綾波「久遠の鬼」 (49)


*艦これのスレ
*厨二
*名有り提督などモブに名称


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                                     ――艦娘――




 在りし日の戦船の魂を受け継いだ、不思議な不思議な少女達の総称。
 各地の鎮守府にある工廠や、世界中の海上で建造、発見される彼女達は、今現在『深海棲艦(→146)』に有力なダメージを与えられる唯一の存在とされている。
 初めて彼女達が私達人類の目の前に姿を現したのは―――


 (XXXX年・世界百科事典より抜粋)








 序章 心優しき駆逐艦の話 ~ The_Destroyer




 蒼く、どこまでも澄み渡っている空があった。
 神奈川県にある小さな街だ。
 燦々と照らす太陽の光が街に降り注ぎ、湿度が高い国特有のムシムシとした暑さを醸し出している。けたたましく、サイレンのように鳴くセミの声が、港街のあちらこちらで響き渡り、日本という島国独特の夏という季節を象徴しているかの様だった。



 そんな夏真っ盛りの港街の一角に少女はいた。



「ねー。もう良いっておねーちゃーん!」
「だ、大丈夫だよ! ほら、あともう少しで艦載機に手が届くから!!」
「その『かんさいき』ってのが何なのかは知らねぇけどさー……」

 少女は海岸線上に作られた道路の端に植えられている、高さ八メートルはあろうかという大きな木に登っていた。歳は恐らく十四か五か。いわゆる年頃の女学生といった感じ。肌の色は純白……とまではいかないが、大切にしているのかそれとも素材が良いのか、とても健康的な印象を抱かせる白土色をしている。
 髪の色は茶。腰まであるそれを頭の右斜め後ろで一本に纏めポニーテールにし、襟首が茶色い、少し古いタイプのセーラー服を身に纏う少女の指先では、かつて日本がまだ『帝国』を名乗っていた時に所持していた艦載戦闘機――『零戦』――を模したおもちゃのラジコンが枝と枝の間にうまい具合に挟まり、発着不能となっていた。
 夢中になって遊んでいたら、誤って突っ込ませてしまったらしい。
 木の下で落胆する子供達を見た少女は、頼まれもしないのにスルスルと、まるでリスのように木に登っていって――今に至ると言う訳だ。


「ねー」
「大丈夫、もう少し………!」

 腕の筋肉がプルプルと震えと共に悲鳴を上げ、眩しい太陽光に視界を遮られながらも懸命に上へ上へと手を伸ばす。


「聞いてんのー?」
「ま、待って! あと、ちょっと……!!」

 パシッ! という音が鳴った。少女の中指と人差し指が零戦の翼を掴んだ音だ。パアァっと、思わず頬の筋肉が緩んだ時だった。





「さっきからパンツ丸見えだかんねー!?」
「…………っつ!?」

 バッ、と。少女は慌てて後ろ手にスカートを押さえようとする。


「バッカお前あれはアレだよ……都会で最近流行りの見せるパンツって奴。恥ずかしくないってテレビで言ってたぜ?」
「えー、それってスパッツって言うやつの事じゃないの?」
「チアリーダーのねーちゃん達が履いてるアレとどう違うのさ」
「ど、どれも違いますからね!? って言うか見ないで……っ!?」

 下から聞こえてきた爆弾発言に気を取られ、零戦を救助したとは別の手でスカートを抑えようとしたのが災いした。
 重心がブレた少女の足元から、ズリッ!という嫌な音が響く。何がおきたかなど、一目瞭然だった。


「きゃうっ!! うぅぅ~……」

 真っ逆さまに木から転げ落ち、地面に思いっきり尻を打ちつける。その様子を見ていた少年達三人が、慌てた様子で少女に近づいてきた。


「ね、ねーちゃん!」
「零は、俺達の零は壊れてない!?」

 いや艦載機よりも木から落ちた私の事を心配してよ。と心の中だけで思う。
 ジンジンと痛む臀部を摩りながらゆっくりと立ち上がり、なんとか掴み取ったラジコンを少年達へと渡すと、おお~!という黄金を手にした海賊のような歓声が上がった。

 
「よかったー! 買って貰ったばっかなのに「無くした」「壊した」なんて言ったら母ちゃんになんて言われるか……」
「怖いもんなー、お前の母ちゃん」
「この前なんてさ~……」

 どうやらラジコンを失わずに済んだ事よりも、母親に叱られずに済んだ事の方が嬉しいらしい。その様子を見ていた少女の口から、ホッとしたような、疲れたような溜息が出る。
 と、その時。少女は悪ガキ三人が妙に姿勢を正しているのに気づいた。


「おねーさん、ありがとうございました!」
「「ありがとうございました!」」
「あ、うん」

 先ほど言っていた母親の教育が良いのか、シッカリと腰を折って丁寧に頭を下げている。
 まだ子供なのにシッカリしてるなぁ……。と少女は思う。


「気をつけて遊んでね?」

 うん!と頷いて元気良く走り去っていく少年達に少し手を振った後、少女は道端に置いていたリュックとカバンを拾い上げ


「さてと、行きましょうか……」

 再び、目的地に向かって海岸線上の道路を歩き始める。





 第一章 愚者は鎮かに座る ~ Ocean-The-Fool ~



  1



「――以上。貴官の要望通り、該当艦娘の鎮守府への着任を快諾する……」

 『大本営』からの辞令書をペラペラと捲りながら、『提督』千崎翔太郎(せんざき しょうたろう)は、執務机の傍らに置かれた海苔煎餅へと手を伸ばす。そのまま口の中に放ると、バリッ!  という期待していたものとは違う、クシャ……。というなんとも情けない食感が歯を通して伝わってきた。どうやらこの湿度で湿気ってしまったらしい。


「……世の中には『ぬれ煎餅』なる物があるのは知ってるけど、それとこれとはちょーっと違う気がするんだよな……」

 千崎は瓦煎餅のような、思わず「硬っ!!」と叫んでしまうくらい硬い煎餅の方が好きだ。バリッ!ボリッ!! という硬さ、噛み砕く食感が無いと、肩透かしを食らった気分になるからだ。
 夏真っ盛りなのにエアコンも入っておらず、ムシムシとした嫌な暑さが部屋に充満している。本来ならばエアコンを十分に効かせ、除湿機で嫌な湿気を追っ払い、煎餅ではなく『間宮』特製のアイスを頬張りながら、ゆったりと執務を行えている筈だった。


「……で? 何か言うことは?」

 千崎は机に肘を付き、手の平で顎と頬を支えるような体制を取って、自分の目の前にいる二人に視線を移す。




 一人は少女の姿だった。



 歳は……十八か十九か。二十歳を超えているようにも見える。腰まである長い黒髪は、少し不思議なぐらいに艶があった。
 少女『大淀』が着ている服は大まかに見ればただのセーラー服だが、掛けている眼鏡同様細かい部分に刺繍が施されているし、朱色のネクタイは胸の真ん中でよく目立って良いアクセントになっていて、なんだか学生服と言うよりはファッションショーか何かにそのまま出られそうな印象を抱かせる。
 
