼き術士が"名前"を耳に入れると同時に勢いよく立ち上がる

毛を逆立てる山豹、青筋を立てた悪鬼、血走った眼を向ける殺人鬼、荒れ狂う妖怪…もののけ




 端麗なその顔立ちは一変、おぞましいバケモノと見紛う程であった…



対面して座っていたアニー、ライザでさえ、ぞわりと身の毛がよだつ敵意




     ブルー「貴様ぁぁッ!!ルージュを見たのかッ!どこだ!?何処にいるッッ!言えぇぇぇッッ!!」ガシッ

     エミリア「キャアっ」ビクッ!




  アニー「ちょ!?ば、何やってんだブルー!!」ガタッ!

  ライザ「これは流石に止めないとマズイわ!」バッ!



     エミリア「い、痛いっ、やめ――っ!やめてってばっ…ほんとう、や、、め …ぁぁ!」



      アニー「っっ!いい加減にしろ!!なんだってんだ…このぉ!!」
      ライザ「手を離しなさいっ!」





         リュート「スライムッ!!いっけぇぇぇぇ!!」ブンッ!

         スライム「(`・ω・´)ぶくぶーーーーーっ」ヒューーン






        ブルー「なにィ!?ぐ―――がぼっ、ごぼっ!?」(顔面にスライム命中)




   リュート「そのままブルーの顔に引っ付けッ!呼吸できなくて気ぃ失っちまうまでだっ!!!」

   スライム「(; ・`д・´) ぶ!? ぶくぶ!」ガッ!グッグッ!




     ブルー「――! ~~~っ!? --!  ---」 ジタバタ!ジタバタ!……バタッ!




  リュート「…や、やったか!?……ふ、ふぃーーーマジに焦ったぜぇ」ヘナヘナ…

  リュート「心配でスライムと二人で夜の町中探し回ったらまさかの修羅場とか…ビビったぞ」ハァ…


―――
――




     ロープぐるぐる簀巻きブルー「 」


  アニー「エミリア…本当ごめん、あたしの連れが…」

  エミリア「ううん、いいのよ何処か怪我した訳じゃないし…」


  アニー「……いきなり飛び掛かったこの馬鹿には後で事情聞いたり、みっちりと言い聞かせとくから、本当ごめんっ」

  アニー「暴れないようにロープで縛ったから目が醒めるまで奥の倉庫にでもぶち込んでくるわ」



  グッ…ズルズル…



 アニーはそう言うと騒ぎを起こした連れを『従業員以外立ち入り禁止』の奥…
この店の裏の顔の1つへと向かって引き摺っていく、そんな姿を見送り完全に姿が見えなくなったのを確認してから



   ライザ「さて、色々説明してもらおうかしら」

   エミリア「ライザ?」



   ライザ「リュート…彼と面識があるのでしょう、まぁその前にエミリアからね」

   ライザ「さっき貴女はブルーの顔を見て『ルージュ』と呼んだ、それからよ?何事も無かった彼が血相を変えたの」



   エミリア「あっ、その…なんていうか、よく見たら"人違い"だったっていうか…そのぉ」


   ライザ「人違い、というのはどういうことかしら」



支部とはいえ組織のトップであるルーファスの片腕を任される鉄の女はエミリアの発言が齎した変化に関して指摘を挙げる
 歯切れの悪い彼女の情報を整理すると、偶然知り合った魔術師のルージュなる人物とブルーの顔が瓜二つだった、と


ただ、髪色が違うし服装、細かい装飾も…なにより雰囲気だ






【銀髪の紅き術士】は温和で人懐っこい印象を受ける好青年だったが――

『金髪の蒼き術士』は冷たく気難しい感じのする何処か近寄りがたい人物だったように思える――



    ライザ「…無関係、では無いわよね、名前を耳にしてあの取り乱しようなのだから」



    リュート「…あー、そのことなんだが、よぉ…」ポリポリ



おずおず、と弦楽器を背負ったニートが話に割って入る
 エミリアが知り得る情報は顔が瓜二つの人物が居て蒼き術士は紅い方を知っていて…只ならぬ関係だと

それ以上の事は一切知らず、進展が無いと踏み…次いでブルーの知り合いであるリュートの話を聞くことにした



    ライザ「なにかしら、その切り出し方からして事情を知っているということでよろしくて?」

    リュート「ん、まぁな…これはアイツの人生に関わる個人的な問題だからあんま話すべきじゃないが…」



【双子が旅立ってから3日目 午後22時29分】



店内は嫌に静まり返っていた

 面白可笑しく生きるのがモットーである男の口から告げられたのは
何処よりも優れた魔法王国を謳う国家に生まれた双子の宿命であった―――



  エミリア「っ!」キュッ

   ライザ「…」



  リュート「―――と、これが俺の知る限り全てさ顔も見た事が無い、名前しか知らない血縁者を殺す」

  リュート「アイツはその為だけに術を究めようと世界各地を渡ってるってワケだ」





  エミリア「そんなのっ!!――残酷過ぎるわッ!」バンッ!


  ライザ「…エミリア机叩かないで頂戴、数少ない無事だった物なんだから」


  エミリア「でもっ、そんな…兄弟同士で命を奪い合うだなんてそんなの…!…あの、ルージュが…」ギュッ…!

  ライザ「ええ、倫理に反してるわね」










       ライザ「けどね、果たしてそれを"私達<裏社会の人間>"がどうこう言える立場かしら?」


       エミリア「っ」ハッ





   ライザ「私達はね…正義の味方じゃないの、法で裁く事のできない屑を違法を以て潰すわ」


   エミリア「……うん」


   ライザ「私は、他人が"そういう事"をしたとしてもとやかくは言わない」

   ライザ「誰かが誰かに対して"ソレ"をするのは、そこに抗えない理由や当人にしか理解できない葛藤があるから」


   ライザ「もしも、もしもの話よ?エミリア…」




  ライザ「貴女が自分の婚約者を殺したあの仮面の男、[ジョーカー]への復讐心を綺麗さっぱり忘れろ、と」


  ライザ「そう言われたら『はい、わかりました、シャバでのうのうと笑顔で生きてる仇は忘れます』と言い切れて?」




  エミリア「……」



…ブロンドの美女は口を開かない、否定ではなく沈黙で応じた



 エミリア「でも、それとこれとは話が」
  ライザ「違わないわよ、人間一人殺すのに必要な動機<エピソード>なんてものは精々、刑罰を軽くできるかどうか」

  ライザ「法廷でお高いスーツを着た人が書類片手に読み上げて情状酌量の材料にするかしないか程度の話でしかない」



   ライザ「殺人を犯したという"結果"はね…"人間よりも上の人"から見たら大差ないわ…」





どこか、…どこか疲れたような顔で裏組織に属する鉄の女は天を仰ぐように見つめた



モデルとしてスポットライトの光を浴びて来たエミリアとはまるで違う
 半生を薬莢と血生臭い世界を駆けて"知りたくも無かった醜悪なモノ"を数多く見て来た女性が言うのだ…



  ライザ「ブルーにはブルーでそうまでしなきゃならない理由がある、国からの命令だからする、そういうものよ」



  リュート「エミリア、俺ぁなんだ…裏社会の人間じゃねぇけどよ国によって独自の文化、風習とか掟だとかさ…」

  リュート「そういうのってある、とは思うんだわ」


  リュート「そこに干渉し過ぎちまうのも…やっぱマズイかな~って、いや誰も死なないならそれが良いけどよぉ」


  エミリア「…リュートも"そっち側"、なのね」ハァ



   ライザ「勘違いだけはしないで頂戴、貴女の気持ちだって分かる…」

   ライザ「ただ、世の中には知っていて止められない流れや安易に首を突っ込むべきじゃない物事もあるって話よ」




  ライザ「……私は貴女に"ミイラ取り"になってほしくないの、お願いだからわかって」

  エミリア「…わかったわよ」ハァ




 5年分の歳月しか変わらない年上の、しかしその5年が自分以上に多くの物事を観て来た人生の先輩から助言を受け
エミリアは不満げに叩いた机に頬杖をつく、ライザとて『倫理に反している』と自身で言う様に"正しい事"とは思わない
ただ全否定をしないだけ、全肯定もしないだけなのだ




コインに裏と表があるのと同じ、元は同じ物質なのに角度を変えれば見解、見識が180℃グルリと変わる


戦争で"正義"の名の元に戦う軍隊があるとすれば敵は悪ではなく、単純に"別の正義"だったというだけの話





  ライザ「……」

  ライザ「でも、そう、ね…アニーにはこの事を隠しておいた方がいいかもしれないわ」


 エミリア「え?」



 簀巻きにされたブルーをアニーが奥へ連れ完全に見えなくなったのを見届けてからライザはこの話を切り出した
双子の兄弟で殺し合うとまでは流石に想像できなかったが、エミリアの知り合いの名前を聞いて激昂する辺り
何か面倒な事になるのであろうと…

冷静に分析し敢えてあのタイミングでライザは切り出したのだ



  リュート「ほ~ん?なんでまたアニーにゃ黙っとくんだい」

   ライザ「あの子の性格を考えると一悶着ありそうなのよ…」ハァ



   ライザ「アニーも…このグラディウスのメンバーとして"裏"には長い事居るわ…」

   ライザ「大雑把で開放的な見た目に反して幼い頃から厳しい環境で育ったから自己保存と自己防衛本能が強い」

   ライザ「二人には前に話したけどこの仕事向きの"能力"ではあるわ…でも"性格"までそうかと言われると、ね」






   ライザ「昔、こんなことがあったのよ…家族を皆殺しにされた客が仇を討ちたいからアジトへ案内してくれって」


   ライザ「アニーは報酬の代金を受け取って契約通り案内を済ませた、後はそのまま帰って来るだけ、でも―――」





   エミリア「…帰らずに、その依頼人について行った?」


   ライザ「ご名答、頼まれたのは"道案内"だけであって一緒に戦うなんて契約には無い、無論お駄賃だってない」


   ライザ「『ここからは"ビジネス"じゃなくて"ボランティア"だからカネなんていらないわ』」

   ライザ「そういって依頼人の仇討に加担したのよ…無償で」ハァ…



   ライザ「能力は間違いなく裏社会での仕事向きよ、能力は、ね…」



   リュート「実は双子の弟殺す為に修行してまーすっ!、なんてブルーの目的知ったら…」


   ライザ「…」ハァ…



 本日何度目になるか分からない溜息をライザは吐き出した…、義理堅い、情に熱いというのは美徳だ
闇の中でも失われない光を持つのが手の掛かる妹分の美徳だと感じていて同時に危うくも思う


―――長所と短所は表裏一体だ、浅くない付き合いだから分かるエミリア以上にきっと



バタンッ!


  エミリア/リュート/ライザ「「「!?」」」ビクッ、ガタッ!




  アニー「ただいまー!あの馬鹿とりあえず適当に―――って何よ?どうしたの?」キョトン?


  エミリア「え、あぁ…ホラ?あれよ、アレ…あの人なんで怒ってたのか分かったわー」(目逸らし)

  リュート「お、おう話し合い終わったとこで急に来るもんだからな、心臓飛ぶかと思ったわ」


  リュート「あ、俺急用あったんだ!――ほら、スライム起きろ!行くぞ!」ユサユサ

  スライム「ぶくぶ…zzz……ぶくっ!?Σ(゚□゚;)」スヤァ……ハッ!?


  リュート「じ、じゃ!俺はこれで…さいなら!」ダダッ!

  アニー「えっ、ちょっとぉ!!」


ドタバタ…



  アニー「…なんだってのよ、…ってか事情分かったって?」クルッ


 慌ただしく出て行った知人とゲル状のモンスターから同僚に顔を向け、問いただす


  エミリア「ええ、そうよ…コホン、いいアニーよく聞いて頂戴…」

   アニー「いいけど」


―――
――


【グラディウス倉庫】



  ブルー「…うぐっ、…こ、ここは…」キョロキョロ

  ブルー(段々思い出して来たぞ…確かリュートにスライムを投げつけられて…)





  アニー「…どうやら気が付いたようね」ガチャッ!

  ブルー「!」バッ!




 古い木板の匂いがする床の上で目覚めた彼は最初暗がりに慣れず、何も分からなかった
立ち上がろうにも両脚の自由が利かず、また腕も拘束されている事に気づくのはすぐだった声は出せる辺り
口は封じられていない…

ボサボサ頭に民族帽を被った無職とゲル状生物の所為で失神さえられたこと、その件に対する怒りが込み上げるよりも先に
彼の心にまだ見ぬ弟との邂逅があったと思しき女の存在が入り込んだ


 なんとか此処から脱出してエミリアと呼ばれていた女に問い詰めねばッ!
そう思った矢先で部屋に廊下から漏れる灯りが雪崩れ込む、木製のドアを背凭れ代わりに
見知った顔が腕を組んで此方に睨みを利かせていた



   アニー「なんで縛られてるか、わかるわよね?」

   ブルー「…」プイッ



顔を背ける、言われるまでも無い



  アニー「はぁ~~~、餓鬼かアンタは、…そうやって都合悪いと拗ねる辺りあたしの悪ガキの弟と同じだわ」スタスタ

  アニー「縄解いてやるわよ…ただし!エミリアにはちゃんと謝る事、そしてアタシのいう事にも従う事良いわね?」



  ブルー「…拘束を解く、だと?」



  アニー「別に怪我した訳じゃない、大事じゃなかったからいいってさエミリアも御人好しよね~」スタスタ…ガシッ

  アニー「…」シュルッ…スルスル



  アニー「…ルージュって奴の事、エミリアから聴いたわ」

  ブルー「ッッ!?」



  ブルー「…そう、か…聞いたんだなっ」ワナワナ…!


知らず知らずのうちに術士は震えていた…

胃の底から込み上げてきそうな何かを抑え、溢れそうな部分を言葉に変化して出すように確認を取る


  アニー「ええ、…あたしがアンタを此処に運んでる間にリュートからも詳細を聞いたって」






    アニー「ブルー…あんた…」ジッ

    ブルー「…っ」ギリッ





 廊下から差し込むLEDライトの照明を背に伸びる彼女の影が歯軋りをしながら彼女を見返すブルーの顔を丁度隠す
逆光の中に入る女と、影で表情を窺い辛い男…二人の間に沈黙が流れ、そして…






   アニー「…ぷっww――いや、確かにアンタ見たまんま"エリート坊ちゃん"って感じの性格だからね」

   アニー「そりゃあ弟の方が優秀でスポーツ万能、性格良しとかじゃ敵意剥き出しにするわけだわ…ぷぷっ、くくっ」






   ブルー「……」


   ブルー「は?」




 呆気

 思わず間の抜けた声を漏らしてしまった、パチンッ、倉庫の照明をOFFからONへ操作して未だ小馬鹿にしたような笑いを
絶やさぬ女がイマイチ状況の飲み込めない男に言い続ける



  アニー「いやいや、あたしに報酬払うから剣を教えてくれーとかキャラに似合わないことすんなぁ~とか思ったわ」


  アニー「故郷の競争相手ってのはブルーの弟なんだろ、学生時代の自分より成績が上で」

  アニー「しかもコミュ力高くてリア充しまくってた弟の鼻を明かしてやろうって努力してるんだろう?全部聞いた」



  ブルー「お、おい、ちょっと待て…貴様さっきから何を――」



  アニー「…あー、うん分かってる、わかってるから"兄より優れた弟なんて存在しない"、だろ?うんうん」肩ポンポン

  アニー「しっかし、アンタさ…くくっw 澄ました顔しちゃってさ」

  アニー「そ~んなコンプレックスの塊だなんて可愛いとこあんじゃんww」プッ…


  ブルー「 」


 この女は黙って聞いてれば何を頓珍漢な事をほざいているのだろうか、オイなんだその顔はやめろ!
その微笑ましいものを見るような慈愛に満ちた笑顔はやめろ!肩をポンポン叩くなァ!

ブルーはそう言いたかった



  アニー「あたしだって姉弟の中で一番上だしさ、情けない姿見せちゃあ面目が立たないとか気持ちは分かるわよ」

  アニー「けどさぁ、エミリアに掴みかかった時みたいなああいうのは良くないわよ?」


  アニー「ほらほら!向こうは許してやるって言ってんだ、ちゃちゃっと謝りに行くよ」スタスタ





  ブルー「お、おいィ!!……あ、あの女言いたい事だけ言って…ふ、ふざおってからにッ!!」プルプル




  ブルー「~~っ」プルプル

  ブルー「…」


  ブルー「リュートからも聞いただと?…だがあいつの口ぶり
           どうも【"決闘"】でなく『"ただの試合"』としか思ってないような」




"試合"と"死合"


 妙に緊張感の無い言い方、恐らく彼女は双子の闘いを学生がよくやるような剣道大会の試合
要はスポーツ感覚のソレと勘違いしているのだろう


 実際に行われるのは中世の騎士が立会人の下、どちらかが命尽き果てるまでに斬り合う決闘<デュエル>だ
魂の尊厳、何より自分自身の"生"の為に西部劇のガンマンが早さ比べをする様式とも取れるソレであって
 間違っても負けたら「いいファイトだったぜ、またやろう」みたいな爽やかな笑顔で握手し合う交流試合のノリじゃない



弱肉強食、負けた方が勝った方に生存の権利を譲る―――そういうモノであるはずなのだ




  ブルー「何をどう聞かされたのか、確認を取るか、ルージュの件もある」スッ、スタスタ…




 少し頭に血が昇り過ぎていたな、…蒼き術士は幾らかクールダウンした脳で先刻の接触は悪手だったと今更後悔した


初対面の人間に対する"猫かぶりの対応"を思わず忘れる程の激情、蒼は紅を体現した人物名でその彩に染まっていた
 どうにも故郷を発ってからこういう事が多い、情緒不安定な所が際立つ





 普段、名の通りの男と故郷で言われたが実際は違う、彼とて人の子だ……世間を知らず箱の中で育ち

外界など古臭い書物の紙面に乗った洋墨でしか知らない、鳥籠で産まれ、鳥籠で死ぬ小鳥と何が違うというのだ…



山も、川も、雲さえ知らない鳥がある日、飼い主の身勝手な都合で籠から追い出され野に放たれたも同然だ



見た目だけが成人を迎えた子供<お坊ちゃま>……ただの22歳児でしかない



コツコツッ……ピタッ



  アニー「エミリア、連れて来たわ」

  ブルー「……」



  エミリア「…貴方がブルー、ね…ふぅん確かによく見ると色々違うわね」ジーッ



   ブルー「…」



 ポーチ付きのベルトに紺色のスカート、春先の若葉を連想させる明るい緑色のジャケットを着た女は目を細める
親友に倉庫から拘束を解き放ちここまで連行して貰った男と記憶の中にある戦友の容姿を見比べた

 一点を凝視してみたり、離れて全身を軽く見まわしたり
彼に近づいて一本の大樹を中心にぐるぐる回る様に様々な角度から覗き込んで見たり


 観察対象の彼はその行為にじれったさを覚えた、何がしたいんだ、言いたい事があるならさっさと言え、失礼な奴だ、等


心中は投げつけたい文句が浮かぶが、立場上ブルーは"今現在は加害者であるが故"に強くは出れない




 双子が旅立ってから三日目の晩、遡って二日前だった―――丁度このリージョンでブルーが[保護のルーン]を手にする為
暗黒街の地下にある[自然洞窟]でアニーと出会った、その時に彼は確かに言った




 - ブルー『こちらに非があるならば謝罪の一つでもいれるのが筋だ、…顔に出てるぞ貴様』ジロッ -




 目の前の女はまるで自分を舐めるように観察してくる…こうなった発端は元を正せば後先考えずに行動したブルー自身だ
"自分に非がある"と認めてるからこそ咎めない、許容範囲を軽く越した蛮行でもせん限りは様子見に徹している



  エミリア「ん、んっ~!ハイ、わかった、確かに違うわ、うん!アニー!ちょっと二人っきりでお話したいのよね~」

  エミリア「ちょーっとだけこのカレ借りちゃっていい?」ガシッ


  ブルー「お、おい…」

  アニー「OK」ビシッ




 悪戯を思いついた、そんな顔で猫なで声で妹分に許可をねだる元モデル

 何か面白そうなんで、と了承の二つ返事を姉貴分に敬礼つきで出す仕事人



 反論を口しようとする彼はその場から連れ去らんとする腕に黙殺される、そして終止ニコニコ笑顔のブロンド髪で
誰もが見返る魅惑的な美女に誰も居ない深夜の厨房まで引き摺り込まれてそして―――






       エミリア「リュートから話は全て聞いたわ、"身内殺し"をしようとしてるってこと」





分厚い扉は重々しい音と共に締まる、外部に音声を漏らすことはないだろう


突然の隙間風、季節風の様に何の前触れもなく吹いた風が蝋燭の灯火を消していったように、ニコニコ笑顔はふっと消えた




術士の肩に、細く白い綺麗な指が沈み込む、霊獣の毛皮を剥いで創った肩掛けにギュッと強く…桜色の爪化粧が喰い込む



 静寂の中で石窯の傍に掛けられた木製の振り子時計が無言の睨み合い、緊迫した空気も読まずにただ己の役割を果たす
一瞬、驚いた顔をしたが何か合点が行った顔で肩を掴まれたままの男は目を細める、今度は自分が女を観察する番だ


  ブルー「……」

 エミリア「…っ」キッ!



  ブルー「まず、先程の件で詫びをさせてもらう、あれは全面的に俺が悪かったな」

  ブルー「他人に教えを乞う態度にしては乱暴が過ぎた、それは認める」スッ




  ブルー「そして、この先は別件だ、リュートから俺の目的を聞いた上で
            あの頭の悪い捏造シナリオを奴に吹き込んだのはお前か、何が目的だ?意図が読めん」


 エミリア「っ」キュッ!



 小さく頭を下げ、自分に非があったと睨みつけて来る女性に淡々と伝える
誠意の欠片も見当たらない謝罪後は一呼吸置いて、何が目的か問い始める


…元モデルというのが彼女の経歴だが
 一世を風靡する程のプロモーションと表現力を兼ねた彼女なら舞台女優でも通用することだろう

 ライザを交えてリュートから"家族殺し"をさせる狂った国家の話を聞いた時と全く同じ様に、目の前の男の言葉を聞き
彼女は下唇を噛んだ、行き場の無い怒りの行先だ




戦友ルージュの背負った理不尽な使命という悲運

目の前に居る戦友の兄ブルーはそれに何も感じないのかッ!という怒り

この双子にそのような命令を下す国家の残忍さ



あらゆるモノに対する腹立たしさが渦を巻いて胸の奥に燻っていた、よくもまぁアニーの前であんな上機嫌な女を演じたな



 エミリア「…意図、ですって?」

 エミリア「あなたねぇ、自分の弟を殺すのよ…何も思わないの、悲しいとか嫌だとか、…っ、辛いとか、感情は無いの」







  ブルー「無いな」






 そんなモノは無い、彼は正直に答えた



 エミリア「―――ッ!このっ」グッ!片手振り上げ


 エミリア「……っ」

 エミリア「…」

 エミリア「…。」


 エミリア「…ない、のね」スッ


 振り上げられた手は、エミリアの落胆した声と同じく、だらりと重力のままに降りていく
初めから期待していた訳じゃない、[ヨークランド]出身の友人が語った通り冷徹さを印象付ける色の彼は
弟に"勝つ気"でいるのだ


そこに、罪悪感だとか、嫌悪感、本当は嫌だけど仕方なく国の命令に従っているだとか、そういう淡い"救い"を求めた


…初めから期待していた訳じゃない、のだけれど





  ブルー「…」





 無いな、弟を殺すという事柄に対して悪感情はあるのかという質問にこの男は即答したが…


本当に無いのだ、いや、"考え方そのものが違う"




 彼とルージュが旅立つ初日、国家の元首でもある魔法学院の長はなんと言った事か
強き術士となる為であらば『自分の目的を果たす為ならばあらゆる手段を用いてよい』と…


倫理、道徳…必要最低限の"普通の"モラルを学ぶ子供ならば忌諱となるだろう行いを『国家の為だからソレは正義です』と
ブルーの場合は特にその傾向が強い教育だった



資質を手にする為なら、相手から奪う、殺人さえ許可する、と



必要な行為だから、する
良くも悪くも考え方が"国家に忠実な兵隊さん"思想な所がある、もっと言えば隔離されて育ったからこそ兄弟の実感が無い



殺らなきゃ自分が殺される、そういう意味じゃお互い様
ただの抹殺対象、それ以上でもそれ以下でもない、だから情がどうこう以前の話








…とどのつまり、エミリアに対して言った「無いな」に込められた"ニュアンス"は微妙に違う


辛いとか、悲しいとか、嫌だ、ではないが
 逆に…殺せて清々するとか、大っ嫌いだからボコボコにしたいでも、嬉々として倒したかった、とかですらもなく



家族という実感そのものがイマイチ、ピンと来てない




強いて言えば、"自分を育ててくれた里親である国家に親孝行をする"が動機





  ブルー「お前はその確認をしたいが為だけにあんな創り話を考えたのか?」


  エミリア「…それ、もあったけど違う」

  エミリア「……アニーにあなたの旅の目的、真相を知って欲しくないからよ」



  ブルー「なぜだ」


  エミリア「あの子、見た目はあんなふうだけどすごくいい子よ、家族思いで」

  エミリア「知ればきっと、あなたの事を止めようと食って掛かるわ…」


 ライザが危惧した内容をそのままエミリアはブルーに告げた、もしも、今この厨房に居るのが自分でなく
どんな会話が行われているのかも知らずに外で眠たげに欠伸でもしているアニーだったら



落胆の色を浮かべ振り上げた手を下げた自分とは違った行動を取ったことだろう

激怒の色を浮かべ勢いをつけ手をあげたに違いない



その後も、ブルーが白旗をあげるまで延々と彼の耳元で喚き続ける
 兄弟同士で殺し合うなんて間違ってる、長男が自分の下を傷つけるな!…姉弟で生きる為、頑張って来た長女なら言った



  エミリア「私の他にもう一人ライザって女性が居たでしょ、彼女もこのことは知ってる」

  エミリア「私もライザもあなたのことは止めたりはしないだから、これだけは約束して欲しい」


  エミリア「せめて、アニーにだけはそんなことを、残酷なことを教えたりしないで頂戴」キッ!



家族で殺し合う為の手助けをしてしまった

自分の知り合いが友達の戦友を殺させる切欠を作ってしまった


 事が終わった後にせよ、起こる前にしても、アニーはもう、ブルーに既に手を貸してしまっている
自分達家族が生きる為に報酬のカネを受け取った、仕事で仕方なくやった、としてもそれが少なからず小さな影を造る


こんな業界に居るから、いつかは…いや、エミリアが知らないだけで過去に似たような経験をアニーはしたかもしれない


…どちらにしても、そんなモノは無いなら、その方が断然いい

言ってしまえば気持ちの問題だ


  ブルー「…ふむ、言いたい事は分かった」


  エミリア「それで、約束は? YESかNO、決めてもらえないかしら」


  ブルー「アイツの性格はまだ知り合って日も浅いが大体わかる、[ディスペア]潜入や剣術の指南」

  ブルー「今後の予定に支障が出る不具合もある、良いだろう飲んでやる、あの馬鹿な脚本に従ってやろう」


  エミリア「…私、あなたのこと苦手、ううん、嫌いだわ…ルーファスとどっちがマシって言われたら悩むくらいよ」


  エミリア「正直、妹みたいに思ってるアニーに近づいて欲しくないくらいに、泣かせたら承知しないわよ」


   ブルー「そうか、それは結構、ところで…そちらから一方的に約束事を持ち出して虫が良いとは思わんか?」

  エミリア「…。」

  エミリア「…私が行動を共にしてた間のルージュの人柄や旅の様子を話す、前払いの契約金よ」スッ


   ブルー「そこまで"頼まれては"仕方ないな、約束を守るように善処しよう」ニコッ、スッ




…ガシッ、ギュッ

…金髪の美女はハッキリと嫌いだと物申した相手――満点の笑みを浮かべる金髪の男性と"仲直りの握手"をした

―――
――




  アニー「ふわぁ…二人で何話してんだろ…」脚ぷらんぷらん



 暇を持て余した彼女は樽の上に腰掛け足をぷらぷらとさせていた、この惑星の気候は肌寒く特に豪雨の夜は一層冷える
店の雰囲気重視を謳う少し薄暗い照明と合わせて暖房をつけていない…というのは建前で単に"ケチ"なだけなのだ


眠たげな彼女の服装はいつものデニムパンツに、ブラジャーの上から緑色のジャケットを羽織っただけのラフな格好だった

 夜風に晒されてまで自宅に戻って厚着して帰って来る気にもサラサラなれず
店内にあったブランケットを適当に引っ張り出して来てポンチョの様に身体に巻いていた



スッ


  アニー「…はれ?ライザ」

  ライザ「今夜はまた、一段と冷えるわね…ホットチョコレートよ、飲みなさい」

  アニー「へへっ!サンキュー!」


白いマグカップが4つ、白の陶器は湯気立つ茶色と溶け合うミルクの色が渦を描く、手渡されたカップの淵に口をつけ一口


  ライザ「お味はいかがかしら、お客さん」フフッ

  アニー「うーむ、くるしゅうないぞ!っなんてね」ハハッ


紫髪の女性も樽に腰掛ける金髪少女の傍に立ち、カカオの香りを嗜む


  アニー「あの二人さぁ、何話してんのかなー?」

  ライザ「さぁ、気になるの」


  アニー「そりゃ気になるわ、エミリア美人だし男と厨房で二人っきりとかさぁ」

  アニー「よく言うじゃん?男はオオカミなのよ、気を付けなさい~♪って」

  ライザ「あら、懐かしい歌のフレーズね」


  ライザ「でも、大丈夫よ彼女はそんなヤワじゃない、そうでしょう」

  アニー「んー、それもそっか、ズズッ 温かくておいしい」


バタンッ!

   エミリア「二人共おまたせ~」スタスタ

    ブルー「ああ、遅くなって済まない和解は成立した」スタスタ


  アニー「おっ!や~っときたか、…まったく、ちゃんと反省してるわけ?」ヤレヤレ



    ブルー「あぁ、すまなかったな、ルージュのことになるとどうも頭に血が昇ってな」

    ブルー「エミリアも話してみれば大分話の分かる奴でな、…しっかりと"仲直りの握手"もできたくらいだ」

   エミリア「…ええっ!そうね!」ニコッ

    ライザ「……」

    アニー「えっマジ?なんか意外、アンタとエミリア絶対反りが合わないと思ったけど世の中わかんないものね」


    ライザ(仲直りの握手、…ねぇ)


エミリアがアニーに近づいて小声で耳打ちする、そんな姿には目もくれずにブルーは得たアドバンテージを考える


 握手には広義の意味がある、単純に仲直りの為であったり、挨拶代わり……政治家のやり取り、商談成立の合図にも



  ブルー(ルージュがどの術の資質を得ようとしているのか、試練の進行状況はどうか
         アイツのペースを知る事で鍛錬の積み方、休息のタイミングも図りやすくなる筈だ)


  ブルー(はは、運気の流れは確実に俺に吹いてきてい―――)ツンツン



ふと、肩を指で突かれる感触に水を差され「なんだ?」と振り返る、すると…

















    アニー「はい、んじゃ今日からビシバシ行くからヨロシクな新人アルバイト!」つ『ピンクのエプロン』








           ブルー「…。 えっ」








 アニー「エミリアに謝ったら、罰として暫く住み込みでウチのイタ飯屋手伝ってもらうつもりだったのよ」

 -アニー『縄解いてやるわよ…ただし!エミリアにはちゃんと謝る事、そしてアタシのいう事にも従う事良いわね?』-




 アニー「あの時、悪戯っぽい顔で連れてくから何かと思ったけど、ピンクのエプロン着せる為だったとは恐れ入ったわ」

 アニー「エミリアが耳元で教えてくれた、厨房で話し合ったんだろ?ピンクのエプロンで良いって」



  エミリア「そうよねぇ、ごめんなさいねぇ~ピンクのフリフリが用意できなくてぇ、それで我慢してね」ニッコリ
  エミリア(タダでやられっぱなしなんてごめんよ、…フン!ざまぁみなさい陰湿男)



           ブルー「」


           ブルー「」



           ブルー( こ の ク ソ ア マぁ ぁ ぁ  ぁ   ぁぁぁぁ ぁ! ! !!!)




…笑顔の素敵な女優さんの心の声が彼には確かに見えた、エプロン渡され放心状態の彼の怒りの叫びが彼女には聞こえた

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                 今 回 は 此 処 ま で !


                   △インフォメーション!▲


  現在経過日数 旅立ちから三日経過



 ~ 資質修得状況 ~

『陰陽】

・陽術(従騎士との乱闘騒ぎで現在取得不可)
・陰術(従騎士との乱闘騒ぎで現在取得不可)


【秘印』

・秘術(ルージュ、試練開始 4枚の何も書かれていないタロットカードを貰う)
・印術(ブルー、試練開始 4個の何も刻まれていないルーン文字の小石を貰う)


『時空】

・時術(現状どちらも手がかりをつかんでいない)
・空術(現状どちらも手がかりをつかんでいない)



<心術>
・心術([京]にあるらしいのでルージュが試練を受ける予定)


状況

ルージュ 資質0 試練進行度 0/4 (エミリアから金のカードの情報を貰った)

ブルー 資質0 試練進行度 2/4(既に2つ攻略済み、残りの在処もアニー、ルーファスから知る)




 『パーティーメンバー】

-ブルー組-

・ブルー

・アニー(通常仲間キャラ)

・リュート(主人公級キャラ)

・スライム(通常仲間キャラ)

・ルーファス(通常仲間キャラ)

・エミリア(主人公級キャラ)

・ライザ(通常仲間キャラ)

※ヌサカーン先生はクーンのパーティーに入りました

-ルージュ組-

・ルージュ

・アセルス(主人公級キャラ)

・白薔薇(通常仲間キャラ)

・レッド(主人公級キャラ)

・BJ&K(通常仲間キャラ)




▼…ブルーがエミリアからルージュの情報を聞き出してしまった…、まだ余裕がある事を知り暫く自己鍛錬ができると知る

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更新来てたのか、乙
ルージュが本編で実現不可能なドリームパーティーじゃないか

全員のシナリオを同時進行するサガフロとか見てみたいと思ってた

乙乙
続きがめちゃめちゃ気になる











ペラッ…カキカキ


         僕は[クーロン]で一夜を明かして[キグナス号]へ二度目の乗船をしている








朝一番の始発で『7時27分』に僕は仲間と共に暗黒街の惑星から飛び立った、日記が書けそうな今の内に書いておく


黒一色の死の大空を飛ぶ船の展望エリアから矢の様に流れていく星々の灯りに目を奪われていた





外界に来て僕は友達がたくさんできたかもしれない、アセルス、白薔薇さん、エミリアさんやヒューズさん

それにルーファスさん、この船に一緒に乗っててさっき出逢ったレッドとBJ&Kもだ

本当に色んな人と出逢えて…良かったと思う、僕はきっとこの旅を忘れない。


    もうじき、[京]に着陸するらしい…ペンを置いて、船を降りる準備をすることにしておくよ



【双子が旅立ってから4日目 午前9時14分】

 紅き術士は、その美しさに目を奪われた




  ルージュ「……すっげぇ…」



多種多様な惑星<リージョン>が存在する広大な宇域でも、この[京]というのは独特な文化を誇っていた
 旅行ガイドに簡単な紹介文は載っていたが実際に見るモノは違う、まず驚いたのは発着場だ
船を降りてターミナルの待合室に着いたが[マンハッタン]や[クーロン]、[マジックキングダム]とも全然違った


"お座敷"という見た事もないモノがある…


見れば他所の惑星から来た観光客がなんと靴を脱いでその上に上がり座り込むのだ!!


畳…タタミ、と呼ばれる床材でなんでも藺草<イグサ>という単子葉植物で作った独自の文化らしい

この惑星<リージョン>の人はその上で座ったり、寝っ転がって休んだりするそうな
 ちなみ、ルージュが眺めていた観光客たちは「オー、ジャパネーズ ブンカ デース!」と口にしていた
何言ってるのか意味はよく理解できなかったが"ブンカ"…文化と言ってる辺りカルチャーショックでも受けていたのだろう


 旅行鞄を持ったアセルスお嬢、白薔薇姫と合流し、術士は発着場を出て肌で感じ取った、空気が違う…

鼻孔を掠める紅葉と竹林の心穏やかにさせる香り、せせらぐ水と木造りの水車が回る音
 銀杏の実を蓄えた枝の先々には金色のイチョウの葉、今まで見た事も無い浴衣、着物……"和服"という民族衣装
靴だってそうだ、自分達が履いてるような動物の革や布のブーツではない

木の板に紐を通したような不思議な靴、アセルスが後に教えてくれたが草履や下駄という名前らしい


何もかもが新鮮、何もかもがルージュにとって見た事の無い未知だった



 彼は目を丸くして、キラキラと夜空の一番星のように輝かせた…齢22歳の好奇心旺盛な少年心を刺激するには十分過ぎた



  白薔薇「まぁ…!なんて綺麗な街並みなのでしょう!」


  ルージュ「! あ、あ、アセルス!!ねぇ!あれは!?アレは何!?あれって『寿司』って書いてあるよ!?」ソワソワ

  ルージュ「『天ぷら』とか薄らとだけど小耳に挟んだことあるよ!なんかその、食べ物なんでしょ!」ワクワク


  アセルス「もうっ!ルージュは落ち着いてってば、あぁ!!白薔薇勝手に景色を見に行かないで!迷子になるって!」



      「おーい!アセルス姉ちゃん!ルージュ!!」タッタッタ!!



  ルージュ「あっ、レッド!お仕事終わったんだね!」


  レッド「おう!遅れてすまねぇ…ユリアにお土産とか色々頼まれてよ…」

 アセルス「烈人君ごめんね、わざわざ忙しいのに時間見つけて私達の観光に付き合ってもらって」

  レッド「気に擦んなって!姉ちゃんにゃ昔っから世話になりっぱなしだからな!…所で、気になってたんだけど」


  レッド「白薔薇さんは一緒じゃないのかい?」ユビサシ



  ルージュ/アセルス「「…えっ」」クルッ


  アセルス「し、白薔薇ぁぁぁぁぁぁ!!!」

  ルージュ「う、うわぁぁぁぁちょっと目を離した隙に白薔薇さんが迷子になったぁぁぁぁ!?どうしよう!?」

―――
――


【[京]の庭園】



  白薔薇「 」ポツーン

  白薔薇「あら、あらあら?…どうしましょう…いつの間にかアセルス様たちとはぐれてしまいましたわ…」オロオロ



 [ファシナトゥール]とは全く違った芸術美に思わず蜜のかかった林檎に誘われる蟻の様に釣られてしまった
薔薇飾りを頭に乗せた何処かおっとりとした妖魔の貴婦人が途方に暮れだした、そんな時だった―――






   Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「…うぃーっく!…くぅぅ、やっぱ酒飲むならこういう日本庭園だよなぁ!」グビグビ

      記憶喪失のロボット「ゲン様、飲みすぎです、タイム隊長達に怒られます」


 "ゲン"、焼酎という酒が入った瓶を片手に豪快に笑う男の名前だ、顔を赤くしてバシバシと隣居るロボットの肩を叩く



   ゲン「わぁーってるって、そうケチケチすんなって!ガハハハハ!それによぉ
                こいつぁお前の記憶の手がかりが見つかった祝いみてーなモンだろ?」ハッハッハ!



   記憶喪失のロボット「はい、間もなく[シンロウ]で"仮面武闘会"が開催されます」

   記憶喪失のロボット「その間遺跡の探索は禁じられますから、[古代のシップ]でヒントを得たのは大きな収穫です」


   記憶喪失のロボット「HQの存在確認と私の任務が"RB3型"の破壊であること」

   記憶喪失のロボット「もっと詳細を知る為に一度レオナルド様にお会いしましょう」



   ゲン「の前に、あのでけぇコウモリにやられちまった、ナカジマと特殊工作車を治すことだろ」

   ゲン「遺跡の中で蝙蝠倒しまくってたらいきなり出てきやがって流石に俺もヤバいかと思ったぜ、たく」



   ゲン「ん?T-260G、何見てんだ?」



   T-260「…認識完了、メモリ内と100%合致、ゲン様、以前[マンハッタン]で見かけた女性です」


   ゲン「あん?」チラッ





   白薔薇「どうすれば…」オロオロ




   ゲン「ありゃ、本当だな…こりゃまた奇妙な縁だな……」


   ゲン「なんかあの姉ちゃん前見かけた時も困った顔してたな、どうすっかね…」う~ん

   ゲン「…」


   ゲン「うっしゃ!決めた、これも何かの縁だろう、ちょっくらお節介焼きに行くぞ!」

   T-260「了解です」ウィーン


 この惑星の観光スポットとして名高い庭園でしなやかに揺れる柳の幕を潜り向けお節介を焼きに来た中年の男と
古臭いデザインのロボットは妖魔の貴婦人に声を掛けた


  ゲン「おーい、そこの姉ちゃんアンタなんかお困りかい?」テクテク


  白薔薇「あ、はい…知り合いとはぐれてしまいまして…失礼ですがどちら様で」


  ゲン「んあ?あぁ…わりぃわりぃ、俺ぁゲンってんだ、隣に居るのが」

  T-260「制式形式番号T260 認識ID7074-878「こいつぁT-260だ見ての通りロボで小難しい事を言う」


  白薔薇「ゲン様に…?てぃーにーろくまる…様?」


  ゲン「おう、この辺ぶらぶらしてたらなんか困り顔の女が居たもんだからついお節介焼きたくなっちまったんだ」

  ゲン「人間困った時はお互いさまっていうだろ」ガッハッハ!


 彼は人情溢れる人間という奴なのだろう、酒瓶を持ったまま豪快に笑い隣に居るロボットの肩をバシバシ叩く
そんな様子につい思わず白薔薇も釣られて笑ってしまう、見知らぬ土地で独りというのは不安がある

話し相手の一人や二人いるだけで、その不安の根は大きく取り払われるモノだ

 初めて来たリージョンに知り合いなどいる筈もなく、右も左も分からない白薔薇はご厚意に甘えることにした



  ゲン「だったら、シップ発着場の方に行きゃいいってことだろ?降りてすぐにこの庭園に来たっつーことは…」フム



  T-260「我々もここから南東の道を通って向かうべきです」

  T-260「白薔薇様の御知り合いが発着場から土産屋方面に向かったのなら、都度、通行人に確認を取り後を追います」


  ゲン「だな、向こうが姉ちゃん探してこっちに来てんなら途中でばったり鉢合わせだろうし」

  ゲン「逆に変に反対方向に行って行き違いになっちまうよりかはその方がいいな」


  白薔薇「ありがとうございます」ペコッ


…テクテク…スタスタ…ウィーン!


  T-260「時に白薔薇様は人間<ヒューマン>でなく妖魔でしょうか?検知された生体エネルギーが人間では無かったもので」

  ゲン「おい、ポンコツ!失礼だろがっ!…すまねぇ」

  白薔薇「ふふ…お気になさらずに、T-260様の仰る通り[ファシナトゥール]から来た妖魔にございます」クスクス1

  ゲン「[ファシナトゥール]…んー、俺ぁ妖魔についてあんまし詳しくねぇからそのリージョンはよく知らねぇや」


  白薔薇「T-260様とゲン様はどちらからお越しで?」



 道中、知り合ったばかりの3人…いや、2人と1機は退屈しのぎも兼ねた他愛もない世間話に花を咲かせていた
会話のキャッチボールが続く中でT-260が発した何気ない一言から何処からこの地へ観光に?という話題に移った…



    ゲン「…」ピタッ


   T-260「ゲン様」

    ゲン「いや、いいんだ……そうだな、だんまりも失礼だわな」ポリポリ


   白薔薇「…?」


    ゲン「俺は…[ワカツ]ってトコの生まれでな」




  白薔薇「[ワカツ]…ですか?」



   ゲン「ああ、サムライの惑星<リージョン>、なんて他所の奴らはよく言ってたもんさ」

   ゲン「腕っぷしに自信のある奴が技を磨くために訪れたり、[剣のカード]目当てで来る修行者もいた」


   ゲン「俺も、故郷でそこそこ腕のある剣豪だったんだが、色々あって今は放浪の身って奴さ」



  白薔薇「"色々"ですか…」


   ゲン「ああ…"色々"な」



妖魔の貴婦人はつい最近になって時が止まった様な鎖国リージョンから出た、それゆえに世捨て人の如く世間に疎い

彼の言う"色々"というのは新聞やニュースを観ない者でもよく知っている事件なのだが
……あるいは妖魔だからこそ詳しくないと踏んで彼は話したのかもしれない


何か、話辛い失礼な事を聞いてしまったのではないか…、ゲンの横顔を見て白薔薇は少し居た堪れない気持ちになった
 この話題にはあまり深く踏み込むのは良くないと判断し話題を変える事にした


  白薔薇「あの、ゲン様は剣にお詳しいのですか?」


   ゲン「うん?剣かい?そらぁ、まぁな…」




  白薔薇「でしたら、女性でも扱いやすい強い剣をご存じありませんか?」




[クーロン]で自分達を助けてくれたアルカイザーは言っていた、此処には様々な人が集まる
 旅人も疲れを癒すために寄ることが多いのだから優れた剣、装備品に関する情報も聞けるだろうと


アセルスの[フィーンロッド]の代わりとなる武器、[幻魔]を扱えるようになるその日まで…!彼女の実力に見合った剣を!


  ゲン「…そうだな、女でも振りやすいか」


顎に手を当て、剣豪を目を細める、東洋剣を専門とする彼はふと思い当たる節を口にした



  ゲン「………女でも振りやすいかは兎も角だ、嘘か真か[シュライク]に名刀が眠ってるって話なら聞いたな」


  白薔薇「…![シュライク]に」


…シュライク、アセルスの故郷だ
12年間姿の変わらぬままで育ての親の元へ帰り、怖れられた…あまりいい思い出の無い土地


  ゲン「ああ、なんつったかな、昔の偉い奴を埋葬した古墳があって[草薙の剣]ってのが一緒にあるとか」

  ゲン「なんで強い剣を求めてるかは知らねーが墓荒しなんて碌な目に合わねぇからよ、あんまオススメはしないぜ」


  ゲン「店売りの剣になっちまうから金もかかるし威力もずば抜けて高い訳じゃねぇが[ゼロソード]くらいだな」


   白薔薇「いえ、それだけでも十分ですわ」ペコリッ


―――タッタッタ…!

 アセルス「し、白薔薇ぁぁぁぁ!!よかったぁやっとみつけたぁ…っ!」ゼェゼェ

―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午前10時20分】 [京]の旅館前


    特殊工作車「」HP0

    ナカジマ零式「」HP0




   レッド「この回路をこうして…んで[インスタントキット]を取り付けてっと」カチャカチャ

  ルージュ「あ、あれぇ~?…れ、レッド!もしかして僕コード間違えちゃってる??」

   レッド「ん?…あー、そこはだな…」


    BJ&K「損傷がひどいですね、…所々に強い磁気を浴びたような形跡が」



  ゲン「わりぃな坊主たち、俺の仲間達を治すの手伝ってもらって」

  ゲン「最近の若い奴らは機械につえぇからなぁ、俺ぁそのインスタントなんちゃらは苦手だぜ…」ポリポリ


  ルージュ「いえいえ!白薔薇さんと僕達を探すの手伝ってくれたんです!このくらいお安い御用です」コード カラマリ


身体中にケーブルが絡まったルージュが胸を張っていい、それが可笑しいのかレッドが苦笑する


  レッド「ま、俺もBJ&Kの整備でメカ専用の回復道具の使い方は慣れてるしな!…しかし凄いなこのメカ」ジーッ

   ナカジマ零式「 」

  ゲン「そいつは[シュライク]で仲間になったんだ、中島製作所って所で縁があってなそこの社長から連れいけってな」

  レッド「へぇ!奇遇だなー、俺[シュライク]出身だからさ、故郷のメカって思うと尚更…」ジーッ


  ルージュ「れ、レッドぉ!たすけてぇ~!」コード グルグルマキ ミイラ


  レッド「おまっ、何器用な絡まり方してんだよ!?」


―――
――



   ナカジマ零式「いやぁ~、助かりました~」

    特殊工作車「感謝いたします。」


    ゲン「おう、おめぇ等やっと目が醒めたか明日になったらレオナルドさんトコに行くからな!」


    T-260「私達は明日まではこのリージョンに滞在します、何か要件があればご相談ください」ウィーン


   アセルス「ありがとう!ゲンさん、T-260、私達は行ってくるからね!」


    ゲン「おう!お嬢ちゃん達も観光楽しんで来いよ!!」手ひらひら



[京]の情趣溢れた旅館で鉢巻をつけた一人の人間が、個性豊かな三機のメカが一行を送り出す
 旅の魅力は初めて行った土地での"出会い"にもある、その土地柄、独特な文化…行き交う人々の民族衣装、料理、方言
それに人柄だってそうだ、今回の旅で彼等の様な人情深い人達と出会い
ちょっとした世間話やお互い知らぬ土地の話題に花を咲かせる…それはきっとすばらしいことなのだろう

 勿論、出会う人全てが"いい人"とは限らないが、それも踏まえた上で他者とのふれあいが異国情緒を楽しむことに繋がる


旅人4人+1機が[京]の街を観光し始めたころ、陽はもうじき一番高い位置に上がろうとしていた



     ぐぅぅぅぅ~~…



  アセルス/レッド/白薔薇「「「えっ」」」クルッ





     ルージュ「ぁ…///」カァ///


 BJ&K「胃が強く収縮された時に生じる音を確認、空腹期収縮ですね、腹の虫が鳴くとも言われています」ピピッ



 ピタリと、歩みを止めて赤らめた顔をする紅き術士、と一歩先で振り返りそれを確認する面々、…冷静に分析するメカ
誰が一番に笑いを堪え切れなくなったのか、噴き出した声に一層照れくさそうにするルージュ


  アセルス「ふ、ふふ、し、白薔薇を探すのに夢中でまだご飯食べてなかったものね!」クスッ

   レッド「お、おう…くくっ、そうだな、もうじき昼メシ時だし…」ククッ


  ルージュ「わ、笑わないでくれよ!…しかたないじゃんか//」



  \ アハハハッ! /  \ ウフフッ! /    \ ヤ、ヤメテヨネ! /



  白薔薇「まぁまぁ、元はと言えば私の所為でもありますし…心術の試練より先にお昼に致しませんか?」

  ルージュ「そ、そうとも腹が減ってはなんとやらでしょ!ここはお昼が先だって!」



 豪華客船キグナス号は[京]で一泊二日の観光ツアー客を降ろし、翌日には[シンロウ]へ向かうスケジュールだった
この機を利用して乗務員も羽休めを許されている為、緊急に呼び出しでもない限りレッドも時間はある

旧知の仲であるアセルスお嬢、妙に意気投合できる気の置けない友人のルージュ、何か放っておけない白薔薇姫

三人に付き合って名所巡りや一緒に[心術]の資質を得る修行に挑戦するのも悪くないと思った


予定通りならば先に[心術]の修行場に行き"資質"修得に挑戦だったが…





   ルージュ「す、寿司ッ!…い、いよいよ僕はSUSHIとやらを食べるのか…」ドキドキ、ワクワク




    レッド「いや、あれは刺身だよ」
   アセルス「うん、寿司はそっちのお米の上にネタが乗ってる奴の事をいうんだよ」




まず、修行よりも腹の虫を鎮める方が大事である

 旅行者に優しい写真付きのメニュー看板を見て
『刺身』を『寿司』だと勘違いする異国人に指摘を入れる[シュライク]人二人、その後に続く妖魔の貴婦人


 BJ&K「…私は入口で店員さんにお願いしてバッテリー繋いで貰います」


物質を飲食できないメカは充電モードで待機してもらう事となった、メカだからね仕方ないね



   ルージュ「お、おぉ………!」キョロキョロ

    白薔薇「あらまぁ……」パチクリ


 [京]の建築物は木と紙、あとは土を焼いたモノ…屋根に使われている瓦だったり、基本的に自然と共存している印象を
紅き術士と妖魔の貴婦人は受け取った、木造建築の内装でよく見かける畳という床材に、"襖"という紙で出来た横扉だ

 どこの異世界<リージョン>でも料理人の正装は白一色と決まっているのか、"板前"と呼ばれるシェフは白い服に帽子という
姿で、手にした包丁で綺麗に魚を捌いていた



   レッド「二人共こっちの席に座ってくれ」


   ルージュ「ハッ! あ、うんっ!」トテトテ…

    白薔薇「ただいま其方に…」



"おてもと"とリージョン共通語で書かれた紙の入れ物に入った竹製の割り箸、陶器製のコップ――湯呑み、というらしい

 郷に入れば郷に従え、この惑星<リージョン>が発祥の諺らしい、生憎とルージュはこの地での作法を知らぬ
ふんわりとした長い銀髪を揺らしながら彼は目線をレッドとアセルスに向ける、どうやら座布団と呼ばれるクッションに
術の精神統一に行う座禅の体勢で座り込むようだ



  ルージュ(本当に僕の知らない世界だなぁ…っと、こうかな?)ちょこんっ



 白薔薇姫がアセルスお嬢に教えられ、別に正座でなくても掘り炬燵式なのだから楽な姿勢で良いと言葉通りに座る
そして、お品書きを手渡される



   レッド「今日は俺の奢りだ、なんでも頼んでくれよな!…あっ、でもめちゃくちゃ高いのはカンベンな」



 安月給の機関士見習いレッド少年が当店のおすすめ、という部分を開いて渡してくれたので術士はそれをジッと見た
どうやらお寿司、以外にも先の刺身や…天ぷら、どんぶり、という物が在るらしい

 和食は食べた事が無いから、何が美味しいのか分からない
向かいに座る少年曰く「なんでもうまいぜ!」との事だった……アバウトだなぁ、とルージュは内心で困ったように笑う

 値段もお手頃(?)で少し食べたい人向けの寿司を注文してからすぐに運ばれてきた木の板…下駄のような皿の上には
小さな長方形のライスボールの様な物があり、その上には魚肉を切って乗せたモノがあった



  ルージュ「この黒いソースにつけて食べるのかい?」

  アセルス「醤油だね、ちょこんとつけるといいわよ……っ、う~ん!!久しぶりの和食だわぁぁ…」ホロリ



[ファシナトゥール]から[マンハッタン]…そして[クーロン]と旅してきた少女が久方ぶりの和テイストに感涙する
 隣に居る白薔薇も箸で一つまみ、お刺身を一口齧り「まぁ…!」と思わず頬肉を綻ばした




   ルージュ「いただきます、…ちょっと"ショーユ"つけて…もぐっ」パクッ






     ――――ポタッ

            ――――――ポタッ






      ルージュ「……」ポロポロ


      ルージュ「………感動したッ!」ポロポロ…(´;ω;`)ブワッ


泣きました。



  レッド「なんだよお前大袈裟だなぁー」







  ルージュ「大袈裟なんかじゃないよ、お米についてるこの味、酢<ビネガー>かな…それにショーユのしょっぱさと」


  ルージュ「魚の甘み――魚って生で食べる機会無かった分かんなかったけど甘いんだね、あぁ、脱線しちゃったけど」


  ルージュ「それ等と別に何かピリッとしたモノがあって…っ!」




  ルージュ「そのスパイスが絶妙なハーモニーを生み出してるんだぁっっ!」ドンッ☆


<ハーモニーを生み出してるんだぁっっ!
<生み出してるんだぁ
<ウミダシテルンダァ



 ドン!っと漫画なら擬音でも出てそうな力説をかます紅き術士に「お、おう、そうか…」とレッドが気圧されかける
心なしか台詞にエコーでも掛かってそうなまである…まぁ気に入って貰えたなら何よりである



  アセルス「…というかルージュさ、何気にアレだったりするの?ほら…えっと、食通っていうの?」


湯呑みのグリーンティーを啜りながらアセルスお嬢が口を挟む、それにパチクリと目を瞬かせる


  アセルス「いや、酢飯を食べて酢<ビネガー>がどうとかさ初めて見る料理で何使ってるか一々分かる訳じゃないのに」

  アセルス「だから、思っただけ……味にもうるさそうだったし」



  ルージュ「んー、一応旅に出る前は僕が料理当番になること多かったからかな」


  レッド「うん?当番……あ、よくある家族で「今日は○○がお風呂洗い当番なー」みたいな?」



今日はお兄ちゃんが夕飯の夕飯のおつかい行く日ねー、あたしお料理当番だからー、みたいな感じかとレッドは尋ねる
 その答えはある意味近いと言えば近かったが…





    ルージュ「家族?……いや、"家族"、じゃないかな…僕、さ…物心ついた時から親居なくて国の施設に居たから」






  レッド「えっ」
 アセルス「えっ」


  白薔薇「施設、ですか…」



  ルージュ「そそ、[マジックキングダム]の魔法学院でずっと小さい頃から寮生活なんだよねー」

  ルージュ「みんな、僕が当番になると、やったー!ルージュの飯だーって喜んでくれてさ~」ハハッ



……あっれれー?なんか重いハナシになっちゃったぞー、レッド少年とアセルスお嬢はお互いに顔を見合わせたが
当事者のルージュは笑い上戸か何かのように明るく話すので地雷踏んだワケじゃなかったかと一息である




  レッド「そうかぁ…しかし魔法学院の寮かぁ、なんか意外だったなぁ」



  ルージュ「意外ってなにが?あっ!僕が料理できるってこと!?ひっどいなぁ…」

  ルージュ「そりゃあ最初は魔法学院風味を利かせた精進料理もできなかったけど少しずつ腕をあげて」



  レッド「いや、そっちじゃなくて学院の寮ってとこのくだりだよ…なんつーか意外なモンだなぁって」

 アセルス「うん、…言われて見れば私も白薔薇も、ルージュが術の資質を得る修行の旅をしてることしか知らないわ」

  白薔薇「そうですわね、アセルス様が12年間眠り続けて、オルロワージュ様から現在逃げている事や
       レッドさんが犯罪組織の陰謀でご家族を亡くし"通りすがりの人"に病院に運ばれキグナスで働いている等」


  白薔薇「…私達お互いに深い所は知る関係になりましたが、考えてみればルージュさんの事は何も知りませんね」



アセルスと白薔薇は言わずもがな

レッドは……ヒーローの事は伏せるように、組織の幹部に殺されかけた時に"通りすがりの人"に病院に搬送され助かったと
 流石に『広大な宇宙の何処かにあるヒーローの惑星<リージョン>から来た正義の味方アルカールに救われました』などと
馬鹿正直には言えない、言えば記憶を抹消されてしまう








 ルージュは、良くも悪くも世俗に囚われない…知らなすぎる節がある




単なる世間知らず、というには見る者全てに「なんかそういうんじゃねーなコイツ」と思わせる浮世離れした雰囲気がある


見る"モノ"全てが初めて


建物、人物、文化、土地の風習…それもだが、誰もが知ってる当たり前の常識でさえも何処か抜けてて

歳相応じゃない、22歳にしては純粋過ぎる、…人懐っこい犬みたいに誰にでもホイホイついていくその感性だ
 世の中は善人だけではない、"そういう人間"を利用して利潤を得ようとする者も残念ながら居るのだ



――――だが、[ルミナス]で旅人をぼんやりと道行く旅人を見つめていた時といい
                         見ず知らずの旅人でさえあっさり信じる危うさがある



[マジックキングダム]は名の通り、魔法大国として栄えたリージョンだ

 だから出身地を聞いた時、…ああ、裕福なお家で箱入り坊ちゃんとして育ったのか?ともその世間知らずな所で思ったが
それとも違うのだ






  ルージュは、隔離されて育った。



王国の闇、影の部分である問題のある子供を極秘裏に育てる"影の学院"で

いつか、来るべき日…兄弟同士で殺し合いをさせるという御国のプロジェクトの為

他所の惑星から見れば国のお偉いさんは倫理に反している!!と非難殺到間違いなし
 世論が国家を滅多滅多に叩きまくって惑星間を跨ぐネット上で炎上しまくるのが確実な魔法大国の"暗部"


その片割れを隠しながら育てる為に、だ……ルージュが何処か、現世の人間とは違った雰囲気なのもそれが原因である

―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後12時15分】



  レッド「…」トボトボ

  レッドのお財布『200クレジット』チャリン…




  レッド「…くっ!男児たるもの泣くもんかよっ」




  BJ&K「涙腺のゆるみを確認、感情の我慢は毒です」ピピッ

  レッド「うるせぇよ!」




 昼食を取り、[心術]の修行場へ赴くがてらに土産屋へ寄った、お祭りに使われる"提灯"という風変わりなランタンがあり
お菓子やお弁当の他に木刀や竹刀なんかも売ってたりする


  レッド「トホホ…ユリアが欲しがってたモンがこんな高いなんてなぁ、ん?」

  ルージュ「…」ジーッ



  インスタントカメラ『 』



  レッド「なんだルージュ、カメラが珍しいのかよ」トテトテ

  ルージュ「あっ、うん…ちょっとね」



 [京]と言えば、学生が修学旅行に遊びに来たいリージョンNo.1に選ばれる星だ、ちなみ次点はカジノの星[バカラ]
レッド少年も、アセルスお嬢も学校の行事で此処へは来た事があった

その時も、学生の旅の思い出にとよくカメラが売りに出されていたのは記憶に残っている



  ルージュ「これさ、いんすたんとかめら、っていうんだろ、上のボタンを押すと写真が出る」

   レッド「ああ、…良けりゃ買ってやろうか?安売りしてるみたいだし」


  ルージュ「えっ!いいの…!」パァァ…!



 気になる職場仲間の女の子への土産は買ったんだ、ならたかが時代遅れになりつつある消耗品のカメラの一つ二つ…
そんな気持ちで安売りされていたカメラを友人に気前よくくれてやった



  ルージュ「レッド!ありがとうっ!…これがカメラで、こっちの筒に入ってるのが替えフィルムかぁ…へへっ」トテトテ



   レッド「やれやれ、アイツ俺より本当に3歳年上なんだか」ハハッ

  アセルス「あっ、烈人君…ガールフレンドへの贈り物は決まったんだね」ヌッ


   レッド「おわっ!?ね、姉ちゃん!?」ビクッ



本来なら12歳年上の17歳女子高生が19歳男子の後ろからヌッと現れた、アセルス姉さんじゅうななさい



  レッド「あぁ…姉ちゃんは、その紙袋の中身は?」

  アセルス「ふふっ、あれだよ」スッ



 緑髪の少女が指差す方角は衣服が売りに出されている一角だった
浴衣や着物もそうだが宇宙開拓<フロンティア>が進むにつれ客層もグローバル化が進みつつある…何処の惑星でも通用する
カジュアル服も当然ながらある、物価の高い[マンハッタン]、そこよりかは安く済む[クーロン]よりもなるべくなら
資金を消耗せずに済ませたい、…次の目的地が[京]と決まった時に買うならこっちの方がよいと判断したのだ



  アセルス「ずーっとこの貴族服だからね…」クルッ


  レッド「あ、そっか…姉ちゃん追われてるんだよな…」


  アセルス「うん…服を作ってくれたジーナ…あ、友達のいい子なんだ、そこの子には悪いけどこの服は鞄に仕舞って」

  アセルス「こっちの、人間だった頃によく着てた奴を着ようかと」ゴソゴソ




 アセルス編OP時の歩行グラフィック水色パーカー『 』ピラッ




  レッド「うわっ、懐かしい…」

  アセルス「あはは…私からしたら懐かしい、って感覚じゃないんだけどね…」ポリポリ



レッドから見れば12年ぶりの服装、最近目覚めたアセルスからすれば実に数日前の服装である
 追われる身であるのならばせめて中世ファンタジーの王子様ファッションから目立たない恰好にしておきたい

 …尤も妖魔は特有のオーラで何処にいるか大体わかるから多種多様な人種入り乱れるリージョンで人混み
特に妖魔系のグループが大勢いる辺りに紛れてる時ぐらいしか役に立たないかもしれないが


ちなみ彼女曰くジーナから貰った大事な服は間違っても捨てたりしない、らしい




  白薔薇「まぁ…色鮮やかで綺麗ですわ、…こ、こんぺーとー?」

  ルージュ「へぇ、これお菓子なのかぁ」ヒョイッ



金平糖<コンペイトウ>、白、赤、緑、黄…透明な瓶の中にはお星さまが沢山入っている
 土産屋のカウンターから老婆が顔を出し、茶菓子に如何か?と尋ねて来る
紅き術士と妖魔の出で立ちから、他所から来た人ならお一つご試食を、とご丁寧に広げた和紙の上に乗った星をくれたのだ



  ルージュ「…おぉ!あまーい!」パァァ…!

   白薔薇「ええ、口の中で少しづつ溶けていく…飴細工のようですわ」

  ルージュ「おばあちゃん、ひとつ貰うよ!」つ【お財布】


  「おんや、まぁ…そんなに気に入ってくれたかえ?」



  白薔薇「あら?こちらにもありますね…?いえ、これは―――」



  「ああ、それは[京]で精製した[精霊石]じゃよ」


  ルージュ「[精霊石]?…へぇ、[マジックキングダム]以外でも売ってるんだ」


 土産屋の老婆が言うに、[京]の風水師や陰陽師が清めた魔道具や消耗品が特産品の1つでこの石もそうだという
投げれば、砕け散った破片が敵意を向けて来る者に刺さり自身を守ってくれると



  「ほっほっほ、それだけじゃないぞ、この[ラッキーコイン]や[アンラッキーコイン]やお守り各種も…」


  ルージュ「んー、ならコインを幾つかと[精霊石]を貰おうかな」



綺麗だし、旅の思い出ってことで良いかなと、故郷でも手に入る石をコインと一緒に購入した…



――――後に、この[精霊石]がブルーと出逢った時に役立つのだがそれはまだ先のお話




―――
――



  レッド「つーわけで、人間3人此処で修行したいんだ」

 アセルス「よろしくお願いしますっ!」

 ルージュ「頑張ります!」


  「うむ、では奥の部屋で座禅を組み、精神を集中させなされ…試練に挑戦できるのは一度のみじゃ」


 白薔薇「皆さん、頑張ってくださいね!」←見学

  BJ&K「応援してます」←見学



受付で[心術]の資質を得るべく、手続きを済ます…手続きと言っても特に変わったことをするでもなく
 ただ、受けたいからやらせてくれと言うだけである


 蝋燭の頼りない灯り、お香の独特な匂い…奥の広間で来客のルージュ等三人を出迎えたのは仏像という
変わった様式の彫像だった…物珍しいソレを眺める術士、「懐かしいなぁ学校行事で来た時はお試しコースだった」と
少女が言い、「こいつと睨めっこすればいいのか」と少年が頷く


赤の名を持つ少年が仏像の前に正座して目を閉じる、その隣に紫の血を持つ少女が、そんな二人に倣って紅き術士も




      ルージュ(二人と同じように眼を閉じてればいいのか…)パチッ

      ルージュ(……)

      ルージュ(…う、ん?)グニャァァ



―――
  ―――
      ―――
        ――…



      ルージュ「あれ?なんで草原みたいな所に…」

          「きぃぃぃぃーーーっ」     


      ルージュ「モンスター![ハーピー]か…ッ」シュタッ!



        「けけけっ! 血肉を寄越せェェ!!」グォンッ!



 視界に広がるグリーンの絨毯に影がある、背中に生えた翼をはためかせた半鳥半人の化け物が陽光を遮って作った物だ

小さな豆粒ほどであったそれはルージュ目掛けて高度を落とすに連れて、…地表へ近づくことを示すように大きくなる
 両脚の鋭い爪が銀髪の垂れ下がる両腕の付け根を刺し、そのまま千切り取ってやろうと降りて来るも
彼は自分と地表の影が重なるタイミングを見計らい、それを[見切る]…っ!


頭上に豆電球でも灯った様な感覚だ、どうすれば避けられるか身体が自然と閃いたままに動く



    「ケェー!!、ちょこまかと…!」ガッ!


農夫が柔らかい土塊に渾身の力で鍬を振るったかのように[ハーピー]の両脚は突き刺さる、すぐに足を引き抜いて
 地の利を生かそうとホームグラウンドの蒼穹へ飛び立とうとするが…



    ルージュ「先に仕掛けて来たのはキミなんだ、…恨んでくれるなよっ!」カチャッ!BANG!


        「ゲゥ、…この餓鬼ぃぃ!よくも俺様の顔を…ケェエエエエエエエエェケッ」グォンッ


    ルージュ「エミリアさんみたく上手くはいかない!1発じゃ仕留めきれないかっ!」ダァンッ!ダァンッ!



    「へひゃひゃ!へたくそぉ!そんな豆鉄砲の腕じゃあ鳩だって堕とせねぇーぜ、ケヒッ」ゴォォォ…

    ルージュ「それはもう見切った――「甘ぇぇよ!!」ガッ! ボッコンッ



  同じ動作で再び紅き術士に爪を突き立てようとしたのか、否、人間の皮膚を切り裂くのが目的ではない
次はそのまま、土を掻っ攫うように地面に突き立てたまま前進し、地中の硬い大岩を踵爪に引っ掛ける
 土木建築のクレーン重機が持ち上げてみせるのと違わない動きを器用に熟して人の頭部を二周り以上大きくした岩を
ぐるぐると回転して遠心力付きでルージュに投げつける



    ルージュ「あく"ぅ―――っ」ガッ


     「いひゃひゃ!ヤッター、メイチュー、ストライクー、くひゃひゃ!」


 片脚に命中した大岩、衣服に広がる鮮血、尻餅をつき、片手で負傷した脚を引き摺ろうとするルージュを見て
モンスターは舌なめずりをする、狩りは鮮度の高い肉を喰えるから良いのだ


薄い桜色の脂、それを多く赤黒い体液、鉄の味がするワインに酔い、勝利の末に得た極上の肉を舌の上で溶かす


動きの鈍った獲物目掛けて[ハーピー]は今度こそトドメを刺そうと次は両脚をルージュの胸――心臓に狙いをつけて





        「心臓もーらいィ!それで俺様の顔の傷は許してヤルよ!あーひゃひゃひゃひゃ」


       ルージュ「…っ、[インプロージョン]!」キュィィン







            ボジュッ

                        ボトッ ベチャッ…ゴロゴロ…    バサッ…




笑った顔のまま、モンスターの"生首だけ"墜ちて転がった。

釣り上がった目元も舌を出して品性の欠片も無く哂った顔のまま、少し遅れて背中に生えていた筈の翼もバサっと墜ちた


―――
  ―――
      ―――
        ――…


     「おい、ルージュ。 起きろよ!ルージュ…!!」ユサユサ



  ルージュ「うっ、…あれ、…ここ、さっきの」




    レッド「お、やっと起きたな寝坊助め…どうだ?夢に出て来た魔物倒せたか?」

   アセルス「どういう理屈か知らないけど、自分の中の不安とかが形になって出る来るから倒せたら成功だって」


  ルージュ「え、そうなの…それならなんとか…」


  ルージュ「…」



   -ルージュ『エミリアさんみたく上手くはいかない!1発じゃ仕留めきれないかっ!』ダァンッ!ダァンッ!-

    -『へひゃひゃ!へたくそぉ!そんな豆鉄砲の腕じゃあ鳩だって堕とせねぇーぜ、ケヒッ』ゴォォォ…-


  ルージュ「…。」

  ルージュ「自分の不安、か」




  ルージュ(結局最後は僕、術で倒したんだ…術が使えなくなった時、足手まといになる、僕が仲間の脚を引き摺る…)



目を片脚に向ければ大岩をぶつけられた痕も、衣服の血汚れもそこには無かった



   レッド「俺は、なんか変な腕が出て来たな…いきなり[空気投げ]喰らってな、そのあと巻き返したけど」

  アセルス「私は蝙蝠が襲ってきたわ……昨日苦しめられた[スクリーム]を使ってくる敵よ」グッ!



それぞれ魔法生物系モンスターの[ダガーグラブ]と巨大蝙蝠の[ソニックバット]が襲って来たらしい
 結論から言うと友人達もルージュ同様に撃退に成功し試練に打ち勝ったと

―――
――


   「うむ、合格じゃ…これでそなたらは[心術の資質]を得た」


  レッド「…なぁ、資質って言われて姉ちゃんはなんか実感あるか?」ヒソヒソ

 アセルス「えぇぇ!?…いや、言われて見れば心がスッキリしてるような、ないような…」ボソボソ



  ルージュ「いや…あるよ、ハッキリわかる」




  ルージュ「あの大仏の部屋を出た辺りから何か、目覚めそうな気がするんだ…今まで分からなかった事が分かる」


  レッド「ほ、本当か?俺は…あんましそういうのピンと来ねぇぞ?」ヒソヒソ

  ルージュ「…ううん、戦いの最中で、自分の生命を賭す局面で[心術]を使えば、明光のように突然パーって…」


えらく抽象的で感覚的な事を言われるな、とレッドは思う、だが…不思議と"妙な説得力がある"のだ…否定できない
 自身の心が何処かでソレを"納得"しているのだ…っ!…これが資質を得ている、ということなのだろうか



  レッド「ま、俺は術の事はてんで素人だからな、術士のお前が言うならきっとそういうことなんだろうよ」

  レッド「そうと決まりゃ何か一つ基礎術のスクロール…で良いんだよな?」


  ルージュ「そうだね、お金で魔術書…スクロールを買って基礎術を教えて貰う、後は自分でモノにしてく感じだよ」

  アセルス「…だったらさ、全部買う必要ないんじゃない?頻繁に使いそうなの一つ買ってあとは節約するとか」


  レッド「おっ!いいなソレ!おーい受付の人、早速売ってる術見せてくれよー」




 「はい。」デンッ

・[克己] 料金300クレジット

・[呪縛] 料金300クレジット

・[隠行] 料金300クレジット





  レッド「 」


レッドのお財布『170クレジット』




  アセルス「へぇ~!色んな術があるのね【麻痺】効果の[呪縛]に、自身の怪我を完全治癒する[克己]…良いわね!」

  アセルス「烈人君はどれにする?やっぱり[克己]?」


  レッド「エッ、アァ、ソレガイイヨナ、ジツヨウテキ ダヨナ。」



目が点だ。


試練に打ち勝ち、資質を得た…試練には勝てたが現実には勝てなかった、世の中は金という天下が回っているのだ



ここでアセルスに泣きついて、姉ちゃん!必ず返すから金貸してくれぇぇ!と泣きつくのは容易い
 男としての矜持をかなぐり捨てるだけで借用書が一枚できあがりだ


…おそらくアセルスならレッド、否、烈人君でなかったとしても利子無しで貸してくれるのだろう
女から小銭を借りる男、ヒーローの男児のプライドに罅が入りそうでそれは嫌だ




 ツンツン


  レッド「ぁ?」チラッ

  ルージュ「…」腕ツンツン


  ルージュ「レッド、これ…僕から」つ『300クレジット』

  レッド「!? お、お、お前ぇ…」プルプル



ひそひそ声で300クレジットこっそり渡してくれる友人に目頭が熱くなる、「カメラのお礼だよ」と人差し指を口に当てて
これ内緒ね?と…声には出さないが仕草で伝える、男の誇りを理解する者同士、言葉はなくとも分かり合ったのであった

持つべきモノは友だなぁ…


―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後14時32分】



このリージョンでの目的は最早果たしたも同然であった、…いやアセルスの武器はまだだが


 あの[森の従騎士]の様な一人で複数人を一斉に攻撃する範囲、又は全体攻撃の手段を所有する敵と対峙し
且つ回復が間に合わない状況下に陥ったとしても最低限、自身の傷は完治できる

それだけでも十分全滅の憂いを避けることができる…そして、ルージュにとって初の"資質"の入手だ…



       ちゃぷん…


                 カポーン!



  ルージュ(…資質、か)




国の命令を聞かなければ国家反逆罪で祖国の魔術兵が群れを成してルージュを追い回す
 それこそ大昔に何処ぞの惑星で実地された悪しき風習の魔女狩りを彷彿させる恐ろしさだ
最悪、紅き術士の身柄を拘束して洗脳や麻薬による狂戦士化状態でブルーと邂逅すらあり得る…馬鹿馬鹿しいと思う話だが
本当にその莫迦げた真似を実行するヤバさがあるからルージュにはどうしようも出来ない


自意識の無い幼子の頃から子供をどっちか死ぬまでの対決させるだけの為に施設に入れて国ぐるみで養育する狂気

しかも、ルージュの他に"裏の学院"には彼以外の子供の沢山いた、つまりそれだけ【そういうこと専用の候補生】が居た


出来ればそんな運命はまっぴら御免で、逃げられるなら何処へなりとも逃亡したい…

何処でどんな方法で監視か何かされてるのかさえ知らないが、体裁だけでも資質を集めている風に見せる必要がある




資質が手に入ったのは…純粋に今居る仲間の力になってあげれるから嬉しいがその反面で

自分の自由が終わる、兄弟同志で殺し合う為の舞台が整いつつある、そんな嬉しいとは真逆の相反する感情も孕んでいる




  ルージュ(…)ちゃぷっ!ちゃぷっ!


  ルージュ(…。旅してる内に解決策、何か考えないとイケナイ、わかってるけど何も思いつかないよ…)





        ザバァァァ!!




  ルージュ「うわっぷ!?」ばしゃぁぁあ!


  レッド「あっはっは!吃驚したか!」ハッハッハ!


  ルージュ「むぅ…!やったなレッド!」バシャァァ

   レッド「おっ!やるかぁ!」



……ちなみに彼等は今、[京]の日帰り温泉の露天風呂に居る、思いの外、手早く目的を果たせた、とお遊びモードだった


 頭に乗っけた白いタオルがお湯を吸いずっしりと重くなる、おでんのはんぺんみたいになった布は銀髪の上で
しんどそうにだらけてて、お返しとばかりにお湯を掛けたサボテンヘアーの上のタオルも似たような状態になった

お風呂にタオルを入れてはいけない、と幸い他に客はいなく迷惑にはならないがマナーだからしないようにと言われた



…騒いだりお湯を飛ばすのは良いのかと問われれば首を傾げる所だがそこは触れないでおこう



  レッド「いやぁ、タダで入れる風呂っていいよなぁ…やっぱ[京]はいいなぁ」フゥ

  ルージュ「お湯の出が良いからなんだっけ?」


  レッド「そーそー、もっと広々として色んな効能ある湯に浸かりたきゃ値の張る宿だけどよぉ」

  レッド「俺もアセルス姉ちゃんもさ、学生やってた頃は学校行事でみんな一度は来るのさ」


  レッド「なんつったって[京]だからな!温泉入って仏像拝んで、んで帰りに土産屋で木刀とか買ってくんだよ」




  ルージュ「……。」



  ルージュ「機会があれば聞こうと思ったんだけど、度々聞く"シューガクリョコウ"っていうのがソレ、だよね?」


  レッド「ん?まぁ…そうなるな、ってかお前その言い方」

  ルージュ「そっか、これがシューガクリョコウなのか」


  レッド「お、おいおい…お前嘘だろ、修学旅行したことないのかよ」


  ルージュ「本で読んだことはあるよ、学生が自分達のリージョンから他所のリージョンへ遊びに行くんだろ?」

  ルージュ「僕は、一度だけ術の座学で[ルミナス]と[ドゥヴァン]に先生の術で数分くらい連れられたくらいかな」



人生で他所の国に遊びに行ったことがない

どころか魔法王国の学院生徒であった彼は修学旅行なんてもの一度も経験してない


基本的に[マジックキングダム]の民は他所への外遊を許可されていないのだから…





  ルージュ「…?レッド、震えてるけど、どうかしたの」


  レッド「~~~っ!」ガシッ!

  ルージュ「えっ?えっ?えっ?」



  レッド「 よ く わ か っ た !  ! !! 俺に任せろ!!」


  ルージュ「ま、任せるってなにを?」


  レッド「ばっかやろう!お前22歳になって修学旅行の1つも行ったこと無いとか人生損じゃねーか!」

  レッド「ダチとワイワイ騒いで、遊んでって青春の一頁だぞ!無いなんて悲しいだろ!俺に任せろ!」




何かわからんが心に火が灯ったらしいレッド少年の気迫に負け、とりあえず術士は頷いた…

―――
――



  ルージュ「それで、どうするんだい?」

   レッド「へっ!温泉に来たんだぜ!男が温泉に来たらやることなんて決まってらぁ!」ニヤリ




―――
――


【露天風呂:女湯】



  アセルス「…」ちゃぷん


  アセルス(水面に映る私の姿……この、緑色の髪の毛)スッ




 アセルスお嬢は、陽気立つ水面が映す自身の顔を見た、生前――人間だった頃――と変わらない顔立ち
17歳で成長の止まった身体、それに合わせた歳相応のあどけなさが今の表情にはあった

どうすればいいのか、途方に暮れそうな、捨てられた子犬のような顔


戦地に一度立ち剣を振るわば、花を愛でる少女よりも勇ましく軍旗を振るう戦乙女の如し麗人さよ


そんなボーイッシュな彼女は自分の変色した髪色に溜息をつく
 以前は赤みの掛かった茶髪だったそれは人間じゃない生物に変貌した事を強く主張する…綺麗なエメラルドの美しさだが
当の本人はその鮮やかな色を好まなかった


 自分が人間を辞めさせられたことを強く実感するから……



 ちゃぷっ



  アセルス「っ!誰!?」ビクッ


  白薔薇「アセルス様…私です、お背中、お流し致しますよ」ペコッ


  アセルス「なんだ…白薔薇か、――って背中!?いいよ!私もう子供じゃないんだから///」

  白薔薇「ふふ、そう仰らずに」スッ



  アセルス「あっ……もうっ!」プイッ

   白薔薇「…ふふ、拗ねないでください」


  アセルス「……こそばゆいよ、まったく//」


  アセルス「……。」


  アセルス「ねぇ、私…もう一生、人間には戻れないのかな」



 白薔薇姫の手がその一言で一瞬止まった、だが…それは一瞬だ、何事も無かったように続ける

…少女に不安を感じさせまいと


   白薔薇「可能性が無いとは言い切れませんわ…」




  アセルス「…私、怖いんだ」

   白薔薇「…」





  アセルス「寝てて、怖い夢を見たんだ…私が、オルロワージュを倒す夢」








 ―――手が止まった、今度は一瞬ではない


白く健康的な肩肌を震わせた少女はポツリ、ポツリ、と"悪夢"の内容を語る



自分を半妖にした原因たる人物、妖魔の頂点に立つ者、…魅惑の君[オルロワージュ]、白薔薇姫の主でもある人





   アセルス「私が、赤紫のお姫様が着る様なドレスを着てたんだ、鏡に映ってる私は……頭に角が生えてて」


   アセルス「すごく綺麗なんだけど悲しそうな顔をしたジーナがその夢に出るんだ、私の顔をみて怯えたような顔で」


   アセルス「…それで、夢に出てくる私は言うんだ『君は私にとって特別な人だ。私の最初の姫だからな。』って」




  白薔薇「…」




   アセルス「その後ラスタバンやイルドゥン…色んな妖魔が来て、思い思いに自分の感情を吐き出して」


   アセルス「私は、そんな彼等を切り捨てた、夢の私は…夢に出てくるアイツは…っオルロワージュと同じ、ううん」


   アセルス「刻の流れの止まったリージョンから外にも手を伸ばして全てを跪かせようとした、それ以上の悪魔だ!」






   アセルス「白薔薇…っ、怖いんだよ…その夢には何故か白薔薇が居なくて、誰も止めてくれなくて…怖くて…っ!」




   白薔薇「アセルス様、それは夢です…現実ではございません」ギュッ

   アセルス「…~っ」


   白薔薇「…少し、湯冷めしてしまいそうですわね…このままお湯に浸かりましょう?」ニコッ

   アセルス「…。」

   アセルス「はは、後ろから抱きすくめられたままの入浴って変だよ…」


   アセルス「……ありがとう」ギュッ



 アセルスお嬢は…自分を抱きしめる腕にそっと手を添え優しく握り返した、嗚呼、今は怖い夢の中じゃないんだな、と

























一方その頃…



ガチャッ!


    レッド「ぐ、ぐおおおおぉぉぉぉ…!!  ぉ 」ドサッ

   ルージュ「…… も、   む り」バタッ




   ルージュ「ね レッド 、これが きみのいう おとこが来たら温泉で すること な  の?」

    レッド「さ、サウナ我慢大会は おとこの ロマン なんだ よ ガクッ」


―――
――



  コーヒー牛乳『 』フタ ポンッ!
  コーヒー牛乳『 』フタ ポンッ!


   レッド「ゴクゴクゴク…」
  ルージュ「ゴクゴクゴク…」


  レッド「くぅ~、汗思いっ切りかいたら、洗ってから冷たいコレだぜーっ!」プハァ

 ルージュ「美味しいね!これ!」



  レッド「な?我慢した甲斐があったろ?あの後だからこそ冷たいのがうめぇんだよ」


 ルージュ「ああ、いいものだ……、今度来る機会あったら僕が勝つからな」ニィ!

  レッド「いいや、次も俺が勝つね」ハハッ

<アハハハ!


  アセルス「あ、二人共…上がってたんだね」ホカホカ

  白薔薇「お待たせしてしまいましたか?」ホカホカ


  レッド「いや、そんなことはなかったぜ」
  ルージュ「うんっ!」



 充電させてもらってるBJ&K「……私はメカですので羨ましくありませんよ、ええ…放置されるのは慣れてます、ハイ」




  ルージュ「このリージョン…本当いいとこだよね、紅葉が綺麗でさ…水の上に舞い降りて浮かんでるのがまたね」



 温泉の暖簾を潜り、湯上りの術士は親友達に語り掛けながら畔へと目を向ける

水面の青に、舞い降りる赤。


そこには調和がある



 枝からはらり、と巣立った葉は水鏡を征く小舟となる…自然の生み出すどこか儚く、切ない自然美だ

相反する色合いだからこそ、見映える…赤と青だからこそ重なり合った時にそれを美しいと思う、ただ反発するんじゃない



   ルージュ「……。」



正反対だから争う、ではない…相手とは違う方向性に秀でているからこそ足りないモノを補い合えればいい
 だが不思議な事に人間って奴はその発想に至れない、他者を見てそれに優劣をつけ競い、争い、蹴落とすという
徹底して相手を容認しない選択肢を取りたがるのだ


勿論、理屈では分かる、人と人が何故手を握りたがらないか、人間は動物とは違う…知性がある、それが何を意味するか


如何なる環境であれ、己の生存圏の拡大や権利の為に弱肉強食の闘争を繰り広げる行為も知性云々関わらずに在ることも




だが、どうせ"知性"を得た生物になったのなら、弱肉強食とは違った形で生きてみようと思わないのか、術士は度々想う





  レッド「だよな~、今言った通りここはその時期にそういう祭りもあるし」

  アセルス「うんうん!」



  ルージュ「……え!?あ、ごめん聞いてなかった!」



  レッド「なんだよ、景色に見とれてたのか?」

  ルージュ「まぁね、あっ、そうだ」ゴソゴソ




  さっきレッドに買ってもらったカメラ『 』バァーン!





  ルージュ「あのさ!みんなで記念写真撮らない?シューガク…コホン、修学旅行ってこういうことするんでしょ?」



  アセルス「あっ、それ良いわね!」

   白薔薇「写真ですか、…噂には聞いてますが、その小さな機械で時を切り取り絵画を生み出すのですね」



  レッド「いいじゃんか!いよいよらしくなってきたぞ!…あ、でもそれだと誰か一人写真に入れねぇ…」

  レッド「…うーん」

  レッド「そうだ、地元の人に頼んで撮ってもらおうぜ!」



   ルージュ「そうか!僕、人を探してくるね!!」ダッ!


  アセルス「私達は此処で待ってるからねー!……白薔薇は私と手を握っててよ迷子になるといけないから」ガシッ

   白薔薇「は、はい…」



―――
――


タッタッタ…


  ルージュ(……今日で国を出て4日、か)ハァハァ…



  ルージュ(………不安しかなかった旅の始まりだった、決して旅の理由も素敵なモノなんかじゃないけれど)ハァハァ…










      それでも、それでも――今、自分が外の世界で出会えた人との巡り合わせ、"友達"と呼べる人ができたこと




     …それだけは自分の22年の人生で、きっと一番誇っていい、輝いてる宝物だと思う






       どんなに辛かろうとも旅路を思い返せば、嗚呼、いい旅だった…まるで夢のような時間だった、と



     きっと、そう言えると思う、―――いい夢だ、悪夢なんかじゃない







    "家族を殺す為"の旅…そんな呪われた因果の資質集めだけど






       ルージュ(綺麗な景色をたくさん見た、トラブルにも巻き込まれて…女装させられた時もあったっけ)


       ルージュ(見たことない食べ物を食べたり、温泉に入ってサウナ我慢大会したり…)


       ルージュ(……この"楽しい"って感情が、僕にとっての修学旅行なのかな)




 魔法学院を出て初めて祖国から出る許可を貰った、人生で最初にして"最期"になるかもしれない旅行


この旅は、殺し合いを控えてる彼にとって"本当の意味で最期かもしれない旅行"でもあるのだ


ならば…せめて夢心地で居たい、楽しい事をたくさん経験して、ぶらりと色んな所を見て回って…いい旅夢気分でありたい









  ――――-今だけは夢気分、嫌な事も…近い未来の事も忘れてパーッと楽しもう、ううん、楽しみたいんだ







   ルージュ「…!あんなとこに人影が!おーい!そこのひとぉーーー!」手フリフリ





写真を撮ってくれそうな地元民を探し、すぐの事、息を切らせたルージュはその人影に向けて手を振った
 その出で立ちは正しく[京]にお誂え向きな鎧武者と言った具合であった











       通りすがりの悪の秘密組織の幹部「む?私に何か用か、若者よ」クルッ






   ルージュ「わっ、すごい鎧…かっこいい、あっ、じゃなくて、すいません地元の人(?)ですか?」





 振り返ってくれた地元民(?)は人間<ヒューマン>では無かった、メカだった、スゴイ和風ロボットである




 通りすがりの悪の秘密組織の幹部「地元民、か…生まれた地は違えど、この土地に住んでいる者ではある」



聞くに、このサムライロボットは[京]の書院に住み込みで働いているらしい、友達と観光記念写真を撮りたいから
 シャッターを頼めるかと聞けば快く引き受けてくれた、良い人(?)だ



―――
――

【双子が旅立ってから4日目 午後16時11分】



 悪の秘密組織の幹部「そこの貴婦人、もう少し連れのお嬢の方に寄って頂きたい、さすれば写真の良さが増す」


  白薔薇「はい、アセルス様、失礼します」ソソッ

 アセルス「う、うん…こう密着されると恥ずかしいけどね//」 


 悪の秘密組織の幹部「術士の若者よ、角度を右方向に少し曲げてピースサインを頼む」


 ルージュ「こうかな」ピース!


 悪の秘密組織の幹部「うむ、いい画になる…では、いざ参るっ!参、弐、壱!」カメラ パシャッ!




  悪の秘密組織の幹部「…うむ、良い出来だ、現像を楽しみにされよ」

        レッド「ははっ!そうさせてもらうぜ!アンタいいメカだな!」


      ルージュ「いやぁ、本当すいませんね道すがら声をかけて、いきなり写真を撮って貰っちゃって」



  悪の秘密組織の幹部「気になさるな、…私もこの土地が好きでな、旅の者が良き思いでを土産にしてくれればと思う」



   レッド「…。」

   レッド(なんか、えらく人間味のあるメカだな…)ポリポリ



 メカ族は、コア…人間でいうところの心臓、脳にあたる大事なパーツを中心に構築される
疑似的な人格こそあれどそこに"感情"があるかと問われれば首振る所である


それは…バイオメカニクスの権威、小此木博士の息子であったレッドならよくわかる、科学者の父から言われた事だから


 実際レッドの隣に居るBJ&Kも多少感情的な動きをしている様に見えるが
それだって元となった人格モデルの行動パターンに過ぎない、心無い言い方になってしまうが…



…このサムライロボットはまるで、本当に心が備わってるのではないかと疑いたくなる程に―――



       アセルス「そういえばあなたのお名前は?」

  悪の秘密組織の幹部「おっと、名乗りが遅れ失礼致した…私は、メタルブラック、父は私にそう名付けた」



"父"…このロボットを開発した人物なのだろう、…本当に心があるようなメカ、さぞ素晴らしい科学者なのだろうな


      アセルス「メタルブラック…ここまで色々してもらって申し訳ないけど[京]にいい剣ってないかな?」

      アセルス「その、土産屋さんにあるような木刀とか竹刀じゃない奴…」



    メタルブラック「…刀をご所望か」



 [京]には武器を売ってる店が無い、装飾品や魔道具はあったが本格的なモノは無い
…[クーロン]の方がまだ良かったまである


 学生の為の木刀や竹刀でまさかモンスターと戦う訳にも行くまい、駄目元で地元民の機械に尋ねたお嬢に対し
メタルブラックは暫し、顎に手を当てて夕焼け空を見上げる、小考、…そしてアセルスに向き返り


  メタルブラック「すまないが、時間はあるだろうか?其方が良ければ[書院]まで来れぬか」

  メタルブラック「私が随分前まで愛用していた刀がある…決して良いモノとは言えぬが無いよりは幾分か良い筈だ」



願っても無いお申し出だった、丸腰か未熟な腕で[幻魔]解禁かの二択だった所に剣を頂けるのだから行かない手が無い

夕焼けの朱に照らされ[京]が一際美しさを増す時間帯、4人と2機は…[書院]への坂道を登り始めた


   レッド「なぁなぁ、ルージュ、カメラ貸してくれよ、夕陽に照らされた街並みがすげぇ綺麗なんだ」

   レッド「俺がベストショット撮ってやるからさ!」

  ルージュ「元々はキミが買ってくれたものだからね、断る理由はないよ」スッ


   レッド「へへっ!サンキュー!俺もカメラ買えば良かったかなぁ…待ってろよ~撮った奴はコピー機で――」


 赤い少年が紅き術士からカメラを受け取り、坂道の先にレンズを向ける…赤焼けの瓦屋根の輝き、樹々の揺れる葉
そして[京]の[書院]という最高の風景写真を撮ってやろうと彼は思っていた



が、被写体は風景から人物へと変わる



 宇宙進出の技術が発展し、開拓<フロンティア>が進むこの御時世、最近のインスタントカメラも小馬鹿にはできない
画質の良さ、フラッシュ機能…そして遠くを写す遠望レンズ


 自分達が現在進行形で登る坂道に先客が居る、カメラ越しにその姿を見てレッド少年は目を見開いた
すぐに遠望モードに切り替え、その服装確認する





       レッド(あ、あいつは…間違いねぇ!!麻薬を売ってた巡礼者じゃねぇかッ!?)カメラ ノゾキ





パシャッ!


カメラのシャッターを切る、


パシャッ!

もう一度カメラのシャッターを切る、


パシャッ!


この先にある[書院]へ入っていくことをしっかりと捉えたカメラのシャッターを切る。







    アセルス「烈人君どう、いい写真は撮れたの?」

     レッド「…ああ、撮れたよ、すっげぇいいのが」

    ルージュ「本当かい、楽しみだなぁ~へへっ」



     白薔薇「…あら」


    メタルブラック「どうかされたか貴婦人殿?」ピタッ



     白薔薇「……、いえ、きっと気のせいですわね」

     白薔薇(ええ、そうですわ…今、感じた妖魔の気配…すぐに消えたからきっと……)スタスタ



―――
――

【双子が旅立ってから4日目 同時刻:[京]の庭園】


   「…おお、なんと美しい景色だろうか、[ファシナトゥール]から出て久しいが…いやはや…」スタッ

   「―――景色に見惚れている場合では無いな、あの御方の為にも…なんとしても私の妹姫、白薔薇に会わねば」



   金獅子「あの御方、オルロワージュ様に逆らう意図を…この私、金獅子が見定めてみせましょう…!!」

えらいこっちゃ

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                     ※ - 第3章 - ※



            ~ 資質を得る、という事…ぶらり、いい旅夢気分 ~

                                              -完








 現在の[京]

・ワカツの剣豪 ゲンさん

・誰よりも勇ましく強かった寵姫、金獅子姫

・ブラッククロス幹部、武士<もののふ>の心を持つメタルブラック


京に強者集まり過ぎ問題






※サガフロはとある事情でブルーは[心術]の資質を得る事が出来ない

同様の理由で双子のルージュも本来なら得られませんが、人間<ヒューマン>は試練受けるのOKというゲームシステムの所為で
ルージュも資質を得られるという製作スタッフ側の設定ミスで彼も心術の資質を得られるという…

*******************************************************


システムの都合丸出しなゲームとは違うだろうからルージュも心術の資質取れないよくらい言われるかと思ってたぜ

乙乙、最近更新多くて嬉しい
閃きシステムは面白かったなあ







           ※ - 第4章 - ※



   ~ 想うこと、思うこと。 帰るべき場所、帰れる居場所。 ~





 その日は、一際暑い一日だった


 石畳をじんわりと焼く強い日差しは遠く浮かぶ夏空に聳え立つ山が如し積乱雲を創り出す
手を繋いだ仲の良さそうな少年二人が入道雲の頂を眺めていた



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が石畳の噴水広場で生き物の様な形の雲を探して遊んでいた




【見て見て!でっかい怪獣の雲だよ!きっと周りの雲をお洋服みたいに着て飛んでるんだ】

『はははっ!いーや、違うな!あれは空飛ぶ居城に違いない、見た目雲だが突っ込めば亜空間に繋がってるんだ』



【えー、なにそれ~】

『前に図書館の本で読んだんだ、お菓子とおもちゃ、子供だらけの世界でデカい馬がその空間の王様なんだよ』



【へんなのー】

『ああ、俺も莫迦げた御伽噺だと思う、そんなふざけた空間あって堪るか』



【ふふ、そう思うのにあの雲を見てキミはその空間に繋がってるんだって言っちゃうんだ?あははっ】

『ああ、信じてない癖になんでだろうな…ははっ…』



『……誰かと、ふざけあったり、馬鹿な事を言って大笑いしたかっただけなのかもな』

【そっか、…。】





【なら、ひとつキミのお願い事が叶ったんだよ!イイ事じゃないか、もっと笑っちゃおうよ!こんな風にさ】
『そうだな』




【…。】
『…。』


【おっきい雲だよね…本当、アレに乗ってお昼ねできたらきっと気持ちいいんだろうね】
『…雲の上でお昼ね、か…そうだな、それこそ夢物語の楽園…"天国"だな』


【天国かぁ…どんなとこなんだろうね】

『…そう、だな、先生に少しだけ聞いた事がある…』

【えっ!?ほんとう!教えて教えてー、どんなとこなの!!】








  『天使…と呼ばれる羽の生えた人がたくさんいるところ、だそうだ』

  【へぇ天使かぁ…どんなところなんだろう、きっと綺麗なんだろうなぁ】

【双子が旅立ってから4日目 午後16時37分 [クーロン]のイタ飯屋】


  ライザ「ありがとうございました」ペコッ

  ライザ「さて、今日は早いけどレストランの方は店仕舞いよ」クルッ


  アニー「OK、こっからは裏のお仕事だね」ニヒヒッ

  アニー「…エミリア、大丈夫よね」


 小さく笑った後にウェイトレス姿のアニーが此処に居ない同僚を気遣う
今朝から長いブロンド美女は店を留守にしていた
 何故なら彼女は今頃、軍人コスチュームで絶賛[ラムダ基地]に潜入中だからだ、[リーサルコマンドー]を身に纏い
全身包帯ぐるぐる巻きのミイラと化したルーファスに皮肉を投げつけた後、単身で基地へ二度目の潜入へ赴いた


ある程度、彼女が基地内部をひっかきまわした後でルーファス、アニー、ライザの3人が忍び込み合流


グラディウスの任務である古代文明時代の無限エネルギー発生装置…通称"キューブ"の在処を探るという手筈だ



  アニー「こんな時間帯まで何食わぬ顔で、何処にでもいる一般人の飲食店従業員やってたんだ」

  アニー「裏稼業ってバレない為とはいえエミリア一人なんて危なっかしくて心配にもなるわ」スタスタ…



  アニー「おーい!新人アルバイト!今日はもう終わりだから皿全部洗ったら終わりだ!」ガチャッ



  ブルー「やっとか…」シャカシャカ


  アニー「昨日試しにソースの仕込みとかやらせたけど、吃驚したわよ…フライパンが爆発したんだから」

  アニー「今日一日はずっと厨房で皿洗いオンリーだったけど、そんでも助かったわ、ありがとね」


  ブルー「…ふん、約束だからな」シャカシャカ


エミリアが居ない、その分人手が減るのは必然で表の仕事は忙しくなる
 空いた欠員を早速バイト術士で埋めようと、昨日の段階でもう考えていた、誤算があるとすればこの蒼い魔術師は
料理がとんでもなく下手だったということだ


フライパンで簡単なミートソースを作れと手本を見せながらやったら何をどう間違えたのか調理器具が爆発した

ただの鉄板が何の化学反応で吹っ飛んだのか、見ていた誰にも分からなかった…あれこそ魔術であった



金髪の少女は「こいつは剣術以外に基本的な自炊のやり方を教えた方がいいかもわかんねぇ…」と頭を抱えた程である




  ブルー「おい…忘れてはいないだろうな、貴様は他の奴らと何処かに行くと聞いたが?」

  アニー「ん?あぁ、エミリアの援軍に行くまでには2時間あるからね、その間は稽古に付き合うわよ」


  ブルー「なら良いのだがな」コトッ


洗った大皿を拭き、それを水切りラックに乗せる、剣の稽古の約束事を忘れていないならそれでいい
 彼女にも彼女の都合がある為、片手間になるかもとは言われたがそれも承知の上だ


ブルーがエプロンを脱ぎ、早速厨房を出ようとした時だった

ガチャッ…!



  ヒューズ「おーい!ルーファス~、一緒に[京]で[心術]の修行した仲だろ~メシ喰わせてくれよぉ」


…『close』と書かれた札看板が見えてないのか、迷惑な客がやって来た


 その声を聞きつけ、店内の奥からサングラスを掛けたミイラ男が現れた…ルーファスだ
目元のトレードマークが無ければ恐らく誰か識別できなかっただろう彼は、…包帯とグラサンで分からないが
ゴミを見る目で傍迷惑な客を見ているのだろう


  ルーファス「…アニー、ライザ、すまないがオーダーが入った、こいつは一度来ると梃子でも動かん」

  ルーファス「店の外に叩き出してもすぐ戻ってくる、手早く喰わせてお帰り願おう」


 経験則から分かる、殴ろうが蹴ろうが切ろうが撃とうがタダ飯の為だけに何度でも来る
無駄な時間と労力の消耗より、一皿パパっと作って帰ってもらった方が圧倒的に安く済むと…


  ヒューズ「ひゅーっ!さっすがだぜ!」


   ライザ「という訳で悪いけど、サービス残業よ…」ハァ

   ブルー「…アニー」チラッ


   アニー「諦めなさい、運が無かったってことよ」


  ブルー(……)


   俺は一体、こんな所で何をしてるんだろうか…



 国の勅令で双子の片割れを抹殺する、その為にも鍛錬に明け暮れねばならないというのに…

こんなとこで、…店の中で乱闘するようなこんな連中と、ふざけた配色のエプロンをつけて皿洗い


   本当に何やってるんだ、俺は…



魔術師は心の中でずっとそう呟いていた

蒼き術士は、想定外で事が重なり上手く運ばないことへの苛立ち…焦燥感が少なからずあった
 本来ならこの事態にも怒りを覚えたかもしれない、だが…


昨晩ちょっとした契約があった、エミリアから抹殺対象の動向を知る限り教えて貰う、という事であった


 聞けば、向こうは自分と違い、[秘術]の試練を受けるらしいがルーン文字を既に2つ集めたブルーと比べ相手は何一つと
手つかずの状態であり、しかも何処にあるのかさえ詳細を知らないと…

エミリアが教えた金のカード以外は知らずと来た、進行度も情報も全てにおいて遅れている



それを聞いて、ブルーは拍子抜けした。



命を奪い合う、決戦の決め手にすらなり得る資質集めに対して意欲が無いのかと?…いや、そんな馬鹿な…


 疑問が浮かんだが、それはナンセンスだと振り払う。
向こうだって此方を殺す気でいるのだ、殺られる前に殺る、弟<ルージュ>は自分より劣っていた、それだけなのだ



彼はそう結論付けた、だから本来なら苛立ちを覚える、想定外の来客ヒューズ襲来にも怒りより呆れの感情が先行した


自分がハイペースで突っ走り過ぎただけだった、と少しだけ焦燥感から解放された





―――…ブルー自身は自分でも気づいていない、ルージュが自分より進展が無い事に安堵していること

      それは言い換えれば、無意識に恐れを抱いていることに繋がっている、相手が自分より優秀だったなら?

         自分の生命が脅かされるのではないかと危惧していて、その不安が薄れたから焦燥感から解放されたと



1つ、エミリアは知らない情報がある、知らぬが故にブルーにも伝わってない情報…





―――"ルージュは、初めから兄弟で殺し合いをすることに嫌悪感を持っている"という事実




行動を共にした時、[マンハッタン]のカフェレストランで話をしていた時に
 ルージュはエミリアに資質集めの旅をしていると語った、双子対決の事は伏せて、だ


だからそれに対するルージュの想いを…葛藤を聴いていない、知らない

だから国家反逆罪で追われたくなくて今のところ体裁だけの資質集めだと、知らない



 戦いたくなんてない、殺したい訳じゃない




  ブルーに、ルージュの本心が伝わらない、という…





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―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後16時44分 [京]の書院】



 メタルブラックが住み込みで働いているらしい書院に招かれ、待つ事数分…彼はやって来た
その手に一本の[サムライソード]を抱えて




  メタルブラック「名刀とは言えない、何処にでもある武器だが持っていくといい、私には不要の長物だ」スッ

    アセルス「メタルブラック…」



  メタルブラック「そして術士の若者よ、ルージュと言いましたな…もしも資質を集めているのなら情報がある」

    ルージュ「それは…?」


  メタルブラック「私が知るのは秘術のカードの内1つ、[剣のカード]について」

  メタルブラック「かつて、侍のリージョンと呼ばれた[ワカツ]そこに剣のカードがあるのだが…」

  メタルブラック「[ワカツ]は今や亡者蔓延る魔城と化し、宇宙船<リージョンシップ>の便も閉鎖されている」


  メタルブラック「小耳に挟んだ情報だが、現地人の生き残りが居れば特例で船を出すという話だ」


     白薔薇「…あぁっ! そうですわ!大事な事でしたのに!!私としたことが、うっかりと…」ハッ!

     白薔薇「[剣のカード]目当てで人が来ると確かにゲン様は仰られておりました!」

   ルージュ「えっ、それってどういう…」

     白薔薇「今日、ご縁があってお近づきになったゲン様は[ワカツ]で剣豪をなさっていた御方ですわ」



   メタルブラック「ほう?…なんと数奇な命運か」

   メタルブラック「この広い宇宙で壊滅した惑星の生き残りを探す手間が省けるとは…[ワカツ]に行けますなぁ」


  レッド「…待てよ?そういやルージュお前、印術じゃなくて秘術を求めてるのか?」

  ルージュ「え、うん…あれ?言ってなかったっけ」


  レッド「言われてねぇよ、けどカードか……だとしたら…」

  アセルス「烈人君、何か心当たりがあるとか?」



  レッド「いやさ、キグナス号で海賊騒ぎがあった時にヒューズのおっさんと二人で歩いてた時、ぼやいてたような…」


  レッド「なんか[盾のカード]がどうたらこうたら…」




世界は広い、然して世間は狭かった


自分の周りに秘術の試練のヒントやら関係者がポンポン出てくるではないか


アセルス等のとばっちりで誘拐され、偶然[ラムダ基地]で"金のカード"について知るエミリアに出会い

ここでメタルブラックから"剣のカード"の所在を聞き、驚くことにその土地への足掛かりとなる人物ゲンと白薔薇が出会う
 カードの話をしていたら芋づる式にパーティーメンバーの一人レッドが実は"盾のカード"を持ってる人を知ってると



  レッド「今度ヒューズのおっさんに会ったらカードの事聞いといてやるよ」

  レッド「それから…」クルッ


  レッド「メタルブラック、この書院に住み込みで働いてるんだよな
             教えてくれ…ここに巡礼者とかはよく出入りするのか?」


 [京]に巡礼者がやって来る、それは別に可笑しなことじゃない仏像の前で座禅組んで瞑想なんて旅行者なら誰でもやる
似たような恰好した団体様がツアーで来る事だってざらにある

 昨日、逃がしたあの麻薬密売人は旅行者ツアーに紛れてしまった、皆が同じ巡礼者の服装だったからこそ
レッドは追跡を断念せざるをえなかった、木を隠すなら森の中、まんまとしてやれた


そう思ったていたのがさっきまでだ、何の巡りあわせか、ルージュから借りたカメラにツアー客の団体から外れて単独で
この書院に向かう巡礼が1人だけ目撃できた


  レッド「どうなんだ?」


  メタルブラック「巡礼者だと?…ふむ、彼等は自らの心の不安を求めてこのリージョンへやって来る」

  メタルブラック「彼等の目的地は常に心の中にあるのだ」


  レッド「…。」

  レッド「つまり?どういうこと」クルッ


  アセルス「えっ、私!?えっとぉ…みんな一人ひとりが行きたい所に行くから
             誰が何処に出入りしててもおかしくない的な意味かな?たぶん」



要するに『温泉目当てで来る奴も居るし、仏像を観賞したいだけの奴も居るし、書物を漁りに書院に出入りする奴も居る』
随分と回りくどく曖昧な回答だ

レッドが見た巡礼者も偶々、この書院に関心があった無関係な一般人だったかもしれない、とそういう意味にもなる


  レッド「メカの癖にえらく哲学的なことを言うなぁ、俺が聞きたいのはそういうんじゃないんだけど」ポリポリ


…このメカは何も知らない、失礼だが聞くだけ無駄だったかもしれない、とレッドは肩を落とす


 夕焼け空に赤蜻蛉<あかとんぼ>が飛んでいる、鎧武者のロボットは自分の羽で飛ぶ命を眺めて言葉を続ける


  メタルブラック「古人は言った、石には石の心があると、ならばメカにもメカの心があって然るべきだと」

 BJ&K「わかります」コクッ

 レッド「お、おう?」


  メタルブラック「だが、メカである私には自分の心が見えてこないのだ」

  メタルブラック「心を求めれば求める程に己の中に心が無い事を確信するのだ…それは虚しい」


 レッド「お、おう?」←全然分かってない顔

 BJ&K「感動しました」



 ルージュ「???」キョトン


 ルージュ「ねぇアセルス、僕は機械に詳しくないから良く分からないんだけどさ…」ボソボソ

 ルージュ「あれは心が無いって言えるのかな?」


紅き術士は、目を丸くして少し考え……ますますわからなくなった


赤焼け空の色を帯びて、黒鉄のボディーに赤みがついた侍を見ていた…彼は確かに人間<ヒューマン>ではない
 コアと呼ばれるパーツに予めプログラミングされた疑似人格パターンから思考し行動に移していく



風情溢れる都の空、儚い命の飛来を眺めて『"自分の心について考えるロボット"』を【心無い機械人形】とは思えなかった



  アセルス「いや、私もそういうのはちょっと…ロボット工学とか苦手だったし…」ボソボソ



自分に心が無い、と彼は言ったが、同時にこうも言った、求めれば求める程に無い事知ると


自分にとって嫌なことがあれば、生物はそれを避けようと必死になったり、時には意欲を失う場合すらある



だが、メカなら目の前に勝ち目が0%に等しい敵が居たとしても任務だから立ち向かおうとする
そこに情という起爆剤が無くともだ


 与えられた仕事をこなす、それだけが意義であり、それ以外を考えはしない
今日出逢ったゲンと共に居たT-260とてそうだ、任務を全うすることが全てであると





何かを求める、という行為は生物が生きる上で必要な"感情"だ



喩えば、勝ちたいライバルが居て倒すために力を求めるのだって勝ちたいという闘争心や意欲心から来る

喩えば、孤独が寂しいから人を求める、それだって愛されたい愛したいと、損得を顧みず無償の愛を配る行動だ




敬愛、友愛、親愛…恋慕

敵意、競争心、時として自分自身の誇り護る為、そんな自尊心…etc




…このメカは もう既に 心を"求める"という行動をしているではないか、そして無いと知り『虚しいと脳が判断した』






    ルージュ(もう既に心があるって事なんじゃあないかなソレ、単純に当人がそれに気が付いてないだけで)



 石にも石の心がある、ある日突然、無機物に心が宿ったという神話やおとぎ話は世界に幾つもある

 鼻が伸びる糸無しの操り人形の童話だってそうだ、ただの木偶人形が自分を作った父親を探し求め
最終的に鯨の腹から逃げ出して人間として生きれるようになったという有名な話


  レッド「あー、なんか眠くなってきたな」ゴシゴシ

  レッド「姉ちゃんの剣やルージュに術の事教えてくれたり、巡礼の事とかさ、色々ありがとな!」


じゃ!先を急ぐんで、と手をあげてこれ以上小難しいハナシになる前にこの場を経とうとレッドが声を掛ける






   メタルブラック「待ちたまえ、レッドよ―――君はブラッククロスの事を知りたいのではないか」




レッドの脚は止まった。




   レッド「 何 か 知 っ て い る の か ッ ! 」カッ


   レッド「……。」

   レッド「いや、何故わかったんだ」


声を張り上げた仲間にメカを除いた全員がびくりと肩を震わす



  メタルブラック「自分自身の心は見えずとも、他者の心は読みやすい物だ」

  メタルブラック「あの組織には4人の幹部が居る、…ブラッククロス四天王と呼ばれ、己を見失った愚か者揃いだ」



  レッド「もっと詳しく教えてく――」pipipi


  レッド「っ、こんな時にキグナス号から従業員に戻れって連絡ぅぅ!?くっそー!」クルッ



  アセルス「れ、烈人君!」


  レッド「すまねぇ、姉ちゃんたち、俺緊急の呼び出し喰らっちまった!観光はここまでだ!」

  レッド「あとアンタ!必ず戻ってくるから四天王の事そんとき教えてくれ!」ダッ!

   BJ&K「…帰還します」ウィーン


タッタッタ…

ウィーン…


   白薔薇「…行ってしまわれましたね」

   白薔薇「…。メタルブラック様、御聞かせ願えますか?何故、その組織の幹部について存じているのですか」


凛とした[京]の空気が少しだけ変わった、肌寒い突き刺さるようなそれに



  メタルブラック「この惑星には外来客が多く訪ねて来る、それで小耳に挟んだだけのこと…」



     白薔薇「…そうですか」

    アセルス「白薔薇、下がってくれ……メタルブラック、あなたから貰った剣の事は本当に感謝してるよ」

    アセルス「ルージュにも役に立つ情報を教えて貰ったからね」

    アセルス「私達は今日はもう帰らせてもらう、それでいいでしょ」


  メタルブラック「ああ」



―――
――



  白薔薇/ルージュ「「……」」テクテク


少しだけ俯いて足元を見ながら歩く白薔薇姫、その隣を何とも言えない複雑そうな顔で空を見上げる術士

あの時ブラッククロスの名、そして四天王と呼ばれる存在の情報を出され冷静さを欠いたレッドは黒鉄の侍が
犯罪組織の幹部という情報をどうやって知ったかまで気が回っていなかった


だから白薔薇はメタルブラックに問うた、何故知っているのだと、帰って来たあんな返答を流石に鵜呑みにはできないが
世話になった身だから今日は帰らせてもらう、と…それで良しとしたのであった




   白薔薇「…関係者、ですよね」テクテク

   ルージュ「…良い人、いや、いいメカだけど…そうだろうね」テクテク



 世の中、全ての人物が善人とは限らない

人の良さそうな顔をした人間、それこそ付き合いの良かったエミリアでさえ裏社会の人間なのだから…



 紅い魔術師はポケットに手を突っ込んだ、思い出の写真を撮ったカメラが入ったポケットに



  ルージュ「まださ、ヒューズさんみたいに極秘任務か何かで正体を伏せてるパトロール隊員かもしれないよ」

  ルージュ「メタルブラックが裏社会の人って決まったわけじゃないし」


  ルージュ「それにさ、エミリアさんやルーファスさんみたいな組織の人かもしれないもの」

  白薔薇「そう、ですわね…」


  アセルス「…」


並んで歩く二人の前を行くアセルスは何も言わない、二人からは影を作る少女の背中だけしか見えない、表情は窺えない



…きっと、アセルスお嬢も同じことを考えている




今日出逢った彼がレッドの家族の仇である犯罪組織の手の者だったら…いつか刃を交えることになるのだろうか、と




願わくば、その予測は的外れな妄想であってほしいと切に願った

―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後17時37分 [京]の旅館】



  ゲン「わっはっは!いいぞぉ!」


  ナカジマ零式「はいは~い!ナカジマまわりまーす、空中パフォーマンスー」グールグル


  T-260「ゲン様、飲みすぎです」

  ゲン「いいんだって、ほれ、お前も飲め」ヒック!

  T-260「物理的に飲めません」



   特殊工作車「みなさん、お客様です」ウィーン

   ゲン「あん?お客だぁ、誰だよ、通せ通せ、なんなら宴会に参加してもらえって」ガッハッハ



ガラッ


襖は開かれ、そこに立っていた綺麗な銀髪を見据える



  ゲン「ん~、うぃーっく、なんだぁ銀髪の綺麗な姉ちゃんだな…旅館の中居さんかい?」ヒック

  T-260「ゲン様、ルージュ様です…水をお持ちしますので酔いを醒ましてください」



水を湯呑みに注ぎながら『過度のアルコール摂取による幻影を見ている模様』と音声を発する丸っこいフォルムのメカを
尻目に、ゲンは目を擦る…確かによく見れば銀髪美少女ではなく男だ



    ゲン「おっと、わりぃ…ルージュの兄ちゃんだったか!」

  ルージュ「あはは、どうぞお気になさらずに慣れてますから」


何処か引き攣った笑いを浮かべてルージュは本題に入ろうとする


   ゲン「で、何の用だい、俺が手伝えることなら手伝ってやるよもう顔馴染だしな!ほれ!お前さん等も飲め」


気さくに茶碗を差し出し、手招きする酔っ払いおじさんにルージュは意を決して言った





   ルージュ「僕達、[ワカツ]に行きたいんです、案内してください」スッ

     ゲン「…」ピクッ




両手をついて、膝を曲げて頭を下げる、畳の上でよく似合う土下座だ



     ゲン「…[ワカツ]か、1つ聞くがお前等正気か?」



 この時、ゲンはただの酔っ払いではなくなっていた、酒気を帯びていた顔は歴戦の武人の顔になっていて
達人級の者であればその闘気を瞬時に察する程であった


  [ワカツ]の剣豪ゲンは静かに3人の顔を見渡した

読めば読むほどサガフロがやりたくなってくるぜ…

メタルブラックさん優しいな、地味にエミリア編がラスボス手前ぐらいまで進んでるのな

最近更新多くて嬉しい



  ゲン「[ワカツ]はなぁ…亡者が犇めく修羅の城と化している、てめぇの身はてめぇで守る覚悟があるってのかい」

  ルージュ「はいっ!」


 資質を集めねば、国家反逆罪で追われる

 退けど地獄、進むは未知…旅を続ける内に現状をどうにかする打開策は見つかるかもしれない、限りなく0に近くとも
可能性があるのならば彼に選ばぬ道はない、強いて言うなら進むレールの先にある終着点が奈落の底でないことを祈るのみ



  ルージュ「僕には、行かなきゃならない理由がありますから」



  ゲン「……」ジッ


  ゲン「兄ちゃん、若いな」

  ゲン「若いのに重たい目をしてんじゃねぇか、…いいだろう知り合いの誼みてやつだ、護衛を引き受けよう」


  ゲン「で?そっちの姉ちゃんたちはどうなんだい」


  アセルス「私達もだ!」

  白薔薇「お願いします」ペコッ



  ゲン「……」

  ゲン「わりぃな、レオナルドさんとこ行くのは後日になっちまうが、構わねぇか?」クルッ


  T-260「了解です」



  ゲン「明朝、[ワカツ]へ向かう…今の内に英気を養うんだな、いいな」

  ルージュ「はいっ!」



 術士、半妖、妖魔の貴婦人は礼を述べ、一泊このリージョンで宿を取り剣豪と連れのロボット達と共に[ワカツ]へ赴く
キグナス号職員全員に通達された緊急の呼び出しで別れたレッドにその事を告げたのは星の瞬くPM9時を越えた頃だった

 ゲンのご厚意で旅館の宿泊費まで出して貰い、そこのフロントにあった昔懐かしのダイヤル式黒電話から
レッド少年に通話して主旨を述べた

【双子が旅立ってから4日目 午後21時07分 [京]の旅館フロント】



  ルージュ「という訳なんだ、ごめん…」

  レッド『いいって!いいって!気にすんなって!』


  ルージュ「レッド」

  レッド『なんだ?』


  ルージュ「僕達さ、旅をしてたらまた会えるかな?ここで別れたらなんだかもう旅先で会えない気がして…」

  ルージュ「キミだって折角アセルスにも会えたんだろ?…だから、尚更さ」


死んだと思っていた幼馴染の女性との再会…、きっとレッドは身内の仇である秘密結社を壊滅するまで厳しい旅を続ける
 もう二度と旅路で交わることのない、そんな運命なのではないだろうか…そんな印象が脳裏に過ったのだ


  レッド『……』

  レッド『へっ!バッカだなぁお前は、…今生の別れじゃねーんだ、生きてりゃどっかでまた会えるさ!』ニィ


昔懐かしの受話器の向こうから聴こえる声は彼らしい爽快さがあった、生きてさえいればまた何処かで出会える、と


 ルージュ「! ははっ!そうだな!」

 レッド『ああ、そうさ、遠くない内にまた会えるさ』



――そこには信頼があった、初め会った時から気の合う友人<ダチ>になれる、そんな気はしていた

受話器の向こうで術士の言葉を否定し、生きていればまた会えると、確かに"親友"はそう言ってくれた



 レッド『…てか、お前普通に携帯持てばいいじゃねぇか、俺がヒューズのおっさんに[盾のカード]を聞くって言ったろ」

 ルージュ「へ? けーたい?」



 紅き術士が今使っている通話機器は、自国の文明には無い物だ…術力を介して念話する道具という似たようなモノはある
現在使っているダイヤル式の黒電話も見た目こそ一昔前だが、中身は別の惑星まで通話可能な"カジュアルだけのお古"だ


話そうと思えば銀河を越えて話せるこの御時世だ



 レッド『ああ、安い奴ならそんなクレジットかかんねぇしよ…それで集合場所とか決めれば』



……よくよく考えてみればそうだった
レッドはキグナス号からの呼び出しで、書院から別れたんだった、普通に連絡用の端末持ってる




なんか、神妙な顔して「もう今後会えない気がして」とかシリアスな雰囲気で言ってたのが急に恥ずかしくなった




その後、レッドに携帯電話のアドレスを教えて貰いそれをメモに書き留めた…無論、キグナス号乗務員が支給される
呼び出し用のポケベルではなく、ちゃんとレッド個人の電話番号だ


ルージュ(でも僕は携帯電話持ってないんだよなぁ…)


外界に旅立ってまだ4日、ルージュは携帯を持ってなかった…番号は知ったがまずは通話機器を得なくては話にならない
[ワカツ]から帰ってきたら機械文明の発達してそうなリージョンで買おう、そう決めた


なお関係ない話しだが、今、ルージュと代わって受話器を持ちレッドと通話中のアセルスに携帯の事を尋ねたら
『携帯?ああ!知ってるわガラケーのことでしょ!私も持ってたわ』と楽しげに語ってくれた



機械文明に疎い魔術の国出身の青年、機械音痴の種族妖魔、12年間眠り姫状態だった女子高生…


再度、代わって携帯の説明を求めたルージュの話を聞き、受話器の向こうでレッド少年が項垂れたとかなんとか…


―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後21時21分 [京] 庭園】


  ヒュゥゥゥゥ…
            ザワザワ…


 メタルブラック「……」


黒鉄の鎧武者は、湿った空気を帯びた風を鉄の身に受けたまま立っていた
 彼がメカではなく五感のある生身の人間であれば内臓されたセンサーではなく、鼻で雨の匂いを理解しただろう


 メタルブラック「……何奴だ、姿を見せるがよい」


 夜深の庭園に武士<もののふ>が一人、"問われた者"は木葉の桟橋を渡り、影の湖から月明りの陸へと歩み寄る
鋼鉄の侍はツインアイでその姿を捉えて感嘆の声をあげた、日に焼けた褐色の肌、百獣の王を連想させる美しい髪は月光に
照らされていた、その女性の瞳は力強い光に溢れていて見る側からすれば一種の美術品のような美しさであった


妖魔特有の気配を殺した佇まい、存在感を虚無へ置き去り、動く彼女は久方振りの外界にて物珍しい鎧武者を見た
 妹姫を探す使命を帯びた身でありながらその存在につい目線が映り、興味本位で観察をしたつもりだった



見破られるとは思いもしなかった





  金獅子「夜分失礼致しますわ、…驚かせてしまいましたか?」

  メタルブラック「いや、結構…貴婦人は妖魔とお見受けする」


 生体反応が人間<ヒューマン>の基準値を遥かに超えた数値を検出する、彼は初め金獅子姫を見た時、感嘆の声をあげたが
それは何も女性として肉体美に見惚れたわけではない


人ならざる生命力、鍛え抜かれた強靭な肉体、対峙して分かる剣気


戦闘メカとして開発された者の性<サガ>か…メタルブラックは彼女を一目見た時、鋼の心臓部が高鳴った




  メタルブラック「自分は名をメタルブラックと申す、願わくば名を教えては頂けますかな」

   金獅子「これは私としたことが名乗らずにご無礼を…、金獅子と申しますわ」



  メタルブラック「金獅子…金獅子殿、このような夜更けに何用で」

  金獅子「人を探しておりますわ、確かにこの地で彼女の気配を感じたのですが…」


  金獅子「外界は久しいもので、どうにも思うように探ることが叶わないのです」


 メタルブラック「左様か、時に貴女は相当な剣の手練れと見受けます、突然の申し出だと思われるかもしれませぬが…」





 メタルブラック「ひとつ、武人として手合わせを願いたい…!」




 漆黒の侍は、父たる開発者に"心を持った戦闘メカ"として開発された

どこの世界の科学者の知能も未だかつて成し得なかった、『人間<ヒューマン>と寸分たがわぬ本物の感情』を持った人工知能


目立つ事はするべきでない、と…自分が所属する組織の上から下された命令でもあった


心を持ったAIは現世に生まれて初めて、親の命令以外で、"自分が自身の意志でこの様にしたい"と、考え実行した




  金獅子「!…ふふっ、いいでしょう、旅はこれだから面白い…っ!挑まれた戦いに背を向けるは武人の恥も同然っ!」

  金獅子「オルロワージュ様、今暫し、使命を忘れて我で戦うことのお許しを……ッ!」



チャキッ!

シャキンッ!


     ―――――――月夜の晩に、武士と武人が相見えた



ガキィン! キンッ、カァン!


 金獅子「ぜぇいぃぃ―――っ!」ヒュッ

 メタルブラック「遅いッ」ジュゴォォォ


 獅子の振り下ろす剣が地を叩き割る、一撃が重い、それに対して鋼の侍は機械である身を最大に生かした速度戦で掛かる
背中部位のバーニアから火を噴き、重剣が金属の肉体を斬り捨てる前にその場から退避する


力量と技で言うならば金獅子姫に分配が上がるだろう

対して速力と無機物だからこその耐久性で向こうは補う



 金獅子「むっ…これはっ!」ガキィン

 メタルブラック「うぐ…は、はは!なるほど!!」ザンッ



シュバッ!キィィン!!


 メタルブラック(体内からのあの反応、恐らく火炎や冷気などのブレス攻撃を持つか!)

   金獅子(この者相手に長期戦はいただけないな、短期決戦で!)




  金獅子「[払車剣]!」シュバッ! ギュララララララ!

 メタルブラック「なにっ!」



 一撃は重いが当たらなければ何の意味もない、[スマッシュ]を打つよりも広範囲に及ぶ、剣気の乱気流で相手を絡め捕る
金獅子姫が月の下に舞う、劔の刀身もまた持ち手と同じく黄金に光り風を飛ばす

秋の木枯らしに似た、[京]に似合いの色合いをした剣気が鋼の肉体を刻む…っ!



 弾け飛ぶ金属片、裂かれたパーツの表面から飛び出した配線と火花
ずしゃり、重い鋼鉄の膝を庭園の水辺近い泥濘に沈める


  金獅子「これで終いとさせていただきましょう…![払車剣]」


膝をついた、とはいえ脅威の機動性を持つメタルブラックに近づいてトドメを刺すのは賢い戦いとは言えない
 一度見られた技であっても、この戦闘メカを倒すならばこれしかあるまいと、二度目の[払車剣]を放った


 刹那、風が吹いた


     ゴォォォォォオオオオオオォォォォ――――!



黒鉄の武士が持つスピードは金獅子も戦い続ける内に徐々に慣れては来ていた…
生物である自分、そして無機物である相手、それが最大の違いだ


背中部位は今まで"火"を吐き出して来たが、たった今噴き出したのは"爆発"だ


これまでの速度が10%だったとするならば、この瞬間に生み出した文字通り爆発的な加速はメタルブラック100%の出力だ




          メタルブラック「[ムーンスクレイパー]!」



黒鋼の武士<もののふ>は月影の下に弦月を描いた



黒鉄は閃光になった、光は直進してくる木枯らしを大きく迂回するように回り込み風の発生源へと奔る


雷光一閃…ッ!



         シュバァァァァ!



 金獅子「う、ぐあああぁぁぁぁぁあ!!…っ、…は、はは!」ブシュッ










 金獅子「素晴らしい手並み!見事だ!メタルブラック殿!」

 メタルブラック「その言葉、そのまま返そうぞ金獅子殿!」






 同時に思った、以心伝心というのだろう、お互いに相手の思惑が読めたのは…戦いに身を置く戦士だったからか
それとも、それ以上に似通った何かがあったからか




――――次に放つ一撃で決着がつく






        金獅子「メタルブラック殿、私は敢えて攻撃に出向きはしません」チャキッ


      メタルブラック「なに!?……むっ、その構えは…」




 獅子の如く気高い心を持った姫騎士は、これまで鋼の侍の剣捌きを防いできた片腕の盾を投げ捨てた
そして、劔を天に浮かぶ三日月の船底に向ける

その構えを見て、メタルブラックは相手の構えがなんであるか察した



   メタルブラック「面白い…[かすみ青眼]か!」



 剣術に置ける反撃技のひとつだ、[かすみ青眼]はその場を軸に正月遊びの独楽<コマ>の様に剣を構えて回転し
自分に向かってきた相手の勢いを利用し切り刻む変則カウンターだ


…当たり前のことだが、これは何も知らずに飛び込んで来た相手を狩る技であり、事前に放つと宣言していいモノではない


だが、金獅子は"敢えて"[かすみ青眼]を放つと宣言し、片腕につけた立派な盾を放り捨てた…それが意味するところは



      メタルブラック「…フッ、面白き剣士だ、此度、相見えたこと幸運に思うっ!」



メタルブラックは己の背部に推進剤を収束させる、再び爆発的な加速を産み敵に切りかかるあの技を!…突撃の構えを!

カウンター、反撃の布陣で待ち構える金獅子に対して放つために!!




  金獅子(見極めろ、心眼を開けっ、一点の曇りさえ無い蒼穹を思い描け、澄み渡る空に飛び込む敵意を…!)


 メタルブラック「エネルギー転換率120%オーバー、装甲パーツの損傷度合いに比例した自壊の警告・緊急停止OFF設定」







  金獅子(全ての敵意を避け、切り裂け…―――私に断てぬモノは、ないっ!)カッ


  メタルブラック「スラスター方位修正完了、対象物への進路障害物無し……全力全開だ…!!」コォォォ








            金獅子/メタルブラック「「いざ、尋常に勝負!!」」








黒鉄が何者をも貫く"最強の矛"となったッッッ!

獅子が何者をも防ぐ"最強の盾"となったッッッ!






               メタルブラック「[ムーンスクレイパー]!!」

                 金獅子「[かすみ青眼]!!」






    ―――矛と盾のぶつかり合いッッッッ!





    ヒュゴッッ!

    ギュルッッ!





    ズジャジャジャジャジャッッ!シュバッ!



―――
――




ヒュウゥゥゥ…

      ザワザワッ…


風が吹いた…

そして、止んだ、もう樹々の騒めきは鳴り止んだ、剣同士の打ちあう音も鳴り止んだ






         メタルブラック「 」バチッ…バチチチッ

             金獅子「 」ドサッ







戦場に立っていた者は…勝利者は居なかった。






矛と盾のぶつかり合い、月が角燈<ランタン>を持ち審判を務めた一夜の戦記


最強の攻、最強の守、古来より語られてきた物語と同じく今宵も"矛盾"した


両者共に大の字になって月夜を見上げていた


火花を激しく散らしたままのメタルブラック、青い血を皮膚から喉から吐き出す金獅子姫


鎧武者と獅子姫の試合はかくして幕を閉じたのだ…








 どれほど、そうしていたのだろう、メタルブラックは自身の内臓時計の計器が異常をきたしていないなら
30分近くはずっと倒れていたのだろうと推測した

 深手を負ったがメカの魂が宿る"心臓部<コア>"は無事だ、時間はかかったが生きてるプログラムが
動かなくなった手足のショートした回路を繋ぎ合わせる、ふらつくがどうにか立ち上がれそうだ…


   メタルブラック「……」スクッ

   メタルブラック「ふっ、私の完敗ですな金獅子殿」


   金獅子「何故そう仰るのですか」ヨロッ…



ふらつく頭を支えるように額に手を当てた姫騎士がゆっくりと遅れて立ち上がる…人間なら昏睡状態でも可笑しくない
 妖魔の尋常ならざる生命力が成せる回復力である



  メタルブラック「その気になればブレス攻撃、いや、それ以外の攻撃手段もありましたでしょうな」



金獅子姫はこの一戦、一度たりとも[火炎]や[冷気]を吐き出さなかったどころか[落雷]さえも撃たなかった
 あくまで"剣術"でのみ戦ったのだ


  メタルブラック「これを完敗と言わずしてなんと呼べましょうか」

   金獅子「そのようなものは幼子<おさなご>の屁理屈です、剣士として剣と剣、対等な戦いをしました」

   金獅子「同じ条件下で戦い、持てる力で真っ向からぶつかってお互いに倒れ、貴殿が先に立ち上がったのですわ」


  メタルブラック「…ふっ、そうですか」

    金獅子「ええ、そうです」




 メタルブラック「今宵は良き出会いに恵まれた、忘れませぬぞ金獅子殿」

 金獅子「それはこちらの台詞でもあります、尋ね人の事、主の事さえも一時とはいえ忘れて戦いに興じるとは」



獅子姫は、まだ口元に残る血を拭いながらも笑った、こころなしか機械であるはずの侍も顔が笑って見えた


 メタルブラック「誠に、楽しい時間であった感謝致す、……もしまた出会う事があれば再び剣を交えたく思う」

  金獅子「奇遇ですね、私も同じ事を思いましたわ」




笑い声が二つ、深夜の庭園に重なった




  メタルブラック「時に、金獅子殿…尋ね人とは如何様な御方だ」

     金獅子「…」




自身が認める程の実力者であった、とはいえ無関係な部外者に言うべきかどうか金獅子は少考したがすぐに答えを出した



 金獅子「私と同じ妖魔で、名を白薔薇と申します…」

 メタルブラック「なんと…あの貴婦人か」


 金獅子「ご存じなのですか?」

 メタルブラック「少々面識が…とはいえ、もうこのリージョンには居ないやもしれませぬ」


 金獅子「そうなのですか…」

 メタルブラック「行先を聞かないのですか」


 金獅子「…彼女は私自身の手で探し出会いたいのです」

 メタルブラック「…では何も言うまい、せめて武運を祈りましょう」スッ


 金獅子「ありがとうございます、……またいつか組手を致しましょう」スッ




その晩、激闘の末に負った傷を癒す為にも金獅子は[京]を去った…

 まだアセルス等が滞在していたことも知らずに



誰よりも強く、誰よりも気高い寵姫、金獅子は影に沈み、そのまま泡のように去り


残された武士<もののふ>の心を宿した戦闘メカは周囲の気配を探り、誰に見られること無くこの地の地下にある居城へ…




知られざる対決…これを知るのは唯一人、立会人となった月だけ知っている



【双子が旅立って4日目 午後22時28分】


―――
――

まさかの金獅子VSメタルブラック

レッド永久離脱かと思ったら文明の利器ってすげー!してたら金獅子とメタルブラックがバトルだと……

知られざる熱い戦い

武士道と騎士道の戦いかっけぇ、乙


――
―――
*******************************************************

[京]で様々な物語が交差する最中、時間は少し巻き戻るが…あの暗黒街[クーロン]では…



【双子が旅立って4日目 午後 21時48分 [クーロン]イタ飯屋:エミリアの自室】



  エミリア「あ"あ"あぁぁ"ぁぁーーー、疲れたぁぁぁぁ!」バタンッ!足バタバタ!



 帰って来るや否やベッドのシーツにダイブして足をばたつかせるエミリアの姿があった…、コスプレ衣装から普段着に
着替え、メイクも落とすあたり元モデルの矜持なのだろうか


前回、アセルスの知り合いであるゾズマという妖魔の介入で失敗に終わった任務のリベンジだ


[ラムダ基地]に単身乗り込み、女を囲っていたあの醜夫、ヤルート執政官を締め上げて情報を聞き出す気でいたが
 敵を銃で撃ち抜きながら辿り着いた室内に居た人物は眼鏡を掛けた初老の男だった

彼曰く、ヤルートは執政官の座を降ろされ、代わりに自分が執政官として就任したとのことだった



  エミリア「……モンド、執政官か…」スッ、キラッ…



 今日出逢った人物は、不思議と嫌な感じはしなかった、気の許せる人物ではないことは確かだが
"幸運のお守り"だと言って渡された天使を模った装飾品を摘まみ照明に翳してみる



基地でのモンド執政官との会話を彼女は顧みる



  -モンド『これを君にあげよう。盗聴器などついていないから安心しろ』-

  -エミリア『なに…この、羽の生えた人?』-

  -モンド『それは私の故郷のリージョンに伝わる伝説に出てくるんだ、天使という』-

  -エミリア『天使…、どうしてこれを私に』



  -モンド『昔、まだ私が若かった頃、私もキミらと同じように多くの仲間と共に一つの目標に向かって戦った』

  -モンド『特に仲の良いのが二人居てね、私とその二人でよく三人でつるんだものだ』


  -モンド『私達三人には憧れの女性が居た、清らかな人だったよ、その人に贈るつもりのブローチだった』-

  -エミリア『…どうして渡さなかったの?』-



  -モンド『そう、だな…彼女は三人の内の一人と結婚してね、私は彼を友として尊敬していた、だから渡せなかった』-

  -モンド『だがね、この天使は私に幸運を授けてくれたようだ、こうしてトリニティの執政官まで上り詰めたのだ』-


  -モンド『これは君のような人が持つのが似合いだろう、受け取ってくれたまえ』-


  -エミリア『いいの?そんな大事なモノを…』-


  -エミリア『…』-

  -エミリア『分かったわ、大事にするわね、この…えっと』-

  -モンド『天使だ』-

  -エミリア『そう、天使ね!天使のブローチ、有難くいただくわ!』-



人生はいつだって"一期一会"…人と人の出会いは未知で、誰彼の間柄も、人の縁も分からない



 名前を聞けなかった初老の野心家は後に包帯ぐるぐる巻きのルーファスからモンドという名で、執政官になる前は
ヤルートの部下で情報・警察部門の実質的な責任者であったと知った



 そして、冷酷無情にしてカミソリのように切れる男だと、警察部門のトップから執政官に昇格してくれてホッとしたと
あのルーファスにさえ言わしめる程の敏腕だった



エミリアは、サングラスの上司から聴いた話と受けた印象が違って思ったが、どちらが本当の顔なのだろうか…


 少し前にテレビのニュースで[ワカツ]がリージョン界を束ねるトリニティ政府に対してテロ活動を行おうとしたと報道が
あって、その後、原因不明の爆発でその惑星に封印されていた悪霊が目覚めて惑星を滅ぼしただとか…


 表向きの報道は悪霊によって亡者の巣窟になりアンデッド系モンスターが屯っているとのことだが
エミリア達、裏社会の人間…いや、"黒い噂話"として表にも流れているが警察部門が独断で大々的な空襲を行い
[ワカツ]を一夜にして火の海にして滅ぼしたと…


一時期は大騒ぎになったが、時間の流れと共に新聞の大見出しを飾った惨事もいつしか人々の記憶から"過去の出来事"扱い


ベッドに寝転んでブローチを眺める彼女とてそうだ、当事者でもなんでもないのだから深くは考えない事にした


それより、そんな黒い噂のある男の心情が気になった
 …グラサン上司曰く冷徹無情の執政官の素顔を少しだけ垣間見た、そんな気がしたのだ





<リュート!!貴様いい加減帰れ!!

<なはは!かてぇこというなよぉ~!



  エミリア「ん?店の方がなんか騒がしいわね…ってかこの声」スタッ



与えられた自室にまで届く怒声とお気楽な声に、金髪美女は革のロングブーツを履いて自室を出る
 記憶違いでないなら既に『close』の札は掛けてあるはずだが
この店はそんなモン無視して入店してくる客が如何せん多いのだ、昼間の刑事といい…今来てる客といい



スタスタ…ガチャッ



       ブルー「掃除の邪魔だから去れと言っているだろうがァ!!」つ『清掃用モップ』ブォン

          リュート「どわっ、あぶねっ!?」ガシッ




真剣白羽取りィーッッッ!



まだ齧り程度とはいえ、アニー先生に打ち込みのイロハを教わったブルーがモップブラシを振り上げ唐竹割りを放つ
 それを間一髪、両手で受け止める弦楽器を背負ったニートことリュート

反応が遅れれば頭にデカいタンコブを作る所だったと肝を冷やしていた彼は、先日のスライム投げの一件もあって
ブルーにはしこたま怒鳴り散らされていた


  リュート「悪かったって!でもあれは俺だけじゃなくお前も悪かったろ!?
                          …あっごめんなさい調子乗りました、やめてお願い」


…このまま眺めてるのも悪くないが、そろそろ仲裁に入ってあげるべきかしら、とエミリアは歩み寄った


  エミリア「はいはい、二人共ストップ、モップで遊ばないの掃除は終わったの?」


  リュート「へへっ!ブルーってば怒られてらぁ!」ヘラヘラ

  ブルー(ぐっ…この野郎)ギリッ


  エミリア「それにしてもリュート久しぶりね、ライザから暫くこの街に滞在してるって聞きはしたけど」

  リュート「ああ!今は宿泊先に留守番させてるけど仲間になった[スライム]も居てな、今度会わせてやるよ!」


  リュート「うん?…エミリア、そいつぁ…」



  天使のブローチ『 』キラッ


 ふと、リュートは彼女が身に着けていた装飾品に目が行った、とても精巧な創りで素人目にも値の張る逸品だと分かる
元は表の世界で老若男女問わずに魅了した女だ、どこぞの金払いのイイ男にでも贈られたのか、彼は気になって聞いてみた

彼女も指差されたそれに、「ああ、これ?潜入先に居た人がくれたのよ」とだけ伝えた



  リュート「へぇ、"天使"かぁ…」

  ブルー「…」ピクッ


  エミリア「あら?リュートは知ってるのこの天使って羽の生えた人のこと」



エミリアの故郷の惑星には"天使"という存在に関する記述は無かったのか、元からそういう知識に疎かったのかはさておき
掃除用具を持つ手を動かしていた蒼き術士がその単語に作業の手を止め、耳を傾けた
 弦楽器を背負った無職の青年を見て、彼女はリュートがブローチの送り主と同郷であったことを思い出す




  エミリア「そうだったわね…ライザが言ってたっけ、"天使"って[ヨークランド]に伝わる御伽噺なのよね」

  リュート「そうそう!ウチの母ちゃんがよく枕元で子守唄代わりに話してくれる伝説だったんだ、懐かしいぜ!」




……エミリアは知る由も無い事である

 実はその[天使のブローチ]はモンド執政官がリュートの母親の為にオーダーメイドしたモノだということを…




人の出会いは一期一会、どこで誰と誰が何の縁で結ばれているか分からない、人間関係と因果は実に数奇な運命の下にある





  リュート「えーっと、なんだったかな、確か天使ってのはだな、えっと何処に住んでたんだっけ?」ハテ

  エミリア「なによ、全然覚えてないじゃないの…」



   ブルー「"天国"だ」



  エミリア「えっ」



   ブルー「人がいつか行ける極楽と安息の楽園…人々に幸福を齎す女神が住まい」

   ブルー「古代の王が授けられた"指輪"によって、その楽園に続く幸福の坂道を切り拓き」

   ブルー「貧困と絶望の底に居た多くの民を救うべく先導した……[マジックキングダム]に語り継がれる伝承だ」



 子供の頃からずっと学院の教師に教えられてきた内容
勿論、ブルーとてその伝説がまるっきりそのまんまの話とは思ってはいない


語り継がれてきた伝承、つまりは永きに渡って人伝で語られてきた内容


 …簡単な例を挙げようか、"伝言ゲーム"という言葉は誰しもが知っていることだろう、その遊びは決まって
途中から聴く側が上手く聞き取れなかった、言う側の活舌が悪かった、中には訳の分からない独自解釈をし
そのまま間違った伝令を次の相手に伝えるというのがお約束だ


伝承というのもまた同じモノ、本当に最初期の内容は……いつしか歪曲され、捻じ曲がった偽りの真実として受け継がれる


 学生時代に歴史の授業で習ったけど、後年になって新しい発掘技術と解明で授業で習った歴史は実は間違いでした、等と
そのような発表だって今の御時世幾らでもある


 所々何らかの差異はあるのだろうが、[マジックキングダム]で大昔の指導者か何かが
貧困で困り果てた民を救う為に"天国"とやらの道を開いて、民を導いた…ということなのだろう、たぶん


ブルーはそう解釈した、ルージュも…あの国で育った子供は皆である




  エミリア「なんか意外ね、あなたってそういうの興味無さそうな人だと思ったけど」

  リュート「わかるー、ブルーだし『貴様ら御伽噺なんぞを信じるのか?おめでたい奴め』くらい言いそうだしなぁ」


  エミリア「あははっ!その声真似すごく似てるわよ!」


  ブルー「お前等なぁ…」



 呆れた顔で何か言おうとしたが、関わる時間を労力に費やした方が良いと判断したのか
彼は口を閉ざし作業の手を再び動かし始めた

ヒューズ刑事が帰った後、店内清掃は引き受けるから先に剣術指南をしてくれと、無理言ってやってもらったが…



  ブルー(他に客が居ないせいか、嫌でも二人の会話が耳に入るな)



やれ、故郷がどうだ、家族がどうだと…アニー担当だった床のモップ掛けを一人黙々とやりながら彼は
術の力こそが全てである祖国のことを思い浮かべた

 親孝行、育ての親である国家への奉仕、それこそが自分の使命であり、生きる意味なのだと


 それだけがブルーの人生観であって、それ以外の事を考える必要はなかった…というよりもだ
彼の場合は考えさせる人生の転機が与えられなかったと言っていいだろう


子供の成長と同じだ、壁に突き当たれば子供はそこで考える、目の前の壁をどうしたいか


登って乗り越えるか、発想を変え砕いて前へ進むか、壁そのものを迂回して進むか、そもそも壁を越える理由があるのか?


