結城友奈「逆行系勇者、三好夏凜!」 (59)


このSSは結城友奈は勇者であるシリーズ全てのネタバレがあります
ゆゆゆいは白鳥歌野の章第2話終了までいっていれば大丈夫です

下記の内容はゆゆゆいで最終決戦が行われたと言う仮定で進んで行きます





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1498283685


*ゆゆゆい最終決戦の後

上里ひなた「皆さんの尽力のおかげで、無事この世界は終わりを迎えます」

三好夏凜(勝利の余韻に浸っていた私たちに、ひなたが申し訳なさそうにそんなことを言った)

犬吠埼風「なんじゃこりゃー!?」

高嶋友奈「わぁ!? 世界がだんだんぼやけてきているよー!」

ひなた「この世界は止まった時間でした。……だから残念ながら、皆さんが戻られた時にはここでの記憶の一切は失われていることでしょう」

乃木若葉「……何となく察してはいた。私の子孫がここでの記憶を持ち合わせていなかったからな。だが、この幸せな時間は例え記憶が失われたとしても確かにここに存在した」

白鳥歌野「ここでの記憶はマイトレジャー! だから、私はこれからも諏訪を全身全霊をかけて守っていける。皆、ありがとね!」

三ノ輪銀「いやー、折角仲良くなれたんだけどなー。未来の二人とも元気で! ……夏凜さん、須美と園子のことよろしくお願いしますね」

夏凜「銀、あんたもしかして──」

夏凜(私が言いかけたその時、世界は一層ぼやけて、眩しくなって、そして……)

夏凜(満足した皆の笑顔と共に、私たちは光の中に溶けていった)




*夏凜のアパート

夏凜「ここは……」

夏凜(見慣れた質素な部屋。最近は友奈達のせいでモノが増えてきているけど、まぎれもなく私の部屋だった)

夏凜「……戻ってきたのね」

夏凜(初代、先代勇者たちと過ごしたあの世界は本当に終わったと言うことなのだろう。……銀、あんたとの約束は必ず果たすわ。誓いを改めて胸に抱いたところで、気付く)

夏凜「まったく、何が記憶の一切が失われていることでしょう、よ?」

夏凜(いっつも的確なことばかり言っていたひなただったけど、最後の最後で間違えたらしい。でも、そうね、これは悪くない)

夏凜(もう出会うこともできないかつての勇者たちだろうから、この記憶が残ってくれたことだけは感謝したい)

夏凜(鏡に映った私がニヤニヤしていたのが恥ずかしくなって、いつもよりもきつめのトレーニングをしてその日は就寝した)




*翌朝・学校

夏凜(こうして学校に通うのも随分と久しぶりのはずなんだけど、あの世界でも毎日通学していたからそんな感覚は微塵もないわね)

夏凜(階段を上り、廊下に出たら友奈の見慣れた後ろ姿を見つける。そう言えば、鍛錬に明け暮れていたせいでSNSで連絡を取ることさえ忘れていたっけ)

夏凜「ゆう……!?」

夏凜(友奈に声をかけようとして、気付く)

夏凜(それはありえない光景。だけど、あいつは確かにその姿で)

結城友奈「あ、夏凜ちゃん! おはよう!」

夏凜「……友奈。これって何かの冗談、なの?」

友奈「冗談? 東郷さん、何か冗談とか言った?」

東郷美森「いいえ、冗談何て言っていないわ。……三好さん、夏凜ちゃん? そんなに驚いた顔をして、何かあったの?」

夏凜(東郷はいつも通り。だけど──)

夏凜「なんで、また、車椅子に乗っているのよ……!」

夏凜(あの過酷な日々を思い出させる姿で東郷がそこに居た)




*授業中・教室

夏凜(……何となく察してきたわ)

夏凜(あの後、友奈と東郷は不思議そうな顔をするばかりだった。根本的に会話がすれ違っているような感覚と言えば良いか)

夏凜(だから、放課後、勇者部の部室であの二人を問い詰めることにしたのだが……)

夏凜(明らかな異常がこの教室にはあった)

夏凜(勇者部の六人目が登校してきていない。机だって存在しない)

夏凜(勇者を務めてきたから不思議なことには慣れているつもりだった)

夏凜(いつだったかは変な夢を見た記憶がぼんやりあるし、最近まで銀たちと一緒に戦ったりもしていた)

夏凜(ちょっとやそっとのことではもう戸惑わないと思っていた)

夏凜(だけど)

夏凜(これを認めるにはそれなりの時間が必要だったわよ……)

夏凜(それでも認めざるを得ないのは、同じクラスの勇者部三人の様子と今行っている授業内容、極めつけで黒板の日付けだ)

夏凜(──つまりは、私は転入してきた日の翌日、その明らかな過去に居るようだった)




*放課後・勇者部部室

風「へ? タイムスリップゥ!?」

夏凜「そうよ。あの世界から戻ってきたと思ったら、この時間に来ていたの。我ながら意味不明だけど事実なのよ」

友奈「東郷さん。タイムスリップって何だっけ?」

美森「時間跳躍、タイムトラベルという表現もあるのだけれど、今回の場合は過去に戻ってくることを言うわ。私はあまり読まないけれど、SF小説によくある題材ね」

犬吠埼樹「あ、あの! あの世界って何なのでしょうか?」

風「ぬおっ!? 人見知りの樹が自ら新入部員に質問をした!? 立派になったわね、樹」

樹「お姉ちゃん、大袈裟! ……夏凜さんは何だか優しい感じがするんです」

夏凜「て、照れるじゃない、樹! サプリキメとく? ……じゃない! もしかして、あんたら、あの世界のことも覚えていないの!?」

美森「……夏凜ちゃん。残念ながら私たちに不可思議な記憶はないようよ」

夏凜(皆の確認を取ってから告げた東郷の言葉は、私にそれなりのダメージを与えるのだった)