 相手を不快にさせない程度の香水を付けているのか、ミント系の爽やかなハーブの香りが、千崎の鼻を僅かにくすぐった。






 一人は少女の姿だった。


 
 歳は……恐らく大淀と同じか、少しばかり下といった所。くすんだ銀髪を結んでポニーテールにする為のリボンが、いやに濃い緑色をしている。
着ている服は、やはりセーラー服が基盤である事に違いない。が、その詳細は全くと言って良いくらい別物だった。
 
 上着は襟と手首以外は紺一色で纏めてあり、余計な刺繍など一切無い。代わりと言わんばかりにオレンジ色の大きなリボンが胸元で己を主張し、薄緑一色のミニスカートと、黒のタイツを履いている少女はそれだけでも十分印象強いが、何より特徴的なのがお腹。ヘソの周辺部分が大きく露出していて、彼女のスレンダーな肉付きと絶妙にマッチしている衣装を着こなすそのさまは、一流のダンサーかモデルにも見えた。
 


 そんなティーンズ女性雑誌の表紙を飾っていてもおかしくないモデル(に見える)艦娘『夕張』は――








 執務机の前で、思いっきり土下座をしていた。





 夕張の体中を流れる嫌な汗は、決してこの蒸し暑さだけが原因ではない。千崎だけでなく、威圧感という意味であれば大淀の方がよっぽどそれを醸し出して夕張を睨みつけている。
 ここは『鎮守府』――数十年前、世界中の海域に突如として現れた謎の生命体から人類を護る為に設立された、海軍特別軍用施設の一つだ。今や、人々を守る為の砦とも言うべきこの施設が、世界各地にある主要拠点にあるのは至極当たり前になっているのである。
 そして今ここ、日本海軍所属、第一〇一鎮守府の提督室は――いや違う。提督室だけではない。この鎮守府のありとあらゆる場所が、地獄の様な蒸し暑さに覆われていた。理由は単純。








 自室、強いては鎮守府全体の電気火気の調子の悪さに苛立ったどこかの馬鹿が、趣味半分の半端極まりない技術で発電機の調整を勝手に行い、逆に大爆発させたからだ。



「夕張さん、提督は『プロの業者を呼ぶから下手に弄るな。暫くは各自で熱中症対策を行うように』って言ってましたよね? それも昨日の朝礼時に。忘れたとは言わせません」
「い、いやあの! 確かに事態が悪化してしまったのは紛れもなく私のせいですし、その分の罰則に関しては相応のものを謹んで受けるつもりですけど。それでこれとは関係無い艤装用発電機の不調や、それに伴う任務支障の責任まで私が受け持たなくちゃならないのはちょっと……ち、違うんです! ほら!! うちの艦隊って『例え何が起ころうが受けた任務は遂行する』がモットーじゃないですか! だからちょっとしたトラブルも難なくクリア出来るようでなくちゃダメじゃないかなーって……」
「そのトラブルを引き起こした張本人が何言ってんだおい」

 アハハハハ……と、力なく笑う夕張は、千崎の顔を見て戦慄した。
 それは千崎の顔が鬼のように歪んでいたからでも、人を殺せるような鋭い視線を向けていたからでもない。『何の感情も感じ取れない顔で、こちらを見ていたからだ』
 こちらを睨んでくる大淀は怖い。けれど、いつもと少しも変わらない平然とした顔で、見下すようにこっちを見ている提督は、その十倍は怖かった。


「……」
「え、えっと……。て、提督? お聞きしたいんですが、私は一体どうなってしまうのでしょうか……」

 千崎はようやっと表情を崩し、はぁ……。と疲れたように溜息をついて


「『5-4-X』艤装にドラム缶ガン積みで単機突入、今週中に七百回。通常任務と併走で」
「ぶふぉお!!?? ちょ、ちょっと待ってください提督! いくらなんでも無茶苦茶すぎます!! 私過労で死にますよ!? こういった罰則は基本的に『二度とこんな事をしないように』教育する為にするのであって、拷問の為にあるものじゃないのに!?」
「うるさい黙れ。お前のせいでうちの主力共は暑さで件並みグロッキー状態、おまけに艤装開発用発電機まで一部機能停止状態に陥る始末。ぶっ壊したのが家事用じゃなくて艤装用の方だったら間違いなく軍法会議からの解体処分だったんだ。ありがたく思え」
「安全に辞められる分だけ解体処分の方がマシな気がするんですが!?」

 片手に持ったうちわでパタパタと顔を扇ぎながら千崎は言う。
 夕張が壊したのはあくまでも予備用の発電機の方だが、それでも鎮守府全体に与えたダメージは大きい。少なくとも、鎮守府全体のエアコンに使用制限がかかる程度には、被害があった。本来であればこれだけでも軍法会議ものなのだが……。どうやら夕張は肝心な事を理解していないらしい。


「もう一度言うが、俺はこれでもお前にスゲー配慮をしてやったつもりだ。この罰ならお前は暫くのあいだ鎮守府にいる時間はかなり短くなる。休み無しで働いているようなものだからな」
「……は?」



 訳が分からない、と言う顔をする夕張に、千崎は告げる。

 ――直後、聞かなければ良かったと、夕張は後悔した。


「お前、あの発電機で造られた電気の主な供給箇所、どこだか分かってるか? 『間宮』だぞ? 食材の二割が使い物にならなくなった上『あいすくりん』が暫くの間製造不可能になったと他の奴らに知られれば『演習軽巡洋艦の刑(フルボッコ)』待った無しだから、暫くヒマ寄こしてやろう、ぐらいの気持ちだったんだが」


 真っ青になった夕張が全力で提督室を退出しようとしたその瞬間、バァン!! と言う轟音と共に入り口のドアが開け放たれ、怒りにまみれた修羅達が提督室へとなだれ込んで来る。

ここまで




「えっとえっと……第一〇一鎮守府……うん、ここであってますね」

 先ほどの悪ガキ達と別れてからおよそニ十分。少女は第一〇一鎮守府の正面玄関前に立っていた。

 周囲を小高い山に囲まれた第一〇一鎮守府は、まともな交通手段が、今となっては車しかない。電車などの公共の交通機関などを使用する場合、最寄駅から徒歩で一時間以上掛かるという辺境の地にある。
『奴等』が現れる前は、それで一向に構わなかった。ここから十キロほど離れた陸地、地図で見るとちょうど対岸にあたる位置からこちらに渡る定期船が出ていた為、船に乗れば簡単に移動する事が出来たからだ。
 が、それも昔の話。今となっては車か特殊兵装ヘリぐらいしか、安全且つ楽に移動出来る方法は無い。


「ふぅ……また喉が渇いちゃった……持ってきた水筒のお茶は全部飲んじゃったし……あ、そうだ! 司令官さんにお会いする前に汗を流す時間あるかなぁ? 流石に初めて上官に謁見する時は、身だしなみぐらいキチンとしてないと……」 

 ブツブツと鎮守府内部に入ってからの事を考える。いつもならそこまで不安に思う事も心配になるような事も少ない少女だが、今日ばかりは話が別だ。何せ今日から自分は――


「あー、おい。そこで突っ立ってるお前」

 突然、真横から声を掛けられた。慌てて声のした方を見ると、そこには一人の男が立っている。歳は、恐らく二十代中盤から後半の、三十代には届いていないだろう青年。背がかなり高く、少なく見積もっても百八十センチはあるだろうことがうかがえた。

