【MJP】銀河機攻隊マジェスティックプリンスで短編【マジェプリ】 (728)

五度目のスレ立て。
ようやく余裕ができてきたのでいろいろとまた書きたい所存。
前に書いたもの。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368891908
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1375105128
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1406235600
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447955378

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1468112994

初めての実戦と成功。
その時に一番最初に感じたのは、喜びではなく、恐怖だった。

「……」

GDF所属、MJP機関の戦艦ゴディニオン。
それに付随する専用機――通称アッシュの整備用ピット艦の一つ。
機体のパイロットの一人である少年、ヒタチ・イズルは、自分に与えられた機体――レッドファイブのコクピット内で、呆然と先ほどまで行われていた戦闘の余韻に浸っていた。

今日まで、彼はMJP機関の士官候補生の一人として、同じチームを組む少年少女たちと共にまだ見ぬ前線を想像しながら、訓練に励んでいた。
しかし、それもほんの二時間ほど前までのことだった。
彼の所属するチームラビッツは、GDFからの要請のもと、前線基地であるウンディーナからの撤退支援の任務に就くこととなった。
その任務とは、新型の実験機に搭乗し、たったの五人で敵の遊撃部隊を三十分も足止めするという、一見するとただの捨て駒としか思えないようなものである。

しかしながら結果として、彼らは見事に任務をやり遂げた。
元より、彼らチームラビッツは、味方の連携に大きく難のあるものの、個々の実力に関して言えばかなりのものだったのだ。
そこに、新たな実験機として投入されたアッシュの性能の力も加わり、無事に友軍を完全に撤退せしめたというわけである。

そこまでは、問題なかった。
実戦の緊張など、実際に戦場に置かれて生死を懸けることとなる環境では、感じる余裕もなかった。

必要以上に息を荒げて、イズルは任務をやりおおせた興奮に震えていた。
そんなときだった。

『…あれは?』

機体のスキャンシステムが、何か別の熱源を、何もないはずの空になった基地に感知したのだ。
これはどういうことだろうか。基地は放棄されて、人っ子一人としているはずがないというのに。

『待って。私が調べる』

イズルの反応に、広域通信能力の高いオペレーターを務めるケイの機体から、データが送られてくる。
結論として、彼の任務はまだ終わっていなかった。

基地には、まだ民間人が多数残されていたのだ。
彼らは何も知らない様子で、外の戦闘行為が終わるのを待っていた。
軍は撤退の際、民間人まで回収する余裕がなかったのだ。
他に選択肢もなく、パニックを起こさないように何も知らせず、彼らを見捨てた、ということだ。

『彼らの乗る船はないわ。撤退して』

上官であるスズカゼの命令に、イズルはすぐに反目した。

『まだ人が残ってるじゃないか…』

軍人として、上官命令に逆らうのは立派な違反行為だ。
それは分かっている。分かっているが。

イズルはどうにも、自分の中の何かがそれはいやだと言っているように感じられていた。
このまま大変な状況にある人たちを、見過ごして、撤退するなど。

そんなことは、ヒーローのすることではない。

ヒーロー。それがイズルにとっての自分の芯たる部分だった。
あまりにも空想的で、子供のような芯だ。
しかし、記憶を消され、自らを形成するもののない彼にとって、それは何物にも替えられない、自分という人間を決定付けるものであった。

周りから、仲間たちの通信が聞こえる。
彼らを助けることはできない。撤退すべきだ、と。

それはまったくもって正しい判断であるし、非難されることではない。
しかし、イズルの中ではもう答えが出ていた。

こうしなくては。これを選択しなくては――

彼は自分の中から振り絞るように叫ぶ。
自らの人格を決定付けるがために。

『――無理しないと、ヒーローにはなれないだろう!』

それは、普段からの彼を知る者からすれば、実にらしくない言葉だった。

結局、そんな議論をしてしまっている間に、敵の部隊は迫ってきてしまった。
仲間たちも、もはややるしかないと諦めてしまったのか、共に戦うことを選んでくれた。

『ホントにやれるのか……?』

『今からでも逃げた方が…』

ゆっくりと、敵の主力部隊らしき光が近づいてくる。
一気に来ないのは、様子を見ているのか、それとも余裕を見せているのか、分からなかった。
仲間のアサギとスルガの声を聞きながら、イズルの手は震え始めていた。

怖い。もしかしたら、ここで死んでしまうのかもしれない。
自分の選択に後悔はなかった。
ただ、恐怖を感じていた。

イズルはヒーローになりたいと思っていた。
それらしい選択をしたい、と。

しかし、彼は物語に出てくるヒーローのように、完全無欠というわけではない。
いくら、士官候補生として戦う訓練をしてきたといっても、まだ、たったの十六歳の少年なのだ。
死への恐怖を微塵も感じないわけがなかった。

(逃げろ)

心の底から、怯えた声が聞こえる。
そうだ、逃げてしまえ。このままでは戦力の差で死んでしまうかもしれないのだ。
ヒーローなんて無理だと、諦めてしまえ。

(戦え)

心の底から、勇ましい声が聞こえる。
そうだ、逃げるな。取り残された人々を守ると決めたのだ。
それに、どのみち囲まれつつあるこの状況では、戦わなくては死ぬ。死んでしまう。

(逃げろ)

(戦え)

(逃げろ)

(戦え)

(逃げろ――)

二つの声が響きあって、イズルの心を取り巻き、せめぎあう。
操縦桿を握る手が、恐怖に震えたと思えば、武者震いで震えだす。
どちらも彼の意思で、どちらも本音だった。

二つの思考に迷いを抱きながら、ふと、イズルはモニターに映し出された民間人たちを眺めた。
老若男女問わず、様々な人々が、外で何が起きているかも分からないまま、集まっていた。
その中で、一際目立つものがイズルの目に留まった。

女の子だ。母親らしき人に抱きついて、何がなんだか理解できない状況に、今にも泣いてしまいそうな顔をしていた。
その子を撫でる母親も何事か言って、女の子をなだめているように見えた。
その表情は、抱きついている子供には分からないだろうが、不安に包まれていた。

(――だめだ!)

迷いを振り切って、イズルの心に火が点きだした。
僕は、ヒーローになる。ならなくっちゃならないと、決めたのだ。
あんな風に誰かが困っている。それを助けたいのだ。
自分の生まれた意味を作るために。ただ作られた人間として生きるのではなく。

だから、今は――――――

(――戦え!)

『はあああああっ!!』

そして、彼は。
激情のまま、何がなんだか分からないまま。
ヒーローになろうとした。






(……)

そして、今。
激しい戦いを潜り抜けたイズルは旗艦の中で、何も考えずにただぼうっとしていた。
自分はやった。逃げ遅れた人々を守るために戦い、見事敵を退けてみせた。
まさしく、ヒーローになったのだ。

しかし――

(……っ)

一気に身体中を震えが走った。
怖い。さっきまで、死んでしまうかもしれなかった。
戦いで何が起きても不思議なんかじゃなかった。シュミレーターで何度も経験してきた撃墜なんかとは違う。
実戦。それはやり直しなどきかない世界のことなのだ。

(僕、は…)

気付けば、汗が噴出していた。
こんなにも、戦うことが怖いことだなんて、知らなかった。

ゆっくりと、深呼吸をした。
それでも、身体を支配する緊張が完全に解けはしなかった。

これが戦いなんだと、彼は理解し始めていた。

『…おい、イズル?』

仲間の一人、アサギの通信を耳にして、ようやくイズルは我に帰った。
どうやら、ずっと呼びかけられていたらしい。

「あ…ごめん。何?」

若干声を震わせながら、イズルは安堵したようにアサギに返す。
知っている声がはっきりと認識できた途端、ちゃんと帰ってこれた気がして、嬉しかった。

『何?じゃねぇだろ…ほら、さっさと出ろよ。スズカゼ教官が集合しろって言ってるだろ』

呆れたように言う彼に、イズルは短くごめん、とだけ言って機体から出るべく、身体を固定していたシートの安全装置を外す。
作戦が終わり、命令違反をしたチームラビッツに処罰を言い渡す、と先ほど上官であるスズカゼから通信が来ていたのを、
受け流すように聞いてしまって、言われるまで忘れてしまっていた。
きっとこれまで以上に厳しい処罰を言い渡されるのだろうな、と想像しながら機体から外に出た。

お疲れ様、よくやった、などとイズルを労う専属の整備班のクルーたちの声を聞き流しながら、どこかおぼつかない調子で、イズルはピット艦を出た。
いつもなら、褒められるなんて珍しいから心の中で喜んでいただろうに、そんな気分になんかなれなかった。
完全に出て行く前に、チラリと自分が乗っていた機体――レッドファイブを見やる。
一目見たとき、赤の映える、ヒーローらしくてかっこいい機体だな、と思っていた。

ヒーローになれるのだろうか。さっきのように実戦に震えることなく、完璧な存在として。
この機体と共に戦えるのだろうか。少しだけ。ほんの少しだけ不安を感じてから、がんばろう、と自分を励ました。

ヒーローになりたい。強くて、かっこいいヒーローに。
そうすれば、自分の作られた意味も、少しはいいモノになると信じているから。

僕は、戦おう。そのために生まれたんだから。

改めて一話見て思ったネタをとりあえず一つ。
新作映画化と新しく二十五話の放映おめでとう。そしてゴールド4のキット化も。
のんびりと書きますので、読んでくれる方がいればありがとう。

どうも。今日も始めます。

映画化記念

スターローズ、ブリーフィングルーム

イズル「――え、映画撮影、ですか?」

リン「そう。明日から訓練を中止して、ね」

アサギ「俺たち、役者じゃないんですけど…」

ケイ「そうですよ! どうして私たちがそんなことを…!」

リン「上の命令なのよ。スポンサーを増やすための、ね」

ケイ「そんなの…」

リン「安心しなさい。実際に演技してもらうわけではないわ」

アサギ「というと?」

リン「向こう側の監督の要望なのよ。実物のアッシュの映像を使いたいらしいの」

リン「アッシュを動かせるのはもちろんあなたたちだけ、だから…」

アサギ「スタントマンをやれ、と」

リン「そういうこと。では、明日。一○○○に集合するように」ビシッ

ラビッツ「」ビシッ

プシュー

タマキ「…映画だってー!」キャッキャッ

ケイ「…ずいぶんと嬉しそうね」フー

スルガ「そりゃそうだろ! なぁタマキ!」

タマキ「もちろんなのら! 映画ってことは役者さんもいるんでしょー? …つまり」

スルガ「そう」

スルガ・タマキ「「イケメン(美人)がいっぱい!」」ヤッホー

アンジュ「撮影の現場に役者さんがいらっしゃるとは限らないような…」ウーン

アサギ「ほっとけアンジュ。…はぁ」イガー

イズル「大丈夫、アサギ?」

アサギ「大丈夫じゃない…人前でアッシュを動かす。それも戦うとかじゃなく…」

イズル「ドキドキするね!」キラキラ

アサギ「ああそうだな、キリキリする…」ジトー

アンジュ「というか、いつの間に私たちを映画で扱うことになったんでしょうか…」

ケイ「こういうの、もうあの広報任務で終わりだと思ってたのに…」

スルガ「んだよ盛り下げるなー」

タマキ「ケイお休みする?」

ケイ「しないわよ。アンタはやるんでしょ?」

タマキ「うん」ニコニコ

ケイ「なら付き合うしかないじゃない…」

タマキ「ケイー」ギュー

ケイ「はいはい」クスッ

イズル「アサギはどうする?」

スルガ「無理なら休んどけ休んどけ。お前の分も俺が女優さんたちと仲良く…」

アサギ「誰が休むか。…仕事だってんならしょうがねぇだろ」

イズル「緊張しないで、固くならないでいこう!」グッ

スルガ「そーそー。そうじゃないとまーたアサギスペ…」

アサギ「それは言うな」デコピン

アンジュ(映画…また暴れてしまったら全艦隊どころか、全世界に…)ハラハラ

スターローズ――リンの私室

レイカ「――そんでー? リンリンも付いてくの?」グビッ

リン「ええ。最初は…ペコに任せようかと思ったんだけど、ね」チビッ

レイカ「ふーん。なんだかお母さんが板についてきたわねー」ニコニコ

リン「ちょっとやめてよ。まだ私、旦那、すら…」ウルッ

レイカ「あーはいはい。ストップストーップ、私が悪かったわよぅ」ナデナデ

レイカ(最近はこのネタの泣き癖増えてきたわね…)

リン「と、とにかく。何かあっても困るから、私も行くわよ」グスッ

レイカ「ま、私は整備班だから行くんだけどさー。もー大変だったんだから」

リン「あら、変なデカール貼るより?」

レイカ「あれはあれでなんだけどさー。向こうの注文がうるさくって。もっと派手な感じにしてほしい、とかこの小道具を装備してほしい、とか」

リン「なるほど。映画の撮影向けに、ね」

レイカ「そそ、あれで十分見栄えいいっての、まったく」グビッ

レイカ「…あ、そうだー。ねね、主演って誰なの?」

リン「そういえば…聞いてないわね」

レイカ「えー、なんで聞いてないの」

リン「急な話でつい。動転しちゃったのね、聞きそびれたわ」

レイカ「ま、いいけど。話題性のある人使うんでしょうねープロパガンダな訳だし」

リン「今の発言は聞かなかったことにしてあげるけど…まぁ、そうなんじゃない?」

レイカ「有名な人なら一気に近づくチャンスってやつね」キラーン

リン「そもそも撮影の現場にいるかどうか…」

レイカ「何よ枯れてるわねー、希望持ちましょうよ。せっかく出会いの少ないんだからさー」

リン「…同じ軍人同士で合コンでもやろうかしらね」フー

レイカ「アマネ大佐殿にでも男集めてもらっちゃう?」

リン「…そうね、ホントに」

レイカ(あらー、こりゃマジに沈んじゃってるかなー)ヤレヤレ

レイカ「ま、そうならないように明日はいい男見つけましょ?」

リン「趣旨が違ってるわよ…」

レイカ「まま、ウサギちゃんたちならだいじょぶだって。ほら、飲んだ飲んだ」トポトポ

リン「明日のことも考えなさいよ…」グビッ

翌日、スターローズ、映画撮影スタジオ

オーイ!ソッチセットウゴカセー コッチヒトカシテー

スタッフ「」ワイワイガヤガヤ

イズル「わぁー…」キラキラ

アサギ「ここらのステーションの中じゃ、一番デカイとこらしいけど…」

タマキ「広いのらー!」

アンジュ「しかし私たちの撮影場所はここではないんでしょう?」

ペコ「そーです。先に監督さんがご挨拶されたいそうでして…」

リン「こっちよ、付いて来なさい。…タマキふらふらしないで」スタスタ

タマキ「はーい」

スタスタスタスタ…

イズル「どんな人なんだろうね。やっぱり怖い人なのかな?」

アサギ「メガホンとかいつも握りしめてか? いつの時代だよそれ…」

アンジュ「そうですね、いくらなんでも時代錯誤なような…」

スルガ「わざわざ軍の映画撮るんだ、やっぱ詳しい人だろ!」キラキラ

タマキ「ちょー若くてかっこいい人がいいのら!」

ケイ「どうせ普通のおっさんよ」

ペコ「ほらー、こっちですよー」フリフリ






ペコ「こちらの方ですー」

アサギ「おいスルガ、そっち行くなよ」ガシッ

スルガ「わーかってるよ! ちぇっ、あっちの小道具の銃、すげぇいい出来してんのに」

タマキ「役者さんはー? イケメンさんはー?」ブー

ケイ「それは後にしなさいよ…」

リン(やっぱり付いてきてよかったかしらね…)フー

ペコ「お待たせしました、マネージャーの山田ですー。監督さんは…」

スタッフ「あっ、お疲れ様です。監督ならあちらの部屋に」ユビサシ

ペコ「ありがとございますー」

イズル「いよいよかぁ、ちょっと緊張してきた」ドキドキ

アサギ「落ち着け。固くなるなっつったのお前だろ」ダラダラ

スルガ「アサギも汗すげーけどな」

アサギ「うるせぇ」イガー

ペコ「さ、イズルさんからどうぞ」

イズル「は、はい。…失礼します」ガチャ

???「あら。どうも、初めまして」ニコニコ

イズル「えっ」

タマキ「カントクさんって…」

ケイ「お、女の人!?」

スルガ「マジかよ!?」

リン「静かに! …失礼いたしました」コホン

???「あーいえいえ。というか私監督じゃないですよー」クスクス

イズル「…へ?」

ヨシダ「私はメインの脚本のヨシダですー」

???「で、僕が監督」

イズル「あ、は、初めまして!」ペコリ

モトナガ「初めまして。モトナガです。今日はよろしくお願いします」

タマキ「(なーんだ。普通のおじさんなのらー)」ガッカリ

ケイ「(だから言ったじゃない…)」アキレ

ペコ「今日は一日よろしくお願いしますー」

リン「初めまして。彼らの上官を務めております、スズカゼです。今日は彼らをお願いします」

モトナガ「あーいえ、こちらこそすみませんお忙しいときに」

イズル「よ、よろしくお願いします。僕がチームのリーダーのヒタチ・イズルです。こっちがアサギ、スルガ、ケイ、タマキ、あと、アンジュです」

ラビッツ「」ペコリ

モトナガ「うん、よろしくね」






モトナガ「それじゃ、まず敵との遭遇のシーンから撮りたいと思います」

レイカ「機体の方は準備できてますよー」

モトナガ「ありがとうございます。カメラと音声大丈夫ですか?」

スタッフ「いつでもいけます!」

モトナガ「では、ラビッツの皆さんも打ち合わせどおりにお願いします」

タマキ『はーい!』

ケイ『……』

スルガ『へへ、カメラに写ってるなんて、俄然やる気になってきたぜ』

イズル『どんな感じなのかな? 後で見てみたいなぁ』

アサギ『ったく気楽な…うぅ』

アンジュ『大丈夫ですか、アサギさん?』

アサギ『あ、あぁ。そっちこそ大丈夫だろうな、アンジュ』

アンジュ『い、今のところは』

イズル『大丈夫だよ皆、がんばろうね!』オー

スルガ・タマキ『おーうっ!』イエーイ

アサギ『ホント、今だけ羨ましいよ…』イガー






スタッフ「――カット!」カチン

スタッフ「どうですか、監督ー!」

モトナガ「んー、オッケーです」

スタッフ「はーい! スタント撮影終了です! 皆さんお疲れっしたー!」

オツカレッシター!

アサギ『お、終わった…』

タマキ『おんなじ飛び方何回もして疲れたー』グデー

スルガ『何時間同じシーン撮るんだよ…』ウヘー

ケイ『だからこういうのはイヤなのよ…』フー

アンジュ『あ、あの、私大丈夫でしたでしょうか…』ハラハラ

イズル『だ、大丈夫だよ、アンジュさん。出てきたの、ほんの一瞬だったから』

アンジュ『い、一瞬は出たんですね…』ハァ

イズル『あ、や、そ、そういうことじゃなくって、えっと、そのう…』

アサギ『下手な慰めは逆効果だって』

スルガ『前も言ったのになー』

タマキ『もー、ばかあほおたんちん』

イズル『ええー…』

アンジュ『…えっと大丈夫ですイズルさん、その、お気持ちだけで』

ケイ『そ、そうよイズル。そうやってフォローしようとするの、その、大事だと思うわ』

イズル『う、うん。なんか、ごめん』

モトナガ『あの、もう降りちゃって大丈夫だよー。それと、ごめんね、同じシーン何回もやらせちゃって』タハハ

イズル『え?』

アサギ『まさか…』

モトナガ『うん。無理言って通信のチャンネル、オープンのままで撮らせてもらったんだ』

ラビッツ『ええー!?』






モトナガ「いやーごめんごめん。実際の君たちのことをどうしても見ておきたくって」

イズル「はぁ…」

モトナガ「普通にお話したって、ほら、初対面だからさ、たぶん素が分からないだろうからね」

ヨシダ「それで、生の君たちを知るにはやっぱり自分の機体に乗ってもらったときを狙うしかないな、てことになったの」

アサギ「お、教えてくれたらよかったのに…」チラッ

リン「ごめんなさいね。別に映画自体には使わない、というお話だったの」テヲアワセ

アンジュ「うう…スタジオ中に私の罵倒が…」ズーン

スルガ「女優さんたち口説きにいこうとしてたの、バレちまった…」

タマキ「ちぇー、俳優さんたちガードが付いちゃったのらー」

ケイ「まったく…」

モトナガ「でも、おかげでいい感じになりそうだよ」

アサギ「ホントですか? むしろあんな醜態さらして、悪い影響が…」

モトナガ「何言ってんの。こないだザンネンな中継出しちゃったのに」

アサギ「あ、あれは……!」カァ

モトナガ「――ザンネンだっていいじゃない」

イズル「え?」

モトナガ「今回の映画のテーマなんだ。…偉い人たちはマジメでお固いものを作れって言うけど、それで普通の人が共感してくれるとは思えなくてね」

ヨシダ「現実に生きる人に、完全な超人なんてそうそういやしないもの。それで、監督が考えたのが――」

イズル「……ザンネンだっていいじゃない」

モトナガ「そう。そんな気負わずに見れるものだ。前線にいるからって、軍人さんだからって。別に僕ら一般人と何も変わらない、人なんだからね」

ケイ「……同じ、人」

モトナガ「今日の撮影はだいぶ収穫だったよ。あの中継を見た日から、僕は君たちを描きたくてしょうがなかったんだ」

モトナガ「誰だってヒーローになれる。少しでも、何かザンネンなところがあるかもしれないけど」

モトナガ「皆でがんばれば、ヒーローになれる」

イズル「ヒーロー…!」パァ

モトナガ「そ、君があの中継で話したことが、僕を動かしてくれたんだ」

モトナガ「これからもがんばってね。僕なりに君たちを応援してるよ」

イズル「あ、ありがとうございます」ペコリ

モトナガ「…あ、おわびといってはなんだけど、俳優さんたちとお話できるように頼んでおいてあげるよ」

スルガ「ホントっすか!」キラキラ

タマキ「ありがとーなのら! カントクさん!」キラキラ

アサギ「…単純なやつらめ」フー






スターローズ――アサギの部屋

タマキ「あーもー、つーかーれーたー」バスン

アサギ「…なぁ、何でお前ら俺の部屋に集まるんだ?」ハァ

ケイ「なんて言えばいいのかしら…」ウーン

スルガ「居心地いんだよなー、片付いてて」

アサギ「自分の部屋ぐらい片付けろ!」ウガー!

イズル「……」ボー

アンジュ「イズルさん?」

イズル「ザンネンだっていいじゃない、かぁ」

ケイ「監督さんの言葉?」

イズル「うん。そういう考え方もあるんだなぁ、って」

アサギ「前向きなのはお前と同レベルだな、あの人」

イズル「あはは、ありがとう」

アサギ「ホメてねーよ」

イズル(……ヒーローは孤独なもので、かっこよくて、すごいものなんだと考えてたけど…)

イズル(僕は、もしかしたら)チラッ

アサギ「」イガー

スルガ「♪」ガチャガチャ

タマキ「」ギュー

アンジュ「」オロオロ

ケイ「」クスクス

イズル(ザンネンな皆で、ヒーローになる方がいいのかも)ニコニコ

終わり。うちの子たちが銀幕デビューすると聞いてハラハラしちゃう。
また明日のマジェスティックアワー終わったら来たいと思ってます。では。

どうも。遅くなりましたが始めます。

それは、GDFの偉い人の指揮の下行われた、強襲作戦の後のことだった。

「……」

「…ええっと」

大型宇宙ステーション、スターローズ。
その中でもGDFのある一画の、僕たちMJPの候補生に当てられた一室――つまりは僕の部屋なんだけど。
その入り口で、僕は実に反応に困って、突っ立っていた。

僕の目の前には、少しばかり大きさのある、プレゼントでも入れるような四角い白い箱を差し出す、チームメイトのケイがいた。
中が見えるようにふたを開かれた箱には、何やら青みがかった紫の、高さの短い円筒形の物体があった。
その物体の正体は、まぁ一言で表せば要するにケーキだ。ケーキらしからぬ色合いではあるけれど。
アメリカかどこかではよくあるらしい色合いのお菓子らしいけれど、ちょっとばかり食べ物としてはどうなんだろうと思う。

「…これ、何?」

分かってはいるけれど、一応聞いてみた。
時刻ももう一時を回って立派に深夜だというのに、急にこんな――その、胃にもたれそうな甘いモノを僕にずいずいと押し付ける意味がよく分からないのだ。

僕、何かしたっけ?
真剣にそう悩んでしまう。彼女の作るお菓子は、どうにも――美味しくないということはないのだけれども、そう、つまり――甘いのだ。

「…ケーキ」

見れば分かるでしょ、と言いたそうにケイはぶっきらぼうな調子で返した。その様子は若干そわそわしているようにも見えた。

…まぁそう返すよね。何って聞いたし。

もっとはっきりと自分の意図をきちんと伝えようとすると、それよりも先に彼女は言葉を続けた。

「…その、私のケーキ、食べたいって言ってたから」

「…へ?」

途切れ途切れに、俯きがちな彼女の言葉に、思わず間抜けな声が出た。
…そんなこと、言ったっけ?

「ええと…」

頬を掻きながら、自分と彼女の最近の会話を思い返してみた。
どこでそんなことを言ったんだろう。こないだ休暇で訪れたリゾートのコテージ? いや、あの時はそんな話してないか。じゃあ――

「…あ、さっきの作戦のこと?」

ふと、これかな、と思ったことを口にしてみる。
タマキのピンチを助けて、撤退の最中にケイも――そして自分も――危なかった作戦。
ケイに、とにかく逃げろと言ったときの会話で、勢いに任せてそのようなことを口走った記憶があった。

――マンガも描きたいし、ケイのやたら甘いケーキをまた食べさせてもらうんだ!
…うん、確かに言ったかも。

どうやらそれのことらしい。彼女はこくりと首を小さく縦に振ると、ぐいぐいとケーキの入った箱を押し付けてくる。
とにもかくにも、受け取らなきゃいけなそうだ。

「ええと、その、ありがとう」

「さっきの、お礼だから」

笑顔で手にとって言うと、彼女は目を若干逸らして、小さく言った。

しげしげと、渡されたケーキを眺める。…やっぱり、甘そうだなぁ。
うーん、とちょっとだけ、どうしようかと考える。こんな時間に甘いモノを食べるのはどうなんだろう。
あー、でも、さっきまでマンガを描くのに体力も使ったしなぁ。糖分補給は体力回復にもいいことだろうし、さっそくいただこうかな。
…いや、どう考えても過剰摂取だけど。とはいえ、ケイだって僕が食べたいって言ったからわざわざ作ってきてくれたわけだし…うん。

この量を食べきれるのかなぁ、と少しばかり不安に思う。
別に彼女の作る甘いモノが食べられるからといっても、やはり限界はある。
ホールだもんなぁ、明日の朝ごはんとか大丈夫かなぁ。

…あ、そうだ。

「ケイ!」

思いついた僕は、いつの間にかもう踵を返して、廊下の角に向かっていたケイの背中に呼びかける。
彼女はぴたりと動きを止めて、少しばかり顔をこちらに向けた。

「…………何?」

何だか不安そうな顔をしていた彼女に、僕は一つ提案した。

「その…一緒に、食べない?」






結果として、僕はケーキを全部ではなく半分だけを胃に納めるだけになった。
残り半分は作ったケイが食べるからだ。
せっかくだから、と誘ってみたら、彼女は悩むそぶりを若干見せたけれど、頷いてくれた。

我ながらいいアイデアだと思った。
半分ずつなら負担も少ないし、明日アサギの胃薬を借りる必要もないことだろう。
僕だって男だし、甘いモノをたくさん食べられるわけではないのだ。…や、ケイのお菓子はそういう次元の問題じゃないんだけど。

「はい、紅茶」

「あ、ありがとう…」

部屋の真ん中にある、備え付けのテーブルを挟んで置いてある椅子の一つに、
落ち着かない様子で腰掛けるケイに、とりあえず同じく備え付けで用意されている紅茶を淹れて出す。

彼女は何故か、僕がお湯を沸かす間、周りのものをチラチラと見ていた。
…そんなに珍しいものあったっけ? と自分の部屋を見回す。
僕の私室は、別に他の人たちと何か差があるわけでもない。備え付けの家具だけの、むしろ何もないくらいだ。

あるとすれば――――

「…また」

「うん?」

小さく聞こえた声に、僕の意識がケイに向いた。
彼女は、何事か口に出そうとして、必死に声を出そうとしているように見えた。

「また、描いてたのね、その、マンガ」

ぽつり、と急に話題を振るように呟くケイに、僕は、うん、と頷いて、自分の机に視線をやった。
あぁ、そうだ。僕の部屋らしいものがあるとすれば、唯一持ち込んでいる、マンガの道具くらいだった。
僕が、MJPにいること――戦うこと以外に、やりたいと思えたこと。

「前から思ってたんだけど」

「うん」

紅茶を一口、口にしてから、ケイは自分の言いたいことをまとめたのか、ゆっくりと言葉にする。

「…どうして、わざわざ自分で描くの?」

「へ?」

質問の意味がよく分からなくて、僕は困った。
それを察したのか、ケイはすぐに補完するように、しどろもどろに言葉を紡いでいく。

「だって、その、ヒーローのマンガなんて、いっぱいあるじゃない。わざわざ自分で作らなくても」

ああ、そういうことか。僕は言いたいことを理解して、どう言ったものだろう、と思った。
確かにかっこいいヒーローのマンガを読みたいなら、別に自分で描かなくても、おもしろい作品なんていっぱいあるだろう。
実際、僕はそんなマンガを、養成所にいたときはたくさん読んでいた。

でも、僕は――

「ケイと似たようなもの、かな?」

「え?」

僕の答えに、ケイは不思議そうな顔をしていた。
お菓子作りとマンガがどう関係しているんだ、と言いたそうにしていた。
えっと、と苦笑いしながら、僕は考えを伝える。

「ほら、ケイだってさ、自分の好きな味を作るためにお菓子をよく作るでしょ。それと同じでさ」

やたら甘いケーキやそうでもないケーキがあるように、ヒーローにだっていろいろなタイプがあるのだ。
皆を守るためなら、ヒールにだってなるヒーロー。すごい力で、悪も含めて、全部守ってみせると決めているヒーロー。
…それに、誰か大切な人のためだけに、戦うヒーロー。

皆それぞれ、描いた人のヒーローが生きている。そう思ったんだ。
だから僕も、僕らしく。



「僕も、自分の理想のヒーローを描きたいんだ。誰かの考えたものじゃなくって、自分の中のヒーローを」


たった一つ。どんなに微妙だって言われても。どんなに違うと言われても。
僕が誇りに思える、僕だけのヒーローだ。

言ってから、ちょっと恥ずかしくなった。僕は下を向いて、照れた顔を隠そうとする。
よく考えてみたら、自分がマンガを描く理由なんて、聞かれたのも初めてだし、マジメに答えるのも初めてだった。

ケイの反応はどうだろう、と僕は彼女の様子を伺う。やっぱり、変な人、と言われてしまうのだろうか。
チラリと視線を上げると、彼女は俯いていて、どんな顔をされているのか分からなかった。
何だか微妙な反応の彼女に、僕はまた何かやっちゃったかな、と思考を巡らせる。

「…それで」

「うん?」

と思っていたら、ケイがまたか細い声で、わずかに聞こえるように言った。
一言一言、搾り出すように、詰まりながら。



「それで、誰かをかばって、無茶するのが、あなたのヒーロー、なの?」


「…………」

その言葉に、僕は、何も言わなかった。いや、言えなかった。
彼女の肩が、若干震えていたんだ。
気圧されてしまった。揺れた声が、僕に思考する余裕をくれなかった。

「もしかして…ケイ、怒ってる?」

少しの間固まってから、慌てて、僕は上ずった声で聞いた。
さっきの作戦のことを言ってるんだと、すぐに分かった。

本当に死を感じてしまった、あのときのことを思い返す。
怖かった。思い出せば、身体がまだ震えてしまいそうなほど。でも、ケイを守らなくちゃ、と身体は勝手に動いてしまっていた。
それを僕は後悔していない。死ぬ覚悟もほんの少しした。もちろん、死ぬなんていやに決まってる。それでも僕は――

「…怒ってなんか、ないわ。ただ、その、無理することなんて、ないじゃない。私だって、仲間を失うのはいやなの」

ケイは、はっとしたように、顔を上げると、僕の言葉を否定した。
その瞳はひどく揺れていて、ちょっと、潤んでいた。
もしかして泣いてるのかな? と思わず動揺してしまいそうになるけれど、僕も言いたいことがあった。

「ごめん。でも、僕だって、そうだよ。仲間がいなくなるのは、いやだ」

ケイの気持ちだって分かる。たぶん、僕も同じ気持ちだったから。
これまで一緒に、ザンネン5だとしても、一緒にがんばって、過ごしてきたた仲間たち。
記憶を消されて、家族も何もない僕らにとっての、唯一の居場所。それが一人でも欠けてしまうのは、いやだ。
家族とは全然違うかもしれないけれど、そう思えたんだ。僕も、彼女も。

だから、守りたいんだ。僕は僕の気持ちに従いたい。
大事な仲間のために、そして――

「目の前の仲間も助けられないヒーローなんて、僕のヒーローじゃないんだ」

――僕自身の大切なモノのためにも。

はっきりと伝えると、ケイは黙って、また下を向いた。
それから、そう、と消え入りそうな声が僕の耳に届いた。

もしかして、呆れられちゃったかな。でも、これが僕の正直な気持ちだった。

「…その、ごめん」

とりあえず何か言わなきゃ、と思った僕の口から出たのは、謝る言葉だった。
何だか悪い気がしてしまったのだ。謝らなきゃ、と反射的に出てきてしまった。

僕の言葉に、ケイは顔を上げると、少しだけ呆れ顔を見せた。
でも、さっきとは違って、瞳の潤みはなくなって、表情も柔らかくなっていた。

「どうしてそこで謝るのよ…私こそ、ごめんなさい、変なこと聞いたわ」

わずかに笑みが混じった彼女の言葉に、僕はますます申し訳ないと感じて、首を横に振った。

「ううん。ケイは、皆を心配してくれてるでしょ? それこそ、その、ありがとう」

作戦の後で、皆と集まったときのことを思い出す。
不安がって抱きつくタマキのことを拒否しないで、安心させようとしてくれていた。
きっと彼女だって、撃たれそうになったことを不安に感じていたはずなのに。

お礼を言われて、彼女は戸惑ったように部屋の片隅に視線をやる。
感謝されるなんて予想外だったのか、少し照れたように頬が紅かった。

「…そんなの、私もちゃんとお礼を言わせて」

迷ったように伏し目がちになったけど、彼女は僕の方をまっすぐ向いた。
色素の薄いキレイな紫の目に、僕はちょっとだけ見とれた。
ケイは緊張したように息を吐いて、そして。

「――助けてくれて、ありがとう」

ふ、と口元を綻ばせてくれた。いつも笑わない彼女の、珍しい笑顔だった。
その言葉を聞いて、僕は無性に嬉しくなった。
助けてくれてありがとう、か。そんな風に感謝されたのは、これで二度目だった。
一度目は初めてアッシュに乗ったとき。そして、今度は大切な仲間を守ったとき。

…僕は、ヒーローになれたんだろうか。
誰かを助けられる、かっこいいヒーローに。
だとしたら、きっと。

「…えっと、ケーキ、食べようか」

嬉しさから来るちょっとした照れをごまかすように笑って、僕はお皿とフォークを手に取った。
急に、ケイのやたら甘いお菓子が恋しくなった。
甘いばっかりで、美味しさなんて二の次みたいなこのケーキをまた食べられることこそが、きっと僕の求めたヒーローの結果なんだと、そう思えた。
それを知ってか知らずか、ケイは微笑んだままでいた。

「…ええ、召し上がれ」

そうして、僕らの時間は過ぎていく。ちょっとだけ、仲良くなれたいつかの思い出。
僕と彼女の、二度目の食事会。

終わり。
あの甘そうなお菓子こそがザンネンファイブにとってのおふくろの味に違いない、と勝手に妄想。
とりあえずマジェスティックアワーに合わせたネタとやりたいネタをそれぞれ交互にやっていこうと思ってます。
では。

どうも。今日は勢いで書いてきたものをば。

コドモとオトナ――彼と彼女の不思議な関係

深夜、スターローズ――GDF宿舎

レイカ「ささ、今日はもういっぱーい」ソソギ

リン「ちょ、ちょっと。もういいわよ、レイカ」

レイカ「まーまーいいじゃない。これぐらいなら明日に差し支えないって」

リン「もう…」グビッ

レイカ(なんだかんだ付き合いいいんだからー)

リン「…ねー、レイカー」グデー

レイカ「んー?」

レイカ(もーぐったりモード入っちゃった…度が強かったかしら?)

リン「…愛って、なんなのかしらね」

レイカ「ええっと?」

リン「もうすぐで私三十代よ、三十代!」

レイカ「そーね、あたしも同い年だから分かってるわよー」

リン「まともな恋なんて、それこそ士官学校通ってたときくらいで、後はずっと男臭い職場でただただ仕事仕事仕事! …女として、どうなのよ、私」

レイカ「まーねー、でもほら、リンリンならいい人見つかるわよ、いつか」

リン「いつかっていつよ! それが近いか遠いかも分からないってのに…」

レイカ(ありゃりゃ…こりゃ面倒なところ出てきちゃったかな?)

リン「…私、このまま独身貴族かしら」グスッ

レイカ「そんなことないって。ほら、誰かいないの? いい人」

リン「そんなのいないわよ…周り、超年上ばかりなのよ?」

レイカ「あーそっか、じゃ、年下は?」

リン「年下って…」

レイカ「ほら、ウサギちゃんたちなんてどう? アサギくんとかイズルくんとか…」

リン「ば、生徒だし、部下じゃない! それに…私は、彼らの保護者として――」アタフタ

レイカ「別に血のつながったお母さんじゃないじゃん」

リン「それは! そうだけど…」

レイカ「リンリンの言ってたタイプで当てはめてみよっかー? 仕事楽しそうにしてて、一緒にいてホッとできてー、お酒が飲める…」

リン「お酒の時点でアウトじゃない…」

レイカ「まま、将来の話じゃない、将来の。…うーんアサギくん? 気遣いの鬼って、アンナがホメてたなー」

リン「や、だから…」

レイカ「スルガくんは…ちょっと軽いかしらね。でも、根は純情でそこはからかいがいがあるかも?」

リン「…スルガは、ちょっと違うわよ」

レイカ「えー。急にマジメに答えだしたわねー、じゃ、アサギくん?」

リン「あなたが振るからでしょうが! というか、そういう話じゃ…!」

レイカ「あ、後はイズルくんとか」

リン「イズルー? ないわよ、それこそ。あの子、まだまだコドモよ、あの中じゃ」

レイカ「何言ってんのー。ああいう子って成長も早いのよ? いつの間にか大人になっちゃってさ、頼れそうな感じになってるの」

レイカ「そんでもってー、知らないうちに、甘酸っぱい恋とか経験しちゃってさー、大人の階段昇っちゃってってるのよ」

リン「あ、あのねぇ…」

レイカ「あの子ちょっと不思議ちゃんで保護欲沸かせちゃうタイプだしさー、リンリンってば世話焼きだし、いい姐さん女房になるわねー、その場合」

レイカ「たぶん二、三年もしたらいい男になってるわよー、イズルくん。今のうちにキープしといてもいんじゃない?」アッハッハ

リン「…はぁ。あなたに相談した私が悪かったわ…」グビッ






GDF宿舎――廊下

イズル「」スタスタ

イズル(近所の散策だし、すぐに済むと思ってたのに…遅くなっちゃったなぁ)フワーァ…

イズル(その分、マンガの資料になりそうなモノはいっぱい見つかったけど)

イズル「明日も早いし、急いで部屋に戻らなきゃ…」

チョットリンリンー モウダイジョウブダッテバー

イズル(あれ? あっちにいるのは…)

リン「」グデー

レイカ「」ヨロヨロ

イズル(えっと…艦長と、整備長…だよね?)

イズル(なんで艦長地面に座り込んでるんだろ?)ハテ

レイカ「もー、飲ませすぎちゃったかな…」

レイカ「あたしだって力持ちってわけじゃないのにー」ヤレヤレ

リン「…悪かったわねー、どうせ、私は、行き遅れ者よー」フン

リン「ええ、ええ。いい歳して大酒食らうわよー…うう」グスッ

レイカ「あーごめんごめん、悪かったってば。…ってかそれあたしもそうだし」

リン「よく言うわよ、引く手数多なくせに…どうせ私はあなたと違って器量もよくない、堅物女よー」ウエーン

レイカ「……もー、どうしてやろうかしらこの子…ん?」

イズル「! …あ、あのう」

リン「! い、いずる! …あ、わ、っと」アタフタ

レイカ「ちょ、急に立ち上がったら、バランス取れな…」

イズル「あ、危ない!」ガシッ

リン「あ……っ」カァ

イズル(わ、お酒臭い…けど、ちょっといい匂い)

リン「あ、ありがとう。だ、大丈夫だから…」バッ

リン「っと、あ…」ストン

レイカ「何してんの。立てないからってここまで連れてきてあげたんじゃない」

リン「れ、レイカ!」

レイカ「見られちゃったものは諦めなさいって」

イズル「……ええっと」

レイカ「やー、久しぶりにって一緒にお酒飲んでたんだけどねー、酔いつぶれかけちゃってさ」アハハ

リン「ちょ、やめてよ」

レイカ「今さら、威厳とか考えてもしょうがないって。でね、リンリンもこの通りでさ。いやーいいとこ来てくれたわね!」ニコニコ

イズル「え?」

レイカ「ごめーん、イズルくん! ちょっとリンリン部屋まで運んでもらえなーい? どうにもあたしじゃ運ぶ前に倒れそうでさ」テヘ

イズル「僕、ですか?」

レイカ「お願い! 今度なんかお礼するから! …ね? ヒーローさん」オガミ

イズル「ヒーロー…」

リン「だ、大丈夫よ。一人でも私、は」フラフラ

レイカ「そんなフラついてちゃ無理でしょー。いいじゃないたまには保護者の役変わってもらっちゃえば」

リン「だめよ、そんなの。私は、オトナとして…」

イズル「分かりました」

リン「ちょ、イズル!?」

イズル「困ってる人は見捨てないのがヒーローですから」

レイカ「うんうん。そうこなきゃ。部屋の場所は分かるわよね。
    じゃ、よろしく。バイバイ、リンリーン。今度はもうちょっとセーブするようにしとくからー」ヒラヒラ

リン「れ、レイカ!」

タタタ…

イズル「…えっと、じゃあ、行きましょうか」

リン「……ごめん、お願いするわ」ハァ






リン「ホント、ごめんなさいね」

イズル「いえ、さっきも言いましたけど…」

リン「ヒーロー、ね。確かに、その、助かったわ」

イズル「いつもお世話になってるお返しですよ」

リン「そう……」

リン(背中、大きいのね…ちょっと前はあんなに頼りないと思ってたのに)

リン(いやいや、何を考えようとしてるの。
   だいたいそんな風に思ってるのは、別にお酒で弱ってるせいなだけであって。いつも通り、そういつもの私なら――)ブンブン

イズル「…にしても、艦長ってお酒弱いんですか?」

リン「そ、そういうわけじゃないわよ。…レイカが、おかしいだけで」

イズル「そうなんですか? …お酒、かぁ」

リン「あんな風にはならないことよ。…いい大人にはなれないから」

イズル「あはは…でも、興味はあるんです、お酒」

リン「そう? …一つアドバイスさせてもらうと、最初は一人で限界がどれぐらいか測ってから人と飲むことよ」

イズル「はぁ…」

リン「そうしなければ、醜態をさらさずに済むから。…私みたいに」

イズル「あ、あはは…だ、大丈夫ですよ。なんていうか、ほら、普段きっちりしてる人が崩れるとギャップがあってむしろいい、ってスルガが」

リン「…無理にフォローしなくていいのよ?」

イズル「や、そういうつもりじゃなくて、ホントに、ただそう思っただけです。かわいらしいな、って」

リン「な、からかわないでよ」

イズル「からかうだなんて…艦長は、その、美人さんだし。それでかっこいいし、尊敬してるんですよ? 僕」

リン「も、もういいってば」カァ

リン「…っと、あぁ、ここよ。この部屋」

イズル「ええと、カードキーは…」

リン「いいわよ、ここまでで。後は自分でできるから」

イズル「や、でも……」

リン「」グデー

イズル(どう考えても、部屋の床にそのまま倒れちゃいそうだし)

イズル「ここまで来たし、最後までお供しますよ」ヨイショ

リン「…あ、ありがとう」






リン「ベッドはそこ…明かりはここにあるから」

イズル「えっと…」ポチ

パッ

イズル「じゃ、寝かせますね」

リン「ん……」

イズル「………」

リン「」グッタリ

イズル(なんていうか…普段しっかりしてる艦長がこんなにもだらけてるなんて、不思議だなぁ)

イズル(それに顔が赤くて……ちょっとランディ先輩のアレを思い出すかも。いや、思い出すとちょっと申し訳なくなっちゃうけど)

リン「…ねぇ」

イズル「はい?」

リン「よければ、水を取ってもらえないかしら。冷蔵庫にあるから」

イズル「水ですか、分かりました」タタタ

イズル(えっと…あ、あった)ガチャ

イズル「…どうぞ」テワタシ

リン「あ、ありがとう」ゴクッゴクッ

イズル「大丈夫、ですか?」

リン「ええ。…ごめんなさい、無様な姿を見せたわ」ハァ

イズル「いえ、その、大丈夫、です」アハハ

リン「……」

レイカ『――ああいう子って成長も早いのよー。いつの間にか大人になっちゃってさ、頼れそうな感じになってるの』

レイカ『そんでもってー、知らないうちに、甘酸っぱい恋とか経験しちゃってさー、大人の階段昇っちゃってってるのよ』

リン(この子がそういう風になるなんて、とても思えないわよ)

リン「……ねぇ、イズル」

イズル「は、はい」

リン「あなた…その……」

イズル「はい?」

リン「恋とか、したことあるのかしら?」

イズル「…へ?」

リン「あ、いや、たいした意味はないのだけど。あなたくらいの歳のときは、私もいろいろとあったから、つい、ね」

イズル「うーん…そういうのは、ないですね」

リン「…そう」

イズル「えっと、ほら、僕ら、ずっと訓練漬けでしたし…そんなこと、考えてる余裕もなかったというか」アハハ

リン「!」

リン(しまった。私、なんてバカなことを…)

リン「……そう、よね。あなたたちは、ずっと…ずっと……」フルフル

イズル「え、艦長?」

リン「ホント、ひどいことを聞いたわね…ごめんなさい」

イズル「あ、あの…」

リン「あなたたちを勝手に生み出しておいて、ずっと、人権なんか無視して、戦いのために使おうとして」

リン「あなたたちをそんな風にした私が、そんなこと聞くなんて」

リン「最低ね、私ったら」フフッ

イズル「…………」

リン「…ごめんなさい。今のは忘れてもらえると、助かるわ…」

イズル「……」

リン「ありがとう。もう、戻って…」

イズル「艦長」ギュッ

リン「え」

イズル「僕、艦長のこと、最低だなんて、思ってません」

リン「な、あ、ちょ…ちょっと!?」アワワ

イズル「僕らが学園に来てからも、GDFに所属してからも」

イズル「艦長は僕らのこと、いつもいつも助けてくれたじゃないですか」

イズル「さっきも言いましたけど…僕、艦長のこと尊敬してますから」

リン「わ、私は…ただ与えられた仕事を」

イズル「そんなの関係ありません!」

リン「!」

イズル「仕事だろうとなんだろうと、これまで艦長がしてくれたこと、僕はすごく嬉しかったんです」

イズル「…ありがとうございます。僕らのこと、助けてくれて」

イズル「あなたのおかげで、僕はヒーローになれた」

イズル「…だから、そんな風に悲しい顔、しないでください」

リン「………」

リン「ありがとう」ギュッ






イズル「……」

リン「……」

イズル「え、っと…」

リン「…ごめんなさい。もう少しだけ、このままでもいいかしら」

イズル「は、はい」ギュッ

イズル(艦長、柔らかい。それにあったかくって、安心、する…)ボー

リン「…イズル。さっきも言ったけれど…」

イズル「?」

リン「ここまで、頑張ったわね。ありがとう」

リン「あなたがここまで来たこと、教官として、上司として、一人の人間として、誇りに思うわ」

リン「よければこれからも、私の下で頑張ってほしい」ナデナデ

イズル「あ……っ」サレルガママ

リン「っ……」ワシワシ

イズル(ちょっと、乱暴だったその手は、不思議と痛いとかじゃ、なくて)

イズル(なんだか心地よくて、ずっとそうしていてほしいと感じた)

イズル「――もちろん! 僕の上官は、スズカゼ艦長だけですから!」

リン「……そう」ホホエミ

イズル「はい」ニコニコ

リン「……」

リン「…ねぇ、イズル」

イズル「何ですか?」

リン「もしも、ね。もしも、あなたが、そう、大人になったときに。まだあなたに…」

イズル「?」キョトン

リン「……ごめんなさい、やっぱり何でもないわ。忘れて」

イズル「そうですか? 分かりました」

リン「もう私は大丈夫よ。さ、部屋に戻りなさい」

イズル「はい。また明日、艦長。おやすみなさい」

リン「ええ…おやすみ、なさい」

プシュー ガチャリ

リン「……」

ポスン

リン「いつまでもただ命令を聞くだけの子供じゃない、か…そうよね」

リン(いつか、大人になったら、か)

リン「それまで、誰もあの子のそばにいないわけ、ないわね…」

リン「」フー

リン「私ったら、いつの間に年下趣味になったのよ…」バタッ

リン(だって、しょうがないじゃない。知らない間に、大人の目をしだしてたんだもの)

リン(人の関係は変わるもの…教官と生徒。上官と部下。そして……)

リン「――とんだ教え子になったわ、あなたは……イズ、ル」スゥ…

終わり。リンリンは独身貴族を貫きそう。
前のスレとかじゃケイばかり書いてたから今度はリンリンに挑戦したいところ。
では。

実際のところあの世界で結婚ってどんな感じなんだろ
夫婦らしい夫婦って出てきたっけ?

どうも。今日もやりますよ。
>>64 夫婦は特に出てないですね。一応シモンは既婚者だそうですが。それぐらいですかね。
いろんな愛があっていいらしい世界ですし、同姓婚とかもあるらしいとか。

先輩からの激励

イズル「銀河機攻隊マジェスティックプリンス、劇場映画化、おめでとう!」パーン

タマキ・スルガ「おめでとーう!」パーン

アサギ「おめでとう」フッ

アンジュ「お、おめでとうございます」

ケイ「……」

タマキ「どしたのケイ? 渋い顔しちゃって」

イズル「あれ? 映画だよケイ、嬉しくないの?」

ケイ「いえ。嬉しいといえば嬉しいの。ただ…」

イズル「ただ?」

ケイ「あのPV見てからあなたが心配で心配で…」

スルガ「あー、そうだよな。あんなんだもんな」

イズル「あんなんって…」

アンジュ「どうみても生命維持装置でしたね。イズルさんの入ってた機械」

タマキ「イズル、死ぬの?」

イズル「ちょ、やめてよ。物騒じゃないか」

アサギ「俺の弟を殺すな」ペシッ

タマキ「いったー。アサギお兄ちゃんがぶったー」

アサギ「お前のアニキじゃねぇよ!」

アンジュ「でも大丈夫じゃないですか。ほら、イズルさんは主人公なわけですし」

ケイ「キャスト順最初に見たときはアサギが一番前にいるから何事かと思ったけどね…」

スルガ「そういやそうだったな。あれ? ってことは、アサギが今回の主人公なのか?」

イズル「ちょっとお兄ちゃん!」

アサギ「待て待て。お前が一番下にでかでかと名前載ってるだろ、ほら」

イズル「あ、ホントだ」

スルガ「にしてもスクリーンか…どんな感じになるやら」

タマキ「はーい! 今回はあたしが一番活躍すると思いまーす!」ハイハイ

ケイ「十分活躍したでしょ…」

スルガ「いやいや、ここはロマンの塊の俺のゴールド4に新装備と新機能、果てはイズルみたくフルバーストにだな…」

アンジュ「わ、私は、後半しか出れなかったことですし、その分活躍できれば…」

アサギ「後半からでも十分インパクトあったけどな、アンジュ」

タマキ「ケイはどう? 何かこれがしたいとかあるー?」

ケイ「わ、私? 私はそうね…」チラッチラッ

イズル「?」

ケイ「と、とりあえず、イズルが無事ならいいわ」

スルガ「そりゃ大丈夫だろー、こいつあの最後でも何とか生きてたんだぜ?」

ケイ「わ、分かってるけど…やっぱり、不安じゃない」

アサギ(…ホントはイズルと進展するエピソードがほしいとか思ってるんだろうな)

イズル「お兄ちゃんは何かある?」

アサギ「俺か? そうだな…とりあえずこれがうまく行って、また何か新しいことが起きるといいよな」

スルガ「おいおい今は目先の映画だろー?」

アサギ「せっかくだろ。もっとさらにすごいことがあったっていいんじゃないか?」

アンジュ「すごいこと、ですか?」

タマキ「たとえばたとえばー?」

アサギ「そりゃ…新しくテレビ放送とか」

スルガ「二期ってわけか。確かに、夢があるなー!」

アサギ「いろいろと秘蔵のネタはあるらしいからな。そういうチャンスができてもいいんじゃないか?」

スルガ「未使用の武器とかあるらしいからなー。確かにテレビでまた見てみたいもんだよな」

イズル「でもそういうのって、うまくいったらなんでしょ?」

ケイ「それに前の放送だって四年かけて作ってたんでしょう? 次やるとしたらいつになるか…」

???「――無理なことはないと思うぞ」

イズル「! あ、あなたは…」

一騎「俺のときは、もっと大変だったよ」

アサギ「確かあなたは…同じ雰囲気の絵の――」

一騎「俺のやつだって、続きの話が出たのは、五年くらい前だったよ」

一騎「もっと言えば、一番最初の放送があったのは十年近く前だ」

イズル「十年も…」

一騎「映画の話も終わってから五年くらい後でさ、正直驚きだった。まだ続くのか、って」

一騎「お前たちは三年でここまで来たんだろ? だったら、長い目で見てみろよ」

イズル「…そう、ですよね」

一騎「頑張れよ、後輩。同じような境遇の身として、応援してるからな」バイバイ

イズル「はい!」

タマキ「…行っちゃったー」

アサギ「急な激励だったな」

イズル「実体験は、やっぱり参考になるよね」

スルガ「あっちの場合、続き決まってからあたりの人気すごかったけどなー」

イズル「何言ってんのさ、今年の映画で、同じくらい人気になればいいんだよ!」

アンジュ「ポジティブですね…」

アサギ「まぁそれがこいつの売りだしな」

ケイ「そうね……どうなっても、イズルはイズルなのね」

アサギ「そういうことだ。…だから、不安がる必要はねぇよ」

ケイ「…うん」

イズル「皆でならできる! 頑張ろう!」オー

タマキ・スルガ「おー!」オー

かなり短いですがおしまい。映画と聞いて一番やってみたかったネタ。
わりと二期とかやってほしい。噂のデート回とか超見たい。
何かネタふりとかまたしていただけるとありがたいです。では。

どうも。深夜となりましたがやりたいと思います。

自分は選ばれた人間だ、という意識が、昔から俺にはあった。
というより、そう思わないと自分のいる『理由』がなくなってしまいそうだった。
戦うために生み出されて、兵士として立派に戦うこと。
疑問を挟む余地もない、俺の生きる理由だ。

なのに。そんな立派なはずの俺は、実に不当な扱いを受けていた。
ザンネン5。それが俺のチームに付けられたあだ名だ。

「……」

重い気分のまま、俺は店を出た。
ここは、バカンスのために送られた、高級リゾートのある宇宙ステーションの一角だ。
上官から、任務前の休息として送り込まれた、な。

休息なんていわれても、楽しむ気にもなれなかった。
前線から離れたこんなところでも、俺の失敗がでかでかと報道されていたからだ。

それでも、と休息(それと世間の喧騒から逃れるために)がてらチームの連中と食事のために適当な店に入っていった。
だけど、結局そこでも周りの噂する声が聞こえてきて。俺は苛立って、仲間たちに八つ当たりするように声を荒げて、勢いのまま出てしまった。
隣には、同じような心境なのか、もう一人、仲間のケイがいる。

「…私、少し寄り道してからコテージに行くわ」

どうする? と言いたい気持ちと共に視線を送ると、彼女はどこか遠くに憧れるような目をしてから、そう答えた。
どうせ、どこにも行けやしないのに。

「…そうか」

ぐっと言いそうになった言葉を抑えて、俺はただそう言った。
そんなことを言っても、自分を含めて、気分が落ち込むだけだ。

「アサギは?」

「俺は、もう戻る。…少し寝てるよ」

それだけ言うと、俺は彼女に目もくれずに去った。逃げるように。
何でもいい。とにかく、周りの声と視線、それに――

ほんの少しでいいから。自分の生きる『理由』から、目を逸らしたかった。




――君には、テストパイロットをしてもらう。少しの休学だ。

え、しかし――

君はそれだけ優秀な人間なのだ。他に適切な人材もいない。

…了解、しました。


「……」

ゆっくりと、目を開いた。
懐かしい夢だった。
イズルたちよりも早く、グランツェーレ都市学園に来て、何年かしてからのこと。
MJPを預かる、シモン・ガトゥ司令。彼に呼び出されて、俺は一年間休学をすることになった。
最新の機体開発のためのテストパイロット。俺にしかできないことだ、と告げられて、請け負った。

本当は早いところ兵士として戦いの場に行きたかった。
わざわざテストパイロットのために、したくもない休学をして、一年後輩の連中と並ぶことになるなんて、俺がまるでできないやつみたいで、イヤだった。
実際、何も知らない連中はそんなことを言ってきて、その度に少し争いごとになったりもした。
機密のために何も言えない俺は、そうすることくらいしか知らなかった。

――今思えば、あれがアッシュの開発だったんだろうな。
特に説明もない、よく分からないシステムの起動テストと、これまで主流だった機体とは違う機構の機体の起動実験。

結果として、あのテストパイロットの経験があったから、俺にアッシュが与えられたんだろうか。
そういう意味では、一年休学したことも悪くなかったのかもしれない。
でも、結局、俺は失敗した。

前回の任務。簡単な衛星設置のはずが、急な敵襲を受けてしまった。
せっかくのアッシュだったのに、俺は勝手に緊張して、敵に何の反撃もできなかった。

悔しかった。自分のこれまでの実力に誇りを持っていたんだ。
チームはともかく、個人での模擬戦や座学は、誰も俺を追い抜けなかった。
機密扱いの機体の開発に参加できるくらいなのだ。そこに俺の絶対の自信があった。

なのに、それなのに。アイツは――

『僕は、ヒーローになりたいです!』

「っつ……」

胃の痛みを感じて、呻いた。
思い出しても、実に悔しい。羨ましい。妬ましい。

イズル。俺のチームの、リーダー。最年長の俺じゃない、一つ下の少年。
俺よりも成績は下のはずだった。危なげで、不思議で、ほっとけないヤツだった。
それが今や、皆を引っ張るリーダーだ。

こないだの任務だって、きっちりとするべきことをこなしてみせた。
俺とは違う。アイツは、報道でも活躍してるところばかり流されていた。
俺は、俺は――

「……はぁ」

やめよう。こんなことを考えて何になるというのだ。
情けない。つまらない嫉妬心を持つなんて。
俺は最年長だ。アイツだって、まだまだリーダーらしさのないやつで、俺がしっかりしないと。チームは大変なことになる。
アイツがリーダーだろうと、関係ない。そうだ、俺が――

…そう、自分に言い聞かせたかったんだ。そうじゃないと、何だか胸が苦しくなってしまって。息苦しかった。

「そういえば、今何時だ…?」

ふと、コテージの個室にあった壁掛け時計を見る。もう夜だった。

アイツらは帰っているのだろうか。店に置いていった三人のことを思う。
タマキ、スルガ…そして、イズル。
お気楽なやつらだった。リゾートに来たんだから、と今頃繁華街で楽しく過ごしているのだろうか。

ケイは、もう戻っているのだろうか。
もう一人、置いていったチームメイトのことを考えた。
寄り道をしていく、と言っていたが、それも済ませて、ここにいるのだろうか。

どちらにせよ、空腹だった。

「よっと」

さっきまで寝ていたベッドから起き上がって、部屋を出てすぐにある階段を降りた。
誰かいるか、と声を掛けながら進むと、

「……」

「……」

コテージのテラスに二人、影が見えた。
何やら楽しそうに話をしているようだ。
何か食べているようだが、あれは―――

すぐに分かった。イズルとケイだ。
どうやら、彼女の作ったお菓子を、二人で食べているらしい。

うわ、とすぐに俺は心の中の避難命令に従って、彼らに見つからないようにキッチンへと入った。
ケイ。うちのチームの中では良識派で、お菓子作りを趣味としている女の子だ。
が、そのお菓子は砂糖を馬鹿みたいに注ぎ込んだ実に健康に悪いものだ。
甘さしかないおかげで、チームメンバーが一度地獄を見たことがあったのを思い出し、胃がまた痛んだ。

何故かイズルはチームの中でも、唯一彼女のお菓子が食べられるらしく(もちろん、美味しいとは思っていないようだが)
今もどうやら彼女のお菓子パーティに付き合っているらしい。
…巻き込まれないように隠れとこう。

ごそごそと冷蔵庫を漁っていると、遠くで話し声が聞こえる。…どうやらイズルが、自作の絵を彼女に評価してもらっているらしい。
ケイは結構はっきりと言うタイプだからか、ばっさりと悪評を頂いているようだった。
それでもめげずに、今度はケイをスケッチさせてほしい、と頼む声が聞こえた。
彼女は、少しいやそうな声を出していたが、結局折れたようだ。

ここまで聞いて、俺はさっさと冷蔵庫から適当な食品を拝借して、その場を去った。
あんなところに混じっていくような勇気はなかった。
…端から見れば、あれはいい雰囲気というやつなのだろうか。

別に。これまでずっと、戦うことしかなかった人生だからって、何にも興味がないわけじゃない。
ただ、そんなこと考える余裕なんて、これまでなかっただけだ。別にどうという話でもない。どうと、でも――

どうしてだ。ふと、自分の内側から声が響いてきた。
どうして俺がそんなことを気にする。別に、あいつらはチームメイトとして交流してるだけじゃないか。
だいたい、誰が誰と仲良くしようと関係ないことだ。

ケイが、イズルと。イズル、と―――

「……っ」

また胃がキリキリしだして、俺は慌てて階段を上った。なるべく、音を立てないように。
今は、ただ眠って。
何も考えずにいたかった。

最年長だとか、リーダーだとか、エリートだとか。
縛りのない世界で、のんびりと。





「……」

戦艦ゴディニオンに用意された、俺たちチームラビッツ用のバーラウンジ。
そこのカウンター席に座った俺は、目の前をただぼうっと見つめていた。

周りには、さっきまで口論していたスルガや、ケイ、それに撃墜されかけたタマキがいた。
ケイは怯えてぐずって眠ってしまったタマキを部屋へと連れ出して。
スルガはスルガで、一人で考えたいことがあるのか、自室へと引っ込んでしまった。

――ナイーブなやつって、人のナイーブさには鈍感なんだよな!

スルガに言われた一言が、頭の中で反復していた。
皆、本当は不安なんだ。軽そうにしてるスルガだって、お気楽っぽいタマキだって。

今日行われた任務。GDFのお偉いさんの指揮の元の、強襲作戦。
それで、死にかけて、隠されていた不安が表に出てきただけで。

そんなこと当たり前だ。戦うために作られて、記憶を消されて、それで――本当に死んでしまいそうだったんだ。
怖くないことなんか、あるわけなかった。
分かってる。分かっているが……俺には、アイツらにかけられる言葉なんてなかった。

どんなことを言えばいいっていうんだ。
大丈夫だ、年上の俺が守る? さっきだって、ピンチに陥ったタマキやケイのために何もできなかったっていうのに?
俺も怖いから気にするな? そんなの、余計不安を煽るだけだ。

まったく分からなかった。何を言えば、あの時不安を取り除いてやれたんだろうか。
何も分からないが、一つ分かってしまった。
…俺には、人生経験がアイツらと同じくらい足りないことが、分かってしまった。

これまで年上だから、とひたすらに何でも率先しようとしたけれど。
そんなの、何の役にも立ってないんだと、気付いてしまった。

ちくしょう、と心の中で呟いた。俺は、何のためにここにいるんだ。
戦うこと以外のことなんか考えないようにと決めたはずなのに、心がざわついていた。
もっと、違う何かを求めていた。不安そうに揺らぐアイツらの顔を見て、そう感じていた。

「――あれ、皆は?」

一人情けない気持ちに沈む俺に掛けられた声に、意識が戻る。
そっちの方へと、顔だけ向けた。
そこには、自作の絵を描き終えたらしい、うちのチームのリーダーがいた。

はぁ、と呆れたような息を吐くと、俺は席を立った。

「皆もう部屋に戻ったよ…ほら、お前も戻れ」

いつもよりも静かなラウンジを見回してから、俺は促した。
他の皆が部屋に戻る中、イズルは一人だけ自分の世界に入って、マンガを描いていた。
それがこいつの精神安定剤らしいから、止めてやるのは悪いだろう、と放っておくことになったのだが。

どうやら俺が考え事をしている間も、まだ描いていたらしい。
とっくに止めて、いなくなってると思っていたのに、まったくたいした集中力だ。

「え、そうなんだ。アサギは?」

「俺はもう少しここにいる。…一人で考えたいんだよ」

それだけ返すと、俺はもうイズルの方を見ずに、また正面へと向き直った。
まったく。人がいろいろと考えていたというのに、変なところで中断されてしまった。

「えっと、そっか。じゃ、おつかれ」

珍しく気を遣ったらしく、イズルはそれだけ言うとさっさとその場を去ろうとして、入り口へと向かう。
だが――

「おい、大丈夫か」

どてっ、と効果音でも付きそうな勢いでイズルが転倒した。
何やってんだか…。

「あ、あはは…思ったより、疲れてるみたい」

とりあえず反応して立ち上がり、意識を向ける。すると、イズルが座り込む姿勢のまま、見上げてきた。
その声には、震えが混じっていて。それで、俺は気付いた。
こいつ、まだ……。

「…ったく。ほら」

気付かないふりをして、俺は呆れ気味に手を差し出した。
イズルが応えるように手を伸ばして掴む。分かりやすいくらいに震えていた手を。

…それはそうだろう。さっきの作戦のとき、敵の攻撃が直撃して、もう少しで死にそうだったんだから。
さしものこいつだって、緊張を感じないわけがない。そんなの分かりきっていたことだった。

悟られていないとでも思っているのか、イズルは起き上がると、あはは、とまた乾いた笑い声を、ごまかすように出した。
まるで恐怖を感じてないと嘘をつくようだ。きっと、怯えを出さないのが『ヒーロー』というものだ、ということなんだろう。
ただの強がりみたいなそれに、何故か、俺はイラつきはじめていた。

「…さっきも言ったけどな」

「うん?」

感情のまま、何も考えずに俺は続けた。
珍しく、俺も冷静ではなかった。

「一人で無茶しすぎだ」

「えー、アサギだってそうじゃないか」

俺の言葉に、イズルは不満そうにしていた。
確かにそれはその通りだった。演習のときからずっとそうだ。俺は勝手に一人で戦おうとしている。
でも、それは。

「俺は、いいんだよ。チームの最年長だからな」

俺の中のプライドが、勝手に言葉を紡いだ。
そうだ、俺はお前よりもずっと、実力だってあるんだ。
とぼけた感じで、何やってもしまらなかったはずのお前なんかとは違って、俺は…!

