【アクティヴレイド】File??? 甘い良薬が運ぶ物 (61)

吉祥寺駅――エミリアの部屋

エミリア「…うん、ちゃんと溶けてる」

エミリア「ええと…次は冷蔵庫に、と」バタン

エミリア「……よし、これで固まったら、後はコーティングして……」

エミリア(……黒騎さん、喜んでくれるといいな)

エミリア(もしかしたら、今日が何の日なのかも、ガサツな黒騎さんのことだから忘れてたりして……)

エミリア(それはそれで……あの人らしいから、いいかな)クスクス

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吉祥寺駅――機動強襲室第八係

エミリア「おはようございます」シュッ

瀬名「ああエミリアくん。おはよう」

まりも「おはようございます、エミリアさん」モグモグ

エミリア「はい。…って、あれ? 何を食べてるんですか?」

瀬名「エミリアくんも一つ、よければもらってくれ。毎日、君もあのガサツのせいで苦労しているし」

エミリア「あ、これ……え、もしかして瀬名さんが?」

瀬名「うん。今日はバレンタインというやつだろう? 日ごろ世話になっている人に感謝の印を渡すのもいいだろうと思ってね」

まりも「とても美味しいです、瀬名さん! これ、確か新宿に新しくできた洋菓子店のやつですよね?」

瀬名「うん。ここの菓子はチョコに限らず実によくできてる。最近は取引先に出す茶菓子はここで買うことにしてるくらいさ」

エミリア「へぇー。そうなんですね、では私も……わぁ、すごく美味しいです!」

瀬名「そうかい。ならよかったよ」ニコリ

まりも「でも参っちゃいましたよー…こんなに美味しいのを出されちゃうと、こっちも出しづらいというか……」

瀬名「いやいや、こういうのは気持ちだよ。それだけで同じくらい美味しくなるものさ」

エミリア「ええと、そういうことでしたら、私も…」ゴソゴソ

まりも「あ、エミリアさんも用意したんですか? 私、普通の市販品をちょっと溶かして型に流しただけのものなんですけど……」

エミリア「私も似たようなものですよ。ほら、せいぜい軽く粉を塗しただけで…」

瀬名「ああ、トリュフチョコレートというやつか。いいじゃないか、美味しそうで」

まりも「そうですかー? ……そう言っていただけると幸いです」

はるか「おはようございまー…わ、皆もうチョコ出してる!」シュッ

瀬名「おはようはるかくん。君も一つどうだい?」

はるか「あら瀬名さんも用意されたんですか? ありがたくいただきますよー。…あっと、そうそう。そういうことなら、私も一つ…」ガサゴソ

まりも「これ……」

エミリア「都バス型、ですか…」

はるか「や、だって、普通じゃおもしろくないしー。ほら、かわいいでしょー?」

瀬名「コメントは控えておくよ…まぁ、ありがたくいただこう」

協会さん「おはようございます」シュッ

舩坂「やぁ皆さんおはようございます」シュッ

凛「おはよう、皆」シュッ

瀬名「あ、協会さん、舩坂さんに室長も。おはようございます」

舩坂「おやおや、皆さん何だかすごいことになっていますねぇ」

協会さん「本当、バレンタインらしい絵ですねぇ」

エミリア「室長たちもお一つよければどうぞ。こっちは瀬名さんの用意されたものと、こっちがまりもさん、それで、こっちが――」

黒騎「はよざいまーす!」シュッ

瀬名「…何で時間通りに来るんだ」フー

黒騎「あんだよ、時間通りに現れてなんで文句言われなきゃならねーんだ」

瀬名「ガサツな貴様に用意したチョコを全部食べられては困るからな」

黒騎「へ? チョコぉ? ……ああ、そっか、バレンタインか」

凛「あはは、やっぱり黒騎くん忘れてるんだー」

黒騎「そういう室長だって、どーせ忘れてたんじゃないっすか?」

凛「違うよー、私は食べ専だもん」

黒騎「あ、そっすか……」

エミリア「あ、ええと、黒騎さんもお一つどうぞ」

黒騎「お、サンキューなエミリア。いやー、どっかのトウヘンボクにも見習ってほしい気遣いだぜ」

瀬名「…ふん、バレンタインのことすらも頭の中から飛ぶような粗忽者に、エミリアくんの優しさはもったいないな」

黒騎「あぁん?」

舩坂「まぁまぁ。ほら皆さん、せっかくの日です、紅茶でも淹れましょうか」

はるか「そうそう。さ、チョコ食べながら仕事しましょ」

黒騎「お、いいねぇ。…ん、うまいなこれ」

瀬名「おい、全部食べるなよ」

エミリア(……うーん。どのタイミングで渡しにいこうかな。別に部屋まで取りにいくのは時間もかからないし…)