 何か問題にぶつかれば、そこで多くの事を考えるし
工夫を凝らそうとするものだ―――だがしかし"大層ご立派な御国の英才教育"とやらは道を一つに絞る


 自分は大人になったら国<親>の言いつけ通り自分の兄弟を殺して国<家>に帰って来るんだな、と
それ以外の選択権を与えない、実際問題ルージュも進む以外の道を今は選べない状況下にある


ブルーとて同じだ、ただ現状に疑問を持ったか持っていないかの違いだけ


  ブルー「モップ掛けもこれで終わりか」スッ

  リュート「おっ、ブルー終わったのかよ、ならお前時間空いてたりする?ちょいと[ネルソン]まで連れってくれよ」



   ブルー「[ネルソン]だと…?お前もう金塊で得た金銭を使い切ったのか」

  リュート「いやいや、そうじゃねぇよ、ちょっと知り合いに会って話を聞いてみたいって思ったのさ」


  エミリア「なになに?何の話」ズイッ



反トリニティ政権の惑星<リージョン>…[ネルソン]、世間一般ではそう囁かれる磯の香り漂う夜海の星だ
 資金繰りで困った術士が無職の男と出会い、一儲けでお世話になった土地でもある

そしてノリの良さに定評のあるお姉さんエミリアが男二人の会話に身を乗り出して割り込む


 婚約者が死んで塞ぎこんでるかと思ったら、変な所で割り切りの良い持ち前の明るさが彼女の良さでもある

仮面武闘会を仮面舞踏会と勘違いしたり、[バカラ]のカジノ潜入作戦で一人だけバニーガール衣装であることを抗議した所
ライザとアニーに『似合ってるよ』『流石、元スーパーモデル』と褒められてノリノリで任務に戻る即堕ち2コマだったり



 リュート「ああ、エミリアと出会う前に俺一人旅してた時期あっただろ?そん時にまぁ、知り合った船の艦長が居てさ」

 リュート「自分の人生とか、いろいろどうなんだろうなって考えたらちょっとだけ、本当にちょっとだけな」

 リュート「話聞いてみたくなったんだ、その人は俺の父ちゃんの事知ってるからどんな人だったかって」



 ブルー「…お前は自分の親を知らないのか?」


 リュート「父ちゃんの事は俺もよく知らねぇんだ、母ちゃん何も言ってくれなかったからよ」



 今まで考えたこともなかった、知りたいとも思ったことがなかった、気づいた時には初めから居ない人で
ただお気楽に、自分が好きな事やって楽しい人生を送ってハッピーエンドが彼の人生観であった


    -リュート『――"お前の人生"、それでいいのかよ…!』-


昨日、彼がモップ持った術士に彼自身が言ってやった言葉だ

好きな事やって楽しい日々を送るというリュートの人生論は変える気は毛頭も無い、…でも気になるモノは気になる
 荒っぽいことは嫌いだし、 平和に済むならそれが何よりだ

――――…ただ、父親の事を何も知らないで一生を終える、というのは何か釈然としない

母親も多くは語ってくれない父親の事を知らない生涯、それこそ、"お前の人生"それでいいのかよ、である




英雄になりたい訳じゃない、革命家の象徴として祀られたい訳でもない、ただ自由気ままな雲のように好きに生きたいだけ




だからトリニティ…というよりもモンド執政官が[ワカツ]に造ったという秘密の軍事基地に戦争紛いな事を吹っ掛けよう等
そんなことは全く思わないのだ…




  ブルー(…自分の親をよく知らない、か)



  ブルー「……。」

  ブルー「いいだろう、偶には貴様に振り回されてやろう」


親孝行、育ての親に従い、尽くし、奉仕し続けることこそが産まれて来た人生の全てと"教育されてきた"ブルーは
なにやら思うところがあったのかリュートの都合に付き合ってやろうと承諾した


 エミリア「ねっ、私も行っちゃ駄目かしら?」


 ここで視線がエミリアに注がれる、片方は『何故貴様までついて来る』と言いたげなジト目の視線
もう片方は『おっ、来るのか!綺麗な女が居ると賑やかでいいねぇ!』と歓迎の眼差し


  エミリア「[ネルソン]と言えば綺麗な夜景と独特な風味のお酒を出すカクテルBARがあるでしょ」

  エミリア「今日の任務はかなりの重労働だったのよ…ねっ!いいでしょ!この通りよ」


  ブルー「…ルーファスと同じくらい嫌いだと言ったのは何処の誰だ」


 溜息を吐いて、彼女を見る術士、ブロンド美女は胸を張って『それはそれ、これはこれよ!』とか
『今なら嫌いからちょっと嫌いにランクアップよ!わかったらレッツゴー!』などと宣う


変な所で割り切りのイイ前向きさに定評のあるエミリアお姉さんであった


―――
――



【双子が旅立って4日目 午後 21時57分 [ネルソン]】


 海原にある巨大な岩を削り、築き上げた岩窟―――そこに港を造り古き伝統を重んじる海賊の隠れ家と言った具合の港町
それが[ネルソン]というリージョンであった、その為、帆船が出港する穴から朝日が射しこんだとしても常時薄闇に包まれ
24時間街灯の火が消えることは無い


暗黒街から海賊の入り江へ、[ゲート]の術で早速降り立った三人はシップ発着場へと向かう


 リュートの目当ての女性は大概[オウミ]のレストランで此処とは違う味付けのシーフードに舌を巻いているのだが
生憎とこの時間帯ではその人は職務があるから自分の船に戻っているだろう


シップ発着場に行き、リュートは『ハミルトンさんは居るかい』と受付に尋ねた

少し待っていてくれと言われ、数分後、独立戦艦ビクトリアの艦長ことハミルトンが姿を現した




  艦長「やぁ、来てくれたんだね、キミの父上の遺志を裏切ってトリニティへ奔ったモンドの基地へ突入する気は?」

  リュート「悪いけど、そういうのはパスだ、俺は今日はそういうことの為に来たんじゃないんだ」


  艦長「む、そうか……無理強いはせんが、キミが一声かけてくれれば我々はいつでも[ワカツ]へ戦艦を飛ばす」

  艦長「しかし、そうでないならば何の用で来たんだ?」


  リュート「俺は、父ちゃんの事を色々知りたいなって思ったんだ…母ちゃんはあんまし喋ってくれねぇからさ」

  リュート「忙しい中わりぃとは思うんだけど…ダメ?」


  艦長「そうか、父上イアン殿ことについてだな…ウチの自慢のBARで酒でも飲み交わしながら話そう、私のおごりだ」


お連れさんもどうぞ、と口を挟まずに居た術士と美女もご厚意に甘えることになった


 ハミルトン艦長の紹介でやって来たのは以前にも金塊の売買で世話になった酒場で
顔馴染の客にしか出さない秘蔵の一本を開けてグラスに注いでもらった

 徐々に酔いが回り始めた頃、艦長は昔話を懐かしむようにリュートに活動家としてのこれまでを語りだす
リュートの父イアン、その友であったウェント、…同じく友であったモンドのこと


反トリニティの活動中にモンドが兵隊に追い詰められ、死を覚悟した後にイアンが自分の命を投げ売ってモンドを救った事


その後、モンドが何を想ったのか、突然、革命家を辞めてトリニティ政府で働くようになり最近じゃ執政官になったこと

[ワカツ]を爆撃機で空襲した後に秘密裏に軍事基地の建設、[シュライク]の街工場で人型兵器の開発禁止を言い渡す等
影で誰にも分からぬ怪しげな動きをしているということ…



  ブルー(こいつの父親がそんな大物とはな…)


 透明なグラスを傾け小さく波打った強めのカクテルを眺めながら感想を浮かべた
このニートの父親がそんな大人物だとは



   エミリア「うっ…うぅ…っ」



一通り話を聞いて、むせび泣くような声がし、横を振り向くとなにやたエミリアが机に突っ伏している
顔は見えないが今の話で泣きでもしたのだろうかと声を掛けようか迷っていると…




   エミリア「う、うぅぅぅ、も、もうだめぇ…き、気持ち悪いぃ…」ウップ

   エミリア「ブルー、この際あなたでいい、トイレ連れてって…」グスッ


   ブルー「 」



この日知った、エミリアは酒に弱い。


 えっ、なのにお前酒飲みたいから[ネルソン]のBAR行こうとか言いだしたの?出かけた声を出せずにいるブルーの肩に
エミリアの白い手が触れる


  エミリア「や、やばいって…ほんと、は、はきそ」

  ブルー「おいぃぃぃ!?バカやめろぉぉ!!た、耐えろ、今連れてくから、おい!お、俺の方を向くなァァァ!!」





                 ~ しばらくお待ちください  ~




  ブルー「ぜぇ…ぜぇ…」

  エミリア「あぁ…飲みすぎたわぁ…うぅ」グスッ


危うく大惨事になる所だった、疲弊しきったブルーは今度こそ文句を言わずに居られなかった


  ブルー「だったら…ゼェ、何故、酒を飲むっ!ゼェ…馬鹿なのか貴様は!?」

  エミリア「だってぇ、疲れた時は嗜む程度に飲みたいじゃない!まさかこんな強いカクテルなんて思わなかったの…」


法衣を嘔吐物塗れにされては堪ったものではない、全速力で走って来た術士は息を切らした息を整えながら席へと返る
すると、なにやら話は終わっていたのかリュートは立ち上がっていた


  リュート「ありがとよ!ハミルトンさん…俺さ、やっぱそういうことに手はまだ貸したくないや」

   艦長「そうか…わかったよ、今晩は良い酒が飲めたよ」


  ブルー「リュート」

  リュート「お、戻って来たのか」



  ブルー「貴様、父親の遺志を継ごうとは思わないのか…」

  リュート「んあ?父ちゃんの遺志?」

  ブルー「お前の産みの親であろう、…志半ばで仲間の為に命を落とした」

  ブルー「なら息子であるお前は成してやりたいとは思わないのか…?」






              リュート「いんや、全く」





即答だった


子は親の物、その考えが常であったブルーにとって興味深い返答だった、だから聞いた



   ブルー「…何故、だ」


  リュート「いやよ、なんつーか、父ちゃんは父ちゃんだし、俺は俺っていうのかな…」

  リュート「親の為に自分の生き方を全部捧げるってなんか違うんじゃねぇのって」


   ブルー「…。」


  リュート「お前には前言ったじゃん?俺は自分が好きなことやって楽しけりゃ人生万々歳ってさ」

  リュート「父ちゃんの遺志を継いで~、とか今の政府を転覆させて革命家の英雄だ~、とか」

  リュート「別にそういうんじゃ無いんだよ、俺は」



  リュート「本当に自分がやりたいって心で想ったことを、心が命ずる儘にやってこそ人生楽しいのさ」



  ブルー「自分の心が命ずる儘に……」


  リュート「まっ!めんどくせぇことが嫌いで気楽に生きていたいってだけなんだけどなww」

  ブルー(…)

  ブルー「お前は偶にただの馬鹿なのかそうでないのか分からなくなるな」フッ

  リュート「おろ?」



子は親の物、なら……親が初めから居なかったら?

親という自分を繋ぎとめてくれる存在が何らかの理由で無くなってしまったら―――



  ―――育ての親が、[マジックキングダム]国家が、万が一にもあり得ないが何らかの理由で滅びたとしたら?



そこまで考えて、ブルーは自分を嗤った

何を馬鹿な事を…所詮は万が一、あり得もしない"もしも"の話だろうに、こんな事を真剣に考えるなんてどうかしてる



その先の答えは考える事を止めた、…いや無意識にブルーは【逃げた】のだろうな


自分は本当は空っぽの人間だ、それが無かったら…心の在り所を失ってしまったら、――自分の"帰れる居場所"を失ったら



きっと、もうその時点でブルーという名前の人間は瞬間、存在価値が無くなる、生きる理由も何も無くなってしまうのだと





  存在意義を失くして、【世界中の誰からも必要とされない人間】になる、と…その答えに行き着きたくないから



 まだ酔いが抜けきらないエミリアとリュートを連れブルーは暗黒街へと帰った
早朝から叩き起こされて、皿洗いのバイトをしながら守銭奴の金髪娘に[鉄パイプ]を持たされてお稽古の時間
それが終われば、店内のモップ掛けをして夜遅くにやってきた馬鹿な知人と先輩のブロンド髪と一緒に酒盛りだ

そこそこに多忙な一日だったとは思うが、ブルーがこの晩、寝付く事が出来なかった


 三日近く世話になった貧乏臭い安宿の枕が恋しくなったわけではない
住み込みバイトとして与えられた個室が長らく使われてなかったから黴臭くてそれが眠気を妨げるということもない


 胸の奥に理由も分からないのに蟠りがある、エミリアの持ってたブローチや彼女とリュートの会話で芋づる式に天使
それに故郷の話になったり、飲みに行った潮の香りに包まれたBARで普段馬鹿だと思っていた男が語る人生観を聞いた所為



子供の頃、…これは今、寝具の上で眼を開けたまま寝がえりを打ち続ける彼に限らず誰にでもあることだろう



ひとつ気になる事があると、ついつい、それを考えて睡眠が取れなくなる

好奇心盛んな少年心が身に着く年頃になれば、哲学に手を伸ばす
それよりも少し若い頃にさえ誰でも一度は『人は死んだらどうなるんだろう?』そうなったら
今ここで考えてる僕の意識はどうなるのか、死んだ次の瞬間、今までの自分の記憶や自我は消えて別人になってるのか?等

出せるはずの無い答えを探そうと頭を捻ったり、あるいは極度にその妄想を怖れたり


そうしている間に時間だけが刻一刻と過ぎていく





ブルーは、まさしくその状態に陥っていると言っていいだろう



自分の人生、自分とは違う人間の人生、価値観、世間一般から見た弟殺しの見解




ルージュを殺す事に何も思わないのかと感情を爆発させた前日のエミリアの顔

弟と妹、自分の身内を養うために命を賭け金に綱渡りをするアニー

身内殺し事体を全否定はしないが、その時が来るまでの人生それで良いのかと問うリュート



ぐるぐる、ぐるぐる…頭の中で、色んな顔が、声が、次々と浮かんでは交じり合って消えていく
[ドゥヴァン]のコーヒー占いが自慢の喫茶店で飲んだ甘いカフェイン入りの液体の様に、渦を巻いて消えていく





  ブルー(今宵の自分は何処か変だ、エミリアの悪酔いがうつりでもしたのか)





病原菌じゃあるまい、何を馬鹿な、と考えて首を振った

天井ばかり眺めていた顔はその動作で木組みの机の上にあるデジタル表記の時計を見据えた、暗闇に視界が慣れたのだろう
ぼんやりとだがPMからAM、午後から午前へと日付を跨いだことが分かってしまった



嗚呼、眠れない、寝付けない


声が頭の中で煩い、蛇が脳髄でのたうつように五月蠅い、自分の声がうるさい




蒼き術士が意識を手放すのは明方間近であった…


【双子が旅立って5日目 午前 10時02分】




 ブルー(目元に隈つき)「…」シャコシャコ

 ライザ「あら、寝坊助さんおはよう」



 歯ブラシに歯磨き粉をつけて、目元に天然物の暗色メイクを施したブルーが鏡をぼんやりと見つめながら歯を磨く
後ろから紫髪の女性がくすくすと笑いながら挨拶をして来るモノだから彼は朝から血圧が上がった
プライドが無駄に高い男は何か言いたげだったが、グッと押し込みマグカップの中身で口を濯いで顔を洗った



 アニー「はいはい!両面焼きのハムエッグ追加だよ!」トンッ☆

 エミリア「お先に!」パシッ



 グラディウスモブ男「もうじき、デカい作戦だからそっちに準備割くんですか?」モグモグ

 ルーファス「ああ、[ヨークランド]の山奥にある[忘れられし聖堂]だ、そこにジョーカーは来るらしいが」パクッ



朝食担当の作った半熟の目玉焼きが乗っかったトーストを頬張りながら完治したルーファスが予定を仲間に話していた
 こんがりと焼けたパン生地のサクサク感と黄身を噛んだ時に広がるとろりとした半熟の卵が広がりそれがまた美味いのだ


 ルーファス「エミリアがモンドから聞き出した情報によれば、暗号の解読には時間が掛かる」

 ルーファス「奴の動向を探っていた[マンハッタン]支部からの情報網によれば、アイツを切ろうとしてる勢力も多い」

 ルーファス「例えば、[シンロウ]で秘密裏に取引していた"ブラッククロス"だ、奴らもジョーカーに見切りをつけ」

 ルーファス「獲物を横取りしようとしてるらしくてな、ジョーカーが[ヨークランド]に行けるのは当分先だ」


 グラディウスモブ子「それまでに私達が準備を万全にして、先回りからの罠を張り巡らせる、ですね!」


 サングラスを掛けた男は「そうだ」と頷いて、ドレッシングの容器を手に取る
透明な深皿に盛りつけられた薄緑色のレタスや色彩豊かなトマト、花野菜にぷりぷりとした海老を施設や軍勢に見立てる
アニーお手製ドレッシングで「我々はこのように、周辺を固め、敵対勢力をこのように絡め捕る」とトマトや花野菜に
味付けをしながら説明する


  バコンッッッ!



 ライザ「ルーファス、作戦の説明は構わないけど食べ物で遊ばないでくださる」ニッコリ

  ルーファス「 」



 ブルーを引き連れた鉄の女ライザが笑顔で上司の頭に拳を叩き込んだ
折角、包帯ぐるぐる巻きミイラから復帰したのに、また頭部に包帯を巻きそうだ、この男本当に組織のトップなのだろうか
後ろで引き攣った顔をして見ていた蒼き術士は何度思ったか分からない感想を浮かべた


 エミリア「ライザ、おはよう!あとブルーも」

 アニー「お、二人共やっと来たわね!で、何にする?」


 持ち運べる携帯食としてアンチョビサンドの仕込みで鰯<イワシ>の塩漬けをオリーブオイルに浸していたアニーは
遅れてやってきた男女に気が付いた、食べたいモノはあるか?注文のリサーチを始める


 ライザ「なら、私もルーファスと同じモノが食べたいわね」チラッ

 ルーファス「」チーン


自ら気絶させた男と同じ食事を注文して、彼女はデカいタンコブ作った男の隣にそっと座った、心なしか顔が赤い気もする
ブルーはソレを見て何か関わったらダメな世界な気がして、目を背けながら半熟目玉焼きを乗っけたトーストを頼んで
極力ルーファスとライザから離れた席に座る事にした



 ブルー「…午後4時から午後10時までとはな、そんな営業時間で大丈夫かこの店」サクッ


 胃にあまり物を詰め込む気にはなれず、一枚のトーストと目玉焼きで丁度良い
白い皿の上に置かれたパンを手に取り角から頬張る、…悪くない


コトッ


 ブルー「ん?」

 アニー「ほら、やるよ」つ『ミックスジュース』


 柑橘系の果汁をブレンドした朝の一杯、剣術指南の師範曰く仕事が始まるまでみっちりしごいてやるからサービスだ、と
渡されたついでに、この店は午前は開業しなくて良いのかと尋ねてみた、すると


 アニー「ん、そこだけど…ちょーっと裏のお仕事がね、今デカい山場なのよ」カチャッ、スッ


 パセリを添えた、焦げ目の無いチーズオムレットの腹をフォークで裂く
とろり、ふわっとした半熟の卵から熱々のチーズが流れ出す、それを口元に運びながら金髪の少女は言う


 アニー「あたし達が追ってる敵との決戦って奴を控えててね、総力戦になりそうなんだ」

 アニー「これがややこしい事に、その敵ってのは色んなとこに手を出してる奴でさ」

 アニー「ある時は麻薬売りと人攫いで有名なブラッククロスとの取引」

 アニー「[バカラ]の地下に居るノーム達から財をふんだくったり、トリニティの上層と繋がりを持ったり」

 アニー「その所為で、そいつを出し抜いてお宝をゲットしちゃおうって奴が多いのよ」


 ブルー「その話ならさっきそこでルーファスも言ってたな」


 アニー「ああ、なら話が早いわね、大掛かりなトラップを周辺にばら撒いて誰も邪魔できないようにするってワケ」


 ブルー「その準備に追われるから飲食店の方は短時間営業ということか」


 アニー「そっ!んでもってあたしやエミリアみたいな戦闘員は英気を養って、非戦闘員のみんなに頑張ってもらうの」

 アニー「つまりアンタの剣の腕を磨く時間があるってわけ、お分かり?」ニィ


 覚悟しとけよぉ?とニヤニヤ笑う女に不敵な笑いで返してやる、寝不足で肩に見えない重りが乗っていたが
そんな物は吹き飛んだ、漸く本腰入れて、鍛錬に打ち込めるのかと、グラスの中で揺れる甘酸っぱいビタミンを喉に流して
気を引き締める、盗める技術は盗む、使える技はなんであれ、自分の物としてみせる


残り一口になった焼けたパンを口に入れて噛みしめる
そんなやる気に満ちた門下生の横顔を金髪少女は面白い奴を見る様な目で眺めていた


*******************************************************
―――
――




 ゲン「…帰って来ちまったなあ」

 ルージュ「ここが、[ワカツ]…」


 早朝、ルージュ一行はゲン達と共に、4人と3機で[ワカツ]へとやってきた…
目指すはカードを得る為の部屋[剣聖の間]だ…沼の向こうに聳え立つ和風の城、[ワカツ]城に向かう為
茂みを掻き分け、桟橋へと向かった―――その桟橋には先客が居た、その者は皮膚はおろか、肉すらない



 アセルス「なっ、モンスター!?」チャキッ

 ゲン「剣を降ろせ、ソイツはモンスターじゃねぇよ……よう、俺達を向こう岸、城門前まで頼むわ」


[スケルトン]系のモンスターとしか思えない人骨は何を見つめるでもなく、自分達を見据えてポツリと一言



      「船を待ちな」



ゲンは、その骨を何処か懐かしむような、それでいて憐れむような眼で見つめていた
 [ワカツ]は亡霊の巣窟と化した惑星、目の前の橋渡しは生前は彼と知り合いだったのだろうか…


そんなことを考えている内に、ザザァと誰も乗っていない無人の小舟が不自然な流れ方をしてピタリと桟橋の先に停泊した


人骨は何も言わずに、道を開けて、乗れと首を船へ振るう


 剣豪は、黙って船に乗り込み腰を落として胡坐をかく、それに従うようにロボたちが小舟に乗り込み
後に案内を頼んだルージュ等も乗った

 船は鉄の塊である、T-260や特殊工作車、常に浮遊しているナカジマ零式は別として、その他に大の大人が数人乗って尚
重荷など何も無いかの如くスイスイと見えない力で沼を漕ぎだした


向こう岸に辿り着くのはあっという間の出来事で…全員が上陸すると示し合わせたのではと思う程綺麗な動きで船は去った



      ヒュッ!  ヒュッ!


  ルージュ「んんっ!?」



紅き術士は目を疑った、疑って自分の眼をごしごしと擦った


 白塗りの壁に一瞬、本のページの様に捲れてその裏側に人が居た様に見えたからだ…
もっと言えば櫓屋根の上を高速で走る人影がちらほら見える、その恰好は彼が学院に居た頃、文献で読んだことがある





  ルージュ「ニ、ニ…ニン」プルプル



  ルージュ「忍者だぁぁぁぁぁぁぁ!?」ガビーン!




アイエエエエ!?ニンジャ!?ナンデニンジャ!?

両手を頬にあて美術館に飾られたムンクの叫びめいたポーズで絶叫するルージュ=サン



 ゲン「ありゃあ[ワカツ]の亡霊だ…死んでも死に切れぬ魂がああして出て来ては生者を仲間に引き入れようとするのさ」

 ゲン「お前等も気を付けろよ、連中に追いつかれたら死ぬ気で抵抗しろ」スタスタ


この惑星に迷い込んだ旅人を殺しその血肉を喰らおうする悪しきニンジャソウル、それこそが[ワカツ]の亡霊であり
トリニティの連中が空襲をした際、爆撃が地下にあった封印を解いたことで[ワカツ]の亡者が溢れかえったとのことだった



 アセルス(…悪しき亡霊で忍者って…昔ウチにそんな漫画あったなぁ)テクテク



[シュライク]で実家が本屋だったアセルスはそんなことを思い出しながら皆の後を追った…


 至る所に死の痕跡が落ちていた道程を鉄の蹄が進軍していく、T-260、特殊工作車、[鉄下駄]を履いたゲン
靄が掛かった城を、まるで死者たちの鎮魂歌だと主張するような高らかな金属音、征く手を阻もうとする魔物でさえ
道を開けたくなるような果敢な行進曲<マーチ>



――――中には向かってくる命知らずな、"命なき者"もいた


  ゴーストA「けけけけっ!」フワァ

  ゴーストB「きひひひっ!」フヨフヨ

  ゾンビ「うばあ"ああ"あ"あ"あ""あ"」


  ライダーゴースト「ヒャッハー!オンナダァ!オレノモンダァ!」パラリラ!パラリラ!

  ナイトスケルトン「我、汝の命欲す…っ!」チャキッ










   特殊工作車「標準よし、撃ちます[電束放射器]」ビーーー、バチバチ!

     ゴーストA&B「「ぶべらっ」」チュドーン!!




   T-260「[剣闘マスタリー]ON、[多段斬り]発動!」ズジャジャジャジャジャ

     ゾンビ(みじん切り)「ウボァー」ザジュッ



  ナカジマ零式「へーい、そんなスピードじゃあ私にー、おいつけませーん、[神威クラッシュ]」ドゴッ

  ライダースケルトン「ちにゃッッ!?」ボコォ



  ゲン「[三花仙]」ヒュバッ!

  ナイトスケルトン「!…みごと、なり」ドサッ…シュゥゥゥ






  ルージュ「 」ポカーン

  アセルス「す、すごい…私達全然手をだす必要が無いわ」

  白薔薇「あっという間の出来事でしたわね…」




特殊工作車のアーム部分に取り付けられた重火器が電流を放ち、目の前にいた[ゴースト]2体を(物理的に)昇天させ
 T-260に至っては達人級の剣士の動きをトレースしたプログラムを発動させ、壱秒間に数十回動く屍を斬りつけて
玉葱のみじん切りより細かくバラバラにしてやった、断末魔をあげた[ゾンビ]は二度と蘇ることのできないレベルで
肉体を細切れにされ、その横をマッハ越えの速度でナカジマ零式が突き抜けて、やんちゃな幽霊にお灸を据えてやった

ぼっこりと、腹を突き破ってぐるっと宙返りしながら戻ってくるナカジマ零式の機影が[刀]を構えたゲンの真上を過ぎ去る

それを合図に、[鉄下駄]を履いて尚、骨騎士を上回る瞬発性で敵を切り裂く


その艶やかな一連の動きに、花が咲き乱れるような美さえ幻視した…


―――
――


   ゲン「…こっちは、床が完全に抜けてやがるな、オイ兄ちゃん、他の道行くぞ姉ちゃん達も足元に気を付けな」


どれくらい歩き続けたか、時刻は【午前11時49分】…早朝に来たはずだったが、思った以上に時間が経っていたようだ



 アセルス「はい…っとと…本当危ないなぁ」ギシ…ギィ

 アセルス「ちょっと足を乗せただけで軋むなんて…床板の腐食度合いが、うん?」


 白薔薇「…」


 アセルス「白薔薇、どうかしたのか」


 白薔薇「いえ…ただ」チラッ


 焼けた人形『 』



 おかっぱ髪に、焦げてしまっているが辛うじて緋色の和服を着せた人形なのだろうなと推測できる
アセルスは人間だった頃、3月になれば家に飾られる雛人形を思い出した
 これの創りもそれによく似ていて、きっと持主は人形を大切にしていた子供だったのだと…


  ルージュ「…小さい子も、此処に居たんだよな」


2人が見ていた子供の人形を見てから辺りを見渡すように、空襲の跡地を紅き術士は目を配った
 煤だらけの床に丁度、黒ずんでいない人型の綺麗な床が見えてその上には長い間、野晒しにされた白骨遺体が横たわる
折れた刀を持っていた右手は、今尚、柄を握って離さず…倒れた骨の視線の先には―――


 ゲン「…俺達は、何もしちゃいなかったさ、政府に逆らうだのそんな気なんぞ無かった」


 ゲン「誰が流したかも知らねぇ悪い噂、人の噂なんざ七十五日よ…」

 ゲン「あの日だって普通にお月さんが出て、寝てりゃあお天道さんが上がる変わらない明日って奴が来るはずだった」


 ゲン「だがよ、無数の爆撃機が隊を組んでこの城の上空に現れて俺達から"いつも通りの明日"を取っちまいやがった」


 ゲン「みんな、必死だった…腰に脇差引っ提げて、刀抜いてドタバタ走ったぜ」

 ゲン「敵は団体さんで空から爆弾落としてくるんだ、剣を振る俺達じゃあどうにもできなかった」



 ゲン「…そこで眠ってるそいつも、城を守るより、家族を護る為に走ったのさ」




…――柄を握ったまま離すことなく倒れた白骨死体は、空洞となった目から口惜しさの涙さえ流して見えた

折れた刀身が転がった先は、大人1人と子供1人と思われる遺体の傍らだった
 靄が掛かっていた空が一瞬だけ晴れ、空襲で空いた大穴から照らされた日光でその存在が漸く確認できた

カラァン、コロォン!

ガッシャ!ガッシャ!

ブロロロ…



テクテク…スタスタ…


 ゲン、彼は暇さえあればいつだって酒を飲んでいた
酒は良い、嫌な事も思い出したくない光景も酔いが見せる優しい揺り籠で溶かしてくれるから…

嘗ては共に剣を磨き合った友、護るべき主君、…家族、それらが一夜にして火の海に飲まれた


 ここにきて、彼はいつも持ち歩く酒瓶に口をつけることは無かった

 無言で自身に蔦を伸ばして来た喰人植物のモンスターを一薙ぎ、屋根の上から彼目掛けて飛び掛かろうした獣を縦に両断
忍者を思わせる出で立ちの亡霊が気配を消し瓦礫の塹壕から飛び出し奇襲を掛けるも、見向きすらせずに首と胴体を裂いた


[ワカツ]の剣豪ゲンの精神は研ぎ澄まされていた…



  ゲン「ここからなら、中に入れそうだな…」ガラッ


 櫓門の道は塞がれていたものの、城壁の一部が崩れていて、瓦礫を少し手で退かせば大人でも
通れそうなくらいの大穴が渡り廊下の壁に空いていた

 隙間風がカラカラと、赤い風車<かざぐるま>を回す、母親が吹いて赤子をあやす為に使っていた玩具は無造作に床に
突き刺さり、誰を笑顔にすることもなく悠久の時を空回りし続ける、[京]で見たような襖扉に生々しい赤を飛び散らせ
鉄臭さとそこから菌が繁殖したのか緑や黄の斑点模様で着飾った和紙の窓が切り裂かれていた

壁に東洋剣の破片が突き刺さっている、弓矢の矢も無造作に突き刺さりそれが何とも痛々しい



   白骨『  』

   白骨『  』



 ゲン「この一番上の階が[剣聖の間]だ…そこで試練を受けれる、一息だ」



  白骨『 』…ガタッ!


  白薔薇「ゲン様!そこに―――」


ガッ、ズシュッ!


  ゲン「…」チャキッ


 屍で築かれた山に紛れてアンデッドが死者の脇差を抜き取り、ゲンへと切りかかる、白薔薇の警告と同時に相手の眉間に
一刺し、頭蓋骨は見事に前から後ろまでよく見える覗き穴をあけて屍の山へ帰った


  ゲン「おう、姉ちゃんありがとうな」


 自分の身は自分で守れ、と[京]の旅館で言ったゲンだが、道案内も兼ねて率先して前を征き背後にも警戒を怠らない
何だかんだ言いつつもルージュ等をしっかりと守る男であった




……この地で守れなかったモノがあったからこそ、なのかもしれない、[ワカツ]の剣豪として想う所があった



彼にとっての生まれ故郷、此処はゲンの"帰るべき場所"であった筈なのだ…育った大地を踏みしめて彼は何を"想う"か



コツッ、コツッ…


 ゲン「…着いたぜ、此処がそうさ」



 案内された[秘術]を求める者の巡礼地は、こじんまりとした一室で、中央に畳が三畳だけ敷かれていた
中央の畳を挟む程度に燭台が3つあった、ただルージュや白薔薇姫にはあまり馴染の無い形式の燭台だ

 蝋燭の灯がかき消されないように、風除けの硝子が張られているオイル式の角燈<ランタン>に似てはいるが
風除けに使われている材質が紙だ、和紙を使われたソレが灯篭と呼ばれているのを知っているのは
ゲンと子供の頃テレビの時代劇で見た事があるアセルスお嬢、データベース内にある知識として記録しているメカ達だけだ


  ゲン「まず、両方の蝋燭に火を灯すんだ、そうすると後ろの屏風…はもう無ぇな、後ろの壁に3つの影が浮き上がる」

  ゲン「それぞれ、剣、兎、物の怪だ」

  ゲン「3本の剣と兎と物の怪が交互に浮かび上がる、全ての影を『剣』に揃えるんだ…誰が一番初めに受ける?」


中央の畳に、座り意識を集中させて目を見開く、すると浮かび上がった影はその心に応じて止まる
 随分と俗物的な言い方をするならカジノのスロットみたいなモンだ、絵柄を三つ揃えれば良い、違いがあるとすれば
試練を受ける術者の心次第で結果が出るということだが



 ゲン「俺は、こいつ等と亡者共が階段駆けあがってこないように見張りをする…いいな、テメェら」チラッ


 T-260「了解です」
 特殊工作車「右に同じく」
 ナカジマ零式「私たちにー、お任せあれー」


 若き日に成人式のしきたりのようなモノでゲンも[剣のカード]は取得している
三畳一間で彼等が瞑想を始め、剣が描かれた札に認めてもらえることを祈りながら見守る、その間、ゲンの仕事は
試練の邪魔をする無粋な輩を排除することである


 ルージュ「僕は、最後でいいよ先に二人からで」

 アセルス「そう?なら白薔薇」

  白薔薇「かしこまりました」スタスタ…スッ



 ゲン「じゃあ、火を灯すぜ…休憩を挟みたい時はいつでも言ってくれて構わねぇからな」カチンッ!ボォッ


 灯篭の中に赤々とした燈が点いて、影を浮かび上がらせる…この場所、[ワカツ]の天守閣は一種のパワースポットだ
術士であるルージュも妖魔の白薔薇姫も当然、半妖であるアセルスも薄々感づいていた

周りが穏やかな風の吹く草原なら、この場所だけピンポイントで渓谷や山岳地帯の岩々で一点に気流が集中する地点だ


 力の流れで浮かび上がった三つの影は兎や交差する刀、バケモノの姿形を造り飛び回る
蝋燭の灯りは和紙一枚の壁を越え、障害物は何一つとて無い、であるにも関わらず、兎や二本の長物、大口開けた妖怪

光の屈折だとか目の錯覚だのと、そんな次元の話じゃない、科学的に説明不可能な変化を目まぐるしく繰り返す




        白薔薇「…。」



        白薔薇「…」



        白薔薇「!」パチッ




  【兎】 【兎】 【兎】



    白薔薇「…失敗ですわ」シュン


  ゲン「まだ、終わったわけじゃねぇ、何度でも挑戦はできる、心の目でよくみるんだ、耳を澄ませ…」


  アセルス「良い線は行ってたんだ、白薔薇!もう一度…!」

  ルージュ「白薔薇さんっ!」


    白薔薇「 」コクッ


    白薔薇(もう一度…)スゥ…


    白薔薇「…。」





―――
――

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―――
――

【双子が旅立って5日目 午後 12時00分 [クーロン]】



  ブルー「てぁぁぁぁっ!」ブンッ

  アニー「もっと踏み込んできな!!」カキィン[ディフレクト]



 暗黒街の惑星の裏通りを抜けた先、元は地下鉄であった地下空間に金属音が鳴り響く
廃線になった駅のプラットホームはそれなりに広く強盗殺人を生業とする浮浪者の棲家でもあった

生憎と、剣道道場なんてモンはこの街に無い…

犯罪者が大手振って歩く空気の澱んだこの空間を利用して、練度をあげる為に手にした得物を振るっていた


犯罪都市で日々を過ごす手練れの追剥も法を犯すことを余儀なくされる低所得者も流石に出て行こうとは思わなかった
 情報が物を言う時代、それもこの都市ならば尚の事で、金髪の術士と裏組織の金髪女はヤバいと既に話が持ちっきりだ



 双子が旅立つ数日前、エミリアがグラディウスに新人メンバーとして加入した際もアニーの指導の下
女二人でこの近辺から店まで帰って来るという実践訓練を行ったものだ



この街で長生きする奴は、自分と相手の力量差をよく分かっている奴だ

早死にする奴は無謀な戦いを挑むか、もう後に引けず強者でも良いから生活の足しになるモノを奪う為にと自棄を起こすか


 大概、その二択である……指導の真っ最中で喧嘩を売りに来る低ランクモンスターが[鉄パイプ]持ったアニーに撲殺され
片手斧やナイフを構えて蛮勇を目に焼き付けながら突進する盗人はブルーの試し切りと魔術で感電させられ気絶していく


 稀に、二人よりもランクが上の実力者が現れ、戦いを挑んでくることもあったが
そんな実力があるなら他所の惑星でも十分喰っていけるだろうに、と思いながらアニーが剣に不慣れな弟子をフォローし
二人掛で仕留めて行った


   アニー「アンタの手に持ってるソレを自分の身体の一部と思え!」

   アニー「自分の手であたしに触れようって気で掛かりな!先端から鞘までが含めてアンタの腕だ」



   アニー「…"手首の先に棒状の武器がある"だからその分リーチがあって、間合いはそこまで詰めなくて良い」


   アニー「そんな考えは糞喰らえだッ!そんなんだからさっきからアンタは一撃もあたしに当てれないんだよ!」ブンッ


   ブルー「ぐぉっ…っ」ガキィィ…ギギギ!

   ブルー「…な、めるなァぁぁぁ!!」グワンッ ダッ!


   アニー「――っと!」バッ!


   ブルー「踏み込めばいいのだろうッ![天地二段]!!」バッ!ダンッ!


   アニー(やばっ!?調子乗り過ぎたッ)サッ!


 蒼を纏った魔術師が鍔迫り合いから相手を上に押し上げる形で崩し、金髪少女が僅かによろめいたのを見て攻勢に出る
プラットホームの地を離れ、飛翔し勢いよく振り翳した鉄の棒を振り下ろす
 遊び過ぎたか、と彼女はすかさず持っていたパイプを頭の上に掲げる
夏の浜辺で遊ぶ西瓜割りの様に縦に振られた得物を両手で横に構えた棒で防ぐ、何度目になるか分からない金属音と火花が
飛び散り、すぐさま、地に足をつけたブルーが着地と同時に胴体を薙ぐ一撃を放つ


  ――――カァン!!

  アニー「…っ、そう簡単にやらせないっつーの!」グググッ

  ブルー「くそ…!」ググッ


ピピピ…

 持ってきていた手荷物からアラーム音がなる、100均ショップで購入できる簡単なタイマー時計だ
ブルーは目の前の講師に一振りたりとも掠ることなく終わったのか、と心底悔しそうな顔をしていた


  アニー「12時丁度だ、ここまでのようね」


アニーは背伸びしてそこらへんで拾ってきた[鉄パイプ]を放り投げる
涼しい顔をしているが最後の[天地二段]は正直なところ焦った、対応が遅れれば胴に一本取られたかもしれない


  アニー「ブルー、聞きたいんだけどさ子供の頃に剣とか習ってたの?」

  ブルー「簡単な護身術なら学院の授業で習ったが、剣に関しては全く…」


 知識だけはあった、若気の至りで学校を一日だけサボって顔は思い出せないが偶々気の合う子供と知り合って
色々あって、剣道に関する本を読んだ記憶はある…

金髪少女は一本も取れなかったことを悔しがった弟子を見て思う、筋は悪くない、と。



 さっきブルーが使った[天地二段]でさえ"閃く"のにアニーは時間を掛けた、しかし昨日今日で剣の道を始めた彼は
もう自分の物にして彼女に放ったではないか


金髪少女と蒼の術士…"閃きの頻度"が、眠る才能の大きさが違う


 今でこそ悔しがっているが、いつかは師である自分があの顔を教え子のブルーに晒すことになるかもしれない
そんな予感を彼女は感じていた


  アニー(面白いわね、育て甲斐があるってもんよ!)フフッ


 コイツは自分の指導で将来どんな奴に化けるのか?豊富な経験でまだまだ負ける気はしないが
目の前の原石を見て益々、ブルーを鍛えてやりたいという気が強まった
 自分の持てる技術を叩き込んでどこまで高見に行くのか見届けてやりたいと…


  ブルー「…貴様、何を笑っている」ジトーッ

  アニー「うん?」

  ブルー「確かに、今日の俺はお前に対して手も足も出なかった…だが見ていろ、いつの日か必ず打ち勝つからな!」


  アニー「!」

  アニー「あはは!いいよ、いいよ…楽しみに待っててやるって」ヒラヒラ


手をひらひらと振って、笑う彼女は施設に居る弟の姿を目の前の男に重ねた


負けず嫌いで、強がりで……



  アニー(…、……ああ、こいつを鍛えたいって思うのはそういう所かなぁ)



―――
――


 荷物を持って地下鉄を出る、お世辞にも良い環境とは言えないが、換気扇が碌に聞いちゃいない澱んだプラットホームで
ランチタイムに洒落込みたくないからだ
 外は相変わらず雨が降っていた、背の高い建物同士の合間に出来た小さな隙間と誰が設置してそのままにしたのか
トタン屋根の恩恵を有難がるわけでもなく、当たり前のようにそこへ入り込み髪についた水滴を払うべく頭を振った

鞄から乾いたタオルを二つ取り出し手渡す


  アニー「ほらよ」つ『タオル』

  ブルー「ああ…すまないな、助かる」フキフキ


 髪をさっと拭いて首にタオルを巻く、そのまま鞄から折り畳み式シートと[結界石]を取り出す

 春先の公園にでもピクニックに来たなら広げるであろうレジャーシートを地面に敷き、横風で飛ばないように
重石の代わりとして砕いた[結界石]の破片を敷物の端々に置いておく


 こうすることによって、シート上に乗っている人物は周りから知覚されず
またあらゆる攻撃にもある程度は耐える結界が貼られる、簡易シェルターの出来上がりである



  ブルー「気前がいいな、[結界石]を使うなどと…」

  アニー「んー?ああ、これね…なんだかんだで結局最後まで使わずに取っといてさ、いっつも終わるのよ」



 これまで裏社会で様々な任務についてきたて、気が付いたら大量に手に入って大量に余っていた、という魔道具の1つだ
任務終盤で決戦を控えた時に術力、気力、生命力の回復の為にと温存したものの、最後まで使わずに任務を終わらせた

そんなことが多々あって、宝の持ち腐れとなった[結界石]がグラディウスの倉庫には山ほどある


  アニー「こうやって敷いた物の上に乗っけとくだけで、特訓してたあたし達の体力も回復する、鬱陶しい敵は来ない」

  アニー「それにさ、雨音も遠くなって、寒気もあんましないじゃん?…異臭もしないし」


 砕いた魔石の破片を置いたピクニックシートに座った二人の疲労は既に吹き飛んでいた
鼠の死骸やゴミ袋を漁る鴉の匂い、蓋の開いたマンホールから漂う異臭もシャットアウトされていた


  アニー「あとは、この洗濯紐をこうやってビルの雨樋や配管にうまいこと括りつけて…と」ゴソゴソ

  アニー「店から持って来た毛布を紐にこうやって掛ければ、ほい!カーテンの出来上がり」

  ブルー「ほう…[結界石]とは別で更に風除けにもなり、外を見ずに済む簡易テントになるか」


  アニー「そ!どうせ、昼食にするならそっちのがいいでしょ?ルーファスも余ってるから持って行けって煩いのよね」



 登山家ご用達のジェットボイルを取り出し、同じく持ってきていた2Lペットボトルの水を注いで沸騰させる

点火して直ぐにお湯になった水を見て、他所の惑星の科学文明の発達やら、やたら重い鞄に何が入ってたかと思えばだのと
ブルーは感心、呆れ、どちらも入り混じった感情で仲間の荷物を眺めた


  アニー「あ、そうだ…ブルーはどっちにする?」つ『カップ麺』


 名前を呼ばれ、目線を鞄からその持ち主へと向ける、彼女が手に持っていたのは以前、リュート等を交え
酒盛りをした日に一緒に行った"こんびにえんすすとあ"とやらで見かけた、確か…携帯保存食の一種だったと思うが…


  ブルー「貴様、店を出るときにアンチョビサンドを作ってなかったか」

  アニー「あれは任務で出かけた他の子の専用よ、あたし等はこれで済ませるの、で?どっち」



どっち、と問われて、両手の携帯保存食を見る……

正直に言って、"かっぷらぁめん"を見るのは生まれて初めてだった、味の違いなど分かるはずも無い


ブルーは、戸惑ったが…少し間を置いて、右手のシーフードと書かれたラベルの方を指さした、色も青だったから



  アニー「決まりね」トポトポ…!


蓋を半分剥がして、お互いのカップ麺に沸騰したお湯を注ぎ、コンビニで貰った使い捨てのフォークと箸を乗せる
 箸は使えなくないが、どちらかと言えば慣れない食器よりも慣れたモノを使いたい

 リュートが面白半分におでん屋でのブルーの箸の使い方を見ていたのが幸いした
彼に『ブルーの奴、箸の使い方ヘタクソなんだぜ~』と聞いてたから予め、割り箸の他にフォークも用意していた

お湯を入れて2分と約30秒近く、地下鉄内で訓練の時に使った安物のタイマーをセットしてアラームが鳴るまで待つ


 待っている合間に缶コーヒーを2本、鮭入りおにぎりを同じく二つ取り出し手渡される
缶についてるプルタブの開け方は飲み会の時に学習した、手渡されたライスボールは丁寧なことに開け方が書かれていた
手順通りにやるならば三角の透明な包装の一番上を摘まんで洋服のジッパーを降ろすように破き、両サイドを引っ張ると…


   ブルー「…」ビリッ


   ブルー「…あぁっ!」クシャッ

   アニー「あぁ、コンビニのおにぎりあるあるだわ、そんな感じで失敗して海苔がバラバラになったりするのよ」


 引っ張ったら海苔もビニールと一緒に裂いてしまった、剥き出しの白いご飯と、取っ払った包装の中に未だある海苔
掌にペタペタとつく白米が物悲しい…



   アニー「ふふんっ♪ブルーよく見てなよ、こういうのにはコツがあってね…ここはこうして…あっ」ビリッ、グシャ

   ブルー「…フッ、中々素晴らしい手本だな、アニー」


   アニー「…う、うっさい、今日は調子悪かっただけだし、ていうかアンタだって失敗したろ!?」


ピピピ…!


   アニー「と、馬鹿なことやってる間に出来たわね…ほら、アンタのシーフードヌードル」スッ


ペリッ

乗せていたフォークを取り、底についていたシールも剥がして蓋を取る、[鉄パイプ]の打ち合いでカロリーは消耗していた
それに比例するかの如く、湯気と共に鼻をくすぐる匂いは食指をそそる

 黄色いふわふわに蛸の脚をスライスした物なのだろうか…?蟹と思われる食材も一口サイズで浮いていて刻み葱の下には
最初見た時、『こんな硬そうなモノが湯を入れただけで美味くなるのか?』と訝しんだ乾麺がお湯を吸い解れていた


ナポリタンスパゲッティと同じ麺を用いた食事、東洋文化の麺類をフォークで掬って口に運ぶ…



  ブルー「…美味い」


 カップの淵に唇を寄せて、スープも啜ってみる…塩気が少し濃くそこに何かを煮詰めて取ったダシ汁を加えた濃厚な味
舌が火傷しそうになるが、ついついもう一口とカップの中の液体を飲み干してしまいそうになる

 握り飯にも齧りつく白米の奥に見える紅色は珍しくはない魚のサーモンで塩漬けにでもされていたのか
これといって過剰な味付けを施されていない白飯としょっぱさを感じる魚肉のハーモニーが丁度いい具合になっていた


 [結界石]と風除けの布があるとはいえ常雨の街は気温が寒い部類だ、身体を温めて少しだけボーっと食後の余韻に浸り
今日の戦績を振り返ってみる、アニーとの模擬戦で得た技や偶に突っ掛かって来る命知らずな野盗やモンスター
稀に危険度ランクが高い方に部類される[トレント]や[ユニコーン]、そこまでではないが凝視攻撃が厄介な[アンノウン]


 ヌサカーンと共に[保護のルーン]を取りに来た頃と比べれば、敵も自身も強くなったものだ…
海星型モンスターの[ゼノ]や[ラバット]共を蹴散らした頃が遠い日々のように思える


 結界石『 』シュゥゥン…


 アニー「砕いた石の光が弱くなってきたね…そろそろ効果切れだ、準備しな」

 ブルー「わかった」


 250ml缶の中に半分程残ったカフェインを飲み干し立ち上がる、洗濯紐と毛布も回収して
シートをばさりと輝きの失せた石を吹き飛ばす、もはや只の石ころと変わらなくなった魔石は
路傍の石に紛れて分からなくなり荷物は全て収納した鞄を担いで再びブルーとアニーは地下へと潜っていった


小降りだった[クーロン]の雨はまた勢いを増し、大雨へと代わろうする頃合いであった…


―――
――

お疲れ様でした
今回も楽しませていただきました

これはブルーさんとアニーによる巧妙な飯テロスレ

乙十字剣
結界石ってそう使うんか・・・

乙乙
改めて文章で見るとリージョン間の文化の差が顕著で面白いな

【双子が旅立って5日目 午後 12時31分】


 リュートは今日も今日とて、闇市場[クーロン]に物珍しい売り物が無いか、風の向くまま気の向くままに散策していた
珍しい獣の革、どこぞの軍隊からの横流し品、マニアなら泣いて喜ぶコレクション、眠らない常雨の街はいつだって活気に
満ちていて、怪しくも可笑しくもある空気を振りまいていた

宝石箱か、はたまた子供のおもちゃ箱かをひっくり返したようにちょっと見渡せば興味を引くものが転がっている


ボサボサ髪にちょこんと乗った民族帽は、ある一点を振り向き…視線を固定させた

一度見たら早々忘れられそうにない緑色の獣耳、ふさふさした尻尾のついた人間がトコトコと歩いていたからだ



  リュート「クーン!クーンじゃないか!」オーイ!


   クーン「? あっ!リュートだー!メイレン!リュートだよ!」

  メイレン「まぁ、元気にしてたかしら?」


  リュート「へへっ!俺はいつだって元気だぜ!…けど、あん時は勝手にパーティー抜けてごめんな」


  メイレン「いいわよ、そんなこと」

  リュート「それでさ、"指輪"集めの方はどうだい?例の全部集めると何でも願いが叶う指輪」

  クーン「えへへ!あの後ね!僕達2つも手に入れたんだよ!」ピョンピョン!


 元々クーンが旅立った際に故郷の長老から渡された指輪、リュート、ゲン、T-260とクーン等で街を仕切るヤクザ者達と
戦い勝ち取った指輪で2つ、そして[タンザー]で宇宙海賊ノーマッドから手にした物で3つだった

つまり現在5つの指輪が揃ったことになる



  メイレン「ここまで順調だったのも全部メサルティムと先生のおかげね!」


  リュート「先生と、メサルティム?」キョトン


知らない人物の名が挙がり、弦楽器を背負った無職は首を傾げた




         ヌサカーン「くくくっ、私としてはタダで病魔を観察できたのだ礼金を払いたいほどだよ」ヌッ!

          リュート「うっひゃぅ!?」ビクッ




 [クーロン]の裏通りに住む闇医者にして上級妖魔の医者、ヌサカーンはリュートの影からぬるりと出て来た
突然背後から声がしたと思えば、眼鏡を掛けた病的なまでに肌の白い白衣の医者が立っていた
死神か何かと一瞬勘違いするほどである


    メイレン「先生、あんまり驚かせないでいただけますかしら?」ヤレヤレ

   ヌサカーン「くくっ!いや、失敬…キミの驚き方は素晴らしい、その心拍数、健康な心臓だ」

   リュート「は、はぁ…、どうも」


   肌の色が黒い人魚「あ、あのー、高貴な御方…いえ、ヌサカーン様それは誉め言葉になってないのでは」フヨフヨ


   ヌサカーン「ん?そうだったかね?それは失礼したなメサルティム」

   メサルティム「ひぃぃぃっ!?すすす、すみません下等な下級妖魔の分際で上級妖魔の貴方にお言葉を…!」フヨフヨ

   メサルティム「出過ぎた真似をして申し訳ありません!どうかお許しを…!」ガタガタ ビクビク


   ヌサカーン(……怯えさせるつもりは無いのだがね…彼女には困ったものだ)ポリポリ



 メサルティムというのはどうやら、この宙に浮遊してる気弱そうな人魚の名前らしい
美しく長い銀髪で角が生えている人魚…話によれば、最初[マンハッタン]で売られている指輪を買いに行ったら
既に[オウミ]の領主が買っていて、それを譲ってもらいに行ったらなんやかんやで落とし穴に落ちたり
巨大な烏賊<イカ>と戦ったり、領主が実は偽物だったりと…紆余曲折があって苦労したらしい
 それでその道中で偶然知り合って、力を貸して貰い今現在、クーン達と行動を共にしていると


  リュート「いやぁ、こりゃまた別嬪さんだなぁ」ジーッ


  メサルティム「?」キョトン

  メサ子の胸『装備:☆』



―――スパァン!!


  メイレン「リュートぉ?そういうのはね、セクハラっていうのよ?田舎者のアンタでもわかるでしょ」

  リュート「は、はび、ずびばぜん…」ヒリヒリ
    訳(は、はい、すみません…)


メサルティム、彼女は男性から見れば実に魅力的な膨らみをお持ちの女性型妖魔だ…ただ、その…

なんというか…所謂、"ゾズマ・ファッション"なのが少々目に毒である


  メイレン「メサルティム!基本的に人目の多い場所ではこれを羽織ってと言ったでしょ!はいっ!」つ『白いローブ』

  メサルティム「あ、すいません…ついうっかりと」スッ、ゴソゴソ


 人魚だから下半身にスカートだのズボンなんて物は当然ながら無理なので、それは百歩譲って良いとして
せめて上半身は隠さねば…!いや、胸にお星さまつけるのは妖魔の正装なのかもしれないが…
だが、そう考えると白衣を着た闇医者も白衣の下はお星さまかもしれない、…なんかヤダなそれ

 リュートは目の前の白衣を着た男も胸部にお星さまを二つ付けてるかもしれないと想像して、ちょっと顔色を悪くした


  ヌサカーン「うん?どうかしたかね?顔色が優れない様だが…数刻の合間とは言え、自宅の診療所付近に帰ったのだ」

  ヌサカーン「無償でキミの具合をみてあげるがどうする?」ズイッ

  リュート「い、いや~俺は何処も悪くないんで、あと顔近いです、はい」

  ヌサカーン「キミはあのブルー君の友人であろう?彼には借りがある、また会えたら遠慮せず言うといい」

  リュート「ありゃ?あんた、ブルーの知り合いなのか?」

  ヌサカーン「ああ、以前[保護のルーン]を取りに行くのに少し同行した仲なのだよ」

  リュート「ふぅん…」







  ヌサカーン「……時に、ブルー君のその後はどうかね?」






  リュート「?」


  ヌサカーン「いや、なに、気難しい性格をしてるであろう?」

  リュート「あぁ、アイツ、すぐに仲間と喧嘩したりするんで困るぜ!」ハッハッハ!

  ヌサカーン「ほう、そうか"仲間と喧嘩"か……それは素晴らしい、良い傾向だ」

  ヌサカーン「人間はどんな小さな繋がりであれ、それが時として大きな強みになり、強い心を育む」



  ヌサカーン「最初、手の付けられない狼とも思えたが、孤立せず、共に過ごせる相手が居るならそれは良いことだ」





      ヌサカーン「近い将来、彼は絶望の淵に落とされるような真実を知るかもしれない」


      リュート「! おい、アンタ…それはどういう」



     ヌサカーン「そうなった時、彼の心に芽吹く病魔を殺せるのは心から支えてくれる友という特効薬だろう」

     ヌサカーン「医者としての忠告だよ…」スゥ!


   リュート「あっ、ちょっと待て…って消えちまった…」

   クーン「ヌサカーン先生って偶によく分からないこと言うんだよね、なんだか難しいの!」

   メイレン「…事情を知らない私には何の話かさっぱりだけど、要約するとその知人を支えてくれって事かしら?」




   フェイオン「メイレーン!」タッタッタ…!



 影に消えた、妖魔医師の謎めいた発言に頭を抱える一同の下に、ネオンの光を綺麗に反射させる美しい頭皮を持つ
武闘家フェイオンが駆けて来る、チャイナドレスの女は「遅い!」と腕を組み頬を膨らませ、クーンは陽気に手を振った



  リュート(…んあ?あの弁髪の人[タンザー]で見たような気が?)ハテ


   フェイオン「君が言ってた人物が指輪を売りたいと交渉を持ちかけたぞ!早速[バカラ]に…っと、取込み中か?」

   メイレン「ああ、気にしないで、ちょっと知り合いと再会したから世間話してただけよ」


 メイレンの知人ということで、頭皮が眩しい弁髪の男性とボサボサ髪のニートは握手を交わし簡単な自己紹介を済ませた
クーン等はこの街で指輪の所有者と取引できるかもしれないという話で一度戻って来たらしい
 本来なら[シュライク]にある古代の王の墓へ行く予定だったが、その間に指輪が誰かの手に買い取られては不味いと
優先度を変え、先に[バカラ]へ行く事に決めたらしい


  リュート「他には手にしなきゃならない指輪って何々あるんだい」

  メイレン「そうね、それ以外だと[ムスペルニヴル]の妖魔が所有しているもの、あとは刑期100万年の男の指輪ね」





  メイレン「前者はいつでも船で行けるとして問題は、後者よ、[ディスペア]の牢獄に居る男にどうやって会うか」


  メイレン「どうにかして[ディスぺア]に潜入したいのだけど…どうしたものだか…」ハァ



  リュート「…。」


  リュート「なぁ、それひょっとすっと何とかなっかもしんねぇよ?」


  フェイオン「なに!?それは本当か!」

  メイレン「どきなさいハゲ!!――リュート、それはどういうこと、詳細を!」ズイッ



フェイオンを押し退け、リュートに詰め寄るメイレンを制しながら彼は口を開く、フェイオンがシクシク泣いてる…


 リュート「あぁ、それなんだが、イタ飯屋に行ってみてくれないか?丁度[ディスペア]に行きたがってる奴が居てさ」

 リュート「今から頼み込めば準備とかなんとか間に合うかもしれないんだ」


丁度、蒼い法衣の魔術師がお金にがめつい金髪娘に潜入の手助けを依頼しているから、なんとかなるだろうと彼は思った

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―――
――


【双子が旅立って 5日目 午後 15時35分 [ワカツ]の天守閣】



  ルージュ「…っ」



 【兎】【剣】【怪】





 ルージュは悪戦苦闘していた。


あの後、白薔薇は2度目の挑戦で成功させ、天から舞い降りて来た一枚の札を手にした
 術士は拍手喝采を送り、緑髪の少女は喜びを伝えるべく白薔薇姫に抱き付き、それを眺めていた剣豪もよくやった、と
労いの言葉で祝福して背後のメカ達はサウンドプログラムで派手なファンファーレを鳴らす

二番手としてアセルスが[剣のカード]を得る試練に挑み、計4回目で見事に揃えた




 ここまでは順風だった、問題はルージュで最初は魔術師だからこそこの手の試練には一番向いているだろうと仲間達は
誰しもが考えたが、以外にも紅き術士は何度挑んでも、影を揃えることができなかったのだ


アセルスも白薔薇も固唾を飲んで見守る中、ゲンは目を細めてルージュを見ていた



   ルージュ「ま、まだだ…もう一度…っ」スゥゥ…


   ルージュ「あっ!?」



 【怪】【怪】【怪】



 影は三つ揃った、妖<あやかし>達が牙を剥く様…物の怪を3体揃えてしまった…っっ!



 3つの影『――――!』ドジュウウウゥゥ



 ゲン「全員、武器を手に取れ!」チャキッ





      影 が モンスター の 形 に 変貌 していく !



 ヘルハウンド「グルルルル…」

 モンキーライダーA「ウキキッ!ウキャッ!」
 モンキーライダーB「ウキキッ!ウキャッ!」



 焔色の吐息を漏らす口部は獄炎の園に続いているのか、大型犬の魔物は唸る度に高熱を吐き出し
生意気にも一輪車に乗った白猿は2匹で仲良く一行を嘲っていた、武器を構えだした一行よりも先に
片方の猿はペダルを漕ぎ、[暴走]するッ!



  モンキーライダーA「キャキャキャキャ―――ッッ!」ギュゥゥン!!




   一輪車『  』ギュラララララララララララララ―――ッッッ!


  白薔薇「あ、アセルス様!伏せてくださ あ"ぁっ!?」ドギャンッ



 獣系の魔物[モンキーライダー]はその愉快な見た目に反して相当なパワータイプであり、彼奴の駆る一輪車を
舐めて掛かってはならない、細い脚の何処にそんな筋力があって、何で一輪車が出来ているのか
過去に冒険者の成人男性がこの白猿が操る車輪で轢かれ、腹の贓物が見事にミンチ肉にされたなどという事案があった
 トリニティ政府はこの一件から、このモンスターを【危険度ランク4】相当の危険生物として認定した



 ルージュ「白薔薇さん!?っ――こ、こいつぅ!!」チャキッ BANNG!



 三畳の畳で座していたルージュは立ち上がり、持っていた拳銃の引鉄を引くが―――


  ヒュンッ!


  モンキーライダーB「ウキャキャキャキャキャキャ!」ゲラゲラ…!


  ルージュ「だ、駄目だ…!早すぎて当たらな――」



  ドゴォッ、グシャッ




  ルージュ「……。」

  ルージュ「ぇ」


 ゴロッ…ボトッ…ドクドク…


 ルージュの左手首『 』ドクドク…


  ルージュ「――――ッ、う か” あ””"あぁ"ぁ"――」




 左手は火が点いた様に熱くなった、宙に浮かぶような夢心地を一瞬感じで、身体が自然と後方へと倒れていく
ごつん!と後頭部を畳へ打ち付けて、何が起きたのか辺りを見渡した…

"何か"が倒れた自分に続く様にワンテンポ遅れて床に落っこちてきた、それは見覚えのある左手首で誰のだったか

脳がそれを理解した瞬間に、熱の灯った左手首の付け根が熱さから激痛へと変わった、それがルージュが気を失う前の光景








            ゲン「  [ 二 刀 烈 風 剣 ] !! 」ヒュッ!シュバン!シュバン!シュバンッ!






―――
――











   ルージュ「…うっ、ここは、…何処だ!?」




   「けけけっ!だから言ったろう!そんな豆鉄砲じゃ鳩だって堕とせやしないぜ!クケーッ!」


  ルージュ「…お前は!」




   ハーピー「そうともよ![心術]の試練じゃよくも術で殺してくれたな!けけ…でも許してやるよ!」

   ハーピー「お前は今から俺と同じトコに行くからサ!仲よくしようや!兄弟!ケケケッ!」


  ルージュ「兄弟!?ふざけるな誰がお前みたいな奴と…待て、なんだって、僕がお前と同じトコに…」





ガシッ


  気が付けば、ルージュは[ハーピー]の鉤爪に掴まれていた―――





   ―――いや、鉤爪じゃなかった、それは人の手だった、さっきまで拳銃を握っていたルージュの手と同じ人の…







     ハーピ?「聞こえなかったのか?お前はこれから俺と同じトコに行くんだよ」グニャァ…



   目の前の半人半鳥の化け物の顔が粘土のようにぐにゃぐにゃと代わる




     ハー?ー「お前はこれから血塗られた運命に従って悪行を重ねる、そんな奴が一丁前に銃を持ち友達を守る?」






     ?ルー「笑わせるな」




     ブ??「友を守るというのも建前だ、"資質"を得て俺を殺す為、いいや、違うな」

     ??ー「おまえは結局の所、反逆罪で殺されたくないから、その為に何かにつけて理由を述べ」

     ブル?「そして、資質を得て、自分が助かりたいから武器を手にしているだけだ…力を手にして俺を殺す為に」




    ルージュ「…ぁ、ぁあ…ま、まさか…君は」ガタガタ



   [ハーピー]の顔が誰かの顔に変わっていく…それは、朝起きて顔を洗う為に鏡を見ればいつでも会える顔…














          ブルー「なぁ?そうだろう"兄弟"」


          ルージュ「ち、違うッ!」














  ブルー「いいや、違わないさ、なら何故お前は仲間に旅の目的を打ち明けない?」

  ブルー「エミリアと[マンハッタン]で話をしていた時だってそうだ、あの4人での昼食時の時にでも言えれた筈だ」


  ブルー「『僕は国命令で実の兄弟を殺す為、修行の旅に出たんです』と、な」


  ブルー「言わないのは、お前が仲間を心の底から信じていないから…―――利用するのが目的だからだろう?」


  ルージュ「ッ!―――そんな訳が」






  ブルー「 な ら ッ ! 何 故 言 わ な い ! 答 え ろ ル ー ジ ュ !!」



    ルージュ「っ」ビクッ!





  ブルー「…。」

  ブルー「だんまりか?自分に都合が悪い事だとお前は誰にも何も口を出さないな、仲間にも真実を打ち明けない」




  ブルー「そんな迷いを抱えている様な、情けない男が…試練を1つだって乗り越えられる訳もないだろうに…」

  ルージュ「……ブルー…?」



  ブルー「貴様の仲間とやらは、お前の真相を知れば掌を返して突き放すような軽薄な人間か?」

  ブルー「ならこれまでの旅はとんだ"うわべっ面だけの友情ごっこ"だったな、貴様には似合いだ」


  ルージュ「…!」


  ブルー「まぁ、俺もお前も同じ所、……地獄に落ちるのだ、今更どうでもいい話だな」スゥゥゥ…



      ルージュ「き、キミ…身体が透けて…」



      ブルー「先に地獄で待ってるぞ」シュゥゥゥ…






    ルージュ「ま、待て!ブルー!ブルー…っっ!!     兄さん!」










  ゴォォォ!


     ルージュ「えっ、あ、うわああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!」





    ゴオオオオオオオオオォォォォォ!ボォォォ! メラメラメラ… バチバチ!



―――
――


【双子が旅立って 5日目 16時27分 [ワカツ]の天守閣】



  ルージュ「――ぃ、いやだ、いやだ…」う~ん


 ゲン「おい!しっかりしろ!兄ちゃん!起きろって!」ペチペチ


  ルージュ「…。」

  ルージュ「ハッ!?こ、ここは…さっきのは?」


 ゲン「兄ちゃん、白薔薇の姉ちゃんに感謝しろよな?妖魔だから比較的軽傷だったって、んで[克己]で完全回復して」

 ゲン「そっから気ぃ失っちまった兄ちゃんに付きっきりで看病してたんだぜ?[陽術]の使い手で助かったな」



 ゲン「なんの夢見てたんだか知らねぇがよ、…俺から一言言わせてもらうぜ」


ゲンの目が細くなる、さっきまでのルージュの試練を終止見ていた時の眼だ


 ゲン「[剣のカード]は心の試練だ、[心術]の修行と似てはいるが、微妙に異なる試練でな」

 ゲン「迷いがある奴は影を三つ揃えることはできねぇ……兄ちゃんを途中から見てて思ったのさ」


 ルージュ「迷い…」


 ゲン「ああ、…[心術]の修行ってのは聞くところによれば自分の心の奥底にある不安や怖れがバケモンの形で出る」

 ゲン「で、そいつに勝ちゃあ合格ってもんだがな、俺が思うにそれは"切欠"なんだわ」


紅き術士は「それはどういう意味ですか」と尋ねようとした、ゲンは腕を組み静かにルージュへと語る


 ゲン「そうだな、…俺は精神科のお医者様じゃあねぇからあんましどうのこうのと言えやしねぇけど」

 ゲン「人間の心には自分にしか分からない側面と、他人にしか分からない側面、自分にも他人にすら分からない面」

 ゲン「そういうのがあるって聞いた事ねぇか?」


 ルージュ「それは、あります…確か人間心理学におけるジョハリの窓でしたか…」


 ゲン「いやぁ、俺は専門家じゃねえからそんなもんの名称なんざどうでもいいんだ」

 ゲン「重要なのは、そこだ、【自分で気が付いていない不安や見つめなきゃならない問題】を気づかせる」


 ゲン「それが[心術]の修行における真の目的で、夢の中で魔物倒して資質を貰うのはあくまでオマケじゃないかって」

 ゲン「俺はそう思う、実際はどうだか知らねぇけどよ」




 ルージュ「……」




 -『へひゃひゃ!へたくそぉ!そんな豆鉄砲の腕じゃあ鳩だって堕とせねぇーぜ、ケヒッ』-

 -『けけけっ!だから言ったろう!そんな豆鉄砲じゃ鳩だって堕とせやしないぜ!クケーッ!』-


  -『おまえは結局の所、反逆罪で殺されたくないから、その為に何かにつけて理由を述べ』-

  -『そして、資質を得て、自分が助かりたいから武器を手にしているだけだ…力を手にして俺を殺す為に』-



  -『いいや、違わないさ、なら何故お前は仲間に旅の目的を打ち明けない?』-



  -『 な ら ッ ! 何 故 言 わ な い ! 答 え ろ ル ー ジ ュ !!』-


 -『だんまりか?自分に都合が悪い事だとお前は誰にも何も口を出さないな、仲間にも真実を打ち明けない』-






…[心術]の試練で、心の中に出て来た化け物と1対1で戦った


仲間は誰も居ない、その土俵でルージュと、"目の前の人物"と1対1で、決闘をしたんだ

そいつは、夢に出て来て、自分の行動を指摘した…なぜ旅を共にする友人に真実を打ち明けないのだ、と
 心の底にそんな重荷がある奴が試練を達成できるものか!と…見た事も会った事も無い兄に叱られた




 自分自身が気づいてない深層心理の奥底、本当は勇気をだして見つめなきゃいけない問題に気付かせる…



それが[心術]の資質を得た物が最初に開く学び舎の門であり、探求し続けなければならない課題



 ゲンに言われルージュはそうなのかもしれない、と思った、本当の意味で[心術]の"裏試験"を合格してないのかもな、と


  ルージュ「…ゲンさん、ご迷惑をおかけしました、自分の中で少しだけ答えが見えた気がします」



術士は、決意を宿した…帰ったら、アセルスお嬢にも白薔薇姫にも後に再開するレッド少年もだ


自分の…"親友"に、僕の旅の目的―――兄殺し――を告白しよう、と


心術の資質を会得出来たこととも絡めてくるとは



 ルージュ「もう一度だけ、…カードの試練を受けさせてください」ジッ



 ゲン「……ふむ」


 ゲン「…兄ちゃんの眼にゃ未だ迷いや戸惑いの色が見えるな」

 ゲン「だがその奥に強い意志の色も見える、腹括った野郎にしかできない目だわな」


[京]の旅館でも見た、瞳の奥にある力強い"何か"…、まだ20そこらしか歳を喰っちゃいない男がそんな重い目をできるのは
相当の理由がある、剣豪はだからこそこの魔術師を見守ってやろうと思った、一体腹にどんなモンを抱えてんのか、と



 ゲン「俺は護衛だ、兄ちゃんが折れるまでは何度でも傍に居てバケモン共を斬り捨ててやるさ、好きなだけやんな」

 ルージュ「…感謝します」ペコッ


 ゲン「おっと、礼はいらねぇぜ、それよか」

 ルージュ「はい、他に言うべき人が居る、ですよね」


 ゲン「わぁってんじゃねぇかよ、ほら、女は待たせちゃいけねぇんだ、とっとと行けって」


白薔薇姫とアセルスお嬢に心配かけてすまないと謝りに行こう、その思いを胸に彼は下の階層へと駆けて行った



  ゲン「やれやれ…、まだ危うさはあるが、あの分だとアイツは試練に合格するだろうな」ゴソゴソ


 剣豪はその場に胡坐をかき、一升瓶を取り出す…彼は考える、ああいう目をした奴はこの惑星<リージョン>が
世界最強の剣術家たちの憧れであった頃によく見た
 目の奥に宿る、命と命の奪い合い、生と死、自分の命を護る為に目の前にいる敵を斬り殺そうとする戦士の眼だ
合戦場で足軽から武将まで、全員が光らせる命を諦めまいとする眼差しとほぼ同じだ


  ゲン「―――」グビグビ、プハァ


  ゲン「かぁーっ!うめぇ!!」ダンッ



  ゲン「…」

  ゲン(心の迷い、かぁ…)


 酒瓶を床に、置きゲンは一人ボロボロの天守閣の天井を見上げた、優しい酔いが逃げ出したくなるような惨状を暈した
ぐにゃぐにゃと鍋の中で加熱し過ぎて煮崩れを起こした煮物の様に浮かんでくる情景も形を変える


そんな中、彼の頭に一つだけ鮮明な形をした一室が浮かんで来た、この城の地下にある…


  …強き者に最強の剣を授ける神をまつる部屋が―――







ゲンは首を大きく振った、何を考えているんだ自分は、と何処か彼らしくない自嘲めいた顔で浮かんだ景色を振り払った




  ゲン「今の俺じゃ[剣神の間]に行った所でなにも……ハンッ、俺の方があの兄ちゃんより迷いありまくりじゃねぇか」




そう独り言ちり、酒瓶に彼は再び口をつけた

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―――
――


【双子が旅立って 5日目 午後 17時08分 [クーロン]】


 犯罪都市の裏通りに存在する小さな病院、消毒液のアルコール臭さと棚に並べられた怪しげな薬瓶から漂う異様な匂いと
塵埃が交じり合ったこの物件に家主が帰って来た、折角立ち寄ったのだからと自宅で寛ぎながら診断書<カルテ>でも
書き上げてしまおうかと考えたからだ

 1時間そこらしたら、すぐに切り上げて現在所属しているパーティーの元へ戻ろうと玄関口を開くことなく妖魔医師の影が
エントランスの中央に現れ、自分の影から、薄暗い水底からダイバーが浮上するようにヌサカーンは現れた



     ヌサカーン「ふぅ…、おや?…」スンスン



帰宅した医者は、戻って来るや否や鼻をひくつかせた、留守の間に変わった客人が来ていたようだ…
 砂漠に咲き乱れる一輪の白薔薇の様な香り、それに茨の園にある蕾に近い香り


"香り"とは言ったがそれはあくまで比喩表現だ


妖魔は、同族の気配を特有の感覚で察知することができる

 留守の合間に来ていた妖魔の置き土産である妖気は、強い芯を持っているがまだ咲ききれない蕾の様な物と
ハッキリとした品位を持った気高い存在だと窺い知れた、裏通りで観光客目当てに追剥紛いなことをして生計を立てる
溝鼠以下の下級妖魔のソレとはまた違う



   ヌサカーン「ゾズマ…ではないな、かといって私に治療を求めて来た浮浪者の妖魔でもないか」



奇病フェチとしてその界隈で名が通る変人のヌサカーンは、患者から代金を取らない

 いや、病院の設備維持費の為にも最低限は必要とするが

 普通の病院なら人間が生涯を終身まで延々と労働時間に当て、それで築いた莫大な資金を全額はたいてようやくという
法外な金額の医療費も、ヌサカーンなら『自分の知的好奇心を満たしてくれた』『趣味でやってるから金銭はいらんよ』と
世間一般的な欲望とは他の妖魔以上にあまりにも無縁な人格なのだ

 そんな彼の下に、金は無いが同族の誼、あるいは気まぐれで自分を治療してくれないかと
淡い期待で群がってくる妖魔は少なくない、本当に彼の気分で治して貰えた者以外は門前払いだったが…


神出鬼没の友人であるゾズマではないなら、留守中に忍び込んだ下級妖魔か?

いいや、違う…少し前に此処を訪れた白薔薇姫とアセルスお嬢だ


   ヌサカーン「…まぁいい、誰かは知らんが今は他の患者に付きっきりだからな」テクテク


 彼はクーン等との旅で、時間を見繕っては見つけて来た古い書物の束から一冊
古き時代のリージョン界に関する記述に書かれた本を手に取った




  ヌサカーン「その昔、数多く存在したリージョンが滅んだ、…星さえも破壊する人類の機械兵器」ペラペラ…


  ヌサカーン「これは、確かなんという名だったかな…? あーるびー、スリー…だったかな?」ペラッ


  ヌサカーン「破壊されたリージョンの中に古代の技術がある、星と共に破壊され永久に失われた技術」ペラッ、ペラッ

  ヌサカーン「…ふむ? 最後の皇帝… 麗しの、帝国、 七人の英雄、同化の力と継承の力……ダメだな」ペラッ、パタン




  ヌサカーン「失われた古代時代の情報だ、この本も殆ど掠れて読めんな」

  ヌサカーン「ブルー君の身体も弟の方も恐らくは、これの応用技術が使われている筈…」

  ヌサカーン「恐らく、双子が対面し、片方が片割れの命を奪った時、同化と継承の力が働き――」ブツブツ



  ヌサカーン「何れにしても資料が足りん、となれば…[マジックキングダム]…[フルド]の奴か」ハァ…

  ヌサカーン「気が進まんな、あるいは裏であの魔法大国と黒い繋がりのある[シュライク]の[生命科学研究所]か」


闇医師は、そう言って再び影に沈み彼は仲間の元へと帰って行った…


―――
――



   ライザ「…。」テクテク…



 日が暮れて、一般家庭から繁華街の飲食店までどこもかしこも食指を刺激する匂いを漂わせる時間帯
当然ながら裏組織"グラディウス"のアジトたるイタリアンレストランも『open』の札を玄関口に掛けて、従業員一同が
店内でせかせかと働いている頃合いであった

そんな中、彼女は一人で雑踏が昼間以上に騒がしくなり始めた中心街を歩いていた、知り合いのニートの頼みだからだ


 一見すればただの買い物帰りにしか見えないパンの入った紙袋を抱えて歩くライザはターゲットの集団へ近づく

 緑色のケモミミ少年と、チャイナ衣装の男女
白いローブを羽織った人魚、…よくウチへ来てルーファスの料理を食べにくる怪しい医者、知り合いから聞かされた通りだ



   ライザ「よろしければどうぞ」スッ

   メイレン「あら、どうも」スッ



イタリアンレストランの割引券『 』



 一枚のクーポン券だ、ただし…"ワケありのお客"にしか手渡されない特別なソレ
普通の席に座り飯を食いに来ただけの一般客と特等席での会食を希望する者を区別する為のパスチケットの様なものだ


他に客の居ない静かな個室で従業員とビジネスの話をしながらの食事だ、カタギの奴らに聞かれたらダメな内容の奴の



  メイレン(彼から事前に聞いた話じゃ[ディスペア]には定期的にパイプや電装関係の修理工が入る)

  メイレン(このお店に行けば、潜入に手を貸してくれるプロが居るってわけね)


  クーン「ねぇ、メイレン…」


  メイレン「うん?」

  クーン「ボク、修理なんてできないよぉ」シュン

  メイレン「…あまり、大きい声で言わないで頂戴、大丈夫よ振りだけでいいのよ」ナデナデ


 獣耳がペタンと垂れ気味で落ち込んだ幼子の頭を撫でながら小声でメイレンは囁いた、フェイオンだってできないし
妖魔のヌサカーン先生…はわからないけど、メサルティムだってできないわ、と元気づけるように



  メイレン「上手くいけたら、刑期100万年の男に会いに行きましょう、ね?」

  メイレン「英気を養うために今晩はこのお店で美味しい物たくさん食べることにするし」クスッ


一枚のクーポン、特別客専用の、50%OFFチケットをひらひらとさせながら笑いかける
 食欲旺盛な緑の獣っ子は顔にパッと花を咲かせて喜び、小動物とも歳相応な幼子ともどちらとも受け取れる行動で
感情を体現した、メイレンの周りを雪が降った後に庭駆けまわる子犬の如くぐるぐる駆け回った


  ヌサカーン「あの店か、サングラスの店長が作るグラタンは絶品だからな、テイクアウトも頼もう」

  メサルティム「…で、では…私はシーフードサラダを…」



  メイレン「ええ!なんだってじゃんじゃん注文しちゃっていいわよ!全額フェイオン持ちだから」ニコッ

  フェイオン「えっ」



  メイレン「そうね、私も…あっ、このスープオムライスとか美味しそうじゃない?」

  メイレン「あの紙袋の人、メニュー表まで渡してくれたのよね~」


  フェイオン「め、メイレン…あの、そのクーポン、一品しか割引されないんだが…それに俺の財布」


  メイレン「冗談よ、全く本気にしないでよね…ほら?『[ヨークランド]で手に入った資金』がそのままじゃない」

  フェイオン「そ、そうか!冗談か!ははは…キミも人が悪い…はは」



  メサルティム「あのー…私は[オウミ]で皆さんの旅に加わったので、詳しく経緯を知らないのですが…」



 なにがあったんです?とか、失礼ですが皆さんそんなにお金に裕福そうには見えませんでした、とオドオドしながら
人魚が説明を求める



  フェイオン「あぁ…あれは、なんというか、悲しい事件だったというか…その」ゴニョゴニョ

   メイレン「必要な犠牲だったのよ、[マンハッタン]で売りに出されてた指輪が超高額だったのが悪いわ」



 明後日の方角を見始めるメイレンと気まずそうに口籠るフェイオンにメサルティムの不安げな顔色が更に増した
いつでも笑顔のクーンと金銭感覚が可笑しい妖魔医師の方に顔を向けると二人は訳を語ってくれた



  クーン「えっとね、"豪富さんに貰った"んだよ!」ニコニコ

  ヌサカーン「私は別に治療費などいらなかったのだがなぁ……」フム





      ~ 回想 [ヨークランド]  ~




   病魔モール「ぎえええええええぃぃぃ!!…おのれぇ!この人間の命は私の物!邪魔をスルナ!!」



  [生命の指輪]をつけた幼女「ハァハァ…たす、けて…おねえちゃん…」ツーッ、ポロポロ



  ヌサカーン「来たぞ!先に説明した手順通りだ、奴は今、患者に憑りついている…これで逃げられん状態だ」

  ヌサカーン「だが、同時に患者から生命力を吸い尽くし憑り殺そうとする、このままでは患者の生命力が持たん」


  病魔モール「ぎひひっ、そうさ!小娘の命を吸い上げて殺してやるさ!未発育の少女の肉体ほど甘美な生命力は――」



  メイレン「気持ち悪っ!女の敵だわ…先生こいつはさっさと退治しましょう!!」


  ヌサカーン「よろしいならば早期決着だ、   こ れ よ り 手 術<オペ> を 開 始 す る ッッ!」


    病魔モール「エ、あの、チョット―――」


<[シルフィード][超風][短勁][妖魔の剣]

<あぎゃーーーーーっ!



  病魔モール「ゲボ!」ドジャア


 メイレン「くっ、まだ息があるわね!!こうなったら連携技を決めるわよ!各自!連携しやすい技と術を!」(銃構え)



 ズドンッ! バッ、ドゲシャァ! ヒュンヒュンッ!バチチチ…ゴォォ!



  フェイオン「…既に虫の息だった気もしたが、やったな!」

  クーン「うんっ!これであの子も助かるよね!」





  [生命の指輪]をつけた幼女「う、う~ん…」




  豪富さん「せ、先生!ウチの娘の容態は!?」ガチャッ、バッ!


  ヌサカーン「安心したまえ、見ての通りだ」


  [生命の指輪]をつけた幼女「おとうさん!」

  豪富さん「お、おぉ…、良かった、良かった…」ポロポロ


  豪富さん「先生!皆さん!本当にありがとうございます!なんとお礼を申し上げて良い事か」


  ヌサカーン「いや、中々興味深い病原体を観察できたし寧ろ私がお礼を「あー!はいはい先生は少し黙ってくださる」


  豪富さん「皆さんにはできる限りのお礼を…」





  [生命の指輪]をつけた幼女「あ、おとうさん、少しだけ待って……よいしょっと」ベットから起きて歩き出す


  アニーの実妹の幼女「ハイ!これ」つ【生命の指輪】


  クーン「くれるの!?」

  豪富さん「お、お前!?それを渡してはお前の身体が…」

  アニーの実妹の幼女「ううん、もう大丈夫よ!それにね、夢の中で指輪が兄弟に会いたいって言ったの」



  アニーの実妹の幼女「クーン君が持ってるんだよね?だからあげるっ!」

  クーン「わーい!ありがとう!」ダキッ


  アニーの実妹の幼女「あっ、…うん、頑張ってね///」



―――
――



  ヌサカーン「とまぁ、このように童女趣味という変わった病原体を観察できて私としては中々愉快な時間だった」

  クーン「あの子元気かなぁ、旅に出る前に教えてくれたけど豪富さんの養子になる前は[クーロン]に居たんだって」


  メサルティム「は、はぁ…そうですか…」


 メサルティムは話が大分脇道に逸れそうなのを察して、軌道を修正しようと考えた
緑の獣っ子は見ての通り、他者への説明が上手とは言えない…幼子特有の本題から脱線して別の話にすり替わるアレだ

 医者の方は、医者の方で完全に趣味の世界に生きてる妖魔だからこのままだと自分が治療してきた珍しい奇病や
某珍百景を紹介するテレビ番組の如く世界どっきり患者特集なんていうトークショーに発展しかねない




   メサルティム「そのー、結局の所どうやって大金を得たんでしょうか…」

   クーン「んっとね、豪富さんから沢山もらったの!」



      ~ 回想 [ヨークランド]  ~



  豪富さん「娘はああいってますが、これは私からです、どうか受け取ってください」つ『500クレジット』


  フェイオン「なんと!?このような大金を…」
  ヌサカーン「私は別に金など要らないのだが…」


  メイレン「二人共シャラップ、コホン…豪富さん、ありがとうございます…ですが、その…」






  メイレン「たいへん厚かましいとは思いですがもう少し頂いてもよろしいでしょうか?」ニコッ



  豪富さん「え、あ、あぁ…申し訳ない、娘の不治の病を治して頂いたのに」

  豪富さん「命の値段がたかが500とは確かに少なすぎましたね…今持って参りますので少々お待ちを」



  フェイオン「お、おい、メイレン…」

  メイレン「フェイオン!忘れたの!?[マンハッタン]で売られている指輪の金額を!」


  メイレン「3000クレジットよ!?わかる! 3・0・0・0、クレジット!!公務員レベルの月給いくらだと!?」ガシッ

  フェイオン「ぐえっ…わ、わかった首が閉まるから…ぎ、ギブギブ!」


  メイレン「[IRPO]の隊員みたいな高給の社員がねぇ!一世を風靡する女性モデルに婚約指輪代わりで贈る様な
         [パールハート]でさえ1500クレジットもするのよ!?3000なんてその2倍よ!わかっての!?ええっ!」


  フェイオン「ゎ、わかったから、やめ…あ、意識が遠く…」ガクガク


   ヌサカーン「まぁまぁ、その辺にしたまえ、酸欠になりかけているからな」

バッ

  フェイオン「げっほぇぇ…!!」ゴロゴロ


  豪富さん「お待たせいたしました!もう500クレジットです!…?どうかなさいましたか?」

  フェイオン「い、いえ…お気になさら「豪富さん!」


  豪富さん「は、はい!」

  メイレン「豪富さん…彼、私の恋人のフェイオンは先程の治療で病魔から受けた傷が痛むそうなんです」

  豪富さん「な、なんと…」


  メイレン「娘さんの命を奪われまいと、必死に戦い一歩間違えば此方が死ぬかもしれない激闘でしたわ…」グスッ
  ヌサカーン「いや別にそうでも無かっ「先生、シャラップ」

  メイレン「コホン、豪富さん…非常に申し訳ありませんが、もう500クレジット工面できませんか」



  豪富さん「そ、そうでしたか…確かに皆さんのお命も危険にさらしてしまったのですね…しょ、少々お待ちを!」


ドタバタドタバタ…


  豪富さん「こ、こちらになります、これで合わせて1500クレジットです!」




  メイレン「豪富さん」ニコッ

  豪富さん「ぇ、ぇ、…あ、あの…」ゾクッ


  メイレン「お金はまた稼げば手に出来ます、でも命に替えはききませんよね?」


  豪富さん「…う、ウチの金庫にあったのはそれで全部で」


  メイレン「 」ニコニコ


  豪富さん「 」

  豪富さん「…ぎ、銀行の預金口座からお金をおろしてきます」


  メイレン「豪富さん!」


  豪富さん「!」クルッ


  メイレン「私達は一旦この家を出ます、…"次、私達がこの家に入ってきて話し掛けた時は"…わかりますね?」ニッコリ



  豪富さん「……は、はぃ…」



―――
――



     ヌサカーン「こうして我々は1時間おきに彼の家に出入りを繰り返し、3000クレジットを入手した」


     メサルティム「…うわぁ」


     ヌサカーン「……。」

     ヌサカーン「…最後はな、『もう勘弁してください』と涙と鼻水を垂らして顔色が真っ青でな」


     ヌサカーン「2階に居た患者の少女も吹き抜け手摺の所から眺めていてな」

     ヌサカーン「身体は健康体になった筈で何処も痛みは無いだろうにな、…泣いていた」


     ヌサカーン「不思議なモノだ、私自身は病に侵された事はないが、心臓部が締め付けられる様に痛くなったよ」


     メサルティム「そ、そうですか…それは、その…なんともうしますか…」


     クーン「んとね、次の日、ボク別のリージョンに旅に出ちゃうからあの子にお別れ言おうとしたんだ」

     クーン「でも、お引越ししちゃったんだって、近所の人が言ってたんだ『豪富さん夜逃げしちゃったよ』って」


     メサルティム「 」


     クーン「せんせー!"よにげ"ってお引越しのことなんだよね?」

     ヌサカーン「…うむ、それで合ってる、キミは賢いな、うむ」ナデナデ

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                  今 回 は 此 処 ま で !



   豪富さん夜逃げしちゃったよ…、について、少々解説



 25歳の無職ことリュートの生まれ故郷である[ヨークランド]に住む豪富さんがクーン(プレイヤー)によって全財産を
 毟り取られ、養子であるアニーの妹を連れて泣く泣く夜逃げする様子である


 病魔モール撃破後に豪富さんに話しかけることで500クレジットを頂戴でき、更にもう一度話し掛けることで
 500クレジットの追加、更に話し掛けてでもう500せしめられるのであった


 記憶違いで無いなら、一度に3回までで、一度豪富さんの家を出てMAP切り替えをする、再び豪富さんの家に入り
 もう一度話し掛ける事で500クレジットを巻き上げる、そしてもう一度話すことで…以下ループ


 と、無限に金を奪えるように見えて、実は上限があり…この辺りイベント条件を忘れてしまい調べましたが

 この繰り返しで1500×2…計3000クレジットという大金を毟り取る事が可能だそうです
(記憶違いでしたか4回話し掛けるとマップ切り替え後にもう一度貰うが出来なくなったような気がしましたが…)


 未確認情報ですが、パーティーを強化しまくってヌサカーン先生を仲間にせず、病魔モールを初回で逃がさず倒すと
 更にもう500クレジット手に入れて 3500クレジット入手可能になるそうです





 ……大抵のサガフロプレイヤーはマンハッタンで売りに出される指輪の為に豪富さんを破産に追い詰めたことでしょう


 なお、小説版『ヒューズのクレイジー捜査日誌』においては、クーンに大金せしめられて夜逃げするのが正史らしく

 その豪富さんとアニーの妹は[シュライク]の[済王の古墳]近くで木の実を拾って食べたり
 ひもじいホームレス生活をしている…


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悲惨すぎる・・・

ヨークランドの富豪さん野子とは……嫌な事件だったね


 メサルティムは今更ながらこの人達の御供として着いて来て本当に良かったのか、と不安を抱き始めた
高貴な上級妖魔の気配を感じ、ひょっとしたら自分を以前救ってくれたアセルス様が来たのでは!?と期待を胸に
水面から顔を出したのが運の尽きであった
 見知らぬ御方とは言え上級妖魔、機嫌を損ねてはならぬと声をお掛けした結果が旅についてこいだったのだから仕方ない



  ヌサカーン「メサルティム、やはり顔色が優れないようだな」


  メサルティム「! い、いえ、そのようなことは…!!」アワワワ


  ヌサカーン「…何度も言うが、私は別に君を取って食おうとは思っていない落ち着き給え」ハァ…

  ヌサカーン「話しながら歩いていたからか、メイレン達と距離が空いてしまったな、少し早歩きで行くとしよう」

  クーン「はーい!」テクテク
  メサルティム「あぁ!お待ちください!!」フヨフヨ



―――
――

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―――
――

【双子が旅立って 5日目 20時07分 [マンハッタン]シップ発着場】



<4番ゲートより、間もなく[シュライク]行きの便が出ます、ご利用のお客様はお急ぎください



  ガヤガヤ…ザワザワ…




  ゲン「…なんてこった」パサッ



 剣豪は小銭を出して購読した新聞紙を無造作に可燃ごみの籠に放り捨てた
遡る事、数刻前…ルージュは、旅の同行者であるアセルス、白薔薇姫、そしてゲン達に自身の秘密を打ち明けた


その時の会話はこうだ


  ルージュ『―――という訳で、僕は…兄さん、ブルーを殺す為に国を出ることになったんだ、黙ってて、…ごめん』


  アセルス『…そんな』

   白薔薇『血を分けた兄弟で…』




  アセルス『…でも、話を聞く分には、嫌なんでしょ!?だったら…』

  ルージュ『うん、僕もどうにかして断ち切りたい、国に定められた宿命の闘いなんてまっぴらだ』


    ゲン『―――頭じゃ分かっちゃいるが今は、資質を集める、それしかねぇんだろ?』


  ルージュ『…はい、国が何処で監視してるのかは分かりませんが、資質集めの旅をしていないなら僕はきっと……』


    ゲン『そうか、……すまねぇが俺にはいい知恵を出せそうに無い』

  ルージュ『いえ、いいんです、寧ろここまでよくしてもらったんですから』



    ゲン『…うっし、なら俺から旅の途中で聞いた情報をやるぜ、カードの資質で[杯のカード]に関してだ』




  ゲン『俺は見ての通り、無類の酒好きって奴でよ、酒造の聖地とも呼ばれる[ヨークランド]に寄ったのさ』

  ゲン『そこで、[杯のカード]に関する話を小耳に挟んだんだ、酒蔵の奴らがカードに詳しいってな』



  ゲン『…だから、次は"英気を養うために数日経ってから"[ヨークランド]に迎え』


 ルージュ『えっ?』



  ゲン『旅をしなきゃ、反逆罪だっけか?なんかよくわかんねー理由でお前が処刑されるんだろ』

  ゲン『でもよ、厳しい試練なら当然、身体の調子を整えるのは重要だ…』


  ゲン『ここで[剣のカード]を得たら、数日休め、宿泊代は俺が出してやる…』


 ルージュ『…!ゲンさん』


 白薔薇『うふふ!そうですわね、試練に備えてベストコンディションにするのは重要ですわ』

 白薔薇『断じて、それはおサボりではありませんわね』クスクス


 アセルス『現状を打開する方法、考える時間はあるなら、たくさんあった方がいいものね』



  ゲン『俺にはこんな事しかしてやれねぇがよ…お前も気ぃ張ってばっかだと疲れるだろ?』

  ゲン『気にすんな、お前の国の奴らが来て兄ちゃんが怠けてるとか喚いたら俺が片っ端から叩きのめしてやらぁ』


 T-260『協力致します』

 ナカジマ零式『わーお、過激で面白そー、じゃないですかー!』

 特殊工作車『不安はありますが、きっと何とかなりますよ』




 ルージュ『…みんな…』





 嘘も方便、物は言い様、……何かしらの方法でルージュもブルーも、片割れが殺し合いを放棄しない様にと常に
見張る必要性がある、その手段はわからないが、数日程の休養を取る分には"向こう側"も文句は言わない筈だ

 必要な事だから仕方ないのだ、と

 実際問題ブルーでさえ、[ディスペア]潜入で数日足止めを喰らうわ、剣術の修行を始めるわと
試練に挑まず下準備の期間を設けている


 なら、この言い分だって多少は通ると信じたい


 それで何か上のお偉方から御叱りを受けるようなら『ブルーを殺す為に拳銃片手に射撃訓練してました』と
でも適当な口実を言えば良かろう



 そう考えれば多少は気も楽になるというものだ…


 そこから先は影を三つ揃える修行に戻ったルージュが嘘の様に精神を研ぎ澄ませて見事に交差する剣を三つ揃え
天に認められて[剣のカード]を取得した


 一行は[ワカツ]を出て、レッド少年と連絡が取れるように機械文明の発達した惑星で携帯電話を調達しようと
[マンハッタン]に向かった


―――と、ここまでが今現在、機械都市にゲン達が居る経緯である




  ゲン「まさか俺達が[シンロウ]だの[京]や[ワカツ]に行ってた間に…レオナルドさんが死んじまってたなんてな」



 ルージュ達との[ワカツ]でのやり取り、カード取得までの流れを振り返りながら剣豪は再び、自分が投げ捨てた新聞紙を
睨む様に眺めた、政治経済に関する見出しでヤルート執政官が失脚しモンドという男が執政官になった内容から最近起きた
爆破テロ事件でT-260とゲンに協力してくれたレオナルド博士が死亡したという文面までハッキリと見える



 レオナルド・バナロッティ・エデューソン…


 近所のバーガーショップで安いハンバーガー齧りながらT-260の独創的なデザインと構造に興味を持ち
特に深く理由を聞くことすらも無く、高い地位にある天才科学者の彼は無償でコアの解析やメモリ容量を増やしたり
助言をくれた話の分かる人物だった、…変人ではあったが



 トリニティ関連の人間は、少し前のゲンからすれば故郷を奪った目の仇だったが今は少しだけ見方が変わっていた


少なからず交流があったから、もう赤の他人じゃないから…顔見知りだから、とも言える

 レオナルド博士の様な御人好しのロボットオタクなど風変りな奴もトリニティには居る
政府の人間全員が悪人では無いと実際に腹を割って話したからというのもある




それだけに、知り合って数日の間に命を落とされたというのは……何とも言えない複雑な心境だ




  ルージュ「ゲンさん…」


   ゲン「あ?なんだい、兄ちゃんかよ驚かすなって、で?どうだった電話は買えたのか」

  ルージュ「それはバッチリです」


   ゲン「へへ、なら良かったじゃねぇか」

   ゲン「だがよ、今日含めて2泊で良いのかよ、もっとゆっくり時間作った方がいいんじゃねぇのか」


  ルージュ「二人共話し合ったんです、それなら2日後にレッドと合流して僕の事を打ち明けて」

  ルージュ「それからまた休んだ方がいいかなって」

   ゲン「あぁ、あのサボテン頭の坊主か…電話では言いたくないか?」

  ルージュ「ええ、こればかりは…面と向き合って僕の口から伝えたいんです」



 凛とした紅き術士の声に「そうか」とだけ剣豪は返した、受話器越しじゃない、本当に大事な事だからこそ
顔を合わせて生の声で伝えたい、その気持ちはゲンにもよくわかる





  ゲン「…『友達』は大事にしろよ、人ってのは何時会えなくなっちまうか分からねぇんだ」

  ルージュ「えっ…」




それは、果たして誰を指していたのか一瞬ルージュには分からなかった

[ワカツ]で死に別れた戦友だったのか、それとも数日だけ顔を合わせなかっただけで死んだレオナルドだったのか



何れにしても、これだけは共通だ―――"人は何時会えなくなるから分からない"…

―――
――



 機械都市の夜は穏やかだった、同じ夜でも日中と変わらぬ活気を見せた暗黒街とはまるで違う
全ての生命が寝息を立て、メカでさえもスリープ機能をONにして静寂に沈む

唯一の灯りは夜間でも出歩く者の為にと灯った街灯や無人パトカーのライトくらいだ



 シャワーを浴び、バスローブ一枚姿のルージュは白い布タオルで湯水滴る銀髪を拭きながらホテルのカーテンを少しだけ
隙間から覗いてみる様に夜景を眺めた、[クーロン]とはまた違って建築基準法に則った規則的な並びの高層ビルディング
 背の高い企業やマンションの輪郭に所々赤く光る航空障害灯のランプが見え
丁度その真上をヘリコプターが飛ぶのが見えた…



 自分の知らない世界だ


 僕はあと、何回この光景を見れるんだろう、どれだけ同じ景色を見ながら明日を迎えられるんだろうか





急に、心細くなった。




彼が居る部屋の隣室には、兄殺しの勅令を受けたことを正直に打ち明けた仲間の女性が二人寛いでいる頃だろう


仲間に自分の抱える闇を自白した、それでふと、重荷から解放されたような気分はあったが…それでもやっぱり
1人になると堪らなく不安な気持ちになる


明日、目が醒めたら自分を軽蔑する仲間の顔があるんじゃないのか、身内殺しと一緒に居られるかと言葉を吐き捨てられて
そのままルージュは捨てられてしまうんじゃないか




旅立った時と同じ、独りになるんじゃなかろうか


…、背筋が震えた、湯冷めしたのかもしれないな、ちゃんとタオルで紙を拭かなかったからだ

バスローブ姿のルージュは室内空調機のリモコンを手に取り、『暖房』の部分を指で押す
 そのまま、椅子に崩れ落ちるようにドサリと座り、新品の携帯電話を手に取った




  ルージュ「…今頃は[シンロウ]かな」




 慣れないタブレット操作で、登録した電話番号から今はこの場に居ない友達の名前を見る

正義感の強い彼ならどんな反応を示すだろうか、受け入れてくれるだろうか……、それとも拒絶か



 携帯電話を置いて次は掌を天井に翳してみる、意識を集中させる―――暗闇、何も無い真っ暗な空間を思い描く

 影の海に自分が飲み込まれたと考え、その黒一色の世界に一枚の白い紙札を連想し構築させる
暗闇に自由な発想力が生み出したカードがひらりと現れ、表に双剣の模様が浮かんでくるイメージを創る



      剣のカード『 』ポゥゥ…

      ルージュ「……」パシッ



想像は、現実に。

連想は、構築へ。





   ルージュ「……僕が、手に入れたカード、…資質の欠片、か」




   ルージュ「どう、したらいいんだろうな……」


   ルージュ「僕がブルーなら、…兄さんならどうするんだろう」




 髪を乾かして、手入れの行き届いた布団に潜りルージュは、目を閉じた……


―――
――

*******************************************************

【双子が旅立って 6日目 午前7時21分 [クーロン]】




  ブルー「ふっ!はぁっ!!」ブンッ!ブンッ!


  アニー「無駄に力を入れるなっ!…肩に力を入れればそれだけ大振りのスイングになる」

  アニー「繰り出す剣技や敵の部位によっては意味のある行動になるけど、"大振りになればそれだけ隙ができるわ"」


  ブルー「くっ、わかっている!!」

  アニー「…その癖を直してやりたいけど、いい加減炊き出しやらないとね、メシを食わせろって皆が騒ぐから」


 早朝から店の裏手で稽古に精を出す魔術師と指導する金髪少女は鍛錬を中断し、店へと戻っていく
蛇口を捻り流した汗を洗い落としてタオルで拭く、ブルーが洗面所から戻ると既に起きていたルーファスが新聞紙片手に
白いコーヒーカップを傾けていて…隣に居たライザと何かを話し合っていた


その横を通り過ぎ、自分の席に着いて魔術書を取り出して修得したルーン文字を書き込もうと万年筆を取り出す
 故郷に居た頃は馬毛の筆に墨汁を浸して使ったものだが、初めからインクを内蔵したペンという物は便利だ



何も無い、まっさらな紙。

そこが世界だ。



白に、黒をつける


眼を瞑り意識を集中させる、自分がこの瞬間…筆先を付けている"白"が世界であり全て

頭の中を空にする、白、何も存在しない、"無"


脳は腕の筋肉に電気信号を送らない、何も考えない、だが腕は自分の意志とは別で動く


流れに従う様に握られた万年筆もまた紙面上を滑り、先端から滲む洋墨の粒雫が線を創る



  ブルー「…。」スッ

  活力のルーン『 』ポゥ…



幻想は、現世に。

思念は、真理へ。



 蒼き魔術師は閉じた瞼をゆっくりと、劇場舞台の幕開けの如く静かに開く自分が無意識に
描いた文字は生命の遺志、生きようとする力を象徴する証



 ブルー「……どういうことだ」



 彼は、無意識の自分がルーンの導きの儘に描いた文字を凝視した





"逆位置"に描かれた[活力のルーン]を。




 情熱、活力、学び、意欲…前へ進もうとする意志、育ち次第に増していく物事の暗示
蒼い法衣の魔術師は神妙な顔をして占いの結果が何を意味するのか暫し考えを巡らせた


 このルーン文字における一般的な解釈としては向かうべき暗闇の先に明光が射しており
照らされた道を積極的に進むことで道が拓けるというモノ


だが、彼が…いや、彼の霊感が導き出した一文字は反転させた結果



 逆位置における意味は、強すぎる意欲、溢れんばかりの"活力"が水の溜った器に更に注がれて零れ
無駄な労力を使ってしまう、成果を得られずに失敗に終わる


即ち、"急いては事を仕損じる"という奴だ




 ブルー(現状では凶、手を休めて心身共に休養を取るのが吉、とでもいうのか)



頭を抱えたくなった、自分は来るべき果し合いの為に力を得ねばならぬというのに
 この占い結果を導き出したのが赤の他人であれば鼻で嗤って、無視するところではあったが
引き当てたのは他でもないブルー自身の霊感だ


 魔術師としての矜持、血反吐を吐くほどの努力と鍛錬の積み重ねで築き上げた確固たる自分という
決して揺るがない自分自身の能力だ


そう易々と、こんなもの当てになるわけないだろ、とは言えない







 アニー「アンタ、なに変な顔してんのよ、一人睨めっこでもやってんの?」


 ブルー「…なんの用だ」




 ボールペンと手帳を片手に、一人で百面相を試みている可笑しな男の元へ来たアニーは不審な者を
見る様な眼差しで問いかけた

 対してブルーは素っ気なく『何の用だ』と返したが…朝食は何を食べたいのかリサーチを
取りに来たのだろうと持ってる道具から容易に見当はついた

いつの間にか来ていたエミリアを始め、ルーファスやライザにも既に確認を取っていて
一番、端の席に座っていた自分にも注文を聞きに来た


 アニー「何って、見りゃ普通にわかるじゃん」


ああ、そうだったな、我ながらくだらん返し方をした

 彼は彼自身の出した気に喰わない占いの結果に腹を立てていた、その虫の居所の悪さも加担して
声に出す事こそはしなかったが顔に言いたい事が出ていたらしい



 アニー「なにさ、そのムッとした顔は…ったく、朝から何にイラついてんのか知らないけどね」

 ブルー「……悪かったな」プイッ


 アニー「…はぁ~、今日は折角稽古休んでエミリア達にも協力してもらうってのに」

 アニー「これじゃ先が思いやられるわ…」



 ブルー「は?おい、どういうことだ…」


 アニー「あっ」

 アニー「…いや、稽古ばっかじゃなくてさ
        偶にはエミリアやリュートと一緒にアンタを連れ回そうって話になったのよ」


 アニー「ちょっとした親睦を深め合いって奴よ、4人で街をぶらっと回るの、お分かり?」








胡散臭いなコイツ、それが彼の思ったことだった、大体なんだ今の間の抜けた『あっ』って
 絶対4人で街中を散策する以外に何か企みの一つ二つあるだろう




 ブルー「街をぶらりと、か…」




得た力を試すついでで何となしにやってみた印占いが示した易によれば攻め時に非ず


それこそ、今日の稽古でアニーに指摘された剣筋と同じだ、無駄に力を入れ過ぎてもそれが仇になる




  ブルー「いいだろう、だが何時出掛けるんだ?その話は経った今されたばかりだ」

  ブルー「準備も何もできてはいないが」


 アニー「あー…10時くらいね」

 アニー「それまでは適当に時間でも潰しといてよ」



 それより、何食うのか教えなよ、と急かす相手にトースト一枚に昨日と同じで半熟目玉焼きを乗せ
ミックスジュースを一杯頂こうと答えた



去り際に注文を承った彼女が『あ、[ディスペア]行きなんだけどさ、ちょっと同行者が増えるから』
そんな一言を言われ、思わず椅子から転げ落ちそうになった


 貴様ァ!何を勝手に――と口から飛び出す前に『邪魔はしないから、ただ入るまでよ』と
付け加えられ、ブルーは『それだけならば…まぁ、よかろう』と渋々ながら承諾した



自分の邪魔さえしないのであれば、何でも良い…

―――
――

【双子が旅立って 10日目 午前時49分 [クーロン]繁華街】


 エミリア「わぁぁ!!なにこれ可愛いっ!」ギュッ

 アニー「んー、そうね、確かに可愛いんだけどねぇ…」

 アニー「あたしはその手の可愛さを売りにした愛玩動物ってのは好きじゃないのよね」


 リュート「およ?そうだったか…じゃクーンと会った時は?」


 アニー「正直言うと苦手だったけど、金を落としてくれる客は別物よ」




<キャッキャ!ワイワイ



 ブルー「……。」



 ブルー( 買 い 物 が 長 い ッ !!)



女の買い物は長く、男は待ちぼうけを喰らう…というのは流石に偏見だろう

単純にこれは商店の棚に乗ったモノに興味を抱けるか否かの話だ、自分にとって興味関心を抱ける
掘り出し物であったならば人はそれを何時間でも眺められる
 逆に興味が無い、見てても退屈だ…そういう感想しか抱けない人間が見てて面白くも何ともない
時間が延々と続くだけ


楽しいことなら時間は早く過ぎるが、つまらない時間は長ったらしく思うモノ、体感時間の違い



実際、リュートは女子二人に混じってショッピングを楽しんでいた





  ブルー(…これであれば、部屋に帰って書物でも読み漁っていた方が有意義だったか)




 腕を組んで騒ぐ3人を眺めながら彼は溜息を吐いた、これが彼にとって興味の欠片でもあるか
さもなくば、彼自身の物を見る価値観がガラっと変わりでもしたならばあるいは3人に混ざり
売り物を手に取って良し悪しを語り合いでもしただろう、時間の流れも忘れるほどに



ツンツン



 ブルー「…。」

 スライム「(´・ω・)ぶくぶくぶー」ノソノソ



 ブルー「……」
 スライム「(-ω-)ぶー」ピトッ



 ブルー「貴様は行かないのか、あと俺に引っ付くな裾が湿る」

 スライム「…(´;ω;`)」ブワッ



脚にぴたりとくっつくゲル状の所為で右脚の裾が濡れる


 相も変わらず『ぶ』と『く』しか発音できないミネラル豊富な生物はブルーにべったりだった

 何の因果でこんなワケの分からん生命体に好かれたのか知らないが彼は半ば諦めに近い感情を
持ち始めていた、いくら邪険に扱おうとも蹴り飛ばしても罵ってもコイツは自分についてくる


 まともに相手をするだけ無駄で気力と体力を消耗するだけだと割り切った




 ブルー「大体、俺と居て何が楽しい?貴様に何のメリットがあるというのだ」

 スライム「(´・ω・`)…! ぶくぶー!」ピョンピョン、フルフル!



 飛び跳ねて、地面に落ちる…身体の破片がベチョ!と音を立てて床を濡らす
首(?)を大きく振り何かを否定する




  ブルー「ええいっ!!だから何だというのだ俺はリュートとは違う!解るわけないだろっ!」



 スライム「(゚Д゚;)!!」ビクゥ

 スライム「……(;´・ω・)」ウーン




 スライム「(; ・`д・´) !?」マメデンキュウ ピコン


その時、スライムに電球灯る…っ!


 スライム「( `・ω・´)ぶくぶーーーーーっ!!」ピョン!ズザザザザザザッ―――z_______!



 ブルー「…なんだ?自分の身体を撒き散らしながら地面をはいずり回って…」



 蝸牛<カタツムリ>なんかが通った後には粘液で跡が残る、突然自身の水分を撒き散らしながら
地面を高速移動するゲル状に魔術師は顔を顰めた

なんだこいつは気色の悪い奴め、と言おうとして気が付いた



 スライムの通った跡『 』ヌメヌメ


 ブルー「…喋れないから文章にするということか、単細胞生物にしては考えたな」



これは"文字"だ、自分の身体の破片(後で回収可能)をポロポロと零しながら走る…
 数刻前に白紙の上に万年筆で文字を書いていたブルーと同じだ、人間の言語を話せないからこそ
そういう手段で会話を図ろうとしたのだ



  ブルー「何々『違う、メリットどうこうじゃない、損得関係なく居たい』…だと?」

 スライム「(・ω・)ノ  ぶくっ!」コクコクッ



 身体の破片を回収しながら器用に鳴き声を上げるスライムにますます彼は首を傾げたくなった
損得関係なく居たい?なんだそれは…


以前、リュートは『お前に一目惚れしたらしくスライムプールから出て来てお前についてきた』と
勝手についてきた動機をそう通訳したが

その件に関して言えばブルーは冗談か何かのつもりで言っているのだと思った



 ブルー「仮にアイツの言う通りだとして、何故、常に一緒に居たがる…」

 ブルー「もう一度言うが"貴様には何のメリットも無い"のだぞ?」



 ブルー「俺が傍に居るだけで空から札束が降って来る訳でも無い、力を得られるわけでもない」


 "モンスター族"は"人間<ヒューマン>"や"メカ"それに"妖魔"とも違う…人は戦いを通して強くなり
妖魔もまた戦いや敵の力を奪い取る事で強くなる、メカならパーツの付け替えで強化が可能だ


 モンスターだけは違う、元々の個体差で生命力が違うことも然ることながら
戦いで倒したモンスターの細胞を吸収し違う種族の魔物に"姿だけ"変貌して強くなる

人間と四六時中一緒に居たら強くなったという話は聞いた事が無い



 ブルー「金銭的な幸福が訪れる訳でも、力を得て他種族より優位に立てるという事も無い」

 ブルー「損得関係なくだと?俺にはまるでお前の考えが理解できない」



心の底から、ブルーは不思議がった


本当に、本当に心の奥底から理解できない



生物は常に他者を蹴落とすことで常に前へ進む、一言で簡単に説明づけてしまうなら『弱肉強食』


人間が朝、起きてその日を生きるためには、元は生きていた何かを食す


それは水中を泳いでた者かもしれないし、空を飛んでたかもしれない

野を駆け群れでくらしていた者だったかもしれないければ…畑の土から産まれて生きていた者も



何かしら生あるものが、その生を奪われ他者を生かす為の踏み台になる






  ……この兄弟―――"兄<ブルー>"と "弟<ルージュ>"の関係性と同じだ




どっちか片方が、片方の命を奪い、明日を生きる権利を得られる



 この話に限ったことじゃない、喩えばギャンブル…儲かる人間が幸福を噛みしめられるのは偏に
【敗者となった誰か】が存在して初めて成立する


 若い子供なら誰だって通う学校の成績…そこから繋がる進学や就職、更に先を言えば
企業における地位<ポスト>だってそう





人は他者を蹴落とすことで日々、前へ進む…

双子同士での殺し合いを促進させる故郷の歪んだ教育の賜物もあってか

それが真理であり世の中の全てというモノだとブルーは想う




だからこそ、損得抜きで誰かと一緒に居たいと考えるスライムの考えが心底不思議に思えるのだ






 スライムは、人の言葉を話せない……でも『心』はある






人間が産まれた時、親から子へと授かる、子から親へと返してあげたいと思う感情も理解する


巨大生物[タンザー]の体内にあるスライムプールという場所は生命の鼓動である[活力のルーン]を
刻んだ巨石があった、それに触れる為にブルー達は訪れた


"保護"の力に護られた犯罪都市は治安が悪く、また不衛生なスラム化した裏通りが
存在するにも関わらず市場で数万人規模の使者が出る大規模なテロが起きることも疫病さえも無い


寧ろ最近のテロ関連で言えば、最先端技術による治安の良さが売りの[マンハッタン]の方が危険だ


ルーンの印が刻まれた場所は何かと力の流れがある、スライムプールと呼ばれる特異点で
大量の[スライム]が誕生するのもそれが関係している




 あの日、一匹の[スライム]が産まれた


その一匹はだけは他と違い、多感な感受性を持っていた、人間と変わらぬ『心』と
何が『良識』とされるかを分別できるだけの道徳は持っていた



言ってみれば、人間とさして変わらないのだ





その一匹は一人の人間を見た…身体の色は…"青"だった、頭には蜂蜜色の綺麗な髪


産まればかりのそれは、卵から孵ったばかりの雛鳥が初めて親鳥を見る、刷り込みと同じ様に



蒼と金糸雀の人間を、一目見て好きになった
"自分という自我が初めて出来た時"真っ先に見た一番最初の生命だったから


 ある意味でそれは"一目惚れ"で間違ってはいないのだろう
スライムはその日、ブルーに『愛』を抱いた


リュートはスライムの言った言葉を解釈し、ブルーに大まかに説明した





ふわふわとした感覚…この人が好きだ、堪らなく愛おしい、ずっと一緒に居たい人と











――――その感情はまさしく『愛』だ、…でも『愛』には種類がある







 親から子へと授かる、子から親へ返したいと思う感情…





『愛』だ。


損得勘定、打算がどうこう…そんなモノはどうだっていい、無償で贈り贈られる『愛』









とどのつまり、このスライムはブルーに対して

            『親子の愛』を…子供が親に対して持つ情愛を抱いているのだ……























   ブルー「…わからん、俺にはお前の考えが一切理解できないな」

   ブルー「損得関係なく、ただ一緒に居たいだなどと…ナンセンスだ」







   スライム「(・д・)……!?」


   スライム「(´;ω;`)……ぶくっ」ジワッ



   ブルー「……なんなんだよ、一体」ハァ…


   ブルー(人の身体にすり寄って、引っ付いて来て、四六時中俺にべったりで)

   ブルー(何の利点も無いのに一緒の時間を過ごしたい…それでいて突然泣き出す)


   ブルー(意味が分からん)ハァ…


    ブルー「 」チラッ

   スライム「(´;ω;`)…」ウゥゥ、グスッ


  ブルー「……チッ、おいゲル状生物ついて来い」

スライムあわれ



 舌を打ち、面倒臭いと言った表情のまま、彼は水分をダボダボと流すスライムに手招きをする
それを見て未だ泣きべそかきながら地面に潤いを与え続けるアメーバーは
ぷるぷる震えながら彼の後を追いかける


 見様によっては、デパートのおもちゃ売り場コーナーで駄々こねる子供が愚図りながらも
親の後をついてくソレに見えなくも無い




  ブルー「そこの店員、すまないが――――」

  「はい?…―――あぁ!そうですか、その商品でしたら―――」



 スライム「(。´;ω;)? …ぶく?」グスンッ


  「毎度ありがとうございます!今後とも御贔屓を~!」


 ブルー「ほら…特殊な素材でできた手帳とペンだ」スッ

 ブルー「風呂の湯水に投げ入れたとしても破けず、インクが滲んで読めなくなることも無い」


 ブルー「少しばかり値は張ったが、これで多少はお前との意思疎通も巧くいくはずだ」

 ブルー「筆を咥えて動かすことはできるであろう?奴らと同じ釜の飯を食ってた時も
           お前が器用に色々使いこなしたのは見たんだ、できんとは言わせんぞ」



 曰く、身体の95%が水分のゼラチン質が持ったとしても大丈夫だと謳う店員から購入したものだ
多種多様な種族が銀河の海を渡航する時代なのだからコレくらいの代物も普通にあるらしい


 スライム「(*'ω'*) ぶくぶくぶくーーーーっ!!」パァァァ…!ピョンピョン


 ブルー「ふっ、そうかそうか、嬉しいか」


 相変わらず何言ってるか理解できないが、自分の手渡した手帳を頭に乗っけたまま
野兎並みに飛び跳ねてグルグル回る動作を見るに喜びを表しているのだろう

そう思えば満更でもないな、と静かに魔術師は微笑んだ



  リュート「あっれ?ブルーってばいつの間にスライムとそんな仲良くなったんだ?」

  エミリア「あの手帳ってブルーが買ってあげたの?へぇ~優しいトコあるのね」



   ブルー「なっ!?貴様ら…いつの間に」


 背後からの声に驚き、振り返ると同時にババッと飛び退く仕草に思わず笑いだす3人
一番最初に噴き出したアニーが『なによアンタ、ビビり過ぎでしょ!あははっ!』と
腹を抱えながら指差してくるものだから遅れて彼は顔を真っ赤にした


その反応が怒りから来るモノだったのか、はたまた羞恥からだったのかはブルーのみぞ知る



 スライム「(´・ω・) ぶ、ぶく、ぶー!」ピョーン音符ピョーン♪



 ワナワナと震えるブルーの背後では陽気にスライムが飛び跳ねる、そんな一幕のあと
4人と1匹は劇場街へと歩みを進めた


―――
――



 リュート「なぁなぁ、まだ根に持ってのかよぉ~」

  ブルー「…別に、気にしてない」プイッ


 エミリア「持ってるわよねぇ?」
  アニー「アイツ、結構顔に出るタイプなんだよねー」


 プライドの高い人間というのは総じて何処かしら"精神的に幼い一面"というモノがある
そもそも、他人からの評価や体裁を気にしたり、意地を張ろうとする時点で
その鱗片が出ていると言えよう


 隣をへらへら笑いながら歩く無職、声を押し殺してるつもりなのか笑い声も丸聴こえな女性組
真横を跳ねるアメーバー、誰に顔を合わせる訳もなくブルーは劇場街を見渡していた



 古めかしく錆びついた鉄筋アーチは地元民から観光客まで分け隔てなく歓迎する一文が掲げられ
環の下を潜り抜けて見返してみれば、これまた何時取り換えられたのか
識別できないような年代物の照明が通りすがる大勢の通行人の頭数を数えている


さて、[クーロン]を訪れた人間は財布の紐が緩むと言われている


 大概、7割は窃盗被害に遭い、スリの常連達の豪勢なディナーに消え、無事だった者の中身は
この街で最も銭の動きが活発な上位ランキングに消えていくのが関の山だ




 人の夢は終わらない。




 闇市場で取引される他所では手に入り辛いブツ、男と女の情緒が複雑に絡み合う娼館通り
物欲や色情を満たす為の代価として紙幣が飛び、そして上位3として挙げられるのは―――




      ブルー「…随分と賑わうのだな」


      アニー「おっ、わかっちゃう?人間は夢を追う生き物だからね」

      アニー「ルーファスじゃないけど、ロマンって奴に資金をつぎ込むカモが多いのさ」




 その昔、一人の経営者は有名な言葉を残していった、それは経理学の分野というよりも
人間心理学における哲学・思想に近しい言葉であった




 利益を追うなら、夢を追え、と




何時の時代でも如何なる世であったとしても大衆は"夢"を捨てきれない

それを追い求め掴もうとする為であらば投資を惜しまない


子供から大人まで、揺り籠から墓場まで。



誰よりも益を手に出来るのは、夢を本当に理解してる経営者だ

アミューズメント、エンターテイナー…大金を抱き込んだ成功者は、その中でも理解できた者だ




そして、この劇場街は謂わば、そんな未来の成功者たちの卵とそれを応援する出資者達の集いだ



 小規模なミュージカル劇場から、華々しい装飾のオペラ座…小さな屋台で人形劇をやってる奴ら
皆が皆、でっかい夢を狙ってる、ゼロから始めて誰の手も届かないような"星"にのし上がってやる


どこまでも貧欲に高みを目指す努力の化け物、憧れだけで夢を語り夢に手を伸ばせる天才肌


未来の大スターを発掘しようと目を光らせる利益よりも夢を追おうとするエンターテイナーの卵



 そこかしこに希望を抱いた人間や打ちひしがれた他山の石達がうろついていた
一世を風靡した絶世の美女はその空気に一抹の懐かしさを感じていた



 エミリア「…何処のリージョンもこういうのって変わらないものよね、新人時代を思い出すわ」

 リュート「あぁ、そういやエミリアってモデルさんだったんだよな」


 エミリア「そっ!ファッションモデル雑誌からハリウッド映画までなんでも来いってね!」

 エミリア「エミリアちゃんがテレビに映ってなかったことなんてないくらいだったんだからね」



 ふふっ、と婚約者殺害事件の犯人として無実の罪でヒューズに逮捕される前を振り返る
明るい笑顔を振りまく彼女を見てリュートはふと思い出した



 リュート(そういや[スクラップ]でメイレンと会った時もエミリアが載った雑誌見てたっけな)



 メイレンがエミリアと出会って事情を知ったらジョーカー討伐に全力で協力しそうだなー
なんとなくそんな光景が頭の中に浮かんでくる
ついでにメイレンの隣に座るクーンを可愛いっ!とか言ってそのままエミリアが持ち帰ろうとして
獣耳ショタっ子も仲間入りしそうなまである



 エミリア「そうそう、ハリウッド映画で思い出したわ…今から上映されてる話題の奴よね?」

  アニー「ええ、これから見に行くのはソレよ、ジョーカーとケリつける任務前だし」

  アニー「景気づけってことで見に行っちゃおうって話になったのよ」



  ブルー「映画…か」



ずっと景色だけを眺めていたブルーが単語に反応して復唱するかの様にポツリと呟いた
 ここ数日の付き合いで大体この不愛想な男がどういう人物かは読めた気でいた
恐らく文化圏の違いや彼自身の人生そのものが"映画"に縁の無いモノだったのではなかろうか、と



 リュート「ブルー、お前さんもしかして映画って見たこと無い?」

  ブルー「…見る必要性が無かったからな」



 一応、彼の国にも小さいながら映画館というモノはあるが、殆どが術士見習いの修行者や
勤勉な学生諸君で溢れかえった国だ、あるにはあるが娯楽というよりも教材寄りの内容で…


要するに退屈で眠くなる奴が多い、夏休み前の学生が体育館で聞かされるながーいお話系のアレだ


 そんなモンを眺めるくらいなら教科書を開いて自主勉してた方が効率が良いと宣うのがブルーで
彼にとっての映画とはそういう認識でしかない


 エミリア「えぇ…、それはちょっと勿体ないわよ?人生なんて楽しまなきゃ損じゃない」

 エミリア「これを機に楽しむってことを覚えなさいよ」



思わず口に出してから余計な御節介だったかしら?と自分の発言がこの男に有効だったか考えた
 蒼い魔術師に『…考えておこう』と小さく返され、てっきり不機嫌な顔で辛辣な言葉の機関銃を
撃ち返されるかと後悔が立ちかけたエミリアは意外そうに眼を丸くしたがブルー本人が
そういう思考を持ってくれたなら悪い事では無いだろうと思い『ええ、それが良いわ』と声にした



 劇場街の中心にある映画館では今シーズンの話題作のポスター看板が貼られ、ショップでは
グッズ商品が売られていた、作中の人物をモチーフにした紙カップに入ったポップコーン等



  リュート「何味にする、キャラメルとか塩バター醤油、いろいろあるぜ!」

   アニー「あたしは止めとくよ、それ食べた後って歯に挟まったりするし」

  エミリア「私もパス」


  リュート「わかってねーなぁ、映画っていえばポップコーンだろ、ブルーお前は?」

   ブルー「俺か?…そうだな、じゃあそのキャラメルとやらを」


  スライム「(´・ω・)ぶくぶー」


  リュート「OK、キャラメル2つと塩バター醤油1つな!」



 こういうレジャー施設は飲食物は持ち込み禁止で、中にある店で買わされるのがお決まりだ
しかも、この手の奴は"客の足元を見て来る"ものだ……一杯のジュースが他所で買うより圧倒的に
お高いお値段なのだからな


仲間達から手渡された一枚のチケットを持って番号が書かれたシアターホールへと入る

 薄暗く広々とした部屋の中で半券に書かれた番号とアルファベットの席を探し
大人4人とモンスター1匹の入場者は席に着き、スクリーン映像が始まるのを待った


 話題の上映作『鋼の13世 -時代を開拓者-』とかいう名前だ
なんでも実在のリージョンがモデルだとかいう話だ


――――
―――
――



  『王家の者が術の力を引き出せぬなど…!あれには失望させられた、あれは石ころ以下だ!』

  『あなた、あれとはなんです?私達の息子のことですか』


  『あんなものは私達の子ではない、お前もあれを忘れろ』

  『術の才など無くともあの子は私の子です
    私に宿り、私が乳を与え、私が育ててきました…私にとっては命を分け合った息子です』


  『ならば石ころ共々、この城を出て行け!!』






  『さぁ、行きましょう…大丈夫よ』
  『おかあさま…』


ザワザワ…

  『術が使えない王子様とそのお母さんだー』
  『こら、指をさしてはいけません』
  『出来損ないめー』
  『王家の者が術も使えぬとは…本当に国王との間の子なのやら』
  『薄汚い貧民街の者と不貞を働いたやもしれんな』


――
――
――


  『このこのっ!』ゲシッゲシッ

  『ギュ、ギュス様…やめようよ』



 『あっ、見てよあの二人…術が使えない王子と取り巻きの子だわ』
 『やだ、花を蹴ったり、鳥に小石投げてる…行こう、行こう、あんなの見てちゃ駄目よ』



  『へへっ、ほらお前もやれよ』

  『で、でも…』



  『なにをしているのですか!!』



  『げっ、かあさま…っ』

  『抵抗できない弱い者をいじめるなど、恥ずべき行いです』


  『フン、どうせ僕なんか術の才能がない人間のクズなんだ』


  パシィィ…!


  『――――っ!』ヒリヒリ


  『よく御覧なさい、樹々が花を咲かすのが術の力ですか』

  『鳥が空を飛ぶのは術があるからですか』


  『才能も自分の生まれも関係ありません、…あなたは人間なの、人間なのよ!』



――
――
――


  『こんにちは鍛冶屋の親方』

  『おお!これはこれはギュス坊じゃないか、そんなに鍛冶が面白いかい?』


  『うん、……あのさ、鋼で剣を創るのに術なんて使わないだろ?』

  『へ?そりゃあそうだけど』

  『俺に作り方を教えてくれ、自分の持ってる力でできること、探したいんだ』




―――
――


【双子が旅立って 6日目 午後15時38分 [クーロン]】


 リュート「良い話だったなぁ…」グスッ

  アニー「うん、正直予想以上にいい映画だったよ…あのあと病気の母親との別れとか」グスン

 エミリア「ええ…焼き討ちで消息不明になった後の世界での最後の演説なんてもうね」ウルッ

 スライム「(´;ω;`)」ブワッ


 大まかな物語の流れやテーマを簡単に説明するなら

一人の人間人生を描いた内容で
生まれや才能ではなく自分自身の意志でどう生きていくかを人は選び決めることができるという話



   リュート「なっ、良かったよなブルー!…あり?」


    ブルー「…。」


   リュート「どうしたんだ、難しい顔しちゃって」


   ブルー「うん?あぁ…映画か、確かに素晴らしかった、本心から認めよう」

   ブルー「少し今は考え事をしててな…」


   リュート「そうか?」



 今日は記念日になった、彼の中でつまらない物だと思っていた存在の価値観が180℃変わった
そして、同時に【自分の在り方】を少しだけ考えさせられる日だった



 ブルー(もしも、自分が産まれた時から術の才能も無い人間だったら、か)



 あれは全くのノンフィクション映画という訳ではない、どこぞの辺境の惑星<リージョン>が舞台で
実在した話だとは小耳に挟んだ


 高貴な身分に産まれながら才能に恵まれずに周囲から蔑まれ、疎まれ…そんな人間が自分の手で
運命を切り拓けた物語、術社会主義の[マジックキングダム]とあの作品の世界に置ける術の観点は
少しだけ似ている、だからこそより一層感情移入できたのかもしれない
 術こそが全てで、育ての親に敷かれたレールを走るだけの人生…


―――もしも、レールが初めから存在しなかったならば


あの主人公は最初、父親が最初から敷いたレールに乗って親の後を継ぐ運命だった

それが全くの想定外で人生のレールから弾かれ、定められた将来のスケジュール表は消え失せた
 しかし、どうだ?その後、主人公は暗闇の荒野に、自らの手で進むべきレールを築いた



自分の生き方を自分の意志で決めなければならないのだとしたらば

そう考えてブルーは自分には"何も無い事に改めて気が付いた"…





 それ以外の生き方なんて知らない

 それ以外を彼は考えたことも想像…いや創造することさえも叶わないのだ


 今ある価値観を全て捨てること、今持っている常識が180℃ひっくり返ったら
自分は何を想って行動できるのだろうか



 感情を持たないロボットや歯車と同じだ
誰かが何かをプログラミングしなければブルーは前へ進まない

"自分の意志"があるようで結局は"国家の為"、"育ての親への恩返しだから"と…口にする

自分の意志と言いながらそれは『自分』じゃない、行動や思想事体が既に他者への献身や貢献…




本当の意味で"自分"を持っていない。

この映画三時間で収まってたんだろうか……

風と共に去りぬが4時間越えてたなぁ

まさかのサガフロ2




 アニー「エミリア、ちょいと耳貸して」ヒソヒソ

 エミリア「えっ、……うん、あぁ、わかったわ、此処から手筈通りね」ヒソヒソ






 アニー「おーい!新入りぃーー!そこボーっとした面で歩いてるアンタだよ新人バイト」

 ブルー「その呼び方はやめろ」


 アニー「なら早く皿洗い以外の作業を覚えるんだね、…さて、そんなアンタに昇進チャンスだ」

 アニー「映画の帰りに買い物してけって言われてんだ」つ『メモ』


 アニー「お使いが出来たら、新人バイトから普通のバイトって事にしてやるよ」

 ブルー「まるで意味が分からんぞ!?」



 結局はただのアルバイト呼びじゃないか、呼び名の頭から新人を取っ払っただけだろ、と
眉間に手をやる蒼き術士には決定権など無い、破天荒な女上司からの命令なら仕方ない

 職場における縦社会は誰しもが抗えない
それは尊大な態度を取ることの多いブルー自身も例外に非ず、都会に揉まれて多少は角が取れたか
 これでも一週間近く前よりかは大分、人間性が丸くなったと思われる

 半ば押し付けられるようにグイっと寄越された紙切れには、住所が記されていて一緒に
代金支払い済みの受け取り用の伝票まで添付されていた…



 ブルー「4件、しかもそれぞれ店舗の距離が結構あるじゃないか」

 アニー「アンタそんなナリでも男でしょ、これも筋力トレーニングの一環と思いなさい」



 ブルー「あぁ、くそ!…行けばいいのだろう!」クルッ!スタスタ…



 懐に剥き出しの感情の儘に紙の束を突っ込み、踵を翻して足早に最寄りの店舗に向かう
そんな魔術師の後ろ姿を眺め、やがて小さくなって揺れる蜂蜜色の結った髪さえも特徴的な蒼も
彼の存在を示す色彩が一切見えなくなってからアニーがエミリアとリュートの方へ向き返り



   アニー「うまいこと行ったみたいね」

  エミリア「今朝は内心焦ったわよ?アニーってばうっかりボロだしちゃうんじゃないかって」

   アニー「まぁまぁ!結果オーライだからいいじゃん」



  リュート「そんじゃ、俺も店の方に行って飾りつけでも手伝うとしますかね~」

  スライム「(。´・ω・)?」キョトン


  リュート「ん?あぁ、お前は何も知らないんだったな」


  エミリア「リュート、手伝ってもらって悪いわね」

  リュート「いいんだよ!俺だって暇だしタダで騒げて美味いメシと酒にありつけるしな」タハハ



   アニー「リュートが無職の暇人で助かったわ」

  エミリア「ええ、でもいい加減に就職先見つけなさいよ、イイ歳なんだし」


  リュート「君ら、ナチュラルに俺の心抉ってくれるなぁ」

―――
――



 ブルー「1件目は古い家電を修理して売りさばく、所謂リサイクルショップ」

 ブルー「そこで渡されたのがこのレコードか…」




  -『はいはい、…あぁ!ルーファスさんトコの店の人かい』-

  -『ほら!頼まれてたレコードだよ、なるだけ当時の音源が出る様に修復したんだ』-



 ブルー「随分と、古びた物だな…」スッ


 昔懐かしの蓄音機に添えて使うレコードが数枚
イタ飯屋の倉庫奥に埃被った布で覆われて眠っている置物に添えて使う気なのだろう


ブルーは眼を細めて、作曲者の名前を読もうとしたが如何せん古い物で文字が掠れて読めない



  ブルー「イ…ト……、駄目だな、読めん」


レコードケースに辛うじて読める曲名がある『情熱の旋律』という名で、その横に小さくスペルで
minstrel<ミンストレル>と書かれていた




        ブルー「…minstrel、…吟遊詩人か」




 作曲者の本名は不明、アーティスト芸名か何かなのか、ただ吟遊詩人と気取った横文字だけ

年代も何時のかは判明していないが、リサイクルショップの店主が修復がどうのと言っていた辺り
相当な古い時代の詩<ものがたり>なのだろう







 ……嘗て、この世界には―――いや、無限に広がる銀河の海には多くのリージョンがあった








 とあるリージョンは『塔』のような形だったかもしれない

 とあるリージョンは秘宝の眠る宝庫の様な世界や時空さえも廻れる世界だったかもしれない





 その昔、トリニティの上層部しか知らない秘められた歴史がリージョン界にはある


 人の英知が創り出した【惑星を破壊する無人機】とそれに対抗するリージョンシップ等の闘い


 その戦争の余波、あるいは指輪を集めるクーン少年の故郷[マーグメル]の様に惑星の寿命で
消滅してしまったリージョンは数知れない


 今、ブルーが何気なく持っているレコードも何時かの時代で誰かが見て来た冒険譚をそのまま
歌詞にした…そんな"SAGA<ものがたり>"なのかもしれない


 人の数だけ物語はある

 生命の数だけ音が、詞が存在する



 邪神に立ち向かう勇敢な戦士たちの詩もあれば、麗しの帝国の歴史を語った唄もある

 皆既日食の刻に運命の子供がリージョンを平面から球体に変えたなんて御伽噺だって存在する






 他にも幾つもの『物語』がある


 どこかの惑星から、何時、何処で、誰が、誰に、それを伝えたかは知らない

 だけど、確かにそれは語り継がれ、今を生きてる人の胸の内で生き続ける、長い歴史の末に
多少の曲解や間違った伝わり方をしたものもあるかもしれないが
 それでも伝わったのだ…




 これらの物語の舞台になった惑星は、かの[マーグメル]の様に星の寿命で滅んだかもしれない
あるいは古代の戦争で惑星破壊兵器に粉々にされたかもしれない


…そんなことはなく、今もこの時代で普通に銀河に煌めく星の1つとして輝き続け
 誰も見た事のない"その後"の物語を、その世界は創り続けているのかもしれない



―――
――




 ブルー「2件目は花屋で、3件目は酒屋…そして最後は…」



 花屋で受け取ったブーケと酒瓶、奇しくも、受けとった花の香りと色合いは
自分にとって好ましいと思える物で、酒瓶もここ数日の酒盛りで味わった中では一番好きな銘柄だ

少し重たく感じる荷物を抱えた腕も好きな物だからか然程、苦には感じなかった


 最後に訪れた店はこの犯罪都市にあるのが不思議なくらいに小奇麗な店で
白塗りの壁についている可愛らしい小窓から漏れているのか、小麦粉と砂糖の焼ける匂いがした
木戸を押し開けて、入店すると籠の中にショコラやクッキーが並べられていて奥のガラスケースに
大きなお祝い用のケーキ達が自分の引取りてをまだか、まだか、と待ちわびている



  ブルー「すまない、頼まれていた品を引き取りにきたのだが」スッ『受け取り用伝票』


    「は~い、ルーファス様ですね、ありがとうございます」スッ



 大きな紙箱に入れられたケーキを持って、ブルーは店員に一礼し自分の住み込み先の職場へと
歩き出す、これを無事に持ち帰ればおつかいは終了だ



   ブルー「やれやれだ、誰かの誕生日祝いだとでも言うのか…」



 帰路にて彼は、ふと自分が手にしている包みを見て思った
ケーキに花束…加えて音楽レコードに数本の酒瓶、これではまるで絵に描いた様な祝いの下準備だ

重たい荷物を持ったままブルーは職場まで戻ってくる
見慣れた道、イタリアンレストランの緑、白、赤のTricolore<トリコローレ>と扉に掲げられた看板


…ここでブルーは眉を顰めた、戸に掛かった看板の文字が『open』ではなく【close】である事に


 昨朝、睡眠不足だったブルー当人が目玉焼きの乗ったトーストを齧りながらが呟いた事だ
この店は午後4時から午後10時までの営業時間だと、あの日はアニーにも確認を取った
 裏稼業の方が山場だから準備のために時間を割いていて
午前中の営業は無い分、午後はしっかりやるのだと…だがこれは一体どうしたことか
店の看板に綴られた英文は、本日は営業を終了したと知らせる一文ではないか…


  ブルー「誰が当番だったか知らんが、札の裏表を間違えたか?」


 ならば早く戻って、店主であるルーファスに間違って【close】になっているぞ、と報告しよう
そう思い立って彼はドアに手を掛けたが…
 時刻はとっくに16時を過ぎていて、開店時間になっているはずだった、であるにも関わらず
カーテンは閉め切っていて、明りも点いていないことが外からでもよく分かった


 意図的に【close】の札にされているのか?

その思考に至ったのが戸を開いて足を暗闇の中へと進めた瞬間だった

















          「サプラァァァーーーーィイイイズ!!」パァァァァン






  ブルー「な、なんだ!?」ビクッ





 ぱんっ、ぱんっ!弾ける音が聞こえたと思えば、灯りがついて、彼の視界に飛び込んでくるのは
色彩鮮やかな紙吹雪と紐の波


 中身を放ったクラッカーを手にしたリュートが悪戯の成功に喜ぶ無邪気な子供じみた笑みで
こちらに歩み寄って来る

ただ、一点いつもと違うのは、ボサボサ髪にちょこんと乗っているのが彼の地元の民族帽ではなく
パーティー用のトンガリ帽子であることに付け加え、デカいお鼻と黒ひげ付きの渦巻き模様の眼鏡
所謂、鼻眼鏡スタイルであったことだ



   アニー「おっ、ちゃんと"おつかい"やれたじゃん!」



 同じくトンガリ帽子被ってクラッカー持ったアニーが、スライムが、ライザが居て
後ろにはルーファスも何故かバニーガール姿のエミリアも居る


  ライザ「アルバイトも正社員も関係ないわ、私達の所は新人には歓迎会を開く事にしてるの」



 エミリア「私はレストランじゃなくて"裏"の方だから無かったけどね…」ジロッ

 ルーファス「当たり前だ」


 ブルー「 」ポカーン


人は理解が追い付かないと脳がフリーズするという、魔術師は処理が追い付かず暫し固まっていた


  ブルー「…」ハッ!?

  ブルー「ま、待て、では…これは…」



  アニー「見ての通りアンタの歓迎パーティーよ」

  アニー「ウチの店で住み込みで働くんだから当然でしょ?」



 グラディウスモブ男「そうだぜ、新人歓迎の為に今日だけは特別に飲食店は休業さ!」

 グラディウスモブ女「その分明日はモーレツに忙しくなるから思いっ切り騒いじゃおうっ♪」


 リュート「へへっ、俺は一緒に金儲けした仲だしお前の相棒だろぉ~?ゴチになるぜ!」

 スライム「(/・ω・)/ ぶっくぶくっぶ~!」


  ライザ「あなたが手に持っている品はあなたの為の物よ」

 ルーファス「祝いの席の主役におつかいに店まで取りに行かせるのも可笑しな話かと思うが」

 ルーファス「内装の下準備やサプライズ用ということでな」

 エミリア「今朝の連れ回しから映画館まで、全部が時間稼ぎだったのよね~」



 いつもなら客が座る飲食店のテーブルや椅子は宴会仕様に変わっていて
丁度ブルーが帰って来る時間帯を見計らってか美味しそうな香りと熱を放つ出来て間もない
料理のフルコースが主役を待ちかねていたようだ

 レジが置いてある位置には倉庫で眠っていた蓄音機が居座り、花が飾られていない花瓶が
薄い空色のテーブルクロスの中央に乗っている

 皆が持ち寄った少しお高い酒瓶から希少な銘酒、安物の缶ビールが山積みになっていて
まだ数本酒瓶を置けそうなスペースが空いている

そのすぐ傍には大きなホールケーキを置くのにぴったりな空の大皿とナイフ、取り皿が数枚





  魔術師は困惑した。



 この状況よりも、自分の心の中に沸いた"知らない熱"に






     - 『…おい、見ろよ、ブルーだぜ』 -
     - 『学院の成績トップ、首席は揺るがないってあの…』 -
     - 『アイツ気に喰わないよな、あのお高くとまった態度…ちょっと勉強できるからって』 -
     - 『なんでアイツに勝てないんだよ、俺達だって必死で勉強してんのに』 -
     - 『あいつ、死なねぇかな…』 -



  リュート「ん~、どうしたんだよブルー、パーティーの主役のお前がそんな棒立ちで」

 グラディウスモブ女「あっ!わかりましたよ、ブルーさんきっと照れてるんですよ!」

 グラディウスモブ男「なんだそんなことかよ、俺達は同じ職場で働く仲間だしそんな必要ねぇ」

 ルーファス「ああ、同感だ、短期アルバイトであろうと正社員も関係ない」

  アニー「むしろ、ウチの店に住み込みなのだから家族みたいなものと思ってくれていいわ」

  ライザ「そういうことよ、折角の料理も冷めてしまうわ、いらっしゃい」

 スライム「(`・ω・´)ぶくぶくぶー」

 エミリア「…まっ、色々問題はあるけどさ、…慣れて見ればアットホームな職場なのよね~」



胸の奥が、急に熱くなった


そこに突然沸いた熱が膨れ上がって、小さな器から溢れてしまいそうで








-ヌサカーン『キミ、気づいていないのかもしれんがね
         彼等の声に耳を傾けていた時何処となく楽しそうに見えていたよ』-



-ヌサカーン『中々にイイ傾向だ、他者との交流、会話は自分の感情に彩をつける』-

-ヌサカーン『現にキミは【呆れ】や【驚き】時に【怒り】そして
               ……相手の思考が読めない事から【戸惑い】や【疑問】』-


-ヌサカーン『様々な『感情』を抱き始めているではないか
                    交流の無い者は次第に心を閉ざしていく』-


-ヌサカーン『キミの心に巣食い始める病の予防薬になるだろう』-






数日前に、ヌサカーン医師に言われた言葉が不意に甦った

【呆れ】でも【怒り】でもない感情…

確かに今の自分が感じている『何か』に【驚き】や【戸惑い】を隠せない





  ずっと冷え切っていた、蒼く、冷たく…閉じきっていた胸の奥に


  向けられた沢山の悪感情から、奥にあるソレを守る様に閉じていたそれがゆっくりと開かれ

  温かい物が見ていく感じ…久しくブルーが忘れかけていた『何か』だ






  その何か、が何なのか思い出せない、名前を、名称を彼は口にできない




 エミリア「えっ、ちょ、どうしたのよ…」






  ブルー「……?」ツーッ

  ブルー(…!これは…なんだ、俺の目から…)スッ


目元に触れる、指先が水分を認識する…何故、それが零れたのかはわからなかった


  ブルー「なんでもない、ゴミが入っただけだ、それよりもライザの言う通りだな…行こう」



『※※※』という名の感情を言葉にして言えなかった、ただ目にゴミが入ったから泣いたと
彼は言って、荷物を持って待っていてくれた仲間達の元へと歩き出した


 言葉では、表現しなかったかもしれない


 しかし彼は確かにそれを感じた、だから身体が表現した、目から鱗が一枚落ちた







 ――――紛れもなく、彼の心はそれを感じたのだ…嘘偽りなく




 酒瓶のコルクが飛び交い、気泡立つ液体がグラスに注がれて

温かな料理を味わいながら、音楽や内装の雰囲気にそのまま身を委ねる…不愉快とは思わない時間


祖国から使命を受けた身でありながら、もう少しだけこのままで居たいと思ってしまった一時だ






 アニー「あっ、そうだ言い忘れてたブルー!」

 ブルー「?」




 自作の人参と玉蜀黍のポタージュスープを飲んでいたアニーがふと思い出した様に
彼の方に声を掛けて、一言、次の言葉を発した









     アニー「おかえり!」


     ブルー「…。」キョトン





 アニー「いや、そんな顔されても困るでしょ…普通に考えて」

 アニー「さっきも言ったけどさぁ、ウチの店に住み込みなんだから」

 アニー「エミリアやライザと同じ家族みたいなモンだって言ったろ?」

 アニー「家に帰ったんだから『おかえり』っつわれたら『ただいま』って返すパターンじゃん」



  ブルー「……。」

  ブルー「た、ただいま…」ボソ


  アニー「そー、そー、言えたじゃない」ヤレヤレ


  ブルー「そ、それだけの為に声を掛けたのか…くだらん…」

  アニー「くらだん、ってなによ大事なことよ!」


―――
――



 [クーロン]のイタ飯屋はその晩、遅くまで宴会が開かれ
酔いつぶれて床に大の字になって倒れる者もいた

後片付けを終えて、日付が変わろうとする間際に蒼は自室で自分の帰るべき場所を考えていた

時を同じくして、紅もホテル内の自分に割り当てられた部屋で自分が居られる居場所を…




 ブルー「…『ただいま』か…」


 ブルー「そんな言葉を次に使うのは俺がルージュを殺し祖国に戻った時に使うモノだと思った」





全ては、自分の育ての親の為に



華々しい戦果を挙げ、勝利の栄冠を手にして[マジックキングダム]に名誉と誇りの凱旋を果たす

その時、彼は"初めて『ただいま』を言えるのだと"…


自分が本来居るべき場所、帰るべき場所に『ああ、俺は故郷に帰って来れたんだな』と感じられる
心の底から安心できる筈なんだと信じて止まない


 今日、この店に帰って来て、騒がしいアイツ等の顔を見て…『悪くないな』と思っている自分が
少しだけ心の何処かに居るのを薄々気付き始めてしまった


 帰れる場所、帰るべき居場所… ブルーにとっての居場所は何処なのだろうか

―――
―――
―――



 ルージュ「…結局、今日も何も思い浮かばなかった…」


 ルージュ「殺し合いなんてせずとも生きられる方法が、…思い浮かばなかったなぁ」




全ては、自由と自分自身が求める幸せの為に


人間誰しもが幸せになる権利と追い求める自由を与えられる

だが無情にも彼の祖国たる[マジックキングダム]と運命はそれを与えてはくれなかった…



ルージュは考える、今自分が居る、居場所を…仲間達と共に過ごす時間、一緒に居られる場所
それこそが彼にとっての帰れる居場所なのかもしれない

帰るべき場所は、…そこに帰る時は
きっと自分の手は血染めになっていて、背に兄殺しの十字架を背負う事となる


もしも、このまま何の妙案も浮かばねば
帰れる居場所から帰るべき場所に帰るなんてことにもなりかねない…


 帰れる居場所、帰るべき場所…ルージュが向かうべき運命の終着駅は何処なのだろうか

―――
―――


 家族や、仲間、故郷、今あるべき場所、これまで旅立った世界の景色、今視える風景、未来

思う事、想う事……双子はその晩、その意味をずっと考えさせられた――――


************************************




            今回は此処まで!



           ※ - 第4章 - ※



   ~ 想うこと、思うこと。 帰るべき場所、帰れる居場所。 ~


                              ~ 完 ~

************************************


実際のところ逃亡したらマジックキングダムはどれだけ本腰入れて捜索するんだろうな
放置してさっさと次の双子に移行するような気がしなくもないが……

乙乙
少なくとも「お前たちは本当の…」だから他の双子より執着してそう







           ※ - 第5章 - ※



  ~ 資質を得る、という事…② 今ここにある幸福論と旅路 ~





 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
 露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
 額に浮き出る玉汗をハンカチで拭いながらも聖堂へ脚を運び、修士として勤行に励む者のあらば
 快晴からのさして嬉しくも無い贈り物に根をあげ、ポプラ並木の木陰で涼を取る住民…



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない




 そこに聳え立つは国家の象徴と呼べる女神像は広場から少し進んだ先の自然公園で彫られた

 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が授業で習った歴史を確かめ合う様に語らった





 『嘘か誠か、この女神像はこの国の長い歴史を見届けて来た妖魔が創ったらしいな』



 【あぁ!知ってる知ってる、そこの…えっと、なんて名前だっけ?フ、フ、フランクフルト?】

 『フルドな』




 【そうそう!確かそんな名前だったよね!フルドって名前の人が創った女神様の像でしょ】

 『いつの時代からか知らないが噴水広場から下った所にその妖魔の名を冠した工房がある』


 【…そこって誰か住んでるのかな】


 『知らんな、そもそも子供は国の掟に従い出入り禁止だ…』
 『ただ、偉そうな恰好の大人達が入るのは目にするからな、稼働はしてるのかもしれん』


 【ふぅん…大人ってズルいよねー、いっつも子供には何でもダメダメ言ってさー】

 『フッ、同感だな…だがこれを口にすれば大人はいつだって決まり文句を言うさ』

 【内緒にできるのは大人の特権ですよー、みたいな?】

 『そしていつか大人になったら今度は貴方達が次世代の子供から秘密を独り占めしなさい、と』


 【だよねー…やっぱり皆言わるんだねぇ】


 『話は戻るが新年度になると新しい女神の彫刻像が学院に運ばれるんだ』

 【確か、三つくらいだよね】


 『あぁ、学院の何処に運ばれてるのかは不明だが、女神像が三つ…な』

 『子供の間じゃちょっとした七不思議扱いだ』

 【学校の七不思議、腕輪をつけた女神様の像が何処かにあるだよね…】


 『お前は信じるか?そんな話』

 【んー、どうかなぁ、そういうキミは?】


 『さてな、証拠でもあるなら信じてやるさ』
 【ハハハ、つまりは信じてないってことか】


―――
――

********************************************
―――
――






             ルージュ「ハッ!…なんだ夢か」ガバッ





身体が痛い、服装はバスローブ姿で彼はどうやら椅子に座ったまま寝落ちしていたらしい
 本来なら微睡みに沈む前に味わっていただろう身体がよく沈むマッドレスではなく
夜景が良く見える窓際の椅子に座り、シックな黒塗りの机に広げた日記帳を枕にしていたらしい
 猫の様に折り曲げた背中は椅子の背凭れからは遠く、授業中に居眠りする学生の宛らの恰好で
広げたページに涎の跡なんかも残してしまったのが妙に恥ずかしい

そのページだけ綺麗に切り取って丸めて屑籠目掛けてロングシュートを決める



 ゲンが支払ってくれたホテルでの宿泊でゆったりとした休養を送り
入浴後に長い艶のある銀髪をルージュは乾かしていた、濡れた髪が渇いた後まだ眠る気がしなくて
バスローブ姿のまま、日記帳に冒険の記録を残していた辺りで
コックリ、コックリと夢の浅瀬へ向けて彼の意識は櫂<かい>を漕ぎだしていたのであった



 着替えもせずに、そのまんまの姿で寝てて風邪を拗らせなかったのは室温調整が完璧な
お高いホテルだったからだろうか…、そんなことを考えながら紅き魔術師は再びシャワーを浴び
眠気をすっ飛ばして後で普段着に着替えた




 ルージュ「…あっ、涎垂らしたページだけ破って捨てたから昨日の分、丸々書き直しだ」ガーン




今から急ぎで書けば白薔薇さん達が起床するまでに間に合うだろうか?

そう考えながらペンを握った彼は時計を一瞥してから急ぎで作業に取り掛かった






 【双子が旅立って 7日目 午前5時12分 [マンハッタン]:ホテル(ルージュの部屋)】



―――
――




 ゲン「おう、起きてたのか兄ちゃん」ブンッ!ブンッ!