 ……男の姿を認識した時、少女が思わず目を見張った男の特徴が二つある。

 一つは髪の色。黒と白でちょうど八二分けにされているそれは、意図してやっているファッションにしては変な感じを覚える。まるで、レシピには書いてない第三の食材を投入した結果、本来出来上がる物とは別の料理が出来てしまったような、出来上がったカレーに、必要もないビーフシチューのルーを混ぜた物を食べさせられたような、そんな違和感。
 もう一つは、この男の着ている服。夏用に半袖になっているし、生地も薄手になっているが、これは間違いなく訓練生の時に何度も見た、自分達の上官や先生達と同じ物。海軍において階級が少佐以上の者でなければ着用する事の出来ない、白い軍服。


「艦名、並びにIDを言えるか?」
「あ、はい! えーっと……『ごきげんよう、特型駆逐艦『綾波』と申します』……IDは、SDⅡ-0-13-26645……です」
「……ちょっと待ってろ」

 そう言ってズボンの外ポケットから折りたたみ式のスマートフォンを取り出したその軍人は、綾波の告げたIDをタッチパネルに素早く打ち込み、電子画面に映し出された情報へと目を通していく。一通り確認し終わると、再び元の位置へとスマフォを押し込んだ。


「……悪かったな、いきなり不躾な質問飛ばして」
「いえいえ、見知らぬ艦娘が鎮守府内をウロウロしてるんだから、当然ですよ」

 男は口を開く前に一瞬だけ、品定めするように綾波を見る。


「第一〇一鎮守府提督、階級大佐。千崎翔太郎だ」
「あなたが……」

 この人が、自分にとっての司令官。つまりは直属の上官になる人なのか。
 すぐさまビシッ! と姿勢を正し、右の手を自分の顔の横、ちょうど指先の部分がこめかみ辺りに来る海軍式の敬礼を行う。

「お出迎え、ありがとうございます。そしてご指導ご鞭撻、どうか宜しくお願い致します」
「ああ……取りあえず中に入るぞ。色々と説明しなくちゃならない事も多いし、これからの事や、この鎮守府についても詳しく説明しとかなくちゃな」





 間章 ①



「だーかーらーさー! そういう問題じゃないんだよ。分っかんないかなー?」

 スマートフォンを耳に当て、艦娘、川内型軽巡洋艦の一番艦『川内』はブツクサと文句を言うように通話相手に喋る。彼女は川内型に共通して支給されている橙、黒、白の軍用服ではなく、白と赤が基調となった半袖と、紺色のミニスカートを履いていた。
 川内が今いるのは全国チェーンのファミリーレストランの二人用テーブル席だが、向かい合う席に人はいない。四角いテーブルの上あるガラス容器の中には、半分ほどたいらげられたチョコレートパフェがある。


「例えばさ、五色米ってあるでしょ? 忍が、仲間同士で使ってたって言われてる秘密の暗号を作り出す為のあれ。赤色の米が3粒で、黄色の米も3粒だから3人殺して3人逃した、とかさ」
 
 川内は細長いスプーンでパフェの下の方を掘り下げる様に掬い上げて、口へと運ぶ。
 彼女は何かモノを例える時に忍び関連の用語をよく使う癖があるが、特に忍びというジャンルが好きかと言われれば、それほどでもない。彼らが使っていたとされる知識や、技術が載った文献は何遍も読んだが、それにしたって彼女の興味を強く引き、ものにしたいと思わせたのはホンの少しだ。


「けどよくよく考えてみてよ。今の世で、そもそもどこにそんな米を置いておくのさ? 道端? 通行人は勿論敵の忍に見つかったら暗号が訳分かんなくなる可能性があるのに? 秘密の隠し場所があるにしたって風やらで飛ばされたり鳥や虫なんかに食べられる事もあるよね?  他にも……」

 それでも彼女が忍びを例えに出して物事を説明するのは、自分の好き嫌いではなく、相手にとっての自分のイメージを考慮した結果である面が強い。艦娘時の服装からか、あるいはその戦い方か、はたまた夜戦が好きなイメージが強すぎるのか。
とにかく、川内という艦娘は忍に例えられる事が多い。『夜戦忍者』なんて愛称を付けられ、外国人にサインと忍術の使用を願われる程に。


「とにかくさ、五色米にしろ手裏剣にしろ、昔はどうかだったかは知らないけど、今はリスク有りまくりでしょ? 連絡ならスマフォやパソコン使えばメールやら通信で一発だし、殺し屋が相手を始末するのに手裏剣なんて使う必要ないじゃん。銃を使わない、って縛りつけたとしてもそんな色物、よほどの理由がないと使わないよ。そもそもあれ、漫画なんかでよく出てくる十字の方は毒でも塗らない限り、殺傷力殆ど無いし」

 偉そうに言う彼女だが、つい数年前まで、まともにスマートフォンやらパソコンやらの文明の利器を上手く扱えていなかったりした。その事は完全に過去の物として扱っているようだ。潜水艦『伊-168』や別鎮守府の駆逐艦『漣』に猛特訓してもらったあの日々も、今となっては懐かしい限りだと川内は思う。


「結局はニーズ……その時代に適してるか、なんだよね。古代ローマで行われてた太古のオリンピックは公平を期すために全裸だったし、ギリシャでは青銅の鎧を着た戦士……グラディエーターだっけ? まぁその人達が戦う闘技場があった。中国拳法はその長い服の袖やズボンの裾を利用する物があったし、江戸時代になってからの日本では相手を殺すための剣術じゃなくて、自衛の為の空手や柔術が流行った。もうその時代には忍者って正式に名乗れる人ってかなり減ってたんじゃないかなぁ? 明治に入ってからはもう完全にそれらしい記述無くなってるし」

 その時代、その国、その状況によって姿形を変えていくのがニーズだ。
水の無い砂漠で水泳の技術なんて持っていても何の役にも立ちはしないし、カメラの技術が発展し続ける昨今、現像技術なんてよほど熱心なカメラマニアでなければ持ち合わせてはいないだろう。
 

「需要が無いものが流行る訳ないんだよ。……まぁ今は物珍しさから残らない方が珍しいけど。廃墟のホテルとか、廃線になった列車とかね」

その時代に適合することの出来ないジャンルは、食いつぶされる。恐竜などの大型爬虫類が、その当時の地球環境に適合出来なかったが為に絶滅したように。


「……だーかーらーさー!!」

 が、相手は引き下がらない。もう何度も説得しているにも拘らず、未だにしつこく川内を懐柔しようとしてくる。とうとう彼女のイライラはそのキャパシティを超え









「今時『水雷戦隊「夜戦ジャー!!」』なんて特撮流行る訳無いでしょうが!!」



店中に響くような大声で怒鳴りつけた。思わず叩いたテーブルがバンッ! と弾けるような音を響かせる。


「そもそも今の時代の特撮って戦闘シーンは半分以上3Dでしょ!? いや前時代の体を張ったアクションは確かにこう魅力的なとこあるけどさ。ってか仮にも本物の艦娘に依頼するってどうなのよ。私たち一応世界共通の軍事機密なんだけど!?」
『えー? でもそんなの今更じゃないの? 街歩いてりゃ普通に『元艦娘』の人に会うし、君らって輸送船は勿論、大型魚船とかの護衛までしてるから、今となっては知らない人の方が少ないじゃんか。ってか聞いた話じゃ近々『艦娘と行く近海遊覧ツアー』なんてものが出来るとか出来ないとかいうのまであるらしいし。それこそ艦娘ってのは今最も熱いジャンルじゃない、君の言ってた時代のニーズってのに一番適してるでしょ』
「私は、特撮に関してのニーズって意味で言ったの!! そして川内さんは聞き逃さなかったからね? なにその軍事機密って単語が消し飛びそうなツアーは!? その企画考えた会社は私達をアイドルかなんかとでも思ってんのかぁああ!?」
 