黒騎「♪」モグモグ

エミリア(……まぁ、帰りでいいかな)




凛「――とりあえず上からの連絡は以上。何か質問はある?」

黒騎「いえ、特には。…しっかし、こんな日にウィルウェア犯罪なんて起きますかねぇ」

瀬名「何をのんびりしたことを言うんだか…ウィルウェア犯罪に日にちなど関係ないだろう」

舩坂「そうですねぇ。カップルに嫉妬した若者が……なんてこともありそうです」

はるか「あー確かに。そういうのありそうですねー」

まりも「その場合はやはり、大手デパートとかが狙われるんでしょうか」

瀬名「どうだろうな。もしかしたらデート中のカップルを狙って繁華街の真ん中で起きるのもありえそうだが」

協会さん「何にせよ、そういうことならよく整備しておきましょうかね」シュッ

凛「うん。お願いね、協会さーん。……ありえそう、で終わってくれるといいんだけどねぇ」

エミリア「よい、しょっと」シュッ

黒騎「おう、荷物受け取りごくろうさん……って、何だそのでかい箱二つ」

エミリア「いえ、それが…」フラフラ

黒騎「貸せよ、危ないし」ヒョイッ

エミリア「あ、すみません……ありがとうございます」ニコリ

瀬名「どこからだ? そんな、二つも……!?」

凛「? どうかしたの瀬名くん」

瀬名「い、いえ……おい、ガサツ。今すぐにこっちの箱を捨ててくれ」ブルブル

黒騎「何言って……あー、なるほどなぁ。でも、これ捨てると後が怖いぞ? たぶん」

舩坂「ああー彼女ですか。いい加減に覚悟を決めて話し合えばどうですか?」

瀬名「そ、そうは言いますが…その、聞く耳を持たなくて」

黒騎「まったく…何が入ってんだー?」ガサガサ

瀬名「ば、バカ! 開けるな! ……うわぁ」チラッ

黒騎「こりゃまた熱烈な愛だな」ケラケラ

『今日は部屋で待ってるから。これ、鍵ね。送ったチョコ、食べずに持ってきてね。……必ずよ? 凡河内みほ』

黒騎「『追伸――逃げたら必ず明日あなたの職場に――って、おい」

瀬名「」ビリビリ!

瀬名「な、何も見なかった…いいな?」ギンッ!

黒騎「お、おう……」

舩坂「もう一つの方は…おや、花咲里くんからですか」

黒騎「あさみぃ?」

まりも「こっちの箱もずいぶんと大きいですけど…こっちもクール便ですか。あ、手紙が入ってますよ」

はるか「あら本当」

『皆さん!去年は皆さんに大変お世話になりました! これは私からのささやかなバレンタインのチョコです! どうぞ皆さんでお召し上がりください! 花咲里あさみ』

舩坂「なるほど…こないだお歳暮をもらったばかりですけどねぇ」

凛「明石のタコ人数分ね…まだ家の冷凍庫に残ってるわ」

黒騎「俺もこないだ次郎に全部たこ焼きにして食わせてようやく無くなりましたよ……」

瀬名「何でもいいが……それで? 中身は?」

エミリア「ありました。ええと…人数分の、チョ、コ……?」

真っ黒な煙を出す物体「」コンニチハー

黒騎「……」

凛「……ええ、っと」

瀬名「これは…」

はるか「ちょーっと冗談キツイかなー…?」

舩坂「そ、そうですねぇ…いや、しかし、せっかく花咲里くんが送ってくれたわけですし」

黒騎「……」モグモグ

瀬名「おい貴様、私の分のチョコを食べるな!」

黒騎「うっせ、あさみのやつを代わりにやるから食えよ」

瀬名「いるか!」

まりも「いくらお気持ちでも…これは、ちょっと…」

凛「うーん。困ったねぇ……」

舩坂「……」ジー

凛「? 舩坂さん?」

舩坂「――し、しかし。やはり、その、もったいないですし……ええい! 男、舩坂康晴! いただきます!」

はるか「わ、ふ、舩坂さん!? 無茶しないでください!」

舩坂「い、いえ! 花咲里くんがせっかく心を込めて作ってくれたんです! これまで彼女の面倒を見てきた身として、男として、ここは引き下がるわけにもいかないでしょう!」モグモグ