 ルージュ「ゲンさん、おはようございます!朝の素振り練習って奴ですか?」

 ゲン「ああ、…しっかし、世の中何があるか分かんねぇモンだな」


 ルージュ「えぇ、まぁ…昨日は色々度肝を抜かされたといいますか何というか」


 ゲンとT-260はこのリージョンへ知り合いだったらしい博士を訪ねてやって来た
数日会わなかった合間に故人となった彼にせめて追悼の言葉でもとレオナルド博士の職場に
通して貰えないか、以前博士から渡された許可書を見せて役人にゲートを開いて貰い研究所の中へ
彼等は入れて貰える事となった、丁度、携帯電話の契約を済ませたルージュ等も同行して



 …まさか、その博士が自分が死んだ時の事を想定して、脳をコピーしてロボットに移植してた

そんなこと誰に予測できようか


―――
――


【時間は遡り 双子が旅立って 6日目 午後14時24分  [マンハッタン]レオナルド・ラボ】





 -『今そこに居るのはT-260G君だね、済まないがそのスイッチを押してくれ』-



ゲン「な、なんだぁ!?死んだはずのレオナルドさんの声がするぞ!?」バッ

ルージュ「えええぇぇぇぇぇ!?まさか、お、お化け!?」

ゲン「なんてこったい!!レオナルドさん成仏できずに…」



アセルス「いやいや、二人共落ち着きなってコレどうみてもあそこのスピーカー音声だから」



白薔薇「とりあえず、声に従い、"すいっち"とやらを押すべきでは…」

T-260「了解」ポチッ



 ゴゴゴゴゴゴ…!ウィーン!パカッ


 謎のロボット「…ふぅ、いやぁ~君達が来てくれなければ何時までもこのままだったよ」


 ゲン「…。」アゼン

 ゲン「もしかして…アンタぁ、レオナルドさんなのかい?」


ルージュ/白薔薇/アセルス「「「えっ」」」



 三人は頭に疑問符を浮かべた、彼の言う人物はこの研究所の一番偉い人で数日前の爆破テロで
お亡くなりになった故人で、目の前のロボットがその故人だそうな


  ま る で 意 味 が 分 か ら ん ぞ !!!


レオナルド「こういう事態に備えてボクは自分の人格マトリックスをこのメカに移していたんだ」


ルージュ「ええっと…つまり?」


レオナルド「T-260G君の新しいお友だちかな?初めましてボクがこのラボラトリーの主人」

レオナルド「レオナルド・バナロッティ・エデューソンさ、簡単に言うと自分の脳をコピーして」

レオナルド「人間のボクの身に何かあったら、このロボットの身体で生きれる様になるってコト」



 メカになったからこそ分かる、生命力が異常値を検出する妖魔が複数いるから
機械文明に疎い人にも分かりやすい簡単な説明が必要とされると

 肉体は機械になってしまったがそれ以外は以前と何ら変わらないと、寧ろメカになった事で
病気にもならず、疲れ知らずで働けるので便利だと…

唯一の残念なのは自分が好きだったバーガーショップでハンバーガーが食べれない事だと言ったが
それもロボット化した自分の肉体に味覚機能と食物消化機構を取りつければ良いと発言した


…ルージュ等は何となく、ゲンが言っていた"変わり者"の意味を理解した気がした

―――
――


【そして、現在…】




 ゲン「…まぁ、元気そう(?)で何よりだったな」

 ルージュ「あっ、はい、ソウデスネー」



二人はこれ以上考えることを止めた…とりあえず生きてて(?)良かったそれでこの話はやめよう



 ルージュ「でも、そうなるとゲンさん達ももう出発するんですか」

 ゲン「おう、アイツの無くなった記憶の手がかりがあるかもって言ってたしよぉ」



 昨日、復活を果たしたレオナルド博士にT-260は自分達の調査結果を話した
[シンロウ]にあった古代のリージョン・シップの残骸から幾つかの要になり得るキーワードを入手
そして、それを解析する為に博士の協力が必要で…[マンハッタン]に帰って来る道中で[京]に居た
ルージュ達と知り合いになったことなどを説明した


 博士の方は、事故に遭う直前までしっかりとT-260の失われた記憶を取り戻すために
古人で調査を続けてくれたのだが、曰く、トリニティの調査セキュリティーに引っ掛かり
それ以上先へ情報を得る事ができないとこのこと


そこで、準備が整ったらトリニティの中枢部―――通称[タルタロス]と呼ばれる場所の内部にある
中央情報室に向かうという方針になった


銀河全体を統治する政治機関トリニティの重要機密を保管している場であり、やはり警備も厳重で
博士程の権限を持つ上層の人物でもそう簡単には閲覧ができない

 だから、博士のラボにあるコンテナに入って、こっそり忍び込んでしまおうと
これまた危ないお話になったのである、世話になった身だし手伝おうかと妖魔女性組も赤き術士も
名乗り出たのだが、これは自分達の問題から気持ちだけ受け取っておくと断られた



 結局、ゲン、T-260、そしてレオナルド博士と特殊工作車、ナカジマ零式の人間1人(?)と
メカ4機(?)のパーティー構成で武具を揃えてから突き進むという事らしい…




  ルージュ「ゲンさん、本当にお世話になりました…お気をつけて」ペコッ

    ゲン「へっ、気にすんなよ、それよりあの逆立った髪型の坊主に会いに行くんだろ?」

    ゲン「ダチは大事にしろよな」肩ポン


  ルージュ「はいっ!」



 午前7時を少し過ぎた辺りで起床し既に一通りの身支度を終えていたアセルスお嬢と白薔薇姫と
ホテルでの朝食を口にし、シップ発着場へと向かった…


3人が手にしたチケットには自然豊かな畑と酪農…そして酒造の聖地と呼ばれる田舎の地名があり
それを持って、宇宙船<リージョン・シップ>に乗り込んでいく姿を見送る剣豪とロボット達


 宇宙<ソラ>へと飛び立つ船を見上げ「達者でな、元気でやれよ」と
鉢巻を巻いた剣豪は胸の内でそっと呟いた







 ゲン「さぁて、俺達も準備すんぞ!!レオナルドさんよ!戦力強化の当てがあるんだって?」

 レオナルド「うん、まず[クーロン]へ行こうか、裏通りにちょっとした知り合いが居るんだ」

―――
――




 ヒュゥゥゥ…


   スタスタ…





 レッド「…遂に、船を降りちまったなぁ…」





【双子が旅立って 7日目 午前11時28分 [ヨークランド]】



 歳は19でまだ成人式さえ迎えていない少年が一人、肩に紐を通したナップサックを背負い
そのまま手首には古い革トランクを持ち、先程まで自分が乗船していた"白鳥"が去っていく姿を
歩きながら眺めていた


少しカラカラとした乾いた風が吹き、砂埃が舞う


 この時期、[ヨークランド]は特に乾燥が著しく、また湿度が少ない所為か喉がパサつく
だからこそ自然の恵みたる水と果実が美味く感じるのだと住民達は朗らかに笑うのだが

そんな土地に彼――レッド少年が降り立った事の経緯を簡単に説明しよう




 ルージュ、アセルス、白薔薇の3人と別行動を取る事になった彼はその後も
キグナス号の乗務員として働き古代遺跡探索ツアーと武術に覚えのある猛者が集まる仮面武闘会で
有名な惑星<リージョン>…[シンロウ]へとやって来た


 船の燃料や、食料品等の必要物資の積み込み作業が終わるまでクルーは自由行動を言い渡され
レッド少年もまた観光がてらに武闘会を観戦しに行こうと[シンロウ王宮]へ赴いた




 -『今大会も強者揃いだな!』-

 -『前回のあのピンクタイガーとか言う女性レスラー以上の奴はいないだろ』-

 -『あぁ、居たのぅ、そんな娘さんが…身体つきがイイ女じゃったなぁ…イデデ!?』-

 -『爺さんや、浮気はゆるさんぞ』-



 レッド『へぇ~…賑わってんなァ』キョロキョロ

 BJ&K『参加なさらないんですか?』ウィーン


 レッド『俺?…そうだなぁ、出る理由が―――!? 隠れろ』バッ!

 BJ&K『――へ』ガシッ




  レッド『…あの後ろ姿、間違いねぇ…父さんの親友だったDr.クライン…っ!』

  レッド『ブラッククロスで改造怪人を創る悪の科学者となり果てた野郎がなんで此処にッ!』



 悪の組織の科学者として、多くの怪人を誕生させた狂気のマッドサイエンティストを何の偶然か
彼はそこで見つけ、家族の仇の情報を得ようとレッドは大会に出場することを決意する
 この大会の裏、主催者側ともDr.クラインは何らかの繋がりを持っている事を調査で知ったから



 レッド『…すまねぇ、急用ができた、此処で少し待っててくれないか?』

  BJ&K『了解しました、でもすぐに戻ってきてくださいね』


 タッタッタ…!


 レッド『この曲がり角なら丁度、人が居ない…変身ッ!アルカイザー!!』ペカーッ!!


 アルカイザー『…よし』タッタッタ…!



 受付『大会出場ですか?ではお名前を…』


 アルカイザー(名前…レッドなんて馬鹿正直には言えねぇよな…?)


 アルカイザー『レ…レ、レ』
 受付『レレレ、様ですね!わかりましたリングネーム<レレレ>様、ご登録完了です』

 アルカイザー『えっ、ちょ』



―――
――




 アルカイザー『ぐあぁぁっ!』

 図体のデカい悪の組織の幹部『フハハハハ!中々やるようだがこの[仮面の巨人]様は無敵だ』

 図体のデカい悪の組織の幹部『中々骨のある大会参加者だが試合の相手が俺様とは運の無い』


 図体のデカい悪の組織の幹部『何度、拳を打とうとも見切ってみせるわぁぁ!!』[スウェイバック]



 順調に試合を勝ち抜いていくアルカイザー、いやレッド少年…!
しかし、ここにきて何故か妙に強い巨人系統のモンスター族の参加者と決勝試合をすることになる


その対戦相手は何とッ!!レッドの格闘技を見切り、全て回避していく…ッ!

馬鹿な!ヒーローアルカイザーの筋力を以てしてもこうも躱される等と…一体何者なんだッ!?





 図体のデカい悪の組織の幹部『ハーッハハハ!ゆくぞ!喰らぇい必殺[雷炎パワーボム]ゥゥ』



 アルカイザー『くっ!…俺はこんなトコで負ける訳には行かないんだァァァァ!!』ピコン!


 仮面をつけた正体不明の謎の参加者相手に滅多打ちにされるレッド少年…
自分はこんな所で正体不明の一般人相手に倒されてしまうというのか…ッ レッドは負けられない
ここで優勝することで家族の仇に手が届くかもしれないからだ


彼の闘志は、暗闇の荒野に灯りを灯す


明光が射した、真っ暗闇な脳裏に豆電球でもついたかの様に、気づけば拳を前に突きだし叫んでた



  アルカイザー『射抜けぇぇ[アルブラスター]-――ッ!』


光り輝く拳――[ブライトナックル]が再び来るかと正体不明の大会参加者は身構えていた
 だが、放たれた輝く拳は明らかに自分には届かない、空虚を殴りつけるだけの動作でしかなく
ついにレッドが相手と自分の距離感すら掴む程ダメージを負い過ぎたのかと最初は思ったらしい



 刹那、彼は自分の思い違いを思い知らされた


 レッドが今までの殴打技とは全く違う技名を叫んだからだ、何も無い空間を殴りつけた拳の光は
一層強まり、輝きが最高潮に達したかと思えば暴発するように腕の先からそれは飛び出した



名は体を表す。

彼の迸る闘志、生命エネルギーがそのまま放出され目の前の正体不明の参加者を射抜いた




 アルブラスター『 』ビュンッ!

 アルブラスター『 』ビュンッ!

 アルブラスター『 』ビュンッ!




 図体のデカい悪の組織の幹部の腹『 』ボコォォォッ!


 図体のデカい悪の組織の幹部の仮面『 』バキッ!パリーン





 図体のデカい悪の組織の幹部『ぐ、ぼっ…お、おぉ…』ドサッ



 図体のデカい悪の組織の幹部(し、しまった…俺の仮面に罅が――クソッ)

 図体のデカい悪の組織の幹部『飛び道具とは…油断した』サッ



 巨人タイプのモンスター特有の巨大な掌で[仮面の巨人]は罅の入った仮面を、素顔を晒すまいと
顔を覆い隠した、仮面武闘大会だから素顔を晒す事はタブーであるが、この男の場合はもっと違う


この巨人は故あって他者に自身の顔を見られたくないのだ、特に警察関係者に…

 だから不必要に顔が世間に割れる様な事は厳禁だ
それも『強者との闘いが趣味で武闘会に遊びに来て油断しまくった結果バレました』では
冗談にすらならないのである





 図体のデカい悪の組織の幹部『ふっ、だいたい見切らせてもらったぞ』ニタァ




 図体のデカい悪の組織の幹部『悔しいが降参だ!』バッ!ササッ…!



 かくして仮面をつけた正体不明の妙に強い大会参加者を倒したレッドは、優勝を果たし

 Dr.クラインの後を追跡したのだが…肝心な所で逃げられた挙句
まるで狙いすましたかの様な絶妙なタイミングでキグナス号から帰還命令が出された





――――それもあって、彼は決断した


 自分は、このままキグナス号の乗務員として働いていては何時まで経って仇が討てない


                    …船を降りよう、と


 元より、親友達の旅路を手伝うことも頭の中にはあった

だから"有給休暇届け"を出すのではなく、"退職届け"を出すことに決めた

 両親を亡くしてから、ずっと世話になった上司であり恩人の機関士ホークに
礼と、船を降りる事を告げて彼はこの日、[ヨークランド]の地に降り立ったのであった


―――
――


そして冒頭へ戻る…


 レッド「…遂に、船を降りちまったなぁ…」

 ヒュゥゥ…



 レッド「暖かい風なのにな、少し寒いって思うのは寂しさのせいかな」


 BJ&K「でしたら、生姜の湯を精製しお出ししますか?」ウィーン

 BJ&K「私の体内機械構造なら簡易漢方薬くらいは直ぐ作れますよ、体温が上昇します」


 レッド「お前なぁ~…」


 BJ&K「冗談です、ロボット冗句です」ウィーン

 レッド「…やれやれ、…着いて来てくれてありがとよ」


 BJ&K「命令されましたからね『俺の傍から離れても壊す』と、だからついて行きます」

 BJ&K「自分の為、また貴方の健康をお守りする為、レッド…貴方について行きます」


 レッド「…あん時はちょっと荒っぽい口調で悪かったよ」

 レッド「改めて着いて来てくれてありがとう、おかげ独りじゃなくなったからさ」ポリポリ



 レッド「コホン、と、とにかくアセルス姉ちゃん達探そうぜ!!もう着いてるっぽいしな」



 急に気恥ずかしくなった、ロボット相手とはいえ、柄にもない事言ったなと顔を赤らめ彼は
明後日の方角を見ながらわざとらしく声を大きくして言った


 自分がこの惑星に降り立つ数刻前に、3人は既に到着して[杯のカード]に関する情報を得ようと
駆けまわっているらしい


そう広くない村なのだから、すぐに見つかるとは思うが…




 とりあえず、それらしい人を見かけなかったか、住民達に聞き込みに行こう
紅い法衣を着込んだ魔術師と緑髪の少女、後は頭に花飾り付けた貴婦人は居ないかと


レッド少年と医療メカはそう決めて、早速第一村人に声を掛けようと村の入り口へ脚を運んだ




  「あっそ~れ!イッキ!イッキ!」
  「ひゅー!いい飲みっぷりだよぉ!」
  「そらそら、酒はたーんとあるぞォ」


  ルージュ「んぐっ、んぐっ!ぷはぁ~…美味い//」トローン


  レッド「って早速居たァァァ!!!普通に居やがったァァァ!?」ガビーン



第一村人発見ッ!からの聞き込み調査ドコロの話で無かった、村に足踏み入れて2秒で遭遇だった



 アセルス「…んっ、はぁぅ…///」トローン

 アセルス「うふふ、なんだか少し酔いが回って来たのかも…」


 レッド「うぉい!?姉ちゃん17歳!未成年だから―――あ、でも姉ちゃんは…いいのか?」ハテ

 レッド「ってそこじゃねぇ!カードはどうなったんだよ…」





この時期、[ヨークランド]の空気は乾燥していて喉がパサつく
            …がレッドのこの喉の渇きは気候の所為ではない



 レッド「ぜぇ…ぜぇ…喉乾いてきた」


 白薔薇「まぁ…レッドさん、でしたら此方はいかがでしょうか」つ『果物酒』


 レッド「…」


とりあえず、柔らかな聖母の様な微笑みを携えて酒の入ったグラスを手渡した白薔薇から受け取り
それを飲み干すことなく、説明を求めた



  ルージュ「んと、ね…ここでカードの試練について聞いたんだ…そしたら~」



―――
――



  レッド「…つまり、話をまとめるとだ」

  レッド「[杯のカード]を得る為には酒蔵の人に話を聞かなきゃいけなくて…」

  レッド「そこで一番度数の高いアルコールを全部飲み干さなきゃ住民は情報を一切教えない」

  レッド「そういう掟があるから、それに沿って皆でこうして陽の高い内から飲んでるのか」



 ルージュ「そーそー、…ゲンさん居れば楽勝だったなぁ~」フラフラ


 若干呂律が廻らなくなりかけているルージュと、千鳥足気味になっているアセルス
そして何も無い空間に向かって「あらあら~、うふふ」と気品溢れるお喋りを嗜む白薔薇姫



レッドは思った、キグナスに帰りたい。



 レッド「…まぁ、それが試練だってぇならしゃーねぇよな」ポリポリ


 「んん~、坊主も試練を受けるのかい?」
 「そういうことならウチの酒蔵に寄って来な、そこでたーんと酒飲んでもらうぞえ」
 「儂らの自信作じゃ!飲まん奴にはカードの事は教えてやらん」


 レッド「うっ…」


 「言っとくが若いの、ズルはよくないぞ、ちゃーんと皆酔っぱらうまで飲むんじゃ」




 それから……





【双子が旅立って 7日目 午後11時58分】


 レッド「う"っ…気持ちわりぃぃ…」


 ルージュ「レッドってばお酒弱いんだねぇ~」アハハ



 酒蔵を数軒、廻り一体何杯飲まされたことか、[マジックキングダム]の術士ゆえに
術力回復の[術酒]を慣れるまで飲まされたルージュや妖魔になった事で体質が強くなったのか
はたまた、人間だった頃から耐性があったのか酒に強かったアセルスと比べレッド少年は
酒蔵巡りを半分終える前からグロッキー状態であった


…気合でなんとか最後まで飲み切ったが



 詳細をまだ聞かされていないから試練内容の実態が掴めないが、どうやらここでの修行は
酒を飲んで酔うことに意味があるらしい




耐性を持っていた三人でさえ、ぐでんぐでんになるまで何度も飲ませ

逆にレッドは"酔ったことさえちゃんと確認できれば"それで良いと言わんばかりに少な目の酒



明らかに個人個人で飲ませる量が違ったのだ



  「いやぁ、イイ飲みっぷりだね、今すぐ酒神さんの祠さ、行ってみるだよ」



覚束ない足取りと、情報を整理できない頭で、4人は"祠"とやらを目指す事になった





 BJ&K「私が集めた情報によりますと、この先にある沼地の奥に祠があるそうです」ウィーン




 …酔う、酔わない以前の問題であるロボットがパーティーに居て良かった
背中を押されながら、どうにか4人は鬱蒼とした森の先にある沼地へと辿り着く…


 [ヨークランド]の天然水が山から流れ、その水が地下の水脈を巡り、この湿地帯へと辿り着く
水そのものは美しく、また身体に優しい成分に溢れておりペットボトルにでも入れて
売り捌けば銭儲けにすらなる、暑く、寝苦しい夜に素足を浸けて涼を取るにも最適なのではと
そう思える程の良い場所とも思えるだろう―――…一見すれば


では、何故このような暑い日に村人は沼地に近づかないのか、試練の場だから?

神聖な場所扱いして誰も来ないとかいう理由だろうか?




いいや、違う





誰も来ない理由を4人と1機はすぐ知る事となった


 沼地、というだけはある鬱蒼と生い茂った寒枯蘭<カンガレイ>や黄色い花を咲かせた河骨を見かける
一帯が寿樹のサークルに囲われているのも関係しているのか、水草と水面の色、日光の当たり具合
それらが絶妙なバランスで成り立ち花萌葱の絨毯が視界一杯に広がっていた


 一歩、片足を前に差し出す…ぬちゃり、と泥濘を踏んだ時特有の音がして、靴底越しに
心地よいとは言い難い感触を覚えるところだ、幸か不幸か酔っぱらっているが故に4人の感覚は
嘗てないほどに鈍っていて、うっかり沼水に勢いよく突っ込み靴が完全に浸水しても気に止めない





…靴下までびっしょりとずぶ濡れでそのまんま、浸水した靴を履いて歩き続ける



 素面に戻ったら女性陣が悲鳴をあげそうな状態ではある
水虫・水ぶくれの主原因となる白癬菌にとってこれほど喜ばしい事があるものか



 はてさて、そんな未来の心配はさて置き、4人は沼地の奥にある祠を目指してふらつく足取りで
丸太橋を渡ろうとしていた、雑木林の抜け道を越えてそこから地続きで途中までは行けたものの
道中で道が完全に水没している箇所がある…山岳部から低地まで下って来る湧き水を初め
雨季の例年と比べ予想外に多い降水量などあらゆる要因はあった
 何れにしても、脚の脛までなら我慢したとして腰までざっぷりと水に浸かる気はない
元は流木だったのだろう、太い丸太が丁度良く渡り橋の様になっていてくれた



  ルージュ「うっ…脚が、真っすぐ進まないよ…おえっ」グラグラ

  アセルス「ちょ、揺らさないでよ!…あぅ…私まで気持ち悪く…」ヨロッ


  白薔薇「あ、アセルス様…!」ガシッ


  アセルス「うぁ!?た、助かった…ありがとう」


  白薔薇「いえ、置きになさら―――うぅ、すみません私も」フラッ
  アセルス「えっ」



 バッシャーン!!


 ふらつきかけたアセルスに手を伸ばし、白薔薇は彼女を支える事に成功した―――のは束の間で
その直後に少女の身体を支えた筈の彼女がそのまま足を踏み外して丸太橋からあわや転落
ガッチリと緑髪の少女を掴む手は最後まで離さなかった…、つまり"そういうこと"である



  レッド「やべぇ!二人が落ちた!! うおえぇぇ…やべっ、吐きそ―――」グラッ、バッシャーン


  ルージュ「レッド!アセルス、白薔薇さ―――ばべっ!?」ツルッ、バッシャーン



 後ろを振り返り、クルリと回った瞬間に落ちて行った赤の後を紅が追って落ちた
一層綺麗な美様式か何かのようなシーンである





  BJ&K「…。」ウィーン

  BJ&K「あー、お助けしましょうか?」



落下原因:酔っぱらない



そんなこんなで芋づる式に落ちて行った生命体4人を無機質な機械が眺めながら答えた

若干、音声に呆れが混じっている気がするが、きっと気のせいだ



  アセルス「…。」(泥んこ状態)


  アセルス「うえぇぇぇ……」グズグズ

  白薔薇「アセルス様、泣かないでくださいませ…そんな私まで、うっ、ううぅ…」グスンッ


  レッド「うっ、おげえぇぇぇ…き、気分わりぃ…」

  レッド「BJ&K~、引き揚げてくれぇ…」グデー



  ルージュ「…」(頭から水面に突っ込んで未だ起き上がらない)ブクブク



 酒臭い匂いがプンプンする男女4人が沼に落ちて全員びっしょ、びっしょに濡れた
泥だらけのお嬢ちゃんは泣き上戸か何かの様にワンワン泣いて、隣の従者も同じく

お酒に耐性の無かった坊ちゃんも込み上げる吐き気と気怠さに悲鳴を上げ

紅き術士に至っては水面から上がってすら来ないという…



      こ の 始 末 で あ る ッッ!!






 BJ&K「……」ピピッ

 レッド「ぁんだよぉ、早く引き上げ…うげぇぇぁぁあ…」


 アセルス「うえぇぇ…やだぁ、もうやだぁ!お家帰りたい…」ポロポロ

  白薔薇「うぅ…ひっぐ、…」


 ルージュ「  」ブクブク




 ………


 ………『何か』…『何か』が"奇妙"だ…








 レッド「う"っ―――おぇっ…た、頼む、マジで早く…苦しい」ハァハァ…


 アセルス「どうし、て…私、人間じゃなくなったから…おばさんも皆も私が怖いの…」ポロポロ

 白薔薇「…涙が、涙が止まりません…あぁ!目が、…視界が涙で…何も見えない…っ」グスッ



 ルージュ「 」ブクブク…

 ルージュ「 」ブクブ…


 ルージュ「 」



…………何かが…ッ! これは、『何かが"おかしい"…ッ!』この事態は良くない

…何かよくわからんが『異常』だッッ!!







                  チャプン…









 水音がした。




 少女も貴婦人も少年と術士もそうだ、皆が水中に居て抜け出すことが叶わずに居る
その様子を丸太橋の上から不動の医療メカが眺めている




 では、今の水音は"誰"の物だ?





 比較的症状がマシなレッド少年は背筋に冷たい物が這う感覚を覚えた
酒気に狂わされ愚鈍となった一行の中で、この瞬間に限り彼の感覚は鋭さを取り戻した


脳が警鐘を鳴らす、このままではよくない事が起こると…






 ―――レッド少年が背後で蠢く一本の"触手"を目視すると同時であった







   BJ&K「ピピッ―――確認完了、【状態異常】を検知、【毒】【混乱】【暗闇】【睡眠】」

   BJ&K「また強い敵対生物の存在を確認!直ちに退避を――――」




      ザッバァァァン!!


 突如、水面が割れた…っ!薄いボール紙の蓋を破るかの如く"ソイツ"は無数の触手をうねらせ
身動きが取れない4人と1機の前にその全貌を露わにした



               【 酔いが回る…! 】キィィィン!!



頭の中に、一文の文字が浮かび上がる、世界がぐにゃりと歪み虹色の輪郭がブレる

 レッドは"戦闘"が始まって早々に膝をつき吐き気と気怠さに苛みッ
 白薔薇は武器を構え仲間を守るべく立ち上がるも剣先は敵の姿を全く捉えていない…っ!
 アセルスに至っては、頭を抱えて蹲り、まるで数日前の[カウンターフィアー]を受けた時と同じ

 ルージュは…水底に沈んだまま、浮かび上がってすらこない…まさかそのまま溺れたのか!?



 獲物がやってきた…
     にやりと顔を歪め…[ヨークランド]の沼地"名物"――[クラーケン]は笑った

沼地はマジできついんだよなあ…水耐性つけてからいかないと

沼地はロボ揃えて無理矢理突破するわ

イカ出る前に序盤で突破やろな


 北欧神話に語り継がれる帆船の舵を取る船乗り達から畏怖の念を送られら大海の怪物
その名前を冠した巨大烏賊の魔物に目玉が飛び出そうな程の衝撃を受けた

 何せ[クラーケン]は【危険度ランク9】――トリニティ政府が定める危険生物認定の最上位種だ



近隣住人が沼地に近づかない理由はこれである

 [ワカツ]でもの天守閣でも経験したが、"カード"がある場所というのは一種のパワースポットと
なり得る、酒神を祀るという祠も力が収束される特異点の1つであり
 必然、スポットに近いこの沼地は強いモンスターが自然と集まるようになっている


水棲系モンスターで[ガイアトード]運が悪ければ[玄武]がよく出没するという魔境である


 …尤も、今回の場合は余程の"引きの悪さ"だったのか、ババ抜きで言う所のジョーカーを引いた

滅多な事では現れない[クラーケン]をよりにもよって引き当てたのだ



  レッド「マジかよっ!…うぶっ!?」オエェ…



 試練、それは何も知らされていない彼等は祠に行ってから何かがあるものだと考えた
タダでそう易々とカードが手に入る筈が無い[ワカツ]で影を揃えた時と同じ何かしらはある物と
そう身構えては居たがこれは完全な想定外だ


『辿り着いてから試練が始まる』……ではない、『辿り着くことそのものが既に試練』なのだ


 二つの意味で溺れる程の酒を飲み、千鳥足で更に体調も絶不調
道中凶悪極まりないモンスターの巣窟を、それこそ彼奴等の縄張りに足を踏み入れてはならない
その条件付きで一つの目的地に向かうというのが"[杯のカード]の試練"なのだ


…考えうる限りの最低最悪のコンディションで地雷源をタップダンスしながら進め、と




  クラーケン「~~~~~」スッ、ザバァァ



 巨大烏賊はゆっくりと10本ある触手を水中から引き揚げ天へと振り上げ
そのままの姿勢を維持した



   白薔薇(…?襲ってきませんの…)


 涙が止まらなくて、武器の先端が未だ烏賊から若干逸れた所を狙う白薔薇姫は酔いで
碌に回らない頭で必死に考えようとした、潤んだ瞳は巨大烏賊の姿を薄らと捉えては居る
 また、耳に異常はない為、触手が水底から帆船の錨の如く引き上がった音も聞こえた為
相手が今どのような状態でいるかも何となしに分かるのだ



…分からない、いや、"解"らない事があるとすれば、何故その態勢で止まるのか


普通腕を振り上げたのなら敵に向かって殴りかかるなり振り下ろすなり何かしらの行動に出るもの
対して目の前の[クラーケン]は一切動こうとしない、"まるで何かを待っている"様に



  白薔薇「あぁぁ!?いけません!!みなさん、何かに掴まりながら身を守ってくだ――」



 白薔薇とレッドには違いがあった、倒したモンスターを吸収する妖魔という種族は
それなりにモンスターに対する知識を持つ必要がある

力を吸うことで自らの強化へと繋ぐからこそ最低限、対処方法などを学ぶものだ


 当然、貴婦人はこの【危険度タンク9】と認定される災害クラスの怪物が持つ特徴を知っている
この巨体が触手を振り上げた時、それは――



       クラーケン「ギュブブブ!ブゲゲェ!」


 何とも形容しがたい奇怪な声を上げた化け物に突如として沼の水が集まりだす
風呂桶の底についてる栓を抜いて、そこから水が流れ出す時を想像して欲しい…ある一点に向かい
そこにある液体が集結するように流れ出すイメージを…っ!




     [クラーケン] を ちゅうしん に みず が あつまりだした !






                      ――――【メイルシュトローム】ッッッッ!!





 ズボォォォ"ォォ""ォ"ォ""" ォ""――― ザッバァァァァァァァァン!!





 彼奴に吸い寄せられた水は巨大軟体動物の身体に這い上がる様にくっつき、やがては埋め尽くす
道端に落ちた苺味のキャンディーに蟻が押し寄せあっという間に全体を赤から黒一色に染め上げる
ソレに似ていて水は[クラーケン]の身を覆い隠す程の壁になった

 巨大な円柱状の水柱、天辺からは振り上げたままの触手が10本そのまま露わになっていて
傍から見れば水色の胴体と吸盤付きの触手が生えた磯巾着と見間違うことだろう


 白薔薇の何かに掴まり身を守れ!という咄嗟の警告も虚しく、磯巾着、否、巨大烏賊は
うねうねとした触手を10本同時に振り下ろした



 彼奴の胴体を中心に傘の受骨と同じで中心から廻りまでぐるりと四方八方に均等な位置にあった
触手が鞭打った音を叩きだしながら水面を叩き付ける、するとそれを合図に身にまとった
沼水が一斉に流れ出した


 付近の丸太や、水底に沈んだ大岩、色んなモノを抱き込んで暴力的な水流が全域を襲う



―――当然、4人と1機にも


 ドゴォ!バキャッ!メシャシャァァァ―――!!




 そのまま水圧を直に受けて身体が悲鳴を上げる、流されて大層樹齢のありそうな寿樹に
身体を叩き付けられてそのまま水流に押しつぶされそうになる痛みと飛んでくる流木や土砂が
容赦なく生身を痛めつけて来る





…やがて、水が引いたかと思う頃には





 レッド「ぐ、は……はぁはぁ、クソ、いきなりピンチかよ……!」




アセルス「」(戦闘不能)

白薔薇「」(戦闘不能)



 額から血をどくどくと流しているアセルスお嬢――おそらく流れて来た偽礫岩に当たり
少し離れた先に白薔薇姫が見え、膨らみのある胸に尖った枝が深々と刺さり血を流していた



…この時だけ彼女等が、人間<ヒューマン>でなくて良かったと思える





胸部――心臓を深々と棘枝で串刺し、それと頭部を勢いのついた岩による強打


普通に考えてこんなモン並みの人間なら間違いなく即死レベルである




 レッド(ぐっ、身体は…まだ動かせる…ルージュは…BJ&K…!)チラッ



 へし折れた雑木林の樹々、澄んだ水に土砂が混じり濁り切った沼、倒れた太い丸太の裏に黒煙
耳を傾ければ機械の電気系統がショートしたような音が聞こえて来る
 おそらくBJ&Kはあそこにいるのだろう…この惑星に来る前に装備させた防具で耐久は増してる
煙こそ上がっているがまだ動ける筈だ


問題はルージュだ、目をきょろきょろ動かして見える範囲に彼の姿が無い


まさか流されたのか、それとも…



 レッド(いや、アイツに限ってそんなことあるもんか!それよりコイツをどうにかしねぇと)


嫌な想像が頭を過ったがそれを打ち消す、大技【メイルシュトローム】の反動で烏賊も隙ができた
 考えろ、ここで優先すべきは何だ…!


ここで判断を誤れば全員の死に直結しかねない


攻めるべきか、それともありったけの回復薬をつぎ込んで態勢を立て直すか…!



  レッド「迷って、る時間は…ゴホッ、ねぇ…っ!―――スゥゥゥ [克己]!!」シュィィン!



眼を瞑り、心を落ち着かせる

 息を整え自分の体内にある"気"の流れを掴み、生命力を巡らせる…!
あの日、友人達と共に観光がてらで取った[心術]の資質も無駄ではなかった
 内臓から皮膚の表面まで、内から外、漲る生命力が彼を瀕死の状態から万全まで戻す




  BJ&K「ピピッ!状況判断完了…、みなさんは最悪意識さえ取り戻せば[克己]で回復可能」

  BJ&K「私は私のボディーを治します…!」スッ


 [インスタントキット]を取り出し、器用に自己修復を行うメカ…いくら数の上で有利とはいえ
そんなアドバンテージ軽く吹っ飛ぶ力量差というモノがある



 深手を負ったままの自分が考え無しで無謀にも突っ込んで返り討ちでは笑い話にもならない
攻勢に打って出るよりも守りに徹した



  クラーケン「グゲゲ!ケェー―-ッ!」ジャッバァ!!


沼地の怪物は水上を滑る様に動き襲い掛かる…っ!


 10本の触手を伸ばし、それを鞭として扱う、厄介な事に得物は本物とは違い生物の体の一部
叩き付けるべく振り下ろせば上下に動き、薙げば慣性に従い弧を描く動きをしてくれる訳ではない
それこそ変幻自在に動かせるから対処に困るのだ



 クラーケン「ギュベゲッ!」ヒュッ!


 触手『』ブンッ!

 触手『』シュルッ!バッ!



  ―――ドッバァァァン!!



 何もいない、水面目掛けて触手を振り下ろした、その動作に完治した彼等は疑問を抱いたが
直ぐに分かった―――ルージュだ、水中に彼が居て彼奴は何らかの理由で浮かんでこない彼に
更なる追い打ちを仕掛けたのだと


 答え合わせだと言わんばかりに、ほどなくしてルージュの姿が目についた

 水面に浮かんだ彼が来ていた紅い魔術師の法衣の裾が少し破けていて
更に彼の丁度真横に浮かび上がった"根っこ"だ

 マングローブの根っこに似た沼地に自生し、水底に根を這わせる植物の根に
見覚えのある布がついていた…彼がさっきから浮かんでこなかった理由が漸く分かった
 ふらりと落ちた彼は【睡眠】状態になった上に服の裾が木の根に刺さったんだか
引っ掛かったのか不運の重なり合いで動きを取られ眠ったまま水面に浮かぶことすらできずにいた

 そこへ【メイルシュトローム】が来て、水中の紅き術士を容赦なく襲い
現在進行形で今も触手に嬲られているということだ



 クラーケン「ギュィギュィィィ!!」ブンッ
  触手『』ブンッ!ゴスッ!

 ゴシャァ!


ルージュ(戦闘不能)「 」LP-1


 クラーケン「ギュバァァァ――ァァァッ!!」ズババッ!


 触手『 』グルッ

 ギチギチ…!ミリミリ!


アセルス「ぅ、…」LP-1



 レッド「っ、クソイカ野郎!!BJ&Kはルージュを頼む!俺は――白薔薇さんを救う!」


 視界に入れるだけで苛立ちを覚える顔を蹴りつけてそのまま脳天に剣をぶっ刺してやりたい
餓鬼の頃さんざん世話してもらった恩人の少女を苦しめる敵に怒りを抱かない筈がない

 激昂した、こいつは俺がぶちのめしてやりたい、とそして同時に彼の理性が何を優先すべきかを
煩いくらいに自身の心に訴えかけるのだ


 アルカイザーになりたての頃のレッド少年なら、有無を言わずにアセルスを救うべく突撃した


 今は経験を積み、感情だけで動けばそれが時に周囲を危険に晒す事を彼は学び成長していった




この闘いは判断を誤れば、全滅する…!自分含めて味方が倒れればそれこそアセルスを救えない!

 歯痒い、力を持っていながら彼女を救えない現状に耐えろというのだ…レッド少年にとって
これほどまでに辛酸を舐めさせられる思いがあるだろうか


 触手『』ギリギリ…!


 アセルス「――、や ぁ ぁ、 ぁぁ っ」ギリギリ



  クラーケン「キィィー!ギュゲッ!ギュゲッ!」



 強く身体を締め上げられ、唇から苦悶の声が漏れる、思わず止めそうになる脚に喝を入れる
烏賊は少女の身体を10本の部位で締め上げて嬲る事に夢中でレッドとBJ&Kの姿が
眼には入っていなかった、無邪気な赤子が買ってもらったばかりの女の子のお人形さんで遊ぶ様に
彼女を締め上げながら持ち上げる

 赤ん坊を抱っこして『たかいたかーい』とあやしてるそれに見えなくもない

 尤も、この巨大烏賊のやってることはそんな優しい内容ではなく17歳の女の子を雁字搦めにして
握力を少しずつ加え、腸<はらわた>が飛び出すまで苦痛に満ちた表情を眺めながら
時間をかけて遊ぼうという悪趣味極まりない、吐き気を催す邪悪そのものなのだが…









  レッド「…」ゴゴゴゴゴゴ…




 おもちゃに夢中の[クラーケン]は背後をゆっくりと通過した少年と
同時にルージュに辿り着いた医療メカの存在に気が付かずにいた…


 何を優先すべきか、レッドは仲間を復帰させることを一番と考えた、そして中でも優先順序を
感情を押し殺して『ルージュ』『白薔薇』に絞った…
 力量差があまりにもあり過ぎる…だからこそルージュの爆裂魔法[インプロージョン]に
[妖魔の剣]の扱いはアセルスよりも長けている白薔薇姫に託すしかなかったのだ



 レッド少年はモンスターの知識に明るくはない、だからこれは全くの偶然だが
(後に教養がある白薔薇姫から知らされる)[クラーケン]という奴は即死耐性が無い
…結果論だが、アセルスお嬢を後回しにしたのは最適解であった



 水辺に現れては【メイルシュトローム】で津波を起こし船を沈没させる自然災害を齎す為に
【危険度ランク9】認定されているがそういう意味では比較的に倒しやすい方だ
 ルージュが術を使うか、確率は低いが白薔薇姫が剣を振るいさえすれば
一発で命を刈り取ることが十分可能であると





 ザブ…!ザブ…!



 アセルス「ぁ、ぁぁ… ぁ」LP-1



 レッド(…くそっ、後少しで白薔薇さんに手が届くってのに)フラッ



視界が霞む、吐き気がする…![克己]には状態異常を消し去る効果がある為、酔いの所為でなった
【毒】は完全に身体から消えた筈だった…


 【毒】が消せるからといって体内のアルコールを消せるわけではない


再び、このタイミングで彼等を酔いが襲い始めた―――!!








     BJ&K「完治完了!ルージュさんが意識を取り戻したました!!」






 クラーケン「グモッ!?」バッ

 触手『』パッ



 アセルス「うっ」バシャッ



 BJ&Kの音声に巨大烏賊は思わず振り向き、そして遊んでたお人形を水面に取りこぼしてしまう



 レッド「あんにゃろう…声出さねぇでいればそっから回復したルージュの術で不意つけただろ」

 レッド「…へっ!けどよくやったぜ!!!今のでアセルス姉ちゃんも解放されたんだ!」

 レッド「俺ももう白薔薇さんに手が届く、ルージュ聞こえてんなら!やっちまええぇぇ!!」



 [傷薬]を取り出したレッドが血を流し意識を失っている白薔薇の手を掴んだ!
込み上げる酔いの吐き気を押し込めてレッドが叫ぶ、アセルス姉ちゃんがやられた分やってくれと




―――ゆらり、紅き術士は立ち上がった


 流れる銀髪からは雫が滴り、その眼は目の前の敵を見据えた、大切な仲間、友を苦しめた…っ!
憎むべき巨大烏賊の姿を…!そしてルージュはゆっくりと口を開き声を発したのだ!




           ルージュ「………。」スゥ…













      ルージュ「い、イカちゃん可愛いいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」




  レッド「へ?」
  クラーケン「ファッ」



     ルージュ「その気持ち悪いお目目がキモ可愛くて、うねうねの触手も愛らしい///」

     ルージュ「あぁ…この気持ち、間違いない、この気持ち愛だぁぁぁぁぁ!」



 レッド「」
 クラーケン「」








     レッド「お、お前…こんな時に何をふざけた―――…」






ゾワッ







―――刹那、レッドの警鐘が再び鳴った



 思えばもっと早くに気が付けた、[克己]は状態異常も回復できる
彼に掛かった【毒】という異常は解除された筈だ…



ではなぜ、また吐き気が込み上げてくるのか…苦しいと感じるのか







      ルージュ「あぁぁ…抱きしめてキスしたいくらいだよぉ///」





 頬を染め、蕩けた顔をする…顔立ちが女性の様に美しいからいっそタチが悪い…あぁ本当に


今のルージュは恋する女性の顔そのものであった、この仲間が死にかけの非常事態に
こんな…こんな、"異常" としか言い様の無い発言…





      レッド「…ま、まさか…」




[杯のカード]の試練、それは酔った状態で祠まで辿り着くことこそが試練である
 その試練における最大の障害物は道中で襲ってくるモンスターか?

答えはNOだ


この試練最大の障害物は…【危険度ランク9】のモンスターでも何でもなく




             【 酔いが回る…! 】



BJ&K「…pipi 状態異常を検出 【毒】と【魅了】です」


ルージュ(魅了)「あっはっは!よぉーし!一番強い術をつかっちゃうぞー☆」



最大の障害物は酔いそのものであり、酔ったパーティーメンバーなのであった

********************************************


                今回は此処まで!

             【解説 ヨークランドの試練】


 杯のカードを入手する為の試練として[ヨークランド]では酒を飲んだ状態で沼地の祠を目指す

 多くのサガフロプレイヤーにとって印象に残るイベントがあります



 まず、主人公操作ですが、何も押してないのに勝手にランダムで移動する仕様になっていて
 それが原因で敵シンボルにあたり戦闘に移ることがあります

 沼地の敵は通常の敵の2ランク上が必ず出るため、少なからず苦戦は強いられます…

 いえ、此処に至っては何処よりも一番苦戦確定です



 まず戦闘に入ると【酔いが回る】というメッセージが出て

 【暗闇】【毒】【睡眠】【麻痺】【混乱】【魅了】【バーサーカー】何れかの状態異常になる

 特に厄介なのは敵に有利な行動を取ろうとする魅了です
 ルージュが魅了状態で味方に[ヴァーミリオンサンズ]を撃ったり、ゲンさんが[二刀烈風剣]を
 撃って味方全体が4桁ダメージで全滅という光景は恐らく多くの人が経験したことでしょう


 サガフロのプレイヤー側はHP上限が999でカンストになる為
 4桁ダメージはどうあがいても即死です、全体攻撃で4桁余裕の魔術や剣術を放たれたら終了です


 対策としてですが、パーティーを酔わないメカで統一するか妖魔系を入れておくこと
 (ただしアセルスは妖魔化しないと状態異常耐性が人間<ヒューマン>と同じ扱いらしいので注意)


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乙乙


烈風剣がこれほど怖かったことはない


 あからさまに正気では無かった、魔法大国出身の術士という奴は総じて酒に強いと評される
それもその筈だ、彼等の最大の武器にして十八番<オハコ>である魔術は当たり前だが術力を使う

 消耗した力を回復させるには特殊な製法で酒造された[術酒]や霊薬としても名高い[神酒]を
飲み干す事で失った術力を取り戻すことができる




 子供の頃から勤勉な学士は術の鍛錬に励み、必然的に霊力を秘めた酒をそれこそ日常的に飲む



 だから、村で酒蔵を巡りながら聞き込み調査をしていた時も並みの人間にしては
アセルスお嬢達妖魔組に負けず劣らずの酒豪ではあった…




普通の酒ならそうそう自分を見失う程に溺酔いはしなかっただろう、が…

"試練を受けに来た者専用"に調整された酒は話が別だ




 [ヨークランド]の住民は代々、酒造に関しては古い歴史と伝統
職人としては神業に到達している技巧を皆が持つ



 妖魔だろうと酒慣れしてる魔術師だろうと関係なく【状態異常】を引き起こす禁断の美酒を
軽々と作り出せるのだ、それこそ東洋の伝記に登場する八つ首竜の八岐大蛇<ヤマタノオロチ>とやらを
酔わせてトドメを刺すという神話に綴られた化け物退治の酒だって造れる程の技術力がある





   ルージュ「ふ、へへぇ~// いっくぞぉ~☆」





へらへらとした笑い顔、名前通り赤らめた顔、くるっと踊りながら全身に術力を滾らせ


ゴゴゴゴゴゴ…! ビシャビシャ


 紅き魔術師を中心に沼地の水面が波打つ、大地が揺れる…っ!

陽気で無邪気な子供染みた言動とはミスマッチした凶悪極まりないエネルギーの収束ッッッ!!



      レッド「ば、馬鹿!や、やめろォ!!」



ルージュ「いっけぇ!」クルリンッ☆

ルージュ「ヴァ」クルッ、ピョーン☆

ルージュ「-」クルクルリン

ルージュ「ミ」シュピッ☆

ルージュ「リオ~ン…サーン」クルッ、クルッ



レッド「うわああああああああああああぁぁぁぁぁっっ!?!?変身アルカイザーッッ!」ペカーッ





ルージュ「ズ!」キラッ☆


 紅き魔術師は最大級の破壊と殺傷を生み出す宝玉の嵐を呼び出した



―――――――――[ヴァーミリオンサンズ]!






                                         /:l\
                                        /|/ソ´::\
            _                         ./、:::/::ヽ::::::::/\
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     /::|:::::Y::::::;:ヽ、ノ::::::::\                    |:_/:::ヽ/:iヽ_/ヽヘ::|:::/\:::|::|
    /ヽ、/ヾ:::| /::::::;ヽ、::::::::::,ヘ                   l::/::::::::|::::::|:::::l/:/::l::::|:::;;;;;V:l
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      l:::/Y::ノ::::丶,:::/::::\;/::l                     ヽ/::::::|:/::::ソ:\:/  人
       l/:::`ヽ,:::::/:V\/´:::::l                       ヽ、;ノ:::::/::::::/  `Y´
      ヽ::::::/::Y::::X::::/:::::::/                          ヽ:::::::|:::::/
      i ヽ/::::::|:/::::ソ:\:/                    十   ヽ:::::ソ    i
    __人__ ヽ、;ノ:::::/::::::/                           ヽ/   __人__
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      !     ヽ:::::ソ    人                            _j|_   !
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               *    .// ヽ、;ノ::::::::://ヽ::::::|:::::/ \\        *
                     //    .ヽ::::::|:://:/ ヽ:::::ソ   \ \
                / /       ヽ::://::ノ  .ヽ/     \ \
  +              / /         / //             \  \       +
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          /  /          /  /




 キィィン!キラキラ…ゴッッッ!

..___, .、 `''ー ,,,, ゝ  l    `''-..、  `'-、     人 \ l .'、.!     | |./   .〃 .rシ 〃  .,ノ./
     .|     `   .| `''ー ..,、  ゙゙'-、、  `'-、 `Y´  \゙''-./     .l |:  /l゙.〃 .〃  ,r゙/
.`'''ー- ..,,,,゙.... xi;;imニ"''^゙゙´     `'''ー.  ."    `'-、    ヽ.      .!./  .;".|゙/ ./  / .'   /
_、     *  `゙''''´゙''ii,,;;.,,,、  __j!__  : !ヽ、 .`'=i、   .\     .!∵ .".. ./   "   /
`゙''“'┴- ..,,,,,_               ̄|! ̄      `''′ .゙ヘ   `'.    -  :   .゛   ._,,..ィニ.  _...
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'''¬ー`-`-ニニニ';;';;ー-.- 、...,,., ,.,,......二ニ==;;- ....,,_       +   `'ミ>、        ./ ,..‐'彡'´    ''"゙
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--ー‐ー人 ‐''''"''''''''“ "'"  `     ...        ,,, -''゙´ッ--_./      `Y´        -亠
     `Y´       __,,.... .;;;;,,ッ-一゛''+ _j|_ `'''''''''''''"゙´ ,..-"   _,,   !                .
   . _,,,,.. -;;ニニ`-ー'''"゙´          ̄|! ̄      _..-'"    ./ /      人
二`-‐'''"゙´             _,,,.. -''ツ       . _..-'"      ./ /      `Y´         +  ゙.'.‐
       . _.....-,―''''''"゙゙゙゙゙´    /      ,..-'" ,r'"フ      ″              ‐    . , _,
 _._..ぃー''"´._/゛ .. -'''゙"  /   ./    ,..-'" _.. l彡./          : ., へ、       .l   │  ̄´`'
゙~    .r'"          ゛,/  ._..-'"  . /                 ,/ ゝ│       ...l   |,
    ./  .".'''''    ._,, -'″.,..-'"  . /                '  ./   i'  .!  十     ヽ  .ヽ '、,.゛
  ./      " _..-'"゛ ._..-'"   ,/゛           ,丶  , /   / 1 /  │           ヽ  .\ ヽ
  _二''''''''''''''''''''″ ,..-'"    ,, ‐゛             /   ,/、゛   ! /  !  .!          ヽ  .、ヽ
‐'″   i    . _..-'"    .,/゛   _j|_   ,i彡.、 / ゛    l "  ,,. l     .    ヽ  '、゙'‐
    __人__..-'"     .,..‐"        ̄|! ̄ .-'"゛  .!/‐     l '‐ ゛ ,i'}      /  .,,,、  .ヽ  ヽ
   ,..`Y´,,,,.... --┐"           / .、    .l        l  / l      .l  .|゛ `''-、ヽ
...-彡'''゙/!       .!             /  ./    │        .`゙″  .,!       | .l  .ヽ ..l l
'"  .,;;,゙...   /   .,!   +    /   ./   .,.. /                !       | .l   !  .lヽ
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――――
―――
――




ルージュ(戦闘不能)「」チーン

アセルス(戦闘不能)「」チーン

白薔薇(戦闘不能)「」チーン

BJ&K(戦闘不能)「」プシュー…






アルカイザー(瀕死)「ぐ、ほ"がぁ!?―――ぜぇぜぇ、ゲホッ、はぁはぁ……」


アルカイザー(瀕死)「し、死ぬかと思ったぁぁぁ――っ!」ウォォォ!!




 正体がバレたらヒーロー教会に抹消されてしまう、があの場で[変身]しなければどの道
レッド少年は此処で仲間と仲良く沼地の藻屑となって消えるところであった


アルカイザーでなければ即死だった…危ない危ない


 酔った仲間が放った大技[ヴァーミリオンサンズ]は、彼の双子の片割れである蒼き術士ブルーが
初日で"保護のルーン"を探しに来た時に蟲の群れに撃ち込んだり、巨大生物[タンザー]の体内で
放った最大級の火力を持つ術である


 無から生じた規格外のデカさの紅玉が2つ現れ、ぶつかり合い…砕け散った破片が熱を持つ棘
いや、棘というよりも槍というべきだろう
 無数の槍と化した宝玉の破片が荒れ狂う嵐の中を乱れ飛び、敵は熱と槍が乱反射する暴風圏の
真っ只中で串刺し刑に処されるという恐ろしい術なのだ


 仲間は唱えた筈のルージュ含めて、BJ&Kも倒れた…朱色の太陽が大暴れする爆心地に居たのだ
術者の紅き魔術師にも直撃する位置だったのだから彼を介抱した医療ロボも当然範囲内である



 1つだけ、幸運があるとすれば、[ヴァーミリオンサンズ]は先の説明通りの大火力であり
同時に"派手な見た目"の魔術だ、宝石の破片が大量に飛び交うからこそ視界を遮られる…つまり



 アルカイザー「…紅玉の破片はもうすぐ消える、これを背にしてどうにか目を誤魔化したが」


 アルカイザー「い"っ…」ズキッ

 アルカイザー「…と、とにかく、今は[克己]で完全回復しねぇと…」



ヒーローに変身した少年は、間もなく消える紅玉の破片と激戦で暴力的に伐採された雑木林の樹々
濁った水面への潜伏、未だ健在な[クラーケン]から身を隠して生き延びる術は幾つもあった
 巨大烏賊の眼を欺き傷を癒したら今度こそ仲間を復帰させて烏賊を倒す
人間一人身を隠すには丁度いい丸太の裏に泳ぎついたレッドはそう考えて
静かに2度目の[克己]を唱え始めた



 レッドは冷汗が止まらなかった


 今しがた人生に幕を下ろすか否かの瀬戸際だったのもあるが、今も心臓が2倍速で動いてる

 "自分の正体がルージュ達にバレたのではないか?"…そう思うとこの戦闘を終えた後自分は
正義のヒーローの掟を破ったとして協会から抹消されてしまうのではと思わずに居られない


…女性二人は気絶してたから恐らく大丈夫だろうが
 願わくば、酔ってたルージュが何も覚えていないことを祈ろう


―――
――




      ルージュ「ほんっっと!すいませんでしたぁぁ」(土下座)


 レッド「気にすんなって…全員無事だったから」ヨロッ

 アセルス「そ、そうだよ…白薔薇も強くなれたことだし結果オーライってね」ボロッ



 結論から言おう、あの後[クラーケン]との死闘は辛勝を収めたと

パーティーメンバーの中で最後に気絶から復帰したルージュは事の顛末を聞かされた
 瀕死状態だがどうにか意識を保っていたレッドは物陰に隠れ本日[克己]で回復しようとした
するとなんという僥倖…っ!通りすがりのアルカイザーが偶然にもとある事件の調査で
偶々この惑星<リージョン>に来ていたのだという!!


 その事件というのが何かは極秘任務の為、詳細は教えてくれなかったが、沼地の雑木林から
樹々がなぎ倒される音や[ヴァーミリオンサンズ]の紅玉が暴れまくった音を聞きつけ
全身鎧のヒーローが駆けつけ、窮地に居たレッド達を救ったとのことだ


レッドに此処で休んでいてくれと言い残し、アルカイザーが交代するように途中参戦…ッ!
(……という設定でレッドは話した)


だから、レッドの姿は無かったが代わりにアルカイザーが居て助けてくれたのだと

 全員が烏賊に触手で叩かれる最中、アルカイザーがBJ&Kを修理し、その後、身を挺して
[クラーケン]の連続攻撃から仲間達を守りながらアセルスを、その隙に医療メカが白薔薇姫を
癒して、最終的に白薔薇姫が[妖魔の剣]で烏賊を吸収して事を終えた…!


 何か、酔っぱらったか様に妙に足取りの悪いアルカイザーが「私は任務があるのでこれで」と
言い残して、飛び去り…彼が去った後、ふらふらと千鳥足のレッドが帰って来た、とのことだ




 白薔薇「私も[タイガーランページ]を修得できましたから、気にしてはいませんよ」ニッコリ




女神様がおられる…っ!

 気絶中も何度も触手やら津波やらでLPが削られたというのに、その分得られるモノがあったから
良いではありませんか、と微笑んでくれる


別の意味で、目の前の貴婦人には頭が上がらない…頭を下げた魔術師は思った




 レッド「ほら、こういってるしよ、早い所行こうぜ…うおぇっ」ヨロッ


 少年は少し急かす様に促した、いつまでもメソメソしたところで過去はどうにもならない
というのもあるのだが…何より、この場所に留まり続けるのが好ましくない



まだ、全員…アルコールが抜けきっていないのだ


 強敵にこれ以上襲われては堪ったものではない
また【状態異常】に陥りそうな気がしてならないのも事実だ

 こうして、既にボロボロになりつつある一行は、最善の注意を払いつつも
やっぱりふらついてモンスターの縄張りに片足突っ込んだりと
苦しい旅路で沼地の祠へ脚を運んでいくのであった…


 白薔薇「どうにか、着きましたね…うぅ…」ヨロッ

 アセルス「ここは、敵が寄ってこないみたいだし…酔いが抜けきるまで帰るのは止めよう」フラッ

―――
――

おつ


【双子が旅立って 7日目 午後14時時47分 [ヨークランド]沼地の祠】


 ルージュ等が退職したレッド等と合流してから湿地帯へと片脚を踏み入ったのは丁度正午だった
気が付けば、冒険者用に調整された防水完備の最新機種携帯電話はあれから3時間近く経過したと
疲弊しきった少年少女等に気が付かせた…



 レッド「結構、キツイもんだな…カードを揃える修行ってのもよ」ハァ

 アセルス「なんなら[ワカツ]より苦戦したかもしれない、人里から離れた距離じゃないのに」



 最初の試練は心の迷いがあったからこそ取得までに時間が掛かったのもある上
無人の惑星<リージョン>と化した亡者の巣窟まで銀河の海を越えて辿り着くまで片道だけで相当だ

 …本来であれば廃城に潜む、怨嗟の念に襲われ進むこと自体苦労しただろうが、ゲンという
心強い護衛兼案内人が居た事が幸いした



 一方、今回の試練は目的地こそ、人里から歩いて10分も掛からない雑木林を抜けた先の沼地
湿地帯の中心にある天然の洞穴に築かれた小さな祠に辿り着くという文面だけなら
子供でも出来そうな内容だ、到達するまでの過程に問題が大アリであることを除けば




巨大烏賊に嬲り殺しにされかけるわ、デカい蛙に踏みつぶされるわ、蛇に石化されそうになるわ



 思い返せば酔いで吐きそうになった嘔吐感共々に、嫌な思い出が込み上げてくる




 グッタリと、倒れ込む少年とその横で尻餅をついて眩暈と悪戦苦闘する少女
そんな子供達を見守る妖魔の貴婦人と医療メカも流石に今回ばかりは参ってしまったか
身動きをせずその場で身体を休めていた…


 あれだけ気絶中に触手で骨が軋む程に締め上げら、叩かれ濁流で呑まれもしたのだから
全員そうなるのも無理の無い話だ



 蝋燭立てが4本、その奥に神社の鳥居とはまた違った二柱が立っていてその合間に
ルージュは仰向けで倒れていた


 ついさっきも祠にあと一歩という所で敵対生物と接触し酔いの影響で不調に陥った隙を突かれ
手痛い一撃を貰ったばかりで、最終的にパーティーの中で一番ダメージを受けた身だ


 もしも命を数値か何かで表せと言われるなら彼の命をコップに入った水としてだ

6/7くらいの比率で削られたのではなかろうか、あと一発くらい気絶中に殴られてたら間違いなく
生死の境を彷徨っていた所だ




     ルージュ「あぁぁぁぁぁぁ…」



 口から魂が抜け出そうな、まるで生気の無い声を出しながら紅き魔術師はそれを見た



         杯のカード『 』クルクル…


          ルージュ「…。」ジーッ



   ルージュ「あぁぁ、駄目だ飲み過ぎだ…幻が見える…」バタッ


********************************************
―――
――




 ルージュ一行が秘術の資質を得るべく2つ目の試練をどうにかクリアした一方、双子の片割れは







 ブルー「…」


 「あら♪お兄さん綺麗な顔立ちね!…ねぇ~アタシこのカジノのホテルで泊まってるの♪」

 「アタシとイ・イ・コ・ト…しない?」ウフフッ


 ブルー「申し訳ありませんが、僕はこれから連れの女性と行くところがありまして…」ニコッ


 一見すれば女性と見紛う程に整った美しい顔立ちの、…しかし男性物のタキシードを
着用していることから辛うじて、男であることが分かる蒼き魔術師は困った様な顔でやんわりと
微笑み、声を掛けて来た赤いドレスのレディからの誘いを断った

ここだけ見れば、人柄の良い好青年である



 「あら、カノジョ持ちなのね…ざーんねん!」スッ、テクテク



 ブルー「…。」








 ブルー(チィッ!!ケバい厚化粧と鼻が曲がりそうな香水のコンボで来るなッ!)イライラ





…人間は、他人の心の声を盗み聞くことはできない

人柄の良い好青年―――のフリをした冷たい魔術師は笑顔で見送った女性に壮大に舌を打った
 厚化粧も嫌いだし、キツイ香料の匂いにも反吐が出そうで、トドメの一撃に大っ嫌いな赤色の服
何から何までブルーに取って気に喰わない要素てんこ盛りであったそうな…




    「はぁ~い、ブルー!おまたせぇ!――ってどうしたのよ、めっちゃ機嫌悪い?」トテトテ

 ブルー「…やっとか、エミリア…」イライラ



 目が笑ってない、腕を組んだまま半笑いで連れのエミリアを睨みつけ、彼は願った
「ああ、さっさとこの場から失せたい」と…


 人々の欲望と希望が集う場所…超大型賭場の惑星<リージョン>…[バカラ]のBARフロアで願った


ゴクゴク!…カラン!


  スライム「(・ω・)/ ぶくぶくー」ゴクゴク、プハーッ

  リュート「よっ!エミリアぁ!バニーガール衣装に合ってるよ!」パチパチ


  エミリア(マジカルバニー仕様)「えっ//そ、そうかしら~?うっふーん…なんちゃって!」


【双子が旅立って 7日目 午後17時48時分 [バカラ]】


 この日も術士はお金に煩い金髪少女に稽古をつけて貰っていた
ある程度の基礎となる動きは頭に叩き込み、今日こそは師匠を打ち負かしてやろうくらいに思った
 ところが、彼女は昼過ぎから飲食店の方とは別件で外せない用事ができてしまったらしい
聞けばそれはアニーが副業としてやっている案内係の仕事に関してで急遽、ブルー以外にも
[ディスペア]に居る囚人に用があって潜入したいと申し出た一団が現れたとの事


 "刑期100万年の男"、と呼ばれる人物からある物を貰う為にアニーの協力が居る。


その一団は気前よく金を払い、急ぎで彼女に準備をするように依頼した
以上が彼女の外れない用事の要点である、ブルー1人を忍び込ませるだけならワケないが
集団で刑務所に潜入となれば、少しばかり彼女も気合を入れて準備する必要性がある


 門下生のブルーとしても自分の資質集めに関わることであるが故に駄々っ子の様に稽古を優先し
最終的に彼自身が目的地へ踏み入れる機会を先延ばしにしてしまうというのは望まない結果だ
 ましてや、あの逆位置のルーン文字という運勢の標もある
今は急がず休めるなら休むくらいで丁度良いのだ




  リュート「いやぁ~、ブルーが今日の予定オフになったから遊び行こ~ぜ!って」

  リュート「まさかお前が誘いに来るなんて思わなかったさ」


 ブルー「俺は暇を潰せる場所に心当たりは無いかと、尋ねに来ただけだがな誘った覚えはない」



  リュート「俺に聞いちゃうなんて、やっぱ俺を頼りにしてくれるってことだろぉ?」

  リュート「照れるぜ!相棒!」アッハッハ!


 ブルー「毎日毎日、碌に働きもせずブラブラしてるプー太郎だからな、詳しいだろうと思った」




 訊いたらお前がスライムとエミリアを連れて勝手に着いてきた、相談したことを後悔してる、と
蒼き魔術師はゲンナリとした顔で頭痛を覚えだした額に手を当てた


  ブルー「貴様に関してはもういい、そこでジュース飲んでるゲル状生物も置いておくとして」

  ブルー「エミリア、お前はなんでここにきたんだ」


 BAR自慢のトロピカル・ドリンクをイッキ飲みするスライムには目もくれず
何故かバニーガール衣装の見返り美人に理由を問いただした


 エミリア「私は、ジョーカーとの最終決戦前にできる準備が少ないのよ」

 エミリア「基本的に自分達のチーム専用の武具を街で購入はするけど
             …でもグラディウス全体で使う大規模作戦用の準備とかは専門外よ」


 元々は一般人で、違法組織とは縁の無い表舞台の住人だ
今でこそ拳銃握って戦場を走る女だが、裏社会の取引には積極的に関わった経験が他の面子と比べ
全くと言って良い程に無いのだ




早い話、エミリアは現状でやれる役割が無いから決戦に備えて英気を養えと言われているのだ




 暇を持て余していた彼女が自室でとうの昔に終わらせた愛銃の整備をしていたらニートの友人が
偶にはカジノでパーッと遊ばないか?と誘いに来たから二つ返事OKした


 遊ぶにしろ、何時ぞやのカジノ潜入作戦で利用した日雇いバイトをするなり暇さえ潰せれば
それで良しという発想に至ったのであった


 とりあえず彼女が一緒に来た理由は分かった、ただなんでバニーガール衣装なのかは解らない
遊ぶつもりなのか日雇いバイトでその恰好なのか…


 エミリア「なんだかんだでこういう仕事も面白そうかなーって思うのよね」


 エミリア「元気のないお客さんに『幸運を差し上げますわ!』」(投げキッス)

 エミリア「励ましたり勇気づけたり、他にも稀にやってくる"カード"を求めて
              やって来る人へのさり気ないヒント配りなんかがバイトの内容よ」



 ブルー「"カード"、だと?」ピクッ



 散財して懐がさみしくなった客への気休め程度の言葉と投げキッスを贈るだけという
職務内容は心底どうでも良かったが、"カード"という気になる単語に彼は耳を傾けた



 エミリア「そ!…このカジノの地下には大空洞があってね、そこに土の精霊ノームが住んでる」

 エミリア「光物を集めるのが趣味の成金精霊よ、……ただオツムの方が弱いみたいで」

 エミリア「3より大きい数字が数えられないのよね…」ハァ


 ブルー「? まるで実際に見て来たような言い方だな」


 エミリア「…まぁ、ね」



 婚約者の仇である仮面の男が少量の金品とカジノの売上金である
莫大な紙幣をトレードするというガッカリ現場を目撃したのは真新しい記憶だ、おかげ様で
見事にジョーカーは釣銭が来る裏金を持って政府の上層部とコネを持ったという頭の痛い話


 ブルー「それよりも、さり気ないヒントとやらは何だ?」


 エミリア「ああ、それなら…コホン!『お客様、ノームという精霊をご存じですか?』」

 エミリア「『金を集めるのが大好きだって言います、でも本当にいるのかしら…』」


 ブロンド髪のセクシーな従業員がにこやかな笑顔でお客様に語り掛け
最後は本当に居るのかしら?と笑顔から何かを怪しむような顔をする…という演技の流れまでが
彼女のバイト内容らしい…


  エミリア「と、まぁ…今のがマニュアルよ」


  ブルー「…。」

  ブルー(…なんだその頭の悪い仕事内容は)



 エミリア「な、なによ!仕方ないじゃない!本当にこんな内容でって言われてるんだから!」




ヒョコッ、ヒョコッ…


 スライム「(。´・ω・)? ぶく?」チラッ




 髭の生えた小人「…」ヒョコッ、ヒョコッ




 スライム「(; ・`д・´) !?」ギョッ



 スライム「(;´・ω・) ぶ、ぶく!ぶく!」ピョンピョン!


  ブルー「なんだ!さっきから煩い…ぞ…?」




 髭の生えた小人「…。」テクテク




  ブルー「 」アゼン

 エミリア「こうしてマニュアル通りメッセージを従業員が言えばノームが来るようになるのよ」


 曰く、こうすることで[金のカード]を求めて来た修行者が金品を運んでくれるから
ノーム達としても人前に姿を現す事、また自分達の巣穴からここまで足労することを厭わない、と


  ブルー(それでいいのか…土の精霊よ)




 ノーム「…。」トテトテ

<チューチュー!


 ノーム「どわっ!?なんだ鼠か…危うく踏んじまうとこじゃった」フゥ、ヤレヤレ…



 土の精霊は、ぶかぶかのデカい靴で踏みつぶしそうになった小さな生命に悪態を吐きながら
ホームへ戻るべく階段を下りて行った…そのままエレベーターに乗るつもりなのだろう



  「チュー!チュー!」タッタッタ…!


 「わーん!どうしようメイレン!見失っちゃったよぉ~!」
 「諦めないの!!草の根…いえ!スロットマシンを全部退かしてでも探すのよ!」

 「し、しかし…もう休まずに丸一日探してるのだぞ…我々もヌサカーン先生たちの所で…」

 「泣き言はナシ!!良いからつべこべ言わずに探しなさーい!!!」




 リュート「んあ?どっかで聞いたような声がするな…酒の飲み過ぎかな…」グビッ

 スライム「(´・ω・`)ぶー…」ゴクゴク


タッタッタ…!ピョンッ





 ブルー「ふん、まぁいい…俺はこの下のフロアで時間を潰しに――――ぐぉ!?」ぺちっ!


       頭に[指輪]を乗っけた鼠「チ"ュィィ―!」



 エミリア「きゃっ!?ね、鼠!?」ビクッ

 リュート「おぉ…あのネズ公すげぇジャンプ力だなーっ!」

 リュート「床を蹴ってブルーの顔面を踏み台にしたぞ」アッハッハ!



         クーン「うわぁぁん!待ってよぉ~」タッタッタ…!


そういえばルージュ側のメンバーでレッドは剣のカードもらってないからこいつだけは秘術の資質もらえないことが確定してるのか

乙乙




           頭に[指輪]を乗っけた鼠「チュゥ」ピョイーン!


 わなわな、と震える魔術師の顔に足跡をくっきりとつけて泥だらけの四つ足は飛翔する
蚯蚓<ミミズ>を彷彿させる薄いピンク色の細長い尻尾が飛び上がった際に足蹴にした彼の鼻先を
ぺちんと叩きながら指輪を王冠代わりに乗せた小さな小動物は追跡者から逃れるために
ジグザグと走り去った



  クーン「あぁ…また逃げられちゃったよぉ…」

 リュート「どっかで聞いた声だと思ったら、やっぱりクーンじゃねぇか何してんだ?」


  クーン「あー、リュートだ~!最近よく合うね!」



  メイレン「クーン!"指輪"は――ってリュートじゃないの!…アンタ仕事も就かずに遊んで」


 息を切らせながら走って来たチャイナドレスの女性が残念な者を見るような目でリュートを
見つめ、見られた者は「明日から本気出すんだよ、そうかてぇ事言うなって」とへらへら笑う







       ブルー「ええいっ!!一体なんなんだ貴様らはァ!!!」




―――
――




 ブルー「…つまり、話をまとめるとそこの[ラモックス]、クーンと言ったな」

 ブルー「お前の故郷が今、滅亡の危機に瀕しているからその窮地を救えるかもしれない代物を」



 クーン「そうだよぉ!ボクの住んでた[マーグメル]が寿命でなくなっちゃうんだ」

 クーン「だから魔法の指輪を集めて故郷を助けてってお願いするの!」



 エミリア「生まれ故郷の惑星<リージョン>が寿命で死んじゃうなんて…可哀想な話ね」



 あの後、汚い脚で王冠乗っけた鼠に足蹴にされ、"お冠になった"魔術師がカミナリを落とした
ご立腹のブルーが顔の広い無職のちゃらんぽらん男と緑の小動物モンスター…[ラモックス]種が
知り合いであるという事、また旅の目的である[指輪]を追っていて
偶々此処で手に入る筈だった[指輪]をさっきの鼠が持ち去り、かれこれ丸一日はカジノ内を延々と
探し回っていたという話を耳にした



 フェイオン「賭場で全財産を失い、あわばホテルフロアで自殺寸前だった男性を救ったのだが」

 メイレン「ええ、私達に売ってもらう予定の指輪がまさか野鼠の頭部に引っ掛かるなんてね」


 メイレン「一日中[バカラ]を探し回ってるんだけどあの鼠すばしっこいのよ…」


  クーン「先生は途中で体調不良になったメサルティムの看病してるしボク達だけだと」




 ブルー「…なんでも願いの叶う魔法の指輪、か」ボソ



術士は考える、彼等の探し求める[指輪]という存在に対して…


 奇妙な偶然もあったものだ、まるで我が祖国[マジックキングダム]の伝承に語られる
"天国"神話の指輪と同じではないか、と



 ブルー「…。」

 ブルー「…いや、まさかそんな馬鹿な」




 リュート「あぁ、通りで…あの色っぽい人魚ちゃんがいねぇと思ったら」

 メイレン「繊細な子なのよ、"人間<ヒューマン>"の匂いや街の排ガスが強すぎて駄目だって
        今回は止むを得ず、先生にメサルティムを任せて[オウミ]に戻ってもらったわ」

 メイレン「指輪を手にしたら合流予定のレストランに行くつもりだったけど私達が遅れそうね」



 溜息を吐き「これじゃあ一体いつになったら指輪を手に出来るのか」と鬱蒼とした彼女に
歩み彼は唇を開いた





        ブルー「あの鼠を捕まえればいいんだな?」



  メイレン「え、えぇ…そうだけど」


  ブルー「元々此処へは暇つぶしに来た、これも何かの縁だろう手伝ってやる」




 "建前"はそうだが、本音は違う

 集めれば願いが叶う[指輪]とやらに興味が沸いた、別に指輪の力でルージュを殺すワケではない
最強の術士なる為には自分自身を鍛え上げねばならない、不正をしたい訳でもない

ただ、祖国の伝記に登場する魔法具に共通する点が見受けられる―――だから気になった



  クーン「本当!!わーい!やったぁ、仲間が増えた~」ピョンピョン♪

 フェイオン「おお!かたじけない…このお礼は必ず…?
         はて、そういえばキミは何処かで会わなかったか?」



  ブルー「気のせいだろう」



 [タンザー]で宇宙海賊ノーマッドの部下と悶着を起こしていた弁髪を遠巻きに見ていたブルーは
しっかりと覚えていた、向こうは言葉を交わしたことさえないから記憶に残っていないだろうが


  メイレン「…」ジトーッ

  メイレン「ごめんなさいね失礼を承知で聞くわ…あなた指輪を横取りして願いを叶えるとか」

  メイレン「そういう気は無いわよねぇ?」


  ブルー「断じてない」


 仮にあった所で、「はい、ありま~す!」と馬鹿正直に答える奴はいない


  メイレン「…ふぅん、まぁいいわ、えっとブルーさん?よろしくね」


 昔々、古人は言った"旅は道連れ、世は情け"一緒に居た上京中の無職と
ちょっとした御縁がある緑の獣っ子の壮大な宝探しの旅路に一時だけ手を貸してやろうと術士は
申し出て、芋づる式にスライムが果汁を空にしたグラスと代金を置いてブルーに付き添い

 面白そうだし俺も行くぜ!と弦楽器を背負って席を立ったリュートも
「ちょっとぉ!私一人だけ置いてけぼりとか寂しいじゃない!連れてきなさいよ!」と
意味不明な理由でブロンド髪のバニーガールも同行した



 王冠を被った鼠を最後に目撃したという人物の証言を頼りに欲望が渦巻く施設を何巡も
彷徨い歩く、バカラルーレットを転がり続ける球にでもなった気分だった


螺旋階段、エレベーター、上の階、下の階


行って戻って、進んで来たり、如何せん人間と小動物では鬼ごっこ1つするにも条件が違い過ぎる
体格差ゆえの歩行速度、置かれている機材の隙間を通り抜けて走れるか否か

 ものの見事に翻弄され続ける一行は流石に息を切らし始めていた…



  ブルー「…~~っ!ええいっ!こうなれば[ヴァーミリ――「わぁぁぁ!やめろって馬鹿!」ガシッ


 苛立ちを隠しきれないブルーが邪魔な通行人諸共鼠を最大火力の魔術で排除しようかと仕掛けて
慌ててリュートが羽交い絞めにして阻止した


 クーン「すばしっこいよねぇ、ボク達も2手に分かれて挟み撃ちにしようとしたんだけど」

 ブルー「…あぁ、忌々しいことだ、7人居るのだからとそれ以上に分担して四方から攻めている」

 ブルー「だというのに…くっ」



 苦虫を噛み潰したような顔で彼は整った顔立ちを歪めた、鼠一匹にこうも翻弄されては
いい気分がしないのも当然だ、彼の見立てでは大分惜しい所までは追い詰められているのだが…


 ブルー「人海戦術を敷いても足の隙間から逃げてくアイツを捕まえるには…」ぐぬぬ…



 ブルー「…お前の仲間に妖魔が居るとは話半分に聴こえたが今この場に居ないのか?」


 クーン「ほえ?先生とメサルティム?
      うん、此処には居ないよメサルティムの為に一旦彼女の故郷へって行っちゃった」



 ブルー「…チッ、その先生とか言う奴とメサルティムには期待できないか」



 『先生』と『メサルティム』という妖魔二人がどんな人物か(前者は既に会っているのだが)
知らないが、今は猫の手どころか妖魔の手だって借りたいくらいの気持ちだった

 増援は期待できそうにない今、一体どうすれば…




   ブルー「……」




   ブルー「待てよ?―――そうか、"あの手"があったぞ!!」





 彼は一瞬、考え込み何かを閃いた、丁度向こう側から待ち伏せは失敗したと報告に来た
リュート・エミリアチーム、スライムとフェイオン…メイレンがやって来たのも好都合

魔術師は帰って来た面子の中から彼女―――エミリアに近づき、耳打ちをする


―――
――


【双子が旅立って 7日目 午後20時18分 [バカラ]のBARフロア】





           頭に[指輪]を乗っけた鼠「チュイッ!」タッタッタ――――!



ザッ!



 スライム「(・ω・)=(・ω・)シュババッ! ぶくぶくぶーーーーー!」ディフェーンス!

 リュート「此処で会ったが百年目だぜ!覚悟しろよぉネズ公」



 機敏な動きを見せる小さな逃亡者の前に立ちふさがる超スピード反復横跳びのスライムとニート
前方向は逃路として適してない、そのまま進路を180度曲げて右手の方角に逃れようとした

無論、これまでのパターンからして想定済みである



 クーン「キミ!わるいけどここは通せんぼだよ!」

 フェイオン「観念してもらおうか」



 当然の如く待ち構えていた奇抜な髪型の男性と、背の低い少年の姿を見るや否や
夜のハイウェイをUターンする手練れの運転手じみた動きで反対側へと向かう

言うまでも無く、此処にも配備はしている



 メイレン「さぁさぁイイ子だから指輪を頂戴な…チーズもあげるから」バッ

 エミリア「わーお!お客様こちら通行止めでございまーす♪なんてねっ」



 ヌッと柱の間からブロンド髪のバニーガールとチャイナドレスの美女二人がご登場だ
これが人間の男なら何もしなくても突っ込むかもしれないが相手は生憎と美女の胸に飛び込むより
我が身の安全を第一に考えて逃げの一手を選択する



 指輪を被った鼠色の大怪盗は本日何度目になるか分からない包囲網を敷かれた

たった一人、魔術師が前に立ちはだかる、右手に自分の荷物を持って




だが、鼠は止まらない。


 捕獲を試みる彼等の中に生物学者は居ない、だが総じて鼠という奴は賢い生物であり
モルモットと呼ばれ脳の解明から薬の実験まで、古きに渡って技術の躍進に貢献してきた
生命体であることに変わりはない

 今、指輪泥棒の脳にどんな逃走経路が描かれているのか知りようは無いが、単純に四方を塞がれ
いずれにせよ逃げ切るならば、どれか一方向を突破しなければならないとするならば…


 何処を狙うと考えるだろうか?

 それが野生動物としての本能によるものか少しでも逃走成功率の高い人数の少ない場を狙おうと
脳の知性的な面が働きかけているのかは知る術は無い



重要なのは唯一つ、鼠は真っすぐブルー目掛けて疾走したということだ



      ブルー(このタイミングだッ!この瞬間を待ちわびたぞ…ッ!)


      ブルー「 エ ミ リ ア ぁ! や れ ぇ ーーーーーっ!」



 術士は叫んだ。





 それを合図にブロンド髪のバニーガールは一呼吸置いて言葉を紡いだ















     エミリア「『お客様、ノームという精霊をご存じですか』」

 エミリア「『金を集めるのが大好きだって言います、でも本当にいるのかしら…』」










ヒョコッ!


           頭に[指輪]を乗っけた鼠「―――!?チュィ"っ!?」



   ノーム「…んー?なぁんだぁ?
         従業員が『合図した』から呼ばれたと思ったら…?鼠じゃないか」テクテク






  ブルー「聞けッ!!そこの土の精霊よ…貴様にこの『金』をくれてやる!」

  ブルー「コイツが欲しければ貴様の目の前にいる鼠を捕まえろ、これは『取引』だッッ!」




 術士は右手に持っていた自分の荷物を―――何かあった時の為に取っておいた金塊を掲げて
がめつい土の精霊にこれ見よがしに見せつけてやった

 [タンザー]に飲まれることになったあの日の産物がこんな形でまた役にたつとは…っ!



 ノーム「んおほぉぉ"ぉぉ""ぉ"ぉぉ♥!!金じゃ!金じゃ!おーい!みんなあつまれー!」


 ノーム2「なんじゃ!?」ピョイーン
 ノーム3「金だって!?」ピョイーン
 ノーム4「そこの鼠をたくさんのワシたちで捕まえるんじゃ!」ピョイーン



          頭に[指輪]を乗っけた鼠「ヂュ、ヂュイイイィィ!?」



 昔々、古人は言った"地獄の沙汰も金次第"だと正しくその通りである、地獄の亡者ならぬ欲望に
憑かれた金の亡者が背丈の小さな大泥棒に迫っていた
 哺乳類と霊長類の彼等の大きな違いは当然体格差で足元を縦横無尽に動き回っては
両脚の隙間からまんまと逃げ遂せる事が多いのだ

そういう意味ではスライムや小柄なクーンはこの面子の中で最も厄介な追跡者だったことだろう


 目の前に突如として現出した小柄の髭付き共も厄介な追跡者に部類される事だろう

 人手が足りないなら現地で雇えば良いじゃないか、妖魔二人の増援を期待できそうにないと
判断したブルーがあの時閃いたのは、呼べば何時どのタイミングでも突然現れるノームの利用だ



 ノーム「ワシじゃ!最初に呼ばれたのはワシなんじゃ!捕まえて金を貰うんじゃーーー」

 ノーム3「なんだとぉ!たくさん長生きしてるワシに譲らんかい!」

 ノーム2「えーい!ワシの方がたくさん生きとるわい!だから鼠を捕まえる権利はワシにある」


 ノーム4「お前達はそこで喧嘩でもしてろ、今じゃ!とぉッ!」シュバッ!



 "3よりデカい数字が数えられない"小柄な髭の精霊が骨肉の醜い争いを繰り広げながらも
鼠を追い回す、前も後ろも左右にもクーン達が待ち構え、そして一番守りが手薄だと思われた
ブルーの眼と鼻の先くらいの位置から音も無く幽霊の様にノームが出てきて、更に他の三方向にも
業突く張り共が出てきたもんだから流石にどうしようもこうしようも無くなってしまった


 ―――このままでは捕まるのも時間の問題か!?


 怪盗は肌で感じ取り起死回生の一手は無いのかと鼠色の脳細胞を知恵熱でショート寸前まで回す
そして彼は、ある者に目をつけたァ!


 頭の指輪を光らせながら鼠は腹を括って、大ジャンプ!その先は…!



 ブルー「なっ!?バカな―――」

 クーン「あ、危ないぃぃぃ」
 リュート「マジかよ、あいつクレイジーだぜ」
 エミリア「しゃ、シャンデリアに飛び乗ったですってぇ!?」


 宙ぶらりんのシャンデリアにしがみ付き、彼は逃げ遂せた……怪盗は宙に浮いた小島へと跳んだ


  ノーム2「逃がさーん!ワシの金―――っ!」
  ノーム4「コラー、抜け駆けはズルいぞ」
  ノーム「お前達!これはワシの手柄なんじゃぞ」
  ノーム3「何を言うかワシじゃ」


 欲に目が眩んだ精霊は皆仲良く、目が眩むくらいに目映い照明に向かって飛び乗り
シャンデリアを大きく揺れ動かした…リュートはその様を見て故郷で母親が子供の頃に
枕元で話してくれた『蜘蛛の糸』という童話を思い出した
 規定外の重りが追加された事でその重量に耐え切れず、カジノの雰囲気に合った派手な照明は
読み聞かせの物語通り、奈落の底へと真っ逆さま…派手な音を立てて粉々になった



 ブルー「…この真下は位置的に丁度、駐車場だな…エレベーターで行くか」

 エミリア「えっ、いやいや…もっと他に言う事あるんじゃ」

 ブルー「俺ではなく欲に目が眩んだ連中が悪い、以上だ」スタスタ

 エミリア「えぇー…」



 メイレン「と、とにかく私達も向かいましょう!さっきのはノーム達が起した事故よ」

 メイレン「私達がシャンデリアを壊したワケじゃないし弁償とかも無し、OK?」

 フェイオン「う、うむ!そうだな…ははは」

まあこのホテルもノームの物だろうし問題はないだろう……きっと


―――
――



 「お、お客様、どちらまで行かれますか?」


 エレベーターガールのバニーガール、彼女は若干顔を引き攣らせながらも
冷静に職務を全うしようとしているのかもしれない


 先のシャンデリア落下騒動は耳の早い従業員には直ぐに伝達されたのだろう
賭場を仕切る精霊達が突然の愚行に走り店に大損害を出したこと、後々その対応に追われること
 頭の痛くなる話であるが我関せずと言わんばかりの顔で『駐車場までだ』とブルーは言い放つ



 鉄の箱に大の大人が数人、子供とゲル状生物を添えて鉄箱はゆっくりと下へ動き出す
エレベーターが下降する特有の無重力感に身を委ね、静かに眼を瞑る…


 数秒後、身体に重さが帰って来る感触を感じて瞼を開けると同時に鉄扉も開いて駐車場の景色が
視界には広がる―――…粉々のシャンデリアと憐れな誰かさんの乗用車、気絶してるノームも…



 シャンデリア『 』粉々

 客の自家用車『 』粉々



  ノーム1~4「「「「 」」」」チーン






 メイレン「ゆ、指輪は!?まさかシャンデリアと一緒に砕け散ったんじゃないでしょうね!?」


 惨状を目の当たりにして彼女は両手で口元を覆った、これまでの旅の目的である指輪が
これで粉微塵になっちゃいました、では笑えない
 今にも口から泡を吹いて倒れかねない紫髪の彼女を宥めながら彼女の恋人が次の事柄を指摘した


 フェイオン「落ち着いてくれメイレン、恐らくだがそれは無い…見てくれ鼠が居ない」

 リュート「あ、言われて見りゃそうだな、指輪泥棒のネズ公がいねぇや」


  クーン「本当だね、でも何処に行ったんだろう」キョロキョロ






 エミリア「多分、あそこじゃないかしら?」スッ




 ブロンド髪は"以前にも仲間と降りた"その穴を指し示した、婚約者の仇ジョーカーを追って
[バカラ]の地下空洞には降り立ったことをがある、そもそも経営者のノームは土の精霊で
地面の下を好む習性だ、マンホールの蓋を開ければ[クーロン]の自然洞窟に勝らずとも劣らない
地下迷宮が広がっている事を知る者は少ない


 照明落下の衝撃で蓋が外れたのだろう、モンスターの巣窟になっている地下迷宮の大口は
この事故で再び開かれていた


 ブルー「決まりだな、行くとしよう」スタスタ

 クーン「うんっ!」


―――
――



 じめり、湿り気を帯びた空洞は独特の土の香りがしていて、どうにも好ましくなかった
湿気を帯びた空気とは裏腹に靴底がキスをする岩床はゴツゴツとしていて、天然石の壁も
泥のように柔らかくも無い、天井を見上げれば鍾乳洞にありがちな氷柱石が伸びていて
 垂れ下がる様に伸びていた鍾乳石には紐が括りつけられていた、時代を感じさせる一昔前の
鉱山夫が使うランプがぶら下がっていてそれがノームの物だと分かった



 リュート「うっわ、暗いな此処…あんなちっぽけな光源でノームはよく見えるな…」



 エミリア「はい、これ」つ【懐中電灯】



 リュート「おっ、サンキュ……なんでこんなモン持ってんだよ」

 エミリア「"お仕事柄"って奴よ」


 裏稼業の彼女は同年代の先輩と年上の先輩、そしてサングラスの上司に常に持ち歩けと
小型のライトを持つ習慣をつけることに努めた…結果的に役に立ったのだから内心で感謝しながら
魔術師にも手渡そうとするが…



 ブルー「必要ない、――"古き天帝よ、光球にて照らせ"」ポォォォ!


  光の球『 』パァァァ…!



 クーン「すっごーい!周りが明るくなったよ!」

 スライム「(*'ω'*)ぶくぶく!」ピョーン



 メイレン「…」ジーッ

 メイレン「…貴方、随分と変った術を使うのね」


 メイレン「私、少しは陽術を心得ているのだけど、その術はその系統とも違う…」



 ブルー「ほう?分かるか、失われた古代文明時代の術らしくてな」

 ブルー「祖国が再現しようとしたものだ、嘗ては敵対者への攻撃術だったらしいがな」フフンッ♪


 エミリア(うわぁ、めっちゃ笑顔で話すわねコイツ)


 何時になくノリノリで話し始める魔術師、彼は友達が少ない。

 魔術の話題ができる友人というモノが外界に出て少なかったし
祖国に居た頃は同級生から疎まれていたのだから、心成しか若干笑顔だ



 ブルー「古代文明時代の術でな名を[ライトボール]という」

 ブルー「天術という今は無き資質の術でな、陽術の性質に近いことから再現が出来た」

 メイレン「天術…なるほど、聞いたことはあるわね、大昔の惑星<リージョン>で王族が使ったと」



<それでだな
<それは初耳ね!



 フェイオン「…」ポツーン

 クーン「ねぇねぇフェイオン、ブルーとメイレンすっごく仲良しさんだね!」

 フェイオン「えっ、あ、あぁ…術の話で盛り上がっているようだな、うむ…」シュン


 弁髪の男は少しだけ、ほんのちょっぴりだけ背中が遠くに見える恋人のメイレンを眺めて
小さく首を振った、修行に精を出し過ぎていつも置いてけぼりにしてしまったから
愛想を尽かされたのではなかろうか、[タンザー]での一件でそれは無いとは思いたいが…



 少しだけ影が心に差し掛けた所で心の靄を払う様にもう一度首を振り―――走り去る鼠色を見た




 フェイオン「い、いたぞ!!あそこだぁ!」スッ!



 指輪を被った鼠「チュイ?」トトトト…!

 クーン「ま、待ってよぉ~!」


 暗がりの地底を頼りない吊るしランプとブルーの[ライトボール]を頼りに指輪泥棒との鬼ごっこ
2回戦目を開催し、道中で迷い込んで来た旅人を狙うモンスターの群れを蹴散らしながら追跡する



 ブルー「!止まれ、…見ろ、こっちに向かって何か明りが近づいてくる」ガシッ

 クーン「本当だ、ボク達以外にも誰か居るの…?」キョトン



 闇を照らす光球と仲間が持っていた幾つかの懐中電灯とは別で進路から光源がこちらに
迫ってきているのが嫌でも分かる、岩壁から光っていたソイツは姿を現した


「ギギギッ!」バチバチ…

「キシャーーーッ」


 羊、四足歩行でもこもことした体毛に覆われた動物と地の底という場違いな所で鉢合わせた
それだけでも十分異質だが、羊の頭部からは雄山羊の角だとでも言うのか
金属製の無骨なアンテナが2本皮膚から突き破る様に生えていた
 フランケンシュタインの頭から突き出たボルトを思わせるアンテナからは
電気が通っているのだろう、火花をバチバチとスパークさせていてそれが光源となっていた


 生物と機械を混合させた、生物兵器は常に放電していて…その明りによって隣にいた
グロテスクな姿の蟲がより際立って見えた
 ぬらぬらとした青紫色の体色、三本爪のような牙が開かれると
異臭を放つ緑色で粘度の高い唾液がべちょりと硬い岩床に落ちるのがくっきりと見えた



 ブルー「…[電気羊]と[ラバーウォーム]か…っ!」



 目視できた敵影を一瞥して彼は小さく呟く、決して強い手合いではない上にこの大人数だ
難無く片をつけられるだろうが…



  指輪を被った鼠「チュ!」トットコ!トットコ!


 ブルー(モタモタしてる間に鼠には逃げられてしまう!)



 こんな入り組んだ洞窟内で掌サイズの対象を見失っては見つけるだけで骨が折れる
瞬時に判断したブルーは指示を飛ばす



 ブルー「リュート、スライムにフェイオン!…そして"陽術"が使えると言ったなメイレン!」

 ブルー「お前達4人はこいつ等の面倒を頼んだ、俺達は鼠を追う!」ダッ!



 メイレン「ちょ、ちょっと!何を勝手に――」



 指示を出され困惑するメイレンは抗議の声を上げたが、そんな物知った事かと言わんばかりに
クーンの手を引いて敵の真横を潜り抜けようとする魔術師は茫然としていたエミリアにも
強く声を投げかけた



 ブルー「 エ ミ リ ア ! ぼさっとするなッ!!」

 エミリア「ぇ、あ?、あっ、はいいぃ!?」バッ!



 人間心理学において、人というもの…いや生物は大きな音に反応する習性がある
理屈じゃなくその場の流れや勢いで押せばどうにでもなる、という状況を思い浮かべて貰えば
分かりやすいかもしれない


要するに頭であれやこれや少考させる暇を与えずノリとテンションで押し切るという奴だ

 突発的な指示で相手が混乱したら間髪入れずに大声による脅し、恫喝で
一気に"その流れを作ってしまおう"と、一分一秒が惜しい今、彼はそれを実行した



「キシャアアアアァァァーーーー」



 ブルー「なにをしてる動けスライム!道を拓く援護を」


 スライム「Σ(゚□゚;)ぶ、ぶくっ!」ハッ!

 スライム「(`・ω・´)ぶぅぅぅぅぅぅ」<[溶解液]



 走り去ろうとする3人を丸呑みしようと[ラバーウォーム]が大口を開き迫って来るのを見て
未だ、狼狽えているパーティーに怒声を飛ばす、声を聞き取りこの瞬間に自分がすべき行動を
示唆されたスライムは[溶解液]を蟲の大口目掛けて飛ばす―――蟲肉が焼ける音がして
3人を喰らおうとしたモンスターは悲鳴を上げて仰け反った


 ブルー「メイレン、フェイオン!借りは返す!任せたぞ!」タッタッタ…!

 クーン「うわぁぁん!ブルー手を放してよボク一人で走れるからぁ!」
 エミリア「え、えっとぉ…ごめーん!そっちお願いねぇぇ!」タッタッタ…!


 メイレン「ああぁん!!もうっ!勝手過ぎよ!」

 メイレン「フェイオン!一気に片づけて追いかけるわよ!」

 フェイオン「応!リュート、俺の後に続いてくれ」
 リュート「オッケーだ!」


―――
――



  エミリア「ま、待ちなさいってば!」タッタッタ…

   ブルー「なんだ!?要件は手短に言え、そして目の前の鼠を見失うなよ!」タッタッタ…

  エミリア「リュート達置いてきちゃっていいワケ!?」


   ブルー「…問題無い、リュートは兎も角あの二人は相当の手練れだ」


 走りながら魔術師は質問に答えた。


  ブルー「メイレンはさっき本人が言っていた『私、少しは陽術を心得ているのだけど』とな」




  ブルー「陽術が使えるということは治癒術である[スターライトヒール]が使えるはずだ」



 ブルー「回復役<ヒーラー>が最低1人それに加えて
        カジノで鼠を追ってた時の身のこなしでも分かる体術使いのフェイオン」

 ブルー「一時期組んでたらしいリュートを置いてきたのは手の内がお互い分かってるからこそ
         "連携技"も意識しやすいと思ったからだ、仲間内で使う技を知ってるからな」

 ブルー「あの無職には[傷薬]も相当持たせているし、何か不測の事態が起きた時の為に
      更に人員を割いてスライムも置いておいたのだ、問題無かろう」


 エミリア「あっ、適当に選んでたんじゃなくて考えて――ってそうじゃなくて!」




 エミリア「なんで私までアンタと一緒なのよ!」

 ブルー「貴様、そんなことも分らんのか馬鹿め!以前此処に来たとか言ってたのは何処の誰だ」


 クーン「ん~、つまりエミリアは前に来た事あるから迷路みたいな洞窟の道も分かるって事?」

 ブルー「貴様より、クーンの方が賢いな…だからお前を選別したというのに」ヤレヤレ



 戦力的に考えて4人置いてきて(あわよくばスライムがモンスターを吸収できれば良し)
地下洞窟の入り組んだ道を少しは覚えている事を期待してエミリアを連れて来た…そこまでが
魔術師が咄嗟に導き足した考えだった


 エミリア「じゃ、じゃあクーンは…」


 ブルー「…。」ピタッ

 ブルー「まったく、貴様とくだらん問答をしていたせいで見失ったではないか…」


 ブルー「…クーン、その鼻で鼠を探せるか?」

 クーン「ボクの鼻?うん、やってみるね!」ピョン



 緑の獣っ子が鼻をひくつかせて辺りを嗅ぎまわっている合間に魔術師はブロンド髪に向き返り
この洞窟内を詳しく教えろ、と紙とペンを取り出して聞き始めた
 相変わらずの偉そうな態度に彼女は苛立ちを覚えたが、それをグッと飲み込んで
怒りを忘れるように紙面に覚書の地図を記載していく



 エミリア「…ハイ、こんな感じですよーだ」ムッス!


 ブルー「…ふむ」ペラッ

 エミリア「その左上がノーム達が金を溜め込んでる場所、でもって此処を行くとぐるっと一周」

 ブルー「では、この道をこうして通ればこっち側に出るという事か?」


 指で地図の細い道をなぞり、尋ねる
頬っぺた膨らませたブロンド髪のバニーガールは「ええ、そのルートに出るわね」とだけ答える



 ブルー「…これは使えるかもしれんな」ボソッ

 エミリア「?」




  クーン「二人共~!あの鼠の匂いだよ!そっちの細道に続いてる!」ピョンピョン!


 ブルー「わかった、進む前に提案がある耳を貸せ」

―――
――

クーンはかちこいな

久々に長めに空いてる?
待ってるぜ~


 ジャリっと石床の砂利を踏みしめてエミリアとクーンが声を高らかに声を上げた
必ずお前を捕まえてやると言った主旨を、指先突き付けての宣戦布告だ
いっそ大袈裟な、芝居掛かったオーバーリアクション気味に



  エミリア「さぁさぁ!観念するなら今の内なんだからねっ!」

  クーン「そーだ!そーだ!おとなしくおなわにつけー」



 指輪を被った大泥棒はそんな二人を可笑しな物でも見たと言いたげに「チュゥ」とだけ鳴いて
文字通りうねうねした尻尾撒いて逃走する
 当然だが美女と獣っ子もその後を追跡する



――本気で捕まえようとはしない、ただ見失わない距離を保って








  - ブルー『俺からの提案は馬鹿のキサマでもできる簡単な事だ』-

  - ブルー『まず、お前達二人は奴を追跡し、枝分かれした道からこの道を通る様に誘導』-

  - ブルー『足の速いクーンと二人掛かりで向かわせるのはその為だ』-

  - ブルー『回り込んで道を塞ぐなり、アシストくらいはできるだろう?』-







  指輪を被った鼠「チ"ュィ!」トットコ!トットコ!



 クーン「おっと!その方角に行く気なら」ババッ!


 エミリア「ざーんねん!三つある内この方角はお姉さんが通せんぼでーす!」アッカンベー



 三叉路の内、モンスター特有の素早さで進行方向へ先に立つ緑の少年
動きを見てそれより早く行くことは問題無い、小回りの利く小さな怪盗を捕縛すること難しいが
進路妨害くらいならどうとでもなる




  - ブルー『もし道中でさっきみたいなデカい蟲や狂った機械が襲ってきたとしてもだ』-

  - ブルー『エミリア、"ルーンの石"を集めてるなら[保護のルーン]くらい使えるだろう』-


  - ブルー『それに聞けばクーンも姿を隠せる指輪を所持しているらしいな』-




  - ブルー『敵意を持った者の眼や鼻を欺く手段を有しているならば問題無い』-




 敵意など持たずにひたすら逃げの一手に走る逃亡者は兎も角、敵意満々で横やり突っ込んでくる
第三者の介入から逃れる術を彼女も少年も持っていた、この場にいない金髪の魔術師もそれは同じ


   指輪を被った鼠「チュ、チュ!」Uターン、キキィーッ グルッ ダダッ


   エミリア(よし、狙い通りの道へ入ったわね…)



 鼠は二人の追跡者に追われ、地下迷宮を駆けずり回る…そして―――


  ブルー「でかした、よくぞ誘導してくれたな」ザッ


   指輪を被った鼠「チューーー!?」




 ブルー「エミリアの覚書通りなら迷宮はドーナッツ状でぐるりと回って来れる筈だったからな」

 ブルー「こうして挟撃構図になっていると分かったさ」




  エミリア「はぁはぁ…まったく、人使いの荒い人ね」

  クーン「でも、追い詰めたよ!」




 前後に追って、完全に袋の鼠と化したネズミは―――ッッ!!










   指輪を被った鼠「チュイ」シュバッ




       ネズミが逃げ込んだ穴『エミリアも知らない横穴』






 普通に逃げ切りました。











  ブルー「」


  クーン「…逃げちゃったね、すごく呆気なく」




  ブルー「ど、どういうことだ…」ワナワナ

  ブルー「このエミリアの描いた覚書通りならば…狭くて挟み撃ちにすれば如何に鼠でも
         確実に捕まえられる細い通路で逃げられる抜け穴の無い一本道の筈だぞ!?」



  ブルー「エミリアァァァッ!!貴様ァ!!」クワッ


  エミリア「ひっ、そ、そんな怒鳴んないでよ!」

  エミリア「わ、私だってまさかこんな通路あるなんて知らなかったんだってばぁ!」



  ブルー「くっ…」ギリッ

  ブルー(…いかんな、治すようにしようとは思っているが…つい怒鳴ってしまう)フゥ




 地底大空洞の全域に響き渡りそうな怒りの声を上げてから一拍子おき
彼は冷静になろうと努めた、自分の欠点は気に喰わない事柄にぶつかるとすぐに
反発したり怒りを爆発させることだ…


自覚はある。


"キグナス号の海賊騒動"でも名前が気に喰わないからという理由で
問題解決の為に手を貸してほしいと交渉してきた相手の頼みを蹴ったのは記憶に新しい


 性分とはいえ、怒りっぽい癖をどうにかせねば…




  ブルー「…一応聞くが、このちっぽけな横穴の先はお前も知らない未知の場なのだな?」

  エミリア「そうよ…知ってたら覚書にちゃんと描いてたわよ…」


  ブルー「…。分かった止むを得んな」

  ブルー「何があるか分からんが追跡をするしかあるまい…」

  エミリア「えっ、行くの?」

  ブルー「この先が万が一にでも地上に繋がっている可能性だってある、出られたら厄介だ」



 不安の入り混じった感情の儘、彼等は小さな横穴を屈みながら進んでいく
この場にはノーム達が来た事ないのか、天井に灯りが吊るされてはおらず…広々としたホールを
思わせる空洞になっていた…




   クーン「あれ?」スンスン

   クーン「ねぇ、なんだか変な匂いがしない?こう…野生の動物っていうのかな」

   ブルー「俺とエミリアは人間だからな、その辺はよく知らん…クソ、暗いな」ポォォォ!



 [ライトボール]の出力を上げて、迷宮奥地にあった未踏の小部屋を照らす

 最初はここから地上へ逃げられるのではと危惧し顔を曇らせたブルーであったが
今は口角がつり上がらせた――出口どころか横道さえない、完全な行き止まり


 鼠は逃げる為にと、自ら袋小路に迷い込んで"袋の鼠"とやらになったワケだ
これで窮鼠に噛まれるなんて展開がなければ完璧である



  ブルー「くっ、くくっ…どうやら俺達はまだツキに見放されてはいないようだな」ニヤリ

  ブルー「それどころか、奴め何かに引っ掛かって身動きが取れないと見た」


 どこからどう見ても悪役のソレとしか形容できないような薄笑を浮かべて
"何か"を潜り抜けようとした矢先で上半身が引っ掛かった鼠を照らす



  エミリア「ん~~?ブルーもう少しだけ明るくできない?」

  エミリア「あのネズミ何かに引っ掛かってるみたいだけどそれが何なのかよく分からないわ」

  ブルー「気にしてどうなる、どうせ植物の根か何かだろうよ」スタスタ…

  ブルー「クーン、ソイツの頭に嵌った指輪を取り上げるぞついて来い」



 どうにも拭えない違和感を抱きつつも名を呼ばれてクーンは小さな足で目の前を歩くブルーに
追いつこうと小走り気味に続いていく、そして鼠に近づけば近づく程、モンスターである彼にしか
分からない"獣臭さ"が鼻を擽るのであった



  クーン「やっと捕まえたぞ!」


   指輪を被った鼠「チュイ!?チュッチュゥ!」ジタバタ


  クーン「大丈夫、君には何もしないよ」スッ


 お騒がせな指輪泥棒の頭にすっぽり嵌った王冠を取り外し、鼠を逃がしてあげようとした
あくまで彼等の目的は伝説の指輪であって、この灰色の怪盗ではないのだから


  クーン「逃がしてあげるよ、この根っこみたいなのが邪魔なんだね!」ガシッ












  ここで初めて気が付いた。



 否、なんで今更だったのか、こうも獣臭さを感じていながら
何故この広い空洞に自分と鼠、ブルーとエミリア以外に生物が居ないと決めつけたのか

…いやもっと根本的な所から疑念を抱くべきだったのだ


 何故、このホールのような広い空間には天井に明りが吊るされていないのか―――地下空洞を
知り尽くした土の精霊ノームがこんな広い空間を見過ごすか?
どうしてここに彼等が一切手を加えていないのか


 物事には何にでも順序というモノがある、Aの事柄にはBという要因があるからAが成り立つ等

 土の精霊が地面の真下にあるこの大空洞で手付かずの空間を作ったのは何故か、簡単だ




"手付かずなんじゃあない"、あえて"手を付けなかった"んだ…もっと言えば足を踏み入れたくない



      ゴゴゴゴゴゴ…!!!!



  ブルー「ムッ!?」

  エミリア「きゃっ、地震…?」




 蒼き術士はブロンド美女に覚書の地図を書かせたが、この場所の存在は知らなかった
それもそうだ、前回来た時はエミリアは婚約者の仇ジョーカーをみすみす見逃してそのまま地上へ
戻ってしまったのだから…だからこそ"ジョーカーの罠"という災難を皮肉にも回避できたと言おう


 もし、前回エミリアが此処を訪れていたならば彼女は高笑いをする仮面の男に次の様に言われた




            - かかったな、[巨獣]の餌食となれ!! -


イッチ!いきとったんかワレ!





     「グオオオオオオオォォォォォォオォオオオォォォォオオオォォンンンンンン」



 怒声、低い唸りを上げて"ソイツ"は眠りから目覚めた
銀河の大海に浮かぶ博徒達の楽園[バカラ]、その真下に広がる大空洞には支配者が居る
 土の精霊ノームでさえも足を踏み入れたくない、近寄りたくない化け物の塒<ねぐら>


 不幸にも縄張りに迷い込んで来たモンスターは主の尻尾を植物の根か何かと
勘違いして踏んだり、噛んだり……そして代償として踏まれたり、噛まれたりして絶命するという


 鼠が絡まっていた植物の太い根と思われていた尻尾を掴んだ時、クーンは思わず目を見開いた
生物特有の生温かさと血管が機能しているのがよく分かる脈拍を感じたからだ
 さっきから自分が感じていた獣臭さの正体がなんであるか察した瞬間である
[巨獣]が寝そべった状態から身体を起こすだけで空洞全体が揺れ、牙を覗かせる大きな口からは
怒声がもう一度飛び出した


 二本足で立ちあがった屈強な脚、膝はプロテクターの様な水色の硬い甲で覆われていて
腹部は鍛え抜かれたアスリートかとでも言わんばかりに割れた腹筋、胸部は紺碧色の硬いアーマー
鼻先、頭部にかけて雄山羊の角に近い形状が3本生え、背から尻尾まで脊髄に直接繋がってるのか
太古の大昔に滅んだ恐竜のソレに近い棘が生えそろっている




  クーン「うひゃぁ!!すっごーい!おっきいねぇ~」

  ブルー「暢気な事を言ってる場合かッ!!糞ッ!こんな話聞いてないぞ…」バッ!

  エミリア「これはちょっと、お友だちになりましょうねって顔じゃないわよね…」チャキ



鼻をひくひくと動かし、[巨獣]は血走った眼を地に向ける


 冬眠していた熊が永い眠りから目覚め、春先で一番に飢えを満たそうとする様に彼奴もまた
胃を満たす得物を求めていた、自分以外の生命の匂い、食指を刺激する血の香りを…


 すぐさま臨戦態勢を取り、険しい顔付きで術の詠唱を始める蒼き魔術師
引き攣った顔で銃の安全装置を解除するブロンド美女、鼠から抜き取った指輪を落とさない様に
ポケットにしまう緑の獣っ子…


   巨獣「グゴォォォ!!」ブンッ!!


 名に違わぬ巨体、重量のある太い腕を振り下ろされる先に居るのはクーンだった
まずは一番仕留められそうな者から潰して敵の攻め手を減らそうという考えであろう



   クーン「わわっ!?」



 ギュィィィン!!シュルッ!!


   巨獣「グゴッ?」ヂヂヂヂヂ…


   ブルー「ちぃ…!ぼさっとするな」グググッ

 
 野太い腕を標的目掛けて振り下ろそうとするも、爪先がクーンの頭上で止まる
[巨獣]は手首に巻き付いた熱源を疎ましく睨みつける、チリチリと皮膚を焼く魔術の鎖は確かに
彼奴に痛いを与えていたが何分、その巨体ゆえにそれほど効果はない…


  巨獣「ゴオォオォォオオオォッ!」ブンッ

  ブルー「ぐおぁ!?」ブワンッ


 鬱陶しい、と腕を振るい鎖ごとブルーを振り回す、これは堪らんとばかりに術を解除した術士は
そのまま硬い地に身を打ち付け苦悶の声を漏らした



  クーン「ブルー!」


 打身の痛みがじんわりと背を中心に広がっていく、歯を食いしばり名を呼ばれた術士は眼を開く
すると視界は彼を覆い尽くさんとする影が広がっていた
 図体のデカい獣だとは思ったがその巨体さからは想像も着かない敏捷性に驚かされた
魔術師を振りほどいた[巨獣]は攻撃対象をクーンからブルーへと切り替え、両脚をバネのように
伸縮させて跳んだ、身を地盤に打ち付けまだ起き上がれずにいる蒼き術士を[ふみつけ]る為に



  ブルー(ぐっ…ッッ!!)ゾワッ



 あれだけの体積に踏みつぶされれば然しものブルーであってもタダでは済まない
数秒後には間違いなく破裂音と共に潰れたトマトの出来上がり、そんな自分の最期を連想すらした



――――――ダダダダダッ!ズサ―――――ッ!!ガシッ



     エミリア「うァらぁあああああああぁぁぁぁ―――ッッ」[スライディング]‼

     ブルー「!!」ガシッ、バッ‼





       ズシャンッッッ!!




  エミリア「ゼェゼェ…い、今のは危機一髪ってとこかしらね……大丈夫?」

    ブルー「あ、あぁ…すまん助かった、今のは流石に肝が冷えた所だ」



 心臓がバクバクと音を立てる、肝を冷やしたというのは紛れも無い本心だ
ルージュを殺すという使命を果たせぬまま道半ばで贓物を撒き散らしながら死ぬのかと焦った
 そこへエミリアが本来敵への脚を使った攻撃である[スライディング]を使って滑り込み
倒れた術士の身体を掴んでそのまま掻っ攫って窮地を脱した、正しく滑り込みセーフという奴だ



    巨獣「グゴッ?」



 一方、片足を上げて足裏で獲物を踏み殺した感触を感じなかった事に違和感を覚えた彼奴は
眼を動かしバニーガール姿の女が標的を救助したことを知り憤慨した…っ!



   巨獣「グゥゥゥゥゥゥオオオオォォォォォオオオオ!!!」ビキビキ…!



 低い唸り声、音を立てて浮かび上がる血管、青筋…っ!
腹を立てた[巨獣]は両腕を振り上げ次なる一手を繰り出そうとした



    クーン「ブルー!今[傷薬]で回復させるから…っ!」

    ブルー「構うな、そんなことよりも貴様はさっさと変身しろ!戦闘態勢に入って迎撃を」



 支えられながら彼は敵から目を離さなかった、ちょっとした気分転換とやらで[バカラ]に来たら
この有様だ、今日は厄日か、と毒づいて戦闘する羽目になった強敵の動きを観察する
 対応を間違えば全滅しかねない…ッ!


   巨獣「グォッ!」ゴッッ!


 振り上げた両腕は3人目掛けて振り下ろされ――――















――――――――――は、しなかった









      ブルー「なっ!?マズイ―――」




 両腕の拳は初めから3人に向けた物ではなく、彼奴が腕を伸ばせばすぐ当てられる大空洞の石壁
そこへ目掛けての一撃だった
 洞窟内における戦闘行為は蒼き術士にとって奇妙な縁があるようだ[クエイカーワーム]等が
潜んでいたあの[クーロン]の地下での戦いを含め空洞内部での戦いで最も注意すべきは
落盤や地盤沈下などによる被害で自分達が致命傷を負うことであった


 下手なモンスターの攻撃よりも、天井の崩落や地割れに飲み込まれてしまう事の方が問題だった



 だからこそ初撃で爆裂の術たる[インプロージョン]や最大火力の[ヴァーミリオンサンズ]ではなく
比較的に周囲に然程影響の無い[エナジーチェーン]を使ったのだ
 あの時と違い狭く振動が伝わりやすいこの空間に置いてはそれが最適解だったから






 [巨獣]の怒りに任せた一撃はそんな彼の危惧する事態をいともたやすく引き起こす




  ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!


  エミリア「きゃ、きゃあああぁぁ!?じ、[地震]だわ…!!」


 砕いた石壁の破片、大揺れによって罅割れそのまま落ちて来る天井の大岩
身を守ろうと両腕をクロスさせて頭部を守る様にする
 降り注いできた礫がそんな3人に情け容赦なく降り注ぎ腕を、胴を、脚を、痣だらけにしていく



  巨獣「ウゴオオオォォォォ!!」



 人間の丈の何十倍もある巨獣からすればそんな大岩のシャワーもぺちぺち当たった所で
彼等程の痛みも感じず気にせず猛進してくる
 次こそは縄張りに入った不届き者の息の根を止めてやらんと右脚で踏み込み上体を捻り
腰にかけて身体を大きく振りかぶる、棘のついた尻尾を勢い任せで振り回す[尾撃]で
まとめて一掃してやろう、そういう魂胆なのだろう


最初から態勢が整っていれば話は違ったが完全に不意を突かれた形で後手後手に回った戦闘…ッ!!


 未だ幼い少年の姿からモンスター形態へ変身できないクーン、詠唱の時間を与えられないブルー
降り注ぐ礫の雨霰で他の二人同様動きを阻害され銃口を思うように向けられないエミリア

 [巨獣]の尻尾がすぐそこまで迫り3人を薙ぎ払わんとするその刹那…ッ

待ってるやで














                メイレン「射貫け閃光よ――[太陽光線]――っ!!」バッ!







 暗中より射す熱量を持った光が[巨獣]の顔を、量の眼を焼き焦がさんと照りついていた
これは堪らんとばかりに悲鳴を上げて、野太い腕で顔を覆いながら身を捩らせた大怪獣の[尾撃]は本来の弧を描く軌道から
かけ離れた動きへと変わる、焼けた顔を抑えていなければ獣は尻尾の薙ぎを無理やりにでも元の動きに戻して術士達を
一掃することも出来たかもしれない



    フェイオン「ふぉ―――ぉぉぁたァァァ!!」シュバッ!ダッ――バンッ!!

    巨獣「グゴッ!?!?」ゴッッッ!!



 最高のタイミングで陽術を唱えて窮地を救った女性の背後から飛び出した黒い影は洞窟内部の岩肌を"蹴り昇って"
自身の背丈の数倍は優にある[巨獣]の頭部よりも高い位置へと一気に躍り出る、彼奴が漸く陽光で焼かれた目を見開いた時
見えた物は頭上まで飛翔した男が勢いをつけて自分の鼻っ面に急降下してくる姿であった
 避け切れない、そう脳が認識するよりも先に文字通り脳が震える様な衝撃が獣を襲うッッッ!!




     リュート「ヒューッ!流石フェイオン!良い[三角蹴り]だぜ!」タッタッタッ…!

     リュート「エミリア、クーン、ブルー三人共無事か?今[傷薬]をやるからな」ゴソゴソ


      ブルー「お、お前達…何故ここに、いや、助かった礼を言うぞ」ヨロッ…

     メイレン「お礼ならその子に言うのね、私達だけだったら貴方達を見つけられなかったわよ?」








       スライム「(`・ω・´)ぶくぶくぶー!ぶくぶくぶー!」ピョン!ピョン!





 入り組んだ大自然の迷宮と化している[バカラ]の地下、それもその最深部で
一度は此処に潜り込んだ経験のあるエミリアでさえも未踏の地であった[巨獣]の住処…そんな魔境に迷い込んだ術士達を
見つけ出すというのは至難の業であり、リュート等だけでは間違いなく早期合流は不可能だった事だろう




 然しながらスライムだけは一切道に迷うことも無く、彼等3人の居場所を察知して見事に仲間を先導したという…



 人間<ヒューマン>ではなくモンスターだからこそ成せた業か、日頃ブルーに付きっ切りのこのゲル状生物だけは彼の匂いを
辿ってこの抜け穴の先まで追跡できたのだ…っ!


 [スターライトヒール]の詠唱に入ったメイレンに言われて蒼の術士は驚く、自分達はコイツに救われたのかと
ドヤ顔で『俺の通訳があったからすぐにブルー達の事も見つけられたんだぜ!』とか言い出す無職の言葉は右から左に流し
魔術師はスライムに対する評価を自分に寄りそってくる鬱陶しい生命体から少しは使えるヤツと改めた


 劣勢にあった状況から一転、追いかけて来てくれた仲間達の到来で活路を見出す事ができる
古人曰く戦いとは数が物を言う、無論それは状況にもより必ずしもその限りではないがこの戦闘に関して言えばそうだ


 重量感のある[巨獣]の一撃こそ手痛いモノだが、その分動きに難がある相手を取り囲む陣形を取り
四方八方から攻めれば良い…相手が誰かへの攻撃を開始したならば死角になる位置から先程のメイレンやフェイオンの様に
振り下ろされる拳や蹴り、尾の軌道を逸らすなり術士を救出したエミリアと同じ機敏な動きができる仲間
あるいは防御性に自信のある者が割って入り援護する、そういう手段もある



     巨獣「グ、ぐおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」ゴガァァァ!!


       ブンッ!グォン!!



     フェイオン「うっ!?」バッ!

      リュート「いけねっ!奴さんプッツンしちまったみてぇだ!腕をブンブン振り回しまくってらぁ!!」



      巨獣「ォオオオオオォォォオオオッ!!」ウデ フリマワシ!!

      岩肌『 』ゴガッッッ!!




     メイレン「―――っ!フェイオンそっちに行っちゃ駄目よっ!」ハッ!



 [三角蹴り]をお見舞いし、相手の顔を蹴りつけた勢いでそのまま飛び去る一撃離脱を取った弁髪の男に対して恋人は叫ぶ
飛び離れた方角が命取りとなり得る、怒り任せに[巨獣]は鋭い爪のついた手を振るい岩肌に爪を突き立てながら
削り取るかの如く大腕を滑らせた

 癇癪を起した小さな子供が丁度組み立てた積み木の城でも壊していくのと何ら変わらない
抉り取られた岩肌は…否、そのまま宙に浮いたフェイオンの身体を粉々にせんと吹き飛ばした[岩石]の質量弾は彼の右肩に
勢いよくぶち当たる



     フェイオン「うぐぁぁぁぁっッ!!」

      メイレン「フェイオン!!」ダッ!



  リュート「ブルー!エミリア!もう動けるか!?動けるなら急でワリィけどアイツ止めんの手伝ってくれ!」


 メイレンのヒステリックな叫びが地下空洞に響く、銃を構え相手に向けて
牽制射撃しつつも右肩を抑えたまま大地に墜落した愛する男の元へ駆け寄る姿を見てリュートは直ぐに指示を飛ばす

 普段冷静なメイレンでさえ取り乱す事はある、クーンの治癒もまだ終わっていないのに思わず走り出して
フェイオンの回復に向かったのは[傷薬]を持ったリュートが居るから大丈夫と判断してか、それすら頭から一瞬抜けたか
 緑の獣っ子の手当てをするべく目の前の大怪獣を足止めして欲しいと彼は術士とブロンドの女にそう頼んだ



   エミリア「任せてよね、ここからが私達の反撃タイムよっ!」ジャコッ!

    ブルー「よかろう!さっきまでの礼をたっぷりとしてやろうじゃないかッ!スライム貴様も後に続け!!」



 銃口を洞窟内部の天井から垂れ下がる岩垂氷に向けた女性が引鉄を引くのと、アニー直伝の[稲妻突き]を試そうと男性が
動いたのはほぼ同時であった
 パァン!と銃身が火を噴く音がして僅かに遅れて岩垂氷が落下する、脆い箇所を瞬時に見極めピンポイント射撃で
敵方の頭上に対象物を激突させる[曲射]だ

 剣を構えて曇空を裂く稲妻を思わせる急発進、急加速の突きを繰り出したブルーは未だ暴れ回る[巨獣]が
片脚を一瞬上げたその時を狙って攻撃を仕掛ける、人間にも同じ事が言える…勢いをつけた物体が片脚上げた状態の者に
正面から衝突すればどうなるか?身体のバランスを崩して後方へ仰け反る様にふらつく


 刺突によるダメージを受け、尚且つ1歩、2歩分後方へとズレた所でエミリアのピンポイント射撃が生きる…っ!


 仰け反った相手のその位置に清々しい程綺麗に岩垂氷が入ったッッ!!2人連携技[曲射突き]であるッ!!!!


 べしゃっ、ドジュウウウウゥゥ!!!!


      巨獣「ッ!?」


 大きく仰け反れば自然と上半身は天にひけらかす形になり
無防備の儘で曝け出された腹部から胸部、喉元そして頭部には岩がドコドコと当たり、特に胸部は[曲射]で落とされた
先の岩垂氷が刺さったままの状態となった


 泣きっ面に蜂、更に半歩後ずさる様に左足を下がらせた所で何か水っ気のあるモノを踏んだ、直後足裏に激しい熱と痛み


     スライム「(`・ω・´) ぶくっ!」キリッ!


 それはスライムが放った[溶解液]であった、後ずさる事を見越しての相手のすぐ真後ろの地面目掛けての射出
大地をも熔かす酸の水溜りが出来て間もなく[巨獣]の脚はそれを踏み痛みに呻く


    ブルー「チィッ!まだ斃せんというのか!?タフな奴め…!!」タッ!

   エミリア「身体が大きいから生命力も高いってことなのかしらね…っ」チャキッ

   スライム「(; ゚`Д゚´) ぶ、ぶくぶく…!」




              「いんや、これで終わりだぜ!」ヘヘッ!

              「3人共!あとは僕に任せて!」ズモモモモ…!!



 敵方の並々ならぬ生命力と攻撃性にこのまま持久戦が続けば流れを変えた旗色もまた良くない方へ流れる
2人と1匹がそう考えた矢先、何かを勝ち誇ったような笑みを浮かべたリュートが終わりだと告げる
 弦楽器を背負った男の背後には黒く蠢く不定型の影が見えた

 影は音を立てて姿形を変貌させて一匹の見慣れぬモンスターへ変化を遂げる



       ブルー「その声は…クーンか!だがあの姿はもしや」

      エミリア「なにアレ!?綺麗だわっ!!」スッ



 無意識の内にエミリアはモンド執政官から渡されたブローチを取り出していた、彼女の視界に映ったモンスターの姿は
渡された装飾品のモチーフによく似ていた、リュートの故郷に伝わる御伽噺の生物にも…ブルーの国に伝わる神話でも出た



      フェイオン「うっ、…メイレン、すまないキミにまた不甲斐ない所を見せた…」
       メイレン「本当よ、馬鹿」ギュッ

      フェイオン「…ああ」ギュッ


 治癒が完了したフェイオンは目の前に居る女性と共に"翼を広げて飛び立ったクーン"の姿を見て安堵した
彼等の長い旅路で多くの危機と隣り合わせの戦いを繰り広げてきた中で少年が得た力…これで決着が着くであろうと



     クーン(マリーチ)「皆を傷つけて…もう許さないぞ!![グランドヒット]-――っ!」ヒュンッ



 ――モンスターという種族は自分が倒した敵から力を吸収し、その姿形を違うモノに変質させることができる
[ラモックス]であったクーンもその例に漏れず、彼が成った姿はまさしく"天使"そのものと言っていい姿だった

 神秘的な美を感じさせる何処か儚く清楚な盲目の天使、されど自身の周りに浮かぶの人間<ヒューマン>の眼球という歪さ
決して自身の眼は開かない天使は大翼でこの場の誰よりも速く、誰よりも高く飛び、[グランドヒット]を放つ




 舞い上がった天使の急降下攻撃は、無慈悲なる一撃は[巨獣]の胸部に深々と突き刺さったままの岩垂氷へ…

 吸血鬼の心臓に食い込んだ杭に更なる鉄槌を振り下ろして心の臓に根深く杭を打ち込ませるが如し……ッッ!!

勝ったッ!バカラ編完!

―――
――


【双子が旅立って 7日目 午後22時57時分 [クーロン]】


 暗黒街の滑走路に宇宙船<リージョン・シップ>が降り立ち、旅行客が機体から列を作り降りていくその中には
どっと疲れた顔をしたブルー一行の姿もあった、ちょっと仲間と共に気分転換で賭場に遊びに行ったら波乱万丈な大冒険に
付き合わされたという災難であった、その癖得るものが何も無かったのだから不満以外の何物でもなかろう


   ブルー「…。」ムスッ

  リュート「なはは!まぁまぁ怒るなって人生はアクションの連続って言うだろ?」

   ブルー「…もう突っ込む気にもならんよ」ハァ…


 怒鳴っても無駄に体力と精神力を消耗するだけだと結論付けて言いたいことは飲み込む
アクションでもアクシデント満載のアトラクションだろうと勘弁願いたい物は願いたい
 指輪を取り戻した後、どこにそんな体力が残っていたのか光の速さでメイレンが引っ手繰る様に取って懐に仕舞い
依頼主に渡してそれから正式に買い取るわ!ここから先は私達の仕事だから任せて!!と矢継ぎ早に言った

 リュートから後で聞かされたが『指輪は私達が取り返したんだから買取金額は割り引かせてもらうわ』と
指輪の元の持ち主にそう持ち掛けて本来の指輪買い取り金を相当払わずに済む交渉に漕ぎ付けたとかなんとか…



  クーン「わーい![クーロン]だ!この街って人がたくさんいて楽しそうだしご飯も美味しいから好きーっ!」

  ブルー「……。」



 只でさえ碌でも無いドタバタ騒動に巻き込まれたのだから術士の彼は二度とこの集団に関わるまいと思っていたのだが
何の因果か、この一団は"指輪"を求めて奇しくも自分の目的地の1つ[ディスペア]の監獄に行く予定らしい…

 "解放のルーン"を求めて行く自分とは違って"刑期100万年の男"とやらに会いに行く訳だから
恐らく道中で別れることになるとは思うが…それまではこの喧しい連中との付き合いを
まだ続けねばならないのかと蒼き魔術師は頭痛を覚えていた


  ブルー「…今日は心底疲れた、だから後日にはするが…本当にその指輪を見せてくれるのだろうな?」

  クーン「うんっ!ブルー達は助けてくれたお友達だもん!それくらい良いよ!」


 …なんと警戒心の無い生物だろうか聞けば全て揃えばどんな願いでも叶う指輪なのだろうにそんなモンが実在するとは
眉唾程にも信じちゃいないが仮に自分が願い叶えたさでそれを盗む様な者だったらどうする気だ
 ルージュをこの世から抹殺するという願いを叶えられるなら是非も無い、と言いたいところだが自分自身の手で葬らねば
自分が御国に求められる完璧な術士である証明にはならない


 ゆえに願いを叶える秘宝自体が不必要だし、そもそも信じられないので万に一つの可能性も無いが…



  エミリア「前に話してくれた御伽噺の指輪に似てるから調べたいのよね?」

   ブルー「…まぁ興味本位という奴でな」



 敬愛する祖国の伝承に類似する古代遺物なら…まぁ多少は興味ある、願いが叶うなんて信じちゃいないけど…

話しかけてきたエミリアに対してブルーは気怠げに一言だけ返した…


   ブルー「…。」チラッ

  エミリア「? なによ」

   ブルー「いや別に、なんでもない」テクテク



   ブルー(この女、自分のアジトに帰るまでバニーガール衣装で居る気なのか…)困惑


 ブルーが心底疲れた顔をする理由にもう一つ、旅客機内でもずっとバニーちゃん衣装で他の観光客から
滅茶苦茶ガン見されまくったり、ヒソヒソと色々言われて無駄に恥かいたせいでもある

…こんなことならメイレンやフェイオン、あとまだ見ぬ妖魔の仲間2人が座ってるらしい後部座席の区画に座れば良かった



 妖魔の仲間があと2人居るらしいクーンのパーティだが魔術師一行は未だ顔を見合わせては居なかった
なんでもその内の1人がかなり繊細な水妖で[バカラ]の空気に当てられて体調を悪くしたらしい
 カジノ内で見かけなかったのもそれが要因で、宿泊先のホテルの個室でもう1人の医学に心得のある妖魔を付き添わせた



…妖魔という種族は医者志望でも多いのだろうか?


 白衣を着た長髪で眼鏡を掛けた胡散臭い闇医者の姿ブルーの脳裏に過ったが…きっと別人だろうと首を振った

例の藪医者を思い出しそうでなんかイヤだった上にそんな面倒臭そうな水妖や破産して金が欲しい指輪の持ち主に無慈悲な
交渉を持ちかけるメイレンが居たりで後部座席に座るのは嫌だと、前の区画の席を取ったが失敗だったと
 今更ながらにブルーは後悔した…



  ブルー(というかこの女、どういう感性してるんだ…街中バニー衣装で歩くって…世間体とか考えろよ)ゲンナリ



 荷物を持ってボーディング・ブリッジから発着場ターミナルへと出ると外は大雨だった
耳に窓硝子を打つ雨粒の音、出入口の先から聴こえる人々の雑踏、賑わい…ネオンの光と機械の音

 初日この無法都市へやって来て煩わしいことこの上ないと感じたそれらを見て彼は「…あぁ、帰って来たな」と
思った、だからこそ驚いた


 スロットマシンの音もバカラが回る音も人生の勝者敗者が決まり歓喜する声、絶望に打ちひしがれる声
何もかもが耳障りだった[バカラ]とは違った意味で煩い街




 ……"実家の様な安心感"、そんな言葉が似合う感情をこんな街に抱くなんて自分は相当疲れてる様だ


早くイタ飯屋に帰って自分に割り当てられた部屋のベッドで泥の様に眠りたい
 後ろで仲間達がなんか言ってるが、適当に空返事だけしながら彼はヨロヨロと帰路に着いた



  リュート「ありゃりゃ…ブルーの奴行っちまったよ、アイツ話聞いてたのかね?」

  スライム「(´・ω・`)ぶくぶくぶ…」


―――
――


  ガチャッ…!


  アニー「あっ、おかえり!どうだった!?エミリア達と楽しんで来たんでしょ?」ワクワク

  ライザ「その様子だと、お土産は期待できそうにないかしらね?」グワァシッ
  ルーファス「」プラーン、プラーン

  アニー「えぇ…なぁんだお土産無しか、つまんないの」


 賭場の戦利品を期待していた女子二人、特に金髪娘の方は落胆の色を見せた

 …自分達が出掛けている最中に一体何があったのか気絶したグラサン店主が
ライザに首元を掴まれてプランプランと宙吊りにされている、なんか知らんけど関わらんでおこう
 気力も面倒毎に首突っ込む体力も無い魔術師は無視を決め込んで自室に帰ろうとした時だった


    アニー「あっ、ちょっと待ってよ!ブルー忘れてるわよ!」

    ブルー「なにを?」


    アニー「おかえり、って言ったでしょ」

    ブルー「…ああ、"ただいま"」テクテク


 わざわざ呼び止めるから何事かと思えばそんなことか…全く疲れる、重い足取りで寝台の上に横たわって服も着替えずに
そのまま意識を眠りの底に沈めようとした、微睡み掛かった所で入口の方から遅れて帰宅したエミリアの「ただいまー」の
一言で折角寝かかっていた意識を起こされるのはまた別のお話

ルーファス生きてるよね……?


投下前に、一つご訂正を…

>>636

>…こんなことならメイレンやフェイオン、あとまだ見ぬ妖魔の仲間2人が座ってるらしい後部座席の区画に座れば良かった

とありますが、メサ子はカジノの空気にあてられて体調不良を起こして
 ヌサカーン先生付き添いの元[オウミ]のホテルで療養中です、>>1の間違いです…申し訳ない



>>637でも


>例の藪医者を思い出しそうでなんかイヤだった上にそんな面倒臭そうな水妖や破産して金が欲しい指輪の持ち主に無慈悲な
>交渉を持ちかけるメイレンが居たりで後部座席に座るのは嫌だと、前の区画の席を取ったが失敗だったと
> 今更ながらにブルーは後悔した…

とありますが、これも単に破産してちょっとでも金銭が欲しい依頼人から支払金をハネようとしてるメイレンに引いてて
関わり合いになりたくないから後部座席を嫌ったという設定でお願いします…すいません

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僕の朝は早い



自炊できる時は倹約の為に積極的に自炊した方がいいかな~って僕は常々考えてるから朝ご飯を創る為に早起きになる




特に今日からはレッドが僕らと一緒に本格的に旅に加わってくれるから腕によりを掛けてたくさん作ってあげなきゃ!





僕達は[杯のカード]を手に入れたことで秘術の試練も折り返し地点に来たんだなって安心してる





その上、残ってる2つだってエミリアさんから[バカラ]に行けばいいこと

[盾のカード]だってキグナスで知り合ったヒューズさんが実は持っているから頼めばすぐだってレッドが言ってくれたから








行先も何をすればいいのかも心当たりがあるから少なくとも今回みたいな過酷な試練にはならないだろうなって安堵してる





だから少しだけ、そう…ほんの少しだけ僕達はまだ[ヨークランド]で束の間の平穏を楽しんでいたいんだ




不思議な事にあれからアセルスと白薔薇さんを狙う妖魔の追ってもまだ来ていない


警戒を怠らないのも大事だけど常に気を張り過ぎるのもきっと良くない、こんな時だからこそ心にゆとりを持つことが大切





新鮮な空気と美味しい野菜や果物、酪農も盛んだから心を休めるのにこの惑星<リージョン>は適している



試練から帰った僕達が宿を探していた所、ウチで泊っていけばいいと言う親切な人にも出会えたのだから幸運だ




 朝一番の水は冷え切っていて、比較的に暖かな気候たるこの惑星<リージョン>でも少しだけ悴みそうだった

 宿泊させて貰っているとある一件の民家、台所をお借りしたルージュは洗い終えた野菜の皮を剥き、程よいサイズに切る
大自然に恵まれた土地ならではの恩恵は他所の市場で見るよりも形や色艶がよく瑞々しい

 焦がさない様に弱火で熱をちょっぴりと加えた鍋底に落としたバターを木べらで小突けば滑りながら融けていき
続いて投入された地産鶏の胸肉を少しずつ狐色に変えていく


 食料品の買い出しに出かけたルージュは市場で見かけたオリーブオイルとバターのどちらを使うか最初迷いはしたが
長旅での長期保存を考慮した上で今日はバターを使う事に決めた
 世界を渡り歩く上で楽しむべきは文化や風習の違いだということはまだ日の浅い新米冒険者の彼にも理解できた
食文化は特に紅き魔術師とその仲間達にとって何よりも大きいもので惑星<リージョン>毎の特色ある食材や伝統の味は激戦で
日々疲弊していく心身に癒しを与えてくれる

[ヨークランド]産のオリーブから搾った油は次の調理でじっくり味わうとして、今回は地元の牧場で造られたバターにした


 次に玉ねぎを加えてこれも透き通る飴色になるまで炒めていく、火を通したことでじんわりと水分が出ては蒸発していく
基本的にルージュは野菜の水分を無駄にしたくないという考え方の持ち主だった
寮生活の時にもう居なくなってしまった先輩や先生から野菜の水分は栄養価も高く独特な旨味や甘味もある
できることなら味を逃がさない方がいいと教えられたからだ

ほんの少しだけ、蒸気となって逃げていく旨味を勿体ないなぁと内心苦笑しつつ他の材料も投下していく…



 バターの風味を利かせた鶏肉と野菜の煮汁から灰汁を取り除いて、パキッと小気味良く音を立てるシチュールーと
新鮮な牛乳を入れて後はクリームシチューが程よくなるまで待つだけだ



     ルージュ「さてっ、と弱火にして…じゃがいもが柔らかくなったらかな」


ガチャッ


     ニートの舎弟「ルージュさーん!コレここに置いときますねーっ」

    ルージュ「ああ、ありがとう助かるよサンダー!」



 エプロン姿で調理場に立つ紅き魔術師の所に人参やトマトと言った野菜がどっさりと入った籠を抱きかかえながら
随分と大柄なモンスターが入ってきた…外見は一言で言えば子供が泣いて逃げ出しそうな鬼で逞しい筋肉量とあらゆる物を
噛み砕きそうな牙と顎を持った[オーガ]種である

 しかし、その厳つい姿形に似合わずまるで小さな子供の様な純朴さを持った彼ことサンダーはニコニコと微笑みを携え
彼よりも一回りも二回りも小さい人間<ヒューマン>であるルージュに深々と頭を下げるのであった




 [杯のカード]を得てから帰ってきた魔術師御一行はどこかで身を休める場所を探していた
凶悪極まりない烏賊の襲撃もあってか帰ってくる時は満身創痍で怪我の手当て、BJ&Kの充電ができる場所も探していた
重い脚を引き摺って村の中を回った結果…



  『なんだいアンタ等、体中ボロボロじゃないかい…宿を探してる?
           それなら丁度ウチの馬鹿息子が上京して部屋が空いてるから泊まってきな』



っと、親切なおばさんに出会えたのは幸運だった

 案内された一軒家の戸を潜った時に『アニキ!?帰ってきたんスか!?』と大声で叫ばれて何事かと振り返った時に
血相を変えて走ってきたサンダーの姿が見えた、それが彼とルージュ達の出会いであった


 なんでもサンダーが"アニキ"と慕う人物はお世話になっているこのお宅の一人息子さんらしくゾロゾロと集団で家に
見知らぬ旅の一行が入っていくのが見えてもしや"アニキ"が何らかの理由で誰かと帰ってきたのか!?と勘違いしたらしい


血相を帰ってどすどす土煙を上げながら走ってくる強面のモンスターを見て、思わず臨戦態勢に入るレッドとアセルス
剣を構えられたことで『ひぃっ!!』と悲鳴を上げて土下座するサンダー…



一悶着はあったがどうにか誤解が解けて今はこうして打ち解けている………彼は見た目とは裏腹に憶病な性格らしい


 サンダーの事を知る近所の人曰く、腕っぷしは強いが気が弱い、よく野菜泥棒をしてウチの畑でトマトを丸かじりする
前に任務で巡回に来たとかいう[IRPO]の隊員を見て『ウワー!警察だー!』と慌てて崖下に飛び降り逃げる様に転がった等

 煙草を咥えた黒ジャケットのパトロール隊員もその光景に思わず口をあんぐりと開けて煙草を落としたそうな…
終始怯えるサンダーにたかだか野菜泥棒如きで逮捕しねぇから落ち着けよと諭されるまで逃げ続けるエピソードが印象強く
これにはルージュも思わず笑ってしまいそうになった


 さて、そんなサンダーだが今日は野菜泥棒ではなく畑仕事を手伝った対価として貰った野菜を持ち魔術師の所にきた
家主のおばさんに腕っぷしを買われて暫くはこの家でお手伝いさんとして働いているらしい、お客人のお手伝いも
彼の中ではその一環ということらしい


  ルージュ「サンダーはお皿の用意をしてくるかな?ちゃんとキミの分もあるからね」

  サンダー「俺の分も!?やった、やったー!」


 茄子、パプリカや人参を一口大に切って、ひよこ豆とざく切りにしたトマトを加えて
更にケチャップを投入して炒めて、そこにスパイスとしてほんの少しの唐辛子を入れたなんちゃってラタトゥイユ

 食卓に緑が足りないと感じてシンプルながらもご飯に合うほうれん草のソテー、まだ使い切っていないバターで
茸類のしめじ、えのき…それからベーコンとを炒めて[京]に立ち寄った時に買った醤油と黒胡椒を振って
フライパンから皿へと移す


そこに野菜サラダも加えて――――全体的に今日は野菜が多い過ぎたくらいかもしれない、けど…これでいいよねっ


エプロンを外しながら紅き魔術師は心の中でそう呟いた



―――
――



  レッド「ぐかー……ブラッククロスが修学旅行かよ…ムニャムニャ」

  BJ&K(充電中)「…。」




  ルージュ「気持ちよさそうに寝てるなぁ…」



 両手を上げて万歳の態勢で鼾<いびき>をかきながら、ついでに何の夢を見てるのか寝言まで言いながら眠っている仲間
朝食が出来たから起こしに来たのだがこうも熟睡されていると何だか目覚めさせるのに引け目を感じてしまう
 眉を八の字に困った笑みを浮かべつつ彼はレッド少年を起こした


  レッド「んあ?…ふわぁっ、なんだもう朝か?」ゴシゴシ

 ルージュ「そーそー、朝ご飯出来てるよ」


 シャツ一枚にパンツ一丁とラフな格好の少年はまだ重い瞼を擦りながら自分の着替えが入った鞄を漁る
魔術師はカーテンを開けて部屋に日光を取り込み、教わった通りに医療メカの起動スイッチを入れる

 稼働し始めたBJ&Kは人間<ヒューマン>よりも丁重に朝の挨拶を述べて自分でお借りした電源から自身の充電用コードを抜く
メカである彼に女性陣を起しに行ってもらえないかと頼み
まだ寝ぼけ眼で歯ブラシを咥えながら鏡に映った寝ぐせと睨めっこしているレッドに先に戻ってるねと一声掛けて台所へ…


―――
――



   レッド「うめぇ…っ…うめぇじゃねーかっ」ガツガツ

  アセルス「ええ!なんだろう…この優しい味っていうのかな、家庭の味って感じがする」



 外食で味わう旨さとはまた違う、一般家庭の手作りの味…白米もパンもありどちらにも合うようで[シュライク]組はお米
白薔薇姫とサンダー、そして家主のおばさんはパンを手に取っていた、ちなみに術士は気分的に今日は白米派のようで
 副菜のほうれん草ソテーもなんちゃってラタトゥイユも、なにより鍋一杯だったシチューも飛ぶように売れた事が
彼には嬉しかった料理当番冥利に尽きるという奴だ

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                  短いですが今日はここまで!


          まさか数年の時を経て、サガフロがリマスターされるとは…

      実装されずに終わった8人目主人公ヒューズ編まで搭載されて帰ってきた!!!

アセルスのパーティーにヌサカーン先生が居たりする辺りアセルス編の没イベントもちゃんと没じゃなくて実装されてるッ



 こんなに嬉しいことはない…ッ

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投下乙待ってた
リマスターするのか…めちゃくちゃ楽しみだな

リマスターにはシナリオ追加があるとか聞いてちょっと期待している俺がいる



  レッド「ふぅ、食った食ったごちそうさん」


 最後にコップ一杯の水を飲みほして満面の笑みを浮かべた少年は栄養補給も完璧だしこれで野良仕事もバッチリだぜ、と
腕捲りして力瘤を作って見せる、そんな明るい彼につられて思わずルージュも噴き出しそうになるのを堪えて
白薔薇姫と共に下膳を手伝うのであった


 「あんた達すまないねぇ、朝食を作ってもらうだけじゃなくてウチの畑仕事まで手伝ってくれるなんて」


 家主の女性がそう言ったのに対して、流し台で皿洗いに従事していたアセルスお嬢は当然のように答える


 アセルス「そんな一晩タダで泊めてもらったんですよ、これくらいのお手伝いは当たり前ですよ」


 「……」


 アセルス「? あのー…どうかされましたか?」


 家主は彼女の言葉を聞いてほんの少しだけ動きが止まった、驚愕も呆れとも違う感情の色が顔に出ていた
不思議に思った少女は固まった相手に思わず問いを投げかける
 問いに対して暫し目を細めて在りし日に想いを馳せるような顔を浮かべた後、家主は言った


 「…あんた達は術の資質を集めてるんだろ?さっきの言い方といい、なんだか亡くなった夫や古い知人を思い出してね」


 無自覚に触れてはいけない所に触れてしまったのだろうか?と半妖少女の顔に影が差し掛けたが直ぐに家主は
別に気にしないでいい、むしろこんな歳を食った女の思い出語りに付き合ってくれないか?と持ち掛けられる
 年長者として年若く見える娘への気遣いか、はたまた単にこの人自身が自分の話を誰かに聞いて欲しかったからなのか
ルージュには一瞬どちらなのか分からなかった



 「ウチの惑星<リージョン>はあんた達も行ってきた通り[杯のカード]が祭ってある祠があって、その手前には沼地がある」


 毎年時期にもよるが[ガイアトード]や[玄武]、そして昨日危うく全滅の危機に陥りかけた[クラーケン]など…
危険種とされるモンスターが大量に繁殖しより良い環境を、より強い力を感じられる場所を、と
 宛ら街灯の明かりに群がる蛾や地面に落ちた溶け掛けのドロップスに群がる蟻が如し
アルカナの祀られたパワースポットに引き寄せられる様にやってきてはそのまま住み着くのだ




 当然ながら近隣住民がその危険性に気付いていない訳もなく、そして調査の結果沼地からは出てこないのだから
此方から積極的に踏み込まない限りは生命の危険性は無いとしてそれほど危険視してはいないのだという



…人間とは次第に慣れていく生物だ、あんなにも人里近くに魔境があるにも関わらずいつしか住民は気に留める事を止めた


 どれほど前の世代から"伝統"と化したのかは知らないが、危険度ランク9相当のバケモンが遊泳する危険地帯を
日常にある当たり前の光景とし、更には男達の腕っぷしを鍛えるちょっとした肝試しの様な物にすらなっているのだという



  「イアン……ウチの亭主も、[杯のカード]を取りに行ったことがあるのさ、当時よくつるんでた3人でね」


 ルージュ「…よくつるんでた3人、といいますと?」


 人生の先輩から思い出話を聞くことになった紅き術士は思った疑問を口にした
いつの間にやら皿を全て洗い終えたアセルスも椅子に座った白薔薇姫やレッドも誰もが真剣に耳を傾けていた


 「亭主のイアンとその親友、ウェントとモンドさんの3人さ…あの頃はあたしも皆、若かった、誰もが夢を持ってたわ」

 「明日自分達がどうなるか、明日どんなことがあるか、先の先のずっと先なんてまったく考えずに走った事だってある」


 齢40を上回って顔に小皺を蓄えた女性の目は懐古の念を追う毎に輝いていた、人間誰しもが持つ煌めいていた時の心
初老を迎えつつある彼女はこの瞬間だけ少女時代に戻って楽し気に語る、いつも大騒ぎして馬鹿な事をやってた3人組を
遠目に眺めている事が好きだった事、ある日[杯のカード]の試練を乗り越えた3人組の内1人がその日の内に告白してきた事

 「丁度あんた達みたいな感じだったのさ血気盛んな若者集団でお人好しでねぇ…試練帰りのズタボロで求婚したり」クスッ


 試練帰りに求婚を申し込んだ男性というのが恐らくは今は亡き彼女の夫イアン氏なのだろう
夫とその友人達は3人で何か大きな事に挑んでいたという事は知っているが具体的に何をどうしようとしたのかまで
子細には知らないのだという…


 ただ一つ、これだけは言える


 妻である彼女が遠目から見てて妬けてしまうくらいには仲が良く、この3人が揃っていれば如何様な苦境も乗り越えると



  レッド「ん~?」

  白薔薇「どうかなされましたか?」



  レッド「いや、"モンド"って名前なんか聞き覚えあるような…なんだったかな?」

  Bj&K「テレビや新聞で載ってましたね、新たに赴任したトリニティの執政官ですよ」



 機械仕掛けの医師が少年のうろ覚えな記憶に解を当てはめる、それを聞いて合点言ったのか両手を叩いて「それだ!」と
レッドは声をあげた、トリニティの中枢がある[マンハッタン]を初め各地を巡るシップに
機関士見習いとして乗っていただけある、社会情勢や政治には疎いが流石に執政官が変わったなんてビックニュースくらい
嫌でも耳にするというものだ



 「そうそう、風の噂には聞いてるよなんでも第七執政官になったとかねぇ…人の人生ってのはどうなるか分らんもんさ」


 同郷の人間がそんな大出世を果たした、喜ばしい話の筈だがどこか家主の言葉は他人事の様に聞こえた
ずっと近くに居た身近な人が遠い雲の上の存在になったようで、未だ信じられないのか
はたまた同姓同名の赤の他人だと思っているのか

いや、後者は無いだろう、口振りからして


 先程まで旦那さんとその友人達(当然モンド氏も含まれる)がよく組んでひたすら夢に向かって奔走した話を
綺麗な宝物でも自慢するように話してくれたのに、…過去のモンド氏ではなく現在のモンド執政官殿に対しては何処か
遠い存在を、名前も顔も知らない別人の事でも語っている感じがしてルージュには分からなくなった

 少なからず交友のあった人なのだろうに、こうも余所余所しいというか…"壁"を感じる言い方…


身近であった過去のモンドと、雲の上の存在になった今のモンド

 家主が語った青春時代の話と成りあがった知古の男性のサクセスストーリーとで温度差があるように感じたのだ



 三文小説でよくある展開だ「あんなにも親しかったのに」と周囲の人が嘆きの声を漏らす場面
幼少からの知り合いだったのに、十数年一度たりとて顔を合わせる機会が無くなり、交友関係が断たれて次第に
関係が希薄になってしまうお話


 ある日とある街角ですれ違ってもお互いに気づかず素通りして終わってしまう日

 声をかけても「すいません、どちら様でしたか?」と言われて終わってしまう時―――そんな切ない人間関係の話だ






…それこそ今しがた彼女が語った"人の人生ってのはどうなるか分らんもん"なのかもしれない


 会話から察するにモンド氏やウェント氏も決して付き合いの悪い間柄では無かったことが窺える、特に前者に関しては
なんなら家主に対して想う所があり、少なからず好意的に接してくる彼を毛嫌う理由がある筈もない


 そんな彼女からしてみれば過去の良い友人は、今や遠くに居る何処か知らない世界の顔も声も思い出せない住人なのだ




人間の縁や絆、そういうのひっくるめてどうなるかなんて分からない



 この話は何もこの人に限った話じゃない、そう…自分達自身にだって言えることだ
だからこそルージュは家主の言葉には色々と感じる所や考えさせられることがある




 人の絆や縁はどうなるかなんてわからない、…もしも、もしも万が一にだが自分が双子の兄を殺したとしてその後
彼や彼女達は身内殺しの自分をいつもと変わらぬ態度で受け入れてくれるだろうか?

 表面上はそうであっても心の奥底では何かしらがあるのではないか?




 例えばありえん話だが、アセルスお嬢が自分の身に宿された妖魔の君の血に蝕まれ、高慢で我欲に走る暴虐の帝となった
そして世の美女を自分の寵姫に変え、全リージョン界を支配せんとしてレッド少年やルージュと敵対したら?

