粟田殿「さぁ行きますよ天皇様」花山天皇「はいはい」 (19)

花山「全く粟田殿もせっかちだな。出家するくらい別に急ぐこともないだろうに」

粟田「天皇様が出家してしまうと困る人も沢山いますからね。そういう人たちに見られないようになるべく急ぐ必要があるんです」

花山「わかったよ。急げばいいんだろう」

粟田「だったら早く靴紐結んでくれませんか」

花山「うるさいな。あっ、お前が怒鳴ったから手元が狂った」

粟田「僕関係ないでしょ。なんでも僕のせいにするのやめてくださいよ」

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花山「いやいや関係あるよ。君が怒鳴ることによって私の心は精神的負荷を負ったんだ。それによって私の手元が狂って靴紐を結び損じてしまったんだよ」

粟田「それ長々と語ってる間に結び直せたでしょ!いいから早くやってください!」

花山「だから私だって頑張ってるんだ…あっ、またミスった」

粟田「ミスったじゃないでしょ、そもそも靴紐が結べないってどんな状況ですか」

花山「ええい、うるさい。お前もう喋るな!お前の声を聞くだけで手が震えてきた」

粟田「じゃあ僕が結んであげます!ほら、足出してください!」

花山「いやそこまでされるのは正直子供扱いされているようで恥ずかしい」

粟田「僕がいないと出家の一つも出来ないあなたが何を今更おっしゃいますか」

粟田「ほら、できましたよ。早く行きましょう」

花山「………」

粟田「どうしました?行きますよ?」

花山「この結び方は不安だ」

粟田「は!?」

花山「聞くがお前は紐を結ぶことに特化した能力を何か持っているのか?」

粟田「いやないですけど」

花山「そんな人間が結んだ紐を信用できるわけがないだろう?」

粟田「蝶結び一つにもたつく奴にいわれたくないんですが」

花山「というわけで解き直させてもらう」

粟田「だから時間ないって言ってるでしょうが!」

花山「お前、よく考えてみろ。中途半端な紐の結び方をして、途中で紐がほどけ転び川に落ち流されてしまう方が余程の時間ロスだろう」

粟田「自分のことどれだけ間抜けだと思ってるんですかあなた」

花山「それだけではない、解けた紐が叢などにひっかかりそして」

粟田「あーもういいです背中貸します。乗ってください」

花山「えっ…19にもなっておんぶはちょっと」

粟田「じゃあ歩け」

花山「結び直させてくれよ~急がば回れって言うだろ~せっかちなのは良くないぞ粟田殿」ズルズル

粟田「駄々こねるのやめてください。何度も言いますが時間がないのです」

粟田「三種の神器は既に春宮様に渡ってしまいました。今更天皇様が出家をやめ、天皇の座に座り続けるなど不可能なのです」

花山「だから別に私は出家したくないなんて言ってるわけではない」

粟田「じゃあ早く行きましょう。余計なものに時間を取られるわけにはいかないのです」

花山「余計なものってお前。私の靴の紐はそれほどまでに価値がないか?」

粟田「あるとしてどんな価値があるとお思いですか…」

花山「あっ、そうだ」

粟田「今度はどうしましたか」

花山「いや、今思い出したんだがな。私が常日頃持ち歩いていた妻の手紙を忘れてきてしまった」

粟田「僕がさっきから時間ない時間ないって言ってるの聞いてなかったんですか」

花山「頼む!これだけは大切なものなんだ!天皇である身を捨てようとも、その手紙を持つことくらいは許してくれてもよいだろう」

粟田「……まぁ、いいですよ。ただ天皇様がグダグダやってたおかげで本当に時間がありません。さっと取ってさっと帰ってきてくださいね」

花山「恩に着るよ粟田殿。出家したらバナナクレープ奢ってやる」

粟田「あなた出家って何なのか分かってますか?」

花山「…これだ。ああ私はなぜこんな大切なものを忘れてしまっていたのだろう」

花山「すまない氏子。我が身一人で入道してしまう私を許してくれ…」

花山「…ほぉ、こんなものもあったな。懐かしい」

花山「はっはっは!こんなものまで出てきたではないか」

花山「思い出に浸るのは良いものだ、どれ、この引き出しには何が入っていただろうか…」

粟田「天皇様!!!」

花山「ビクッ、な、なんだ、粟田殿じゃないか」

粟田「一向に戻ってこないと思ったら何やってんですか」

花山「なんかCLANNAD見つけたからとりあえず一話から….」

粟田「馬鹿なんですか?」

花山「すまん、誘惑に負けた」

粟田「もういいです。さっさと行きますよ」

花山「ま、待ってくれ!せめてこの話だけでも見させてくれ!」

粟田「待たない!!」

花山「確かに私にも非はあったかもしれないが」

花山「綱でふんじばって手押し車に乗せるのはさすがにやり過ぎなんじゃないか?」

