暁「行ってきます。司令官」 (28)

「ただいま、司令官」

「えっとね今日はすごいのよ」

「じゃーん! プリンよプリン」

「いろいろなところにおねがいして、頼み込んでようやく手に入れたのよ」

「この暁様の人望の賜物なんだから」


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「わかってるわね、ちゃんと半分こよ」

「ちょっとちょっとそっちのほうが少し大きいんじゃないの?」

「まったくもう油断もすきもないんだから」

「え? どうしたの司令官」

「……! それってもしかしてアイス!?」

「同じこと考えてたって? 一緒に食べようって?」

「最高ね! 司令官! 今日のあなたは最高に紳士だわ!」

「あー、おいしい。幸せ」

「司令官もおいしい? そう、よかった」

「こんなにおいしいのは暁が隣にいてくれるからって?」

「んー口説き文句としてはいまいちね」

「ふふっ、私が帰ってくるまでに考えておくこと!」

「いいじゃないどうせ暇なんでしょ」

「……そろそろ時間ね」

「そんな顔しないでよ、大丈夫なんだから」

「司令官は笑って見送るものよ」

「そうそう、ちょっと引きつってるけどね」

「マルナナマルマル、駆逐艦暁、出撃します……っと」

「行ってきます。司令官」

「あー暁久しぶりー」

「まだ死んでないようで安心安心」

「そっちのろくでなしは元気?」

「はー相変わらずラブラブですなあ」

「ふーん、すましちゃってまあ」

「昔の暁だったらムキになってくれたのになあ」

「つまんないなあ、からかいがいがなくなっちゃって」

「ん? ああ、もう知ってるの?」

「そうそう、とうとう七駆も私だけになっちゃった」

「悲しいけどこれ戦争なのよね」

「大丈夫だって、覚悟はしてたから」

「うちのクソご主人様は泣き喚いちゃってたけどね」

「おかげで今日来るときも絶対に死ぬなって言われちゃった」

「死んでたまるかっつーの」

「死亡フラグ立てるなっつーの」

「……」

「さて暗い話はこれで終わり!」

「今回も一緒に生き残ろうぜ! 相棒!」

「作戦名は『いのちだいじに』」

「がんばろーおー!」

「あんたらが今回の駆逐艦?」

「あたしは雷巡北上。まーよろしく」

「ああいいよ。名乗らなくって」

「どうせ覚える意味ないし」

「え? どういうことだって?」

「だってあんたらすぐ死んじゃうじゃん」

「あーもうつっかかんないでよ」

「うざいなあ」

「わかったよ。そんなににらまないでよ加賀さん」

「ごめんね、駆逐艦」

「ハイこれで仲直り」

「まあ適当にがんばってよ。私が被弾しそうなときは盾くらいにはなってよね」

「マイクチェッーク。1,2」

「みんなそろったみたいね」

「私は金剛型四番艦、霧島よ」

「この寄せ集めのくそったれ……おっと失礼。死にぞこないどもの旗艦よ」

「この作戦にはわが国の未来がかかってるらしいから、適当に頑張りましょう」

「作戦内容は簡単」

「見敵必殺。サーチアンドデストロイ」

「死ぬまで殺せってことよ。簡単でしょ?」

「これが成功したらとりあえずは補給物資のルートが確保できるらしいわ。よかったわね」

「で、作戦開始はいつ? え? 明日?」

「最高のジョークね。 こんなに笑ったのは先週の葬式以来だわ」

「……というわけで今日はこれにて解散」

「適当に親睦を深めておいてね」

「じゃまた明日」

「いいお酒が入ったのよ」

「これよ。ペンギンがチャームポイントよ」

「提督のものを借りてきたの。いいのよ、明日のことは明日考えれば」

「おっとっと……ありがとう」

「さて何に乾杯する?」

「……じゃあ今日も生きのびられたことに乾杯」

「ふう……」