友奈「夏凜ちゃん、元気出して?」

夏凜「別に落ち込んでなんか……」

美森「どう思いますか、風先輩?」

風「正直タイムスリップとかすぐには信じられないわよ。でもね、あれだけツンケンしていた子が一日でこれよ? 信憑性はあるんじゃない?」

美森「私も同意見です。となりますと問題はどうやって夏凜ちゃんを元の時間に戻してあげるかになりますが」

夏凜「……風と東郷は私の話、信じてくれるの?」

美森「非現実感はあると思うけれど、樹海化を見ている身で今更よ。それに今の夏凜ちゃんはとても勇者部らしいから、それなりの時間が経過していることは分かるの」

夏凜「勇者部らしいって何よ?」

友奈「悩んだら相談! だね」

樹「夏凜さんは勇者部五箇条を守ってくれているように見えます」

風「そうね。とてもじゃないけど昨日の夏凜じゃ、あたしたちに相談してくれる感じじゃなかったでしょ? だから、あたしたち勇者部は夏凜の話、信じるわ」

夏凜「あんたたち……」

夏凜(何だか胸に熱いものがこみ上げてくる。勝手に一人取り残された気持ちになってしまっていたから中々に来るものがあった)




風「とは言ってもどうしたもんかしらね?」

美森「現状の把握と原因の究明が主な流れかと」

夏凜「……現状の把握って、一応さっき説明したわよね?」

夏凜(不覚にも感動してしまったことを誤魔化すように私は質問をしていた)

美森「ええ。ただ、タイムスリップという認識が正確なものであるかはまだ断定できないの。例えば、夏凜ちゃんに何者かが偽物の記憶を与えて、逆行しているように見せかけている。そんな可能性も考えられるわ」

樹「それはそれでタイムスリップ以上に不思議ですね……」

友奈「私は難しいことよく分からないけど、これって神樹様が起こしてくださっている出来事なんだよね?」

風「世の中の不思議なことは大体神樹様よね~」

夏凜「要は私の記憶が操作されていたとしても、タイムスリップだったとしても神樹様に何とかしてもらうしかないってわけね……。満開の時のように上手い事いけば良いけど」




風「満開? 勇者の切り札のこと?」

夏凜「当たり前でしょ? 満開って言ったら……あ」

夏凜(そうよ。過去に戻ったってことはここに居る皆、またあの苦しみを味合わなければならないってことでしょ……! なんで今の今まで忘れていた私!?)

風「……何だか夏凜の顔色が青を通り越して白いんだけど」

友奈「大丈夫、夏凜ちゃん?」

美森「……風先輩、原因の究明にあたって問題になる点がいくつか出てくることが予想されます。その一つが、私たちが未来を知ることによる正史とのタイムパラドックス。先に起こることが分かった故に未来が変わってしまうということですね」

風「でも、夏凜からその辺の話を聞かないと解決もできないんじゃないの?」

美森「はい。だからこそ、私たちはどんな未来を知っても平静を保たなければなりません」

風「なるほど、そういうことね」




美森「夏凜ちゃん。間違っているかもしれないけれど、未来で私の足は完治していて、勇者部に死傷者、もしくは大きな後遺症を背負った者はなし」

美森「そして、満開と言う言葉には夏凜ちゃんがショックを受けるほどの負の意味がある。どうかしら?」

夏凜「な、なんでそれを……?」

美森「夏凜ちゃんの反応から推測できることよ? 正直、勇者と言うお役目は死を連想させられたから生存していると知ることができて少しほっとしているわ」

美森「もちろん、気を緩めて未来を変えてしまうことは避けなければならないけれど」

樹「そうだったんですね……」

友奈「全然気づかなかったよ」

風「東郷の観察眼が普通じゃないのよ。でもまぁ、この辺りが判明してしまった以上、タイムパラドックスなんて今更よね。ほらほら、夏凜、包み隠さず全部話しなさい。……特に満開のことを聞かせて」

夏凜「うっ……」

夏凜(自分の反応の迂闊さに後悔しかない。しかも、一番知られたくないことを風が最後だけ真面目な顔をして訊ねてきて──)




夏凜「結局、全部話してしまったわ……」

風「……皆、ごめん。あたしが皆を勇者部に誘わなければ……」

夏凜(当然のように風はお通夜のような状態になっているし)

美森「私が……神樹様を……」ブツブツ

夏凜(東郷は虚ろな目をしているし)

友奈「で、でも! 良い結果になったんだからそれで良かったんだよ、ね?」

夏凜(友奈でさえ言葉に少しだけ迷いが見られるし)

樹「……未来の勇者部は本当に立派なんだなって、分かって嬉しいです。私も頑張らないと」

夏凜「樹っ! 流石は将来の勇者部を背負って立つ子よ!」

樹「えぇー!?」

夏凜(一人だけくじけることのなかった樹に私は抱き着いていた)