 …世界征服なんて目標を掲げて侵略戦争を始めたら当然こうやって仲良くバカ騒ぎはできないだろうな
世の中には悪の組織を潰そうとする正義のヒーローが実在する、つい最近知り合ったアルカイザーとは敵対するに違いない




 レッドが仇討ちの目標を終えたとして旅を続ける理由が無くなったら、いつまでも自分達の旅路に付き合う必要ある?
紅き魔術師には旅の最終的な目的はあるにはある、祖国から粛清されないように資質を集めつつ兄と対話をする予定だが
対話をしたところでその後どうなるというのだ?殺し合いを避けれるのか?

…百歩譲って避けても[ファシナトゥール]からの逃亡生活を送るアセルス同様に
彼もまた[マジックキングダム]の刺客から逃げ続ける日々が始まるだけではなかろうか?


 そうなってしまったとして本当に何一つ悪くない彼まで波乱万丈な人生につき合わせるのか
今はまだ良い、だが時が経てばやがて人は老いて逃げる力さえも無くなる

 今後の余生をヨボヨボの老人になってまで戦う日々を続けられるのかと真剣に問うたらどうだ?
迷わず彼は首を縦に振るか?理想や情熱、夢…大いに結構、それらは紛れもなく尊い物で何物にも代えがたい


 しかし、現実と理想はいつだって噛み合わない物



 熱に浮かされて勢いだけで夢に突っ走るのもまた人生だが、その後で後悔は無いのか
もっと別の道を選べば"幸せ"も有り得たのではないのかと走る前にほんのちょっぴりで良いから現実を見据えても良い筈









   いつまでもこの関係じゃ居られないかもしれない



 こうして術士と少女と少年、もちろん貴婦人や機械医師も一緒だが馬鹿騒ぎして笑って大冒険して…


 そんな関係が永遠と続けられるかと問われれば、そうもいかない…いつかは関係も今とは変わった物になるだろう




 ただ、願わくば関係や立場が変わっても交友だけは、絆だけは変えたくない…

偉い人になってもならなくても、いつもの様に変わらない集まり、いつもの日常会話、偶に喧嘩なんかもして笑って―――




  ふと、家主の語りを聴いていたルージュは自分の中に沸々とそんな沢山の考えが浮かんでいる事に気が付いた



  白薔薇「ルージュさん、随分と難しい顔をなされてますが…」

 ルージュ「あっ、いや…ちょっとね」


  レッド「おいおい、本当に大丈夫かよ?この後お前も俺と畑仕事やるんだぞ」

 ルージュ「あぁ、本当になんでもないんだ」

 俺が全部やるからお前は休んでても良いんだぞ?と気遣ってくれる親友になんでもないと笑いかける
流石にサンダーが居るとはいえ全部任せて自分だけ休むのは気が引けるし、年上の男として矜持ってのがある
 "年下の少年<レッド>"に任せていては自分のなけなしの誇りに傷が付くってもんだ

―――
――


  レッド「ふぅー、こりゃあ思ったよりキツイかもな…畑仕事ってのは腰に来るぜ」ザック!ザック!

 サンダー「そっスよねぇ、最近畑を拡張したもんだからノルマがきつくて…」


 どこぞの鉱夫みたいな台詞をぼやきながらサンダーが、鍬を持ったままレッドが手拭で汗を拭きながら青空を見上げる
[ヨークランド]の空は本日も晴天なり、収穫物で重くなったずた袋を荷車に乗せてルージュも農家の偉大さを知った


 ルージュ「はは…でもさ、しんどいけど…結構面白いかもねこの仕事」

 ルージュ「…。」


 ルージュ「ねぇ!レッド」

  レッド「ん?なんだよ」


 ルージュ「レッドはさ、組織を倒せたらその後どうするの?」



 唐突に、聞いてみたくなった。




  レッド「はぁ?突然どうしたんだよ」
 ルージュ「いいから!」



  レッド「どうったって、そうだな…正直そんなこと考えた事ねーんだよな」ポリポリ

 ルージュ「考えた事が、ない?」


  レッド「だってそうじゃねぇか、考えたってそん時そん時で考えた通りに100%なる保証が無いからな
                            なんでも事前に分かっちまったらそんなの預言者だ」

  レッド「そりゃある程度は未来予想図みてーなのは立てるかもしれねぇけど少しずつ想定図には"横槍"が入るさ」

  レッド「ブラッククロスをぶっ潰すっつー俺の人生計画には少なくとも
        アセルス姉ちゃんやお前と会って旅する予定は本来無かったんだぜ?でも今こうして旅してるだろ?」


  レッド「なんつーか、俺も難しい事は言えねぇけど臨機応変(?)って言葉があるだろ?
           目標に向かって歩いてる内にそれが終わったらやりたい別な目標が道中で出来るかもしれない」

  レッド「そんなのはその時にならないと分からない、人生ってのはそういうもんじゃねぇか?」

 ルージュ「…でも、ずーっと先で『あぁ、あの時慎重に考えればコレは回避できたかも』っていう嫌な事があったら?」


  レッド「う~ん…そうだな、こいつぁ俺の持論になっちまうからお前には当て嵌まらないかもしれんが」ポリポリ

  レッド「起きた事を悔やむとかよりは、その時で次に何をすべきかを考えるかなぁ
        過去の俺が別の選択をすれば今よりは良くなった場合ってのはあるかもしれねぇけど、でもよ」




  レッド「その時の俺自身は間違いなく"これが正しい"って信じて突き進んだ選択な訳じゃねーか、だったら…よ」


  レッド「悔みはしても、"間違った"とは思いたくねぇな、その時の俺がその時で考えられるベストを出したんだぜ?」



  レッド「良い事も悪かった事も全部俺の人生なんだ、なら全部受け入れて前に突っ切るっきゃねぇさって話だ」ハハッ!


考えすぎて自縄自縛になりやすいルージュはもう少しレッドを見習って肩の力を抜いたほうがいいということなんだな

それはそれとしてリマスターすごいいい出来でマジファンなら買って損はないすごい
みんな買おう(迫真)



 十人十色、人間が10人そこに居れば思想や物事に対する捉え方もまた皆それぞれに違う
"紅"の前に立つ"赤"は確かに考え方が違うようだった、自分には無い考え方だ、純粋に思った


  ルージュ「…。」ポカーン


 呆気、ただ眼を丸くして立ち尽くす術士にレッドは眉を顰めた、何かそんなに変な事言っただろうか?
とりあえず無反応な彼の名前を呼んでみる


  レッド「あー、ルージュ聞いてたか?」

 ルージュ「ハッ!?……う、うん、にしても――――なんだよソレ要は行き当たりばったりって事じゃないか」フフッ

  レッド「あっ!?人が真剣に語ったってのに笑ったなこんにゃろう!」

 ルージュ「だって君らしいっちゃ君らしいんだもん!」ケラケラ



 苦笑しつつ、大袈裟に両手を広げて肩を竦めてみせる、少年もそんな術士の肩をポカポカと軽く冗談めかして小突く


  レッド「このこの!こいつめっ!」ポカポカ

 ルージュ「いててっ、あはは!降参降参!悪かったってば」ケラケラ





  レッド「まったく…」

 ルージュ「…はははっ」






  レッド「…。」

  レッド「なぁ、ルージュさっきも言ったけどな人生なんてのはどうなるかなんて誰にもわかんねぇんだ」


  レッド「最初っから後ろ向きに考えてても仕方がないんだと思う」







  レッド「その、お前のアニキのこと…とかさ」

 ルージュ「…うん」



 風が一陣吹いた、[ヨークランド]の香草の匂いと砂を含んだ乾いた風が野良仕事で汗をかいた身体には心地良かった
手にしていた鍬を肩に担いでレッドは何処までも続いてる遥かな青空を見上げた





  レッド「昨晩はさ、お前がいきなり重たい話をし出すから酔いが一瞬すっ飛んだぞ」

 ルージュ「ははっ、面目ない…」







 ルージュ御一行は[杯のカード]の試練を突破して家主の家に一晩お世話になることになった
…紅き術士は覚悟を決めていた[ワカツ]でゲンとも話をして決断していたんだ、アセルスや白薔薇にも打ち明けた様に


 ―――親友に、レッドに自分は身内<実の兄>を殺すという祖国の勅命を受けて旅を始めたのだとッッ…!!



 祖国たる魔法王国は原則として自国民に他国への外遊を禁じている、他所の惑星<リージョン>から見れば変な国家だな、と
誰しもが思う、理由を聞いても宗教上の掟がどうだとそんなことばかりで観光客は首を傾げるばかりであった
―――今にして思えばある種の情報統制だったのかもしれない


 …別に他国からの訪問者を拒むなど鎖国しているわけではない、寧ろウェルカムオープンなまであって
ショップで[魔術]を購入できたり、自国製の[ルーンソード]や[術酒]など特産品だって普通に販売している



 要は誰も困らないし、その国特有の宗教上の掟だからと言われれば「ああ、そうなんですね」の一言で済む



 だから誰も魔法王国の"暗部"については知らない、知る由もない




 まさか毎年卒業式を迎えた学生がこんな物騒な慣例やってるなんて普通の生活してる普通の一般人は知ってる訳がない
術関係者や国事情に詳しいトリニティ政府高官が良い所だろう






 必然、[シュライク]の一般的な家庭で生まれ育ったレッドにとっては耳を疑うような話だった




 少年はまだ術士の脳が酒に冒されていて、これは…そう!きっと悪酔いの延長で出た質<タチ>の悪い冗句だろう!と
そう思いたかった、だが悲しいかな嫌に全否定できない証拠が少年の記憶にはあるのだ






         - ブルー『貴様の名前が気に喰わん』 -





 先日、自分が働いていた職場に親友になった術士と瓜二つの顔した人間が居たのだ…っ!


双子同士で殺し合う、あながち酔った勢いで口から飛び出した出鱈目な妄想話と切り捨てられるモンじゃない








   レッド「あいつが…そうだったんだろうな」

  ルージュ「僕も、君から聞かされて驚いたよ偶然同じ船に乗り合わせてたんだって」



 術士はまだ見ぬ兄の事を当然レッドに問うた、どんな顔をしてたのか、やっぱり同じなのか
どんな声だったのか、どんな術を使う人なのか、どんな服装だったのか、やっぱり同じなのか




――――…自分<弟>を、どんな風に思っていたのか



 気づけばルージュは両肩を掴んで激しく揺さぶって問い詰めていた、僅かな邂逅であった上に非協力的で
そんなに身の上話をしてくれた訳じゃないんだから解らないと引き剥がされて
 それから…揺さぶったり質問責めしてごめん、とだけ謝罪したのは記憶に新しい



   レッド「お前は殺し合いじゃなくて会話がしたいんだろ?…なら、今は頭空っぽにしてそれだけ考えればいいさ」



   レッド「先の事なんてわからねぇ、でもお前自身はやりたいことが決まってるんだ」

   レッド「『自分の兄弟と会って話をする』ってな!」


   レッド「ならそれだけを"今の"最終目標にしてればそれでいいさ、そん先の事はそん時に考えればいい」

  ルージュ「…。」

   レッド「話し合った後で事が起きたんなら、…そん時に逃げたければ逃げたっていい、戦えるなら戦う」



   レッド「おっと、勘違いするなよ?戦うっても殺すんじゃねぇ
            蹴ったり殴ったりしてボコボコにしてふん縛って、その後で向こうが折れるまで説得する」





 説得だって立派な戦いだぜ?と少年は笑ってみせる


 魔術士は心の底から思った、嗚呼…打ち明けて良かった


真直に自分の運命についてどうすればいいのか、途中から話声が聞こえたと部屋に入ってきたアセルスや白薔薇姫を含めて
4人(…あとメカ1機も入れて)は夜遅くまでああでもない、こうでもないと語り合った



 祖国から命令されたから"戦う=殺す"という考え方がどうにも定着していた…



 固定概念に囚われない考え方というのは大事な物で、三人寄らば文殊の知恵というのもまた真理なのだろう
アセルス、白薔薇、レッドの三人(それとBJ&K)は教えてくれた



 別にブルーを絶対的に殺す必要性が無い



 話し合った結果、和解に失敗して相手が一方的に襲ってきたのであれば当然こちらも戦いはする
然して相手を絶命させる為の武力行使ではない、相手から武器を取り上げ術を使用不可能にして無力化させてやればいい



 当然ながら祖国からの刺客だとかブルー自身が無力化から立ち直って再び襲ってくる等々、根本的な解決策ではないけど
それでも家族を、唯一の肉親を自らの手で殺めずに済むかもしれないのだ




  - ルージュ独りでは決して辿り着けなかったかもしれない、たった一つの冴えたやり方 -



 …100%成功するなんて保証は誰にもできない、力加減を間違えば最悪の展開が起こりうるし逆に力不足であるならば
それすらも成し得ない可能性もある、極めて細い小さな糸口、だけど今この段階で彼ら彼女らが考え得る最適解の解決口



 気乗りしない術の資質集めも、【殺す為】ではなく『無力化する為、自衛の為』と考えて取り組めば幾分も気は楽になる


  ルージュ「そう…だね、そうだよね」

   レッド「ああ、そうさ」









 アセルス「おーい!!三人ともーっ、お昼のお弁当持ってきたよーっ」手フリフリ

  白薔薇「アセルス様、走っては転びますよ」


 ランチボックスを引っ提げて緑髪の少女と妖魔の貴婦人がこちらにやってくる
それを見て腹の虫が鳴り始めた[オーガ]種と少年はガッツポーズを取る


   サンダー「お昼ご飯だー!やったー!やったー!」バンザーイ

    レッド「へへっ!待ちくたびれちまったぜ!働いた分しっかり食わねぇとな!」



 女性陣がピクニックシートを[ヨークランド]の芝生の上に敷き準備をしている間に
野良仕事用の軍手を外して近くの水場で手を洗ってくる、戻ってきた時には豪華なお昼御飯がシートの上には陳列していた



    レッド「うめぇぇ!!やっぱり握り飯はこういう青空の下で食うもんだよなぁ…」

   アセルス「あっ、分かる!私も小学校の行事で古墳近くまで遠足に行って――そこで食べたおにぎりが美味しくて」

    レッド「学校行事かぁ、そういやそうだったな~、そういや俺がガキん時は姉ちゃんが手製の弁当を―――」



   白薔薇「ルージュさん何かいいことでもありましたか?」


 ライスボールを片手に晴れやかな顔をしている紅き術士に貴婦人は尋ねた

…先程まで暗い気持ちだった術士はもう居ない、陰鬱な悩みは霧がごとく四散して[ヨークランド]の空の彼方に消えていた




  ルージュ「いいことですか、確かにありました」


  ルージュ「白薔薇さん、僕は…貴女達に、皆に会えて本当に良かったって改めて思えたんです」



  ルージュ「アセルスや貴女に、エミリアさんやヒューズさん達、レッドやゲンさん達とも…」


  ルージュ「[マジックキングダム]の外に出て、出逢って、知れて、色んな事を教えてもらって―――」


  ルージュ「きっと僕一人じゃ色んな物に圧し潰されてたかもしれない」






  ルージュ「皆が居たから、ここまで来れた、双子の兄をもしかしたら殺さなくても済む手立てにも気づけたんです」



   白薔薇「ルージュさん…」


  ルージュ「皆それぞれ旅の目的があって、今は道中が一緒だから旅路を共にできる」

  ルージュ「先の事なんてわからないけれど、今こうして居られるこの時が、この瞬間が、この時間が」


  ルージュ「何気ない"今"が幸せなんだって思ったんです」

   白薔薇「ふふっ、今ここにあることこそが幸福ですか、確かにそうかもしれませんわね」クスッ

   白薔薇「どう転ぶか分らず不確定な未来よりも実感できる幸せがあり、それを手にしている、確約された幸せな今」


  ルージュ「ええ、…感謝してもしきれませんよ、こんなにも心が晴れ晴れとしていて」


   白薔薇「そういう事、ずっと続くと良いですよね」

  ルージュ「はいっ!」


ずっと続けばいい、ずーっと、ずーーっと続いて欲しい、ルージュは自分が刹那に見出した幸福論を切に願った――――


************************************




            今回は此処まで!



           ※ - 第5章 - ※



   ~ 資質を得る、という事…② 今ここにある幸福論と旅路 ~


                              ~ 完 ~

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リマスターで追加されたヒューズ編には各主人公毎のIFストーリーがあってその中にはブルー編だけじゃなくルージュ編もあるらしいね







           ※ - 第6章 - ※



        ~ 蒼月に祈りを、暁月に誓いを ~





 その日は、一際暑い一日だった


 暑月特有の気温とは裏腹に見上げた蒼穹は涼々とした印象を受けた
あの大空は海原で流れる雲は漣<さざなみ>なのではなかろうか差し詰め飛んでく練雲雀は鴎か
 天地がもしもひっくり返るのなら…、空を地として海を仰ぐ
そんな馬鹿げた空想を浮かべて暑気払いを試みるが効果など知れたことだった



 石畳をじんわりと焼く強い日差しは遠く浮かぶ夏空に聳え立つ山が如し積乱雲を創り出す
手を繋いだ仲の良さそうな少年二人が入道雲の頂を眺めていた



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 無限の広がりと可能性を秘め、また限界という言葉を知らぬは若気の特権で

 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が空想の世界を空に描いていた





 【こうやって両腕を横に伸ばしてさ、お空だけを唯見上げながら走るんだ】

 『前を見ないと危ないぞ、転ぶかもしれないだろ?』



 【こうしてると僕もなんだか鳥やお魚になったみたいであの青の中を――――わわっ!?』

 『だから危ないって言っただろう?もう少しで人にぶつかる所だったぞ?』


 【てへへ…ごめんごめん、でもさ楽しいんだもん、あの空だけを見上げて自由になれてるもん】

 『…確かに楽しいな、でも空だけ見てて前を見ないと躓いたり、転んだりぶつかったり』



 【前を見るのも大事かぁ…】

 『そうさ、大事なんだ』





 【あっ、いいこと閃いたよ!!なら二人でお互いに前と上を"代わり番こ"に見ればいいんだよ】

 『変わり番こ?二人でか?』

 【片方がお空を見て、もう片方が前を見てお互いに助け合うの!時間になったら交代だよ!】

 『…なるほど、前を見て危険が無いかを確認して同時に時計の方も見ておけば代われるか』

 【うんうん!今まで僕がお空をびゅーんっ!ってしてたから次はキミの番!楽しいからやってみなよ】

 『…こ、こうか?こんな風に腕を広げて』



 【そうそう!鳥さんとかになったみたいで何だか楽しい気分でしょ?】

 『うーむ、確かに』

 【キミが前に図書館の本で見たっていうお菓子とおもちゃだらけでお馬さんの王様が居る世界見えるかもよ】

 『むぅ…見えるだろうか、…そっちは人にぶつからないように知らせてくれよ?あと交代の時間』

 【おっとっと、そうだった、…わぁ!!あの時計屋さんたくさん時計が並んでる!!あの砂時計いいなぁ】

 『…おい、真面目にやってくれよ』

―――
――













パチッ…


         …今何時だ? 【15時36分】…いかんな軽い仮眠を取るつもりが思ったより深い眠りに落ちていた








[バカラ]騒動の疲れが抜けきっていなかったのとアニーからの剣術指南がそこそこにハードだったのもあるな






ジョーカーとやらの一件が終わるまでは午後4時から10時までの営業時間


6時間の合間だがやるからにはキッチリと仕事はこなさなくてはな






身支度を整えて店の方へ向かうとするか…





【双子が旅立って8日目 午後 15時49分】


 蒼の術士がエプロンを着用して厨房に入ろうとしたところで肩を掴まれ引き留められた
無言で掴まれた為、最初それが誰であったのか気付かずエミリアかアニー辺りだろうと勘繰って振り返ればそこには――




     リュート「よっ!相棒、可愛いピンクのエプロン着てんな!」ナッハッハ!




 ゴベシャッ!!


 …う~ん、ナイスヒットだな、我ながら今のは百点満点と言わざるを得ない素晴らしい[裏拳]だった
なんで開店前のイタ飯屋の厨房に入り込んでんだ貴様とか、色々喉から声が出るより先に拳が出た
腕に蚊が止まってたのを見て反射的に叩き潰すのと同じくらいの間隔で[パンチ]を繰り出そうとしたら
流れる様に[裏拳]になった、脳裏に光る豆電球まで過った




    ブルー「なんで開店前のイタ飯屋の厨房に入り込んでんだ貴様、部外者だろうが」

   リュート「ほ、ほはへ…いひひゃひひへぇじゃへぇは!!」
       (訳:お、おまえ…いきなりひでぇじゃねぇか!!)



 拳に遅れて漸く言いたかった言葉が出た、だらだらと鼻血が流れる鼻っ面を抑えながら何かプー太郎が言ってる
床に垂れた鼻血は何処から持ってきたのか濡れた雑巾でスライムが忙しなく拭いてくれている、飲食店は清潔が大事っ!


   リュート「あ~…ったく、お前やっぱり話聞いてなかったんじゃねぇかよ」

   スライム「ぶくぶー…('ω')」


    ブルー「? なんの話だ」



   リュート「いや、何って今日丸一日お前レンタルするぞって話だよ…」






                ブルー「は?」






   エミリア「あっ、リュートじゃん!もう来たんだ」トテトテ

   リュート「おーっすエミリア~!相棒を引き取りに来たぜ」


    ブルー「待て待て待て!!いやちょっと待て!本当に何の話だ!?俺は知らんぞ!!」


   エミリア「えっ、昨日[クーロン]から帰ってきた時に話し合ってブルーに許可取ったらいいぞって言ったわよ?」



    ブルー「意味が解らんぞ!?俺が今日丸一日このニートと行動するだと!?しかも俺が許可を出した覚えなぞ…」


―――
――


      -早くイタ飯屋に帰って自分に割り当てられた部屋のベッドで泥の様に眠りたい -
      -後ろで仲間達がなんか言ってるが、適当に空返事だけしながら彼はヨロヨロと帰路に着いた-

       - リュート『ありゃりゃ…ブルーの奴行っちまったよ、アイツ話聞いてたのかね?』-



      -後ろで仲間達がなんか言ってるが、適当に空返事だけしながら彼はヨロヨロと帰路に着いた-

      - 【後ろで仲間達がなんか言ってるが、適当に空返事だけしながら】 彼はヨロヨロと帰路に着いた-





 言葉に、ならない


 覚えなぞない!そう主張しようとして言葉を固唾と共に飲み込んだ
心労を抱えるとどうしても人間は集中力が途切れ思考もおざなりになってしまう、情報処理能力の低下それに伴う視野狭窄
 一晩経って余裕が出始めた頃で振り返ってみればハッと気が付くのだ、何故あのような事を口走ったのかと


 嫌な汗がタラリと伝う、言葉に詰まったということは言ってしまえば心当たりがあるということで…
当然ながら馬鹿だが処世術だけは一級の無職が動揺から生まれた一瞬の隙を見逃す訳もなく



  リュート「なぁんだ、お前ちゃんと覚えてんじゃんかよぉ~」ガシッ

   ブルー「ハッ!馬鹿やめろ肩を組むな!!俺は今から―――そう!店員だ!店員としてここでの仕事が――」



  エミリア「あら、大丈夫よ?全部ライザ達に話したら快くOK貰ったもの」



 何してくれてんだこの女ァ!!とブロンド美女を睨みつける、…そういえば自分が寝台で横になった辺りで
イタ飯屋に遅れて帰ってきたエミリアの声が響いたなと自分の嫌に冷静な部分が分析する
 恐らくあの後彼女がグラサンの指導者を囲んで私刑にしてた女性陣にも事を話していたのだろうな


  エミリア「リュートの提案はグラディウスにとっても益になるってあの後ルーファスが横から口出して来たのよ…」


 文句の一つでも言いたそうな不満げな顔で美女はそう呟く
黙って話を聞いてみれば万年無職が今回持ち掛けてきた話は割と真面目な話らしい…



    リュート「いっぺん[ワカツ]に行ってみようと思ってさ、戦力的にもお前が必要なんだって頼むよぉ~」



 さて、ブルーは昨晩話半分にしか聞いておらず、空返事で適当に返していたのもありイマイチ話の全容がわからず仕舞い
なので本筋をここで語ろう…



 昨晩、双子が旅立った7日目の23時に差し掛かろうという所でリュートは前々から考えていたことがあった
それは以前、ブロンド美女と蒼き魔術師が共に飲みに行った[ネルソン]での一件だ

 リュートの父親イアン氏と現トリニティ執政官に成り上がったモンド氏の件である


 気高い理想を胸に立ち上がった若き3人の革命家、その1人だったモンド氏が活動に限界を感じて"外"からではなく
"内"に入り込んで政府のやり方を変えようと動いて数十年

 当初の気高い理念すら忘れてしまいそうな莫大な権力を前にして野心家と変わり果てて政府の転覆を密かに狙っている
そんな話をリュートは[ネルソン]の"艦長"から聞かされた



 全く知らない仲ではなく、地元から旅立つ折に軍船に乗せて[マンハッタン]に降ろしてもらった等の恩義がある
何よりも死んでしまった父親の友人だというのだ、そんな人と討つ気にはどうにもならない


 …どうにもならないが、同時にこうも想う、「父ちゃんの友人だった人にそんなことさせていいのか?」と


 政府の転覆ともなれば秩序の破壊、それに伴う法治または経済活動の麻痺など社会的な混乱も大きい筈だ
仮に、仮にの話だが父が生きていたとしてそれを良しとするのか?




―――父親の親友だった人にそんなことはして欲しくない、リュート個人の考え方としてはこうだった



 リージョン界の統括行政機関を転覆させる気なのだからそれなりに規模の大きな秘密基地があって然るべきだ
噂としてこれは有名だが[ワカツ]がトリニティ政府に爆撃されたのは実はモンド執政官の工作があり
 廃墟とかしたあの"惑星<リージョン>"の何処かに秘密基地が存在するとその筋では囁かれているのだ



 攻め込む訳じゃない、ただ…そう!これはただ調べに行くだけだ!そんな物はもしかしたら根も葉もない噂で嘘っぱち!



 それを証明するための調査になるかもしれない!!そんな淡い期待ももしかしたらあったのかもしれない
だから[ワカツ]に行ってみたいと弦楽器の名を冠する彼は考えた

 当然ながら戦力は居る、万が一に…噂が、―――噂が本当だったのだとして囲まれて逃げ場が無くなってしまった時
保険として[ゲート]が使えるブルーに同行して貰いたいという話だったのだ


 エミリア経由で話を聞かされたルーファスも、右腕を務めるライザもコレには快く承諾
元よりモンド氏とは因縁がある、執政官に成り上がってくる前の警察組織のトップだった頃モンド氏は敏腕を振るい
グラディウスの面々を窮地に追いやる事も多々あった、下手に腰の重い政府組織じゃない市井の分、苛烈を極めたらしい



…それだけでも何かと縁があるお相手で、政府の転覆を狙う反乱分子だ

 グラディウスとしても警戒はする、動向を探る事自体にも意味がある
[ネルソン]の"噂の艦長"殿と太いパイプを持つのも吝かではないという話だ








   ブルー「…俺には、まったく関係の無い話ではないか」ムスッ



 未だ拘束された術士にとっては憤慨モノだ、自分は関係ないじゃないか!仏頂面がそう物語る


 リュート個人と彼の父親の因縁、グラディウスにとっての益、もっと広義に渡って拡大解釈するのであれば
全リージョン界に暮らす者にとっても無関係とは言い切れないが
 魔術師にとっては勝手にやってろと悪態も吐きたい所であった、彼にとっては利となる物が何もない


   アニー「行ってやればいいじゃないのケチ臭いわねぇ」テクテク…


 渋る術士を見兼ねてか此方に近づいてきた黄金色の髪が声をかける、その後ろからサングラスを掛けた男性が続ける


 ルーファス「[ワカツ]は嘗て剣豪達の手によって栄えた地だ、キミは[剣技]を鍛えているのだろう?」

 ルーファス「"倒すべき者"が居るのであればより強力な力、技術が必要となる良き経験になるのではないかね」


   ブルー「むぅ…」


 …彼らは自分を巧い事言いくるめて利用しようとしているのだとは分かり切っている、分かってはいるのだが
言ってる事自体には然程間違いがない、ルージュを抹殺する為に術と技を磨いている身としては一理ある
 予定ではあるが自分は[ルミナス]で[陽術]の資質を得ようと考えている
高位の術には[光の剣]なる物が存在していて、卓越された剣術家が振るう事で何者をも切り裂けるという
光り輝く魔法剣を召喚する術だ


 折角得た術も使いこなせないのであれば意味がない、究極の魔法剣を召喚できても持っているのがド素人では
精々がちょっと[ディフレクト]できて身体の動きがよくなる程度でその辺の[ボーイナイフ]と変わらん



 [体術]しかできない奴が銃を持っても腐らせるし、剣しか握る気のない奴が資質を得ても使わんのなら無意味でしかない



    ブルー「…言い分は、理解したが、肝心の[ワカツ]にどうやって向かうというのだ?」


[ゲート]の術は一度行った事のある場所にしか飛べないのだぞ?と険しい顔をする魔術師に
無職の男は然も待ってました!と謂わんばかりの笑みを浮かべた



   リュート「へへっ!だよなぁ~!そこが肝心で無理って思うよなァ、けど日頃の行いって奴だぜ!」ドヤァ

    ブルー「勿体ぶってないでさっさっと言え」イラッ



   リュート「んんっ!ごほん!……実はな、一昨日の夜、ほら?お前のイタ飯屋就職パーティーやっただろ?」


 未だに職に就けない無職が一昨日の華やかな記憶を語り始める
日付も変わりかける頃合いまでドンチャン騒ぎのイタ飯屋でほぼ全員が大の字になって酔い潰れる中
比較的に酒に強いリュートは店を出て帰路に着く、するとどうだろうか
ネオン煌めく飲み屋の屋台で自分と同じく飲んだっくれて看板を抱いて寝てる男がいた

 頭にハチマキ巻いてシャツ一枚に、その周りに見覚えのあるスクラップで作ったボディ―――と周りに新顔のメカ複数
指輪騒動で大冒険を共にしたクーン等と少しの間リュートは[スクラップ]にてその男と共闘したのだッ!!


  リュート「[ワカツ]の剣豪、ゲンさんに再会してさ、いや~人の縁<えにし>ってのはどこでどうなるやらだ」

  リュート「こんな所でなにしてんのか聞いたらT-260の記憶を探る手掛かりの場所に潜るのに戦力が必要でな?
          なんかこの街のどっかに新顔のメカ―――レオナルドさん?だっけ―その人の知り合いが居るって」




  ルーファス「…。」


 少し見なかった間にゲンとT-260の間に新顔が3人、…否、3機居たそうだ
[シュライク]の製作所で知り合ったメカ修理担当の特殊工作車と同製作所で作られたらしいナカジマ零式とやら
 そして、見た事も無い"型番<タイプ>"のメカ、レオナルドという新人が居た…一応は特殊工作車と同じタイプ6だが
それにしては妙に人型で変わっている


 何れにしても[クーロン]に戦力となりうるメカが居るからそれをスカウトに来たと






 サングラスの男性にはその名前に聞き覚えがあった

 裏社会の情報網は伊達じゃない、今回のモンド氏が起こした事件は[ワカツ]だけではない数日前に[マンハッタン]で
テロリストによるビルの爆破があったが外部勢力の仕業に見せかけた内部の抗争だ


 モンド執政官がトリニティ政府の邪魔な勢力を排除するに当たって裏でテロを起させ、そのとばっちりで
レオナルド博士は亡くなったのだから…


…何の因果か、モンドによって滅ぼされた"惑星<リージョン>"の生き残りが同じくモンドの策動の犠牲者と行動している



 それは置いておいて、この情報が入ってきた時ルーファスは焦りを感じた、何故なら対ジョーカー包囲網の対規模作戦で
使用する予定の火器に関しては["さる秘密の横流し店"]をあてにしているからだ

 犯罪都市の裏通りにトリニティ政府からの横流し品を売る違法店がある、法外な値段だが破壊力は折り紙付きの重火器
それを売り払うメカが居て、グラディウスも彼には中々"御懇意"にさせてもらっているのだ


 重火器の利点はライザやアニーの様に身体を鍛えていない、それこそ初期のエミリアよりも身体能力が劣る一般人でも
連携を組むことで強者を撃破することが可能になることだ
 そんな物を売ってくれる店の店主がジョーカーとの決戦を控えた重大な局面でよりにもよってポッと出の集団に横から
スカウトされるかもしれないのだから頭痛もしてくる



 だからこの転がり込んできた"伝手"は渡りに船、畑に翠雨が如しだ




 知ってる間柄のリュートからゲン達へのモンドの一件を交えたアプローチ、"店主の恩人"であるレオナルドとのコネで
可及可能な限り店を畳まれる前にあらゆる重火器を貰えないか?という算段をルーファスは立てた

 グラディウスの今後の為にもコレは必要な事で、こちらからエミリアとアニーを派遣するとして
組織の部外者だが実力もありリージョンを自由に行き来する[ゲート]の術が使えるブルーも巻き込めるなら是非もない

 早い話が使える者はなんでも使おうという腹積もりなのだ

最近リマスター漬けでサガフロ熱高まってたところにこれはいいスレを見つけた
とても面白くて一気読みしました


 少考、自分にとって利と損の比率をまず考える

 剣豪が住んでいた亡国ともすればこの街のマンホール下で売られている[刀]よりは切れ味のいい業物が拾えそうではある
墓荒らし紛いな行い自体に嫌悪が無いと言えば嘘になるのだが自分はそう遠くない未来で己と瓜二つの顔をした男と死合う
 我が身の為、自分が生のチケットを手にする為にも勝率は上げたい


 武具の類も然ることながら間近で[ワカツ]の剣術とやらを見れるのも良い、人間が磨き上げてきた技術の髄の一端だ
祖国が誇る魔術とは異なるがソレも確かに人間が長い歴史の中で手ずから鍛え蓄え築き上げてきた…そんな至高の文化だ


 身に着けたい戦闘術としても学術的な観点からみた歴史的な遺物としてもお目には掛かってみたいという所は正直あった



 損があるとすれば自分には関係が無い点だ

 別に[秘術]の資質を得ようとしているわけではない、しかもエミリアからの話だと
ルージュの同行者が[金]をいくつか持ってるから[印術]よりは[秘術]の方を選択しようとしてる傾向にあるらしい
 尚更、カード集めをやる気になどなれない

 次に"敵"と出くわした際の場合だ…







    ブルー「…ひとつ、確認を取りたい」


   リュート「おろ?」

  ルーファス「なんだね」




  ブルー「話を一通り確認させてもらったが、[ワカツ]に行きそこでモンドとやらの基地があるかどうかの"調査"」

  ブルー「それがお前の目的であり、基地に直接侵入して政府の転覆を狙う…いや狙えるだけの勢力を倒す、ではない」

  ブルー「認識としてはソレで合っているのだな?」




 "敵"…モンドとかいうトリニティの執政官が隠し持つ私兵や基地兵器の類と殴り合う、そういう場合だ

 自惚れのつもりはないが自分は戦える人間だと自負している、しかしながら相手の規模が規模だ
祖国の命令でもなく自分の生死が直接関わる案件でもない、全く以て無関係な立場の自分がゴタゴタに巻き込まれて
要らんことに不必要な労力を注ぐ、というのは聊か割に合わんと思わないだろうか?


 あくまで"調査"が主目的であり、…"敵の総大将<モンド>"の首を撥ねてこい、というのではないな?と念を押して訊く



   リュート「ああ、本当にそんなもんがあるか調べるだけだぜ、ヤバくなったら逃げたっていいさ」

  ルーファス「キミは部外者だからな、いざとなれば[ゲート]の術で撤退するのは当たり前の権利だ」


 なるほど、部外者だから逃げるのは当たり前の権利、か…、「その割には俺をやたら行かせたがっているようだが?」と
サングラスの男を薄目で睨んでやればこの男「キミの経験になるだろうというのは嘘ではない、キミの為を思ってだ」って
いけしゃあしゃあと正論でも言うかの如く何でもない顔して言い切ったのだ、よくもまぁ口の回る



  ルーファス「ああ、言い忘れていたが臨時給金は出そう本来なら閉店時間までウェイターとして働いてもらった筈だ」

  ルーファス「一応は当店からの派遣、出先での買い出し等の雑務に従事してもらう体になるのでね、有給もつける」


    ブルー「むぅ…」



 臨時給金、蒼き魔術師はクレジットには今の所困ってはいないが有給という言葉には惹かれた
皿洗いだの注文取りなんぞに時間を浪費せずに術の修行や読書に割ける時間ができるというのは魅力的だったから
 元々住み込みアルバイトになった経緯も感情任せでエミリアに掴みかかった事からの…まぁ懲罰みたいなモンだった
望んでイタ飯屋の店員になった訳ではない



 自分がやるのは簡単なお使い、危険地帯となっている[ワカツ]には赴くが腕利き戦士が最低でも3人以上はつく
無論自分も多少の戦闘行為に参加する可能性はあるがこちら側の人数規模からして負担も小さい
 敵の総大将とは戦わない、危険を感じたら直ぐに撤退が可能で周りが勝手に特攻し出したら我関せずでそそくさと
モンドに突撃噛まそうとしてる同行者を有無を言わさず見捨てて帰っても文句を言われる筋合いも無い


 得られるものは戦闘技術と店のバイトから逃れて自由に好き勝手できる時間を貰える事


 これらを損得鑑定で計算した結果、天秤は利の方がずっしりと沈みだした



  ブルー「…いいだろう、その話乗ってやる」



 本当なら今から午後22時まで延々と店の従業員として束縛されるのだ
それが外で多少暴れられて有給も付くなら是非もない、今朝やったルーンの文字占いでもまだ[活力のルーン]の逆さが出る
 主たる目的に向かって急いては事を仕損ずる、回り道や関係ないこと、ゆったりと落ち着くことで何かを得られる暗示だ
自分が得ようとしてる資質とは関係無いより道をする、重い戦闘はしない
あくまで軽い肩慣らし程度に戦って修行の成果を確かめ、得られる技術は見て盗む
 くどい様だが危険地帯に踏み込んだならすぐ逃げる、それだけで良いのだ



  ブルー「貴様にも言っておくが俺は自分が潮時だと判断したら即刻帰還する、置いて行かれたくなければ従え」チラッ

 リュート「おう!付き合ってくれてありがとな!」ニィッ



 念の為に、今の話の流れで理解できてるか分からない馬鹿に再度確認の意味も込めて言ってやる




  ルーファス「決まりだな、ではこれを持って行くといい」つ『カメラ』

    ブルー「これは…写真機か?」ヒョイ


  ルーファス「何も無ければそれはそれで構わない、だがもし何かを発見したなら撮影してくるといい」



 グラディウスにとって益となる情報であればあるほど相応の対価を払おう、と付け加えられ初めて目にする文明の利器を
手渡される……この男はどこまで単なる飲食店アルバイトの人間にやらせる気だ?人手が足りんのかこの地下組織は?
 言いたいことは色々あったが成果を出せば褒賞も多く出る、頑張りに応じて店番せずに済むと考えれば俄然やる気も出る


―――
――




 イタ飯屋を出て魔術師達は屋台広場へと向かう、[ゲート]の転移先として登録された場所だ
弦楽器を背負った無職と初めて出会ったのも丁度この辺だったなと考えながら歩いていれば目標の集団が一つの屋台に居た





    ゲン「ういーっ!おやじ!酒だ酒!あと味の染みた卵と竹輪」ガッハッハ

    T-260「ゲン様、もうじきリュート様がお見えになられる時間ですが」

 レオナルド「まぁ良いじゃないか、結局ボク達はこの街の地理に詳しい案内の人が来るまで待つしかできないんだ」

 レオナルド「裏路地がタダでさえ迷路の様に入り組んでいるんだから土地勘の無いボク達じゃ目当ての場所に行けない」

 レオナルド「特に制限時間がある旅でもないんだから多少時間が掛かっても良い筈だよ」


    T-260「任務遂行の速度よりも安全性を優先とした進軍の為の準備、了解致しました」



 レオナルド(…それにしても驚いたなぁ、[マンハッタン]のバーガー屋であった彼、リュート君とこの街で再会とは)

 レオナルド(流石にメカになったから向こうはボクだって気付いてなかったみたいだけど)



  リュート「おーい!ゲンさーん!」

    ゲン「おっ!来たかぁ、そっちの連れ達がこの街に詳しいっていう――――」ピタッ


 酒気を帯びた真っ赤な顔が一瞬、色を失ったようだった
知り合いに瓜二つの顔がそこにあったからだ、……ただ、その知り合いとは何もかもが違い過ぎた
 知人の魔術師を人懐っこい犬、あるいは朗らかな太陽と印象付けるならば目の前の知り合いそっくりな魔術師は対極だ


 ほんの少し前に[ワカツ]城への案内を頼まれ、そして…背負っている重苦しい運命<さだめ>を打ち明けてもらった
だから顔を一目見てピンと来た





   ブルー「……あなたがゲンか?」

    ゲン「ああ?俺に用か、にいちゃん…まぁ飲めよ」スッ


   ブルー「[ワカツ]城への案内をたのm「ちょっとタンマ!?その台詞まだ早いだろっ!!」



 ルージュに瓜二つの顔を見て呆気に取られた剣豪を前にずいっと蒼き術士が前へ出て「……あなたがゲンか?」と問うた
彼らはリュートからの話では迷宮の様な暗黒街を案内してくれる水先人の筈だが1人だけ明らかに違う雰囲気で迫られた
更に言えば剣豪からすると色々と事情通な事もあってどんな言葉が飛び出すか内心で予測しつつ乱れたペースを整えようと
これまでも酒場で見知らぬ相手と友好的に接してきたように酒をまず勧めてみた




…開幕いきなり「[ワカツ]城への案内を」と来たのには色んな意味で変化球すぎた

ガイドを頼んだのは自分達の筈だが?いつガイドを頼まれる側になったのだ?



   リュート「その台詞は色々早いだろって!?…ああ、わりぃ実はちょっとワケありでさ…ちゃんと道案内はするよ」

   リュート「ただ、それが終わった後でどうしても…どうしても俺達を[ワカツ]に連れてって欲しいんだ!!」バッ!



     ゲン「お、おい…にいちゃん街ん中でいきなり頭下げんなって」


  リュート「利用するみたいで悪いとは思ってるけど、どうしても父ちゃんの親友の為に確認しないといけないんだ」

  リュート「コイツ、術士で瞬間移動できる術が使えるんだ!!だから一度入口まで通してもらえればそれでいいから」



 現在[ワカツ]への"宇宙船<リージョン・シップ>"は運航していないくもないが亡霊が蔓延る為に
最低でも地元民が一人いない団体は通してくれないという規定になっている、だから彼の存在は必要不可欠なのだ


  ゲン「……」ポリポリ

  ゲン「はぁ…なんだか知らねぇけど漢が頭下げるってのは相応なモンだぜ?知らねぇ仲じゃねぇしな」



  ゲン「すまねぇがレオナルドさんも、お前らもちょっと寄り道してもいいか?」





  レオナルド「ボクは構わないよ?さっきも言ったけど別に急ぐ旅じゃない[タルタロス]にはいつでも潜り込めるもの」

     T-260「戦力増強の手段を確保する過程で必要な対価ならば必要な行動です」




   特殊工作車「仕事ができるなら正直どこでもいいです」

  ナカジマ零式「なんか面白そうですし私も賛成ですー」



<ワーワー!
<おっしゃっ!決まりだ!!



  「なんだ?隣のおでん屋の屋台今日は偉く賑わってるなぁ…」


 IRPO女性隊員「……」


  「しかもよく見ると向こう金髪の綺麗なお嬢さんが3人も、いいねぇ~…あっ、お客さんも別嬪さんですよ」


 IRPO女性隊員「ラーメンご馳走様、お代はここに置いていきますから」チャリンッ

  「あっ、へ、へい!!またのお越しを!!」


コツコツ…

 靴のヒール音が不夜城を謳う街の雑踏に紛れていく、これから仕事で"犯罪組織の一端"が居るという"惑星<リージョン>"に
向かう彼女は右手を額に当てて小さくため息を吐いた
 偶には一人で静かに屋台のラーメンでもと思ったのがいけなかったのか、思いの外お隣のおでん屋が騒がしくて
ゆっくりと食事を取ることも叶わなかった




  IRPO女性隊員「はぁ…シップに乗る前に頭痛薬でも買うべきかしら」コツコツ…

  IRPO女性隊員「サイレンスは[ルミナス]で起きた戦闘行為の調査で長引くのが確定だし…」コツコツ…

  IRPO女性隊員「コットンは何故か音信不通、ラビットは[京]に置き去りにされてるらしいし…ヒューズの奴全く!!」



 女性は蟀谷<こめかみ>を一層強く抑えた、元より一人で静かにラーメン屋の屋台で食べるタイプじゃなかったが
職場の同僚(特に約1名)がこれでもかと言うほど毎回問題を起こす所為で誰もいない静かな場所でストレスを感じずに
食を取りたいと思うことがあるのだ

 歩きながらついつい独り言、大体がクレイジーな同僚の愚痴になるがソレを口にして
更に頭痛を覚えるという悪循環であった



コツコツ…ピタッ



  IRPO女性隊員「…ヒューズか、そういえばアイツ興味深い事を言ってたわね」

  IRPO女性隊員「サボテンみたいな髪型をした少年とその仲間達についていけばクロに当たる、か」



  IRPO女性隊員「…アイツ、本当どうしようもない奴だけど嗅覚だけは優れてるのよね」



 そう独り言ちて頭痛薬を購入した後、彼女は[シンロウ]行きのシップへと乗り込んだ


―――
――



【双子が旅立って8日目 午後 18時20分】


  ゲン「ほう!そんじゃにいちゃんは[ワカツ]流剣術に興味あるってか」

 ブルー「ああ、幼少時代に本で少しだけ目にしたこともあってな」


 大所帯となった蒼い術士達は裏路地を歩いていた、道中性懲りもなく浮浪者やモンスター、暴走したメカが無謀にも
襲い掛かってくるが特殊工作車の[機関砲]やナカジマ零式の[レールガン]が容赦なく相手の身体に大穴を開けて
レオナルド博士の[ビームソード]による袈裟切りが相手を切る――というより蒸発させた――

 銃弾の補充やエネルギーの補充中という僅かな隙の襲撃さえもグラディウスの面子達とで余裕の撃破であった
戦闘面においての問題は初めから無いに等しく、唯一問題視されていた下水道や階段、梯子、屋根の間に架かる板切れの橋
そういった複雑な道順も水先案内人を任された彼ら彼女らによって難なく進んで行けた


 "九龍<クーロン>"の名に相応しい暗黒街の夜は早い、高層ビルに囲まれているが故に地表から見上げても空が見える場所は
ほぼ無いに等しく、また無法が罷り通る街だからこそ所謂、日影規制をまるで無視した土地開発が行われてき
建築基準法違反なんて言葉はこの"惑星<リージョン>"には存在しないのだろうな

 さて、そんな訳で日光が全く射さない裏通りの廃線跡――昔はちゃんと電車が通っていたのかさえ不明――の近く
崩れた地下鉄トンネルの近くに彼の根城はあった


 切れかけの灯りが頼りなさげに自身の存在を主張していて、辛うじて住人が居る住居だと解る紅い扉を開く
床には赤や黒の電源コードが伸びきっていて天井の飾りやネオン看板、箱型テレビやその他機器に電力を供給していた
 そんな店奥から店の主こと"pzkwⅤ"は来客者たちに背を向けたまま、ある種定型文とも言える言葉を発したのであった





    pzkwⅤ「よくこの店を見つけたな、トリニティからの横流し品がどっさりだぜ!」クルッ




 自慢げ(?)にメカである彼は振り返り、珍しく大所帯な客の顔を一瞥した…
[ヨーク綿の帽子]を被った糸目の一見客、同じく見知らぬ蒼い法衣を纏った術士風の人間
それに常連のイタ飯屋の女2人と重火器とは無縁そうな鉢巻にTシャツ一枚の中年男性と後ろに控えたメカ達―――




         pzkwⅤ「!?!?!?!? 先生っ!?」



 一瞥していた横流し店の店主は驚愕した、背後に控えたメカ集団の内1機には見覚えがあった
生前、と評していいのか判断に困るが人間だった頃のレオナルド博士の面影があったからだ、だからこそ注視した
 機械であるがゆえに波長や脳波の読み取りも多少はできなくもない某豪華客船の医療用のメカが
体温検査や生体反応を検知できるのと理屈としては同じである

 目の前のメカからは確かに自身の"恩人"と同じ脳波パターンが検出されるのだ、疑い様が無く彼は命の恩人
レオナルド・バナロッティ・エデューソンその人なのだと


       レオナルド「やあ、元気?」


 久しぶりだね!と気さくに声を掛ける博士に密売店主は困惑した、一体どうして何があった!?
人間だった筈の博士が何故メカになどなっているのだ、と


       pzkwⅤ「先生!?メカに商売替えですか!?」

     レオナルド「んー、説明すると長くなるけど色々と事情があってね」


 博士が自分がテロリストの起こした爆破事件…に見せかけたモンド一派の内部粛清にとばっちりで巻き込まれた事
こんなこともあろうかとオリジナルの自分に何かあった時様に人格マトリックスをメカに移しておいたこと
T-260達の為に[タルタロス]に降りるという趣旨を伝えている傍らでグラディウス組は物品の目利きを始めていた




1880クレジット[火炎放射器]
1110クレジット[ソニックブラスター]
1110クレジット[電撃砲]
4020クレジット[対装甲ロケット]
3200クレジット[キラーバウンド]
3300クレジット[粒子加速砲]
1550クレジット[マシンバルカン]
4020クレジット[破壊光線銃]





   アニー「んー、やっぱりさ弾数多い方が良いわよね?」

  エミリア「だったら[マシンバルカン]とか?これでジョーカーの頭をハチの巣に…」


 弾数多くても一度に使う弾が多いから凡そ8回分しか撃てないだの
なら連携に組み込む上で威力も重視して[粒子加速砲]にしようとか、物騒な話が飛び交ているが気にしてはいけない


           pzkwⅤ「先生!ぜひ私にもついて来いと言ってください!!!」ガタッ



  レオナルド「という事らしいけどどうする?よく働く良い奴だよ」


 敢えてそんな一択しかないような事を訊いてくる、元々戦力強化の為にここに来たのだからスカウトは当たり前だろうに
…が、博士のそんな一言でガタイの良いメカが双肩をビクッと震わせるのが見えた

 心なしか、顔に不安の色が見え隠れする……いや、メカに顔色も何も無いのだが


 自分も連れてってくれと息巻いていたのに、強行しないのは命令に背かないメカの性質ゆえか
恩人レオナルドの命令を頑なに遵守しようとする意志を感じる、来いと言われれば絶対的に忠義を近い
来るな、と言われれば行きたくとも「仕方ないな」と博士の言霊に服従する、そんな気配があるのだ





      pzkwⅤ「せ、先生…っ」オロオロ



  レオナルド「んー、どうしたもんかなぁ、ボクとしては連れて行きたいけどこの人数だし皆の意見は尊重したいなぁ」






……それにしてもこの博士、愉しんでらっしゃる


 初めっからスカウトする気満々の癖して敢えてここでどうするか訊いて、密売店主の狼狽えっぷりを愉快そうに見ている
蒼き魔術師達は出逢って日も浅いからこの人物の性格がイマイチ掴み切れていないがゲンやT-260は比較的に
付き合い長い所為か「ああ、またか…」と呆れ始めていた


 最初レオナルドを探していた時も[マンハッタン]のバーガーショップでレオナルド博士を知ってますか?と尋ねたら
自分がそうだと直ぐに明かさずにラボまで連れてきてから実はボクが君たちの探してた人物でしたー!と言い出したり
そもそも自分が事故死したときの為にメカ化する仕掛けを用意したり、割と茶目っ気の強い人物ではあった


     ゲン「あー、俺ぁ良いと思うぜ、なぁ?」チラッ

     T-260「戦力増強はこちらとしても願っています」

   リュート「旅は多い方が楽しいぜ!!」



   レオナルド「だってさ、ついて来い!」グッ

     pzkwⅤ「うおおおおおおおおおおおおおおーーーーっ!!先生!一生ついていきますぜ!」ガッツポーズ





   ブルー(なんだこの茶番は…)


 メカの癖に妙に暑苦しくて恩人への義理堅い密売人という…
ワーカーホリックの特殊工作車とも自由人のナカジマ零式ともまた違った意味で癖の強いメカが仲間になったものだ


     pzkwⅤ「これは手土産だ受け取ってく「あぁ、待った待った」


 持参品として店の商品を一つもって加入しようとするのをレオナルドが一旦止める



   レオナルド「さて、ここで道案内までの契約報酬の半分を支払うんだろう?」チラッ

     アニー「そうそう、わかってるじゃん」


   レオナルド「ボク達について来るってことはこの店は畳めちゃうんだよね?そこでこの店の商品なんだけどさ…」


 閉店セールスってことで半額でいいからこっちの人達に譲っちゃくれないかな?とグラディウスの面々を指して
恩人は言った、常連客のアニーと最近購入の為にお使いで来ることが多くなったエミリアの顔を見て店主は考え込んだ




    pzkwⅤ「おい、ネーちゃん達先生の御知り合いなんだよな!?」

   エミリア「知り合いっていうかついさっき知り合ったばかりなのよね…」



    pzkwⅤ「先生の御顔もある、半額なんて言わないタダでこの店の商品は全部くれてやるぜ!」


    アニー「マジで!?店主太っ腹じゃん」ヒューッ


 思わぬ大収穫である、恩人の顔パス利用でジョーカー包囲網に向けて兵器を安く購入するというのが
ルーファスの算段だったがまさかタダでくれるとまでは思っていなかった、アニーも思わず口笛を吹く程
 グラディウスの女子陣が飛び跳ねて両手を合わせて喜び合っている中で店主が何か秘蔵の品を持ち出しているが
そこは目を瞑っておこう



    pzkwⅤ「へへっ、コイツと私がありゃあ負けなしですよ!」つ[ハイペリオン]


 
 方に物騒な実弾兵器を担いだメカが豪気に語る、それだけではない、"身体<ボディ>"の至る所に備わっている火器
そのどれもこれもが前に立ちはだかる者を粉砕するのは想像に難しくなかった


―――
――



【双子が旅立って8日目 午後 21時12分】

【クーロン:屋台広場】



   リュート「あぁ…疲れたぁ、めっちゃ働いたぞ…」グッタリ

    ブルー「確かあの店にあった武器を全部グラディウスに運ぶのは中々に重労働だったな…」


 兵器の運搬作業は優に裏通りを4往復するに至った、道中襲ってくる敵は大したことはなくとも何度も
足場の悪い順路とグラディウスとをシャトルランするには骨の折れる作業である

 こんな街だから何があっても不思議ではないとはいえ表向きただの飲食店にそう何度も軍の横流し武器が搬送されたら
流石にあらぬ噂が立ってしまう、だからこそ一度に持ち出せる武器の数にも限りがあるし人目に付くのもあまり好くない
 気が付けば後1時間しない内にイタ飯屋も『clause』の札を出す時間にまで差し掛かってしまった


 …剣や術の実戦訓練になるとはいえ、皿洗いの方が良かったかもしれないと若干ブルーは思い始めていた


 ラーメン屋の屋台で前よりは上達した箸使いで麺を啜り、一息つく
これから[ワカツ]への行軍を果たすのだから中々に濃いスケジュールだ



     ゲン「おう、お前らもお疲れさん頑張ったな」


 剣豪が隣の席に座る、リュートを間に挟んで蒼い魔術師はゲンに声を掛ける



    ブルー「ああ、全くだ…大分遅れたが今度こそ[ワカツ]への案内を頼むぞ」

     ゲン「わぁってらぁい、しかしなんだってにいちゃん達はあそこに行こうってんだ?」

     ゲン「そっちの青い方のにいちゃんは剣術や使ってた武器、文化に興味があるからって言ってるがよ」


     ゲン「お前さんはどうなんだ?なんか親父さんの親友がどうだとか言ってたが?」



  リュート「ああ、実は…俺の父ちゃんの親友、モンドって言う人なんだけどさその人の事で[ワカツ]を調べたいんだ」



 "モンド"、その名を耳にした途端、ゲンの目が据わった…横目に見ていた術士はそう感じ取った



  ゲン「モンド…モンドねぇ」


 隣席の男が発した名前を復唱しながら御猪口の安酒をゲンは喉へ押し込んだ、いつもよりも早いペースで
不思議と喉が渇いていた、大声をあげて怒鳴り散らした訳でもないのに、全力疾走した後でもないのに喉奥がチリチリした
 いつかの昔、どこかの"惑星<リージョン>"で似たような経験が彼にはあった、ある日何の前触れもなく
自分の日常が崩れ去っていく様、何かしようと奔走した挙句何も成し得ずみすみす護るべきモノが焼けて廃塵と化した記憶


    リュート「ゲンさん、頼む…モンドさんのやった事は多分アンタも知ってると思う、…承知の上でお願いだ」

    リュート「俺は真実を知っときたいんだ、人伝じゃなくて俺自身の足で現地に行って見聞きして知りたいんだよ」


 噂の域でさえもトリニティによって[ワカツ]は滅ぼされたと情報通の一般人に広まっている
表向きは原因不明の疫病の蔓延だの、人間に憑依する悪霊達の封印が解けて観光客や他国への被害が出るからと
よく分からない有耶無耶な理由付きで"苦肉の決断の末"に爆撃したという話になっているが

 事を始める前からトリニティ政府に反抗的な国家だとある事ない事を垂れ流して反乱分子だとも吹聴していたのだ
どっちにせよ何者かが意図的に滅ぼす気があったのは明確で

 当時、被害にあった出身者のゲンが一番その辺の事を知っていて当然な訳だ
自分が住んでた"惑星<リージョン>"がトリニティへの反乱など企てていないことも
疫病や悪霊だとかいう物が蔓延してるっていうのも嘘っぱちで単に攻撃する為の適当な口実に過ぎない事も…!



 ブルー「…俺も外界に出てから情報誌や"いんたぁねっと"とやらに触れては来たが[ワカツ]の件は不明瞭な点が多い」

 ブルー「情報が錯綜していて結局爆撃された理由がいまひとつ納得できんと感じたな」



 独自に発展した国家の文明やその風土を生かした文化遺産と呼べる物を遠慮なく破壊することは快く思えない
もしもコレが敬愛する祖国[マジックキングダム]だったら?と考えたら蒼き術士にはゾッとする話だ
美しい街並み、ポプラの木が並ぶ通りと中央の噴水広場、荘厳たる魔術学院や三女神に祈り信仰を捧げる聖堂…
それら全てがある日突然、何の前触れもなく理不尽な力によって蹂躙されたら?…考えたくもない


 珍しく術士は目の前の郷土愛のある剣豪に、他者に対しての共感を持っていた、なまじ興味のある剣の国だったから尚更



    ゲン「真実を知りてぇ、か…」


  リュート「…。」コクッ

    ゲン「…いいぜ、お前たちにも聞かせてやるよ[ワカツ]の同胞達の無念と、その想い、声をな」

  リュート「すまねぇ、俺の我儘で…ゲンさんだって辛いのは分かってるのに」


    ゲン「へっ、よせやい![ワカツ]の事を知ってくれる奴がちょっとでも増えるってぇならそれで十分だ」




    ゲン「真実を探したいんだろ?なら…俺だって、な」



 そう言って破顔する剣豪を見て弦楽器の男も漸くいつもの能天気な笑みを浮かべて麺を啜り出した
彼ら2人の成り行きを見届けたブルーも止めていた箸を再び進める、麺はすっかり伸び切っていてスープも冷めていたが
今この時この3人で食したラーメンの味は決して悪くはなかった


 腹も膨れた頃、[ワカツ]行きの便が出るのも丁度いい時間帯となり団体はシップ発着場へと向かう
道中、リュートの悪知恵で一山当てた例の金券ショップ前を通り掛った所、客が騒いでるのかこっちまで声が聞こえる




 「ええぇぇぇ!?!?[金]ってこんな高いのかよ!?…とほほ、俺がキグナスで働いてた頃の何カ月分だよ」

 「白薔薇の手持ちで2つだから、あともう2つか…昼の内に[クーロン]で求人広告探したけど収入良くないし怪しいし」

 「参ったなぁ、僕たちの手持ちのクレジットじゃ足りないしお金を稼ぐ手段が……!!そうだ確か[シンロウ]って――」



 …騒がしい客が居るものだな、まぁこんな街では然して珍しくも無いか、と蒼い術士は仲間達と発着場の自動扉を潜った


【双子が旅立って8日目 午後 23時00分】

 午後11時、日付変更線が自分達の真上を通過するまで一刻という折に彼らはその地へ降り立った
桟橋の上に死して尚、舟渡として客を延々と待ち続ける骸骨に背中越しに声を掛ける、帰ってきたのは「船を待ちな」と
簡潔な一言だけだった…程なくして一隻の小舟がやってきてメカ集団は後からで
先に"人間<ヒューマン>"組が乗り込み向こう岸で待つという流れになった


 波風立たぬ水面に舟渡が櫂<かい>を入れる


 澄んだ水面は夜空を映しぼんやりと青白く光る月の写し身もそこにはあった、切り込む様に櫂がそれを乱し
星も月も揺らいでは消えて、後には水底の泥が浮かんでくる
 透き通った水が反射した宵の光は沈殿物の浮上に消えて、いつしか浮かんだ物はまた沈み、星光を映す


 人の栄華にも似ているな、と近付きつつある向こう岸を捉えてブルーは思った


古城、半分雲隠れした蒼月に照らされた[ワカツ]城の独特な意匠を見て亡ぶ前はさぞ栄えたのだろうなと
同時に今の荒廃ぶりに一種の哀れみに似た感情を抱いていた
 人世は何時だって如何様な事があるか分からない、時代が進めば進むだけ進化はあり、順応できなければ取り残されて
廃れていく、だから栄華にはいつしか終わりがやってくるのだが、そこから伝統を守りつつも新しい風を吹き込む事で
文化、文明という物は成長を続ける


 砂上の楼閣の如き一時の夢であったとしても、崩れた跡に崩れ去った物を超える素晴らしい物を造ればいい
当然ながら過去の教訓を踏まえて次は簡単に崩れ去らない様にと




 だが、目の前の[ワカツ]城を見ていると、"次"なんてモノは果たしてあるのだろうか?と思わされてしまう



 復興という言葉は無関係な人間ほど軽々しく口にするが、現地へ赴き見ればわかる
何から手を付ければいいのか分からない混沌としたソレ、目の前に立つだけで呆然とただ気が遠くなっていく感覚
 する側からすれば諦めの二文字を叩きつけられるだろうな


  ブルー「これは…」ザッ

 エミリア「酷いわね」


 [ワカツ]への渡航は制限されている、最低でも現地の出身者1人がいないと通せないという話だが
その唯一の生き残りの存在自体が絶望的でゲン以外に居るのかどうかさえ分からない
 実質トリニティ政府による航路閉鎖の様な物で記者やカメラマンが立ち入れる場所じゃない

 情報誌やマスメディアによる報道、ネット情報でもその惨状は視覚で知ることは不可能である


 エミリア(ブローチをくれたあの人が、ね…なんだか複雑な心境)キョロキョロ
 リュート(……。)


   ゲン「それで何処に行くんだ、言っておくが剣聖の間―――城の天守閣の方には基地なんて大層なモンはねぇぜ」

   ゲン「つい最近ワケありの若人共を連れてったからよ」


 本当につい最近[剣のカード]を求めてきた集団を連れて行ったから知っている、上の方にはモンドの基地なんて無い


  リュート「んー、ならあっちの方とか?」


 無職は"天守閣のような高い所には無い"と言われたので、なんとなくで本丸から少しずれた位置を指さした
何気なく指し示した方角を見て剣豪は渋い顔をする


  ゲン「…あそこは、…確かにあっちの方は俺も前回行かなかったな…」

 ブルー「おい、あっちには剣聖の間とか言うのとは別で何かあるのか?」


 丁度メカ集団を迎えに行った舟渡が帰ってくるのを背景に不思議な力の流れを感じた術士が渋い顔を作った剣豪に問う




       ゲン「…あぁ、あそこは城の地下―――"剣神の間"へと続いてるのさ」


あの船渡しの骸骨好き

成程そうかブルーが滅ぼされたリージョンを見るの何気に相当意味出るんだな…



  ブルー「剣神の間?なんだそこは…」

   ゲン「道すがら説明してやるよ、ついてきな」


 そう言って歩き出した剣豪の後について行く、曰く城の地下に剣神を祀っており優れた剣豪は剣神より刀を授かるとか…
聞き手に回っていた弦楽器の男は興味交じりで「神様がくれるってんなら凄い剣なんだな」と茶々を入れる
 その発言に対してゲンは生憎見た事が無いからわからないなと苦笑する、彼程の男であっても生きてる内に
見る機会が無かったとのことらしい

―――
――




    pzkwⅤ「ッらおらおらァ!!どけってんだ!!」ジャコッ


   陽子ロケット弾『』ジュゴーッ!




  バッグォンッッッッ!!



 \ あぎぃぃぃぃぃ!!! /



 [ヘルハウンド]の群れ目掛けて放たれた弾薬は見事に群れ中心に居た一匹に直撃した、密売店主の秘蔵っこ品なだけある
四足歩行の魔物が火球へと変貌するのはあっという間で、炭化して生体活動を秒で停止させた個体を中心に炎の幕が広がる
"円形状<サークル>"に広がった熱の波は憐れにも近くに居た個体も巻き込み、本来熱に対して耐性を有していた種を焼く
 身体に纏った火を消そうと跳ねまわり、地を転げまわる獣にエミリアの[精密射撃]が入りそれも仕留められる
離れていた為無事であった群れも既に[刀]を振り下ろし終えたゲンとアニーの手によって切り伏せられていた



   T-260「危険生物の沈黙を確認、進軍を再開します」

 レオナルド「ふぅ、今ので会敵で何回目だい?」

   T-260「通算8回目になります」

 レオナルド「入口から歩いてまだそんなに経っていないんだけどねぇ、繁殖しすぎでしょ」



 名は体を表すとは言うが、地獄の犬にとっては死骸が無造作に放置されていたこの地は絶好の餌場だったのだろう
死者の弔、火葬にせよ埋葬でもなんでもされずにずっと野晒にされていた人間の躯<むくろ>はこの地を狩場として
屯っている犬共には丁度いい栄養源であったと言える


 外に腐敗した死体が殆ど無いのは、おそらくそういうことなのだろう


 "迷惑極まりない移民者"の血肉と成らなかったモノは骨だけの[スケルトン]種や
魂だけが一人歩きしてやがて[リッチ]と言った厄介なモンスターにもなっていたことだろう


 痛々しい崩落跡や階段や通路があった場所に走る亀裂、どうしても遠回りせねばならない道は多々あった
特に本来、剣神の間に続く地下への道は完全に表からは行けないようで裏手から回り込んで
櫓の中にある階段を降る必要があった

 裏手に行くための道を探すことがまた大変で前回そこを目指さなかった剣豪もまた崩れ通行が
不可能になった道には舌を打った


   リュート「おわっ!?今度はでけぇ蛾まで飛んできたぞ!?」チャキッ


 [グルームモス]を御供に連れた[ナイトスケルトン]が塀の上から剣を構えてこちらに飛び降りてくる
両手で柄を握りしめ膝を曲げて大地に劔の刃先を突き刺すように降り立ってくる骸骨騎士に応戦しようと
リュートは剣を構えるが、彼の後方から青い影が飛び出して彼と骨騎士の間に割って入った


     ブルー「ボサっとするな!」パリィ!![ディフレクト]

    リュート「ありがてぇ!![ベアクラッシュ]!!」ブンッ!



 攻め手を防がれた上にそのまま押し退けられて仰け反った形の骸骨騎士に容赦の無い熊殺しの一撃が決まる
飛び上がってから落下の勢いを加味した渾身の叩き割りが骨騎士の頭部を両断したカボチャの様にして黙らせる

 毒々しい色合いをした蛾の怪物が[ペインパウダー]を放とうと翼を広げて羽ばたくも
蛾の巻き起こす風に逆らって飛んでくる機影が1つ、向かい風の形でナカジマ零式が[加速装置]を起動させた超スピードで
敵方の片翼をぶち抜く、バランスを失えば必然[グルームモス]は覚束ない飛行を始める
 機動力が低下した蟲を切り捨てるのは難しいことでもなくリュートを庇っていた術士が
その場から飛翔して唐竹割からの横凪一閃、[天地二段]を決めた


  ナカジマ零式「おっとっと…少しエネルギー不足ですね~、WPの補充をお願いしますね~」

   レオナルド「はいはい、キミはもう少し[神威クラッシュ]の使用は控えてほしいなぁ…WP容量は30までなんだから」

   レオナルド「よいしょっと、補給完了だよ」

  ナカジマ零式「おぉ、ありがとうございまーす!でもでもぉコレばっかりは浪漫ですから仕方ないですね~」

  ナカジマ零式「敵がこんなにわんさか出る環境ですもん致し方無しって奴~?」



 敵がわんさか出る、確かに間違ってはいない

 倒しても倒してもキリが無いのは事実だ、突如何もない虚無から忍者服の人影が現れたかと思えばアンデットが出る
此処ではそれが常であった、目視できるならば走り抜けて無用な戦闘自体を避けようとできるのだが
突然現れるのだから半ば事故の様な会敵だ



  ブルー「ゲン、この辺りで休めそうな場所はあるか?少しばかり術力を回復させたい」


 戦闘が多く術の消費も多かった彼は小休止できる場所は無いかと尋ねた
忍者の風貌した亡霊もそうだが、トリニティが爆撃していった後の名残なのだろうメカ系の敵が嫌に多い
地上掃討に使われたと思式[メカドック]が今も普通に稼働していて生きている者を誰彼構わずに襲ってくるのだ
 それらの対応をしてきた結果術力は空っぽでさっきから剣を振るって戦っていたのだ
[クーロン]の裏通りとは規模が違い過ぎる数の襲撃が頻繁にある、人数が多いとは言えゆっくり[術酒]を飲んでる暇もない



   ゲン「なら、ちぃと道はズレるが天守閣の方だな、前に剣聖の間に向かおうとして入った場所の入り口だが」

   ゲン「あそこなら奥に行かない限りは敵も見当たらなかったからな」


 剣聖の間の力に寄せられてか、城内にモンスターは陣取る様に身構えて、出入口には何故か彷徨っていなかったからなと
彼は付け加えて言った、分岐路となる場所を本来なら北上するのだが敢えて南下して進んでいく奇しくもルージュ達が
歩んだ道と同じ道をブルーは進み一息つけそうな所までやってきた


 荷物を置いて、[術酒]の小瓶を一本開けて飲み干す
アルコール特有のほろ苦さとは別の独特な味に舌がヒリヒリしていくのを感じ取る、旅を始めたばかりの頃とは違って
自分の術力も随分と増えた、小瓶1本分では足りないなと2本目を開けて飲もうとした時
いまだにシャッターを一回も切っていないカメラが目に入る



  ブルー「……。」


 悲惨な有様の[ワカツ]を知る者はいない、世界の誰一人としてだ


 そういう用途で渡された物ではないが写真に剣豪達の惑星で起きた真実を写しておきたい、少しだけそう思った


  ブルー「柄にもないことだな…」スッ


 ポケットに小型カメラを入れて、彼は2本目の酒を胃に流し込んだ



―――――ウケケッ!ハハハッ、ヒヒヒッ


  ブルー「!」ハッ!?


 頭の中に直接響く声の様な物を感じ取る、機械音声のエコーが掛かったような3人分の声を…
野営地としている此処から南方の方から変わった力――術の力を感じた
 魔物の中にも術を扱える素養がある者が存在する、おそらくこれは[邪術]の力だ


言われてみればワカツにメカ系うろついてるのそういう事だったんか


 ふらりと立ち上がり、声に導かれ―――いや、誘われたのだろうか、彼は歩き出した
そんな彼に気が付いたのはいつも一番近くに居たスライムであった


   スライム「( ゚Д゚)ぶくっ!?」

   スライム「(;´・ω・)ぶくぶくぶー」オロオロ


 名前通りの青い瞳は空虚を映していて、見ていて危なっかしい足取りでどうみても正常ではない、だというのに…
"誰一人"として仲間が気づかない、いや気づけないのだ
 異常事態だと悟ったスライムは直ぐに前ブルーに買ってもらった防水仕様の特殊手帳に同じく特殊な筆で書き込む



  スライム「ぶくくぶー!(; ・`д・´)」イソイソ



  エミリア「あら?どうしたの」


 一番近くに居た地下組織の二人組に声を掛ける、ブロンドの美女は身を屈めてゲル状生物と同じ目線(?)になり
話を聞いてみる……とはいえ、向こうで剣豪と何か話をしている無職と違って魔物の言葉は分からないのだが


  アニー「んー?なんか持ってるわね、…これって皆で映画見に行った日にブルーが買ってた奴じゃん」


 防水仕様手帳のページに急ぎ殴り書きで書いた文字に気が付き2人は目を細めた
術士がふらふらと虚ろな目をして野営地から出て行ってしまったという旨が書かれていたのだから…!


  アニー「はっ!?アイツが勝手に出歩いたって…―――!!本当だわ、居ないいつの間に…」キョロキョロ
 エミリア「そんな、どうして誰も気が付かなったのかしら…」キョロキョロ


 仲間内での話し合いに夢中になっていた、なんて言葉で片づけるにしては不自然だ
確かに天守閣に入れそうな横穴の出入り口付近を野営地にもした、周辺には霧が出ても居たが人間1人が外に出れば
直ぐにでも気が付く筈なのだ

 これだけの人数が居て誰一人としてその現場に気が付かないのは明らかにおかしい…ッ!

 異常性を察した二人が直ぐに剣豪と無職に声を掛け、またこれを機に各メカ達をメンテナンスしてたレオナルド博士にも
まだ整備中で動けない人員はこの場に待機、動ける者だけで捜索に出ると決めて直ぐに術士を探しに出かけた

―――
――




 コッチダ、コッチ



  ブルー(誰だ…俺を呼んでいるのは)フラフラ

  ブルー(こっちか?こっちにくればいいのか…)フラフラ



 遠くを見つめて見えざる何かの声を聴き彼は1人階段を降りていく、天守閣から南方…激しい戦闘があったのか
古戦場の痛々しい跡が目に付く中で彼はソレを見た


  宝箱『 』


  ブルー「……。」ボーッ
  ブルー「…。」



  ブルー「!?」ハッ!

  ブルー「な、なんだ!?俺は何故こんな所まで来ているんだ!?」バッ


 "色"を失っていた蒼い瞳は"色"を取り戻した、今の声はなんだったんだ!?何故自分は野営地からこんな所まで!?
敵対生物や暴走機械に亡霊が蔓延る危険地域で単身で歩くなど自殺行為ではないか!?

 白昼夢でも見ていたとでもいうのか、自分の行動に驚愕した彼は落ち着こうと息を整える…冷静にならねば


 深呼吸をして不可解な自らの行動とその前後を考える、自分は…そう声だ!何者かの声に導かれて此処に来たのだ
声を聴いて術の気配を感じた、それから頭の中が靄にでも包まれた様にボーっとして

 そこまで考えて彼は"まだぼんやりと『させられた』頭"で目の前を見る


  ブルー「…。」

  宝箱『 』


 この"惑星<リージョン>"特有の宝箱、紫色の紐でしっかりと縛られた漆塗りの刀箱がそこにあった
焼け落ち煤に塗れて倒壊した城の中にあるにも関わらず綺麗な状態で残った箱が…


 彼は双子の片割れと同様に術士として幼い頃よりあらゆる教養を施された上に生まれつきの天性があった
弟と同じく感受性は強い方だが時として感受性が強いという事は災いをも齎す、何事も表裏一体で長所も短所もある


 だからこそブルーは"彼奴ら"の呼び声を受信してしまったのだろう…

 彼はその刀箱に…






    銘刀―――[双龍刀]―――の入った刀箱に近づいてしまった








―――クハハハハハハ!!!
―――キタゾ、キタゾ!!
―――サァ、ワレラ ノ ナカマ ニ ナレ!!



     ブルー「っっ! [ゴースト]だと!?」



 ゴーストA「ぐふ、ぐふふ…来たナ」
 ゴーストB「いひひ…」
 ゴーストC「つよい 力をもったセイジャ、ワレラの同志となれ」


 トリニティ政府の指定認定危険度、通称【敵ランク2】相応のアンデッド…[ゴースト]
薄汚い茶色のローブに羽が生えた存在が蒼き魔術師の周りを囲むようにぐるぐると飛び回る
 フード奥の闇から覗かせる妖しい赤眼はまるで彼の存在を、命の価値を値踏みでもしているようで
それは魔術師の癪に障った


  ブルー「貴様らか…っ、下等種のアンデッド風情が俺を誘導するとは…」ギリッ


 奥歯を噛みしめて苛立ちをそのままぶつけるように指先を飛び回る亡者に向ける


  ブルー「冥府に還れ死にぞこない共がッッ!![エナジーチェイン]ッ!」


 指先から迸る翠色の思念波が空を舞う襤褸布<ボロぬの>を捕らえる、耳障りな笑いが呻く様な声に変わり
汚れた布切れは魔術の鎖に焼かれて煙を上げ始める


 敵ランク2程度の塵芥であるならばこれで絶命―――いや、昇天しただろうとブルーは鼻を鳴らして術を解除する
こんな奴に折角回復した術力を使い続けるのも勿体ないと内心で呟いて直ぐに残り2体も滅してやろうと態勢を変えるが…


  ゴーストA「…」ジュゥゥゥ、プスプス




  ゴーストA「…ケケケッ」ニタァ

   ブルー「なっ、馬鹿な…」


 今までも[ゴースト]とは戦ったことがある、更に上位種に位置する敵ランクの怪物とも渡り合った事がある
故に、目の前の下等種が自分の術で仕留めきれなかった事に驚きを隠せなかった



 この時、漸くブルーは"頭の中に送られた靄"を振り払うことができた




 ―――…考えてみればずっとおかしかったのだ、彼1人が野営地から出て誰一人として"気づかなかった事"も
感受性の高い術士の頭の中に声を直接送れた事だってそうだし[邪術]を扱えるという時点で
並みのモンスターにはない知性がある



 もっと言えば魔法王国の誇る優秀な術使いの"意識を鈍らせた"くらいには普通じゃないのだ




   ゴーストC「うけけっ 悶え苦しメ…」スッ



――――[激痛]!



 襤褸布の裾から人の物とは思えぬ青白い皮膚にも似た手袋が出てきてその指先が天を指す
赤眼が上弦の月を描く、唇は見えないが呪いの言葉を吐き出す


 ぴしっ、みしっ


 神聖な酒で満たした術力の無駄遣いだ、節約がどうと言ってる場合じゃないと[ヴァーミリオンサンズ]で蹴散らそうと
詠唱を始めるよりも先に相手は動いた、戦場に立つ何者の追従も許さぬ"最速行動<ファストトリック>"で紡がれた呪文
 聞き取ったと同時にブルーは自身の身から罅割れ、圧を加えられて折られる様な痛みを錯覚する



  ブルー「う" ぐッ っっ!!」



 実際、身体には内外共に損傷は無い、ダメージなど負っていないのだが身体の神経が痛みを"錯覚"する
プラシーボ効果の様な脳の思い込みから成る現象、一種の催眠術に近いソレを意図的に引き起こす[邪術]の効力で
在りもしない痛みに思わず膝をつく、詠唱も途切れて術の発動も失敗に終わり完全にスタン状態に陥ってしまった…っ!



  ゴーストB「はははハはは、苦シめ」
  ゴーストA「お前も我らノ仲間となレ」


 強き力を宿した人間が死に、その魂が同志となることを望む悪霊は笑いながら宙を踊る、両腕を広げてその場で大回転
空気が渦を巻いて霊の身体から瘴気が放たれる、毒々しい紫色の強風―――[イルストーム]が剣豪の故国に吹き荒れる
 生命を冒す暴風を風任せに流れて先の思念波で焼いた亡霊が術士に両腕を伸ばす



 それはまるで新たな仲間を抱擁するように、慈愛に満ちた、それでいて残酷な黄泉の国の手引きのようであった





           「ぶくぶーーーっ!」ドゥッッッ



――――ゴッッッ!!


  ゴーストA「ぐギャ!?」バキッ


 敵ランク2相応の下位アンデッドが得意とした[ゴーストタッチ]とは天と地ほどの差がある
相手の生命を削り取る[ライフスティール]を仕掛けようとした矢先、何者かに邪魔された…っ!

 亡霊共は超スピードで[突進]してきたソイツに目を向ける
紫色の鬣<たてがみ>に立派な一本角、本来その種の個体より一回り小さい馬型モンスターを…っ!


 本来の個体よりも一回り小さな一角獣―――[ユニコーン]は倒れた術士の前に出て蹄を鳴らす
生命の象徴、治癒を司る聖獣が死者達を前に立ち塞がった


   ブルー「…お前、スライム、か…?」


 身体を蝕む存在しない[激痛]が収まりつつあった彼はゆっくりと顔を上げる
自分の前に立つ獣はその身に似つかわしくない「ぶ」と「く」だけの発音で答え、角を天に掲げる様に大きく首を振るう



   キラキラ…!


  ブルー「…むっ、これは」ポワァァァ…


 吹き荒れた瘴気を肺に取り込んだ事で感じていた身体の不調が浄化されていくのがわかる
[マジカルヒール]による奇跡の輝きに包まれたのだと魔術師は解った



  アニー「そいつに感謝しなさいよねっ!いの一番でアンタが居ないのに気づいたんだ!!」


 雷光一閃、稲光が走ったかと勘違いするような速さで剣を構えた金髪が一直線上に居た亡者を突き刺す、突き飛ばす
心の臓があった場所を全力疾走の勢い付きで一突きから背部周り込みで打ち上げ、喉首を搔っ切り脳天を勝ち割る動き

 [神速三段突き]の動きで有毒の気体を発生させた個体を打上げられた際に銃声が2発
夜闇を裂くように紫電を帯びた弾丸がいくつもの線を描いた後にアニーが最後の一太刀を脳天に振り下ろすタイミングで
ぴたりとフード部分から覗かせた赤眼に寸分違わずに直撃した



 [二丁拳銃]からの[跳弾]によるダブルパンチと[神速三段突き]が織りなすダメージに耐え切れず霊が掻き消えたと同時に
ホルスターから銃を引き抜いた状態のエミリアが上の階段から飛び降りてくる…っ!



   リュート「いたいた!!心配したんだぞ~!勝手に居なくなるなよなぁ」タッタッタッ!

     ゲン「魑魅魍魎<ちみもうりょう>共か…っ!にいちゃん無事か!?」タッタッタッ!



 抜刀した状態の剣豪、新調した[サムライソード]を両手にそれぞれ1本持った自称相棒がその後に続いて駆け降りてくる
呑気な口調でいながらも中段まで降った所から狙いをつけての[二刀烈風剣]を放ち牽制して
本命の剣豪による[飛燕剣]が襤褸布お化けを切り裂いていく








  ブルー「お、お前達まで…」




 増援の到来と同胞を喪った事に襤褸布は憤怒する、そして[ユニコーン]の姿に変化したスライムを一瞥した
"魔物<モンスター>"という種族は同じ魔物を倒し吸収することでその力を取り込み徐々に強くなる種族だ
 "人間<ヒューマン>"と異なり閃き、成長といった物には縁の無い性質上…術という存在にもそこまで関わってはこないのだ


…普通の術であれば、だ




 例外的に[邪術]は違う、術というカテゴリーにありながら"人間<ヒューマン>"や並の"妖魔"にさえ扱えない異質な術系統

"魔物<モンスター>"だけが扱える術だからこそ、同じ"魔物<モンスター>"種のスライムは気付いたのだ




  ゴーストA「オノレ…おのレ、許さンゾ怪馬よ」グググッ
  ゴーストC「そのチカラを吸わせろ、それで贖うガいい」コォォォォ


 襤褸布の怪は同胞を喪った怨嗟の声を歌として響かせる、崩落した城の瓦礫に呪歌が反響して力場を築く
耳障りで聞いているだけで気力が捥がれていく嫌な音だ


  アニー「きゃっ、な、なに…」STR DOWN×3

 エミリア「頭割れそ―――なんなのよ!銃の狙いが定まらないじゃないの!」WIL DOWN×3


 リュート「うおっ、なんちゅうド下手糞な音程だ、力がへなへな抜けてくぞ…」ガクッ
   ゲン「グッ、上等じゃねぇか化け物!!」ブンッ


 憎悪の声は[サッドソング]となって自軍を蝕んでいく、剣の柄を握る握力も振るう肩の筋力さえ著しく落ちていて
それでも負けじとゲンが一太刀振るい後にリュートとアニーも続くのだが決定打を与えきれない
 頭の中で嫌な音の濁流と戦うエミリアの銃口も火線が定まらず、急所への狙いが大きく狂いズレて
相手の身体をギリギリ掠める程度にしか傷を負わせられないままだ…っ!


 彼奴等の産み出した力場というのはそれ程までに厄介極まり無いのだ、本来ならば先程一体仕留めたのと同じ様に
亡者共を消滅させられる筈なのだが、威力の低下に加えて[ライフスティール]でこちら側の生命力は着実に削りつつ
向こうは吸い取った生命力で大幅に回復するのだから溜まった冗談ではない
 このまま膠着状態が続けば自分達が先に根を上げる持久戦になるのは間違いない



  ゴーストC「くはハは、[激痛]に悶エるがいい」

  ブルー「い、いかん…アレは気をつけろ!!」



 不利な力場環境を作られた状態で弱体化させられた集中力を使う、どうにか全身の霊感を高めることで初見よりかは
大分身体の自由を利かせられるが、それでも術や技の発動までには至れない

 他の仲間達もまた少し前のブルーと同じように激痛に顔を歪めてその場に蹲る、唯一ゲンだけは気合で[激痛]を振り切り
濁流が如く敵を切りつけに行こうとしたのだが


  ゴーストA「分霊ヨ、[雑霊撃]!!」


     ゴースト『』スゥゥゥ…

ゴースト『』スゥゥゥ…  ゴースト『』スゥゥゥ…


 亡霊の身から現身の様な存在が3体現れ、半透明なソレ等が剣豪に付きまとい取り押さえる
この世成らざる者の魂に触れて全身に突き刺さるような痛みを感じたかと思えば足が止まる
 麻痺――というには凶悪な物でもない痺れが全身に回り、物理的にその動きを止めたのであった


  リュート「く、くっそ~…なんだって[ゴースト]の癖にこんなにつえぇんだよ…っ」ヨロッ

   ブルー「…。」ググッ



   ブルー「俺に、―――俺に考えがある」ボソッ

  スライム「ぶ、ぶく…?」


 幻覚の痛みでふらつきつつあるスライムを始め他の仲間達が術士の顔を見る、誰も彼もが辛そうな顔で―――だけど


  リュート「なんだよなんだよ!起死回生の策があるってのかよ、こりゃあ俺達もまだ助かりそうだなっ」ニィ
  エミリア「もう!それなら早く言いなさいよね…口も性格も悪いけど実力は確かだって認めてるんだからね」フッ


―――だけど、誰一人として諦めてはいない、口角を釣り上げて希望を見た様に誰も彼もが目を向けてくる


    ゲン「おう、にいちゃんその策ってのはどうすりゃいいんだい、俺は何をやりゃあいい?」
   アニー「アンタの策ってヤツに乗っかってやるさ、だからあたし等に指示を出してよ」


    ブルー「…助かる、俺の考えは――――」




 ……大勢の仲間と戦うのも、悪くないな、 蒼の魔術師はそう思った



    ゴーストC「苦痛を味ワえ、[激痛]よ!」

    ゴーストA「コォォォォ…ばあ"あ"ああ"""あ"」カパッ、ブォォォォォォァァァ――!!


 "最速行動<ファストトリック>"で発動する偽りの痛みは身体を通る神経に浸透し、強者の精神さえも蝕む苦痛の枷となる
搦め手に溺れた6人の真上目掛けて襤褸布の怪はフード越しに見えぬ口を開き冥府の吐息――[デッドリーパウダー]を吐く
 黴の胞子にも似たソレが真冬に舞い降りる雪が如く降り注ぐ、地に落ちる同時に弾け飛び肉を腐らせる毒をまき散らす

―――
――



 戦局を覆す場合、用兵術の一説に"攻撃三倍の法則"というものがある、曰く牙城を崩したくば敵勢力に対して
3倍相当の兵を揃えよという理だ

 古来の合戦上で雑兵1人を3人の雑兵で囲い確実に仕留める戦法、武人が目の前の相手と鍔迫り合いをしてるところで
左右から横槍が飛んできて脇腹を貫く単純明快な話だ
 当然、数の暴力を物ともしない一騎当千というイレギュラーや相手の優れた策を用いた手痛い反撃で
三倍の法則も破られることはあるのだが…



 祖国の学院でも当たり前だが用兵術に関しては多少なりに学んでいた、今の状況が正しくそれにあたる


 修羅場を潜り抜けてきた実戦経験豊富な地下組織の構成員2人、[ワカツ]の剣豪1人、なんやかんやで生き残る無職
決して弱くはないモンスターに変化したゲル状生物、魔法王国から勅令を受けた術士

 単純に数を見ても6対2、であるのに何故苦戦しているか



 自軍が身動きを取れない状態になることで無力化されるから、戦力としてカウントできない"案山子状態"であるなら
それは6対2とは呼べない、ではどうするか?




  - ブルー『…助かる、俺の考えは――――"1度だけ俺が隙を作る" その際に迅速に片方だけ落として欲しい』 -




 筋力、集中力が著しく低下して個々の戦闘パフォーマンスも落ちている、その状態でも全員で片方に対して集中攻撃を
掛けさえすれば攻め落せる計算だ、元より最初に倒せた奴も2人居れば勝てたのだ
 なら能力低下を加味しても5人総出で1対に集中砲火を当てれば撃破も可能、残るのはラスト1体…

 如何に動きを封じる[激痛]があろうと意味がない
動きを封じたはいいもののその間に攻撃を仕掛ける役割を担う者が居ないのだから



   - ブルー『連中の定石は相方が居るからこそ成立する戦い方だ、片方が動きを止めてもう片方が攻める』 -



 鍔迫り合いに持ち込んで身動き取れない敵を真横からバッサリと討ち取る、それと変わりない


 強いて言うならば封じ込めの影響範囲が1人ではなく6人全体に広がるという違いでしかないのだ


 - ブルー『この中で一番霊感を高められるのは恐らく俺だ、此処に呼び寄せられたり彼奴等の術中も味わった』-

 - ブルー『だから高めた霊感を身に纏い護りに転ずれば一度だけは耐えきれる、その後直ぐに――――』-

―――
――


    ゴーストC「くかかカカかかか……クカ?」
    ゴーストA「んンん~?」



   ゲン「…へ、へへっ、まだ死ねねぇなぁ…」ヨロッ
 スライム「ぶくっ!」


 剣を突き立てて杖代わりにまだ立ち上がる剣豪、すぐ傍に一角獣の姿をしたスライムが居る



  アニー「ここが正念場ってね…っ」チャキンッ
 リュート「そうなるみてぇだな」スッ


 剣の切っ先を真っすぐ向けていつでもスタートを切れる状態のアニーと二刀流の構えでいるリュートが後ろに居る
そしてその背後で銃を構えたエミリアが、未だ膝をついたままのブルーが居る


 亡霊達は闘志を絶やすことなくこちらを見つめる生者達をせせら笑った、まだ諦めないのかと
搦め手に嵌まっている以上、チェックメイトからは抜け出せないのがわかっていないと
 よしんば[激痛]に耐えれる者が1人2人居たとしてその人数では自分達に致命傷を与えられない
受けたダメージも[ライフスティール]で相手から命を奪いつつ自己回復も図れるから負ける通りなど無いと


  だから、これまでもそうしてきたように呪いの言葉を紡ぎ出した

 動きを封じてその隙に少し前までは2体居た同志が無抵抗な者を甚振り殺していくセオリー通りの動きだ







    ゴーストC「かかかカカカかッ、愚かナ者達には相応しイ痛みを―――」





 [激痛]、今まさにそう言おうとした瞬間だった



































       ブルー「その力の奔流に飲まれ自らを滅せよ![サイキックプリズン]…!!!」キュイィィン!!








 蒼き術士が呟く様な声で詠唱を始めて印を切り始めたのは[デッドリーパウダー]が降りしきる中であった
一行の中で一番霊感が高いが故に[激痛]の呪術に耐えきった、仲間がスタン状態に陥るその中で敵に向けて密かに
魔力の檻を用意しておいた…っ!

 相手を爆殺する[インプロージョン]によく似た変形二十二面体の牢獄…っ!"科学的超能力<サイオニック>"の高位術が
亡霊の今まさに放たんとする[邪術]の力に反応して橙色の防壁へと変色していく…っ!!

そういや術だからバックファイア有効なのか

ほんとにやたら強いんよなあのゴースト



                [ バ ッ ク フ ァ イ ア ]



 変形二十二面体からジジジッと高圧電流でも流れた音がする、檻の中で暴発した術力がピンボールよろしく跳ね返り
術者たる襤褸切れお化けの身を焼いていくのは誰の目から見ても明らかだった

 敵方の定石は先述の説明通り片方が動きを止めてその隙に相方達が身動き取れない相手を甚振り殺すことだ
拘束する役割を担っていた片方は御覧の有様、とすればもう一方の動きはどう出るか…いや元からどうだったのか



  ゴーストA「な、なニィ!!!」

  ゲン「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ――――っ!!!」ダッ



 堰き止められていた川が氾濫するように、彼らは駆けだす…っ!剣豪が、一角獣が、金髪の女が…っ!
その背後からは二丁の銃声が響き、烈風の剣気を飛ばす影も見える

 焼けた同胞が魔封じの檻から漸く開放された所を亡霊は目にするも今からでは到底[激痛]は間に合わない
自分が詠唱を始めたとしても走り出した連中を食い止めるより先に我が身に一撃が入りそこからは畳みかけられてしまう
 詠唱に時間の掛らぬ[雑霊撃]は?…対象が1人だけに限定されて1人止めても他が雪崩れ込む…っ!



   ゴーストA「ぐ、ぐぐグぐ…ぐそおおおお"おお"お"おぉぉぉ""ぉぉ!!!」カパッ、ゴォォォォォォ!!



 物の怪は一か八かの賭けに出たッッ!!

 呪詛を呟く為の口を大きく開き"声"を解き放つ――――音波攻撃に属する[スクリーム]を前方に目掛けて打ち出す
もはや動きを封じ込めるのは不可能と知り、ならば一人でも多く自分が叩き出せる最大火力の範囲攻撃で迎撃するしかない

 大気を震わす衝撃波は最前線に居る剣豪の身を襲う、次は幻覚でもない本物の痛みだ…しかしゲンは止まらない
衝撃波の勢いは先頭の男が壁となることで落ちていき、その真後ろには人よりも身が大きい一角獣が居て
それもまた後方への負担を和らげる緩和材となっているのだ


    ゴーストA「な、なぜダ!!!なぜ直撃で平然ト…ハッ!?」



   スライム「ぶくぶくぶーーーーーっ!!」キラキラ



 ゲンの真後ろにぴったりとくっつくように追従してくる[スライム]の一本角から七色の光が漏れていた
それは蒼き術士の毒を消し去った癒しの光[マジカルヒール]の輝きだ

―――
――


 - ブルー『その後直ぐに―――奴の拘束術を無効化する反撃の術を唱える、そこから一気に攻勢に出るが…』-

 - ブルー『彼奴等とて黙ってこちらの反撃を見過ごす間抜けではない、当然迎撃してくるだろうよ』 -

 - ブルー『そこでゲン、すまんがお前には弾避けの役を担ってもらう』-

 - ブルー『俺の見立てではこの面子で頑丈なのはお前と次いで[ユニコーン]に変身したスライムだ』

  - ゲン『なるほどね、所謂タンク奴っちゅー奴か…いいぜ引き受けてやらぁ』-


 - ブルー『スライム、お前はゲンをサポートしながら前進だ俺にやったのと同じ奴をできるな?』-

- スライム『ぶくっ!!』-

―――
――



 満身創痍だったゲンの体力を回復させつつ、先の[雑霊撃]の様なスタン作用を持つ何かしらの攻撃が来ても即時復帰で
敵への猛進を遮らせない手段…っ!最前線に立ち誰よりも早く前へ前へと進むことで相手方からすれば迫るゲンこそが
優先順位の大きい敵兵となる、到達順を考えれば遠くに居る敵よりも一番自分に近い敵を落とそうとするのが心理という物

 こうすることで後方に居るエミリアやリュートは勿論、まだ回復していないアニーにも攻撃ヘイトが向き辛い
[マジカルヒール]は生憎と1度に1人しか回復できないのだ、そこまで踏まえてのこの布陣である


 円環状の振動波を化した魔声を一身に浴びつつも剣豪は止まらない、止められない
生命の象徴に擬態した仲間の助力を得て"音撃波<ソニックウェーブ>"を真っ向から裂いて進んでいく
その様は荒れ狂う濁流が如し…ッッ!!



   スライム「ぶ、ぶくぶくぅ…」ヨロッ

   ゲン「…おう、ここまで付き合ってくれてありがとよ、ここまでくりゃあ十分だぜッ!!」ジャキッ



 とっておきの一撃を喰らわせられる射程範囲に魑魅魍魎を捉えた、ずっと傷を癒しながら背にぴたりと並んで走り続けた
小さな聖獣に労いの言葉を一つかける、後は物の怪を黄泉へと送り返すのは…っ!



   アニー「あたし等の仕事だっ!!」


 スライムの脚が徐々に速度を落とし、反対に剣豪は速度を上げる…っ!あまりの速さ故に残像さえも視える
韋駄天の域に達した侍の残像が彼自身の闘気を纏い、宛ら質量を持った残像と言うべき存在に変わる
 1人だったゲンが4~5人に分裂したと見紛う光景を見てスライムは安堵する、嗚呼、自分はやり切ったのだと
親愛なる術使いの期待に応えられたのだな、と…

 縺れそうになる脚、よろけそうになった身体の真横を一直線にアニーが通り抜ける
「後は自分達が引き受けるから安心しな」、すれ違い様に見せた清涼感のある笑みは功労者のスライムにそう語っていた


 一切合切の迷いが無い、直線的な走りでありながら静かに流れる様にも見える動き…それは小川に流れる清流が如くッ!



 キュィィン!キュィィン!!


            2連携 [ 濁 流 清 流 剣 ]





 瞬く間の出来事ッ!!

 質量を感じさせるゲンの残像が散開して気が付けば襤褸布を取り囲んでいた本体含めた5人分の人影が一斉に構え
同じタイミングで同じ動きで切り抜け碧色の闘気の線が5条流れ――――そこに蒼白の道が現れる
まだ闘気の余韻残るそこに…っ!濁流の流れで築かれた力の淀みへ清流が流れ込むッ!!


 碧の闘気に蒼白を上塗りして剣気を余すことなく敵方へと注いでやる、できたばかりの傷口に容赦なく塩を塗り込む様に



   ゴーストA「ぎぃぃ"ぃぃぃ"ゃああ"あ"ああ"あ"あああああ――――っ」ズバァァァ!!



 小さな羽の生えた茶色のローブは2人分の剣気に裂かれて物の数分せぬ内にバラバラになっていく
頭部のフード、左右の裾腕、上半身と下半身、五つのパーツに切り分けられ、その上で身体の中心線から左右へと
清流によって縦一文字に切り開かれた



   ゴーストC「わガ同胞ヨ…!」

   ゴーストA「お、ノれ」


 キュィィン!キュィィン!!

  バシュンッ!ダダンッ!

            2連携 [ 二 刀 烈 風 跳 弾 ]


 剣豪が放った闘気によく似た翠色の烈風が二撃、散り散りになっていく亡霊の身体を細かく分解して
それが元は着物であったことが分からぬ程に細切れにした後に飛んできた跳弾で紙吹雪をばらまいたみたいに空に舞った


 暴発した術力の乱反射から解放されたソイツは掻き消された同族を見て手を伸ばす

 だが、もうそこに生者の魂を求める悪霊は居ない


 勝敗は決まった、これまで数の不利を覆せたのも倒した亡者がこちらの大半を機能不全にしていたからに過ぎない
役割を担う者が潰えた今、詰みの一手を指し迫られた盤上を引っ繰り返す事なぞ不可能だ


       ゴーストC「ハッ!?」バッ!


 手負いの悪霊は己を取り囲む者達を見た


 いつの間にやら至近距離まで詰めてきてこちらに銃口を向ける元モデル
柄を握りしめて何時でも天高く跳び上がる用意が出来ている黄金色の髪をした女、いつでも術を発動できる魔術師
抜刀の構えで下から上へと切り抜く気の満々の剣豪、功労者のスライムに[傷薬]を与えながらも逃げさ無い様に囲む無職





    ゲン「還りやがれってんだ!―――ここは"死者<てめぇ等>"の住む世界じゃあねぇんだよ…っ」チャキッ




            3連携 [ 十 字 逆 風 の 二 段 ]






 闘気を込めた銃弾が5発、頭部、心臓部、下腹部、両腕と十字架を刻む様に放たれて直ぐ様[逆風の太刀]が入り
飛翔したアニーの振り下ろし、着地と同時の横凪で最後に残った亡霊もまた黄泉の国へと送られていく…



   ゴーストC「グ、し"ぃぃぃああああああ"あかか"かあ"ぁあぁぁ"ぁ"」ボジュウウゥゥ…


 死者が最期に上げる声を断末魔と評していいのかは分からないがソレさえも無くなりタダの襤褸布切れとなったソレは
術士の爆裂術によって完全に灰となる


―――
――






   ブルー「…終わった、か」


  リュート「ふぃーっ、いやぁ今のは正直ヤバかったぜ~…なんにしても危機は脱したし一件落着ってトコかね」


 印を切って、襤褸布を火葬した術士のすぐ傍でリュートが弦楽器を取り出し陽気に歌い出す
さっきまでの緊迫した空気はどこへやら、そんな糸目な彼につられて思わず最初にエミリアが噴き出す


  エミリア「ふふっ、一件落着ってまだ調査も終わった訳じゃないのに」


 結果だけ見れば偶々思わぬアクシデントに遭遇して要らぬ疲労を得た、モンドの基地とやらの調査自体は完了してないが
呆れを通り越してなんだおかしくて、それが緊張の糸を解いてくれたのだろうな


  エミリア「それとブルー、今度からは気を付けてよね?」


   ブルー「それは…その、なんというか本当にすまなかった」

   ブルー「今回の件は間違いなく俺に非があった」ペコッ


 リュート「おおっ、ブルーが頭を下げたぞ!いつもこれくらい素直にデレてくれるなら相棒として俺も――いてて!?」


   ブルー「誰が相棒だ、誰が」グイーッ

 リュート「痛い!?ちょっ、耳伸びるからやめて!?調子に乗ってすんませんって!!ねぇブルーさん!?」



  スライム「ぶ、ぶくぶー…(´・ω・)」ノソノソ

    ブルー「ん?」チラッ


 むず痒さを紛らわす為、都合よく調子のいい事を言ったリュートの耳を引っ張っていた魔術師は背後に居るゲル状生物に
気が付いた、もう[ユニコーン]の姿から元の[スライム]に戻っている
 蜂蜜色の髪を揺らしながら彼はスライムに近づきそっと身を屈めて…



   スライム「('ω')…ぶ? ぶく?」

    ブルー「…。」スッ










              ブルー「お前のおかげで俺は死なずに済んだ、ありがとう」


                      スライム「(´・ω・)!?」





 フッ、と柔らかい微笑みを浮かべて蒼い術士はそう告げた

 これにはスライムも……いや、ブルーという人物をよく知る無職とグラディウスの面々は目を丸くして驚いた
明日は天変地異が起こるかもしれない、リージョン界が滅亡するのでは?



   アニー「う、うそぉ…」
  エミリア「あのブルーがお礼を言うなんて…不吉だわ」
  リュート「マジか!?明日は雪、いやいやリージョン破壊兵器が表れて世界の終わりが来てもおかしくないぜ!」


  ブルー「貴様ら言いたいことがあるならハッキリ言え」





   スライム「(´・ω・)…」


   スライム「(*'ω'*)…っぶく!」パァァァァァ…!キラキラ






   スライム「(*‘ω‘ *))))=((((*'ω'*) ぶくぶくぶー!!ぶくぶくぶー!」ピョンピョン!ササッ





 ブルーに褒められた。

 それが嬉しくて彼の周りをぴょんぴょん跳ねながら、ぐるぐると回るスライム…宛ら親に褒められた子供のようだった


 ゲン「ははっ、コイツにいちゃんに褒められて嬉しいみたいだな、けどそんなに走り回ってると危ないぞ―――」


  スライム「(*‘ω‘ *)ぶくぶく――――」



 床に落ちてた宝箱『 』ドカッ!!

 スライム「( ゚ω゚)ぶくっ!?」ドンッ、ポテッ



  ゲン「ああっ、ほら言わんこっちゃね…ぇ?」キョトン



 はしゃいでたスライムが何かに躓いて(というかぶつかって)転んだ…箱状のそれは先の戦闘で[ゴースト]共の放った
[イルストーム]や[デッドリーパウダー]で吹き飛ばされてうまい具合に瓦礫の山に突っ込んでいて
危うく誰も気づかず帰る所であった…


  ゲン「こいつぁ刀箱じゃねぇか…」


 紫色の紐でしっかりと縛られた漆塗りの刀箱、空襲で城が焼け落ちた時も汚れ一つなく
ましてや戦闘の余波で吹き飛ばされたにも関わらず綺麗な状態で残った箱は…まぁ普通の箱というわけではなく



  ブルー「おい、ゲン…この箱はなんなんだ?
           そもそも俺が下級アンデッド共の呼び声に惹きつけられて気付いた時もこの箱の前だったぞ…」


   ゲン「これは武士の命を収めとく箱だ、しっかしこれだけ綺麗に残ってるとなると普通の[刀]じゃねぇな」


 [ワカツ]というのは剣豪が、侍が技を競い、洗練された刀を作る鍛冶の国家だった
それゆえに[ルーンソード]の様な術を込めた特殊な劔や妖力を秘めたる銘刀も取り扱っている


  ゲン「……」

  ゲン「もしかしたら、あの魑魅魍魎はこの中に入ってる刀を護ってたのか、はたまた未練がましく憑いてたのかもな」





  ゲン「武器ってのは使い手の心を映す鏡だ、人を殺める殺人剣にもなりゃあ人を活かす活人剣にもなるんだ」


  ゲン「良くも悪くも元の持ち主の念が入って、呪われた妖刀だの守護の劔だと謳われるようになっちまう」



 神話や伝承に伝え聞く祝福を受けた聖剣や呪いの武器、というのはありきたりだが何処の国にもその手の物はある
[シュライク]のとある古墳にも嘗て栄えた王が使っていたとされる剣が眠っていると言われるくらいだ
 ともすれば、これもそうなのだろうか…



  ブルー「…すると、何か?あの3匹の敵ランク2とは到底思えん[ゴースト]共はこの宝箱の中身の為だけに居た、と」

   ゲン「可能性は、まぁあるだろうな…」


 なんと傍迷惑な話だ、剣に憑りついて死にきれない魂が寂しさからここをふらりと立ち寄った生者を亡き者にして
お仲間に加えようっていうんだ…堪ったもんじゃない



  アニー「ねぇ、ゲンさん…この中に入ってる剣って店で売ってる[刀]よりは強いんでしょ?」

   ゲン「んあ?そりゃああんなのが憑りつくくらいには強ぇだろうな」


  アニー「そんであたし達が倒したからコレにはもう何も憑りつていない、そういう事だよね?」

   ゲン「うん?あぁ…そうだな」


  アニー「じゃあブルー、アンタ戦利品としてコレ貰ってきなよ」


  ブルー「はっ!?お、俺だとォ!?」

  アニー「そっ、アンタよ!今ゲンさん言ってたじゃんか、変なの憑いて無いから大丈夫って…あっ、あたしはパスね」


  ブルー「お、お前なぁ…」ワナワナ


 ……こうして一波乱あった末に刀箱に入っていた銘刀―――[双龍刀]―――を彼らは手にするのであった


【双子が旅立って9日目 午前 1時03分】


 [ゴースト]三人衆との激戦の末に野営地に戻ってきた6人は疲弊状態から脱する為にもう暫くの休息を要した
術力は近辺の安全を確保したのちで[術酒]ないし[神酒]を飲むことでどうとでもなるが、技力はそうもいかない
 おかげで軽い休憩のつもりが長引いてしまったが


  ブルー「…。」

  ブルーの手『 [双龍刀] 』キラッ


 今度は焚火を6人全員で囲って腰を下ろす、流石にこれだけ近くに居て誰かおかしな動きをしでかして野営地を離れたら
一発で分かるだろう、と…レオナルド博士が整備を終わらせたメカ4体も博士と共に野営地に近づく影があるか警戒する
 本格的なメンテナンスの真っ最中で身動きできなかった今と違ってメカ軍団は120%の戦闘パフォーマンスを発揮できる
ぶっちゃけた話、"人間<ヒューマン>"組(+スライム)よりも明らかに強い
 全員最低でも[パワードスーツ]を1つ以上装備の上に強力な武器、頭装備等を持っているのだから
この中で[武道着]の上から買ったばかりの[武神の鎧]を装備したゲンよりも明らかに堅牢である




 なんならさっきの襤褸布お化けもメカが1人、2人居たら秒で片付いたまである





 T-260や博士の[剣闘マスタリー]を駆使した[多段切り]や特殊工作車の[どっきりナイツ]で
黄泉比良坂の向こう側まで吹き飛んでいてもおかしくなかった



  リュート「しっかし、その剣、かっちょいーよなぁ」

   ブルー「ん?…あぁ確かにこの意匠は芸術品としても高いと思う」


 剣豪が崩落した城の中から燃料となりうる木材や布を拝借してきた、それを城の残骸で作った簡易焚き火台に焼べた
ゆらゆらと燃える炎に照らされて二首の龍が絡み合う様な鍔とその先から伸びた持ち手の貌さえ映る水鏡を思わせる刀身
冷たく凍り付くような美しさと何者をも打ち砕かんとする内なる強さが銘刀からは感じられた


  ブルー「振り易さも刃渡りの長さから切れ味の好さまで全てが良い、マンホール下で売られてた[刀]とは段違いだ」

  ブルー「[ワカツ]の鍛冶技術に関しては文献で知識として知っていたがこれ程とは思わなかったよ、他に――」


  ゲン「…。」

  ブルー「ゲン?」


 他にこれ以上の業物が存在するのか?と問おうとしたところで眉間に皺を寄せて難しい顔をしている剣豪の表情を見た


  ゲン「…あ、わりぃ…少し考え事しててよ」

 ブルー「どうした貴様、随分と思いつめた顔をしているようだが…」


 初めはこんな有様の故郷に帰省してきたからだと思っていたが、どうやらそれとは違うらしいことに薄々気付いた
時折、彼はとある蔵がある方角を気にして、今度は術士が得た戦利品を見て同じような顔をしていた事…


  ブルー「……貴様が偶にみている方角、お前が道中に言っていた"剣神の間"とやらか?」

   ゲン「!!……ははっ、わかっちまうか、……まだ若ぇ頃に何度も忍び込んで行ってみたもんさ」


   ゲン「…"剣神の間"、優れた剣士には剣神から剣が授けられるという」


   ゲン「だが、俺は…」グッ!!


 剣豪は利き手で無を虚しく握りつぶす、…いつの日にか自分は手にするんだと胸焦がれたまま、遂には叶わなかった
あの忌まわしき大空襲の日も陰謀によって[ワカツ]を灼き払うトリニティ政府の連中を一網打尽の返り討ちにできうる
劔を授かることもできなかった、自分にもっと力があれば何か変わったのではないか…そう思わなかった日も少なくない


   ブルー「……なるほど、ついぞ取れなかったという未練か、であれば――――行ってみるか?」

スライムがあまりにもかわいい乙



  ゲン「行くって…"剣神の間"にか!」

 ブルー「今の話の流れでそれ以外の何処だというのだ、こっちは例の基地とやらを探すべくその方角にも向かうのだ」

 ブルー「少しくらいの寄り道はしたって構うまい?」


 天守閣方面、即ち[ワカツ]城の上層にはそれらしいものは無い、他に可能性があるのならば"地下"だ
この城で地下に降りる階段があるとするならば、道すがらゲンが話していた剣神とやらを祀る間へ繋がる蔵の階段しかない


   ゲン「……。」



  リュート「今度はやれるかもしれねぇだろ?諦めなければ人間なんだってできるって俺の母ちゃんも言ってたぜ」

   アニー「なんだってやってみるもんじゃん、あたし達もついていくって」





   ゲン「…へっ!駄目で元々たぁよく言うもんだぜ、俺の青春時代のリベンジって奴だ」

   ゲン「すまねぇがちょいと付き合ってくれや」


  ブルー「決まりだな」


―――
――




  地割れ『 』



   ゲン「この先だ、助走つけて地割れを飛び越えるぞ!」ダダッ、バッ!

 エミリア「ふっ!!―――ととっ!?」バッ、シュタッ――フラッ


  アニー「エミリアっ!」ガシッ



 野営地での十分な休養が取れた事で一行は北上して件の蔵を目指すがその道のりというのがまた酷い物で
階段部分が普通に崩れていて底が見えない程の奈落と化しているのだ
 走り幅跳びの要領で飛び越せるが、『行きは良い良い帰りは怖い』とは謂う物で…帰り道が無い
高所から低所に向かって跳ぶ形だからどうにか大穴を越せるが逆に低所から高所へと戻ろうと思えば厳しいものだ

 いざとなれば[ゲート]の術で別の"惑星<リージョン>"へ脱することで帰還は可能ではあるのだが…



  エミリア「アニー!!…そのまま後ろに仰け反って転落死するかと思ったわぁ!!」ヒシッ!!

  アニー「もう…しっかりしてよねお姉さん」


 若干涙目で腕にひしっ!と抱きつく年上を制しながら黄金色の髪をした女は前を見る、[キャンキャン]や[メカドック]と
暴走したロボットが居るのだが不思議とこちらには近寄ってこない



   メカドック「…」ピピピッ!

  キャンキャン「…。」ガーッ、ピーッ




 アニー「…あいつら何でこっちに襲ってこないのかしら?助かるから良いんだけど」



 その理由を直ぐに知る事になろうとはこの時、彼女らは思いもしなかったのである…
後ろから飛べるナカジマ零式を除いたメカ4機が向こう側からブースターを吹かして溝を飛び越えてくる



    T-260「…。」ピョン

 レオナルド「よいしょっと!」ピョン

 特殊工作車「はい」ブゥゥゥン!!ジュゴォォォ

   pzkwⅤ「あらよっと!!」ダンッ!!



 ナカジマ零式「ぶんぶーんw お先にひとっ飛びしますよー」ビューン




  地割れ『 』




 メカ軍団が一斉に跳んだ、そして着地した。




 ミ シィ メキィ ミリミリ…っ



 荒廃した[ワカツ]の階段『 』ミシィィ…!!



  リュート「うおぁ!?」グラグラッ

    ゲン「ぬおぉぉっ!?」ヨロッ



 メカとは言ってみれば鉄の塊だ、当然ながら重量は人間やモンスターのソレとは比較にならない
そんな集団が一斉に跳んでただでさえ脆くなった溝付近に着地すれば当然、負荷が掛かるわけで…


 レオナルド「おっと…っと、あー皆大丈夫かい?」

 レオナルド「ボクとしたことがうっかりしてたよ、今のボク達相当重いんだったね」


  エミリア「き、気を付けてよね!!…はぁ、やっぱり私機械って苦手かも」ボソッ


  アニー(…もしかしてあいつ等が襲ってこないのって溝を警戒してってことだったのかしら?)


  アニー「……うん?」ハテ



 ふと、彼女は思った



          暴走メカにしては地層の脆さから溝に近づいてこない辺り賢いAIだな…と




 メカドック「グルルルルル…」

 キャンキャン「ピピッ! 排除!排除!」



 ブルー「チッ、襲ってこないかと思って少し近づいたらコレだ、全員サッサと片付けて進むぞ!!」

 アニー「え、えぇ!!そうね!」チャキッ


 何か奇妙な違和感があるが、それは一先ず置いておき生きてる者の存在を認識して排除しようと襲ってくるメカに
剣を構えて応戦する、英気を養った事で頗る調子の良い一行は難なく目前の対象を動かない鉄屑に変えて
目的の蔵まで到達したのであった



 蔵の裏口から入り込んで直ぐに中央から広がる大穴が見える、がっぽりと開いたソレの所為で正面口からの侵入は不可で
こうして回り込んでくるしか無かったのだ、よく見ると穴の向こう側の――つまり正面入り口側――天井に何かが
へばり付いている、天井隅の影にあるため分かり辛いが微妙に光沢の様な物が外の月明りから分かる辺り
[リキッドメタル]の様な無機物系の魔物だろうと察せられる


 ゲン「そこの階段を下ればいいんだが昼間ならまだしもこんな時間だ、流石に地下まで月明りは来ねぇからな」


 焚き火台を探してきた時についでで持ってきていた手持ち提灯に火を灯す
術士も魔力を指先に集中させて光球を発生させて足元を照らしながら階段を降りていく…


 割れた壺の残骸、箱に入った布包みや厳重な錠前付きの木箱、保管庫の様な所だったのか?と初めて来る者達は
思いながら歩いていく、途中で大きな壺の中から昆虫魔物の[デスポーカー]が出てきて飛びかかっても来たが
それを難なく切り払う




 やがて…異様な一室へと彼らは足を踏み入れた






     ブルー「これは…何と壮観な」

    リュート「ひゃ~~っ、たまげたぜ…これが剣神さんって奴なのか?」



 月明りも太陽の光も何一つとして届かない筈の屋内だ、ゲンの先述通り今しがた通ってきた道は月光の届かぬ地下
だというのに、この部屋だけは光が射しこんでくるのだ

 中央には人ならざるものとしか表現できない巨大な武者鎧が大きな武器を片手に佇んでいる

 肩に膝に、あらゆる部位に矢を受けて朱色の槍が何本も突き刺さり貫いていた…それは遠目には紅い紐の様な物で
強大な力を持った何者かを決して動き出さぬ様にと縛り上げて封印でもしている様にも見えただろう

 異質と言わざるを得ない武神の頭上、鉄兜の真上からは件の光が…まるで神々しい光がかの存在の背から放たれて見える
畏怖の念を抱きもする恐ろしい化身の祀られた部屋、だが恐ろしさの中に秘められたある種芸術性があるとも呼べる光景



   ゲン「おうさ、城の地下に祀られた剣神よ…真後ろのに開いた覗穴みてぇに小さいのは何時できたのか知らねぇ」

   ゲン「ただ地下だってのに外のお月さんも真昼間の御天道様の光もここから射すんだ、どういう理屈かよ」


  ブルー「…ふむ、力の流れを感じるな」ジーッ

  アニー「やっぱり術的な力が働いてるってわけ?」


  ブルー「そんなとこだな…実に興味深い」


 早速、自分の興味がありそうな事象を前にして光が射しこむ理屈は何か?

 [陽術]で直接光源を創ったり[陰術]を利用した光の屈折で外の明かりを取り込んでいるのとも違うのか?
何時の時代の何処の"惑星<リージョン>"にあった術式系統なのか等々、前のめりにそれを解析しようとする術士を見て
元スーパーモデルは「あっ、これ長くなる奴だ」と嫌な予感を察知した


 エミリア「そんなことよりゲンさん、剣神から剣を授かるんでしょ?」

  ゲン「あぁ…そうだな」テクテク


 術マニアが変に没頭して無駄に時間をかけては困る、速やかに目的を達成してこの部屋を離れなければいけないと
ブロンド美女は剣豪に目的を遂行するように促す、剣豪はテクテクと祀られた鎧の前に歩いていき…そして目を閉じて


         ゲン「…。」スッ

         ゲン「……。」



         ゲン「…。」



  リュート「…」ゴクリッ

  スライム「(;´・ω・)…」ドキドキ




















           ゲン「…剣神よ」

           ゲン「…。」



 ゲンは目を閉じたまま、その場に立つ






























  しかし なにも おこらなかった 。









―――
――




  リュート「ゲンさん、元気出してくれよ、その優れた剣士が貰えるとかいう剣って誰も見た事ないんだろ?」

  リュート「だったらそんなの本当は存在しない嘘っぱちだったかもしれねぇじゃんか…」

    ゲン「ははは、励ましてくれてありがとな、にいちゃん」



  ゲン「野営地出る前に言っただろ『駄目で元々』って、…"剣神の間"にゃ未練はあったさ」

  ゲン「だからよ挑戦できた事自体に意味があるんだ
        泣いても笑っても俺の青春時代のリベンジは果たせた、それでいいじゃねぇか」ニィッ



 へへっ、これで心残りが消えてスカッとしたぜ!そう朗らかに笑うゲンを見てリュートもまた笑い返す、強い人だなぁ
そう感じながら彼は剣豪に対して笑い返した



  エミリア「んんっ、それにしてもモンドの基地全然見つからないわよねぇ…本当にあるのかしら?」



 話題を変えてあげようとブロンド美女が主目的の事を口にする、上層になければ地下だろうと結論付けたが
その地下とやらに続く階段の先も"剣神の間"とその手前にあった物置の様な小部屋1つだけで
間違っても政府を転覆させようと企む大物が潜めるような大規模基地の入り口など無かった



 レオナルド「モンド執政官の基地か、確かに彼程の人物が隠し持つ基地の入り口があんな小さな小部屋にってのは無い」

 レオナルド「[シュライク]にある[中島製作所]、そこで開発された画期的なシステムを押収したり…」

 レオナルド「秘匿してる戦力や彼自身の私兵の数、規模を考えればあんな小さな地下には収まり切らないよねぇ」



 全"惑星<リージョン>"を統べるトリニティ政府へのクーデターを画策するのなら最低でも
戦艦クラスの"宇宙船<リージョン・シップ>"を1隻2隻どころか艦隊が組めるくらいにあっても不思議ではないのだ

 そんな大掛かりなドックがあるのだとすれば、もっと広い空間が必要になる


 単純に隠し通路兼秘密の入り口があるとしてもあんなちっぽけな地下部屋には作らないし、戦艦が数隻は搬入可能な
超巨大なスペースもあんな蔵の階段をちょろっと降りた程度の深度にある筈も無い



 ならば一体どこにあるのだ……




 [ワカツ]に秘密基地があるという情報そのものがガセなのでは?信憑性に疑いを持ち始めつつ集団は進んでいく
剣神が祀られた部屋に来る為に高所から低所へ溝を飛び越えてきたのだ、来た道をそのまま戻れば帰れる訳ではない
三叉路になっている地点まで来て蔵から出て左手になる曲道を曲がる、そのまま道なりに進んでいくと再び溝があった



  地割れ『 』


   ゲン「っと、まーたでけぇ溝か…」

 リュート「でもこの先の道は見覚えあるぜ!!ここを跳べば帰り道に無事つけそうだな」



  ブルー(…結局モンドとやらの基地は発見できず、か…)

  ブルー(やれやれ有給は期待できそうにないが、まぁ個人的に興味あった[ワカツ]の写真は幾つか撮れたな)


 ナカジマ零式「へいへーいw 飛べる私は先に行っちゃいますよー」ビューン!


    pzkwⅤ「っしゃ!思いっきし助走つけて行くぜ!」ダダダダダッ――――







         床に落ちてた[鉄下駄]『 pzkwⅤの足 』ガッ


  pzkwⅤ「…はえっ!?」ヨロッ




    pzkwⅤ「おどっ!?おどどど…ど、どわぁぁぁぁぁ!?!?!?」バッ!


 この中で一番重火器を身に着けていて、一番重量のあったpzkwⅤは偶然落ちていた[鉄下駄]を踏み大きくバランスを崩す
すっ転びそうになった彼は子供の片足ケンケンに似た姿勢でそのまま半端に跳んでしまい―――


     ガシッ!!



   ナカジマ零式「へっ?」チラッ

   pzkwⅤの手『ナカジマ零式を掴む』



   ナカジマ零式「の、のわーーーっ、ちょーっとアナタ何掴んでるんですか!?!?おわぁぁ落ちるぅぅぅぅぅ」



    pzkwⅤ/ナカジマ零式「ああああああああああーーーーーーーーっッッ!!」ヒューッ!!





――――――ゴ ッ ッッッ!!




 鈍い音、中途半端に跳んだ歩く弾薬庫とそんな彼に掴まれつつも彼諸共に向こう岸に届く程の飛距離を稼いだ飛行メカは
2機分の重量を分散させることなく大地に叩きつける


 さっきの4機同時に一斉に跳びこそすれど、着地地点がばらばらで衝撃が分散されるのとは異なった2機分の重量と衝撃が
一箇所に収束されるソレは訳が違う
 一点集中で運動エネルギーを受けた地盤は当然のことながら軋むような音を上げてそして――――!!



    荒廃した[ワカツ]の階段『 』バコンッッッ




    pzkwⅤ/ナカジマ零式「うぎゃあああああああーーーーーーーーっッッ!!」ヒューッ!!




 …そして、当然の如く崩れた、底の見えぬ奈落へと通ずる溝は更に広がったのであった

 2機のメカが地割れに飲まれ母なる大地の底から伸びる引力の手引きと
重力の後押しで落ちていく様を見て一同は困惑した…『えっ…どうしよう…』と


 レオナルド「……、と、とにかく少し待とうか!ほら零式くんは飛べるから、無事なら自力で浮かんでこれるよ、うん」


 などと珍しく慌てた博士の発言に一同は待つしかなかった、じゃあ無事でなければ浮かんでこないのでは?とか
無事だったとしてどうやってpzkwⅤを引きあげるんだ?とか割と問題解決になってない等ツッコミは誰もしなかった



   レオナルド「……!!ほら飛んできたぞ!いやぁ無事だったかナカジマ零式くn――――」








   ナカジマ零式「たたたた、たいへんでーす!モモモモ、モンドの基地を発見しました~~!!」ビュウウウウン




 奈落の底に不慮の事故で落下した2機の内、片方は帰ってきた、猛スピードで…それはもう大慌てで
諦めかけていたモンド氏の秘密基地を奈落の底で発見したというとんでもない手土産を持って…

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                      今回は此処まで!

               【解説 ワカツ3点セットとモンド基地その①】



                  鉄  下  駄  ☆



・[鉄下駄]…[ワカツ]のMAP上に落ちているアイテムの内1つ

 防御力8で地味に脚装備の中じゃ店売り最強の[フェザーグリーブ]より上という…丈夫さも+10補正値が入り
 プッシュ耐性と何より固有技で[鉄下駄シュート]という技が使えるようになる戦闘中に1度しか使えない技だが
 FFで言う所のダイスみたいなもので、出目によってダメージが変わる仕様

 [鉄下駄シュート]は下駄が命中して裏が出るとダメージが5倍という浪漫技でもある



 入手場所がやや面倒くさい場所にあって、[ワカツ]をぐるっと一周してこないと取れない、段差を飛び越えて
 剣神の間方面を通ってこないと手に入れられないので困る





※当SSにおいては、pzkwⅤがその原作通りの場所に落ちてた[鉄下駄]踏んづけて滑って落下したということになってます




・[双龍刀]…攻撃力41で某古墳で拾える[天叢雲剣]より普通に強い刀武器である(そもそも天叢雲剣は刀装備じゃないし)


 こちらは下駄の方と違って比較的入手がしやすい、剣聖の間方面にあるためカードのついでで大体のプレイヤーは取る

拾えるアイテムのシンボル、なんか金銀財宝の中に剣が1本突き刺さってるみたいなアレのグラフィックとは違いコレだけ
宝箱に入っていて、しかもすぐ近くに特別個体の[ゴースト]3体グループと固定エンカウントする忍者敵シンボルが居る


 双龍刀の前の持ち主だったのか刀についた悪霊なのか何のかマジで不明
ここにだけこんな意味深な固有モンスターを配置する辺りスクウェア社は当時ここに特別な何かを実装する気だったのか

なお、別にコイツ等は倒さなくても問題ない、シンボルエンカウント形式だから普通にMAP上で回避して刀だけ盗むの可



・[流星刀]…攻撃力55の刀武器、最強の刀武器はやはり[月下美人]だが
 全体攻撃の[ミリオンダラー]が使えるという良さがある


 剣神の間にてゲンさんの最大WPが70以上無いと剣神が授けてくれない、月下美人は一応どの主人公でも
 頑張れば入手は可能ではある、ただ特定の敵相手にひたすらドロップできることを願って戦闘しなきゃいけない
 道中の宝箱で手にできるのもアセルス編とレッド編(ついでにリマスターのヒューズでアセルス√に行った時)ぐらい

 ゲンさんのWPを70より上げればあっさり取れる強い刀武器という点では便利である

 余談だがこの刀、尤もルージュバグとヒューズバグが活用できる武器でありパーティー離脱する術士と刑事に[流星刀]を
持たせて一旦別れて剣神の間にくれると何本も授けてくれる、剣神様太っ腹すぎやしませんかねぇ?




 モンド基地に関して①

 トリニティの執政官にして実はトリニティの転覆を目論む野心家モンドの秘密基地、リュート主人公時のラスボスが
居を構える最終ダンジョンである、原作で[ワカツ]からは決して侵入できず、また何処にあるのかも確たる明言が無いため
これは完全に独断と偏見ですが…おそらく[モンド基地]は[ワカツ]の地下深くにあると推測
(もしくは舟渡が船を漕ぐ例の城周りの水底に海底基地みたいな感じである)


 まず、モンド艦隊の旗艦"ホエールタイプ"の規模はネルソン艦隊のビクトリアと見比べても明らかにデカい
ビクトリアがキグナス号より小さいシップなのもありますが、鯨の名を冠するだけある戦艦とそれを搬入できるだけの基地
それが表にあれば航路封鎖されてて人が来なかったにしても流石にバレる、空間的な問題にしても
作中のモンド基地の内部構造を考えてみれば地下にあると考えるのが妥当かと…

あのラスダン、リフト型のエレベーターで延々と下に向かって降りてくんだもん…ぜってぇ地下だ

リマスター版で[スクラップ]経由から資材を持ち込んでいた事が判明した為、恐らくは非合法な…カバレロ辺りから
建築用資材を足のつかない方法で手にして秘密裏に基地建設をやっていた説

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おつです
ゲンさん足りなかったかあ
















            …zzz、ZZZZZ……むにゃっ?














 はれ? ここは何処だ?…ええっと確か[ヨークランド]を発って[クーロン]で[金]を買おうとして


 それから購入金が足りなかったからお宝探ししようって![シンロウ]に向かって



 …ってなんで僕、檻の中に入ってるんだ!?



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―――
――



【双子が旅立って9日目 午前 6時10分】



 紅き魔術師は眠りから覚めて困惑した、まず鼻に突き抜けるのは黴臭さのある湿った匂い
冷たい石畳の上で横になっていたせいか―――いや、それだけじゃない、身体の節々が痛いと感じたが
単に硬い地面の上で寝たからじゃない


 よく見れば体中に痣がある、だんだんと何があったのか思い出してきた











             IRPO女性隊員「…お目覚めのようね、ルージュ君」









   ルージュ「ドールさん!!ここは一体…確か僕たちは遺跡探索してて…それから扉を開けようとしたら変なガスが」





 ドール、そう名前を呼んだのは[シンロウ]に到着して間もなく同行することになった弟を探しているという女性である
最初、この"惑星<リージョン>"に来た時に困った様な顔で辺りを見渡していた人を見つけて、見るに見かねたアセルスお嬢が
初めてルージュに接した時と同じ様に声を掛けて事情を聴いた所、遺跡の探検に出かけた弟さんが帰らないとの事で
丁度遺跡探索に行く自分達と一緒に探しに行きませんか?と話をつけたのであった


 道中で[ガイアトード]や双子の[ヴァルキリー]と戦ったり、精霊銀製の防具や[ツインソード]等のお宝を見つけたり
兼ねてよりの懸念だった懐事情とパーティーの武具問題を微量ながら解決したり、様々な事があった


 そして、とある扉を開けようと手を伸ばした瞬間おかしなガスが噴出してそれを吸った一行は正気を失いパニック状態に
陥ってしまった、更に誰がどこにいるかまともに判断できない最中、全身黄色のタイツスーツを着た集団が天井から現れて




……そして、気付けば自分は檻の中だ




        ドール「ここはブラッククロスの幹部、ベルヴァの秘密基地よ」

       ルージュ「ブラッククロスだって!?それはレッドの――――ハッ!?れ、レッド!?彼は…?」キョロキョロ



 術士は辺りを見渡す自分の他には―――武装を完全に外されたBJ&Kだけ居る、妖魔の二人は居ない



     ドール「彼女達なら他の檻よ、妖魔は貴重だから特殊な怪人にできるって考えてるのでしょうね」

    ルージュ「くっ、改造手術で怪人にするってことか…っ」

 ドール「レッド君はさっき連れていかれたわ、このままでは彼もきっと…武器も取られて助けにも行けないお手上げよ」



 苦々しい顔でドールが呟く、さっきから術を使って檻をぶち破ろうと試みるルージュだが術が発動しない
檻全体に術士用の対策が為されているのだ嫌でも思い知らされる

ルージュくんパート来た!

ドール昔はそんな興味無かったけどリマスターで解像度上がって背中がめちゃエロい事に気づいて好きになった



  ドール「無駄よ、[ディスペア]でも採用されている凶悪犯罪者用の特殊合金で造られているわ」


 監獄の"惑星<リージョン>"と名高い刑務所はあらゆる囚人が収容される、腕っぷしが強い傑物から高名な魔術師まで
内部から鉄格子をぶち破られては堪ったものではなく、そこで術対策も成された特殊合金が使われているのだ


  ルージュ「…っく、駄目だっていうのか…」ガクッ

  ルージュ(ヤルートの時といい、今回といい……僕ちょっと捕まり過ぎじゃないのか?)


  ルージュ「…。」


  ルージュ「ドールさん、檻の材質がわかったりブラッククロス幹部の事を知っていたり貴女は…?」


 彼女自身も資質こそは持っていないが[陰術]と[妖術]が多少使える身だ、特殊合金の一件は試したと言われたらそれまで
…然し、幹部の名前を知っているのは解せない
 以前[京]で観光記念写真を撮ってもらったりアセルスに剣を一振りくれた親切なメカから悪の組織には四天王と呼ばれる
幹部が居るとは教えてもらったが名前は知らない、ドールは此処が[ベルヴァ]という幹部の基地だと言い当てた



――――ただの行方不明になった探検家の弟を探す一般人のお姉さん、で片づけるには不自然だ




  ドール「そうね、もう隠す必要も無いから明かさせて貰うわね私は[IRPO]の捜査官ドールよ」

 ルージュ「!! パトロールの方だったんですね…」


  ドール「ええ、貴方達の事はヒューズから聞いてるわ」



―――
――



  -ヒューズ『あー、もしもしオレオレ、俺だよドール……あっ!詐欺じゃねーから!切らねぇでくれって』-

  -ヒューズ『えっ、冗談?…いやね、アンタが言うと洒落に聞こえねぇんだよアイシィドール』-



  -ヒューズ『おう、そんで話ってのはな例の犯罪組織の事だがな奴らをぶっ潰す上で面白い連中がいるんだ』-

  -ヒューズ『見た目が賑やかな集団だから見たら一発で分かる、そいつ等について行けばクロにたどり着けるぜ』-


  -ヒューズ『サボテンみてーなヘアスタイルした小僧と緑色の髪したコギャル、頭に白い花つけた妖魔の婦人』-

  -ヒューズ『そんで白毛の大型犬っぽいモフモフした毛玉が紅い服着て歩いてる様な奴な』-



―――
――




   ルージュ(…大型犬、毛玉…)ズーン



 随分な言われようである、毛玉呼ばわりされた紅き術士は表情に影を落とし、ついでに肩まで落とした
[クーロン]で別れて以来未だ再会はしていないがよく自分とアセルスがレッド少年と旅を共にしていると分ったものだ
その辺腐っても"銀河の海<混沌>"を股に掛けてあらゆる"惑星<リージョン>"に足を運ぶパトロール隊員だ
 警察機関の所属ゆえにその手の情報を掴むのは早いのだろう


  ドール「騙すような形でごめんなさい、でも捜査中に指名手配犯の[ベルヴァ]が潜伏したこの地で身分は…」


 できる事なら正体は明かさずに行動したい、刑事だとバレたら当然[IRPO]本部からの応援要請を警戒して
下手に手出しをしてこない可能性も有り得た……尤も、各隊員は今諸事情で大半が来れないのだが



  ルージュ「あ、いいんです!そういう事情があるなら仕方ありませんからっ」


 そんなことより今はこの窮地を脱する方法を考えないと!術士は女刑事にそう告げながら
とりあえず武装が外されたBJ&Kの電源ボタンを押して起動させる


  ドール「…無線機は取り上げられてるから他の隊員と連絡は取れないわ、取れても皆、現場を離れられないのよ」


 ロスター刑事ことクレイジー・ヒューズは[キャンベル・ビル]の武器密輸を追ってる
妖魔隊員のサイレンスは[ルミナス]で調査中、メカのラビットは[京]で麻薬密造基地を…コットン隊員は何故か行方不明





……そして、ヒューズの後輩だったレン隊員は数日前に死んだ、"らしい"



 応援要請も不可能、武器も取り上げられておまけに術も通用せず…八方塞がりもいい所だ
重い空気が場を支配し始めた時だった…








< キー!!

< [太陽光線]!!ピカァァァ!!
< [飛燕剣]ヒュィィン
< [ディフレクトランス]シュバッ―――ドカァァァ!!


< キー!!!!!



  ルージュ「うん?騒がしい様な」ハテ




ドタドタドタ…!





    白薔薇「居ました、皆さんご無事です!」

   アセルス「良かったドールさんもルージュもそれにBJ&Kも無事だったんだね!」



   アルカイザー「やあ、大丈夫かい?ブラッククロスの基地に潜入したら偶然君達を見つけてね」スッ



   ルージュ/ドール「アルカイザー!」


   アルカイザー「さぁ早く逃げるんだ!さっき戦闘員を倒した時に君達の荷物と牢の鍵を見つけたんだ」ガチャッ


 なんという僥倖だろうかッ!!まさか囚われの身で絶体絶命のピンチの時に偶然にも正義のヒーローが基地に居て
ルージュ達を助けてに来てくれたぞ!!いやぁ凄い偶然があるものだなぁー



  ルージュ「あ、あの!!アルカイザーさん!レッドって少年を見ませんでしたか!?彼も捕まってるんです」

 アルカイザー「安心したまえ彼ならお嬢さん達を助ける前に見つけてね、改造されそうになって居た所を助けたんだよ」


 拘束具で雁字搦めにされて気を失っていた所を救出し、速やかに安全な外へ連れ出した、とアルカイザー兼レッド少年は
嘘をついた、目の前の仲間は正義の使者の正体が話題の少年だとは夢にも思うまい……女刑事だけは眉を顰めていたが

スゴイ偶然ダナー


 ルージュはBJ&Kに正義の使者と共に慣れつつある手つきで武装の取り付け作業を行う
これで医療メカは何処の戦場に出しても恥ずかしくない立派な戦闘メカになったな!!…いや医療メカが戦闘ってなんだよ
 紅き術士は内心でそう独り言ちて苦笑した、仲間の無事が確認できたからか心に余裕が戻ってきた証拠である


 精霊銀のピアス『』チャリッ


 遺跡探索の道中で見つけたピアスをつけて赤の魔術師は仲間達の武装を確認する
ピアスと同じ材質の鎧を身に纏い"音撃波<ソニックウェーブ>への対策を兼ねたアセルスが[ツインソード]と[サムライソード]
探索中に見つけた剣と以前親切な和風メカから譲り受けた刀を帯刀している

 ドールはIRPO隊員の支給品一式が帰ってきていて[防弾ベスト]等の防具は勿論
拳銃の[アグニSSP]から重火器の[ハンドブラスター]まで手元にある
白薔薇姫は…倒した[ヴァルキリー]の姉妹が落とした[精霊銀の腕輪]、本来レッドが付けていたものだが当人不在の為
少しでも守りを固めるということで彼女の腕に装着させた


 魔術師も何度か使ってきた[アグニCP1]の弾丸も確認して準備が整った所で脱出開始だ

―――
――



   「キー!(脱走だ!捕まえろ!!)」

   「キー!(アルカイザーも居るぞ!!)」



 ルージュ「…相変わらず『キー』しか言わないから何言ってるか分かんないよ」BANNG!BANNG!


 術力温存の為に拳銃で[集中連射]しながら地上を目指して走る、弾雨を受けて向かってくる勢いが衰えた敵に
正義の飛び蹴りが炸裂する、相方がやられた戦闘員が玉砕覚悟で拳を振りかざそうと前進するも
突然支えを失った木偶人形の様に前のめりに倒れだす


  ドール「無力化はさせたわ…、出口はこの階段を上った先みたいだし急ぎましょう」コツコツ…


 靴底のヒール音を響かせてドールが地上行きの階段を目指す、今しがた[パワースナッチ]で生気を吸い取り倒した相手に
目もくれることなく…



 ルージュ「…今のは、[陰術]…」

  ドール「少々心得があるのよ、資質はもっていないのだけれどね」


 癖が強くて扱い難さはあるけど面白い使い方はできるわよ例えば、と付け加えて…


 バンッ!

   ゴブリン「脱走しようとしてもそうは行かんぞォ!貴様らを倒して隠し扉前の見張りから出世してやる―――」


   ブゥン!!



   ゴブリンの背後『 ドール 』ピトッ…


  ゴブリン「!? なっ、だ、誰だァ俺の背後を取る奴は!?まさかまだ仲間が居て救援に―――」クルッ


―――ドゴォッ!!



            2連携 [ ハ イ ド ラ ン ス ]


 番人を任されていた小鬼は脱走の報せを受け、モーニングスターを振り回しながら戸を開けた…が、背後に突然何者かの
気配を感じ振り向いた瞬間、彼の頭は光を纏った跳び蹴りにぶち抜かれた

 ドールが生み出した[ハイドビバインド]による偽りの気配に気取られた一瞬、"敵前で無防備な背を見せる"という醜態を
曝して見事に研ぎ澄まされた[ディフレクトランス]を受けて撃沈したのであった


 一撃を受けて伸びた[ゴブリン]を素通りして地下基地の先が何処に繋がっているのかを見渡す
正義の使者には隠し扉の先にあった一室に見覚えがあった
キグナスの機関士見習いを辞職する決意を固める切っ掛けにも場所、Dr.クラインを追って辿り着いた離宮だ


  アルカイザー「[シンロウ]の王宮、どうやら此処へ繋がっていたらしい」キョロキョロ

  アルカイザー「以前も仮面武闘会が開催されていた時に組織の者を見かけたが、やはりか」


    アセルス「じゃあこのお城に住んでる人達も共犯ってこと?」

  アルカイザー「…いや、わからない脅されていたのかもしれない、とにかく行こう」



―――
――



 結論から言えば、探し出した王宮の人々は[ベルヴァ]に脅されていて地下に人体改造の基地を設置されたそうだ
遺跡探索に来た屈強な冒険者を怪人にし、それとは別で定期的に開かれる仮面武闘会も彼奴の娯楽を兼ねた優秀な戦士探し





…そしてブラッククロスの"客人"と接触を図る、お客様窓口の役割でもあるのだと



 キャンベル社長の所有するビルも黒星だが、この王宮自体もアウトだ

 クライン自慢の改造物である[ベルヴァ]や戦闘員の性能実験、客に対しての宣伝効果…元来"巨人種"のモンスターである
ベルヴァは決して"人間<ヒューマン>"の様に閃くことができない、そんな彼が敵の技を見て見切る事ができるのも改造の賜物


 ブラッククロスの技術力の高さを見て、それを評価し高く買うソッチの道に伝手のある資産家や政治家、極悪人が
商談を持ちかけることも多い、特に直近では"ジョーカー"と呼ばれる仮面をつけた男、そしてトリニティ政府の高官

2人の男達がブラッククロスに秘密裏に接触を果たした


 1人は自らの野心の為、資金繰りと兵器を要した為に自分が元々属していた警察機関の情報を売り対価を受け取りに

 1人は復讐心と権力欲に歪んだ理想実現の為、自らが搭乗予定の起動兵器に使う[バスターランチャー]の開発を




    「わ、私達はベルヴァに脅されていたんだ!!」ガタガタ


 ドール「落ち着いてください、事情は分かりましたので貴方達は王宮から避難を」



 酷く震え上がり縮こまっている王族と側近達を見るに自責の念と
結果的に犯罪の片棒を担いでしまったことが[IRPO]の刑事に露見したことなどからすっかりと委縮しているのだと分る
犠牲になった人々の数を考えれば正直思う所もあるが彼らとて好きでやってきたことじゃない酌量の余地はあるだろう

 詳しい取り調べは後でさせて貰うとだけ言って女刑事は民間人をまずは王宮から避難させることを優先とした
地下基地内にもまだ戦闘員が居る上に、王宮の闘技場で日課の鍛錬に励むベルヴァが居るらしいのだ
 自分達が脱走した報せはおそらく伝わっており、幹部本人が直々に出向いてくる可能性
そこで民間人を人質に取られるリスクは避けたい

 王族の方々や宮殿内に取り残された熟れた果実を意中の人に食べさせたがっていた恋人たち、呑気に日焼けをしていた者
多くの人間を出口まで護衛して、最後に武闘会で救護班をしていた医師の手当を受けて技力も術力も万全の状態となった



……民間人を王宮から避難させることを優先したドールさんの采配は神だったなぁ、と後に魔術師ルージュはそう語る





 まさか王宮が木っ端微塵に大爆発するなんて誰に予想できるか

―――
――


 王宮の闘技場の中央にてその魔人はどっしりと構えていた

 来賓や王族が見守る特別観戦席から様子を伺った一行の気配に気づき「降りてこい!!」と怒声を飛ばす四天王に
正義の鉄槌を下すべく皆が飛び降りていく

 見た目から察せられるように恐らく相手は遠距離武器の類を持たない完全なインファイター、であればあのまま
特別席からの銃や術による狙撃で正直倒せない事も無かったが、距離は詰めておきたい
 可能であれば四天王の生け捕り、他の四天王や基地についての情報を尋問する必要があるのだから
 あんな図体の癖して機敏な動きをすると以前仮面武闘会で逃げられたアルカイザーが口にしていた、ついぞ遺跡内では
遭遇しなかったが仮に最奥に到達してベルヴァと一戦交えても倒しきれず逃げられていたかもしれないと
言い切られるくらいには逃げ足の速い改造戦士だ、逃げ道を塞ぐ為にもなるべく距離は取りたくない


   ベルヴァ「アルカイザー貴様かッ!我が基地をめちゃくちゃにしおって!」ギリィ

 アルカイザー「ベルヴァ貴様の悪事もここまでだ、Dr.クラインはどこだ、ブラッククロスの本拠地いはどこにある」


   ベルヴァ「フッ、素直に洗いざらい白状するとでも思ったか?ブラッククロスの四天王を舐めるなよ」



  ドール「"惑星<リージョン>"指名手配20348号ブラッククロス幹部ベルヴァ…遺跡の宝を利用して冒険者を誘い」スタスタ

  ドール「そして拉致して改造戦士にしてきた罪で逮捕します」チャキッ



 銃を構える女刑事に続き魔術師もメカも攻撃態勢に入り半妖少女と貴婦人も鞘から剣を抜く、それを見て心底不快そうに
悪の四天王は鼻で嗤う



   ベルヴァ「はっ!細腕の女子供に貧相な術士の集まりが気取りおって、そうとも
           この基地で組織の戦士を産み出してきたが、こうなっては基地の役割もお終いだ」



   ベルヴァ「最後にここを貴様らの墓標としてやろう!!」ニヤリッ



 そういって、魔人は懐から小さな"リモコン式のスイッチ"を取り出し、親指でボタンを一押し…すると



                   ドォォォン!!  バッグォォン!!


    アセルス「っ!?この揺れは!?それに今の爆発音って…」


   ベルヴァ「フハハハ!こんなこともあろうと王宮と地下基地全体には爆弾が仕掛けてあるのよ!もう遅いッ」

   ベルヴァ「こうなれば時期に全ての爆弾に誘爆してこの王宮は粉微塵に吹き飛ぶ貴様らの命運も終わったのだ!」


 そんなことをすれば自分だって死んでしまうというのに!!彼奴は自らの死を恐れないとでもいうのか?
あるいは死んでも再び蘇る算段でもあるというのか!?自らの生命を試みない蛮勇にルージュは慄いた



   ベルヴァ「さぁ…来るがイイ、"最期の試合<デスマッチ>"を楽しもうではないかっ!」ニタァ



 アルカイザー「くっ!皆、諦めるなコイツを手早く倒して王宮から急いで脱出するんだ!間に合うかもしれない!」


 実際、王宮全体がどれほどの速さで爆炎に包まれるのかは分からない、こうなった以上は迅速に勝利して
退避せざるを得ない…組織の幹部を逮捕して本拠地の場所等を尋問したかったが、こうなってしまった以上は不可能か…ッ

 正義の使者は先陣切って光輝く拳[ブライトナックル]を突き出す、が…


 ベルヴァ「フッ、何故この俺が仮面武闘会に出てるか分かるか?武術の達人が放つ技を見て日々己を研磨する為よ!!」
 アルカイザー「なっ!?攻撃が躱され―――」


  ベルヴァ「貴様の技は武闘会で見切った!俺には通用せんぞ!」ピコンッ![ベルヴァカウンター]


 残像が幾重にも折り重なって見える動きッッ!!筋骨隆々の図太い腕が脚が、瞬時に繰り出されてヒーローを打ち付ける
独自の動きから繰り出された強烈なカウンターを受けてアルカイザーの身体が宙を舞ったッッ!!

ベルヴァ戦のドールさんの名乗りいいよね


 超重量級の重い一撃はスーツ越しのレッド少年の腹骨に折る、フルフェイスマスク故に傍からは決して分からないが
衝撃を受けた彼は吐血し、嫌でも天井を見上げる形になった
 [シンロウ]の王宮闘技場の明かりにヌッと大きな人型の影が割り込む様をバイザー越しに捉える、先のカウンターから
追撃の[ダイビングプレス]で圧し潰そうとする魔人の姿がそこにあったのだ!




      白薔薇「星光の加護よ、彼の者に安らぎを―――![スターライトヒール]」パァァァァ



 打身のアルカイザーが自由落下から地に叩きつけられ、一直線上の真上に全体重を掛けて降ってくる[ベルヴァ]の構図に
幻想的な輝きが割り込んでくる、室内に瞬いた星光に思わず目が眩み「むっ!?」と声を上げながらも標的に
追撃を仕掛けた彼奴を全快したヒーローが寸での所で身を捻り、転がる様に躱す

 折れていた腹骨が[陽術]による奇跡の光で完治したからこそ取れた回避行動



    ベルヴァ「妖魔の女がこざかしい…―――ツッ!!」ズシュッ、ブシャァァ



 塵埃を舞わせた身の上体を起しながら忌々し気に白薔薇姫を睨む四天王の右腿に[精密射撃]が撃ち込まれる
舞い上がった粉塵で相手の姿が目視し辛くとも機動力を削ごうとする女刑事の銃弾が闘技場の床に血飛沫を付着させた




   BJ&K「レーザー射出します、連携の準備を」ビィ―――ッ!

  アセルス「てぇぁぁぁぁぁ!![生命波動]っ」フワッ!

  ルージュ「了解だ!![エナジーチェーン]」キィィィン







            3連携 [ レ ー ザ ー エ ナ ジ ー 波 動 ]





 医療メカが圧縮されたレーザー光線が大口開けた猟犬の牙の様に広がって展開され、獲物を喰らうが如く魔人へ向かう
右腿に弾を受けた相手は回避不可能と判断、小さく舌打ちして両腕をクロスさせて防御の構えを取る
 幾条もの光の線に身を焦がされ身体の外回りを焼くレーザーとは別で翆玉色の思念の鎖が中央
ど真ん中ストレートに飛んでくる

 左右と上方向の逃げ道をBJ&Kの光線で塞ぎ、真正面からはルージュの術が一直線で来るから前方向に抜け切ろうが
後方へバックステップしようとも結局は焼かれるという逃げ道の無さ、故に四天王が咄嗟に取った防御は正しい判断だろう


  ギュィィィン!!シュルッッ!!