「それにしてもこうして三人で飲むのも恒例になってきたわね」

「今だからいうけど二人の第一印象は最悪だったわ」

「扶桑は超ネガティブでいまにも死にそうだったし、霧島はナイフみたいにとがってたし」

「ふふっ。じゃあみんな最悪からスタートしたのね」

「私たち案外似たもの同士なのかもね」

「……」

「ああ、今日は月がきれいね」

「……」

「……」

「きれいなお月様ね」

「司令官も同じ月を見てるかしら」

「響は……」

「まだあっちは出てないかな」

「あ、霧島さん、扶桑さん、加賀さん」

「三人で集まって、何してるの?」

「月見酒? ……ってそんなものどこから持ってきたのよ。知らないわよ」

「じゃ私も一杯だけもらおうかしら」

「……ん。甘い」

「甘いお酒は好き。苦いのはまだちょっと苦手かな」

「え? 素直になったって?」

「もう見栄を張る相手もいないからかしらね」

「……」

「それにしても月がきれいね」

「暁ちゃんにはお酒はまだ早いんじゃない?」

「お酒に逃げていいのは大人だけよ」

「そうよ大人はずるいのよ」

「お子様にはまだ早かったかなー?」

「あはは。冗談よ冗談」

「暁ちゃんは酔ったらからかいがいがあって面白いわね」

「明日の作戦が心配?」

「大丈夫よ私たちが守るから」

「うん、あの夜空の月にかけて誓うわ」

「ふふふ、ジュリエット気取り?生意気ね」

「仕方ないわね」

「じゃあこの国の名前を背負った」

「扶桑の名にかけて誓うわ」

「おはよう」

「みんな用意はいい?」

「よく眠れた?」

「親睦は深まった?」

「トイレは済ました? 神様にお祈りは? 遺書は書いた?」

「……ジョークよ」

「さて、爆笑ジョークで場も暖まったところで」

「出撃ね」

「敵艦発見」

「十時の方向よ」

「重巡級2、軽巡級2、駆逐級2」

「まあ前哨戦ってところね」

「私は後ろで応援してるから、みんなやっちゃって頂戴」

「それは無理よ」

「だって持ってないんだもの」

「艦功も艦爆も艦戦も」

「持ってきたのは偵察機だけよ」

「大丈夫よ、期待されてる役割は果たすわ」

「同情なんていいからさっさと片付けて」

「私は応援してるから」

「敵艦見ゆー」

「ああ、ほんとに戦艦級に空母級がいるんでやんの」

「めんどくさいなあ、退避してていい?」

「さっきみたいに、戦艦様たちの邪魔にならないようにさー」

「わかったよ……ちぇ」

「魚雷装填完了っと」

「じゃーいきましょうかねー」

「……」

「ぬかったわね」

「あなたらしくもない」

「相手が戦艦だったとはいえ、よけられなかった攻撃じゃないでしょ」

「またそうやって不幸不幸って。山城じゃないんだから」

「はあ、まあいいわ」

「言い残す言葉はある?」

「ちゃんと伝えといてあげる」

「私が生き残ったらだけど」

「ん? なに? 言わないとわからない?」

「戦艦扶桑はここで処分していくって言ってるの」

「文句ある?」

「世話をかけるわね、霧島」

「ああ、ばれてたの」

「どの道私に当たってたわよ」

「ほら私って不幸だから」

「……」

「あなたのそういうところ好きよ。霧島」

「だから泣かないで」

「ちゃんと狙ってよ」

「あの子達のこと頼んだわね」

「……ああ、空はあんなに青いのに」

「敵艦発見ktkr!」

「とうとうラスボスの登場ですか!?」

「腕が鳴るなあ」

「駆逐艦は私にお任せを」

「徹底的にやっちまうのね!」

「はいはい、わかってますよー」

「まっすぐいってぶっ飛ばせばいいんでしょう?」

「とっつげーき」

「あらー、まいったねこりゃ」

「どうするかね。相手まだ戦艦三隻も残ってるよ」

「頼みの綱の霧島さんは大破してるし」