「あはは、何それ」

イズルは冗談だと思ったのか、気楽に笑っていた。
その余裕を見せるような笑顔に、俺の苛立ちは完全なまでに爆発してしまった。

「笑い事じゃない…っ!」

がしっ、とイズルの両肩を掴んで、俺は一気にイズルに詰め寄った。
突然のことに驚いたように、イズルの瞳は揺れていた。

「あ、アサギ…?」

まっすぐに見つめるイズルの目には、今の俺はどんな風に写っているんだろうか。
きっと、いやな顔をしているに違いない。
見たら、俺自身も心底ムカつくような、最低の。

「怖くないのかよ、お前は…っ」

激情に駆られるまま、俺は浮かんだ言葉をぶつけた。
そんなことなんかないって分かってるのに、余裕ぶってるこいつに感じた苛立ちの全てを。

「あんな目にあって、もう少しで死んでたんだぞ!」

あんな無茶苦茶な真似して。映画か何かみたいに、誰かをかばうなんて。
どうしてそんなことができるっていうんだ。怖いはずだろ、何でなんだ。
そんな風に、誰かを救って成果を上げるお前が妬ましい。皆が賞賛している、羨ましい。

でも、それと同じくらい腹立たしかった。
皆で生きて帰ると、そう言ったお前が。
お前が誰かを助けようとして、その誰かはお前のことでハラハラしたんだぞ。

それをお前は分かっているのか。自殺願望みたいなことしやがって。
助けられたあのときだって、ケイがあんなにも心配して――

――ケイ、が何の関係がある?
はっ、と急に我に返った。何してんだ、俺は。

こんな風に詰め寄って、何の意味があるってんだ。
結局、そんなこと言っても、タマキを助け、ケイを助けたのはこいつなんだ。
助けられなかった俺に、責める権利なんかないってのに。

理解していた。ただ嫉妬して、自分にできないことをするこいつが、羨ましかったんだって。
皆を鼓舞する言葉を投げて、戦意喪失しかけた俺たちを活気付けて。
最年長である俺が本来しなくてはならないはずのことを、俺よりも年下のはずのこいつがしているということが。

残りの口に出そうとしたことは、喉元で止まって、後はもごもごと小さく俺の口から空気みたいに出て行った。
イズルの肩を掴んだ手を離して、俺はイズルに背を向けた。
顔を見れなかった。自分の情けなさが余計はっきりと出てしまいそうで。

「……悪い、忘れろ」

後悔と共に、俺はそれだけ言うと、またカウンターに座った。
部屋のドアの排気音がしないので、イズルは何も言わず、まだそこにいるようだった。
気まずい。俺のせいだけれども。また、胃が痛み出した。

「…怖かったよ」

誰に言うでもないような声量の、イズルの呟きが聞こえた。
俺に向けて、というよりも、自分に言い聞かせるような、そんな調子だった。

「でも、僕は、ヒーローだから…たぶん」

ヒーロー。イズルにとっての夢。
俺たちみたいな存在にはありえない、兵士以外の目標。

それがアイツの根拠もない前向きさに繋がっていることくらい、もう分かっていた。
だからか、それを聞いても、馬鹿にする気になんかなれなかった。
その前向きさに、俺たちは助けられたんだから。

「…そうか」

ただそれだけしか、言えなかった。
割り切って、命令に従って戦うことしか考えていなかった俺なんかとは違う。
それが俺とイズルの違いなんだと、理解し始めていた。

俺の返事に、イズルは柔らかい声色でこうも言った。

「ありがとう、アサギ」

「え……」

予想外のお礼に、俺はまたも困惑してしまった。

「何がだよ…」

意味が分からなかった。いきなり詰め寄ってきた俺のどこに、礼を言う必要なんかあるっていうんだ。
不思議でしょうがないと振り向いた俺に、イズルはニコニコと嬉しそうに笑っていた。

「だって、アサギ、心配してくれてるんでしょ?」

「は?」

思わず面食らった。俺が、心配? こいつを?

「だから、ありがとう」

イズルに言われたこと、そして自分が言ったことをよく考える間もなく、イズルはもう一度お礼を言って、微笑んでいた。
俺は、俺は……

「…もういいから、さっさと部屋に戻れよ」

何も返せなくなって、一人にしてくれ、と代わりに告げた。

「うん。おやすみ」

イズルは特に何も言及せず、笑顔のまま、部屋の出口へと向かった。

あぁ、おやすみ、と聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声の返事は、イズルが部屋を出たときの、プシュッ、という排気音でかき消された。





「……心配? 俺が?」

そんな風に言われた自分が、意味不明だった。
これまで、そんな、誰かを気遣う余裕なんてなかったはずなのに。
チームのことなんて、ただ俺が戦うための場所なだけのはずだったのに。
それを気遣うなんて、俺にとっては変なことだった。

どうしたと言うんだろう。俺は。
ただ戦うための兵士だと、そう考えてきたはずなのに。
それ以外のことにばかり、最近は目が眩んでいる。

まったくもって、らしくないことだと思う。
俺は、優秀な人間として、兵士になりたかったのに。
こんな、ザンネン5だなんて呼ばれるような場所、イヤなはずなのに。

この場所にいるアイツらに、曇った顔をされたくないと、思い始めている。

「……はぁ」

一度ため息を吐き、俺はカウンターに突っ伏した。
考えるのを止めて、このまま眠ってしまおう。変に考え込むから、何かおかしくなってしまったんだ。
思考したことを破棄してしまえば、そしたらきっと、目覚めたときには元の俺に戻っているに違いない。

パイロットスーツから着替えるとか、そんなこともわずらわしくなって、俺はそのまま眠りに落ちた。
少しずつ変わり始めている何かから、まだ目を逸らして。

終わり。次、ネタふりで思いついたことをば。

ほんとの、家族

スターローズ――アサギの部屋

イズル「おにいちゃーん」キャッキャッ

アサギ「だからそれよせって…」

タマキ「」ジー

スルガ「? どした、タマキ?」

タマキ「んーん…アサギがさ、レッド5を動かせたから、きょーだいってことなんでしょー?」グデー

アンジュ「はぁ…遺伝子が共通するところがあるから起動した、ということだそうですけれど…」

タマキ「…ちょっと、いてくるー」タタッ

スルガ「は? どこに…っておい!」

プシュッ

ケイ「あらタマキ。今ケーキが…」

タマキ「ごめんまた今度ー」タタタッ…

ケイ「…どうしたの? あれ」

スルガ「さぁ…あ、いや」

アンジュ「どうかしたんですか?」

イズル「」ニコニコ

アサギ「」フー

スルガ「……たぶん、これかね?」

戦艦ゴディニオン――パープル2のピット艦

タマキ「……」

イリーナ「急に来て何かと思えば…。別にいいけど、たぶん動かないわよ?」

タマキ「やってみなきゃわからないもん!」

イリーナ「そう? そこ足元気をつけて。ローズ3とはコクピットも全然仕様が違うから」

タマキ「はーい」



ケイ「イリーナ!」

イリーナ「あら、お嬢じゃない」

ケイ「ここに、その…」

イリーナ「タマキちゃんならどっか行っちゃったわよー」

ケイ「! あの、何をしに…」

イリーナ「ん? …急に来て、パープル2の起動テストをさせてほしいなんて言ってたわ」

ケイ「それで…結果は?」

イリーナ「そりゃ起動しないわよー、基本的にお嬢と同じ遺伝子情報が『少しでも』ない限り動かないんだから」

ケイ「そう…あの、どっちに行ったか分かるかしら」

イリーナ「そうね…確か、近いからってゴールド4のところに行くとか…」

ケイ「ありがとう。私急ぐから」タタッ

イリーナ「あ、お嬢!? …どうしたってのかしらね?」フーム

ゴールド4のピット艦

ヒデユキ「む? タマキか? 来たぞ」ムキッ

ケイ「そ、それで、何を…」ゼーハー

ヒデユキ「ゴールド4に乗りたいとか何とか…ま、あの子には教えが足りんから無理だったがな」ムキッ

ケイ「ど、どっちに、行きましたか?」ゼーハー

ヒデユキ「ふむ? 確か、ブルー1のところに行く、と言っていたか」ムキッ

ケイ「あ、ありがとうございます…では」タタッ

ヒデユキ「あ、待て。走った後ならプロテインを…行っちまったか」キラーン




ブルー1のピット艦

マテオ「ふむ? タマキちゃんかね? さっきまでおったよ」

ケイ「ど…ど、こに…」コヒューコヒュー

マテオ「アンナとどっか散歩に行ってしまったわい。ブルー1を起動させてほしいとかなんとか言っての」

ケイ「起動、ですか…」

マテオ「あんまり言うからやらせてあげたんじゃが…ま、起動せんよ。それで、ずいぶんと落ち込んでの。
    見兼ねたアンナがどっか連れて行ってしまったよ」

ケイ「そ、そうですか…」

マテオ「ここで待つかね? たぶんすぐに戻るぞ」

ケイ「そ、そうします…」スーハースーハー

スターローズ銀座の広場

タマキ「」ボー

家族連れらしき子供「おかーさーん、にーちゃーん」タタタッ

タマキ「にーちゃん、かぁ…」

アンナ「ほれ、タマキ。スターローズアイスの塩辛風味」ズイッ

タマキ「あ、ありがとー」パクッ

アンナ「それでー? どうしたってんだよー」

タマキ「ほえ?」

アンナ「何か切羽詰った感じでやってきてさ、いきなり起動テストさせてくれーなんておかしいじゃん」

タマキ「うん…」

アンナ「当ててやろっか? アサギとイズルが兄弟だってんで、自分はどうかって試しにきたんだろ?」

タマキ「何で分かるのらーっ!?」ガーン

アンナ「分かるってー。それ以外にそんなことする理由なんかねーし。それに、何か寂しそーなんだもん」ヘヘー

タマキ「…寂しいっていうかー」モジモジ

アンナ「羨ましい?」

タマキ「…まーそんな感じー。だってさ?」

アンナ「うんうん」

タマキ「あたしたち、家族なんていないって思ってたんらよ? それなのに、そんな急にさ、実はーなんて言われて」

タマキ「もしかしたらーって、考えちゃうかもしれないじゃん」

アンナ「なるほどなーそりゃそうだ」

タマキ「だからさ、ちょっと確かめてみたかったのら」

???「それで? 何か成果はあったか?」

タマキ「ぜんぜーん。まー分かってたけどー…ん?」

スルガ「ったく、探したぜーこんにゃろう」

タマキ「スルガ! こんなとこでどしたの?」キョトン

スルガ「お前が言うな! ケイのやつが心配して、皆で探してんだよ!」

タマキ「ケイが?」

スルガ「そーだよ。お前が俺たちが家族かどうか試したら、落ち込むかもってな」

タマキ「落ち込んだりなんかしないのらー! ただ、ちょっとガッカリしたっていうかー…」

スルガ「そういうのを落ち込んでるっつーんだよ」ハァ

タマキ「ぶー」

スルガ「…お前さ、前に言ったこと覚えてるか?」

タマキ「ふぇ?」

スルガ「俺たち、まるで家族みたいだって。言っただろ?」

タマキ「…うん」

スルガ「俺さ、微妙に夢でたまに見るんだよ、家族のこと」

タマキ「え…」

スルガ「たぶん、記憶力いいからさ、ちょっとだけ、俺の知らない記憶の奥に、まだあるんだよ」

スルガ「ときどき悩んでた。俺にも家族がいたなら、まだ生きてるのかなーとか。いつか会えるのかなーとか、会えないんだろうなーとかさ」

スルガ「アサギとイズルがちょっと羨ましかった。俺と違って、家族に会えたんだからさ」

タマキ「……」

スルガ「でもよ、お前が言ったんだ。俺たち、もう家族みたいだって」

スルガ「アサギが兄貴でいてさ、ケイが母親みたいで、タマキとイズルが妹とか弟とかみたいな感じで。そこにアンジュが末っ子で加わってさ」

タマキ「…それで、スルガがペットなのらー」クスクス

スルガ「誰がペットだっつーの! …とにかく、そんな風に言われてさ。俺、納得したんだぜ?」

タマキ「……」

スルガ「ドーベルマンの人もさ、チームといえば家族も同然って言ってたことがあってよ」

スルガ「そのときはピンとこなかったんだけど。今なら分かるよ」

スルガ「俺にはもう家族がいる。チームラビッツっつーな」ヘヘッ

タマキ「スルガ…」

アンナ「…あたしもなー」

タマキ「アンナちゃん…」

アンナ「あたしも、物心付いたときからママとかいなくてさ、ずっと、パパとじーちゃんだけで暮らしてて」

アンナ「ときどき、ママのいる子を見かけると、ちょっと羨ましくてさ、泣いたこともあるんだ」

アンナ「でもでも、他のピットクルーの連中――イリーナとかマユとか、それにおやっさんも――そういうときにすっげー面倒見てくれてさ」

アンナ「血なんて全然繋がってないけど、まるで家族みたいで、あたし、すごく嬉しかった」

タマキ「……」

アンナ「タマキも、スルガが言ってるみたいに、思ったこと、ある?」

タマキ「いっぱいあるのら…だから、だからさ。そのままどこか、同じところあったらいいなって、思ったんだもん」

スルガ「なくても家族、だろ?」

タマキ「うん…」

アンナ「なら、いいじゃんか!」ニコー

タマキ「…うん!」ニコリ

ブルー1のピット艦

ケイ「――タマキ!」

タマキ「ケイー」フリフリ

ケイ「…っ、まったく、心配したわよ!」ギュッ

タマキ「えへへー、ごめんごめんー」

スルガ「ホント、こいつはしょうがねーやつだぜ」ヘッ

タマキ「スルガに言われたくないのらー」

スルガ「何でだよ!」

ケイ「はいはい。ほら、行くわよ」アキレ

ケイ「あなたもありがとう。迷惑をかけたかしら」

アンナ「気にすんなってー」フフン

ケイ「…よければ、あなたもケーキ食べない? たくさん焼いてしまって…」

アンナ「お? 食べる食べる!」

スルガ「げっ、よせよせ、身がもた…げふっ!?」ドゴー

ケイ「さ、行きましょ」

アンナ「え、大丈夫なのかー?」

タマキ「らいじょーぶらいじょーぶ、スルガだしー」

スルガ「お、俺の扱い…ひどくね?」ガクッ

タマキ「もーしょーがないのらー、ほら」テヲサシノベ

スルガ「お、サンキュー」ヨット

タマキ「(スルガー)」ヒソ

スルガ「んあ?」

タマキ「(ありがと)」ニコッ

スルガ「…おう」ヘッ

おしまい。イズルスルガタマキはまさしく兄弟って感じで好きなトリオです。
またこんな感じでよければネタふりしてやってください。では。

どうも。一週間ぶりですね。深夜になりましたが始めようと思います。

――僕たちザンネンファイブかもしれないけれど、皆で頑張ってヒーローになろう?

その言葉が、転機だったのかもしれない。
明確に、はっきりとは言えないけれど。そんな、確かなモノなんかじゃない。
もやもやした、気持ち。

「……」

パイロットスーツに着替えた私は、髪を纏め上げると、チームの待機所へと向かった。
これからブリーフィングだ。
一気にウルガルへと攻勢を仕掛ける作戦のための、第一歩。

正直、地球のこともウルガルのことも昔はどうだってよかった。
私を勝手に作り上げた連中の戦争なんて、そんなの、それこそ勝手にしてほしかった。
ただ戦うために作られて、文句なんて言う権利も渡されないまま、前線に送られて。

何故戦わなくてはいけないの、と疑問に思うことも最初はあった。
だけど結局、そのために生み出されて、他に行く場所なんてないからだ、と自分を無理やり納得させた。

事実、私には帰る場所なんて、もうない。
育ててくれたらしい人のことなんてもう記憶にはないし。
学園を出たところで、私に戸籍と呼ばれるようなモノは存在しない。
普通の人として暮らすことは、MJPの上の人たちが許可しない限り(そしてそれは不可能だと知っている)できないのだ。

だから、唯一与えられている軍籍に基づき、私は今ここにいる。
他に生きていくための理由なんかない。そう、思っていた。
彼の、あの言葉を聞くまでは。

イズル。
私の所属するチームラビッツのリーダーで、命の恩人。
そして、私の心をざわつかせている、不思議な人。

初めて会ったときは、記憶を消された後だったこともあって、お互いに何も話なんてしなかったし、興味もなかった。
…それは、他のメンバーにも言えることだったけれど。
私は元から話をするのは苦手だし、皆だっていきなり記憶のないままにチームに放り込まれて、何を話せばいいのか分からなかったに違いない。
タマキだって、同じ女の子だから多少は話もできたけれど、でも、やっぱりそんなに変わらなかった。

それに、私は元からの能力として、鋭すぎる聴覚を持っているせいで、人のいるところへもあまり行きたがらなかった。
たいていの自由時間の間は、与えられた部屋であったり、
自然の多い訓練用の森林地帯のような、聞いていて気分の悪くなる音の聞こえないところで、一人で過ごしていたものだった。

――いつから、だったかしら。

ふと、少ない記憶から思い出そうとした。
私と仲間たちが、少しずつ交流し始めたときのことを。
思い出すのは簡単だった。あのときも、やっぱり彼が始まりだった。

連携が取れず、集団での訓練成績が悪かった私たちは、いつもスズカゼ教官に説教を受けていた。
だからといって、相変わらず話をしない私たちは、一向に連携を改善するようなこともなく。
いつもいつも、習慣みたいに、教官に呼び出されては説教されていた。

そんなことが何度も続いた、ある日のこと。
スルガのふざけた言葉に、イラついたアサギが殴りかかったことがあった。
さすがの私も、動揺したし、どうにかするべきか、と思ったけれど行動には起こせなかった。
実際、どうすればアサギを止められるかなんて、人を仲裁した経験もない私には分からなかった。

内心、ただ慌てる私をよそに、スルガに向かってアサギは拳を振り上げてしまっていた。
もう、あと少しでスルガが殴られてしまう、そう思ったときだった。
イズルが咄嗟にスルガを庇って、代わりに怪我をした。

よく覚えていた。殴られた彼を手当てしたのは私だったし。
それから、彼は積極的に皆に呼びかけていた。
こんな風にいつまでもチームで壁を作ってもしょうがない、と。

あれから、私も含めて、話をするようにはなったし、チームだからと団体行動も(無理やり誘われて)増えた。
あの頃から、イズルはチームを何だかんだでまとめていたのかもしれない。
やり方はずいぶんとリーダーらしさのない感じで頼りないけれど、それがイズルなんだと、今なら言える気がした。

それからしばらくして、今度はスターローズの支部に所属を移されて、相変わらずのどうしようもない訓練成績のまま日々を過ごしていた。
それが突然、私たちに最新の実験機であるアッシュが与えられて、戦いの日々が始まった。

まったくもって急な話で、私はただ戸惑うばかりだった。
いつかは、とは思っていたけれど。まさか学生の間に、実戦に駆り出されるなんて。
しかも与えられたアッシュも、生存本能だの何だのと、とても扱いづらくて、そのときの私は、いっそう増していく不安で押しつぶれてしまいそう気がした。

そんなときのことだった。
上官のスズカゼ教官に、バカンスへ行くようにと言い渡されたのは。

バカンスだなんて、とあまり乗り気ではなかった。
こんな不安でいっぱいの心境で、とてもとても、タマキやスルガみたいに楽しく過ごそうなんて、考えもつかなかった。
むしろ、これが最後になってしまうかもしれない、なんて、なおさら悪い方向にばかり物事を考えてしまっていた。

それで――そうだ。あのときだ。
リゾートのコテージで、彼と交わした会話。あれが、今の私に、一番影響を与えたんだ。

皆を置いて、たぶん同じような心持だったんだろうアサギと一緒に先に帰って、気晴らしになれば、とお菓子を一人で作っていたときのことだった。
スルガやタマキよりも早く、イズルが帰ってきて。気まぐれで、一緒に作ったお菓子を食べたときのこと。

ヒーローになる、と言って何の不安も感じていないような様子のイズルが理解できなかった私は、彼に疑問をぶつけた。
イズルは何を思っているの? どうしてそんな風に戦えるの? と。
私は常々彼が不思議でしょうがなかった。
先行きなんてない私たちの中で、彼の前向きさはタマキよりもずっと異常だと思っていた。

そして、彼は特に迷う様子もなく、はっきりと言った。
確かに戦うために生み出されたけれど、ヒーローになろうとすれば、何か生まれた意味もできるんじゃないか。
生まれた理由が、戦う以外にもできるんじゃないか、と。

…正直言って、その言葉は衝撃的だった。
そんな前向きな考えなんて、まったく浮かびもしなかった私にとっては、新鮮で。
羨ましいと思ったし、そんな風に私も考えられるのだろうか、とも思った。
彼のように、もっと前向きに、自分の生きる理由を見つけるようなことを。




そう思っていた矢先のことだった。
あの任務で、イズルが大変なことになったのは。

GDFの偉そうな人の命令の元に行われた強襲作戦。
失敗に終わったその作戦で、タマキがほぼ撃墜寸前まで追い込まれた。
怖かった。あんなに笑顔で気楽に告白だなんだと忙しそうにしていたタマキが、いなくなってしまいそうなことが。
冷静になんて、なれなかった。そこにいたのがタマキだったから、というだけで、もしかしたら私もタマキのように――

前線の目として、指示を出すはずなのに、動揺して怯えた私には、まともな動きもできなかった。
他の皆もそうだった。危険な目に遭う仲間を見て、次は自分かと、動きに鈍りが生まれていた。
ただ、彼一人を除いて。

――皆で生きて帰るんだ!

タマキをとっさの機転で守り、叫んだイズルの声に、私はようやく意識を集中しだした。
まだ死にたくなんかない。せっかく、イズルの前向きな考え方に触れて、少しは何かを見つけられるかもしれないと、やっと思い始めたのに。
まだまだ生きていたい。皆と一緒に。そんな一心で指示を飛ばしていた私は、完全に自分に向けられた凶弾に気付かなかった。

それを意識した瞬間、私は何の反応も思考もできないまま、目の前の出来事をただ他人事みたいに呆然と見ていた。
そして、私が何の言葉もないままに消えてしまおうとしていた、そのときだった。

何が起きたんだろう、と思った。直撃するはずの弾は当たらず、私の機体も私もまだこの世界にいた。
すぐに何が起きたか分かった。

――イズル!

真紅に輝く、彼の乗る機体。
それは、敵の弾を直撃して、ボロボロになってしまっていた。
私の前に出て、イズルが代わりに敵の攻撃を受けてしまったのだ。

一度冷静さを取り戻していたはずの私は、完全に取り乱してしまった。
守ってくれた彼が必死になって、逃げろと言うのに、手が動かなかった。

彼を置いていきたくなかった。
私に、少しだけ希望をくれた彼を失ってしまったら、きっと、私はもう生きる理由なんて探せなくなってしまう。
そんな気がしたのだ。

そう思っていた私に、彼の声が聞こえてきた。死ぬ気なんてない。いくらでもやりたいことはあるんだから。
私のケーキを食べて、またマンガを描くんだ、と。

諭すような言葉だった。それでも、私は離れられなかった。
彼が強がりで言ってるのなんて、分かりきっていた。私の耳は、彼の心臓が恐怖で拍動を繰り返していることなんて、通信の音声からでも見通していた。
そうしているうちに、待ってくれるわけもない敵の攻撃がイズルにトドメを刺そうとして。
そこで、先輩たちに救助された。

イズルが先輩たちに連れられて、帰艦した後も、私は気が気じゃなかった。
イズルは無事なんだろうか。怪我をしていないだろうか。
そわそわした気持ちのまま、彼を仲間たちと待って。若干緊張した様子の彼が戻ってきた。

姿を見せた彼に皆で詰め寄ったら、彼は何故か、ツッコミを受けていることに安堵した様子でいて。
気が抜けながらも、私はホッとした。
あんな戦いの後でも、彼は普段の彼で。それが、私に普段の日常が戻ってきたように思わせてくれた。
それから、彼がこのチームにとって、大事な人なんだと、思い知らされた。




それから、先輩たちと小惑星の中にある基地の爆破任務があった。

何だか気の抜ける変な先輩たちだった。
それでも、私たちを助けて、成功させてくれた、いい先輩たちだった。
…イズルにあんなビデオを渡す以外は。

まったくイズルもイズルだと思う。
何を勘違いしたら、あんなモノを私たちまで巻き込んで見せるというのだろう。
おかげでタマキからは質問攻めに会うし、説明しづらくてしょうがない。

…話が逸れてしまった。

そう、その後だ。

いつまでも学生なんて身分では上の人たちが困るのか、急に私たちに卒業が言い渡されて。
それで、他の学生の皆の前で、最後の演習をやって。
もう、そうしたら、さっさと卒業させられてしまった。

もうここに戻ることなんてないのだと、感慨深いものにほんの少し浸ったら、もうそれでおしまいだった。
唯一、帰るための場所であったはずの学園は、もう帰るところではなくなってしまった。
それをタマキも感じたのか、寂しい、とぽつりと呟いていた。

それを励まそうと、私は彼女を引き寄せた。
以前の私なら、こんな風に誰かを寄せて、慰めようとなんて、しなかったろう。
それも、もしかしたら彼の影響なのかもしれない。

今、皆のいるここが、僕らの帰るところだよ――

イズルが皆をぐるりと見回して言った。
帰る場所はもう、ここに生まれたと。
私たちそれぞれが、互いにとっての、帰る場所だと。

その言葉を、私は受け入れていた。
彼と、チームの皆がいる場所。私を必要としてくれる人たちのいる場所。
諦めていた私にも、ようやく、納得のいく居場所が、できたんだと。

チームザンネンで頑張ろう! は少しいただけないとは思ったけれど。




そして、今。私は、私の意思で進んでいた。
仲間たちのところへ。彼と一緒に戦うために。
命令だから、というのは変わらないけれど。
それでも、以前よりは私にも戦う気力というものがあった。

私が待機所に着いた頃には、もう他の皆が揃っていた。
私の姿を確認すると、上官のスズカゼ艦長はブリーフィングルームに皆を促す。
それに従い、私たちも移動を開始する。

大きな戦いの前に、チームの最年長のアサギが見てとれるような緊張に包まれた様子でいた。
彼は、どうも期待を背負うと萎縮するタイプらしい。私も、同じだ。
すると、ちょうど隣にいたイズルが、わずかに逡巡すると、

「頑張ろう、アサギっち!」

と、何やら急に慣れ親しんだ調子で声を掛けた。

「は?」

イズルの突然の変な呼び方に、アサギが戸惑いを示す。
いつもプレッシャーに弱いアサギへの、彼なりの気遣いなんだろうけれど、やっぱり不思議な人ね、と思った。
でも、私も不思議なことに、以前のように、彼に呆れるような感情を抱かなかった。むしろ――

「…イズルはアサギの緊張を解こうとしてるのよ」

彼を、フォローしていた。

「え?」

私の言葉が意外なのか、アサギは驚いたような顔をしていた。
私自身も、正直自分の言動が意外だと思っている。
何かが変わり始めていた。何もないと考えていた私の中に、何か、願いのようなモノが。

「イズル」

ざわつく心と共に、彼に微笑みを向けた。
夢。今の私には、そんなものははまだない。けれど、けれども。もしかしたら――

「私もヒーローになれるように、頑張るわ」

彼みたいに見つけられるだろうか。
何か、与えられたモノ以外の生きる理由を。自分でしたいと願えるようなことが。
それがいつか見つかる、その日まで。

彼と一緒に戦って、彼の夢を支えてあげたい。そんなことを、私は心に思った。

この感情はなんだろう。
どれほど考えても、明確に言葉として出てこない、もやもやして、ざわざわして、何だか不思議で。
でも、暖かい、奇妙な感覚。彼といると、どんどん強くなっていく、意味不明な気持ち。

いつか、分かる日が来るんだろう。
きっと、答えの出るのは、そんなに遠い日なんかじゃない。
何か予感めいたものを、私は確かに感じていた。

そして、それが何かを理解したとき。私はきっと、生きる理由を見つけるだろう。
その日を待ち遠しいと感じながら、私は、任務のために、自分の機体へと向かった。



――揺らぐのは、いつもあなたといるとき。
私を変えてしまう、不思議なあなた。
私の、ヒーロー。

終わり。次は季節らしいネタをば。

お囃子のごとく、過ぎゆくは夏 来たるは戦い

戦艦ゴディニオン――レッドファイブのピット艦

イズル「」フー

マユ「お疲れ、いーちゃん」

ダン「今日もまた派手にやったな」

イズル「す、すいません…」

デガワ「いいんだよ 俺たちは仕事 果たすだけ」ドヤァ

イズル「…えっと」

ダン「放っといていいって。…そうだ、今日はスターローズの方で祭りがあるらしいぞ」

イズル「祭り、ですか?」

デガワ「無視するなよ…そうか、今年も夏祭りの時期か」

マユ「息抜きに行ってきたら? 楽しいよー」ガチャガチャ

イズル「お祭りかぁ…」

ダン「どうかしたか?」

イズル「いえ。お話には聞いたことあるけど、僕、お祭りなんて行ったことなくて…」アハハ

ダン「イズル…」

デガワ「そうか。それならなおさらいいじゃないか」

イズル「え?」

デガワ「この中の誰よりも、イズルは新鮮な気持ちで祭りを楽しめるってことだろ?」ポンッ

イズル「あ…」

デガワ「前向きに行くんだろ? 言ったこと やり通せよな 男なら」グッ

イズル「あはは…そうですね、楽しんできます」

マユ「うんうん、楽しんでおいで、イズルっち」ニコニコ

ダン「テキトウな土産話もな!」フッ

イズル「――はい!」ニコリ

スターローズ――アサギの部屋

アサギ「……で?」

イズル「や、だからさ、夏祭り」

アサギ「それは聞いた。今居住区でやってるってのも」

イズル「だから、行かない? って」

アサギ「行かない」

イズル「えー行こうよ、アサギー。他の皆は来るって言ってるしさ」

アサギ「…祭りなんて浮かれてる場合かよ。今だってウルガルの連中が――」

イズル「う…。そっかぁ。でも、もしかしたら、こんな機会ないかもしれないし…皆で行ってみたかったんだけど…」シュン

アサギ「……っ」

イズル「無理に誘うのも悪いし、じゃ、他の皆と行って来るね…」

アサギ「…分かったよ」ハァ

イズル「え?」

アサギ「俺も行くって言ってるんだよ。…ちょっと、待ってろ」

イズル「――ありがとうアサギ!」パァ




スターローズ―― 一般居住区

ワイワイガヤガヤ…

スルガ「おーっ!」キラキラ

イズル「初めて見たけれど…すごい熱気だね!」キラキラ

アサギ「遠くから何か太鼓の音も聞こえるな」フーン

アサギ「…っつーか、ケイとタマキは?」

イズル「あ、二人ともちょっと遅れるって。ピットクルーの人たちが…」

タマキ「お待たせ皆ーっ!」カラカラ

アンナ「お待ちー」カラカラ

ケイ「お、お待たせ…」

アサギ「!」

スルガ「へー、それが浴衣ってやつか」フーン

タマキ「えっへっへー、どーう? 似合うのら?」クルクル

スルガ「馬子にも衣装ってやつだな」ヘッ

タマキ「あにをーっ!」ムキーッ

アンナ「ふふん、どうだアサギー。美しいか? ひれ伏しちまうかー?」

アサギ「ああそうだな、はいはい。…で、なんでお前もいるんだ?」

アンナ「イリーナたちからお祭りのこと聞いてさ。あたしも行きたいなーって」

アサギ「お父さんたちはどうした」

アンナ「どっかの誰かが珍しく機体をボロボロにしてくれたおかげでなー…」ジトー

アサギ「俺のせいかよ…」

アンナ「冗談だよ! イズルが誘ってくれたんだよ。アサギがいつもお世話になってるから、って」

アサギ「ああそういうことか…」チラッ

イズル「」キョロキョロ

ケイ「い、イズル」

イズル「うん?」

ケイ「どう、かしら? これ」

イズル「え? …うーん」ジー

ケイ「」カァ

イズル「うん! なんていうか、すっごく似合ってるよ! 後でスケッチさせてもらっていい? 珍しいし」

ケイ「あ、ありがとう…スケッチはちょっと」

イズル「ええー、かわいいのに」

ケイ「! か、かわ…」

アサギ「…なぁ、そろそろ行こうぜ」

イズル「あっと、そうだね。…お祭りって、何するの?」

スルガ「誘ったのお前だろ!」

イズル「ご、ごめん。ピットクルーの人たちが楽しいって言うからそうなんだ、と思って」

アサギ「お前なぁ…」フー

イズル「」アハハ…

アサギ「」ハァ

アサギ「…祭りってのは屋台をぶらぶら見てみたり、いろいろと景品の付くゲームやったり、珍しいメシがあるらしいから食べたりするもんなんだと」

タマキ「塩辛とかあるー?」

ケイ「甘いもの…」

アサギ「塩辛はないだろ、さすがに…」

スルガ「やっぱ、花火だろ、花火!」

タマキ「花火ー? 手に持ってするあの?」

ケイ「そういうのじゃないでしょ…確か、空に打ち上げるのよね?」

アンナ「そーそー、スターローズじゃ、高さが若干制限されちまうだろうけどな」

タマキ「へー、空に…?」

スルガ「お前よく分かってねーな?」

タマキ「うん。手に持つやつを空に打ち上げてもあんまおもしろくないんじゃないの?」

スルガ「まずお前の花火の想像がそれしかないからな」ヘッ

タマキ「何さー。スルガはじゃあ知ってるのー?」ムー

スルガ「そりゃあ…見たことねーけど」

ケイ「私も。浴衣を貸してもらったときにイリーナたちが言ってたのを聞いただけだわ」

イズル「というか僕たちの知ってる花火がそれしかないからね」

スルガ「だいぶ前だな。お前が購買で売ってたからって、手で持つやつ買ってきてさ」

タマキ「それそれ! その後、がっこーの庭で勝手にやって教官に怒られたのらー…」

イズル「あはは、あったね、そんなこと」

アンナ「あたしも手で持つやつしか知らねーなー。でもでも、パパたちはものすごいから絶対見ろって言ってたぞ?」

イズル「へぇ…どこでやるんだろ? あれ、アサギ?」

スルガ「ん? どこ行ったアイツ?」

アサギ「…そこで案内配ってたからもらってきた。花火は…まだ後でやるみたいだな」

アンナ「おおー、さすが気配り大王」

イズル「ありがとアサギ。じゃあとりあえず、気になった屋台とか皆でぶらついてみよっか」

スルガ・タマキ・アンナ「「「おおーっ!」」」




アサギ「すっげえ人…」

ケイ「ホント、埋もれてしまいそうだわ…」

イズル「大丈夫、二人とも?」

ケイ「だ、大丈夫よ」

アサギ「これが祭りなんだろ。別にどうってことない…にしても」

スルガ「ほほー空気銃にしちゃあずいぶんとよくできてんなーこいつはかの…」ペラペラ

アンナ「ふーん。よくできてんなー」シゲシゲ

アサギ「あいつら楽しんでるな…」フー

ケイ「いつの間にかタマキももう食べ物の屋台に走ちゃったし…私、心配だし見てくるわ」

イズル「あ、ごめんお願い、ケイ」

射的屋のおじさん「いやー詳しいなー坊主に嬢ちゃん! おじさん感心しちまったぜ」

スルガ・アンナ「」フフン

イズル「あのう、これで何を狙うんですか?」

射的屋のおじさん「ん? 知らないかい? この中のどれかにコルクを当てて倒せば、当たったものをあげるよー」

イズル「へえー」

スルガ「うっし、やるぜ、おっちゃん」

アンナ「あたしもー」

射的屋のおじさん「おう、毎度!」チャリン

ポコン!

スルガ「うっしゃ! もらい!」

射的屋のおじさん「マジか! やるな、坊主!」

イズル「すごいよスルガ!」キラキラ

スルガ「へへ、俺のアイデンティティなんでね」ドヤァ

アンナ「……むー」

射的屋のおじさん「ありゃ、お嬢ちゃんはザンネンだったな」

アンナ「もっかい!」

射的屋のおじさん「お、毎度!」チャリン

アンナ「」グイグイ

アサギ「…あんま前出てると落ちるぞ」

アンナ「しょーがねーだろー! こうでもしなきゃ狙えないんだよー」ヌガー

アサギ「…ほら落ち着けって」スッ

アンナ「あ、アサギ…!」

アサギ「狙ってんのは?」

アンナ「…あの工具セット詰め合わせ」

アサギ「しっかりと狙え…箱本体じゃない、支えてるものがあるだろ? あっちを狙うんだ」

アンナ「んー…」ジー

ポコン!

射的屋のおじさん「おお! やるねーお嬢ちゃん! 兄ちゃんの教えがうまかったか?」

アサギ「いや、俺別にアニキじゃないんで」

アンナ「」ムッ

アンナ「」ゲシッ

アサギ「っつ、何すんだよ!」

アンナ「おっちゃん、景品」ブスーッ

射的屋のおじさん「おう、おめでとさん!」

アサギ「ったく、年頃の女の子らしさのない…」

アンナ「あたしはこれでいいんだよ!」ベー

アサギ「はいはい。っと、他のやつらは…」

屋台のおじさん「そこのかわいい嬢ちゃん! たこ焼きはどうだい!」

タマキ「かわいいー? ありがとなのらー!」ヒョイ

アサギ「馬鹿! 先に料金払え!」

屋台のおじさん「毎度!」チャリン

アサギ「タマキ…お前なぁ」

ケイ「カキ氷、味全種類」

屋台のおじさん「おお!? そんなに食うのかいお嬢ちゃん? 大丈夫?」

ケイ「大丈夫です、これお金」

アサギ「ケイもか…」フー

休憩所

ガヤガヤ

ケイ「タマキ…買いすぎよ。褒められたのが嬉しいのは分かるけど」

タマキ「えへへー。ついー」

アサギ「限度ってもんがあんだろーが…」ドッサリ

イズル「ケイもあんまり人のこと言えないような…」モグモグ←アメリカンドッグ

ケイ「私はちゃんと食べれるだけを買ってるわよ」モグモグ←カキ氷、チョコバナナ、一口カステラ、りんごアメ、あんずアメ、揚げアイス、クレープ

スルガ「それが適度な量かよ…ま、いいや、タマキのいっただきー」ヒョイ ←お好み焼き、たこ焼き

アンナ「あったしもー」ヒョイ ←串カツ、オムそば、牛串

タマキ「うん。てきとーに食べてー」

アサギ「お前は食わないのかよ…」モグモグ ←五平餅

タマキ「食べるのらーイカの姿焼き」シオカラノッケ

アサギ「イカにイカを合わせてどーする…」ハァ




イズル「そろそろ花火の時間だよね?」

アサギ「会場に行くか」

スルガ「えー、もうちょっと遊ぼうぜ」

アンナ「そうだそうだ、まだ時間あんだろー?」

タマキ「まだ金魚一匹も取れてないのらー」

ケイ「諦めなさいよ…っていうか、取っても世話しないでしょ」

タマキ「するもん! あたし、学園でだって飼育係…」

ケイ「サボっては私たちに押し付けて告白に行ってたわよね?」

タマキ「う…」

イズル「まぁまぁ。ほら、タマキ。僕が取った一匹あげるよ」

タマキ「イズルー!」キラキラ

ケイ「あなたねぇ…タマキに甘すぎるわよ」

イズル「でも、何かかわいそうだし」

ケイ「まったく…」

タマキ「だいじょーぶなのら! ちゃんと水槽とか買って、お世話するから!」

ケイ「分かってるわよ。…お祭り終わったら、水槽とエサ買いに行きましょうか」

タマキ「ケイー!」ギュー

ケイ「ああ、もう! 離れてよ、恥ずかしいってば。ちょっとタマキ…きゃっ」ヨタヨタ…ドタッ

タマキ「ケイっ!?」

イズル「! ケイ?」

ケイ「っつ…」

アサギ「! …どうした!」タタタ

イズル「ケイが転んじゃって…」

タマキ「私のせいなのらー! ケイ、大丈夫!?」

アサギ「…下駄の緒が切れちまってるな」

ケイ「だ、大丈夫…」

スルガ「や、どう見ても足挫いてんだろそれ」

ケイ「う……」ヒリヒリ

ワイワイガヤガヤ…

アサギ「…ここじゃろくに手当てできないな」

ケイ「わ、私なら歩けるから」ヨロヨロ

アンナ「いやいや、無理だってその足じゃ…じいちゃんが言ってたぞ? 挫いた足で歩くと悪化するって」

ケイ「だって、これじゃ花火が…」

イズル「そんなこと言ってる場合じゃないよ!」

スルガ「そうそう。悪化しちまったら明日からの任務だってまずいだろ?」

ケイ「…それ、は」

アサギ「…イズル、この辺なら確か神社があったはずだ。そこで後で落ち合おう。
    俺たちで手当ての道具を買ってくるから。お前はケイをそこに連れて、患部を冷やしてやれ。あそこは確か冷えた水も湧いてるはずだ」

イズル「分かった。お願いするよ、アサギ。…ケイ、少し頑張れる?」

ケイ「な、何とか…」ググ…

アサギ「無理するな。…イズル」

イズル「うん。はい」セヲムケ

ケイ「え……」

イズル「背負うよ。その足で無理に歩くのは危ないし」

ケイ「わ、分かった…」ヨイショ

タマキ「ごめんなさいケイ…あたしのせいなのらー」ションボリ

ケイ「気にしてないわよ、そんなの」ナデナデ

タマキ「――あたし、すぐにお薬買って来るから!」タタタ

イズル「それじゃ、後で」

アサギ「ああ、気をつけてな」

アンナ「…へー」ニヤニヤ

アサギ「…何だよ」

アンナ「よ、気配り帝王」

タマキ「何してるのらーっ! 早く行かなきゃー!」

スルガ「アサギー? 置いてっちまうぞー!」

アサギ「…いいから、さっさと道具を買いに行くぞ」

アンナ「おうっ」ニコリ




イズル「っと、着いたよケイ。…ええと、下ろすね」

ケイ「うん…」ナゴリオシゲ

イズル「とりあえず湧き水があるし…これで冷やそう」クミアゲ

イズル「足、ごめんね?」ザバッ

ケイ「んっ……っつ」ギリッ

イズル「痛む?」

ケイ「さっきよりは、大丈夫」

イズル「そっか。もっとかけようか?」

ケイ「ええ、お願い」

イズル「これで、どうかな?」ザバッ

ケイ「……少し、落ち着いたわ」

イズル「そう? また痛んできたらすぐに言ってね。…隣いい?」

ケイ「ええ、どうぞ」

イズル「じゃあ…よっと」ストン

イズル「にしても、ケイもツイてないね。せっかくのお祭りなのに」アハハ

ケイ「ごめんなさい…花火、これじゃ会場には行けないわね」シュン

イズル「いいよそんなこと。大変なことになってる仲間を放っとくなんて…」

ケイ「ヒーローじゃない?」

イズル「そういうこと」

ケイ「そっか…」フフッ

イズル「それに、もう十分お祭りは楽しんだよ!」

イズル「今日はすっごく楽しかった! 初めて見るものばっかりで、初めて食べるものも、遊びもこんなにたくさんで…」

ケイ「またマンガのネタが増えた?」

イズル「うん! …また、こんな風に皆と遊びたいな。まだまだこういう楽しいこと、たぶん、いっぱいあるから」

ケイ「そうね、また。今度は他の人たちも一緒に……ね、イズル」

イズル「うん?」

ケイ「ありがとう」

イズル「え、何が?」

ケイ「前までの私だったら、たぶん人前なんて面倒で、お祭りなんて来なかったわ」

ケイ「でも、あなたや…チームの皆がいてくれたから、私、こんなに楽しく過ごせたと思う」

ケイ「だから、ありがとう。私、皆が…あなたがいてくれて、本当によかった」ギュッ

イズル「そっか。そう言ってもらえると、ちょっと照れるけど…なんていうか、嬉しいよ!」アハハ

イズル「僕も、皆がいてくれて…ケイがいてくれて、本当によかった!」ニコリ

ケイ「…! そ、そう…私も、あなたとこうして一緒に…」ボソボソ

イズル「え、何?」

ケイ「………あの、イズル」

イズル「うん」

ケイ「私、実は――――」

ドーンッ!!

ケイ「――が、って、え?」

イズル「わ、何!?」タチアガリ

ケイ「」ムー

ケイ「…あ、ねぇイズル、あれ!」ユビサシ

イズル「わぁ…」

打ち上げ花火「」ドーンッ!

ケイ「キレイ…」

タマキ「おー! あれ花火!? ねね、花火!?」キラキラ

スルガ「すっげー! ありゃ結構火薬詰めてんだろうなー!」キラキラ

アサギ「どうだ? 見えるか?」

アンナ「うん! …キレイだな! アサギ!」

アサギ「あぁ…そうだな、キレイだ」

イズル「あ、皆!」フリフリ

スルガ「おう、いろいろと買ってきたぜー」フリフリ

タマキ「お待たせー! ケイ、今手当てするのら!」

ケイ「後でいいわよ。それより、今は花火見ましょう?」ニコリ

タマキ「――! うん!」ニコニコ

アサギ「どうもここは穴場だったみたいだな」

スルガ「へへ。得した気分だな」

アンナ「来年はパパたちにも教えて、連れてきてやろっと」キラキラ

イズル「来年、かぁ」

イズル「」ピーン!

イズル「そうだ、来年はもっとたくさんの人と来ようよ!」

アサギ「もっと?」

イズル「うん。スズカゼ艦長に、サイオンジ整備長でしょ。オペレーターさんに、ピットクルーの皆さん、あとあと、先輩たちに――」

スルガ「食堂のお姉さん!」

タマキ「ダニール様!」

アサギ「お前らの個人的な欲望だろ、それ…」

イズル「でもいいね! じゃあ後はテオーリアさんも…」

ケイ「」ムムッ

アサギ「…まぁ、そうだな。来年も、か」

イズル「うん! だから、来年もここで夏祭りができるように、皆で頑張ろう!」オー

タマキ・スルガ「「おーうっ!」」

ケイ(来年、ね。ええ、そうね、来年こそは…)

アンナ「アサギー」

アサギ「? 何だ?」

アンナ「今日はありがとよ。すっごく楽しかった!」

アサギ「……そうか。よかったな」フッ

アンナ「おう!」ニコー



アサギ(祭り…なんて浮かれたもん、苦手だったのにな)

アサギ(俺も皆も、何かが変わってきてる。誰かと触れ合って、少しずつ学んでるんだろうか)

アサギ(ずっと、人は同じじゃいられない、か)

アサギ(でも…)

イズル・スルガ・タマキ「」ワイワイ

ケイ「」クスクス

アンナ「」ニコー

アサギ(それも、悪くはない、かもな)フッ

終わり。地元の祭りが楽しかったので勢いで書いてみました。
今回のマジェスティックアワー、ニコ生さんのところでアンケートで1を98%近く取っててびっくりしました。では。

どうも。久しぶりにまた始めたいと思います。

皆で描けば怖くない

スターローズ――アサギの部屋

イズル「」ドキドキ

アサギ「」ペラッ…ペラッ…

ケイ「」ペラッ…ペラッ…

スルガ「」ペラッペラッ

タマキ「」ペラッ…

アンジュ「」ペラッ…ペラッ…

イズル「ど、どう…?」

アサギ「まぁ…そうだな」

ケイ「ええ…そうね」

アンジュ「え、ええと…」

スルガ「まったくおもしろくねーな」

イズル「!」ガーン

ケイ「」ドスッ

スルガ「ふげっ…な、なんで…」ガクッ

ケイ「と、倒れてしまうくらいおもしろかったそうよ」

イズル「え…っと」

アンジュ「それはいくらなんでも無茶がありますよ」

ケイ「う…た、タマキ、おもしろか…」

タマキ「…すぴー」スヤァ…

アサギ「まぁ…おもしろいってことは…うん。ないな」

イズル「そ、そっか…」ションボリ

アンジュ「ええと…あ…そのう……」

イズル「…あ、あの。アンジュ。いろいろと意見があるなら教えてくれないかな?」

アンジュ「は、はい…では」ゴホン

アンジュ「」グダグダグダグダ

イズル「」メモメモ

アサギ「」フーム…

アンジュ「と、まぁ。技術の話と…あと、やっぱり、どう言ったものでしょうか、テーマはいいんですが…」

イズル「……つまんない?」

アンジュ「何と言いましょうか…その、見せたいものばかりに目が行っているように思えます。
     たとえばここです。ここのページは、これこれこうなりました、では一体どういうことなのか、
     彼女はどういう境遇なのか、とか少しばかり説明が足りないと言いますか」

イズル「うーん…」

アンジュ「たとえばこの魔法使い風の女の子。彼女が正義感のある優しい女の子というのを伝えたいのは分かります。
     ただ、その理由が伝わってこないと言いますか。いえ、事細かに説明をしろというわけではなくていい感じにふんわりと…」

アサギ「要するにヒーローがすごい、ってのにばっかり焦点を当てすぎてるんだな。
    もっと世界観を伝えやすく、かつこのヒーローにある魅力をもっと伝わりやすく引き出せ、と」

イズル「魅力…」

アサギ「そう。これな、たった十二ページじゃ説明が足りなくなるに決まってると思うぞ? これじゃこの話の設定がどういうものなのか少し分かりにくい」

アンジュ「私もそこが気になりました。これでは作者が描きたいシーンをただ詰め合わせただけで、ただの自己満足となってしまっているように感じます」

イズル「う……や、僕としては、やっぱり、ヒーローを見せたいというか」

アサギ「別に内容が悪いとは言わないがな。ただ、物語としてはやっぱり物足りないと思うな。もう少しページを追加してもいいんじゃないか?」

イズル「うう…それはそうなんだけど、その、どういう風にまとめてみればいいか、分からなくて」

アンジュ「…そうですね。正直このままイズルさん一人で描いてもあまり変わらないような気がします」

イズル「そう言われても、マンガなんて僕くらいしか描く人いないし…」

アサギ「そうだな。俺別にマンガなんて描いたことないし」

ケイ「私も…お菓子しか作ったことないし」

スルガ「俺もどっちかっつーと読む専だしな」

タマキ「少女マンガなら読むけどー」

イズル「やっぱり僕だけで…」

アンジュ「いえ。逆にセオリーだとか何だか専門的なことを知らない人の意見も重要になるかもしれません。
     描く側とはまったく違う視点で新しいモノに出会えるかもしれませんよ」

イズル「そうかなぁ…」

アンジュ「行き詰まりを感じたら、何かしら新しい視点を得るのも創作には大事なことだとは思います」

アサギ「ちょっとした息抜きってやつか」

イズル「ううん…。じゃ、じゃあ…」

イズル「皆、その、僕のマンガ、手伝ってくれないかな?」




ケイ「イズル…ここはどういうシーンなのかしら?」

イズル「ええと…ここはヒーローとヒロインの子が仲良くなるっていうか…」

タマキ「そんなシーンでこんな言い方はないのら!」ウガー

イズル「ええー…そんなこと言われても」

ケイ「セリフはタマキに書かせてみる?」

タマキ「あたしのがよっぽどいい口説き文句出せるもん」

イズル「うーんと…じゃあ、お願いするよ」

アサギ「イズル。ここはヒーローの特訓するシーンだったな」

イズル「あ、うん…」

アサギ「だったらこんなスポ根なタイヤ腰に回してマラソンとかさせるより、もっと特訓として納得いくシーンにするべきだ」

イズル「えー…だって特訓といえばこういう感じだって、僕の読んだ…」

アサギ「あのなぁ…人の作ったものそのまま使ったってウケが悪いだけだろ」

イズル「う…それは、まぁ」

アサギ「この辺のところは俺が考えておいてやるから、ほら」

イズル「う、うん」

スルガ「ほれ、ヒーローと悪役が使う武器、デザインできたぞー」

イズル「えっと…これは…?」

スルガ「あん? GDFのM6A1の最新モデルのコピーだよ。んでもってこっちは…」

イズル「スルガ、そんなところ現実的にしなくても…」

スルガ「何言ってんだよ。リアリティが物語をうまく作るんだろー?」

アンジュ「そうですね…どこかしら現実感のある設定や小道具の存在は物語のスパイスとなることはよくありますし…」

スルガ「そうそう、そういうことだよ」ウンウン

イズル「ううーん…」

アサギ「まぁ、今回は試しなんだし、あんま考えるなよ」

イズル「わ、分かった」

アンジュ「イズルさん。原稿のネーム仕上がりましたよ」

イズル「あ、うん。わぁ…」

アンジュ「これくらいのコマ割りでインパクトを与えつつ、見やすくするのが大事ですよ」

イズル「うん、うんうん。すごいよアンジュ! これはおもしろくなる…!」ペラペラ

アサギ「…で? これも俺たちが描くのか?」

イズル「ええと、せっかくだし。ページそれぞれで描いても…」

アンジュ「いえ。それでは画力でいちいち違和感ができてしまいますから、それは、その、イズルさんに…」

イズル「え、そう?」

ケイ「そうよね。これ、イズルのマンガだし」

タマキ「あたし絵なんて描きたくないのらー」

スルガ「武器だけなら塗ってもいいけどなー」

アサギ「ま、ここまで手伝ったんだし、いいだろ?」

イズル「そっか、そうだよね…うん! ありがとう、皆! じゃ、僕描いてくるね!」タタタッ




イズル「で、こうして…」ヨイショ

マンガ「」ヤッタゼ

イズル「や、やった! できた…」フー

イズル「後はタイトルとか決めなきゃ…どうしようかな?」

イズル「」ウーン

イズル「!」

イズル「うん、これかな」カリカリ

『僕らのヒーロー 作:チームラビッツ』

イズル「」ウンウン

イズル「皆に見せてこよう!」タタタッ



イズル(後にも先にも、僕らが描いたマンガは、これだけだった)

イズル(正直僕らしさの欠片もない作品だったけど…)

イズル(僕の描いたマンガの中で、最高の作品だったって、胸を張って言える気がした)

イズル(僕にとって大事な人たちと一緒に作った、『思い出』になるような作品だったんだから)



イズル「皆、描けたよ!」ニコリ

おしまい。特に意味のないお話でした。
イズル先生のマンガは今度出るマジェプリブルーレイBOXの特典ブックレットで読めてしまうはずです。
まだいわゆる円盤を持たない保護者の方も、一つご検討されてもいいかもしれません。イズルらしさ満点の内容でよくできています。
では次をば。

スターローズ――タマキの部屋

タマキ「」ゴロゴロ

タマキ「」ムクリ

タマキ「…ひまー」グデー


アサギの部屋

アサギ「」カチッ

アロマオイル「」ボッ

アサギ「」スー…ハー

アサギ「」ウンウン

タマキ「アサギーっ!」シュッ

アサギ「…またお前か」フー

タマキ「あれ? 皆はー?」キョロキョロ

アサギ「むしろ何で皆いると思ったんだよ…」

タマキ「えー? …なんとなく?」

アサギ「ここは俺の、俺だけの部屋だよ…ほら、さっさと出ろ」ハァ

タマキ「ええー」

アサギ「頼むからたまには一人にしてくれ…」

プシュッ

タマキ「……」ムー

タマキ「他のとこ行こっと」

スルガの部屋

タマキ「スルガー」プシュ

スルガ「んあ? あんだよ急に」カチャカチャ

タマキ「ひまー」

スルガ「…あっそ。じゃあケイの部屋でも行ってこいよ。お菓子くれるだろ」

タマキ「だったらスルガも来てスルガが食べればいいのらー」ゴロゴロ

スルガ「冗談! あんな凶悪な殺人兵器なんざ誰が食うかよ!」

タマキ「じゃやっぱスルガの部屋でいいやー」ゴロゴロ

スルガ「ふざけんなっての。っつか、俺の部屋で寝転がるなよ、今部品組み立てしてんだろ? 失くしたらどーしてくれんだよー」

タマキ「スルガのけちー」

スルガ「うっせ。暇ならアサギのところでも行ってこいよ。アイツなら構ってくれるだろ?」グイグイ

タマキ「アサギにはもう追い出されたのらー」

スルガ「じゃ、イズルだろ」

タマキ「イズルもやだー、また特訓に付き合わされるかマンガ読まされるのらー」ブー

スルガ「…っつーか、何も部屋で過ごさなくていいだろうが。外でも行ってこいよ」

タマキ「そういう気分じゃなーい」

スルガ「め、めんどくせーヤツ…」

スルガ「」カチャカチャ

タマキ「」ゴロゴロ

スルガ「」カチャカチャ

タマキ「」ゴロゴロ

スルガ「…や、だからよぉ」

タマキ「…くかー」スヤァ

スルガ「寝んなーっ!」

タマキ「わっ、なになになに!? 敵襲?」

スルガ「い・い・か・ら…」

タマキ「きゃーっ、スルガどこ触ってるのらーっ!」

スルガ「出てけってぇの!」ウガー

プシュッ

タマキ「…スルガのけちー」

イズルの部屋

タマキ「イズルー」プシュ

イズル「」カキカキ

タマキ「イズルー?」

イズル「」カキカキ

タマキ「……」ムー

タマキ「イズルーっ!!」

イズル「うわぁ! え、あ、わわ…」アワアワ

ドターン!

イズル「い、いたた…た、タマキ? いつの間に来たの?」

タマキ「さっきからいたのらーっ! もー」

イズル「あれ? そうなの? ごめんごめん。つい、集中しちゃって」アハハ

タマキ「せっかく来てあげたのにー」

イズル「え? 何かあったの?」

タマキ「ううん、何にもー」

イズル「へ? …じゃあどうしたの? タマキが僕の部屋に来るなんて珍しいね」

タマキ「別にー、イズルの部屋でいいやーって」

イズル「え…っと?」

タマキ「なーんかヒマでさー」

タマキ「それでね、最初はーアサギの部屋に行ったの」

イズル「うん」

タマキ「でもでもー追い出されちゃったのら。で、今度はスルガの部屋でさー」

イズル「追い出されたの?」

タマキ「そー! もー皆冷たいのらー」

イズル「ケイの部屋に行ったら? ケイならなんだかんだ入れてくれると思うけど…」

タマキ「ケイはどうせケーキ焼いてるのらー…」

イズル「あ、そっか…じゃあ、しょうがないね」

タマキ「うん。じゃ、しっつれいしまーす!」ゴロゴロ

イズル「えっと、そこ僕のベッドなんだけど…」

タマキ「細かいことは気にしないのらー」ゴロゴロ

イズル「…あのさ、タマキ」

タマキ「んあ?」

イズル「そもそも、何で皆の部屋に? たまには一人で自分だけの時間を過ごすのもいいと思うけど」

タマキ「だってー…」

イズル「うん」

タマキ「退屈なんだもーん」ゴロゴロ

イズル「退屈?」

タマキ「なんていうかー一人はつまんない、っていうかー…」

イズル「うーん…なるほど」

タマキ「外行ってもおもしろくないしー、塩辛はもういっぱい食べたしー」

イズル「確かに…ちょっと分かるかも」

タマキ「え? イズルもマンガ描くのつまんないの?」

イズル「いや、そうじゃなくてさ。あんまり、筆が進まないっていうか、どうも微妙というか…」アハハ

タマキ「別にいつも通りのびみょーなマンガだと思うけどー」ジー

イズル「そう言われちゃうとちょっと傷つくかも…」

イズル「まぁいいや。とにかくさ、皆で一緒にいたときの方がなんとなくノリよく描ける気がするんだよね」

タマキ「ふーん…ねね、イズル」

イズル「うん? 何?」

タマキ「今から皆でアサギの部屋にやっぱ集まんない?」

イズル「ええ? でもアサギに追い出されたんじゃ…」

タマキ「皆でやってきたら、アサギも追い返すに追い返せないじゃん?」ニヘヘー

イズル「まぁ確かに、アサギはそういうタイプだけど…なんか、悪いような」

タマキ「いいじゃーん、どーせアサギだってー、また一人で勝手に沈んでるだろうしー、あたしたちで慰めてあげよー?」

イズル「ううーん…それは確かに…でもなぁ」

タマキ「ほら、行こう行こう!」グイグイ

イズル「ちょ、タマキ引っ張らないでよ」

アサギの部屋

アサギ「……で?」

タマキ「来ちゃった」テヘ

イズル「うん、来ちゃった」タハハ

スルガ「相変わらず几帳面な感じすんなー、お前の部屋」

アサギ「何普通に座ってんだよ! 俺の部屋だっつってんだろ!」ウガー

スルガ「まーまーいいじゃねーかよ、どうせ一人でまた重いこと考えては悩んでたんだろー?」カチャカチャ

アサギ「お前らが悩みの種だよ…」ハァ

イズル「ええー? 僕ら、ただアサギが抱え込んでないか心配で…」

アサギ「そう思うならとっとと自分の部屋に戻ってくれ…」

タマキ「えっへっへー」

アサギ「何笑ってんだよ…」

タマキ「このベッドがやっぱ落ち着くのらー」ゴロゴロ

アサギ「…ああそう」ハァ

イズル「あはは、ほら、アサギの部屋って、なんていうのかな、アロマとか焚いてるからさ、すっごく落ち着くっていうか…」

アサギ「誰もフォローなんて求めてねーよ…っつーか、俺の部屋に画材広げるな」

イズル「あ、ごめん。や、どうも筆が進んじゃって…」カキカキ

スルガ「確かに。ここだとなーんか整備も捗るんだよなー」カチャカチャ

アサギ「お、お前らなぁ…」プルプル

シュッ

ケイ「ごめんなさい、遅れたわ」

アサギ「ケイまで…って、それ、は」

ケイ「せっかくだし、作ってみたの。皆で食べましょう?」ニコリ

カラフルな円筒形の物体「」コンニチハー

スルガ「おっと、俺部屋に忘れ物が…」

アサギ「急に来ておいて、急に帰ることはないよな?」ニコリ

スルガ「離せー! 俺はまだ倒れるつもりはないんだよー!」ジタバタジタバタ

ケイ「何よ、そんな遠慮しなくてもちゃんと全員分あるわよ」

イズル「や、遠慮とか、そういうのじゃなくて…」アハハ

ケイ「? イズル、私のケーキ前にまた食べたいって言ってたじゃない」

イズル「あはは…そうだったけ?」

ケイ「そうよ。ほら、タマキも…って、あら」

タマキ「すーすー」

ケイ「もう、また寝ちゃってる」クスッ

スルガ「タマキ! てめー一人だけ逃げようと…!」

ケイ「静かにしなさいよ。起こしたら悪いわ」

スルガ「いやいや、どう見ても狸寝入りだろこれ」

タマキ「…えへへー塩辛ー」タラー

ケイ「どう見ても寝てるじゃない」

スルガ「騙されるなケイ! こいつがこんなあからさまな寝言言うわけが…」

ケイ「いいから。ほら、アンタも食べなさいよ」グイグイ

イズル「あ、あはは…。じゃ、じゃあいただこうか」

アサギ「そ、そうだな…せっかくケイが作ってくれたもんな…」フー

スルガ「…冗談じゃねーぜ、まったく」ウゲー

ケイ「どうぞ召し上がれ」ニコニコ



タマキ「…えへへー、やっぱ皆一緒のがいいのらー」ニヘラ

おしまい。映画の情報も解禁されつつあって、秋が待ち遠しくなるばかりですね。
ちーらび感がちゃんと出せているか若干不安です。
同じようなネタばっかりで申し訳ない。何かネタふりがあればまたお願いします。あと感想とか。
では、また。

どうも。今日は勢いで書いてきたものをば。

初めまして。私の名前は山田ペコと申します。
年齢、趣味…は今回は置いておいて、これを読む皆様には、とりあえず私の職業についてお話したいと思います。

私は、MJPと呼ばれている、GDF――全地球防衛軍――に所属する士官養成所で広報を務めています。
広報としては、以前までは宣伝のためにタレントさんを起用してのCM作り、あるいは宣伝ポスターの製作、スポンサー企業の皆様との打ち合わせなどなど…。
とにかく、そうやって、少しでも世間様に私の所属する機関の認知度を高めていただく任務に就いておりました。

もともとは、私はさる芸能事務所で専属のマネージャーとして様々な経験をしておりまして、
その経緯もあってか、以前の事務所を辞めたときに、このMJPというところにスカウトされた次第です。
軍人さん、というくくりになるかは分かりませんが、やってることは昔と大して変わりはしませんし、それなりに充実しています。

ところがある日異動が決まりまして。そのお話をさせていただきたいと思います。

チームラビッツ。

それが、私が今度から一緒にお仕事をすることになった子たちのチーム名です。
もともとは、将来の士官として勉強しているMJPの学生さんたちだったそうです。

それがある日、地球へと幾度も侵攻を繰り返しているウルガルという外宇宙からの敵を、彼らが初めて撃退して、状況が変わりました。
彼らは唯一ウルガルに対抗しうる新たな希望として持ち上げられ、そして敗戦の続く地球にとっての体のいいプロパガンダにされたのです。

軍の偉い方々は彼らを学生から繰り上げで卒業させることにしました。学生扱いでは前線にも立てませんが、本職になれば話は別だそうです。
そうしてチームラビッツは、地球側の切り札のごとき扱いで(それに劣勢にある戦況に立てる世間への英雄として)このたび軍人さんへとなられました。

それで、祭り上げるためにも、彼らを芸能活動的な方面でもプロデュースする必要があるらしく、
これまでの経歴を鑑みられた結果、私が彼らのマネージャーを務めることとなったのです。

私としては、記者会見でしか見たことのない彼らの様子からして実におもしろそうな子たちでありましたし、
これからどんな風に彼らをプロデュースしようかととても楽しみでありました。

そして、つい最近、彼らと初めてお話しました。

想像していたよりも、実際に会うと、彼らはとっても不安そうで。
GDFの人が入り混じった軍の詰め所で、知らない人たちが多いことにちょっとだけ緊張しているように思えました。
それで、とりあえず和ませてあげようと思い、恋の相談も受け付けますよ、と冗談めかして言ってみたりもしました。

まだ会って間もない人は苦手気味らしいな、と考えた私は、彼らに個室のキーカードを渡すとその場を退散しました。
気心の知れた仲間たちと一緒にいた方が、きっと次に迫っている大きな作戦への緊張を和らげるのは大事だろうと考えたのです。

「あら、ペコ?」

「あ、スズカゼ艦長」

ちゃんと彼らと仲良くなるためにも、彼らの個人的な部分を調べてみるとしよう、といろいろとデータを漁りつつぶらついていると、艦長に出会いました。
次の作戦のための打ち合わせが大変なのか、とてもお疲れのようでした。
偶然会ったのもなんですから少しばかりご一緒に休憩しませんか、と私はお誘いしました。

彼らとは艦長は一番長い付き合いだと聞いていました。
となれば、艦長に聞いてみれば、彼らのことも少しは分かるというもの。
私の意図を伝えると、艦長はオーケーを出してくれました。

「彼らのこと…そうねぇ…」

「いろいろとお聞かせいただくと助かりますー」

一緒にドリンクの自販機のある休憩所のベンチに座り、私は聞きたいことをいろいろとぶつけてみました。
彼らの好むもの、趣味…とにかくあの子たちを知れることなら何でもです。

艦長は私の質問攻めに若干困り顔をされましたが、さすがに彼らと長くいた経験なのか、次々と私に有益な情報をくれました。
ありがとうございますー、と頭をペコリと下げて、私はさっそく出かけました。
彼らの好むものや趣味に合わせて、いろいろと買出しに行く必要があったんです。




さて、少し時間が経ちまして。
作戦の開始時間が近づいたので、私は彼らを呼びに向かいました。
マネージャーとして、彼らの時間管理をするのも私の仕事です。
こういう伝令役は初めてでしたので、ちょっとだけ緊張もしました。

「なんか、緊張するね」

「……」

「んだよアサギ、黙って」

「精神統一してんだよ…」

「ねー、ひまー」

「少しは静かにしなさいよ…」

集まった彼らは、待機命令が下り、それぞれの時間のつぶし方を実践しているようでした。
私はさっそく、調べたことを使って、彼らを応援してみることにします。

「皆さん、まだ時間がありますしよろしければこれどうぞー」

よいしょ、と私は荷を乗せた台車をひっぱりながら、彼らの前にそれぞれ用意した物を差し出しました。

イズルくんには、数年前に出た、今では貴重な紙媒体のマンガ雑誌。
アサギくんには、特別に調合してもらった心を落ち着かせる効能のあるアロマ。
スルガくんには、最新のGDFの兵器特集のよりぬき、それにとても美味しいと評判のインスタントカレー。
タマキちゃんには、スターローズ特産のイカの塩辛と白飯大盛り。
ケイちゃんには、老舗のお菓子屋さんのローズ堂本店で購入してきた数々のスイーツ。

