苗木「還ってきた希望」 (58)


※何番煎じか分からないほど妄想されたであろうBAD後の妄想。
 ぶっちゃけ言うとよくあるタイプのSSだよ!!

※エロはないけど人によっては嫌悪感があるかも知れないから注意だよ!!
 特に地雷カプがある人は要注意だよ!!

※かませがデレ気味だよ。絶望の残党とか未来機関は共食いしてあぼーんした的な感じだよ。
 人類はほとんど滅んだってことで頼むよ。なるたる最終回みたいな感じだよ。

※独自設定入るかもしれないよ。それでもいいなられっつらごー。



苗木  (霧切さんはプレス機に押し潰されて、原形を留めていなかった。
     少しずつ近づく轟音……衝撃……死の瞬間の苦痛……霧切さんの心の中は、今となっては分からない。
     ただ、あの人がお父さんと同じ所に行けたこと……向こうで仲直りしていることを
     願うしかできない。それくらいしか、できないんだ)

苗木  (霧切さんの命と引きかえに、僕たち5人は生のチケットを手に入れた。
     人の血でぐちゃぐちゃに汚れた"希望"を――)



【一ヵ月後】


苗木  (一ヶ月が経った頃。僕たちはようやくこれからのことを考えられるようになった)

苗木  (霧切さんは、他のみんなと同じように生物室の冷蔵庫に入れられていた。
     僕たちは死んだ仲間たちに花を手向けて、生物室をお墓にした)

朝日奈 「ほんとは、こんなジメジメして冷たい部屋じゃなくって……太陽の下に埋めてあげたいんだけど」

葉隠  「いつか玄関ホールのドアが開く時が来たら、出してやるべ」

苗木  (葉隠クンはその達筆さを生かして、それぞれのコンテナに戒名と享年を書いてあげていた。
     終わると『じゃ、またな』と手を合わせて、いとおしむ様にコンテナを撫でて行く)

苗木  (舞園さん、桑田クン……僕はその凄惨な遺体から目を背けられなかった。
     十神クンは"見ないほうがいい"って言ったけど……僕はそれを拒んで、桑田クンの手を取った。
     冷たい。全部の関節が折れている。僕は胸の上で手を組ませて、小さく"ごめんね"を言った)

苗木  (不二咲クンと、大和田クン……不二咲クンは頭が半分崩れて、大和田クンはあの
     ふざけたバターが入っているだけだ。あの大きな体も、豪快な髪の毛も、
     もうどこにもない。僕は手を合わせて、"さよなら"を言った)


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苗木  (石丸クンと、山田クン……二人とも、頬に涙が伝ったみたいな痕があった。
     ボロボロに焼け焦げて、潰れたセレスさんの遺体には、金属のリングがまだ嵌っていた。
     僕はここで初めて目をそらした。だってセレスさんは、こんな自分を見て欲しくないだろうから。
     だから、きれいだった頃のセレスさんを思い浮かべて、"またね"を言った)

苗木  (大神さんの死に顔は、満足そうに微笑んでいた。戦刃さんはもう顔すら真っ黒に焦げて分からない。
     でも、たしかに僕たちの仲間だったから……彼女にも、"おやすみ"を言った)

苗木  (全てのコンテナを入れる間、僕は涙が止まらなかった。
     もう会えない。決して会えない。謝ることもできない)

苗木  (さよなら……みんな……僕たちはまだこの絶望的な世界で生きていくよ。
     だから、そっちに行ったら……僕たちを許してほしい)

苗木  (それまで、さよなら……)



【一ヵ月半後】


苗木  (僕たちは今度こそ、この学園で一生暮らす覚悟を決めた)
     
十神  「空気清浄機は動いているし、食料や物資も問題ない。こうなった以上は……
     学園長の"遺志"を継ぐべきかと思うのだが」

腐川  「学園長の、遺志って……?」

十神  「"希望さえ残れば、何度でもやり直せる"……それはつまり、"超高校級"である俺たちが
     生き残って、世代を繋げば、絶望に満ちた世界が滅んでもやり直せると……
     そういうことじゃないのか」

苗木  「!待って、じゃあもしかして……」

十神  「俺たちはちょうど、男女比もバランスよく16人で閉じこもった。近親相姦のリスクも低く、
     安全に遺伝子をプールできる最低限の人数だ。仮に出産不可能な奴がいたとしても、
     次の世代を生み出すには十分だった。そして、俺たちはそれぞれが"才能"を持っていた」

十神  「そう――"希望ヶ峰学園シェルター化計画"の最終段階は……俺たちが子供を作って、
     希望の世代を生み出し、人類を作り直すことだったんだよ……」

苗木  (しばらく、僕たちは空いた口がふさがらなかった。でも、考えてみれば当たり前のことだ)

苗木  (僕たちを閉じこめて、その後どうするつもりか、なんて。
     世界が絶望に負けてしまった場合のことまで考えた処置だったんだ。
     もし、外の世界が安全だと確認できたら、シェルター化は解除すればいい)

十神  「俺たちは、7人のアダムと9人のイブだったんだ。滅んだ世界を再生するためのな」

十神  「さて、それが分かったところでどうする?」

朝日奈 「どうする……って、ねえ」

腐川  「あ、あたしは……白夜様の子種ならいつでも……」ツンツン

十神  「そうか。世界がいよいよ滅ぶ前日ならお前と契っても構わんぞ」

腐川  「えっ!!?」

葉隠  「いやいや、それじゃ意味ねーって!!!」


苗木  (いきなり子供を作れといわれても、正直……困る。
     十神クンの口から爆弾発言が飛び出した次の日からも、僕たちは普通に過ごしていた)


【一ヵ月半と少し 図書室】


朝日奈 「あ、十神みーっけ」ヒョイッ

十神  「……何の用だ?」

朝日奈 「もう晩ご飯できてるよ。ほら、さっさと食堂に集合!!」グイグイ

十神  「モノクマを使って呼べばいいだろう?なぜわざわざ学園中を走り回るという
     手間をかけるんだ?お前たちはバカなのか?」

朝日奈 「おおう、疑問点を一気に言ったね……だってさ、もうこの広ーい学園に、私たち5人だけなんだよ。
     ご飯とお風呂の時だけちょっと話すとか、寂しすぎるじゃん。
     それに……」

朝日奈は目を伏せて「もう、私たちの世界はこの学園しかないんだよ」と呟く。
十神は組んでいた足を解いて、読んでいた本(クリップで留められた原稿用紙たち)を置いた。

朝日奈 「あ、それ腐川ちゃんの新作?……なんで手書きなんだろ」ジー

十神  「俺が図書室の本を全て読み終えた後退屈しないようにと、持ってきたんだ。
     手書きの理由は、インクリボンが勿体無いから……だったか」

朝日奈 「ねえ、後で読ましてよ。どうせもう全部読んじゃったんでしょ?」

十神  「下らん恋愛小説だったぞ。男女がくっつくの、くっつかないので200枚も原稿用紙を使っている。
     俺としては結末に納得が行かんな。なぜレインボーブリッジではなく築地市場が告白の場所になる?
     それと、主人公の名前も古すぎる。今時"太郎"なんてひねりのない……」クドクド

朝日奈 「ぷっ……あ、あははははっ!!」

十神  「なんだ」

朝日奈 「だって、下らんとか言いながら全部しっかり読んでんだもん!!なんなのもー、あんたって
 ほんとわけわかんないっ…あははははは!!!」バンバン

十神  「うっ…うるさい!!暇潰しに読んでやっただけだ!!……~~っ、行くぞ!!」ダッ

朝日奈 「あ、待ってよ十神!!もう笑わないからさあ」タッタッタッ


【食堂】


葉隠  「おせーぞ十神っち!!俺特製のハヤシライスが冷めたらどうすんだべ!!」

十神  「……お前が作ったのか?」ポカン

苗木  「はが…葉隠クンはすごいんだよ。玉ねぎなんてこんなにうすー……く切っちゃうんだ!!
     手先が器用なんだよ。フードプロセッサーなんて使ってないのに!」

苗木  (ほら!とスプーンで薄切りの玉ねぎをすくって見せる僕に、
     隣の腐川さんがちくっと嫌味を言う)

腐川  「あんたは隣でボロボロ鼻水こぼしてただけだったものね……」

苗木  「酷いよ腐川さん……そういう腐川さんだって、ご飯焦がしちゃったじゃないか」

腐川  「あれは焦げじゃなくて、"お"こげ!!」

苗木  「同じじゃない?」

腐川  「食べられるのがおこげ、食べられないのが"焦げ"よ!!私の実家なんて、おこげを巡って
     食卓で戦争が起こってたんだから……」

苗木  「変わった味覚なんだね……まあいいや、二人とも座って。じゃあ……いただきまーす」

苗木  (僕が言うのに続いて、「いただきます」と手を合わせる。
     食べ始めると、十神クンが「旨いな」と素直な感想を漏らした。お代わり、と皿を出すと、
     鍋の所に座る葉隠クンが「ほい来た!」と嬉しそうに受けとる)

苗木  「なんだか、いいよね。こういうの」

腐川  「家族……みたい」

十神  「お前までそういうことを言うのか」

腐川  「だっ…だ、って……こんな楽しい食卓、本の中でしか見たことなかっ、たから」

苗木  (敬語はやめろ、と十神クンに厳命された教育成果が少しずつ出ているのか、
     腐川さんはたどたどしい言葉で話す)

葉隠  「腐川っちの実家ってどんな飯なんだ?」

腐川  「実家じゃいっつも、母親のどっちかがヒステリー起こして、めちゃくちゃな食卓だったわよ…… 
     妻妾同居なんて、妾の家に通う手間が省ける男しか得をしないシステムよね……」

葉隠  「えー、つかぬことをお伺いしますが、腐川っちはどちらの……」

腐川  「妾の方よ!文句ある!!?」

苗木  「ないよ!!ないない!!!」ブンブン

朝日奈 「ちょっと葉隠、あんた何地雷のど真ん中行ってんのよ!!」

葉隠  「うわわわ、ごめん!!マジでごめん!!」

ギャーギャー チョットアンタ、フカワチャンニアヤマリナサイヨ!! ソウダヨハガクレクン!! モウイイカラアタシノコトハホットイテー!!

十神  「騒々しい食卓であることに変わりはないな……」パクッ

十神  (だが、まあ……これも悪くないか……他人がいる食卓は、うるさいながら楽しい……)


【三ヶ月後.武道場】


腐川  「……あ、白夜……くん」

十神  「ここで何をしている?」

腐川  「その…最近、"あいつ"が出てこないから……ちょっと、始めて…みよう、かなって」

そう言う腐川は、袴に着替えて弓を持っている。
いつものセーラー服とは違う姿に、十神は少し新鮮さを覚えた。

腐川  「い、今まで…その、体を鍛えられなかったのは……"あいつ"に身体能力が加わったら、
     もっと、酷いことになるって思ってて……でも、ここに閉じこもるって決めてから、
     全然出てこなくて……」

十神  「あいつの事だ。どうせ殺しも"生きる事"も暇潰しに過ぎなかったんだろう。
     それに、変化がなくなった今は出てくる必要もなくなったということだ」

腐川  「あいつは……」

十神  「眠りについたんだろう。……二度と覚めないかもしれない眠りにな」

腐川  「……」

十神  「なんだ、悲しいのか。そんな必要がどこにある。お前たちは元々一人だったんだ。
     あるべき形に戻っただけだろう」

戯れに一発と思った十神は、弓を取ってきりり、と引き絞る。
放たれた矢は、見事に真ん中を射抜いていた。

腐川  「!……すごい!白夜さ……くん、すごい!!」パチパチ

十神  「これくらい、一年もやれば誰だって出来る」

腐川  「でも……それを続けるのって、やっぱり……並大抵のことじゃないと思う、から……」

十神  「そういえば、苗木の奴が最近素振りに凝っているらしいな」

腐川  「!もしかして、それって桑田の……」

十神  「葉隠はチェスのルールを覚えようと四苦八苦だ。朝日奈は昨日ここで正拳突きをしていた」

十神  「皆……死んだ奴らを引きずって生きていこうとしている」

腐川  「引きずって……白夜、くんも……?」

十神  「ふっ、俺の脳に11人も引きずるだけの容量は残っていないさ。あいつらとは違ってな。
     ただ前を向いて、歩いていくだけだ」


【一年後】


苗木  (ついに、腐川さんが限界を迎えた)

ガッシャーン!!!

