とある大会にて
遊矢「レディース&ジェントルメン! 私は手札から魔法カード『スマイル・ワールド』を発動します!!」
司会「出たぁ! 榊選手の『スマイル・ワールド』だぁ!!」
観客A「綺麗……」
観客B「本当に見ているだけでこっちも笑顔になるよな!」
観客C「エンタメ最高ー!!」
遊矢「デュエルでみんなに笑顔を! お楽しみはこれからだ!!」
試合終了後……
遊矢「みんな、観てくれたか♪」
柚子「当たり前でしょう? せっかくの遊矢の晴れ舞台なんだから」
フトシ「今日の遊矢兄ちゃんのエンタメも痺れるデュエルだったぜ!」
タツヤ「次の試合に勝てばいよいよ決勝だね!」
アユ「最高のエンタメを私達に見せてね♪」
遊矢「任せてくれ!」
柚子「じゃあ私達は観客席に戻っているから」
フトシ&タツヤ&アユ「頑張ってね~」
遊矢「ああ!」
遊矢「…………」ガサゴソ
『スマイル・ワールド』
遊矢(父さん……父さんのくれたこのカードと共に俺、とうとうここまで来れたよ)
遊矢(デュエルでみんなに笑顔を……小さい頃からの夢が後もう少しで叶うんだ!)
遊矢「さて、試合が始まるまで次のエンタメの内容をもう少し詰めておくか……」
「――調子が良い様だな」
遊矢「え?」
零児「久しいな、榊遊矢」
遊矢「赤馬零児!? 何でここに?」
零児「この大会はLDSも関わっている。責任者の私が訪れて居てもおかしくないはずだが?」
遊矢「それはそうだけど……」
零児「…………」
遊矢「な、何だよ?」
零児「……次の試合までまだ時間がある。少し話したい事があるのだがいいか?」
遊矢「?」
◇◇◇◇
遊矢「それで話って何だよ? わざわざこんな個室にまで連れて来て」
零児「今大会での君の試合、全て観させて貰った」
遊矢「え?」
零児「君の試合を観て観客の人々は眩しい笑顔を浮かべていた。その光景はまるで君の父、榊遊勝のデュエルの様だった」
遊矢「そ、そうかな? ちょっと大げさな気もするけど……でも零児にそう言って貰えると何か嬉しいよ」テヘヘ
零児「……それ故に非常に悲しくもある」
遊矢「へ?」
零児「単刀直入に言うぞ、榊遊矢」
零児「君にはもう『スマイル・ワールド』を使わないで欲しい。観客の為にも、そして君自身の為にもだ」
遊矢「…………」
遊矢「いや……いやいやいや」
遊矢「いきなり何言ってんの? 褒めたと思ったら急に『スマイル・ワールド』を使うなって……意味が分からないんだけど?」
零児「そのままの意味だ。その『スマイル・ワールド』は危険だ」
遊矢「だから何を言ってんだって! この『スマイル・ワールド』は父さんから譲り受けた大切なカードなんだぜ! それに今の俺のエンタメ・デュエルにはもうこの『スマイル・ワールド』は必要不可欠で……というか危険とか意味が分からない!!」
零児「そのカードには『仕掛け』が施されている」
遊矢「は?」
零児「使用すると目に見えない特殊な波が発生する。それは人間の快楽中枢に影響を与え『強制的に人を笑顔にさせる効果がある』」
遊矢「何、だって……?」
零児「見つけたのは本当に偶然だった。そしてそれが間違えじゃないのかと徹底的に調べた」
零児「しかし今日のデュエルでも……君が『スマイル・ワールド』を発動させた時に同じ波が観測された」
零児「だから確信して、今こうやって君に伝えている」
遊矢「だから何を言って……そもそもこのカードは父さんから貰ったカードで!」
零児「知っている。なぜ榊遊勝がカードにこの様な細工を仕掛けたのか私にも分からない」
零児「だが彼はアクション・デュエルを築いた際、中々それを認めて貰えなかった。そこには並々ならぬ苦労があったはずだ」
零児「その苦労に耐え切れずつい悪魔の声に耳を傾けてしまった……という可能性も無い事は無い」
遊矢「…………」
遊矢「……嘘だ」
遊矢「嘘だ嘘だ嘘だぁ!!」
遊矢「俺はそんな話は信じないぞ! 父さんから貰ったカードがそんな仕掛けがされているなんて……絶対に信じるもんか!!」
遊矢「なあ、本当はドッキリか何かなんだろ? 俺に嘘を言っているんだろう? な?」
零児「…………」
遊矢「何とか言えよ、零児ぃ!!」
零児「……ではハッキリ言わせて貰う」
零児「今の話は全て真実だ。嘘でもドッキリでもない」
零児「その『スマイル・ワールド』には人を強制的に笑顔にする仕掛けが施されている」
零児「だから今までの試合の笑顔は全てはその『スマイル・ワールド』の力だ」
零児「君自身のエンタメで、誰かを笑顔にした訳じゃない。君にはまだそこまでの力は無いのだから」
遊矢「!」
バシィ!!