「こりゃあ詰みかな」

「雷撃?」

「うーんそこまで近づくのは難しいんじゃないかな」

「それともこの距離から撃ってみる?」

「博打は嫌いじゃないけどね」

「えっ?」

「本気で言ってるの? 加賀さん」

「それが期待されてる役割ってやつ?」

「まあいいけどね、どうでも」

「……」

「……」

「……」

「やっぱり痛いわね」

「飛行甲板が壊れてしまったわ」

「弓も矢も、どこかにいってしまった」

「でもまあ雷撃は命中したみたいね」

「さすがねハイパー北上さん。このスーパー加賀が命をかけた甲斐はあったわ」

「……冗談よ」

「……」

「なんだあなた、そんな顔もできるんじゃない」

「……」

「何を笑ってるの? 化け物共」

「私がもう何もできないと思っているの?」

「私は霧島、金剛型四番艦」

「たとえ大破していようが関係ない」

「戦艦との殴り合いは、望むところよ」

「私をなめるな」

「霧島をなめるな」

「金剛型をなめるな」

「……」

「ああ、懐かしいわねその目」

「昔はよくそんな目で見られていたわ」

「じゃあね化け物。あの世であったらもう一発殴ってやるから」

「うわーどんびきだわ」

「大破してるのに敵陣に単機特攻なんて」

「あの人はもうちょっとクールだと思っていたのに」

「なんていってる場合じゃないか」

「後、敵は戦艦級一体だけだけど……」

「問題はこっちの戦力も少ないってことだよね」

「おまけにあっちは無傷だし」

「これなんて無理ゲー?」

「ん? なにあれ撤退準備してる?」

「ああそっか。もうすぐ日が落ちる」

「夜戦になったらさすがに分が悪いってことか」

「……でも」

「逃げられないよ、漣はしつこいから」

「あーあ、何をやってるのかね。あのお子ちゃまは」

「探照灯なんて使ってさ、格好の餌食じゃん」

「もうあんなにぼろぼろなのにさ」

「なんでそこまでするかね」

「水雷魂ってやつ? やだやだ」

「だから駆逐艦は嫌いなんだよ」

「死にたがりの馬鹿野郎め」

「ほら敵が砲撃体制にはいってんじゃん」

「いくらなんでも避けられないね」

「……」

「ああ、今回の博打はあたしの勝ちか」

「はあ……」

「総司令からは『作戦ご苦労、各々の鎮守府に帰り、次の指令を待て』ってだけかー」

「まあ知ってたけど薄情だよねー」

「でも無事帰ってきたのが私たちだけだって知って、ちょっと顔が引きつってたのは気分よかったね。メシウマ!」

「ざまあみろー。貴様の宇宙に私が亀裂を刻んでやったぜ」

「はっはっはっはー……」

「あーあ、帰ったらまたくそご主人様の相手かー」

「やだなーもう」

「……今日はカレーうどんでも作ってもらお」

「じゃあまた次の作戦で会おう」

「あばよセリヌンティウス!」

「はーつかれたつかれた」

「おつかれー」

「何?駆逐艦」

「ああ、あのときの魚雷?」

「別に感謝されるほどじゃないよ」

「あんたが足止めしてくれなきゃ外してただろうし」

「むしろ囮になってくれてありがとうって感じ」

「何ニヤニヤしてんのさ」

「うざいなあもう」

「まあいいや、じゃあね暁」

「帰りに羊羹でももらってかえろーっと」

「司令官まだおきてる?」

「もうなんて顔してるのよ」

「信じてたって?」

「嘘ばっかり。目が真っ赤よ」

「ふふふ、わかったわよ。私の司令官はとっても頼もしくてやさしいからね」

「うん。大丈夫だから」

「暁はここにいるよ」

「あはは。なにそれプロポーズ?」

「……ああそっか。でもそういうストレートな言葉のほうが、私は好きよ?」

「うん」

「ただいま、司令官」

終わり

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