苗木  (食器を力任せに叩き割って、はあ、はあ…と荒い息をつく腐川さんを、
     葉隠クンはおびえた目で見下ろす)


葉隠  「お、落ちつくべ腐川っち……食器のストックはあんましないんだぞ?」

朝日奈 「ねえ、どうしたの?私たちに話して……」

腐川  「もう限界!!限界なのよ!!!いつまでこうして仲良しごっこしていればいいの?
     朝も、昼も、夜も、同じように鉄板の打ち付けられた窓を見て、代わり映えのしない毎日を過ごして!!」

腐川  「図書室の本なんてもう全部読みつくしたわ、視聴覚室にあったCDも、全部聴いた!!
     もう嫌なの、怖いの!!自分がなくなるみたいで怖いの!!終わりのない日々を過ごすのが怖い!!
     食べて、寝て、起きて…その繰り返しで、頭が変になりそうなの!!」

がくっと床に崩れ落ちた腐川を、何事だと賭けこんできた他の二人も見ている。

腐川  「もういや……外に出たい……ペンキじゃない青空が見たい……汚れていてもいい、空気を吸いたい……!!」

腐川  「一生ここにいるの?この惨劇があった学園に?嫌よ、いや、いや、いや!!私には無理!!!」

苗木  「腐川さん……それでも僕達はここに生きるしか」

腐川  「分かってるわよそんなこと!!でも私には、みんなを引きずって生きるなんて無理!!今すぐ忘れてしまいたい!!だけど、
     そんなことをしたら……私、今度こそ許してもらえない!!!それはもっと怖いの!!」

バッと涙で濡れた顔をあげて、腐川は「ねえ、どうして体育館になんか行けるの?」と問う。

腐川  「あそこでは、江ノ島が死んだじゃない!!血みどろになって!!どうして、男子更衣室に入れるの?
     美術室に行けるの?あそこも、ここも、どこもかしこも死の匂いがして!!
     すぐそこにっ…死んだ奴らが浮かんでいるような気がしてっ……」

苗木  「腐川さん、そんな風に思っていたんだね……ごめん、僕は気づかなくて」

腐川  「死んだ皆が言うの!"どうしてお前なんだ"って!そうよ、私に生きる資格なんかないのよ!!
     人殺しの私が生きて、あいつらが死んで……そんなの、おかしいじゃない!!
     助けて……私を助けて……ううっ、うわああああん……!!」

とうとう突っ伏して泣き出した腐川に、「どけ」と苗木を押しのけた十神が近づく。

十神  「部屋に連れて行く。後は頼んだ」

葉隠  「お、おう……十神っちなら安心だべ」


【腐川の部屋】


十神  「落ち着いたか?」

腐川  「う、っ…、ううっ…ぐすん、ぐすっ……」コクコク

十神  「だいぶ綺麗になったな。掃除も行き届いている。とりあえず足を踏み入れてもいいくらいにはなったぞ」

腐川  「ごめんなさい……あんな、感情にまかせて嫌なことを言って……」

十神  「気にするな。お前が変なことを口走るのは昔からだ」

二人はベッドに腰かけて、しばらく黙っていた。やがて十神が口を開く。

十神  「そういえば、今日はお前の誕生日だったな」

腐川  「――えっ?」

十神  「忘れていたのか。葉隠と朝日奈が朝から厨房にこもっていたのは、ケーキを焼くためだ。
     苗木は紙ふぶきを作りに行った。サプライズパーティーをするつもりだったらしい」

腐川  「言っちゃったら……意味、ないじゃない……」

十神  「……皆、先が見えない毎日が不安だ。俺もな。……一日、ぐるぐると意味もなく学園を
     歩き回ったり、図書室の本の中から決まった単語を探す作業に費やしたり、
     全員の身長を書き出してそれを足したり引いたりして遊んだり……そんなこともしている」

腐川  「白夜、くん……が?」

十神  「……一年かけて、気づいたことがある。……恐ろしく寂しい。誰かに側にいて欲しい」スッ

腐川  (手が…!)///

十神  「もっと深く触れ合いたい。……希望を、この目で見たい」グラッ…

ボスッ

腐川  「びゃくや、く……ん、ふっ…」

十神  「……頼む。俺の希望を生んでくれ」



【一年と三ヵ月後】


腐川  「今日は……大事な話があるの」

そっと下腹をおさえた腐川は、「子供が、できたみたい」と頬を染めて告げる。
葉隠の箸からポロッとご飯が落ちた。苗木は「だっ…誰なんだ、腐川さんに乱暴を働いたのは!!」と
大混乱だ。朝日奈も「赤飯炊かなきゃー!!」と叫んでいる。

十神  「落ち着けーーっっ!!……俺の子だ」コホン

朝日奈 「え、えええっ!!?あんた、腐川ちゃんに手ェ出すなんて世界滅亡の前日しかありえないって……
     嘘、マジなの!?」

腐川  「ちょっと……おめでとうの一つも言えないの?」

葉隠  「いや、驚きの方がでけーべ……つーか十神っち、やることはしっかりやんだな」

十神  「どういう意味だ」

苗木  「いや、本当におめでとう腐川さん…だけど、十神クンがまさか人類再生の先陣を切るとはね」アハハ

苗木  「楽しみだなあ、早く生まれてきてくれないかな」

葉隠  「一緒にUFO観測できる子がいいべ!」

朝日奈 「元気に生まれてきてくれたら、そんだけでいいよ」

十神  「ふん……十神の血を引く子だ。十神の名に恥じぬよう、俺の持てる全ての力をもって教育するぞ」


【一年と十ヵ月後.腐川の自室.シャワールーム】


腐川  「ううっ……う、ううーっっ!!」

朝日奈 「がんばって、腐川ちゃん。あとちょっとだよ!!」

腐川  「ふんっ……!!!」

オギャーオギャー

ホギャーホギャー

力んだ瞬間、ずるっと赤ん坊が生まれた。二つ重なった産声に、腐川は「え?」としばし呆然として。
バターンッとドアを開けて入ってきた男達も「うお、マジか!」「双子なの!?」「おお…」と
三者三様の感想をもらす。

朝日奈 「あー、こらこら男ども!!まだ後産が終わってないんだよ、ほら、食堂に行ってる!!」グイグイ


【食堂】


腐川  「生まれた……私たちの、赤ちゃん……」スリスリ

十神  「……いい匂いがする……やわらかい……なんだ、この生き物は」///

苗木  「おめでとう、腐川さん、十神くん。赤ちゃんも腐川さんも、元気そうでよかった」ニコニコ

葉隠  「いやー、一気に二人とは、こりゃめでてーべ!!吉兆だ、うん!!」ニコニコ

生まれたのは、男女の双子だった。産着にくるまった男の方を十神が、女の方を腐川が、それぞれ抱いている。
洗われて、おっぱいを飲んだ双子は落ち着いたのか、すやすやと眠っていた。

苗木  「そういえば、名前はもう決めてるの?」

腐川  「それ、なんだけど……実はね……私、ずっと考えていたの。苗木が…みんなの死を引きずって
     生きていくって言ってた事の意味」

腐川  「私は、みんなの死じゃなくて……みんなが生きていたこと、思い出……それを、覚えていたい。
     そう思ってたんだわ……だから、こうして双子が生まれたのも、運命かもしれないって」

腐川  「この子ったら、生まれたてなのに立派な眉毛でしょ。口元もキュッと結んでいて……
     誰かを思い出さない?こっちの子も」

苗木  「そういわれてみれば……」

大きな赤い瞳に、黒い髪。両親にはあまり似ていない色彩だが、苗木は二人に誰かが重なって見えた。

十神  「……奇遇だな。実をいうと俺も、ずっと同じことを考えていたんだ」

朝日奈 「あはっ、じゃあ決まりだね」

十神  「兄は"清多夏"――妹は、"多恵子"だ。……幸せになれよ、二人とも」

【二年と三ヵ月後】


清多夏 「あー、うー」ゴロンッ

多恵子 「だーだー」カランコロンッ

朝日奈 「双子ちゃん、すくすく育ってるねえ」

葉隠  「おー、よしよし……しっかし、一ヶ月ごとにでっかくなるなんて、赤ん坊はすごいべ。
     ……しかし、驚いたのは十神っちだな…まさか双子が生まれて一ヶ月で今度は別の女に」

朝日奈 「やめんか」げしっ

朝日奈 「言ったでしょ?この子たちが新しい人類になるんだって。そのためには仕方ないんだよ」

葉隠  「いやあ…でも、朝日奈っちはいやじゃないんか?だって、その……」

朝日奈 「苗木が言ったじゃん。"希望は前に進むんだ"って。私、あの言葉を信じてるんだ。
     この子たちは、みんなの子なんだよ」

葉隠  「はーっ…俺には理解不能な理想だべ……」

朝日奈 「今度はあんたの子供を産むからね。覚悟しといてよ」

葉隠  「はいはい……ムードもへったくれもねーなあホント……生き残った希望ってのも辛いなあ」


【二年と半年後】


朝日奈 「というわけで、できました。玉の輿です!」ドヤアッ

苗木  「あはは…おめでとう」

十神  「いいか、妊娠中の心得についてはここに書いておいた。腐川もこれをしっかり守ったおかげで
     安産だったんだ。お前もきちんと目を通せ。まず食事についてだが、バランスよく噛んで食べろ。
     それと、動き回るのは控えろ。学園の中を散歩する程度にして水泳はやめ……」クドクドクド

腐川  「今度は私が手伝うから、安心して。……苗木、あんたはおむつを縫うの手伝いなさい」

苗木  「うん。僕たち男にはそれくらいしかできないからね。あれ?多恵子ちゃんがむずがってる。
     おむつかな?」

腐川  「これはおっぱいよ……ほら、多恵子。あんたもう少し離乳食食べてくんなきゃ、
     お母さんが困るじゃないの」グイッ

多恵子 「やー…ぎょーざ……」

腐川  「餃子は昨日も食べたでしょ?もー、どうして好きな食べ物まであのギャンブラーと一緒なのよ」

清多夏 「きよもー、きよもだっこー」グイグイ

苗木  「石丸君ってこんなに甘ったれだったかなあ?」

【三年と三ヵ月後】


オギャーオギャー

朝日奈 「ふう……終わってみるとあっけないんだね……」ハァハァ

腐川  「女の子ね。まだふわふわしてるけど、きれいな銀髪だわ」

朝日奈 「よろしくね……また、生まれてきてくれて…ありがとう、さくらちゃん……」ギュッ

腐川  「よっ…、と。私の方もちょっと、きついわね……」

朝日奈 「ご、ごめんね…男子にお産の手伝いさせたくないって言ったせいで……」

腐川  「いいのよ。もう二回目だし。それに、あいつ結構マメに動くのよ」


【そのころ、腐川の自室にて】


葉隠  「くっそー!!なんで俺が、妊娠中の腐川っちのために掃除と洗濯と炊事全部やってんだべ!!?
     自分が孕ませた赤ん坊のためとはいえ、やりきれねーべ……」ゴシゴシゴシ

葉隠  「がんばれ、がんばれ葉隠葉隠…俺は大人だ。俺は立派な男だ。生まれ来るベイビーのため、
     日夜働くナイスガイ。それが俺」ゴシゴシゴシ

十神  「黙って働けんのか。……あいつ、妊娠した瞬間昔の不潔さが逆戻りしたな。
     菓子パンにカビなんぞ生やして……おい葉隠、これ捨てておけ」ポイッ

葉隠  「うわ!!こっちに投げんな!!」


【三年と十ヵ月後】


腐川  「……」ぐったり

葉隠  「だ、大丈夫か腐川っち!?お産はすんなり終わったんじゃ……」手ギュッ

腐川  「どうしたのかしら……だるいの、なんだかすごく……ねえ、赤ちゃんは?」

葉隠  「お、おう。ここにいるべ」

父親であるところの葉隠から赤ん坊を受けとった腐川は、「太いわね」と開口一番。

腐川  「ほんと、あいつにそっくり……カロリーは気をつけないと。お腹の中で
     プクプク肥っちゃったのね……もう決めたわ。あんたは"一二三"よ。それ以外に考えられないわ」