   ベルヴァ「むむっッ!?」ジュウウウゥゥゥ!!



 [魔術]の鎖はそのまま腕をクロスさせた[ベルヴァ]の身を焼き―――そこで終わりではなかった


 身に絡みつき縛り上げる、ジリジリと巻き付かれた箇所を焼かれ更に動きを封じられた所へ…




            アセルス「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」ブンッ




 生命から迸るエナジーッッッ!!

 心の力を解放し、人間の内に眠る潜在能力で浮遊したアセルスは"気<オーラ>"を収束させる
彼女が持つ生命力が形になり、肉体から可視化された黄金の輝きは一本の槍と化した
 アセルスお嬢はそれを投擲槍として魔力の鎖に拘束された悪人へ向けて放つ…っ!相手を穿つのだとッ!


 生命力の槍が巨人に突き刺さり爆散するッ!!―――元より使用者のアセルスお嬢はこの中で一番生命力に溢れている
この広い世界でただ1人の"半妖"というイレギュラーな種族だ、並大抵の妖魔どころか頂点に君臨する妖魔の君から
血を注がれた蘇りを果たした程の生体エネルギー


 これほどまでに心術の上位術たる[生命波動]と相性の合う人材がいるだろうかッ!!


     ルージュ「やったか!?」


 3連携から織りなす光撃、特に最後の最大火力を受け組織の四天王もあわや爆散四散、短期決着が着いたかと声に出す

…が、しかし…っ!








      ベルヴァ「…。」プスプス

      ベルヴァ「・・・・・・・・フゥぅぅぅ…」






 腕をクロスさせた魔人は、今なお健在であった




     ベルヴァ「今のは…痛かったぞ」



 "気<オーラ>"の一撃を受けた魔人は防御姿勢を解いた…無傷とまでは流石に言わず自慢の筋骨隆々の腕はボロボロで
正直な所ベルヴァ自身、クロスの構えを解く動作だけでもヒリヒリと焼けた痛みが走り出す程だった




    ベルヴァ「今のは……痛かったぞォォォォォォォ!!!!小娘共がああああああぁぁぁぁぁぁ!!」ドウッ!!



 激昂する魔人は爆弾の起爆で振動する王宮を更に揺るがす怒声を張り上げ、腕を振り上げてアセルスへと向かう
痛覚よりも怒りが勝ったのだ、荒ぶる魔人――――否、魔神と化した腕が灼熱を纏う

 全てを滅する"神の一手"…ッッ



      ベルヴァ「死ねぇぇぃぃ!!ゴォォォォッドハァァァンド!!!」ゴァッ!



――――[ゴッドハンド]ッッ!! ベルヴァの[魔人三段]に並ぶ目の前に立つ者を確実に屠ってきた死出への切符
 当たれば間違いなく無事では済まない腕がアセルスに迫り、彼女をまさに掴もうとした瞬間


       白薔薇「 」バッ!


     ベルヴァ「ッ!邪魔をするかならば貴様からだ妖魔風情ッ」ガシッ
     アセルス「白薔薇何を!やめろぉぉぉぉぉぉ――――」



 貴婦人が護るべき少女の前に突如として現れ彼女を庇ったのだ!魔人に首を掴まれた白薔薇は天高く掲げられ
ベルヴァから漲る闘気の爆炎に呑まれた…っ!



           白薔薇の花飾り『 』シュゥゥゥ… フッ



 焦げ付いた白薔薇の花飾りが無常にもアセルスお嬢の前に落ちて消滅した、妖魔の死―――それは遺体すら残らない消滅

フリーザ様!?






                 「[サンダーボール]!!」ビュンビュンビュンッ!!





 声が闘技場に響き渡り光輝く雷球が魔人の背に焼け跡を残した、彼奴が振り向き驚愕の表情を浮かべる…何故ならば






        ベルヴァ「き、貴様は!?馬鹿な―――今この手で殺した筈だっ!?」








              白薔薇「ですが御覧の通り、私は健在ですわ」

              妖魔の具足『 ドラゴンパピー 』バチバチ…!




 死出の旅へ誘う神の一手は確実に妖魔貴婦人を葬った、腐っても四天王の座を担う実力者だと改造巨人は自負している
だからこそ解せない…っ!間違いなく白薔薇姫の身体をこの手で消滅させた実感があるというのに…っ!

 巨人が冷や汗を流す一方で純白の淑女はやんわりと微笑んで茫然としていたアセルスやルージュにご心配おかけしました
そう頭を下げて[妖魔の具足]に吸収した翼竜の力を再び解放する
 襲い掛かる電撃を鬱陶しそうに防ぎつつ魔人は後ずさる…、何故だ、何故生きているのだ!?と
理解が及ばないトリックに困惑しながら


 どのような手品を使ったのか奥義を打ち破られた事実は[ベルヴァ]の思考回路を真っ白にショートさせるには十分で
動きには迷いや戸惑いが顕著に出始めていた
 如何なるの戦士と言えども自分が持てる全てを尽くした切り札を見切られ、防がれるのは心理戦で大きな意味を持つ
一転攻勢に出て戦局を反そうにも今の事例が出来た事でベルヴァの脳裏には嫌でもある考えが浮かんでしまう




       - 得体の知れない先程のトリックでまた自分の攻撃を無効化されるのではないか? -




 一度疑念を抱けばそれは凝り固まって"疑心暗鬼"となる


 防戦の現状を打破すべく攻めに転じるのであれば当然の如く、火力を惜しむ必要など無いがそれを無にされるのであれば
出方を変える必要もあり威力重視の隙が生じる大振りの技なんかを撃って妖魔貴婦人の力で空振りに終われば代償は高い



     ドール「はっ!!」BANNG!

    アセルス「[烈風剣]」バシュンッ

  アルカイザー「唸れ[アル・ブラスター]!!」パシュンパシュンッ!




   ベルヴァ「ぐぅぅ…えぇいい!こざかしい!」


 王宮『 』ドカァァン!…グラグラ、ゴゴゴゴ…


   ベルヴァ(王宮の崩落も近い…っ とは言えこの流れでは奴らが瓦礫の下敷きになる前に俺が敗北し逃げられる)


   ベルヴァ「おのれぇぇぇ…ッ [雷炎パワーボム]」ダッ!!


 このままでは自分はそう遠からずに敗れアルカイザー一味はまんまと王宮から逃げ果せてしまうと悟り
謎が解けぬまま魔人は大技を仕掛けに向かった、最早ブラッククロス幹部としての意地であったッ!

 肉体的に一番脆弱な紅き魔術師を仕留めようと大分傷を負った巨人は駆けだした、ルージュは咄嗟に銃を構えて迎撃を
試みるが間に合わない、相手の腕が伸びる方が速い

 殺人的な投げ技を掛けるべく巨人の魔手が彼を掴もうとしたその瞬間だったッ!!



     白薔薇「 」バッ!
    ベルヴァ(ッッッ――!?この女またしても…いや、どうやってだ、俺とこの小僧の間にいつの間にッ)ガシッ


 二人の間に突如として現れた白薔薇姫、技を掛けるべく動いたベルヴァはもう止まれない…っ!
無駄だと理解しつつも勢いを殺して急制動するなど無理な段階まで来ている
 大地踏みしめ彼女の身体を持ち上げたまま必殺の一撃を喰らわせるべく天高く飛翔し……そして――――



        ベルヴァ「……」

        ベルヴァ「……ア"?」(白薔薇姫を持ち上げ逆さまにした状態)






 ドール「」←銃を構え跳び上がったベルヴァを見上げる

 アセルス「」←術の詠唱を始める

 アルカイザー「」←[レイブレイド]を構える

 ルージュ「」←咄嗟に庇ってくれた白薔薇を捕まえ飛翔したベルヴァを見上げる

 BJ&K「」←傷ついた仲間を治療する



 白薔薇「」←"白薔薇姫"を持ち上げたベルヴァを見上げる





             ベルヴァ「――――――――!!!」




 改造の賜物で限界を遥かに超えた動体視力を得たベルヴァは跳び上がってから大地を見下ろした、そして見てしまった


 "自分が掴んだ女と同じ女が何故か地表に立っていて自分を見上げている"という光景を…ッ!白薔薇は二人居たッ!!


  ズドンッッ!!


 殺人プロレス技が炸裂し重力と大地の引力、そして悪鬼の剛腕によって妖魔の貴婦人は石畳の上に頭からめり込む
常人であれば間違いなく首の骨が折れるどころか柘榴の様に頭が割れて脳髄をぶちまける惨事だ
 上級妖魔の彼女はその可憐な花飾りを散らして消滅した―――妖魔の死、それは遺体すら残さず消滅するというもn――



      ベルヴァ「き、貴様ァ!!そういうことだったのかぁッ!!」

       白薔薇「まぁ、バレてしまいましたわね」


 口元に手を当て、あらどうしましょう、目が合ってしまったから気付かれたとは思いましたが…とおっとりマイペースに
困った様な顔で笑う白薔薇にベルヴァは怒りでワナワナと震えた、自分の致死技を回避してきた手品のタネを漸く理解した






  白薔薇「揺蕩うは幻妖の水鏡に写せし我が御身―――[ミラーシェイド]…堪能して頂けましたでしょうか」




   アルカイザー「これなら反撃もできまい![カイザーウイング]」ヒュバッ!

     アセルス「もう一度だ![生命波動]っ!」ブンッ



 跳び上がった正義の使者は手にしていた輝く剣を天に掲げ悪を断罪せんと振り下ろす、[飛燕剣]に似た剣気が一直線に
大技直後の硬直で動けない魔人へと飛んで行きそれに追従するように生体エナジーの槍もまた敵を穿たんと放たれた
 続いてレーザー、銃弾、爆裂魔術、幻夢からの来訪者…

 どんな勇者も猛者や英雄であっても例外なく多くの敵の連携には膝をつく


 驚異的なタフさを持つベルヴァと言えどもそれは当て嵌まる、元より3連携が織りなす光のシャワーを浴びて
既に両腕も並みの生物であれば使い物にならない怪我を負っていた
 怪物もいい加減ここが年貢の納め時と言えよう


    ベルヴァ「…ハァ、ハァ…お、俺が、こんな奴らにこうも…っ!!」


   ―――――年貢の納め時、だ







    ベルヴァ「…く、くくくっ、はははは!はーっはっはっ!!」






   ――――――納め時、だからこそ…足掻くのだッ!!とっておきの悪足掻きをッ





    ベルヴァ「ウオオオオォォォォォォーーーー!!」グオォォォ




 女刑事ドールは高笑いを始めた魔人を見て薄ら寒いモノを感じた、仕事柄追われる立場にある犯罪者という物を
嫌になるほど見てきた誰も彼もが捜査官の追跡を免れず逃げ場の無い袋小路にぶち当たり形勢逆転は不可能と悟る
 その時の表情は殆どが共通して焦燥、諦め、あるいは現実を受け入れられないと茫然自失していく顔
手配犯の中にはそこから更に先へ…悪い意味で一歩先の段階へ飛び立つ者もいた

 正しく目の前に居る笑い出した魔人がその部類に入る人物だ、敗北を悟りトチ狂った様に笑ったかと思えば雄々しく叫ぶ
今生の別れ際に自分の存在をこの世界でこれからも生きていく者に認識させようと
 まるで自身の生がここに在った事を主張するかのように大声を上げて腕をを振り上げる姿をドール捜査官は目にした


 自暴自棄、せめて一人でも多く道連れにして死んでやる、せめてお前達の魂も冥土へ引きずり込んでやる


 追い詰められたことで狂人の発想に至る犯罪者の思考そのものと言えよう


 ドールの声が全員に退避命令を出そうとするより先にベルヴァは渾身の力で腕を地面に叩きつけた
言葉通りの意味での[怒りの鉄拳]は王宮全体を揺るがす[地響き]を招き、柱や天井の崩落へと誘発させる
 仕掛けられた爆弾によって唯でさえいつ崩れても可笑しくない状況でこれだ、滅びゆく自身と運命共同体に運ぶ算段ッ



   崩れていく天井『 』バッコォン!ガラガラ…!


  アルカイザー「っ…おのれ[ベルヴァ]め!なんということを」

    アセルス「ああっ!!そんな出口が今の崩落で完全に塞がれてしまった!」


  ベルヴァ「クハハハハ!俺は死ぬ!!だが貴様らも此処で瓦礫の下敷きになって死ぬのだ!もはや脱出不可能よッ!」


 [地響き]を発生させるために打込んだ最期の一撃で言葉通り彼奴の腕は"お釈迦になった"ようだ、あらぬ方向に曲がり
痛みすら感じない…完全に神経が死に腕の腱も断たれた

おつ


 狂気を宿す眼光のまま魔人は高らかに笑う、命の次に大切にしていた自慢の剛腕は肉の塊に、そして己が生命さえ捨てる

 対価は憎き敵達の人生…四天王ベルヴァは強敵と死闘の末に両者痛み分けに持ち込めたのだ
もう何一つとして思い残すこともあるまい



             ルージュ「まだだ!まだ逃げ道はある…っ!」


 絶体絶命の窮地に立たされて尚そう言葉を発したのは紅き法衣の術士だった
完全に出入口が断たれ、この場に居る全員が最大火力で瓦礫の山を吹き飛ばそうと尽力しようとその頃には粉微塵になる
誰がどう見ても絶望的なその状況下でもまだ希望を捨ててなかった


   ドール「なにか手があるというの!?」

   白薔薇「…!!そうですわルージュさんでしたら"アレ"が使えるのでしたね!」


   アセルス「えっ?どういうこと!」
 アルカイザー「事情は呑み込めないがまだ助かるんだな!?」


 妖魔の君の血を注がれたアセルスもアルカイザーに変身したレッドでさえも流石に今回ばかりはお手上げかと
焦りを感じていた最中で仲間に視線を向ける


 そう…レッドもドールもBJ&Kもまだ実際に見た事も無いとっておきの手段、アセルスは"当時"気絶していたから存在は
知っていたが直ぐには思い当たらなかった"アレ"だ




        ベルヴァ「な、なにをする きさまら――!」ハァ、ハァ



 出血量も酷く息も絶え絶えで、視界も薄れてきた魔人は目を見開き内心で叫ぶのだ
「ありえない!唯一の逃げ道は潰した逃げれる筈がない、この俺様が自分の命を犠牲にしたのだぞ!!!」と
 ここで貴様らは俺と運命を共にすべきなんだ!そう叫びたかったが咽び咳き込む




       ルージュ「みんな!僕にしっかり掴まってて!」

        BJ&K「掴まりました、ですが一体何を」


 仲間達が全員ルージュの身に触れる、そして彼は願わくばあまり使いたくないと思っていた祖国からの支給品を取り出す
緑髪の少女はそれを見て漸く何をする気か解った、[ルミナス]で紫の血を流しながら意識不明になった自分と白薔薇を
大衆の目に触れさせない為に[ドゥヴァン]まで一気に移動した彼だけが使える方法を…!




       ルージュ「異次元への扉よ開け![ゲート]―――[シンロウ]!!」バシュッ!!




 叫ぶと同時にルージュを中心にアルカイザー達は蒼い光に包まれていく、光は深海を思わせる輝きで
水泡の様に膨らんだそれに包まれた一行は瞬く間に何処ぞへと消えていった…っ!




        ベルヴァ「…」ハァハァ…

        ベルヴァ「…。」



   倒壊していくシンロウ王宮『』ゴゴゴゴゴ…!ガラガラ…



    ベルヴァ「…く、くくく、ははは…うぅ、ぐすっ、くははっ、くひひ…はーっははははははは!!!」

    ベルヴァ「あひゃひゃひゃひゃひゃ…っいーひひひひひひっ!!――――――畜生ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」






【双子が旅立って9日目 午前 8時22分 [シンロウ]】



 チチチチチ…



 ――――フッ!



 アルカイザー「とっ、ととと…みんな無事かっ!?」バッ

    ドール「ここは[シンロウ]の遺跡…!?」


 蒼い光に包まれたと思えば彼らは[シンロウ遺跡]に移動していた
魔法王国の人間だけが持てる[ゲート]の術による空間移動だ、祖国から支給された[リージョン移動]を媒体とすることで
使用できるのだが…




     - ルージュ『! この宝石は…』 -

    - 教員c『[リージョン移動]、知っての通りお前たちがそう呼んでいる<ゲート>の術を使う為の媒介だ』 -


  - ルージュ『うっ…!?』 -

  - 教員c『?…どうした』 -


-ルージュ『…質問ですが、僕がこの旅で一度も<ゲート>を…ひいてはこのアイテムを使わないのは構いませんね?』-





 旅立ちのあの日、教員から媒体となる蒼い宝石を受け取った時に言いようの無い不快感を感じ取った
全身総毛立つような嫌な感触…昔から霊感が高い所為か感が鋭い所はあった
 これは単なる思い過ごしかもしれないし、抹殺対象の兄をどうしても連想させるカラーだからそう思うだけかもしれない
理屈は分からないが自分は[ゲート]の術を…[リージョン移動]をあまり使いたくないのだ、なんなら何処か適当な場所に
投げ捨ててもいいとさえ思っている


 言い知れぬ謎の不安、妙な胸騒ぎを覚えるから…流石に[ルミナス]で白薔薇姫に涙ながらに懇願された時や今回の様な
使わなければ全員死ぬというやむを得ない場合は致し方ない





       ――――――ドォォォォォン!!ドンドン! ボッゴォォォォン!




        MAP上の[シンロウ王宮]跡地『 でかいクレーター 』





  アセルス「こ、この振動に音は…」グラッ
   白薔薇「どうやら王宮が爆発したようですわね、見てください彼方の方角を」

  ルージュ「うわっ…なんだあの爆発、あのお城あんなに爆弾仕掛けられてたのかよ…」タラーッ


 今更ながら嫌な汗がどっと噴き出す、[ゲート]を使っていなければあの爆炎に呑まれて自分達もこの世には居なかった


アルカイザー「君達のおかげで助かったよ、ありがとう!…名残惜しいが私は次の任務があるので――さらばだっ!」バッ


   ルージュ「あっ、アルカイザーさん!―――行っちゃった…あの人もお仕事大変なんだなぁ…」

    ドール「…」ジーッ

―――
――


【双子が旅立って9日目 午前 9時01分 [シップ発着場]】


    レッド「よっ!ルージュ無事だったんだな」

   ルージュ「あぁ君も無事で本当に良かったよ」

    レッド「俺だけ先にブラッククロスの奴らに改造されそうな時にアルカイザーが助けてくれたからな~」ハハハッ


   ドール「…。」ジーッ


 [シンロウ]の王宮は跡形もなく消し飛んだが幸いにも人的被害は無かった、事前に避難させたおかげで発着場に
人々は集まっていてスタッフが忙しなく動き回っている姿が目に入る
 王族達は家臣らと今後どうやって王宮の…いやこの"惑星<リージョン>"の財政や信頼を再建していくのか
観光旅行客は我先にと他所へ逃げ出す為に"宇宙船<リージョン・シップ>"の席を取るべく受付に殺到…
いつかの[マンハッタン]で見たような光景だ


  ドール「レッド君、それに貴方達も少し時間を貰えるかしら?」


 女刑事はここでは少しと場所を変える為に一行を連れて受付カウンターの方へと歩き出す
あえて場所を移そうとする辺り公にしたくない会話内容なのだろう、汗水流すシップ発着場のスタッフに
ドールは[IRPO]隊員であることを証明する身分証を提示して秘密裏に停泊させてある[IRPO]専用のシップへと通してもらう

 停泊中のパトロール隊員専用シップは[シュライク]でもよく走っている自動車のパトカーとかいう車に似たフォルムで
シップなだけあってそこそこの広さがあり作戦会議に使われるブリーフィングルームへと通された


 ルージュ「あのぉ…なんでここに連れてこられたんですか?事件に関わったから軽い事情聴取的な奴だったりします?」

  ドール「いえ、今更素性に関しては問いませんヒューズからも色々と伺っていますからね」

  白薔薇「でしたら一体…」



  ドール「貴方達に我々が調査中のブラッククロスに関する資料を渡そうと思っているのよ」



  レッド「!!」

 アセルス「えっ!?待って!それって良いの?…私達一応は一般市民よ、なのに警察が追ってる秘密結社の資料って…」



  ドール「そうね、本来なら一般人である貴方達に見せることは良くないわね」


 アセルス「ならどうして…」


  ドール「…この案件は私達が当初から長年追っていた事件
        それをここ数日前に突然現れて組織の事を調べ始めたヒーローがいる、アルカイザーよ」


  ドール「…認めざるを得ないわ、私達パトロールだけの力ではブラッククロスは倒せない」


  ルージュ「??? あの…それと僕達に何の関係が?確かにアルカイザーさんとは知り合いですけど…」

   レッド「」ダラダラ


   白薔薇「? レッドさんもしや体調が優れないのですか?汗をかいていらっしゃいますが…」

   レッド「えっ、あ、そうかもなー…あはは」ダラダラ


   ドール「早期に事件が解決すればそれだけ多くの人が助かる、市民の犠牲者をこれ以上出さない為にも」

   ドール「事件の調査資料を渡したいのよ、でも彼は正体不明で何処にいるのかさえ不明」チラッ

   レッド「」ビクゥッ


  ドール「……だから私は思うのよ、"何かと彼に縁のありそうな貴方達"に渡した方が彼にも間接的に届くってね」ニコッ

さすがクールな大人の対応や


 レッド少年は気が気じゃなかった…ヒーローの掟を破った場合待ち受ける末路を知ってるがゆえに生きた心地がしない
あからさまにバレてる、女刑事の反応は彼にはそうとしか思えなかった

 だが依然として我が身に何も降りかからないところを見るに[サントアリオ]の判定としてはセーフなのだろうか?


 結局ドールはその後もアルカイザーの正体に迫る様な発言はせず書類ファイルを手渡して
ブリーフィングルームを後にしていった
 [ゲート]の術を使えば一度行った事のある土地に瞬間移動が可能だから[シンロウ]をすぐに発つことも可能ではあったが
激戦を終えた後だ束の間の休息は取りたい、幸いにもドールの御厚意で一行を[クーロン]まで連れて行ってくれるらしい
冷暖房までバッチリ完備のパトロール御用達のシップだ
 四天王との戦闘行為で消耗した術力や技力の回復も兼ねて仮眠でも取りながら運んでいただくことにしよう
[金のカード]の為にも今は宿代だってケチりたい時分だ


 遺跡探索の結果は剣が一振りに精霊銀を使った鎧や腕輪、ピアス、それに[結界石]なんかだが


 クレジットがまるで貯まっていない…[金]を買う現金が足りてないのだ


 金稼ぎのつもりで当初[シンロウ]へ来たのだがその本懐が果たせなかった以上は他の場所で金銭を稼ぐ他ない



 ルージュ「遺跡探検じゃ思ってたよりは儲からなかったね…」ペラッ

 アセルス「ゲンさんの話だと古代船の残骸からはメカのパーツや1200クレジットが手に入ったらしいけど…」ペラッ



 曰く、知り合いの剣豪が旅の共をするロボの記憶の手がかりを求めて潜り込んだ"宇宙船<リージョン・シップ>"の残骸
そこで金銀財宝を見つけたり[イクストル]とかいうデカい蝙蝠に危うく殺されかけたり色々あったそうな
やはり他人の成功談の様に一攫千金とは行かないものか



  レッド「とほほ…世の中世知辛いよなぁ」ペラッ



 渡された書類ファイルをペラペラと捲りねがら秘密結社の情報見ていく
特に今後レッドの敵討ちの旅に関わる重要なソレを…



   白薔薇「あら…この"キャンベル"という方のビル…」






    - 『白薔薇(…?あの塔、…いえ、"ビル"というのでしたね、妖魔の気配がしますが…)』 -





   白薔薇「…やはり私が[マンハッタン]で1人逸れてしまった時に感じた妖魔の気配の」

   レッド「…キャンベル社長のビル、か怪しいとは分かってたさ」



    BJ&K「正確な所在は不確かですがこちらの書類には[クーロン]に基地があると推定されていますね」ペラッ

   レッド「あの街かぁ…あそこ迷路みてーに入り組んでるからなぁ、見つけられっかなぁ」ポリポリ


  ルージュ「…[クーロン]…ハッ!?」ピコーン


    - エミリア『何かあったらそこを頼ると良いわ、私が居なくても、その名刺さえ見せれば』 -

    - エミリア『グラディウスの誰かがちゃんと手を貸してくれるから』 -



  ルージュ「確かここに」ゴソゴソ

貰った名刺『お困りごとなら何でも解決!裏組織 グラディウス![クーロン]イタリア料理店、詳しくは店前の女まで!』




   ルージュ「エミリアさんから貰ったあの時の名刺…これなら―――」ボソッ


 [マンハッタン]で昼食を取っていた時に渡されたグラディウスの名刺…餅は餅屋に、蛇の道は蛇に
暗黒街に息を潜める犯罪組織の事を知りたいなら地元に居る裏社会の住人に聞くのが早い

 ルージュが仕舞っていたソレを取り出し提案しようとしたその時であった






       レッド「ッッ…!!」グッ



 書類にどこよりもハッキリと書かれていた四天王の所在地を見て、レッド少年は用紙を掴む指先に思わず力を込めた
険しい顔立ちに何事かとアセルスや白薔薇も同じく横から書類を盗み見た――――そして顔に陰を落とす


  ルージュ「えっ!?み、皆どうしたの!?」


     レッド「~~っ……あぁ、いや、すまねぇ…なんつーかよ、これはな…」

    アセルス「嘘よ…あの人、あんなに親切だったのに…」

     白薔薇「関係のあるお方だとは思っていましたが現実というのは時に残酷なものです」



 ルージュは名刺を仕舞って白薔薇から書類を見せてもらう、そこにはハッキリと四天王の名前と基地所在が記されていた














          ルージュ「…なっ!?……メタル、ブラックさん…?」









 そこには面識のあるメカの顔があった、忘れもしない美しき[京]の風景、夕日に照らされた[書院]
見ず知らずの旅人であった自分達のカメラ撮影のお願いを聞いてくれて更に[剣のカード]の情報や[[サムライソード]譲渡
 世話になった身でなのだ…



  アセルス「…私が[幻魔]に相応しい腕前を身に着けるまでの間使用する剣ってことで今使ってるこれ」チャキッ

  アセルス「この[サムライソード]はあの人から貰ったものなんだよね…」


   レッド「……。薄々、解っちゃいたんだ、巡礼者が入っていくのがあの時カメラ越しに見えちまったからよ、けど」

   レッド「やっぱ、さ―――認めたく無かった、っていうのかな…これは、な」



  ルージュ(…。)

  ルージュ(裏社会に属するメカだとは感づいてた、でもエミリアさんみたいな良い裏組織の人だったり)

  ルージュ(実はヒューズさん達みたいに正体を隠してるメカのパトロール隊員かもって信じたかった)


  ルージュ(…そっか、…そうか………嫌な予想っていうのは的中しちゃうんだな…)


 
  ルージュ「…。[京]に行ってみるかい?君が行くのなら僕も付き合うよ」

   レッド「お前…」


 知らん仲じゃない相手と親友が刃を交えるかもしれないのだ、想う所はある
話し合いで穏便に―――済むとも思えないが一抹の希望でもあれば藁を縋る思いになるのが人間の心情というモノ

 宿命を背負った紅き法衣の魔術師もまた何処にでもいる普通の人間だったということだ



  ルージュ「僕の旅そこまで急がなきゃいけない旅じゃないからさ」

  ルージュ「アセルス達は暫く[IRPO]に保護してもら「私達も行くよ!」


 折角[IRPO]隊員のドールとお近づきになれたのだから、二人でメタルブラックの基地へ乗り込んでいる間
彼女らには警察で保護してもらってはどうかと提案しようとしたところバッサリと案は切り捨てられる
 女性陣、特にパーティー中最年少のアセルスを今回の一件に関わらせるのは流石に憚られる
先述の通り話し合いで穏便に済めばいいのだが、それは単なる都合のいい理想論に過ぎず十中八九メタルブラックとは
一戦交えるだろうと想像はできる


 友人としてレッドをこのまま単身で命の危険性がある敵地に行かせたくはない、今日だって四天王の1人[ベルヴァ]と
危うく無理心中しかける激闘をルージュ自身が体験したのだ脅威性は十分に分かっている
 かといって自分がレッド少年に付きっ切りになればその間[ファシナトゥール]からの刺客が来た時
アセルス達を護れる者が単純に減る


 あれから一行に刺客と遭遇しないのは運がいいだけなのか、アセルスの服装を水色パーカーに変えたからか
どちらにしても戦力が分散されればその隙を突かれた時に対処しきれない、故に警察に暫く匿って貰いたいのだが…



  アセルス「私達にとっても、知ってる人だから…無関係じゃないからっ!」


   レッド「姉ちゃん…」
  ルージュ「アセルス…」


  アセルス「説得に失敗したら二人はメタルブラックの事を……その、討たなきゃ、いけないん、でしょ…」

  アセルス「戦いになったら、どちらかが倒れるまで戦いが終わらなくなる」



  アセルス「二人が敵の基地から生還してきたらそれは彼が破壊されてしまった証、逆に帰ってこなかったら
                 それはメタルブラックは助かるけど烈人くんとルージュは死んでしまった証になる」



  アセルス「…きっと後悔すると思うんだ、その場に居合わせなかった事を」

  アセルス「私だって説得時に声を掛けられたかもしれない、私だって二人の命が危ない時に助けられたかもしれない」



  アセルス「"もしも自分がその時その場に居たら何かが出来たかもしれなかったのに"――そう後悔するのは嫌だ」




 心情は、理解できる。




 以前[ヨークランド]でレッドが言ってたその時の自分がベストと思う道を貫くこと、その結果がお世辞にも良い成果と
呼べなくて悔やむ事はあっても"間違った"とは思いたくないという趣旨の話

 ここで一緒に行かなければその時々で取れたかもしれない選択肢の幅も縮まる
未来の選択肢を増やさないという『選択肢』を今ここで選んでいることになる、それは彼女にとってはベストではないと



   レッド「…。」

   レッド「最悪の場合になったら覚悟は決めてもらう、それが条件だ」

  アセルス「…。」コクッ


レッドとアセルスが揃ってると会話の主人公感がすさまじいな



   白薔薇「では次の行き先は決まりですわね」


 彼らのやり取りをそれまで静観していた貴婦人が声を発する、アセルス嬢の付き人として元より何処までも同行するのだ
流れとしては白薔薇姫も来ることになるのだろう
 視線を合わせて「白薔薇、付き合わせちゃうけどお願い」と言葉にせず眼差しで語る少女に対して彼女は優しく笑う


 方針が決まったところで次はどのように潜入するかだ、事情を知らずにドールと共に遺跡探索に向かって罠に引っ掛かり
なし崩し的に[ベルヴァ]の基地を叩いた今回とはワケが違う


 今度は明確にこちら側から攻め込む姿勢になるのだ、半ば偶発的な事故で迷い込むのではなく


 [傷薬]系の道具はもちろん、装備の一新から所在が判明している敵基地の最も警備が手薄になる時間帯
入口の隠し通路を初めとする侵入経路への理解

 準備できることはたくさんある





  レッド「…爆弾」ボソッ


  ルージュ「へ?」



   レッド「いや、今回俺達がブラッククロスの基地に殴り込みに行くだろ?」

   レッド「んで準備する物でちょっとだけ考えたんだ、奴らの秘密基地は残しておいても百害あれど一利なしってな」



 レッドが調査ファイルをペラペラと捲りながら告げる、各地にあるブラッククロスの拠点は各々が何かしらの役割を持つ
例えばここ[シンロウ]の基地なら倒した魔人が言っていたように屈強な冒険者や遺跡探検家を捕らえて人体改造手術を施し
組織に忠実な怪人や戦闘員に変えてしまうと


 謂わば、ここの基地は役割としてなら人員補充―――強者を見つけては組織の人手とする役割だ


 [マンハッタン]にあるキャンベルのビルなら表向きは女性受けするブランドメーカーだがその実態は兵器開発工場だ
生活必需品からファッションに化粧品、重火器まで何でも事業の一環だと
 表社会の流通ルートから足を探らせずに裏社会にある各拠点に武器を回すのが仕事
表向きは法に触れない正規の売買、受け渡しにしか見えない




 唯一[クーロン]にある所在不明の基地は役割が何なのか不明、憶測だが戦闘員の育成、戦術指南、各地での破壊工作など
テロ行為を行う実働部隊が控える兵舎拠点なのではないか?と書かれている




 そして問題の[京]だがあまりにも異常な麻薬の密売人の検挙率とヤクの貿易ルートから察するに
組織の財布の紐を握っているのがこの基地の役割なのだろうなと分かる
 麻薬密造施設があり、そこで造られたブツを売りさばいては金を貪り各拠点へ儲けた資産を送るシステムだろう



 デカい組織であればあるほど、維持や運営には莫大な資金や資源を要する
個人ならともかく、組織という一つの集合体にとって金の流れは血液の流れる生命線そのものと呼べる
 それを切ってしまえばどうなるだろうか?




     レッド「この書類通りなら麻薬の密造釜があるかもしれない、なら時限式の爆弾を仕掛けられねぇかなって」

    ルージュ「…なるほど、[クーロン]ならそういうのも売ってるかもしれないしね」


 あとはこの基地捜査を担当する"ラビット"なる隊員とコンタクトを取れるようにしたい
話し合いは順調に白熱していくのであった

―――
――
















            …ん?もう時間か、わかったから急くな














 折角、相手方の本拠地を見つけたからには準備を万全にして潜り込みたい


 わざわざこうして[ゲート]で[クーロン]まで戻ってきてしっかりとした睡眠まで貪ったんだ



 モンドとやらの基地の全容、隅から隅まで調べて優賞を授かるとしよう


―――
――



【双子が旅立って9日目 午前 11時20分 [ワカツ]】


 転移魔術によって蒼き魔術師と機械団体、地下組織の女構成員2人に地元民の剣豪とスライムそして今回の一件に置いて
おそらく一番因縁があるであろう青年が再びこの地へと舞い戻ってきた

 目指すべくはpzkwⅤが転落事故を起こしたあの裂け目、偶然の賜物で見つけ出したモンド執政官の秘密基地に続く大穴だ


     アニー「…。」


  -  暴走メカにしては地層の脆さから溝に近づいてこない辺り賢いAIだな…と  -


     アニー「今にして思うとあの[メカドック]や[キャンキャン]は番犬だったのかもしれないわね」ボソッ



 道中の敵を切り伏せながらアニーは独り言ちる、荒城を彷徨う"暴走メカ"にしては溝への落下を警戒するなど
随分と優秀なプログラムが搭載されていたなと妙な引っ掛かりを覚えていた
 [ワカツ]大空襲の際にトリニティ政府が地上掃討に放ったメカの残党がこの"惑星<リージョン>"に蔓延るメカ達だ
つまり相当古いブツで尚且つ碌すっぽに整備もされず野晒しになった物


 "人間<ヒューマン>"と違い"メカ"という種族はコアさえ無事ならいつまでも生きられるが
外付けの"肉体<ハードウェア>"でどうとでもなり得る、それこそ[追加メモリーボード]が1つ付いてるか否かで
知能指数が大幅に増減するのだ

 老い衰えて性能が悪くなる有機生命体の脳みそと彼らメカ族の半永久的に存続できる知恵の回路はその辺が違う



 …極稀にT-260の様な"心臓部のコア<ソフトウェア>"の面で問題が応じて知識や記憶の欠落、AIの性能低下というのも有るが





 何れにしてもあの近辺に居たのはモンド氏が持ち込んだ番犬と見ても良いのかもしれない


 木を隠すなら森の中、機を紛れ込ませるなら同じく暴走機の群れに


 渡航禁止とは言え条件さえ満たせば来れる土地だ、何らかの間違いで勘のいい旅人が自分の基地を見つける可能性がある
暴走メカに襲われて落命という事故に見せかけた抹消、あるいはそれとなく基地入口の裂け目に近づけない様に立ち回る
 そんな役割だったのかもしれない



   ナカジマ零式「ふ~、どーにか此処まで戻ってきましたね~」スィー

      pzkwⅤ「あぁ、こっから落ちた時は流石に肝が冷えたな」


     エミリア(肝?メカに肝なんてあるのかしら?)ロープ バサァ


 崩壊した城壁の一部に縄を括りつけたエミリアは機械達の真横に立ち暗黒街で買ってきた登山用のそれを下す
人間<ヒューマン>組、メカ勢の順に降りていき最後はスライムが縄を処理して飛べるナカジマ零式に乗せてもらって降りる
 それで侵入した形跡もちゃんと消せる仕組みとなるだろう



    ゲン「…わりぃが俺が一番乗りさせてもらうぜ」グッ

  リュート「ゲンさんが先に行くのか」


 力強く縄を握り底の見えない大穴へ降りて行こうとするのは亡国の剣豪であった、リュートはそんな彼を見て思わず
声に出していた「先に行くのか」と、何時でも酒を飲むことを忘れない漢が基地を発見してからは[クーロン]一時帰還後も
この道中での戦闘終了後でさえ常に持ち歩いてる一升瓶を飲んでいないのである、―――明らかに様子がいつもと違った


    ゲン「へへっ心配すんなって手を滑らせてそのまま転落なんて情けねぇ真似しねぇよ」


 リュートはそうじゃない、と口を開こうとするも剣豪は彼の言葉を待たずに先に降りてしまった…、彼らしくない逸りだ


 かくして[モンド基地]への潜入に成功した彼らは周囲に警戒しながら移動を始める
入口から入って一本道に進み、道中見張りと思われるメカや雇われの妖魔やモンスターを蹴散らし巨大な昇降リフトが
設置されている部屋へとたどり着く


    レオナルド「斜行プラットホームリフトかぁ、おそらくそこのパネルで下層へと降りていけるだろうね」


 基地の構造上、地下へと何階層にも渡り降りていくが故の造りだ
地層を掘り進めて搬入した建築資材を注ぎ込み築き上げた地下基地は堅牢な内壁や床からして
簡単に崩壊はさせれない事が手に取るように分かる


  リュート「パネルってのはこれかい?」ピッ
  リュート「どわっ!?」ガションッ、ウィーン…


 ほんのちょっと指先が触れただけでリフトは稼働し出して乗っていた全員を地下へと案内し始める
下層に居る見張りのモンド私兵は当然ながらこの事態に反応してリフト乗り場へと駆け込んでくる
"予定にも無いリフトの稼働"があったのだから当然だ
―――
――



  ワンダードギー「どうなっている!?今日はモンド様は会議に出ていて基地にお戻りになられない筈だぞ!?」ドタバタ



 下位妖魔の[ワンダードギー]は愛用の[ワンダーランス]を手に通路を駆け抜ける
人間社会に上手く溶け込めない妖魔の大半は浮浪者として物乞いや強盗紛いな方法でその日を生きる者が多い
 もしくは野垂れ死にかどんなに惨めであっても同種族から一度は[ファシナトゥール]を出た身と蔑まれてでも帰国するか


 そんな下位妖魔の中にはのらりくらりと人間社会でなんとかやっていける存在は居る
起業に成功したり自分の工房を持てたり様々だ

 然して"社会で成功した妖魔"の成功、というものが全て真っ当なモノとは言い難く
中には当然後ろ暗い経歴での成り上がりをした者だっている例を挙げるなら悪の秘密結社の改造手術を自主的に受け
幹部の地位に立った者、仮面をつけた野心家とトリニティ政府の機密に触れようと目論む者



  この[ワンダードギー]も所謂"同じクチ"という奴だった



 敵ランク1というカテゴリーに位置付けられ、半ば逃げるように飛び出た故郷たる妖魔の都でも人間社会でも
同種族、他種族から嗤われ続けたが故にいつの日にか世界を動かす存在になりたいと、成り上がりを夢を見た野心家である


 元来、妖魔という種族は努力を忌み嫌う。

 生まれついての才、能力の高さ…身分を全てと考える一種の選民思想的なモノがある
世の中にはその唾棄すべき努力などという行為を重ねに重ね妖魔の君の位を受けた者――[時の君]と呼ばれた存在も居るが


 何れにせよ例外を除いて、大概の妖魔は日頃より鍛錬や学習に励むことはない



  ワンダードギー「クソ!見張りは何してやがる…監視カメラの映像は、…なんだコイツ等は?」カチカチ、カタカタ…



 さて、そんなド底辺に位置する妖魔の彼が何故[モンド基地]の見張りとして立っているか
先述の通り彼は政府認定の危険度としても最弱の烙印が押された存在だ、…理由は大きく言って2つ

 1つ目は雇い主のモンド氏は最悪の場合いつでも"蜥蜴の尻尾"として扱える駒それこそ金で動く浮浪者を必要としていた
 2つ目は…


  ワンダードギー「基地全体に警報を鳴らす!侵入者あり!繰り返す侵入者あり!場所は―――」カタカタ、ピッピッ!



 妖魔という種族は機械を努力と同じくらいに忌み嫌い、だからこそ理解が薄く知識の学習と伝播が無い
専門的な技能の教育機関や教導する者が居ないのだから総じて機械音痴という現代社会にあるまじき欠点が生じていた
 厄介極まり無いことに『機械は汚らわしい存在』というその認識が
個人レベルなら兎も角"妖魔"という1つの民族思想レベルで普及してるのだから手に負えない


 だからこそモンドはこの妖魔を雇いたいと思った。ド底辺だからこそ、成り上がろうと努力を惜しまず機械さえ学ぶ彼を


―――
――


ガシューッ!



    エミリア「止まったわね」キョロキョロ


 基地全体に緊急事態を知らせる音が鳴り響いたのは下層へと降りていた彼らの耳にも届いていた、程なくして乗っていた
リフトは静止して最上層から1つ下の層に停まる
 レオナルド博士がパネルを動かし最下層へ何とか行けない物かと試みるのだが…


   レオナルド「うーん困ったね、電力自体が通ってないみたいなんだ」

   レオナルド「さっき警報が鳴った時にコレの電力供給が断たれたらしくてね」


      T-260「レオナルド様どうにかなりませんか?」



 鋼鉄の瞼を閉じて小考、工学の天才は腕の指先から螺子を取り外す為のドライバーを生やす
SFアニメでサイボーグと化した人間の指先が銃になるなんて展開はありがちだが、工具道具がニョッキリ出てくる展開は
早々お目に掛れるものではないだろう
 直ぐにパネルの分解作業を初めて彼は内部構造に眼を向けてから音声を発した



   レオナルド「結論から言うとどうにかなりそうだね」

    リュート「本当かい!?そのどうにかってのはどうすりゃいいんだ?」


   レオナルド「まず、ここの穴を見てくれ―――六角レンチ用の穴に似たサイズのここさ」

   レオナルド「基地全体の動力部が何らかの諸事情で駄目になった時、こういうのは非常用の予備バッテリーがある」


   レオナルド「ここにケーブルを差し込んで、予備バッテリーになりそうな機材から電力をちょっとだけ頂こう」


   レオナルド「そうすれば更に下層へは降りられる」


 "予備バッテリーになりそうな機材"、大がかりな荷物や大人数を運搬できる程の斜行リフトを稼働させるともすれば
消耗するエネルギー量も当然増えることは間違いない
 電力ケーブルの方は博士の先程の螺子回しと同様で格納された内蔵機器にその役目を果たせる物がある
つまりはバッテリー替わりになりそうな何かを持ってこい、というのが漸くした内容だった


   レオナルド「秘密裡に兵器の開発を行っているようだからね、基地内にもバッテリーになりそうな機材はあるさ」



   リュート「ってーとだ、こっから下に行きたきゃまずはこの階層でなんかの部品をかっぱらって来てそれを使うと」

   リュート「そしてこの下でも同じ様にそこそこエネルギー溜まってる何かの部品を拾ってそれを利用してって…」

   リュート「そんな感じで最下層を目指すんだな?」


   レオナルド「そーゆーコト、さっそく降りて奥の部屋に入ってみようか」



 侵入が知れ渡った上で、武器に手を掛けながらリフトから降りて部屋の中へと入っていく
すっきりとした見渡しの良い入口とは打って変わって遮蔽物と成り得る白い箱状コンテナ
無数のケーブルが大河の如く敷かれた、ごちゃごちゃとした部屋というのが写真を撮っているブルーの第一の感想だった


    ブルー「随分と散らかっているな、それにさっきまで何かを建造していたのだろうか」パシャッ


 巨大な機械の一部と思わしく物体が奥にはあり、彼は敵を屠りつつ恩賞を貰う為に必要な写真を撮り続けていた
明らかに敵対勢力を駆逐する為のロボットにしては規模が大きい
 これ1つで中規模~大規模戦用の戦闘メカか何かかと一瞬思ったが、にしては可笑しいのだ

 まだ造りかけで内側の細かい部分まで見えてしまうソレには不思議な事にメカの魂ともいうべきコアが存在しない
もっと言えばレオナルド博士はそれ等が構造上、それ等自身でさえパーツの1つに過ぎないと

乙乙



 「侵入者だ!1人残らず殲滅しろ!」


 遮蔽物と成り得る白い箱状コンテナの影から[メカドビー]が3体飛び出してくる
当然ながら警報音を聴き侵入者を亡き者にせんと潜んでいたのだ、当たるも八卦の[ドビーランチャー]を構え出鱈目に
筒砲から飛び出すソレの嵐を駆け抜け重い一撃を剣豪が浴びせる


    「ぐばっ!?」ゴッ

  ゲン「邪魔するんじゃねぇ」


 清流が如く、流れる様な無駄の無い動きでありながら決して振るわれる剣圧はヤワではない
一撃の下に沈黙した仲間を目にした2体目は担いでいた兵装でゲンを殴りつけようと飛び出すも[インプロージョン]で
爆散し最後の1体は特殊工作車に備え付けられた機銃とT-260に取り付けられた重火器による連携を受けて火を噴いて倒れる



   ゲン「…」ブンッ、――チャキッ



 刀に付着した機械油を払うように剣を一振りしてから鞘え納め、フロアの探索に戻ろうとする剣豪








   ブルー「おい貴様、どういうつもりだ」スタスタ



   ブルー「連中の精密さに欠ける乱射ならその辺の機材の影でやり過ごしてからでよかろう、前に出過ぎだ」

   ゲン「あぁ、悪ぃ…けどよ奴さんには侵入バレてんだ、ちんたらしてらんねぇだろ」



 くどい様だが遮蔽物と成り得るコンテナボックスや機材がこの階層フロアには大量に置かれている
ならば無駄に突飛するよりやり過ごしてから切り込むなり、術やメカ達とエミリアの狙撃、あるいは[烈風剣]等を使うなど
適した戦術はあっただろうと蒼き術士は咎めた


 逸っている、どこか気持ちが急いているのだ


 リュートだけではなくブルーもエミリアも今日まで付き添ってきたメカ達でさえもソレには気が付いていた
剣豪当人からすればこの基地は故郷を滅ぼした仇の物で、最奥には己から全てを奪った張本人が鎮座してるやもしれぬのだ

 そんな仇を切り伏せれるかもしれぬ千載一遇の機、何も想う所が無いわけじゃない…人間の感情<ココロ>は理性や理屈で
簡単に片づけられるモノではない事くらい解っているのだ、解ってはいるのだが…





  ブルー「逸るな、死ぬぞ貴様」

   ゲン「…」

  ブルー「勘違いするな、俺達の目的は基地の地形構造、武器、設備の情報をコレに収め帰還することだ」つ『カメラ』

  ブルー「此処で首魁を討つことではない」スタスタ


   ゲン「わぁってらぁ」



 他の仲間達より少し先に進んだ所で行われた男二人のやり取り、それを遠目に見ていたエミリアも会話内容までは
聞こえずとも凡そ何について話しているか察した、正直な所これに関して彼女はどちらかと言えばゲン寄りの感情だ


   エミリア(…大切な人や幸せだった日常を壊した憎い仇への復讐、かぁ)


 人間は"感情<ココロ>"で動く生物だ、ゲンを突き動かす行動原理をブロンドの女は痛い程に理解できる、できてしまう


  レオナルド「君はああならない方が良いよ」

   エミリア「え?」


 俯き考えこんでいた時、彼女は背後から声を掛けられる振り返るとそこには機械化した人間が1人
限りなく人間の声帯に似せた機械音で語り掛けてくる彼に疑問符を浮かべると…


  レオナルド「ボクはファッション雑誌やモデルさんに興味は無いけどね、君くらいの有名人なら流石に知ってるよ」

  レオナルド「一緒に行動する上でリュート君達からも少々事情を聴かされたからね」


 一世を風靡したトップモデルの転落人生、全ての元凶である道化師の仮面をつけた男との因縁のこと
どういう経緯で今回潜入することになった基地の主人、モンド氏とエミリアが面識を持ったのかを説明する上で芋づる式に
ジョーカー事件についても語らざるを得なくなったらしい



  レオナルド「憎しみや怒りに囚われると人間、"真実を見る目"を曇らせてしまうからね」


   エミリア「…ふふっ、あなたってば全然メカっぽくないことを言うのね」クスッ


  レオナルド「機械化したことで多少物事を俯瞰的に視ることは多くなったかもしれないけれどね」

  レオナルド「これでも元は人間だから、人としての心理や感情論だってちゃんと解るんだよ」

  レオナルド「だから彼の"人間ならば誰しもが持つ側面"を否定する気も無いかな~って」


  レオナルド「でも時と場合によってはそれに囚われ過ぎちゃ駄目な時があるのも事実かな、難しい話だけど」

  レオナルド「と言うのも君にとっての仇、ジョーカーって言ったっけ?」


   エミリア「え、ええ…そうだけど」



  レオナルド「丁度一週間前のお昼頃になるのかな
         ボクはT-260君の事を調べる上でトリニティの第七執政絡みのデータを閲覧していてね…」

  レオナルド「その時、"表向きは"爆破テロって事になってる事件に運悪く巻き込まれちゃってさ」


   エミリア「…一週間前の爆破テロ」




         - エミリア『っ!!な、なんなのよ!今の音は!!』-

  -ルージュ『! み、みんな、見てくれ!あのビル!! あの一番大きな建物から煙が出てるぞ!!』-




   エミリア(…あの時の爆発、私達にも見えてたのよね…)


  レオナルド「それでその時にトリニティに接触してたジョーカーという人物に関するデータを流し見程度にだけど見た」

  レオナルド「機械になった今の計算思考、生前の記憶情報と合わせて改めて考えてもどうにも不可解な点が多すぎる」




  レオナルド「なんというか偶に行動に奇妙な間隔がある、一定間隔で指針を変えるような動きというか一貫してない」

  レオナルド「こう…"人格が別々にある"…みたいな?」



…人格が、別々にある?



   エミリア「それって「おーい!レオナルドさーん!これなんてバッテリーに使えそうじゃねーかぁ~?」


 続きを促そうとした所で階段を上った先からリュートが声を掛けてくる



  レオナルド「っと、いけない…つい話し込んでしまったね、興味のある事だと長話になるのが悪い癖だ」

  レオナルド「兎に角、君は仇を前にしても冷静さを欠いてはいけない」

  レオナルド「"確証の持てない考察論"だからボクからは深く言えないけど対面して直ぐに相手を殺さないようにね」


   エミリア「あっ…」



 暗に仮面の男の真相を掴んでいるという発言だった、[ラムダ基地]潜入時のモンド氏といい
自分が未だに知り得ない真実を周囲の人物は得ている
 喉から手が出る程知りたくて堪らない、渇望して止まない憎むべき男の正体を…っ



 だが、目の前の彼は告げるのだ『冷静さを欠くな』『1対1で対面する機会があっても直ぐに撃ち殺すな』…と



 100%の確証が無くとも何らかの答えに辿り着いているのなら教えて欲しいというのが正直な所、彼女の本音だが
彼なりにエミリアを気遣ってくれたつもりなのだろうと彼女は思うことにした
 レオナルドからすれば何の関わりも無く助言する必要性すらない赤の他人である彼女に対して復讐心は真実を見誤らせる
感情に突き動かされて確かめもせずに直ぐ相手を殺す様な真似はするな、と発言する辺りジョーカーを殺す事自体に何か…


 きっと、何か大切な意味があるに違いない…


 手っ取り早いのは彼が口答で教えてくれることなのだが、それをあえて逸らすように話を切ったからには
おいそれと言葉にする訳にはいかないという事だ




     エミリア「ふふっ、レオナルドさんかぁ…機械は苦手だけど少しだけ、好きになれそうかもね」クスッ









  アニー「エ、エミリア…ちょっとアンタそれはマズイって、いくら未亡人だからってメカに手を出すのはちょっと…」

 エミリア「!? ち、違うから!?そういうんじゃないってば!?今のはそういう意味じゃないからね!?」






 ……レオナルドは確かにジョーカーの正体に見当が付いていた、だがエミリアにそれを直接言うのは憚られた




 彼自身が言った様に、ロボットになってしまったとはいえ彼には人間の感情や心理を理解できるから
だからジョーカーの正体を彼女を前にして大っぴらに言うのは気が引けた






―――
――




    リュート「どうだい、レオナルドさんコレならあのエレベーター動かせるんじゃねぇかな」つ『バッテリー』

   レオナルド「OKこれで更に下層へ向かう事ができそうだね」



 予備電源と成り得る物を両手に掲げて自慢げな顔をするリュートに大判子を押して一行は来た道を戻りリフトフロアへ
戻ろうとしていた…だが戻った先には





         ワンダードギー「ディィイヤァァァァァァァァーーーーッ!」ブンッ




 リュート「うおっ!?あぶねっ」サッ!



 戻った先には基地の警報機を作動させた[ワンダードギー]が待ち構えていて侵入者達を始末せんと槍を構え一直線上に
突っ走って槍を大きく振るい出した
 先頭を歩いていた無職の青年はそれを避ける、ランスの先端が特徴的なボサボサ髪を掠めて毛先が舞う
飛び退きつつも抜刀して戦闘態勢に入るリュートと後方の仲間達も直ぐに応戦する形となり…




 結論から言うと、余裕の勝利であった







    エミリア「はぁっ!」BANG!

     アニー「飛んでけぇぇ[飛燕剣]!!」ヒュバッ!

    スライム「(`・ω・´)ぶくぶくぶー!」ゴッ!



 ダンッ! ズバッ ドガッ


 ワンダードギー「ぐぎゃっ」ザジュッ!
  ワンダーランス『』カラン、カラン…


 手から愛用の槍を離し地に転げ落ちる下位妖魔は侵入者を恨めし気に睨みつける
[ファシナトゥール]から出奔して長らく不遇だった自身に日の目を見る機会が来たと、藁にも縋る思いで
モンドの軍門に下ったのだ…っ!リージョン界全体を圧倒的な力で引っ繰り返して理想の世の中を築くと



 …そうしてモンドの下で甘い汁を啜り、叶うならモンドの寝首を掻いて、己が地位と富を―――と野心も抱いていた



 力こそ全て、圧倒的な力を以てして全てを捻じ伏せ自分を誇示する、それは妖魔社会のやり方にも通ずる部分があった
この辺りがモンド氏とこの下級妖魔の最大の違いなのだが…



  ワンダードギー「ちっくしょぉぉぉ…!俺の大望が、こんな所で潰えて堪るかよおぉぉぉ…」



 世の理不尽さを訴えんとばかりに喉から声を絞り出す

 こんな日に限って侵入者が現れるなんて…っ!何故よりにもよって"今日"なのだ
雇い主であるモンドは今日基地に不在で、しかもこのタイミングで最下層で建造中の【アレ】が完成する日だというのにッ 


 野望を胸に秘めた妖魔にとって今日は人生の岐路だった、"完成した【アレ】に搭乗して"そのまま盗み去り
その圧倒的なパワーによって自分を見下してきた全てを蹂躙してやろうと決めていた
 【アレ】さえ盗み出すことに成功すれば自分がリージョン界を支配するという夢物語も夢で終わらなくなるかもしれない
それこそ[ファシナトゥール]の[針の城]で道楽に耽っている魅惑の君さえも叩き潰して妖魔の君として君臨できるかもと
莫迦げた夢想を思い描けてしまう程だ


―ガシッ!

  ワンダードギー「あぐぁっ!?」

    ブルー「貴様は基地の者だな、主の命令に背かないメカでないのは丁度良い我々を案内してもらうおうか」ググッ

  ワンダードギー「わ、わかった…胸倉をつかむな、は、はなせ…ゲホッ」プルプル


レオナルドさんかっこええなあ


 フロア内で拾ってきた動力源とコンソールを電力ケーブルで繋いだ事で自分達が立っている足場が沈んでいく
底なしの光も届かぬ地下のまた地下、泥沼に突っ込んだ方脚がずぶずぶ引き込まれるのと同じ感覚で斜行する

 深淵へ、更なる下層へと侵入者様御一行と捕虜1名を乗せて沈む



    アニー「暗いわね…、警報前はまだ電灯も点いてたんでしょうけど」ジーッ


 非常事態勢が敷かれたことで電源が落ちたのは何もリフトだけではない、そもそもが予備電源を拾って態々繋げなければ
稼働しない設備なのだから此処を照らす光源が落ちのも自明の理

 天井に申し訳程度にぶら下がった非常灯の薄明かりだけが唯一の光だが、頼りないソレでは少し視線を伸ばした先には
何があるのか到底分かったものではない




  リュート「なぁなぁ、アンタ教えてくれよな~ここはマジにモンドさんの基地でヤバい秘密兵器があるのかい?」

 ワンダードギー「ええい!なんだテメェは馴れ馴れしいっ!侵入者に漏らす情報なんざねぇよ!」


   ブルー「ちっ、思いの外強情な妖魔だな情報を一切吐かんとは…やはり締め上げて」グッ
  リュート「わーっ!だからお前は物騒なことすんなって!!」ガシッ


 下位妖魔の雇い主にして基地の大将は本当にモンドで間違いないという言質を取ろうとするが主人の名前、基地の弱点
最下層で造られているトンデモなく危険な兵器に関する情報も一切口にしようとしない
 いい加減痺れを切らし始めた蒼き魔術師が暴力に物を言わせ黙秘する事全てを赤裸々にさせようと蛮行に走りかけたり
それに対して青年がヨーク綿の帽子を振り落とさん勢いで術士を羽交い絞めにして止めたり

 後方は随分と賑やかになっているな、とアニーとスライムは暗闇を見つめながら思った




     アニー「こう暗いんじゃ待ち伏せの敵が本当に居るかなん…て…?」ジッ

    スライム「(´・ω・)ぶく?」キョトン



 黄金色の髪をした彼女は暗がりに一瞬だけ光る何かを見た、防衛本能に長けた彼女だからこそ見逃さなかった一瞬
鞘から剣を引き抜き仲間に声を掛けるっ――と同時に飛んでくる[バルカン]の弾雨を咄嗟に装備していた[シェルガード]で
防いで応戦の[飛燕剣]を打ち込む


 ズダダダダダダダッ…!


  エミリア「きゃっ!」サッ

    ゲン「敵が下からこっち目掛けて撃ってきやがったか!」


 ズダダダダダダダッ…!

    ブルー「ムッ!?」

  ワンダードギー「ひっ、ひぃぃぃ…」ドサッ

   リュート「おいアンタ!もうちょっとリフトの後方へ行ってろよな下から上目掛けた銃撃なら端に居りゃあ無事だ」


  ワンダードギー「あわわ…味方の流れ弾で死んでなんぞ堪るか」ノロノロ


 自分の直ぐ傍に[バルカン]砲による弾雨が降り注いだ事ですっかり腰を抜かしてその場に座り込んだ下位妖魔は
弦楽器を背負った男に言われるまま後ろ手で縛られた状態でノロノロと弾が来ない後ろ端へと進みだす




 ガシュッ!

 アニーの花った真空の刃が金属のボディに当たり火花を散らす、一瞬だがその時の火花で中に浮かぶ"何か"が2体と
弾雨を降らせた張本人の姿が浮かび上がった


   アニー「…あれは、[ヘルメス]ね!お供に何かが2機くらいついてるみたいだけど…っ」


 薄闇を照らす非常灯の頼りない光に助力した火花に照らされた鈍い黄緑色と骨組みだけの様な特徴的な脚に腕部の銃器
[ヘルメス]特有のガトリング砲は侵入者達へと向けられていた
 暗黒の中であろうとも彼奴には関係ない、多少の視界不良はものともせずにリフト上という定められた範囲でしか移動が
儘ならない人間やモンスターを相手に一方的な射撃を行えるという訳だ


   ズガガガガガッ!


    リュート「こりゃあマズいぜ!おーいナカジマ零式ー、飛べるんだからなんとかならないか~?」サッ

  ナカジマ零式「ハーイ、待ってましたよ~ 近づいてからぁのぉ必殺[連装ミサイル]とぉっ!」バシュッ!


 呑気な声で一方的に殴られる現状をどうにかできないかと唯一浮遊できる仲間に語り掛ける青年に対して
戦闘機を模した機体のAIはなんとも間延びした声で仲間の期待に応えようとする

 零式は[ヘルメス]の火線を掻い潜りこの距離ならば回避されまいと射程範囲に入った所で自機搭載の[連装ミサイル]を
撃ち込むのだが


   連装ミサイル『』ヒュルルルルル!!
   連装ミサイル『』ヒュルルルルル!!







    「 ピピッ!ミサイル検知、[ECM]を発動します 」キュィィィン!





  ナカジマ零式「へ?」



   連装ミサイル『』ヒュルルルルル!!―――ピタッ、ヒューン!……コォンッ!コロコロ…



 [ヘルメス]目掛けて飛んで行く筈だったソレは突如として勢いを失くし空中で完全停止する
推力を失った事で落下したミサイルは斜行プラットホームの底へと墜ちてコォン!と金属音を響かせながら何処かへと
そのままコロコロ転がっていく…"爆発もせずに"


 ナカジマ零式「お、おーのー!なぁんてことでしょう![ECM]でーす!"ミサイル攻撃が無効化"されちゃいましたぁ!」

 ナカジマ零式「はわっ、はわわわ…なーんかバランスがうまく取れないこれ以上はマズイですねー!」クルッ ヒューッ


 [ECM]の影響下で後部スラスターに不具合が生じた零式は直ぐにUターンして仲間の下へと帰還する
この時、漸くアニーは暗がりの中見えなかった[ヘルメス]の傍を浮遊していた2体の御供がなんであるか確認できた



   アニー「…!まだ暗闇に浮かぶぼんやりとした物陰でしかないけど、あれって[スカイラブ]じゃないかしら!?」

 レオナルド「…やれやれ、そういうことか我ながら厄介な物を造ったなぁ」ウーム



 [ディスペア]監獄に度々お世話になる機会があったアニーは闇に覆われたシルエットだけでもソレがなんであるか察した
ルーンの石が置かれている一室へ向かう際に嫌でも突破せねばならない赤外線エリアの防衛装置として
時折とんでもない兵器が配備される日がある、監獄所長の道楽で行われる"解放の日"で脱走を企てる者のリストに
死刑囚でもおかしくない様な重罪人が紛れ込んでいる場合がそうである

 機械工学の天才レオナルド博士が"拠点防衛用"の衛兵メカとして開発した物で性能は当然折り紙付き

 拠点防衛装置として監獄に配備されていると言えば聞こえは良いが
その実態は"解放の日"に参加する死刑が妥当な重罪人への処刑マシンなのであったあ


   pzkwⅤ「せ、先生!どうしますかッ!あいつ等が浮かんでたんじゃこの[ハイペリオン]だって!!」

   ブルー「この狭い足場上で[ヴァーミリオンサンズ]を唱えるのも厳しいな、狭すぎて間違いなく何人か巻き込む」


 広範囲への最大火力を誇る魔術は使えば敵には勝つが味方への被害も甚大…足場と進行中の通路が狭すぎる
pzkwⅤが自前で持ってきた砲も[陽子ロケット弾]が[ECM]の効果で着弾前に虚しく落下するだけである


  レオナルド「問題ないさ要は連中を墜とせばいいだけの話だよ
          [ECM]効果は飛来するミサイルの推力系と起爆に必要な信管を狂わせて不発弾にする電磁波妨害」

  レオナルド「ナカジマくんのバランス調整が不安定になって飛び辛くなったのもそのせいだね」

  レオナルド「あくまで対象を飛びも爆発もしない鉄塊に変えるだけの機能だから普通に
           光線や機銃の類が通るさ、尤も回避プログラム搭載の場合を考えれば――――」



  ズガガガガッ!!  ビュゥゥン!ガガガッ!



   ゲン「レ、レオナルドさんよ!難しい話はあとで聞くから結局俺達は何すりゃいいのかだけ言ってくれぃ!!」ササッ

  レオナルド「おっと、そうだね…じゃあ[飛燕剣]や[烈風剣]を使える人はじゃんじゃんやっちゃってよ」



 2機の浮遊する防衛装置の射程圏内に入ったのかガトリング砲を援護する様に[スプレッドブラスター]が飛んでくる
制作者の長々とした解説を聴くよりも目先の厄介な敵機を破壊する方法をご教授願いたい剣豪は博士に結論を述べてもらう

 エミリアの銃撃やメカ軍団の[破壊光線銃]も普通に通る、何より浮遊という特性上[スカイラブ]は[飛燕剣]や[烈風剣]等
宙に浮かぶ者を切り落とす術に滅法弱いのだ




   特殊工作車「[破壊光線]、照射します!」ビィィィィィッ!
      T-260「優先順位変更、敵の護衛機を殲滅せよ![破壊光線銃]を使用します」ビィィィィィッ!




   スカイラブA『 』サッ!クルクルクルクル!
   スカイラブB『 』サッ!クルクルクルクル!

   スカイラブに避けられ真横を飛んでく破壊光線『』チュドーン!



 裏通りの武器店でpzkwⅤから頂戴した兵器を撃つが防衛機構の2機は優雅に踊る様に…っ!
人間が技を見切った時と同じ動きで華麗に破滅を導く光を避ける
 それを見て博士は「あちゃー…やっぱり[レーザー回避]プログラム付きかぁ、慎重派だからなぁモンドも」と
目元を覆うように金属製の腕を顔へと運ぶ



  レオナルド「残念だけど、ボク達は今回できることは無いみたいだ精々皆が被弾しない様に盾になるくらいだね」バッ


 前衛の"人間<ヒューマン>"達の前に立ち両腕を伸ばして少しでも味方の損害を減らそうと遮蔽物の役割に徹する
それに倣ってT-260も前に出て、特殊工作車は移動しながら実弾を受けつつ内蔵された機銃で応戦を試みる


   アニー「せいぁッ!!」ヒュバッ

    ゲン「墜ちろや!」シュバッ

  リュート「俺からもっッと!」シュバッ、シュバッ



 剣気の刃が、刀身が生み出す烈風が、間髪入れずに飛び交う二重の疾風が、嵐となって下方に居る3機へと降り注ぐ
地に足を点けてどっしりと身構えながら耐える[ヘルメス]は兎も角、宙に浮いていた2機は斬撃の集中豪雨を浴びて
片方が完全に沈黙する、辛うじて浮いていたもう一方は…


        BANNG!


    エミリア「…ふう、[集中射撃]で狙い撃ったわね」 

  ナカジマ零式「わーお!さっきよりかは幾分か気分がよくなりましたねー!」フワッ


 レオナルド「[ECM]の影響はまだ残ってる、ミサイル兵装はまだ使えないさ」



 ナカジマ零式「oh!ノープログレムでーす!これだけ動ければアイツに一撃喰らわせてやれまーす!」ビュォンッ



 護衛を失い丸裸同然となった彼奴に超スピードで接近する機影、残骸と化した[スカイラブ]の忘れ形見は未だ効力が続き
先程自機を撃破しようとした[連装ミサイル]を射出したとて
不発弾となり虚しくプラットフォームの溝へ落ちる光景の焼き直しになるだけだと[ヘルメス]のAIにもわかっていた
 ただ一切の減速も無く寧ろ更なる加速力を得て此方にやってくる戦闘機の姿に電子頭脳はある可能性を描かせた

 
    ヘルメス『!!』ウィーン、ピロン!ズガガガガッ

 ナカジマ零式「はっはっはぁ!遅い遅ーい!止まって見えま~す!…ミサイルが駄目でもコレがありますよッ!」ヒュバッ



 陽気な声に笑いながら殺人的な加速力を以て白い機影が必至の抵抗を繰り広げる基地守備隊のメカへと急接近…っ!
あの速度で鉄の塊が突っ込んできたら如何ほどの衝撃エネルギーと成り得るか、自機はどうなってしまうのか?



 考えるまでもない。 例え"旧型<ポンコツ>"の電子頭脳の計算式であっても容易に叩き出せる結果である



  ナカジマ零式「超必殺のぉぉぉ!![神威クラッシュ]ぅぅぅぅ!!!」



   ズ ッッッボゴォ ォ ォ ォ ン!!


―――
――



     T-260「プログラム [レーザー回避]を 手に入れた」ピロリン!バンザイ!バンザイ!

  特殊工作車「プログラム [レーザー回避]を 手に入れた」ピロリン!グッグッ!


  レオナルド「おお!やったじゃないか二人とも」


 残骸と化した[スカイラブ]2機とさっきまでは[ヘルメス]だった[がらくた]から何か収集できないものかと
博士は仲間のメカ達を連れてリフトが次の層へ無事(?)到着停止した途端にせっせと倒した敵にコードを繋ぎ始めたのだ



   pzkwⅤ「先生…すいません、エネルギーを補充しただけで何も取れませんでした」シュンッ

 レオナルド「気に病むことはないよ、機会はいつだって訪れるさ、だって周りを見てごらんよ」スッ


 さて、そんな一幕があった後成果を得られなかったことを悔やむ店主を宥めながら博士が指さしたのはこの層の奥である
メカ達がプログラムの吸収を行っている合間に粗方内部に居た敵は術士やモンスター、剣士組が始末を終えていた
 攻撃の届かない遠距離から一方的に撃たれていた先程とは打って変わって今や地続きの広い空間に敵が要る、となれば
彼らは水を得た魚も同然で広範囲術を唱えるわ、自慢の剣技で細切れにするわの大暴れである


 …話は逸れたが、その戦闘行為が行われているフロアの最奥に見える赤いメタリックボディ

 それは[Tウォーカー]と呼ばれる地上掃討用の自立型メカ兵器である、無骨な二本の脚で二足歩行しつつ
視界に入る兵隊目掛けて[バルカン]の雨嵐をお見舞いするというなんて事無いメカ

 なんならさっき戦った[ヘルメス]よりも弱い自立型兵器だ、……では何故レオナルドはソレを興味深々に眺めているか?





   ブルー「…随分なものだな」カシャッ

 レオナルド「お?ブルー君にも分かるのかい?これの凄さが…っ!」キラキラ


 カメラのレンズに大っ嫌いな赤を基調とした機体を入れてシャッターを切りながらブルーは横目で機械化した男を見る
心なしか無垢な少年の様にメタルな瞳が輝いてる気がするが気のせいだろう


   ブルー「正直言ってメカは門外漢だがな、流石にコレは異様だと解る……"デカすぎる"だろ」カシャッ

 レオナルド「うんうん!凄いよね通常サイズより明らかに大きいもん[ガイアトード]に匹敵するかもね」ワクワク


 術士の瞳にさえ奇異に映る通常の自立型メカにあるまじき巨体さ、それこそ"人間が搭乗できそうなサイズ"のソレである

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 モンド基地に関して②

 [モンド基地]は原作中で4つの層に分かれており、リュート主人公時に[ネルソン]の艦長に船で乗せてもらって最初に
脚を踏み入れる入口エリア、MAP上に(おそらく)建造中の[ヘルメス]と思わしき物が置いてある2層目エリア
同じく建造中の巨大[Tウォーカー]が存在する3層目エリア、そして最後にラスボスが控えている部屋へ直通の最新層


 以上、4層に分かれている―――階段の類は無く、いずれも斜陽リフトによる移動で下へ下へと延々に進むだけで
しかも一度降りたら来た道を戻るという行為はできない



 道は一本道であるために迷うこともなく、道中にアイテムも落ちてはいない…リフトを動かす為の電源は拾えるが



2層目、3層目には敵メカとして実際に出現する先述の兵器が超巨大グラフィックでMAP上に存在していて如何にモンドが
トリニティ政府に対して反旗を翻そうと戦力を準備しているのかが窺えるであろう



また各層のリフト乗り場には敵シンボルが1体ずつ存在しており



1層目=メカ系敵シンボル

2層目=妖魔系敵シンボル

3層目=メカ系敵シンボル

最深部=巨人系敵シンボル



となっている。 基地全体の敵も妖魔やモンスターこそ少数居れどヒューマン系は0でもっと言えば圧倒的にメカが多い

これは心の奥底ではモンド執政官が人を信用していないという事の現れなのかもしれない
 エミリア編の[ラムダ基地(2回度目)]も警備がメカシンボルだらけになったが
それは単にトリニティの要所だからで説明が付く…しかしモンド氏個人の秘密基地であるなら私兵としてメカ以外がもっと
居てもおかしくない筈、でも見張りの大半は主人に逆らわないAIな辺り色々考えさせられる







…個人的な見解ですが、MAP上の[ヘルメス]も[Tウォーカー]も通常のソレと違って特別製だと解釈できる要素が存在します

まず、くどいようですが外見があまりにも巨大だ

 通常戦闘で出てくる2機は普通に主人公勢や他の雑魚的とサイズは変わらず小さいがMAP上のソレは
[シンロウ遺跡]の入り口から左に行ってすぐの[ガイアトード]よりデカい


 単にキャラクターグラフィック上、戦闘時の2機は小さく見えるけど実際は[モンド基地]の背景としてある巨大メカと
同じくらい本当はでかい兵器なんですよー、と説明されてしまえばそれまでかもしれない

 でも、それこそ[シンロウ遺跡]の[ガイアトード]や[キャンベルビル]に出るデカくした[スライム]系シンボルやら
そういうのはちゃんと戦闘時にも反映される特大サイズで用意されてて、あれだけサイズが違うのか?という話になります








 モンド氏は、原作に置いてもラストバトルで"アレ"を用意してます




 [シュライク]の[中島製作所]から技術を奪い、それで人間がパイロットととして操作できる超巨大ロボを地下で建造した
だとすれば、あの[ヘルメス]や[Tウォーカー]がとんでもない規格外サイズなのも兵士が乗り込んで戦う兵器の試作型と
そう考えたら辻褄が合うのではないか?というのが見解です


 基地の2層と3層の背景グラフィックにはそんな事情があるのかもしれません…


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ナカジマかわいいな


 ルーファスから支給されたカメラに[モンド基地]の内部、そして件の超大型メカの姿を収める
帰還後、手当される有給休暇が如何ほどかは知らないが店の雑務から解放されて自分のやりたいことや本格的な術の鍛錬に
励めるくらいの日数は貰えるだろうと術士は考える


 最後にもう一枚と[Tウォーカー]の姿をレンズに入れた所で、ふと赤い機体の真上に人影が見えた気がした



   エミリア「ねぇ、ちょっと!エレベーターを動かすのに必要なのってこれでいいのかしら!?」タッタッタッ

  レオナルド「そうそう、前の階層と同じで階段を上った先にあったんだね…ブルー君どうかしたのかい?」


    ブルー「…いや、今あそこに誰かいた気がしたんだが」スッ



 術士は人影らしきものが見えた箇所を指さす、シャッターを切る前に見えた影の真意を知ろうと目を凝らし凝視するが
やはり気のせいであったのだろうか…何も感じない
 自慢じゃないがそれなりに人の気配を察せられるくらいには修羅場を潜り抜けてきたつもりだったが宙を飛べる
ナカジマ零式が「誰もいませんよー」と天井スレスレの上部から[Tウォーカー]を見下ろしてそう告げた



   ブルー(…俺も修練が足らんということか?)


   ブルー「まぁいい、電源が手に入ったなら次の下層に行くとしよう…おい、いい加減貴様も情報を吐け」グッ!

 ワンダードギー「ウゲッ、…だ、誰がキサマら何かに」ゲホッ











  もしも、まだ敵の生き残りが潜んでいて自分達の潜入を快く思わないのであれば機を窺い、隙を見せた所を攻めてくる


 それこそ悠長に写真なんぞ撮ってる場合ではない、だが敵意も無く、飛べるメカが上部から見ても誰も居ないとなると
やはり見間違いだったのか?

 彼はそう結論付けたが、実は…この時、既に基地にとある人物が居た事を直ぐに知ることとなる







 理想家にして野心家の男(……)

 理想家にして野心家の男([ワカツ]の残党、レオナルド、ミス・エミリア…そしてやはり来たかイアンの息子よ)





 理想家にして野心家の男(ここ数日[ワカツ]へ渡航記録が頻繁にあったことから特に基地周辺の監視をさせていたが)

 理想家にして野心家の男(どうやら正解だったようだな、…私はまだ失脚する訳にはいかないのでね)


 理想家にして野心家の男「」チラッ




 ワンダードギー「――!」

*******************************************************


 ルーファスから支給されたカメラに[モンド基地]の内部、そして件の超大型メカの姿を収める
帰還後、手当される有給休暇が如何ほどかは知らないが店の雑務から解放されて自分のやりたいことや本格的な術の鍛錬に
励めるくらいの日数は貰えるだろうと術士は考える


 最後にもう一枚と[Tウォーカー]の姿をレンズに入れた所で、ふと赤い機体の真上に人影が見えた気がした



   エミリア「ねぇ、ちょっと!エレベーターを動かすのに必要なのってこれでいいのかしら!?」タッタッタッ

  レオナルド「そうそう、前の階層と同じで階段を上った先にあったんだね…ブルー君どうかしたのかい?」


    ブルー「…いや、今あそこに誰かいた気がしたんだが」スッ



 術士は人影らしきものが見えた箇所を指さす、シャッターを切る前に見えた影の真意を知ろうと目を凝らし凝視するが
やはり気のせいであったのだろうか…何も感じない
 自慢じゃないがそれなりに人の気配を察せられるくらいには修羅場を潜り抜けてきたつもりだったが宙を飛べる
ナカジマ零式が「誰もいませんよー」と天井スレスレの上部から[Tウォーカー]を見下ろしてそう告げた



   ブルー(…俺も修練が足らんということか?)


   ブルー「まぁいい、電源が手に入ったなら次の下層に行くとしよう…おい、いい加減貴様も情報を吐け」グッ!

 ワンダードギー「ウゲッ、…だ、誰がキサマら何かに」ゲホッ











  もしも、まだ敵の生き残りが潜んでいて自分達の潜入を快く思わないのであれば機を窺い、隙を見せた所を攻めてくる


 それこそ悠長に写真なんぞ撮ってる場合ではない、だが敵意も無く、飛べるメカが上部から見ても誰も居ないとなると
やはり見間違いだったのか?

 彼はそう結論付けたが、実は…この時、既に基地にとある人物が居た事を直ぐに知ることとなる







 理想家にして野心家の男(……)

 理想家にして野心家の男([ワカツ]の残党、レオナルド、ミス・エミリア…そしてやはり来たかイアンの息子よ)





 理想家にして野心家の男(ここ数日[ワカツ]へ渡航記録が頻繁にあったことから特に基地周辺の監視をさせていたが)

 理想家にして野心家の男(どうやら正解だったようだな、…私はまだ失脚する訳にはいかないのでね)


 理想家にして野心家の男「」チラッ




 ワンダードギー「――!」


 理想家にして野心家の男(本来であれば今日は私が来訪する予定日では無い、私が来ていることを知る者はいない)

 理想家にして野心家の男(彼には"羊"となってもらうとするか)スッ


 誰一人としてその場に居ることを悟らせず、ほんの小さな大気の乱れ、呼吸、音、気配、全てを断ち
トリニティの執政にまで上り詰めた男――――モンドは飛行メカの視界からすらも難なく逃れたのであった


  ナカジマ零式「にしても~…これってやぁ~っぱりアレですかね?」
   特殊工作車「そうですね、社長達があの日"メカマウス"にデータを入れて[斉王の古墳]に逃がしましたが…」


  レオナルド「うん?」


  ナカジマ零式「いえね、ウチの会社で作ってた技術がこのデッカイのに所々使われてるっぽいんですね~」

  ナカジマ零式「なんか政府の偉い人が『トリニティの技術を盗用してる~!』とかなんとか言いがかりつけて」


      T-260「私たちが初めて[シュライク]を訪れた時の話ですね」
      ゲン「ああ、そういやそんなこともあったっけな…」


  レオナルド「…ふぅん、"トリニティの技術"を盗用してるねぇ…」フム

  レオナルド「ボクの管轄外の研究部署だって言われればそれまでだけど
           トリニティにこんな巨大メカに使う物は無かった筈なんだよねぇ…」


 …モンドの手の者が民間企業の開発した画期的なシステムをそのまま横領して秘密基地でせっせっかと開発していたのか
暫し考え込んで博士は一つ案を出した


  レオナルド「多分、[中島製作所]に乗り込んで色々漁りをやっていった記録は抹消されてると思うんだ」

  レオナルド「だからさ、もし追っかけるなら[IRPO]に手を貸してもらうのはどうかな?」


 パトロール隊員の力を借りてはどうだろうか?その話にエミリア達が耳を少しだけ傾けた
トリニティ政府は確かにリージョン界の司法や行政、全国共通の通貨であるクレジットの発行をすることで金融など
幅広く世界に秩序と調和を齎しているかもしれないが、それイコール100%クリーンな組織という訳ではない

 当たり前の様に汚職や買収、それこそエミリアが以前潜入したヤルート執政と同じ輩だってごまんと居る
警察組織[IRPO]への圧力も当然の様に掛け、都合が悪くなれば厄介な捜査官を閑職に追い込む事だって厭わない


  レオナルド「ボクの行きつけのハンバーガー屋さんに常連の刑事が居るんだ」

  レオナルド「彼なら多分、上からの圧力とか無視して色々調べてくれると思うんだよね」


  レオナルド「この基地から帰れたらさ、得た情報でモンドの弱み握っておきたいならその線で調べるっていうのも…」


 その線で調べるっていうのもありかもね、と言おうとした所でリュートに早く下層に行ってみようぜ!と急かされて
やれやれと首を振り博士はリフトの方へと向かった

―――
――


 ガコンッ、ウィーン


 基地最下層へと降っていく一行は奇妙な沈黙に包まれていた、ついさっき[スカイラブ]と[ヘルメス]の編成に
反撃不可能な遠距離から攻め立てられたからだ
 最下層ともすれば唯一の階層移動ができる此処が最終防衛ラインと呼ぶに等しく激しい防衛線が敷かれていても良い筈で
何の抵抗も無くすんなり降りれていることに不気味さを感じる程である


   リュート「なぁ…変だぜ、なんで誰も"お出迎え"しないんだい?」

   リュート「普通はこういうとこに超強ぇ奴とかがどっしり構えてるもんじゃねぇのか」


 当たり前の様に出された疑問は誰しもが胸に秘めていた、そして――――


――――――ゴゴゴゴゴゴゴッ

    ゲン「なんだこの音は!?」

   ブルー(聞こえる方角からして………後ろから何かが俺達の方へ向かってきているだとっ!?)バッ






      巨人「グゴガァァァァァァ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


 リフトが最深部の乗り場に着く寸での所で後方から怒声を張り上げながら滑り落ちてくる巨大な人影
弦楽器を背負った青年はその姿に故郷に置いてきた弟分のサンダーを思い出していた
 [オーガ]種のサンダー同様"巨人系"に部類される者で彼らを排除せんとするそれは可愛い舎弟とは似ても似つかぬ大怪物
政府指定の危険度認定は最大値に相当…っ!敵ランク9の[巨人]だッッ!


   リュート「オイオイ、嘘だろ…ヤバいぜありゃあ!?」


 リフト用のレールを滑走するように"落ちて"来る[巨人]は更に勢いをつけて左腕に担いだ大剣を振り下ろす姿勢に入った
がっちりとした筋骨隆々の体格、人間のそれとは明らかに違う青肌に纏った鋼鉄鎧と右腕の棘付きシールド
 肉体そのものの耐久性も然ることながら盾回避による攻撃の無効化…攻守共に最凶のバケモノだ


 そんなバケモノの装着している武者兜に似た頭装備から覗かせる赤い目はギラついていて
パーティーを逃す気など殊更無い事を物語っていた、唸りをあげた巨体はレール上を滑り落ちてくる事を止める
 [魔獣の革]で作った特製の黒ブーツで地を蹴飛ばし一気に急降下を仕掛けたのだ、左手の[ブレード]を振り下ろしながら



     巨人「ぐごああああああああああああっっ!!」ブォンッ

    レオナルド「みんな!!リフトが着いた急いで向こうの通路まで退h―――うわあああああぁっ!?」ブワッ



 エレベーターが停止し乗り場から奥の通路へと逃れられる様になった、博士があの[巨人]の図体ではそう易々と
入り込めないだろう踏んで狭い通路へ逃げ込むように呼び掛けた直後[ブレード]の剣圧で吹き飛ばされた

 金属ボディとなった彼ですら吹き飛ぶのだから当然生身である他の仲間達も次々と吹き飛ばされていく



  拉げたエレベーターの制御盤『 』グシャッ…



   リュート「うひぃ~、誰か助けてくれぇい!!」バタバタ

    ブルー「ええい!何をしてる掴まらんかっ」ガシッ


   リュート「た、助かったぜ危うくプラットフォームの溝に落っこちちまうかと……あのリフトもう使えねぇな」ヒー


 斜行エレベーターを稼働させるためのディスプレイは見るも無残なスクラップにされているのが目に映る
幸い、今の一撃が直撃した仲間は居らず全員が吹き飛ばされて床に転がっているだけであった……これで退路は断たれた




     巨人「ぐごごごごごごごごッッ…………! シン、ニュウシャ……オデ、コロス」フーッ!フーッ!…シュバッ、ズシーン




   リュート「あら~…ただでさえ真っ赤なお目々が血走ってらぁ、こりゃ穏便に話し合いとはいかねぇよな」タラーリ

   エミリア「先日の[巨獣]といい、私達でかい怪物に縁でもあるのかしらね…ブルー、いざって時は[ゲート]を…」


 ごくり、喉を鳴らしてエミリアは敵を見据える

 初撃でリフトを破壊して退路を断った大怪物はそのまま片足で飛び跳ねて一気に彼女達の頭上を越え
レオナルドが指定した逃げ込み先の通路の手前に陣取った
 退路に続いて進路さえも塞がれた、これでブルーの術が無ければ本格的に袋小路の鼠もいい所…っ!


     アニー「ん!? あ、あいつ…!?」



 ワンダードギー「ハァ…ハァ…ははっ!!バカめ!この隙に俺は逃げさせてもらうぜ!八つ裂きにされやがれってんだ!」


 [巨人]の大脚の影に隠れて見え辛いが何かが通路に向かって走り去っていく姿をアニーは見逃さなかった
全員が吹き飛ばされてバラバラになった時に捕虜として捕まえたあの[ワンダードギー]も同じくリフトから吹き飛ばされた
 これ幸いと言わんばかりに彼奴は基地の奥へと一目散に逃げていくではないか…っ!


 ワンダードギー(へへっ!天に見放されたと思ったがこりゃあいいぜ、何から何まで俺に運が傾いてきやがったッ)タッタッタッ

 ワンダードギー(この先に組み立て終わった"アレ"がある!モンド様…いやモンドが居ねぇ今が好機、俺が頂戴してやんぜ)


 下位妖魔が通路奥へと消えていくの侵入者達は黙って見過ごすより他なかった、捕虜に逃げられたことよりも
剥き出しの敵意そのままに狂剣を振るう大怪物をどうにかせねば退路も進路も無いのだから

 [巨人]は牙を覗かせる大きな口から燃え盛る火炎を吹き、あろうことかそれを自らの得物に吹き付ける
熱せられて赤々とした刃を腕ごと前に突き出す型、突剣の構えで迫りくる


    巨人「うおおおおおおおぉぉぉ ヤケ ロ!」グォォォッ


 弦楽器の青年目掛けて放たれた[ヒートスマッシュ]に青年は目を見開く、今度ばかりは運の良さを自慢する自分でも
年貢の納め時かと――――鼻先まで熱気が迫ってきた所でリュートは何かに吹き飛ばされた


 ドガッ

   リュート「げふんっ!?」ドサァァァァ…


 固い何かに真横から強烈なタックルを喰らって変な声を出しながら地面を転がる彼は自身を弾き飛ばしたのが誰か見た
窮地を救ってくれたのは特殊工作車であった
 硬いボディを持つ彼の装甲に熱を帯びた劔はいともたやすく突き刺さっていて
一撃で戦闘の継続を不可能なまでにしてしまったのである



   特殊工作車「ピガガッ、 すみませんが私はコレいじょうは うごけませ  ん」プシュー

    リュート「こ、工作車!!お前っ」



 彼の人格を形成するコア、メカという種族にとっての魂そのものは破損していない為レオナルドが居れば直せる
だが、恐るべきは相手の圧倒的な破壊力である…特殊工作車を直すにしてもここで全滅すれば直す人も何も生きてはいまい


   ブルー(チィッ、これは正攻法で挑んでも勝ち目が無い…ならば――――)

   ブルー「エミリア、アニー!手を貸せ、スライム貴様もだ!」



  スライム「ぶくくー!(`・ω・´)」ピョン!

  エミリア「何か策があるのね!?」
   アニー「あたし等は何すればいいんだ!?」


   ブルー「…正直アレ相手にどこまで通用するか判らんがやらんよりはマシな策だ、よく聞け――――」


―――
――


     ゲン「セイッッッ!!」ガキィィン [ディフレクト]

     巨人「ウオオオオオオォォォォォ」ブンブンッ

     ゲン「うっ、 ぐ   ぐあああぁぁぁっ」キィン キィン  ズバッ

     ゲン「くそったれが…ハァハァ」ボタッ、ボタッ



 差があり過ぎる体格差と武器の質量、リーチがありながらも捌き続けた剣豪も遂に利き腕に大きな切り傷を負う
パックリと二の腕に横一線に紅い線が走りボタボタと金属製の床に血痕を創っていく
 そんな彼の背をリュートは眺めるしかできないのが歯痒かった、奥歯を噛みしめる度に脇腹に受けた一太刀の痛みが
じわりと広がっていく…折角、特殊工作車が身を挺してくれたというのに次の攻撃を避け切れなかった


 メカの仲間達も接近戦を得意とするT-260はゲンと同じく壁になりつつ敵に[多段切り]を浴びせるがそれでも
[巨人]は倒れずに猛攻を繰り返す、遠距離主体のナカジマ零式達の射撃攻撃さえ背中に直撃してもだ
 ダメージは入っていないわけでないが想像上以上にタフネスな怪物で更に片言な言動の割にそこそこ知恵も回る
爆撃や光線銃、[多段切り]の痛みでも攻撃手を緩めないのは一番火力を持つゲンとT-260の連携を断つ為だ
[多段切り]にゲンのワカツ流剣術が加わればばその威力は数倍に膨れ上がるのだが…




 ゲンが切り込んで相手に一番攻撃が入る位置をがら空きにさせた瞬間にT-260が入り込む、という段取りを
見事に間に割って入り込んで邪魔をする……多少のリスク込みで剣豪の一太刀を大きく浴びてでも
"がら空きの位置"取りをさせない、片腕に着けた棘付きの盾で牽制を兼ねた防御で徹底して連携を邪魔してくるのだ

乙!


 敵は人の背丈を優に超えた得物を大きく振り上げてゲンにトドメを刺そうとする
利き腕を満足に振るえないと成ればワカツの剣豪と言えど防げまい、[巨人]は[ブレード]を眼下の脆弱な人間に降し――




       「 その御身を厄災の眼<まなこ>から逃れさせよ!――[保護のルーン] 」フォンッ!フォンッ!




    巨人「ぐごっ!?」ブン―――ピタッ、クルッ! ヒュバッ

    T-260「敵の攻撃目標が自機に移った事を確認、戦闘プログラムを対応した型に変更します!」キィィン!



 刹那、叩き潰そうとした剣豪の真上に光の線が走った
先端が三叉に枝分かれした古代文字を表した輝きは神秘の光をゲンに浴びせ、その姿を視界から"消させた"
 目標を見失った剣先は一瞬の戸惑いから瞬時に切り替える、振り下ろすよりも止める、止めてT-260への牽制に使うと

 気配を完全に断ち切りそこに居るのに相手に存在を悟らせない[心術]の[隠行]と同じく、敵対勢力の網膜に姿を映さぬ
認識阻害の術…それが[保護のルーン]であるッッ!!


   ゲン「ハァハァ な、にがどうなって、やがんだ…」ポタッ

  ブルー「彼奴の目に俺達が映らなくなっただけだ」


 この時、"手を伸ばせば触れられる程近くに居た"術士に剣豪はギョッとした
強敵を前にして全神経を尖らせていたにも関わらずこんなにも近くに居て気付かなかったのだ


  ブルー「手短に話す、あくまでコレは一時的なステルス効果だ自身が攻勢に出たり空間全域の攻撃で悟られては困る」


 語りながら蒼き魔術師は肩を貸してゲンとこの場を離れようとする
一時的なステルス、つまり銃弾や刀身など攻撃の類が幽霊の如く身体を透過していく無敵状態になったというわけではない
あくまでも敵から"見えなくなった"だけであって此方から攻勢に出れば攻撃の出所から現在位置を逆探知されたり
 又、敵方から[ヴァーミリオンサンズ]の様な広範囲への攻撃手段で偶然巻き込まれた場合も印術が解除されてしまうのだ



 其故に、ブルー曰く『どこまで通用するか判らんがやらんよりはマシな策』なのだ…完璧ではない


  ブルー「[保護のルーン]が掛かった今のお前には俺や優先順位に応じて印術を唱えるエミリアとアニーが視えるな?」


 言われて初めて気が付いた、そうだ…どの辺りから"この3人の居場所や安否を意識しなくなっていた"のか
半ば暴れ回り場をしっちゃかめっちゃかにかき乱すバケモノを相手にした乱戦状態とは言え敵は1人だ…っ!
 剣を持ったT-260を初めとした射撃組との連携も意識していたのだからそれなりに仲間の位置や負傷具合も解っていた


 だが、途中からこの3名だけは完全に意識外の存在になっていた


 ゲン「…はははっ、やっぱ術士ってのはおっかねぇや、やれ祈祷師だ陰陽師だのと"呪い<まじない>"ってのは…イテテ」

 ブルー「あまり喋るな怪我人だろうが、バカめ」


 不愛想で余計な一言は付くが『怪我人だから無理するな』と言う旨な辺りコイツなりの優しさのつもりなのかもしれない
少しだけではあったが、正反対な印象を覚える紅い方の双子にほんの僅かに似通った根の部分をゲンは見た気がした


 ブルー「生憎と俺は[陽術]はまだ使えん、だから貴様にはこれから[活力のルーン]を掛ける、その後は武器強化だ」


 ゲンをある程度[巨人]から離れた位置まで連れて行きそこでルーンの一文字を蒼き魔術師は描き出す
[保護のルーン]は、というより[印術]自体が直接的な戦局を揺るがすダメージソースになりえる術系統ではない
 基本的に味方への援護、支援を主体とするのが目的で相手への攻撃を考えるのなら
初期術の[剣]を初め生命そのものを刈り取る[死神]、最大瞬間火力の[塔]など[秘術]が主となる


 敵がこちらの姿を知覚できないこの瞬間に、仲間の武器を強化する[勝利のルーン]や徐々に怪我を治す[活力のルーン]
豊潤な資金で揃えていた基本術を掛けて態勢を整えるのがベストと言える

 ルーンの小石を集めていたグラディウス組の二人が優先順位に沿って術力の続く限りで仲間の保護と支援を
唯一回復手段を持つスライムが[ユニコーン]に変身、一番深手のリュートを治しつつも俊敏さと耐久を活かし敵を攪乱
 ここまでがブルーの指示した策であった、尤も指揮した当人が危惧する通り全体攻撃が来て印術が解ければ
態勢の立て直しも何も全てが終わり兼ねない薄氷を踏む思いの下策ではある、…現状でやらんよりマシな唯一の策だ

少々書き直し場所が発生した為、次は土曜日更新予定


 術士とグラディウス組がルーンの加護を振り翳している合間[ユニコーン]と化したスライムは攪乱に動いていた
角先から治癒の奇跡を放ちリュートや傷ついたメカ勢の回復に努める
 [マジカルヒール]は生物だけではなくメカの損傷を修復できる力があるのだ、人間と違って[インスタントキット]等を
使わなくては直せない彼らを癒せるのは正しく奇跡と呼ぶほかない

 負傷者の手当と俊敏性を活かして怪物の視線を奪う、振り下ろされる[ブレード]の一撃を堪えつつも自身に
[マジカルヒール]を掛けて耐えきる…っ!伊達に"最速行動<ファスト>"で回復可能な訳じゃない


    巨人「オノレ、ウットウシイ…ッ!」グンッ


 怪物は手にしていた武器を大きく振り被った、ここまでは今までと何一つとして変わらない

 ただ不自然な風が一陣吹きだした、それが違いだ



  スライム「(;´・ω・)!?」ハッ!?


 地下基地の内部で生まれた不自然な気流、それは逞しい肉体を持つ化け物を中心に取り巻く"気<オーラ>"が成していた
仲間であるアニーやリュート、剣豪のゲンが当たり前の様に使ってきた剣気を飛ばす技の前兆だとスライムは察する



  ブルー『いいか、よく聞け俺達は[印術]やリュートの[バックパック]に入れてある物で可能な限り準備を整える』

  ブルー『それまでの時間稼ぎが貴様の役割だ、敵が広範囲攻撃を放つのを何としても阻止しろ』



 敵ランク9に該当される彼奴の代名詞と呼べる技――――[烈風撃]の前兆だッッ


 スライムは阻止すべく両前足を上げ、後方の2本脚だけを地につけたまま角を天高く掲げる
敵の創り出した風を利用する形で聖獣の角に風を纏わせる
 風の精霊、霊魂を使役して飛ばすモンスター特有の技術[シルフィード]を撃ち出し相手の技の発動を阻害せんとする



  巨人「ウゲッ、ジャマ ヲ スルカ…!!」ギロッ


 烈風が視覚化できる程に真空の刃を纏った[ブレード]に衝撃弾をぶち当てて空気を散開させる
目障りな群れを一気に殲滅する所を邪魔されて腹立たしく思った[巨人]のヘイトは当然スライムに向く

 全体攻撃の阻止と攪乱、仲間の準備が完了するまでのタンク役としての仕事

 圧倒的火力を前に瀕死になったとしても"最速<ファスト>"で自身を完治できるのだからこれ程お誂え向きなこともあるまい


―――
――


  リュート「うおぉっ!?ブルーお前何時の間に俺の傍に!?」

   ブルー「デカい声を出すな!…[保護のルーン]で相手が声も姿も認識出来ないとはいえ違和感を感じることはある」


 目の前で戦っていたゲンが突然消えた、何を言っているのか分からないだろうが神隠しにでも遭ったように消えた
超スピードとか催眠術なんてチャチなモンじゃ説明付かない物の鱗片を味わったリュートは直ぐに同じ現象に至った

 剣豪が居なくなりT-260と交戦を始めた[巨人]の元へ一角獣の姿に変身したスライムがすっ飛んできて
奇跡の輝きで腹部の負傷を治してそのまま敵に向かって突っ込んでいき随所をチクチクと[角]で突き刺しては離れていく
一撃離脱を繰り返していくのを見たのまでは覚えている、T-260を叩き潰そうとする絶妙なタイミングで視界を奪う様に
顔面の目ん玉狙いや武器を持つ手首の付け根など彼奴からすれば鬱陶しいことこの上ない戦い方だった

 気が付けばそんな自分の傍にいつの間にか蒼の魔術師が居て、女性陣と目の前で消えた筈のゲン、pzkwⅤにナカジマ零式
特殊工作車を修理しているレオナルド博士が居る


  アニー「あぁ…もう無理、あたしはそもそも術向きじゃないんだからね?」ゼェゼェ
 エミリア「コレ結構神経すり減るわよね、頭の中で文字を思い浮かべてるだけなのに…」グッタリ

  ブルー「メカ組の確保と能力強化よくやった、あとは貴様らの得意分野だ」

  アニー「ったく…へとへとだってのにまだ働けってのかよアンタは」


 悪態を付きつつ剣の柄を握りしめて不敵な笑みを浮かべる黄金髪と銃を取り『術を使うより楽そうね』と同じく笑う金髪
蜂蜜色の髪を揺らしながらブルーはリュートの[バックパック]を漁り"石"を数個取り出し告げる、今からが反撃の時だと

おつースライム有能
かつてこんなにスライムに光が当たったサガフロ二次無いのでは…


 蒼の魔術師は手にした"石"をそれぞれメカ組に持たせていく、弦楽器を背負った青年はそれを見て首を傾げた
彼は旅路の最中で幾つかその石を拾う機会があったが何に使う物なのか分からなかった
 [マンハッタン]の宝石店やアクセサリーショップで見かける綺麗な鉱石だな、くらいには思ったがそれだけで
そんなものを態々武装を取り外してメカに着けさせる意図が読めなかった


  ゲン「っしゃ、傷も完治したぜ…これならいつでも行けらぁ!」

 ルーンの効力で傷が塞がり更に勝利の加護が付与されて切れ味の増した武器を振るうゲン
特殊工作車の修理を終えたレオナルドも[勝利のルーン]によって今まで以上に早く直せたと上機嫌だ

 装備武器の効果性能を向上させる[勝利のルーン]は[修理装置]にもちゃんと適応される
リュートが保護の力で大怪物の視界に入らなくなる少し前に術士の策とやらは伝わっているらしく
 メカ勢全員が謎の石を鉄のボディへ取り付けていた



  ブルー「リュート、お前に渡してある[バックパック]にはこの"3つ"の予備がまだあるな?」スッ

 リュート「あるぜ、けどこんな時に綺麗な石っころでどうしようってんだい」


  ブルー「貴様今までコレの用途を理解せずに拾ってたのか…」



 レオナルド「軍師兼術士くん、こちらは準備完了だよ」

   ブルー「むっ…リュートいいか、お前は石が無くなった奴に片っ端から予備のそれを装備させ直せそれだけだ!」


 "準備"とやらが出来たメカ達を改めて見る、術士の男が何を考えてその指示を出したのか未だに彼には図り兼ねていた
高火力の重火器や業物の劔、そういった武器の類を一切外し変わりに全身鎧や盾を付けさせる

 …もとより外せない武器はそうだが何故か[火炎放射器]などを明らかに外した武装よりも弱い物を装着させていた


  リュート(???…一体全体何しようってんだ、マジで?)


 多少筋力や銃撃に必要とする集中力を落としてまで防御性と耐久、なにより丈夫さをあげた装備編成は
攻撃重視というよりも守りに特化していた

 ブルーはメカ達にも当然[勝利のルーン]だけでなく[活力のルーン]も掛けていた
ボディ全体の"丈夫さ<Vit>"を上げることや耐久力そのものを増強したことで[活力のルーン]効果を増やすことはできる
 然しながら機械は生物ではない、だから[マジカルヒール]なら兎も角普通の術による治癒効果はそこまで見込めない
微々たる回復量と取り外した武器の威力…天秤に掛ければ後者に傾きがあるのは当然だが…


―――
――


   スライム「(;´・ω・) ぶ…ぶく、ぶ…」ヨロッ…


 T-260の[多段切り]とスライムの攪乱によって[巨人]の屈強な肉体にも至る所に傷が出来ていた
常識外れのタフネスさを持つ怪物はそれでも未だ沈まず…っ!
 傷は癒せたとしてもスライム自身の消耗した体力と気力は戻らない、疲労の色が見え始めたモンスターと
エネルギー切れが近く[多段切り]も後数発撃てるかどうかのメカが1台

 大怪物はほくそ笑み、再び口から火炎を吐き出して手持ちの劔を赤々と熱していく


 巨漢は[ヒートスマッシュ]を一角獣目掛けて振り下ろす、スライムはそれを避けようとするも激戦で散らばった破片に
脚を取られそのまま四つ足を縺れさせてしまう…ッッ!


   スライム「Σ(・ω・ノ)ノ!ぶくっ!?」ガクッ、ドサッ



     巨人「カッタ!!シネィ―――!!」ブンッ



 赤々と照った金属が倒れた一角獣目掛けて落ちていく、T-260では位置からしてスライムと煉獄の刃の間に割って入り
救出することができない、攪乱してヘイトを一身に買う役目のスライムが居たからこそ
死角に潜り込んで切り刻むことができたのだ


 せめてもの抵抗とばかりに青肌の背中に剣を突き立ててそのまま上部へと裂く様に腕を振りあげるも
それでも悪鬼は止まらないッ!タフネスが売りのバケモノが今の今までメカ達の火力を受けて尚、強行してくるだけはある








      ブルー「この瞬間を待っていたぞ!全員突撃ィー―――ッッ!!」





  ドウッ! ドウッ! ドウッ!




 術士、策の発令を叫ぶ。


 それに伴ってリュートを除いた全員が護印の庇護から飛び出す
後部のバーニアを、各関節部のスラスターを吹かしての急加速、[ヒートスマッシュ]の一撃で先程沈んだ特殊工作車も
最速を誇っていた機動性を落としてでも頑丈さを取らせたナカジマ零式だって
 重装甲と化したpzkwⅤもレオナルド博士も皆が一斉に前に飛び出したのだ


 [保護のルーン]によって未だ透明化していたリュートは戦いの被害が及ばない離れた位置から見て思った


  リュート(なるほどメカの皆には火力要員じゃなくて盾役に徹してもらうって訳か…けれども―――)



 これ以上はどう足掻いても防御性を上げきれない、それ程の装甲と雀の涙ほどに微々たるとは言えルーン効果の自動回復
確かに味方が全滅するという確率はこれで各段に下がるかもしれないが…

 根本的な解決にはつながらない

 鉄壁の要塞だろうが究極の盾であろうとも敵に少しでも攻撃が通らなければジリ貧で終わる
攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ

 倒せなければ結局は時間をじっくり掛けた上で1人1人確実にこちらが削り切られる、防ぎつつも攻撃ができれば良いが
主要武装の殆どを外して防御面に極振りしている以上は前へ進めない、打開できないとリュートは見た




 メカ集団が4機掛かりで煉獄の刃を受け止めようとする寸での所で彼らは皆一世に片腕を天高く掲げた





    特殊工作車「オペレーション、カウンターシールドを発動します―――[紅炎石]を破壊!!」パキィィン

   ナカジマ零式「あっそーれ!!」パキィィン
      pzkwⅤ「砕けろッ」パキィィン

    レオナルド「やれやれ中々面白いこと考えるね、彼」パキィィン





 弦楽器を背負った青年は確かに見た。

 [マンハッタン]の装飾品店でよく見かけた"綺麗な石"を天高く掲げたと思えば指先で粉々に砕く様を
蒐集癖のあるグラディウス組と何気なくリュートが拾い続けた"3つの石"…ブルーが[バックパック]から取り出した3種


 即ち、[紅炎石]と[銀氷石]そして[雷の結晶]の3つである…ッッ!


 紅々と輝く柘榴石に似た輝きのそれは砕け散り、その破片はやがて吹き荒れる炎と化してメカ達の身体を包み込む
猛火に包まれているにも関わらず涼しい顔をする彼らは敵ランク9のモンスター[朱雀]が使うとされる[ファイアバリア]を
その身に纏ったのだッッ!

 4機の[ファイアバリア]を纏った鉄の要塞と[ヒートスマッシュ]がぶつかり合うッッッッ!!

 一撃の下に戦闘不能に陥った特殊工作車は今度は墜ちなかった、術士達の指示で取り付けた防御性極振りの装備故に
煉獄の刃を耐えきり更には身に纏った不死鳥の炎が[巨人]の劔を伝い、腕を焦がし青肌の巨体さえも業火に包んでいく…!


 手首の先から燃え広がり徐々に腕に肩に胴へ、[ファイアーバリア]による炎は水分の抜け切った枯れ木を燃やすが如く
大怪物を襲う炎熱の洗礼となったのを青の魔術師はその目で確認した
 修士として学院で勉学に励んでいた時分に学院の古書で遠い昔の"惑星<リージョン>"に存在した術に関して学んだ事はある
現代では失われてしまった系統の術だが"朱雀術"というもので[セルフバーニング]などと呼ばれていたらしい



 人間が使う術としては失われても、その術を用いた文化や技術自体がモンスターの能力として組み込まれたり
あるいは古文書…各地の神話や伝承と言った歴史書を頼りに現代の魔道や科学技術の髄を結集して
失われた術を限りなく再現しようとする試みは昔から存在する


 少し前に苦戦した[ゴースト]共の使っていた[邪術]

 今や無き術系統とされている[幻術]だって[陰術]と[妖術]にそれぞれ吸収された形式で形こそ変われど現代に存在する


 例を挙げるならばそれらが該当するのだろう
今回使用した鉱石の内1つは術や技術に心得のある者が少し手を加える事で疑似的に[セルフバーニング]を再現できる
 モンスターの吸収能力として姿形を変えた[ファイアーバリア]という形式名で…



    巨人「う、うがあああああああああああああああっっ」ゴォォォォォ!!


 これは堪らんとばかりに猛火の衣を纏った怪物は両腕で頭を押さえ振り乱す様に全身を揺り動かす
自らを蝕む獄熱のローブを剥がそうと大降りに動きつつも握り拳を開き武器を落とそうとしない辺り大した者だ

 相手の体積も右腕に装着した盾も屈強な肉体を護る鉄鎧も関係ない、ただ"自身に敵対の意思を持ち接触した相手"を
例外なく炎上させるのが[ファイアーバリア]なのだから…

 メカ4機分の推力が織りなす馬力ともなれば大怪物の筋力で振り下ろされた大質量の武器にも拮抗でき
敵の攻撃を防ぎつつも相手に大火傷を負わせる鉄壁の布陣は此処に完成した


 ナカジマ零式「ふぅ~っ!4人同時で受け止めれば流石に受けるダメージも軽減されまーすねー!」+HP85
    pzkwⅤ「分厚くしたおかげでそこまで痛くない上に自動修復されるとはいえそこまでじゃないけどな」+HP81

  レオナルド「なーに、だからこそボク達が居るのさ[勝利のルーン]で[修理装置]の"性能向上<WEA UP>"もされた」
  特殊工作車「今なら直せないパーツなんてありませんよ、ええ」



 BANNG!! ヒュンッ!ヒュンッ!


 跳び上がり敵の攻撃を受け止めた焔の防壁達が反動で後方へ飛び退くと同時に漸く鎮火し始めた[巨人]の青肌に無慈悲な
銃弾と剣気が襲い掛かるッ!勝利を約束する護印を刻まれた武器の味はさぞや痛かろう
 今まで攻撃を受けても顔色一つ変えずに剣を振り下ろす事を強行してきた大怪物が初めて苦痛に顔を歪め
流れる様だった動作に手を止める時間や勢いの衰えが生じ始めたのだ


     ゲン「帰って来たぜ!長い事待たせちまったなT-260!!」

    T-260「ゲン様の戦線復帰を確認、また自軍の防備並びに兵装の大幅な見直しも確認!連携主体の軸へ変更!」


 闘気を纏った一閃…!光の波が地を奔ったかと思えば怪物の鉄鎧ごと胸筋に一太刀が浴びせられていた
グラディウス組の攻撃の後間髪入れずに[燕返し]を放ったゲンが[ボロ]を旅立った時から付き合い続けた相棒の隣に並ぶ


    巨人「ツギカラ ツギヘト…ッ!!」ギリッ


 いつの間にやら消えたと思えば伏兵として帰ってきた侵入者共に腹を立てて武器を振りまわす、それに反応するように
やはりT-260以外のメカ達が前に出て立ち塞がる……未だ燃え続けたままで
 振るわれる大剣と燃え盛る要塞の激突、先の状況そのままに焼き直しだ
自分の意志で攻撃を仕掛けて自分から触れてはならない機雷に触れて火傷を負う

 鉄壁の防衛線で侵入者達へ決定打は与えられない上に自身は焼けて、更に相手に追撃の機会をみすみすくれてやるのだ
蜘蛛の巣に絡めとられた蝶にでもなった気分を[巨人]は味わった
 足掻けば足掻いただけ糸が絡まり雁字搦めになってどうしようもない、今の一撃で[ファイアーバリア]がやっと消えて
状況が少しは好転したか!?と思えば…



       ブルー「その御身を厄災の眼<まなこ>から逃れさせよ![保護のルーン]」フォンフォン!
      スライム「(。-`ω-)ぶくぶくぶー!」パカラ!パカラッ! 


 一角獣の背に乗って素早く回り込んできた術士が炎の消えた機械戦士を片っ端から[巨人]の意識外へと逃がしてしまうッ
次に出てくる時には裏方に回ったリュートの援護で[フリーズバリア]か[サンダ―バリア]を纏って現れる事間違いなし

乙乙


 武器を振り回す[ブレード]に属性を付与した[ヒートスマッシュ]と[アイススマッシュ]体格を活かした[グランドヒット]
目の前の大怪物はその殆どが近接格闘を主体としていて
 間接的な攻撃手段など[烈風撃]や[タイタスウェイヴ]に[地震]などであった

 収束させた気流を放つ烈風の技はともかく他の2つは使用頻度が高いとは言えない、大技であればある程隙が生じるから



 劣勢から拮抗へ、拮抗から優勢へ。


 勝利を約束されし武具の一撃は一発一発が序盤の痛みとは比較にならないもので着実に[巨人]の命を削り続けていた
反撃に転じようと愛用する劔を振るえば虚無から突如として湧いて出てくる雷を纏った鉄兵が受け止め
落雷に撃たれでもしたような痛みが全身を駆け、追い打ちの様に柄を握る手首に焔や冷気までもが突き刺さる

 棘だらけの茨を素手で殴りつけているような嫌な感じ、大幅なダメージ覚悟で隙を見せて広範囲攻撃に転じても
活力が滾る侵入者達は時間の経過と共に傷など無かったと謂わんばかりの状態に戻っているのだ


 最早どうにもなるまい、単純な戦闘能力だけでは覆しようの無い布陣が敷かれたのだ



   エミリア「そこだわッ!」BANNG!!
    アニー「[無拍子]…!」シュバッ


            2連携 [ 跳 弾 拍 子 ]


 2発分の[跳弾]が左右の肩に撃ち込まれ、速さを売りにしたアニーの回避不可能の切り抜けが青肌の脚の脛を切り刻み
遂にその巨体は喉奥から血反吐を吐きながら膝を折った、シールドを装着した右腕は崩れ落ちる身体を支える柱となるべく
床に掌をつけて……そして顔をあげた時に見た


 鉢巻を巻いた男の背に見えるはずの無い"月影<げつえい>"を幻視した――――ッ



        ヒュッッッ  ――― ― ―   ― -‐ ッ



 地の底で、この時分に見える筈の無い満月に人間の影が重なった
月の輪郭を沿ってかあるいは滑り落ちる様な[刀]の峰を見た、刃は幻想の月光の中に溶け込む様で見えなかった…

 美しく心さえ奪う鮮やかな、それでいて総毛立つ程にゾッとする白刃に怪物は見惚れた


 薄布のベール越しに透過して見える月の輝きだとでもいうのか、刀身はきめ細やかなソレのように幻想の美さえ魅せて








 [巨人]のその魂を刈り取った。






       巨/人「う  ケ  ガぁ?」




 顔がおかしい、目の焦点が合わない

 魅入った月が真っ二つに割れる、光の筋が走ったと思えば目線の真ん中に上から下に掛けた斜めの線が後を追い

ドサッ…


      巨「…ぉ」
        人「…ぁ?」


 青肌の悪鬼は顔から先の胴体さえも真っ二つに切り別れた
辞世の言葉が『ぉぁ?』と我が身に何が起きたか分からぬという言葉だけを残して…かくして激闘の"前哨戦"は幕を閉じた


 さて読者諸氏よ…ッ!我々は重大な事を一つ忘れていないだろうか!?
我らが愉快な侵入者御一行がモンド執政の秘密基地で最終防衛ラインの巨漢と激戦繰り広げる少し前に逃げ出した奴をッ!

 時間は少し前に遡る…

―――
――


  ワンダードギー「ハッハッハッ…へ、へへっ 見えてきたぜ!!あのドッグだ」タッタッタッ

 どさくさ紛れで逃げ出した下位妖魔は後方から聞こえてくる轟音に脇目も振らずただ一か所を目指していた
最下層周辺警備のメカや慌てふためく雇われのモンスター達の波を掻い潜って文字通りの"秘密兵器"の下へと…


       「しゅ、主任さんよォ!?一体どうなってんだい!?敵が近くまで来てんのか!?」
  ワンダードギー「うるさいっ!そんなことよりアレの起動準備を進めろ!!」

       「は?ア、アレって…それはウチの大将が乗り込む機動兵器だろ、勝手に起動なんて…」




  ワンダードギー「 つ べ こ べ 言 っ て ねぇ で 早 く や り や が れ !! 」

  ワンダードギー「モンド様からの直接命令だぞ!?」




 一世一代のチャンス到来、焦る気持ちからカッとなって怒鳴り散らしたことで幾分か冷静さを取り戻して
一呼吸置いてから堂々と『モンド様からの指示』だと嘘をつく
 自分1人でもできないことは無いが折角人手があるのなら最大限利用してやろうくらいの気持ちだった

 怪訝な顔をしつつも自分より立場の上に居る人物が更に上の者から命令されたのだとすれば…と彼らは奥に鎮座する
機動兵器の枷を外す作業へ取り掛かる



 それが彼らにとっての最大の悲劇の始まりとも知らずに


 その"機動兵器"は格納庫のドッグ内でしっかりと固定されていて、いつでも出撃可能な状態になっていた
下級妖魔は心臓の鼓動が早くなるのを感じる、夢にまで見た『力』を我が手にできるのだと意気揚々とコックピットに乗り
コンソールを弄って稼働準備を進めていく、ディスプレイに灯る光

 それに連動するように眠りから覚める様に赤く光り出すツインアイのカメラ
人間の手と同じ様に滑らかに動く5本指のマニピュレータ、図太い巨大な金属製の大脚



           『 Great Monde. 』


 "Great Monde<グレートモンド>"…その大型機動兵器の名称がモニター画面に表示された
下位妖魔はこの世に生を受けた事を認識して以来、未だかつてない程の喜びを噛みしめた


   ワンダードギー「…くっ、うくく、くはははっ…やった、やったぜ…遂にやったぜ!!!」


 殺しきれない笑いが、喜楽の感情が漏れ出す中[モンド基地]の全防衛システムと電力、火器系統にアクセスして掌握する
そしてメインカメラ越しに蟻にしか見えなくなったモンスター…先程[ワンダードギー]の言葉を鵜呑みにし起動立ち上げを
手伝ったモンスターの姿を認識した、集音器が拾った音声からして問題無いか?と叫んでいるらしい


   ワンダードギー「…ああ、問題ねーよ!」ガチャッ


 最終兵器と呼ぶに相応しい機動兵器は銃口を足元に居る整備士に向けて撃ち出す、一瞬にして起動を手伝った者は
穴だらけのチーズと化してその場に倒れ伏す…この事態に他のモンスターもメカも理解が追い付かなかった
 搭乗者の誤作動?いいや違う、裏切り行為だ意図的に撃ったのだと理解した時には全員が今際を迎えていた


   ワンダードギー「俺を見下してきた全てをぶち壊すんだ、これさえあれば妖魔の君を倒す事だって夢じゃねぇんだ…!」




    ワンダードギー「リージョン界を統べるのは『力』だ! それが解らねぇ野郎共に教えてやる…っ」

    ワンダードギー「力の意義って奴をなァ!まずはあの侵入者共からだ…あいつ等の体に直接、叩き込んでやる!!」

―――
――


 鞄から取り出した酒を喉に流す、体内に消耗した術力が滾るのを彼は感じながら思う
戦闘を終える度に勝利の美酒はこれだからやめられないと謳うゲンの気持ちも分からなくはないと
 命のやり取りをした直後の高揚、喉の乾きを潤すのが甘露水ではなくアルコールというのは好くは無いが
自分が一息つける環境に至れたと実感できる瞬間には違いない

 長距離走を走り切った後の息絶え絶えの所で座り込んで飲み物を一杯、今この瞬間だけはこれ以上頑張らなくていい

 何かの例に喩えるならばそんな言葉だろうな、嫌いじゃない…後ろを見やれば本職のブルーよりは
圧倒的に術力は少ないが多少消耗した女性陣も一口[術酒]を含んでいた、背景ではレオナルド博士やリュート等が忙しなく
メカ達の装備を防御性重視から元のプログラム装着を意識したINT用のメモリーや火器武装の取り付け作業に入っている
 既に切れた[活力のルーン]やスライムの治癒の光で肉体的な怪我も完治したと言っていい
最後はスライムに[巨人]の死体から細胞を取り込んでもらい技力の回復、あわよくば何かしらの戦闘技術を会得させる


    ブルー「どうだ?何か得るものがあったか?」

   スライム「(´・ω・`)…ぶー」シュン

   リュート「気にすんなって、お前さん今回大活躍だったんだぜ誰も責めねぇよ、なぁ?」


 弦楽器を背負った無職に振られて蒼い法衣の術士も肯定する、[ワカツ]到着から現在に至るまでの最大の功労者を
褒めこそすれど咎める理由は無い
 準備が整った所で荷物をまとめて通路の先を見据えた所で奥の様子がおかしいことにリュートが気が付いた


  リュート「んあぁ?なんだ~奥から変な音聞こえねぇか?」

  エミリア「変な音…ううん、そんなの聞こえないけど気のせいじゃないの」


  リュート「いやいや、聞こえるって俺ミュージシャン目指してんだから耳は悪い方じゃねーんだって」


 蒼き魔術師はいつだったかこの無職に『俺、いつかプロになって[マンハッタン]で公開ライブしてぇんだ!どうだ?』と
音楽にはそこまで詳しくない素人の自分からしても微妙な顔をするしかない歌を聞かされたのを思い出した
 首を横に振り払って変な記憶を掻き消しながらも彼に問う、どんな音なんだ?と


  リュート「なんか、こう…ガガガガガ!って銃声みてーな?にしちゃ普通のマシンガン的な奴じゃねぇなって」


 これまで[バルカン]を撃ち出すメカの敵とも戦ってきたがそれとは音の質が異なるらしい
機銃の音よりも轟く滝の傍で水が止め処なく落ち続けるような轟音だと




 彼らは知らない、それがこの通路の奥で機動兵器に乗り込んだ[ワンダードギー]が基地内のモンスター達を
通常のメカとは明らかに異なる大経口尚且つ尋常ではない数の備え付けられた銃塔でハチの巣を通り越しミンチにした事を


 使い捨てのカメラによる写真撮影も欠かさず、侵入者一行は基地の最奥へと向かう
そして長い通路の半分を過ぎた辺りで仲間の1人がいよいよもって異変に気が付き身構える


  アニー「待って様子がおかしいわ、……リュート、アンタがさっき聞いた音ってのは気のせいじゃないかもね」スッ

 リュート「えっ、この先になんかあんのか?なんでわかるんだ?」



  アニー「……鉄臭い上に焦げ臭い、血の匂いと"焼けてる"嫌な臭いが鼻に突くのよ」


 そう言われてスンスンと鼻をひくつかせるが弦楽器を背負う男にも魔術師やブロンド美女も一向に分からなかった
ただ一人、剣豪だけは見ればアニー同様に武器の柄に手を掛けて眉間に皺を寄せていた


   ゲン「分かってるじゃねぇかネエちゃんよぉ、ひり付いた嫌な臭いがプンプンしてくらぁ…」


 基地の最深部だ、重要な場所であればあるほど護られる機密も大きなもので防衛線もより堅牢、苛烈を極める物となる
ならばこの先に待ち受けるのはなんだ?[巨人]を超える程の恐ろしい物があるのか?

 それが侵入者である自分達を待ち受けている、にしては状況がややおかしい

 リュートが聞いたというおそらく攻撃音、そして血の匂いと生き物の肉が焼ける異臭が奥からする
そこから導き出される答えは基地内部の何物かが同じく基地内部に居る仲間を襲ったとしか思えない
少なくとも自分達より先に侵入していた先客が居たという形跡は無かった、……意を決して彼らは奥へと脚を運んだ


 進めば進む程に嫌でも達人達が嗅ぎつけた死の匂いが立ち込めているのが解った
薬莢の匂いとまだ床に残る真新しい血痕、空調が効いてるにも関わらずそこに残る熱、飛び散ったモンスターの身体と
物言わぬ屑鉄と化したメカの残骸…


 大型機材の駆動音、それは奥のドッグから聞こえてきて彼らを今か今かと待ち受ける様に唸りを上げていた



  ブルー「な、なんだというのだこれは!?」

 リュート「……こいつぁヒデェな」



 見渡す限りの朱、紅、赤…、漏れ出したメカのオイルに発火でもしたか炎上している箇所もあり、消火設備がそれを
必死に消そうと動き続けていた

 最早、この[モンド基地]は拠点としてまともに使えないのではないか、とそんな考えさえ過っていた
カメラで撮影してルーファスに写真を叩き付ける所の話ではないと判断して蒼き魔術師は提案する


  ブルー「……一応聞いておこう、幾つか十分な証拠写真は得た」

  ブルー「モンドという男の基地があるという噂を裏付けるには十分すぎるほどの物をな、此処で退却するか?」



   ゲン「…俺ぁ帰らねぇよ、[ワカツ]の真下にこれだけの事やらかす化け物が居るんだろ?」

   ゲン「なら…同胞達の安らかな眠りの為に、魂を鎮める為にも放っておけねぇからよ」


 俺は個人的に残るんだ、お前達は付き合わなくても大丈夫だ、と続けて言ってくれるゲンに対して
T-260を初めとするメカ勢が同行すると口にしリュートもまた…



   リュート「水臭いぜ、ゲンさん…正直に言えばおっかねぇから帰りたいけどよ…皆で無事に帰らねぇとな」ニカッ

    アニー「ここで帰ったらルーファスにグチグチ言われちゃいそうだからね、アタシも付き合ったげるよ」
   エミリア「まっ、そうなるわよね」



  ブルー「…はぁ、やれやれだ全く、貧乏籤を引かされたものだな…」スタスタ




 臆病者で無職の癖して[スクラップ]の酒場に居た頃からクーンを初め知り合った人物を放っておけない人情の厚い男は
カバレロ一味との対決時の様にゲンに付き合うと言い出した、尤も今回の基地潜入自体がモンド氏絡みだしもっと言えば
剣豪に頼み込んで[ワカツ]に連れて行ってくれと言い出したのはリュート本人だ、当然ながら思う事もある


 同じく義理堅い女のアニーも上司の愚痴が嫌だの任務が云々抜かすがそんな建前抜きに共に戦った仲間の為に
協力を申し出てることぐらいは誰にだってわかる、二人が残るなら放っておけないと同僚と友人の為にエミリアも…


 1人でさっさと[ゲート]を開いて帰ってもいいのだが、そうなるとここまで自分が来た理由が無いし上に
唯一[ディスペア]に足を踏み入れる為の鍵であるアニーに万が一があれば自分の資質集めの旅に支障が出ると想定され
 芋づる式にブルーの選択肢も決まった様な物であった

……もちろん、ブルーが残るならスライムも説明不要である



  ブルー(そうだろうよ、…こういう奴らだからな)



  "一応聞いておこう"、魔術師は帰還を提案する際に前置きで言葉をそう発した
知ってた、わかっていたとも…あぁ、解り切っていた、短くない付き合いなのだからどう言葉にするかなんて理解してたさ


 何が写真を撮って帰るだけの簡単な任務だ…とんだ貧乏籤じゃないか、内心で悪態を付きつつも
不思議と魔術師は悪い気はしなかった

 厄介ごとに付き合わされているだけ、客観的に見ればそうなのに。

 最近の自分はどこかおかしいのかもしれない、周囲の喧しい人間達に振り回されているこの環境が嫌いじゃないのだから
肩を竦めてため息を吐きつつもブルーは仲間達の元へと歩き出す、どうせなら未知の脅威とやらをこの目で拝んでやる
どんな化け物が出るやら、自分の魔術がどこまで通じるか試して見るのもまた一興、修行の一環だ、彼はそう結論付けた


 意を決して、最奥のドッグ内へと入り込み彼らは最終兵器の姿を捉えた…っ!
そのフォルムは神話に登場する半人半馬を連想させる屈強な四つ足、尤も手にしているのは弓ではなく
彼のサイズに見合う超大型のサブマシンガンであり、全身も体毛に覆われた生物然とした物とは異なる合金の塊だ
 上層で見かけた超大型の[Tウォーカー]等や[巨人]以上の巨大さに思わず侵入者達は息を飲んだ


   リュート「おいおい、子供向けのヒーロームービーに出てくる合体変形ロボのご登場かよ…」タラーッ

   エミリア「いや、本当デカいのに縁があり過ぎでしょ私達…」ゴクリッ


 鬼が出るか蛇が出るかと覚悟はしたが、正直舐めてたな―――これはいくら何でも規格外だ
見上げる程の機動兵器を見上げて多くの者が同じような感想を抱いた所で向こうは紅く光るツインアイカメラで此方を
認識してか声を発してくる、つい最近聞いた声だ


  『待ってたぜ侵入者共!基地の深部に来るのが目的だったようなんでなァ待ち構えてたんだ!!』



  ブルー「その声は…貴様さっきの捕虜か!?」


  『おうともよ!てめぇ等さっきはよくもこの俺をコケにしてくれたじゃねぇか…』

  『俺は"力"を手に入れたんだ!今まで俺を馬鹿にしてきた連中を全員踏みつぶせる程の"力"をなァ!』

  『リージョン界は全て俺様の物だ、トリニティも妖魔の君も全部俺様にひれ伏すんだよォォ!!』



 ゴオオォォ!スピーカーから操縦席に座る野心家の叫びが木霊する、―――馬鹿に鋏を持たせるなという諺はよく聞くが
気違いに刃物という例は正しくコレだろう、支配欲を持った小物がある日突然巨大な力を得ればこうなるのだと…っ!



  『外に出て色んなモンをぶっ壊す前にてめぇ等だ、覚悟しやがれ…ッッ!!』ドゥッ!


                    ――――ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォォ


 本来の搭乗者、モンド氏の名前を冠した兵器…[グレートモンド驚天]は轟音をあげて前進してくるッ
同時に[ワンダードギー]は掌握した基地内のシステムを作動させて自身達の居る"足場"を動かした



  アニー「おわっ!?」グラッ

   T-260「足場が上昇移動を開始!不安定な揺れによる回避率の低下が懸念されます!」グラッ


 ここまで降ってきた斜行リフトとはまた違う動き方をする足場、上昇に急速をつけ左右にも揺さぶりを掛けるのが何とも
嫌らしい動きである、喩えるなら荒れ狂う海上にポツンと取り残された丸太筏の上に突っ立ってる様な気分だ
 警告を発したT-260の言う通り不安定極まりない足場上での戦闘は彼らにとって不利なフィールドでしかない

 マニピュレータの指が大型機銃の引鉄を引いて[バルカン]を撃ち出し続けざまに肩のミサイルポッドから
[ミサイル]も撃ち出す、[ミサイル回避][バルカン回避]プログラムを持つメカ勢は兎も角
常に揺れ動く不安定な足場では十分な回避動作も取れず直撃こそせずとも大型機銃の銃弾が
床を削った際に飛び散った破片が身体に突き刺さったり、ミサイルの爆炎で火傷を負う者も出始める


    敵ミサイル『』ヒュルルルッ

   特殊工作車「危ない…っ [ヘッジホグシステム]!!」バシュゥッ!
  迎撃ミサイル『』ヒュルルルルッ、バッグォォォン!

   エミリア「熱っ!」

 本来、直接攻撃に対するカウンター用のプログラムで敵の[ミサイル]直撃から仲間を護ろうとするが唯でさえ
照準が定まらない、迎撃はできても相殺の際に生じる爆炎はどうしようもできない


   特殊工作車「す、すみません…」
    エミリア「いいわ、気にしないで…そんなことよりあの巨大兵器をなんとかしないと!外で暴れ出したら大変よ」

     ブルー「あぁ同感だ…あの妖魔リージョン界を自分の物にするとか言ってたからな」

     ブルー「ちっ、これはもう[ゲート]の術で一旦退却だどうのと言ってる場合ではないなッ!」

 自分達が暮す"全宇宙<リージョン界>"を蹂躙して自分が支配者になると宣うのだ
銀河の海に浮かぶ全ての"惑星<リージョン>"の危機とあらば当然[マジックキングダム]も例外ではない
 ブルーとしても自分は無関係だから黙って背を向けて去りますね、という訳には行かない


BGM:リュート編ラストバトル
[https://www.youtube.com/watch?v=2IHjW-u_cTQ]

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―――
――


 [グレートモンド驚天]は四つ足を巧みに動かし稼働中の足場を大きくグラつかせる、上昇リフト化した足場全体を支える
鉄骨も当然の様に揺れ悲鳴を上げる、激しい[地響き]の最中で脚部の膝関節部分に取り付けられた
火炎放射器からも[放射火炎]を吐き出し稀に股間部分にも取り付けられた衝撃波発生装置から[超音波]も発せられる


   ブルー「くっ…脚だ!全員彼奴の脚を仕留めろ…っ」グラグラ、ヨロッ…


   T-260「[多段切り]」ザシュザシュザシュ!
 特殊工作車「同じく[多段切り]」ザシュザシュザシュ!
 ナカジマ零式「は~い!もいっちょ[多段切り]」ザシュザシュザシュ!
   レオナルド「ボクも手伝うよ」ザシュザシュザシュ!



            4連携 [ 多 段 多 段 多 段 多 段 切 り ]


 [地響き]の影響下で"人間<ヒューマン>"とスライムが移動困難な中、安定した動きで巨大兵器のボディを
切り刻んでいく機械戦士達、連携さえ組めれば彼らのマシンパワーが産み出す剣技の強さに立っていられる者は居ない
 あの[巨人]でさえメカ組達の連携を恐れて組ませない様に立ち振る舞っていたのだから…



    pzkwⅤ「おらぁ!![ハイペリオン]を喰らいなァ!」
  陽子ロケット弾『 』バシュゥゥゥッッッ!ドゴォォォォ!!


 人間では決して繰り出せないであろう機械の剛腕による無数の斬撃、それによって出来た鋼鉄の四つ足の裂け目に
大火力の[陽子ロケット弾]の熱が浸透していく
 将を射んとせば馬を射よ、まずは敵の脚を潰して逃げられない状況にして同時に足場の揺れを産み出す[地響き]も止める
これだけでも大分戦いの流れは変わってくる筈だ

 ロケット弾が命中して黙々と立ち上る黒煙が晴れればそこには読み通りもう使い物にならないと思えるボロボロの脚
他にも肩部に取り付けられていたミサイルポッド等のパーツがバラバラになって転がっていた


   エミリア「足場の揺れが大分マシになったわ…っ!これなら―――」

 敵の武装も今の攻撃で大型機銃が"御釈迦になった"のだから警戒すべきは火炎放射と[超音波]くらいしかない
これなら労せずに無力化も可能か!?―――そんな考えが浮かび、それが甘い考えだと直ぐに思い知らされる



   ウィーン…ガコンッ!


  リュート「おろ!?なんだぁ足場の上昇が止まったみてぇだが此処は何処だ…後ろにでけぇドックがある」



      『くっくっくっ…このマシンがそんなヤワな訳がねぇだろォ!?』



 ウィーン!!

 ドッグ扉が開いて巨大なクレーンアームが伸びてくる…っ!基地内システムを掌握した下位妖魔は考え無しに足場を
移動させていたわけではない、最下層のグレートモンド専用外付けパーツ格納庫まで稼働させていたのだ
 アームに掴まってダメージを受けた機動兵器はドッグの奥へと運ばれ当然逃がす訳にも行かずに追撃を掛けようとするが


                   【 [敵の援護射撃] 】

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ…!


  ゲン「うぐあっ」ズシュッ

 アニー「痛っ――――天井に機銃が取り付いてるッ」バッ!


 全てのシステムを掌握済みなら火器統制の権限も彼奴が握っているのは当然で、この重要ドッグ前の侵入者迎撃用機銃も
操縦席の妖魔の意のままというわけであった


 ドッグ奥へと消えていった時と同じようにアームの腕に掴まれてグレートモンドは再び戦線へと復帰してきた
ただし、[グレートモンド驚天]から多少装備を変えた[グレートモンド動地]の姿でッッ!!


    グレートモンド動地『 [ブレード]装備 』グオォォォォンッ!ドウッ!!


    ブルー「何!?速いだと!?」


 四本脚は確実にぶっ潰してやった筈だ、手にした[ブレード]が敵機の復帰地点から一番近くに居たレオナルド目掛けて
動き出した所で彼は直ぐにその考えを振り払った

 メカ4機の[多段切り]と大火力の砲撃を受けて脚は使い物にならないほどの致命傷を受けた?
いいや違うね…あの脚は"ガワ"だ
 切りつけられた表面の皮だけを脱げる玉ねぎ、否、マトリョーシカ人形の様な物だ
表層が致命傷を負った所で外側のパーツを任意のタイミングでいつでも"脱ぎ捨て<パージ>"可能という仕組み
汚れた上着を脱ぎ棄てて、その下には傷や汚れの一つ無い身体があるのと同じ事

 しかも厄介な事に、要らんパーツを取り外した事で俊敏性が驚天形態の時とはダンチだ
4本脚自体の動きがより滑らかに尚且つ早く、ミサイルポッド等の重りも外れどうやら背部にスラスター付きと見た
 背部スラスター自体は後付けでなく元からの取り付けで、その上に取り外し自由の防御装甲が付いていたのだろうな


  レオナルド「これは…っ、なるほど重装甲を取り除いた事で重量が減り更にあの背部の輝きは…っ!」
    pzkwⅤ「先生っ!?うおぉぉぉ先生は私がお守りするっっ!!喰らえぇぇぇ」バッ、ガチャッ


 恩人の為に身を挺して、前に飛び出したpzkwⅤが[ハイペリオン]を構えて引鉄を引く…っ!しかし―――


  陽子ロケット弾『 』バシュゥゥゥッッ――――――ゴトッ…コロコロ!



   pzkwⅤ「はっ!?弾がそのまま落ちて転がって―――」ハッ!


  ナカジマ零式「い、いけませーん!これは[ECM]でーすッ!」



 上層で[スカイラブ]が戦闘時に発揮した対弾道兵器の妨害プログラムッッ!![ハイペリオン]の最後の1発は
不発弾として虚しく地を転がり、pzkwⅤの眼前には横凪で迫りくる青肌の巨漢のソレを上回る大型[ブレード]があった

   ガキィイィン!


   pzkwⅤ「がぶふぅっっ!?」ヒュバンッ


 機敏さを増したケンタウロス擬きの横一閃を諸に受けてそのまま吹き飛ばされる重火力メカ、彼の身は宙で回転しながら
再び浮かび出した足場から弾き飛ばされ、落下していく…っ!


  レオナルド「っ!pzkwⅤーー!」


 この高さから落ちてもメカならばコアが砕け死に至るという事は無いが、飛べない彼では戦線復帰は無理だ…
マニピュレータが振るった[ブレード]を仕舞うとそのままスラスターを吹かして[突進]を特殊工作車目掛けて仕掛けてくる
 大質量の巨大兵器の突撃で蹴り飛ばした後、直ぐに両前脚をあげて[ふみつけ]んとする脚と
狙われた特殊工作車の合間にゲンが割って入る


    ゲン「ふんぬぅぅぅっ―――ぅぎぎぎっ!!」[ディフレクト]


   『うおっ!このオヤジなんて馬鹿力だ…コイツの全重量乗せた両足を剣で受け止めやがった…!?』


    ゲン「おぃ、ボサっとしてねぇで、は、はやく 離れろぃ…」ギギギギギッ!


 四輪を全力でバックアクセルでその場から退避し剣豪も仲間が離れたのを見計らって直ぐに飛び退く
玉汗を滲ませながら今までの強敵との連戦が児戯に思える最終兵器の方を振り向けば
背部スラスターから紺碧色の光が飛び出す、夏の青空が如く済んだ青い光が1条、また1条と飛び回るナカジマ零式目掛けて
突き刺さっては爆発を起こす―――それはスライムの[シルフィード]に似た[スプレッドブラスター]の輝きに他ならない


  ナカジマ零式「ぐっばぁあぁッ……こ、これ以上は厳しいですか、ええーいならせめてっっ!!」ギュウウウゥゥン!

 紺碧色が空舞うナカジマ零式の身を突き刺し機体の制空が厳しくなったと判断して墜落交じりで[神威クラッシュ]を
[グレートモンド動地]へとお見舞いする、一矢報いると同時に激しい音を立てて墜ちた彼に直ぐレオナルドと工作車が寄る


 火花を散らすナカジマ零式の修理が急ピッチで行われる中、[神威クラッシュ]の一撃で入った罅目掛けて
アニーが[刀]で突き剣の技を撃ち込む、刀身の先を罅のど真ん中に定めてからの迅雷が如き突撃…![稲妻突き]が刺さるッ


   アニー「流石に勿体ないとか言ってる場合じゃない、コイツはアンタにくれてやるよ!!」ギュンッッッ!ドスッ!

 グレートモンド動地の装甲に入った罅『 突き刺さったアニーの[刀] 』バチバチ…!


 闘気を纏い稲妻を帯びた彼女の武器を機動兵器の装甲に勢いよく突き立てる
木材に釘を一本軽く立てて槌で一発殴った時に似た浅く、それでいて深く先端が突き刺さり外れない様と言えよう


   ブルー「でかしたぞ!エミリア貴様の腕っぷしでアレを奥まで刺し込めッッ!!」


 武器を失い手ぶらになって後退するアニーとすれ違う様に銃をホルスターに収めたエミリアが
ライザ仕込みの体術フォームを取って突き刺さった武器に拳を叩き込もうと狙いを定める
 左足で一気に踏み込んで跳び上り、右手の指先に闘気を込めた一撃を[刀]の柄に叩き込んだッ!!


  エミリア「もうっ!!女の子に腕っぷしで叩けとかデリカシーゼロなんだからっ!!!」カッ!!


 女心の分からない指揮者に愚痴の一つでも吐き捨てながら窮地を脱する為の策通りエミリアは気を一点集中させた一撃
[短勁]を杭と化した戦友の武器に打ちつける
 刀身は分厚い[グレートモンド動地]の装甲の中へと更に沈んでいき柄から先端へと闘気の熱が伝導して機動兵器の内部に
ダメージが浸透しているのが罅割れの隅々から溢れ出す輝き、パキパキと硬い物が内側から砕ける音で分かった


  『うお"お"ぉぉぉ"ぉ"ぉ!?…うぐぐ、やるじゃねぇか!だがまだ終わりじゃねぇぜ!』


 どうやら[短勁]の熱はガワ全体だけでなく操縦席まで僅かに浸透したらしい、下位妖魔の悲鳴と苦しむ声が
スピーカー越しに聞こえてくる、機体は今の一撃で大きく仰け反り両腕は情けなくバンザイのポーズで静止
 同時に杭打ちの攻撃に耐え切れなかった外側のパーツがまたバラバラと落下していく


  ウィーン!!
        ウィーン!!

                   【 [鉄柱攻撃] 】



  鉄柱『 』ブォンッ!
       鉄柱『 』ブォンッ!


 機動兵器をドッグ奥へと連れ立ったあの巨大アームが足場の上に居る者達を左右から弾き飛ばさんと襲ってくるッ!
数は1つ、2つ所の話ではない間違いなく全員の身体に打身を創る事が確実…っ!


   リュート「うべっ!?」ドゴォ!!
    ブルー「ぐほ"ぉっ!?」ドガァッ!
   スライム「(;゚Д゚) ぶぶーっっ!?」ゲシャッ


 鳩尾に赤いロボットアームの爪部分が入る者、肩を鉄骨部分に当てられ脱臼する者、下顎から蹴り上げられた形の聖獣
左腕がぷらんとだらしなく垂れ下がった術士は右手で左肩を抑えながら被害の程を確認しようと周囲を見渡す
 敵はまだ何か手札を出し切っていないのだ…っ!戦闘不能者は居るのか?まだ戦える者はどれだけ残っている!?

 エミリアと武器を失ったアニーも[鉄柱攻撃]にぶち当たったが痣こそあれど動く事には問題ない、ゲンは額から出血
避けきれずにアーム部分の爪辺りで頭部を負傷したか、メカ組は…っ!?


 ここで青の魔術師は今まさにこの瞬間、鉄柱がメカ勢を襲うのを目撃した
T-260は金属音を響かせながら御手玉よろしくと飛ばされて床に2度ほどバウンドした、直ぐに起き上がった所を見るに
戦闘行為の継続に問題無し、―――――問題ありなのは…ッッ!!


    ナカジマ零式「あわわわわわわっ!不味いです不味いですよーーーーっ!」バチバチ

     特殊工作車「…っ!じ、自分のプログラムは修理中では身動きが取れませんっ」ジジジジッ
     レオナルド「この位置は不味い…!……くっ、後で直すから許してくれよ!」バッ


 同じタイプ6型に該当する機械を修理するメカでも素となっているボディ、武装が違うのと同様彼らの動きにも
多少違いがあった、修理の真っ最中は動けない特殊工作車と中断して動けるレオナルドの差、後者はボディ自体が完全に
レオナルド自身のオリジナルだからこそ迫りくる鉄柱を前にしてできた咄嗟の回避行動である

 回避できなかった2機は鉄柱の一撃でpzkwⅤの時と同じく盤上から放り投げられた…っ!

ガンガンとそこかしこに金属の塊がぶつかり合う音が下方から聞こえてくる、着実に此方陣営の駒は減らされていくッ!


 盤上から2機のメカを退場させた代わりに向こうも重装が取り払われた
グラディウス組の攻撃で壊れた装甲毎[鉄柱攻撃]を行ったアームが機動兵器を持ち上げて上方へと運んでいて
 四方八方から襲い来る鉄柱の対処に追われた彼らが一波乱を漸く乗り切った後には次の形態に移行した兵器が上から
足場へと降り立った頃であった

 [グレートモンド威力]…そう称される形態は神話の獣と違い次は4つ足ではなく2足歩行の限りなく人に近いシルエットだ

 ただ両腕の手首よりは松葉杖を持った怪我人よろしくとガトリング機銃が伸びていて肘に当たる部分には
[バックラー]タイプのシールド装甲、背部には展開式の折り畳み[ブレード]を収納

 肩には[ハイパーバズーカ]と威力という名を冠する通りの[レールガン]が装着されていたッ!



  『うははははっ!踊れ踊れぇ!死のダンスだ!!』ズガガガガガガガッ

 ゲン「クソッたれめ、本当に玉ねぎみてーなロボだぜ!剥いても剥いても中身が出てくらぁ」


 [バルカン]を撒き散らす巨大兵器に悪態を吐く、倒したかと思えば次の形態になって戻ってくるこのくどさ…!
両腕から乱射される豆鉄砲はまだどうにかなるとして[レールガン]の威力には手を焼く
 [ディフレクト]で弾こうとするが弾圧が普通に重い、自分の力を以てして確実に仲間を護り切れるかどうか不明瞭ときた


   T-260「敵の銃塔を破壊し行動の制限を図ります」ピピッ
 レオナルド「随分な兵器じゃないか、こんなのトリニティには無かったよ本当…っ!」


 倒せば倒す程に厄介さを増す敵の兵器にT-260とレオナルドが[多段切り]を決めようと接近を試みる
 

            『ぎゃはははっ、わかってんだよ!』

                【 [無伴奏ソナタ] 】

 ポロロロ…♪ ポロロロ…♪


 メカ2機が切りかかるのを読んでいたと謂わんばかりに"最速行動<ファスト>"で奏でられる電子音が辺りに木霊する
酷く耳障りで鼓膜が破けるんじゃないかとさえ思える大音量で発せられる特定コードを織り交ぜ込んだ音色


      T-260「!!! システムに異常あり、シス…ムに異……り!」
   レオナルド「こ、この周波数は、不味い、ぞ」ギギギッ

    『いい加減目障りなんだよッ!こいつで消えちまいな!』ガシャッ!


 メカの機能を麻痺させて"行動をスタン"させる特殊音波によって動かなくなる2機、彼らに目掛けて
肩に担がれた[ハイパーバズーカ]の弾が炸裂する
 機銃や[レールガン]に翻弄されて2機を直ぐには救援に向かえなかったゲン、同じくリュートやエミリア
失った武器の代わりをブルーから受け取るべく後退したアニー、[鉄柱攻撃]で受けた仲間達の回復に努めたスライム
 誰が居ても爆風で場外へ吹き飛ばされるメカ達を救えなかったのは仕方がない事だろう


     『厄介な屑鉄共は居なくなった、次はお前達の番だッ!』

    ブルー(くっ、レオナルド達が落ちたか…!!このまま人員が減るのは不味い何か無いのか!?)キョロキョロ!


 下位妖魔の叫びが聞こえた後[グレートモンド威力]のバズーカ砲は弦楽器の青年と剣豪の方向に向き始めた
それを見て術士は何か無いかと辺りを見渡し――――


 ブルー「…ハッ!アレだッ! スライム、エミリア!誰でもいい奴のバズーカ穴に入れろ![エナジーチェイン]!」バシュッ


  エナジーチェインの鎖『 不発に終わったpzkwⅤの[陽子ロケット弾] 』シュルシュルッ!ギュッ!
 ブルー「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」ブゥンッ!


 宙に投げ飛ばされる陽子ロケット弾『 』ヒューン!

  スライム「(。・`ω・) ぶくっッッ!!」ヒュバッ!タッ―――ガツンッ!


 レオナルドを庇って前に飛び出たpzkwⅤが先程撃った[陽子ロケット弾]ッッ!!不発に終わり落ちてコロコロと転がった
その弾を思念の鎖で縛り上げる、魔術の熱でジジジジッと嫌な音を立てながら熔解しつつあるそれを直ぐ様
上方へと投げ飛ばす、一角獣と化したスライムは脚力を活かして一気に飛び出し
 首を大きく振って額の[角]を使い黒煙が立ち上り出した弾をフルスイング!!

 下位妖魔が今まさに剣豪達目掛けて[ハイパーバズーカ]のトリガーを引こうとした瞬間でバズーカの発射穴へと
[陽子ロケット弾]の弾がゴールインを決めた…っ!


 暴発。 発射口にすっぽりと入り込んだ不発弾と[ハイパーバズーカ]が砲塔内で誘爆を引き起こす
当然の事ながらバズーカ砲は使い物にならない状態となり、機体全体が炎上していく
 既に分かり切っていることだがこの兵器最大の利点は装甲のパージが可能ということだ
勢いよく燃え上がる砲塔、肩から腕まで燃え広がるシールドやガトリング機銃部分を脱ぎ捨てて芯の部分、搭乗者の居る
コックピットを守ろうという行動に移る

 "動地"から"威力"へと変わる際には巨大[Tウォーカー]の格納庫のエリアで一旦止まったが
今回もまた更に一つ上に階層へといつの間にやら昇っていたようだ燃え上がる衣を脱ぎ捨てたメタルボディは
侵入者達と対峙した時と比べて幾分も小さくなった



 第1層、我らが侵入者御一行が[ワカツ]の裂け目から[モンド基地]へと乗り込んできた際の出入り口がある階層まで
舞い戻ってきたのだ…っ!

 身を大きく振り乱しながら燃える鉄塊と化したパーツをばら撒き敵を近づかせないようにしながらもアームに掴まった
機動兵器は正に"人"と表現するに相応しいシンプルなデザインと言えよう
 4本脚でもなければ無骨な重装甲と火器の怪物でも無い、"[巨人]と変わらぬサイズのシンプルな人型兵器と呼べよう"



   ウィーン!


 赤爪のアームがこの階層にでもあったのか布に包まれた"何か"を持ってくる…っ!
何も着飾らない機動兵器はそれを手にして勢いよく布を取り払う



 …それはモンド氏がかの"悪の秘密結社"と秘密裏に取引を行った末に開発した超兵器[バスターランチャー]だッッ!



