【アクティヴレイド】File??? それぞれのリターンデイ (51)

黒騎の家――ミュトスの部屋

ミュトス「」カタカタカタカタ…

アレー? マチガエタカー?

ミュトス「」カタカタカタカタ…

オ、コレガコーダロー… ドゴッガッシャーン!

ミュトス「」イラッ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1488464445

アレー? ヘンダナー

ミュトス「……」カタカタカ…

ミュトス「」フー

ミュトス「」スクッ

ミュトス「」スタスタ

ミュトス「」ガラッ

黒騎(エプロン装備)「ん? おう、どうした次郎」

ミュトス「……あのね。何度言えば分かるんだ。私は次郎ではない」

黒騎「へいへい。んだよ青少年、もう寝る時間だぜ? 今何時だと…」

ミュトス「あなたがさっきからうるさいせいだとは思わないのか? まったく…」

黒騎「お? ああ、悪い悪い。どーもいろいろと手間取ってな」

ミュトス「……どうしてまた料理なんてしてるんだ? それもお菓子なんて。あなたの趣味じゃないだろうに」

黒騎「へへ、いろいろと事情があるんだよ、事情が…あ、そうだ」

ミュトス「?」

黒騎「お前もどうだ? ホワイトデー」

ミュトス「……」チラッ

『ガサツなあなたでもできるスイーツ!』

『テキトウでやれちゃうお菓子男子!』

ミュトス「ああ…なるほど」フー



ゲッスタッティーマーッシロナダーイチヘー!


ナレーション「増加する凶悪犯罪の脅威が人々を襲うとき、アクティヴプロジェクトに与えられた力が解放される!」


アーマードコンバインドタクティカルインテリジェンスヴァンガードエレメント

♪セルリアンスカッシュ

ttps://www.youtube.com/watch?v=8DH-iR7DCcw

黒騎の家――台所

ミュトス「ふぅん。それで、その女にお返しをすると」

黒騎「まーな。もらったもんは返さねーとならないからよ」

ミュトス「ホワイトデーとやらは明後日だろう? どうして今なんだ」

黒騎「れんしゅーだよ、れんしゅー…結構うまいのもらっちまったからな。ちゃんと返してやらねーと」

ミュトス「ああそう。私はもう眠るから大きな音を出さないでほしいね」クルリ

黒騎「お前はいーのかよ? 聞いてんだぞー? 陽ちゃんにもらったんだろー?」

ミュトス「…ふぅ、私はできないことはしない主義なんだ。それに、こんな菓子業界のつまらない戦略に乗るつもりもない」

黒騎「そー言うなって。せっかく女の子からもらい物したんだぜ? お返しするくらい普通のことだろ?」

ミュトス「勘違いしないでほしいね。つまらない戦略に則る気はないが、何も返さないとは言っていないだろう」

黒騎「ったく、素直じゃねーなぁ。ま、いいや。なるべく音は立てないようにしてやるから、もう寝ろよな」

ミュトス「あなたこそさっさと寝れば……はぁ、いや、もういい」スタスタ

ピシャッ!

黒騎「……へ、さてと。もっかいやってみるかぁ」

ガシャガシャ! コーシテアーシテ…ウオッコボレチマッタ…リョウッテ…マ、イイヤ、コンナモンダロ

ミュトス「……」ハァ




翌日、都内――喫茶店

カランカラン… イラッシャイマセー

陽「えっと…あ、いたいた、次郎くん」スタスタ

ミュトス「だから次郎では…まぁいい。よく来てくれた」フー

陽「あ、私エスプレッソ一つ。…それでどうしたの? 相談って」

ミュトス「ああ…実は」




陽「ふーん。黒騎さんが……」

ミュトス「ああ。今日は午後で仕事を引き継いで帰ってくるらしくてね。また試しにいくつか作るらしい」

陽「それを手伝って欲しい、と」

ミュトス「あの調子じゃ今日も夜中まで騒音を出すだろう。昨日もイラついて眠れなくて困ってるんだ。もちろん、タダでとは言わない。私にできることならそれなりに礼ははずむ」