葉隠  「コーラは飲ませないようにするべ」

【十年後】


苗木  「あ、あの……その……」

十神  「どうした苗木、はっきり言え」

多恵子 「まこちゃん、どうしたの?おなかいたい?」

清多夏 「だいじょうぶか?アメならあげるぞ!」

苗木  「あ、おなかは大丈夫なんだ…その、ぼ、ぼぼぼ、ぼくは……パパになることになりました!!」カァァッ

十神  「なんだ、そんなことか」

苗木  (双子に計算ドリルをやらせている十神クンが呆れ顔になった。
    ご飯作りをしている葉隠クンも「ハア…」とため息をつく。)

朝日奈 「しっかし、あんたもウダウダしてたよね。まさか十年も霧切ちゃんに操を立てるとは」

苗木  (そんな朝日奈さんの隣では、ミニテレビでアニメに熱中している一二三を引っぱって、
     さくらが『サスケのビデオみるー!』とやっていた。この二人はいつも、アニメを見るか
     格闘技を見るかでケンカしている)

苗木  「あ、あの…そういうことじゃなくて!!ぼ、ぼくと霧切さんはそういうのじゃなかったし……その、」

苗木  「僕も……立ち止まるのはやめようと、思ったんだ……新しい希望が見たいって。次の世代に、
     繋げて生きたいって!」

紋土  「わけわかんねー!!」ニコニコ

積み木で遊ぶ紋土が満面の笑みで言う。
かっこよく決めたつもりの苗木はガーン!!と分かりやすく落ち込んだ。

千尋  「きぼー?きぼーってなーに?」

ベビーベッドから立ち上がった千尋が聞くと、「うまいもん!」と紋土が全く合ってない答えを返す。
母親であるところの朝日奈から、知能を引き継いでしまったらしい……。
十神は「……お前からよく、千尋のような察しのいい子が生まれたな。
やはり俺の血がよかったのか?」と失礼すぎるが的確な感想を発した。

苗木  「ただ、その……腐川さんが、弱っていて」

十神  「あいつは、体が弱い……一二三を生んだ時も、一度目の出産からあまり時間を空けていなかったからな……
     元気になったと安心していたんだが、まだ産後の疲れが残っているとすると、危ういな……」

朝日奈 「あ、やっぱり心配?」

十神  「当たり前だ」

葉隠  「十神っちもだいぶ丸くなったなー。よし、チビども!飯ができたぞー!!」

苗木  (すっかり主夫の板についた葉隠クンが呼ぶと、子供達はわー、とご飯に群がる。
     その光景を見て、僕は少しだけ明るい希望を持った)


【十年と七ヵ月後】

オギャア、オギャア…

腐川  「ねえ……教えて。どっちなの……」

苗木  (お産を終えて、空中をひっかく腐川さんの手を、側についている僕がそっと握る)

苗木  「……女の子だよ。銀色の髪をした、女の子だ」

苗木  (赤ん坊を見せてあげると、腐川さんは本当に嬉しそうに、笑った)

腐川  「ふふ……じゃあ、決まりね……」

苗木  (げっそりと青ざめた表情で、腐川さんはベッドに寝ていた。細い腕を伸ばして、
     僕から赤ん坊を受けとると、頬を撫でて「響子……」と呼びかける)

腐川  「響子、響子、響子……」

苗木  (慈しむように、何度も名前を呼ぶ。そんな腐川さんに、僕は思わず「ごめん!!」と頭を下げた)

腐川  「どうして、謝るの……」

苗木  「知っていたのに……君の体が弱いことを知っていたのに……僕は!」

腐川  「違う、でしょ……」

苗木  「……ありがとう、腐川さん」

腐川  「そうよ……それで、いいのよ……ありがとう、苗木……私に、この子を産ませて、くれ、て……」

苗木  「腐川、さん?」

腐川  「……けっ、最期に見る顔はまこちんか……」

腐川  「ま、悪く、ねえ……人生、だったぜ……アタシに、しちゃ……」

苗木  (聞き覚えのある、声音。それはまさしく、何年も眠り続けていた殺人鬼のものだった)

腐川  「……」

腐川  「おね、がい…ね……希望を、消さ、な……い、で……」

苗木  「腐川さん」

苗木  「腐川さん?……腐川さん!腐川さん!!」


バターンッ

十神  「腐川!?…おい、目を開けろ、馬鹿!!」

朝日奈 「腐川ちゃん、しっかり!!」

葉隠  「おい、まだ赤ん坊にお乳もやってねーんだぞ!!死ぬなって、腐川っち!!」

苗木  (僕達は必死になって、腐川さんを揺さぶった。微笑んだまま、目じりから一筋の涙をこぼした腐川さんは
     そのまま目を覚ますことはなく――)

苗木  (二日後に、息を引き取った)


苗木  「腐川さん……さようなら、ありがとう……」

苗木  (僕達は、生物室に腐川さんの遺体を運んだ)

清多夏 「うっ…ううっ……母さん……」ボロボロ

多恵子 「うわあああん!おかあさあん……」グスグス

一二三 「……うぅ、ううう……」シクシク

千尋  「……?」キョトン

苗木  (僕達の手で精一杯飾り立てられた棺桶に取りすがって、子供達は泣いた。
     葉隠クンはみんなを思い切り泣かせてあげてから、棺を冷蔵庫へ入れた)

響子  「……あー」

苗木  「響子、ママは死んじゃったんだ」

苗木  「死んじゃったんだよ……」

苗木  「……うん、でも僕がいる。パパが精一杯、君を守るからね、響子」

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続きは明日。二日に分けての投稿なんだ。
すでに死んだ仲間達の名前をつけるってネタは進撃でもよく見るから
やってみたかっただけなんや……。

あのBADは重過ぎる……2にももしもあったら終里に今の朝日奈ポジ当たられそう(左右田は死亡)
まあ、2は設定的にありえないんだけど……

重いわ…死んだ仲間の名前つけるのは重い

>>15
左右田は犠牲になったのだ←
2はそのかわりメンバーの目覚めを待つくだりで妄想がMORIMORI

>>16
重いよね。子供からしてみりゃたまったもんじゃないかもしれない。

【十三年後】


清多夏 「お父さん、おはようございます!!!」

十神  「ああ、おはよう」

清多夏 「……お母さん、おはようございます」

苗木  (清多夏は、テーブルに置かれた腐川さんの写真にも、ピシッとお辞儀をした)

清多夏 「多恵子、おはよう!!今日もいい天気だな!!爽やかな朝だ!!」

多恵子 「……天気なんて、ここじゃ変わりませんことよ。あらおじさま、お早いですね……」ムニャムニャ

苗木  「おはよう……って、半分寝てない?大丈夫?」

清多夏 「もうすぐ朝食だぞ、こんな所で寝てはいかん!!太陽がないからこそ、
     体内時計は一定に保たなければ!!」ユサユサ

苗木  (清多夏は毎朝のラジオ体操が日課だ。弟妹を叩き起こして体育館へ連れて行く
     姿に、軽いデジャブを覚える……)

苗木  (暑苦しくて、声も大きい。融通はきかない。だけど頼りがいがあって、頭もいい。
     みんなの頼れるお兄さんだ)

多恵子 「ふわあ……体を動かしたら喉が渇きましたわ。一二三」

一二三 「はいっ、お姉さま!!」

多恵子 「ロイヤルミルクティーを入れてきなさい。冷たすぎても温くてもいけませんわよ」

一二三 「はい、ただいま!!」

苗木  (多恵子は、すぐ下の弟、一二三をこき使っている。
     しかし、一二三の方もまんざらでもないみたいで、何だかんだ言う事を聞いている。
     気まぐれで、わがままで、耽美なものが大好き。そんな姉の要求に応えられるのは
     自分だけというのが、まあまあ嬉しいみたいだ)

千尋  「たえちゃん、おはよー」ニコニコ

さくら 「おはよう、姉さん」ニコニコ

多恵子 「はい、おはようございます。千尋くん、さくらさん」

苗木  (十神クンと朝日奈さんの間に生まれたのは、二人。お姉さんがさくら、弟が千尋。
     肉体派で、紋土相手に毎日組み手をしているさくらとは正反対に、
     千尋の方はパソコンが大好きなインドア派だ)

一二三 「あのー、紅茶が切れてまして……倉庫まで行かないと」

多恵子 「行ってらっしゃい」ニッコリ

一二三 「その……僕もそろそろお腹が空いて……ちょっと歩くのはきつ「はい?」「……行ってきます」

多恵子 「行ってきます、お.ね.え.さ.ま」アンコクスマイル

一二三 「行ってきます、お姉さま……はあ」

苗木  (この子は、みんなのお姉さん……だけど、なぜか一二三にだけ当たりがきつい。
     愛ゆえなのか、それともただ遊んでるだけなのかは、謎だ。
     そして一二三は、年々体重が増えていく。両親はスレンダーなのに、なんでだろ?)

紋土  「千尋ー、トーストはバターでいいんだったか?」

千尋  「うん。でも二枚目はマーマレードにして欲しいなあ。なんで紋土くんはそんなに
     美味しく焼けるの?」

紋土  「しょうがねえなあ、教えてやるか。いいか、焼く前に薄く塗っとくんだよ。
     そしたらトースターの中で溶けんだろ?それが美味いんだ。ほれ」

千尋  「う、うん」ヌリヌリ

苗木  (紋土は何だかんだ言っても、面倒見がいい。特にすぐ下の千尋を可愛がっていて、
     よく二人で学園の中を走り回っている。千尋は、なぜかプログラミングより解体にはまっていて、
     毎日スパナだのドライバーだの使ってパソコンをバラしては、組み立てるを繰り返している。
     
     十神クンに言ったら、「そういえば、すぐ上に"超高校級のメカニック"がいたな。
     そいつの生まれ変わりじゃないのか?」と薄ら怖いことを言った。
     ……違うよね?男の子だし、そういうものに興味を持ってるだけだよね?)

響子  「パパー、だっこー」ムニャムニャ

苗木  「はいはい、響子は朝だけ甘えっ子になるんだよね」ギュー

苗木  (腐川さんの忘れ形見、響子は朝だけ抱っこを要求してくる。普段は無口で、
    「パパ、くつしたうらがえしよ」とか「パパ、お口はとじてかむの」とか、そういうのだけ
     しっかりした口調で言うのが、なんだかおかしい)

朝日奈 「ふうっ……ちょっと十神、本読んでないで手伝ってよ」ドサッ

十神  「あ、ああ……すまん。もうサラダが出来てたのか」

朝日奈 「運ぶのはあんたの仕事でしょ?ほんとにもう……」ブツブツ

十神  「お前は年々口うるさくなるな」

朝日奈 「口うるさくてけっこう!こんなデカいお腹抱えてたら、うるさくもなります!」

苗木  (今の僕たちは十一人家族。あと半年で……もう一人、増える予定だ)


【十三年と三ヶ月後】

苗木  (予定日まで、あと三ヶ月。朝日奈さんのお腹もだいぶ大きくなって、子供たちは
     かわるがわるさすっては、「男の子かな、女の子かな」と楽しみにしている)

朝日奈 「あっ、今蹴った!苗木、この子たちすっごい元気だよ!」

苗木  「この子……"たち"?」

朝日奈 「あのさ、多分……双子なんだと思う」

苗木  「ええ!?分かるの!?」

葉隠  「あのなあ、苗木っち。二人分なんだべ?食べる量も増えるし、腹も今までよりデカいべ」

苗木  (洗濯物を干している葉隠クンが教えてくれる。双子は貧血になるリスクも高いんだって。
     そういえば朝日奈さん、よく「頭がくらくらする」って言ってたな)

苗木  「たしかに、今までより心なしか大きいような……すごいな、お母さんってやっぱり
     分かるもんなんだね」

朝日奈 「腐川ちゃんの最初の妊娠した時と、体調似てたし。あー、こりゃ
     双子かなあって考えてたの。そしたら、二人分動いてるからびっくり!!」

苗木  「あはは、どっちも元気だから分かりにくいけどね」

朝日奈 「実は、さ……四回目じゃん?そろそろ体もきついし、
     次は産めないかもって思ってた。そしたら、"一人足りなくなっちゃう"から、悩んでたんだ」

苗木  (朝日奈さんの言わんとしていることは、なんとなく分かった)

