【ガルパン】マタニティ・ウォー! (1000)

みほ(生徒会室に呼び出しかぁ。『絶対に一人で来るように』って、いったい何だろう? まさかまた廃校とかじゃないよね……)


コンコン


みほ「あの、西住みほです。呼び出し放送を聞いて、来ました」

桃『ん、西住か。入ってくれ』

みほ「はい、失礼します」


キィィィィィ


杏「や、西住ちゃん」

柚子「ごめんね。お昼休み中に突然呼び出して」

みほ「いえ、えっとそれで、何でしょう? 戦車道のお話しですか?」

杏「まぁ、とりあえず、西住ちゃんもソファーに座ってよ」

柚子「冷たいお茶を用意するね」

みほ「あ、はい。ありがとうございます」

みほ(……なんだろ、お話し、長くなる感じなのかな)

杏「おーい、かーしま、例のFAX、持ってきてー」

桃「は」

みほ「FAXって、なんのFAXですか?」

杏「それがねぇ、なんと北米の戦車道連盟から」

みほ「北米って、アメリカの戦車道連盟ですか?」

杏「そ。まぁ厳密には、日本の戦車道連盟がまず受け取って、それを要約してうちの学校にも転送してくれたってわけ。……うちの学校だけじゃなくて、今ごろはすべての学校に、ね」

みほ「えと、いったい、どういうお話なんですか?」

杏「これがねぇ、ホント、冗談みたいな内容なんだよねぇ~」

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みほ「はぁ、そうなんですか」

杏「でもFAXが届くと同時に連盟から電話もかかってきてね。もう理事長のうろたえっぷりったら! 笑っちゃったよ」

みほ「はぁ」

杏「ま、おかげで、本当のことなんだなって認めるしかなくなっちゃったんだけどね。……ほんと、今でも冗談みたい」

みほ「……?」

桃「会長、お待たせしました。こちらです」

杏「うい、あんがと。ま、西住ちゃんも読んでもらえばわかると思うよ」

みほ「はぁ」

杏「……ただし」

みほ「はい?」

杏「今これから知ることは、まだ他の誰にも話さないでほしい」

みほ「え……」

杏「かーしま、このFAX最初にうちに来たのはいつだったっけ」

桃「四日前、ですね」

杏「そっか、四日も前か。西住ちゃん。私、皆にどう話したらいいのかって、すっごく悩んだ」

みほ「会長が」

杏「だけど、とにかくまずは西住ちゃんにって。そう思って、今日は西住ちゃんに来てもらったの」

みほ「は、はぁ」

杏「これを読んだら、西住ちゃんもすっごくショックを受けると思う。だから、覚悟をして読んでほしい。……ごめんね、脅かすような感じで」

柚子「西住さん。冷たい、お茶、持ってきたよ。……ここ、おいておくね」

みほ「あ、はい、ありがとうございます」

みほ(……皆の顔、なんだかすごくこわばってる感じがする……いったいなんなの? 会長の持ってるFAXに、いったい何が書いてあるの?)

杏「じゃあ、西住ちゃん、このFAXを渡すね」

みほ「あ、はい」

杏「時間をかけて、ゆっくり読んでくれたらいいからね。授業時間のことも気にしなくていい。私たちのことも、気にしなくていいから」

柚子「気がすむまで、読んでね」

桃「私たちも、お前が落ち着くまで黙っているから」

みほ「は、はい……」

みほ(うう、なんだか、どきどきしてきちゃった)

みほ(えっと、『戦車道関係者各位』、『緊急通達』……)

みほ「……え……?」

みほ「……『戦車道履修者における無性生殖的妊娠の可能性について指摘。および調査経過報告』……」

みほ(……な、なにこれ……!?)

桃「……」

柚子「……」

杏「……ほんと、これが冗談じゃないっていうのが、何よりの冗談だよ……」

みほ(……戦車道を行っている10代の女子が、突然妊娠。その、エッチなこともしていないのに……つわり、あるいは生理不順をきっかけに状態を自覚……)

みほ(……当初は単独の異常事例だと思われていたものが、実は各州で発生……判明後すみやかに事象情報を収集、統計化、対応機関を設置……)

みほ(……当該少女の隔離。入院。遺伝子検査……受精卵から、ど、同性のチームメイトの遺伝子!? ……未妊婦戦車道履修者についても現時点で全員を隔離……)

みほ(……その後すみやかに各国へ情報共有。該当女子への速やかな注意喚起、心のケア、戦車道の一時廃止……連盟による産後社会保障の検討あるいは……早期堕胎の処置について!?)

みほ(なにこれ、なにこれ、なにこれ!? 現実!? 私も妊娠するかもしれない? なによそれ!)



<キーンコーンカーンコーン



みほ(あ……午後の授業が……)

みほ(授業……そうだよ、私はただの高校生なのに……妊娠って……何それ。妊娠したらどうするの? どうしたらいいの? いやそもそもありえないよ……頭がクラクラする……)

柚子「西住さん、大丈夫? ……大丈夫じゃないよね……。冷たいもの、飲むといいよ」

みほ「……あ、はい……」


……ゴクゴク……

コト……カタンッ

みほ「あう、すいませんコップが、倒れて……手が震えちゃって」

桃「いい。気にするな」

杏「誰だってそうなるよ」

柚子「桃ちゃんなんか、顔中真っ青になってたもんね」

桃「うるさい! と、叫ぶ気力もでない。この件に関してはな」

柚子「まぁ、そうだよね……」

みほ(……この人達は、何で当たり前のように受け入れて、話をしているの……?)

みほ「ま、待ってください! おかしいじゃないですかこんなの!!」

杏「だよねぇ」

みほ「だ、だよねえじゃないです! な、なにもしていないのに妊娠だなんて! しかも友達の遺伝子って、友達の子供ってことですか!?」

桃「……」

みほ「ありえません! ありえませんよ! 何もかもがありえませんよ! だってそうでしょう!? 何がどうしたらそうなるんですか!?」

柚子「西住さん……」

杏「まぁ西住ちゃんの言う通りだよ。何もかもが、あまりにも非科学的だよねぇ。実際アメリカの方でも、いまだ完全には意見が統一されてないんだってさ」

みほ「じゃあやっぱり……何かの間違いなんじゃないんですか」

杏「普通に考えたらそうだよね。でもね、認めるしかないんだよ、目の前につきつけられた現実をね。それから目を背けちゃったら、それこそ非科学的なんじゃないかな」

桃「米国は宇宙人による誘拐の可能性も真剣に検討しているそうです。まぁ、事象があまりにぶっ飛んでいるのだから、推論も突飛にならざるを得ないのかもしれませんが」

みほ「う、うちゅーじん」

みほ(だめ、もう、頭がついていかない……お姉ちゃん……お母さん……あ!?)

みほ「あ、あの! 私のお母さんは!? これが本当の事なら、お母さんは戦車道の家元だから当然この事を知っていますよね!?」

杏「もちろん。っていうか……伝言を預かってるんだ。4日前、西住ちゃんのお母さんともしゃべったよ」

みほ「伝言……!?」

杏「この事を知ったら、とりあえず家に電話をしてほしいって」

みほ「電話、ですか」

杏「本音を言えば、今すぐ家に帰ってきてほしい、って感じだったけどね」

みほ「え……」

柚子「きっと、心配してるんだよ。こんな異常事態なんだもん」

みほ「お母さんが私のことを」

みほ(ああ……ってことは、これって、本当に本当のことなんだ……あはは、お母さんが心配してくれて嬉しいって思うよりも、そよりも、なんか、……ぼーぜんとしちゃう……)

桃「まぁこんな事になってしまったんだ。西住も、親元に帰りたいと思う気持があるだろう。だけどその前に一つ、私達に力を貸してほしい」

みほ「え?」

杏「私達はこれから少しづつ、戦車道を履修している皆に自体の告知を行おうと思う」

みほ「会長が、ですか。……だけど、こういう事でしたら、連盟の方達に説明してもらったほうがいいんじゃないでしょうか……」

柚子「うん。実際にそうしている学校もあるみたい。だけどうちは……」

杏「私の口から、皆に伝えたいんだ。私はこれを、人任せにしたくない。皆私の大事な、チームメイトなんだ」

桃「それに、そういったトップダウン的なやり方は、我が生徒会の前々からのやり方だ。それを踏襲すれば、わずかにでも皆の動揺を抑えられるかもしれない」

柚子「一番心配なのは、一年生の子達だよね」

桃「その通り。私達だってまだ動揺してるんだ。15歳の女の子が、簡単にこんなめちゃくちゃな現実を受け止められるはずがない」

杏「そこでだ、あんこうチームにはうさぎさんチームの動揺を受け止めてあげてほしい。だからまずは西住ちゃんからあんこうチームの皆に、こっそり伝えてほしいんだ」

みほ「私の口から、皆に……」

杏「無理っぽいなら、後日私の口から伝えるよ。だけど西住ちゃんにはその時までには心を落ち着けて、皆の動揺を助けてあげてほしい」

桃「パニックを防ぐためには、段階を踏んで情報を公表していくべきだと思う。情報統制を厳として、な」

みほ「……そう、ですね……そうかもしれません……」

みほ(三人とも、なんて立派なんだろう……)

みほ「……正直今でも頭が混乱してます。だけど……生徒会の皆さんがしっかりしてるところを見ると、ちょっぴり安心するっていうか、私もしっかりしなきゃって……思えます」

杏「ま、上がアタフタしてたら、まとまるものもまとまらないからね。私達だって、本当は強がってるだけなんだけどね、にひひ」

桃「強がってみせるのも、上の者の役目ですから」

柚子「ふふ、桃ちゃんがいうと、なんだか可笑しいね」

桃「うるさいっ」

みほ「そうですよね、私も隊長なんだから、しっかりしなきゃ。そ、それに、戦車道をやっているから必ず妊娠するって、決まったわけじゃないんですよね!」

桃「ん……まぁ、な」

柚子「そう、なんだけどね……」

杏「……」

みほ「……?」

杏「……西住ちゃんには、言っておこうかな」

桃「えっ」

柚子「か、会長」

杏「……私はね……もう、妊娠してるみたいなだよ」

みほ「え!?」

桃「……この数日の間に、私達3人は学園艦内で検査を受けたんだ。データベースへ遺伝子情報の登録も、行った」

柚子「そしたら会長は、もう、すでに……」

みほ「そ、そんな……」

杏「まいっちゃうよねぇ……こーんなチンチクリンなのに、お母さんになっちゃうんだって、あはは」

みほ「ど、どうして笑っていられるんですか!? これからどうするつもりなですか!? ほ、本当に妊娠してるだなんて……!」

杏「……まだ、私にもわからないよ。この先どうしていいのかだなんて。だからそう声を荒げないでほしいなぁ」

みほ「……あ、すみません……」

杏「私だってわかんない。わかんないよ。でもね……この小さな私のおなかの中に、どうやら私の子供がいるらしい。それだけは現実らしいんだ。だから、それだけは、認めなくちゃいけない……」

みほ「……会長……」

杏「私だって、今自分の身に何が起きているのかさっぱりわからないし、怖いよ。だけど……私は負けない」

柚子「西住さん。私たちも一緒に、会長と、戦うって決めたの、この目の前の現実と」

みほ「副会長……」

桃「お前にも、一緒に立ち向かってほしいと思う。……お前だけじゃない。戦車道チーム全員でだ!」

みほ「……!」

杏「ま、今すぐに元気を出してくれとは言わないよ。だけど、西住ちゃんなら絶対に私達の力になってくれるって、信じてる」

みほ「……はい。まだ、何が何だかさっぱりわかりません。だけど、私も、この学校と、みなさんと、チームの皆が大好きですから……」

杏「んっ! ……まぁ、今日は午後の授業なんていーからさ。生徒会室でゆっくりしてな。落ち着くまでね」

柚子「お茶、もう一杯いれるね」

桃「会長。会長も少し休んでください。おなかに子供がいるですから……」

杏「まだゴマ粒ほどの大きさもないはずだけどねぇ~。……へへ、ねぇ西住ちゃん。この子のパパがだれか、教えてあげよっか?」

みほ「パ、パパ!?」

杏「へへへー、実はね、この目の前にいる河嶋が、この子のパパなんだってさ!」

みほ「え、えええええええーーー!!!???」

桃「言わないでくださいよぅ……」

杏「遺伝子検査で分かったんだ。言っとくけど、私は河嶋とちゅーだってしてないからな?……ホント、不思議だよね。いったい私のおなかで、何が起こってるんだろう……」

みほ「もう、本当に、わけがわかりません……」

杏「だよねぇ、あはは」

桃「……会長!」

杏「んぁ?」

桃「会長と、会長のおなかの子供は、私が命を懸けて守りますから! 絶対に私が守りますから!」

杏「あはは、ありがとね~。んじゃそこのほしイモとって」

桃「はいっ!」

みほ(……この人達はどうして笑っていられるんだろう? もう笑うしかないのかなぁ?……ああ、もうだめだぁ、少し考えるのをやめよう。頭がどうにかなっちゃうよ……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ(……ん……あ、私、寝ちゃってたんだ)

みほ(今何時だろう? ……まだ30分しかたってないんだ。もっとずっと寝てたような気がするのに)

みほ「ふぁぁ」

みほ(……あ、生徒会長と桃さんも、お休みしてる……)

みほ(ソファーで一緒に。桃さんが生徒会長を膝枕して、なんだか恋人同士みたい)

みほ(ううん、もう恋人どころじゃ、ないんだよね。生徒会長のおなかの中に、桃さんの子供が。でも、そんなことって……やっぱりとても信じられないよ……)

柚子「あ、西住さん、もう起きちゃったの?」

みほ「副会長。すみません、私いつの間にか眠ってしまって」

柚子「気にしないで。もっとゆっくり、寝ててもいいからね」

みほ「ありがとうございます。だけど、次の休み時間には教室に戻ります。皆、心配してると思うし」

柚子「西住さんは、大丈夫?」

みほ「えと、どうでしょう。あはは、自分でもよくわかりません……」

柚子「そうだよね……」

桃&杏「スー……スー……」

みほ「あのう、会長は本当に、本当に、妊娠しているんですか? 桃さんの子供を」

柚子「うん。お医者様は、間違いないって」

みほ「……なんだか、全部夢なんじゃないかって……そんな気がしてるんです」

柚子「私も、これって本当に現実なのかなって、時々ほっぺたをつねっちゃう」

みほ「ですよね……」

柚子「会長、気丈に振る舞ってはいるけれど、本当は、昨日も、一昨日も、あんまり眠れてないみたいなの」

みほ「……そうなんですか……」

柚子「会長を一人にはしておけないからって、桃ちゃんが一緒に添い寝してくれてるんだけど……会長、夜中に何度も目が覚めて……不安で体が震えてるって……」

みほ「……」

柚子「そのたびに桃ちゃん、会長をぎゅっと抱きしめてあげて……そうすると少しの間は落ち着くみたいだけど……でも、朝になるまで、それが何度も何度も……」

みほ「……みんな、どうなっちゃうんでしょう……」

柚子「そうだね。本当に、どうなっちゃうんだろうね……」

杏「……こ~ら、小山」

柚子「あっ、会長」

杏「ふぁぁ……あんまり西住ちゃんを不安にさせちゃだめだよ。それでなくても私達は西住ちゃんに頼りっきりなんだから。こんな時くらい、私達はもっと強がってなきゃ」

柚子「あ、そ、そうだよね、ごめんね、西住さん」

みほ「いえ、そんな。やっぱり皆さんも不安なんだなって、変な言い方だけど、それはそれでなんだか安心しちゃいました」

柚子「……西住さんってやっぱりすごい、ふふ」

みほ「そ、そうですか?」

杏「……ねぇ西住ちゃん、これからいったい何が起こるのか、今はまだ、世界中の誰にもわからないんだと思う」

みほ「……」

杏「だけど、私には小山も河嶋もいる。大洗の皆もいる。私は一人じゃない。だから、絶対につぶれないよ、私は」

みほ「会長……」

杏「にひひ、できれば西住ちゃんにも一緒にいてほしいけど、だけど、西住ちゃんは西住ちゃんで、自分の事を第一に考えなきゃ」

柚子「お母さまも、きっと、大変だと思うの」

みほ「え? お母さんが、ですか?」

杏「連盟は最前線で対応にあたる責務を負うだろうし、戦車道そのものだって、この先どうなるか。その家元が、何事もなくいられるかな」

みほ「たしかに、そうですね……」

杏「極端な話、『女子が戦車道をすると全員が無条件に妊娠します。だけど原因はわかりません』なんて結論になったら、もうホント、何がどうなるやら。それでなくても、戦車道を疑問視する団体は常々いるのに」

みほ「……戦車道、なくなっちゃうんでしょうか……世界中の戦車道が……」

柚子「会長……もうそれくらいで」

杏「へ? あ、あああ! 西住ちゃんごめん! 西住ちゃんを不安にさせちゃあダメだって、自分で言ったばっかりなのにねぇ……いやぁ、これがマタニティブルーってやつかな? どうもここ数日は、だめだなぁ、あははは……」

みほ「い、いえ、仕方ないですよ」

杏「とにかく、本当に、西住ちゃんは自分の事をまず第一に考えてよね」

柚子「そうだよ。会長の言う通り」

みほ「は、はぁ」

杏「それに私ね、お腹の子のパパが河嶋でよかったって、そう思ってるんだよ」

みほ「え……?」

杏「河嶋ってば、自分も遺伝的にはこの子の『親』なんだって知って以来、『絶対に二人を守る』って、もーホントうるさくってさぁ……馬鹿だよねぇ……だけどほんとは、それがすっごく嬉しくて……河嶋が側にいてくれなかったら、今頃私……なんちゃってね、にひひ」

柚子「会長! 私だって、会長と桃ちゃんの赤ちゃんなんだもん、絶対守ってあげなきゃって、思ってますから!」

杏「えへへ、あんがと。ほんとに……別の手段だって、無くはないのにね……」

柚子「……っ」

みほ(別の手段って……あっ……『堕胎』……)

杏「ま、とにかく、そーいうわけで私は一人じゃないっ、だから大丈夫! それと、私が今言ったことは、河嶋には秘密だぞっ」

柚子「ちゃんと伝えてあげれば、桃ちゃん、すごく喜ぶと思いますけど……」

杏「だーめ。だってこれ以上くっつかれたら、鬱陶しいんだもん」

柚子「もう、いまさら強がっったって、しかたないじゃないですか」

杏「と・に・か・く、かーしまには言っちゃ駄目だからね~」

みほ「あ、あはは……」

みほ(……そっか、分かった……皆、一人じゃないから、こうやって笑っていられるんだ……自分を支えてくれる人がいるから……)

みほ(……)

みほ(優花里さん、沙織さん、華さん、麻子さん)

みほ「……」

みほ(お姉ちゃんも、もう、知ってるのかな……他の学園の皆も……)

みほ(……お母さん……)



<キーンコーンカーンコーン



みほ「あ」

柚子「休み時間だね……どうする? 別に、いそいで教室に戻ることはないと思うけど……」

みほ「……いえ、戻ります。もどって、放課後になったら、皆に」

杏「無理は、しなくていいからね。西住ちゃんが言えなければ、私が言えばいいんだし」

みほ「はい。も、もしかしたら、お願いするかもしれませんけど……でも、皆、仲間ですから。だから私が、いわなきゃ」

みほ(……皆、どんな顔をするだろう……やっぱりビックリするよね……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ(あぁ、そろそろ教室についちゃう、皆に何て言おう。何もしていないのに妊娠するかもしれないだなんて、信じてくれるかなぁ……)

沙織「あ-! みぽりん帰ってきた!!」

みほ「あ……み、皆……」

麻子「やっと戻ってきたか」

華「みほさん、あれからずっと生徒会室にいたのですか?」

優花里「あんまりにも遅いから、これから皆で生徒会室に突撃しようかって相談をしていたんですよ!」

みほ「あぅ、ごめんね、心配かけて」

沙織「先生に聞いても、みぽりんは生徒会室で用事がある、としか答えてくれないし」

みほ「え……」

みほ(もしかして……先生達にはもう、話は伝わっているのかな)

沙織「私みぽりんの事が心配で心配で……ちっとも授業に集中できなかったんだから!」

麻子「それはいつもの事じゃないのか」

沙織「麻子ひどい!」

みほ「……あはは」

みほ(あぁ、皆といると、こんな時でもやっぱり気持が落ち着く……)

華「それにしてもみほさん。本当にいったい、何のお話しだったのです?」

優花里「ま、まさかまた大洗が廃校に!?」

みほ「あはは、やっぱりそれ、考えちゃうよね……でも、違うの」

麻子「じゃあ、なんなんだ」

みほ「えっと、それは、えっと」

麻子「?」

みほ「うぅ……ちょっとややこしい話で、まだ、私の中でもうまく言葉がまとまってなくて……ほ、放課後! 放課後にゆっくり、皆にお話しするから! それまで待って! お願い!」

沙織「え、えぇ~、じらさないでよー……なんだかすっごく不安になるんだけど……」

華「みほさんがそういうのなら、仕方ありませんが……」

優花里「あの、西住殿、大丈夫ですか? なんだかすっごく顔が強張ってますが」

麻子「言い辛い事なら、なおのことさっさと話してしまったほうが、楽になれる」

みほ「うぅ……」

<キーンコーンカーンコーン


優花里「あ……じゃあ私は教室に戻りますけど……西住殿、ほんとに大丈夫ですか?」

みほ「う、うん。じゃあ、放課後にね?」

優花里「むぅ、わかりました」


<タッタッタッタ……


沙織「ねぇみぽりん、なんだか汗かいてる」

麻子「脂汗じゃないのか、これ」

華「みほさん……」

みほ「皆、ほんとにごめんね、私は、大丈夫だから……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



みほ(……授業内容、全然頭に入らないや……)

みほ(……。)

みほ(普通に学校に登校して、普通に授業を受けて……当たり前の生活を送ってるのに……)

みほ(なんでこんな事になったんだろう。会長、大丈夫かな……)

みほ(……私も、妊娠しちゃうのかな……)

……ゾクッ……

みほ(妊娠したら、どうしよう)

みほ(産むのかな。産まなきゃいけないのかな。だって、赤ちゃんを殺すだなんて、できないよ……だけどどうしたらいいの!? わからない、わからないよ)

みほ(何もわからないのに……もし、本当妊娠したら……『どうしたらいいの?』なんてもう言ってられないんだ……)

……ゾゾゾゾゾッ……

みほ(そんなのって無いよ! 赤ちゃんを抱えて、私、どうやって生きていけばいいの!?)

みほ(お金もいっぱいいるし、住むところだって、お仕事もしなきゃ……でも、赤ちゃんを育てながらどうやってお仕事したらいいの? 連盟が助けてくれるの!?)

みほ(……お母さんは、助けてくれるかな、私のこと、本当に心配してくれてるのかな……)

みほ(もし……もしも万が一だれも助けてくれなかったら、私と赤ちゃんと、どうやって生きていくの!?)

みほ(私は、会長みたいに強くない!!!)

みほ(なんで!? ねぇなんで!? なんで私が妊娠しなきゃいけないの!?)

みほ(お姉ちゃん!!! こわいよお姉ちゃん!!! 助けて!!!)

……ガクガクガクガク……



……シズミサン?……にしずみさん!?……



先生1「──西住さん!!」

みほ「あ!? は、はい!?」

先生1「西住さん、どうしたの? 具合が悪いの?」

みほ「え……あ……」

沙織「ちょっとみぽりん! すごい汗だよっ!?」

華「体が震えてるし、私達の声も聞こえていなかったようですし……」

みほ「す、すみません! 考え事を……」

先生1「……。西住さん」

みほ「は、はい」

先生1「保険室で休んでらっしゃい。それと、沙織さん、華さん、それに冷泉さんも、三人で一緒に保健室までみほさん支えてあげて」

麻子「わかりました」

みほ(あ……そっか、先生は、やっぱりもう……知ってるんだ)

沙織「みぽりん、早く行こ!」

華「一度汗をふかないと、本当に風邪をひいてしまいます」

みほ「皆、ありがとう……」

麻子「肩につかまれ」

先生1「三人とも、保健室ではついててあげなさ……ん?」


ダダダダダ……

先生1「もう、授業中に廊下をドタドタ廊下を走って、一体誰!?」


ツカツカツカツカ

ガラッ!


先生1「こら! 一体どこのクラスの生徒!? ……ってわあああああ!? ちょっとあなた達!?」



ドタドタドタドタ!!!



梓「ふえええええん! 隊長ぉ~~~~~~!!」

みほ「梓ちゃん!?」

優季「沙織せんぱぁぁぁい!!! うぇえええええん!!!」

沙織「優季ちゃん! ていうか、うさぎさんチーム全員!? み、皆一体どうしたのよ!?」

麻子「うお、どうして全員泣いてるんだ」

華「まぁ沙希さんまで、どうしたんです? よしよし」

紗希「……(;;)」

みほ(も、もしかして皆、例の話を知って……そんな、どうして!? なんで話が伝わってるの!?)

梓「隊長! 本当なんですか!? 私たち全員にんし--」

みほ「わああ梓ちゃん待って!」

梓「もが!?」

みほ(ダメだ! こんなところで騒いでちゃいけない! 話がどんどん広がっちゃう!)

みほ「せ、先生! この子達みんな戦車道の一年生です!」

先生1「あ……! わ、わかったわ、皆、全員で保健室へ---じゃなくて、戦車倉庫へ行きなさい! 特別のミーティングがあるのよね!? そうよね!?」

沙織「へ!?」

みほ「そ、そうなんです! ウサギさんチーム、あんこうチームのみんな、行きます!」

麻子「なんだ西住さん、元気じゃないか」

華「ほんとですねぇ」

みほ「早く! 皆急いでください! はいフォー! フォーです! パンツァーフォーッ!!!」

沙織「ええええええ? ちょっとみぽりん!?」

うさぎさんチーム『ふえええええん!』



ドタドタドタドタドタ!!!!

みほ(だけどどうしよう! どうしたら!? あんこうチームの皆にもまだ話をしてないのに!)

沙織『なになに、いったいなんなのぉ???』

華『さぁ……?』

うさぎさんチーム『ふぇぇぇ……』

みほ(……!! しっかりしなきゃ! 私は隊長なんだから!! 私が泣いてちゃいけない!!! そうだ、会長だって決して強いわけじゃない、必死に、強くあろうとしてるだけ!)



<ガラッ!



みほ(あっ、別のクラスの先生かな……!? うるさいって怒られるのかな!?)


<モジャッ


優花里「あれ!? やっぱり皆さんじゃないですか!!」

みほ「優花里さん!」

優花里「み、皆して一体どうしたのであります?」

みほ「優花里さんも一緒にきて!」 

優花里「ふぇ!?」

先生2「こら! お前らなんだ!? 何をしてる!?」

みほ「あのっ、私達戦車道の生徒です! 緊急です!」

先生2「んおッ、そ、そうか……秋山! 緊急の戦車道ミーティングだそうだ! 行ってこい!」

優花里「へ!?」

みほ「優花里さん早く!」

優花里「りょ、了解であります???」

みほ(先生達にはもうちゃんと話が伝わってるんだ、私達の知らない間に。だけど、なんでそこまでしっかり情報統制していながら、うさぎさんチームにどうして話が漏れたんだろう???)

優花里『いったい何が始まるんです?』

麻子『さっぱりわからない』

うさぎさんチーム『ふぇぇぇ……』

みほ「くっ……ボコ! お願いボコ! ボコの勇気を私に貸して! ボコボコボコボコー!! 私もボコになるんだぁーーー!!! わぁーーーーー!!!」

沙織「み、みぽりんが壊れちゃった!?」

華「あら~」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



うさぎさんチーム『うぇぇぇぇん!! いやだよお! こわいよおおおお!!!』

沙織「ねぇ! 皆どうしたの!? 何で泣いてるの!? 何がそんなに怖いの!?」

みほ「っ……」

みほ(戦車倉庫に来たはいいけど、ど、どうしたらいいの!? どうする!? 考えて! 考えて!!!)

みほ(まずはアンコウチームの皆に説明して、なんとかいそいで理解してもらって、それから皆でウサギさんチームを慰めて──)

桂利奈「うわあああああん! 私、ママになんかなれないよおおおおお! お母さぁぁぁん!」

優花里「マ、ママ!? 皆いったい何を言っているの!?」

みほ(──いやそれじゃだめ! 今すぐウサギさんチームの皆を今すぐ落ち着かせてあげないと! 怖いよね! 皆怖いよね! いつまでもこんな気持ちでいたら、皆、頭がおかしくなっちゃう!)

あゆみ「やぁぁぁ! 妊娠なんてしたくなぃぃぃ!」

華「にんし……!? ま、まさか……だれかに、ひどい事されたんですか!?」エロドウジンミタイニ!

沙織「は!? ちょ、ちょっとまってよ! 何よそれ!? まさか……そんな……!!」ワナワナ

麻子「皆! お願いだから落ち着いてくれ! 何があったのか教えてくれ!!」

ウサギさんチーム『わあああああああん!!!』

沙織「やめっ、皆泣かないで! 泣いてちゃ……グスッ、泣いてちゃわかんないよおおお!」

ウサギさんチーム『わああああああああああああああああああああん!!!!』

みほ(ああっ……ボコ……お姉ちゃん……私に勇気を……!)




みほ「──皆! 静かにして!! 口を閉じてください!!!」




あんこう『ッ!?』

うさぎ『……ふぇ……?』


みほ「お願いです! 私の話を聞いてください。私の話だけを聞いてください!」

沙織「みぽりん……」

みほ「私は、私だけは全部、わかってますから!」

優花里「え……?」

みほ「今ここで何が起こってるのか、なぜウサギさんチームが泣いてるのか、あんこうチームの皆が何を知らないのかも、私だけは全部わかってます!! だから私に全部まかせてください!」

みほ(本当は私にだって何もわからないよ……でも、私が皆を守らなきゃ!)

沙織「だったら早く説明してよ! 私もう何がなんだか──」

みほ「沙織さん黙って!!」

沙織「え……っ」

みほ「乱暴に言って、ごめんね。でも、どうか、お願いだから」

沙織「……」

華「……皆さん、ここはみほさんを信じましょう」

優花里「そうですね、そうしましょう!」

麻子「沙織、一緒に深呼吸だ」

沙織「う、うん……すぅーはぁー……」

ウサギさんチーム『……うう……隊長……』

みほ(まずはこれでいい、よね、ボコ、お姉ちゃん……っ)

みほ「では皆さんそれぞれチーム毎に戦車に乗り込んでください」

沙織「え……」

華「沙織さん、とにかく、みほさんの指示に従いましょう」

沙織「わ、わかったわよ……」

みほ「全員が乗車した後、私はまずM3リーに乗り込みます。そこでちゃんとウサギさんチームの皆さんとお話をします。……ね、だからみんな、落ち着いて」

あや「西住隊長……」

桂利奈「あ、あい……」

梓「わかりました……」

みほ「ウサギさんチームとのお話が終わったら、次は4号に移ります。それから、何が起こっているのか、ちゃんとすべて、あんこうチームの皆さんにも説明します」

優花里「りょ、了解」

みほ「ただ、先にこれだけは言っておきます。……誰かに乱暴をされたとか、そういう話じゃないから、それだけは安心してください」

沙織「……ほんとに? 絶対?」

みほ「うん。絶対だよ、沙織さん」

沙織「……あぁ……よかった……よかったよぉ……」

みほ「──それでは改めて、全員、乗車!」


全員『は、はい……』


……カン、カン……カン、カン……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


みほ(……全員、乗車完了……)

みほ「……ハァ……ッ」

みほ(……だめ! へたりこんじゃダメ……そしたらきっと、もう二度と立ち上がれない)

みほ(……今すぐここから逃げ出したい……熊本に帰って、お姉ちゃんに会いたい……お姉ちゃん! 皆にいったいどう説明したらいいの? どうしたら皆を安心させられるの? 私だって、こんなに混乱しているのに……)

みほ(……でも、今、皆を支えられるのは……私だけなんだよね……そうだよね、ボコ……!)

みほ「私、頑張る、今だけは頑張る。だから……これが終わったら、皆も私を、支えてくれるかな……」

みほ(……すぅっ……はぁっ……)


みほ「──西住みほ、M3リー、乗車しますっ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

……キィ……


……カタン……





みほ「皆……」

ウサギさんチーム『……』

みほ(皆、涙で顔がぐちゃぐちゃ……ごめんね、ごめんね……!)

梓「西住隊長……」

みほ「梓ちゃん、おいでっ」

梓「隊長……!」


ぎゅっ


みほ「よしよし、怖いよね、怖かったよね……」

あや「隊長ぉぉぉ!」

みほ「あやちゃんも、さ、おいで。皆おいで! 皆で一緒に、くっつこ? そうすればきっと少しだけ安心できるから!」

優季「うあああん!」

桂利奈「たいちょー!」

あゆみ「ふぇぇ……」

みほ「ほら、沙希さんも」

紗希「……っ(;;)」


ぎゅうー……


みほ「よしよし……皆あったかいね。ほんとにウサギさんみたい……」

みほ(ああ、こんなにかわいい子達なのに……! なんで!? どうして皆がこんな思いしなきゃけないの!?)

梓「隊長……」

みほ「ん?」

梓「私達、ほんとうに妊娠しちゃうんですか!? 戦車道をやってる女の子は、妊娠しちゃうんですか!?」

みほ「……それは……」

みほ(落ち着け、落ち着け! すぅー……はぁー……)

みほ「梓ちゃん、ごめんね、その話を、いったい誰から聞いたの?」

あや「あの、私です」

みほ「へ?」

あや「私が、アリサさんから聞いたんです……」

みほ「アリサさん!?」

あや「私、アリサさんとはよく連絡をとってって、それで……」

みほ「二人は、連絡をとりあってたんだ……」

あや「大学選抜戦の後連絡先を交換して、それから……」

みほ「そっか……」


みほ(……)ギリッ


みほ(アリサさん……アリサさんはいったい、何をやってるんですか!? この子達をこんなに怯えさせて!!)


あや「で、でも! アリサさんは悪くないんです!」

みほ「……?」

あや「アリサさんは、私達の事を心配して、連絡してきてくれたんです。……はじめはアリサさん、私達がこのことを知ってるかどうかそれとなく探ってて……もちろんその時の私は、何の事かは分かってなかったけど、とにかく知ってるふりをして、喋ってたんです……だからアリサさんは、私達がもう知ってるんだと思って……」

優季「ふぇぇん……あやちゃん、ホントそういうの得意だもんね」

桂利奈「えぐえぐ……ほんとそーゆーとこやらしーよね、あやちゃんって……ぐすっ」

みほ「そ、そう、だったんだね……だけど、それにしたって……」

あや「アリサさん……妊娠してるそうです……」

みほ「……!!!!!」

あや「『告白もしてないのに』って、自分で笑ってました……たぶん、空元気で……」

みほ(……アリサさん……)

あや「それから、『あんたたちは大丈夫? 怖くて泣いてない?』って、『いろいろ不安だろうけど、難しいことは大人がきっとなんとかしてくれるから、あんまり心配するなって』……」

梓「あやからその話を聞いたのが、お昼休みの時です……ひっく。でも私達、訳が分からなくって、放課後、隊長に聞きに行こうって皆で話してて……」

あゆみ「だけど、授業中ずっとその事が頭から離れなくて、なんだかすっごく不安で、怖くて、私、涙が止まらなくなっちゃって……」

優季「あゆみちゃんが泣いてるのをみてたら、私も我慢できなくなっちゃって……」

みほ「そっか……それで結局、みんなが泣きだしちゃって、もうどうしようもなくなっちゃったんだね」

梓「そうなんですぅ! 私、私は車長なんだから泣いちゃだめだって、頑張ったんですけど、でもでも……わあああああん! どうしても我慢できなくてえええ!! うえええん!」

紗希「……(;;)」

桂利奈「皆泣かないでよぅ! 泣かな……ふええええん!」

みほ「……我慢しなくていいんだよ。皆で一緒に泣こ? 怖かったね。怖かったよね。私だって……考えてると、不安で体が震えるもの……」

梓「隊長も……じ、じゃあ、アリサさんの話は、本当なんですね……!?」

みほ「……うん、本当だよ」

あや「……! ひ、ひっく、うええええん!」

優季「彼氏もいないのに、なんで妊娠するのぉぉぉぉ……!?」

みほ「そうだね、ほんとだね、訳が分からないよね……」

ウサギさチーム『うわああああああん!』

みほ「よしよし……」

みほ(……アリサさんが、妊娠……! ああもう、頭がおかしくなる! 会長だけじゃない、誰が妊娠するか本当にわからないんだ! ……私も、妊娠するかもしれないんだ……)

……ブルッ……

みほ「……っ」

みほ(……だから泣いちゃだめっ! この子達の前では絶対にダメっ!)

みほ(……だけど、ほんとうに、どうしたらいいの? ……こんな事、私達にはどうしようも……)

みほ「……あ……」


──いろいろ不安だろうけど、難しいことは大人がきっとなんとかしてくれるから──



──連盟による産後社会保障の検討あるいは──




みほ「……」

梓「……? 隊長?」

みほ(……そうだよ、本当にどうしようもないんだ。私達にどうにかできることじゃないんだ)

みほ(だって、何もしていないのに妊娠するだなんて、そもそも対処できるはずがないよ)

みほ(それをどうにかしようって考えるほうが、間違ってる)

みほ「……」

梓「隊長、お願いです、何か言ってください。私……怖いんです……」

みほ「あ……ごめんね、そうだよね、怖いよね」

あゆみ「私達これから、どうしたらいいんですか」

みほ「……。皆聞いて」

あゆみ「……?」

みほ「私達にはもう、どうしようもないんだと思う」

あや「え……」

優季「そ、そんな、じゃあどうしたら」

みほ「だめ! どうにかしようって、考えちゃだめ!」

桂利奈「ふぇ!?」

みほ「私達でどうにかしようなんて、絶対に考えちゃだめ! だれかを頼るの!」

梓「頼るって、誰を」

みほ「誰でもいい。お父さんでも、お母さんでも、先生でも、戦車道連盟の人でも、私達先輩もでも、友達でも! とにかく絶対に一人で、自分達だけで、考えちゃダメ!」

みほ「不安な事、怖い事、心配な事、全部だれかに話すの。話して、いろんな人達でなんとかするの。私達だけで抱えないようにするの」

みほ「こんな不条理な事、どうしようもないよ! だから皆に力を貸してもらう。そうするしか、ないと思う」

梓「……」

みほ「もちろん、それでもやっぱり、怖いし、不安だし、泣きたくなると思う。そういう時は、こうやって、皆で泣くの。 暗い部屋で一人きりにじゃなくて、広い場所で一緒に、皆で!」

梓「……隊長」

みほ「うん?」

梓「私……少しだけ、隊長の言ってること、理解できるような気がします」

優季「私よくわかんなぁい……ひっく」

桂利奈「私も……うう」

あゆみ「……」

あゆみ「……たぶん、こういう事、なのかな」


ぎゅっ


優季「ふぇ? あゆみ……? ……あ……そーやってぎゅっとしてくれると、ちょっとだけ落ち着くかも……」

あや「……そっか。それだよ」


ぎゅっ


桂利奈「あやちゃん……あったかい……」

紗希「……」


ぎゅっ


梓「紗希……ありがと……」

みほ「そう、そうだよ皆。いつも誰かといなきゃだめ」

みほ「……この先、私達の誰かが、妊娠するかもしれない。ううん、すでに妊娠してるかもしれない……」

優季「……ひっく……」

みほ「だけど、どうやって子育てをしようとか、どうやって生きていこうとか、そんな事は今は考えない」

みほ「どうしたらいいですか? って、まずは身の回りのあらゆる人に頼るの。そして皆で考えてもらうの。いい? 絶対だよ! 約束して! ……返事は!?」

ウサギさんチーム『は、はい!』

みほ「……そう、これでいいはず……うん、あんこうチームの皆にも……」

桂利奈「あ……たいちょう、いっちゃうんですか……?」

みほ「うん、ごめんね……あのね……あんこうチームの皆は、まだこの事を何もを知らないの」

梓「え!?」

あゆみ「そうなんですか!?」

みほ「というより、戦車道を履修しているほとんどの皆が、まだ何も知らないの。本当は、あなたたちにこの話を伝えるのも、もう少し後になるはずだったの……」

あや「あ……そうか……私がアリサさんから聞いちゃったから……」

みほ「あはは、まぁ、ね……」

あや「あ、あの、アリサさんのこと怒らないでください! アリサさん、いじわるだし、ちょっと嫌味なとこもあるけど、ほんとに私達のことを心配してくれて……」

みほ「わかった。……はじめはちょっぴり怒ってたけどね。だけど、悪気はなかったんだもんね……」

梓「……ちょっぴりって雰囲気じゃ、なかったどね……」

あや「あはは……」

みほ「じゃあ、行ってくるね。また後で、こんどはアンコウチームの皆も一緒に、話そ!」

梓「……! あ、あの!」

みほ「ん?」

梓「私も、一緒に行っていいですか!?」

みほ「え……!?」

優季「あ……それ、ナイスアイデアかも~」

梓「先輩たちも、きっと、ショックを受けると思います。だから、先に知ってる私達がいたほうが、なにか、力になれるかも……」

みほ「だ、だけど皆は大丈夫なの? 皆だってまだ……」

あゆみ「まだまだいっぱい不安です……で、でも、隊長のおかげで、ちょっとだけ、元気はでましたっ」

あや「西住隊長がいなくなっちゃたら不安だし……それに、どうせ泣くなら、先輩と一緒に皆で泣けばいいかも……ね、桂利奈ちゃん」

桂利奈「そだね、そうかもっ」

みほ(……この子達は……!)

みほ「……み、みんなぁっ……」



ぎゅうううううううう!!



優季「ぎゃあ」

梓「く、くるしい」

あゆみ「むぎゅう」

あや「もみくちゃあ~」

みほ「みんな、本当にえらいよ……私、あなた達の事が、大好き……!」

紗希「……💛」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



梓「西住隊長。ウサギさんチーム、全員降車、完了しました。」

みほ「うん。それじゃ、アンコウチームの皆にも、外に出てきてもらうね」

梓「そっか、全員は入れないですもんね」

あや「またもみくちゃになっちゃう~」

桂利奈「わたしは気持いかったけどね~」

みほ「あはは…………うっ!?」

みほ(え、何!? 急に吐き気が──)

梓「え、隊長──?」



みほ「オェ! ォロゲェェェェッ!!」



ビチャアッ!!



優季「ひゃあああ!?」

梓「隊長!?」

みほ「……かはぁっ! ォェッ! ……はぁっ……はぁっ……ご、ごめんね、皆、かからなかった……?」

あゆみ「そ、そんなことよりも! 大丈夫ですか!?」

みほ「う、うん……はぁ、はぁ……なんだろう……」

みほ(なんで? まさか食中毒? ……うぷ! またすごい吐き気が!)

みほ「み、皆はなれ──ゲロぱァァァァァッ!!」



パシャァッ!!



あや「わあああ! ど、どうしようどうしよう!?」

梓「み、皆落ち着いて!」

みほ(ハァ、ハァ……なんで!? なんで!? ……あ……! これって、まさか……)

桂利奈「わああ! せ、先輩! 沙織先輩! 華先輩! 早くでてきてください! 西住隊長がぁー!」


ガンガンガン!

……バタン!


沙織「何!? どうしたの……ってわあああ!? みぽりん!?」

華「どうされたんです!?」

優花里「に、西住殿大丈夫ですか!?」

麻子「ちび達、水だ! 水をもってこい!」

桂利奈「あ、あいぃぃ!!」

みほ(……はぁ……はぁ……これ……これって……つわり!?)

みほ(……ああ、そんな……心のどこかで、私はもしかしたら妊娠しないかもって、そう思ってた……そう思いたかった……お姉ちゃん、やっぱり怖いよ……お母さん……助けてお母さん……!)

梓「……あれ? 紗希、どうしたの? やだ、紗希も気持悪いの!?」

みほ(え──)

紗希「……」

紗希「オロゲェッ」


ビチャビチャァ!



華「!?」

麻子「!?」

優花里「!?」

沙織「きゃあああ!? 紗希ちゃんも!? 何よ、何なのよおお!?」



みほ(あ、あ、あああ……うそ……うそ……)



みほ(あああああ……神様……!!!)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ(……頭が、くらくらする……目も、チカチカする……)


みほ「──はぁっ──はぁっ──」


みほ(息が、できない……苦しい、怖い、だれか助けて……)


みほ「──はぁっ──っ、……ああ……ああああ……!」


みほ(妊娠したんだ! 赤ちゃんが、いるんだ! 私のおなかの中に! 私の子供が!)

みほ(どうして!? 誰の!? なんで!?)

みほ(『出産』『子育て』『お母さん』──え!?)

みほ(どうするの!? 産むの!? ……産めるの!? 誰が育てるの!? 私!? 私が育てるの!? どうやって!?) 

みほ「──どうしよう──どうしよう──どうしたらいいの──お姉ちゃん、お母さん──」

みほ(……ああ! だめ! 今は考えちゃダメ!……)

みほ(──簡単に言わないで! 私のおなかの中に子供がいるんだよ!? 考えちゃだめだなんて、そんな簡単にいわないでよ!!! そんな事できるわけないよ!!! 考えちゃうにきまってるよ!!!)



……ポリン……みぽりん……みぽりん!!


みほ「──あ……」

沙織「聞こえる!? 私の声、聞こえてる……!?」

みほ「……沙織さん」

沙織「ああよかった……やっと、答えてくれた……ねぇ、いったいどうしちゃったの!?」

優花里「西住殿、これ、水、飲めますか」

みほ(私、いつのまにか座り込んで……う、口の中が、気持ち悪い……そっか嘔吐しちゃったから……)

みほ(……あっ)

みほ「二人とも! 紗季さん、紗季さんは!?」

優花里「大丈夫ですよ! 華さんと冷泉殿と、他の皆も一緒に、あちらで見てくれてますから」

みほ「よかった……」

沙織「これ、口の周りふいて」

みほ「だけど、ハンカチが汚れちゃう」

沙織「そんなことどうだっていいから!」


グシグシ……

優花里「さぁ、口をゆすいでください」

みほ「うん、……」


ごくごく……


みほ「──ハァ、……二人ともありがとう、少しだけ、楽になった」

優花里「気分はどうです? まだ吐き気はありますか?」

みほ「うん、でも、大丈夫」

みほ(……体中が震えてる……胸の奥が、まるで凍ってるみたいに冷たい……だけど、紗季さんっ)


グッ


沙織「あ……大丈夫なの!? 座ってなよ!」

みほ「ううん、立つ……立たなきゃ」

優花里「けど、これ、もしかして集団食虫毒じゃないですか? 紗季さんも吐いてしまってます。やばいですよこれは……」

沙織「早く、皆で病院にいこう!」

みほ(……違う……たぶん、違うの……)

みほ(紗季さん──)

沙織「ちょ……ね、ねぇ、みぽりんってば!」


とた、とた、とた……


あや「紗季、ほら、お水だよ。座ったままでいいから、少しづつ飲んで……」

紗季「……」コクコク

華「紗季さん。寒くはありませんか? 頭痛は」

麻子「少し、体が震えてるな……顔色も悪い……」

みほ「──紗季さんっ」

紗季「……!」

梓「あ、隊長……!」

華「みほさん、立ち上がって大丈夫ですか?」

優花里「少し、足元がふらついています……」

麻子「二人とも、とにかく早く病院へ行くべきだ」

沙織「そうだよっ」

みほ(……)

梓「……あの、隊長……まさか紗季も……隊長も……」

みほ「……わからない。けど……かも、しれない……」

優希「!」

あゆみ「うそ……」

桂利奈「さきぃ……」

みほ「……紗季さん、顔、良く見せて」

紗季「……」カタカタ

みほ「っ! 紗季、さん……!」


ぎゅうううっ

みほ(こんなに震えて……怖いよね! 怖いよね!! 私も、怖いよっ)

紗季「……っ」ポロポロ

みほ(なんで!? なんでこの子なの!? 神様なんで、どうしてなんですか!? 意地悪をするならせめて私だけにしてください! なぜこんな小さな子に……!!)

みほ(あ……だめっ涙がっ……)

みほ(でも、もう、止められないよぉ……!)

みほ「……くっ、う、ううっ、……ううっ、ううううううっ」

桂利奈「あ、……た、たいちょう……やだぁ、隊長泣かないで下さいよぅ……」

優希「ふぇ、うぇぇぇ、ふえええ……」

あゆみ「た、たいちょう、ひっぐ……」

梓「……っ」

優花里「み、みんな……」

沙織「ちょ、ちょっと、本当にどうしちゃったのよ!? みぽりんまで……! もういや! お願いだからだれか説明してよお!」

麻子「沙織っ」

華「沙織さん、落ち着いてください!」

沙織「だって、みぽりんが泣いてるんだよ!? 皆が泣いてるんだよ!? こんなの普通じゃないよ!! 皆どうしちゃったのよお! 誰か教えてよおおお!!」

みほ(……っ、泣いてちゃだめなのに! 私がなんとかしなきゃいけないのにっ)

みほ(止まって! 止まって! これ以上泣いてられないの!)

みほ「──はぁッ、ぐっ、ひっぐ……うぅっ──ううううっ」

みほ(どうして止まってくれないの!? 泣いてちゃいけないのにっ お願いだから止まってよお……! そうしなきゃだめなの!

沙織「やだ、もうやだ! こんなのいやああああああああ!」

麻子「沙織!!」

みほ(そうしないと、皆が、皆が! どうかお願い止まって──────)





────ドガァァァァァァァァン!!!!!!!





全員『──────ッ!?』





パラ……パラパラ……

──ひゅぅぅぅ──



優花里「へ、ヘッツァーが……とつぜん発砲して、そ、倉庫の壁をぶち抜きました……」

みほ(ヘッツァー──)

みほ(──会長!?)

……かっぱん……

ひょこっ


杏「や、皆……びっくりさせてごめんね。とりあえず……落ちついてもらえたかな」

全員『……』


ひょこっ

柚子「実弾を打つ必要は、あったんでしょうか……」


ひょこっ

桃「ま、まぁ、緊急事態だ。学校側への説明はなんとでもなる……たぶん……」

杏「今はどーでもいいんだよ、そんなこと。……よいしょっっ」


すたっ! すたたたたた……

杏「西住ちゃん……」

みほ「……会長! 会長……!!」

杏「西住ちゃん、ごめんね……きっとまた、一番しんどい所を、西住ちゃん一人に支えてもらっちゃったんだね……」

みほ「会長、どうしてここに」

桃「サンダースから緊急連絡があった」

みほ「サンダース……?」

杏「おケイがエッライ剣幕でね~、『うちのバカがやらかしたかもしれない! 今すぐウサギさん達の様子を確認して!』ってね」

みほ「……あっ……!」

みほ(そっか! アリサさん、あやちゃんの様子が何かおかしいって、ちゃんと気づいてくれたんだ! それでもしもを考えてケイさんに……)

柚子「急いで一年生の教室に行ってみたら、皆飛び出していったっていうし……それで先生達からの話を追って、慌ててここまできたの。そしたら皆、大泣きしてるから……」

あや「……あああっ!? 全然確認する余裕なかったけど、アリサさんからすっごいたくさん着信がきてる……メールやラインも……」

桃「ったく、余計な事をしてくれた……」

柚子「ケイさんの声の感じ、あれは、アリサさんただの反省会じゃ、すまなさそうだね……」

あや「あのう、でも、アリサさんは悪くないんです……」

杏「でもバラしちゃったのは事実だしねぇ……ま、あやちゃんの方から、おケイに連絡してあげてよ。……もう遅いかもしれないけど」

みほ「あ、あはは……うっ……?」

みほ(──気が抜けたのかな、頭がすっごくクラクラする──でも……!)

みほ「あの、会長……!」

杏「ん」

みほ「今すぐ、全員に話をすべきです」

杏「西住ちゃん」

桃「いや、しかしそれではパニックに……」

みほ「そもそも、パニックになるなというのが無理なんです。だから、こうなったら、皆で一緒にパニックになるんです。そのほうが、かえって皆が気持を共有できるはずです」

桃「い、言ってることが無茶苦茶だぞ!?」

みほ「会長もわかると思いますけど、こんな事、どうしたって一人じゃ抱えきれません。冷静でなんか、いられません……だから、皆で一緒にパニックになるしか、ないと思います」

杏「……ふむ……」

桃「し、しかしなぁ」

梓「……あ、あの! 私も西住隊長に賛成です!」

桂利奈「です!」

柚子「あなたたち……」

梓「西住隊長のおかげで、私達、もう、全部ちゃんと理解してます! こんなこと……泣かなきゃやってられませんよっ!」

杏「……全員でパニックになったほうが結局は冷静でいられる、か……その通りかもしれないね……よし! 決めた! 小山! 非常呼集だ! 授業中だろうが何だろうが、戦車道履修者は全員ここに集合!」

柚子「はい!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



<キンコーンカンコーン『非常呼集! 非常呼集! 戦車道履修者は、全員ただちに戦車倉庫に集合してください! 繰り返します──』



杏「西住ちゃん、ごめんね……そもそも最初から、こうすべきだったのかもしれない」

みほ「会長……」

杏「やっぱり駄目だね。どうにも、判断が鈍ってる。でも、たとえどんな状態でも、弱音を吐いてる場合じゃない……」

みほ「……こんな事になって、冷静でいられるはずがありません……私もよく、それが実感できました」

杏「……え?」

みほ「私、さっき、嘔吐しちゃったんです。紗季さんも」

杏「……!」

みほ「たぶん、二人とも、もう……」

杏「……西住ちゃんっ!! 紗季ちゃんっ!!」


ぎゅっ!!!


杏「頑張ろうね! 皆で一緒に、頑張ろうね……!」

みほ「会長……うぇっ、ひっく……」

紗季「……(;;)」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


優花里「なんだか私達、完全に置いてけぼりですねぇ……」

華「あら、沙織さんったら、完全に白目むいて固まっちゃって……」

麻子「ほっとけ。正確な情報が伝わってくるまで、そのほうが静かでいい」

沙織「」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ざわざわ……


桃「各チーム、全員そろっているか?」

ホシノ「レオポン、オッケーで~す」

そど子「ちょっと! 授業中に呼び出すなんて、いくら生徒会でも横暴よっ」

典子「せっかく体育バレーの時間だったのに~」

エルヴィン「非常呼集とはいったい何事」

左衛門座「まさか、また大洗廃校か!?」

優花里「あぁ、やっぱりそれ、考えちゃいますよね~」

ねこにゃー「むむむ、もしや例の役人がどこぞに潜みおるのではあるまいにゃ!?」

ももがー「それは聞き捨てならんもも!」

ぴよたん「あぶりだして袋だたきにしてやるぴよー!」


<アワワワワワワワワッ


麻子「……あの役人、二度とこの学園の敷居をまたげないな」

華「小指を詰めるだけでは、これはもうおさまりませんねぇ」

みほ「……」

優花里「西住殿、西住殿……」

みほ「……あ、ごめん、何?」

優花里「顔色、やっぱり悪いですよ、保健室か、それか、ちゃんと病院に……」

みほ「ううん、大丈夫。……ここにいる」

優花里「そう、ですか……」

みほ「……」

紗希「……」

みほ「紗希さん、ううん、紗希ちゃん。手……つなご?」

紗希「……」コクン

ギュッ

みほ(はぁ……駄目だ。考えちゃだめって思えば思うほど……考えちゃうよ……)



桃「よーし、全員、こちらに注目しろ」

杏「あー……みんなごめんね、授業中に突然呼び出したりして、すまない」

杏「けれど、どうしても皆に伝えなくちゃならない大切な話があるんだ」


……ざわざわ……やっぱり廃校……

杏「学園や戦車道についての話では、ないんだ」

杏「これから皆に聞いてもらう話は……ここにいる全員の、私達の、各々の人生そのものに深刻な影響を及ぼす、とても重大な話なんだ」

杏「いきなり、ごめんね。でも、これは脅しじゃないんだ……全員、心して聞いてほしい」


……しーん………


杏「じゃあ、後は……お願いね」

梓「ーーはいっ!」


ゾロゾロゾロゾロ

……ざわざわ……


あけび「ウサギさんチーム……?」

妙子「……あれ? 紗希ちゃんは?」

麻子「こっちにいる」

華「紗希さん、少し体調が優れなくて……というか、みほさんもですが……」

優花里「二人ともどこかで休んでいてほしいのですが……どうしてもここにいるって……」

みほ(……だって、皆と、一緒にいたい。静かなところになんか、とてもいられないよ……)

あや「う~、最初の挨拶は私かぁ。緊張するなぁ」

梓「落ち着いて、あや。ゆっくり、一つ一つ話せばいいの」

あや「そ、そうだね……」

桃「……」

桃「な、なぁ、お前達……」

あゆみ「?」

桃「……やっぱり、ダメだっ。 お前達にこんな役目を負わせるなんてできるか! こんな事は、私や会長がやるべきだ!」

優希「えぇ? もぉ~、いまさらですかぁ~? さっきちゃんと話あったじゃないですかぁ」

桃「しかし……」

柚子「桃ちゃん、気持ちは分かるけど、今はこの子達を信じよう?」

梓「そうですよ先輩。私達に任せてください!」

桃「……。……わかった……すまないが……お前達に、託す。どうか……頑張ってくれ」

桂利奈「あい! やったりまぁすっ!」

みほ「……みんな……」

杏「西住ちゃん」

みほ「……会長」

杏「『私達が発表します!』、か……まさかあの子達が、自分からそんな事を言ってくれるなんてね」

みほ「でも、確かに、とっても良いアイデアだと思います」

杏「そりゃあそうかも、しれないけどねぇ……」

みほ「みんなこれから、すぐには立ち直れないくらいの大きなショックを受けます。この後、確実に……それはもう、防ぎようがありません……。だけどそれでも、あの子達が、あんなに小さな子達が、くじけず健気に頑張ってる姿を見せてくれたなら……きっとそれは、みんなの励みになるはずです」

杏「それはわかるよ。だけど私……なんだか不甲斐無くてねぇ」

みほ「だけど、これはあの子達だからこそ可能な戦術です。あの子達に、ゆだねましょう」

杏「……。さすがだよ、西住ちゃんは。こんな時でもそんな事を考えられるんだ。強いね……」

みほ(……。)

みほ(会長。違うんです私は……最低の人間です。少しも強くなんかないんです)

みほ(私のお腹に子供がいるかもって、考えれば考えるほど怖くなってきて……もう、今、どうしようもないんです……考えちゃダメってわかってるのに……)

みほ(だから、だから……)

みほ(はやく皆にも、このおかしな現実を知ってほしいんです。)

みほ(皆にもこの恐怖を、知ってほしいです。一人でも多く、一緒に苦しんでくれる仲間がほしいんです。できるだけ大勢の人に、私が今どんなに恐ろしい気持ちでいるのかを、理解してほしいんです。……もう、一人では耐えられません……)

みほ(それでも一応、ちょっぴりみんなには申し訳ないなぁっていう気持ちもあって。そしたら、なんだか、罪滅ぼしのつもりなのかな……頭の別に一部では、妙に冷静に、どうしたらいいかなぁっ考えることもできてしまって……ふふ、人間って、不思議ですね……)

みほ(……)

みほ(私だけが妊娠して、それで他の皆が助かるのならそれで構わないって……私、さっき、どうしてそんな事を、一瞬でも考えることができたんだろう。どこに……そんな勇気があったんだろう。それとも私……自分でも気が付かないくらいの、嘘つきなのかな……)

みほ(……)

みほ(なんでこれが、現実なんだろう?)

みほ(どうしてこんな夢みたいな悪夢が、現実なんだろう?)

みほ(……って思った次の瞬間、はっと目が覚めて……そこはいつものベッドの上で……。ほっと胸をなでおろして、ああ夢でよかったって……だけどまだ心臓はドキドキしてて……きっと身体もパジャマも汗でびっしょりだから、シャワーも浴びなきゃ。それからいつも通りに学校へいって、みんなにこの夢のことを話すの。そしたら、『バカな夢だね』って皆が笑ってくれて……どうしてそれが、夢なの……? ちょっと意地悪が、すぎませんか……?)

みほ(……)

みほ(……ごめんね。あなたのお母さん、もっと立派な人だったらいいのにね。ウサギさんチームのあの子達みたいな……)

みほ(……ね、そうだよね)

みほ(……どうせならあの子達の内のだれかの赤ちゃんに、なれたらよかったのにね……えっとね、そうだなぁ、梓ちゃんとか、おすすめだよ……?)

みほ(……)

みほ(……っ!!!!!)

みほ(私、今、何を……なんて事を……)

みほ(最低だ……ああ……私……ほんとに最低だ……ああっ……)

みほ「……ッ……ッ」ガタガタガタ…

紗希「……」ギュッ

みほ「……あ、紗希、ちゃん?」

紗希「……?」

みほ「う、ううん、なんでもなの。……なんでもない……ありがとう……ごめんね……」

杏「ね、紗季ちゃん。私とも、手を繋いでくれる?」

紗希「……」コクン

ぎゅっ……

杏「……にひひ。ありがとね。紗希ちゃんんの手は暖かいねぇ……」

みほ「……」

みほ(会長。私も、そんな風に笑いたいです。私のお腹の中の、この子の『親』が誰かわかれば……一緒にこの重荷を支えてくれる人がいたら……私もまた会長みたいに、笑えますか?)



あや「……で、では皆さん、まず私から、え、えーと……どうぞご清聴をお願いします……」

あや「えー……あのー……」

あや「……じ、実は私達……に、妊っ娠っ、しちゃうかもしれませんっ!!!」

杏「ぶっ」

そど子「は、はあああああ!?」

左衛門座「な、なんだと……」

おりょう「事案発生ぜよ……」

梓「ちょ、ちょっと、そんな言い方じゃあちゃんと理解してもらえるわけないでしょ!? 会長からもらったFAX!あれ読んで!」

あや「あわわわ……ど、どれだっけ……!?」

あゆみ「これだよ!」

パゾ美「ねぇ、これ、もしかして、風紀案件……?」

そど子「ちょっと貴方たち!? 一体どーゆーこと!? ことによっては懲罰ものよ!?」

ゴモ代「その前に、ちょっとくらいはあの子達を心配してあげたら?」

そど子「そ、それもそうね……で、でもとにかくもっとちゃんと説明しなさい! 尋問よ!」

桂利奈「わぁぁ、静かに、みんな静かにしてくださいぃぃ~」

優希「どうか落ち着いてぇ~」

杏「……あははは。いやぁ、やっぱりみんな、可愛いねぇ。」

みほ(……)

杏「けどさぁ、あのの子のいった事、少しも間違ってないんだよねぇ。やっぱりたちの悪い冗談だよ。何もかもが……」

みほ(あ……会長の苦しそうな表情……なんだか少し……ほっとしちゃう。そうですよね。会長も、辛いんですよね。……なんで忘れてたんだろ……もう、よく、わかんないよ……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


梓「────明日、皆で一緒に検査機関へ行けたらと思います。あの、皆さん、すぐには信じられないかもしれないけど……全部事実なんです。皆で、励まし合って、助け合って……一緒に頑張りましょう!」

桂里奈「がんばろー!」

梓「で、では、これで、終わります」

あや「ご清聴、ありがとうございましたぁ」


──シィン──

……ぱちぱちぱちぱちッ!


柚子「も、桃ちゃん!? 拍手するような場面じゃないよ! 皆呆然としてるんだよっ!?」

桃「だからこそ私達が拍手するんだ! 一年生がこんなに頑張ったんだぞ! 私がやらずして一体誰がやる! お前達! 立派だったぞおおお!!!」

あゆみ「か、河嶋先輩、いいですからやめてください……」

優希「河嶋先輩って、意外と親ばかになりそぉ」

桃「うぉー、貴様らは我が校の誇りだぁー!」

みほ(……)

みほ「紗季ちゃん、ほら、見て、みんなが……」

紗季「……?」

みほ(みんな、どういうことなのか理解できないって顔してる。当たり前だよね……。だけど、理解できてもでいなくても、関係ないんだよね。信じても、信じなくても、現実はただ目の前にあって……どんなにそれから逃げ出したくっても、もう、自分達にはどうすることもできない……。以前の私は、まだ、黒森峰から逃げ出すことができた。だけど、今、私達は、いったいどこに逃げたらいんだろうね……)

杏「……さぁて、ちょーっとだけ、気合いれよっかな」

みほ「会長?」

スタスタスタスタ……

杏「皆、話はいま聞いた通りだ。……ただ、当たり前だけど、こんな話すぐには信じられないよね」

全員『……』

杏「だからまず、今の話が嘘じゃないって、皆に証拠を示そうと思う」

全員『……?』

杏「私は、妊娠してる」

全員『!?』

……ざわざわ、どよどよ……

優花里「……ど……どうするつもりなんです……? う、産むんですか……?」

杏「……。一つ、はっきりと知らせておくけど、戦車道連盟は私達を見捨てはしない。それは理事長からも確約を得ている。……まだ、口約束だけどね。だから、それだけは安心してほしい。皆に何がおこっても、また皆がどんな決断を行おうとも、今回の件で、皆の人生が破滅するようなことだけは、絶対にさせない。それだけは約束する」

優花里「……」

杏「とにかく、今はゆっくり時間を取って、各自落ち着こう。気になることや心配なことは、私に聞いてよ。できる限り答える」

そど子「こんなのって、こんなのって……不純異性交遊……じゃなくて、不純……何!? いったい何なのよお!?」

エルヴィン「まるで、聖母マリアの処女受胎……」

典子「うぁー……子供ができたら、しばらくバレーは無理……かなぁ……」

華「……沙織さんを、このままにしておいて、よかったです……きっと大騒ぎでした……」

優花里「私達が説明しなきゃいけないんですけどね……」

華「う、胃が」

沙織「」

みほ(うまくいった、かな。これで皆で、一緒に……)

麻子「……」

麻子「……ちょっと待てくれ……皆、今の話を、本当に信じてるのか?」

みほ(……麻子さん!)

そど子「え?」

華「麻子さん……?」

麻子「会長が妊娠してるというが、その証拠はいったいどこにある」

柚子「……この知らせを私達が受け取ったのは、実はもう数日前のことなの。私達はすでに、検査を受けたわ」

麻子「だから、それのどこが、『証拠』なんだっ」

麻子「妊娠した、検査を受けた、そんな事は口先で何とでもいえる! そんなもの証拠でもなんでもない。そもそも、こんなバカな話……生徒会のいつもの悪ふざけに、決まってるだろっ! 一年生まで利用して! こんな大騒ぎまでこしらえて!」

梓「そんな!? 違います! 私達は嘘なんか……」

麻子「うるさい!」

梓「……っ!」

みほ(……いつも冷静な麻子さんが……どうして? 少し、意外……)

桃「冷泉。私達はちゃんと病院の診断書類を持っている。それに、なんだったら連盟の理事長に確認をしてくれてもいい。すべて……本当の事だ」

麻子「書類なんて、いくらでも偽造できる! 連盟の理事長だって……生徒会長の悪だくみに乗らされてるだけだっ!」

優花里「れ、冷泉殿、少し、落ち着きましょう、気持はわかりますが……」

麻子「落ち着いていられるか! 皆こんな話を信じてるのか!? なら皆、大馬鹿者だ! 今まで何を勉強してきたんだ! 戦車にのってるだけで妊娠……!? 冗談はいいかげんいしてくれ! 言って良い冗談と悪い冗談の区別もつかなくなったのか! あんたら生徒会は!」

梓「麻子先輩……」


杏「……」

杏「わかった」

杏「じゃあ、お金を渡すから、妊娠検査薬を買ってきてよ」

麻子「え……?」

杏「他にも、信じられない人は今ここで申し出て。全員にお金を渡すから、各自、どこかで……できるだけ、バラバラのお店で、妊娠検査薬を買ってきてほしい」

杏「そしたら私が……ちゃんと皆の見てる前で、それにオシッコ、するから」

そど子「うぇぇ!?」

桃「会長っ!? やめてください! そこまでしなくても!」

杏「皆の理解の助けになるなら、それくらい安いもんだよ」

桃「で、でも、だからって!」

麻子「っ……そ、そんな事しても、証拠になんかなるもんかっ!」

柚子「冷泉さん!?」

麻子「それで分かるのは会長が妊娠してるってことだけだ! 彼氏か誰かの子供を妊娠して、それを都合よくはったりに利用してるだけだ!」

みほ(……えっ……!?)

華「麻子さん!!!!???」

そど子「ちょっとあなた!?」

優花里「冷泉殿いけません! それはいけませんよ!!」

杏「……そこまで、信用してもらえてないとは、ちょっと……予想してなかった、かな……あはは、参っちゃうね……」

桃「れ、冷泉!! 貴様ぁッ!」

柚子「桃ちゃん、だめっ!」

みほ(まずい……ダメ、こんなのダメだよ! 皆が、バラバラになってく……! そんなの、絶対にダメ! 皆で助け合うために、お話ししてるのに!)

みほ「あ、あの、麻子さん!」

みほ「麻子さんがショックを受けてるのはわかります。でも、どうして、そこまでかたくなに……ちょっと、変です!」

麻子「……。そういえば西住さん。さっき、吐いてたよね……」

麻子「あれ、もしかして……つわり?」」

華「あっ……!?」

優花里「に、西住殿、西住殿も、まさか……!」

麻子「そうか、やっぱり……つわりのつもりなんだな」

華「え……?」

麻子「……西住さんも、会長とグルなんだ……」

みほ「麻子……さん……」

優花里「冷泉殿ッ! あんなに苦しそうにしてたのに、演技なわけ、ないじゃないですか!? 冷泉殿……ちょっとひどすぎますよ!?」



みほ(……違う! しかたがないんだ! 麻子さんは、こわくて混乱してるんだ! だってその気持ちは、怖さは、私にもわかるもん! 私だって、ひどい事いっぱい考えちゃったもん! 麻子さんを責めることなんて、できない!)

みほ「待ってください! みなさんも、麻子さんも、落ち着いてください、皆、普通じゃないんです! 今は、いったん、冷静になりましょうよ!」

みほ(失敗……かもしれない、一度にみんなに話したのは……! 私の判断ミスだ! 麻子さんが、こんなにで取り乱すなんて! でも、どうして麻子さんはこんなに……)

麻子「……西住さんが演技なら、じゃあ……」

みほ「え……」

麻子「……紗季ちゃんも……」

紗季「……え……?」

麻子「紗季ちゃんも、演技だったのか……?」



みほ(──────!!!)




みほ「ま……麻子さんッッッ!!」

優花里「あ!?」




──パァンッ!!




全員「──!?」



麻子「──……っ」

みほ「あ──……わ、私……カッとなって……麻子さん、ごめん……」

麻子「……」

みほ「だけど、麻子さん──私になら、いくらでも、どんな事でも、言ってかまいません。全部、受け止めます。だけど、紗季さんは、すごく怯えてるんです。だから……それだけは……やめてください」

華「……紗季さん、紗季さんも……!?」

優花里「……私……もう膝の力が、抜けそうです……」



麻子「……信じてたまるか……! 信じてたまるかあああああああああああ!!!」



みほ「ま、麻子……さん……?」

麻子「皆はいいよね……皆はお母さんもお父さんもいるから、いいよね!!!

麻子「ちゃんと、お父さんとお母さんが助けてくれるから、いいよね!!!」

みほ(……あ……!)

麻子「けど、けど私には、おばあしかいないんだ!!」

麻子「おばあだって、いつまでも元気じゃないのに……」

麻子「こんな事になるなら、こんな目に合うなら……」

麻子「……っ」

麻子「私、戦車道なんて──やるんじゃなかった!!!」

みほ(──!!!)

みほ「それは違います! そんな事いわないでください! 戦車道のおかげで私は皆と出会えたんです! 麻子さんとだって……!」 

麻子「その戦車道のおかげで、私は今こんな目にあってるんだ!! 皆だってそう思ってるだろ!? 戦車道にさえのってなきゃ、こんなことには……!!」

そど子「……っ、ちょっとあんた!、偉そうに、なにを悲劇にヒロインぶってるのよ!」

麻子「なんだと!?」

そど子「あなたなんか、自分一人じゃ勉強以外何にもできないくせに! 戦車道をやってなかたら、あんたなんかそのうち留年して退学してただの引きこもりになってるわよ! あんた、皆に助けられて、それでやっと今ここにいるんでしょ!?」

麻子「……っ」

そど子「一年生の子達も言ってたじゃない。皆で頑張ろうって! あんた……自分は一人だけだ! みたいな顔して、勝手に悲劇の主人公ぶるんじゃないわよ!」

みほ「麻子さん、私達、ずっと一緒に頑張ってきたじゃないですか」

優花里「皆の言う通りです。これからだって

麻子「……学園生活や戦車道の話と……一緒にしないでくれっ」

麻子「……皆のことは、もちろん信じてる……」

麻子「……だけど……」

麻子「この怖さは……私にしかわからない! 私にはお父さんやお母さんがいないんだ! 自分の生活や命を犠牲にしてでも私を助けてくれる……そういう人が、私にはもういないんだ!」

優花里「そんな事はありません! 私達だって、冷泉殿のためなら、なんだってできます! 仲間じゃないですか!」

麻子「そういってくれるのは、ほんとにうれしい……でも、もし皆に自分の子供がいたとして、それでもなお、私のために自分を犠牲にできるか? 自分の子供をほっておいて」

優花里「そ、それは……いや、そんな極端な例え、意地悪ですよ!」

麻子「……秋山さんのお母さんやお父さんは、秋山さんのためならなだってするだろう、親って、そういうもんなんだ。そういう人が……私にはいないんだ!」

みほ「麻子さん……」

みほ(あ、う……黙ってちゃダメ! 黙ってちゃだめだ! でも……何て言ってあげればいいの!?)

麻子「……ごめん、私、今日はもう……家に帰る」

みほ「……!」

みほ「麻子さん、駄目! 今一人になったら、こんな気持ちを一人で抱えていたら、気がくるっちゃう! 皆と一緒にいなきゃ!」

麻子「そうかもね。だけど──これ以上、皆に、嫌われたくない」

みほ「……! そ、そんな事、ない!誰も麻子さんを嫌いになんか……」

麻子「お願いだから! 今は一人にしてくれ。少し、頭を冷やしたいから……」

みほ「だからっ、一人でいても落ち着くことなんて、できな──」

杏「西住ちゃん!」

みほ「会長……」

杏「今は、一人にしてあげようよ」

みほ「でも!」

杏「西住ちゃんの言う通り、ずっと一人で考えてもいいことなんかない。でも、一人で考える時間もまた、必要だと思うよ」

みほ「それは……そうかもしれないけど……」

麻子「じゃあ、ごめん。皆……さよなら」


と、と、と、と……──。


そど子「……。……っ! 私、冷泉さんにもう一言だけ、言ってくる!」


たったったったっ……。


華「……」

優花里「……」

梓「あの、私達、これでよかったんでしょうか……」

杏「皆、本当によく頑張ってくれたよ。ありがとね。えらいえらい……」

みほ(もう……頭が、ぐちゃぐちゃだ……)

みほ(……そういえば、会長、お母さんに電話しろって……)

みほ(……でも、ただでさえお母さんとしゃべるのは緊張するのに、今みたいな気持で私、お母さんとちゃんと話しができるのかな……電話はまた今度にしようかな……)


──自分の生活や命を犠牲にしてでも私を助けてくれる……そういう人が、私にはもういないんだ!──


みほ(……そうだった……私だって、少しくらいは、その気持を理解してるつもりだよ……麻子さん……)

みほ(けど、私にはお姉ちゃんがいる……お姉ちゃんなら、きっと私のためになんだって……)

みほ(けど、待って……もし、お姉ちゃんに子供ができていたら? そしたら、お姉ちゃんは……)

……ゾクッ……

みほ「あぁ……これなんだね。この感じなんだね……麻子さんっ……」






沙織「……。ハッ。あれ? 皆、どうしたの……? ていうか、私はいつから……」

優花里「……」

華「……」

沙織「わっ、ていうかていうか、戦車道全員集合してるじゃん! いつの間に!? ……あれ? 麻子は?」

華「……沙織さんなら、もう少し麻子さんに言葉をかけてあげられたのでしょうか……」

優花里「……でも、よけいに大騒ぎになってた気もしますねぇ……」

華「そうですねぇ……」

沙織「な、なによ……一体なんなのよぉ!?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


優花里「園殿、もどってきませんね……もう、夜になってしまいましたが……」

みほ「ずっと、麻子さんと一緒にいるのかな……」

優花里「かえって来ないということは、おそらく……」

みほ(麻子さん、そど子さん……)

華「今晩は皆さんで一緒に戦車倉庫に泊って、明日の朝に皆で保健施設へ行く──という話は、みどり子さんにもちゃんと伝わっているのですよね?」

優花里「ええ、風紀のお二人がメールをしてくれてます。ただ、返信は無いし。電話にも、出ないって……。冷泉殿には、今はちょっと、連絡しずらいですし……」

みほ(麻子さん、明日、ちゃんとここへ戻ってきてくれるかな……)

みほ(私も、麻子さんのところへ行きたい。麻子さんの気持ち私にもわかるよって、伝えたい。だけど今は、私の声、麻子さんには届かないのかもしれない……)

みほ(お願いです、そど子さん、もしも麻子さんと一緒にいるのなら、どうか、麻子さんの事を……)

優花里「武部殿の様子は、どうです?」

華「……沙織さん? 沙織さん?」

沙織「……。うう、……ううぅ……シングルマザーなんていやあ……」

華「まだ、だめですねぇ」

優花里「華さんの肩に顔をうずめて、ずーっと寄りかかったままで……よほどショックだったんですねぇ」

華「髪の毛が垂れて顔が全くみえません。沙織さん、貞子さんみたいになってますよ? それに、ずっと倉庫の床に座っているせいで、さすがに足がしびれてきました……」

みほ「あの……優花里さんと華さんは、思ったりよりも落ち着いてるんだね。二人が冷静でいてくれて、本当によかった」

優花里「いやぁ、私だってもちろん、何が何だかって感じではありますが」

華「ある意味、冷泉さんと沙織さんのおかげかもしれません」

みほ「……?」

優花里「あ、私もそれ、わかります。身近な人がパニックになってると、なんだかかえって自分は落ち着けるんですよね」

優花里「それに、西住殿も、会長も、そして紗希ちゃんも……私の理解できない何かと、戦ってるんだなって、思うと」

華「もちろん、にわかには信じられません。妊娠、だなんて。でも、みなさんの真剣な様子をみていると、とても嘘や冗談だとは」

優花里「冗談であって、ほしいんですけどね」

みほ「……」


みほ(会長。順番に公表していくっていう会長の目論見は、やっぱり正しかったんだと思います。皆で一緒にパニックに、だなんて、私の考えは、ごめんなさい、甘かった……。麻子さんとだって、本当ならもっと落ち着いて、私達だけで話せたはずだった)

みほ「ねぇ、優花里さん、華さん」

優花里「はい?」

みほ「二人も、戦車道なんか、やるんじゃなかったって……やっぱり思った?」

優花里「……。」

華「……。それは……」

みほ「私、麻子さんの言ってたこと、認めたくない。でも、そう考えてしまっても当然だって、そうも思うの……」

優花里「……もしも……この先、例えば子供を抱えながら人生に絶望するような事になてしまったら、その時はやっぱり私も、そういう風に考えてしまうのかもしれません」

みほ「……」

優花里「ですが、今はまだ、そんな風には思いませんし、やっぱり……思えませんよ」

みほ「……本当?」

優花里「本当ですよ。私だって、戦車道のおかげで、こうして皆と仲良くなれたんです。西住殿と気持ちは同じです。だから、冷泉殿の言葉は……やっぱり少し、悲しいです」

華「麻子さんも、動揺してしまっていただけですよ。きっと」

優花里「私もそう思います。ただ、お父さんとお母さんの話は……私、何も言えませんでした」

みほ「……」

華「もちろん、誰しも少なからずは、麻子さんと同じ事を考えてしまうと思います。けれど、決してその気持ちだけが全てでは無いはずです。……私だって、そうですから」

優花里「そう、ですよね」

沙織「──麻子、そんな事を言ったんだ」

みほ「沙織さん」

沙織「みぽりん、私ね……私は……」

華「──沙織、さん。いいんです」


 ぎゅっ


華「今は、何も言わなくていいんですよ。考えなくていいんです。ずっと私が、こうして沙織さんの側にいます。だから、何も言わずに、ね?」

沙織「……。ありがと、華。……グス……ひっく……ひよこクラブはまだ早いよぅ……」

華「よしよし」

みほ(ありがとう、二人とも、本当にありがとう……二人のおかげで……私も頑張らなきゃって、また、思える)

みほ「……。ごめんね皆、私ちょっと、電話してくる」

優花里「電話、ですか?」

みほ「うん。実は……お母さんが、電話しろって」

優花里「あぁ……、私も、もう少しいろんな事がはっきりわかったら、お父さんとお母さんに、話さなきゃ……。でも、私は連盟の人に、同席してもらおうかなぁ」

華「お母様、きっとまた卒倒してしまいます」

みほ「私も本当は、まだちょっと、電話しようかどうしようか迷ってるんだけど……でも、とにかくちょっと、外に行ってくるね」

優花里「あの、西住殿も、あまり根をつめないでくださいね。その……西住殿だって、もしかするとお腹に……」

みほ「うん……心配してくれてありがとう」

沙織「……早く帰ってきてねみぽりん……すん、すん……」

華「よしよし」




 たったったった……




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ「紗希ちゃん、皆、ちょっと様子を見に来たんだけど……って、えええ!? みんな、いったい何をしてるの……?」

梓「あ、西住隊長!」

桂利奈「今、皆で紗希ちゃんの子宮を皆であっためてます!」

みほ「し、子宮!?」

あや「ネットで調べたんだけど。とっても効果あるらしいですよっ」

みほ「えと、何に?」

優希「さぁ~?」

あゆみ「でも、こーやって、オヘソの下あたりをてのひらでクルクル~ってなでられると、暖かくて気持ちいいんだよねっ、紗希!」

沙希「……」コクン

みほ(あ……紗希ちゃん笑ってる……よくわからないけど、よかった……)





 ……カッパン……

みほ「こんばんは、会長、みなさん……別に用事はないんですけど、どうしてるかなって」

杏「やぁ、こっちはいつも通りだよ。今夜もこーやって、河嶋と添い寝だ」

桃「しかし、どうしてヘッツァーの中で……狭い」

杏「だって、私がウンウンうなされてるのを目の当たりにしたら、皆まで不安になっちゃうでしょ?」

桃「……っ。会長! 私が、私が一緒にいますから!」

 ぎゅっ

柚子「……ずるい! ねぇ桃ちゃん、やっぱり、私も、ヘッツァーの中に入りたいよっ」

桃「だめだっ、万が一妊娠したらどうする!?」

柚子「桃ちゃんか会長かとの子供なら、私頑張って育てるもん!」

桃「はぁ!?」

杏「あははは、そんときゃみんなで、一緒に赤ちゃんそだてよーね~」

桃「二人とも、冗談が黒すぎます!」

みほ「はは、ははは……」

みほ(すごいなぁ。三人とも、一緒にいれば、どんな時でも元気でいられるんですね……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


みほ(夜の校庭って、静かだなぁ。明かりがついてるのは、戦車の倉庫だけ。……皆あそこにいるんだって思うと、なんだか、安心する……。あ、星がいっぱい。今、太平洋のどのあたりを航行してるのかな……)

みほ(……)

みほ(麻子さん、戦車道をしなければよかったなんて、やっぱり、私には思えないよ。戦車道も、みんなも、そのどちらが欠けても、今の私にはたどりつけないんだもの)

みほ(……。)

みほ(お母さん、戦車道は、どうなってしまうんですか? お母さんは今……何をしてるんですか……?)

みほ(……お母さん……)


 ごそごそ

 ピッ、ピッ、


みほ「最後にお母さんと話しをしたの、いつだろう。履歴には……もちろん残ってないよね。えと、電話帳」

みほ「……あ……」

みほ(──アンチョビさん、お姉ちゃん、カチューシャさん、ケイさん、ダージリンさん、西さん、それに、直接の連絡先は知らないけれど、ミカさん達も……。皆、どうしてるだろう。皆も今、大変なのかな。もう少し落ち着いたら、連絡してみよう……)


 ピッ、ピッ、

 ->『お母さん』


みほ「……。」

みほ(だけど、電話をして、お母さんと、いったい何を話すの?)

みほ(……ううん、話をするために、電話をするんじゃない。私の知らないことを教えてもらうために、電話するの。戦車道の事や、それに……お姉ちゃんの事)

みほ「……。」

みほ「よし、電話……するっ」

みほ「──すぅ、はぁ──えいっ!」ピ


 ツ、ツ、ツ──プルルルルルルル! プルルルルルルルル!


みほ(心臓が、すごくドキドキいってる……そうだよ、お母さんと最後に話したのって、私がまだ熊本にいたころなんだ……私が戦車道から、逃げ出した頃……)


 ──プルルルルルルルル! プルルルルルルルル!


みほ(……もしかして、お仕事中なのかな……やっぱり、また今度に──)


 プルルルルルルル! プルルル、ぷっ、



『──はい』



みほ(──!)


みほ「あ、も……もしもし、お母、さん……?」

しほ『……みほ』



 ──ドクン──!



みほ(あ……名前、呼ばれたの、久しぶりだ……お母さんが……私の名前を……み、ほ……)



しほ『みほ? 聞こえてるの?』

みほ「……っ、ご、ごめんなさい。あの……久しぶり、です」

しほ『そうね、ずいぶんと、久しぶりね』

みほ「そ、そうだね」



みほ(……えと、なんだけっ、そ、そうだ、まずは戦車道のことだっ。お姉ちゃんのことは、まだちょっと、聞くのが怖い……)


みほ「あ、あの──」

しほ『──それで、例の話は、聞いたわね?』

みほ「──へ? ……う、うん……」


みほ(……。)

みほ(……あはは……お母さんらしいや。単刀直入)

みほ(……そっか、そうだよね……)

みほ(お母さんだって、私と無駄話をしようとは、思ってないよ。そうだよね……お互い、必要な確認をするだけなんだよね……うん、ちょっとだけ、落ち着いた……)

みほ(……すぅ……はぁ……)



みほ「あのね、お母さん」

しほ『ええ』

みほ「戦車道、これから、どうなっちゃうのかな」

しほ『……え?』

みほ「お母さんも今大変だと思うけど、何か知ってたら教えてほしいの。戦車道がこれから、どうなっていくのか……。戦車道連盟は、どうするつもりなのかとか……」

しほ『……。みほ? もう一度確認するけど、あなた、例の話、本当にちゃんと聞いたの?』

みほ「? うん。私達が妊娠するかもっていう、話だよね……?」

しほ『……妊娠検査は、もう、受けたの?』

みほ「ううん。明日、皆で病院に行くことになると思うけど……」

しほ『……そう……』

みほ「……?」



みほ(なんだろう? まるで、お母さん、なんだか少し、戸惑ってるみたいな……)



しほ『……まぁ、いいわ。知りたいのなら、答えましょう』

みほ「え?」

しほ『まず──戦車道そのものがこの先どうなるかについて、現時点では明確に言える事は何もありません。次に、戦車道連盟がどうするつもりか、という質問。その質問はすでに無意味ね。この件についての主導は、すでにWHOや各国の研究機関に移りはじめてる。人道問題調整事務所も動きはじめていてそれが少々厄介だけれど……とにかく戦車道連盟は、いまや執行機関の一つにすぎない。たまたま当事者になっただけの、ね』

みほ「へ!? ちょ、えと……だぶるえいちおー? って……なんだっけ……」

しほ『……。みほ、戦車道以外の事も、もう少し勉強なさい。あなた、学校の成績は大丈夫なの?』

みほ「ふぇ!? が、学校の成績!? それは、えと、はい……ごめんなさい……頑張ります……」

しほ『……ふ』



みほ(え……お母さん、今、笑った……?)


しほ『……本当に、少し、意外ね』

みほ「……?」

しほ『今回の事で、もっと取り乱しているかと思ったのだけれど』

みほ「あ……うん、それはもちろん、びっくりしたし……いろいろあったけど……ていうか今も、色々あるんだけど、まぁ、なんとか……」

しほ『それに、イの一番に戦車道がどうのと、おかしな子』

みほ「そ、そんなに、変かな」

しほ『戦車道はイヤだと泣いて、黒森峰から──西住流から逃げ出したのは、あなたでしょう』

みほ「うっ、それは、そうだけど……お母さんってば、エ……逸見さんみたい」

しほ『逸見? ……あぁ、あの子……』



みほ(……? 何だろう、今の、含んだ感じ……)



しほ『まぁいいわ、みほ』

みほ「っあ、は、はい」

しほ『とにかくあなた──熊本に戻ってきなさい』



みほ(──え?)



しほ『万が一あなたも身ごもっているのだとしたら、大洗に一人でいるわけにはいかないでしょう』

みほ「……えと、それって……ほんとに言ってるの……?」

しほ『……? 何? 変なことを、言ったつもりはないけれど』

みほ「だって……いいの?」

しほ『いいの、とは?』

みほ「だってお母さんさっき、私は、黒森峰から──ううん、西住流から逃げ出したって……」

しほ『……そうね。あなたを破門することも、一度は考えたけれど』

みほ「じ、じゃあ、なおさらどうして……戻れ、だなんて……お母さんがそんな事を、言ってくれるなんて……思わなかった」

しほ『……。みほ』



みほ(あ、今……なんだか少し、お母さんの声が、怒った……)



しほ『では、あなたは今後いったいどうするつもりなの?』

みほ「え?」

しほ『仮に妊娠していたとして、あなたはいったいどうやって生活をしていくの?』

みほ「え、えっと、それは……その、いろいろと頑張って──」

しほ「──ツワリに、訳の分からないイライラに、どんどん重くになる体に、定期健診や社会保障の手続きや妊娠からくるその他もろもろのあらゆる多種多様な不都合面倒事それら全てに、いったいどうやって対応していくつもりなの。あなた、ひとりで』

みほ「ひ、一人じゃないよ! その……みんなで、力を合わせて……」

しほ『……ハァ……みんなとはいったい誰。そのアテを、今ここで私に聞かせなさい』

みほ「え、えと、えと、生徒会ちょ──」

しほ『──まさか、大洗の学生だなどと言わないでしょうね』

みほ「──ひぁぅっ!?」

しほ『経済的にも生活能力的にも社会的にも貴方とそう大差のない能力しかなく、しかもそれぞれが重大な身体的精神的負担を抱えた未成年の友人が貴方の言う『みんな』だなんて、もちろん言わないでしょうね。そうよね? みほ』

みほ「あ、う、え……そ、その、戦車道連盟の、人、とか、先生、にも、いっぱい相談して……その……」

みほ(うああ!? ……な、なんだろう!? 私いま、すごく恥ずかしい! み、みんなで頑張ろうって、そんなに間違ってないはずのことなのにっ!?)

しほ『……ハァ……』

みほ(なんで!? 私、今、自分がすっごくバカみたいだよぅ! なんでこんなに、情けない気持になるの……!?)

