勇者「スライムですら倒すのに6ターンかかるおれって」 (142)

勇者「託宣が下って勇者になったはいいものの、剣術の腕は並、そのうえ魔法もからっきし。誇れるものと言えばこの人一倍でかい図体だけ。」
勇者「はあ、これからどうしよう」

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始まりの街近く
スライム「ピギー」
勇者「仕方ない。とりあえず経験値稼いで少しでも強くならないと」
勇者「うおおおおお」カツン

女侍「ん、戦闘かこの辺りじゃ珍しいな。助太刀しようかとも思ったがなかなか屈強そうな上、相手がスライムだしな…。」
~30分後~
女侍「…長くない?」

女侍「にしても泥試合すぎでしょあれ。…仕方ない首突っこみますか」

スライム「ピギッ」ザンッ
女侍「大丈夫ですか?随分長い間戦闘されていたようですけど」
勇者「弟子にしてください?」
女侍「え?」
勇者「弟子にしてください?」
~事情説明中~
女侍「成る程、要は攻撃力が足りなさ過ぎるから強くなりたいってことですね?」
勇者「はい…あの通りスライムすら満足に倒せないんです」
女侍「成る程、わかりました。私は女侍、ワノクニという東方から来たものです。なに、これも武者修行です。稽古をつけて差し上げましょう」

侍「では、はじめに貴方の技能を量ります。剣を振ってみてください。」
勇者「わかりました」
フンッ ブンッ
侍「これは…」(それなりに使えてはいるけど所詮それだけ…、才能の欠片も感じない)
勇者「どうでしょうか?」
侍「う~ん、並…ですかね。これ以上伸びる気配も感じませんし…。申し訳ありませんが、このままだと魔王退治というのは非常に難しいでしょう。」
勇者「そうですか…。」
侍「落ち込まないでください。実践経験をつんで、じっくり強くなればいいんです」ワタワタ
勇者「わかりました。実戦あるのみ、ですね」
侍「はい、それに私は行くあての無い身。次の街位まではご一緒しましょう」
勇者「ありがとうございます!」

~夜~
勇者「今日は実戦に付き合って頂きありがとうございます。」

侍「いえいえいいんです。私自身の鍛練にもなりますから」
侍(今日一日でわかったことが2つある。目の前の彼にはほとんどアタッカーの才能がないこと。そして
ーそれを補って余り有る程タンクとしての耐
久力、そして防御力に秀でていることー)

勇者「そういえば、昼間に使っていたスライムを斬った技は何て言うんですか?刀身が全く見えなかったんですけど。」

侍「…え、あぁはいあの技ですか?あれは居合い切りといって抜刀術の基礎、あー、えーと、刀を抜く瞬間に全神経を集中させ、一撃必殺、もとい一刀必殺を狙う技です。」

勇者「成る程、一撃必殺、ですかぁ格好いいなぁ。憧れます。それにしても刀本体が全く見えないなんて女侍さんは余程の使い手なんですね!」

侍「えぇ、これでも私、抜刀の速さでは同年代で頭1つ抜けてましたから」フンス

勇者「流石。そんな女侍さんが一緒にいてくれるなんて心強いです!」

侍「い、いやぁ、私なんてまだまだですよ」テレテレ
「それにこの技は未完成で、強力なぶん隙も多いんですよ」

勇者「そうなんですか…。そうだ!ワノクニの話を聞かせてください!僕そういう話大好きなんです」

侍「そうですか。では私の住んでいた村からお話しましょう。こちらではジパングと呼ばれていましてね…」~夜はこうしてふけていった

~次の日早朝~
侍「昨日は久しぶりに語り明かしちゃいました。眠いですね」フアーア

侍「ん?あれは…」

勇者「フンッ!フンッ!」

侍「朝から鍛練ですか…。」
(いつからだろう、朝の鍛練を私がしなくなったのは…。)

勇者「あ、おはようございます。はやいですね」

侍「おはようございます。こんな時間から精が出ますね」

勇者「ただでさえ剣の才が無いのです。体だけでも鍛えておかないとね」

侍(成る程、あの肉体はこの鋼の鍛練の上に成り立っていたのね)
「もうすぐで次の街です。少しペースを落として、魔物との戦闘を多めにこなしながら日の落ちる頃に街え入りましょう」

勇者「はい。ありがとうございます」

~夕方.街~
勇者「楽しかった女侍さんとの旅もこの街で終わりだと思うと寂しいですね。この数日で僕も随分実戦経験が積めました。ありがとうございます」

侍「いえいえ、礼には及びません。それに私もこの何日かは楽しかったです。こちらこそありがとうございます。それにこの街で一泊するのでしょう?お別れはまだはやいですよ。」

勇者「そうですね。では最後の餞別にこの街の酒場で一杯やりましょう。お代はお礼に僕が出します」

侍「え、いいんですか?」パアア

勇者(かわいい)ニコニコ

侍「ん、ごほん、かたじけない。では馳走に預かりましょう」

侍「ウィーックお酒足りませんよ。もっと持ってきてくださーい」フリフリ

勇者「 ど う し て こ う な っ た 」

侍「ゆーひゃさんももっとのみまひょうよ酔わないと損ですよそ・ん」グイグイ

勇者「いえ、僕はいくらのんでもお酒で酔えない体質なんです。」

侍「よえないい~?そんなバカなことあるわけないれひょう。ほらほらお酌を断るのは男の恥れふ。さあ、飲んで飲んで」グイグイ

勇者「ああ、もう!!なんでこんな酒に弱いんだこの人は?ほら行きますよもう日付けが変わります」ズリズリ

侍「うわあーやめろー。わたしはもっとのむんですーぶれいこーなんですー」ズリズリ

酒屋の主人「お、お持ち帰りか、お盛んだねぇ~」ヒュウヒュウ

勇者「そんなんではないです?はい!これ料金です!」

主人「ほどほどになー」

勇者「そんなことないです?」→そんなことないです!
ですすみません

~朝・宿屋~
侍「うぅぅ、また羽目を外してのみすぎてしいました」ズキズキ

侍「勇者さんはどこでしょう」

~受付~

侍「女将さん、私をここに連れてきた人はどこでしょうか?昨日は少し酔いすぎていて」

女将(少し…?)「あの屈強そうな軍人さんは貴方の隣のお部屋ですよ、お代もその方から頂きました」

侍「何から何まで勇者さんには迷惑をかけますねぇ…。取り敢えず宿賃だけでも返さないと」

勇者「ううぅ…昨日はえらいめにあった…」

侍「あ、勇者さん!丁度いいところに。昨日は申し訳ありませんでした。これお代です。」

勇者「あぁ宿賃なら結構ですよ。一度払ったものですし」

侍「むむむ、それでは武士としての矜恃がたちません。ささ、受け取ってください。」

勇者「わかりました…。でもやっぱりお代は、受け取れません。」

侍「頑固なかたですね…。わかりました。ではお邪魔でなければ、代わりに今日も訓練に付き合いましょう。それで相子ということで」

勇者「いいんですか?ありがとうございます!」

~昼頃・町外れ~
侍「そこで大振りになりすぎない?一撃と一撃の合間の隙を小さく抑えて」

勇者「ハイッ」ブンッ

侍「ふむ、そろそろ休憩にしましょう」

勇者「はい」

侍(剣の上達はあまりか…。それにしても朝からぶっ通しなのにバテる気配が全く見えない。呆れたタフネスですね)

ドタドタドタドタドタドタ

町人「大変だ!街に魔物の軍団が攻めてきた!」

勇者「なに?本当ですか?」

町人「本当だ!魔王との戦のために街の兵士は半分王国に行ってしまっている。このままでは街が…街が…。お願いだ、兵士と一緒に街を守ってくれ!」

勇者「わかりました。僕とて勇者のはしくれ。いま戦わずして何が勇者ですか。行きましょう?案内をお願いします。」

侍「私も非力ながら手伝わせて頂きましょう」



!が?になってるところが多いですね。すみません(T_T)

~街の正面門~
兵士長「押せー?街の中に魔物をいれるなー!なんとしてでも凌ぎきるぞー?」

兵士A「耐えろー?」兵士B「門を守りきれー?」

スライム「ピギー」ゴブリン「グキャー」ガイコツ「キエィ」

兵士長「拮抗してはいるが…時間の問題だな…防衛力が足りなさ過ぎる。街の壁ももう持たない」

??「そこを退いてください」バスッバスッ

ゴブリン「グゥゥ」スライム「ピキー」ザンッザンッ

兵士「あなたは?」

侍「通りすがりの旅人です。助太刀いたしましょう」

??「うおおおおお?」ドドドドドドド

ガイコツ「キエィ」割かし無事

兵士「彼は?」

侍「私の連れです。剣術は…まあ、あの通りですが…、壁役としてはこの上無い時間稼ぎになります」

兵士長「おお、それは心強い。よし!このままでは押し負けるだけだ!お前ら、このまま一気呵成に畳みかけるぞ!」

兵士D「うってでろー」キィン

ガイコツ「」

兵士C「がああああ」ガンッ

スライムA「キイイイイ」バゴンッ

兵士長「押してきたな。このままなら大丈夫だろう」

侍「油断してはいけません」ザンッ

ゴブリンA「グエッ」バタリ

侍「魔物の集まりにしては団結力が高すぎます!」

勇者「確かにそうです。スライムとゴブリンは同じ群れを組んだりしません。」

兵士AC「「ぐあっ」」バタリバタリ

兵士B「何が起こって…ぐっ」ザシュッ

漆黒騎士「こんな守りの街を落とすのに何を手間取っているのだ。」

侍「その知性を感じさせる言葉遣い、並々ならぬ槍の腕。あなたはいったい何者ですか?」

漆黒騎士「む、名乗りをあげよう。我輩は漆黒騎士、魔王様より王国落としの尖兵の役割を頂いた者。」

勇者「魔王だと?こんなところまで手が回っているなんて…!」

漆黒騎士「それよりも、名乗りを受けて返さないのは無礼であろう。名を名乗れ!」

侍「む、私はワノクニの武士である女侍!故あってこの街の防衛に加勢しています。」

勇者「同じく勇者!託宣の元に魔王討伐の旅をする者だ!」

漆黒騎士「毛色が兵士どもと違うと思えば、ワノクニの武士に勇者か。面白い!貴様らの首を献上すれば魔王様も喜ばれるはずだ!いいだろう、二人まとめてこの槍の鉄錆びにしてくれる?」

侍「ならばっ、先手必勝」ザシュ

漆黒騎士「グゥゥ速いっ!」ガンッ

勇者「この騎士は僕たちが引き受けます。その間に魔物の掃討を!」

兵士長「わかった?雑魚は任せてくれ!」

漆黒騎士「我が槍の一撃!受けてみよ?」ビュッ

勇者「危ないっ!」ゴガンッ

侍(深く切り込んだはずなのですが、手応えが少ないですね)サッ

漆黒騎士(女の攻撃だけなら対処は容易いが…此方から攻めようとすると)ビュンッ

勇者「ぐおおおお」ゴキンッ

漆黒騎士(壁が立ちはだかる…チッ、やりづらいな)

侍(速さと技術には目を見張る物がありますが、一撃いちげきはそう重くないです。落ち着いて体力を削りましょう)ヒソヒソ

勇者(はいっ)ヒソヒソ

侍「ふっ」シュッ

漆黒騎士「フンッ」ガッ

勇者「はあああ」ゴゥッ

ガッ ギンッ ゴキン バギッ

勇者「フンッ」ガッ

漆黒騎士「…」ギンッ

侍(そろそろですか…)サッ
「一瞬隙を作ってください」シャランッ

勇者「わかりましたッ!うおおおおおッ!」ゴゥッ

漆黒騎士「グッ」ギンッ

侍(_狙うは一撃必殺。一刀で首を刈り取る。)グッ
「受けなさい!居合い切りッ!」シャキンッ

漆黒騎士「ぐっ、防御がッ!」斬ッ!