陽「へぇー。何でも?」

ミュトス「何でもとは言っていない。無理なこともある」

陽「まぁいいですけど…次郎くんって結構照れ屋さんなの? 素直に黒騎さんが心配で、って言っていいのに」

ミュトス「冗談じゃない。あんなガサツで雑な生き方を地でいくような人、私は好きじゃないんだ。迷惑してるから止めたいだけだよ」

陽「あはは、そういうことにしておきます。それじゃあ行きましょうか」

ミュトス「ああ。頼む」




吉祥寺駅――機動強襲室第八係

凛「じゃ、私は本庁の会議に行ってくるから。黒騎くん、引継ぎ完了するまでは帰っちゃダメだからね?」シュッ

黒騎「…ふぁーあぁ……やっと引継ぎの時間かぁ」ノビー

瀬名「まったく……仕事中によくもまぁそんなにだらしなくできるな」

舩坂「はは、黒騎くんらしいですがねぇ」シュッ

黒騎「へへっ……さて、と。一五○○、黒騎猛警部捕は、待機任務を舩坂康晴警部および鏑木まりも巡査部長に引き継ぎます」ビシッ

舩坂「一五○○、舩坂康晴警部および鏑木巡査部長は、黒騎猛警部捕から待機任務を引き継ぎます」ビシッ

まりも「」ビシッ

黒騎「じゃ、今日はこれで失礼しまーす」

瀬名「…ふぅ。皆さん。では、私も今日は失礼します」

舩坂「はい、お疲れ様です、黒騎くん。それに瀬名くんも」

まりも「お疲れさまですー」カタカタ

シュッ

黒騎「」ツカツカ

瀬名「」ツカツカ

エレベーター「」チーン!

黒騎「……あー、なぁ」ノリコミ

瀬名「何だ?」ノリコミ

黒騎「お前さー、料理とかできるっけ」

瀬名「何を急に…まぁ、それなりには」

黒騎「甘いもんとかもいけるのか?」

瀬名「さっきから何だ? いくつか心得はあるが…」

黒騎「ちょっと、な。時間あるか?」

瀬名「先に用件を言え。それ次第だ」

黒騎「…実はよ、こないだバレンタインだったろ? そのときにな、ちょっとエミリアに個人的にもらっちまったんだよ、チョコ」

瀬名「なに? エミリアくんが?」

黒騎「ああ。日ごろの礼だってな。きっちりしたもんもらっちまったからよ、俺もそれなりのもん作って返そうと思ったんだけど…まぁ、難しくってよ」

瀬名「それで? 私に教えろと?」

黒騎「気に入らねーけどな。で、どうだ? 一応礼くらいはするぜ?」

瀬名「…まぁ、エミリアくんも貴様に振り回されている一人だしな。それを労うためにというなら、手伝わないこともない」

黒騎「お、そうか? じゃあ頼むわ。今からさっそくいいか?」

瀬名「いいだろう。何を作るかは決めているか? まずは材料を買ってこなくては……」




黒騎の家――台所

黒騎「…んで、次郎? 何でまた陽ちゃんがウチにいるんだ? お前いつの間に……」

ミュトス「だからその名で呼ぶなと…彼女にあなたの手伝いを頼んだんだ。昨日みたいに夜中までうるさくされちゃたまらない」

黒騎「ほほー?」

瀬名「なるほどな…」

陽「次郎くん素直じゃないですよねー」

ミュトス「何とでも言え…ではよろしく頼む。私は部屋で過ごす」ピシャリ

黒騎「あんにゃろ、お前もせっかくだからやれよなー、陽ちゃんにお返しする気あんのかよ」

陽「あはは、いいんですよ別に。あれはお姉ちゃんのに付き合った残りを消化したかっただけですし」

瀬名「しかし、こういうことなら私は必要ないだろう。もう帰るぞ。今日は部屋の掃除をする予定だったんだ……ん?」ピリピリ!

瀬名(メール? …誰から――)

凡河内『颯一郎? 明日はホワイトデーよ。私のチョコへのお返し、当然あるわよね。期待してるわよ…あなたの家、明日行くから用意しておきなさい。もしも私を避けて家に帰ってこないようなら……分かるわね?』