黒騎「す、すげぇ…どんどん無くなってくぜ」

舩坂「」モグモグ…ゴクン

舩坂「…………」ピタッ

凛「ふ、舩坂さん? 大丈夫ですか?」

舩坂「……」

瀬名「あ、あの水を…」

舩坂「ご…」

まりも「ご?」

舩坂「ごちそう、さまでした…」ニコリ

舩坂「」バタン

エミリア「きゃあ! 舩坂さん!?」

凛「す、すぐに救急車! いや、ええと、何か薬!」

瀬名「わ、私が見ます! 防衛大で毒物に対する応急処置くらいなら…!」

黒騎「おい瀬名! 何か必要なもんあるか!? いや、ここは走って近くの病院まで舩坂さんを医者に…」

瀬名「…おそらくその必要はない! それよりもスポーツドリンクか何かをたくさん買ってきてくれ! 脱水症状を起こしかけてる!」

黒騎「分かった! ついてこい、エミリア!」ダッ

エミリア「は、はい!」タタッ

舩坂「う、うう…」

凛「! 舩坂さん大丈夫ですか? しっかりしてください、舩坂さん!」

舩坂「し、室長、花咲里くんに、伝えて、いただけますか…?」

はるか「そんなの本人に直接伝えてください! さぁしっかり!」

舩坂「い、いえ。もう、私はダメです。……花咲里くんに、こう言っておいてください…もっと、ちゃんと材料とレシピを確認して、それと、味見をするように、と…」ガクッ

凛「ふ、舩坂、さん?」

舩坂「……」

瀬名「くっ……」

凛「舩坂さん、嘘でしょう!? 舩坂さん! ……舩坂康晴警部! しっかりしろ!」

舩坂「……」フッ

はるか「そ、そんな………舩坂さん、舩坂さーんっ!!」

大阪――機動強襲室第九係

あさみ「――くしゅん!」

協会様「おやブレインちゃん、カゼかい?」

あさみ「まさか! たぶん、誰かが噂でもしてるんですよ」

あさみ(今頃チョコ、届いたかな? 皆さん、喜んでくれるといいけど)

協会様「そういえば、今日はバレンタインだけど、ブレインちゃんは誰かに渡す用意はあるの?」

あさみ「あ、さっき手作りを持ってきたんです! 先にフィンガーズたちに食べておくように言いましたけど、協会様もよければどうですか?」

協会様「ああ、そういうことならいただこうかな――」シュッ

フィンガーズ「」バタッ

あさみ「!? 皆、どうしたの? 誰にやられたの!?」

協会様「これは大変だ…ブレインちゃん、すぐに救急車を呼んでくるよ!」タタッ

あさみ「お願いします! …私のいない隙を狙ってダイクを襲うなんて……いい度胸じゃない!」

フィンガーズ「ぶ、ブレイン…」ホフク

あさみ「無理して喋らないで! こんなひどい…いったい誰が……」

フィンガーズ「そ、そーじゃなくて……」

フィンガーズ(ブレインのチョコの、せい、です……)ガクッ

季節が季節だったので
いったん前半区切り
続きの後半はまた明日にでも

明日後半といったな、あれは嘘だ
思ったより勢いで書けてしまったので後半も出していきます

吉祥寺駅――機動強襲室第八係

Liko「――以上が、毒物への正しい処理だよ! ちゃんと守って、身体を危険から守ろうね! バイバーイ!」

はるか「ありがとーLikoちゃん。どうですか、舩坂さん」

舩坂「いやはや、おかげでだいぶよくなりましたよ」

黒騎「ったく…あさみも困ったもんっすねぇ」

舩坂「いやはや……まぁ、彼女は善意で送ってくれたわけですし」ヒエピタピター

はるか「それがなおさらタチが悪いんですよねぇ」

協会さん「さっき協会様からも連絡がありましたよ。ダイクは花咲里さん以外全滅だとか」

まもり「さすが破壊神、ですね」

エミリア「恐ろしい破壊力です…」

瀬名「それは黒騎の冗談……いや、強ち嘘でもないか」

凛「何でもいいけど……はぁ。あさみちゃんにも困ったよ」

ビーッ!ビーッ!

凛「! 出動要請? どこから?」

まりも「これは……渋谷PSからです! 未確認のウィルウェアが、繁華街をうろついているとの通報です!」

黒騎「げ、トウヘンボクの予言通りかよ!」

瀬名「誰が…いや、いい」

凛「すぐに出動よ、皆!」

ダイハチ「了解!」




渋谷駅――機動強襲室指揮車両内

黒騎「さてさて、どんなやつだ? こんな日に往来で真昼間から」

協会さん「現場の映像、来ますよ」

パッ!