ゴロリ
侍「はぁ…はぁ…」

首無し騎士「」ビュッ

勇者「女侍さん、危ないッ!防御してくださいッ!」サッ

女侍「勇者さんッ!」

勇者「ぐっ…ふっ…」ボタボタ

女侍「まずいです、あの位置は鎧の隙間…ッ」

首無し騎士「肉体を捨ててアンデットとなり幾星霜、人の身で我輩の首を切り飛ばしたのは貴様らが初めてだ。誇れ?そして勇者共々死ねィッ!」ザシュッザシュッ

侍「くっ…うわあああああ」ザンッザンッザンッザンッ

漆黒騎士「守りを捨てたか、自棄を起こしたな」キンッキンッ

侍「うあああああ」ザンッザンッザンッ

漆黒騎士「ぐっ」ぐらっ

漆黒騎士「ふむ、視野が効かぬとやはり不便だな。ある程度気配で位置はわかるのだが…。」キンッキンッ

漆黒騎士「…仕方ない、ここは一度退こう。ではさらば」バッ

侍「待てえええええ!」

兵士長「ここは抑えろ!」

侍「放してください!放して!」バタバタ

勇者「はぁ…はぁ…」

侍「?まだ勇者さんに息があります。誰か手当てを!」

兵士長「わかった。戦は終わったぞ?誰か負傷者の手当てを頼む!動ける者はそうでないものを運んでやれ」



すみません(T_T)不自然な?は大抵!の打ち損じですすみませんすみません(T_T)

~夜~
兵士F「今日はひどい戦いだったなー」

兵士G「あぁ、街が落ちてもおかしく無いくらいの戦いだった」

兵士E「それにあの騎士!べらぼうに強かったな」

兵士F「そんなヤツを退けるなんて流石勇者一行だ」

兵士G「ああ、全くだ。でもそれにしちゃ姿が見えないが」

~宿~

侍「大丈夫でしょうか…」ウロウロ

ドア<ガチャ

薬師「勇者さんの容態なんですが…」

侍「無事なんですか?」

薬師「いやぁ、ほとんど手を施せない状態でして」

侍「え…、ウソ…、嫌ですよそんなの…認めません」

薬師「運びこまれた時点で既に…、一応応急手当は施しましたが…。」

侍「ふぇ」じわぁ

薬師「全くなにもしなくても大丈夫でした」

侍「へ?」

薬師「いやぁ~何にもしなくてもどんどん傷が治って行くんですよ?あれはすごかったなぁー。あ、もうそろそろめを覚ます頃だと思います」

侍「よ、良かったぁ~。」ペタン

薬師「では、私は他の兵士の治療があるので…。」

ドア<バタン

侍「そうだ、勇者さんは?」

ドア<ガチャ

勇者「おはようございます…?」

侍「すみませんでしたッ!」

勇者「え?」

侍「私を庇ったせいで深手を負ってしまって…」

勇者「あー、えーと庇ったのは僕がやったことですから、責任は僕にあります。謝る必要はありませんよ。」

侍「いいえ、私が奴をアンデットだと気づいていればあんなに深手を負うことには…」

勇者「僕は昔からケガの治りは早いんです。数少ない取り柄の1つで、だからどうかケガのことは気にしないでください。」

スイマセンデシタワタノセイデスイエイエオキニナサラズイエイエワタシノセイデスイエイエイエイエ…

兵士長「なに漫才やってんだお前さんたち?先勝記念の宴があるんだ。はやくこいよ。今日の立役者二人が居ないと盛り上がりにも欠けちまう。」

勇者「さ、宴もあることですしこのはなしはここまでにしましょう?ね?」

侍「なんだかうまい具合に煙に巻かれた気がします」

ご指摘ありがとうございます。長文うつのはほとんど初めてなので気になったところあったらどんどん言っていただけると嬉しいです(^-^)

~宴~
兵士長「今日は辛い戦いだった。失われた兵士の命は多く、魔王軍の進行は思ったよりもずっと進んでいると思ってよいだろう」

兵士達「「…」」

兵士長「しかし、失われたものを嘆いても仕方がない!勝ちは勝ちなのだ?今日は心行くまでのみ尽くせー!」

兵士達「「うおおおおおっ」」

兵士長「それでは、魔王軍を退けた勇者一行に」

勇者「門を守りきった勇猛な戦士達に」

侍「そして戦場で命を散らしたすべてのもの達に」

勇者、侍、兵士長、兵士達「「「乾杯!!!!!」」」

兵士F「かーっ、ひっさしぶりの酒だあー。」

兵士長「鬼の居ぬ間になんとやらだ今日は倒れるまで飲めーっ!」

兵士G「よーっし誰か飲み比べしようぜ」

侍「のりました?」

勇者「女侍さんは飲み過ぎたらダメでしょ!!」

兵士O「酒の席だぜ?固いこと言うなよ。それよりさ、勇者のニーちゃんも俺と飲み比べしようぜ?なっ?」

ワイワイガヤガヤ

兵士長「しっかし勇者は随分とザルだな!ウチの兵士三人潰してもまだ顔色1つ変えてねえ」ガハハ

兵士OPG「「ぐうう、のみすぎた~」」クラクラ

侍「そうれすよぉー、ゆーしゃさんはお酒で酔えないつまらないひとなんれす。」

勇者「つ、つまらない人…」ショック
「…少し夜風にあたってきます」

侍「あ、凹まないでくださいよ、お供しますー」トタトタ

~町はずれ~
勇者「ふぅ、兵士達の絡み酒にも困ったものですね」

侍「あ、ゆーしゃさんここにいたんですかー?」

勇者「えぇ、昼間の戦を思うと…。僕は結局勇者のくせにアタックは女侍さんに任せっぱなしでした。やはり僕は歴代のなかでも最弱です。」

侍「…そんなこと言わないでください。勇者さんが居なければ、私はあのとき漆黒騎士に斬られていました。」

勇者「僕が庇わなくても、女侍さんのスピードならあのくらいかわせたはずです。」

侍「いいえ、無理でした。以前話したようにあの技は不完全で、隙も多いんです」

勇者「どういうことでしょうか?」

侍「抜刀して刀を振り切ると、そこからある程度隙が生まれますよね?その隙を埋めるために一流の武士は抜刀から納刀までを一瞬で行うんです。居合い切りとは本来そういう技なんですが…、私は…。」

勇者「なぜ納刀をしないのですか?」

侍「しないのではなく、出来ないのです…。私の国は男女の分業意識が強く、女が戦場にたつことに忌避感が強いために私に剣術を教える者ほとんどはいませんでした。」

勇者「なるほど…。でもそれならなぜあのような動きが?あれは素人の動きではないでしょう」

侍「あぁ、いや、ほとんどとはいっても師匠のようなひとはいたんです。でも基礎しか教われず…。」

勇者「あとは見よう見まねで我武者羅にやっていた…と。」

侍「ええ、…そのお陰で抜刀は早いんですが、納刀はてんでダメダメで…、幻滅しましたよね。技どころか武士としても不完全な私のことなんて…。」

勇者「なぜ幻滅するんですか?例え不完全でも漆黒騎士を退けたのはあなたの一撃です。誰に恥じる必要があるのです。」

侍「!…。ありがとうございます。」

勇者「さ、辛気くさいはなしはやめにしましょう!宿屋まで送ります。そろそろ行きましょう」

侍「…はい!」

あ、ご指摘ありがとうございます

~宿屋・侍の部屋~
侍(女というだけで軽視され、、武士としても人としても出来損ないの私…。)

侍(でもそんな私でも…。あの人は純粋に剣の腕を評価してくれた。)

侍「誰に恥じる必要があるのです…か。」

侍「……。」

鶏<クックドゥードゥドゥルドゥ
勇者「日課の鍛練でもするか。」

~町はずれ~

侍「はっ!はっ!」ブンッブンッ

勇者(あれは…。)

勇者「おはようございます。鍛練、よければご一緒させてください。」

侍「えぇ、構いませんよ。朝からの鍛練は久しぶりですから調子が掴めず困っていたところなんです。」

勇者「そういえば、女侍さんが僕より早く起きるなんて珍しいですね。」

侍「はい、自分の未熟さを昨日ので痛感しましたから。女だから、できることが少ないから、といってひねてはいられません。それに…、強くなる理由もできましたし。」

勇者「理由…?差し支えなければ聞いてもいいですか?」

侍「もう、人が傷つくのを見たくないんです。」

勇者「…。」

侍「だから、魔王討伐の旅にご一緒させて頂きます。この手で一人でも苦しむひとを減らしたい。」

勇者「いいのですか?僕は歴代最弱ですよ?仲間になると大きな命の危険が伴いますし、魔王は愚か、あの騎士にすら勝てるかどうか…」

侍「一度は勇者さんに助けられた命。惜しくはありません。それに、強い弱いは関係ないです。私は魔王を倒すため、そして何より勇者が勇者さんだからお供するんですよ。」ニコッ