 怒鳴り続けてはぁはぁと肩で息をする事になった川内は、そこでようやく周囲の客や店員が自分の事を訝しげな、あるいは睨む様な眼で見ている事に気づく。


「あ、あはははははは……」

読心の術なんて使わなくても分かる。彼らは心のどこかでこう思っているはずだ――『うるせぇぞこの野郎』――と。





いたたまれなくなった夜戦忍者は猛スピードで残りのパフェを平らげてレジで料金を払うと、エアコンの効いたファミレスから炎天下の街道へと逃げ出す。



ここまで。基本九時頃更新する予定




   2



「……とまぁ、予想より長くなってしまいましたが、これで当鎮守府の概要。並びに軍則、規律などにおける諸注意の説明を終了します」

「……」


 綾波は第一〇一鎮守府にある小さな会議室で大淀から『極めて簡単な』一〇一鎮守府における勤務説明、並びに注意事項の鞭撻を受けていた。
 
具体的には『任務発注時における艦隊の編成』『演習用艤装の取り扱い』『勤務時間と主なデイリー任務について』『大雑把な年間予定』など。それらが記された書類を渡され、書いてあることに関して一通り口頭で伝えられる、と言った具合だ。
 彼女の性格なのか、はたまた慣れているだけか、大淀はスラスラと、半ば機械めいた口頭で丁寧かつ単調に喋り続けていた為、部屋に通されて椅子に座らされてからまだ二十分も経っていない。



 ――筈なのだが、綾波の様子が少しおかしい。



まるで何時間も座らされていたかのように目線を気まずそうにあちこちに反らし、まるで考え込むように頭を少し傾け、トイレを我慢しているかのように足をもじもじと小さくゆすっている。



「これからあなたは先ほど説明した通り、鎮守府の離れにある待機艦寮へ向かってください。正面玄関を出て左手にまっすぐ行った所にあるのですぐに分かると思います。鍵はこちらです」

「え、あ……ど、どうも」

「今現在、待機艦寮に住んでいる方はいらっしゃらないので、ある程度はご自由に。本当はあらためて提督、並びに指導艦となる方への挨拶を優先したいのですが……生憎、あなたの指導艦になる方が休暇で外出してるんですよね……夜には帰ってくる筈ですから、その時に又、あらためてお呼びします」

「は、はい! ……あの、その……」

「……どうかしましたか? 先ほどから、と言うかこの部屋に入る前からそわそわと落ち着かない様子でしたが……トイレなら部屋を出て右に数メートル行った所にあります。それとも、もしかして具合でも?」

「あ、いえ! その……」
 

綾波は言うか言わずか暫く迷った後。若干震えた口調で



「こ、この部屋に来るまでに外から聞こえてきた喧騒……と言うより罵倒と悲鳴は一体……?」

「気にしないでください。多対一、それも一人一人が自分を遥かに上回る実力者だった場合を想定したただの演習ですから」

 
 にっこりと、大淀は笑いながら言った。
 それはあまりに完璧な笑顔で、綾波は一瞬で顔を引きつらせたまま固まった。
 

 大淀は営業スマイルとは又違う、別の意味での笑顔の力を宿してこう言っていた。









これ以上聞くな










 大淀の言っていた寮は、綾波が想定していた物より遥かに小さかった。



「えっと、ここですよね待機艦寮……寮?」
 

 一度でも寮という物に住んだ事が在る人なら分かるだろうが、寮というのは基本大人数で暮らす宿泊施設な為、大きくアパートメントされた物が通常だ。
 が、鎮守府の敷地の端にポツンと建てられている良い意味で古臭いそれは、紅いレンガを主として造られている事以外、ごく普通の二階建て住宅にしか見えない。

 待機艦寮、と書いてある薄汚れた木札が、申し訳程度に玄関扉のすぐ横に引っかかっているのがなんとも哀愁を誘った。

 

「……まぁ待機艦寮ってその鎮守府のどの部隊に所属するかがまだ決まってない艦娘の仮住まいみたいなものらしいし、あまり大きくても意味無いのかも」


 事実、今ここに住む事になるのは自分だけらしいし。と、綾波は一人納得する。大淀から手渡された銀製の鍵を使って扉を開けると、寮の中から少し埃っぽい空気がむわっと飛び出してきた。
 駆け抜けるように外を出たそれが鼻をくすぐり、綾波が大きくくしゃみを下と同時に、寮の中から快活な女性の声が響いてくる



「What? 誰ですカー?」

「ふぇ?」


中から聞こえてきたその大きな声にびくっ、と身を強張らせた綾波が声を発するより早く、寮の中から一人の女性が玄関へとやってくる。


 
「Who!! キュート……not,エレガントなガールですねー!」

「え、えっと……あわわわ」


 白を基調とした、まるで神社にいる巫女さんを思わせる服を着た彼女は腰まである茶髪をなびかせてドタバタと綾波に近づくやいなや、ギューッと彼女に抱きつく。
 彼女の服、使っている言語は覚えが有った。訓練艦時代に鞭撻で、もう嫌になるぐらい暗記させられた艦娘の外見に、彼女と同じ姿の艦が写っていたのを綾波は覚えている。





「提督が言っていたNew faceのデストロイヤー『綾波』で間違ってませんよねー? 第101鎮守府 第一艦隊旗艦の金剛型戦艦一番艦『金剛』デース! これからよろしくネー!!」

「は、はい! よろしくお願いします!!」





 金剛型戦艦



 かつて新時代の超弩級戦艦や巡洋戦艦の建艦技術がないことに焦った大日本帝国が、イギリスの先進的建艦技術を学ぶべくヴィッカース社に発注した艦だ。
『最古参にして最も活躍した戦艦』と一部では評される事もある彼女は、やりあう相手が深海棲艦になった現在でもかなり有名だ。――実際に有名なのは第二次世界大戦時の金剛の活躍が、ではなく『艦娘金剛』の異様なテンションとフレンドリーさが、なのだが。
 

 『提督LOVE勢筆頭』『妖怪紅茶くれ』『金剛おばあちゃん』


 幾つかは彼女にとって不本意な物もあるだろうが、数え切れないぐらいのあだ名を付けられ、人々に親しまれている。今や艦娘の顔とも呼べる一人である。
 と、そんな具合に彼女について事前に知っている事を頭に思い浮かべていく綾波だが、ふとここで当然といえば当然の疑問にたどり着く。



「あ、あの。ところで何で金剛さんがここに? ここって待機艦寮の筈じゃ……」

「ハッハッハー。いやー、ばーりんがStandby generatorをクラッシュしたせいでエアーコンディショナーが使えなくてmy roomでダウンしてるとこだったんだけど……私の脳はここの待機艦寮だけは発電機がメインともサブとも繋がりのない完全個別の小型用発電だって事を覚えていたネー!  だから大掃除も兼ねて涼んでいたのデース!」