瀬名「……! な、なぁ、やはり私もいていいか? 少し、用意したいものがある」ブルブルッ

黒騎「あん? 別にいーけどよ」

陽「じゃあ始めましょうか。えっと、どういうものを、そのエミリアさんにあげる予定なんですか?」

黒騎「ああ、まぁそんな難しいもんじゃなくていいんだけどよ…」




数時間後

ミュトス「まったく…何で私が味見など」

黒騎「いいじゃねーかよ、ほら、忌憚ない意見ってやつを聞かせてくれよ」

ミュトス「ふん。それで、これが?」

陽「黒騎さんが作ったものです。……もう、黒騎さんってば分量が雑すぎて困っちゃいますよ」

黒騎「悪い悪い。どーもこういうチマチマしたのがなぁ」ハハ

ミュトス「まったく笑えないよ。今朝試作したモノみたいに甘味しかしないろくでもない味でないといいけど」

黒騎「悪かったって。とりあえず砂糖ぶちこめばクッキーなんてうまくなると思ったんだよ」

瀬名「これは多少マシなはずだ。私と陽くんが見ていたしね」

ミュトス「それでも作った人間がこの人じゃね……まぁいい。どれ…」モグモグ

黒騎「どうだ? うまいか? 絶品か?」

ミュトス「」ゴクン

ミュトス「…今朝のあれよりはずっとマシだ。ほのかに匂う紅茶の香りにコーティングされたチョコレートの甘みが合っているらしい。……私は甘いのは嫌いだが」

黒騎「んだよ、素直にうまいって言えっての」

ミュトス「あくまでもマシだと言ってるんだ。特別うまいわけじゃない」

陽「どれどれ、私も…」モグモグ

瀬名「まぁ、試しに食べてみないことには何も言えないな」モグモグ

陽「……うん、いいんじゃないですか? もうちょっとチョコの食感を際立たせるためにしっかり焼いてもよかったですね」

瀬名「ふむ、まぁいいんじゃないか。エミリアくんも驚くだろう。お前が作ったと知ったら」

黒騎「おお? そうかそうか、うまいか。へへ、助かったぜ、二人とも」

瀬名「あまり図に乗るなよ。あくまでお前が作ったものにしてはと言ってるんだ」




翌日、吉祥寺駅――機動強襲室第八係

黒騎「はよざいまーす!」シュッ

エミリア「あれ? 黒騎さん? 今日はオフだったんじゃ…」

黒騎「ちょっとな。うーっす」

はるか「あれ? おはようございまーす」

舩坂「今日はどうしたんです?」

まりも「忘れ物ですか?」モグモグ

黒騎「お? 何食ってんだ? …クッキーか」

舩坂「いわゆるホワイトデーというやつですからね。まぁ、市販品ですが」

凛「こういうのは気持ちですよ。…それで? どしたの黒騎くん? もしかして、黒騎くんもお返し渡しに来てくれたとかー?」

はるか「あはは、黒騎さんがこういう日に何か持ってくるわけ…」

黒騎「へへ。今年は違うぜ?」ガサゴソ

舩坂「おやおや、珍しいですねぇ。しかもこれは…手作りですか」

はるか「うっそー! 黒騎さんがお返し、しかも手作りで持ってくるなんて信じらんなーい!」

凛「どしちゃったの黒騎くん!?」

黒騎「いやぁ、たまには俺も少しは日ごろの感謝を伝えるために頑張るってことっすよ」ドヤ

瀬名「手伝わされたんですよ、私と陽ちゃんが」シュッ

協会さん「さっきそこで聞きましたよー。黒騎さんに泣きつかれたって」シュッ

黒騎「おい余計なこと言うんじゃねーよ、空気読めねーなぁ」

瀬名「事実を言ったまでだ。…私も用意してきたので皆で食べてください」

エミリア「でもおいしいですよ、黒騎さん!」モグモグ

黒騎「お、そうか。ありがとな、エミリア」

黒騎「(な、今日仕事終わった後って時間あるか?)」コソッ

エミリア「(? はい、大丈夫ですけど…)」

黒騎「(大して時間は取らないからよ、ちょっと渡したいモンがあるんだ)」

エミリア「(え? ……え、ええっ、あの、それって)」

黒騎「(あ、いや、ホントそんなに大したモンじゃねーんだけどさ。…何かまずかったか?)」

エミリア「(い、いえ! その、大丈夫、です)」

黒騎「(お、そうか。よし、じゃ後でな)」

エミリア「(は、はい……)」ボー




都内――喫茶店

ミュトス「それで? 私を呼び出した用件は?」

陽「昨日言ったじゃないですか。お礼するって」

ミュトス「それはそうだが…何をするのかも聞いていない」

陽「今言いますよ。…お買い物に付き合ってください」

ミュトス「……私がか?」

陽「荷物持ちですよー。ついでにお昼ごはん奢ってください」

ミュトス「……あの人に比べるとあまり力はないから、期待しないでほしい」

陽「私よりはありますよ、きっと。さ、行きましょうか」




お台場 某ショッピングモール

陽「ええと、いったんこんなものですかね」キョロキョロ

ミュトス「……まだ買うつもりなのか…?」ズシッ…

陽「あ、あはは…女の子の買い物ってどうしても荷物が増えるんですよ」

ミュトス「もうこれ以上は付き合いきれない…というよりも私が潰れるだろうな」ジトー

陽「もう、分かりました分かりましたよ! ほら、そこの自販機コーナーで少し休みましょう?」

ミュトス「……そうしてくれ」ヨロヨロ…

陽(ホントにこの人があんなテロしたのかなぁ……)




天夢『皆ー! 神明天夢でーす! 今日は私のホワイトデーイベントに来てくれてありがとー!』

ファン「うおおおおおっ! 天夢ちゃあああああああっ!!」ワーッ!