勇者「ッ!」ドキッ

侍「それに、武士道は義を重んじるんです。私は頑固ですよ。」

勇者「…はぁ。敵いませんね、女侍さんには。ではもう少し訓練を続けて、日が高く上ったら街を出ましょう。」

侍「ハイッ!」

~街・出立~
兵士長「街を救ってもらって感謝の言葉も無い。二人の旅に軍神の加護があらんことを…。」

侍「救ったなんて大袈裟な。私『達』勇者パーティーがすべきことをしたまでです。」

勇者「食料までいただいて大助かりです。それに、そんなに畏まらないでください。いつも通りでいいですよ。」

兵士長「そうかぁ?すまんな、なにぶん平民上がりでよ。まあ、この街は貿易でそこそこ栄えてんだ。食料のことは気にすんな」

勇者「それでは」

侍「さようなら」フリフリ

兵士長「おう!またな!」

………………………………

侍「仲間になってついてきたはいいんですけど、次に行くアテとかはあるんですか?」

勇者「そうですね…。元々行く予定だったのですが、緑の街へ行こうと思います。ここからも2日程と距離ですし」

侍「緑の街?一度立ち寄ったことはありますが、あそこは森とそれで暮らしている木こりしかいませんよ?」

勇者「あそこには先代の勇者パーティーの魔法使いがいます。」

侍「え?でも確か前の勇者が魔王と雌雄を決したのはもう100年以上も前のことですよ?まだ存命なんでしょうか?」

勇者「体は弱っているらしいですが、その叡知は健在だと聞きます。仲間になってくれないまでも、その魔法力の恩恵に少しでもあやかりたいとおもいまして。」

侍「なるほど、私達二人とも物理要員ですもんね。魔法攻撃の手段も無いとキツいですよね。」

勇者「ということで、次の目的地は緑の街です。少しでも強くなりながら先を急ぎましょう?」

侍「おー!」

~緑の街近く~

侍「ふぅー、やっと着きました…。」

勇者「えぇ、2日でつくところが4日もかかってしまいましたね」

侍「えぇ、こんなに遅れたのは絶対にあのモンスターのせいです!ああ、思い出しただけでも腹が立つ。」

勇者「まあまあ、落ち着きましょう。そのお陰で少しは強くなれたんですし。」

侍「そういうことにでもしないとやってられません。さ、街に入りましょう。」ズンズン

勇者「ああ、ちょっと待ってください。」トタトタ

~街の中~

勇者「先ずは宿をみつけて、それから魔法使いの居場所を探しましょう。」

侍「あ、以前立ち寄った時に泊まった宿屋があるのでそこに行きましょう。あそこのベッドはふかふかでしたよー。」

勇者「それは楽しみですね。案内をお願いします。」

侍「わかりました、確かそこの道を右に…」

~15分後~

侍「あ、ここですここ。」

勇者「すみません、二人で泊まりたいのですが。」

宿屋「いらっしゃい、二人で1部屋かい?それとも2つ部屋?」

侍「二人で1部屋で、」

勇者「えっ!分けないんですか?」

侍「私は気にしませんよ、一緒に野宿までしてるんです。路銀のほうが大切ですし。」

勇者「まぁ、確かにそれはそうですけど…。」

侍(それに、私は勇者さんがそんな不埒なマネはしないって知ってますしね)

勇者「そういえば、先代勇者パーティーの魔法使いについて何か知りませんか?ここらあたりてま隠居なさっていると聞いたのですが。」

宿屋「そうさなぁ…。しばらく前まではこの街に食料とかを買いに来てたんだが、最近めっきり見かけなくなったなぁ…。家も知らねぇし。」

勇者「そうですか。では街のほうに聞き込みにいきってきます。夜には戻ります。」

宿屋「あいよ」

勇者「では、行きましょう。」

侍「はい」



ここあたりてま→ここらあたりで しまった、基いてまった…。

~夜・宿屋~
勇者「一日聞き回っても、」クタァ

侍「収穫なし…、ですか。」グッタリ

勇者「今日はあきらめて寝て、明日は森の中も探って見ましょう。」

侍「ええそうですね。今日はとっとと寝てしまいましょう。」

勇者「おやすみなさい」

侍「おやすみなさい」



~早朝~
ガヤガヤガヤガヤ

侍「何事でしょうか?」トタトタ

宿屋「また、街の方で泥棒がでやがったんだ」

侍「また、とは?」

宿屋「ああ、しばらく前から同じ泥棒が頻繁に出て食料やら何やらを奪って行くんだ。一回いっかいの被害は少ないんだが、常習犯でよ。捕まえようとしてるんだが、逃げ足が異様にはやくてな。」

侍「なるほど、みなさんお困りなんですね。」

宿屋「そうなんだよ、街の奴らも手を焼いてんだ。」

侍「そうと決まれば…、勇者さーん!」

勇者「」



勇者「はーい、なんでしょうか。朝の鍛練ですか?」トタトタ

侍「違います、勇者さん。泥棒ですよ!泥棒!」

勇者「???」

宿屋「実はよ…」

~事情説明中~

勇者「なるほど、それは無視できない問題ですね…。今夜から街の食料庫で夜警をしましょう」

宿屋「すまねえなあ、代わりといっちゃ何だが、宿賃はサービスさせてもらうよ」

侍「気にしないでください、もともとこの街にはしばらく滞在するつもりでしたし。」

勇者「昼は魔法使い探し、夜は泥棒探しか…。ハードですけど、頑張りましょう?」

侍「はい!」

唐突なんですけど、女の子につけるなら角とケモミミってどっちがかわいいですかね?参考にするので聞かせていただけませんか?

~同時刻・魔王城~

死霊元帥「新しい首の調子はどうですか?漆黒騎士。」

漆黒騎士「少し結合部が軋みますが、戦闘に支障は無いかと。」

死霊元帥「ふむ、それは重畳。では、あなたに次なる任務を与えましょう。先代勇者パーティーの魔法使いを討ちなさい。」

漆黒騎士「ハッ!必ずや魔王様に魔法使いの首を献上いたしましょう。」

吸血姫「へぇー、ニンゲンのくせにまだ生きてたんだぁー。でも生きてたとしてももうヨボヨボのおじいちゃんじゃないの~?」

死霊元帥「ええ、あの老獪は魔法力に長け、長年姿を眩ましていました。しかし、この間の新月の晩に居場所が特定されたのです。」

吸血姫「大方、歳で居場所を隠す魔法でもとけたんでしょ。わざわざ殺す必要あるの?そんなヤツ」

死霊元帥「吸血姫。貴女はニンゲンを下に見すぎるきらいがありますね。老いたとはいえ元勇者パーティーです。警戒の必要は十二分にあるでしょう。それに、万全でなかったといえ、漆黒騎士の首を落とした侍も気になります。」

漆黒騎士「未熟でしたが、なかなか面白い戦い方をするパーティーでした。成長すれば、魔王様の脅威となりうるやもしれません。」

死霊元帥「ふむ、魔法使いと現勇者パーティーが合流することだけなるべく避けたいですね。」

漆黒騎士「了解致しました。では、早速魔法使いを抹殺して参ります。」

死霊元帥「待ちなさい、此は魔王様からの勅命です。失敗は万に1つも許されません。念のため、アンデットの精鋭100人からなる部隊を与えましょう。好きに使いなさい」

漆黒騎士「ハッ!」

死霊元帥「では、行きなさい」

漆黒騎士「失礼致しました。」ザッザッザッ

吸血姫「そんなに心配なら自分が出向けばいいじゃない。」

死霊元帥「魔王様のご意向でしてね。私自身は決して出向かず、部下にやらせよ。とのことでした。」

吸血姫「ふーん。魔王様のことだからお考えあってのことだろうけど。」

~夜警・2日目~

侍「魔法使いの情報も、泥棒もどっちもうまくいきませんねー。」

勇者「そうですね。森のなかもおかしなものも特にないですし。」

侍「やはり、魔法使いは老衰で鬼籍に入ったのではないでしょうか?」

勇者「そうなのかもしれませんね…。」

ギィィィ

??「…」ガサガサ

侍(どうやら泥棒のほうが早く解決しそうですね。)ヒソヒソ

勇者(もう少し様子を見て、それから捕らえましょう…。)

??「…?…?」ダッ

侍「気取られたか!」ダッ

勇者「追いましょう」ダッ

侍「ハッ!」ビュンッ
「捉えました」

??「…。」ヒュンッ

侍「っ!」キンッ

勇者「どうかしましたか?」

侍「気をつけてください。相手は武器を所持しています。恐らく投げナイフです」

勇者「わかりました。ふっ!」ビュッ

??「…」サッタタタッ

侍「街の外へ出ていきますよ!」

勇者「もう、大丈夫です。」ニヤッ

侍「?」

勇者「発光性の塗料を投げつけました。弾かれましたが飛沫は確実についています。それを追いましょう。」

侍「わかりました。」
(フードの下に何かあった…?)


勇者「こちらの方に続いています…。」

侍「だんだん森の方にはいってってますね。」

勇者「あ、あそこの茂みの所で足跡が消えています。みてみましょう。」ガサガサ

侍「うーん、特に変わったものはないですね…。まさか、足の塗料に気づかれたんじゃ…。」

勇者「?!、この足跡はワナです。」

侍「わな?」

勇者「これはバックトラックといって、行方を眩ます為に自分の足跡の上を歩き、自分の居場所を誤認させるという罠です。」

侍「ということはつまり?」

勇者「私達の後ろに泥棒がいるということです!!」

??「…」バシュッバシュッ

勇者「危ないっ」カンッカンッ

??「…。」シャラン

侍「投げナイフの次は短刀ですか…。いよいよもって盗賊らしいですね。いいでしょう、相手になります。」シャラン

??「…」ビュッ

侍(接近戦では私が有利…。)キンッ

侍「ふっ」ザッ

勇者「やりましたか?」

侍「いいえ、フードを掠めただけです」

??「…ッ?」ハラッ

勇者「その顔は…。」

侍「その角に、あれほどの身のこなし、やはり魔族でしたか…。」

角娘「…」ダダダ

侍「追いましょう。」ダダダ

勇者「はいっ!」ダダダッ

角娘「…」サッ

侍「むうう、木の上ですか。見失わないようにしなければ行けませんね。」

勇者「不味いです!撒かれてしまうかも。」

侍「仕方ないですね…。疲れるのであまり使いたく無いんですが…、縮地っ!」サササッ

~森・古びた小屋~

角娘「…」サッ

侍「あの中に入っていきましたね。ねぐらはおそらくあそこでしょう。しかし、念のため勇者さんを待ちましょうか。」

勇者「やっと追い付きました。急に速度をあげるんですから。驚きましたよ。」

侍「まあ、あれくらいしないと逃してしまいそうでしたし。でもそのお陰か泥棒のねぐらを見つけたんですよ。」

勇者「おお、それはいいですね。」

侍「それでは、踏み込みましょうか。」

勇者「罠があるかもしれないので注意が必要ですね。」

~小屋の中~

ドア<ギィィ

角娘「帰った」

老人「おお、よく帰ったの。しかし、その額の傷はどうしたのじゃ?」

角娘「何でもない」

老人「そうか、なら構わんがの、見たところ深くもなさそうじゃ。」

角娘「ねる。」スタスタ

老人「おう、おやすみ」

ドア<バタン

老人「ふう、あの子には迷惑をかけるのう…。」

ドア<ガチャン

勇者「もう逃げ場はありませんよ、盗っ人め!」

侍「そうです!諦めてお縄につきなさい?」

老人「なんじゃなんじゃ、一体何の騒ぎじゃ!?」

侍「…あれ?」

勇者「…え?」

老人「…ほ?」

勇者「侍さん。まさか、入る家間違えたんじゃ…?」ヒソヒソ

侍「いいえ、私はここにアイツが入るのを見たんです。それにここらにはもう他に家らしきものはありません。」ヒソヒソ

勇者「確かに…。申し訳ない、ご老人、ここに角の生えた女性が入ってきませんでしたか?」

老人「女性というよりは少女じゃが、確かにこの家には角の生えた者がおるよ。」

侍「やっぱりそうですよね!実は私達、その人をおっていまして…」

~事情説明中~

老人「なるほど、あの子が盗みを…な。それで、お主らは何物なんじゃ?」

勇者「私は勇者といって、魔王討伐の為に旅をしているものです。」

侍「同じく侍というものです。」

老人「なるほど…、勇者一行か。」
(これも運命かの…。)