みほ「だ、だって!! しかたないよ!! だって……私はもう、自分でなんとかしなきゃって、思って……」

しほ『自分で、ねぇ……』

みほ「う……」

しほ『……もっとも、そうさせたのは私の責任でも、あるのでしょうけれどね』

みほ「え……?」

しほ『みほ、聞きなさい』

みほ「は、はい」

しほ『私は鬼のような母親でしょうけれど、鬼ではないわ』

みほ「……う、うん……」

しほ『実の娘がこんな理不尽な目にあっているというのに、それを捨ておく親が、いったいどこに戦車道にありますか』

みほ「じ、じゃあ、お母さんは、私を……助けてくれるの……?」

しほ『……あなた、自分が自立しているとでも思っているの? 思いあがるものではないわね。あなたの学費をいったい誰が払っているのか、よく考えてごらんなさい』

しほ『それに……親子の縁を切った覚えもない』

みほ「で、でも……! お母さんは、もう、私のことなんて……興味ないんだって、私は……」

しほ『……。あなたもしつこいわね』

しほ『……みほ、一度しか言わない』

みほ「……?」

しほ『大会決勝と、大学選抜戦と、みなの先頭に立ってよく戦いぬいた。……立派だった』

みほ「──っ!?」

みほ「……っ、ちょ、……ちょっと、待って」

しほ『何』

みほ「……いきなりそんなの……ずるいよ……」

しほ『あなたがいう事を聞かないからでしょう。とにかく、わかったら、熊本へかえってらっしゃい。何もかも、今までとはもう状況が違うのだから』

みほ「……」

みほ「あの、お母さん」

しほ「何?」

みほ「私、どうしても、今すぐには帰れません。大洗には、私の仲間と戦車道が、あるから……ごめんなさい」

しほ「……そう……。……わかりました。では、そうね……明日、検査だと言ったわね。なら、一週間以内にはに結果がでるでしょう。それから、また連絡をするように。いいわね? 必ずよ」

みほ「うん」

しほ「じゃあ、切るわね」

みほ「。あの、お母さん」

しほ「なに?」

みほ「ありがとう」

しほ「……。何かあったら、いつでも連絡をしなさい。……みほ、切るわよ?」

みほ「うん。ばいばい、お母さん」



 ……プツ……ツー、ツー、ツー



みほ「……。」


みほ(お姉ちゃんの事、聞けなかった)


みほ「……っ。……っ」


みほ(戦車道の事も、もっと、よく確認したかった)

みほ(それに、ツワリの事も、もしかしたらって事も、伝えられなかった……だって……私、もう、……我慢、できなくて……っ)



みほ「……ひっ……はぁっ……ひっく……」


──皆はいいよね……皆はお母さんもお父さんもいるから、いいよね!!!──

──ちゃんと、お父さんとお母さんが助けてくれるから、いいよね!!!──


みほ(……麻子さん、……っ)


──親って、そういうもんなんだ。そういう人が……私にはもういないんだ!──


みほ「ああっ……うぁぁっ……ああああっ」

みほ(麻子さん、ごめん、ごめんね……私、お母さん、いたよ。私、お母さん、ちゃんと、まだいてくれたよ。ごめんね、ごめんね、私だけ、ごめんね……)

みほ(見ててくれた)

みほ(私の事、ほめてくれた)

みほ(すごく嬉しかった。麻子さん、お母さんがほめてくれるって、こんなにうれしいんだ……!)

みほ(それなのに、麻子さんにはもう、お母さんいない……)

 ……ゾク……

みほ「ああ……あああっ……うぁっ……ひぐぅ……っはぁっ……ぐす……ひっく……おがぁ、ざぁん……おかぁさんのばか……あぁぁ……」

みほ(麻子さんになんて言ってあげればいいのか、私には、もう、ぜんぜん分からない……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

訂正

>>98
沙織「……。ありがと、華。……グス……ひっく……ひよこクラブはまだ早いよぅ……」

沙織「……。ありがと、華。……グス……ひっく……たまごクラブはまだ早いよぅ……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


……リー、リー……リー……


華「……スー……スー……」

優花里「……ムニャムニャー……」

沙織「……くぅー……くぅ……うぅ、華やめて子どもできちゃうよぉ……くぅー……」


みほ(……。)

みほ(ぜんぜん眠れない……)

みほ(麻子さんの事が、頭の中でぐるぐるグルグル)

みほ(麻子さん、もしかしてこのまま戦車道やめちゃうのかな……妊娠を絶対に避けようとするのならそれしか……けど今の時点で妊娠していないのなら今のところは今後も大丈夫なはずだって……だったらどっちみち今更戦車道をやめてももう……かといって100%安全ってわけじゃ……でもでも……)

みほ(ああ、もう、あたまがグチャグチャ……)

みほ「……うっ!?」

みほ(また吐き気っ……だめっ!、ここで吐いたら、眠ってる皆に迷惑が……)


 だだだ……


みほ「うぇッ、ぐ、せめて手洗い場までがまんを……あッ、駄目ッ、……オゥイエッ! オゲェェェェェェ!!!!」


 プシャアアアアアア!!!

 ……ぽと、ぽと……


みほ「うぅ、なんとか倉庫の外にはでたけど……口元を手でぐっと塞いでたせいで、お汁が飛び散っちゃった……うぅ、パジャマも顔も……べちゃべちゃ……汚いよぅ……」

みほ(あぁ、やっぱり、どう考えても私、妊娠……っ……)

みほ「っ……っ……もぉぉぉぉ……っ!!!!」

みほ「パジャマも、臭いしっ! 顔も、臭いしっ!、頭の中は、グっチャグチャだしっ!、なにもかもどうにもならないしっ! もうっ、やだぁっ!! どうして私が!!……うぅ……ぐすっ……なんでこんなに惨めな思いをしなきゃいけないの……?」

みほ(眠ろうとしても瞼の裏で嫌な考えがグルグルまわりだしちゃうし起きててもいろんな心配事が頭の中でぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるッ!!!……もう疲れたよ……何これ、妊娠ってこんなに辛いの……?」 

みほ(ていうか……まだ一日目!? 妊娠って、何か月も続くんだよ!? しかもそのうちお腹が大きくなりはじめて……? あは、ははは……うそだ……。私、お母さんだなんて、絶対無理だ……)

みほ「そりゃ麻子さんだって絶対妊娠したくないって思うよ……でも、戦車道の事はやっぱり……って、あああもおおおお! また!? ぐるぐるぐるぐる同じ事ばかり!!!! そんなの今考えどうするの!!?? どうにもならないって言ってるでしょ!!!??? もう嫌っ!! 誰か、助けてっ──」


 ──何かあったら、いつでも連絡をしなさい──


みほ(……ッ!)

みほ(……いやいや、駄目にきまってるよ……何を考えてるの……?)

みほ(だって、何時間か前に、わたし今は大洗で頑張りますって電話をきったばっかりだよ!? それに今、真夜中だよ……?)


みほ(……。)


 ごそごそ

 ……ピ

 ->『お母さん』


みほ「……お母さん……」

みほ(あ、ディスプレイにお汁がついちゃった……まぁどうでもいいや……自分の吐いたものだし……)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ「……ぐすっ……お母さんの声、もう一度聞きたい……。だって、あんなに優しくしてもらえるだなんて、思ってなかった……お母さん……」

みほ「でも、絶対怒られる……せっかく褒めてもらえたのに、また呆れられちゃう……でも、でも……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



しほ『……。』

みほ「……。」


みほ(電話、しちゃった……)

しほ『……みほ』

みほ(ぁ……お母さんの声だ……)

みほ「お、お母さんっ」

しほ『……。たしかに母は、いつでも電話しなさい、と、みほに言いました。……6時間ほど前に』

みほ「……はぃ」

みほ(うぅ、すっごく不機嫌そう……当たり前だけど……)

しほ『私は、鬼ではありません。ただし、鬼のような母親ではある。貴方はそれを忘れるべきではないわね』

みほ「……ごめんなさい……」

しほ『今、何時だと思ってるの』

みほ「えと、その、午前3──」

しほ『答えろとは誰も言っていません』

みほ「──ひぅっ……すみません……」

しほ『ハァ……少しはシャンとしたかと思ったのだけれど、買いかぶりだったのかしらね』

みほ「……うぅ……」

みほ(やっぱりすっごく怒られた。なのに……やっぱりお母さんの声をきいたら、ホッとしちゃって……あ、だめ、涙が……)

みほ「……ぐす、ひぐ……うぅ……」

みほ(あぁぁぁ、だめ、だめ、さっきはせっかく我慢してたのに……でも、もう……胸のおくから嗚咽が溢れてきちゃって、とめられないよぅ……)

みほ「……えぐっ……ごべんなざぃ、でも、お母さんにどうしても相談したいことがあって、ひぐっ、私、頭がもうグチャグチャで、どうしていいのかわからなくて……ぐすっ……もう、どうしようもなくて……」

しほ『……。貴方はそれでも西住の女ですか……と、本来ならば叱りつけなければならないわね。けれど、まぁ今回は……あなたたちの特殊事情をかんがみて、特別に不問とします』

みほ「……ぐす……」

しほ『みほ……妊娠について、もちろん不安な事はあるでしょう。言ってみなさい。母が聞きます』

みほ「うぅ、ありがとう……実は、戦車道のことで……」

しほ『……はあ?』


みほ(……わ、お母さんもこんなすっとんきょうな声をだすんだ……)


しほ『……。転校させたのがかえって良かったのかしら』

みほ「……?」

しほ『まぁいいわ。で、何ですって?』

みほ「私の友達が、もう戦車道をやりたくないって……」

しほ『……ああ、やっぱりみほだったわね』

みほ「???」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ「──という事なの。だから、妊娠なんか絶対にしたくないって……。お母さん、私、どうしたらいいのかな……」

しほ『……おおよその事は理解できた。けれどそれなら、悩むまでもなくい、簡単な話でしょう?』

みほ「え、ええ……?」

しほ『妊娠をどうしても避けたいのなら、戦車道にかかわるのを止めてあなたたちともいったんは距離を置く、それで解決する話です』

みほ「え……」

しほ『もちろん、検査の結果妊娠していなければ、だけど』

みほ「も、もしも、麻子さんが妊娠していたら……?」

しほ『……幸い、おばあ様は比較的元気なのね? なら、学園艦を降りておばあ様と同居するか、あるいはおばあ様に乗船してもらって同居……どちらにせよ、親族と同居、という形でなければ、文科省は許可しないでしょうね』

みほ「も、文科省……!?」

みほ(……うぅっ、あの眼鏡の人の嫌な顔が……あぅ、また気分が悪くなりそう……)

しほ『あるいはもしかすると──』

みほ「……?」

しほ『いえ、まぁいい。それよりも、みほ。いま聞いた限りだと……そもそもあなたが騒ぎ立てなければ、まったくもめるような話ではなかったはずよ? それは分かっているの?』

みほ「……え?」

しほ『……まぁ、それに気付いていればこんな事にはならないものね。……みほ、もしもその子が、妊娠はしたくないから戦車道はやめる、と言ったら、あなたはどうするの? 感情的な事は捨て置いて、判断してみなさい』

みほ「……。それはもちろん、麻子さんがそういうのなら、しかたないって、思うけど……」

しほ『では、あなたは昨日、その子……麻子さんの、何を責めたの?』

みほ「え? それは、『戦車道なんかやるんじゃなかったって』って言われて、そんな事をいわれたのがショックで」

しほ『貴方らしいわね。ところで、麻子さんは、貴方や戦車を嫌いになったから、そんな事を言ったのかしら』

みほ「……ううん、そうじゃなくて、麻子さんは妊娠が怖くて怖くて、たまらなかったから……」

しほ「おそらくはそうでしょう。それなのに……みほ。あなたはその時、麻子さんの言葉を、違うふうに受け取ったのではないの?』

みほ「……? 違うふうに……?」

みほ(……。)

みほ(あの時、私は……。)


 ──戦車道なんて、やるんじゃなかった!!!──


みほ(麻子さんのその言葉が、まるで私達の友情をないがしろにしているように感じられて、それに反発して……)


 ──それは違います! そんな事いわないでください! 戦車道のおかげで私は皆と出会えたんです! 麻子さんとだって……!──


みほ「……あれ?」

みほ(……麻子さんは感情的になって口走ってしまっただけで、その言葉が本心の全てだったわけじゃない。にもかかわらず、あの時私は、自分も感情的になって、麻子さんの言葉を大声で責め立てて……)

みほ(……。)

みほ「……あ……!?」

しほ「……。」

みほ(私が……そうやって叫んだから!? そのせいで、まるで、麻子さんが混乱して間違った考えにとらわれているんだ、みたいな印象を与えてしまって、それがみんなにも伝わって──!?)


 ──ちょっとあんた!、偉そうに、なにを悲劇にヒロインぶってるのよ!──

 ──麻子さん、私達、ずっと一緒に頑張ってきたじゃないですか──


みほ(……麻子さんは妊娠が怖かっただけ! それなのに、みんなで麻子さんを裏切り者みたいに責め立てて……!!!)

みほ(……え!? 私、私……麻子さんにすごくヒドイことをしてしまった!?)

みほ「……ど、どうしよう、私……私……!」

みほ(麻子さんが、会長や紗希ちゃんを嘘つき呼ばわりして、私、麻子さんを責めてたんだ! そしてその気持ちのまま、麻子さんの発言を大声で責めて……ああ! 私! ……なんてことを!!)

みほ「……あ、あやまらなきゃ、麻子さんに、謝らなきゃ……!」

しほ『……。みほっ! ……落ち着きなさい。みっともない』

みほ「っ!?」

しほ『そうやって感情的になるから、おかしな事になったんです。また繰り返す気ですか?』

みほ「……あ……は、はい……すみません……」


みほ(……。)

みほ(あはは、は……やっぱりお母さんに怒鳴られると……バケツ一杯の冷たい凍りみずを浴びせかけられたみたいな気になる……)

みほ(……でも、おかげでちょっぴり、頭が冷えた……)


みほ「……お母さん」

しほ『なに』

みほ「ありがとう、どうしたらいいのか、少しだけ、わかってきた気がする」

しほ「あなたがどうにかする話では、そもそもなかったのよ。……まぁ、身から出た錆です。あとは自分で考えて、自分でなんとかなさい」

みほ「……うん!」

しほ『それにしても……貴方の甘えた発言一つで、そこまで揉められるとは、大洗らしいわね。黒森峰では、まず起こり得ない話です』

みほ「……う……」

しほ『そもそも西住流にとっては、どのような理由であれ戦車道をやる気の無い者などはもはや論外。もとより思慮に値しません』

みほ「……。」

しほ『と、そんな小言を、これまでならばあなたに言ったのでしょうけれど』

みほ「え?」

しほ『みほ』

みほ「は、はい?」

しほ『貴方は自分なりに戦車道に向き合っている、それは前の電話のおりにも感じました。それについては母として評価します。』

みほ「あ、ありがとうございます……」

みほ(嬉しい……)

しほ『けれどね』

みほ「え?」

しほ「貴方はもう、戦車道や友人をの問題を、生活の中心に据えて考えてはいられないのよ? ……それが分かる?」

みほ「あ……。妊娠……してるかもしれないから……?」

しほ『そう。万が一本当に妊娠していたなら、貴方の生活はこれからどんどん変化していく。どうしようもなく変わらざるをえない。これからの日々においては、自分にとって何が大切なことなのか、何を大事にすべきなのか……それをちゃんと意識しておきなさい。あなたは今、それを考えなくてはならない時期にさしかかっているのよ』

みほ「……はい。お母さん……」

みほ(……。)

みほ(つわりの事……言っておこうかな……)

みほ「……。……あの、おかあ、……さん」

しほ『なに?』

みほ「……わたし……」

みほ「……。」

みほ「……ううん、なんでもない」

しほ『……そう』

みほ(……。結果がはっきりしてから、ちゃんと伝えよう……勘違いの可能性だって、まだあるもんね、そうだよ、きっと、勘違いかもしれないよ……)

しほ『……。ところでみほ。まほの、事だけれど』

みほ「……!」

しほ『あの子は元気にしている。だから、心配しなくていいわ』

みほ「お姉ちゃんは……妊娠……大丈夫……?」

しほ『……。ええ、大丈夫』

みほ「そうなんだ……! そっか! よかった……!」

しほ『……。あなたは、今はまず自分の身体のことを一番に考えなさい。いいわね』

みほ「うん……ありがとう」

しほ『……あぁ、それともう一点』

みほ「……?」

しほ『深夜の電話は、なるべくひかえてちょうだい。絶対にするなとは、言わないけれど』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……ピ


みほ「……。」

みほ(私、麻子さんに、ひどい事をしてしまったんだ)

みほ(麻子さんの気持ちを、ないがしろにしてしまったんだ)

みほ(……黒森峰にいたころ、お母さんが、私にそうしたように……)

みほ(でも、今は、そのお母さんのおかげで、私……うんっ)

みほ(私、まだまだ頑張れるよ。ありがとう、お母さん)

みほ(夜が明けたら、皆で……麻子さんの家に行こう。そして、ごめんねって、麻子さんの気持ちを大事にするよって……)

みほ「……ふぁぁ……」

みほ(……なんだか少し、眠くなってきちゃった……よかった、これでやっと、眠れそう……)

みほ「……あ、パジャマ、体操服に着替えなきゃ……手と体も拭いて……ふぁぁ……」


 ……リー、リー……リー……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ちゅん、ちゅん……ちゅん……



華「──つまり、私達は麻子さんを不必要に追い込んでしまったと、みほさんはそうおっしゃりたいのですか……?」

みほ「そうです。全部、私のせいです」

優花里「いや、まぁ……仮に西住殿の話の通りだったとしても、別に西住殿一人のせいでは……」

柚子「そうだよ、だって誰も、そんな風には思わなかったんだし……」

梓「私達だって……ねぇ皆」

あや「えっとー……」

優希「ていうか、難しくてよくわかんない……」

あゆみ「私も……」

杏「まぁまぁ、今は誰のせいだとか、そういう事はどうでもいいじゃない。西住ちゃんは、どうしなきゃいけないと思うの?」

みほ「はい。麻子さんの家にいって、とにかく、ちゃんとお話しをしようと思います。皆で、と思ってはいましたが、ここは私が一人で……」

桃「ふむ」

みほ「ただ……その前に一つ、皆の気持ちを確認しておきたいことがあります」

柚子「私達の気持ち……?」

みは「はい。もしも……麻子さんが、ちゃんと考えたうえで『やっぱりもう戦車道はやりたくない、問題が解決するまでは皆とも会わない』と思うのなら、皆さんはどうしますか?」

杏「ん……ま、必ずそういう場面はくると、思ってたけどね……」

優花里「で、でもっ……麻子さんが、本当にそんな事をいうでしょうか……」

みほ「残念だけど、麻子さんだけではありません。やはり、他にもそう思う人がいて、当たり前だと思います。そうなったとき、私達は……どうするのか」

梓「西住隊長は、どう考えているんですか……?」

みほ「私は……できればその気持ちを、素直に受け入れてあげたいなって。今は思っています」

梓「……。そう、ですか……」

杏「ま、誰だって、こんな形で妊娠するのは、嫌だからねぇ……」

紗希「……」コクン

優花里「私は、やっぱり、認めたくありませんよ……」

華「優花里さん……」

優花里「もちろん、『お前が妊娠するかどうかなんてしったことか! 戦車道をやれー!』なんて事言えません……」

優花里「でも……戦車道は……私に人生を変えてくれたんです。大げさじゃなく、そう思います。……だから簡単には、認めたくありません……」

杏「けれど、どのみちしばらく、戦車道は活動できないからね……」

優花里「……」

みほ「優花里さんの気持ちは、私にもよくわかります。戦車道が私達に与えてくれたものは、あまりにも、かけがえのないものです。……だから……」

みほ(だからこそ……私は昨日、判断を間違えてしまったんだ……)

みほ「……。戦車道は、やめてもいつかまた、始めればいいんです」

優花里「……? また始める……?」

みほ「そうです。黒森峰で戦車道を捨てたはずの私だって、今こうして、大洗で戦車道をやっているんですから。それに、今回のことでやめる人達がいたとしても、戦車道を嫌いになって止めるわけじゃあないんです。だったら、皆の気持ちさえつながっているほうが、大事です」

優花里「それは……そうですが……」

華「私達の心がけしだいなのだと、そうおっしゃっているのなら……私には、少しだけ、わかります。」

優花里「……」

みほ「皆、賛成して……もらえますか?」

梓「ウサギチーム、賛成です。……ね?」

桂利奈「う、うん……」

紗希「……」コクン

杏「うちも異議なしだよ」

優花里「……ハァ……五十鈴殿、あとでちょっぴり愚痴、聞いてもらってもいいですか?」

華「ええ、いくらでも」

優花里「では、私も賛成です……うぅ」

みほ「……ありがとうございますっ」

みほ(……揉める必要なんて、本当に、どこにもなかったんだ……)

みほ「……。」

みほ「はぁぁぁ……」

優花里「西住殿? どうしたんです……すごい溜息……」

みほ「昨日のことは全部、何もかも、ただの茶番だったんだなぁって……」

優花里「茶番、ですか……?」

みほ「昨日麻子さんと言い争いをしたことも、いっぱいいっぱい悩んだことーんぶぜ必要なくて、何かがずれてたんだなって……、そう思うと、もう……なんだか私、自分が情けなくて……」

みほ「はぁぁぁぁぁぁぁ……。じゃあ……とにかく……麻子さんのとこへ行ってきますね……皆さん、朝早くからすみませんでした……」

杏「眠ってる皆には私から話をしておこうよ。まぁ、皆も賛同してくれるでしょ」

優花里「そういえば、武部殿もまだお休み中ですね」

華「昨日、ちょっぴり、うなされていましたね……」

優花里「武部殿にもまだ少し時間が、必要ですねぇ」

沙織「──皆、もう、起きてたんだね。……」

華「あら、話をすれば……」

沙織「あのね、今、そど子さんから電話があったよ……麻子の携帯から……」

優花里「へ!?」

みほ「そ、そど子さん、なんて言ってました!? 麻子さんと一緒にいるんですか!?」

沙織「う、うん……寝起きだったから、あんまり詳しくは聞いてないけど……とにかく、今から学校へくるって言ってたよ……?」

みほ「麻子さんは1?、麻子さんも一緒ですか!?」

沙織「えと、うん、麻子も一緒にって言ってたけど……」

みほ「……!!」

優花里「よ……よかったじゃないですか西住殿!」

華「麻子さん、やっぱり本気なんかじゃなかったんですよ! それとも、そど子さんが説得してくださったのか……」

みほ「うん、そっか……よかった……よかった! ……って、あれ……?」

華「? みほさん……?」

みほ(……。)

優花里「どうしたんでしょう、なんだか顔が赤いし……あ、それに顔が小刻みに震えてます……」

みほ(……あれ……? なに、もしかして……全部、私の考えすぎ? 早とちり? あれ? あれ……? じゃあ、何? 本当に何もかも、全部まったく私の一人相撲……?)

みほ(……だと、したら……)


わたし『麻子さん、戦車道をしなければよかったなんて、やっぱり、私には思えないよ』キリッ

わたし『戦車道も、みんなも、そのどちらが欠けても、今の私にはたどりつけないんだもの』キリリッ

わたし『私、麻子さんの言ってたこと、認めたくない。でも、そう考えてしまっても当然だって、そうも思うの……』キリリリッ


みほ(だとしたら、なんか、これって……すっごく恥ずかしい……!?)

みほ「うぁ……ぁぁああぁぁぁあああっ!?」


優花里「わああ!? 西住殿!? 急に頭を抱えてどうしました!?」

杏「ありゃ……西住ちゃんも、ホルモンバランス、くずれてきちゃったかなぁ……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



優花里「もうそろそろお二人が到着するはずですね。……ねぇ西住殿、元気だしてくださいよぉ。朝ごはん食べましょ。レーション、おいしいですよ?」

みほ「うぅぅぅう……」

華「例え勘違いや早とちりだったとしても、色々と話し合いもできたし、ちゃんと意味はあったと思いますよ?」

みほ「……はぁぁぁ……」

沙織「みぽりん元気だしてよ……みぽりんが元気だしてくれないとなんだか私まで……はぁ……妊娠かぁ……」

優花里「あらら…沙織さんまで」

華「さぁさぁ沙織さん。ちゃんとご飯を食べないと、出るはずの元気だって引っ込んでしまいますよ? はい、レーション、あーん」

沙織「むぐ……」もそもそ

優花里「けど、なぜ園殿は、麻子さんの携帯から電話を……ご自分の携帯はどうされたのでしょう?」

沙織「後で説明するっていってたと思う……」もそもそ

華「お二人にも、色々とあったのかもしれませんねぇ」

優花里「そうですねぇ。……あっ」

華「どうかしましたか……? ……あっ。……みほさん、みほさん」


 とんとん


みほ「……ふぇ? 何? 華さん」

華「向こうの入り口、帰ってきましたよ。──麻子さん。そど子さんも」

みほ「え──」



 ──キィィィ……



麻子「……。あ……。」

みほ(……!)

みほ「ま──……っ」

みほ(……あ……あれ……私、どうして、こんなに……)

みほ「ま、こ……っ」

みほ(早とちりだったのかなって、さっきはあんなに恥ずかしかったのに……それなのに……私、麻子さんが、すごく嬉しい……麻子さんの顔をみれて、すごく嬉しい……!)

みほ「……麻子さん……麻子さんっ……!」



 たたたたっ……!



麻子「……西住さん」

みほ「麻子さん」

みほ(……あ……どうしよう、言葉がいっぱい、喉につっかえて、いっぱいすぎて……でてこない)

みほ「麻子さん、私、昨日……本当に、……っ」

みほ(ごめんなさい、怒っていませんか、戻ってくれてありがとう、会えてうれしいです、何があったんですか、どうしてもどってきてくれたんですか、……麻子さんは今、何を思っているんですか……ああっ……どれから口にすればいいの!?)

そど子「……ほら、冷泉さん。さっさと言いなさいよ。またおばあ様に、叱られるわよ」

麻子「……っ、邪魔をするなそど子っ。私だって、怖いんだ……。……。……あの……西住さん」

みほ「……。はい」

麻子「昨日は……昨日は、本当に申し訳なかった、と思ってる……すまなかった」

みほ(……!!)

麻子「すごく、後悔してる。……皆にも、会長にも紗季ちゃんにも、謝らせてほしい。そして、許してもらえるなら……皆と一緒に……また──うぷっ!?」

みほ「……麻子さんっ! 麻子さん……っ!」

みほ(はやとちりでもなんでもいい! とにかく麻子さんが戻ってきてくれて……本当によかった……!)

麻子「あの……許して……くれるのか……」

みほ「……私の方こそ! もう、きっと麻子さんは戻ってこないんだって……だけどそれはしかたないんだって……でも本当は……すごく寂しかったんです……」

麻子「よく、意味が分からない……でも、そうか、許してもらえるんだ……そうか、よかった……はは……は……」

そど子「ほらみなさい? だから言ったでしょ、心配する必要なんてどこにも……、……ごめん、邪魔ね。じゃ、先戻ってるから……」


 と、と、と……


<華『みどり子さん、お帰りなさい……心配をしていたんですよ』

<優花里『そうでありますよ、電話をしてくれればよかったのに』

<そど子『ごめんね。なんていうか……いろいろあったのよねぇ』



みほ「麻子さん……麻子さん……っ」

麻子「……もう、戻れないかもと、思ったんだ……私は、本当に一人になってしまうのかもって……そう考えたら……ひぐっ……はぁっ……すごく怖かった……えぐっ……」

みほ「麻子さんも、意外と早とちりなんですね……あは、は……ひぐぅっ……うぇっ……そんなわけ、ないじゃないですかっ……よかったです、本当に、早とちりで……よかった……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



沙織「──お、おばあちゃんに電話したの!? 妊娠するかもって!?」

優花里「お、思い切ったことをしましたね……」

麻子「そど子にさせられたんだ。……私は話したくなかったのに」

そど子「そのおかげで冷泉さんは今ここにいるんだからね。感謝しなさい。おばあさまにも、電話をさせた私にもっ」

麻子「……。そど子」

そど子「な、なによ」

麻子「そど子の言う通りだ……感謝してる」

そど子「っ!? ……き、急にやめてよ、調子狂うじゃない……気持の悪い……」

麻子「っ、そっちが感謝しろっていったんだぞっ」

みほ「ま、まぁまぁ……」


<杏『お話し中すみません、みなさ~ん』、


みほ「……?」

そど子「何かしら」


<杏『えー次はー、ウェルシア前ー、ウェルシア前でーす……にひひぃ、バスの車内放送、一度やってみたかったんだよねぇ』

<柚子『会長っこんな時にふざけないでください!』

<杏『いいじゃん貸し切りなんだし。せっかく、全員そろったんだしさっ。明るくいこうよ』

<桃『……あ、いえ、運転手さん。気にせず大学病院まで直行してください』


そど子「……。」

みほ「あ、あはは……」

優花里「元気ですねぇ、生徒会の皆さんは……」

華「心強いじゃないですか。それに会長も嬉しいんですよ」

優花里「他のチームのみなさんも、とりあえず一人もかけることなく、一緒にこのバスにのれましたもんね。私も……嬉しいです……」

沙織「……ていうかさ、ていうかさ! 麻子のおばあちゃん、いきなりそんな話を聞いて、びっくりしなかった……? 大丈夫、心臓とまらなかった?」

麻子「最初は絶句してた。……心臓、止まっててもおかしくない雰囲気だったな」

そど子「やめなさい、縁起でもない」

みほ「麻子さん、それで……?」

麻子「ん……。ほんとうは私、戦車道をやめようかと思ってた。学校も……しばらく休むつもりでいた。おばあに電話するまでは……」






みほ「……!」

華「……。みほさんの、言う通りだったのですね……」

麻子「……? どういう意味だ……?」

みほ「はい。私……麻子さんの気持ちを考えたら、そうなってもおかしくないなって……すごく、悲しいけど、でもそれは覚悟をしておかなきゃって……」

麻子「そんな風に、思っててくれてたのか……」

みほ「……」

沙織「だ、だけど……せめて相談してよ! なんで一人でそういうこと決めちゃうの!? 私達友達でしょ!?」

麻子「……。相談して、解決するならいくらだって相談してる。だけど、こんな事どうしようもない……と思った」

沙織「そうかもしれないけど……なんか置いてきぼりにされるみたいで、寂しいよ……」

麻子「……。謝る……」

みほ「だけど麻子さん、そう考えていたのなら……どうして私達のところへ戻ってきてくれたの? 妊娠……怖くないんですか……?」

麻子「もちろん怖い。おばけよりも怖い。だけど……」

みほ「……?」

そど子「おばあさまに、すっごく叱られたのよね」

麻子「っ、なんでそど子が言うんだっ」

そど子「ふんっ。……昨日からずっとやきもきさせられたんだから……」

麻子「む……」

そど子「おばあ様には迷惑をかけられないから、絶対に妊娠なんかできない……冷泉さんがそう考えるのは当然だって、私も思った。だから正直私だって、しかたないかなって諦めてた」

麻子「……」

そど子「ただ、おばあ様にだけは絶対に連絡させなきゃって、ちゃんと私の見てる前で……」

麻子「……あの時はすごく腹がたった。なんでそど子にそんな事言われなくちゃならないんだって」

そど子「だって、そうでもしないと貴方、どうせずっとおばあさまにも黙ってたでしょう。心配をかけないようにって」

沙織「あー……絶対そうだ」

そど子「しかももし本当に妊娠してたら、この子はどうなっちゃうんだろう。なかなかおばあさまにも言い出せず、私達とも会わず……そんなの絶対にだめだって」

麻子「ぬぅ……」

そど子「だいたい……どうせ學校を休むくらいなら、いっそ、学園艦を降りておばあさまのところへ行ったほうがいいもの」

優花里「おぉ……園殿、意外と大人な判断するんですねぇ……」

そど子「意外ってなによっ。私が三年なの、忘れてない?」

麻子「私は忘れてた。……まぁ、それで結局無理やり電話させられて……妊娠の事とか、学校もしばらくはいかない、って話をした。そしたら……」

みほ「そうしたら……?」

麻子「死ぬほど怒られた」

みほ「ええ……?」

優花里「怒ることではないと思いますが……」

麻子「それはだな……むぅ、説明は下手だから、おばあに叱られた事を、話す……」

そど子「……冷泉さん。別に、何もかもを話す必要は、ないと思うけど……」

麻子「いや、皆には、聞いてほしい……」

沙織「……?」

麻子「……私が小学校のころ、私のお母さんとお父さんが事故で死んで……その時はすごく後悔したって、おばあは言ってた」

沙織「ちょ、、麻子……!?」

麻子「関係のある話なんだ。聞いてくれ」

沙織「そ、そう……」



麻子「私だけが、生き残ってしまって……おばあはそれが不憫で、毎日毎日後悔ばかりしていたそうだ。どうしてお父さんとお母さんがでかけるのを止めなかったんだろうとか、雨で予定がつぶれれば良かったのにとか、自分が病気になって引き止めればよかっただとか……とにかく、毎日毎日後悔をしてた……らしい」

みほ「……。」

麻子「自分が死んだらこの子はどうなるんだろう。いったい誰がこの子を守ってくれるんだろうって……すごく不安になって、育児施設に勤めている知り合いに話を聞いたり、保護施設に連絡をとってたりもしてたそうだ。そんな時に……テレビで、交通事故のニュースをやってたのを見て……」

華「……。」

麻子「可哀想な事故だったそうだ親も子供も、一家全員……。でも、おばあはそれを見て、ふと。……こう思って……。……。こう……」

優花里「……冷泉殿?」

麻子「……。ごめん、少しだけ……待ってくれ。今、しゃべると、まずい……。……。……ちょっと、だめだ。……。」

みほ(……。気付いてますか。麻子さんって、泣いてしまいそうな時、必死に無表情でいようとするんです。でも、唇がきゅっと固くなって、そんなの全部わかっちゃうんですよ……。なんだかちょっぴり、麻子さんらしいです)

そど子「無理、するんじゃないわよ……」

華「そうですよ、無理にお話しすることは、ないんですよ。麻子さんが戻ってきてくれたのなら、私達はそれで、いいんですから」

麻子「いや……。そど子……代わりに話してくれ」

そど子「いいの? 私が話して……」

麻子「いい」

そど子「……せめてこういう時くらい、名前で呼びなさいよね。ほら、外でも眺めてなさい。これ、ティッシュ」

麻子「……っ」


 ……ずびー……


そど子「えっとね……おばあさま、すこし気持ちが疲れてしまっていたみたいで、事故のニュースをみて、ふと思ってしまったのですって、その……」

そど子「この子も──つまり、冷泉さんも……お父様やお母様と一緒に……その、事故にあってしまっていたほうが……もしかして冷泉さんにとっては幸せだったのかなって……一人で残されるよりは……」

みほ「……!」

優花里「そんな……」

沙織「おばあちゃんが、本当にそんな事を言ったんですか……!?」

そど子「ええ、私も、横で聞いてた」

華「信じられません……」

そど子「きっと精神的にまいってたのよ……おばあさま自身、そんな事を一瞬でも考えてしまった自分に愕然としたって……」

みほ「……。」

そど子「すっごく自己嫌悪して、すっごく苦しんだそうよ」

冷泉「……ずび」

そど子「だけど、おばあさまってすごいのね、その時にちゃんと気づいたの。私にはまだこの子がいるんだ。起きてしまった事や、もう取り返しのつかない事を悔やんで、目の前にいるこの子まで失うわけにはいかない。この子のために、頑張らなきゃって」

沙織「……そうだよっ、それでこそ麻子のおばあだよ……!」

そど子「だからね、妊娠するかもしれないとか、したらどうしようとか、なるかどうかわからない事を心配して、目の前の友達を失うような事はするなって。あんたにはこの先一生もうできないような、すぎた友達なんだから、って。たぶん、昔の自分に麻子さんをかさねて、だからすごく怒ったのね」

優花里「いやっ、でも……すみません話の腰をおるようですが……だけど、それで本当に妊娠してしまったら……どうするんですか……?」


そど子「……あー、ここからはちょっと、めちゃくちゃだったんだけどねー……」

みほ「?」

そど子「えっと……『だいたい子供なんてどうせそのうちできるんだから、びくびくするんじゃないよ!』 とか」

みほ「ふぇ!? そ、そういう問題じゃないと思う……」

そど子「あとは『勝手に私を殺すんじゃないよ! 最近の平均寿命がいくつだか知ってるのかい! 現代医療の力をなめるんじゃないよ!?』とか……」

華「あらあら……」

そど子「でも一番感心しちゃったのが、『あんたのために結構な額の生命保険を私にかけてある、もしものことがあっても、それで食いつなぎながらなんとか頑張れ』だって。子供はできて当たり前、苦労してあたりまえ、みたいに思ってるみたい。すごいのね、昔の人って」

沙織「ええー……それでいいのかな……」

そど子「ま、でもね、最後の最後に……『とにかく、ひ孫の世話ぐらい私が見てやるから余計な心配するなって』って、その言葉が、冷泉さん一番うれしそうだったわね」

麻子「ずびーっ……言ってくれることはすごくありがたいんだけどな……結局おばあって、どこかしらが根性論なんだ……死んだらどうするんだ、ほんとに……」

そど子「やめなさいっ。だいたい、あなたもそれで考えが変わったのなら、冷泉さんだって根性論じゃない」

麻子「まぁ、昨日の様子だと、おばあ、まだまだ死にそうにないし……」

そど子「だからやめなさいってばっ」

麻子「……だけど、おばあがそういってくれて、本当にすごく安心したんだ。そしたら……もしかして私は、失わずにすんだはずのものを、失おうとしてるのかもしれないって、すごく怖くなって……」

優花里「冷泉殿……」

みほ「……。私達って、結局まだまだ子供なんだと思います」

麻子「……?」

みほ「家族が守ってくれてるんだって思うと、それだけですごく安心しちゃいます。何も解決していなくても。……私、昨日、お母さんとお話ししたんです……」

麻子「……。そか。それは、よかった……お母さんと話しができて……」

みほ「麻子さんも、おばあさんと話してくれて……本当によかった……」

そど子「……。ほんとそうよ……」

華「そど子さんの、おかげですね」

優花里「ええ」

そど子「……べ、べつに……先輩として当たり前のことをしただけよ」

優花里「だけど、それならそれで、連絡をしてくださったらよかったのに……ごもよ殿やぱぞ美どのも、心配してたでしょ?」

沙織「そういえば、なんで麻子の携帯から電話をかけてきたんですか……? そど子さんの携帯は……?」

そど子「あぁ……水没して壊れちゃった。……冷泉さんに用水路へ突き落とされちゃって」

みほ「ふぇ!?」

沙織「な、なにしてんの麻子!?」

麻子「わ、わざとじゃない……学校を出た後、そど子がぐちぐちうるさいから、むっときてドンって押したら……ちょうどあぜ道の側に……」

華「あぁ……あそこですか……」

そど子「小さな用水路なんだけどね、でも制服はべちゃべちゃだし、身体はどぶ臭いし……だけど、これはチャンスだと思って」

優花里「チャンス?」

そど子「冷泉さんに押されてこうなったんだから、家で洗濯とお風呂させなさい!って。これは人として断れないでしょ」

優花里「おお~」

華「そど子さん……麻子さんのために、必死に頑張ってくださったのですね……!」

そど子「だから、その言い方は、なんか嫌っ」

みほ(……。)

みほ(本当に、それぞれいろいろあったんですね……)

<杏『はいはーい。皆、ちゅうもーく』


麻子「またか……」

そど子「こんどは何……」


<桃『あと5分ほどで病院に到着だ』


みほ「……!」

優花里「とうとう……やだなぁ」


<桃『検査はみっちり午後までかかる。皆、心しておくように』

<柚子『お昼は病院の食堂を使わせてもらってね。食事の時間は皆バラバラになると思うけど、あとで全員に食券を配布します』

<典子「あの! 注射とか、痛いのはあるんですかー?」

<杏『残念だけど、注射は何度かあるね~』

<桂利奈「うぅ、何度もあるんだ……」

<杏『ま、注射以上の痛い検査はないから、それは安心していーよ』

<桃『カウンセラーの方と話しをする時間もある。とても優しい女医さんだった。みんなも、いろいろ聞いてみると言い』

<ホシノ「はーい」


みほ(……あ。雨だ……やだなぁ。)

みほ(……。)

みほ(朝食を食べた後、また一度吐いた……)

みほ(それにレーション、前までは好きな味だったのに、なんだか今日は、どうしても味が受け付けなかった……)

みほ(……。)

みほ「やっぱり私……妊娠してるのかな……」



 ……ぶろろろろろろろ……


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みほ(うぅ……病棟の廊下って、やだなぁ。人気も少ないし、シーンとしてるし……なんだか私だけ、日常からどんどん切り離されていくみたい……)


 きゅっ……きゅっ……きゅっ……


みほ「皆それぞれ回る順番が違って独りぼっちだし……大学病院、広すぎだよ……」

看護士「? 何かお困りですか?」

みほ「っ!? い、いえ、何でもないです……」


 ……とととととっ……


みほ(声にでちゃってたんだ。恥ずかしい!)

みほ「だけど、はぁ……ほんのちょっぴりでいいから、誰かとお喋りしたいよぅ……」

みほ「……あっ」

みほ(隣の病棟の廊下、紗希ちゃんが一人で歩いてる! おーい、おーい)


 ぱたぱた


みほ「手をふっても気づかないなぁ。おーい、さきちゃーん……」

みほ(……)

おりょう「……何をしとるぜよ?」

みほ「ひゃぁっ!? お、おりょうさん」

おりょう「どこに向かって手をふって……お、紗希ちゃん。あの子、一人でちゃんと周れているのか……?」

みほ「あはは、ちょっぴり心配だよね。……おりょうさんはどう? 順調?」

おりょう「それが、内科の問診が長引いて、やっといまから昼メシぜよ……というわけですまぬ、先を急ぐっ。また後でな~」

みほ「あ、うん。また後でね。……。」

おりょう(いっちゃった……。でも、ちょっとだけ、ほっとした……)

みほ「……あ」

みほ(今度は、廊下の向こうに……)


<あけび「先に全部周り終わったほうが勝ちよっ」

<妙子「私はあと3つかな」

<あけび「うそっ!? はやっ!」


みほ「ふふ、バレー部の皆さん、病院なのに元気だなぁ……」

みほ(でも、そっか。姿は見えなくても、みんなが病院のあちこちにいるんだよね。そう思えば、ちょっとだけ寂しくない……かな……?)

みほ「また誰かに会えるといいな」


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みほ「あ、優花里さんだ!」

優花里「わあ! 西住殿ー!」

みほ「優花里さんも、泌尿器科の診察待ち?」

優花里「です! 西住殿もなんですね!」

みほ「うん。よかったぁ、優花里さんにあえて!」

優花里「私もですー!」

みほ「ねー! 他の皆、どうしてるかなぁ」

優花里「武部殿にはさっき内科で会いましたよ」

みほ「沙織さんどうだった? まだ、あんまり元気なかった……?」

優花里「いやぁそれが……今度こそ本当にお嫁にいけなくなっちゃった、って、すっごい嘆いてましたよ……」

みほ「?」

優花里「ほら、産婦人科で……」

みほ「産婦人科……?」

優花里「あ、もしかして西住殿……産婦人科はまだです?」

みほ「え? う、うん。まだだけど……」

優花里「そうですかぁ……あの、ちょっと、耳を貸してください……」

みほ「……?」

優花里「……ゴニョゴニョ……」

みほ(……!?)

みほ「……うそっ、そんな所まで検査するの!?」

優花里「すっごく恥ずかしかったですよぅ……足のせるとこ、めちゃくちゃ開くんですよ、あれ……」

みほ「えぇぇぇぇ……あっ、どうしよう、私、さっきお手洗にいっちゃった……」

優花里「いやまぁ、問題ないんだと思いますよ。何も注意は受けてないですし……」

みほ「うぅ、せめてウォシュレットのある所に入ればよかった……。……あっ!? 診察する先生は女医さんだよね!? まさか、男の先生じゃ……」

優花里「大丈夫です。さすがにそこは女医さんでした」

みほ「よかった……」


<看護士『秋山、優花里さまー。秋山、優花里さまー』


みほ「あ……呼ばれちゃったね……」

優花里「じゃあ、お先です。……またどこかで会えるといいですねっ」

みほ「うん! 診察頑張ってね!」

優花里「西住殿もっ」


 ……からからから……ぱたん……


みほ「……。産婦人科かぁ、やだなぁ……」

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そど子「あら、西住さん……『コウノトリはどこから赤ちゃんを運んでくるのか』? なにそれ。」

みほ「わー、そど子さんに会えた」

そど子「園みどり──もういいわ。西住さんは、もうすべての検査が終わったの?」

みほ「ううん。少し、喉が乾いてしまって。休憩所なら、自販機もソファーもあったなって」

そど子「私もいいかげんに歩き疲れてきちゃった。ところで……それって、妊婦さん用のパンフレット……?」

みほ「そうなんですよ。私、こういうこと何も知らないんだなって思って……。それに、理科とかの勉強もあんまりだから、……『無性生殖』なんかも、それってそもそも何だっけて感じで、えへへ……」

そど子「冷泉さんに聞けば、色々と教えてくれるんじゃないかしら。あの子、勉強できるんだから」

みほ「そうですねー。……あ、そういえば。……。」

そど子「なに? ……ちょっと、ほんとに何よ、横目でちらちらこっち見て……」

みほ「あのぅ、そど子さんて……」

そど子「だから、何……」

みほ「麻子さんと……仲良し、なんですか……?」

そど子「……はぁっ!?」

みほ「ひぅっ……!? だ、だって、昨日だって……本当に一生懸命に……」

そど子「ぬ……」

みほ「……。」

そど子「べ、別に……少し、ほっとけないっていうか……。頭いいのにもったいないし……まぁ、私がしょげてる時は、引っ張ってくれたこともあるし……? だから、今度は私がなんとかしてあげなきゃって……」

みほ「はぁ、なるほど」

そど子「……あぁもぅっ、そんな事はどうでもいいでしょっ! 休憩しにきたのなら、黙って休憩してなさいよっ!」

みほ「ひっ……すみません……」

そど子「ふんっ」

みほ(……。)

みほ(そど子さんって、ちょっぴりダメな男の人とかと、恋人になりそうかも……)

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みほ「やっとこれで最後。でも、カウンセリング……? 何か質問をされるの……? 不安……」

みほ(……黒森峰にいたころ、お母さんからうけた尋問みたいなのを思い出しちゃう……)

みほ「……うぅ」


<看護士『西住、みほ様ー。1番へお入りくださいー』


みほ「あ、はいー……うぅ、今後のことをどう考えているのかとか、いろいろ聞かれるのかなぁ……やだなぁ。」



 ……カラカラカラ……パタン……



みほ「……失礼しまぁす……」

女医「はいこんにちわ。西住みほさん、ね?」

みほ「は、はい、西住みほです」

女医「さぁ、座って。あっちこっち回らされて、ずいぶん疲れたでしょう?」

みほ「あ、はい……」


みほ(……思ったより歳のいってる人だ、60歳くらいかなぁ。見た目は優しそうな人……)


女医「西住さんは……あらまぁ、ご実家は熊本。随分遠くから来てるのねぇ」

みほ「はぁ。まぁ」

女医「今は一人で住んでるの? それともご家族のうちの誰かと?」

みほ「えと、一人で、です」

女医「まぁまぁまぁ! それは立派ねぇ……」

みほ「はぁ」


(な、なんだろ、近所のおばさんと世間話をしてるみたい……)


女医「大変ねぇ熊本から……あぁ、なんだったかしら……熊本にいる、黒い熊みたいな……」

みほ「あ、くまもん……」

女医「あぁくまもんね、そうそう」


みほ(……あはは……やっぱり、他県の人の熊本イメージって、それくらいなんだ……)


女医「まぁ、くまもんはどうでもいいのよ」


みほ(へ?)


女医「実はこっちにもにもくまのキャラクターがいるのよ。妙にケガをしている熊で──」


みほ(……!?)

みほ「あ、あー……もしかして、ボコ、とかでしたっけ」

女医「……あら、貴方も知ってるの? ボコちゃん」

みほ「えと、はい、ちょっとだけ……」

みほ(ボコちゃん……)

女医「うちの孫が本当に大好きでねぇ。包帯を巻いているところが可愛のかしら……」

みほ「あ、えと……可愛いというか、ボコは、ぼこぼこにされても負けないから、そういうのが、いいのかも……」

女医「あぁわかった、ボコは負けず嫌いなのね?」

みほ「そうです、やられてもやられてもボコは負けません」

女医「なるほどなるほど、ボコはとても根性があるのね。じゃあ、特訓なんかもしたり?」

みほ「あ、そういう事はしないんです、例え力は弱くても、ボコボコにされても、絶対にあきらめないっていうのがボコの魅力ですから」

女医「粘り強いのねぇ、うん、うちの孫にもそういう所を見習ってもらわないと。……そういえばボコランドっていう遊園地? があって」

みほ「あ! はい! 知ってますっ、私も行きましたっ」

女医「それはよかった、実は孫に連れて行ってってせがまれているんだけど、6歳の子どもでも楽しめると思う……?」

みほ「ぜんっぜん大丈夫だと思います! 小さい子向けのアトラクションもいっぱいありますし、私も友達といったけれどすごく楽しかったです。それに小さい子供なら──」



 ……………………。



女医「──ありがとう。孫に喜んでもらえる良い話を教えてもらた」

みほ「いえいえっ」

女医「けれど、あらまぁ、ごめんなさいね。わたしが聞いてばかりで……」

みほ「いえ、とっても楽しかったです!」

女医「みほさんも、何かきになる事があれば、私にも聞いて頂戴? もちろん、私の孫の事なら、なんでも教えてあげる」

みほ「ふふふ、そうですね、お孫さんの事、いろいろ聞いてみたいです。……あぁ、でも……」

女医「……なぁに?」

みほ「……誰かに、どうしても教えてほしいことがあって……」

女医「なんでもどうぞ。実は私、お医者様なの」

みほ「あはは……。……あの……」

女医「うん」

みほ「私達、どうして妊娠してしまうんでしょう……」

女医「……。そうねぇ」

みほ「これは夢なんじゃないかって、何度も何度も考えてしまいます。だって、こんなの、それぐらいしか、説明がつかないじゃないですか……」

女医「そうね……」

みほ「私達が、いったい何をしたっていうんでしょう。何か、悪い事したのかな……」

女医「……。ここは、おとぎの国ではないものね」

みほ「え……?」

女医「だから、この世界に起こるすべての現象には必ず何らかの仕組みがある。一つの例外もあり得ない。医者も科学者のはしくれだもの、それだけは100%信じているわ」

みほ「……」

女医「貴方たちがなぜ妊娠していくのか、今はまだその仕組みはわからないわ。けれどそれは、私達がまだ理解していないだけ。未知の原理が、必ずどこかに隠れてる。今、何がおきているのか、世界中の大人たちが、必死になてそれを探っている。だからみほさん、どうか、私達大人に、もう少し時間を頂戴」

みほ「こちらこそ、どうか、よろしくお願いします……」

女医「ええ、ありがとう。それともう一つ」

みほ「はい……?」

女医「貴方たちには何の罪もない、それもまた私達は確信してる。自分が何か悪い事をしたのかなだなんて、決して考えてはいけないわ」

みほ「……」

女医「ただ、もしかすると……時には悪意によってねじ曲げられた、愚かな意見を耳にすることもあるかもしれない」

みほ「え……?」

女医「アメリカでね、この異常現象が観測されはじめたのは3週間ほど前なのだけど……初めのころは、集団違法薬物接種だとか、不誠実な行為の結果であるとか……短絡的で恥ずべき見方が、少なからずあった」

みほ「……っ」

女医「けれど、今はもう決してそうではないと立証されてる。だからもし、そんなバカな事をいう者があったなら、すぐに連盟や、それか私達に教えて。あなたたちの誠実は私達が保障する。酷い現実だと私も思うけれど、どうか、負けてはだめよ。慰めになるかは分からないけれど……世界中に今、あなたたちと同じ境遇で戦っている仲間が、たくさんいる」

みほ「……はい! お話しをきかせてもらえて、本当に嬉しかったです」

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ぶろろろろろろろ……


<桃『皆、長時間の検査、お疲れであった』


<エルヴィン「DNAを削りとられてしまった……」

<左衛門座「口の中に綿棒をつっこんだだけだろう」

<典子「MRIがあんなに怖いものだったなんて……」


 ワイワイガヤガヤ……


華「沙織さん、大丈夫です?」

沙織「……うぅ、……華ぁ、華ぁ……私、汚れちゃったよ……」

華「大丈夫、沙織さんはちゃんと可愛い女の子ですよ」

沙織「うぅぅ……」

みほ「産婦人科……いやだったね……」

優花里「注射よりもなによりも、あれが一番の山場でした」

華「しかたがないですよ。私達のお母さまも、通ってきた道です」

沙織「ちょ、だめっ、変な事いわないで!」

優花里「あんまり考えたくないです……」

みほ(……。うぅ、想像しちゃった……。……。はあわわ、お姉ちゃんも……うぅ)

華「あの、ところで、麻子さんは? 先ほどから姿も声も……」

<そど子「こっちよ。出発と同時に寝ちゃった。昨日はあまり寝てないし、しかたないわね」

みほ「あ、そど子さんと一緒に座ってたんですね」

優花里「今となってはもう、冷泉殿の事は園殿にお任せですねぇ」

そど子「じ、冗談じゃないわ! 子守を押し付けないで!」


<杏『はいはーい、ちょっと聞いてね。今回の検査結果は、検出方法が通常とは違う上、人数も多いってことで、五日後まで分からないんだけど……さぁて、どうやって皆に告知しようかな?』

<スズキ「どうやって、っていうと……?」

<柚子『事態が事態だから、該当者への告知は『寄港後に両親を交えて』という形も考えてはいるのだけれど』

<ホシノ「うーん……? ちょっと面倒じゃない……? それに、なるべく早く知りたいし」

<カエサル「いつものように、戦車倉庫前に全員集まって発表……ではだめなのか?」

<典子「それでいいんじゃない?」

<梓「うちも皆それでいーって言ってまーす」

<柚子『み、みんな本当にそれでいいの……?』


みほ「……ふふふ」

優花里「西住殿……?」

みほ「こんな時なのに、皆、のんきだなぁって.なんだか可笑しくって」

優花里「あぁ……あはは。たしかにそうですね。けど、暗いよりもこっちのほうがいいですよ」

みほ「そうだね」

優花里「実は私……本当はずっと現実感がなかったんです。バタバタしてたっていうのも、あるかもしれませんが」

みほ「そうだったんだ」

優花里「でも……」

みほ「でも……?」

優花里「今日、病院の廊下を一人であるいている時にですね、ふと、気が付いたんです。『あ、これ、本当に現実なんだな』って。えへへ、実は脳みそが私も事態に追いついてなかったのかも……。自分も妊娠してるかもしれないんだって、初めて実感がわいたんです……そしたら、すごく怖くて、心細くなって……」

みほ「……」

優花里「だから、神経内科の待合室で西住殿と会えたといは、ほんとにホッとしました。そういう事もあったから……やっぱりこうやって、ガイガイワヤワヤしてるほうが、私はいいですよ。気がまぎれます」

みほ「……。ね、優花里さん……」

優花里「はい?」

みほ「今日は、私の家に泊まりにきてほしいな」

優花里「え?」

みほ「今日は皆家に帰るみたいだし……私も一人だと、いろいろ考えちゃうし……それに、寂しいし……だから、一緒にいてほしいなぁって……」

優花里「あ……はい! ぜひぜひ、泊りに行きます!」

みほ「うん! ありがとう」

沙織「……こらー、ずるーい」

みほ「沙織さん……?」

沙織「私もみぽりんち泊りにいくー」

華「あぁ、それでしたら、私も」

みほ「ふぇ? あ……うん、もちろん! 皆で一緒に!」

優花里「ちぇー……せっかく西住殿と二人きりだと思ったんですが……とは言うものの、私もやっぱり賑やかなほうがいいです! 皆でお泊りかいしましょー!」

沙織「じゃあ、きまりだね! ……診察の愚痴も、聞いてほしいしね……よよよ」

みほ「あはは……!」

 ……ちょんちょん、


みほ「……?」

桂利奈「……あの、たいちょ」

みほ「あ、桂利奈ちゃん? どうしたの……?」

桂利奈「私と紗希も」

みほ「え?」

桂利奈「私と紗希も、泊りたいです。隊長の家に」

紗希「……」コクン

あや「ねー、何話してるの? ……え? 隊長の家にとまるの!? あ、じゃあ私達もー!泊まりたいですー!」

みほ「え!? 皆も!?」

梓「ちょっと……隊長に迷惑だよ!?」

沙織「ていうか、みぽりんの家、そんなに人はいんないよ!?」

華「あらあら……」

優花里「……んーていうかそれなら……」

みほ「結局、今日も倉庫で……かな?」

沙織「そうだねぇ……」

優花里「じゃ、みんな、今日も倉庫でお泊りだー!」

あゆみ「はーい!」

優希「家から着替えもってこなきゃ~」

みほ(あはは……やっぱりみんなでいると楽しいなぁ)



<杏『はいはいではー、ということで、5日後の発表は放課後に戦車道倉庫前、ということでいいかなー?』



<『異議ナーシ!』



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唐突にすみません。

諸々の都合により、明日以降はSS作成に充てられる時間がグっと少なくなります。
つきましては今後についてのアンケートを取らせてください。
二択です。


1→ 毎週月曜の夜に細々と投稿。(一度の投稿量をこれまでと同程度にするとしても、完結までに年をまたぐかも)

2→ オチまでの流れはすでに決まっていますので、大筋を記述し投稿。それにてスレ終了。


どちらが望ましいでしょうか。
明日まで様子をみて、1か、2か、数の多かったほうで、行きます。

帰宅時間の遅れにともない、ちょいと投下が遅れます。
10時頃になります。

渋滞に巻き込まれておりましたメンゴ。
……11時から投下しますごめんなさあああああああい。お風呂はいる!

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みほ(授業に出ているだけなのに、先生から偉いよって言われちゃった。何も偉くないのにね……あたり前の生活を、しているだけなのに……)

みほ(でも授業中にぼーっと窓の外を眺めていても、先生に怒られなくなって……それはちょっと、ラッキーかな)

みほ(……。お天気、いいなぁ。青空が綺麗)


 …………。


みほ(あ、いけない、あんまりずーっとボケっとしてると、ちゃんとマジメに授業を受けなさいって、沙織さんと華さんにまたからかわれちゃう。ずるいよね、私には、二人が見えないのに)

先生『──この問題は──なので──』

みほ(……。うーん、黒板に書いてあることも、先生が言っていることも、ぜんぜん頭に入らないや……)

みほ(それでも、やっぱり授業にだけは出ていたくて……なんだか可笑しいね)

先生『──さん次、読んで──』

生徒『はーい』

みほ「……。」


 ……ごそごそ……


みほ(携帯をコッソリみてても怒られない。先生には、きっとバレてるのに。……皆と同じように、注意してほしいなぁ……)

みほ(って言いながら、見ちゃうんだけどね)


 すっ、すっ


みほ(他の学校の人達からは、一回も連絡がこないや)

みほ(……。)

みほ(ありがとうございます。皆、気を使ってくれてるんだよね……)

みほ(やっぱり、せめて明日になるまでは……大洗の皆のことだけを、考えていたいです。ごめんなさい……)


 ……キーンコーンカーンコーン……ざわざわざわ、ね~帰りにケーキ食べていこーよー……


みほ(……)

みほ(明日、検査結果が分かる)

みほ(明後日の私達は……どうしてるだろう? こんな風に学校に、いられてるのかな……?)

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沙織「──ねぇ決めた! 私、素敵なママになる!」

優花里「おお~」

華「あら~」

みほ「よかったぁ。沙織さん、やっと元気になってくれたぁ」

麻子「明日の発表に間に合ってよかったな」

沙織「……。あのね、皆……ちょーっと反応が薄いんじゃないかなぁ……」

麻子「どんな反応が欲しかったんだ」

沙織「『えぇ!? ど、どうしたの急に!?』とかさぁっ」

優花里「コホンっ……えぇ? どうしたんですかぁ、急に」

沙織「……。」

沙織「なんか違うっ」

麻子「面倒だな。元気になったと思ったら、これか」

沙織「なによー!」

みほ「沙織さんが元気になってくれたのなら、なんだっていいもんね」

優花里「武部殿が笑顔でいてくれないと、やっぱり私達も寂しいですから」

沙織「そ、そぉ? そういってくれるなら、まぁ」


 たたたたた……


桂利奈「せんぱーい! また明日でーす! さよなら~!」

沙織「わわ、そんなにいそいでどうしたのー?」

< 桂利奈「これから紗希の家に集合して、皆でビデオ見て勉強するんでーす! 『14才の母』ってゆードラマでーす!」

麻子「なんだそれは」

華「以前放送していた、テレビドラマですね」

みほ「桂利奈ちゃん、ばいば~い」


   < 桂利奈「は~い!」


優花里「みんな、たくましいですねぇ……」

みほ「ん……皆、とっても立派な子達だよ」

優花里「ほんとですよ……」

華「他のチームの皆さんは、どうされているのでしょう」

麻子「アリクイさん達は、家に帰って一緒に狩りをするっていってたな」

優花里「アヒルさんはバレーするっていってましたし、レオポンさんはレストアで忙しいとか……」

みほ「会長達もいつも通りに生徒会のお仕事だって。カバさんも、一緒に家に帰るって」

麻子「……そど子も、普通に風紀の仕事をするって言ってたな」

優花里「……。」

麻子「……なんでニヤニヤしてる」

優花里「別に~なでもないですよー」

麻子「……っ」

みほ「そっか……皆、いつもの放課後だね」

華「よろしいと思います」

沙織「……ねぇねぇ! みんなで、アイス食べにいこ!」

華「いいですね、名案だと思います」

みほ「うん! 行こうよ!」

麻子「私もいく」

優花里「もちろん! そういえば新作がでてるんですよ! 手分けして皆で全部の味を食べましょー」

沙織「おー! ……でね? でね? 聞いて? 子供が一人くらいいても、素敵なママになれば、きっとそれでもかまわないっていってくれる素敵な男性がいると思うの!」

華「そうですよ、沙織さんが笑顔でさえいれば、沙織さんの事を大切にしてくれる男の人は、きっとあらわれます」

沙織「や、やだー、そうかなぁ!?」

華「ええ、私が保障します」

沙織「~~~~♪」

みほ(ふふふ……)

優花里「西住殿」

みほ「ん……?」

優花里「明日、なんですね……」

みほ(……。)

みほ「そうだね。明日だね……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ……ちゅん、ちゅん……ちゅん……


みほ(あんまり眠れなかった)

みほ(今日の、放課後、結果を知らされる……やっぱり怖い……)

みほ「……。」

みほ「……ん?」

 
 ……バラララララ……


みほ(ヘリのローター音?)


 …………。


みほ(……? 空耳、だったのかな……?)

みほ「……ふぁぁ……起きよ」

華「すぅ……すぅ……」

麻子「くぅー……すぅー……」

みほ「ふふ、かわいい寝顔だなぁ……二人とも、家に泊まってくれて、本当にありがとう」

みほ「んしょっ、と……」


 ギシッ……
 
 ……とっ、とっ、とっ

 シャッ……


みほ「っ、まぶしい。い~お天気ー」


 カラカラカラ


みほ「んーっ、ぷはぁ。冷たい風が気持ち良いなぁー」

みほ「はぁ~」

みほ「……。」

みほ(優花里さんと沙織さん、お母さんやお父さんと楽しくすごせたかな。結果発表の前の、最後の夜だもん)

みほ(……今日の夜は、どうなっているか、分からないし……)

みほ「……。」

みほ「……あ」


 ……バララララララララララ……


みほ(ヘリコプター……やっぱり聞き間違えじゃなかったんだ)

みほ(だけど、ああいうツインローターのヘリ、この学園艦では初めて見る……もしかして、船の外から飛んできたのかな)

みほ(……どこから飛んできたんだろう。航行中の学園艦にどうしてわざわざ)


 ……バロロロロロロ……


みほ「あれ、あっちの方向って……」

みほ「……学校……?」

みほ(……。)

みほ(なんだろう、すごく嫌な感じがする……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 てく、てく、てく、てく、


みほ(……。)

みほ(皆でこんなに静かに通学するの、初めて)

沙織「……。」

優花里「……。」

華「……。」

麻子「……。」

みほ(皆、不安なんだ……)


 てく、てく、てく、てく


みほ「ね……緊張、するね」

優花里「あ、はい……そうですね……」

沙織「緊張っていうか、怖いっていうか……」

優花里「このまま何も聞かずにすむのなら、そのほうがいいかもだなんて、思っちゃいます」

麻子「……。私達が知らないだけで、検査結果はもう出てる」

沙織「……。」

麻子「どこかの誰かは、私達の誰が妊娠していて誰がそうでないのかを知ってる。……妙な気分だ」

華「知らぬが仏、ですね。まさに」

みほ「ほんとだね」

みほ(……今朝は吐かなかった……。ただ、そもそもつわりにしては時期が早すぎるって病院の先生は言っていたけど……とは言え、元々ありえない事が起こっているのだから、確実な事は今のところ何も分からない、とも……)

みほ「……。そういえば、優花里さんと沙織さんは、今朝ヘリが飛んでいたの気がついた?」

沙織「ううん、気がつかなかったけど」

優花里「私も」

みほ「そっか」

みほ「……。」

みほ(気にしすぎ、なのかもしれないけど……)


 てく、てく、てく、てく……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


そど子「貴方たち、おはよ」

みほ「おはようございます」

そど子「冷泉さんも、今日はちゃんと遅刻しなかったわね」

麻子「偉いなそど子。こんな日でも遅刻の取り締まりか」

そど子「何よそれ……皮肉?」

麻子「そうじゃない。素直に感心したんだ」

そど子「別に……こうしてるほうが、気がまぎれるだけよ」

麻子「……。なら、遅刻してやればよかった」

そど子「……。ふん、バカな事いってないで、さっさと行きなさい。私は忙しいんだから邪魔しないでよね。……じゃあね、放課後」

麻子「ん……放課後」


 てく、てく、てく、てく……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……オハヨー……ガヤガヤ……ハヨー……


 てく、てく、てく、てく……


みほ「あ」

沙織「? どしたの?」

華「ん……学校ののヘリポートに、ヘリがとまっていますね」

沙織「そういえばみぽりん、さっきヘリがどうのって言ってたっけ」

優花里「あのう、あれって確か、戦車道連盟が所有しているヘリですよ」

みほ「そうなの?」

優花里「ええ、連盟のパンフレットで紹介されてました」

麻子「そんなところまでチェックしてるのか」

優花里「えへへ」

みほ(……。じゃあ、戦車道連盟の人が……?)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


先生『……このXを代入すると~……』


みほ(……。)

みほ(妊娠検査の結果が発表されるこの日の朝に、戦車道連盟の誰かが、学園艦に来た)

みほ(誰だろう。理事長? 蝶野教官?)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(……おかあさん……?)

みほ(……やだな、何を考えてるんだろう、私ったら……わざわざ熊本からここまで、そんなわけないよね、なんだか恥ずかしい、バカみたい)

みほ(けど、とにかく今、この学園内のどこかに、外から来た誰かがいる)

みほ(……。)

みほ(ザワザワする……)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 キーンコーンカーンコーン……


沙織「ね、お昼ご飯は屋上で食べよ」

みほ「うん、そうだね」

華「では優花里さんと麻子さんにも──」




 ジジ……ジ────




みほ(あ──)

みほ(──スピーカが鳴る直前のノイズ──)

みほ(お昼休みになったばかりなのに──?)



 ──ピンポンパンポ~ン……ジ……ジジ……

 ──…………。



みほ「……。あれ……?」

沙織「何も流れないね」

華「誤放送でしょうか?」

沙織「ま、いっか、じゃあ早く行こ──」



『──生徒の呼び出しを、告げる』



 ──ドクン──

 
 
 
『当学園において戦車道を履修している学生諸君は、至急、戦車倉庫内に集合していただきたい。繰り返す、当学園において──』




みほ(……!? えッ……!?)



 ──ドクン、ドクン──



沙織「ね、ねぇ……? わたし聞覚えがあるよ? この男の人の声……」



 ──ドクン、ドクン、ドクン──



華「そんな……まさか……」



 ──ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン──!



みほ(どうして──)

みほ(どうして、この船に、この学園に──)

みほ(──どうしてあの人がいるの!?)

 ガラガラッ!!



優花里「皆さん! い、今の放送を聞きましたか!?」

沙織「ゆかりん、麻子!」

麻子「今の声、間違いないぞ。あの男が……学園内にいる!」

みほ(……っ)

みほ(朝のヘリ……!)

みほ(あのヘリには、この人が乗ってたんだ!)

みほ(この男の人が乗っているヘリを、私は眺めていたんだ!)

みほ(私の見ている前で、あの人はこの学園艦にやってきたんだ!)

みほ(……何をするために!?)







 ──この学園を廃校とする──







 ゾクッ……

みほ「──ぅぁぁあッ!!」

沙織「みぽりん!?」



 ──キィィィィィィィィィィィィンッ──



みほ「ぅッ!?」

沙織「ちょ、ちょっと、大丈夫……!?」

みほ(耳鳴りだっ、すごく嫌な事が起こった時の……!)



 ──キィィィィィィイイイイイイィィィィイイイイイィィィィィィィ──

 ──ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ──



みほ「ああああぁぁ……ッ!」

華「みほさん!?」

みほ「──だめっ! そんな事、絶対に──ぉえッ」

優花里「……!? 西住殿、顔が青いですよ!?」

みほ「……はぁっ、はぁっ……!」


 ──ドクン! ドクン!! ドクン!!!──


沙織「ちょ……どうしちゃったの!?」

みほ(胸がムカムカする、それに痛いっ、耳鳴りで頭が、いたいっ……──うぷっ!?)

みほ「──ごめんどいて!」


 どんっ


優花里「わっ……!?」



 だだだだだだっ!

 カラカラカラ!!



みほ「──オゲロァァーーっ! ……かはッ」


 
 <……ばしゃばしゃっ

 <『きゃぁぁあっ!? なんか降ってきたー!?』



みほ「っ……下の人すみませっ……オェッ」

沙織「やだやだ、どうしよう!?」

みほ「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

華「保健室へ行きましょう!」

優花里「そ、そうです、倉庫の方には私達が──」

みほ「だめっ!」

優花里「!?」

みほ「お願い、私も、一緒に!」

沙織「だけどみぽりん!」

みほ「絶対に、行く!」

優花里「西住殿!?」

麻子「……。」

麻子「西住さん」

麻子「私の肩に、つかまれ。」

沙織「麻子!?」

みほ「……!」

優花里「……っ、ああもうっ、わたしの肩も! どうぞ! つかまってくださぁい!」

みほ「二人とも、ありがとう」

華「……しかたがありません、ゆっくり歩いて、皆で行きましょう」

沙織「ほ、ほんとに大丈夫?」

みほ「……させない、絶対に、そんなこと……させない……」

沙織「み、みほ……」

優花里「西住殿、さぁ、深呼吸をしてください」

みほ「……すぅー……はぁ……おぇっ……」

みほ(……ッ)

みほ(ボコ、お願いボコ! 今度こそ、ボコの勇気を私に……頂戴!!)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ざっ。ざっ、ざっ、

みほ「二人とも、ありがとう、ごめんね、もう落ち着いた」

優花里「無理、してませんか?」

みほ「うん、平気だよ」

みほ(少しまだ胸はむかむかするけど、耳鳴りは、もう麻痺しちゃった……)

沙織「ねぇ、倉庫の前には、誰もいないけど……」

華「きっとみなさん、中にいるんでしょう。放送でもたしか、『倉庫内に』と」

麻子「人には聞かれたくない話、か」

みほ「……もし、本当にあの人だったなら……」

沙織「みぽりん……」

みほ「……。」

沙織「ねぇ、やだよ、そんな怖い顔、やめてよ……」

みほ「……。行こう、皆」

沙織「……みぽりん……」



 ──ギィィィィ……



梓「──あ、隊長達!」

みほ「梓ちゃん。皆さん」

そど子「遅かったわね」

麻子「遅刻したか」

エルヴィン「いや、まだ私達生徒以外には誰も来ていない」

典子「生徒会の3人もまだみたいだけど……」

みほ(会長さん達も?)

ホシノ「もー……レストア、この昼休みで終わらせたかったんだけどな……」

梓「……あの、隊長……」

みほ「ん?」

梓「さっきの放送、あれ、あの人なんじゃないんですか」

みほ「……。」

忍「やっぱり、あの眼鏡の人の声だよね……」

梓「……っ、どうして今日、この日にっ、あの人がこの学園にいるんですか!?」

みほ「梓ちゃん」

梓「私、嫌です……怖いです!」

優希「梓……」

桂利奈「梓ぁ……」

みほ(……。)

ねこにゃー「もしも本当にきゃつが現れたら、鍛えあげた我らの拳でもって必殺の猫パンチをお見舞いしてやるのだにゃあっ

典子「必殺、スパイクっ……!」

あけび「キャプテン……!」

妙子「み、皆、落ち着こうよぉ……」

みほ(……。)

みほ(妊娠の事だけで、心配事はもう沢山なのに……!)

……ぎゅっ



みほ「あ……?」

紗希「……」ギュッ

みほ「紗希ちゃん……?」

紗希「……」カタカタ

みほ「……! 紗希ちゃんっ」



 ぎゅぅぅぅ……



みほ(落ち着け。落ち着くの。)



 ──そうやって感情的になるから、おかしな事になったんです。また繰り返す気ですか──

 ──どうか、私達大人に、もう少し時間を頂戴──



みほ(私は、落ちついていなきゃ。)



 ────ギィィィィ



そど子「あ、かいちょ──………え?」

麻子「……あ!」

紗希「……!!」

みほ(? 誰──?)





「──きみたち」


 

 ──キィィィィィン──


みほ「……ッ」

優希「……でたぁ……」

みほ(……逆光……っ)

みほ(でも、間違いない)

みほ(この声、この背格好……!)

みほ(やっぱり間違いない!)

みほ(文科省の、偉そうな役人さん……!)

役人「……。」


優花里「あ、あ、ああ……」

華「……ノコノコと……っ」

麻子「何をしにきた……!」

役人「……。」


 ツカ、ツカ、ツカ……


役人「──遅れてもうしわけない。急な電話があったものでね」

ねこにゃー「……フゥーッ、フゥーッ……!」

妙子「猫田さん、抑えて……!」

左衛門座「獅子身中の、虫……っ!」

梓「やだ、やだ」

スズキ「まじか……」

パゾ美「遅刻……っ」

みほ(……。)

みほ(皆が……)

紗希「……たいちょ……」フルフル

みほ(……!)

 ぎゅっ……!

みほ「……っ」




 ──キィィィィイイィィィィィィィィィイイイイイイイッ!!!




みほ(……どうして、今なんです……)

みほ(どうして今……! 私達の前に姿をあらわしたんですか……!)

みほ(私達どんな思いで今ここにいるか、あなたには分からないんですか──!!)

みほ(私達の誰が妊娠しようが貴方には、どうでもいいんですか──!!!)

みほ(……そんなに私達の学校が──)

みほ(私達の事が──)

みほ(邪魔なんですかっ!!!)

ツカ、ツカ、ツカ……



役人「さて、全員、そろっているようですね」

みほ「……!」

みほ「まだですっ、生徒会の人達が、まだじゃないですかっ。会長の事、覚えて……ないんですか……!?」

役人「ん……あぁ、問題ありませんn」

みほ「……! ……っ!!」

役人「さて、あまり時間がないのだが……」

役人「一言だけ」

役人「心中、お察し申し上げる。君たちには、うむ……心から同情している」

みほ「」

みほ「」

みほ「」








 ────────ぷつん







みほ「……ふ……」

みほ「ふ、ふ……」

みほ「ふふふ、あはは……」

優花里「西住、殿……?」

沙織「みぽりん……?」

みほ「あはははははははは!」

梓「た、隊長……!?」

紗希「……!? ……!?」

みほ「っぁあーーー!! わあぁぁああーーーーーーーーーーっ!!!」

華「み、ほ……さん……」

みほ「──だったらどうして!!! なんで私達をそっとしておいてくれないんですか!!! どうして私達の前にあらわれたんですか!!!!!!!!」


 だんっだんっ!!!


みほ「妊婦は! とっても!! 情緒不安定なんですっ!!!!!!!!!!」


 だんっだんっだんっ!!!!


役人「……どうか冷静になって、話を聞いていただきたい」

みほ「れい、せいに……!? よくそんな事が言えますね!!!???」


 だんっだんっだんっだんっ!!!

みほ(──ごめんなさいお母さん)

みほ(──ごめんなさいカウンセリングの先生)

みほ(わたし、もう、我慢できません)

みほ(この人だって、本当はこんな事はしたくないのかもしれない)

みほ(いろんな事情があるのかもしれない)

みほ(──だったら尚のこと!!)

みほ(私もこの学校の生徒として、隊長として!!!!)

みほ(何かを背負った一人の人間として!!!)

みほ(抵抗します!!!!!!!!)

みほ「すぅ──ッ」

みほ「……っ」





みほ「やーってや~る~ やーってや~る~ やーってやーるぜッ、いーやなあーいつッをッ、ボーコボッコに~~~!!!!!」



優花里「!? に、西住殿!?」



みほ「ケ~ンカは売ーるものどーうどうとぉおぉぉぉーーー!!!」



梓「たい……ちょう……」



みほ(──ボコ、ごめんなさいボコ、ボコの勇気をこんな風に使ってしまって)

みほ(だけど、相手は男の人だもん、きっと私にはかなわない)

みほ(──だからボコ! どうかボコ、お願い! 今だけは、私をボコに!!)



みほ「かぁーたっでっ か~ぜきっりっ、たーんかっきーるぅ~~~~~!」


 
 ダンッ、だっだっだっだっだっ!!

そど子「!? 西住さん!? 何をするつもり!?」

麻子「! やめろ西住さん!!」

役人「……!?」


みほ「っ、わぁあぁぁっーーーーー!!」


みほ(皆の恨みは私が全部持っていきます!!)

みほ(罰を受けるなら私だけでいいんです!!!)

みほ(これが最後のボコボコ作戦!!)

みほ(開始、しますッ!!!)


みほ「ッ、わあああああああああああーーーー!!!」


優花里「いけません西住殿!!」

沙織「みほ駄目っ!」

華「みほさん!!!」

役人「待っ……!!!」


みほ「ああああああぁああああああぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」











『まったぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』










みほ「──────!?」

みほ(あ──前にもこんな事が──おねえ、ちゃん……!?)


   ……ばたばたばたばた!

   <杏「西住ちゃん!」

   <桃「なんだ、何がどうなってる!?」

   <柚子「間に合った、のかな……!?」



典子「会長達!」

みほ(会長──?)

あけび「──と、誰……? あの女の人──」

みほ(え──)


優花里「……あ!!」

優花里「あの人、西住流の」

優花里「西住殿の──!!」



みほ(え──?)



優花里「西住殿のお母さん!?」




みほ(──!!!)




 ……かつ、かつ、かつ……
 



しほ「……。」

みほ「……お、……かぁ……?」

しほ「……。なんたる無様な……。」

みほ「え……」

 
 ツカ、ツカ、ツカ


役人「先生」

しほ「……私達が病院から戻るまで、どうかお待ちくださいと、申し上げたはずです……」

しほ「いえ、とにかく」

しほ「愚娘の非礼を、心からお詫びいたします」

みほ「おかあ、さん……?」

役人「まぁ、少しばかり肝が冷えましたが──」

役人「母子そろって、大した胆力をお持ちです」

しほ「恐縮です」

役人「……皮肉ですよ」

しほ「理解しております」

役人「……。ハァ……」

みほ(……。)


 かつっ……


しほ「みほ」

みほ「え──」




 ──パァンッ!!!




沙織「ひっ……!」

優花里「あわわ……」


みほ「──……。」

しほ「貴方には、言う言葉がみつかりません。」

みほ「……。」

 
 かつ……


しほ「重ね重ね、真にもうしわけありません。どうか、娘の無礼をお許しくださいますよう」

みほ「……。」

しほ「何をしているの、あなたも、頭をさげなさい」

 
 グィッ 


みほ「……っ」

役人「まぁ、頭をおあげください。恨まれるのも仕事のうちでしょう」

しほ「その様におっしゃっていただけると」

役人「それよりも、電話でお伝えした通りスケジュールが押していましてね。私は夕刻までに、次の学園艦に移らなくては」

しほ「承知しました。では……。みほ、行くわよ」

 ぐっ……

みほ「あっ……」

 
 かつ、かつ、かつ、

 た、とた……とたた……とた……


みほ(……。)

みほ(お母さんに手、熱い……)

みほ(……え?)

みほ(この手、お母さんの手……?)

みほ(私を引っ張ってる人、お母さん……だ……)

みほ(……どうしてここに、お母さんが?)

みほ(……。だめだ、頭が動かない……)

みほ(ほっぺたを叩かれて、いろんな感情と一緒に、頭の中が、ぜんぶとんでっちゃった)

みほ(……。)

みほ(……私、あんな風に……誰かを憎いと、思えるんだ……)

みほ(知らなかった……)


 かつ、かつ、かつ
 
 とた、た……た、た、た……


沙織「あ、みほ……」

華「あの、みほさんのお母様なのですね。お初にお目にかかります」

しほ「あなたたちは確か。……娘が、情けない姿を見せました」

優花里「い、いえ……」

杏「……西住ちゃん!」

みほ「……会長……」

杏「私また西住ちゃんに……ごめん……本当に……ごめん……」

みほ「……いえ……」

桃「西住」

みほ「河嶋先輩」

桃「あの人は……廃校を告げに来たわけじゃない。だから、安心してくれ」

みお「え……」

柚子「まず私達からちゃんと事情を説明して、とは思っていたのだけど、ごめんね……」

杏「忙しいのは分かるけど、無茶をしないでほしいよ」

沙織「でも、じゃあ、あの人は、何をしに……」

しほ「国からの正式な通達です」

華「国からの……?」

しほ「政府としての、貴方たちへの包括的な対応計画……」

しほ「みほ。あなたは熊本に戻らなくて正解だったわね」

みほ「……。」

優花里「あ、あの、西住どのはきっと私達のために……どうか、そう怒らないであげてください……」

しほ「……? ああ……そういう意味ではなくて、戻ってきていたら二度手間になるところだった、という意味です」

しほ「──もっとも、家の敷居をまたぐ許しを与えるかどうか、たしかにもう一度検討が必要なようだけれど」

みほ「……。」






役人「前例のない事態であるため、対応計画の策定に遅れが生じております。その点については深くお詫びを申し上げる」

役人「正式な通達文書についてはすでに学校に配付済みです。この場では手短に直近の概要を申し上げる」

役人「受胎生徒および染色体共有者においては、5日間の観察入院をお願いしたい。当然、費用についての負担をいただく事はありません」

役人「観察入院は全国五か所にて計画されております」

役人「関東および東北南部に所在する学校は──つまり大洗女子学園もこれに含まれるわけですが──つくば研究学園都市にて観察入院を予定しており──」


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今週は以上です。

来週も、月曜日の投稿を目標に、頑張ります。

>>190
>>191
>>192
の3レス、
間違って整形前の文書をはってしまっていました。
以下に、整形後の文章を貼ります。
まとめサイト様、いつかお世話になることがあったなら、>>190~>>192は、以下の3レスに置き換えてくだしあ!

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先生『──この出来事の後──の影響が広まり──』


みほ(いつも通りに授業を受けていたら、『偉いね』って先生に褒められちゃった。偉い事なんて、私は何もしていないのに)

みほ(みんなと同じように、授業を受けているだけなのにね)

みほ(だけど、ぼーっと窓の外を眺めていても、先生に少しも怒られなくなった。それはちょっとだけ、ラッキーかな)

みほ(……。)

みほ(お天気いいなぁ、青空がすごく綺麗)


 …………。


先生『──この動きは──なので──』

みほ(黒板に書いてあることも、先生が言っていることも、ぜんぜん頭に入らないや)

みほ(それでも、やっぱり授業にだけは出ていたくて。なんだか可笑しいね)

先生『──さん次のページ、読んで──』

生徒『はーい』

みほ「……。」


 ごそごそ


みほ(携帯をコッソリみてても、やっぱり怒られない。先生には、きっとバレてるのに。少しくらいは、皆と同じように、注意してほしいなぁ)

みほ(って言いながら、見ちゃうんだけどね)


 すっ、すっ、


みほ(他の学校の人達はからは、一度も連絡がこない)

みほ(……。)

みほ(皆、気を使ってくれてるんだ)

みほ(ありがとうございます。私も、今はまだ、せめて明日までは、大洗の皆のことだけを、考えていたいです、ごめんなさい)

みほ(今になってみると、アリサさんの事、ちょっぴり尊敬しちゃうなぁ)


 ……キーンコーンカーンコーン……ざわざわざわ、ね~帰りにケーキ食べていこーよー……


みほ(……。)

みほ(明日の放課後、検査結果が分かる)

華「みほさん、今日も、優花里さんや麻子さんも一緒に、皆で帰りましょう?」

みほ(明後日の私達は、どうんなふうにすごしてるだろう? こんな風に学校で、皆と一緒にいられているのかな?)

みほ「──うん! 一緒に帰ろ!」


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沙織「──ねぇ皆、わたし決心したよ! 私、もしも子供ができてても、ぜったい素敵なママになってみせるから!」

優花里「おおー」

華「あら~」

みほ「よかったぁ。沙織さんがやっと元気になってくれて」

沙織「……。皆、あのね、ちょーっとリアクションが薄いんじゃないかなぁ」

麻子「どうすればよかったんだ」

沙織「『えぇ!? ど、どうしたの急に!? どういう事!?』とかさぁっ。もっとこう、あるじゃん」

優花里「コホン。……えぇ? どうしたんですかぁ、急に。どゆことです?」

沙織「なんか違うっ」

麻子「面倒だな」

沙織「なによーっ」

みほ「まぁまぁ、私達沙織さんが元気になってくれたのなら、なんだっていいもん」

華「みほさんのおっしゃる通りです」

優花里「武部殿が笑顔でいてくれないと、やっぱり私達も寂しいですから」

沙織「そ、そぉ? そういってくれるなら、まぁ」


 ……たたたたたっ


桂利奈「せんぱーい! また明日でーす! さよなら~!」

沙織「わわ、そんなに急いでどこに行くのー?」

  < 桂利奈「これから紗希の家に集合して、皆で一緒にDVDで勉強するんでーす!

っさおりべん?

 『14才の母』ってゆードラマです!」


ええ?

麻子「なんだそれは」

華「少し前に放送されていた、テレビドラマですね」

麻子「なるほど」

みほ「桂利奈ちゃん、ばいば~い」


  < 桂利奈「は~い!」


優花里「みんな、たくましいですねぇ」

みほ「うん。皆、とっても立派だよ。すごい」

華「他のチームの皆さんは、今頃どうされているのでしょうか」

麻子「アリクイさん達は、家に帰って一緒に狩りをするとか言ってたな」

優花里「バレー部の皆さんはさっき体育館に走っていきましたし、自動車部の方々は車のレストアで忙しいみたいですよ」

みほ「会長達もいつも通りに生徒会のお仕事で、エルヴィンさん達は一緒に図書館だって」

麻子「あと、そど子、風紀の仕事があるって言ってたな」

優花里「冷泉殿は、そど子さんのスケジュールに随分と詳しいのですね」

麻子「……なんでニヤニヤしてる」

優花里「いえいえなんでもないですよ~」

麻子「……っ」

みほ「あはは。じゃあ皆、いつも通りの放課後なんだね」

華「きっと、それが一番ですよ」

みほ「……。そうだね。」

みほ(本当は皆、いつも通りでなんか、いられるわけがない。でも、だからこそ、いつも通りに笑って、いつも通りに過ごそうって、皆と一緒に)

沙織「ねぇねぇ! アイス食べにいこーよ!」

華「それは名案ですねぇ」

みほ「うん! 行こ!」

麻子「私もいく」

優花里「そういえば、新作の味がでてるはずですよ! 皆で手分けして、全食チェックしましょ!」

沙織「きまりだねっ! ……でね? でね? 聞いて? 一人くらい子供がいてもさ、それでもかまわないよっていってくれる男の人ならさ……それってむしろ包容力があって素敵だと思わない!?」

華「沙織さんが笑顔さえ忘れなければ、沙織さんの事を大切に思ってくれる男性が、きっといつかあらわれます」

沙織「だよね、だよね!」

華「ええ、私が保障します」

沙織「華ったらやだもー! あんまり私のことおだてないでー!?」バンバンッ

華「痛いです」

麻子「しばらく静かだった分、余計にやかましい」

優花里「まぁまぁ、武部殿はこうでなくちゃ」

みほ「そうだね、あはは……。」

みほ(……。)

優花里「? 西住殿?」

みほ「ん……」

優花里「どうかしましたか?」

みほ「ううん、ただ、とうとう、ほんとうに明日なんだなぁって……ふっと頭に浮かんじゃって」

優花里「……。そうですね。明日、なんですね……」

みほ「うん、明日……」

みほ(……。)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

>>190>>212
>>191>>213
>>192>>214

と置き換えていただければ幸い。

今日の夕方五時、その時点で書きあがっている所までを投下します。
書きなぐりほぼそのままっつーことでいつも以上に誤字脱字変文が多くなると思うけど堪忍やで。

今ものすごく中途半端なシーンなので、もうちょっとだけ粘るんじゃ!

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・当該生徒の社会権はいかなる場合においても実際的な保護の対象となりうる。

・妊娠期間中の定期院経過観察、及び産後母子への多角的な科学的観測、継続的にそれらが行われる期間において、当該母子に対し十分な社会保障を行う。

・また、政府要請による入院観察等を原因とする学業活動や就職活動の遅延の発生については、一切の不利益が排除されるよう政府として責任を果たす。


あや「ねぇねぇ、あの人が何を言ってるのか、よくわかんないんですけど……」

桂利奈「私もー」

しほ「……分かりやすいように言いかえてあげます」

あや「ありがとうございますー」

しほ「簡単に言えば、貴方たちが政府のお願いに協力してくれるのなら、お金や生活の面倒は国が助けてくれる」

あゆみ「協力……? 私達が、何かするんですか」

しほ「検査や入院をお願いすることが沢山ある、ということね。貴方達やその子供に対して。それに同意してくれるのなら、見返りとして、国はあなたたちの生活を守る」

梓「えと、とにかくあんまり心配しなくていいって事ですか」

しほ「まぁそうね。少なくとも経済的な面での心配は不要です。妊娠期間中の諸費用や、出産費用、そして育児の費用もね」

桂利奈「じゃあ、お父さんやお母さんに、迷惑をかけなくてすむのかなぁ」

しほ「……。」

しほ「……それに、入院や検査のために休学や留年をしてしまったとしても、進学や就職に不利になったりはしない」


・ただし、本件は生物学的にも人類学的にも非常に重要な事象であることはいうまでもなく、それゆえに、生まれてきた新生児においてはその基本的人権を国際的な管理下のもと包括的に保護してゆく事を希望する。



麻子「……!」

華「それって、つまり……」

麻子「そういう事だと思う」

沙織「ほえ?」

しほ「生まれてくる子供は、不自由のない環境と十分な教育を保証される。漠然とした意味での『自由』と、引き換えにではあるけれど」

沙織「あの、よく意味がわからないんですけど」

麻子「生まれた子供は国の養育施設か何かで育てる、そういう事だ」

沙織「!? 赤ちゃんとられちゃうの!?」

しほ「親権はもちろんあなたたちにある。けれど、家族と同じ屋根の下で暮らす時間は、あまり多くはないでしょうね。お正月をあなたたちの家で過ごしたり、施設で会うことは許されるでしょう。けれど、一般母子のように、いつも一緒にいられるということは、できなくなる」

沙織「……そんな……」

杏「でもね……きっと、そのほうが、子供のためでもあるんだよ」

沙織「会長」

杏「考えても見なよ。正真正銘の処女受胎。本当にちゃんとした赤ちゃんが生まれてきてくれるのかな」、

杏「生まれてくれたとしても、この子はちゃんと大人に成長してくれるのかな」

杏「障害を持っていたらどうしよう」

杏「病気を持っていたらどうしよう」

杏「他の子と何かが違っていたらどうしよう」

杏「私は、そんな事ばかり考えてる。怖くてたまらなくなる……」

桃「……。」

杏「正直に言うとさ、例え河嶋がずっと一緒にいてくれたとしても、自分の力だけでこの子を守ってあげられる自信、私にはあんまりないんだ……情けないけどさ……」

沙織「……それは……」

しほ「……。」

しほ「貴方たちは、少し意識をを変える必要があるわね」

杏「え……?」

しほ「今世界中で何が起こっているのか、大人でさえもまだ理解できない」

しほ「それなのに、ただの子供でしかないあなたたちが、自分の力でどうこうなどと。」

しほ「思いあがりもはなはだしい。」

しほ「育児というのは、そもそもからして大変なのです。その苦労を実知する母親の一人として、忠告をしておきます。自分でどうにかしようだなんて、甘い考えは捨てなさい」

杏「……。」

みほ(……お母さん……。)

役人「詳しくは、各員に後ほど要綱が配付される。また学園にはそれぞれカウンセラーが常駐する予定でもあります。私からは──以上です」

そど子「……。少なくとも、おばあさまの負担をかけることはなさそうじゃない」

麻子「まぁ……ほんの少しだけ、気が楽になった……」

スズキ「子供を抱えて路頭に迷ったりは、心配しなくていいんだね」

梓「ちゃんと大人の人が助けてくれる……」

紗希「……。」



 ざわざわ……


 
役人「……。」

役人「少々、個人的な私信を付け加えるが……」

おりょう「私信?」

役人「君たちは、国の大切な資産である」

ももがー「……シミュレーションゲームみたいに、言わないでほしいもも……」

ぴよたん「そうだぴよ」

役人「その君たちを、国家が見捨てるようなことは決してあってはならない」

役人「我が国は決してそのような国ではない。この国に奉じる一人の人間として、それだけは断言しておく」

役人「君たちには何の罪もない。それだけは伝えておく」

みほ「……」

妙子「……えっと……」

パゾ美「……何よ、この前は私達の学校をつぶそうとしたくせに……」

ねこにゃー「そ、そうだにゃあ」

役人「……君たちの学園に恨みがあったわけではない。より多くの学生に適切な教育を施すためには必要な処置であると、総合的に判断したのです」

エルヴィン「ふん、犠牲にしようとした学校にいながら、よく言えたものだ……」

役人「どう思ってくれても結構だが、私は君達若者の健やかな成長を本心から望んでいるし、その為にこそ私はこの職についている。建前ではなく。……まぁ、ともあれこれで失礼させていただく。次の学園艦へ移らなくてはならないのでね」


 ツカ、ツカ、ツカ

役人「では、先生」

しほ「ええ」

役人「連盟のヘリをお借りいたします。」

しほ「はい。道中、お気をつけて」

みほ(……? お母さんは一緒にいかないの?)