朝日奈 「そしたら、どんどんお腹も大きくなってね。あー、これは私の体を思いやって、
     二人いっぺんに来てくれたのかなあって思ってたんだ。
     生まれてきた子たちさ、みんな……"似てる"じゃん。私たちの体を通って、
     生まれなおしてきてるんだって、そう思ってるんだ。腐川ちゃんも同じこと考えてたよ」

苗木  「そうか……なんだか、ますます会うのが楽しみになってきたよ」

朝日奈 「あはっ、責任重大だね。あと三ヶ月がんばって、元気に産んであげるよ!!」

【十三年と半年後】


サアアア…

苗木  (予定日より二週間ほど早く、朝日奈さんに陣痛が来た。
     生まれるのはいつも、シャワールームだ。きれいなお湯を金だらいに張って、ハサミを用意する。
     腐川さんがもういないから、手伝うのは僕の仕事だ)

朝日奈 「うぅっ…きついぃ……!!二人はさすがにちょっときつい……!!」ヒッヒッフー

苗木  「がんばって、今頭出たよ……はい、もう一回!!」グイッ

朝日奈 「う、ぐっ、うぐうううううっっ!!!」


オギャーオギャー

オギャーオギャー


苗木  「ほ、ほんとに双子だった……」ヘナッ

苗木  「!産湯……あ、その前にへその緒を切らないと……!」ワタワタ


【食堂】


朝日奈 「……えー、みなさん。ご心配おかけしましたが、無事に生まれました……」ゲッソリ

苗木  「元気な女の子と、男の子だよ。まだ首がすわってないから、一番上のお兄さんだけね」ソッ

清多夏 「おじさん、いいんですか?」

苗木  「うん。そーっとね」

清多夏 「お、おっ、おっ……おお……一気に二人は、重いっ…けど、かわいいぞ!」///

多恵子 「ふふ、ミルクの匂いがしますわ」

紋土  「くっそー、オレもはやく抱っこしてーなー」

響子  「わたし、おねえさん?」

苗木  「そうだよ。ママは違うけど、この子たちは響子の妹と、弟だよ」

響子  「うれしい!ねえ、わたしにもだっこさせて!」

朝日奈 「うーん…響子ちゃんがもっと力持ちになったらね」

響子  「じゃあ、明日からさくらちゃんといっしょに"しゅぎょう"する!」

苗木  「あはは、修行かあ」

苗木  (新しい命の誕生は、僕たちに安らぎと微笑みをもたらした。
     ……そうか。ただ、死んだ仲間を想って泣き暮らすんじゃなくて……
     こういう風に生きていくこともできるんだ)

葉隠  「んで、名前はどうすんのよ?」

朝日奈 「んー、そのことなんだけど……さ。双子ってどっちが上なんだっけ?
     先に生まれてきたほう?それとも後?」

十神  「国によって違うが、日本では後から生まれてくるほうが上だ。まあ、同じ日に生まれて
     上だ下だと凝る必要はないだろうが」

朝日奈 「じゃあ、お姉ちゃんが"さやか"ちゃんだね。弟は"怜恩"くんかあ……
     あははは、統一感ないね!……っとと」グラッ

苗木  「朝日奈さん?」

朝日奈 「ごめんごめん、まだちょっと貧血気味でさあ」

葉隠  「無理しねーで休んでろって。お乳の時間だけ起きてればいいべ!」

朝日奈 「じゃあ、お言葉に甘えよっかな……双子ってキツいんだねえ」

苗木  (朝日奈さんが元気に動き回ることは、二度となかった。
     それからは寝たり起きたりで、お乳をあげるとき以外はずっとぐったりしていた。
     ……でも僕たちは、「お産で疲れたんだろうな」くらいにしか考えていなかった)

【十四年と九ヶ月後】


苗木  (……希望に溢れていたはずの毎日が、暗転した)

苗木  (それが分かったのは、やっと歩き出した二人が、転んだ時だった)

さやか 「ぱぱあー」ヨチヨチ

怜恩  「ぱぱー」トコトコ

苗木  「はい、ここまでおいで。よーし、よしよし」

苗木  (手を広げて待つ僕の所へ、二人は一生懸命歩いてくる。かわいいなあ、やっぱり
     自分の子って格別だなあ、そんなことを考えているうちに)

さやか 「いだい!」ドテッ

怜恩  「あうっ」ドサッ

苗木  「大丈夫!?」

二人  「「うわああああーん!!」」

苗木  (最初にさやかが転んで、それに足をとられた怜恩が同じようにこけた。
     あわてて駆け寄った僕は、すりむいた膝をおさえて泣く二人をなだめた)

苗木  「ほら、いたいのいたいのとんでけー!……ちょっと染みるけど、がまんだよー」ポンポン

さやか 「うええええん、いたいよおお」グスグス

苗木  (血のにじんだ膝を消毒して、ばんそうこうを貼る。しばらくすると、二人はまた
     元気に飛び回った。その時はまだ、何の心配もしていなかった)


【さらに二ヵ月後.大浴場にて】


葉隠  「あれっ、おーい苗木、さやかの腹にアザあんだけど」ゴシャゴシャ

さやか 「あたまー、あたまふいてー」

葉隠  「はいはい。あれっていつからあんの?」

苗木  (二人をお風呂に入れていた葉隠クンが聞いてきた。そういえば、前に食堂のテーブルに
     ぶっつけてアザを作ってたな……でも、それは一ヶ月も前のことだ)

苗木  「おかしいなあ、一ヶ月も青アザが治らないなんてあるのかなあ」

葉隠  「怜恩の方もケガの治りがおせーんだよなあ。はい、ばんざーいしろ」ゴシゴシ

さやか 「ばんざーい!」キャッキャッ

怜恩  「ばんざーい!」キャッキャッ

苗木  (……心配、いらないんだよね?)

……

………


【十八年と半年後】


苗木  (血が止まらない。あざが治らない。手足が赤黒く腫れる。赤ん坊の頃から続く症状だ。
     ……それを云うと、十神クンは難しい顔をして図書室へこもった)

葉隠  「よっ……と、医学書はこれで全部だべ」ドサッ

十神  「まさか……いや、朝日奈がキャリアだったという可能性は考えにくい……苗木もだ……
     発症する理由が分からない。遺伝子の異常?いや、ここでは検査できない……」ブツブツ

葉隠  「なあ、さっきから何調べてんだ?」

十神  「苗木。学園にある資料を全部当たったが……その結果、恐ろしいことが分かった」

十神  「あの双子は、血友病だ」

苗木  「…………え?」

苗木  (目の前が、真っ白になった)

十神  「分かりやすく言えば、先天的に血液を凝固する因子が欠乏していて、血が止まらない、
     固まりにくいという難病だ。女子はX染色体を二つ持っているから、発症率が低い。
     父親が患者であった場合、まれに発症する程度だ。五歳の今までは
     奇跡的に皮下出血で止まっているが、いつ筋肉や関節内での深層出血が起こるか……
     そうなったら、薬がないとな」

苗木  (十神クンの声が、右から左へ抜けていく)

十神  「軽い打撲、すり傷、切り傷……普通の人間なら問題ない出血が、命にかかわる。
     おまけに、内も外も、体のあらゆる部位に出血の危険がある。関節や筋肉などに
     出血することが多い。人工的に精製した凝固因子の薬剤を、
     生涯にわたって投与するのが唯一の治療法だ。
     この薬剤は学園の保健室にはない。つまり、打つ手なしだ」

十神  「苗木。お前の親族に血友病患者はいるか?」

苗木  「……いないよ」

十神  「朝日奈の方には?」

苗木  「いない、と思う」

十神  「……」

十神  「こんな事になるなんてな……」ガシャッ

苗木  (前髪をつかんだ十神クンは、そのまま奥の書庫へ消えた。僕は葉隠クンに支えられて、
     なんとか図書室を出た)

葉隠  「な、なあ。苗木っち……」

苗木  「ごめん……ちょっと一人になりたいんだ」

苗木  (僕はふらふらと、あてもなく学園中を彷徨い歩いた。せっかく生まれてきたのに。
     せっかく……また会えたのに……)

苗木  (そんなことを考えているうち、僕の足は男子トイレの前で止まっていた。
     何気なく中へ入って、用具入れの前に立つ。押してみると、隠し部屋はまだそこにあった)

苗木  「げほっ、ゲホ……ホコリくさっ!」パンパン

苗木  「ん……?なんだ、あれ?」

苗木  (空っぽの棚にあったのは、ビデオテープだ。ラベルには何も書かれていない。
     最後に入った時にはなかった。となると……霧切さんの学級裁判に前後して
     ここに置かれたんだろうか?)

苗木  「ちょっと怖いけど……確認するしかないよな」

苗木  (僕はビデオテープを持って、隠し部屋を出た)


【音楽室】

苗木  「ちょっと、大人だけで大事な話があるんだ。子供たちを見ててくれるかな?」

清多夏 「はいっ、大丈夫です!!」

多恵子 「おまかせください、おじさま」

清多夏 「よおおし、みんな集まれ!!音楽の時間だぞー!!」

苗木  「じゃあ、また後で……」パタン


【視聴覚室】

十神  「で、これが件のビデオテープか。江ノ島の残した負の形見だろうな」

朝日奈 「うわあ……なんか見るの怖いんだけど」

葉隠  「朝日奈っち、キツかったら休むべ」

苗木  (ぐったりと椅子に沈みこんでいる朝日奈さんは、「見る」とうなずいた)

苗木  「じ、じゃあ……再生するよ」

苗木  (ビデオデッキに差し込んで、再生。しばらくはノイズ混じりだった音は徐々に明瞭になり、
     砂嵐だけの画面が少しずつ、晴れていく。数秒して、映ったのは)

江ノ島 『……ふふ、待っていたぞ希望の子たちよ』

十神  「江ノ島……!!」

朝日奈 「これって……」

葉隠  「学級裁判の前に、撮っておいたんだろーな……」

苗木  (そこに映っていたのは、まぎれもなく"超高校級の絶望"江ノ島盾子だった。
     霧切さんの処刑された後に、姿を消したはずの江ノ島……。いるのはモノクマ制御室のようだ。
     長い足を組んで座った彼女は、まるで今もそこに生きているようで……僕は画面ごしに
     重苦しいプレッシャーを感じる)

江ノ島 『モニターごしに出会った感想はどう?昔より何倍もきれいとか言っちゃう?
     ま、いっか。そんなんどーでも。時間もないから、さっさと本題に入るわよ。
     もうキャラ替えたりとかもめんどいから、フツーに行くから』

江ノ島 『アタシが死ぬと空気清浄機は停止すると言ったな、あれは嘘だ』

江ノ島 『まあ、このメッセージをあんた達が見ている頃にはアタシは死んじゃってるから。
     絶望的なまでに呆気なく、ひっそりと死ぬ予定だから別にいーけど。
     あ、何の話だっけ?そうそう、空気清浄機だったよね。物理室にある』

江ノ島 『わたしが死ぬとねー、あそこから空気に混ざってとある"物質"が出るようになるのー。
     分かりやすい表現でいうと"放射線"かなあ?もちろん改良は加えてあるから、
     すぐに死んだりはしないよー?ただ、じわじわと学園の中を汚染していくだけだよー。
     数値に直すとチェルノブイリの半分くらいかなー?』キュルルン

江ノ島 『ところでさ……末っ子ちゃんあたりになんか"病気"が出たりしてない?
     してるよね?まあ知らなかったんだからしょうがないけど、十年以上汚染物質を
     蓄積させた体でずっこんばっこん!して、より高濃度に汚染されたものを食って、
     太陽の光も浴びねーからビタミンも不足して、
     そんで産まれるガキが五体満足なわけねーよなあ!!!』ファーック!!