 神話の半人半馬や重装鎧の怪物と違った平凡な見た目に反して"神"の名を付けた形態…[グレートモンド超神]
神を超えし者という製作者の傲りなのか、それともこの形態に移行することで
初めてマニピュレータが反応できる先述の超兵器を使えるからついた名称なのか…

 身に余る力を手にして天狗と化した下位妖魔は[ECM]の力場を掻き消す[カウンターECM]を作動させる
神超えし者の力を誇示せんが為だけに隠し武器の一斉射出の準備を始めたのだ


      『見るがいいこれぞ超神の姿だぁーっ!!』


 リュート「うげっ!?なんじゃあのミサイルの数はぁ!?!?」


 超神は大の字になるように手足を広げて仰け反らせる、カシュっと音がして人で言う所の腿、胸部、腕肩、背部
あらゆる部分から小型のマイクロミサイルが顔を覗かせていた
 操縦席で下級妖魔は感極まった声を上げながら[全弾発射]を行使した…っ!


―――――ボッッボボボボッ、ボッゴォォォン!


 場に嵐が吹き荒れる、透き通る水の雨粒の代わりに先端が真っ赤な小型兵器が火の尾を引いて彼らを包囲し
それでいて着実に逃げ道を奪うように包囲網を狭めていく様に降り注ぐ

 巻きあがる黒煙、吹き上げる火の粉、メカに比べて脆弱な肉体の人間やモンスターは熱渦に絡めとられ身を焦がす
その様を巨大メカの操縦席という鉄の揺り籠から彼奴は見下ろしていた
 この禍中で自分だけが絶対的な安全を約束されているのだと、ほくそ笑みメインカメラで小虫の舞は如何ほどかと眺める


  リュート「ぐっ、あぁ"、おい、皆無事、か?」ジュゥゥゥ

  エミリア「…生きてはいる、けど、ね」ヨロッ…

 舞い踊る炎と渦巻く爆風に手を引かれて踊りたくもない円舞曲を踊らされた面々は全身ズタボロの満身創痍
回復手段の[マジカルヒール]を使えるスライムも直撃を受け失神していて[バックパック]持ちの自身が起こさねばと
焼け爛れた片足を引き摺ってリュートが仲間の元へと進んでいく


  リュート(他の3人は…)チラッ


 青年は辺りを見渡す、得物を杖代わりに片膝をついているがゲンは未だ辛うじて動けそうだが
倒れ伏したアニーと指先は動いているが身を起こせないらしいブルーの姿が目に入る
 彼らも助け起こしたいが人手が足りない、スライムを一刻も早く起こさなくては…っ!


 『仲間を助け起こそうったってそうはさせねーよォ!!』 


 [全弾発射]後の黒煙を煙幕代わりにスライムまで近づこうとしていた彼を妖魔は決して見逃さなかった…!

さすがに強いなあ
それにしてもモンドさんはどう思うんだろうこれw


 超神は[バスターランチャー]を振り回して弦楽器の青年を叩き潰そうと試みる、どうやら鈍器としても優秀らしい
普通なら故障の原因となり得る乱雑な扱いでも問題ないと言いたげにランチャーで相手の脳髄を真夏のスイカ割りかと
思うような全力の振り下ろし―――[ブレインクラッシュ]で潰そうとする


 『はっはっはーっ!ぶっ潰れちまえぇぇぇぇぇぇぇ!!』ブンッ

  リュート「うっ!?」

 さしもの楽天家も今度ばかりは不味いと死を覚悟するのだが…っ!


   ゲン「っうらああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」ダッ!ドガッ
 リュート「うわぁっ!?」ドンッ、ゴロゴロ…!


 片膝をついていたゲンが悲鳴を上げる身体に鞭を打ち、死が降り注がんとする青年をその場から突き飛ばす
剣豪も青年も九死に一生を得るのだが、その行動が下位妖魔には気に障ったようだ


  『 ク ソ 死 に ぞ こ な い の オ ヤ ジ が ぁ ぁぁ !! さ っ さ と 死 ね や!!!』

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!!


  ブルー「ぐっ……ハッ!なんだ、この熱量は!?あの砲身から…コレはいかん!!」ズズッ
  アニー「ぅく――――な、なに、あたし気を失って?…!? なにあのバカでかい光は!?」パチッ、バッ!?


 痛みから身を起こせない魔術師と飛んでいた意識が戻った女は剣豪に対して向けられた超兵器の輝きを見た
渦を巻く膨大な熱エネルギー、それこそ遠く離れている筈の二人にまで熱が伝わる程の異常数値
 誰がどう見ても一目で理解できた、アレは当たれば確実に死を招くと…!今までの攻撃とは次元が違い過ぎるッ!


 エミリア「――っ、ゲ、ンさん…!!」ヨロッ


 [バカラ]の[巨獣]戦で術士を救出したときの様に[スライディング]で横から掻っ攫って彼を救う事も考えたが
エミリアの脚は動かない、それは偏に負傷した足が思うように動かぬからか
あるいは超神の名に相応しい超破壊的エネルギーに委縮したからなのか…

 突き飛ばされ、そのまま転げたお陰で難を逃れ目標地点までの距離を一気に縮めた青年も当初の目的であるヒーラー
スライムを[最高傷薬]で助け起こし直ぐにゲンの方を見やる

                "もう駄目だ、間に合わない彼は助からない"

 誰しもがこの時同じ考えに至った。



                  【 [ バ ス タ ー ラ ン チ ャ ー ] 】   




 刹那、光が迸った

何もかもを飲み込む破壊衝動を体現した波動が渦を巻いて剣豪の身を包む、光芒に呑まれ…彼の、ゲンの精神は、途切れた



      リュート「っっ! ゲ ン さ ぁ ぁ ぁ ぁぁぁ ぁぁ ぁー―――ん!!!」


  エミリア「…そ、そんな」ガクッ
   アニー「嘘、嘘よ、こんなの…」
   ブルー「っ、ゲン……」グッ


 青年の悲痛な叫び、光が収まった後に黒焦げになった男が1人握りしめていた業物を手放して音もなく倒れる姿
それを見て膝から崩れ落ちる者、信じられないと言わんばかりに首を横に振り震える者
 短い間とは言え情が湧いていた男の最期に奥歯を噛みしめ怒りを覚えた者、…哀しみ、失意、否定、怒り、皆誰しもが
その順に心の奥から湧き上がる感情に困惑した、同時に本能で理解した

 仲間を失った悲しみと理解が追い付かないが故の虚無感、目の前の惨事への否定からソレは
徐々に引き起こした者への怒りに変わっていく、早い話が仇への復讐心だ


   アニー「アイツだけは許せない、絶対ぶちのめしてやる…っ」グッ!
   ブルー「…ああ、よかろうゲンの弔い合戦だ」キッ!

 青年と一角獣の回復を受けて立ち上がった仲間達が次々と闘志を燃やす、当初此処に来た目的なぞ最早どうでもいいッ
あるのは至ってシンプルな思考ッ!神を超えし者を自負する機動兵器に対する復讐心のみッッ!

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                  【解説 グレートモンド に関して】

 サガフロンティア、全7主人公(+リマスター版からヒューズ)の内リュート編に登場するラスボスの1人

 原作に置いてトリニティ政府への謀反を企てているモンド執政官が直接乗り込んで戦う大型機動兵器
 このラスボスは他主人公と違って各形態変化にHPが設定されていて、それを削り切ると次の形態に移行する特徴がある

 次作の卵にもその構造は継承されている、各形態にそれぞれHPがあり行動パターンも大きく変わる点まで

 HPを削り切ると鉄柱のアームがやってきてグレートモンドを回収、次の形態に変形した状態で戦線復帰してくる
 その際は足場の上昇中や実際に攻略してきたMAPの各階層で足場が停止したり地味に背景が細かい
 ちゃんとドックや[Tウォーカー]が映っている


 なお、グレートモンド戦は毎回5ターン経過毎に[敵の援護射撃]、[鉄柱攻撃]が発動するので戦闘不能者がいると
 LPが削られるので地味に鬱陶しい


・ グレートモンド驚天

・ グレートモンド動地

・ グレートモンド威力

・ グレートモンド超神

・ グレートモンド魂



 形態:驚天

 屈強な四つ足の巨大メカで一番最初に戦う形態
 最初の形態だけあって[バルカン]や[放射火炎]、[ミサイル]などそこまで脅威性は高くないのだが
 範囲攻撃の[超音波]また全体攻撃の[地響き]を行ってくるので油断のし過ぎも禁物

 [超音波]に関してはこの形態と"動地"までで以降はしてこないから早期に2形態倒すか精霊銀装備で完封すればいい
 [地響き]の方は驚天形態限定でしかやってこない技だから地耐性まで用意する必要は正直そこまでは要らない

 なお、死に際に[ECM]を使って場全体をミサイル無効状態にしてから動地形態に移行する


※ ……物凄く今更ですが、[ECM]はミサイル攻撃が必ずmissになる様にする効果であって
   陽子ロケット弾やナカジマ零式が飛べなくなるなんて仕様は無いです、当SSだけです


 形態:動地

 基本的には前の形態と変わらないが[ミサイル]や[バルカン]が無くなり、代わりに[ブレード]と[ふみつけ][突進]が追加
 そして[スプレッドブラスター]を撃ってくるため若干火力は上がっている脅威性もまだ高くはない為、十分に対処可能


 形態:威力

 ここから2足歩行の兵器に変化、再び[バルカン]をしてくるようになり
 新たに[レールガン]攻撃と[ハイパーバズーカ]が追加されるのだが正直に言うとこの形態も十分鍛えてれば脅威ではない


 形態:超神

 長い前座が終わって漸く本番に入った超神形態だが、これで特筆すべきは4ターンに一回
 必ず[バスターランチャー]を撃つ行動パターンが組み込まれていることだろう


 ラスボス固有の所謂、超必殺…グレートモンドに該当するのが[バスターランチャー]であり
 恐ろしい事に威力が 脅 威 の 4 桁 ダ メ ー ジ なのである!


 サガフロのシステム上、主人公達はHP999でカンストなので4桁ダメージなんて喰らったら確実に死ぬ

 防御力無視攻撃なのでいくらDEF<防御力>を装備品で高めても意味はない
 戦闘コマンドの防御でダメージを軽減はできるが普通に痛い
 また直線状の敵を巻き込むライン状の範囲攻撃なので対象キャラの近く(真横)、そして前後に居るキャラも
 巻き添えでダメージを受ける、流石に余波を受けるキャラまで4桁ダメージとまでは行かないが

 超神形態は初手で必ず[カウンターECM]を発動させて自身が最初の形態で発動させた[ECM]を掻き消し2ターン目で
 [全弾発射]を行ってくる、その後は[ヒートスマッシュ]、[ブレインクラッシュ]の打撃系を初め
 [突進]と[スプレッドブラスター]…それから[ビット]を飛ばしての攻撃が主となる

 これを撃破したら最期はいよいよ[グレートモンド魂]形態と戦えるのである

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    リュート「ブ、ブルー待ってくれ!」ガシッ

 術士が最大攻撃術の詠唱に入ろうとした時に声を上げて腕裾を掴む男がいた、彼の方を振り向けば彼は鞄の中身を
引っ繰り返した様にぶちまけて倒れたまま目覚めないゲンの身体を止血すべく包帯を巻いて医薬品の注射器を使用していた


   リュート「俺はまだ諦めちゃいねぇ!ゲンさんに[活力のルーン]を…[活力のルーン]を使ってくれよぉ!」

    ブルー「……その[最高傷薬]を注入しても意識が戻らんというのなら、…つまりは"そういうこと"だぞ」


 言外に、もう手遅れだとブルーは告げる

 例え人であれ妖魔であれ、モンスターにもメカのコアにだって生命力<LP>というモノが存在する
生きとし生ける者全てに存在する魂の輝きそのものだ
 魂が尽きた時、その者はこの世を去る…当たり前すぎる自然の摂理といえよう


 目を一向に覚ます気配の無い彼の意識は黄泉に居るのだと…っ!蒼き魔術師は「ゲンは死んだ」という言葉こそ使わない
だが二度と目覚めさせることはできないと、そう口にしたのだ…!!


 リュート「…ッッ!」グッ
 リュート「…。」


 リュート「…薬が回るのが遅いだけってこともあるさ[傷薬]で気絶したお前ら起こす時だって直ぐに目覚めないんだぜ」

 リュート「個人差だってあるかもしれねぇ………ブルー、頼むよ」


  ブルー「……。」


  ブルー「万物の慈母神の名の元に生命を繋げし印を刻み錫―――[活力のルーン]」フォン!フォン!

 リュート「…!ブルーっ!」


  ブルー「スライム!貴様はコイツ等に付き添ってやれ、お前がコイツ等を守るんだ!」
 スライム「Σ(・ω・ノ)ノ! ぶっ、ぶく!?」


  ブルー「…。」スッ

 蒼き魔術師は途切れ掛けの生命の線と線を繋ぐ守護印を剣豪に掛けて一角獣も護衛につけさせた
それから――――無言でリュートの[バックパック]を拾い担ぎ上げる


   ブルー「貴様は戦うな、ここに居ろ…………今の貴様では足手まといだ」フイッ
  リュート「ぅ…」


 声に感情は乗っていなかった、怒りでも呆れでも哀れみも失望でも何も無い、無機質な声で告げられた戦力外通知
いや…もしかしたら敢えて声に感情を乗せない様にしていたのかもしれない

 床に散らばった幾つかの医薬品をかき集めるでもなくそのままそこに残して大分軽くなった[バックパック]を背負い
蒼の術士はそのまま苦戦を強いられているグラディウス組の元へと走り出す


   ブルー(…チッ、俺もヤキが回ったか!?)タッタッタッ!


 誰がどう見ても助かる見込みなどない、だというのに自分はなんなんだ!?
1分1秒を争うこの重要な局面で無駄に時間と術力を浪費して[活力のルーン]を刻み、あまつさえ貴重な戦力と
戦線維持のヒーラーであるスライムを護衛につけさせるなどと…っ!!全滅すればゲンが身を挺して仲間を救った事も
その仇を討つ者もいなくなり全ては無意味になるというのに…ッ!


 この時、術士はまだ気付いていなかった…。


 自分でさえ非効率的と思ったのに何故か剣豪へのルーン付与やスライムを残した事への戸惑いと
 全滅すれば"仲間の仇を討つ者が居なくなる"という目的自体が祖国を護る事でも自身の生還でもない事実…







 今この瞬間だけは目の前の機動兵器を放っておけば祖国のキングダムにも影響が出る事や生きてルージュと出会って
決闘を果たすという己の使命でさえも忘れて、ただ純粋に"仲間"の事だけを行動原理にして動いている自分自身に…っ!

―――
――


 背部からの[スプレッドブラスター]と射出された[ビット]によるビーム攻撃でグラディウス組を追い込んでいく
青空色の輝きが拡散からの収束へ、不規則な機動で死角に回り緑色の光線を撃ち出す子機
 厄介な2色の光条は流れては身を掠め、時には躱しきれずに肌を焦がしていく


  ビット機×4『 』ビュンッ!ビュンッ!
  エミリア肩『』バジュゥゥッ!


  エミリア「あぁっ!?」
   アニー「エミリアっ!――ぐっ!?このっ」サッ、ビュォッ


 左肩を焼かれて苦悶の表情を浮かべた年上の後輩に声を掛けながら黄金髪の女は飛んできた光を躱し様に[飛燕剣]を放つ
ビット機を1基潰したがまだ3基残っている、踊る様にクルクルと獲物を取り囲むハイエナの様にグルグルと宙を舞っている


    ブルー「爆ぜろ![インプロージョン]」


  ビット機×2『』ドゴォォン!


   アニー「来るのが遅い!」
   ブルー「わかっている!!――エミリア、使え!」ブンッ


 一気に2基まとめて[ビット]を破壊した術士はリュートから取り上げた[バックパック]から[最高傷薬]を取り出して
被弾の多いブロンドの女に投げ渡す、それを受け取った相手は直ぐ様患部に使って残りの1基を撃ち落とした
 止血や鎮痛だけでなく気付け薬としても効能があるこのご時世の回復薬だ、痛みで意識が霞みかけていたが集中力を
取り戻してからの射撃はビット機が光線を放つよりも先に核の部分を撃ち抜く


  エミリア「リュートは!?」

   ブルー「奴は来ない、それよりも前に集中しろ来るぞッ!」


 来ない仲間の事を問う女に対してリュートは来ないとだけ返し、目の前の機動兵器に集中しろと叫ぶ
言われて顔を向ければ彼奴の手にはこの宇宙開拓時世に開発された[最高傷薬]でも目覚めぬ程の大怪我を
ゲンに負わせたあの忌々しい[バスターランチャー]が向けられていたッッ

 その威力を目の当たりにしたが故に彼女も当然身構える…!しかし相手はそれで此方を狙い撃つでもなく天井へ向ける


  アニー(撃ってこない…?)


カシュッ!
ブシュー――――ッ!!


 天へとランチャーの砲身を向けた[グレートモンド超神]は排莢式ボルトアクションでもする様に手を動かす
するとどうだろう、夥しい程の熱が砲から抜けていくではないか
 湿度と気温の高い真夏日にアスファルト上で見かける陽炎現象が発生していることから
その熱量がとんでもない物だというのは解る、光の屈折を曲げて景色がゆらゆらと揺れて見える程の超高温の空気


   ブルー(あの兵器…威力が高いがその反動で熱が篭る、だから排熱が必要で連発で撃てないということなのか?)


 1発撃つ度に排熱処理をしなければ砲身自体に熱が溜まり続け暴発<コッキングオフ>を引き起こすのではないか
そう考えれば自ずと相手の隙、反撃のチャンスは見えてくると術士は考える


      『休む暇なんて与えねぇ、コイツを喰らいやがれ!』


 ランチャーの排熱をそのままに燃える様に熱い砲身を機動兵器は振り回す、それは[巨人]が使っていた
[ヒートスマッシュ]と同じ威力と言えよう



       「させませーん!喰らいやがりなさーい[神威クラッシュ]――!!」ビュオォッ!ドッコォォォッ

       『ぐおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!?』グラッ


 超神が[ヒートスマッシュ]を叩き込む為に振り上げた右腕に何かが突っ込んでくる
捨て身の一撃を放ったのは…っ!

神威クラッシュすき

すいません、続きは明日に変更で


 機動兵器に捨て身の一撃を放ったのは古めかしい戦闘機に似たシルエットの仲間、ナカジマ零式だったのだ…っ!
侵入者に対して死の裁きを行う瞬間に待ったを掛けた闖入者の姿に敵も味方も眼を見開く


      ブルー「零式、貴様は墜ちて行った筈―――」

 特殊工作車共々に[鉄柱攻撃]の餌食となり盤上からつまみ出された、確かに彼は飛行能力を有したメカではある
ならば自力で戻ってきたと言われても不思議ではないが、今彼らが戦っている可動式の足場はそれなりの速度で上昇
最下層から一気に入口付近まで浮上して更に右だの左だのとフロア内を忙しなく動いているのだ

 目標地点自体が常に動いているし速度も相当にあると来た
零式が如何に飛べるとは言えこうも忙しなく動く足場の行き先を事前に特定して合流できた説明が付かない

 それと全く同じ考えに至っているのか、超神も戦線復帰を果たした敵の一味に動揺を隠せないでいた


   ナカジマ零式「おーっと!私だけじゃあ~りませんよ!」

 墜ちた筈だ、そう問いを投げた蒼き魔術師の言葉を遮る様に紡がれる陽気な機械のメッセージは彼らに更なる驚きを齎す


 ヒューン!

 ヒューン!
 ヒューン!
 ヒューン!
 ヒューン!!!!!

    エミリア「っ!?何アレ!?なんか小型の特殊工作車みたいなのが大量に降ってきたんだけど!?」

 真上からいっそ気持ち悪いと感じられる程の集団が…っ!小さな蟻、あるいは子蜘蛛の大群か
わらわらと"特殊工作車瓜二つの小型メカ"が大量に降り注いでくるではないかッ!
 小さな機械軍は超神の身体に激突や武器を持った隠し腕で攻撃をしていく、蜂の巣を落として
蜂に集られた様な状態と化した超神は手やランチャーを動かし振り払おうとするが物量的にそれは不可能で


   小型工作車『 』…ジジジッ!ボッコォン!


  『ぐおおおおおおぉぉっっ!?爆発しただとぉぉぉ…ハッ!わかったぞこれは[どっきりナイツ]か!?!?』


 ―――[どっきりナイツ]、メカのプログラムの一つであり内蔵された超小型メカが大量に飛び出して自爆特攻していく
対空型の戦闘攻撃の手段である、夥しい量の小型メカが一斉に火を噴き始め、さしもの超神も身体からは煙が噴き出す
 そして打ち止めと謂わんばかりに最後にもう1体、隠し腕の剣を振り回しながら降ってくる

 小型メカではない"本物の特殊工作車"が。


 特殊工作車「やられたからにはやり返させてもらいますよ![多段切り]」ズババババババッ!

 ナカジマ零式はまだ飛べるメカだからと言われれば納得も行く、そしていよいよ以て彼の登場で混乱が深まった
飛べもしない工作車がどうやって下の階層から上層のここまで…いや宙を縦横無尽に動く戦場に降りたてたのか
 pzkwⅤ程ではないにしろ中々に重量のある身だ、零式に跨って飛んできましたなんて話じゃ辻褄が合わない
一応運搬自体はできるがメカ1機分の重し付きじゃ速度が出ない上に短時間飛行しかできない

 普通に考えてここまで来れる筈が無い。


                   「彼だけじゃないさ!」


 真上から2機のメカが同時に落ちてくる、どちらも[剣闘マスタリー]にプログラミングされた
達人の動きを模した剣技を仕掛けながら

 レオナルドが超神の右肩から左脇腹に掛けて、T-260が超神の左肩から右脇腹に掛けて
お互いにクロスしてXの字になるように切り付けていくッ!


  レオナルド「やっほー!驚いたかい?名付けて二人技でエックス切りなんてどうかな!なんてね」

    アニー「レオナルドさんまで一体どうやって!?ってか上から降ってきた!?」

  レオナルド「あー…説明するとちょ~っと厄介なんだけどね、 "ある人" に助けられたっていうか、ね…」

  レオナルド「ゆっくり説明したいとこだけどまずはアレを倒さないとだね」


 魔術師は彼らが"上から落ちてきた"ことから天井を見上げた、既に足場が通り過ぎた地点だが天井の通気口ダクトが
破壊されて大穴が開いているのを目視した、丁度メカか何かがぶち破って出てきた様なサイズの大穴が

   T-260「ゲン様…は…?」キョロキョロ


 T-260は幾人かの仲間がいないことに気が付き首を回す
そして丸いレンズ越しに焼けたゲンの姿と彼に対して処置を行うリュートとすぐ傍のスライムの姿を認識した


 T-260「ゲン様」

 アニー「…そこのデカブツにやられちまったのさ」



 T-260「……。」

 T-260「優先任務を変更、優先順位度C級、目の前の搭乗型メカを破壊せよ」クルッ


 結論を出すのに心なしか、ほんの僅かな間があった
そして倒れた仲間に背を向けて丸いレンズは超神を見据え、両腕の得物を構えた

―――
――


   リュート「くそっ…!諦めねぇぞ俺は!」ゴソゴソ
   スライム「(;´・ω・) ぶくぶく!」パァァァァ…!キラキラ


 床に散乱した医療道具を剣豪に使い続ける、傍らのスライムもまた奇跡の輝きをゲンに浴びせ続けた
然し、剣豪は目を覚ます気配は一行に無い…


  リュート「ゲンさん…帰ってきてくれよ、この基地から無事に出たら酒盛りをするからさ…」

  リュート「俺も精一杯盛り上げるから、仕事明けの一杯の音頭取るのはアンタみたいな人じゃないと駄目なんだ」

  リュート「だから…頼むよゲンさんッ」

――――――
―――――
―――
――




    - ……あ"? ここ何処だ、俺は今何してんだ? -

    - 確かでけぇ機械の攻撃を喰らって…俺は -




   「おお!ゲンの親父じゃねぇか、こんな所で寝そべって悪酔いでもしたかよ!」



   ゲン「……あ"?」パチッ



   「あー、ゲンのおっちゃんがまた床で寝てるよ!おっかぁが言ってただ!地べたで寝てると牛になるって!」


   ゲン「……ぁ」ムクッ、キョロキョロ…



ワイワイ、ガヤガヤ



  「さぁさぁ、寄ってらっしゃい!団子はいかがかねー!何処の"惑星<リージョン>"にも負けない[ワカツ]の団子だよ」

  「ガハハ!今度の剣術大会誰が優勝するか賭けねーか!俺はセキシュウサイだと思うぜ」
  「やめとけ、やめとけ!おめぇいつも賭け外すじゃねっかよ~」

  「最近は剣聖の間に挑む奴もめっきり減っただなぁ、オラ達の若い頃はもっと居ったにのぅ」


   ゲン「――」


 剣豪はその光景に開いた口が塞がらなくなった、まだぼんやりとする意識の中、彼が見たのは在りし日の――
まだ滅ぶ前の[ワカツ]そのものだったからだ、女も子供も老人も顔見知りのダチも誰も彼もが生きて動いていたのだから


 人間自分が理解できる範疇から脱した状況に陥ると思考は止まるという
何が起きているのか状況を把握しようとして一気に多くのモノを見て聞いて考えて、その結果の情報過多で整理仕切れない
 滅んだ筈の故郷があの頃の儘に残っていて、骸になった知人達をこの目で確かに見た

 だが、確かに彼は目にしているのだ嘗てあった筈の何でもない、けれど幸せないつもの日常風景を


  「おうおう、サナダのゲンよ!おめぇ何昼間っから幽霊でも見たようなツラしてんだぁ?」
  「どうせ昨日も行きつけの店で飲んでたんだろうよ、酒も程々にしとけよな身内にまたどやされっぞ」


   ゲン「あ、あぁ…わりぃ」



 死んだはずの人間だ、きっとこれは本物ではない、まやかしの類だ。―――だから耳を傾ける必要もない


 そう頭の片隅では考えていたのに糞真面目に幻相手に一言詫びてしまった
…それがあまりにも"生前と変わらぬ自然なしぐさだったから"、生きてる人間と何一つ変わらなかったから




 生前の、本当に生きてる人間と、何一つとして、変わらなかった、から…




    「なぁゲン、お前は今度の剣術大会に出るのか?今年は大名も天守閣から降りてきて観戦するんだぜ」
    「今年は中々の強者揃いだからお前が出てくれりゃあ更に見所も増すってもんさ」


  ゲン「……」

  ゲン「俺ぁ夢でも見てんのか…」


    「はぁ?」
    「何言ってんだお前、まだ酔いが残ってんのか?」


  ゲン「っ![ワカツ]はもうねぇんだ!トリニティに滅ぼされて俺は…俺はなぁ!!!」


    「?? あー、お前さん本当大丈夫か?いくらなんでも悪酔いしすぎだって、な?」
    「どんな夢みてたかしらねぇけど、深酒はやめとけよな~」



 友人二人は変なモノでも見たと眉を顰めて大通りへと歩いて行く、後には剣豪だけが残される



    ゲン「……"夢"?」

    ゲン「……ははっ、これはアレか、そうか…」





    ゲン「人間が仏さんになる前に見る走馬灯って奴か、いや、それともここがあの世ってことかな」



 それは護るべき風土も家族も、忠義を誓っていた主君も全てを失って未来に絶望し酒で世界を暈すしかできなかった男に
どこまでも優しい甘美な世界だった

 甘美すぎて、吐き気すら込み上げてくる甘い美毒だ






    ゲン「……けど、まぁ」

    ゲン「なんだ、その………これも、これで悪くねぇ、か」フゥ


 剣豪は静かに目を閉じて、息を吐き出す
        ―――独り生き延びてこれまで貯め込んだ全ての苦悩を吐き出す様に、美毒の味を肺一杯に取り込む為に



  "これでいいじゃないか"
  "もう此処が自分の終着点でも良いじゃないか"
  "疲れた"




  "自分も同胞、友、家族の元へやっと逝ける"
  "もう縛られる必要も無い"
  "やっと終われるんだ"





 自分はあの一撃で死んだのだ、戦いの果てに殉職を果たしたならば潔く死を受け止めるのもまた剣士としての筋だろう

 自分にこれから先も独りで亡んだ故郷の人間の想いを背負って生きていく必要性があるのか、もう疲れてしまったよ

 自分も同胞達と共に安らかに眠れる、この夢の中で彼らとまた幸せな夢を見続けていく事を誰に咎められようか




 妥協、諦め、願望、望み―――剣豪の中でいくつもの考えが、いくつもの感情が湧いて出ては渦を巻いていく
人間という生き物として誰しもが思う感情、誰しもが一度はそうなる考え方

 茨の道よりも楽な道を通れるのならば、楽な方へ楽な方へと流されていきたいと思う心


 誰だって苦しい思いや辛い経験はしたくない、目の前に恐ろしい試練が待ち構えていたとして避けて通れるなら
逃げ出そうとあらゆる手を尽くすことだろう

 感情の生き物だからこその行為だ、それを咎める権利がこの世の何物にあるというのだろうか?あるとすれば神であろう








   ゲン「…」スゥ

   ゲン「おーい!待てよ!待ってくれよ!お前ら、剣術大会の参加だろ!だったらよぉ――――」タッタッタ…!



 懐かしい故郷の匂い、自分が好きだった土に香り、自分が好きだった木造の建物の匂い、自分が好きだった風の肌触り
自分が好きだった屋台の焼き物の匂い、自分が好きだった街並み、自分がなにより愛してやまなかった同郷の仲間達

 大きく息を吸い込んで、剣豪は……[ワカツ]のゲンは素朴で、人情に溢れていた人々の雑踏の中へ入ろうと駆けだした
























                    "それでいいのか?"




 不意に、問いかけるような自分の声が頭の中に浮かんできた。



 幾ら振り返っても、望んでも、何を犠牲にしても戻らない時間の中に、まやかしの希望に駆けだそうとした脚は止まった


  ゲン「―――」ピタッ


   「んあ?なんだサナダの…参加する気になったのかよ」
   「やっと酔いが醒めたのか? 皆こっち来いよ!朗報だぞ!ゲンの野郎が大会に出るってよ!面白くなってきたぜ」

   「本当かいゲンさん、なら精をつけてもらわなくっちゃね!ウチの団子サービスするよ!」

   「ゲンの親父がか!?こりゃあ今年の大会は誰が優勝すっかわかんねぇな!」ダハハ!
   「こいつぁ良い!賭けも熱くなるってもんだ!まっ!勝つのはセキシュウサイだろうがな!」
   「何言ってんだい、ゲンのおっちゃんの方が強いに決まってらぁ」

   「なら坊主はゲンが勝つって思うだな?」

   「うんにゃ、ソウジ兄ちゃんが優勝すると思う」

   「そこはゲンさんが優勝っていうとこだろ~が!」


 アハハハ! ワイワイ! ガヤガヤ!


 心地の良い声が聞こえてくる、居心地のいい騒がしさが






                   -くそっ…!諦めねぇぞ俺は-

        -ゲンさん…帰ってきてくれよ、この基地から無事に出たら酒盛りをするからさ…-

     -俺も精一杯盛り上げるから、仕事明けの一杯の音頭取るのはアンタみたいな人じゃないと駄目なんだ-





 自分を呼ぶ声が聞こえる、泣きそうで必死で、それでいて…自分を、剣豪に帰ってきてもうらことを諦めない声が



  ゲン「…。」
  ゲン「俺はな、酒が好きなんだ」ボソッ

  ゲン「酒に酔っている時は嫌な事も辛い事も全部忘れられてよ、世界もまともに視ずに済めたからよ…」




    「どうしたんだよ?そんなとこで立ち止まって、早く俺達の所に来いよ」
    「…ゲンのおっちゃん?」キョトン
    「ちょっとゲンさんどうしたいんだい?ウチの店近いからお冷でも持ってくるかい?」




  ゲン「昔はそりゃあ純粋に酔うこと自体が楽しかった、でもな何時しか"逃げる"手段になってたんだなって気づいた」

  ゲン「今、俺が見てるコレも酔ってる時に見てる景色と同じでただ逃げてるだけ、いや…違う!」


  ゲン「目を背け続けただけなんだって、そうやって誤魔化してたからすぐ近くで輝いてた奴らさえ見てなかったのさ」



   - ゲンさん! T-260Gの事をお願い! T-260G!お前もゲンさんと協力するんだぞ隊長命令だぞ! -
 - ゲンさんお酒は飲んじゃ駄目よ!体に悪いんだからね! それとタイムのことを助けてくれてありがとうっ!-




 辺境の土地で顔見知りになった住人達の顔が浮かんでくる、リージョン界を彷徨う様に渡り歩き、そして迷い辿り着いた
辺境の"惑星<リージョン>"にある村の気の良い連中や子供達の顔だ

 よそ者の自分に対しても何ら変わりなく接して、いつしか居心地がよくなった場所、身内も誰も居ない自分を案ずる人達

在りし日のワカツにLP1っぽい人が


 帰れる家なんて無いし、帰りを待っていてくれる家族も友も何も無い
自分には行く当てだって存在しない、永遠の根無し草になったもんだと彼は思っていた


 知り合いも何も無く自分という人間を知る者もいないのならば、それはしぶとく現世に揺蕩う亡霊と変わらない


 居ても居なくても誰も困らない人間、誰に悟られるでもなく何処ぞの街の路地裏なりで行き倒れて死んでいても
身元不明の死体がそこにあったとされるだけで誰かの生活や人間関係に何ら影響を及ぼしもしない
 ある意味に置いてゲンという人物は生きてなどいなかった
月並みな言葉だが人間明日は明日の風が吹く、だから辛い目に遭っても酷い事件があって前を向いて行きましょうねと
酒好きでどんちゃん騒ぎが好きな酔っ払いだからと表面上しか知らん者からすればもう過去の事を割り切って
彼は前向きに生きているのだろうと勘違いしがちだが実はそうじゃない

 酒好きなのは事実だが、自分を見失う程に酒で溺れるているのは"今"を直視できないから

 何度でも言うが、彼にとっての酒は現実逃避の手段で酔いながらも
「こうやって生き延びていればいつかは復讐の機会が来るかもしれない」そんな牙をずっと忘れちゃいないんだ



 前を向いているようでその実は後ろばかりを見ていた、それがゲンという人物でもあるのだ



 本当は彼が気が付いていなかっただけで、"彼にはもう彼自身を案じてくれる身内や帰れる場所はある"のだ

 何気なく知り合った辺境の子供と一言二言話して、顔を覚え名前を記憶できたならその時点でそれは赤の他人じゃないし
行き着けの店でいつもの奴を飲ませてくれといえば"いつもの"でオーダーが通る
 それだって見かたによっては新しく出来た帰ってこれる場所とも言える、自分という存在を相手が認識して覚えてくれた





 帰れる居場所も友人や身内の様に思える者達との間で築く人間関係も結局の所、時と共に新たに構築されていく物なのだ




 亡びて消え去っても"人"が生きている以上はその人が新たな土地へと旅立ち、名も知らぬ誰かと出会い言葉を交わし
やがては知らない人じゃなくて知っている人へと変わっていく


 知り合いに死んで欲しいなんて思う人間なんざこの世に存在しない、仲の良かった奴なら尚更の事だ




   ゲン「俺も、できる事ならお前達と共に逝きたいさ」

   ゲン「でもよ、"あの世<そっち>"に行かず"この世<こっち>"へ俺に帰ってきて欲しいって奴が居るんだ」

   ゲン「だからよ…すまねぇ、まだ俺はお前達と逝きていくことはできねぇ、俺はまだあいつ等と生きていくさ」



    「………。」
    「………。」
    「………。」


    『それが其方の答えだな』カッ!!


   ゲン「何!?うっ、眩しい!?」


 同郷の仲間達の背から突如として強い光が射す、ゲンはその後光に思わず目を瞑る
目が眩むような強い光と聞いたことの無い声色に警戒心を一層強め、すぐ動ける様に身構えながら光が収まるのを待った


   ゲン「―――!なっ、なん、だ…ここは"剣神の間"だと…っ!?」キョロキョロ


 滅亡する前の[ワカツ]の城下町に居たと思えばボロボロになった空襲後の、つい最近訪れたばかりの剣神の間に
彼は立っていたのだ…!そして、退魔の赤紐で封印を施された"剣神"もまたそこに居た
 矢も槍も突き刺さっていない剣神がジッと剣豪の顔を見つめていた


―――
――


  ドガガガガガガッ!ズバァッ――バチバチバチィ


    『ぐおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ…っ!?!?!? ば、バカな…俺は"力"を手に入れたんだぞォ!?』

  『神にさえ手が届く力をッ!超神のパワーを持った!!だのに、何故だ!?こんな虫けらどもにぃー―――ッッ!』


 操縦室で[ワンダードギー]は吼えた、彼の駆る超神は世界を蹂躙して支配できる力があるといっても過言ではなかった
だが、どれほど強い力であっても"個"であってはできることに限りがあるのだ
 如何に優れた英雄であれど多くの兵の連携の前には倒れ伏す可能性がある、いつかの時代の何処かの誰かが残した名言だ
自身を弾道に見立てた特攻アタックとプログラムに合わせた剣の達人特有の動きで切り刻むメカ集団
そこに元モデルの跳弾が出来たばかりの切り傷や特攻での破損部分に的確に撃ち込まれ
 仲間達が詠唱時間を稼いだ事で唱えられた[ヴァーミリオンサンズ]が機体の全身に突き刺さる

 トドメの締めとばかりに武器を手渡されたアニーの[デッドエンド]が超神の頭を叩き切った


 その結果が、今火花を散らして全身が崩れ始めた超神の姿である



 操縦席の計器やモニターも火を噴き出し、スパーク走る操縦席内は嫌でも敗色を搭乗者に知らせる
神にさえも手が届く武力を手に天狗になって居た野心家は認めたく無かった、自分は絶大な力を手中に収めても
何一つ成し得ない、何者にさえも勝利できない屑で終わるのか!?と


 パキッ!硝子に罅が入った様な嫌な音がしてまだ生き残っている液晶画面以外に光源が無い操縦室に光が僅かに射す
外がどれだけ炎上してもどれだけの兵器を撃ち込まれても搭乗者だけは絶対の安全を確約するシェルターとして機能する
コックピットに亀裂が入ったのだ…ッ!


 ここに来て鋼鉄の揺り籠に護られてきた彼は戦慄する


 機動兵器の最大の欠点はそれを動かす搭乗者本人に他ならない、如何に強固な鎧を纏っても鎧の中に居る人物が死ねば
鎧はただの動かぬ鉄塊にしかならない

 殻を破られた後に残るのは弱点剥き出しになった兵器への無慈悲な飽和攻撃だけである



   『あ、あぁぁ…あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!』


 取り乱しスパーク飛び交う室内で操縦桿を握る、腕が焼けようと構うものかと[バスターランチャー]を構える
先程から撃てども撃てども頑丈さが売りのメカ達が前に立ちはだかり影に隠れる人間組を致死に至らすことができない
極大波動砲のエネルギーで後ろに隠れる人間達を焼くことは確かに出来てはいるがそれでも威力を殺されるのだ
 そして人間と違ってメカは倒れても直ぐに修理されて立ち上がる

 盤上から追い払った厄介極まりない不死身の戦士達が戻ってきた辺りで完全に戦局は変わった



  『クソッ、クソ、クソぉぉぉぉぉぉ………ぉ、ぉ、お?…おっ?』カチカチカチ



 ……[バスターランチャー]が機動しない。


 半狂乱状態でトリガーを引くも、頼みの兵装が稼働しない
否、ランチャーを持った腕が動いていないのだ…ッ!――――それに気が付いたと同時に金属が軋む嫌な音が聞こえて
"腕が完全に落ちた"、言葉通り落ちた、だらしなくブランと腕を下すとかそうじゃくて、肩の部分から壊れて落下した

 次にズシンと機体全身が沈んだ、遊園地の絶叫系のアトラクションで身体少しだけ浮いたと思えば急降下で贓物が上下に
振り回される感覚を下位妖魔は味わった

 脚が完全に外れたのだ。


 肩から先も腰より下の半身も完全なくなり胴を護る装甲さえも壊れて、本当にマシンの骨組みだけ…
不格好な鉄の丸太と化した胴体の上部に辛うじてまだ胸部装甲が残っている操縦室と[デッドエンド]の一撃で
頭部のフェイス装甲が砕け散りツインアイ式のカメラ等が剥き出しになった顔が露わになった姿だけだ

 もう超神でも何でもない、憐れなマッチ棒が一本辛うじてそこにあるだけである


  『~~~~~~っ、俺は…俺様は力を手にいれたんだ…俺は負けないんだ、俺が負ける訳がねぇぇぇんだ!!!』


 ……骨組みだけの胴体に頭でっかち、もう誇れる物も何もない搭乗者そのものを体現したような姿
借り物の力を、いや盗んだ力をさも自身の物の様に振り翳した男のメッキは剥がれ等身大の、"魂"だけの姿となった


 直後、これまでで一層激しい[敵の援護射撃]が飛んでくる
常に上方目掛けて移動し続けた足場はブルー等が一度も足を踏み入れたことの無い区画へと来ていた
彼らの潜入経路には無かった[モンド基地]の兵器カタパルトエリアだ

 考えてみればそうなのだが、これほどの巨体を誇る機動兵器は普通に侵入者一行が通ってきたような[ワカツ]の亀裂から
出入りすることなど不可能だ
 どこかに基地内から天井の隔壁を開いて出撃する為の場所はあって然るべきなのだ


そんな要所だからか、此処には他の階層以上に天井に取り付けられた機銃が多くみられる


 恐らくは何らかの理由で敵に基地が発見されて地上と地下基地とを隔てるシャッター隔壁を壊されても侵入を阻む為
その為に集中して火線が敷かれるようになっているのだろう



 これまでに例を見ない激しい[敵の援護射撃]で手を出し切れない合間に壊れた[グレートモンド超神]は鉄柱アームにて
運搬され、そして――――何とも言えない姿で帰ってきた







         一言で形容するならば"不格好な蜻蛉<トンボ>"、それがしっくり来る言葉だった




 細長い棒状の胴体から四本の鉄パイプかと思いたくなるこれまた細長い手足…いや、手足なのかさえ分からない
先端にそれぞれ向かって右下から[ハイパーバズーカ]の砲門、左下に[バルカン]と[レールガン]を切り替えて使える機銃
右上と左上に向かって伸びてる細い腕の先には反重力装置が付いていてそれでバランスを取りながら飛んでいる

 4つ腕をバタバタさせて必死に重心を取り飛ぶ様は蜻蛉の羽を連想させる、見苦しくも何処か必死な姿
その異常なまでの執念深さに憐みよりも恐ろしささえ覚える


 不格好な蜻蛉<トンボ>は胴体に[バスターランチャー]を括りつけて直接エネルギー炉と連結させ超神であった時よりも
早くエネルギーの充填を可能にしてた、脅威の波動砲はこれまで以上に早いスパンで撃ち出してくることだろう



    『はぁはぁ…てめぇら、よくもやってくれたな、俺の、俺の野望を…!!!』


 秘密兵器はものの見事にボロボロ、仮にこの戦闘で下位妖魔が彼らに打ち勝ったとしてこれを元通りに復元するのに
どれだけの資源物資と資金が必要になるのか、超神形態まで残っていたならまだしも完全にただの骨組み状態になった今
復元というよりほとんどゼロからの作り直しに近い

 元々が浮浪者でしかなかった下位妖魔に資金も人材の伝手も無い、彼の野心は泡沫と化したような物だった



 細長い胴体の先端についていた胸部装甲の左右に取り付いている2門の反重力砲から橙色と藍色の光が灯る
二色の光が螺旋状に交差して伸びていく[反重力クラッシャー]が援護射撃から人間組の身を護る様に固まっていたメカ達に
炸裂し彼らを吹き飛ばす

 半ば自棄にでもなっているのか、[レールガン]に[ハイパーバズーカ]を手あたり次第に乱射していく



    エミリア「ぐっ、こんなめちゃくちゃな攻撃…っ!」


 正確さも何もあったもんじゃない無茶苦茶な攻撃、それ自体を避けるのは訳なく反撃も仕掛けられたのだが…


  ガシャッ!!



   『燃えカスになりやがれええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!クソッタレがぁあああああ!!!』



 カメラ撮影用の三脚脚立の様な脚が[バスターランチャー]から伸びてしっかりと[グレートモンド魂]が固定される
搭乗者の怨嗟が込められた波動砲の圧倒的熱量が今にも放たれんと…!
 その矛先はメカ達の誰かでもブルーでもアニーやエミリア相手でもなく―――――


     ブルー「いかんっ!!あの射線上は…!! スライム!リュートそこから離れろ!!!」


―――
――



 ゲンは困惑していた。


 自分が居る場所が点々と移り変わり、目の前には封印が施されていない剣神が現れた
それだけならまだしも向こうは何も言わずにただジッと剣豪を見つめるだけだった


 額にジワリと脂汗が滲む、お互いに何も言わずただ沈黙だけが流れていて
刻でも止まったのかと思ってしまう程に微動だにしないのだ、自分も相手も


 長い睨み合いの末に静寂を打ち破ったのは人ならざる者の方だった
ゆっくりと片腕を天に掲げて…振り下ろすッ!



        ゲン「っっぐぅぅ!?!?」



 腕を振り下ろすと同時に剣神の間は…否、ゲンの精神世界は強い光に包まれる
フラッシュアウトしていく視界に彼は見えるはずの無い人の顔を見た


     『そうか…おめぇはまだこっちには来れねぇか』
     『サナダの、想ってくれる奴がいるってのぁやっぱいいモンだよなぁ』


       ゲン「! お、お前達…」


 強すぎる光、網膜には白光の白一色しか映らない筈なのに、光を遮る者なぞ其処には誰一人立たぬ筈なのに
それでも[ワカツ]最後の生き残りには確かに人の顔が視えているのだ



     『なら仕方ねぇよな、[ワカツ]男児たるモンは一度決めた事を曲げる訳にゃいかねぇよなァ!』ハッハッハ!
     『一緒に居て欲しいって想うのはオラ達だけじゃねぇべ、向こうにもアンタを待ってる人が居るなら仕方ない』
     『遊んでくれるゲンのおっちゃんのことオイラ好きだったよ!』


 次々と視えていた顔ぶれはゲンに声を掛けて光の中に溶けて視えなくなっていく



     『俺達の分も生きてくれよな!折角生きたんだぜ、なら暗い顔しねぇでお天道様見上げなきゃ損ってもんよ』

     『人間誰だって泣いたり悲しむ為だけに生まれた訳じゃねぇだろ、生まれてきた理由は笑う為だぜ』ガハハッ!

     『酒飲んで美味い飯食って、偶に喧嘩したりどっちが勝つか賭けて負けて泣いて笑って、人生そんなだろォ?』

     『誰かが想ってくれるってんなら、それだけで人生には意味ってのが生まれるんでい!大往生しやがれよっ』



 消えていく顔達はどれもこれも"笑い顔"だった、悔やむでも涙を流すでも無ければ誰かを恨む怨嗟に満ちた物でもない
最後に剣豪の脳裏に強く焼き付いていくような何処までも晴れやかな笑顔

 知らず知らずの内にゲンの眼からは一筋の雫があふれていた、だが彼らにつられるように彼の顔もまた朗らかな物だった
心の底にはドロリとした物も何もない、人生で本当に心底楽しそうに笑っていた頃と変わらぬ心持で

 本当に彼は笑っていたのだ、自身が気付かぬ内に、最高の泣き笑いで、笑って彼らを送ってやることが出来ていたのだ


       『へっ、なんだい折角会いに来たダチ達が還るってのに笑ってやがらぁ』
       『まぁまぁ、その方が俺達らしいじゃないか、ゲンの親父の辛気臭ぇ面なんぞみたくないからな』

       『んだな、お互い別れ際は湿っぽく泣くよりも笑って送り出してやりゃあいいのさ…』


         『達者でな』ニィ

       ゲン「ああ、またな」


―――
――


【双子が旅立って9日目 午後 15時28分 [ワカツ]剣神の間】




   封印されし剣神『…。』




――――カッ!!


 …リュート等侵入者一行がこの"惑星<リージョン>"の地底に築かれた基地内で[グレートモンド魂]と戦い
下位妖魔が今まさに[バスターランチャー]を撃ち出そうとしてした同時刻…っ!

 [ワカツ]の地下に存在する剣神の間に眩い光が満ちた
その輝きは室内から溢れ出し櫓の外へ飛び出て、天へと昇る…やがて一条の、まるで彗星の様に落ちてくる光となって
 [モンド基地]の巨大兵器出撃用の格納口へと落ちていく…ッッ!!

―――
――

【双子が旅立って9日目 午後 同刻15時28分 [モンド基地]】


   『燃えカスになりやがれええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!クソッタレがぁあああああ!!!』

     ブルー「いかんっ!!あの射線上は…!! スライム!リュートそこから離れろ!!!」


 不格好な蜻蛉は何もかもを灼きつくす破滅の光を撃ち出す、収束された膨大な熱量はゲンに付き添い彼を介抱し続ける
弦楽器の青年と治癒の一角獣諸共に飲み込まんと迫る


   リュート「う、うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」ギュッ
   スライム「(/ω\) ぶ、ぶくぶくぶくぶくーーーーーーーっ」


 巨大な光の渦が迫ってくる、仲間の叫びを聞いて顔を向けた時には最早避けようの無い距離まで迫っていた
元より足場の隅の隅で逃げようにも逃げ場など無い、リュートとスライムはこれまでかと目を瞑り死を覚悟する


   ゲンの指『』ピクッ

   リュート「!」ハッ!?
   スライム「(;´・ω・)!?」


――――カッ!!

――――――――ズガアアアアアアアアアァァァン!


 [バスターランチャー]の光芒が彼らを飲み込まんとした時、突如として"何か"が空から降ってきた
地底に築かれた基地そのものの硬い隔壁とその真上にある[ワカツ]の地殻という天然の防壁

 その二重層をぶち破ってソレは彼らと光芒との合間に割って入る様に突き刺さり、更には破滅の光を掻き消した



 『な、なんだ、一体何が起こったんだ―――!!この地下基地の天井がぶち破られている!?!?貴様ら何をした!?』


 目が眩むような眩い光、燃え上がる炎、舞い上がる黒煙と地表からソレと共に落ちてきた土砂との土煙
敵も味方でさえも何が起きたのか眼を白黒させる中、漸く景色が見えるようになって彼らは知った


   リュート「あ、あぁ…」ツーッ

      「…おう、わりぃな世話かけちまった見てぇでよ」

   リュート「へ、へへへ…帰ってきてくれたんだなぁ…」グスッ




      ゲン「ああ、待たせたな」ニィッ

      ゲンの手『 [流星刀] 』チャキッ!



 生存は絶望的だと思われた剣豪は…っ、ゲンは意識を取り戻したのだッッ!!その手に"見慣れぬ刀"を持って!!

おつおつ
ゲンさん復活キタ!

予定変更、次回更新 日曜日  リュート編ラスボス[グレートモンド]完全決着


 間近で見えていたリュートとスライムだけが剣豪の手にする武器が何処から来たのかを理解していた
あの瞬間、全てを灼き尽くさんとした光が迫ってきた時に空から別の輝きが降り注いだ

 まばゆい輝き…神々しさを感じ取れる程の光が天井を突き破って自分達を護る盾の様に足場へと突き刺さり
信じられんことにあの[バスターランチャー]のエネルギーを掻き消したのだ…っ!



 ぽっかりと開いた天井の穴からは陽が傾き出した[ワカツ]の大空が見える、まだ夕刻というには早すぎて星の瞬きさえも
見つけられない昼空から彼らを護る様に落ちてきた"流星"

 もしもコレに名前をつけるとするならば[流星刀]という名が相応しかろう


  ゲン「…。」ジッ


 改めて剣豪は自分が"最初から自分の物であったかの様に手に取った"[流星刀]を見つめて空に向かって声を上げる





                ゲン「剣神よ!俺に何をしろというのだ!」



――――その問いに答える者は誰一人として居ない。



   ゲン「…答えは自分で見つけろということだな」チャキッ



 剣豪の問いは大空の彼方、空虚へと吸い込まれては消えていく
だが彼は答える者がいないことなど理解していた、これは自分で答えを見つけねばならないことだと心の奥では理解してた

 …最後に笑って還っていった[ワカツ]の同胞達が自分に掛けてくれた言葉が胸の中で熱く燃えていた
人生は常に意味を探す為の旅路なのだと、人間はいつだって答えを求めて生きるのだと



   ゲン「にいちゃん!スライム!世の為人の為にまずはあのデカブツをとっちめてやろうぜ!」ブンッ

 リュート「おう!やってやろうぜ!!」
 スライム「(`・ω・´)ぶくぶくーっ!」ピョンピョン!



   『っっ~~~!!突然空に向かって叫んだかと思えば舐めやがってぇぇぇぇ!!』



 未だ何が何だか状況の掴めない下位妖魔は[レールガン]を乱射する、切り札のランチャーは撃ち出したばかりで
まだチャージが完了せずトリガーを引くに引けない

 盤上から振り落とされたpzkwⅤ以外のメカ達の復帰とゲンが意識を取り戻した事で確実に流れは彼らに来ていた
術士が[勝利のルーン]を施したブロンド美女の[二丁拳銃]による[跳弾]も黄金髪の女が振るう剣技の切れもこの追い風に
乗る様に不格好な蜻蛉<トンボ>へと叩き込まれていく


   『ぐあ" あぎ""っ!?』ボンッ!ボボボンッ!


 装甲が殆ど剥がれ落ちた機動兵器には一気呵成に打って出た彼らの一撃一撃が重すぎる
計器やモニターが次々に内部で爆発を起し搭乗者にダメージを与えていく


     ゲン「…。」スゥゥ…


 剣豪が[流星刀]を構えて深く呼吸をする、彼自身の身体の奥底から闘気が溢れ出す
誰が最初に言い出した訳でもなくそれを見て皆がゲンをサポートしようと動き出した、大技を使うゲンの為に時間を!



   リュート「コイツでトドメだ!」シュバンッ
    ブルー「爆ぜろ![インプロージョン]!」キュィィン
    アニー「視えた…っ!このタイミング!」ズサーッ!スパン!


            3連携 [ 逆 風 の イ ン プ ロ 清 流 剣 ]



  『ぐあああ"あ""ああ あ"ああああああああ あ"ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?』バチバチバチ!!


 焔が吹き荒れ、ショートした電気系統からはスパークが飛び出して狭いコックピット内を踊り狂う
操縦桿を握っていた[ワンダードギー]は出口の無い鉄釜の中で火炙りと感電の責めを同時に味わう阿鼻叫喚を体験した

 皮膚も内にある贓物も何もかもが焦げていく、これが生身の人間であるのならばショック死してもおかしくはない
偏に彼が下級とは言え生命力に溢れた妖魔であるからこそ生きていられると言えよう

 …これが本来の搭乗者モンド氏であったならば、いや、彼なら執念のみでまだ生きながらえて最期の一撃くらいは撃つか


 電子レンジにでも入れられた体感をした下位妖魔はまだ辛うじて動く手で最後の賭けに出ることにした
もうこの機体は長くない……


 泣いても笑ってもこれが最後の大博打だ…。


 [グレートモンド魂]は自身の炉と[バスターランチャー]を直接繋ぐことで超神形態の時よりも
早いスパンでの連射を可能とした、その炉を意図的に暴走状態にすることでより早く、尚且つ過負荷を掛ける事になるが
通常のエネルギーゲインを超える高出力での射出を実現できるのだ



 これは所謂メカ達が使うプログラムの[マグニファイ]と同じだ。

 装備している武装のリミッターを解除して使用後に壊れて使い物にならなくなるというデメリットを呑んで使う手段


 どこもかしこも火を噴き出しているこの蜻蛉<トンボ>でそれをやれば間違いなく墜ちる、然し彼に手など無い
行くも地獄、退くも地獄…であれば行くより他になかろう…ッ!!



 『…ふ、ふへ、ふへへへ…お、お俺様は神を超える力をえ、え、得ぇたんだぁぁ…ははっ、ハハハハ…』カチカチ、ピッピッ


 操縦桿を握る手の感覚が殆どない、犬の様な瞳は熱で焼けて視力を失いつつある、見え辛い視界の中で辛うじて
自身が安全装置を切っているのだけは解る、自分が殺した同僚や部下達と一から組み立てて整備し続けた機動兵器だから
意識は半分無くても慣れた手つきで出来た

―――
――


   エミリア「ちょ、ちょっと―――明らかになんかヤバいわよアレ!?」

     T-260「敵機の炉が暴走中!異常なエネルギー反応が検知されています!」
    アニー「はぁ!?暴走って自爆でもすんの!?」



  レオナルド「不味いね…っ!自爆はしないだろうけど…ある意味自爆の方がマシかもしれないッ」
    ブルー(くっ…![リージョン移動]で脱出を―――いや、駄目だこうも全員が俺から離れすぎていては…ッ)


 この瞬間に[ゲート]を使っても自分とすぐ傍にいるレオナルドくらいしか退避できない…っ!
今になってブルーは出鱈目に乱射された結果、チームが分断され陣形が崩れた原因の[レールガン]を恨めしく思う

 蜻蛉<トンボ>は最期の力を振り絞って三脚のような細い脚でしっかりと自身を足場に固定させる
自壊覚悟の自他共に破滅せんとする滅亡の光が[バスターランチャー]へと注がれていく
 その砲門を侵入者一行に向けながら狂気に駆られつつあった下位妖魔はトリガーを引かんとする…っ!



  『はーっはっはっはっは!俺様がリージョン界の王になるんだぁぁぁぁぁああああはははははははははっ!!!』














             ゲン「…剣神よ、見るがいい―――星を落とす術を」スゥ…!



















       『喰ら え ぇぇぇ ぇぇ ぇ[バ ス タ ー ラ ン チ ャ ー ]ぁ ぁ ぁ ぁ ぁぁ』






              ゲン「 [ ミ リ オ ン ダ ラ ー ] 」ブンッ













 闘気を纏った剣豪が"神"より授かりし[流星刀]を振るった


 ゲンは空を切り裂いた。


 比喩ではない、言葉通りにである





 何も無い空間に空色の美しい刀身が振るわれて、空間が切り裂かれた、本や書類を積み重ねた紙の束に短刀を突き立てて
そのまま腕を引いて出来た裂け目の様に宙に亀裂が入ったのだ

 裂け目はそのまま広がりながら昇り、そこから"混沌の間<宇宙空間>"に似て非なる何処かが溢れているのが見える
星の煌めき、生まれては爆発してガス状になって、それが周囲の小さな惑星を取り込んでまた命が芽吹く星々を産み出して
そこには命の輪廻があった、星雲が漂う闇の空間であり同時に光に満ちていた不思議な空間が亀裂の先には存在した



 切り開かれた裂け目の奥で紅く光る星がある、大きく燃える火
1つ、2つではない…猛々しく燃え盛る紅星が…無数の流星が空間から飛び出して来る…ッ!


  流星『 』ボウッ
  流星『 』ドウッ



  ド ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガガ ガガガ ガガガガガ ガ ガガ   ガ アァァァー—―z______ン!




 気高い闘気に呼び寄せられた星は、限りある命の輝きに惹かれ、飛び出しては不格好な蜻蛉<トンボ>へと降り注ぐ
燃え盛る巨石が次々と衝突して武装が次々と破壊されていく
 [レールガン]も[ハイパーバズーカ]も腕ごと捥げて、反重力装置もへし折られ自力で飛ぶことは困難となった
四枚羽を失い、胴体にも隕石がぶつかってきた[グレートモンド魂]は当然の如く態勢を大きく崩した

 羽が千切れて、頼りなく自身を支えていた三脚のような足も所々折れていて
侵入者一行に向いていた筈の砲はどこか拉げて、上に…天へと向けられた


 よく見ると胸部のコックピットブロックも砕けていて中から黒煙や火が噴き出しているのが見える
割れた部分から外気が入り込み、内部の空気は逆に外に漏れだすようになった







 機動兵器は…ただの砲台と化した[グレートモンド魂]はその名に恥じぬ最期の一撃を天へと穿つ


 機体を支える脚が折れて、砲自体も拉げ狙いが定まらなくなった破滅の輝きは身を伏せた侵入者一行の頭上を更に越えて
ぽっかりと開いた天井の大穴に吸い込まれていく

 [ワカツ]の大空へ光は昇り、天守閣よりも高く雲の上へと昇っていく


 まるで空襲にあった多くの[ワカツ]の民を弔う弔砲が如く、穿たれた光と共に"魂"は天に還るのであった



 ガシャン…!



 無音、最後にその音がしたと思い全員が顔を上げればそこには事切れた"魂"の姿があった
[マグニファイ]の仕様を応用した一撃に遂に耐え切れなかったのだ
 機体全身が赤茶色になるまで熱したフライパンの様になっていてまだ火花が吹いている
完全に燃え尽きたといった様相で地に墜ちていた…



 ふとコックピットがあった部位を見やる、……先程、外気が入り込み、内部の空気が出て行くのが確認できたことから
気密性はもう駄目になっていたソレはリミッターを解除した[バスターランチャー]の熱も入り込むということだ
 元々重装甲で操縦室自体が絶対的な堅牢さを誇っていたのだって
何も搭乗者を外敵から守る鉄の揺り籠だからというだけではない…余波でさえ大人数を灼く膨大な熱量を手元から撃ち出す
ならば自身の身を護る為に必要以上に頑丈にするのは当然と言えよう、自分の兵器で自分がやられちゃ話にならん


 静寂、死の可能性が何度もあったこれまでで一番の難所を無事に生きて乗り越えた
まだ実感が持てないのか弦楽器を背負った青年が今日で何度目になるか袖で顔についた血を拭って呟いた



   リュート「終わった、のか?…終わったんだよな?」ヘナヘナ…


 言い切ってから身体全身の力が抜けてその場にへたり込んでしまう、だが無理からぬことであった皆が同じ気持ちだ
恐ろしい強敵を打ち破った疲弊と達成感、自分が生きている事の喜びと安堵、死んだと思った仲間が生きてた驚きと嬉しさ
 色んな感情が綯交ぜで気持ちの整理が追い付かない……今はただ、座ったり倒れたり、息を吸いたい、吐き出したい
身体中全身が悲鳴を上げているんだ



  レオナルド「みんな、お疲れ様」

  特殊工作車「大変でしたね、皆さんはメカではありませんから私では直して差し上げられませんが…お疲れ様でした」

 ナカジマ零式「ひゅ~、一世一代の大活劇だったんじゃないでーすかー?」



   エミリア「ええ、全くよ……ルーファスの指令でちょっと偵察に来ただけなのに、とんだ大暴れよ」


 元モデルとしての恥も何も無く大の字になって倒れたエミリアが疲れ知らずのメカ勢に答えた
彼女の隣で地べたに膝をついて武器を杖代わりにしているアニーは歩いて来る剣豪に目線を向けて言った


   アニー「ゲンさん、生きててくれたのね…よかった」グスッ
  エミリア「ええ、本当に良かったわ…」


 仲間の生存に思わず涙ぐむグラディウス組にゲンはニッと笑って「まだ現世の酒が飲み足りねぇからな!」と肩を竦める
その様子に思わずリュートとアニーが噴き出して、蒼き法衣の魔術師も口角を釣り上げた


   ゲン「おっ、術士のにいちゃんも良い顔で笑うじゃねぇか」

  ブルー「…ああ、今は気分が良いのさ」

 リュート「へへっ、最近はお前が笑うのも"珍しい事"じゃなくなってきたなっ!
               …帰ったら[クーロン]のラーメン屋の屋台で打上げ会開こうぜ!」


 弦楽器の青年は武器を仕舞い、さっきまでの疲れはどこへやら背負った楽器を奏でて陽気に笑う
剣豪に小さく目配せしながら酒でパーッと盛り上げようと笑った







   ゲン「…ははっ、そうだな、精一杯盛り上げてくれる宴会にしてくれよ、俺が乾杯の音頭を取るからよ」

 リュート「おうとも!任せてくれよな!今、生きているこの時間を生涯忘れないくらい楽しくするぜ!」




 笑い合う仲間達を見ながら蒼き術士はふと、何気なく言われた言葉を思い返す


  ブルー(最近は俺が笑うのも珍しくない、か…)

  ブルー(…。そう、なのかもしれんな)フッ


<ワイワイ アハハッ!


   T-260「………。」

   T-260「皆様、少々よろしいでしょうか」


   エミリア「あら、どうかしたの…?」



   T-260「……あそこをご覧ください」スッ


 ただの灼けた鉄屑と化した[グレートモンド魂]の残骸をT-260は指差して音声を発した
なけなしの気力を奮い立たせて気怠そうに起き上がったエミリアはそちらを見やり首を傾げた


  エミリア「…? あれがどうかしたの」

   T-260「コックピットブロックなのですが」











   T-260「"搭乗者の遺体がありません"」




  ゲン「ッ!?」バッ

 アニー「えぇっ!」

 ブルー「なっ、なんだとっ!?」ダッ


 慌てて身を起し、動ける者達は蜻蛉<トンボ>の死骸を見始めた
ある者は武器を鞘から引き抜き、ある者は周囲への警戒を始め、ある者は術を唱える準備をしながら


   操縦席跡『   』



 焼失遺体が確かに無い、これが"人間<ヒューマン>"なら100%間違いなく死んでる状況だが腐っても妖魔
嘘か真か[ファシナトゥール]の煉獄の焼却炉に飛び込んでも妖魔なら生きて外の"惑星<リージョン>"まで脱出できると言うが
まさかあの下級妖魔まだ生きていて逃げ延びたというのかっ!?


  ブルー「おのれ…っ、まだ何か兵器を持ち出して来る気じゃないだろうな!?傷が酷い奴は此処で待機しろ
                          まだ戦う気力が残っている奴は武器を持って今すぐ―――――」



   レオナルド「あー、そのことなんだけどさ」ポリポリ


 今にも飛び出しそうな術士を制して、機械工学の権威が調子の無いで待ったを掛ける
魔術師は当然「なんだ!?何故止める!と抗議したがそこをすかさずリュートが宥めて続きを言う事を促した


   レオナルド「んんっ、まずだけど彼、あの[ワンダードギー]ね…アレ、もう決着ついてるんだよ」

   レオナルド「この基地にこの巨大ロボに匹敵する兵器はもう無い、道中で巨大な[Tウォーカー]とかはあったけど」

   レオナルド「あれは"もう動かせなくなった"だから心配しなくていい、それに―――」




      レオナルド「ボク達がもう手を下す必要が無いんだよ」



 一瞬、何を言ってるのか意図が分からなかった、何故他の階層の巨大メカが動かないと分る?いつ調べたんだ
そもそも"手を下す必要が無い"とは…?
 ふとそこまで考えた所で、横からアニーの声が沈黙を破った



   アニー「……レオナルドさん、そういえばさっきある人に助けられた、って言ってたよね?」



 - レオナルド『あー…説明するとちょ~っと厄介なんだけどね、 "ある人" に助けられたっていうか、ね…』-


   アニー「それにさっきからずっと気になってたんだけど…pzkwⅤは何処に居るのさ」


 言われてみればそうだ、特殊工作車もT-260もナカジマ零式も居るのにpzkwⅤだけがこの場に居ないではないか


   レオナルド「うん…その辺も含めて話すよ、彼はその助けてくれた人の護衛兼人質みたいな感じなんだよね今」

   リュート「人質って…そいつぁ穏やかじゃねーんじゃないのかい?」


   レオナルド「ん~、君達を助ける為、というかボク達があのどん底から上昇する足場に駆けつける為や」

   レオナルド「今までボクが生前ちょこ~っとやらかしちゃった事だったり、今後のT-260君の事に関してとかさ」

   レオナルド「色々と交渉というか取引があってね…まぁ、状況的にやむを得なかったというか、うん…」





 …嫌に歯切れが悪い、ばつの悪そうな物言いに術士含めて幾人か眉を顰める
レオナルド博士の内容からしてどうにもその人物との取引のお陰で自分達侵入者一行は窮地を脱し今を生きているようだが
彼の反応を見るにあまり喜ばしい取引ではなさそうだが…


   ゲン「おいおい、レオナルドさんよ勿体つけねぇで教えてくれ
              一体その人物ってーのは誰でアイツは追っかけなくていいのかよ?」


 剣豪が至極尤もなことを言う
工学者は内心「君がいるからこそ非常に厄介な内容なんだけどなぁ」とゲンを見つめ、それに対して彼は疑問符を浮かべる


   レオナルド「まぁね、…なんであの妖魔を追っかけなくて良いかっていうのは
             今頃、その助けてくれた人とその護衛でついて行ったpzkwⅤが始末するからだよ」

 その人物に関しては自分の口で言うより実際に会ってみた方が早い、どうせ用を終えたら向こうから来るよ、と告げた


―――
――


  ワンダードギー「ハァハァハァハァ……ヒューッ、 ヒューッ」ズリズリ…


 全身煤だらけで、遠目に見たら黒ずんだ何かが動いているようにしか見えない物がある
身に着けていた帽子も衣服も炭化してボロボロで、それは肉体にも同じ事が言えた

 醜くても泥水を啜ってでも良いから"まだ生きたい"、生きていたい…そんな生への執念だけが彼を生き永らえさせた
世界さえも手中に収めようとした強欲で高慢で、それでいて底辺から成り上がろうと夢見た野心家の執着だから成せた


  ワンダードギー(声が、もう出ない…身体の感覚も無い、いやだ しにたくない おれは いきてやるんだ)ヒューッ、ヒューッ

  ワンダードギー(おれを ばかにした すべてを みかえして ふみにじり かえしてや――)コヒューッ




   銃口『 』カチャッ、バンッ!

  ワンダードギー片手『 風穴 』ドシュッ!


 突如として這っていた下位妖魔の片手に穴が開いた、まだ聴覚の残る耳は銃声を聞き取り音の出どころを見て絶句する
トリニティ政府の高官が袖を通せる制服に身を包み、サングラスから覗かせる剃刀の様な鋭い眼差し…

 冷徹でまるで人を殺すことをなんとも思っていなさそうな壮年の男性がそこに居た


  ワンダードギー「…っ! っ!!」パクッ、パクッ!


 声にならない。



  モンド「やぁ、"トリニティに反乱を企てるテロリストの首魁"くん、こっぴどくやられたようだな」チャキッ

  モンド「スパイとして潜り込ませた私の私兵も君の所為で随分と死んだようだ……実に悲しいことだよ」



 ……この男は一体、何を言っているのだ?テロリストの首魁?『誰が』?理解が追い付かない、頭が理解したがらない



 遠巻きに侵入者達の仲間だったpzkwⅤが佇んでいる、仮にアレに助けを求めて叫んだとしても
あの距離では聞き取れないかもしれない
 冷徹な執政官は銃口をゆっくりと下位妖魔の蟀谷に近づける





   モンド「私が独自の諜報部隊を使い調べ上げさせた反政府組織が滅んだ[ワカツ]の地下に基地を造っていた」

   モンド「そこで私は忍ばせた私兵と執政たる私自らがテロリストの制圧に向かう」

   モンド「するとどうだろうか? 偶然にも生身を失いメカの身体となったレオナルド博士と仲間達に出会った」


   モンド「私は彼らに任務の"協力"を願い出て、彼らにもそれ相応の報酬を出すと約束をした…」


   モンド「現地で偶然協力者に出会うと言うのは日頃の行いの良さだとは思わんかね?首魁くん」





   ワンダードギー「――――――」




 今更ながら思い出した、モンドという人物の人間性を…


 彼は基本的に他者を信用しない男であり、彼が雇う私兵の大半も自分の様な人間社会で職にあぶれ
日々の暮らしも儘ならない元浮浪者や命令違反を決してしないメカが大半であったことを

 メカは頭脳自体がプログラムされた機械で主人の命令に反することは無く

 浮浪者だったモンスターや妖魔、時には人間は………そう、本当に元はホームレスなど身元が判明しない者ばかりで
仮に死んでいようが路地裏で冷たくなっていても誰も気にしないし身寄りがないから素性の証明ができない輩だった事を





   蜥蜴の尻尾切り…。


 いざとなれば使い捨ての駒、不要と判断されたらその場で闇に葬られる雑兵でしかないということを…っ!!



   モンド「あぁ…そうだ君が使っていた巨大機動兵器だが…
          あれは以前トリニティが某企業から政府の技術を盗用した疑いがあると接収したものだね」


   モンド「どうやって政府の機密を知ったのかは私が個人で調べておこう
         ついでに君の運用データを参考にしてアレよりも強力な兵器を組み立てる計画にもしておくとしよう」



 いつ君を打ち破った様な強い戦士達と同じ者が攻めてくるか分からないからね、全てはトリニティの為だよ
…と、実に"白々しい事"を目の前の男は言ってのける





             ワンダードギー「――――!!―!――っ!!」    

                 モンドの銃『』パンッ!





    ワンダードギー「」ドサッ

    ワンダードギーの額『 風穴 』ドクドクドク…



…こうして、全リージョン界を圧倒的な力で支配しようと考えた野心家は、その凶弾によって倒れたのであった

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                  今回はここまで!

   リュート編ラスボス[グレートモンド]撃破!! 残り主人公ルートのラスボス6体


    次回は多分、一週間後かもしれない

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乙!
とうとうラスボス一体撃破かあ感慨深い

おつおつ

―――
――



【双子が旅立って9日目 午後 同刻18時45分】

【クーロン:屋台広場】



 ズルズルズルズル、豪快に麺を啜る音に加えて飲めや歌えや騒げやのどんちゃん騒ぎが繰り広げられる中で
蒼き魔術師は青い塗装が塗られたベンチに座ってぼんやりと空を見上げていた

 [モンド基地]での死闘に幕が下りて程なくして人質とされていた密売店主を引き連れてモンド執政官が彼らの前に現れた
言うまでも無くゲンはその姿を見るや否や警戒心を剥き出しにしていつでも抜刀できる構えに入ったが
そこを慌ててレオナルド博士が止めに掛かった


 止めた人物曰く、『彼が"取引相手"だよ、まずは彼から直接話を聞いてくれないか?』との事で
剃刀の様に鋭い目つきの執政官が発した言葉を要約すると、君達の命を助けたのだから私を見逃せ、といった趣旨だ


 …本当に要約するならそんな内容で、彼はあくまで"自分は偶々、私兵を引き連れてテロ組織を摘発しようと此処に来た"
自分はトリニティ政府の転覆など企んでいない、[ワカツ]を滅ぼし基地を造ったのがモンドだというのも
反政府勢力がトリニティ内の不信や対立を募らせて内部分裂を起こそうとしたデマだった、と



 そうシラを切る算段だ。…なんとも幼稚で見苦しい言い訳だなと思った


 [ワンダードギー]がどのような手段を用いたか知らないが、政府が民間企業の[中島製作所]から押収した技術で作った
あの巨大機動兵器も政府の機密兵器だったのだがその技術、現品を奪取してさらには地下に大規模基地も作った…

 元は浮浪者の下位妖魔が、だ


 こんなバカげたシナリオを本気で信じる奴が普通居るか?
当然一行は思った事を口々にしたが、それをレオナルドが宥め、T-260が聞き入れようと頷く

 店主を人質にされたのもあるが、実際問題[グレートモンド]との戦闘で全員に死に目があったのを救うだけの貸しを受け
同時に双方にとっても厄介者でしかない世界征服を狙う野心家の妖魔が乗った兵器を葬れて、尚且つやたらと
庇護しようとするT-260とレオナルドの態度から恐らく今後彼らが乗り込む予定の[タルタロス]に何らかの便宜を図る
そんな取り決めもあったのだろうな


 メカというのは目標、任務の達成に全てを注ぐ存在でありそれだけに約束や条約、契約と言った類にも中々に煩いもの
最優先のS級任務に近づけるとあらばT-260は黙ってモンドの言葉に首を縦に振り
人間としての感情もあったレオナルド博士は仲間達の命を救う為、ブルー達と別れて自分達の冒険をするにあたって
今後有利に事を進める為に……ついでにpzkwⅤが今までトリニティ政府の兵器を違法に売りさばいてた罪で逮捕されない為


 自分達とモンドは偶然、潜入先の基地で遭遇して同じような目的だったから協力関係になった、という体で物事を進めた


 話は平行線の言い合いになったが結局はこちらが折れて、モンドに手を出すことはしなかった
グラディウス組にとっては厄介な相手ではあっても警察部門のトップから政治屋になったから
直接的な敵対は"今はまだ"していない、あくまで今日は基地の調査に来ただけでジョーカーとの一件もあるこの時期に
無駄に全面戦争みたいな下手は打ちたくない

 ブルーに至ってはただのバイト、祖国が関わらないのなら正直どうでもよくて、祖国に被害出しそうな妖魔は既に他界

 スライムは基本的にブルーに従うし、メカ勢は取引してるから当然何も言わない
唯一の懸念が剣豪だったが、意外にも彼は苦虫を噛み潰した顔で「俺はてめぇに会わなかった事にしといてやる」と…

 リュートは剣豪と執政官が出会った時、ゲンはモンドを切り殺してその後"ハラキリ"でも
するのではないかと心配すらしていたが何故か[流星刀]を見て、自身を律していたゲンに
想定していた最悪は起きないと安堵の息を吐いた




 何があったのか知らないが、ゲンの眼には怒りこそあれどチラついていた復讐心の炎が消えているように思えたのだ
慙悔も失意も狂気も破滅願望も何もない、未来に向かって生きてみよう…っ!酒で暈かしてきた世界を直視しよう…っ!
 そんな何処か晴々とした…死者の声に囚われていない男の眼になったように感じたのだ






 ……長々と語ったが、まぁこういった各々の理由でモンドには色々言い放ちはしたが
こちら側が折れてその取引を呑む結果になったというのもある意味当然と言えば当然の結果に収まったのかもしれない

この段階でグレートモンドだけ失って立ち位置は健在なままなモンドって今後どう動くんか気になるな



   レオナルド「やぁ、隣いいかな?」スッ


 ほぼスープだけになっていたラーメンの容器を持った魔術師の傍に工学者がやってくる
肉体がメカとなった彼は飲食ができない、表情の窺えない機械人形の博士は宴会の中で何処となく寂しさがある様に思えた


    ブルー「別に断る理由は無いが」

  レオナルド「本当かい、助かるよ!それじゃあ隣に失礼して」ストッ


 メタリックボディはそう告げるとベンチに腰掛ける、重量ゆえに僅かに椅子が軋みをあげたが敢えて無視する
このメカは中々に気さくな…社交的な性格だ、生前のレオナルド自身がファーストフード店で上京してきたリュートや
名前も顔も知らない偶々相席になった初見利用の客に「これおいしいんだよ。」とおススメしてくれたり
T-260との初邂逅時も茶目っ気を出す人柄


  レオナルド「やっぱりボクが居るとみんな気を使っちゃって食べ辛いかもしれないからね~」

    ブルー「俺は良いのか、俺は」


 将来的に味覚機能と飲食物を消化して動力に変換するシステムを自身に組み込むと言ったレオナルドは少しだけ
仲間達の輪とは距離を取っていた、偏に自身の身体問題で気まずい空気を創り出してしまうのではないかと考慮したから


  レオナルド「君は別にそんなの気にするタイプの人間じゃないだろう?短い間だけど一緒に居てわかるよ」

    ブルー「ハッキリと物を言う、気に入った」

  レオナルド「そりゃどーも」


 器の中のスープを啜りながら、妖魔医師のヌサカーンといいスライムといい、それにこのメカ
妙に人外に寄られるものだな、と心の中で彼は思った


    ブルー「それで用件はなんだ、人肌恋しいから来ましただなんて言うまい」

  レオナルド「話が早いね、うん…まぁコレを、ね」スッ


    ブルー「? なんだこれは…ディスク」スッ



 工学者が取り出したのは一枚の円盤、データディスクであり受け取ったブルーはそれの説明を求めた
機械化した彼の脳内メモリを映像化した物がその一枚には納められているらしく
 ルーファスからの依頼で散々カメラに写真記録を収めたブルーとはまた別に独自で彼は基地内の出来事を収めていた


  レオナルド「契約があるからね、ボク達のT-260君の記憶を取り戻す為の旅路やpzkwⅤの罪状の帳消し…」

  レオナルド「そういった物の為に"ボクは"モンドを裁くことはできない」


  レオナルド「だからモンドとの会話内容はばっさりカットされた物ではあるけれど」


    ブルー「……ふむ、つまりこういうことか?コレを出すところに出せば、そいつ等が検挙してくれると」


 機械というのはつくづく律儀な物だな、と思う
基地から脱出した今もまだモンド相手に契約を守るのか…、あくまで自分達とは関係の無い第三者の手によって裁かせると


  レオナルド「あー、でもさ警察は駄目だよ?彼、元々警察機関のトップだったし」

    ブルー「ならば何処へだ?」


  レオナルド「その辺は抜かりなしさ一人あてに出来そうな人物に心当たりがある、生前行き着けの店で知り合った」



  レオナルド「[IRPO]所属のロスター捜査官、通称クレイジー・ヒューズ…彼に渡して欲しい」

  レオナルド「トリニティ政府の警察組織とはまた独立した組織ではあるけど、それでもモンドからの圧力は掛かる」

  レオナルド「でも、彼は人一倍"悪"というものを許さない人だから、上からの圧力で今すぐは無理でも恐らく…」



    ブルー「ロスター捜査官か、引き受けてやってもいいだろう」

    ブルー「ただし気が向いた時にだぞ、俺はあくまで私用を優先とさせてもらう」


 いい加減アニーに依頼した[ディスペア]行きの件も準備ができる頃合いだろう、資質を取る為の旅が優先だ
魔術師は工学者にそう言い放ち、それでもいいのなら受けようと改めて問い直す


  レオナルド「なるほど、確かにキミにもキミの都合があるだろうからね、それで構わない」


 話は纏まり魔術師は受け取ったディスクを仕舞う、それとほぼ同じタイミングでいつも異常にテンションが
上がっている無職男性が絡んできた


  リュート「いよぉーっ!ブルー!レオナルドさん!!楽しんでるかーい!?」ダキッ

   ブルー「ぐえぇっ!?」

 レオナルド「うん!楽しんでるよ、それとあんまり彼の首絞めない方が良いよ」


 首に腕を回して締め上げてくるというウザ絡みをしてきた酔っ払いを見事な一本背負いで投げ飛ばす
背中を強打して「痛ってぇぇぇぇ!?!?」と叫ぶリュートを見て術士は我ながら筋力が付いたなと思った


   ブルー「ぜぇぜぇ…貴様ァ!!いきなり人の首を絞める奴があるかァ!?」

  リュート「いつつ、わ、悪かったってばよぉ」タハハ…

  リュート「二人ともこんな離れた所に居るから寂しくないのかと思っちゃってさ
        なぁ!もう少しみんなの所行こうぜ!ゲンさんが剣術大会の事とか語ってくれるんだ」

   ブルー「在りし日の[ワカツ]の剣術大会か………まぁ興味がないわけではない、な」

 レオナルド「T-260君から少し聞き及んでるけど
         [鉄パイプ]でロープを切ったりとか科学的にありえない事を起こせるんだよね面白そう」


  リュート「だろだろ!?だからさ二人もこっち来て話そうぜ!」


 すっかり空になってしまったラーメンのお椀を持って青の魔術師は歩き出す不意に空を見上げれば
そこには月が浮かんでいた、ネオン輝く"惑星<リージョン>"では珍しく今日は月がくっきりと見える日だった


  エミリア「あっ、二人ともこっちこっち!今最高に盛り上がる内容――ブルーどうしたの空なんか見て」



   ブルー「…いや、今日は月がよく見えているなと」


   アニー「あぁ、今日ってそういえばニュースでやってた日だったわね」


 エミリアの隣に座っていたアニーも術士の目線の先を追いテレビのニュースでやっていた内容を思い出す
今になって気が付いたが陽が沈み夜が到来したばかりの[クーロン]にしては明かりが少ないな、と彼は考える
 もうこの街に滞在して短くはない、些細な違いに気が付けるくらにはなってきた



  エミリア「今日って数年に一度の皆既月食とかいうのが視れる日なんでしょ?」

  エミリア「名前は知らないけど天文学者の人がニュースで言ってたわ」


   アニー「それを観測しようってことで街中で医療機関とか大事な場所は除いて計画停電があるのよね」


 それで今日は月がくっきりと見えているのか。


  ブルー「この"惑星<リージョン>"だけか?」

  アニー「そうよ、[クーロン]の月だけが皆既月食みたいで他所の星から見える月は普通みたいね」


 月食で月が徐々に欠けていき、完全に無くなるとその瞬間…月は紅くなる
血に濡れたかのように真っ赤な月、ブラッドムーンと呼ばれ
季節によってはストロベリーやローズ等とも呼称される…そんな紅い月、神秘と畏怖を覚える紅の色が



 エミリア「でも月食って神秘的でもあるけど、どこか怖くもあるわよね…いつもそこにあった物が欠けていって」

 エミリア「次第には完全に無くなって、真っ赤なお月様になるんですもの」


 祖国の学院で常に机上の参考書と睨めっこしながら白紙の上にペンを走らせた身として術士の彼はその言葉は
イマイチ理解できかねた
 齢22となっても月なぞ見る機会はもしかしたら指で数える程しかないかもしれない
皮肉にも修行の旅に出て空をぼんやり眺められる時間が出来たかもしれぬのだ



    ゲン「暁月<ぎょうげつ>だな…」



  リュート「ギョーゲツ?」

    ゲン「俺んトコじゃあ真っ赤なお月さんの事をそう呼んでたのさ」


    ゲン「[ワカツ]に古い話があってな、まぁ悪ガキ共をビビらせる為の与太話なんだが…」

   アニー「おっ?何々また面白い話聞かせてくれるの?」ワクワク

  リュート「あぁっ、待ってくれよ屋台のおっちゃんに注文した焼き餃子取ってくっから!」ダッ


 語り部となって古い言い伝えや失われた[ワカツ]の日常風景、伝統など貴重な話を聞かせてくれるゲンの傍に
工学者と術士も座り込む、無職男性もいつになく機敏な動きで取りに行った大皿を運びながら座り込んだ
 [モンド基地]から生還した彼らの宴会会場となった屋台広場のテーブルにはアルコールの注がれたジョッキや
食欲を擽る素晴らしい馳走が並べられていて、さっそく追加された一品を小皿に分けて
一口食べ出すグラディウス組とスライム、「あっ、ずりぃ」とリュートも食べ始めて魔術師もそれに倣う

 …パリパリとした皮の食感と火が通った具材、そこに少量のピリ辛風味のたれが美味いと感じた


  ゲン「話していいか?…俺の爺さんのそのまた爺さんの爺さんの…ってとんでもなく気が遠くなるくらいの」

  ゲン「まぁ年号がいつだかわからねぇくらい大昔の話が元とかいう奴でな、嘘かどうかなんて誰も証明できないんだ」




  ゲン「数百年に一度、月食が起きて…生き物がみんな死んじまうって怪談話さ」


  T-260「」ピクッ


  ブルー「なんだそれは?」

   ゲン「知らねぇよ大昔のご先祖様にでも聞けって話さ、…なんでも月が無くなると"双子"が出てきて」


   ゲン「良い子にしてたら双子のお姉ちゃんの方が善良な子供や大人を助けてくれる」

   ゲン「だが双子の弟の方は恐ろしい4体のバケモノを引き連れて全ての生き物を喰いに来るんだとさ」


   ゲン「なんてこたぁねぇ迷信だろう、人間胸張って善い事して生きろって話で、悪い事したら閻魔様に舌抜かれる」

   ゲン「それと同じような与太話だよガキの頃に俺も爺ちゃんから耳にタコできる程聞かされた」

  ブルー「道徳と人間性、罪と罰に対する戒めみたいな作り話か……問題はその話がどのような過程で生まれたかだな」


 例えば、世界に残る心霊現象や神話も紐解けば何かしらの見間違いや歴史の口伝が何処かでねじ曲がって伝わったり…
白いお化けを見たと言えば実は木の枝に引っ掛かったビニール袋がそう見えただけだったり
人魂を見たと言えばそれは田舎で夜中に沼地から発生したガスが引火して結果的に宙に炎が浮いてる様に見えただけ等

 何かしらの"元ネタ"というのはあるのだ…人の罪と罰や正しさ、倫理的道徳に基づいた話を後世に残すなら
昔に恐ろしい事件でも本当にあったのだろうか?


   ゲン「過程なぁ…ってもそんなの聞いたこともねぇし皆ただの作り話だろって、いつ作られたかもわかんねぇんだ」

   ゲン「案外どっかの"惑星<リージョン>"で本当にあった話でそれが[ワカツ]に流れてきただけとかかもな」ガッハッハ!

 リュート「はははっ、ちげぇねぇや!…ん?T-260どうかしたのか?」ゴクゴク

 笑いながら豪快にジョッキの中身を流し込みながら妙に黙りこくった古代文明の遺産…"T"シリーズの機械に話しかける


 剣豪と旅を共にしてきたメカは基本的には無口だがそれにしたって今の迷信話をし始めてから何かを考えこむ様な
そんな沈黙を通しているような気がしてリュートは問いかけた


   T-260「いえ、ただノイズの様な物が走りました、不調でしょうか」

 レオナルド「うん?キミの修理が甘かったかな?後でもう一度ボクが見ておくよ」


 "T"シリーズ…古代に作られた通称"T<タチアナ>"の名を冠したメカは工学者の提案に黙って頷いた


  T-260「ゲン様、その話に関して諸説はあるのですか?」

   ゲン「おっ、どうした珍しいじゃねぇかお前がこんなのに興味持つなんて…
               そうさなぁ、生き物が死んじまう月食が起きると生まれてくる双子」

   ゲン「片方は地獄の底から従えた怪物と一緒に人を襲って、片方は人を護るっていうから」

   ゲン「じゃあ片方は悪党なのかってーと、そうじゃねぇ悪さする奴の戒めだし本当に世の中の奴らが皆いい奴なら」

   ゲン「そん時は姉ちゃんと弟が力合わせて、双子の力で地獄の門を閉じてくれるなんて伝わってる地域もあったな」


 信じられないだろうが地獄の門を閉じた事で"混沌の海<宇宙>"が出来て新しい"惑星<リージョン>"も誕生したとか
…まっ、こんなもんか?とゲンは語った。


   ブルー(双子が協力して地獄の門を塞ぐ、か)


 数百年に一度、死の月食が起こりその時に生まれた双子が力を合わせて"地獄に通ずる門"を封ずる
太古の昔より伝わる現実味の無い御伽話に耳を傾けながらコップに注いだ発泡酒を口に含んだ
 対極の存在にある双子が時としては手を取り世の為に戦う―――いや、元々は形さえ違えど世の為なのか
双子同士での殺し合いを宿命づけられている自分とは違うものだな、と彼は思った…


   ブルー「中々興味を惹かれる話だったな、他に面白い話は無いのか?」

    ゲン「あー、それならこういうのはどうだ―――――」


 月食は始まり、[クーロン]から見える月はもう半分が無くなり始めていた…暁月<ぎょうげつ>の刻は近い

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―――
――


【双子が旅立って9日目 午後 19時06分 [京]】


 気候としては熱帯雨林に類する[シンロウ]の空気と異なり、気温や湿度も低くまた[京]の季節も少し肌寒いくらいで
過ごしやすいものだった、一度は[マンハッタン]に寄ってこれから乗り込むであろう基地に仕掛ける時限式の爆発物を購入
 少し遅めの時間にはなったものの紅の法衣を来た術士は以前ゲン達が泊まっていた旅館でチェックインを済ませていた


  ルージュ(…遂に来ちゃったな、メタルブラックさんの所)


 [クーロン]へ向かいブラッククロスの件でエミリアが所属するグラディウスに行くより先に彼らは[京]を訪れた
案内された客室にとりあえず荷物を置いて、財布と携帯電話だけを持って外に出かける
 この街の[庭園]にて"ラビット"なる隊員を見つけ出し協力を要請を行う手筈のレッド達と合流予定だからだ


 ルージュ「…綺麗な"惑星<リージョン>"だよなぁ此処、こうして夜の[京]を歩くのももう一回観光目的でしたかったなぁ」


 落ち葉舞う美しい街並み、灯篭の寂しげな明かりを支える様に夜空の星光が煌めいて
風に揺れる柳の並木を抜けて紅き魔術師は観光スポットの[庭園]へと向かう…


 ルージュ「んっ」ヒュオオォォ…!


 突然、吹いてきた強風に煽られて目元を抑える、そしてふと夜空を見上げるとそこには美しい月が浮かんでいた



 ルージュ「…わぁ、綺麗だなぁ」


 今宵の満月はとても澄んだ"蒼"の輝きを放っていた、この世のどんな宝石よりも美しいと思える蒼月<そうげつ>が…

ロマサガ3の死食かな?


 橋を渡って[庭園]にたどり着けば仲間達は既に目当ての隊員と合流を果たしていた
ふよふよと宙に浮かぶ機械、タイプ2型と呼称されるメカがレッド等と話しているのが目視できる



  IRPOメカ隊員「[メタルブラック基地]を調査中です」フヨフヨ…


   アセルス「キミがラビットだね、ドールさんからお話は聞いてるよコレ書いてもらった紹介状」スッ

    レッド「メタルブラックの基地を調査中、か…そう、だよな」


   ラビット「……。」ジッ

   ラビット「IRPOの印ならび書かれている文字の筆跡がドール本人の物と完全一致、偽造でないことを確認しました」


   ラビット「書状の内容通り、アナタ方との共同任務に就きます」

    レッド「ああ、よろしくな!―――っとルージュ、宿をとってきてくれたのか?」


   ルージュ「うん、チェックインは済ませてきたよ」チラッ


 紅き魔術師は辺りを見渡す、今日はこの場所に多くの人が訪れていた
この"惑星<リージョン>"特有の着物姿の人間が飲み物や手作りのお弁当を持参して敷物を広げて皆が一様に空を見上げていた
 [京]は他所と比べても肌寒さのある土地でまた一年の中で最も秋の期間が長いとされている
今宵は蒼く輝く月が夜空を彩る、この時期だからこそ人々は地元の風習の"お月見"とやらを楽しむのだそうな



   ルージュ「人が多いね、道中で道行く人が話してた『おつきみ』って奴なのかい?」

    レッド「だな、俺達が来た方の道なんて縁日でもねぇのに屋台が出てたぜ、焼き鳥の美味そうな匂いだ」
   アセルス「うん、わたあめ屋さんとお団子屋さんまであったね」


 なるほど商魂逞しいというヤツなのか、と術士は思った
予定では今日でラビットと合流して彼の調査報告を訊き、監視や警備の手が薄い時間帯を狙って基地に潜入
悪の秘密結社の活動資金源と成り得る麻薬密造施設の爆破を目論んでいた

 作戦開始はどの道明日だ、であれば…





       ルージュ「僕達もお月見しようよ、今日はこんなにも月が綺麗なのだから」



 紅き魔術師は空に輝く『蒼』を見て美しい、純粋にそう感じた
心が不思議とザワザワする居ても立ってもいられない、胸の奥で何か言葉にし難い物が込み上げてくる感覚
 明日、知り合いを自らの手で斃すかもしれない、斃してしまうことになるのかもしれない……
そう考えると頭が重い、澄んだ水面に石を投げ入れて浮かんできた泥を更に綯交ぜにして濁り水を作られた気分になる
パーッと遊んで、騒いで笑って、今だけはそれを忘れたいだけなのかもしれない
 英気を養うという意味でも、振り返った時に笑える思い出話を作るためにも…やってみたい、彼はそう考えた



    レッド「景気づけか、それも悪くないかもな」

   アセルス「そうだね、こんなに綺麗なんだから見なくちゃ損だよね」



 なら何か飲み食いできるもの買いに行こうぜ!とレッド少年が声を上げて屋台に向かうとした時
姿が見えないなと思っていた白薔薇姫とBJ&Kが向いの橋から何やら袋を引っ提げてやってくるではないか


    白薔薇「必要な物はこちらですか?」ニッコリ
     BJ&K「屋台の方々がサービスしてくれました」ドッサリ


 旅の消耗品、食料の買い出しで別行動をしていた白薔薇姫とBJ&Kがリストに無い品を大量に持っていた
まるで最初からこの3人が今宵は此処でお月見しようぜ!っていうのを予知していたかの様に
彼女(ほとんどBJ&Kだが)はお団子やお総菜、飲み物の類を持っていた

 曰く、屋台前を通りかかった白薔薇に屋台の店主達が「べっぴんさんだね!これサービスするよ!」と渡して来たとか…
重さで腕がプルプルしてる様な気がするBJ&Kとにこやかに笑う白薔薇を見て3人は暫く呆気に取られた後、盛大に笑った
 準備に抜かりは無しとは恐れ入った、これは白薔薇には頭が上がらないな、と

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―――
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 古来、人は空に輝く物を信仰した

 太陽には神が住まうと信じ人間に齎す光の恩恵や作物の豊穣を乞い願った、風土と風習は違えど何かを信仰する文化は
必ず人の根付く大地にはあった、太陽信仰とは違うが夜空に輝く月に祈りを捧げる古めかしい文化も当然ある
 大空で輝く物に対して畏れ敬う…形式こそ違えど本質は変わらない


 人がそれに人智を超えた神秘を感じたならそれに対して畏敬を以て信奉し得られる恩恵へ感謝する、そこに差は無かった





    ブルー「…紅い月だな」



  エミリア「綺麗だけど、血の色みたいで少し気味が悪いわね…」

   ブルー「ふん、気色が悪い言いつつ貴様もジッと見続けているではないか」

  エミリア「そりゃそうだけど…」


    ゲン「はははっ、さっきの話の後だから不吉に見えちまったってのもあるか?」


 酒を呷った剣豪が豪快に笑う、元モデルの彼女は少しだけムッとして「別にそーじゃありませんよー!」と拗ねた様に
果物酒の入ったグラスに唇をつける、酒に弱い事を知っている同僚のアニー、酒屋で同席したことのあるリュートは
そんなに一気に飲んで大丈夫かと?心配そうに見つめた


 レオナルド「まぁ赤い月は不吉の象徴っていうのはあながち間違ってはいないからね」

 レオナルド「統計データ上、何かしらの災害が起きる直前には紅い月が出ると言うから」


 空に光る紅に対してネガティブな意見が出る中、蒼の魔術師は口を開いた





   ブルー「俺は、別に紅い月を不吉の象徴だとは思わんがな…」



  リュート「おろ?珍しい、いつも赤いモンを目のカタキにしててトマトでさえガツガツ噛み砕くのに?」

   ブルー「貴様の中での俺はどういう人物像なんだ…」


   ブルー「赤い月が見えるのは学説上、噴火や山火事で発生した塵や水蒸気が原因でそう見えるというのが多い」


   ブルー「今レオナルドが言った様にそれが見えてからは地震だとか災害が出るケースがある」

   ブルー「…不吉の象徴というよりは、警告や注意だな」




   ブルー「学術理論で解き明かせる自然現象を以てして、人々に"事が起こるから備えておけ"と説いている」


   ブルー「…俺はそう解釈してるがな」



 学徒として本の虫だった頃に文献で見た意味合い、そこから自分が感じた毀損の無い意見を彼は述べた
古代の人間が太陽や月を信仰したのはそういった一種のサインを知れたからというのもある
 暦<こよみ>を知る術<すべ>であり、方角や時間、季節の概念を賜り、世に起こる恵みや厄災の"予報"にもなった


 …【紅】はあまり好きな色じゃないけど、アレ自体は別に悪くはない、ただの自然現象、論理的に解明できる仕組みだ

 人々を救おうとそんな声なき声を上げ、警戒心を抱かせる―――あまり好きになれない色だが認めるべきは認めてやる



 何か信じられない様な物でも見た顔で各々が蒼き魔術師の顔を見る、表情が判別できないスライムですら
呆けている様にブルーは見えてバツの悪い顔になる


   ブルー「……なんだ貴様ら、そんなに変な事を言ったか?」イラッ



   アニー「いや別に変な事は言ってはいないんだけどなんかね」

  リュート「お、おう…なんか今日は珍しく赤い物に対して優しいなって、こりゃ明日は月でも消し飛ぶんじゃ…」



 あっ、いや、月は無くなってたかと茶化してジョッキの中身を喉に流し込む無職男性に益々眉間の皺を寄せるのであった
言いたいことは解ってる自分らしく無い発言だったとも、そんなことは分かっているんだ

 生死を賭けた激戦から誰一人欠けずに生還したからなのか、今日に限って妙なセンチメンタルになっている自分が
存在していることには気付いている
 …認めたく無いが、自分はコイツ等に多少なりとも愛着が湧いてるのかもしれない、蒼き魔術師はそう思う


 そんな彼らと今宵見ている【紅】は不思議と嫌な気持ちがしない、それどころか美しいとすら感じた
胸の奥がざわついて、だのに…何処かひどく冷静な自分が居て今まで考えた事も無い言葉が浮かんでくる
誰にも漏らした事の無い自分の心情を何かの弾みでポロリと零してしまいそうな自分が居る
 今まで凍り付いていた物が一気に解氷して流れ出してしまいそうな、…落ち着いて打明けたくなる不思議な気持ち



 ――――……心細い?不安や寂しい? どんなちっぽけな事でも良いから誰かに打明けたい?


 脳裏にこの歳まで考えた事も無かったワードが飛び交って消えていく、今まで考えた事も無い"言葉<感情>"の数々が





…きっと紅い月の所為だな、皆既月食は星々との間での引力で人を情緒不安定にさせるらしいからな。

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―――
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 紅き魔術師は[京]の[庭園]にて気の置ける仲間達と共に語らい合い、夜風を浴びて空に浮かんだ蒼月を眺めていた
滅多に見れるものじゃない統計上かなりのレアケースの月

 ありえないこと、相当珍しい物、もしも見れるのならばそれは即ち幸運であり神に愛された者であるとそれ故に
蒼月はこう称されることもある

――――青い月は奇跡の象徴である、と



  アセルス「―――ってことがあったんだよ、だから二人でイルドゥンの寝室に捕まえた虫を…って聞いてる?」

  ルージュ「えっ、あっ!?ごめん…空を見上げてたからつい」


   レッド「今日は確かにお月様が綺麗だからなぁ…スーパーブルームーンとか言ってたっけ?」

   白薔薇「ええ、今宵は綺麗な月ですよね……美しい程の青は奇跡や幸福を与えると言いますわ」

   白薔薇「童話でも"幸せの青い鳥"という物があるように昔からそう言った意味はあるのです」

  ルージュ「読んだことがありますよ、幸福を呼ぶ青い鳥は本当は近くに居るのそれに気づかず求めて旅する話ですね」


 その身に青い血液を宿す妖魔の貴婦人は静かに語る。


   白薔薇「…ふと国ごとに解釈の違う青い鳥の書籍を読み考えた事があるのです、青い鳥を見つけ出せた者は幸福と」

   白薔薇「であれば、"青い鳥自身"は一体どうやって幸せになるのでしょうか…"月自身"は一体何を見上げるのか」


 自身が人に幸福や奇跡を授ける存在であるならば、その当人は誰から幸福や奇跡を授かるのだろうか?
そう考えると見上げる人々を幸せにする蒼い月はなんと孤独な存在なのだろうとふと思ってしまう




   レッド「なんつーか哲学的な話だなぁ…確かにそういわれるとあの夜空に浮かぶお月さんも可哀そうかもな」

   レッド「だって、月自身は月なんてみれねぇだろ?俺達は普通にこうやって飲み食いしながらお月見してる訳だし」

   レッド「月は一体何を見て綺麗だなぁとか思うんだろうなぁ」


  ルージュ「ん~…可哀そう、なのかな?」


   白薔薇「ルージュさん?」




  ルージュ「僕は、蒼い月が可哀そうな子だとは思わないよ、だって蒼い月は僕達が住んでる星を見てるんだもん!」



 その発言に全員が目をきょとんと丸くした、なるほど…地上に居る人間がお月見してるなら
向こうさんはもっと蒼く輝く水の星を見てるのか…

 月視点なら幸せの"青い水の星"がいつだって間近にあるという事なのだろうか



   白薔薇「なるほど…そういう解釈ですか、そういう物もあるのですね…その発想はありませんでしたわ」

  ルージュ「僕は皆が皆、誰しもが幸せになれる権利があると思うよ、きっと例外なんて無いんだ」

  ルージュ「人は青い鳥を探したり捕まえることができる、でも青い鳥自身は青い鳥を捕まえられない」


  ルージュ「きっとそんなことはないんだよ」


  ルージュ「青い鳥にとっての別の青い鳥が居るんだよ、もしかしたら僕達には気付けないだけで彼らには」

  ルージュ「彼らだけが口にできる幻の青い果物とか青い木の実とか、もしかしたら青い花があるのかもしれないし」


  ルージュ「月には月で僕達からの場所から観測できないけど、あの宇宙区域地点から見える別の月があるかもよ?」




  ルージュ「ただ自分だけが誰かに奇跡や幸福を与えるだけで、自分は誰からも奇跡や幸せを貰えない」



  ルージュ「僕はそうは思いたくない、そんなの悲しすぎるから……―――だからそうであって欲しいなって」


 それは違うし、そうであってはならないんだ。

 紅き魔術師はそう口語する、きっと自分達には分からないだけで相手にも大切な何かや誰かが居てくれる筈なのだと


   白薔薇「ふふっ、そうですわね、そうであった方がいいですよね」クスッ


 妖魔の貴婦人は月を見上げて慈しむ様に微笑む、空から無償の輝きを振りまいて夜道に疲れ果てた人々の心に感動を与え
もう一度辛く険しい道のりを歩き続けようという心持にさせてくれる蒼月

 そんな蒼月にもきっと自身にとっての幸せや頑張ろうとするための何かがあるのだ
案外、自分の"応援<エール>"で立ち上がり日々頑張ろうとする人々の姿が彼にとっての生きがいなのかもしれない

 そう考えたら、それはそれで相互に助け合っているということになるのでは?



   ルージュ(…誰かが空に浮かぶ綺麗な月に祝福されて、頑張ってねって応援される)


   ルージュ(もしも、もしも月が誰からも祝福されないのなら、祈ってもらえないのなら…そうだなぁ)




   ルージュ(なら、せめて僕くらいは祈ってあげたい、かな…)


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――




  二人の魔術師が居た。



  奇しくも、同じ時間、同じ刻の中で二人は蒼と紅の月をそれぞれ見上げていた






 蒼は暁月を見て、これからの旅路は困難が伴う茨の道かもしれないと感じた


 蒼は誓った。




 自分は決して挫けない、生きてみせると









 紅は蒼月を見て、光を齎す存在と自身の旅路に幸があって欲しいと思った


 紅は祈った。




 自分のこれからに幸を、生きてみたいと




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            今回は此処まで!



           ※ - 第6章 - ※



        ~ 蒼月に祈りを、暁月に誓いを ~


                              ~ 完 ~

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おつー
ルージュくんいい子でかわいい







           ※ - 第7章 - ※



        ~ それでも明日はやって来る ~






 その日は、一際暑い一日だった


 ジッとただ立ち尽くすだけで汗が滲む様な暑さの中を涼風が一陣吹きぬけていく
ふと首を上向けてみれば少し前にも見上げた蒼穹は色褪せていて、徐々に違う色が混ざりつつあった
 齢7歳の二人は勝手にそれぞれの学院を抜け出して来たことを思い出し互いに表情を変えた
こっぴどく叱られてしまうだろうなと眉を八の字にして笑い、もう一人はバツの悪そうな顔で後ろ頭を掻いた



 かと言って今更戻る気なんて無かった、どうせ怒られるのが確定しているなら慌てて帰っても意味は無い
一時間遅れようが三時間遅れようが遅れたという事実は変わらないと開き直った



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 ほんの少しだけ暑さが薄れていく街の中央広場で二人は此処まで来たなら夕日も見てみようと

 蒼を纏った金髪の子と紅を纏った銀髪の子、どちらが先にでもなく息を合わせてそう言った





  『刻が経つのは早い物だな、もう陽が傾き出した』

  【ね、本当に不思議だと思うよ】


  『楽しい時ほど早く過ぎる、月並みな言葉だが…その意味を実感出来た気がする』

  【時間は皆に等しく平等だー!っていうけれど本当はそんなことないのかもね】


  『ああ、苦痛に感じる者や喜楽を噛みしめられる者、人によって流れ方は違う』

  【根っこの部分は同じモノの筈なのに人がそれをどう捉えるかが大事ってお話だよね】



  『ああ、そうだな』

  【ふふ、そうだよね!】





 邂逅を果たした広場の噴水の縁をベンチ代わり腰かけてお互い何も言わずにただ街を眺めていた
修道士が手に学院の教えを綴った聖書を持ち聖堂で祈りを捧げる為に忙しくなく移動し
ある者は特殊な呼吸をしようと木陰で息を整えて、観光客は西日になりつつある斜陽から
目を保護すべくサングラスの位置を正していく


 一際暑い夏の日がほんの少しだけ去っていく瞬間、晩夏もやがては立ち消え、鈴虫が舞台準備に急く


 吹き抜けた涼風は遠からぬ未来を暗示していた
時が訪れれば自然と現れる摂理の予兆、街に根付く息遣いも少しずつそれ等を感じ取って変わっていく
 小さな変化、だけども大きな変化―――それを二人の少年は何を言うでもなく見つめていた



  『人を視る、というのも存外つまらないものではないな』

  【"生きている"それを実感できるからね】


 街が生きている、人が活きている。

 多くの命がそこにあって、それぞれが互いの相互関係で成り立っている
誰かが誰かの為に存在していて、同時に誰かが誰かから渡された物で今日を生きて
そして誰かは誰かの犠牲の上で成り立ち明日を迎える、普段気が付かないだけで世界はきっとそうして回っている


―――
――


【双子が旅立って10日目 午後 16時00分 [京]】


 紅葉の色が最も映える夕暮れ時、時刻はジャスト16時ぴったり、ヒトロクマルマルである


 眠気覚ましの湯浴み後に重くなった銀髪の水分をふき取り旅館備え付けのドライヤーで髪をよく乾かして彼は着慣れた
紅の法衣を身に纏う、[シンロウ]で調達した精霊銀の装備やドール隊員から選別として頂いた幾つかの支給品も身に着け
彼は揺り椅子の上で時計の長針が天辺に上り詰めるのを待っていた

 昨晩、[IRPO]のメカ隊員ラビットと接触して協力を取り付ける事に成功した彼らは潜入先の基地について
分かっている情報を提供してもらった

 曰く、物資の搬入や人員の入れ替え、また基地内の警備担当者による定時見回りスケジュール等々




 結論から言うと、この時間帯が[メタルブラック基地]を攻略する上で一番の攻め時だそうだ



[書院]の地下にブラッククロスの資金源となる麻薬の密造施設がある、彼らにとっての金鉱脈を潰し
"可能であるならば"メタルブラックに警察への自首あるいは組織を潰す為の協力…つまりは司法取引だが
恐らく彼は主君を裏切る様な者ではない

 前日から思ってはいたが、どれだけ希望は薄くとも藁にも縋りたくなるのが人間のサガだ


 限りなく可能性が0%に近かったとしても"可能であるならば"穏便に済ませたい




 肝心の入り口に関してだが「ぬけみち」とやたら達筆で書かれた掛け軸の裏が出入口になっているらしく
[書院]に出入りする修行僧に扮した麻薬売人もそこから入っているらしく本来であれば掛け軸前に
誰かしらの見張りが居る、なんならメタルブラック本人が掛け軸前に堂々と立っていて来訪者が基地内に入り込まない様に
監視していることだってあるのだそうだ

 今日のこの時間帯なら掛け軸の前に見張りは居らず、しかもご丁寧にブラッククロスの手の者が基地に入る為にロックを
敢えて解除してあるとのこと


 それ故にルージュ一行は昨日[京]に到着したにも関わらず、行動を起こさず黄昏時まで旅館で息を潜めていたのである
時計の針が16時をぴったり指し示したタイミングで戸を叩く音がする




      BJ&K「ルージュさん、時間です」ピピッ

    ルージュ「ん、今行くよBJ&K」


 医療メカが予定通り作戦決行の時間に迎えに来た、彼は必要な荷物を持って旅館を出る
チェックアウトはしていない、事が終わればまた戻って来る予定だからだ
 入口には既に白薔薇姫とアセルスお嬢、レッド少年も居る……ラビットは先に件の掛け軸前に居るとの事だ



    レッド「それじゃあ、行くか」


 術士の姿を見るなり少年がそう言葉を発した、何も知らない観光客や旅館の従業員からすれば知り合いが来たから
引き続き観光の為に街を回ろうという意味にしか聞こえないことだろう
 何気ないこの一言に、どれだけの決意と緊張が入り混じっていたかは知る由も無い



 友好的だった知人を―――メタルブラックをこれから切り捨てるやもしれぬ、それは皆が思っている事で口には出さない


 彼らは橋を渡り、落ち葉舞う道を歩み、幾度か訪れた店の前を素通りして、長い坂道を登っていく
前に訪れた時と同じで紅く燃え上がる様な美しい輝きが[京]の都を包んでいた
 夕焼けの朱に照らされた街並みを進み、彼らは遂に[書院]へとたどり着いてしまった…

 事前報告の通り、院内には職員は誰一人として居なかった…否、道中見えてしまったのだ
[クーロン]でも見かけた巡礼者と同じ格好をした人物が建物の中に入っていくのを
 そして、誰も居ない……入った筈の修行僧の姿が影も形も無い、隠れられる場所など何処にも無いと言うのに


 例の掛け軸がある部屋にも巡礼者の姿は無く、代わりに天井からラビットがふよふよと降りてくる
曰く、麻薬の密売人がやってきて自分に気づかずに基地内へ入っていった、と

乙です
メタルブラック楽しみ



   ラビット「この裏に空間があります」

 降りてきたメカ隊員は「ぬけみち」と書かれた掛け軸を示す、その言葉を受けてレッド少年がゆっくりと手を伸ばすと…


          レッド「おあっ!?」シュインッ!!


  アセルス「烈人君!?」

  ルージュ「き、消えたっ!?」


 手を触れた途端、彼の身体は薄くなりそのまま回転しながら浮かび上がったかと思えば
掛け軸に吸い込まれる様にして姿が消えた
 白薔薇がそれを見て口元に手を当て、「…なるほど一種の転移術のようですね」と興味深そうに眺める

 [ファシナトゥール]の城にも転移術を利用した移動装置はある
台の上に乗れば舞う花弁に包まれて違う棟へと運ばれる物だが彼女は主人の城にある物と違い
妖力を感じないことに疑問を抱く


   ラビット「術と科学機器の2種混合装置のようです、術に長けた人物が近づいても察知できないようです」


 メカ隊員の解説を聴いて成程と白薔薇は納得し、同時に機械の力は妖魔の霊感でさえもこう欺くのですかと感心する
同じく術士である紅き魔術師も術的な力を全く感知できなかったことに驚いた
 薄っぺらい壁掛けの一枚、それが捲れても後ろには壁しかなくどうみてもちっぽけな掛け軸一枚の裏に
人間一人が通れる様な大穴も扉もあるとは思えない

 触れればこの軸の裏側、厳密に言えば壁を物理的に貫通して内部にある秘密基地に入れるという仕組みか


  ヒュンッ!!

   レッド「び、吃驚したぁ……」


 少年がまるで瞬間移動でもしてきたように現れた、どうやら向こう側から帰ってきたようだ
仲間の顔と景色を一瞥してどうにか地上に戻って来ることができたのだとホッと息をつく


   レッド「入ってみたが、この中凄いぜ…[京]の建物とは思えないくらいの無骨な創りだった」

   レッド「瞬間移動してすぐ後ろに緑色の光がある、暗闇の中で蛍光塗料ペンで縦長の長方形描いたみたいな感じの」

   レッド「どうやらそれに触れれば地上に戻れるみてぇーだ」



  アセルス「じゃあ、予定通り基地に時限式の爆弾を仕掛けたら…」


   レッド「ああ、退路は確認できたからな、そこまで戻ってくれば無事に脱出成功ってワケだ」


 一同その言葉に頷いて、掛け軸に触れていく
紅き法衣の青年も仲間達と同じように手を当てれば、浮遊感に襲われる
 自身の身が宙を舞い、視界が文字通り360度回転―――したかと思えば何処かの物置か何かと思わしき場所に立っていた



  ルージュ「ハッ……ここは…」キョロキョロ


 [京]の自然豊かな香りとは違う、鉄と油の匂い…いや、それだけじゃない
長い間放置された雨水をろ過しようと熱した時に立ち上る様な何とも言えない臭さ
 銀髪の青年は自然と裾で鼻を覆いながら眉を顰めていた


   BJ&K「大気中に人体にとって有害な成分はありませんね」ピピッ


 医療メカがそう判断して一先ずは安心する、一歩足を踏み出すと金属の上を歩く音が響く
トタン製の鉄板床から年季の入った所々塗装が剥げて錆が目立つトタン階段を降りていく

……もう大昔からこの麻薬工場が稼働していたというのがよくわかる


 階段を降りきって部屋の隅々を見渡すと部屋の端っこに無造作に[300クレジット]が置かれているのが目に映る
察するに此処で外部から来た"商売人"が品を受け取り代金を置いていくのか
あるいは組織本部へ輸送予定の献金を近々、それこそ本日中にでも輸送予定だから仮置きしているのか…


 徐に金袋に近づいて手に取ったレッドが術士の方に投げて彼は慌ててそれを受け止める
ずっしりとしたクレジットの重みが両の掌にのしかかる、魔術師は険しい表情をした少年の顔を見つめる


   レッド「ブラッククロスの金なんざ百害あっても一利無い、この麻薬基地もどうせ用意した爆弾で吹っ飛ばすんだ」

   レッド「コソ泥みたいな真似だけど旅に役立つモンは貰うだけ貰うさ、[秘術]の為にも先立つ物が要るんだろう?」


 一理ある、無法都市で[金]を買おうとしたがあまりの値段に中々手が出せず結局[シンロウ]に行ったのは記憶に新しい
遺跡探索で一山当てて購入するという金策も[ベルヴァ]の一件で有耶無耶になり成果は……まぁ強い武具の新調はできたが
 何れにせよ犯罪組織のテロ活動や非人道的な科学実験の助けになり得る資金や物資を放置しておくのは忍びない
ドール隊員からも押収品についてはお墨付きをもらっている、[IRPO]の権限様々といった所だ


  ルージュ「そう言う事なら…」スッ


―――
――


 金袋を[バックパック]に仕舞いこむ、少しだけ重量の増した荷物を背負い直してから潜入者一行は
入口から一歩先の通路へと歩みを進める
 曲がり角の所を覗き込むと全身緑色のタイツスーツの人間が3人だけ見回っているのが見える
本来ならばもっと厳重な警備態勢だったのかもしれない


   アセルス「イチ、ニのサンで飛び出してそれぞれ各個撃破しよう」


 [緑戦闘員]は全部で3体、この通路部屋も別エリアへと3つに枝分かれしている…入ってきた入口からすぐに北側南側への
枝分かれ、南側に更に階段があって下階層へと繋がっている
 未だ自分達の侵入は気付かれていない、ここで討ち逃して増援を呼ばれたり最奥の警備を固められるのは好ましくない


 幸いにもラビット隊員を数に入れて自分達は6名だ、であれば[1軍]、[2軍]、[3軍]と2名ずつパーティチームを編成して
それぞれを強襲すればまだ警報も鳴らず平穏という名の微温湯に浸って油断しきっている敵基地内を堂々と歩けるワケだ


  ルージュ「よし!僕とレッド、アセルスは白薔薇さんと一緒で、BJ&Kはラビット隊員と組む、これでどう?」

  アセルス「OK、白薔薇と南側の戦闘員の方をやっつけるよ」


   レッド「ああ、姉ちゃんはそっちを頼む俺達は北側の奴だな」


    BJ&K「では我々は階段の戦闘員ですか」
  ラビット「了解です」


 それぞれが分担して各個撃破に務む、いつかのキグナス号での戦いを思い出す様な状況だ
各員が武器を手に取り、ルージュも術の印を直ぐ様切ることができる様にしておく


   レッド「行くぞ…イチ」
  アセルス「ニの…」


  ルージュ「サンっっ!!」ダッ!



   緑戦闘員A「キー!(!? な、なにやつ!?)」
   緑戦闘員B「キー!(曲者じゃ!ええい!指揮官殿が外の見回りに出ておるこの様な時分にっ!)」
   緑戦闘員C「キー!(おのれ!ネズミ共め……その首討ち取ってくれようぞ!!)」


 戦闘員達が一斉に飛び出した彼らの姿を認識するや否やそれぞれの反応を見せる、あからさまに動揺を隠せない者
数の上で分が悪いと速やかに判断してせめて基地内の警報装置を作動、可能ならば増援を率いて戻ろうとするもの
体術の構えを取り勇猛果敢に攻めんとする者


  ルージュ「相変わらず何言ってるか分からないけれど…っ!![エナジーチェーン]!!」キュィィン!!


 紅の魔術師は指先から思念の鎖を発現させて、動揺から我に返り基地内の異常を知らせようと
背を向けた戦闘員の脚を絡めとる、同時に背後から[妖術]と[心術]が発動する時の魔力の流れを感じ取り
階下からは重火器による攻撃を受けた戦闘員の悲鳴と思わしき甲高い『キー!』という声が響く

 脚を取りすっ転ばせた戦闘員の顔面にレッド少年の壁を蹴ってそのままの勢いを活かして急降下していく[三角蹴り]が
綺麗に決まった、心なしか動きがアルカイザーの[ディフレクトランス]に似てる気がする、きっと彼もファンなのだろう

おつー
ブラッククロス戦闘員好き

予定変更で続き土曜日予定


 戦闘員を沈黙させた二人は後方を振り返る、[生命波動]と呼び出された[ジャッカル]によって倒れた戦闘員を背にして
こちらは完了したと女性陣が手を振っていた程なくして階下から浮上してきたラビット隊員も目標を沈黙させたとの事
 一行は合流して慎重に歩み始める入口から三方に分岐していることから分かる様に基地内は入り組んでいた


  アセルス「あれ、こっちって通った道だっけ…」

  ルージュ「上を見てごらんよ、ほらあの金網上の足場、あそこに繋がってたんだよ」


 基地を歩き回り道中でまた[300クレジット]を拾ったり、彼らの支給武器と思われる[サムライソード]の置き場を発見し
今しがた自分達が歩いている場所はその武器置き場の真下だと術士は言った

 多少迷いもしたがまだ踏み歩いていない場所に出たのだなと彼らは安堵する、あまり時間をかけすぎては厄介な事になる
幸いにもまだ基地内に潜入された事実は広く伝わっていないのだから



 スッ…


   レッド「ん?なんだ…なんか匂うな」クンクン


 敵がいないか警戒しながら通路を覗き見る少年はふと、妙な香りに気が付く
甘ったるい奇妙な匂いに鼻をひくつかせながら彼は視線の先に[緑戦闘員]が二人何かを話し合っているのが目に映る
彼らのすぐ傍には鉄扉が一枚、そしてレッドから見て左側にはガラス張りの部屋があって天井に電灯でもついてるのか
薄暗い基地内の通路側にまで強い光が漏れ出して来るのが解った


  レッド(…なんだこの角度からじゃよく見えねぇけど左側のガラス部屋、何かあんのか?)

  白薔薇(あら、この香りは…)スンスン



 ふと花飾りの妖魔貴婦人が空気中に舞う香りに気が付く、これは"花"の匂いであることに気が付く…それも普通ではない
左側から溢れる強い光は太陽光に性質が非常に似ていて
室内栽培などに使われる最新式のLEDライトのソレだとメカ勢は察する

 妖魔の姫とメカ2機はそこから左の部屋がなんであるか大まかに理解した……



   緑戦闘員D「キー(新薬の配合はどうでござるか?)」
   緑戦闘員E「キー(依存性に難がありで調整が必要であろうな、被検体が来ることを切に願いたい)」



 ルージュ(3人とも…準備はいいかい?)
  レッド(応ともよ)
 アセルス(こっちもOK)


  ルージュ「それじゃあ…[隠行]」スゥゥ…!
   レッド「…[隠行]」スゥゥゥゥ…!
  アセルス「…[隠行]」フッ…!



 刹那、3人の姿が霞みが如く消えた…っ!否、そこに存在してはいるのだ!!
彼らは以前[京]に来た時に[心術]の資質を得た、その甲斐あって自らの姿を他人に知覚させなくなる[隠行]を習得していた
人間が自身の内にある潜在能力や力を引き出す術…ッ!極限までに気配を断ち、そこに居るはずなのに居ないと錯覚させる
 周囲の空気と同化した彼ら3人が先行して近づき
未だ接近に気づかぬ敵の喉元に拳を鳩尾に鞘による鋭い突きを至近距離からの[魔術]で意識を刈り取り―――

 こうして彼らは未だここまで潜入に気づかれずに数々の難所を切り抜けてきたのであるッッ!!


その様はまるで忍ぶ者、即ちニンジャめいたアクションであった…!


    ド ス ッ !!!


    緑戦闘員D「ギッ!?(ぐえっ!?)」ドサッ

    緑戦闘員E「キー!(ど、どうしたでござるか同胞よ!)」


  ゴスッ!

    緑戦闘員E「」ドサッ


 しめやかに気絶した戦闘員の傍らで彼らは余人の眼が無い事を確認してから[隠行]を解く、ふぅ…と大きく息を吸い込む
この術を使うと如何せん水中に潜る感覚で息を殺さねばならぬのだから息苦しくて困る
 呼吸が碌にできない状態では派手な大技や術を使うこともできない、必然的に一時的な隠れ蓑としてしか機能しない


  レッド「何言ってたかわからねぇけどこんな所での立ち話だ碌でもねぇ内容だったんだろうな」チラッ




    ガラス越しに見える部屋『 一面のお花畑  』



  アセルス「この花ってそういうことだよね?…刑事物のテレビドラマとかの中だけの存在だと思ってたけどさ」

  ルージュ「ケシの花ってヤツ?…やたら甘い感じの変な匂いがするとは思ったけど」


 色鮮やかな花が無数にある花壇には咲き乱れていた、可憐に咲く…とても人を破滅に導くとは思えんような花々が
硝子越しにその姿を見てルージュは何とも言えない心持になった


  ルージュ(…こんなに美しい花なのに)グッ…!


 欲望と禁忌の花園が此処にあるのならば目的の麻薬製造釜も恐らく近い事だろう、レッド少年とアセルスお嬢が
気絶させた戦闘員をとりあえず人目に見つからぬ所に隠せないものかと戦闘員を発見した際に見た鉄扉へと目を見やる
 少年は奥に何か居ないか警戒しながら扉を開けるが…



    レッド「うっ…こいつぁ…」ギリッ


 紅い鉄扉は刑務所の囚人用のソレと同じように顔を覗かせる格子がついていた、部屋の中は簡素な物で狭い一部屋に
パイプ椅子が二脚、そして机が一つ…
 それこそ先程アセルスが口にした刑事ドラマとやらに出てきそうな尋問室じみたシンプルな部屋だが問題は
地べたに置かれた料理の乗ったトレイと横倒しになったパイプ椅子である

 パン一切れによく分からないスープの入った器のシンプルなメニュー…爪で引っ掻いた様な後がある机と
暴れた拍子で倒れたとしか思えない椅子、極めつけに鉄扉は外側から施錠できるタイプで
中に入った者を逃さない仕組みと来た…扉の内側には何かが衝突したようなボコボコの跡が真新しい



   白薔薇「…酷い物ですわね」


 その部屋の"用途"がなんであるかを察してレッドは歯を食いしばる、彼は純粋な少年だった
だからこそ年若い彼の正義感がこの行いを一層許せなかったのだ


 背後から覗き見て部屋の内情を知ったアセルスも声を失いただ両手で口元を覆うだけで
そんな彼女の肩を抱き寄せて下がらせたのが率直な感想を述べた白薔薇姫である

 紅き魔術師もただ黙って俯き目を閉じた




 ―――…組織の人間の休憩所にしてはお粗末過ぎる、百歩譲ってそうだとしても食事を地べたに置く理由や
              机の引っ掻き痕、倒れたままの椅子や内側から何度も扉を殴打した跡の説明がつかない



 ここが麻薬の密造施設であるという事を考えれば容易に見当もつく


   レッド「ルージュ、わりぃけどコイツ等を縛ってそこの部屋にぶち込むの手伝ってくれ」
  ルージュ「うん…」


 少年はそう言いながら震えるアセルスの肩を抱きしめる白薔薇姫に目配せをする
それを受け取って白薔薇は「アセルス様、私達はBJさん達と敵が来ないかそちらを見張りましょう」と部屋から離れさせる

 戦闘員二人を[バックパック]から取り出した紐で縛って部屋に放り込み重々しい鉄扉を閉じる
重量のある扉が完全に閉じた後、彼らは中に居る二人が目覚めても出てこれないように鍵で施錠しておいた


   ラビット「証拠写真の撮影を求めます、違法植物培養設備の方へ進路を取れますか?」フヨフヨ…

    レッド「そっちか…」チラッ



   アセルス「…行こう!これは大事なこと、記録に残しておかなくちゃいけない大事なことなんだ」グッ


 同じく非道に対する怒りとも取れる震えを抑えぬまま固く拳を握ったアセルスお嬢が静かに口にした
証拠写真として、誰かの目に触れることのできる資料として後世に遺さねばならない

 時が立てばいつかは人々の記憶から忘れ去られ、風化する事件や出来事はある
しかしながら人間には断じて許してはいけないタブーがあるのだ、越えてはならない一線というものがあるのだよ
 それは容易に風化させてはならぬ事柄だ、然るべき機関や書庫に記録され二度とあってはならない事と記されるべきだ


 どんな大きな組織であっても、どれ程の規模や尽力を尽くしても必ず罪は暴かれる


 警察機関の資料室で埃被った解決済みの調査ファイルがそう主張するように、これも未来の悪党への抑制となればいい


―――
――



 艶やかな赤紫の花がちらほら咲き乱れる花壇をラビット隊員が内蔵カメラで撮影していく、先程[緑戦闘員]を放り込んだ
例の部屋は当然既に撮影済みだ、……至る所に[術酒]や[最高傷薬]が落ちてるのが目に映る
 BJ&Kに成分を精査してもらったところ、彼曰く"アレな成分"は入っていないとの事で使う分には問題はないらしいが



 ルージュ「正直、気が引けるよね…こんな所に落ちてた薬とか使うの、いや一応は貰っていくけどさ」

  BJ&K「先程も申しましたがトリニティの法令に反する薬物反応は検知されていません依存性も無く人体に無害です」


 ルージュ「うっ、それは分かったけどさぁ…そのぉ、気持ちの問題というか、その、ね?」


 術の力を満たす特注の酒と[最高傷薬]が培養の為の原料の一部らしいから落ちていたという見識だが
"おクスリの花壇"の傍らに落ちてる回復薬とか色んな意味で何か嫌だなぁ、とルージュは独り言ちた

 シュルリ…


 術士の耳が何かを這う様な音を拾ったのは彼が脚を何かに取られて態勢を崩しかけるのとほぼ同時であった


  ルージュ「うわぁぁぁっ!?」

   白薔薇「ルージュさんっ!!―――ハッ!あれは!!」


 一本の蔓の様な物が紅き魔術師の脚に絡みついていた――――花壇の花々に埋もれる様に隠れていたソイツを妖魔の姫は
直ぐに見抜いた…ウツボカズラの様な食虫植物にありがちな捕虫袋を持つ植物モンスター[トラップバイン]だ…っ!
 一般的な食虫植物との最大の違いは捕虫袋の形が蕾状態のチューリップのような形状とその大きさが人間の頭部に匹敵
そして獲物を喰らう時はその蕾がガッポリと開いて一気に人間一人を[丸のみ]にできる程にまで膨れ上がるということだ

 虫だけでなく哺乳類をも喰らう肉食性の植物であるが動き自体が遅く不用意に近づかなければ問題無いとされ
トリニティ政府からは"敵ランク4"相当とそこまで危険視はされていない存在なのだが…


   レッド「こいつっ…!花壇の中にモグラみてぇに潜伏してやがったのか!?」チャキッ


 全長の半分近くを地中に埋めて、残りは花々に埋もれるように隠れる―――本来ここまで知性溢れるモンスターではない
これもブラッククロスの品種改良によって生み出された生物兵器ということなのか…っ!!!


 [触手]による[足払い]を受けて姿勢を崩したルージュの片足を掴みそのまま吊るし上げて[丸のみ]せんと大口を開く
術士の眼には毒々しい蕾の中でちゃぷちゃぷと揺れる[強酸]が映るッッ!


   アセルス「はぁっっ!!」スパッ!

   ルージュ「あでっ!?」ドサッ


 間一髪飲み込まれる所でアセルスの[逆風の太刀]が[触手]を切り飛ばす、地面に落下したルージュは
先に剣を抜いていた筈のレッドの方を見た、すると―――


      レッド「ぐおっ、こんの…角付き虫がぁ…っ!」キィン!キンッ!ガキィン!

   アームウォーカー×3「ピギーーー!!!」


 少年のすぐ傍に盛り上がった土があった、地中から何かが出てきたような穴…冬眠から覚めた虫が春一番の餌を求め
地中から飛び出してきたようなソレを確認できた


 ボコッ、ボコボコッ


 地に落ちて身を起そうとする魔術師が自分のすぐ目と鼻の先からそんな音が聞こえたのも気のせいじゃないと悟る
音の正体が幻聴でもなんでもなく更に言えば何が起ころうとしているのかを察して
慌ててその場から跳ねる様に起き上がり後退した



   アームウォーカー「パミーッ!」ボッコォォン!


 [角]を高々と突き上げる様にして丁度ルージュの顔面がさっきまであった空間を[アームウォーカー]が出てきた




      ルージュ「っっ、む、むむ―――」








      ルージュ「  ム シ だ ー !  」





 \ ムシだー! /





 まるで何処ぞの村で蟻のモンスターでも出たような叫びをあげる紅き術士、音はまだ聞こえてくる…ッ!


 ボコッ!ボコッ! ボコボコボコボコ……!!!



   BJ&K「ピピッ!危険危険、地中から複数の生体反応あり!」

   レッド「んなモンっ―――見りゃ分かるっつーの!!」ガキィンッ [飛燕剣]ヒュィィイン!


 敵の攻撃を捌きつつ、一番後ろに居た1匹に[飛燕剣]を飛ばす、体液を撒き散らしながら巨虫の怪物が横倒しになり
無数にある手足をジタバタとさせている―――レッドは確信を得た


 かつてアルカイザーとして[バカラ]で最初のブラッククロスとの衝突があった際
指揮を執っていたシュウザー配下の戦闘員と一匹の[アームウォーカー]を相手取った事があるが

 …その時と比べて明らかにコイツ等は強い


 単純に今の自分が生身の"人間<ヒューマン>"状態だからと言われればそれまでだが修羅場を乗り越えて
多少は強くなったと自負している、更に言えばさっきから捌いてる攻撃の一発一発の重さ
怪人達の戦闘力が3倍になる"トワイライトゾーン"でもないのに鋭さが増しているッ!


  パシュッ!パシュッ! シュィィン―――!


  ビット『 ビーム攻撃 』ビュンッ!
  アームウォーカー「ギッ!?」バジュッ!


  ラビット「プログラム[ビット]を射出しました、この場を切り抜ける為に少々時間を稼いでください」フヨフヨ…


 次々と強化改造が施された増援が来る中でラビットはそう言った、彼の身体から放たれたビット機が宙を舞う蜂の様に
敵を光線によって焼いていくが、致命傷には至らない…[ビット]の真骨頂はまだこれからであった

 ラビットは静かに、内部プログラム[サテライトリンカー]へのアクセスを試みていた…!

女王がエロい成虫になりそうなアームウォーカーだな…

乙です


 [IRPO]隊員のラビットといえばコレ、一種の代名詞と言えよう

 プログラム[サテライトリンカー]は異次元に存在する衛星と射出した[ビット]を連動させ、それによって
如何なる場所であろうと高出力のレーザーによって敵を焼き払うという兵装だ
 優れたモノではあるが難点があるとすれば発動までにやや時間が掛かる事が挙げられる
子機の射出で一手、衛星との接続で二手、刹那の判断が要される戦場に無防備で立ち尽くすのはあまり好ましくない


  ルージュ「時間を…分かった!皆ラビット隊員の為に時間を稼ごう!」BANNG!


 [精密射撃]が巨虫の角をへし折る、それでも勢いを殺すことなく折れた先端で突き刺そうと迫り来るソレ相手に
アセルスの[生命波動]が突き刺さり要約動きを止める

 1匹倒しても更にもう1匹、潰せど潰せど湧いて来る様は正しく"虫"そのものである
それに出てくるのは虫だけではない…っ!



  シュルシュル…!ウジュルウジュル…!


 先程ルージュを[丸のみ]にしようとしたあの食虫植物に似た怪物まで出てきたのだ…ッ!


  レッド「畜生め…[トラップバイン]まであんなに…っ!白薔薇さんが囲まれた―――クソ、どけよ!お前等」バキィッ!


  アームウォーカー「パミーッ」[インセクトジュース]ブジャアアア!!


 すぐ真後ろに迫ってきた1匹をレッド少年は変身時に[スパークリングロール]を打つ要領で[裏拳]を放ち
後方へと吹き飛ばすが負けじと相手も飛びながらも[インセクトジュース]を口部からぶちまけていく

 粘度の高い酸性の液体が彼目掛けて飛び、彼もまたそれを躱してなんなら前方に居た1匹を鷲掴み
液体の落下地点に投げ飛ばす――――ジュワァァァっと嫌な音がして虫の奇声が上る

 粘度の高い液体であるが故に中々振り払えず、じわじわと皮膚を焼く…そんな嫌な性能の水溜まりが辺りに散らばる
白薔薇や術士達の救援に行きたくてもこれでは思うように進めそうにない

 
  BJ&K「レーザー射出します!」ビィィィィ!


 アームウォーカー「アバーッ!」チュドーン
 トラップバイン「チビィィ」ボォォォォ!メラメラ!


  BJ&K「…ラビット隊員まだ掛かりそうですか?そろそろ私の"WP<ウェポン・ポイント>"も尽きますが」

  ラビット「あと少しです」

  BJ&K「さいですか…」ビィィィ!




  ルージュ「アセルス!白薔薇さんが…!」
  アセルス「白薔薇なら大丈夫だ!私達はこっちを!」




    白薔薇「…あらあら、困りましたわね」キョトン


  トラップバイン「ネエチャン、イイオンナダナァ…」ジリジリ
  トラップバイン「グヘヘ…!」[触手]ウネウネ
  アームウォーカー「ウスイ=ホン テンカイ ヤッター!」
  アームウォーカー「イタダキマース!」


    白薔薇「――大いなる白光は渦を巻き、熱を伴う波紋となりて焼き払わん[フラッシュファイア]」ゴォォォォ!!


  トラップバイン「グワーッ」バジュッ―――!
  トラップバイン「イヤーッ」バジュッ――――!
  アームウォーカー「アバーッ」バジュッ――――!
  アームウォーカー「イ、イヤダ!ドクシン ノ ママ シニタクナイーーッ ナムサン!」バジュッ―――!


  ルージュ「」ポカーン
  アセルス「ね、言ったでしょ」


 終わりの見えない増援に次ぐ増援、流石にこれ以上の長居と騒ぎ続ければ爆弾設置作戦は厳しいかと思われ所で
ラビット隊員が反応を示した!!




   ラビット「次元連結システム作動![サテライトリンカー]の起動オールグリーン、[次元衛星砲]発射!」ピピッ









        【  [ 次 元 衛 星 砲 ]  】





 刹那、空間がねじ曲がり"裂け目"が生じた。

 術士は別の"惑星<リージョン>"から遠く離れた別の"惑星<リージョン>"まで転移する[ゲート]に微妙に似た力場を感じた
あのワームホールは[京]とはまったく違う別の場所に繋がっていると実感できる
 裂け目の先からビーコンの光が伸びて標的となった敵の足元にライフルのスコープ越しに覗いた様な照準模様が描かれた


 次の瞬間には雷が落ちた


 天井がある室内で突然の落雷…否、それは遠い星々が漂う海に浮かぶ衛星兵器からのレーザーであった
極太の光柱が立ち上ったと思えばそこに居た筈の[アームウォーカー]が焼け焦げた焼殺遺体と化していて
足一本だってピクリとも動きやしない

 神話における神の怒りとも裁きの雷<イカズチ>とも呼べるそれに灼かれて絶命したようだ
だが神罰はただの1発では終わらなかった…


  アームウォーカー「ギギッ!?」


 空間の亀裂から無慈悲な衛星兵器の攻撃で死んだ仲間を見て狼狽える巨虫、兵器をどうにかしようとしても既に手遅れだ
仮にラビット隊員を破壊したとしても、一度座標を撃ち込まれた衛星兵器は起動させた主が死しても問題なく
その場に居る全ての敵対勢力を殲滅させるまで稼働し続ける
 衛星そのものを破壊しようと試みても裂け目の先の遥か彼方銀河の海にある



     バジュウウウウウウウウウウウウウウウー―――ッッ!!!


 そうこうしている内に再び神罰が改造を施された生物兵器に降り注ぐ、[ビット]同様に戦闘の真っ只中で
お構いなしに毎秒撃ち続けるのだから潜入者御一行が仮に何もせず、ただ[防御]してるだけでも勝手に敵は灼かれて死ぬ

 破れかぶれで少年達に攻撃を仕掛けようとアルマジロの様に身を丸くして転がり
硬い皮膚でそのまま轢き潰そうと試みた巨虫が届く前に神の雷によって絶命した――見ろォ!まるで虫がゴミのようだァ!



    ラビット「これで増援は問題ありません、皆さんあちらをご覧ください」フヨフヨ…


 浮遊するメカ隊員は違法植物園の出口を指さす、潜入者一行が入ってきた入口から突き抜けて北側一直線にある出口だ
出口前にも当然巨虫や肉食植物の怪物が陣取っているが、それを薙ぎ倒して突き抜ければここから脱することも可能


    レッド「そうか!衛星砲が発動してる今なら地面から無限に湧いて出てくる増援に歩みを止められる事も無い」


 この設備室からの脱出はおろか、ルージュ1人救援しようとすることさえも
大量に湧いて来る増援に阻まれて不可能だったが、その増援が増えても焼き払う…どころか向こうの救援ペースを
上回る速度で殲滅し続ける兵器が作動しているのだ、今ならばどうにか撤退することもできる


   ルージュ「よし!そうと決まればあそこを目指そう!」バッ!


 乱戦状態で完全に孤立していたレッドも、ラビット隊員に付きっ切りだったBJ&Kやさっきまで囲まれていた白薔薇も
全員が同じ目標地点に向かって走り出す、道中で草花の影から飛び出る[トラップバイン]も
地面から出る[アームウォーカー]も天からのレーザーに焼かれ、討ち漏らしも複数を相手取らず1対1なら問題なく突破でき
かくして一行は窮地を脱したのであった……そして、出口を抜けた先で彼らは目標の麻薬製造釜を発見する…っ!

乙!
メカのWPはウェポンポイントなのか

予定変更、続きは水曜日か木曜日予定


 辺りには妖しい陽気が立ち込めていた、中央の鉄釜に向かって伸びるいくつものコード
赤錆が所々に目立つタラップ階段…そしてこのエリアだけ他と比較しても多い見張りの人員

 見張りの戦闘員やメカ達はルージュ等の姿を見るや否や直ぐに攻勢へと転じ始める

 流石に[サテライトリンカー]の攻撃音やら何やらで花園からそう遠くない彼らには異常を察知されたか
侵入者の存在に薄々勘づいていた彼らは潜入者の排除を試みようと駆けだすが…!



   ルージュ「レッド!そのまま走れ[生命波動]」コォォォ!!

    レッド「応ともよ!援護は任せたぜ!」


 光の波動が形作る槍がレッド少年のすぐ真上を2条飛びぬけていく、人間のエナジーと妖魔のエナジーが並走するように
飛んで[ガンファイター]2機を串刺しにする、アセルスお嬢とルージュの術攻撃が機械兵を物言わぬ鉄塊に変えて
一気に距離を詰めて[緑戦闘員]に攻撃を仕掛けようと拳を繰り出す
 戦闘員は少年の一撃を寸での所で躱して改造された肉体から繰り出す[突き]を放つ



 戦闘員は自身の力で少年の拳を避けたと"勘違い"したようだが、そんなことはない
これまで幾度となく戦ってきた彼らの戦闘経験は改造戦士が想像するよりも遥かに上であえて躱される様な拳を
彼は打ち出したのである、コレはある種の[フェイント]と言えよう



   パリィィン!!


           【 [ ブ ロ ー ク ン グ ラ ス ] 】



 陶器を地面に叩きつけて割ったような音が響いた

 そう戦闘員が認識した時には既に自身を取り囲むように硝子の刃が迫ってきていて
改造手術によって得た屈強な肉体を裂いていた、ゆっくりと崩れ落ちる様に倒れる戦闘員が最後に見たのは
術の詠唱をしていた花飾りをつけた妖魔の姿であった



 どさり、戦闘員が倒れて残りの敵もラビットとBJ&Kが沈黙させたのを確認して彼らは一息をつく
レッドが正面から向って取っ組み合いを始めようとする、かの様に見せかけて…実は前に突飛していく前衛の彼は罠
 本当は彼に殴らせる気なんぞ無くて、白薔薇姫の[硝子の盾]を利用したカウンター戦法というやり口で
相手を鎮める算段であった―――仮に砕け散った魔法盾の破片が敵を襲う[ブロークングラス]で仕留めきれずとも
その分は今度こそレッドが手負いの相手に一撃を喰らわせてチェックメイトだ

 後衛はそのままに、前衛の少年を前に出しながらも反撃効果付きの防御術で無傷のまま懐まで接近させられる
自分達のチームワークも中々様になってきたのではないだろうか?



       レッド「…終わったか?」


 他に潜んでいる敵の姿は見受けられない、ついぞ基地内にてメタルブラックと遭遇することは無かった
彼は情報が間違っていないのならば未だ外周りをしている筈、鬼の居ぬ間になんとやら…
 少年は時限式の爆弾を仕掛けるなら今しかないと判断した



       レッド「麻薬製造釜だな、ここを爆破しよう!」


 彼のその言葉に応じる様に紅き魔術師は[バックパック]から時限式の爆発物を取り出し各員に手渡す
手にしたブツをそれぞれ分散して各地に仕掛ける

 スッ…!

    サッ!サッ――ポチッ、ピッピッ!カチリッ




       レッド「よし!準備完了だ!」




 タイマーが作動した…っ!後は爆発に巻き込まれまいと全速力で基地からの脱出を試みるだけだ…
道中の敵は多少のダメージは覚悟の上で無視…っ!相手をせずに突っ切るのみッッ!!


 爆発物のタイマーが動き出した後の潜入者達はひたすらに出口を目指した
未だ停止せず増援の巨虫や食虫植物と騒ぎに勘づいてやってきた戦闘員を駆逐する[次元衛星砲]の花畑を素通りして
気絶させた戦闘員を押し込んだ鉄扉の部屋前も抜けて、一番最初の枝分かれの間を駆けて錆が目立つトタン階段も昇り
滑り込む様に例のワープ地点へと入り込んだ…!




       ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!!!

                                  ―――――――カッ!!!




 術士達が基地を脱出して一拍子置いた後に全体を揺るがす振動が起きる、間一髪だった
もしもタイマーの時間をもう少し早めの設定にしていたら?道中の敵にもっと絡まれていた…ゾッとする話である
 かくして悪の組織ブラッククロスの資金源であり無辜の人々の生涯を狂わせる禁断の園は閃光に包まれて大火に消えた


   ゴォォォォォォ!!!メラメラメラ…!



  「ウワー![書院]が火事だぁ!!」
  「消防に通報しなくちゃ!ええっと電話番号は…」ポチポチ
  「あそこは街の離れだから他の民家や林に燃え移ることは無いだろうが…このままにしておけん!バケツリレーだ!」


  メサルティム「ひーっ!?突然建物が炎上しましたよ!?!?」
   ヌサカーン「ふむ…先程地下から振動を感じた辺り人為的なモノだろうな」

   ヌサカーン「クーンと別行動中でも面白い物は見れるな、私の自宅近辺に出没する改造人間等の家が燃えるとは」



   ヌサカーン「…ん?」ピクッ

  メサルティム「どうかなされましたか?」


   ヌサカーン「」ジッ




             高台『 』ヒョォォォォ…



   ヌサカーン「……いや、なんでもない"彼女"は我々には関係の無い者だ、さて一波乱起きる前に此処を発つか」クルッ

   ヌサカーン「メサルティム、君の療養が主目的だったのに"診断書<カルテ>"の作成に同行させてすまないな」

  メサルティム「!! め、滅相もございません!私のような下賤な者でも高貴なるお方のお役に立てれば…」フルフル

   ヌサカーン「……君がそんな調子ではこれから合わせる知り合いとどうなることか…」ハァ…


   ヌサカーン「まぁいい、予定通りまずはサイレンスと話しその後は[シュライク]と[マジックキングダム]だ」スタスタ

  メサルティム「あぁっ!待ってください~!」










高台の上『』 金獅子姫「…随分と長い遠回りになったが遂に見つけましたよ我が妹姫、そして主の血を与えられし者よ」


       金獅子姫「直ぐにでも向かいたい所ではありますが、既に先客が居る…であらば待つのが礼儀でしょう」



 高台の上から見下ろす誰よりも誇り高き武人の姫はかつて矛を交えた黒鉄の"強敵<とも>"が
[庭園]に向かって行くのをその眼で捉えていた…!!

 後にルージュが自身の旅日記に書き記す中で最も長い[京]の三日間の幕開けであった


 例の「ぬけみち」掛け軸から飛び出て来て尚彼らは止まらなかった、ブラッククロスの職員しか居ない[書院]を抜けて
坂道を下り橋を渡って美しい[庭園]まで一切の休息無しの疾走、目的地にたどり着いた彼らは漸く一息つけると
鞄から取り出した水筒の中身を口に含み、呼吸を整える……だが、小休止も言葉通り長く続くことは無かった

   ザッザッザッ…!


   ルージュ「貴方はっ!!」

   アセルス「…メタルブラック」


 まるで一行がそこに来る事など最初から分かっていたかの様に、何食わぬ顔で鋼鉄のサムライはゆったりとした足取りで
彼らの前に現れた前回の出会いと違う点があるとするならば明確な威圧感が…敵対者に対するプレッシャーが滲み出てる事
 紅き術士は目を大きく開き戸惑いとも焦りとも付かぬ色を見せていて、アセルスお嬢は悲しげに目を伏せ
レッド少年の眼は義憤の炎が揺らめいていた…彼は道徳に外れた行いをしたから許してはならないのだ、と

…そうでもしなければ、きっと少年は目の前にいる彼を直視できなかったから、きっと目を逸らしてしまっただろうから

 対して機械仕掛けの武士は彼らの姿と炎上する[書院]を見比べる様に首を動かした後、次の様に言葉を発した


   メタルブラック「 我 が 基 地 を 破 壊 す る と は 、 見 事 な 腕 前 」

   メタルブラック「 一 手 御 手 合 せ 願 お う 」スチャッ


 静かな声でありながらも一字一句が耳に入って来る、遠くで燃える[書院]の音や人々の声さえも感じなくなるほどに
解ってはいた、事前に資料で知ってはいた…だが当人と顔を合わせて当人の口から"我が基地"と改めて言われて
 込み上げてくるものは…たくさんあった


     レッド「くっ…メタルブラック!!」ザッザッ…!