皆それぞれ、渡された物を見て、目をぱちくりさせていました。

「え、あのう、ペコ、さん。これって」

皆を代表するかのように、イズルくんがおずおずと私に不思議そうな顔を向けます。
私はニコリと笑いました。

「皆さんの好きなものを艦長に聞きました。よければこれで緊張をほぐしてくださいー」

私の言葉に、皆さん顔を見合わせて、

「すっげー、マネージャーさんが付くとこういうのもあるんだなー!」

「うんうん! ジャーマネさんっていいのらー!」

「わぁ…このマンガ初めて見たよ! あっ、こっちも…!」

「…美味しい。さすが本店の味」

「…お気遣いありがとうございます、ペコさん」

それぞれいろんな反応を見せてくれました。
とりあえず、皆さんがとても喜んでくれたのは間違いありません。

「いえいえー。がんばってください!」

ぐっ、と両拳を握って胸の前に構え、私は激励のポーズを取りました。
イズルくんとスルガくんとタマキちゃんが同じようにポーズを取って頷いて、
アサギくんとケイちゃんはそんな三人を少し呆れたような、でも優しい瞳で眺めていました。

喜んでもらえて、私は実に嬉しい気持ちと共に、この子たちへの好意が増していくのを感じておりました。




さてさて、さらに時が経ちました。
私は今、地球の方で、仕事用に特注させていただいた車をのんびりと運転しています。

時刻はもう夕方。
東の太陽が西へと沈みつつあり、西側の窓の方からは名残惜しげに陽が差しておりました。

後部座席には、今日の任務で疲れきった様子のタマキちゃんとケイちゃん。
二人とも、いつの間にやらすやすやと眠っていました。
無理もないことだなぁ、と私はまるで姉妹のようでいる二人の寄り合う姿をミラーで確認しながら、微笑みました。

今日は、朝からMJPの広報のために、チームの女の子二人が駆り出され、一日署長、一日着ぐるみ、果てはCM撮影と、様々な仕事に出ていたのです。

私としても、久々のこういった芸能的な活動でしたので、やる気は満ち溢れていましたが、
二人はそもそも軍人さんであってタレントさんではなく、カメラの前の仕事に対する心労は大きかったようでした。

そこを何とか支えるのが私の仕事。
チームラビッツの子たちはうちの子です、とまで最近は言い切っている私は、取捨選択をしつつ、NGにはNGとはっきりと言いつつ、仕事を進めていきました。

そうして一日の終わりを迎えつつあるなか、先ほど、全ての仕事が終わりました。今は帰り道の最中です。
明日からは、また彼らに軍人としての任務が待っていると思うと、もう少しのんびりさせてあげたかったな、とちょっとだけ思いました。

艦長の話では、これからはウルガルと真っ向で戦うことのできるチームラビッツにどんどん前線での任務が増えることだろうということでした。
それはつまり、これまで以上の厳しい戦いがこの先には待っているということであり、今日が、当面の最後の休日となりえるというわけでした。

仕事の隙を縫って、せっかく地球に降りたのだからと、多少の自由行動もしました。
それでも、あのときもっと早く運転しておけば時間が作れたかもしれない、などという考えが頭の中を漂ってくるのです。

私は、彼らチームラビッツのマネージャーです。マネージャーらしく、もっと彼らのためにできることをしてあげたくて仕方ありませんでした。

ちょっと軽いけれど、実はいろいろと考えてるスルガくん。
いつもいつも、無邪気さとその天真爛漫な存在感で皆の癒しとなっているタマキちゃん。
そんなタマキちゃんたちをお姉さんみたいに優しく面倒見てあげてるケイちゃん。
他の皆の分もしっかりしようといつも気を配ってるアサギくん。
そして、そんな皆を引っ張ろうとしつつ、時には皆に引っ張ってもらってるイズルくん。

このザンネンでかわいらしい五人のチームを、私はとかく愛おしく感じて、わが子のように思っていたのです。
これからは、心の休まる時間は少なくなっていくのでしょうけれども、私はなるべく彼らに癒しを与えるべくがんばりたいと決意しました。

それが私、チームラビッツのマネージャー、山田ペコなのですから。

おしまい。映画の公開日程も発表されわくわくが止まらない日々です。
ではまた。

どうも。早朝となりましたが始めたいと思います。

「ヒーロー、ねぇ」

宇宙ステーションスターローズ。宇宙開発のために生み出されたステーションの中でも最初期に作り上げられたモノの一つである。
今やその中の大部分を占めているGDF――全地球防衛軍の拠点の一つ、MJP機関と呼ばれる部署の一画。
与えられた格納庫のハンガーに収められているテスト機体MF86-A――通称ライノスをランディ・マクスウェルは見上げて、呟いた。

先ほどまでは、ランディや彼の率いるチームの人間だけが狭い格納庫を埋めていたわけではなく、彼らの後輩チームのリーダーが挨拶に来ていた。
後輩チームといっても、軍人としてではないが。

その人物――ヒタチ・イズルはまだまだ学生という地位に書類上は就いており、
『後輩』というのは、あくまでも士官学校のキャリアとしてでの、という意味だ。

もっとも、そのうち彼の所属するチームも強制的に学校を卒業させられ、
正規の軍人として着任することになるだろうから、その意味でも『後輩』になるに違いない。

ヒーロー、とランディが呟いた言葉は、もともとその後輩、イズルの言葉だった。

彼と知り合ったのは、ほんの数日前のことだった。

ランディたちチームドーベルマンがいつものように前線での哨戒任務に出ようとしたときのことだ。
彼らが所属する、MJP機関の司令であるシモンから、ある緊急の任務が下った。
現在実戦の経験を兼ねて任務に当たらせている、自分たちの一つ下の世代の訓練生たちの援護をせよ、とのことだった。

もちろん任務とあれば従うほかなく、ランディたちは代わりに派遣されたチームに哨戒を任せ、前線からは遠く離れた小惑星地帯へと赴くこととなった。

『噂の後輩か…さて、どれほどの手並みなものか』

指定されたポイントで待機していると、サブリーダーであるチャンドラが敵のいるとされている辺りを観察しながら興味深げに言った。
これまで敗退しか味わったことのない地球側に初めて勝利をもたらした英雄的存在。

その後の報道やら失敗やらで、結局周りの士気はそれほど上がらなかったらしいが。
それでも、勝利を一度収めたのだ。実際、どんな動きをするのか、ランディも確かに興味があった。

『彼ら、まだ学生なんでしょう? 無茶な気がしますけどねぇ…』

ランディたちの一つ下のパトリックがあまり気乗りしない調子で、息を吐いた。
確かに、それもその通りだ。

MJP機関は、将来の士官を育成する場ではある。
が、もちろん士官学校をまともに卒業もしていないような人間が、いざ戦場で戦えるのかといえば、だいたいはそんなことはないのだ。
彼らの世代が、ランディたちよりも優秀な存在であるとしても、だ。

第二世代。それがランディたちの、MJP機関で分類上付けられた呼び名である。

ランディたちは、もともと宇宙環境への適応力の高さから選出され、
通うはずであった士官学校から、MJPのグランツェーレ都市学園にスカウト入学することになったのだ。

そういう人材たちが、いわゆる第二世代である。

そして、噂の後輩たちは、第三世代。

ランディたちとはまったく違う。
彼らは、遺伝子工学の生み出した、宇宙環境に適応『させられた』、いわば『作られた』人間である。

これを知る人間は、同じMJP機関の人間、あるいはGDFの上層部の人間たちくらいのもので、
一般の人々は、ただ優秀な士官候補生くらいにしか捕らえていない。

そういった特殊な生まれなだけあって、彼ら第三世代の人間はどれも恐ろしいほど優秀な技能を誇ると聞いていた。
だからこそ、噂のチームラビッツのように、そのまま実戦を経験させようとしているのだろうが…。

『しかも指揮がコミネのおっさんらしいぜ』

『参謀次長ですか? なんでまたそんな机でしか仕事しない人が…』

ランディの言葉に、パトリックが若干の毒の混じった発言で返した。
コミネ参謀次長。GDFの中で作戦立案を担当していて、ついでに言うと出世欲の強い人物である。
作戦立案能力はそれなりにあるらしく(そうでもなければそもそも参謀のトップには立てない)、ランディたちも彼の立てた作戦で行動したことがある。

ただし、作戦を考えることはできても、どうにも現場向きの人物ではないらしいということは、その時にランディは思い知った記憶がある。
突然の奇襲を受ければ、咄嗟の判断に遅れ、無駄に友軍を減らし、作戦を失敗させる。
そのたびに部下の問題として、事なきを得ていたようだが、ランディたちのような現場で動く身としては、誰のせいかは一目瞭然であった。

『…我々の出番はすぐかもしれんな』

ランディと同じことを思い出したのか、チャンドラが機体の状態を見直しだした。
それもそうかもしれない、とランディも同じく自分の機体をチェックする。

『どんな子たちなんでしょうね、チームラビッツって』

気晴らしの世間話がてら、と言わんばかりにパトリックが興味に満ちた声色で話を振った。
自分たちよりは年下(といっても一つだけだが)のパトリックにとっては、少しばかり親近感でも湧くのかもしれない。
後は、自分が先輩と呼ばれることへの期待感か。

『ふむ…あの会見を見た感じでは、とても勝利を見せてくれた英雄には見えないが』

『ま、あれくらいの方がこっちとしても気楽で助かるけどな』

任務を受けてから、とりあえず、と思って初めて後輩たちの姿を眺めたテレビ中継の録画を思い出した。
どんなマジメくんたちが出てくるやら、とあまり期待せずに見ていれば、あれよこれよという間に世間からは『ザンネン』呼ばわりされていた。

実際問題、狙ってるとも思えない天然ボケやら、
命令違反の理由としてはちょっとコドモすぎる動機を語ったりした彼らの姿は、まさしく『ザンネン』だと思う。

しかしながら、そのことについては特に問題ではない。むしろランディとしてはとてもとても誇らしい後輩に見えた。なぜなら彼らは――

『――ガッカリスリーの後輩としてはまったく問題ないっ!』

『そう言うと思ったよ……このダメリーダーが』

『んだとこんにゃろう!』

ランディたちは、戦友たちから実力と普段の振る舞いのあんまりな差から『ガッカリスリー』、
『マンザイスリー』、『トリオ・ザ・ドーベルマン』と親しみを込めて呼ばれている。

…もっとも、サブリーダーのチャンドラとしてはあまり茶化されるのが好きではないのか、いつもそのことでランディに不満をぶつけてくるが。

しかしながら、そんなチャンドラの意思とは裏腹に、ランディはどちらかといえばそういう呼ばわりが気に入っていた。
そういう彼からすると、噂の『ザンネンファイブ』はまさしく期待の新人というわけなのである。

『あはは…。あ、先輩、彼ら仕掛けるみたいですよ』

いつも通り軽く小競り合うそんな彼らのやり取りをなだめるようにパトリックが促す。
確かに、例の後輩たちの機体が、小惑星デブリの中に見えた。

はてさて、どうなることやら。

頭の後ろで腕を組み、ランディはスポーツ観戦でもするかのように、一部始終を見守ることにした。
なるべくなら、自分の出番がないことを祈りながら。

その希望はザンネンなことに、ものの数分で消えてしまった。
かく乱を担当するらしい一際大きなピンク色の機体が、急に無茶な突撃をかまし、集中攻撃を浴びてしまったのだ。
それからはチーム全体の動きが鈍くなり、一気に撃墜されそうな味方を、何とかリーダー機がフォローして状況を食いつないでいた。

『おいおい…大丈夫なのか』

『連携ができてないですねぇ…レッドファイブ、でしたっけ? 彼が必死にフォローしてますけど…』

『…ワンマンチームだな』

それぞれにチャンドラとパトリックが言う中、ランディはばっさりと後輩チームを切った。
そうして、そのまま感想を続ける。

『どうもアイツ一人でチームの全てを背負おうとしてるみたいだ。これじゃチームの意味がないな』

先ほどから見る限り、あのリーダー機だけで状況をひっくり返そうとしているらしい。
仲間と連携を取るというより、仲間に合わせさせているような感じだった。
あれでは、いずれ無理が起きる。

『ふむ…お前がそんなマジメな意見を言うとは…』

意外すぎて呆気に取られたような調子で、チャンドラが驚いてみせた。
まったくもって失礼なことを言うサブリーダーに、ランディはふふん、と鼻を鳴らした。

『普段だってマジメだっつーの』

『女性を口説くこととアダルトビデオにな』

『先輩、またですか?』

『うるせー! いいよなお前はこの勝ち組婚約者持ちが!』

ぎゃあぎゃあと喚くランディとそれを軽くいなすチャンドラの軽快なやり取りが続く。
もちろん、チームラビッツが限界を迎えるまでのタイミングはちゃんと見計らっている。
それでこそ、彼らは『ガッカリスリー』なのだ。

そして。
味方を庇った隊長機――レッドファイブが活動限界を迎えようとして、立ち往生してしまった。
このままでは、一人撃墜されてしまうことだろう。

『! 先輩!』

気を引き締めるようにパトリックが幾分かは緊迫した調子でランディに呼びかける。
当然、ランディも分かっていた。

『分かってる。行くぞお前ら! 颯爽と騎兵隊到着ってな!』

合図と同時、チームドーベルマンは隠れていたデブリ帯を蹴り飛ばすように加速し、後輩のピンチに駆けつける。
さながら、その姿はまさしくヒーローのようであった。




それからほんの数日後、今度はチームラビッツとの共同作戦に当たることとなった。
作戦での失敗続きの彼らに、成功体験をさせるための比較的簡単な基地破壊作戦であった。

その時、縁あってランディはチームラビッツのリーダーであるヒタチ・イズルと初めて話をした。
思っていたように、件の少年は、実に不思議な男であった。

後輩の訓練のために久しぶりの地球に降り立つと、なんとはなしにランディは辺りの風景を拝みに出ていた。
士官学校を卒業して、前線に行ってからまだそれほどに時間は経っていないはずなのに、ずいぶんと懐かしく感じられた。
実際に兵士になってから、多くの死線を越えたし、越えられなかった連中も何人も見てきた。
今だって、ランディはとりあえず生きているけれど、次はどうなるのかなんて、誰にも分からないことだった。

そんな風に過ごしていると、彼の背後から、後輩のイズルが現れた。
どうも自分を探していたらしい彼に、ランディはテキトウな話題を振ってから、用件を尋ねた。

どうやら彼は、今の自分に不安を抱いているらしかった。
しっかりと任務をこなせない自分に、仲間たちに。彼はまだ学生の身分なのだ。無理もないな、と感じた。
どういったものか、と考えながら、ランディはストレートに言うことにした。
彼は直情的なタイプであることは会見の映像でなんとなく理解していた。

気にするな、と言った。作戦の失敗で落ち込むことはない、とも。
作戦の失敗どころか、そもそもいなくなるやつだって、ランディの知り合いには多くいた。
生きて戻ってくるだけ、立派なものだと説いてやったのだ。
すると、彼はそれでは納得がいかないのか、さらに悩みを打ち明けた。

――でも、僕はヒーローになりたいんです!

ヒーロー。そう言われて、ランディはまず戸惑った。
軍人であることとヒーローであることはまったく直結しない。
ヒーローには正義というものがあるが、軍人にはそんなものはない。あるのはただ忠実に命令をこなしてみせることだけだ。

ヒーローになるにはどうすれば、とずいずいとランディに迫るイズルの目に、若干気圧されて、ランディは結局、ヒーローになるため、と別の心得を授けた。
これまで自分がしてきたこと、信じてきたことを、ありのままに彼に伝えた。
ついでにちょっとした慰安グッズもくれてやった。彼はそれをチームの女性陣にまで見せたという。恐ろしいやつだ。

…話を戻そう。
とかく、ヒーローのなり方なんて齢二十三にもなるただの軍人が知るわけもなく。
彼は代わりに、『リーダーとしての心得』を分かりやすく伝授した。

決断する。諦めない。仲間を信じる。

これまでの戦いの人生の中で得た結論として、誰よりも自分は弱い存在である、とランディは考えていた。
人は簡単に死んでしまう。だからこそ、結束して戦うことに重きを置いてきた。
自分にできないことがあるなら、それができる仲間を信じて、自分の役割を果たせばいい、ということだ。

そして、諦めずに生還しようとする意志。何が何でも生き残ってみせるという心が、精神的な面での支えとなる。
待ってくれる誰かの存在。家族でも恋人でも、それこそチームの仲間でもいい。
…無論ランディとしてはできれば美人の恋人が一番だが。

そして決断。これは、まぁ、どこぞの参謀次長のおかげで得た結論だ。
まったくもって、ありがたいことである。

そして、作戦当日。

とにもかくにも、それらを伝授した成果か、後輩たちはその作戦では実によくやった。
リーダーの少年も、自分の言いたいことを理解して、仲間と自分を信じ、やり遂げて見せた。
さすがにランディも、その日ばかりは主役の座を譲った。
きっと、彼は作戦成功の瞬間、まさに『ヒーロー』となれたのだから。

そして今。
ランディたちはヒーローの誕生を見届け、また最前線へと戻る。

元より、彼らの任務は前線でのデータ取りである。
イズルたちのような次の優秀な世代のために実験的な兵器を導入して試験したり、敵の情報を味方にフィードバックすることを主な目標に置いている。
捨石のようなものだ。データ取りのついでで敵を蹴散らさせられているに過ぎない、地球の番犬だ。

ま、捨石だろうと、後輩にとっては『ヒーロー』とやらになれたらしいし、いいか。

ランディは自分の機体を改めて見上げた。

ある最新機体の開発のために生み出された先行試作機となるこの機体の存在は、まさしく自分のチームの役割によく似ている、と最近はよく思う。
後に続いていく連中のためにも、少しでも道を道らしく歩けるようにしておいてやらねばならない。
それで、戦いが終わった後は、後から来た連中とテキトウに道に腰掛けてわいわいと酒でも呑むのだ。

「先輩? そろそろ行きますよー」

そうして佇んでいると、パトリックが出発を知らせに来た。
…もう、戻る時間であった。

「おう、今行く」

それだけ答えると、ランディは前線へ向かう輸送シャトルの搭乗口へと歩き出した。
チームラビッツ。きっと、すぐに会えるだろうな。
今度会ったときは、もう少し話をしてやりたいと思った。

相手のことを覚えて、相手にも覚えてもらえ。
いつもランディは周りにそんなことを言っていた。
そうすれば、いなくなっても、誰かの中で励みになれる。帰る場所を思い出させてやれる。

あの後輩も、とランディは純粋な目をした少年を思い出した。
彼にも、きっと自分は覚えてもらったことだろう。彼の言う『ヒーロー』として。

となると、だ。新人ヒーローに教えてやった『ヒーローの条件』を嘘にしないためにも。
ちゃんと後輩のお手本になってみせてやろうじゃないか。そして、自分を目標にして、頑張って彼らが生き残れればいい。
ランディは新たに増えた自分の戦う理由を心に刻み、自分を迎えるであろう次の戦いに思いを馳せた。

守るべきもののために、と決意する彼の姿は、まさしく『ヒーロー』であった。

おしまい。
次はネタふりで思いついたままを書いてきました。

恋ってなんだろう。愛ってなんだろう。

――『好き』になるって、なんだろう。

スターローズの自室。
あたしは一人でうんうん唸っていた。
床に座り込んだあたしの周りには、いろいろと取り揃えた恋愛指南の本やら心理学の本。

それらをテキトウに拾ってパラパラとページを捲っては、やっぱり違うと放り投げていた。
どれもこれも、あたしのもやもやした感覚に正しい答えをくれなかった。

昨日の就寝時間、パトリックさんからの贈り物を食べきった後、あたしは眠れなくて、ケイの部屋に行った。
一人じゃどうにもいろいろと考えてしまう。そうなると、誰かと一緒に過ごして気を紛らわせたくなって、それで、すぐに思いついたのがケイだった。
そのとき、あたしのことを好きでいてくれた人のこと、なんとなくケイに相談した。

あの人の好意に気付かなかったあたし。それを知ったのは、もう取り返しのつかなくなったときで。

どうすればいいんだろう、と思った。もうパトリックさんはいなくて。
でも、あの人はあたしを好きでいてくれて、あたしは、どうなのか分かんなくて。それで、それで。

とにかく、どう説明したものか悩むくらい、いろんな感情と考えが渦巻いて、整理がつかなかった。

ケイは、そのままのあたしらしく、パトリックさんが好いてくれたあたしのままでいればいいと言ってくれた。
そのときの言葉はすごくたどたどしくって。けれども、あたしはそんなケイらしさに満ちた言葉のおかげで、ちょっとだけ、心に余裕ができる気がした。

その後は、食べ過ぎたせいでお腹が痛くなって、アサギに薬をもらって。そしたら、今度はイズルが倒れちゃった。
ちょっとした体調不良だとルーラ先生は言っていた。
ペンも握れないくらい、身体の調子が悪いらしく、イズルは困ったような顔をしていた。
とりあえず安静にしてなくてはいけないらしく、イズルがちゃんと眠るまではケイが付き添うということになって、あたしは自分の部屋に戻った。

それからもう一回、一人でパトリックさんのことやあたしのことを考え始めた。パトリックさんはあたしのことが好き。あたしは、よく分かんない。

パトリックさんは確かにかっこいい人だ。間違いなくイケメンだ。でも、それで、『好き』なんだろうか。
これまで、あたしはイケメンと見るやすぐにその人を『好き』なんだと本能的に思っていた。
パトリックさんも条件は同じ。なら、あたしはパトリックさんを『好き』だということになる。
が、あたしはどうも、そのあたしらしい直球な帰結がしっくりとこなかった。

『好き』ってなんなんだろう、と真剣に考えていた。
これまで、人にさんざんその言葉を向けてきたけれど、いざ、考え直してみると、よく分かんなくなった。
あたしはこれまで、『好き』を使い続けたけれど、この使い方が正しいのか、自信がなくなってしまった。

もう一度ちゃんと考えよう。
そう思ったあたしは、自分の部屋で、これまで『恋』というものを勉強するために集めた資料とにらめっこして、本当の『好き』ってどういうことだろう、と考えていたのだ。
でも、まともな答えは出なかった。

たとえば、あたしはチームの皆が『好き』だ。
イズルもアサギもスルガもケイもアンジュも。間違いなく、皆のことが『好き』だ。
でも、この『好き』は、あたしの求める『好き』ではないことも間違いない。

ううん、と頭を抱えた。
だいたい、これまで、まともな恋愛の経験なんて、一度たりともなかったのだ。
そんなあたしに簡単に答えが出せるようなことだったら、こんなにいろんな考えをまとめた本なんか出るわけがない。当たり前のことだった。

うがー、とあたしは寝転がった。そもそも、マジメに考察する、なんてことはあたしの苦手分野だった。
…どうしたものだろう、とぐるぐると頭の中でいろんなことを考えてみた。
また食堂のお姉さんにでも相談しようか、それともペコさん? それとも――

ぐるぐるぐるぐるとアイデアを巡らせて、あたしは唐突に立ち上がった。
とりあえず、自分にとって身近な人間に聞いてみよう。
あたしのことをよく知ってる人たちなら、あたしの考え方もよく分かってるから、きっといい答えを出してくれるに違いない。

さて、誰に聞いてみようか。身近な人なら、やっぱり同じチームラビッツの面々だろう。
イズル、スルガ、アサギ、ケイ、アンジュ。…アンジュは、そういうのあんま興味なさそーだから除外。
あとは、イズルはよく休むように、なんて言われてたし、そんなことでわざわざ訪ねるのも悪い。
となれば――

結論を出すと、あたしは走り出した。とりあえず、同じようなこと考えて、同じようなことしてる人に聞いてみるとしよう。
あたしはまっすぐ、食堂へと向かった。
彼のことだから、たぶん、今頃食堂のお姉さんと話しながら、カレーでも食べてることだろう。




「はぁ? 恋ー?」

思った通り、彼――スルガは食堂でのんびりといつものカレーを食べていた。
さっきまで食堂のお姉さんと何やらお話してたらしい。
聞きたいことがある、とあたしが言った途端にお姉さんは引っ込んじゃって、スルガはちょっとザンネンそうにしていた。

うん。スルガは『好き』になるってどういうことだと思うのら?

あたしの質問に、スルガはすっごく変なものでも見るようにあたしを見た。
むっ、とちょっとだけしたけれど、とりあえず何も言わないことにした。あたしだって、オトナだもん。
代わりに、スルガに聞いた理由を話すことにした。

だってだって、スルガよくナンパしてるじゃん?

スルガの趣味はナンパだ。成功例は一個もないけど。
でも、そういうことをしてるってことは、スルガだって、そういう風に『好き』のことを少しは知ってるんじゃないか。
そんなことをあたしは考えた。

「別に…俺はそういうつもりでナンパしてねーけどな」

すると、スルガは予想に反した答えを返してきた。

ええー? じゃ何でナンパなんかするのらー? 誰か『好き』な人作るためじゃないのー?

意味分かんない、とあたしが付け加えると、スルガは何故かもごもごしながらあたしに言った。
何だか、『好き』のことを話すのが照れくさいような言い方だった。

「俺は、ただ、そう…話したいだけなんだよ。そういう関係とか、そんなの、どうでもいいっつーか」

なーんだ、とあたしはその答えに呆れた。
つまるところ、スルガはただ、女の子とお話するのが楽しいだけで、女の子とお付き合いとか、『好き』になるためにナンパをしてるわけじゃないんだ。
それじゃ、あたしの求める答えには出会えない。

…スルガのヘタレー。

あたしがじとーって目を向けると、スルガは急に勢い込んで逆切れしてきた。

「…だーっ! んなこと、俺に聞くよか他のやつに聞けよなーっ!」

まったくもってその通りだった。
少しはあたしと同じ感覚をしてるスルガなら、いい答えをくれるかも、と期待したあたしがおばかだった。
スルガもまだまだお子様なのら。

そーするのらー。

あたしはそれだけ言って、くるりと回れ右をした。
あたしとかスルガよりはもうちょっとオトナ…アサギにでも聞いてみることにした。




ぽてぽてとスターローズのあちこちをあたしは探して、やっとアサギを見つけた。
アサギは、どこかぼうっとした様子で、通路の窓から、外の宇宙空間を見つめていた。
その表情は強張っていて、いつものごとく胃が痛んでいるかのようであったし、何だか思い悩んだような様子でもあった。

アサギー。

「……タマキ、か。どうしたんだ?」

あたしの姿を見つけると、アサギはそんな顔を引っ込めた。
どうしたんだろう、とあたしは不思議に思ったけれど、今はそれよりも、と思考を目的に切り替えた。
どうせ聞いたところで、アサギは誤魔化すだけだと知っていたし。

聞きたいことがある、とあたしはスルガにしたのと同じ質問をぶつけた。

「恋…ねぇ」

遠くを見るように目線を上げると、アサギはぼーっとした顔で何やら考えていた。
それから、思い出したように、こう切り出した。

「俺に聞かれてもな……まぁ、ちょっとはそういうこともあるけど」

へ? どういうことなのらー。

「いや、ちょっと前まで、いいな、って思ってた子がいてな」

えー!?

思わぬ言葉に、あたしはびっくりしちゃって、後ずさった。
アサギに、好きな人? あの、立派な兵士としてー、とかなんとか、お堅いことばっか言ってるアサギに、好きな人?
あたしはあんまりにも意外すぎて、そっちの方に興味が向いてしまって、すっかりアサギに詰め寄っていた。

ねね、それって誰? あたしの知ってる人? もう告白とかしたのら?

ずいずいとくるあたしに、アサギは若干困ったような顔をしてた。
そんな反応を見て、あたしは自分を急に省みて、ちょっぴり下がった。
我ながらどうも落ち着きがなかった。がつがつ行ってしまうのは、もはや癖みたいなものだった。

えへへー、とあたしが笑って、ごめんごめんと言うと、アサギは苦笑いして、これまた意外なことを言った。

「告白する前に、その気持ちはなくなっちまった…というか、下がることにした」

えー!?

あたしは二度目の驚きのリアクションを見せた。
『好き』になったのに告白しない、というのが、あたしには意味不明だった。
これまでとにかく告白しかしてこなかったあたしからすると、せっかく『好き』になったのにそれを捨てるなんて、信じられなかった。

あたしの反応に、アサギはまたまた苦笑して、こう付け加えた。

「その子にも、好きなやつがいるんだよ。俺の気持ちなんかより、ずっとずっと強い想いでさ」

ああなるほど、とあたしは頷いた。
ちょっと前、学生時代。あたしは同じ学級の生徒に告白したことがあった。
そのとき、その人は言っていた。自分には別に好きな人がいるから、君には応えられない、と。

アサギは、言うなら、告白しないで先にそれを知っちゃったようなものだ。
それなら、何となくあたしにも納得できる。うまくいかないって知ってる告白ほど、意味のないものもない。

そっかー、アサギもそういうの経験あるんだー。

まったく予想だにしなかったことに、あたしは呆然と、ほぼ独り言みたいに呟いた。
それを聞くとアサギは、あんまり掘り下げられたくないのか、話題を切り替えた。

「まぁ、それは置いといてだな。…『好き』になるってどういうこと、か」

あたしの質問を口にして、アサギは外の暗闇に目を向けた。
深く考えるように遠い、遠い目だった。
それから、すっと肩の力を抜くように息を吐いた。

「正直、俺にもそれは分からないな。ただ――」

ただ?

「俺がその子をそういう風に思ったのは、その子に支えられたいと思ったからだろうな」

支え、られたい。

あたしのオウム返しに、アサギは頷くと、ゆっくりと続けた。
自分の気持ちを思い返すような、そんな速度で。

「その子は、結構面倒見の良い子でさ、俺にも、何かやっちまう度に拙い言葉だけど、フォローしてくれて」

言いながら、アサギはその子のことを思い出したのか、照れたように頬を掻く。
こんな風に女の子のことを話すアサギの姿は、なんだか新鮮だった。
言葉を探すように俯いて、何事かを言いよどんだと思えば、アサギはさらに続けた。

「その人が傍にいてくれるだけで、こう、心が安らぐっていうのか? そういう気持ちになって」

心が、安らぐ。
何となくその気持ちは分かる気がした。
あたしも、チームの皆と一緒にいるときは、すっごく落ち着く。
まぁ、アサギの言いたい『好き』とはちょっと違うのかもしれないけれど。

「たぶん、誰かを『好き』になるってそんな感じなんじゃないか? …と、俺は思ってる」

それだけ言うと、ぷいっとアサギは顔を逸らした。
どうやら、一気に自分のセリフが恥ずかしくなったらしい。もー照れ屋さんなのらー。

「…っつか、こんなの、お前の読む本にも書いてあるようなことだったかもな」

言われてみると、確かにそんな感じのことが書いてあった本を見かけたような気がしないでもない。
でも、実際にそう感じた人の意見を聞くのは初めてだったし、アサギなりにあたしに伝わりやすくしてくれたのもあって、何だかとてもありがたかった。

ううん、ありがと。

あたしがお礼を言うと、アサギは別に、とだけ言ってから、恥ずかしついでだ、と言わんばかりに言葉を続けた。

「ま、そんな理屈抜きでさ、ただそうなんだ、って感じるんじゃないか? 本気で『好き』になっちまったら、さ」

本気で、好きになる。
その言葉の意味を考えて、何度も何度も頭の中で反芻した。
それは、いったいどういうことなんだろう。どんな気持ちなんだろう。

あたしが誰かに感じた『好き』と、アサギが誰かに感じた『好き』。
アサギの言うような気持ちを、あたしはその言葉と一緒に感じたんだろうか。
それこそが、パトリックさんがあたしに向けてくれたような感情だったんだろうか。
分からない。まったく分からない。

「…なんてな、俺が言うようなことでもないよな。悪い、忘れろ」

うんうん唸っていると、アサギはぽん、と頭を撫でてくれた。
アサギらしい、ちょっと乱暴な手つきで、頭がぐらぐらした。
でも、結構悪くなかった。

アサギってばお兄ちゃんみたいなのらー。

にへへー、と笑うと、アサギはぎょっとしたような顔をして、それから少しだけ視線を逸らした。

「お兄ちゃんみたい、か」

急に、何か考えたくないことでも思い出したようにするアサギに、あたしはきょとんとした。
そんなに気にするような言葉だったろうか。ちょっとした冗談みたいなものなのに。

どしたの? またお腹痛いの?

あたしが聞くと、アサギは慌てた調子で首を横にぶんぶん振ってみせた。
それから、こほん、とわざとらしい咳をした。

「いや、何でもない…なぁ、これケイには相談したのか?」

ケイに?

「同じ女の子だろ? だったら、お前の気持ちを少しは分かってくれるかもしれないぞ?」

言われて、そういえば、と思った。
昨日だって、ケイにパトリックさんのことで相談してみたけれど、『好き』ってことについては相談してなかった。
何だかんだ一番付き合いの長いケイなら、確かにあたしの求める答えのヒントくらいはくれるかもしれない。

そっか。そーしてみる。

「ああ、行ってこい」

うん、いてくるー! あんがと、アサギー!

あたしは大声でアサギにお礼を言うと、駆け出す。
チラリとアサギの方を振り返ってみると、アサギは何か決意したような顔で、イズルの病室のある方に向かっていた。
どうしたんだろ、とちょっぴり不思議に思ったけれど、あたしはすぐに思考を切り替えて、ケイを探すために一気に加速して走り出した。




とりあえずケイの部屋に行ってみると、ケイはいなかった。
それから、あたしは思い出した。急がなきゃ、と慌ててたせいで、ケイがイズルに付き添うと言っていたことをすっかり忘れていた。
なーんだ、だったらアサギと一緒に行けばよかった。そしたらケイと話せたかも。まぁ今更なことだけど。
とにかく、あたしもイズルの病室へ行こう、と勢いよくあたしはケイの部屋を飛び出して――

「あ、タマキ。どこに行ってたの?」

ちょうど、ケイとばったり出くわした。あたしの部屋の前で。

ケイ? イズルはどしたの?

あたしは首をかしげた。
イズルが調子悪いってときは、いつもケイはイズルに付きっ切りでいたのに。
そうやって椅子に腰掛けてベッドの傍にいる姿を見ると、ケイはお姉ちゃんかお母さんみたいだといつも思ったものだった。

「…イズルも眠ったし、ちょっとどうしてるかな、って様子見に来たのよ」

どうも、昨日の相談であたしが抱え込んではいないかと心配してくれてるらしい。

ありがと、とあたしはお礼を言って笑顔を見せた。
ケイも笑った。…いつもよりぎこちない感じで。たぶん、イズルのことが心配で、余裕がないんだろうな、と思った。
前だって、ジアートとの戦いで倒れたときもすっごく気が気でなかったみたいだし。
あたしみたいに、ケイもイズルのこと弟みたいに思ってるのかもしれない。

…と、脱線しそうになった。それはとりあえずは置いておいて、用事を済まそう。
あたしが聞きたいことがある、と告げると、じゃあ私の部屋に、とケイは手招いてくれた。
それから、部屋に入って一緒にベッドに座った。
あたしはすぐに、とにもかくにも聞いてみよう、とアサギやスルガにぶつけた疑問をケイにもぶつけてみた。

「恋…ね」

ケイは何だか深く考えるようにしみじみとした感じの反応を見せた。
まるで自分がそれに思い悩んでいるかのような雰囲気だった。
そういえば、とあたしはその反応を見て突然に湧いてきた別の疑問を口にした。

ケイは、『好き』な人いるのら?

思えばこれまで、ずーっとずーっと、あたしは自分の話ばかりケイにしていたけれど、ケイはじゃあどうなんだろう?
ケイにも、アサギみたいにこっそり誰か『好き』な人がいたりするんだろうか。
あたしのふとした疑問に、ケイはちょっと遠くを見るような目をして、それから、

「……さあ」

はぐらかすように言った。
それは、他の人が聞けばどちらとも取れるような答えだった。

いるんだー。

あたしは、すぐに肯定だと断定した。
あたしの言葉に、ケイは目をぱちくりさせてこっちを向いた。

「どうしてそう思うの?」

だってー。ケイって嘘はつかないもん。いないならいないって、はっきりと言うのらー。

そう、目の前の彼女は、結構嘘が苦手で、質問に対してはぐらかすようなことを言うときは、だいたいそれが図星だということでもある。
記憶を消されてから、ずっと過ごしてきた女友達なのだ。そんな癖、とっくに分かっていた。

「…そ。タマキともまぁ、それなりに付き合い長いものね」

言われてみれば、なんて調子で言うと、ケイは大きく息を吸って、それから、瞳を閉じた。
自分の中の気持ちを初めて吐露するみたいに、少し緊張した雰囲気で、口を開いた。

「確かに、そうよ。…私、好きな人いるわ」

内緒にしておきたかったのに、とでも言うような感じで、観念したようにケイは答えた。

それを聞いて、あたしはたぶん目を輝かせただろう。
これまでそんな話なんか全然興味なさそうにしてたあのケイが、いったいどういう恋をしてるんだろうと俄然興味が湧いたのだ。

ねね、それって誰なのら? あたしの知ってる人? 年上? 年下? それとも同い年?

ぐいぐいと迫るあたしの視線から逃れるようにケイはそっぽを向いた。

「…教えてあげない」

誰にも言わないのらー!

「そうじゃなくて。タマキがもうちょっと大人になったら教えてあげる」

…ケイだって子供じゃん。

「まぁ、そうだけど。でも、私は少なくともタマキみたいに猪突猛進じゃないわよ」

むむ、としながらもあたしはすごすごと引き下がった。
どうもあんまり言いたくはないらしい。いったいどんな人なんだろう? とは相変わらず思ったけれど、さすがに遠慮しておいた。
それよりも、とあたしは元々の話題に戻ることにした。

じゃあさじゃあさ、ケイはどうしてその人を『好き』になったのら?

「どうして『好き』になったの、か」

そそ、気になるのらー。

何はともあれ、それが一番『好き』を知るために今聞きたいことだ。いったい何が、人に人を『好き』にさせるのだろう。
教えて教えてー、と引っ付くと、もう、くっつかないの、なんてケイは言って、あたしを引き剥がしてから、少し考えるような仕草をした。

「んー…そうね。まぁ、その、いろいろと理由というか、惹かれたところはあるけれど」

うんうん。

「そうね、一緒にがんばりたいって思わせてくれるところかしらね」

一緒に、がんばりたい?

繰り返して言うと、ケイはその人のことを思ったのか、穏やかな笑みを浮かべて、『好き』な人のことを語りだした。

「その人はね、自分の夢にまっすぐなの。それで、正直たぶん、私のことなんて見てもいないだろうけれど」

そう言ったケイの表情にはちょっとだけ、陰があった。でも、それも一瞬で、すぐに明るさが見えた。

「でも、私はそうやって夢を追うその人が羨ましくて、それで、憧れて。支えてあげたいって心の底から思ったの」

すっごく嬉しそうに、ケイは『好き』な人のことをどんどん語った。

自分の趣味にばかり熱中して、人の話に的外れなことを言って。
それでいろいろと言われてもすごく前向きで。そんな彼が、いろいろと前線に行くことに不安でいた自分を彼なりに励ましてくれたこと。
仲間のために、自分を危険にさらすのも厭わないような行動をするときもあったこと。
すごく天然ボケだけど、時折かっこいいと思える一面を見せてくれること。

いつもよりもずっと饒舌で、話をするのが苦手なケイっぽくないと思った。
それだけ、きっとその人のことを想ってるんだろうな、とも思った。
そうして話を聞かされているだけで、一緒になってあたしは楽しくなってきて、どんどん聞き入っていた。

ところが、急に止まることを知らなかったケイの声が止まった。
どうしたの? と伺うと、ケイはさっきまで楽しく話していたはずなのに急に沈んだような顔をしていた。

でもね、とケイは寂しそうに加えた。

「その人ね、大事な人が他にいるの」

え?

あたしが驚いたような顔をすると、ケイはそのことについてこう語った。

その女性は突然に現れたらしい。ずっとケイよりも大人びていて、美人で。ケイはよく知らないけれど、その人はケイの好きな人と仲がよかったらしい。
そして、その彼は大事な人のために今も一生懸命に頑張っているらしい。

「この間は二人でお食事して…いわゆるデートってやつね。……私、どんどん蚊帳の外に置いてかれちゃってるわ」

まるで自分では手の届かないとでも言うように羨むような声色で呟くと、ケイは部屋の照明を見上げた。
その瞳は揺れていて、とても悔しそうで、悲しい目だったようにあたしは感じた。

それから今度は俯くと、大きく息を吐いて、ケイは両手を膝に置いた。
小さく、ぽつりぽつりと続く言葉が漏れ聞こえてきた。

「……そんなこと思ってたら、今度は彼、入院しちゃったの。身体が悪いらしくて…だからって、私は、彼のために、何もできなくて」

その手が震えだして、目いっぱいに握られる。
細くなっていく声が、どんどん弱弱しくなっていった。

「そう、思うたびに。苦しくって、しょうがないの。その人には、やりたいことがたくさんあるはずなのに、わたしは…なにも…わた、し……っ」

途中で言葉が詰まって、ケイは黙ってしまった。
ぽたり、とケイの頬を伝って、一粒の雫が膝の上の手のひらに落ちた。
ケイは、泣いていた。

あたしは思わぬ光景にわたわた動揺してしまいそうになりながらも、とりあえずケイを抱きしめてみた。
人間は誰かしらのぬくもりを感じると、精神的に落ち着きを得るらしい、とどこかで読んだ。
とにかく、あたしなりにできることをするしかなかった。

「……ごめん」

もう大丈夫だから、と照れたように言うと、ケイはあたしから離れた。
どうやら、ずっと誰にも言わないで溜め込んでいたらしく、涙を流した後の瞳はすっきりしたように澄んでいて。
表情も、少し和らいでいた。

ほっとしてるうちに、沈黙が辺りを支配して、あたしは気まずく感じだした。
とにかく何か言わないと、と焦ってしまって、あたしは、とりあえずそのままの感想を口にした。

…『好き』って難しいのらー。

「…そうね。私も、正直よく分からないわ」

ケイは頷くと、でも、とも付けた。

「私は、彼が好き。それだけでとりあえずはいい、かな」

はっきりと告げたその顔には迷いがなくて、さっきまでの苦しそうな表情はどこへやら、という風だった。
あんなに辛そうだったのに、ケイはその人が『好き』であることに後悔はないようだった。

ううーん、とあたしは唸りを上げた。
相手に意識してもらえないのに、でも、それでもいいと言えるケイが、あたしにはよく分からなかった。
だってだって、『好き』になったんでしょ。だったら、やっぱり相手に求められたいもんじゃん。

思考に思考を重ねて、脳内でオーバーヒートを起こしかける。
すると、ケイは見かねたのか、助け舟を出すようにこう言った。

「いいんじゃない、慌てなくて」

……へ?

「『好き』になった理由なんて、告白した後でいいって。タマキ、いつかそう言ったでしょ?」

何とかして分かりたいと思ってたあたしに、ケイは無理をすることはないと言ってくれた。
『好き』ということは、そんな風に思い悩むようなことじゃない、とも彼女は言った。
よく分からないうちに、いつの間にかそういう風になってしまうのだ、と。
そして、フォローするようにこうも言った。

「人生、先は長いわ。タマキにだって、いつか分かる日が来るわよ、きっと」

きっと、なんて、ずいぶんとケイらしくもない言葉のチョイスだった。
あいまいな言い方はキライ、って言ってなかったっけ? 何ていうか、今のはまるで――

…なんかイズルみたいな言い方なのらー。

冗談めかして言うと、ケイは何でかちょっと微笑んでいた。
それから、あたしの頭に手を乗っけて、ぽんぽん、って撫でた。

「それまでは、いつものあなたのままでいてほしい。昨日も言ったでしょ? …そのままのタマキが、魅力的だって」

諭すような口調のケイに、あたしは頷く。
ケイがそう言うのなら、たぶんそうなんだろう。彼女はあたしのことを一番に理解してくれているのだから。

ケイはそんなあたしに満足したようにニコリと笑って、スケッチブックとペンを持って立ち上がった。
たぶんイズルにお見舞いの品としてあげるんだろう。

「じゃ、そろそろ目が覚めただろうし、私もう一度イズルのお見舞いに行ってくるわ。…タマキも、来る?」

…ううん。あたしはちょっと部屋を片付けてくるから。

「そう。それじゃ、タマキ」

うん。イズルによろしくー。

そうしてケイと別れて、あたしは自分の部屋に戻った。
散らばった本やら映像記録やらをしまいつつ、ケイと話したことについて考えていた。

ケイの気持ちは、あたしにはすごく不思議なものだった。好きな人に見てもらえないっていうのにそれでも好きだと彼女は言った。
大好きなその人に見てもらえないとしても、ケイはその人のことがとっても大事だし、いろいろしてあげたいんだって、とっても伝わった。
あたしには、そんな風に思う人が、いただろうか。

ダニールさま。ジークフリートさまに、ジュリアーノさま。
とりあえず、いいな、って思った人たちのことを思い浮かべた。
どういいんだー、って聞かれたら、あたしは。あたしは、ちゃんと答えられるだろうか。

ただ、外見の話をしてしまうだけかもしれない。
もちろん、それだって大事なんだけれど。

ケイみたいに、あんな、嬉しそうに大切な誰かのことを語れるのだろうか。
大事な人の苦しみをまるで自分のことのように感じて、涙を流すようなことが、あるのだろうか。
あたしには、何も分からない。もしかしたら、それがパトリックさんになったのかもしれない、とちょっとだけ思って、すぐにその思考を追い払った。
そんなの、ただの空想だ。ありえたかも、なんてことはただの仮想で、もう意味なんかないのだ。

もっと。あたしは思った。
もっと、誰かのことを知りたい。満たしたい、満たされたい。そんな気持ちにさせてくれる誰かに、出会いたいと思った。
ただかっこいいから、ってことじゃなくて、もっと、はっきりとした理由のある『好き』になれるような、誰かに。

でも、まぁ。あたしは自分のパイロットスーツを見つめた。
まずは戦いが終わらないと、そうやって『好き』を探しにも行けないことは間違いなかった。

だとしたら、あたしが今やるべきことは―――

あっさりと自分の結論を見つけると、あたしは気が晴れたように軽い足取りで部屋を出た。
たぶん、皆はイズルの病室にでもいるだろう。これからも頑張ろう、って皆と励ましあいたくなったのだ。

今はとりあえず、ウルガルに勝って。パトリックさんの遺してくれたモノのためにも、戦争なんて終わらせて。
それで、パトリックさんに負けないくらいにステキな人に、出会ってみせる。
きっとその頃には、自分なりの『好き』が見つかっていることだろう。

それから、ケイにもう一回聞いてみよう。ケイの好きな人って、誰? と。
それまでには、ケイもその人と結ばれてるといいな。
あたしにとって、ケイは大事な家族の一人だから。好きになった人と、幸せになってほしい。心から、あたしはそう思った。




戦いが終わった。ウルガルのゲートが壊れて、もうあの生き物みたいな見た目した敵はもう現れない。
そう聞いて、あたしは嬉しかった。
これで、ようやくあたしだけの『好き』を探すことができるって。

でも。帰艦してすぐにそんな気持ちにはなれなくなってしまった。

あたしたちチームラビッツのリーダー、イズル。
イズルは最後の戦いで無理をして、大怪我を負ってしまったのだ。

すぐに様子を見に行こうとしたら、イズルは病院のベッドどころか、
生命維持装置だかなんだかの機械のプールの中に入れられて、眉一つ動かさずに淡く緑に光る液体の中を漂っていた。

聞けば、外傷もひどければ、内側の器官も相当ダメージを負っているらしく、生きているのが奇跡なくらいだそうだ。
その知らせを聞くやいなや、ケイはものすごい勢いで髪を振り乱して、いっぱい泣き叫んでた。

居たたまれなくなったようにアサギが、その肩を抱いてやって、信じよう、とだけ言った。
すごく強張った顔をして、何かの感情を必死に押さえ込んでいるようだった。
アサギが一番辛いに違いない、と思った。たった一人の、弟なんだもん。

でも、そんな風に沈んでるヒマもなく。またあたしたちに出撃命令が出た。

戦いは、終わっていなかった。

地球にはあたしたちしか戦える人はいない。ずっとイズルの傍にいるわけにもいかなかった。
それに、傍に付いていたって、イズルを治してあげられるわけじゃないし。

何より、帰る場所がなくなっちゃったら、イズルだって起きたときに困るに違いなかった。

すぐに着替えて、また機体のところへと向かう。
ピット艦に向かう途中、あたしはもう一回だけ、とイズルのいる特別な病室へと入った。
暗く、照明が必要最低限に点されてるだけのそこにはやっぱり、彼女がいた。

「……タマキ」

イズルの眠る装置の、ガラスの蓋に手をかざして、見守るようにケイは立っていた。
出撃前に休むように言われていた間も、彼女はずっと、イズルのことを一人で見守っていたのだ。

…大丈夫?

控えめな声で聞くと、ケイは弱弱しく笑った。
その笑顔が、なんだか無理してるみたいで、あたしはちょっとだけ胸がチクッとした。

「大丈夫よ。イズルは、生きてるから。ちゃんと、また立ち上がって。それで、ヒーローになるなんて言って…また、マンガ、描い、て……」

ぽつぽつと搾り出すような言葉を続かせて、ケイの声は詰まった。
手の震えを抑えるように拳を握りしめて、顔が見えないくらいに俯いてしまった。
あたしは何も言えなくなって、ただ黙ってケイを見ていた。

いくらあたしでも、どういう心持でケイがここにいるのか、気付いていないわけがなかった。

ジアートとの戦いの最中の呼びかけ、爆発に巻き込まれて消えたイズルを見つけたときの喜びよう、イズルの怪我を知ったときの動揺ぶり。
ようやく、あたしにも分かったんだ。あたし、なんてにぶちんだったんだろう。ケイが大事にしたいって言ってた人のこと、今になって理解するなんて。

ずっと、あたしの近くにいたんだ。ケイの好きな人は。

だけど、それが分かったところで、あたしにはイズルを起こしてあげられない。
ケイのことを励ますのも、きっとイズルみたいにはできない。

でも、それでも。

「タマ、キ?」

あたしはケイに駆け寄ると、その細い身体を思い切り抱きしめた。頭を胸元に寄せて、ぎゅーって。
突然のことにケイは呆然とした様子であたしに身を寄せていた。
あたしはとにかく、とケイの頭に手のひらを乗っけて、ぽんぽん、って撫でた。
ケイにいつもしてもらってる、あたしの好きな所作だった。こうしてもらったときは、不思議とどんどんと落ち着いていったものだった。

分かってるのら。イズルなら、絶対…絶対、だいじょーぶだから。だから、泣くことなんか、ないのら。

特に考えもしないで、口から出て行こうとするままの言葉を繋いだ。
いい慰めの言葉なんか、出てこないのは分かってたから、思ったままでいくことにした。
そのほうが、あたしらしいし。

「…もう。これじゃタマキがお姉ちゃんね」

しばらくして、ケイが顔を上げてあたしを見上げた。
ここしばらくはずっと泣いていたせいで、目がすっかり赤く腫れ上がってた。
何とか笑おうとしたらしく、顔をくしゃくしゃに歪めると、ケイはもう一度あたしにもたれ掛かった。

ね、やっぱり、ケイは……。

すると、ケイはあたしの口に人差し指を置いて、その先を言わせないようにしてから離れた。
さっきと全然表情が違った。相変わらず目の周りはひどいことになってたけど、その瞳は輝いてて、気力の溢れるような強い目だと感じた。

「大丈夫よ。私、ちゃんと戦えるわ。それに――」

ケイはちらりとイズルのことを見てから、まっすぐにあたしの方に向き直った。

「――ヒーローとして活躍したら、イズルもたぶん羨ましがって、飛び起きちゃうから」

だから、頑張るわ。そう言って、ケイはニコリと笑った。さっきよりも、ずっと力強くて、頼りになる笑顔だった。まるで、イズルみたいな。
うんうん、とあたしは満足して頷いた。ケイが元気になってくれたなら、それでいいって、そう思えた。

がんばろ、ケイ! あたし、応援するから! 一緒にヒーローになるのら!

「うん。…ありがと、タマキ」

えへへー、とあたしは自分の中でもかなり満面の笑みを浮かべてた。
ケイが笑えば、あたしも嬉しい。
そういう風に感じるのもきっと『好き』の一つのおかげだ、と何となく確信した。

先に部屋を出たケイに続いて、あたしも病室を出た。
それから、こっそりとケイには気付かれないように部屋の方を向いて、あっかんべーをした。

まったく、イズルのばかあほおたんちん。
ケイが、イズルみたいな、にぶちんで、おばかで、意味わかんなくて、やっぱりおばかな人のこと、こんなにも大切に想ってくれてるのに。

起きたらケイに謝らせてやるのら。
それでそれで、どんなにイズルのことをケイは心配してたかさんざん言い聞かせて、少しはケイのこと意識するようにしてやろう。

あたしにとって、ケイも、イズルも、大事な家族で、大切な仲間。二人とも、幸せになってほしい。
二人がくっつくのがそれに繋がるのかわかんないけど。でも、あたしはどっちかって言えばケイの味方だもん。
それにそれに! イズルみたいな危なっかしいのには、ケイみたいに面倒見の良い人のが合ってるのらー。

勝手に頷いて、あたしはどんどん先を歩くケイの後ろ姿を急いで追いかけようとした。

イズルが起き上がるまでに、いーっぱい活躍して、悔しがらせてやろう。
それで、おんなじくらいケイも活躍させて、それをたっぷり聞かせて、ケイのことも褒めさせる。
そうしようそうしよう。あたしは決めると、勢い込んで一気に駆け出した。

――『好き』になるってなんだろう。

やっぱり、あたしにはよく分かんない。
知りたいとは思うけれど、あたしの『好き』を探しに行くのは、ザンネンなことにもうちょっと後になりそうだった。
まぁ、それもしょうがないか、って一旦諦めることにした。

代わりに、ケイの恋がうまくいきますように、と心から祈っておいた。
あたしにはまだ来ない分、深く深く。
いつかきっと、あたしにも『好き』が来る、その日まで。

おしまい。好き放題に勢いのまま書いてみました。
ご期待にそぐわなかったら申し訳ない。では。

どうも。また始めたいと思います。

仲良くしたい!

スターローズ――アサギの部屋

イズル「よし、皆揃ったね!」

アサギ「だから何で俺の部屋なんだよ…」

スルガ「細かいことは気にすんなって。じゃあ…」

タマキ「始めるのらーっ!」

イズル・スルガ・タマキ「「「第一回! アンジュと仲良くなろう会議ー!」」」ドンドンパフパフ

ケイ「……難しいんじゃないかしらね、それ」

イズル「ダメだよケイ諦めたら! これからはまた新しいチームでがんばるんだから!」

スルガ「そうだそうだ! あんなかわいい子を何もしないで放っておくわけにはいかねーだろ!」

タマキ「そうなのら! あんなかっこいい子を何もしないで放っておくわけにはいかないのらー!」

アサギ「…とりあえずまずは目的と意見をちゃんと一致させろよ」

イズル「う…と、とにかく。どうすればもっとアンジュと距離が近くなれるか考えてみよう!」

タマキ「はいっ! はーいっ!」ハイハイ

イズル「え、っと。じゃあタマキから」

タマキ「一緒に塩辛食べたらいいと思いまーす!」

スルガ「おめーじゃねーんだよ、おめーじゃ」フー

タマキ「むっ! じゃあスルガはなんなのら!」

スルガ「俺? そうだなぁ…やはりここは先輩らしく威厳さを見せるためにも
    アンジュに最新のGDFの装備について手取り足取り教えてやって、あわよくば個人的にも仲良く…」

アサギ「最後の方でホンネ出てるぞ」

ケイ「もう少しまともな意見はないのかしらね…」フー

イズル「ぼ、僕としてはまたマンガを持っていって感想を…」

ケイ「ダメよイズル! また何かの拍子で始まったら…」

イズル「で、でも。アンジュの感想、すごく参考になりそうというか、何と言うか」

アサギ「お前はお前で目的がおかしくなってるぞ…」

スルガ「んだよ! じゃあアサギには何かあるのかよー」

タマキ「そうなのらー! 人に文句ばっかり言うなら意見出すべきなのらー!」

アサギ「そうだな…まずは、この後朝の訓練するんだろ? そこに誘って一緒に訓練してみるってのはどうだ?」

イズル「な、なるほど…自然にアンジュを呼ぶ理由になるし、一緒に訓練してみれば、少しは距離も縮まるかも…」

スルガ「…まぁ、悪くねーじゃん」

タマキ「…塩辛ごはん一緒に食べた方が早いのらー」

ケイ「それはアンタだけだって…それで、誰が呼びに行くの?」

アサギ「そりゃ、リーダーはイズルだし、もっと言えば朝の訓練考えたのはイズルだしな」

イズル「え、僕?」

スルガ「ま、確かにそうなるわな」

タマキ「じゃ、イズルにけってーい!」

イズル「え、え」

ケイ「私も付いていきましょうか?」

アサギ「いや、ここは一人の方がいい。何人も行ったら、アンジュも急なことでびっくりしちまうかもしれないしな」

イズル「うーん…分かった。じゃあ、呼んでくるよ」タタッ




数時間後、アサギの部屋

イズル「…と、いうわけで」

スルガ「第一回、アンジュと仲良くしよう作戦…」

タマキ「反省会なのらー!」

アサギ「あからさまにテンション下げんなよ…」

スルガ「うるせー…はぁぁ…まさか、あんなに兵器に詳しいなんて」

タマキ「アンジュ、かっこよかったのらー」キラキラ

ケイ「…お菓子作りは全然だったけど」

イズル「あ、あはは…そ、そうかな?」

アサギ「まぁ、それは置いておいて…まさか、負けるなんてな」フー

タマキ「でもでも、アンジュすごかったのらー、頼りになるのらー」

イズル「確かに…すっごく頼もしいよね、アンジュ」

ケイ「問題はコミュニケーションかしらね…あの子、全然話とかさせてくれなかったじゃない」

スルガ「ケイが言うかね…」

ケイ「何か?」ニコリ

スルガ「…何でもー」アハハ…

アサギ「やっぱり、いきなり距離を縮めるってのは難しいんじゃないか?」

タマキ「むー、あたしは早く仲良くなりたいのらー」

ケイ「だからこそこつこつと、ってことね」

イズル「うーん…じゃあ、とりあえずもっと皆で積極的に話しかけるようにしようか。
    そしたら、アンジュだっていつの間にかたくさん話をするようになるかもしれないし」

タマキ「賛成なのらー! もっともっと、アンジュのこと知りたいのらー! だってアンジュは…」

スルガ「そうだな…よし、俺もまだまだ仲良くなるの諦めねーぞ! 何せアンジュは…」

タマキ・スルガ「「かっこいい(かわいい)し!」」

アサギ「だからどっちなんだよ…」フー



その後、様々なアプローチでアンジュに近付くラビッツでしたが、彼(彼女?)との壁がまだまだ大きく大きく立ちはだかったのでした。

以上。個人的にはアンジュちゃんは男の子だと思いたいこのごろ。
スギタ(CV杉田智一)のじわじわくる破壊力はなかなかだと思いました。ではまた。

どうも。久しぶりにまた始めたいと思います。

ときどき、急な夢を見ることがある。
俺が、誰かに抱かれて、とんとん、って背中を優しく叩かれて。
それで、眠る俺を起こさないように、小さめの声で、アタル、と呼んでくれる。

声の心地よさに安心感を俺は得ると、今度はその人がそこにいると確かめたくなって。抱き返したくなるんだ。
そのために手に力を入れようとして――そこで、目が覚める。

いつもいつも、変わり映えのしない夢だった。

「……」

偉そうなGDFの上官の指揮の下に行われた、強襲作戦の後。
戦艦ゴディニオンの、俺に与えられた部屋。
俺は一人、モデルガンの整備をしていた。
さっきまでは、艦の中にあるパイロット用のラウンジで仲間たちと一緒だったけれど、何だか一人になりたくて、自室に戻ってきた。

家族、か。
仲間たちに何となく打ち明けた夢の話を思う。
たぶん俺を育ててくれたんだろう、誰かのこと。
記憶を消されたはずの俺の、心のどこかに残る、面影。

最初のうちは、いったいどんな人たちが俺を育ててくれたんだろうか、と一人でよく考えていたこともあった。
でもすぐに、そんなことを考えていても、思い出せもしないことなんだから気にしてもしょうがない、ということに気付いて、やめてしまった。

もう最近はまったく気にしないようにしていた。
それが急に思い出されてしまったのは、どう考えても、さっきの作戦のせいだった。
仲間の一人であるタマキやイズルが、もう少しで死にかけてしまった、あの作戦の。

敵の弾が直撃してしまった仲間の姿に、俺の頭は『死』のイメージを連想してしまったんだ。
それで不安になって、つい思い出してしまったんだろう。

俺が死んじまったら、俺の中の記憶に残る、大切な誰かは何を思うんだろうか。
いや、俺が死んだこと自体、伝わりはしないか。

あんまり認めたくはないけれど、アサギが言っていた通りだ。
俺がいなくなったとしても、俺を育ててくれた人に俺がいなくなったことが伝わるとも思えない。
きっと、二度と会うこともないだろうし。忘れてしまった方が、戦いへの割り切りもできるというものだ。

そうだ、そのほうがいい。
実感がちょっとしか湧かない昔話なんか下手に気にするくらいなら、今に目を向けるべきだ。
気に入った兵器に囲まれながら、実戦でそれらを使いこなして敵を倒していく。
そういう自分を想像すれば、今の生活だって、全然悪くないもんだ。

そうだ、まったく悪くない――はずだった。

「…やっぱ、無理だ」

だー、と俺は大きく伸びをして、そのまま床に倒れこんだ。
それなりの勢いで倒れたために、ちょっと痛かった。
そんな痛みに構うことなく、俺は天井をぼうっと見つめた。
均一に降り注ぐ光が眩しくて、目を細めた。

忘れよう忘れよう、と念じるほどに、どんどん面影が鮮明に脳裏に流れてくる。
戦いとは無縁そうな、柔らかい瞳。きっと武器なんて手にしたこともないだろう、キレイな手。
それで、その手に縋る、幼い俺の姿。

全部、間違いようもない、事実の記憶だった。
ところどころ曖昧だけれど、それでも、大事な記憶だと感じていた。
忘れたくない。忘れるな。そんな声が、心の奥底の部分から聞こえてくるような気がした。

実際、忘れたら忘れたで、たぶん、俺はそのことを後悔するだろう。
理由は分からないけれど、とにかく、そう思った。

いつか。俺は瞳を閉じて、記憶の残滓を噛み締めるように集中する。
ありえないとは思うけれど、奇跡のような何かが起きて、どうせ居もしない神様が気まぐれを起こしてくれて。
家族、だった人たちに会うことができたら。
もしも――もう一度、アタル、と呼んでもらえるようなことがあるなら。

…なーんて、な。

「……ははっ」

くだらないこと考えちまった、と自分を笑って、俺は起き上がった。
世界は広い。どうせMJPの上の連中が俺に家族のことを教えてくれるわけはないし、そうなると自分で探してみるしかない。

いつか戦争が終わって、ちょっとは自由にできるかもしれないとして。
とても探し出せるわけがない。そんなこと、少し考えれば分かることだ。
……ホント、くだらない。

「…着いた、か」

艦内アナウンスが耳に入ってきた。
どうやらスターローズの方へと戻ってきたらしい。

…カレーでも、食いに行くか。
確か、明日までは自由行動だったはずだし。

気を取り直して、俺は部屋を出ると、艦とスターローズとの連絡口へと向かう。
うまいカレーでも食べれば、くだらない考えなんていったんはどこかに行ってしまうだろう。
まぁ、忘れられはしないから、いつかはまた頭の中に戻ってくるだろうけれど。

それでも、とりあえず目を逸らしたかった。
忘れられない思い出の断片に対して、どう向き合えばいいっていうんだろう。
答えの出し方の分からない疑問から、少しの間だけでも、逃げてしまいたくてたまらなくなった。

おしまい。これはまた後編を書きたいと思います。
では次をば。

甘いお菓子をもう一度

スターローズ――ケイの部屋

ケイ「……」ボー

ケイ(あれ、私のせいなのかしら…? イズルが、私のお菓子で倒れるなんて、これまでなかったのに…)

ケイ「私のお菓子、美味しくないのかな……」

ケイ「…でも! イズルだって、いつもと調子が違ったわけだし……」

ケイ「……私、何を必死に独り言してるのかしら」ハッ

ケイ(気になるなら、聞けば済むことじゃない。そうよ、ただ、イズルに…)




ケイ『あ、あの、イズル』

イズル『ん? 何?』

ケイ『あの、あのね、ちょっと、聞きたいことがあって…』

イズル『聞きたいこと?』

ケイ『う、うん。わ、私の、その、お菓子のことなんだけど…』

イズル『ケイのお菓子?』

ケイ『これは、その、正直に言ってほしいんだけど』

イズル『うん』

ケイ『…あの、美味しくない、のかしら?』

イズル『……』

ケイ『…イズル?』

イズル『…美味しくないよ』

ケイ『!』

イズル『前から言おうと思ってたんだけど、ケイのお菓子はひどいよ。僕、こないだ心肺停止を起こしたんだよ? 立派な兵器だよ』

ケイ『そ、そんな…だってあんなに私のお菓子食べてくれたじゃ…』

イズル『それはわざわざ作ったケイとお菓子の材料に悪いからだよ。食べたからって、美味しいなんて僕は一言も言ってないでしょ』

ケイ『そ、れは……』

イズル『…この際だし言うけれど、もうお菓子なんて作ってこないでね。僕も皆も、死にたくないんだ』

ケイ『! あ…あ……』

イズル『用は済んだ? じゃあね、ケイ』

ケイ『い、イズル! 待って! もっと私頑張るから! 美味しいって言ってもらえるお菓子、作れるようになるから!』

ケイ『待っ、て…お願い……』グスッ




ケイ「……」ハッ

ケイ「」ブンブン

ケイ(何を想像してるの私…イズルがこんなひどいこと、言うわけないじゃない。考えすぎよ…)