「え、ええええ!? い、いいですよ! わざわざ先輩、じゃありませんでした……上官にそんな事をしていただく訳には……」

 
 そう言われて初めて気づいたが、確かに部屋中の窓という窓は開けっ放しにされていて、奥には掃除機らしき物が横たわり、金剛は頭に白い三角巾を巻いている。
 目線を下にやると、何枚かの薄汚れた雑巾が廊下に散らばっていた。綾波が最初に寮の玄関を開けた時に感じたムワッ、とした埃っぽい空気も、金剛が中で掃除をしていたから感じた物かもしれない。



「うーん、でも流石に来たばかりのNew faceに寮の掃除を全部やらせるのはちょっとネー? ここ四年くらい、うちの鎮守府に新しい子、一人も来なかったのヨー……だからここ全然使われてなくて、結果的に汚れまくりの不備ありまくりでネー……」

 
備品にもガタがきてるしネー。と、金剛は申し訳なさそうに呟く。確かにドアを開けた瞬間に埃っぽい空気が立ち込めたし、外見としても薄汚れている場所が目立った気はするが……



「そうだったんですか……でも、だったら尚更です。綾波がこれから住む家ですから、自分で掃除くらいしないと」

 
 言うが早いか、綾波は廊下に転がっていた予備の三角巾とエプロンを手早く身に付けていく。
 第一、よくよく考えてみれば一番最初にこの場所に行けと言われたのも「長い事使ってなかった寮の掃除」を兼ねている可能性も高い。無論、そんなものがなくても綾波は一番最初に部屋の簡単な清掃や、整理から入るつもりだったが。
 やる気満々、と言った様子の新人に、金剛は僅かに顔をほころばせている。



「oh.そうですカー? ならお手伝いをお願いしマース。えっと、一階の廊下と洋室はもうだいたい終わってるかラー……私は引き続きvacuum cleanerでゴミを吸い取るから、綾波は乾拭きと水拭きをお願いネー」

「はい、綾波頑張ります!」

「イエース! その活きヨー!! 綾波へのquestionも有りますし、掃除なんて早く終わらせてteatimeと洒落込むネー!」


 金剛がテンションを上げて掃除機のスイッチを入れると同時、綾波は猫のように姿勢を屈ませ、そのままドタドタと勢い良く廊下を拭き始める。





「ふぅ……、結局夕方まで掛かっちゃいましたか……」


 机を部屋の中に戻しながら、綾波はため息を付く。ここだけの話、綾波は自分の家事スキルに多少の自負があった。
 自分の姉妹は勿論のこと、軍学校の中でも一番炊事洗濯掃除の成績が良かった為、数時間も掛からないだろうと思っていたが、実際にはもう陽はすっかり海の向こうに沈み、あたりは闇に包まれようとしている。
 
 途中まで一緒に寮の清掃を行っていた金剛も、途中館内放送で鎮守府に呼び出されてしまい、今は綾波一人しかいない。去り際に



『今日はアヤみんのwelcome party.がありますから一八五〇には食堂に来てくださいネー!』



 と言っていたが、時間は大丈夫だろうか……



(えっと、今は一七三〇……うん、十分間に合うよね。……そう言えば金剛さんのハーブティーとクッキー、凄く美味しかったなぁ。今度レシピ教えてもらえないかな?)

 
 ずっと掃除ばかりしてたら疲れるヨー! と言って金剛が持ってきてくれた特性のハーブティーは、スッ、と鼻を駆け抜ける爽やかな香りと、飲んだ後で口の中に広がる甘い香りが絶妙の、素晴らしい一品だった。
 お茶請けとして出されたクッキーも、ココナッツスライスがふんだんに使われており、その濃厚な甘さと心地の良い歯触りに、綾波は大いに舌鼓を打った。

 

「さてと、簡単な荷物の整理だけでもしておこうかな」


『どうせ一人しかいないんだから、一番Bigな部屋にしちゃいなヨ! 大は小を兼ねるネ!!』という金剛の進言でとりあえず寮の中で一番大きな部屋を使う事にした綾波は、部屋の隅に放っておいた空色の旅行カバンを両手で掴み取る。
 四つ付いているフックを外してカバンを開けると、中身を一つ一つ丁寧に取り出していった。



「ノートに筆記用具に私服に本に――あ、そう言えば私の教導艦の方はいつ戻られるんでしょうか。大淀さんの言った通りならもうすぐ戻られる筈ですけど――――」


 そんな事を呟きながら、綾波が最後の荷物を取り出した時だった。








――――――――――――ストン、と。



 突然心臓に、冷たくて細い何かを突き刺されたような、そんな感触がした



「!!!?」


 バッ!!――っと、綾波は体を動かさずに首と視線だけで後ろを振り返る。
 誰も、いない。この部屋には、自分以外に誰もいない。ドアにも窓にもしっかりと鍵が掛かっている。机もベットも、誰かが隠れられるような場所なんて、ないはずだ。だから、さっきのは気のせいなのだろう。



「………………」


――その筈なのに、冷や汗が止まらない。まるで、初めて「奴ら」と相対した時みたいに、直接的な、敵意を――――



「――――!? 上!!」


 中身が空になった旅行かばんをそのまま掴み、思いっきり天井に向かって叩きつける。――ドバン!! という激突音が響くと同時に、スッ、と心臓から何かが引き抜かれた様な感覚がして、それと同時に悪寒も感じなくなった。



「……な、なんだったんですか今の……」


 疑問に答える声は無い。ベコっと大きく凹んだ天井と、半壊した旅行カバンだけが、そこに転がっていた。


ここまで



   3



「それはきっと、艦娘の亡霊ですなぁ」

「え、ええぇええええ!?」


 館内放送で呼び出されて提督室に向かう途中、綾波の隣に割り込んでとんでもない説を押してきたこの艦娘は、陽炎型19番艦。末っ子の『秋雲』
 イラストに小説、漫画にアニメといった、いわゆるサブカルチャーに詳しく、自費出版本まで出しているこの少女は、艦娘の中でもかなりの情報通として知られている。漫画や小説を書く際に必要な、いわゆるネタ集めに余念が無いからだ。
 その為、綾波が何と無しに寮で感じた奇妙な感じについて何か知らないかと訪ねてみたところ、あろうことか幽霊説が飛び出して来た。



「いやぁ、ホラーは私の趣味じゃないんだけど、それでも何時良いアイデアが浮かぶか分かんないじゃん? 面白そうだな、って思ったネタは極力集めるようにしてるんだよねぇ」
「は、はぁ……そ、それで艦娘の亡霊って……?」


 その言葉に、秋雲は、待ってました! と言わんばかりにグイッ、と身を乗り出して綾波に顔を近づける。



「この鎮守府さ……『出る』んだよ」


 スッ、と一気に目が細くなり、声のトーンも低くて冷たいものになった秋雲に、若干ビクビクしながら綾波は聞く。



「で、出るって……?」

「『鬼』」


 秋雲の口からその単語が飛び出した瞬間、綾波は、今自分たちがいるこの空間に、得体の知れないドロドロとした何かが、ズルリと入り込んできたような、そんな感覚に襲われた。