天夢『それじゃあいつものいくよー! エブリワーン?』

ファン「みらくるううううううううっ!!」



陽「うわぁ…すごい熱気ですねぇ。隣のイベントコーナー」

ミュトス「……」ゴクッゴクッ

ミュトス「…まったく、何故私がこのようなことを……」

陽「えへへ…でも、おかげで満足です」

ミュトス「…そうか」

陽「はい。ここからは次郎くんのお買い物にしましょうか。何か欲しいものとかあります? ここら辺は結構詳しいし、案内とかも…」

ミュトス「いや結構。だいたい情報なんてこれがあるし」

Liko『はーい! この辺のオススメパーツショップはねー』

陽「」ムッ

陽「」バッ

ミュトス「おい私のデバイス……」

陽「女の子とデートしてるときにそういうのはちょっとどうかと思いますよ?」

ミュトス「…荷物持ちだったはずだが?」

陽「それはさっきまでです。これからは軽いデートみたいなものですよ、だからただのソフトだろうとLikoちゃんは禁止です」

ミュトス「何でそうなる…」

陽「黒騎さんに頼まれたんですよ。『アイツは生の人間と極端に触れない。それじゃこの先ダメだ。陽ちゃんがよければ少し矯正してやってくれ』って」

ミュトス「…そんなの、余計なお世話だ。あの人といい、君といい。私に構う暇があるなら自分のことに目を向けたらどうなんだ」

陽「私はもう十分に八条先輩のことで自分の周りの整理はつきました。黒騎さんだって、稲城都知事のことは大丈夫なんだと思います。だから今度は次郎くんに目を向けてるんですよ?」

ミュトス「……はぁ、まったくもって余計なお世話だ。返してもらうよ」バッ

陽「あ……」

ミュトス「……それで? この辺りにPC周りのパーツの揃う店はあるのか?」

陽「! ……ふふっ」

ミュトス「その顔は何……?」

陽「ううん、何でもですよー。じゃ、行きましょうか!」ニコニコ

ミュトス「ああ…ん?」

陽「? どうかし――」

ヒュー……ドオオオオオオオオオン……!

ミュトス「! 陰に隠れろ!」

陽「きゃっ! 何、仕切りの壁が!」

キャー! ナ、ナンダ! バクハツダー!

天夢「きゃあああっ!」

ファン「ああ、あ、天夢ちゃあああんっ!!」

???『おっと、皆さんご静粛に! 無礼をお許しください、神明天夢さん』

???『皆さん! 今から我々に少しばかりご協力いただこう! おおっと、外に逃げようとはなさらない方がよろしいですぞ? ご覧の通り――』

軍用ウィルウエア1『』ピー…ガガッ!

軍用ウィルウェア2『』ウィーガシャッ!

リーダーの男『私の仲間たちが周辺を見張っているのでね。今からこのフロアとイベント会場は我々が占拠させていただく! 皆さんはどうかお静かに、我々にしばしお付き合いいただこう。何、手荒な真似はあまりしないと誓おう――ご協力していただける間はね』




台場駅――機動強襲室指揮車両

黒騎「ちっ、ウィルウェアで立てこもりたぁいい度胸してやがるな」

協会さん「しかし、あのウェアは厄介ですよ。EUで発表された最新の軍用機ですね。屋内制圧を目標に作られた強襲装備、専用の銃には大口径の散弾、着弾式のフラグ弾と……撃たれたらまず人質は無事に済みませんし、建物の損害はひどいことになるでしょう」

瀬名「中の状況は…シャッターで見えませんか」

凛「いいえ。以前に超小型のドローンカメラの事件を扱ったでしょう。あれの技術を今回利用させてもらう許可が下りたわ。今ドローンが中に偵察のために送られてるから、映像が…」