ケイ「だいたい、イズルが…」

イズル「え、僕?」

ケイ「ええ、そうよ。あなたが…」

ケイ「」

イズル「?」

ケイ「…っ!?」ズサッ

イズル「!?」ズサッ

ケイ「い、イズル!? い、いつから私の部屋に…」アワアワ

イズル「や、さっきからノックしても返事なかったから…」

ケイ「そ、そう…ごめんなさい。考え事してて…」

イズル「あはは、ケイが考え事で固まるなんて珍しいね」

ケイ「そ、それで、どうしたの?」

イズル「うん。アンジュの歓迎会の準備、こっちはできたから、ケイは、その、どうかって、皆が見て来いって言うから」アハハ…

ケイ「え、あ、そうね。大丈夫よ、その、できてるわ」

青と紫のお菓子たち「」ハーイ

イズル「そ、そっか。あの、ケイ」

ケイ「何?」

イズル「その、実は、歓迎会の食事、ちょっと量がすごくてさ、ケイのお菓子置けるスペースがなくなっちゃったというか…」アハハ…

ケイ「……」ウツムキ

イズル「あ、あれ? ケイ?」

ケイ「ねぇ、イズル」

イズル「? うん」

ケイ「…私のお菓子、美味しくないのかな?」

イズル「え」

ケイ「だって、それ、どうせ皆に頼まれたんでしょう? 私のお菓子を持ってこさせるな、って」

イズル「いや、それは、その…」

ケイ「いいわよ、素直に言って? 私のお菓子で心肺停止なんか起こしてしまったものね? そんな風に思われるのも当然だわ」

ケイ「私、ずっと皆の、イズルの優しさに気付かなかったわ。ホントは美味しくもないお菓子に付き合わされて…」

ケイ「ひどいわよね…」フフッ

イズル「……」

ケイ「…イズル?」

イズル「美味しくない、ってことはないよ」ガッ

ケイ「あ、イズル!?」

イズル「」モグモグ

ケイ「や、やめてよ! 無理に食べるなんてことしなくても…」

イズル「」ウーン…

イズル「」モグモグ

ケイ「やだ、やめてってば…」オロオロ

イズル「」ゴックン

イズル「ええっと…やっぱり、ものすごく甘いね」ニコリ

ケイ「イズル……」

イズル「あのさ、ケイ。ケイのお菓子のこと、美味しくない、なんて僕一回でも言ったことある?」

ケイ「…ないわ。でも、それはイズルが優しいから」

イズル「そんなこと関係ないよ。……えっと、うまく言えないんだけどさ、ケイのお菓子は、この味だからいいんじゃないかな?」

ケイ「え?」

イズル「だってさ、アンジュの作るようなお菓子も、その、僕はすごいと思うけど、でも、あの味は他の人にも作れるし」

イズル「ケイのお菓子は、その、すっごく甘いとは思うけど、でも、ケイらしさがあるっていうか…ええっと」

ケイ「……」

イズル「とにかく、ケイのお菓子が、この味以外のものに変わったら――いやだなぁ、って僕は思うよ……たぶん」

ケイ「イズル…」

イズル「…あ、ごめん。全部、食べちゃったね」アハハ

ケイ「いいわ。また、いくらでも作れるもの」グスッ

イズル「え? け、ケイ? 大丈夫? どこか痛むの?」

ケイ「ち、違うの。大丈夫、だから」ゴシゴシ

イズル「ホントに? 大丈夫なの?」

ケイ「ええ、気にしないで。……ね、イズル」

イズル「うん」

ケイ「私、たぶんまた、お菓子作るから」

イズル「うん」

ケイ「そのとき、一緒に食べてくれる?」

イズル「え? ………ええっと…まぁ、ケイがいいなら」

ケイ「…ありがとう」

イズル「うん。……あ、そうだ、アンジュの歓迎会」

ケイ「あ、そうだったわね。ごめんなさい、行きましょう?」

イズル「うん。行こう行こう」スタスタ

ケイ「……」

ケイ「…ありがとう、イズル」ボソッ

イズル「え?」フリカエリ

ケイ「何でもないわ。急がないと、遅れるわよ」タタッ

イズル「あ、ケイ! 走ったら危ないと思うけど…行っちゃった」

イズル「珍しいなぁ。そんなに歓迎会楽しみだったのかな?」ウーン




ケイ(そのときの私は、嬉しさで心が満たされてしまって、つい、らしくもなく走っていた)

ケイ(おそらく顔もあまり人には――特にイズルには見せたくないと思えるほどに紅潮している自信があった)

ケイ(それだけ、彼の言ってくれたことは私に響いて、彼への気持ちをいっそう高めてくれた、ということでもある)

ケイ(私だけの味をもっと極めたい、と思った。イズルがそれでいいと言ってくれた、私の味を)

ケイ(それで、またいつか、彼と二人で一緒にもっと完成度の上がった私のお菓子を食べて)

ケイ(彼が私に笑ってくれればいいな、と。そんなことを思った)

おしまい。思うがままに書いてみました。
イズルはどんな味でもおいしいよと言ってくれる優しい子だと思いたい。
では次。

一年に一度だけの

スターローズ――格納庫

ダン「お疲れ、イズル」

イズル「お疲れさまです」

マユ「やー、今日も派手にやったねー」アハハ

イズル「す、すみません…」

デガワ「いいんだよ 勝ったんだから 気にすんな」

ダン「そうそう、俺たちの仕事がなくなっても困るしな」ハハハ

マユ「それもそうよねー…ってそうだ、いーちゃん」

イズル「は、はい」

マユ「来週でおやっさんが誕生日迎えるんだけどさ、いーちゃんも誕生日会に来ない?」

イズル「誕生日会…ですか?」

ダン「ああ、毎年恒例なんだ。いつもはピットクルー連中だけでやるんだけど…」

デガワ「今年はゴディニオンに配属されて一気に身内が増えたし、他の部署の連中にも声を掛けてるんだよ」

マユ「で、パイロットのイズルっちたちにも、ね」

イズル「なるほど…誕生日、かぁ」

ダン「? どうかしたか?」

イズル「や、その、僕、これまで誕生日なんて祝ってもらった覚えがなくて…」アハハ

マユ「え!? そうなの?」

イズル「ええと、確かに生まれた日はあるんですけど。
    でも、学園に入ってからは、祝ってくれるような人もいなかったし…昔も、どうかなんて覚えてないですから」

ダン「そう、か……そうだよな」

イズル「そんな僕が、人の誕生日のお祝いなんて、ちゃんとできるかな、って」ハハ

デガワ「何言ってるんだ。誰かを祝うことに経験なんて関係ないぞ」

イズル「え?」

ダン「そうそう、大事なのはその人におめでとうって言う気持ちだ気持ち」

イズル「気持ち…」

マユ「ま、そういうことだから、来週までに準備しておいてね! チームの子たちといろいろと相談してさ!」

イズル「は、はい。できるだけ、やってみます!」




アサギの部屋

イズル「って、ことになったんだけど…」アハハ

ケイ「…同じことをイリーナたちにも言われたわ」フー

アサギ「うちもだ」フー

スルガ「俺も…」ウヘー

タマキ「あたし言われなかったのらー! 何でーっ!?」プンプン

アサギ「だいたい、誕生日なんて俺たちには無縁だってのに」

ケイ「それはそうよね…皆、『完成』する日は同じだもの。あんまり生まれた日に思うこともないし…」

イズル「ケイ…」

ケイ「あ…ごめんなさい」

イズル(…そもそも、僕らは、いわゆる遺伝子操作で生まれた人間だ。科学的に調整されて生まれたわけで、誕生日なんて皆一緒だった)

イズル(だから、まぁ、なおさら誕生日なんてこだわりがないわけで。お祝いなんて、どうすればいいのかまったく心当たりなんてなかった)

スルガ「…へっ、誕生日祝いなんざ何すりゃいいんだろうな?」

タマキ「へ? ケーキ食べるんでしょ? でっかいの」

ケイ「ケーキ…」

アサギ「あ、ああ、でも、確か、あれだ、うちのクルーの人たちがケーキは買っておくって言ってたからな」

ケイ「そう…」シュン

イズル「あと、あれだよね。お誕生日の歌」

アサギ「子供かよ…相手は大人の女性だろうが」

スルガ「まー確かになー、あの人、まさしく大人って感じだもんなー」

タマキ「あとあと、あれなのらー! プレゼント!」

ケイ「ああ、確かに。そういうのもあるわね」

イズル「プレゼントかぁ…僕だったら、画材がいいな」

タマキ「あたし塩辛! 一年分くらい!」

スルガ「お前の一年分どれくらいだよ…俺は、そうだなーやっぱ最近の流行を見るにGDFの…」ペラペラ

ケイ「私は…そうね、ローズ堂の食べ放題券とか。アサギは?」

アサギ「…いやいや、間違えてるだろ。お前らのほしい物を渡してどうする」

スルガ「んだよ乗ってこいよー、つまんねーやつ」

アサギ「何とでも言え…」

スルガ「胃弱、神経質、頑固者…」ヤーイヤーイ

アサギ「そこまで言えなんて言ってないだろうが!」

イズル「でも、プレゼントかぁ。…整備長がもらって喜ぶものってなんだろう?」

タマキ「お酒ー?」

スルガ「他の人と被るんじゃねーの?」

ケイ「そうなるとそれ以外ね…誰か、整備長と仲のいい人に聞くのはどうかしら?」

アサギ「ああ、それがいいかもな。俺たち、プライベートの整備長のことなんて全然知らないし」

イズル「整備長と仲良し…じゃあ」




食堂

リン「それで、私のところに来た、と」

イズル「はい。艦長なら何かいい答えをくれるかな、と」

リン「なるほどねぇ…そうね……レイカは、とりあえずお酒が好きね」

ケイ「はぁ…なるほど」

タマキ「それは分かってるのらー」

アサギ「おいタマキ」

リン「う…そうよね、それもそうよね」

リン「」ウーン

リン「」ウー…ン

スルガ「…もしかして、思いつかないっすか?」

ケイ「」ゲシッ

スルガ「うげ!?」ドサッ

ケイ「すみません」

リン「い、いえ…気にしないで。ごめんなさい、レイカ、いっつもお酒ばっかりで…あ、あと思いつくとしたら機械関係くらいなものかしらね」フーム

イズル「な、なるほど…」メモメモ

アサギ「すみません、急に」

リン「いえ、こっちこそ大した情報もなくてごめんなさいね?」

リン「…あんまり悩まない方がいいわ。ほら、プレゼントなんて、気持ちがあればいいんだから」

イズル「気持ち…とりあえず、参考にしてみます。ありがとうございました」ペコリ

ラビッツ「」ペコリ




アサギの部屋

スルガ「結局、大して情報集まらなかったなー」

タマキ「皆してお酒しか言わないのらー」

アサギ「…まぁ、サイオンジ整備長だしな」

ケイ「でも、スターローズの法律じゃ私たちにお酒は買えないわよ」

スルガ「となると、別のモノかー?」

タマキ「プレゼントって何がいいのらー…」グデー

アサギ「……」フム

アサギ「いっそ、気持ちがこもれば何でもいいのかもしれないな」

イズル「え?」

アサギ「艦長も言ってたろ? 気持ちがあれば十分だ、って。
    だったら、整備長に精一杯、自分なりの感謝が伝わるようなモノを用意すればいいんじゃないか」

ケイ「そうね…下手に整備長の好きなものなんて考えて、外してしまっても何だかよくないし」

タマキ「じゃ、あたし塩辛買ってくるー」ダッ

スルガ「行動はえー…感謝ねぇ。じゃ、俺もテキトウに」

アサギ「お前らはどうする?」

ケイ「そうね…私はじゃあ軽く食べれるお菓子でも…」

アサギ「(おい、何とか止めろよ)」

イズル「(ええ?)」

アサギ「(リーダーだろ? さすがに整備長の祝いの席を甘ったるい思い出に変えるわけにもいかないし)」

イズル「(そう言われても…どうすればいいの?)」

アサギ「あ、ああ、そうだ、イズル。お前は何かあるのか?」

イズル「え? ええと、まぁ、何も思いつかないけれど…」

アサギ「リーダーのお前がそんなんでどうすんだよ。な、なぁケイ」

ケイ「え? まぁ、そうね。でも、イズルに女の人向けのプレゼントなんて、無理じゃないかしら?」

アサギ「それもそうだな…イズル一人じゃ、無理だろうな」チラッチラッ

イズル「?」

イズル(……!)ピーン

イズル「あ、あの、ケイ」

ケイ「何?」

イズル「僕のプレゼント選び手伝ってくれないかな?」

ケイ「え? でも私、お菓子作りが…」

イズル「ごめん、でも僕一人じゃ、その、不安というか…」ハハ

ケイ「……そう、ね。それもそうよね。いいわ、手伝う」

イズル「あ、ありがとう! じゃあ、行ってくるね、アサギ」

アサギ「ああ、『ギリギリまで』よく考えてこいよ」

イズル「う、うん。『当日まで』ちゃんと考えておくよ」

ケイ「…二人とも、何か言い方が変よ?」

アサギ「そ、そんなことないぞ? ほら、俺も準備するから、早く行ってこいって」

イズル「そ、そうだね。ほら、行こ」ギュッ

ケイ「え、あ、イズル、手、手が…」カァ

タタタ…

アサギ「」フー

アサギ「とりあえず、地獄は免れたかな…」イガー




誕生日当日、食堂

レイカ「ねー、いつまで目隠しするのよー、リンリーン、ルーラー?」フラフラ

リン「いいから、ほら、こっちよ」

ルーラ「そそ、歩いた歩いた」

レイカ「そう言われても、これすごい歩きづらいんだけどー」フラフラ

リン「…さ、もういいわよ、目隠し取って」

レイカ「やっとー? どれどれ…」

パーンッ!

レイカ「わっ、何?」

マユ「おやっさん!」

ゴディニオンクルー一同「誕生日、おめでとう(ございます)!」

レイカ「へ? え? ………あ、そっか、誕生日!」

リン「忘れてたのね…」フー

ルーラ「あはは、このリアクションも毎年の恒例よね」

マユ「もーおやっさんてばー」アハハ

ペコ「ささ、どうぞどうぞ。こちらのお席に」

レイカ「ありがとー…にしても、今年は人が多いわねー」

ジュリアーノ「他の部署の人間も誘われましたからね、たとえば我々のような」

レイカ「あらジュリアーノにジークフリート」

ジークフリート「どうも。これは我々からのささやかなプレゼントです」

レイカ「ありがとー。…へぇ、見たことないワインね」

ジュリアーノ「どちらかというと日本酒を好まれると聞いたので、たまにはこういうのもいかがです?」

レイカ「なるほどいいわねー、後で楽しませてもらうわ」

ジュリアーノ「せっかくです、よければこの後二人で…」

ジークフリート「めでたい席でナンパなどするんじゃない、この馬鹿者」ハァ

ジュリアーノ「何を言ってるんだ、俺はただこいつのいい飲み方を整備長にお教えしようとしてるだけだぞ? まったく、これだから堅物は…」ヤレヤレ

レイカ「あっはっは、相変わらずねー。せっかくだし、後で飲みましょ? 大人組皆で」

ジュリアーノ「おや、ザンネン。まぁ、それもいいでしょう」

レイカ「うんうん。…っと、リンリーン」

リン「私…と彼女たちからはこれ」

イリーナ「おめでとうございます、おやっさん」

レイカ「あら、イリーナたちと共同なの? どれどれ…あら、香水?」

イリーナ「スズカゼ艦長といろいろ相談したんですよー」

リン「…あなたもいい年なんだから、少しはこういう色気のある物を……」

レイカ「それリンリンに言われたくないんだけどー」

イズル「あ、あの、整備長」

レイカ「お、ウサギちゃんたちー。あなたたちも何か用意してくれてるのー?」フリフリ

イズル「はい、ええと…」ゴソゴソ

タマキ「じゃ、あたしからー! これ、あたしのおすすめの塩辛! 白飯と一緒に食べてほしいのらー」ニコニコ

レイカ「おー、ありがとー。つまみにいいのよねーこういうのも」ナデナデ

タマキ「えへへー」

スルガ「次俺! GDFでも最新のハイモブのテスト運用の映像データと…」

レイカ「あ、それ持ってる」

スルガ「…と思って、俺おすすめの超うまいレトルトカレーです! どうぞ」

レイカ「へー…。スルガくんらしいチョイスねー、ありがと」ニコリ

スルガ「…あのう、俺もナデナデしてもらえないっすか」

レイカ「あら、しょうがないわねー」

スルガ「やっぱしてもらねーのか…って、え?」

レイカ「ほい、おいでおいで」テマネキ

スルガ「え、え?」

レイカ「はい」ナデナデ

スルガ「」

レイカ「ありゃ、放心状態」

アサギ「そいつは放っておいてください。…おめでとうございます」

レイカ「お、あんがと、アサギくん。…これは?」

アサギ「アロマオイルです。
    メカニックの方々はあまり睡眠時間も取れないとのことでしたので、少しの睡眠時間でも絶大な安眠効果をもたらせるものを、と」

レイカ「へえー。ありがとうアサギくん、さっそく使わせてもらうわ、これ。さすが気配り大王ね」ニコリ

アサギ「いえ…それと、気配り大王はやめてください」

レイカ「あっはっは謙遜しちゃってー。アンナがホメてたわよーアサギはいいやつだーって」

アサギ「はぁ…そうですか」ヤレヤレ

イズル「えっと、おめでとうございます、整備長」

ケイ「おめでとうございます」

レイカ「お、イズルくんにケイちゃん」

イズル「これ、僕らからのプレゼントです」

レイカ「へー、何、二人で選んだのー? やるじゃないケイちゃーん」ニヤニヤ

イズル「?」

ケイ「い、イズルが女性へのプレゼントが分からないからって、そう言ってたから…そう、ただの手伝いですから!」

レイカ「もー、何をそんなに否定するんだか」ケラケラ

ケイ「…」ムー

レイカ「さ、何かな何かなーっと…お?」

イズル「整備長の作業着、ところどころボロボロに見えたものですから」

イズル「最初は女性向けに、っていろいろと見てみたんですけど、やっぱり、整備長らしさはこれかな、って」

レイカ「なるほどねー、ありがと。ここ最近は買い物に行く暇もなかったし、困ってたのよー」

イズル「喜んでもらえたならよかったです」ニコニコ

レイカ「うんうん、あんがとねー、ウサギちゃんたち」ニコリ




翌日、アサギの部屋

タマキ「昨日はすっごく楽しかったのらー」ニコニコ

スルガ「いやー、誕生日ってのもおもしろそうなもんだったなー」

イズル「僕、テレビとか以外であんなに写真撮ったの初めてだよ」ニコニコ

ケイ「今度はちゃんと私が誕生日ケーキ焼きたいわね」

アサギ「なぁ、もう聞くのも馬鹿馬鹿しいとは思うけどさ、何で俺の部屋に来るんだ…」ハァ

タマキ「また誰か誕生日迎えないかなー」

イズル「うーん、艦長とか?」

ケイ「艦長はまだまだ先だそうよ」

スルガ「…っつーか、俺の誕生日、クルーの連中にすっげえ聞かれたんだけどよー」

アサギ「俺の話を聞けよ……はぁ、俺もそういえば聞かれたな」

イズル「あ、僕も」

ケイ「…私も」

タマキ「だから何であたしは聞かれないのらー!」ウガー

スルガ「祝ってもらえんのかね、俺たち」

イズル「…たぶん」

タマキ「だとしたら嬉しいのらー! 塩辛いっぱい食べれるのらー!」

ケイ「もしやるんだったら、今度こそ私がケーキを…!」

アサギ「い、いやケイ、俺たち祝われる側だからこっちで準備しちゃおかしいだろ?」

イズル「あ、そっか。それもそうだよね」

ケイ「む…確かに」

スルガ「うーん…あの筋肉連中に祝われるのはともかく、整備長とか艦長に祝ってもらえるってのは…うん、悪くねーなー」ヘヘ

タマキ「スルガは祝ってもらえるだけいいのらー。…絶対あの三兄弟祝ってくれないのらー」

ケイ「そんなことないでしょ…なんだかんだ、タマキのこと助けてくれたし、きっと祝ってくれるわよ」

タマキ「そーかなぁ…」

イズル「大丈夫だよ、たぶん。…あ、そうだ! なんなら、僕がお祝いするよ」

アサギ「おいおい…お前も祝われる立場だろうが」

スルガ「お、ならいっそ、皆でそれぞれにプレゼント用意すんのもいいんじゃねーの?」

ケイ「それぞれに…」チラッ

イズル「なるほど! そういうのもいいかもね!」

アサギ「…まぁ、悪くないかもな」

タマキ「誕生日っていろいろあっておもしろいのらー。こんなならもっと早くから祝っとけばよかったー」

アサギ「…誕生日、か」

イズル「僕たち、全然縁なんかなかったことだけど、誕生日っていいものだね」ニコニコ

アサギ「まぁ、そうかもな」

タマキ「あたし、今のうちにもらったら嬉しいもの皆に教えてくるー!」タタッ

スルガ「今のうちか…それもそうだな! よし、俺も!」タタッ

ケイ「気が早すぎでしょうが…」ハァ

イズル「あ、あはは…」

アサギ「…笑ってる場合か、迷惑かける前に止めに行くぞ」フー



その後、自分たちの誕生日を迎えるまでに、様々な人たちの誕生日祝いを経験するラビッツでありましたが、それはまた別のお話。

おしまい。ちーらび誕生日イベントとか公式でやったらすごそう。
映画の前売り券も発売しましたが、保護者の方々はもうシカーラされたことでしょうか。映画までとうとう二ヶ月近くです。楽しみですね。
では、また。何かネタふりでもあればまたどうぞ。

どうも。二週間以上も空いてしまいましたが、久しぶりに始めたいと思います。

危険の多い任務だと、聞かされたときに。
何となく、覚悟はできていた。もちろん、ちゃんと戻ってくるつもりではあった。
しかし、思ったことが必ずそうなるとは限らないのが世の常で。
だから、そのときが来たら、一人は絶対に生き残らせよう、ともこっそりと決めていた。
……まさか、それが裏目に出るなんて、きっと、私もリーダーも考えてはいなかったけれど。

「……」

私は一人、自分の居場所であった格納庫へと来ていた。
ハンガーには、唯一私の機体が四肢をもがれ、無残な姿でいた。
幸いなことに私の機体であるライノスは、アッシュのような専用機ではないから、修理もそう難しいものではなく、三日もあれば完全に戻るそうだった。
…戻ったところで、私が操縦できるかは別として。

「…まったく、ひどい壊され方をしたものだ」

誰か他にいるわけでもないのに、私はまるで話しかけるように呟いた。
普段なら、チームの仲間が何事か返してくれるが、あいにくと彼らはもういない。

習慣みたいなものだな、と私は苦笑いしながら機体の前で床に座り込んだ。
それから、もう何も掛かっていない、二つぽっかりと空いたハンガーを見上げた。
そうして、虚空に向かって誰かいるかのように私は話を続けた。

「そうそう、貴様の新作とやらは確かに受け取っておいたぞ」

任務に出る前に、私の仲間が注文していたらしい、この戦時中での唯一無二といってもいい大人向けの娯楽の一つ。
ザンネンなことに注文した人間がいなくなってしまったので、代わりに受け取ったのだ。
まったくもって力の抜ける限りだが、それが彼の遺言でもあったのだ。
彼らしい、ガッカリな遺言だった。

「棺に入れて送っておいてやったから、せいぜい向こうで楽しめ。…まぁ、再生機器があるのかは知らんが」

言っていて何だかどうしようもないな、と感じて私はその続きを言うのを止めた。
こんなにガッカリな追悼などあったものか、と思ってしまったのだ。
もう少しマジメな話題を見つけるとしよう。そう、たとえば――

「…そうだ、彼女に、渡したぞ。お前のプレゼント」

もう一つあるハンガーの方を向いて、私はガッカリでも何でもない話題を出した。
任務に出る前に、もう一人の仲間――未来のある、大切な後輩だった――が、自分の好いた相手へと手渡そう、と取り寄せていた物。

任務で移動中のときも、通信をオープンにしていたのを忘れたのか、
彼が何度も何度も意中の相手へと贈り物を渡す際の状況をシミュレートしていたのをよく覚えている。

「喜んでくれたぞ。お前に礼を述べていた」

ふ、と笑みを零しながら、私は先ほどのことを思い返す。
贈り物。彼女の好物、とどこからか情報を仕入れてきたのか分からないが、それは海産物の塩漬けの高級品だった。

何とも女性への贈り物としてはどうなのだ、とも少しだけ思ったが。
少なくとも、彼女にとっては誠意のある物として、受け取ってもらえたようだった。
喜んでもらえたのなら、それでいい。彼女の満面の笑みを見て、そう思った。

それから、私はしばらく黙り込んだ。

一気に辺りを静寂が支配した。
私以外に喋る人間がいないのだ。当然のことだった。

それを改めて確認すると、私は下を向いた。
瞳を閉じて、孤独な思考の海へと向かう。いろいろと、考えたいことがあった。
そう、たとえば――

「……なぁ」

私はまた、語りかけるように少しだけ大きな声を上げた。
どうせ近くには誰もいない。聞かれたところで特に問題もあるまい。

「これからこのチームはどうなるんだろうな?」

何となく、自分の今後のことを考えていた。
怪我は思ったよりはひどくない。ライノスも早めに直ることだろう。
そうしたら、どうなる?

もうチームの仲間はいない。チームではなく、もはや私一人の個人でしかない。
となれば、チームドーベルマンはここで解散だろうか。
解散して、新しいどこか別のチームへと私は移ることになるんだろうか。

それとも、パイロットを引退して、教官にでもなるのかもしれない。
育てる側が不足している、といつか上官のアマネ大佐にも聞いた。
指導する人間も大切になることだろう。いつか、私の後輩チームのような人間が新しく必要になるときだってある。
しかし――

「このままでは終われない、よな」

確かな闘志を胸中の奥底に感じて、私は立ち上がった。
そうだ、まだ終われない。終わるわけにはいかない。
後輩たちに道を託してそのまま離脱など、先を行った仲間たちに立つ瀬がない。
自分はまだ、ここにいるのだから。

「私はお前のようにはなれない」

もう一度、リーダー機のあった方へと視線を向け、きっぱりと告げた。
私はあいつとは違う。仲間のために、最後まで諦めずに戦えるかどうかは分からない。
しかし――と私は続けた。



「戦うよ。まだまだ、番犬(ドーベルマン)は死んでいないからな」



はっきりと宣言すると、私は格納庫の出口へと向かう。
とりあえず、怪我を早いうちに治して、それから、チーム名の変更をしておくとしよう。
もう、チームドーベルマンは存在しない。これからは、ドーベルマン・ツーだ。
新しく生まれ変わる、私のチーム。これからも存在し続ける、私『たち』の居場所。

私は、戦う。私の守りたい人と、仲間の守りたかった世界のためにも。
それと、愛すべき後輩たち。成長してもまだまだ子ウサギは子ウサギだ。
あいつの代わりに、彼らがヒーローとなるところを見守ればならない。

決意を新たに、私は歩みだした。
戦いは終わらない。守るべき世界のために、止まるわけにはいかない。
思いは託された。私一人では、大変な道になるかもしれない。

それでも、託された思いが共にある限り。
私の心は、ひとつじゃない。そう、信じている。

おしまい。ランディは間違いようもなくヒーローです。
では次を。

緊急出撃、ということでイズルとの会食が強制的に終わったその後。
スターローズの中で、私は一人、MJPから与えられた自室の窓に佇んでいました。

とうとう地球まで攻めてきたクレインをどうにか撃破し、一度は地球も落ち着いたそうですが、
周りは慌しいようで、ダニールもどこかへと行ってしまいました。

戦いの跡が残る艦隊の見える宇宙を眺めるのを止めると、ふと、私は後ろを見やりました。
そこには、元々部屋に用意されていた小さなイスが二つ、それとダニールに言って用意してもらった丸テーブルがイス二つに挟まれて置かれています。
その上にあるモノに、私の視線は注がれていました。

イズルとの会食、そのときに彼の付き添いで来ていたアサギが作り直してくれた食べ物でした。
後でよろしければ、と彼らのマネージャーさん、という方が包んで持たせてくれたのです。
成功例を私は知らなかったので、何とも言えませんが、キレイな丸型なのだな、と思いました。

名前は確か、お好み焼き、というそうです。
私は食文化なんてまったく知らなかったので、正直なところ、その食べ物が不思議で仕方がありませんでした。
ウルガルにも、確かに食事の概念は存在しますが、それはあくまでも儀礼のためのもので、こうした栄養補給法は珍しいことだったのです。
いつもいつも、驚きと戸惑い、あるいは新しい感動が私を取り巻く今の生活は、とてもとても愛おしく、貴重な体験だと実感するばかりです。

個人的にはこんな状況下でなければ、ずっとこうした文化に触れていたいものですが、そうもいきません。
今回の戦いで、とうとう地球へとウルガル側の降下を許してしまったのです。
それはつまり、少しずつ彼らの基地が地球へと近付いているということで。
……あまりもう、地球には時間が残されていない、ということでもあります。

どんどんと悪化していく状況を思い、私はまた窓の方を向きました。
もはや、手段は選べないのかもしれません。
これまでは舞台裏で技術を提供するだけでしたが、私にも力を使わねばならない時が近付いているように感じます。

ただ守られているだけではなく。私もまた、守りたい者のために戦いたい。
ここまで付いてきてくれたダニール、私の遺伝子を受け継ぐとある少年、この美しい星に暮らす多くの人々。それに――

「――テオーリア様」

「…シモン」

ドアの排気音と共に、聞き慣れた杖の音と声がして、私は振り向きました。そこにはやはり、彼がいました。
シモン・ガトゥ。ウルガルからの亡命者である私とダニールを保護してくれている、MJPの司令官です。
私にとって、地球でできた初めての友人であり、大切な人でもあります。

部屋に入ってくる彼に向かって、私は微笑みかけて、それから、今回の地球侵攻のことを話しました。

「どうにか、守れましたね」

「はい…しかし、この状況が続くようなら次は分かりません」

「そう、ですね…」

まったく楽観できない状況に、私は目を伏せました。
こうしている間にも、ウルガルは次の侵攻を考え、準備しているはずです。
それに対して、こちらの防衛が間に合うのか。明日のことだって分かりません。
すると、シモンは私の様子を察してか、さらに続けました。

「――しかし、問題ありません。我々にはまだ、希望が残っているのですから」

それは、諦めのない強い言葉でした。
まるで、そう。『ヒーロー』のような――

「…ふふっ、そうですよね。まだ、イズルたちがいます」

彼の言葉に、少しだけ面影を感じて、私は小さく笑いました。
シモンは私の笑みの意味が伝わっていないのか、少しだけ不思議そうにしていました。

ちょっとだけ気にするそぶりも見せましたが、そう気にすることもない、と判断したのか、彼は自分の伝えたかったらしいことを切り出しました。

「……またご相談させていただくこともあるでしょう」

そのときはご協力を、と加えて、シモンは部屋の出口へと向かいました。
彼はMJPのトップです。多忙の身であるのでしょう。そんな中でも私のところへと直接訪問してくれているのです。
嬉しいことだと私は思っていました。しかし、少しだけわがままもありました。
彼ともう少しだけ、話をしたい、と。

何か彼を引き止めるような材料はないものか、と私は思考しました。
部屋のテーブルにあったモノを見て、すぐに思いつきました。

「シモン」

私が声を掛けると、部屋を出ようと背を向けた彼の動きが止まりました。
何事かと振り向いた彼に、私は思い立ったことを、笑顔で告げました。

「少し、食事にしませんか?」

「……食事、ですか」

私の言葉に、彼は少しだけ――付き合いのある人間にしかおそらくは伝わらないほどの小さな――戸惑いを一瞬見せました。
私がそのようなお誘いをすることは、今回が初めてだったのです。
私はそんなシモンに笑みを向けながら、言葉を続けました。

「イズルたちと会食したときに、もらってきたんです。アサギが作ってくれたんですよ?」

イズル、それにアサギ。この単語に、杖を握る彼の指が少しだけ反応を見せました。
彼にとって、二人の名前は大きく意味を持つのです。きっと、これなら誘いを受けてくれるでしょう、というほんのちょっとの打算が私にはありました。

「……では」

それだけ返すと、彼は杖を傍に置いて、私の向かいに座りました。
包まれていた箱を開けると、中には二つのお好み焼きがあります。
一つは、アサギが一番最初に作った失敗作(正直失敗かどうかは分かりませんが)、もう一つは、成功作。

私は目の見えないシモンに、詳しく二つのお好み焼きについてお話しました。
それを聞くと、いつもは無表情を装って分かりづらい彼はちょっとだけ表情を柔らかくしてくれた、気がします。
そんな様子から、ふと、気になって私は少しイジワルな質問をしてみました。

「アサギは緊張しがちのようですね。ついうっかりの失敗をしてしまう。…あなたも、そういうところがあるのですか?」

「…それはお答えしかねます」

一瞬、困ったように答えに窮した彼の姿に私はくすくす笑うと、お箸を手に取りました。
あまり感情をはっきりと見せない彼の珍しい様子が何だかおかしかったのです。
私の様子に、彼は誤魔化すように失敗した方のお好み焼きにさっと手を伸ばしました。

「こちらの方は私がいただきましょう」

今度は私が困りました。
彼を誘ったのは私です。招かれる側の人に、失敗したらしい方をお渡しするのはどうだろう、と私は思ったのです。
慌てて、私はそれを止めようとしました。

「ですがそれは…」

「味は変わりません」

私の言葉を遮ると、彼はふ、と笑みを浮かべて私を制しました。
はっきりと言われてしまっては、止めるのも悪いように感じ、私は引き下がりました。
…いえ、本当のところを申しますと。

むしろ彼は、その失敗したお好み焼きの方が食べてみたい、というような調子で私に言ったのです。
まるで、そう――自分の子供の失敗を楽しむ親のような――

「そうですか」

私はそれ以上言及するのを止めて、ただ笑顔で彼に返しました。
あまり言うのは無粋だと、そう思ったのです。

身を改めると、自分の分のお好み焼きに私は意識を集中しました。
見れば見るほど、不思議な料理でした。
元は液体であったはずのモノが、今は熱を通すことで固まり、それでいて中はふんわりと柔らかくなっているのです。

楽しみに思いながら、私はまずは一口、と口にしてみました。
焼いた小麦の香ばしさ、具材の食感、ソース、という調味料と素材の絡み合う味。
これはまさしく。

「美味しい…」

私は感動と共に小さく、無意識に出てきた言葉を噛み締めました。
本当に、地球という星はすばらしい。
食文化一つ取っても、毎日、新しい出会いがあります。
この素晴らしい文化のある場所を、ウルガルから守らなければ、という使命感がさらに私の中に芽生えてくるようです。

「…そうですか、それならばよかった」

そんな私の様子に、シモンはわずかながら私に小さく、ふ、と笑みを零しました。
彼の反応が嬉しく、私はその感情を共有したいと感じて、彼に聞いてみました。

「シモンは、どうですか?」

見てみれば、彼はどんどんお好み焼きを食べていました。
気付かぬうちに、彼の分はもう半分以上がなくなっていました。
私の質問に、彼は箸をひとまず置き、小さめな声で答えました。

「…ええ、美味しいです」

「そうですか」

ニコリと私は笑顔を向けました。ゴーグルで多少隠れてしまっている彼の表情から感情を察するのは難しいことです。
ですが――

「すみません。そろそろ失礼いたします」

「はい。ありがとう、付き合ってくれて」

キレイになくなったお好み焼きを見れば、彼がこの食事をどう感じてくれていたのかなんて、何となく分かるものです。
分かりづらいところがあるけれど、かわいらしい人だと、そう思います。
これ以上質問をもらうのがイヤなのか、食べ終えたらすぐに部屋を出ようとするところも。

シモンのいなくなった部屋で、私はもう一度外へと向き直りました。
外には、何も変わらないように見える青い星。
しかし確実に、侵略の手が近付いている、残りわずかな寿命の星でもあります。

守らなければなりません。私にも、この星に大切な人々が生まれつつあります。
シモンやイズル。私と関わってくれた多くの人たち。まだ出会わない誰か。
私には、まだまだこの星でやりたいことが多くあるのです。

それに何よりも。
ここまで私を送り出してくれたお母様との『約束』に報いるためにも。
私は、地球の人々をウルガルから守らなければなりません。

たとえこの先、どれほどの困難が待っていたとしても、迷いが生まれたとしても。
私は、戦いたいと思います。

――私の心に芽生えた、『愛』という素晴らしい感情に従って。

おしまい。勢いのまま書いてみました。
次からは、外伝小説ネタで書きます。まだ読んでいない保護者の方はネタバレになりますので注意してください。

私の母は、実に変わった人であった。
元は皇族のはずであったのに、反逆者やら気がおかしくなったなどと言われ、幽閉されてしまうことが決まってしまったのだ。
しかしながら、私にとって母は唯一の心の拠り所であり、そして、私に『愛』なる言葉を教えてくれた人でもあった。
具体的には母はそれの意味を伝えてはくれなかった。いつか、きっと感覚的に分かる日が来るだろう、と科学者らしからぬことを言っていたのを覚えている。

私の名はテオーリア。汎銀河統一帝国ウルガル。その中のプレエグゼシア――伝わるように言うなら、そう、皇女といったところだろう。
母と、見ることもなかった父の遺伝子より培養された、ウルガルの皇族の血筋。
生まれてすぐ、母は私を引き上げ、彼女が幽閉されてしまうまでの間、わずかな時を共に過ごしてきた。
その間中、母は、私にウルガルがいかに狂っているのか、その狂った刃が何を引き裂こうとしているのかをよく話してくれた。

それから、地球、という星についても。
ウルガルの次の標的となる星。あと五十年もすれば到達してしまう、次のラマタ――獲物。
それをどうにかして守りたい、と母はとてもそれが大事そうな様子で私に語りかけてくれた。
そのために、私に伝えられる全てだけの全てを伝えよう、とも。

私は母の語る地球という星に、いつもいつも好奇心に胸を躍らされていた。
ウルガルとはまったく違うらしい文化、習慣、人々。
聞けば聞くほど、それを失ってしまうのはなんだか悲しいことなのだと、私もいつの間にか感じていた。
それを告げると、決まって、母はにっこりと笑って、私を抱きしめてくれた。
それから、私になら止められるだろう、と言って、頭を撫でてくれた。

他のウルガル人からは、そんな母は実に愚かしいと思われていたのか、陰でいろいろと言われていたらしい。
それが直接的に聞こえなかったのは、ひとえに兄のおかげだろう、と思う。

プレエグゼス・ジアート。私の兄に当たる方。
しかし、私は兄が苦手でもあった。彼は私のことも母のことも庇っているけれど、本当のところは私と母を狩りたいだけなのだ。
他の者が母の処刑を提言しても、却下するようにエグゼス――皇帝であるガルキエに働きかけたのも、幽閉で処分を決めさせたのも。
全ては、いつか私が母と同じくらいに成長してから、一気に狩るときのため。彼の本能的な欲望によるものである。

母の幽閉される日が近付いてくると、気付かれないようにこの要塞を旅立つように、と母は言った。
地球へとウルガルの存在を伝え、対抗できるように助けに行くのだ、と。それから、ある情報を託された。
それは、ウルガル人ではない人物――地球人がウルガルの機体に搭乗した際の戦闘記録と、ウルガルの最新の機体のデータだった。
その何者かは、名をトウマと言うらしい。そのようにデータの一番上の部分に書いてあった。

トウマとは誰だろうか、と疑問に思った私は、母に聞いてみたことがある。
母は、何かを悼むように、懐かしいことを思い返すように遠くを見ると、私の大切な人なの、とだけ言った。
それから、私にとっての『ヒーロー』でもあるわ、と笑顔で告げた。

『ヒーロー』なる言葉の意味が分からなくて、私はさらにそれについて聞いた。
この星では、まったく聞いた覚えのない単語だった。
すると、母は、少しだけ悩むそぶりを見せると、きっといつか分かるときが来るわ、とだけ言った。
地球には、『愛』、それに『ヒーロー』がある。必ず見つかるはずだから、地球に行くのを楽しみにしなさい、とも。

私はそれを聞いて、目を輝かせた。
地球にはこのウルガルなどでは見られないすごいものがあるのだと、母の言葉に期待を抱いたのだ。

それと同時に、私はあまり母にこのことについて聞かない方がいいのだとも思った。
母は、何故か涙を流しながら笑っていたのだ。
きっと、聞いてはならないことがあるんだろう、と私は直感した。

ウルガル人らしくない、誰か他者のことを思い出して涙を流す行為。他のウルガル人が見れば、愚かと言うに違いない。
しかしながら、私はそれを何も悪いことではないように感じていた。
そのときの母は不思議なことに、とても美しかったのだ。悲しいようでいるのに、とてもとても。

どうしてかは説明ができないけれど、私も、泣いていた。
おそらく、理屈ではないのだろう。それだけでは説明できないこともあるのだ、と私は幼いながらに理解した。

それから、母はよく、私に愛している、と言ってくれた。
愛している、とはなんだろうか、と疑問に思ったときも、母は、それも地球で学びなさい、と言った。
その後、私のことを胸中に迎え入れて、両手で包み込んでくれた。

暖かい母の感触に私はよく安心感を得ていて、その行為は好きだった。
そのことを伝えると、母は他のウルガル人が見せないような優しい、と表現するような笑みを見せた。
そう感じるなら、きっと地球で『愛』をよく知ることになるだろう、と言ってくれた。

時は過ぎていく。少しずつ、少しずつ。
私はその日を待ちわびた。待って、待って、待ち続けた。
そして――――ついに機が熟した。

自分の持つ機体に、母が監視の目を潜り抜けて用意してくれた情報を入力して、私は格納庫から旅立つ準備をし終えた。
後はもう、この星をいよいよ脱出するだけだった。

出発の前、別れの挨拶をしようとしたとき、母はいつもの通りに私のことを抱きしめた。
旅立てば、もうウルガルには戻れないかもしれない。
母とも今生の別れとなるかもしれなかったが、その行為によって私は何も不安を感じず、むしろ、また母と会える日が来ると、そんな予感をしていた。

機体に乗り込む直前、母は、ばいばい、と手を振っていた。
何故か、母は笑顔だった。私とダニールを逃がしたさらなる罪で、今後幽閉以上にどのような仕打ちを受けるかも分からないというのに。
笑顔の理由を聞く前に、機体はもうウルガルを離れてしまった。

きっと、その答えは地球にある。私はそんな気がしていた。
ウルガルにはない、特別な何か。それが母を笑顔にさせてくれたに違いない、と。

…そして、今。私は地球の近く、小さな惑星へと到達した。
直接、地球へと向かえばよかったのかもしれないが、
辺りを探知していたダニールが、地球圏にある惑星の方に生命反応と何やら船があると伝えてくれて、方針を変えた。

宇宙の方へと地球の人々もどうやら開拓を始めているらしい。
そういった人々の方が、未知の生命体へと理解も多少はあるだろう、という判断だった。

そして、その考えはおおよそ間違えではなかったらしい。
近付いた私たちを、地球の人々らしき存在は警戒しつつも、私たちに敵意がないことを元より母に教わっていた言葉で伝えると、対話の場を用意してくれた。

惑星に設けられた拠点らしき場所の一室に案内された私とダニールは、開拓者たちの代表と話をすることとなった。
代表――シモンと名乗っていた――との話が始まるまでに、彼にまずは何を言うべきだろうか、と私は悩んだ。
地球の人々の警戒を解けるような、そんな言葉。様々な考えが脳裏を横切っては消えていく。

私はいろいろと悩み、考えた。考えに考えて、それから―― 一つ、思い立った。最初は、質問から始めよう。
急に本題を話しても、きっと、余計な警戒心を生んでしまうだけだ。だったら、まずは個人的なことから話してみよう。そう、思った。

結論が出たところで、緊張した様子の代表が部屋に入ってきた。
その緊張を解ければ、と私はなるべく笑顔を心がけて、彼に一礼する。
そして、お尋ねしたいことがあります、と第一声を放った。

「――『愛』、それと、『ヒーロー』とは何ですか?」

教えてはくれませんか。そう、尋ねた。
これから知るであろう新しいことへの期待と好奇心と共に、私は新たな長旅への一歩を踏み出した。

おしまい。次も小説ネタです。

異文化コミュニケーション

オーレリアの城――トウマの部屋

トウマ「……」ゴロゴロ

トウマ「…暇だ」

トウマ(ウルガルに来てもう結構な時間が経つ…オーレリアの護衛がない時間以外は、何の娯楽もなく、退屈でしょうがない)

トウマ「……ま、贅沢は言えないよなぁ。生きてるだけ儲けもの、ってやつだし」フー

オーレリア「…退屈なのか?」

トウマ「そりゃな。でも、外出たって特におもしろいものがあるわけでもないし…って、オーレリア!?」

オーレリア「何を驚く」

トウマ「いや、急に現れたから…」

オーレリア「いい加減に慣れたらどうだ? 君ももう私と共に過ごしてそれなりに時間が経っているだろうに」

トウマ「そうは言ってもな…っていうか、いいのか、研究は?」

オーレリア「君の呟きがさっきから聞こえてな。気になってしょうがなくなって、様子を見に来たんだ」

トウマ「そんなに聞こえてたか? 悪い悪い」

オーレリア「何も非難しているわけじゃない。それよりもトウマ…」

トウマ「ん?」

オーレリア「地球の娯楽を私に教えてはくれないか?」

トウマ「娯楽? どうして?」

オーレリア「別に。君のデバイスである程度は理解はしたのだが、実際に触れてみないことには完全には分からんだろう」

トウマ「…そりゃ、いいけど。でもなぁ、ここで手に入るようなモノで娯楽となるとな」

オーレリア「何でもいいぞ」

トウマ「何でも、か。じゃあ、まずは……トランプなんか、いいかもな」




オーレリア「なるほど、ルールは把握した。…しかし、このようないい加減な取り決めの方法でいいのか?」

トウマ「娯楽だからな、いちいち話し合いなんかしてたらゲームが始まらないよ」

オーレリア「ふむ、それもそうか。では…」

トウマ「おう。じゃーんけーん――」

トウマ「」グー

オーレリア「」チョキ

トウマ「よし、俺の勝ちだな」

オーレリア「こんなことで君の勝ちは決まったとは思えないが」

トウマ「そういうことじゃなくて…ま、いいや。じゃ、俺から引くぞ?」

オーレリア「ああ」

トウマ「……」ジー

オーレリア「? 何だ、私の顔を見つめてどうかしたのか?」

トウマ「…ここまで無表情作られちまうと分からないな」

オーレリア「ああなるほど、相手の表情から心理を読むわけか」

トウマ「まぁそういうこと。ほら、次はオーレリアからだ」

オーレリア「」スッ

トウマ「」ムッ

オーレリア「」フー

オーレリア「君は逆に分かりやすすぎるな」

トウマ「げっ」




トウマ「くっそー、三戦三敗かー」

オーレリア「…君はわざと負けているのか? こんなにも読みやすいとなんだか怪しいくらいだ」

トウマ「そんなことできるほど俺の頭は複雑じゃないっての…ま、いいや。もういいか?」

オーレリア「まぁ、そうだな。なかなか楽しめたよ」

トウマ「そうか」

オーレリア「トウマ」

トウマ「?」

オーレリア「少しは、退屈もなくなったか?」

トウマ「へ? …お前、もしかして俺のために――」

オーレリア「さて、私は研究に戻る。…たまにはまた、相手してくれ。それなりに、気に入った」

トウマ「お、おい。オーレリア! 行っちまった…」

トウマ「…何だよあいつ。ウルガル人は他人を思いやったりしないんじゃないのかよ……」

トウマ「…次、何か別のカード遊びのカードを作っておくか」フッ




別の日

トウマ「……」

オーレリア「…私の研究を眺めていてもつまらないだろう?」

トウマ「いいんだよ別に。一人で過ごすよりはずっとマシだ」

オーレリア「地球人の感覚はよく分からないな。まぁ、いい。そうだ、服の洗濯が終わっているぞ。――ラーラ!」

ラーラ「」コロコロ

トウマ「ああ、ありがとう。…なぁ、そういえば一つ聞きたいんだけどさ」

オーレリア「? 何だ?」

トウマ「服、それしかないのか?」

オーレリア「どういうことだ?」

トウマ「だから、その、それ一種類しかないのか、って」

オーレリア「…あぁ、なるほど。地球ではいくつもの種類の服を着るのだったな。これは多機能的な服で、一着あれば全て問題ない」

トウマ「でも、何と言うか、それじゃ淡白じゃないか?」

オーレリア「君だって服は一種類しかないじゃないか」

トウマ「や、これはしょうがないだろ、緊急事態だったんだし」

オーレリア「」フム

オーレリア「君は見たいのか?」

トウマ「へ?」

オーレリア「私が他の服を着ているのをだよ。そうでなければ、こんなことを聞く理由が分からない」

トウマ「そ、そういうつもりじゃない。
    ただ、その…俺の感覚じゃ、女の子がそんな服に無頓着なのは不思議なだけでさ……ちょっと、疑問に思っただけだよ」

オーレリア「そうか」

トウマ「ああ…変なこと聞いたな、じゃあ俺は――」

オーレリア「では、君が考えてくれ」

トウマ「え?」

オーレリア「あいにくと私はそういった地球の文化は分からない。が、興味が湧いた。だから、君が私の服を見立ててくれ」

トウマ「お、俺かよ!? 俺だって、そんな、詳しくなんか…」

オーレリア「別にいいさ。君が似合うと思うものを考えてくれればいい。ラーラを貸そう。命令すれば君の言った通りに服を仕立てる」

トウマ「そこまで言うなら…まぁ、暇だし」

オーレリア「ああ、待っているぞ、トウマ」




トウマ「どうだ?」

オーレリア『ああ、サイズに問題はない。…ところで、トウマ』

トウマ「何だよ?」

オーレリア『何故わざわざ別室で着替えるんだ?』

トウマ「ち、地球じゃそうするんだよ!」

オーレリア『そうか。…何だかいちいち面倒な星だな』

トウマ「面倒で悪かったな…で、着替えたか?」

オーレリア『ああ、今出る』

オーレリア「」ツカツカ

トウマ「おお……」

オーレリア「どうだ?」

トウマ(現れた彼女は、俺が必死になって情報デバイスから練りに練って考えたデザインのドレスを着ていた)

トウマ(基本色を黒としたそれは、華奢な彼女の身体を包み、特徴的な銀白の彼女の髪が映えるように演出していた)

トウマ(その姿を見た瞬間、オーレリアの美しさがさらに際立つようにできたと、俺は自信を持って断言できる気がした)

トウマ「ああ、いいんじゃないか。…思ってたより、ずっと似合ってる」

オーレリア「そうか。ならばいい」

トウマ(中身を考えなきゃ、ホント、美人なんだな…)

オーレリア「どうかしたか?」

トウマ「いや、何でも。それ、どうするんだ?」

オーレリア「そうだな…なかなか悪くないものだな。たまには、この格好で過ごすことにしてもいいかもしれない」

トウマ「そうか。作った側としてはありがたいもんだ。ほぼやったのはラーラだけどな」

オーレリア「そんなことはないだろう。あれはただ君の言ったことをしただけだ。君がいなければ、この服は完成しなかった」

トウマ「そ、そうか? ありがとう」

オーレリア「いや、こちらこそ。ありがとう、トウマ」

トウマ(そのとき、俺の気のせいでなければ――たぶん、それはないだろうけど)

トウマ(いつも感情を出さない彼女が、ほんの少しだけ笑った、気がした)

おしまい。個人的には外伝小説もよくできた話なので、まだ読んでいない保護者の方がいればぜひ読んでみてほしいです。
webで無料公開もしているので、試しに目を通してみてください。では、またいつか。
今度はもう少しペースを上げてきたいと思います。

お久しぶりです。ペースを上げるとはなんだったのか。
とりあえず二十五話始まる前に何とかやれそうなので二つほど投下します。

たまには感謝も

スターローズ――アサギの部屋

スルガ「だー、しんどー。今敵が来たら負けるぜー」グダー

タマキ「ほんとなのらー…」グデー

ケイ「そうね…どっと疲れたわ」

アサギ「……修理にも時間がかかるそうだし、当面は出撃もできない、か」

イズル「…あ、そうか。クルーの皆は大丈夫かなぁ」

スルガ「今頃急ピッチで直してんだろうなぁ…いろんなトコぶっ壊したし」

ケイ「普段傷一つないパープルツーもボロボロで、イリーナたちも大変そうだったわ…」

アサギ「俺も、初めて被弾しちまって、さんざんガキに怒鳴られたよ…」

タマキ「ローズスリーなんて一から作り直しなのらー。はぁあ……」

イズル「僕もよく壊してるけど…今回は特にすごいって言ってたなぁ」

アサギ「お前は壊しすぎなんだよ」

スルガ「っつーか無茶しすぎ?」

ケイ「まったく…」

タマキ「ばかあほおたんちん」

イズル「ええー……」

アサギ「…英雄だ何だって言われても、これじゃただの人間だな」

スルガ「まったくだな。アッシュがなけりゃ、俺たち今頃まだまだ学園で授業でも受けてたんだろーな」

ケイ「アッシュだけじゃなくて、それを支えるヒトたちがいてこそ、ってところかしら」

イズル「支えるヒトたち、かぁ……」

イズル「」ピーン

イズル「じゃあさ、皆で手伝いにいかない?」

タマキ「手伝いー?」

イズル「どうせ当面は自主的に訓練する以外にすることなんてないでしょ? だったら、僕らを支えてくれるヒトたちを僕たちが今度は支えに行くんだよ」

アサギ「恩返し、ってか」

スルガ「俺たちは鶴かよ」

ケイ「でも、それもいいかもしれないわね。私、あのヒトたちにいろいろと助けてもらってるし…」

タマキ「…あの三兄弟正直苦手だけどー、まぁ、それもおもしろいかも?」

スルガ「ま、自分の機体だしな。少しは自分で面倒見るのもいいかもしれねーか」

アサギ「……ま、そうだな」

イズル「よし、じゃあ行こう!」オー

タマキ「」オー

格納庫

ダン「そっちのパーツ繋いでくれー」

デガワ「こっちに予備パーツ回してくれ、そうだ、それそれ」

マユ「追加分の装甲はこっちから補修していってー」

イズル「あ、あのう…」

ダン「ん? イズル!? どうした、休んでるんじゃなかったのか?」

イズル「いえ、皆さん忙しいって聞いてたから、その、手伝えることがあれば、と思って」

ダン「いいよ。あんな激戦の後だ、疲れてるだろ?」

マユ「そうそう、さっきまではイズルっちの戦いだったかもしれないけど、ここからはあたしたちの戦いなんだから!」

イズル「でも……」

デガワ「休めれば 休んでおくのが パイロット…ほれ、行った行った」

イズル「は、はい」

デガワ「…ああ、だけど、仕事が終わった後に何か食べ物でもあると助かるな。こっちが終わる頃には食堂はたぶん閉まっちまうし」

イズル「え?」

ダン「確かに、それはそうっすねー。あそこの食堂のメシ、元気が出るくらいうまいですからね」チラッ

マユ「そうねー、でも、今ここを抜けて食堂にごはん取りに行く暇もないし…」チラッ

イズル「あ、あの。だったら僕、ちょっと軽く食べられる物もらってきます!」

ダン「え、ホントか?」

マユ「ありがと、イズぴょん!」

デガワ「よし、じゃあ頼む。その分、こっちは俺たちに任せろよ?」

イズル「――はい! レッドファイブのこと、お願いします!」ニコリ




食堂

イズル「あれ、皆?」

アサギ「何だ、お前もか?」

イズル「ってことは、皆もごはん頼まれたの?」

ケイ「ええ。メカニックの仕事を取ることない、ってイリーナたちが」

スルガ「筋肉の足りてないお前にコイツの整備は無理だー、だとよ」

タマキ「余計なことすんな、って言われたのら! ムカつくー!」

アサギ「変に気にしないで任せておけ、いいから休め、って釘刺されちまった」フー

イズル「あはは、そっか」

スルガ「ま、適材適所、ってやつだな」

アサギ「そうだな。…戦うのは俺たち、だけど、それを支えるのはあのヒトたち」

イズル「そうやって考えると、クルーの皆さんもヒーローかも」

タマキ「またそれなのらー」

ケイ「しょうがないわ、ヒーローはイズルの精神安定剤だもの」クスクス

スルガ「でもま、確かにそうやって言うと、俺たちは一緒に戦ってるわけだ」

アサギ「…そうだな、俺もクルーの皆も、共に戦う戦友になるのか」

シオン「戦ってるのは私だってそうよー」

スルガ「あ、お姉さーん! 今日も一段とお美しく、まるでその透き通るような肌は…」

シオン「はいはい。ほら、差し入れ。早いトコ持ってってあげて? きっとお腹空かせてるだろうし」

イズル「あ、ありがとうございます」

シオン「うんうん。皆ね、あなたたちみたいに、戦場で戦うわけじゃないけど、あなたたちのためにできることしようって、それぞれの場所で戦ってるのよ?」

イズル「それぞれの場所…」

シオン「そ。私たちだって、皆が帰ってきたときに、せめてごはん食べるときくらい明るくなってもらおうって、いつも頭唸らせてメニュー考えてるんだから」

シオン「ピットクルーの皆だって、きっと気持ちは同じよ。あなたたちに絶対に帰ってきてもらうために毎日毎日、遅くまで頑張ってるんだから」

シオン「たまに私、こっそり差し入れ行くんだけどね、皆してぐったりしちゃって、いつも疲れた顔してるのよ」

イズル「ホントですか? 皆さん、会うときは全然そんな感じしなかったのに…」

シオン「そりゃそうよ。そんな雰囲気感じてほしくないんだもの。皆、あなたたちのこと大事に思ってるってことよ」

ケイ「大事に思ってくれてる、か」

タマキ「助けてもらったこともあるし、否定はできないのらー」ムー

スルガ「あの筋肉連中がねぇ……」

アサギ「……」

イズル「あ、行かないと! せっかくの料理が!」

シオン「っと、ごめんごめん。つい話し込んじゃった。早く行ってあげて?」

イズル「はい、ナトリさんもいつもありがとうございます! 行こう、皆!」

イズルハヤイ! マテヨー スコシハオチツケ!

シオン「慌しいわねぇ…でも、そこがいいところでもあるのよねー」フフッ




格納庫

ダン「ふぃー。本当に腹減ってきましたねー」

マユ「イズルっちまだかな…」

ヒデユキ「うちのスルガも遅いな…」

ノリタダ「やはりあいつにはまだまだ筋肉が足らんな」

タカシ「メニューをもっと増やすか?」

イリーナ「うちのお嬢もまだねー…」

アンナ「アサギ……」

シンイチロウ「うちのバカもまだだな…」

イズル「皆さん! お待たせしました!」タタッ

タマキ「お待たせなのらー」

アサギ「おい走るなって…」

アンナ「アサギ、遅い!」

アサギ「っと、悪いな、思ったより時間がかかったんだよ」

ヒデユキ「スルガ! お前にはまだ筋肉が足らんようだな!」

タカシ「メニューを増やすぞ!」

スルガ「それはもう勘弁してくれよ…」

シンイチロウ「遅いぞバカ」

シンジロウ「ご苦労さんバカ」

シンサブロウ「バカ」

タマキ「ぶー」

ケイ「ごめんなさい、イリーナ、皆。お腹空いたわよね」

イリーナ「いいわよー、ありがとね、お嬢。ちょうどお茶も淹れたトコだしーいいタイミングだったわよ」

イズル「あ、皆さん!」タタッ

ダン「おう、イズル! …そんな急がなくても大丈夫だぞ?」

イズル「いえ、皆さんに美味しいごはんを急いで届けたいなって思って…」ニコ

マユ「イズルっち…ありがとうね!」ナデナデ

イズル「あはは、くすぐったいですよ」

デガワ「……どれ、休憩にするか」フッ

ダン「そうっすね、そうしましょう。ほら、イズルも食おうぜ?」

イズル「え、でもこれは皆さんの…」

マユ「いいの! イズぴょんが持ってきてくれたんだしさ、一緒に食べよ?」

デガワ「せっかくだ、他の皆も一緒に休憩にしないか?」

マテオ「そうじゃのう、ほれ、アサギくんも」

アサギ「え、いや、僕は…」

アンナ「それいいなじいちゃん! ほら、アサギ!」グイグイ

アサギ「分かった、分かったから引っ張るなって…」

ディエゴ「」ムムッ

アサギ(アンナのお父さんの目が痛い…)

シンイチロウ「うちもそうするか…ほれ、食えバカ」

シンジロウ「塩辛もあるぞバカ」

シンサブロウ「バカ」

タマキ「むーっ!」ガツガツ

イリーナ「ほら、お嬢も」

ケイ「でも、私…」

マリー「いーからいーから」

ロナ「ついでに恋の相談も乗るわよー?」

ケイ「い、いえ、私は…そんな」

ジェーン「お嬢ったら照れちゃってー、かわいいんだからー」

ヒデユキ「ようしスルガ。これを食べ終えたら次のトレーニングに行くぞ!」ムキッ

ノリタダ「これを終えればお前にも筋肉の教えが開くはずだ!」ムキッ

タカシ「プロテインも忘れるな!」ムキッ

スルガ「もーホント勘弁してください…」

ワイワイガヤガヤ

ダン「何か、いつもよりすごいにぎやかになっちまったな」ハハ

マユ「皆揃ってるんだもの、ね、いーちゃん?」

イズル「……」

ダン「イズル? どうかしたか?」

イズル「あ、いえ。…なんていうか、楽しいな、って」アハハ



イズル(見回してみれば、チームの皆も、クルーの皆さんも、笑ってて、とても楽しそうだった)

イズル(チームラビッツの皆だけじゃない。僕たちの周りには機体だけじゃなくて、僕たち自身も思ってくれる人たちが、こんなにいる)

イズル(最初のうちは、どう付き合っていけばいいのか、よく分からなかったけど――)

イズル(今なら、どんな風にすればいいのか、分かる気がした)



イズル「ダンさん」

ダン「おう?」

イズル「マユさん」

マユ「うん」

イズル「デガワさん」

デガワ「ああ」

イズル「いつも、ありがとうございます。――これからも、よろしくお願いします」ニコリ

おしまい。次は映画の情報が解禁される前にどこかで見たような展開のやつを。

某ロボゲー的復活

レッドファイブのピット艦

レイカ「どう? 終わった?」

マユ「はい……イズルっちは機体に乗せました、けど…でも、本当に起動までさせるんですか?」

レイカ「そういう命令――いや、頼みだもの、しょうがないわ」

ダン「しかし、だからってイズルはまだ目覚めて――」

レイカ「いいから。これがもしかしたら、イズルちゃんを起こすためのきっかけになるかもしれないの」

マユ「…分かりました」

織姫「――準備はできたみたいね」

レイカ「ええ、あなたのご希望通りよ、織姫ちゃん?」

レイカ「…本当にいけるの?」

織姫「おそらくは、ね。身体は治ってる。後はもう精神の話だから」

織姫「」ツカツカ

レッドファイブ「……」

織姫「GN粒子は命を繋ぐ光。ミールは世界とあなたを繋ぐ架け橋」

織姫「日が沈み、また昇るように」

織姫「あなたもまた起きるの、イズル」

???

イズル「…ここ、は」

イズル「僕は確か、そうだ、ジアートと」

イズル「皆は!?」ハッ

ブンッ!

イズル「え…」

スルガ『だーっ! 多すぎるだろ!? 撃ち切れねーって!』

ロックオン『泣き言言うなよ! 撃ちたい放題なんだぜ? ガンナーの腕の見せ所だ……乱れ撃つぜええええっ!!』

キラ『イズルが守りたい世界…この想いと力で、僕も守ってみせる!』

真矢『また皆で笑いあうためにも…負けない』

広登『行くぜ後輩! おっらああああっ!!』

美三香『はいっ、ゴウ、バイィィィン!』

イズル「これ…皆の姿……?」

織姫「ミールとGN粒子が繋ぐ夢」

イズル「! 君は織姫さん……」

織姫「あなたのたった一つの夢。皆が守ろうとしてくれてるわ」

イズル「皆が…戦ってくれてる…」

織姫「イズルはどうしたい? ここから、どこへ行く?」

イズル「僕は……」

織姫「私にできるのは可能性を見せることだけ。後は、あなたが決めて」

浩一『正義の味方はなァ! こんなトコで負けたりしないんだよ! イズルの分も、俺がきっちり大暴れしてみせるっ!』

ケーン『どけどけーっ! ヒーローのお通りだ、当たると痛ぇぞーっ!!』

衛『また一緒にゴウバインの話とか、マンガの話とか、イズルといっぱいするんだ! だからここは、僕が――守るんだあああっ!』

刹那『戦うだけが全てではない…! お前たちにもそれを伝えるためにも、今は!』

マサト『イズルが見せてくれた…作られたとしても、仕組まれた命だとしても、できることがあるって…!』

美久『マサトくん、ゼオライマーはいつでもいけるわ』

マサト『守ってみせる…僕の生まれた意味にかけても!』

ダイチ『ヒーローとキャプテンでがんばろうって、約束したんだ…! 地球は必ず守る! それが、キャプテン・アースなんだ!』

アキト『…俺にはなれなかったモノが必死に守ろうとした場所なんだ……やってみせる…!』

イズル「皆…」

一騎『ここは通さない! 俺がまだ――ここにいる限り!』

シン『アイツが命がけで守ったんだ…! そんな簡単に…やれると思うなあっ!!』

イズル「一騎さん…シンさんも……」

アンジュ『オラオラ! 邪魔なやつらは道を空けろ! ブラックシックス様が全部ぶっ潰す!』

チャンドラ『少しは落ち着けと言ってるだろうが! ええい、待て! …まったく、これを制御するのは一苦労だな』

スルガ『…ったく、イズルのやつ、さっさと起きろっての!』

タマキ『まったくなのらーっ! このまんまじゃイズルの出番全部持ってっちゃうのらーっ!』

ケイ『守るわよ絶対に…イズルのためにも!』

アサギ『俺は戦う…! イズルと…俺の大事な家族のために!!』

イズル「お兄ちゃん、皆…」

タマキ『へ? 家族ー? イズル以外にいたっけー? あ! もしかしなくても、アンナちゃんの…』

アサギ『ちげーよ! アイツはそんなんじゃないっつってんだろ!』

アンナ『そんなんってなんだよ! このへぼパイ!』

アサギ『誰がへぼパイだ! …ああ、もういい。とにかく補給、送ってくれ!』

ケーン『こんなときでもザンネンかよ!』

ルリ『でもその方がいっそ清清しいですね』

総士『まったく…戦闘中のはずだろう、少しは真剣に…』

アンジュ『うるせー! 根暗でややこしい言い回しばっかのメガネ野郎が!』

総士『…今、なんと言った? もう一度――』

真矢『皆城くん。少し黙ってて? 集中できなくなるから』

総士『…どうしてそうなる……』

一騎『はは、遠見にかかれば総士も形無しだな』

総士『もういい…戦闘に集中しろ』

イズル「」クスクス

イズル「……」

イズル「皆ががんばってる。だったら、僕は」

???「ったく、何してるんだ?」

イズル「え……」

ランディ「こんなトコで。一人で何してるって聞いてんだよ、ヒーロー」

イズル「ランディ、さん」

ランディ「いいのか。いつまでもここにいて」

イズル「嫌です…皆と一緒に、僕も戦いたい」

ランディ「そうか。じゃ、行かないとな」

イズル「でも、どうやってここから出ればいいのか――」

ランディ「そりゃ簡単だ。自分とちゃんと話し合え。前にも教えたろ? どっちかの一方的な関係は長く続かない、ってよ」

ランディ「一度アッシュを乗りこなして、それでお前の分だけ持てる命を全部使い切ったんだ。今度はお前の力だけじゃ足りない」

ランディ「もう一回、もう一人の自分と相談してみろ。お前の中にいるのは、お前一人じゃない。そいつの命も、借りるんだ」

イズル「命を、借りる…」

ランディ「そうだ。…じゃな、また会えて嬉しかったぜ、イズル」

イズル「…ありがとうございました、先輩」




イズル(今なら、分かる気がする。…僕に足りないモノが、ここにあるって)

???「ん? これはまた珍しい客だな」

イズル「……」

???「何だよ。俺を乗りこなしたろ? もうお前には俺は必要のない存在だ、違うか?」

イズル「違うよ」

???「……」

イズル「僕は、生まれたときは一人だった。君もそうだと思うけど…」

???「ああ、それで?」

イズル「うん。それで、いつの間にか、気付いたらたくさんの仲間ができたんだ。一緒に大変なことを乗り切る仲間が」

???「なら、いいじゃないか」

イズル「君もそうなんだ」

???「……」

イズル「君がいなかったら、僕はアッシュでヒーローになんてなれなかった」

イズル「君と僕。二つ揃って、初めてヒーローになれるんだよ?」

???「ヒーロー、ね」

イズル「うん。……それに、死にかけたタマキを助けたときに、言ったよね」

???「お前も一緒にヒーローになろう――忘れるわけないよ。お前がそう言ったんだ」

イズル「うん。だから、もう一回。一緒に戦ってほしい。君と僕で、ヒーローになろう」

???「……」

イズル「僕は、君だ――」

???「――お前は、俺だ…って、一騎の受け売りかよ」

イズル「言葉はそうだけど、でも、今言ったことは僕の考えだよ」

???「……そっか。そうだよな、お前は…そういうやつだ。これまで一緒に戦ってきて、ようく分かってるよ」

???「…ヒーローになろう、か。なれるのか、俺も?」

イズル「なれるよ。今だって、君は僕のヒーローで――最高の相棒なんだから」

???「…相棒、か。いいな、それ」

イズル「さ、行こうよ。皆が待ってるんだ」

???「ああ、そうだな」

イズル・レッドファイブ「「行こう、共に――」」




ジュリアーノ「! レッドファイブ、パイロットの覚醒を確認!」

リン「! …まさか、本当に目覚めるなんて」

レイカ「信じられない……っ、これまで以上にハーモニックレベルがどんどん上がってる…!」

ジークフリート「出撃許可を求めています! 艦長!」

イズル『おはようございます! …お願いします、僕も行かせてください! 皆が待ってる、行かないと!』

リン「……ふぅ、いいわ、出撃許可を出します」

イズル『ありがとうございます、艦長!』

リン「今度も、絶対に生きて戻るのよ。いいわね?」

イズル『了解!』

ジュリアーノ「ルート、オールグリーン! テイクオフ、レディ!」

イズル(そうだ、僕は戦う――これまでいろんなことを教えてくれた人たち、チーム以外にできた、大切な仲間たちのために)

イズル(そして―― ここまでずっと一緒だった、チームの皆のためにも!)

