ネームレス「こんどこそ」【片道勇者】 (24)

俺の名はネームレス

ネームレスが名前だ。

俺は世界を超える力を持っている

と言っても決められた定義の世界のなかでのみ。だが

闇に喰われ滅びゆく世界。そこに俺の魂。魂と記憶だけが飛ぶ。

職業も、年も、姿も、性別も、全て違う。しかし記憶と魂だけが残ってる

俺の目の前にいる男。ヴィクター王。本名は違うのだが、そこは良いだろう

この人は俺が世界を超えることを知っている。この人も超えているからだ

次元の賢者。こいつも知っている。ヴィクター王よりも、詳しく

こいつは次元倉庫の管理人。…長いので姉としておこう。こいつはどの世界にも必ず生まれる。

世界によって地形も何もかも違う。しかし、違わないものもあるのだ

城にいる兵士達は変わらないし、雇われ衛兵、異世界から来た銃使い、危険な黒騎士。迷子の少女やその父。死んだ姫など、どの世界でも─記憶こそ違えど─寸分変わらないものもいる。

そのなかにいるのが、彼女。彼女の名は───

ネムリ

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彼女は半獣人だ。

ああ、半獣人と言うのは、闇の影響により獣になりかけている人間のことだ。

彼女の故郷は既に闇に喰われ。逃げ出したが半獣人に。飢えて動けなくなったところに、俺が現れたのだ。
 
いつもそうだった。これからもそうだろう

しかし今回は違うのだ。今回こそは。

必ず、魔王を倒してみせる。

「あの…ネームレスさん?闇が真後ろですよ?」

…しまった。考え事をしすぎていたようだ。前に進まなくては。

「なにボーッとしてんの!?早く!早く!ギャー!」

この騒がしいのはイーリス。人工妖精だ。俺と同じで何度も世界を超えてきている…しかし、受け継がれるのは魂のみ。記憶は受け継がれないようだ。

すぐさま前に出ようとするが、壁が見える。

忘れていた。ここはダンジョンだった。

「壊して!壊して!壁!早く!!」

全く騒がしいやつだ。言われなくても分かっている。

以前洞窟に潜ったときのつるはしを構える。壁はすぐに壊れるはずだ

壁を壊し、前に進もうとする。すると───

「あっ」

…目の前にヴィクター王がいたり、ダンジョン内だったりは覚えている。たしか、小鬼に殺されたのだ。

情けない。生命探知で何処に敵がいるのかを確認し忘れていた。

まあそのお陰か、ナユタの実は沢山手に入ったので良いとしよう。

ほら、ナユタの実だ。好物だろ?腹が減ってるのなら食べると良い。

「ふぇっ…あ、ありがとうございます!」

今俺は魔王を倒す旅に出ようとしてるんだ。…どうか君のクスリの力を貸してくれないかな

「…なんか怪しく聞こえるんだけど?」

イーリスは無視する。

「ま…魔王…闇の原因…やっやらせてください!魔王を倒す旅、ついていきます!」

ありがとう。これからの旅路、君の力を度々借りることになるだろう

「任せてください!生まれは薬屋ですから!」

胸を張って言う。やはり可愛い

「取り合えず行こうよ。兵士4飲まれちゃったよ?」

それもそうだ。また闇に飲まれたら笑い事じゃない。小石なら一発だが闇に飲まれると滅茶苦茶に吹き飛ばされるのだ。

姉に頼み、旅に必要な物を取り出していく。

さて、行こうか

───目の前は雪原だった。

都合が良い。と言うよりわざわざ選んだのだ。
ここなら腹が減ったと言う口実でいくらでもナユタの実を詰め込める。
その為の次元倉庫だ。

ほら、そろそろ彼女が喚く。

「あうーお腹減りました…ナユタの実が食べたいです…」

少し意地悪してやる。

ほら、スノークリスタ草だ。ナユタの実程ではないが腹は膨れるぞ。

「うー…頂きます…」

モシャモシャと口を膨らせながら食べる。可愛い
今まで色んな仲間達と旅をして来たが、死んでたりヤンデレだったりよりこっちの方がいい

さて、行くか。

「はい…」

あの山のところまで行ったらナユタの実を食べようか。

急に顔が晴れていく

「はっ…!はいっ!」

───氷の結晶を持ってこなかったことを後悔した。

ほら、ネムリ。ナユタの実だ。

取り出したのは、黒ずんだナユタの実。

そう、腐ってるのだ。まあ腐ってないのは山ほどあるが、意地悪したくなる。

「く…腐ってますよね…これ…」

なんだ?いらないのか?