江ノ島 『結論から言いますと、あなた達生き残った希望の寿命はおよそ四十年弱です。
     体内に悪性腫瘍ができて、それが無限に増殖し、細胞を死滅させていく……
     出産を経た女性の方が進行スピードも速いはずです。希望を手にしたと思った矢先の、
     ゆるやかな死……それって、なんて絶望的なんでしょう……』

江ノ島 『でも……打つ手がないってわけじゃないんですよ……
     およそ十八年が経った世界は、人が生きられるレベルまで空気も水も回復しているはずです……
     ただし、人類はおそらくほとんどが死滅……がれきと廃墟が広がる世界……
     外に出てもまず、楽な人生は望めません……ですが、おそらくあなた達5人の寿命は
     変わらないでしょう……』ジメジメ

江ノ島 『うぷぷぷぷ、君達が選べる選択肢は二つあるんだ。一つ目は
     "このまま学園の中で、新しく生み出した希望たちと一緒に、ゆっくり死んで行く"
     二つ目は、"外の世界へ脱出する"どんな危険があるか分からない未知の世界にね!』

江ノ島 『さて、それが分かったところでどうする?外の世界へ希望をつなぐか、この箱庭の中で
     希望を食いつぶして生きていくか……どちらにしても、完全な未来なんてないけどね』


――ねえ、絶望した?


ザザ…プッツンッ

苗木  「!切れた……これでメッセージは終わりみたいだ」

葉隠  「な、なあ…今の話って、マジなん?」

十神  「江ノ島がここまで来て嘘をつくことはないだろう。現に、腐川は出産後すぐに死んだ。
     朝日奈も、スイマーとして鍛えていたはずの体がここまで弱っている。
     あの分析力で、俺達が子供を残すことも分かっていたというのか……」

朝日奈 「うん、江ノ島ちゃんの話は本当だと思う……裏づけもあるしね」

苗木  (……僕たちは、しばらく立ち尽くす。やがて葉隠クンが、物理室にガイガーカウンターがある
     ことを思い出して、取りに行ってくれた。「防護服いるか?」なんて言いながら測った数値は)

十神  「……人が生きていられる、ギリギリの数値だな。くそっ…もっと早くに分かっていたら、
     腐川をどうにかできたかもしれないのに!!」ギリギリッ

苗木  「十神クン、これからどうしようか……」

十神  「ここまで来れば、一ヶ月も一年も同じだ。一週間ほど時間を使って考えるぞ」

苗木  (僕たちは、その言葉に沈んだ面持ちで頷いた)


【一ヵ月後】


苗木  (それでも、悩みに悩んだ。何度も話しあいを重ねた。結論が出たのは、一ヵ月後だった)

コンコン…ガチャッ

十神  「来たか、清多夏。多恵子」

苗木  (夜時間と呼ばれていた午後10時、二人を食堂へ呼んだ)

清多夏 「お父さん……大事な話とは、なんでしょうか」

十神  「……お前たちに、学園の外の話をしようと思ってな」

多恵子 「!今まで、何回聞いても教えてくださらなかったのを……分かりました、聞きましょう」

苗木  (僕たちは全てを話した。ここで行われたコロシアイ学園生活のこと、外の世界が"絶望"によって
     滅んでいること。人類はおそらく、ほとんどが死んでしまったこと。
     ――この学園も、汚染されていること)

十神  「しかし、わざわざそのメッセージが残っているということで、俺は第三の道を見出した。
     それは……"お前たちだけが、学園を出て外の世界に生きること"だ」

苗木  「一番下の二人が、血液凝固剤を必要としていることは理解してくれたね。
     外には大学病院も、薬局も打ち捨てられて残っている。もしかしたら、そこに薬があるかも
     しれない。僕たちは、ここで朽ち果てるのを待つよりは、危険だけど無限の可能性がある
     外の世界へ、出て行って欲しいんだ」

苗木  (全てを聞き終えた二人は、驚きと悲しみの入り混じった表情で僕たちを見た)

十神  「……お前たちは賢い。だから、俺達がこれから何を言うかも分かっているな」

清多夏 「はい……お父さん、おじさん、おばさん……葉隠さん」

葉隠  「ありゃ、最後まで俺は葉隠さんなのな」

清多夏 「今まで、お世話になりましたッ……!!」

十神  「ふっ……ありがとうな、清多夏。俺に"出て行け"を言わせないでくれて」

清多夏 「うっ…ううっ……!!」ボロボロ

十神  「そういえば、お前はもうすぐ17歳になるんだったか。
     ……本当、あいつによく"似て"きたな……」ポンポン

葉隠  「一日も早く出てったほうがいいべ。少ねーけど、明日の朝、玄関ホールに荷物を用意しとくから。
     しっかり生きてけよ。飯だけはちゃんと食えよ、寒さには気をつけろよ。外の世界には
     空調なんてねえんだからな」ギュッ

朝日奈 「ごめんね……親らしいこと、あんまりしてあげらんなかったけど、あんた達9人は
     ここにいる5人みんなの子供……希望ヶ峰の子供なんだよ。外の世界で、いっぱい
     楽しいものを見てね。幸せに、なってね」ナデナデ

多恵子 「おばさま……」グスッ

苗木  (僕は気づいた。多恵子を撫でる朝日奈さんの手の甲に、血管が浮き出ていることに。
     放射線のせいで、動脈硬化が進んでいるんだ……もう本当に、時間はないんだ)

十神  「ひとつ、お父さんのわがままを聞いてくれないか。お前たちはここで暮らす間、
     "苗字"というものを使う必要がなかった。でも、外ではそうも行かないだろう。
     その時は、"十神"と名乗ってくれないか」

多恵子 「でも、もう十神財閥は……」

十神  「この世に"十神"がいたこと、俺が生きていたことを伝えて欲しいだけだ。嫌なら構わない」

苗木  (双子はしばらく顔を見合わせて、こっくりとうなずいた)

苗木  「あはは、言いたいことは沢山あったんだけど、みんなに全部言われちゃったな……
     誠おじさんからは一つだけ。"ここにいたことを、忘れないで欲しい"それだけだよ。
     君たちは新しい世界の希望だ。希望は、常に前を向いて進んでいくものだ。
     だから……僕たちのことは心の片隅に持っておいて、毎日をしっかり生きる。
     それだけで、いいよ」

……

………


【翌朝.玄関ホール】


苗木  「はい、これが脱出ボタンだよ」

苗木  (僕は、18年前に自分が押さなかった赤いボタンを清多夏に渡した。
     玄関ホールには、9人の子供たちが集まっている)

さやか 「ねえねえ、ピクニックってなにするの?わたし、お外に出るのはじめてー!」キャッキャッ

怜恩  「太陽ってどんなかたち?ブランコはある?」アハハ

響子  「……もちろん、あるわよ。姉さんと一緒に遊びましょうね」

苗木  (一番小さい二人は、楽しいピクニックに出かけるものだと思っているみたいだ。
     響子は何かを察しているのか、静かに僕を見つめている)

千尋  「ねえ、お母さんは来ないの?」

さくら 「大人はいそがしいんだ。後から来てくれるだろう」

苗木  (ごめん。僕たちはもう二度と会えないんだ)

一二三 「しかし、楽しみですなあ!」

紋土  「ああ、ほんとにな……」

苗木  「……」ダッ

朝日奈 「あ、苗木!?」

苗木  (気がつくと、僕の体は弾かれたように動いていた)

苗木  「ふぐっ……うっ、うううっ……」

苗木  (さやかと怜恩をぎゅっと抱きしめて、押し殺した声で泣く。本当は行かせたくない。
     ずっと一緒にいたい。もう離れたくない。そんな気持ちと戦う僕を、
     とてとてと寄って来た響子が優しく撫でた)

響子  「お父さん」

『苗木くん』

苗木  「霧切、さん」

『さよなら』

響子  「いってきます」


苗木  (霧切さんの懐かしい声が……聞こえたような気がした)

苗木  (響子は双子の手を取ってくるっと背中を向けると、扉へ向かってゆっくりと歩いていく)

清多夏 「……では、行こうか」ポチッ

ゴゴゴゴゴゴ…

轟音と、軽い地響き。金属製の重い扉が、ゆっくりと開く。
まぶしすぎる光。何年と見ていない太陽光だ。その真っ白な光の中に、子供たちは踏み出す。


ズズゥン…

そして、扉は再び閉ざされた。

_____

一旦切るよー。

①何年か時間飛んで、出てった彼らの後日談的な話
②学園にいた時代のちょっとほのぼのした話

どっちがいいか、気が向いたら数字で答えてね

2

苗木の妄想だと思ったけど、葉隠の通信簿を見ると……
あいつも腐っても超高校級

葉隠  「……行ったか。こーなったら、俺らにできることはねーべ」

朝日奈 「だね……元気に生きて行ってくれることを、願うだけだよ」

十神  「しかし、よくあのビデオテープに気づいたな。さすがは元"超高校級の幸運"」

苗木  「この年になって超高校級もないもんだよ。……でも、考えてみればすごい幸運だよね」

葉隠  「?」

苗木  「コロシアイも、学級裁判も、ギリギリの所で生き抜いて……新しい命を授かって……
     18年もの間、あの子たちを育てることでたくさんの"希望"をもらった。
     そして、子供たちを外へ送り出すのを見られた。僕たちは案外、この世界で一番
     幸せな5人かもしれないよ?」

朝日奈 「じゃあ、苗木の幸運に感謝だね……っと」グラッ

葉隠  「無理すんな、部屋に戻るべ」

苗木  (朝日奈さんは「先に寝てるねー」と手を振って、葉隠クンの支えで部屋に戻った)

十神  「考えられるのは、甲状腺の異常だな……
     出産でホルモンバランスが乱れたのが、そのまま治っていないんだろう」

苗木  (朝日奈さんは、支えられながらなにやら楽しそうに喋っている。
     ふらふらとした足どりが、ひどく痛々しく見えた。きっと、その体内はもう
     すごいスピードで、がん細胞が増殖しているんだろう……あと何回、
     朝日奈さんの笑顔が見られるんだろうか……)

十神  「お前はまだ、何も症状がないか……いいことだ」ジャラッ

苗木  「!その薬……」

十神  「保健室の鎮痛薬を俺一人で飲みきるわけにはいかないからな……限界まで飲まないように
     しているんだが」

苗木  「十神クン……」

十神  「腫瘍ができているとすれば、脳だな。この断続的な頭痛から言って、
     俺もそろそろ行動不能になるだろう。……江ノ島のメッセージを見る半年ほど前から、
     頭痛がひどくなっていた。まさか放射線とはな……くくっ、やられたぞ」

苗木  (血混じりの痰を吐いたけど、食道の出血かもしれないと思っていたとか。
     最近食欲がないとか。匂いが分からなくなってきたとか。
     廊下を歩く間、十神クンが話すのを、僕はなんだか遠い世界の出来事みたいに聞いていた)

十神  「……お前は、一緒に行ってもよかったんだぞ。幸運がついて行けば、もっと」

苗木  「ううん、いいんだ」

苗木  (僕は首を横に振った。十神クンは「生きたくないのか」と聞いた)

苗木  「いずれ症状が出た時に、崩壊した世界で足手まといになるのは嫌だったんだ。
     親心ってやつかな。苦しんで死ぬ所を見られたくないし……みんなだって同じことを考えたから、
     学園に残るんだよね。 ……だったら、僕もここにいるよ」

十神  「もう一度太陽を見られなくても、いいのか?」

苗木  「僕にとっての太陽は、君たち4人だよ」

苗木  (そう言うと、十神クンは泣きそうな顔をして、「そうか」とうつむいた)

苗木  「僕もね……年にしては疲れがたまるなって、不思議に思ってたんだ。太陽の光を
     浴びていない所為だって決めつけていたけど、あのビデオで合点が言ったよ。
     きっと、最後に死ぬのは僕だ」

苗木  「だから、それまで……思い出話でも語り明かして過ごそうか」ニコッ

十神  「……悪くないな」ニッ


………

……

【十九年後】


葉隠  「苗木ぃ!!……十神っち!!早く来てくれ、朝日奈っちが……」

苗木  (バタバタと図書室へ駆け込んできた葉隠クンに、十神クンは「ついに来たか…」と呟く。
     階段を転がるように駆け下りて、寄宿舎の赤い廊下を走って、辿り着いた部屋で)

苗木  「朝日奈さん……」

苗木  (痩せこけた頬、色味を失った顔、しぼんで垂れ下がった胸の上に置かれた右手。
     そこに、彼女の面影を見出すのは難しかった。子供たちを見送った安心感か……
     わずか半年で、朝日奈さんの体は腫瘍との戦いに屈してしまった)