しほ「娘の非行、改めてお詫び申し上げます」

役人「いえ……しかし、はは、先生があのように大きな声で叫ばれるとは、少々驚きました」

しほ「お恥ずかしい限りです。年甲斐もなく、娘の真似事などをを」

役人「……? まぁ、ともあれまた後日、会議の場で」

しほ「ええ、また近々」

役人「では」


 ツカ、ツカ、ツカ……


沙織「なんかさ……自分の言いたいことだけ言って、さっさと帰っちゃったって感じ……」

杏「まぁ、メンドクサイね、お役人ってのはさ」

カエサル「彼の者、敵にはあらず。しかして全くの味方にもあらず……か?」

柚子「会長、それよりも」

杏「ん? ……ああ、そうだね」

杏「おーい、皆」

杏「発表は放課後っていってたけどさぁ……もう、ここいらで、いいかな?」

妙子「結果、もうわかってるんですか」

杏「うん。さっき病院で先生方と話してきた。……検査結果用紙も、ほら、ちゃんと全員分ここにある」

あけび「……!」

典子「その紙に、書いてあるんですね。ここにいる誰が妊娠して、誰が妊娠していないのか……」

忍「……っ」

ナカジマ「はは……ちょっとだけ心臓が、キュッてした」

桃「さきに昼食にしてもかまわないが」

左衛門座「いやいや……飯どころじゃあるまいて……」

杏「じゃ、いいね。会長権限で、午後の授業なんかどーでもいいからさ。今から発表、やっちゃおっか?」


全員『オッケーでーす!』


優花里「いよいよ、でありますか……うぁぁ……緊張するであります……」

華「妊娠していないのなら、それに越した事はありませんが……」


 ざわざわ……

みほ「……。」

みほ「あの……お母、さん……」

しほ「なに」

みほ「えと、その……お久ぶり、です」

しほ「そういえば、直接顔を合わせるのは久しぶりになるのね」

みほ「はい、えと……はい」

しほ「試合会場のモニター越しに、何度かあなたの顔を見ていたから、大して久しくは感じていなかったわ。数日まえには女々しい電話もあったものだから」

みほ「う……ごめんなさい……」

みほ(……試合、見にきてくれてたんだ……)

みほ「でも、どうしてお母さんが、ここに」

しほ「霞ケ関や筑波で、これからの事についての協議に参加していました。関東まで出てきたのなら、もう少し足を延ばして娘の顔を見に来ても、おかしなことはないでしょう。こんな時なのだから」

みほ(じゃあ、私に会いに来てくれたと思っていいのかな)

みほ(……。)

みほ(……会いに来てくれた……)

しほ「もっとも、あんなみっともない姿を見せられるとは、思っていなかったけれど」

みほ「っ……あぅ……ご、ごめんなさい。私のせいで、何度も謝ってくれて……」

しほ「それについては、また後で話をしましょう」

みほ「う……」

みほ(お母さん、やっぱり怖いや……。)

みほ(……でも……。)

みほ(やっぱり……嬉しい……)

しほ「そんなことよりも、みほ」

みほ「は、はい」

しほ「発表を、よく聞いておきなさい」

みほ「あ、う、うん……」

杏「じゃーねー、ヘッツァーの上から、失礼するよ」


全員『……』

杏「チームごとに、該当のメンバーを読み上げる」

杏「……」

杏「皆、さっき聞いた通り、たとえ妊娠してても何の心配もいらないんだ」

杏「だから、落ち着いて、事実を受け止めようじゃないか」

杏「もちろん妊娠っていう事実は軽くは──」

桃「あ、あの会長っ、皆早く結果を聞きたいんですから……」

杏「──ほぇ?」

沙織「もー! じらさないで早く言ってくださーい!」

スズキ「そーだー!」

杏「むむ……あはは……そっかそっか、緊張しちゃってるのは私のほうこそだね。ごめんごめん」

杏「ほいじゃ、いくよー!」

みほ「……っ」

みほ(これから会長の言葉で、ここにいる誰かの人生が決定的に変わる……)

みほ(でも、そんな時に、私だけ、隣にお母さんがいてくれてる)

みほ(……)

みほ(私……恵まれてるんだ……)

麻子「西住さん」チョンチョン

みほ「麻子さん?」

麻子「……。」ニコ

みほ「……!」

みほ「……うんっ」コクン

みほ(麻子さん……ありがとう)

杏「じゃあまずは……やっぱりあんこうチームから、いい?」

優花里「ふ、ふふ、隊長チームですから、と、と、当然ですねっ」

沙織「うぅ、私達の誰かが、妊娠してるんだ……」

杏「該当者は──」

杏「二人いる」

麻子「……っ」

華「心静かに、とは……いきませんね、やはり……」

みほ「路頭に迷う心配はない、お金の心配もない、育児は大人の人が支援してくれる……すぅー……はぁー……」

みほ「お、お……お願いします!」

杏「あー……。は、は、私も声が震えちゃうよ」

杏「まず、一人目はね」





杏「……西住ちゃん」

杏「やっぱり、西住ちゃんだった」



みほ「……。」

みほ「……。」

みほ「……。」

みほ「……そう、ですか……」

みほ(……。)

みほ「ぁ……」ぐらっ

沙織「みぽり──!」

しほ「っ」


 がしっ 


みほ「あ……お母さん……」

しほ「しっかりなさい」

みほ「……はい……」

みほ(……。)

みほ(妊娠。妊娠かぁ……)

みほ「……あはは」

優花里「西住殿」

みほ「ん、大丈夫。ただ……なんだかびっくりしすぎて、よくわからなくて……急に身体から力が抜けちゃって……そのわりに妙に、なんだか可笑しくて……へ、へんな気分。あはは……」

杏「……。」

杏「そうだね、笑うしかないよね……ふふふ……」

柚子「か、会長」

みほ「そうですよ……ふふ、ふふふ、笑ってくれたほうが、私も嬉しいよ。そうだね、笑うしか、ないもん……あははは」

杏「くっくっく……」

沙織「み、みほ……大丈夫……?」

みほ「えっと、頭が?」

優花里「ふふッ……!」

沙織「ゆかりん!?」

優花里「ちょ……やめてくださいよ西住殿。まだ発表、これからなんですから……私も妊娠してるかもしれないんですから……あははは」

みほ「ふふふふ」

華「……くす」

沙織「華まで!?」

華「くすくす……だって、みほさん、妊娠してるのに笑ってらっしゃって……おかしいじゃないですか……ふふ、うふふふ……」

杏「おーい、西住ちゃ~ん。」

みほ「あはは、何ですか? ふふふ」

杏「妊娠」

杏「おめでと~」

ツチヤ「ブフッ!」

ホシノ「うわっ、うちにも移った!」

桃「会長! しゃれになってませんからそれ!」

杏「いや~。だって」

柚子「……っ、……ふふっ……」

桃「ゆずちゃんまで笑ってるー!?」

典子「くひっ、ちょっとぉ……こんな時まで漫才しないでくださいよ……」

桃「漫才ではない!」

紗希「……」クスクス

梓「紗希が」

桂利奈「笑ってる!」

エルヴィン「うーん、はたから見るとショックでおかしくなったようにしか見えないが……ふふ、まぁ、いいのかな?」

左衛門座「いいんじゃないか? ふふ」

ねこにゃー「謎の一体感……ふひひ」

しほ「……。」

しほ「黒森峰がここに負けただなんて、信じたくないわね……」

沙織「くすっ」

しほ「……。」

沙織「ひっ、す、すみません……。でも確かにお母さんの言う通りだなって……あんなに真面目そうな人達が、こんな変な人達に負けちゃったんだなって……ぷっ……あだめだ、あははっ」

しほ「……。ハァ……」

みほ(あ~あ、なんだか涙がでてきっちゃったよ」

みほ(私って本当に恵まれてるんだ)

みほ「ふふふふ……」

杏「西住ちゃんがいい空気にしてくれたねぇ……じゃあ、二人目、いっとこっか」

桃「お酒じゃないんですから」

杏「じゃあ、二人目いくね」



杏「もう一人はね」

杏「……」

杏「……五十部ちゃん」

杏「五十部ちゃんなんだ。」



華「……っ」

華「……。」

華「ふー……」

華「……。」

華「私、ですか。……そう、ですか……」

沙織「華」

華「ん……ありがとうございます、ちょっとだけ、このまま肩をお借りしますね」

麻子「……」

優花里「……」

みほ(華さん……)



杏「それと、五十部ちゃんのパパなんだけど」

杏「……武部ちゃん」

沙織「へ?」

杏「武部ちゃんが、遺伝学上のもう一人の親になるんだ」

沙織「!!??」

沙織「わ……」

沙織「私!?」

杏「染色体共有者っていうんだけどね……皆、病院で検査を受けた時に産婦人科で子宮頚部を調べられたでしょ?」

杏「あれってさ、このための検査なんだ。経験則だからまだ仕組みの解明されていないらしけど、とにかく、妊娠してる場合相手の遺伝子情報がその周辺の組織から見つかるんだって」

杏「で……間違いなく、武部ちゃんのDNAが検収されてるらしい」

沙織「」

沙織「」

沙織「」

沙織「ぅぁ……」クラッ

華「!」

優花里「っ」

麻子「沙織!」



 がしっ
 がしっ



沙織「あ……ご、ごめんね皆……」

華「沙織さん、気をしっかり」

沙織「う、うん……」

沙織「でも……え? 私、ママじゃなくてパパになっちゃうの……? ええー……」

沙織「そ……それはちょっと考えてなかったなぁ、でも、そうよね、その可能性もあったよね……」

沙織「そっか、パパかぁ……あはは、みぽりん、ほんとだね、もう笑うしかないね……あはは……」

優花里「た、武部殿の場合は、ちょっぴり心配です……」

沙織「いや、うん、大丈夫だから、笑って笑って……あはは……」

麻子「笑えない……」

華「沙織さん、深呼吸をしましょう? すぅー……はぁー……」

沙織「……うう、華ぁ……」

華「大丈夫、大丈夫ですよ。……ふふ、妊娠しているのは私なんですよ? 沙織さんったら……」

沙織「華ぁ、ごめんねぇ~……」

みほ「あ、あの、会長!!」

杏「……ん」

みほ「私の、私の相手はいったい誰なんですか!? まだ、聞いてませんよ!?」

梓「あ! そ、そうですよ!」

みほ(優花里さん? 麻子さん? とにかく私も、あんな風にお互いを支えあえる相手が、ほしい……)

杏「それなんだけどね」

みほ「……。」



杏「……。西住ちゃんのパパはね、」

杏「……分からないんだ」




みほ「……!?」

みほ「わからないって、どういう事ですか!?」

みほ「私のお腹に赤ちゃんがいるんですよね!? じゃあ、いったいこの子は誰の子なんですか!?」

しほ「……みほ、気持ちは分かるけれど、落ち着きなさい」

みほ「でも……っ」

杏「解析方法がまだ完璧ではないから、という事も原因のらしいんだけど……世界中でほんの何人か、どうしても相手を特定できない子がいるらしいんだ」

杏「日本では、西住ちゃんが、その一人っていうことらしいんだ」

みほ「……世界中でほんの数人……」

みほ「私がその一人……」

杏「本人のものでないDNAは見つかっている。ただ、それが誰のものなのかが……どうしても特定できない。」

みほ「特定、できないって」

みほ(じゃあ私のお腹の子供は……いったい誰の子供なの?)

みほ(誰の子供かわからない何かが、今、私のお腹の中に……いるの……!?)


 ……ゾくッ……


みほ(……っ)

みほ(……怖いっ……)

優花里「西住殿っ」

優花里「きっとその子は、私の子ですっ」

みほ「え?」

優花里「誰の子かどうかはハッキリしなくても、西住殿のお腹に赤ちゃんがいるのは間違いないんです!」

優花里「だったら私はその気でいればいいんです。私がお父さんなんだって! 西住殿も、そう思ってくれたらいいんです!」

みほ「優花里さん……」

梓「私も……隊長の赤ちゃんのパパに、なりたいなー……」

あや「梓は戦車が違うでしょー」

みほ(……二人とも……)

みほ「本当にありがとう……」



杏「……。」

杏「じゃあ、次のチーム、行くね」

杏「カモさんチーム、いいかな」


そど子「……!」

パゾ美「うちにも、いるんだね」

ゴモヨ「無事でいられとしても誰か一人だけ、かぁ」

杏「該当者は……」

杏「一人」

そど子「二人とも、恨みっこ無しだからねっ」

パゾ美「恨みはしないけどさぁ」

ゴモヨ「ママもパパも、できれば嫌だなぁ……」



杏「じゃあ、いくよ」

杏「妊娠しているのは……」

杏「……。」

杏「……園、みどり子」



そど子「……!!」

そど子「……。」

そど子「私、かぁ……。」

そど子「……。」

そど子「……あ~あ。いつか、まじめな旦那さんと結婚して、子供を産みたいなって思ってたけど……はは、予定が狂っちゃた……」

麻子「大丈夫か、そど子。……立っていられるか」

そど子「……ありがと。なんとかね……」

麻子「無理はするな」

そど子「……うん……」




杏「でね、パパについてなんだけど……」

パゾ美「……。」

ゴモヨ「……。」


杏「……。」

杏「冷泉麻子」


パゾ美「へ!?」

ゴモヨ「!?」

麻子「……は?」

杏「冷泉ちゃん、あなたがパパなんだ」

麻子「……そど子の、お腹の子供の?」

杏「そう」

そど子「!? ……!?」

麻子「お、おかしいだろう! 私とそど子は、乗ってる戦車が違う!」

しほ「……。たしかに、パートナーの9割は同乗者間で成立する。だけど……」

杏「100%じゃあないんだ。」

麻子「100%じゃ、ない……?」

杏「各学園に一人か二人の割合で、他戦車間でのパートナーも成立してる……」

桃「うちの学園では、お前達二人が、それに該当する」

麻子「……っ」

麻子「な……なんで、私なんだ!」

麻子「なんで……!」

麻子「……。」

麻子「さっき、うちのチームの発表が終わった後、私は違ったんだって……本当は心のどこかでほっとしてた……そのバチが当たったかな……」

優花里「……。冷泉殿、気持ちはわかりますが……」

麻子「え……。……あっ!」

そど子「……」

麻子「ご、ごめんっ!!! 私、また……ヒドイことを言ってしまった……私、最低だ……」

そど子「……。」

そど子「……はぁ……」

そど子「泣きべそ、かかないでよね」

麻子「……。」

そど子「アンタがどれだけ真剣に悩んでたかは、あの夜一緒にいた私が、一番良く知ってる。だから……今のは許してあげる」

麻子「……めんぼくない……」

そど子「けど、はーあ……まじめな旦那さんかぁ……夢のまた夢になっちゃった……」

麻子「……。」

麻子「……そど子」

そど子「……何?」

麻子「……。」

麻子「ちゃんと私も覚悟を決める」

そど子「……」

麻子「あの夜、そど子が一緒にいてくれたこと、おばあに電話をしろっていってくれたこと、すごく感謝してる」

麻子「だから……」

麻子「……」

そど子「……。」

そど子「名前」

麻子「え……?」

そど子「私のこと、ちゃんと名前でよんで」

麻子「む……」

麻子「み、」

麻子「みどり子、……さん」

そど子「……。」

そど子「気持ち悪っ」

麻子「なっ」

そど子「やっぱり、いつも通りでいいから」

麻子「こ、このっ……。……むぅ、わかった」

麻子「……そど子」

そど子「ん、よろしい」

みほ(そど子さんって……)

みほ(尻にしいちゃう方だったんだ!)

みほ(……大人だぁ……)

今週はここまで。
来週も月曜日……のつもりだけども、あんまり自信はございません!
今週も、三連休がなければアウトでした。
しかしながら、なんかだんだん腹が座ってきて、別に2,3週間かかろうがいっかぁって気持ちにもなってきてるので、
遅れそうな時はまたその旨告知します。

一応、あんまりにも長期化した場合は、雰囲気を読んでエタるかどうするかを随時判断していくつもりではありますが。
書き始めた頃は最初の1週間目で検査発表まで進めるつもりだったんですが……蓋をあけてみりゃ一か月以上かかってらあ!!!

いつもよりかなり少ないですが、今晩ちょっとだけ投稿します。
せめて、発表が終わるところまで。

杏「次はね」

杏「ウサギさんチーム」



みほ(……っ)

みほ(やっぱり)

みほ(紗希ちゃんなのかな)

あや「私達、かぁ」

優希「やだぁ~」

紗希「……」

梓「皆」

梓「分かってるよねっ」

桂利奈「お、おうよ!」

あゆみ「わかってる!」

みほ(?)



杏「妊娠してるのは」

杏「一人」



梓「六分の一」

梓「……ううん、違う、そんなの関係ないっ」

紗希「……」


杏「伝えるね」

杏「妊娠してるのはね」

杏「……。」

杏「紗希ちゃん」



紗希「……!」

桂利奈「……紗希ぃ」

紗希「……」

紗希「わたしの」

紗希「あかちゃん」

みほ(……。)

みほ(思ったよりも、動揺はしてないみたいだけど)

みほ(覚悟を、していたのかな。あんな小さな子が)






杏「で、お父さんだけど──」


梓「あ、あのっ」

杏「ん?」

梓「それは、言わなくていいですっ」

杏「言わなくていい……?」

梓「そうです、誰がパパだろうと、関係ありません」

梓「誰かが妊娠してるなら、全員でその子のパパになろうって、私達、皆で決めたんです!」

優希「だから、誰がお父さんだろうが、関係ないもんね」

杏「……。」

杏「そっか」

杏「皆……偉いぞ!」

梓「紗希! 私達皆、紗希のお腹の子供の、パパだから!」

桂利奈「そうだーっ」

 ぎゅー

紗希「♡」





みほ(……。)

みほ(もし、この先もずっと戦車道が続いていくのなら)

みほ(きっと梓ちゃんは、いつか大洗の隊長になっちゃうよ)

みほ(大洗の戦車道が、私の望むカタチである限り)

みほ「……」

みほ(一年生だったころ、私はあんな風にふるまえたかな)

みほ(私が一ん年生だったころ……)

みほ(お姉ちゃんの背中にもたれ掛かって、エリカさんに肩を支えられて……かろうじて踏ん張っていただけ……)

みほ(……。)

みほ(エリカさん)

みほ「あの、お母さん」

しほ「何?」

みほ「黒森峰も、もう結果は出てるんだよね?」

しほ「……。ええ」

みほ「じゃあ、エリカさんは? 妊娠……してますか……?」

しほ「……。」

しほ「……。」

みほ「……? あの、お母さん……?」

しほ「みほ」

みほ「……はい」

しほ「また夜に、話しましょう」

みほ「え……」

みほ「……」

みほ「はい」

みほ(……。)

みほ(妊娠、してるんだ、きっと)





杏「けど、水を差すようで悪いんだけどさ……」

梓「え?」

杏「検査入院の関係で、パパが誰かなのかは、やっぱり伝えておかなきゃいけないんだよねぇ」

梓「あ……そっか……」

杏「ごめんね」

梓「そ、そんな、私達のほうこそ、勢いだけで」

優希「ま、聞くだけただだもんね、それで誰なんですかー?」

あや「私かなー?」




杏「お父さんはね……」

梓「桂利奈ちゃんだ」

桂利奈「お、おおー、私かぁ」

桂利奈「……うひゃー……」モジモジ

桂利奈「……」チラッ

紗希「……」

紗希「……♡」ニコッ

桂利奈「……!」

桂利奈「えへへー」

紗希「……」チョンチョン

桂利奈「ん? なぁに?」

紗希「うちにきて」

桂利奈「え?」

紗希「おとうさんにほうこく」

桂利奈「……へぇあっ!? 」

梓「あー、じゃ、みんなで行こっか。お金や病院の心配はいらないって、ちゃんと伝えないとね。生まれた後の事とかも」

紗希「……」コクン

桂利奈「み、みんな一緒なんだね、よかったー……」

あや「だけど、私達みたいな子供ばかりで、ちゃんと紗希のお父さんんに納得してもらえるかなぁ」

しほ「貴方たち」

梓「わ……な、なんでしょうか?」

しほ「その子の家に行くときは、私も同席して構わないかしら」

梓「え!?」

みほ「お母さん!?」

しほ「本当はこういった説明も彼の役目なのだけれどね。この艦では、私が代理を務めます」

みほ「そっか、そういう仕事もあって、お母さんはこの船に……」

しほ「こんな事態の時に、戦車道の家元が何の責務も背負わずに、自由に動けるわけがないでしょう」

みほ「そ、そうだよね」





杏「さて……」

杏「実はね」

杏「次が、最後のチームなんだ」





典子「え」

ねこにゃ「なんと」

ナカジマ「チーム毎に必ず妊娠するわけじゃないんだ……」

桃「妊娠の規則性は、今だに解明されていない」

柚子「おぼろげには、パターンがあるみたいなんだけどね」

麻子「私やそど子は例外パターンなのか、あるいはもっと深い部分の規則性に従っているのか……どっちだ」

杏「それを探るための入院でもあるし、妊娠していない生徒にもいろいろなヒアリングが計画されているみたいだね」

杏「ともかく……」

杏「最後の発表、いくよ」







杏「該当チームは」

杏「……レオポンさんチーム」


つちや「!」

ホシノ「マジか……」

スズキ「卒業前に、えらいことになったなぁ」

ナカジマ「まあ……やきもきしててもはじまらない。会長、妊娠してるメンバーとそのお父さん、スパッといっちゃって!」

杏「おっけー。じゃ、言っちゃうよ」

杏「妊娠してるのは……つちやちゃん」

つちや「え……」

杏「お父さんは、ホシノ、きみだ」

ホシノ「!」

ホシノ「たまげた……」

ナカジマ「つちやが妊娠、かぁ」

スズキ「色恋には縁のな部だと思ってたけど……とんだショートカットだよ……」

つちや「……」

つちや「あの」

つちや「私、妊娠しちゃって、なんかすみません」

ホシノ「あん?」

つちや「ホシノ先輩まで、まきこんじゃって……」

ナカジマ「何だそりゃ」

スズキ「別に、つちやが何かしたわけじゃないだろ」

つちや「でも……ホシノ先輩、筑波のサーキット場に就職できそうなんでしょ? それなのに、なんかややこしいことにしちゃって……」

ホシノ「……ふ。なんだ、以外と意地らしいとこあるじゃないか」

つちや「ちゃ、ちゃかさないでよ!」

ホシノ「茶化してなんかないって」ポンポン

ホシノ「んー……会長ー」

杏「ん?」

ホシノ「今回のことで、学業や就職活動に影響がでても、不利にはならないんだね?」

杏「だね」

ホシノ「それって、妊娠してる本人だけじゃなくて、お父さん役の子もちゃんと守ってもらえるの?」

杏「もちろん。ていうか、戦車道にかかわる皆全員がその対象だよ」

ホシノ「そっか。ならワタシ、就職を一年延ばして、来年もこの船に残ろうと思うんだけど」

つちや「え!?」

杏「……。理由しだい、かな?」

ホシノ「妊娠してるつちやを一人にはしとけないし」

つちや「い、いやいや! だめだよ! 就職きまってたのに・・・」

ホシノ「だけど、つちやは以外と寂しがり屋だからなぁ。来年になって私達三年が卒業しちまったら……一人で寂しくて、鬱になっちゃうかもよ?」

つちや「はぁ!?」

杏「んー、それは困るねぇ」

つちや「ちょっと!」

ホシノ「そんな感じで、偉い人に掛け合ってもらえないかなぁ」

杏「おっけーおっけー、まかせてよ。それに来年も戦車の整備をしてもらえるのなら、願ったりだよー。ま、戦車道が続いてれば、だけどね」

ナカジマ「私達も残る?」

スズキ「それもいいかもねぇ」

つちや「!!!」

杏「妊娠してるのは……つちやちゃん」

つちや「え……」

杏「お父さんは、ホシノ、きみだ」

ホシノ「!」

ホシノ「たまげた……」

ナカジマ「つちやが妊娠、かぁ」

スズキ「色恋には縁のな部だと思ってたけど……とんだショートカットだよ……」

つちや「……」

つちや「あの」

つちや「私、妊娠しちゃって、なんかすみません」

ホシノ「あん?」

つちや「ホシノ先輩まで、まきこんじゃって……」

ナカジマ「何だそりゃ」

スズキ「別に、つちやが何かしたわけじゃないだろ」

つちや「でも……ホシノ先輩、筑波のサーキット場に就職できそうなんでしょ? それなのに、なんかややこしいことにしちゃって……」

ホシノ「……ふ。なんだ、以外と意地らしいとこあるじゃないか」

つちや「ちゃ、ちゃかさないでよ!」

ホシノ「茶化してなんかないって」ポンポン

ホシノ「んー……会長ー」

杏「ん?」

ホシノ「今回のことで、学業や就職活動に影響がでても、不利にはならないんだね?」

杏「だね」

ホシノ「それって、妊娠してる本人だけじゃなくて、お父さん役の子もちゃんと守ってもらえるの?」

杏「もちろん。ていうか、戦車道にかかわる皆全員がその対象だよ」

ホシノ「そっか。ならワタシ、就職を一年延ばして、来年もこの船に残ろうと思うんだけど」

つちや「え!?」

杏「……。理由しだい、かな?」

ホシノ「妊娠してるつちやを一人にはしとけないし」

つちや「い、いやいや! だめだよ! 就職きまってたのに・・・」

ホシノ「だけど、つちやは以外と寂しがり屋だからなぁ。来年になって私達三年が卒業しちまったら……一人で寂しくて、鬱になっちゃうかもよ?」

つちや「はぁ!?」

杏「んー、それは困るねぇ」

つちや「ちょっと!」

ホシノ「そんな感じで、偉い人に掛け合ってもらえないかなぁ」

杏「おっけーおっけー、まかせてよ。それに来年も戦車の整備をしてもらえるのなら、願ったりだよー。ま、戦車道が続いてれば、だけどね」

ナカジマ「私達も残る?」

スズキ「それもいいかもねぇ」

つちや「!!!」

今週は!
もうちょい!
書く時間があるはず!
また来週!

なんでや!
まだ10月なのになんで永琳先生そんな全力でダッシュしはるんですか!?
今週もちょびっとだけ投稿します。
日没後、日付が変わるまでの間に。

つちや「い──」

つちや「いいかげんにしてよ! そんな大事な事を簡単にほいほい、何かってに決めてんの!?」

ホシノ「即断即決はドライバーにとって大切な資質だぞ」

つちや「だから、ふざけないでよ!!! ほんとに怒るよ!?」

ホシノ「……。ふざけてないって、言ってるだろ」

つちよ「な、なにさっ、すごまないでよっ」

ホシノ「つちや、お前は──」

ホシノ「妊娠したんだ」

つちや「……っ」

ホシノ「そんなお前を、ほっておけるわけないだろ」

つちや「……」

つちや「……グスッ」

スズキ「およ」

ナカジマ「……ほらみろ、ほんとは泣くほどうれしいクセに。素直じゃないねぇ」

つちや「う、うるさい、うるさいですよぉ!!!!」 ポカポカポカ

ナカジマ「おいおいー先輩を殴るなよー」

スズキ「子供の教育にもよくないぞー?」

ホシノ「そうだぞ。私の子供でもあるんだ。もっと大切にしてくれよ」

つちや「うがー!!!」



みほ(……)

みほ(いいなぁ)

みほ(いいなぁ!!)

みほ(私も、私を大切にしてくれるパパがほしいよぅ!!)

みほ(一緒に悩んで、一緒に頑張って、一緒に笑ってくれる、そういう人が、私にはいない……)

みほ(どうして私だけ)

みほ(うう)

みほ(シングルマザーって。こんなに寂しい気持ちになんだ……)

杏「よぉーし、じゃあ発表はこれで終わりだ」

杏「……もっと混乱するかと思ってた。みんな、よく落ち着いて聞いてくれた。本当にありがとう」

そど子「ふふん、うちのパパは、そうでもなかったみたいだけどね」

優花里「あはは、言われちゃってますよ、冷泉殿」

麻子「ぐぬ……だから謝ったじゃないか……」

杏「そいでね、これからの予定についてなんだけど」

杏「まず、妊娠組とそのお父さん組」

杏「つまり私や、かーしまもなんだけど」

杏「私達は三日後の寄港のタイミングで下船する」

杏「んで、みんなで一緒に筑波へ行くよ。そこで検査入院だ」

沙織「また病院かぁ……やだなぁ……しかも五日間……」

杏「けど、この検査入院はそこそこ賑やかなことになるんじゃないかな」

華「どういう事です?」

杏「関東圏の学園が皆集まるわけだからさ、ざっと思い出すだけでも……」

杏「まず、聖グロリアーナ女学院でしょ」

杏「それにアンツィオ高校もだし」

杏「あとは知波単学園も関東だね」

杏「私達と関わりのあった学校だけでもこれだけあるんだ。それ以外の学校もいれたら結構な人数になるはずだよ」

杏「ちょっとした同窓会みたいになるかもね」


 ざわざわ……


華「ダージリンさん達も……!」

典子「福田ちゃんたち、どうしてるかなぁ」

梓「そうだよね、あの人達も、妊娠してるかもしれないんだよね……」

みほ「……」

みほ「あの、会長」

杏「ん?」

みほ「もしかして、別の学校の誰が妊娠してるのか、会長はもう知ってるんじゃ……?」

おりょう「なぬ?」

杏「あー……んにゃ、実は私も、ほとんど何も知らないんだ」

みほ「そうなんですか……?」

杏「うん。この件についてはね、お上のほうで少しずつ法案がまとまり始めてるんだけど、情報については特に厳しく管理されるみたいなんだ」

優希「えっと、どーいう事ですか?」

杏「簡単にいうと、この件を誰かに口外すると、法律違反になっちゃうってことだね」

あや「法律違反……警察につかまっちゃうってことですか?」

桃「まぁ、そんな感じだ」

カエサル「げっ! じゃあ、これって……やばい?」

杏「?」

エルヴィン「どうしたんだ?」

カエサル「今、ヒナちゃんに、『私は妊娠してなかったよー』って、メールしたんだけど……」

左衛門座「……おいおいたかちゃん」

おりょう「さっそく幕府に御用か……」

カエサル「え、ええー……」

桂利奈「……あれ? だったら、アリサさんも逮捕されちゃうんじゃ」

あゆみ「ほんとだー!」

しほ「……」

しほ「ちょっと、いいかしら」

柚子「あ、みほさんのお母さん」

しほ「貴方たち、妙な心配はしなくてけっこうです」

桂利奈「逮捕、されないんですか……?」

しほ「これらの一連の機密保護法は、貴方たちを第三者の目から守ったり、政府が情報統制を行いやすくするための法案です」

しほ「この件に全く関係のない第三者に何かしらの見返りを目的として情報を漏らしたりしないかぎりは、余計な心配は無用です」

しほ「だから、当事者同士のやりとりで、貴方たちをどうこうという事はありえません」

杏「……なるほどなるほど、いやぁ、みほさんのお母さんがいてくれて、助かるねぇ」

みほ(……えへへ)

沙織「ふふ、みぽりん、なんだか嬉しそうだねぇ」

みほ「へぁ……!?///」

杏「そいで、他の入院しない子達。君たちはとりあえずはいつも通りに生活を送ってね」

あけび「いつも通りに」

ねこにゃー「なんだかちょっぴり、申し訳ないにゃー」

優花里「そうですね……それに、皆さんが入院している間、私は一人ぼっちになっちゃうんですねぇ。寂しいなぁ……」

みほ「あ、そっか。あんこうチームだと、優花里さんだけは船に残るんだね……」

優花里「うう、そうですよう」

梓「優花里先輩! 私達と一緒にお昼とか食べませんか!」

優花里「……! うん!」

杏「まぁ妊娠してない子達も、検査入院をする機会はこれからちょくちょく出てくるし、いろんなヒアリングや検査を受けてもらうことにはなるんだ」

杏「とりあえずはこんなところか……あ、そうだ、入院する子もしない子も、寄港の日までは自由に過ごしてくれていいからね」

華「自由、ですか?」

杏「うん。学校は休んでもいいってこと。皆好きにすごしてくれていいよ」

柚子「これからは、チームメイトがばらばらになることも、多くなるかもしれないから……」

あや「あ……そっか……」

紗希「……」

桂利奈「じゃあ、明日はみんなで、どこかへ遊びにいく……?」

梓「……」

梓「私は、いつも通りに、学校に登校していたいな」

あゆみ「え?」

梓「いつも通りに、みんなで一緒に学校に登校して、授業をうけて、お昼ご飯を食べて、一緒に下校して……いつも通りに……」

桂利奈「……」

優希「……ちょっぴり、その気持ちわかるかも……」

あや「私も……」

みほ(……。)

杏「もちろん、いつも通りに授業を受けるのもいいさ。言ったでしょ。何もかも、自由だっ」

杏「よーし、じゃあ今日はもうおしまい! あとは好きに過ごしていーよー!」




 ……ざわざわ……ざわざわ…… 




そど子「どーしよっか、とりあえず、おばあ様に連絡する?」

麻子「そうだな。おばあ、結果を心配してると思うし」

麻子「しかし、なんて言われるだろう……」

そど子「別に怒られたりはしないでしょ」

麻子「いや、これからはもっとしっかりしろだとか、小言をいっぱい言われる気がする」

そど子「ふふ、いーじゃない。いっぱい言ってもらいなさいな。」

麻子「ぬぅ」

そど子「けど、私も一応、改めておばあさまにご挨拶しておこうかしら……」

麻子「……ん」

麻子「静かな所へ、移動しよう」

そど子「そうね」

みほ(……。)

みほ(麻子さんとそど子さん、いっちゃった……)

沙織「……はぁー……」

華「沙織さん?」

沙織「なんだか、いまだに現実感がないっていうかさぁ」

華「……。そうですね私もです」

華「自分が、妊娠、してるだなんて」

沙織「華のお母さん、びっくりするかなぁ」

華「これ以上ないほど、びっくりすると思います……」

沙織「それにさ、華の子供なら、跡継ぎの問題とか、そういう事にもなるのかなぁ」

華「そうですね、そういう話にも、なるかも……」

沙織「……」

沙織「なんかいろいろ、大変そうだよね……」

華「……」

沙織「……」

沙織「でも、華」

華「はい?」

沙織「一緒に、頑張ろうね」

華「……!」

華「ええ、頑張りましょう!」

みほ(……。)

みほ(やっぱり自然と、子供のいる二人どうしで、一緒になるよね)

みほ(……。)

みほ(いいなぁ……いいなぁ……!)

みほ(私もあんなふうに、誰かとおしゃべりしたい……)

優花里「……西住殿? 大丈夫ですか?」

みほ「え、あ、う、うん」

みほ(……。)

みほ(優花里さん)

みほ(優花里さんなら、私と一緒にいてくれるかな)

みほ(私の不安や泣き言、全部、受け止めてくれるかな)

みほ(……優花里さんなら……)

みほ「……あの、優花里さん」

優花里「はい?」

みほ「よかったら、今晩、家に泊まりに来てくれないかな」

優花里「もちろん、いいですよ! じゃあ、みんなも──」

みほ「あ、ううん!」

優花里「へ?」

みほ「……今日は、優花里さん一人で……」

優花里「え」

みほ「優花里さんと二人だけで、ゆっくりと色んなお話しがしたくて……だめ、かな」

優花里「……! い、いやいや! 不肖この秋山優花里、喜んで西住殿と──」

しほ「──みほ、ちょっといいかしら」

優花里「おっと」

みほ「お母さん?」

しほ「私はこれから、丸山さんのお宅にお邪魔することになりました」

みほ「あ、今日、さっそく、お話ししにいくんだ」

しほ「ええ、ちょうど今日はお父様が在宅だそうだし」

みほ「……」

みほ「あの、お母さん、紗希ちゃんのこと、よろしくお願いします」

しほ「もちろん。それが私の責務です」

しほ「そういうわけだから──」

しほ「恐らく、夕方には貴方の家に戻るでしょう」

みほ「……え?」

しほ「晩御飯は、母が作りましょう。材料はスーパーで買って帰ります」

みほ「……へ?」

しほ「一応確認しておくけれど、基本的な調味料くらいは、あなたの家にもそろっているでしょうね?」

みほ「……え、う、うん、そろってるけど……」

みほ「えと、今日、私の家でご飯を食べるの……?」

しほ「夜に話をしましょうと、言ったでしょう」

みほ「あ……そ、そっか」

しほ「それと、寝具はタオルケットか何かがあればいいわ。一晩だけのことなのだし」

みほ「? 寝具って──」

みほ「──!?」

みほ「お、お母さん、もうしかして今日、うちに泊まるの!?」

しほ「そうよ」

みほ「そうよ、って……そんな急に……」

しほ「何か不都合な事でもあるのですか?」

みほ「え、えと」チラチラ

優花里「……。」

優花里「ほえ?」

優花里「あ、私はもちろん今日は遠慮しますよ? だって、せっかくお母さんと一緒なんですから」

みほ「……。」

みほ「ありがとう……」

しほ「では丸山さんのお宅を出たくらいで、また連絡をします。また後で」

しほ「……ああ、ご飯を二合、炊いておいてちょうだい。忘れないでね」

みほ「は、はい」



すたすたすた……

優花里「やぁ西住殿、よかったですねぇ。お母さん、とても優しくしてくれるじゃないですか」

みほ「う、うん……」

優花里「ほっぺたを叩いた時は、ドキドキしましたが……あれもきっと、お役人さんへのケジメなのではないでしょうか」

みほ「そう、かもね」

みほ(……。)

みほ(お母さんと二人きりで、一緒にご飯を食べて、一緒に寝る)

みほ(か、考えた事もなかった)

みほ(私、今回のことでお母さんにはとても感謝してる)

みほ(……でも……)

みほ(やっぱりまだ、緊張しちゃうよう……)

みほ(……。)

みほ(だけど、エリカさんの話、これでゆっくり、聞かせてもらえるんだ)

みほ(……エリカさん……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 しゃり、しゃり、しゃり


みほ(お米が二合、なんだかとぎ汁がいつもより濃厚な感じ)


 しゃり、しゃり、しゃり


みほ「何をしゃべろっかな」

みほ「お母さんと」

みほ(でも、よく考えてみたら)

みほ(聞いてみたいこと、いっぱいあるんだよね)

みほ(エリカさんの事もそうだし)

みほ(自分が妊娠した時、びっくりした? とか)

みほ(私やお姉ちゃんを生むとき、痛かった? とか)

みほ「そういう話、全然してくれないんだもん」

みほ「いつも戦車道のことばっかりで」

みほ「……」

みほ「今なら、聞かせてもらえるかな」

みほ「……」

みほ(ちょっとだけ、楽しみになってきちゃった)

みほ(……あはは、なんだか私って、すっごく気まぐだよね)

みほ(ころころ気分がかわってる)

みほ(これも、妊娠のせいなのかなぁ)


<テーブルの上の携帯『やってやーるー♪  やってやーるー♪』


みほ「あ、きっとお母さんだ」


 <『いーやなあーいつをぼーこぼっこに~♪』


みほ「手をふかなきゃ」


 ごしごし

 とっとっとっと……


みほ「今でますー、よっと」




 
 着信:ダージリンさん 





みほ「……」

みほ「え!?」

みほ「わわわっ!?」

みほ「ダージリンさん!? これ、ダージリンさんから電話!?」

みほ「わ、わ」

みほ(お、落ち着け、私!)

みほ(はやく出ないと)

みほ(でもでも、すごくドキドキする! 手が震えちゃう!)

みほ(だって、今度のことがあって以来で、初めて他校の人から……)

みほ(すー、はー)



 ──ぴっ



みほ「も、もしもし」



ダージリン『みほさん?』



みほ「──!」

みほ「ダージリンさん、ですよね?」

ダージリン『ええ。ごきげんよう』

みほ「こ、こんにちわ、あ、もうこんばんわ、かな、えと、えと──」

みほ(……あっ)

みほ(なんでだろう)

みほ(急に、いろんな思い出が──)

みほ(グロリアーナとの試合)

みほ(大洗の初陣)

みほ(チームワークはバラバラ)

みほ(でも一生懸命に戦って)

みほ(ダージリンさんがティーカップをくれて)

みほ(そのあとも、ダージリンさんは、いつも応援にきてくれて)

みほ(決勝戦の時も)

みほ(大学選抜の時は一緒に戦ってくれて)

みほ(あぁ! どうしてだろう、戦車道の思い出がいっぱい!)

みほ(何もかもが懐かしくて)

みほ(なんだかとっても)

みほ(切ない)

みほ「ダージリンさん!」

みほ「ダージリンさんっ!!」

ダージリン『み、みほさん? 思っていたよりも元気そうですわね』

みほ「だって、ダージリンさんの声を聞けて、私、すごく嬉しいです!」

ダージリン『そ、そう?』

ダージリン『……ふふ』

ダージリン『相変わらず、おもしろい人』

ダージリン『……。』

ダージリン『初めてよ』

みほ「え?」

ダージリン『おもいきって電話をしてよかったって』

ダージリン『こんなに早く思わされたのは』

ダージリン『初めて』

みほ「……ダージリンさん……」

みほ(なんでだろう)

みほ(今まで、薄暗くて狭い部屋の中を、ずっと一人でウロウロしていた)

みほ(だけど今、その暗い部屋が突然に消え去って、青空とお日様の光であたりが輝いてるみたい)

みほ「あ、あのっ」

ダージリン『なぁに?』

みほ「お元気、ですか」

ダージリン『ええ、それなりに、ね』

ダージリン『あなたは? お元気でいらして?』

みほ「私も、そうですね、それなりに、です」

ダージリン『そう』

ダージリン『結構なことですわ。今はそれで御の字だもの、ね? ふふ』

みほ「そうですね……えへへ」

ダージリン「うふふ」

みほ「あはは」

みほ(……あぁ)

みほ(いいなぁ)

みほ(このまま、事件のことなんて何にも忘れて、ダージリンさんとおしゃべりをしていたい)

みほ(……。)

みほ(でも)

みほ(まずは、お話しをしておかなきゃ)

みほ「あの、ダージリンさん」

ダージリン『ん?』

みほ「私は、してました」

みほ「──妊娠」

ダージリン『……』

ダージリン『……そう……』

みほ(だけど、話さえしてしまえば)

みほ(その後は)

みほ(同じ問題を抱えている者同士)

みほ(気軽におしゃべりができるような)

みほ(そんな風に、なれるんじゃないかなって……)

ダージリン『みほさん』

みほ「はい」

ダージリン『私は』

ダージリン『していなかったの、妊娠』

みほ「……!」

みほ「そう……ですか……」

ダージリン『ごめんなさいね』

みほ「い、いえ、そんなことはっ、そんな事、は」

みほ「……」

みほ「すみません、私ホントは」

みほ「ダージリンさんも妊娠してたら、ダージリンさんが私と一緒の問題を抱えてくれたら、とても心強いなって、そう思ってました」

ダージリン『……』

みほ「勝手ですよね、私、ごめんなさい」



みほ(……だけど、妊娠しているからこそ電話をくれたんだって、そう思ったんだけどな……)



ダージリン『貴方にそんな風に思ってもらえているのなら、光栄よ』

ダージリン『それに』

ダージリン『数日後に検査入院があるでしょう?』

みほ「はい」

ダージリン『私も、参加いたしいますの』

みほ「え!」

みほ「じゃ、じゃあ、ダージリンさんは」

みほ「誰かのパパなんですか!?」

ダージリン『パパ……?』

みほ「は、はい、お父さん」

ダージリン『……あぁ、パートナーという事ね』

ダージリン『大洗では、パートナーの事を「パパ」と呼ぶのね』

ダージリン『おもしろいことですわね、ふふ』

みほ「まぁ、な、なんとなくですけど」

ダージリン『なかなか良い呼び名ではなくて?』

みほ「は、はぁ」

ダージリン『そういうことなら、そうね、私は──』

ダージリン『ペコの子供のパパ』

ダージリン『ということになるのね』

みほ「!!!」

みほ「オ、オレンジペコさんが妊娠! ですか!」

ダージリン『えぇ、そうなってしまったわ』

みほ「そう、ですか、ペコさんが」

みほ(ああ……)

みほ(誰かが妊娠したっていう知らせ)

みほ(何度聞いても慣れることは無いや)

みほ「オレンジペコさん、大丈夫ですか? ショックとか、受けてませんか?」

ダージリン『ん……』

ダージリン『あの子は、私が思っていたよりも、ずっと強い子だった』

ダージリン『いえ、あるいは、そうではなくて』

みほ「?」

ダージリン『私が情けないから、元気でいようとしてくれているのかもね』

みほ「……?」

みほ(なんだか、ダージリンさんの声が弱弱しくなった)

みほ(ううん、そういえば)

みほ(私、舞い上がってて深く考えなかったけど、ダージリンさんの声、はじめからずっと、いつもよりハリが無かったような)

みほ「あの、ダージリンさん、なんだか少し、元気がありませんか……?」

ダージリン『……』

ダージリン『お恥ずかしいけれど、私、今回の事で、少し動揺してしまって』

みほ「動揺?」

ダージリン『だって、女性の一生にとって、取返しのつかない出来事でしょう?』

ダージリン『それなのに、どうして私は無事で、あの子達だけが、って』

みほ「そんな風に考えることは、ないと思いますけど……」

ダージリン『みんなそういってくれるけれど、なかなかね』

みほ「……」

みほ「……でも、そうですよね」

みほ「私、ダージリンさんの気持ち、わかります」

ダージリン『……わかって、くださるの?』

みほ「もし、私が妊娠していなかったら」

みほ(──どうして紗希ちゃんなんだろう、どうして私じゃないんだろうって──)

みほ「ダージリンさんと同じように、きっと私も、考えたと思います」

ダージリン『みほさん……』

みほ「だって私達は」

みほ「隊長なんですから」

ダージリン『……っ』

ダージリン『みほさんならって、そう思っていましたのよ。』

ダージリン『きっと、わかってくださるって……』

ダージリン『……』

ダージリン『……すんっ……』

みほ(……。)

みほ(ダージリンさん……)

みほ(ダージリンさんも、きっといっぱい大変だったんだ)

みほ(気づいてないふり、しなきゃね)

みほ「あのう、ダージリンさん、今『あの子達』って」

みほ「やっぱり、グロリアーナの皆さんも、何人も?」

ダージリン『……ずびっ……え、ええ……そうなのよ』

みほ「やっぱりそうですか」

みほ「私達大洗の生徒も、何人も」

みほ「実は、華さんも妊娠してるんです」

ダージリン『まぁ! 華さんも……!』

ダージリン『グロリアーナも実は、そうねぇ』

ダージリン『みほさんは、ローズヒップの事は、御存じだったかしら?』

みほ「赤毛の、元気な子ですよね? クルセイダーに乗っている」

みほ「……ということは、もしかして」

ダージリン『えぇ。ローズヒップに赤ちゃんができた』

ダージリン『アッサムの子よ』

みほ「!」

みほ「そうでしたか……」

ダージリン『……』

ダージリン『ふふ』

みほ(え?)

みほ(ダージリンさん……笑ってる……?)

ダージリン『失礼、ごめんなさい』

ダージリン『不謹慎よね』

ダージリン『けれど、だってあの子』

ダージリン『自分が妊娠したってわかってから、借りてきた猫みたいに大人しくなってしまって』

ダージリン『それでアッサムも、随分と戸惑ってしまってね……くすくす……』

みほ「???」

みほ「落ち込んでる、っていうのとは、違うんですか?」

ダージリン『ええ、それとは違うの』

ダージリン『あの子はね、むしろ、妊娠を肯定的に受け取ってる』

みほ「それは……すごいですね」

ダージリン『そうでしょう? 私も関心してしまったわ』

ダージリン『あの子は、本当にすごい』

ダージリン『ただ、なんていうのかしら……くすくす、とにかく可笑しいのよ』

ダージリン『まぁ、みほさん達とは、つくばで会えるでしょう』

ダージリン『そうすれば、みほさんにもわかると思いますわ、ふふ』

みほ「は、はぁ」

ダージリン『ともあれ、みほさんも、いろいろと大変な思いをなさっているのでしょうね』

みほ「ん……そうですね、本当にいろいろ、あったと思います。思い返せばキリがないくらい」

ダージリン『皆、同じね』

みほ「ですね……」

ダージリン『これからも、様々な事が起るのだわ』

みほ「そうだと思います」

ダージリン『あぁ、そういえばみほさん』

みほ「はい?」

ダージリン『みほさんのパートナーをお聞きしてもよろしくて?』

みほ「えっと……うぅ、それが実は──」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ダージリン『──あら、ずいぶんと話し込んでしまいましたわね』

みほ「わ、もう一時間近く」

みほ「……あっ」

ダージリン『? 何か、ご迷惑をおかけしてしまったかしら』

みほ「う、ううん」

みほ(お母さんから着信きてたかも)

みほ(ま、まぁ、大丈夫だよね、別に特別な連絡じゃないし)

みほ「なんでもないです。平気です」

ダージリン『そう?』

ダージリン『けれど、ごめんなさいね』

みほ「?」

ダージリン『他校との連絡は、一応みんな自粛しているのだけれど』

みほ「あ、やっぱり、そんな感じだったんですね」

ダージリン『えぇ、それぞれの学校が、どんな状況なのか、わからないもの』

みほ(確かに……例えば麻子さんとケンカをしてしまった日)

みほ(あの時にこうして連絡がきていたら)

みほ(とても落ち着いて話はできなかった)

ダージリン『けれど私、みほさんやカチューシャとは、どうしてお話しがしたくて』

ダージリン『だから角谷さんに、お願いをしていたの』

ダージリン『皆さんが落ち着いたら、教えてくださる?って』

みほ「ダージリンさん……」

みほ「ありがとうございます。私もダージリンさんとお話しできて」

みほ「とっても元気がでました」

ダージリン『そう。それなら、よかった』

みほ「あの、カチューシャさんとも、もうお話しはしたんですか……?」

ダージリン『ええ。』

ダージリン『……』

ダージリン『みほさん』

ダージリン『カチューシャは──』

ダージリン『妊娠をしているわ』

みほ「……!!」

みほ「カッ……!」

みほ「……っ」

みほ「……そ、そうでしたか……」

みほ「カチューシャさんが……」

みほ「けど」

みほ「失礼かもしれないけど」

みほ「カチューシャさん」

みほ「子供を産むの、大変なんじゃないでしょうか」

ダージリン『あの子自身が、子供みたいだものね』

みほ「し、身長の話ですよ」

ダージリン『ふふ。わかっているわ』

ダージリン『ただ……そうなの、みほさんのおっしゃる通り、とても心配なの』

ダージリン『あの子……』

ダージリン『通常の分娩はおそらく望めないって、お医者様に言われたそうなの』

ダージリン『そもそも、通常の妊娠でもカチューシャの身体にとっては相当な負担』

ダージリン『だというのに、今度の妊娠は、それに輪をかけて、何が起こるかわからない……』

ダージリン『母体の事を考えるのなら』

ダージリン『今回の場合は、早いうちに非常の処置を、ということになるのかもしれないそうなの……』

みほ「……それって……。」

みほ(……堕胎……)

みほ(……っ)

ダージリン『あの子も、ちょっと今は、ナイーブになっているわ』

ダージリン『しばらくは、そっとしておいてあげたほうがいいのかもしれないわね』

みほ「……。」

みほ「私いま、カチューシャさんの事をとっても抱きしめてあげたいって」

みほ「そう言ったら、カチューシャさん、やっぱり怒っちゃいますよね……」

ダージリン『どうかしらね……ただ、カチューシャの側にいる誰かさんは、嫉妬をするかもね』

みほ(ノンナさん)

みほ「あの、カチューシャさんのパパは……」

ダージリン『……ええ』

ダージリン『みほさんの、考えている通りよ』

みほ「……。」

ダージリン『でも、カチューシャは必ず、立ち直る』

ダージリン『だって、カチューシャは一人ではありませんもの。彼女にも大勢の仲間がいる』

ダージリン『私たちが、そうであるようにね』

みほ「そう、ですよね……」

ダージリン『ええ。』

ダージリン『……』

ダージリン『みほさん』

みほ「はい?」

ダージリン『私はね、信じているのよ』

みほ「え?」

ダージリン『いつか何年も時間がたった後で──』
 
ダージリン『今を振り返って、あの頃は大変だったねって、皆で笑いあえる日がいつかきっと必ず来るって』

ダージリン『私はそう信じてる』

ダージリン『だから今は、支えあって、くじけずに頑張ろうって』

ダージリン『そう思っていますのよ』

みほ「ダージリンさん……」

ダージリン『ごめんなさいね、自分が妊娠しているわけでもないのに、偉そうに』

みほ「……いえ、ダージリンさんも一緒に戦う仲間です」

みほ「ダージリンさんが一緒に悩んでくれるんだって思うと」

みほ「やっぱり、安心します」

みほ「おかしな言い方ですけど、ダージリンさんも巻き込まれてくれて……本当によかった……」

ダージリン『みほさん』

ダージリン『……。』

ダージリン『ありがとう……』

ダージリン『……』

ダージリン『あの子が──ペコがね』

みほ「?」

ダージリン『こんな格言を私に教えてくれた』

ダージリン『「案ずるより産むが易しですよ?」……ってね』

みほ「……あぁ……!」

ダージリン『もちろん、私の口から言うべき言葉ではない』

ダージリン『ただ、あの子がそう言ってくれた事で』

ダージリン『私はとても、救われたの……』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ──ピッ



 [ 通話終了 ]



みほ「……。」

みほ(ペコさん、ローズヒップさん)

みほ(……カチューシャさん……!)

みほ「……皆さん……っ」




 ──ぴんぽ~ん




みほ「ん」

みほ「誰だろう」

みほ(今はちょっと、一人で静かにいさせてほしいなぁ……)

みほ「はーい」




 とたとたとた




 ──ガチャ

 キィィ……




しほ「……」




みほ「あっ!!??」

しほ「ちゃんと家にいたのね」

みほ「あ、え」

しほ「何度電話をしても、話中だったから」

みほ「ごめんなさい、ちょっと電話をしてて」

しほ「長電話は関心しないわね」

みほ「あの、その……」

しほ「まぁいいわ」

しほ「買い物はすましてきました。入るわよ?」

みほ「あ、ど、どうぞ……えと、買い物袋、持つね……」

しほ「ありがとう。キッチンに運んでちょうだい」



 キィィィ……バタン

 とたとたとた……

みほ「お母さん、紗希ちゃんのお父さんとのお話しは、上手くいった?」

しほ「えぇ。父子家庭ということでいろいろと考えるところはあるでしょうけれど。」

しほ「とりあえず、訴訟に発展するような懸念は──」

しほ「……。」

しほ「みほ」

みほ「ふぇ?」

しほ「お米を二合炊くようにと、あなたに頼んでおいたはずだけれど」

みほ「え? う、うん、ちゃんと──」

みほ「……あ!」

みほ(そうだ! ダージリンさんから電話がかかってきて)

みほ(そのまま置きっぱなしだった!!)

しほ「米つぶが爪で割れる……いったい何十分、つけおきをしているの」

みほ「ご、ご、ごめんなさい! と、途中で電話が! え、えと……早炊きをすれば30分で炊けるから!」

しほ「……」

しほ「普通炊きと間違えないように」

みほ「は、はい」



 がちゃんっ

 ピ、ピ、ピ、ピ



しほ「みほ」

しほ「あなたも母親になろうというのですからね」

しほ「一つ一つの物事に、もっと落ち着いてしっかりと──」

みほ「わ、わかってるよう!」

みほ(うぅ……お母さんて、私が何か失敗をしてたりみっともない事になってると時にかぎって、現れるんだもん……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 しゅる……


みほ(……お母さんのエプロン姿だ……変な感じ)

みほ(いつぶりだろう)

みほ(熊本にいたころも、お母さんは、ずっとお仕事だった)

みほ「あの、お母さん」

しほ「なに?」

みほ「ご飯、何を、つくってくれるのかなって」

しほ「……。」

しほ「手羽先の」

しほ「煮しめよ」

みほ(……!)

みほ「私、手羽先の煮しめ、好き」

しほ「そうね、子供のころから、好きだったわね」

みほ「……うん」

みほ(……。)

みほ(私が好きな料理)

みほ(私が好きな料理だから、作ってくれるんだ)

みほ(……だけど)

みほ(その事を、なんて、伝えればいいのかな)

みほ(……はぁ)

みほ(もしも、私にもっと勇気があれば)

みほ(もっと素直に、今の気持ちを伝えられるのかなぁ……)

しほ「……。」

みほ「……。」



 トントントン 



みほ「……。」

みほ「あの、お母さん」

しほ「なに?」

みほ「……手伝っても、いいかな」

しほ「慣れているから、一人の方が、早いのだけれどもね」

みほ「あ……そ、そか……」

みほ(……お母さんって、こういう所があるんだもん……)

みほ(……でも……)

みほ「だ、だけどっ」

みほ「私もその料理、覚えたくてっ」

しほ「……。そうですか」

しほ「ならまず、濃い口醤油と、みりん、だしの素を出して頂戴、それと佐藤も」

みほ「……!」

みほ「う、うん!」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




みほ「いただきます」

しほ「いただきます」


 かちゃかちゃ……


みほ「ごめんなさい、小さなテーブルしかなくて」

しほ「二人なら、ちょうどいいわ」

みほ「そ、そうだね」

みほ(友達も時々きてくれるようになったし……もう一回り大きいテーブル、買おうかなぁ)

みほ(それにしても)

みほ(お母さんが……)

みほ(近い!)

みほ(うぅ、なんとなく目のやり場が……)

みほ「て、手羽先、どうかなぁ……」



 はむ



みほ(あ、懐かしい味)

みほ(けど)

みほ「少し、味が濃かったかも……」

しほ「そうね。つけ置きで味をしみ込ませるのなら、丁度よかったのでしょうけれど」

しほ「揉みこむ時は、もう少し醤油と砂糖を薄くするといいわね」

しほ「次作る時は調整してみなさい」

みほ「うん」

みほ「けど……でも、おいしい」

しほ「そう」


みほ「……」

しほ「……」


 もぐもぐ、カチャ……


みほ「……あの」

しほ「ん?」

みほ「……」

みほ「お母さんが妊娠した時って……大変だった?」

しほ「まぁ……人なみに大変ではあったけれど」

しほ「ただ、まほも、あなたも、今なら都合いいなと思った時分に当ててもらったから」

しほ「タイミングは良かったわね」

みほ(あ、当てる……)

みほ(戦車道の人なんだなぁ)

みほ「そ、そうなんだ」

しほ「夫婦ともに、比較的仕事の落ち着いた時期でもあったし」

しほ「西住流にゆくゆく専念することご考えれば」

しほ「今ごろに産まれてくれれば、一番重要な時に二人とも手が掛からなくなるだろうと」

しほ「そういう逆算からも、ちょうど良かったわね」

みほ「そっか……」

みほ(……)

みほ(私の聞きたかった事とはちょっぴり違うけど)

みほ(でも)

みほ(ちゃんとお話しをしてくれる)

みほ「お母さんは……男の子もほしかった?」

しほ「ん……」

しほ「常夫さんは、男の子も欲しかったと言っていたけれど」

しほ「私はとくに、こだわりはなかったわね」

みほ「そうなんだ」

しほ「ただ」

みほ「?」

しほ「貴方が女の子だと聞いて──」

みほ「う、うん」

しほ「姉妹で一緒に戦車道をやってくれればいいなと、思ったわね」

みほ「……そっか……」

みほ(……)

みほ「……じゃあ」

しほ「?」

みほ「私が黒森峰を止めた時は」

みほ「がっかりした?」

しほ「……」

しほ「失望は、したわね」

みほ「……」

しほ「それに、あなたが西住流らしからぬふるまいの数々」

しほ「家元たる私の期待を、ずいぶんと裏切ってくれた」

みほ「……」

みほ「……っ」

みほ(そりゃ、聞いたのは私だけど……)

みほ(今、そういう事を言わなくたって……)

みほ(……。)

みほ(違う。私が、調子にのってしまったんだ。)

みほ(調子にのって、聞かなくていいことを、聞いたから……)

みほ(私、お母さんとは、やっぱり)

みほ(せっかく仲直り……)

みほ(……っ)

みほ(泣かない)

みほ(お母さんの前で、絶対、泣てなんか、やらない……っ)

しほ「……」

しほ「ですが」

みほ「……」

しほ「戦車乗りとしては、まずまずよくやっている」

みほ「……え……」

しほ「貴方は間違いなく」

しほ「──私の娘ね」

みほ「──!!!」

しほ「貴方たちがどのような戦車道をたどるのか」

しほ「多少は楽しみにしていたのだけれど」

しほ「……。」

しほ「何がおこるか、分からないものね」

みほ「……っ」

みほ(だから)

みほ(お母さんは……なんで、いっつもそう)

みほ(いきなりすぎるよっ)

みほ「……お母さん」

しほ「?」

みほ「ちょっと、トイレ」

しほ「食事中に……タイミングの悪い子ねぇ」

みほ「……っ」



 だだだだだっ

 ……バタンっ



みほ「……っ」

みほ「っひ、……うぇっ」

みほ「……っ」

みほ(泣かないっ)

みほ(お母さんの前では、ぜーったい泣かないって、決めたばっかりだもん!)

みほ「ひぃ……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 じゃー


みほ「うぅ、目が赤い」

みほ「……ゴミが入って、目を洗ったっことにしよう」



 てく、てく、てく



みほ「……戻りました」

しほ「おかえり」

しほ「……?」

しほ「……。」

しほ「早く食べなさい。覚めるわよ」

みほ「……う、うん」

みほ「……。」

みほ(お……お母さんの……意地悪っ)

みほ(私の目が赤いの、気付いてるくせにっ)

みほ(お母さんが何もいってくれなきゃ)

みほ(い、言い訳できないよっ)

みほ(……うぅ……)

しほ「話は変わるけれど、みほ」

みほ「……はい」

しほ「あなた、逸見さんの事を、どう思っているの?」

みほ「へ? エリカさん?」

しほ「ええ」

みほ「ど、どうして?」

しほ「まだ決まったわけではありませんが──」

しほ「私と、まほは」

しほ「あの子を西住家の養子に迎えてはどうかと、考えています」

みほ「……」

みほ「へ!?」

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今週は以上です。

まずは一月間、毎週かかさず投稿できたなと。
今月も頑張ります。

明日の夜は、ゆっくり投稿できなさそうな気配があります。
なので、
今日の九時頃、書きあがってるところまででもう投下してしまいます。

はたしてこの告知に意味はあるのか。

誰も気づかねぇだろうと思ったら、噴飯
こんな下がってるのに
ありがてぇ、ありがてぇ……

では投下します。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ「よ、養子!?」

みほ「エリカさんを養子!?」

みほ「ど、どうして──」

みほ「……あ……」



 ──麻子さん──



みほ「まさか」

みほ「まさか、エリカさんのお父さんやお母さんに、何か」

しほ「いいえ。そうではありません」

みほ「じ、じゃあ……」

しほ「みほ」

しほ「今日は話さなければならない事が、たくさんある」

しほ「一つ一つ、順を追っていかなくてはね」

みほ「順……」

しほ「だから、みほ」

みほ「は、はい」

しほ「まずは……」

みほ「……。」

しほ「食べなさい」

みほ「……へ?」

しほ「ご飯も、おかずも、まだ残っているでしょう」

しほ「一口一口、良く噛んで」

みほ「そ……そんな事よりも今はっ」

しほ「貴方は」

しほ「そそっかしいのだから」

しほ「一噛み一噛み」

しほ「ゆっくりと、味をたしかめて」

しほ「しっかりと飲み込みなさい」

みほ「そそかっしいとか、今はそういう問題じゃ……」

しほ「みほ」

しほ「母の言う事を」

しほ「聞きなさい」

みほ「……っ」

みほ(こ、こんな間近で)

みほ(そんな目力で)

みほ(う、うぅ……「みほ」、「みほ」、って、お母さんの声が耳に残る……)

みほ「……分かりました……」

 ……はむ

 もしょもしょ……



みほ(やっぱり、ちょっと味が濃い)

みほ(けど)

みほ(そのおかげで、こんな時でも、ちゃんと味が分かる)

みほ(……おいし……)



 もぐもぐ……



しほ「みほ」

みほ「な、なに?」

しほ「私は今日、あなたと話をするために、ここにきた」

みほ「う、うん」

しほ「だから、焦る必要はないの」

しほ「時間は十分に用意してあります」

みほ「……。」

みほ(……お母さんは)

みほ(勝手だよっ)

みほ「だ、だったら……それなら……」

しほ「? 何です」

みほ「エリカさんを養子に、だなんて、いきなり言わないでください……順を追うって、言ったくせに……」

しほ「……」

みほ(そうだよっ)

みほ(お母さんがびっくりすることを言うのが)

みほ(悪いのにっ)

みほ(ほんと、お母さんって)

みほ(自分こそ)

みほ(いきなりばっかりのくせして!)

しほ「……。」

しほ「そうは言っても」

しほ「めそめそされると、見苦しいもの」

みほ「え?」

みほ(めそめそ……?)

みほ「……あっ」

みほ(あ……あっ)(///)

みほ(ああっ)

みほ(ああああっ)

みほ(お、)

みほ(お、)

みほ(お母さんって、ほんっとに……意地悪っ!!!)

みほ「たっ……」

みほ「食べますっ」

みほ「食べたら、ちゃんと、聞かせてくださいっ」



 ばくばくばくばくっ



しほ「みほ」

しほ「だから落ち着いてたべなさい」

しほ「まったく、何度言わせるのですか」

みほ(も……もぉぉぉーっ!!)

みほ(お母さん)

みほ(嫌いっ!)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

しほ「ごちそうさま」

みほ「ごちそうさま……」

みほ(うぅ、意地になって食べすぎちゃった……)

みほ(今、つわり?が来たら、大惨事だよぅ)

しほ「さて、みほ」

みほ「う、うん」

しほ「あなたは『すかいぷ』」

しほ「というものを知ってる?」

みほ「スカイプ……?」

みほ「う、うん。知ってる。使ったことはないけど」

しほ「そうですか」

みほ「それが、どうかしたの……?」

しほ「まほが」

しほ「貴方と話をしたがっているわ」

みほ「!」

しほ「お互いの顔を見ながら、話をしたいと」

みほ「わ、私も……」

みほ「私も、お姉ちゃんと、お話ししたいです」

しほ「そうでしょうね」

しほ「だから」

しほ「私のノートパソコンに設定をしてもらいました」

しほ「とりあえず、お皿を洗ってしまいなさい」

しほ「その間に、準備をしておくから」

みほ「う、うん……!」



 かちゃかちゃっ

 たったったっ!

 ジャー!

 きゅっきゅっ



みほ(お姉ちゃん!)

みほ(お姉ちゃん……!)

みほ(私の妊娠の事は、もう知ってるはず)

みほ(きっと、心配してくれてるよね)

みほ(お姉ちゃんは妊娠してないって、お母さん言ってた)

みほ(だったら、いっぱいいっぱい、私の事を心配してくれてるはず!)

みほ(早く……早くお皿を洗ってしまおう!)


 きゅっきゅっ、かちゃかちゃ


みほ(あ、だけど……)


 かちゃ……



みほ(だけど)

みほ(ダージリンさんがそうだったように)

みほ(お姉ちゃんが誰かのお父さんだったら……?)

みほ(……。)

みほ(……エリカさん……)

みほ(お母さんの口ぶり)

みほ(エリカさんは、多分、妊娠してる)

みほ(だとしたら、エリカさんのお父さんは……)

みほ(大洗も、グロリアーナも、プラウダも、仲の良い人達同志で妊娠してる)

みほ(エリカさんとお姉ちゃん)

みほ(仲が良い、といのとはまた少し違うかもしれないけど)

みほ(でも)

みほ(赤ちゃんができても、不思議じゃない気がする)

みほ「……。」

みほ「もし、本当にそうだったなら……」

みほ「私、今度こそ本当に」

みほ「エリカさんにお姉ちゃんとられちゃうんだ……」

みほ「……。」

みほ(……もしかして)

みほ(エリカさんがお姉ちゃんの子供を妊娠しているから)

みほ(エリカさんを養子に?)

みほ(お姉ちゃんの子供なら、西住流の跡継ぎって事だよね……?)

みほ(流派の事とか、よくわからないけど)

みほ(きっと、そういう事が絡んでるんだ)

みほ(でも、エリカさんのお父さんとお母さんは)

みほ(それでいいのかな……)

みほ「西住……かぁ……」

みほ「おうちの名前が……そんなに大事なのかな……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ「お皿洗い、洗った……」

しほ「そう。こちらも準備は──」

しほ「……?」

しほ「みほ、どうかした?」

みほ「え……」

しほ「『気』が抜けているわね」

みほ「べ、別に……なんでもない、です」

しほ「……そうですか」

しほ「座りなさい。もういつでも繋げられるわよ」

みほ「!」

みほ「は、はい」

しほ「たしか……ここをクリックすればよかったはずね」

みほ(テーブルの角にノートパソコンを置いて)

みほ(私とお母さんが、同時に映るようになってるんだ)




 ->コール『西住まほ』




しほ「これでつながるはずです」

みほ「……っ」

みほ(わー……この画面の向こうに、お姉ちゃんが)



 ────。

 ────ぱっ



まほ『……ん』

みほ「あっ!」



まほ『あ……これ、もう、見えてるのか?』

みほ「わ!」

みほ「わ!」

みほ「すごいっ、お姉ちゃんだ!」

まほ『ええと、そちらからも、見えてますか?』

みほ「う、うん! 聞こえてる、見えてるよ」

まほ『うん、そうか』

まほ『みほ』

みほ「お姉ちゃん」

みほ(後ろ、お姉ちゃんの部屋だ)

みほ(お姉ちゃん、元気そう、よかった……)

まほ『みほ、大丈夫だったか?』

みほ(……っ)

みほ「うんっ……うんっ!」

みほ「大変だけど、大丈夫!」

みほ(やっぱり私のこと、心配してくれる……!)

まほ『そうか』

まほ『けれど、しかし……ふふっ』

みほ「?」

まほ『いや、すまない』

まほ『ただ』

まほ『お母様と、みほが、画面の向こうで、一緒に並んでいる』

まほ『なにか、可笑しな感じがするな』

みほ「あ……えへへ、そうかもね……」

しほ「……。」

みほ「あっ……ご、ごめんなさい」

しほ「……何についてを謝ったの?」

みほ「え、いや、えと……えと……」

しほ「私は」

しほ「子供の会話にいちいち口出しをする程、暇な親ではありません」

しほ「好きに話をしなさい」

みほ「は、はい……」

みほ(……じゃあしばらく席を外して、っていたら、さすがに怒られるかなぁ)

まほ『ふふ……お母さま、ありがとうございます』

しほ「ええ。」

まほ『みほ』

みほ「う、うん」

まほ『体はどう? 辛いことはないか?』

みほ「えと、時々吐いちゃうことはあるけど……」

まほ『そうか……』

みほ「でも、他は今のところ、大丈夫、かな?」

みほ「お姉ちゃんは?」

まほ『ん』

みほ「お姉ちゃんは、大丈夫? 大変なことは、なかった?」

みほ(……ううん、遠回りじゃだめ)

みほ(思い切ってきいてしまおう)

みほ「お、お姉ちゃんっ」

みほ「えと、お姉ちゃんは、エリカさんの──」

まほ『──みほ』

みほ「え?」

まほ『……』

まほ『お母さま』

しほ「……ええ」

しほ「まだ私は、何も伝えていない」

まほ『……ありがとうございます……』

みほ(……?)

みほ(……なに……?)

まほ『みほ、聞いてくれ』

みほ「え……」

まほ『私は、大丈夫だ』

まほ『大丈夫ではあるが──』




まほ『──私も妊娠を、している』




みほ「……え?」

みほ「は? え?」

みほ「……!?」

みほ「!!!? !?? !!??」

みほ「お──」

みほ「お母さん!?」

しほ「……」

みほ「妊娠してないって、大丈夫だって、お母さんは──!」

みほ「う」

みほ「嘘を言ったの!? お母さん!?」

しほ「……」

みほ「お、おかあ──」

まほ『みほ』

まほ『聞いてくれ、みほ』

みほ「お姉ちゃん」

まほ『お母様を責めるな』

まほ『お母様は、私のお願いを、聞いてくれたんだ』

みほ「え……」

しほ「本来であれば──」

しほ「このような詭弁を、許すつもりはありません」

しほ「姑息です」

しほ「……ですが」

しほ「身ごもった娘の、たっての願い」

しほ「さらに」

しほ「深夜に泣きべそをかきながら電話をかけてくる、みほの取り乱し様」

みほ(……っ)

しほ「貴方の姉は、この母よりも、貴方を理解している」

しほ「それくらいの事は理解しています」

まほ『私の妊娠のことは』

まほ『もう少し、みほ自身に時間をおいてから』

まほ『こうして直接、私の大丈夫な姿を見せながら、伝えたかった』

まほ『それまでは、みほに余計な心配をさせたくないと』

まほ『私がお母さまに、そうお願いをしたんだ』

しほ「そして私は、まほの言う事にも一理あるのかもしれない……そう、判断をしました」

みほ「……。」

しほ「みほ」

しほ「何にせよ、私が貴方に詭弁を弄したことは、事実です」

しほ「それについては──」

しほ「謝罪をします」

みほ「……!」

みほ(お母さんが、私に、謝罪……)

みほ(……。)



 ──みほ「お姉ちゃんは……妊娠……大丈夫……?」──

 ──しほ『……。ええ、大丈夫』──

 ──みほ「そうなんだ……! そっか! よかった……!」──

 ──しほ『……。あなたは、今はまず自分の身体のことを一番に考えなさい。いいわね』──



みほ(……。)

みほ(あぁ、お母さんは、『妊娠してない』とは、一言も言ってなかったんだ……)

みほ(ずるいよ、お母さん)

みほ(卑怯だよ、西住流のくせに……)

まほ『みほ』

みほ「……。」

まほ『私はみほを、傷つけてしまったかな』

みほ「え……」

まほ『お母さまの言う通り、私のやり方は、間違っていたのかな』

みほ「……。」

みほ「わからない」

みほ「ただ」

みほ「ショック、だった」

みほ「いろんなことが」

まほ『……』

みほ「でも」

みほ「お姉ちゃんの言う通り、数日前のあの頃にお姉ちゃんの妊娠を知っていたら」

みほ「私、もっと、頭がグチャグチャだったと思う」

みほ「だから」

みほ「……怒れないの……」

まほ『みほ……』

みほ「……。」

みほ「お姉ちゃん」

まほ『ん』

みほ「ほんとに大丈夫、なの? お姉ちゃんは、妊娠して……」

まほ『……うん、大丈夫だよ、みほ』

みほ「ほんと? でも、妊娠なんだよ……?」

まほ『もちろん、最初は戸惑った』

まほ『けれどな』

まほ『考えてみたら』

まほ『私にとっては、大したことではないんだ』

みほ「た、大したことじゃないって……」

まほ『予定が数年早まった、それだけのことだよ』

みほ「予定?」

まほ『私はいずれお母様から西住流を継ぐだろう』

まほ『そして、私もまたいずれ子を産み──』

まほ『その子が家元の器に見合うのなら、今度は私がその子に西住流を紡ぐ』

まほ『私が西住であるならば』

まほ『それがさだめだ』

まほ『その流れが、少し早くなっただけ……』

まほ『それだけのことなんだ』

まほ『と、そう気づいたんだよ』

みほ「……ほ、」

みほ「本当に、それで、納得してるの……?」

まほ『うん、本当だ』

まほ『だから私は、大丈夫だ』

みほ「あ……」

みほ(……開いた口が、ふさがらない……)

みほ(ど、どうして?)

みほ(どうして、そんな風に考えられるの?)

みほ(お姉ちゃんは、それで、いいの……?)

みほ(でも)

みほ(画面のむこうのお姉ちゃんは、たしかに笑ってる)

みほ(私の尊敬する、いつもどおりのお姉ちゃん)

みほ(落ち着いてて、自身に満ちてて、頼りになるお姉ちゃん)

みほ(そんなお姉ちゃんの、笑み……)

しほ「まほ」

しほ「あなたがそこまで腹のうちを据えているとは」

しほ「私ですら思っていなかった」

しほ「ですが、まほ」

まほ『はい』

しほ「そんな貴方だから」

しほ「貴方のわがままを、今回は許したのです」

まほ『ありがとうございます、お母さま』

みほ「……」

まほ『みほ』

まほ『今度のことで、私は色々な覚悟を決められた気がする』

みほ「……」

まほ『それに──』

まほ『私にはみほがいる』

みほ「……え?」

まほ『私の知らない世界は、みほが教えてくれるだろう』

まほ『だから、頼むぞ』

まほ『これからも』

まほ『みほの戦車道を、私に見せてくれ』

みほ「……お姉ちゃん……」





しほ「……。」







みほ(私は)

みほ(お姉ちゃんをとられちゃう、とか)

みほ(私の事だけを心配してくれてるはず、とか)

みほ(そんな事ばかり考えてた)

みほ(それなのに、お姉ちゃんは)

みほ(……。)

みほ(私、きっと、お姉ちゃんには一生かなわないよ……)

みほ(でも、どうしてだろう)

みほ(それが)

みほ(とっても嬉しい。)

みほ(私の尊敬する)

みほ(自慢のお姉ちゃん……)

みほ(……。)

みほ(……?)

みほ「あれ?」

みほ「じゃあ……エリカさんは?」

みほ「エリカさんは、どうして西住の家の養子に?」

みほ「あっ、エリカさんがお姉ちゃんのパパ……なの?」

みほ「それだけでも、やっぱり養子にならなきゃいけないの……?」

まほ『む……』

まほ『お母さま、エリカの事、みほに話をしていたのですね』

しほ「少し、ね」

しほ「ただ、詳しい事は何も話てはいません」

しほ「……みほ」

みほ「は、はい」

しほ「少し、落ち着く時間が必要かしら?」

みほ「え……」

みほ「……ううん、構いません」

みほ「はやく、エリカさんの事を、聞きたいです」

しほ「そうですか」

しほ「なら」

しほ「……」

しほ「まず、」

しほ「貴方の言う通り、彼女、逸見エリカは」

しほ「まほの染色体共有者です」

みほ「……っ」

みほ「う……うん、やっぱり、そうなんだね」


しほ「で、あると同時に──」


みほ「え?」



しほ「彼女自身もまた、妊娠をしています」


みほ「……!!??」

みほ「そ……え? エリカさんも!?」

みほ(エリカさんはお姉ちゃんのパパなのに?)

みほ(エリカさん自身も、ママ??)

みほ(パパなのにママ??)

みほ(え? へ? ええ?)



しほ「それでね、みほ」

しほ「逸見エリカの染色体共有者は──」



みほ「え」

みほ「──。」

 ゾワッッ

みほ(まさか──)



しほ「まほ」

しほ「まほが、彼女の染色体共有者よ」



みほ「ちょ、え」

みほ「ふぇ!? ふぇぇえ!?」

みほ(エリカさんがパパで、お姉ちゃんもパパで──)

みほ(でも二人ともお腹の中には自分の赤ちゃんがいて)

みほ(!!??)



まほ『それとな、みほ』

まほ『私とエリカの子供は──』


みほ(──まだ何かあるの!?)


まほ『遺伝的な双子……だそうだ』


みほ「」



しほ「複胎性二卵性双生児」

しほ「常識的にはありえないことね」

しほ「母体の血中成分による関節的検査、それゆえ100%ではないのだけれど」

しほ「二人の胎児の遺伝子は、かなりの確率で」

しほ「同一だそうよ」

しほ「驚いた、としか言いようがないわね」

まほ『お医者様、仕組みを解明できればノーベル賞は間違いないと、すごく興奮していました』

しほ「他人事だと思って、呑気なものね」

みほ「ま……」

みほ「まって!」

みほ「……まってください……!」

しほ「あぁ、みほ、大丈夫?」

みほ「だ、大丈夫なわけないです……」

みほ「私……もう、だめ……」

みほ「頭がどうにかなっちゃう……」

しほ「無理もないわね」

しほ「では少し、休憩をしましょう」

まほ『そうですね』

しほ「みほ」

みほ「はい……」

しほ「しばらく横になっていなさい」

みほ「うん……そうする……」



 ごそ……ぱた



みほ(はぁぁぁ……頭が)

みほ(くらくらする……)

みほ(お姉ちゃんと、エリカさん、二人はお互いに)

みほ(二人はママで)

みほ(二人はパパで)

みほ(しかも、ふ、双子)

みほ(あぅ)

みほ(もう、わけがわからないよぅ……)



 まほ『ところでお母さま』

 しほ「何です」

 まほ『晩御飯、みほと一緒に食べたのですか?』

 しほ「ええ」

 まほ「そうですか。料理は、お母さまが?」

 しほ「ええ」

 しほ「みほにも、煮しめの作り方を教えたわ」

 まほ『みほは、ちゃんと作れていましたか?』

 しほ「改善すべき点は多々あるけれど、まずまずね」

 まほ『そうですか……ふふ』



みほ(……。)

みほ(ふ、二人こそ呑気すぎだよぅ……)

みほ(……あ。)

みほ(前にもこんなことが、あったような)

みほ(あぁ、そうだ)

みほ(初めて今回の事を知らされた時だ)

みほ(あの時、会長達は、当たり前のように妊娠の話をしていて)

みほ(……。)

みほ(あの日、あの生徒会室から)

みほ(色々な事がおかしくなって)

みほ(あれからもう何日もたって、少しはこの状況に慣れたつもりだったけど……)

みほ(うぅ、今回はちょっときついよぅ)

みほ(だって、私のお姉ちゃんなんだもん……)

みほ(……)

みほ(まぁ、だけど、とにかく)

みほ(お姉ちゃんを取られちゃう、とか)

みほ(もう、そんな泣き言)

みほ(ホントに、言ってる場合じゃ、なくなっちゃった)

みほ(……はぁ……)

みほ(目の前で起こったことを、ありのままに、認める)

みほ(へんな事だけ、得意になっていってる気がするよ……)

みほ(……。)

みほ(……ねぇ、エリカさん……)

みほ(エリカさんは、大丈夫ですか……?)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

以上です。

続きはまた来週、です。

エリカはまぽりんの将来を台無しにしたと自己嫌悪してそう
まほはエリカに対してどんな気持ちなんだろうか

これから投稿をしますが、先に誤っておきます。
今日の内容は、読み終わった後、ちょっぴり嫌な気持ちになってしまうかもしれません。
ごめんなさい。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



みほ(……。)



 ──あーあ、いづれは私が隊長になるつもりだったのに。

 ──どうせ、次の隊長はあんたでしょうね。

 ──羨ましいわね。あんた、妹だもんね。西住隊長の。あぁ、あんたも西住か。

 ──ほんと、羨ましいわねぇ……。

 ──……。

 ──ま、いいいわ。

 ──しかたがない。あんたが隊長なら……私は副隊長をやってあげる。

 ──だからもう少し、堂々としてなさいよ。

 ──ちゃんと私より強いくせに、ムカつくわねぇ。

 ──……。

 ──は、はぁ!? ば……ばっかじゃない!
 
 ──あんたが隊長になるっぽいから、

 ──し、しかたなくご機嫌とてやってんのよっ!

 ──ふんっ……家元のお嬢様には理解できない苦労でしょうねっ!

 
みほ(もしかしてエリカさん、養子になることを喜んでたり、するのかな……)

みほ(でも、私、エリカさんと……)

 

 ──本気で、止めるつもり……?

 ──……。

 ──……っ。

 ──……。

 ──勝手にしなさいよ、バカ!

 ──裏切りもの。

 ──絶交。

 ──絶交よ。

 ──……。
 
 ──ま、待ちなさいっ!

 ──……。

 ──私、

 ──もう二度と、あんたの事、

 ──名前で呼ばないから!

 ──いいわね!

みほ(……。)

みほ(どうせ絶交するのなら)

みほ(二度と名前で呼ばないからとか、あんまり関係ないですよね?)

みほ(わざわざ呼び止めて、宣言なんかしなくてもね?)

みほ(エリカさんて、血が上るとすぐに頭がクチャクチャになるんだもん)

みほ(でも)

みほ(頭に血が上るくらい、本気で怒ってくてれたんだ)

みほ(……って、今ならそんな風に思えるけど)

みほ(あの時は、本当に悲しかった)

みほ(……はぁ)

みほ(……)

みほ(エリカさんのばか)

みほ(あの時、エリカさんがもっと優しく慰めてくれてたなら)

みほ(エリカさんが元気づけてくれたなら)

みほ(もしかしたら私、黒森峰をやめなかったかもしれないのに)

みほ(……。)

みほ(だけど)

みほ(そうしたら、大洗のみんなとは出会えなかったんだよね)

みほ(それに、きっと私、今でも、戦車道は嫌いなままだった)

みほ(……。)

みほ(何が良かったのかなんて、ちっともわかんないよ)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(だけど、とにかく)

みほ(ぼーっとしてても、何もわからない……)

みほ(それだけは、間違いない)

 ……のそ



みほ「お母さん、お姉ちゃん」

みほ「聞かせてください」

みほ「エリカさんの事。」

しほ「もういいの?」

まほ『みほ、焦ることはない。時間はあるんだ』

みほ「大丈夫」

みほ「だから、お願いします」

まほ『……。そうか』

みほ「エリカさんは」

みほ「今、どうしてますか……?」

まほ『ん……』

まほ『まぁ、元気になってきてはいる、な』

まほ『だが、もう一押し、というところだ』

みほ「??」

みほ「落ち込んでたけど、だんだん元気になってきた」

みほ「ていうこと?」

まほ『うん。そんなところだ』

みほ(……。)

みほ(含んだ言い方、やだな。しかたないのかもしれないけど)

みほ(不安になっちゃうよ……)

まほ『……。』

まほ『なぁ、みほ』

みほ「?」

まほ『みほは、エリカの事を、どう思っている?』

みほ「え?」

まほ『エリカの養子の件』

まほ『お母さまから聞いたんだろう』

みほ「う、うん」

まほ『エリカが西住家の養子になるということは──』

まほ『エリカが私達の家族になる』

まほ『という事だ』

みほ(エリカさんが、私の家族)

みほ(……。)

まほ『みほは、』

まほ『それをどう思う?』

みほ「どう、って……」

まほ『賛成とか反対とか、そういう意味ではなく』

まほ『みほが今、何をどう感じているか』

まほ『それを聞かせてほしい』

みほ「……。」

みほ「エリカさんの事は、大嫌いです」

みほ「って……もしも私がそう答えたなら、養子の話はなくなるの?」

しほ「……。」

しほ「娘の意見として、考慮はします」

みほ「考慮……?」

しほ「みほ」

しほ「彼女を養子に迎えようかという理由は、大きくは二つある」

しほ「うち一つは」

しほ「貴方にとっては気に入らない理由でしょう」

みほ「気に入らない……?」

しほ「しかしながら──」

しほ「貴方にとってどうあれ、これは非常に重要な問題なのです」

しほ「仮に貴方が、彼女を受け入れられないのだとしても」

しほ「それで直ちに養子の件が白紙になるとは、約束できない」

みほ「……。」

しほ「これは、個人の問題ではないの」

しほ「もっと巨大なもの……『家』、『流派』の問題なのです」

みほ「……。」

みほ(私の気に入らない、っていう意味)

みほ(ちょっとだけ分かったような気がする)

みほ(エリカさんの心配じゃなくて、)

みほ(家の、心配なんだもん……)

まほ『みほ』

まほ『エリカの事が』

まほ『嫌いなのか?』

みほ「……。」

まほ『たしかにエリカは、皮肉が多いし、意地っ張りな所もあるが……』

みほ(……。)

みほ(エリカさんが、家族に)

みほ(……。)

みほ「不安、かな」

まほ『不安……?』

みほ「……。」

みほ「エリカさんは、私にとって……」

みほ「黒森峰にいた頃の、一番のお友達」

まほ「……。」

みほ「あ……お友達っていと、エリカさんは怒るんだけどね」

みほ「だから、一緒に戦う、大切な仲間、とかって、感じかな……」

まほ『私は、みほとエリカを、よく同じ戦車に乗せていた』

まほ『そしてエリカはいつも、みほに車長をさせようとしていたな』

みほ「うん。でもそのくせ、練習が終わると、あれが駄目だこれが駄目だって」

みほ「エリカさん、意地悪だよ」

まほ『しかし、二人は、楽しそうだったよ』

みほ「……。」

みほ「私ね、時々エリカさんの事」

みほ「もう一人のお姉ちゃんみたいに」

みほ「思ってた」

まほ『……そうか。』

まほ『みほも、そうだったのか』

みほ「え?」

まほ『私も』

まほ『時々、エリカを──』

まほ『もう一人の妹のように、感じていた』

みほ「……そうなんだ。」

みほ(ちょっぴり、嫉妬しちゃうかな)

みほ「……エリカさんは、私なんかよりもずっと戦車道に真剣で」

みほ「頑張り屋さんで」

みほ「だけど、頑張り屋さんな分」

みほ「一人で落ち込んじゃうこともたくさんあって」

みほ「そういう時は私が慰めてあげて……」

みほ「ああ、そういえばそんなときは逆に」

みほ「私がお姉ちゃんになったような気分で……なんだか、可笑しくて」

まほ『そうか』

みほ(……あぁ、ダメだ)

みほ(エリカさんとの思いでがいっぱいで……どんどん脱線しちゃう)

みほ「……だけど」

まほ『うん』

みほ「私が黒森峰を止めるとき」

みほ「一番怒ってたのも、やっぱりエリカさんで……」

まほ『……。』

みほ「大会で久しぶりに会ったときも、意地悪ばっかり言うし」

みほ「……ほんとに、一度も名前で呼んでくれないし……」

みほ「あっ、だけど、選抜戦にお姉ちゃんと一緒に駆けつけてくれた時は、本当に嬉しかった」

みほ「……でも」

みほ「その時もやっぱり、ちくちく意地悪なことしか言ってくれなかったし……」

みほ「あの時は私も必死だったから、結局ほとんどお話しできなかったし」

みほ「私が黒森峰を訪問した時も、なんだか、他人行儀だったし」

まほ『む』

みほ「まぁ、でも、だからとにかく」

みほ「いきなり家族って言われると、不安……かな」

まほ『なるほどな』

まほ『そうか……』

みほ「……。」

みほ「ね、ねぇ、お姉ちゃん」

まほ『ん?』

みほ「私、ちゃんと答えたよ、だから、次はエリカさんの事」

みほ「聞かせてよ」

まほ『……みほは、エリカの事が心配か』

みほ「当たり前だよ!」

まほ『しかし、今の話を聞く限り』

まほ『二人は仲たがいをしているのだろう』

みほ「それはそうけど」

みほ「でも、心配なものは心配だよっ」

まほ『……だ、そうだぞ』

みほ「え?」

まほ『聞いた通りだ』



まほ『よし、席を変われ』


   
  <『え……ちょ、いきなりですか!?』



みほ「え」



みほ(今の、声って──)



まほ『さぁ早く、みほに顔を見せてやれ』



まほ『──エリカ』



みほ「──!?」




 ……ぎしっ




エリカ『……。』




みほ「っ!!!」

みほ「エ、エリカさん!」

エリカ『……』

エリカ『い──』

エリカ『意地悪ばっかりで』

エリカ『悪かったわね』

みほ「……!」

みほ(エリカさん!)

みほ(エリカさん……!!)