老人「あの子は、今別の部屋で寝ておる。それと、警邏隊にあの子を突き出すのは儂の話を聞いてからにしてくれんか?」

侍(どうします?目の前の老人から武術の気配は感じませんが。)ヒソヒソ

勇者(悪い人ではなさそうですし、話を聞いて見ましょう)ヒソヒソ

勇者「では、お話をお伺いします。」

老人「まず、お主らが追っていた娘について話そう。あの子は、角娘といっての。角はあるが、魔族ではない。れっきとした人間じゃ。」

侍「人間?ではあの角は何なのでしょうか、奇形児、ですか?」

老人「ううむ、中らずといえども遠からず、というところかの。角娘は人為的に作られた奇形児。あの子のような者は人造魔人。と呼ばれておる。」

勇者「人造魔人…?」

老人「人造魔人とは、より強靭な戦士を得る為に胎内におるときから魔術的な遺伝子操作を施され、獣の特性を肉体に付加された者のことじゃ。反面、肉体にかかる負担は大きい。お主らは角娘を見たんじゃろ?幾つにみえた?」

侍「そうですね…、10歳前後、でしょうか…。」

勇者「私にはもう少し若く見えましたが…。」

老人「あの子は、もう16になる…。そして、もう成長はせん…。」



勇者「そんな、ひどい…。」ギリッ

侍「一体誰がそんな非人道的なことを…。」

老人「ある暗殺教団じゃ。角娘は15までそこにおった。」

侍「なるほど、高い身体能力と戦闘技術はそういう理由があったからなんですね…。」

勇者「では、何故貴方と角娘さんは一緒にいるのですか?」

老人「それはあの子が失敗作だった為に、捨てられておったからじゃ。」

勇者「失敗作?どういうことですか。」

老人「角娘の遺伝子モデルとなったモノの特性が成長すると共に強く現れだしての。新月の晩になると暴れ出すようになったために追放されたのじゃ。そこを儂が保護したんじゃよ。」

勇者「よくわかりました。しかしまだ疑問点はあります。何故暴れて手がつけられない角娘さんを貴方のような老人が保護できたのですか?」

老人「ああ、それは、ホラ、儂、魔法使いじゃし。」

侍「エェッ?!」

勇者「エェッ?!」

老魔法使い「いってなかったかの」ハハハ






侍「魔法使いとは、先代勇者パーティーの、ですか?」

老魔法使い「そうじゃ、もうこのとおり耄碌しておるがの」

勇者「僕達は貴方を探していました。よければ力を貸していただけませんか?」

老魔法使い「それは無理な話じゃ。儂は角娘を静める折りに足の骨を折っておる。この年じゃから、また歩けるようになるのも絶望的じゃ」

侍「貴方ほどの、人が深手を負うなんて、角娘さんの暴走は凄まじいものなのですね…。」

老魔法使い「あの子はその事を気にして、儂の身の回りの世話をしてくれておる。盗みを働いたのも、儂に食事をとらせるためじゃろうな。」

勇者「なるほど…それで盗みを…。」

老魔法使い「これからが本題なのじゃが、あの子をお主らの仲間に加えてやってくれんか。暗殺教団でそだったために、彼女は戦う以外に生きる術を知らん。儂亡き後、彼女に生きる目的を与えて欲しいのじゃ。」

侍「どうしますか、勇者さん」

勇者「勿論、大丈夫です。それに、僕達は二人だけなので戦略に幅が欲しいと思っていたところなんです。」

侍「でも、角娘さんは新月の晩になると暴れだすんですよ?それに、老魔法使いさんですら押さえ込むのに深手をおったのに。」

勇者「構いません。何とかしますよ。それに、困った人を助けるのは勇者の務めですから。」

侍「…。」

勇者「…。」

侍「…ハァ。勇者さんならそういうと思ってました。そうですね、人一人助けられずして何が魔王討伐ですか!」

老魔法使い「おお。引き受けてくれるか!良かった。それだけ解れば儂に心残りはもうない。」

勇者「では、私は一度街に帰って、事の顛末を町の人に報告してきます。女侍さんはここで待っていてください。」

侍「わかりました。」

ドア<バタン

女勇者ー困った人を助けるのは勇者として当たり前でしょ。魔法使い君。ー

老魔法使い「困った人を助けるのは勇者の務め…か。」

侍「どうかしたのですか?」

老魔法使い「いや、何でもない。そういえば、お主の瞳の色にその服装、ここら辺ではあまり見掛けんの。」

侍「それは私が東方の生まれだからです。ワノクニという極東から来たんですよ。」

老魔法使い「なるほど…。言葉遣いや、立ち振舞いが洗練されておる。向こうでは名家の生まれだったのか?」

侍「ええ…、まあ…、そうですね…。」

老魔法使い「そうか。」
(あまり自分の詳しい生まれについては触れてほしくないらしいの…。)

~緑の街~

勇者「…ということなんです。ですから、もう盗みは起こりません。」

町長「なるほど…。そういう訳だったのですね。もともとおかしいとは思っていたのです。盗むにしては量が余りにも少なすぎた…。私達としては、盗みが起こらないのならもう文句はありません。老魔法使い殿にもよろしくお伝えください。」

勇者「ありがとうございます。宿屋さんにこれを渡しておいてください。宿賃です、盗っ人を捕まえていないのにサービスしてはいただけません。」

町長「わかりました。私から渡しておきましょう」

勇者「では。」

~同時刻・緑の森~

??「元帥様の話によるとこの辺りのはずだが…。」

~少し遡って・老魔法使いの小屋~

侍「そういえば、引き受けたのはいいんですけど、角娘さんにはこのことは伝えてあるんですか?」

老魔法使い「まだに決まっておろう。そもそも、お主らに会ってから角娘と話しとらんじゃろ?」

侍「はぁ…。それはまあそうなんですが…。」

老魔法使い「という訳で、じゃ。伝えるのは任せたぞ。」

侍「えぇ…。」

老魔法使い「ほら、儂口ベタじゃし。それに、このやり取りはおそらく角娘には聞かれておるだろうしの。そうじゃろう?角娘。」

ドア<ギイイ

角娘「話はきいた。私は、嫌」

老魔法使い「こんな生活は続けられん。それに、儂はもう長くない。お前のような若い才能をここでくすぶらせておくわけにはいかんのじゃよ。」

角娘「認めない。私はここにいる」

老魔法使い「儂のような死に体とおるより、勇者たちについていったほうが、お前の幸せになる。」

角娘「それでも…。」

ウワーンウワーンウワーン

老魔法使い「不味い…。魔王軍め、思ったより早い進行じゃの。」

侍「何ですか、このアラームのような音は?」

老魔法使い「儂に敵意あるものが森に入ったことを知らせる魔法じゃよ。おそらく魔王軍じゃ。」

ドア<バタン

勇者「外にアンデットの大群がいます。数は少なくとも100は下らないかと。」

老魔法使い「やはり…な。狙いは儂じゃ。勇者くん、女侍くんと角娘を連れてここから逃げてくれ。儂が足止めを行う。」

侍「それだと、老魔法使いさんは…。」

老魔法使い「わかっておる。しかしの、何事にも引き際というのがあるんじゃよ。幕の下りない芝居はない。儂には今がそれじゃ。」

角娘「いや。私も残る」

老魔法使い「お前は勇者たちと行け。そして儂のことなどもう忘れろ。」

角娘「いや。私はいや。」

老魔法使い「…催眠呪」ボソッ

角娘「うっ…」バタリ

侍「これで…良かったのですか?」

老魔法使い「構わん。すまんな、角娘。儂の最初で最後の家族よ…。」

勇者「では僕逹はこれで。貴方のことは必ずし忘れません。」

老魔法使い「ああ、お主らを見とるとかつての仲間を思い出して悪い気がしなかったぞ。」

侍「では、また。」

ドア<バタン

老魔法使い「…。さぁ、この老骨、最後の大舞台。派手に幕引きしてやるとするかのう。」

漆黒騎士「ここが魔法使いの塒か?」

腐肉戦士「ハイ。間違イナイト思ワレマス。」

漆黒騎士「…ふむ。ご苦労。聞け!これから相手にするのは老人一人。しかし、元勇者パーティーの一員である。決して油断はするな!よいか!」

アンデット軍「「ウオオオ」」

漆黒騎士「では、行くぞ!!」

老魔法使い「それには及ばんよ。儂が自らもてなしをさせていただこう。」

漆黒騎士「貴様が魔法使いか。我輩は漆黒騎士。その首、魔王様の名のもとに刈り取ってくれよう」

老魔法使い「儂は先代勇者パーティーが一人、魔法使いお主らの野望、打ち砕かせてもらおう。」

漆黒騎士「では、者ども!かかれ!」

アンデット軍「ウオオオおおお」ドドドドド

老魔法使い「…極大殲滅呪」ドンッ?

アンデット軍「ぎゃぁぁぁぉぁおおおん」

漆黒騎士「怯むな?奴とて魔力は無尽蔵ではない。波状攻撃を仕掛け消耗を誘うのだ?」

アンデット軍「「ウオオオ」」

漆黒騎士「見事だ。精鋭アンデット軍を半壊させ、全力の我輩に傷を負わせるとは。しかし悲しいかなお前は老いのある人の身。もう、魔力は残っていまい。」

老魔法使い「ああ、確かにもう魔力は露ほども残っておらん。それに魔法で空を飛べんからもう逃げることも叶わん。」

漆黒騎士「ならばその余裕は何だ?達観か?」

老魔法使い「儂はもう死ぬ。しかし、一人では死なん派手に散って見せよう」

漆黒騎士「まずい、全軍撤退!」

老魔法使い「自己破砕呪」

バゴオオオーン

漆黒騎士「ぐっ!耐えきれない?」

アンデット軍「ぐぎゃぁぁぉぉ」

老魔法使い「女勇者、武道家、僧侶、ようやく儂も…。」バタリ

~森の出口近く~

バゴオオオーン

勇者「魔法使いさん…。」

侍「…。角娘さんが起きるまえに早くここを離れましょう。」

勇者「…はい。」

~緑の街~

角娘「…。ここは?」

侍「ここは緑の街で、そこは勇者さんの背中です。貴女は魔法使いさんの魔法でしばらく近く眠っていたのですよ。」

角娘「魔法使いは…?」

勇者「おそらく…、もう…。」

角娘「そう…。」

侍「落ち着いて…、いるのですね。」

角娘「…。」コクン

勇者「これから、僕達は仲間です。よろしくお願いしますね。」

角娘「わかった。それが魔法使いの、意志だから…。」

侍「…。」
(それにしても…。)

勇者「…。」
(いつになったら僕のせなかから降りるるんだろう…?)