風「樹……。……でも、ほんと、樹の言う通りよ。あたしが始めた勇者部なんだから、あたしは良い未来になるようにしていく義務がある。そして、未来のあたしはそれを果たした!」

美森「そうですね……。記憶にはないけれど、先代勇者だった私が果たさなければならないことは確かにあるのね。未来の私が全うしたように」

友奈「うん、もう迷いはないよ! 未来の私たちに恥ずかしくないように今の私たちが頑張らなくちゃ!」

夏凜「樹。あんたの強さが風たちを立ち直らせたわ。……その、あ、ありがとう」

樹「よ、よく分からないですけど、お姉ちゃんたちがいつも通りに戻って良かったです」

夏凜(こうして、皆に一番打ち明けにくかったことは樹のおかげで受け入れてもらうことができた。なら、次はあの世界の話、初代勇者と先代勇者たちと過ごしてきたあの輝かしい時間を皆に伝えるべきね)

夏凜「これは、初代勇者たちと先代勇者たちとの話になるんだけど──」

夏凜(そうして私は語っていく。素晴らしい勇者たちとのあの掛け替えのない思い出を)

夏凜(──そして、ここから三好夏凛のやり直しの物語は始まることになる)



                               三好夏凜の章・第1話 終



ゆゆゆいとても良いですよね
無課金でもコツさえつかめば現状全話クリア可能ですので、シナリオを読みたい方にもお勧めできます

SSに関しては続く場合はこちらに続きを書いていきますし、続かない場合はhtml化依頼しておきます


*夏凜の部屋

夏凜「はぁ……」

夏凜(実はこの世界も、神樹様が作り出した仮初の世界だったりするのかしらね?)

夏凜(東郷がちらりと言った可能性を考えてみるが、私に分かるはずもなくもう一度ため息をついた)

夏凜(結局、あの世界の記憶は膨大過ぎて放課後を使って友奈たちに説明できたことはごく一部だけだった)

夏凜(精々が若葉たち初代勇者と銀たち先代勇者の人となりを伝えられたかどうかなのよね)

夏凜(明日以降も話せるだけ話していくつもりだけど、やっぱりそれなりに堪えてしまうものはある。皆の反応でその記憶を共有していないことを改めて突き付けられてしまうから)

夏凜「まぁそもそもが、このタイムスリップ自体が──」

ピロリーン

夏凜「メール? 友奈あたりかしら?」

『ここどこ~?』

夏凜(登録されていないアドレス、そこに書かれていたのはその一言だけだった)




夏凜「噂に聞く迷惑メールってやつ?」

夏凜(神世紀は教育が行き届いているから、若葉たちの時代のようにいたずらでメールを送ってくるような輩はあまり居なかった)

夏凜(だから西暦時代の話はそれなりに興味深く、聞く分には中々に面白い話が多かったのよね……)

ピロリーン

夏凜「また? ほんと誰よ? この私に迷惑メールを送って来るとか成敗するわよ、まったく」

『若葉ちゃーん。ぐんちゃーん。皆、どこに居るのー?』

夏凜「何だ友奈のいたずらだったのね……って、これってもしかして高嶋!?」

夏凜(『ぐん』と呼んでいて若葉の名前を知っている奴なんて私は一人しか思いつかない。高嶋友奈。結城のほうの友奈にはその呼び方をまだ教えていないから多分間違いない。……もしかしてと思ってしまい心臓の鼓動が激しくなってくる)

夏凜(僅かに震える指でそのメールに返信を返した)

『もしかして高嶋? 三好夏凜って名前に覚えがあるなら返信して』




ピロリーン

『夏凜ちゃん!? 元の時代に戻ったんじゃないの!?』

夏凜(……期待がなかったなんて言えば嘘になる。そして、その期待以上の答えだった。間違いない。高嶋もあの世界のことを覚えている!)

夏凜(戦闘の時よりも脈拍が上がっているんじゃないの、これ?)ドキドキドキ

夏凜(いえ、そんなことはどうでも良いわ。それよりも)

『それはこっちの台詞よ! なんで高嶋からメールが来ているの? 今、私は神世紀に居るのよ?』

ピロリーン

『と言うことはここって神世紀の時代なの!? 何だか不思』

夏凜「高嶋……?」

夏凜(レスポンスの良かったメールは不自然な場所で途切れていて、その後いくらメールを送っても高嶋から返信が返ってくることはなかった)