エリカ『だ、だけどそもそも、貴方が黒森峰を──』

みほ「──エリカさんっ!!!」

エリカ『!?』

エリカ『な、』

エリカ『なによ』

みほ「エリカさん、少し」

みほ「痩せたんじゃないですか……?」

エリカ『……っ』

エリカ『な、なんで気付くのよ』

エリカ『気持ち悪いわねぇ』

  <まほ『……こら』


 コツンッ


エリカ『あいたっ!?』

みほ(わ、画面の外からお姉ちゃんの声と、手が)

みほ(なんか面白い……)


<まほ『そんな風に言うな』

<まほ『誰にでもわかるくらいに、痩せたんだよ、エリカは』


エリカ『……。』

エリカ『お、大げさなんです、隊長も、隊のみんなも……』


 コツンッ


エリカ『あいたぁ! ぽ、ポカポカ叩かないでくださいよ!』


<まほ『皆の心配を、無碍にするな』

<まほ『あまり意地をはるのなら』

<まほ『さすがに私も、怒るぞ』


エリカ『わ、わかりましたよ……すみませんでしたよ……』

みほ(そうだよ、絶対エリカさん、痩せたよ……)

みほ(妊娠したっていうのに)

みほ「エ、エリカさん、大丈夫ですか? 体、おかしいところ、無いですか……?」

エリカ『べ、別に……大丈夫よ』

みほ「だ、だけど、そんなに痩せて……」

エリカ『だ、大丈夫だって、いってるでしょっ、細かいことうるさいわねぇっ』

<まほ『こら、エリカ──』

みほ(……っ!)

みほ「い──」

みほ「意地をはらないでください!」

エリカ『!?』

<まほ『む』

みほ「エリカさん、私達、妊娠してるんですよ……!」

みほ「子供ができたんですよ……!?」

みほ「お腹の中に、赤ちゃんがいるんですよ!?」

みほ「それなのにそんな、目に見えるくらいに痩せて……!」

みほ「だ、大丈夫なわけ、ないじゃないですか!」

エリカ『……っ』

みほ「こ、こんな時くらい、昔みたいに……ちゃんとお話し聞かせてくださいっ!」

エリカ『……』

エリカ『つ──』

エリカ『都合のいいこといってんじゃないわよ!』

エリカ『勝手に戦車道を捨てて、黒森峰から逃げだしたくせに!』

エリカ『……あっ』

エリカ『す、すみません師範……つい、カッとなって』

エリカ『すみません……』

みほ「あ」

みほ(そうだ、私の隣にはお母さんが)

みほ(エリカさんの痩せ方にびっくりして、忘れてた)

しほ「……ん?」

しほ「あぁ、何も気にする必要はありません」

しほ「思うがままに話しなさい」

エリカ『は、はぁ、ありがとうございます……。』

エリカ『……。』

みほ「……。」

しほ「……?」

<まほ『……あの、お母さま』

しほ「?」

<まほ『一度、画面から外れてもらったほうが……』

  <まほ『さすがに、みほの隣にお母さまの顔が見えていると』

<まほ『エリカが、話をしづらいです』

しほ「……あぁ」

エリカ『も、申し訳ありません』

しほ「かまわないわ」

 
 ずりずり……


みほ「……。」

みほ(お母さんが、カーペットの上でお尻をくぃくぃ横に滑らせる姿……)

みほ(初めて見た……)

エリカ『……』

みほ「……」

みほ(……な、なんの話だったっけ……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

まほ『……うむ』

まほ『やはりラチがあかなかったか』

まほ『エリカ、ちょっと横にずれてくれ。私も画面に入る。椅子を置くぞ』

エリカ『え……はい』


 ずりずり。

 ガタン。


まほ『どうだ、みほ。私も見えているか』

みほ「う、うん」

みほ「二人とも、ちゃんと見えるよ』

まほ『そうか』

エリカ『……。あの、隊長』

まほ『なんだ?』

エリカ『なんか、面白がってませんか』

まほ『そうか?』

エリカ『そうですよ』

まほ『まぁ、3人で話すのは、久しぶりだからな』

みほ(そういえば、そっか……)

エリカ『……。』

まほ『エリカの教えてくれたこの、なんだ、「すかいぷ」か。便利なものだ』

エリカ『はぁ、どうも』

まほ『エリカはインターネットが得意だからな』

しほ「私のノートPCに設定してくれたのも」

しほ「彼女です」

みほ「あ、そうなんだ……」

みほ(……。)

みほ(エリカさんがお母さんのノートPCに設定をして)

みほ(そのノートPCをもってお母さんが会いに来てくれて)

みほ(おかげで私はお姉ちゃんとも話ができて)

みほ(今、こうしてエリカさんとも……)

みほ(なんか……)

みほ(色々つながってるって、感じがする……)

みほ(……。)

みほ「だけど、じゃあエリカさん、ずっと盗み聞きしてたんですね」

みほ(エリカさんを、お姉ちゃんみたいって)

みほ(恥ずかしい事きかれちゃった……)

みほ(まだ何も言ってこないけれど、絶対聞こえてたはずだよ……)

エリカ『ぐっ……た、隊長が、聞いてろって言ったのよ』

まほ『そうだぞ。私の指示だ。だからエリカを悪く言うな』

みほ「なんだか……」

みほ「さっきからずっと、西住流らしくない事ばかりだね」

みほ「お姉ちゃんの妊娠を秘密にしてたことも、エリカさんの盗み聞きのことも」

まほ『……まぁ、な』

まほ『だが、今回限りだ』

まほ『どうしてもエリカに』

まほ『みほの気持ちを聞かせたかった』

みほ「……。」

まほ『こうでもしないと、エリカは意地っ張りなうえに』

まほ『ふふ……捻くれ者だからな』

エリカ「……っ」

まほ『とにかく、もしも、本当に私達が家族になるのなら』

まほ『必要なことなんだと、思う』

みほ「……。」

みほ「とにかく──」

みほ「まずは、養子の事、エリカさんの激やせこと、ちゃんと、説明してください」

エリカ『……。』

まほ『……エリカ?』

エリカ『……すみません、隊長、お願いします』

まほ『ん、そうか』

エリカ『やっぱりどうしても、この子の顔を見ると……』

エリカ『素直になれません』

みほ「……。」

まほ『まぁ、いいさ。無理をするな』


 ぽん、ぽん……


エリカ「あ……」


みほ(……!)

みほ(な、なに、今の、すごく優しいお姉ちゃんの手つき)

みほ(昔、私がしてもらっていたみたいな……)

みほ(ぐぅ)



まほ『養子の件』

まほ『理由は二つあるといったろう』

みほ「え、う、うん」

まほ『もう一つの大きな理由は──』

まほ『エリカのためだ』

みほ「エリカさんのため……?」

まほ『エリカは、今回のことで』

まほ『随分と病んでしまってな』

みほ「え……」

エリカ『……。』

まほ『皆の妊娠がわかって、まだ間もないころだ』

まほ『まだ私自身も、妊娠に戸惑っていた頃だな』

まほ『あの頃は……大変だった。あれは、本当にまいった……』

みほ「お、お姉ちゃん……」

みほ(こんな疲れはてた感じの表情、初めて見る……)

エリカ『すみません、本当に……すみません……』

みほ(エリカさんがこんなにしょんぼりしてるのも、見た事ない)

みほ(……。)

みほ(やっぱり黒森峰も、お姉ちゃん達も、辛かったんだなぁ……)

みほ「えと、それで、エリカさんが病んでたって、どういうこと……?」

まほ『ん……』

まほ『エリカ……いいんだな?』

エリカ『……はい』

エリカ『これは』

エリカ『私の……』

エリカ『罪です』

エリカ『隠すことなんて、許されません』

まほ『……。』

まほ『エリカ、何度も言うが──』

まほ『……まぁ、今はいい』

みほ「……?」

まほ『お互いの妊娠が分かった次の日から、エリカは様子がおかしかったんだが』

まほ『私はそれが心配で、そのまた次の日の夜、自室にエリカを呼んだんだ』

まほ『まぁ、私自身、話し相手がほしかったからな……』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

まほ「──エリカ、急に呼び出して、すまないな」

エリカ「いえ……」

まほ「私もまだ、戸惑っている。一人ではどうにも落ち着かなくてな」

まほ「何か飲むか?」

エリカ「いえ……」

まほ「……。」

まほ(エリカ。私と目を合わせようとしないな)

まほ(というより、そもそも心ここにあらず)

まほ(今日もずっと自室にこもっていたようだ)

まほ(俯いて、顔をしかめて……どうした?)

まほ(……いや、どうしたもこうしたも、ないか。無理もない)

まほ(私だって、心のうちは似たようなものだ)

まほ「エリカ、まぁ、座れ」

エリカ「……はい……」

まほ「ふぅ……。」

エリカ「……。」

まほ「しかし、今だに信じられないな?」

まほ「私達は──妊娠しているそうじゃないか」

まほ「しかも私とエリカは──」

まほ「はは……」

まほ「いったい何なのだろうな。夫婦、と言うわけにもいくまい」

まほ「まったく、本当に……なんなんだろうなぁ」

エリカ「……。」

エリカ「……。」

エリカ「……隊長」

まほ「うん。どうした?」

エリカ「…………………………ごめんなさい」

まほ「え?」

エリカ「……。」

まほ「エリカ……?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

まほ『……で、エリカはそれっきり一言もしゃべらず、部屋へ戻って行った』

みほ「え……」

みほ「えと、エリカさん」

みほ「ごめんなさいって、いうのは……」

エリカ『……なんていうか……』

エリカ『……隊長』

まほ『うん?』

エリカ『今だから言いますが──』

エリカ『「夫婦」っていう隊長の言葉、あれが最後の引き金でした』

まほ『えっ』

まほ『そうだったのか……』

エリカ『まぁ、遅かれはやかれ何かをきっかけに爆発はしてたと思いますけど……』

みほ「……えと、あの」


 ──とん、とん


みほ「? お母さん……?」

しほ(……。)

みほ(え? 口元で人差し指をたてて……『しー』……?)

しほ(せかすものではないわ。ゆっくり、話をさせてあげなさい)

みほ(……。)

みほ(はい。お母さん)




まほ『……それでな』

みほ「うん」

まほ『その次の夜の深夜だ』

まほ『眠っていると、どうも、部屋のドアが開いたような気配がしてな』

みほ「鍵は……?」

まほ『女子寮だ。あえて鍵をする必要もない』

まほ『でだ、気のせいかと思っていたんだが、ベッドの脇に目をやると──』

まほ『人の影がたっていてな』

みほ「へ!?」

まほ『飛び起きて部屋の明かりをつけると──』

まほ『エリカが立っていた』

みほ(こ、怖い……けど、茶化すみたいで言えない……)

まほ『でだ、エリカは、泣きはらして、顔は涙でぐちゃぐちゃだし、髪は乱れているし……うむ、すごかった』

エリカ『本当に、申し訳ありません……』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

まほ「──エ、エリカか!?」

まほ「な……なんだ!? 驚かすな! どうして私の部屋に」

エリカ「……ぐすっ、ひぐぅ、うぇええ、隊長ぉ……」

まほ「どうしたんだ……とりあえず、座れ。いったいどうしたんだ」

エリカ「……ぐぅ、っひぃ……」

エリカ「隊長、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

まほ「いいから、とにかくベッドに座れ」

エリカ「ごめんなさい」

エリカ「ごめんなさい」

エリカ「ごめんなさい……」

まほ「むぅ……」

まほ「どうした、何をそんなに謝るんだ……」

エリカ「だって、私……」

エリカ「西住流を、めちゃくちゃにしてしまった」

エリカ「隊長の人生を」

エリカ「隊長は、西住流を受け継ぐ人なのに」

エリカ「結婚して、子供を産んで、それなのに」

エリカ「私のせいで西住流が、隊長が……」

まほ「何……?」

エリカ「あぁ……」

エリカ「ああああああ」

エリカ「うあああああ」

エリカ「私、どうしたら……」

まほ「エ、エリカ……」

まほ(マタニティ・ブルー……というやつか?)

まほ(勉強を始めたばかりでまだよくわからないが)

まほ(だがこんなに早く始まるものなのか?)

まほ(いや、こんな異常事態なのだ)

まほ(エリカも、怖くてたまらないんだろう……)

まほ「エリカ、何をバカなことをいってるんだ」

まほ「不安なんだな。わかるぞ」

まほ「私も不安だ」

まほ「不安なもの同士だ、今日は私の部屋で寝て行け」

まほ「だから落ち着け。さぁ、泣く事はないんだから、ほら……」

エリカ「ああああ」

エリカ「ぐぅううう」

まほ「エリカ……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ「……。」

みほ「エリカさん」

みほ「この話、私、聞いていいの……?」

エリカ『……。』

みほ「無理に、話すことはないよ……?」

まほ『いや、聞いてやってくれ』

みほ「お姉ちゃん……?」

まほ『みほに話をすると決めたのは……』

まほ『エリカなんだ』

みほ「……!?」

みほ「エリカさん……?」

エリカ『……。』

みほ(エリカさん……)

みほ「……。」

みほ「分かりました。」

みほ「最後まで……聞きます」

まほ『頼む』




 ──とん、とん




しほ(?)

みほ(あの、お母さんはこの話を、知っていたの?)

しほ(貴方には悪いけど、知っていたわ)

みほ(そう……)

しほ(というよりも、この後、私も直接二人の話にかかわります)

みほ(え……)



みほ(……)

みほ(じゃあ、お母さんはもしかして)

みほ(お姉ちゃんやエリカさんの問題を抱えながら)

みほ(全然それを表に出さず)

みほ(私の恥ずかしい泣き虫な電話の相手を、してくれてたのかな……)

みほ(……。)

みほ(……お母さん……)

まほ『──私は、エリカの取り乱しようは、一時的なものだと思っていたんだ』

まほ『それが、甘かったんだ』

まほ『エリカは、本当に心から悩んでいた』

まほ『エリカの戦車道への、西住流への思いの強さは、私も知っていたはずなのに』

まほ『私はそれを忘れていたんだ』

まほ『私自身混乱していたから、というのは言い訳でしかない』

まほ『……。』

まほ『……実は、これはお母さまにも今まで内緒にしていたですが……』

しほ「……?」

まほ『それから数日たった日』

まほ『あの日』

まほ『私がエリカを連れて、学園艦から熊本に飛んだあの日です』

まほ『あの日の夜……熊本の自室で、私も泣いてしましました』

エリカ『……!』

まほ『エリカの苦しみに気付いてやれなかったこと、こんな事になってしまったこと……』

まほ『はは、いろいろ考えていたら、私もたまらなくなってしまってな』

エリカ『……隊長……』

しほ「……。」

まほ『本当に久しぶりだった……あんなに泣いたのは』

まほ『……うん』

まほ『本当に、あの日は大変だった』


まほ『あの日──』


まほ『学校の屋上で』


まほ『赤い夕方だった』


まほ『エリカが』


まほ『泣きじゃくりながら私に土下座をしたんだ』



みほ「……え……」



まほ『そして──』



まほ『どうかお願いですから』



まほ『二人で一緒に、中絶をしてくださいと』



まほ『と、』



まほ『悲鳴のような懇願を──』



みほ(────!!!!!!!!!!!!)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

以上です。
続きは来週です。

>>366他、結構な人に展開を読まれててギクリ。

明日の夜が、またちょっと忙しいっぽいです。
なので、今日の夜くらいに、続きを投稿します。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ──キーンコーン……カーンコーン……



まほ(……。)

まほ(エリカ)

まほ(どうしたというんだ)

まほ(今日も)

まほ(学校にきていないそうじゃないか)

まほ(だというのに──)



 ごそっ……

 ぴ、ぴ


 『隊長へ:お願いがあります。

放課後、部活棟の屋上へ来ていただけないでしょうか』


まほ(……。)

まほ(どういう事だ)

まほ(……。)

まほ(妊娠がわかって以来)

まほ(エリカの様子がおかしい)

まほ(西住流がどうのと……)

まほ(……)

まほ(……跡継ぎ、か……)

まほ(たしかに、エリカの懸念はもっともなのかもしれない)

まほ(だが……それは、私達にどうこうできる話ではない)

まほ(それは、西住流の頭領たるお母様にゆだねるべき問題だ)

まほ(それに、エリカ……)

まほ(お前に──)

まほ(いったい何の罪がある?)


 ──ごめんなさい──


まほ「……やめてくれ」

まほ(そんな顔)

まほ(しないでくれ)

まほ(分を超えた心配は、無意味だ)

まほ(西住の教えにも反している)

まほ(お前は、お前自身の心配を、第一にすべきなんだ)

まほ(……と、言い聞かせてはいるが……)

まほ(……。)

まほ(無理もないか)

まほ(妊娠、だからな……)

まほ(動揺してあたりまえだ)

まほ(他のメンバーも)

まほ(かく言う、私も)

まほ(……。)

まほ「みほ」

まほ(みほは……)

まほ(どうしているだろう)

まほ(連盟の話では──)

まほ(大洗はまだ)

まほ(履修生徒への告知を完了していないらしい)

まほ(妊娠検査も、まだなのだろうな)

まほ(みほ)

まほ(せめてお前は、無事であってくれ)

まほ(……。)

まほ「だめだ、心が、乱れている……な」

まほ「……。」

まほ「戦車道の事だけを考えていられたころが」

まほ「今となっては懐かしい」



 つか、つか、つか……

まほ「んっ……」

まほ「まぶしいな」

まほ「もう夕焼けか」

まほ「早くなったな」

まほ「……」

まほ(赤い夕焼けだ)

まほ(なんという真っ赤な夕日だ)

まほ(夕日とは、こんなにもギラギラと、光るものだったろうか)

まほ「廊下が、燃えているようだ……」

まほ(……。)

まほ(静かだな)

まほ(放課後の廊下というものは。)

まほ(エリカめ)


まほ「……寂しいじゃないか」


まほ(お前は──)

まほ(幼いころのみほの様に)

まほ(いつも私の後をついてまわる)

まほ(気の利いた冗談も言えない)

まほ(優しい励ましの言葉もかけてやれない)

まほ(お母様に似てしまった、不器用なこの私の側に)

まほ(当たり前のように、誰かが隣にいてくれる)

まほ(それがどれだけ)

まほ(私にとって心地がよかったか)

まほ(そして、こんな時こそ)

まほ(私はお前をあてにしているんだ)

まほ「……それなのに」

まほ「……。」

まほ「突然に私を」

まほ「一人にしないでくれ」

まほ「……。」

まほ「屋上に、いるのだな」

まほ「エリカ」

まほ「待っていろ」

まほ「すぐにいくぞ」



 たったったった……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 キィ……


  ひゅうぅぅ……



まほ(寒いな)

まほ(風が冷たい)

まほ(もう一枚、羽織ってくるのだった)

まほ(いや、それよりも──)



まほ「エリカ」

まほ「どこだ」

まほ「こんなところにいたら」

まほ「凍えてしまうぞ」



 つか、つか、つか、



まほ(広いからな、屋上は)

まほ(屋上のどのあたりにいる、とは書いていなかったが……)


まほ「──む」


まほ(いた。)

まほ(距離はあるが、あの背中は間違いない)

まほ「おい、エリカ!」

まほ「……。」

まほ(聞こえてないか)

まほ(手すりにもたれかかって)

まほ(夕日をじっと眺めているのか)

まほ「おーい、エリカっ!」

まほ「……。」

まほ(いま、行くぞ)


 たったったったった……


まほ(……。)

まほ(エリカの背中)

まほ(屋上の端の手すりにもたれ掛かって)

まほ(ただじっと、手すりの向こうを……)

まほ(赤い空を……)

まほ(まるで──)



 ……ザワッ……


まほ(……!?)

まほ(なんだ)

まほ(どうして鳥肌が、急に)

まほ(……)

まほ(……っ)

まほ(……っっ)

まほ(……なんだっ)

まほ(なんだというんだ!)

まほ(……エリカ!)


まほ「──おい、エリカッ」

まほ「エリカッ!」

まほ「聞こえないのか!!」


まほ(頼む、こっちを振り向いてくれ!!)

まほ(私がいくまで──)

まほ(絶対に)

まほ(絶対に──)

まほ(そこを動くなよ!!!)



 だだだだだだだだ!



まほ(動くな)

まほ(頼むから)

まほ(動くな!)



 だだだだだだだだ!



まほ(よし、つかまえ──た!)



 がしっ



まほ「はぁ、はぁ、……」

まほ「エリカ、聞こえているんだろう」

まほ「返事をしろ!」




 ぐぃっ 

エリカ「……あ」

エリカ「……隊長……」

まほ(な──)

まほ「なんだ、エリカ、お前……」


エリカ「……」


まほ(……ひどい顔じゃないか……)

まほ(なんだその大きなクマは)

まほ(それに頬が)

まほ(こけて、いるのか……?)

まほ(髪もぼさぼさじゃないか)


まほ「……お前……」

まほ「寝間着じゃないか」

まほ「その恰好でここまできたのか?」


まほ(……早く)


まほ「まったく、人に見られたら、物笑いの種だぞ」

まほ「お前は黒森峰の次期隊長」

まほ「それが、そんな格好で」


まほ(早くエリカを)

まほ(手すりから引き離すんだ)


まほ「こんなに寒いのに」

まほ「風邪を引いたらどうする」

まほ「……それに」

まほ「あまり、お腹を冷やすな。」

まほ「……わかるだろう?」

エリカ「……っ」

まほ「ほら、私の制服を羽織れ」


 
 ふぁさ



まほ「むぅ……お前のせいで寒くてたまらないぞ」

まほ「私こそ凍えてしまう」

まほ「早く校舎の中に入ろう」


まほ(早く……早くっ)

 ぐっ



まほ(……っ)

まほ(エリカの手)

まほ(こんなに冷たいじゃないか)

まほ(いったいいつからここにいた?)



まほ「さぁ、行くぞ──」

エリカ「──嫌っ!」



 バッ



まほ「……!?」

エリカ「あ……す、すみませ……」

まほ「……。」

まほ「……エリカ」


まほ(落ち着け)


まほ「すまない」

あほ「強く手を握りすぎたか?」


まほ(落ち着くんだ)


まほ「痛かったろう」

まほ「すまなかった」

まほ「とにかく──」


まほ(早くここから──)

まほ(エリカを──)


エリカ「……隊長」


まほ(……っ)


まほ「……なんだ?」


エリカ「隊長……」

エリカ「この通りです」

まほ「……?」

エリカ「隊長」

エリカ「本当に」


 ざっ……


エリカ「本当に……」

エリカ「申し訳」

エリカ「ありません」


 ざっ……


まほ(!?)

まほ(……!?)

まほ(土下座……!?)


まほ「や──」

まほ「止めろエリカ!」

まほ「何をしているんだ!?」


エリカ「……。」


まほ(なんだ)

まほ(なんなのだこれは)

まほ(無防備にさらしだされた)

まほ(エリカのうなじに、ぼさぼさの髪)

まほ(怯えた様にちじこまった)

まほ(情けない背中。)

まほ(だらしなく突き出された)

まほ(下着の線のすけた、尻……っ)

あほ(……っ)

まほ「立て!」

まほ「立つんだエリカ!」

まほ(どうしてお前が)

まほ(そんな惨めな姿を)

まほ(しなきゃならない!)

エリカ「立てません」

まほ「なぜだ!」

エリカ「私もう」

エリカ「駄目なんです」

まほ「何が駄目なんだ!?」

まほ「いいから立て!」

まほ「そんな姿を、私に見せるな!」

エリカ「──だって、私」

エリカ「もう」

エリカ「隊長の顔を見られません」

エリカ「……。」

エリカ「……私……」

エリカ「どうしようもなく」

エリカ「この子が──」

エリカ「憎くて、憎くて──」

エリカ「憎くてたまらなくて──」

エリカ「『ア』──」

エリカ「『アンタさえいなければ』って──」


まほ「……!?」


エリカ「隊長」

エリカ「私」

エリカ「私、は」

エリカ「人間じゃ、ないんです」

エリカ「もう」

エリカ「涙もでません」

エリカ「だから隊長」

エリカ「どうかお願いします」

エリカ「……。」



エリカ「一緒に」

エリカ「中絶をしてください」

エリカ「そうして」

エリカ「私のことはもう」

エリカ「忘れてください」

エリカ「どうか」

エリカ「お願いですから……」


まほ(……。)


 ……ゾッ……


まほ(……。)

まほ(……。)

まほ(……あ、息が、できていない、な、私いま)

まほ(だが、困ったな)

まほ(息って)

まほ(どうやって吸うのだったかな)

まほ(……まぁ、いい、今は、そんなこと──)

まほ「エリカ」


まほ(私は──)

まほ(恐ろしい過ちを──)

まほ(犯してしまったのではないか)

まほ(エリカを)

まほ(絶対に一人にしてはいけない時に)

まほ(エリカを)

まほ(一人にさせてしまったのでは──)





 ……ィィィィィィィィイイイイイイイイインッ──





まほ(……っ)

まほ(耳鳴り)

まほ(ああ、この感覚──)

まほ(みほには戦車道を止めさせると)

まほ(お母様から告げられた時の──)

まほ(懐かしいな)

まほ(辛かったな)

まほ(私の人生から)

まほ(みほがいなくなってしまうと──)





まほ(──!!!!!!)





まほ「た──」


まほ「立て!!」


まほ「エリカッ!!」


まほ「立てぇッッッ!!」


まほ「命令だ!!」


まほ「聞こえないのか!!」


エリカ「……。」


まほ「立てといっているだろうが、エリカッ!」


 グィッ

エリカ「! 痛っ……!!」

まほ「何が痛いだバカ者!!」

まほ「ほらぁッ、立てと、言ってるんだっ」

エリカ「やめてっ」

エリカ「離してくださいっ」

エリカ「……見ないでください!」

エリカ「──離せぇ!!!」



 ドンッ!



まは「ぐっ──!」

エリカ「あっ……!?」


 ぐら……


まほ(あ、ばかっ)

まほ(無理に私を押すから、エリカの足、ふらついて──)

まほ(ああ!)

まほ(駄目だ!)

まほ(手すりの方に──)

まほ(倒れるんじゃない!!)

まほ(そっちに)

まほ(いくなエリカ!!)

まほ「──おおおおお!!!!」


 だっ!


 ──がばぁっ!


エリカ「……っ!?」 

まほ「このぉっ……!」

エリカ「あ、たいちょ──」

まほ「──エリカァッ!」



 ぎゅううううう!!



エリカ「っ、ぐぇっ、隊長、苦しい……っ」



まほ「このバカ者!」

まほ「バカ者が!」

エリカ「……っ」

まほ「エリカ、聞け!」

まほ「よく聞け!」


エリカ「っ!?」

エリカ「耳元で、叫ばないでくださいっ!」

エリカ「いいから離してください!」

まほ「煩い!」

まほ「知ったことか!」


まほ(──、だめだ、もう感情が──抑えられない──)


──進む姿は──

──乱れなし──


まほ(──お母様)

まほ(申し訳ありません──)

まほ(私は、とても……)


まほ「いいか──」

まほ「これは絶対命令だ!」

まほ「今から」

まほ「絶対に」

まほ「私の側を離れるな!」

まほ「常に私の側にいろ!」

まほ「一人になることは許さん!!!」


エリカ「……!?」


まほ「トイレだろうが」

まほ「風呂だろうが」

まほ「絶対に一人は許さんッ!!」


エリカ「な……」


まほ「どうしてもという時は」

まほ「私に許可を得ろ!」

まほ「居場所はつねに連絡しろ!」

まほ「もし、もしも約束を破ったら──」

まほ「ぬぅ……ええと……」

まほ「榴弾装填100発っ」

まほ「学園艦マラソン100周っ」

まほ「地獄の特訓、黒森スペシャル100セットッ」

まほ「それだけじゃないぞ」

まほ「尻叩きも100発だッ」

まほ「わかったかッ!!」

まほ「返事は──」

まほ「どうした!?」

まほ「エリカァッ!!!!!!」

すみませんちょっと
もう二時間後くらいに、また続きを。

急用が!

>まほ(だらしなく突き出された)

>まほ(下着の線のすけた、尻……っ)

>あほ(……っ)
お姉ちゃんなに考えてるのかと思ったのに次の誤字でダメだった

>>428

……。

……。

アホは>>1なんだって、はっきりわかんだね……。

エリカ「……っ」

エリカ「……。」

エリカ「……。」

エリカ「……わかりました……」


まほ「!」

まほ(エリカ……!)


エリカ「全部──」

エリカ「やります」

まほ「!?」


エリカ「何発だろうと装填します」

エリカ「何百キロだろうが、走ります」

エリカ「お尻も、隊長の好きなだけ叩いてくれて、結構です」

エリカ「だから──」

エリカ「一緒に──」


まほ「……っ」

まほ「なぜだ!?」

まほ「お前は、そこまでして」

まほ「自分の子供を」

まほ「私達の子を──」

まほ「殺したいのか!?」


エリカ「……!!」

エリカ「そ──」

エリカ「……っ」

エリカ「……ぐぎぅっ」

エリカ「隊長は」

エリカ「隊長は!」

エリカ「ひぐっ……うぁ……どうして」

エリカ「どうして、隊長は」

エリカ「わかってくれないんですか……ぐぅ……ひぎ……」

エリカ「私にはもう」

エリカ「母親になる資格」

エリカ「ないんですよ!!」


まほ「……エリカァ!」


 ぎゅううううう!!!

エリカ「ぎぃ……止めてください」

エリカ「私なんかに」

エリカ「触れちゃダメなんです」

まほ(エリカ……!)

まほ「お前は、泣いている」

まほ「ちゃんと、泣いているんだぞ!」


 ぎゅむううううううううう!!!


エリカ「グェッ……ひぃ、ひぐぅっ」

まほ「……くそっ……」


まほ(エリカの身体が)

まほ(何でこんなに細い)

まほ(お前を抱くのは初めてだ)

まほ(だが、こんなはずはない)

まほ(お前)

まほ(ご飯、少しも食べていなかったんだろう)

まほ(風呂にも、入っていないな)

まほ(お前の髪が)

まほ(こんなにギトギトで、油の匂いがずるはずはないんだ)

まほ(そうだろう、エリカ!?)

まほ(くそっ!)

まほ(くそ……!)

まほ(くそおおおお!!!)

まほ(遅すぎた)

まほ(気づくのが、遅すぎた!)

まほ(まただ!!)

まほ(私は何をやっていたんだ!?)

まほ(エリカが一人で)

まほ(苦しんでいる時に!)

まほ(……やめろ、そうじゃないだろう!)

まほ(今は後悔をしている場合では、ないだろう!)

まほ(そうだろう、西住まほ!)

 ……ごそっ

 ぴ、ぴ、ぴ

 とぅるるるるるる、とぅるるるるる──



エリカ「……え?」

エリカ「隊長……?」


 
 とぅるるるるる、とぅるるるるる──



エリカ「隊長……!?」

エリカ「何を、」

エリカ「何をしてるんですか!?」

エリカ「ねぇ、隊長!!??」



 とぅるるる──プッ



?『──はい』

まほ「菊代っ」

まほ「お母さまは、いるか!?」



エリカ「……!?」



菊代『あいにく……。』

菊代『ですが、夜までには』

菊代『お戻りになると』

まほ「そうか」

まほ「なら、伝言を頼む」

菊代『かしこまりました』



エリカ「た、隊長!」

エリカ「隊長!?」

エリカ「何をしてるんです!」

エリカ「なぜご実家に電話をしてるんですか!?」

まほ「静かにしていろエリカ」

まほ「お前を──」

まほ「お母様のところへつれていく」

エリカ「!?」

まほ(私の言葉は届かなくても、)

まほ(西住流そのものたるお母様の言葉ならば)

まほ(エリカの不安を砕いてくれる!)

まほ「お前が」

まほ「私のいう事を聞かないのなら」

まほ「お母様に──」

まほ「言って聞かせてもらうまでだ!」



エリカ「ひ……」

エリカ「いやだ──ダメ、ダメです!」


 バタバタバタ!!


まほ「!?」

まほ「エリカ!? 暴れるな!」

菊代『お嬢様……? どうされました?』

まほ「いや、なんでも……ぐっ」



 ばたばたばた!!!



エリカ「駄目!」

エリカ「駄目ぇ!」

エリカ「会えません!」

エリカ「いやあああああ!!」

エリカ「私、師範に会う事なんか」

エリカ「できません!」

エリカ「会えるわけがない!」

エリカ「やめてください!」

エリカ「許してください!!」

エリカ「隊長っ」

エリカ「隊長!!」

エリカ「あああああああああ!!!!!」


まほ「ぐっ……」

まほ(離さないぞ……!)

まほ(絶対に離さないぞ!)

まほ(エリカ!)

まほ(私とお前はもう──)

まほ(子宮と子宮とで)

まほ(つながっているんだからな!)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

続きは来週です。

……と言いたいところですが、
これから二週間、諸事情により提督業のほうがかなり忙しくなりそうです。
もしかすると、もしかすると、来週こそは間に合わないかもしれません。

日曜日頃に、どげんなりそうか報告します。

[現状報告]
E1甲クリア
E2乙クリア
E3乙クリア
E4甲、泥沼←今ココ

気分転換にこのSSの続きを書こうとするも、
ふと目に留まったSS『西住しほ 「これが私の戦車道」』を読むにつけ、
にやにやが止まらなくなり、
しかしてその一方で「省みて自分のSSのしほさんのなんと魅力のないことか」
的な劣等感にとらわれ続きを書く気がどんどんしぼんでいくっていうのがはっきりわかんだね。

とにもかくにも、日曜の夜に、ちょろっとだけ続きをあげられればと思います。

あああああああああああああああああああああああああああああくそおおおおおおおおおおおおおおお
あkふぃじゅrへj9j;ぐぃfkjlfじゅrぃrjfじょrぐいjfjq

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ばばばばばばば……


まほ『赤星、聞こえるか』

赤星『ええ、ヘッドセット、感度良好です』

赤星『よく聞こえますよ』

まほ『うん』

まほ『突然呼び出したうえ』

まほ『熊本までヘリの操縦を頼んでしまった』

まほ『本当にすまないと思っている』

赤星『いいですよ、気にしないでください』

赤星『……それよりも、隊長』

赤星『あの』

赤星『副隊長、大丈夫ですか……?』

まほ『……うむ……』


エリカ「……」


まほ(なんとかヘリには乗せたが……。)

まほ(俯いて、顔をこわばらせて)

まほ(ヘッドセットをつけもせず)

まほ(口も耳も閉ざしてしまっている……)

まほ(それに体が震えているな)

まほ(怯えているのだろうか)

まほ(お母様に会う事を、それほどにまでも)

まほ(……怯える必要など、まったくないというのに……)

まほ『赤星』

赤星『はい?』

まほ『この事、他の者には黙っていてくれ』

赤星『ええ、もちろん……』

まほ『それと、すまない、あまりこちら(後部座席)を』

まほ『振り返らないでやってくれるか?』

まほ『おそらくエリカは、恥じているだろうから……』

赤星『ああ……』

赤星『……。』

赤星『あのう、やっぱり、副隊長は妊娠の事で?』

まほ『そうだな……色々と、考えすぎてしまった』

まほ『そんなところだろうか』

赤星『そうですか……』

赤星『でも、しかたないですよ』

赤星『私だって』

赤星『もしも妊娠をしていたら』

赤星『とても冷静ではいられなかったと思います』

赤星『泣いて実家に帰ってたかもしれないですよ』

まほ『ん……』

まほ『だが、それは困る、な』

赤星『え?』

まほ『エリカだけではなく、赤星までも』

まほ『そうなってしまった時──』

まほ『いったい私は、誰を頼ればいい』

まほ『私だって』

まほ『怖いし、心細いんだ』

赤星『……。』

赤星『隊長』

赤星『今の言葉も』

赤星『皆には秘密にしておきます』

まほ『ん……すまん』

赤星『隊長には、こんな時こそいつもの隊長でいてもらわなきゃ』

まほ『そう……だな』

まほ『うん、そうだった』

まほ『それが私の、責務、だな』

赤星『副隊長の肩』

赤星『しっかり抱いててあげてくださいよ』

まほ『ああ、わかっている』

まほ『……ありがとう、赤星』

赤星『いえいえっ』

赤星『では、急ぎます、スピードあげますよっ』

まほ『了解だ』

 ばばばばばばばばばばばばっ!



まほ「……。」

まほ「エリカ」


 ぎゅっ


まほ「エリカ、大丈夫か?」

まほ「ヘッドセットをしなければ」

まほ「ローターがうるさいだろう」

エリカ「……。」

まほ(……。)


まほ(なぁエリカ)

まほ(どうして)

まほ(どうしてそんな風になるまで)

まほ(私に何も言ってくれなかったんだ?)

まほ(……。)

まほ(いや……違う、そうではない)

まほ(エリカは、明確にシグナルをだしていた)

まほ(私がそれに)

まほ(気付いてやれなかったんだ……)

まほ(エリカだから)

まほ(きっと大丈夫だろうと)

まほ(そうやって理由をつけて)

まほ(自分の事にばかりかまけて……)


まほ「……。」

まほ(何か)

まほ(何か、なんでもいい)

まほ(なんでもいいから)

まほ(例え今更でっても)

まほ(何か言葉を、かけてやらなければ……)



まほ「エリカ、聞け」

まほ「聞いてくれ」

まほ「……。」

まほ「……。」

まほ(……何を言えばいい)

まほ(私は)

まほ(口が上手くないんだ)

まほ(お前も知っているだろう、エリカ)


まほ「……っ」


まほ(……甘えるな!)

まほ(わからないのなら)

まほ(浮かんだままを言うしかないだろう)

まほ(耳元で叫べば、ローターの騒音の中でも、きっと)



 ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば



まほ「エリカ!」

まほ「私も、こんな事になってしまって」

まほ「妊娠をしてしまって」

まほ「怖い!」

エリカ「……。」


 ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば


まほ「だが、それでも」

まほ「せめて相手がエリカでよかったと」

まほ「私はそう思っているんだ!」

まほ「本当だぞ!」

エリカ「……。」


 ばばばばばばばばばばばばばばばばばばば


まほ「エリカは今までも、ずっと私を助けてくれた」

まほ「これからも」

まほ「ずっと私の側に、」

まほ「いや──」

まほ「私達の側に!」

まほ「一緒にいてほしいと思っている」

まほ「心から思っている!」

まほ「4人で、一緒にいたいと、そう思っているんだ!」

エリカ「……っ」

まほ(──!)

まほ(一瞬、瞳が、揺らいだか?)

 ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば 


まほ「……頼む!」

まほ「私達を」

まほ「二人だけにしないでくれ」

まほ「私にとって」

まほ「この道は」

まほ「4人でないと進めない道なんだ」

まほ「そして私達はもう」

まほ「後戻りはできないんだ!」

まほ「だから、頼む!」

まほ「エリカ!」

エリカ「……。」


 ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば


まほ(エリカ)

まほ(聞いてくれたろうか……)

まほ(それにしても)

まほ(……はは……)

まほ(こんな歯の浮くような言葉を)

まほ(私は言えたんだな)

まほ(……。)

まほ(だったら)

まほ(だったら、どうしてもっと早く)

まほ(エリカに言葉をかけてやらなかった)

まほ(もしも──)

まほ(もしも私がもっと早くにこうしていれば)

まほ(あるいは、こんな事にならなかったのではないか)

まほ(そう思うのは)

まほ(私の思い上がりなのか?)

まほ(教えてくれ)

まほ(エリカ)


 ぎゅううううう


エリカ「……。」

まほ(……。)

まほ(エリカ)

まほ(こうしてみると)

まほ(よくわかる。)

まほ(お前の耳の穴の中)

まほ(耳アカだらけじゃあないか)

まほ(風呂にも入らず)

まほ(悶々としていたのだな)

まほ(きっと、どこもかしこも、汚れているのだろう)

まほ(お前の耳アカが)

まほ(こうしていると)

まほ(私の唇についてしまいそうだ)

まほ(だが、気にすることはないのだぞ)

まほ(口につこうが)

まほ(食べてしまおうが)
 
まほ(私はいっこうに構わん)

まほ(エリカ)

まほ(私がお前を綺麗にしてやる)

まほ(落ち着いたら)

まほ(耳かきをしてやるぞエリカ)

まほ(『百発百睡』とみほに讃えられた私の腕前)

まほ(見くびってもらっては困る!)


 ばばばばばばばばばばばばば……
 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

続きは来週です。

E4、乙に下げました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


赤星改め小梅『隊長、ご実家が見えてきましたよ』

まほ『そうか、早いな』


 ばらららららららららららら


まほ(……変わらないな)

まほ(ここ田園風景は。)

まほ(こんな時であっても)

まほ(昔と、何一つ変わらない。)

まほ(あのあぜ道、よく駆けた。)

まほ(みほと、一緒に。手をつないで……)

まほ(……。)


まほ「……エリカ、見てみろ」

まほ「田んぼの真ん中の、大きな──」

まほ「あれが私の実家だ」

まほ「お前を連れてくるのは、初めてだったな」


エリカ「……っ」


まほ「……。」

まほ「エリカ、不安なのはわかる」

まほ「だが、お母様は、少しも怒ってなどいないんだ」

まほ「お前の事を、心配している」

まほ(……きっと、そのはずだ)

エリカ「……。」


まほ(怒るような人ではない)

まほ(お母様は、そのような人ではない)

まほ(戦車道にひたむきなエリカを)

まほ(お母様も評価していたじゃないか)

まほ(いくら家の問題があるとはいえ)

まほ(妊娠のことで)

まほ(エリカを疎んじるような人ではない)

まほ(そう、思うのだが……。)

まほ(……。)

まほ(いかん、しっかりしろ)

まほ(エリカの不安に、私までひきずられてどうする)

小梅『隊長、着陸場所は──』

まほ『あぁ、敷地内の西側に、広い庭が見えているだろう。そこに直接降りてくれて構わない』

小梅『ひゃあ、お庭に、ですか。さすがは家元のお宅』

まほ『時々、下手なパイロットが、庭側の廊下の障子を吹き飛ばすんだ』

小梅『わ、わぁ』

小梅『師範のお家だけあって、プレッシャーをかけてきますねぇ……』

まほ『小梅なら大丈夫だ。私も心配はしていない』

小梅『うぅ、緊張しちゃうなぁ……』


 ばららららららららららら


まほ「エリカ、ほら」

まほ「東側の二階の、手すりのついた窓、あそこが私の部屋だ」

エリカ「……。」

まほ「その隣の、小さな塔のような。あそこは、みほの──」


まほ(──む)

まほ(お母様は、もう帰ってきているようだな)

まほ(駐車場に、お母様の車がとまっている)

まほ(……ん?)

まほ(だが、その隣に停まっている車。)

まほ(家の車ではないな……)

まほ(お客様だろうか)

まほ(あまり、間が良くないな……)


小梅『隊長』

まほ『どうした?』

小梅『降下を始めます』

小梅『手順に従って、ヘッドセットマイク、フルオープンでお願いします』

まほ『あぁ、了解した』


 ばららららららららら


エリカ「……。」

エリカ「……あれ?」

まほ『……?』

まほ『エリカ、降下中だぞ』

まほ『ちゃんと真直ぐに座っていろ』

エリカ「……。」

まほ『おい、エリカ?』

まほ(どうした? 窓に顔を寄せて、下をじっと──)

エリカ「……?」

エリカ「……!?」

エリカ「え……!?」


 バンッ


まほ『!?』

まほ『おいエリカ!? 急に立ち上がるな!』

エリカ「ま──」

エリカ「いや、やっぱり」

エリカ「な……なんで!!」

エリカ「どうして!? なんで!?」

まほ『エリカ座れ! 危ないだろう!』

小梅『……!?』

小梅『隊長、問題ですか?』

小梅『降下、中止しますか?』

まほ『あ、いや──』

エリカ「……だ、め……!」

エリカ「だめ……だめっ!!!」


エリカ「──小梅ッ!!」


 だっ


まほ『な──』


エリカ「小梅!」

 
 ガシッ


小梅『きゃっ!?』

エリカ「小梅、降りないで!」

小梅『わあああ!?』

小梅『ちょっと!? 着陸作業中ですよ!?』


 グラッ!


小梅『だめ!』

小梅『操縦桿に触れないでください!!』

小梅『危険です!!!』


 グラグラッ!


まほ『わああ!?』

まほ『おいエリカ! お前何をしているんだ!?』

エリカ「いやだ!」

エリカ「降りないで!!」

エリカ「お願い!」

エリカ「戻って!」

小梅『はい!?』

エリカ「艦に戻って!!」

エリカ「お願いよぉ!!!」



 グラグラグラツ!


小梅『わあああ! た、隊長ーっ! 何とかしてください!』

まほ『このっ……エリカぁー!』


 がしっ

 ぐぃーっ


エリカ「あう……!?」

まほ『この──バカもの!!』

まほ『墜落したらどうする!?』

まほ『どういうつもりだ!?』

エリカ「……っ!! 駄目!!」

エリカ「駄目、駄目!! 降りるなー!!」

まほ『……っ、エリカ!!! しっかりしろ! 私の目を見ろ!!』

 
 ぐぃっ


エリカ「あ、う……」

エリカ「隊長……」

まほ『エリカ、いったい、どうした? どうしたんだ!?』

エリカ「だって」

エリカ「私の家の、車が」

まほ『……なに?』

エリカ「下に、停まっているのは、」

エリカ「私の親の車なんですよ!?」

まほ『なに……?』

まほ(!)

まほ(……あの見覚えの無い車か!)


エリカ「私の両親が」

エリカ「ここに来てるってことじゃないですか!?」

エリカ「ど……どうしてなんですか!?」

エリカ「どうして私の親が!」

エリカ「隊長の家にいるんですか!!」

エリカ「た……隊長が呼んだんですか!?!?」

まほ『い、いや、私は──』


まほ(お母様が呼んだのか?)

まほ(お母様が連絡をしたのか?)

エリカ「──とにかく、嫌です!」

エリカ「私、会えません!」

エリカ「会いたくない!」

エリカ「会っちゃいけないんです! 私はもう、お母さんやお父さんに──」


まほ(ぐっ……何がどうなってる!?)


小梅『──あ、あの! 隊長!?』

小梅『そっち、もう大丈夫ですか!?』

小梅『降りていいんですか!?』

小梅『それとも止めますか!? 待機ですか!?』


まほ「……っ」

まほ(ええいっ!)

まほ(落ち着いて考えている暇などあるか!)

まほ(とにかく、エリカを、早く!)


まほ『だ──大丈夫だ!』

まほ『降りてくれ!』


小梅『りょ、了解!!』

小梅『あぁもぉっ、お、落ち着け、落ち着けっ……しょ、障子を吹き飛ばしても怒らないでくださいよー!?』


エリカ「だめ、だめぇ……!」


まほ『……っ』

まほ『よく聞け!』

まほ『私が側にいる!!』

まほ『一緒にいる!』

まほ『だから安心しろ!』

まほ『わたしが絶対にお前を守る!』

まほ『だから、お前は心配しなくていいんだ!』


小梅『ふぇっ!?』

小梅『は、はい! ありがとうございますぅー!?』


まほ『!?』

まほ『あっ、いやっ、今のはっ──』


 ばろろろろろろろろろ……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……きゅんきゅんきゅんきゅん……


小梅『……ぶ、無事に、着陸完了です……』

まほ『ご、ご苦労だった……』

小梅『家の障子、飛んでないですかね……』

まほ『見ていないが……多分無事だろう……』

小梅『あぁー……怖かったぁ……』

小梅『けどこれ、国交省に知れたら』

小梅『飛行禁止処分モノですよ……』

まほ『うむ……すまない。エリカは、きつく叱っておく』

まほ『だから今は、何も言わないでやってくれないか』

小梅『まぁ、隊長がそういうんでしたら……』

小梅『……』

小梅『……副隊長には、もちろん同情をしています』

小梅『でも、さっきの行動は』

小梅『お二人の命をあずかるパイロットとして』

小梅『さすがに、許容できません……』

まほ『……分かっている』

小梅『「守ってあげる」、だけではだめですよ!?』

小梅『叱る時ははちゃんと叱らないと!』

まほ『う、うむ、小梅の言う通りだ』

まほ(こんなに怒っている小梅は初めてだな……)

まほ(だがまぁ、怒って当然だ)

小梅『はぁぁぁ、まだ心臓がドキドキなってますよ……。』

まほ『そうだな、私もだ……。』

小梅『……。』

小梅『隊長の言葉にも、ちょっとだけ、ドキドキしましたよ』

まほ『……頼む、皆には黙っていてくれ。』

小梅『いいですけど、でもホント、ちゃんと副隊長を叱ってくださ……あ』

まほ『ん?』

小梅『師範が、縁側にたってます』

まほ『……ああ、本当だな』

小梅『ヘリの挙動、みられちゃったかなぁ……』

まほ『まぁ……だとしても、私からきちんと事情は……』


まほ(縁側に立っているのは、お母様と菊代と──)

まほ(それと……誰だ)

まほ(お母様の、その隣)

まほ(男性と、女性が)

まほ(……エリカのご両親、か?)

まほ「エリカ」

エリカ「……。」

エリカ「……っ!」

まほ(横目で一瞬、あの二人を見たようだが)

まほ(うつむいて、両の拳を握りしめてしまった)

まほ(ご両親で間違いないようだな……)

まほ(しかし)

まほ(今すぐの対面は、無理だな……)

まほ(エリカは、己を恥じているのだろう)





 ──私にはもう、母親の資格、ないんですよ!──


まほ(だからこそ、ご両親に顔を合わせずらいのだ)

まほ(やはりまずは、私とお母様の三人で話を……)

まほ(そうすればエリカをそんな風に考えさせた思い違いも、無くなるはずだ)


まほ「……。」

まほ「よし。エリカは、ここで少し待っていろ」

エリカ「え……」

まほ「私が先に、挨拶をしてくる」

まほ「小梅も、すまない、もう少しだけヘリで待機していてくれ」

まほ「そのあとは、うちに泊って行っていくか、あるいは──」

小梅「そうですね、けれどまぁ、私の事は、今は気にしないでください、それよりも……」

まほ「ん、すまん」

まほ「……エリカ。心配をするな。」


まほ(心配をするな心配をするなと、そればかりだな)


まほ「……同じようなことしか言ってやれなくて、すまない」

エリカ「……。」

まほ「とにかく、待っていろ」

エリカ「……あ……」


 ガチャッ


 ……すたっ


まほ「ふぅ……」

まほ(地面だ)

まほ(さすがにあのあとでは、地に足がつくと安心してしまうな……)

まほ(……。)

まほ(実家の、香りだ)

まほ(庭であっても、他所とはどこか、匂いが違うのだな)

まほ(……。)

まほ(さぁ、行くか)





 ざっざっざっざっ




まほ(エリカのご両親、か)

まほ(どのような人だろう)

まほ(エリカはあまり両親の事を話さない)


 ざっざっざっざっ


まほ(妊娠の件は、すでに知っているのだろうか……)

まほ(エリカが妊娠してしまった事を、どう思っているのだろう)

まほ(それに)

まほ(私のお腹の子供……)

まほ(あの人達にとっての──)

まほ(孫でもあるのか……)

まほ(……。)

まほ(私にとっても、あの人達は──)

まほ(……何なのだろうな)

まほ(お義父さん、お義母さん、というのも妙だ)

まほ(親戚、になるのかな……)



 ざっ、ざっ、ざっ……



しほ「──まほ」

まほ「お母様」

まほ(久しぶり……というわけでもないが)

まほ(妊娠していらい、直接会うのは初めてか)

まほ(……。)

まほ(私、今、少し)

まほ(ほっとしているな……)


まほ「お母様。突然に申し訳ありません」

しほ「構いません」

しほ「逸見さんは?」

まほ「まだヘリの中です」

まほ「実は、その……少し、緊張してしまっていて」

しほ「……そうですか」

まほ「……。」

まほ「ところで、あの、お母様」

まほ「お客様……でしたか……?」

しほ「ええ」

しほ「──まほも、ご挨拶なさい」

しほ「こちらのお二人は」

しほ「逸見さんの、ご両親です」


まほ(……っ)


エリパパ「初めまして」

エリパパ「逸見エリカの……父です」


エリママ「……。」

エリママ「初めまして」


まほ(あぁ、そうか──エリカは、母親によく似たのだな──)

まほ(──面影だけじゃない。たたずまいや雰囲気も、どことなく──)

まほ(──いや、そんなことよりもまず──)


まほ(最敬礼を、しなければな)


 ぐぐ……


まほ「お初にお目にかかります。西住、まほです」


エリパパ「ああ、いや、そんなかしこまらずとも……」

エリママ「……。」


しほ「妊娠の件」

しほ「お二人には」

しほ「すでにお伝えしてあります」

まほ「……!」

まほ「そうですか」

まほ「……。」


まほ(では──)

まほ(この人達も理解している)


まほ(私のお腹の中には)

まほ(この人達の)

まほ(『孫』が)

まほ(いる。)


まほ(そして、エリカのお腹の中には)

まほ(……私との子供が……)


エリママ「……。」


まほ(……。)

まほ(向けられる視線に、戸惑ってしまう、な)

まほ(外行きの顔を見せる以外に)

まほ(どうしたらいいのか、今はわからないな……)


まほ「お二人とも、エリカさんの事を、さぞ心配をしておられたでしょう」

まほ「今回の件」

まほ「黒森峰の隊長として──」

まほ「私も、重く受け止めています」


エリパパ「むむむ……いや、こちらが参ってしまう。なんとも、しっかりしていらっしゃる」

しほ「恐縮です」

エリパパ「うちのエリカとは、大違いだ、なぁ、母さん」

エリママ「……そうね」

まほ「いえ、とんでもありません」

まほ「私こそ、エリカさんに、いつも助けられています」

エリママ「……。」

エリママ「貴方の話は、エリカから良く聞かされていました」

エリママ「……あなたの方こそ、大変でしょうね」

まほ「ありがとうございます」

エリママ「……。」

まほ「……。」

まほ(少し、トゲらしいものを感じるな……)

まほ(が、こういう時は、女親のほうが、そういうものなのかもしれないな……)


エリママ「……。」


まほ(エリカは、初対面の者に、何となく圧力感を与えるらしい)

まほ(なるほど、こういう感じなのかな)

まほ(だが……その点では、うちのお母様だって負けてはいない)

まほ(本人達に悪気はないのだ)

まほ(この人は、エリカの事が、心配なのだ)

まほ(気にすることはない……)


まほ「──それで、エリカの事なのですが」


まほ(あ、『さん』をつけ忘れた……)

まほ(……ええい、そんな細かいこと、今はどうでもいいっ)


まほ「エリカは今、とても、動揺をしていて」

まほ「その動揺の原因が、戦車道や私の家に深くかかわることで……」

エリママ「……?」

しほ「……。」


まほ「ですから……」

まほ「その、まずは──」

まほ「私と母との、3人で、お話しをさせて頂けないでしょうか」


エリママ「……。」

エリママ「……私達と会う前に──」

エリママ「貴方たち、三人で?」

まほ「……っ」

まほ「そ、そうです」

まほ「とても失礼な申し出だと、存じているのですが」


エリママ「……。」

エリママ「……。」


まほ(……お、おお……)

まほ(『不愉快』、とはこういう表情を言うんだな)

まほ(やはり、エリカによく似ている……)


エリママ「……」

エリママ「あの子が、私達に会いたくないと?」

まほ「えっ」

まほ「……ええと、お母様にというよりも」

まほ「正確にはむしろ、『誰にも』というか……」

エリママ「……。」

エリママ「……ハァ」

エリママ「あの子、相変わらずね」

まほ「え?」

エリママ「やっと人見知りがマシになったと思っていたら……」

まほ「え!? い、いえ、人見知りだとかそういう話ではなくて──」


エリパパ「──いやいや、お母さん。エリカは頑張っているよ」

エリママ「お父さんは甘いのっ」

まほ「い、いや、あのっ」

エリママ「しほさん。ちょっと草履を貸していただける?」

しほ「ええ、どうぞ」


 ずちゃっ


 ……ざっ、ざっ、ざっ


まほ「ちょ、ちょ!?」

まほ「あの、ま、待ってください!」

エリママ「何でしょう」

まほ「どうかお願いですから、少しだけ!」

まほ「少しだけ待ってやってください!!」

エリママ「……。」


まほ(お母様と話をすれば、きっとエリカは落ち着くはずなんだ!)


エリママ「待たないわ」

まほ「えっ」

エリママ「私は」

エリママ「あの子の」

エリママ「母親ですっ」


 ずん、ずん、ずん!


まほ「い──いや! あの、あの!」


まほ(こ、この意地の強さ、間違いなくエリカの母親だ……!)


まほ(あっ!)

まほ(エリカが、ヘリの中からこっちを見ている)

まほ(ふ、不安そうな顔をしているな……)

まほ(き、気張るんだっ、私よ!)


まほ「──ど、どうかお願いですからっ!」

まほ「待ってください!」

まほ「お母様!」


 がしッ……!

エリママ「……!?」


まほ(いきなり腕をつかんでしまった)

まほ(なんという無礼だ!)

まほ(だ、だがっ、しかしっ)


まほ「は──母親だからこそなのです!」

エリママ「……?」

まほ「相手がお母様だからこそ、エリカにとっては、素直に言えないことで──」

エリママ「……」

まほ「どうか、私達に、時間をください……」

まほ「……。」

エリママ「……まほさん」

エリママ「あの子が素直でないのは」

エリママ「貴方に言われなくても」

エリママ「この私が」

エリママ「誰よりも、理解しています」

エリママ「あの子は」

エリママ「私の」

エリママ「娘です」

まほ「……っ」


まほ(す……)

まほ(凄い目力が強い……!)


エリママ「だから──」

エリママ「この手を」

エリママ「離しなさい」


まほ「ぐ、ぬっ」

まほ「で、ですがエリカは──」


しほ「──まほっ」


まほ「っ!?」


しほ「だだをこねていないで」

しほ「いい加減にその手を離しなさい」

しほ「逸見さんに失礼でしょう」

まほ「だ……駄々などではありません!」

まほ「わ、私は、」

まほ「私は、エリカを──」

エリママ「──まほさん」

エリママ「貴方は、エリカの事を本当に心配してくれているのね」

エリママ「けれど、」

エリママ「今だけは」

エリママ「私と娘の」

エリママ「邪魔をしないでちょうだい」

まほ「……!」

まほ(邪魔……)

まほ(私がエリカの、邪魔……っ!?)

まほ「……ぐ……」

まほ(エリカ……)


エリカ「……。」


まほ(……。)

まほ(私に)

まほ(お母様の邪魔をする権利があるのか──)

まほ(……。)

まほ(……無い……。)

まほ(有るわけが無い……)


 ……すっ……


まほ「……申し訳」

まほ「ありません……」


エリママ「……謝ることはないわ」

まほ「……。」


 ずんっ、ずんっ、ずんっ、ずんっ、ずんっ……


まほ「……。」

まほ(……すまん、エリカ……)

まほ(お前のための、意地を通せなかった……)


エリパパ「すみませんね、どうも昔から……言い出すと聞かなくて」

しほ「こちらこそ、娘の非礼を、お詫びいたします」

エリパパ「いやいや」


まほ「……。」

しほ「まほ」


まほ「……はい」

まほ「……。」


まほ(今、叱られたら)

まほ(口答えをしてしまいそうだ……)


しほ「保険証は」

しほ「持っている?」

まほ「……。」

まほ「え?」


しほ「保険証です」

しほ「病院の、保険証」

しほ「無ければ無いで、構わないけれど」


まほ「??」

まほ「あ、えと」

まほ「財布に、携帯していますが……」

しほ「そうですか」


まほ「でも、どうして保険証が……」

しほ「これから皆で、病院へ行きます」


まほ「……は!?」

まほ「びょ、病院?」

まほ(!?)

まほ(お、お母様は、菊代から話を聞いていないのか??)


まほ「い──いやそれよりもまずっ」

まほ「お母様、とにかく一度、エリカと話をしてやってください!」

まほ「私はそのために、エリカを……!」


しほ「まほ」


まほ「は、はい」

しほ「菊代から伝言は聞いています」

まほ「で、では!」

しほ「まほ、聞きなさい」

しほ「私はカウンセラーではないわ」

まほ「そういう事ではなくて!」

まほ「エリカは西住の事で悩んでいるんです!」

まほ「お母様が、心配ないと言ってくれればエリカは──」


しほ「──本当に?」

まほ「……え?」

しほ「本当に、彼女の抱える不安は、それだけですか?」

しほ「もっと、様々な問題が」

しほ「あるいは、もっと心の深い部分に巣くう不安が」

しほ「彼女を動揺させているのかもしれない」

しほ「そうではないと、貴方に言い切れる?」

まほ「……そ、」

まほ「それは、わかりませんが……」

しほ「そうでしょう」

しほ「私にも、分からないわ」

しほ「だから、病院に行くんです」

しほ「だからこそ、プロの手が必要なのです」

まほ「で、ですが」

まほ「そんな事を大げさにしなくても」

まほ「……エリカが」

まほ「エリカが怯えてしまいます……」

しほ「……。」

しほ「まほ」

しほ「冷静になりなさい」

しほ「初手でもって」

しほ「打てる手立ては全て撃つ」

しほ「一段一段、手立てを探っていられるような場合ではないの」

しほ「状況を見誤ってはなりません」

しほ「いいわね」

まほ「……。」

まほ「ですが……」

まほ「……っ」

まほ「……。」

まほ「……はい……わかりました……」

まほ「……。」

まほ「あの……エリカのご両親には」

まほ「お母様が連絡を?」

しほ「そうです」

まほ「……。」

しほ「もっとも、近況をお伝えするため、もともと、お二人とアポイントを取っていた」

しほ「ということでもあるのだけれど」

まほ「……そう、ですか」


まほ(……。)

まほ(本当に、これでいいのか──)

まほ(エリカを)

まほ(余計に追い込んでしまうのでは)

まほ(ないだろうか……)


 ──わああぁああん!! ああああん!!



まほ(!?)

まほ「エ、エリカ……!?」


まほ(なんだ、どうなった!?)

まほ(まさか)

まほ(嫌がるエリカを無理やりにヘリから──)

まほ(……あっ)

まほ(……違う……)

まほ(いつの間にかエリカが、ヘリから降りて……)

まほ(……お母様の胸に、抱きついている、のか……?)



 ──お母さんっ!

 ──あああっ

 ──ごめんなさい、ごめんなさい!!

 ──私……うああああっ!



まほ(……。)

まほ(エリカ、お前……)

まほ(ご両親には、会いたくないって)

まほ(あんなに……)

まほ(嫌がっていたじゃないか……)

まほ(それなのに)

まほ(お前は今)

まほ(一生懸命にお母様にしがみついて)

まほ(赤子のように泣いているじゃないか)

まほ(……。)

まほ(本当は、お母様に会いたかったのか?)

まほ(……)

まほ(は、は……そんな事だろうと思った)

まほ(どうせまた、そんなことだろうと)

まほ(やはりお前は、素直じゃないんだ)

まほ(それ見たことか)

まほ(……。)

まほ(……。)

まほ(バカか、私は)

まほ(結果だけを見て、何を知った風な事を言っている)

まほ(何を後から、分かったような口を聞いている)

まほ(私は)

まほ(エリカのお母様がエリカに会おうとするのを)

まほ(本気で邪魔しようとしていたんだぞ)

まほ(そんなお前が)

まほ(いったいどの口で言う)


まほ(そもそも)

まほ(私がもっとしっかりしていれば)

まほ(エリカはあんな風に泣かずに、すんだのではないのか?)

まほ(あるいはせめて、私が)

まほ(ああやってエリカを、泣かせてやれたのではないのか?)

まほ(……。)

まほ(つまるところ私は)

まほ(少しも、エリカを理解してやれていないのではないのか……)



 ──私が側にいる──

 ──だから安心しろ──

 ──わたしがお前を守る──



まほ(……っ)

まほ(なんという恥知らずだ、私は)

まほ(何一つわかっていないくせに)

まほ(エリカが私を必要としていた時に)

まほ(少しも気づいてやれなかったくせに!)

まほ(口先ばかり!)

まほ(自分の気持ちばかりを)

まほ(一方的にエリカに押し付けて!)

まほ(寂しいのは──)

まほ(甘えたいのは──)

まほ(私のほうではないのか!?)


まほ「……ぐ……っ」


しほ「……?」


まほ(──小梅!)

まほ(頼むから忘れてくれ!)

まほ(どうかお願いだから)

まほ(聞かなかったことにしてくれ!)

まほ(恥ずかしくて、情けなくて)

まほ(私はもう顔から火がでそうだ……!)

まほ(泣きたい!)

まほ(私も泣いてしまいたい!)

まほ(なのに、)

まほ(涙が蒸発して、泣くことさえできない!)

まほ(くそっ)

まほ(くそっ──)



まほ「──うぷっ!?」

まほ「ううっ!!??」


しほ「……!?」


まほ「オゲッ」

まほ「オゲエエエエエエエエっ!!」


 びしゃびしゃびしゃぁ!!


菊代「お、お嬢様!?」


まほ「か、はっ……」

まほ「はぁっ、はぁっ……」


菊代「大丈夫ですか!?」

しほ「菊代。水をお願い」

菊代「は、はい!」


 だだだだだだ……


まほ「はぁ、はぁ、うぅ……おぷっ……」

しほ「悪阻……にしては早すぎるけれど」

しほ「けれどそれでも、やはり悪阻なのでしょうね」

しほ「まほ。腰を下ろしていなさい」

まほ「はぁ、はぁ……。」

まほ「いえ、構いません」

しほ「……?」

まほ「いいんです」

まほ「私は」

まほ「いいんです……」

しほ「……。」

しほ「そうですか」

しほ「ともかく、水分はとっておきなさい」

しほ「体によくないから」

まほ「……。はい、お母様」

菊代「お、お嬢様、お水ですぅーっ」


 ……とととととっ

 
 ──わあああああああん……わああああああん……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

続きはまた来週です。



ところで、時々シレッとオリキャラを登場させています。
が、基本的にはモブに毛が生えた程度の役回りしかさせませんので、堪忍です。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



しほ「では、私が病院まで車で先導します」

しほ「逸見さん方は、私の車の後を、ご家族と一緒に」

エリパパ「ええ、よろしくお願いします」

エリパパ「ただ……熊本医療センターといえばたしか、随分な大病院でしたね」

エリパパ「紹介状の類が必要なのでは……?」

しほ「ご心配はありませんよ」

エリパパ「そうなのですか?」

しほ「こんな家業をやっていると」

しほ「多少のコネはできてしまうものです。お恥ずかしながら。」

エリパパ「あぁ、なるほど……いやはや、ありがたい」

しほ「お気になさらず」



まほ(……。)

まほ(エリカは、縁側に腰をおろして)

まほ(お母様に寄り添われている)

まほ(泣きはらした顔をしているが、少しは落ち着いたろうか。)

まほ(……声をかけてやりたいが……)

まほ(私がでしゃばっても邪魔なだけ、か……)

まほ(……。)

まほ(そうだ、声をかけてやると言えば、小梅)



 ……ざっざっざっ



しほ「まほ、どこへ行くの?」

まほ「小梅──ヘリを飛ばしてくれた仲間です──に話をしてきます」

まほ「今日は、家に泊っていくようにと。」

まほ「構わないでしょう?」

しほ「ええ」

しほ「菊代に世話を言いつけなさい」

まほ「ありがとうございます」


 ……ざっざっざっ


 ……ざっ……

(クルッ)


まほ「……。」

まほ「……不思議な眺めだな」


まほ(私の家の縁側で)

まほ(私のお母様と、エリカのお母様とお父様と、エリカが)

まほ(一つの景色に収まっている)

まほ(……考えもしなかった眺めだ)

まほ(……。)

まほ「本当に、何なのだろうな、私達」


 (クルッ)


 ざっざっざっ……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ガチャンッ


小梅「あ、隊長……」

まほ「小梅、ほったらかしにしてしまってすまない」

小梅「いえいえ。気にしないでください」

小梅「それに、特等席でレアなものを見せてもらいましたし……」

まほ「? ……ああ、エリカの事か」

小梅「びっくりしました。副隊長のあんな感じ、初めてで……」

まほ「うん。私も驚いた」

まほ「それにしても……」

まほ「はい?」

まほ「本当によく似ているな、エリカと、お母様は」

小梅「あ、ですよねっ、ほんと、びっくりびっくりです」

小梅「副隊長が大人になったら」

小梅「あんな感じなのかなぁって……」

まほ「同感だ」

まほ「ところで、この後の話だが」

小梅「あ、はい」

まほ「私達はエリカを連れて病院へ行く」

まほ「そうなのですか」

まほ「小梅は」

まほ「家に泊まって、ゆっくりしていくといい」

まほ「今から帰艦するのは、骨だろう」

小梅「あー……それなのですが」

まほ「?」

小梅「お誘いは有り難いのですけど」

小梅「私は、艦に戻ろうかなぁって……」

まほ「気を使う事はないんだぞ」

まほ「部屋はたくさんあるんだ」

小梅「いやぁですが」

小梅「さすがに今日は……場違いかなと」

まほ「……む……」

まほ「そうか……小梅としても、いづらいモノがあるか」

小梅「うぇっと……すみません、正直なところ、チョッピリ」

まほ「いや、謝ることは無い。私のほうこそ、鈍感だった」

小梅「い、いえそんな」

小梅「……。」

小梅「あの、隊長」

小梅「返ってくるときは、連絡をくださいね」

まほ「うん?」

小梅「私、また、」

小梅「迎えに来ます。」

小梅「隊長の事も、副隊長の事も……」

まほ「……ありがとう。そうだな、帰る時は、また小梅に操縦を頼む」

小梅「はいっ……」

小梅「……さて、と、では、一言師範に挨拶をして、艦に戻ります」

まほ「うん」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ──ばらららららららららららら……



しほ「……。あの子、離陸はしっかりしてるのね」

まほ「え?」

しほ「着陸の時、随分と危なげな操縦をしていたけれど」

まほ「あ、いえ、あれは……ちょっとしたイレギュラーで」

まほ「小梅は、良いパイロットです」

まほ「でなければ、フライトを任せはしません」

しほ「そう」

しほ「──お待たせしました、では、行きましょうか」

エリパパ「ええ、よろしくお願いします」

エリパパ「母さんは、エリカと一緒に後部座席に座ってやって」

エリママ「ええ、そうね、さぁ、乗りましょ」

エリカ「……」

まほ(……。)

まほ(エリカは、家族と一緒の車、か)

まほ(まぁ……当然か。)



 ばたん



しほ「まほ、気分はどう?」

まほ「もう、平気です」

しほ「もしもの時は、ダッシュボードにビニル袋があるから。」

まほ「ありがとうございます」



まほ(……。)

まほ(エリカと、一緒に車に乗ってやりたかったな)

まほ(……。)


しほ「市内はきっと、渋滞しているわね」

まほ「そうですね、この時間は……」


まほ(……。)

まほ(乗って「やりたかった」、ではないだろう)

まほ(いいかげんに……認めたらどうだ)

まほ(私が、)

まほ(エリカと一緒に、いたいのだ)

まほ(エリカの世話を、していたいのだ)

まほ(エリカに──頼られたいのだ)

まほ(そうしていると、私は落ち着くんだ……)



しほ「……あちら様も準備できたようね」

しほ「出るわよ」

まほ「あ、はい」



まほ(……。)

まほ(私は、誰かに依存されていたいのだろうか……)

まほ(理解している、と思わせてくれる相手がほしい……?)

まほ(……)

まほ(むぅ、もしや私って、ちょっぴり歪んでいるのだろうか……)



ぶろろろろろろろろ……



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ──ちっかっ、ちっかっ、ちっかっ


しほ「……交差点一つ曲がるのに、何分かかるのかしら」
 
まほ「そうですね」



まほ(考えてみれば)

まほ(エリカといる間、私は随分と気が楽なのだな)

まほ(私が何か言葉を述べれば、エリカはそれにのってくれる)

まほ(何の話をしようかなどと、意識する必要もなかった)

まほ(まぁ、話題がなければ戦車道の話をすればいいのだし)

まほ(おそらく私は、時々何かすっとんきょうな事を言っているのだろうが)

まほ(エリカはそれを咎めず聞いてくれる)

まほ(私としても、エリカが何を考えているのかは、意識せずともおおよそ検討はつく)

まほ(だから余計に、話しがしやすい……)

まほ(しかし、そういう相手を、欲しているつもりはなかったのだが)

まほ(……。)

まほ(そうか)

まほ(みほだ)

まほ(以前までは、みほがいたからだ)

まほ(たいていのことはみほが、私を満足させてくれていたのか……)

まほ(……。)

まほ(もしや私はシスコンとかいう気があるのか?)

まほ(それで今は)

まほ(エリカを……?)

まほ(……むむむ……)



しほ「本当に、戦車でくればよかった」

まほ「ええ」



まほ(ものすごい人の数で、車の数だ)

まほ(けれど)

まほ(かれらが何を考えているのかなんて、私にはさっぱりわからない)

まほ(それぞれに人生があって、それぞれに多種多様な思いがあるのだろう)

まほ(それでもやはり、私にとって、かれらは他人……)


まほ(……。)

まほ(エリカ達の車は……二台後ろ、か)

しほ「そういえば、まほ」

まほ「……はい?」

しほ「これから行く熊本センター病院だけれど」

まほ「はい」

しほ「貴方とみほの、産まれた病院よ」

まほ「あ……そうでしたか……」

しほ「ええ」

まほ「……。」

まほ「……では」

まほ「私も、産むのでしょうか。そこで……」

しほ「……かもしれないわね」

まほ「そう、ですか」

まほ「……」

まほ「エリカも、一緒に産めますか?」

しほ「……。それは──」

しほ「あちらのご家族が、決めることね」

まほ「あぁ、そうか、そうですね……」

しほ「ただ、臨月以降は国の研究機関へ入る可能性もある。まぁ、今はまだなんとも──」

まほ「……。」


まほ(まぁ、どこでもかまわないが、産むときは、なるべくエリカと一緒に産みたいものだ)

まほ(……という風にい思うのも、べったりすぎだろうか……)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ぶろろろろろろろろん……



しほ「やっと病院にたどり着いたと思ったら」

しほ「なかなか駐車場の空きが無いわね……」

まほ「熊本中の車が集まっているみたいです」

しほ「いいかげん、時間がもったいないわね……」

しほ「……まほ」

まほ「はい?」

しほ「先に降りて、受付をしてきなさい」

まほ「あ、はい」

しほ「この書類を提出すれば」

しほ「とりあえず、私が到着したことが上に伝わるでしょう」


まほ「わかりました」

まほ「では、後ろのエリカ達にも、同じように……」

しほ「そうね」

しほ「二台とも、車を止めるのにしばらく時間がかかるでしょうから」

しほ「あちらのお母様と、あの子と──」

しほ「一人で、大丈夫ね?」

まほ「ええ、大丈夫でしょう」

まほ「では、先に行きます」

しほ「……よろしく」


 がちゃっ


 ──ごぉぉおおぉおおぉぉお……──


まほ(む……)

まほ(都会の喧騒……というやつか)

まほ(なんの音かはわからないが、とにかくごぅごぅと、風もないのに唸っている)

まほ(それに、アスファルトの匂い、とでもいうのだろうか)

まほ(油とはまた違う、都会独特の臭いだな……)


まほ「……まぁ、そんなものはすぐに気にならなくなるんだ」

まほ「それよりも」


 た、た、た

 
 ──こんこん


エリパパ『はいはい』


 ウィーン──


まほ「運転、お疲れ様です」

エリパパ「いやぁ、これは車を止めるのに時間がかかりそうだ」

まほ「そうなんです、ですから、私だけ先に降りて、受付を済ませてしまおうかと」

エリパパ「そんな話になるのではと思っていたところだよ」

まほ「それで、エリカ達も、一緒に先に行きませんかと思って……」

エリパパ「あぁそうだね、お母さん達、先におりてようか」

エリママ「えっと、それはいいのだけれど……」

エリパパ「ん?」

エリママ「この子の着替えをもってきていなくて……失敗しちゃった」


まほ「……あ」

まほ(そうか、しまったな、寝間着のままヘリに押し込んで、そのままだった……)


エリパパ「でも病院だろう。寝間着で担ぎ込まれることなんて、珍しくもないよ」

エリママ「そういう問題じゃないのよ」

エリパパ「?」

エリママ「だってこの子、そういう所はすごく気にしぃなんだもの」

エリパパ「気にしぃって……お母さんはエリカに甘いなぁ。なんだかんだで」

エリママ「だから、そういうことじゃないの」

エリママ「私が後でメンドクサイのよ、この子。あれが恥ずかしかったこれが恥ずかしかったって」

エリママ「ぶちぶちうるさいんだから」

エリカ「ちょ、、ちょっと……」

エリカ「……やめてよっ」

エリカ「それは子供のころの話でしょっ……」

エリママ「今だって子供でしょう」

エリカ「とにかく、人前ではやめてよっ」

まほ「……。」

まほ「あの、良ければ私の上着を犯ししますが。……それでいいだろう、エリカ」

エリカ「……っ……」


まほ(……ん?)

まほ(なんだろう。エリカ、私の視線から目をそらしているような……)


エリママ「だけど、それでは貴方が寒いでしょう」

まほ「大丈夫ですよ、院内に入れば、暖房も効いているでしょう」


 ごそごそ


まほ「では……これを」

エリママ「……。ありがとうね、まほさん」

まほ「いえ」

エリママ「さぁ、エリカ。お礼はどうしたの」

エリカ「あ、う、うん……」

エリカ「……ありがとうございます」

まほ「……いや……」

まほ(……。)

まほ(やはり、なんとなく、他人行儀だな)


 のそのそ

エリママ「ほら、降りるわよ」

エリカ「う、うん……」


 がちゃっ


 ……とた、とた


エリカ「……。」


まほ(……。)

まほ(病院の駐車場で)

まほ(都会の眺めに囲まれながら)

まほ(そこにたたずむ半分寝間着の逸見エリカ)

まほ(……。)

まほ(写真に収めておきたい気がするな)

まほ(この先二度と見られないだろう)

まほ「……では、いきましょうか」

エリママ「ええと、受付は、普通の受付でいいのかしら……?」

まほ「母から聞いていますので、私にまかせてください」

エリママ「そうなのね、ありがとう」




 ……とた、とた、とた、とた



まほ「……。」

エリカ「……。」

エリママ「……。」


まほ(沈黙が、耳につくな)

まほ(これもまた、エリカといた時は、気にならなかったことだな……)


まほ「……。」チラ

エリカ「……っ」


まほ(……エリカめ、なんで、お母様の後ろに隠れる)

まほ(むぅ……なんだか、すごく嫌だ)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

以上です。
9月中に終わるかな、とか思ってた頃が懐かしや。

コメントが途絶えたら、その時はエタります。
ただエタるにしても、結末までのあらすじはお約束通りブン投げますので、
その点はご安心(?)を。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



まほ「受付、終わりました」

エリママ「どうもありがとう」

まほ「名前を呼ばれるまで──」

まほ「……あ」

エリママ「……?」

エリママ「まほさん? どうしたの?」

まほ「あ……いえ……」

まほ「……お隣、失礼しますね」

エリママ「ええ、どうぞ」



 ボスン……



まほ(……。)

まほ(エリカのやつ……)

まほ(これは、四人掛けの椅子だぞ)

まほ(それなのに)

まほ(お前が端っこに座ってしまったら)

まほ(必然的に並び順はこうなるだろう)


 [エリカ・お母様・私]


まほ「……。」

エリカ「……。」


まほ(……私を、隣に座らせないように?)

まほ(やはりなんだか)

まほ(避けられているような……)


エリママ「けれど、申し訳ないわね。何もかも貴方としほさんに頼り切りで」

まほ「いえ……とんでもありません」


まほ(……私の気にしすぎだろうか)

まほ(うーん)

まほ(むむ……)

まほ(ううむ……)

まほ(ええい……こういう事を気にしてしまっていること自体が、気に入らない)

まほ(女々しいぞ、西住まほっ)

まほ「……。」

エリママ「……。」

エリカ「……。」



 ……ざわざわ……

 
 ──会計お待ちの、アンドウさま~、二番窓口へお越しくださーい……──


   ──びゃぁああああああ、お家かえるぅぅぅぁぁあぁ──


  ……ざわざわ……



エリママ「……エリカ、気分はどう?」

エリカ「え……」

エリカ「うん、まぁ……もう平気」

エリママ「そう」

エリママ「……。」

エリママ「……ふふ」

エリカ「……なによ」

エリママ「幼稚園に入れてすぐの頃の……あんたの後追いを思い出したわ」

エリママ「あの時も、あんたはワンワン泣いて、帰ろうとする私の袖を離さなくて──」

エリカ「はぁ!? だ、だからさぁ……!」


まほ(エリカ……少しづつ、調子が戻ってきているようだな)

まほ(今ならもう、私が話しかけても……)


まほ「エ……エリカ」

エリカ「っ」

エリカ「……はい」

まほ「その、ほっとしたぞ」

エリカ「え……」

まほ「元気が、でてきたみたいじゃないか」

まほ「お母様の、おかげだな」

エリカ「……。」

エリカ「……はい、そうですね……」

エリカ「……。」

まほ「うん……。」

まほ(……。)

まほ(な、なんなのだ……)

まほ(なんだというんだ)

まほ(どうしてそんなに、素っ気ないのだ)

まほ(ヘリの中でさえ、そこまでではなかった)

まほ(まるで私を、会ったこともない他人のように──)

まほ「……っ」

まほ(嫌だ)

まほ(やっぱり、嫌だっ)

まほ(エリカにそんな態度を取られたくない!)

まほ(かといって……じゃあどうしたらいい?)

まほ(エリカに頼むのか?)

まほ(何を考えているのか、はっきり言えと?)

まほ(……今!?)

まほ(今この状況でそんなことを!?)

まほ(バカか私は!)

まほ(私は自分の事しか考えていないのか!?)

まほ(……っ)

まほ(だが、胸の奥が、どうしようもなくムカムカする……っ)


エリママ「──ほさん」

エリママ「まほさん?」

まほ「……っ!?」

まほ「は、はい」

エリママ「大丈夫?」

まほ「あ、えと……」

まほ「少し、ぼうっとしていました、すみません」

エリママ「あなたも動き詰めだものね……疲れたでしょう」

まほ「いえ、そんな事は」

エリママ「まぁ私も」

エリママ「気持ちがバタバタしてしまっていて」

エリママ「まだ貴方にきちんと伝えていなかったけれど……」

まほ「なんでしょう……?」

エリママ「……エリカを連れてきてくれて、本当にありがとう」

まほ「……! いえ、そんな」

エリママ「貴方にはとても、感謝をしているわ」

まほ「……いえ、本当に、私は何も……」

エリママ「そんな事はない。」

エリママ「貴方は、十分すぎる事をしてくれた」

エリママ「この子は、私がいくら帰ってこいと言っても」

エリママ「帰ってくるような子ではないのだもの」

エリママ「まほさんが引きずってきてくれなかったら」

エリママ「どうせまだ今ごろ、一人でべそをかいていたのだわ」


エリカ「……っ」

エリカ「だっ……」

エリカ「だ、だからさぁっ、ホントに止めてってば、そういうのっ」


エリママ「止めてほしいのなら、貴方こそ──」

エリママ「──ハァ」

エリカ「な、なによっ」

エリママ「貴方はどうしていつも」

エリママ「自分ではどうしようもなくなるまで、誰にも……。」

エリママ「あまり、心配をさせないで……」

エリカ「……っ……」

まほ「……。」

エリママ「今回は、運よくアンタの側に、まほさんがいてくれた。」

まほ(……。)

エリママ「けれど、いつもいつも誰かが、『大丈夫?』『辛くない?』『困ってない?』って」

エリママ「根掘り葉掘り心配してくれると思っていたら、大間違いなのよ」

エリママ「それこそ、子どもじゃないんだから」

エリカ「……ぐ……」

エリママ「子どもじゃないというのなら、せめて」

エリママ「辛いときは辛いと、ちゃんとはっきり言いなさい」

エリママ「人に、迷惑をかける前に」

エリカ「う、うう……」

エリママ「わかった?」

エリママ「今度こそ、ちゃんとわかった?」

エリカ「……。」シュン


まほ(エ、エリカのやつ、ぐうの音も出ないといった感じだな……)

まほ「お、お母様、あのもう、そのくらいで……」

まほ「こんな時なのですから……」

エリママ「……まぁ、小言はこれくらいにしておきましょう」

エリママ「とにかく、まほさん」

エリママ「本当にありがとう」

エリママ「今こうしてこの子に小言を言えるのも、あなたのおかげです」

エリママ「それなのに、あなたにお礼を言うのが遅れて、ごめんなさい」

まほ「い、いえ、本当に、いいですから……」


まほ(……。)

まほ(す……すごいものだな……)

まほ(こんな時に、こんな状態のエリカに、厳しい言葉をバシバシと……)

まほ(母親だからこそ)

まほ(肉親だからこそ、言えること、なのだろうか)

まほ(私にはとても、できないことだ……)


エリカ「……。」

エリカ「……っ」


 すっ……


まほ「……ん?」

エリママ「エリカ? どうしたの?」

まほ(急に、立ち上がって……)


エリカ「……トイレ」

エリママ「え?」

エリカ「トイレっ」

エリカ「行ってくるからっ」

エリママ「あぁ……そう」

エリママ「……だけど、一人で大丈夫?」

エリカ「っ!」

エリカ「だ、大丈夫よっ……!」



 つか、つか、つか、つか……!

まほ「お、おい……。」

まほ「な、なんだか、急でしたね……」

エリママ「……。」

エリママ「……やれやれ、結局また、いつものあの子に、戻っちゃった、か」

まほ「え?」

エリママ「もう少しゆっくり、甘えていればいいのに。こんな時くらい……」

エリママ「……それが、できない子なのね」

エリママ「本当に、素直じゃない……まったく、誰に似たのか……」

まほ「……あ、あの……」

エリママ「……。」

エリママ「まほさん」

まほ「は、はい……?」

エリママ「できれば……あの子を追いかけてあげてくれる?」

まほ「え……」

エリママ「あの子を一人にするのはまだ……私は怖い」

エリママ「だから……」

まほ「……!」

まほ「は……はい!」

まほ「あの、私も──」

まほ「トイレに行ってきます!」

エリママ「ええ」

エリママ「いってらっしゃい」



 たたたたたたた!

まほ(……っ)

まほ(だが、追いかけて──どうする?)

まほ(私はあらゆる過ちを犯したのだぞ)

まほ(思い上がりをし)

まほ(思い違いをし)

まほ(勘違をし)

まほ(その上、鈍感で……)

まほ(今は、エリカが何を思っているのかさえ)

まほ(よくわからないんだ……)

まほ(……だがしかしっ)

まほ(──託されたのだ)

まほ(どういうわけか、託されてしまったのだ!)

まほ(ほかならぬ、お母様に! お前を!)

まほ(……ならば、今は!)

まほ(お前を追いかけて走るしかないだろう!?)

 

 たたたたたたたたた!!!



まほ「すぐに追いつくからな、エリカ──!」

まほ「大病院だ、フロアも廊下広いのだ。お前の背中、見失いはしないぞっ──」


看護師「──あ、お客様~、院内では走らないでくださいね~」


まほ「!?」


看護師「危ないですからね~」


まほ「あっ、はい、す、すみません……」


まほ「……。」

まほ(ならば、競歩だ!)



 ツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカ──ッッ。 



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

しほ本は一体なぜことごとくバケモノのような乳をしているのだろうか、
むしろちょっと小さめの方が良いのではないのか、
店頭にならばぬだけでそういう本もどこかには存在はしているのだろうか……。
そんな事を愚考しておりましたところいつの間にか日付が変わっておりました。

申し訳ありません。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ツカツカツカツカツカツカ



まほ(エリカ、ちらっとでもいいから、こちらを向いてくれないかな)

まほ(視界に入れば、気が付くはずの距離だ)

まほ(できれば、トイレにはいってしまう前に)

まほ(ゆっくりと話をしたいのだが)

まほ(……。何を話すのか、それが問題なのだが)



 エリカ『……』



まほ(ん!)

まほ(私の方に目を向けた!)



 エリカ『……。』

 エリカ『!?』



まほ(今、間違いなく目があったぞ!)

まほ「エリ──」



 エリカ『っ……』

 ツカツカツカツカツカツカ!



まほ「──あっ!?」

まほ(お前)

まほ(いま)

まほ(き……気づかないふりをしたな!?)

 エリカ『……っ、……っ』

 ツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカ



まほ(あっ! あっ!)

まほ(エリカ、何だその早歩きは!?)

まほ(あっ! あっ! あっ! 何でそっちに曲がる!?)

まほ(トイレの矢印は反対だぞ!?)

まほ(お、お前は)

まほ(私と話をするのがそんなに嫌なのか!?)

まほ(そんなに必死になって、逃げるくらいに)

まほ(──いや、違う)

まほ(学習しろ、西住まほ!)

まほ(あいつは天邪鬼なのだ)

まほ(とことん素直になれないのだ)

まほ(だから嫌だ嫌だと逃げつつも)

まほ(その実こころの奥底では)

まほ(真逆を欲している部分もあるのだ)

まほ(……という前提に基づいて戦術を策定すべきなのだ!)



 ……ツカツカツカツカツカツカ!



まほ「私は退かないぞ、エリカ……!」


まほ(エリカのお母様なら、きっとこうする!)

まほ(ならば、私だって)

まほ(私にとっても、エリカは特別なのだ!)

まほ(迷うなっ)

まほ(西住の名にかけて、お前を逃がさないぞエリカ!)


 
 ツカツカツカツカツカツカツカツカ



まほ(この角を曲がって──)

まほ(──いたっ!)

まほ(距離にして20m)

まほ(大病院が災いしたなエリカ)

まほ(通路もフロアもとても広いのだ)

まほ(そうそう身を隠す場所はないっ)

 ツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカ



まほ(はぁ、はぁ、)

まほ(く、競歩というのも、意外と疲れるものだな)

まほ(だが、絶対に逃がしはしないぞ)



 シカシカシカシカシカシカシカ



まほ(はぁ、はぁ)

まほ(この感じ……少し、ぞくぞくするな……)

まほ(うちの犬も──)

まほ(一緒にいる時に、私が逃げるふりをすると、あいつは喜々として後を追いかけてくるが)

まほ(少し、分かる。逃げられれば追いかけたくなるというこの感覚)

まほ(私もまた、犬か)


 ツカツカツカツカツカ


まほ(──むっ)

まほ(また角を曲がった)

まほ(いい加減に明らめろエリカ!)

まほ(お前がどうあがこうと私は──)


まほ「──っと」


まほ「む……?」

まほ(エリカの姿が消えた)

まほ(長い廊下なのに)


 ──キィ……


まほ(あ)


 [御手洗い→]


まほ「……。」

まほ(しまった、トイレに入ってしまったのか……)

まほ(……。)



まほ(そういえば、追いかけるのに夢中になってしまっていたが……)

まほ(もしかしてエリカ、本当にトイレに行きたかったのだろうか)

まほ(だとしたら悪い事をしたかな……)

まほ「……。」

まほ(とりあえず、私も入ってみよう……)



 ──キィィ……

まほ「……!」


エリカ「……はぁっ、はぁっ……」


まほ(とうとう、追いつめた)

まほ(……が……)


エリカ「はぁ、はぁ……」


まほ(洗面台に手をついて、肩を揺らしている……)


まほ「エリカ」

エリカ「……っ」

まほ「その、すまない……」

まほ「追いかけまわしてしまって」

エリカ「はぁ、はぁ……はぁ」


まほ(心なしか、視線が恨めしい)


まほ「だがどうしても、お前と──」


 
 <じょばあああ~~~~~~~



まほ「……っ!?」


 ガチャッ

 きぃぃぃぃ


看護師「……。」


まほ(あ……そうか、個室に人がいたのか……)


看護師「……何か?」

まほ「あ、いえ」

看護時「ごめんね、手を洗いたいのだけれど」

エリカ「あ、ごめんなさい……」

まほ「あ、すみません……」



 しゃ~……



まほ「……。」

エリカ「……。」

まほ(……。こういう時は確かに、何とはなしに、鏡を見ながら前髪をいじってしまうものだな……)

まほ(……。)チラ

エリカ「……。」

まほ(エリカも同じか)

まほ(しかし……そうか、個室3つとも全て埋っていたのか)

まほ(少しも周りの状況を見ていなかった。私としたことが)

看護師「ふぅ、邪魔してごめんね」

まほ「あ、いえ……」


 つか、つか、つか

 きぃ~……ぱたん(看護師がトイレを出ていった音)


まほ「……。」

エリカ「……」

まほ「えと……先に、いいぞ」

エリカ「え……」

まほ「お前の方が先に、入ったのだし」

まほ(別に私はもよおしていないのだし……)

エリカ「は、はぁ、では、お先に……」

まほ「う、うん」



 きぃぃぃぃぃ……がちゃんっ



まほ「……。」

まほ「ふぅ……」

まほ(洗面台の鏡にうつった私)

まほ(間抜けな顔をしているな……)


 <がちゃっ


まほ(ん)


 きいぃ……


看護師「ふぅ」


まほ(真ん中の個室が、開いた)


看護師「……。?