イズル「――ブラストオフ!」

イズル(僕『たち』は――ヒーローになるんだ!)

ランディ「トリプルドッグ、決めてやろうぜ!」
やりたい放題書いてみました。はよ某ロボゲーに出てほしい。劇場版ランディとパトリックとか存分に捏造してほしい。
では、またいつか。二十五話が楽しみです。

新しくスレ立ってたの気が付かなかった乙
どれもマジェプリらしくて面白いです
ラビッツの誕生日って公式で設定とかあったっけ?

お久しぶりです。
少ないですがまた書きたいと思います。
今日は後輩ちゃんたちで一つ。

受け継ぐ者

グランツェーレ都市学園――食堂

クリス「……はぁーあ。いつまで俺たち訓練生なんだろうなー」

セイ「本当にな。早いとこ俺たちもアッシュに乗ってみたいもんだ」

クリス「ちぇー、アンジュのやつが羨ましいぜ」

ユイ「またそんなこと言って……諦めなさいよ。アンジュと私たちじゃ、実力も違うじゃない」アタマガー

クリス「そりゃそうだけどさー。はぁ…タマキせんぱーい」

アン「あはは、でも確かに、先輩たちと一緒に戦いたいかもー」

セイ「俺はケイ先輩と一緒に戦ってみたいな。あのコントロールとしての仕事っぷり…」

ユイ「私はアサギ先輩と戦いたいわね。堅実な動きで敵を足止めして、後方を支援してくれて。それに、状況の判断も早くて的確だし」

クリス「へん、タマキ先輩に比べれば、他の先輩たちは全然だけどな」

セイ「何言ってんだよ! ケイ先輩の情報処理がなきゃチーム全体の動きが…」

ユイ「前線で状況を判断して的確に動いて後方を支援する前衛がどれほど大事か分かってないわね」

クリス「お前らこそ分かってない! 敵をかく乱することでどれほど味方に貢献できてると思ってんだよ!」

セイ「ケイ先輩がすごい!」

ユイ「アサギ先輩よ!」

クリス「タマキ先輩!」

セイ・ユイ・クリス「」ムムム…

セイ「アン!」

アン「へ?」モグモグ

セイ「アンは誰がすごいと思うんだ!?」

ユイ「アサギ先輩よね?」

クリス「タマキ先輩だよな!?」

セイ「ケイ先輩だろ!?」

アン「ええー? えっとぉ……」ンー

セイ・ユイ・クリス「」ジー

アン「あたしは、イズル先輩かなー」

セイ・ユイ・クリス「」ズコー

セイ「…イズル先輩って確か」

ユイ「授業中にマンガ描いてはスズカゼ教官に怒られまくって」

クリス「いっつもほわほわしてる、あのボーっとした人だよな?」

アン「だって、ほら、皆をまとめる指揮官がやっぱり一番重要じゃない?」

セイ「それは…確かに」

アン「スギタ教官も言ってたじゃない? チーム戦においては連携こそが重要で、各員の全力を引っ張るだけの士気を上げられる人がいるべきだー、って」

スギタ「その通りだ」

チームフォーン「!」

セイ「スギタ教官!」

スギタ「それぞれが挙げたメンバーも、確かに必要不可欠な存在ではある。
だが、ヒタチ・イズルを中心として、それぞれの能力を引き出しあうことで、彼らチームラビッツはあれほど成果を上げているともいえる」

クリス「イズル先輩が…」

スギタ「君たちの中でリーダーを決めるのであれば、そのように全員をまとめてやれる者にすることだ」

セイ「皆を、まとめる……」

キーンコーンカーンコーン…

スギタ「……おっと、休憩時間の終わりか。次の授業に遅れるぞ、急げ」

クリス「っとと、いけね、お先!」タタッ

ユイ「ちょっと、走らないで! ぶつかるわよ!」

クリス「だいじょーぶーっ!」

ユイ「ああ、もう…」アタマガー

セイ「ったく、しょうがないな…ほら、アンも急げよ」

アン「あ、待ってー」タタタ…

スギタ「……」

スギタ「チームフォーン、か。例の機体、彼らになら預けてもいいかもしれないな」フッ

MJP教官「あれ? スギタ教官? いいんですか、こんなところにいて。次の授業、スギタ教官の担当でしたよね?」

スギタ「……私も急がないとな」タタタッ

おしまい。
後輩ちゃんよりもスギタ教官のがずっとザンネンな人だと信じてる。
次はアンジュで一つ。

いつも、私は一人でいることを心がけていた。
訓練の時も、食事の時も、プライベートの時も。
その方が気楽だったし、何より自分の力を一番発揮できる条件だと思っていたから。

「……」

宇宙ステーションスターローズ。
宇宙開発の時代が始まった頃から建造された大型の宇宙ステーションだ。
私――クロキ・アンジュは、パイロット用のロッカールームで着替えていた。

今まで、私はMJPと呼ばれる軍事機関で兵士となるべく訓練を受けていた。
それも、今日で終わり、私は正式に補充兵として前線に配属されることになった。
スターローズに新型機――ブラックシックスと共にやってきて、配属された部隊の指揮官に当たるスズカゼ艦長に挨拶を済ませたところだ。

挨拶を早々に済ませてから、とりあえずパイロットスーツのままいるわけにもいかず、私服へと着替えることにしたのだ。
それも終えると、私は部屋を出て、教えられた自室へと向かうことにした。

「着替えは済んだかしら?」

「は、はい……」

そう思って外に出ると、私を待っていたらしい艦長が壁に背を預けて立っていた。
私に気付くと、彼女は姿勢を正して私の方へとカツカツとヒールを鳴らして近付いてくる。
正直人との接触をあまりしない私からすると、授業でしか面識のなかったスズカゼ艦長も、少し話しづらい。
彼女は私のそういった面も理解しているのか、特に表情も変えずに、ついてきて、とだけ言うと先を歩き始めた。

「ええと、どちらに…?」

急な言葉に、私が慌てて追いかけると、艦長は簡潔に答えた。

「あなたと同じチームのメンバーたちのところよ。これから背中を預けあうのだから、紹介するわ」

「チームラビッツの皆さん、ですか」

チームラビッツ。
私が補充で入ることとなった、同じ学園の、先輩方のチーム。
私よりも先に新型機を受領し、前線で既に活躍している方々。
先輩、という言葉に急に緊張を感じて、私は少しだけ身を強張らせた。

「大丈夫よ。それほど怖い子たちでもないから」

私の反応に、艦長は苦笑いしながら先へと行く。
もちろん立ち止まるわけにもいかないので、私はおそるおそる、まだ見慣れない基地の中を付いていった。




「……はぁ、はぁっ………」

配属先の戦艦であるゴディニオンの中。私は駆けていた。
先ほどまで、私は先輩であるイズルさんとの模擬戦を行っていた。
結果は、私の圧勝だった。

が、勝負の途中から、私の中で何が何だか分からなくなっていて、正直私が戦ったのかも認識できていなかった。
何というか、そう、背後から自分が動いているのをただ私が覗いているだけのような、そんな、客観的な気分だった。

そして、その何だかよく分からない気分のまま、私はどうも先輩に大変な無礼を働いたらしい。
先輩が評価してほしいと言ったマンガを否定し、あろうことかそれを破り去ろうとしたのだ。

それを止めようとしたもう一人の先輩であるケイさんに与えられた頬の痛みと共に感覚が戻ってくると、
私は必死に謝罪の言葉を口にしながら、走り去ってしまった。

「…はぁ」

誰も周りにいないことを確認して、私は大きく息を吐いた。
どうしよう。きっと、先輩たちには最悪の印象を与えてしまったことだろう。
歓迎会をするから来て、と背後から投げかけられたイズルさんの声を思い出しながら、私は廊下の壁に背を預け、ずるずると座りこんだ。

あんなことの後で、歓迎会なんてとても行ける気がしなかった。
ああ、一人で戦いたい。だいたい、後から参加させられるチームに、居場所なんて作れる気がしなかった。
ふと、他の学園の生徒たちのことを思い出す。
私と同学年の、よく一人で過ごす私に突撃してきた彼らのことを。

『アンジュー、ここ教えてー』

『タマキ先輩のローズスリーの加速力ってすげぇよな! な、アンジュ!』

『今度の個人演習は負けないからな、アンジュ!』

『え、ええと、あの……』

『アンジュが困ってるじゃない、一度落ち着きなさいよ…』

客観的に見て近寄りがたい雰囲気を纏わせる私に、いちいち話しかけてきたのは彼らくらいのものだった。
確か、チームフォーンという名前のチームだった気がする。
学園を去る前日まで、先に前線に行く私に羨望と嫉妬の声を上げて、追いついてみせると意気込んでいた。

学園に居た頃は、正直なところ少しばかり困ってしまっていたが、今となっては彼らくらいの知り合いが恋しい。
そんなことを考えてしまうくらい、今の環境に対してまだほんの数時間しか経っていないというのに、私は追い込まれていた。

しかしながら、配属を変えることなど叶わないことには違いない。
私はふぅ、と一息吐くと、ゆっくりと立ち上がった。ブラックシックスのピット艦に向かおう。
あそこなら誰もいないし、私一人で過ごせる。

そうして、私は一人、歩き出した。
余計なことはもう考えず、任務のことだけに集中しよう。私は兵士だ。ただ戦うことだけ、考えていればいい。
それで、いいんだ。

一回おしまい。これは続きをだいぶ前にやったスルガのやつの続きと一緒にまたやります。
地の文書くやつがまだ終わってないので次はそれとまとめてやろうと思います。
>>306
ちーらびの誕生日は特に公式にはないっぽいです。試験管ベビーだし、皆まとめて生まれるのかな、と思って書いてみました。

スマホゲーとはいえ某ロボゲーにほぼ間違いなく参戦するらしく嬉しい限りです。できれば本家でも来て欲しいですが。
ではまたいつか。早く映画を見たいです。

どうも。急に時間ができたので、また勢いで書いてきました。
今日は一つだけやります。

『今のうちに色んな奴らと関わっておけ。そうやって自分のことを誰かに覚えてもらうんだ』

何も無い暗闇の中、昔先輩に言われた言葉が、僕の耳に響いた。
いつ、自分も他の誰かも、いなくなるか分からないから。自分以外の人たちと繋がりを持て、と教えられた。
そういう場所に僕たちはいる。
だからせめて、後悔しない選択をし続けろと、そう言われた気がした。

「ん……」

ゆっくりと、僕――ヒタチ・イズルは瞼を開いた。
うっすらとした明かりが、僕の視界を暗がりから広げてくれる。
そして、自分が自室にいないことに気付いた。

どうしてだろう、と考えて、すぐに思い出した。
先輩たちの追悼に絵を描こうと思って、集中できる場所にと、仲間の一人のアサギの部屋に行って。
それで、いつものようにチームの仲間と話していたら、急に体調を崩してしまい、病室で休むように言われていたんだった。

そうだったそうだった、と自分の置かれた状況をぼんやりと考えていると、左隣から声を掛けられた。

「あ、起きた?」

聞き慣れた声の方へと視線だけ送ると、そこには僕に付き添ってくれているチームメイトのケイがいた。
彼女は果物ナイフを片手に、紅くて丸い物体に何やらナイフを入れようとしていた。

「ケイ…うん、何か、起きちゃった」

答えながら、僕は上体を起こした。
どれくらい眠っていたかを聞いてみると、まだ一、二時間ほどよ、という答えが返ってきた。
それから彼女は手に持っていた紅い物体をよく見えるように僕に差し出した。

「リンゴ、食べる? タマキがさっき持ってきてくれたの」

ああ、なるほど、と僕は彼女の持っているモノについて納得した。
どうやら寝ている間に他の仲間たちが差し入れに持ってきてくれたらしい果物の入ったカゴを、ベッド側にある小さなテーブルに見つけた。

うん、と僕は笑顔で頷いた。
仲間たちからのお見舞いの品。なんていい響きだろう。こういうシチュエーションはヒーローマンガの終わりなんかで見かける気がする。
戦いが終わって傷を病院で癒すヒーローとお見舞いする仲間たち。平和を噛み締めて、彼らの物語は終わるんだ。
……もちろん、現実は違うことは分かっているけれど。でも、お見舞いをもらったのはいいことだ、と僕は嬉しくて笑顔でいた。

そんな僕の考えは知らない彼女は、ただ僕に合わせるように笑ってくれて、それからナイフをまた入れ始めた。
手先が器用なんだな、と僕は彼女がするするとリンゴを剥いていく様に見とれていた。
ケイはお菓子を作るときに果物を使うこともあるから、慣れているんだろう。

「…あんまり見ないで。何か、緊張する」

そんな僕の視線が気になったのか、ケイはくすぐったそうにすると、手を止めて僕に困ったような顔をした。
ついついじっと視線を送ってしまっていた。彼女があんまり綺麗にリンゴを剥いていくものだから、見入ってしまったんだ。

「あ、ごめん。ケイはすごいなぁ、って思っちゃって、つい」

ごめんごめん、と僕は思ったことをそのまま伝えてから彼女に謝ると、気にしないで続けて、とも加えた。

「……褒めても大したモノは出ないわよ」

言いながら、ケイはまた手を動かしだした。
彼女は的確にナイフを入れて、ただの丸い物体だったものを大きく変化させた。

「わぁ……」

思わず、僕は、手渡されたリンゴの載ったお皿を眺めて、大きく感嘆の息を吐いた。
丸いお皿の上に載ったリンゴには、ぴょんと跳ねるようになった紅い皮が乗っかかり、耳のように見えるそれが、何だか生き物を連想させた。
そう、僕のいるチームの名前、ラビッツのように。
子供みたいな僕の反応がおかしいのか、ケイは少し微笑んでいた。

「ウサギリンゴなんてそんな驚くモノじゃないわよ?」

「でもすごいよ。こんなにかわいいモノになるんだね」

何だか食べるのがもったいないくらいだよ、と加えてから、僕はそれを一つ手に取ってしげしげと眺めた。
紅いウサギだと、何だか僕の乗る機体を思い出す。
あれはかわいい、というよりもかっこいいという言葉の方が似合うけれど。

「結局食べてしまったら、あんまり意味はないわ」

照れ隠しなのか、少しだけ冷めたようなことをケイは言った。
そんなことないよ、と僕は反論した。
素直に彼女のしてくれたことが嬉しかったし、本当にすごいと思っていたから。

「意味はあるよ。ケイがわざわざ僕のために作ってくれたんだ。僕、嬉しいよ」

「…そう」

はっきりと言いきってから、ありがとうと笑顔を見せると、彼女も笑ってくれた。
やっぱり、ケイってお母さんみたいだなぁ、と何となく思って、口にするのはやめておくことにする。
たぶん、怒るだろうから。

とりあえず、と僕はいい加減手に取ったウサギを弄ぶのを止めて、一口かじった。
甘く、瑞々しい果実は身体によく染みた。眠っていたけれど、それでも結構疲れていたらしい。

何だか普通に食べるときよりもずっと美味しく感じた。
きっと、ケイが僕のためにわざわざ切ってくれたことが嬉しくて、余計にそう感じるんだろう。

うんうん、と頷きながら、僕はリンゴを食べる。
そんな僕を、ケイはただ黙って見ていた。
……あんまり見られると、何か変な感覚がするなぁ。
あ、そうだ。

「ケイも食べなよ。美味しいよ?」

せっかくの美味しいリンゴだし、独り占めするのは悪いし、と付け加えて、僕はもらった皿を彼女に差し出した。
言われたケイは、面食らったように断る素振りを見せた。

「でも、これはイズルの…」

「だけど、ほら、切ってくれたのはケイだし、ね」

遠慮するケイに、僕はウサギを一つ手に取って、彼女の口元に持っていく。
こうすれば、さすがに遠慮できないだろう。
や、僕も少し照れるけれど。でも、本当に美味しいから、ケイにも食べてほしいな、と思ったんだ。

「ちょ、イズル…っ!」

慌ててケイが困ったような顔をする。その頬には朱が差し込んで、ほんのりと紅かった。
たぶん僕も同じような感じなんだろうな、と見れない自分の顔を思いながら、でも、まぁいいや、と考えることにした。

チームといえば家族も同然。家族の間では、これくらいのことはそう気にしないって言うし。
気付けばもう、リンゴと彼女の距離はほんの数センチくらいだった。

「はい、あーん」

ここまで来たら引けない、と僕はちょっとだけ意地を張った。
あーん、と促すと、彼女は観念したようにやっぱり遠慮がちに口を開いた。

ようし、と僕は手の中の果実をそのままそっと彼女の口内に入れた。

シャリ、と彼女がそれに合わせてリンゴを噛む音が僕の耳に届いた。
それから、口を半分になったリンゴから離して、まごついた様子でケイは口の中のリンゴをモグモグと咀嚼していく。
やがて、ごくん、と彼女の白い喉が動いて、リンゴを飲み込まれるのを僕は見届けた。

その後、もう一回、と僕は半分になったリンゴをまた差し出した。
二回目になると少しは抵抗がなくなったのか、比較的素直にケイはもう半分を食べてくれた。

「ね、美味しいでしょ?」

顔が熱くなるのを錯覚しながら、僕は笑顔でケイに感想を求めた。
彼女は何も言わず、ただ、俯いて、こくりと首を縦に振った。

…耳まで紅いよケイ。そんなに恥ずかしかったかなぁ。
うーん? と僕は自分のしたことを少しだけ省みた。
そんなに気にすることじゃないと思ってたんだけれど、僕はまたズレたことをしたのかもしれない。

でもまぁ、しちゃった後だし、今更なことだよね。そう考えて、僕は皿の中のリンゴに手を伸ばす。
彼女も、いつの間にかすっかり顔の朱色が消えて、おそるおそるといった感じで同じようにリンゴを食べ始めた。
そのままお互いに何だか喋らなくなって、ただただリンゴを美味しく食べているだけになってしまった。

ただ無言で食べるのも何だか気まずいかな、と思い始めた僕は、何か話をしよう、と話題を探すことにした。
ケイは話をするのは苦手なタイプだし、こういうときは僕から話を振らないといけない。

何がいいかな。マンガの話、ヒーローの話――いや、そうだ。
いつもする話題の代わりに、さっきまで見ていた夢――というのか、何というのか、思い出していたことを話すことにした。
ケイには、何となく話しておきたいと思ったんだ。

「さっきまでさ、ランディさんのこと、思い出してたんだ」

「…………うん」

突然の僕の言葉に、ただ頷いて、ケイは僕の話を待つ。
急な話を聞いてくれることをありがたく思いながら、僕はさらに続けた。

「前に言ってたんだ。色んな人に関わって、自分のことを覚えてもらえ、って」

そうすれば、いなくなってもその人の中に生きている。ずっと、自分がその人と一緒に戦える。
ただの精神論だけれど、でも、実際ランディさんたちはまだ、僕の心の中に生きている。
声も顔も、全部全部、忘れるわけもなかった。

そのことを噛み締めながら、僕は思ったままをさらに口にする。

「ランディさんはもういないけれど、僕はずっと覚えてる。忘れたりなんてしない」

「……うん。私も、忘れられないと思う」

ケイの言葉に頷くと、僕は、でも、と加えた。

「でも、さ。やっぱり、もっと話したいこと、いっぱいあったんだ。それをもう話せないんだと思うと、何ていうか、寂しい」

「イズル……」

どんなにその人を覚えていたって、いなくなったらもう会えない。
話をしたくてもできないし、触れることだってもうできない。

もっとこうすれば、なんて後悔がほんの僅かだけれど、僕の中には確かにあった。
その気持ちと共に、僕は自分の中の結論を口にした。

「僕たち、言いたいことは言えるうちに言わないといけないんだと思う。…明日がどうなるかなんて、分からないから」

「……イズルは、誰かに何かを伝えたいの?」

僕の考えに、ケイが疑問を投げる。
その通りだと思った。いくらでも、色んな人たちに話したいことがたくさんあって、思い浮かんでは止まらない。
ピットクルーの皆さん、チャンドラさん、艦長、整備長、オペレーターの二人、ルーラ先生、シオンさん、ペコさん。
シモン司令、テオーリアさん、チームの皆。

まだまだ話をしたい人たちがいて、後悔しないように、伝えたいことがいっぱいあった。
でも、とりあえず今は。

「うん……ケイ、僕、言いたいことがあるんだ」

目の前の彼女から、伝えていこう。
身を改めて、僕はケイの顔を見据える。僕が何を言うんだろう、と彼女は不思議そうな顔をしていた。
そんな彼女に、僕は自分にできる限りの笑顔を見せて、はっきりとその気持ちを口にした。

「――いつもありがとう、ケイ」

「え……」

僕の感謝に、ケイはそれが予想外だったかのように目をぱちくりさせた。
僕は気にせずに言いたいことを頭の中で整理して、たどたどしい調子で続けた。

「アンジュが、その、スケッチを破ろうとしたときも、ジアートと戦った後、僕が病室で昏睡状態だったときも、今、このときも」

彼女とあったことの一つ一つを思い返しながら、僕は言葉を繋ぐ。
そして、気持ちを込めて、一番言いたかったことで締めた。

「僕のこと、心配してくれてありがとう」

そうだ。彼女はいつだって、気付いたらいつの間にか、僕の側にいた。
僕が大変なことになったり、困ったときは、何でも力になろうとしてくれた。

彼女の存在は、僕の中では大きくなってきていた。
それが、当たり前のように感じるくらい。
きっと、それはとてもとても、恵まれたことなんだと、そう思えた。

「……そんなの、気にしないで」

僕の感謝に、ケイは笑みを浮かべてそう返した。
それから、何かを思い返すように遠くを見つめる。
何を思っているんだろう、と僕が言葉を待っていると、彼女は僕に一つ尋ねた。

「ね、覚えてる? アッシュに乗り始めてすぐの頃、リゾートでバカンスしてこいって言われたときのこと」

「うん。……どうして戦うことに平気なの、ってケイに聞かれた」

よく覚えていた。自分の戦う理由を見つめなおす、いい機会でもあったから。
記憶も無いまま、戦う以外に他に何もない僕らのことがどうしようもなくたまらなくなると言ったケイに、僕なりの答えを返したんだ。

何もない僕らにも、戦うことで、何か意味を作れるはずだって。できることが、きっと、あるんだ、って。
不確かだけれど、はっきりした自信のままに告げたのを、よく覚えている。

僕の答えに、ケイはあのときのことを懐かしむように目を細めて、とてもそれが大切なことのように続けた。

「…私、あのときのイズルの答えがなかったら、たぶんずっとふてくされたままだった。自分のいる意味を考えて、戦おう、って考えられなかったわ」

だから、ありがとう。そう、彼女は言ってくれた。
彼女なりに考えたんだろう言葉の節々には、彼女の感謝の気持ちがよくこもっているように感じた。

ふと、思い出した。一緒にヒーローになれるように頑張る、そう彼女が言ってくれたときのことを。
僕を応援してくれる人ができたことに、とてつもない嬉しさを感じたときのことを。

まっすぐに僕を視界に捉えると、ケイはうっすらと微笑んだ。
それから、その唇を動かして、僕にこうも伝えた。

「――私にとって、あなたはヒーローなの」

たった一つの、彼女にとっての僕。それが何なのかを、教えてくれた。
僕にとって、何よりも嬉しい言葉で。

「……ヒーロー」

「ええ」

その言葉の実感に、僕はただ、感慨深く呟いた。
僕の反応に、彼女はただ、見守るように笑ってくれた。

「ありがとう、ケイ。そう言ってもらえて、すごく嬉しい」

「……うん。私も、そう言ってもらえて嬉しい」

互いに見つめあったまま、僕らはただ無言でいた。
不思議な空気が流れていた。何の言葉もないのに、居心地のいい感覚がした。
ただこのまま、二人で一緒に過ごすのもいいかもしれない。そんな気がした。

でも、そんな時間もすぐに終わった。

「――おーっす、イズル!」

「――おーっす!」

「し、失礼します…」

静寂を押し破るような声に、二人して驚いて顔を見合わせた。
それからそれが誰のモノかすぐに理解して、しょうがないな、と笑って、そちらの方を見た。
思った通り、そこには他のチームの仲間――スルガ、タマキ、アンジュがどかどかと入ってきているのが見えた。

「あ、皆」

「もう、あんたたち、少しは静かに入りなさいよ」

呆れたように注意しながら、ケイは皆にイスを用意してあげると、そこに座らせた。
それから、いつも通りスルガが話題をどんどん出して、タマキがそれに乗って、アンジュが振られて困ったような顔をして。それをケイが諌めて。
僕の大好きな、チームラビッツの日常風景がそこにはあった。

僕も話に参加して、皆で気楽に笑っていた。
ただ――

私にとって、あなたはヒーローなの――

話している間も、不思議なことに、ケイのさっきの言葉が耳を離れなかった。
そんなに嬉しかったんだろうか、と内心問いかけてみる。

まっすぐ、ヒーローになる、ってこれまで自分に言い続けていたけれど。
こうして誰かに面と向かってはっきりとヒーローだと言われたのは、テオーリアさんのときと合わせて、これで二度目だった。

でも、あのときとは違う感覚だった。
テオーリアさんに言われたときは、心の底から力が湧いてくるような、そんな勇気のもらえる感覚がした。
さっき、ケイに言われたときは――何だか、暖かいものがあった。嬉しいには違いないけれど、何だか照れるような、熱い感覚。
どうしてだろうか、ともう少しだけさらに考えようとした。

「おいイズル?」

「え、あ、ごめん。…ええと、何だっけ?」

けれども、僕の思考は仲間の一人、スルガの声に遮られた。
僕の反応に、仲間たちは呆れたように笑って、いつものことだと特に気にせずもう一度話題を振ってくれた。

それに答えていたら、もう考えていたことはどこかへと行ってしまった。
いつか、分かる日が来るといいな。きっと、分かるだろう。
僕は気楽に自分らしく、そう結論付けて、一旦、この気持ちのことを考えるのを止めた。

それよりも今は、仲間たちに話したいことを全部話すんだ。
ランディさんの教えてくれたように、後悔しないように。
僕は、はっきりと自分のすべきことを認識して、また仲間たちに向かって、言葉を紡いでいった。

おしまい。映画ではそんな余裕はなさそうだけどケイにはがんばってほしいところ。
ではまたいつか。

お久しぶりです。また時間が空きましたが、始めようと思います。

振り払えない思い出がある。自分の名前を呼ぶ誰かのこと、小さいけど暖かかった家らしい場所のこと。
俺を連れて行く冷たい手の感覚と、俺を呼び続ける誰かが泣いている姿。

もうずっと昔のことに違いないけれど、大事なことなんだろう。
結構な時間が経って、諦めたつもりの今でも、やっぱり消えることもない。

だからって、その思い出をどう扱えばいいのかよく分からなくて、俺は。
俺は――

「――ガ、スルガ!」

「んあ?」

自分の肩を揺する誰かの手の感触に、俺は自分の意識を遠い世界から現実へと帰還させた。
置かれた手の方を見れば、タマキ――俺のチームの仲間の一人だ――が不思議そうな顔で上から俺を覗き込んでいた。

「どーしたのら?」

いつものように純粋さに輝いている瞳にぼうっと視線を合わせて、俺は即座に現状を整理した。

確か、そうだ、ウルガルのゲート破壊作戦のためにスターローズが発進して。
それで、クルーの連中と出発の前にと、多少話をして、チームの仲間たちと合流する前に、ちょっと一人になろうと思って。
食堂の近くにある休憩所のソファに座ってたんだ。

どれくらい時間が経ったかは知らないけど、タマキの接近に気付かないくらいには考え事に集中していたらしい。

「…何でもねーよ」

タマキの言葉に、俺は短く返して立ち上がった。
ホントに大したことなんかじゃなかった。少なくとも、こんな能天気なやつに言うようなことじゃないのは確かだと思う。
すると、何を思ったのか、タマキは胸をぽんと叩くと、何だか急に年上ぶった調子で言った。

「悩みならお姉さんが聞くのらー」

「お前が一番年下だろうがよ」

って言っても一歳しか違わないけど。
それでも、上は上だ。
そんな俺の言葉が不服なのか、タマキは反論してきた。

「年じゃないのらー。こー、なんていうの? 精神的なー?」

何故か疑問系で締められた言葉に、俺は呆れて息を吐いた。
全然はっきりしないタマキの物言いに、やっぱり子供じゃねーか、と内心ツッコミを入れる。

「それで考えても俺のが上だっつーの」

なにをー、と声を上げるタマキの抗議にはもう取り合わないで、俺はすたすたと歩き出した。
さっさと他の連中のいるであろう、チームの集まるバーラウンジへと向かう。
俺らしくもないことを一人で考えていたのを、早く忘れたかったんだ。

置いていかないでよー、とタマキは俺の背に声を浴びせながら、小走りで付いてくる。その姿には何だか幼い印象があった。
……なるほど、確かに末っ子感あるんだな。
一人で納得しながら、隣を歩くタマキに、何となく黙るのも嫌だったので話題を振ってみることにした。

「な、そういえばよ」

「んー?」

少しばかりフラフラとした調子で歩くタマキに、まっすぐ歩けよ、と注意しながら俺は続けた。

「さっきよ、イズルの病室でした話」

「さっき?」

さっぱり分からない、という調子でタマキは首を傾げた。
何のことだろうか、と思い返している様子だったので、俺はもっと分かりやすく答えた。

「俺たちが家族みてーだ、って話」

俺たちのチームの仲間であるイズル、それにアサギが遺伝子を共にする兄弟である、ということを知ったときに、コイツが話していたこと。
そもそも、俺たちチームラビッツ自体がまるで家族のようだ、という言葉。

もう一人のチームの仲間であるケイがお母さん、アサギがお兄ちゃんで、イズルが弟。
そんなことを、確かコイツは言っていた。

ああー、とようやく分かったのか、タマキはぽん、と手を叩いた。

「それがどうかしたのらー?」

特に何か発展するような話でもない、といった調子でタマキはクエスチョンマークを頭の上に浮かべた。
まあそうだろう。こいつにとって、あの話はちょっとした世間話みたいなものだったに違いないし。
ただ、俺にはその世間話のことがどうしても気になったんだ。

「俺は何になるんだ?」

そう。タマキの話の中では、ちょうど俺の立場だけ何も言及されなかったんだ。
それがどうにも気になった。チームの中じゃ、コイツは俺をどう認識してるんだろうか、と。

俺の質問に、タマキはぴた、と動きを止めた。
それから、大仰に顎の辺りに手をやり、深く考えるようなポーズをしてみせる。

「スルガー? うーん…」

唸りながら、タマキは何を言わない。
おい、そんな悩むようなことなのかよ。俺はお前の中じゃどういう扱いなんだ。

ますます気になってきて、俺はタマキの答えをじっと待った。
やがて、タマキが悩みに悩んだように唸りを上げて、ようやく、一言だけ、ある単語を零した。

「………猫?」

「どーぶつかよ!」

聞くやいなや俺は速攻でツッコミを入れた。
あろうことか家族の中でも人間ですらない。俺はペットかよ!

すると、タマキは特に悪びれる様子もなく、言い訳をした。

「だってー、スルガすっごく猫っぽいしー」

「ひでぇ……」

あんまりな答えに、何だか一気に力が抜ける気がした。
がっくりと肩を落とすと、俺の反応にタマキは若干困ったような顔をしている。

「ただの世間話じゃんー…あ、アンジュー!」

話は終わり、と言わんばかりにタマキが俺を置いて駆け出した。
その先には、後輩のアンジュが廊下の曲がり角をちょうど曲がってくるところが見えた。
困った状況を変えるちょうどいい存在の出現に、タマキはさっさと逃げてしまったのだ。

「……ま、そりゃそうなんだけどよ」

ふぅ、と息を吐くと、俺もタマキにならって、アンジュのいる方へと急ぎ足で向かう。
もう世間話はこれでおしまい。さっさといつもの思考回路に戻すとしよう。

ただの世間話に、何となくムキになってしまった。
たぶん、家族、という言葉は俺が自分で思っているより、ずっと気になる単語なんだろう。

最近はそんなことは気にしないようにしていた。
何度『あの人』が夢に出てきても、考えるだけ無駄だと言い聞かせてきた。

ムキになってしまったのは、アサギとイズルの話を聞いて、また何となく『あの人』のことを考えてしまっていたせいだ、と思う。
イズルとアサギは、別に俺の求める『家族』ではなく、血の繋がる本物の家族だけれど、その振る舞いが、姿が、何だかまぶしかったんだ。

素直なところ、羨ましかったのかもしれない。
あんな風に、俺の求める『家族』も急に現れてしまえばいいのに、なんて妙な考えを抱いてしまった。

そうしたらきっと、もうあんな夢なんて、見ないで済むだろうにな。
ふと、そんなことが思い浮かんだけれど、そんなわけないな、と自分のバカな考えをすぐに改めて、俺はタマキたちと合流することに意識を集中した。




ゴディニオンのラウンジで皆揃って、出撃できないイズルの分までがんばろう、と決意した後。

ゴディニオンの発進前、スターローズのアサギの部屋で待機して、戦いに勝つことを祈ってパーティをした。
それも済んだ後は、作戦開始の召集がかかるまではそれぞれで過ごそうということになって、一度俺たちは解散した。
俺は一人、作戦が始まるまでの暇をどう過ごすか、とゴディニオンの中を歩いていた。

どうせ特にやりたいことがあるわけでもない。
自分の機体でも眺めようかとも思ったけれど、何となくそんな気分にもなれなかった。
モデルガンの整備でも、とも思ったけれど、どうも趣味に興じる気分じゃないらしく、集中できなくなってしまった。

そういうわけで、落ち着かない自分を持て余した俺は、これまでずっと乗ってきたこの艦の中でも、一番長く過ごしてきた場所へと向かうことにした。
慣れた場所で過ごしていれば、自然といつもの調子に戻るだろう、という目論見があったんだ。

そうして、俺は目的地――チームで作戦が終わるたびに集まっていた、バーラウンジへと辿り着いた。
いつものようにカウンター席にでも座っていよう、と中へ入って、俺は先客を見つけて、部屋の入口で足を止める。

おや、と様子を窺っていると、その先客は窓際の方に立って外の世界を眺めているようだった。
とても見覚えのある後ろ姿だ。それもそうだ、これまで一緒に背中を預けられて、戦ってきた仲なんだから。

「アサギ?」

「スルガか」

俺が声を掛けると、先客――アサギは軽くこっちを見て、また外に視線を戻した。
構わず、俺はアサギに近付いて、隣に並んだ。
それから、からかうように笑みを浮かべてこう言った。

「へっ、んなトコで精神統一か? 『お兄ちゃん』」

「お前までそれ言うなよ…」

ちょっとだけ嫌そうな顔をすると、アサギは小さくため息を吐いた。
イズルの兄だと分かってから、皆してコイツのことをイズルのマネして『お兄ちゃん』なんて呼んでいる。
まぁチームの中じゃ一番年上だし、ある意味では何も間違っていない。

俺のからかいにアサギはもう気にしないことにしたのか、また意識を外にやっていた。
そこには何も無い宇宙があって、その虚無を見つめていると余計な雑念も消えそうで、考え事にはちょうどよさそうだな、と思った。

戦えないリーダーの代わりにリーダーになったこと。
そのリーダーが、自分と同じ遺伝子を持つ弟だったこと。
この戦いの結果で、自分と家族の未来や、地球に住む全ての人々の命運が決まること。

神経質なやつだから、考えだしたら止まらないんだろうな。

そんなリーダー代理の心情を思いながら、俺はアサギの表情を何となく観察する。
考え事がたくさんあるんだろうアサギの顔は、想像していたよりも暗くなかった。

昔のアサギなら、こういう思い悩むような状況になるといつも不安そうな顔をしていた覚えがあったが、どうも違った。

やるしかない、というような気持ちが出ている、そう、覚悟を決めたような顔をしていた。
不安もきっとあるにはあるのだろうけれど、それ以上に前に進もうとするような意思を感じられた。

変わったんだな、と俺はふとちょっと前のことを思い出した。

初めてアッシュに乗った後、与えられた簡単な衛星設置の任務。

のんびりと気軽な任務を遂行していたら、急な敵襲があって。
それで、慌てて迎撃準備を整えようとしたら、プレッシャーに負けたアサギが思い切り失敗した。
任務から戻った後、くやしそうにしてたっけ。

そのときのアサギと、俺の前にいる今のアサギは、まったく違う人物に感じられる気がした。

何があって、アサギは変わったんだろう。いや、理由なんて分かりきってるよな。

自分の中で生まれた疑問の答えは、すぐに出てきた。

「家族って、どうなんだ?」

我ながら突拍子もない質問だと思った。
心の中で勝手に解決した問いの答えが、そのまま質問に変わってつい口から出てきてしまったんだ。

勝手に納得してしまった俺の心が、直接本人に確認してみたかったんだろう。
…面倒な言い方だったな、要するに気になったんだよ。

「は?」

俺のいきなりな言葉に、アサギはこっちの方へと奇妙なモノを見るような視線を送ってきた。
そりゃそうだ、と思いながら、俺は慌てて弁明を始める。

「や、ほら、イズルのやつが弟でさ、それで、何か変わったりしたのかなー、ってよ」

質問の意味を身振り手振りしながら、必死に伝える。
その甲斐あってか、アサギはああ、と納得したような表情を見せた。
それから、目線を下げて、俺に向き直る。

「……そうだな」

思わず、俺は答えるアサギの顔を見て、内心驚いていた。
これまでとあまりにも表情が違いすぎて、目の前のこいつは本当にアサギか、と思ってしまった。

俺の知ってるアサギは、もっと神経質そうな顔して、いつも渋い表情してて。
こんな風に、柔らかく笑うようなやつじゃなかったと記憶していた。

「結構、変わったかもな」

はっきりとした調子で言うと、アサギはさらに続けた。
淀みなく、すらすらと、考えるよりも早く、自分の気持ちが口から自然と出てくるような、そんな調子で。

「あいつのこと、放っとけない危なっかしいやつだ、ってよく思ってたけどさ」

そこでアサギは区切ると、おかしくてしょうがないと言わんばかりにくつくつと笑う。
それから、何だか清々しい、すっきりとしたような顔でこうも言った。

「不思議なもんだよな、家族なんだって言われちまって、どんどん大事にしようって思えるようになるんだ」

「……そうか」

実感のこもっている答えに、特にからかうような言葉も出ず、俺はただ、頷いた。
家族ってやっぱりそういうものなのかな、と少しだけ記憶の中の人間のことを想像して、やめた。
そんな俺の反応に、アサギは何か察したのか、一つ尋ねてきた。

「…前に言ってたことでも思い出してたのか? その、お前の記憶の」

やべ、顔に出てたのか?
内心慌てて、俺は、とりあえず素直に返すことにした。

「…まーな。今でも、たまに夢でも見るし」

以前に一度だけ、告げたことがあるあの夢のことを思い返しながら、俺は頷く。
俺にだってあったはずの、大切にすべきであろう『家族』の思い出。
そうしているうちに、アサギは少しだけ考えるそぶりを見せて、それから、話題に出したものか、と悩んだような様子でさらに質問を続けた。

「どんな感じなんだ? その、お前の家族っていうのは」

「どんな感じって――」

聞かれて、俺は言葉に詰まった。
こんな風に踏み込んでくるなんて、やっぱりこいつは変わったんだな、なんて思いながら。
それから、どう答えたものかな、と回答に迷った。

自分の記憶なんて、正直なところ、ぼんやりとした雰囲気でしか覚えていない。
アサギみたいにはっきりとした気持ちで答えられるかといえば、そんなこともないんだ。

俺の家族、か。
質問に、俺は薄い記憶の断片を一つ一つ探る。どれもこれもバラバラになっていて、どこかへと飛び散ってしまっているような感覚がする。

それでも、消えないモノは確かにあって、その中から俺はいくつかを拾い上げて。
あやふやではっきりとしないモノから、どうにか答えを形にした。

「とりあえず、まぁ、優しい雰囲気だったよ」

それだけは感覚的に分かっている。
どんな顔で、どんな声で、どんな感触で触れてくれたのか。
うすぼんやりとした夢の中で、何度も経験したから。

「俺の背中軽くさすったり叩いたりしてさ、名前を呼んでくれるんだ。それで、子守唄かなんか歌ってさ」

若干の早口で、俺は思いつく限りの情報を伝える。
こういうときに俺の早口は実に役立つ。無駄に感情を込めずに済む。
せっかく家族に会えたアサギに、変に気を遣わせるのも悪いからな。

そう思っていた俺の流れるようにすらすらとした声は、しかし。

「それだけで、すっげぇぐっすり眠っちまってさ……それで…それで」

あっさりと、言葉の奔流はせき止められてしまって、喉の辺りから口元までの間で全部、零れ落ちてしまった。
言いたいことがなくなったわけじゃない。いくらでも頭の中にセリフが湧き上がる。
それが止まった原因は、内面での問題じゃなかった。

「お前…」

アサギが目を見開いているのが見えた。
そして、その姿を納める俺の視界がにじんでいるのに気付いたのは、それから数秒してからだった。
頬を伝うそれに気付いて、俺は乱暴に目を擦ると、何でもないように笑ってみせた。

「…ととっ、気にすんな。どうもそんな気分じゃないってのに、こう、思い出そうとすると、勝手に出てくるんだ。人間って変なもんだよな」

へへ、と乾いた笑いを上げながら、俺は何でもないようにちょっとニヒルな笑みを返してみせる。

「そう、か……」

それだけ言うと、アサギはもう特に何も言及せず、ちょっとだけ眉を寄せて、何を言ったものか迷うような顔を見せた。

おいおい、そんな顔すんなよ。せっかくお前は家族に会えたんだ。それじゃ俺が平気だって笑った意味がねーじゃん。

「そうだよ」

ニッ、と改めて不敵に笑うと、俺はさっさと話題を切り替えることにした。
……そうだな、気にしないでくれ、自分は大丈夫だとアピールするにはちょうどいい話を振るとしよう。

「ま、俺はいいんだ。……な、タマキのやつの言ってたこと、覚えてるか?」

「……ああ、俺たち皆家族みたいだ、ってやつか?」

「それそれ。まぁ、気休めみたいなもんかもしれないけどよ、このチームが居心地いいのも確かだしな」

頷くアサギに、俺もうんうん、と首を縦に振る。

チームラビッツ、という場所。

いつもぼけぼけしたイズル、アホの子だけど憎めないタマキ。
お菓子はともかく何だかんだ皆の面倒見てるケイ、それを何だかんだまとめるアサギ。
それに、最近になってようやく馴染んできたアンジュ。

俺にとっての世界の全てだった連中。
今は、世界はもっと変わってしまったけれど。

「そうだな…何だかんだ、お前やイズル、ケイたちが一番の付き合いだからな」

そう。どれだけ多くの人たちと関わりを持っても、一番初めにいた場所が何よりも安心できるんだ。
それはきっと、故郷、とかいう単語で表されるような場所なんだろう。
俺にとっての故郷で、帰る場所。それがチームラビッツなんだ。

それを改めて感じながら、アサギの言葉に俺はもう一つ付け加えた。
広がった世界にできた、新しい居場所のことを。

「それに、他の連中もな。ピットクルーの連中とか」

ヒデユキ、ノリタダ、タカシ。
俺にしつこく筋トレをさせようとする(実際させられた)、お節介な連中。
武器の話に関しては文句の付けようのない、俺の新しい世界の人たち。

きっと、あの連中もまた、俺にとって――

思考の最中、ふと、俺はくすぐったい視線を感じて、アサギの方を見た。
見てみてから、俺はしまったな、と自分の発言を後悔した。
俺の発言に、アサギはあんまり見ないような意地の悪い笑顔を見せていた。

「へぇ」

「あんだよ」

俺の反応を楽しむような顔をして俺に意味深な目を向けると、アサギは続けた。

「あんな筋肉馬鹿はいやだ、ってよく言ってなかったか?」

「……別に。少しは話し相手になるんだよ、結構」

その姿の一つ一つを思い出す。
しつこく筋トレに誘っては、鍛えられて。
どっかから機密扱いのはずの最新の装備や機体の試験映像やらデータやら持ち寄ってきて。
それで、一緒にいることがいつの間にか悪くなくなって――

「ふぅん」

まだ何か言いたそうにして、アサギは俺に笑みを向けた。
何だか初いものでも見るような、俺も通った道だ、とでも言うような感じの、くすぐったい笑顔。
……よせよ、俺までお前の弟扱いかよ。

「…じゃな、俺は部屋に戻る」

何となく居所が悪くなって、俺は回れ右をしてこの場を去ることにした。
一人にしてやろう。残った時間も少ないし、アサギだって考えたいことがあるに違いない。だからこんなところに一人でいるんだろう。
そういう理由をとってつけたように思いながら、俺は歩き出した。

「そうか。よく休めよ。作戦までもう時間もそんなないしな」

そそくさと消える俺の背中に、アサギの声。
いつもの、気配り大王なんて呼ばれてるあいつの、気遣い。
昔のあいつならまず寄越さなかった言葉だった。

人は変わるもの、か。

「ああ、じゃあな」

顔だけアサギの方へと向けて、俺はひらひらと手を振った。
家族、か――そうだな。
さっきまで特に決まっていなかった行き先が、アサギとの会話で何となく決まり、俺はまっすぐに歩みを進めた。
あんまり気が進まなかったけど、でも、まぁ。やっておいて損はないだろう……たぶん。




ちょっとした移動の後、俺は目的地――ゴールドフォーのピット艦に到着した。
中に入れば、無駄に暑苦しい雰囲気を纏う筋骨隆々とした男たちがいるのが見える。

俺のピットクルーたち。
武器の話に関してだけは認めざるを得ない、俺の仲間。

「む、スルガ。どうした」

「パイロットは休息を与えられてるだろ。よく休め」

「鍛えすぎても筋肉が育たないからな。適度な休息が大事だ」

いつも通りの息苦しくて、でもどこかホッとする、もう慣れてしまった歓迎を受けながら、俺はそっぽを向く。
今から言うことは、正面向かって言うには、ちょっと難しいところがあったんだ。

「…その、何ていうか」

「む?」

俺の歯切れの悪いセリフの始まりに、筋肉どもは怪訝そうに俺を窺う。

やめてくれよ、そんな見つめるなってぇの。綺麗なお姉さんならともかく。

一瞬そんな言葉が出そうになって、喉元で止めた。
ガラにもなくマジメなこと喋ろうってんだ、ちゃんとしろよ、スルガ・アタル。

「作戦始まったら、武器の換装とかすげぇ多くなるだろうし、さ――」

そうして、まずは言いたいことを一つずつ告げた。
いろいろと言葉を続けて、少しでも一番に伝えたい一言を出すまでの時間を稼ぐ。

それくらいしないと、心構えができそうになかった。
思いつく限りのセリフを早撃ちでひねり出して、そうしているうちに、言葉が完全に詰まった。

――もう後言えることなんてねぇよちくしょう! これくらいしか、ねーっての!
……これくらい、しか。

言うんだ、と緊張に揺れる唇から、俺は必死にその言葉の音を出そうとする。
そうだ、言え。後悔するようなことはしたくない。ちゃんと、言うんだ。
そして。そして――



「……よろしく頼むな――アニキ、たち」



小さく、でもはっきりとした声で、俺は言った。言ってみせた。
嫌な緊張感があった。でも、言えたことに妙な安心感もあった。何とも表現できない、ふわふわした不思議な感覚だった。

「スルガ、お前……」

「そ、それだけだから! じゃな、あんたらも休めよな!」

驚いたような顔で何か返そうとするアニキたちを遮って、俺はくるりと百八十度方向転換して、脱兎のごとく駆け出した。
もういたたまれない気持ちでいっぱいで、その場に居続けるのが我慢ならなかったんだ。

……言った、とうとう言っちまった!
こんなの俺のキャラじゃないってのに! 何してんだ俺は!

走り続けて、俺は自分の息が上がるのを感じて立ち止まった。

「……ったく、我ながらどうかしてるぜ」

感化されすぎだっつーの。別にあの連中俺と年近いわけでもないし。血だって、繋がっちゃいないし。
…ホント、どうかしてたな、俺。

そう思っていたけど、だからって後悔があるわけでもなかった。
やってやった、という何とも言えない満足感と達成感があった。

「…家族、か」

何とはなしに呟いた。
まったくもって理解できないモノだった。
複雑で、面倒で、でも、何だかあると嬉しくて。
とにかく、よく分からないモノだ。

これが本物じゃないのは分かってる。分かってるけど、別に俺にはそれくらいでちょうどいい。
前の記憶に簡単に踏ん切りがつくわけじゃないのも確かなのも分かってる。
でも、俺にはもう『家族』がいてくれる。だから、いつかはきっと、この気持ちにも整理がつく日が来る。
そう、思えた。

おしまい。スルガの話後半でした。二期とかあったらスルガの過去のルーツを探る話とかやってほしい。泣く自信がある。
次は映画が始まる前にどうしてもやっときたかった妄想をば。

戦いが終わった。
敵が出現するための入り口を破壊して、侵攻を阻止することに俺たちは成功した。
ここまでに失ったモノは多かったかもしれないけれど、それでも、俺たちはやったんだ。
――だけど、勝利の喜びを俺たちは祝えることもなかった。

「――イズル! イズル!」

戦艦ゴディニオン。
その長い長い廊下を、俺とチームラビッツの仲間たちは、大仰な生命維持装置を囲みながら走っていた。
中には、俺の弟がいる。この世界にたった一人いる、俺の弟が。

弟を搬送している専属の医者であるルーラ先生が何事か専門用語を喋りながら、
艦の集中治療室へと連絡を取っているのを耳にしながら、俺たちは必死に弟へと呼びかけていた。

意識を無くし、重傷を負って、危険な状態なのは目に見えて分かる。だからといって、俺たちにできることはない。
だからせめて、仲間として、家族として、こうして呼びかけ続けている。

「――悪いけれど、ここからは私だけで」

廊下の果て、集中治療室へと着いて、先生は付き添いはここまでだ、と俺たちを止めた。
ここから先は、俺たちじゃない。先生にとっての戦いが始まる。邪魔なんてできるわけがない。

「イズルを、弟をお願いします! お願い、します――」

「お願いします!」

頭を何度も下げて、俺は叫ぶように先生に伝えた。なりふり構ってるような余裕なんてなかった。
後ろで仲間たちも俺に続く。コイツらにとってだって、イズルは家族みたいなものなんだ。そう、思えた。

「当たり前よ。せっかく勝ったんだもの、一番の功労者に生きててもらわなくてどうするのよ」

先生は不敵に笑うと、任せておきなさい、とだけ応えて、治療室の中へと消えた。
重たい扉が閉まり、上の施術中であることを伝えるランプが点灯した。

「イズル……」

ランプを睨み付ける俺の背後、仲間のケイが掠れた声で呟くのが聞こえた。
弟の名前を何度となく叫び続けたせいで、喉が渇いてしまっているんであろう彼女の心配が痛いほどに伝わってくる。
そんなの、俺だって、そうだ。本当にイズルは大丈夫なのか、不安でたまらなくなる。
でも、俺は。

「…大丈夫だよ」

「アサギ…」

「イズルは、大丈夫。信じよう――」

せめて、俺は。不安なんて出さないで、アイツの無事を信じよう。
大丈夫だ。イズルは、ヒーローなんだ。ヒーローっていうのは、どんなに大変なことだって、乗り越えられるものなんだ。
何度も何度も、頭の中で繰り返した。ヒーロー。アイツの信じるものだ。俺も、アイツの信じたものを信じる。
それだけが、俺に――イズルの兄として、できることだから。




イズルの施術が終わった。イズルはまだ目覚めない。ルーラ先生によれば、とりあえずは命に別状はないらしい。
すぐは無理でも、いずれ必ず目を覚ますだろう、ということだった。
しかし、イズルの目覚めを待つ時間は俺たちにはなかった。

――また次の戦いが、俺たちを待っていたんだ。

「……」

ゴディニオンにあるパイロット用のバーラウンジ。
そこで俺は一人、窓の外を眺めて、作戦開始までの時間を過ごしていた。

補給だってままならない状況ではあるけれど、敵は待ってくれない。
イズルも目覚めない。戦力は大幅に落ちているし、味方の艦隊だってかなり消耗している。
正直なところ、俺たちだけでやれるか分からない。

どう考えても劣勢な状況のことを、一人で考えていたかった。
そのために他の仲間たちのいない場所を探して、何となくここに行き着いた。

ここから外を見ても、ただただ何も無い真っ暗な世界があるだけだ。そうやって、何も無い宇宙を眺めて、俺は深く考えていた。
イズルのこと、これから来る敵のこと。そして――

「アサギ」

背後から掛けられた声に、俺は振り向く。
気付かないうちに、一人の少女が俺の背後に立っていた。

「ケイか」

なるべく余裕のある風に振舞おうとしながら、俺は彼女に応えた。
彼女――ケイはそのまま近くまで歩み寄ると、僅かに聞こえるくらいの音量で一つ尋ねた。

「大丈夫…?」

ただただ俺を心配するような声色で、彼女はこちらの様子を窺ってくる。
その瞳は不安定に揺れていて、隠そうとして隠しきれていない、何だか疲れた印象を俺に与えた。

それはこっちの言葉だ、と思ったけれど、それは言わないでおく。
彼女だって、たぶん、同じ気持ちだから。

「ああ、俺は大丈夫」

答えて、俺は瞳を閉じた。
確かに、不安もあった。今の装備や戦力で、どこまでやれるのかなんて分からない。
でも、それ以上に大きな使命感が俺を動かそうとしていた。

「――イズルはヒーローだ。けど、いないなら俺たちでヒーローになるしかない」

そうだ。イズルは皆を守ろうと必死に戦った。
その姿はヒーローだったし、あいつがいなければ地球は守られなかった。
だけどあいつは今寝ている。だから、今度はイズルのいない俺たちでヒーローになるんだ。

あいつにばかり、活躍させるわけになんかいかない。

「そのためにも、今はしょげてる暇なんてないからな」

はっきりと言い切って、俺は笑みを浮かべた。
我ながら無理のないそれなりに穏やかな笑顔だったと自信を持って言えた。

そうだというのに、俺の笑顔に、ケイはさらに表情を曇らせた。
どうしたんだ、と俺が聞く前に、ぎゅ、と彼女が両手を握り合わせる。
それから、うつむき加減になると、小さな声が俺の耳に微かに届いてきた。

「お願いだから、無茶はしないで……」

搾り出すような声に、俺は何も言わず、ただ聞いていた。
彼女の両肩は震えていて、何だか行き場のないような感情が言葉に篭っていた。

「あなたはイズルの、たった一人の家族なんだから」

だから、無理しないで。そう、彼女は最後に付けて言葉を締めた。
返す言葉を考えながら、俺はケイの言ったことの意味を思う。

分かってる。あいつに『とっては』俺しか家族はいないことになっているのだ。
その俺がいなくなれば、自惚れが過ぎるかもしれないけれど、あいつが悲しむ。
そんなの、分かってるんだ。

「……なぁ、ケイ」

だからこそ、と俺はこれから口にする言葉をいくつも頭の中に思い浮かべる。

あいつの側には、たくさんの人がいる。
俺だけじゃない。チームラビッツの皆、スズカゼ艦長やサイオンジ整備長、あいつのピットクルー。
それに、あいつの知らない父親と母親。

そして、俺のただ一人の弟のことをきっと、誰よりも想ってくれる――

「イズルのこと、好きなんだろ?」

突然の質問に、彼女は鉄砲玉を食らったハトみたいに驚いた顔を見せた。
それから、顔を若干赤らめて、口をパクパクさせる。

「な、何を急に……!?」

「いいから。何となく分かるよ、それくらい」

あからさまだからな、と俺は苦笑いしながら、言葉を探す。
彼女に伝えたいことは、たくさんあった。これまでの自分、そして彼女と、弟。

たくさんたくさん、思っていたことがあって、そのどれもが大切なことだと感じていた。
でも、与えられている時間はあまりにも少ないのも分かっていた。だから、せめてこれだけは。

「あいつ、どうしようもないくらいニブいし、危なっかしくって放っとけないし、兄として結構心配なんだ」

必死に、俺なりに伝えられる言葉を探して、探して。今のうちに、と話そうと思っていたことの全てを心の底から捻り出した。


「これからのあいつのこと、支えてやってくれ。ケイなら、きっとできるから」


どうか頼む、と俺はそう言って、彼女に微笑みかけた。
人は、一人でいるわけじゃない。傍にいる誰か、それを決めるのは、血のつながりだとか、そんなものでもなくて。
たぶん、たった一つの感情なんだろう。

「…イズルなら大丈夫よ。あなたもいるんだから」

俺の頼みごとに、彼女は噛み付くように返した。
そんなことを言うんじゃない、というような彼女の声には、若干の怒気がこもっていた。

確かに、これじゃ何だか遺言みたいだ。我ながら言い方を間違えたな、と俺は自分の言葉を省みる。
もっと、気楽な言い回しの方がいい。その方が、ウチのチームらしさってやつがあるしな。


「――あいつもいい歳してんだ、兄離れしてもらわないとな」


冗談めかして言うと、できる限りの笑みを浮かべた。
無理はしていない雰囲気は十分に纏えるくらいのものが何とかできた。と思う。たぶん。

「アサギ……」

そんな俺の目を見て、ケイは何事か言おうとした。
きっと、彼女にもあるはずの、伝えたいこと。
しかし、その先を聞くことはできなかった。

『――まもなく、作戦宙域に到達。チームラビッツはブリーフィングルームへと集合せよ』

艦内にオペレーターのアナウンスが流れてくる。
……戦いの時が、近付いているんだ。
俺は空気を入れ替えるように息を吐くと、ラウンジの出口へと歩き出した。

「さ、行こう。こんな戦いなんか終わらせて、皆でイズルのところに帰るんだ」

話は終わりだ、とケイを促して、俺は先へと歩く。
彼女は何事か口にしたそうにしていたけれど、そんなことをしている時間はないのも分かっているのか、それ以上は何も言わなかった。

「…ええ。行きましょう。皆で帰るためにも」

代わりにそれだけ後ろから聞こえて、ああ、と俺は返した。
そうだ。絶対に皆で帰るんだ。俺には、たった二人だけの大事な家族がいるんだ。
その人たちのためにも、必ず地球は守る。そして、生還してみせるんだ。

必ず、還ろう。あいつが待ってる――

おしまい。映画まで後三日です。待ちきれない気持ちで日々悶絶してしまうばかりです。
読んでくださる方がどれほどいるのか分かりませんが、保護者の皆様もきっと同じ気持ちだと思っています。
では、また余裕ができれば、映画前日に来ようと思います。

それはそれとして、ケイのケーキ販売おめでとうございます。

どうも。とうとう明日に映画公開が差し迫ってまいりました。
そわそわしてしまって大したものは書けてませんが、とても短いのを一つ。

君の中のヒーロー

木星圏――ウルガルゲート跡

レッドファイブ「」バチッ、バチチッ…

イズル「…う……」

イズル(身体中が痛い…視界がぼやけて、何も見えない……)

イズル(ジアートは…どうなったんだろう……皆、は…無事なのかな……?)

イズル(爆発…すごかったんだ……レッドファイブ、お前も、たぶんダメなんだろうな……)

イズル「っ……」

イズル(指一つ動かせない……僕は、どうなったんだろう……)

イズル(何も分からない…何も、聞こえない……皆、大丈夫なのかな…?)

イズル(シモン司令…艦長、整備長…クルーの皆、ルーラ先生、オペレーターの二人…シオンさん、アンナちゃん……)

イズル(ケイ……タマキ…スルガ…アンジュ、それにお兄ちゃん…)

イズル(テオー、リアさんは……)


「――る! ――ずる!」

イズル「!」

イズル(今の、は……もしかして――!)

アンジュ「イズルさん!」

アサギ「イズルっ!」

スルガ「イズル! イズルーっ!」

タマキ「イズルーっ!」

ケイ「イズル…!」

イズル(聞こえる…皆の声だ……)

イズル(伝え、なくちゃ……)

イズル(僕は…まだ、生きて……)

イズル(ちゃんと、ヒーロー、に……)

イズル「」フッ




イズル(……そこで、僕の意識は途切れた)

イズル(たぶん、皆の声が聞こえて、一気に力が抜けちゃったんだろう)

イズル(死んだ、ってことはないだろう……たぶん、きっと)

イズル(ちょっと自信はない。だいたい、意識がないんだから、自分が生きているかどうかなんて分からない)

イズル(こうやって考えてるのも、もしかしたらいわゆる幽霊ってやつに僕がなってしまったのかもしれないし)

イズル(でも、仮にそうだとしたら、たぶん、今頃僕はランディさんとパトリックさんとで大人のビデオでも見てるだろうから、それはない、と思いたい)

イズル(仮定の話ばかりでも、と思うし、一つだけ、珍しく自信を持って言えることを言いたいと思う)

イズル(僕は、ヒーローになれた。僕を呼ぶ皆の声、それを聞いて、確かにそう感じたんだ)

イズル(僕の中にある、僕が望んだ、僕だけのヒーロー)

イズル(そして、それがきっと未来の僕を目覚めさせてくれる)

イズル(目が覚めたら、とりあえず皆にこう伝えよう)

イズル(――僕はヒーローになれたよ、と)

おしまい。最終回をもう一度見て思いついたネタでした。
では、またいつか。明日舞台挨拶来られる方がもしいたら、特に何かあるわけじゃありませんが同じ一ファンとしてどうぞよろしく。
私は夕方の方の舞台挨拶に行きますので。

どうも。昨日からめでたく劇場版が公開となりましたね。
とはいえ映画ネタはネタばれになるだろうしまだ書かないでおこうかな、と思います。
とりあえず今日は二十五話見たときに思ったネタを一つ。

初めて彼に会ったときに抱いた印象は、一言で言えば、ザンネンといった感じだった。
優秀なんだろうな、と思う反面、どうもよく分からないところで外してくるというか。
そんな彼だから、生徒たちに慕われるのだろうか、とも思う。

「ふー……」

北海道は富良野。
MJP機関、グランツェーレ都市学園の兵器開発部の格納庫。

私――サイオンジ・レイカは大きく息を吐いて、ハンガーにある四つの機体を見上げた。
ブラックシックスのデータを基に開発中だった、新しい量産機たちだ。

今度、敵の重要拠点に一転攻勢を仕掛けることが決まり、どうにか戦力増強のためにロールアウトできないものか、という司令の要請を受けたのだ。
こちらとしても、たった六人の子供たちに戦力の大部分を任せるというのは嫌だったので、少しでも彼らの負担が減れば、と急ピッチで開発していた。
が、結果は。

「動かしたかったなぁ」

時間は足りず、人手も足りず。
システムの部分が不十分なまま、自慢の(が付く予定だった)機体は日の目を見ることはなくなってしまった。
しかしながらどうにもならない。人材が足りないのだ。

さ、帰るかー、と私は大きく伸びをしながら出口へと向かう。
整備班の長として、私も前線に赴かなければならない。出発まであまり時間はなかった。

「サイオンジくん」

「あらま、スギタくん」

格納庫を出てすぐ、私を待っていたかのように手を上げて、同期の教官――といっても、私の友人の艦長の、教官時代の同期だけれど――がこちらに歩み寄る。
彼――スギタ教官は、私に一本の缶を投げてくる。それは、私の好物だった。

「お疲れさま。結局、新機体は完成せず、か」

「あんがとー。…ま、急なことだったからねー」

礼を言いながら、私はもらったモノ――お酒を手の中で弄びながら、少しまだ未練がましい調子で返した。
あれが完成すれば、もっとあの子たち――チームラビッツの負担も減ったというのに。

つくづく、惜しい話だと思う。
すると、そんな私の心境を読んだように、スギタくんはこほん、と咳払いしてからこう言った。

「こちらで残りのシステム面の開発を進めておく。まぁ、そちらの作戦には間に合わないだろうが……」

君のしたことは無駄にはしない、と言外にそう伝えると、彼はこちらに微笑みを向けた。
あんがと、と私はもう一度礼を言って微笑み返す。

彼は進んで教官職を選んでいるそうだが、その選択は間違いじゃないだろうな、と思った。
こういった人のことを思ってやれる人間こそが、向いているんだと感じていた。そう、それこそ彼と私の同期の艦長のように。

そう思いながら、見送るよ、と言って、歩く私に並んで付いてくるスギタくんの横顔を眺める。
やはり悪い人ではないな、と思った。まぁ、多少ポンコツというか、足りない部分もあるけれど。
そういうところがまた、一つの魅力になっているんだろう、とも思う。

と、私が特に彼の知ることもないであろう査定をしていると、突然スギタくんが立ち止まる。
もう学校の駐車場、私の車までそう遠くないところだった。

「…あー、ところで、その」

「んー?」

何か遠慮がちな調子で、スギタくんが口を開く。
はっきりしない様子で、もごもごと言葉を喉元で蠢かせながら、彼は迷ったように視線を泳がせる。

言いたいことがあるならちゃんと言えばいいのに。
何となく彼の話題に出そうとしていることを察しながら、私は言葉を待つ。
彼はこういう時に限って、とにかく奥手なのだ。

やがて、待っているうちに、ようやく彼はたった一つ、普通の質問をしてきた。

「スズカゼくんは、その、元気かな?」

ふー、と私はため息を吐いた。
待った末に出てきた質問に、思わず呆れてしまったのだ。

「……スギタくんさー」

「な、何かな?」

そういう気持ちが前面に出たような口調で言葉を始めながら、私はじと、と彼を見つめる。
見つめられた彼は、とても困ったように眉を下げて、何だか母親に怒られている幼い子供みたいな表情をしていた。

私は構わずお説教をする。

「前から思ってたけど、そういうの直接聞きなさいよ。仕事が絡まないとまともにリンリンと喋れないのは分かってるけどさー」

「う……そ、それは、その、あの」

痛いところを突かれたように、オロオロとスギタくんが返す言葉に詰まる。
以前から、このザンネンな彼が私の友人である女艦長に、憧れだか好意だか――たぶん後者だと思うけれど――を抱いているのは知っている。
もちろん、その対象の艦長がどう思っているのかは知らないけれど。

彼女がまだ教官職であったときは、よく一緒に仕事をする機会が多いのよね、なんてことを彼女がたまに話していたのをよく覚えている。
何か話をするの、と聞いてみたら、仕事の話しかしないわよ、とも返されたのも。
後でそのことを彼の方にも尋ねてみれば、緊張して話なんて全然できない、と言われた。

どうにも、それは今も変わらないらしい。たまに仕事の連絡で事務的な会話があるくらいで、プライベートな話は一度もしたことがないそうだ。
……まったく、そんなんじゃあの子といい仲にはなれそうにないわね。
そうは思いつつも、私は、まだいくつか言い訳を述べている彼が若干かわいそうにもなって、多少のフォローをすることにした。

「……ま、作戦が終わってからでもいいから、一回電話でもしてみたら? 話したいこと、いっぱいあるんじゃないの?」

「……あ、あぁ。やってみる、たぶん、きっと、何とか、おそらく………」

私の提案に、彼は自信なさげにそれだけ返す。
…もう、あんたどこのイズルちゃんよ。

そうこうしているうちに、私の車のところにたどり着いた。
その頃には、スギタくんもすっかり調子が戻ったのか、さっきよりもマジメな顔に戻っていた。

切り替えのできる、仕事にマジメなタイプなんだけどねぇ、と私はつくづく惜しい人だな、と思ったけれど、それは言わないでおくことにした。
たぶん、言うと調子に乗ってくるだろうから。

「じゃね、新機体の方、お願いね」

「ああ。任せてくれ。必ず、完成させておく」

ドアを開けながら、残った任務を託す。お互い、やるべきことは知っていた。
戦う場所は違うけれど、それでも、誰のために何のために、ということは理解しているのだ。

私は車にキーを挿し、エンジンをかける。
それから、窓を開けて、もう一度スギタくんに別れを告げようとした。

開けた窓から視線をやれば、窓の外で、この学園の生徒たちが卒業するチームラビッツを送り出したときのように、スギタくんは礼をしていた。
同じように、私も礼で返す。

「――無事に帰ってきてくれ、君たちの成功を祈っている」

「――あんがと」

そうして、私たちは別々に、それぞれの行くべきところへ、やるべきことをやるために進んだ。
どちらも目的は同じはずだ。私たちの代わりに戦う子供たちへの、最高のサポートをする。
それが私たちのするべき戦い。教官と整備長ではやり方が違っても、それでも、目指すものは変わらない。

――私たちは進む。子供たちの未来のために。

おわり。スギタ教官(CV杉田智一)が活躍するかもしれない劇場版マジェスティックプリンスは絶賛TOHOシネマ系列で上映中!
ニコ生さんで木曜日からテレビシリーズの一挙放送もあるので、これを機会にマジェプリを知らない方も見てみてください。おもしろい作品だと言い切れます。
ここを読んでくれる人がいるのかは分かりませんが。では、またいつか。

どうも。映画ネタを投下したくてしょうがない気持ちを抑えるために一つ書いてきたのでやりたいと思います。

俺の歌を聴け!