*昼休み・部室

美森「それが昨日、夏凜ちゃんが体験した普通ならありえない出来事なのね?」

夏凜「そうよ。あのメールは確かに高嶋からだった。だけど、高嶋は初代勇者。三百年以上も前の人間がこの時代に存在するはずはないわ」

友奈「確か私に瓜二つの人なんだよね?」

樹「友奈さんが二人。何だか凄そうです」

風「夏凜のタイムスリップに、時代が違う人からのメールねぇ……」

樹「もしかしてお姉ちゃん、東郷先輩が昨日言っていた神樹様の作り出した仮想現実? なのかな?」

風「ああ、実は今見ている私たちの現実は幻でしたってやつね。信憑性増しちゃったわね、それも」

美森「……」

夏凜「一応確認しておくけど、友奈のいたずらじゃないのよね?」

友奈「うん。夏凜ちゃんとはアドレスを交換しちゃったからそんなことできないし、夏凜ちゃんを混乱させるようなことはしたくないかな」

夏凜「そうよね。あんたはそういう奴よね」




夏凜「となると、なんで高嶋が……」

美森「……夏凜ちゃん。あくまでも仮説という前提で聞いてね」

夏凜「何か分かったの?」

美森「分かった、というほどではないの。どちらかと言えばこれは突飛な想像の部類ね」

風「と言いながら東郷の意見は大体いつも正解に近いのよね」

夏凜「同意見ね。東郷、聞かせてもらえる?」

美森「二人の期待が少し過剰で気後れするけれど、本当に一つの仮説として聞いてね?」



美森「──昨日のメールの高嶋友奈さん、もしかしたら未来の友奈ちゃんなのかもしれないわ」




友奈「未来の私!?」

風「どういうことよ、東郷!?」

樹「私の頭じゃ話についていけてないよぉ……」

夏凜「大丈夫よ、樹。流石の私も少し混乱しているから。それでどういう意味なの、東郷?」

美森「本当に突飛な発想なの。夏凜ちゃん言っていたわよね? 私たちが勇者としての役目を終え、友奈ちゃんがリハビリを終了しようとした間際、文化祭の劇で友奈ちゃんが立ちくらみを起こしたって?」

夏凜「確かに言ったけど……何か関係あるの? 友奈の立ちくらみなら他にも何回かあったわよ」

美森「そのいくつかで友奈ちゃんの記憶が少し跳んでいたりしなかった?」

夏凜「確かにそんな感じもしたけど……」

美森「そして、昨日の高嶋友奈さんは唐突に返信を寄越さなくなった」

友奈「あれ? 話が跳んだ、のかな? 私の理解不足かも」




美森「ああ、駄目ね。言葉にし辛いから思考が跳んでいるのかもしれないわ」

友奈「大丈夫だよ、東郷さん。私はちょっと理解力が不足しているけど、風先輩も夏凜ちゃんもちゃんと分かっているはずだよ!」

風「と、当然よ! なんたって私は勇者部部長よ?」

夏凜「あ、当たり前じゃない! 私は完成型勇者、三好夏凜なのよ!」

樹(お姉ちゃんが見栄を張っているよぉ……)

美森「ありがとう、風先輩、夏凜ちゃん。それじゃあ、続けるわね。昨日夏凜ちゃんに私たちの勇者としての結末を聞いて真っ先に思ったのが友奈ちゃんのことなの」

風「まぁ、東郷だったらそうでしょうね。なんたってあんたの嫁、いやこの場合夫? のことなんだから」

美森「もう、風先輩ったら! あとでぼたもちを御馳走しますね」///

風「よっしゃー!」

夏凜「風、うっさい! あんたのせいで話が進まないのよ!」

風「すみません」

美森「ごほん。それで、未来のその時点の友奈ちゃんは、もしかしたら勇者として未だ神樹様に召喚されているのではないか? そんな結論にたどり着いたの」

夏凜「……ごめん、東郷。その結論にたどり着く過程が全然分からない」

友奈「ねぇ、夏凜ちゃん。私が夫ってどういうことなのかな?」

風「ふふっ、うどんに女子力は宿っているのよ」フッ

樹「お姉ちゃんが現実逃避しちゃった!?」




美森「ごめんなさい。私自身も脈絡がなくて変なことを言っている自覚があるわ。やっぱり、これはなかったことにしましょう」

樹「ええと……間違っていたらごめんなさい。もしかして、友奈さんだけ精霊が花になって散っていないから牛鬼はまだ居て、だから勇者は続いていて? 神樹様に召喚されている? うぅ、自分で言っていてよく分かんないよー」

美森「いえ、樹ちゃん。まさにそれが私の言いたかったことなの! 流石、未来の勇者部を背負って立つ人財ね!」

樹「えぇー!? 昨日も同じこと言われたけど、荷が重いよぉ……」

夏凜(そう言えば、調子に乗って最後の戦いの後のおぼろげな記憶まで話しちゃったのよね。でもあれは──)

夏凜「いや、それってあくまで私が見た白昼夢みたいなものなのよ? 精霊が散って花となって私たちに供物を返してくれた。そんな映像が頭の中に確かに残っているけど、そもそもあの時の私は視力を失っていたから見ることはできなかったはずなのよ」

美森「……となると、やっぱり私の想像の暴走だったのね。ごめんなさい、皆。無駄な時間を取らせてしまったわ」

風「いやいや、そのくらい柔軟な発想はこの不思議ばかり起こる状況に必要でしょうよ。引き続き東郷はそのブレインに閃くことがあったら何でも言ってちょうだい」

夏凜(微妙に歌野を思い出す言い回しね……。でも、風の言うことは一理ある。まぁ、結局白紙に戻ったことには変わりないんだけど)




友奈「ねぇ、夏凜ちゃん。今回のことって大赦の方に協力してもらうことって出来ないのかな?」

夏凜「……一応、兄貴には相談してあるわ。ただそっちは望み薄よ」

樹「夏凜さん、お兄さんが居るんですね?」

夏凜「まぁ、ね。大赦のお偉いさんよ、それこそ一応」

風「え、マジで!?」

夏凜(高嶋のメールの後、色々葛藤しながら思いきって兄貴に今回の件を相談していた。でも)

夏凜「大赦はこの件に関してノータッチになるらしいわ。こっちで何とかしろってさ」

風「なにゆえ? 大赦なら協力してくれそうな案件よね、これって?」

夏凜(風の言いたいことは分かる。過程はどうあれバーテックスの進行を止めた成功例を私は知っているわけで、それは大赦が喉から手が出るほど欲しいであろう情報に違いない)