 少年は一歩前に出て声を荒げる



   レッド「人を蝕む麻薬を売りさばく罪深さ、メカのお前には理解できないのか…メタルブラックッ!!」


 何故こんなことをするんだ!何故これが分からない!お前はそれでいいのか!?と彼は訴える
黒鉄の意思は少年の熱意に対して無機質な返答を返した



      メタルブラック「与えられた指令を実行したのみ」


 "指令を実行したのみ"…メカという種族にとっての存在意義、創造主から生まれ持った使命を授かり
ただその為だけに生を真っ当する、それこそが彼らにとっての全て…


   レッド「っ…」ギリッ
  ルージュ「メタルブラックさ―――」







       メタルブラック「だが、―――」



   レッド「…?」
  アセルス「えっ」



       メタルブラック「―――だが、我が基地を失ったにも拘わらず、どこか晴れやかだ」


   レッド(…メタルブラック…お前)
  ルージュ「メタルブラックさん…」


 黒鉄の意思は少年達に対して青空の様に澄み切った音声で返答の続きを紡いだ

 任務の失敗、指令を真っ当できないメカ―――それはメカとしては無能の烙印を押される出来事なのだろうな
だが黒鉄のサムライは…石にもあるべき心が存在しないメカであることを嘆いていた彼は、晴れやかさを感じていた


 首をほんの少しだけ上方に向けて、遠くを見つめる様な仕草で語ったメカに少年は声を掛けた




   レッド「…それが―――それが解るのなら、もうこんなことはやめろよ…」



 声は…少し震えていたかもしれない、義憤に駆られ肩を震わせながら発していた声とはまた違った震え方だった気がする
紅き魔術師は目先に居る年下の友人の声をそう感じていた、背を向けている彼が
今どんな"表情<カオ>"をしているのかは対面するメカにしか分からない


  アセルス「…そうだよ、メタルブラック…別に私達はあなたを討ちたいワケじゃない」

  アセルス「これはやっちゃいけないことなんだって、悪いことだって本当は解ってるんでしょ――だったら!」ザッ!


 半妖の少女も一歩前に出る、鋼鉄の戦士は手を前に翳しそこから先は言わないでくれと制する






      メタルブラック「我が創造主Dr.クラインを―――…父たる者を裏切ることはできん」




 [庭園]に沈黙が流れた、遠くで木造建築の[書院]が焼けていく虚しい音だけが場を支配していく…

 誰も、何も言えなくなってしまった。


 一歩引いた場所から終始黙って静観していた白薔薇がアセルスの隣に歩み寄りそっと肩に手を乗せる
彼女はそんな貴婦人の顔を見た、誰よりも心優しい寵姫と呼ばれた白薔薇姫は目を瞑り静かに首を横に振った

 もう、誰も何も言えないのだ…此方には此方側の正義や貫くべき道がある様に、相手にも相手の信念がある


 [シンロウ]で話し合った時点である程度予想はついたことだった、既定路線では確かにあったが…


   白薔薇「メタルブラックさん、私はアセルス様達を御守りするのが使命です
                    …何人たりとも危害を加えられる者であれば…容赦はできません」スッ


 寵姫の姫が彼らの前に出て武器を取り出した…口火を切る役目を、"知人を討つ為の切っ掛け"を少年少女達にさせまいと
次いで年長者のルージュも…同じく彼女の横に並び立った、気が付いたらもう足を進めていた


  ルージュ「―――貴方の事は忘れません…」ギュッ


 自首や司法取引、Dr.クラインだけでも罪を軽くするからこちら側に寝返れだとか
そんな言葉は彼には何の意味も為さない、さっきの一言で解ったから、理解してしまったから…覚悟を決めるしかない…っ




   レッド「…っくそったれ、なんでだよ…なんでなんだよッッ!!!」ギリッ!!

  アセルス「…お父さんを裏切れない、か…そうか、そう、なんだね」スッ



 拳を痛い程に握りしめて前を向いた少年、静かにそう呟いて目先の相手から譲り受けた[サムライソード]を抜刀する少女


     メタルブラック「……暫し、長く語らい過ぎてしまったな」


 名残惜しむ様に、目先の"敵"もまた討たねばならない敵対者達への構えを取るッッッ!!





  メタルブラック「ブラッククロス四天王が1人―― メ タ ル ブ ラ ッ ク 推 し て 参 る ! ! 」

  メタルブラック「 い ざ 尋 常 に 勝 負 ッ ッッ!! ! ! 」


 茜色の空、燃え上がる紅葉の色、ちらちらと遠方で舞う煤と火粉を背景に鋼鉄の武人は自身の得物を構える
形状は彼のボディカラーに合わせた黒鉄の槍―――否、薙刀であった

 突けば槍に、払えば鉈に、振り下ろせば剣として

 武器を構えたメタルブラックは身を屈める様にどっしりとした姿勢で相手の出方を窺う…
先に攻勢を仕掛けたのはルージュ一行からだ、相手は先日戦った[ベルヴァ]と同じブラッククロス四天王の座に就く者
であれば一斉に攻撃を仕掛けて"連携"を狙うのが吉と判断した

 少なくとも仮面をつけた魔人は連携無しで単騎特攻を仕掛けようものなら強烈なカウンターを繰り出す猛者だった
銀髪の魔術師は相手の脚を絡めとるべく[エナジーチェーン]を、そこに続く様に少年が浮遊するラビットを踏み台に
[三角蹴り]を仕掛ける、これで2連携の"[三チェーン]"が出来る筈だった




   メタルブラック「甘い…っ!」ブンッ!




  レッド「なっ、にぃ!?」
 ルージュ「はぁッ!?」


 紅き術士の魔術は間違いなく発動した、思念の鎖が[メタルブラック]を絡めとり脚の関節部を術による熱で
ショートさせつつ動きを止めた相手の急所へと少年の急降下蹴りが炸裂からの続くアセルスお嬢達の連携も入る予定だった




  しかし…っ!メタルブラックはここで彼らの予想を上回る動きを取ったッッ






  メタルブラックの薙刀『 』ギュルギュルギュル…ッッ!!
    エナジーチェーン『』バチィッ!!


 メカの動体視力とAIによる瞬間判断能力の高さを見誤った、初動で彼らが何をする予定だったのか見切った黒鉄の武人は
"手にしていた薙刀を投げたのだ"…っっ!! 戦場において己の武器を放り投げる、それに術士と少年が目を見開いた
 空を裂く音を響かせながらブーメランのように回転する鉈は投擲者と術士の丁度中間の所で[エナジーチェーン]と衝突
本来であれば敵を拘束する筈だった思念の鎖は投げられた武器に絡まる、そして武器を失った黒鉄の侍は
背部のスラスター吹かして地表からホバリングをしながら全力で猛進する…っ!

 くどい様だが[メタルブラック]はメカでありその重量は並みの人間の比ではない、そんな彼の全力の[体当たり]に対して
迎え撃つのは19歳の少年の[三角蹴り]である



 極めて単純な話である、交通事故が起きたとして軽自動車1台と2tトラックが正面衝突をしたとする
であればどちらがより大きな被害を受けるのか…衝撃を受けて吹き飛ぶ方は果たしてどちらなのか?

 同じ速度で同じ大きさの物体が衝突したとしても重量のある方が勝つに決まっている



   レッド「ぐばぁっ!?」ドガァァ!!

  アセルス「えっ!?キャアアアア!!」ドゴッ



   メタルブラック「ふっっ!!討たせてもらうッッ!」ジュゴォォォォォ!!パシッ!ヒュッ!


 [体当たり]で寸分狙いを乱さず落下してきたレッドを逆に弾き飛ばし後方から剣を構えて走ってきたアセルスにぶつける
これで続く連携を乱しホバリングしながら自身の得物が丁度、思念の鎖が消えて解放される瞬間にキャッチしそのまま
驚愕するルージュへと一気に肉迫して[突き]を繰り出す


       ――――ズザァンッッ!!



     BJ&K「――――!!損syo-甚大 ガガガッ」

     ルージュ「B、BJ&K!!!」

 間に割り込む様に医療メカが入り、その一突きをまともに受ける、生身の人間である彼より自分がと判断したからだ

メタルブラック戦の曲が脳内再生される…
京の戦闘背景も最高よね


 純粋な力よりも速さを主軸とした高機動戦が[メタルブラック]の領分と言えた、彼の背部スラスターが輝きを放つ度に
地平を流星が走り、過ぎ去った後には多くの兵が倒れ伏す―――彼を象徴する名詞ともいうべき技[ムーンスクレイパー]が
まさしくコンセプト通りの速度戦用の攻撃と言えよう


 初手でルージュの術に武器を投げつけながらの肉迫で少年を跳ね飛ばしそのまま回収した武器で一気に攻めてくる
戦闘開始からものの数秒の出来事である



  ラビット「[ビット]射出」シュバッ!シュバッ!


  ビット『 』ヒューン!
  ビット『 』ヒューン!



  メタルブラック「はぁぁっ!!」ズボッ!ガスンッッ



 黒鉄の武士は片足を医療メカの胴に宛がいそのまま深々と刺さった得物を引き抜き、更にBJ&Kの身体を踏み台として
蹴り飛ばす様にその場を離れる、こうすることで大穴の開いた医療メカの重量ボディで
そのまま背後に居たルージュを吹き飛ばし同時に[ビット]の攻撃から逃れるという一手になるからだ


 飛び退け様に鋼鉄の侍は両腕をクロスさせ、稲妻を発生させる…機械である自身の身にある内蔵回路を
意図的にショートさせて放電を起こすという荒業
 [メタルブラック]は交差させた腕から収束させた電流を[落雷]の如く撃ち出す



 ―――ズシャアアアアアアァァァン!!



  ラビット「ギビビビッ!?――ピー…回路がショート…反重力装置が、うまく、起動し、せ、ん、ガガッ」フラッ、ドサッ!



 感電してラビットが地に落ちる、移動能力を潰されたラビットは最早ただの固定砲台としての役目しか果たせない
牽制目的で[圧縮レーザー砲]を撃ちつつ、片手間で次元衛星へのアクセスを試みる
 速さを売りとした鋼鉄の侍は降り注ぐ幾条もの光を回避しながら[サテライトリンカー]を使わせまいとラビットへ迫る



    「鏡よ、鏡…この世で憐れなる自傷者は誰なるぞ[硝子の盾]!」キィィン!




  メタルブラック「ムッ!?」



 身動きが取れなくなった兎を狩ろうとする彼の前に突如として不可視の壁が現れた…っ!

 彼は勢いを殺せず透明な壁―――白薔薇姫の唱えた[妖術]の盾へと突っ込んだ




パリィィィン…!




                【 [ ブ ロ ー ク ン グ ラ ス ] 】



 妖力を帯びた硝子片が黒鉄の武士に吸い込まれる様に刺さっていく…っ!

 元来、鋼鉄の肉体にガラスの刃など突き刺さる訳もないが、これは生憎と普通のガラスではない妖力で構成された硝子だ


 術力の続く限り[硝子の盾]を唱え続けて[メタルブラック]を取り囲むように、あるいは進路を阻むように
不可視の迷路を造り続ける白薔薇、固定砲台として活動を続けるラビット、そして起き上がったレッドとアセルスも向かう


  白薔薇「ルージュさん、今の内にBJさん達を!」


 自分含めて5人掛かりでも拮抗どころか何なら劣勢を強いられる強敵だ
人手は多い方が良いに越したことは無く、自分の仕事は背負ってる[バックパック]からすぐに[インスタントキット]を取り
それでBJ&Kを再び動けるようにすることだ……紅き術士はそう判断した


  ルージュ「くっ…待っててくれボクが君を直すから!!」ゴソゴソ


 相手に蹴り飛ばされて自身に覆いかぶさる様に動かなくなった医療メカの身体から抜け出して直ぐに修理道具を手にする
身を挺して自身を救ってくれた"異種族<メカ>"の友人を慣れた手つきで治し始める
 最初は右も左も分からずよく分からない機械コードに絡まってばかりだったが長い付き合いだからこそもう治し方も解る

 横目で状況を見るが好材料は見当たらない

 未だ決め手に欠けるこちら側の攻撃、なんとかして攻めに転じれる様に布陣を完璧にしたいが[サテライトリンカー]に
接続しきれないラビット目掛けてジリジリと迫り続ける鋼鉄の侍、白薔薇の[硝子の盾]で迂回させるなり時間を稼げるが
彼女の術力とて無尽蔵ではないのだ…いつか底を尽きる




 何より恐ろしいのは―――果たして頼みの綱にしてる[次元衛星砲]がどこまで通じるか、である



 基地内においては指定した座標上の敵に対して正確無比な極大レーザー射撃を行うという強さを見せつけたが
現在進行形で即席モノの硝子の迷宮内を降り注ぐ[圧縮レーザー砲]のシャワーを避けながら近接の2人を相手取り徐々に
ラビット目掛けて近づくという頭を抱えたくなるような高機動戦をやってのける四天王なのだ…


 古人は言った、当たらなければどうということは無い。



 こんな無茶苦茶な相手に果たして当たるのだろうか、頼みの綱は通用してくれるのであろうか?

 一抹の不安を抱かずに居られるものかっ!



 ルージュ「よしっ!できたぞ…!!どうだい、戦えるかい?」

  BJ&K「はい、いつでも戦線復帰可能です」ピピッ



 ルージュ「なら早速で悪いけど君はラビットの救援に向かってくれ!」


 [インスタントキット]を持たせて医療メカを飛べなくなった兎の元へ向かわせる
修理と同時に[圧縮レーザー砲]で弾幕を張る役目を担ってもらう、その間に一刻も早くラビットに[次元衛星砲]の準備を!

―――
――




   レッド「ッラァ!!」ブンッ!!
  アセルス「ていっ!!」ヒュッ!!



  メタルブラック「踏み込みが甘いぞっ!」ガッ、ブンッ!キィンッ


 少年の首の付け根部を狙った回し蹴りと少女のフェンシングに似た構えからの一突きを防ぐ黒鉄の戦士
右腕は飛んできた脚を掴み投げ飛ばし、左腕に持った薙刀の先端で[サムライソード]の切っ先を跳ね除ける

 空から降ってくる光の雨さえも避けて器用に[落雷]で[硝子の盾]の排除もこなしていく



  メタルブラック「―――!!背面を取ったつもりかっ!?殺気ですぐに悟ることができるぞ!」シュバッ

 メタルブラックがさっきまでいた地面『 』ボジュンッッッ!!


 激戦の中で少なからず成長した気ではいたが[インプロージョン]を難なく躱されてしまった、自分の中では間違いなく
最速で、ほぼノーモーションの[魔術]発動だったのだが、とルージュは舌を打った
 爆ぜたのは鋼鉄の武士がさっきまで立っていた地面だけで彼は上空に跳びながら左手の武器をアセルス目掛けて投擲
武器を投げつけた当人は背部のスラスターを吹かして徐々に高度を下げながらも優先攻撃対象へ向かって行く…っ!
空を自在に飛べるワケではないがこうすることで滑空状態に近いことができる



  ルージュ「しまった…!してやられたッ!!」


 まさか翼も持たない鉄の塊が[グライダースパイク]擬きをやるなど完全に想定外だった、あくまでも"擬き"であり
鳥系モンスターが使う様な本家の[グライダースパイク]とは違って飛距離も高度も足りず殺傷能力も皆無と言っていい唯の
パラグライダー染みた芸当だが、それでも[硝子の盾]で作った壁を乗り越え標的に攻撃を仕掛けるには十分過ぎた…ッッ!


 [インプロージョン]ではあの速度で滑空している武士には直撃不可能、ならば何処までも伸びて鞭の様にある程度自由に
振り翳せる[エナジーチェーン]を…とも考えたが――――!!



    レッド「くそったれ!!あの野郎"こっちの術を完全に利用してやがる"ッ!!」







   ―――――――味方が仕掛けた[硝子の盾]が邪魔で迎撃ができないッッッ!!!!



 [エナジーチェーン]を振り回そうものなら間違いなく[メタルブラック]を絡めとる前に自分達で仕掛けた硝子に当たる
上級妖魔の中でも相当修練を積み[妖術]に長けた者は自身が味方と認識した者の攻撃だけを透過させる高等技術が可能だが
生まれ持った才こそが全てで鍛錬を積むことは美徳ではないとされる妖魔社会の世論、そもそも白薔薇姫自体が好き好んで
戦闘技術を磨きたい武人気質の人ではないということが相まってそこまでの練度に至れていない


 レッドは言わずもがな、アセルスにもどうすることもできないのだ


 いや、"気<オーラ>"の力で宙に舞いそこから収束させた気を放つ[生命波動]が使えるアセルスお嬢ならばあるいはできた



 だからこそ…、だからこそソレを警戒して彼奴はアセルス目掛けて武器を投げつけたのだッッ!!!
一瞬でも怯ませることができたならばそれで十分だ背部スラスターを吹かして[生命波動]が届かない位置まで逃げ切る
 今からアセルスが[心術]で攻撃を試みたとしても既に[メタルブラック]と自分の距離
相手の高度と[硝子の盾]の絶妙な位置加減でどう足掻いても墜とせない



   ラビット「敵、こちらに向かってきます!」バシュッ!バシュッ!
     BJ&K「[圧縮レーザー砲]当たりません!」バシュッ!バシュッ!

    ビット『』ビュンッ!ビュンッ!
    ビット『』ビュンッ!ビュンッ!



 全く以て悪夢でも見てる様な光景だ。

 出来の悪いシューティングゲームか何かかね?…指をくわえて見てるしかない"人間<ヒューマン>"組は実質6人掛かりで
囲んで袋叩きにしようとしてもまるで攻撃をあしらわれ何なら手痛い反撃すら貰う化け物マシーンが悠々と弾幕を避けて
ゴール地点へと到達しそうな場面を見せられている気分だ
 見えているのに止められない、攻撃できるのに撃てない、解っているのにどうすることもできない


 [硝子の盾]が完全に裏目に出た、滑空しながら腕をクロスさせて[落雷]を発生させて飛んでる[ビット]を数基破壊
更に後々の戦闘で自分が動きやすい様に地上の邪魔な硝子壁も同時に掃除するという荒業をしながら彼奴は目的地へ…!



  [サテライトリンカー]を作動させようとしているラビットの元へ―――――――

                                         ――――――ではなく……!







   メタルブラック「将を射んとすらば馬を射よとな…!貴婦人殿、貴女が私にとっての機動性を殺す射手、お覚悟!」


                     白薔薇「っっ!!」




 紅き魔術師は駆けだしていた、彼だけではない
少年も少女も誰もが硝子の迷宮を最短ルートで抜けて、間に合うまいと頭の片隅が冷酷な事実を呟いていても
 それでも彼らは白薔薇を救おうと走っていた…っっ!!

 [メタルブラック]はアセルスに武器を投げつけた、今の彼奴は丸腰状態


 だからといって脅威ではない理由にはならない否これまでの相手の出方を見ていれば分かる
出で立ちこそは武士であるが何も武器に頼った戦い方が全てじゃない…[落雷]も初手でレッドを跳ね飛ばした[体当たり]も
武器なんて必要としない技なんだからッ!



     白薔薇「―――っ…私とて近接格闘はできます―――!!!!!」ポォォォ!!

 メタルブラック「…!なんと、これは驚いた」




  レッド「あ、あれは!?」


 妖魔の貴婦人は目を見開き拳を構える、刹那、彼女から闘気が立ち上る…!
この場に居る機械達は誰しもが花飾りの妖魔の生体反応が急上昇していくのをデータとして観測できて
生身の人である2人も白薔薇から肉眼で確認できるほどの、ゆらめく炎のような闘気を認識できた


 半妖のアセルスだけは…他の面々とはまた違った"者"が見えた



  アセルス「あ、あれって…"あの時の"!」


  ルージュ「えっ?」
   レッド「あの時の…って?」


 どうやらアセルスにだけはくっきりと"形<ヴィジョン>"が視えたようだ、アセルスの発言が何を意味するのか
白薔薇の元に向かいながらも注意深く彼女を観察して、先に『ソレ』に気が付いたのはルージュの方だった


  ルージュ「あっ!?あれは…[ヨークランド]の!!そういうこと!?」
   レッド「お、おい…俺にも分かるように説明を―――」


 そこまで言葉を出した所で漸くレッドにも二人が何を言っているのか理解できた、炎の様に揺らめいて見えた闘気は
よく観察すると"とある生物"の姿形に酷似していたのだ
 一見すれば立ち上る炎の揺らめきに見えるそれは見方を変えれば[触手]の様にも見えた…嫌な事を思い出すシルエット







            [妖魔の小手]【憑依: ク ラ ー ケ ン 】






 政府危険度認定…ッ!!敵ランク9の大海獣[クラーケン]ッッッッッ!!
4つのカードを集める試練で[杯のカード]を得るために[ヨークランド]に赴いたあの日
全員が死んでいてもおかしくなかった悪夢の様な試練での収穫…っ!


 白薔薇姫の両腕に現出した[妖魔の小手]が輝き、そこに封じられたモンスターの魂が彼女を歴戦の武術家へと変えたのだ
大木をへし折り、大岩さえも一撫でで削る剛腕の怪物、その生体エネルギーを解放することによって
白薔薇姫の筋力<STR>と丈夫さ<VIT>は飛躍的に高まった、機械戦士達が一様に彼女の生体反応値の上昇を感知したのは
それが主な理由であり、そして……[クラーケン]という怪物を[妖魔の小手]に、"拳"に宿したならば使える技は…ッ!




  - 白薔薇『私も[タイガーランページ]を修得できましたから、気にしてはいませんよ』ニッコリ -


 白薔薇の両腕が黄金の輝きを纏った…っ!!
あらゆる敵を粉砕すると言わしめた、神の如し拳―――[タイガーランページ]が今炸裂するッッ!!


 闘気を纏った黄金の拳による乱打が放たれる、強烈な右ストレートからの左スイング、そこから右、左と交互に
黒鉄のボディへと撃ち込まれていく白薔薇の現状使えるであろう最も火力の高い技
 さしもの[メタルブラック]もこれは涼しい顔で流すことはできないようで身を殴打される度に彼の呻きと鉄が砕ける音が
響いたのが彼らにも分かった

 そしてこのタイミングで―――――!!



  ラビット「[サテライトリンカー]アクセス完了!座標を転送しました、間もなく衛星砲が飛んできます」

    BJ&K「攻撃の布陣は整いました、反撃開始です!」



  アセルス「白薔薇…!私達もすぐに辿り着くそれまで待ってて!」タッタッタッ


 初めて何をしても効かなかった強敵に決定的なダメージを与えられた…その事実が彼らにとって大きな希望となった
このまま押し切れば勝てるんじゃないか?準備が万全の今ならブラッククロス四天王の彼奴を倒せるのではないか!?













  そう誰しもが思った矢先であった。





 ガキィィン!!



  白薔薇「~~~っっ!!」



 手の甲に鈍い痛みが走った…

 白薔薇の光輝く右手に何かがぶつかった、それは[メタルブラック]の拳だった…
それだけならなんてことは無かった、むしろ[タイガーランページ]の闘気が上乗せされて彼奴の腕に殴り勝っていた




    メタルブラック「―――――プログラム発動、太古の昔より受け継がれてきた歴史の記録<データ>」ブンッ


 黒鉄の武人が左腕の鉄拳を振るう、ど真ん中を狙ってきた妖魔貴婦人の左腕を寸分違わぬ正確さで相打ちになる様に打つ


    メタルブラック「その武術、流派に語られ勢いは百獣の王…虎の如しッッッッ!!」ブンッ!!


 黒鉄の武人が右腕の鉄拳を振るった、妖魔貴婦人の繰り出す右腕を"自分なら此処を狙うと知っていた様に"狙い、相殺!





    メタルブラック「システム完了…![猛虎プログラム]ッッッッ!!!」コォォォォォォォォ!!!

        白薔薇「こ、これは…そんなまさかっ!?」



 黒鉄の戦士の両腕は……――――黄金の輝きを放ったッッッ!!




    メタルブラック「 [ タ イ ガ ー ラ ン ペ ー ジ] 発 動 !!!! 」



 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッ!!

   ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッ!!




      メタルブラック「破ァぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」ガガガガガガッ
          白薔薇「うっ!ぐぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~っ!!」ドガガガガガッ





  ドガガガガガガガガガッ!ドギャ―――――――――――――――z_____________________________________ン!




 突きの速さ比べッッ!!

 "音"と"音"のぶつかり合い…っ!


 1秒間に幾多もの黄金の輝きがぶつかり合い、火花を散らし、神拳と凶拳が邂逅を果たす度に衝撃波が生まれる
目には目を、歯には歯を、よもや[タイガーランページ]という殴打系の技術で最上格に位置する技同士がぶつかり合う等
一体誰に予想できようか?


 音の濁流と衝撃の余波で思わず"人間<ヒューマン>"組は歩みを止める、前に進みたくとも進めないのだ
超弩級の大型台風の日に暴風の向かい風を前にして肩で風切って歩こうとしてるような気分だ、物理的に前に進めないッ!


   白薔薇(くぅぅ…ま、まさかメタルブラックさんも[タイガーランページ]を使えるなんて…っ――――ハッ!?)ミシッ



 同じ技術を用いた拳闘技の応酬戦真っ只中で白薔薇は嫌な音と手応えを感じた、ミシッっと何かが罅割れる音
自身の両手に現出した[妖魔の小手]の片割れに小さな亀裂が入っていた
 元より筋力<STR>が高い方では無かった、その上対戦相手も悪すぎた
お互い一行に手を休めることはなく、無慈悲に降り注ぐ梅雨時期の集中豪雨差乍らの拳…マシンガンの様なジャブ合戦


 先に悲鳴を上げたのは妖魔貴婦人の方であった



  白薔薇の片腕に装着された[妖魔の小手]『』パリーン!


      白薔薇「ああっ!」ズキッ

  メタルブラック「隙を見せましたな…!!」ヒュッ



   ゴッッッ!!


 小手が砕け散り、手の甲がそのまま手首の骨ごと粉砕されそうな痛みを感じて思わず腕を引っ込めた
痛覚が無い機械と痛覚を有する生命体の差であった、本能的に腕を引いた彼女の隙を機械は見逃すことなど無く鳩尾に
[タイガーランページ]を解いた通常の拳を素早く叩き込む


    白薔薇「ッッ~~~」ヨロッ、グッ


 苦悶の表情を浮かべてよろけ、地に膝をつける白薔薇を見てメタルブラックは言葉を発した


   メタルブラック「どのような返答をするか予測はつく、だが敢えて言おう」

   メタルブラック「……投降なされよ、貴殿らの戦闘能力は実に素晴らしいこのまま殺すには惜しい」



  白薔薇「……ふ、ふふっ、メタルブラックさん…貴方の想像通りの返答を致しますわね…まっぴら御免ですわ」ニッコリ

   メタルブラック「……フッ、でありましょうな、そうであって欲しかった、そうでなくては困る所だった」


 返答など分かり切っていた、[メタルブラック]自身が自分の父を裏切れないから、だから彼女等の呼びかけに応じて
自首しなかったのと同じように少年少女達にも自分の護るべき正義や信念がある


 黒鉄の侍が言葉を区切るとほぼ同じタイミングで空間の裂け目が頭上に現れ高出力の光線が落ちてくる
[次元衛星砲]による射撃が始まったのだ、悪の組織の幹部はその場を飛び退き事なきを得る

 裂け目からは止めどなく神罰が降り注ぎ必要に鋼の武士を狙うが命中率はそれほどよろしくは無い
衛星砲の精度が決して悪い訳ではない、ただそれ以上に標的が"速い"のだ


  ルージュ(くっ…やっぱりメタルブラックさんには当たらない…いや、所々被弾はしているけど、それでも――!)


 将を射るならば馬を射よ、相手にとっての射手は白薔薇と言っていたが正しくその通りだ
縦横無尽の移動も全ては機動性特化型という彼自身の持ち味、その持ち味を活かすのが
この広い[庭園]という"戦場<バトルフィールド>"でもある


 時空の裂け目からの狙撃、紅き魔術師の術もメカ達の遠距離射撃だって、少年少女の[飛燕剣]も何も全て回避され
唯一決定的にダメージを与えていたのが[タイガーランページ]か[硝子の盾]に突っ込んだ時に発動する
カウンターの[ブロークングラス]ぐらいのモノであった


 …そう、機動性を活かした攪乱と電撃戦を得意とするならば自由自在に走り回れない様にするというのが上策

 そういう意味でも[硝子の盾]効果は大きかった



 紅き魔術師は術による攻撃をしながら視線で白薔薇姫を見やる、…[メタルブラック]は命まで奪ってはいないが
重い一撃を受けていて術の詠唱は厳しいと見受ける
 術士の欠点は偏に耐久性の無さと言えよう、後方から術による援護や補助を主体として前線で攻撃を受ければ
敢え無く崩れ落ちる……というのも魔術師であるルージュ自身が一番理解していることだ



  ルージュ「全てはあの機動性…あの速さなんだ…っ、アレさえ…アレさえ封じることができれば…ッ!!」


 弾幕を張り続けてどれほど"術力<JP>"を消耗あしたことだろうか…医療メカが白薔薇の治癒に向かい
攻め手が手薄になった隙に彼奴は放電で次々と[硝子の盾]を排して行き


 気が付けばもうアイツを止める障害物など無くなっていた


 壁さえ無ければ黒鉄の疾風と化した彼奴にまともな攻撃が当たる訳も無い、いつの間にやら
回収されていた薙刀の[突き]がレッドの脇腹を貫いていた…!アセルスは鉄塊による超重量級の[体当たり]で大樹の幹に
叩きつけられるように吹き飛ばされて吐血…っ


   白薔薇「アセルス様!――揺蕩うは幻妖の水鏡に写せし我が御身[ミラーシェイド]!!」

 シュイン!シュイン!シュイン!

  メタルブラック(むっ…なるほど、分身の術とは面妖な[妖術]もあるものだ――――だがっ!!)チャキッ


 BJ&Kによる手当もまだ完全でない状態で少女の危機に白薔薇が駆け出し幻影を出現させる術を発動させる
メカの内蔵センサーすらも本当に生きている生命であるかの様に欺く妖<あやかし>の技
 質量を持った分身をいざとなれば身代わりとして使うこともできる―――然しそんなものは無意味だと言わぬばかりに…





          メタルブラック「 [ ム ー ン ス ク レ イ パ ー ] !! 」





 ――――地上に月影が描かれた。


 そう錯覚したときには全員が斬られていて、地に伏していた…


  ルージュ「がっ、ぼ、ぁっ…―――!!!」ドサッ

  ルージュ(一体…いつ、切られたんだ、まるで動きが、視えなかった……つよ、すぎ、る)ゼェゼェ…



 赤の魔術師は一瞬で消えた白薔薇の幻影達や自分と同じく地に伏している少年少女達がまだ息をしていることを確認する
彼らは与り知らぬ事だが、この技を見切れた者はかの武勇の姫"金獅子姫"だけであり…そんな彼女も[かすみ青眼]で彼奴と
真っ向からぶつかって相打ちになるほどであった…ッッ!

*******************************************************


                      今回はここまで!!


                次回メタルブラック戦、完結予定…ッッッ!!!


*******************************************************

SS速報避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/

久々&一気に更新乙です
タイガーランページのぶつかり合い熱い…白薔薇かっこよかった
それにしてもメタルブラックつええ

来てた!おつおつ


 傷は深い、朦朧とする意識が紅き魔術師にソレをより一層実感させる


 おそらくパーティ内に置いて一番護りが弱いのは自分だ、[シンロウ遺跡]で幾つか有益な装備品を調達したが
その中で[精霊銀のピアス]しか新調していないのだから
 逆に一番防備を固めていたのは[精霊銀の鎧]まで着込んでいたアセルスだったが…蓄積したダメージもあってか
もう動けそうにないと見た

 白薔薇姫もルージュもアセルスも生きてこそいれども立ち上がる事も出来そうにない、術士が薄れゆく意識の中で
見えたのは彼らの仲間内で最も体力があった少年が辛うじて起き上がる姿であった…




    ルージュ(レッド……すまない、これ以上は――もう、無理だ…)ゼェゼェ


    ルージュ(こんな所でボクの旅は終わるのか…案外あっけないモノだな…)




 どうすれば黒鉄のサムライに勝てたのだろうか、今の自分達で勝機など有り得たのだろうか
目の前が闇に覆われ始めた彼は何度も自問していく、まだ意識を手放すわけにはいかない親友がまだ立っているのだ…!
ならば何か無いのか!?と、気力だけでどうにか沈んでいきそうな意識を繋ぎとめていた



    ルージュ(すべては…あの はやさ なん、だ  あれを おさえ、れば…でも どうやって…)




 背部スラスターから噴き出す光、熱、焔、人間では到底追従することは許されない機械だけが産み出せる機動性、馬力…


 





    ルージュ(   ……あ? )



 ふと、そこまで考えてある事に思い至る。

 彼奴の速さは全て背部スラスターから生み出されるのだ、人間じゃない、メカである彼の肉体だからこそ可能な事…




 思考が水底の泥の様に深く落ちる寸での所で、彼は"気が付いた"のだ
…そうだ、そうだ!!なんでこんな簡単な事に気づかなかったのだ!?自分はなんて愚かだったのだ!!

 伝えなくては、レッド少年に、自分が導き出した『最適解』を…ッ!





   ルージュ「―――!」パク、パク…!


 残った気力を絞り出す様に身体を動かす、全身が痛い、神経筋が細胞の一つ一つにこれ以上酷使させるなと訴えかける
唇を開いたつもりだが、声が出せない…もう彼に"声<メッセージ>"も届けられない…っ!


―――
――




     レッド「ハァ…ハァ、げふ、ぐっ…」ヨロッ

 メタルブラック「少年よ、まだ立つか」スッ


     レッド「当たり…前だ…俺は、お前達を―――ブラッククロスをぜってぇ赦しちゃいけねぇ、んだよ…」フラッ




 小此木烈人の闘志は未だ燃え尽きてはいなかった、彼にとって家族の仇たる一味の者というのは確かにあった
父と母、妹の仇討ちで始めた旅ではあったのだ……然しそれ以上に彼を突き動かすモノが、今の彼には在るのだから



   メタルブラック「……仲間は全員傷つき倒れ、この身に有効打を与える術も持たぬ絶望的状況で諦めぬと申すか」

       レッド「うるせぇ…、勝てる勝てねぇの話じゃねぇんだよ、俺はなぁ――――」




   メタルブラック「家族の仇だからか、少年よ」



 [書院]が焼け崩れていく音と人々の叫びが[庭園]にまで聞こえてくる、その最中で黒鉄の戦士の声だけは澄んで聞こえる
少年の内情を知る彼の問いにレッドは応える


       レッド「それだけじゃねぇよ」


 少しでも呼吸を整えるべく、また仲間が誰か一人でも気絶から立ち直れるまでの時間稼ぎも兼ねて会話に付き合う
少年の言葉に興味を抱いたのか黒鉄の武士は「ほう?」と聞き入る事にした




  レッド「最初こそな…俺は、復讐だけを考えてずっと生きてきたさ」

  レッド「力を手に入れて、強くなって…けれど復讐は良くない、そんなことをすれば報いを受けるって警告もされた」



 アルカール男爵から言われた事を思い出す、正義以外に力を行使すればヒーローに正しくないと判断され抹消されると
それでも構わない、どうせ死んでいた身なのだからあいつ等を道連れにしてやれればそれで良いなんてさえ思っていた


  レッド「そん時の俺は…正義なんざ知ったこっちゃないって考えてたさ、でもな色んな人と出会って」

  レッド「[シンロウ]や此処で行われていた所業を知って…っ!漸くわかった気がするんだよッ!」



 何も知らない探検家達が人知れず犠牲になり、人体改造を施されて犯罪に加担させられる事そして何より
メタルブラックの基地にあったあの身の毛もよだつ部屋





  - レッド『うっ…こいつぁ…』ギリッ -



 紅い鉄扉に倒れたパイプ椅子、そこら中に何かが暴れ回った痕跡のある無機質な部屋…
一体、どれ程の人間達が組織の欲望を満たす為だけに苦しみ死んでいったというのだろうかッ!
 こんなことが許されていいはずがないのだ
今も世界の何処かで"名前も顔も知らない誰か"が自分と同等かそれ以上の苦しみを受けている
 一度そう考えてしまったら彼は止まれない、止まれなかったのだ
相手が自分よりも圧倒的な強者だとか、個人の力でどうすることもできない組織だとしても
臆してはならない、自分が此処で恐れをなして背を向けたのなら、一体誰がその行いを止めてくれるというのだ!?

 口を塞ぎ、目を閉じて、これから先も未来永劫続いていく非道の数々を見て見ぬ振りで生きていて




――――――…果たして、笑って明日を迎えられるのか



   レッド「俺はお前達の所業を許せねぇ、…ここで諦めちまったり逃げちまったらよォ」


 レッド「俺はきっとそれ以上に俺自身を赦せなくなっちまうんだよ!!
           前を向いて明日が迎えられない、いや!明日なんて一生こねぇんだよおおおおおおおお!!!!」




                カッ!!!



     メタルブラック「な、なんだこの光は!?この生命エネルギー反応は…」


 小此木烈人が咆えたと同時に彼の身体が眩い輝きを放った、彼の魂の叫びに呼応するかの様に…っ!



   光の粒子『』キラキラ…
   光の粒子『』キラキラ…


 少年から解き放たれて霧雨の様に降り注ぐ光…それは"意志の力"
彼の熱い想い、決して挫けぬ心、誇り高き精神が――正義の使者としての証が仲間を奮い立たせるエナジーの雨となり
降り注ぐアルカイザー特有の技[ファイナルクルセイド]として昇華したのだ…ッッ!!



  「…うっ、わたくしは意識をどれほど失っていたのですか…」ムクッ



 メタルブラック「!」ハッ!

     レッド「白薔薇さん!」



 降り注ぐ光を浴びて目を覚ます白薔薇姫、否、彼女だけではない!
[ムーンスクレイパー]を受けて所々ショートしていてピクリとも動かなかったラビットとBJ&Kも再起動し出したのだっ!
 アセルスもルージュも、迸るエナジーを受けて再び起き上がったではないか…ッッ!!



   メタルブラック(今のは――そうか、あの生体エネルギー反応は"そういう技"なのだな…敵ながら天晴だ)


 有機生命体はおろか機械である筈のラビット達ですら受けた損傷個所が治っている
機械である彼らに治癒の術は本来効かない筈…それこそ[マジカルヒール]の様な言葉通り"奇跡"の力でもない限りだ
 満身創痍のレッド少年以外は生命に満ち溢れ、逆に少年は…むしろ内なる魂がすり減っている様に感じられる


―――[ファイナルクルセイド]…その技は確かに仲間達を完全復活させるが、代価として文字通り命を燃やす技だ


 少年の消耗具合を見て鋼鉄の戦士は「敵ながら天晴だ」と称賛した




 ラビット「再起動を確認、復帰理由は不明ですが今は任務を遂行します![サテライトリンカー]スリープモード解除!」
  白薔薇「鏡よ、鏡…この世で憐れなる自傷者は誰なるぞ[硝子の盾]!」 


 妖魔とメカが状況先程の焼き直しと謂わんばかりに相手の動きを封ずる手段に打って出る、彼奴もまた何度でも躱し
切り伏せてみせようと言わぬばかりに駆け抜け始めた…ッッ!



    アセルス「烈人くん!!大丈夫!?」
    ルージュ「レッド待ってて、今[バックパック]から[最高傷薬]を…!」ゴソゴソ


 硝子の迷路内を[メタルブラック]が神罰とBJ&Kの[圧縮レーザー砲]を避けに専念しながら動き回る最中
紅き魔術師は回復薬で少年を介抱する、一体いつの間に彼はそんな全体回復なんて大技を習得していたんだと疑問はあった
だが、この際そんなことはどうでもいい一刻も早く伝えなくてはならないことがあるのだから…



    レッド「すまねぇ助かったぜ…!なんとか持ち直せたがこのままじゃジリ貧だ、どうしたもんか…」


 傷は治った、とは言え"JP<術力>"やメカ達の"WP<ウェポン・ポイント>"までもが満たされたワケではない
遅かれ早かれ[メタルブラック]の足止めをするのがやっとの戦法も続きはしまい…







     ルージュ「そのことなんだが…ボクに一つ案があるんだ、危険な賭けになりそうだけど」


―――
――


  メタルブラック「――――砕け散れ!」バチィィィ!!


 [落雷]で硝子の壁を排除して肉迫していく、ここまでは先と何ら変わらぬ作業
半ばルーチンと化しているこの状況で優位なのは自分だと鋼鉄のサムライは考える
自身には[マクスウェルシステム]が搭載されている為、電撃や技を如何に放とうと"WP<ウェポン・ポイント>"が底を尽きる事は
早々無く更に言えば元より彼の内蔵燃料槽もクライン博士の手によって作られた特別製だ、元からの蓄積量からして違う


 一方で向こう側のメカは正規の規格品、根競べをすればどちらが先にガス欠になるかなど目に見えている
白薔薇姫にしたってそうだ、如何に妖魔といえども"JP<術力>"は無尽蔵に非ず

…いよいよ以て彼女等の顔に疲弊が浮かんできた。


 仮に再びレッドが[ファイナルクルセイド]を使い戦線を持ち直したとしても同じパフォーマンスでの戦闘続行は不可能
勝敗を決するのもそう遠からぬ未来だろうと彼は読んでいた


 だからある意味では想定通りであり、ある意味に置いてはイレギュラーな行動に少年達が出た事も不思議ではなかった




  メタルブラック「…む?」



ザッ!!




    ルージュ「…」キッ!

     レッド/アセルス「…」グッ




 術や技を使い遠距離から[メタルブラック]を牽制しつつ妖魔とメカの元へと彼らが集結した
前後から包囲するように攻撃を撃ち続けた方が高機動の武人には命中するだろうにあえて一方向に集結した
 そして何を思ったのか、援護射撃に徹していた術士や剣気を飛ばしていた少年少女が手を止めて一斉に前に出始めたのだ
いや、彼らだけじゃない、前に出た者達の背にメカ2台と妖魔1人も…





  メタルブラック「血迷ったか?…いや、違うか」



 既視感がある。


 数日前、奇しくもこの[庭園]で似たような光景を繰り広げたことがある
黒鉄の侍と黄金の獅子がお互いの全力で一騎打ちを果たした時と同じ…




 決着をつける為の"最後の一撃"を仕掛けんとする者と対峙したあの瞬間を想起させる。




   ルージュ「…かなり無茶ぶりさせるけど、皆ごめん」

    レッド「へっ、気にすんな!どのみちコレを決めらんなきゃ俺達は仲良くあの世行きだ」
   アセルス「危険でもこれしか選択が無いのなら、やってみる価値あるよ」



 ある意味では想定通りであり、ある意味に置いてはイレギュラーな行動――ジリ貧の現状を打開すべく大博打に出る事ッ



 人間というものは追い詰められると起死回生を狙って被害を被るのは覚悟の上でとんでもない捨て身の攻勢に出るものだ
紅き魔術師は背後に控えさせた妖魔貴婦人とメカ2機にも準備はいいかと確認を取る、帰ってきたのは最高の返答だった




  「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…!!!!!!





 総員突撃。



 言葉にすればそれだけの至ってシンプルなソレ、もはや作戦も糞も無いような見事な突撃っぷり
術士が後方から術を撃つことも機械達が光線を射出することさえも無く、妖魔が壁を作る仕事もしない潔いまでの"特攻"

 第三者が見れば血迷った末の玉砕覚悟としか見受けられない行為だが…



   メタルブラック「ほう、そう来るか…面白いっ!!」



 …[体当たり][突き][落雷][ムーンスクレイパー][タイガーランページ]、彼の技は
どれもこれも範囲を吹き飛ばす程の爆発力が無いッ!
 [ムーンスクレイパー]だけは全体攻撃と呼べるが、それは彼の機動力と個々の敵兵の立ち位置が並んで初めて意味を為す
一つの塊となって一丸で迫って来る集団相手では本来の性能を発揮できない


 言ってみればルージュ達の取った行動は肉壁作戦だ

 ルージュ、レッド、アセルスの3人が前方と両脇を固める様に走り、重要戦力の白薔薇たちを護る様に移動する…ッッ!






――――古来、とある"惑星<リージョン>"に存在した『陣形』という概念における[インペリアルクロス]の構え




 おそらくは唯一[メタルブラック]に決定的なダメージが入っていた白薔薇の[タイガーランページ]をぶち当てる為
しかし、それだけでは彼は倒せないし先程の様に黄金の拳同士の突き合いになるだけ――――









      ルージュ「 [ マ グ ニ フ ァ イ ] の 準 備 だ !!」



    ラビット「了解!![マグニファイ]スタンバイ…!」




 [マグニファイ]とはッッ!!その兵装のリミッターを外す事で能力を限界値を超えた威力を引き出すプログラムであり
これを使用すれば使った兵器は完全に壊れてしまうという効果がある

 長期戦を想定するならば初手で気軽に撃っていいモノではない、本当に最後の最期で使う様なブツだ




 白薔薇の[タイガーランページ]単騎だけでは正面からぶつかり合いになっても競り負ける


 しかし…殴り合いの真っ最中でどう頑張っても"回避不可能なゼロ距離から[マグニファイ]で横っ腹を撃たれたら"?


 遠距離武装である[圧縮レーザー砲]を離れた位置から撃ち出すというセオリーを無視してゼロ距離射撃で使う
そうなってくれば彼奴とて無傷では済まされない、それで倒せる倒せないは別としてもダメージを与えるのは間違いない
 そして――真の"本命"はコレではない、策の重要課題は如何に真意に気づかせずメタルブラックを欺き通せるかだ


―――
――



 どちらの大技が先に炸裂するか、黒鉄の武士<もののふ>はこの行動の要はそこにあると考えた




 メカの[マグニファイ]と白薔薇の[タイガーランページ]の二大火力をぶつけて一撃で鋼の侍を粉砕するか
 肉壁と化した"人間<ヒューマン>"組の3人を玉葱の皮を剥ぐが如く速やかに倒して芯の部分、切り札の淑女達を倒せるか




 言葉通り一回限りの大勝負だ、白薔薇の"WP<技力>"も残り僅かで[マグニファイ]も起動すれば、使った武器が破損
自身が出せる最高速度で彼らを捻じ伏せ不発に終わらせられれば勝利確定と言っても過言ではない


 内容に違いはあれどその行動自体は月夜の晩にメタルブラックが金獅子姫の[かすみ青眼]に対し[ムーンスクレイパー]で
打って出た一騎打ちと同じで、彼の性格上これに応えないのは武人として恥ずべきだと考えた


 後方へ逃げに徹しながらチマチマと[落雷]で1人ずつ落とすなんて野暮な真似を彼らを前にしたくはなかった
組織の者に小馬鹿にされようが罵られようが、彼は自身の理念を貫く事に誇りを感じており
 産みの親たるクライン博士からも"相手の弱みに付け込めないのが最大の弱点"と評されたが同時にその心を失くしては
真の最強になれないとのお言葉も頂いた…だからこそ[メタルブラック]は逃げには回らない


 真向から一つの塊になって向ってくるルージュ一行に対して真正面から札を切らせる前に全員を切り伏せる事を選択する





     メタルブラック「フッ、まこと面白き傑物達よ…よかろう受けて立つッ!」コォォォォォォォ…!!!



 黒鉄の戦士の背部スラスターから光が噴き出る、次の瞬間メタルブラックは夕闇を切り裂く閃光と化した
赤焼けの色に照らされたメタルボディが凄まじい推力を伴ってすっ飛んでくる
 初撃は最も彼奴と位置関係が近いセンターラインのレッドだ、お互いに直進すれば最初に激突するのは当然の事
視界に鋼鉄が飛び込んでくるのを見据えて少年はアセルスから借りた剣で[ディフレクト]しようと構えるが
防ぐよりも先に恐ろしく速い峰内が飛んでくる




   ゴッッッ


   レッド「がふっ――――!?」


 センターを走る少年が峰で殴打されて姿勢を崩し大地に転がされていく様がスローモーションの様に映る
ライトとレフト、それぞれを担当していた少女と魔術師は少年が倒されるのを見て直ぐに迎撃へと移行する
なにも倒そうなんて思ってはいない、後方で拳を輝かせた白薔薇姫とメカ達が絶対的に攻撃を外さない状況を作るのが目的


 アセルスは予めいつでも放てる様にしていた[稲妻突き]の構えを取りルージュも術の詠唱に入る







―――同じ事の繰り返しを…芸が無いぞ若人よッッ!!


 声に出さず胸の内でメタルブラックが彼らにそう叫ぶ、声なき叫びを体現するかのように数万馬力の剛腕が少年を地に
下した薙刀を振るい、術の詠唱が終わるよりも先に2秒差で飛んでくるだろう少女の刺突を掻き消さんとする

 半妖の少女が持っていた[サムライソード]の先端が敵の薙ぎでへし折られ、返す刃で利き腕の肩を潰されて苦悶の表情を
浮かべながら大地へと沈んでいき、それとほぼ同時に花飾りの淑女が片腕の[妖魔の小手]を輝かせながら地を蹴り
黒鉄のサムライ目掛けて跳躍した……この間、僅か2秒ッッッッッ


 アセルスを叩き墜とした彼奴は直ぐに真逆の方向に居るルージュへと攻撃を仕掛けんとする!
人の身体の構造上、目の前の相手を攻撃してすぐさま背後の相手を切り伏せたいと思ったなら当然振り返るなり
上体を捻るなりする必要性が出てくる、その場から移動するのではなく"ただの向きの修正"…
如何に距離を詰められる敏速性に優れたブースターを持っていたとしてもその動作を行う上で大きな意味を持たない


 黒鉄の戦士が紅き魔術師をカメラアイに捉えた瞬間には指先に高熱反応が出ていて[魔術]を唱えられる準備が出来ていた
[タイガーランページ]の拳を叩き込める射程圏内まで数㎝の位置まで接近している白薔薇の姿も横目に見えている














              メタルブラック(勝負あったな―――!!!)





 彼は自身の勝利をこの瞬間確信した。



 機械であるが故に優秀なAIソフトが直ぐに計算結果を叩き出した、彼らの切り札である白薔薇の拳が届くまで"数㎝"
その瞬き程の僅かな時間差は紅き魔術師を倒して白薔薇の対応に回るには十分過ぎる時間であると


 [猛虎プログラム]を発動させて白薔薇の拳を相殺するはおろかこれ程の秒差があるならば白薔薇を捻じ伏せる事さえ可能


 彼女が[妖魔の小手]に大技を仕込んでいたという意表を突いた攻撃をしてくると分かっていたならば警戒もできよう
初見殺しは1度でも見てしまえばその瞬間から"初見殺し"ではなくなる、どんな攻撃が来るか予め予測できているならば
冷静に貴婦人の挙動を見てどの位置に攻撃を叩き込めば良いのかも判るというものだ…

 彼女の背後でラビットの[圧縮レーザー砲]が膨大な熱量を産み出しているのもカメラアイで確認できたが
彼が[マグニファイ]を撃ち出すよりも先に白薔薇を沈めたとあれば回避もさして苦労せんだろう




              メタルブラック「―――切り捨て御免」


 ザシュッ!



           ルージュ「―――っっっっっ」ブジュッッ






 紅き魔術師の法衣が鮮血に染まる。

 薙刀の先端がルージュの腹部を掠める様に横一文字に切り裂く
詠唱が終わり術名を叫ぼうとした彼の喉からは声の代わりに血が噴き出た 



 ゆっくりと…世界の動きがスローになっていく、ルージュもまた母なる大地へと倒れ込む様に彼の身も墜ちていく…













                   ルージュ「―」ニィ


         メタルブラック「――――――――――!!」ゾワッ



 彼…メタルブラックは武人としてではなく私人として倒れゆくルージュの最期の顔を拝もうと見た、見てしまった。


 魔術師は笑っていた、まるで"悪だくみが成功した悪戯小僧の様な笑み"を浮かべていたのだ…!





 機械である筈のメタルブラックは確かに人工知能の片隅で警鐘が鳴ったのを感じた、自分は何かを見落とした?何をだ?








 彼らが[メタルブラック]を倒せる唯一の方法はなんだ?

 メタルブラックが誇る高機動能力を以てしても絶対的に回避不可能な超至近距離で最大火力をぶつけることだ



 ではその最大火力とはなんぞや?

 白薔薇姫の[タイガーランページ]とメカ勢の[マグニファイ]だ




 …一応[次元衛星砲]や他の面子が使う[剣技]や[生命波動]等でもダメージはあるがどれも回避可能で致死には至らな――










 黒鉄のサムライは、メカである。

 だからこそ頭の回転が速かった、優秀なAIを積んだ機械なだけはある…彼は悟った




















     レッド「 う お お お お  おお お おおおォーーーーーーーっ!!!!」









    メタルブラック「!?!?クッ、うお、うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!?!?」





 小此木烈人少年がアセルスの装備していた[ツインソード]を構えて[稲妻突き]で[メタルブラック]目掛けて猛進するッッ



――――[生命波動]…そう、"[心術]を彼らは使えるのだ"…ならば当然アレも使える


 "JP<術力>"が絶望的に低くて術士としての適性すらも碌に育ててこなかったレッド少年でさえ使える
自身を完全回復する術…[克己]をッッ!!








   - 『ルージュ(すべては…あの はやさ なん、だ  あれを おさえ、れば…でも どうやって…)』 -
   - 『ルージュ(   ……あ?)』  -


- 『…そうだ、そうだ!!なんでこんな簡単な事に気づかなかったのだ!?自分はなんて愚かだったのだ!!』 -
- 『伝えなくては、レッド少年に、自分が導き出した『最適解』を…ッ!』 -







 あの時、紅き魔術師は活路を見出した。
どれだけの攻撃を撃っても文字通り人外の速度で回避されるのであっては意味など為さない
 完全に意識外からの攻撃だったらどうだろうか、不意をついた一撃だ…それでいて致命的な一撃

 [稲妻突き]は脚に力を溜め狙いを定めた上でそこからの瞬発力で一気に距離を詰め相手を突き刺す技だ
一度発動すれば止める術など無く、だからこそ彼奴は技が出る前にアセルスの剣先を折り彼女自身も叩き墜とした
 然してこの剣技の威力では[マグニファイ]や[タイガーランページ]の火力には並び立たない


 鋼鉄の肉体を持つ[メタルブラック]を致死に追い込む事など不可能
何事も無かったかのようにそのままレッド少年の剣技をその身で受けながら白薔薇達を排除することさえ可能だ

 ならば、何故彼奴はこんなにも狼狽えているのか…―――――それは…ッッ!!













  レッド「テメェの背中についてるスラスターがガラ空きになるこの瞬間を待ってたんだぁぁぁーーーっ」











-『彼奴の速さは全て背部スラスターから生み出されるのだ、人間じゃない、メカである彼の肉体だからこそ可能な事…』-

 - 『――真の"本命"はコレではない、策の重要課題は如何に真意に気づかせずメタルブラックを欺き通せるかだ』 -








"白 薔 薇 と メ カ の 高 火 力 攻 撃 は 実 は 囮 で 本 命 は ブ ー ス タ ー 破 壊"





 将を射んとすらば馬を射よ…っ![タイガーランページ]と[マグニファイ]で一気に勝敗をつけようとするが如く見せ掛け
その実は剥き出しの背部スラスターを使い物にならん様にするのが目的の陽動作戦


 頑丈さを誇る鉄のボディも[次元衛星砲]で所々焼けていた、自慢の機動性で直撃を免れたからこそダメージも少なかった
掠める程度には被弾しつつあった彼奴でも背中だけは頑なに攻撃を受けない様に注意を払っていた

 単に不要な損耗を避けていたからではない、彼自身の構造上の弱点がそこにあったからなのだ
白薔薇とラビット達の2大火力が[メタルブラック]に当たるか防がれるかはこの際そこまで重要視していない

 最悪の場合[次元衛星砲]だけでも勝てないこともない。



 スラスターを破壊されれば単純に回避性能が大幅に落ちるだけではない[体当たり]や[突き]の軌道も眼で追えて読み易く
こちら側に攻撃が命中する確率も減る



…そして何よりも[ムーンスクレイパー]という速さを活かした彼の代名詞が完全に死ぬ





 焦り過ぎたな、[インペリアルクロス]の陣形で突っ込んでくる術士等を見て前衛3人を如何に早く倒して
中核の貴婦人達へ対応していくべきなのか…モタモタしていたら相手に切り札を切られかねない、と
 そんな節燥感に駆られて手早く少年少女と術士を倒したからこそ傷が浅かった



威力よりも速度を重視した峰内、剣先を折り返す刃で利き腕を潰すだけに留める早業、心臓を貫く事も無く先端で切り付け


 1人1人ご丁重に[克己]を唱えることすら不可能な重体にでもしてれば話は大分変っただろうが
それをやれば今頃2大火力の直撃によってメタルブラックの腰から上は綺麗さっぱり消し飛んでいたに違いない




 後門の小此木少年、前門から白薔薇の光輝く拳…っ!!




 今から振り返り少年を居合切ろうとすれば上半身が拳と光線で持って行かれる
無視して白薔薇を打ち負かせば馬を射られた将になり降り注ぐ神罰やら今まで楽に躱せてきた攻撃の集中砲火で敗ける




 ルージュ一行はあの劣勢から見事に逆転の一手を指したのだ…。



















            メタルブラック「 喝ッ ッ ッ  ッッッッッ! ! !! 」ブォンッ!




           白薔薇「きゃっ―――!!」     レッド「な、にィ!?」







 この時、メタルブラックが咄嗟に取った行動…それは意外ッ!"バク宙"である…ッ
数㎝どころじゃない距離まで白薔薇の[タイガーランページ]が迫った所でバク宙…否、正規のやり方と違って
鉄棒競技の逆上がりの様な片脚を大きく上げたバク宙擬き―――サマーソルトキックであった


 身体を宙に浮かしながら姿勢を横軸に180度向きを変える
こうすることでレッド少年の本来の目標であった『背部スラスター』への攻撃は大きくズレて
メタルブラックの腰付近に当たることとなった…一方で白薔薇姫は苦し紛れのサマーソルトを脇腹に受け
小さな悲鳴を上げながらも拳を叩き込んだ

―――当然ながら最初の予定通り上半身を粉々に吹き飛ばすという狙いは大いに逸れたが





    白薔薇「っっ――[タイガーランページ]!!!!!」ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ



 背面のブースター破壊は失敗に終わり、鋼鉄の肉体にほんのちょっとの傷を[ツインソード]で負わせるに至り

 白薔薇の攻撃は――上半身を消す致死の攻撃にはなり得なかったが、自身に蹴りを浴びせた片脚を完全に持って行った





  ベキメキ、メキャッッ




――――――バキィ




        膝下から完全に捥がれたメタルブラックの右脚『 』ベシャァァ!!




     メタルブラック「―――っっ、[猛虎プログラム]発動!!!!!!!!!」キュィィィン!!








 片脚を失い歩行は不可能になった。


 更に黄金の鉄拳による殴打の雨嵐がサムライの残った脚も奪わんと叩き込まれてズタボロの鉄塊と化す
白薔薇から見て上後方へと飛び退かれて距離を開けられた事で小手がほんの少し空虚を舞う
 脚を失いつつもバク宙をした黒鉄の戦士の上体は今完全に[稲妻突き]を放ったレッドの背後――死角を取る位置にあった
レッドが首を動かして自分の頭上を通り越した相手の姿を捉えて対処しようとした時には…[猛虎プログラム]が


 敵の[タイガーランページ]が既にレッド少年の鳩尾を的確に打ち抜いていた


 腹部に筆舌しがたい激痛が走るッッ、最強格の殴打技をその身に受けた齢19歳は
上方に跳んだ敵と違い地を滑る様に吹き飛ばされていく、頭の中が真っ白になる一生分の胃液を吐き出したかもしれない


 口中が酸っぱい、喉が熱い、自分の口からは水分が驚くほど出て行くのにそんな現状と裏腹に
脳の何処かにひどく冷静な自分が居て「よく今の喰らって俺生きてるな」なんて場違いな事すら考えていた
[克己]は唱えられそうにない、白薔薇さんはどうなった?頭の中に居る冷静な自分がふと目を向けると…



            レッド(……)


            レッド(オイオイ…)

            レッド(んなアホな、そんなんアリかよ…)





 丁度少年の視界に飛び込んできたのは歩行不可能になったというのに一体どんな手品を使ったのか白薔薇の真上に飛び
上から拳の雨を降らせ、それを貴婦人が拳の傘で防ぐという構図であった


 レッドが吹き飛ばされた瞬間に何があったのか、潰された利き腕を治そうと
少年に少し遅れて[克己]を唱えていたアセルスお嬢はその様を目撃した…

 傷は完治したが、彼女より先に完治して背部スラスターの破壊に少年が向った為、彼女はルージュの介抱に当たった
赤い魔術師を治療する傍らで彼女が見たモノ…それは目を疑う光景だった

 少年が吹き飛ばされた後、両脚がまともに使えなくなった[メタルブラック]はこのまま落下していくだけだろう…
背部のブースターこそ壊せなかったが機動性を潰すというお役目は確かに果たされた

 あとは地を這う芋虫よろしくとなったメタルブラックを囲んで叩くだけの手筈…だというのに








    メタルブラック「まだだ!まだ終わらん!!たかが片脚を失くした程度だ!腕が残っているっ!」シュバッ!ダンッ





―――両脚で大地に立てぬならば、両腕を地につけ逆立ちでもする要領で着地すればよいッッ



 [猛虎プログラム]を発動させた光り輝く両腕で大地に立つ!
まるで軽業師が舞台公演する曲芸じみた動きだ…アクロバティックな動作で宙を舞い
剥き出しになった急所へ致命の一撃を繰り出す少年を避け、前方の貴婦人に片脚を拳で千切られる程の衝撃を受けても
空中で繊細な姿勢制御を成してレッドを殴り飛ばして着地する、これだけでも十二分に常識を疑いたくなる挙動であり
 更にプログラム発動で[タイガーランページ]を可能とする人外の"筋力<STR>"を活用して
腕力と指先の力だけで大ジャンプを熟し未だ健在だった背部スラスターを吹かしてまた宙を滑空するように高速移動
白薔薇の頭上から拳の雨あられを降りかけるという行動に出たのだッ!!


 脚が在ろうが無かろうが関係なかった。
 ルージュの結論通り、全てはあの背部スラスターが産み出す機動性なのである



 アレを破壊できなかった時点で勝敗はもう決まったようなモノ…その事実を認めレッドとアセルスは苦渋を浮かべた





 そう、――――「自分達は一世一大の大博打に敗けたのだ…。」っと、少年少女はそう悟った







 [次元衛星砲]は白薔薇を巻き込むと判断した為、自動発射はせず
ラビットは白薔薇を巻き込まない完璧な位置取りで[マグニファイ]を撃とうと試みたが…時すでに遅し



     白薔薇「きゃあああああぁぁぁぁっ!!!」パキィィン!!
    ラビット「[マグニファイ]セット[圧縮レーザー砲]!!!!!」ギュィィィン


   メタルブラック「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」



        ジュウウウ ウウウウウウ ウ  ウウウウウウウ ウウウゥゥ ウゥゥ――!!


 彼女の[妖魔の小手]が完全に破壊されて吸収された[クラーケン]の力が解放されて消えていくのが見える
それとほぼ同時にラビットが切り札を撃ち出した、通常の何倍もの威力を持った破壊の輝き、圧倒的な熱量

 白薔薇との呼吸の合わせ方も決して悪くは無かった、競り合っている間に撃つという目的も果たせはした
ただ見積が甘かった、想像以上に相手が白薔薇を退けるまでの所要時間が短く、更に脚を失った事で完璧な回避行動は
不可能と判断したのか背中のジェットを使い無理矢理前進するというゴリ押しの力技で移動を始めた
無理に避けようとして余計な被弾をするのならいっそ"避けずに吶喊<とっかん>する"という思い切りに出た

 可及可能な限りの最大戦速、それを以てして自身のパーツが壊れようが焼かれようが必要な損害と割り切り
最短で[マグニファイ]の中を突っ切りメカ勢を叩き潰す、そんな意気込みをコレでもかと言う程に感じられる吶喊だった
 黒鉄の戦士が膨張したレーザーの波を突き抜けた時には既に上半身の左肩から先が完全に熔解して無くなっていた



 メカという種族は総じて任務という物に忠実である、どこまでも残酷なまでに



 何かを破壊する為に産み出された戦闘メカが喩え任務を忘れてしまったとしても是が非でも思い出し必ず遂行する様に
メタルブラックも"武士<もののふ>"の心を持ちながらも同時に何が何でも任務を果たさんとする性質を持っている


 己の全存在を掛けてでも必ず命じられた事を成し遂げようとする"性<サガ>"…どこか歪でありながらも純粋なソレ



 ラビットの[マグニファイ]の後すぐにBJ&Kの[マグニファイ]が黒鉄のサムライ目掛けて放たれたが
彼奴の肉体を灼けたのは前者の攻撃のみで後者の砲撃は全速力で突っ切る相手を捉えきれず



 片脚と片腕、持っていた薙刀を失いながらも彼奴はラビットを残った片腕で叩き潰し
残りの脅威と成り得る相手へと肉迫していく、[妖魔の小手]も破壊し終えてラビットもご覧の有様、最後は当然―――





     メタルブラック「ここまでだな」ギュンッッッ


         BJ&K「…うっ…」タジ…



 戦闘メカではない彼が、ほんの僅かにたじろいだ



 策で最も重要だった機動性を潰すという目的が潰えた以上、もうアセルスにもルージュにもレッドにだって打つ手は無く
直線的な動きしかできなくなったがそれでも[次元衛星砲]の直撃を避けながら残った脅威にトドメを刺すなど容易い

 身体のパーツの大半が無くなった武士は惜しむ様にBJ&Kを眺めていた








 戦士として戦っている実感を味わえる死闘だった

 最後の方は金獅子殿と剣を交えた時に匹敵するほどに"心"が震えた


 良き巡り合いだった、束の間と言えど邂逅を持てたことを誇らしく思う…、こうして終えてしまうのが哀しく思える





      メタルブラック(……二転三転する戦いだった、若人たちよ私は決して君達との闘争を忘れはしない)



 背部スラスターの推力だけで強引にホバリングする悪の組織の四天王は片腕だけの拳を勢いよく相手の胴へと打ち込んだ





       ガシャァアアアアアアァァァァァァン




     BJ&K「!?!?!?!?!?」バチバチ


 胴体に風穴を開けられて手足をばたつかせながら火花を上げる医療メカは自身を破壊せんとする輝く剛腕を両手でつかむ
その有様を見てメタルブラックは心の内で呟く…掴んだ所でもうどうしようもないであるまい、と

 彼奴にも彼奴の立場があるのだ創造主たる父の意向に逆らえない事も含めて
投降しないのであれば見逃す訳にもいかない、医療メカを破壊して完全に脅威を取り除いた状態で
"人間<ヒューマン>"組を抹殺してそれで"組織に攻め込んできた侵入者の排除という任務"は達成と、名残惜しくはあるが…


 拳を医療メカの胴にめり込ませたままメタルブラックは後ろを見やる

 地に墜ちたラビットの残骸、術士と少女に助けられたのか下唇を噛んだまま此方を睨みつける小此木少年
 術士と半妖の看護によって息を吹き返す妖魔貴婦人





  メタルブラック(……。)



 万感の想いがある、私人として邂逅があっただけに、束の間だとしても平時に偶然知り合えた気の良い観光客達と…

 それでもブラッククロス四天王としての責務は果たさねばならない
私人としても武人としての情ももう抱くべきではない…――――――――――――――――彼らは此処で殺す


 彼が腕を胴から引き抜こうとした時、違和感に初めて気が付いた




  メタルブラック(……?なんだ腕に力が入らない、左腕や脚だけでなく内部ジェネレーターまでやられたのか…?)



 出力が出ない、メカにあるまじき捨て身行動の数々で蓄積されたダメージが原因で内部に異常をきたしたのか
赤焼けに照らされてながら欠損した肉体の至る所から剥き出しのコードや火花を散らしながら彼は少考する
 彼の知性、人格を司るコアと頭部の知能AIは健在だ、故に考える


 赤焼けが綺麗だ。

 心を持たない機械の自分でもこの眺めは何故かカメラアイにずっと納めておきたかった。

 [京]の[書院]はどうやら鎮火したようだ住民たちがやってくれたのだな、怪我人はいなさそうで何よりだ。

 父は私を褒めてくれるだろうか、私はまた最強に近づけたのだろうか…それともこれは間違った強さなのだろうか。

















      メタルブラック(…っ!? なんだ、なにか おかしい、なにかが なにかが なにかが おかおかおあか)







 自分は何を考えてた?どうしてこの医療メカの胴体から腕が抜けないのか、だった筈だ
肉体あるいは内部の動力系に問題が出たのかと考えていた、なのに風景がどうだの私人としての考えだの地元民の事や父…

 さっきから考えが纏まらない、支離滅裂すぎる、どうしがんだなんで出力が胴を抜くくらいの理由を判明に至らない
支利滅劣すぎる、どうしんだんがんなでんジェネターレに異音が発性してるのではないかの?!?

 一休わたしの体身に伺が越きてりろ@だ!$










          「……本当に巧くいく保証なんて無い賭けだった、ボク達の勝ちだ」



  メタルブラック「―――!?」ガガガッ、ピーッ



 声の主に意識を集中させる、上手く聞き取れない集音機でも声の主が銀髪の青年のモノだと分かった



 アセルス「えっ、どういうこと!?」オロオロ
  レッド「お、おいルージュどうなってんだ…一体何が」オロオロ



 頭の中にノイズが響く、"両の眼<ツインアイ・カメラ>"は急速に色を失い古いブラウン管TVの砂嵐の様な景色ばかりを見せる
身体の随所から異常が検知されるメタルブラックにも術士の澄んだ声は聞こえた、困惑する少年少女の声も




  ルージュ「2人とも本当にごめんね、君達には作戦の真の狙いを敢えて言わなかったんだ」







 - 『――真の"本命"はコレではない、策の重要課題は如何に真意に気づかせずメタルブラックを欺き通せるかだ』 -







  ルージュ「この作戦は"如何にメタルブラックに気づかせずに欺き通せるか"…敵を欺くにはまず味方から」

  ルージュ「最後の最後でアレを警戒されるのをどうしても防ぎたくて、だからこそスラスター狙いと思わせたかった」








-『彼奴の速さは全て背部スラスターから生み出されるのだ、人間じゃない、メカである彼の肉体だからこそ可能な事…』-









    "メカである彼の肉体だからこそ可能な事…"


    "メカ"である彼……―――――――『メカ』……





  メタルブラック(―――…そう、いう、ことか……ははっ、試合に勝って勝負に敗けるとは、こういう、こと、か)







  ルージュ「メタルブラック、貴方ならきっと脅威の度合いから判断して白薔薇さん、ラビット、BJ&Kの順に倒し」

  ルージュ「最後に完全な武力破壊を行ってからトドメを刺すだろうと睨んだ――だからこそBJ&Kに秘密裏に頼んだ」




    ルージュ「―――"[論理爆弾]"、メカである貴方になら絶対に効くだろうって閃いたんだよ」


 黒鉄のサムライはその場から動けなかった。


 否、動かそうと思えば動かせるが指一本でさえ錆び付いた様にぎこちなく思い通りに動かせなかったのだ…!



 人間でも妖魔でもモンスターでも無い、メカという種族が持つ唯一最大の欠点
[磁気嵐]を始めとした特定の技で内部システムを狂わされるという問題点だ


 機械という身であるが故に[毒]や[暗闇]に[眠り]、[石化]や[魅了]と言った状態異常が何一つ効かない
しかし先述の技や[グレムリン効果]…[論理爆弾]等の技やプログラムを使われれば途端に何もできなくなる

 電気系統のエラーから[麻痺]やAIの故障による[混乱]が例に挙げられるがメタルブラックの頭部から
蒸気が上がっているところを察するにおそらく[バーサーカー]の状態異常が出ていると見ていいだろう



 散漫とした思考回路、脊髄神経に電気信号が行き渡ってないのかと思いたくなる動きの悪さ、異様に熱くなる頭部


 一度に難しい事を考えすぎて知恵熱を出した子供、…なんてモノとは比較にもならない程の熱量が鋼鉄の武士の頭部から
発せられていて冷えた外気の風が熱に充てられて視覚出来る程の蒸気と化す






 …もはや今のメタルブラックには[猛虎プログラム]を発動させる事はおろか、背部のスラスターを吹かす事さえ困難





 当然ながら下弦月を描く剣閃も体内電圧を利用した稲妻も速さに物を言わせた突撃だって今の彼には不可能
単純な武力と武力のぶつかり合いなら間違いなくルージュ一行に勝算は無かった、抗った所でジリジリと疲弊して最終的に
今現在の壊滅状態に陥り命を刈り取られたに違いあるまい


 だから彼は賭けた。


 白薔薇の拳と[マグニファイ]からの[圧縮レーザー砲]2発、これに命運を委ねた―――と、思わせて真の狙いは
レッド少年やアセルスお嬢が繰り出す瞬間加速値の最高の刺突技による背部スラスターの破壊!…と、いうのも実は陽動で
正真正銘真の目論見は少年等を避け、主力組の白薔薇とラビットを倒し最後の一人BJ&Kを倒すという間際で放たれる罠だ


 まさかの"二重陽動作戦"…ッッ!!!



 敵は背後から弱点を狙ってくる少年に気づきコレが狙いだと考える、そしてそれをやり過ごし目の前にいる
無視はできない超火力持ちの主力組を潰すことに注力する
 敵の策を見破り奇襲のソレを捌きつつ近接タイプの白薔薇も打ちのめす、そして回数1発限定の[マグニファイ]も
避けきればその時点で出来る事など高が知れている


 2発の極大レーザー砲をやり過ごした、この時点でメタルブラックは半ば勝利を確信した




 偉人の言葉を借りるなら、"勝利を確信した時、既にソイツは敗北している"


 術士達にはもう戦局を覆す一手は無い、最後の切り札は今ので終わりだ―――そう思い込んだ彼奴がラビットを墜とし
虎の子の[圧縮レーザー砲]も使い物にならなくした医療メカの前に堂々と立つ
 [マグニファイ]後であるならばやれる事なぞ精々[パンチ]が関の山だと…



 ここまでの流れ全てが[論理爆弾]を警戒させない布石



 戦闘開始早々でルージュを庇ったBJ&Kにした時と全く同じ様に腹を貫通する一撃を見舞う
そして手足をばたつかせながら自身を破壊せんとした"メタルブラックの輝く剛腕を医療メカは両手で掴んだ"
 [論理爆弾]という技は相手に接近して対象に触れ、そこから敵の脳に影響を与える電磁波を流し込む様に送信する
つまり接触が出来なければ"miss<かわされた>"という事になってしまうのだ

 仮にBJ&Kが白薔薇と同じ前衛で殴りに行けば不審に思われ勘付かれたまである、敵の機動力なら当然回避されてた


 [次元衛星砲]のリンクは未だ切れていない、いつでも羽の捥がれた蝶と化したメタルブラックを灼く準備はできてる
少年少女、術士と妖魔貴婦人は既に彼奴を取り囲む様ににじり寄っている



   メタルブラック「見事なものだった……この勝負、私の敗けだ」



 声調機の調子も良くはなかった、濁りを感じさせる発声だがそれでも黒鉄の武士<もののふ>は
己を打ち負かした者達へ称賛の言葉を贈った
 肉を切らせて骨を断つ、一歩でも匙加減を間違えば終わっていた作戦
誰か一人でも欠けていたら成立しなかった総動員の大博打に彼らは勝ったのだ、[論理爆弾]が直撃しても最悪の場合
軽い[スタン]程度の状態異常で終わったかもしれない


 ザッザッ…


      レッド「メタルブラック…」


  メタルブラック「戦う前にも告げた通り、父を裏切る事はできない…降伏するつもりは無い」


      レッド「…」


  メタルブラック「若人達よ、もしも私に情けを掛けるというのであれば私が望む事はただ一つだ」





  メタルブラック「介錯仕ってもらいたい、この首を撥ねて幕を下ろしてくれぬか?」

     アセルス「そんな…」



 父親、Dr.クラインの唯一の味方はこの世で最早自分しかいない、そんな自分に何故父を裏切れようか?
このまま逮捕されて自身の内部情報から警察機関に組織の手がかりが流される事も幹部としての矜持が許さない
 敗者が勝者に乞うなどと烏滸がましいのかもしれない、そう黒鉄の武人は考える…それでも彼は願わずにいられない
自身をここで切り捨てて欲しいのだと




      レッド「……解った」チャキッ




     アセルス「…ぁ」

     ルージュ「…ボク達も最初から覚悟はしてきた筈だ、――メタルブラックさんもソレを望んだんだ」



 紅法衣の術士は首を振るいながら少女にそう言った、…自分に言い聞かせているようにも思えるその言葉を




                メタルブラック「…少年よ、感謝いたす」ニィ

         レッド「メタルブラック、俺はおまえの事を忘れない!絶対に…っ」グッ












                  ザシュッ、ゴト…

―――
――



 静寂。



 何とも言えない長い沈黙が、不気味な程の静けさがそこには漂っていた







 黒鉄の武士は身一つ満足に動かせない状態にあった中、おそらく全神経を集中させたであろう
首の付け根の部分、鎧を着こんだ胴体と頭部のつなぎ目に当たる部位を意図的に曝け出し打ち首にされることを待った
 常時あの爆発的な高機動では背部スラスター以上に狙う事は不可能だった急所を装甲を僅かにパージさせた上で…


 焼け跡だらけになった[庭園]の土にごとりと音を立てて重たい金属の塊が落ちた


 もう何も言わない鉄塊、ツインアイは死んだ魚の目玉が如く光を失っていて


 無機質なメカである筈の彼の口元はどこか微笑みを携えていた様に思える、最期に願いを聞き届けられたからだろうか


 切断面からよくわからないコードが数本飛び出ていて機械油や火花を飛ばしながら動き、やがてそれさえ動かなくなった









 初対面の自分達に快く接してくれた人、旅先で出会った数少ない知人…そんな彼の"死<きのうていし>"


 自らの手で知り合いを討った……



 その事実をどう受け止めて良いのか分からなかった、いや何も実感できなかった、何も感じられなかった。
胸にぽっかりと穴でも開いたようで内に入って来るものがその穴から外へと抜けていくようだった
 人間、感情が一定量を振り切れると笑う事も怒ることも、泣くことさえもできなくなるのだと知った

 得物を握った手を力なく下したまま空を見上げつづける少年、白薔薇姫に寄り添い胸を借りる少女

 そして動かなくなった鉄塊を見つめたまま思考を止めていた術士の青年





 皆、誰しもが感情の整理に時間を要した。



 然して刻を止めた少年達を置き去りに陽は沈んでいく、月は昇り始める…世界は無情にも廻っていく

 何時、何処で、誰が、何を想うと何を考えようとそんな事は知った事ではないと言わぬばかりに、時は去っていく


 世界は止まらないのだ、どんなに辛い事や厳しい事があっても、それでも明日へと向かって行く











 そう、だから……



                 「探しましたよ、アセルス殿」




      白薔薇(っ!? この気配は…っ)ゾワリッ

      アセルス「誰だ!」バッ



 不意に、力強さを秘めた声が静寂の空間に響き渡る
声の高さからして女性と思われる声に一同がハッと辺りを見渡す…


 夜の帷が下り始めた世界にその存在は眩しすぎた、だからこそ直ぐに気が付いた




 黄金の輝き、一目見て抱いた印象がソレだ


 引き締まった肉体美、健康的な日に焼けた肌と魅惑的な線を持つ女性の身体、そこから溢れんばかりの生命力
何物にも恐れを抱かない情熱的な瞳―――何もかもが眩かった、気高い獅子を思わせる黄金の輝きがそこに居たのだッ!







         白薔薇「金獅子姫様ですね、私、白薔薇と申します…姉姫様の御噂は耳にしておりました」



                      金獅子「……。」





……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ




    アセルス(!? 金獅子姫…この人が[針の城]で白薔薇とイルドゥンが話してくれた…あの)



    白薔薇「最も勇敢な寵姫であったと」

    金獅子「白薔薇姫…あなたは最も優しい姫であったと評判ですよ」











―――世界は止まらないのだ、どんなに辛い事や厳しい事があっても、それでも明日へと向かって行く




 そう、だから……





         金獅子「その優しさで、私の剣が止められますかしら?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ…








 ――――――だから……彼らの前には更なる試練が姿を見せるのであった

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            今回はここまで!


  ルージュ編 ボ ス ラ ッ シ ュ 継 続 で あ る !!


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乙です
メタルブラック強かった…と思ったら金獅子キター

なぜか金獅子姫戦はやっぱり京でってイメージがある


このボスラッシュはヤバすぎる……

耐性の無さを利用した搦め手勝利はサガ感あるな



 どっと汗が噴き出した、紅き魔術師は目の前に立つ黄金の闘気にあてられて蛇に睨まれた蛙の気分に至る
隣で今の自分と同じような表情をしているレッド少年もそうであろう



 ――――途方も無く強い。



 対峙するだけで解った、解ってしまった

 今さっきまで死闘を繰り広げていたメタルブラックに決して劣らぬであろう"威圧感<プレッシャー>"を感じる程の強者
断言しよう、戦えば間違いなく…負けるッ!



   レッド(ぐっ…冗談じゃねぇぞ…俺達、満身創痍だってのに!)

  ルージュ(メタルブラックさんですら種族としての特性を逆手に取った辛勝だったのに…勝ち筋が見えるのか!?)


 精も根も尽きたと言っていい、"WP<技力>"も"JP<術力>"もほぼ使い果たし武器の破損さえある現状での連戦
ルージュは[ゲート]の術を使って仲間全員と他所の"惑星<リージョン>"へ逃走することも視野に入れたが…
相手は上級妖魔、星間移動ができぬワケが無く逃げた所で追い付かれる場合も十分あり得る


  ザッ…



 気高き獅子は一歩、妹姫へと歩みを進める
それを見て、我に返ったアセルスが白薔薇を庇う様に前に立ち塞がる、白薔薇を…!
いつも自身を励まし寄り添ってくれた大切な人を護らなくては!その想いだけで彼女は獅子の前に立った…っ!






                アセルス「戦うのは私だ!」バッ!


                 レッド「アセルス姉ちゃん!」
                 白薔薇「アセルス様!!」



                 金獅子「……。」ジッ



         アセルスの利き手『 折れた[サムライソード] 』



 刃先が使い物にならなくなった剣を精一杯握りしめて、それで尚護る為に立ち上がった少女を見つめ――視線を変える





             金獅子「…。」チラッ


        首を切り落とされたメタルブラックの残骸『 』





     金獅子「ふっ、…この剣に屈しなかったのはオルロワージュ様ただ一人…。」スッ



 獅子は常に帯刀している二刀の内、"唯一無二の自分の剣"では無い方―――[黒曜石の剣]を抜刀していた
抜き身の刀身はアセルスへと向けられていて彼女はなんとその剣先を…っ!


 ―――――スチャッ


静かに鞘へ収めた。



    白薔薇「金獅子姉さま?」

   アセルス「…どうして剣を?あの人に言われて白薔薇を連れ戻しに来たんでしょ」




     金獅子「…いざ参る、と言いたいですが手負いのあなた方を斬り伏せたとあっては恥という物」

     金獅子「その折れた劔で立合うとなれば尚更に」




 折れたアセルスの得物を一瞥しながら彼女は更に次の様に言葉を続けた…




     金獅子「あのお方の御命令は絶対です、それに叛するつもりなど絶対にあり得ませんが」

     金獅子「今この場では剣を振るいたい気分にはなれません」



 最後にメタルブラックの亡骸に視線を向けて、この場で争う気になれない、彼女はそう告げた…
ほんの僅かな時間とは言え武人として最高の邂逅を果たした相手、感傷的だと思われるかもしれないが
今はただ武勇の死を慮りたかった、…嘗て人間だった頃一人の戦士として敵味方関係なく戦死した勇者に哀悼の意を表した
 剣を交え彼という存在を知ったからこそ尚更に亡骸が野晒しになっているこの地で争う気にはなれなかった





   金獅子「ですから3日後、今から丸3日過ぎた後の夜半過ぎに再びこの[庭園]で1対1での決闘を望みます」



  ルージュ「い、1対1で!?」



   金獅子「ええ、こちらから指名する相手は無論あなたですアセルス殿」



 魔術師は目を見開いた、正直に言えば今この場で戦いを回避できるのであればこの提案は是が非でも乗りたい
現状のパーティーメンバーのコンディションと武装の破損具合を見れば全滅するのは火を見るより明らか

 が…、三日後に『"1対1で最低でもメタルブラックと同等の相手と戦う"』というあまりにも大きすぎる代償を払わねば…




   レッド「姉ちゃん1人で戦わせるワケには「いいわ」


   レッド「っ!アセルス姉ちゃん!」

  アセルス「今から丸3日過ぎた後の夜半過ぎ…夜中の2時に私があなたと戦う、それでいい」



 疲弊しきった今の自分達が一斉に飛びかかったとしても勝てる相手じゃないことは判っている
苦肉の策だろうが不利な提案だろうと四の五の言える立場じゃないのは重々承知している、だからこそ受け入れる他ない



  アセルス「ただし約束して欲しい、あくまで戦うのは私なんだ!…彼らは、本来関係ない人達なんだ」




  アセルス「もしも私があなたに敗北したとしてもルージュや烈人くんには指一本触れないと誓ってくれ」

   金獅子「…いいでしょう、あのお方の名の元に誓います気高き人よ」




 金獅子姫の姿は揺らめき、次の瞬間には影となって消えていた…、居場所が割れて同じ[京]に居る以上は
別の"惑星<リージョン>"への逃走はまず不可能だ、三日後、"一人の女性<白薔薇姫>"を賭けた女の戦いが始まるッ…!

【双子が旅立って10日目 午後 19時32分 [京]】



   ルージュ「…とんでもないことになったぞ、これは」

    レッド「姉ちゃん…あの人に勝てる保証はあるのか?」



   アセルス「……。保証なんて無いよ、でも勝たなくちゃいけないんだ」ギュッ



 折れた[サムライソード]の柄を強く握りしめてアセルスは決意する…。




   アセルス「自分で言うのもなんだけど私は、ここまで強敵と戦い続けて強くなってきた…だから今ならっ」







   アセルス「今なら…っ![幻魔]を本当の意味で使いこなせるかもしれないッ」





 まだ技量が未熟で血の様な赤い劔に振り回されていた頃を思い出す、敵の攻撃を受けて気を失い
意識が無い状態で妖剣に操られて[幻魔相破]を撃ち出していた時分


 自身の魂を代価にして得た深紅の劔は当時の身には持て余す代物で、キグナス号で出会ったルーファス等の助言から
これまで封印していつの日か剣の方に肉体を乗っ取られない程度には腕と技を磨き、扱えるようになってみせると考えた

 現に彼女は今日だって[メタルブラック]という強者を前にして[幻魔]の力に頼らずに食らいついてきた
これから挑むはそんな彼奴と同等かそれ以上の強さを持つ黄金の獅子なのだ…!






  [ 幻 魔 ] の 封 印 を 解 か ざ る を 得 な い ッッッッッッ!!!





 妖刀を解禁するという方向性に定まり、また金獅子がこの場を引いてくれたことからか緊張の糸が切れたと同時に
忘れかけていた痛みと疲労が押し寄せてくる、脳内で分泌されていたアドレナリンが切れると一気に来ると言うが…
 一行はとりあえず身を休ませる為に旅館へ向かおうとこの場を離れる事にした

 明日からアセルスの[幻魔]を使いこなす稽古に皆が付き合うという話をしながら

―――
――



 術士達が[庭園]を去った頃、小高い丘の上で金獅子姫は1人香草を焚いていた。

 それは彼女がまだ人間であった頃、故郷の風習であった勇士を讃え、弔う儀式であった…




  金獅子(メタルブラック殿…貴殿にも私と同じく護るべき御人が居られた)

  金獅子(その御仁へ最期まで忠義を尽くし潔く死を選んだ…誉れ高い散り方でありました)



  金獅子(そんな貴殿を打ち負かした相手を貴殿の亡骸傍らに討ち取る気にはなれません…今宵は剣を振りませぬぞ)



 枝木は風に揺れ、銀杏や紅葉も波打ち数枚の木の葉が風に浚われて二度と枝には戻れぬ永劫の旅路に向かい
焚いた香草の煙もまた想夜に馳せる様に立ち昇る、願わくば勇士の魂を星まで届ける標となることを直向きに祈る…


屈しなかったのはただ一人…のニュアンスにメタルブラックが死んだ事も掛かってる?の粋でいいな





 祖国を発ち、幾つかの"宇宙船<リージョン・シップ>" に乗船してきたがやはりガベージ型の揺れが一番激しいな。

名は体を表すというが…ガベージの言葉通り屑鉄の有り合わせで創った様なこの襤褸船の揺れで若干の酔いを覚える




…ふん、今にして思えばキグナス号の乗り心地は正しく上等なモノであったな





事故率が高いスクイード型とは別の意味で安心して眠れん、まぁ[タンザー]に再び呑まれんだけ良いがな





今日は早朝からアニーとの稽古に何を思ったのかルーファスやライザまで参戦してきてどっと疲れた
エミリアの奴はそんな様子を見てカフェラテ片手に「いいぞ!もっとやれ」だの囃し立ててくるし…

 途中からリュートとスライムまで呑気に観戦を始めおってからに…!!






 ……相も変わらず、朝から喧しい日々が続いている。前まで煩わしいと感じていた日々が









 今は…その、なんだ…。不思議とそこまで嫌悪はしていない自分が居る、ような気がする…気のせいと思いたいがな












 …チッ、くだらん!こんなワケの分らん事を唐突に考えるのは乗り心地最低の船の所為で気が滅入っているからだ!!!

 アニーの奴め![ディスペア]潜入までの準備を散々待たせやがって、これから赴く[スクラップ]のジャンク屋で
ブツを受け取ってさっさと[解放のルーン]を取りに行くぞッ!


 着陸態勢に入った屑鉄船は名前通り似合いの"惑星<リージョン>"[スクラップ]へと降り立った。

【双子が旅立って11日目 午後 16時04分 [スクラップ:シップ発着場]】


 蒼い法衣が一陣の熱風に煽られる、随分と年季の入ったタラップ階段は一段踏みしめる度に悲鳴を上げていた。

 年中湿度のある犯罪都市とは別の意味で無法が横行する街だとは事前に同行している拝金主義の女から聞いていた
自然光が殆ど届かず、全体降水量が銀河を見通してもトップクラスでその癖そんな街でありながら活気に溢れていた土地と
比例すると此処は対極的な場所だな、という印象を蒼き魔術師は抱いた


 四つ足で大地に根を下ろす――宛ら昆虫の様な見た目の――ガベージシップを背に夕陽の恵みが寂れた町を照らしていた
魔術師の法衣や露出した素肌に吹き抜けていく風は熱く、水分を全くと言っていい程に含まない


 陽は沈みだした時間帯だというのに、じわじわと焼いていくような熱に来て早々ブルーは喉の乾きを覚え始めた。




  ブルー「なるほど、無職が前に言っていた様にこの街なら唯一の酒場が儲かるのも頷けるというワケか」

 リュート「だろぉ~?クソあちぃ日に屋根のあるトコで飲むキンキンに冷えたビールが超うめぇんだ」



  ブルー「…もう何で無関係の貴様が一々俺達に同行してるかは突っ込まんぞ」

 リュート「えぇーっ、今日もブルー冷たくね!?名前だけに! 俺とお前の仲だろぉ~?面白そうだからついてくぜ!」
 スライム「(;´・ω・)ぶくぶくー」



 聞いてもいないのに勝手に「面白そうだから着いて来た」と口を開く弦楽器を背負った無職と暑さで表面から汗(?)が
滲み出て参っているモンスター等にツッコむ気力も無くなってきた術士は眼界に広がる街へと歩みを進めたかった
 彼らと違って比較的に温室育ちが故に口の中がパサつく感じが好かぬ彼はグラス一杯の水を求めているのであった

 軋むタラップ階段を降り切り、火成岩に似た硬質な大地に靴底が触れて砂利を踏み鳴らす
降り切る前のまだ高い位置に居た頃はそこまで気にならなかったが低所に来るとより突風に砂塵が混じっている事に気づく


 シップ乗りの女「ようこそ、砂と鉄と金そして酒の楽園へ、帰りたくなったら言いなよ」

 シップ乗りの女「[クーロン]までのシップドライブを始めたんだ、誰でも100クレジットさ」


    ブルー「来るのは無料でこの土地から出て行くのには代金を取るだと?寝言は寝て言え」


 シップ乗りの女「この町のルールさ、クレジット持ってる奴は正義で貧乏人は干からびて朽ちるだけだ」


 100クレジットすら持っていないってんならお情けで有り金全部で特別に乗せてやるよ、とケラケラ嗤う女を見て
蒼き魔術師はこの町の評価をもう一段階下げる事にした、評価1つ星からマイナス1つ星にクラスチェンジである

 [金塊]を用いたビジネスで資産には困っていないがこんな奴にはビタ一文払ってやりたくない、帰りは自身の術を使って
雨が降りしきる暗黒街まで帰ってやろうと心に決めた所で彼は先導する黄金色の髪に向かって声を掛けた


  ブルー「アニー、クーン達との合流地点は何処だ…あまりこの日差しの中で外をうろつきたく無いんだが」

  アニー「だらしないわねぇ~、あんたも男でしょ?心配しなくても[酒場]で先に待ってるわよ」


 そう言いつつ彼女も汗を滲ませているのを術士は見逃さなかった
西日で過ごしやすい時間帯とは言え[スクラップ]の日差しは外部から来た人間には堪える
 日中だと地元民ですら熱中症で倒れる事がある熱砂の街だ、それゆえかこの土地は"人間<ヒューマン>"よりも
比較的に暑さに強いモンスターやメカが住んでいて、観光客相手に宿や飲食店を営み日々の生活の糧を得ている


 こんな辺鄙な土地にやってきた理由は一つ、いよいよ以て[ディスペア]潜入の為の最後の準備道具を受け取りに来たのだ
厳重な監視と最先端セキュリティの装置だらけの刑務所だからこそ清掃員の道具もそれ相応の特殊な物を使う
 変装して潜り込むにも入念な下準備と本格的な偽装が必要になるのである

 そして何の因果か、ルーンの石を求めていたブルーと"指輪"を求めていたクーン一行の目的地が一致した為、彼らの分も
受注して此処で合流した彼らと共にそれを受け取る手筈となった


  リュート「皆で一緒に行けりゃあ良かったんだけどなぁ~」

   アニー「仕方ないわよ、定期便の席が空いてなかったんだし向こうには先に行ってもらうしかなかったのよ」


 こっちは誰かさんに剣術を指南しなきゃいけないからどうあっても後発の船に乗るしかなかったものねぇ、と
黄金色の髪の女が蜂蜜色の髪に視線を向けながら言ってくる、術士はしかめっ面で酒場に向かって歩いた


 見慣れた犯罪都市の下品なネオン電飾とは違った、点滅の仕方をするネオンが見えてくる
経年劣化が激しいのか、所々不規則にぷつぷつと明かりが消えては点きを繰り返す様が見て取れる
 シップ発着場から歩き続けて、まさしく"西部劇"と謂わんばかりの街の入り口を通り砂の積もった塗炭屋根や
穴の開いた木板の建築物、壊れた樽や木箱の傍に落ちた屑鉄の山が目立つ通りへと出る

 "枯草塊<タンブルウィード>"がコロコロと強風で種子を撒き散らしながら転がっていく様は
ガンマンの一騎打ちでも始まりそうなワンシーンの様だと思えた


 宿の前の馬『 ヒヒーン 』


 リュート「馬かぁ…ウチの地元にも馬飼ってる家があるんだよなぁ…サンダーの奴どうしてるかなぁ」テクテク

 リュート「偶には[ヨークランド]に帰って会ってやるかな~、あっ、でも母ちゃんに遭ったらまだ無職かって殴られる」

 リュート「どうすっかなぁ、困っちまったぜぇ~ブルーどう思うよ?」



  ブルー「 知 る か !! なんで俺に訊く!?お前の都合だろうが…!…くそ要らん事にツッコんだ所為で喉が」



 真後ろで止まること知らずと言った顔であれこれ言葉を発するニートにツッコまないと決めていたのに遂に声を上げ
余計に喉が渇いた彼はまず一杯冷たい飲み物を頼もうと[酒場]の扉を開くのであった


 ギィ…!



 涼風が外気と入れ替わる様に出入りして、一瞬だけ暖と涼の間に挟まれる、…空調の効いた内部は中々に洒落ていた
外の寂れた様子とは一変して中央のライブステージで妖魔や比較的に人型に近いモンスター、メカ等の亜人種が
軽快な心弾む曲を演奏していて室内の明かりもまた外の看板とは違ってしっかりフロア内を照らしている
 騒がしい場所をあまり好まないブルーでも店内の雰囲気はどちらかといえば好感触であった

 外でかいた汗が一気に冷めて、少しの肌寒さを感じなくも無いがこの贅沢な寒さを味わえるのは文明の恩恵あってのこと
急激な熱の変化を快く受け入れながら彼は店内を見渡す
 部屋の隅にあるジュークボックスの近くに2人程座れそうな空席がある、座るなら空いてるあそこだろうか?
その席よりは中央よりの場所には何処か疲れた顔をした壮年の男が酒をちびちびと飲んでいた、草臥れた作業着を着ていて
何処かの町工場で働く男という印象を受けた

 そんな彼から更に奥の席はやたらと賑やかだ…緑色のもふもふとした獣っ子と
酔っているのか何か怒鳴りながら暴れているチャイナドレスの残念な美女、そんな彼女に残り少ない髪の毛を引っ張られて
泣き叫んでる辮髪の男…



  ブルー(よし、他人のフリするか)スタスタ…



 賢いブルーは何も見なかった事にした。関わってはいけない。



 ほとぼりが冷めるまでは部屋の隅っこで喉の乾きを潤して待とう
そう決めた彼がジュークボックスの近くを陣取ったのは早かった、いつの間にか追い越していたアニーが入店してきて
術士の前に座る、ちょっと先に行き過ぎでしょ!と座って早々に文句を言ってくるが彼はそれを右から左へと聞き流す
 それからほんの僅かな間が空いてからアニーが「…ねぇ、あそこで髪がーっって泣いてるのフェイオンよね?」と尋ねて
「目を合わせるな、飛び火するぞ」とだけ忠告をした



 賢いアニーちゃんは黙って酒場のメニュー表を開きました。

 もっと言ったら自分の顔が向こうの席で騒いでる一行に見えない様、隠す様にメニューを開きます




 気が付けば何時の間にか入店していたリュートもクーンと愉快な仲間達から遥か遠く離れたいつもの定位置な席に座って
弦楽器を弾いていた「[スクラップ]の[酒場]で変わった奴に会った~♪」などと次作ソングを歌っている
 彼奴もまったく以て店内で繰り広げられている惨事に関わろうとする気概が窺えない、無職の傍にいるスライムも同じく


 今この瞬間、間違いなく三人と一匹の心は繋がっていた、今なら4人連携だって余裕で出せそうである。


―――
――

【双子が旅立って11日目 午後 16時47分 [スクラップ:酒場]】



 メイレン「もう!来てたなら一言でも言ってくれたいいじゃないの」


 頬からすっかり赤味が消えて、穏やかな笑みを浮かべるチャイナ美人の横で毛根がまた一段と薄くなった辮髪の男が
目尻に涙を浮かべながら頷く、そんな男女に「いやぁ取り込み中みたいだったんで空気読みましたー」と笑って返すニート
 凡そ30分近い荒れっぷりを見ながらちびちびと麦酒を飲んでいた3人と1匹は嵐が過ぎ去ったタイミングで彼らの前に立つ


 クーン「そうだよ!メイレンもフェイオンも"ぷろれすごっこ"が凄かったんだよ!!迫力あって面白かったなー」


 ブルー達も近くで見ればよかったのに~、と能天気な感想を漏らす緑の獣っ子に無邪気とは時として恐ろしい物だなと
引き攣った笑みを浮かべていた、紆余曲折はあったがコレで荷物の受け取りができそうだ


―――
――


 砂埃の舞う[スクラップ]の街を集団が歩いて行く、道中リュートがクーンにメサルティムはまだ居ないのか?と尋ねる
蒼き術士は特にすることも無いから脚を進めながら耳を傾けてなんとなく会話を聴いていた
 話の内容を簡単に訳すと、その水妖は例の"先生"とやらとまだ療養らしく手紙が届いたがパーティーに合流するのに
もうしばらく掛かるとの事らしい
 妖魔で医者と聞くと掴みどころの無いどこぞの藪医者を思い出して気が滅入るからその"先生"とやらが居ないのは
ブルーとしては都合が良かった、そんな事を考えていると目当てのジャンク屋にたどり着いたようだ







       『ジャンク屋!いい品あります カバレロファクトリー(株)経営』




  メイレン「あら、ここカバレロ一味が経営してた店だったのね…」

 フェイオン「ムッ、カバレロというと私と出会う前にキミ達が一悶着あったという連中か?」


 チャイナドレスの美女が経営グループの名前を見て、顔を顰める
雰囲気からしてあまり良い関係では無かったと察せられるが…



 ブルー「カバレロ一味?なんだそれは」


 アニー「あぁ、この[スクラップ]を牛耳ってるヤクザ者よ」

 アニー「確か何処かの"惑星<リージョン>"で恐喝紛いな手を使って金属を安く買いたたいていたとか」


 リュート「おっ!それ知ってるぜ[ボロ]の事だろ!ゲンさんとT-260が居た場所で子供を誘拐する碌でもねぇ連中さ」

 リュート「あの二人が此処に来たのも[ボロ]から手を引かせる為の"話し合い"だったって聞いたぜ」


 それを聞いてまたあの二人か奇妙な縁もあるものだな、と術士は思った
あまり西日に焼かれたくはないので足早に小汚い店の入り口へと入ってみると中はこれでもかと言う程[がらくた]が
散乱していて脚の踏み場もないと言った状態であった、これでも店か?と術士の青年は眉を顰めた



  水棲系モンスター(緑)「おっ、お客さんじゃん!」
  水棲系モンスター(青)「へい!いらっしゃい!」


   アニー「"イタリアンレストランからのご注文だよ、頼んでた調理器具を頂きたいんだけどね"」ジャラッ

  水棲系モンスター(青)「!!! はいはい、例の調理器具ですね、お代金を確かに頂きました」チャリンッ



 金の入った麻袋をカウンター台に乗せる裏社会の女、それを見て、その言葉を聞いてトサカのある青蜥蜴が
差し出したのはどう見ても調理器具には見えない工具箱が複数…
 それを受け取ったアニーは中身を確認すると「確かに頼んでたブツだね、ありがとさん」とだけ告げて店を出ようとした


 これで目的は達成されて、晴れてこの砂と暑さが酷い"惑星<リージョン>"からおさらばできると術士が思った時であった








  悲劇が起きてしまったのは…ッッ!!!











  クーン「わぁ~!こっちの広いお部屋はなぁに?」トテトテ…!

  水棲系モンスター(青)「勝手に入っちゃダメダメ!」



 好奇心旺盛な緑の獣っ子クーンがとてとてと歩いて店の奥へと行こうとしたのである、当然ながら店を任されている
水棲系モンスターはそれを咎めるが、彼が怒った理由は勝手に店の奥に入り込もうとしたことではなかった



   水棲系モンスター(青)「3個で1000クレジット、料金は先払いだよ」


  リュート「んん~?料金、3個で1000クレジットって何のことだい?」



  水棲系モンスター(青)「なんだい知らないのかい、ウチのジャンク屋では金を払ったお客に宝探しをさせるのさ」

  水棲系モンスター(青)「料金を払ったらゆっくり品を選んでもらう、どんなクズでも掘り出し物でも1個は1個だよ」


  メイレン「あら、面白そうね!福袋みたいな物でしょ!折角だしやっていきましょうよ」

 フェイオン「おいメイレン…1000クレジットはそこそこ結構な額だぞ」


 確かに[マンハッタン]にある宝石店で[策士の指輪]を買うために資金を集めていた彼らだからこそ分かる、しかし…


  メイレン「何言ってるのよ!"掘り出し物"って言ってたじゃない、つまりは運が良ければ1000以上の価値があるのよ」

  フェイオン「う、うぅむ、しかしだなぁ…」


  メイレン「買うは!」ジャラッ


 水棲系モンスター(青)「毎度あり!じっくり選んでくれ」



  メイレン「ほら、あなた達も手伝って頂戴!」

   ブルー「はっ!?俺達もか!?」


  メイレン「そうよ!クーンやフェイオンの目利きじゃ正直不安しかないのだから」

  リュート「ひゅ~!いいねいいね!面白そうじゃん!クーン俺も混ぜてくれぇーっ」ダダダダッ


   ブルー「あっ、オイ!?」


 これが後に彼らを―――この店を襲う悲劇の始まりになろうとはブルー等は知る由も無かったのである

―――
――


 金網フェンスの先は用途の分からない物から見慣れた物までなんでも置かれているジャンク品の楽園であった
この場につい数日前に別れたレオナルド博士や遠い[ボロ]の地に居る腕が4本以上ありそうな技術屋おじさんが居れば
歓喜の声を上げたくなりそうな掘り出し物も確かに置いてあった

 だが、それはあくまで分かる人が見ればわかるというもので素人目では一見すればタダの鉄屑にしか見えない
例えばひん曲がった鉄パイプにしか一見見えない様な物が仕込み刀になっていて中身が[サムライソード]だったとか
 中世時代に出てくるようなブリキの鎧かと思った物が中身は魔改造されていてハイテクな[サイバースーツ]だったり…

 赤いドラム缶の群れ、段ボール箱に入ったよく分からない棍棒の様な物、縁日屋台で見かけるコルク弾の玩具のピストル
一行はそれぞれ手に取って何が良いのか考え込むが結果はハッキリ言って芳しくない



 【あと3個】

 メイレン「防具のジャンクかしら?これにするわ!」






 チャリン!


 実は[がらくた]だった。



 メイレン「…が、[がらくら]…」






 【あと2個】

 フェイオン「武器のジャンクかな?これにする!」


 チャリン!


 実は[壊れたバンパー]だった。



 フェイオン「こ、[壊れたバンパー]…自家用車など持っていないぞ、しかも壊れているって」





 【あと1個】

 クーン「銃のジャンクだ、これにしよーっと!」

 チャリン!



 実は[インスタントキット]だった。



 クーン「わぁ!"いんすたんときっと"だー!これってメカの怪我を治せるんでしょ!今度T-260にあげれるね!!」


 メカの修理道具であるそれはメカの工房などに行けば30クレジットであっさりと買える代物である


 物の価値があまり分かっていないクーンを除いて全員が暗い顔で帰って来る、それを見て
心なしか愉快そうな顔をしているように見える青蜥蜴の店主がこう言ってきたのだ


 水棲系モンスター(青)「うちの店は買いだけじゃなくて売りもできる、お客さんの手にした要らない物引き取れるよ」

  メイレン「…そ、そうね…正直[がらくた]やバンパー、メカの修理アイテムを私達が持ってても仕方ないし路銀に…」


 少しでも路銀にしましょう、か細い声で彼女が言った途端に「うちじゃこれしか買い取らないよ」と
蜥蜴が紙切れを見せてきたのであった…



\ デンッ!! /


・[インスタントキット] 価格20

・[強化装甲] 価格2000

・[ベヒーモス] 価格3000

・[デュエルガン] 価格3500

・[ストーカー] 価格5500

・[重粒子砲] 価格6000

・[ブリューナク] 価格8500

・[ハイペリオン] 価格10000








  メイレン「……。」


  メイレン「 は? 」ピキッ



 見せられた買取メニューを見て、チャイナドレスの美人は額に青筋を浮かべた…




  メイレン「…あのー、気の所為かしらぁ?このお店で買った[がらくた]や[壊れたバンパー]の名前が無いけど」ワナワナ

 水棲系モンスター(青)「うちじゃこれしか買い取らないよ」ニッコリ



 青蜥蜴はすごく良い笑顔で言い切りました、メイレンお姉さんのお顔もつられてニッコリです!目は笑ってない。


 リュート「メイレン落ち着けって!さっきのは選ぶの手伝った俺達にも落ち度があるからさ!?」アセアセ
  ブルー「あ、あぁ…もう一度やろう、心配するな代金は俺が払おう、罪滅ぼしだ、だから落ち着け、な?」


 長い付き合いではないが、この紫髪の女性の気質を理解した術士と弦楽器を背負った男が慌てて宥めに入る
スライムはドラム缶の裏で怯えてるし、アニーは背筋に冷や汗をかきながら壁に立てかけられた短刀を眺める、我関せず。
 このままでは[酒場]の凶事の二の舞が起こり兼ねん…ッッ!!なんとしても掘り出し物を当てねば!


 水棲系モンスター(青)「? お客さん何をコソコソ話してるんだ?」

      リュート「なんでもないって!それよりもっかいやるから!ブルー金払ってくれ!!」
       ブルー「う、うむ…店主、もう一度だ」




<防具のジャンクだ!
チャリン!

実は[アーマーグラブ]だった。



<武器のジャンクだ!
チャリン!

実は[クックリ刀]だった。



<銃のジャンクだ!
チャリン

実は[ペンドラゴン]だった。


 かなり健闘した、正直むちゃくちゃ頑張った方だと自負できる…しかしッ
明らかに戦利品が1000クレジットに釣り合う様な物ではなかったのである…っ!![クックリ刀]なんかは
[シュライク]で買い取ってくれる店があるとは言うが、売値は二束三文の投げ売りみたいな価格だ

 この青蜥蜴の提示してきた買取表の中にも売れる物の名前は入っていないし、この場で現金に換えることさえできない



 水棲系モンスター(青)「いや~、惜しかったなぁwww、運が良ければ1000クレジットの以上の成果があるんだがなぁ」



 わ、笑ってやがる…っ!

 この店主…っ!客の不運をあざ笑っていやがる…っ! 人の不幸を蜜として悦ぶ外道ッ 悪魔的発想…っ!




――――ダンッッッッッ…!






 カウンター机の上『 1000クレジット入った麻袋 』


 メイレン「……もう一回よ」ビキビキ



 フェイオン「め、メイレン…よさないかっ!」

 メイレン「黙って、これは退けない戦いよ」スタスタ…



チャリン!

実は[ハンドバズーカ]だった。

チャリン!

実は[がらくた]だった。

チャリン!

実は[インスタントry



 
 リュート「なぁ、ブルー…いくらなんでもよぉ、おかしくねぇか?」

  アニー「あたしも同感だわ、いくら運が絡むとは言えしょうもない品ばっかり」


 さっきの武具もそうだし今しがた出た[ハンドバズーカ]もお世辞にも強い装備品とは言えない
なんなら1000クレジットでもっと有用な重火器を購入できるのは[クーロン]でpzkwⅤが営む武器屋を知っているからか



 兎にも角にも3人ともほぼ確信を持って言えた、間違いなくこの店"ぼったくり"だ、と




  メイレン「…。」

  メイレン「……」クルッ、スタスタ…



 水棲系モンスター(青)「あちゃ~、こりゃあまた駄目だったみたいだね、でも[インスタントキット]なら買い取るよ」

 水棲系モンスター(青)「なぁに、20クレジットでも金にはなるさ、さっきのも合わせて40で買ってあげるさ、どうだ」


 メイレンは黙って叩きつける様に硬貨の入った袋をカウンターに叩きつけ、ジャンク漁りに戻っていく…
ゆらぁ、と幽鬼か何かかと見間違えるような足取りで



 【あと3個】


 メイレン「…。」


 赤いドラム缶の前に立ち、彼女は防具のジャンクを漁った。



チャリン!


実は[インスタントキット]だった。



 【あと2個】

ガサゴソ…


実は[インスタントキット]だった。



 【あと1個】


 メイレン「…。」


 メイレン「」クルッ、スタスタ…







  メイレンが… メ イ レ ン が 漁 る の を 途 中 で や め て 店 主 に 近 づ く !!




 フェイオン「ハッ!?い、いかん…長い付き合いだからこそ分かる、今のメイレンはいかんッッ!?」



  水棲系モンスター(青)「おやぁ?お客さんどうしたんだい?まだ後1回残ってるけど、あっ遂に諦めちゃったかww





  ―――――――――パァン!!!





 店内に乾いた音が鳴り響く。



 店の奥の壁『 銃痕 』


 水棲系モンスター(青)「―――へっ?」



 メイレン「 」ニッコリ



 メイレンは、それはもう誰しもが見とれる見返り美人としか言えない妖艶な笑みを浮かべていた
右手に[ベヒーモス]なんていう物騒な拳銃を構えてなければ絵画になるほどの美しさであった

 青蜥蜴と緑蜥蜴、ついでに術士一行も乾いた音の正体がなんであるか気付くのに一拍子遅れた、発砲音である


 メイレン「ねぇ、これ、いい銃だと思わない?あなたこの[ベヒーモス]を買い取るのよね?」ニコッ

無限ジャンク漁りか

メイレン正直好き
リマスターで脚が非常にエロかったし


 微笑みかけながら首を傾ける、ボリュームある紫色の髪が揺れる
店主と手伝いの蜥蜴達が息を飲みその様を見ながらメイレンはゆっくりと弾倉に弾を補充した
 銃口は壁から横にややズレて蜥蜴店主の脳天を丁度ぶち抜ける位置となる



  クーン「あーっ、この間倒した[巨獣]から出てきた銃だー」ピョン!ピョン!


 緑の獣っ子はこの状況を理解しているのかしていないのか、飛び跳ねながら仲間の女が持つ銃を指さす
[ベヒーモス]…巨大な獣の名を冠するその銃は相当な貴重品であり、その辺の店で売ってるような代物では無かった


 ブルーとリュートは先程クーンが口にした言葉を聞いて、記憶を辿る



  ブルー「[巨獣]だと…?それは確か[バカラ]で倒した奴のことだな」
 リュート「俺達が指輪泥棒のネズ公を追っかけた時だな」


  クーン「うん!あの後ね、倒した[巨獣]の中から銃が出てきてソレをメイレンが拾ったんだよ~」


 たまたま迷い込んだ冒険者を大怪獣が喰った時に一緒に胃袋行きになったのか、その時に出てきた[ベヒーモス]を
彼女は目敏く"拾って自分の物に<アイテムドロップ>"していたのである


    メイレン「運が良ければ1000クレジット以上の価値があるなんて、そんな都合のいいことあるわけないわ」ニコッ

    メイレン「この店は欲望を吸い寄せるぼったくりの店に過ぎないの、存在を赦しちゃいけないわ」チャキッ



  水棲系モンスター(青)「ひぃーっ」
  水棲系モンスター(緑)「お、おたすけー!」



   フェイオン「メイレン!気でも触れたか!?」



 メイレン「でももう限界よ、このぼったくり商法に付き合ってらんないわ!!!!!」クワッ!!

 メイレン「この銃の力こそが真の正義!!時として暴力はお金以上に解決するのよ、この力があれば何でもできるわ!」


 メイレン「店主さん達、今まで楽しい時間を過ごさせてくれてありがとうね、皆さんの事は忘れないわ」



   フェイオン「メイレン!?バカな事は止せ!!!!」



  メイレン「 さ っ き か ら う っ さ い わ よ ! ! こ の ハ ゲ !! 」


<[裏拳]バキィ
<ぎにゃああああああぁぁぁぁ


 後ろで騒ぐ辮髪の男を殴り倒して、メイレンは[ベヒーモス]の引鉄を弾いたァ!!――――パァン!




 店の壁『 銃痕 』パラパラ…



  メイレン「……。」

  メイレン「なーんちゃって♪やだもうっ!本当に脳天を撃つと思ったのトカゲさん、冗談よジョーダン」


  メイレン「ほんの小粋な冗句じゃないの、おほほほほっ」




  メイレン「さっ、冗談も済ませたことだし【2個目】を取りに行かないとね」クルッ


 店の壁に2射目で更に大きな穴をあけた後、朗らかに笑いながら彼女は言った"【2個目】のアイテムを取りに行く"と
それに蜥蜴の店主は目を丸くした、先程まで本当に脳天をぶち抜かれて殺害されるのでは?と恐怖に震えていた彼はまだ
声が若干震えているがそれでも言葉を発さずにいられなかったのだ




  水棲系モンスター(青)「へっ、ふ、ふたつめぇ?」

  水棲系モンスター(緑)「――――(白目剥いて泡吐きながら失神中)」ブクブク



      メイレン「ええ、そうよ♪邪魔しちゃってごめんなさいね~」



  水棲系モンスター(青)「い、いやアンタ【2個目】はもう取っただろ!?[インスタントキット]だったって――





           ―――――パァン!!



 乾いた音がした、店主のすぐ真後ろの目覚まし時計が音を立てて無残な姿に変わる
弾けとんだ鉄片と螺子やバネ、時計の針がパラパラと降ってくる…





    メイレン「あら、やだ、私の持ってた銃が何故か突然暴発しちゃったわ、驚かせてごめんなさいね」

    メイレン「じゃあ私は 【 2 個 目 】 を取ってきますから」ニコッ


 そう言って弾を装填するメイレンは静かに部屋の奥に去っていった、その様子を店主は「…はい」とだけ
尚、術士一行は既に部屋の隅に退避していた




チャリン!

実は[インスタンry


―――
――






  メイレン「ねぇねぇ店主さん私ってば運がいいみたいよ、ほら![リーサルドラグーン]!」チャカッ



 もはや"何度目か分からぬ【2個目】の取得"で手に入れた店売り最上級の銃を自慢するチャイナドレスの美女
尚、手に持っているのは[ベヒーモス]である




  モンスター(青)「もう勘弁してください」
  モンスター(緑)「お金ならいくらでも払いますから、ウチが倒産します」



 涙ぐみながら許してくれぇ!と懇願する爬虫類2匹の光景に既視感を覚える辮髪の男
…フェイオンは既視感の正体を察した、「あっ、[ヨークランド]の豪富さんだコレ」と

 何時ぞやの豪富から何度も診療代をせびって最終的に夜逃げに追い込んだ時と全く同じ構図なのである

 遠い目をしながら彼は目の前で行われる恐喝もとい略奪行為を止める事ができず茫然としていた
クーンは山積みになった戦利品の数々に「メイレンすごーいっ」とだけ、術士と無職の男は引き攣った笑みを張り付け
守銭奴の女も流石にこれは…と引いていた、スライムはドラム缶の影から全くに出てこない…

 この店の品が全て奪い尽くされるのもそう遠くない未来の事であろう…経営破綻待ったなしッ!

乙ー

まああのジャンク屋はアコギだししゃーないかな……って

SS避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/



     「オイ!珍しく視察に来てみればこりゃあ一体何の騒ぎだ!?」タッタッタッ!


 一目見ただけでお高いと判る質感の背広、情熱的な赤ネクタイを紳士帽子を被った髭面の男が怒鳴り込んできた
地元の人間特有の日に焼けた健康的な肌と対照的な白い歯、これで気前の良さと親しみ易さでもあれば露店に居る
タコス売りのおじさんとでも称せるような顔立ちだが、生憎と彼はそんないい人間じゃあない


 [スクラップ]を牛耳るギャングスタ―、"首領<ドン>"・カバレロその人なのである



  水棲系モンスター(青)「カ、カバレロさん…!!」
  水棲系モンスター(緑)「助けてくだせぇ!コイツ等がウチの店のモンを全部かっぱらっていくんです!!」



  カバレロ「なぁにぃ~!?ウチのシマでそんな狼藉を働くなんて一体何処のふてぇ野…郎…だ、あ?」


 ギャングは助けを求める部下を見た後、自分の組が経営している店で絶賛大暴れ中の略奪者の顔を見た、そして凍り付く
何故なら数日前に自慢の[カバレロファクトリー]で殴り合いをして結果悲惨な目に合わされた相手がそこに居たのだから



         メイレン「あら?」

         カバレロ「うげっ―――――あ、アンタはあの時の…」ダラダラダラダラ…



 水棲系モンスター(青)「カバレロさんっ!アイツですよ、あの女です!!!」
 水棲系モンスター(緑)「ガツンと言ってやってくだせぇ!」


     クーン「あっ、指輪を安く売ってくれたカバレロさんだ!久しぶり~!」ピョンピョン

     メイレン「ええ、その節は100クレジットで売ってくれてありがとうっ」ニッコリ
     クーン「T-260にもシップのパスを用意してくれた優しいおじさんだよね~」キャッキャッ!


        カバレロ「ひ、久しぶりだなセニョリータ…その、ウチの店で暴れてるってのはアンタか?」


 水棲系モンスター(青)「か、カバレロさん?」
 水棲系モンスター(緑)「どうしたんスか!?いつもみたいに怒鳴りつけてやってくださいよ!!」


        カバレロ「うっ、うるせぇ!!!コイツ等にはもう関わりたくねぇんだよぉ!!」タッタッタッ!


  タッタッタッタッタッタッタッタッ…!!!


 水棲系モンスター(緑)「カ、カバレロさん…」
 水棲系モンスター(青)「に、逃げた?」



 全力で十字路を北に行ったところにある工場へと駆けていくギャングスターの背を眺めて目をぱちくりさせる蜥蜴2匹
彼らは顔を見合わせる、泣く子も黙る極悪非道のドン・カバレロが斯様に尻尾を巻いて逃走するだろうか、否ッ!

 ギャングの末端の彼らはボスの非道さを知るからこそ――あと数日前の惨事を知らないが故に――"壮絶な勘違い"をした



   水棲系モンスター(青)「うおおおおおおおっ!!」ダダダダダッ!パシッ!

  アニー「えっ!?きゃああああっ!?」ドンッ


 水棲系モンスター(青)「てめぇらに売ってやった道具は返してもらうぜ!!こんだけウチの店を荒らされたんだッ」
 水棲系モンスター(緑)「取り返したければ[カバレロファクトリー]まで来いってんだ!!」


 カバレロファミリー傘下の店を潰された事への憤り、堪え切れなくなったフラストレーションを発散するが如く
蜥蜴達はアニーから自分達が売った[ディスペア]潜入用の道具を引っ手繰り工場の方へと逃げ出したァ!!!
 去り際に「ボスの事だ、逃げたと見せかけて工場で潰す策に違いない」とか「なるほど!流石カバレロさんだぜ!」等々
勘違いに拍車を駆けた妄言を叫んでいた

……このジャンク屋店員達、比較的に新参者で金払いの良い観光客相手に"シノギ"を稼ぐ仕事しか任されていない

 だからこそクーン等がカバレロ一家にカチコミを仕掛けた当日も店に居て、カバレロのトラウマ相手だと知らぬのだ…



 ブルー「大馬鹿者!アレを盗られたら[ディスペア]に入れんではないかッ!?アニー貴様何をぼんやりしていた!」


 蒼の魔術師は意外にも俊敏だった下っ端蜥蜴共の奪取に対応できなかった仲間に向かって叫ぶ、今日はアレの為だけに
こんな砂と鉄屑と干からびるような暑さの所に来たというのに、これでは無駄足ではないかッ!?


 アニー「うっさい!!怒鳴んないでよ!―――痛~っ!あのクソ蜥蜴…こっちとらカネは払ってやったってのに」

 アニー「客に売った物を盗むですってぇ?ビジネスの世界で一番やっちゃあならないことをやったわ…許すまじ」




 アニー「その辺のチンピラ同然のヤクザもん風情があたし等に喧嘩売ったんだ…無法には無法で返してやろうじゃない」



 "裏社会組織<グラディウス>"の構成員アニーの眼が光る、無法には無法を持って裁く。それが流儀の彼女がぎらついた眼を
覗かせていた、確かに数分前までは憐みを感じていたがそれとこれとは話が別だ

 百歩譲ってアレだけの暴挙をされたなら逆上するのも仕方ないにしてもやる相手が違うだろ、と…メイレン達だろうが


 なんで全く無関係な自分が商売道具を盗まれきゃいかんのだ!?ふざけるな!!切り刻むぞ爬虫類共ッ!アニーはキレた


―――
――


【双子が旅立って11日目 午後 17時51分 [スクラップ:カバレロファクトリー]】




 カバレロ「…ゼェ、ハァ…ゼェハァ…くそぉ、なんだってあいつ等がまたこの町に居るんだよ…」

 カバレロ「工場までこうして逃げ帰ってきたが…全く、寿命が縮まるかと思ったわい」


 ゴソゴソ…スッ、ジュッ!


 カバレロ「…スーッ、ぷはぁ…あ~、全力で走った後の煙草は美味いぜ、俺の疲れた肺を癒してくれる」


 ギャングスターは工場に拵えた自分専用の部屋で値の張る椅子に凭れ掛かる様に腰を下ろす
街中で悪鬼とエンカウントした気分を味わった彼はここまで全力疾走してきたからか汗まみれであり
金糸刺繍入りのハンカチで顔を拭いてから胸ポケットの葉巻に火を点ける、一服することで漸く彼の心に平穏が訪れた


…かに思えたのも束の間で。


<カバレロさーん
<やってやりましたぜ~



 カバレロ「…あん?」チラッ


 騒々しい足音を立てながらファミリーの末端が部屋へと雪崩れ込んでくる、その様子に不快感を表し咎めようとしたが
そんな事に使ってやる体力も惜しいと感じた彼は内心でため息を吐きながら無礼な末端共が何用で来たのか伺う事にした


 水棲系モンスター(青)「カバレロさーん!見てくださいよ!ほらこれ」バッ
 水棲系モンスター(緑)「へへへっ、俺達お手柄でしょう?」



 カバレロ「? なんだその汚い工具箱は…っていうかお前等店はどうした?」ぷはぁ…


  水棲系モンスター(青)「店?店の仇ならこれから取るんじゃないですか!!そのために連中からコレ盗んだんです」
  水棲系モンスター(緑)「奴らにとって大事な物っスからね!これでトラップだらけの此処へ攻め込みますぜ」


 カバレロ「!?!?!?!? ちょ、ちょっとまてぃ!?テメェ等何やってくれてんだ!?」

 ポロっと…口から葉巻が落ちて格式高い机やビンテージ物の椅子、自身の服が吸い殻で汚れるがそれどころではない




   水棲系モンスター(青)「えっ、だって…そういう作戦…なんです、よね?」
   水棲系モンスター(緑)「この町一番のワルのカバレロさんが尻尾巻いて逃げる訳なんて無いし策がある、とか?」




 カバレロ「 そ ん な わ け な い だ ろ う が ど う し て く れ ん だ 馬 鹿 野 郎 !」




 ギャングスターの膝蹴りが数日前、緑の獣っ子御一行にボコボコにされたという惨事を知らない新参者の蜥蜴達の腹に
綺麗にめり込む、蛙を潰した様な悲鳴が工場内に響くがそんなことはどうだっていい!

 連中が攻め込んでくるのはそう遠くない未来の話だろう…工場解体待ったなしッ!



 カバレロ「あぁ…もう駄目だぁお終いだぁ、鉄材を御大臣様に足が付かない様に裏で買ってもらう事で
        右肩下がりだった景気が良くなったと思ったのに、あの店はおろか再度この工場が襲撃されるなんて…」




 『"御大臣様"に鉄材を売っていた』……利益に伸び悩んでいた彼の元にある日、転機が訪れた。



 小さな"惑星<リージョン>"の街を牛耳る、警察組織は日々"ブラッククロス"等の大規模犯罪組織を追うのに手いっぱいで
言ってしまえば些事にかまけていられる程の暇はない、小規模なヤクザ屋を取り締まってくれるパトロール隊員が居るなら
相当な物好きか、余程自由奔放な隊員くらいだろう…


 元・警察部門トップだったモンドはそこに着目した、この手の組織の中には小規模と侮れない隠蔽に長けた物が存在する


 小規模犯罪組織だからこそ如何に警察の眼を掻い潜り"ギリギリお咎め無しのグレーを維持できるか"…
1匹居たら30は居る小虫程の生命力と狡猾さを兼ね備えているものだ、そうでなければ裏稼業で食ってなどいけない


 中でもこの"カバレロファクトリー(株)"というのはその手合いに関してはかなりのやり手で

 [ワカツ]に建設していた[モンド基地]や[グレートモンド]開発の為に必要な資材を買い付けるには都合が良かったのだ




 説明するまでも無いことだがカバレロが"御大臣様"としか言っていないのは、モンド執政官の用心深さ故である

 

 話は逸れたが、彼はこうして利潤を得て[カバレロ事務所]にビリヤード台を置いたり、新しい事業を始めようと考えてた
その矢先に問題が起きた…!




 モンドに彼は資源を売っていたが、その資源は何処から入手したものか?答えは[ボロ]である。



 T-260が目覚めた土地であるそこで住民を脅して資源をタダ同然で買い叩いていたが部下が一悶着を起こした所為で
記憶を失くした戦闘メカと酔っ払いの剣豪に喧嘩を売った形となったのである、更に間の悪い事にそこに指輪を求めていた
クーンとメイレン、自分が鉄材を売りつけていたモンド執政官と縁があるリュートなど…

 数奇な命運の下にある者達が[スクラップ]の[酒場]に集ったのである


 御大臣様と大手ビジネスをしたいが為に[ボロ]での採掘量を上げさせたが為に厄介な戦士二人を相手にし
更にその売買の結果[モンド基地]の建築が良い感じに進んでたからちょっと心にゆとりができて里帰りしてたモンドが
偶然リュートと出会って彼を船に乗せてしまったから巡り巡ってこの土地に来たり、因果は巡るというのは本当なのだなと


 せめて、クーンとメイレンの2名しか敵が居なければまだ勝ち目もあっただろうに…

 [商人の指輪]を手に入れて大手取引ができたと思っていたら実はそれがケチのつけ始めだったという皮肉である



 カバレロ「くぅ~…畜生!もうどうにでもなりやがれってんだッ!おい糞蜥蜴共伸びてんじゃねぇぞ!」

 カバレロ「テメェ等の責任でもあるんだ!急いで工場内の奴らを全員俺の前に集めて来いやッ!」

VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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おつ

――――
――



 リュート「いやぁ~なんか大事になっちまったなぁ」

  ブルー「…全くだ、さっさと帰れば良かったものを」


 陽は発着場から下船した時よりも遥かに西へ傾いていて、見れば既に反対側の空には檸檬が浮かんでいた
今宵は綺麗な三日月か、と呑気な事を宣う無職の男の背を蒼き魔術師は不満げな顔で追っていた
 必要な道具を持って行った蜥蜴は以前、このニートとお騒がせ3人組の内2人がカチコミに行ったことがあるらしい
即ちこの面子の中で最も内部構造に詳しいと言えよう、先導役であるがゆえに追い抜くことはできないのだ、今すぐにでも
ブルー自身が追いかけて手早く潜入道具を取り戻したいのだが、もどかしい話である

 暫し歩くこと数分、漸く目的の[カバレロファクトリー]が見えてきた…。


 
彼らが脚を踏み入れると同時に――――




 カバレロの手下A「来たぞ撃ち殺せ!!」ダダダダダダダッ
 カバレロの手下B「ぶひっ ぶひっ ぶひっ!」ダダダダダダダッ



              【 [ 敵 の 援 護 射 撃 ] 】



 待ち構えていた[ゴースト]や[スパルトイ]の大群が一気に押し寄せてくる…ッ!戦闘能力自体は決して高くなく
陶然の様に死線を何度も乗り越えてきた一行の手によって一層されるのだが


  カバレロの手下C「オラオラオラァ!」ダダダダダダダッ


  ブルー「チィ…鬱陶しいなあいつ等!!」


 夏夜の蚊が如く、[援護射撃]が煩わしい、万が一にも後れを取ることはないと思うが潰せない物か…
そう試案する術士に獣っ子が提案を持ちかける


 クーン「ねぇねぇ、あの上の奴らが邪魔なんだよね?前はボク達やらなかったけどクレーンを利用しない?」

 ブルー「クレーンだと?どういうことだ?」


 こっちだよ!ついてきて!と走り出す少年とその後を追う術士等、道中メイレンに説明を求むと
この工場は入力操作で稼働させられる機械があって、それを巧く使えば高台から発砲する小蝿を無力化できるそうだ



  クーン「まずはここ!この赤いボタンを押して」

  ブルー「入口付近のコレだな」ポチッ



 クレーン『 』ウィーン!ガシッ


 カバレロの手下A「のわああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」ジタバタ


 本当に入口からすぐの所にある赤いボタン、それを押す事で巨大アームが動き援護射撃を行っていた柄の悪い男を
猫摘まみの状態で持ち上げ――――そして何かのガラクタと思われる巨大な鉄釜の真上で…


 クレーン『 』パッ

 カバレロの手下A「うわああああっ!?!?!?ぺぷしッ!?」ゴスッッ!!


 ホールインワン!憐れ真っ逆さまに落下した手下の一人はその石頭を硬い金属釜の底にぶち当てて眼を回した…。
これで厄介な者は1名排除できた…残りは3名である

 クーン「今後はこっちだよ!!!このボタンのある場所から右側のこの階段を一気に登るの!」トテトテ



 クーンの先走った案内に導かれて彼らは階段を昇る、すると工場全体を一望できる上層へと躍り出る


 グラサンハゲ「て、てめぇら!?下層でウチの組のモンに揉まれてるんじゃあなかったのかよっ!?」カチャッ

 待ち構えていた"人間<ヒューマン>"の敵対者が居たが何かをしでかす前にフェイオンが階段手摺を踏み台に跳び上り
そのまま勢いをつけて工場内のコンクリート壁を蹴りつけた[三角蹴り]を披露する、ぱきりっ!顔面に靴底がめり込んで
罅割れたサングラスと一緒に倒れ込む敵に一礼するフェイオンと「何カッコつけてるのよ!」と突っ込むメイレンを尻目に
クーンが紅いレバーを弄る、すると…


 クレーン『 』ギュィィィィン!!

―――――――ードッコォォォォォォォオオオオオオォォォ!!


 カバレロの手下B「ぜろぉぉぉっ!?」ヒューン!ドガシャッ!



 左に向かって急発進(?)し出した黄色と黒のストライプが映える巨大な鉄塊が豚マスクの身体を撥ね飛ばす
まるでちょっとした交通事故の現場に居合わせたようだった…、横腹から大質量に追突された小太りの男は派手な音を立て
工場の壁にズドンッ!…上半身が壁に埋まった状態でケツと足がヒクヒクと動いている
 そんなギャグ漫画じみた光景を見て惨事を引き起こした張本人は楽しそうに笑うのであった…


 クーン「あははっ!凄いよね!人ってあんなに飛ぶんだもん!この調子で次も行ってみよーっ!」

 ブルー「お、おう…そうだな」ヒキッ


 メイレン「ちょっと待ちなさい後々の手順を考えたらまた此処に戻らなくちゃいけないじゃない、二手に分かれない?」
  クーン「あっ、そっか」


 急ぎ足で昇って来たのとは別口の階段から下層へと降りようとしていた緑色の少年をメイレンが止める
まだ内部構造に詳しくない面々のアニーとフェイオンが二人だけで納得せずに話してほしいと訴える


   アニー「ちょっと、ちょっと!アンタ達二人だけで勝手に納得しないでよね!」
 フェイオン「う、うむ…私達はまだこの施設の事は詳しくないのだ、手順というのはなんなんだ?」

 メイレン「あー、そういえばアンタが合流したのは[タンザー]からだったわね…いいわ、教えてあげる」


 紫髪の美人はビシッと指さす方向には今彼らが立っている通路から真っすぐ進んだ先にあるボタンと昇降機と思わしき物
彼女曰く、下層から昇降機を上昇させることでこの工場で造られた物がぎっしりと詰まった木箱がこの階層に運ばれて
それを上層のクレーンで掴んで鬱陶しいもう一人の豚マスク着用の子分の頭上に叩き落としてやるのだそうな…。
 行って戻って来るのが面倒くさいから人数も多いし誰か此処で待機しようという話だそうな


 アニー「ふぅん、そういう話ならあたしはパス…こちとら買った物を盗られたんだ、落とし前は着けに行きたいんでね」

 ブルー「同じく、くだらん事に時間を割かれたんだ…この手で潰さねば気が収まらん…ッ!」


 スライム「ぶ、ぶくぶくぶー(;´・ω・)」ピョン、ピョン!


 通訳のニートによると、自分が残りますとゲル状生物は主張しているらしい、ちなみに通訳のニートは此処に詳しいから
自分も行くと…、話し合いの結果最終的に下層に向かうのが術士と守銭奴、無職…そしてクーンの4名で
メイレンとスライム、フェイオンが上層に残ってくれる事となった


  リュート「うっし!そいじゃ行ってみっか!」
   クーン「わーい!れっつごー!」


 ボタン一つで右へ左へ飛んでく巨大な鉄の塊、吹き飛ぶ人と落下する男達…

 まるでテーマパークに来たみたいだぜ!!!テンション上がるなァ!とはしゃぐお気楽な二人と対照的に
殺気立った2人の4人パーティーが[カバレロファクトリー]の下層を吹き抜ける嵐と化していた…


 二刀流から織りなされる無職の[二刀烈風剣]が前方に立つ敵を切り刻み、[マリーチ]と化した獣っ子の高火力な急降下が
何時ぞやの[巨獣]を斃した時と変わらぬ威力で繰り出され、怒り心頭のアニーが[濁流剣]で周りの敵を文字通り巻き込む
濁流の動きで粉砕、トドメにキレ気味の術士が明らかにオーバーキルの[ヴァーミリオンサンズ]を唱え出すのであった…ッ

 なまじ工場の天井が高く、広い室内であるために広範囲高火力の[魔術]が使えてしまうのがなんとも…
幾つかの鉄材すらも巻き込んだ緋色の宝玉の破片が舞う暴風が工場内をズタボロに荒らしていく


………どう足掻いてもこの工場、閉鎖待ったなしである。罷り間違って彼らに勝てても経営不可能レベルで荒らされている

―――
――



 カバレロ「あっ、あっ、あぁぁ…お、俺の…俺の"城<こうじょう>"が…っ
                 俺が駆け出しの若い頃から借金してまで作った工場がぁぁ~」


 工場の奥で青春の1ページとも呼べる自分の城が破壊される音を耳にしてギャングスターは今にも泡を吹き倒れそうで
そんな彼を側近達が「カバレロさん!?お気を確かに」と支えている…。

 肩をぶるぶると震わせたドン・カバレロは不意に笑った、突然笑い出したのである


 カバレロ「ふ、ふはははっ、ふはははははははははーっはははははっ!!!!」



          側近「か、カバレロさん!?遂にイっちまったんですかい!?」

 水棲系モンスター(青)「し、しっかりしてくださいよォ!!」



 カバレロ「…うるせぇ…畜生…畜生ぉぉ…もう自棄だ!!オイてめぇら"アレ"持ってこいや!アレ!」



   側近「へ?アレ…えっ!?まさか"アレ"に乗り込むってんですかい!?」

 カバレロ「どうせ俺は終わりなんだっ!なら最期くらい俺自らが戦いを挑んでやらぁ!!!」


―――
――



 フェイオン「このボタンを押せば良いのか?」

  メイレン「ええ、そうよ…ほら見なさいな、下層でスイッチ前にある邪魔な木箱を持ち上げたでしょ」


 真上から下層の様子を伺う男女とゲル状生物は術士達の進行方向にある金網フェンスで区切られた一間の変化を目で追う
自分達の操作したボタンの結果、クレーンは彼らが動かす手筈のスイッチの前にある障害物を持ち上げた
 丁度いいタイミングで彼らもそこに到達して術士と金銭にがめつい女がアンデット系のモンスターを八つ裂きにする最中
クーンと弦楽器を背負った男が"クレーンゲーム"に興じていた


 娯楽施設の遊びの名を例に出したが言い得て妙である。


 お気楽二人組が指で押したボタンは正しくその通りにクレーンが左右を行ったり来たりしていて、彼らが二度目の指圧を
ボタンに加えればぴたりと止まってヌイグルミを捕まえる様に機械の手が下りてくる…
 これをクレーンゲームと称さずしてなんと呼べようモノか


<オラァ、盗んだヤツ何処だゴルァ
<ひぃぃ…何の事だよ!?
<吐け!さもなくば首から上を[インプロージョン]で爆殺する
<おたすけぇぇぇぇ!!



 リュート「あっ、クーンずりぃぞ!!俺こういうの得意なんだって!」
  クーン「えぇーっ、ボクにやらせてよ!」


 リュート「駄目だ、お前は上で散々ボタン押したろ~、次は俺の番!」ポチッ
  クーン「あぁぁぁーっ!」


 クレーン『 』ウィーン、ガシッ


 カバレロの手下C「か"ろりっ!?」ビクッ


 木箱の上で援護射撃を試みようとしていた部下が1人、首根っこを掴まれて奇声を上げる…そのまま宙ぶらりんで
降りる事ができずジタバタと無駄な足掻きをする彼を捨て置き進行組はカバレロがすぐ近くに陣取る区画まで駆けてきた


 クーン「むぅっ、次はボクに押させてよね!あそこだよ、あのボタンを押せば昇降機が動くから」



 昇降機『 [荷物入りの木箱] 』ウィーン、カシュッ!


 メイレン「来たわね…」


 下層での一連を眺めていた彼女はそろそろ来るだろうと昇降機前に待機していた
木箱にはこの工場で造られたのであろう[鋼のお守り]が大量に梱包されていた、前にチラッと見た時にはコレの他にも
[強力傷薬]などが木箱に詰められていた為、製鉄工場としてだけでなく医療品の製造か、はたまた[クーロン]か何処ぞへの
密輸で資金稼ぎでもしようとしていたのではないかと考えられる


 正方形の木箱にぎっしりと詰め込まれた[鋼のお守り]はさぞ重かろう…これが頭上に落ちてくる豚マスクに同情する


 手を振って合図を送るチャイナドレスの美人の姿を目視したスライムがフェイオンに押してもいいと伝令を送り
そうして動き出したクレーンは見事に何tもあろう重量の木箱を持ち上げて覆面の男の真上でそれを手放す


 ズッシャァァァン!!


  カバレロの手下D「ごぉらぁっ!?」


 鋼鉄製品が大量に梱包されたソレの重みに耐えきれず膝から崩れ落ちて下敷きになる豚マスク
カバレロファミリーの手下はこれでほぼ壊滅状態と言える結果になってしまった…

 残るは逃げ場を失ったドンだけである


 メイレン「さて、私達も行きましょうか…もっとも、この位置からじゃ走っても最奥に着く頃には終わってるかもね」


―――
――




 アニー「蜥蜴共!あたしのブツに手ぇ出したんだ!三枚におろしてやるから出てきな!!」

 ブルー「道具を持って今すぐ投降すれば尻尾を切除する程度で許してやるさぁ来い!!!」つ[双龍刀]


 リュート「…あー、カバレロさんよぉ、何処に隠れてるか知らんけどコイツ等やる時はマジだから出た方いいって」

 クーン「おーい!カバレロやーい!」



    ブロロロロロロ…!



 リュート「ん?なんの音だ?」


  ブロロロロロロロロ…!



 それは工場の奥から聞こえてきた…、轟音を鳴らしながらやって来た空色のカラーリング
頼りなさげな工場の電飾に映えることから金属の物体であると判る、更に距離が近づいて来る事でその全容は分かった

 工事建設で使う重機のショベルカーと搬入作業で使うフォークリフトを掛け合わせたような乗り物であった



  カバレロ「おうおうおうおう!!テメェラよくも俺様の城を壊してくれやがったなコンチクショー!!」

  カバレロ「もうタダじゃすまさねぇぞ…ぐすっ、俺の工場ぉぉぉぉ…!!」


 半泣きのカバレロと愉快な仲間達は頭に黄色いヘルメットを被り、御自慢の改造重機…通称[鋼の傭兵団]に乗り込み
彼らの前に立ち塞がったァァァッッ!!


  カバレロ「もう形振りなんぞ構ってられねぇ…俺の虎の子のコイツも投入したんだ…一矢報いてやるッ」


 アニー「なっ!!奴らの後ろから来るあのデカブツはまさか…ッ!」

相変わらずスライムくんかわいい


 その姿を見てアニーは思わず声をあげた、なんでこんな所にこんなヤツが居るんだ!と

 カーキー色の機影が地鳴りを上げながら此方に走行してくる、戦車の履帯に似た特徴的な脚部に
中央からは腕付きの電柱が生えたような独特なフォルム…トリニティ政府でも重要な機密施設を徘徊する殲滅兵器
通称[モービルマニューバ]が出てきたのだから度肝を抜かされる


 ふと、アニーの脳裏にジャンク屋の買い取りリストのメニューが浮かぶ…。





   "[ハイペリオン]"     "[ベヒーモス]"





  アニー(ちっ、連中め…そういうことか)


 メイレンが持っていた大怪獣の名を冠した銃は稀に目の前の駆動殺戮兵器が"落とす<ドロップ>"ことがある
それとは別口で重火器の中で最も破壊力を秘めた[ハイペリオン]も撃破後に落とす個体が存在する…

 政府がリージョン界からかき集めた税金を使って作り上げた、お高い量産機ゆえである
潤沢な資金があって、そこに最上級の武器、防具をベースに作り上げた駆動兵器だからこそ
撃破後に彼らの身体を構築していた部品が落ちるのだと裏社会の人間達の間で考察が飛び交っていた

 屑鉄売りなんてセコイ商売やってる連中だ、どうやってかは知らないが政府の腐れ連中から廃棄処分同然の中古品を
買い取り独自に修理しようと試みていた、といった所なのだろうよ…



 カバレロ「虎の子の[モービルマニューバ]だぁーっ!コイツで辺境の"惑星<リージョン>"相手に強請ろうと思ったが…!」

 カバレロ「もうそんなこたぁどうだっていい!テメェ等覚悟しやがれってんだ!!」



 ギャングスターは乗り込んだ作業車のアクセルを踏みしめて憎むべき相手を撥ね飛ばそうと試みる
それに続く様に部下達も急発進と同時にアームを振り上げ生身の人間相手にジョベルを突き立てようと振り下ろした


 鋼の傭兵団『 』ブゥン!


 リュート「おわっっと!?あぶねっ!」サッ

  アニー「このトラクターモドキ共はどうだっていい!!後ろのデカブツにだけ注意しな!」サッ、ザシュ!


 [体当たり]をぶちかましてくるカバレロ機を軽快な動きで避けるリュートは仲間の姿を見やる
自分と同じく回避行動を取ると同時に器用に作業アームを切り飛ばす黄金色の髪と[スウェイバック]よろしくな動きで
紙一重に躱したと思えばカウンターでその場から剥き出しの搭乗席に飛びかかる様に[パンチ]を練り出し乗組員を一人
打ちのめす蜂蜜色の髪をした術士の姿が目に入った

 相手を殴り飛ばした後はそのまま[双龍刀]を構えて他の機体に飛び移るブルー、そんな彼を背景に風の精霊たちが流れて
[打撃]を繰り出そうとしていた他の機体が破壊される…[マリーチ]に変身したクーンの[シルフィード]が炸裂したのである



 モービルマニューバ『 』グッ!ジュゴオオオオォォォォー―――っ!



 リュート「うおっ!?でっけぇのがロケットみたいにケツから火を噴いて飛んだぞ!?」


 駆動殲滅兵器は底板に当たる部位に[ハイパーバズーカ]が取り付けられている、姿勢を変えて中央部の胴を仰け反らせ
"相手に尻を向けた状態"にすることで目の前の対象を撃つ事も可能である…

 何故こんなワケの解らないツッコミどころ満載な位置にそんな兵装がついているのかという問いに真面目に返答するなら
特定のモンスターやメカの技である[ミニオンストライク]や[びっくりソルジャー]対策だからだ

 小型の兵器や特殊な攻撃技が真下から攻めてきた時に一掃する為だと言われいる、[パワードスーツ]をベースにした
メカニカルボディなら至近距離で[ハイパーバズーカ]の爆発を受けても大丈夫だとされているし、それにもう一つ…
 その位置に発射口があるという特徴を利用して簡易ロケットノズルの取り付けも施されているのだ

 バズーカの弾ではなく開いた発射口から火を噴き、上昇が可能…そして上空からその重量差を利用して―――!!


  アニー「!! [地響き]が来るから注意しなさいっ!」





   ズ ド オ オオ オオ オ オ オオオオオォォォォー――――z____________ン!!




 超重量級の兵器が工場全体を揺るがした。

 解体工事現場で作業用車が鉄球を振るった時の衝撃、あるいは脆い地盤にボーリング掘削の過程で巨大杭でも打った揺れ


 [カバレロファクトリー]全体が[地響き]と共に揺れていく…っ!古い工場の天版や丸太の様に太い配管が外れて落下する
巨大な鉄の塊や瓦礫の雨が容赦なく敵味方に関係なく降り注いでいくッ!!




 水棲系モンスター(青)「ひょぇぇぇぇっ!?俺達まで巻き添え喰らうじゃないっすかぎゃあやややあやぁ!?」ゴッ
 水棲系モンスター(緑)「おたすけぇぇぇーーーっ べぎゃっ!」グチャッ


    リュート「く"ぁっ!?」ザシュッ

    リュート(ゆ、揺れの所為でまっすぐ歩けねぇのに…落ちてきた硝子が脚に刺さりやがった…!!)


 弦楽器を背負った男は激しい揺れで割れた天窓の枠を見つめて顔を歪める、冷静に[バックパック]から回復薬を取り出し
硝子片を引き抜いてから処置を行おうと試みる―――しかし…!


  カバレロ「うおおおおおおおおおおおおおおおおっっ、一人でも多く道連れだああああああああああぁぁぁぁぁ!!」
  リュート「!? ばっ、こっち来んじゃね―――」


 火事場の底力、自暴自棄になった男の荒い運転がリュートを撥ね飛ばした!
先の揺れで落ちてきた瓦礫に操縦系統がやられたのか蛇行しながらギャングスターの運転する作業車が渾身の[体当たり]を
偶々目に留まった青年に向けてぶち当てた、自身の工場が閉鎖せざるを得ない程のダメージを負わされていたから
だからもう形振り構わない、この戦いで自分の生命も工場そのものの倒壊も知ったこっちゃないと言わんばかりの暴れ方


 [モービルマニューバ]を投入してきた時点で既に死なば諸共の精神で来てると警戒すべきだった。


 リュートを撥ね飛ばした車体はそのままカバレロを乗せて木箱の山に激突してピクリとも動かなくなった
撥ねられた彼は壁に叩きつけられ…運の悪い事に[バックパック]と取り出していた[高級傷薬]を落としてしまった…。

―――
――


  ブルー(ハッ!? 来る…!分かるぞ、彼奴が落ちるタイミングとその後の二次災害が―――)ピコンッ


 駆動兵器の推進力が途切れ、自由落下を始めた刹那―――彼の脳裏に豆電球灯るッ!!


 [巨獣]…[グレートモンド]…そして[モービルマニューバ]と地を揺るがす攻撃を仕掛ける敵と蒼き術士は幾度も相対した



 その経験が今、実を結んだ。 瞬間的に彼の視界がスローに映る、敵の落下までの予想時間と落下後に起きる天井や大地
地形から来るダメージを瞬時に計算できたのだ…っ!



 それはまるで"見切り"…そう、天地を揺るがすような災害さえも見切れるようなったのだ…っ! [地響き見切り]だッ!



 駆動兵器が大地に降り立ち衝撃の波紋を広げる刹那、ジャストタイミングで地を蹴り跳び上がったブルーは揺れを回避
降ってくる瓦礫や鉄製の配管も落下の予測計算通り当たらずにノーダメージでやり過ごす

 これならば勝てる。そう確信した彼は仲間との連携攻撃で一気にカタを着けようと近くに居る攻撃可能な仲間を確認する
肩を強打したのか抑えているアニー、天使の翼で飛んでいて事なきを得たクーン、そして…


  ブルー(!! リュート…あいつッ、なんであんなところに転がっているんだ!![バックパック]はどうした!?)

  ブルー「~~っ! クソったれめ!世話の焼ける奴だ…!!」ダッ!


 攻撃チャンスをふいにしてしまうことに悪態を吐きたくなるが、彼は直ぐに荷物を拾って悪友の元へと向かおうとする

おつ
地響き見切り大事


 蒼き術士は手早く床に落ちた医療品と鞄を拾い上げてリュートの元へと急行、[最高傷薬]を彼に投与して頬を2、3発叩き
意識を覚醒させる、「はにゃ?俺どうなったんだ?」と何とも間の抜けた目覚めの一声を呟く彼に呆れつつ
術士は戦闘中だしゃんとしろ!と喝を入れた


  ブルー「あまり奴に時間を掛けてはいられん!長期戦に持ち込まれては不利になるからな!!」


 助け起こした弦楽器の男と共に[モービルマニューバ]へと向かうと[チェーンヒート]を
寸での所で回避したアニーが声を上げる


 アニー「やっと来たわね、遅いわよ!コイツ二人で相手するにはキツイんだから!」

 リュート「すまねぇ!今んトコどうだ!?」


 アニー「…さっきからクーンと二人掛かりで攻めてるけどタフ過ぎるわ、決めてになるデカい一撃でも無けりゃキツイ」


 苦々しい顔で黄金色の髪の女は[反重力クラッシャー]を撃ち出して来る敵機を睨み告げた、相反する2重螺旋の輝きが
天使の片翼を傷つけクーンの飛行姿勢が崩れる、やや高度が下がり始めた辺りで殲滅兵器が警告音を鳴らす
 耳障りな異音に「なんだ!?」と警戒すると奴の周りに"水が集まっていく"ではないかッ…!