葉隠  「……ひどい顔だろ。保健室にあったモルヒネのおかげで苦痛はなかったってのだけが、
     唯一の救いだべ……ゴホッ、げほっ……!」

十神  「お前は少し休んでいろ」

葉隠  「恩に着るべ……へへっ、これでいよいよアダムだけが残っちまったなあ」

苗木  (僕たちを思いやってか、葉隠クンは軽口を叩きながら座りこんだ。
     その手に血がついているのは、見なかったことにしたかった)


【生物室】


苗木  「朝日奈さん……さようなら。先にそっちで待っていてね」

苗木  (お葬式の間も、葉隠クンはずっと咳をしている。十神クンより症状が出たのは遅いけど、
    「年を食ってる分はえーんだべ、あとは今までの報いってやつだな」と笑っている)

苗木  「そういうことはないと思うよ……だって、葉隠クンはたくさん助けてくれたじゃないか。
     オムツを洗ったり、ご飯を作ってくれたり、みんなを育てて」

葉隠  「いーんだ、いーんだ。俺みてーなのが感謝されんのはおかしい。そういう世界を
     作ってかなきゃいけねーんだからな…あと、俺タバコ吸ってたから」

苗木  「え、タバコなんてあったの?」

葉隠  「倉庫にあったべ……ゲホゲホッ、大人ぶり、ゴホッ、たく、って……吸ったのが、
     まずかったん、かなっ……ゲホッ!」

苗木  (とうとう、葉隠クンは体をくの字に曲げて血を吐いた。
     「いつものことだべ。お迎えが近けーなあ」と笑ってる顔は、
     やっぱりげっそりと痩せていた)

【十九年と八ヶ月】


葉隠  「あー、もうダメっぽい。ダメだ、自分で分かる……」ゼーゼー、ヒューヒュー

苗木  (とうとう、葉隠クンは起き上がれなくなった。口を半開きにして、
     苦しげな呼吸を繰り返す。たびたび血を吐くのを拭いてあげると、
     「まさか苗木っちの介護受ける日が来るとは」と笑って、また咳をした)

葉隠  「なあ……苗木っち……十神っち、来ねーな……ゲホッ」

苗木  (十神クンも、もう口から食べ物を入れられなくなった。正確には
    「食べられるけど、胃がちゃんと吸収していない」らしい。点滴を受けて、ひたすら寝ている)

葉隠  「もう、お迎え近けーから……みんな、来て、げほっ、くれっかなって……思ってたんだ……でも、
     ちっとも来ねーべ……やっ、ぱ…ゲホッ、あいつら、生まれ変わり…ごほっ、げぼっ……」

葉隠  「だから、向こうにゃ……朝日奈っちだけが…ぽつーんと、いるんだべ……
     さっさと、行って…げほっ、やんねえと……ごほっ、げほっ!」

葉隠  「なあ、苗木っち…手ェ、握って……」

苗木  「うん……」ギュッ

葉隠  「あー、あったけーなあ……」カクッ

苗木  「葉隠クン?」

葉隠  「」

苗木  「葉隠クン、葉隠クン!!」ユサユサ

苗木  「うう……うわあああ!!!っ……あ、ああああーーーっっ」


【十九年と十ヶ月後】


苗木  「……はっ、寝てた」ガバッ

苗木  (とうとう二人きりになった。十神クンが痰をからませるのを吸引してあげたり、
     体を拭いてあげたり、モルヒネを点滴したり、そんな日々が二ヶ月続いていた。
     そして、今夜が多分山場だと思うので、僕はずっと隣についていた)

十神  「う……なえ、ぎ……」

苗木  「十神クン?目が覚めたんだね!」

十神  「みず、を……」

苗木  (弱々しく呟く声に、僕は急いで立ち上がった。テーブルに置いてあった水差しから
     コップに注いで、ベッドへ戻る。でも)

十神  「」

苗木  「……十神クン」

苗木  (その時はもう、十神クンは事切れていた。僕は、死に水に間に合わなかった……)


【二十年と一ヶ月後】


苗木 「ハッピーバースデー、トゥーミィ……」フウーッ

苗木 (とうとう僕は、一人になった。学園の食堂で、冷凍食品のケーキにロウソクを立てて、
    安っぽいシャンパンを空けて、誕生日を祝った)

苗木 (僕は今年で、38歳になった。コロシアイ学園生活が終わった時は18歳だったから、
    計算としては間違ってないはずだ)

苗木 「あの時は、40近い自分なんて想像できなかったなあ」

苗木 (しっかりした顎と、高くなった目線。骨ばった大人の男の手。自分は今確かに、
    大人になったんだと思った)

苗木 (独りぼっちになってからも、僕は一生懸命生きている。
    ちゃんと料理をして、お風呂も入って、夜はしっかり眠っている。
    だけど、一人だと、何も楽しくない。この広い学園にいると、恐ろしいまでの寂しさが襲ってくる)


腐川  『食べて、寝て、起きて……その繰り返しで、頭が変になりそうなの!!!』


苗木 (あの時の、腐川さんの言葉が生々しく蘇ってくる。だけど僕はまだ、狂いそうにない。
    例えようのないだるさも、食べるたびに下して血便を出す腹も、充血した目も。
    まだ、僕は生きている。生きていられる)

【二十年と三ヶ月後】

苗木 (まだだ……)


【二十年と半年後】

苗木 (まだ、持ちこたえている)

【二十一年後】

苗木 「そろそろ、か……?」

…………

……


【二十一年と五ヵ月後】


苗木 「今行くよ……僕の太陽」フラフラ

苗木 (僕は最後の力を振り絞って、階段を上がる。何度も転びそうになりながら、辿り着いたのは。
    みんなが眠る、『生物室』)

苗木 「ただいま……僕も、もうすぐなんだ……ずいぶん、待たせたけどね……」ヨロヨロ

苗木 「腐川さん……十神クン……葉隠クン…朝日奈、さん……そっちは、どうかな……?」

苗木 (寒い。ここが冷えているからじゃない。これは僕の体の芯が冷えているんだ。
    視界が回る。心臓の鼓動が正しくない。呼吸が苦しい。頭が痛い。ここまで
    永らえた命も、今日で終わるみたいだ。でも、だからこそここまで来たんだ。
    もし、"あの子たち"が還ってきた時、きれいなままで会えるように)

苗木 「じゃあ、ここに……しよう、かな……」ガタッ

苗木 (僕は一番下の冷蔵庫を開けると、その中へ体を滑りこませた。
    しばらくして、異常を察知したコンテナは自動で閉まる。僕は胸の上で手を組んだ)

苗木  「……思えば、ジェットコースターみたいな人生だったな……」

苗木  (鼻先にある白い天井に、吐息でもやがかかる。
     眠いな、と思ったのが先か、それとも心臓が「かたんっ」と止まったのが先か。
     僕は、ゆっくりと目を閉じた)

霧切  『さよなら、苗木くん。あなたはきっと、希望をつないでね』

苗木  (処刑場に向かう前、霧切さんがそっと囁いた言葉が、耳の奥で蘇った)

霧切  『また会えるわ。あなたが望むなら、きっと……だって、希望は絶対に消えない。
     私は信じているの。父の願った世界も、あなたのことも』

苗木  (うん、そうだね。その通りだった……希望はずっと、前に進んでいくんだ……)

苗木  (ああ、本当に)

苗木  (幸せ、だったなあ……)

…………

……




響子  「う、うん……」ゴロンッ

さやか 「くかー……すぴぃ……」スヤスヤ

怜恩  「ぐぅ……くかー……」ムニャムニャ

響子  「……」パチッ

響子  「……おとうさん?」

廃墟にあるベッドの中、起き上がった響子はしばらく寝ぼけた頭で考える。
なんだかとっても、悲しい夢を見ていた気がする。怖い、だけど悲しい夢。

響子  (……最後に、お父さんの声が聞こえた気がする)

ごろんっ、と寝返りを打った弟妹たちを置いて、洗面所へ向かう。
学園にいた頃は自動で水が出たが、今は交代で汲んで来なければならない。
清多夏が雨水を使った給水システムを作っているが、まずは太陽光で発電するほうが
先だと多恵子に言われて、夏の間は水道もお蔵入りとなった。

響子  「つめたっ!…もう、どうして温度がちゃんとしないのかしら」

バシャバシャと顔を洗って、タオルを取る。
そこでふと、窓の外が目に入った。崩れた高層ビルの向こうに、少しずつ光が満ちて行く。
朝にしかない輝きに、響子は思わず目を奪われて。

響子  「……きれい」

無意識に口に出していた。と、そこでどかどかと雰囲気をぶち壊す足音。

清多夏 「むっ、起きたのかね!!ではすぐに、下へ集合だ!!朝のラジオ体操の時間だぞ!!」

清多夏 「……起きなさーい……朝だぞ……」

響子  「ぷっ、ふふっ…」

清多夏 「なんだね、僕だって優しく起こすくらいはできるんだぞ。
     昨日、向こうの大学病院でいいものが見つかったからな」

清多夏は寝ぼけ眼をこする二人を座らせると、小さな注射器を取り出して
「ちくっとするぞ」「痛いか?」と聞きながら刺してやる。

清多夏 「よし、終わったぞ。では今日も一日、がんばろう!!」

さやか 「がんばるー…でもねむい……」

怜恩  「ねむい……でもがんばる……」

とてとてと歩いていくのに、響子も続けて歩き出す。
崩れ落ちた階段の天井から空を見上げて、まぶしさに手をかざして。

響子  「またね……苗木くん」

そっと、呟いた。


【終】

とりあえずこれで一旦おしまい。

>>26-->>29

1が2票、2が2票ということで、とりあえずどっちも書いてみます。
書き忘れてましたが②はまだ苗木たちも元気な頃の小話的なもの。




そう言えばbadルートなのになんで江ノ島死んでるんだろう
あと食べ物定期的に差し入れられるってそこまで崩壊してないよね。塔和シティとか平和だし

>>37

それらについては2で書いてくよー。
1ラストではもう世界終わってるぽかったけど
絶望少女で意外に人類しぶとくて「へっ?」ってなった思い出

キラーキラーを見たら>>1はさらに混乱しそう
本当に絶望の残党が暴れているんっすか?

>>39
読みました…一応アイドルが存在できる程度には平和な世界なのか……。
もっと頑張れよカムクラ
基本、>>1のSSでは無印と2までの設定に肉付けする感じ。3は矛盾というかわけわからん
ところが多すぎてちょっと困る。


葉隠  「家庭菜園をやるべ!!」

朝.十 「「……は?」」



【THE・希望ヶ峰DUSH~超高校級の希望は自給自足できるか?~】



十神  「いきなり何を言い出すかと思えば……厨房に残っている野菜類も冷凍野菜も、
     50年分は貯蔵されているはずだぞ。倉庫にはソリドも大量にある」

石丸  『オムライス味は残しておいてくれたまえ!!』

十神  「なんだ今の幻聴」

葉隠  「このまんま子供が増えてったら足りなくなるかもしれねーべ。その時になって
     あわてないためにも、今のうちに自給自足の道を探るべきだべ!!」

朝日奈 「まあ、たしかに…エディブルガーデンとか流行ってるもんね。トマトとか茄子とか、
     栽培が簡単な野菜は作ってもいいと思うよ。私はスイカが食べたいなー」ニコニコ

十神  「ふ、ふん……それで葉隠、お前には農業の経験があるのか?」

葉隠  「ない!!!」ドヤァッ

十神  「」

葉隠  「でも、鉄腕DUSHは小学生の頃から見てたべ!!」

朝日奈 「出たよ…テレビとかの知識だけで語るやつ……今はTOKIOすら行方不明だっつーの……」ハァ…

十神  「で、誰がやるんだ?」


___________

葉隠  「というわけで、苗木っちが農園をやることに決まったべ」

苗木  「僕その場にいなかったよね!!?」

葉隠  「あきらめるべ、民主主義に基づいた多数決の結果だかんな!!」

苗木  「葉隠クン…一応言っとくけど、民主主義の原則は全会一致だよ」

朝日奈 「えっ……だって、国会中継とかフツーに多数決だったじゃん……」

苗木  「あんだけ人数いたらしょうがないよ。国連の委員会とかは少ないから全会一致の原則が生きてるでしょ?」

葉隠  「はあ…また一つ賢くなったべ」

苗木  (こいつら、二十歳過ぎて知らなかったのか)