夏凜「癪だけど兄貴に言われたのよ。私がタイムスリップしていることは大赦に隠しておけって」

夏凜(大赦も一枚岩ではないから、私に、勇者部に危害を加える者が居る可能性は皆無ではない、と)




美森「賢明なお兄さんですね。私もそのほうが良いかと思います」

風「ちょっと、東郷。それじゃあ大赦が私たちの敵みたいな扱いで流石に失礼よ」

美森「大赦は私たちが想像しているよりも潔癖でない組織であることは、夏凜ちゃんから聞いた話から判明しています」

樹「お姉ちゃんへの大赦の対応の話ですね。流石に私もあの対応はないと思いました」

風「樹……」

夏凜(風への対応、それは満開の後遺症に関することであり、また大切なことを何一つ伝えられていなかった風の立場のこと。樹がムッとしているのも当然の話だ)

夏凜(……あのことも私が大赦の勇者ではなく、勇者部の勇者になろうと決意したことの要因の一つなのよね)




美森「ですので、風先輩。今回の夏凜ちゃんの件は私たちだけの秘密で通しましょう。これは五箇条の一つ、悩んだら相談とは違う次元の話になります」

風「……分かったわ。東郷と樹がそこまで言うんだったら。第一、夏凜の兄貴が真っ先にそう言っているって言うことはそう言うことなんでしょうね」

樹「お姉ちゃん、『そう言うこと』ばかりしか言っていないから何を言っているのか分からないよー」

風「何だとー、私の妹よー。心で分かれー」コチョコチョ

樹「きゃー」

夏凜「なにじゃれ合っているのよ……」

友奈「東郷さん、ぎゅー」ギュー

美森「キャッ!? ゆ、友奈ちゃん……!!」ポッ

夏凜「あんたたちもかー!?」

ピロリーン

夏凜「あ、私のスマホね。って、このメール……高嶋!?」

友奈「……」



とりあえずここまで

続きは気が向いた時に


『夏凜ちゃん? 夏凜ちゃーん? うぅ、やっぱり返事がないよ~』

夏凜「……まったく、突然連絡が取れなくなったと思ったらまたこれよ」

美森「これが高嶋友奈さんからのメール……」

風「こっちの友奈みたいなメールね」

樹「でも、このメール、少しおかしいような……」

夏凜「とりあえずメールが届いていることを伝えるべきよね」

美森「そうね。でも、また連絡が取れなくなる可能性が高いから優先順位の高い情報交換もしておくべきよ」

風「どこに居るのかとかそんな感じね」

夏凜「それじゃあ……」ポチポチ

夏凜「こんな感じかしらね」




『さっきまで音信不通だったけど、今のメールは届いたわ。また連絡がとれなくなると厄介だから、あんたがどこに居てどういう状態なのか先に教えなさい』

風「不愛想なメールねー」

夏凜「うっさい!」

樹「あ、返信が来ました」

『良かったよ~、夏凜ちゃん。私はね、何だかのんびりした町の中に居るよ。西暦の四国のような神世紀の四国なような不思議な感じかな? でも、私以外の人とまだ出会えていないんだ。あ、私は元気いっぱいだよ?』