角娘「?」

勇者「そこ、気にいったんですか?」

角娘「…。」コクン

侍「急な戦闘のとき、邪魔になるのでは…?」

角娘「わかった」ソロソロ

勇者(肩車みたいな格好になった…。)

侍「そういう問題なんですか…。勇者さんも重いのでは…?」

勇者「いえ、僕は大丈夫なのですが…、周りの目が…、」

町人A「あの年であの子どもか、最近の子は進んでんなぁー。」

町人B「勇者さまってロリコンだったのね…。」

侍「私達、家族と思われているのでしょうか?」

勇者「はぁ…、どちらにせよ早く町を出たほうがよいでしょうね。」

~町はずれ~

侍「で、次の目的地はどこにしますか?勇者さん。」

勇者「とくには決めていません。」

侍「では、パーティー全体の装備強化も兼ねて、砂の街に行きませんか?」

勇者「砂の街…ですか。砂漠の中にあるため、作物が育たず、代わりに商業が発展した街ですね。あそこなら良い武器も手にはいるでしょう。」

侍「では、次の目的地は砂の街ということで…。」

勇者「出発進行!」

侍「おー!」

角娘「…おー。」

~砂漠・夜~

勇者「しかし、砂漠の夜は冷えますね。」

侍「ええ、前の街で着物を買っておいて正解でした。」

角娘「」スヤスヤ

勇者「しかし、角娘さんなのですが…、」

侍「えぇ、かわす言葉は最小限ですし、笑うこともほぼ無いですね。」

勇者「以前の、彼女をほとんど知りませんが、やはり魔法使いさんの死が堪えているのでしょう。」

侍「家族同然…でしたものね。」

勇者「幸い新月の晩はもう少し先ですが、暴走のこともあります。やはり一度彼女の故郷へ足を運んでみませんか?」

侍「暗殺教団の里…ですね。大きな危険が伴いますし、そもそも何処にあるかわかりません。保留事項…でしょう。」

勇者「何時かは突き当たる問題です。それに角娘さんは、もう、僕達の仲間なんですから…。」

侍「ええ。もちろん。」

~砂の街~

勇者「見えて来ましたね、あれが砂の街でしょうか?」

侍「もう蜃気楼は勘弁ですよ…。」

角娘「…。」グテー

勇者「砂漠の旅は心身共に疲弊しますからね。行っても行っても同じ景色ですし…。」

侍「とりあえず中に入りましょう」

勇者「はい。」

角娘「…。」コクン

侍「魔王軍の進行があるなか、ここは賑やかですね。」

勇者「そうですね。とりあえずなにか食事を買いましょう。久しぶりに保存食以外のものが食べられます」

侍「ええ、それは素晴らしいことです。でも気を付けなければなりません。此処は商人の町。海千山千の輩に丸ハダカにされないようにしないと。」

勇者「ある意味戦闘より危険な戦いですね…。」

商人「アッサラーム!さ、何を買っていくかい?」

勇者「あ、あっさらーむ。砂漠猪の肉と、砂ウサギの肉をあわせて一キロください。」

商人「あわせて10000ゴールドになるよ。」

侍「高いですね。2000にまけてください。」

勇者「え、そんなにふっかけるんですか」ヒソヒソ

侍「まあ、みててください。ここにはここのやり方があるんです。」ヒソヒソ

商人「んんん。さすがに2000は無理だよ。生活できなくなっちゃう。」

侍「そうですね…。では3000で。」

商人「まだまだ高いね。7000でどう?」

侍「4000」

商人「んー。6000」

侍「5000でどうです?」

商人「OK。商談成立よ。また来てね~。」

勇者「流石女侍さん。半額にまでまけてもらいました。」

侍「そうでしょう。そうでしょう。」フフン

勇者「でも何であんなに値切れたんですか?」

侍「ここの商人は商人稼業に誇りを持っている人がおおく、ああいう値段交渉が好きなんです。だから少し面倒なんですけど交渉につきあうと快く値段をまけてくれるんです」

勇者「なるほど、ここの商人は魂まで商人なんですね。」

侍「ええ、これもまた1つの文化です。」

角娘「勇者…、さっきあの商人同じ肉を3000で売ってた…。」ヒソヒソ

勇者「え"、それは…。」

侍「それにしても流石私。半額に出来ちゃうなんて!もっと誉めてください」

勇者「ええ、そ、そうですね。偉い偉いです。」ナデナデ
(このことは黙っておこう…。)




~宿屋~

勇者「今日は早めに寝て、明日武器を探しましょう。では、お休みなさい。」

角娘「おやすみ」

侍「私達は隣の部屋です。行きますよ。」

角娘「はぁい。」

~同時刻・緑の街~

??「ここにこの女性は泊まりませんでしたか?」

宿屋「ああ、泊まったよ。たしか、勇者さまと一緒にいたな。泥棒事件まで解決してもらってな、ありがたいこった。」

??「そうですか。ありがとうございます。」
(勇者などと一緒とは、お転婆が過ぎるな…、)

~砂の街~

侍「武器、と一口に行っても種類は様々ですからね。お二人はどんなものが得意なんですか?」

勇者「そうですね…、一応兵士として訓練していた時に斬撃武器である剣と、殴打武器であるメイスを。」

角娘「私は短刀とダガー。」

侍「そうですね…。私はこのとおり、刀一辺倒ですので、勇者さんにはメイスの方で戦ってほしいですね。」

勇者「では、僕はメイスを。」

角娘「でも勇者、攻撃へたくそ」

勇者「うっ…、へたくそ!?」ズキッ

侍「あわわわわ。ゆ、勇者さんは壁役ですから、武器よりも鎧や盾で身を固めたほうがいいんですよ」アセアセ

勇者「で、では僕は盾と鎧。角娘さんは短刀と、ダガーの補充。女侍さんは刀の新しいのを見繕いましょう。」

侍「あ、私は結構です。この刀そこそこ業物ですし。」

角娘「たしかに、きれいな刀身。」

侍「そうでしょう。世界に二振りとない名刀と評判なんです。」

勇者「それは良いですね。他の装備に回せる金額が増えます」

~その日の夕方~

侍「まさか、これほどむしりとられるとは…。」

勇者「商人の街恐るべし…、ですね。」

角娘「もう、すかんぴん」

侍「たしかに、良い武具は手に入りましたが…。」

勇者「砂漠を越える準備はおろか、今夜の宿賃すら残っていません。」

角娘「野宿、かくてい。」ムスー

侍「何とかして、お金をためないと。」

勇者「んむむ、商人の方に雇ってもらいましょう。」

侍「とりあえず短期の職場を探しましょう。」

~勇者side~

勇者「すみません。働き口はないでしょうか?力仕事なら自信があります」

商人「すまないね、うちは間に合ってるんだ。」

勇者「そうですか…。」

~侍side~

ポン引き「仕事?お姉さんキレイだから一晩でいくらでも稼げるよ?どう?」

侍「え、いえ、そういうのはちょっと…。」

~角娘side~

店主「ごめんなさいねー。お嬢ちゃん、もう少し大きくないと雇えない決まりなのよ…。」

角娘「…。」

勇者「はあ…、やはりなかなか仕事を見つけるのは難しいですね。」

侍「ええ、あったとしてもいかがわしいものばかりで…。」

角娘「…。」ムスー

勇者(角娘さん、不機嫌そうですね。何があったんでしょうか。)ヒソヒソ

侍(働ける年齢じゃないって言われたらしいですよ、)ヒソヒソ

勇者(なるほど…。)

侍「それにしても、今夜の宿はどうしましょうか。やはり私がさっきの店で…。」

勇者「それはいけません!身に危険が及ぶことは厳禁です。」

侍「でも、どうすれば…。」

角娘「困った…。」

??「三人とも、職にお困りで?」

勇者「はい。」

??「腕っぷしに自信は?」

勇者「一応、勇者パーティーなので、」

??「おお、それは心強い。では、うちで雇われませんか?」

侍「お話をうかがえますか?」

~キャラバン~

侍「いやー、しかしキャラバンとは、最高の働き場所ですね。」

勇者「はい、砂漠をタダで渡れますし、用心棒だから給料もでる。一石二鳥ですね。」

行商人「いえいえ、嬉しいのはこちらもです。勇者パーティーだけあって、腕には信がおけますし、旅なれもしている。」

侍「ありがとうございます。」

勇者「そういえば、行商人さんは普段どのようなことをされているのですか?」

行商人「そうですね…、あちらでは麦を買い、こちらでは塩を売り、という風にあちこちを旅して、利を得ています。魔界の近くにも行ったことがありますよ」

勇者「魔界…、どんなところなんでしょうか…?」

行商人「近くを通っただけですが、うっすらとしょょうきががが…、うっ」バタリ

勇者「うっ…この感じは…。」

角娘「毒ガスの類い、強い眠気を起こすもの。」

侍「そとに、気配、が五人ほど…。」バタリ

暗殺者A「ガスは回ったか?」

暗殺者B「おそらくほぼ全員眠っている」

暗殺者A「ならば、目的のものを持ち出すぞ。」

暗殺者達「「了解」」サッ

暗殺者C(俺の分担はこの幌馬車か、他愛無し、他愛なし…。)

暗殺者C(ふむ、ここがあたりか…。)