エミリア「……って、ええ?」

凛「協会くん、これ…」

協会さん「ええ。でも、これはウィルウェアです」

クマのキグルミ?『』テヲフリー

子供たち『』キャーキャー

瀬名「どう見てもキグルミのような…?」

はるか「あ、これクマのくーちゃんじゃないですか?」

舩坂「クマのくーちゃん、ですか」

まりも「あ、出ました。ええと、朝の子供番組の人気コーナーでMCを務める…その正体は、大正チョコの宣伝マンであり、中の人は不明…ウィルウェアの技術を流用した最新のパワードスーツであり、多くのアクロバティックな挑戦を行ってきた、だそうです」

くーちゃん『皆ー、今日は大切な人たちにチョコを配る日だよ! くーちゃんから皆に、大切な人へのチョコをプレゼントするから、渡してあげてねー!』バラバラッ

子供『ありがとー! くーちゃん!』キャッキャッ

黒騎「……すげー、ちゃんとボイスチェンジャーとか入ってんのな」

瀬名「感心している場合か! どうしますか、室長」

凛「うーん…別に悪いことしてるわけじゃないけど。でも、許可は取ってないんだよね?」

エミリア「はい、各方面に確認してみましたが、そんな申請は来ていないと」

凛「となれば、止めないとね。エミリア、大正チョコの方に通達してくれる? まずは所有してる企業の方から言ってもらえば、こっちもわざわざ出動することないし」

エミリア「はい、すぐに」

舩坂「どうしますかボス? 一応こちらも出る準備をしますか?」

凛「そうねぇ…瀬名くん、お願いしていい? 子供向けのキャラクターとなると、穏便にいきたいから、説得は任せるわ」

瀬名「了解しました。準備しておきます」シュッ

子供1『わ、おい、おすなよー!』

子供2『ぼくのチョコとったろー!』

くーちゃん『こら君たち! ケンカなんてしちゃダメだよ!』

子供2『でもー…』

くーちゃん『でもじゃないよ! 今日は大切な人にチョコをあげる、優しい日なんだ。そんな風に怒ったり、悲しくなるようなことしちゃ、せっかくの優しい日を考えてくれた人がしょんぼりしちゃうよ。だから、ケンカしちゃダメだよ、いいね?』

子供1、2『はい…ごめんなさい』

くーちゃん『ようし、ちゃんと謝れたね、偉いぞー。そういう子には特別なチョコをあげよう!』

子供『わー、ありがとう、くーちゃん!』

くーちゃん『ううん。くーちゃんは謝れる子は大好きなんだー! さ、お母さんやお父さんにチョコをあげてくるんだよー! お家に帰るまでは、つまみ食いしちゃダメだからねー!』

子供たち『はーい!』

黒騎「……何か、調子狂うなぁ。別に悪いことはしてねーし」

凛「まぁ、でも。許可取ってないからねぇ。さすがに今日は帰ってもらわないと」

エミリア「……! え?」

はるか「どしたの?」

エミリア「室長、大変です!」

凛「どうしたの!?」

エミリア「それが……!」




瀬名「何? 中の人が解雇されたばかり?」

エミリア『はい…何でも、先日に宣伝の企画で、標高三千メートルからのスカイダイビングを行ったらしくて』

瀬名「それで何かあったのかい?」

エミリア『パラシュートがギリギリまで開かれず、そのまま地面に激突してしまい…』

瀬名「なるほど…」

エミリア『幸いウィルウェアのおかげで命は助かったそうですが、その、衝撃で足が潰れて、動かなくなってしまったと』

瀬名「なら何故あれは…?」

協会さん『あのウィルウェア、AIと人工筋肉で自立稼動もできるようになってるんです。おそらくはそれでしょう』

エミリア『満足に身体が動けなくなってしまった以上、無理に働くのもよくない、と勧告退職したそうです。もちろん、退職金と今後の生活のための援助を受けるということで』

瀬名「それなら何故彼は、あんなことを…? こうなってしまったことの、会社への復讐なのか?」

まりも『その線も薄いみたいです。辞めたとき、本人はむしろ会社側に何度も頭を下げていたそうです。彼が無理してウェアを会社の保管場所から盗んであのようなことをしている理由は見当たらない、と…』

凛『何はともあれ、瀬名くん。相手は何をするか分からないわ。用心して』

瀬名「了解しました」

協会さん『オスカーワン。エルフΣ、ユニットセット』

いつものBGM『♪』

瀬名「くっ!」プシュー

瀬名「」ガシャガシャ…

はるか『許諾、確認!』

舩坂『許諾、確認』

凛『許諾、確認! オスカーワン、射出!』

瀬名「射出!」バシュッ!

くーちゃん『ん、あれは……?』

子供たち「あ、ダイハチだー!」

瀬名『』ズサー!