スターローズ――ブリーフィングルーム

イズル「広報活動、ですか?」

リン「ええ。ケレスの戦いの後で色めきだっているマスコミへの対策と慰安も兼ねて、ね」

アサギ「……ほぼ敗北したって事実に対して、俺たちの話題が隠れ蓑になるわけですか…何をするんですか?」

リン「――――」

ケイ「…あの、それ本気ですか?」

リン「……任務は任務よ」

タマキ「ふへー……」キラキラ

ケイ「なんで目を輝かせてんのよ…」

スルガ「まーまー、いいじゃん。おもしろそーだしよ」

アサギ「…俺はそんなことするために兵士として訓練してきたんじゃないんだがな」

イズル「あ、あはは…大丈夫だよ、アサギ。僕だって自信ないし」

アサギ「別に自信がないわけじゃない!」

スルガ「はっはーん? あんだよ、アサギ。地球中に恥さらしたくないんなら言えよなー」ニヤニヤ

アサギ「…っ、上等だ」

イズル「す、スルガ…」

スルガ「(気にすんな気にすんな。いやはや、簡単でいいよ。マジメなヤツはさー)」

タマキ「がんばろーね、ケイ」ニコニコ

ケイ「…分かったわよ」ハァ

リン「…なお、本番は二週間後となっている。ペコ?」

ペコ「はいー。そうと決まれば、さっそくレッスンを始めますよー。頑張りましょ!」グッ

イズル・タマキ・スルガ「「「はーいっ!」」」グッ

アサギ・ケイ「……不安だ(ね)」フー

リン(大丈夫かしらね…)フー




二週間後、とあるライブ会場

『俺の歌を聴けーっ!!』

『私の歌を聴けーっ!!』

『準備はいいんかねー!?』



ワーッ! パチパチパチパチ…

イズル「うわぁ…」ドキドキ

アサギ「すげぇ歌……」

スルガ「おおー美人にかわいい子がいっぱい!」キラキラ

タマキ「あの歌ってる人ちょーかっこいい!」キラキラ

ケイ「こんなハイレベルな歌の後で私たちが歌うっていうの…?」

イズル「ようし! 頑張ろう!」グッ

アサギ「どうやったらそんな気分になれるんだよ…」イガー

スルガ「いやー、さすがに物怖じしちまうなー」

タマキ「何か楽しそうなのら! がんばろ、ケイ!」

ケイ「今すぐにでも帰りたいわ…」

コン「あ、皆さん!」

ケイ「あ、あなたは…」

タマキ「おー、広報の人なのらー」

コン「皆さんも出番ですか?」

イズル「ええと、『も』っていうのは…」

コン「私も今回の任務に参加することになりまして」

アサギ「よ、よかった仲間がいるなんて…俺たち、素人ですから。あんなうまいのの後で歌うなんてとてもとても…」イガー

コン「あはは。頑張りましょう?」

イズル「はい!」

パチパチパチパチ…

ペコ「男子の皆さーん、出番ですよー」タッタッタ

アサギ「げっ」

イズル「よ、よーし。ぎゃんばろう、おー!」グッ

スルガ「噛むなよ…」

アサギ「っつーか何だその手は」

イズル「え? ほら、よくあるじゃない。三人で真ん中を囲んで手のひらを重ねて沈めてさ…」

アサギ「やらねーよ」

イズル「ええー……」

ペコ「あのー、もう時間ないですよ?」

スルガ「へへ、うーし! 行くぞ!」タタッ

アサギ「おい勝手に先に行くなよ!」ダッ

イズル「あ、二人とも待ってよ!」タタッ

ケイ「…大丈夫かしら、皆」

タマキ「大丈夫大丈夫、骨はあたしたちで拾うのらー」

ケイ「私も自信ないんだけど…」

コン「あはは、ノリと勢いで案外どうにかなりますよ」

ペコ「さ、始まりますよー」




『それではここで、本日の特別ゲスト一組目から参りましょう! 噂の英雄君たち、チームラビッツの男の子たちからだ!』

ワーッ!! パチパチパチ…

ちーらび男子「」パッ

♪~

スルガ『――あと――どれぐらいだろう――僕たちが―― 一緒にいれるのは――』

イズル『思ったより時間は――ないんだと――気付いているのに――』

アサギ『「今日」が――あることは――奇跡的だと――』

ちーらび男子『いつの日か――振り返るのかな――』



ケイ「……何よ、上手いじゃない」

タマキ「へー、見直したのらー」




スルガ『そんなこと――構わない――出逢えたこの喜びを――ああ――歌いたい――』ウットリ



ケイ「さすが目立ちたがりね」

タマキ「スルガらしいのらー」ニコニコ



ちーらび男子『明けない夜はないから――ああ――歩いてく――希望を胸に――』

ちーらび男子『明日を信じて――』

♪~

ちーらび男子「」ペコリ

パチ…パチパチパチパチ……! ワーッ!



ケイ「ホント、やるわね……」フフッ

タマキ「でもなんか笑えちゃうのらー、あんなマジメにしてるの初めて見たかもー」クスクス

イズル「た、ただいまー」

スルガ「いやーすごかったな! こりゃ後で出待ちとかあるんじゃねーの! そしたらとうとう俺も…!」ウッヒョー

アサギ「よくそんなこと考えられるな…っ、もう二度とこんなのやらないからな……」イガー

イズル「えー、でもアサギの歌声かっこよかったよ?」

アサギ「お前に褒められても嬉しくもなんともない!」

イズル「えー…」

スルガ「ほっとけイズル。次はお前らだろ? 大丈夫かー?」ニヤニヤ

タマキ「ふーんだ! スルガなんかよりも一億万倍は上手に歌うのらー!」

イズル「一億万?」

ケイ「触れなくていいと思うけど…ねぇ、ホントに行かないとダメかしら?」

ペコ「お仕事ですよう。それにケイさんもっと自信持っていいですよ? 正直、こんな状況じゃなかったらどこかでデビューしてもいいくらいです」

ケイ「や、そんなこと言われても…」

イズル「大丈夫だよケイ! ケイの歌声は綺麗だし、僕、ケイの歌好きだな」

ケイ「い、イズル……」

アサギ「まぁ、俺たちよりはずっとうまいだろ、たぶん。ハードルも下がってるから、ほら、行ってこいよ」

スルガ「アサギもうちょっと言い方があんだろー。っつか、俺はうまかったろーが!」

ケイ「アサギも……」

タマキ「行こ、ケイ! あたし、ケイと一緒なら誰よりも上手に歌える自信があるのら!」

ケイ「…分かったわ。行きましょうか」

タマキ「うん!」ニコリ

ペコ「お話もまとまったようですし、ささ、出番ですよ!」

コン「頑張ってください!」

タマキ「はいにゃん!」

ケイ「が、頑張ります…!」




『さぁ、休憩明けの再開と参りましょう! お次は同じく特別ゲスト、チームラビッツの女の子たちだ! そのかわいらしい歌に聞き惚れてくれ!』

ワーッ!! パチパチパチ…



イズル「ケイ、タマキ、ファイト!」グッ

スルガ「さーて、どんなもんかねー」

アサギ「…がんばれよ、二人とも」ボソッ



ちーらび女子「」ペコリ

♪~

ケイ『――生きた証を――漂う涙で――分かる時もあるの――』

タマキ『支えてくれる――大切な人に――アリガトウってささやく――』

ケイ『ずっと――探し続けた――』

タマキ『絆――そこに――あるから――』

ちーらび女子『繋がってゆく――夢――』



スルガ「…ちぇー、やっぱうまいな、二人とも」

アサギ「ああ…とてもいつもの二人には見えないな」

イズル「うん……ケイ、やっぱり綺麗な歌声だなぁ」




ケイ『ねぇ――ほら待っているよ――』

タマキ『一人じゃないんだね――』

ちーらび女子『温かくて――包んでくれる――気持ち――』

ちーらび女子『とても――嬉しかったの――』

ちーらび女子『だからもう一度笑顔見せて――“タダイマ”を――』

♪~

ちーらび女子「」ペコリ

ワーッ!! パチパチパチ…!



イズル「すごかったね!」

アサギ「そうだな、納得の拍手だ」

スルガ「なんだよ! 俺たちの時より盛り上がってるじゃねーかよ!」

イズル「あはは…でも、しょうがないかも」

アサギ「…ああ、こりゃ勝てないな」

タマキ「たっだいまーっ!」ニコニコ

ケイ「た、ただいま……」ウツムキ

スルガ「おー、お疲れー」

イズル「? どうしたの、ケイ? 俯いちゃって」

ケイ「いえ、その、なんというか、その。なんだか、恥ずかしくて…」

スルガ「んだよー、あんな堂々と歌ったってのに」

ケイ「それは、その、空気に呑まれただけで、いざ、戻ってくると何だか一気に恥ずかしくなってきたというか…」

イズル「大丈夫だよケイ!」

ケイ「イズル…?」

イズル「ケイの歌すっっ、ごく! よかったよ! 聞いてた人たちだって、そう思ったからあんなに拍手してくれたんじゃないかな?」

アサギ「そうそう。それに、少なくともケイの隣にいるやつは、とっても満足したみたいだぞ」

タマキ「うん! ケイと歌って、あたし、すっっ、ごく! 楽しかったのら!」

ケイ「タマキ…」

タマキ「ケイは、やだった?」

ケイ「…もう、そんなわけないでしょう? 私だって、あなたと歌って、すっごく楽しかったわ」ニコリ

タマキ「ケイーっ!」ダキッ

ケイ「ちょ…苦しいわよ、もう」クスクス

コン「皆さん、お疲れ様でした!」

ペコ「あとはもうライブを楽しんでてくださいねー」

コン「皆さんの歌、とってもステキでしたよ? 私も皆さんに負けないくらい、精一杯歌ってきますから!」

イズル「は、はい。その、えっと、頑張ってください!」グッ

コン「はい! じゃあ、行ってきます!」グッ

タマキ「ファイトー、なのらー!」

スルガ「なぁ、っていうかあの人広報官なんだろ? なんでそれが歌うんだ?」

アサギ「さぁ…見れば分かるんじゃないか?」

イズル「あ、始まるよ!」




『さぁ! 盛り上がってきたところで、最後の特別ゲストといこう! GDFが誇る元・歌姫! 我らが広報のアイドル! コン・ナツミだーっ!』

ワーッ!!  ピューピューッ!! パチパチパチ…!

コン『――皆さん! 本日はお集まりいただきありがとうございます! 二組の特別なゲストに負けないくらいの歌を届けます! 聞いてください、「PROMPT」!』

♪~

コン『――加速する鼓動――抑え込む衝動――』

コン『理性は素早く――イメージングする――』



スルガ「へー。うめーなー、あの人」

ペコ「元々は歌手だったそうですからねー」

タマキ「ふぇー、ふぁんでしょんなふぃとが」モグモグ

アサギ「何で塩辛食ってんだよ…」フー

タマキ「元気に歌ったらお腹減ったのらー」ニコー

ケイ「せめて喋りながら食べるのはやめなさい」フキフキ



コン『流星(ほし)に託した――願いはいつも――』

コン『幸せの――欠片――見つけること――』

コン『瞬いている――光の粒子(つぶ)は――』

コン『誰だって心の中にある――Your hero――』



イズル「…いい歌だなぁ」

♪~

コン『ありがとうございました!』ペコリ

ワーッ!! パチパチパチパチパチパチ…!



イズル「お疲れ様でした!」

コン「あ、皆さん。皆さんこそ、お疲れ様でした!」

スルガ「とってもステキな歌でした! もう僕の心はそう、アーマーピアッシング弾を装填した――」ペラペラ

コン「え、ええと?」

アサギ「こいつのことは放っておいて大丈夫ですから。……その、とてもいい歌でした。大した感想が出なくて、申し訳ないですけど」

ケイ「なんていうか、その…勇気の出てくるような、力の出てくるかっこいい歌だな、って思いました」

タマキ「お姉さんかっこよかったのらー!」

コン「あはは、ありがとう。実はこの曲、あなたたちをイメージして作ったんですよ?」

イズル「僕たちを?」

コン「ええ。あなたが記者会見の時に言ってたでしょ? ヒーロー、って。この曲はそんなあなたたちに捧げる応援歌みたいなものよ」

イズル「ヒーロー…応援……」キラキラ

コン「これからも頑張ってくださいね、ヒーローの皆さん!」ニコニコ

イズル「――はい! 頑張ります!」




スターローズ――アサギの部屋

タマキ「疲れたー。もー歌は勘弁なのらー」グデー

ケイ「そうね。いくら任務でも次は断りたいわ…」フー

スルガ「そうかぁ? じゃ、今度は俺だけでやろっと。へへ、もしかしたらこれがきっかけで俺もモテモテにーっ!」

アサギ「なぁ…だから何で俺の部屋なんだよ……」

イズル「♪~」カキカキ

ケイ「イズル? 珍しいわね、何を聞いてるの?」

イズル「ん? あぁ、これだよ。はい」イヤホンカタミミワタス

ケイ「」イヤホンツケル

ケイ「……あら、これ。この間の広報官さんの歌?」

イズル「うん。最近はずっとこれ聞きながらマンガ描いてるんだ。すっごく捗るというか…どんどん描く気になるっていうか」

スルガ「へーメディア販売とかしてんだな。…そうだ! 俺たちの歌も同じように――」

アサギ・ケイ「「却下」」

スルガ「何だよ! いいじゃねーかよ、どうせあのライブ、ネット中継されて何億人ってやつらが聞いたんだぞ? いまさら販売したって…」

イズル「そうそう、僕らももっといろんな歌を歌ったら楽しそうだよね!」

アサギ「いやそういう話は今してないだろ…」

イズル「あれ?」

タマキ「どうやったらイズルからあんな歌声が出るのか不思議なのらー」

ケイ「そうね、まったく…」フフッ



その後、紆余曲折がありつつ、評判の良さも相まって、チームラビッツそれぞれで個別の歌を収録する機会があったとか、ないとか。

おしまい。先月にCDBOX発売されたので何となく書いてみました。
BOXにはサントラ未収録のアンジュのテーマやキャラクターソング、個別に歌った版のEDが入っているので、興味ある方は買ってみるのもいいかもしれません。

それと少し意見をお聞きしたいと思います。もしよければ意見をください。

映画ネタをどれくらいのタイミングで投下しようかちょっと悩んでいます。
書き溜め自体はもう三本ほどはできていますが、やはり公開終了まで待つべきでしょうか。
ネタばれ注意を明記して投下してしまおうか、とも思うのですが、まだ映画を見ていない方にも配慮すべきかとも迷っています。

見てる方がどれほどいるか分かりませんが、よければご意見をください。では。長文で失礼します。

どうも。映画公開から一週間経ちましたね。
いろいろと考えた結果、思い切って映画ネタをぶちまけようと思います。
全力でネタバレするので見てない方は気をつけてください。

オトコノコとオンナノコ

グランツェーレ都市学園――格納庫

パトリシア「ふー、どうにか帰ってこれたー」

チャンドラ「ああ、大変な状況だったが、なんとかなったようで何よりだ。……パトリシア、私はちょっとワイフに作戦の終了を伝えてくるから」

パトリシア「はいはーい、安心させといで、チャンドラ。お疲れ、また後で」

チャンドラ「ああ、君もお疲れ」

タタタッ

パトリシア「…待ってくれる人がいるっていいねぇ」

タタタタタッ!

パトリシア「…ん?」

タマキ「パトリシアさーんっ!!」ドドドッ

パトリシア「おお、タマキちゃん!」

タマキ「ただいまなのらー!」ダキッ

パトリシア「…うん、お帰り」ニコリ

タマキ「えへへー」ニコニコ

タマキ「でねー、あたしが変身したアッシュでものすごい活躍を…」

パトリシア「そっか、すごいよ。タマキちゃん」ナデナデ

タマキ「へへー」

オトコノコとオンナノコ

グランツェーレ都市学園――格納庫

パトリシア「ふー、どうにか帰ってこれたー」

チャンドラ「ああ、大変な状況だったが、なんとかなったようで何よりだ。……パトリシア、私はちょっとワイフに作戦の終了を伝えてくるから」

パトリシア「はいはーい、安心させといで、チャンドラ。お疲れ、また後で」

チャンドラ「ああ、君もお疲れ」

タタタッ

パトリシア「…待ってくれる人がいるっていいねぇ」

タタタタタッ!

パトリシア「…ん?」

タマキ「パトリシアさーんっ!!」ドドドッ

パトリシア「おお、タマキちゃん!」

タマキ「ただいまなのらー!」ダキッ

パトリシア「…うん、お帰り」ニコリ

タマキ「えへへー」ニコニコ




タマキ「でねー、あたしが変身したアッシュでものすごい活躍を…」

パトリシア「そっか、すごいよ。タマキちゃん」ナデナデ

タマキ「へへー」

パトリシア「あ、そうだ。タマキちゃん」

タマキ「はい?」

パトリシア「こうして無事に再会したことだしー」ジリジリ

タマキ「へ?」

パトリシア「」モミモミ

タマキ「ひゃっ、ちょ、パトリシアさーん」

パトリシア「ふっふっふー、柔らかーい」ムニュムニュ

タマキ「くすぐったいのらー」キャッキャッ

パトリシア「…ありがとね、パトリックのこと」ムニムニ

タマキ「え?」

パトリシア「あの子さ、例の作戦に出る前の日、私に連絡してきたんだ、好きな子ができた、って」ムニムニ

タマキ「……」

パトリシア「あのほわほわしたウチの弟が惚れた女の子はどんな子だろう、っていろいろ想像してたけど…タマキちゃんは私の想像以上の子で、よかった」ムニムニ

パトリシア「ありがとうね、あの子の思い、汲んでくれて。もう一回会ったら、ちゃんと言おうと思ってたんだ」ニコリ

タマキ「…こっちこそ、ありがとうって気持ちでいっぱいなのらー」

タマキ「パトリックさんは、もう会えないけどー…でも、気持ちはすっごく! とっても嬉しかったから!」

タマキ「だから、ありがとうございました!」ペコリ

パトリシア「うん……やっぱり、タマキちゃんはいい子だね」ナデナデ

タマキ「えへへー」

パトリシア「」モミモミ

タマキ「あんっ」

パトリシア「んふふー、いい揉み心地ー」

タマキ「パトリシアさんもなのらー」モミモミ

パトリシア「あはは、ありがとー」

タマキ「今から塩辛食べませんか? すっごくおいしいのら」ニコニコ

パトリシア「そうだねぇ…うん、そうしよっか。食べながら、お話しよう。タマキちゃんのこと、私、知りたいな」

タマキ「はいにゃん! パトリックさんのことも、あたし聞きたいです!」

おしまい。初めて見たときは幽霊にびっくりしました。
では次をば。

心配することは、家族の特権

戦艦ゴディニオン――アサギの部屋

イズル「…そういえば。僕らの機体、どれくらい直ったかな?」

スルガ「アニキたち、まだまだかかるって言ってたけどな」

タマキ「ブースター全壊しちゃったし、変な変身しちゃって直すの大変って言ってたのらー」

アンジュ「私のブラックシックスも面倒を見ていただいていますが…かなり時間がかかるそうです」

ケイ「一回様子を見に行きましょうか?」

イズル「そうだね、ピットクルーの皆さんの顔見たいし」

スルガ「んじゃさっそく…どしたアサギ?」

アサギ「……戻りづらい」

タマキ「へ? 何でー?」

アサギ「いや、その、思い切り俺、ブルーワンをバラバラにしたろ? アンナのやつ、怒ってるみたいでさ。前に挨拶したら無視されてよ」

スルガ「あー、まぁそりゃそうだよな。あの子、すげぇメカニック気質だもんな」

ケイ「なおさら行った方がいいんじゃないかしら? 仲直りしなさいよ」

イズル「そうだよお兄ちゃん。アンナちゃん、お兄ちゃんが撃墜されたの知ったとき泣いてたよ?」

アサギ「…分かったよ。だからそのお兄ちゃんはやめろ」ハァ




スターローズⅡ――格納庫

マテオ「おーい、アンナー、そっちに46式の装甲余っとらんかー?」

アンナ「もうないよじいちゃーん。追加で頼まないとー」フリフリ

マテオ「ふぅむ。後でレイカに言っておかんとなぁ」

ディエゴ「しかし父さん。ウルガルは一旦は侵攻を止めるという見方もあるそうですし、そう慌てなくても…」

マテオ「そりゃそうじゃがの。さっさと終わらせておいた方が楽になるってもんじゃろ。それに、いい加減休暇が欲しいところだしの」

ディエゴ「まぁ、それは確かに。アンナもずーっと働き詰めですしねぇ」

マテオ「ま、気持ちは分かるがの。アサギくんがあんな目に遭ったわけだし」

アンナ「おおい、じっちゃーん、パパー…ん?」

アサギ「」スタスタ

アンナ「」パァッ

アンナ「!」

アンナ「」ムー

マテオ「おお、アサギくん。動いて大丈夫なのかね?」

アサギ「ええ大丈夫です。念のために検査も受けましたけど、どこも問題ないそうですから」

ディエゴ「そうかい。ブルーワンも少しずつ復元できてきてるよ。ついでに強化できるところは強化しつつね」

アサギ「そうですか。…すみません、皆さんがせっかく整備してくれた機体、あんなにしちまって」

マテオ「なになに、君が生きて帰ってきたんだから十分じゃよ。のう、アンナ?」

アンナ「……」

アサギ「あ、アンナ…その、元気してたか?」

アンナ「じいちゃん!」

マテオ「何じゃい、急に大声上げて」

アンナ「私ちょっと休憩してくる! スターローズⅡの見物してくるから!」タタッ

マテオ「そりゃいいが昼時までには戻って…行ってしまったか」

アサギ「あの」

ディエゴ「すまないねぇ。どうも、何だか知らないけどへそを曲げてしまっていてね」ヤレヤレ

マテオ「ま、あの子もまだまだお子様というわけじゃな」

アサギ「……」

ディエゴ「でも、あの子は君のこと心配してたよ? だから、まぁそう落ち込まないでくれ」

アサギ「はい……」

マテオ「そうじゃ、アサギくん。アンナに付いていってくれんかの? スターローズと違ってあの子もここの勝手なぞ分からんだろうし」

アサギ「はぁ……」

ディエゴ「そうだね。まだまだ開発中の区画もたくさんあることだし、迷子になるかもしれない。お願いしてもいいかな?」

アサギ「そう、ですか。じゃあ、行ってきます」

タタタッ

ディエゴ「…父さん」

マテオ「ん?」

ディエゴ「……いい子だね、アサギくんは」

マテオ「そうじゃのお。…やはり、パイロットの婿というのも」

ディエゴ「それとこれとは別問題だよ」




スターローズⅡ――居住区、ローズ銀座広場

アンナ「」ムスーッ

アンナ(アサギの馬鹿。へぼパイ、ザンネンなやつ…)

作業員のおじさんたち「」エッサ、ホイサ

アンナ「あ……」

アンナ(あれ、あのアイス屋さんの屋台だ…またここにできるんだな……)

アンナ(…そんな前のことでもないのに、何で懐かしいんだろ)

アンナ(アサギと食べたアイスの味も、何か思い出せないや)

アンナ「はぁ……」

アサギ「――こんなとこにいたのか」

アンナ「……ふんっ」プイッ

アサギ「なぁ、悪かったって」

アンナ「何が?」

アサギ「や、あれはお前の大事な機体だってのは分かってるけどさ、でもあれはどうしようも――」

アンナ「うるせーこのへぼパイ!」ガシッ

アサギ「いってーっ! …こんのやろ、もうちょっと気遣えよ! 結構怪我したんだぞ!」

アンナ「うっさい! アサギなんか、もっかい撃墜されてきちまえばいいんだ!」

アサギ「何なんだよ……」

アンナ「馬鹿、へぼパイ、気配り大王なんて取り下げだ…!」ポカポカ

アンナ「オタンコナスのむっつり! ヘタレ! ……っ」プルプル

アサギ「あ、アンナ……?」

アンナ「生きてたなら、早く言えよ…っ、機体なんていくら壊してもいいからぁ……っ」グスッ

アサギ「お前…」

アンナ「ほんとに、よかった……! 私、私……!」

アンナ「うああああああっ!」

アサギ「…アンナ、ごめんな。心配かけて、ごめんな」ナデナデ

アンナ「うえっ…うえええっ……ぐすっ」ポロポロ




アサギ「…落ち着いたか?」

アンナ「うん……」ゴシゴシ

アサギ「お前の言う通りだ。もっと早く連絡すればよかった。悪かったよ」

アンナ「もういい…ちゃんと帰ってきたから」

作業員のおじさんたち「」トンテンカンテン

アンナ「…な、アサギ」

アサギ「今度は何だ?」

アンナ「あそこの屋台。また開いたら、アイス食べたい。奢って?」

アサギ「……まぁ、それくらいなら」

アンナ「うし、約束だぞ?」

アサギ「ああ、分かったよ。…そういえば戻ったとき言えなかったな」

アンナ「? 何がだ?」

アサギ「――ただいま、アンナ」

アンナ「…おう。おかえり、アサギ!」ニコリ

アサギ「」フッ

アサギ「ほら、戻るぞ。お父さんたち、心配してる」

アンナ「あ、そうだ! ブルーいちを早く直してやらなきゃ!」タタッ

アサギ「いやブルーワンだし…っておい! 急に走るなって! ……ったく、しょうがないな」タタッ

アサギ(こんな風に、本気で心配してくれて、泣いてくれて。……ピットクルーも家族みたいなもの、か)

アサギ(確かに、その通りだったな)

アンナ「急げよアサギーっ!」ブンブン

アサギ「ああ、今行くよ」フッ

いつも乙です!
劇場版最高でしたね!
ここで小説の存在を知れたおかげで当日に読んで泣いてから見に行ったので更に楽しめました

小説ネタもやってるしネタバレ回避したい保護者は見てから読みに来ると思うので投下しちゃっていいと思います!

リクエストさせていただくなら小説ネタをもっと読みたいかなーって

おしまい。青1さんも白0さんも破壊し尽くすアサギは破壊神に違いない。ダイクを呼ばなきゃ。
では次をば。

消えない宙、続く未来

戦艦ゴディニオン――パイロットラウンジ

イズル「じゃあ、無事にウルガルに勝ったことを祝しまして…」

イズル「――カンパーイ!」

タマキ・スルガ「「カンパーイ!」」イエーイ

アサギ「…乾杯」フッ

ケイ「……乾杯」ニコリ

アンジュ「か、乾杯」

テオーリア「カンパーイ!」ニコニコ

リン「乾杯…あの、テオーリア皇女、無理にご参加なさらなくても」

テオーリア「無理なんてしていませんよ? 来ないシモンの代理ではありますが、とても楽しい気分です。地球の祝い事は楽しいものですね」ニコリ

ダニール「このような格好で本当によろしいのですか?」

タマキ「うんうん! ダニール様とってもお似合いなのらー!」ニコニコ

レイカ「そーそー、お祝いの席だものね」

リン(…また何か勘違いをさせてませんように)フー

チャンドラ「しかし、よかったのか? 私たちまで呼んでもらって…」

パトリシア「あはは、いいんじゃない? チャンドラはあの子たちと付き合い長いんでしょ?」

チャンドラ「まぁ、多少はな」

セイ「そうですよ! そんなこと言ったら、俺たちなんて…」

イズル「付き合いの長さなんて関係ないよ! 君たちチームフォーンだって、もう立派に僕らの仲間さ!」

アン「イズル先輩…! やっぱりかっこいい……!」キラキラ

ケイ「……」ムー

イズル「ところでこれを読んでほしいんだけど…」スッ

クリス「何すかこれ?」

イズル「今回の作戦ですっごくインスピレーション、っていうのかな?
    湧いてきてさ、それで新しくマンガを描いてみたんだ。感想を聞かせてくれないかな!」キラキラ

ユイ「は、はぁ……」

チームフォーン「」ペラペラ

イズル「」キラキラ

セイ「(…ええっと、うん)」

クリス「(……おいセイ何か言えよ。先輩が感想待ってるぞ)」

セイ「(俺かよ! 何て言えばいいんだ、この…うーん)」

ユイ「(……何とも言えないわね、こう、微妙というか…ダメね、オブラートに包んで言うのが難しいわ)」アタマガー

セイ「(でもあんまり言うと先輩凹むよな…)」

アン「イズル先輩は絵が独特なんですね!」ニコニコ

セイ「お、おいアン! 勝手に…」

イズル「え、そう? 何だか照れちゃうなぁ」アハハ

ユイ「嬉しいんだ…」

クリス「ナイスだぞアン!」グッ

アン「へ? 私は普通に感想を言っただけだけど?」

アンジュ「相変わらずアンは独特の感性を持っているんだね」

セイ「独特ってレベルじゃないような…」

ユイ「まぁ、いいんじゃない? 先輩だって喜んでるし」




スルガ「さてと、そろそろ一つゲームでもしようぜ!」ヒャッホー

タマキ「ゲームなのらー!」ワーイ

アサギ「聞いてねぇよ…何するんだ?」

スルガ「こういう場でのゲームなんてただひとーつ!」

タマキ「ひとーつ!」

スルガ・タマキ「「トランプ大会!」」

アンジュ「それはこういう場でやるようなゲームじゃないような…」

タマキ「へ? 何でー? 楽しいのら?」

ケイ「…それはそうかもしれないけど」

リン「まぁいいんじゃないかしら? 健全で」

レイカ「そうねー、王様ゲームとかよりはずっと健全よねー」

テオーリア「王様ゲーム、ですか? 私は負けなさそうなゲームですね」ニコニコ

リン「え、ええ…そうかもしれませんね、ある意味」

レイカ「あっはっは。皇女さんも今度飲み会に来ます? 女の子だけの気楽な集まりでして――」

リン「ちょ、レイカ! すみません、失礼を…」

テオーリア「いえいえ。地球の方の文化に触れられるのなら、私どこへだって参りますわ」ニコニコ

イズル「ええと、それで、どういう勝負するの?」

スルガ「三回くらいいろんなルールでやってよ、優勝したやつがビリのやつと二番目にビリのやつに罰ゲームを言い渡す」

アサギ「罰ゲーム…ろくなことにならなそうな……」

タマキ「大丈夫なのら! 内容はこの箱の中に入ってるくじから引いてもらうのら!」ジャラジャラ

アンジュ「いつの間にそんなもの用意したんですか…」アキレ

イズル「まぁ、あくまで余興なら、そんなひどいことにもならないだろうし…やろうか!」

ユイ「あの、私たちも参加していいんですか?」

スルガ「そりゃもちろん! 何なら、俺と君でビリを取って二人で仲良く罰ゲームを…」

ケイ「」ゴンッ

スルガ「ぐえっ」ドサッ

アン「何か楽しそうー」ニコニコ

セイ「まぁ、せっかくだし参加させてもらうか」

クリス「へへ、とりあえずタマキ先輩には負けないぜー!」

タマキ「あたしも負けないのらー!」




スルガ「」ジー

アサギ「……」ポーカーフェイス

スルガ「勝負だ!」スッ

イズル「……」ドキドキ

スルガ「くっ…どうだ、フォーカード!」

アサギ「ストレートフラッシュ…俺の勝ち、だな」フッ

ワーッ

イズル「すごいよお兄ちゃん!」

タマキ「さっすがアサギなのらー」ニコニコ

ユイ「アサギ先輩お見事です!」

セイ「すごい勝負だったな。息を呑む間もないって感じだ」

クリス「ホント、トランプってのも馬鹿にできないなー!」

ケイ「…これで、優勝は決まりね」

イズル「あはは、楽しかったー。…まぁ、ビリだったけれど」

ケイ「そうね…まさか、私が下から二番目になるなんて」

タマキ「ふふん、ケイってば考えすぎなのらー」

ケイ「何よ、タマキだって下から三番目だったじゃない」

タマキ「でもあたしがこの中じゃ一番上だもーん!」フフン

クリス「へへ、タマキ先輩に勝ったぜ!」

セイ「でもお前も下から四番目じゃん」

クリス「いいんだよ勝てたから!」ウガー

テオーリア「地球の遊び事は緊張感のある、楽しいものなのですね! 私、感動しました」

リン「やっだ、それは勘違いよう、テオちゃんってばー」アハハー

レイカ「リンリン、悪酔いしすぎ……ってか、何その猫耳」

ダニール「…テオーリア様。後で他の遊びなど調べて参りましょうか?」

テオーリア「ええ、お願いします。来なかった彼ともしてみたいですし」

スルガ「さーて、と。罰ゲーム決めるぞー」

イズル「あ、そっか。そういえばそんなのあったね」

アサギ「お前、あんま過激なのは入れてないだろうな」ジトー

スルガ「何言ってんだよ、だいたい内容は皆で…むぐっ」

アンジュ「余計なこと喋るなよクソムシ!」

アサギ「いつの間に凶暴モードになってんだよ…」フー

イズル「?」

タマキ「さ、アサギが引くのらー。引いたやつをイズルとケイがやるからー」ニコニコ

アサギ「あ、ああ。…じゃ、引くぞ」ガサゴソ

アサギ「…ええと、何々――ビリのやつが、二番目にビリのやつを五分間お姫様だっこする――」

ケイ「え」

イズル「へ?」

レイカ「あらま」

テオーリア「お姫様だっこ、ですか? お姫様なら――」

リン「若いのはいいわねー、私だってぇ……私だってぇ」グスッ

レイカ「お姫様意味が違うから。あとリンリン泣かないの!」

アン「いいなぁー、私もされてみたーい」キラキラ

タマキ「そういうのって憧れるのらー、まぁイズル相手じゃあれだけどー」

パトリシア「私がしてあげよっか? タマキちゃん」ワキワキ

タマキ「そ、それはエンリョするのらー…あはは」

スルガ「ほら、二人とも罰ゲームなんだからやれよ」

イズル「え、ええと…ケイ、それじゃあ」

ケイ「で、でも、これは、その……」アタフタ

アサギ「罰ゲームは罰ゲーム、だろ?」

ケイ「ちょ、アサギ…!」

イズル「じゃあ、失礼して」ヒョイ

ケイ「ひゃっ…い、イズル!」アワワ

アンジュ「へん、ミジンコ同士でお似合いじゃねぇか」

スルガ「ひゅーひゅー」

タマキ「ひゅーひゅー」

ケイ「や、やだ」カァ

テオーリア「あらあら」ニコニコ

リン「むー、イズルの癖に、お姫様だっこなんて生意気よぅー」グリグリ

イズル「か、艦長。近いです。それにお酒の匂いが…」

ケイ(イズルにお姫様だっこされてるイズルにお姫様だっこされてる――)

イズル「…えっと、ごめんね、ケイ? やっぱり恥ずかしいよね?」

ケイ「! い、いえ…その、ほら、罰ゲーム、だし。でも、その、私、そんな、嫌じゃない、から」ギュッ

イズル「へ? そう? なら、いいけど……」

スルガ「せっかくだからそのまま艦を一周するなんてどうよ?」ニヤニヤ

タマキ「あはは、何それー」

アンジュ「さ、さすがにそれはイジワルでは…」

アサギ「いつの間にか戻ってるし…ま、それもいいかもな」

ケイ「なっ……! アサギ、それじゃ私の――」

アサギ「俺が勝ったわけだし、ケイもあんまり嫌じゃないなら、罰ゲームになってないしな」

イズル「ええー…さすがにそれは僕も疲れちゃうよ」

アサギ「途中で適当に休んでもいいことにしてやる。ほら、行ってこい」

イズル「お兄ちゃんのイジワル…まぁいいや。じゃあ、ケイ。ちょっと揺れると思うけど、ごめんね?」

ケイ「う、うん……」

スタスタ…

アサギ(話したいこと、いっぱいあるんだろ? しっかりな)

スルガ「……意外だな? お前が俺の悪ノリに付き合ってくるなんてよ。イズルだけ外に出す予定じゃなかったのかよ?」

アサギ「別にいいだろ? ついでにケイが出す予定だったケーキを阻止したんだぞ」

スルガ「ま、そりゃそうだけどよー。…じゃ、準備始めるか」

アサギ「ああ、早く戻ってくるかもしれないし、急ぐぞ」




ゴディニオン――廊下

イズル「ふぅ……ケイ、ごめん、ちょっと休んでいい?」ヨイショ

ケイ「……う、うん」

イズル「ピットクルーの皆、今日は修理部品の受け取りで、艦の中を走り回るって言ってたけど…全然通らないね」キョロキョロ

ケイ「そういえばそうね…単純に行き会わないだけじゃないかしら?」

イズル「そうなのかな? うーん…まぁいいや。……あはは、思ったより罰ゲームも大変でもないや」

ケイ「そう? …その、重くなかった? 私……」

イズル「ううん。むしろ羽みたいに軽くてびっくりしちゃったよ」ニコニコ

ケイ「ホント?」

イズル「うん」

ケイ「なら、よかった…」ホッ

イズル「そうだ、ケイ」

ケイ「何?」

イズル「ありがとう、お兄ちゃんを助けてくれて」

ケイ「何の…ああ、ホワイトゼロのこと?」

イズル「うん。ほら、お兄ちゃんあんなにさ、その、動きがね」クスクス

ケイ「やめてあげなさいよ」クスクス

イズル「それに、お見舞い。嬉しかったよ。いつもみたいに甘くってさ、何か、ホッとした」

ケイ「そう? そう言ってくれると嬉しいわ」フフッ

イズル「うん。ケイの甘いケーキ、僕は好きだよ」アハハ

ケイ「ありがとう。……ね、イズル」

イズル「うん?」

ケイ「おかえり。皆、ずっとあなたが戻ってくるの、待ってた」

イズル「……そっか。皆、待っててくれたんだ?」

ケイ「ええ。あなたがいなきゃ、私たち、寂しいもの」

イズル「あはは。それなら、嬉しいな」

イズル「――ただいま、ケイ」ニコリ

ケイ「うん。おかえりなさい、イズル」ニコリ

イズル「…えっと、そろそろ行こうか」

ケイ「ええ。そうね」

イズル「じゃ、失礼して」ヨイショ

ケイ「」ギュッ

イズル「えっと、ケイ? そんなにしがみつかなくても…」

ケイ「こうしてないとちょっと不安なの。いいでしょ?」

イズル「うーん…まぁ、ケイがいいなら」

ケイ(そのときの私は、緊張で胸がいっぱいだった。
   彼をこんなに近くで感じていることに、どきどきしすぎて、頭がどうにかなるんじゃないかと思ってしまった)

ケイ(でも、それ以上に。彼の温もりが暖かくて、彼がそこにちゃんといるんだということが、何よりも嬉しくて)

ケイ(私は小さく、笑みを零した)




ゴディニオン――バーラウンジ前

イズル「ようし、やっと戻ってきたね」フー

ケイ「そうね。お疲れ様、イズル」

イズル「結構遅くなっちゃったね。皆もういなかったりして…」アハハ

ケイ「さすがにそんなことはないでしょう」

ガヤガヤ

イズル「あ、ホントだ。何か騒がしいね」

ケイ「そうね…どうしたのかしら」

イズル「ただいま、皆ー…あれ?」シュッ

シーン…

イズル「何で? 暗いけど…」

ケイ「イズル、降ろしてくれる?」

イズル「へ? あ、うん。何で降りるの?」ヨイショ

ケイ「……」タタッ

イズル「あれ? ケイ――」

パーンッ!!

イズル「ええ!? 何?」

パッ

アサギ「イズル!」

ゴディニオンクルー一同「おかえりなさい!」パーンッ

イズル「あ……」

スルガ「どーだ驚いたか! お前だけただの勝利祝いの会だと思ってたみたいだけどな!」

アンジュ「本命はイズルさんの復帰祝いだったんですよ」ニコリ

チャンドラ「私たちもさっき教えられて驚いたがな」

パトリシア「ホントホント、とんだサプライズよね」

タマキ「おかえりなのらー、イズル!」

チームフォーン「おかえりなさい、イズル先輩!」

イズル「ケイ、知ってたの!?」

ケイ「ごめんなさい…サプライズにしたかったから」

アサギ「そういうことだ。よく帰ってきたな、イズル。…おかえり」

イズル「お兄ちゃん…皆……」

ダン「おかえり、イズル」

マユ「イズイズは私たちの誇りだよ!」

デガワ「機体はな 壊してもまた 蘇る …よく帰ってきた、おかえり」

イズル「皆さん…」

リン「今度はちゃんと約束を守ったわね。…おかえり、本当によく帰って、きて……ごめんなさい、ちょっと」ウルッ

レイカ「リンリーン、泣いてもいいわよー? こういうときくらいさー」

ルーラ「そうそう、意外に泣きやすいのなんて、いまさらこの子たちも分かってるんだから」

スギタ「そうだとも。君はいつだって…」

リン「アンタは黙ってなさい…」キッ

スギタ「…ごめんなさい」

ジュリアーノ「おかえり、ヒーロー」

ジークフリート「君は間違いなくヒーローだ、誇っていいぞ」

ペコ「イズルさん、おかえりなさい。間違いなくイズルさんは愛されてますよー」

シオン「イズルくん、また食堂でごはん食べてね?」

イズル「艦長、整備長たちも…」

テオーリア「イズル」

イズル「テオーリアさん……」

テオーリア「よくぞ帰ってくれました。あなたは、ヒーローになったんですね」

イズル「はい…これまでたくさんのことがあって、ちょっと、危ないときもあったけれど、でも、皆がいて」

イズル「皆のおかげで、僕はヒーローになれました。テオーリアさんもいてくれて…それで、その。…ありがとうございました!」

テオーリア「いいえ。お礼は私に言わせてください。イズル、あなたは立派なヒーローです。何よりも誰よりも。そして――」

テオーリア「おかえりなさい、ヒーロー」ニコリ

イズル「ヒーロー…」


ゴディニオンクルー「」ホホエミ

チームドーベルマンⅡ「」ホホエミ

チームフォーン「」ニコニコ

スルガ「」ニッ

タマキ「」ニコニコ

アンジュ「」ニコリ

ケイ「」ホホエミ

アサギ「」ホホエミ

イズル「……」ジーン

イズル「っ……」ウルウル

アサギ「おいおい、泣くなよ」フッ

イズル「ご、ごめん。嬉しくて、つい…あ、あはは」

ケイ「一度落ち着いた方がいいわ」クスッ

タマキ「深呼吸するのらー、はい、吸ってー、吐いてー」

イズル「吸ってー、吐いてー…」スーハースーハー

スルガ「しまらねーリーダーだな、おい」ケラケラ

アンジュ「まさしくザンネンですね」

ケイ「でもそれがイズルらしさよ、そうでしょう?」

アサギ「ああ、そうだな。これが、こういうザンネンなヒーローが、イズルなんだ」フッ

イズル「皆してひどくない? ……ええと、うん」コホン

イズル「皆、ありがとう。皆がいなかったら、僕は、きっとヒーローになれなかった」

イズル「皆で、一緒にヒーローになれたんだ。だから、ありがとう。そして――」



イズル「――――――ただいま!」ニコリ

BGM:消えない宙 昆 夏美

あいにく音源がないのでこれでおしまいです。CDや曲のダウンロード版があるので、それで聞きながら読んでいただけると幸いです。
最後のネタに関しては映画の円盤から取ってきました。分からないな、という方は、二ヶ月後に出る映画のブルーレイをご購入するとよく分かります。
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>>416 ご意見ありがとうございます。小説ネタはまだまだ書けることも書いてみたいこともいくらかあるので今度またやりたいと思います。
では、またいつか。今度はアンジュの続きと、映画を見てどうしても書きたくなったイズルとケイの話をば。

あと申し訳ないですがもう一つだけ。pixivの方に二日ほど前、一番最初のスレで書いた学園時代のラビッツネタを書き直したものを投稿したので、よければ見てやってください。個人的にはだいぶ納得できるものが書けたので。では、長文で大変失礼いたしました。

どうもお久しぶりです。若干書きながらですが始めようと思います。
まずはなんとなく思ったネタから。

兄と弟、その家族

スターローズⅡ――アサギの部屋

アサギ「……で?」

イズル「うん」

タマキ「どうしたのら?」

アサギ「なんで俺の部屋にいるんだよお前ら…」フー

スルガ「終わったらアサギの部屋に集合って言ったろ?」

アサギ「……俺がそれを了承したか?」

イズル「でもさ、これまでだってそうしてたじゃないか、お兄ちゃん」

アンジュ「そうですね。いつも通りというか」

アサギ「いやいや、集まるならそれこそゴディニオンのラウンジとかで…」

ケイ「いいじゃない。それだけ、皆アサギのことを信用してるのよ」

アサギ「……信用ねぇ。単に都合がいいだけな気がするんだけど」

イズル「それよりほら、お兄ちゃん!」

アサギ「だからお兄ちゃんやめろ…」

イズル「僕が起きたとき、話をしよう、って言ってたでしょ。何の話をするの?」

アサギ「…………あー、それか。…まぁ、その……だな」チラッ

イズル「?」

ケイ「……私、ちょっと、忘れ物したわ、取ってくる」

イズル「へ? ケイ?」

タマキ「…あ、あたしもなのらー」

イズル「タマキ?」

スルガ「なんだよ忘れ物って?」

アンジュ「…あ、あの、私もでした。スルガさんもですよね?」

スルガ「へ? いや、俺は別に……」

タマキ「さ、行こ、スルガー」

スルガ「お、おい! 何だよ、引っ張るなって! おーい!?」

ケイ「それじゃ、十分もしたら戻ってくるから、ね?」

アサギ「……ああ、ありがとう、ケイ」

ケイ「」ニコリ

イズル「?」

シュッ

アサギ「……さて、と」

イズル「うん」

アサギ「イズル。…よく戻ってきたな」

イズル「うん。ただいま」ニコリ

アサギ「大変な戦いだったよな。長くて、終わりなんてあるのかも怪しかったけど、ようやく終わって、状況も落ち着いて」

イズル「うん。僕たち、頑張ったよ」

アサギ「ああ、そうだな。…………その、実は、だな。こうしていろいろと落ち着いた今、お前に教えておきたいことがあるんだ」

イズル「え、何?」

アサギ「お前と俺の、父親の話だ」

イズル「……お父さん、の?」

アサギ「ああ。ただでさえ大変な状況だから、内緒にしておけ、って艦長には言われたけど……戦いが終わった今なら、もう教えたっていいだろうと思ってな」

イズル「お兄ちゃん、お父さんのこと知ってたの!?」

アサギ「悪いな。ずっと黙ってた。それに――」

イズル「それに?」

アサギ「お前の、母親のことも」

イズル「!」

アサギ「……本当のところな、これもお前に言っていいのか、ってちょっとだけ迷ったんだ」

アサギ「でも、きっと知っておいた方がいい。たぶん、お前にとって大事なことだから」

イズル「…うん。聞かせて、お兄ちゃん」

アサギ「じゃあ、一つずつ、な――」




イズル「シモン司令、が……」

アサギ「ああ。あの人は、ずっとお前と俺のことを心配してたんだ。俺たちには分からないように」

イズル「……テオーリアさん」

アサギ「その方が驚きだったかもな。お前の、その」

イズル「お母さん、だったんだ」

アサギ「イズル……まぁ、何だ、その。お前もショックかもしれないけど――」



イズル「――そうだったんだね!」ニコニコ



アサギ「え」

イズル「そっかぁ。お母さんだったんだ。道理でなんだか懐かしい気持ちがしたんだね! ずっと不思議だったけど、納得しちゃった!」アハハ

アサギ「…もっとこう、驚くもんじゃないか? 自分の、遺伝子上ではあるけど、その、母親だったんだぞ?」

イズル「え、そう? 何かすっきりしちゃったよ。そうだよね、お母さんだもん、親近感もなにもないよね」

アサギ「……あー、そうだな。…まったく、お前に普通のリアクション求める方が間違いだったな」

イズル「へ?」

アサギ「いや、何でも。まぁ、とにかく。そういうことだから――」

イズル「僕ちょっとお父さんとお母さんのところに行ってくるね! いろいろと話したいことがあるし!」ダッ

アサギ「え? ……いやいやいや! 待てって、おい、イズル! ……行っちまった」

アサギ「」ポツーン

アサギ「あいつのポジティブさはどうなってるんだよ……」ハァ

シュッ

ケイ「アサギ! いったいどうしたの? イズル、すごい早さで走っていったけど…」

アサギ「ああ…いや、ちょっとな」

ケイ「『お父さんとお母さんに会ってくる!』…って言ってたけど……」

タマキ「イズルおとーさんとおかーさん見つかったのら!?」

スルガ「どうなんだよ、アサギ!」

アンジュ「あの、お二人とも落ち着いて…」

ケイ「そうよ、落ち着きなさい。……それで、いったいどういうことなの、アサギ?」

アサギ「……はぁ、なんでこう、こうなるんだ……」



その後、紆余曲折を経て、チームラビッツ全員と一部ゴディニオンクルーにイズルの父親と母親のことが広がり、
シモン司令の親バカぶりが露呈することとなってしまったのでした。

おしまい。たぶんイズルは父親と母親が分かったところであっけらかんとしてる。
では次をば。

最近、とにかく心の休まる時間がない。
一人で過ごそうと私室にいれば、彼らの声がするからだ。

『アンジュー! 塩辛食べよー!』

『アンジュ! ちょっとこの先行量産された機体のことで意見を聞かせてくれ!』

『アンジュ! 一緒に特訓しよう!』

『……皆で私のお菓子食べるんだけど、来る?』

『アンジュ。食堂で皆待ってるからな』

何かしらの用件を持ってきては、彼らは私の部屋にどかどかと入ってきて、それで、連れ出されて。
いつの間にやら、一緒に行動することが当たり前のようになっていた。

そんな彼らの行動に対して、私はただ、命令ならば、と付き合っていた。あんまり、気乗りはしなかったが。
彼ら――チームラビッツの皆さんは親切な方々ではあったけれど、正直なところ基本的に一人でいる方が好きだったのだ。

そういう理由もあって、誘われないようにこっそりと私は一人で過ごそうとしていた。
それでも、彼らはどこから掴んでくるのか、あるときはピット艦に、あるときはあまり人の来ないスペースに、私を追って現れる。
特に熱心だったのが、タマキさん、スルガさん、それに、リーダーのイズルさんの三人。

この三人は、思考回路も似通っているのか、よくそれぞれに私を誘いに来ては、特に打ち合わせてもいないのに鉢合わせる。
そして、そのたびに。

『おい、アンジュは今日俺とGDFに今度正式配備されることになったND16型についてだな……』

『きょーはあたしといっぱい塩辛食べるのらー!』

『ダメだよ、今日は僕のマンガ見てもらうんだから』

『見てもらったところでどうせイズルのマンガなんて変わり映えしないのらー』

『そうそう。っつーか、見てもらう前に絵をもっと上達させてこいよ』

『…ひどくない?』

『え、ええと、あの、先輩がた…』

私の腕やら腰やらを引っ張って、まるで猫の取り合いみたいに先輩たちは、私の意思など知ったことでもないように、私と過ごそうとする。

台風の目のごとく、私は荒れ狂う周りの様子をただ見ているだけで。
何やら勝手な取り決めをした後、イズルさんたちが交代で私を連れまわす権利を回しあうことになって。
結局、私はそのまま他の先輩――ケイさんやらアサギさんやらも巻き込んで、チームラビッツの皆さんと一緒に過ごすのが常になっていた。

「ふぅ……」

一人、私は息を吐いた。
ようやく皆さんに解放されて、私室のイスに座り込む。

疲れが一気にやってきた。そもそも、彼らと知り合ったのはつい最近のことなのだ。
正直大してコミュニケーション能力が高いわけでもない私にとって、共に過ごすだけでそれなりに負担になるというものだ。

別に、人付き合いの必要性を否定するわけではない。
人間はこれまで、常に誰かしらの他人を近くに存在させることで、何かしらの進歩を得ていたのだ。

そのことは、ほんの数日前、イズルさんに危うい状況から助けてもらって以来、何となく理解している。
ただ、それほど多くの人に関わってきたわけではないし、どうも人と過ごすのには苦手な感覚がして、できる気がしないだけで。

それこそ、以前に述べたチームフォーンのようにこちらから歩まなくても向こうから来てくれるような存在でも、慣れるのにはそれなりに時間がかかったのだ。
先輩方と一緒に過ごすことに慣れるのだって、それなりに時間を要することだろう。

「はぁ…」

私は一つ、ため息を吐いた。そろそろ、時間だった。
先ほど、イズルさんに誘われて、皆さんと食事をすることになっていたのだ。
別にそれが嫌だというわけではない。むしろ、ありがたいことだとは思っているのだ。
ただ、やはり、まだまだ緊張を感じてしまうというか。……そもそも緊張を感じるのが問題なんだろうけど。

頑張って、慣れよう。
そう自分に言い聞かせるようにして、私は歩き出した。
先輩たちと私。今はまだそんな括りではあるけれど。いつかきっと、彼らの輪の中に入れるようになるためにも。






私と彼ら、という括り。
それがいつの間にか、私たち、という括りになっていた。
いつから、なんて聞かれてもよくは分からない。
ただ、なんとなく、気付いたら。私は、一人で戦わなくなってしまっていた。

「……」

北海道は富良野。グランツェーレ都市学園。
そこの食堂にある厨房の勝手口から外に出て、私は空を見上げていた。
戦いの爪痕が残る地上と違って、空はいつものように青く澄んでいた。

チラリと私は勝手口の方から、厨房の方へと目をやる。
チームの仲間の女性陣二人が、焼きあがるケーキを今か今かと待ちわびているのが見えた。

何故この場に私がいるのか、何故男性陣の三人はいないのか、といえば、私が彼女たちのケーキ作りの監修を仰せつかったからだ。

戦いが終わり、スズカゼ艦長から、とりあえず別命あるまでは待機するように、と私たちに通信が来て。
とりあえず、久しぶりの学園の、被害状況を少しばかり確かめよう、ということになって。

その時に、ケイさんが、本格的に勝利祝いをする前に、
イズルさんに自分のケーキを食べさせたい、とこっそりとイズルさん以外の五人――つまり私たちに相談してきたのだ。

そのことについて、本人は至って純粋で真剣な想いで言っているので、止めるのも何だか悪い話だということになり、私たちは特に止めはしなかった。

幸いなことに、学園に併設されていた食堂のキッチンは無事であった。
一時的に学園の全てを預かっている、責任者のスギタ教官も、事情を説明すると二つ返事で使用許可を出してくれた。

ただ、病み上がりのイズルさんに、
もしもケイさんのあの普段通りのやたら甘いケーキを食べさせでもしたら、大変なことになってしまうだろう、というアサギさんの意見があったのだ。

そしてその監修がタマキさん一人だけでは不安だ、という結論が私とアサギさんの出したものだった。

そこで、私とタマキさんでケイさんを手伝い(という名目で監視して)、
その間イズルさんにケーキを作っていることを気取られないように、アサギさんとスルガさんがイズルさんを連れ出すことになった。

私としても、まぁ、イズルさんの巻き添えを食う可能性が無きにしも非ずではあるだろうと思ったので、こうして監修しているのだ。

それにしても、と私は自分のことをもう一度深く考え直す。

彼らから一歩離れて過ごしていたことが、ほんの少し前のことだなんて、とても思えなかった。
あのときは確か、もっともっと、彼らとの距離が縮まるのは長い時間が必要になると思っていた気がする。
それがどうだろう、こうして、彼らの中の一人として、もう私は立派にチームラビッツになっていた。

タマキさんやスルガさん、ケイさんにアサギさん。それに何よりも、私を仲間として一番に受け入れてくれた、イズルさん。
きっと、彼らのどこかザンネンで、それでいて温かい不思議な雰囲気が、私を進ませてくれたんだろう。

昔は、一人で十分だなんて、そんなことを確かに考えていたはずなのに。
今は、皆で戦わないといけない、とすっかり考え方が変わってしまった。

自分の中の変化を、私は心の底から味わいながら、空をもう一度見上げた。
そこにあるのは、以前から知っているはずの蒼穹だというのに、何だか今は、心境の変化のせいか、まったく違う風に見えた。
この青く澄み切った空の快活さが、私のことをどこまででも連れ出してくれる気がした。

「アンジュ」

「……あ、ケイさん」

と、そんな風に思っていると、声を掛けられたことに気付き、私は振り向いた。
そこには、あの飛び抜けた彩色とはまったく違う、いたって一般的な茶色の、チョコレートケーキの載った皿を持つ、ケイさんがいた。
どうやら、完成したようだ。

視線を向けた私に、彼女は穏やかな笑みを向ける。

「ありがとうね、その、手伝ってくれて」

「…はい。イズルさん、喜んでくれるといいですね」

礼を言われたことに少し照れを感じながら、私は笑みを返す。
思えば、彼女とのファーストコンタクトは、あまりよくないものであった。
彼女が大切に想う人の大事な物を壊そうとしたのだ。それはそれは心証がよくなかったに違いない。

それでも、彼女は私に歩み寄ってくれたし、少しずつ親切にしようとしてくれた。
そして、今。こうして普通に話をしている。

「…あの、アンジュ」

自分の中の一つの進歩について思っていると、ケイさんが私におそるおそる、といった調子で私に声をかけるのが聞こえた。
どうしたんだろう、と思いつつも、私は答える。

「はい」

「その、これは、ずっとずっと、言おうと思っていたことなんだけど」

「?」

何だかもったいぶるような言葉に、私は首を傾げる。

ケイさんは言いたいことははっきりと言うタイプだと思っていたから(少なくともイズルさん以外には)、
いったい何をそんなにためらっているんだろう、と不思議に思ったのだ。

私は彼女の言葉の続きを待つ。こういうときは、下手に促したりしない方がいいというものだ。
言おうとしていることを催促されると、少なくとも私は、何となく言葉が余計に詰まる。
これまでの少ない人付き合いの中で、一番多い経験だった。

そうしていると、彼女は、何か大きな決心でもしたように表情を引き締めた。
そして、次の瞬間、彼女は驚きの行動に出た。ケイさんは――その頭を下げたのだ。
ええ、と私が突然の行動に目を丸くしていると、ケイさんは続けてこう言った。

「ごめんなさい。あのとき、思い切り引っ叩いたりして」

あのとき、と言われて、私はいつのことだろう、と一瞬思い出そうとして、すぐに何の話か察した。
先ほども述べた、イズルさんのマンガを破ろうとしたときのことだ、と。

「ああ…いえ、あれは、私が悪かったですし」

私はあのときの自分を恥じるようにして、視線を彼方へとやる。
いくら私自身の意識がどこかへと飛んでいっていたとしても、イズルさんの大事なモノを傷つけようとしたことには違いないのだ。
むしろ、多少乱暴でも、止めてもらえたことを感謝したいくらいだった。

「それでも、ごめんなさい。つい、カッとなってしまって……」

私の答えに、ケイさんは顔を上げて、それでも申し訳なさそうに少しばかり沈んだ表情で言う。

「そんなの――」

私は、ぶんぶんと首を横に振った。
何となく、そんな顔をされるのは嫌だと、そう思ったから。

「――いいんです。それだけ、ケイさんにとって、イズルさんのマンガは大切だったんでしょう? それくらい、私にだって、分かりますよ」

彼女のことを、なんとなく私は理解し始めていた。
イズルさんに若干(というかかなり)甘い彼女ではあるけれど、他の皆さんに対しても、母親か姉のように優しく接しようとしていることを。
そして、自惚れでなければ、その気持ちは私にも多少は向けてもらっているんだ、と。

もちろん、彼女にとっての優先事項はイズルさんなのだろうけれど、それでも、あのとき、私に申し訳ないと思ってくれていたのだ。
それで十分だと、そう思えた。

その気持ちに応えないと、と私は、私なりの彼女に対するフォローの言葉を伝えた。
それが、私のことを受け入れてくれているチームの仲間へのお返しだと、そう思ったから。

私の言葉に、ケイさんはホッとしたような表情を見せて、それから、ふ、と柔らかな笑みを向けた。
ずっと心残りだったことがやっとできたような、晴れやかな笑顔だと思った。

「ありがとう、アンジュ」

「いえ、こちらこそ」

できる限りの笑みをどうにか浮かべながら、私はそっと一礼した。

お礼なんて、言われるほどじゃない。
私はただ、思ったことを話しただけなのだから。

「――ケイー、アンジュー?」

と、遠くから、独特の甘ったるい女の子の声が私とケイさんを呼んでいることに気付いた。
誰かといわれたら、おそらくはキッチンに残されたタマキさんのものだろう。
その声色は、早く早く、と私たちを待てずに、急かしているように感じた。

「…行きましょうか」

「そうね。行きましょう」

くすくすと声を漏らしながら、私とケイさんは共に歩き出した。
一緒に、チームの仲間たちが待っているであろうところへと。

私の居場所。戦場以外にできた、私がいたいと思える場所。
そんな場所が自分にできたことへの違和感は、まだ完全に消えたわけではないけれど。
それでも、私は確かにここに――チームラビッツという場所にいたい。はっきりと、そう言えた。

おしまい。映画では一番の成長を見せたのは、誰よりもアンジュくんちゃんさんだと思います。
彼(彼女?)の罵詈雑言っぷりの安定感も映画はとても見所になったんじゃないでしょうか。
では次をば。

忘れられない思い出の味、というのは人生の中でもそう出会えないものらしい。
僕の場合、その味は、美味しいという言葉が似合うかどうかは分からないと人に言われたけれど、とても思い出深いものだった。
甘くて、甘くて、やっぱり、甘くて。他の誰にも出せはしない、彼女だけの味。

目が覚めてから最初に味わった後、僕の身体はまたそれを求めて止まなくなって。
いろいろと落ち着いて、ようやくもう一度それを味わえることになった。

「――イズル、イズル?」

「……ん」

呼びかける声に、僕――ヒタチ・イズルは意識を向けた。

すると、声の主――僕の仲間の一人、ケイは、できたわよ、と視線を向ける僕に微笑みかけながら、
あるモノを僕の目の前にある小さめの丸テーブルにそっと置く。

独特な色に、全体を彩る大量の生クリーム。それは、彼女の得意メニューであるケーキだった。

ここは、新造大型宇宙ステーション、スターローズⅡ。
まだまだ内部は開発中ではあるけれど、それでもいくらかの宿泊施設は完成していて、そのうちのいくつかが僕たちに充てられている。
そして今いるのは、その私室の一つ――ケイに与えられた部屋だ。

まだここに来て日も浅いせいか、彼女の部屋自体は、僕に与えられた部屋と、内装が同じくらいにそのままだ。
僕との違いといえば、彼女が料理に使っている調理器具やらケーキの材料やらが置かれていることくらいだろうか。

「わぁ……」

待ち望んでいたモノが現れたことに嬉しくなって、感嘆とした声を上げると、僕はキラキラと目を輝かせながら置かれたケーキを眺める。
ちなみに他のチームの皆はここにはいない。誘ってみたら、皆して何かしらの理由を出して断ったからだ。

せっかくのケイのケーキなのになぁ。前よりももっともっと甘くなって、すごくなったのに。

皆でわいわいと彼女のケーキを食べても楽しかったろうに、と若干ザンネンに思うけれど、仕方ない。
まぁ、今は目の前のケーキに集中しよう。

例のウルガルの皇族――ディオルナとの戦いの後、僕たちはまた宇宙へと戻り、
艦長や他のゴディニオンクルーの皆さん、テオーリアさん、それにシモン司令を交えた祝勝会を行った。

それも済んだ後は、一応まだウルガルの残党が来る可能性もあるだろう、ということで、こうしてスターローズⅡで待機任務に就いている。
とはいっても、今のところその気配もなく、時間を持て余していたんだけど。

それで、状況が落ち着いたことだし、と僕は一つケイに頼み事をした。
ケイのケーキがまた食べたい、と。

目が覚めたときも、お見舞いでもらったモノを食べはしたんだけれど、何となくもう一回食べたくなったんだ。
彼女のケーキは、前よりもずっと甘くなって、これ以上ないほど彼女らしい味に進化していた。

不思議と、そのことに僕はホッとしていた。何と言えばいいのだろう。
そう、彼女のやたら甘いケーキを食べていると、戦いのことを忘れてしまうというか…要は、僕にとっての平和の証なのかもしれない。

いや、もしかしたら、これまでにあまりにも食べ過ぎたせいで中毒みたいになってるだけなのかもしれないけれど。

そんなことを考えていたら、彼女が一向に食べない僕を不思議そうに見ているのに気付いて、僕はいったん頭を使うのをやめた。
そうだ、食べよう。料理は作りたてが一番だっていうし。

「さ、召し上がれ」

「うん!」

フォークを手に取った僕に、彼女は早く早く、と言うように笑みを浮かべて促す。その笑顔に、僕も自分にできる限りの笑みで返す。
それから、待ってました、とさっそく切り分けられたケーキの一切れを口に運ぶ。

噛み砕いて舌で味わった瞬間、ただただ甘みだけが僕の全身を駆け巡った。
そしてさらに味わうと、その甘さを上書きするように甘味が僕の脳内を過ぎていく。

うん。これこれ、まさしくこの味だよ! やたら甘くて、それで、たぶん数時間くらいは味の余韻が残ってしまうんじゃないかと思わされてしまう、この味。
僕の求めていた、彼女の味だった。

おそらく、僕はケーキを食べたその時、とてもいい表情ができただろうな、と思った。
僕が食べる様子を眺めていたケイが、これまでに見たことがないくらいの嬉しそうな笑顔を僕に見せていたから。

「おいしい?」

「うん。すっごく甘い!」

質問に僕がはっきりと答えると、彼女はくすりと笑う。当たり前でしょう、ケーキだもの、とも付け加えた。
それから自分も、と一切れ取って、同じように食べる。
いくらか咀嚼すると、うんうん、と彼女は自分のケーキの出来に満足そうにした。

「ごめんね、急に無理言って」

何切れか口にした後、紅茶で喉を潤わせてから、僕はちょっとだけ申し訳ない気持ちを込めて言った。
ケーキを食べたい、というのは思いつきだけで頼んだことだったけれど、彼女は二つ返事でそれに応えてくれた。
急な話で迷惑だったかもしれない、と今さらながらに思ったんだ。

そう思いながら告げた僕の言葉に、ケイはくすくすとおかしそうにすると、柔らかな笑みを向けてくれた。

「何言ってるの、毎日だって作ってあげるわ」

「ホント? それならお願いしようかな」

冗談めかして言うと、彼女は特に気にする様子もなく、笑顔のまま続けた。

「ええ。あなたのためなら、私、いくらだって作るわ」

軽い冗談で僕は言ったけれど、彼女の返事にはまったくそんな雰囲気はなかった。ありがとう、と僕は感謝の気持ちを込めて返した。
たぶん、彼女にとって、それは冗談じゃなくて、本気だったんだろう。僕が望めば、彼女は笑顔でまたケーキを作ってくれる。そんな気がした。
そんなケイの気持ちが、とても嬉しかったんだ。