勇者「…。」フラフラ

暗殺者C「ッ!何故この中で立っていられる?トロールすら半日は眠り続ける催眠草の鱗粉だぞ?」

勇者「…生憎、睡眠薬の類いは効きが悪いんですよ…」フラフラ

暗殺者C「しかし、その足取り立っているのもやっとだろう。悪いが始末させてもらう。」サッ

勇者「ええ、この意識のなか、貴方の相手をするのは私には無理です。ですが…」

暗殺者C「ハァッ?」ヒュンッ

勇者「貴方の気を引くことはできます」

角娘「…」ドスッ

暗殺者C「ガッ!お前は…。」バタリ

ナッオマエハ!ガッ

暗殺者B(この声、Cがやられたな。まずい、一旦退くのが得策か。)
「おい、不測が起こった。奴を回収して退くぞ。」

暗殺者D「了解」サッ

暗殺者B「そいつを返してもらおう。まだ息はあるようだ」

勇者「断ります。」

暗殺者B「ならば、相手になろう。お前と…、その娘のな」

角娘「ハッ!」キィン

勇者(気づかれたか。)
「うおおおおお」グワンッ

暗殺者B「フッ!」キィンキィン

角娘(不意を打てないと不利。)キィン

暗殺者B「ハッ!」キィン

暗殺者D「任務遂行」

暗殺者B「ならば退かせてもらう、」サッ

暗殺者D「さらば」サッ

勇者「待て!」

角娘「無理に追いかけないで」

勇者「しかし!!」

角娘「依頼人の保護だいじ」

勇者「ぐ…、まあ、確かにそうですね…、」

勇者「すみません。盗賊を取り逃がしてしまいました。」

行商人「いえいえ、追い払ってくれただけで十分ですよ。それに何かを盗まれた訳でもないですし。」

侍「それにしても、あの煙幕のなかよく意識を保てましたね。」

角娘「私は、そういう訓練したから」

勇者「僕は何故か耐性がありまして。」

侍「なんだか申し訳ない気持ちになりますね…。」

勇者「まぁ、人には得手不得手がありますし、気にしないでください。」

侍「そうですね。護衛もあと少し。頑張りましょう!!」

角娘「うん」

勇者「はい」

~砂漠近くの森~

勇者「結局最後まで何も起こりませんでしたね。」

侍「ええ、拍子抜けするくらい平和でしたね。」

勇者「ますますあの集団の意図が読めません。やはり金銭目当ての強盗なんでしょうか?」

角娘「それは違う」

侍「?…、何か知っているのですか、角娘さん。」

角娘「たぶん」

侍「小さなことでもいいです。知っていることを教えてください。」

角娘「あいつらは、私欲で金銭を奪ったりしない。もっと別の目的のはず」

勇者「詳しいのですね…。」

角娘「うん。仲間だったから。」

侍「!?…、ということはあの者達は…、」

角娘「私のいた教団の使徒」

勇者「使徒…?」

角娘「教団には信仰している神がいて、その教義に従ってる。それで自分達のことを神の使徒っていう。」

勇者「なるほど…。では別の目的とはなんでしょうか…?ますます藪のなかですね。」

角娘「それはわかってる」

侍「本当ですか。では教えてください!」

角娘「言えない。」

勇者「言えない…、とは?」

侍「む、それは感心しませんね。何故言えないのです?」

角娘「理由は話せない。でも、信じてほしい。」

侍「話せないのに、信じろとはムシがよすぎると思いませんか?それに私達は、仲間ですよ。もっと信用してくれても良いではないですか。」

勇者「まあまあ、角娘さんには角娘さんの事情があるんでしょう。」

侍「勇者さんは人が良すぎるんですよ?こういうことは信頼に関わるんですから。」

角娘「仲間になったのは魔法使いに言われたからで、信頼も信用もしたつもりはない。」

侍「…」ギリッ

勇者「…。」

侍「ふざけないでください!!何が言われたから、だ!!そんな思いだったなんて、私は失望しました!!この…、薄情者ッ!」

勇者「落ち着いてください。二人とも…。」ワタワタ

侍「もう知りません!!私はあちらで魔物狩りをしてきます?では!!」スタスタ

角娘「…。」

勇者「何があろうと貴女は僕達の仲間ですよ。」

角娘「知らない…。」

勇者「女侍さんを手伝ってきます。」スタスタ

角娘「…………………………………………。」








~森の奥~

侍「ッ!」ブンッブンッ

コボルトオーク「「グァーッ」」バシャッ

勇者(荒れてますね…。)
「微力ですが、手伝いにきましたよ。」

侍「……。」ムスッ

勇者「角娘さんのことですが、水に流してあげてくれませんか。」

侍「…先程も言いましたが、勇者さんは人が良すぎるんです。あんなことを言われて、何故平常でいられるんですか?」

勇者「角娘さんは本当は仲間思いの良い人ですよ。先の発言も何か考えがあるのでしょう。」

侍「そうやって角娘さんの肩をもつんですね。最近勇者さんは角娘さんの話ばかりです。」

勇者「それはまぁ、仲間になったばかりですし…、彼女自身、何かを抱えているようでもありますし…、放っておけません。」

侍「勇者さんの…、ばか。」

勇者「す、すみません。」

侍「…はぁ。わかりました。勇者さんに免じて、今回は水に流します。角娘さんを信じますよ。」

勇者「ありがとうございます。」

侍「この、鈍感。」ボソッ

勇者「な、なんかすみません。」

侍「いーんですよ。さ、行きましょうか。」スタスタ

勇者「は、はい」

~夜~

勇者「Zzz」グゥグゥ

侍「Zzz」スースー

角娘「…。」ゴソリ

勇者「…!」ピクリ

角娘「…。」ゴソゴソ

角娘「…。」キョロキョロ

勇者「Zzz」グゥグゥ

角娘「…。」タタタ

勇者「何も言わずに行った…、やはり…、か。」ガバッ

勇者「女侍さん…、女侍さん…。」ユサユサ

侍「ん、なんですか…、もう朝餉ですか?」ウツラウツラ

勇者「残念ながら、今朝の食事はお預けになりそうです。角娘さんがどこかへ行きました。」

侍「何…!それは真ですか!?」

勇者「ええ、兎に角あとを追いましょう。」

角娘「…。」タタタ

侍(あちらに向かいましたね)ヒソヒソ

勇者(ええ、砂漠の方に向かって行きますね…。)ヒソヒソ

~???~

角娘「…。」スタスタ

侍(何となく出会ったときを思い出しますね…。)

勇者(砂漠の山中にここんなところがあるとは…。)

侍「あそこは…。」

勇者「ええ、おそらく角娘さんの故郷、暗殺教団の里…でしょうね。」

侍「やはり、仲間などではなかったということですか。」ギリッ

勇者「それは早計ですよ。女侍さん」

侍「ッ!ではどう説明をつけるんですか!?彼女はきっと教団と密通し、私達を嵌めようとしているのです?」

勇者「落ち着いてください。それと、恐らく彼女の行動は私達のためを思ってのことですよ。」

角娘「…。」スッ

侍「ッ!気取られたか!」キンッ

角娘「ふっ。」カンッ

勇者「待ってください?」バッ

侍「何故止めるのです?」

角娘「…チッ。」

勇者「角娘さん。一人で背負い込むのはやめてください。」

侍「…、いったいそれはどういうことです…?」

勇者「詳しい話は角娘さんから。」

角娘「奴らの狙い…、それは多分、私。」

侍「ん?話がよく見えませんね。」

角娘「私には希少価値がある。」

侍「でも、暴走するために捨て…、ああいや里を出たんですよね。」

角娘「多分、新しい研究を始めたんだと思う。」

勇者「それで、角娘さんが前例として、必要になった…と。」

角娘「恐らくそう。」

侍「それで、私達に迷惑をかけないようにこっそり一人で里に戻ろうとしたんですね。」

角娘「うん。」

侍「この…、おおばかものッ!」

角娘「…。」

侍「仲間なんですよ!艱難辛苦を分かち合ってこその仲間です?教団がなんですか!そんなもの一緒に片をつければよいのです。」

角娘「…、ごめんなさい。」

侍「朝食を抜いた位の対価はありましたね。」

勇者(あっ、やっぱり根に持ってたんだ。)

侍「それと、こういう時はごめんなさいではありません。迷惑をかけてしまうのは当然なんですから。」

勇者「そうですよ。こういう時はもっとありきたりな言葉でいいんです」

角娘「…あり、がとう。」ポロポロ

勇者「それでは、貴女の疎ましい過去にケリをつけに行きましょう。」

角娘「うん」グスッ

~教団の里~

角娘「こっち。」

勇者「こんな大きな村落がよく隠せますね。」

侍「でも全く存在を感じませんでしたよ。」

角娘「探知阻害の魔法も張ってるから」

勇者「そういえば、何となく薄靄がかかっている気も…。」

侍「そうですか?私にはさっぱり。」

角娘「砂漠の熱による屈折も利用してるから、」

勇者「なるほど。」

侍「…。近づいてきましたよ。そろそろですね。」

勇者「ええ、恐らく最も激しい戦いになるでしょう。」

角娘「…、やはりやめたほうが…。」

侍「乗りかかった舟です。難破しようが、沈没しようが、最後まで一緒ですよ。」

角娘「うん。」

勇者「さ、僕が先陣を切ります。」

角娘「待って、中には争いとは無縁の只の砂の民もいる。」

勇者「!そうなんですか。てっきり全員がそういう仕事を生業にしているのかと。」

角娘「うん。集団の長が暗殺者というだけ。」

侍「では、一度武器をしまい、長とやらの元へいきましょうか。」

勇者「では、今度こそ。」

侍「ええ」

角娘「…」コクリ

通いなれたいつもの道、ルーチンワークとなった通勤時、僕の前に白く、圧倒的な重量と速さを持った「ソレ」は突っ込んできた…。

一週間ほど前に事故りました。利き手がおれたので、更新がいよいよ遅くなります。すみません。あと、読み返すと、キャラの躁鬱が激し過ぎます。 すみません。 ご意見は非常にうれしいです。ありがとうございます。作品の更新より私情を語りました。すみません。

~教団の里~

角娘「この奥に本拠地がある。」

侍「それにしても、只の村にしか思えませんね。平和そうですし。」

角娘「無関係の人は巻き込まないから。」

勇者「それは教義とやらの1つですか?」

角娘「そう」

侍「ウムム…。実はいい人達?なんですかね?」

勇者「話し合いですむならそれが最上なんですが。むこうは奇襲をかけてきていますからね…。」

角娘「そろそろ、つく。」



首領「鋼の勇者に、里の忌み子、それに倭国の姫君か、なかなか面白い面が揃ってるな。」

侍「む、何者だ!」

角娘「この声は…。」

首領「久しぶりだな、角娘。」

勇者「ッ!(いつの間にっ!)」サッ

首領「ハハハ、そう畏れるな。まあ、座れ。話をしよう。」

侍「…。」オズオズ

角娘「…。」スッ

勇者「…。」オズオズ

首領「何となく予想はついてるが、用件ってのを聞かせてもらえるかい?」

勇者「先日、僕達は襲撃を受けました。鮮やかな手口で、とても野盗の動きなどには思えませんでした。」

首領「ああ、それがどうした?」

勇者「単刀直入に聞きます。貴方達の仕業ではないですか?」

首領「そうだ、俺の差し金で、俺の同志がやった。徹頭徹尾俺達のやったことだ。」

勇者「目的は?」

首領「そんなもの、お前らがよく知ってるだろう?」

勇者「…。はっきりと申し上げておくと、貴方達のもとに角娘さんを帰す気は毛頭ありません。」

首領「………………………………………………………………………角娘?」




首領「おいおい、話がわからなくなったぞ。俺らが角娘を連れ戻す?んなことあるわけねぇだろ、」

勇者「それは本当ですか?」

首領「ああ、俺達の神に誓ってもいいね。」

侍「うっ、だとすると」

勇者(あの里の前のやりとりは…、)