>>1も高校生まで知らなかった。バカとか言わない)

十神  「俺は絶対に農作業なんか無理だぞ」

朝日奈 「へー、いやじゃなくて無理、なんだ……」ニヤニヤ

朝日奈 「あ、だんご虫」

十神  「!?」バッ(飛びのく)

朝日奈 「あー、なるほど。忘れかけてたけど、あんたお坊ちゃまだったね」(ミミズを一匹捕まえる)

十神  「やっ、やめろ!近づけるな!」

朝日奈 「見てよこの生命力!閉鎖されてるのにミミズが生きてるってすごくない!?」

十神  「やめろと言ってるだろう!早くそれを地面に戻せ!」

朝日奈 「えいっ」(ミミズ投げる)

べちゃっ(十神の額に命中)

十神  「~~‘*}+*<+MJOUGIA!!!?」

葉隠  「十神っちが壊れた!!」

苗木  (そんな大人たちの騒ぎをよそに、双子たちは呑気に遊んでいた)

清多夏 「たえこ、これがだんご虫だよ。ぼくずかんでみた」ツンツン

多恵子 「まるまってる!かわいいー!」ツンツン

葉隠  「子供はいーよなあ、虫とか怖くなくて」ハァー

苗木  「僕だって別に得意ってわけじゃ……あ」

多恵子 「……」じーっ(だんご虫見つめる)

多恵子 「ぱくっ」(食べる)

苗木  「!!!」

多恵子 「……」ぺっ(吐き出す)

葉隠  「苗木っち…このままだと、この子たちが今みたいに虫を食べて命を繋ぐことになるかも
     しれないんだべ……せめて太陽に当たれない分、新鮮な野菜を食わせたいって思うのは
     間違ってんのか!?」

苗木  「ええー……」

苗木  (結局3人がかりで押し切られて、僕が農園をやることに決まった。
     最初は正直「ふざけんな」と思ったけど)

【数ヵ月後】

苗木  「あ、そろそろトマトの収穫だ。こっちに青梗菜も植えておこう。……あとこっちは間引いて…」テキパキ

苗木  (予想以上に農園は楽しくて、すっかりハマってしまった。
     これもある意味『希望をつなぐ』ことなのかな?)

苗木  「ねえみんな、雑草むしるのくらい手伝ってよ」

十神  「虫が全部いなくなったら考えてやってもいい」

苗木  「」


【君の中身は。】

千尋  「おとうさーん!見て見て、僕が作ったんだよ!」

苗木  (千尋が見せてくれた画面では、ウサギのドット絵が踊りながら歌っている。
     十神クンの頭脳は、見事に遺伝してくれたみたいで……千尋は6歳にして、スクリプトを
     自在に操るようになった)

十神  「どれどれ……ほう、もうプログラムを自由に組めるようになったのか。
     さすがは十神の子だな」

苗木  (偉い偉い、と頭を撫でられて、千尋は「えへへ」と嬉しそうに笑った)

十神  「お前は本当に機械をいじるのが好きだな」

千尋  「でもね、僕最近は人間にも興味があるんだぁ……」

十神  「そうか、人間のどんなところが好きなんだ?」

千尋  「あのね、好きなのはね、やっぱり骨!!」

苗木  「ほ、骨……?」

千尋  「うん!肋骨の組み合わせとか、背骨のアーチとか、すっごくきれいだよね!!」

十神  「……」

苗木  「ち、違うよね?ほんとにメカニックの先輩じゃないんだよね?」

【族が走りてマフラー吹く】


千尋  「紋土くん、見て見てー!」ジャーンッ

紋土  「おーっ!すっげーな、お前バイクなんて作れたのか!?」

千尋  「大事な所はパソコンとおんなじだから……紋土くん、バイクに興味あるって言ってたよね。
     乗ってみてよ!」

紋土  「おう…って、これ大丈夫か?」

千尋  「大丈夫!ちゃんと僕が乗って確かめたから!」

バルルンッ…ドッドッドッドッ

紋土  「おおお!!すっげーな!!んじゃ、ちょっと廊下走ってみっか!!」


ブオオオオオーーーーッッ!!ゴウンゴウンゴウン!!バルルルルッ


(注:現在時刻.午後23時)

十神  「うるさい……眠れない……」ギンッ

ガッシャーン!!!バリバリバリ

十神  「!!!?」ガバッ

一旦切ります。
次回で江ノ島さんの話書きたいなあ

あたしの人生って幸せだったのかな。

いや、幸せとか不幸とか、そういうのを考える時期はとっくに過ぎてるはずなんだけどさ。
あたしにだって、生まれた瞬間にはやっぱり『希望』のひとかけらくらいはあったはずだと思うのよ。

だって、希望と絶望は同じ『望』から生まれてるじゃない?
生まれてきた瞬間後悔したんですーとか、どっかの飼育委員みたいな感じのコト
言っちゃったけど。あたしは、多分。


江ノ島  「……誰よりも、希望が欲しかったんじゃないかな。
      だって、この世界で一番、絶望を『希望』してたくらいなんだし、さ」

モノクマ制御室で一人、つぶやく。
あたしの『超高校級の分析力』は、何千回のシミュレートの末に
ただ一つ、『希望につながる道』を見出した。

あいつらは、ここで希望を繋いで生きていく。そう仕向けたのはあたしだけど。
どれだけ時間が経っても、どれだけ年老いても。あいつらが絶望することはない。


江ノ島  「……あたしの負けか。あははっ、あはははははは!!!」

江ノ島  「ホント、あたしの計画って何だったんだろ?お姉ちゃんも、幼なじみも、クラスメートも、
      この世界の人間みんなを巻き込んだ"絶望"だったのに!!
      こんなあっけない終わり方するとか、マジ絶望的!!」

江ノ島  「世界中が絶望に染め上げられるのを見たかったのよ。世の中、希望とか未来とか、
      キレーな言葉が溢れててさ、それが全部ひっくり返る瞬間って、多分すっごく
      爽快だったと思うんだわ」


江ノ島  「でも、人類の脆さってのを計算に入れてなかったのはあたしのミスだわ。
      核は反則だろ、核は!!おかげで国連加盟国が全消滅しちゃってさあ!!!
      笑いなよ、あたしは"絶望"に裏切られたんだから!!」

地球上に存在する核爆弾は、この世界を何回でも滅ぼせる量だった。
絶望に染まった人間どもがスイッチを押したせいで。
そして、あたしの糧となる絶望……それを生み出す人間がいなくなってしまったと。
生き残ったわずかな人類は、明日をも知れぬ命を繋ぐために、絶望を捨てて
ちっぽけな希望にしがみついた。


あたしは、絶望に見放されたんだ。


江ノ島  「……は、あはははは……」

江ノ島  「……」

江ノ島  「あたしって、何がしたかったんだろ?」

口に出してみると、ひどく空虚な響きを持っている。人類を絶望させる。世界を絶望に染め上げる。
それって、どういうこと?その先に、何がしたい?そんなものは、多分、ない。

昔から、絶望的に飽きっぽかった。
この両目に映る世界は退屈で、幼稚で、滑稽で。
この人類絶望化計画だけはよく飽きなかったものだと自分でも思う。


江ノ島  「……いいなあ、希望を持てる奴らって、いいなあ……」

江ノ島  「だって、あいつらは……あんな世界でも、生きていけるんだもんね」

江ノ島  「あたしはごめんだけどさ」


モニター越しに、生き残った奴らの様子を見る。
十神と腐川の手に抱かれた、生まれたばかりの『希望』は、幸せそうに微笑んでいる。
あたしはそっと手を伸ばす。モニターをなぞって、赤ん坊の頬のあたりを何度か撫でて、

きゅっ、とつねる真似をした。


江ノ島  「……」

江ノ島  「あたしは、絶望だから。希望の中では、生きていけない」

江ノ島  「だから、最後にとっておきの絶望を遺していくよ」

江ノ島  「……ふふ、その時、あんたはどんな"希望"を見せてくれるのかな……苗木」

江ノ島  「それを見られないなんて、ホント」


――絶望的。




立ち上がって、床の扉に手をかける。
ロックを外して、ゆっくりと体をその奥へ。


扉を閉める直前に、つけっぱなしのモニターが目に入った。
赤ん坊に頬ずりして、幸せそうにしている苗木が映っている。


「さよなら、苗木……あたしが歩まなかった道の先にいる人たち……」


ぱたん、と扉が閉まる。


制御室の机の上。モニターの光に照らされて、赤い脱出ボタンが置かれていた。


「なんだろ、これ……"モノクマ制御室"?何かのメッセージかな?」

苗木誠が、自室のドアにはさまったメモ翌用紙を見つけるまで。

あと、半日。



【終】

切ります。次回で終わると思う。


【三十年後】


怜恩  「ヤダ!!こんなだっせー服着たくない!!」

響子  「しかたないじゃない。着られる服が残っているのがそれと、ちゃんと手を繋いで行くのよ。
     走って転んだりしたら、大変なことになるんだから。ゆっくり歩いてね」

怜恩  「聞けよ!もう12歳なのにおそろいとかありえねーんだっつーの!!」

オレはスカルとかチェーンとか、かっけーやつが着たい!!と要求する怜恩の隣で、
さやかは困ったように笑っている。二人の好みは正反対なのにおそろいの服を与えられるので、
不満がたまっているらしい。

さやか 「怜恩くん、早く行かないと牛乳なくなっちゃうよ?」

怜恩  「あっ、それは困る!……覚えてろ、響子!」いーっ

響子  「姉さんって呼びなさい!……全く、成長するごとにわがままになってくわね。あの子は」

千尋  「しょうがないよ。男の子だからね」カタカタ

壁に大きな穴が空いた廃墟でも、機械さえあればそこは千尋の城になる。
太陽光発電システムのメンテナンスを終えると、千尋は「紋土くん、お弁当持ってったっけ」と聞く。

響子  「忘れてったわよ……毎日毎日、届ける方の身にもなってほしいわ」

千尋  「じゃ、頼んだ」

響子  「たまにはあなたが顔を出してあげたら?」

千尋  「僕は屑鉄拾いに行かなきゃ。使えそうなボルトとかネジはすぐ盗掘されちゃうから、
     早い者勝ちなんだ」

言うが早いが飛び出していった千尋は、階段の途中から「僕のおにぎりは残しといて!」と叫ぶ。
しかたなく、響子も部屋を出た。外へ出ると、洗濯をしているさくらが「届け物か」と聞いてきた。

響子  「ええ。紋土兄さんに」

さくら 「我も、これを干してしまえば終わりだ。どれ、ついでに届けておこう」

響子  「いいの、遠いわよ?」

さくら 「いい運動になる。今日紋土は、たしか船着場の修理に行っていたな。我も川に用があるのだ」

タンパク源の魚や肉を手に入れるのは、ほとんどさくらの担当になっている。
時には人の手が入らなくなった山に分け入り、時には川に潜って狩りをしているうちに、
さくらの体はかの『格闘家』を思わせる、筋肉に覆われていった。

響子  「じゃあ、頼んだわ」

さくら 「任せろ」

包みを受けとったさくらは、狩りに使う道具の入った箱を肩に担いで、のっしのっしと出て行った。

響子  「いきなり暇になってしまったわね……私はどうしようかしら」

考えた末、響子はとりあえず庭を出ることにした。

外へ出て、出てきた建物の方を見やる。
自分たち兄弟は希望ヶ峰学園を出た後、ひたすら歩いて目についた廃墟の中でも
そこそこ頑丈そうな三階建てのビルを家にした。

野菜を作ったり、ニワトリを放し飼いにしたりできる庭もあるし、
前の住人が置いていったテーブルやベッドも残っていた。
清多夏が屋上で雨水を貯めているおかげで、水にも困らない。


こけーっ、こっこっこっ…

響子  「あら?」

一二三 「はああああああ……」ずぅぅん

響子  「どうしたの、一二三兄さん?」

一二三 「ああ、響子殿……僕は今悩んでおるのです。人生の行き止まりというやつです……」

響子  「まだ二十年とちょっとしか生きていないじゃない。もしかして、この頃食欲がなかったのって……」

一二三 「僕は不安でたまりませぬ……紋土殿は大工仕事、お姉さまは針仕事、千尋殿は機械いじり……
     みんな、それぞれに特技があるのに、僕だけは"絵"などという、カスミにもならないような
     特技しかなくて……こんなんで、果たしてみんなの役に立っていると言えるのでしょうか?」