アサギがお兄ちゃんなら、ケイはお姉ちゃんかな、と何となく僕は思った。
面倒見がよくて、いつも僕のことを手助けしようとしてくれて、わがままにもこうして付き合ってくれる。
そんな彼女の存在はとてもありがたいことなんだと、僕は改めて感じていた。

そのことを噛み締めながら、また僕はケーキに手を伸ばす。
何度も口に運んでは、その甘さを存分に堪能する。
と、いくらか食べてから、僕はおかしなことに気付いた。

先ほどから、僕ばかりがケーキを食べていたんだ。ケイはまったく、自分のケーキに手を出していない。
どうしたんだろう、と僕はケイの様子を窺う。
見てみると、彼女は黙って、僕のことをじっと見つめていた。

その視線に、僕はどうかしたの、と思わず尋ねた。
なんというか、こう、僕を見る彼女の瞳に、不安の色が宿っている気がして。

僕がまた何かやったのだろうか。
戦いが終わった後でパーティーをしたときに、空気が読めてない、と皆にさんざん怒られて一度パーティーが中止になったことを思い出した。

「…ねえ、イズル」

「う、うん。何?」

ケイの声に、僕はケーキを食べる手を止めた。
その声色は、穏やかな雰囲気なんてまったく無くて、いたって真剣そうな調子だった。
さっきまでののんびりとした空気から、いきなり張り詰めたような、緊張感のある空気が流れ出す。

言葉を待つ僕に、ケイはゆっくりと唇を動かす。
僕はそこから出てくる音の一つ一つに、耳を集中させた。

「……あなたはそこにいるのよね? またあんな風に眠ったままでいたりとかしないのよね?」

「……」

彼女の言葉に、僕は何も言わなかった。

ああ、そうか。僕はどうして彼女があんな深刻そうな表情をしていたのか納得がいって、少しだけ、視線を下げた。

彼女は、心配してくれているんだ。
ジアートとの大変な戦いの後で、あっさりと僕が目覚めたものだから、本当はまだ僕は危険な状態で、また倒れてしまうんじゃないか、って。

思えば、彼女の心配も分かる気がする。自分でも不思議なくらいだ。
この前まで、アッシュの関係で生命が危険なことになっていたはずの僕の身体は、もう大丈夫だろう、っていうんだから。
もしかしたら、どこかに落とし穴があって、急にまた身体が動かなくなってしまうことだってありえるかもしれない。

でも、僕は。

僕はそっと顔を上げた。視線はまっすぐ、ケイを見据えていた。
それから、彼女の揺れる瞳に向かって、僕は快活に笑ってみせる。ヒーローらしく、堂々と。



「――大丈夫だよ! 僕、まだまだ描きたいマンガもあるし、いつかまたウルガルが来るようなことがあったら、もう一度ヒーローとして頑張りたいしね」

そうだ。僕にはまだまだやりたいことがたくさんある。死ぬつもりなんてまったくない。
戦いの終わった今、新しく描きたいネタが増えたし、あの上手な絵を描いた人に、もっと絵が上達するように訓練してほしいし。

確かに、完全に身体が治ったのかどうか、まだまだ様子を見る必要がある、と主治医のルーラさんには言われたけど、でも、きっと大丈夫だと信じている。

ヒーローはどんなに大変な状況だって、どうにかしてみせるんだから。

それに、完全に戦いが終わったわけじゃない。テオーリアさんが言っていたことを思い出す。
ウルガルはあくまでも当面は来れなくなっただけ、とそう言っていた。
いつかまた、きっと地球の方へとやってくるだろう、と。

何ヶ月後、あるいは何年後になるのかは知らないけれど。
それでも、また戦うときが来るなら、僕は戦う。それが、僕の――ヒーローとして、やりたいと思えたことだから。

あ、そうだ。あと――

「それに、ケイのこのやたら甘いケーキ、まだまだ食べたいしね」

僕の言葉に、ケイはくすりと笑った。
僕らしい、と言うような感じで、彼女は納得したように頷く。

「そう、ね。そうよね。皆でまた、ヒーローになるのよね」

「うん! 僕たちで、ヒーローになろう!」

にこり、と僕の言葉に彼女は微笑んでくれた。
さっきまで彼女の瞳に感じていたマイナスの色は、もう失せていた。
よかったよかった、と僕は彼女の様子に安心すると、もう一度ケーキに手を伸ばす。

「……あの、イズル」

「? 何?」

と、そこで、またケイがためらいがちに言葉を発した。
ケーキにフォークを刺しながら、僕はその声に答える。
そうしながら、パクリとケーキを口に運ぶ。…うん、甘い。

「戦いも終わって、その、落ち着いたことだし」

「うん?」

はむ、とフォークごとケーキを銜えながら、僕は応える。
彼女は下を向いて、テーブルの上のケーキを睨むようにすると、ゆっくりと顔を上げた。
唇をきっ、と結んだ、ものすごく真剣な表情をしていた。


「――話したいことが、あるの」


まっすぐに、彼女の瞳が僕を捉えた。
色素の薄い紫の目が、確かに僕の目を見据えていた。それを認識した途端、彼女の纏う雰囲気が、一気に変わったように感じた。
なんだか、そう、一世一代の勝負でもかけるような、気迫と呼べばいいのか、そういうものを感じた。

あまりにも真剣な空気に、僕はフォークを口から離してテーブルに置くと、身を改めた。
そうじゃないと、ケイの態度に対して失礼な気がして。

「……うん」

答えながら姿勢を正して、僕は彼女の言葉を待った。
何が出てくるんだろう、と僕はじっと、彼女の唇の動きに注意した。

ケイは、緊張しているのか、何事かを言おうとしては止め、もう一度語り出そうとしてやっぱり止めて。
それをいくらか繰り返して、それから、大きく息を吸った。

そして、その唇がゆっくりと開かれた。

「私――私、ね? ずっと……ずっと、前から。その、あなたの――」



と、申し訳ないけれど。ここで僕の話は終わりにしようと思う。ここから先は僕の話じゃなくて、彼女の話だから。

続けてケイがどんな言葉を僕に投げかけたのか、また、僕はいったいその言葉に何を返したか。
ちょっと人に話すような内容でもなかったので、聞いている人の想像に任せようと思う。

ただ、一つだけ言えるとすれば。僕にとって、彼女のケーキは他のどんな味よりも大切な味なんだってことかな。

おしまい。ぜひとも製作スタッフさんたちには、マジェスティックプリンスEXODUSとかそんな感じで二期を作っていただいて、ケイにもうちょっとサービスしてやってほしいところ。もちろんみんないなくならない方向で。小鹿ちゃんとかまだまだやれることはあるでしょうし。

今頃発声上映会に行かれた保護者の方もイベントが終わったことでしょうか。うらやましい。

では、またいつか。次は小説ネタでやろうと思います。他にもネタふりがあればお願いします。見てる方がいらっしゃるか分かりませんが。

お久しぶりです。若干書きながらですがまた始めたいと思います。

古来より多くの種族を生み出し、狩り尽くしてきて。初めて、我々は勝利を得ることができなかった。
これまで、いくつもの星星を滅ぼし、その度に遺伝子を食いつないできたが、とうとうそれを阻む存在が生まれたのである。

その星のラマタ――獲物は、地球人、といった。

彼らは、プレエグゼシア・テオーリアや、その母君であるエグゼシア・オーレリアの力を借りたものの、我々ウルガルを退けてみせたのだ。
そのことを受けて、エグゼス・ガルキエは私の報告に満足げに笑んでいた。
まるで、目当てのモノをとうとう見つけた、という喜びを表すように。

ウルガルの侵攻拠点。その中にある王宮。
レガトゥス――軍団長の中で唯一動ける身として、私――ルメスは今、ガルキエ様に、失った兵の補充などの戦力の立て直しに関する報告をしていた。

「――ルメスよ」

は。

その報告の途中、私が恭しく答えると、ガルキエ様はこう告げた。

「ゲートをもう一度生み出し、そして、地球へと攻め入る。それまでに状態を万全にしておけ」

は。レガトゥス・ドルガナも、数日もすれば傷が完全に癒えるとのことです。

言いながら、軍団長の中でもガルキエ様の腹心であられる、彼の武人の姿を思い浮かべた。

今回のシカーラ――狩りで一番手傷を負ったことであろう人物。
地球への狩りから、何かしら思うことがあるのか、面会に行ってもずっと無言で宙を見つめていたことを思い出す。

「うむ。……我が弟の方はどうだ」

ガルキエ様の質問に、私は少しばかり間を置くと、はきはきと答えた。

傷は深かったようですが、それでも、もう次のシカーラへと赴こうという気の入りようでございます。

プレエグゼス・ジアート。
私の主君であり、エグゼス・ガルキエの異母弟。
彼は今回のシカーラで、自らのラマタと対峙し、死闘を繰り広げた後、重傷を負った。

私がどうにか回収し、傷の治療を始めると、持ち前の生命力の高さゆえか、彼はあっさりと傷をほぼ癒してしまった。
今は、まだ機体へ乗り込み操縦するほどではないが、それでも、余興で行う程度のシカーラ――狩りをするほどには調子を戻していた。

私の答えに、ガルキエ様は満足したように頷く。
まるで予想していた答えが返ってきた、と言わんばかりだった。

「もうよいぞ、ルメス。下がれ」

は。では、私はこれにて。

ガルキエ様に深く礼をすると、私は宮殿を去った。
それから、今度はジアート様のいるであろう居城へと向かう。
思っていた通り、ジアート様はご自分の城の外で、ご自分の趣味で用意していた獲物を何匹か仕留めていた。

病み上がりとはとても思えないその戦果に、私は内心でおそろしい方だ、と深く慄いていた。
彼はまさしく、マナーバ――本能そのもの、狩りの中でしか自分を見出せない、まさしくウルガルという種族をよくその体で示していられているように思う。

ジアート様。

「……ルメス、か」

私が声を掛けると、小さな湖の中に佇むジアート様は剣を納めて振り返り、陸に上がってくる。
濡れたお身体のことなど意にも返さぬご様子で、ジアート様は私の言葉を待つ。

お身体はもう大丈夫のようですね。

「まぁ、な。鈍って仕方がないくらいだ」

次のシカーラは、まだまだ先になるようです。

「そうか……」

待ちきれない、というご様子ですね。

「当然だ。あれほどのラマタ、もう二度と会えないかもしれぬともなれば、昂ぶるだろう?」

にやり、と彼は実に不敵に、力強く、そして何よりも、喜びを露にして笑った。
…まったく、末恐ろしい方だ。あれほどの激闘の後で、いまだ止まることない自らの成長を確信している。
実際、おそらくは私の知る以上の力を、ジアート様は手に入れたに違いない。
そういった自信が、その笑顔に出ている。

「まぁいい。私も多少は傷を負ったことだしな。完全に癒えるまでは、おとなしく待つとするさ」

それがよろしいかと。では、私はこれで。

一礼をすると、私は振り返り、その場を去ることにした。
ここに留まり続けては、おそらくは命が危ういことだろう。
何故なら――

「ルメス」

は。

呼び止められて、私は立ち止まった。ただし、振り返らない。いや、振り返れない。
先ほどから感じている、抜き身の剣のような、鋭い視線が、私の身体を完全に動けなくしていた。

振り返ろうものなら、昂ぶりが収まらないジアート様に、そのまま勢いで殺されてしまうことだろう。

この方はそういう人物だ。
今すぐにあの地球人を狩りに行きたくてたまらないのをどうにか抑えて、しかし、それでも抑えきれないから、雑魚を狩って気を静めていたのだ。
そして、その雑魚への矛先が私に向くことは何ら不思議ではない。

「お前もまた、テオーリアの味方なのだろう? いいのか? 地球にまた侵攻をさせて」

何をおっしゃられているのか、分からない私ではない。
ジアート様は感づいている。私がテオーリア様の言葉を受けて、ガルキエ様の意向を無視して全軍を下げようとしたことを。

それをガルキエ様には伝えていないことも理解している。もちろん、私を付き人として庇ったのではない。
おそらく、私の存在が都合がいいからだろう。テオーリア様に、もう一度お会いするために。
私はどう答えるか考えに考える。回答次第では、狩られてしまうだろう。

ジアート様の気を削ぎ、かつこの場を治める答えを出さねばならない。私は――

いえ。私は、生み出された目的のため、すべきことを為すだけですので。

ただ、そう答えた。あくまでも、私の中立性を主張するために。
私が、何のためにここにいるのかを伝えるために。

「……ふ…そうだったな」

もうよい、と言うように、鋭い視線の感覚が私から逸れた。
どうやら、見逃していただけるようだ。

それでは、ジアート様。くれぐれもご養生を。

それだけ残すと、私はその場を去った。私に与えられた役目は多い。
私はルメス。皇族の付き人として生み出された存在。誰か個人ではなく、主たる存在たちへの忠誠を果たすだけの、ただ、それだけの存在だ。




目の前から去るルメスの後ろ姿を見送りながら、私は宙を見上げた。
この宙の先に、あのラマタが待っている。もしかしたら、ゲートの爆発に巻き込まれて死んでいる可能性もあるかもしれないが。
しかし、私にはそんなことはありえないと断言できる自信があった。
あのとき。決着をつけようとした、あの瞬間。私は確かに、やつの存在を感じた。私もやつも、まだまだここで戦いが終わる関係ではないと。

おそらくは生きている。そして、やつもまた、自らの成長をきっと噛み締めていることだろう。
それでこそ、私の認めた獲物なのだ。

ふ、ふふふ――

喜びで、全身が震えてしまう。
今一度、私は自らが定めた獲物のことを思う。

テオーリア。それに母上。そして――

あのラマタの少年。やつは確かにあの一瞬、自分を越えたのだ。
その事実を思い出すだけで、自然と笑みが浮かぶ。
やつを狩るその瞬間、私は間違いなく、更なる道へと進めるのだ。
何よりも、それが楽しみで仕方がない。

く、くくくく……

抑えきれない、こみ上げてくる。これほどまでに感情が昂ぶるのは、初めてだ。
その感覚をじっくりと味わいながら、『俺』は大きくその感情をさらけ出した。



「ふ、ふふふふふ…ははははは、ははははは―――――――っ!」

おしまい。受け入れおじさんは普通に生きてます(監督)とのことだったので一つ。
次のシーズンがあれば、ぜひともおじさんとは今度こそ、チームラビッツで決着をつけてほしいところ。
では次をば。小説ネタでひとつ。

ウルガル本星、皇族が住まう一際大きな居城。
そこの私室に、私は幽閉されていた。
もう五十年ほどになるだろうか。私はこの小さな部屋の中で、ただただ来る日も来る日も、一人で静かに過ごしていた。

ときどき、幻聴が聞こえることがある。何十年と閉鎖された日常を過ごしていたことに対する精神的な消耗ゆえのことか、あるいは。
きっと、私の脳細胞の中に眠る、忘れることの許されない大切な思い出が聞かせるのだろう。

『――オーレリア』

ああ、また聞こえた。どんなに時が経っても失われない、彼の声。
トーンや喋りの癖、その全てが、忠実に再現されて、私の耳に響いてくる。

『オーレリア、君のことを……愛している』

そうだ、彼は今際の際に、そんなことを言ってくれた。
忘れないでくれ、と。ずっとずっと、その幻聴は言い続けているように思えた。

私の名は、オーレリア。汎銀河統一帝国ウルガル、そのエグゼシア――伝わるように言えば、女皇といったところだろう。
ただし、今は女皇としては何の権限も持たない。
何せ、今は国の反逆者として、ずっと幽閉されているのだから。

そのように扱われている理由は、至って単純。
まさしくその通り、私がウルガルという場所を裏切ったのだ。

このウルガルという星に生きる我々は、他の星から遺伝子を奪い、摂取することで命を永らえてきた。

私は、その略奪行為をを先導して行ってきた皇族の身でありながら、
そのやり方に異を唱え、あろうことか新たな標的にされたとある星にウルガルの最新技術の全てを送り込んだのだ。

ウルガルに対抗するための力を、私と遺伝子を同じくする娘と共に。

そして、今やウルガルの裏切り者として、私は全ての自由を奪われている。
重大な裏切りに対して、処刑がなされないでいるのは、単に私を生かそうとしている者がいるからだ。

もっとも、その者もまた、私に好意的な理由で生きていてほしいわけではないのだが。

とにかく、私はどうにか生き永らえていた。
何度も何度も、誰もいない、何も無い、孤独な世界に心が蝕まれそうになったこともあった。
しかし、私は何とか生き続けた。私の命を助けてくれた人との『約束』が果たされるのを、何が何でも見届けたかったのだ。

そもそも、私が標的となった星に肩入れしたのも、ある異星人の青年との出会いがきっかけとなったからだ。
彼はウルガル人などよりもずっと弱い、狩られるだけの存在だったはずなのに。
私たち、ウルガルにはない無二の力を以て、私を救ってくれた。

その力の名前は――確か――

「――エグゼシア・オーレリア」

思考の最中、急に聞こえた声に、私は立ち上がった。
さっきの幻聴とは違う。確実に実在する人間のもの。
そして、聞き覚えのある声だった。

ガルキエ。久しぶりじゃないか、シカーラはどうしたんだ?

私は、部屋の入口に立つ男を見据え、挑発するように言った。

エグゼス・ガルキエ。
私の義理の息子。私の夫であった男の、前妻の子。
今では自らの父を殺し、王座を手に入れてみせた男でもある。

そして、私の守ろうとした星を狙う男だ。
確か私のいるウルガル本星を離れ、今は遠く木星の辺りまであの星を狩りに出ていたはずだが……。

ガルキエはこちらへとほんの数歩近付くと、いくらか距離を置いて、静かに語りだした。

「お前の庇っていたラマタが、ゲートを破壊したものでな。一時的に戻ることにしたのだ」

……そうか。

ゲート。あの星へと続く、道の一つ。
それが破壊された報告とはつまり、我々ウルガルが初めて獲物に退けられたということだ。
そして、私と彼の『約束』がとりあえずは守られたということを示しているということにもなる。

安堵するように微笑んだ私を、ガルキエは、ふ、と一笑に付す。

「我々には進化の道がまだまだ残されているようだ……やつらを狩り尽くしたときの貴様の顔が楽しみだよ」

そのときの光景を想像でもしているのか、ガルキエは笑みを浮かべた。
やつにとって、私の存在は目障りなのはよく知っていた。裏切り者であり、目的である狩りの邪魔をした存在なのだから。
私の絶望する姿など、やつにとっては気分のいいモノに違いない。

しかしながら、そんなガルキエが期待していたであろう私の反応は、確実に予想外だったことだろうと思う。
やつが勝ち誇るような表情をしていたのに対し、私は――

いいや。彼らはお前に狩られたりはせんよ。

私は――笑ってみせたのだ。
そんなことはありえない、と自信を持って。

「……ほう」

私の強気な発言を耳にした途端、ガルキエは興味深げに私を見つめていた。
私はさらに続ける。

お前の、いや、ウルガルにはあの星の――地球の人々が持つものがない。だから、地球は狩られたりなどしない。

「それは結構なことだ。いったい、何をやつらが持っているというのだ?」

いいだろう、教えてやる。よく聞くことだ。

私は一度、瞳を閉じ、教わったことの全てを思い浮かべる。
そして。はっきりと、言い切った。

――地球には、『愛』、それに『ヒーロー』がいる。
それは、どんなに遺伝子をいじくって作ろうとしても生まれなどしない。お前のようなやつには、きっと生み出せない存在だ。

そうだ。私は一度、それを見た。
圧倒的に戦力で劣るはずの異星人の彼が、優位な立場のはずのウルガル人との戦いに勝利し、見せてくれた。
何よりも強く、暖かく、そして――優しい力。
あの力がある限り、必ず、彼ら――地球人たちは、ウルガルになど負けない。それを、私は信じている。

「……『愛』に、『ヒーロー』、か」

私の言葉をそのまま呟くと、ガルキエはくつくつと笑った。
その存在への脅威ではない、むしろそのような未知の存在があることに喜びを感じているようだった。

やつは感情を包み隠さず、堂々とした調子で宣言した。

「――それすらも、俺は狩り尽くしてくれよう」

はっきりと言い切り、ガルキエはひらりと身を翻した。
もはや話は終わりだ、と一方的に告げるように、やつはもうその場からいなくなった。
私にわざわざ宣戦布告をしにきたわけだ。まったく、律儀なやつだ。

ふん、と鼻を鳴らすようにすると、私は備え付けのイスに座り込んだ。
足を畳んで、腕を腿に絡めると、自らを抱きしめるようにして、丸くなる。

瞳を閉じて、私は、また独りの時間を過ごし始めた――――




また、夢を見た。幽閉される前、ウルガルの侵攻拠点で暮らしていた頃の。
見慣れた私のかつての城、その居室の中。
彼と共に、そこに私はいた。

『オーレリア』

トウマ……。

他に誰もいない、白で染まった何も無い部屋の真ん中で、私たちは互いに向き合った。

懐かしむように笑みを向けてくれた彼に、私は同じようにする。
不思議だ。彼が笑うと、私も笑いたくなるのだ。いったい、どういう心の作用でそうなるのか、皆目見当もつかない。

……と、最初の頃はそう思っていた。今は、違う。

『今の君なら、きっと「愛」を分かるはずだ。俺は、そう信じてる』

そんな私の思考を見透かしたように、夢の中の彼は言った。
当然か。目の前の彼は、私の夢――すなわち私が作ったトウマなのだ。
私の思考など、私の思い出から作られた存在に、分からないわけがない。

冷静な意見が脳裏から聞こえてくるが、それを無視して、私は素直にトウマに答えた。
科学などでは測れない、感情の動きに従って。

……ああ。私にも、『愛』が理解できたと思う。感じたと思うよ。あの子に。そして――君に。

『そうか…なら、それは、いいことだよ』

心から私を祝福するように、幻が微笑んだ。
しかし、その幻の笑顔が、何よりも私にとっての救いだった。
五十年近く、何もすることなく、されることなく。永劫にも感じられた孤独から私を助けてくれる、『ヒーロー』の笑顔だったのだ。

…………なぁ、トウマ。

『ああ』

君は、私を愛していると、そう言ってくれたな。

私の確認するような言葉に、彼は頷いた。
それだけは、幻じゃない。何故なら、彼との別れの時に、たった一つ、彼が聞かせてくれた言葉だったから。

『そうだ。何度だって言うよ。俺は君を愛している、オーレリア』

……私はそれに返したこと、一度もなかったな。五十年も経って今さらかもしれないが。

本当に、今さらなことだとは思う。しかしながら言わなくてはならないことだとも思った。
約束を一時的に守れた、今だからこそ。

視線を真正面に、彼の瞳を捉えると、私は自分にできる、精一杯の笑みを生み出した。
そして、そっと。その言葉を口にした。彼に教えられた、大切な言葉を。


――私も、あなたを愛しています、トウマ。


たとえ夢でも、幻でも。
あなたがいたから、私はこの感情を学ぶことができた。手に入れることができた。
ありがとう、と。

私の言葉に、そんなセリフを言うなんて、とでも言うようにトウマは少しだけ面食らったようにして、それから、改めて穏やかな笑みを見せた。

『こちらこそ、ありがとう。君に出会えて、俺はきっと、幸せだった』

そうか。なら、それはいいことだ。

『ああ……ははっ、ホント、今さらだったな』

ふふっ。そうだな、まったくだ。

何だかおかしくなって、私たちは互いに笑い合った。
本当に、遅すぎた。会ってから五十年、結局直接に現実で伝えることなんてなかった。それをようやく私から言えたのが、夢現の中だなんて。
まったく、おかしな話だ。

しばらく笑って、それも治まると、トウマが私の方へと歩み寄る。
私も彼に近付く。そうして、その胸元に、ぽすん、と頭を埋めた。

彼は何も言わず、私の背に手を回す。ぎゅ、と抱きしめられた。
彼の腕の中は、夢の中で感覚なんてなかったけれど、何だか温かい気がした。

彼の顔を見上げると、変わらず穏やかな目で、私のことを見守るように見つめていた。

『……オーレリア。君はまだ生きている。だから、諦めないでくれ。きっと、いつか――』

トウマ?

彼の言葉を聞いているうちに、違和感に気付いた。
どんどんと、彼の姿が消えていく。ボロボロと、崩れていく。

いやだ、と思った。消えないでくれ、と手を伸ばそうとしても、私の両手は空を切る。
彼の姿が薄まっていく。まるで、そこに最初からいなかったように。

それでも、彼は変わらない笑顔のまま、私に言葉を投げかけていた。
『ヒーロー』らしく、堂々と。

『地球……の「ヒーロー」…たちが――き、みを――――』




そこで、目が覚めた。どうやら、いつの間にやら眠っていたようだ。
組んでいた腕を解き、立ち上がって、周りを見回す。誰も、何もない。
ただの空虚な空間の中に、私がただ一人でぽつんといるだけだ。

トウマ。

うつむいたまま、私は呟いた。
彼の姿はもう見えない。もしかしたら、これで夢はもう終わりなのかもしれない。
だけど。

信じるよ。私の『ヒーロー』が言ってくれたんだ。信じてる。

私は顔を上げた。
きっと、その表情には悲壮感なんてまったく出てないはずだ。
私の心には、そんな感情なんて一切無かったから。

テオーリア。

ぽつり、とその名を呼んだ。
私の希望。約束の象徴。トウマと私、地球とウルガルの。たった一つの、小さな、しかし強力な希望。

あなたもきっと、『ヒーロー』を見つけたのよね。

短い時間を共に過ごし、伝えたことを思い出す。
地球には『愛』、そして『ヒーロー』がある、と。
彼女も見つけたに違いない、自分だけの、『愛』と『ヒーロー』を。

そして、いつか、きっと。
彼女の存在が、変えてくれる。歪んでしまったこの星の、全てを。
その日まで、私は生きていよう。



『約束』はいまだ果たされていない。だが、そのはじまりである、私はまだここにいる。
たった一人の、歴史にも残らないかもしれない、私の『ヒーロー』のことを憶え続けて。

きっと。今は、それで十分だろう。

想いは消えない。私がいなくなったとしても、託された誰かがいるなら。その誰かが、新たに別の誰かへとそれを託し続けてくれるなら。

私と彼の『約束』は、そこに生き続けて。いつか、叶うときがくる。そう、信じている―――――

おしまい。個人的には小説の話もいつか映像化してほしい。オーレリアおばあちゃんとトウマの話はわりと本編にも繋がる大事な話だと思いますので。
では次をば。

三兄弟(三兄弟とはいっていない)

スターローズⅡ――格納庫

タマキ「皆ー、ローズスリーはどうー?」

三兄弟「」ジトー

タマキ「うげ…な、何なのらー?」

シンイチロウ「何、じゃないだろうがバカ」

シンジロウ「俺たちのローズスリー、あんな無茶な変形させやがってバカ」

シンサブロウ「おかげで一から設計の見直しだバカ」

タマキ「あたしのせいじゃないのらー!」

シンイチロウ「…で? 何しにきたバカ」

シンジロウ「ゲームならまた今度貸してやるバカ」

シンサブロウ「俺たちは忙しいぞバカ」

タマキ「むーっ! どーせアニメ見てるだけのくせにー!」

シンイチロウ「趣味の時間だ、何か文句あるか?」

シンジロウ「まったくだ、どっかのバカのせいで最近はずっと休む暇なかったんだぞ」

シンサブロウ「」ウンウン

タマキ「ふーん、だ。じゃあさっさと用事だけ済ませて帰るもん! ……はい」テワタシ

三兄弟「?」

タマキ「いろいろと苦労かけたから、差し入れなのらー。無茶苦茶美味しいんだからー」ニコニコ

シンイチロウ「……まぁ、受け取っておく」

シンジロウ「ほら、さっさと行けよ」

シンサブロウ「休むのもお前の仕事だろ」

タマキ「言われなくてもそうするもん! べー、っだ!」タタタッ…

三兄弟「……」

シンイチロウ「…三次元、ちょいうぜー」

三兄弟「」ウンウン

シンジロウ「…白飯もらってくる」

シンサブロウ「じゃあ、俺は茶を」

シンイチロウ「おう、頼…「あ、そうだー!」…何だ?」

タマキ「イズルがねー、医療カプセルに絵描いた人探してるのー、誰が描いたか知らない?」

三兄弟「知らん」

タマキ「…ほんとー? ……まぁ、別にいいけどー」

タタタタッ…

三兄弟「……」

シンイチロウ「教えてやってもいいが、あいつ、絶対弟子入りとか頼んでくるからな」

シンジロウ「あのバカだけで手一杯なのにさらにバカが増えちゃあな」

シンサブロウ「何よりも、あいつリア充だし」

シンイチロウ「……三次元、やっぱうぜー」

三兄弟「」ウンウン

おしまい。三兄弟でなんとなく思いついた話でした。
似ているけれど彼らはまったくの赤の他人の関係だとか。ドラマCDだとタマキと遊んだりもしてるらしいので、意外に面倒見もいいのかもしれませんね。
ではまたいつか。次は小鹿ちゃんとアンジュの話とイズルとテオさんの話をやろうと思います。

どうもお久しぶりです。思ったより書けなかったので、今日は一つだけ短い話をやりたいと思います。

黒兎と小鹿

グランツェーレ都市学園――学生寮の一室

アンジュ「ここも相変わらずみたいだね」

クリス「まなー、っつか、アンジュがいなくなってからそんな経ってないし」

アンジュ「いや、前にも敵が攻めてきたとき、結構被害があったっていうから。寮の方はそうでもなかった?」

セイ「ここはな。一部の方じゃ、やっぱりそれなりに被害があってさ、建て直しとかあったらしいぞ」

アン「ちょっと羨ましいかもー。ここ、やっぱりちょっと古いし」

ユイ「それよりも」

アンジュ「うん?」

クリス「そーそー、なな、アンジュ!」

アン「チームラビッツの先輩たちってどんな感じなの?」ズイ

アンジュ「え?」

ユイ「ほら、あなた、よく戦闘の映像とかこっそり送ってくれたけど…戦いのとき以外の先輩たちがどんな人たちか、私たちよく知らないじゃない?」

クリス「やっぱさ、すっげー訓練とかしてんのか?」キラキラ

アン「イズル先輩って普段はどんな風なの? リーダーっぽくしてて、やっぱかっこいいの?」キラキラ

セイ「イズル先輩はさっきの言動だと、なんつーか噂通りのザンネンな人っぽかったけど…ケイ先輩は? あの美味しいケーキ、アンジュはよく食べるのか?」

ユイ「あれが美味しいって言えるセイの味覚が理解不能なんだけど……」アタマガー

アンジュ「本当にそう思うよ……。普段の先輩たちか…そんなの、さっき本人たちに聞けばよかったのに」

クリス「ば、そんなの無理無理! さっきだって、ちょっと話しただけでキンチョーしちまったし!」

アン「それにー、先輩たちなんかあちこち回って忙しそうだったしー」

アンジュ「ああ…まぁ、そうだね。イズルさんたちにとっては久しぶりだからね、ここ」

クリス「名前で呼ぶなんて、すっげー親しげなんだな」

アンジュ「同じチームだからね。最初は、まぁ、ちょっと慣れなくて、呼び方にも困ってたけど」

ユイ「ふーん…私たちのことも、前は名前にさん付けだったわよね」

アンジュ「それは……知ってるだろ。私、人付き合いは苦手なんだから」

セイ「そういう意味じゃ結構驚いたな。まさかあのアンジュが、俺たち以外の人たちにあんな風に笑ってるなんて」

アンジュ「まぁ、ね。いろいろとあったから」

アン「そっかー」ニコニコ

クリス「あ、そうだ! 見たか? 俺たちのアッシュ!」

アンジュ「ああ……あの新機体?」

クリス「そうそう! へへ、前は先越されちまったけど、もうこれで同じだな!」

セイ「ま、活躍はそんなにできなかったけどな」

ユイ「そうね…チャンドラさんたちにだいぶフォローしていただいて、何とかなったけど」

クリス「そういうこと言うなよー…」ションボリ

アン「そうだよ! チャンドラさんたちも言ってくれたじゃない? 私たちにできることをやれるだけやったんだからそれでいい、って!」

アンジュ「ザンネンだけど戦ってるところは私見てないから、何とも言えないけど…でも、たくさんいたウルガルの残党を倒したのはセイたちだろ?」

セイ「アンジュ……?」

アンジュ「私も、まぁ、そんなに活躍はできなかったかもしれないけど、それでもやれることを全部やったんだ。……たぶん、今はそれで十分じゃないかな?」

ユイ「……」ポカーン

クリス「……」ポカーン

セイ「……」ポカーン

アン「」ニコニコ

アンジュ「……え、何?」

ユイ「いえ、その…」

クリス「アンジュが、あのアンジュが、そんな気ィ遣うようなこと言うなんて……」

セイ「かなり驚いたというか、なぁ?」

アン「アンジュもいろいろあったんだねー」ニコニコ

アンジュ「……ひどいこと言うなぁ。私なりにフォローしてるのに」

セイ「はは、悪い悪い。いや、そっか。そうだよな。やれることは全部やった、か」

ユイ「うん……。今はまだ、それで十分よね」

クリス「そうだなー……ぜってーいつかは先輩たちみたく活躍しようぜ!」オー

アン「おー!」オー

アンジュ「そうだね。……今度、五人で先輩たちとの模擬戦でもさせてもらえないか頼もうか?」

クリス「マジ!?」

アン「模擬戦…イズル先輩たちと……」キラキラ

セイ「模擬戦か…久しぶりにチームフォーンの完全復活ってわけだな」

ユイ「となると、またアンジュのあれを聞くことになるわけね……」アタマガー

アンジュ「わ、私だって、少しは抑えられるようになったよ」

アン「え、そうなのー? 私、あれもアンジュらしくて好きだけどなー」

クリス「いやいや、味方のメンタル削る言葉聞いて楽しんでるのお前くらいだから」

ユイ「……まぁ、確かにアンジュらしさではあるわよね、たぶん」

アンジュ「そんならしさなんて……いや、そうだね。それも私、か」

セイ「…ま、何はともあれ。そのときはまた、よろしくな、アンジュ」フッ

アン「よろしく、アンジュ!」ニコニコ

クリス「頼むぜー、アンジュ!」ヘヘー

ユイ「お願いね、アンジュ」ニコリ

アンジュ「……うん、よろしく、皆」ニコリ

おしまい。投下してからなんですが、映画の円盤特典のドラマCDを見て思いついたネタでした。
小鹿ちゃんとラビッツの会話シーンが聞けるのは唯一の媒体ですので、映画の円盤を買おうかな、と悩んでいらっしゃる方にはTOHOストア限定販売版のご購入をオススメします(宣伝)
ではまたいつか。次の次でネタも百五十個目になります。今度はその分までまとめて投下しようと思います。

お久しぶりです。また若干のながら投下をさせていただきます。

『これはなんですか?』

『これですか? 「ヒーロー」の出てくる、物語というものだそうです』

『ひー…ろー?』

『ええ。地球にだけある、素晴らしいものなのだそうです』

『私の母――お母さんが教えてくれたんですが…まだ実際にお会いすることがなくて』

『テオーリアさんは、「ヒーロー」がいるとうれしいんですか?』

『もちろん。「ヒーロー」、いつかきっと、出会ってみたいものです』

『……』

『イズル?』

『――じゃあ、ぼくがテオーリアさんの「ヒーロー」になります!』

『……まぁ…』

『テオーリアさんがうれしいなら、ぼくもうれしいです! だから…』

『……では、約束しましょう?』

『やくそく、ですか?』

『ええ。約束です。あなたが、またいつか出会ったとき、そのときは、あなたが私の「ヒーロー」になってくれる、と』

『はい! ぜったい、なにがあっても、ぼくはかならず、テオーリアさんの「ヒーロー」になります! ぜったい、ぜったい、なります!』

『ええ。私も、絶対に憶えています。あなたが私を忘れても、必ず――』

地球に来て、およそ五十年。長く長く、いまだ終わらない私の旅。
長い暮らしの中で、私には多くの忘れ得ない大事な思い出ができました。
その中でも、一際大切なモノがあります。交わした相手は憶えていないでしょう、私だけの、大切な約束が。

いつか、きっと。そう思いながら、私はその約束が果たされる日を信じ、日々を過ごして。
そして、つい先日のこと。約束は、数年の歳月を経て、果たされました。




「――リア様……テオーリア様?」

「っ……ダニール、ですか?」

新造の大型宇宙船、スターローズⅡにある、MJPから与えられた小さな私室で。
まどろんでいた意識が、ずっとこれまで付き従ってきた彼の声で覚醒するのを、私は感じました。
座ったまま、胡乱げな瞳で、声の主――ダニールの姿を捉えると、彼はいつも通りのすました表情で私の顔を覗き込んでいました。

視線を彼から外し、正面にやると、小さな目の前の丸テーブルの上に、この間彼に購入してきてもらった本が一冊、開いた状態で置いてあるのが見えます。
私は、自分が読書の途中で疲れて眠ってしまったらしいことを察すると、また顔を上げました。

「どうしたのです?」

半ば呆然としながら彼の用件を伺いつつ、私は開かれた本のことについて考えていました。
今読んでいるのは、確か、互いに遠く離れることになってしまった親子の話です。
途中までしか読んではいませんが、内容としては、子が遠くへと行った母を追い、いくつかの冒険を経て――確か、そんな物語でした。

おそらく、そんな本を読んでいたせいでしょう。懐かしい夢を見たのは。

私にも、親として正しく接することができたかは怪しいかもしれませんが、子供がいます。
あくまでも遺伝子上のことではありますし、共に過ごした時間のことも、もう子供の方は忘れていますが。
それでも、私にとって、愛すべき存在には違いありませんでした。

そのことについて、様々な想いが思い浮かびました。ですが、それを深く考える前に、ダニールがただ淡々と用件を伝える声が耳に届いて。
その声が伝える、まるで私の思考を読み取ったように現れたその用件に、私は少しばかり戸惑うことになるのです。

「いえ。イズルさんがテオーリア様にお会いしたい、と」

「イズルが、ですか?」

「はい。お話したいことがある、と」

こうも狙い澄ますようにその名が出るなんて、と偶然の力に私は驚きました。
ちょうど親と子の物語に触れているところに、彼との懐かしい日々を夢に見て、次はその彼が直接会いに来るなんて。
運命、という言葉が地球にはありますが、そのような不可思議なモノを私はひしひしと感じました。

例のディオルナとの戦いの間に目覚めて。その後、彼は確か綿密な検査を受けさせられていたはずです。
もう検査は終わったのでしょうか。終わったとして、彼が私にいったいどんな用があるのでしょうか。

それを想像していた私でしたが、本当のところは、そのことについて、何故か予感めいたものがありました。
彼の用件がいかなモノか、何となく分かる。そんな気がしたのです。

「そうですか……通してください」

私は迷いなく答えると、ゆっくりと立ち上がりました。
彼の用件、その内容を想像しながら、私はそのことに対して、覚悟を決めることにしました。
いつまでも真実を隠すことなど、できはしないのですから。

私の答えに特に何か言うようなこともなく、では、とダニールはすぐに部屋から姿を消しました。

立ち上がった私は、部屋の中心にある、イスとその前に置かれたテーブルから背を向け、四角く縁取られた窓の方へと歩み寄りました。
外の方には、ゲート破壊によって、一時的ではあるけれど、侵略から守られた青い星が見えました。
あの澄んで輝く青い惑星――あれこそが、お母様が私に託した『約束』の象徴です。

そして、私が彼と約束を交わしたときに眺めていたモノでもあります。

はるか五十年前のこと。私はウルガルから亡命し、この地球へとやってきました。
ウルガルがこの星を狙っていることを知る母――エグゼシア・オーレリアが、地球を助けようとした罪で幽閉される前に、自身の代わりに私を送ったのです。

地球の人々に出会い、いくつかの技術を提供した私は、MJPの協力者として、地球に希望を生み出そうとしました。
そうして、幾度かの失敗と成功を経て数十年。新たな希望が生まれたのです。

ヒタチ・イズル。
私の遺伝子とMJPの司令であるシモンの遺伝子で、MJPの技術によって生み出された、私にとって、息子と表現すべき存在です。

彼は唯一、ウルガルの血を引く地球人として、MJPに生み出された他の子供たちとはさらに特別な扱いを受けることになりました。
MJPの子供たちは、基本的には地球人の養父母――育てるためだけに存在する親元を言うのだそうですが――に預けられているのですが、彼は別でした。

その血に宿る特殊性を考慮されたのと、それに――私の希望もあって、MJPに戻される適正年齢に成長するまで、イズルは私と共に過ごしたのです。

彼の養母になることを希望したのには、理由がありました。興味があったのです。
地球の人々は、血の繋がりを重視し、そこに『愛』を宿らせる。そう、その当時に読んだ物語にありました。

私の母は、地球に存在する『愛』なるものについて、その存在を教えてはくれましたが、それの詳細は何も教えてくれなかったのです。
地球に来て以来、私は『愛』のことを完全に理解したくてしょうがありませんでした。

もちろん、それまでの間に多くの人との出会いや別れ、あるいは物語との出会いから、
私も多少『愛』という感情がどういうものか、感覚的には理解し始めていたのです。

そしてその頃には、『愛』にもいくつかの種類がある、ということも理解していたのです。
男女の交わり、友人同士の親愛など――『愛』は様々な形で、無知であった私を地球で迎えてくれました。

その中でも唯一、私にはどうしても知る機会のない『愛』があったのです。
それは、家族愛、と呼ばれるものでした。

私と血の繋がった存在は、当然ながらウルガルにしかいませんでした。
母は確かに『愛している』という言葉と共に、私に接してくれましたが、それ以外の家族とはまったく『愛』など無縁な関係だったのです。

そのときの私は知りたかったのです。娘である私に、『愛している』と言ってくれた母の気持ちを。
自分と血の繋がる子供と触れ合うときに、生まれるであろう『愛』について。

行動を決めるとすぐ、私は彼を引き取ることを希望しました。
本当は、私だけでなく、イズルの遺伝子提供者の片割れであるシモンにも、共にイズルと過ごさないかと提案したのですが、それは断られました。

おそらくは共に過ごせば、必ず情が移ってしまうと彼は考えたのでしょう。
彼は優しい人だから、いつか自分の遺伝子を継ぐ者に、まったく知らないふりをして戦場へ送り込むことは、辛いことに違いありませんでした。
せめて、共にいた思い出さえなければ、多少は非情になれると、そう思ったのでしょう。そう、私は勝手に解釈しました。
…シモンはこういうとき、語ることを一切しないので、実際のところは分かりませんが。

……とにかく、結果として申請は通り、私はイズルと共に、忘れ得ない日々を過ごしました。

『テオーリアさん!』

『まぁ、イズル…これは?』

『ダニールさんにつれていってもらった、やまでとってきたんです! すごくキレイだから、テオーリアさんにもみせたくて』

『ありがとう、イズル。この花は大切にしましょう』

『……花瓶をお持ちしました、テオーリア様』

イズルと触れ合っていたとき、私は常に、これまでにない感情に出会っていました。
純粋で、ただ素直に私を慕い、共に過ごしてくれた彼の存在に、私は温かで不思議で、何とも言葉に表すのが難しい気持ちを抱いたのです。
ただ彼がそこにいるだけで、私の中で何かが満たされていって。
その存在を守りたいと、そう思えたのです。

母もきっと、このような気持ちで私に『愛している』と言ってくれたのでしょう。
そう確信できるような気が、そのときの私にはしました。

……しかし、そうした幸せと表現できる時間も、終わりを迎えました。
イズルが適正年齢まで成長し、とうとうMJP機関に引き取られる時が来たのです。

MJPでは、養父母の手を子が離れる際、その記憶を消すこととなっていました。
戦場へと向かう子供たちが、いざ戦いへと向かう時に、過去のしがらみに囚われたりなどして、逃げ出さないようにするための処置、とのことでした。

イズルももちろん、例外ではありません。
彼と別れる前日、私は彼と一つ約束を交わしました。
あの青い星を、共に眺めながら。

まだ、スターローズが健在であった頃。
スターローズⅡに用意してもらったのと同じような私室にて。
私と彼――イズルは、地球を見つめながら、最後の時間を共に過ごしていました。

あと数分もすれば、イズルはあの青い星へと降り立ち、そこで戦いについて学ぶことになっていました。
せめて出発をする前に、私は彼と静かな時を共有したかったのです。

『テオーリアさん……』

やがて、その時間にも終わりが近付き、イズルがゆっくりと私の方へと向き直りました。
私もそれに応え、彼の顔を見つめ、その揺らぐことのない瞳を捉えていました。
これから私と離れ、近い将来戦場へと行くことになるというのに、イズルはまるで不安を感じさせない、穏やかな表情でいました。

『イズル…覚えていますか? 昔、あなたが幼い頃に約束してくれたことを』

ふと、過去の彼との会話を思い浮かべながら、私はそれを尋ねました。
今よりもずっと幼い子供だったイズルが、私に言ってくれたことを。

『もちろんです。いつかきっと、僕はテオーリアさんの「ヒーロー」になって、必ずテオーリアさんのことを守ります』

自信に満ちた表情で、イズルははっきりとそう告げてくれました。
その言葉には、絶対にそうしてみせる、という意志が込められているように感じられて、私はそれを嬉しく思っていました。

しかし、そうだというのに。

『テオーリアさん?』

『ごめんなさい……こんなときだというのに、何一つ良い別れの言葉が、思い浮かばなくて…』

その感情よりも強く、悲しい、という気持ちが私の胸中を過ぎっていきました。
彼と過ごした温かな時間。それを彼が失ってしまうのは、とても悲しく、寂しいことだったのです。

それでも、私は彼を送り出さねばなりません。
彼が、私だけでなく、あの青い星に住む全ての人々にとっての『ヒーロー』になれるように。
それに、母と交わした『約束』を果たすためにも。

諦めて自分に踏ん切りというものをつけるためにも、何かしらの別れの言葉を出さないといけない。
そう思ってはみたのですが、結局そのための言葉は一つも出てきませんでした。

これではいけない、イズルがもう旅立ってしまうというのに。自分を叱咤したものの、それでも、何も出てこなくて。
どうしよう、と私は言葉の詰まった自分を恨めしく思いながら、深く悩みました。

しかし、そんな私の気持ちをいとも簡単に、あっさりと。イズルは解消してみせました。

『いいんですよ、そんな言葉なんて。きっとまた会えます!』

別れだというのに、彼は何も変わらない笑顔のまま、私に断言してみせました。
再会の可能性がどれほどのものか分からないというのに。不思議とその笑顔は、私にイズルとの再会を思わせてくれました。
まさしく希望に満ちた、そんな笑顔だったのです。

私がその笑みに見とれているうちに、彼はさらに思いついたように手のひらをぽんと叩きました。

『あ、そうだ! それならもう一つ約束しましょう!』

『約束、ですか?』

突然の彼の提案に首を傾げると、彼は自信に満ちた明るい表情で頷いてみせました。

『はい。もう一度、僕はテオーリアさんに会いにきます! 絶対絶対、たとえ記憶がなくなったって、会いにいきます!』

『イズル……』

『確かに、僕は忘れちゃうかもしれませんけど、でも! テオーリアさんが覚えててくれるなら、きっと大丈夫です! ……たぶん』

『……ふふっ』

思わず、イズルの最後の言葉に、私は笑みを零しました。
途中まではとても勇気付けられる言葉だったというのに、最後の最後に、たぶん、と加えられて、何だか力が抜ける気がしたのです。

ですが、それこそがイズルらしさなのかもしれません。どこか頼りなくて、でも、触れ合う人たちに不思議と勇気を与えてくれる。
それが、私のたった一人の子供だったのです。

『…分かりました。私、絶対に忘れません。いつかもう一度会うことを、約束しましょう』

『はい! 約束です!』

悲しい別れになることだろう、と考えていたはずなのに。
いつの間にか、私もイズルと共に笑っていました。

別れの時まで、彼は前向きで。私に限りない希望を与えてくれました。
そのときの私は、気付かなかったのですが、きっと、既にその時、イズルは私の『ヒーロー』だったのでしょう。
今なら、そう言える気がしました。

「――テオーリアさん」

ぼんやりと地球を眺めて、そのように過去を回想していると、突然、ひどく懐かしく感じる声を私は耳にしました。

ああ、と私が振り返れば、その視界の先には、変わらない彼の姿がありました。
よく考えてみれば、彼とこうして会うのは、クレインとの戦いが起きる前のことですから――ずいぶんと以前のことのような錯覚がしました。

最初は少しだけ自信のなさそうな弱弱しい表情をしていた彼――イズルでしたが、私の姿を見た途端に、その表情を明るいものに変えるのが分かりました。
私はできるだけの笑みを心がけながら、イズルの方へと歩き出します。

「イズル。……よく、来てくれましたね」

数歩の距離を置いて、彼と向かい合います。
すると、私の笑みに応えるように、イズルも穏やかな笑顔を見せてくれました。
その曇りない笑みに、私は安堵を得た気がしました。

よかった。

私は内心で緊張の解ける気がして、ほっと息を吐きました。
彼の身体に見られていた異常は、少しずつ治まってきている。
そのことについては、シモンや彼の主治医から聞かされてはいたけれど、こうして実際に会うまではそれを実感できなかったのです。

……本当に、無事でよかった。

「あ……ええと……その…」

しかしながら、別の異変に私はすぐに気が付きました。
私の歓迎する声に、イズルは最初笑みを見せていたけれど、何故か徐々にその表情をまた変えたのです。
そう、私に対してどう話しかけたものかと――困ったような、複雑そうな表情に見えたのです。

「どうしたのですか?」

彼の不思議な態度に、私が思わず質問すると、彼ははっとしたように表情を改め、まっすぐに私の顔を見つめました。
何か、大変なことを口にしようとする。そんな顔でした。
私は彼の言葉を待つことにしました。きっと、それほどに彼にとって重要な話をしようとしているのであろうことが容易に想像できたからです。
そうしてじっと彼の声に耳を集中させていると、その告白は、突然に始まりました。

「……アサギお兄ちゃんから、聞きました」

「……そう、ですか」

何を、と聞くまでもないことを、彼の言葉から私は察しました。
彼は知ったのでしょう。私と、自分の関係を。

私は顔を伏せぎみにすると、少しだけばつの悪そうにしました。
ずっとずっと黙っていたことを知られたのだと、私は来るべきときが来たことと、それを秘密にしていた自分のことを思い、後ろ暗い気持ちになったのです。
その秘密は、彼にとってはきっと、知る権利のあることだったのですから。

「イズル、ごめんなさい。私はずっと、あなたに真実を黙っていました」

申し訳ないと感じる気持ちを胸に思うと、その言葉が自然と出てきました。

私は、一般的な母親としてはひどい人です。
自分の子供に嘘をつき、関係を秘密にし、そして、戦いに利用したのですから。

深い罪悪感と共に伝えた私の謝罪に、イズルはますます困ったような顔をして、慌てて何やら身振り手振りをしていました。

「いえ、そんな、いいんです」

謝られる側のはずの彼は、申し訳なさそうな顔をすると、頭の後ろに片手をやって、苦笑いをしながらこうも言いました。

「確かに、驚きましたけど。でも、何ていうか、その、嬉しかったです」

「……嬉しい、ですか?」

予想していなかった答えに、私はつい聞き返しました。
てっきり、ずっと私が彼との関係を偽ったことに失望したり、怒りを感じているのではないかと、少しだけ身構えていたものですから。
私の疑問に、イズルは目を伏せながら、しみじみとしたようにぽつぽつと言葉を紡ぎました。

「はい。アサギお兄ちゃんが家族だって分かったときも、僕にはちゃんと家族がいたんだ、ってことが嬉しかったですし」

言いながら、イズルは、アサギとの関係が判明したときのことを思い出したのか、懐かしむように笑みを零しました。
それから視線を上げて、私を見据えると、

「どうせならお兄ちゃん以外にも家族がいればなぁ、って思ってましたから。だから、お父さんとお母さんがそばにいるって分かったとき、すっごく嬉しかったんです」

だから、ありがとうございました。

そう、イズルは自分の言葉を締めました。
その言葉には確かな喜びの感情しか見られず、彼が私に遠慮をして何かしら取り繕うつもりのないのがはっきりと伝わってくる気がしました。
まさか感謝されるとは思わず、私はただ、その言葉を受け止めて、深く噛み締めていました。

優しくて、少し頼りないところもあるけれど、不思議と希望を与えてくれる私の子供は変わらない笑顔で。
親としてひどいことをしてきた私に、それでも、まだ向き合ってくれる。

それは、きっと。

「……そうですか」

何物にも変えられない、彼の持つ強さで、そして。
その強さに、ほんの少しだけ、私の中で罪悪感が薄まるような――救われたような気が、しました。

私が小さく微笑み返すと、彼はとても嬉しそうに頷いて、

「はい! あ、えっと、勝手にお母さんなんて呼んじゃいましたけど」

「いえ。あなたの好きな風に呼んでください。あなたは私の子供なのですから」

「じゃあ、お母さん」

私の許可に、彼はあっさりとした調子で、私をそう呼びました。
まるでこれまでのことなんて関係なく、ただ自然に、私を『母』として認めてくれたのです。

そう認識した途端、私の胸中を熱い感覚が過ぎりました。
それはとても奇妙な熱でした。痛みはないのですが、何故かその熱は顔の辺りまで昇ってきて、それで。
目頭の辺りを強く刺激してくるのです。

私はその感覚に戸惑いを覚えながらも、それを振り切るように一歩、歩みました。
イズルは首を傾げて、近付く私を見つめていました。

特に何も言わず、私はさらに数歩歩みを進め、そして。
イズルのすぐ目の前まで迫り、私は彼と向かい合いました。

これから試みることに緊張を感じながら、それを解消するために大きく息を吸うと、私は落ち着いた調子を心がけながら、イズルに語り掛けました。

「――不思議ですね。私、地球の方の親子関係のことはよく分かりませんが、でも、なんとなくどうすればいいのか分かる気がします」

「あ……」

ぎゅ、と彼の身体を、その胸に抱き寄せました。
その行為に、私は何となく、生まれたときのことを思い出しました。

幼い頃、母に培養器から引き上げられ、状況が理解できずに不安を感じたまま、泣きじゃくって。
子供と接したことのないらしい母は、私の状態に戸惑って、それで。
こうして、優しく抱きしめて、ただただ、愛していると、そう言ってくれたのです。

きっと、母も、私に対してこんな風に『愛』を伝えようとしてくれたのでしょう。
そう思っていると、心から、説明のつかない温かな感覚がまた生まれてくる気がしました。
それは目頭を熱くした感覚をどこかへと押し込めると、私にいくつもの言葉を自然と喋らせたのです。

「イズル。これまでよく頑張りましたね。あなたは、ヒーローになれたんですね?」

「……はい、お母さん。僕は、ヒーローになりました。僕だけじゃありません、皆と一緒に」

耳元でする彼の声を聞きながら、私は。
ふと、イズルと出会ったばかりの頃のことを思い出していました。

『――じゃあ、ぼくがテオーリアさんの「ヒーロー」になります!』

あのときのままから、何も変わることのない。
私に約束してくれた彼が、そこにいることが証明されたように思えました。

迷いのない調子で、言ってくれたことが嬉しくて、それを懐かしむ感覚が何だかくすぐったいような気がして。
私はただ、静かに微笑みました。

…ああ、そうだ。

突然に伝えたいことができて、私は一呼吸しました。
戦いが終わった今。伝えなくてはならないことがあったのです。
ずっとずっと、言ってあげたかった、言葉が。

私は、ゆっくりと息を吐くようにし、そして。

「……お帰りなさい、イズル」

母として、ヒーローに守られた一人の人として。
言うべきことを言ったのでした。

「はい。……ただいま、お母さん!」

応えるイズルの声と共にそっと身体を離し、私たちは笑い合いました。
ようやく、私と彼が本当の意味で再会できた。そんな気がしました。

「……あ、そうだ!」

そう感慨に耽っていると、イズルが何か思い出したように声を上げました。
どうしたのでしょう、と私が不思議になって見つめていると、彼は一つの誘いを告げてくれました。

「これから、皆で戦いが終わったことを祝ってパーティーするんです。お母さんも、よければ」

「まぁ……ぜひとも参加させていただきます」

パーティー、という単語に、私の瞳が輝くように感じました。
その意味も、どういうものなのかも知っていましたが、一度もそのようなことには参加したことなどなかったのです。
知識欲が刺激され、好奇心が私に勝手に返事を言わせようとする錯覚を感じながら、私は答えました。

私の答えに、イズルは実に喜ばしそうに笑みを浮かべると、くるりと身を翻しました。

「じゃあ、後で時間を連絡しますね! 僕は、準備の手伝いがあるので、これで」

「ええ。楽しみにしていますよ、イズル」

とんとん拍子で話は進み、イズルが私の方へと顔だけ向けながらそう言い残すと、走り出しました。
まるで風のように急ぐ彼の姿が何だかおかしくて、私はくすくすと笑みを零しながら、小さく彼の後ろ姿に手を振りました。

ばいばい、と。

「……ふぅ」

彼がいなくなり一人になると、私は小さく息を吐き、すとん、とイスに座り込みました。
私にとって、長い長いウルガルからの旅に、一区切り付いた気がして、人心地ついたのです。
でも、まだこれで旅は終わりではありません。

エグゼス――皇帝であるガルキエ兄様は、一度の失敗で諦めるような人ではありません。
必ずまたいつか、ウルガルは攻め込んでくることでしょう。

それに戦いが終わった今。
様々な情報が一般の方々にも開示され、私の存在が公になれば、地球の方々の間で何かしらの波乱が起きることだろう――そう、シモンが言っていました。

でも、そうだとしても。

お母様。

小さく、呟きました。
今も生きているのか分からない、私に大切な言葉を伝えてくれた人。

私も、『愛』と『ヒーロー』を知りました。
きっと、あなたの伝えたかったことも。

それを忘れずに、私はここで……地球の人たちと共に、生きていきます。

あなたが教え、私が育んだ『愛』に従って――――――

おしまい。いつかテオーリアさんとイズルの過去話をやってほしいです。いろいろと疑問が残ったままですし。
では、次をば。これで一応書いたモノも150個目になります。

ヒーロー。
ずっと変わらない、アイツの目指したいモノ。
アイツにとって大事な大事な、目標。

そして、アイツはそれになれた。
きっと、間違いなく言えることだろう。

俺はどうだろうか。
別に、皆のヒーローになることなんて、どうでもいいことだったけど。
ただ、俺も確かに、目指してたんだ。アイツだけの、たった一人のヒーローってやつを。

「――ヒーロー、ってさ」

「……何だよ、急に」

新造宇宙ステーション、スターローズⅡ。
その中の、俺たちが一時的に与えられている部屋の、一つ。
俺の部屋で、弟――イズルの突然の言葉に、俺は怪訝そうにイズルを見た。

ちなみにこの場に他の皆はいない。気を遣ってくれたんだ。

ディオルナ含むウルガル残党との戦いが終わって、いろいろと落ち着いた後。
皆で勝ったことを祝い、いくつかの検査を終え、待機任務を言い渡されて。
ようやく時間が空いた今になって、話したいことがたくさんあるだろう。そんなことを、チームの仲間たちが言ってくれたんだ。

そういうわけで、今。俺とイズルは二人で向かい合って、部屋の真ん中に二つ置いたイスに座っていた。

話すことはそんな大したことじゃない。
検査の結果がどうだったとか、イズルが起きるまでの間、皆で医療カプセルに寄せ書きしたことだとか。
当たり障りのない、そんな話だった。

その中で、イズルがふと、思い出したようにその言葉を口にした。
俺の反応に、イズルはにこやかに笑みを浮かべて、自分の考えを語りだした。

「ううん。ヒーローって、強くてかっこよくて、何でもできるようなものだ、って何となく、最近まで思ってたんだけど」

「今は違うのか?」

「うん。色んなヒーローがいるんだ、って最近になって、そう思ったんだ」

たとえばさ、とイズルはいくつか例が思いついたのか、すらすらと述べる。

「それこそ、ピットクルーの皆さんとか。ほら、あの人たちがいなきゃ、僕たちまともに戦えないわけだし」

イズルの言葉に、俺たちを支えてくれる人たちの姿が、すぐに俺も脳内に浮かんだ。

確かに、その通りだろう。俺たちが機体を思い切り動かすために調整したり、修復したり。
いつもいつも、俺たちが戦場で戦う代わりに、彼らもまた、格納庫であったり戦場であったり、多くの場所で任務をこなしているのだ。
俺たちと共に、ここまで一緒に戦ったピットクルーたちも、地球を救った『ヒーロー』といえるのかもしれない。

「あとは、ええと、スズカゼ艦長でしょ、オペレーターの二人、整備長――」

そのまま、イズルはいくつもの人たちの名前を挙げた。
ここまで俺たちを支えたり、一緒に戦ったり。
とにかく、地球のために、守りたい場所のためにそれぞれの戦いをしてきた人々。

ただただイズルの挙げる名前を聞いては、その人たちのことを俺は思い浮かべていた。
MJPで戦いのことを学び始めた頃は、何もない自分たちだったけれど、いつの間にかこれほどに共に戦った仲間ができたなんて、何だか、不思議な気分だった。

「……イズル?」

と、そうしているうちに。深く感慨に浸っていた俺は、イズルの言葉がぴたりと止まったことに気付き、意識を前に向けた。
視界にいた弟は、その視線を下に向けていた。何かを思い出して、それのことを集中して考えているように見えた。
その表情は、少しだけ寂しそうに見えた。

どうしたんだ、と尋ねようとすると、ちょうどそのタイミングで、イズルはその名を口にした。
その言葉が出たときには、イズルの顔は明るくなっていた。

「ランディさんも、そうだよね。すっごくガッカリで、ザンネンな人だったかもしれないけど、でも。チャンドラさんを助けて、ゲートのデータを届けてさ」

「……そうだな」

今はもういない、俺たちに多くのことを教え、助けてくれた先輩。
頼りがいがあるのに、上官をナンパしたり、後輩を誘って大人の世界を覗かせたり、とてもガッカリな人ではあったけれど。
それでも、あの人はチームの仲間を守り、地球に光明を示してくれた。
立派に『ヒーロー』だと、そう言えるだろう。

頷く俺に、イズルはとても嬉しそうにうんうん、と頷き返すと、さらにこうも続けた。

「それに、お兄ちゃん!」

「俺?」

突然に挙げられた自分のことに、俺は驚きながら聞き返す。
すると、イズルは満面の笑みを作って、まっすぐに俺を見た。

「うん。お兄ちゃんは…まぁ、ええと、こないだの戦闘は、うん」

「おいやめろよ」

イズルの言葉に、俺は胃が若干痛み出す気がして、呻く。
高価なアッシュを、それも二機、思い切りバラバラにしてみせたことを、帰ったときに、整備班の一人であるアンナに泣かれながら怒られたんだ。
おかげで整備班は、ブルーワンの修復と改修で今もまだ、寝る間も惜しんで働くことになったのだ。

……後で、差し入れ持っていこう。

そんなことを思っていると、考えが顔に出ていたのか、イズルは慰めるように軽く笑うと、こう付け加えた。

「まぁ、決まらなかったかもしれないけど。でも、それでもさ」

イズルは少し間を置いて、軽く息を吸った。
それから、誇らしげにこう言った。

「――たぶん、お兄ちゃんは僕のヒーローだよ。他に誰も認めてくれないかもしれないけど」

だから、大丈夫。
そう言葉を締めると、イズルは自分の言ったことがとても嬉しいことであるかのように微笑んだ。

俺は、ただ黙って、その言葉を静かに聞いていた。

僕のヒーロー、か。そんなこと、言われるなんて思わなかったな。兄貴として、俺がお前にしてやれること、全然ないのに。

そんな考えが一瞬過ぎったけれど、そんなマイナスに考えることもないな、とそれを打ち消した。
せっかく、弟がそう言ってくれたのだ。甘んじて受けよう。

「……そうか。それは、まぁ、悪くはないな」

「うん!」

二人で、何となく笑い合った。
そういえば、こんな風に気楽に笑えたのは、久しぶりのことだったかもしれない。
イズルも俺も、ここ最近は目まぐるしいことばかりで、そんな余裕なんてなくて。

いや、厳密には俺に余裕がなかったというべきか。
イズルは、この通り恐ろしいほどに前向きだし、俺との関係が分かっても、頼りにしたい、って向き合ってくるし。

……俺は、ちゃんと兄としてすべきことができているのだろうか。
世間一般の兄弟なんて、どうすればいいのか分からないけれど。
こいつのためにできることを、しっかりとできているんだろうか。

……なんか、できてない気がする。

急に不安を感じて、俺は胃が若干痛くなる気がした。
こんな、軍のこととかじゃない、普通のことで緊張だとか不安だとか、昔は感じなかったのにな。
これもある意味、成長したってことなのだろうか。

そんなことを一人で勝手にいろいろと悩んでいると、イズルががた、とイスを鳴らしながら立ち上がる。
なんだよ、と聞く前に、イズルが何か思いついたように言う。

「あ、そうだ」

ちょっと机借りるね。

それだけ言うと、イズルはいつものことのように持ってきていたスケッチブックを、自分の後ろにある事務机に広げて、何か描き始めた。
あまりにも見慣れた光景に、おい、と形式的にたしなめることも忘れてしまっていた。

「何だよ急に」

「ちょっとだけ待って」

質問する俺の言葉にそう返すと、イズルはもう自分の世界に入り込んでしまった。
こうなると、もう大人しく待つくらいしか選択がない。
何となく様子だけ後ろから観察していると、どうやらイズルにしては珍しく、スケッチにいくつかの色の付いたペンを使っているらしいことが分かった。

医療カプセルの絵に感化でもされたか、と思いながら完成を待って、俺はただ、イスに座り込んだ。
たぶん、できあがるまで絵の中身は見ないでおいた方がいいだろう。わざわざ今描き始めたってことは、俺に絵を見て欲しいわけだし。
何となくそう思って、俺はイズルの背中をぼうっと眺めていた。

「……うん、できた!」

そうしているうちに、三十分かそこらか、それくらいでイズルがイスを鳴らしながら立ち上がる。
それから、ふふん、と何やら自信のある様子で、スケッチを広げて見せてくる。

そこにあったのは、何やら赤く塗られた覆面の――たぶん、男性だろうか――と、何やら女の子の絵だった。
だいぶ前に見た、イズルが初めての任務のときの記者会見で見せた絵に似ていた。

「……あー。何だ、これ?」

聞いて聞いて、と言わんばかりに、イズルがぐいぐいと広げた絵を目先に押し付けるようとするものだから、質問した。

分かった、分かったからあんま近づけるなよ、見難いだろ。

俺の質問を聞くと、イズルは待ってましたといわんばかりに自信たっぷりに答えた。ただ、一言だけ。

「僕のヒーロー!」

「お前の?」

俺の機体の基本カラー青なんだけど。これ思い切り赤いよな? あとこの女の子誰だよ。

そう問い詰めてやろうかと思ってるうちに、イズルは勝手に説明しだした。

「うん。ちょっと決まらなくて、いつも胃を痛めててプレッシャーにも少し弱くって――」

「……泣いていいか?」

「でも! 誰でもない、僕だけの! たった一人のヒーローだよ!」

イズルは変わらない笑顔のまま、俺に言った。
堂々と、自分のことのように、自慢げに。

いいのか、と聞きたかった。俺はお前みたいに皆のヒーローになれないし、なるつもりもないし。
自分で言うのも癪だけど、ザンネンなところ、いっぱいあるし。

でも、そんなことを聞くのは無粋だと、そうも思った。
だって、イズルは笑ってくれてるから。
俺のことを、本気で誇ってくれて、こうして絵にして――

「……そうか」

それで十分か、と俺も笑った。
イズルのヒーローになりたい。あのとき、そうスギタ教官にも言った。
他の誰でもないイズルが認めてくれたんだ。もう、それだけでいいに決まってる。

俺が笑みを見せると、イズルはますます嬉しそうに眉を下げて、ニコニコと満面の笑顔のまま、その絵を俺に差し出した。

「はい、これ」

受け取れ、とどうやら俺に言いたいらしい。

「もらってどうしろってんだよ」

こんなザンネンで、その……あんまり上手とはいえないようなモノ。
部屋に置くにも、困るだろ、こんなの。

そんな俺の反応に、イズルは心底ガッカリしたように俺を見る。

いやいや、俺そんな悪いか?