瀬名『私は警察協力の民間企業、セナーズインクの者だ! そこのウィルウェア! ただちに使用を停止して、歩道に寄りなさい』バッ

くーちゃん『……』

瀬名『君にはこの場所でウィルウェアを装着する許可が下りていない。ただちに――』

くーちゃん『ええー? 何のことー? くーちゃん、ウィルウェアじゃないよ?』

瀬名『……は?』

子供たち「そうだよー! くーちゃんはクマクマもりからきた、やさしいクマさんだもん! ウィルウェアなんかじゃないよ!」

くーちゃん『うん、そうそう』

はるか「ええっと……設定に忠実ねぇ」

舩坂「子供の前ですからねぇ。現実を叩きつけるわけにもいきませんか」

凛「……はぁ。瀬名くん、どうにか彼を子供から引き離したところに連れて行って説得してあげて」

瀬名『り、了解です…』

瀬名『……あー、君たち。その、私は少し、そこの彼から聞きたいことがあるんだ。すまないけれど、ちょっと彼を貸してもらっていいかな?』

子供たち「えー!」

くーちゃん『……』

瀬名『大丈夫。彼は何も悪いことなどしていない。だから――』

くーちゃん『やだ』

瀬名『え』

くーちゃん『くーちゃん何も悪いことしてないんでしょ! だったらおまわりさんについていく理由なんてないもん!』

瀬名『いや、そうなんだけれど…』

くーちゃん『やだやだやだ! くーちゃんを捕まえておまわりさんはいじめられるんだ! 皆、助けてー! うえーん! うえーん!』

瀬名『いや、だからだね……』

子供たち「あー、くーちゃん泣かした! ダイハチ、いけないんだー!」



黒騎「おいおい、大丈夫かアイツ」

エミリア「意地でもついていきたくないんですね」

はるか「何がしたいんだろー」

凛『瀬名くん! さすがに発砲はダメだけど、無理やり路地に連れて行くくらいなら許可できるから!』

瀬名『は、はい。……一応、ドローンを飛ばしておきます』

ドローン「」ブーン 

くーちゃん『!』

瀬名『あー君たち、ちょっと道を開けてくれ。私は本当に彼に何もしないから』

子供「うそだ! とーちゃんがこないだいってた! ダイハチはじけんかいけつのためにまちをつぶすようなれんちゅうだって!」

瀬名『いやそれは一部の人間の話で、私は……』

子供たち「ダイハチかえれ! ダイハチかえれ!」

瀬名『……ええい、仕方ないな無理にでも連れて――』ザッ

くーちゃん『! 僕は、捕まらないもん!』ピョン!

瀬名『なっ!』

子供たち「わーっ、くーちゃんすっげー! せんろのほうまでとんだー!」キャッキャッ

瀬名『く、室長、こちらオスカーワン! 目標、線路まで飛びました! あれは……』

はるか『山手線ですね、代々木方面に向かってます!』

瀬名『すみません、室長。相手の運動能力はかなりのものでした、油断してしまい…』

凛『ううんいいわ。追跡はオスカーツーとセブンにやらせるから。こっちに戻って』

瀬名『了解! ……とは言ったものの』

子供たち「くーちゃんを捕まえちゃダメー!」ギュー

瀬名『……どうやって振り払おうか』




黒騎『こちらオスカーツー! ターゲット補足! …すげぇ速さだな、ありゃ』ギューン

協会さん『あのウェアの性能なら、渋谷から上野まで十分もあれば行けますからね』

黒騎『すげぇなそりゃ! オスカーセブン! ポジションに着いたか?』

エミリア『こちらオスカーセブン! 狙撃ポジションに到着しました! 今準備します!』ズサー

協会さん『オスカーセブン。あのウェアのバッテリーは背中の一つだけ色の違う毛皮の部分です。そこを正確に狙い撃てば、おそらく止まります』

凛『街中で外すわけにはいかないわ。オスカーセブンが正確に狙撃をするための時間を、オスカーツーが先回りして稼いで!』

黒騎『了解! ファルコンユニットなら、十分に先回りできます! 俺がきっちり時間を稼ぐから、頼むぜオスカーセブン!』

エミリア『はい!』

まりも『オスカーツー、標的との接触予想ポイントまで後少しです!』

黒騎『うし、ここか!』スタッ

くーちゃん『――――わわっ!?』キキーッ!

黒騎『そこまでだぜ――警察だ! ただちにウィルウェアの使用を停止しろ!』

くーちゃん『……止めないでくれよ、おまわりさん』

黒騎『うおっ、いきなりその声で普通に喋るなよ。…なぁ、アンタいったいどうしたいんだ? 会社の退職金に不満でもあったのか?』

くーちゃん『……そうじゃないよ』

黒騎『んじゃ何だよ? 一生治らない怪我の復讐か?』

くーちゃん『復讐だなんて! …そんなの、クマのくーちゃんはしないよ』

黒騎『じゃあ何だってんだよ! 意味分かんねーよ』

くーちゃん『…ただ、最後に子供たちの前で、クマのくーちゃんを思う存分やりたかったんだ』

黒騎『……』

くーちゃん『君は知らないかもしれないけどね? …私は、子供たちの人気者なんだ。それが誇らしかった。くーちゃんを演じているときだけ、何もかも忘れて、純粋な子供のときの気持ちでいられた。くーちゃんは、私と、大好きな子供たちを繋いでくれる大切な鍵だったんだ』 