はるか「ドローンの映像、来ますよ!」

パッ

まりも「あ、映りました! ええと、これって…」

舩坂「おや、神明天夢さんじゃありませんか」

協会さん「今日はちょうどホワイトデーのお菓子手渡しイベントだったそうで…」

瀬名「え? しかし確か彼…いや失礼、彼女は…」

はるか「どちらのイベントでも美味しいから、って両方やるんですって」

黒騎「何だそりゃ。都合がいいなぁ…外から入れそうな死角には例のウェアか。全部で三体…いや、四体だな」

凛「軍用が相手だとさすがにウチだけじゃ厳しいわ。自衛隊との共同作戦の要請を今してるから…っ!」

エミリア「ボス?」

凛「黒騎くん、あれ……! 主犯の近く!」

黒騎「え? ……! 次郎に…あれは陽ちゃんか!」

瀬名「なにっ!?」




陽「……」

ミュトス「…ずいぶんと落ち着いてるね」

陽「そうですか? こういう目に遭うの、二回目ですから。そういう次郎くんだって」

ミュトス「私は、まぁ、それなりに何回かこういう事件を起こしてきた身だしね。そんなに慌てるようなことでもない」

陽「なるほど……お姉ちゃんたちが何とかしてくれる、って思うのもありますけどね」

ミュトス「それはそうだろうね。…私を捕まえるような連中だ。こんな立てこもり犯くらい、すぐに終わらせることだろう」



立てこもり犯『で、あるからして…我々が要求するのはただ一つ! 我が強国復興党の主、政府が不当に逮捕した彼を解放することである! そのための細かな指示は既に送った通りだ』

大型モニター『わ、分かっている。今そちらの要求に応えるように手続きを踏んでいる! だから人質に傷を負わせないよう、穏便に頼む』

立てこもり犯『当たり前のこと。我々は真に日本を導く者なり。その守るべき日本の民をやすやすと傷つけるようなことなどせん! しかし、我々にも覚悟がある。大事のために犠牲を生み、その手を汚す覚悟がな。……では、一時間後にまた連絡をする。もしもそれまでに要求が叶わぬようならば…人質はたくさんいるのだ、分かるな? 私にこの引き金を引かせてくれるなよ?』

大型モニター『ちゃんと要求は守る! だから人質には手を……』ブツッ!

立てこもり犯『ふっ、こういうときだけはまるで責任ある立場のような振る舞いを見せて…愚かな』

天夢「ね、ねぇ…」

立てこもり犯『何かね? 天夢殿』

天夢「人質なんて、私一人で十分じゃないんですか? お願いですから、他の皆さんは解放してください!」ウルウル

立てこもり犯『おお、なんと優しき心か。さすが我らが主がファンとなり、象徴として掲げようと考えたほどの方だ…しかし、そうもいかぬ。党首はあなたに会いたがっておられるのだ。あなたはこのまま連れていかせていただく。その上で、我々があなたを連れて完全に脱出する際の安全策も必要である。そのためには、彼らに人質になってもらわねば話にならぬ』

天夢「そ、そんな……!」

立てこもり犯『さて、万に一つもありえぬこととは思うが、連中が約束を反故にする可能性もある。その際に、やつらにやる気を出させるためにも、少し他の方にお手伝い願おうか……ふぅむ、そうだな』ジロジロ

ファン「ひ、ひえっ!」コソコソ

陽「……」

ミュトス「……」

立てこもり犯『…そこのお嬢さん! 君にしよう! 君だよ、そこの麗しきポニーテールの君!』

ミュトス「! 待て、私が……」

陽「…大丈夫です。人質には慣れてますから」

ミュトス「しかし…」

立てこもり犯『何を喋っているのだ! さぁ、こちらに来られよ!』

陽「……」スタスタ

立てこもり犯『うむ、すまないね、お嬢さん』

ミュトス「(……まったく、大した度胸をしているな)」フー

ミュトス(放っておいてもどうせダイハチの連中が片付ける……が)