まほ(う……ここで突っ立っているのもおかしい、か)

まほ(とりあえず)

まほ(今空いた個室に入ってしまおう)


 きぃぃぃぃ……がちゃん

まほ「……。」

まほ(別に、下着をおろす必要はないか)

まほ(このまま、便座に座ってしまおう)


 ぎっ


まほ(う、おしりの違和感がすごい)

まほ(……。)

まほ(隣に、エリカがいる)

まほ(だが、反対の個室にもまだ、誰か人がいる)

まほ(この状況では、エリカに話しかけられない)

まほ(待ち、だな)

まほ(……。)

まほ(しかし、広い個室だ)

まほ(私の家のトイレの2,3倍は広い)

まほ(身体の不自由な患者さんの事を考えて……かな)

まほ(さすがは大病院)

まほ(近代的だ)

まほ(壁のボタンも、なんだか一杯だ……)

 
 ……からんからん……


まほ(む、ティッシュペーパーの音)

まほ(隣の人、もうじき出る、な)

まほ(エリカは──)

まほ(うん、まだ、大丈夫だ)

まほ「……。」


 
 じょぼあああー……がちゃん



まほ(出た)


 しゃあああああああ


まほ(手を洗っている)


 きぃぃぃぃぃ

 ……ばたん


まほ(ドアを開けて、外にでたな)

まほ(これで──)

まほ(このトイレには)

まほ(私と)

まほ(エリカと──)

まほ(二人きり)

まほ「……。」

エリカ「……。」


 ──コォォォォォォォォ──


まほ(……換気扇の音が、急に大きくなったように感じる)

まほ(いやそんな事よりも)

まほ(とにかくエリカと何か、話を)


まほ「……。」

まほ「……。」


まほ(……ぬぅ)

まほ(もどかしいな、歯がゆい)

まほ(言うべき言葉がわからない)

まほ(こんなにエリカと喋りたいのに)

まほ(エリカが)

まほ(この壁一枚の向こうに、いるというのに)


まほ「……っ」


まほ(イライラする)

まほ(こんなストーカーまがいのようなことまでして)

まほ(結局またこれか)

まほ(……なんでもいいだろう!)

まほ(思っていることを、素直にっ)

まほ(……素直、に……)

まほ(ヘリの中でも、私はそうしようとして)

まほ(……中絶をしたい、と訴えるエリカに)

まほ(一緒に産んでくれ、と一方的に……)

まほ(私は少しも、エリカの気持ちに寄り添ってやれなかった……)


まほ「……っ……」


まほ(何を言っても、間違った事しか言えないような気がする)

まほ(そもそも、正しいとは何だ)

まほ(何をもって、正しいと判断したらいいのだ)

まほ(……ぐぅ)

まほ(お母様、私はどうしたら)

まほ(西住流の教えの通り、前に進みたいのです)

まほ(だけど)

まほ(どちらが『前』なのか、わからないのです)

まほ(こんな時……どうしたらいいのですか!?)

まほ(うぅ)

まほ(ぬうぅぅうっ)

まほ(どうすれば)

まほ(どうすれば──っ)


エリカ『──あ、あの……』


まほ「……!?」


エリカ『となり、隊長、ですか?』


まほ「……!?」

まほ(話かけてくれた!?)

まほ(エリカの方から……!)

まほ(あんなに私を避けていたのに)


まほ「……あ、ああっ」

まほ「そうだぞ」

まほ「私だっ」

まほ「となりは私だっ」



まほ(嬉しい)

まほ(エリカが話しかけてくれた)

まほ(……嬉しい……!)

まほ(何なのだ)

まほ(たったそれだけのことが、どうしてこんなに嬉しいのだ)

まほ(やはり私も、犬か……!)



エリカ『……隊長』

まほ「あ、あぁ、どうした」

エリカ『……。……申し訳、ありません……』


まほ(……。)


 ぞわっ……


 ──本当に、申し訳ありません

 ──一緒に、中絶をしてください

 ──そうして、私のことはもう、忘れてください
 
 ──どうか、お願いですから……


まほ(……っ)

まほ(……息が、凍る……)

まほ(エリカ)

まほ(お前のせいで)

まほ(どうやら私は、トラウマを持ってしまったようだぞ)

まほ(だが、私がそんな事で、どうする)

まほ(落ち着くんだ)

まほ「……エリカ、何を謝る」

まほ「謝ることなんて、何もないんだ」

エリカ『……。』

エリカ『……失望、してしますか』


まほ「……何?」

エリカ『……。』

まほ「エリカ?」

エリカ『……。』

まほ「……。」


まほ(失望……どういう意味だ)

まほ(考えろ)

まほ(考えろ)

まほ(エリカの気持ちになって、考えろ)

まほ(エリカは、何を不安がっている?)

まほ(何を言ってやれば、エリカは安心する?)

まほ(考えろ、考えろ、エリカの気持ちを────)

 
 ──子どもじゃないんだから……辛いときは辛いと、ちゃんとはっきり言いなさい──


まほ(……あ……)


 ──いつもいつも誰かが……心配してくれると思っていたら、大間違いなのよ──

 ──根ほり、葉ほり── 


まほ(……。)

まほ(……お母様……)

まほ(……)


まほ「エリカ」

まほ「聞いているか」


エリカ『……、はい……』


まほ「お前のお母様が、言っていたな」

まほ「不安な事があるのなら、人にい迷惑をかける前に自分から言え」

まほ「根掘り葉掘り、人が心配してくれると思うな……と」

エリカ『……っ』

エリカ『……はい、申し訳、ありません……』


まほ「ただ、な」

まほ「私は少しだけ」

まほ「お母様とは考えが違う」


エリカ『……え?』


まほ「一般論としては、私もお母様に賛成だ」

まほ「ただ」

まほ「私にとってお前は──」

まほ「違う」

まほ「一般論とは──」

まほ「違う」


エリカ『……。』


まほ「私は」

まほ「根ほり」

まほ「葉ほり」

まほ「いや許されるのならば──」

まほ「木の皮をはいで」

まほ「幹を削って」

まほ「必要ならばウロを掘ってでも!」

まほ「お前を確かめたい」

まほ「……と、思う」

まほ「だから、聞かせてくれないか」

まほ「エリカの、考えていることを」


エリカ『……。』


まほ(……。)

まほ(少し、踏み込みすぎただろうか……)

まほ(急ぎすぎただろうか……

まほ(かえってエリカを、怯えさせてしまっただろうか……)


エリカ『……』

エリカ『……怖い、です』


まほ(……っ)

まほ「それは、私が……という意味か?」


エリカ『……え?』


まほ(また、しくじってしまったのか──)

まほ(──諦めるな!)

まほ(立て直せ、立て直すんだ──)

まほ「エリカ、聞いてくれ」

エリカ『……。』

まほ「ヘリの中でお前にいった事を、今わたしは後悔している」

エリカ『……後悔?』


まほ「子供を産みたくないと」

まほ「中絶をしてほしいと──」

まほ「お前は言った」

まほ(──胸の内がゾッとする)

まほ「それなのに私は」

まほ「『私と一緒にいてほしい』『4人でいたい』、と」

まほ「自分の気持ちだけをお前に押し付けて」

まほ「お前の気持ちには、耳を貸さず」

まほ「お前の気持ちを、少しも理解しようとしなかった」

まほ「エリカは動転しているのだと、そう決めつけて……」

まほ「私の気持ちを伝えれば、それがきっと、エリカの力になると」

まほ「そう思いあがっていた」


エリカ『……。』


まほ「なのに私は今、また、同じ失敗を」

まほ「私は間違えてばかりだ」

まほ「失望……したか」

エリカ『……え……』

まほ「お前こそ、こんな私に失望したのではないかと」

まほ「エリカが急によそよそしくなったのは、お前に呆れられたからではないかと」

まほ「私は、不安でたまらない」

まほ(……。)

まほ(……自分で言って、やっとわかった)

まほ(そうだったのだな)

まほ(だから私は、エリカに他人行儀にされるのが嫌で)

まほ(エリカを必死に追いかけて)

まほ(エリカの気持ちを確かめずには、いられなくて──)

まほ(私は本当に、犬だ……)



エリカ『……』

エリカ『怖い、です』

まほ「うん」

エリカ『妊娠の事も』

まほ「うん」

エリカ『これから先の事も』

まほ「うん」

エリカ『……隊長の事も……』

まほ(……っ)

まほ「……そうか……」

エリカ『……。』

エリカ『私は母親にはなれない、と言ったのに』

エリカ『それなのに』

エリカ『どうしてこの人は分かってくれないんだろう』

エリカ『どうして私を離してくれないんだろうって』

エリカ『ヘリの中で、ずっと隊長の事が、怖かった』


まほ「……。」

まほ「……すまなかった、本当に」


エリカ『……。』


まほ(……。)

まほ(胸の奥が)

まほ(冷たいな)

まほ(こんなに心臓)

まほ(ドクドクいっているのに)

まほ(……。)

まほ(『失望したか?』、と聞いておきながら)

まほ(きっとそんな事はないのだと)

まほ(心のどこかたかをくくっていた)

まほ(私は)

まほ(本物の馬鹿だ)

まほ(……。)

まほ(身体の震え)

まほ(止まらないな)

まほ(だが、)

まほ(聞かなければ)

まほ(逃げるな)

まほ(エリカの言葉を、ちゃんと聞け)

まほ(これこそ、私が確かめたがっていた──エリカの気持ちだろ……っ)


エリカ『今だって、隊長が、隣にいるのが──』

エリカ『怖いです』


まほ「……っ!!」

まほ(私は──)

まほ(私はもう、ここから出ていくべきではないのか!?)

まほ(だが、それは、逃げることでは?)

まほ(気持ちを聞かせてくれと、そういったのは私だぞ)

まほ(かといって、踏み止まって、何になる)

まほ(エリカを脅かすだけならば)

まほ(留まっていたところ、それはたんなる、自己満足ではないのか!?)

まほ(わからない)

まほ(私は、どうすべきなのだ?)

まほ(誰か、教えてくれ!)

まほ(……くそっ!)

まほ(くそっ……!)


エリカ『……でも』


まほ「──!!!」

まほ「なんだ」

まほ「『でも』、なんなんだ!?」


まほ(無様だ!)

まほ(愚かだ!!)

まほ(惨めだ!!!)

まほ(だが!!)

まほ(お前の『でも』に)

まほ(すがりたくてたまらないんだ!!)


エリカ『でも──』


エリカ『隊長が追いかけてきてくれて──』


エリカ『少しだけ』


エリカ『嬉しかった……』


まほ(──!!!)

まほ(……。)

まほ(……っ)

まほ(……!!!)

まほ「そ──そうか……っ」

まほ「……そうか……!!!!!」


まほ(──うれしょん、という行動が、犬にはある──)

まほ(学園艦から帰省した私に、一度あいつが、おしっこをひっかけたことがある)

まほ(こんな──気持ちだったのだろうか……!?)

エリカ『私、もう』

エリカ『どうしていいのか分かりません……』


まほ(……っ!)

まほ(浮かれるな! 思いあがるな! 今こそ……冷静になれ……!)


まほ「ああ、ああ……! 私も、分からないことだらけだ、エリカ」


エリカ『私、お母さんのこと、あまり好きじゃなかった』

エリカ『口うるさいし、意地悪だし』

エリカ『それなのに、あの時、お母さんの顔をみたら』

エリカ『どうしようもなく涙が止まらなくて』

エリカ『それに、抱きしめてくれた時の』

エリカ『お母さんの匂いが、どうしようもなく、たまらなくて……』

エリカ『だから、本当はお母さんにもっといっぱい話を聞いてほしいんですよ!』


まほ「うん、そうしたらいいぞ……!」

まほ「お母様も、もっとお前に甘えてほしがっているんだ」

まほ「本当だぞ! 私にそういったんだ!」


エリカ『……っ』

エリカ『でも……』

エリカ『その、はずなのに、私は』


まほ「どうした」


エリカ『小言を言われるたびに、すごく腹がたって、本当はお話しをしたいのに』

エリカ『全然素直に話せなくて』

エリカ『それに、隊長の前で子供ども扱いされるのも、すごく恥ずかしい』

エリカ『私は黒森峰の副隊長なのに、お母さんはどうして私を子供扱いするんだろうって』

エリカ『だけど……それが嫌なはずなのに、私、子供扱いされることが、なんだかうれしくもあって』

エリカ『私って……なんなんだろうって』

エリカ『そしたらもう、どんな顔をして隊長と話せばいいんだろうって』

エリカ『どんな顔をしてお母さんと話せばいいんだろうって!!』


まほ「……。」

まほ「エリカ……」

エリカ『もう、わからない、わからないんです!』

エリカ『自分のことも、何もかも……!!』

エリカ『自分が、どうしたいのかも!!』

エリカ『本当は、子供の事だって、嬉しかったはずなのに!!』


まほ「──!?」


エリカ『隊長の子ども! 西住流の子供! 私はこれで、身も心も本当に戦車道にささげられるって』

エリカ『産まれてきてよかった! 戦車道をやっててよかったって! 私の人生は何て素晴らしいのだろうって!!』


まほ「……エリカ……!」


エリカ『……そのはずなのに!!!』

エリカ『……同時に、すごく怖くなって……』

エリカ『色んな不安なことが、急に頭の中で一杯になって……』

エリカ『もう、わけがわからなくって、頭の中がグチャグチャで……!』

エリカ『き、気がついたら、この子の事を、憎い、だなんて!!!』

エリカ『私、もう、もう……!!!』


まほ「──っ!!」

まほ「エリカ!」

まほ「頼む!!」

まほ「ドアの鍵を、開けてくれ!!」


エリカ『!?』


まほ「そっちに行きたい!」

まほ「お前の手を、握りたい!!」

まほ「頼む!!」


エリカ『い──嫌です!』


まほ「エリカ!?」


エリカ『隊長の目、怖い!』

エリカ『ずっと』

エリカ『ヘリの時から、ずっと!』


まほ「目……!?」


エリカ『なんとかしようとしてくれる目』

エリカ『強すぎて──怖いんです!!』

 
まほ「……っ」

まほ「……!!」

まほ「……!!!」

まほ「わ──」

まほ「わけのわからないことを!! 言うな!!!」

まほ「──ふんッ!!!」



 ダン!! 


 バン!!! 


 ガタガタガタ!!!


エリカ『!?』


まほ「……うおお!!」

エリカ「!?」

エリカ「きゃあああああ!!? 隊長! 何をやってるんですか!!?」

まほ「うるさい!」

まほ「お前がカギを開けないのなら──」

まほ「壁をよじ登るだけだっ!!!」

エリカ「!!??」

まほ「絶対に、そっちに、行くからな!! エリカ!!!」

エリカ「!??!!!??」


 ガンガンガン!!


まほ「よいしょぉ!!」


 ……ダンッ!!!


エリカ「ひ……っ」

まほ「ハァ、ハァ……」


まほ(……エリカ……)

まほ(エリカ……!)

まほ(エリカだ……!!!)


エリカ「そ、それです!」

まほ「……!?」

エリカ「その目が、怖いんですよ!」

まほ「この目……!?」

エリカ「隊長は、いつも思慮深く、色々な物をみているのに」

エリカ「いろんな状況を見通そうとしているのに!」

エリカ「その目をしているときは──」

エリカ「私の事を、私の事だけを、ただ、じっと……!」

まほ「……!? いけないのか、それが」

エリカ「……わかりません……でも、今はそれが、怖いんです!」

エリカ「私のせいで」

エリカ「隊長が、隊長ではなくなってしまうんじゃないかって……!!」

まほ「……!?」

まほ「…………!?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

皆さん、良いお年を!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

──────。



みほ(お姉ちゃんは、真剣にエリカさんの事を想って行動してる)

みほ(だから、本当はこんなこと言っちゃいけない)

みほ(いけない、けど……っ)

みほ(こんなの、あんまりにも!)

みほ「ば──」

みほ「ばか」

みほ「お姉ちゃんの、ばかっ」

まほ『……みほ……?』


みほ「お姉ちゃんは、エリカさんの事、何にもわかってない」

エリカ『……あんた……』

エリカ『私に、怒る資格ないから、だから黙ってる』

エリカ『だけど、隊長をバカ呼ばわりすることは許さない。隊長は私の事を──』

みほ「──そんなこと分かってます!」

エリカ『!?』

みほ「だけどもしも、私が」

みほ「私が一緒にいてあげていたら、エリカさんはこんな事にはならなかった」

エリカ『……はぁ!?』

みほ「エリカさんはね。エリカさんは」

みほ「猫さん、なんです」

エリカ『な、何を言って──』

まほ『聞かせてくれ、みほ』

エリカ『へっ? た、隊長?』

まほ『みほの理解しているエリカを、私にも教えてほしい』

まほ『私も、エリカの事を、もっと理解したいんだ』

みほ「……。」

エリカ『隊長……』



みほ(『お姉ちゃんを、エリカさんに捕られた』)

みほ(『エリカさんを、お姉ちゃんに捕られた』)

みほ(でも、この気持ち、嫉妬……とは少し違う)

みほ(何なのかな)

みほ(……)

みほ(『あきらめ』……?)

みほ(ただの子供でいられたころとはもう、決定的に何かが変わってしまったんだって……)


みほ「……。」

みほ「エリカさんは、あんまりべたべたされるのは好きじゃないんです」

まほ『うん』

みほ「こちらから近づこうとしても、すぐにどこかへ行ってしまうんです」

みほ「だけど、遊んでほしい時、甘えたい時、そんなときは、エリカさんは自分から近づいてきてくれます」

みほ「あれういは、そういう時は、こちらから話しかけた時の反応が少しだけ違うから、分かるんです」

エリカ『気持ちの悪い分析してんじゃないわよ!』

まほ『エリカ、私は最後まで聞きたい』

エリカ『隊長ぉ!』

みほ「だけど、甘えたい時でも、あんまりべたべたされるのは嫌な性格だから──」

みほ「側にいて、時々頭を撫でてあげたりしながら、一緒にいてあげれば、それでいいんです」

みほ「何もしなくていいんです」

みほ「そういう距離感がエリカさんにとって一番落ち着くんです……」

みほ「それなのに、お姉ちゃんは……!」

みほ「一緒にいても上げず、あげく、追いかけまわして……」

まほ「……。」

みほ「私、辛いです」

みほ「画面の向こうで、エリカさんがこんなに痩せてしまっている」

みほ「……私が黒森峰にいたら……」

エリカ『……! 自惚れもいい加減にしてよ!』

みほ「わかってますよ!」

みほ「でも」

みほ「そう思わずにはいられないんです」

みほ「だって、エリカさんが、お姉ちゃんが、こんな事になってたなんて!」

エリカ『……ッ』

まほ『……。』

まほ『エリカの、お母様がなお前の事を、話していたよ』

みほ「え?」

まほ『あの子は──みほの事だな──エリカととても上手に付き合ってくれていた、と』

エリカ『……そんな事を言ったんですか、母が』

まほ『親というものは、私達が思っている以上に、私達を良く見ているようだな?』

エリカ『……。誰もかれも、勝手な思い込みです』

まほ『本当に、そうなのか?』

エリカ『……。』



みほ(……もっと悔しい気持ちになるのかと思ってた)

みほ(嫉妬だとか、お姉ちゃんをとられて寂しいだとか、そういう風に考えるのかなって)

みほ(だけど、そんな事なかった)

みほ(そんなこと、もう、どうでもいい)

みほ(ただただ、二人に元気であってほしい……)



まほ『みほ』

みほ「……ん」

みほ「何? お姉ちゃん」

まほ『エリカの事を教えてくれて、ありがとう』

まほ『またみほに、教えられたな』

みほ「……。」

まほ『実はな』

みほ「?」

まほ『カウンセリングの先生にも、それに近い内容で、怒られてしまったんだ』

みほ「え……そうなの?」

まほ『何度目の時だったかな……あの日から、私もエリカも、何度かカウンセリングを受けたんだ』

みほ「一度だけじゃ、なかったんだ」

まほ『一度話した程度で、どうにかなる状況ではなかったという事だよ』

まほ『特に、エリカはな』

エリカ『……。』

まほ『まぁ、とにかく、何度目かのお話しの時に、先生にこういわれた』

まほ『貴方はは、エリカさんに依存しすぎている、な』

みほ「え……」

みほ「お姉ちゃんが、エリカさんに、依存?」

みほ「ど、どういうこと……?」

まほ『少し難しい話だったから、うまく説明できないかもしれないが──』

まほ『そもそも、妊娠した者はその染色体共有に対して──』

まほ『何らかの精神的依存を抱くらしい』

まほ『各国の医療機関がまとめた統計データ上でも、そういう傾向がみられるそうだ』

みほ「う、うん……」

まほ『それで、少し急な質問になるが──』

まほ『みほ』

まほ『堕胎という選択肢を、真剣に検討したことはあるか?』

みほ「……!?」

みほ「な、何、急に」

まほ『すまない』

まほ『唐突だとは思っている』

みほ「え、えと……そういう洗濯があることは、聞いたよ」

みほ「だけど、今のところは、まだ……できれば、避けたいかなって」

まほ『ん……そうか』

みほ(お姉ちゃん、少しほっとしたのかな、今……)

まほ『だが先生によると──それも奇妙なことらしいんだ』

みほ『奇妙……?』

まほ『そうだ。心理学的に考えると、平均的な選択とは言えないらしい』

みほ「??」

まほ『私達は──』

まほ『突然に、原因不明の妊娠をした』

みほ「うん……」

まほ『何の準備もなく、覚悟もなく』

まほ『妊娠という重大な現実を、背負ってしまった』

まほ『それゆえ、大半の女子は、早い段階では最終的な決断をするはずだ……』

まほ『その心のケアが、重要なミッションになるだろうと、大勢の大人が考えていたらしい』

まほ『しかし、だ』

まほ『現時点でもっとも対象者数の多いアメリカでさえ』

まほ『堕胎希望者は、今のところほんの数名らしい』

みほ(……。)

みほ(何人かの女の子は、それを選んだんだ……私と同じように、戦車道をしている女の子が……)

まほ『……みほ、今何を考えた?』

みほ「え……?」

まほ『数名でも、その選択をした者がいることが、悲しいか』

みほ「……!」

まほ「やはり、私と同じことを考えたのだな」

みほ「……お姉ちゃん……」

まほ『ただな先生にいわせると、私やみほがそういう風に感じた事も──大体数の生徒が出産を意識しはじめていることも──』

まほ『状況から考えれば、特異なことらしい』

まほ『むしろ、「堕胎という選択肢対して感じる後ろめたさ」が軽減されて」

まほ『その選択を選ぶ対象者の割合が増加していくはず……それが本来の合理的な反応であるはずだそうだ』

まほ『で、あれば──』

まほ『なぜ彼女達は出産を選ぶのか』

まほ『カウンセリングをしてくれた先生も、その点に興味をもっておられた』

みほ「……だけど……」

みほ「どうして、って、言われても──」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

明けましておめでとうございます。

昨年末は、連日睡眠時間をけずり始発組として頑張ったかいもあり
即席魔王、チョモラン、チャイルド&パンツァー、おこたんぺこ既刊新刊、無事手に入れることができました(法悦)

それでは今年もよろしくお願いいたします。
今年の豊富は、最終章公開までにこのSSを完結させることです。

>>560

>みほ(『お姉ちゃんを、エリカさんに捕られた』)

>みほ(『エリカさんを、お姉ちゃんに捕られた』)

×捕られた
〇取られた

基本的なところ間違えているよ

まほ『産んでしまえば、もう後戻りはできない』

まほ『私達は親となり、子供に対しての責任を負い、これまでのような自由は失われる』

まほ『人生の見通しもある程度固まってしまうし──いや、固めなければならない。子供のために』


みほ「う、うん……」

みほ(何となくは、そうなんだろうなって思ってるけど)

みほ(あんまり、しっかり考えた事、ないよ)

みほ(だって、目の前のことに、精一杯だもん……)


まほ『で、あればこそ』

まほ『産まないという選択肢を周りが許容してくれるのに』

まほ『どうして、私達は出産を選ぶのか──』


みほ「だけど、どうしてって、言われても……」

みほ「そんな事、簡単には説明できない……」

まほ『……。』

まほ『同感だ』

みほ「え……?」

まほ『私だって、答えにたどり着くまで、ずいぶん苦労した。何日も何日も、考えなければならなかった』

みほ「……。」

みほ(でも、時間がかかったとしても、お姉ちゃんはちゃんと、答えをみつけられたんだ)

みほ(やっぱりすごい、お姉ちゃんは……)

まほ『それにな、病院の先生もおっしゃっていたのだが』

みほ「?」

まほ『今言ったような見方は、どちらかといえば男性的、というか──少々、理屈に偏った見方だそうだ』

みほ「理屈に偏った……?」

まほ『そうだ。まぁ、大勢の人間に受け入れられやすい共通見解というものは、えてして理屈っぽくて、そのくせにどこか大雑把な意見になる──らしい』

みほ「はぁ」

まほ『そういう認識と反省もまた、賢い人達はしっかりと共有していて』

まほ『今は少しづつ、いろんな意見を取り入れて、考え方やモデルを洗練させようとしているだそうだ』

まほ『苦労しているのは、大人達も、同じみたいだよ』

みほ「そう、なんだ」

まほ『うん、今度の事は、戦車道とは違って、理論も技法も伝統も、まだ何も確率されていない』

まほ『考え方や、現象の理解も、これからもどんどん変化していくだろう、と、そんな風な話も、聞かされたよ』

みほ「……難しくて、全部はよく分からないけど……」

みほ「お姉ちゃんは、先生に、どんな風に答えたの?」

まほ『私の、か』

みほ「最初に言っていたみたいに、『どうせいつかは産むのだから』って……?」

まほ『まぁ……そうだな、それもある。けれど、それだけではないよ』

まほ『もう一つ、大切な理由がある』

みほ「……その理由を聞いても、いい?」

まほ『みほ』

まほ『もちろんだよ』

まほ『なぜ……私は産むのか』

まほ『どうして産もうと思うのか』

まほ『何日も考え続けた』

まほ『そうして、やっと気づいたのは』

まほ『……むぅ、改めて言葉にするのは、少々気恥ずかしいが──』

まほ『結局のところはつまり』

まほ『この子が、エリカの子どもだから──だな』

エリカ『……。』

みほ「エリカさんの子供、だから……?」

まほ『うん。もしもこの子が、見ず知らずの相手の子供だったなら──』

まほ『この子を産もうか産むまいか、今でも私は、悩んでいたかもしれない』

みほ「……。」

まほ『だが、この子は、そうではない』

まほ『エリカと、私の子だ』

みほ「……。」

まほ『もちろん、『産みたくない』という意志は、それ単体でも、充分産まない理由として成立するだろう。他のあらゆる要素を押しのけて、な』

まほ『だが──』

まほ『大人達があらゆる面での援助を行うと、明確に意志を表明してくれている』

まほ『それに、お母様も』

まほ『色んな人達が、私を助けてくれるという』

まほ『で、あれば』

まほ『私にはもう』

まほ『産まない理由はない』

まほ『この上でなお私がこの子を産みたくないというのなら──』

まほ『それは、エリカを否定する事になる……私にはそう感じられるんだ』

エリカ『……。』

まほ『エリカを否定するとう事は──ともに戦車道を歩んできた仲間を、否定するということだ』

まほ『もっと突き詰めれば──それは結局、今までの自分の戦車道が、嘘になってしまうような気がするんだ』

みほ『自分の戦車道が、嘘』

まほ『論理が飛躍していると──自分自身でも思う』

まほ『だが私には……そうとしか感じられないし、そうとしか──言いようがないんだ』

まほ『……みほ』

まほ『伝わっただろうか。私の気持ちは。』

みほ「……え、と……」

エリカ『……。』

まほ『……みほ』

まほ『私は、この子に会ってみたい』

みほ「え……?」

まほ『私と、私が信頼するエリカとの間に生まれるこの子』

まほ『いったい、どんな子なのだろうか……?』

まほ『男の子か、女の子か……どちらにせよ、きっと、手の掛かる子になる』

まほ『生意気で、素直じゃなくて、そのくせ変に考え込む性格で──』

まほ『だから私がしっかりと、気をつけてやれなければ』

まほ『……ふふ、まったく、先が思いやられる……』

みほ(……お姉ちゃん……)

まほ『何のかんのと、唾を飛ばしたが』

まほ『結局私は──』

まほ『ただただ、産みたいのだ』

まほ『私とエリカの間に生まれる、この子を、な』

みほ「……そっか……」

みほ「……そうなんだね」

まほ『ああ』

まほ『そうだ』

まほ『そうなんだよ』

みほ「……。」

みほ(お姉ちゃん……)

みほ(すごく、幸せそう……)

みほ(……。)

みほ(羨ましい……)

まほ『まぁ……というような答えを、先生に言ったんだ。そうして、さっきの話に戻るわけだが──』

みほ「え?」

まほ『私はエリカに寄りかかりすぎているのではないか、と。』

みほ「そう、かなぁ……」

まほ『エリカを大切に思うのはいいが、あまり依存しすぎると、かえってエリカの重荷になってしまうと……そういう事だ』

まほ『とくに──』

まほ『お互いの想いのバランスが、とれていない間は、な』

みほ「じゃあ、それで……先生はどうしろって……?」

まほ『薬を飲んでちちんぷいぷい、とはいかないからな』

まほ『そういった理解を踏まえた上で、面談面談また面談、その繰り返しだよ』

みほ「そうなんだ……大変だね、カウンセリングって」

まほ『そうだな。手軽な事ではない。認識という階段を少しづつ積み上げて、ゆっくりゆっくりより良い場所を探していく──』

まほ『「最善」にはこだわらず、目指すのは、あくまで実現可能な範囲での「より良い選択」を、な』

まほ『カウンセリングというものは、そういうものらしい』

まほ『もどかしいものだ』

みほ「それで……より良い選択……見つけられた?」

まほ『……ん……』

まほ『各々の現状を理解しあったうえで、どうしていくのか──どうしていきたいのか──』

まほ『先生やエリカと三人で──時にはお母様達も交えて、何度も話し合った』

まほ『そしてたどり着いた、ひとまずの結論』

みほ「うん」

まほ『私は、エリカへの依存を自覚し、なるべくそれを自制する』

まほ『エリカは、できるだけ自分の気持ちを言葉にして、私や家族に伝える』

まほ『──という所だ』

みほ「……」

みほ「えと、なんだか普通……だね」

みほ「目新しいことも、特に……」

まほ『まぁ、な』

みほ「あ……ご、ごめんなさい、偉そうに……」

まほ『いや、いいんだよ』

まほ『そんな当たり前の結論にたどり着くことすら……私達はもう、自力ではできなくなっていたんだ』

まほ『色々なことがねじれてしまって……』

みほ「……。」

まほ『そうなってしまった時のための、カウンセリング……なのだな』

まほ『……』

まほ『お母様、聞いていますか?』

しほ「ええ」

まほ『私とエリカを病院につれていってくれたこと』

まほ『今は、本当に……感謝をしています』


しほ「……大変なのは、まだまだこれからです」

しほ「今後も、油断をしないように」

まほ『はいっ』

エリカ『は、はい』


みほ(……。)

みほ(本当に大変になるのは、まあまだこれから……)

みほ(お母さんの言う通りだ)

みほ(まだ何も、始まってすらいないんだ)

みほ(これから何か月もかけて、だんだんお腹が大きくなって──)

みほ(そして、もし本当に子供がうまれたら、それからまた何十年も──)

みほ(ううん、何十年どころじゃない、もう、私達の一生の話なんだ──)

みほ(……果てしない、なぁ……)


みほ「……ふはぁぁぁ……」

みほ(……あ……)

みほ(だめ、まだまだ今日のお話は終わりじゃないのに)

みほ(だけど、ずっと緊張してたから、どうしてもひと段落すると気が抜けちゃう……)


しほ「ん……もうこんな時間ですか。思ったりよりも、時間が経ってしまったわね」

まほ『みほ、疲れしてしまったか?』

みほ「あ、えと、う、うん、ちょっぴり……」

まほ『エリカはどうだ、疲れていないか?』

エリカ『私は──あの、すみません、実は少し……』

まほ『無理もない。私も少し、気疲れをしてしまったよ』

まほ『自分の気持ちを、こうも明け透けに述べることなど、そうそうあるものではないしな』

みほ「あ……だ、だけど、エリカさんの養子の事、ちゃんとお話しを聞きたいです……」

まほ『うん、わかっているよ、みほ』

しほ「──ですが、養子の件、改めて言うまでもなく重要な話です」

しほ「話をする以上は、きちんと理解をしてもらいます」

みほ「う、うん、わかってます」

みほ(……けど……)

みほ(うぅ、お姉ちゃんのお話しが、頭の中でぐるぐる回ってる)

みほ(一度……時間を置いた方がいいのかなぁ)

みほ(どうしよ……)

しほ「……。」

しほ「……まぁ、しかたがないわね」

しほ「貴方達が良ければ、今日はいったんここまでとして──」

しほ「また後日、同じように場を設けても、かまわないけれど」


まほ『そうですね、そのほうが、いいかもしれません。みんな、疲れている』

みほ「だ、だけど……」

みほ「お母さんは」

みほ「明日の朝に、もう帰っちゃうんだよね」

みほ「お母さんのパソコンがないと、こうやって顔を見ながら話せないんじゃ」


しほ「パソコンならこの家にもあるでしょう。そのパソコンに、『すかいぷ』を設定すればいい」


みほ「あ、そっか……」

みほ「そうすればもう、お母さんがわざわざこの家に来る必要は……」

みほ(……。)

みほ(だけど、じゃあ、その時は)

みほ(私はこの部屋に一人で、皆は画面の向こうで)

みほ(そんな状態で……養子のお話しを……?)

みほ(……。)

みほ(一人じゃ)

みほ(やだな……)

みほ(そんな事をいったら、情けないって、またお母さんに怒られるかな……)

みほ「……。」

しほ「……。」

しほ「まぁ」

しほ「私が関東に出てくることは、これからも度々あるでしょう」


みほ「……!」


しほ「それに、養子の件は、まだ半年以上先の話でもある」

しほ「いっそ熊本で、みなで直接に顔を合わせて話をするというのでも、いいでしょう」

まほ『そうですね。大事な話ですから』

まほ『ではもう、今日のところはこれで──?』


エリカ『……っ』

エリカ『あ、あの』


しほ「?」

まほ『どうした、エリカ』


エリカ『割り込んで、すみません』

エリカ『あの、いったん日を改めるというお話には、私も賛成です』

エリカ『ただ……』

エリカ『どうしても、今』

エリカ『あなたに、聞いておきたいことが、あって……』

みほ「私……ですか?」

エリカ『……ええ』


まほ「……。」


しほ「……遠慮はいりません」

しほ「気のすむまで話せばいい」


エリカ『あ、ありがとうございます』

みほ「……。」


みほ(エリカさんが、私に聞きたい事……)


みほ「えと、何、でしょう……」

エリカ『……。』

みほ「……。」

みほ「……?」


みほ(エリカさん、ずっと黙ったまま)


みほ「あのぅ、エリカさん……?」

エリカ『……。』

みほ「あの──」

まほ「──みほ」

みほ「お姉ちゃん?」

まほ「少しだけ、待ってやってくれないか」

みほ「え……」

まほ「エリカは、なかなか足が重たくてな、前に進むのに苦労をしているんだ」

まほ「ポルシェ・ティーガーや、ティーガーⅡと……同じだよ」

みほ「……うん、わかった」

エリカ『……。』


みほ(エリカさんが、私に聞きたい事──)

みほ(やっぱり、養子のこと、かな)

みほ(……。)

みほ(エリカさんが、私達の家族になる……)

みほ(……)

みほ(反対はしない)

みほ(エリカさんのためでもあるって、お姉ちゃん言ってたもん)

みほ(それに、エリカさんがいっぱい悩んだんだってことも、今日、よくわかった)

みほ(……だけど……)

みほ(上手くやっていけるのかなって、やっぱり少し、私は不安……)


エリカ『……。』


みほ「……」


エリカ『あのさ』


みほ(……!)

みほ「はい」


エリカ『あんたの子どもってさ』


みほ「……はい」


エリカ『相手が誰なのか、わからないって、聞いた』

みほ「……。そう、です」

みほ「すごく、珍しい事で。世界中でも、ほんの数人だけだって」

エリカ『……。』

エリカ『あんた、それ、平気なの』

みほ「平気、て……?」

エリカ『だっ……大丈夫なのかって、聞いてんのよっ』

みほ「え……えと、今のところは、なんとか……」

エリカ『……。』

エリカ『……なんで?』

みほ「へ?」

エリカ『どうして、平気なの』

みほ「どうしてって……」


みほ(どういう意味だろう……)

エリカ『……私、この子を産みたいって、今はまた、思えるようになった』

みほ「……よかった」

エリカ『でもそれは』

エリカ『隊長が、一緒にいてくれるからよ』

みほ「うん」

エリカ『私も隊長と同じで、隊長にすごく依存してる』

エリカ『カウンセラーの先生にも、そう言われた』

エリカ『自分でも、その通りだと思う』

エリカ『もしも隊長がいてくれなかったら、私、やっぱり、産もうとは思えなかった、たぶん』

エリカ『良い母親になってあげられる自信……まだ、無いし……』


まほ『……エリカ』

 ぽん、ぽん

エリカ『ぁ……。』


みほ(……。)

みほ(お姉ちゃん)

みほ(さっきは、バカだなんて言ってごめんなさい)

みほ(お姉ちゃんはもう、とっても上手に、エリカさんをよしよし出来るんだ)

みほ(……。)

みほ(だけど今、エリカさんが言おうとしてることって、つまり──)

みほ(こうやって側で支えてくれる人が、私にはいない)

みほ(それでも平気なのかって、それを私に聞こうとしてる?)

みほ(……。)

みほ(それって、つまり)


みほ「エリカさん」

みほ「私の事を」

みほ「心配……」

みほ「してくれてるんですか……?」

エリカ『……。』

みほ「もしもそうだったなら」

みほ「……嬉しい」

みほ「……です」

エリカ『……っ』

エリカ『私』

エリカ『あんたの事は、まだ許してない』

みほ「……。」

みほ「それって」

みほ「私のせいで去年、黒森峰が優勝できなかったことを、ですか?」


エリカ『……っ!』

エリカ『違うわよっ!!』

みほ「っ、ご、ごめんなさい……」

みほ(……。)

みほ(本当に、ごめんなさい)

みほ(私、今)

みほ(わざと、間違えたんです)

みほ(エリカさんに、「違う」って言ってほしくて)

みほ(でもこれではっきり、分かった)

みほ(エリカさんが、今でも怒っているのは──)

みほ(……。)

みほ(私が黒森峰を止めた事)


エリカ『──。』

みほ「──。」


みほ(私がちゃんそれを分かってるって、画面の向こうで、エリカさんも気付いてる)

みほ(お互いの目を見れば、画面越しであっても、そうやって理解しあえる)

みほ(それが)

みほ(私とエリカさんの三年間)

みほ(私が黒森峰に置きざりにした……三年間……)

みほ「……」

みほ(だけど、エリカさんがこれから何を言おうとしてるのか)

みほ(今の私には、もう、わからない)

みほ(それを理解してるのは、もう、私じゃなくて──)


まほ「──。」


みほ(……それが少し、今は悔しい……)


エリカ『……。』

エリカ『あんたがちゃんと、謝ったなら』

エリカ『黒森峰に戻ってきたなら』

エリカ『一発ビンタして、それでまた』

エリカ『前みたいに戻れたらって』

エリカ『私、そう思ってた』

みほ「……!」

エリカ『あんたもいろいろ大変なんだって、私なりに理解してたつもり』

エリカ『……それなのに……』

エリカ『あんたは別の学校で』

エリカ『別の連中と』

エリカ『戦車道を始めた』

エリカ『すごく楽しそうに』


みほ(……。)

みほ(楽しかったことばかりじゃ、ないもん)

みほ(辛いこともいっぱいあった)

みほ(……エリカさん、何も、知らないくせに……)

エリカ『黒森峰からいなくなったくせに』

エリカ『あんたは、あんたのまま、ちゃんと、強いままで』

エリカ『私はすごく腹が立って』

エリカ『二度と許してやるもんかって』

エリカ『来年は絶対に私があんたをたたきつぶしてやるって』

エリカ『そう、思ってた……』

みほ「……。」

エリカ『だけど──もう、馬鹿らしくなった』


みほ「……え?」

みほ「どうして……」


エリカ『だって、私達』

エリカ『妊娠、してるのよ』

エリカ『妊娠よ、妊娠……』

エリカ『なんなのよこれ……』

エリカ『ありえないわよ……』

エリカ『隊長と一緒に、何度も何度もカウンセリングを受けて』

エリカ『やっと少しづつ、気持が落ち着いてきて』

エリカ『だけどその後も、ご飯はあんまり食べられないし、体重はどんどんへっていくし』

エリカ『そのうちに養子の話があったり、もう、これまでの日常が何もかもめちゃくちゃになって──』

エリカ『……気が付いたら、なんだかもう、色々な事が、どうでもよくなってた』

みほ「エリカさん、自暴自棄になっちゃ、だめ……」

エリカ『ばかっ、そーいうんじゃないわよっ。なんていうか……妊娠にくらべたら、大したことじゃないって、いうか』

エリカ『いや、違う、今の無し。そういうのとも、少し違う』

エリカ『……ああもぅ……なんでもっとうまく言えないよの……』

みほ「……。」

エリカ『あぁ、ええと、だから……』

エリカ『あんたも妊娠してるって聞いて』

エリカ『しかも、子供の父親が誰かさえ分からないって、今日、聞いて』

エリカ『あんたが今どれだけ辛いかは、少しだけ想像できる』

エリカ『隊長から聞いた通り、私もめちゃくちゃだったから』

エリカ『だから、そうやって、あんたの事色々考えて、結局頭に残ったのは……あんたへの怒りとか恨みとかじゃなくて……』


みほ「……エリカ、さん……?」


エリカ『……。』

エリカ『……。』

エリカ『……みほ、大丈夫かな、って……』


みほ「!」

みほ「……!」

みほ「エ──」

みほ「エリカさ──」


みほ(今)

みほ(私のこと)

みほ(『みほ』って……!!)


みほ(……っ)

みほ(どうして──)

みほ(どうしてだろう!?)

みほ(一体、いつから)

みほ(いつのまに私達は)

みほ(たったこれだけのことを、簡単に言えなくなっちゃったんだろう!?)

みほ(お互いを、心配する、そんな当たり前のことを、どうして素直に言えないんだろう!?)

みほ(私が、黒森峰を止めたから、なのかな……)

みほ(……。)

みほ(……っ)

みほ(……!!!)


みほ「エ……エリカさんの──」

みほ「ばかっ」

エリカ『!?』

みほ「ばかばかばか!!」

エリカ『な……なによっ!?』

みほ「あの時エリカさんが」

みほ「エリカさんがちゃんと私の事を引き留めてくれたら──」

みほ「私」

みほ「私──」

みほ「黒森峰を止めたりしなかった!!」



まほ『!?』

しほ「!?」




エリカ『なっ──』

エリカ『は、』

エリカ『はあああああああ!?』

エリカ『あんた、それ』

エリカ『い、今!?』

エリカ『今それを言うの!?』

エリカ『ば──ばっかじゃないの!?』

エリカ『いっ……』

エリカ『一年、遅いわよ!!』

みほ「っ、知らないもん! エリカさんが悪いんだもん!」


みほ(エリカさんが名前で呼んでくれた)

みほ(──嬉しいっ)

みほ(お姉ちゃん、これが、うれしょんな気持ちなのかなぁっ!?)

みほ(今、こんなことを言っても仕方がないのに!)

みほ(あぁ、私って本当に)

みほ(どうしてこうなんだろう)

みほ(どうしてもっと、積極的になれないんだろう)

みほ(今だって、エリカさんが名前を読んでくれたから)

みほ(手を引いてくれたから、それでようやく……!)

みほ(私、こんなので本当に、お母さんになれるの……!?)


エリカ『がっ……し、師範の顔、見てみなさい!』

エリカ『すっごい呆れてるじゃない!?』

みほ「!? ぁう……お、お母さん……?」


しほ「……。」


みほ(わぁぁ、す、すっごく渋い顔してる)

みほ(……あっ)

みほ(お姉ちゃんも──)


まほ「……。」


みほ(すごく困ったような、なんだか複雑そうな表情……)

みほ(うぅ)

みほ(でも、でもっ)

みほ(今じゃないと言えなかったんだもん!)


エリカ『……ありえない……ありえないわ……』

エリカ『……。』

エリカ『だ、だいたい……』

エリカ『私がそういうの苦手なの、知ってるでしょっ。私だって、ホントはちゃんと──』

みほ「……。」

みほ「そ──」

みほ「そんなの、ズルいです!」

エリカ『何がよ!?』

みほ「苦手だったら、エリカさんは何も言わなくていいんですか!?』

みほ「いつもいつも私やお姉ちゃんが、エリカさんの気持ちをさっしてあげなきゃだめなんですか!?」

エリカ『……う……』

みほ「エリカさんのお母さんだって、そーいう事を怒ってたんじゃないんですか……!?」

エリカ『ぐっ……!』

まほ『こ、こら! みほ、なんで今そんな話になるんだ!?』

みほ「エリカさんが悪いんだもんっ」

まほ『悪いんだもんって、み、みほ……』

しほ「……ハァ……」

しほ「……まほ」

まほ『は、はい?』

しほ「後は、貴方にまかせます」

まほ『へ?』

しほ「私は、シャワーを浴びてきます」


 すっく


まほ『あの、お、お母様……?』

しほ「……。」

しほ「私は、子ども同士の茶番にいつまでも付き合っていられるほど、暇な親ではありません」


 すたすたすた……


みほ「……。」

まほ『……。』

エリカ『……。』

まほ『ハァ、知らないぞ、私は』

エリカ『……うぅ、師範に呆れられた……』

みほ「……っ」

みほ(わ、私)

みほ(悪くないもんっ)

みほ(……。)

みほ(うぅ、後が怖い……)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ──ぴぽっ


>[接続 終了]


みほ「……。」


みほ(なんだか、いろんな事がうやむやになって)

みほ(すごくあっけなく、会話が終わっちゃった)

みほ「……ふぅ」

みほ(でも……あんまり寂しくないや)

みほ(だって)

みほ(『じゃあ、またね』って)

みほ(『どうせ近々また会うんだから』って)

みほ(そんな雰囲気で、お姉ちゃんも、エリカさんも)

みほ(そして……私も……)

みほ(……。)

みほ(こんな風にエリカさんとお話しできたの、いつぶりだろう)

みほ(それに、たった一回だけかもしれないけど、私のこと──)

みほ(『みほ』って)

みほ(~~~っ!)


みほ「……ハァ」

みほ「もう頭、ぐちゃぐちゃだよぉ」

みほ「……だけど……」

みほ(……よかったぁ……)

みほ「はふぅ……」

みほ「……。」


 <……ガチャッ


みほ「……!」

みほ(お母さんが、お風呂から戻ってくる)

みほ(うぅ、何か言われるのかなぁ)

みほ(心臓がバクバクいってるよう……)


 ……すた、すた、すた、すた


しほ「……。」

みほ(あ、寝間着やヘアバンドもちゃんと準備してたんだ。さすが、準備がいいなぁ……)

みほ「お、お帰りなさい。バ、バスタオルの場所、分かった?」

しほ「ええ」

みほ「そ、そう、よかった」

しほ「……もう、通信は切ったの?」

みほ「あ、はい。えと、エリカさんが、お母さんに」

みほ「今日は本当にありがとうございました、って……」

しほ「そうですか」

しほ「……。ふぅ……」


 ぺたんっ


みほ(う……お母さんが、テーブルの対面に正座した……)

みほ(これって)

みほ(お説教の雰囲気、っぽい……?)


しほ「……。」

みほ「……。」


しほ「……みほ」

みほ「っ! は、はい……」


みほ(……っ)


しほ「……。」

しほ「貴方の目から見てあの二人──おかしなところはなかった?」

みほ「……へ?」

しほ「何か、違和感のようなものは、あった?」

みほ「い、違和感?」

しほ「二人の距離が、以前よりも妙に近しいだとか、雰囲気がおかしいだとか、そういった事です」

みほ「……?」

みほ「……??」

みほ「そ、それはもちろん、こんな事があったんだし、以前よりも仲良くなると思うけど……」


みほ(華さんも沙織さんも、そど子さんも麻子さんも、皆そうだもん)

みほ(お互いに、支えあおうって……)


しほ「いえ、そういう事ではありません」

みほ「? ……???」

みほ「あの、ごめんなさい、良く分からない、です」

みほ「お母さん、何かお姉ちゃんとエリカさんの事で、心配していることがあるの……?」

しほ「……。」

みほ「だったら、教えてほしいです。そうでないと、ちゃんとした返事も、きちんとできません……」

しほ「……。」

みほ「お母さん……?」


みほ(あ……お母さんが考えてこんでいるときの、無表情だ……)

しほ「……。」

しほ「……あの二人にはまだ、伝えてはいないのだけれど……」

みほ「う、うん」

しほ「染色体共有者と被共有者の間で──」

しほ「ある特別な感情の発生が、あくまで稀に、ではあるけれど、認められる、と。」

しほ「そうした例が、これまでに十数件、国内外で報告されていて」

しほ「その情動は、被共有者から共有者に対して向けられる場合が多く──」

しほ「ハァ……頭が痛いわね……」

みほ「?」

みほ「???」

みほ「えと、特別な感情って……?」

しほ「……つまり」

しほ「いわゆる」

しほ「疑似的な恋愛感情」

しほ「とでも言うべきものです」

みほ「……へ?」

しほ「あの子達は、お互いが被共有者でもあるから」

しほ「なおのこと、発現の可能性は否定できないと、お医者様が私に説明を……」

みほ(え?)

みほ(れんあ──?)

みほ(へ?)

みほ「へぇぇぇ!?」


しほ「……。」

みほ「……」


みほ「お、」

みほ「お母さん」

しほ「何です」

みほ「もう……これで……全部ですか……?」

しほ「……何が?」

みほ「ま、まだ私に話ていない事があるのなら、今、全部言ってください」

みほ「も……もう、小出しはいや!」

みほ「でないと私、もう、頭がおかしくなっちゃいそうです」

みほ「まだ何かあるのかなって、私、びくびくすることになっちゃう……」

しほ「……。」

しほ「そうね、私が、悪かったわ」

みほ「え」

しほ「これで、全て」

しほ「もう、伝え残したことは無い」

しほ「約束をする」

みほ「そ、そう……。」

みほ「……。」

みほ「ハ……ハァァァァ」

みほ「よかった……」

みほ(……。)

みほ(違う、全然よくない……)

みほ(お姉ちゃんと)

みほ(エ、エリカさんが)

みほ(……。)

みほ(うそぉ……)

みほ(そりゃ、お互いに妊娠してるんだから)

みほ(お互いを大切に思う気持ちは当然だと思う)

みほ(だけど)

みほ(れ、恋愛感情って……)

みほ(それは、全然別問題だよぅ……)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

サークルLETRAさんの書くエリみほまほが大好きです。
C91の新刊、鼻血がでそうでした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


みほ(お姉ちゃんと、エリカさんが、お互いに恋愛感情を……)

みほ「ほ、本当に、そんな事になっちゃうの……?」

しほ「現段階ではまだ、『その可能性がある』というだけです」

しほ「彼女達が、必ずそうなるというわけではありません」

しほ「ただし」

しほ「同性愛志向がどのようにして発現するのか、今は解明されていない以上は──」

みほ(ど、同性愛……)

しほ「それをどう防げばいいのかもまた、分からない」

しほ「つまり結局は、なるかならないかはほとんど運任せ、という事になるわね」

みほ「そんな……」

しほ「精神的なストレスが要因の一つではないか、というような仮説は一応あるようだから」

しほ「なるべく、彼女達の心に負担がかから無いよう、私も心がけてはいます」

みほ「……あの、こんな時にエリカさんを養子って、大丈夫なのかな……近くにいたら、よけいにそういう気持ちになっちゃうんじゃ……」

しほ「それについては、お医者様とも相談を重ねているわ」

しほ「心理学的な観点からみれば、むしろ遠ざけておくほうが返って余計な求心作用を煽るだろうと──」

みほ「そ、そう……」

しほ「ともかく」

しほ「今のところはどうにも対処のしようがない、というのが実状」

しほ「『そうはならない』という前提で、予定をたてていくしかないわね」

みほ「……。」

みほ「じゃあ、もし……」

みほ「もしも本当に」

みほ「お姉ちゃんとエリカさんが、そういうことになったら」

みほ「お母さんは、どうするの……?」


しほ「……。」


みほ(まさか)

みほ(勘当……)

みほ(う、ううん、いくらなんでもそこまでは)

みほ(だってお姉ちゃんは、何も悪くないのに……)


しほ「……。」

しほ「もし、本当にあの子がそうなってしまった時は──」


みほ(……。)


しほ「あの子に西住流を継がせる事は、難しくなるわね」


みほ「!!」

みほ「お母さん……!?」


しほ「落ち着きなさい、あの子を家から追い出すという事ではありません」

みほ「じゃあ、どうして」

しほ「王道から外れた者に──王者たる資格はありません」

みほ「……資格……」

しほ「仮に私が認めたとしても」

しほ「他の者は、まほを『家元』とは認めないでしょう」

しほ「私とて、簡単に『家元』の立場を勝ち取ったわけではないわ」

しほ「伝統というものは、大勢の人間に受け入れられ、共有され、初めて成り立つものなのです」


みほ(……。)

みほ(伝統なんか、どうだっていい)

みほ(そんなことよりも、お姉ちゃんを心配してあげてよ)

みほ(──って思うのは、私だから、なんだろうな……)

みほ(お家の問題は、お姉ちゃんにとっても、きっと重要な問題なんだ)


みほ「西住流を告げなくなったら、お姉ちゃん、きっと、辛いよね……」


しほ「ん。」

しほ「まぁ、そうね。」

しほ「……。」

しほ「……?」


みほ「あっ」

みほ「そ、それに、エリカさんも!」

みほ「そんな事になったら、それこそ『自分のせいで……』って」

みほ「どうしよう……」

みほ「エリカさん、やっと、元気になれたのに……」


しほ「……あぁ、そうね」


みほ「それにもちろん、お母さんだって、困るよね……」


しほ「……。」

しほ「……。」

しほ「……みほ」

みほ「ん、なに……?」

しほ「貴方のことだから」

しほ「西住流のことなんてどうでもいい、と」

しほ「きっとそんな風に言うのだろうと、そう思っていたけれど」


みほ「えっ……あー……」


みほ(み、見透かされてる……けど、黙っていよう……)


みほ「お母さんたちにとって西住流がどれだけ大切か──」

みほ「私だって今は、ちょっとだけ想像できます」

みほ「私にとっても、戦車道は大切、だから……」


みほ(私を、色々な人達と、結び付けてくれる……)

しほ「……。」

しほ「そうですか。」


しほ「……。」

しほ「……。」

しほ「………………………………。」


みほ(? ??)

みほ(ど、どうしたんだろう)

みほ(お母さん、黙り込んじゃった……)


しほ「……。」

しほ「……みほ。」

みほ「は、はい?」

しほ「もしもあなたが望むのなら──」

しほ「今一度、黒森峰女学園の門をくぐること──」

みほ(え──)

しほ「許可、しないこともないけれど」


みほ「へ……」

みほ「……へぇ!?」

みほ「!?」

みほ「!? !??」

みほ「な……どうして?」

みほ「なんで急に、そんな話を……」


しほ「……。」


 ──ドクン、ドクン、ドクン


みほ(何、これ、心臓が、顔が、身体が──すごく熱いよ……っ)

みほ(でも、でも──!)


みほ「お……お母さんがそういってくれるのは嬉しいです……」

みほ「でも」

みほ「だけど」

みほ「私の戦車道は──ここに……大洗にあります」

みほ「だから」

みほ「ごめんなさい……」

しほ「……そう」

しほ「あの子が引き留めていたら、黒森峰を止めなかったとかどうのと言っていたけれど──」

しほ「あれは?」

みほ「……っ」

みほ「でも、仮にあのまま黒森峰にいたとしたら」

みほ「多分、今ほど戦車道を好きには、なっていなかったと、思います……」

みほ「……だから、ごめんなさい……。」

しほ「……。」

しほ「……。」

しほ「……そうですか」

しほ「わかりました」


みほ「……はい……」

みほ(……。)

みほ(沙織さん、華さん、麻子さん、優花里さん、皆……)

みほ(ごめんなさい)

みほ(私、今、少しだけ……揺れちゃったんです……)

みほ(お母さんが、黒森峰に帰ってくるかって、それが、嬉しかった……)


しほ「……まぁ、しかたがありません」

しほ「今からでももう一人」

しほ「頑張って産んでおくべきかしらね」

みほ「」

みほ「……へっ!?」

みほ「じ、冗談……だよね?」

しほ「……。」

しほ「まほもダメ」

しほ「あなたもダメ」

しほ「となった場合」

しほ「私に取りうる、現実的な打開策の一つです」


みほ「」

みほ「」

みほ「お……おかあさんっ!!!」

しほ「……夜中に大声を出さないで。お隣さんに迷惑でしょう」

みほ「私達はお母さんの道具じゃないんだよ!!??」

しほ「……まったく……」

しほ「結局、そんな話になるのね」

みほ「何が!?」

しほ「貴方も少しは親の苦労を──家元というものを理解できるようになったのかと思たけれど」

しほ「またしても、買いかぶりだったようね」

みほ「も」

みほ「も」

みほ「もうヤダ! 頭がおかしくなっちゃうよぉ!!」

みほ(うぅ、うぅ、うぅ)

みほ(私、お母さんにすごく腹が立つのに)

みほ(そのはずなのに!)

みほ(私)

みほ(少しだけ喜んじゃってる……)

みほ(お母さんが、ほんの少しでも私の事……あてにしてくれた!)

みほ(そんなの全然、嬉しくないはずなのに)

みほ(そのはずなのに!)

みほ(私、私……おねえちゃあん! 私、自分がよくわかんないよぅ……!)


しほ「みほ、落ち着きなさい」

しほ「ともかく、まほやエリカには、この件はまだ黙っていなさい」

みほ「い、言えるわけないよっ!」

しほ「まほやエリカには、二人がもう少しおついてから──」

しほ「それと、わかっていますか、みほ」

みほ「うう……なんですか……」

しほ「これは、まほやエリカだけの話ではないのよ」

しほ「可能性は薄いと思うけれど、あなたにも可能性はある」

みほ「え……?」

しほ「もし──もしも、同性の子に、何らかの感情を抱いてしまったら──」

しほ「その時は、ちゃんと、母に打ち明けなさい」

みほ「うちあ……ええ!?」

しほ「その事であなたを邪見にしたりはしません」

しほ「ただ、家元として──知っておく必要がある」

しほ「分かるわね?」

みほ「いや、え、ええ……?」

みほ(わ、私が、友達の事を好きに……)

みほ(そ、それはたしかに)

みほ(エリカさんや)

みほ(それに……優花里さん……)

みほ(私にとって、特別な友達)

みほ(だ、だけど)

みほ(れ、恋愛感情って……)

しほ「……みほ」

みほ「! は、はい」

しほ「理解できなくてもいい、ただ、お願いだから、約束して頂戴」

しほ「もしもの時は」

しほ「私に」

しほ「隠さずにちゃんと打ち明けると……いい?」

みほ「う、うう……」

みほ(なんだか、おかあさん、すごく真剣……)

みほ「わ、わかりました……」

しほ「……。」

みほ「……。」

しほ「いいわ。あなたもお風呂してきなさい」

しほ「今日はもう、寝ましょう」

みほ「……は、はい」


 すっ……

 フラッ……


みほ「わ、とと……」

しほ「気をつけなさい。大丈夫?」

みほ「うう、ちょっと頭が混乱して……」

しほ「ゆっくりと、湯につかってきなさい」

みほ「はぁい……」


みほ(……うぅ)

みほ(おねえちゃぁん……)

みほ(エリカさぁん……)

みほ(みんなぁ……)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 カッチ、コッチ、カッチ……


みほ(眠れない。時計の音が、すごくハッキリと聞こえる)

みほ(あと少しで、明日になる)


みほ(……長い一日だったなぁ……)



 ……しゅる……



しほ「ん、ふ……。」


みほ(……。)

みほ(お母さんが、私の家で、寝てる)

みほ(カーペットの上に寝転がって、寝てる)

みほ(『あの』、お母さんが)

みほ(……変な感じ……)


しほ「……。」


みほ(……。)

みほ(この人は私の、お母さん)

みほ(私はこの人の、娘)

みほ(それでね)

みほ(あなたは私の、子供で──)

みほ(私はあなたの、お母さんです)


 カッチ、コッチ、カッチ……


みほ(お母さん)


みほ「……ありがとう……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


みほ(──。)


 トントントントントン……。


みほ(ん)

みほ(もう、朝?)

 
 トントントントントン……。


みほ(?)

みほ(何の音だろう)

みほ(あ)

みほ(お母さんが、キッチンで、料理)

みほ(朝ご飯作ってくれてるのかな)

みほ(……。)

みほ(お母さん、本当に、お母さんみたい)

みほ(……。)

みほ(なんだか別人になったみたい)

みほ(急に優しくなったよね)

みほ(……。)

みほ(なんでだろう?)

みほ(聞いたら、教えてくれるかなぁ)

みほ(後で、聞いてみようかなぁ)

みほ(もう少し、お母さんの音を聞ききながら、寝ていたい……)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 
 ……かちゃ、かちゃ……


みほ「……お土産の明太子、おいしい、です」

しほ「そう」


 ……かちゃ、かちゃ……


みほ「……。」

しほ「……。」

みほ(どうしてだろう)

みほ(昨日はあんなに何でもお母さんに言えたのに)

みほ(今朝は……。)

みほ(うーん……。)

みほ(お母さん、もう、帰っちゃうのに)

みほ(聞いておきたいことも言いたい事も、まだまだたくさん、あるのに)

みほ「……。」

みほ「……っ」

みほ「あ、あの……っ」

しほ「?」

みほ「も、もし本当にお母さんも赤ちゃんを産むのなら、その時はちゃんと──」

みほ「改めて、教えて欲しいです」

しほ「……なんですって?」

みほ「こ、この年で妹が……弟かも?……が、できるかもっていうのは、すごく変な気持ちで」

みほ「だけどっ」

みほ「お母さんの考えも、ちょっとだけ、理解はできる、かもしれない」

みほ「だから」

みほ「せめて、前もって教えてください……」

しほ「……。」

しほ「……みほ」

みほ「は、はい」

しほ「……ハァ、あなたね……」

しほ「今の私に、子どもをこさえている余裕など──」

しほ「あるはずがないでしょう?」

みほ「……へ?」

しほ「まほが妊娠、あなたも妊娠、あの子の養子の件だって。それに輪をかけて、戦車道全体の問題も──」

しほ「そのうえさらに自分も妊娠だなんて、許容できるわけがないでしょう」

みほ「え……じ、じゃあ、昨日の話は……冗談……?」

しほ「当たり前です」

みほ「で、でも! 西住流の家元の問題で──」

みほ「お母さんは本当に困ってるんだって……」

しほ「……。」

しほ「そんなに家の心配をしてくれるのなら──」


しほ「いいから、黒森峰へ戻ってきなさい」


みほ「……!」

みほ(……っ)


 ──ドクン、ドクン、ドクン──


みほ(だ)

みほ(だめだめだめ……!!)

みほ「そ、それは、その……」


しほ「……。」

しほ「……。」

しほ「……冗談よ」

みほ「……。」

みほ「お、お母さんの、冗談は……わかりにくいです……」

しほ「……。」

しほ「ともかく、言っておきますが──」

しほ「家の問題を、貴方に考えてもらう必要はありません」

みほ「……。」

みほ(そんな風に、言わなくたって……)

しほ「まほがあの子に言ったいる事でもありますが──」

しほ「そういう事は西住の棟梁たる私が考えるべき問題です」

しほ「貴方は今、自分の事をまず第一に考えていればいいの。……余計な心配をされては、かえって迷惑です」

みほ(……。)

みほ(……お母さん……)

みほ「……わかりました。」

みほ「……ありがとう、お母さん」

しほ「……。」

しほ「わかったら、早く食べなさい」

しほ「食べたらもう、私は出るわよ」

みほ「……ん」

みほ(……。)

みほ(お母さん、本当に優しくなった)

みほ(やっぱり少し、不思議)

みほ(でも……どうして?って聞くのは、また今度にしよう)

みほ(今は……一緒にご飯を食べられれば、それでいいや……)



 かちゃ、かちゃ、かちゃ……



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


みほ「お母さん、靴ベラ」

しほ「ん、ありがとう」


 こっ、こっ、こっ……
 

しほ「病院の先生のいう事を、良く聞くように」

みほ「うん」

しほ「検査入院が終わったら、とりあえず一度連絡をなさい」

みほ「はい」

しほ「それじゃ、しっかり頑張るように」

みほ「うん、頑張る」


 ──がちゃっ


みほ「あの……また」

しほ「ええ、また……じゃあね」

みほ「うん……」


 ──ガチャン


みほ「……。」

みほ「……。」

みほ(行っちゃった)

みほ(お姉ちゃんもお母さんも──)

みほ(ほんと、あっさりだなぁ……)


 ……ぴとっ


みほ(ドア、冷たい)


『……こっ、こっ、こっ、こっ……』


みほ(お母さんの足音が、遠のいてく)

みほ(……。)


 ……とたとたとたとた

 ……ガラガラガラッ


みほ「わー、今日もいい天気」

みほ「……。」

みほ「……。」

みほ(あ、お母さんでてきた)

 ……かっ、かっ、かっ、かっ……


みほ(……。)

みほ(お母さんて、歩く時も、背筋が真直ぐなんだなぁ)


  ……かっ、かっ、かっ、かっ……


みほ(……。)

みほ(振り向きもせず、真直ぐに真直ぐに、ただ前へ)

みほ(私はあんな風には、なれないだろうなぁ。お姉ちゃんはきっと、なれるんだろうけど──)


  ……かっ、かっ、かっ、か……



  ……こっ


みほ(?)

みほ(立ち止まった──)


しほ『……。』

しほ『……。』クルッ


みほ(わ!? 振り向いた!?)

しほ『……。』

しほ『!』


みほ(ふやっ!)


しほ『……。』

みほ「……。」


みほ「い──」

みほ「いってらっしゃい! お母さん!!」


しほ『……。』


しほ『……。』ノシ


しほ『……。』クルッ


……かっ、かっ、かっ、かっ……

みほ「……。」

みほ(……なんか、変な事言っちゃった)

みほ「……。」

みほ「……。」

みほ「よしっ」

みほ「私も顔を洗って」

みほ「歯を磨いて──」

みほ「学校に行こ~」




 ──やーってやーるやーってやーる~♪──



──や~ってやーるぜっ♪──



みほ(あ、電話、誰だろう)

みほ「いーやな、あーいつっを、フーンフフンフンフーン♪」



 トタタタタ



  ──け~んかはうーるもの、ど~うどうと~~~♪──



  ──かーたでかーぜきり~……




>着信[愛里寿ちゃん]

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左遷くらって暇になったのでいくらか投稿頻度が上がるかもしれません。

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──やってやーる──


 >着信『ありすちゃん』



みほ「……。」

みほ(早く、電話にでなきゃ)

みほ(だけど)

みほ(電話にでるのが……怖い……っ)


みほ「でも、そんなはず、ない」

みほ「そうだよ」

みほ「そんなこと、あるはずない……」

みほ「だって愛里寿まだ、十三歳なんだよ!?」



 ──十代の少女が妊娠──


みほ「……っ」


みほ(私の初潮は、11歳のときだった)

みほ(生理が始まれば、女の子の身体はもう赤ちゃんを産める──)

みほ(それは、そうかもしれないけどっ)

みほ(……。)

みほ(……ニュースで見たいことがある」


みほ(世界には10才で結婚させられて、子供も産まなきゃいけない、可愛そうな子がいるって……)

みほ「……いやっ!」

みほ「やめて!」

みほ「そんなのは遠い遠い国の話で──」

みほ「私の友達のお話とは違うもん!」


みほ「あぁ……お母さん!」

みほ(帰ってきて! 一人で電話にでるの、怖いよ!)

みほ(お母さんに、隣にいてほしい……!)

 ──やってやる~やってや~る……──

 ──……。


みほ「……あっ」

みほ「……。」

みほ(『携帯を、忘れて学校にいっちゃった』)

みほ(『ごめんね、歩いてて気が付かなかった』)

みほ「……だめ、一時逃げて、先送りしても、何も変わらない」


みほ(……愛里寿ちゃん……)

みほ(……。)

みほ(……っ)

みほ(そうだよ、もしも、愛里寿ちゃんが電話の向こうで泣いてたら……」

みほ(どうしても誰かに慰めてほしくて、電話をしてたなら)

みほ(だったら! それこそ電話に出てあげなきゃダメだよ!)



 ──ぴっ、ぴっ、ぴっ


 ──とぅるるるるるる、とぅるるるるるるる──



みほ(お母さん、怖いよ、お母さん……)

みほ(……でも、甘えちゃだめっ、お母さんを頼ってばかりじゃ)

みほ(私が、ママに、なるんだもんっ)

みほ(・・・・・・っ!!!!)

 ──とぅるるるるる、とぅるるるるるる──



みほ「……。」

 どきどきどき



 ──とぅるるる……ぴぽっ



みほ(つながったっ)

みほ「も、もしも──」


愛里寿『もしもしみほさんっ!?』


みほ(……!)

みほ「う、うん、私だよ」

みほ「ご、ごめんね、すぐに電話に出れなくて」


愛里寿『ううん! 私のほうこそごめんなさい。朝早くに電話して』

みほ「い、いいよ、全然気にしないで?」


みほ(あれ……?)

みほ(愛里寿ちゃんの声、すごく元気だし、とっても明るくて可愛い……)

みほ(もしも妊娠してたら、こんな風におしゃべりできるはずが──)

みほ(──じゃあ! やっぱり妊娠なんかしてない!?)

みほ(……そうだよ! そうにきまってる!)

みほ(だって、13歳の女の子が、妊娠なんかしていいはずないもん!)

みほ(……よかった! 本当によかった……!)


みほ「う、ううん! 全然大丈夫だよ。電話してくれてありがとう」

みほ「愛里寿ちゃん、元気にしてる?」

愛里寿『うん! すごく元気だよ!』

みほ「そっか……よかった……!」

愛里寿『みほさんは? 元気?』

みほ「私は……う、うん、私も、元気だよ」

愛里寿『そっか、よかったぁ』




愛里寿『赤ちゃんのためにも、お母さんは元気でいなきゃだもんっ、えへへ』




みほ「──────え?」



みほ「……『赤ちゃんのためにも』……?」


みほ(……何?)

みほ(……何を言ってるの……)


愛里寿『?』

愛里寿『みほさん?』


みほ(……。)

 ──キン、キン、キン──

みほ(あ──頭が──)

みほ(チカチカして)

みほ(『言葉』がわからない──)


愛里寿『? ?? あ……そっか、何で知ってるのって、驚かせちゃったかな……』

愛里寿『実はね、お母様がみほさんの事を教えてくれたの』

愛里寿『ホントは機密事項だけど、特別にって……』

愛里寿『秘密だから、みほさんにも、勝手に連絡しちゃいけないよって言われてたんだけど……』

愛里寿『だけど私、どうしてもみほさんとお話ししたくて!』

愛里寿『みほさんも明後日から、つくばの病院にお泊りするんだよね?』


みほ「……!?」

みほ(『みほさん、も』……)


愛里寿『その時みほさんに会えるんだって、赤ちゃんのお話し、みほさんといっぱいしたいなぁって!』

愛里寿『考えてたらすごくワクワクして』

愛里寿『どうしてもみほさんの声を聴きたくなって……』


みほ「……。」

みほ「……。」


愛里寿『……みほさん……えと……やっぱりこんな朝に電話しちゃ、迷惑だったの、かな……』

みほ(……すぅ、はぁ……)

みほ「……愛里寿ちゃん、ごめんね、一つだけ、まず、教えて、くれるかな……」

愛里寿『う、うん?』

みほ「愛里寿ちゃんは──」


みほ(おねがいです──)

みほ(間違いで──)


みほ「妊娠」

みほ「してるの?」


みほ(何かの勘違いであってください──)



愛里寿『うん!』

愛里寿『私もママになるんだよっ!』




みほ(──。)

みほ(ああ……)

みほ(ああああ……)

みほ(ああああああ……)


 ……くらっ……


みほ(……っ)

みほ(ダメ!!)

みほ(踏ん張れ……!)

みほ(倒れちゃだめ!!)

みほ(踏ん張れ、私!!!)

みほ(踏ん張らなきゃダメ……!!!)

みほ(神様を、恨んでもしかたない……!)

みほ(憎むための何かを探してもしかたがない……!)

みほ(受け止めなきゃ……!)

みほ(愛里寿ちゃんの言葉を──)

みほ(まっすぐに、現実を!)

みほ(お母さんみたいに、会長みたいに!)

みほ(そうじゃないと──)

みほ(私は一生ママになんかなれない……!)

みほ「愛里寿ちゃん」

愛里寿『うん?』

みほ「元気そうで安心したけど……本当に大丈夫?」

愛里寿『……?』

みほ「妊娠してるんだもん。不安な事や心配な事、いっぱいあるんじゃないのかな……」

愛里寿『ん……もちろん、ちょっとだけ不安だけど……』

愛里寿『でも私ね、ずっと赤ちゃんがほしかったんだ!』

みほ「え……。」

愛里寿『だって赤ちゃんって、とってもかわいいもの!』

愛里寿『軽くて、柔らかくて、小さくて、いい匂いがして……』

愛里寿『私も早くお母さんになりたいなぁって、ずっとずっと思ってた……!』

みほ「……。」

みほ「そう、なんだね……」

愛里寿『それでね、赤ちゃんが少しだけ大きくなったら、一緒にボコミュージアムにいくんだよっ』

愛里寿『スペース・ボコンテンはまだ早いかもしれないけど……』

愛里寿『イッツ・ア・ボコワールドになら、きっと一緒に乗れるよね!』

みほ「う、うん、そうだね、きっと一緒にのれる……」


みほ「……。」


みほ(あぁ……この感じが、そうなんだ。)

みほ(本当にまるで──)

みほ(『胸の奥が締め付けられてるみたい』。)

みほ(……っ。)

みほ(愛里寿ちゃんの無邪気な声が、とっても辛い。)

みほ(エリカさんみたいに苦しむよりは、ずっといい──)

みほ(そのはずなのに……。)

みほ(どうしても、愛里寿ちゃんの嬉しそうな声が声が、悲しい……っ)


みほ「ね、ねぇ、愛里寿ちゃん……」

愛里寿『うん?』

みほ「愛里寿ちゃんのお母さんは、もちろん、赤ちゃんの事、知ってるんだよね……?」

愛里寿『うん、知ってるよ。お母さんと一緒に、連盟の人やお医者様に説明をしてもらったんだよ』

みほ「愛里寿ちゃんのお母さん、えと、びっくりしてたよね……?」

みほ(愛里寿ちゃんのお母さんも、平気でいられるはずがない……)


愛里寿『お母さんはね……おめでとうって!』

みほ「……え!?」

愛里寿『よかったね! えらいねって──褒めてくれたよ!』

みほ「!? !??」

愛里寿『私が一生懸命に頑張ってるから、神様がきっと、贈り物をしてくれたんだって……!』

愛里寿『皆で一緒に、新しい家族をお祝いしようねって……!』

みほ「そ、そう、なんだ……」


みほ(……!?)

みほ(『おめでとう』……!?)

みほ(自分の娘が、13歳の娘が、原因不明の妊娠──)

みほ(命に関わることかもしれないし、一生がおかしくなってしまうかもしれないのに……。)

みほ(……。)

みほ(……あ……)

みほ(もしかして……)

みほ(……愛里寿ちゃんの、ため……?)

みほ(愛里寿ちゃんを怖がらせないために、不安にさせないために)

みほ(『これは素晴らしいことなんだよって』……。)

みほ(愛里寿ちゃんの無垢な気持ちを気付つけないように──)

みほ(愛里寿ちゃんの心を守るために……!?)


みほ(もしもそうなら──)

みほ(それを、私が台無しにしちゃいけない)

みほ(その思いやりと頑張りを、私が壊すわけにはいいかない……)


みほ「──わ」

みほ「私や、私の赤ちゃんも一緒に」

みほ「皆でボコミュージアムにいけたら、いいね……っ」


みほ(──っ、辛いっ)

みほ(辛いよぉ……!!!)

みほ(お母さん……!!!)

愛里寿『そうだね! すごく楽しいと思う!』

みほ「う、うん……うん……っ」

みほ「……。」

みほ「あの、それでももしも心配な事があったら……何でも言ってね!」

みほ「私、いつでもお話しを聞くから!」

愛里寿『うん、ありがとう』

愛里寿『でも、きっと大丈夫だよ』

みほ「そ、そうかな」

愛里寿『うん。妊娠は確かに大変……でも、お母さんが一緒にがんばろって言ってくれるし。それにお医者様もとても優しくしてくれるんだ』

みほ「……そっか……」


みほ(でも、たしかに、そうだよ、愛里寿ちゃんの気持ちが一番大事なんだ……)

みほ(いくら私が辛くても)

みほ(いくら愛里寿ちゃんの笑顔がけな気で悲しくても)

みほ(そんなの、関係ない)

みほ(愛里寿ちゃんが元気で、未来に希望をもっていられることが、絶対っ、一番重要だよ……っ!)


みほ「っ……よかったね! お母さんたちが、祝福してくれて!」

みほ「きっと、愛里寿ちゃんのあかちゃんなら、とってもかわいいよ!」


愛里寿『うん!』

愛里寿『だから私も、頑張らなきゃ!』

みほ「私達も、ボコみたいに頑張ろうね」


愛里寿『……っ!』


愛里寿『……ボ……。』

愛里寿『……。』

愛里寿『……。』

愛里寿『……。』

愛里寿『……。』

みほ(……?)

みほ「愛里寿ちゃん……?」

愛里寿『……。』

愛里寿『う、うん、頑張るね……』

みほ「……? えと……ああ、そうだ、それと愛里寿ちゃんのパパは──」

愛里寿『──っ、ごめんね、もう切るねっ、……ありがとう!』



みほ(──え!?)

みほ「待って!、まだ──」

愛里寿『ごめんなさい、ばいばいっ』



 ──ぷっ   ツー、ツー、ツー



みほ(ど……どうして……)

みほ「……。」

みほ「……。」

みほ「……あ……」


みほ(……一緒だ)

みほ(あの時の私の電話の切り方と、一緒だ)

みほ(早く電話をきりたくて)

みほ(急に話をやめる)

みほ(だって)


 ──どくんっ……──


みほ(早く電話を切らないと──)


 ──どくんっ、どくんっ──


みほ(涙があふれてしまうから──!!)


 ──キィィィィィィィィィィィィィィィン!!!──


みほ「愛里寿ちゃんっ!!」


 ──ぴっ、ぴっ、ぴっ

 ──とぅるるるるうる どぅるるるるるるる


みほ(電話にでて、お願い!)


 ──とぅるるるるるるる とぅるるるるるる


みほ(愛里寿ちゃんは、何かを黙ってる! 本当の気持ちを、何かを隠してるっ)

 
 ──とぅるるるるるる どぅるるるるるる とぅる……


みほ「あ……!?」

みほ(愛里寿ちゃん……)

みほ(……。)

みほ(……っ)

みほ(……!!)

みほ(あきらめちゃだめだ!)

みほ(今、絶対に、愛里寿ちゃんを一人にしちゃいけないときだ!!)

みほ「そうだよねっ、エリカさん! お姉ちゃん!」

 ──ぴっ! ぴっ! ぴっ!

 ──とぅるるるるるる どぅるるるるる


みほ(もし、愛里寿ちゃんが電話にでてくれなかったら)

みほ(お母さんに連絡をとって、島田のお家に電話をする)

みほ(ううん、それか──お家を教えてもらって、会いに行く!)

みほ(絶対に、絶対に愛里寿ちゃんに連絡を取らなきゃ!!)


 ──とぅるるるるうるる


みほ(絶対に──)


 ──とぅるるる ──ぴぽっ



みほ(!)

みほ(つながった!?)



みほ「も、もしもし?」

みほ「愛里寿ちゃん……?」


愛里寿『……。』

愛里寿『……。』

愛里寿『……っ、……っ』


みほ(──。)

みほ(この、)

みほ(小刻みに息を吸うような音)

みほ(……っ)

みほ(やっぱり……っ)


愛里寿『……みほ、ざぁん……ひっ、えぐっ……』


みほ「あ──」

みほ「愛里寿ちゃん!!!」

みほ「──。」


みほ(声を乱しちゃ、ダメ……っ)

みほ(こういう時こそ、落ち着いていないと)

みほ(……ふぅー……)

みほ(ゆっくり、ゆっくり、優しくしゃべる……)


みほ「愛里寿ちゃん、泣いてるの?」

愛里寿『……みほさ……ふぇっ……っひぃ……』

みほ「妊娠が、怖い?」

愛里寿『ひん……。』

愛里寿『私、ボコにたいになりたかったのに』

愛里寿『でも、なれないもん……』

みほ(??)

みほ「そんなことないよ? 愛里寿ちゃんも、きっとボコになれるよ」

愛里寿『でも、頑張らなきゃって思ってるのに』

愛里寿『赤ちゃん産んであげなきゃって』

愛里寿『だけど怖いけど、それでも頑張らなきゃって』


みほ(……こんなのって、むごすぎる……)


みほ「怖い、よね。そうだよね、怖くてあたりまえだよ」

みほ「私だって、怖いもん……」

みほ「ねぇ、愛里寿ちゃんの気持ち、お母さんは知ってるのかな……?」

愛里寿『……。』

愛里寿『お母様には、言ってない……』

みほ「そっか……」

みほ「ちゃんと、伝えたほうがいいと思う……」

愛里寿『……。』

愛里寿『……でも……。』

愛里寿『……。』

愛里寿『お母様、泣いてた』

みほ「え……?」

愛里寿『病院からお家に帰ったと、お母様、自分の部屋で、泣いてた……』


みほ(……!)

愛里寿『お母様は、私を励ますために、頑張ってくれてる』

愛里寿『だから私も、しっかりしなきゃって……』


みほ(……愛里寿ちゃん……!)

みほ「愛里寿ちゃんは、偉いよ……私なんかよりも、ずっとずっと、大人だよ……」


愛里寿『だけどやっぱり、私、怖い……』

愛里寿『赤ちゃんは欲しかったけど』

愛里寿『こんな早くにだなんて、思ってなかった』

愛里寿『今日も、一人で目が覚めで、なんだかすごく怖くて』

愛里寿『それで、みほさんの声をきいたら、元気がでるかなって思ったの……』

みほ「……っ」

愛里寿『みほさんも妊娠してるって、お母様に来たから……一緒にがんばろって、勇気づけてくれるって思って……』


みほ(……聞いてられないよっ)


みほ「愛里寿ちゃん」

みほ「ね、お母さんに、言お?」

みほ「本当は怖いんだって……ちゃんと言おう?」

みほ「そんなに頑張らなくたって、いいんだよ……!?」


みほ(早すぎる──)

みほ(愛里寿ちゃんのお母さんだって、それを分かってる)

みほ(だったら!)

みほ(悲しくても、辛くても)

みほ(その先にある選択肢を──)

みほ(真剣に、一緒に考えてあげたほうがいいんじゃ……!?)

みほ(だって愛里寿ちゃんはまだ、13歳なんだよ……!?)


愛里寿『……。』

愛里寿『……それは、やだ……』


みほ「どうして……!?」

みほ「お母さんのことが、心配なの……?」


愛里寿『……。』

愛里寿『だって、そんな事をしたら』

愛里寿『……もしかしたら……』

愛里寿『この子は──』


みほ(……!!!!)

みほ(愛里寿ちゃんは──)

みほ(本当にすごく賢いんだ……!)

みほ(勉強ができるだけじゃない、心も体も、ちゃんと飛び級してる!)

みほ(それは良いことのはずなのに、そのせいで今、愛里寿ちゃんは……っ)

みほ「赤ちゃん、産んであげたいんだね……」

愛里寿『……うん……』

愛里寿『それなのに、どうしても、怖い……情けない……』

愛里寿『……。』

愛里寿『みほさん』

愛里寿『私……』

愛里寿『……ボコに、なりたい……』

みほ「……愛里寿ちゃん……っ」

みほ「ね、やっぱり、お母さんに言おう……?」

愛里寿『え……』

みほ「妊娠は怖い、だけどそれでもやっぱり産みたいって、ちゃんとお話ししよ……!?」

愛里寿『……。』

愛里寿『私が、私さえ頑張れば』

愛里寿『お母さんんい今以上に心配をかけなくてすむ。』

愛里寿『この子だって、産んであげられるんだ』

愛里寿『だから、やっぱり』

愛里寿『言うわけにはいかない。』


みほ(……!)

みほ(愛里寿ちゃんの声、もう、さっきまでの鳴き声じゃない)

みほ(私とお姉ちゃんを、たった一両で迎え撃つ、あの時のような──)

みほ(……数秒前の愛里寿ちゃんとは、まるで別人みたい)

みほ(……子供と大人、その間で、ふあん亭に揺れてる、のかな……)

みほ(ならせめて、落ち込んだ時に、側で支えてくれる誰かがいてくれたら……)

みほ(……あっ)



みほ「愛里寿ちゃん」

愛里寿『?』

みほ「子供の、パパは誰……?」

愛里寿『え?』

みほ「赤ちゃんのパパは、誰なのかな……?」

愛里寿『えと、ルミ、だよ』

みほ(「ルミ」さん……?)

みほ(ああ、連盟の広報新聞で、顔写真を見たような──)

愛里寿『みほさん達とも、一緒に戦った』

みほ「やっぱり、戦車道の人なんだね。それで、その人と愛里寿ちゃんとは……仲良し?」

愛里寿『えと……う、うん。ルミは、私の事を可愛いっていってくれるし、それに眼鏡をかけてるから、とっても頭がいいの……』

愛里寿『赤ちゃんの事、もちろんびっくりしてたけど、『責任とらなきゃいけませんね』って、笑ってくれたよ』

愛里寿『ルミは、優しいから……』


みほ(ちゃんと信頼してる人なんだ、よかった……!)

みほ「ルミさんには、私に聞かせてくれたようなこと、お話ししてるのかな……?」

愛里寿『それは……』

愛里寿『してない……』

愛里寿『心配、かけたくなくて』

愛里寿『ホントは、みほさんにも言っちゃいけなかったんだって、少し、思ってる……』


みほ「そ、そんなことないよ! 愛里寿ちゃんが悩みを打ち明けてくれて、私、すごく嬉しかった!」

愛里寿『……ほんとに?』

みほ「愛里寿ちゃんのパパになって、ぎゅーって抱きしめてあげたいよ!」

愛里寿『みほさん……』

みほ「でも悔しいけど、愛里寿ちゃんのパパは、ちゃんと他の人がいる……」

みほ「ねぇ愛里寿ちゃん、ルミさんにだけは、本当の気持ちを打ち明けても、いいんじゃないかなぁ」

愛里寿『……。』

みほ「私がパパだったら……自分の子供を産んでくれる人の悩みは、全部知りたいって、思う……」

みほ「嬉しいことも、心配なことも、一緒に全部感じていた言って、そう思うよ……」

みほ「だって、愛里寿ちゃんが産もうとしてる赤ちゃんは、二人の子供なんだもん」

愛里寿『……。』

愛里寿『……そう、なのかな……』

愛里寿『ルミになら……打ち明けても、いいのかな……』

みほ「きっと、ルミさんも、言ってくれないほうが、悲しいんじゃないかな」

愛里寿『……。』

愛里寿『……少し、考えてみる……』

みほ「うん」

みほ(絶対に言わなきゃダメって、念を押したいけど)

みほ(自分の中で考えて、納得することが、大事、きっと……)

みほ「……。」

みほ「愛里寿ちゃん」

愛里寿『なに?』

みほ「ボコミュージアム……みんなで一緒に、絶対に行こ」

愛里寿『……!』

愛里寿『うん……っ』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ──ぴっ……ツー ツー ツー


みほ「……。」

みほ「……。」

みほ「……。」


 からからから……


みほ(……お母さん、とっくに見えなくなっちゃってた)

みほ「……。」

みほ「私もそろそろ、学校へ行かなきゃ」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


桂利奈「たいちょ~、おはようございまーす!!」 たたたたたたたた!

みほ「わっ、桂利奈ちゃん!? そんなに急いでどうしたの!? まだ全然遅刻じゃないよ?」

紗季「……。」タタタタタタタ

みほ「ふぇ!? 紗希ちゃんまで!?」

桂利奈「妊婦さんには運動が大事だって──あわわ、あんまり大声で言っちゃいけないんだった──本に書いてあったんです~~~!」

みほ「ええええ? 走るのは違うんじゃ……む、無理しちゃだめだよ~~~!?」

桂利奈「はぁ~~~い!」シュタタタタタタ

紗季「……。」シュタタタタタタ

みほ「行っちゃった……あはは、元気だなぁ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ぶろろろろろろろ……


みほ(あ、後ろから車だ、避けなきゃ──)


 ──ぷっぷー!


みほ「!?」

ホシノ「やー、西住隊長、おはよ~。ごめんねびっくりさせて」

みほ「ホシノさん!……と、ツチヤさんも」

ツチヤ「おはようございます……すみません」

みほ「えと、一緒に車で登校ですか……?」

ツチヤ「まぁ、はい……」

みほ「……?」

ホシノ「いや~、ツチヤが転んでお腹を売ったりしないか、心配になっちゃってさぁ」

みほ「へ……?」

ツチヤ「っ……だからぁ! ほんともう止めてよ! そーいうのはさぁ!」

みほ「えと……?」

ツチヤ「昨日からこの人おかしいんですよ! 歩いてて段差がある度に気を付けろ気を付けろってうるさいし、私の鞄も持とうとするし……!」

ホシノ「だってなぁ」

ツチヤ「だってじゃない!」

みほ「ふふふ……いいなぁ、ツチヤさん、すごく大事にしてもらってるんですね」

ツチヤ「そうじゃないんだよぅ!」

みほ「ふぇ?」

ツチヤ「この人は、私をからかって喜んでるだけなのー!」

ホシノ「おいおい心外だなぁ。私はツチヤの事を心から大切におもうからこそ──」

ツチヤ「だから、そういうのやめてって、言ってるでしょー!」

ホシノ「へへへ~……そうだ、隊長も、乗ってくかい?」

みほ「あ、えと~……ありがとうございます、でも、歩きます」

みほ「お二人の邪魔をしちゃ悪いですから」

ツチヤ「うぁーっ、隊長までぇ!」

みほ「あはは」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そど子「あら、おはよう西住さん、いつも通り、ちゃんと遅刻せずに来たわね」

みほ「おはようございます、そど子さんもいつも通りですね──って」

みほ「ふぇ? ……ま、麻子さん……?」

麻子「……おぉ、西住さんか……おはよ、う……。」

麻子「……うう、眠い……」

みほ「どうして麻子さんが、校門で」

みほ「それに、あ、あれ? その腕章、『風紀委員』……?』」

みほ「麻子さん、風紀委員になったんですか……!???」

麻子「非常勤だがな。……うぅ、朝日が辛い」

みほ「だけど、どうして……?」

そど子「なんだか知らないけどさ、これからは一緒に遅刻の取り締まりをしてくれるんだって」

みほ「そ、そうなんですか」

そど子「……ふん……」

そど子「私はべつに、そんな事頼んでないのに……」

麻子「……うるさいぞ。ちゃんと遅刻を取り締まれ、そど子」

そど子「……っ、何よ偉そうにっ」

みほ「……ふふ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


沙織「みっぽり~ん、おはよー!」

華「おはようございます、みほさん」

みほ「沙織さん、華さん!」

沙織「ねぇ聞いてよみぽりん! 私、華道を始めることになったんだよー!」

みほ「ふぇ!? そ、そうなの……!?」

沙織「うん! 五十鈴流に入門するのー。お父さんが着物を買ってくれるって! あ、でも戦車道もちゃんと続けるから安心してね?」

みほ「え!? え!? あの、あのあの」

華「もう沙織さんったら、ちゃんと一つ一つお話しをしないと、みほさんがびっくりしていますよ……?」

沙織「あははは、ごめんね~! 話したい事がいっぱいあってさぁ! 困っちゃう!」

みほ「う、うん、ゆっくり全部聞くから、大丈夫だよ……?」

杏「──おいーっす、やー、ちゃんとみんな学校に来てくれて、嬉しいねぇ~」

華「会長、おはようございます」

沙織「あれ? 会長、今日はゆっくりですね?」

杏「昨日久々に家に帰ったんだけどさ、やっぱ自分の布団は落ち着くよね~。寝坊しちゃった」

華「なるほどです」

杏「じゃ、仕事があるから、先にいくよ~、またねー」


 すたすたすたすた……


沙織「会長……いつも通りだねぇ……」

華「えぇ、本当に」


みほ(……。)

みほ(会長は本当に……すごいです……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

きーんこーんかーんこーん……



教師「では、昨日の続きから、89ペーシを──」

みほ「……。」

みほ(青空、いい天気……窓際の席でよかった)


 ──さぁぁぁぁぁぁ


みほ(ん……風もなんだか、今日は暖かいなぁ……)

教師「──が、──というわけで──」

みほ(……。)

みほ(昨日と何も変わらない、いつも通りの授業)

みほ(……。)

みほ(私に何があろうと、青空は青空だし、学校は学校)

みほ(だけど)

みほ(この空の下で、間違いなく──)

みほ(皆、頑張ってる)

みほ(お母さん、お姉ちゃん、エリカさん、愛里寿ちゃん、ダージリンさん、それに……)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(頑張ろう)

みほ(私と出会ってくれた、皆のために)

みほ(その人達が困っている時、力になれるように、私も、頑張ろう)

みほ(そうしたら──)

みほ(皆に私を、支えてもらえるかな……)

みほ(……。)

みほ(子宮って、このあたりだったかな?)