夏凜「いや、あんたね、健康なのは確かに大事だけどそういうことじゃないでしょうに……」

風「まごうことなき友奈じゃったか」

樹「んー、やっぱりどこかおかしいような……。なんだろう?」

美森「どっちつかずの四国、ね。……もしかしたら、高嶋友奈さんは私たちとはまた別の場所に居るのかもしれないわ」

夏凜「別の場所? ああ、神世紀は神樹様の世界で見ているわけだから、その高嶋が判断できないってことはそういうことになるわけか」




風「でも、それはそれで問題よね? 明らかに現実的じゃない状況に巻き込まれている人が居るわけだし」

夏凜「それ、私も当てはまるんだけど」

美森「やはり私たちの見ているこの世界は神樹様の作り出した幻なのかしら? でも、そうだとすれば何故こんなことを?」

『夏凜ちゃん! うどんの自動販売機だよ!? 流石300年後の未来……。実はお腹空いていたんだよね』

夏凜「え? うどんの自動販売機!?」

風「女子力に満ちた自動販売機ね。で、どこにあるの? 今から買ってくるわよ!」

樹「お姉ちゃん……」

美森「西暦の時代秋田県に設置されていたとは聞いたことがあったけれど、まさか実在しているなんて……!」

『いっただきまーす!』

夏凜「もう買ったの!?」




樹「……あれっきり連絡が途絶えちゃいましたね」

友奈「だね。でも、私も自動販売機のうどん食べてみたいなー」

風「くっ……何故、世界はこの素晴らしい自動販売機をロストテクノロジーにしてしまったのよ……」

夏凜「正直私も食べてみたかったけど、それよりも高嶋とまた連絡取れなくなったことが問題でしょ!」

美森「そうね。私も食べてみたかったけれど、また振り出しに戻ってしまったわ」

風「全てはメールの先に居るきゃつが悪いのじゃ! あんな食レポを送って来るなんて、あっちの友奈は何て罪深い子なの!」

友奈「た、多分悪気はなかったんじゃないかな?」

樹「あ! そうです! それです!」

夏凜「どうしたのよ、樹? お腹でも痛いの? サプリ飲む?」ジャラジャラ

美森「サプリと言うよりは医薬部外品の整腸剤ね、それは。もしかして樹ちゃんも気付いたの?」

樹「あ、東郷先輩も気付いていたんですね」

風「どゆこと?」

樹「ええとね、高嶋友奈さんのメールは多分、話した言葉が全部メールになっていたんじゃないかな?」

風「ふむ。音声認識みたいな感じね」

夏凜「あいつってフリック入力が苦手だったりしたかしら?」

美森「おそらくそういうことではないと思うわ。そして、これは今後の手がかりの一つになるはずよ」



短いけどここまで

他県にうどんの自販機があるかは分かりませんが、佐原商店のうどんそば自動販売機は前にニュースで取り上げられていましたね

余談ですが、そんな環境に居る人なので実はFAガール2期のSSはネットの感想を見て書いていたりしたんですよね……

レスありがとうございます
今少し書いたので投下しておきますね


*夏凜のアパート

風「まったく、殺風景な部屋ねー」

夏凜「うっさい!」

友奈「わっ! 水しかない」

夏凜「そのやり取りは前にやったからもういいわよ」

樹「夏凜さん、この荷物はどこに置けば良いんでしょうか?」

夏凜「ほら、重いでしょ。私がやっとくからあんたは座ってなさい」

美森「夏凜ちゃんってもしかして……」

夏凜「今度は何よ!」

美森「いえ、何でもないわ」

夏凜「言いなさいよ! 気になるじゃない!」

夏凜(そんなわけで勇者部一同が私の部屋に来ていた)




風「できたわよ~」

友奈「風先輩のうどん、とっても美味しそうです!」

風「いっぱい作ったからじゃんじゃん食べなさい」

夏凜「いや、作り過ぎでしょ、あんた……」

樹「夏凜さん、大丈夫です。お姉ちゃんならいつもそれくらい食べます」

夏凜「……知ってはいたけど、軽く十人分を食べるとか胃が宇宙にでも繋がっているんじゃないの?」

風「なんと失礼な! これでも小食のつもりよ!」

夏凜「今すぐ世の中の小食の人に謝んなさい!」

美森「ぼたもちも作ってあるので食後に食べましょう」

友奈「わーい! 東郷さんのぼたもち大好きー」




夏凜「──それで、ここに集まったのは高嶋のことについて話し合うためなのよね?」

風「サプリしか食べていない部員を心配して来てあげたのよ?」

夏凜「サプリを主食にしているみたいに言うな! きちんと三食食べているわよ」

美森「風先輩の冗談はともかく、高嶋友奈さんの正確な状況が判明すれば夏凜ちゃんのこの現象も解明に向かうはずよ」

樹「東郷先輩の予想では、高嶋友奈さんは私たちとは違う場所に居て、何か意味があってメールを送ってきているんですよね?」

美森「あくまで予想だけれど、夏凜ちゃんの逆行に高嶋友奈さんの音声メール、二つも不可思議が起こっていて関係ないとは思えないの」

友奈「ええと、話した言葉がそのままメールになっているんだったかな?」

夏凜「ああ、樹と東郷が言っていたやつね。確かに今考えれば手打ちのメールにしては不自然なところは多かったわね」

風「しかも、それもまた神樹様が起こした不思議現象の可能性が高いんでしょ? 神樹様はあたしたちに何をやらせたいのかしらね?」




夏凜「まさか、他の神様の反乱再び……なわけはないわよね?」

樹「情報が多すぎて曖昧かもしれませんけど、未来の私たちはつい最近までそれに巻き込まれていたんですよね?」

夏凜「そうよ。それを私たち勇者部オールスターズで解決したってわけ」

友奈「過去の勇者たちと一緒に戦うなんてほんと凄いよ!」

美森「鷲尾だった頃の私も居るなんてやっぱり不思議ね……。夏凜ちゃん、今この時間に居るもう一人勇者とは連絡を取ることはやっぱり難しいの?」

夏凜「園子のことね。あの子は大赦の切り札だから、今の私たちじゃ連絡一つ取ることすら困難よ。しかも大赦でも有数の家柄の娘ときてる。一応、兄貴にも頼んであるけど、前の時を考えれば園子から来てもらうしかないわね」

友奈「確かその時は私と東郷さんが戦闘の後に呼ばれたんだっけ?」

夏凜「樹海化の力を利用したとか何とかだった気がするけど理屈は知らないわ。ただ、直近でバーテックスの襲来はないのよ。要するに園子がもし私と同じ状態であっても次の戦闘まではお預けってこと」

風「そうなってくると、進展があるとすれば友奈の双子の子ってわけね」

夏凜「いや、高嶋は友奈の双子ってわけじゃないけど」




美森「でも、双子ではないけれど無関係というわけでもない。それが友奈ちゃんの名前の由来」

夏凜「ああ、あっちの世界に居る時にも言っていたわね。ある行動を赤ちゃんの時に行った子には友奈って付けられるって。しかも高嶋は平成の勇者。その由来が英雄として祀られたであろう高嶋にあるのは誰だって想像がつくわ」