侍(茶番みたいなもので…、)

角娘(それってすっごく、)

角侍勇(恥ずかしい…。)

勇者「ん"ん"…。では貴方達の本当の目的は何なんですか?」

首領「俺達の目的は、其処でジタバタしてる侍の嬢さまだよ。」

侍「?…ハッ!」

角娘「彼女は何者なの?」

首領「まさか今まで知らずに一緒にいたのか?
そいつは倭国初代大君直系の血を汲む皇族の娘にして、現倭国元首の長女、ま、平たく言うとジパングの王女様、ならぬ皇女様ってこった。」

勇者「なっ…!」

角娘「あなた、お姫様だったの。」

侍「…。」


勇者「今の話は本当ですか?」

侍「ええ、確かに私は倭国では姫…、こちらでいう王女の立場にあります。で、でも騙すつもりはありませんでした。それに、旅を楽しむ気持ちにも、嘘はないです…。」

勇者「知ってますよ。貴方がどんな産まれでも、どんな育ちでも、僕達にとって女侍さんは女侍さんですから。」

角娘「…。」コクン

侍「ありがとうございます…。」

首領「…さてと、話は纏まったな。つーことで嬢ちゃんの身は俺達が預からせてもらう。あとの二人は魔界なり冥界なり好きな所へ行きな。」

勇者「どちらにせよお断りします。侍さんも角娘さんも大切な仲間に変わりはありませんので。」

首領「ほう…。敵の本拠地で啖呵を切るからにゃ相応の覚悟があるんだろうなぁ…?」

勇者「いいでしょう。勇者一行が相手になります!」

首領「よく吠えた、そして死ね!」

暗殺者ABC「…。」シュンッ

勇者「おおお!」ブンッ

首領(ほお…、完全に気配をした状態からの奇襲を身1つで受けきったか…。)

暗殺者A「燕射ち」シュッ

暗殺者B「無影斬」ザッ

暗殺者C「震打」ドシュッ

勇者「シールドウォール」ゴキィン

角娘「影縫い」ビュッ

暗殺者A「ウッ」

侍「受けよ!三連斬!」シャッ

暗殺者B「クッ」スッ

暗殺者C「チィッ」キィン

首領(勇者が受け、角娘が仕掛け、侍が下す。…厄介だな。)

首領「俺も混ぜろッ!」ビュンッ

勇者「グッ」(一撃が重い…。)ズズ

首領「喰らえ、鉄金掌!」ドン?

勇者「グッ!」バギッ

首領「それをもろに受けて立ってたやつは久しぶりだ。お前ら!そいつらの相手をしてな!おれはこいつとサシでやる。」

暗殺者C「了解」

首領「さあ、楽しくなってきたぜ。」

暗殺者D「お待ちください」

首領「あン?なんだよ、これからいいとこなのによ。」

暗殺者D「祈祷師様がお見えです。」

首領「祈祷師のババァが…?まぁいい。命拾いしたな。」


勇者「まだまだ…やれますよ…。」ギロリ

首領「いいねぇ、その目。殺したくなるぜ。」

勇者「…」ジリ

首領「…と、いきたいところだが、祈祷師のババ様がお前達に会いたいそうだ。殺し合いはそれまでお預けだな。ついてこい。」

角娘「…。」スタスタ

侍「行っていいのですか?」

角娘「大丈夫。」コクン

勇者「わかりました。では此方も剣を納めましょう。」



~教団・礼拝堂~

首領「連れて来たぜ、ババ様。」

祈祷師「ほう、お主が勇者かえ」

勇者「は、はい。」

侍(ババ様、なんて言うからしわくちゃのお婆ちゃんなのかとと思ったら、若い…。)

祈祷師「ふむふむ、優しい目をしておるわ…。」

勇者「あ、ありがとうございます」ドキドキ

侍(ああやって色気を振り撒くのは面白くないですけど!)

祈祷師「先々代を思い出すわ。」

勇者「先々代とは、先々代の勇者ということですか?!」

首領「外見に惑わされるな。そいつは俺の祖父さんがガキの頃からその見かけだ。」

侍「…、失礼ですが、お年はおいくつになるんですか?」

祈祷師「28じゃ!……300と」

角娘「ババ様呼びも納得。」

祈祷師「貴様祟り殺すぞ。」

角娘「ごめんなさい。」

祈祷師「…こほん、首領よ、勇者一行を解放せよ。もちろん、侍も一緒にの。」

首領「はぁ?何でだよ。こいつは悲願の為に必要なんじゃないのか。」

祈祷師「その悲願の為じゃ。納得せよ。」

首領「…チッ」

侍「悲願…とはなんですか?」

祈祷師「そうじゃの。お主らには知る権利がある。そこの壁に書いてある文字と絵が見えるか?」

勇者「禍々しい姿の者と、何かが迎いあっていますね。真ん中にあるのは階段…でしょうか。劣化でよく見えせんね。階段の先には、太陽?」

祈祷師「文字のほうはどうじゃ。」

角娘「…」フルフル

勇者「古代文字…でしょうか。正直さっぱりです。」

侍「…と魔の争いの末、道は開かれん。争いを制せし者、三種の力を携え…と相対するとき、悲願は果たされん。
三種の力とは何か?神に…し者也。神に奉じられし者也。神に…し者也。
悲願とは何か?繰り返す…と…の円環に終止符を打つ事也。所々掠れて読めませんね。」

角娘「すごい」パチパチ

首領「倭国の姫君ってのは古代文字も習うのかい。ご苦労なこった。」

侍「いえ、習った覚えは全くないのですが、何故か口から言葉が出てきました。」

祈祷師「やはりの、それはお主が光の巫女の血を汲むものだからじゃ。」









唐突な淫夢に草

勇者「光の巫女…とは?」

侍「倭国初代大君の娘のことです。国を鬼道によって導き、倭国はそのためにどこの属国にもならずにすんだとか。」

首領「だから、皇族であるそこの嬢ちゃんは光の巫女の血族ってワケだ。」

勇者「なるほど…。では何故悲願に光の巫女の血が必要なのですか?」

祈祷師「そこの壁の文字に有ろう。…その壁は何代かまえの首領が作ったレプリカで、本物は魔界と人間界を隔てる壁の一部なんじゃが…、神に奉じられし者、と。」

角娘「どういうこと?」

首領「光の巫女は、その最期、国の将来の為にその身を神に捧げ、倭国に祝福をもたらしたという…。」

勇者「なるほど、預言にある神に奉じられし者とは、光の巫女をさすということですね。」

祈祷師「少なくとも妾達はそう考えておる。そして、光の巫女の力を覚醒させる為には三つの条件が必要での。見たところ、全て満たしてそうじゃが…。巫女の血を汲むこと、善人であること、そして、乙女であること…、ようは処女ってことじゃな。」

侍「なっ…。わ、わた、わたしは…。」カァァ

首領「もっと言い方って物があるだろババ様よ。だから年寄りって言われるんだぜ。」

祈祷師「落雷呪。」

首領「ウオッ」ビリビリ

祈祷師「じゃが、今し方お主の目をみて、行く末を占ったところ、光の巫女はお前に預けておいたほうが良さそうじゃとわかっての。そういうワケじゃから、」

勇者「はい、ありがとうございました…。」
(にしても…)

角娘「…。」ツンツン

首領「 」

侍「し、し、処、処女…。」バタバタ

勇者(死屍累々って感じですね。恐るべし、里の長…。)





首領「つー訳で、お前らは自由らしい。ま、そこのにーちゃんと闘りあえないのは残念だが、これも我が神の為だ。ここで暫くゆっくりしてけや。」

勇者「では、2、3日滞在させていただきます。ここの宿はどこですか?」

首領「この里に宿屋なんて気の効いたもんはない。その代わり、うちの客間を貸そう。角娘にとっちゃ馴染み深いだろうよ。」

勇者「わかりました。三人とも同じ部屋ですが大丈夫ですか?」

侍「私は別に構いません。」

角娘「…。」コクン

首領「おい、これからこいつらは客人だ。案内してやれ。」

暗殺者D「了解しました。こちらへ、」

~次の日・朝~
勇者(日課の鍛練をしなくては)

勇者「もしもし、朝ですよ。起きてください。」ユサユサ

侍「んう…、あされんですね…、もうじきおきます。」ムニャムニャ

勇者「わかりました、先に行ってますからね。」

~鍛練場~

勇者「たしか、昨日の話だと、ここですね…。」
(ん、あれは…、)

首領「我らが神は絶対にして唯一、貴方のみを主と認め、預言者の言に従い、ここに祈りを捧げる。礼拝は睡眠に勝る喜びである。
礼拝の為に来たれ、成功の為に来たれ、悲願の為に来たれ。
我らが神は、絶対にして唯一である。仁慈あまねく慈悲深き、我が神のみ名によって。」

勇者「…。」

首領「ん、珍しいか?朝の礼拝だが、」

勇者「いえ、角娘さんがたまにやっているのを見かけるので…。それよりも何故こんなところで?」

首領「他のやつらは礼拝堂でやってるよ。俺はちょっと特殊でな…。そんなことはいいんだ、実践訓練だ、付き合ってもらおうか。」

首領「フッ」ダッ

勇者「はっ速…。」

首領「旋脚」ズンッ

勇者「ッ」ザリ

首領(チッ、鉄壁を蹴ったみてぇな手応えだ…。)スッ

勇者「ハァッ」ブンッ

首領(なかなかの威力だが…、攻撃自体は力任せ、虚実すらない…)
「流水落岩」ドカッ

勇者「グッ」(カウンター…!?)