陽『』ニコニコ

ミュトス妹『』ニコニコ

ミュトス(……私にも借りがある。少しでも彼女の安全を図るためにこれは仕方のないことだ)ハァ

ミュトス「(Liko、小声で返事を)」

Liko『(はーい、何をすればいいの?)』

ミュトス「(今から言うデータと私の意見を、ダイハチの指揮車両に送ってほしい。できるね?)」



Liko『(分かりましたー! Liko、いってきまーす!)』

ミュトス「(ああ、頼むよ。……あとは、私のタイミング次第か)」

ミュトス「」チラッ

陽「……?」

ミュトス「……」コクリ

陽「! ……」コクコク




機動強襲室指揮車両

凛「そういうわけで突入タイミングは自衛隊の部隊と合わせて行います。最優先は人質ではなく犯人確保よ。相手は危険な装備だから、必ず突入と同時に無力化を――」

まりも「! ボス!」

凛「何?」

はるか「何者かからデータが送られてきました…これ……」

Liko『ダイハチの皆さんへご主人様から情報をもらってきましたー!』

黒騎「! 次郎からか!」

凛「すぐに再生して!」

Liko『それじゃ、いただいた情報をお伝えしまーす! ええっとね――』




立てこもり犯『さて…連中はどう出るかな』

大型モニター『』ブツッ

立てこもり犯『おお、どうかな? 約束はきちんと果たされたか』

大型モニター『すまない。まだ少し時間をくれ…! 頼む、必ず、必ずそちらの要求は叶える!』

立てこもり犯『ふ、愚かな。私は警告したはずである。次に話をするまでには条件を満たしておけと。約束を破ったのは貴様だぞ』

大型モニター『ちょ、ちょっと待ってくれ! 今から…』

立てこもり犯『笑止! こちらには人質がいるのだ! 私個人としては人質に手を出すつもりなど、一切なかったというのに! 貴様らが悪いのだ! 約束を反故にし、引き金を引かせたのは貴様らだ!』

大型モニター『おい! 早ま……』ブツッ!

立てこもり犯『……すまないな、お嬢さん。しかし我々にはなすべきことがあるのだ。せめて何か、最期に残したい言葉はあるかね?』

陽「……やっぱり、そんな程度なんですね」

立てこもり犯『何?』

陽「大きなことばかり言ってるけれど、本当のところはそうやって、人質を傷つけるようなことをして、屁理屈をこねてまるで自分が悪くないと主張して! あなたたちはそこらのコンビニ強盗と変わらないんですよ!」

立てこもり犯『言葉が過ぎるようだな、お嬢さん』グイッ

陽「ううっ……」

立てこもり犯『あいにくだが天夢殿と違って、君はさほど重要でも何でもない替えのきく人質たちの一人に過ぎぬ。もしや恐れをなして行動に移さないとでも高をくくっていたのやもしれぬが、この銃を撃つことだって簡単にできるのだ。どれ、一つ見せしめに…』

ミュトス「――バカみたいだね」ポツリ

立てこもり犯『……ぬ?』パッ

陽「うっ、けほ、けほっ……」

ミュトス「そうやって誰かに八つ当たりみたいなマネして…私のような子供ならまだしも、まさかいい年をした大人が、つまらない大義名分を掲げて、情けないとはこのことだよ」クスクス…

立てこもり犯『ほほう…どうやら死にたいのは君からのようだな? 少年』ツカツカ

ミュトス「……まったく、私もどうかしてるな。以前ならこんなことに加担なんてしないのだけどね」

立てこもり犯『何をごちゃごちゃと言ってるか知らんが、それが最期の言葉かね? ならば…!』

陽「! じろ……!」

立てこもり犯『さらばだ、少年!』カチッ!

シーン…

陽「え?」

立てこもり犯『むっ!? ギオー、動け! ギオー、何故動かん……!』カチッカチッ

立てこもり犯『な、この音は…!?』ピー!ガー!

ミュトス「……そのウェアはね、ある特殊な電波を流すと、一時的に機能停止して内部に仕込まれてる警報を鳴らすようにプログラムされているんだ」

Liko『えへへー、電波の放出、完了したよー!』フリフリ

犯人『なんとおっ!?』



はるか『――次郎くんのデータ通り、出力装置から例の電波の放出オッケーです!』

凛「ドローンカメラ様様ね。近付いても見えないから、おかげで唇の動きで合図も送れてタイミングをぴったり計れるし」

舩坂「いやはや、技術は使いようですねぇ」

協会さん「しかしウチでも知らないこんな事情を知ってるなんて…ちょっと悔しいですねぇ」



ミュトス「まぁ、知らなくても無理はない。元々はそのウェアを正規の手段ではないやり方で持ち出そうとする連中への対策の一つだし。普通に買って使っているだけではね。これを知っているのは秘密でその機能を作っていたそれの開発元くらいなモノさ」

ミュトス「もちろん、中に人がいれば警報を切ってすぐに動かせるようにできるから、大した時間は稼げないけどね」

立てこもり犯『くっ…! この、ガキが……舐めるなあああああッ!!』キュピーン!

