男「アイドルマスターに出会って人生が変わった」 (29)

高校時代にハルヒに出会った俺は急速にゴミのような人生に向かって歩みを進めていた。
オタクが悪い訳では無い。それでも、当時の俺は本当にどうしようもない男だった。
高校を卒業してもろくにバイトも長続きせず、重ねていうが当時の俺は本当に腐っていた。

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バイト先で知り合ったオタクの友人。そいつの家に行った時に俺の人生は大きく動く。
やつに布教され、俺はアイドルマスターの存在を知った。
アイマスが俺に与えた影響は数しれないが、一番大きかったのは「3次にも可愛い子はいる」だった。
当時の俺にとってそれは沼倉愛美であり、青木瑠璃子であり、山崎はるかだった。

3次元、というか2.5次元に走った俺は何故かコスプレにハマるようになった。
可愛い(これが大前提)コスプレイヤーさんとツイッターを通して話すようになった。
みんなアイマスへの愛が深いことから彼女達と話すのは本当に楽しかった。
これがきっかけになって、俺の人生は大きく変わることになる。

彼女と出会ったのは、アイマス名刺(アイマスはファンをプロデューサーと呼ぶことから、名刺という担当アイドルやそれに絡めたパーソナルデータを書いた名刺を交換する文化がある)がきっかけで「俺のやりたい事はデザインの仕事に就くことだ」と思い24にもなって専門学校に通っていた時のこと。
いつも通りツイッターを眺めていると、とんでもない画像が流れてきた。
そこにいたのは、俺の好きな声優ソックリのコスプレイヤーが、その声優が声をあてているキャラのコスプレをした画像だった。

驚きと感動を覚えた俺は、即座にリプライを送った。

「本人かと思いました!びっくりです!可愛い!」

その直後に寝落ちした俺は、携帯の着信音で目が覚めた。


『ツバメ(彼女の名)さんがあなたをフォローしました』

思わず「へっ?」って間抜けな声が漏れた。その直後に、喜びが襲ってきた。

リプの1件でフォローが飛んでくるとは思ってもいなかった。

そこからは、コスプレイヤーでは彼女とだけリプライを送り合うようになった。
彼女が写真を上げたら必ずリプライを飛ばしたしお気に入りにも登録した。
彼女には彼氏がいたがそんなことは気にならなかった。
もうその時には、彼女のことが好きだったんだと思う。

冬に彼女と出会い、季節は夏。
彼女が彼氏と別れたとツイートした。
彼女の恋を応援していた俺は「本当にお疲れ様。ツバメさんならすぐにいい出会いがあるよ」と送った。
その直後、予想もしていなかった返信がきた。

「ありがとう。今電話してもいい?」

俺は番号通知したくないなら非通知でもいいからと前置きをして、電話番号を送った。
その数分後、080から始まる見慣れない番号から着信が来た。
電話に出ると、想像していたよりも可愛い声が聞こえてきた。

「もしもし。なんかツイッターではよく話してるのに電話だと不思議な感じだね」

そこから、彼氏の話が始まった。
「本当に好きだった」
「辛かったし、今でも辛い」
「relationsを聞くと歌詞が刺さる。じゃあねなんて言わないで、またねって言って。とかさ」
俺はただただ彼女の話を聞いていた。
話を聞くうちに彼女がこんなことを言い出した。

「私、カズキくんとなら付き合える」

「え? なんで?」
「話こうやって聞いてくれるし、ツイッターとかでも絡んでくれたし
いい人だって思ってたんだよね」
「でも前写真上げてたの見てたでしょ? 俺顔面ゴリラだよ?」
「顔とか関係ないよ」
「……でもツバメさんは四国で、俺は新潟だよ?」
「関係ないよ……カズキくんが会いたいなら、会いに行く
彼ね。私より収入多かったからお金の面ではたくさん支えてくれたんだけど
それよりも。私はそばにいて欲しかった。一緒にノンビリしたかった
カズキくんとは、そういう生活ができそうなんだ」
「……俺さ。障害持ってるんだよね。だから免許も取れないし、ツバメさんにもきっとたくさん迷惑をかけることになる」
「大丈夫。そういうの、全部わかってあげられるよ。私免許あるから運転するしさ。カズキくんとなら幸せなれると思う」
「……俺。病気持ってるし、働いてないし、免許もないし、距離もあるけど……こんな僕でよかったら、付き合ってください」
「……はい」

こうして、俺とツバメは付き合うことになった。

それからは、本当に幸せだった。
24になって、初めて両想いの彼女が出来た。
彼女のためにやせた。
彼女と同じ時間を共有するためにタバコを始めた。
彼女と同じ時間を共有するために彼女の好きなバンドを聞き始めた。
学校に対するやる気も跳ね上がって、講師に驚かれた。