 ……さすり、さすり……。


みほ(……。)

みほ(パパがわからないのは寂しいけど──)

みほ(あなたのためにも、頑張る……)


 ──────。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

これで全体の3分の一くらいまでは進んでいます。

ただやはり、時間をかけすぎてしまいました。

くぎりもいいし、ここいらでエタるのもありかなともチラリチラリと考えてしまっています。

本来書く予定ではなかったエリみほ個別シーンに、深く考えずノリと勢いで突入してしまったのが間違いだったかもしれません。

全然話が終わらなくて、こっちのモチベーションまで下がってしまい、結局途中でぶちきってしまいました。

『これおもしろくねーだろ』って、自分で思ってしまったら、あきまへん。

エリみほ→エリまほ の間違い! 

ちょいちょい挿入される日数は、
「この粗筋の最初の場面(検査入院初日)から何日経過したか」
を示しています。



■1日目
検査入院初日。

午前6時半:学園艦、大洗へ着港
午前8時:学園艦タラップにて、入院組と残留組でお別れ挨拶。
バス、つくばへ向けて出発。
51号線を南下。
遠ざかっていくマリンタワーと学園艦の姿に寂しさを覚える。
緊張からか、みな口数は少ない。車内は静か。
目的地は、『つくば霊長類医科学研究センター』

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沙織「びょ、病院とかじゃなかったの……?」

桂利奈「紗季ぃ、私たち研究されちゃうのかな……」

紗季「……。」
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つくば駅、研究学園駅付近はそこそこ都会。
みな、はしゃぐ。
が、すぐに景色は田んぼや畑ばかりに。
みな、再び口数が減る。

午前11時頃、一行をのせたバスがセンターに到着。
雑木林に囲まれた、一見すると辺鄙な場所。
ドナドナ気分。みんなの顔が曇る。杏だけはいつもどおり。
正門守衛所をぬけ、バスは施設内に。
バス、正面広場に停止。
すると、正面広場に、みほ達を出迎える集団が待っていた。

→聖グロと知破単の面々。
バスに向かって手を振る者も。

車内の空気が明るくなる。
バスを降りて、皆でご対面。

[ママ:パパ]の組み合わせ
オレンジペコ:ダージリン
ローズヒップ:アッサム
福田:西
他、各校10名ほど


ローズヒップ、もじもじ系女子と化している。
→尊敬するアッサムの子を身ごもった。これで母子ともども真なる淑女になれる、という独特の理論。
もじもじしているのは、「アッサム様の子を身ごもった」事に喜びと照れを感じているから。
ローズヒップの感じ方にみほは驚く。
が、さおりん曰く、「ちょっとだけ分かるかも」。
みほ「ふぇぇ……」

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ローズヒップ「わたくし、とっても幸せですございますの」

アッサム「それはいいけど、ローズヒップ、お願いだから、元気でお転婆なもとの貴方に戻って頂戴」

ローズヒップ「いいえ! この子の為にも、素敵な母親にならなくちゃでございますわぁ」

アッサム「うぅ……」
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ダージリンはそんな二人の様子を可笑しむ。
しかし一方で、ダージリンは彼女達の妊娠にある種の「申し訳なさ」を抱いてもいる。
知葉単の西さんもまた、福田達の妊娠に対して似たような負い目を感じている。
→性格は違うけれど、感性の根っこおいて、二人は似た者同士。
ダージリンと西、お互いの抱える複雑な心情を分かちあい、意気投合している。
その二人の様子に、オレンジペコと福田がちょっぴりヤキモチ。

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福田「ぐぬぬぬ……」

オレンジペコ「……。」

福田「……ぺ、ペコ殿っ!」

オレンジペコ「はい?」

福田「ペコ殿は、もっとしっかり、ダージリン殿と一緒にいてあげるべきだと思うであります!

オレンジペコ「福田さんこそ、西さんに浮気をさせないでくださいね」

福田「なっ!」
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みほも、ダージリンと西の関係がちょっぴりウラヤマシイ。
→自分とダージリンは「隊長としての責任感」を共有できた。けれども西さんは、もう一歩深いレベルで、ダージリンと気持ちを共有できてる。少し嫉妬してしまう。
みほ、自分の子宮に手をあてて、自分を叱る。そんなことじゃだめなんだ。

ともあれ、みんなでワイワイ、みほ、ちょっぴり幸せ。

ほどなくしてセンター長(モブ)が現れる。
センター長に案内されて、大洗の面々はひとまずは居住棟へ。

居住棟は、病棟というよりもむしろ合宿所。国民宿舎みたいな。外装はあまりきれいではないけれど、中はそこそこ清潔。

→戦車道連盟理事長や西住流家元の提案で、合宿の雰囲気を装った。「入院」ではなく「戦車道の合宿訓練」をイメージ。

センター長「当センターはこれ以後も、関東における検査拠点となります。また、国内の全妊娠者を対象とした統合一斉検査入院も、いずれ、当センターで実施される予定です」
みほ、姉やエリカの事を思う。

その後、アンツィオ高校も到着。
ゆっくり話をするまもなく、合同オリエンテーションが始まる。
みほが島田愛里寿とルミについて尋ねると、二人は後日到着との回答。

大ホールにて、合同オリエンテーション(昼食をはさみつつ)
検査入院の目的説明。
・多種多様な生体データの取得→コンピューター上で各個人の生体反応をシミュレート可能なレベルを目指す。
・各個人の心のケア、及び、心の強化
・今回の件について、あらゆる意味での共通認識の構築、質の高い情報共有(各個人の心の強化を主目的として)

事件の原因についての調査経過報告も行われる予定であったけれど、
ミーティングはすでに長時間にわたっている。
疲れた顔をしている者もちらほら。
センター長の判断で、調査経過報告は後日に回される。
杏は、センター長の対応を評価。
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杏「検査スケジュールは相当綿密に組み立てられてるはずだよ。調整し直すのは相当大変奈だろうに。それでも、あたしらの体調を第一に考えて、柔軟に対応してくれるんだ。ありがたいねぇ」
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ダージリン、西、アンチョビ、大きく同意。

夕刻、自由時間。みほ、一人で敷地内を散策。
家族の事、仲間の事などなど、自分の中で今だ処理しきれていない事柄たちを、徒然と思う。
敷地の中心部には広い中庭があって、大きめの池が設けられてる。池を囲む外周路には沢山のイチョウの木が黄色い葉を広げてる。ベンチやテーブルもまた、そこかしこに設置さる。
背の高い建物の並ぶこの敷地内において、この場所はだけは空がよく開けてる。そらきれい。

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みほ「わぁ、すごく綺麗な所~」
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池の周りをぶらついていると、アンチョビとペパロニを発見。並んでベンチに腰掛けてる。
みほ、二人に声かける。
妊娠しているのはアンチョビで、パパはペパロニ。

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ペパロニ「お金の心配をしなくていいなんて、最高じゃないっすか!」

ペパロニ「姉さんの子供ならアタシは大歓迎っす! 親子で戦車道、やるっすよ!」
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アンチョビ→能天気なペパロニに飽きれつつも、こんな状況でも変わらず前向きなところがなんだか頼りに思えてくる。二人の立場はいくらか逆転しつつあるみたい。ペパロニがアンチョビの前を歩き、アンチョビの手を引っ張っていく。みほ、幼いころの自分と姉を思い出す。

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みほ(ペパロニさんって、アンチョビさんの事が好きなのかな……)
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母親から聞いた「同性愛志向」の話がちらりと頭をよぎる。
仲睦まじいアンチョビとペパロニに微笑みつつも、内心では少し複雑。
手をつなぐ二人の姿に、姉とエリカの姿が重なるった。

夜、晩御飯。
大食堂で全員一斉に。
すっごい賑やか。
みほ楽しい。



■2日目
早朝、目が覚めるみほ。
各校ごと、皆で一緒に一つの大部屋で寝ている。
大洗の面々はみんなまだ眠ってる。

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みほ(目が覚めて一人じゃないのって、なんだか幸せ)

みほ(愛里寿ちゃん寂しがってないかな。ルミさんにちゃんとお話しできたかな)
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今日の昼すぎに愛里寿とルミががこのセンターに到着する

午前中、各種検査の連続。
指示されるままに検査を受けるだけとはいえ、やっぱり皆疲れてくるし、
お昼が近づけばお腹もすいてくる。
午前中最後の検査を受けている華さん。超音波検査。検査室の静まり返ったその中で、丁度胃の辺りに機械を当てられているまさにそのタイミングで、華さんのお腹がなる。
モニターの中で胃が激しく収縮。
同席していたさおりん、映像と音のコンボがツボにはまり爆笑。
一緒にいたみほ、ツチヤ、ホシノ、くわえてお医者様も笑いを堪える。
初めはただただ顔を真っ赤にしていた華さん。けれども、さおりんがあんまりにも笑いころげるもんだから、だんだんと不機嫌に。沙織、華の腕に抱き着きつつ半笑いで謝り続ける。その状態でお昼ご飯。
みほ、なんだか幸せ。
多少タイミングはばらけているけれど、お昼の食堂もやっぱり賑やか。そこかしこに見知った顔が。
なんとなく心強いみほ。
一斉検査、好きかも……。

午後一、愛里寿からメール
『あと少し』
みほ、正門で二人の到着を待つ。
(他のメンバーは午後も検査続行。島田愛里寿がどんな心持にあるかもわからないし、まずは、一番仲良しなみほに、任せよう。そのあとで、みんなで静かにそっと出迎えよう、という気づかいも有り)
ほどなくして、一台のタクシーが到着。
後部座席にはルミと愛里寿の姿。
みほ、緊張。
タクシーのドアが開く。
ルミに手をつながれて、愛里寿が下りてくる。
見たところ、愛里寿の外見に特に変化は無い。
それでもやっぱり、みほにとっては何かしら感極まるものがある。
駆け寄って、愛里寿を抱きしめる。

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みほ(愛里寿ちゃんの身体、こんなに小さい、こんなに柔らかい)

みほ(それなのに……それなのに……っ!)

愛里寿「ぷはっ、みほさん、苦しいよ」

みほ「あぅ、ごめんね愛里寿ちゃん、大丈夫? 身体、大丈夫?」

愛里寿「うん」

愛里寿「えっと、あのね、みほさん」

みほ「何?」

愛里寿「ルミに、お話し、したよ」

みほ「……!」

ルミ「あ~……久しぶりね、西住流」

みほ「はい、あの、選抜戦以来でしょうか」

ルミ「まぁ、そうなるわね、ん~、負け戦以来っていうのは、なんだかちょっとシャクねぇ」

みほ「す、すみません」

ルミ「……あはは、たしかに『隊長』っぽくない。愛里寿隊長の言ってた通りね」

みほ「あの、よく言われます……うぅ」

みほ(……この人が、ルミさん……)

みほ(愛里寿ちゃんの言ってた通り、賢そうな人。それに、きりっとしてて、眼鏡の似合う綺麗な人)

みほ(……。)

みほ(河嶋先輩の上位換装、なんちゃって……)

ルミ「貴方が、愛里寿隊長にアドバイスをしてくれたのね」

みほ「え?」

ルミ「ありがとう、感謝してるのよ」

みほ「え……わっ」

ルミ「ほんと、恩人だわー」

みほ(あ、握手)

愛里寿「えへへ……あのね、みほさん、私、ルミにいっぱい怒られたんだ」

みほ「え?」

ルミ「いや別に、怒ったわけじゃないですよ」

愛里寿「ううん、怒ってた。ルミは静かに起こるタイプなんだ」

みほ「えっと、そうなんですか」

ルミ「いや、べつに……」

愛里寿「あのね、私が打ち明けた後ね、ルミは、私のことをぎゅーっ抱きしめてくれて──」

ルミ「っ……ちょ、ちょっと、隊長」

愛里寿「苦しいから離してって私がお願いしてるのに、すごい力で全然離してくれないんだ」

ルミ「あのぅ、あんまり人には話さないでほしいかな~って……」

愛里寿「ダメ。みほさんには、言う」

ルミ「うう、まぁ、この子だけになら……」

愛里寿「それでね、ルミはね、私の耳元で、すっごく低~い声で、『どうして一人で頑張ろうとするんですか』って」

みほ(……愛里寿ちゃん、なんだかうれしそう……)

愛里寿「ルミ、すっごく怒ってた」

愛里寿「だけど私、自分がいけない事を考えてるって思ってたから……ルミがそういってくれたことが、すごく嬉しかった……」

ルミ「……。」

ルミ「お義母様にも──」

ルミ「早く、伝えるべきです」

みほ(……!)

愛里寿「……むぅ。」

ルミ「私も一緒に行きますから、ね? ちゃんと伝えましょ?」

愛里寿「……。」

ルミ「隊長。聞いてますか? 隊長?」

愛里寿「き、聞いている!わかった、わかってる……だから、もうちょっと待って、ちゃんとお母様にもお話しするから……」

ルミ「必ずですよ~?」

愛里寿「ルミが聞いてくれたから、私はもう平気なのに……」

ルミ「そーいう問題じゃないですよね~?」

愛里寿「ううう……」

みほ(ルミさんって)

みほ(素敵な人なんだ……)

みほ(ルミさんが、赤ちゃんのパパで……よかったね、愛里寿ちゃん)

みほ(……。)

みほ(でも、ルミさん自身は、平気なのかな)

みほ(大学生だから、大丈夫なのかなぁ……)

みほ(もう少し仲良くなったら、お話ししてみたいな)
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みほ、検査に戻る。
ルミと愛里寿、一緒にオリエンテーションを受けにいく。

夜、晩御飯。
大食堂で、愛里寿達も一緒に食べる。
選抜戦の話だのなんだので盛り上がり、愛里寿もみんなの輪に溶け込む。
西さんとダー様、みほと同じような感じ方で、愛里寿の妊娠に胸をうたれる。
二人で仲良く愛里寿を励ます。
そんなダー西の連帯感に、ペコと福田はやっぱりちょっぴり嫉妬。
しかしながら「自分のことだけを一番に心配してほしい!」という欲求は浅ましいと自覚をしてもいるので、
二人とも口には出せず。
結局、そういう内心を理解しあえるのはペコと福田もまたお互いだけであった。
ゆえに、不満をぶつける相手もまたお互いしかいないのだった。


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福田「もぉー、ペコ殿ー! だからダージリン殿をでありますねぇー!」

ペコ「福田さんこそですー!」

みほ(二人とも、あんまり仲が良くないのかなぁ……)オロオロ
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■3日目
朝から皆で検査漬け。つかれる。
午後、初日にカットされた今回の事件についての調査報告会が行われる。
検査から解放されてほっとする一同。

大ホールにて報告説明会。
→解明したことはまだナニもない。けれども、非常に気になる点も。

曰く、「ある日を境に、戦車の質量が数kg減少していた可能性がある」


「戦車」とは特殊カーボンを施された、アメリカの「戦車」。
当時、たまたまメンテナンスに入っていた車両数台から、この疑惑が浮かび上がった。
「当時」とは、搭乗者が妊娠したであろう時期。
日本国内の戦車においてもこれから精密な検査が行われるとのこと。精密なチェックは相当に困難だろうけれど……。

とうような話があったけれど、ほとんどの参加者の頭には「?」マーク。みほも。
それでも、若干名は、食いつく。

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ローズヒップ「車体が軽くなったのはわかりましたけれど、それが何か重要ですの???」

桃「さっぱりわからん」

みほ(私も……)

ペパロニ「軽量化できたんだからOKじゃないっすか?」



麻子「いや、もっと詳しく話を聞きたい」

アッサム「データを直接確認したいのですが」

愛里寿「減った質量はいったい何に変わったの?」


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しかしながら今のところはこれ以上の情報は確認できず、話題は次へ。

・妊娠者についての統計情報、動態報告
→流産「4名」
これに会場がざわつく。
統計データ上の割合としては、妊娠初期に起こり得る自然流産率からそれほど逸脱はしていない。
場所や時間に不自然な偏りも見られない。
と説明を受けるも、多くのメンバーは動揺。
流産は自然にも起こり得る、ということを、あんまりちゃんと理解していない者が多かった。
各々、自分の中に落とし込むためには少しばかり時間が必要なようだった。

その後、産中産後の社会保障体制について補足的なレクチャーが行われるけれども、大多数の者は上の空だった。
流産のほうに頭がいっちゃった。
もしも自分が流産した場合、悲しむべきなのか?喜ぶべきなのか? どう理解したらいいんだろう。

晩御飯。
自分達の母は「(自然)流産」を経験したことはあるのだろうか?
そんな話で盛り上がった。
有ったみたいだよ、とうっかり口を滑らせた子のもとに全員集合。みんなで話を聞いた。

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みほ(私のお母さんは、どうなんだろう……)
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しぽりんに電話をしてみたくなるけれど、気恥ずかしさが勝って思いとどまった。



■4日目
今日も今日とて朝から晩まで検査。
しんどいけれど、皆と一緒なので心強い。
励ましあえる。

///////////////////////////////////////晩御飯の大食堂。
麻子は食堂の隅で何やら分厚い本を読んでいる。
みほが声をかけようとするが、そど子に先を越された。

麻子の読書の邪魔をするそど子。
:ご飯の時間なんだから、本ばかり読んでないでご飯を食べましょう。
:一人で食べるのはつまらないから一緒に食べてよ。
:私のこと気遣ってくれるって、言ったのにー
と麻子にちょっかい出すそど子。
麻子、うっとおしそうにしつつも、なんだかんだで嫌ではなさそう。
みほ、そんな二人に興奮する。

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みほ(わぁ~、そど子さん、甘えてる! かわいい!)
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同性愛の話が頭にちらつくけれども、それ以上に、そど子のギャップが可愛いみほ。
(これがツンデレなのかなぁ?)

食堂に華と沙織が入ってくる。
麻子とそど子の事を二人に話そうとするみほだが、そこで違和感に気付く。
華と沙織が、どことなくよそよそしい。
ケンカしたのかと思うけれど、ケンカとは何かが違う。お互いの様子をうかがいあっているというか。言葉一つ一つの間に、妙な距離感。
どうしたの、とみほが心配するが、二人は濁す。なんでもないの、と。
そうは言われても、みほの感じている違和感はやはり本物。
みほはその原因をさぐるが、結局二人には最後まではぐらかされた。
二人が話てくれないことが、ちょっぴり……いや自分で思っているよりも、ショックだった。
夜、孤独を感じつつ、己の子宮を撫でる。


■5日目
朝食時・食堂
みほは、華と沙織の様子を伺う。
ところが二人は、昨日の様子が嘘みたいにいつも通り。
けれどもみほには分かる。
「二人は自然を装ってる」(私でなけりゃみのがしちゃうね)
しかし、聞いても答えてくれないだろうという確かな予感。
二人と自分の間に距離を感じてまたちょっぴり寂しくなる。
寂しさから愛里寿にちょっかいをかけつつ、ボコ談義。


////////////////////////////夕方・中庭
検査は一通り終わった。明日の午前中、それぞれの学校へ帰る。
みほは一人で物思い。
すると池の対岸をスーツ姿の男の人があるいてた。
研究所の所員さんかなーと思っていたら、
実は役人。
みほ、ぎょっとする。どうしてここに役人さん!?
みほの視線がよほどするどかったのか、役人もみほにきづく。役人も硬直。
しばし風の音が吹いたあと、池をはさんで、お互いにぎこちない会釈。
役人、再び歩き出す。
そのまま帰るのかと思いきや、池を回り込んでみほのところへ近づいてくる。
みほ、心臓バクバク。あと、胃がむかむかする。
役人、丁寧にみほに挨拶。
「検査は大変だったでしょう」
「体調はどうです」
「何か不自由はありませんか?」
みほ、ぎこちなく受け答えをした後、問いかける。
「どうしてここにいるんですか?
役人、
「仕事で──」
と、言葉をきり、しばし口を閉じる役人。
それから、ゆっくりとした口調で、みほに問いかけた。
「戦車道が、嫌になりましたか」
質問の意味がわからないみほ。
「戦車道のせいで、こんな目にあっている。もう、戦車道が嫌になりましたか」
みほ戸惑いつつも返答。
そんな事はありません。
「どうして嫌にならないんですか?」
しばしのやりとりの後、みほ、改めて問う。
「どうしてそんな事を聞くんですか」
役人曰く。
-戦車道そのものの処遇について、一定以上のレベルで協議がすすんでいる。
-伝統ある行事ではあるが、こんな事になってしまった以上、存続させることは不可能ではないか。
みほ、母や姉の事を思いつつ、また自分自身の想いもありつつ、ぎくりとする。
自分としては戦車道を続けたい。あれは自分にとって大切なもの。と訴える。
「戦車道受講者はほとんど皆がそう訴える。部外者にとっては不思議な事なのですが──」
みほの口調が鋭くなる。
「私達の学校だけじゃ足りなくて、今度は戦車道そのものを廃止にするんですか」
役人苦笑い。
-そんな風に考えないでほしい。
-最大公約数の幸福を考えている。
-廃止ありきではない。どうあるべきなのかを検討している。当事者たる君個人の意見にも興味があった。
-そもそもここにきたのも、君たちの状態を視察するため
みほ、まだ煮え切らない。
役人、それを感じとって、再び苦笑しつつ、言い方を変える。
-戦車道の世界大会誘致は、私のキャリアにとっても重要なステップ。戦車道の存続は、私個人の利益にも適っている──こんな風に言った方が、あなたに納得してもらいやすいですか?
みほ、自分が嫌な人間になっているように感じられて複雑な気持ちになる。
これ以上気分を悪くするのは申し訳ないので、と言って、役人、さる。
「お母様にも、よろしくとお伝えください」
「えと……はい……」
夕焼け空を一人見上げるみほ。
漠然とした不安とともに将来を考える。
子供、戦車道、これからの人生、etc...

////////////////////最後の夕食
通常のメニューに加えてアンツィオ組がパスタをふるまう。
グロリアーナ組は食後の紅茶をふるまう。
西隊長と杏は、次回入院の折はすき焼きとアンコウ鍋をふるまうと確約。
命名、明日の別れを惜しみつつ、食らう。
ペコと福田も一緒のテーブルで。

みほはご飯を食べつつ、華と沙織の様子をうかがう。
やっぱりどこか、何かが変。なんとなく、お互いに気をつかいあってる感。
沙織、みほの探るような視線に気づく。
数瞬、二人は見つめあう。
けれども結局沙織は何も言ってくれなかった。
みほ落胆。

////////////////////深夜・大部屋
みほ、沙織に起こされる。
沙織曰く、「二人だけで話をしたい」
戸惑いと喜びと不安を一緒くたに感じつつ、二人で中庭の池へ移動する。
並んでベンチに腰掛ける。雲の少ない月明りのまぶしい夜。それほど寒くはない。

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沙織「みぽりん、ごめんね。昨日か」

沙織「私、みほにひどいことしてるって……どうしても辛くて」

みほ「……。」

みほ「すごく寂しかった」

みほ「どうして、何もいてくれないんだろうって」

沙織「ごめんね」

みほ「でも、今は、とっても嬉しい」

沙織「え?」

みほ「沙織さんが、私の事を、こうやってこっそり連れ出してくれたから」

沙織「~~~っ」

沙織「みほ! ほんとにごめんねぇ……!」

みほ「ううん、もう、大丈夫」

みほ「だから……『やっぱりこれは二人問題』っていうことなら、私はもう、何も聞かなくても大丈夫……」

沙織「……。私、みほにちゃんとお話ししようって、そう思ってここまできたの」

みほ「うん」

沙織「だけど、ごめんなさい……今、迷ってる……」

みほ「そっか……」

沙織「『今はまだ、二人だけの秘密にしておこう』って、華と話をしたの」

みほ「……。」

沙織「だから私、今、勝手な事をしてる。華を裏切ってる」

沙織「……だけどだけどっ!」

沙織「華だってみぽりんが心配してるってことは分かってる。だから、きっと同じように悩んでるっ」

沙織「……でも、私も、華も、今、戸惑ってるの……」

みほ「……。」

沙織「だから、この事を誰かに話すのが、まだ、怖い」

沙織「皆なら大丈夫だ!って、思ってはいるよ。だけど、どうしても、不安で……」

みほ(……。)

みほ(みんな、同じなんだ)

みほ(愛里寿ちゃんも、エリカさんも、沙織さんも、華さんも……私も……みんなそれぞれ、いろんな不安があるんだ……)

みほ(ルミさんみたいに、話さなきゃだめって勇気付けてあげる事も大切)

みほ(お姉ちゃんみたいに、いつでも聞くよって、安心させてあげる事も大切)

みほ(なら、今は──)

みほ(……。)

みほ「……沙織さん、もう、大丈夫」

沙織「え?」

みほ「ありがとうっ、もう心配ないもん!」

みほ「これで……十分だよ!」

沙織「みほ……」

みほ「二人が話してくれるのを、待つよ」

みほ「だから……これからもずっと、私のお友達でいてください……」

沙織「~~~っ、当たり前だよぉ~~~!」

みほ(……今は、これでいい……)


 ……ガサッ!


みほ・沙織「っ!?」ビクッ


華「……。」


みほ「華さん!?」

沙織「華! も、もう脅かさないでよっ!」

沙織「……。」

沙織「聞いてたの?」

華「……お二人が部屋を出ていく音で目が覚めて……」

華「初めは、気が付かないふりをするつもりでした」

華「ですが」

華「やっぱり、どうしても気になってしまいました」

沙織「……。」

沙織「怒ってる?」

華「いいえ。怒ってなんか、いませんよ」

沙織「でも私、勝手な事をしたよ?」

華「そうですが、沙織さんがみほさんにお話しをしてくださるのなら、それでもいいかなと──」

華「そう思っていましたから」

華「沙織さんの言ってた通りです。私だって、隠し事をしてるのは辛いです」

沙織「……なんだぁ、そっか……じゃあ、こっそり抜け出すこと、なかったんだ……」

沙織「……なぁんだぁ……。」

沙織「……。」

沙織「じゃあさ、華」

沙織「もう、言っちゃおっか」

華「……そうですね」

沙織「──というわけだから、みぽりんっ」

みほ「ふぇ!?」

沙織「お話し、するね。……聞いてくれる?」

みほ「! も、もちろんだよ……!」

華「私も、お隣に座ってもよろしいですか?」

みほ「ど、どうぞどうぞ!」

華「失礼いたします」

 ぎし……

みほ(わ、わ、二人に挟まれてる)

みほ(なんでだろう)

みほ(なんだかドキドキする)

みほ(お月様のせいなのかなぁ……!)

沙織「ふぅー」

華「はぁ」

みほ「……」

沙織「えっと、どうしよっか。私が話す?」

華「……いえ、今回は──やはり私に、話をさせてください」

沙織「……うん、わかった」

華「ええ」

みほ(……)ドキドキ

みほ(……なんだろう……)

華「──みほさん」

みほ「! う、うん」ドキドキ

華「聞いてください、私」

華「沙織さんと──」

華「キスをしたんです」

みほ(え)

華「……一度だけじゃありません」

華「昨日も」

華「今日も」

華「何回も」

華「偶然とかじゃ、ありません」

華「キスをするために──」

華「キスをしたんです」

みほ(……──!)


みほ(……──!)


  ──しほ「染色体共有者と被共有者の間で──」
    
  ──しほ「ある特別な感情の発生が、あくまで稀に、ではあるけれど、認められる、と。」

  ──しほ「そうした例が、これまでに十数件、国内外で報告されていて」

  ──しほ「ハァ……頭が痛いわね……」


みほ(……現実なんだ……)

みほ(……お母さん……)

沙織「みほ」

みほ「え……」

沙織「気持ち……やっぱり、悪いかな?」

みほ「……!」

みほ「そ──」

みほ「……。」

みほ(……そんなことないよ! って、……大声で言ってあげたいのに)

みほ(どうしてだろう、小さく首をふってあげられることしか、できない)

みほ(私、びっくりしてる)

みほ「ごめんなさい、私──」

みほ「びっくりして」

沙織「そう、だねよね」

沙織「私も……びっくりしたもん……」

みほ「……?」

華「実は、初めにキスをしたのは、私の方からで」

みほ「そう、なんだ」

華「沙織さんは嫌がっていたのです」

華「それなのに私が、ほとんど……無理やり」

みほ「ふぇ」

みほ「そ」

みほ「そうなんですか……」

華「はい……」

みほ(……。)

みほ(びっくりです……)

みほ「二人とも、ケンカとか、しなかったのかな」

みほ「だってその」

みほ「無理やり、だったんだよね」

沙織「……う~……えっと、ね?」

沙織「もちろん、私も抵抗したよ?」

沙織「背中を木に押し付けられて、右手ごと身体を抱きしめられて、左手は握りあげられて……」

みほ(……ひゃあああああ……)

みほ「ど、どこで、したの……?」

沙織「えっと。あっちの、イチョウの木がいっぱい生えてるところ」

みほ「あ、周りからちょっと見えにくいところだ」

沙織「うん。そこに、華につれてかれて」

華「すみません」

みほ「そ、そこで、いきなりキスをしちゃったの?」

沙織「あー、えっと、いきなりっていうかー……あー……。」

沙織「……うぅ、1からはなそっか……?」

みほ「えっと、えっと……うん……」

沙織「華、いい?」

華「はい。これは私にとっての、懺悔ですから……」

みほ(華さんが、エリカさんみたいな事いってる……)

沙織「みぽりん、気持ち悪いのなら、止めるよ……?」

みほ「う、ううん、そんなことないよっ。ただ、ちょっと……頭の中がくちゃくちゃしてるけど……」
-------------------------------------------------
・華と沙織の独白

[華]
沙織さんの事は、ずっと前から、可愛い人だななって思っていました。
ですが、もちろんそれは、あくまで友人として、同性として、です。性的な意図はあるわけはないくて。
……そのはずなのに、検査入院の少し前から、私、おかしかったんです……。
『この人の赤ちゃんが、私のお腹の中にいる』
『こんなにも可愛らしくて可憐な人の、赤ちゃん』
『妊娠できた事が嬉しい、どうしても産みたい』
衝動的にそう感じるときがあって……
あるとき、ふと気が付いたんです。
私は、沙織さんのふっくらした体を抱きしめてみたいと、思っている。
肩を、胸を、腰を、下腹部を、肌を押し当ててその感触をぎゅっと確かめてみたい。
髪の毛の匂いを感じたい……。
それどころか、一度でいいから、沙織さんの柔らかそうな唇の感触を、確かめてみたい。沙織さんの特別なところ(唇)に、触れてみたい、と
唇に……
おでこに……
ほっぺたに……
眉毛に……。
自分の感覚が異常だと思うよりも、そういった衝動のほうが強かったんです。
けれども、それはいけないこと、沙織さんもそんなことは望んでいないって思って、茶道で培った自制心を総動員して、それを抑えてきました。
──抑えていた、つもりだったんです。。
昨日、検査で疲れた夕方。沙織さんと一緒に、この池のほとりをお散歩しました。
そしたら……ほんとうに、何のまえぶれもなく、です、
一日の検査を終えた安堵で、油断していたのかもしれません。
突然、気持ちがあふれて、もう、気が付いた時には抑えきれなくなっていて……
どうしても一度だけ! 一度だけでいいから抱きしめたい! 沙織さんの身体を感じたい……!

[沙織]
「抱きしめてもいいですか」って、突然華が言うもんだから、びっくりしちゃったけど……。
でも、ハグってすごく落ち着くんだよね。お母さんとはしょっちゅうやってるし。
。むかしは、そのお父さんとも~。
だから、まぁ、いっかなって。華は大変なんだから、甘えたくなるときくらいあるよね~って、そう思って。
だから、「いいよ」っていったら……そしたら、なんていうのかなぁ。血圧検査の機械あるじゃん?
ゆっくりゆっくり腕が圧迫されていくやつ。
あれって、想像以上に強い力で締め付けてくれるでしょ?
え、どこまで絞めるの?うそ、まだきつくなるの!?って。
そんな感じで、華の腕にゆっくりと、だけどすごくぎゅっと抱き強いめられて。
あれ?あれ?って。
それに……華はなかなか抱きしめるのをやめてくれなかった。しかも、華ったら私の頭の匂いを嗅いでるのがわかって、
なんか変だな?っとは思ったんだけ。まさかあんな事になるとは思ってなかったもん。
だから、まだその時はふざけてるんだと思って「やだも~」とか言ってたんだけど。
でね、少して、華はやっと力を緩めて、少し身体を離してくれたの。
だけど、背中に回された手はまだそのままで……。
華がね、じーっと私のことを見つめるの。目つき、普通じゃなかった。
泣きそうっていうか、何かをぐっと堪えてるっていうか……正直、ちょっとどきどきしたよ。
華はカッコイイもんね。美人だし、背も高いし、落ち着いてるし……でも、華の顔がゆっくりと近づきはじめて……
華が仕様押してる事がわかたときは……怖かった。背筋がぞくってしたよ。
何これ!? 何これ!? って。
それで、私は逃げようとしたの。
だけど私の身体、華と木の間に押し付けられてて。必死に身をよじって、なんとか左手は自由になったんだけど、その手もすぐに、華の手に抑えつけられて。
……。

……。
叫ぼうかなって、思ったよ?
だけど、華、すっごく泣きそうな顔しててるのが見えて。
そしたらさ、何か理由があるのかなぁ、叫んだら華が悪者になちゃう、華はいったいどうしちゃったんだろう、とか、頭の中にいろんな事が浮かんで、もう、メチャクチャで……。
しかたがないから、今は耐えよう、そのあとで、華を問いただして、怒るのはそれからにしようって、思ったの。
華の唇が、私の唇に触れた瞬間のこと、すっごくよく覚えてるよ。私の上唇のさきっちょに、華の唇のどこかが当たった。私の身体、すっごいびくってなって、でも、逃げられなくて……そこから、ゆっくりゆっくり、唇全体がくっついていって。どこまでくっついてくるんだろーっとか、思ってたかも。


ひどい事をしているて、自覚はありました。こんなの、ご……ゴウカンと同じだって。だから、沙織さんが本気でいやがったら、その時は止めようて、そんな風に自分に言い訳をしてたんです。沙織さんがどんなに怖い思いをしているかはわかってる、だから、本気で抵抗されたら、やめようって……最低です、私。

沙織
でも私ね、結局最後まで、本気で拒否したりはしなかったの。
それがどうしてなのか今でも、よくわからない。だから戸惑ってる……。
もちろん、私はレズじゃないよ!
かっこいい男子が普通に好きだし、イケメンと結婚したいし……。
ただ……華なら、いいかなって、ほんの一瞬ね、少しだけ、そう思っちゃった瞬間があって……で、気が付いたら、それがどんどん大きくなって……。
はぁ、……よくわかんない。
私、レズな子なのかなぁ……

------------------------------------------------

みほ「……」

みほ(色んなことがすごすぎて、言葉がでない……)

沙織「それが、昨日の夕方の事」(■4日目)

華「……。」

沙織「もしもさ、他の誰かにこんなことされたら……ビンタして絶交するよ!」

沙織「でも、華の場合は、どうしてかな。そうはならなかった」

沙織「キスしたあとも、なぜか私は華と一緒にいて、一緒に晩御飯を食べてた」

沙織「もちろん、ぎくしゃくはしてたとおもうけどさ」

華「実は昨日の夜も、夜中にコッソリ抜け出して、今みたいにここに座って、沙織さんと二人で話し合ってんです」

みほ「知らなかった……」

沙織「どうしてあんな事をしたの? ふざけてるの?って、問い詰めた。そしたら華は──」

華「ふざけてなんかいません。ただ、どうしても、沙織さんと、キスがしたくて……と、正直にありのままを言いました。……ああ、恥ずかしいです……」

沙織「なんで?って聞いても、華は分からないっていうし……また、すごく辛そうな顔で……」

沙織「それで、どうしたらいいのかなっーって悩んでたら、華が……」

沙織「『だけど、もう一度、キスしていいですか?』って」

みほ「ふぇっ」

華「あああっ……」

沙織「もーありえないよね!? 馬鹿にしてるのかー!ってね!」

沙織「……だけど……」

沙織「一番ありえないのは──」

沙織「『まぁ、いいよ』って答えちゃった私……」

みほ「!? ……!?」

沙織「はぁ……もう、わけわかんないよ」

みほ「い、嫌じゃなかったの?」

沙織「そのはずだったんだけど……今はもう、抵抗ないっていうか、……ていうかむしろ、ちょっと幸せ……うぅ」

みほ「ふぇぇ」

華「沙織さんが受け入れてくれるから、私は許されているだけで……それなのに私は、沙織さんに甘えて、今日だって、何度も……! ああ……っ、私に華道を続ける資格はあるのでしょうか……」

みほ(……。)

みほ(……『資格』……)


 ──しほ「王道から外れた者に──王者たる資格はありません」


みほ「……。」

沙織「まぁ、それでとにかく、わけわかんないけど、今は普通通りでいようって、華と話あったの」

沙織「だって、こんな感情、誰にも説明できない。自分でも、よく分からないのに」

みほ「……。」

沙織「それに──」

沙織「気持ち悪いって嫌われたら──」

沙織「どうしようって、すごく怖い」

みほ(あ……)

みほ(沙織さんすごく不安そうな顔してる、それに、華さんも……)

みほ(……っ)

みほ「び、びっくりした」

みほ「すごく、びっくりしたよ」

みほ「でも……」

みほ「だ、大丈夫だよっ」

みほ(あ、ちゃんと言えた……!)

沙織「みほ」

華「みほさん」

みほ「男の人が好きでも、例え、女の人が好きでも、沙織さんは沙織さんだし、華さんは華さんだもん! 二人は何も変わらない。私のかけがえの無い友達だもん!」

沙織「……! みぽりぃん……」

みほ「で、でもでも、もっとちゃんと華さんは沙織さんの事、考えてあげるべきだと……思います」

華「みほさんの、言う通りです……」

みほ「沙織さんの事、好き……なんですか?」

華「それは……えと……よく、分かりません……」

沙織「……。それって、なんかさ。体が目当てって、言われてるみたいな気分なんだよねー……」

華「!!」

華「そんな事は絶対ありません!!!」

みほ「わああ、は。はなさん、叫んじゃだめ」

華「あっ! す、すみません」

華「ですが、私、沙織さんにだけは、そんな、身体だけが目当てだなんて思われるのは、絶対にいやです……」

華「私、一日中いつも、沙織さんの事を考えてしまっています。お腹の赤ちゃんは、沙織さんの赤ちゃんなんだって思うと、本当にすごく幸せで、私、ずっと沙織さん感じていたいって、心から思うんです」

みほ(うぅ、これって沙織さんにとってすごく重たいんじゃ……)

沙織「うー……ごめんね、私言い過ぎた。華の気持ちは、とってもきれいなのに」

みほ(あれ、沙織さんは以外と平気そう……)

華「すみません、私に怒るしかくなんかないのに……」

みほ「あの私がいけないんだ、ごめんなさい。私が余計な事を聞いたから……考える時間が、必要なんですよね……」

沙織「まぁ、それは私も、同じなのかなぁ~……」

みほ「……。」

みほ「あの、あのね、そういえば──」

みほ「えっとね、お母さんから聞いた話なんだけど──」

沙織「?」

みほ(……あ、だけど……この話、二人にしても大丈夫なのかな)

みほ(二人って、この話って、どんな意味合いを持つんだろう……)

みほ(でも、少しでも、二人の力になれるかもしれないなら……)

みほ「実はね……」


 ──────。


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みほの話を聞いて、考える二人。
この気持ちは妊娠のせい?
お医者様に報告するべき?
けれど、ひとまず、自分達が落ち着くのが先。
ゆっくり考えよう。
とりあえず解散。

みほ、布団にもどるもなかなか寝付けず。
半身半疑だった同性愛の実例(?)が、身近に表れたことで。しかも、自分にとって大切な人達。
身の回りにおこっているこの一連の現象は一体なに? 
みははいっそう深く意識するようになっていく。



■6日目
午前中・大ホール・最終合同レク
次回予定の検査入院についての案内、これからの生活における大小さまざまな注意点、等々、皆で説明を受ける。
→次回の予定は二週間、次々回は三週間後
ただし次回次々回については二日のみの入院。今回集めたデータとの差分観測、偏差分析が主な目的。

昼食後・正門
大洗組が最初にセンターを出発する。
すでに広場にはバスが待機している。
別れをおしみつつ、バスへ乗り込む。
出発。


夕刻。
バスは51号線を北上。
そろそろマリンタワーが目視できる。
夕日を浴びる学園艦も見える。
その巨大な艦影を、みなで眺める。
安堵を感じる。

日没後。
バスが港に到着。
学園艦のタラップが下りている。
戦車道履修者のみんなが待っていた。
各チーム毎に再開を喜ぶ。

柚子、優花里、梓が、きわだって、熱烈に。

学園艦は明日の朝に出航するらしい。

母への電話は、明日にする。今日は疲れた。

■7日目
みほ、朝6時出航の警笛で目が覚める。
久しぶりの学校と、授業。気持ちがふわふわしている。
お昼休み、皆で一緒に食堂。
ゆかりんニッコニコ。
華と沙織の間には、特にぎくしゃくしたものは見受けられない。みほも、特に何も触れない。

夜、母に電話する。
まほとエリカは現在検査入院中とのこと。
一度帰ってこいと言われる。
来週帰る、と明言。
--------------------------------
しほ「なら、エリカも家にお泊りをさせないとね」

みほ「え?」

しほ「色々、話さなければいけないことがある」

みほ「そっか、そうだね」

みほ(……お母さん、エリカさんの事「エリカ」って、普通に言うようになったんだ……)

しほ「ああ、ところで──」

みほ「?」

しほ「『紅はるか』、だったかしら」

しほ「あれは、おいしかった。また買ってらっしゃい」

みほ「……!」
-----------------------------------




■8日目~10日目
学校に通う。
久しぶりの平穏な日々。
ただし、いつもなら始まっているはずの生理が、始まらなかった。
そんな所に妊娠を実感。

■11日目
放課後、
沙織と華が、あんこうチーム戦車道倉庫に集める。
なんの用事だろうと首を捻る麻子と優花里。
みほは、察している。

4号の前で、華が宣言する。
「私は沙織さんの事が好きです。真剣な気持ちです」
驚く優花里。表面上はポーカーフェイスの麻子。
華、これまでの経緯を説明。
沙織→私はレズビアンではないけれど、今は、自分の感情に従う。華と二人でよく話し合って、それで決めた。

麻子も優花里、二人の選択を受け入れる。
沙織と華、ほっとする。
今のところは、打ち明けるのはアンコウチーム内だけということに。
ただし、他チームに対しても積極的に隠したりするつもりはないし、偽ったりもしないと。自然な在り方で。

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華「お母様にどういえばいいのかは、まだ、分かりません」

華「ですが、それでも今はまだ……沙織さんへのこの気持ちを、ありのままに愛でたいのです」

麻子「それでいいんじゃないか。私達はまだ、モラトリアムの中にいるんだ」

優花里「そうですよっ、将来を考える時間は、まだまだ沢山あるはずです! 急いで言う必要なんてありませんよ!」
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みほも心からおめでとうを言う。
と同時に、姉とエリカを想う。
四号の前にたたずむ沙織と華の姿が、まほとエリカの姿にぼやける。
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みほ(もしも……もしもお姉ちゃんとエリカさんが、同じようにお互いを想うのなら)

みほ(私は)

みほ(二人を応援してあげたい)
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みほ、自分の気持ちの変化に驚く。
なぜだろうと、自問自答する。もちろんすぐに答えはでてこない。
ただ、自分は「同性愛者」とひとくくりにの言葉でとらえているけれど、そこには決して一言では言えない、いろんな気持ちがあるんだ。そしてそれって、すごく素敵に感じられる。
親友二人の姿、みほはそんな事をぼんやりと考える。

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みほ(それに、もしも家元の問題がお姉ちゃんやエリカさんを困らせるのなら)

みほ(だったら──)

みほ(その時は──)

みほ(代わりに私が──)

みほ(……っ!?)
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自分の考えたことに驚いて、言葉にするのをやめてしまう。
どうして自分はそんな事を考えたんだろう。
混乱する。
三日後に、熊本へ帰る。その事を思う。
あんなに帰るのが嫌だったはずの実家なのに、今は、それをおもうと胸の奥が高揚する。
あと数日で、母に会える。

■12日目~14日目
学校、休日。
戦車道はお休み。

■15日目
実家の敷居をまたぐ。
びくびくせずに、堂々とまたぐ。
『紅はるか』は三箱買った。
懐かしい中庭を一人で歩く。
風景のなにもかもが懐かしい。
けれど今日は、前を歩く姉の背中はない。
縁側の障子の奥から、母の声がした。
『みほ?』
緊張が全身を駆け巡る。それにあらがって、凛とした声で返事する。
「はいっ」

まほとエリカは、明日帰ってくるとのこと。
ふたりで晩御飯を食す。
以前よりは、話が弾んだ。
自室に戻る。
自分が飛び出した時のまま、やっぱり何も変わっていない。
夜、ふと目が覚める。壁に掛けられた黒森峰の制服を眺める。過去を振り返る。

おしっこに行きたくなる。
トイレに向かう途中、母の部屋の障子からもれる灯り。
役人から聞いた戦車道の話を思い出す。
けれども、障子を叩くのはまだためらわれた。

■16日目
お昼すぎ、まほとエリカが帰ってきた。
母はちょうど外出中。
みほ、玄関で二人を迎える。
玄関で、エリカと向かい合う。
油断すると、まぶたに何かがこみあげてきそうになる。
声が震えているような気がして、なかなか口がきけない。
玄関で、しばらく二人して向かい合う。
まほは、エリカの隣で何もいわすにたたずんでる。
唐突に、エリカがみほのほっぺたを軽く叩いた。
ぺちっ! 
はたいた格好のまま、エリカの手はみほの頬に添えられている。
みほが、その手を握る。
(エリカさんの手だ)
ちょっぴりまだ細い気がするけれど、
スカイプで話した時よりは、もとにもどってきてる。
------------------------
みほ「お、おかえりなさいっ……で、いいのかな……」

エリカ「まだ早いわよ、ばかね」

みほ「うっ……お、お姉ちゃんに言ったんだもん」

エリカ「……あっそ」

まほ「ただいま、みほ」
-------------------------
この家の玄関で、みほが私を出迎えてくれる。いつぶりの事だろう。



エリカの部屋が、すでに西住家にはできていた。
みほの隣の部屋。
養子計画は着々と進行中。

みほ、華と沙織のことをハタと思い出す。
まほとエリカの間の様子は、今のところ以前と変わらない。



夕方。
母帰宅。

晩御飯。
しほは、寿司を取ってくれた。
お父さんは出張中でいない。
4人で寿司を囲む。
エリカさんはタマゴ巻が大好き。
エリカとしほ、ずいぶんと接し方が自然になってきている。
入院検査やらの話で盛り上がる。

黒森峰はサンダースと合同であった。
→アリサのパパは、メグミ。ケイはママでもパパでもない。……にもかかわらずケイも合同検査に参加してた。これも隊長としての義務よHEY-!みたいな勢いで、強引に。(センター側:サンプルデータを収集する事はまぁ無駄ではないか……と了承)
ケイさんは凄いなぁ、とみほ感心。

ちなみに場が暗くなりかねない話題は、みんな意図的に避けている。
奇妙な連帯感を肌で感じていた。

食後は、気持ちを切り替えてまじめなお話しに。
養子の件。
逸見家側の了承はとれていること。
逸見家内での意志確認もほぼ終了しているとのこと。
(養子はあくまで合理主義的形式的なもの、等々)
そのたもろもろ、意思確認。
この時点で全員の意思疎通はほぼ完了。
西住エリカカッコカリ。
やったね家族がふえるよ。

就寝。
まほの提案で、三人一緒に居間で寝ることに。
しほは自室に引き上げた。
(お母さんも一緒にとは言い出せなかった。本当は言いたかったけど。なんとなく、姉やエリカの手前、甘えんぼって言われそうで)
三人の語らいへ→




区分け
■1日目~5日目
検査入院編

■6日目~14日目
大洗編(幕間)

■15日目~
里帰り編

一点だけ、アンケートさせてください。
まとめの書き方についてです。


*このままの書き方でいい→1

*主観情報を無くして、もっと淡々と箇条書きにしてくれ。(だるくて読む気無くした、等々)→2


どっちがいいのか、迷っています。

*(書き込みTEST)


[みほ エリカ まほ]





       まほ スッ…
  !   ↑
[みほ エリカ   ]




  まほ))) ススス…
  
[みほ エリカ  ]




   …。
 まほ
     …。  …。
[みほ エリカ  ]




 
  Panzer…
まほ
   !?   …!
[みほ エリカ ]





      
      Vor! kyaaa!? Vor!
[(((まほ Σみほ エリカ)))]

*(書き込みTEST)
---------------------------

     みほ エリカ まほ

---------------------------

---------------------------

            まほ スッ…
       ?     ↑
     みほ エリカ  

---------------------------

---------------------------

    まほ))) ススス…

  
     みほ エリカ  

---------------------------

---------------------------

    …。
  まほ
       …。  …。
     みほ エリカ  

---------------------------

---------------------------

   Panzer…
  まほ
      !?   …!
     みほ エリカ 

---------------------------

---------------------------
      

   Vor! kyaaa!? Vor!
(((まほ Σみほ エリカ)))


---------------------------

→川の字に布団をならべて、西住三姉妹(仮)の語らい。

布団並び:
[みほ・エリカ・まほ]

まほが少しはしゃいでいる。
→普段よりもいくらか口数が多く、声に弾みがある。
ふとんの上で不自然に何度も寝返りをうったり。
みほ、姐の童心を感じて嬉しい。
エリカさんはちょっぴり困惑しているみたいだけれど、それはけっして嫌な困惑じゃなくて、ドギマギな困惑っぽい。(隊長がなんか可愛いんだけど……)

中学校時代の話、高校一年生時代の話。
三人は様々な記憶を共有している。
幸せ。

思い出話が時を駆け上るにつれ、第九回戦車道大会決勝の記憶がみほの脳裏にちらつきはじめた。
嫌な思い出を閉じ込めている、無意識の蓋。それが開こうとしている。
姉の無表情、エリカの怒声、母の冷たい声、それらが、蓋の隙間から漏れ出してくる。
そんな自分が、みほは嫌。

------------------------------

みほ(はぁ……)

みほ(この感覚、一生消えないのかな……)

みほ(……。嫌だな、何もこんな時に思い出さなくてもいいのに)

みほ(せっかく、お姉ちゃんと、エリカさんと、こうして……)

エリカ「──こら」

みほ「え?」

エリカ「あんたねぇ、露骨に口数、へらしてんじゃないわよ」

みほ「っ……べ、べつにそんなこと、ないです……」

エリカ「ふん、バレバレよ。……だって、私も意識しちゃってるし……」

みほ「え……」

エリカ「……。」

まほ「ふむ」

まほ「そうか」

まほ「やはりまだ、ひっかかるのか」

みほ「……。」

エリカ「……。」

まほ「エリカ」

エリカ「はい」

まほ「隊列を組み直すぞ」

エリカ「……はい?」


--------------------------------


     みほ エリカ まほ


--------------------------------

--------------------------------

            まほ スッ…
       ?   ?
     みほ エリカ ↑


--------------------------------

--------------------------------

        まほ))) ススス…

        
     みほ エリカ   


-------------------------------- 

--------------------------------

  まほ
      one-tyan…?
     みほ エリカ


--------------------------------


    yoisyo…
  (((まほみほ!? エリカ!?



---------------------------------


みほ「わ、わっ、お、お姉ちゃん!?」

まほ「エリカ、お前もだ」

エリカ「へ?」

エリカ「……。」

エリカ「……はぁ……」

エリカ「了解です」

みほ「エ、エリカさんっ!?」


---------------------------------


     まほみほ エリカ


--------------------------------

--------------------------------

        !?  sikatanaiwane…
     まほみほエリカ)))


----------------------------------

みほ「ふぇぇええぇぇええぇぇぇ」

エリカ「ねぇもう少しそっちに行ってよ、私のお尻がはみでてんのよ」

まほ「待てエリカあまりみほを押すな、私がはみでる」

エリカ「あぁ、すみません」

みほ「ひゃあああああ」

みほ「ひゃあああああ」

みほ(私、お姉ちゃんとエリカさんに、もみくちゃにされてるよぉ……)

まほ「さて、みほ」

みほ「な、なに?」

まほ「カウンセリングを始めようか」

みほ「カウンセリング!?」

まほ「案ずるな。私とエリカのカウンセリングは、おそらくは今やすでにプロ級だ」

みほ「そ、そうなの?」

まほ「何度カウンセリングを受けたと思ってる」

みほ「受けたから上手になるって、そういうものなのかな……」

エリカ「五月蠅いわね、私がここまでしてあげてるのよ。文句言うんじゃないわよ」

みほ「えええ」

みほ(お姉ちゃんとエリカさんの吐息が、耳元にあたるよぉ……)

みほ(お姉ちゃんの、テンション、少し変だし……エリカさんも、つられてるみたいだし……)

みほ(……だけど……なんだか楽しいなぁ……)

『去年のあの決勝戦での出来事、私達はどう受け止めるべきなのだろうか?』
→1年越しの真剣シャベリバ十代。いまならばできるはず。


●西住流ならば過去にとらわれず前を向いて歩くべきでは?

エリカ→たしかにそうかもしれません。だけど辛い記憶というものがどれだけ己を縛るかということ、今回の件で私もそれを体感しています。西住流とひとくくりにして黙殺できる問題ではないでしょう。

みほ→エリカさんありがとう。エリカさんがそう言ってくれて、とっても嬉しい。 前を向いて歩かなきゃって、私も思ってる、でもやっぱり、心の奥でしこりになってる。どうしたらいいのかなぁ。

まほ→考えてみよう。ところで私やエリカにとっては、あの出来事はどうなのだろうか? 私は──みほが戦車道を止めてそれで幸せになれるのなら、それもいいと思っていた。西住流が(というよりもお母様だが……)みほを苦しめているのは分かっていたつもりだからな。
……だが、それではみほの心の問題を解決する事にはならなかったのかもしれない。私は浅はかだったのだろうか。今はそれを後悔している。だからこうやって、改めて気持ちを確認したい。

みほ(お姉ちゃん、そんな風におもっててくれたんだ)

エリカ→私にも後ろめたいところはあります。あの時は私は本当に怒ってました。決勝にまけたか。らじゃありません。みほが黒森峰をやめるといったからです。みほに裏切られたと思いました。だからそのしかえしに、みほを傷つけてやりたくて仕方がなかった。……バカだった。後悔してる。今なら正直に言えます。……ごめん、言っていいわよね?

みほ→うん。

エリカ→ありがとう。戦車道を止めたいならやめればいいって、あの時は本気で思っていましたし、本気でみほにそう言いました。何日かして、すごく後悔。……結局黒森峰にもどってこなかったし……その事で余計に腹が立って……色々な後ろめたさや後悔を、みほへの軽蔑と怒りに転化させました。はぁ、とうとう言っちゃった……。

まほ→良く言えたな、偉いぞエリカ。

みほ→エリカさん……。

まほ→みほは、どう思っている? あの当時のことを。

みほ→え、えと……あの時の事を思い出すと。辛いです。気持ちが沈みます。

(まほ、みほの顔にゆっくりと自分の顔を近づける)

まほ→ああ、わかっているよ。私達は今、それがなぜかを、探ろうとしているんだ。それぞれ私達にとって、何がしこりなのか、どうすればそれを解消できるのかを。

みほ→う、うん。

まほ→具体的に、何を思い浮かべて、気持ちが沈む?

みほ→……お姉ちゃんの顔、エリカさんの顔、お母さんの顔。みんな、怒ってる。

エリカ→え……。

まほ→……。

エリカ→けどさ、私と、その……仲直りっぽいこと、できたじゃない……できてるわよね? なのに、そういう嫌な気持ちはまだ消えないの?

みほ→そうです……。

まほ→私達は今、再びこうして一緒にいるじゃないか。それだけではダメなのか?

みほ→私も、そうは思うんだけど、なんでかなぁ……。

エリカ→……少し前のワタシなら、昔のことをいつまでもひきずってんじゃないわよ!って、偉そうに言えたんだけどね。……今はもう、言えなくなっちゃった。あーあ、我ながら情けないわ。

まほ→いや、だがしかしエリカ、私はそれを良い変化だと思う。

エリカ→そうでしょうか? 西住流としてはよろしくないのではないでしょうか。

まほ→そうかもしれない。だが私としてはそういうエリカを好ましく思う。

エリカ→……。(///)

みほ→……。(エリカさんにお姉ちゃんをとられた感)

---------------------------------------------


その後も、明確な結論はでず。
『こうやって話すことが大事なんだよ』、それっぽくまほが〆た。
たしかにちょっとだけ、蓋の奥のドロドロが和らいだような気がするみほ(語尾ではない)



■17日目
午前中
母の車に連れられて、熊本中央病院へ行く。

しほ「こちらの病院でも一度検診を受けておきなさい。手帳の登録もあるから」

-----------------------------------------------------

家を出発してまだすぐ、ど田舎のあぜ道。
運転席・しほ
助手席・みほ

みほ「……あのね、お母さん」

しほ「何?」

みほ「赤ちゃんの事なんだけど」

しほ「ええ」

みほ「えっとね……」

みほ「私、あかちゃん」

みほ「熊本で産みたいなって──」

しほ「……。」

 ……キキィィィィィイイィイィイッ!!!(急ブレーキ)


みほ「わあ!?」

みほ「お、お母さん!? どうしたの!?」

みほ(タヌキか何かがいたのかな……!?)

しほ「……。」

しほ「車を脇に寄せるから、少し待ちなさい」

みほ「え……は、はい」

みほ(あれ? お母さん、怒ってる……?)


 ブゥゥウゥゥゥン……。


みほ(え? え? 怒らせるようなこと、言ったのかな)

みほ(……熊本で産んじゃだめなのかな……そんな……)


 ……キィッ。


しほ「……。」

みほ「……。」

しほ「叱ろうかと思ったけれど──」

みほ(え)

しほ「考えてみれば、その点についてはまだキチンと話を、していなかったのね」

しほ「……急に止まって悪かったわね。お腹は大丈夫?」

みほ「え、う、うん……」

しほ「では聞くけれど──」

しほ「み、ほ?」(助手席側に、瑞っと顔を寄せてくる。)

みほ(ひっ!?)

しほ「貴方はどこで出産をするつもりだったの? まさか、『大洗』じゃないでしょうね? ……以前にも似たような会話をしたと思うけれど?」

みほ「え、え、え……!?」

みほ(お、お母さん、すっごく怒ってる???)

みほ「そ、そうじゃなくて、なんとなくぼんやりと、熊本で産むのかなーって思ってたけど……あらためて、ちゃんとお母さんにお願いしておきたくて……」

しほ「……。」

しほ「そうですか。そういう事なら、叱りはしませんが」

しほ「国の施設での出産になる可能性も、と、これも以前に言ったわね。けれど、そうでない場合は当然、この熊本で──」

しほ「──まぁ、地に足の着いた考え方を、多少はするようになったのね。あなたも」

みほ「え……」

みほ(よく分からないけど、褒められちゃった)

みほ(……ほんと……)

みほ(こうやってお母さんと)

みほ(以前なら考えられなかったような雰囲気で、お話しできることが増えてきた)

しほ「まだ他に、何かある?」

みほ「……えと、ないです」

しほ「そう、じゃあ行くわよ」

みほ「……うん」

 ぶろろろろろろ……。

みほ「……。」

みほ(ホントは、他にも聞いてほしい事があったけど……まだ、ちゃんと考えがまとまってない)

:高校は大洗で卒業をしたい。でも大学は熊本でいきたい(かもしれない。)
:それってつまり、黒森峰の大学にいきたい(のかもしれない。)
:もっというと私も正式にもう一度西住流の人間になりたい(……のかなぁ?)
:それと、(子供が施設から帰ってきている間は)お母さんやお姉ちゃんやエリカさん達と一緒に熊本で子育てをしたい……

--------------------------------------

熊本医療センターにて

「あそこの一号分娩室で貴方を生んだ。まほは三号分娩室だったわね」
そんな事を覚えている母を、少し意外に思った。

診察台で股を開くのには、いつまでたっても慣れない。

院内の食堂でお昼ご飯を食べる。今更ながら、沙織と華の件を(名前は伏せて)母に話す。
まほとエリカには、まだ兆候は見られない。
「何も起こらないのならば、このまま話す必要はないのかもしれない、そうも思ってる」
珍しく消極的なその姿勢に、母の苦悩を感じた。

帰宅途中、熊本市内でチンチン電車と併走する。
家族で熊本に遊びにきた時に、よく利用していた。

二時頃、帰宅。
まほとエリカは縁側でくつろいでた。
二人は退院(?)直後でもあるから、今日はゆっくり。
みほも混ざり、のんびりすごす。戦車談義。

夕方、三人で犬の散歩にでる。
いぬ、大勢での散歩が嬉しいようで、ハシャグ。
畑の中の土道。
エリカさんが先頭でリードを引き(あるいは引っ張られ)、その後ろを、みほとまほがついていく。
姉に問う。
「お母さんが、なんだかすごく優しくなった気がする」
姉は、一歩、二歩、三歩と歩いたのち、少し口元を緩ませながら、
「お母様も心配なんだろう。みほの事が」
「そうなのかな」
エリカさんが、振り返る。
「『そうなのかな』って、何よそれ、当たり前の話じゃない」
「そうなんだけどね……」
西住のお家にもね、いろいろあるんだよ、エリカさん。……なんちゃって。

夜。
夕食を女4人で食べる。お父さんは──海外出張頑張ってね。

今晩は、三人それぞれの部屋で寝る。
寝る前に少しだけ、エリカさんの部屋へ遊びにいく。
まだ家具があまりなくて殺風景。
写真立ての一つに自分とエリカさんの並ぶ写真を見つける。
少し照れる。
その20分後くらいに、
「……っ!」
エリカさん、その写真の事を忘れていたのか、一人でこっそり照れてた。
まだ完璧ではないけれど、二人の時差が、少しづつ解消されている気がする。

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■18日目
エリパパエリママが挨拶にきた。
こうやって親戚付き合い(?)をする機会をちょくちょく設けているらしい。
エリママはみほの事をちゃんと覚えてくれてた。とってもうれしいみほ(語尾ではない)

取り立てていう事のない、穏やかに時が過ぎていく。
──という和やかな雰囲気を皆で協力して作りあげようとしている。
みほもそこに加わる。連帯感が心地よい良い。
晩御飯、6人で一緒に外食。
お店の前で、エリママエリパパとは分かれる。

運転席:しほ
助手席:まほ
後部座席:みほ・エリカ

変な感じがして、むずがゆい。

明日の予定を確認しあう。

みほ:朝、家をでて大洗へ帰る。(用事ついでに母が車で駅まで送ってくれる)
まほ&エリカ:お昼頃、家をでて学園艦へ戻る。
姉やエリカと別れるのが少し寂しい。

最後の夜は、またと三人で一緒に寝ることにした。

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まほ「私はみほの頭を撫でてやる必要があるのかもしれないな」

みほ「……へ?」

みほ(お姉ちゃん、またおかしなテンション……)

まほ「エリカと話し合ったたのだが──」

みほ「う、うん?」

エリカ「前にも言ったけど、私が今元気でいられるのは、隊長のおかげよ」

みほ「うん」

エリカ「私が何か不安になるたび、隊長は必ず私を慰めてくれる。何度でも、いつまでも」

エリカ「頭を撫でてくれたり、お腹を撫でてくれたり」

エリカ「なら……」

みほ「……私にも同じことを?」

エリカ「私や隊長が、あんたのトラウマの一因であるのなら、なおさらね」

まほ「どうだろうか、みほ」

みほ「ど、どうって……」

みほ「えと、えと、ありがとう、二人がそこまで考えてくれて、私すごく嬉しい。だから……も、もう大丈夫です」

みほ「……は、恥ずかしいし……」

まほ「……。」

まほエリカ」

エリカ「はい?」

まほ「囲むぞ」

エリカ「……はいっ」

みほ「二人とも!?」


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     みほ エリカ まほ

---------------------------

---------------------------

            まほ スッ…
       !     ↑
     みほ エリカ  

---------------------------

---------------------------

    まほ))) ススス…

  
     みほ エリカ  

---------------------------

---------------------------

    …。
  まほ
       …。  …。
     みほ エリカ  

---------------------------

---------------------------

   Panzer…
  まほ
      !?   …!
     みほ エリカ 

---------------------------

---------------------------
      

   Vor! kyaaa!? Vor!
(((まほ Σみほ エリカ)))


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みほ「わああああ、だ、大丈夫、ここまでしてもらわなくても大丈夫だからぁ!」

エリカ「みほ」

みほ「な、なに」

エリカ「ふざけてると思ってるのかもしれないけど──」

エリカ「私も隊長も、マジだから」

みほ「へ……」

エリカ「ふざけてこんな事するほど、私は酔狂じゃない」

みほ「へぁぇぇぇ……」

まほ「よく言ったぞエリカ……よしっ」

 ぎゅっ

みほ「ひゃ」

 なでなでなでなで

みほ「わああああ」

まほ「大人しくしていろ、みほ」


 なでなでなでなで


みほ(……あ、あ、何これ……すごい、これ、とっても落ち着く……お姉ちゃんの手、気持ちいい、頭のテッペンがぽかぽかする……)

まほ「柔らかいな、みほの髪の毛は」

みほ「……うぅ……」

みほ(あ、でも、本当に……気持ちいい……)

みほ「……エリカさん、これをいつもお姉ちゃんにしてもらってるの?」

エリカ「ま、まぁね」

みほ「……ずるい」

エリカ「し、しかたないじゃない」

エリカ「あぁ……それとね、これも、すごく気持ちいいのよ」

みほ「え……っひやぁぁぁ!?」

エリカ「ちょっとっ、大きな声ださないでよ!」

みほ「だってエリカさんが私のパジャマの中に手を──!」

みほ「って……あ……」

 くるくるくるくる

エリカ「あんた、子宮の位置ってちゃんと把握してる? おへその下、拳一つ分くらいの……まぁ、このあたりなんだけど」

みほ(あ……これって紗希ちゃんがみんなにやってもらってたクルクルマッサージだ……)

みほ「ふぁ……エリカさんの手、暖かい」

みほ(体がふにゃふにゃになっちゃう、夢ごこちだぁ……)

エリカ「でしょ、人にやってもらうと、すごく気持ちいいのよ」

みほ「これも、いつもお姉ちゃんに……?」

エリカ「……まぁ」

みほ「……。」

エリカ「何よその目は」

みほ「じつは私ね、エリカさんの事をすこし恨んでる」

エリカ「な、何よ、急に……また黒森峰の話?」

みほ「ううん、そうじゃなくて」

みほ「エリカさんに、私のお姉ちゃんを、とられちゃった……って」

エリカ「っはぁ!?」

まほ「……ふふ、面白いことを言うんだな、みほは」

みほ「ほんとにそう思ってるもん」

まほ「なら心配するな、ほら、私の手は──」

まほ「二本あるだろう?」

みほ「……」

まほ「エリカとみほ、二人の頭を撫でてやるさ」

みほ「……。」

みほ「だけど」

みほ「片方は、赤ちゃんのためにとっておかなきゃ」

エリカ「……!」

まほ「……。」

みほ「エリカさんの赤ちゃんをよしよししてあげるために」

まほ「……みほ……」

みほ「お姉ちゃん」

まほ「ん?」

みほ「エリカさんと──」

みほ「エリカさんの赤ちゃんと──」

みほ「一杯よしよし、してあげてね……」

まほ「あぁ、わかっている」

エリカ「私は……あんたの子供だって、ちゃんと撫でてあげるわよ」

みほ「……。」

みほ「……ねぇ、エリカさん」

エリカ「何よ」

みほ「頭、撫でていい?」

エリカ「……っ、だ、ダメ……調子にのらないで」

みほ「ずるいよ……」

みほ「……」

みほ「えいっ……」

エリカ「あっ……」


 よしよしよしよし

 くるくるくるくる

 なでなでなでなで

みほ(……あぁ、気持ちいいなぁ……)

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■19日目
午前7時
みほ、目が覚める。
まほとエリカはまだ寝ている。

三人絡み合ってあられのない寝相。

みほはまほに抱き枕とされ、かつ、エリカの手がみほのズボンの中に突っ込まれている(子宮マッサージの名残)

まほの匂いにつつまれて、みほ幸せ。エリカの手の平も下腹部に暖かい。ヘブン状態。
そのまま二度寝──しようかとうつらうつらしていたら、
突然、スーッと部屋の障子があいた。足音に気付かない程度の絶妙な半寝をしていたらしい。
みほ、でぎょっとする。
廊下からこちらを見おろしているのは──エプロン姿の母。顔がこわばっている。。
みほ、母と見つめあい固まる。
体は硬直しているが心臓だけはバックバク。

「……」

しほ、何かを押し殺すように、眼をぐっと閉じ、長い長い一息を吐く。
そしてそのあと、スーッと障子を閉めて、静かな足音が遠のいていった。
みほ、気を失う様に、二度寝。
30分ほどたって、三人とも目がさめた。ごそごそしていると。
母がまた襖をあけ、
「朝食を食べなさい」
と何食わぬ顔で言った。

午前8時頃朝食
4人で食べる。
しほは今朝の事には特に何も触れてこない。
母にみられたこと、まほやエリカには秘密。みほは一人でドキドキしてた。

家の玄関でエリカとまほに見送られる。
口には出さないが、それぞれの顔に、押し殺しきれない心残りが見えた。

母の運転で駅に向かう。
駅に向かう間、大学の事を、ちょっとだけ相談してみるつもりだったが……朝のことがあったので、やめてしまった。

駅に到着。
友人へのお土産を買いなさい、と一万円を受け取る。驚く。
「連絡を欠かさぬこと」
そういって、母は去って行った。

土産には3000円くらいしか使いきれなかった。
贅沢をして、東筑軒のかしわ飯弁当を買う。
列車の中で、一人でのお弁当。寂しい。少し、涙がでた。今朝までは一人じゃなかったのに。
気を紛らわせるために、エリカさんと、沙織さんと、どうでもいい内容のメールをした。
沙織さんから写メが届く。華さんと一緒に、着物姿で並んでいた。華道をやってるっぽい。楽しそうでよかった。

夜、大洗にたどり着く。
学園艦が、夜の海辺で静かに巨大にたゆたってた。

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区分け
■15日~19日
熊本里帰り編

かなり走り書きなので、誤字脱字いつも以上にたたあると思いますが、堪忍です。

■20日目
第二回検査入院初日。
(みほはぎりぎり前日の晩に大洗に戻ってきてた)

皆、二回目なので少しだけ気持ちに余裕がある。
つくばへのバス移動中も、ちょっとした旅行気分にさえ。

みほ→熊本ですごした時間を振り返る。
大学の事、西住流の事、将来の事

:……あれ? いまのところ世間にはこの妊娠のことは秘密だけど──お腹が大きくなり始めたら、どうするんだろう?」
今まで通りに学校に通うことも、できなくなるのでは?


今更それに気づく。
会長に聞く。
『上の人達がいろいろ考えてくれてるよ』
デーンと構えてる会長。


昼すぎ、霊長類医科学研究センター到着。
ローズヒップさんの紅茶の飲み方がどことなく優雅になってる。アッサムさんはちょっぴり物足りなさそう。アッサムさんはもっともっといっぱいローズヒップの世話を焼きたいのだ。やさしー。

日暮れまで検査がたて続く。
特に何事もなく、めいめいメニューをこなす。

晩御飯はチハタンによる『すき焼き』。
食堂が宴会場みたいになった。

夜、愛里寿ちゃんと池のほとりでボコ談義──をするつもりだったが、イチョウの林の中に、じっと見つめあう沙織さんと華さんを発見。
みほ、愛里寿ちゃんの手をとって引き返す。
やだもー。

愛里寿ちゃん、お母さんにはまだ本当の気持ちを話せてない様子。
→……とうよりも、ルミのおかげで本当に妊娠がへっちゃらになってきた。『本当の気持ち』とやらはすでに過去のものになりつつある。
ならば、あえて『(数日前までの)本当の気持ち』を話す意味ってあるの?
→むしろ、『お母さん、私を心配をしてくれてありがとう。でも大丈夫、私がんばるよ!』って前向きな気持ちをこそお母さんに伝えたい。
と、明るい声で思いを述べる愛里寿。
みほびっくり。
「時間が解決する、ってこーいうことなのかな……」
もちろん、それってルミさんと愛里寿ちゃんの心の強さあってのこと。

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みほ(この先何がどうなるか……私に想像できることって、ほんのちっぽけな範囲の事でしかないんだ)

みほ(黒森峰から逃げ出した時だって、自分が転校先でもまた戦車道を始めることになるだなんて少しも思っていなかった)

みほ(私がちゃんと想像できるのは、あくまで私一人のことだけなんだ。そんな狭い世界の中だけで、私はあれこれ考えて一喜一憂してる)

みほ(だけど現実には、私に想像できないことがいっぱい起る。それってつまり……私が一人じゃないからなのかな? みんな、が私と一緒にいてくれるからなのかな……!)
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とっても大切なことに気が付けたような気がして、すっごく気持ちが明るくなれた。
妊娠して以来、こんな風に気持ちがはずんだのは、本当にはじめてじゃなかろーか……。
と思ったら、そうでもなかった、お母さんが振り向いてくれた時、姉やエリカさんにもみもみしてもらっていた時……あれ? もしかして私ってすごく幸せなのかなぁ? なんか、気持ちがドエライぽわぽわした。

■21日目。
一日検査。
だけどみほはまったくへっちゃらだった。だって私はみんなと一緒。
もう何も怖くない。

昼、屋上で休憩がてら日向ぼっこをしている時、ルミさんと一緒になった。
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ルミ「実は、『隊長の本当の気持ち』、家元には私からこっそり伝えてあるのよね。今のところ隊長は心配ありませんよ、ともね」

みほ「え!?」

ルミ「おっと、愛里寿隊長には秘密だからね?」

みほ「え、えと……でも、それって……良いんですか……?」

ルミ「うーん、良いか悪いかは分からないけどね。だけどそれが、私の役目だわ」

みほ「ルミさんの、役目?」

ルミ「愛里寿隊長と、愛里寿隊長の赤ちゃんを守る事。家元ときちんと連携をとりながらね」

みほ「……。あの、一度ルミさんに聞いてみたかった事があるんです」

ルミ「なに?」

みほ「ルミさんは平気なんですか。急に自分が、赤ちゃんのパパになってしまって」

ルミ「ん……まぁ、それはねぇ。もうちょっと色々遊びたかったなぁって感じはあるかなぁ……」

みほ「はぁ」

ルミ「随分早いうちに人生決まっちゃったなーって、そう思う時は、たしかにあるかな」

みほ「人生が決まっちゃった……?」

ルミ「だってさ、カタチはどうあれ島田流家元の娘さんを孕ませたっちゃんだから、そりゃもう責任とるしかないわよねぇ」

みほ(は、孕ませた……)

ルミ「まぁけど、戦車道やって食べていければいいなぁとは思ってたし、そういう意味では、島田流に骨をうずめる事になってよかったのかもね? 家元の家族ならとりあえず食いっぱぐれはしないでしょ」

みほ「……」

みほ「ルミさんて……すごいです」

ルミ「へ?」

みほ「ちゃんと自分の将来のことも考えてるし、くよくよせずに前向きだし……私なんて、まだまだで……」

ルミ「あはは、私だって、高校生の頃は何も考えてなかったわよ。むしろ今の貴方のほうがよほどたくさん考えてる」

ルミ「ま、ともあれ」

ルミ「そりゃあ、いろいろ真剣になるって」

ルミ「なにせ私は──」

ルミ「隊長を愛してるからね!」

みほ「ふぇっ」

みほ「あ」

みほ「愛、ですか」

ルミ「そうそう、愛だよ、愛。にひひ」

ルミ「おっと、これも隊長には秘密だからね?」

みほ「は、はい」

みほ「……。」

みほ「……。」

みほ(思い切って、……聞いてみよう……)

みほ「あ、あのっ!」

ルミ「なに?」

みほ「と、ということはその、ルミさんは、その」

みほ「レ」

みほ「レ」

ルミ「レ……?」

みほ「っ……レズビアンさん! なんですか!?」

ルミ「……へ?」

ルミ「」

ルミ「」

ルミ「ぷ──」

ルミ「あははははははははははは!」

ルミ「あは! あはひぇえっへへ!」

みほ「ふぇ!? え、ええ!?」

ルミ「あは、あはは……ひー、ああ、ごめんね笑って……!」

ルミ「あーだけど……ほんっと、面白いわねぇ貴方って」

みほ「?? え、え、えと、えとえと……???」

ルミ「ひー……隊長が貴方を好きな理由が、私も少しだけわかったわ……」

みほ「ふぇ、あ、愛里寿ちゃんが私を……」

ルミ「……ふー、あーやっと収まってきた……」

ルミ「おっほん、あのね、一つ教えてあげるけど」

みほ「は、はい……?」

ルミ「愛にとっては、男も女も関係ないのよ?……なんちゃって」

みほ「え……」

ルミ「いやー、さぁて、気分転換もできたし、私はそろそろ、愛する隊長のところへ戻るかなぁ。じゃ、またね?」

みほ「え……」

ルミ『あー、おかしかったぁ……』


(ルミ、去る)

みほ「……。」

みほ(……やっちゃった……)

みほ(ルミさんの言った『愛する』って……)

みほ(『大切に思う』って、そーいう意味でいったんだ……きっと……)

みほ(それなのに私は早とちりをして……とんでもない事を聞いちゃった……)

みほ(……うぅ、恥ずかしぃよう……)
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みほ、昨日は自分がなんだかとっても賢くなったような気がしていたけれど、今は、自分がとっても馬鹿みたい。

夜・食堂
今日はアンコウ鍋。

愛里寿の隣に座っているルミが、これ見よがしに愛里寿にあーんをしてあげたりしつつ、みほの方を見てニヤニヤ笑ってくる。
自分の発言を思い出してめっちゃ恥ずかしいみほ。

ほどなくしてアンチョビさんとペパロニさんが絡んできてくれた。
ルミさんの視線を気にする余裕がなくなったので、二人には内心ですっごい感謝。



■22日目。
次の入院は一週間後。
大洗に帰る。
学園艦は明日の夕方出航とのこと。



■23日目。
久々に登校。
華さんと沙織さんが教室で仲良くしてるのを見ると、なんだかドキドキしてしまう……。
(沙織さんと華さんはこの数日間に何度キスをしたんだろう? どこで、したのかな……)
すごく興味があるけれど、本人達にそれを聞ける性格ではなかった。

//////////////放課後。
学校に大きなトレーラーが何台もやってきて、戦車を全て運んで行ってしまった。
物質・材料工学専攻事務室というところに運びこんで、精密に検査を行うそうな。
戦車の積み下ろしを行うために、学園艦はまだ出航せずにいたのだ。
全員で校庭にでて、戦車を見送る。
優香理さんは最後まで、去っていくトレーラーに手を振ってた。

がらんどうになった戦車倉庫がすごく寂しい。
自動車部の4人が、空っぽになった倉庫をじっと眺めてた。

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すずき「……。」

ナカジマ「……。」

つちや「……あーあ……」

ほしの「……。」
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たたずむ四人の背中と、つちやさんがぽつりと漏らした寂しそうな呟きとが、みほの印象に強く残る。

-----------------------------
みほ(……あぁ、そっか……)

みほ(戦車達と、一番長く一緒にいたのは、私でも優香理さんでもない)

みほ(自動車部の皆さんなんだ)

みほ(本当にありがとうございます、皆さん……)
-----------------------------

ウサギさんちーむとアンコウチームで一緒に下校。

道すがら、

「あ! 戦車はつくばに運ばれるんでしょー? じゃあさ、次の検査入院の時さ、ついでに見に行けないかなー!」

桂利奈ちゃんが嬉しそうにそうに叫ぶと

「ずるいよ! 私も検査入院したいですぅー!」

と、優香理さんがすごくゴネた。
さすがに潜入は難しいかな。



夜・家でふと心細くなる。
→戦車がなくなったら、戦車道の隊長でなくなったら、いったい私はなんなんだろう?
気持ちがざわざわするので、エリカさんにメールをする。
→黒森峰も一昨日戦車が運び出されたらしい。

『隊長、辛そうだった』



■24日目
登校。

戦車もなくなってしまったし戦車道の履修時間、どうしよう……?
→戦車道倉庫にて『マタニティ・クラス』開設。

講師:杏、河嶋、柚子(よーするに生徒会)
生徒:戦車道履修者全員

おふざけかと思いきやすごくまじめで実践的な内容。
みほ、杏の勉強量とその質の高さに驚く。

みほ(会長はとても真剣に勉強してるんだ……)

*初級クラス、上手なおっぱいのあげ方!
-----------------------------------

杏「はーい、じゃあこの授乳人形ケンタ君を使って、実際におっぱいをあげる練習だー」

杏「ではまずー……つちやちゃん!」

つちや「ええ私!?」

ホシノ「おー、がんばれ、つちや」

杏「じゃ、まずはおっぱいを出してね」

つちや「へ!? 皆の前でですか!?」

杏「だって授業だし」

つちや「いやいやいや! 絶対嫌だよ!」

杏「でもねー、赤ちゃんがお腹をすかしてるのに、恥ずかしがってらんないよー?」

そど子「そう言えば……私のおばさんも、割と人前で普通に……もちろん、男性がいない場で、だけど」

つちや「ほ、ホントに……?」

梓「でも確かにこれは大切な行為です、そう考えれば、全然恥ずかしいことなんかじゃ、ないのかも」

つちや「えええええ……ほ、ほしのぉ……」

ホシノ「頑張れつちや! 素敵なお母さんになるんだろ!」

つちや「うぅ……」



 ……ぺろん



桂利奈「わー」

あゆみ「おっぱいだぁ」

つちや「い、言わないで……」

杏「じゃ、ケンタ君をこーやって抱いて」

つちや「リアルな人形だなぁ……わ、ちゃんと体重も再現されてる……」

杏「上手く抱けたら、口の中に乳首をいれてね。」

つちや「えと……こうかな……」


 きゅぽ


つちや「ん」

みほ(……わ……)

みほ(まるで本当におちちを上げてるみたい)

みほ(なんだかとっても、尊い……)

みほ(みんなも、つちやさんの姿に見とれてる)

沙織「なんか……いいね、こうやってみると……お母さんが赤ちゃんにおっぱいをあげてる姿って……私、泣いちゃいそう」

つちや「そ、そう?」

(その時、天窓から差し込む日が、こもれびとなってつちやにそそいだ)

カエサル「おー……」

エリヴィン「まるで聖母マリアのようだ……」

つちや「え、ええー……? えへへ、照れるなぁ」


杏「んじゃ、スイッチをいれるよー」


つちや「へ?」


 かちっ

 ……ブィィィィィィィン──


つちや「っ!?」

つちや「ちょ!」

つちや「痛っ!?」

つちや「ああああ痛い痛い痛い乳首とれるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

ナカジマ「つ、つちや!?」

つちや「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! はなしてぇぇぇぇ!」

みほ「か、会長!? 何ですかこれ!?」

杏「や、赤ちゃんに授乳をするときは、ホントにこれくらいの力で引っ張られるんだよ?」

そど子「うそぉ……」

つちや「助けてほじのぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」

ホシノ「あははは」

みほ(じゅ、授乳ってこんなに大変なんだ……)

杏「じゃ次、西住ちゃんね」

みほ「ふぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

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帰宅後、風呂に入るみほ。
左の乳輪がひりひり。
だけど、みんなで一緒に何かをやるのはやっぱり楽しい。
マタニティ・クラスなんてものを始めてくれた会長に心から感謝する。

■20日目~22日目 第二回入院検査

■23日目~24日目 幕間


結局だらだらと書いてしまっている自分にちょいと危機感。
次からはしょり気味になるかもしれません。
早よ〆るつもりで書き方かえさせてもらったのに、でないといつまでたっても終わらんですよ。



  ☆西住みほのマタニティclassめも☆

  
  ○妊娠1週目
    せいしさんがらんしさんに出会うために頑張ってる→まだ妊娠してない!(それなのに一週目?)

  ○妊娠2週目
    受精

  ○妊娠3週目
    着床

  ○4週目
    子宮の中に赤ちゃんのふくろ?ができる。生理が来なくなる。
    (⇒私達がこの妊娠事件を知ったのが、この頃)

  ○5週目
    体温が高いままになる→赤ちゃんを育てるために、お母さんの身体は一生懸命
 
  ○6週目
    赤ちゃんの心拍が聞こえ始める頃(5週目~6週目)

  ○7週目
    たいのう? たいが?

  ○8週目
    赤ちゃんが、ちょっとずつお母さんと同じ姿に

  ○9週目
    →→→  わたしたちは今ココ!  ←←←


  ○12~15週目
    お腹がおっきくなりはじめる


  ○~40週目
    出産 

}:
 





■25日目~28日目 

「たった四日間だけど、いろいろな事がありました」

 麻子さんとそど子さんが喧嘩。二日間、二人ともお互いに口を聞かず。
 きっかけは些細なこと。

 :そど子「あんた(麻子さん)に無理をしてまで早起きしてほしくない。遅刻の取り締まりについあうのはもう止めてほしい。貴方には貴方の良いところがあるんだから(勉強とか)そっちを頑張りなさい。」
 :麻子「いやだ。私はそど子と一緒に頑張るって決めたんだ」

お互いに心配をしあっているだけなのに、二人とも変に意地を張ってしまった。
 二人の事がとっても心配みほ。
 とはいえ、もそもが互いへの思いからくるいケンカ。
 沙織さんや会長が間にはいって、ちょちょいと絡み合た糸をほどけば、あっというまに仲直り。
 むしろなんでケンカしてたんだろうって、二人ともほうけてる。
 
 おりょうさんがつぶやいた→『夫婦喧嘩は犬も食わない』とはこの事ぜよ……。

 麻子さんとそど子さん、ケンカの前よりもずっと仲良しになれたみたいです。




「継続高校のミカさんが、私達の学園艦にふらっと現れた事もありました。(ミカさんは妊娠してる!)」:麻子さんそど子さんのケンカと同時進行
 
 そのミカさんを探して、アキさんとミッコさんがやってきたり……(アキさんが、ミカさんの赤ちゃんのパパでした!!)。
 なんで心配ばかりさせるのよ!ってアキさんは泣いていました。ミカさんはひどいです。
 だけどミカさんもちゃんと反省したみたいで、放浪趣味はしばらく我慢するよって、そう言って、三人で一緒に石川県へ帰って行きました
 
 『この子は風にのって運ばれてきたのさ』

 ミカさんのその言葉が忘れられない。ミカさんは、赤ちゃんのことをとっても歓迎しているみたい。
 私はどうなんだろう?
 この子のために頑張ろうって思ってる、でも、この妊娠自体を、私はどう思ってるんだろう。ミカさんや、それにローズヒップさんや華さんのように『私のお腹に受胎しにきてくれてありがとう』って、
 そんな風に、私は思えてるのかな?





■29日目~31日目(第三回検査入院)

「皆であかちゃんのエコー写真を見せ合いっこしました!」

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みほ「わぁ~! みんな可愛い!」

ダージリン「うふふ、この子の写真が一番よく撮れていると思わない?」

みほ「はい! なんだかもう、うーぱーるーぱみたいですよね!」

ダージリン「……。」

ダージリン「ウーパールーパー?」

みほ「はい、このさきっぽとか! ちっちゃい手の平なのかなぁ……! わぁ~お腹の中でぱたぱたしてるのかなぁ、かわいいなぁ~……」

ダージリン「……。」

オレンジペコ「みほさんはとてもユニークな感性をもっていらっしゃるのですね。とっても、ええと、素敵?……です」

ダージリン「私くしとしたことが、この場にふさわしい格言が一つたりとも思いうかばなくてよ。おやりになりますわね、みほさん」

みほ「?」
---------------------------------------

沙織さんや桂利奈ちゃんにも怪訝な顔をされたけど、愛里寿ちゃんだけは「わかる! うーぱー!」ってすごく共感してくれた。
 写真で赤ちゃんの姿を間の辺りにしたときから、やっぱり、皆の気持ちがいっそう変化しはじめたように思いう。
 私のお腹にこの子がいるんだって、ホントの意味で理解できたような気がする。
 皆、自分の赤ちゃんんお写真をいつも持ち歩いているみたい。


 暇なときは中庭の池のほとりで物思いにふけるのが、入院中の趣味
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みほ(私のパパが誰なのかは、結局まだわからないまま)

みほ(いつか、分かる日がくるのかなぁ)

みほ(誰なんだろうね)

みほ(貴方のお父さんは……)
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 事件の調査は、あいにくなかなか進展していない。いくつかの仮説?は提示され始めているようだけれど、どれもまだまだ不完全。
 『検証実験』が行えないのが解明を阻む大きな壁。
 本格的な実験をするってことは、『誰かに妊娠のリスクを負わせる』ってこと。 
 出来る範囲の、害のない実験だけを繰り返して、なんとか手探りをしている。大人の人達、頑張ってる。

 麻子さんは研究についての資料やこのセンターにある分厚い本にたくさんを目をとおして、いっぱい勉強してるみたい。そど子さんのためでもあるのかな?