くーちゃん『ところが、あの事故だ。もちろん、誰も悪くなんかない。不運な事故だ。私を気遣って今後の生活と退職金を出してくれた会社には感謝してもしきれない。でも、くーちゃんはどうなる? 子供たちは?』

黒騎『誰か代わりのやつが、アンタの分もやってくれるんじゃないのかよ』

くーちゃん『いいや。そうじゃなかったんだ。くーちゃんは、森に帰ったことにして、新しいキャラクターを会社は出すつもりなんだ。私以外にくーちゃんはやれないと、そう判断して』

くーちゃん『私はいやだった…! 私のやってきたくーちゃんが、もう誰の目にも映らなくなってしまうことが! 取って代わった別のキャラクターによって、子供たちに忘れ去られてしまうかもしれないことが!』

くーちゃん『……でも、だからって、他にどうしようもなかった。私は一社員、それを拒否する権利も持たない。だからせめて、今日の、このバレンタインという日に、子供たちにくーちゃんの、私の姿を見てほしかった……』

黒騎『……アンタの気持ちも分からないわけじゃねーけど。せめて許可取ってくれよ』

くーちゃん『すまない…もう私と会社は無関係だし、くーちゃんは、動かすにも金がかかる。到底許可なんてもらえなくて…』

黒騎『んで盗んだと。それこそ、子供にどう説明すんだよ? すぐにニュースになっちまうんだぞ?』

くーちゃん『ああ…その通りだな。しかし、今さら引き返すこともできない。…頼む、これのバッテリーもあと少しだけなんだ。ちょっとだけ見逃してくれないか。どうせ、バッテリーが切れたら、私はただのダルマだ』

黒騎『そうはいかねーよ、こっちだって仕事なんだ』

エミリア『(オスカーツー。準備完了です。撃ちます……!)』

くーちゃん『そうか…ならば、仕方ない!』バッ

黒騎『! 逃がすか!』ガシッ

エミリア(! 射線上に黒騎さんが!)

黒騎『オスカーセブン、早く撃て! コイツ、パワーが……!』ギリギリ

くーちゃん『くーちゃんは誰よりも強くて優しい、子供たちのヒーローなんだ……! 力で負けたりするもんかぁ!』

黒騎『くっ……くそっ!』ブンッ

くーちゃん『邪魔をしないでくれ! 頼む!』ピョン!