「うぅー…い、いただきます!」

空腹には勝てず、食べたようだ。しかし当然、こんなのを食べたら

「うぷっ…まず…お、おなかが…」

待て。消化が早すぎるだろう。

まあいい。意地悪はこの辺にしておく

苦しんでるネムリの口に無理矢理毒消し草を突っ込む。

「あぶぅ…あ、ありがとうございます!」

食中毒が治ったようで、いい顔で喜ぶ。誰が原因なのかもう忘れたようだ。ばかわいいやつめ

ネムリが食べてる間に腐った冒涜的なぶよぶよをそっとポーチにしまい、旅を再開した。

雪原地帯が終わると、今度は草原だ。ナユタの実が腐るほど落ちている。腐った物ならポケットにあるが

拾っては食い、拾っては食いを繰り返す。

するとネムリが話しかけてきた。いつも通りだ。

いつもと変わらないことを話すだけなので、割愛する。

地面に落ちてるナユタの実は意外と腐ってるものも多い。と言っても大抵が黒ずんだ時点で止まっているが

それもそっと拾う

「ちょっと!?今何仕舞った!?」

しまった。見られた。

なんでもないよ。気にしないで。

「食べられないからね!?食べられないからね!?」

知ってるよ。武器にするんだよ

「投げナイフやエルザイト爆弾にしようよ!」

そんなものよりもすごい爆弾なんだよ!

「エルザイト爆弾よりも凄い爆弾って何!?」

これだよ!

冒涜的なぶよぶよを取り出す。力加減を間違えると爆発するので扱いに気を付けなければならない

「ンナッ!?」

イーリスが言葉を失う。当然だ

「あの…ネームレスさん?闇が真後ろですよ?」

聞き覚えのあることをネムリが言う。その通りだ。行かなくては。

イーリスを土に埋め、先に進む

「ちょっと!?おーい!出してよ!イヤァァーーッ!呪ってやる!一生服が着れない呪いをかけてやる!」

ゼヌーラでもないのに服が着れなくなるとは。流石に厳しい。

イーリスを掘り出し、先に進んだ

振り返りません勝つまではしか知らないけど読めますか?