それまでの俺は、見栄と虚栄心と嘘しかなかった。
嘘をついて自分を高く見せることしか出来なかった。
恥ずかしい話、それで炎上したことも何回もあった。
それでも、彼女にだけは本音が言えた。
見栄を張らなくてよかった。
嘘をつかなくてよかった。
本当の意味で、素直になれた。
そうするうちに、俺は気づけた。
今まで作ってた壁の中に、こんなに綺麗でまっすぐな自分がいたということに。

彼女と出会い、俺は四国で働くために動き出していた。
彼女からは焦らなくていいと言われたけど。俺は彼女と共に過ごす事が一番の幸せだと思っていた。
今にしてみたら、そこが彼女の中で負担になっていたんだと思う。

ある日の夜に、メッセージが届いた。
「元カレから連絡が来た。正直、カズキくんとカレの間で気持ちが揺れ動いている自分がいます
彼はカズキくんに幸せにしてもらいなさいと言ってくれたけど。私にはどうしたらいいかわかりません」

目の前が真っ暗になった。
悩んだ。
本当に悩んだ。
悩んで、たくさんの人に連絡して。
「直じゃないと話せんこともあるだろうから家に来い」って言ってくれた先輩の家に泊まりに行った。

そこで色々話した。

「聞くだけは聞くけど、結論を出すのはお前だから
お前の中で答えが出たら電話しろ」

先輩はそう言って、コンビニに行った。

色々考えた。
彼女が好きなバンドの曲を聴きながら、彼女と同じ銘柄の煙草を吸いながら。

その時に、ある歌詞が耳に入った。

国名をバンド名にしたその大胆なアーティストは、バンド名からは想像もできない繊細な歌声でこう歌った。

「あなたが涙に愛されることなく、生きられますように」

迷いが、晴れた気がした。

俺は、彼女にメッセージを送った。

「ツバメちゃんへ。本心を言います
あなたの大事な人になりたかった
あなたを幸せしてあげたかった
僕はたくさんのものをツバメちゃんからもらいました
かっこいい音楽、タバコの美味しさ
そして、なによりもたくさんの愛情と、自分を好きになるきっかけ
でも、僕にはそれをお返しすることができません
なので、あなたが一緒にいて幸せだと思える人と幸せになって下さい
あなたの幸せが、僕の幸せだから
遠い新潟の地で、あなたの幸せを祈ってます」

これは、俺の嘘偽りない本心だった。
既読はすぐについたけど、返信は、今に至るまで来ていない。
送ってすぐに、先輩が帰ってきた。
送ったメッセージを見せると、先輩は何も言わず俺を抱きしめた。

「……辛かったな」

その一言で、俺は自分で驚くくらいの大声をあげて泣き始めた。

先輩の優しさ、自分のふがいなさ。
なによりも、彼女をこうして抱きしめてあげるはずだった未来を思って、俺は泣いた。

次の日、俺の学校の休みに合わせ、先輩は休みを取ってくれた。
洗濯物を畳む途中で、何度も思い出し泣きしたけど、先輩はそれに触れることもなく黙々と洗濯物を畳んでいた。

溜まった家事をこなして、冷蔵庫の材料で簡単な料理を作って、最後に2人で銭湯に行っただけの一日だったけど。

本当に、癒された1日だった。

それから1ヶ月がたって、俺は今、希望の職場で研修をしている
風の噂で、ツバメは新しい恋人ができたと聞いた。

たまたま彼氏とのツーショット写メを見たけど、その時のツバメの幸せそうな笑顔を見て、俺のしたことは間違ってなかったと確信した。

ツバメと出会うまで俺にとってすべてだったアイドルマスターは、本当に数ある趣味の一つになってしまった

習慣とは怖いもので、今では自分の好きなバンドを聴きながら煙草を吸うことの方が好きなほどだ。

それでも、これでよかったと今は思えている。

ツバメは、アイドルマスターがくれなかった幸せを俺にくれた。
俺にとっての幸せは「大事な人と同じ未来を見てそこに目指して歩んでいくこと」だということに気づけた

今でも彼女と付き合っていた頃のやりとりを思い出すと胸が暖かくなる。

彼女がくれたものを胸に、生きていこうと思う。

短いけど終わりです。
付き合った日からちょうど一月たったのでけじめとして立てました
ノンフィクションというジャンルということで許していただけると嬉しいです

最後に
彼女と出会うきっかけをくれたアイドルマスター
立ち直る機会を与えてくれた先輩
物語として綴る場所を与えてくれたSSVIP
なによりも、たった1週間とはいえこんなどうしようもない俺にたくさんの愛と本当の生き方を教えてくれたツバメに最大限の感謝を。
本当に、ありがとうございました





ツバメ!
幸せになれよ!

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