黒騎『エミリア、撃て!』

エミリア『くっ……あ!』

凛『どうしたのエミリア!』

エミリア『ボス、ダメです! 真下の公園に子供が…!』

凛『!』

子供「あー、くーちゃんだ!」

くーちゃん『くっ、き、君…』

黒騎『待て!』スタッ

くーちゃん『く、来るな!』バッ

子供「わ、くーちゃん!?」

黒騎『おい!』

くーちゃん『く、くくく、来るなぁ! 近付いたら、この子を…!』

エミリア『お、オスカーツー…! どうすれば…』

黒騎『……』

エミリア『……オスカーツー?』

黒騎『……』スタスタ

エミリア『え、く、黒騎さん!?』

くーちゃん『ち、ちちち、ちか、近付くなよう! 近付いたら、こ、この子を…!』

黒騎『……どうするってんだよ、そんな、震えた手つきで』

くーちゃん『! ……あ、え…』

黒騎『くーちゃんにできるってのかよ、子供に手を出すことが』

くーちゃん『う、あ……』

子供「? どーしたのくーちゃん? どこかいたいの?」キョロキョロ

くーちゃん『あ、いや…これは……』

子供「そうだ、くーちゃんにこれあげる!」

くーちゃん『え……』

子供「きょうねー、たいせつなひとにチョコあげるひなんだって! ぼく、くーちゃんのことだいすきだから、これあげるよ!」ニコリ

くーちゃん『……あ、ああ…ありが、とう』ガクッ

子供「くーちゃん!? どうしたの? だいじょうぶ!? やっぱりどこかいたいの?」

くーちゃん『あ、ありがとう。でも、そうじゃ、ないんだ、だから、そう、大丈夫、だい、じょうぶ……っ』グスッ

黒騎『……あー、坊主、くーちゃんはちょっと気分が悪いんだ。おまわりさんが様子を見ててあげるから、安心してあっちに行っていいぜ』

子供「ほんとー?」

黒騎『おう! おまわりさんに任せとけって!』

子供「じゃあおねがいねー! バイバーイ、くーちゃん! 早くよくなるといいねー!」タタッ

くーちゃん『……ああ、ありがとうよ』フリフリ

黒騎『……もう、いいだろ?』

くーちゃん『はい……おまわりさん。ご迷惑を、おかけしました――』




吉祥寺駅――機動強襲室第八係

黒騎「だー、これにて一件落着、かぁ」グデー

はるか「子供の夢を壊さないために、あの犯人の報道、盗んだのは別の機械ってことにしておくそうです」

協会さん「あのウィルウェア…失礼、くーちゃんについては、今回の件でどうやら新しい装着者を雇うみたいですねぇ。ウチの方に来てた新しいウェアの発注がキャンセルされちゃいました」

瀬名「未練で歪んでしまったまっすぐな心を、純粋な子供の一言が救った、か」カタカタ

黒騎「へっ、あの坊主に感謝状でも送れたらいいのにな」

まりも「逮捕協力、ですか?」

エミリア「そうじゃないですよ、きっと」

舩坂「差し詰め、子供たちのヒーローを助けてくれた感謝、といったところでしょうかねぇ」

黒騎「へへ、違いねーや」

凛「……ふふっ。ま、とにかく今日の業務はこれにて終了! 今日の飲み会の席は取ってくれた、瀬名くん?」

瀬名「はい。最近、高田馬場に朝までいける店が出来たそうでして」

黒騎「お? んだよ珍しい。いつもは終電で帰るくせに」

瀬名「……今日は帰るのが怖いんだよ」ブルブル

舩坂「やっぱりお話した方がいいと思いますよ?」

はるか「まぁまぁ、そんな話は置いておいて。ささ、早く行きましょー!」シュッ

瀬名「そうだな。はるかくんは実にいいことを言った。先送りしたいことを忘れるためにも急ぎましょう」シュッ

舩坂「はは、では行きましょうか」シュッ

黒騎「っと、いけね。すみません先行ってください。俺、明日出す報告書がちょっとだけ終わってなかったっす」カタカタ

凛「えー? 急いでよ黒騎くん。先行ってるからねー」シュッ

エミリア(! これはチャンス、かな?)

エミリア「あ、すみません、室長。荷物を部屋に置いてきますね。先に行っててください」タタッ

凛「へ? そう? じゃあ私たち先に行ってるからー!」




黒騎(かー…終わんねー。もーめんどーだし明日に回しちまおうかな)カタカタ

エミリア「」シュッ

黒騎「お? エミリア? どした、忘れもんか?」

エミリア「あ、いえ。そういうわけでは……あの、黒騎さん」

黒騎「?」

エミリア「その、いつもいつも。私、黒騎さんにはたくさんお世話になって、改めて、お礼を言おうと思いまして」

エミリア「――いつもありがとうございます、黒騎さん。これからも、よろしくお願いします」ニコリ

黒騎「……おう。っつか、別に気にしなくていいけどな。俺、そんなにお前の世話した覚えもないぞ?」

エミリア「いいえ。覚えてますか? ケンタウロスユニットのことで、私まともにウィルウェアを装着できなくて……」

黒騎「そりゃまぁな。でも、今はもうそんなことないだろ?」

エミリア「黒騎さんのおかげです。黒騎さんが、無理しないで、一つずつこなしていけばいいって、そう言ってくれたから、私、最初の一歩が踏み出せたんです。感謝してもしきれません」