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みほ「ノートをみせてもらったけど、書いてあることが難しくて私にはぜんぜん理解できませんでした。やっぱり、麻子さんってすごい……」

そど子「でしょ? 朝が弱かろうが、遅刻ばかりだろうが、そんな事どうだっていいのよ。冷泉さんは冷泉さんの才能を大切にすればいいんだから。そのほうがよほど人のためになるもの」

みほ(そど子さんは、なんだか「理解のあるお母さん」みたいな事を言うようになりました……仲直りしていらい、なんだか貫禄があります)
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 勉強をしてる麻子さんの隣で、勝手にくつろいでるそど子さん→入院中によく見かけた風景。


「研究室に運び込まれた戦車たちは、げんざい分解作業中らしいです。パーツをどんどん細かく分解していって、『いったいどの部品の重量(質量)が減少したのか』を、
 突き止めるそうです。気の遠くなるような作業……(この話を聞いた時、つちやさんとホシノさんが、天井を仰いで呻いてました)」
みほ(ちゃんと元通り組み立ててもらえるのかなぁ……)


「関東にいるわたしたちは、出産までの間、立川にある米軍横田基地へ移住させられるかもしれないそうです。妊娠の件を機密にするためだとか。
 優花里さんなら喜ぶのかもしれないけど、私はちょっぴり不安です」

■32日目~35日目
学校に行く。
戦車道の時間を利用して、杏主催のマタニティ・クラス。

お母さんたち(妊娠組)、皆この授業を楽しんでる。
検査入院中のエコー写真もあいまって、それぞれが、より具体的な将来を意識しはじめていた。
これからお腹が大きくなって、生活はどんどん変化する、そしていずれは、赤ちゃんを産む……それらを不確実な未来の事としてとらえるのではなく、
差し迫った現実として。

不安におののく気持ちもあれば、あるいは希望を持とうと前向きになろうとする気持ちもある。
それをみんなで語り合い、共有する。
そのためのマタニティ・クラス。

仲間と一緒に力を合わせて前進できてる感。

ぼんやりとではあるけれど、未来にたいしとして明るい希望を感じ始めてる。
ダージリンさんの言葉を思い出す。
「あの頃は大変だったねって、皆で笑いあえる日がいつかきっと必ず来る」
たいへんだけど、みんなと一緒でなら頑張れる。
子育てもきっと大変だけど、それだって、力を合わせてやればいい。こうやって、共に学びながら。悩みを打ち明けあいながら。

みほ(そうあるためにこそ、会長は、みんなの輪をつくろうとしてるんですね)

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杏「──よーし、そいじゃっ、今日の授業は赤ちゃんのおちんちんのとり扱い方についてだぁー!」

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自分と会長の出会い方はあまり良いものではなかったけれど、それでも今はとても会長を尊敬してる。

授業が終わって、皆が戦車道倉庫を出て行こうとする中で、

みほ「わたし、『この人が私の赤ちゃんのパパだったらいいなぁ』って、そう思う人が何人かいて……会長も、その一人です」

って伝えると、会長が、珍しくマジメに照れた。

杏「おおー、西住ちゃんに愛の告白をされちゃった……うぁー、まいるなぁ……」

みほ、ルミさんの口にした「愛」という言葉の意味が、少しだけ理解できたような気がした。

みほ(私は同性愛者じゃないけれど、こういう『愛』なら大歓迎です)


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杏「もー不意打ちはずるいよ。西住ちゃん」

みほ「楽しい授業をありがとうございますって、そう伝えたくて」

杏「ん……西住ちゃんがそういう風にいってくれると……ホント……どうしていいのか、わからなくなっちゃうよ」

みほ「? どうしてです?」

杏「まぁ、あんまりいい出会い方じゃなかったからね。西住ちゃんとは、さ」

みほ「え……」

杏「今更どの口が言うんだって話だけどねー、あはは」

みほ「……。」

杏「それにね」

杏「私が戦車道に引き込まなければ、皆が妊娠はしなかったんだろうなーって、そんなふうにも、私は思ってる」

杏「いつだったか、冷泉ちゃんに言われた言葉は、こたえたよ。こたえたし……それってやっぱり、事実なんだ」

杏「だから、こうやって私が頑張るのは、当たり前のことなのさっ」

杏「ありがとうだなんて……そんな言葉、私には受け取る資格ないんだよねぇ」

みほ「……。」

みほ(……エリカさんからみた私も、こんな風なのかな)

みほ(去年の黒森峰での事を忘れられない私)

みほ(今年の大洗での事を忘れられない会長)

みほ(同じなのかなぁ)

みほ(……)

みほ(大胆不敵で威風堂々……みんな、会長の事をそんな風に思ってる。)

みほ(だけど、本当は会長だって私達とおんなじ、普通の高校生なんだって──)

みほ(そう気づいたのは、いつのころ?)

みほ(だけど、それに気づいたからこそ、私は会長を本当に尊敬してるんです)

みほ「……。」

みほ「あの、会長」

杏「なぁに?」

みほ「今日の放課後、生徒会室へいってもいいですか?」

杏「ん? どして?」

みほ「会長の子宮を、マッサージさせてください」

杏「……ほぇ!?」

みほ「とっても気持ちいいんですよ、人にお腹をくるくる~ってしてもらうと」

杏「え、ええー……し、子宮を? マッサージ? えー……」

杏「あ、あーっと、ちょっと今日の放課後は、忙しいかなぁー、あははー……」

みほ「じゃあ今晩でいいです」

杏「へっ」

みほ「夜、会長のお家にいっていいですか?」

杏「……に、西住ちゃん、……からかってる?」

みほ「……。」

みほ「……ごめんなさい、ちょっとだけ」

杏「も、もー! 勘弁してよ西住ちゃーん! あ~びっくりしたなぁもぉ!」

みほ「でも、感謝してるのはホントです、ありがとうございます」

杏「わうー、かったわかった、素直に感謝を受け取るよ、はぁ~……ほいじゃっ、またからかわれないうちに、さっさと退散するよ~」

みほ「はい」

杏「ばいば~い」

みほ「……。」

みほ(もしも本当に会長が私の赤ちゃんのパパだったなら)

みほ(きっと私、すっごく嬉しかっただろうなぁ)

みほ(ローズヒップさんの気持ち、今ごろだけど、少しだけ理解できるようになりました)

みほ(『この人みたいに、私の赤ちゃんもなってほしい』って、そう願う気持ちが、これなんですね……)

みほ「会長……」







みほ「……。」

みほ(……あれ??)

みほ(なんだろう、会長の足に──)

みほ(糸?)

みほ(赤い糸が、垂れてる)




みほ「──?」



みほ(真っ赤な──毛糸のパンツを履いてる?)

みほ(その糸がほどけて)

みほ(それが垂れ落ちて?)

みほ(静電気で太ももにくっついて──)

みほ(なんだかまるで血が流れてるみたいに……)

みほ(……。)

みほ(……違う……)

みほ(糸じゃない)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ「血?」




みほ「か──」

みほ「会長!!!」

杏「? どしたのさ、大きな声だして」

みほ「会長、足……」

杏「? 足?」

みほ「……。」



 ──あ

 ──今、むこうで、河嶋先輩と小山先輩が、私の声に気付いてこちらを振り向いた──変なの、どうして私は、冷静にそんな事を気が付いてるんだろう──こんな時に──


杏「え」

杏「何これ」


 ──会長が、指先で太ももをさわった、赤い糸が……こすれて途切れた……指先が赤く……──


 ──あ、河嶋先輩と小山先輩がこっちへ向かって歩きはじめた。距離、5メートル、かな──

 ──あぁ、そんなこと、どうだって──


杏「……」

杏「だめ……」

 ──どうしよう、私、体が、動かない──


小山「会長? どうかしましたか?」

河嶋「西住?」

みほ「……」


 ちがう、河嶋先輩──私じゃなくて──


みほ「会長が」

河嶋「ん?」

河嶋「会長? どうかしまし──」

河嶋「……え」


 ──二人の視線が、会長の太ももに──


 会長も、まだ固まって──


小山「……!?」


 あ。

 小山先輩の

 表情が歪んで、

 小山先輩が

 口に手を当てて、悲鳴を──



小山「か……!」

小山「かいち──」


杏「──小山っ」


小山「っ!?」

河嶋「!?」

みほ(!?)


杏「叫ぶな」

杏「叫んじゃ、だめだ」


小山「え……」

杏「叫んだら、他の皆が気がついちゃう」

杏「だから、だめだ」

みほ(……!)

小山「で、でも」

小山「血が」

小山「会長、血が……」


杏「小山っ、いいからっ」

杏「大丈夫……私の気はしっかりしてる」

杏「だから、よく聞いて」」

杏「大丈夫……私の気はしっかりしてる」

杏「だから、よく聞いて」

杏「深呼吸をして、それから河嶋と二人で──」

杏「救急車」

杏「救急車を呼んで。病院に直接電話だ。特事例A,サイレンはならさずに!」

小山「……は、はい……」

杏「二人で一緒に行くな。……一人にはなるな! 一緒にいろ!」

小山「っ……はいっ」

杏「よし、わかったら……行けっ! 河嶋も!」

小山「桃ちゃん行くよ!」

河嶋「え……」

小山「桃ちゃん!!」

河嶋「でも……だけど会長が、血が──」

小山「っ……しっかりして桃ちゃん! 会長を助けなきゃ!!」

みほ(か──)

みほ「河嶋先輩、早く!」

河嶋「……っ!!」

河嶋「っ、あぁ……ああああ!!」


 だだだだだだだ!!!!


杏「……。」

みほ「……。」


杏「……西住ちゃん」

みほ「……会長」

杏「……どうしよ」

みほ(……。)

みほ「……わかりま、せん」

杏「……はは、だよねー」

みほ「……ごめんなさい」

杏「ま、救急車は二人が呼んでくれるし、そうだね、正門へ移動しとこっか?」

みほ「は、い」

みほ(……。)

みほ(会長)

みほ(会長はどうして)

みほ(そんなに平気そうに──)


杏「あー、やれやれまいったなぁ──」


 ふらっ


杏「あぇ?」

みほ「──危ない!」


 がしっ!


杏「っ……お、おー、危なかったぁ、西住ちゃんありがとう、抱きとめてくれて。ころんでお腹をうつところだった」

みほ「……。会長……」

杏「……あー」

杏「だめだ」

杏「歩けないや」

杏「足に力が……入らないや……」

杏「……うん」

杏「こりゃだめだ」

杏「あぁ情けない」

杏「はは、は」

みほ「会長……」

みほ(……会長の身体……震えてる……)

みほ(……っ)

みほ(落ち着け……落ち着け……!!!)

みほ「あの、ここで座って、待っちましょう、あんまり動かない方が」

杏「あぁ、そだね」

みほ「じゃあ、ゆっくり、腰をおとして……私にもたれかかってくれていいですから……」

杏「うぃ、あんがと……はー、あー、ふー」

みほ(……会長の呼吸、変だ……)

みほ(やっぱる、動転してるんだ)

杏「はー、ひー、あー……おぉー、やばい、身体が震えるわぁ……おー、ほほほ、なんか笑えてきたよ」

みほ「……っ」

 
 ぎゅうううう


杏「あー、ありがと」

杏「いやぁ、おちつくね、ハグは良いね」

杏「はー、あぁー、うぅー、はぁー、あはは……」

杏「うん、落ち着いた落ち着いた」

杏「ふぅー、ふぅー、あー、ふぅー」

杏「あー、まいったね、あー、ははは」

杏「あ、痛、痛つつ……はーっ、はーっ……おー、これは、痛てぇー、」

みほ(会長……っ)


 
梓「──わ、隊長? 何してるんですか?」

エルヴィン「おーい、なんかいま生徒会の二人が血相変えて出て行ったが……」


みほ(……!)


梓「え……会長!? どうしたんですか? ひんけつですか!?」

エルヴィン「おっとっと、いかんな、えっと、水を持ってきたほうがいいかな」


みほ「ま、待って二人とも──」

桂利奈「なになに、どしたのー?」

エルヴィン「会長が気分悪いみたいだ」

そど子「え? なに?」

沙織「大丈夫? みぽりん」

典子「ありゃりゃ、立ちくらみかな?」 


 どやどやどや


みほ「あ、あの、皆さん待ってください」

みほ(だめ……! 今は静かにしてあげなきゃいけないのに)

みほ(会長)


杏「はーっ、はーっ、はーっ……」


みほ(……っ)

みほ(もうちゃんと周りを見れてない)

みほ(小山さんと、河嶋さんに指示を出すのが、精一杯だったんだ……!)


紗季「……。」

紗季「……!?」


あゆみ「? 紗希、どうしたの?」

紗季「血……」

優花里「ほぇ? ……!?」

優花里「会長、足に血が……!?」

つちや「え……ちょっと、これ……」

スズキ「おい、……まずくないか!?」


みほ(だめ、だめ、このままじゃ、皆が!)


そど子「救急車! 救急車を呼ばないと!」

左衛門座「あ、いや! それはもう生徒会の二人が!」

そど子「呼びにいったの!? 間違いない!?」

エルヴィン「え、えと、たぶん、そのはずだが──」

そど子「多分じゃだめよ!!」


みほ(──会長……!)



みほ「み──」

みほ「皆さん! 静かにしてください!」



『……!?』

みほ(あ)

みほ(私、無意識に首元に手を当ててた。戦車の上じゃ、ないのに──)

みほ(まぁ、何だっていい。今は、会長を──)



みほ「──みなさん状況を説明します、落ち着いて聞いてください。会長が、お腹から出血をしてます。原因はわかりません。」

みほ「救急車は河嶋先輩と小山先輩が呼びにいってくれています」

みほ「今、私達が騒いでも何にも意味はありません。会長のために、静かにしてあげたほうがいいと思います。」

みほ「各チーム、伝わりましたか?」



典子「……う、うん……」

そど子「え、ええ……」

梓「皆、静かにしよう……」



みほ(……。)

みほ(倉庫が、怖いくらいに静かになった)



杏「はっ……はっ……はっ……はっ……」

みほ(会長の小刻みな呼吸の音だけが、小さく響いてる──)



あゆみ「……かいちょぉ……」

梓「あの、隊長、何か私達にできることは……」

みほ「……」

みほ(そんなの、私にもわからないよ……)

みほ(でも)

みほ(そんな風にいっても、皆を不安にさせるだけ)

みほ(……っ)

みほ「か、考えてあげてくださいっ」

梓「……え?」

みほ「落ち着いて、考えてあげてください。自分が今、会長に何をしてあげられるのか、って」

みほ「私はこうして、会長を抱いていますから」

そど子「……。」

そど子「……血。血を拭いてあげたほうがいいかしら……」

麻子「あ……そうか。そうだな」

そど子「ほ、保健室から、ガーゼを取ってくる!」

麻子「私も行く」


 たたたたた!


ナカジマ「なぁ、門の前で、救急車を待ってようか、早くここまで案内できるように」

ズズキ「そうだな、そうしよう……、みんな、私達は救急隊員をここまで誘導してくる」

梓「お願いします!」

エルヴィン「水……やはり水をもってこよう」

あけび「あ、ポカリのほうがいいかも……私、鞄にはいってるからもってくる……!」

エルヴィン「すまん、たのんだ!」

優花里「えと……きっと、担架で会長を運びますよね? だったら、倉庫正面の鉄扉を開けておいた方が」

沙織「そっか、そうだね!」

華「行きましょう!」


紗季「……。」

紗季「かいちょ……。」

みほ「紗希ちゃん、会長の手、握ってあげてくれる……?」


紗季「……。」コクン


ぎゅっ


杏「あ……?」

杏「……あぁ、紗希ちゃんかぁ……」

杏「……にひひ」

杏「……あんがとね」


紗季「……っ。」

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■36日目
角谷杏、学園艦内の病院で不全流産を確認。
手術を受け子宮内の残留胎児を取り出す。

みほ、生徒を代表して会長を見舞う。(小山と河嶋は、すで昨日から会長に付いている)
病院のベッドに横たわる杏の姿にショックを受ける。
杏、気丈にふるまう。
河嶋、今だ目がはれている。
小山、表情は沈んでいる
杏の笑顔だけが、異質。

「まー、こればっかりはしかたがないよ、起こり得ることなんだ」

「で、さ。西住ちゃんにお願いしたいんだけどさぁ、マタニティ・クラスの講師役、引き継いでくれないかなぁ」

みほ「私なんかに会長の代わりは務まらない」と固辞する。
けれど、これは西住ちゃんにしか託せない、西住ちゃんは隊長なんだから、と押し切られる。

「ごめんね、結局いつも、わたしは西住ちゃんに頼ってばかりだ」

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病室:ベッドの上で体をおこしている杏。右側にみほ、左側に小山と河嶋


杏「西住ちゃんにもらってほしいものがあるんだ」

杏「出産や子育て関係の本、いっぱい買ったんだよ。西住ちゃんにあげるから、授業に役立ててほしい」

杏「それと、私が書いたノート。こいつで3冊めだ。いつも鞄にいれて持ち歩いてんたんだけど……」

杏「これも含めて、全部受け取ってくれないかな。 私が持っていても、もうしかたがないし……」

杏「しばらくは、妊娠の予定もないしね、あはは」

みほ「……。」


:杏、窓の方に顔を向ける。みほの座る角度からは杏の顔が見えなくなる。窓の外は、気持ちの良い晴れ空。


杏「……見せてあげたかったな……」

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■37日目
 戦車道倉庫にて、皆に杏の流産を報告。
 命に別状はないけれど、会長はしばらく入院をする。
 生徒会業務は小山が行い、河嶋は会長の元にいる。
 戦車倉庫の空気が重い。

 みほ、自分がマタニティ・クラスの講師を引き継ぐと伝える。
 明日からはまた授業をやる。
 明るい反応は帰ってこない。
 みんな、俯いている。

 会長の代わりに、自分がみんなを繋がなければいけない。
 それは分かっている。わかっているけれど、虚しい。
 どうしても気持ちが落ち込む。
 会長はいったい何のために、妊娠から今日まで、頑張ってきたんだろう?






■38日目
 マンションに大量の本が届く。段ボール1箱分。小山先輩からだった。
 全部、出産や育児に関する本。それに、杏の書いた大学ノートも3冊。
 会長が譲りたいと言っていた本たちだ。

 ノートはびっしりまとめで埋ってる。
 ものすごい勉強量だ。

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みほ「この、一番新しいノートの一ページ目……日付は、1週間くらい前かな」



『どうだ! 
   母はお前のためにこんなにも一生懸命に勉強をしたのだぞ!? 感謝しろ! 
      ところで、このノートの最後のページは、お前のためにとってある!

         いいか、感謝の気持ちを良く考えて丁寧に書き込み、それから私に提出をすること!
             いつかお前に娘だか息子だがができたら、その時は一緒にこれを見せてやろうじゃないか!
                    母より 』



みほ「……。」

みほ(会長は、誰よりも未来のことを考えてた)

みほ(漠然とした未来じゃなくて、いつか必ずおとずれる本当の明日を)

みほ(……すごすぎます……)

みほ(やっぱり、私なんかにはとても……)



 ぺら、ぺら、ぺら、ぺら……



みほ(ノートは途中で終わってる。最後のメモは……3日前の日付)

みほ「……あ」



 『  続きは頼んだぞ! 西住ちゃん!  』



みほ「ふふ、会長……」

みほ「……。」

みほ(……頑張らなきゃ)

みほ(……頑張らなきゃ)

みほ(そう、思っているはずなんです……)

みほ(だけど、どうしても、力が湧いてこないんです……会長……)


 ぱらぱらぱらぱら……


 ぱらぱらぱらぱら……


みほ「……?」

みほ「ノートの最後のページだけ、すごくたわんでる……?」

みほ(このページは、赤ちゃんにとっておいてあげるはずのページ……)

みほ(……ん、一番下に何か書いてあ──)





 『 
       ごめんね 
                 』






みほ(……私宛、じゃないよね)

みほ(……)

みほ(河嶋先輩へ、かな)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(違う)

みほ(違う……!)

みほ(違う違う違う違う……!!!!!)


みほ「……っ」

みほ「……あぁ、ああ……ああああぁっ……」

みほ「かい、ちょお……」

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会長が、赤子を抱いて笑っている。どこかの野原の、ありもしない花畑の中で。

目覚めた後、さめざめと泣いた。

ずっと、夢を見ていられたらいいのに。

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■39日目

朝、地震と地響きで目が覚めた。それに家も傾いているような。
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みほ「地震って……ううん、そんなわけない。ここ、船の上なのに……!?」

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ベランダにでてみるけれど、何が起こっているのかはまだ良くわからない。

学校へ行く。
みんなも地震には気が付いているけれど、何が起こっているのかは分かっていない。

さておき、放課後、気分転換に街へ行こうと沙織や華に誘われる。
気のりしないけれど、二人の気遣いは無下にできない。

あんこうチームで街を巡った後、話の流れで艦橋の展望台へ。
その展望台から町を眺めて、5人は初めて今朝の地震の原因を理解した。

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沙織「が、が、学園艦がもう一隻、隣にくっついてる!?」

華「今朝の揺れと音は、その音だったのですか……?」

麻子「ででででかい船だな」(←高いとこ怖い)

優花里「あれって……プラウダ高校の学園艦ですよ!」

みほ「……カチューシャさん……!?」

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直後、艦外放送が鳴り響く。

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ぴんぽんぱんぽ~ん↑


『こら~!!ミホーシャ一体どこにいるのよ!!!』


みほ「!?」


『カチューシャの命令よ! いますぐ学校にもどってきなさーい!』


麻子「相変わらず元気なお子様だな」

優花里「なんという近所迷惑……」

みほ(だけど、カチューシャさんはいま大変なんだって、以前ダージリンさんが言ってたはず……)



『カチューシャ様そったら大声で叫んだらここさ艦のかたがたに迷惑だべ』

『そもそもカチューシャ、みほさんの携帯に連絡をとればよいのでは?』

『っぐ……ミホーシャの番号知らないのよっ……』

『連盟に事情を離してみほさんのお母様と連絡をとり──』

『あーもー! うるっさいわねチマチマしたのは私の性にあわないのよっ!!』

『そったらこといっても学園艦で体当たりするのはさーすがにやりすぎだじゃー……』

『体当たりじゃないわよ! せ・つ・げ・ん!!』


ぴんぽんぱんぽ~ん↓


沙織「……えっと、とりあえず、学校に行く……?」

みほ「う、うん……」

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学校にいくとカチューシャ達4人が大洗の面々と一緒にみほ達を待ってた。
→カチューシャ、ノンナ、アリーナ、ニーナ


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みほ「か、カチューシャさんどうして……(ここにいるんですかandそんなに元気なんですか)」

カチューシャ「……杏の見舞いにきてやったのよ」

みほ「……!」
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カチューシャさん、元気ないんじゃなかったんですか?
→たしかにその通り。当たり前に子供を産むのは難しいといわれて、女性を否定された気分にもなった。自分の子供さえちゃんと産んであげられないなんて、私っていったい何なんだろう。何様なんだろう。
→一時期はだいぶん落ち込んで、ノンナもすごく気を病んでた。
→それを救ってくれたのは、ほかならぬニーナ。落ち込むカチューシャを何とか元気づけてあげようと、八甲田に住む祖母の元へとカチューシャを連れて行った。
でもどうして祖母のところへ?
→ニーナの祖母の身長はカチューシャよりも更に小さい。だけどそんな祖母は8人の子供の母親! 『うっとこのおばーしゃんならカチューシャ様をうまくはげましてくれるはずだべー!!』→その目論見大成功!!!
なんやかんやでカチューシャ元気を取り戻す→ノンナはニーナに大感謝→プラウダ高校におけるニーナの発言力、地位がともにぐっと高まった。ちなみにニーナも妊娠中、パパはアリーナ。

杏も病院から外出をしてきていた。



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杏「西住ちゃん、授業……あんまり上手くいってないんだってね」

みほ「……。」

みほ「……はい……すみません……」

杏「……」

杏「……ありがとうっ」

みほ「え?」

杏「私や、あの子のために、そうやって落ち込んでくれてさ……すごく嬉しい。ごめんね、私、とてもひどい事をいってるよね……だけど本当に、ありがとう……」

みほ「……っ、かいちょお……!」
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夜、カチューシャの提案で水子供養を執り行う。

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カチューシャ「お葬式っていうのはね、生きてる人達のためでも、あるんだから」

カチューシャ「昔の人達は、今よりももっと流産や死産なんて当たり前……その辛さから立ち直る手めに、こうやってみんなで手を合わせるのよ」

ノンナ「カチューシャ……立派になりましたね……」

カチューシャ「へへん! ……ま、ニーナのおばあ様の受け売りだけどね。さ、ちゃんと分かれを言いなさい。……誰にも邪魔はさせないから」

杏「ありがとね、カチューシャ」

杏「……。」

会長は、それから一言も口を開かず、目をつむって、ずっとずっと、海のかなたにむかっててを合わせていました。
その隣で、私も一緒に。そのまた隣では、他に皆さんも、一緒に……。

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■25日~28日
 ・麻子さんとそど子さんのケンカ
 ・継続高校の皆さん

■29日~31日
 ・第三回検査入院
 ・うーぱーるーぱ

■32日~35日
 ・角谷杏のマタニティ・クラス
 ・杏の出血

■36日
 ・杏の流産

■37日
 ・無気力みほ

■38日
 ・会長のノート

■39日
 ・カチューシャとお葬式

タイムリミットが迫ってるため書きなぐり上等スタイルです。
誤字脱字、見苦しいかと思うが申し訳ない。

杏「河嶋ごめん……赤ちゃん、いなくなっちゃった……」

っていうセリフを杏に言わせたかったけど結局上手く組み立てる時間がありませんでした、ちきしょうめ。

■40日目
お葬式が一つのケジメになって、ちょっとづつ気持ちが上向いてくる。

けれどもみほは河嶋先輩の事が少し心配。

お昼休みの時間、沙織さん達と一緒に食堂へ向かう途中で、偶然に河嶋先輩を見かけた。
中庭のベンチで一人、気の抜けた座り方をして何をするでもなくただ顔を前方に向けてる。その視線を追っても特別なものは何もない。
心配ではあるけれど、今はそっとしておいたほうがいいのかな。
お昼休みが終わるころにもう一度中庭の前を通ると、河嶋先輩はまだそこにいた。

みほ(もしかして、お昼休み中ずっとああして……。)

張り付いて監視していたわけじゃないけれど、そう思えてならない。
予鈴がなると、河嶋先輩はベンチからフラッと立ち上がり、頼りなげな足どりで、校舎へと入っていった。

みほ(……。)



さておき、マタニティ・クラスの先生役に努める。
カチューシャ達も、日まではここにいるとのことなので、ついでに参加してもらう。
まだまだ会長のようには上手くやれないけれど、それでも頑張る。頑張りたい。


一方で河嶋先輩のことがやはり気にる。
マタニティ・クラスに河嶋先輩は参加していない。参加しろだなんて、言えるはずがない。

みほ(会長がいてくれたら……。だけど会長だって今は辛い思いをしてる。頼ってばかりじゃダメだ……)

杏の退院はまだ数日先。(通常の妊娠とは異なるため、時間かけて経過を詳しく観察)



夜。
一人で家にいるといろいろ考えてしまう。
姉やエリカさんの事も気になる。
もしも二人まで流産をするような事になってしまったら……。
嫌な想像をしてしまって腹の底が凍てつく。
母の声が聴きたくなる。

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しほ『──みほ、体調はどう?』

みほ「うん、私は大丈夫」

しほ『そう』

しほ『……ところで』

しほ『角谷さんの事は残念だった』

みほ(……!)

みほ「お母さん、知ってたんだ……」

しほ『理事会から連絡があったわ。情報共有は密に行われているから』

みほ「あぁ……」

みほ「あの、お母さん。お姉ちゃんとエリカさんは……大丈夫?」

しほ『ええ、二人とも元気よ。母子共々』

みほ「よかった」

しほ『……それを確認したくて、電話を?』

みほ「うん。だけどお姉ちゃんやエリカさんには、あんまりこんな話はしたくないし……」

みほ(それに……お母さんの声も聴きたかった……)

しほ『みほ、聞きなさい。二人に何かが会った時は、すぐに貴方へも連絡をする。だからあまり余計な心配をしないように』

みほ「うん。ありがとう、お母さん」

しほ『時間をみつけてまた熊本へ帰ってらっしゃい。まほとエリカ、も貴方に会いたがっているわ』

みほ「うん……うん」

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何でもない会話だったけれど、母の声を聞けて少しだけ不安が和らいだ。



■41日目
朝。
プラウダ高校の学園艦が青森へ帰る。
カチューシャとの別れ際、寂しくなって思わず抱き着く。
怒られるかと思ったけれど、カチューシャさんは何も言わずに背中を撫でてくれた。

去っていくカチューシャさんの背中に、会長の背中が重なる。
カチューシャさんは今、ノンナさんに担がれることなく自分の両足で前へ前へと歩いていく。
小さな背丈は小さいままで、だけどその後ろ姿は誰よりも頼もしい。

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 :カチューシャ、背中ごしに叫ぶ。


カチューシャ「ミホーシャ元気な子を産みなさい! ミホーシャの子供なら──」

カチューシャ「エカテリーナの従者にしてあげるわっ」

みほ「? エカテリーナ……?」


 :カチューシャ、チラリとみほを振り返り、にやりと良い笑顔を見せる。そして、自分のお腹をぽんっ!と一叩き。


カチューシャ「男の娘ならユーリねっ」

みほ「! あぁ……!」

カチューシャ「ふふふ、じゃ~ね~、ピロシキ~」


 :カチューシャ、今度こそ去っていく。仲間達と一緒に、その先頭をのっしのっしと。


みほ(ありがとうございます、カチューシャさん。)

みほ(カチューシャさんの元気を、少しだけ分けてもらえた気がします)

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昼休み。
河嶋先輩を見かける。また中庭のベンチに腰掛けて、老人のようにただ空を見つめている。
声をかけたい。
けれどどうしてもためらってしまう。いったい自分に何がいえるのだろう?
この悲劇にたいして、自分は本当の意味での当事者ではない。

だけど、とうとう思い切って声をかけた。せっかく分けてもらった元気を無駄にはできない。

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みほ「河嶋先輩っ」

河嶋「西住。どうした」

みほ「あの、よかったらお昼を一緒に食べませんか」

河嶋「……。」

河嶋「すまないが、私は遠慮する」

河嶋「あんこうチームの連中に声をかけるといい」

みほ「……そうですか……」

みほ「……。」

みほ(……もう少し)

みほ(もう少しだけでいい、私も積極的に)

みほ「……ご飯、食べないんですか」

河嶋「……。」

みほ「河嶋先輩、昨日のお昼休みもずっとここに座ってました」

河嶋「……。」

みほ「心配……してもいいですか……」

河嶋「……。」

河嶋「西住」

みほ「はい」

河嶋「マタニティ・クラス、頑張ってくれているそうだな。感謝する」

みほ「え……」

河嶋「これからも頼む。だから……私の事などは気にしなくていいんだ」

みほ「……。」

みほ「……っ」

みほ「お願いです、心配……させてください」

河嶋「……。」

河嶋「生意気だ」

河嶋「後輩のくせに……」

みほ「すみません」

河嶋「……。」

河嶋「……情けないと思ってる」

みほ「?」

河嶋「こんな時こそ、会長の代わりに私が頑張らないといけない」

河嶋「なのに……情けない」

みほ「……。」

河嶋「……西住、聞いてくれるか」

みほ「はい」

河嶋「私はあまり、賢くはない」

みほ「え」

河嶋「だけどそれでも、バカなりにいろいろ一生懸命に考えてたんだ」

河嶋「この先のことを、……三人の将来の事を」

みほ「……河嶋先輩……」

河嶋「だが、そんなこと考えてももう意味が無い」

河嶋「そう思うと……」

河嶋「なんだか……急に気が抜けてしまってな……」

河嶋「どうしても頭が動かないんだ」

みほ「……。」

みほ(ショックが強すぎたんだ……河嶋先輩にとって……)

河嶋「申し訳ないと思う。お前達が頑張っているというのに、だというのに私は」

河嶋「……まったく、情けない……」

河嶋「なぁ西住。時間が経てば、この気持ち変わるのだろうか……?」

みほ「……。」

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みほ、購買でパンを買い、それをもって河嶋のもとへ戻る。
怪訝な顔の先輩に無言で差し出す。
河嶋、しばらくためらったあと、しかたなしにパンを受け取る。
ベンチに並んで座って、無言で一緒に食べる。かける言葉がみつからないのだから、そうする事しかできなかった。



■42日目~44日目

河嶋先輩の事が心配だけど、マタニティ・クラスにも励まなきゃ。
夜更かしは母体に悪いとおもいつつも、会長からもらった本やノートを使い、夜遅くまで授業の準備を行う。

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みほ(勉強って、こんなに楽しかったんだ)

みほ(大切な知識が少しづつ少しづつ私の中に積み上げられていく)

みほ(もっともっと、出産や子育ての事をたくさん勉強したい)

みほ(赤ちゃんのためにも、皆のためにも)
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授業にも熱が入り始める。
いろんな事をはやく皆に伝えたい。そのためにも、もっともっとたくさん勉強をしたい!
力が湧いてくる!

──けれども、河嶋先輩に向けての言葉はなかなか見つけられない。
かといって、一人にはしておけない。

だから、42日目は小山先輩やアンコウのみんなと一緒に。
43日目は学校がお休みだったが、
44日目にはまたウサギさんチームと一緒に。
お昼休みのたびに河嶋先輩を囲み、無言のままで静かに食事をとった。

■45日目
今日も今日とて無言飯。
今日は歴女チームの皆さんが一緒に来てくれた。

食堂でパンやおにぎりを買い込んで、ぞろぞろと中庭へ向かう。
河嶋先輩は、今日も変わらずそのベンチに腰掛けている。ベンチは他にもあるのに、私達がくると分かっているはずなのに、それでも河嶋先輩はそこにいるのだ。
みんなでベンチを囲む。
河嶋先輩が、私達のほうを見て言った。

「お前達はローテーションを組んでいるのか」

そして、少し呆れた風にだけど笑ってくれた。
弱々しい笑顔ではあるけれど、この数日間で初めての笑顔だった。

予鈴が鳴った後。
立ち上がった河嶋先輩が、
「……すまない、ありがとう……」
ポツリと、そう呟いた。

明日、会長が退院する。



■46日目
予定では今日の夕方、会長を迎えに行くために、生徒会と紗希ちゃんとみほとで病院へ向かう。
迷惑にならないようなるべく少人数で病院を訪れるつもりだったが、紗希ちゃんだけは、どうしても自分も行くと言って譲らなかった。

だが……会長は、それよりもずっと早い時間に一人で戻ってきてしまった。丁度お昼休みの時間帯のこと。

この日はバレーボールの面々と連れ立って河嶋先輩を囲む。
例のごとく皆でまた静かにご飯をぱくつく。
会長が現れたのはこの時。
おもむろに、何気なく、当たり前のようにいつもの制服姿でベンチの前を通りすがった。
その場にいた全員の眼が点になる。

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みほ「か、会長!?!!??」

杏「ただいまー。いま戻ったよん。」

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桃ちゃん絶句。

杏「体はとっくに元気になってるわけだからさぁ、もー退屈で退屈で」

夕方まで待ってらんないや、と、一人でさっさと退院してきたそうな。
(通常、流産で入院するケースはあまり多くない。何か他に問題が無い限り)

皆も絶句。会長らしいといえば会長らしいけど。



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杏「私さ、流産についてのレクチャーをみんなにやろうと思うんだ」

みほ「……!?」
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流産は誰にでも起こり得る悲しいできごと。
だからこそ流産について真正面から向き合い、正しい知識を。
前もって考えておくことで、いざこの悲劇に直面したときに心が負けてしまわないように。それが今の私にできること。
誰もが、会長の前向きな姿勢に驚く。
それと同時に、みほは慌てる。
河嶋先輩と会長との気持ちの間に、あまりに温度差がありすぎるのでは?
河嶋先輩は今せつじつに慰めを必要としているのに、それをしてあげられる唯一の会長が、さっさと次の事を考えてしまっている。

みほ(そんなの、河嶋先輩が……可哀想だ……)

数日間モモちゃんの近くにいたみほの感情は、そういうふうに動いてしまった。

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みほ「あの、会長」

杏「ん?」

みほ「私がやります、流産のレクチャーは私がやります。いっぱい勉強します」

みほ「だから今はまだ、河嶋先輩と一緒にいてあげてください。河嶋先輩は、まだ……」

河嶋「西住……」
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けれどもそれはみほの早とちり。
会長は、「自分一人ではこれはできない」「かーしまが一緒に手伝ってくれないと無理」

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河嶋「だけど、私には無理です、そんな事できません」

杏「かーしま、悲しいのは分かる。だけど、失ってしまったものだけをいつまでも見つめるてるな。でないと、失わずにすんだものまで、失うことになる。今目の前にあるものを、大切しなきゃだめだ」

河嶋「わ──私にはそんな風には考えられません!」

杏「……!」

河嶋「私は会長のように強くはありません……会長のお考えには、ついていけません……」

杏「……。」

杏「……そうか」

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みほ、歴女メンバー、ぎょっとする。
みほあそど子と麻子のケンカを思い出す。
どうして二人がケンカをしなきゃいけないの?
会長は必死に前を向こうとして頑張っているだけ、河嶋はもう少し待ってほしいだけ、二人とも根っこにある気持ちはおなじはず。
二人が仲たがいをしてしまう事になんて絶対になってほしくない。
あわてて、二人の間に入ろうとするが……

結局、それもまたまた取り越し苦労だった。

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杏「……待つ」

河嶋「え……?」

:杏、河嶋のとなりにどすんと座る。

杏「言ったろ。私一人じゃ無理だってさ。かーしまが一緒にいてくれないと……私一人じゃとても耐えられないよ……」

河嶋「……会長……」

杏「だから、待つ。ね……はやく一緒に元気になろうよ、かーしま」

杏「でないと、あの子が余計な心配をしてしまって、天国にいきそびれちゃうよ……」

河嶋「……っ」

杏「はー……ねぇ、私にもパンをちょーだい」

カエサル「え」

杏「いやー、病院食は味が薄くてかなわないよ~。シャバの飯がこいしくてこいしくてさ~」

カエサル「お、おう……」

杏「ありがと。はぐ……ひー! うんまーい!」

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なんにも解決はしてない。
桃ちゃんはまだまだ落ち込んでるし、会長も本当にはまだまだ立ち直れていない。
けれど、会長がいるだけで何となく「あぁこれでもう大丈夫だな」っていう雰囲気になってしまう。

やっぱり会長にはかなわない。
悔しいけど、ちっとも悔しくないみほ。

小山先輩と紗希ちゃんが廊下で会長とすれ違ってたまげる。


■47日目~50日目
会長、河嶋、小山、、毎日一緒にお昼を食べてる。
中庭の同じベンチで、三人一緒に。

『生徒会の三人、今日も一緒にご飯してるね』

異口同音に、皆が言う。
その声には笑みが戻りつつある。
みほのマタニティ・クラスも少しづつ上手くいくようになった。
未来に希望を感じていられた、最後の日々。

■40日目~46日目
頑張れモモちゃん編

■47日目~50日目
不穏なモノローグ編

巻いてます。
雑ですみません。
誤字脱字もすみません。

なにがなんでもともかくゴールまでは駆け抜ける所存。

■51日目

「紗希ちゃんとつちやさんとが倒れる」

お昼休み、みほが中庭で生徒会メンバーと一緒に静かに食事をしていると、あゆみちゃんが泣きながら駆けてくる。

何事かとベンチ立ち上がるみほの隣で、会長が『やめて』とかすれた声で呟いた。
みほ、会長の言葉の意味をあゆみちゃんの泣き顔の中に見出し、背筋が凍る。

紗希ちゃんの出血を知らされる。
みほ、背中の冷えが全身に広がる。
会長に目をむける。
会長は顔をこわばらせ。その額に脂汗が光る。会長はやっぱりまだ立ち直れてなどいない。

みほ気持ちが深い深い水の底に沈んでいく。そこは暗くて冷たくて苦しくて、あらゆる苦痛に満ち満ちてる。
平衡感覚がぶれて倒れそう。
揺れる視界。けれどふいに、母の像が浮かんだ。直立不動でたっている。鋭い眼差しで、自分を見つめている。

みほ(……。)

少しだけ心の乱れが収まる。

救急車は?→梓が呼んでくれた。
紗希ちゃんは今?→皆で保健室へ運んだ。



『情報共有を密に──』
という母の声が、脳裏にあったような気がする。

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みほ「小山先輩、戦車道チームの全員を倉庫に集めておいてください」

小山「え……でも……」

みほ「救急搬送が終わったら、皆にこの事を伝えます。伝えた方が、いいと思います。」

小山「(会長に視線で問いかける、が、会長は俯いて固まってしまっている)……っ、わかった!」

みほ「非常呼集、お願いします」

小山「うん!」

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会長が気を立て直す。
二人で、手を取り合い、気合を分け合う。しかし会長の手には汗がにじんでる。会長に頼りっぱなしではいけない。
ただ、河嶋先輩もがおずおずと手を重ねてくれた。そのおかげだろうか、会長の瞳の力強さが少しだけ増した。

小山先輩の、悲鳴を押し殺したようなくぐもった声が校舎に響く。

倉庫に集合をする過程でつちやさんの出血を知らされる。
みほ、息が止まりそうになる。
その後、そど子さんと華さんの無事な姿を確認すると、力がぬけて一瞬気が遠くなった。

救急車二台は音もなく学校へやってきた。
他の生徒にほとんどが気付づかれぬまま、静かに二人を連れて行く。サイレンをならさぬ救急車が異様。学校からはなれて、ようやくサイレンを鳴らし始めたようだ
紗希には梓と桂利奈が、つちやにはホシノが、それぞれ付き添う。

全員が、戦車倉庫に集められた。
二人の出血を知らされ、誰もが狼狽え混乱している。

みほ、抑えようとしているのに膝が震える。
会長→危機管理マニュアルにのっとり連盟その他に連絡中。


状況を母に伝えておこうか、ふとそう思いつく。
思いついた次の瞬間、もう、携帯に手が伸びていた。


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しほ『──わかりました。貴方たちも入院なさい。今日から、直ちに』

みほ「……!」

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母の判断は自分なんかよりもはるかに迅速で、かつ徹底的。

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しほ『学園艦の中央病院へはこちらで連絡をいれておく。学校へ迎えを寄こさせるから、貴方たちは門の前で待機していなさい』

しほ『それと学校に残るメンバーは──……あぁ、いえ……それではだめね、みほ、全員を病院へ連れて行きなさい』

みほ「全員って、戦車道チームの全員?」

しほ『そうよ。全チームで一緒に病院へ移動しなさい。少なくとも二人の容態がはっきりするまで、会議室か何かで全員一緒に待機させていたほうがいい。下手にメンバーがバラバラになると無用に混乱してしまう』

みほ「わかりました、……お母さんありがとう!」

しほ『みほ、聞きなさい。まほもエリカも変わりない。だからしっかり落ち着いて行動しなさい、いいわね』

みほ「はい……はい!」

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おなじころ、会長もまた連盟の担当から同等の指示を受けていた。


:午前1時頃
救急車で先発→紗季・桂利奈・梓、つちや・ホシノ
追って、マイクロバスで全員病院へ

病院到着後、みほ、華、そど子はそのまま入院手続き→同じ病室へ入院

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そど子「……私達だけになっちゃったのね……」
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そど子さんの言葉がかなしい。
麻子と沙織と優花里、それに会長とモモちゃんが入院室に顔を出してくれた。
他のメンバーは小山先輩を先頭に会議室を借りて待機。



:午後3時
会議室にて、担当医達から説明を受ける。

つちやさんと紗希ちゃんの赤ちゃんは死んでいた。
流産。

つちやさんの赤ちゃんは自然に外へと流れ出た。
紗希ちゃんは子宮内に赤ちゃんがとどまってしまうタイプの流産で、緊急手術をしなければならなかった。


梓→表情を失い、泣きつかれた目にはもう涙もなく、俯きがちにただ机を凝視している。
そど子、華→顔が青い。
会長→担当医から渡されたレジュメを無表情に読んでいる。
みほ→怒りを感じてる。何に腹が立っているのかは自分でも良く分からない。


つちやと紗希の両親も駆けつけて、今は病室で付き添っている。
妊娠者→即日入院。
それ以外の者、いったん帰宅。希望者はカウンセリングを受ける。

病室1:みほ・そど子・華
病室2:つちや
病室3:紗季

自主的な付き添いとして、会長、河嶋、ホシノ、桂利奈、麻子、沙織、が自主的に各病室に泊る。

:夜
流産を経験した6人はこの日おなじ部屋で一晩をすごした。
(つちや、ホシノ、さき、かりな、河嶋、杏)

そこで6人がどんな会話をしたのか、みほはそれ知らないし、聞くつもりもない。聞けない。

■52日目

二人のあかちゃんの遺体はつくばのラボへ移された。
私達にはその処置を拒めない。
調査への全面的な協力は私達の義務。
ここにきて初めてそれを実感させられた。

麻子さんと沙織さんは学校を休んでくれた。朝からずっと病室にいる。
5人とも、口数は少ない。
皆、話すときはなるべく明るい声をだそうとするのだが、それでもやはり、どうしても会話が途切れがち。

開けておいた窓の外、遠くの青空で始業のベルが鳴っている。
それはどこか間が抜けた音で、自分にはまったく関係のないものに聞こえた。


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そど子「あーあ、授業、始まっちゃった」

華「いまごろ教室にいらっしゃるのですね、皆さんは……」

みほ(……昨日まで、私もそこにいたのにな……)

何度訪れても、病室ってどこか異世界みたい。
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ツチヤさん、さきちゃん、二人の事が気になる。
沙織さんと麻子さんが、様子を見に行くことにした。
けれど5分ほどもしないうちに、麻子さんは戻ってきた。

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そど子「随分はやいわね。もしかして二人にはまだ会えなかった?」

麻子「いや、会えた。沙織はいま談話室で二人と一緒にいる」

華「? どうして麻子さんだけ戻っていらしたのですか……?」

麻子「うん……皆を呼びに来たんだんだ」

みほ「私達を?」

麻子「つちやさんと紗希ちゃんが、三人にも会いたいと言ってる」

そど子「……!」

華「ですが、いいのでしょうか……妊娠している私達が、お二人に会っても。辛い思いをさせてしまうのでは……」

麻子「いや、つちやさんと紗希ちゃんは……流産をしてしまった自分達に会うのは、むしろ妊娠している三人にとって迷惑だろうか、と気にしている」

みほ「……! そんな事ありません! お二人に会って、顔を見たいです!」

華「もちろん、みほさんの言う通りです」

麻子「なら、一緒に来てくれるか」

そど子「当たり前じゃない」

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とはいえ、実のところ流産をしてしまった二人に私達はなんて声をかけてあげたらいいんだろう。
二人の病室へ向かう途中、三人とも思いあぐねる。
答えは見つからない。
そしてそれはつちやさんや紗希ちゃんも一緒。
それでもなお、会いたかった。その気持ちが一番強い。

病室で会話。

つちや→流産は悲しい。だけど、これで今回の騒動から降りられたそのことを少し安心してもいる。
その気持ちは理解できる、とその場にいた誰もが同意。

つちや→今改めて思う、私達の身に起こったことはいったい何だったのか???

話しながら、多少の笑みすらも浮かぶつちや。が、発作的に泣きだす。

話しながら、多少の笑みすらも浮かぶつちや。が、発作的に泣きだす。

ホシノ→すまん。昨日からこうなんだ。しばらくすれば収まるから。

皆、黙してその場にあることしかできない。
つちやの発作にもまた、その場にいた皆が共感する。
『同じ状況がおとずれれば、自分だってきっとこうなるだろう』

---------------------------------------

みほ「ねぇ、紗希ちゃん」

紗季「……。」

みほ「……紗希ちゃん?」

桂利奈「隊長、ごめんなさい。昨日部屋に戻ってきてから、ずーっとこうなんです」

みほ「……そうなんだ……」

桂利奈「ご飯はちゃんと食べてくれるし、手術もうまくいったし、身体は問題ないです。身体は……」

みほ「……。」

桂利奈「昨日の夜は、会長がずーっと一緒に紗季のとなりで窓の外の星空をながめてくれてました。」

みほ「会長が」

桂利奈「紗季にとっては、少しだけそれが慰めになってるみたいで……今日は私が、こーして一緒に空を見てます」

桂利奈「ね、紗希。いいお天気だね、お空きれいだね」

紗季「……。」

みほ(……あ……)


 ──会長『……見せてあげたかったな……』──


みほ(……さきちゃん……)

紗季「……。」





:午後四時頃
携帯に母から連絡がくる。
それが嬉しかった。
だが電話にでてすぐ、母の様子がおかしいとわかった。

------------------------------------------

しほ『──みほ、落ち着いて聞きなさい』

みほ「え──」


:脳裏に姉とエリカの顔がフラッシュバック。黒いヘドロ状の沼へ二人の死体が沈んでいく心象風景


しほ『──まほとエリカは無事よ、いい? 二人は無事』

みほ「……っ」


:安堵。どっと冷や汗がでる。しかしそれにしても母の声がどこかこわばっている。

みほ「お母さん……どうしたの?」

しほ『……』

しほ『……黒森峰でも、三人倒れた』

みほ「……!?」

みほ「それって……流産、っていうことですか」

しほ『黒森峰だけじゃない、昨日、サンダースでも──』

みほ「──。」

しほ『何かが起こっている。それをうけて緊急に全ての妊娠者を入院させることになった』

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各学園艦上で数日間妊娠者の様子を見る。
状態の安定を確認したのち、全妊娠者をつくばの霊長類医学研究センターへ移動さす。
対象者を一か所に集め、統合観察管理入院を行う。

-----------------------------------------

しほ『すぐに角谷さんへも、連盟の方から通達があるでしょう』

みほ「……。」

みほ「……ねぇ、お母さん」

しほ「ええ」

みほ「その入院って──」


みほ「いつまで?」


しほ『……。いつまで、とは?』

みほ「いつ、私達は帰れるの?」

みほ「私達はいつ退院できるの?」

しほ『……。』

しほ『母子の安全が確認されしだい……としか今は言えないわね』

みほ「……。」

みほ「……わかりました……」

しほ『みほ。私も数日以内に関東へ出るわ』

しほ『気をしっかりもちなさい』

みほ「はい」

しほ『では、切るわね。何か変化があったらすぐに連絡して、真夜中だろうが、ね』

みほ「はい」

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(退院、もうできないのかもしれない)

みほ(……私達は多分これから、全員が流産をするんだ……)

みほ(偉い人達はきっとそう考えたんだ)

みほ(……。)


:みほ、今度こそ平衡感覚を失う。足もとの床が不自然に脈動している。体温もおかしいく思える。身体のあちこちが、冷たいような熱いような。


みほ(じゃあ、次センターに入ったら)

みほ(もう)

みほ(もう、この子は──)

みほ(もう)

みほ(もう、この子は──)

みほ(──!)

みほ(やだ! いやだ! いやだ!)


 ──ぴっぴっぴっぴっぴっ

 ──とぅるるるるるる! とぅるるるるる!

 ──ぷっ


しほ『みほ? どうしたの──』

みほ「お母さん、一生のお願いです」

しほ『え?』

みほ「帰らせてください」

しほ『……?』

みほ「今から」

みほ「熊本に」

みほ「お母さんや、お姉ちゃんのいる家に帰らせてください」


しほ『……みほ』


みほ「お願いです」

みほ「どうかお願いです」

みほ「戦車道をやめたこと、黒森峰をやめたこと」

みほ「全部あやまります」

みほ「ごめんなさい!」

みほ「ごめんなさい!!」

みほ「ごめんなさい!!!」

みほ「だからどうか……」


しほ『みほ』


みほ「お願いです……お願いします!!」

みほ「お母さんの力でなんとかしてください」

みほ「この子に! せめて最後はお母さん達と一緒にいさせてあげてくださ──」


しほ『──みほっ!』


みほ「……。」

しほ『みほ……聞きなさい。』

しほ『あなたのその弱い心が──その子を殺すのです』

みほ「……っ」

しほ『何が「最後」ですか。馬鹿なことを』

みほ「でも、でも……!」

しほ『見通しのたたない現状では、いついつに退院などと、そう簡単に言えるわけがないでしょう』

しほ『ただそれだけのことです』

しほ『それなのに、貴方はそれを大げさに曲解して意味のない悲観に勝手に陥ってる』

みほ「……。」

しほ『しっかりなさい! 母親がそう不安がっていては、お腹の中の子供もたまったものではないわ。子を守ってしかるべき母体が子に負担を与えてどうするのです』

みほ「だけどっ……」

しほ『言い訳は──そして謝罪も、必要はありません』

しほ『……本当に熊本に帰りたいのならば──』

しほ『思い出しなさい』

みほ「思い出すって……なにを」

しほ『鉄の掟 鋼の心』

しほ『……まぁこのさい、「鉄の掟」はひとまず免除しましょう……』

しほ『出戻りたいのなら、せめて「鋼の心」くらいは見せてもらわないと家の敷居は跨がせられないわね。あなたは一度逃げ出しているのだから。戻りたいというのなら、はたしてその資格があなたにあるのか。それを証明してみせなさい』

みほ「……証明……」

しほ『「鉄の心」があれば、貴方は今言ったような情けない泣き言は言わないはずです』

みほ「……!?」

しほ『というわけだから──熊本に帰ってくることはありえないと、知りなさい』

みほ「そんな、お母さん……ひどいよ……」

しほ『そうです、私は鬼です。だから甘えることは許さないわ。……しっかりしなさい、みほ』

みほ「……。」

しほ『数日後には──いえ、三日後には必ず会いに行きます』

しほ『踏ん張りなさい。あなたは仮にも戦車道チームの長なのでしょう?』

みほ「……。」

みほ「……はい……」

しほ『いいわ。仲間にところへ行く前に、まず冷静になりなさい。動揺を広めてはなりません』

みほ「……はい」

しほ『じゃあ──』

みほ「……待って、お母さん!」

しほ『──何です?』

みほ「……。」

みほ「……。」

しほ『みほ、一体なんです、泣き言ならもう──』

みほ「黒森峰の大学にいきたいです」

しほ『……なんですって?』

みほ「私、もう一度、西住流の人間になりたいです。それにこの子と一緒にいられる時は、熊本でお母さんと一緒に子育てをしたいです。どうかお願いします」

みほ「……許してくれますか?」

しほ『…………………………。』

みほ「おかあさん」

しほ『……』

しほ『……貴方は……どうしていつもそう唐突なのですか……そういう大事な話はもっと場を選びなさい……』

みほ「ごめんなさい」

しほ『……ハァ……』

しほ『まぁ、いいでしょう、考えておきます』

みほ「……!」

しほ『貴方がこれ以上の醜態をさらさなければ、ですが』

みほ「はい」

しほ『じゃあ、今度こそ切るわね。……みほ、頑張ってみせなさい』

みほ「はい……はいっ」

しほ『じゃあね』


 ──ぷっ

 ツー、ツー、ツー

■51日目 紗希ちゃん・つちやさん

■52日目 熊本さけえりてぇだ

『SS作者の痛い後書き』的なスレを読んだところ、自分もこのスレで似たような事をやってました。

ウヒョー!

見捨てずにいてくれてる人達ほんまりありがとうやで……。

■53日目
会長から連絡あり→明朝、妊娠者はつくばへ移動し、センターへ入院すること。
入院はママだけ。パパは入院しない。
(ただし他のメンバーがつくばを見舞う際は、ちゃんと申請をすれば交通費等々を国が後日補填してくれるとのこと)

入院日数は──今のところ未定。


華「未定、ですか」

そど子「……。」


みほ、二人を励ます。


みほ「はっきりわからないというだけで、いつかは必ず退院できます。あくまでこれは、私達や赤ちゃんを守るための措置なんです」

麻子「西住さんのいう通りだ。それに、母体の精神的な不安は、胎児に物理的な影響を与える……まり考え込むな」

そど子「分かってる、けど……」

麻子「……」

 ぎゅっ

そど子「わ……冷泉さん?」

麻子「……人肌のぬくもりは気持ちを落ち着かせてくれる」

麻子「と、本に書いてあった」

そど子「……。ありがと……」

麻子「毎週末、必ず会いに行く」

そど子「……絶対だからね」

麻子「おばあに誓う」

そど子「……ふふ」



 <ウソツイタラ オバアサマニ ツゲグチスルカラ

 <ソドコニウソハツカナイ デモツゲグチハヤメテクレ

 <ナニヨソレ フフフ


みほ(……。)
 
みほ(パパさんも一緒に入院できればいいのになぁ)

みほ(離れ離れになってしまうなんて絶対つらいよ)

みほ(入院期間がわからないんだから、余計に……)

みほ(沙織さんと華さんは、大丈夫かなぁ)


みほ「沙織さ──」

沙織「華ぁっ」

華「わ、沙織さ……んむっ!?」

みほ「──!?」



 ……ちゅ、ち、ちゅ……



みほ(わあああ、沙織さん!? そど子さんもいるんだよ!?)

麻子「……!?」

そど子「?」(←背中を向けてるので華と沙織が見えてない)



華「ん……沙織さっ……皆さんが見……ぇる……」

沙織「私も、絶対会いに行く……これは会えない間の分だから……いっぱい安心させてあげる、華のことは、私が暖めてあげるからぁっ」



 ちゅ、ちぃ、ちゅぷ



そど子「……? ねぇ二人とも何を──」

みほ(わあああ)

麻子「……う、動くなっ。そのままじっと、そど子は私に抱かれてろっ。わ、わ、私の体温だけを感じてろ!」

そど子「へっ……う、うん……」

そど子「……。」

みほ(麻子さん、ありがとうございますっ……!)

みほ(……それにしても……)


 ……ちゅ、ちゅ、ちゅ……


 <ハナァ

 <サオリサァン


みほ(二人とも大人になっちゃったんだなぁ……)

■53日目 あら^~

たまにはレズパート挟まないと書いてる方も気が滅入るのじゃ

■54日目
つくばのセンターに移動する。
沙織と麻子も、日帰りでつきそってくれた→パパ権限。

移動はバスではなく、ミニバンで。
もうバスを使うほどの人数ではなくなってしまった。

センターの正門に到着。
またしても聖グロリアーナが迎えてくれた。
けれど、聖グロリアーナもやはり目に見えて人数が減っている。
辛い。いなくなってしまった人達の事を思い、胸が締め付けられる。
---------------------------------------------

みほ「ダージリンさん!」

ダージリン「みほさん!」

みほ「ペコさんも……よかった、無事だったんですね」

オレンジペコ「えぇ、みほさんも」

みほ「……ごめんなさい……本当はメールとかいくらでも連絡の方法はあるのに……なのに……」

ダージリン「お気になさらないで、私達だって……」

オレンジペコ「みんな同じですよ。皆、目の前のことだけで精一杯なんですから……とにかく、会えて良かったです……」

みほ「はい!……はい……!」

みほ「──。」

みほ(……あれ?)

はい「……?」

はい「??」

みほ(──ローズヒップさんはどこ?)

みほ(アッサムさんは……どこ……?)


みほ(──ッ!!)


みほ「ダージリンさん、あの……ローズヒップさんは」

ダージリン「…………。」

みほ「……そうでしたか……」

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入場手続きはせず、そのままみんなで正門広場に留まる。
センター側の人達も
「手続きはいつでもいいから」と気を使ってくれた。皆さん良くしてくれる。


知波単組、到着
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福田「オレンジペコ殿ぉーっ!」

ペコ「福田さん……! よかった……本当によかった……!!」


西「ダージリンさん……」

ダージリン「あぁ西さん、私……私……っ」

西「気張りましょう。今時こそ、私たちがふんどしのヒモを〆てかからなければ」

ダージリン「ええ……ええ……!」

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アンツィオ組
アンチョビさんは無事だけど、ペパロニさんは仲間の不幸に落ち込んで前みたいな元気はなくなってた。
アンチョビさんが前をあるいて、ペパロニさんがその後をついていく。以前の二人に戻ってる。

継続高校
ミカさんは、来なかった。
継続高校の他の人達から話を聞く。
『風に運ばれていってしまったよ。……母親に似てしまったんだね……それでいい、君は自由だ……』
離別の曲を、寂しげ弾き続けているそう。アキさんやミッコさん達と一緒に。

(じゃあ、ミカさんの赤ちゃんの遺体も──このつくばのどこかに)
悲しく、かつ、背中に冷たい感覚。





遠方の学校は夕方の到着になるという。
いったん手続きをして、部屋に荷物をおく。

仲間達と夜を共にした大部屋に、今は三人だけ。
部屋は広く、寒々しい。
そど子さんや華さんも同じ心もちでいるみたい。

ただ、その代わりに今はダージリンさん達がいる。西さん達もアンチョビさん達も。
少しだけ、、寂しさが慰められる。

妊娠者達には三つの大部屋が与えられて、どのように使おうと自由。
夜ごとに違う部屋で寝ようがまったく構わない。
適度な自主性は連帯に基づく健全な精神を育む……というスポーツ理念に基づく。
なお希望者には(短期長期問わず)個室への移動も考慮する。
最大限、私達のすごしやすいように配慮をしてくれている。





:夕刻

姉が来た。

-----------------------------------

みほ「……。」

まほ「……。」

まほ「やっと会えたな。……心配したぞ」

みほ「……っ」

みほ「お姉ちゃん……!」

-----------------------------------

駆け寄って、人目もはばからず姉の体にすがりつく。
姉に抱きしめられると、全身から力が抜けた。本当にこころが軽くなった。

(パパと一緒にいられるみんなが羨ましい)

その事は考えないようにしていた。大洗にいる間は、仲間のことだけを考えるようにしていた。それでもやはり、心の奥底にはずっとその寂しさがたゆたっていたのだ。
それが今、ようやく救われた。

(やっと私も家族に会えた!)

身体がぶるぶるっと震える。排泄の直後にも等しい魂の解放を感じた。

------------------------------------

エリカ「みほ」

みほ「……! エリカさん!」

 ばっ!

エリカ「うぁ、ちょっと、放しなさい!」

みほ「よかった……よかった……!」

エリカ「……っ、……みほも、何事もなくてよかった。ふん、ちっとも熊本に帰ってこないんだから……」

みほ「ごめんねなさい……!」

アリサ「──聞いたわよ。あんたたち、姉妹になるんですってね」

みほ「!!」

みほ「アリサさん!!」

みほ「メグミさんも!!」

メグミ「や」

アリサ「紗季……残念だったわね。もちろん、他の子達も……」

みほ「……ありがとうございます……」

みほ「サンダースの皆さんも──あの、ケイさんは今日は……?」

メグミ「うん。ケイは長崎に残ったよ。……倒れた子を、ほってはいけないってね」

みほ「そうですか……ケイさんらしいです」

メグミ「私もこれですぐに戻る。 遠方だから、一泊していってもかまわないとは言われたけれど……やっぱり、どうしても、ね」

メグミ「そういうわけだから、私の代わりにアリサと仲良くしてやってくれ」

アリサ「っ……人前で保護者ぶらないでよっ」

メグミ「ふ」

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黄昏時の終わる頃、ようやくカチューシャさん達が到着した。

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カチューシャ「エリ―シャ!」

エリカ「わわわ! ちょっと! あんたもみほもっ、どうして会うなり飛び掛かかってくるのよ!」

カチューシャ「ふふん、照れちゃって。落っことすんじゃないわよ、二人分の命がかかってるんだからね!」

エリカ「脅かさないでよ……」

ニーナ「もーカチューシャ様~。あんまり暴れちゃだめだじゃぁ、見てけろノンナさんがはらはらしてるだべ」

ノンナ「そ、そうですよカチューシャ、ニーナの言うことをよく聞いてください……」

カチューシャ「ん……ふんっ。ま、しかたがないわね。……エリ―シャ、かがみなさい!」

エリカ「もうっ、なんなのよっ」

カチューシャ「んしょっ、と……」
 


まほ「……カチューシャ」

カチューシャ「……あら」

まほ「……。」

カチューシャ「……。」

まほ「いつも通りの様だな。ふ……少し、安心した」

カチューシャ「ふんっ……まぁ……いろいろあったけどね」

まほ「ん……そうか、私もだ」

カチューシャ「お互い様ね」

まほ「あぁ。お互い様だ」


言葉は少なくとも通じ合うものがあったみたい。二人がゆっくりと握手を交わす。みほは、それが嬉しかった。


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パパさん達を見送る。皆寂しそう。
みほとまほとエリカは、少しだけその輪から外れていた。三人だけはお互いが家族だから。

夜。一つの大部屋に全員で寝た。ぎゅうぎゅうづめだけど、むしろそれが良かった。
会長や紗季ちゃんやツチヤさんのいない寂しさが、少しだけまぎれる。
流産の不安は、あまり考えないようにした。

寝る間際。恐る恐る愛里寿ちゃんにメールを送る。
明日の昼すぎ、ルミさんやお母さんと一緒にセンターに到着するそう。
自分の母もまた、明日、会いに来てくれるはず……。

■54日目 学園十色です!

■55日目

:朝8時頃 母から電話。
すでに東京に着いてはいるけれども、夕方まではお仕事。
つくばへ到着するのは日が暮れた後なりそう。



:午前中。講堂にてセンターの人達と全体ミーティング。
:全体的に気が滅入るミーティング。

→国内だけでなく海外でも流産多発。(今は収まってる)
→皮肉な事にその(遺体という貴重なサンプルの)おかげで今起こっている事が少しだけ見えてきそう。

・流産について
    →原因そのものは、ありふれた細胞分裂異常。ただし、それがなぜ突然集中して発生したのかが不明。
・現状の推移
    →上記を解明するために、妊娠者、胎児の遺体、健常胎児、それぞれのDNAサンプルを比較し、変異部位と特定しようとしてる。
     群発流産はひとまず小康状態?
・これからの見通し
    →流産がまた発生するのか。正直なところはなにもわからない。最悪のケースには備えなければならない。

  
みほが質問。
「あのう、私の染色体共有者が誰なのかは、まだわかりませんか……?」
→まだわからない。申し訳ない。だが研究は少しづつ前進しつつある。


ミーティング途中のトイレ休憩。


エリカさんが話しかけてくる。
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エリカ「妊娠する前の私なら、みほにこう言ってたと思う。」

みほ「エリカさん……?」

エリカ「『パパが誰かなんて、もうどうでもいいじゃない。すっぱり頭を切り替えて、私達と子育てすればいい』……て」

みほ「……。」

エリカ「ま、今は言えないけど」

エリカ「ただ、もし本当にそう言われたとしたら……どうなのよ」

みほ「? どう……って?」

エリカ「そういう風に思いきってしまうのもありなんじゃないかって、言ってるの。……やっぱり無茶?」

みほ「……うーん……」

みほ「お父さんが誰かは、どうしても知りたい、かなぁ……」

エリカ「そっか」

みほ「うん、ごめんね。でも、ありがとう」

エリカ「べつに、じゃ」

 :エリカ、まほの隣の席へもどっていく。

華「エリカさん、なんだか別人になられたみたいです」

みほ「あはは……でも、私の覚えてる昔のエリカさんは、むしろこんな感じかな……?」

そど子「ふーん。西住さんが転校したから、拗ねてたんじゃないの?」

みほ「もしそうだったなら……嬉しいです」

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ミーティング再開。

・戦車の質量減少問題についての説明
    →車体の合金に編み込まれた特殊カーボンの質量が減少しているらしい。

・特殊カーボンについて改めておさらい
    →三次元空間内の重力エネルギーを高次元方向に離散させてくれるスゴいカーボン。すごく特殊。
     すごさ1・特殊カーボンで囲われた空間は見かけ上は慣性重力から切り離される。
     すごさ2・合金中に織り込めば学園艦みたいな巨大な物体もお手軽(質量的な意味で)に建造、運用できる。
     すごさ3・宇宙ロケットの船体に組み込んで光速の壁の突破へ向けても研究中。

・その質量が減少ってどういうこと?
    →まだわからない。マウスをつかった実験や遺体のDNAサンプルを利用して色々実験してる。

・よくわかないけど特殊カーボンが妊娠の原因?
    →仮にそうだとしたら学園艦内の女子が全員妊娠していてもおかしくない。が、現在過去そのような事件は起こっていない。

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ミーティング終わり。
お昼ご飯まで自由時間。
まほはアンチョビとおしゃべりしてる。
華さんやそど子さんも、ペコさん福田さんと。

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みほ「エリカさん、お散歩したいです」

エリカ「いいけど」


 ……。


エリカ「へぇ。イチョウの林に広い池……いい場所じゃない。」

みほ「うん。私のお気に入りの場所……。」

みほ「……ふふ」

エリカ「? 何よ」

みほ「エリカさんの嘘つき」

エリカ「ええ?」

みほ「『以前の私ならこう言ってた』って……絶対嘘」

エリカ「さっきの休憩中の話?……ていうか、何が嘘つきなのよ」

みほ「だって……」

みほ「『私達と子育てすればいい』って、エリカさんは絶対にそんなこと言ってくれなかったよ。たとえ思ってても、口では絶対……えへへ」

エリカ「っ……何かと思えば、くっだらないわねぇ……」

みほ「だけど、エリカさんがそんな風に言ってくれてすごく嬉しかった。少し……元気でたかも」

エリカ「……あっそ……」


 ──。。


みほ「エリカさんは、大丈夫だった……?」

エリカ「?」

みほ「黒森峰でも……流産しちゃった子がいるって」

エリカ「あぁ……」

エリカ「……。」

エリカ「最悪だった」

みほ「……。」

エリカ「どうせあんたにはそのうちばれるだろうから先に白状するけど──」

みほ「え?」

エリカ「私、軽い不安障害みたいになってる。血を流しながら泣いてる仲間の姿が忘れられない。あれ以来……何かのきっかけでスイッチがはいると、どうしようもなく泣けてくる」

エリカ「隊長がそのたびに精一杯慰めてくれるし……少しずつマシになってるんだけどね」

みほ「そっか……」

エリカ「けど……次は私かもって、やっぱり不安になるわね」

みほ「……。」

みほ「さっきのミーティング……」

エリカ「……?」

みほ「流産の原因はちゃんと説明してくれたけど……」

みほ「でも、私が本当に知りたい事は、教えてもらえなかった」

エリカ「本当に知りたかったこと、って……?」

みほ「うん……私が教えてほしいのは、『どのようにして流産をするのか』じゃなくて」

みほ「『どうして流産をするのか』っていうその理由が知りたい……」

エリカ「……理由、ね……」

みほ「私……腹がたってしかたがないです」

エリカ「え?」

みほ「どうして私達がこんな辛い思いをしなきゃいけないんだろう、悲しい思いをしなきゃいけないんだろうって」

みほ「誰かに怒りたい」

みほ「怒って……恨みたい……」

エリカ「……。」

みほ「何の意味があって、私達は今こんな目に合わなきゃいけないんだろう。赤ちゃんだって、いったい何の意味があって……」

みほ「どうかお願いだからだ誰かに理由を説明をしてほしい。今回の事に、一体何の意味があるんだろうって……」

みほ「それを考えてると、時々、頭がおかしくなってしまうそう」

エリカ「……。」

エリカ「やばいと思ったらカウンセリングを受けなさい。一人で考え込んでも、ろくなことにはならないから」

みほ「……ふふ、エリカさんが言うと、説得力あるね」

エリカ「ばか」

みほ「でも、たしかに大洗ではあんまり皆にはこういう事は言えなかった……」

みほ「だから今、こうしてエリカさんに聞いてもらえて……嬉しいなぁ」

エリカ「悪いけど、私はカウンセラーじゃないわよ」

みほ「うん、違うよ。エリカさんは──」

みほ「──……。」

みほ「はぁ~」

エリカ「何よ」

みほ「噛みしめちゃった」

エリカ「?」

みほ「エリカさんと、またこんな風に話せてるんだなぁーって」

エリカ「何それ」

エリカ「……まぁだけど……そうね。ホント……いつぶりかしらね……」

みほ「……ね……」

エリカ「あ、そういえば……今日、師範が──お義母様が、ここにくるのよね?」

みほ「あ、うん、そうだよ」

エリカ「あんたさ……お義母様に何か言った?」

みほ「へ……?」

エリカ「何日か前だけど……お義母様、みほと電話をした後にすごく機嫌が良さそうにしてた。流産の件があって以来ずっとピリピリしてたのに、珍しくね」

みほ「……。」

みほ(……お母さん……)

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:昼二時頃。

「私も島田流に挨拶をしておこう」

まほと二人で愛里寿を待つ。
ほどなくして一台の黒塗りレクサス到着。
愛里寿、千代、ルミがおりてくる。

愛里寿はちゃんと千代とお話しできた様子。千代に礼を言われる。

愛里寿、千代→二人で手続きへ。

ルミ・まほ・みほ、情報交換。
家元→娘が流産をしてしまったとしても、それはそれで一つの解決なのだと覚悟している。娘の心のケアに万全をつくすのみ。
愛里寿隊長は→産んであげなきゃ申し訳ないと思ってる。
大学選抜→センチュリオン他一部の車両が接収されてしまった。トホホ。

「隊長と一緒に赤ちゃんを抱いてあげたい。けど、万が一流産してもやっぱり隊長の側にいるつもりよ。こんな風に関わっちゃったんだから。んー、そうねぇ……家元と一緒に隊長の将来の旦那さんを見極めるまで、あるかなぁ~」
→まほ、みほ、顔を見合わす。
→色んな考え方があるんだねお姉ちゃん……。

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夜、晩飯を食べ終わった頃。

母が来た。

電話でぶちまけた後の初対面だったので、少し意識してしまう。
エリカさんは母が機嫌よかったといってるけど、今は特にかわりない様子。
ちなみに、まほやエリカもまだみほの発言は知らない。

「少し話をしましょう」と、母に中庭へ連れ出される。
池のほとりのベンチ、に母子ならんで腰掛ける。雲が多くて月はない。
少し緊張する。
でも、母と二人でいられることが、今は嬉しい。

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しほ「今一度あなたに確認をします。電話でのあの発言は本心ですか?」

しほ「一時の感情や、生半可な気持ちで言ったのではないと──そう理解していいの?」

みほ「あの、……は、はいっ」

みほ「一度目の入院検査の後、最初に熊本に帰ったときからずっと、お母さんに相談しようって、思ってた。だから、決して一時の感情なんかじゃありません」

しほ「そうですか」

しほ「……貴方はきちんと私に頭を下げた」

しほ「ならば、今度はこちらがそれに答えねばならないわね」

みほ「じゃあ……」

しほ「ですが──」

しほ「一つ、貴方に聞いておきたいことがある」

みほ「え……?」

しほ「貴方が熊本へ戻るのは──」

しほ「子供の為?」

みほ「……。赤ちゃんのためじゃ……それじゃだめなの……?」

しほ「あぁ、いえ……ごめんなさい、変な言い方をしてしまったわね。そう思うのは親おして当然だし、あなたは正しい判断をしている。」

しほ「ですから、貴方が熊本へ帰ってくるというのなら──私はいつでも貴方を迎えます」

みほ「……!」

みほ「熊本に、帰ってもいいの?」

しほ「ええ、その通りよ。……もう何度もそう言っているつもりだけれど。今度こそ理解なさい。」

みほ「ありがとう……!」

みほ(……。)

みほ(えりかさんともお話しできた。お母さんとも……)

みほ(今日は幸せだなぁ……)

みほ(……。)

みほ「そうだ、黒森峰大学の事も、許してくれる?私もまた、西住流として……」

しほ「……。」

しほ「今は──そんな来年の話よりも、目先の妊娠の事をしっかり考えなさい」

しほ「わかるわね?」

みほ「はいっ……お母さん本当にありがとう……」

しほ「……ええ」



しほ「………………。」



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■56日目

朝:しほ、千代と一緒に東京へ戻る。家元はいそがしい。

みほ達は基本的には暇。
検査や検診はあれど、今のところ一日の大半は自由。
学校教育を補填するためのプランを検討中だとか。

お昼ご飯・大食堂。

まほえり&そど華と一緒に食堂でお昼ご飯を食べる。
そこにカチューシャが割って入ってきた。

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カチューシャ「ミホーシャ。杏から聞いたわよ、貴方、大洗でおもしろい事をやってたそうじゃない」

みほ「えと、なんでしょう……?」

カチューシャ「マタニティ・クラスよ!」

みほ「あぁ……」

エリカ「何それ?」

華「それはですね~」


 -かくかくしかじかー


まほ「──なるほど、自主的な勉強会か。いい考えだな」

みほ「うん。私達の会長が発案してくれたの。ただ会長は……それで、途中からは私が引き継いで」

まほ「そうか……」

カチューシャ「で、ここからが提案なんだけど──」

カチューシャ「それ、ここでも続けましょうよ」

みほ「ふぇ?」

カチューシャ「せっかく東も西も勢ぞろいしてるんだし、サミットよ、サミット!」

そど子「サミット……?」

カチューシャ「講師はミホーシャだけにまかすのではなく、全員で講師をやるのよ」

華「全員で……?」

そど子「あ……みんなで持ち回りで先生役をやるってこと?」

カチューシャ「その通り! どう? 好い考えだと思わない?」

エリカ「……。そうね、私は良い考えだと思う。隊長、どうですか?」

まほ「うん。私も賛成だ」

カチューシャ「決まりね! じゃー他の連中とも話をしてくるわ!」


 たたたたた!


そど子「行っちゃった」

まほ「あの元気、私達も見習わなければな……見直したよ、カチューシャ」

エリカ「……あのぅ」

まほ「? どうした、エリカ」

エリカ「実は私も一つ……考えてたことがあって」

みほ「え?」

まほ「ほう」

エリカ「例えばですけど、みんなで集まって、一人一人がみんなの前で話をするんです。今回のことで、悩んだこととか、辛かったこととか、どうやって立ち直れたか、とか……もちろん、今現在考えてることでもいいですし」

そど子「なるほど……集団セラピーみたいなもの?」

エリカ「ええ。カウンセリングやセラピーの効力は身をもって理解してる。だから……どうかなって」

まほ「エリカ……偉いぞ、よく言った」


 ぽんぽん


エリカ「あ……」

まほ「さすがはエリカだ。さっそくセンターの人に提案をしていよう」ポンポン

エリカ「うぅ……」


みほ(……いいなー、エリカさん。気持ちよさそうだなー……)

みほ(……。……あ)

みほ(そど子さんも、華さんも、なんだか羨ましそう)

みほ(二人とも、麻子さんや沙織さんの事を考えてるのかなぁ)

みほ(……。)


みほ(……みんな、どうしてるかなぁ……)

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■57日目

:マタニティ・クラスinつくば
 第一日目はみほが手本を見せる。
 会長に託されたノートを元に、しょっぱな流産についてをレクチャー。
 センターの人も何人か覗いてくれた。

:西住エリカのマタニティ・セラピー
 最初は告白はエリカから。
 赤裸々な体験談が皆の共感を呼んだ。
 「次は私よ!」カチューシャが意気揚々と立候補。


■58日目~60日目

 流産の見えない不安におののく日々ではあるが。
 それでもやはりみんな持ち前のバイタリティを発揮。
 限られた中でも前向きに生活をしようとする。
 マタニティ・クラスやマタニティ・セラピーも良い連帯感を生んでいく。

 新しい生活スタイルに少しづつ心と体がなじんでいく。
 けれどもやはり、ここは日常ではなかった。
 
 60日目、空の暗い雨の夕方。
 日本ではまず初めに、アンチョビさんが倒れた。

■55日目 
 母の許し?

■56日目~59日目
 新生活編

■60日目
 終わりの始まり編

終わりの始まり ← べたべたすぎて恥ずかしいけどなんだかんだで一度は使ってみたいキーワードランキング不動の第一位。

しほ「西住の女にふさわしいみごとなイチモツね。さぁみほ……お母さんを孕ませダヴァイッッッッ!!!!!」

みほ「~~~~~~~ッッツ!!!!!」

女の子の遺伝子が片割れであるからといってみほにチンコがないと決めつけるのはただの偏見ではなかろうか?

■60日目(より詳しく)

///////////午前10時~
母体と胎児の定期健診

午前11時~
この日は祝日。各学園から見舞いや面会の生徒が相次いで、センターにぎわう。
一週間ほど後に今度は連休があるので、遠方の学校はそちらに予定を合わせている。

大洗からは、
沙織と麻子と優花里、たかちゃん、小山(会長もこようとしたけどモモちゃんに泣きつかれた。「お体が心配なので今は長距離移動しないでください」)

アンツィオからは、
ペパロニ、かるぱっちょ、他もぶ子数名(もぶパパ)

もちろんダージリンさんや西さん達も。

//////////////午後13時頃
アンチョビ、再検査の連絡を受ける。

//////////////午後14時頃
アンチョビ・大部屋へ戻ってくる。
この時部屋にいたメンバー[ペパロニ・かるぱっちょ・たかちゃん・みほ・ありす・もぶ子数名]

-------------------------------------------

ペパロニ「え、姉さんだけ個室に移動、すか?」

アンチョビ「うん。ちょっとだけ数値が乱れてるから、念のためしっかり観察しようって事になってなぁ」

ペパロニ「それって……大丈夫なんすか……?」

アンチョビ「そう心配するな。ちょっとだけ優しくしてくれればそれでいい」

ペパロニ「……。」

かるぱっちょ「こーら、ペパロニがそんな顔してちゃだめでしょ?」

ペパロニ「わかってるけど……」

アンチョビ「ほらほらペパロニ、落ち込んでないでお腹におしゃべりしてくれ。久しぶりなんだ」

ペパロニ「えぇ、みんなの前でですか……?」

アンチョビ「そーだぞ。もーはやくー!」

ペパロニ「だだこねないでくださいよぉ……」

みほ(ペパロニさんはアンチョビさんのお腹におしゃべりします。お口を大きくあてて、唇をぴったりつけて、そのままの状態で喉を震わせ『お゛お゛お゛い゛、げん゛きかぁ゛ぁ゛ぁ゛? もうひとりのマ゛マ゛だぞぉ゛ぉ゛ぉ゛』。)

みほ(お腹がブルブルするそうでアンチョビさんとっても気持ちがよさそうです。それに耳はまだ聞こえなくてもペパロニさんの声の振動が子宮の赤ちゃんに届くはずだ……って)

愛里寿「わ~」

華「あら~」

みほ(みんな、二人のそんな姿をみても照れたりはしません。むしろ優しい気持ちになれるみたい、だってそれは──)


愛里寿「ルミも、私のおへそをハムハムしながら「む゛ー」っておしゃべりしてくれるよ。ぶぶぶぶーってお腹が震えて気持ちいいの」

そど子「ふぅん……なんだか生理痛の時にも効きそうね」

モブ子「あー……そういえばご無沙汰だぁ生理痛」

そど子「あの痛みから逃れられ事だけははホント妊娠様様なのよねぇ」

モブ子2「わかるっすねぇ」

(雑談)


みほ(だれにだって、多かれ少なかれ「ひみつの儀式」があるんです・)

みほ(私がお姉ちゃんやエリカさんにマッサージしてもらったみたいに)

みほ(……あ、そうだ)

みほ(「二人の秘密儀式」、つぎのセラピーのテーマにぴったりかもしれません。)

みほ(そうやってお互いを知り合うことで、みんながどんどん仲良しに……)

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しばらくおしゃべり。
今日はあいにくの雨。
命名、レクリエーションルームや大部屋や食堂に散らばってる。

///////////////午後15時40分
アンチョビ、もよおしてトイレへ。(大部屋をでて廊下を少し行ったところ)
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ペパロニ「姉さん、私も一緒に」

アンチョビ「いいってば……トイレくらい一人でいかせてくれ」

:アンチョビ出ていく

ペパロニ「……。」

みほ(あ、ペパロニさん、時計をみた)

みほ(アンチョビさんがトイレにいって何分が経たったを、チェックするんだ……)
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/////////////1分経過
---------------------------------------

 からからから……

アンチョビ「……ただいま」

みほ(え? 早い──)

アンチョビ「えっと、ごめん、ちょっと……隣の病棟まで行ってくる」

ペパロニ「──え?」

:全員の視線がアンチョビへ
:各自無言のままアンチョビの言葉を反芻、アンチョビの様子をうかがう。外見はとくに辛そうといった様子もないが。

カルパッチョ「……ドゥーチェ、どうしたんです」

アンチョビ「あー……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだぞ?……下着に血の点々がついてた」

みほ(え……!)

ペパロニ「ちょ・・・・・・内線!! 内線で緊急電話をします!」

アンチョビ「わああああ待て待て待て、大げさに騒ぐな体はなんともない!」

アンチョビ「ただの不正出血だと思うし、いやもしかしたら痔だったのかも──」

ペパロニ「バカな事いってんじゃないっすよ!」

アンチョビ「でもなぁ歩いていけるくらいなんだけどなぁ~」



みほ(後にして思えば──)

みほ(アンチョビさんは平気な自分を装うことで、内心の動揺を押し殺そうとしていたのかもしれません)

みほ(私もそうだけど、強いショックをうけたときって、不思議と人前では強がってしまうんです……)

みほ(ともかく──その直後に、アンチョビさんは──)


アンチョビ「もー、なんにもなかったら恥ずかしいぞぉー────ッひやぇうっ」


みほ(アンチョビさんのあげたどこか間の抜けた声。その声に反射的に振り向き──その後で目にした光景は、私の目に長く焼き付いています)

アンチョビさんの着ている病院着──の股間に、じわりと赤い染みが広がる。水水しく今までみたどんな赤色よりも赤かった。
初めはサクランボほどの大きさだったそれは、直後急激に拡大し、リンゴほどの大きさまで広がる。そして今度は、一転、ぴたりと拡大を止める……
全員が硬直する。
けれどしばらくそこに留まっていた赤リンゴは、ある瞬間に飽和し、直後絵具を垂らすように、すーっと、右足へと赤い汁を──。
アンチョビさんは、石造のように硬直したまま、その一部始終を見おろしていました。


ペパロニ「──ドゥーチェ!」

ペパロニさんの悲鳴とともに。。
カルパッチョさんは内線電話に突進し、他に者はアンチョビに駆け寄る。
ペパロニさんだけがアンチョビさんの身体に腕を添えようとした、が──

アンチョビ「──触るなっ!!」

受話器にむかってわめいていたカルパッチョさんでさえ思わず振り向くくらいの、切迫した金切り声。
みんなぎょっとする。

ペパロニ「ドゥーチェ?」

かすれた声でペパロニさん。
アンチョビさんには聞こえていない様子。
アンチョビさん、ゆっくりて股間に手をあてがう。
指先で血にふれようとしている?──いや、違う。
それはまるで、そこにある「何か」を確認しようとしているような──


みほ(──!!!)

直観的に理解させられて、みほ、戦慄する。

アンチョビさんの手は今や股間を覆っている。
そこにある『固形物』の、
そのたしかな重みを、
手の平で感じようとするように──

ペパロニさんの顔は、アンチョビさんの顔を同じくらいに真っ青になってる。
その場にいた全員の顔が凍りつく。

アンチョビさんが焦点の合わない目をしながら小さく呻く。


 た、す、け、て……


震えながらゆっくりと腰をおとして、がくりと膝をつく。
がそのままオシリを下ろそうとは決してしない。膝で半立ちになったまま──

みほ(……違う)

みほ(アンチョビさんは今──)

 ──座、れ、な、い、ん、だ──

全てを理解した時、みほは全身の血が足元に流れ落ちていく音をハッキリときいた。


「皆で支えてください!!!」

ペパロニさんの悲鳴の意味を、誰もが瞬時に理解した。
全員でアンチョビさんを囲み、肩に、脇腹に、腹部に、腕を回す。
アンチョビさんの身体を前のめりに倒させる。
ペパロニさんは、アンチョビさん腰に後ろから手を回し、しっかりとささえる。アンチョビさんの腰が、絶対に落ちないように。
いやまアンチョビさんの身体はぶるぶると震えている。皆で支えなければ──今にも崩れ押してしまいそうなほどに。

「お医者様がすぐここに来ます! ……ひっ……ドゥーチェ!!!」

センターの人達が駈けつけるまでの2分50秒。
それが長かったのか短かったのか、そんなことはもうわからない。
ただただ一心に、アンチョビさんの無事を祈った。

それと同じく、口にはせずどもその場にいた何人かはこう考えていたと思う。

──次こそはは自分なのかな──

みほもまた──。

/////////////午後14時30分
全員が大会議室に集まっている。
部屋には全員はいれたが、とうていい椅子わたりない。妊娠者が座り、その周りにパパや見舞の者達は立っていた。
部屋は静けさに包まれている。
窓の外の雨音だけが途切れること無い音。窓の向こうには隣の病棟が見えている。
あの病棟のどこかに、アンチョビさんがいる。
(アンチョビさん、無事でいてください……)
そう祈る一方で、子供の事はほとんどあきらめている。それを受け入れてしまおうとしている。……。そんな自分をみほはおそろしくかんじた。

//////////////午後16時
センター長が大会議室に。
センター長は女性。なんどもみんなの前で状況の説明をしてくれていた人。各人の個別の相談にもよく答えてくれていた。
そんな彼女の顔も今は険しい。

→安斎さんは無事。意識もはっきりしていて会話もしっかり。
→赤ちゃんは残念ながら亡くなった。
→あるいは私達は赤ちゃんをすくえたのでは。私の責任において可能性や責任の有無を検証する。
→経過が良好ならば、明後日には安斎さんはご両親とともにへ帰る。
→明日には面会も可能。ただし、時間は短く、なるべく静かに、少人数で。今はペパロニとカルパッチョうが一緒。ご両親は夜に到着。

---------------------------------------------------------

ペパロニからの伝言を預かっています。

→『皆負けるな。私達は負けると思って戦ったりはしない。戦車道の魂を忘れるな』


センター長〆る。
未来は不確定。
ですがともに立ち向かいましょう。的な。


見舞いのメンバー&パパメンバー、センターへの数日間の滞在を依頼される。(もっとも副作用のない健全な精神安定剤)

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カチューシャ「マタニティ・クラス……明日もヤワるわよ、絶対……!」

ニーナ「カチューシャ様、でも……みんなそんな元気……」

カチューシャ「何を言ってるの! 私達は負けない! 何があっても、私達は私達のまま、生き抜いてやるのよ!」

まほ「カチューシャに賛成だ。ワタシ達は永遠に悲しんでいるわけにはいかない。前に進まねば。……安斎もそう願っているだろう」

みほ(お姉ちゃん……)

まほ「明日の講師は私だ。皆……どうか参加をしてほしい」
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夜・母から電話
→自分もしばらく関東に常駐する。何かあればすぐに駆け付けるし、また見舞いにも行く。

就寝前・一人で中庭をあるく。雨はやんでいるが、地面はまだ濡れている。

みほ「あ……お姉ちゃんとエリカさん……」

ベンチで二人。エリカさんは泣いているらしい。微かにしゃくりあげる声が聞こえる。まほに抱かれて頭を撫でられている。

軽い不安障害だと言われたことを思い出す

みほ、そっとその場から立ち去る。
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■61日目
マタニティ・クラスの最中、ニーナがスッと手をあげる。

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ニーナ「──すみませんが……先生を読んでほしいだじゃ」

まほ「ん、先生?」

カチューシャ「ニーナ……?」

ニーナ「カチューシャ様、もうしわけありませんだじゃ。」

ニーナ「……最後まで一緒にいたかった」

カチューシャ「何を言って──」

ニーナ「わだす、今ぁ──」

ニーナ「……出血……」

ニーナ「……してるようだですだ……」

カチューシャ「…………!!!!!!」

ニーナ「二―ナ!!!

ニーナ「さけばねでください……だいぢようぶだぁ。痛みもない、出血も……あんまり多くはなさそうだべな。ただ、椅子さ、次座る人にはもうしわけないだが……」



 ──ダージリン様! 内線で!先生を!──

 ──ええ! !!……なんてこと……!!!!



カチューシャ「ニーナッ、ニーナッ……あんたっ……また私を一人にするつもり!?」

ニーナ「いんやぁ、今日の午後には、ノンナさん達も到着するべ。ギリギリセーフにしてほしいじゃあ……」

カチューシャ「ニーナッ……ニィナアッツ!!」

ニーナ「……。」

ニーナ「……。」

ニーナ「………………………………アリーナ……。」

ニーナ「……あぁ、いけん、ぼーっとしとったぁ……」

ニーナ「カチューシャ様、本当の本当にごめんなさい、エカテリーナ様と一緒に、この子が遊ぶところをみたかっただゃ……」

カチューシャ「~~~~~~っ……」


みほ(ニーナさんは最後まで落ち着いた(だけどそれがかえって悲愴な)様子でした。……先生や看護師の肩が駆け付けると、ほとんど自分の力で歩きながら、大会議室をでていきました。)

みほ(ニーナさんが運んでいかれた直後、皆が呆然としていると──)


 ──バアン!!!!


カチューシャさんが、小さな拳を、机にたたきつけました。
そのまま、何度も何度も、何度も……。


カチューシャ「ああああ!!!」

カチューシャ「あああああああ!!」

カチューシャ「あああああああああああああああ!!!!」


みほ(──。)

みほ(あるいは──カチューシャさんも私と同じ怒りを抱いていたんだろうかと、ふとその時に感じました。)


ダージリン「カチューシャ! おやめになって! ……止めて! お願いよカチューシャ!!」

カチューシャ「誰だ!! 誰が!!!! あああああああああああああ!!!!」


ダージリンさんに抱きしめられながらも、怒りに燃える双眸は、涙をゆるさず、ひたすらに何かを睨みつけていました。


その時、スイッチが入りっぱなしになっていた演壇のマイクが、お姉ちゃんの呟きを、拾ってしまいました。。

まほ『覚悟を決める時が──きたというのか……』

部屋はシンと静まり返る。
お姉ちゃん、ハッとする。

けれど今の言葉は、それはたしかにその通りなのかもしれない。
皆、まほの言葉をかみしめる。発言者たる当のまほさえもが、自分の言葉の意味を改めてかみしめる。


そんな中みほは──

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みほ(私達は今、地獄にいるのかな)

みほ(……)

みほ(私は一人じゃない。そう思って頑張ってきた。……だけど、皆と一緒にいても……)

みほ(地獄は地獄だったんだ……)

みほ(……。)

みほ(私達はこのまま、結局最後には──)

エリカ「……みほっ」

みほ「え……?」


:突然、隣に座っていたエリカがみほの手をつかんだ。腕に縋ってくる。



みほ「エリカさん……?」

エリカ「……っ、……っ」

エリカ「……みほ……みほっ……」

みほ(え……)

みほ(エリカさん、必死にはを食いしばって、涙をこらえてる。)

みほ(あ……! そうだ、エリカさんは今、軽い不安障害だって──)

みほ「エリカさん、息を吸って、深呼吸を……!」

みほ(お姉ちゃんに慰めてもらわないと! お姉ちゃん、エリカさんを──!)