 先の[地響き]で割れた排水管や工業機械からの産業排水やオイルの混じった科学液の波、それらが彼奴を中心に密集する





  リュート「!! やっっべぇぞ、あの技は――――!」






―――――[龍神プログラム]作動。



 そんな機械音声が聞こえてきた気がした。







            【 [ メ イ ル シ ュ ト ロ ー ム ] 】



 [猛虎プログラム]から繰り出される[タイガーランページ]と対を成す敵全体への"水"による攻撃手段…っっ!
危険度ランク9の水棲系モンスターが使う恐るべき技だと直ぐにリュートが気付けたのは
地元の酒神が祀られた祠がある沼地に住まう危険生物の代名詞と呼ぶべき技だったからか…

 陸地であわや大海嘯に見舞われるという事態を察したリュートは直ぐにクーンにアニーを掴んで可能な限り天井近くまで
飛翔しろと指示を飛ばしブルーの腕を掴み階段を目指し始めた


  クーン「アニー!飛ぶよ」ガシッ
  アニー「えっ、ちょ―――うわああああああぁぁぁぁぁっ!?!?!?」

 リュート「ブルー!

*******************************************************


 蒼き術士は手早く床に落ちた医療品と鞄を拾い上げてリュートの元へと急行、[最高傷薬]を彼に投与して頬を2、3発叩き
意識を覚醒させる、「はにゃ?俺どうなったんだ?」と何とも間の抜けた目覚めの一声を呟く彼に呆れつつ
術士は戦闘中だしゃんとしろ!と喝を入れた


  ブルー「あまり奴に時間を掛けてはいられん!長期戦に持ち込まれては不利になるからな!!」


 助け起こした弦楽器の男と共に[モービルマニューバ]へと向かうと[チェーンヒート]を
寸での所で回避したアニーが声を上げる


 アニー「やっと来たわね、遅いわよ!コイツ二人で相手するにはキツイんだから!」

 リュート「すまねぇ!今んトコどうだ!?」


 アニー「…さっきからクーンと二人掛かりで攻めてるけどタフ過ぎるわ、決めてになるデカい一撃でも無けりゃキツイ」


 苦々しい顔で黄金色の髪の女は[反重力クラッシャー]を撃ち出して来る敵機を睨み告げた、相反する2重螺旋の輝きが
天使の片翼を傷つけクーンの飛行姿勢が崩れる、やや高度が下がり始めた辺りで殲滅兵器が警告音を鳴らす
 耳障りな異音に「なんだ!?」と警戒すると奴の周りに"水が集まっていく"ではないかッ…!

 先の[地響き]で割れた排水管や工業機械からの産業排水やオイルの混じった科学液の波、それらが彼奴を中心に密集する





  リュート「!! やっっべぇぞ、あの技は――――!」






―――――[龍神プログラム]作動。



 そんな機械音声が聞こえてきた気がした。







            【 [ メ イ ル シ ュ ト ロ ー ム ] 】



 [猛虎プログラム]から繰り出される[タイガーランページ]と対を成す敵全体への"水"による攻撃手段…っっ!
危険度ランク9の水棲系モンスターが使う恐るべき技だと直ぐにリュートが気付けたのは
地元の酒神が祀られた祠がある沼地に住まう危険生物の代名詞と呼ぶべき技だったからか…

 陸地であわや大海嘯に見舞われるという事態を察したリュートは直ぐにクーンにアニーを掴んで可能な限り天井近くまで
飛翔しろと指示を飛ばしブルーの腕を掴み階段を目指し始めた


  クーン「アニー!飛ぶよ」ガシッ
  アニー「えっ、ちょ―――うわああああああぁぁぁぁぁっ!?!?!?」

 リュート「ブルー! 流石にクーンに俺達まで担いで飛んでもらうことはできねぇ!波が来ない所まで昇るしかねぇ!」
   ブルー「くそっ!間に合うのか…!?」


 大津波が彼らの背後で機材や柱を飲み込み、水圧で潰しながら迫ってきているのが音で解る
逃げ切りたいが…っ![メイルシュトローム]の発動を見てから階段まで走るのでは到底間に合わない、[地響き]と違って
起死回生の策を閃いて見切りが成功するというのも望めない―――万事休すか!?


 濁流の音がすぐ背後まで迫り、ここまでかと二人が走りながら目と閉じ覚悟を決めた時であった…。







      スライム「ぶくぶくーーーーーーーーーっ (*‘ω‘ *)」ヒューン


 聞き覚えのある声と共に、「べちゃ」という音が彼ら二人の背後からした。

 スライムである、[ユニコーン]形態に変身せず、上層から下層の二人を見兼ねて飛び降りてきたようだ


 迫り来る大海嘯を前にして二人を護る様に仁王立ち(?)をするゲル状生物に思わず「ば、馬鹿者!なぜ降りてきた」と
蒼き術士は声を荒げる、上層に居れば助かっただろうに…!お前1人来たところで津波をどうにかできる訳ないだろうと


 リュート「ハッ!?いや待てよ!そういうことか!?助かったぜ!!」

  ブルー「な、なに?どういうことだ…!!」


 モンスターの特性に詳しいリュートは全てを察した、安堵と困惑それぞれの表情を浮かべる男性二人を尻目にスライムは
突然膨張を始めたのである、これはモンスターが吸収した相手の細胞から遺伝子情報を読み取り変身する際の現象だ
 クーンの[マリーチ]形態やスライムの[ユニコーン]形態もこの過程を通してから成り代わるのだが…しかし



  スライム「ぶくぶくぶくぶ く ぶ く ぶ く ぶ く ぶ く ぶ くーっ! (`・ω・´)」ズモモモモモモモ


 
 姿形が変わらない、スライムのままで何処までも膨張し続けたのである…これではスライムというより[スライム大]だ
[タンザー]のスライムプールに居た巨大な個体を連想させる姿だが…

 あっと言う間に巨大化しかスライムが二人を護る様に大津波の前に立ち憚る、鋼鉄の柱を拉げ、機材を圧壊させた
恐るべき水圧の波が…!水の暴力が容赦なくスライムを飲み込んだァーーーーッ!!



――――――ズッッッッゴオオオオオォォォォォォォォ!!!




 べきべき、みしみし、あらゆる物を飲み込み圧し潰す音が辺りに響く…絶大な暴力の波に飲み込まれて尚
術士と無職の男は生きていた…いや、彼らは水圧に襲われることは無かった


  ブルー「こ、これは一体…」

 リュート「はははっ!サンダーのヤツも昔言ってたな[スライム]は…"水耐性"があるんだってな」


  ブルー「水耐性だと…?」



 幼い頃[ヨークランド]の沼で[クラーケン]に出くわした時、友達に居たモンスター種が
[メイルシュトローム]から身を挺して助けてくれたのをリュートは思い出した
 モンスターの変身能力の次第では凝視系の攻撃や水攻撃、果ては音波や精神異常に対しても耐性を持つ者がいるのだと


 スライム「(。-`ω-) ぶくっ!」キリッ


 波が過ぎ去った辺りでスライムは身を縮めて、元のサイズに戻ってから改めて一角獣へと変貌する、上空に避難して難を
逃れたクーン達も降りてきた、遅れて階段の方からフェイオン達が降って来るのも見える


 リュート「へへっ、ありがとな~助かったぜ! こっからが俺達の反撃チャンスだ」

  ブルー「ああ、だが…奴を仕留めきれる程の一撃となると[ヴァーミリオンサンズ]でもやりきれるか」


 リュート「そのことだがよ、ブルー…お前さんに相談がある耳を貸せ」


  ブルー「何?」

 リュート「――――で、――――だから、――――できるか?」
  ブルー「―――――!!貴様馬鹿か!?可能だが…」


 リュート「できるんだな!?ならその作戦で行こうぜ!」

  ブルー「…はぁ、どうなっても知らんぞ」


 突拍子もない作戦を聞かされて彼は天井を見つめた、この戦闘で酷く傷ついたオンボロ工場の崩落しそうな天井を
術士は脆く壊れやすい箇所に目星をつけながら集まって来た仲間達に誘導を頼むのであった

スライム有能


 水が退いた後先に殲滅対象が集まっていること目視した兵器は姿勢を変えて底板の発射口を集まりに向け
[ハイパーバズーカ]を放つ、砲弾が着弾する間際で何かの"印"を切った術士が散開を命じ、その場に居た者達は四方へと
蜘蛛の子が散る様に飛び退いていく…!爆発に呑まれる姿はなく、火と煙のカーテンを利用して機械の眼を欺く


 [モービルマニューバ]が一行を見失って数秒後に真後ろから風霊が背後の装甲に傷を残し、更に霊力を纏った音波が
内部システムを焼いて行く、俊敏性に特化した天使と一角獣が死角に回り込んでいたのだとAIは断定する
 角の先端から[シルフィード]の風を解き放ったスライムと[聖歌]を歌い終えたクーンの姿がそこにはあった

 一角獣はともかく天使を相手に[地響き]は効果が無い、かといって水害を再現してもスライム形態に戻られてクーンを
庇い無傷でやり過ごす事も眼に見える、後々を考えるなら此処でこの2体を潰すのが最適解だろうと
[反重力クラッシャー]の銃口を2体のモンスターに向ける




   フェイオン「ハイィィィヤァーーーーーッッッ!!」シュバッ!ズシャァァ!!!




 赤と青の重力エネルギーが解き放たれる間際に闖入者が現るッッ!!"まるで瞬間移動でもしたかのように"突然現れた
辮髪の男が[あびせ蹴り]を放ち、狙い定めていた兵器の先端の射線はずれ込む
 螺旋描くエネルギーの波はあらぬ方向へと飛んで行き、工場の柱を削った…!


 ブルーの[保護のルーン]だ。


 バズーカ砲の着弾間際で散開した時に切っていた何かの"印"は[モンド基地]での死闘に貢献した認識阻害の術式…!
敵の十八番にして最大火力を誇る[地響き]と[メイルシュトローム]を無効化それも近くに居る術士一行の誰かも防衛できる
ともすれば厄介な相手として真っ先に落とそうと動き出すのはある程度予測可能だ
 だから機敏性があり、どの部位が動き出しても敵の命中率を落とせそうなフェイオンにルーンの加護を与えたのだ

 リュートでは若干の力不足があり、術メインと銃メインのブルーとメイレンでは動きを妨害しきれない
アニーでは助走をつけて勢いよく[稲妻突き]などの力強さを持つ衝撃で敵の姿勢を崩し攻撃を逸らせるはするが…
 底板にも正面にも側面にも高い位置にあるロボットアームや胴体、どこにでも武器を内蔵した相手の全武装に
対応できるかと問われれば少し厳しいものがある

 その点、辮髪の男は高い位置でも[三角蹴り]や[あびせ蹴り]で高い位置の武装まで届くし背部にも真正面にも回り込める
底面も[鬼走り]による地を這う衝撃波で姿勢を変えだす前から発射口を潰すこともできる


 まるで電柱の様な円柱状の背が高い胴体の天辺、其処から左右に伸びた[反重力クラッシャー]を撃ち出す為に
必要なジェネレーターを一基、[あびせ蹴り]で下方から上方へと打ち抜く様に蹴り上げた事で左右のバランスは崩された
これでもうまともに撃つ事はできまい…無理して撃てても赤、青の両方が重ね合わさることの無い半端な威力の
エネルギー砲が関の山と言った所か



  ブルー「その御身を厄災の眼<まなこ>から逃れさせよ!――[保護のルーン]」フォンッ!フォンッ!


 工場内に声が響き渡る、大地揺るがす攻撃と全てを圧壊させた水圧の二重災害で酷い有様と化した工場内だ
良くも悪くも残骸が溢れかえり身を隠すための遮蔽物が多くできた形となった
 何処からか隠れながら印を切ったブルーの魔力が辮髪の男を再び不可視の存在へと変えた

 こうして2体のモンスターを護りつつ、フェイオン――面倒な位置にある武装の破壊もできたならば――そしてアニーも
交えて動きを封殺しながら"時間を稼ぐ"のだ…目的を成就させるために


―――そう、その目的とは…!!!








  メイレン「はい!これで最後の1人っと!」ポイー

  カバレロ「ぐべっ!?」ドサッ


  リュート「ひぃ、ふぅ、みぃ……おーい、お前さんの仲間これで全部か?そろそろ工場潰すけど逃げ遅れ居ないな?」

  カバレロの手下A「は、はいぃぃ…!もう居ません、仲間は皆さんが全部入口まで放り出してくれましたぁぁ!!」


  リュート「うっし!!盗まれた荷物もこうして確保した」

  リュート「あとはブルーに柱壊してもらって天井を落としてアイツをペチャンコにして終わりだなっ!」

乙乙

なにか策があるのか……ってなんかトンでもないこと言ってんなリュート!?
カバレロさん首吊らなきゃいいけど……


 殴打、剣閃、鍛え抜かれた肉体から放たれる技術は殲滅兵器の動きを封じていた
破壊の為に造られた戦闘機が応酬として繰り出す[チェーンヒート]、[ハイパーバズーカ]の砲撃に対して射線や間合いを
強制的に逸らす衝撃の数々、それが横殴りの暴風の如く[モービルマニューバ]を襲っていく


 アニー「そこッ![デッドエンド]ォォォ!!」


―――ズドンッ!!


 辮髪の男と蒼き術士の姿が直線上に並んだ所で姿勢を変えて弾道砲を撃ち込もうとした所で金髪の女が降下してくる
両手でしっかりと剣柄を握りしめて相手を確実に斃すという意志を込めた一撃…!
 底板を男達に向ける様に…所謂、仰向け状態にしていた胴に刀身がめり込む、彼奴が鋼鉄の身でなくタンパク質の塊なら
間違いなく今の剣技は致命の一撃となっていたことだろう

 天高く跳び上がった彼女の重力を掛け合わせた技が電柱柱と見間違う様な胴体、ど真ん中にぶち当たる
梃子の原理よろしく身がひん曲がった殲滅兵器の弾道の発射口も当然それに合わせて標準がズレる

 狙いが外れた砲撃はフェイオン達の頭上を通り過ぎ工作機械の残骸を吹き飛ばした



 フェイオン「今のはヒヤリとしたな…っ!」

   アニー「当たらなかったんだから結果オーライでしょ」


  スライム「(。-`ω-)ぶくぶくぶー!」



 認識阻害の印術で直ぐに姿を隠されるフェイオン、ヘイトが自身に向き攻撃を躱し、時に[ディフレクト]で捌くアニー
離れた位置から敵の周りを駆けまわる様に走りながら風精を飛ばすスライム

 見えている面々が攻撃を続けて、ステルス状態になった仲間が絶妙なタイミングで攻撃の邪魔やダメージを蓄積させる
……一見すればそう見える戦術を続け、その合間で空を自由に舞えるクーンに工場を支える支柱の数々に
小さな罅を入れてもらう、最後に特大の広範囲攻撃魔術で一気に全てが連鎖的に崩れていく様にすべく…!



  ブルー(そろそろ頃合いだろうよ…っ!)

  ブルー「総員!退避ィーーッ!」バッ!



  「ギギギッ…!?」



 弦楽器の男と紫髪の女がカバレロ一味を全員外に連れ出しただろう頃合い、クーンの破壊工作もいい塩梅となった今なら
そう判断した術士は合図を送る、何時ぞやの指輪泥棒騒動の時に[バカラ]で見せた光源を発生させる術[ライトボール]だ
 信号弾の様に光球を高くに放つ…それを見て天使はアニーを掴み、[地響き]を回避させた時の様に出口目掛けて一直線に
[ユニコーン]形態をとっているスライムは一角獣特有の筋力と俊敏性を活かし、フェイオンを背に乗せて走り出す



   フェイオン「掴まれェ!」バッ

     ブルー「っ!!」ガシッ


 戦闘音で万が一にでも撤退命令が聞こえなかった場合、そして鉄屑の物陰に隠れながら印を切り続けたブルーの位置を
スライムに知らせる、そういう意味も含めた信号弾を放った彼は辮髪の男を乗せた小柄な一角獣の背に乗る

 本来の個体と比べて一回り小さな子馬の身には少々負担が大きいが此処は踏ん張って貰うしかない…!


  スライム「Σ(;-`ω-) ぶ、ぶぶぶぶ、ぶくぶーーーーーっ!!」


 成人男性二人分の重みを背にダメ押しの一声としてモンスター固有の技の一つ[突進]を使い加速するッ!
一直線上のラインを脇目も振らず文字通り猛突していく技だ、攻撃手段であるそれを移動手段として利用するのだ…ッ!

 一角獣の毛並みが逆立ち、身に"闘気<オーラ>"を纏う!蹄が土煙を巻き上げながら鉄屑を蹴散らし一気に出口へと奔るッッ


 既に陽は没した[スクラップ]の星光といやらしいネオンの輝きが見えてきた術士は殲滅兵器を眺める、当然逃がすまいと
呆れた執念で追ってこようとするのが目に映る…だが、もう手遅れだ

 どれだけの速力を以てしても間に合うまい、何のために工場の中央部に引き寄せさせたと思っている…!
彼奴がもし壁際にでも居れば強引に壁を破壊してそのまま外に逃げるなりできただろうな、そう思いながら術士は術を放つ




      ブルー「 [ ヴ ァ ー ミ リ オ ン サ ン ズ ] ! 」



 大地が割れた。

 地割れの底より出流はヴァーミリオンの名を冠するに相応しい、彼が忌み嫌う暖色の宝石だった
術者の思念によって具現化された何カラットあるのか分からない巨大なソレ、一軒家サイズの規模を持つそれが浮かび上り
円舞曲でも踊る様に近づき、離れ、また近づいては離れを繰り返し……最後に接触した


 鏡合わせの双子の如く、大きさも形も同じ巨大な紅石がぶつかり弾けて、その破片は燃え盛る太陽の様な熱を帯びて散る

 金網フェンスの殆どが薙ぎ倒され工作機器やドラム缶の山、箱詰めされた製造物が粉々になった工場内部は
それは広々とした空間であった、だからこそ飛び散った大なり小なりの宝石の欠片は乱反射しやすい


 [跳弾]が如く、ピンボールゲームの球の様に重量と熱を持ったそれは内部で暴れ、吹き荒むのだ。


 必然、その渦中に居る[モービルマニューバ]も無事では済まされない
逃れようと安全な外へ逃げたくとも紅石の礫に脚を取られ、ただでさえ中央部に居て外が遠い彼奴は逃げきれない



 蒼き術士はその様子を見てあのニートに対する評価に星を一つ付け加える事にした。

 自身の最大火力を誇る魔術を100%以上の性能に引き上げる策、最初話を聞かされた時馬鹿げた事を言い出したと思った
然し、やってみればどうだ?効果覿面であった…!


 元の[ヴァーミリオンサンズ]に加えて[サイキックプリズン]で閉じ込めて乱反射でもさせた様な破壊力…
咄嗟に工場内部そのものを火力を底上げする舞台装置にするとはやるじゃないか、しかもご丁寧に"トドメの一撃まである"


 クーンに罅を入れさせた支柱の数々に中で乱反射を繰り返す紅玉がぶち当たる、ただでさえ脆くしてあるそこに衝撃が
加われば最早言うまでもあるまい


   ズゴゴゴゴゴゴゴ…!!  ドォォォォォォン!!


 あらゆる災禍が殲滅兵器を襲った―――鉄筋コンクリートの落盤、折れて先端がささくれた金属製の太い配管の槍が降り
天井裏を通っていた高圧電流の配線が鎌首を擡げる蛇の頭部が如く牙を突き立てに降りてくる


 陽はとうに没した[スクラップ]の夜、星光と月明かり、いやらしいネオン電飾が栄える中、街を牛耳るギャングの根城は
音を立てて崩落した…ッ!!

―――
――


 カバレロ「お、俺の…俺の"城<ファクトリー>"が…」



 リュート「なぁカバレロさんよぉ~…工場ぶっ潰した一味の俺が言うのもなんだが、悪銭身に付かずっていうだろ?」

 リュート「コレを機に心を入れ替えて真面目に働けよな、俺も仕事探してんだ…ちったぁ手伝ってやるからさ…。」



 リュート「あの[モービルマニューバ]で何する気だったよ?アンタ自分で言ってただろ?」




-カバレロ『虎の子の[モービルマニューバ]だぁーっ!コイツで辺境の"惑星<リージョン>"相手に強請ろうと思ったが…!』-



 カバレロ「…うぐっ。」


 [モービルマニューバ]はトリニティ政府の機密情報眠る[タルタロス]を警護する戦闘メカだ、正規の手段じゃ入手不可だ
公にできない手で廃品パーツから組み立て、ソレで善良な市民から略奪する気はあったし、元から軽犯罪の類は勿論
違法と知りながら裏ルートでモンドに資材を売りつけて結果的に[グレートモンド]や[ワカツ]の基地建設の片棒担いだ


 リュート「世の中ってのは不思議な事に悪い事すると必ず失敗するようできてんだよ…稼いだ悪銭の資産も全部パーさ」

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VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな


 ギャングスターは一言も発しなかった。握りこぶしを作ってただ打ち震えていた。…それから暫くの沈黙が続き、やがて



 カバレロ「……足を洗えだと?また一からやり直せだと?…よくもまぁ簡単に言ってくれる」ハァ


 項垂れて大きく息を吐いた。ネオン輝く無法土地の支配者は降参だと言わんばかりに手を上げる。
"城<ファクトリー>"も潰れて、[ボロ]での資源横領、政治屋相手の裏取引ももうできまい…年貢の納め時だろうな

 成り上がったギャングは天を仰いだ、[スクラップ]の夜天光はいっそ忌々しい程に瞬いてた





【双子が旅立って11日目 午後 20時17分 [スクラップ]】

―――
――



 発着場の自動ドアが開かれて湿気を含んだ何処か黴臭さのある風が鼻腔を掠めた、まだ1日も経過していないのに
この空気と雑踏、喧騒…それに[スクラップ]とは違ったいやらしさのあるネオンの光が妙に懐かしく思えたのは
砂埃と暑さに苛まれる土地に居た所為か

 術士一行は[クーロン]に帰ってきた。ただ一名を除いて





   エミリア「えーっ!?じゃあリュートってば[ヨークランド]に帰っちゃったの!?」

    ブルー「まぁな、帰ったと言ってもアイツは俺達が[ディスペア]に潜入する前には帰ると言ったがな」
    アニー「しっかし、カバレロもなんだかんだで人望あったのね、部下がこぞって付き合うなんてさ~」


 術士は発着場での出来事を思い起こす…。弦楽器を背負ったニートが[クーロン]までカバレロ一味を全員連れてきて
それから次の様に発言したのであった…。




 -リュート『つーわけで、俺ちょっくらカバレロ達を連れて[ヨークランド]に里帰りするわ』-

  -ブルー『放って置けばよかろうに、そんなならず者集団など…』-

 -リュート『冷てぇこと言うなってカバレロ一味もちゃんと心を入れ替えて真面目に働くってきっと!』-

 -メイレン『貴方も変な所で真面目よね、仕事探しを手伝うってアレ本当にやるんだから』-


 -リュート『へへっ、あれから機内でも一人一人になにやりてぇんだ?とか趣味や特技を聞いたんだ』-

 -リュート『したら「あれ?コイツ等農業とか得意なんじゃね?」って思ったからよ、地元の知り合いの伝手を使うさ』-



 このニートは不思議な事に"気づけば身の上話やらなんやらを語ってしまう奇妙な魅力があった"、故にギャング一味から
話を聞いて、暑い風土の[スクラップ]生まれ特有のど根性や、なんやかんやで荒事ができるくらいに力仕事にも自信があり
[鋼の傭兵団]に乗って操縦できて工場機材の稼働に精通することからトラクター等の農作機械も教えれば割とできそうで

 もっと言えばカバレロファミリーの構成員の大半が"メカ"と例のジャンク屋の蜥蜴含めた"モンスター"種で色んな意味で
[ヨークランド]という土地は人種問わずで農業のノウハウを学ばせるのには適した土地なのだ…
 人種、経歴に対して偏見的な物の見かたは無いだろうし色々考えた結果が地元の顔が利く農家に
彼らを紹介してみようという話に纏まったのである

 [沼地]などの水源も近く、田畑が多い所為で勘違いされがちだが時期によっては相当に暑い土地だ、乾燥した風が吹く
そこより暑い土地柄で育った彼らにとっては涼風と呼べる程度で、根性もあるとくればやり切れる筈だ

 ある程度仕事を覚えたら[スクラップ]の土壌でも育つ作物の種、…例えば開拓時代の某国を代表するジャガイモなんかだ
そういった物で一からやり直させるのも悪くはない、心をちゃんと入れ替えているのなら最悪そのまま[ヨークランド]で
受け入れて貰える可能性もあるかもしれん…



   エミリア「…ふぅん、すぐ戻って来るとはいえ賑やか担当がいなくなるとちょっと寂しいわね」

    ブルー「なに直ぐに戻って来る、彼奴は母親に遭ったら殴られると言っていたからな遭遇する前に来るさ」

    アニー「まっ、そうだよねぇ…リュートだもん」

おつー
やるなあリュート

*******************************************************
―――
――



        レッド([天地二段]…!)


 飛翔した少年の剣技が緑髪の少女目掛けて振り下ろされる、それを彼女が[ディフレクト]する
紅き妖刀を盾代わりに、手に重い衝撃が伝わった事で感じる痺れに思わず貌を歪める少女アセルス…そんな彼女に少年は
面打ちからの胴斬りへと移行するように剣を横凪に振るう


     アセルス「…天地……二段が、来るのはわかっているッ!」キィィンッ!


 少年の二連撃を防ぎ、更には防いだ妖刀をそのままスイングさせて彼を弾き飛ばす
数々の死闘を潜り抜けた事で彼女自身の戦闘能力も培われてきたが、鮮血を連想させる紅い劔の柄を握った今の彼女は…!
[幻魔]の力を解禁した今のアセルスは以前とは比較にならない強さを手にしたのである…ッ!



「[生命波動]!!」

「[幻夢の一撃]―――――[ジャッカル]よ!」


 雑木林の中、レッドを樹木の幹に叩きつけた後そのまま追撃に向かおうとした緑髪の少女目掛けて二方向から術が飛ぶ
彼女から見れば右斜め後ろの方角から翆玉色の光で出来た鎖が伸び、左斜め後ろからは異界の門より現れし魔獣が牙を向け
 彼女は瞬時に脚で落ち葉の絨毯を蹴り飛ばし[京]の空へ…天へと跳び発ち劔を振るったッ!
地表から上へと向かって突き上げる様に剣を上方へ…ボクサーが利き腕の拳で渾身のアッパーでも振るうかの如く…ッッ!



  アセルス(後方二方向から飛んでくるルージュと白薔薇の術はフェイント…本命は…っ!)

  アセルス「[ライジングノヴァ]!!!」


 緑髪の少女が下から上へと突き上げる様に振るった剣閃、その動きは剣技の中でも最上位技に数えられる技…!


……とは言え、まだ彼女の練度は完璧とは言い難い。

 技名を口に出し実際に放ってみたものの…本来の[ライジングノヴァ]に匹敵する威力には満たない上に
"闘気<オーラ>"による小規模爆発も発生しない、未完成技であった…


 ズパァン!!   ―――…チュドーン!


 術士と妖魔による囮の術攻撃、本命は真上…二人と違って術の詠唱も必要無く、ノータイムで且つ無音で攻撃が可能な
ラビットの[ミサイルポッド]だ…!アセルスが後ろを振り返り、思念の鎖と異界の魔獣を切り捨てる事に思考を
持って行かれていれば間違いなく弾頭が少女にぶち当たり爆発アフロヘアーの出来上がりで本日の戦闘訓練は終了だった

 なんちゃって[ライジングノヴァ]もどきで音も無く放たれた頭上のミサイルを切り裂き、2分割された実弾兵器は彼女の
後方から迫っていたルージュの魔術と白薔薇の召喚した魔獣目掛けてヒュルヒュルと落ちていき衝突、火球を作って消えた




 BJ&K「データ解析…、昨日に比べて動きが随分と良くなりました、戦場全体を見通す視野も広がり陽動にも掛からず」

 BJ&K「敵の実弾兵器を切り裂き、切ったその破片で後方の相手2人の攻撃を相殺して対処もできる」


 BJ&K「一旦小休止としましょう。怪我を治療します」ウィーン!



 アセルス「ふぅ…大丈夫?烈人くん」チャキッ

  レッド「イテテ…ちょっぴり背中がヒリヒリするけど平気だ、姉ちゃん強くなったなぁ…」



 ラビット「発射音、ミサイルの飛来音、共にステルス性の高い方式を採用したつもりでしたが気付くとはお見事です」

 アセルス「ありがとう、でも…今回の戦闘は反省点が沢山あるんだよ」


 武器を納刀した彼女は口元に手を当てて考え込む、咄嗟にレッドの攻撃を[ディフレクト]で防いだが護るよりも攻めに
徹するべきだったかもしれない、対峙した時の金獅子から感じた並みならぬ闘気…アレを倒そうと思うのならば
[幻魔双破]や[かすみ青眼]の様なカウンターも狙っていく必要性があるのかもしれない、と…


 それに彼女との果し合いに備えて新技開発にも勤しんだがさっき使った[ライジングノヴァ]も正直言って稚拙な出来だ
形だけはそれっぽくした"なんちゃってもどき"でしかない、本来の威力と精度でなければ効くどころか当たるのかも怪しい



  アセルス「…もっと、強くなりたい…っ!」




 白薔薇を護りたい。


 親友のルージュや旧知の仲である烈人、この旅で知り合った仲間達だってそうだ――せめて己の手が届く範囲の人を…!





 ピトッ


  アセルス「ひゃああぁぁっ!?!?」ビックゥ

   白薔薇「アセルス様、根を詰め過ぎるのはよろしくありませんわ」つ『冷えたラムネ』


 不意に頬にひんやりとした感触が宛がわれる、思考の淀みに沈みかけていた彼女の意識が現実に引き戻され何事か!?と
顔を向ければ[京]の出店では然して珍しくも無い、どこか懐かしさのある炭酸飲料の入った瓶が視界に入った


  ルージュ「適度にリフレッシュしないとね、こういうのってパフォーマンスに影響するからさ」


 紅き魔術師とサボテン頭の少年が露店で購入していた飲料を何時の間にか手に持って笑っていた
「こういう時、BJ&Kが簡易冷蔵庫みたいな役割で助かるぜ」と少年が笑い、「本来は医薬品を冷やす為ですが」と
心なしか不満げな感情を伴っている様に聞こえる機械音声の声が聞こえてくる

 目をぱちくりと瞬かせて、遅れてアセルスも笑い出した
妖魔の国で12年の時を経て目覚めてからは何かと肩の力を抜くことを忘れがちになっていたものだ…

 ひとしきり笑ってから緑髪の少女は天を仰ぐ、鍛錬中に何度も見上げてた筈の空の色なんてすっかり気にも留めなかった
気付けばどうだ?暗色に染まり、遥か彼方で輝く"惑星<リージョン>"の星あ光が見えるではないか


 ラムネ瓶の栓を軽く叩いて、ポンと飲み口を塞ぐビー玉を落とし込む
炭酸の気泡に包まれた硝子玉と瓶から溢れ出す飲料を眺めて、懐かしい甘さを口に含んだ


  アセルス「…美味しい」

   白薔薇「ふふっ、そうですね!私も初めて飲みましたが良いものですね」




  ボォン! ボン!ボン!


 ルージュ「んんっ?何の音?」キョロキョロ
  レッド「おっ!見ろよアレ!花火だぜ…っ!そういや花火大会があるっつってたがこっからでも見えるもんだなぁ」


 雑木林の中、木々の間から覗かせる漆黒の帷に複数の光が打ち上がり大輪を花咲かせた
近くにあった大岩の上に腰掛けて一行は暫し合間、ラムネの瓶を片手に花火に見とれていた、少年曰く詳細は知らないが
この"惑星<リージョン>"で今日は何かの記念日だったらしくそれで[庭園]の方で花火が上がっているそうな


  アセルス「…なんだか夏祭りみたいだね」

   レッド「ああ、ガキの頃を思い出すぜ…」
  ルージュ「お祭りかぁ…僕はこんなお祭り参加できる機会がそうそう無かったからなぁ…」


  ラビット「でしたら今から行ってみませんか?鍛錬も本日予定していたスケジュールをクリアしたので気分転換で」

   レッド「おっ!イイコト言うじゃねぇかラビット!もしかしたら今行けば食い物の出店もあるかもしれねぇしな!」


 空っぽになった瓶を手に彼らは雑木林を抜けて街道へと躍り出る、着物姿の地元民から他所からの観光客まで皆が一様に
一か所を目指し、ある者は川辺や花火の見やすい茶店の席へと腰を下ろす、群衆に紛れて紅き術士一行も束の間の休息を
楽しむのであった… 来るべき金獅子との約束の刻限まで残り2日と5時間近く……

【双子が旅立って11日目 午後 21時15分 [京]】

読んでるよ、支援


アセルス姉ちゃんと烈斗くんで訓練とかたまらんシチュだなあ

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―――
――
























               【双子が旅立って12日目 午後 18時05分 "[ディスペア]" 】
















  ディスペア看守A「いや…なんというか作業員さん、アンタでっかいねぇ…こう逞しいというか体格に恵まれてるな」




     サンダー「えっ?そ、そうかなぁ…///」テレッ//


     リュート「なははっ!コイツが便利なんスよ~!力仕事で大活躍するもんでして」

      ブルー「…。」




 リージョン界における凶悪犯罪者が収容される刑務所の"惑星<リージョン>"…[ディスペア]、此処にはブルーが兼ねてより
"印術の試練"を達成するために必要な[解放のルーン]が刻まれた巨石がある為ずっと来たがっていた場所であった

 此処に潜入したい、ただそれだけの為にアニー相手に(ブルー基準では)遜った態度で接しご機嫌を取り続けてきたのだ
色々あって"刑期100万年の男"に会いたいらしいクーン一行も交えて今この場に彼は立っているが…


  ディスペア看守A「そんだけゴツいなら檻越しに凶悪犯を見ても大丈夫そうだな!逆に向こうがビビるか!はははっ!」



     サンダー「ひえっ!凶悪犯!?!?こ、こわいよぉぉぉぉぉ!!アニキ~~~!!」ガクブルガクブル

     リュート「…たはは!コイツ、ナリはこんなんだけど怖がりなんスよ…あはは」



      ブルー(…本当に連れてきてよかったのか、選択ミスったんじゃないのか俺よ)ハァ…


 蒼き魔術師一行に新たなメンバーが1人追加されていた…名前はサンダー、[オーガ]種のモンスターで
見た目通りの怪力、最初から習得している技も優秀なラインナップで並み大抵の雑兵なら蹴散らせる猛者である


 何故かちゃらんぽらんな無職の男をアニキと呼び慕うこの強面がどうしてこの場に居るのか?遡る事数時間前…―――


【双子が旅立って12日目 午後14時27分 [クーロン]】


   ブルー「…これがその指輪か?」

   クーン「そうだよ、えへへ~!ブルー前から指輪の兄弟たちを見てみたいって言ってたけど、どう?どう?」

   ブルー「ふむ、確かに一つ一つには奇妙な魔力が宿っているがコレで願いが叶うとは思えんな…」



 祖国に伝わる古い御伽話、魔法の指輪を集めた賢王が[マジックキングダム]の国民を更により良い暮らしと豊かな富を
享受できるように"天国"への門を開き、多くの人々が楽園で夢の様な生活をできるようになった…という主旨の伝承がある

 御伽話と謳われる程の昔話は史実の中で本当にあった出来事を子供向けに簡略化した話として次世代へ伝え聞かせたり
あるいは長い歴史の中で伝言ゲームの要領で途中から間違った伝播のされ方をした語りだったり…
何れにせよ元となったネタが何かしらある筈なのだ


 自分が生まれ育った故郷、自分を育ててくれた祖国、御国の為に命を投げ捨てる覚悟の術士だ


 愛国心から"そういう事柄"には興味関心はある。


 緑の獣っ子から集めた指輪を観させてもらったが…正直なトコロやはり単なる作り話だったか、と彼は落胆した
確かに奇妙な魔力は宿っている、天に掲げれば認識阻害の効果や大人数を溢れんばかりの生命力で治癒することもできる
 それは認めるが…それだけのマジックアイテムに過ぎない


 とてもじゃないが何でも望みが叶うなんて出来過ぎた代物とまでは行かない、と彼は判断したのであった…




 ………ブルーの評価は間違っていない。


 個々の指輪は単なる"核<コア>"となる部位の力を増幅させるオプションに過ぎないのだから、一番の大本命つまり…
"核<コア>"となる大事な指輪を一目でも鑑定できる機会があればブルーの評価は180度裏返った事だろう






 指輪の兄弟の中で最も重要な指輪にして、最大の厄介者…メイレンが隠し持っている"黒の指輪"の存在さえ知っていれば




 カラン、カラン…!



 臨時休業中の札を掛けてある筈のイタ飯屋の扉が開かれた、カバレロ一味を地元の知り合いに預けてきた無職の男が
戻って来たのだろうと踏んで術士は入口の方を振り向く


 ブルー「―――やっと帰ってきたかリュー…トぉ!?」ビクッ


 手にしていた指輪をテーブルの上に置き、彼は振り返った…するとどうだ、そこには想像していた顔とは違った人物が
…否、それ以前に見た目が違った

 座ったままの姿勢と言えども振り向いた彼の視界に入ったのは立派な胸筋と腹筋、肌の色は真っ赤
少し首を下に向ければ靴も履かない剥き出しのゴツイ脚と鋭い爪を覗かせる爪先、上に向ければ厳つい顔した鬼の顔がある


  サンダー「えっ、ええっと…ど、どうも、オレ、サンダーって言うんだ。」オドオド


 図体とは裏腹にやけにオドオドした感じの[オーガ]種のモンスターが口を開いた、そんな巨漢の背後からひょっこりと
弦楽器を背負った無職が「よう!ブルー今帰ったぜ!!」と陽気な声で言いながら出てきた


   ブルー「お、おいリュート!!なんだコイツは!?」

  リュート「ああ、そうだった…なぁブルー、どうだろう?俺の弟分でサンダーっていうんだ」

  リュート「一緒に連れてってもらえないか?」


 帰ってきて早々にこの男はそんなことを言い出したのである。

おつー
そういやマジックキングダムも指輪と関連深いんだな


 蒼き魔術師は品定めでもする様に紹介された弟分とやらを眺めた、容姿からも分かる通り腕っぷしは頼って良いと見た
戦力はあって困るものでもない…それに――――


  ブルー(…"モンスター"という種族も存外侮れんからな)チラッ

  スライム「(´・ω・)? ぶく?」ノソノソ


 術こそ全て、そんな魔術至上主義の民だったがリージョン界は彼が思う以上に広かった。

 少なくともこの旅の合間で何度このゲル状生物に助けられたことか…、一角獣の形態に代わり治癒や戦闘を繰り広げた事
地下で[巨獣]との闘いの時に[マリーチ]の姿になり最終的なトドメを刺したクーン

 戦闘形態でなくとも素の[スライム]の状態で[メイルシュトローム]の脅威から救われたのだって記憶に新しいだろうに


   ブルー「貴様の弟分か…。」ジッ

  サンダー「あ、あぅ…だ、ダメ?」ビクッ


   ブルー「よかろう、同行を認める…ただし!俺達は然る目的の為に[ディスペア]の監獄に潜入する」

   ブルー「しくじれば獄中生活を余儀なくされる事になるッ!…これを聞いて尚も覚悟は変えんか?」


  サンダー「う、うん!オレはアニキが行くなら何処へだって着いて行くよ!!」グッ!

   ブルー「…そうか、ならば何も言うまい。」


  リュート「おぉ!!良かったなぁ!サンダー!」

  サンダー「やったー!やったー!」ピョンピョン!


 大柄で無骨な鬼が無邪気な子供が如くぴょんぴょん飛び跳ねる、イタ飯屋の内部に振動が走る
扉奥からライザがやって来て「下の階までドスドス響いて来るからあまり暴れないで頂戴」とお小言を受ける程である
 そんなやり取りがされる中で魔術師はアニーに顔を向けて監獄潜入にこの新参者を連れてく上での確認を取る


 ブルー「確か…アニー、お前が用意してた潜入用の偽装IDや小道具には予備があったよな?」

 アニー「ああ、それね…なんかの手違いで潜入前にダメにしちまった時の為にって1人分多くは作らせてたわね~」


 グラディウスなんて裏社会の仕事柄、何時どこで恨みを買ってる連中からの鉄砲玉が飛んでくるか判らない
不測の事態に巻き込まれて破損や紛失が有ってもいい様に最低でも1名分は余分に偽装IDは作らせていたが…。


 アニー「作業服に関しては…んー最悪モンスターの作業員ってコトでどうにかなるかなぁ」


 そう呟いてマグカップの中に注がれたモカを口にした、クーンはじめスライムも作業服は必要としない。
[ディスペア]潜入に置いてIDがあれば"モンスター"はどうにかなる、業者の服が必要なのはあくまで"人間<ヒューマン>"だ



  リュート「へへっ!ブルー、サンダーの奴を一緒に連れてくのを許してくれてありがとな!」ガシッ!

   ブルー「…フン、礼を言われるような事をしたつもりはない。」

   ブルー「そんなことよりも連れていくからにはコキ使うからそのつもりでいろ…戦闘面は頼りになるんだろう?」


 腕を伸ばして術士と肩を組む無職の男が朗らかな笑みを浮かべながら感謝を述べる、そんな男の馴れ馴れしさに
ため息を吐きつつも術士は腕を払い除けはしなかった。いい加減一々相手をするのも面倒になったからである
 同行を許したからにはお前の弟分と言えども戦力として使わせて貰うからな?とブルーが男に言う
すると彼はニィっと笑って次のような返事を口にした。




      リュート「サンダーは見た目は恐いが、本当に恐い奴だよ。」



…だから心配しなさんな。っと


―――
――



―――――そして現在




  ディスペア看守A「…あー、なんというか意外と怖がりさんか?」ポリポリ


    サンダー「だ、だって凶悪犯だなんてぇ…」ガクガク

     リュート「…あははは、ま、まぁ…コイツやる時はやる奴なんスよ」



   ブルー(…頭痛くなってきた)ハァ…




  ディスペア看守A「しかし今日は賑やかなもんだ、こんな美人さんまで居ると来た」

     メイレン「いやだもうっ!お世辞を言ってもなにもあげませんよ//」テレッ//



 褒められて気を良くしたのか破顔した顔で看守に手を振るメイレン、そんな作業服姿の彼女に笑いながら
お世辞じゃありませんよと肩を竦め看守は業者のIDコードのチェックに入る、サンダーの時と言い中々に口が巧いのだろう


  ディスペア看守A「許可書確認と。はい、どうぞ―――」




   「待て」




 看守がIDコードを機械で読み取り術士一行を通そうとしたところ、野太い声で止められる。声の主に視線を
送ればそこに居たのは立派なスーツに身を包み白い帽子を深々と目元近くまで被った男が立っていた。
 看守はその男の姿を見るや否や顔を強張らせて姿勢を正した。


 ディスペア看守A「しょ、所長ッ!」ビシッ


      所長「…いつもと違う作業員だな?」ジッ

 ディスペア看守A「許可書は本物です」


 部下からそれを聞くと監獄の最高責任者はふむ…っと顎に手を当てて暫し考え込む素振りを見せて彼に次の様に言った


    所長「ふむ、この業者は次の入札から外せ。孫請けに仕事を丸投げしおって…」


 やれやれ、最近の企業はコレだからいかんなと首を振った、それから一呼吸置いて所長はジッとクーンとスライムを見る


    所長「そこの犬達も作業するのか?」



      クーン「犬じゃないやい!」ムーッ
     スライム「(; ・`д・´)ぶ、ぶくぶくぶーーーっ!」ピョンピョン!


  メイレン「鼻が利くんです、何かと便利なんですよ」
   ブルー「本日はパイプ修理も承っております、聞けば野生の[ゼノ]や[スライム]が勝手に住み着いているとの事で」


 咄嗟にそれっぽい理由をつけてモンスター従業員も居るんですよとアピールしておく、パイプ管内部のゲル状生物共を
どうにかする為に鼻の利く奴や同種の生物を探せそうな奴も居るのだと。


   所長「…。」ジッ

   所長「よかろう、作業は迅速、かつ、確実にな」クルッ、…コツッ、コツッ、コツッ


 それだけ言って[ディスペア]の所長は踵を翻してその場を立ち去って行った…。ヒヤッとしたが第一関門は突破できた

クーンかわゆい

―――
――



    アニー「ふぅ…さっきのは焦ったわ、よ、っと!」ヌギヌギ


 監獄内部に入り込んだ一行は作業着を脱ぎ、動きやすい普段着へと直ぐに着替える

 この刑務所の"常連客"だったアニーは所長が現れた時、心臓が飛び出すかと思った…冤罪で囚われたエミリアを
グラサン上司からの命令でライザと共に救出しに来たのはまだ半年も経っちゃいない割と最近の出来事であった
 [解放のルーン]が刻まれた巨石に触れて晴れて放免となった瞬間もあの道楽所長に顔を見られていた筈だ…
だから反射的に背を向けて顔を見られない様にもしたが、人数の多さとサンダーの巨体の影に居たのが功を成したのか?


怪しまれない程度には適当に電装関連の修理と配管の整備の方をしておいた、"ガワ"だけはそれっぽく見える雑な整備だが
わざわざ裏の流通ルートからアニーが時間を掛けて仕入れてきただけの事はある
 修理工の知識なんぞ空っきしの素人集団でもある程度は誤魔化しが利く位には修繕できる万能キットだったな


    メイレン「ええ、ヒヤッとしたわね…じゃあ道中の案内お願いするわよ」

     アニー「OK。そっちは"刑期100万年の男"に用があるんだったわね…」

     アニー「あたしもどんな奴か知らないけど場所に心当たりならあるわ」


 刑期100万年の男、どんな罪状で捕まったのかは知らないがその囚人は顔も年齢も何もかもが不明で、ただ一つだけ
[ディスペア]の最奥にある独房が彼の"塒<ねぐら>"であるとされている、あくまでも噂の域だが
 エミリア救出作戦時にルーファスから叩き込まれた地図の間取りやその他事前情報から照らし合わせると
やはりその謎に包まれた区画しか候補が残らなくなるので間違いないだろう


    ブルー「…おい、その囚人とやらも良いが俺の方の依頼は忘れてないだろうな?」ジトーッ

    アニー「ああっ、もうっ!わかってるわよ!忘れてないから!巨石の方でしょ!!…近い方から先に行くのよ」


 同じ刑務所で方やとある囚人に、方や刑務所内にある特別な巨石に、目的別の依頼人がそれぞれに居るのだ
ガイドしてやるのは構わないが生憎と黄金髪の女は分身の術なんて器用なモンは使えない
どの道[ディスペア]内部を歩き回るのだからまずは道中でクーン一行を目的の場所まで連れて行ってその後、ブルーを
ルーンの刻まれた石へと案内する手順だ

 ここまで[解放のルーン]の為だけに何日もお預けを喰らった蒼き魔術師からすれば逸る気持ちもあるがグッと飲み込む
リージョン界の凶悪犯罪者が繋がれる施設だ、下手に単独で動くよりは勝手知ったる者達と共に歩むが吉、と理性で抑える


 階段を下り、長い梯子を下りてきた所でアニーが先頭に立ち「こっちよ。」と先導を始める、彼女に倣い太いパイプ管に
繋がっている梯子を昇り始める一行…しかし…


  リュート「ととっ…!?やべっ、着替えに手間取ってたら皆先に行っちまってらぁ!?」タタタッ

  リュート「……あり?あいつ等どっちに言ったんだ?」キョロキョロ


  サンダー「アニキーーーっ!置いてかないでくれぇ~!」ドタバタ



―――――ドンッ!!


  リュート「おわっ!?サンダーばっかお前押すな!?」ワタワタ


 後ろから走って来た赤い巨体に押されて体勢を崩したリュートはそのままサンダーと縺れる様に転がりその先は―――




  ダストシュート『 「燃えるゴミは火・水」 』ドォーン!



 廃棄ゴミを捨てるためのダストシュートだァァッッ!!!転がる二人はそのままダストシュートから下層のゴミ捨て場に
あわや真っ逆さまに落ちていくゥ!!!


  リュート&サンダー「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」


 実に間抜けな話だが、こんなそんなで早速一行から逸れメンバーが出てしまったのであった…人数の多さ故か
パイプ管から入って行った魔術師一行もクーン一行もこれに気が付いていないという…

孫請けに仕事丸投げはいけないよね(戒め

おつー

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 田舎出身組の二人がゴミ捨て場に落下する中、先行した面々は太いパイプ管の道を通っていた
エミリア曰く「まるで学食だわ」と評した囚人達の食堂の真上を通り、規則性のある動きで出現と消失を繰り返す
ゲル状生物の住処と化した湿り気のある配管の中を潜り抜け、その先の梯子を昇り…


  アニー「こっちよ、いつもなら此処を降りてくルートだけど今回はそっち、向こう側に飛び乗るわ」シュバッ!


 そう言って道中放し飼いにされていたモンスターを切り裂いた剣を鞘に納めた彼女が向こう側へと跳ぶ、それに倣うよう
他の潜入者達も跳んで行く、長い降り階段の先に厳重警備がされた扉が一つ


   メイレン「此処に刑期100万年の男がいるのね…」

  フェイオン「私が開けよう」スッ


 人の生涯が何人分費やされれば償えるかもわからなくなる途方もない罪科を背負った人物が待ち受ける部屋だ
慕っている女の身に大事があっては困ると辮髪の男が前に出て無骨な腕でドアの取っ手を掴む
 彼が戸を開けるとそこに居たのは……!!





       所長「ご苦労だったね、やはりここの囚人に用があったのかね。」




  アニー「なっ!?道楽所長…ッ!」


 独房の中に囚人など居なかった。いたのは[ディスペア]の最高権力者…この監獄の所長その人だったのだ…ッ!
全員が身構える、このままでは憐れ一行は刑務所の愉快な仲間入りを果たしてお揃いの囚人服で臭い飯を食うハメになると

 しかし…所長は身構えた一行を一瞥してからフッと笑い、手を振る「拘束する気はない、落ち着き給え」との言葉付きで


 メイレン「どうして、バレたの…」ゴクリッ


 入口の所で最初に出会った時からだろうか?こちらにはアニーが居た…やはり顔を見られていたのか?当然の疑問を
紫髪の女性が投げかける…すると所長は右手の甲を見せる様に軽く手を挙げた、その薬指に嵌められた装飾品を見せる様に


  所長「君らが来た時、これが光ってね。そう…私は"ここの所長でもあり、同時に囚人でもある"」


 彼は事も無げにさらりと言ってのけた、自分は監獄の最高責任者だが、同時に囚人なのだと…この事実を知る物は
世界に数える程しかいない、自由の身でありながらも囚われの身―――なんと矛盾した立場であろうか…。


  所長「この[ディスペア]全てが私のための監獄と言ってもいいだろう…」


 どこか遠くを見つめる様にそう呟いた所長の表情は…深々と被った帽子の所為で目元は見えにくいが
口元は何処か皮肉めいた自嘲とも取れる笑みを零していた。
 長い年月を同じ場所で、同じ様なルーチンワークばかりしていた、そんな疲れ切った男の顔に見えたのだ…

 「今日を解放の日とする。」などと宣い、腕に自信のある囚人が自由を掴むために監獄内を奔走する様を眺める娯楽を
愉しむという道楽に耽る理由も全てそこにありそうな気がした


  メイレン「…一体、何したの?」


 純粋な疑問を投げかけた、目の前の男は間違いなく風変りな変人だが…極悪人には見えなかったからだ
それに対して、痛い横腹を突かれたと言った具合の苦笑を浮かべながら彼は言う


  所長「フッ、指輪が欲しいのではないのか?」

 …触れて欲しくない内容なのだろうな、露骨に話題を逸らした所長と、そんな彼の前にトコトコ歩いて行くマイペースな
緑の獣っ子が「うんっ!」と元気に声を上げる


   所長「何故だ?」

  クーン「んっとね…――――――」

―――
――


所長妙に印象的よね

スパイクタンパク単体で心臓やその他臓器に悪影響を及ぼすことがわかっています

何故一旦停止しないのですか

何故CDCが接種による若い人の心筋炎を認めているのに情報発信がないのですか
20代はたった1ヶ月で接種後死亡がコロナ死と同等になってます
因果関係の調査は?

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 理由を問われたクーンはめちゃくちゃな説明をした。額に手を当て溜息を吐くメイレンや苦笑するフェイオン
それを眺める術士組達…なんとも混沌とした場だが、所長は顎に手を当て「そうか…まぁ、よかろう」と薬指に嵌めていた
[隠者の指輪]を取り外し差し出した


   所長「こんな所まで私に面会に来る者はそうはいない、持って行け。」


  クーン「良いの!?わーい!やったーっ!」ピョンピョン

  アニー「随分と気前が良いじゃないの」


   所長「さっきも言ったが君達が来た時にその指輪が光ったのだ、共鳴し合っていたから引き合わせただけだ」

   所長「退屈なのだよ、私は…。だからこそソレを君達に渡したらどうなるのか興味がある。」




   所長「クーンと言ったな?指輪を全て集め終えて君が目的を果たした暁には旅の話を聞かせてくれないか?」

  クーン「旅のお話?」

   所長「あぁ…とびっきりの冒険譚さ、どんな結末が待ち構えていたのかを語って欲しいんだ、私の退屈凌ぎになる」


 指輪をタダでくれてやる代わりに道楽所長は故郷の星を救いたがっている少年の物語を御所望のようで…
こうして変わり者の最高責任者と二言、三言ほど言葉を交わした後に一行は独房を後にした
 目的の一つ刑期100万年の男から指輪を得る事ができたのだ…であればもう一方の目的、[解放のルーン]が刻まれた石に
触れる為に監獄の最奥へと足を運ぶ必要がある

 それを聞いた所長は「ほう、また面白いショーを見せてくれるのかね?前の時同様に期待しているぞ」とアニーに言い
彼女は彼女で「げっ…やっぱりアンタ覚えてたのか…」と嫌そうな顔をしたそうな

―――
――



   ブルー「さて…長い遠回りだったが漸く、[解放のルーン]をこの[小石]に刻めるんだな」スッ


 蒼き魔術師は[バックパック]から取り出した石を眺めて感慨深く言葉を零した。4つあった石も残り2つ
その内の1つも今日この場でルーンが刻まれ、"資質"を得るのもそう遠くない未来になった訳だ…

 祖国から賜った使命…弟であるルージュと殺し合いをするという運命の日はまた近づくのだ


 クーン等一行は別に[印術]を極めたいワケではないので所長の計らいにより一足先に[ディスペア]の出口まで護送された
ボク達は一緒に行けないけど頑張ってね!と激励の言葉を受け彼らは来た道を戻り
アニーがいつも"客"を案内する本来の道順まで戻って来た


 スライム「(; ・`ω・´)ぶくぶくぶー」ノソノソ


  ブルー「ああ…一気に人手が少なくなったからな、警備ロボや放し飼いのモンスター共を相手取るのも疲れる」

  ブルー「1体1体は決して強くないが徒党を組まれて囲まれたとあってはな…改めて、戦いは数が物を言うと学んださ」


  アニー「へぇ~、前までスライムが何言ってるのか全然分かってなかったのにまるでリュートみたいじゃん!」

  ブルー「あのボンクラと俺を同列にするのは止めろ!…別に理解してる訳じゃない、ただ大体言いたい事がわか――」



  ブルー「…。」



  ブルー「そういえばリュートで思い出したが、奴は何処だ?」キョロキョロ

  アニー「え」



 クーン達がパーティーから抜けた事で人員が減り戦力が大幅に落ちた、だから妙に手数が足りていないと思っていた
現状この面子3人しか居ない…っ!大所帯から一気に数が減った事で初めてリュートとサンダーが逸れた事に気が付いた

  ブルー「あ、あ、あんの大馬鹿野郎!!!何処に行ったんだァ!?」

 所内に術士の怒声が木霊した…。最近ちょっと見直したと思ったらコレである。


 蒼き魔術師は怒鳴り散らした後、冷静になろうと努めた…

 これまで通って来た道を思い出せ、ゲル状生物も沸く配管の中は多少複雑な部分はあったが構造からして結局の所は
一本道と言ってもいい道筋だ…これと言って枝分かれした道と呼べる物も無い
 強いて言うのであれば刑期100万年の男の独房と巨石へ通ずるルートとの分岐点だけである


 もしもリュートがパーティーから逸れてしまったと推測するのであれば何をどう間違ったか知らないが自分達に
置いて行かれて独房行きの道順へ続く足場へ跳ばずそのまま道なりに巨石ルートへ進んだであろうと考えた





 ……実際の所は、ブルー等が考えるよりももっとずっと前の段階からダストシュートから落っこちて行ったという話だが



  ブルー「…チィ、世話の焼ける奴らだ…ルーンの刻まれた巨石の部屋に行くついでに連中を見つけて回収せねばな」

 スライム「(;´・ω・) ぶくぶー…」


 分岐点まで戻って来た一行は下層へと飛び降り、直地地点からすぐの入り口へと入る…
元は山積みにされていたコンテナだったと思われるものが崩れていてそれを足場に降りていく、コンテナの中身だったのか
途中無造作に転がっていた[シェルガード]が目に付く、憶測だが[ディスペア]職員の備品なのではないだろうか?
 アニー曰く、この監獄の従業員用ロッカーに何故か[ハンドバズーカ]が入ってるらしいのでそれを踏まえると
脱獄犯を取り押さえるための装備なのだろうと思われる


 廊下に繋がる部屋の出口へと歩いて行く最中に蒼き魔術師が声を掛ける


  ブルー「アレには乗らんのか?」

  アニー「あぁ、あの作業用エレベーターね…あれ乗っちゃうと面倒臭い事に入口までほぼ強制で戻る道のりになるの」

  アニー「真っすぐ目指すなら廊下を出て、廃材置き場のマンホールから下水を通るのがベストよ」


  ブルー「ふぅん…そういう物なのか」


 ガチャッ





「キェェェェェェェェェー――ッッッ!!」



 扉を開くと同時に[ピックバード]が鋭い[クチバシ]を突き出しながら飛来してきた!番犬ならぬ番鳥ッ!
初めから侵入者が出てくることを知っていたかのような動きで突飛してくる鳥を視認すると同時に急ぎ戸を閉める

 廊下に出ようとした手前から直ぐ様にエレベーターの部屋に戻り鉄製の分厚い扉を引くと、ドッ!と強い衝撃と激突音が
伝わる…どうやら先程の鳥がそのまま扉に激突したようだ
 もう一度ゆっくりと戸を開き、隙間から何も居ないか覗き込む様に廊下を見れば…


 「ガーッ!ピーッ!侵入者の反応あり 侵入者の反応あり」
 「[ディスペア]内部に侵入者だ!今日は所長も視察に来ている日だぞ!!なんとしても捕らえるんだ!!」



  リュート「ひえ~!勘弁してくれぇ~!」ドタバタ
  サンダー「お助け~!!!」ドタバタ



 向こう側から大量の警備兵と雇われモンスター等、そして警備ロボを引き付けてきたリュート等の姿が…っ!



      ブルー「 何 し て く れ て ん だ 貴 様 ァ !! 」



   リュート「あぁっ!!ブルー良い所!!助けてくれぇぃ!!」

    アニー「…いやぁ、あの数は雑魚とは言え骨が折れるわ、うん」


 勝てない敵ではない、これまでの戦いで術力にも余裕が出てきたブルーの[ヴァーミリオンサンズ]で楽に一掃はできる
しかし、一発二発で掃討完了とはいくまい…修理業者の人間として変装して入って来たから持ち込めた荷物も戦いに適した
いつもの服装と武具、最低限の回復薬のみであり[術酒]の類は生憎と今回は置いてきている

 やれなくはないが念には念を入れるのであれば温存と行きたいところだ


 三十六計逃げるに如かず―――こうなればリュート等の後続から迫って来る[ディスペア]職員達の集団とエンカウントを
してしまう前にひたすら先へ先へと駆けて目的の地点まで逃げ込むなりするのが吉であろう


   ブル-「ええい!こっちだ着いて来い!」バッ!

  リュート「えっ!?術で全員ぶっ飛ばすんじゃねーの!?」

   ブルー「そうしたいのは山々だがな!」




   アニー「こっちよ!」ガチャッ!


 監獄内を走り続け術士達はある一室を目指す、道中でふと見覚えのある道を走っている事に気が付いたリュートが叫ぶ


  リュート「オイオイ!その部屋はゴミ捨て場だぞ!」
  サンダー「ダストシュートから直通で落ちてきた場所だ~!」

   アニー「こっちで合ってるの!良いから早くアンタ達も入りなさい!内側から鍵かけるからっ!」


 全員がゴミ捨て場に入ると同時にアニーが手早く鉄扉を閉じて鍵を閉める、当然職員達はマスターキーを持参している為
ほんの僅かな時間稼ぎにしかならない、そこで彼女は―――


  アニー「ゴミ捨て場なら板切れでも[鉄パイプ]でもなんでも手頃な物があるでしょう!心張り棒の代わりにするのよ」


 外側から簡単に開けない様にすべく廃材の山へと走り出す、ゴミ捨て場というだけあって何処から湧いたのか
虫系統のモンスターが二匹沸いてダンゴムシの様に転がりながら接近してくるが「邪魔よ!」の一言と共に切り捨てられる
 幸いにも塵置き場の格子扉は鍵が掛かっておらず簡単に開けることはできた、程よいサイズの鉄棒や木板、針金を手にし
戻ってきて手早くドアノブと扉上部のドアクローザーに細工を仕掛ける、これで簡単には鉄扉を突破できまい


  アニー「ふぅ、どうにかなったわね」

  ブルー「貴様、手慣れてるな…」

  アニー「そりゃあ仕事柄ね、で目的の場所だけどそこのマンホール下を通っていくわ」


 黄金髪の女が指差すはゴミ置き場から向って左の隅にある蓋の外れたマンホールであった
それを見て弦楽器を背負った男が「なんだ、わざわざ廊下に出なくてもそこの下に潜れば良かったのか」と嘆いていた


  リュート「サンダーと一緒に上のダストシュートから落っこちてそこのゴミ袋の上に着いたんだけどさ」

  リュート「そのまんま下水の方に行ってれば早かったのね…がっくし」ハァ…



  ブルー「もしや……貴様がいつも使う道案内ルートよりもコイツ等の来た道の方が最短ルートだったのではないか?」

  アニー「うっ!……こ、今回はクーン達をあの所長のトコに連れてく為にあのルートを通ったのよ!」


 ふとブルーは思った事をそのまま口に出してみた、いつもアニーは巨石に用がある顧客を
配管の上を伝うあの道順で案内してルーンへと連れて行く様だが、会敵の危険性と到達時間を顧みてもコレが最適解ではと

 断じていつも自分が"客"を案内する道順が遠回りなのではない!本来なら安全かつ最短で自分もダストシュートを使う!
…等とアニーが主張しているが本当かどうか怪しいものであった


 スライム「(;´・ω・) ぶくぶー、ぶくぶー、ぶくぶく!」ピョンピョン

 リュート「うん?幾ら扉に細工したって警備員が時間掛ければぶち破って来るから早く行こうってか?それもそうか…」


  ブルー「…今度は逸れるなよ」ジトーッ

 リュート「わ、分かったってば睨むなよ…」

―――
――


 ぴちょん…ぴちょん…。


 梯子を下りて黴臭さと古い油の様な匂いが入り混じった下水道を通っていく、時折"解放の日"に
チャレンジした者の遺体と思われる物か、随分と年季の入った囚人服と皮膚が腐れた遺体が下水の水に浮いていた…

 アニーが知り得る限り、ルーファス含む自分達以外に[ディスペア]の脱獄を試みた者はほぼ居ない、今の道楽所長の代に
変わってから成功させたのは初めてがあのグラサン上司なのだから…ここに浮かんでいるのはそれよりも
前のチャレンジャー達の末路と言った所だろうな


 金網状の床の上を歩き道中で遺骨を舐めていた[フェイトード]を蹴り飛ばし、梯子を上って出た先ではサーチライトの
強い光が床を照らしていた、"解放の日"を除いた厳戒態勢時はあの明かりが忙しなく動き回り
監獄内を忍び歩く者を探す役目を果たすのだが、幸いにもまだアレは稼働していないようであった

 そのまま道なりに進んでいくと路が途切れた場へと躍り出る、道は無く、ただ飛び降りる事で眼下に広がる通路に
一方通行でのみ向かう事ができる、ガラガラと音を立てて動く年季の入ったコンベアは鉄屑を何処かへと運んでいく



 目当てのブツは大階段を下った先の地下にある、であれば跳ばぬ理由など無いと言わんばかりに術士一行は飛び降り
コンベアの真横も通り抜けて長い長い降り階段へと…




 コツッ…コツッ…!



  アニー「さてとコレをアンタ達に渡しとくわね」スッ

  ブルー「? なんだこの不細工なヘルメットみたいな物は?」


 唐突に守銭奴の女から渡された奇妙な物体を手に蒼き術士はマジマジと眺める、自動二輪車を駆る者が着用する
バイザー付きのヘルメットの様にも見えなくはないソレを見て彼は言った…。


  ブルー「…いや、待てもしやコレは[赤外線スコープ]とやらか」


 多少部品を弄られた、ジャンク品の形跡はあるが確かにそれは赤外線を視認することができるようになる機器であった
術士に渡した物と同じ物を着用した女が口を開く、曰く「この先、入る度に変わる赤外線の迷路がある」とのことだ

 赤外線に触れれば即座にアラートが鳴り、どこからともなく警護のメカがすっ飛んでくるという寸法だ
リージョン界の名立たる悪党が投獄される監獄だけあって配備された戦闘機の能力はトリニティのお墨付き、モンド基地に
居た私兵団と同等か下手をすればそれ以上の場合もある


  アニー「避けれる戦闘は避けた方が良いでしょ」

  ブルー「…確かに」


 階段を降り切り、件のフロアへと扉を開き脚を進めると…


 リュート「おっ!!こりゃあすげぇや…マジに赤い線の壁が見えるぜ」

 サンダー「えぇ…そんなに凄いのかいアニキ?」
 スライム「('ω')ぶく?」


 "装飾品<アクセサリー>"しか装備できないモンスター種族達が"人間<ヒューマン>"に尋ねる、頭部装備ができる彼らにしか
視えざる壁の迷路の道を知る事はできないのであった…
 サンダー等からすればただ広っい空間に奇妙な円筒が一定間隔で大量に突き出てるだけの奇妙な間取りにしか見えない


  リュート「すげぇのなんのって、あえて遠回りするような道順だったり結構複雑に張り巡らされてんだよ」

  リュート「スパイ映画の主人公目線になったみたいだぜ…」テクテク


 ヒューっと口笛を吹いてすっかり上機嫌なリュートとその背にぴったりとついて来るモンスター種達、見えないからこそ
密着するように歩いて行くしかない
 落ち着いて赤外線の迷宮を通り抜り抜けて、[ヘッジホグ]が二体戯れている小部屋に辿り着く
赤外線のフロアが防衛ラインとして大本命だったのか抜けた先の守衛は強い物では無かった、容易くそれらを倒し
向って左側の梯子をよじ登り[ディスペア]のエアダクトへと一行は進んで行った


 ごうん…ごうん…!と人間どころか大型の貨物トラックさえ入りそうな巨大エアダクト内の突き当りでは換気扇が音を
立てながら回り続け、施設内に工業地帯の様な匂いと妙な湿り気を帯びた外気が空気を送り込んでいた

 向かい風の形で吹き付けてくる空気に逆らい、最奥まで進み壁伝いにちょっとした鉄格子があることを確認する
曰く、此処が目当ての巨石がある部屋へと通ずる抜け穴らしい
 工具箱から取り外し様の道具を漁り鉄格子を外す作業に掛かり出すアニー、彼女は術士達に向かって言う


  アニー「チョット後ろを見張ってて」

  ブルー「後ろだと?」

  アニー「ええ、"変なもの"が来るかもしれないから」


 以前エミリアを連れて此処を脱獄した時に背後から気色の悪い怪物がやってきたらしく
どうにもルーンを目指す者を襲う様にこの付近を塒<ねぐら>にしているらしい、雇われたモノなのか偶然ここの環境を
気に入り住み着いたのかは不明だが道楽所長はソレを大層気に入っていた


  サンダー「うぅ…なんか嫌な感じがする」


 後ろを見張る様に命じられた2人と2匹は自分達が入って来た入口の方に目線を向ける
換気扇の風切り音に混じってカタカタと妙な音が聞こえ始めたのは来た道を見つめて間もない事であった
 小心者の鬼人の言葉に応えるかの様に"ソレ"はやってきた

 生き物の死骸が長らく放置された腐臭と土の匂いを混ぜた異臭を漂わせ、ムカデを思わせる節足と蝙蝠の翼
先端からぶら下がったギョロ目付きの人間の頭蓋骨――――[ニドヘッグ]と呼ばれるモンスターが歯をガチガチ鳴らして
笑いながら此方へとやってきた…ッ!



  ニドヘッグ「ゲヘゲヘゲヘ… にお い" す"る…ケヒェヒェ…」ズルズル…!


 4本の赤い腕の様な触手から伸びた鋭い爪は宛ら騎兵隊のランスか何かか、死体喰いの百足は低い声で唸りながら
獲物達の姿を捉え…


    ズダダダダダダダダダダダダダダダダダ…!!!


 槍の様な四本腕を前に突き出す姿勢で猛進撃を繰り出して来た…ッッッ!!4本槍と無数の針の様な脚で
獲物を踏み刺して行かんとする一直線上に放たれる技、[百足蹂躙]であるッ!


   ブルー「各員、左右に散開しろ!!」バッ

  リュート「うひ~っ!でっけぇムカデだぁ~!気持ちワリィぜ!!」スチャッ!


 術士とゲル状生物が、[ヨークランド]組がそれぞれ左右に分かれる様に飛び退き各々の武器を手にする
[鬼走り]の射線同様、分かりやすい技であるが為に避けやすくだがそんなことは想定済みだと言わんばかりにすれ違い様に
4本腕を器用に動かし左右に分断させた4名目掛けて[突き]を繰り出す

 瞬時に[ユニコーン]に変化したスライムに運ばれて刺突から免れた術士組に対して田舎出身組は
方や手にした武器で見事に[ディフレクト]し、もう片方は憶病な性格は何処へやら、ガッシリと大樹の様な太い両腕で
死体喰いの腕を受け止めたではないか…ッ!!



   ニドヘッグ「!!!」ググググ…ッ

    サンダー「ひぃ~…危うく眉間に穴開いちまうトコだったぁ~!!」


 情けない声とは裏腹に掴んだ相手の腕はピクリとも動かない、見た目通りの剛腕は確かに脱獄を試みた人物を何人も
葬って来た怪物の刺突を受けきっていたのである


    ブルー(…ほう?リュートと共に監獄内を逃げ回っていたが…なるほど、見掛け倒しではないということか)
   スライム「(;´・ω・)ぶくー?」パカラッ!パカラッ!

    ブルー「…なんでもない、少し考え事をしてただけだ、それよりも俺を乗せてるんだ前見て走ってくれ」


 回避の術士組と防御の田舎組、避ける事と受け止める事とで違いはあるがどちらもダメージを完全に無効化している事に
違いはなかった…。[ニドヘッグ]は下手に全員を狙うよりも各個撃破を優先すべきと考え、回避よりもガードに専念する
[ヨークランド]組を狙う事に決めたようだ
 赤い四本腕の根元…つまりは肩に当たる部位が開き、そこから目玉が現れる…!両肩の眼球と宙ぶらりんの頭蓋骨から
覗かせる一つ目が怪しく輝いた
 黄光を纏った魔眼をリュートに向けて"凝視"する…ッッッッ!!


 死体喰いの百足が魅せたのは[マヒ凝視]だ、先端からぶら下がった人骨の一つ目が彼奴の主眼であるのあらば両肩から
浮き出る眼球は副眼と言えよう、単純に視覚範囲を広げる為だけに非ず…自身の生態系に詳しくない敵が死角を攻めようと
主眼では見えない懐に飛び込んだ者あるいは肩背部目掛けて強襲を仕掛けようと動き出した者に対してのカウンターだ
 初見で肩に[マヒ凝視]を発生させる魔眼が隠されていると知らずに接近した敵対者を絡めとり
身動きが取れなくなった所を逆に討ち取るというのが彼奴の手口なのである


  リュート「ぐぉっ」ガクンッ


 浮かび上がる瞳を直視した為、急速に力が抜け落ち手足が痺れ出す。
思う様に身体が動かなくなった所へ[ニドヘッグ]は身体を撓らせて器用に無数の脚をリュートの方へと向ける

 向けられると同時に百足の細く鋭い脚が胴から飛びぬけた…ッ!

 無数の[針]が機銃の弾丸の如く青年目掛けて放たれた、それを見た弟分が「アニキ!」と叫びながら
腕から発生させた電流を百足と青年の中間点目掛けて撃ちだす



   ドッグォォォォン…!!



  サンダー「アニキ!大丈夫かい!?」

  リュート「お、おう…たひゅかったぜ、しゃんらー」


 麻痺の影響で呂律が回らないながらも礼を述べるリュート、サンダーが習得していた[電撃]が上手いこと相手の[針]に
当たり小規模な爆発を起こして相殺したのであった。


   ニドヘッグ「お…おの…れ ぐぐぐ…クヒャ――――ッ!」ビリビリビリビリ…!!



   ブルー「っ!?こ、これは…」クラッ

   アニー「うるさっ!?」
  スライム「Σ(・ω・;) ぶくっ!?」


 耳を劈く様な音、大気さえも震わす振動が辺りに響き渡る、[ユニコーン]形態のスライムが思わず竦み脚を止め掛け
騎乗中のブルーも眩暈を覚える"音"による攻撃、ここがダクト内部という筒状の空間だからこそ
反響音が増すという点もあるのだろう前線から離れてるアニーでさえ耳を抑えたくなる"悪環境に恵まれた[スクリーム]"が
容赦なく[ヨークランド]組の二人を襲った…!


  リュート「ぐぅぅぅぁ―――――!!」ビリリリリッ!
  サンダー「うわあああああああぁぁぁっ!!」ビリリリッ!


 "音撃波<ソニックウェーブ>"が相手とあっては[ディフレクト]で防ぐことはできない、直撃を受けて尚もまだ立っていられる
タフさ売りのサンダーと流石に膝をついたリュートを見て死を喰らう百足は笑い出す



    ニドヘッグ「 よ わ い ナ ぁ 」ゲヘゲヘゲヘ!

    ニドヘッグ「みな…ごろ…し… うケェーッケッケッ…」



 百足から垂れ下がる頭蓋骨は下卑た笑みを浮かべ、腸の様に長くグロテスクな触手を喉奥から伸ばす
管の様なソレの先端には注射器の針に似た骨が付いており相手の生体エキスを奪い取るモンスターの技能、[生気吸引]に
使われるソレであることが分かった、まだ麻痺で動けぬリュートに狙いを定めてソレを伸ばし…!



  ブルー「汝、現世においてあらゆる束縛から解き放たれん!――[解放のルーン]よ!」フォンッ!フォンッ!



  リュート(おぉっ!身体の痺れが消えた―――動くぞ!恩に着るぜ!)スチャッ、ズジャッ!!!

  ニドヘッグ「ぐぎゃあああああああああ"ああ"あ""あぁ"ぁぁ…!!」ビチャァァ!


 自由を授ける文字の加護を得たリュートは即座に剣を振るい自分目掛けて飛んできた触手を切り飛ばす
赤黒い飛沫を上げて暴れ狂うソレ、切断された先端部位は骨針を何度も床に叩きつけながらビチビチと暴れ…次第に
強い日差しに照られた蚯蚓の様にゆっくりと動かなくなった


 切り飛ばされた器官を一瞥して死を喰らう百足は怒りを体現せんと長い胴体を振り回す
地下空洞に住まう[巨獣]や基地の護り手を担っていた[巨人]…野心家が産み出した"力"の結晶[グレートモンド]…etc
蒼き術士一行はこれまでも強者と死闘を繰り広げてきた身だ、その彼らをして見れば目の前の蟲は決して強いとは言えない

 監獄内で追って来る職員と警護ロボ、モンスターの群れといった数の暴力とも違って相手は単一


 激戦に次ぐ激戦を抜けてきた事で最早、[ニドヘッグ]程度なら主戦力のアニーが居なくとも
そこそこに渡り合えるレベルには成長していた…

 この戦闘で注意すべき点は"空間"の問題だろう。

 筒状のダクト内だからこそ[スクリーム]の音響が響き威力も底上げされ、巨大百足と言った風貌の[ニドヘッグ]にとって
程よく自分は動けることが可能でありながらその巨体ゆえに相手の移動を妨げる事ができるという点だ


    ニッドッグ「 ぐ が あ あ あ あ ! …よ、よ"くも、やった"ナぁぁぁ!!」


   ニドヘッグの腕『 』ブォン!
   ニドヘッグの胴・脚『 』ヒュッ!


――――パシィィィン…!

 両肩の眼玉もフル活用して視野を広げ、4腕のランスで逃げる得物を串刺しにしようと[突き]を繰り返し
胴を鞭の様に振り回してダクト内部で幾度と無く叩きつけていく
 時折[百足蹂躙]を織り交ぜて突撃と移動を繰り返し、果てはこの場が筒状である事を利用し壁を、天井をと移動していく


  リュート「うへぇぇぇ…天井をカサカサ言いながら這ってやがるぜ…やっぱデケェ百足ってのは気色悪いなぁ」


 見上げれば赤と黒の長い胴がジグザグに動いて先端の頭蓋骨が自分達を―――地上を見下ろす形で垂れ下がっている
そして骨は口を開き音波攻撃を垂れ流して来る
 器用に天井に張り付いたまま、地表目掛けての[スクリーム]を放出しながら動き回る


   スライム「(;´・ω・)ぶく…!」
   ブルー「チィ!厄介な…爆ぜろ[インプロージョン]!」キュィィィン


 8の字を描く様に首を振り回す逆さ吊りの百足、それに応じる様に"音撃波<ソニックウェーブ>"が照射された床が砕け罅割れる
無茶苦茶な軌道で飛んでくるそれを避ける一角獣の背から振り下ろされない様にしがみ付きながらもブルーは術を唱え
 長い胴体の内の幾つかを消し飛ばす…!弾ける蟲肉片、上がる悲鳴、致命傷を与えられなかった事に彼は舌を打つ


    ブルー「ええぃ!まどろっこしい…あんなにも動き回られては狙いが定まらんかッ!」


   リュート「ブルー狙いさえ定まればなんとかなりそうなのか!?」

    ブルー「…ああ、あのクソ忌々しい一つ目付きを粉微塵に爆破してやれるさ!」

   リュート「OK!サンダー俺をぶん投げろ、その後はお前のアレでワンツーフィニッシュ決めるぜ!」


 術士にそれだけを確認すると糸目の青年は弟分にそう笑いかける、それを見て彼の隣を走っていた気弱な豪鬼は青年を
掴み取柄の剛腕で天井を走る百足目掛けてリュートを投擲するッ!


   サンダー「うおおおおおぉぉぉ!アニキーッ!行ってくれぇぇぇぇぇッ!!」ブンッ


 豪鬼の筋力で天井目掛けて打ち上げられた青年は[刀]を手に[諸手突き]の構えで死を喰らう百足の先端――頭蓋骨が
ぶら下がった胸部へと一直線に飛んで行く


   ニドヘッグ「…く…くルな…!!」


 風を切り飛ぶ男目掛けて両肩の魔眼を開き幾度も瞬く、だが…!解放の加護を受けた彼に[マヒ凝視]は意味を為さない
四つ腕の[突き]を放つもリュートの刺突は突き出された腕ごとへし折りながら胸部へと突き立てられ
 百足は悲鳴をあげて地に落ちる…、背にジリジリと伝わる落下の衝撃、そして一つ目を見開けば天には大きな人影が…!


     サンダー「[グランドヒット]だぁぁぁぁ!!」ゴォォォッ!!


 筋骨隆々の巨体がその身を活かした急降下を仕掛け[ニドヘッグ]に重い一撃を与える、百足は降って来た重量に
呼応するかのように上体を仰け反らせ、掛けられた圧で頭蓋骨から目玉が飛び出しそうになった
 飛び出しそうな一つ目が"最期に"網膜に焼き付けた物は…地にサンダーと言う名の杭で止められた自身に向けて
魔術を唱える蒼い衣を纏った術士の姿であった…っ!


 …ジュゥゥゥゥ…!


 宙ぶらりんだった頭部は黒ずみ、焼け崩れては消えていく…それに合わせて長い百足の胴体も蜃気楼の如く消えて行った
かくして監獄内で蠢いていた一匹の蟲は生涯に幕を下ろしたのであった


    ブルー「終わったな」


 一角獣形態から元のゲル状に戻ったスライムが言葉も無く頷いた、…モンスターは倒したモンスターを破片でもいいから
取り込むことで相手の生命情報を取り込み"技"を得とくできるが…どうやらこのゲル状生物も兄貴分を担ぎ上げてる豪鬼も
[ニドヘッグ]というゲテモノを取り込まなかったようだ


 …まぁあの百足を取り込んだ所で大した物は得られんだろう、彼奴が使ってきた[百足蹂躙]と
悪趣味な生涯の記憶くらいしか手に入りそうにないだろうし



               「やーっと!開いたわ!!」ガコンッ


 ブルーが振り返ると螺子回しとスパナを手に汗を拭うアニーの姿がそこにはあった、「やっと開いたか」とだけ呟いて
我先にと彼は目当てのブツが保管されているであろう部屋へと進んでいく


     アニー「あぁっ!ちょっと待ちなさいよっ!もうっ!」タッタッタッ!

    リュート「俺達も行くぞ!サンダーあの穴の中に突っ込め!」
    サンダー「おう!任せてくれよ」ドドドドッ!



―――
――

【双子が旅立って12日目 午後 19時48分 "[ディスペア]" 】


 シュタッ!


 監獄の最奥にその巨石はあった、美術館の展示品か何か様に囲われたソレにはアルファベットのPに似た文字が刻まれ
誰を待つでも無く佇んでいた…天井から巨石を照らす様に射す一筋の光が照明の物か、はたまた天窓か何かの月明かりか…
神秘性を含んだルーンの巨石を目の当たりにしたブルーにとってはどちらでも良い事だった


  ブルー「おぉ…!遂に…やっと、やっと3つ目のルーンを…っ!」フラフラ…



 万感の思いだった。

 祖国を旅立ちまだ2週間と経たぬ間だが、この3つ目のルーンを得る為だけにどれだけ遠い回り道をしてきたことか…っ!



 此処に忍び込む為だけに守銭奴の女に媚び諂い、金策に走ったり、知り合った連中の騒動に巻き込まれたり
胸に色んな感情や悩みを抱えた奴らと出会い、自分の知らぬ文化や世界を知ったり…

 …気づけば、喧しい馬鹿共と騒ぐ時間を悪くないと思い始めてしまったり…。


 そこまで考えて彼は首を横に振った、鞄からルーンの小石を取り出しふらふらと蛍光灯に釣られる羽虫の様に階段を昇り
巨石に手を伸ばし―――――


                フォン…!

  i'⌒  \    
  |  | \ \  
  |  |  / /    フォン…!

  |  レ゙ /     .
  |  /      .
  |  |        
  |  |        
  弋,丿       

  フォン…!


           『解放のルーン』を手に入れた!


 手にした小石に刻み込まれたルーンを眺める、そこには求めて止まなかったやまなかった解放の象徴があった…。
これで残す巨石巡りもあと一カ所、しかも場所の特定も出来ている―――今、ブルーが成り行き上で下宿しているイタ飯屋
あそこの店主がやたらと[シュライク]の古墳へ「男のロマン」がどうこう言いながら語って来るのだ


 最後の巨石はその古墳に在り。


 遺跡の一種というだけあって中に挑み行方不明者となった者は数知れず、如何なる罠や魔物が潜むか分からぬ以上
最善を考えるのであれば場所の特定はできていても単騎で突っ込むのは得策ではない

 …グラサン店主が行きたいと豪語しているのだ、折角だからもう少しグラディウスの連中を利用させて貰おうではないか




  アニー「ちょっとアンタねぇ…!一人だけ抜け駆けってのはズルいでしょーが!!」タッタッタ…!グイッッ!

  ブルー「く"え"っっ!?」ギューッ



 そこまで考えていた術士を思考の底から引き摺り上げたのは守銭奴の女であった、…仲間を置いて一人で勝手に先行して
巨石に触った事にお怒りの様で術士の法衣についてる霊獣の毛皮を使ったショールを引っ掴みそのまま首を絞められる術士


  リュート「とうちゃ~く!…おろ?なんだなんだ、ブルーの奴まぁたアニーにシメられてらぁ…おっかねぇ」シュタッ

  サンダー「うひ~…ブルーさん顔がトマトみたいに赤くなったと思ったら青くなってる…助けた方がいいんじゃ?」


 危うい顔色をし始めた所でギブギブ!と叩いて来る術士を黄金色の髪をした女は解放した、息を切らせながら術士は
首を絞めてきた彼女を睨みつけ「先走ったのは悪かったが少しは加減しろ!」と怒りを表した







  「はっはっはっ!愉快愉快、準備の抜かりなさといい、先程の戦いぶりといい、それにコメディまで見せるとはね」




 パチパチと手拍子と共に称賛の声が上部から浴びせられる、首を天へ向ければ強化硝子の窓越しに道楽所長が此方を
見下ろしているのがわかる、キャスター付きの椅子が二つに監視用なのか古いタイプのパソコンが2台置かれた小部屋から
彼は術士一行のこれまでの動きを見ていたようだ



    クーン「ブルー!おめでとー!」ピョンピョン

  フェイオン「我々もこの部屋から君達の活躍を見て居たぞ、やったな!」



     所長「良い退屈凌ぎになったよ、そこの扉を開けてあげるから出給え」カチッ


 ルーンの小石集めには参加していないクーン等とすっかり御眼鏡に叶ったのか上機嫌な道楽所長に今のやり取りを見られ
ムスッとした顔で退室する術士とそれに続く面々、かくして[ディスペア]潜入は幕を閉じたのであった。

―――
――


 文字の刻まれた小石を3つ、大事そうに眺めながら彼は[クーロン]の繁華街を歩いていく
監獄から帰ってきた一行は発着場で各々に解散、ブルーはアニーと共にイタ飯屋への帰路に着いていた


 アニー「ず~っと石なんかを眺めちゃって気持ち悪いわねぇ…」

 ブルー「フン、なんとでも言え、俺にとってはルージュと対峙する際の力に近づけた証なのだ」

 アニー「はいはい、前エミリアが話してた決着つけたい弟さんね…子供の喧嘩みたいなことに態々資質集めなんて」ヤレヤレ



 カランカラン…!

 未だ双子で殺し合いをするという真実を知らぬアニーは店の扉を開けて「ただいまー」と一声掛ける
休業中の店内にはまだ奥に置き場所が無いのか大量の武器が置かれていた…ジョーカーとの決戦に向けての物資だ
これだけのブツをアジトに持ち込んで来たということはいよいよ以て大規模作戦も間近といった所なのだろう


 搬送されていく物資を眺めながら「随分と物々しいな」と術士の青年は独り言ちる、そこへ通り掛った赤紫色の髪をした
女性が「今追っている巨大な敵との決戦だからね」と声を掛けた


  ライザ「これまでも色んな奴を相手取って来たけど…ジョーカーはそんな連中とは一線を画するわ」


  ライザ「仮面の下の素顔は勿論の事、正体に関連する尻尾を掴ませずそれでいて
         様々な犯罪組織や政界の大物と接触を図れるコネクションや情報量…用意の周到さ」


  ライザ「他のグラディウス支部は当然として雇えるのなら外部の手を借りてでも戦力を集めて総力戦で行きたいわ」


 と、告げて蒼の術士をジッと見てくるライザの視線からそそくさと逃げる様にブルーは割り当てられた自室へと向かう
修練には丁度良いのかもしれんが監獄帰りで疲れてる今そういう話はパスだ
 さっさとシャワーを浴びて布団の上に倒れ込んでしまいたいという気持ちが大きかった


 …残りの巨石巡りもあと1カ所…、ルーファス等を戦力として組み込んだパーティー編成で最後の一つに挑みたい所だが
御覧の通りジョーカー戦に向けた準備に加え(決着がつくまでは午後4時から10時までの短期経営だが)店の経営もある

 グラディウス組を同伴しての[シュライク]までの遠征は少し時間を要する…暫し暇になるだろうな




 …なに?グラディウス組が駄目ならリュートとサンダーを連れて行けばいいじゃない、だって?



 今日の[ディスペア]での教訓である、戦力として頼れはするが変な罠踏んだり余計な仕事も増やすからリカバリーが要る
指輪集め御一行はもう次の指輪を求めて何処かに旅立った事だろうし…
 術士は歩きながらそう言えば次にクーン達が何処に行くか訊いていなかったな…と考えもしたが
尤も旅の目的も違うし俺とはもう会う事もあるまいと、そこで思考を止めた


 ガチャッ


 自室に戻った術士は背負っていた荷物を降ろして衣服棚からバスタオルとこっちでの生活に合わせた寝間着に手を伸ばす
初めの頃は魔法王国の一般的な服と違う意匠に戸惑いもあったが随分とラフな服装にも慣れたものだと思える

 ふと、手を伸ばした彼の眼には棚の中に大事そうにあ保管していた一枚のディスクが留まった
3日前にレオナルドから渡されたデータの入った円盤だ


  ブルー「…そういえば、これも暇があれば[IRPO]に渡してくれと頼まれていたな」


 勝利を冠する印を取得できるのはグラディウスの最終準備段階が終わった頃だ…
ともすれば近々届けてやるのも吝かではない

 衣服とタオルを手にした彼はぼんやりとそう考えながら棚を閉じ、ゆっくりと蒼の法衣を脱いだ

―――
――


     [ディスペア]からの帰還からそのまま就寝して…さらに1日、アニーからいつも通りの稽古を受け

  裏通りにあったpzkwⅤの店から譲り受けた大量の重火器と各地から仕入れてきたトラップの類を運ぶ手伝いをし

   ……偶にウザ絡みしてきたリュートをモップで撃退なんかもして丸一日を過ごし



そして祖国を発ってから14日目の正午…

【双子が旅立って14日目 午後12時00分 [IRPO] 】



  ブルー「なんでお前等までついて来ることになったんだか…」

 リュート「いやぁ~お前が警察に行くなんて何事かと思ったし~?聞けばレオナルドさんの頼みらしいじゃん?」
 サンダー「アニキが世話になったって人の頼み事ならオレも手伝いたいよ!」

  アニー「ルーファスの奴が何かこれからアンタと会う刑事は顔が利くからモンド潰しの土台を今から築けってさ」
 スライム「(`・ω・´)ぶくっ!」フンス


 機械博士の頼みでモンドが関わっているからと田舎出身の二人が駆けつけ、金髪の女は上司が"ジョーカーを倒した後で"
遠からぬ未来でグラディウスが標的にするであろうとモンドへの一手として布石を巻く為に派遣した、スライムは説明不要


 理由はともあれ各々がブルーの用事に付き合うらしい、彼はそんな仲間達と共に[IRPO]の受付へと向かい
桃色髪に白い帽子をちょこんと乗せた受付嬢に声を掛ける


  [IRPO]受付嬢「一般の方はご遠慮下さい。」

     ブルー「ヒューズ捜査官、…ロスター捜査官に取り次いでもらいたい。」


 良くも悪くも組織内で有名な不良警官のコードネームではない、本名を告げられて受付嬢は少し考える。
捜査官は基本的に自身の名を明かさない物で、それを知っているとなれば信頼ある人物、もしくは信頼に足る者から紹介…


  [IRPO]受付嬢「失礼ですが、ご用件をお伺いしてもよろしいでしょう?」

     ブルー「とある人物から彼にこのディスクを渡して欲しいと頼まれたのだ。」


  [IRPO]受付嬢「…。わかりました、では応接室の方へどうぞ。」

―――
――


 通された部屋は一面に赤糸で紡いだ絨毯が敷かれた会議室の様な間取りで中央に大机が置いてあり、それを取り囲む様に
茶色い革ソファーが八脚程置かれていた、通された一行は件の刑事が来るまでの間、椅子に腰かけ談笑に花を咲かせたり
キョロキョロと応接室の内装を落ち着かなさそうに眺めたり、出された茶を啜り頬杖を突いたり…三者三様に待ちぼうけた

 どれ程、待ったことだろうか?ブルーが空っぽになった湯飲みの底をぼんやりと眺めていた時、陽気な声と共に彼は来た



  ヒューズ「いやー、待たせたね。なんかウチにヤバい案件のタレコミに来たんだって?………んっ?」ピタッ



 ロスター捜査官は術士の顔を見て、歩みを止めた。時を同じくしてブルーも彼の顔を見て固まった。




       - ブルー『自己紹介がまだだったな、ブルーだ』 -

    - ヒューズ『俺はヒューズ、見ての通り[IRPO]所属の刑事だ、そっちの小僧はレッドってんだ』 -





  ヒューズ「あっ、アンタはあの時キグナスに乗ってた術士じゃないか!」

   ブルー「そういうお前は…あの気に喰わん名前の奴と一緒に居た…!!
               そうかヒューズという名、何処かで聞いた様な名だと思ったが…お前の事だったのか」


  リュート「えっ!?なんだブルー、お前さんこの人と知り合いだったのか?上京したての頃に俺もバーガー屋で…」



   アニー「……なんていうか、世間ってかなり狭いわね。会う人が大体誰かと誰かの知り合いじゃないの…」ハァ…



   アニー「あー、知り合いなら話は早いわね、ブルーが受付の子に用件を伝えた後であたしも付け加えたけどさ」

   アニー「あたしは"ルーファス"のお使いで派遣されたアニーよ、よろしく」



  ヒューズ「ほぉ~?ルーファスん所の…」ジーッ


   アニー「?」

  アニーの胸『 』ボインッ!



  ヒューズ「…なるほどなぁ、ルーファスの奴め良い部下持ってるじゃねぇか~!」デヘヘ


―――
――




 ヒューズ「……えー、つまりアンタ等はモンドの野郎が裏でコソコソやってる悪事の証拠データを持ってきたと」ヒリヒリ



 頬っぺたに出来た真っ赤な紅葉をまだ抑えながら、ヒューズは受けた説明を確認するように問う。
先程まで鼻の下を伸ばしながらアニーの胸を凝視していたのとは打って代わり真面目な顔で彼は言葉を続ける…
平手打ちの乾いた音が反響するくらいには程良い間取りの会議室でジロリと一行を一瞥しながら。


 ヒューズ「事情は分かった。だがね、ハイそうですかじゃあウチの方で見ますねと直ぐにはならんのだよ。」

  アニー「は?なんでよ…」


 ヒューズ「仕事柄でね、色んな所から恨みを買っちまうんだよウチは。」

 ヒューズ「分かるかい?レオナルド博士からの紹介っつーことで一定の信頼はあるけどな
          お巡りさんトコのPCをハッキングされたりウイルスを送られたりとかそーいうのあんだわ」


 ヒューズ「お役所特有のクソめんどくせぇ手続きだの申請だのと色々必要なんだよ…。」ポリポリ


 ヒューズ「持ち込まれた"ネタ"もネタで特級にやべぇ奴だし、これ開示するにあたってアンタ等の素性も問題になる」



 ヒューズ「何よりパトロールの活動に協力してもらわにゃならんのよ、規則なんでね」


 "規則だから"彼は術士にそう言い切った。


 [IRPO]では"盾のカード"を欲する旅人が後を絶たず、資質の為にカードを集める者と同行して任務をこなし
その人物の人間性、器量、力を得た後でそれをどのように使いこなすか…悪事に転用しようとする傾向があるのか等を
見定めるという一環がある。



 ……生憎と"ヒューズはブルーという人物の人柄を直接その目で見ていない"



 キグナス号で確かに双子の弟のルージュとは出会い、直接言葉を交わし…彼が温厚で正義感溢れる人物であると理解した
だが対して僅かな時間とはいえ邂逅のあったブルーは紅き術士とは正反対に、「自分が気に入らないから名前だから」と
そんな理由で手を組む事を否定し、更に船が動かなければ自分が困ると…

 要するに言ってしまえば自己中心的な性格と、あの時に見受けられた。


 自分さえ良ければ周りがどうなろうと構わない、そういうタイプの人間は自分の利益の為に殺人や盗みなど犯罪にも走る


 …無論、それは極一部の例であって皆が皆そうではないのだ。だが彼が絶対的にそうでないと言い切れる保証も無く
紹介があったから流石に無いと思いたいがブルーが実はモンドか[IRPO]に敵対的な誰某に金で雇われたスパイの様な存在で
レオナルドからのディスクと称して[IRPO]にとって不都合なスパイウェアにすり替えて此処に来たという線もゼロではない


 刑事なんて職業やってれば人を疑うのは間違っちゃいない。故に"盾のカード"譲渡を含む重要案件が転がり込んだ場合は
馬鹿馬鹿しい話だと思うが、パトロールの任務活動に協力するという規則が付いて回るのであった



       ブルー「わかった。何をすればいい?」

      ヒューズ「物分かりがいいな。」






      ヒューズ「[ムスペルニブル]に行くぞ。」ニィ



 パトロールの活動を協力してもらう、その一環として彼は兼ねてより組織が抱えている"人材不足"という案件の解決と
ついでに上司に頼まれていた山頂に咲く黄色い花の採取をしようと考えたのであった。


  ヒューズ(…にしても、本当にそっくりだぜ…流石は双子ってトコか?ルージュの奴とは性格も雰囲気も違うが)

―――
――


【双子が旅立って14日目 午後16時26分 [ムスペルニブル] 】


―――――ヒュォォォォォ…


 氷炎の地と称される"惑星<リージョン>"…大地は永久凍土に覆われ吹き荒ぶ風が何者をも凍てつかせる風を呼び
広がる空は煉獄という単語を思い起こさせるほどに燃え盛る、険しい環境の土地であった

 間違っても観光旅行で来たくない場所No.1に輝く地獄みたいな"惑星<リージョン>"がここ[ムスペルニブル]なのだ

 そんな辺鄙な場所なので当然の様に定期船は全くと言っていい程無い。あの[クーロン]からでさえ日に一便どころか
1週間で一度出航するかどうか怪しい土地なのである

 しかも、険しい土地ゆえに此処にまともなシップ発着場を建設・運営するというのはほぼ不可能で
地獄に居を構える【とある御方の宮殿】に直接寄港するという形式を取っている…その宮殿の主というのが妖魔の君という
相当地位の高い御人なのだが、…人間社会と交友を持つ妖魔の例に漏れず相当な変わり者で(比較的に)他種族に対しても
友好的に接してくれる器量を持った愉快な花火職人でもある


 常に娯楽に飢えてるから自宅の一部を改築して星の海を越えて船が寄港できる乗り場を玄関にわざわざ用意して"指輪"を
求める冒険家、あるいは"術に関する探究の旅"をする旅人、…模範的な解答と真逆を行く"おもしれー奴"と呼べる風来坊等
 そんな連中が何時の日か自分を尋ねにやってきてくれるだろうことを心待ちにして宮殿の主は発着場を政府に提供した




 さて、長々と語ったがつまり何が言いたいかというとだな…  山 中 に 向 か う 船 が 無 ぇ っ!!




 一般的な公的機関の"宇宙船<リージョン・シップ>"は先も述べた通り【ヴァジュイール宮殿】直通ルートしか存在せず
間違っても途中下船は出来ない、指輪の君と畏れられるヴァジュイール様の御力で炎上する空に亀裂を作り
機体が凍結したり熔解しない様ちゃんと結界が張られた進路を進むのが普通であって恐ろしいモンスターが生息する山中に
間違っても直接降りるというのは普通に有り得ない

 特殊任務の為に耐久性と渡航能力に秀でた[IRPO]専用のパトカーに酷似した船でも業火の空の小さな綻びを潜り
唯一降りれそうな地点に降り立ってから徒歩で山頂まで目指すしかないのだ…間違ってもシップで直接山頂まで乗りつけて
目当ての黄色い花を持ち帰るだとかいう反則技はできない



   アニー「へっぷしぃっ!!」

   アニー「うううぅぅぅ…さ、さぶぅっ!!!」ブルブル…


   ブルー「…当たり前だろう、そんな薄着同然の恰好で来ればそうなる馬鹿か貴様は」


   アニー「あ、あ、あ、あアンタはいいわよっ!そんな首元に温かそうな毛皮巻いちゃってさぁぁぁ!」ガタガタ


   サンダー「まぁまぁ…!アニーさん落ち着いて、ほら?パトカーで上空に居た時は蒸し風呂みたいに暑かったよ」

   リュート「そうそう、周りの空気が燃えてて車内も冷房効かせてんのに暑くて、厚着のブルー馬鹿にしてただろ~」


   アニー「ずずっ…うぅっ、そ、そうだけどさ…確かにアンタ見てて暑苦しいわねぇって汗だくなの笑ったけどさぁ」


   ブルー「…はぁ、仕方ない羽織っている上着を貸してやるか、リュートが」


   リュート「えっ、オレェ?」


    アニー「りゅ、リュート…そのヨーク綿の服貸しなさいよ~」ガシッ、グググッ!
   リュート「あっ、ちょ!まずいって!!こんなトコで脱がさないで~!…ぎゃああ寒いぃぃぃ!!雪が!雪がぁ!」


 極寒の大地に脚を降ろした術士一行は来て早々に騒いでいた、青年の上着をはぎ取ろうとする女と、それを必死に
引っぺがそうする青年、そんな二人を見てオロオロとする豪鬼とゲル状生物…一人だけ蒼の法衣とマフラー代わりにした
霊獣の毛皮ショールでぬくぬくと暖を取り目の前の諍いから目を背ける術士


   ヒューズ「…あー、本当におたくらと一緒で大丈夫かね、こりゃ…」


 この纏まりの無いパーティーに一抹の不安と危機感を覚えるパトロール隊員がその場に立ち尽くすのであった

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 凍土の山を昇りながら術士は捜査官に尋ねる、この山の山頂に咲く黄色い花を採取する任務の手助けをするというのは
説明されて分かったが、もう一方の[IRPO]の人材難を解決する手立てにも手を貸す、というのはどういうことなのか


 ヒューズ「よく聞いてくれたな、昔ちょいとばかりに小耳に挟んだ話さ。」

 ヒューズ「この山の何処かに[氷漬けにされた朱雀]がいるんだよ」


 険しい環境の山である為、ここには最上位モンスターの[朱雀]が生息しているわけなのだが…どういうワケだか
一体だけ山の中腹に氷漬けにされた[朱雀]が居るのだ

 指輪の君が居を構える山だ、そこそこに妖魔が出没するらしく…女性型の妖魔が顔馴染の相棒と共に
悪戯で凍らせて封印しただとか噂されているそうな
 とどのつまり、この捜査官は件の神鳥を助けて恩を売り、[IRPO]の隊員として迎え入れようという魂胆なのだ



  ヒューズ「――――つーわけで、優しくてナイスガイな俺が[朱雀]を助けて勧誘しようって事よ」

   ブルー「…そう上手くいくものなのか?助けた瞬間に襲われる可能性もあるのではないのか?」


  ヒューズ「なぁに、その心配はないさ。[朱雀]ってのは高位のモンスターなだけあって受けた恩義は忘れねぇんだ」

  ヒューズ「基本的に話の分かる種だから、自分から相手の縄張りに土足で踏み入るとか無礼が無ければ襲って来ない」



 とりあえずは神鳥を悪戯感覚で氷漬けにした雌型妖魔を見つけて適当にしばき倒して、救援に来る相方の[霜の巨人]も
ボコボコにして氷の呪いを解呪するように交渉を持ちかけるという主旨を彼は語った
 そう上手く話が行くだろうかと疑問に思いながらもブルーは彼の隣を歩いて山中を進んでいく…そして道中にて



  リュート「へっっぶしぃぃ!!!」ブルッ

  リュート「うぅぅぅ…ささささ、さみぃ!!アニーの上着取られちまったぜぃぃ…!」ガタガタ


  サンダー「アニキ…しっかり!…何処か暖を取れそうな所は…」キョロキョロ

  サンダー「んん?」ピタッ




 山道にある謎の洞穴『 』




  サンダー「あ、あれだ!丁度良い所に洞穴がある!あそこで焚き火でも起こせば温まれるぞ、オイラ見てくる!」ダッ


   ブルー「!? お、おい!勝手に先行するな馬鹿!」

  サンダー「大丈夫だよー!ちょっと様子見てくるだけだからー!それにアニキだけじゃなくて皆も冷えてるからー!」

   ブルー「違うッ!そういう問題ではな―――」


 険しい雪と寒さに覆われたし土地ならばビバークするには最適な洞穴で暖を取るというのは選択としては間違ってない
ただしその際には注意点があるのだ…冬山の登山客が遭難した際に緊急避難先として洞穴に逃げ込むのはよくあるがそこに
冬眠中のクマが居て、春先までの保存食第一号になってしまうというケースもあり得るのだ


 こんな険しい環境下の"惑星<リージョン>"ならば洞穴に潜んでいるのは熊どころの騒ぎではない…!!



        サンダー「  ウ  ワ  ア  ァ  ー ! ! 」



  リュート「サンダー!?」ダッ!!
   アニー「あっ、リュート待ちなさいよ!」

   ブルー「ええぃッ…遅かったか!」


 舌を打ちながら術士と隣にいたパトロール隊員がサンダーの身を案じて次々と芋づる式に仲間が入って行く洞穴へと足を
踏み入れた、そこで見た物は洞穴の奥で輝きを放つ金銀財宝の山とそれを護る番人か何かの様に咆哮をあげる2頭…!
 燃え盛る火を連想させる[赤竜]とそれよりも一回り大きく、黒々とした鱗を持つ[黒竜]であった…ッッ!!


 鬼が出るか蛇が出るか。


 答えは竜が出た。


 洞穴の中に潜む2頭のドラゴン…剥き出しの牙を覗かせながら炎の吐息を漏らす[赤竜]と、その竜が蜥蜴の赤ちゃんに
思えてくるくらいには凶悪な[黒竜]が塒に飛び込んで来た保存食を睨みつける

 赤いのは兎も角、黒い方は大問題だ…


 希少種のドラゴンでありあらゆる攻撃を防ぎきる頑丈な鱗と皮膚、防御面も然ることながら攻撃性も相当に高い
[タイタスウェイブ]を始めとして一撃で命を刈り取る[デスグリップ]や[石化ガス]のブレスを吐き出し敵対者を石に変える


  リュート「さ、サンダー…!!」


 弦楽器を背負った青年が洞窟に踏み入れ見た物は二頭の竜…の眼前にて恐怖の表情のまま文字通り石化した弟分の姿…!
恐らく[黒竜]の吐き出したブレスによって変えられてしまったのだろう




  ブルー(くっ、これは不味いぞ…)




 自分達は[グレートモンド]を倒した。

 あの時とは人数も戦力も大分違うがそれでも実力には確かな自信がある
ドラゴンを相手取ったとしても連携を組んで攻め続ければ勝ち筋は十分に見えはするのだ…。然しながら問題がある


 "このパーティーは【状態異常:石化】を治せない"という点だ。


 スライムが一角獣の姿に成ることで使える[マジカルヒール]を以てしても石化だけは治せないッ!
術の力で治す事ができるがその術がよりにもよって[印術]の反術である[秘術]なのだ
 印術を選考したブルーには[杯]を唱える事はできない、従って石化を解くには竜を倒すことで解除するか
デカい石像と化したサンダーを引き摺って一時退却して医療機関にでも連れてくかの二択


 …長期戦は不味い、―――1人、また1人と石化すればそれだけ戦力は減る、石化解除が不可能ならばそのまま全滅もある


  ブルー「汝、現世においてあらゆる束縛から解き放たれん!――[解放のルーン]よ!」フォンッ!フォンッ!


 そこまで考えて咄嗟に彼は印を切った、この戦闘で懸念すべきは人数の欠員が出る事、欠員を出す一番の要素は石化だ
ならばルーンの加護を付与して予防線を張るべきだ、勿論最優先は我が身である
 自分が真っ先に落ちれば[解放のルーン]を使える術者が居なくなるのだから。


         「グオオオオォォォォン!!」


 竜共が吼える、赤は雄々しく叫びをあげた後に息を吸い込み体内から熱を放出する準備を、黒は呪われし吐息を溜め込み
吐き出された[火炎]と[石化ガス]の二種が交差するように吹き出される


   ヒューズ「やべぇっ!!おい!リュート恨むんじゃねぇぞ!!」ゲシッ!


 危機を察知した不良刑事はすぐさま前に飛び出し"サンダーの石像に蹴りを放った"…ッ![キック]を見舞われた豪鬼像は
ずしんっ!と音を立てて倒れる…。戦闘面においては無数の修羅場を潜り抜けてきたヒューズだからこその判断
 彼は石化中のサンダーを盾にするという機転を利かせたのである

 [黒竜]程の強きドラゴンの力で石化させられたのだ、目の前の二頭と自分達の猛攻がぶち当たったとしても砕けない
背丈も横幅も人の倍はあるサンダーであれば遮蔽物の無いこの洞窟内に置いて丁度いい土嚢代わりになる

 真っ赤な猛火と黒々としたガスが噴き出され、倒したサンダー像の懐に滑り込んで来た捜査官やリュート、スライムが
息を止めてガスを吸わぬ様に耐え忍ぶ…


  リュート「あちちっ…!!背中に当たってるサンダーが焼けてるせいで…このままじゃ石焼芋になっちまうぜっ!」

  ヒューズ「直火焼きか彫像になるよかマシだろ!!――それよりブルーとアニーはどうなった!?アイツらいねぇぞ」


 ブレス攻撃が止まり、彼らが武器を手にサンダー像の影から様子を伺う…如何にサンダーが大柄でも全員が
隠れられる体格ではなく更に言えば距離も離れていた、比較的に像から近かった3名は間に合ったがあの位置では…!



 「ッ~…ッッ!」



  リュート「ハッ!その声は…ブルー!大丈夫だったのか!?」バッ



 声の方を振り向けば法衣が所々焼け焦げ、火傷に歯を食いしばる術士の姿がそこにあった
肩で息を切らせながらも剣を手に眼前の竜を睨みつけるブルーにリュートが駆け寄る


  リュート「アニーはどうしたんだ!?」

   ブルー「…」フイッ


 答えず、ただ視線を向こうへと向ける…その眼差しの先を追えば、そこには…


 リュート「うっ…!」ゴクリッ




  石化したアニー『 』




 利き手に[刀]を握りしめながらもう片方の手で口元を覆い、咽返している彼女がそのままの姿で石になり果てていた
間違いなくこのパーティー内で1、2を争う最高の物理アタッカーがこの戦線から脱落したことを意味する…ッ!

 高い"STR<筋力>"から繰り出される多様な技を使うサンダー、同じく高火力の剣技を放てるアニー


 直実にこちらの人員は削られている…っ!もう4人しかいない、5人連携技も望めぬ状態になってしまった…ッ!



  リュート「…こいつぁ、ひょっとしなくても不味い展開ってヤツか?」タラーッ

   ブルー「見りゃ分かるだろうが阿呆め…ああなりたく無ければそこでジッとしてろ今[解放のルーン]を掛ける」



  ヒューズ「待ってくれ、先に俺に掛けてくれや……そうすりゃ全員分の時間くらい稼いでやるぜ」



 弦楽器の青年に加護を付与しようと印を切る直前でロスター捜査官が声を掛けた、「やれる保証はあるんだろうな?」と
尋ねる術士に対して「ったりめーだろ」と彼は返す…。蒼き術士はジャケットの男へと印を切り出したのであった…

―――
――



「グルルルル…」
「グゴォッ」


 二頭の竜は自分達の吐き出したブレスで燃え上がる炎の中をジッと見つめていた。赤々とした熱のカーテンの向こう側で
蠢く人影が数体…最初に縄張りに飛び込んで来た[オーガ]の石像を巧い事利用して餌達が難を逃れたのは彼らも理解した
 燃える幕の向こう側に後何匹無事な者が居るのかまでは生憎と分からない

 だが間もなく吐き出した炎は完全に消える、そこからは的確に1匹ずつ仕留めて行けばいいだけの話と考えた…


 弱肉強食の世界に置いて上位に立つ彼らは焦らず疲弊しきった餌達の姿を見てから次の一手を掛ければいいのだと。
所詮は群れねば何も成せぬ弱者の集まりであろうと


―――――だからこそ一人の男が炎の壁を突き破って突撃してきた事に驚いた



 ヒューズ「――るァ!!喰らいやがれクソ蜥蜴が!」


 ピーカブースタイルのガード姿勢で炎を突っ切って来た黒ジャケットの男はそのまま拳を振るい、[赤竜]の下顎を殴り
アッパーをかましたと思えばそのまま相手を掴んで何発も何発もひたすら殴打する[どつきまわす]行為に出た…ッ!


 紅き竜は角を掴まれそのままひたすらに殴られる、[黒竜]は同胞に襲い掛かる矮小な生物を硬化させてやりたかったが
今[石化ガス]を打ち込めば[赤竜]をも巻き添えにしてしまうと改めて鋭い爪で人間のみを弾こうと試みた


 ヒューズ「ぐあっッ」ザシュッ、ドサッ!

「グ、グゴオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!」


 ワナワナと肩を震わせた[赤竜]が怒声を上げてヒューズを尾で岩壁に叩きつけ、先程の再現の様に黒の竜と
呼吸を合わせた2種のブレスを浴びせる、[解放のルーン]のお陰で彼はその身が石になってしまうことは無いが
人体に有害なガスと燃え盛る[火炎]を同時に受ける


 二頭がブレスを吐き終えた頃には、焼け爛れた男が石壁から力なくボタリと地に落ちていく…


"これでまた1匹数を減らしてやった"


 竜達はそう内心で嗤い、次なる標的を求めてヒューズから視線を逸らそうとした…その矢先―――



  ――――BANNG! カンカンカンッ!




「グギャオッ!?」ブシャッ


 [赤竜]の眼球が弾けとんだ、銃声と共に岩窟内を跳ねまわった[跳弾]が竜の急所を…眼球という鍛え様の無い一点を
正確無比にぶち抜いたのであるッ!彼らは直ぐに銃声のなった方を見る…





  ヒューズ「スゥーッ、ハァーッ スゥーッ、ハァーッ…ったく、今のでこの俺様を殺れたとでも思ったか?大間違いだバーカ!」




 先程、"致命傷を負わせたと確信した相手が何事も無かったかのように起き上がり"、銃を此方に向けていた…ッ!



  ヒューズ「昔取った杵柄って奴さ…持ってて良かった[克己]ってなァ!不死身のヒューズ様を甘く見んじゃねーぞ!」


 その昔、ルーファスと共に[京]で[心術]の資質を得る修行をした彼だからこそ使える[克己]…ッ!どれだけ死に掛け様と
精神を一点集中させて体内の気で完全回復を可能とする術…っ!
 仕事柄、[IRPO]隊員にとって命の危機なんてものは日常のようなモノだ、特に鉄砲玉の様な性格の彼は尚の事
致命傷を負っても直ぐに復帰できる自己回復能力と彼はこれ以上ない程に相性が良かった


  リュート「ぬおおおおりゃあああああぁぁぁぁ―――ッ!」
  スライム「(`・ω・´)ぶくぶくぶー」パカラッ!パカラッ!


「!?」



            4連携 [ 諸 手 跳 弾 エ ナ ジ ー 角 ]



 リュートが一角獣形態をとったスライムに騎乗して丁度掻き消える寸前の炎の中から現れた、一角獣は身をブンと振るい
乗っていたリュートを射出、放り出された勢いの儘…柄を両手でしっかりと握りしめた[諸手突き]の姿勢のリュートが
[赤竜]の腹部にダーツの矢が如く突き刺さり、それに少し遅れてもう片方の眼球にヒューズが放った[跳弾]がぶち当たる

 腹部と眼球の痛みに竜は身体を大きく仰け反らせ泣き叫ぶ様に天井へ首を向けて哭く


 紅き竜が悲鳴をあげた刹那、サンダー像の影から飛んできた魔術師の思念の鎖が[赤竜]の首に絡みつく
その様は西部劇に登場するカウボーイが牛の首に投げ縄でも引っ掛けたようだった…、術力で構築された念の鎖は
天井を見上げる様にあげられていた竜の首をそのまま念力で下方に向かって勢いよく引っ張る

 身体を大きく仰け反らせていた[赤竜]の首は大地に向かって引っ張られるのだから当然、前のめりに倒れ込む…そして
倒れ込むその先には、リュートを投げ飛ばした後すぐに滑り込んで来た一角獣の立派な[角]が…ッ!!


―――ブヂャッッッ!!


「グギャッ!! ギャッ …ッッ ッ"―――!!」


 前のめりに崩れ落ちた[赤竜]の顎下から脳天まで、そこには[ユニコーン]の[角]が深々と刺さっていた。
さしもの竜と言えど脳髄まで貫通されては生きてはいない

 一連の流れの下、彼らは竜を一体討ち倒したのであった


「ッッ!! グ、グオオオオオオオオォォォォッッ!!」


 残された[黒竜]は同胞を斃した者を石に変えようと[石化ガス]を吐き出す、だが…もう遅い!




 ブルー「無駄だ…貴様らはヒューズに時間を掛け過ぎたな、もう全員に[解放のルーン]を掛け終えている…」コツッ、コツッ

 ブルー「[デスグリップ]や[タイタスウェイブ]と脅威はあるが…最大の危険因子を排した今、貴様は恐るに足りん」



―――[バカラ]の地下で[巨獣]との激戦、[ワカツ]における強敵達との死闘、カバレロ一味の秘蔵の殲滅兵器…etc


 この面々は決して弱くはないのだ、何なら国家転覆を企む野心家を倒してリージョン界を一回分くらい救ってるレベルだ
ただ【石化】という状態異常にどうしようもなく手も足も出せなくて危うく全滅仕掛けたというだけの話


 この山に住む[黒竜]と[赤竜]は一般的な個体よりも間違いなく強い、険しい自然環境がそうさせたと言えよう
そんな彼らの想定外は彼らよりも戦闘能力が上の者達がやって来たという事だ
 これが1対1のタイマンなら単純な個としての戦闘能力とお得意の石化なんて搦め手で完勝だっただろうが
搦め手が通用しなくなって連携を取られたとあってはこうなるのも道理だったと


「グッ、グゴッ…!」


 ジリッ…ジリジリッ…!

 先程まで餌だと認識していた連中がにじり寄って来る、自然界のヒエラルキーに置いて絶対に位置していた竜は今
初めて喰われる立場という物を思い知るのであった……ッッ!!

―――
――




  アニー「……んっ」パチッ

  サンダー「ああっ、アニーさん!!良かった目を覚ましたんだね!」


  ヒューズ「った~く、ちったぁ反省しろよサンダー」

  サンダー「うぅ、ごめんよぅ…オレ、アニキや皆の役に立つと思って…」シュン


 黄金色の髪を持つ女は焚き火の音で目を覚ました、自分はどうなったのだろうか?
確か黒い竜の吐き出したガスを吸ってしまってそこから意識が無い…。


   アニー「……あー、まだ頭がボーっとする…けど、こうして無事って事は勝ったってことよね」

   ブルー「まぁな、ほらよ」スッ


 身体中がまだ硬くてぼんやりとしたまま額に手を当てて独り言ちるアニーの声に答えたのは湯気立ち昇るカップを持った
蒼い法衣の魔術師であった…手渡された陶器の中の泥の様な黒さとカフェインの香りは少しだけ彼女の意識を覚醒させた


   アニー「あたし等の持ってきた豆じゃないね、コレ…香りが全然違うし」ズズズッ…

   ブルー「…奥の先人達の私物だ、ギリギリ消費期限切れじゃないから安心しろ」ズズズッ


 女の問いに対してコーヒーを啜りながら答えた男の表情が苦々しいモノだったのはブラックだからというだけじゃない
宇宙旅行中の事故で遭難した者、[ムスペルニブル]にやってきた密猟者…宝探しに来た盗賊、先人達も寒さから逃れる為に
この洞穴に逃げて来て…そして喰われたのだろうというのが"奥の様子"を見てきたヒューズの見解だ



 アニー「うへぇ…目覚め早々でにっっがい話ねぇ~…」ズズズッ


 お砂糖もミルクも無いブラックコーヒーを啜りながら"奥に居るであろう変わり果てた先人達"の姿を想像してしまう
尚、彼らの持ち物と思われる[オクトパスボード]や[ロードスター]、[ゴールデンフリース]などの希少品と金品もあるとか
所有者は死後相当な時間が経過しており身元の断定も難しいパスポートも大半が焼けてる、この場合は[IRPO]隊員の指示に
従って拾い物をどうするか…という話だが、どうやら彼の特権で奥のモノは術士一行に譲渡するらしい。

 任務に付き合わせたお駄賃半分、もう半分は今後も険しい山道になるのだからコレで装備を整えろ、という事らしい。

 おっかない蜥蜴を2匹ぶちのめしたお陰で身元不明の遺体も船に乗せ帰って検死に回せるし供養もできる
バチは当たらんだろうさ、と不良刑事は手をひらひらさせながら言った


  ブルー「もうしばらくは、此処で暖を取るぞ…身体が十分に温まったら出発だ」

  アニー「はいはい」ズズズッ


―――
――




【双子が旅立って14日目 午後19時51分 [ムスペルニブル] 】


 洞穴を出立して山道を歩き始める、空を見上げ瞳に映るのは宵闇を覆う程の真っ赤な炎のベールだ
こんな環境の"惑星<リージョン>"故に夜が近づいていても辺りは暗がりに包まれはしない

 竜達に襲われた被害者の遺品を有難く頂いた彼らは使える防具は装着、道具はいつでも取り出せる場所に携帯し
目当ての妖魔を探す…最初は吹雪の中だから視界も悪く何度か洞穴に戻っては暖を取る出戻りも多かったが
歩いて少し戻った地点で飛び回っていたのをサンダーが発見した

 声を掛ければ泉の精を思わせる相手が嘲る様な笑みを浮かべて襲い掛かってきたので返り討ちにする


 オンディーヌ『シクシク…ヨクモ、ヨクモ! アナタタチ、ユルサナイワ…!』


 ヒューズ「確かにレディに手を上げるのは紳士な俺様らしくないがね、先に手を出してきたのはアンタが先だぜ?」

 オンディーヌ『トモダチ ノ シモノキョジン ニ コロサレチャエ!!』ダッ!


 ヒューズ「あっ!オイ待て…あ~あ行っちまったよ…悪戯感覚で他人を氷漬けにすんじゃねーぞって説教してねぇのに」


 目当ての神鳥を氷漬けにした[霜の巨人]は何処に居るのか、それを聞く前に妖魔は飛び立ち山の中腹へと向かっていく
あそこに相手が居るのか、何にしても後を追わねばと術士一行は[ムスペルニブル]の山道を進んでいく

 道沿いに歩いて行き山中洞窟の中に足を踏み入れると岩肌を背に横たわる人骨と辺りに散らばった荷物が落ちている
襤褸の布切れや柄部分がボロボロの手斧…これも先の洞穴で見た遭難者のなれの果てかと?警戒しながら歩いて行く


 すると…


カタッ! カタタタッ!


   リュート「何の音―――うげっ!?死んだ人が動き出したァ!?ナンマンダムナンマンダム~!」

    ブルー「なに馬鹿な事を言ってるよく見ろ!あれは[スパルトイ]や[マッドアクス]だろうがッ!」


 冒険者や密猟者を襲うべく遭難者の成れの果てに擬態していたのだろう動く人骨や意思を持つ手斧…襤褸布は[ワカツ]で
戦った[ゴースト]へと姿を変えて一行へと迫って来る…一々相手取るのも面倒だと一気に洞窟内を駆け抜けようと決め
天井から落ちてくる[ゼノ]や更に奥で待ち伏せていた別個体の人骨達を撒いて彼らは洞窟の行き止まりに辿り着く


   リュート「なぁなぁヒューズさん、もしかして俺達道を間違えちゃったりしたかな?」

   ヒューズ「かもしれねぇな…さっきの分かれ道で右側に思わず走っちまったが、左が出口だったか…」ポリポリ


 冷凍庫の中にでも迷い込んだかと錯覚するほどに寒い…このフロア全体が奇妙な凍気に満ちていた
4人と2体は目前にある異彩を放つ氷のオブジェを眺めながら道を間違えたなと一同に思った…。


 "氷漬けの燃え盛る鳥"が飾られたその部屋に立ち尽くしながら…。


 それは神話に登場する火の鳥であった……氷漬けで尚その姿は美しく現代アートだと言われればそのまま頷きそうな程に


  アニー「コレが氷漬けの[朱雀]ってヤツね」ジーッ

 リュート「ひゃ~…すっげぇな、燃えてるのに凍ってるぜ、シュールだなー」


  ブルー「コレの封印を解けばいいんだよな?」クルッ


 ヒューズ「そうさ、さっきボコした妖魔の相方をしばき倒せば氷が溶ける…
       恩を売りつけてウチの職場でバリバリ働いてもらいたいがね…打算抜きでも万年氷漬けってのは可哀想だ」


 早いトコ探しに行こうぜ、踵を翻してその場を後にする捜査官に他の面々も続いて出ていくのであった…

―――
――



 氷漬けの神鳥を後に来た道を戻り次は分岐路を左側へと進む……外の光が少しだけ漏れてきている、どうやらこの道で
合っているらしい―――山の中腹に出て彼らが目にしたのは一面氷の湖だ、完全に底まで凍り付いていて表面を歩いても
砕けて落ちて溺死…なんて事にはならなさそうで安心する

 獣系統のモンスターが3体スケートリンクで遊ぶ子供よろしくとツルツル滑ってその辺の"雪だるま"に
突っ込んで遊んでる姿しか見受けられない…話に聞く神鳥を凍らせる程の魔人は姿かたちも見えない


  ヒューズ「…っかしいな、確かに[オンディーヌ]はこの辺に向かって飛んでったはずなんだがな…」

  ヒューズ「奴が逃げた先に相方は居る…そうアタリを付けてたんだが、外しちまったかな」キョロキョロ


   アニー「どう見ても[バーゲスト]3匹と"雪だるま"ぐらいしかないわよね…あっ、また1匹その辺の奴に激突した」




  スライム「Σ(・□・;) !?」バッ!

  スライム「(;´・ω・)ぶくっ!ぶくっ!」ピョンピョン!!!



  リュート「あん?どしたんだ?あの雪だるまが気になるのか?」


 何を想ったのか突然、雪だるまを眺めていたスライムが愕きの感情と共に跳ねあがった
遅れて豪鬼が同じ雪だるまを眺めて身震いしながら「ア、アニキ…あの雪だるまやべぇよ…」と消え入りそうな声で囁く
 モンスター種の彼らが一様に感じ取ったナニカが何なのか…それは周りを観察していた仲間も気が付いた



  アニー「…さっきからあの3匹、アレとあの辺の雪だるまにだけは衝突しない――ううん、それどころか避けてる。」

 ヒューズ「何?」ジッ


 言われてみれば不自然に避けてる雪だるまがある、まるで"触らぬ神に祟りなし"とでも言いたげに
武器を手に術士達は"それ"に近づき――――突如として雪塊は膨張を始めたッ!


  ブルー「―――ッ!全員陣形を組め!奴がターゲットの魔人だ!」バッ!


 ただの二頭身サイズの雪玉が風船のように膨れ上がりあっという間に[巨獣]の様な体積へと変わる
アラビアンナイトに描かれるランプの魔人じみた逞しいマッシブボディの雪塊が緑眼を輝かせながら黄色い牙を覗かせる
 雪だるまに擬態していた巨人が正体を現したのに呼応するように離れた位置にある雪だるまが二つ、本来の姿に戻る


  雪の精A『ヒョォォォ…』
  雪の精B『ヒュゥゥゥ…』


 ブルー「チィ…挟み撃ちか、リュート!貴様は[傷薬]でサンダーとヒューズの援護に回って後ろから来る奴らをやれ!」

 ブルー「スライムは俺とアニーの回復を任せる!可能な限りの連携で一気に押し切るぞ!」



   霜の巨人『 グ モ ォ オ オ オ オオオオオオオ オォォォ!!!!』


 雄々しく雄たけびを上げた巨人は雪で出来ているとは思えない硬さを秘めた拳で叩きつける様な[アイススマッシュ]を
蒼の術士目掛けて撃ち込む、詠唱を始めた術士と剛腕の間に電光石火で割り込む女剣士がすかさず一撃を[ディフレクト]し
巨大な腕を跳ね除けた…っ!


     ブルー「爆ぜろ![インプロージョン]」―――カッ!


 ボジュッ!!!


 術が発動し、光で構築された変形二十二面体の檻が巨人の肘から先を圧縮しては爆破する…雪の塊が蒸発する音に遅れて
魔人の呻きが聞こえ…辺りには蒸気が舞う。



  ブルー「今のは助かった!礼を言うぞ――……アニー、貴様その手は…」

  アニー「っ……気ぃ付けな、[フリーズバリア]って奴だよありゃ…ちょっと弾いただけなのに手がこうさ」


 愚鈍そうな見た目に反して機敏な動きで拳を振るった魔人の初撃を防いだ女の得物は刃先が真っ白に凍り付き
それの柄を握りしめていた彼女の手も凍傷を僅かながら負っていた、痛みはするが武器を振るう分には支障は無いが…


  アニー「ほんの一瞬、弾く際に接触しただけでこれだ…アイツに直接攻撃は悪手だわ、面倒な事にね」


 モンド基地で散々利用したバリア系だ…敵に回られるとこの上なく厄介な能力であることはお互い重々承知済み
ブルーとスライムの術や技主体の攻撃か、剣気を飛ばす手法で切り飛ばす…あるいは突破力のある強い連携で
バリアの発動が間に合わない程に一気に畳みかけて消滅させてやるかだ


  霜の巨人『オデの腕…溶かしたなァ!!!グオオオオオォォォ!!!』


 肘から先が圧縮爆破された[霜の巨人]が雫の滴る断面を術士一行に向けて咆える…するとどうだ!?彼奴の肘先から
放水砲の様に大量の水を高圧で噴出されるではないかッ!!溶けた相手の肉体の一部が意思を持つ水となりて一行を襲う

 弾数にして裕に4発分もの[水撃]が撃ち出されたッッ!


 スライム「(;´・ω・) ぶっ、ぶく!!」バッ!ササッ!


 それを見て直ぐに一角獣から元のゲル状生物の形態へと戻り二人の盾となる様に前に出るスライム、カバレロ一味の
秘蔵兵器が使った[メイルシュトローム]を無効化したように2発までは水の砲弾を取り込み吸収できたが盾となるのが遅い
 残りの[水撃]は防ぐ前に術士と女剣士に当たり、彼らを後方へ吹き飛ばす

―――
――



  ブルー「…ぐっ、クソッタレめ…っ![朱雀]を凍結させるだけの力はあるか…っ!」ゼェ…ゼェ…!

  アニー「水鉄砲ごときでこの威力ってのは厳しいわね…っ」ヨロッ


  ブルー(これはマズイかもしれん、状況を打開できる策を講じねば…っ 何か…何か無いのか!!)キョロキョロ


 遠目に[雪の精]と戦うヒューズ達の姿が見える、あっちはあっちで雪精の放つ[強風]を受けてボロボロの姿が目に付く
リュートの回復支援が入ってどうにか拮抗している状態だ、援軍は……期待できそうにない


  ブルー(うん?一匹[雪の精]が居ない……?どこに―――! あんなところに亡骸が…あいつ等一匹は倒せたんだな)


  ブルー「…。…!待てよ…もしかしたら…アニー耳を貸せ!」バッ!

  アニー「わっ!?な、なによ!?……えっ、…できるけど、少し時間がかかるわよ」

  ブルー「構わん、できるならそれでいい」


 作戦を伝え終えた所で[水撃]のプッシュ効果で後方に飛ばされた"人間<ヒューマン>"組の元へスライムが吹き飛んできた
ゲル状生物の状態で所々氷結しかけている辺り、水鉄砲から間髪入れずの[冷気]を吹きつけられたのだろう…


  ブルー「スライム、貴様まだ動けるか…?」

 術士の問いに、小さくだが「ぶく!」と肯定で返すスライムの言葉を聞き蒼の魔術師は次の様に言った「あれを喰え」と
横たわる[雪の精]を指差して…。


 モンスター種は倒したモンスターを一部でも吸収することで能力を得ることができる、細胞を取り込み
その個体へと成長することが可能だ…

 ヒューズ達が激戦の中でどうにか1体だけ倒せた個体、コレをスライムに吸収させ…目当ての技を引当てられれば…!

 [雪の精]をスライムが取り込む最中、飛んでくる物理攻撃を黄金髪の女剣士に[ディフレクト]してもらい
中距離から術士が発動の早い[エナジーチェーン]で牽制を行う
 攻撃を一見か細い人間の女に防がれ、絶妙なタイミングで瞳などの急所を狙ってヘイトを買って出る術士の連携に
苛立ち始めた[霜の巨人]は多少隙を作ってしまうのを覚悟の上で怒りに任せて息を大きく吸い込み[強風]を吐く準備に入る


  アニー「…はぁ…はぁ…くっ、こんだけやれば流石に手がしんどい…っ!悪いけどあたしはここまでだ!」


 [ディフレクト]要因の剣士が縦横無尽の歩みを止め、その場で立ち止まり得物を持ったまま…静かに目を瞑る
手は何度も氷結界に接触した為、ひどい有様でどんなに頑張ってもあと一振りしか剣も振るえまいと言った所
 そんなアニーを見てようやく観念したかと空気を取り込み更に膨れ上がった巨人は見下ろす

 今から全体範囲に向けて吹き付ける[強風]を受けて、彼らがそれでも立っていたと仮定しよう
盾となる剣士が機能しないのであればもう攻撃は防ぎようが無い、それこそ純粋な拳ひとつで勝てる…


 [霜の巨人]が大きな口を開き、暴風を吐き出さんとしたその瞬間…!






       ブルー「このタイミングだ!!やれェ――ッ!!」バッ!


     スライム「(。-`ω-)ぶくぶくぶーーーーーーーーーっ!!!」ビュオオオオオオオオオオ!!




   霜の巨人『!? ウゴオオオオ!?』グラッ!


 吸収を終えたスライムが飛び出しそして――――"[強風]"を使ってきたのであるッッ!!


 [雪の精]から低確率で取得できる技…それは[シルフィード]と言った風精を撃ち出す技を使ってきたスライムにとっては
容易く使える物で地表から斜め上に目掛けた、魔力を帯びた超局地的な暴風はものの見事に魔人の姿勢を崩す事に成功した

 本来であれば眼下にいるブルー等に対して吐き出すつもりだった相手の[強風]は大きく前のめりに姿勢を逸らすことで
真下に――凍てついた氷の床へと叩きつけられ、そして[霜の巨人]は上方へと昇っていく…!
 宛らシャトルロケットがノズルから火を噴き天へと上がっていくようだ


  ブルー(大気を取り込む際の隙と姿勢を崩したまま空に舞うだけの時間があれば此方も放てるというもの―――)

  ブルー「 [ ヴ ァ ー ミ リ オ ン サ ン ズ ] !! 」


 蒼が放つは紅き大紅玉の嵐、熱を帯びた宝石の破片槍が次々とスライムの[強風]による追い風に乗って雪塊に突き刺さる
[インプロージョン]で肘から先が溶けた時からそう…見た目通り、熱に対する攻撃に耐性が無い彼奴はドロドロと溶け出す


  霜の巨人『グ、ググ…オノレ…!!』


 ドロドロと身体の6割近くが溶けたがそれでも術士の大技を耐えきった魔人は
残り4割の肉体で[ダイビングプレス]を仕掛け憎き魔術師とモンスター種を滅ぼさんと急降下し始める…っ!

 溶け落ちた部分の滴りも既に魔人の力で霜と化し、最早…胴体から下は氷柱の剣山となり果てていた

 今から[ヴァーミリオンサンズ]の2発目を唱えるには少しばかり時間が足らない、詠唱を終えるより先にブルーが
降って来る巨人の身体に潰され圧死する方が早い…もう誰にも止められまいッッ!

  そう[霜の巨人]は思っていた…。



  ブルー「ここまでお膳立てしたんだ!さっきの打ち合わせ通り決めてやれアニー!!!」




  - 手は何度も氷結界に接触した為、ひどい有様でどんなに頑張ってもあと一振りしか剣も振るえまいと言った所 -


 そう…"あと一振りは剣を振るえる"んだ……ッッッッ!!




         霜の巨人『 ナ、ナン ダト ォ ォ ォォ ォ!?!?』ゴオオオォォォ!!





- [ディフレクト]要因の剣士が縦横無尽の歩みを止め、その場で立ち止まり得物を持ったまま…静かに目を瞑る -



 歩みを止めたのは諦観したワケではない。

 静かに目を瞑ったのは最期を悟ったからではない。



 半溶の巨人は辛うじて残っている緑眼で見た、歩みを止めた場から一歩も動かず練り上げた闘気を纏った女剣士の姿を






 - アニー『わっ!?な、なによ!?……えっ、…できるけど、少し時間がかかるわよ』 -

 - ブルー『構わん、できるならそれでいい』 -


 時間の掛かる大技は1発だけじゃあない…2発あったッ!

 揺らめく闘気、極寒の大地に居るのに大火を前にしているような熱量を感じる気迫…ッ!
黄金髪の女剣士は口角を釣り上げ振って来る氷塊を見上げた
 対照的に彼女を見下ろす魔人は本能的に死を悟り表情が凍り付いた…っ!


――――ダンッ!!!


 しなやかなに[柳枝の剣]でも放つような流れる動きと共にアニーは天へと高く跳ぶ
ゆらめく炎…否、太陽の光を思わせる"闘気<オーラ>"を纏った彼女の剣閃が魔人の身体を下から上へと一気に切り裂いた

 無論、言うまでもないが最後のあがきで[フリーズバリア]は展開していた…だがバリアが
対象にダメージを与えるよりも早く術者が消滅しては効力を発揮しない、そういうものなのだ





            アニー「 [ ラ イ ジ ン グ ノ ヴ ァ ] !! 」




 生命の輝きによって生み出された極小の太陽は小規模な爆発を引き起こす
その熱量は神鳥に対し永久凍結の呪いをかけた魔人を[フリーズバリア]諸共溶かすには十分過ぎた…。

―――
――




   雪の精B『ヒョ、オォ、…オ』ドサッ


  ヒューズ「ふぃーっ、こんなもんか…」ボロッ

  サンダー「うぅ…死ぬかと思った…アニキー…[傷薬]欲しいよぉ…」

  リュート「おう、お疲れさんっと…ほらよっ!」ゴソゴソ、スッ…!


  リュート「こっちはどうにか終わったなブルー達の方はどうなって……んおっ!?なんだぁ今の爆発!?」


  ヒューズ「……ほー、あの姉ちゃんやるなぁ、デカブツ結構弱ってたがトドメ持って行っちまったぞ」


  リュート「へへっ、どうやら心配いらなかったみてぇだな!」

  ヒューズ「んじゃま、こっちも合流しに行こうぜ…こんで朱雀の呪いも解けるだろうよ」


 "闘気<オーラ>"を纏った斬撃で魔人を打倒した一行は一度来た道を戻っていた…なにゆえ戻るのか、その疑問を提案者に
ぶつけた者は当然いた、「さっさっと用件を済ませてこんな悪環境から帰還した方がよかろうに」と不良刑事に言うが
それに対して彼は呪いが解けた朱雀に会い、仲間になってもらう為だと口にした

 ここから先は山頂に登り頼まれていた黄色い花を採取してくるだけ…とはいえ道中何があるか分からない
増強できる戦力は大いに越したことはないということだったのだ


 渋々ながら一行は納得してきた道を逆そうした訳なのだが…








   ブルー「で?これについてどう説明してくれるんだ、ん?」


  ヒューズ「あっれぇ…おっかしぃなぁ~」メソラシ





  氷漬けの朱雀『 』カチーン





 [霜の巨人]を倒せば呪いは解ける、それで神鳥を仲間にして[IRPO]の人員も増やせてウッハウハ!!という目論見を
完全否定するかのように目前の凍れる芸術はそこに依然として存在した…。

 聞いてた話と違う。――そう叫びたいのはヒューズも同じであった、然し実際に解呪されていないのだから仕方ない


 ヒューズ「ぐぬぬ…これじゃあ俺様の負担を減らす計画が…」


 頭を掻きむしりながらこれから先も減らない仕事量の事を考え苦渋に満ちた顔をする刑事を尻目に術士は考える
呪いを掛けた妖魔は滅した、にも関わらず解呪できなかったのは何故なのか…
 学院に居た頃に読み漁った多くの本に記された記述を記憶の底から洗い出してみる



  ブルー「……もしや、あまりにも長い年月が経ち過ぎて定着したのか?」

 ヒューズ「なに?」


  ブルー「呪いの中に稀に存在する事象だ、例えば石化…これが千年や万年単位で解かれず続いたとしよう」

  ブルー「保存状態が良ければ何ら問題が無いが、野晒しで酸性雨や暴風に長く晒され罅割れたり欠けた場合
         状態異常を治す為の医薬品や魔術による施術を行使しても元に戻せないというパターンがある…」

  ブルー「昨今の技術力の進展と石化した者への早期発見と応急処置が普及した現代じゃほぼあり得ないことだがな」


  アニー「じゃあ、この[朱雀]は…」

  ブルー「その線が有り得るということだ、この山中洞窟でどれだけの間凍ってたかは知らんが」


 サンダー「…あのぉ、ブルーさん、無理は承知でもコイツなんとかしてやれませんか?見てて可哀想なんだけど」


  ブルー「今しがた説明した通りだ、術者も倒してこの有様ときたもんだ
          呪氷が相手じゃ単純に炎に放り込んでハイおしまいという訳にもいかんさ…」


 ましてや妖魔絡みの呪いだ、妖魔の使う術は"科学的超能力<サイオニック>"の学問でも未解明な点がまだある、と付け加えた
それを聞いて何かを閃いたようにヒューズがハッと顔をあげて叫んだ


  ヒューズ「そうだ!妖魔だ!!…餅の事は餅屋に聞けばいい、なぁんで直ぐに気付かなかったんだ!」

   ブルー「どうした突然?」


 叫びをあげた不良刑事に怪訝な視線をくれてやる蒼き術士、そんな彼に対してニカっと歯を見せて笑いヒューズは言う
「"普通の炎に放り込む"じゃ駄目なんだろう?強い力を持った妖魔の特別な炎ならどうだ?」と


 ヒューズ「ちょっと心当たりがあんのさ!妖魔絡みで強い炎って奴によ」

 ヒューズ「コレが終わったらコイツを[ファシナトゥール]まで運ぼうぜ!」


  アニー「いやアンタ運ぼうぜ…って、簡単に言うわね」


 まずは山頂の花とやらを取って来なければならない、それが終わったらこのデカい氷塊を妖魔の御国に運びましょうと?
とんだ重労働である、道中の竜が居た所にあった遺骨の一件といい何回山を往復することになるんだ…
 パトカー型の船をこの山に乗り捨てる前提で[ゲート]を使えば早いだろうが、そういう訳にもいかんだろう


  アニー「…はぁ、頭が痛くなりそうね」

 リュート「サンダー、お前の頑張りどころかもしれねぇぞ、地元でも祭りの神輿担ぐの得意だっただろ?」

 サンダー「うえっ!?オ、オレ…?そうだけど…」チラッ



  氷漬けの朱雀『 』ズーン…



 サンダー「流石にデカさの規模が違い過ぎるよぉ…」ガックシ






 …この後、術士一行は山頂まで行って、黄色い花を採取しようとした所を別個体の[朱雀]に"縄張りに侵入してきた"と
勘違いされて襲われたり、下山の際も全員でわっせ!ほいさ!と"氷漬けの朱雀"を背負いながら帰路に着く途中で
サンダーがうっかり足を滑らせたりアクシデントに見舞われながらもシップに戻るのだが…それは割愛するとしよう…。


―――――
――――
―――
――



*******************************************************
―――
――




ヒュォォォォォ…



 一陣の風に木枯らしが吹かれていく…





【双子が旅立って15日目 深夜0時00分 [京] 】




  ルージュ「……時間、か。」スッ


 旅館の一室で椅子の背凭れに身を預けていた紅き魔術師がそう呟く
日付はもう、変わった。


 目配せでもする様に湯飲みに口を付けていたレッド少年の方を見やれば彼もまた顔つきが険しい物になっていた
[メタルブラック]との死闘に身を投じた日、戦闘終了後に現れた獅子の如き姫との約束―――その刻限も2時間に迫る


 レッド「俺達はできる限りの事をやったさ、後は姉ちゃんがベストコンディションになるように休養を取らせて」

 レッド「そんで今は[心術]の道場んトコに無理言って奥の座禅部屋も借りてる…精神統一ってヤツをしてるさ」スクッ


 白薔薇姫と体調確認の為にBJ&K、更に何かあった時の為にラビットも護衛としてつけさせている
アセルスと合流して約束の果し合いの地に赴こうと立会人の男二人も立ち上がるのであった…。


 宿泊先から出て橋を渡り[京]の北西に位置する修行場へと赴く、受付の者は彼らを見て静かに来たか、とだけ呟き
奥の部屋に目線を向ける…。
 場所を提供してもらったことに一礼し二人が瞑想の間へと踏み込むと――――



  レッド(! …姉ちゃん見違えたな)

 ルージュ(あ、あぁ…、見た目は何一つ変わっていないのに…これは)ゴクリ




  アセルス「……ん? 二人とも迎えに来てくれたんだね、ってことはもうそんな時間かー」パチッ


 座禅を組む様な姿勢でずっと目を閉じていたアセルスお嬢が目を開き仲間二人の姿を認識した
これから…どう見積もってもあの[メタルブラック]と同等かそれ以上の強敵と1対1で対峙することになるというのに
どこまでも落ち着いた…何事も無いかの様な澄んだ雰囲気を漂わせて彼女は思ったより早かったなぁ~っと言ってみせた


 この数日、彼女との鍛錬に付き合ってきたからこそ分かる

 彼女は以前と比べて明らかに強くなった、[幻魔]を握りしめたとてその力に振り回されることも無い
自らの意志で妖刀を御せるだろうとも

 心は極めて澄んでいる、波風も波紋の一つすらもない澄んだ水面…明鏡止水に至れていると言ってもいい


 ゆっくりと立ち上がり、ん~!と背伸びして歩き出す、そんな彼女に付き添う様に白薔薇姫が
その後ろからBJ&Kとラビットが続いて行く


  アセルス「さぁ!行こうか!」


―――
――



【双子が旅立って15日目 深夜1時58分 [京] 】



 [庭園]へ続く橋を渡り、一行はその場で待つことにした…

 三日前、黒鉄の武人を討ち取ったこの地にて…――――炎上していた[書院]の火は近隣住民の手によって鎮火し
なんとか形は残っていて、また[メタルブラック]の残骸も撤去済みでこうしていると
あの日は何も起きていなかったんじゃないかとすら思ってしまう

 腕を組み目を閉じたまま柳の木に身を預けたままのレッド少年、その傍らに物言わず立つBJ&Kの上に着地したラビット
[庭園]の中央に立るアセルスをじっと見つめたまま微動だにしない白薔薇…

 そんな仲間達の様子を見渡していた紅き術士は天を仰ぐ様に夜空を見上げる…星明りと月明かりが嫌にハッキリとしてて
雲の流れも全くと言っていい程に無い


 天すらも此度行われる決闘を観戦する気でいるのだろうか…


 ルージュは随分前に購入した携帯電話の液晶画面を覗き込む時間は深夜の1時59分……――――




   ルージュ「ぁ…」




 ―――から、たった今、2時00分に変わった。





 コツッ…コツッ…コツッ…



 靴底の音と共に橋の向こうから幽鬼が如く姿を現した黄金の騎士が視認できたのは彼が声をあげるのとほぼ同時刻だった
金獅子姫が…[黒曜石の剣]を携えてやってきたのだ。



 アセルス「獅子姫…。」


 月明りの下、現れた寵姫を見て彼女は名を口にした
[庭園]の中央に立ち対峙する騎士は少女とその仲間達を一瞥する


  金獅子「刻限通りに来られたようですね、アセルス殿…まず約束通り1対1での決闘に応じて頂き感謝します」


 中央に戦士が二人、そこから離れて窺うギャラリーとして術士達一行が立っている…二人の戦いに水を差さない様に
一騎打ちの決闘を見守る為に…!
 たとえアセルスがどれだけの重症を負おうと首と胴体が泣き別れすることになったとしても手出しはしない
それが事前の決め事だ、その代わり彼女が敗けたとしても他の仲間達に危害は加えない


  幻魔『 』スッ


  金獅子「…ほう?見事な業物ですね、ゴサルスが打った物とお見受けします」


 紅く染まった妖刀を鞘から引き抜く彼女を見て金獅子は目を見開いた、生半可な者では[幻魔]を扱い切れない所か
その力に振り回されるだけに過ぎない、しかしそれを手にするアセルスにそういった物は見受けられない


 アセルス「始めましょう」

  金獅子「フッ、そうですね…いざ尋常に参るッ!」



 その一声を口火に両者は動き出した、百獣の王が如く俊足で駆け出し[スマッシュ]を叩き込む動作…っ!
重い[黒曜石の剣]の一撃を[ディフレクト]で防ぎ[切り返し]ていくも獅子姫は右腕に装着した盾でそれを防ぐ
 お互いにノーダメージの初撃…続けて獅子姫は飛び退き距離を開け[冷気]を吐き出す


  アセルス「ぐっ…!」ピシッ、ピキッ…


   白薔薇「アセルス様!!」


 [京]の季節にそぐわない極寒の風、ほんの少し浴びているだけなのに前髪の先から凍り付いて手も悴んで動きが
ぎこちない物になりそうだった、致命的なダメージこそ負わないがこのままでは鈍った所を狩られる…ッ!



  アセルス「[燕返し]!!」シュバッ!
   獅子姫「むぅっ!?」ブシャァッ!


 凍える暴風の中を突っ切り発生源へ飛来する剣技の一撃を受けて獅子姫がよろめく
その隙に素早く呼吸を整えて[克己]を発動させて自身の傷を癒す


   獅子姫「フフッ!そうこなくては面白くない…![払車剣]」ビュオッ!


 額から血を垂らしながらも笑いながら彼女は身を捩じらせ大きく振り被った一振りを放つ
瞬間、"鎌鼬<かまいたち>"が幾つも重なって発生しアセルス目掛けて襲い掛かる―――!



  レッド「あぁっ!姉ちゃん…!!」
 ルージュ「アセルス!!!」


 見届け人である彼らには何も出来ない、ただアセルスの勝利を信じて待つしかない。

 この数日で間違いなくアセルスは強くなった、だが相手もまた強者であった…剣気の嵐に晒され身を切り刻まれた少女は
これは堪らないとばかりに地を蹴り空へと逃れようとするが…!


  獅子姫「甘いっ!」カッ!


 練られた妖気により生じた[落雷]が天高くに居たアセルスの身に落ちる―――ッッ!


  アセルス「きゃあ"ああ"ああ"あ"あ"あ"―――ッ」バチバチィ…!…ドサッ!

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月20日 (水) 20:39:56   ID: S:f7MNOW

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2 :  MilitaryGirl   2022年04月21日 (木) 05:11:21   ID: S:AGJ27_

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