風「その割には現代に昔の勇者のことって何も伝わっていないのよね」

樹「意図的に大赦が隠したんだったよね?」

風「……昨日から大赦が悪の秘密結社に見えてきて仕方がないんだけど。一応あたしたちの保護者のはずなのにね……」

美森「せめて大赦の隠匿から逃れた当時の資料が残っていれば手がかりも増えるのでしょうけど、今の私では鷲尾の家を頼ることも難しいだろうし……」

夏凜「当事者だけど、正直バーテックスと戦うほうが分かりやすくて簡単だった気がする……」

友奈「分からなくはないかな。って、あれ?」

風「ちょっと夏凜! どういうことなのよ?」

夏凜「いや……確かにこの時は──」

夏凜(世界が唐突に鮮やかな色で浸食されていく。そう、これは紛れもない樹海化だった)




*樹海

美森「どうやらイレギュラーな事態のようね。でも、これではっきりとした。夏凜ちゃんの知っている過去とは違う未来に分岐し始めているんだわ」

風「まぁ、夏凜の記憶と違っていてもやることは一つよね。勇者部出撃よ!」

樹「待って! お姉ちゃん。友奈さんの様子が!」

夏凜「友奈! どうしたの? 意識がないの? ねぇ、何とか言いなさいって!」

美森「……」

風「友奈!? しっかりしなさいよ! ゆうなぁ!」

友奈「──あれ? ここは……風、先輩? 夏凜ちゃん!? それに皆も!」

夏凜「……もう、心配させないでよ……。いきなり意識を失うからびっくりしたじゃない」

樹「良かったです……」

風「……はぁ、心臓止まるかと思った。……東郷?」

夏凜(東郷が友奈と向かい合う。いつの間にか一人だけ変身は済ませていたらしい。その瞳は友奈を見ていると言うより──)

美森「バーテックスは依然姿を現わさず、おあつらえと言うように友奈ちゃんは意識を失った。おそらくこれは神樹様の手配なのね」

友奈「……」

美森「初めまして、高嶋友奈さん。ご存知かも知れませんが、私は東郷美森と申します。早速ですがお話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」

夏凜(東郷が友奈に向かって、そう言った)



牛歩で申し訳ないですが、ここまで
オリジナルとFAガールを毎日のように書いていたのが悪いんだ……
樹ちゃんに何となく甘い夏凜ちゃんが大好きです


友奈「え、あ、うん。ええと、東郷さん……?」

夏凜「東郷、あんた何言い出してんのよ? 東郷らしくもない、この友奈は結城のほうの友奈よ? さっきまで一緒に居たでしょうに」

友奈「か、夏凜ちゃん? 私は結城ちゃんじゃなくて高嶋友奈なんだけど……」

夏凜「はぁっ!?」

風「ふむ……姿はうちの友奈で、中身は友奈じゃない友奈ってこと?」

樹「でも、友奈さん。東郷先輩のご挨拶に困惑していたような?」

友奈「あれ……これってどうなっているのかな……?」

美森「高嶋友奈さん、簡単に説明するとね、ここに居る夏凜ちゃんを除いた勇者部全員はあなたと出会う前の過去の私たちで、これが初対面となるの。そして、あなたは友奈ちゃんの身体を借りて今存在しているわ」

友奈「え、えぇっ!? 私が結城ちゃん!? それじゃあ、結城ちゃんは……?」

美森「友奈ちゃんは少し眠っているだけよ。安心して」

夏凜「ちょっと待ちなさいよ、東郷! 何でそんなことを知ってんのよ? それに高嶋が友奈? 私が過去に戻ってきたことよりもわけが分からないんだけど!」

美森「簡単な話よ、夏凜ちゃん。樹海化が起きた時、私には不思議な意思が届いてきたの。これがおそらく神樹様の神託と呼ばれるものなのね……」




友奈「神託ってひなたちゃんたち巫女の方が受け取るあの神託!? 東郷さんって巫女の素質もあったんだ……」

夏凜「……頭痛い。昨日からわけ分かんないことのオンパレードじゃないの。もう一度確認するわ、あんたは高嶋のほうの友奈なのね?」

友奈「……うん。高嶋友奈、夏凜ちゃんとうどんの自販機の話をしたほうの友奈だよ」

夏凜「了解、とりあえず理解したわ。でも、眠っているらしい友奈には悪いけど、ようやく会えたわね、あんたと」

友奈「うん! 誰とも会えなくて正直心細かったんだ。だから、皆とこうして会えて嬉しいよ!」

樹「い、犬吠埼樹です! 高嶋友奈さん、よろしくお願いします!」

友奈「そっか、夏凜ちゃん以外とは初対面になるんだっけ? こちらこそよろしくね、樹ちゃん。でも、過去の樹ちゃんたちってどういうことなんだろう?」

風「勇者部部長の犬吠埼風よ。妹共々よろしくね。……さて、東郷。その神託ってどんな内容だったのよ?」

美森「はい。今から説明しますね」




美森「神樹様から受け取った意思というのは映像のようであり音声のようであり酷く曖昧で不思議な感覚でした。気付いた時には意味を理解していて、今回の出来事のおおよその全貌が見えたと言って良いのかもしれません」

夏凜「うちの東郷に神託とか、神樹様も粋な計らいをしてくれるわね」

美森「結局のところ、夏凜ちゃんが過去に戻ってきたのは神樹様を守るためであり、高嶋友奈さんを救うためだったらしいの」

友奈「私を救う……?」

美森「……高嶋友奈さんはかつてのバーテックスとの戦いにおいて、その身体と精神を神樹様に祀られることになったそうなの。そして、この300年、高嶋友奈という勇者は神樹様と一つだった」