みほ「……っ」

みほ(だめだ、遠い……!)

みほ(……あ。)

みほ(──私)

みほ(私はここで何をしてるの?)

みほ(エリカさんは今、私の隣にいる、私の手を握って、私の名前を読んでる!)

みほ(それなのに私が、何もしないだなんて──)

みほ「……!!」

みほ(私だって……私だってエリカさんのことを──)

みほ(守ってあげたい!!!)


 ……ぎゅうううう!


エリカ「あ……」

みほ「……エリカさん……」

みほ「大丈夫、だなんてとても言ってあげられないけど……」

みほ「お姉ちゃんの代わりにだなんて、私はとてもなれないけど……」

みほ「だけど私も──」

みほ「私もエリカさんの事、想ってる」

みほ「だってエリカさんは、」

みほ「私が今まで生きてきた中で」

みほ「──一番大切なお友達だもん──!」



みほ(──お姉ちゃん、ごめんなさい──)

みほ(今だけは、エリカさんの事……お姉ちゃんからとってもいいですか──)

みほ(そうじゃないと、私)

みほ(こんな地獄──)

みほ(生きていけない)



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■60日目 胎児の夢

■61日目 ミホーシャ 怒りのデス・ロード

ごめんなさい。
ホントのホントに時間切れです。
はしょりまくって、なるべく明日中に終わらせます。
申し訳ない。

皆さんのコメントのおかげで半年間続けてこられました。
本当に感謝しています。

■63日目 
福田さん流産





■64日目
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食堂で、誰かが言ってた。

「お地蔵様ってさ……生まれてこれなかった赤ちゃんを、供養する気持ちも込められてるんだって」

「…そうだったんだ……」



みほ「……。」

みほ(池の周りの路地に、たしかお地蔵様があった……)

 行ってみる。
 オレンジペコさんがいた。しゃがんで目をつむり、お地蔵さんに手を合わせてる。
 道端のそのお地蔵様は、ちょうど新生児くらいの大きさ。頭にかぶせられている綺麗な真新しい頭巾は、良く見れば聖グロリアーナの赤いスカーフ。

みほ「……。」

ペコ「あ……みほさん」

みほ「隣、いいですか」

ペコ「ええ、もちろん」

 しゃがんで一緒に合わせる。
 お地蔵さんは、とても優しくて穏やかな表情。
 その安らかな顔を見つめる──気が付けば、涙が頬を伝っていた。
 ペコさんも、隣で鼻をすする。

 昨日の夕暮れ、福田さんの赤ちゃんが流れた。

 その時、オレンジペコさんは誰よりも大声をあげて泣いていた。
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■65日目
赤ちゃんの命の意味を考える。
この命に何か意味をあげたい。
せめて、この子達が生きていた事を何かに残したい。
→センター側の人に相談。
→話の終盤、今回の事件で流産した赤ちゃんのために神社の建立が決まる。本社を皇居の一角に。分社を各地方に。





■66日目
センター長から説明。
世界中で再び流産群発。
原因はまだ特定できない。申し訳ない。

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 センター側から不思議な履物が支給された。

アリサ「何これ……おむつ、みたいな……?」

 その履物の意味を考えて、誰もがゾッとした。

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 産婦人科の女医さんやカウンセラーの人を招いて流産についての講演会が催される。

 流産の精神的肉体的苦痛がいかなものであるか。
 回復にいたるまでの一般的な変遷等々。
 更に、流産体験者の方を招いての質疑応答なども。

 覚悟を決めろと、暗に告げられている。
 
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■67日目
アリサさん流産





■68日目~75日目
回復した流産組が随時見舞いに訪れだす。
会長、ナカジマ、さき、ローズヒップ、ミカ等々

みんなそれぞれに今回の事件へ向き合ってる。

ある種の皮肉→
処女受胎は未知の現象であるけれど、流産ならば人類は過去に何千万回と経験してきた。その心のケアの方法もある程度は確率されている。(もちろん落ち込んだままのメンバーもいるけれど)
大人達は、集団妊娠には上手く対応できなくとも、それが集団流産へ切り替われば、何とか対応しうる……。


70日頃?
またしても姉に慰められるエリカを目撃するみほ。
みほはエリカに、同性愛志向についての話をする。
(いけないこととわかっていたけれど、葛藤の末、気持ちを抑えきれずに。)
(しかも、エリカさんには隠し事をしていたくないから、というズルい言い方で。→自己嫌悪しながら)
みほ「エリカさんはお姉ちゃんの事、……好きですか」
エリカ→尊敬はしているがそれは恋愛感情ではない(と思う)。ていうかお互い子供がいるんだからそんな事は今はもうどうでもいい。
みほ→内心で安堵。そしてまた自己嫌悪。


この間は流産の発生が一時的に収まっていた。
流産組の元気な姿をみれたこともあって、ちょっとだけ気持ちが上向く。
あるいはこのまま……と淡い期待するけれど、
結局それは、最悪の形で裏切られる。


■76日目
華さん・そど子さん流産
魔の悪い事に、お見舞いに来ていた沙織と麻子が、大洗へ帰るためにセンターを出発した数十分後のことだった。
沙織と麻子へはみほが電話連絡を買って出る。電話の向こうで鳴いている二人の声が、忘れられない。
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カチューシャ「ミホーシャ。あなたにはまだ私達がいる。……ミホーシャ、聞いてる……?」

みほ「……。」


■77日目
オレンジペコさん流産

■78日目
カチューシャさん流産

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 夜、エリカさんを誘い出して、中庭のイチョウの林を歩く。
 街頭の光あ木々に遮られ、そこは闇の中。足元さえもおぼつかない。

エリカ「ねぇ、どこまでいくのよ」

みほ「……。」

エリカ「転んでお腹を打ったらどうするの」

みほ「じゃあ、もうここでいいです」

エリカ「……みほ、あんた大丈夫? ……ごめん、バカね私も…。大丈夫なわけないわよね」

みほ「……」


 振り向くみほ。
 暗がりの中、ゆっくりと手を伸ばす。指先がエリカの体に触れる。

エリカ「みほ……?」


 指先の感触を頼りに、そのままエリカに浅く身を寄せる。上腕のみを使用して、甘く抱きつく。


エリカ「ちょっと」


 エリカがわずかにたじろぐ。その足元で、踏みつけられた落ち葉がサカ、サカと二度音を立てる。

みほ「エリカさん。私……もうだめです」

エリカ「……。明日……一緒にカウンセリングをうけましょ、今の私達には……それが必要よ」

みほ「……。」

みほ「頭を撫でてください。熊本でしてくれたみたいに。エリカさんに慰めてほしいです」

エリカ「みほ……。」

みほ「撫でてください。お願いします……お願いです……」

エリカ「……。……いいよ……」

みほ「……エリカさん」

エリカ「何?」

みほ「この事、お姉ちゃんには黙っててくれますか」

エリカ「……どうして?」

みほ「……。」

みほ「心配、かけたくない」

エリカ「……。」


 大きく鼻で息をすう。
 病室のシーツの匂いと、エリカさんの匂い、鼻腔がエリカさんで一杯になる。

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■79日目~85日目
だんだんと大部屋が広くなっていく。それぞれが孤独感にさいなまれるようになる。
流産組がお見舞いにはきてくれるのだが、……妊娠しているものとそうでないものとのあいだで、微妙な意識のずれが生じている。
姉妹3人と愛里寿ちゃんとで、なんとか励ましあう。


■86日目
まほ流産

エリカ、不安障害大爆発。
→私はどうなる?私とお腹のこは間違いなくまほの子。
→隊長は私を大切にしてくれるのか? もしかして私は捨てられるのでは?

みほ、愛里寿、まほの代わりになんとかエリカさんを元気づけようと奮闘。

大部屋が引き払われる。各人に個室が与えられる。
みほはエリカの部屋で毎晩一緒に夜を共にするようになる。

■87日目
しほが見舞いに来る。

■88日目
愛里寿流産。
ボコのテーマを喘ぎつつ、血を流す愛里寿。

みほ、この日以降ボコを好きになれなくなる。(嫌いではないけど、ボコの気持ちに共感できない)
やってやるじゃどうしようもないことがこの世界にはある。



■88日目~■92日目 
エリみほ・お互いのお腹が大きくなり始めている。夜なよな、お互いにお腹をさすりあう。
しほ、大洗メンバー、たびたび見舞いに訪れる。

この頃、会長から戦車道についての話を聞く。
→何とか復活させようと奮闘している。

・今回の件の仕組みを解明したがっている機関はけっこうある。こいつらを見方につけたい。
・今回の事件での検証に身を投じても良いとさえ言ってるメンバーもいる(世界各国に)。
・あの役人もいまは味方になりつつある


→心の底から会長を尊敬する。会長だけでなく、なんとか立ち直りつつある皆のことも。が、みほ自身の気持ちは妊娠の事で手一杯。どこか他人事に感じてしまう。そんな自分を嫌悪。

■93日目 みほ、ベッドでお互いのお腹をさすりあっている間に次第に感情が昂る。
(私にはもうエリカさんしか妊娠を共にする仲間がいない(国内では)。ずっと一緒に支えあって生きていきたい。この人の赤ちゃんを守ってあげたい。そして私のことも守ってほしい。)
→エリカにキスを迫る。(恋愛感情というよりも、ただただエリカを独占したい)
→エリカに拒まれる。エリカは、まだまだ、まほに操をたててる。
→この展開が不自然にならないように、ここまでの間でみほの感情の発展をを段階的に描写していく。

■94日目~96日目
 →エリカの精神が不安定に。

・自分とまほの子宮はいまや繋がっていない。
・隊長は家元。将来は別の人と結婚して子供を設けるのが自然
・その時私はどうなるの? この子はどうなるの? 私は一人で生きていくの?

・私はまだ西住家の養子でいられるの?
 →みほが大丈夫だとなだめても、なかなかその声が届かない。

■97日目 隊長の回復したまほがつくばへ見舞いにやってくる。
 →エリカ、まほに迫る。
 ・この子はあなたの子です。どうか私達を捨てないでください。
 →まほ「当たり前だ」
 ・けれどエリカはまほの言葉だけではどうしても不安。かっとなって法的な婚姻関係を迫り始める(この展開が不自然にならないように、ここまでの間でエリカの不安を段階的に(r
 →みほまほ仰天。なんとか二人でエリカをなだめる。
 →エリカが落ち着いた後、まほは病院を後にする(杏と会うため→後述)

 その夜。エリカさんがとんでもないことを言い出す。。

 「自分は隊長の人生の邪魔になるんじゃないのか。いなくなったほうがいいんじゃないのか」
 →みほブチ切れる。
 →姉のもとをさるくらいなら、私と一緒にいて、私がエリカさんを守る→エリカをおそう(極自然な流れ)
 →エリカ、なんだかんだで抵抗しきれない
 →かくして二人は一線を越える。→肉体的不倫関係へランクアップ
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エリカ「みほ」

みほ「なに?」

エリカ「この事、隊長には……言わないで」

みほ「エリカさん、最低……」

エリカ「……みほに言われたくない」

みほ「……そうだね、私も……クズだね……。」

みほ「……。」

みほ「いいよ。お姉ちゃんには秘密。だけどじゃあ代わりに──この事は、お母さんにも秘密にしてください」

エリカ「……ていうか言えないわよ……」

エリカ「ハァー」

エリカ「私達、どうなっちゃうのかしら」

みほ「わからないよ。だけど……エリカさん、好き……」

エリカ「……意味わかんないわよ……」

→2回戦へ

 一時の快楽。



■99日目 エリカ流産
 みほ。神を呪う。

すみません。どうしても端折りたくないシーンがあって、結局書いてしまいました。

そいで、書いた後なんかすごく疲れました。おそらく<三点リーダー>と<ダーシ>の使い過ぎによる疲労だと思われます。
なので、今日はもう続きが書けません。
というわけで、今日中には完結できません。
ホント嘘ばっかですね。
ごめんなさい。

■???日目





 ……おぎゃあ、おぎゃあ……






みほ(……。)






 ……おぎゃあっ、おぎゃあっ……






みほ(……ちょっと……今は勘弁してよ……。困ったなぁ、うんちかなぁ……)





  <『次は~、水戸~、水戸にぃー停車しまぁーす』




みほ(……あと二駅かぁ……)


 
 おぎゃあっ! おぎゃあ……!



みほ(ちょっと……お願いだから静かにして……)



男「……うるっせーなァ……」

みほ「っ……す、すみません……」

男「……あのさぁ……通勤時間帯にさぁ……なんで子供連れて電車に乗るかぁ……」

みほ「はい、すみません……どうしても託児所が遠くて……すみません……」

男「危ないだろ……五月蠅いし……これから仕事だってのに……」

みほ「……すみません……私も仕事で……すみません……」

男「……ッチ……」

みほ「……っ……」





     おぎゃあっ! おぎゃあっ!おぎゃあっ! おぎゃあっ!





みほ(……ああもう……)

みほ「……ね、あと少しだから、静かにしようね、ね、他のお客さんに迷惑だよ?、ね、ね……」

     おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!おぎゃあっ! おぎゃあっ!





みほ「あぁ……うんちかな? お腹空いた? ね、ごめんね、もう少しだからね、ね、お願いだから……」





     おぎゃあっ! おぎゃあっ!おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!





みほ「わかったから、ねぇ……お願いだから……」




 おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!





みほ「………ツ………ねぇ……っ、ねぇ……お願いだから、静かにしてよ、お母さん困っちゃうから……」





 ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ!ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ!ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ!




みほ「~~~~~~~~~~~~~~~~っ」

みほ「~~~~……。」

みほ「ねぇ……」

みほ「どうして静かにしてくれないの……?」

みほ「ねぇ……」








みほ「────どうして静かにしてくれないのよッッッ!!!???」








男「!?」

男「お、おい、アンタ……」

みほ「お、お母さんは!」


みほ「私は!! あ、あんたのために頑張ってるんだよ!!!!??」


みほ「アンタのために一生懸命に働てるんだよ!!!!????」


男「ちょっと──やめなさいって──」


みほ「それなのにアンタはっ、どーして!? どーしてお母さんに迷惑ばっかりかけるのよ!!!?? ねえええええ!!! どうしてよ!!!!?? 何考えてるの!!!! 泣いてないで答えてよ!!!」


みほ「叩いたりはしないから! だから答えてよ! ねぇ!!!!! いいかげんにしなさいよおおおおおお!!!」



老女「────あ~! はいはいはい! ね、お母さんおちついて! ね、大変よねぇ…………!」



みほ「……!? あ……え…………」



老女「ほ~~~~ら貸してごらん。オー可愛い赤ちゃんだねぇねぇ……よしよし、ほーら、抱っこだよォ、おー……よしよし……!」



 おぎゃあ! おぎゃあ! ……ぎゃあ……あ……あぶ……うー……



老女「んー、あんたは可愛いねぇ~。ねー、お母さんは幸せだね、あんたみたいな赤ちゃんがいてぇ、ねぇ」


みほ「あ……。」

みほ「……あの……」

みほ「……あの、すみません……すみません……私……」



老女「あぁいいのいいの、気にしない気にしない……若いのに大変よだねぇ、私も子育てには苦労したよぉ、なかなか泣き止まなくてねぇ……」

みほ「はぁ……」

老女「だけどアタシらのころは親と同居があたりまえだったから、まだ自分の父母に手伝ってもらえたけど……今どきはねぇ……あんたがた都会の若い人は本当、大変だぁ……精一杯、頑張てるよねぇ……」

老女「ただ……すこーしノイローゼ気味だねぇ。ちょっとだけ心配だ。一度カウンセリングをうけるといいよ。市役所に行けば相談窓口があるからね……きっと、力になってくれるから」

みほ「……はぁ……」

老女「さぁ……お母さんのところにかえろうねぇ、よしよし。またねぇ」

みほ「あ……。」


 あー……ぶー……だぅー……


男「なぁ、悪かった……謝るよ」



みほ「……いえ……」



みほ(……。)

 うぶぅー……あぶ、おげ……う゛ぁぅ~……

みほ(……はぁ……)

みほ(ごめんね……)

みほ(……結局最後まで……私はいいお母さんにはなってあげられなかったね……)

みほ(だけどもう………………)

みほ(………大丈夫だから……)

みほ(…………今まで、本当にごめんね…………)

みほ(今日は……託児所にいはかないの……)


みほ(……………………………ごめんね……)










 ──────────。














『赤ちゃんポスト』 
 
   ☆いつでもドアをノックしてください。まずはゆっくり、お話しをしましょう☆






みほ(……。)





:裏路地に隠れた一角。
:建物の壁に、小さな不透明な窓。今は閉じられている。
:窓の手前には赤ちゃんを寝かせるための台。その台の上には、呼び出しインターホン。


みほ(……そっか、ホントにポストがあるわけじゃないんだ……)

みほ(あはは、そうだよね、手紙みたに投函できるわけないもんね……)

みほ(バカだなぁ、私……。)


 あー、ぶー、だぅー……


みほ(……。)

みほ(元気でね)

みほ(立派な大人になってね。お母さんみたいになっちゃだめだよ)


 ……あー、うー……


みほ(貴方は可愛いよ。)

みほ(世界一かわいい……。)

みほ(だから……良いお母さんのところで、幸せになってね……)

みほ(こうしてあげることが……多分、あなたの為に私ができる、一番良い事だから……)

みほ「……」

みほ「……よしっ」

みほ「じゃあ、インターホン……おすねっ」


 
みほ(……パンツァー……フォーっ……!)



(ピンポーン)



『はい、こんにちわぁ』


みほ「……こんにちわ……」


『……大丈夫よ。ね、心配しないで。まずはゆっくりお話しをきくから──』


みほ「あの……名前は、ありません。自由に決めてください」


『……え?』


みほ「戸籍を変更するための書類とか──母子手帳とか証明書とか、大事な書類は一緒においておきます」

みほ「この子のこと、お願いします!」

『ちょ──ちょっと待って、ねえ、お母さん──!』

みほ「……ッ、元気でねッ!!!!」




 だだだだだだだだだだ……!!!


 






 ──────。









みほ「……ふぅ……」

みほ「……。」

みほ「ゆっくり公園を散歩するだなんて……いつぶりかなぁ」

みほ「はぁ~……」


みほ(……。)

みほ(自由になったんだし……久しぶりに、ショッピングモールにでも行ってみようかな)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(まぁでも……別にほしいものなんてないか……)

みほ(ん~……じゃあ、せかっく一人なんだし……ちょっとおいしいご飯でも……?)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(食べたいもの)

みほ(別に……ないや……)


みほ「……あ」


みほ(あの子はまるこぼーろが大好きだって……ちゃんとメモに書いたっけ……?)

みほ(書いた……よね? ……どうだったかな……あぁー……チェックし忘れた……失敗したなぁ……昨日は仕事で疲れてたから……)

みほ(うーん、夜泣きしたときはおでこをチュウチュウしてあげると泣き止むって……それは……うん、書いた、書いたよね……?)

みほ「……。」

みほ「まぁ……もう、関係ない、か……そうだよね」

みほ「うん。何か、楽しいことをしなきゃ……何か楽しい事を……」



 (みほのあしもとに、ゴムのボールがてんってんっと跳ね転がってくる)



みほ「わ……?」



 <母親「あ、すみませんー。……ほら、ごめんなさいしてこなきゃ」



みほ「あ、いいえー……」



 <幼子「あぅー、ごめんあしゃいー」



みほ(あ……可愛い……)



みほ、ボールを取ってあげる。


幼子「あいがと」

みほ「うん……ふふ」



 <母親「とってもらえてよかったねー」

 <幼子「あぅー」



みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(いいなぁ……)

みほ「……ふふ」

みほ「でも────私だって、もうすぐだよね」

みほ「あと二、三年したら、私の赤ちゃんも、あんな風に」

みほ「あぁ……楽しみだなぁ────」

みほ「あんな風に、一緒に──」

みほ「……。」


みほ「……。」


みほ「……。」


みほ「……。」


みほ「……え?」





みほ「……………私の、赤ちゃんは……」



みほ「………………………………………。」



みほ「…………………………………………………………………あれ?」



みほ「………………………………………………………………………………………………………………………」



 <幼子「あー、きゃ~♪」

 <母親「こらぁー、やだも~♪」



みほ「……………。」

みほ「……………。」

みほ「……………。」

みほ「……………。」

みほ「……………。」


みほ(だめ)



みほ(返して)



みほ「……っかえしてええええええ!!!」


 だだだだだだだ!!!!!


母親「──!?」

母親「きゃあああああ!?」

母親「ちょっと!? 何よあなた!?」

みほ「かえして!! かえしてよ! 私の赤ちゃん!!!! かえして!!!」


母親「ひっ……だ、誰か!! 警察を、警察を呼んでください!!! 子供が……私の子供が!!!!」


みほ「ああああああああああかえせ!!!」

みほ「かえせかえせかえせかせああせかっけかあせっかかけっけあせ!!!」

みほ「あああああああああああああああああああああああ!!!!」

みほ「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 ──────。









みほ「っ!!!!!!」




:みほ、ベッドから飛び起きる。




──■101日目 深夜2時──




夢の記憶が言葉にできないほどに不快。耐
えがたい不愉快さに襲われて、気が狂いそうになる。
頭を抱えて、ベッドでもんどりうつ。



みほ「ああああああ……!」


みほ(エリカさん、お姉ちゃん、会長、助けて! ……助けて!!!)

みほ(でも……もうエリカさんもいない! お姉ちゃんもいない!! )

みほ(ここには……誰もいない!!


みほ「い゛いいいいいっ……もう、だめ……だめ!! 」

みほ「お母さん……お母さん!!!!」


母に電話をする。
寝ぼけたしほの声は、みほの尋常じゃない声色を聞いてすぐに覚醒。

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しほ『みほ、あなたLINEは使えるわね?』

みほ「……使える、けど……」

しほ『なら、いったんこの電話をきって、ラインでかけ直しなさい。ああ、いえ、私からかける』

みほ「……。」

しほ『そして、いい? そのまま通話状態にしておきなさい。話をしながら──あなたのところまで今から行く』

みほ「え……?」

みほ「だけど、お母さん、今、どこ……?」

しほ『虎の門のホテルです。けれど、高速を使えば、この時間帯なら一時間もかからない。』

みほ「きて、くれるの……?」

しほ『いくと言っているでしょう。いい? 通話状態のままで、よ。話をしながら運転するから』

みほ「……。」

みほ「……やだ、だめ……きちゃだめ……」

しほ『……は?』

みほ「だって、もしお母さんが運転で事故にあったら」

みほ「私、私……」

しほ『……。』

しほ『……とにかく、すぐいく。みほ、まほは随分元気になったわ。今日はね──』

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//////////深夜3時半頃。しほ、到着。
みほは、しほが無事に到着するまでの間、本当に気が気ではなかった。

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しほ「汗がすごいわね。風を引かれては困る。……着替えをもらってきましょう」

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母に衣類をぬがされ、体を拭いてもらう。
その間も、何かヘドロの中に浮いて言えるようなぼーっとした感覚がある。
夢の感情が忘れられない。
身体が熱っぽい……。

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しほ「少し前かがみになれる? 腰をふくから。お腹を圧迫しない程度に、ゆっくりと」

みほ「ん……」


 ごっし、ごっし、ごっし


みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(子供のころにも、こうやってお母さんに体を吹いてもらったことがあった気がする)

みほ(……。)

みほ(風を、引いた時……)


 ごっし、ごっし、ごっし


みほ「お母さん、少し力強い……」

しほ「ん」


 ……っしゅ、っしゅ、っしゅ



みほ(……。)

みほ(お母さん)

みほ(……優しい……)



みほ「ねぇ……お母さん……」

しほ「何?」

みほ「あのね……」

みほ「どうしても一つ、聞いておきたいことがあって……」

しほ「……ええ、いいわよ」」

みほ「あのね……」

みほ「もし……」

みほ「もしも、私が流産をした時──」


しほ「みほ……そういう無駄な心配を──」


みほ「──無駄な心配じゃ、ありません。」

しほ「……。」


 ……しゅ、しゅ、しゅ
 

みほ「これは、必要な覚悟。みんな出来る限りの覚悟をして……毎日ここで暮らしてました」

みほ「そのみんなの覚悟を……無駄だなんて、言わないでください」

しほ「……。」

しほ「ごめんなさい……謝るわ」


 しゅ、しゅ、しゅ……


みほ「……それでね」

しほ「ええ」

みほ「もし流産をしても、私は──」

みほ「私は……熊本に帰れますか? 熊本の大学に……いかせてくれますか?」

しほ「……。」


 しゅ、しゅ、しゅ



 ……しゅ……。



 ……。


みほ「……お母さん……?」

しほ「……。」

しほ「みほ」

みほ「……はい」

しほ「それは──その質問は──むしろ私が貴方に聞きたかった事です」

みほ「……え?」

しほ「貴方は、熊本に帰りたい、熊本の大学に行きたいというけど──」

しほ「一番大きな理由としては、やはり、子供のためでしょう」

みほ「……うん……」

しほ「だから……一月以上前、貴方に熊本へ戻ることを許した時に、本当は確認をしたかった。でも、こんな時に聞くようなことではないと……黙っていました。つまり──」

しほ「──もしも子供がいなくなった時、それでもあなたは熊本に帰ってきてくれるのか、西住流に戻ってきてくれるのか……と」

みほ「……!」

みほ(……戻ってきて『くれるのか』……)

みほ「……じゃあ……」

しほ「……。」

しほ「何があろうと……構わないわ。戻ってらっしゃい。まったく……それこそ、無駄な心配というものです」

みほ「……!」

みほ(よかった……)

みほ(……本当に、よかった……)

みほ(あぁ……私にはまだ……帰る場所があるんだ……)

みほ(……幸せ……)

しほ「聞きたい事は、それだけ?」

みほ「うん……っ」

みほ「……。」

みほ「お母さん、ありがとう……ここに来てくれて」

しほ「……電話であなたの声を聴いた時は、いよいよかと思ったけれど──まぁ、ひとまず無事で、本当に──」

しほ「──……。」

しほ「……。」

しほ「……。」

しほ「……。」

しほ「……。」



みほ「……?」

みほ「お母さん?」

みほ「……どうしたの……?」



 :しほ、みほのお腹を撫でる。おへそが浮き始めていてる。しほの指の脇が、くりくりとそのでっぱりを撫でた。



みほ「んっ……」

しほ「……。」

しほ「……最初に貴方たちが身ごもったと聞いた時は……いったいどんな恐ろしいものが、ここに詰まっているのかと思ったけれど……」

みほ「えー……ひどいよ、お母さん……」

しほ「それでも超音波写真をみて、こうやって膨らむお腹を見れば──」

しほ「──思いのほか、愛しみのような感情も、湧いてくるものなのね」

みほ「……お母さん……」

しほ「……。」




しほ「………………ならせめて、……。」

しほ「……もう少し早くに……………………………………」




みほ(……?)

みほ「……ねぇ、お母さん?」

みほ「本当にどうしたの?」

みほ「……変だよ……?」



しほ「……。」



しほ「……。」



しほ「ねぇ、みほ。」



しほ「聞いてちょうだい」



みほ「う、うん、何?」





しほ「私は────」





しほ「──会ったのです。あの子達に──」





みほ「……え?」






しほ「……二人に、会ったのよ……」





みほ「誰、に?」

みほ「……。」

しほ「……」





 ……ぞわっ……

みほ(……?)

みほ(あれ……?)

みほ(なんで私──鳥肌が──)








しほ「会わないわけにはいかなかった。事件の中心にかかわるものとして──家元として──」






しほ「そして何より」





しほ「私はあの子達の──」












      「  祖母なのだから  」











みほ「………………………………………………………………え?」









 ──母の言葉の意味を理解した時、私は──

   ──ただただ茫然とするしかなく──











──けれど私は、この時はじめて……それを見ました──






しほ「小さかった。けれど──ちゃんともう、人の形をしていた。……綺麗な顔をしていた」

しほ「抱かせてもらえないかと……お願いはしてみたけれど──まぁ、さすがに断れたわね……今思えば、バカなことを聞いたものね」






 ──あの、お母さんが──

しほ「この子を抱き上げてあげたいと、あれほど強く思ったのは──えぇ、貴方やまほを産んだ時以来でしょう」






    ──あんなに厳しかった、私のお母さんが──






しほ「それに……そうねぇ……出来れば生きているときに──……。」

しほ「…………………生き、ている……ときに……」

しほ「……い、きて、いる……あの子達を……二人を………………ふたり……を、………………ふっ……ッ……!」






 ──こんなに顔をくしゃくしゃにして──歯を食いしばって──涙を流している姿を──






しほ「ぐぅっ……おぉ……ぐぅぅぅっぅぅうぅっぅぅ……!!!」




しほ「……生まれて、ほしかった……生まれてきてほしかった……元気な二人を──抱き上げてあげたかった……」




しほ「……ああ!! 本当に、何もかも今更なのに!……いまさら、もっとお腹に声をかけてやればよかったと……あぐぅっ……うっ……おおおお……情けない、わねぇっ!」







   ──母はひとしきり、涙を流し続け──




 ──その後、母は私の膨らんだお腹に手をあて──





  ──母らしい、ものすごく厳しい声で、こう叫んでいました──








しほ「生まれてきなさい、どうかあなたは、生まれてきなさい、どうか──どうか元気に──生まれてきなさい──!」 





 ──その母の言葉をきいて私は──





みほ「あああああ! あああああ! わああああああああ!!!!」




 ひきつけを起こすぐらいに泣きじゃくりながら、そうしてひたすらに、神様へ祈っていました。




みほ(どうか! どうかこのこを無事に産ませてください! お願いします!)


 二日前には心の底から呪った神様へ、今は、こうして慈悲を請う。
 神様ならばきっと許してくれるはずだ、と……そんな自分勝手なことを考えながら……。

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あのタイミングで

みほ(……パンツァー……フォーっ……!)

って入力した自分がすっごく嫌いです。


続きは後日。
ほんとごめんなさい。どうにも疲れました。

■101日目(朝)

しほ「熊本に帰りましょう」

→妊娠者がもはやみほ一人になってしまった事や、みほの精神的な負担をかんがみて。
もともとそういう方向で話が進んでいた。
熊本の実家なら検査器具もろもろ運び込めるスペースはあるだろう。
データはオンラインで何とか。細かい調整はリアルタイムで。みほの都合を優先する。
(国側もなるべくみほに子供を産ませて研究したい。無理させて流産されたらもとも子もない)


■102日目
何人かが、最後の見舞いに来てくれた。
(本当はみんなが来たがっているけれども、みほの隊長を考えて各校から代表が)

・愛里寿、ペコ、カチューシャとは電話で少しだけ話をする。
・エリカ・まほはすでに熊本へ戻っている。
・退館前、母に頼んで、最後に一人で池の回りを散歩させてもらう。

→いろんな事があったなぁ。
熊本に帰ったらどんな顔してエリカさんやお姉ちゃんに会おう?
(エリカとみほはある種の不倫状態)



「私の戦いはまだこれから」

つくば入院編(■54日目~■103日目)完

気持ち的に端折りやすくするため、ちょいと区切りのいいとこまで追記させてもらいました。

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■顛末-98日目(エリカ流産の前日)

みほとエリカ、つくばで一緒にすごした最後の一日。

一時の温もりをとめて、互いの身体をむさぼりあう。
次々に死がおとずれるこの冷たい空間の中で、互いの身体だけが暖かい。

一日限りの快楽フェスタ。二人で協力し、性についての色々な初めてを体験した。



けれど……、

みほ(この奥に、お姉ちゃんの子供がいるんだ……)

みほ(私達の恥ずかしい声……聞こえてるのかな……)

みほ(それを聞いて、この子はどう思っているのかな……)


後ろめたい感情が、始終、頭の隅で蠢いていた。




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■顛末-100日目(エリカ流産の翌日)

エリカが流産をしてとうとうみほは一人。。

母が、姉が、大洗や他校みんなが、メールや電話で口々に励ましてくれる。
だけどもう嫌だ、もう耐えられない。


みほ(早く流産をしてしまいたい。どうせこの子もすぐに死ぬ。)

みほ(どうせ死んでしまうのなら、早く終わりにしてあげたい。)

みほ(一刻も早く、この苦しみから逃れたい。)


方法はいくらでもあるはずだ。


みほ(明日の朝、目が覚めたらお母さんに電話をして、相談をしてみよう。だからせめて、もう一晩だけはこの子と一緒にいてあげよう。)

どうか神様、せめて夢の中だけでも、この子を幸せにしてあげられますように。
どうか神様、せめて今晩だけは、この子と良い夢を見られますように。










………………………………………………………………。










     ……、、、、ほ……みほ、

みほ(……。)

     ……起きな、、い、……みほ。

みほ(……ん……。)

みほ「……ん、う……?」


:目を開ける。母の横顔が、自分を覗き込んでる。


みほ「……お母さん、……?」


:ぼやけた視界のまま、あくびと伸び。飛行機のエンジン音の唸りが耳に響く。
:顔の側の窓の向こうでは、白く輝く一面の雲海が、のんべんと後方へ流れている。






 ──■104日目 13:42  熊本行の飛行機、静岡上空9000メートル──






しほ「嫌な夢? うなされていたわ」

みほ「あ……うん……よく覚えてないけど、多分、そうだったと思う……」

しほ「そう……次は、きっと良い夢を見られる。まだ一時間はかかるから。ゆっくり休んでいなさい。またうなされていたら……起こしてあげるから」


:しほ、手に持っていた書類に視線を戻す。

:みほ、その母の横顔を、見つめる。安心を得る。


みほ「お母さん、私、頑張って赤ちゃんを産むね。……流産しなければ、だけど……」

しほ「……? なんです、急に改まって」

みほ「あのね──」



 → 一人ぼっちになって一度はくじけたけれど、お母さんのおかげでまた頑張ろうと思えた、的な話。



みほ「だから──」

みほ「ありがとうございます、お母さん。私、あきらめずに赤ちゃんを──産みます」


→母、無言で抱きしめてくる。びっくりしたけれど、とても嬉しい→(私は、お母さんが、大好き)
→そう感じるにつけエリカとの事を黙っているのが、どんどん後ろめたくなっていく。
→打ち明けてしまいそうになる。けれど、エリカに断りなく勝手に打ち明けるのは躊躇われる。結局、言えない。

:二つの感情のせめぎ合いに、みほ苦しむ。



夜、熊本の家に到着した。

お父さん(恒夫さん)が待ってた。

みほ「お父さん……!」→「これからは家にいる。今まですまなかった」

みほ嬉しい。もとめてやまなかった父性が、ようやく少しだけ補填された気がする。
お姉ちゃんもまた、自分の帰郷を素直に喜んでくれた。
後ろめたい感情はもちろんあるけれども、それよりも会えたことが嬉しい。
現金な自分にちょっと呆れる。


→エリカも西住家にいる。本人が望んだ。(今は、部屋で眠っている)
→ただし、事後の体調があまりおもかんばしくない。食欲があまりない。流産後の精神的なショックだろう。今は時間が必要。



まほ「一応、庭を散歩したり、軽く体を動かしてはいるんだが……」

まほ「ただ、私とはあまり話をしてくれいんだ……寂しいよ」


(まさか自分とのことがあったから?) みほ、ぎくりとする。






家族四人で遅め晩御飯を食べる。(エリカさんはすでに部屋で軽い食事をすませてる。だいたいいつもそう)
姉への後ろめたさはあたしかにある、けれどやっぱりそれ以上に、家族でいれて幸せ。
お父さんがしきりにお腹を触ろうとするので、お母さんと姉がそれをたしなめた。

みほ「えへへ……触っていいよ、お父さん」

久しぶりに、心が安らいだ。







就寝前。
思い切ってエリカさんの部屋を訪ねる。

けれど、エリカさんはやっぱり眠っていた。
一週間ぶりの、一方的な再開。
枕元で、その寝顔を見つめる。

つくばですごした、最後の辛い日々を振り返る。
今、こうして二人で静かな時間をすごせていられることが、なんだか奇跡みたいに思えた。

エリカさんのお腹にそっと手をそえる。

みほ(エリカさんのお腹、ペッタンコになっちゃったね……)

涙がでた。



今日は、流産をせずに済んだ。


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■105日目
明け方//////////
隣の部屋の物音で、目が覚める。

みほ(あ、……エリカさん、起きたかな)

どうしても、エリカさんとお話しがしたい。

みほ「エリカさん……起きてますか」

ドアをノックする。
間があった後、

エリカ「うん……起きてる」

少し弱弱しいけど、間違いなく、エリカさんの声。
一週間ぶりに耳にしたその声。全身の神経の一本一本全てに、微量な電流が走った。
エリカさんの部屋に踏み込む。


再開は瞬間は以外とあっけなく通り過ぎ、
互いの隊長やメンタル面をぽつりぽつりと報告しあう。
この一週間のお互いの事なども。


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みほ「お姉ちゃん、エリカさんとあんまり喋りできくて寂しいって、そう言ってた」

エリカ「……。」

みほ「もしかして私のせいで、お姉ちゃんと話しづらく……

エリカ「ううん、違う。みほのせいじゃない」

みほ「本当?」

エリカ「私ね……隊長とどう喋っていいのか、良く分からなくなっちゃったのよ。アンタとなら、こんな風にしゃべれるのにね……」

みほ「でも、それって、やっぱり私の……」

エリカ「だから、違うって。……私と隊長、もう赤の他人になっちゃったでしょ? そのせいかもね」

みほ「他人だなんて、そんな」

エリカ「だって、隊長のお腹にはもう私の赤ちゃんはいない。私のお腹にも、もう隊長の赤ちゃんはいない。養子の話も、……多分なくなる」

みほ「……。」

エリカ「ついこの間まで、私達は4人だった。なのに今、私は一人」

エリカ「……その事が寂しくてたまらない。だからせめて、隊長の側にいたい。そう思って、この家にいさせもらっているのに……何をやってるのかしらね、私……」

みほ(……河嶋先輩と、同じなのかな。失ったものが、あまりにも大きすぎて、ショックが、大きすぎて……)
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エリカの弱音が、みほの母性を刺激する。

みほ「ね……エリカさん……」

自分のふくらんだお腹を、くりくりとエリカに押し付ける。そうして、エリカさんの背中を抱く。
いやらしい気持ちはほとんどない。ただただ、エリカさんを慰めてあげたい。
一度一線を越えたためか、そういう事がごく自然にできた。自分の体全部を……赤ちゃんさえもつかって、エリカさんを慰めてあげたい。

エリカさんを寝かしつけて、その手を握る。エリカさんは、抵抗をしなかった。
それどころか、堪えていたものを吐き出すように、


エリカ「私、この部屋で何度もみほの事を考えた……寂しかった……」


子宮と子宮でつながっていたお姉ちゃんとエリカさん。
それと同じように、私とエリカさんも、あのつくばの辛い日々の中で、何かが繋がってしまったような気がする。


みほ「うん。私もずっと会いたかったよ、エリカさん……」

エリカさんが寝息を立て始めた後、みほは静かに、自室へと戻った。
ふと自分の感情の変化に気付く。


みほ(やっぱり私は……エリカさんとお姉ちゃんに、仲良くしてほしい。)


後ろめたいとかどうのとかよりも、そう願う気持ちのほうが遥かに強くなっている。
過去の後ろめたさよりも、これからの事に気持ちが向くようになった。

ここはもう地獄の凍てつく一丁目ではない。
私の家族に守られた、暖かい熊本の家なのだ。

エリカさんとお姉ちゃんがまた仲良くなれるように、頑張ろう。
力がわく。





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:午前中
早起きをしたせいか、なんだか眠たい。妊娠のせいもあるのかも?
自室のベッドでうつらうつらしながら、過ごす。



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:お昼過ぎ
家の前におっきなトラックが止まって、大量の検査機器が下ろされてきた。
病院の集中治療室で見るような臨床検査機器やら分析・実験機器やら、全部みほの為。
ネットワーク工事の業者さんもやってきた。
半日かけてみほの部屋をオンライン対応に改装……。
お父さん、その配線工事を興味深そうにながめてる。
隣の部屋のエリカさん、うるさくないかなぁ。




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:夕方
お姉ちゃんと一緒に軽く犬の散歩。(誰かと一緒ならば、短い外出はOK)

エリカさんと話した事を、姉に伝える。
お姉ちゃんは、悲しそうな顔をして

まほ「私も、エリカと共に赤ちゃんを産みたかった。その気持ちは、同じだ」

と、お腹をさすっていた。

みほ(エリカさん。エリカさんとお姉ちゃんは、赤の他人なんかじゃない。だって二人はお互いの赤ちゃんを妊娠していたんだよ。そんな簡単に、他人に戻っちゃうはずがないよ……)



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夜。
姉の発言を今度はエリカさんに伝える。

エリカ「……。」

エリカさんは少し涙ぐんで、無言で俯いていた。
純粋な思いやりから、そっとエリカさんの肩を抱く。
そうしてそのまま、一緒に眠ってしまった。

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■106日目

早朝、つくばのセンターからからお家に電話がかかってきて、「みほさんのデータが届いてません」という安否確認があったそうな。
お母さんに怒られた。
そうだった。寝る時は自室のベッドであれこれと検査計をつけてないといけないんだった。
心配かけてごめんなさい、つくばの人。

……っていう話をエリカさんにしたら、少しだけ笑ってくれた。




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お昼すぎ
アリサさんとケイさんがお見舞いに来てくれた。同じ九州とは言え、わざわざ来てもらえて嬉しい。

アリサさんは、とっくに元気になっていて、私の赤ちゃんが無事なことをとても喜んでくれた。アリサさんは強い人。

ケイさんも、私のお腹をみて大はしゃぎ。
ちょっと涙ぐみながら、お腹に向かって「がんばれぇー!! 負けるなファイト――――!」
中庭に響き渡る大声。

庭でストレッチをしていたお姉ちゃんが飛んできて、「何をやっているんだお前は!」と少し怒ってた。
私はべつに、励ましてもらえて嬉しかったけれど。

サンダースの皆さん、戦車道復興に向けて頑張ってる。

みほ(戦車かぁ……)

そういえば、もうずっと戦車の事を真剣に考えていない。生きることで手一杯だった。



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夜、エリカさんとおしゃべり。
昼間のサンダースの事や、戦車道の思い出話。
エリカさん、少しづつ笑顔が増えてきたかもしれない。


今日も、流産せずにすんだ。

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■107日目
お母さんと一緒に車で熊本中央病院へ。

病院での検診は特に異常なし。
通常であれば安定期に突入するけれど、油断はまったくできない。と釘をさされた。

たしかに、つくばでも流産には一定の周期があるように思えた。

……だとしたら……そろそろ……。



夜。エリカさんが私の部屋にきて、腰をマッサージしてくれた。とっても気持ちいい。

赤ちゃんは、まだ私のお腹の中にいる。





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■108日目
お姉ちゃんと一緒に縁側でゆっくりしていたら、エリカさんが顔をだしてくれた。
そうしてそのまま、お姉ちゃんとぽつりぽつりとおしゃべりしてる。
よかった。

お姉ちゃんにお礼を言われた。
まほ「みほが帰ってきてくれたおかげで、エリカが元気になったよ」

よかった!


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■109日目
お母さんとお父さんとお姉ちゃんとで朝ごはんを食べていると、


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エリカ「あの……おはようございます……」

まほ「エリカ」

エリカ「その、今日からは私も一緒に、ここで食事をしてもいいでしょうか……」

まほ「……! ああ、もちろんだ!」

しほ「好きなように食べなさい。ただし、準備は自分ですること」

エリカ「は、はい……!」

まほ「手伝ってやろう、何がいい。目玉焼きにするか、ベーコンは入れるか?」

エリカ「え、いや、自分でやりますから……」
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お姉ちゃん、すごく嬉しそう。
お父さん、「ますます女所帯だ。良いことだ」と笑ってた。
楽しい。


ちょっとハシャギすぎたのかも。
体が重い。
足がむくむし、腰がずっしり。
お母さんにそれを伝えると、
「妊娠中はよくあることです。大人しく寝てなさい」
というわけで一日ベッドで横になる。




だけど、部屋でただ横になっているのも、あまりいいことじゃないのかもしれない。
色々と考えてしまう。
次の瞬間、出血──するんじゃないかという不安にも襲われる。






まほ『エリカ、今日は一緒に犬の散歩にいこう』

エリカ『はいっ』

空けておいた窓からから、二人の楽しげな声が聞こえてくる。
少しだけ、不安が和らいだ。
微かな寂しさをもまた、感じているけれど。


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つくばでエリカさんが流産をしてから、それそろ10日が経つ。
つくばで目の当たりにした沢山の涙、そしてあの嫌な夢、忘れらるはずがない。
血にまみれた、死と喪失の日々。
いつまたそれに引き戻されるか、その恐ろしさから逃れることは、どうしてもできないみたい。

■110日目
お昼寝
また嫌な夢をみてしまった。

うなされていたらしい。

エリカさんが、起こしてくれた。

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エリカ「汗、すごいわよ」

みほ「うん……嫌な夢を、見ちゃいました……」

エリカ「……。赤ちゃんの夢?」

みほ「……。」

エリカ「……。嫌な夢なら、私もよくある」

みほ「どんな……?」

エリカ「……隊長と私と、赤ちゃん達と、四人で一緒にお出かけをして──」

エリカ「ああ幸せだなって思ってたら、目が覚める」

みほ「……。」

エリカ「……どっちが悪夢か、わらりゃしないわね……」

みほ「エリカさん」

エリカ「?」

みほ「エリカさんと一緒に……お昼寝をしたいです……」

エリカ「……、ええ、いいわ」


いくら不純な気持ちは無いとはいえ、私達はあっけなく、そんな事をできてしまった。自分達に飽きれる。


エリカ「一応、鍵……閉めるから」

みほ「うん……」


甘えて、何度かエリカさんの名前を呼んだ。そのたびに、エリカさんは頭を撫でてくれた。
エリカさんの体の匂い、私は全部覚えてる。頬、耳、口、つむじ、おでこ、うなじ、首もと、肩、脇、指の間、それぞれ少しづつ臭いが違うけれど、私はそれらが全部好き。


二人で一緒に、夢現に祈る。
私達の悪夢が、ちゃんと夢に帰れますように。幸せな世界こそが、現実でありますように。





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夜。
エリカさんの夢の話を、姉に伝える。



まほ「そうか、エリカはそんな夢を」

みほ「お姉ちゃんは、どう? お姉ちゃんも……」

まほ「ああ、あるよ。何度かな……。目が覚めた後……とても辛かった。」

みほ「そのお話し、エリカさんにもしてあげて。きっと、エリカさんの慰めになる……」

まほ「……。そうだな、話してみるよ。ありがとう、みほ。」

みほ「エリカさんには、やっぱりおねえちゃんが必要だよ……」



ちょっといびつな、罪滅ぼし。

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■111日目

熊本の病院から電話があって、お父さんとお母さんと一緒に呼び出された。

「私の赤ちゃんの寿命が、わかるかもしれません」
つまり、何日後に流産をするか、──あるいは流産しないか──ということが。



病院で説明を聞く
赤ちゃんの細胞分裂を阻害していたたんぱく質を特定できた。
複数のがん抑制遺伝子が不活性になると、そのタンパク質を合成する遺伝子とその支配下の遺伝子群が活動を始めて──
なにか堂々巡りのような話だった。
私達の赤ちゃんの性染色体は普通の人と少し違ってる。赤ちゃん個々でさえも少しづつ異なってる。
だから過去の研究成果を結び付けられずなかなか特定できなかったけれど、ようやくデータがそろい始めた。
つまり──サンプルデータを提供してくれる数千の胎児の亡骸のおかげ……。

話を聞いて恐ろしくなる。

日本で74人
世界では3928人

今回の事件で生まれ、そして死んでしまった赤ちゃんたち。
生き残りは、自分と、カナダに一人と、アルジェリアに一人。

その数千の赤ちゃんの亡骸の上に、自分と自分の赤ちゃんがいるような気がしてくる。

それに、先生の説明を聞いていると何だけか人間がただの機械仕掛けの人形みたいにおもえてきて……少し、気分が悪くなった。

羊水と血を取られる。
痛かった。

それにしても、ひどい話。
原因が分かっても、それを防ぐ方法はまだわからない。
正確には、そのたんぱく室の受容体?をブロックすることはできるけど、そうすると他の必要な機能まで阻害されてしまうそうな。
本当にひどい話……なんて言ってはいけないんだろう。
寿命が分かるようになったのだって、大勢の大人の人達が必死に研究をしてくれたから。
他の皆は、それを教えてもらえることさえできなかった。。
とはいえ……でもでもだっては、どうにもとめられない。

家に帰ってからは、なんだかどっと疲れがでてずっと横になっていた。

夜、お姉ちゃんとエリカさんが一緒にいてくれた。

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■112日目。

明日の午前2時頃、母のパソコンに検査結果がメールされてくるらしい。

そのメールを開いた時、私の赤ちゃんの寿命が分かる。

怖い。

人間はいつ死ぬかわからないから生きていられるって、テレビでみたことがある。



あんまり元気がでなくて、ずっと部屋で寝ていた。
午後、お母さんが部屋にきてくれた。
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しほ「みほ」

みほ「お母さん……」

しほ「飲みなさい。温まるわよ。便秘にもきく」


ホットミルクを持ってきてくれた。


みほ「ありがとう。……はぁ、、、暖かい、おいしい……」


しほ「……。」

みほ「……。」


私も、お母さんも、口数は少なかった。


しほ「みほ、おなかを触っても?」

みほ「うん……触ってあげてください」


お母さんにお腹マッサージをしてもらいながら、それが気持ち良くて──気が付いてたら眠っていた。


目が覚めた時、母はまだそにいた。椅子にもたれてうたた寝をしている。
時計をみると二時間ほどがたっていた。母はずっと側についててくれたのだろうか。


眠っている母の顔を見つめる。

眼の形、鼻の形、唇の形、頬の形……。




私のお母さん。
私を産んで、私を育ててくれた人。

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■113日目。
午前2時頃に結果のメールが届くだろうと連絡されえていた。

家族全員でおきていた。お母さんも、お父さんも、お姉ちゃんも、エリカさんも、私も。

けれど、解析に手間取ってメールは午前6時くらいになると、お母さんに連絡があった。

体に悪いからと、私は寝かされることになった。
だけと、私は眠りたくない。

寝て起きて、その時にはもう赤ちゃんの命が分かっているだなんて、嫌。
それなら、あと数時間、何もわからないままに起きていたい。
「目が覚めるのが怖い」
そう呟くと、エリカさんとお姉ちゃんが、何も言わずに、私の頭を撫でてくれた。
そうして、いつの間にか、私は眠ってしまった。







 ──────。







夢を見ていました。




 かぁーごーめーかぁーごーめ


    かーごのなーかのとおりいわぁ




胎児達が、私の周りを回ってる。
宙に浮いて、時おり上下しながら、輪になってクルクルクルクル。
可愛い。



       いーつーいーつーでぇやぁる~

  
 
    よーあーけーのーばーんーにー



どの子が誰の赤ちゃんであるかは、どうしてか大体分かった。

ペコさんの赤ちゃん、福田さんの赤ちゃん、お姉ちゃんの赤ちゃん……。

その中に、一人だけ、見覚えのない子がいました、

(そっか、あの子がきっと、私の赤ちゃんなんだ)

その顔をよーく確かめようと、眼をこらす。

けれど、

『鬼は眼を隠していなきゃいけないよ』

と、エリカさんの胎児に叱られてしまいました。

(よーし、絶対私の赤ちゃんをあててみせるから)

私は両手で目を覆ってそのばにかがんで、胎児たちの楽し気な歌声にリズムをとり──そして──
 



    つーるとかーめとすーべったー

 
  うしろのしょうめん──




「──だ~あれ……!」


 振り向いた瞬間、私のすぐ目と鼻の先にその胎児の、大きく開かれた口が──




           『        お  か あ    さ   ん   、 お     き  て         』




みほ「──────………!!!」

みほ「………………………………。」


夢を見ていたような気がする。良く覚えていないけれど、誰かにあっていたような。
まぁ、それよりも──

みほ(今、何時……?)


天井に近い所の壁かけの時計をみあげて、みほ仰天。


みほ「……え!?」


 ──■113日目・午前8時──


みほ「!? え!? 8時!? え!?」
 
 飛び起きる。
 とっくに結果が分かっているはず。
 と、そこで気づく。
 ベッドの脇に、皆がいた。

 お母さんも、お父さんも、お姉ちゃんも、エリカさんも。

 みんながそろって、じぃーっと、みほを見つめている。


・・・時間ぎれ!あと簡略!



なんで起こしてくれなかったの?→みほが眠りながら笑っていた。起こすのは気が引けて
そんなことよりメールは? もしかしてまだ?→いや、もうとっくに届いてる。

みほ、皆の雰囲気で察する。
みんなに、笑みがある。
母がノートパソコンをもってくる。



メールの中身、こんな雰囲気

:おそらくみほの胎児は生き残るだろう。(カナダとアルジェリアで生き残っている2人の胎児も同様)
:みほの胎児の染色体はテロメア起因の死(ほかの胎児は9割方これ)を回避してる。
:ただし、油断は禁物。23番染色体が通常の人間とは異なっている。それはみほの胎児も一緒。何がおこるかは、まだまだ分からない。
:だけどとりあえず、流産の確率は相当低いだろう。


みほ、何度も読み返す。

お父さんに手がぽんと頭をなでる。

「名前を、考えておかないとな」

みほ、声を殺してないた。
いっそ大泣きしたいのに、なぜか、それができない。
甘える子犬の様に喉をならして、小さく小さく、長く長く、泣き続けた。



知らせは、世界各国すべての関係者に伝えられ、もちろん、連盟を通じて他の生徒達にも。

みほ、人生でたくさんのおめでとうメールと電話をもらった日。

会長、紗希ちゃん、そど子さん、華さん、他、妊娠をしたメンバーからは特に心の籠った連絡があった。
それぞれが経験した辛い日々、あるいは、我が子をもごモルという喜びから得た何か、今も心に残る人には言えない気持ち、
それぞれの思いをまのあたりにして、みほは本当に涙がとまらなかった。

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以後、日数表示変更

旧『第一回関東地方合同検査入院初日より何日が経過したか』



新『みほは妊娠何日目か』
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■114日目 改め 159日目
自分はどうやら本当に母親になれるのかも。希望がわいてきた。
出産予定日は4か月後くらい

お姉ちゃん、少し安心できたのでひとまずそろそろ学園艦に戻るとのこと。
まほ「私も戦車道のために頑張る」

みほ、寂しい。
だけど、エリカさんはもうすこしいてくれるそうな。
エリカさんもお姉ちゃんと一緒に学園艦に戻りたがったけれど、お姉ちゃんが私を心配して
エリカさんにはもう少し家でやすむようにと言ってくれた。

お姉ちゃんがいなくなって、エリカさんと二人だけ。
少し、どきどきする。



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■160日目
赤んぼが本当に生まれるらしいと聞いてお国の人達も本格的に先を見据えた動きを始める。

東京のお役人さん(女性)がわざわざ熊本まで今後の打ち合わせにやってくる。

役人♀「みほさんには、母親になることよりもご自身の人生についてを、より深く考えて頂きたい」

回りくどい言い方に首をかしげるみほ。


→みほが母親としての役目を果たすことはほとんどない。子供は国が育てる。みほには出産後の自分の人生を、子供の人生からきりはなしてしっかり考えてほしい。


みほ、わかってはいたけれど、いざ本当に子供を生めるかもしれないと思うと、政府さんの意向がすこし辛い。
だけど、これまでの費用はすべて税金で賄われてきた。つくばでの入院も、熊本の家にある機材も。
政府に助けてもらうということはそういうことなのだ、と、改めて現実を突きつけられる。



エリカ「気分悪いわねぇ、せっかく私達が喜んでるのに……水をさすんじゃないわよっ」

役人さんが帰った後、エリカさんが、自分の代わりに怒ってくれた。



けれどもたしかに、出産後の人生を、自分は改めて考えなければいけないのかもしれない。
今までは、とてもそんな余裕はなかったけれど。

みほ(私の人生、かぁ……)

みほ(そういえばもう、学校も、ずいぶんお休みしてるよ……)


お腹を撫でる。
ともあれ、頑張ろう。

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■159日目
人生……うーん。

頑張ろうとは思うけれど、、さすがに少し、お休みをしていたい。

だって、ようやく大きなストレスから解放されたんだから。

お母さんもエリカさんも、しばらくはゆっくりしろと言ってくれた。

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■160日目
ぼけ~

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■161日目
け~   ……あ、赤ちゃん動いた……

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■162日目
はぁー……。

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■163日目
さすがに軽く叱られた。

エリカ「いつまでぼけっとしてるのよ」

しほ「そういえば、元はこういう子だったわね」




ひどいよぅ。

清書がな・・・・・半分くらいしかな・・・おわらんかったんじゃ・・・
とりあえずここまでなんじゃ・・・ゆるしてほしいんじゃ・・・・

書き方まぎらわしかったでしょうか、すみません。
SSはまだ途中です。
清書が終わり次第、残りの部分も投下します。

■164日目
エリカさんの部屋で人生相談。

エリカさんはこの先どうするの?
→とりあえずこの先も黒森峰で頑張る。戦車道復興させる。いつまでも泣いてはいられない。養子の件もなくなるだろう。私は逸見エリカ。頑張らなきゃ。

エリカさん、ヘタレる時もあるけれど、頑張る時は人二倍。

みほは昔から、エリカさんのそういうギャップが大好き。





みほ、エリカの元気がうれしくて、冗談半分で次のように言った。それがいけなかった。


みほ「エリカさんが私の赤ちゃんのパパになってくれたら──」

みほ「また皆で、家族になれるかな」


エリカさんは「あんたのパパねぇ……?」と鼻で笑う。

「ひどい」といいつつも、みほ、内心でちょっぴり安心。これは危険な火遊び。

が、その直後、エリカさんと目があった。

その瞬間に感じる。胸の奥の高鳴り。

(あ、……まずい。)

と思ったけれどもすでにあとの祭り。どちらからともなく顔が近づいて、キス。

初めはおかなびっくり、本当にいいの、いやだめでしょ? 本当にするの?とうかがうように。



口づけ合っていたのは20秒だったか、30秒だったか、
とにかく、最終的にはすっごい興奮した。

お互いにバカみたいに鼻息が荒かった。
ようやくそれが終わった後、エリカさんが呟いた。


エリカ「私……明日、学園艦に帰るわ……」

みほ、こくこくと頷く。

みほ「う、うん。それがいいよ、きっと」


このまま一緒にいたらほんとうに危なそうだなーって、お互いに思った。
まだ何の覚悟も決まっていない。

……という風な感じで、エリカさんは翌日、熊本のお家をでて学園艦にかえっていった。

■164日目
昨日のエリカさんとの事、お母さんに言ったほうがいいのかなー。
……やめとこう。

『お母さんにはもう、隠し事をしていたくない──』

熊本行きの飛行機の中で感じていたあの罪悪感。それがすっかり薄れている。
良くも悪くも、気持ちに余裕ができたってことなのかなぁ


■165日目
タイミング良く、アンコウチームのみんなが泊りがけで遊びに来てくれた。
エリカさんの事はひとまず忘れよう!
今日から3日泊、みんなと一緒!

■166日目
わーい!

■167日目
たーのしー!

■168日目
……みんな帰っちゃった……寂しい……。


■169日目
「少し運動が足りないわね」

とお母さんに注意され、一緒にスイミングスクールへ。50メートルプールをゆらゆら歩く。

■170日目
お母さんとマタニティ―・ヨガ教室

■171日目
お母さんとウォーキング教室

■172日目
お母さんとハイキング……お母さんヒマなの?ってきいたら怒られた。

「誰のためだと思っているの」

優しい。

■173日目
会長が来てくれた。


「え、これ……タンケッテですか!?」

写真の中で、cv33に乗った紗希ちゃんと桂利奈ちゃんが笑ってる。




タンカスロンと戦車道の合いのこのような方式で、戦車道の授業を仮再開できたそうな。
各校ともにその体制が整いつつある。



契約書を交わした。
もし妊娠しても誰にも裁判起こさない事。
かつ、妊娠した時は再び国に全面協力する。



杏「私が熊本にきたのもさー、復興に向けてのシンポジウムに参加するためなんだけど──」

そのシンポジウムの質疑応答の中、
反対派の人権団体等からけっこうな反発もあったそうな。
「子供を何だと思ってる」
「戦車道をやりたいという貴方たちエゴで、貴方たち自身の子供の命をもてあそぶのか。なんという非道か」

エリカさんが言い返したそうな。
「この人の子供なら妊娠してもかまわない、そう覚悟して私達は戦車にのる」
「それと男女の恋愛と何が違う」
「下衆な曲解をして、私達の絆を貶めないで」

反対派絶句。話にならんとその場はお開きになった。


みほ(エリカさん、頑張ってるんだ……)


エリカさんみたいな人と、赤ちゃん一緒に育てたいなー、ちらっと頭によぎる。
ちらっと……けれど、「ごりッ」と、みほの気持ちの中に大きな痕を残していった。




お姉ちゃんはエリカさんと一緒にタンケッテにのっている。
「再び妊娠をするリスク」
西住流みずからそれを背負うことで、復興派の最前線に立ってる。
お母さんもそれを許容してる。みんなで、崩れかけた戦車道を支えてる。

ヒマなの?だなんて聞いてごめんなさい、お母さん。



もうちっとだけ続くんじゃ

もしも本当に惑星の公転が停止したら──その瞬間に、太陽への落下が始まると思います。
でもたぶんバレー部がなんとかしてくれます。

根性!

ちなみに、SSの続きを投稿してる時にもしもこ999レスにまで到達してしまったら、その時は、次スレを立ててこのスレの1000レス目にリンクを張ります。

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■174日目
また今日も、会長が家にきてくれた。

だけど今日は愛里寿ちゃんとルミさんも一緒。
ついでに辻廉太さん(名刺をもらった)も一緒。

みほ(どうして役人さんが一緒に……?)



ひとしきり再開を喜びあった後、
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愛里寿「みほさんに頼みがあるの」

みほ「うん、私にできることなら」

愛里寿「私の母さんの説得に協力してほしい」

みほ「説得……?」
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聞いてびっくり、島田流家元は戦車道再会反対派の急先鋒。


みほ「全然知らなかった。私のお母さんは、何も……」

しほ「……。」

→お母さんわざとに黙ってた。今はみほに余分な気苦労をさせたくない、というか、知ったところで今は関係ない



みほ(そういえばお母さん、さっきからずっと渋い顔してる)

→本当は身重のみほを関わらせたくない。周りの強い要望に折れてしかたなし。

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■175日目~182日目
みんなで協力して愛里寿ちゃんのお母さんを説得……はできなかったけど、少しだけ仲直りできた、かも?
バーッとダーッと、解決できればよかったんだけど、仕方ないね。


賛成派VS反対派
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自分達の娘が突然「得体のしれない妊娠」をさせられた。
世界中で親達が苦しんでる。文化的に、大問題になっている国だって。
ただまぁ娘達が流産し、ようやく家族ともども元の生活に戻れるかと思ったら、
「もう一度戦車にのりたい。妊娠してもかまわない」そう口にする生徒は少なくない。
何人もの親たちが心底ゾッとさせられた。
「この子の一生は、もう完全にくるってしまった。もう取返しが付かない」
そんな風にとらえてるお母さんも、大勢いる。

千代「そういうお母さん達もまた、救いをもとめてる」

みほ(……愛里寿ちゃんが流産をした時、愛里寿ちゃんのお母さんは、誰よりも悲しんでた……)


千代「戦車道復興はまだ早すぎます、妊娠のリスクが0になってからでないと、このような悲劇、二度と繰り返させたくありません」

愛里寿・ルミ「……。」
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賛成派→その気持ちは分かります。けれど私達はパートナーを心から尊敬する。妊娠を受け入れるほどにまで、その心持ちこそが尊いのでは? それこそ戦車道の育む乙女のたしなみでは。その尊敬の気持ちは、男女間の尊敬と何が違うの? なぜこの妊娠がいけないの?

反対派→たしかに違わない。違わないからこそ、だったら普通に男女間で妊娠をすればいい。どうしてわざわざマイノリティーな道を選ぶ必要があるのか。お母さん悲しい。普遍的な幸せを得てほしい。そう願うことがいけないのか。

連盟→まぁまぁ各々お気持ちはわかりますが……

反対派→黙れハゲ加害者め

連盟→;;

賛成派→……私達は今の状況を自分の意志で選んだわけじゃない。気付いた時にはこうなっていた。けれど私達は今、自分を不幸だと思ってはいない。悲しいことも辛いこともたくさんあったけれど、それを後悔はしていない。私達の進む道を認めてほしい。

反対派→それは認めます。しかし、この悲劇が再現されることは防がねばならない。

賛成派→もちろん同感です。しかしだからこそもう一度戦車にのって検証をする必要もあるのでは。

反対派→だめだ。そんなリスクを娘に冒させるものか。

賛成派→本人達はかまわないっていってる。

反対派→親の気持ちがわからないのか。苦労するのはお前達なんだ。

研究したい派→あ、妊娠しても費用等の心配はいりませんよ~(また誰か妊娠しないかな~)

反対派→そういう問題ちゃうわボケ何考えとんねん死ね

研究したい派→(ちっ)

お上→(とりあえず早く戦車道世界大会したいですねぇ。経済動かしたいですねぇ。)

以後泥沼

そんな殺伐とした壇上にみほ降臨→穏健ひよりみ妊娠派

:たしかにいろいろ大変です。だけど皆で力を合わせればきっとなんとかなっちゃいますよー
:私は今とっても幸せですし赤ちゃんもかわいいですー。

現役の被害者にニコニコされるとなんか人としてつっかかり辛い。あと、みほには極端な主張がないのでそもそもつっかかれない。
なお、揚げ足鳥や謀を企む者があってもそのへんはしほがガッチリガード。

みほ、お母さんと一緒に数日かけていろんな人達と会う。
折衝折衝また折衝。お母さんが普段何をしているのかも、少しだけ理解できた。
母の力になれたらしいことが嬉しい。なんとなく達成感。ちょっぴり大人な気分。自分の存在が人から認めらてる。社会参加の喜び。

しほVS千代、小倉の某ビル某会議室にて、ひとまず休戦。

千代→「私はこれからも反対派の意見を代弁していきます。これは必要な声。私がいなくとも第二第三の私が~。……ただし、娘たちの気持ちも理解できる。戦車道の魂にある程度の健全性があることは認めます」

しほ→「では戦車道に問題が無いか、これからも島田流として戦車道内外から監視をしててください。何かあれば、立場は違えどお互いに協力して対策を探りましょう。」


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千代「また戦車に乗るのね。二人で」

愛里寿「はい、お母様。ルミと二人で、乗ります」

:千代、『本当は認めたくないけれど、親としては娘の頑張りを褒めてあげなくちゃ』的な寂しいほほ笑みを残して、さっていく)

愛里寿、ルミ。二人で手をとりあいつつ、去っていく千代の背中を見送った。



みほ、母と一緒にその一部始終を見届ける。
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みほ(戦車道のこと、久しぶりにたくさん考えたなぁ)

会議室を出ようとしたら同席してたら辻さんが挨拶だか勧誘だかにきた。


役人「君は、復興派のシンボルになれますよ」

みほ「えと、私そういのは……苦手で……」

役人「成せば成る、ですよ。西住さんは家柄も、これまでの経験も、おかれている境遇も、申し分ない」

みほ「はぁ」

役人「あとは……学歴があれば、なお良い」

みほ「でも私、もう、学校ずいぶんいってないです……」

役人「問題ないでしょう。高校卒業資格を得て、大学入試で点を得る。それさえクリアしていれば、大学教育を受ける資格は得られます。それがこの国のルールです」

みほ「はぁ」

役人「それに、黒森峰大学ならば、お母様にお願いをすればあるいは──」

しほ「──正規の資格を持たない人間を、誰であろうと、黒森峰大学に迎えいれるつもりはありません」

役人「……。」

役人「……こほん、入試の過去問を解きなさい。そして理解できないところ、暗記の不十分な所があれば、それを一つひとつさかのぼって徹底的に勉強なさい。ひたすらその繰り返しです。私はそれで東大に入りました。無論、現役で」

みほ「はぁ……」

みほ(簡単に言わないでほしいなぁ)

役人「なに、浪人生をやっていると思えばいいのです。考え方次第ですよ。では」

みほ「へぁ、ありがとうございます……」

みほ(私、どうしてこの人に励まされてるんだろう……)

みほ、お母さんと一緒に色んな人達に会うにつれ、世の中にはいろんな考え方とそのためにうまれる軋轢があって、そういう多種多様な厄介毎から、自分は母に守られていたのだと実感。
流派のしがらみの中に生まれた姉や自分は、普通のご家庭よりも更にいっそうその傾向が強い。

「同性を好きになったときは、必ず教えて」と母がいっていた理由が少しわかったような気がした。
西住流を、家を、そしてみほ自身を、敵意ある他者から守るため。
守るためには、それを把握しておかなきゃ、対策をきちんと練ることができない。



みほ(……。)

みほ(私、エリカさんとの事……お母さんに黙ってていいのかな……。)

みほ(それに……)

みほ(戦車道をやると、妊娠だけじゃなく、同性愛者になるリスクもあるって、もしそんな風に責められたら)

みほ(みんな、困るだろうな……)

みほ(……。)

みほ(私、エリカさんとどうしたいんだろう)

みほ(私って、同性愛者なのかなぁ……)



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■183日目
エリカさんに電話。

「聞いて聞いてエリカさん、私も戦車道の事で頑張ったんだよ~。」
→へぇ、やるじゃない。元気そうでよかったわ。


「エリカさんも元気?」
→まぁね。


「お姉ちゃんと一緒にタンケッテに乗るの楽しい?」
→ええ。CV33じゃ、物足りないけど。


「そっか。お姉ちゃんの赤ちゃん、妊娠できそう?」
→バカ。


「あははごめんね。久しぶりにエリカさんとお話しできて嬉しくて」
→も~。


「えと、それで……あのね?」
→なによ?


「エリカさんは私のこと、好き?」
→……ふぁ!?


「どうして私とえっちなことしたの?」
→「」


「エリカさんはお姉ちゃんの事どう思ってるの?」「お姉ちゃんとキスとか、してるの?」「私とお姉ちゃんと、どっちが好き?」
→……ギブ

→いきなり何なのよ……

「えっとねー……」→実はカクカクシカジカ。

→……。

→電話でいきなりいわれても、困る。考える時間がほしい。

→近いうちに熊本の家に帰るからその時に話しましょう。


そんな感じ。


「わ。エリカさんが会いに来てくれるんだ。わぁい」
→のんきすぎ……



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■184日目
しほ「みほ、辻さんから郵便が届いてるわよ」

みほ「へ?」

→[黒森峰大学の10年分の赤本,各教科ごとのおすすめの参考書]

説得に協力してくれたお礼だそうです。

しほ「よかったわね。しっかり勉強なさい」

ひええええ。




辻さんに言われた通り、過去問をつらつら眺めてみるけれど……問題が難しすぎてさっぱりわからない。

「うぅ、私、ちゃんと大学いけるのかなぁ……」




縁側に寝転がってひなたぼっこ。(現実逃避)

ぼこっ、と赤ちゃんがお腹の中で動いた。

(……ぼこ、かぁ……)

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■185日目
クローゼットにしまっていたボコ人形をとりだす。

……うーん……。



あの時の愛里寿ちゃんの顔がフラッシュバック。うつろな目で、助けを求めるようにボコの歌を呻いてた。

けれど愛里寿ちゃんは、今でもちゃんとボコが好き。

「やーってやーるーやってやーるー……やぁってやるぜー……かぁ……」



深夜、エリカさんの事を考える。
みほ(ああいう環境だったから起こったことなのかな。でも、このお家でも私とエリカさん、キスしたことある……うーん……)



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■186日目
悩み多き人生。

ぼこ人形に自分のボテ腹をボコボコなぐらせてたら一日が終わった。

しほ「みほ、勉強はどう? はかどっていますか?」

いいえ、お母様。




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■187日目。

縁側でボコ人形でお腹ぼこぼこ~……。


「……何やってんの?」

「あ! エリカさん!」


約束通り、会いにきてくれた。
嬉しい。

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エリカ「お久しぶりです。……師範」

しほ「『お義理母様』でかまいません。あなたの部屋も、まだちゃんと二階にある」

エリカ「……っ、ありがとうございます。……お義母様……」

しほ「ゆっくりしていきなさい」

エリカ「はいっ」

しほ「………………。」


:しほ、エリカをじっと見つめる。エリカさんはその眼差しの意味が、よくわからなくて、ちょっと戸惑うけれど。

エリカ「?」

しほ「……。」

エリカ「……??」

みほ(……お母さん……)


 <しほ「……。」ジー

 <エリカ「?、?、?」



みほ(……。)

みほ(エリカさん。お母さんはね、エリカさんの赤ちゃんに会ってくれたんだよ。抱いてあげたかったて……泣いてたんだよ……)

みほ(お母さんにとっても、もうエリカさんは……他人とは違う)

みほ(……。)

みほ(やっぱり──お母さんに隠し事をしてたくなってきちゃうなぁ……)

二人でエリカさんの部屋へ。

のんびりとお互いの近況報告を……してたはずなんだけど!

久々に会えたのがなんだか嬉しくて、やっぱり自然に段々とそういう雰囲気になって……。

なし崩しにキスしそうなって……みほ、はたと冷静る。

ダメダメダメダメー!

みほ(ちゃんと話し合わなきゃ!)




『エリカさんはお姉ちゃんの事をどう思ってるんですか!』
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エリカ「──隊長は私にとって、人生で一番憧れてる人……この人の子供なら産んでもいいって、そう思えた人よ」

みほ「そう言えばエリカさん、お姉ちゃんに『結婚してください』ってお願いしたこと、あったね。つくばで」

エリカ「もう、思い出させないでよね。あの時は……気が変になってたんだから」

みほ「でも、あれはきっとエリカさんの本心なんだって、私は思ったよ」

エリカ「……。」

みほ「子供を産んでもいいって思えるくらいの憧れの人……そんな人の赤ちゃんを身ごもったら、例え相手が同性であれ、ずっと一緒にいたい、ってそう思ってもおかしくないんじゃないかなぁ……」

エリカ「……。ふん。だけどね、無理よ隊長と私が結婚だなんて、ありえないわ」

みほ「そう?」

エリカ「そうよ。だって隊長はこの家の長女。仮に、もしも隊長がそんな風に思ってくれたとしても西住流がそんな事を許すはずがない。それこそ、誰かさんみたいに西住流を捨てでもしない限りね……痛ッ! もう、噛まないでよ!……とにかく、隊長だってそういう事をちゃんと分かってるし、私だって……それぐらい理解してる……」

みほ「……。」

エリカ「だから、隊長の赤ちゃんを産むことは、私に実現できる精一杯の「お近づき」だった。……あーぁ、産みたかったなー隊長の赤ちゃん……」

みほ「……。」

みほ「私ね……」

みほ「もうけっこう前のことになるけど……」

エリカ「?」

みほ「お姉ちゃんがエリカさんと同性婚して、もしそのせいでお姉ちゃんが西住流を継げなくなるのなら──」

みほ「代わりに私が、頑張って西住流を継ごうかなって、そう思った事がある。そうすれば、お姉ちゃんんとエリカさんは──」

エリカ「……。」

エリカ「……ホントあんたって……時々びっくりするような事を考えるわよね……」

みほ「だって、お姉ちゃんにもエリカさんにも、幸せになってほしいもん。今の話じゃ……エリカさんが、可哀想すぎる……。エリカさんは、譲ってばっかり……」

エリカ「……。悪いけど、そんなのは余計なお世話よ」

エリカ「隊長にとって、西住流を継ぐことは人生で一番の目標。そうやって高みを目指す隊長こそ、私のあこがれ」

エリカ「だから、それを邪魔するなんて、私は絶対に嫌。そんな事になるなら……死んだ方がましよ」

みほ「……。」

みほ(……エリカさんって、本当に……一図な人なんだなぁ……)

みほ(だけど、それじゃあやっぱり──)

みほ「エリカさんは、一生お姉ちゃんと結婚はできないね。たとえ、もう一度赤ちゃんができても……」

エリカ「……。」

みほ(ヒドイ事言ってる、私)

エリカ「ふんっ……結婚がなによ」

みほ「ふぇ?」

エリカ「隊長の子供が埋めれば──それで、時々隊長がかわいがってくれれば、人生万々歳よっ。結婚なんて、ただの紙切れじゃない!」

みほ(エリカさんは……誰よりも頑張り屋さん……。……エリカさんのそういう所、私、本当に……)

みほ「……ふふ、結婚してくださいって、お姉ちゃんに泣きついたくせに」

エリカ「だからっ……このぉッ……!!」

みは「ふやぁっ!?……うー、エリカさんに噛まれた……」

エリカ「アンタが悪いっ」

みほ「うぅ……まぁ、お姉ちゃんについては、とりあえず分かりました。じゃあ……私は?」

エリカ「……は?」




『エリカさんは私の事をどう思ってるんですか!』
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エリカ「……。」

エリカ「……さぁ。」

みほ「さぁって、ひどい」

エリカ「だって、本当に分からないんだもの」

みほ「ええー……」

エリカ「……。」

エリカ「中学のころは、私にとって一番のライバルで──」

みほ(私は、唯一の友達だと思ってたのに)

エリカ「そのあと、一度は私の世界からいなくなったのに──」

エリカ「なのに……いつの間にか、大嫌いな裏切り者になって戻ってきた。」

みほ「……。」

エリカ「それからしばらくたて、多少は仲直りできたかと思ってたら、わけのわからない事件がおこって、いつの間にかあんたとは姉妹になって……そして気が付いたら……今度はつくばの病院で、あんたと二人きり」

エリカ「……隊長がいなくなったあと、私は……」

エリカ「他の誰にも見せた事のないようなところを、みほに、一杯見せた。」

エリカ「それだけじゃない。……私が流産をした時も、側にいたのはアンタ」

エリカ「アンタって、本当に、何なの……?」

みほ「……。」

エリカ「……。」

エリカ「みほは、さ……見たんでしょ」

みほ「え」

エリカ「見てたはずよ」

エリカ「私が産んでしまった、隊長の──赤ちゃん」


 ──!


みほ「──……。」

みほ「……うん……」

みほ「見たよ。私は、見た」

みほ「……見えちゃったの……」

みほ「ごめんなさい……」

エリカ「やめて、謝ることじゃないわ」


みほ「……うん……。」


みほ(あの日──)

みほ(エリカさんが流産をしてしまったあの時、私は──)




 ──■概要 旧・第100日目(エリカ流産の日)──

エリカさんが泣いている。
おむつを抱えて泣いている。
我が子を抱えて泣いている。
たいちょうたいちょう、と涙にあげぎながら。

ナースコールはもう押した。
誰か早く来てと祈り続ける。
自分には、エリカさんの背中を、ただ抱いてあげることしかできない。

騒々しい足音が、ようやく遠くから聞こえき始めた時──
ふいに、エリカさんが一度、上半身をもたげた。
そうして──股間からのびた、まだ細い臍の尾がゆるす限りに、おむつを抱え上げ──その中身を──。


その時、みほは見た。見えてしまった。血液が照る臍の尾に導かれて、おむつの股間の部分──そこに黙して横たわる、姉とエリカさんの小さく胎児の、血にまみれた安らかな寝顔──


みほ(──貴方が、エリカさんとお姉ちゃんの──)




 ──────。




みほ「顔、はっきりと覚えてる。エリカさんとお姉ちゃんの──赤ちゃんの顔……」

エリカ「ええ、私も、この目に焼き付いてる。あの子の、顔。……どうしても、看取ってあげたかった。」

エリカ「その時に、みほも……一緒に看取ってくれた……」

みほ「……。」

エリカ「……。」

エリカ「……結局──気付けばアンタがずっと一緒にいる。熊本に帰ってきた後も──今も、ね……」

みほ「……エリカさん……」

エリカ「学園艦……少し、寂しいのよ。この家なら、隣の部屋に、あんたがいるのに……」

エリカ「学園艦の寮じゃあ、隣の部屋にいるのは──小梅だもの」

みほ「ぷっ……くく」

エリカ「ちょっと何笑ってんのよ。小梅に失礼でしょ」

みほ「だって、エリカさんが──……んっ……!?」

エリカ「……、み、ほ……」

みほ「……っ」

エリカ「……ん、ちゅ……私には、みほしかいない、こんなこと、出来る相手……」

みほ「あ、ん……」

みほ(だめ……だめ、なのに……)

みほ「……はぁ……はぁ……」

エリカ「ん……ちゅる……ぶぁっ……」

みほ「はぁ……エリカさん……」

エリカ「アンタは──隊長の妹で、ライバルで、裏切り者で、……友達で……それに私の、、変な所を、、その、舐め、、、えと、口に含んだ、唯一の奴で……おまけに、ただ一人、私の赤ちゃんを私と一緒にみてくれた人……なのに、私と隊長を一緒にしようしたり……ホント、何なのよアンタ……」

みほ「……ごめんなさい、私にもわからないです──んっ、あんっ、エリカさっ……っ」

エリカ「そうよね、ちゃんと分かったら、きっとこんな事にはなってないわよね……」

みほ「……ん、ふぅっ……!」

エリカ「みほ、みほ、みほ……」




みほ(……っ)

みほ(お母……さん……っ)



みほ「────駄目っ……!」

エリカ「……!?」



みほ「だめ、です……」

エリカ「……みほ……」


みほ「お母さんは、一生懸命戦車道のっために頑張ってます」

エリカ「……。」

みほ「私も……力になりたいなって、思った。だから……隠し事を、したくないです」

みほ「そのためにも、まず、はっきりさせなきゃ」

みほ「もしも私達がこれからもこういう事を続けるなら……私達は同性愛者だって、ちゃんと、お母さんに、言わないと……約束を、守らないと……」

みほ(そうだよ。ちゃんとお母さんにお話しさえしてしまえば、別に問題はないんだもん。そのために、私は、今、エリカさんと──)

エリカ「……。」

みほ「エリカさん……。」

エリカ「……違う。」

みほ「……?」

エリカ「なんどもいってるけど、私は──同性愛者なんかじゃない」

みほ「どうして、そういえるんですか?」

エリカ「隊長が男と結婚するなら──私だって、いい旦那みつけて、元気な子供産みたいって、そんな風におもうこと、ある」


みほ(え……?)


みほ「じゃあ、どうして私と、こんな事するんですか?」

みほ「私は……いったい何なんですか……?」


みほ(何これ私──すごく気持ちがザワザワしてる──)


みほ「ちゃんと、説明をしてください」

エリカ「……。」

エリカ「みほは──私の、全部だった」

みほ「? 全部……?」

エリカ「隊長がいなくなった後、私が流産をしてしまうまでの間……みほだけが、私を……」

みほ「……。」

エリカ「私の身体と心が、それをまだ覚えてる」


みほ(……エリカさんは、それほどにまで追い込まれて、ううん、それは私も、同じ……)


 千代:──辛い思いをするのは貴方たちなのよ──


みほ(……。)

みほ「エリカさん。もう……ここはつくばではありません……お母さんも、お姉ちゃんも、お父さんも、私もいる……熊本のお家。だから……大丈夫だよ」

みほ「もう、辛いをする心配は、ないんだよ……」

エリカ「……。ええ、分かってる。時間がたてば、きっと……忘れられる……」

みほ「……。」

エリカ「みほ、あんたは立派よ」

みほ「……?」

エリカ「アンタは昔からやればできる奴。私はそれを良く知ってる。だからきっと、お義母さまの力にもなれる。頑張りなさい。あんたは私の、自慢のライバルなんだから」

みほ「……。」

エリカ「もう、寝るわ」

みほ「え……。」

エリカ「疲れたし、あんたも、部屋に戻って」

みほ「……。」

みほ「うん……じゃあ……。」

みほ「……おやすみなさい」

エリカ「ええ、おやすみ」



 キィィィィ。バタン。

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みほ、自室のベッドに横たわる。
耳を澄ませる。隣に部屋からは何の物音も聞こえてこない。

今起こったことの意味を考える。

この先、自分とエリカさんはもう二度と、抱き合ったりはしないのだろう。キスをすることも、ないのだろう。
あの部屋のドアを閉めた時、自分とエリカさんの秘め事は、あっけなく終わったのだ。もう……。

みほ「……。」

ひどい失敗をしてしまったような、そんな気分がしている。
胸をかきむしりたくなるほどの後悔。
だけど、何を後悔?
それがよく分からない。

みほ(……)

私は、お母さんに隠し事をしてるのが嫌なだけ。
エリカさんと同性愛者でいることは、別に構わなかった。

みほ(でも、エリカさんは同性愛者じゃないって──)

みほ(あ、じゃあ、私は……ふられちゃったのかな……?)

みほ(え? 待って、じゃあ、私は同性愛者なの? それなら、それで、お母さんに言わないと。)

みほ(あれ? あれ? なんだか、すごく頭が混乱する)

みほ(……。)

みほ(私はただ、エリカさんと一緒に、赤ちゃんを抱いてみたかった。エリカさんみたいな人と、一緒に子育てをしてみたかった)

みほ(なのに……なんで、こうなっちゃったんだろう?)

みほ(熊本へ帰ってきて、エリカさんと一緒のお家に住めて、私、ずっと幸せだったはずなのに……あれ……?)


 ベッドが、なんだか宙に浮いているみたい。ベッドの下にはにぽっかり大きな穴が口を広げていて……直径500メートルくらい?淵はよく見えないし、底もみえない、常闇の黒い穴……。

 そこへ落ちていくように、気を失うように、いつしか、浅い眠りに落ちていた。

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■188日目

夜中。ふと目が覚める。時計を見る。午前2時30分。

となりの部屋から、すすり泣く声が聞こえる。
エリカさんが泣いてる。

腹を抱えてと起き上がり、自室をでる。
隣の部屋に入ると、エリカさんは、ベッドにうずくまって、泣いていた。セミの幼虫が丸くなって、ひっ、ひっ、と、引き付けを起こすみたいに。

「エリカさん……?」

つくばで──お姉ちゃんが流産をしてしまた直後も、エリカさんはこんな風に泣いていた。
あの時自分は──この人は本当は強い人、だから、弱っているときは、私が守ってあげなきゃ──ふとそんな衝動に、心から駆られて──。

「エリカさん。」

同じようにして、震える背中を抱きしめてあげ──られなかった。お腹が、あの頃よりも随分と大きくなってしまっている。

「……。」

だから代わりに、同じように寝そべって、うずくまっているエリカさんの顔に、己の顔を近づける。あたかも、丸まったダンゴムシの甲羅に無理やり爪の先をねじ込ませるみたいに。

「エリカさん」

ひ、ひ、ひ、の引きつけにときおり鼻水が混じる。
エリカさんが顔をもたげた──

「……!」

涙でぐしょぐしょ、鼻水でぐしょぐしょ、充血した目と顔面は、見る影もなく無様……。
瞬間、堪えられなくなる。

「──エリカさん!」

体中の細胞が破裂した。卵母細胞を除く全ての細胞が分解した。つくばで感じたあの快感を、体中のあらゆるDNAが覚えてる。この人がほしい、この人の染色体がほしい、この人と染色体を組み替えたい。全身が総毛だって、それとともに染色体の一本一本がほどけだし、そして何億何兆のミミズとなって、全身を這いまわる。細胞核を飛び出して、エリカさんの染色体をひたすらに求めて。どこ、どこ、どこ?
みほは襲い掛かる様に──エリカさんの顔を抱きしめた。互いの鼻が接触し──その接触面に気付いた全ての染色虫が、エリカさんの表皮へ向けて殺到する。

「みほ、ごめん、みほ……」

皆あったぞ、この口の奥に、エリカさんの巨大な染色体が覗いているぞ。食らいつきたい。キスがしたくなる。した。
そのまま、唇の表皮細胞を削りあいながら、舌でこすり取りあいながら、聞く。

「どうしたのエリカさん」

舐めとった鼻水唾液涙、すべて、味を確かめた。ねがわくば、その体液に含まれるエリカさんの染色体がアミノ酸に分解されぬままありのまま吸収されて私の中に届きますように。

「ごめん、無理だった……」

「うん」

「みほが頑張ってるんだから、私も負けるもんかって。でも、ダメだった。私やっぱり、……まだ、一人じゃ……無理みたい……」

「そっか……」

その降伏によって、みほは理解させられた。エリカさんのつくばの夜は、まだ続いている。
だから、死に抗うために行ったあの必死の生の快楽を、自分達はまだまだ分かち合える。今、まさにこの瞬間からもう一度。
みほは今、それが嬉しくてたまらなかった。





そうだった、思い出したよエリカさん、あの時つくばの病室で──苛酷な環境に適応して強くなるために、生き抜くために、その必要な進化はひっそりと行われたんだ。それこそが私とエリカさんの、一番の秘め事。
冷え切ったつくばのあの部屋の中、私達はベッドの中で必死にお互いの身体の熱を交換しあった──その共有された熱エネルギーのイタズラのせいで、私とエリカさんの心の染色体はもう二度と元の二人には復元できないほど徹底的に──組み替えを起こしてたんんだ──

 ──だから、ごめんなさいお母さん。お母さんから受け継いだ染色体──もう、バラバラになりなっちゃった──

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バラバラになりなっちゃった……

まとめ投稿のその最後の一行にすら誤字をぶっこんでいくスタイル。

×→生き残るために環境に適応する。
〇→環境に適応できたものが生き残る。

進化論への勘違いあるある、思いっきり踏んじゃった。

つまりみぽりんは倫理感ガバガバだったからこそ生き残れた……!?

「お義理母さま」ワロタ。誤字ひどすぎるだろう。オギリハハサマ……。

スレ埋めで適当に呟いてます

     殺 伐 と し た ス レ に 冷 泉 殿 が !
             ,'  `i, - 、   !} `、  'r ^ 、:ノソ
         i´ ` 、!   ! i´` 、 },.'´`.、 _,; ,-、' ゚,

   ドーン  ,_ `、  ゚ .。゚; __j}   Y   L .イ  j, '゙´``i
       i `'、`r'.!゙`、,.'´゙!{   ゚:。 。.゚   ,i ::。. .   ,i__
       」。 , ‐ 、i   .:;! `、_, ゙.;;リ;シ゚;. -=、' ,レ‐゚、;:゚:,.-.、 `i  ドーン
     _ ゚。_゙;;{   ゙。. . :;;li 仆,i,,..「 ̄ ̄ ̄ \    ゙i'  i , '゙/  i,...-,
     ,.ニ=- `_、._゚。ヾ,'´``'、l゙  |::::| ̄ ̄ ̄ |^ ;:. 。 : 。  'ー 、.'、.。 ,.'
  。゚';〉`( __.,,.'゙   ゚.. ;;;i   : |::::i.'´ ̄ `ヽ|,:゙、 ゞ;ノ;;:シ,゜   ゙i 〉; '- 、
  ゙〈_.,__..ゞ_`ー=ニヲ'   ゚、,∴ |::::i〈、((ハ))〉 ゙ヾ! `゙゙''。゚ __ , ‐"'、。゚   `>
 /::::::゙、_゙;;;> .:`>,-、゙、_ ゚。ノ|::::i゙'!i|.゚ ヮ゚ノ|| やだもー   `、、   j= ‐'
/:::::::::/(___,.;' _,'、.. `:;;';!゙'i : 。|::::(ノ    .|)   <゙" ` ー,,'゙ ` 、 j
|::::/  ∠.ィ  。゚. ;:シ;〈; i `、__;、|::::|西柱殿 |     ゙i、 ゙リハ;;`  r'`'_
|/     /`、___, ゚;。 リ,':::::::::::::\|       | i`...-'::::: 、  ゚_ノ::::::::::\
     /::::::::/ i   ,ノヽ:::::人:::::厂U"U ̄r ':::::::::ヽ:::::::二_:::::ヽ,- 、:::::::ヽ
      |::::/ /==`"^====V==ヽ/====‐`''゙-ヽ::::::::::}─\__\::::',  \ ::::|
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>お母さんに隠し事をしてたくなってきちゃうなぁ
セリフの意味180度変わっとるがな。


×お母さんに隠し事をしてたくなってきちゃうな
〇お母さんには隠し事をしていたくなくなっちゃうなぁ

次からは、寝起きで会った間はっきりしてる時に誤字チェックやで……

そしてそっこう誤字。もう嫌だ。朝飯だ。

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