ミュトス「……まぁ、三十秒もあれば問題ないだろう?」

陽「! ……天夢さん、すみません!」ガバッ

天夢「え? きゃっ!」

ドーン!

立てこもり犯『!? な、空から……ぐわっ!?』

凡河内『こちら統自! 目標を確保!』

黒騎『警察だ! お前らを逮捕する! ……ナイスだったぜ、次郎!』グッ!

ミュトス「……だから、私は次郎などではないと、そう言ってるだろう」フー




凡河内『それじゃ、後はお任せするわ、警察官さん?』

黒騎『うーっす。協力どうも、凡河内サン』

ミュトス「」スタスタ

黒騎『お、次郎! ちょっと待てよ!』

陽「次郎くん、勝手に行ったらダメですってば」

ミュトス「別に私がいなくても問題など…ああ、面倒なのが来た」ハァ

黒騎『へへ、初の兄弟のコンビプレーってとこだな』

ミュトス「何を勝手なことを…私はあなたなんかの弟になったつもりはない」ムッ

黒騎『素直じゃねーなぁ。な、陽ちゃん』

陽「そうですねぇ。素直じゃないです」

ミュトス「…はぁ。私はもう帰るぞ、陽くん。君はタクシーで帰るといい」

黒騎『こらこら、ちゃんと調書取らないといけないんだよ。勝手に帰んなって』

ミュトス「どうして私が……」フー

陽「ダメですよ次郎くん、お兄さんを困らせたら」

ミュトス「だから違うと…ああ、もういい。君たちと話しているとイライラする」スタスタ

黒騎『おい次郎、勝手に先行くなって! ったく、しょうがねーやつだな?』

陽「しょうがない人ですねぇ」クスクス




凛「さて、と。黒騎くんは今回の報告書まとめる必要があるから後で合流するって。せっかくだから次郎くんも連れてくるって陽が言ってたから、あんまり遅くまではいけないね」

はるか「あ、それなら、私がお店取りますよ。この辺りにいい中華料理屋ができたんです」

舩坂「ほほう、それはいいですねぇ」

エミリア「……あ、あの。私まだ残ってる書類仕事がありますので、ちょっとだけ残っててもいいですか」

はるか「ん? でもそれってまだまだ提出の期限――」

瀬名「エミリアくんはどこかの粗忽者と違ってマジメなんだ。気の済むまでやらせてあげればいいんじゃないでしょうか、室長」

凛「? ……ふぅん。まあ残りたいなら止めないよ? エミリア、ついでに黒騎くんが戻ってきたら店まで案内してあげて。場所は教えておくから」

エミリア「は、はい! 了解しました!」

舩坂「では参りましょうか」

シュッ

エミリア「……ありがとうございます、瀬名さん」

瀬名「気にしないでくれ。あの粗忽者、君の贈り物がよほど嬉しかったらしい。じゃ、あとで」シュッ




シュッ

黒騎「はぁーあ。ったく、休日だったってのに。何で俺だけ報告書なんざ…エミリア?」

エミリア「あ、黒騎さん。お疲れ様です」

黒騎「んだよわざわざ待ってたのか?」

エミリア「だって、黒騎さんが言ったんですよ? 二人だけで渡したいモノがあるって」

黒騎「あー、まぁな。……ええとだな、とりあえずこれ受け取れ」ゴソゴソ

エミリア「え…これって……」

黒騎「いつぞやの個人的な礼のお返しだよ。次郎たちが言うにはそれなりに食えるらしいから、まぁ心配すんな」

エミリア「黒騎さん……」

黒騎「お前、前に言ってたよな。俺のおかげで最初の一歩が踏み出せたってさ。それ言われて、俺は結構嬉しかったんだ。俺の目指してた人も、きっと俺にそんなことを言われたときはこんな気持ちだったんだろうな、って。ようやくあの人の背中にちょっとだけ追いつけた気がしたんだ」

黒騎「――だから、ありがとよ、エミリア」

エミリア「……はい! 私も、ありがとうございます。このお返し、すごく嬉しいです!」ギュッ

黒騎「そっか。んじゃ、もういちいちお礼とか何とか言うのはこれでなしにしようぜ。もう俺とお前は、立派に一緒に働く仲間だ。後輩とか先輩とかじゃなくて、な」

エミリア「はい! 私たち、一緒にがんばる仲間です!」ニコリ




♪Field Trip!!