「お、鬼……?」



 秋雲はコクリ、と小さく頷いて



「元々この近くって、『鬼隠れの里』って呼ばれてたらしいよ? なんでも昔っから不思議な事件が絶えなかったんだって……」

「鬼隠れの、里……」

「『神隠し』だの『変死体』だの『心霊現象』だのね……そんな、とても人がやったとは思えない不思議な事件が勃発してたの。……んで、いつ、どこの誰が言い出したかは分かんないんだけどぉ、むかし、村の外れで、『赤い肌をして、頭から二本の角が生えた怪人を見た』って奴がいたらしいんだ」




 徒然と語る秋雲の話に、綾波は静かに耳を傾け続ける。オカルトやホラー話はあまり耐性がない……と言うよりは興味が無い筈なのに、いつの間にか彼女の話に夢中になってしまっていた。



「……で、それ以来この周辺で起こる奇怪な出来事は、鬼の仕業だって言われるようになって、この鎮守府の周りは、鬼が隠れ潜む場所、って事で『鬼隠れの里』って呼ばれるようになったんだって」

「えっと、つまり秋雲ちゃんは、私が感じたのはその鬼さんの妖気みたいなものだろう……って思ってるの? あ、あれ? でもさっき……」


 艦娘の亡霊だろう、って言ってなかった? と、綾波が口にするより早く、秋雲は片手を大げさに頭の前で横に振る。



「まぁまぁ、慌てなさんなって。……人の話は最後まで聞くもんだよ。そもそも、いくら面白い伝承だからってこの秋雲さんが、そう簡単によくある民間伝承を信じたりするもんかい」


 秋雲は、さっきよりも更にグイっと、差し迫るかのように綾波に顔を近づけ



「綾波はさ『幽鬼』って知らない?」

「ゆう、き……?」


 何の事だかは分からないが、恐らくあまり良い言葉ではなさそうな事だけは分かった。



「まぁ簡単に言うとね、死んで幽霊になった。もしくは死ぬ前に途方も無い恨みや未練を抱えた人が、死後鬼になった物の事を言うんだけど……」












「私、見た事あるんだよね。この鎮守府でだけじゃ無い。生きたまま幽鬼になった艦娘をさ」



 綾波を見る秋雲のくりくりとした円らな瞳に、途方も無く薄暗い影が宿る。その直後だった。











「早速新人を捕まえて怪談話でいびるとは、ずいぶん良い度胸をしているな」




 ドスや迫力など全く無い淡々とした、しかし骨の髄まで響いてそうな声が、鎮守府の廊下に深く響く。秋雲はその声を聞いたとたん、先ほどまでのニマニマとした顔を一瞬で引きつらせる。
 この鎮守府の主である千崎が、いつの間にか綾波と秋雲の背後に立っていた。即座に敬礼姿勢を取る綾波に対し、秋雲は慌てた様子で千崎に話しかけている。



「綾波に招集命令を出したのになかなか来ないと思ったら……秋雲貴様……」

「て、提督~……い、いやだなー。ほんの世間話だって……綾波が待機艦寮で、なんかこう嫌な気配を感じたって言うから、秋雲さんなりに不安を取り除こうとして……」

「どう見ても怖がらせようとしているようにしか見えなかったが? ああ、綾波。敬礼は良い。それと、こいつの話は八割方出鱈目の作り話だから真に受けるなよ? 確かにここら一帯は『鬼隠れの里』と呼ばれていたが……少なくとも、艦娘の幽霊なんて俺は見た事も聞いた事も無いからな」

「は、はい!」

「あっさり比定された……ちぇー。良いじゃん良いじゃん艦娘の幽霊くらいいたってさぁ……」

 
 ぶつくさと文句を言いながらその場を去って行く秋雲に対し、千崎は何も言おうとしない。上官に対し不敬にも過ぎる態度だが、千崎は呆れたような視線を送るだけだった。





「……あ、あの! 招集命令に即座に応答できず、すみません……」

「良いから付いてこい」


 はたと自分が千崎に呼び出されていた事を思い出し深く頭を下げる綾波に、千崎は一言そう告げると自ら先頭に立って歩き出す。数十秒と立たずに廊下を渡りきり、目的地へたどり着いた千崎が提督室に続く大扉を開く。
 提督室の内装は、いたってシンプルな物だ。大きな執務机の他には、紅いカーペットとシックな本棚が二つ。緑色ののカーテンが掛かるようになっている大きな窓の他に、目立つような物は一つも無い。





 そんな提督室の中で、一人の少女は待っていた。





「やーっと来たよ……いやまぁ、こんな日に外へ出かけてた私が言える事じゃないかもしれないけどさぁ」


 橙と白、そして黒を基調とした艦娘用の軍服。闇のように濃い色をした抜き手のグローブと、白雪のように白いマフラーが特徴としてあげられるその艦娘を見た瞬間、綾波の脳裏にある情景が浮かび上がってくる。
 月一つ無い夜の闇に包まれた海上を、まるで影のように静かに掛ける一隻の船の姿を。かつての大戦で、自分達第三水雷戦隊を導いた軽巡洋艦の勇ましく、美しい姿を。



「川内、さん」

「うん、そうだよ。こんばんは綾波」


 川内を見た瞬間、綾波は思わず固まってしまった。懐かしいやら嬉しいやら、自分でもよく分からない感情で、胸の奥がいっぱいになってしまったから。
 先ほどの情景を含め、自らに宿る艦魂がそうさせているのだと頭で理解してはいても、心が上手く動いてくれない。
 そんな綾波を横目に見ながら、千崎は執務机にゆっくりと腰掛ける。



「懐かしいか?」


そう綾波に問う千崎に、綾波はコクリと小さく頷くしかない。



「……そうだろうな。だが振り回されすぎるなよ? お前はかつての大日本帝国が所持していた特Ⅱ駆逐艦―綾波じゃない。全世界連合海軍―日本海軍所属の艦娘―綾波だ。良いな?」

「お堅いとは言わないけどさぁ。だったら初対面な筈なのに懐かしくて戸惑ってる子に対してその言い方はどうなのよ?」


 呆れたように千崎をジト目で見る川内に、大丈夫ですから、と綾波は首を横に振った。
 そもそもこのなんとも言えない感覚を、綾波は今までも何度か経験してきている。同期の駆逐艦娘達もそうだが、初対面の筈なのに懐かしく感じる事があった。
 流石にここまで強く動揺したのは久しぶりだし、脳裏に鮮明な映像が浮かんだ事もあの子を除いて無いが、今までと同じくすぐに慣れるだろう。そんな事よりも、だ。



「あ、あの! 川内さんがここにいるって事はもしかして……」

「そう、こいつがお前の教導艦だ。この鎮守府の仕組みや任務、細かい決め事や教鞭など、訓練を含めて色々叩き込んでもらえ。なんだ、こいつが教導艦じゃ不満か?」


 ブンブン、と勢いよく首を横に振って否定する。そんな事は一切なかったし、そもそもこの鎮守府に着任したばかりの自分に拒否権などある筈も無い。しかし、肝心の川内はなんだか不満げな表情をしている。

 

「ねぇねぇ。今更なんだけどやっぱ私じゃないとダメ? 軽巡なら阿賀野も鬼怒も……なにより神通がいるんだよ? 綾波を一人前の艦娘にするなら、私よりもずっと適任だと思うけど。あ、別に綾波が嫌いとか気に食わないとかそういうんじゃないからね。こっちにも色々あるんだ」

「は、はぁ……」

「ごめんねー、着任早々ゴタゴタしたとこ見せちゃってさ。で、どうですか千崎大佐」

「……ダメだ。お前が一番良い」


 千崎は一瞬だけ閉じた瞳をすぐに開き、ハッキリとそう断言する。こうなってしまうといくら三水戦旗艦の艦魂を宿しているとは言え、一介の艦娘に過ぎない川内に拒否権など無い。川内は「ふぅ……」と小さくため息をつくと






「はいはい分かりましたよーっと。フンだ。綾波が私と同じ夜戦馬鹿になっても知らないかんね。少なくとも気配を感じる勘とセンスは悪く無さそうだし」

(や、夜戦馬鹿……話には聞いていましたけど、やっぱりこの川内さんもそうなのかな……?……あれ?)