首領「鉄金拳」ゴンッ

勇者「ウォールッ!」ズンッ

首領(やはり硬いか…。ならば、)
「刃拳から打鞭肘まで…、混成打撃接続五十六連」

勇者「フォートレスッ!」ズズズ

首領「今のを受けて立っているか…。いいねえ、楽しくなって来たぜ?」

勇者「シールドラッシュッ!」ビュンッ

首領「フッ」ガン

勇者「グッ!?」ズザザ

首領「…。」

勇者「ハァ、ハァ…。」

首領「ほんとのことを言うともっとやりあいたいんだが…、そろそろ朝餉だ。ここらでワケにしようや。」

勇者「ハァハァ…。はい」フラフラ

首領「俺とお前の肉体の練度にさしたる差はない。どころか耐久だけならお前が一枚も二枚も上だろう…。なのにこうなるのはお前に圧倒的に欠けているものが有るからだ。」

勇者「それは…、なんでしょうか?」

首領「お前には技がない。知性のないモンスターならともかく、幹部クラスなら…、死ぬぞ。」

勇者「…はい。」

首領「わかったなら飯だ。ホレ、行くぞ。」

勇者「…。」

~食堂~

勇者「暫くここに滞在しようと思います。」

侍「わかりましたが…、いったい何故?」

勇者「ここで僕は技を学びたいのです。」

侍「えぇと、稽古を誰かに付けてもらおうということですか?」

勇者「はい。侍さんや、角娘さんからは倣えないものですので…。」

侍「そうですか…、確かに勇者さんは、私のように速さで相手を制す柔ではなく、膂力で相手を断つ剛のタイプですものね…。」

勇者「はい、首領さんと模擬戦をしたのですが、見事にのされてしまいまして…、」

侍「ふぅん、それにしても…、」ジトォ

勇者「?」

侍「付き合いの長い私より、勇者さんは首領さんを師匠に選ぶんですね。」ムスッ

勇者「なんというか…、ホラ、侍さんは柔のタイプですし…。勝手が違うといいますか…、」

角娘「ここにいるなら、よりたいところがある。」

勇者「構いませんが…、どこですか?」

角娘「里の外れの小屋、今日の夕べまでには帰る。」

侍「お気を付けてー。」

勇者「僕は僕でこのあと寄るべきところがあるので…、夕べまでには戻れるとおもいます。」

侍「そうですか。ではまた。」

勇者「ええ、」スタスタ




角娘side~里外れ・小屋~

角娘「…。」ギイイ

研究者「いゃあお帰りぃ~!待ってたよぉ~。里に戻ったって聞いたときは驚いたよ。でもまさか角娘ちゃんから会いに来てくれるなんてぇ~。やっぱりお母さんの子ね!」

角娘「用ながなければここには来ない。」

研究者「んもぅそんなこといわないの。お母さん悲しいワー。でもでも、角娘ちゃんからのお願いだったらなんでも聞いちゃうわ。何でも言って!」

角娘「お願いではなく要件、」

研究者「照れちゃって、いいからその要件を言ってくださいな。」

角娘「次の暴走はいつになりそう?」

研究者「んー?難しい質問ね。暫く看ていないうえに、魔法使いのから厄介な封印まで受けてるし…、それもそろそろ限界ね。詳しくはわからないから、検査の必要がいるわ。」

侍side~食堂~

侍「もう、食事は終りましたし、二人は行ってしまいましたし。」

シーン

侍「なんというか…、暇ですね。」

侍「里をぶらつきましょうか。」

勇者side~聖堂~

勇者「祈祷師さんはいらっしゃいますか?」

女中「祈祷師様は今お祈りの最中ですから、もう少しお待ちください。」

勇者「わかりました」
(それまで壁画でも見直しておくか…、恐
らく僕達にも無関係では無いだろうし…。)

勇者(しかし…、この壁画、碑文もそうだが、肝心な所ばかりが掠れている。まるで誰かに意図的にそうされたように…。)

祈祷師「…。」

勇者「碑文の神に関係する三者についても気になる。それは僕達の旅に益をもたらすのか、災禍をもたらすのか…。」ブツブツ

祈祷師「ん"ん"、ごほん」

勇者「わっ!すみません!考え事をしていて、気付きませんでした。」

祈祷師「まぁ、構わんわ。ところで、妾に要件と聞いたが何かや?」

勇者「はい、実は、その壁画についてなのですが…。」

祈祷師「気になるかえ?そうかそうか、やはりお主も勇者じゃのう。」クスクス

勇者「?」

祈祷師「歴代の勇者達は皆…妾があったのは三人だけじゃが、その壁画に興味をもっておったよ。」

勇者「そうですか…。僕が聞きたいのは1つ、何故そこまでその壁画が劣化しているのか?です。しかも肝心な所ばかり。」

祈祷師「烈火は年月によるものと、人為的なものがある。壁画が掠れておるのは先々代の勇者が削り取ったからじゃ。」

勇者「なぜそんなことを?」

祈祷師「理由はいえん。自ずと知れる時が来るじゃろう。」

勇者「やはり、削れたその部分には、僕達の運命の重要な一端があるのですね。」

祈祷師「さて…の。唯1つ云えるのは、運命からは逃げられん、ということじゃ。決して絶望するな。」

勇者「わかりました、肝に命じておきます。」

祈祷師「年寄りの繰り言はここまでじゃ。さ、かえれかえれ」ヒラヒラ

勇者「失礼しました」スタスタ

祈祷師(果たしてその時、奴は耐えきれるか…の?)



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侍side~里外れ~

侍「フンッ」

砂猪「ピギャァ!」ドタッ

侍「ふふふ、いい手土産ができましたね。」

首領「珍しいな。嬢ちゃん一人でいるなんてよ。」

侍「二人とも用事があるらしいですからね。それと、私を嬢ちゃんと呼ぶのはやめてください。」

首領「へいへい、ソレで、お姫さまの護衛をほっぽり出して二人はどこへ行っちまったのか?」

侍「ムッ…、まぁいいです。勇者さんは祈祷師さんに尋ねることがあって聖堂へ、角娘さんは、どこかの小屋に行くと言っていましたね。」

首領「ゲッ!?あの変態学者のところかよ。」

侍「変態学者?」

首領「あいつの親だよ。何で変態かっていうと…、まぁ、会えばわかる」

侍「成る程…、では、角娘さんは親に再開しに行ったのですね。」

首領「まぁ、違うと思うがな。大方、次の暴走までの猶予でも聞きに行ったんだろうよ。あいつは親だからって会いに行くようなやつでは無ぇ。」

侍「そう言えば何故角娘さんは暴走するんですか?魔人化のモデルの影響と聞きましたが。それとも人造魔人自体が暴走しやすいのですか?」

首領「俺の同志にも人造魔人は何人がいるが、暴走なんて話は全く聞かんな。あいつの場合、モデルが特殊すぎる。」

侍「そう言えば、角娘さんのモデルはなんなんですか?」


首領「ハハハ、こりゃあ傑作だな。お前らお互いについてなんにも知らねぇのか。」

侍「ムッ、それは私は隠していましたし…、角娘さんは寡黙なほうですし…。」

首領「フム、知らないのも問題だな。その前に、人造魔人についての基礎知識はあるか?」

侍「ええ、目的に応じて動物の因子を胎児に組み込み、強靱な戦士を得る、ですね。」

首領「そうだ、勇猛果敢な戦士を欲するなら獅子の因子、隠密性に特化した暗殺者などを欲するなら蛇の因子、という風にな。ただし、角娘の中にいるやつはそんなまっちょろい物じゃない。」

侍「もしかして、魔獣のような危険なものですか?」

首領「魔獣か…、それよりもっと強靱で、狂暴で、それでいて高貴な物だ。」

侍「それは…、」

首領「それはドラゴン、生きる天災そのもの。神にさえ歯向かった禁忌だ。」

侍「ドラゴン…。神代の王者…。」

首領「そんなやつが暴れ出すんだ。恐ろしいだろう?」

侍「ええ、怖いです。その時のことを思うと。」

首領「その割りには、胆の据わった目に見えるがね。」

侍「ええ、だってだからといって私達が角娘さんと向き合わない理由にはなりませんから。」

首領「…。やはりアイツ同様、いい目だ。お前、魔王討伐が終わったら、俺の女にならないか?」

侍「え?ええええ!いやいやちょっと待ってください。やっぱり私にはまだええと、あの…その…。」

首領「答えは魔王討伐後でもゆっくり考えてくれればいいさ。俺は警邏にもどる。」

侍「あ、ああ。お、お気をつけて。」

首領「おう。それと、その猪だが、」

侍「?」

首領「今夜から肉絶ちの儀だ。食うのは無理だと思ってくれ。」

侍「 」



~夜~

勇者「帰りましたよ。…、二人とも先に帰っていたんですか。」

角娘「おかえり。」

侍「お帰りなさい。」

勇者「全員いるのなら好都合です。皆さんに報告することがあります。」

角娘「何?」

勇者「次の目的地が決まりました。昨日のあの壁画の本体を見に行きます。」

侍「わかりました。しかし、魔界との境界ですか…、遠いですね。」

勇者「ええ、それにこれ迄より戦いも厳しくなるでしょう。ですので寄り道もしながら、最終的な場所としてそこを目指します。」

侍「了解しました。」

角娘「わかった。」

勇者「僕からは以上です。」

角娘「私からも話がある。」

侍「なんです?」

角娘「次に暴走する日がわかった。」

勇者「いつなんですか?」

角娘「次の新月の日。魔法使いの封印がとけたみたい。」

侍「角娘さん大人しいと思ったら、成る程そういう訳だったんですね。」

勇者「わかりました。覚悟はしておきます。」

侍「そう言えば、聞きそびれていたゆですけど。角娘さんのモデルはドラゴンですよね?」

角娘「そう。知らなかったの?」

侍「ええ、今日首領さんに聞くまでは。」

勇者「え、侍さんあれだけ一緒にいて気付かなかったんですか?」

侍「勇者さん、気付いてたんですか?!」

勇者「ええ。流石にあんな身体能力や回復力、挙げ句、火なんか噴かれてしまえば否が応でも気付くものです。」

侍「あれはてっきりそういう体質なのかと…。」

勇者「火を噴いたり切傷が一瞬で回復したりするのは体質なのでしょうか…。」

侍「だ、だって勇者さんもケガの治り異様に早いし、うちの爺やだって火噴けてたし!」

角娘「何その爺やこわい。」

侍「そうですか…、知らぬは我が身のみ…と。」

~数日後~

勇者「これまでありがとうございました。お蔭で技の基礎の基礎くらいは身に付きました。」

首領「かまわん。減るもんでもないしな。」

研究者「そうそう、旅立つ君達に渡すものがあるのよ。ハイ、これ」

侍「ありがとうございます。これは…?」

研究者「角娘ちゃんが暴走しちゃった、って時のマニュアルよ。他にもイロイロのせてあるわ。一種の虎の巻ね。角娘ちゃんは竜だけど。アハハ」

角娘「下らない冗談はいい。」

研究者「まぁ、そんなこと言って、お母さん悲しいワー。」

勇者(これが角娘さんの…、なんというか)

侍(聞きしに勝って、濃い…ですねぇ。)

勇者「ありがとうございます。何から何まで。」

研究者「当然のことをしただけよ。研究員として、母として。」

侍「そうですか…。では、名残は尽きませんが、行きましょうか。」

勇者「ええ、お世話になりました」

首領「おう。またな。」

角娘「さよなら。」

研究者「気をつけてねー。」

~草原~

侍「この何日かで何か掴めるものはありましたか?」

勇者「はい、僕はタンク役なので攻撃のいなし方やカウンターなどを重点的に学びましたが…、」

角娘「後方20メートル、刀を持った5人組。此方をつけてる。」ボソボソ

勇者「ッ!…穏やかではないですね。無力化できそうですか?」

角娘「5人の内3人は可能。あと2人は達人級。」

侍「野盗の類ではないようですね。撒けますか?」

角娘「不可能。」

侍「ならば声をかけてみましょうか。」

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