黒騎「そうか……」フッ

エミリア「はい! …あ、それで、これよければどうぞ」ガサゴソ

黒騎「ん? これは…チョコか? でもお前、今朝――」

エミリア「あ、あれは、その、これまでお世話になってきた皆さんへのお礼です。こっちは、黒騎さん個人への、私のお礼です」

黒騎「ふーん……そっか、ありがとよ。いただくぜ」

エミリア「」ジー

黒騎「どれどれ……ん、おー。うまいな」

エミリア「本当ですか?」

黒騎「おう。今日食った中じゃ一番かもな」

エミリア「それならよかったです……あの、そういえば」

黒騎「ん?」

エミリア「どうして、くーちゃんが子供を傷つけない、って確信できたんですか?」

黒騎「そりゃお前……アイツは、子供のヒーローだからな。ヒーローってのは、そう言ってくれるやつの前じゃ、強そうに振舞うし、かっこ悪い姿なんて見せられないんだよ」

エミリア「ヒーロー…」

黒騎「ああ、そうさ。……まぁ、抱え込んで強がりすぎちまって、ヒーローなんてガラでもないくせにそうあろうとするバカな人もいたけどな」

エミリア「あ……すみません、私」

黒騎「いいっていいって。稲城さんも、今頃自分なりに迎えてるのかねぇ、バレンタイン」

エミリア「……そうだと、いいですね」

黒騎「ああ。……ほれ、行こうぜ? もう今日は仕事なんざやめだやめ!」

エミリア「はい。…行きましょうか、一緒に」




ミュトス「……それで?」

陽「だから、バレンタインですって」

ミュトス「私にはそんなもの関係ない」

陽「いいからもらってくださいよ。お姉ちゃんのに付き合わされて、私一人じゃ食べきれないくらい作っちゃったんですから」

ミュトス「……どうして私なんだ?」

陽「こんなこと押し付けられるの、次郎くんしかいないんですもん! しょうがないじゃないですかー」

ミュトス「はぁ……仕方ないな。あと、私は次郎ではない」

陽「はいはい……お姉ちゃん、ちゃんと渡せたかなぁ」




都内――刑務所

看守「稲城! 起きているのか? 稲城!」

稲城「ああ……大丈夫、起きていますよ」

看守「それは結構。ほら、いつもの差し入れだ」

稲城「ああ。ありがとうございます」

看守「向こう十年は出れないのに、よくまだ政治関係の記事なんて読む気になれるな」

稲城「こんな愚かな私のことを、まだ信じて待ってくれる人が何人かいるんですよ」

看守「なるほどねぇ…さすがは元東京都のヒーローだ」

稲城「それはやめてください。……ヒーローなんてガラでもないのに、強がりすぎてしまっただけの愚か者なんですよ、私は」

看守「そうか。……ん?」ガタッ

稲城「どうかしましたか?」

看守「いや、もう一つ追加で差し入れだ」

稲城「もう一つ?」

看守「ほれ、今日は二月十四日だからな」

稲城「ああ…しかし、誰が……っ! ははっ……」ビリビリ

看守「お、手作りか。……しっかし、すげぇ歪んでるな、それ」

稲城「そうですね…はは、まったく、私にはぴったりだよ、凛」

『これは練習です。ちゃんとした本番の品はいつかあなたが出たらあげます。それまで大人しくしててね。山吹凛』




大阪――病院

フィンガーズ「ブレイン! もう私たち大丈夫ですから、どうぞお帰りください!」

あさみ「そうもいかないわ! 大事な部下の看病は私が――いたっ!」

協会様「ブレインちゃん…リンゴの皮むきくらいなら僕がやるよ?」

あさみ「協会様は手を出さないでください! これは、上司である私の責任です――いったー!?」ザクッ

フィンガーズ(ブレインが心配すぎて余計に休めないよ!)ハラハラ

協会様「ふーむ……ブレインちゃん、意地っ張りだからねぇ。……僕は食べなくてよかったな、チョコ。僕まで倒れたらダイクは壊滅だし」ボソッ

Liko「ステキなおじさまー! Likoからバレンタインのプレゼントだよー!」ニコニコ

協会様「おや、ありがとう、Likoちゃん。やれやれ、やっぱりバレンタインはチョコをもらうよりこれに限るね」フッ

~用語集~

あさみのチョコ
花咲里あさみがダイハチやダイクの面々に日ごろの感謝を伝えるために製作したチョコレート。
ちなみにレシピとしては、通常の市販の板チョコを溶かしたものに、鷹の爪などの漢方をあさみ独自のブレンドで調合したものを混ぜて固めた特製の品となっている。
そのコンセプトは、一口で疲れが月を越えて銀河の果てまで飛ぶような味、である。

クマのくーちゃん
当時、自社製品の売り上げの低下に陥り迷走していた大正チョコレートが、起死回生の策として打ち出した宣伝キャラクター。
宣伝広告費を注ぎ込み、多くの技術の結晶として生み出された彼のキグルミは、装着者に様々な無理を可能とした。
当初、彼は、朝に放送されている子供向け番組の一コーナーの中で、自社製品のチョコを銜えながら、様々なことにチャレンジする、という企画を行っていた。
あるときはチョコを銜えたまま高波でサーフィン、あるときはチョコを銜えたままモトクロスに乗って荒い山を走破。いつしかその姿が子供たちにウケ、彼は一躍人気キャラクターとなった。

ちなみに彼を考案したのは宣伝部のある人物だが、その人物は幼少時代に見ていたテレビ番組で、緑色の恐竜のキグルミが同じようなことをしているのを見た記憶から、この企画を考案している。

おはこにゃばちにんこ!
キャラ同士の呼び方や用語がうろ覚えなので間違ってたらごめんなさい 凛は協会くん呼びだったことを思い出したのでそれで変換しておいていただけると幸いです ちなみにくーちゃんはふもふも言うフルメタルなパニックのあれで想像していただけると嬉しいです
アクティヴレイド3rdseason来い…

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