「……綾波」


一体何を疑問に思ったのかも分からないまま突如として話を振られた綾波は、ビクリと肩を振るわせて千崎の方を見る。



「こいつは馬鹿でお調子者だから、よろしく頼む」

「あっ、はい」

「ちょっ、あれ? ねぇ逆じゃ無い!? なんで綾波の方にお願いしてんのさ!! 教導艦は私の方でしょ!? 綾波も普通に頷いてんじゃないわよ!!」

「す、すみませんつい……」

「つい!!?」


 ギャーギャーと喚く川内をよそに、千崎は書類一式と筆ペンを机の引き出しから取り出すと、二人に見えるように机の上に置いた。パッと見、どうやら上艦と下艦の間柄を示す簡単な誓約書らしい。



「ほら、二人ともとっとと前口上を述べて書類に名前書き込め。この後は綾波の歓迎会があるんだ。主役が遅刻して良いのか?」

「ここの連中は私含めて気にしなさそうだけど……まぁ良いか。それじゃまず私からっと」


 川内は筆ペンを手に取ると、先ほどまでとはまるで違う凜とした声でこう宣言する。






「第一〇一鎮守府第二艦隊旗艦、川内型軽巡洋艦一番艦―川内。これより新兵艦娘、綾波の教導を行います」


ここまで。それと土日は基本書き溜めの為お休みす

すみません、ちょっと今日不調により投稿出来ません

ただ流石にそれだと申し訳ないので何か要望や質問があれば明日軽く答えます








 ―――件の歓迎会だが、綾波は自分が想像していた以上の注目を浴びる事になった。

 金剛主催の歓迎会が開かれる食堂は、折り紙やパーティーテープなどで作られた色とりどりの飾り付けが施されている。
 綾波が食堂に入った瞬間、待っていたかのように入り口に立っていた金剛に呼ばれた為、裏から壇上に上る前にちらっと見た程度だが、長い木製テーブルにもそこそこ豪華な料理が並んでいた。
 
 これだけでも凄く嬉しく、ともすれば申し訳なく思った綾波だが、そんな思いは焦燥で跡形もなく吹き飛ぶ事となる。



『Heeeeeeeeeyみなサーン! 私の熱いloveとVoiceは.届いてますカー!?』

「………あ、あの、金剛さん」

『んー、ちょっとちょっトー? みんな声がSmallヨー? せっかく新しいComradeが来てるんだかラ、もっと元気よく!! ……BerryGood! 良いお返事をありがとうございマース!!』

「こ、金剛さん、その……」

 
 鎮守府の食堂にある壇上でマイクを片手に和やかな表情で喋る彼女に、前座はもう少し穏やかに済ませて欲しいという綾波の願いは全く届いていない。
 それどころか彼女は自分と同じくテンションの高い艦娘達を煽り、どんどん状況を悪化させているように見える。

 第101鎮守府所属の艦娘は、補給艦などの特殊任務艦を含めても全員で四八名と、人で言う学校のクラス一つ分強程しかいないが、それでもこの後、注目を浴びに浴びた金剛の位置に立って自己紹介しなければならないと思うと、もう気が気ではなかった。





『はい、そこのDestroyers 気持ちはよーく分かりますが、焦らないでネー? 今日来たNew faceは落ち着きのあって冷静な良い子だけドー……ちょっとシャイなところがあるから、あまり緊張させるのはNGなのヨー』

(それが分っているならもう少し押さえてくださいよぉ!? これもしかしなくてもわざとやってますよね? さっきから『一番テンションの高いお前が言うなー!』的ニュアンスのヤジが飛んでますし!?)

『What? なら私が言うなって? HAHAHA―! これは一本取られたネー!…………で、今こっそり「おばあちゃんテンション高すぎでしょ」って呟いた……具体的には三番テーブル39の椅子に座っている子は後でOHANASIデース』


 会議室で見た大淀のそれと似た、しかし向けられた人物以外は思わず笑ってしまうような威圧感ある笑顔を一瞬だけ携えて、金剛はちゃくちゃくと進行を続けてゆく。
 彼女の一挙手一投足に艦娘全員が素直且つ、どことなく気の抜けた様子で注目していた。その様はどちらかと言えば軍というよりは、小さな会社かなにかで行う方の歓迎会に見える。



『ではそろそろ本日のLeadingにご登場願いまショー! 特Ⅱ型駆逐艦のName ship 『綾波』! カモーン!!』

「は、はい!」

「OkOk……relaxヨー。堅い事、あまり考えないで良いからネー」

 
 ガタン! と勢いよく席を飛び上がる。緊張を解すため一度だけ大きく深呼吸をした綾波は、金剛からマイクを受け取ると壇上の中心へと歩いて行く。カツカツという自分の足音が、いやに響いている気がした。



『……えっと。ただいま金剛艦娘士官よりご紹介頂きました、特Ⅱ型駆逐艦の一番艦。綾波と申します……』


 自分の名前、元いた所属訓練所、今後の目標や意気込みなど、至って普通の自己紹介を淡々とこなしていく綾波だが、どうやら自分で思ったよりもずっと緊張しているらしい。なんとなく、本当になんとなくだが、この食堂に集っている艦娘中の半分ぐらいに、頭の天辺からつま先まで徹底的に品定めをされているような、そんな気がしてならないのだ。

 勿論、新しく来た新卒兵が使い物になるかどうか確かめると言った目的で綾波を見ていた艦娘もいるだろうから、その感覚は決して気のせいでは無いとは思う。



 ――しかし



(なんでしょう、この感じ………………まるで)





















 人でも、艦娘でも、無い、何かに、体の奥まで、見られて、いる、ような―――






 そこまで考えて、バカバカしい。と少しだけ首を横に振って邪念を追い払う。これからお世話になる人達になんて失礼な事を考えるのだろう。よほどさっきの秋雲の話が引っかかっていたのだろうか。
 艦娘の中に幽霊が紛れ込んでいて、そいつが自分を見ているとでも? 司令官だって『こいつの話は八割方出鱈目の作り話だから真に受けるなよ?』と言っていたのに。



『皆さんと比べる事すらおこがましい不肖未熟の身ですが、どうかご指導ご鞭撻のほど、よろしく御願いします』


 綾波は心の中で独りごちながら最後に深くお辞儀をすると、金剛を皮切りに艦娘全員から拍手と小さな声援が送られる。少々気恥ずかしくなり顔を若干俯けながら、綾波は壇上の中心から下がっていった。