樹「もしかして、高嶋さんも満開を行いすぎて、ですか……?」

美森「それは違うわ、樹ちゃん。だけど、この辺りの話の詳細は私にも伝わってきていないから今は本題の話をさせてね。神樹様は勇者たちの揃ったあの世界を見て、高嶋友奈さんを解放してあげることにしたの」

美森「未来の私たちに供物を返してくださったように、頑張った勇者たちに報いるために」




風「……それだったらさ、元の時代に返してあげても良かったんじゃないの?」

美森「いえ、残念ながらそれは様々な事情で出来なかったようです。でも、全てが終わった時には神樹様は帰してくれるという意思を見せています」

風「それならまぁ、良いのかしらねぇ? それで、その全てって言うのは?」

美森「バーテックスの殲滅もしくは和解の成功です」

夏凜「……確かに全てなわけなんだろうけど、私一応未来知ってんのよ? 悔しいけどそれを達成するのがどれだけ困難であるのかも」

美森「神樹様は夏凜ちゃんに未来の経験を利用して物事を進めて欲しいようね。かつての時間に完成型勇者を送り込むことで目的の達成を果たす。悪くない手段だとは思うわ」

夏凜「いつもの私だったら『よっしゃー!』とか言っている場面ね。全力で努力はするけど責任重大ね、はぁ……」

樹「高嶋さん、友奈さんは本当に眠っているんでしょうか?」

友奈「何となくだけど身体の中で熟睡しているような感覚がするかな?」

樹「それって何だか不思議ですね」ヘー

友奈「これが結城ちゃんの身体だって言うのも不思議だよね」ポワポワ

風「はぁ、こっちの二人は呑気ねぇ……。やっぱりうちの妹は将来大物になるわ」




夏凜「あれ? ちょっと待ちなさいよ。高嶋を解放してくれるのは良いけど、何で友奈の身体の中に居んのよ?」

美森「それは神樹様の力が不足しているからね。バーテックスの散り方にいつも違和感を抱いていたけれど、どうやら神樹様は殲滅したバーテックスの残滓を吸収して力を蓄えているようなの。つまり、ある程度のバーテックスを倒すことは必須になるわ」

風「高嶋を完全に解放するためにはやっぱりバーテックスを倒す必要がある、ね。まぁ、シンプルで良いんじゃない? 元々やることは同じなんだし」

夏凜「勇者としてバーテックスを倒す。勇者部の活動としても確かに分かりやすいわ」

友奈「私のために何だかごめんね……」

夏凜「あんたも勇者部の一員でしょう? なら、遠慮なく甘えなさいよ」

友奈「夏凜ちゃん……」

風「良いこと言うわね、新入部員。そんなわけで今後の勇者部の方針は決まったわね」

樹「高嶋さんを解放して、バーテックスから世界を救う、かな?」

美森「……」




*夏凜のアパート

夏凜「考えてみれば戦闘のない樹海化って初めてだったわね」

美森「──と、そんな感じだったの」

友奈「私が寝ている間にそんなことが!?」

風「こっちに戻ってきたらいつもの友奈に戻ったわね。それじゃあ今の高嶋はさっきの友奈のように熟睡しているってこと?」

美森「今のところは神樹様のところに居るようです。したがって、一刻も早く神樹様に力を蓄えてもらってダブル友奈ちゃんを実現させる必要があります!」

風「そ、そうね……いや、そうなの? まぁ、東郷がやる気出しているんならそれで良いんだろうけど」

樹(でも、東郷先輩、樹海の中で何かを考え込んでいる様子だったような?)

夏凜「はぁ、それにしても完成型勇者も楽じゃないわね。時間を超えてこうして呼ばれたわけだし」

樹「夏凜さんは元の未来に戻りたいですよね……」

夏凜「どうかしらね。未来は未来であんたたちが居るわけだから、私はここで与えられた使命を存分に果たせる。第一、こっちにも樹たちは居るわけじゃない? だから、案外平気よ」

樹「夏凜さん……」




風「それじゃあ、勇者部の差し当たっての課題の話ね」

友奈「何だか私が寝ている間に色々解決しちゃったんだよね?」

美森「そうなの、友奈ちゃん。でも、神樹様の神託は確かに助かるけれど、同時にさらに大きなお役目も授かってしまったわ」

樹「あ、足手まといにならないように頑張ります!」

夏凜「大丈夫よ、樹が何か失敗しても私がカバーしてあげる!」

美森「やっぱり夏凜ちゃんって……」

夏凜「何よ?」

美森「いえ、何でもないわ」

夏凜「だから言いなさいって!」

風「ごほん。それでは勇者部のみなにこれからの沙汰を言い渡す」

友奈「わくわく」

樹「お姉ちゃん、それ誰の物真似なの?」

風「ずばり! 差し当たっての勇者部の課題とは!」

夏凜「もったい付けるわね。あんたもさっさと言いなさいよ」

風「夏凜の誕生日のお祝いね!」

夏凜「……は?」

美森「なるほど。とても重要な案件ですね」

友奈「よーし、夏凜ちゃんを目一杯お祝いしちゃうぞー!」

樹「おめでとうございます、夏凜さん」

夏凜(……そう、すっかり忘れていたけど、私の誕生日は目前まで迫っていたのだ)



                                   三好夏凜の章・第2話 終



ここまでお読みいただきありがとうございました
区切りが良いので、この第2話で一旦終了となります

ゆゆゆいと秋からのゆゆゆ2期の応援をよろしくお願いします

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