ttps://www.youtube.com/watch?v=y16igICbU30



~用語集~

待機任務

当然ながらウィルウェア犯罪は毎日起こるわけではない。そして機動強襲室第八係にも休日はある。第八係では、世間の動きが激しくなり、ウィルウェア犯罪が増大すると目される土日祝日の間は全員の出勤が義務付けられているが、それ以外の平日については、緊急出動時以外では常に二人か三人で事件発生に備えて詰めるようにしている。これを待機任務と呼び、彼らは出勤日を互いにローテーションすることによって休日を作っているのである。ただし原作で実際にそうであるかは筆者は知らないのであしからず。

強国復興党

富国強兵を謳っている、日本の元右翼団体。その昔はあくまで文民としてのデモ活動だけに動きを留めていたが、現在ではその影はなく、他の団体からも爪弾きにされてしまい、単なるテロ組織へと堕ちてしまった。ある日偶然に党首が見かけて以来、彼は神明天夢のファンとなり、いつか彼女を新たな国の象徴としようと計画していた。

ギオー

立てこもり犯が自身のウィルウェアへ勝手に名付けたペットネーム。由来は犯人の幼少時代に放映されていたアニメ「武闘戦士(ぶとうせんし) 是江田番南無(ぜえたばんなむ)」に登場する主人公の敵役が搭乗する機体の名前だそうである。ちなみにウェア自体には装着者の精神力で能力が向上するような機能は搭載されていない。




おまけ 舩坂康晴のバレンタインとホワイトデー

舩坂のマンション

ヒュオォォォ…!

舩坂(ふぅ、いけませんねぇ。冬場は冷え込みがひどくて)

舩坂(こんな日は暖かい部屋で熱燗でも……おや?)ガタガタ

舩坂(珍しくポストに荷物。これは……贈り物? いったい誰から?)ガサゴソ

舩坂(しかも中身はチョコときた。表面には…これは、中国語ですかねぇ)

舩坂「」フム

舩坂「」タタッ

舩坂(外へ出てみたはいいですが…まぁ、この辺りにはさすがにいないですよねぇ)

円「……舩坂さん?」

舩坂「! おや、円くん。奇遇ですね、こんなところで会うとは」

円「ちょっと明日の夕飯の材料を」

舩坂「ああ、なるほど。…弟さんたち、お元気ですか?」

円「はい」コクリ

舩坂「それはよいことです。…実はねぇ、このようなものが届いてたんです」

円「……」

舩坂「もしかしたら贈り主が近くにまだいるのではないかと思ったのですが…まぁいるわけないですよねぇ」ハハハ

円「贈った人は、たぶん照れてるんじゃないでしょうか」

舩坂「なるほど、照れ屋さんですか。なんだか納得ですね」

舩坂「一言伝えたかったんですがねぇ。円くん、こんなところで会ったのも何かのご縁です。代わりに聞いてはくれませんか?」

円「……私でよければ」

舩坂「ありがとう。こういう贈り物は、結構好きなんですよ、私」

円「そう、ですか」ニコリ

舩坂「ええ」ニコリ

円「……そろそろ行きますね、私、帰らないと」

舩坂「送りましょうか?」

円「いえ、大丈夫ですから」スタスタ



舩坂「……やれやれ、別に正面から来ればいいのに」フッ




三月十四日 円のアパートの近く

円「……」スタスタ

舩坂「おや、円くん」

円「舩坂さん? ……どうしたんですか? こんなところで、ベンチに座って」

舩坂「いえね。先月に贈り物をしてくれた方が、この辺りにいるのではないかと、直感でそう思いまして」

舩坂「私もせっかくですからお返しをご用意したのですが…まぁ、会えませんねぇ。というか、そもそも相手の顔も分からないんですけどね」ハッハッハ

円「そうですか…」

舩坂「もう諦めることにしました。もったいないし、食べるとしますよ。円くんもどうですか? 結構美味しいですよ」

円「………では、いただきます」ヒョイ

舩坂「どうです? いけるでしょう?」

円「……」モグモグ

円「」コクリ

舩坂「やぁ、よかったよかった。……そうだ、これ全部あげますよ。弟さんたちにもどうぞ」

円「でも…」

舩坂「いいんですよ。私一人じゃ食べ切れませし。では」スタスタ



円「……お返し、どうも」

おはこにゃばちにんこ! 前回よりも脳内再生度が高まるようにいろいろと考えてみました 久しぶりに見返したら円のことをすっかり忘れているのに気付いたのでおまけで誤魔化すことにしました 機会があれば黒騎とエミリアのみに絞った話をまた書こうと思います 個人的に気に入ってるので ではまた

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