『はーい! 良い挨拶でしたネー! Thanks綾波! ……それじゃそろそろ……テートクー! propose a toastをお願いしマース!』


 金剛に呼ばれ、日本酒の入ったコップを二つ手に持ったまま壇上に上がった千崎は、綾波にその内一つを手渡すと、すぐにマイクを受け取って簡単な挨拶を始める。



『えー、何か前にも話した気がするが、今回実に四年ぶりに我が第101鎮守府に新たな仲間が加わる事となった。西へ東へ、または北へ南へと任務で忙しい貴艦らの後続として、同じ軍の上官であり先輩として、しばらくの間、色々手ほどきをしてやって欲しい。また、綾波の教導艦は第二艦隊旗艦の川内が直々に勤める。よって、第二艦隊所属の艦娘は明日中に代理旗艦を決め、代理編入艦願いと共に提出するように』


 最後の言葉を紡ぐ前、スラスラと口ごもる事無く喋る千崎の握るコップに、キラキラとした妙な光が宿ったような気がする。



『では最後に……新たなる艦が、いつか、暁の水平線に勝利を刻む船神とならん事を願って……乾杯!』

「「「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」」」


 千崎が音頭を取った直後、カチン!カチン! と、食堂のあちらこちらでガラスの響く音が響き渡った。その心地の良い響きが、綾波には先ほど自分に向けられた拍手と重なって聞こえる。



 ゴクリ、と、その時初めて口に運んだ日本酒の味を、綾波は今も良く思い出せない。ただ、これで正式にこの鎮守府に配属されたのだという実感と、もう後戻りは出来ないという直感だけが、冷やされた酒と共に、彼女の心に染み入っていた。


短いですがここまで。

今日の分の作成データが吹っ飛んだ……申し訳ないですが書き直しに時間を頂きます。書き溜めまで消えなくて良かったです本当



  5



 出撃も遠征も出来ない……と言うより、艦隊に編成すらさせてもらえない。入れてもらえる程の実力も無い新兵卒の綾波が行うべきなのは、即ち一に訓練、二に訓練。三四が座学で、五に訓練である。
 


「よく狙って……てーっ!!」


 ズドン! という大きな発砲音を置き去りにして、綾波の持つ12.7㎝の小口径主砲から放たれた砲弾が、訓練海上に設置されている仮想敵目掛けてすっ飛んでゆく。
 ビニール風船によく似た素材で作れているその小さな目標は、艦娘育成学校で何度となく行われた訓練の時と同じように綾波の砲弾を諸に受け、ドパン! と言う音と共に破裂した。

 あの歓迎会から……つまり、綾波が一〇一鎮守府に着任してから、今日で早くも五日が経とうとしている。
 もう完全に馴染んだ……とはまだまだ言えないが、一〇一鎮守府の構造や、入渠場などと言った各施設の場所。任務時の小さな取り決めや、今後行われる訓練内容などは、三日間で頭に叩き込む事に成功した綾波だった。



 ならば、肝心の訓練はと言うと……





「はいよーし! 朝の砲撃訓練終わり!!」

「は、はい!」

 
 教導艦である川内の一言を受け、すぐさま彼女の元へと滑るように駆けてゆく。
 


「……」

「あ、あの……川内、さん?」


 実に面倒臭いと言わんばかりに顔を渋く歪ませる川内に、綾波はおそるおそる話しかける。
 軍や、それと似た体制を取っている職業界は、プライベートや特殊な事情を除き、上官の許しが無い限り、位が下の者から話しかける事は許されないのだが、この一〇一鎮守府はそういった部分がかなり緩めな上に、川内自身も



『よっぽどの……大本営のお偉いさん達が集まる艦隊式だとか、大規模作戦やそれに準ずる会議だとか、そういうんじゃないなら対人関係は気楽にやって良いよ。提督曰く「そういうのはお堅くないと絞まらない場面だけで良い」んだってさ。まぁ、だからうちの鎮守府、そっちの規律はかなり緩め。んあ? それで良いのかって? 良いの良いの。綾波だって、堅っ苦しくて常に張り詰めた空気が漂ってる鎮守府なんて嫌でしょ? 提督を呼び捨てにする奴もいるわ、艦種合同で行う訓練サボる奴もいるわ、理由はあるんだけど滅多に鎮守府に帰ってこない奴もいるわ、発電機弄って爆発させるアホもいるわ……まぁ最後の奴はしっかりと罰則受けたけど。要は『肝心な場面でしっかり役立つなら、ある程度はご自由に』ってとこかな? それでも気になるってんなら、取りあえず敬語だけ気をつけておけば良いんじゃ無い?』

 と、かなり気楽に言っている。そのあり方を聞いて、軍と言うより規律のとれた傭兵団に近いなと、綾波は感じた。(実際の傭兵団なんて見た事も無いが)
 話は戻り、綾波が川内に話しかけたと同時に、川内はゲンナリとした表情のまま顔を俯かせてため息をつく。「恨むよ提督……」という小さな呟きが聞こえた気がした。



「あのさぁ……」

「は、はい!」


 何か訓練において不足な事があったのだろうか。川内が怒っている理由は残念ながら分らないが、兎にも角にも教導艦から直々に頂くお言葉だ。
 ビシッ! と瞬時に姿勢を正した綾波の耳に、意外な言葉が聞こえてくる



「89 88 95 98 86 100 75」


 規則性も何もない数字の羅列だった。思わずキョトンとした表情を浮かべる綾波。






「……これ、何の数字だか分かる?」

「い、いえ……分りません」

「この五日間で計測した、アンタの基礎戦闘バロメータだよ……これ普通なら教導艦(わたし)要らなくない!? 普通に最前線の戦場で戦ってる駆逐艦並みのスターテスなんだけど!!?」


 勢いよく捲し立てる川内に対し、そんな事言われても……と思うしか無い綾波は何も言う事が出来ない。
 艦娘学校にいた頃からなのだが、胸を張って良いほど優秀な成績を収め、凄い実力者だと周囲から憧憬を集めていても、彼女はその事実にとんと無頓着だった。



「提督が連れてきた子だから、ただ者じゃ無いだろうなとは思ってたけどさ……綾波って、艦娘学校で凄い成績納めた優等生とかだったりした?」

「いえ、その……情けないですけど、どちらかと言えば問題児でした。……あ、でも。家庭科の先生から『百年に一人の逸材だ!!』って褒められた事があります!」

「家庭的だね!?」


 だが違う、そこじゃない。



「はぁ……ここが普通の鎮守府なら即座に第一、第二艦隊に組み込まれるエースだよホント……少なくとも艦としては教導艦が必要不可欠な初期訓練はもう要らない。次からは合同でやるから、連絡があったらキチンと対応してね。じゃ、使った訓練用艤装と仮想標的を片づけたら上がって良し!」

「ありがとうございました!!」


 片付けを綾波に命じ、一足先にその場を後にする。あたしの立つ瀬が無い……と歩きながらぼやく川内の頭の中はずっと前から『これからの訓練内容』でいっぱいになっていた。


 


「『艦としては』確かに申し分ないね……さてと、じゃああっちはどうなのかな?」

























「あ、そう言えば問題児って言ってた理由、聞くの忘れてたなぁ……」


ここまで。書く時間がとれないのは何故だ

バタンキュー(すみません、今日更新出来そうにないです……)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年09月27日 (火) 22:29:48   ID: HAeMGlQ7

ごめんなさい・・・凄く読みづらいです・・・

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