花山「一応元天皇なんですけど」

粟田「さっ、行きますよー。この姿誰にも見られたくないでしょ?」

花山「さてはお前ぶち切れてるな」

粟田「ここまでされて切れないほど僕も人間出来てませんよ」

花山「とにかく落ち着け、冷静になれ」

花山「ほらあの月を見てみろ。あれだけ明るければ他の人にバレてしまう。出発はもう少し見送ろう」

粟田「それ本気で言ってるんでしたらその脳みそと眼球は全く使い物になっていらっしゃらないようなのでくり抜いて潰させてもらいますが?」

花山「ふぇぇ…」

粟田「元はと言えば天皇様が僕に愚痴ってきたことが始まりなんですからね」

粟田「自分が天皇だと色々陰口とか叩かれて辛い、天皇も何もかも捨てて自由になりたいって」

粟田「僕はそんなあなたに同情し、出家を勧めてさしあげたわけです。一人は怖いって言うもんだから、僕も一緒に出家してあげることになったんです」

粟田「僕はここまであなたに尽くしました。それに報いろとは言いませんが、せめて僕の忠誠を無駄にはしないで欲しいんです」

花山「……その出家の話だってほとんど売り言葉に買い言葉みたいなもので……」

粟田「何か言いました?」

花山「言ってません」

ー花山寺ー

粟田「さ、つきましたよ」

花山「はぁーわかったよ覚悟決めればいいんだろやってやるよチクショー出家してやるよ見てろ」

粟田「出家すればもう少し早く心の準備を付けれるようになりますよ。では、お願いしますお坊さん」

坊「はぁーい。では花山様こちらへ」

花山「チクショー恨むぞ東三条のヤローめ…そんなに権力が欲しいかよこのカメムシヤロー……」

坊「終わりましたぁ」

花山「チクショー遂にやっちまったよ正直こんなことになるとは思ってなかったよチクショー」

粟田「いやはや、ご立派でしたよ天皇様」

花山「次はお前の番だろ。早くしろ」

粟田「そうしたいのは山々なのですが…」

花山「む、どうした?」

粟田「すいません、出家する前の姿をもう一度だけ兼家様に見せておきたいので、一旦帰りますね」

花山「そうか、そういうことならば仕方ないな」

粟田「はい。失礼しますね」



ガシッ

花山「いやまてまてまてまてまてまて」

粟田「はぁ…今度は何ですか?」

花山「いやいや今度は何ですかじゃないよ君。なぜそので『やれやれ』みたいな感じを出せるんだ」

粟田「天皇様はもう出家した身。しかし僕は未だ俗世間の人間。僕が天皇様に触れられる烏滸がましいことです。手を離してください」

花山「いや離さないよ?私がこの手を離した瞬間私が完全にピエロになる気がするからね?」

粟田「もう既にピエロなんで大丈夫ですよ。わざわざ退位してくれてごくろーさんでした」

花山「貴様ァァァ!!謀ったなァァァ!!」

粟田「謀ったのは僕じゃなく兼家様ですけどね。もういいですか?手を離してください」

花山「いーや離さない!離さないよ私は!私を嵌めたというのなら貴様も道連れだ!」

粟田「そんなことをしても何の解決にもなりませんよ。アンタがこのボロ寺で生涯を終えるハメになるのはもう決定した未来なんですから」

花山「むきーー!!どうせそうなるならお前も道連れにしてやった方が気が休まる!」

粟田「アンタはどこまでクズなんだ!!仮にも出家した身なら己の運命を受け入れて悟りを開け!」

花山「クズ!?本日のお前が言うなスレはここですか!?」

粟田「いいから離してください…力強っ!300円、300円あげるから!」

花山「離さねぇ!そもそも出家したら300円に何の価値もないだろバーーーーカ!!!あと私の握力は53㌔だ!」

粟田「クソっ!これ振りほどいてもコイツの手形永久に残り続けるやつじゃねぇか!」

花山「はっはーーー!そいつぁ傑作だぁ!もっと強く握ってやらぁ!」

粟田「いっだ!?や、やめてください!お願いします!500円あげます!」

花山「あ、お坊さん!」

坊「何かね?」

粟田「ちょ、お前何をする気だ!」

花山「今のうちにこいつも出家させちゃってください!」

粟田「おい!」

坊「いいのかい?」

粟田「いいわけないだろ!」

花山「すみませんねコイツ素直じゃないんで」

坊「そういうことなら」

粟田「やめろ!やめろ!僕はまだこっちの世界でやり残したことがあるんだ!」

花山「ケーーッ!人を呪わば穴二つって知ってるか?」

坊「ほいさ。じゃ始めます」

粟田「巫山戯るな!!僕はこんな所で終わっていい人間じゃないんだ!やめろ!やめろーーー!」




こうした経緯で即位したのが後の一条天皇である



出典:『大鏡』

終わりです。
この物語はフィクションであり作中に出てくる人名は全て実在の人物とは関係ありません

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