しばらく歩いているとネムリが話しかけてきた。

内容は、彼女の紹介をしたときと同じことだ。

割愛する。

だが、一つだけ言わなければいけないことがある。

君を手放すことは絶対にしない

彼女の体を包み込むように抱擁し、言う。

顔を真っ赤にして慌てるネムリ。

イーリスは空気を読んでポーチの中に潜んでいる

ネムリも落ちつきを取り戻す。すると、彼女が咳き込んだ

かなり激しく

さっと回復の書を読み、回復させる。

なんども経験してきた。何度も分からなかった。だが、必ずしも助けて見せる

咳が止まったネムリにナユタの実をあげて、旅を再開した。

旅の途中、書物を拾った。

「これ何?なんか変な色合いだけど…」

…持っている、今、最も大切な本だ。

中身を確認し、持っていく。

二冊ある必要はない。ない、が、念のために。

夜。

その日も眠るわけではないが、夜営だ。飯を食ってから直ぐに出発する。

「ネームレスさん!聞いてください!クスリが出来たんです!」

彼女の口から、最後の合言葉が聞かされる。

もう、無理して旅を進める必要はない。

別の世界で闇を倒さず世界を回ったとにに手にいれたこの弓を

背中に持ち、覚悟を決めた

朝が来た。

日に日に容態が悪化していくネムリにナユタの実を食べさせる

今日は旅をしない。もう、旅をやめる

闇に向かい歩いていく

まっすぐに

「ちょっと!?なんで闇に向かうの!?自殺!?」

違う。最後の戦いを始める。

ネムリに食べさせることが出来なくなったあの武器を

絶対に乱暴に扱ってはいけないあの武器を

まっすぐと闇に向かって投げる

瞬間、圧倒的な爆発が起こり、闇が、いや、闇の霧が拡散していく

目の前に現れたのは山よりも大きい黒色の龍

だが、そんなことは知っている。

右手に鉄製の矢を、左手に弓を持ち、思いっきり放つ

ダメージは大きい。当然。最上級で伝承の弓だからだ

一発で闇の体がぐらつく

すかさず、二発、三発と繰り返し射つ

そのせいで、闇が、息を吸い込んでいることに気が付かなかった

しまった。だが、遅かった

大地を焼き尽くすような業炎が襲う

耐える。耐えて見せる

彼女だけは

彼女だけは俺が守る

一つ、言う

「グレートウォール」

俺の体は無敵の壁になった

続けて言う

「ベルセルク」

更に

「光の剣」


ここで、倒れるわけにはいかない

彼女のために

今まで経験してきた
全てを

赤と黄と青の光に包まれた俺の体は

白となる

純白の矢をまっすぐと闇に構える

純白の光で闇を打ち消してみせる

背後から、聞きなれた声で、別の人の台詞が聞こえた

「ネームレスさん、頑張って───」

純白の矢は、世界を塗り替えしていった

─────

あれからしばらくの時が過ぎた

闇の後ろにいた、変質した生物達は純白の矢によってもとに戻っていった

しかし、俺の後ろにいたネムリだけは例外だった。

闇は彼女を苛んでいく

毎日俺は彼女にナユタの実を食べさせていったが、それでも彼女は治らなかった

ある日俺は賭けに出た

次元倉庫から取り出した、大切な本

闇払いの書

これを彼女にかければ、闇は払われるはずなのだ

しかし、何かの違和感がある

それでも、やるしかなかった

本を開き、詠唱する。

彼女の体はみるみるうちに光に包まれていき

そしてそこで終わってしまった

闇払いの書の残り回数は、もう0だ

俺の目の前は真っ暗になった

あの日以来、ナユタの実は全てネムリに食べさせている

治らないことは分かっている。しかし、せめてでもの罪滅ぼしとして。

そして時は来た

彼女の体から毛がワサワサと生えていく
だんだんと形を変えていく
闇が、彼女を覆っていく

そして俺は、思い出した

ネムリの希望で、とある丘の上にいる

ここはネムリの故郷だ

闇に覆われ、変質してしまった。

純白の矢によって元に戻っていったが、それでも土地の荒廃はとても戻せるものではなかった

「ネムリ───」

聞きなれない声がする

三人が同時に振り向いた

「お母さん…」

ネムリが、近付いていく

母親との、何ヵ月ぶりもの再開

寂しがりのネムリにとって、嬉しいことだろう

自然に涙が出てくる

しかし

「騙されたな」

「えっ───」

ネムリがすっとんきょうな声を上げる

目の前にいたのは黒い、赤いオーラをまとった何か

気がついたイーリスが叫ぶ 

「ネムリ!逃げて!そいつはデスマスク!殺した人間に化けるやつ!」

デスマスク───知ってはいたが、ここで─?

「そん、な、…お母さん…」

デスマスクの爪がネムリを襲う。間に合わない。もうだめだ


その時

「なんちゃってー♪」

デスマスクのマスクを取った半獣人が出てきた

「ーえっ」

またもやすっとんきょうな声を上げるネムリ
しかし、今度は嬉しそうな声だ

「あら、ネムリ?騙されたー?お母さんよ!デスマスクマスクのお母さん!」

イーリスが、呆れたような驚いたような顔をしている

俺もだ

「村の皆が、遠くにネムリみたいな影が見えるって言うんだから、お母さん頑張っちゃいました!」

「おっ…おっ…」

ネムリが顔を真っ赤にして震えている。うん、可愛い

「あら?どうしたの、ネムリ?震えてるわよ?」

「お母さんのバカーーッ!」

「キャーッ!」

二人が抱き付いたように転がっていく

いつの間にか肩に座っていたイーリスが言う

「ま、あんな風に平和に生きていけるんだし。世界はしばらく平和でしょうね」

その通りだろうな

「ほら!早く行こ?ナユタの実の名産地なんだし料理も美味しそうだからここで御馳走になろうよ!」

転がった先で笑っている二人を追いかけながらイーリスが言う

最後に俺は村を振り返った

これが、自分が守った世界だ。

こんどこそ、彼女を守れた

この弓は、必要ないな───

俺は純白の弓をそこに刺し、駆け出した

さあいこう。イーリスとネムリが呼んでいる

───
 fin

終わりです

>>7
フリカツのネムリが闇払いの書で元に戻れるのなら

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