遊矢「はぁ……はぁ……」
零児「…………」ヒリヒリ
遊矢「嘘だ……信じない……俺のデュエルはみんなを笑顔に、した……したんだ……」
遊矢「『スマイル・ワールド』を手にする前にだって……何度か……」
零児「……君が大きな舞台でデュエルしたのは確か、ストロング石島とのデュエルが最初だったか」
零児「確かに盛り上がったがあれは初のペンデュラム召喚の影響が大きい。そしてペンデュラムも今となっては対して珍しくも無い召喚方法だ」
遊矢「…………」
零児「その後も何度かデュエルを行っているが……君のデュエルを観て盛り上がっていたのは遊勝塾のメンバーなどほとんど身内だけでなかったか?」
遊矢「そんな事は……」
…………
フトシ「遊矢兄ちゃんすげー! 痺れるぅ~♪」
柚子「笑顔よ! 遊矢ー!!」
観客A「…………」
観客B「…………」
…………
遊矢「そんな事……そうだ、沢渡……ジュニアユースの時の沢渡とのデュエルは盛り上がって……」ガクガク
零児「確かにあれは素晴らしいデュエルだった。しかしそれも沢渡シンゴという好敵手がいてこそのデュエルだった」
零児「あれは君1人で勝ち取った笑顔では無い」
遊矢「…………」
零児「『スマイル・ワールド』を使えば誰もが笑顔になる」
零児「だがそれは所詮創られた偽りの笑顔だ。また人体に害を及ぼさないとも限らない」
零児「故にそのカードは危険だ。これ以上使わないで貰いたい」
遊矢「…………」
零児「しかし私は君には恩がある。君の父上にもだ」
零児「君がこの話を信じない、または信じても尚『スマイル・ワールド』を使うというなら……無理に止めはしない」
零児「だがそのカードを使い続ける以上、君が目指す真のエンタメには近づけない。君が望む笑顔を手にする事は出来ない」
零児「それだけは断言する」
遊矢「…………」
零児「そろそろ時間だな……私はもう行く」
遊矢「…………」
零児「こうなってしまった事は……酷く残念に思う」
ドアバタン……
遊矢「…………」
遊矢「…………」チラッ
『スマイル・ワールド』
遊矢(父さんのカードに、そんな仕掛け……)
遊矢(今までの笑顔は、俺のエンタメじゃない……)
遊矢(全部、嘘の笑顔……)
遊矢「…………」
遊矢「……信じるもんか」
遊矢「信じるもんか……信じるもんか……信じるもんか……信じるもんか……」ブツブツ
遊矢(俺は父さんに近づけてる……理想のエンタメに近づけてる……)
遊矢(だから……だから!!)
◇◇◇◇
遊矢(『スマイル・ワールド』は使わない)
遊矢(だけどそれは零児の言葉を信じた訳じゃない……証明するんだ、俺のエンタメは間違えてないって)
遊矢(零児は俺を騙しているんだ)
遊矢(俺は、俺だけの力で……みんなを笑顔にした)
遊矢(だから『スマイル・ワールド』を使わなくても……俺はみんなを笑顔に出来る!!)
観客A「ねえ」
観客B「うん」
観客A「なんか急につまんなくなったね、榊のデュエル」
遊矢「レディース&ジェントルメン!!」
――は? 何言ってんだこいつ?
――もう聞き飽きたわ
遊矢「アクション・マジック! 『回避』!!」
――はいはい、回避。回避。
――同じカードばっかり引いて仕込んでるんじゃねえのか?
遊矢「お楽しみは……お楽しみはこれからだ!!」
――何時からだよ?
――いいから早く『スマイル・ワールド』使えよ
遊矢(こんな……こんなはずじゃ……)
――エンタメしろよ
――俺達を笑顔にしろよ
――へたくそ
――笑顔をよこせよ
笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔……
司会「おっと、どうした榊選手? 前の試合までのキレがまったくないぞー!」
遊矢「……笑えよ」
司会「え?」
遊矢「俺が……俺がエンタメしてるんだぞ! 榊遊矢がエンタメ、してんだぞぉ!!」
遊矢「笑えよ! 頼む……笑ってくれよ……俺に笑顔をみせてくれよ……」
ざわざわ……
遊矢「笑え……笑えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!」
…………
………
…
翌日・榊家……
ドンドン!!
洋子「遊矢、何時まで部屋に籠ってるのよ!!」
洋子「確かに昨日はちょっとやっちゃったけどさ、もう終わった事は悔やんでも仕方ないでしょ?」
洋子「何時までもウジウジしても何も……?」
洋子(何だろう、静か過ぎる?)
洋子「遊矢、居るのよね? ちゃんと部屋に居るのよね?」
洋子「開けるわよ?」
ドアガチャ……
洋子「!?」
…………
柚子「遊矢、本当にどうしちゃったのかな?」
柚子(デュエル中に急に叫んで、失格になって、そのまま病院に運ばれて……もう家には帰ってるらしいけど)
柚子「遊矢の好きなケーキ買って来たけど……これで少しでも元気出ればいいんだけどなぁ」
ピンポーン
柚子(……あれ? チャイム押しても出ないな? 留守かしら?)
柚子「ん、ドア開いて……すいませ~ん」ドアガチャ
「――あはははははははははははひゃひゃはひゃははひゃははははははははははひゃははははははははは♪♪♪」
柚子「!?」ビクッ
柚子(な、何この笑い声? これってもしかして……おばさん?)
柚子「でもこれは……すいません、上がりますね!!」バッ
洋子「あはははははっひゃひゃひゃひゃひゃひゃはははははははははは!!!!!」
柚子(やっぱりおばさんだ! 遊矢の部屋の前で座り込んで……何があったの?)
柚子「おばさん! どうしたんですか!?」
洋子「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」
柚子(これ普通じゃない! 一体何が……!?)
――柚子が部屋の中を見てその目に飛び込んだもの
――それは部屋全体に発動された『スマイル・ワールド』
――そしてその中心で……首を吊っている榊遊矢の姿
柚子「遊矢……」
――柚子は思わず悲鳴を上げそうになる
――だがそれよりも早く、別の感情が彼女を支配する
――『スマイル・ワールド』の力が、彼女を支配する
柚子「…………」
柚子「……あは♪」
――さあ、みんなを笑顔にしようか
<おわり>
以上です。アークファイブももうすぐクライマックスですね。どういう結末を迎えるか今からとても楽しみです。
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