膝をかかえる(太っているので手が届いていないが)一二三は、かなり落ちこんでいる。

響子  「絵が上手なのが、そんなに悪いことかしら。人間はお腹さえふくらめば生きていけるけど、
     芸術がないと毎日が面白くならないじゃない?」

響子  「あなたは私たちの毎日に彩をくれているのよ」

一二三 「……そう言っていただけると、がぜん元気が出ますなあ!」

響子  「このニワトリたちだって、ただ卵を食べて、お肉にして終わりでもいいけれど、
     一二三兄さんがスケッチするから、紙の上で永遠に生きるのよ」

一二三 「素敵な考え方ですなあ、紙の上で、永遠に……かあ」ポワポワ

元気が出たらしい一二三は、またスケッチブックを取って、庭でエサをついばむ
ニワトリたちを描き始めた。

響子  「ところで、このニワトリたちを貰ってきたのは一二三兄さんよね」

一二三 「スケッチの題材にもいいかと思ったのですが……まさか、ヒナから成長したら
     全てオスだったとは。おかげで毎日、うるさくてたまりませんな」

響子  「清多夏兄さんより早起きだものね……」

そこで、噂の長男が帰ってきた。

清多夏 「やあやあ弟妹たち、採集の成果を報告するぞ!!まずは50km離れた大学病院で
     鎮痛剤が5パック残っていたのを発見した!もちろん血液凝固剤もあるぞ!!
     スーパーマーケットでは簡易食料も……」

多恵子 「わたくしがお願いした布と糸は、いつになったら来ますの?」ゴゴゴ…

清多夏 「そ、それは……その……」

多恵子 「忘れていたなら、素直にそう仰ればよろしいのに」

清多夏 「うわあああ!!僕はなんと不誠実な真似をしてしまったんだ!!!
     すまない多恵子、今すぐ探してくる!!!」ダッ

響子  「あっ、待って!せめてお昼くらいは食べて……もうあんな遠くまで……」

多恵子 「もう30近くなって、あのテンションはちょっと引きますわ……」

一二三 「しかし、静かな清多夏兄さんなど想像つきませんぞ?」

多恵子 「お相手が見つからないのも頷けますわね」

響子  「多恵子姉さんは?」

多恵子 「わたくしは独りのほうが好きですもの」

清多夏はいまだに独身だ。核の炎を逃れたわずかな生き残りたちとは、千尋の作った
無線を使って連絡をとっているが、いつも「ごめんなさい、暑苦しい人はちょっと…」で終わってしまう。


響子はまた、何か手伝うことがないかと外に出た。

(そういえば、ちゃんとお弁当は届いたかしら?心配だわ……)

船着場は、このビルから歩いて20分ほどの距離だ。昔は墨田川と呼ばれていた川に造ってある。
しかしそこまでは瓦礫が転がって、足元もおぼつかない危険な道のりだ。
さくらがいくら強靭な肉体を持っているとはいえ、心配になる。

響子  「……心配は、無用だったみたいね」

川ぞいに着くと、船を修理している紋土がおにぎりを頬張っていた。
銛と網を両手に持って魚を追い回すさくらに、「ありがとなー」と手を振っている。

紋土  「おっ、響子じゃねーか。珍しいな、川に来るなんてよ」

響子  「ええ。ちょっとね……船は直りそう?」

紋土  「ああ、ちょっと穴空いてただけだからすぐ終わるぜ。船着場の方も昨日で修繕終わったし、
     明日には間に合うな」

響子  「……いよいよね」

紋土  「あー…長かったな、ホント」


__________

船を繋ぐと、紋土は「うっし、行くか」と先頭に立つ。
ぞろぞろと並んで歩き出した遠くに、そびえ建つ『学園』の影が揺れた。


清多夏 「道は覚えているのかね?学園を出た頃、君はまだ物心がついていなかったと思うが」

紋土  「おうっ!喜ぶことじゃねーけど、全ッ然景色が変わんねーからな。おいチビども、
     足元気をつけろよ!」

怜恩  「チビでまとめてんじゃねーよ!」ギュー

さやか 「もー。そんなんじゃパパとママに笑われちゃうよ?」ギュー

多恵子 「楽しみですわね……希望ヶ峰学園は、わたくしたちのふるさとですもの。
     ……ね、お母様」

多恵子は、抱えた腐川の遺影をのぞきこんで「やっと会えますわ」と語りかける。

さくら 「しかし……防護服などは要らないのだろうか?一応ビニールコートとマスクは持ってきたが」

清多夏 「うむ。なるべく学園の中のものには触らずに。階段の手すりなども必ず手袋ごしで掴みたまえ。
     それと、このビニールコートやマスクは全て学園の入口で焼却する。
     念には念をだな」

一二三 「うう……せっかくの里帰りなのに、全く楽しくありませんぞ……」

千尋  「元気出して。やっとお父さんとお母さんに会えるんだよ。僕ね、正直に言うと……
     お父さんもお母さんも、ぼんやりとしか覚えてないんだ。だから、すごく楽しみだよ」

一二三 「千尋殿は前向きですなあ……」

紋土  「おっ、見えたぞ……希望ヶ峰学園だ」


かつての、都心の一等地――学園は変わらない姿で、そこにあった。

瓦礫が広がって、折れた柱から電線が垂れ下がる中。希望ヶ峰学園だけが、堂々とした佇まいを見せる。

清多夏 「では皆、ビニールコートを着るんだ。マスクはしっかり鼻と口に密着させて……
     髪の毛も全部帽子の中に入れて、手袋をはめて……できたかね?」

弟妹たちがうなずくと、清多夏は「では、行こうか」と歩き出す。
鉄の扉の前に立って、コンソールをパカッと開いた。


多恵子 「パスワードが必要なようですわ」

清多夏 「モノクマ制御室で変更可能だが、僕はお父さんから聞いていたよ。……忘れるはずがない」

"20130831"。

8ケタの数字を打ち込むと、コンソールは『ピー』と緑色に変わった。

多恵子 「わたくしたちの、誕生日……」

清多夏 「新しい希望が始まった日だ、と。誠おじさんが決めたらしい」


ゴゴゴ…と重い地響きをあげて、扉が開いた。
電気の供給が止まって、真っ暗な玄関ホールを見た千尋が「待ってて」と懐中電灯をつける。

千尋  「非常用の電源は動いていると思うから、生物室は大丈夫じゃないかな。
     兄さん、まずはどこに行こうか?」

清多夏 「決まっている、まずは両親に挨拶するのが礼儀だ!学園を回るのはその後だ!!」

紋土  「んじゃ、生物室に行くか。4階だったな」

9人はぞろぞろと並んで歩き出す。懐中電灯を持った千尋が先頭に立って、階段のシャッターを持ち上げた。

さくら 「幼い頃は広く感じていたが……帰ってきて見ると、なんと狭い世界であったのか」

ここで死んだ両親の気持ちに思いを馳せたさくらに、一二三は「せまいですなあ」と同意する。

響子  「でも、楽しかったわ。ここで暮らした日々は」

一二三 「なんだかドキドキしてきますな。うっすら暗いからかもしれませんが……
     やはり、親に会えるのは嬉しいようです」

そんな話をしているうちに、9人は生物室の扉の前に辿り着いた。
一二三は「この"ナマモノ"の意味が分からなくて、怖かったものです」と笑っている。
扉を開くと、ビニールコートごしでも冷気が肌を刺す。


清多夏 「石丸清多夏……こっちは何だ、"清浄院風夏居士"?」

響子  「葉隠おじさんの字だわ。私たちに名前をくれた、お父さんたちのクラスメートよ」

開けない方がいい、と父親に言われていたのを思い出してか、清多夏はパッと手を離す。
しゃがみこんで、一つずつコンテナの名前を確認していく。ちゃんと15人分入っているのを数えて、
『十神白夜』と書かれた前に立った。

清多夏 「では、開けるぞ……」ピッ、ガタン

コンテナが一つずつ出てきて、中に入っている死体が見える。
冷凍保存された死に顔はおだやかで、まるでたった今眠りについたようだった。

多恵子 「お父様、お母様……帰ってきましたよ」

隣同士のコンテナに入った十神と腐川に、多恵子もゆっくりと近づいて頭を下げる。

清多夏 「ずいぶん待たせてしまいましたが、また皆で帰ってきました。
     そちらはどうですか、お父さん?」

紋土  「けっ、のんきな寝顔してやがるなあ……親父、ただでさえ肉づき悪かったのに
     こんなに痩せちまってよ……」

一二三 「タバコと水晶玉……お父さんらしい遺品ですなあ。あの世でも占いをしているのでしょうか?」

千尋  「久しぶりだね、お母さん……あのね、僕…たくさん話しておきたいことがあるんだ。
     だから、聞いていてくれるかな?」

さくら 「我も、あの時よりできることが増えたのだ。ここでは見せられないのが残念だが……
     元気に生きておる。安心してくれ」

朝日奈のコンテナをさすって、二人もかわるがわる話しかけた。


響子  「あら、二人とも泣いているの?……ほら、お父さんよ。ずっと会いたがっていたじゃない」

さやか 「だって…ぐすっ、だって、パパ……いっしょに、きてくれないって
     分かって、たらっ…っ、ちゃんと、ばいばいしたんだもん……」

怜恩  「ぐすっ、ひっく……あれがっ、最後、だって…知らな、ぐすっ、……」

響子は泣いている二人を撫でて、苗木の眠るコンテナを引き出した。
両手を胸の上で組んで、こけた顔には満足そうな笑みが浮かんでいる。

響子  「……ただいま……やっと、太陽の下に出してあげられるわね」

響子  「今度こそ、みんな一緒に卒業しましょう。約束のとおりに」

響子  「希望は絶対に消えない。……そうでしょう?」


学園を出て、15人分のコンテナを炎で焼き尽くす。
薪を継ぎ足しながら、紋土は「自分が焼かれてるみてーだ」と汗を拭いた。
黒い煙が空へ昇って行くのを、響子はぼんやりと眺める。

響子  「あ……」

煙と一緒に、小さな光が空へのぼっていくのが見えた。

さやか 「どうしたの?」

怜恩  「何ボーッとしてんだよ?」

響子  「……あなた達には見えていないの?」

怜恩  「なんもねーよ」

さやか 「見えないよ?」

響子  「そう……ずっと、あそこで待っていてくれたのね」

さやか 「ねえ、なんの話?」

聞かれて、響子は「なんでもないわ」と微笑んだ。


清多夏 「これで全部か……では、安らかに」ゴトッ

冷たい石を組み合わせて作った大きな墓に、15人の骨をおさめる。
墓標のない墓に、紋土が小さく『HOPE』とだけ刻んだ。
しばらく祈りを捧げた後、清多夏が空を見上げる。

清多夏 「さあ、この世界に繋いだ希望を、どうやって大きくしていこうか?」



□ □ □ □ □ 


「あーっ、やっと来た!おっそーい!!」

「ごめん、ごめん」

「愚民の分際で俺を待たせるとは、覚悟はできているか?」

「あはは、久しぶりに愚民って呼ばれたね。なんだか嬉しいよ」

「あ、あんた…あたしがどんだけ不安で待ってたと思ってるのよ!」

「本当にごめん……これからは一緒だからさ」

「あいつら、無事に生きてたか?ま、ただで死ぬようなヤワな奴らじゃねーけど!」

「まあ、その話は後にして……まずは、これだけ言わせてほしいな」



「ただいま」

終わりって入れ忘れたけど、完結なのでHTML依頼出してきます。
軽い気持ちで始めたスレだったけど、感謝しかないです。
神蝕ロンパもよろしくね(便乗)

一応書いとくと

腐川×十神=清多夏(長男)多恵子(長女)
朝日奈×十神=さくら(次女)千尋(四男)
腐川×葉隠=一二三(次男)
葉隠×朝日奈=紋土(三男)
苗木×腐川=響子(三女)
苗木×朝日奈=さやか(四女)怜恩(五男)

自分でも整理できなくてメモってたのを見て書いといた。十神がんばったな...

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年03月26日 (日) 12:35:16   ID: pKMTrhA5

ちょっと気色悪い

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