「ええー……そこは喜んで飾ってよ」

どこに飾れってんだよ。だいたい皆がよく来るところなんだぞ。
飾ってるの見られたら、また『お兄ちゃん』ってからかわれるじゃねーかよ。

そんな反論をしようと思ったけれど、その言葉は一つも喉元を通って口から出ることはなかった。
絵を差し出すイズルが、ずっと手持ち無沙汰に俺を見上げているからだ。
ここでこの絵を拒否しようものなら、イズルのことだから、落ち込んでしまって、それで。
その様子から、いろいろと察したチームの連中(主にケイ)が蔑みの目で見てくるに違いない。

つまり。
絵を受け取ろうと受け取らなかろうと、俺は兄としていろいろと皆に言われることになる未来に違いはないわけで。

「……分かったよ」

諦めて、俺はふぅ、と息を吐いた。
そうして絵を手に取ると、イズルはさっきまでの顔はどこへやら、一気にその表情を明るくする。

……俺、家族には甘いのかもしれないな。
別にブラコンとか、そういうわけじゃないんだけどな。……たぶん。

自分の甘さにつくづく内心で呆れながらも、俺はそういう自分が何だかんだ悪い風には思っていなかった。
たぶん、昔の自分なら嫌がっただろう。だけど、人は変わるものだ。時間と共に、心まで変わっていくんだ。

昔の俺は、イズルのヒーローという言葉なんて、どうでもよかった。
ただ、生まれたときに与えられた理由らしく、兵士としてあろうとしていた。

でも、今は。

ヒーローになった自分を、誇りに思いたいと感じていた。
何もない自分にもできた、大切なものを。

こうしてイズルとの話が終わり、俺の部屋に新たに俺以外が持ち込んだモノが増えた。

それは、タマキが来たときのための毛布だったり、スルガが来たときのためのレトルトカレーであったり、
果てはケイがケーキ焼いたときのための人数分の食器であったりしたけれど。

今回は、それとは全然毛色が違った。
ベッドのある壁際にピンで留められた、ザンネンで、俺自身のことを考えると、ちょっと趣味を疑うようなイラスト。
でも、俺にとって、何よりも。大切なモノになってしまった、宝物。

きっと、これは。
これまでに受けたどれだけの勲章と比べても、比べ物にならないくらい、俺にとっての『誇り』となることだろう。

――ヒーローになりたい。
多くの人々にとってじゃなくていい。大してすごくなくたっていい。賞賛されなくてもいい。
たった一人、俺を認めてくれて、頼ってくれる。
大切な家族の、ヒーローになりたい。

おしまい。今回の映画の主人公は間違いなくお兄ちゃんでした。
ここまで自分の書いたものを見返すと、我ながらよくこんなに書いたなぁ、と思います。
とりあえずできるだけこのスレを埋めようと思います。保護者の方々、よければお付き合いください。では、またいつか。

どうも。今日は勢いで書いてみたものをば。

その出来事の発端は、彼女の一言からだった。

「……やはり、よく分からないな」

ウルガル、とかいう星の連中の拠点。その一区画にある城の一室。
たくさんのモニターに囲まれた、子供なら目を輝かせそうな科学的な部屋の中。

この城の主である女性の声に、突っ立ってぼうっと城の外の景色をモニターから見つめていた俺は、自然と意識を集中した。
視線を動かした先にいるその女性は、モニターの前でイスに座って、唸るようにしている。

俺の名はツダ・トウマ。女性の名はオーレリア。

俺は一人では危険すぎるこのウルガルとかいう星で生き残り、地球へと帰るため。
オーレリアは自分の命を狙う連中から身を守るため。

お互いに利害関係を結んで、助け合うことになったんだ。

そして今日は、彼女の夫のエグゼス――地球でいうところの皇帝という意味らしい――が、自身への反乱を企む連中を誘き寄せるための式典を行うらしい。
それを乗り切り、このオーレリアを狙うやつがいなくなれば、俺は晴れてボディーガードとしての役目を終え、対価として地球に帰ることができる。
そういう契約だった。

それで、昨日の夜、今日行われるであろう戦いの緊張を解すべく、彼女といくらかの会話をして。
その翌日の今日も、まだ式典までに僅かな時間があるらしいから、こうして彼女と過ごして、まだまだ完全に落ち着いたわけじゃない心を静めにきたんだ。

ここは彼女の研究室だ。研究室といっても、ここにあるのはモニターと端末だけで、実際に研究するもののサンプルやら何やらは別室にあるらしいが。

ちょっと端末いじるだけで危険な実験も遠く離れた部屋で自動でやれるんだよなぁ。便利なもんだ。

地球で大きな科学実験なんてやろうとすれば、それなりに厳重に閉ざされた部屋なんかで、事故が起きないようにいくつかの段階を踏むものだ。
それをこの圧倒的に技術が進んでいる星では、当たり前のように機械が複雑な実験の実行を代行し、しかも人間がやるよりも精密な結果を上げる。
本格的な技術者がいたら、きっと羨んで憤死するに違いないな、と何となく思う。

「…何が分からないって?」

とりあえず、彼女の声に反応してみる。
地球よりも進んだ技術や物質を所有するウルガルに、何が分からないことがあるというのだろうか。

俺の質問に、彼女はイスを回転させてこちらを見る。
そして、ただ一言。

「愛、だよ」

思い切り恥ずかしい言葉を、淡々と述べてきた。

「またその話かよ……」

ぷい、と俺は気恥ずかしいセリフに若干の照れを感じて、顔を逸らす。
どうもウルガル人というのは、そういう羞恥を感じたりとかしないし、こっぱずかしい言葉への抵抗というものがないようだ。
…いや、そもそもウルガルの文化には『愛』なんて言葉はないそうだから、抵抗を感じる俺の方がこの星の中では異端なんだろうけれど。

「また、か。そうは言うが、君の説明ではさっぱり理解できなかったんだ。しょうがないだろう?」

「俺のデバイスでいくらか勉強してみたんじゃなかったのか?」

呆れたように言うオーレリアに、俺は多少の反論を試みた。
この星に来るきっかけとなった、探査船テルス。
その中にあった、俺の私物の情報デバイスから、彼女はいくつか地球に関する知識、文化を調べたらしい。

そしてその調査の中でも、このウルガルの女王サマの興味を特に引いたのは、『愛』なんていう何とも説明のしづらい感情だった。
昨日の夜も、それについていくらか質問責めをされたけれど、俺は特にうまい説明ができず、彼女の興味をますます深めてしまったらしい。

ふむ、と彼女は顎に手をやり、考えるそぶりを見せる。
幼い印象がありながら、どこか大人びていて知的な彼女の雰囲気に、その仕草はよく似合っていた。
絵になるな、と揺れた白銀の髪に俺が素直に見とれていると、彼女はさらに返してきた。

「確かに。昨日から見返してみて、君のデバイスに数点の資料を見つけたが……どうも、ただ無償で他者を助けるための感情の動きだけでなく、『愛』にもいろいろとあるようだな」

そう言いながら、彼女は部屋の端末をいじりだす。
どうやら、デバイスの中のデータは、とっくにコピー済みらしい。
何だ何だ、と待っていると、ある映像データがモニターに大きく映し出された。

「………………っ!?」

あんぐり、と俺は口を広げて、目の前の光景に目を点にしてしまう。
それから数秒ほど固まって、そして。

「なっ――!?」

言葉にならない声を上げて、オーレリアに視線を送る。何考えてんだ、と。

モニターに映し出された映像データは、その、つまり。
長い長い宇宙の旅で、その、まぁ。俺が多少世話になった、男女の交わっている映像だった。

いろいろと女性と一緒に見るには、一般的な地球の感覚では真っ青になってしまうような。

慌てて言葉の出ない俺とは裏腹に、オーレリアは涼しい顔でこちらを見ていた。
青ざめるような気分から、一気に頭のてっぺんまで熱い感覚がする俺に、彼女は特に気にする様子もなく続ける。

「どうにもよく分からない。この映像での『愛』を見るところ、つまるところは生殖のための――」

「――いやいや、それとはちょっと違うんだよ! ……や、まぁ確かにこれも『愛』の表現かもしれないけどな」

あんまりオーレリアがけろっとした表情でいるせいか、俺も少し落ち着きを取り戻した。
俺の言葉に、彼女はやはり納得のいかない顔をした。

「どう違うのだ? 結局は総括すると、種を存続させるための、ちょっとした本能の働きではないのか?」

「違うもんは違うんだよ! もっと、こう……つまり、その、昨日言ったみたいなだな…」

感覚的に否定してはみたものの、俺の口からは綺麗な説明が出てこない。
もっと言葉の勉強をしておくべきだった、と根っからの技術屋である自分を俺は少しだけ責めた。

「……そうか。やはりよく分からんな」

と、思っていると。オーレリアは俺の言葉に納得しかねた様子で、唸っていた。

分からなくていいよ、と内心ちょっとだけ思う。
それで理解するのを諦めてくれたら、こっちとしてはさっき起きたことをもう考えなくて済んでありがたい。
そう願っていた俺の想いは、しかし簡単に裏切られることとなる。

「たとえば」

「ん?」

突然、オーレリアが立ち上がった。
それから、俺の方へと少しずつ歩いてくる。
どうした、と俺が聞く前に、彼女は俺のすぐ一歩先へと向き合う。

「……」

「? オーレリ……っ?」

彼女の名前を呼ぶ前に。俺の唇が塞がれた。名前を呼ぼうとした、彼女の唇に。

……。え。

目の前の光景に、俺はただ、驚くしかなかった。

俺の視界いっぱいに広がる、瞳を閉じた彼女の顔。
視界の端っこに映っている、特徴的な銀の髪。それに、なんだか分からない、ふわふわした女性の香り。
何もかも、こんな星では体感することのないと思っていた、異常なことだった。

「……ん」

「……っ」

固まっていると、彼女が唇を離す。
それから、俺を見上げて、何も大したことは起きていないような様子で言った。

「どうだろう、これで君は『愛』を感じるのか?」

「…………」

小首を傾げて、ずいぶんとかわいらしい仕種で、オーレリアは俺を見つめていた。
対して、俺は何も言わず、起こったことについて呆然と考えていた。

「…? トウマ?」

「いやいやいや! いやいやいやいやいや!」

彼女の呼びかける声にはっとして、俺はとにかく大声で喚きながら自分の唇を押さえて、驚くやら何やらで慌てていた。

な、何考えてんだ、この女皇サマは!?

「何だ急に。もっとちゃんとした言葉を話してくれ」

そんな俺のことなど知ったことではないように、オーレリアは呆れたような目で俺を見つめていた。

呆れるのはむしろこっちだと思うんだけど。っつか、柔らかか……いやいや!

とりあえず頭の中で目まぐるしく浮かんだ言葉の数々を整理しながら、俺はゆっくりと口を開く。

「…あー、なぁ、オーレリア」

「何だ?」

「その、だな。『愛』っていうのは、つまり。こういう肉体的な交わりで生まれるわけじゃないんだよ」

もっと説明がうまければなぁ、と俺は自分の言葉足らずぶりに辟易としながらも、もう少し伝わるように言葉を探してみた。
その甲斐あってか、彼女は僅かながら理解したのか、していないのか、ふぅむ、と考え込むようにした。

「……そうなのか? しかし、先ほどの映像データでは確か、『愛している』という言葉を、いくらか行為の最中に喋っていたぞ?」

「いや、それはだな……ええと…」

そういう風に言う方が盛り上がるというか…ああ、もうだめだ。碌な説明ができる気がしない。
言葉に詰まっていると、勝手にオーレリアの方から追求を諦めてくれたらしい。
彼女は軽く息を吐くと、くるりと踵を返す。

「まぁいい。まったくもってよく分からないな。『愛』とかいうものは」

「いいよ、分からなくて…」

(見た目は)若い女性に、あんな映像見せられながら、『愛』とは何ぞや、なんて難しいことを尋問されることがなくなるなら、それで結構だと思う。
まったく、異なる星の人間との文化交流は大変なモノらしい。
そういう交流をテーマにしたSF映画をいくつか見たことがあるけれど、こんな交流をされるような映画なんて一つもなかった気がする。

戦いとはまったく違う方向で感じた緊張が解けていく感覚に、何やってんだろう、と内心で自分を奇妙な目で見てしまう。
生き死にがかかってくる日だというのに、一気に気が削がれてしまった。

……そうだ、そういえば。

落ち着いてきた頭で、俺はふと浮かんだ疑問に気付いた。
すたすたと自分のイスに向かうオーレリアの背に、俺は質問返しをすることにした。
どう考えても、女性にする質問ではないけれど、この際だ、相手も特に何か思うことがあるわけではないようだし、聞いてしまってもいいだろう。

「な、そういえば、ウルガルにはああいうの、その、なかったのか?」

「ああいうの?」

振り返らずに聞き返してくる彼女に、俺は具体的に説明することに一瞬抵抗を覚えつつも、分かるように伝える。

「だから、その、映像みたいなこと」

ここウルガルだって、男女がいて、しっかりと生殖もされているというのなら。
地球の尺度で言うなら、多少の大人の関係、というやつだって存在するのではないのか。
そんなことを、何となく思ったのだ。

俺の質問に、何だそんなことか、とでも言うような調子で、オーレリアはあっさりと答えを返してくれた。

「そんな古めかしい行為などせんよ。ウルガル人は培養ができるのだからな。ついでに言うなら、さっきしたようなこともしない」

「へ? それじゃ、さっきの―――」

「? ああ、そうか。地球ではいちいち初めてすることに意味付けをするのだったな。ファーストキス、とかいうやつか」

「……まぁ、そうだけど」

普通なら少しは喜びの感情を抱いてしまうところだと思うけれど、何だかそんな気は一つもしなかった。
淡々と保健体育の授業を受けているときの気分だった。
彼女の態度から感じられるのは、あくまで学術的に先ほどの行為を捉えているような、そんな雰囲気で、さっぱりロマンのある空気がしなかったんだ。

何ともまぁ、ザンネンだ。

一人勝手に慌てて、道化みたいだ。少しだけそんな自分を空しく思いながら、ふぅ、と軽くため息を吐いた。
と、そうして肩を落としていると、彼女の声が聞こえた。
いつもの淡々とした調子じゃない、ほんの少しだけ、何かを考えながら言葉を紡ぐような、そんな調子の。

「……まぁ、古めかしいが、こういう行為も悪くないのかもしれないな」

「え」

それ、どういう意味だ――

詳しく聞こうとする前に、オーレリアが立ち上がった。
彼女はさっさと俺の横をすり抜けて、格納庫のある方へと向かう。

「さ、出番だぞ、トウマ」

言われてみて、手持ちのデバイスを覗いてみる。
もう、例の式典とやらの時間らしかった。

「あ、ああ。分かってるよ」

デバイスを仕舞い込み、一人先へと行くオーレリアを追いかけて、俺は駆け出した。
さっきまでの会話で一瞬考えたことも、これから来る戦いのことを思うと、どこかへと追いやられてしまった。

おしまい。三十日も女性と過ごしているわけだからいろいろと大変だったのかな、と若干下世話なことを考えながら思いついた話でした。
たぶん命のかかった生活でそんなことを考える余裕はないでしょうが。
では、またいつか。

どうも。今日は短く、何となく思いついた話をば。

教える人間、学ぶ人間

グランツェーレ都市学園――避難シェルター

スギタ「――地上の安全をこちらでも確認した、これから救援部隊との合流を図る」

リン『……そちらの方が済んだら、チームフォックス及びチームラビッツの機体の受け入れ準備の手配をお願い』

スギタ「もちろん、全て了解している。……あー、その、スズカゼくん」

リン『―――何か?』ジロッ

スギタ「ひっ……いや、その、だな。ええと――」

リン『言いたいことがあるなら早くしてもらえる?』ジトー

スギタ「ほ、報告が遅れたのはこちらの不手際だ。その、申し訳ない。だからそろそろ――」

ブツン!

スギタ「怒りを収めてもらえると――あ、切れた……」

スギタ「」ハァ

MJP生徒「――教官! こっちの方の通路、まだ生きてました! ……教官?」

スギタ「あ、ああ…。では、これから負傷者を優先して順に外へと向かう。動けない者に関しては担架を活用して――」




グランツェーレ都市学園――メイン格納庫

スギタ「――というわけで、チームフォックスは、この後機体と共に宇宙ヘ上がり警戒任務を。チームラビッツは、スターローズⅡが地球圏に到達の後、検査のために戻ってもらう」

スギタ「何か質問は?」

シーン…

スギタ「では、各自解散、チームフォックスは二時間後に準備が整い、補給が済み次第出発。チームラビッツは、寮の方に部屋を取ってあるので、よければ休んでくれ、以上」ビシッ

チームフォックス&ラビッツ「」ビシッ

通路

スギタ「」スタスタ

アン「――スギタきょうかーん!」

スギタ「ん? …ああ、チームフォーンじゃないか、何か問題でもあったのか?」

アン「いえー、そういうのじゃなくってー」エヘヘー

クリス「へへ、どうでした、教官! 俺たちの活躍っぷり!」

ユイ「ほぼ先輩たちの活躍だったでしょうが…」

スギタ「ふ、後で戦闘データは見せてもらうつもりだが…とりあえず、全員無事に帰ってきたのならそれで十分活躍したといえるさ」

セイ「……」

スギタ「? どうかしたか? セイくん」

セイ「いえ……思ってたよりも、活躍なんてできなかったけど。教官の言っていた、チームの連携の大切さってやつ、少しは分かった気がします」

スギタ「…そうか。学ぶことがあるということは、今以上に伸ばせる点があるということでもある。ドーベルマンやラビッツと比べればまだまだかもしれないが、これからだ」フッ

アン・クリス「「はーい!」」

チャンドラ「チームフォーン! 集合してくれ!」

パトリシア「上に戻るルートをブリーフィングするわよ、来てー」

セイ「は、はい! 今! ……では、スギタ教官」

ユイ「失礼します」

クリス「また後でー!」

アン「ありがとございましたー!」

タタタ…

スギタ「…小鹿も、成長期というわけか」フッ




グランツェーレ都市学園――ラベンダー畑

MJP技術スタッフ「」ガヤガヤ…

スギタ「お疲れ様です」スタスタ

スタッフ「ああ、スギタ教官」

スギタ「どうですか、ホワイトゼロは」

スタッフ「どうもこうも、こんなにバラバラになっちゃねぇ。まぁ、所詮試作機だし、修復の必要はありませんがね」

スギタ「そうですか。では、戦闘データの回収だけを?」

スタッフ「ま、そうなりますな。もしかしたら、今回のデータのフィードバックもちょっとは役に立つかもしれませんし。…気になりますか? 元々のテストパイロットとしては」

スギタ「いや。…まぁ、動かないガラクタとしてではなく、ほんの少しでも戦いの助けになる一手として散ったのなら、いいことだと思いますが」

スタッフ「はは、そりゃそうだ。そうだ、さっき、こいつを操縦してた子が来ましたよ」

スギタ「ああ、彼が。何か言っていましたか?」

スタッフ「いや、ただ高価な機体をバラバラにして申し訳ない、と。あとは、ブルーワンの回収が済んだのかも聞いてましたかね」

スギタ「なるほど。回収したブルーワンの残骸は確か――」

スタッフ「予備の格納庫ですよ。あればかりは、専用の整備クルーに一任しなくてはなりませんし」

スギタ「そうですか。では私はこれで。ホワイトゼロの方はお願いします」ビシッ

スタッフ「」ビシッ




グランツェーレ都市学園――予備格納庫

アサギ「……」

スギタ「――やぁ、大丈夫か?」

アサギ「あぁ、ええと……」

スギタ「? …ああ、そうか、名乗っていなかったな。スギタだよ。……自分の機体が心配かい?」

アサギ「まぁ、それなりに。一緒に戦ってきましたし…あと」

スギタ「?」

アサギ「コイツを壊すと怖いやつが、一人いるものでして…」イガー

スギタ「そうか。……私も、怒らせると少し怖い人を怒らせてるところさ。なかなか、緊張するものだな」ハッハッハ

アサギ「は、はぁ……」

スギタ「……」

アサギ「……」

スギタ「……少し、話でもしないか?」

アサギ「話、ですか?」

スギタ「ああ。さっきも聞いてみようと思ったんだが」

アサギ「はい?」

スギタ「君は目的を達成できたのかと思ってね。弟――イズルくんの『ヒーロー』になれたかい?」

アサギ「………そう、ですね」

アサギ「たぶん、なれたと思います。アイツの、『ヒーロー』ってやつに」

アサギ「その、高価な機体を二つも無茶苦茶にしたし、そのことでチームの皆には苦笑いされてしまいましたけど、でも」

アサギ「アイツは、イズルは俺のこと、『ヒーロー』だって、そう言ってくれましたから」フッ

スギタ「…そうか。なら、よかった。送り出したこちらとしても、そこが気になってね。ホワイトゼロに乗った君のことを報告するのが遅れて、スズカゼくんに散々怒鳴られてしまったわけだし――」

アサギ「へ?」

スギタ「あ、いや、何でもない。気にしないでくれ」ゴホンゴホン

アサギ「……もしかして、怒らせると怖い人っていうのは――」

スギタ「あー! ごほっ、ごほっ! まったく、ここはホコリっぽいな! さ、君も寮に部屋があるからそちらで休んでくれ! 疲れているだろう!?」

アサギ「……は、はい。あの、よければ、スズカゼ艦長に、俺の介抱に時間がかかったせいでスギタ教官の報告が遅れたって、後で伝え――」

スギタ「い、いいから! 早く行きなさい!」

アサギ「す、すみません!」タタッ

スギタ「……」

スギタ「はぁ……どう機嫌を直してもらおうか…」フー

アサギ『アイツは、イズルは俺のこと、「ヒーロー」だって、そう言ってくれましたから』フッ

スギタ「……まぁ、いいさ。生徒たちの命が助かったんだし、それで十分だろう。……そうだ、デートにでも誘って――」

おしまい。わりとサービスキャラなスギタ教官でしたが、いざ出番がくるとおいしいキャラでしたね。
個人的にはもっと掘り下げがほしかったです。では、またいつか。

お久しぶりです。また短い話を一つ。

父と兄と弟と

スターローズⅡ――MJP司令室

リン『――以上が、今回の報告になります』

シモン「そうか……。チームラビッツ、ならびにゴディニオンは補給を済ませ、待機任務に就くように。残党への警戒任務はチームフォックスに任せる」

リン『了解しました。……あの、シモン司令』

シモン「何だ」

リン『……お聞きにならないのですか? アサギ・トシカズとヒタチ・イズルの検査結果を』

シモン「問題ないことは既にルーラ医師に確認してある。君に聞くようなことでもない」

リン『……』

シモン「何か?」

リン『いえ、何でもありません。では、これより待機任務に就きます』フフッ

プツン!

シモン(……君の作った技術と私の遺伝子、どちらも約束を果たすのには十分だったようだ)

シモン(君の元へ行くことはできなかったが、まぁ、よしとしよう)

シモン(あとは、このまま――)

イズル「――失礼します!」プシュッ

シモン「…ヒタチ・イズル。呼んだ覚えはないが」

イズル「いきなり来てすみません。でも、どうしてもお話したくて」

シモン「……」

イズル「あの、アサギお兄ちゃんに聞きました。司令が、僕の――僕とお兄ちゃんの、お父さんだって」

シモン「……その話は無意味だ。確かに私は君の遺伝子の提供者ではあるが、だからといって、世間一般でいうところの父親とは少し違う」

イズル「でも、司令がお父さんだってことに違いはないんでしょう?」

シモン「……それで、何を話したいと?」

イズル「一言、お礼が言いたいんです。心配してくれて、ありがとう、って」

シモン「……」

イズル「ずっと、不思議だったんです。お兄ちゃんも思ってたみたいですけど、僕とお兄ちゃんにだけ教官になって前線を下がらないか、なんていきなり聞いたり」

イズル「僕が倒れたときも、戦場には来ちゃダメだ、ってあんなに言ってくれたりして」

イズル「……僕のこと、心配してくれたんですよね。だから、ありがとうございました」

シモン「……全て、君の勘違いだ。君とアサギ・トシカズに教官職を勧めたのは、戦力の増大を狙ってのこと。君に艦から降りるように命じたのも、病人を戦場に連れてきても無駄だからだ」

イズル「でも! お父さんは僕の頼みを聞いて、艦に乗せてくれましたよね」

シモン「……」

イズル「僕のお願い、聞いてくれたんですよね。きっと、僕のことを思ってくれてるから、無駄だって分かってるのに、許してくれたんですよね」

シモン「……」

イズル「お父さんの言う通り、僕の勘違いで、自惚れなのかもしれません。でも、それでも、いいんです」

イズル「――ありがとう、お父さん」ニコリ

シモン「……用件はそれだけか?」

イズル「はい! あ、そうだ。この後、皆で勝ったことを祝ってパーティーするんです。お母さん――テオーリアさんも来てくれるそうですから、よければ――」

シモン「私には戦争の事後処理がいくつかある。遠慮させてもらおう」

イズル「……そう、ですか。じゃあ、これで。頑張ってください、お父さん!」タタタッ

プシュッ

シモン「……生命は学ぶ、か」

シモン「ジュリア……」フッ




スターローズⅡ――廊下

プシュッ

アサギ「……どうだった?」

イズル「えっと、断られちゃった」アハハ

アサギ「だろうな。あの人、どう見てもパーティーとか、集まるの好きじゃなさそうだし」

イズル「まぁ、そうだよね。でも、いいんだ。言いたいこと、言えたし」ニコニコ

アサギ「そうか。……お前、すごいな」

イズル「え? 何が?」

アサギ「いや、どうも俺、あの人が父親だって分かったのはいいけど、こう、正面向かって父さんなんて、呼べる気がしなくてな」

イズル「ええー、お兄ちゃんもお父さんって呼んであげようよ。たぶん、喜んでくれるよ」

アサギ「いやいや、それはないだろ」

イズル「そう? さっき、『お父さん』って呼んだら、ちょっとだけ嬉しそうだったよ?」

アサギ「……さすがに気のせいだろ、たぶん。あ、いや――」

イズル「?」

アサギ(寄せ書きとかしてたしな…案外、顔に出さないだけで――いやいや! ないだろ!)

イズル「お兄ちゃん?」

アサギ「あ、あぁ。何でもない、気にするな」

イズル「ならいいけど……そうだ、後で今度はお母さんとお兄ちゃんで会いに行こうよ! もしかしたら、少しくらい笑ってくれるかも!」

アサギ「よくそんな気になれるな……まぁ、いいけど」

イズル「うん! 約束だよ!」ニコニコ

おしまい。ちょっと短すぎましたね。司令の親バカぶりはなかなかだと思います。
ではまたいつか。

お久しぶりです。
今回は季節に寄り添った話を一つ。

冬とウサギ

スターローズⅡ――アサギの部屋

アサギ「……で、これ何だ?」

スルガ「何って、コタツだよ、コタツ」

イズル「あったかいらしいよ、お兄ちゃん」

アサギ「いや、それは分かる。だから、何で俺の部屋に?」

スルガ「そろそろ下の方じゃ冬らしいぜ、せめてこっちで気分を味わおうと思ってよ」ヘヘ

アサギ「別に宇宙で季節感なんて味わう必要ないだろ…」

スルガ「いーじゃねーかよ! 学園時代、こういうの縁なかったしよ」

アサギ「そりゃ寮にこんな家具追加したら怒られるしな」

イズル「まぁまぁ、せっかくスルガが持ってきてくれたんだし」

アサギ「何がせっかくなんだよ…おい、勝手に電源繋げるなよ!」

スルガ「気にするなって…お、暖まってきたな」

アサギ「……だいたい、ここは暑くも寒くもないんだから、そんな家具いらないっての」

イズル「あ、じゃあ冷房かけようか」ピピッ

アサギ「そういう問題じゃない!」

スルガ「…おー、いい感じに冷えてきたな」

イズル「じゃ、さっそく入ってみよう!」

アサギ「お、お前らなぁ……」イガー

スルガ「ほほー……」ヌクヌク

イズル「うわぁ……」ヌクヌク

アサギ「……」ジトー

スルガ「なるほどなぁ…こりゃいいな」グデー

イズル「なんていうか、どんどん力が抜ける感じがするね」アハハ

アサギ「」フー

スルガ「お、何だよアサギ。結局使うんじゃん」

アサギ「お前らのせいで部屋が冷えてるんだよ…っ」

アサギ「」ヌクヌク

イズル「どう、お兄ちゃん? いいでしょ、これ」ニコニコ

アサギ「……まぁ、否定はしないけどよ」

シュッ

タマキ「皆いるー? ……さむっ!」

スルガ「おー、タマキ」ヌクヌク

タマキ「な、なんなのら、こ、こここ、この寒さ」ガタガタガタ

イズル「あ、ごめんごめん。ここ入りなよタマキ。まだ空いてるから」

タマキ「そ、そそそそ、そうする」ガタガタガタ

タマキ「」ヌクヌク

タマキ「ほへー……生き返ったー…ぬくぬくしてるー…」

イズル「いいよね、これ」

タマキ「これ…なにー……?」グデー

スルガ「コタツだよコタツ。季節も季節だし、ネットで売ってたの買ってよ、どうせ皆アサギの部屋に来るだろうから、持ってきたんだ」

タマキ「スルガもたまにはいいことするのらー……」

スルガ「たまにはって何だよ…」

イズル「あはは…でも、これいいよね。丸型だから、ちょっと詰めれば皆で入れそうだし」

アサギ「ちょっと無理があると思うけどな…そういえば他の二人は――」

シュッ

ケイ「皆いるかしら? ちょっとケーキでも焼こうかと……ひっ!?」

アンジュ「どうしたんですか、ケイさん……っ!」

イズル「あ、噂をすればだね」

タマキ「あ、アンジュー、ケイー」グデー

ケイ「ど、どうしてこんなに寒い、の?」ブルブル

アンジュ「な、何というか、ここだけ真冬みたいですね」

スルガ「まーまー、二人ともこれに入れよ」

タマキ「ほら二人ともこっちに詰めるのらー」ポンポン

ケイ「え、ええ…」

アンジュ「は、はい…」

ケイ「」ヌクヌク

アンジュ「」ヌクヌク

イズル「どう、二人とも?」

ケイ「温かい……」

アンジュ「これ、コタツですよね……ヒーターとは少し違う温かさで、いいですね…」

タマキ「うんうん、もー、今日はここでずっと過ごしたくなるのらー」

アサギ「いやいや、さすがに就寝時間には帰れよ」

スルガ「まー気持ちは分かるけどなー…お、そうだ」ゴソゴソ

イズル「何これ? みかん?」

スルガ「コタツにはみかんらしいぜ。さっきシオンさんに会ってよ、これもらったんだ」

タマキ「何でみかんー?」

ケイ「さぁ……」

アンジュ「みかんはこの時期が旬ですからね。あとは、確か風邪の予防に良いとされている点でよく食べられていたのが、そのまま風習として残ったということだったと思います」

アサギ「あとは、皮を剥くだけで食べられて、コタツを出たりする必要がないってのもあるらしいな」

タマキ「へぇー」モグモグ

ケイ「確かに、わざわざここを出たいとは思えないわね…」ヌクヌク

イズル「なんていうか、他の暖房器具とは全然違うよね。ホント、このまま寝ちゃいそう」アハハ

アンジュ「それはダメですよ。上半身だけ冷えて、風邪を引きます」

アサギ「っつか、ここは俺の部屋だっての」

スルガ「硬いこと言うなって。そーそー、あとコタツで楽しむなら鍋料理なんかいいって言ってたな」

タマキ「鍋料理ー?」

イズル「あ、聞いたことある! 大きい鍋に食材と出汁を入れて煮込んで、そのまま鍋から取って食べるんでしょ?」

タマキ「えー、何それー」

アンジュ「日本の伝統料理ですね。大勢で楽しむのにとても便利な料理だとか」

ケイ「聞いただけだと、ずいぶんと簡単そうね」

アサギ「いろいろとバリエーションがあって、かつ、準備も楽で重宝されるらしいな。……まぁ、俺はやったことないけど」

イズル「なんかおもしろそうだね! ――そうだ、今度皆で食べようよ!」

スルガ「お、それいいな」

タマキ「よく分かんないけど、さんせー!」

ケイ「そうね…たまにはそういうのもいいかも」

アンジュ「そうですね……なんというか、楽しみです」

アサギ「……まぁ、そうだな」

スルガ「よし、じゃあ準備は頼むぜ、アサギ」ヘヘッ

タマキ「よろしく、アサギー」ニコニコ

アサギ「ちょっと待て! 俺かよ準備するの!」

イズル「いやー、こういうのって僕たちの中じゃお兄ちゃんとかアンジュくらいじゃない? できそうなのって」

アンジュ「私は鍋料理はしたことがないですね」

アサギ「いや、俺もそうなんだけど」

ケイ「じゃあ皆で準備しましょうか。せっかくだし、それぞれで材料を持ち寄って…!」

アサギ「! い、いや。俺とアンジュでするよ、な、アンジュ」

アンジュ「そ、そうですね。簡単な料理なわけですし。わざわざ全員で取り掛からなくても」

スルガ「そうか? 別に材料くらいなら用意するけどなー」

タマキ「あたし、いい塩辛持ってくるのらー!」

ケイ「鍋によさそうな甘いモノは……」

アサギ(あ、こいつらに用意させるのはダメだ)

イズル「ま、まぁまぁ。お兄ちゃんとアンジュに任せようよ。ほら、僕らは料理の道具とか借りてきたりとか」

スルガ「道具ねぇ。まぁとりあえず鍋だろ? あとはコンロと…」

タマキ「人数分のお皿とかー?」

ケイ「シオンさんに頼めば貸してもらえるかしら」

イズル「じゃあ後で頼もうか。…とりあえず、今は出たくないけど」ヌクヌク

アサギ「まぁ、そうだな」ヌクヌク

スルガ「こうなるといつ出るか決められねーなー…」ヌクヌク

タマキ「もーあたし、ここに住むー……」ヌクヌク

アンジュ「それは不可能な気がしますけど…でも、その気持ちも分かります」ヌクヌク

ケイ「そうね……ここは反則的に居心地がいいもの…」ヌクヌク

イズル「あはは…確かに、そう、だね……」ボー

アサギ「? おい、イズル?」

イズル「……皆、寝ないで、ね…」スヤァ

イズル以外「「「「「お前が寝るな!」」」」」


後日、食堂のお姉さんの手助けを借りながら、さらなる日本の冬の過ごし方を楽しむラビッツなのでした。

おしまい。ラビッツで闇鍋しようものなら地獄を見ることになるに違いない(主にアサギが)
ではまたいつか。またネタふりとかあればお願いします。

どうも。今日はネタふりしていただいたやつで一つ。

こいつ……踊ってやがる!

スターローズ――ブリーフィングルーム

リン「――以上が、今回の広報任務よ」

ラビッツ「……」

リン「何か質問があれば――」

ケイ「納得いきません! 前のあれが最初で最後だっていう話じゃ――」

リン「そのはずだったのだけれどね……任務は任務よ、異論は受け付けない」

ケイ「…分かりました」ムゥ

リン「他に何か質問は? ……無いわね? では後はペコが説明するわ。お願いね」

ペコ「はいー、お任せください」




スターローズ――アサギの部屋前

ペコ「皆さーん、それじゃ、また明日打ち合わせしますので八時くらいに食堂に集合してくださいね」フリフリ

タマキ「はーい」ニコニコ

プシュッ

ケイ「アンタ、よく笑ってられるわね…」ストン

タマキ「ケイと歌うの、あたし好きだもんー」ゴロゴロ

ケイ「ああ、そう……しょうがないわね」フー

タマキ「ふっふっふー、ケイだってけっこー楽しいくせにー」

イズル「大丈夫だよケイ。こないだのだって、タマキといい感じにやれたじゃないか」ヨイショ

スルガ「ちぇー、俺たちは歌わせてもらえないんだぜ? そんなにヤなら代わってくれよー」ヨット

アンジュ「私としては歌なんて緊張してしまうし、ありがたいです」ヨイショ

イズル「アンジュは歌とか上手なの?」

アンジュ「いえ上手かどうかは…」

アサギ「……だからなんで普通に俺の部屋入ってくつろいでるんだよ…ああ、もういい」ハァ

スルガ「へへ、もう諦めろって」

アサギ「お前なぁ……歌わなくていいのはありがたいけど…今度は踊りかよ」

イズル「アッシュでバックダンサーかぁ。ちゃんとやれるかな」

スルガ「ばっちり決めたら、少しはナンパもうまくいくように……」ヘヘ

???「そうはいかないな。俺が美人のねーちゃんたちの目を全部かっさらうからよ」シュッ

イズル「! チームドーベルマンの皆さん! どうしたんです?」

ランディ「よう。今回の広報任務、俺たちもバックダンサーで参加することになってな」

チャンドラ「こちらとしてはあまり乗り気じゃないんだがな…このバカ者が二つ返事で了解してしまってね」

パトリック「まぁあくまで君たちのサポートだけどね…や、やぁ、タマキちゃん」

タマキ「? こんにちはー」ニコニコ

パトリック「!」ドキン

タマキ「? どーしたのらー?」

パトリック「い、いいいいや、な、何でもないよ。あ、あの、その…頑張ってね、タマキちゃん。応援してるから」

タマキ「? ありがとございます!」ニコリ

パトリック「!」カァ

ランディ「あー、まぁ、そういうわけでまた明日な! ダンスでも俺がヒーローだってところ見せてやるよ、イズル」

イズル「ヒーロー…負けませんよ、ランディさん!」

チャンドラ「それではな。ほら、パトリック、行くぞ」

パトリック「は、はい。じゃあね」

タマキ「また明日なのらー」フリフリ

プシュッ

アサギ「先輩たちもいるのか…少しは負担が減るか」ホッ

スルガ「操縦技術じゃ負けちまうからなぁ。マジで見せ場取られちまうかもな、イズル…イズル?」

イズル「僕、今からダンスの勉強してくる!」タタッ

プシュッ

アンジュ「……元気ですね、イズルさん」

ケイ「いいことじゃない。私も、頑張らないと…」

タマキ「お、ケイやる気になったのらー?」

アサギ「……負けてられない、か」




広報コンサート、当日――会場

リン『レッドファイブ、ブルーワン、ゴールドフォー、ブラックシックス、チームドーベルマン各機、配置につけ』

イズル『了解!』ガコッ

レッドファイブ「」ギューン

アサギ『…了解』ガコッ

ブルーワン「」ギューン

スルガ『りょーかいっと』ガコッ

ゴールドフォー「」ギューン

アンジュ『了解』ガコッ

ブラックシックス「」ギューン

ランディ『うし、行くぜ、お前ら』ガコッ

チャンドラ『頼むから目立つようなことをするなよ』ガコッ

パトリック『タマキちゃんに少しでも印象に残るように…!』ガコッ

ライノス「」ギューン

『それでは、今日の慰安ライブのメインゲスト! MJP所属、我らがチームラビッツだ! 魅力的な歌と、GDFのエース、チームドーベルマンとの合同パフォーマンスから目を離さないでくれよ!』

パチパチパチパチパチパチ…!

♪~

ケイ『――♪』

イズル『ようし、まずはフォーメーションムーンライト!』ガコッ

アサギ『そのフォーメーション名やめろっての』ガコッ

スルガ『まーいいんじゃねーの、伝わるんだから』ガコッ

アンジュ『……』ガコッ

アッシュ各機「」ギューン、クルクルクル、ビシッ!

ランディ『よし、俺たちもムーンライトだ!』ガコッ

チャンドラ『そんなフォーメーション決めてないだろうが』ガコッ

パトリック『あはは…適当に合わせましょうか』ガコッ

ライノス各機「」ギューン、ビシッ!

タマキ『――♪』ピョンピョン

パトリック『タマキちゃんかわいいなぁ…』

チャンドラ『集中しろパトリック、ぶつかっても知らんぞ』

ランディ『後でライブの映像録画したやつ見せてやるって』

パトリック『約束ですよ、ランディさん! っとと…』ガコッ

イズル『♪』フンフフーン

アサギ『おい集中しろって、鼻歌歌ってる場合かよ』

スルガ『イズルなりの集中の仕方なんだろ? 話聞いてないし』

アンジュ『……っ』

アサギ『…? おいアンジュ? どうかし――』

アンジュ『――だーっ! こんなアップテンポの曲でちんたら踊れるかーっ!』ガコッ

ブラックシックス「」ギューン!クルクルクルクル!

アサギ『お、おい! フォーメーション崩すなよ!』

スルガ『すげー、ブレイクダンスだろあれ』

アサギ『感心してる場合か! おいイズル!』

イズル『あ! アンジュ!』

アサギ『早く止め――』

イズル『ずるいよ! そんなにかっこよく踊るなんて!』ガコッ

アサギ『おい!』

レッドファイブ「」ギューン!ダンッ!スタッ!

スルガ『もー止まらないなありゃ、適当に合わせとこーぜ』ガコッ

アサギ『……あー、もう! どいつもこいつも!』ガコッ

ランディ『お前らだけ目立つなんてこと許すかよ!』ガコッ

ライノス「」ギューン!

パトリック『ちょ、ランディさん!? いいんですか、チャンドラさん?』

チャンドラ『放っておけ。あいつなら何とかまとめるだろう。それより、ブルーワンたちと連携して何とか形にするぞ』ガコッ

レッドファイブ・ブラックシックス・ライノス「」クルクルクル!ビシィッ!


ケイ(イズル――頑張ってるのね。私だって苦手だけど……!)

ケイ『――♪』ニコリ

タマキ『――♪』ニコニコ

アンジュ『私よりも機敏に動けるか、ダンゴムシども!』ガコッガコッ

イズル『負けないよアンジュ!』ガコッガコッ

ランディ『へ、子ウサギが生意気な! 番犬に勝てると思うなよな!』ガコッガコッ

アサギ『構成とか決まってたはずなのに…』イガー

ワーッ!ガヤガヤ…

スルガ『……ちぇー、あいつら相手じゃ目立てねーよなー…あ、そうだ!』ガコッ

ゴールドフォー「」クビガション

アサギ『!? おい、スルガ!』

スルガ『曲のシメ、確か特製花火が上がるんだろ? これもついでに…』

アサギ『バカ! いくら射線上に何もないからって――』

スルガ『まーまー大丈夫だって。音だけだし、どーせもう命令違反しまくってん、じゃん!』カチ

ケイ・タマキ『『――――♪』』キメッ

レッドファイブ・ブラックシックス・ライノス「」ビシィッ!

ブルーワン・ライノス「」ビシィッ!

ゴールドフォー「」ドーン!

シーン…

アサギ(……会場が静まり返った…や、やっぱまずかったか――)

ワーッ!パチパチパチパチパチ…!

イズル『わぁ…すごい拍手!』

アンジュ『ふん、オラオラ、もっと喝采しろ、ただ聞いてるだけの置物ども!』

スルガ『へへ、けっこー盛り上がったじゃん』

チャンドラ『何とかなったか…やれやれだ』

パトリック『あはは…お疲れ様です』

ランディ『まだ踊り足りねーけどな、ま、いいさ』

アサギ『……はぁ』イガー

イズル『あれ? アサギ大丈夫?』

アサギ『大丈夫じゃねーよ……』フー

イズル『? あ、タマキたち』

アサギ『何だよ…』

タマキ『』フリフリ

ケイ『』チイサクフリフリ

イズル『あはは、お疲れ、だって』ガコッ

レッドファイブ「」フリフリ

アサギ『……あぁ、そうだな。まったく…』フッ

ブルーワン「」フリフリ

ランディ『……ふ。よくやったなお前ら、さ、帰投するか――ん?』ピピッ

リン『チームラビッツ、およびチームドーベルマン――戻ったらすぐに集合しなさい!』

スルガ『げ』

イズル『あ、あはは…』

アサギ『…まぁ、そうだよな』

ランディ『へへ、楽しみが増えるってもんさ、行くぞ』

アンジュ『このドMが!』

チャンドラ『まったく…ガッカリなやつだよ、本当に。ほら、パトリック』

パトリック『あはは…お疲れ様、タマキちゃん』フリフリ




スターローズ――アサギの部屋

タマキ「あー、つーかーれーたー」ゴロゴロ

ケイ「まったく…もうこれで本当に終わってほしいわ、広報任務なんて」

イズル「あはは…確かに敵と戦うより疲れちゃったや」

スルガ「スズカゼ艦長にたっぷり搾られたしな…」ウガー

アンジュ「す、すみません。元はといえば私がああなってしまったせいで…」

ランディ「何言ってんだ。あれがあったから盛り上がったんだぜ?」

チャンドラ「気にするな、だいたいコイツのせいにしておけ」

パトリック「た、タマキちゃん、すごくよかったよ」

タマキ「えへへー、ありがとなのらー」

アサギ「……あの、なんで先輩がたまでここに…?」

ランディ「なんでって、打ち上げだろ?」

チャンドラ「君の部屋が会場だと聞いていたが」

アサギ「いやそれ違いますから。……はぁ」

イズル「いいじゃないアサギ。アサギの部屋ってすっごく落ち着くんだよ?」

アサギ「そんなこと言われても嬉しくねーっての…」

ランディ「それだけ懐かれてるってことだ、誇りに思ってもいいぜ?」

チャンドラ「そうだな。君の人徳というやつだろう」

アサギ「は、はぁ…」

ランディ「それはそうとイズル! どうだ俺の踊りは? 負けたろ?」

イズル「何言ってるんですか! 僕だって負けてませんでしたよ!」

スルガ「アンジュもすごかったよな、あんなに動けるなんて、さすがはMF86の系列からさらに進化を遂げたアッシュの――」ペラペラ

タマキ「アンジュの踊りも確かに負けてないのらー、こー、ぎゅーん!ってして、ばしー!っとしてー」フラフラ

ケイ「何よその踊り……い、イズルも負けてなかったわよ、たぶん」

ランディ「へ、意見が分かれたな。ならもう一度勝負するか?」

イズル「望むところです!」タタッ

チャンドラ「私が審判してやろう。これでも、祖国では踊りの心得がある」

プシュッ

アサギ「まったく…どこにそんな元気があるってんだ」

タマキ「おもしろそー、あたしも行くー!」タタッ

パトリック「あ、タマキちゃん! じゃあ僕も行こうかな」タタッ

ケイ「わ、私も…」タタッ

スルガ「じゃ俺も」タタッ

アンジュ「わ、私も。ここで失礼しますね」タタッ

アサギ「お、おい! 何だよ、急に来といて…」フー

シーン…

アサギ「……俺も、行くか」ハァ


その後、ラビッツとドーベルマンの踊り勝負は発展し、審査員にゴディニオンクルーを迎えながら、大いに盛り上がりを見せたとか。
さらには後々に、新たな後輩たちを巻き込んで、勝負は続くのでした。

おしまい。流行のダンスというのがよく分からなかったので、ロボットとダンスといえばこれしかないと思い好きに書いてみました。
ダンスシーンはマクロスデルタの一話とか三話のイメージで補完していただけるとありがたいです。
それではまたいつか。またよければネタふりしてやってください。

どうもお久しぶりです。今年もあとほんの二十四時間ほどとなりました。
今年最後のネタをやりたいと思います。

一年も終わりまして

アサギ「ふぅ……」イガー

イズル「どうしたのお兄ちゃん。いつにもまして胃を撫でて」

スルガ「へへ、とうとう胃に穴でも空いたんだろー、いつかはやると思ってたんだ」

アサギ「ワイドショーのインタビューみたいに言うな…はぁ」

ケイ「いったいどうしたの? 映画では立派に、私たちの中でも一番出番があって、今年は実りあるいい一年じゃなかったんじゃないの?」

アンジュ「そうですよ。イズルさんを差し置いてまるで主役交代と言わんばかりの活躍をしたのに」

タマキ「頑張りすぎて穴が空いたの?」

アサギ「ちげーよ! っつか胃に穴はできてないから」

スルガ「じゃあ何だよ?」

アサギ「……いや、ほら、プロモーションビデオ、見たろ?」

イズル「ああ…お兄ちゃんがすごくかっこよかったやつ?」

スルガ「ついでに爆散したやつな」ケラケラ

ケイ「それはやめなさいよ…」

アサギ「俺は結構期待してたんだ…まさか俺にも覚醒があるなんて想像もしてなかったからさ。……なのに」

アンジュ「なのに?」

アサギ「なんで覚醒からほんの四、五分で出番終了なんだよ! 俺の覚醒なんだったんだよ!」

タマキ「あー」

アサギ「おまけにその後はあんなポンコツ乗っけられて! ゴロゴロ転がされた挙句最後まで決まらない感じの動きして!」

イズル「あれはちょっとかっこ悪かったねー」アハハ

アサギ「笑い事じゃねーよ! まったく…」ハァ

スルガ「いーじゃねーかよ。むしろ短い時間であんなにすげぇ動きして観た人たちの心を掴んだ癖になにゼータク言ってんだよ」

アサギ「それは! …まぁ、確かにそうなんだけどよ」

イズル「そうだよお兄ちゃん! 僕なんて間に合わせの機体だからか知らないけど、覚醒すらしなかったんだよ?」

ケイ「そうよ。勝手に追加された演出であれほどに魅せたんだもの、誇るのは分かるけど、そんなにガッカリすることないんじゃないかしら?」

アサギ「……まぁな。ただ、なぁ」

アンジュ「なんだと言うんですか。敵をバタバタと薙ぎ倒していって不満だなんて。私なんて、ディオルナに散々ボロボロにされたんですよ?」

アサギ「そこだよ」

タマキ「そこって何なのら?」

アサギ「せっかくの覚醒なのに、俺はそのディオルナとまともに戦うことすらできなかったんだ」

スルガ「それが?」

アサギ「だから! てっきり俺は、イズルみたくジアートとの戦いみたいなすごい戦闘をディオルナと繰り広げた後に、ギリギリ及ばず負けるみたいな、そういうのを期待してたんだよ!」

イズル「え、僕?」

ケイ「ああ、なるほど。せっかくの覚醒が、周りの護衛隊の相手だけで終わってしまったのがアサギは納得がいかないってことなのね」

アサギ「そういうことだ」

スルガ「んだよ。そんなこと言ったら、俺だってシェルターをドリルで掘ってるだけの連中を狙い撃ちしただけだぜ?」

アサギ「あーそうだな。無茶苦茶難しい条件での狙撃をな」

タマキ「そんなしょげなくてもいいじゃーん。アサギは十分かっこよかったのら?」

イズル「そうだよお兄ちゃん! 実際映画のチラ見せでだって、お兄ちゃんのシーンがピックアップされたじゃない!」

アサギ「それはそれ、これはこれだよ」

アンジュ「わがままですね。私なんて覚醒すらなかったのに」

ケイ「もう、どうすれば満足いくのかしら?」

アサギ「…もっと俺の活躍シーンが見たい」

イズル「十分すぎるくらい活躍したじゃない」

アサギ「いいや、全然足りない! 俺の覚醒シーン、もっといい感じに使ってほしいんだよ」

スルガ「そうはいっても、もう映画公開終わったしなぁ」

タマキ「今さら撮りなおしはできないのらー」

アサギ「撮りなおしなんてする必要はない。続きをやればいい」

ケイ「続き?」

アサギ「そうだよ、見ろよこの記事。俺たちみたいにテレビ放映から映画、それからまたテレビ放映した作品だ。最近また続きが作られることが発表されたんだ」

アンジュ「その記事私も見ました。しかし、それはいくらなんでも参考にならない例だと思いますが…」

アサギ「それはそうだけど、少しくらい希望を持ちたいだろ」

アサギ以外「」ポカーン

アサギ「……何だよその反応」

イズル「お兄ちゃん、なんていうか変わったね」

スルガ「そうだな、こんな前向きなこと言うなんてアサギらしくねーっつーか」

タマキ「やっぱりアサギ、胃に穴が空きすぎておかしくなったんじゃ…」

アサギ「……たまにはイズルみたいなこと言おうとしてんだよ。察しろよ…」イガー

ケイ「…まぁ、それはともかく。確かに、私もせっかくだし続きが見たいわね」

タマキ「えー。もーいいじゃーん。あたし疲れたのらー。なんかてきとーに幸せになりましたとさー、とかでいいのらー」

アンジュ「それはいくらなんでもテキトウすぎるような…ですが、続きというのはありですね。結局、ウルガルとの決着もついていませんし」

スルガ「まーなー。俺たち、映画の後結局どうなるか分かったもんじゃないし」

イズル「僕は、とりあえず普通に目が覚めたからそれでいいけど…テオーリアさんが心配なのも確かかも」アハハ

ケイ「」ムムッ

タマキ「? どーかしたのらー?」

ケイ「い、いえ。別に。そうよね、ウルガルだって、一時的に退却させただけだものね」

アサギ「そういう点も含めて、俺は続きが見たいんだよ」

イズル「なるほど。お兄ちゃんの言いたいこと、なんとなくわかったよ。僕も、結局あの上手な絵の人が誰か分かってないしなぁ」

イズル以外「「「「「いやそれはどーでもいい」」」」」

イズル「あれ?」

アサギ「……まぁ、俺たちには何もできないけどな。続きが見たくても」

タマキ「それはそうかもー。……じゃ、誰に頼むの?」

スルガ「そりゃお前…まぁ、その、天の声というか、なんつーか」

タマキ「テンノコエ?」

イズル「ええと、そうだよね。天の声さんかぁ……あ、そうだ。じゃあ皆で呼びかけよう」

アンジュ「呼びかけ、ですか」

イズル「うん。今年も終わりだしね。三年ぶりに僕たちを活躍させてくれたお礼も兼ねて」

ケイ「そうね。そうしましょうか」

アサギ「ああ、そうだな」

イズル「ようし。じゃあ、僕が。――――監督さーん! 久しぶりに活躍できて嬉しかったでーす! ありがとうございました!」

イズル「でもでも! お兄ちゃんはちょっと不服そうだし、お話もまだ、ちゃんと終われてないし…ええと、あとー!」

スルガ「いいから締めろって」

タマキ「イズルに任せてたら終わらないのらー」

イズル「ご、ごめん。―――とにかく! 三年ぶりに無茶してもらって早々で少しだけ困るかもしれないですけど!」



ラビッツ「「「「「「――もう一回、僕たちに出番をくださーいっ!」」」」」」

おしまい。今年最後のネタとしては少しあれですがご容赦いただけると助かります。
個人的には今年は実にマジェプリにとってめでたいと思える一年でありました。
映画が終わってすぐはありえないでしょうが、また思い出す頃に続編があると嬉しいです。

ではまた来年に。次辺りはもう少しシリアスな話をやろうと思います。

新年あけましておめでとうございます。
久しぶりにやりたいと思います。

ヒタチ・イズルの場合

え? 皆のこと?
……うーん、そうだなぁ。

じゃあ、タマキから。
ええと、タマキは、初めて会ったときは、なんていうか、皆そうなんだけど、静かな印象だったかな。
ほら、僕たち、記憶を消されてから入学するから。皆、同じように全然話さなくてさ。

で、ちょっと慣れて、話すようになってからは、すごく元気なんだなぁ、って感じかな。
かっこいいから、とか、優しくしてくれたから、とか言って、タマキ、とにかくいろんな人に告白してさ。
エネルギッシュって、ああいうことなんだ、ってマンガのネタになって――え? あ、ごめん、そういう話じゃないよね。

あ、でもね。そんな風に告白してばかりでザンネンに聞こえるかもしれないけど、タマキってそれだけじゃないんだ。
意外に周りのことも結構見てるというか、皆のこと、気遣ってるところもあるっていうか。

前にね。ちょっと任務で無茶なことがあってさ、タマキが撃墜されそうになって。
…え? あ、そっか。君もそこにいたよね。そうそう、コミネ大佐。

それで、僕たち大慌てでタマキを助けようとしてさ。タマキは、皆までやられちゃダメだから見捨てろ、ってそのとき言ったんだ。
もちろん、僕はそんなの嫌だからすぐにそんなことダメだ、って返したんだけど。

ただ、そのときになって、僕、思ったんだ。普段はあんまり感じないけど、タマキって、皆のこと考えてくれてるんだなぁ、って。

あとは、そうだなぁ……。うん、同じ話だけど、タマキが無事だったときは、なんていうか、ほっとしたかな。
あぁ、そっか、僕たち、結構タマキの元気さに引っ張られてたんだなぁ、って。そう思ったんだ。

ええと、だからね。タマキって、僕たちのチームにとって、かけがえのない存在なんだなぁ、って思うよ。うん。

え? もっと? …んー。じゃあ、今度はスルガかな。

スルガはまぁ、なんていうか、同い年の同姓だったからさ、初めて会ったときは、アサギよりももう少し話しやすかったなぁ。
まぁ、そうは言っても、ちょっと授業の話とかしてただけだけど。

それでちょっとずつ慣れてくるとさ、どんどんスルガも素を出してきたというかなんというか。
要するに、好きなことでいろいろと語ってきてさ、付いていけなくなっちゃったんだよね。

それで、僕が好きになったことの話――マンガとかのことね?――を語っても、スルガはスルガでピンときてなくてさ、結局、そのときはそんなにお互い仲良くはなれなかったんだ。

変わったのは、うん、やっぱり授業のときの事件からかなぁ。
授業のときにね、スズカゼ艦長に僕たちさんざん怒られてさ、それで、アサギがスルガのこと殴ろうとしちゃったんだ。
僕が慌てて止めたからよかったんだけどね。

うん、そうなんだ。それからさ、なんとなく皆遠慮がなくなったっていうか、ちょっとくらいは話すようになったっていうか。
え? あはは、そうだね、殴られ損にならなくてよかったかもね。

それからいろいろとあってさ、スルガはタマキ以上に僕らの中でもいろいろと喋って、気分を下げないようにしてくれて。
うん、そうそう、ムードメーカーってやつ。

もしも僕たちのチームが、僕とお兄ちゃんとケイとアンジュだけだったら、たぶんすっごく息苦しくなってたんじゃないかな。
ほら、皆マジメだからさ。肩に力ばっかり入っちゃったままだったと思う。そうやって考えると、スルガもタマキもチームにとって大事な存在だよ。

スルガがいなかったら、たぶんアサギとはあんまり話せなかっただろうしね。
スルガ、僕たちの中でいろんな話題を出してくれてたから、今になって思うとすっごく重要な立場だったんだな、って気がするよ。

そういう意味だと、スルガは僕にも、アサギお兄ちゃんにとっても、実はすごく大きな役割を果たしてくれたんじゃないかな。

えっと、じゃあ次は……アンジュにしようかな。

アンジュは、そうだなぁ。
僕たち、五人でこれまでチームラビッツで頑張ってきたんだけど、そこに急にもう一人、って話になったときは、びっくりしたっていうか、ちょっと慣れないなぁ、って感じだったかな。

それでも、嬉しさの方が大きかったけどね。
直接的な後輩っていうのはいなかったからさ。

でもそう思ったのもつかの間で、アンジュはすっごく難しい子だったんだ。
機体に乗れば、丁寧な物腰もなくなっちゃうし、指示も聞いてくれないし。

僕だけじゃなくて、皆も大変だったと思うよ。

でもね、それも少しずつ変わってきたんだ。
僕らが慣れてきたっていうのもあるのかもしれないけど、アンジュとも距離が短くなってさ。

最初の頃は待機中でも集まってくれなかったりしたけど、いつの間にか、アサギの部屋に皆で集まるようにしてくれたし。

連携だって、単独行動だって、前に比べてずっとよくなったしさ。
ディオルナ、だっけ? との戦いだって、アンジュがいなかったらきっと負けてたし。

だからさ。最初から僕たちと一緒だったわけじゃないけど、アンジュももう僕らチームラビッツの一人なんだよね。
今なら、堂々と本人もそう言ってくれるんじゃないかな。僕は、少なくともそう思うよ。

あ、あと僕のマンガにいろいろと意見くれる貴重な人材だね! ……え? それはどうでもいい?

うーん、そっかぁ……あ、次ね。
ええと、じゃあ…ケイにするよ。

ケイは、うーん……なんていうんだろう?
初めて会ったときは、あんまり印象に残らなかったかなぁ。

ほら、ケイってさ、すっごく人見知りなところあるから、特に僕たち男子なんて全然話せなくて。
それに、本人もあんまり話すの得意じゃないみたいでさ、タマキも、最初の頃は話せなかったんだって。
ケイって、耳がよすぎるから、外出もあんまりしないみたいだったし。

話すようになってからは……うん、はっきりと言うタイプなんだなぁ、って思ったかな。
たとえばタマキがフラれてしょんぼりしてても、厳しい意見をずばっと言ったりとか。
僕がマンガとか絵を見せてもさ、即座に首を横に振ったりしてさ。遠慮がないっていうか、なんていうか。

それで、アッシュに乗るようになってからかな。ケイのことが少しだけ分かった気がしたのは。
任務の前にバカンスに行ったときにさ、ケイと二人で話して、そこで知ったんだ。
いつもいつも、ケイはクールな感じで、戦うのだって何でもなさそうに振舞ってたけど、これから大丈夫なのかな、ってホントは不安だったんだ、って。

それで、僕が自分の考えを話したら、少しだけ気分が晴れたみたいで。
うん、あれからちょっとだけ打ち解けたのかも。

それからしばらくいろいろあってさ、ケイは何かと僕を気にかけてくれるんだ。
ケレスのときは一緒にヒーローになれるように頑張るって言ってくれたし、アンジュにスケッチを破られそうになったときも止めてくれたし。
入院したときも、何かとお見舞いしてくれて……うん、いろいろとお世話になったなぁ。

タマキとかスルガとか、アンジュもそうだけど、なんていうのかな、その三人は同世代とか、妹とか弟とか、そういう感じなんだけど。
ケイは、お姉ちゃんみたいだなぁ、って思うよ。

僕だけじゃなくてさ、皆にそうやって接してるな、って思う。

そういうポジションってさ、あとはアサギお兄ちゃんだけだから、やっぱり大事だなぁ、って思うんだ。

確かに、やたら甘いケーキを焼いたりするかもしれないけど、ケイは僕らのチームには必要な人なんだよ。
少なくとも、僕は、ケイがいてくれてよかったって、そう思うよ。

さてと。じゃあ最後だね。
アサギお兄ちゃんかぁ。

初めて会ったときはね、まぁ、お兄ちゃんだなんて知りもしないから、正直大したことは思ってなかったなぁ。
ただ、あ、この人は年上の人なんだ、じゃあちゃんとして接しないといけないんだよね、って、覚えてる常識に従ってたかな。

それで、ほら、あの通りマジメだから、訓練成績のことでいつもいつも、僕らにいろいろと文句言ったり、スルガとケンカしたりしてさ。
アサギとスルガの間に挟まれて、僕はどうすればいいんだろう、ってケンカする度に困っちゃって。

え? あ、いや! ううん、今はそうじゃないよ。うん、ええと、だからそういう危ない物はしまっておいていいよ。

ええと、どこまで話したっけ。
あ、そう。スルガとよくケンカしてたな、ってこと。

それでさ、話すようになって、少しはケンカもおとなしくはなったんだけど、それでもやっぱりお互い意地っ張りなところもあってさ、ちょっとした小競り合いはあって。
でも、その頃には僕もどうすれば二人とも落ち着いてくれるか分かってきてさ。

それで、アッシュに乗るようになってからは、だんだんと僕たちも少しは仲良くなってきてさ。
まぁ、アサギはどうしてか分からないけど、僕にちょっと冷たいところもあったりしたけど、それも少しずつなくなってきて。

ケレスのときとか、僕も仲間を頼りにするってことを教わってさ、僕がいない間の指示を頼んだりしたんだ。
アサギなら、きっと僕よりも作戦とか上手に立ててやってくれるって、信じてたし。

それからもさ、任務のときも普段の生活のときも、皆アサギのことを頼りにするようになったんだ。
ほら、アサギってとっても気配り上手だし、なんだかんだ優しいし、皆して甘えちゃうんだよね、たぶん。君も分かるでしょ?
そうそう、その頃からもうお兄ちゃんだったのかもね、アサギって。

ええと、それで、まぁ、いろいろとあってさ、アサギがお兄ちゃんだってことが分かったんだ。

そのときはどう思ったか? ……うーん。いろいろと驚きはしたんだけどね、それよりも、嬉しかったかな。

僕たちってさ、ほら、家族なんて無いものだと思ってるから、他の人の言う家族っていうのも、よくは分からなかったけど、それについて話す人皆がさ、なんだか楽しそうで、表情も明るくって。
羨ましいな、って正直思ったんだ。僕たちにはたぶん縁が無いんだろうな、って思ってもいたし。

アサギがお兄ちゃんでよかった、って素直に僕は思ったんだ。
優しくて、皆に頼られる、アサギみたいな人が僕の家族だなんて嬉しいな、って。
まぁ、お兄ちゃんは照れてるみたいだけど、でも、ちゃんと僕のこと家族だって認めてくれてるから、それでいいんだ。

今回の戦いで、僕はお兄ちゃんがいてよかったって、もっと思ったよ。
僕や皆のために、ちょっとかっこ悪いところもあったかもしれないけど、必死に戦って、助けてくれた。

お兄ちゃんは、僕にとってのヒーローなんだ。
他の誰でもない、僕だけのヒーローで――僕のたった一人の、大切な家族だよ。

……え? うん、そうだね。よかったよ、ホントに。……ね、これ、皆に見せるんだよね?
じゃあ、僕からのメッセージを残させてもらってもいいかな? うん、ありがとう。

――ええと、皆、久しぶり。皆には、たくさん言いたいことがあるけど、それは検査が終わってからにするよ。
たぶんそんなに時間が空くってことはないと思うし。
だから、一つだけ、言いたいこと言うね?

皆、ありがとう。チームラビッツっていう居場所がなかったら、僕はきっとここまで頑張ってこられなかった。
皆がいてくれたから、僕はずっとずっと、ヒーローになるために進み続けることができた。ヒーローになれた。
でも、だからってヒーローになったのは僕だけじゃない。僕たちチームラビッツ、皆がヒーローになったんだ。

だから、ありがとう。一緒にヒーローになってくれて。検査が終わって、自由になれたら、アサギお兄ちゃんの部屋に皆でまた集まろう。
それで、ケイのやたら甘いケーキでも食べて、たくさんたくさん話をしよう。

――待っててね。なるべく早く、戻るから。皆がいてくれる、僕たち全員で帰るところに。




――そこで、映像の再生は止まった。

スターローズⅡ、彼ら、チームラビッツが集まるいつもの場所にて。
部屋の主である青年――アサギは、ゆっくりと映像を再生するのに使っていたデバイスのスイッチを切る。
部屋の中心に位置する、その小さなデバイスを置いた、大型の丸テーブルの周りには、アサギの所属するチームの仲間である少年少女たちが、彼と同じように座っている。

彼らは、それぞれに思うところのあるような表情をして、じっとデバイスを見つめていた。

この映像記録を送ってきたのは、青年の搭乗する機体の整備クルーの一人である、顔馴染みの少女であった。
つい最近まで、アサギたちは軍人として、地球を守るための大きな戦いをこなしたのであったが、その戦いの中で、アサギの弟は、様々な事情があって身体に大きな異常を来たしていたのだった。

戦いも終わり、落ち着いてから、彼は何度も精密な検査のために仲間たちから離れてちょっとした入院生活をしているのである。
仲間として、アサギたちも何度か見舞いに行こうとはしていたのだけれど、ザンネンなことに、敵の残党が完全にいなくなり、戦いが完全に終わったと判断されるまでの間は警戒任務に就かなければならなかった。

せめて通信装置を使って少しばかり話を、と彼らが考えたところで、ある提案が、アサギの機体の整備クルーの少女から出たのである。
通信で少し話をするくらいなら、入院生活で退屈しているであろう彼のために、いつでも何度でも仲間たちの姿を見ることができるように映像記録を送ったらどうだろうか、と。

その提案はあっという間に名案として採用され、少女にいくつか映像を撮影してもらい、彼らはそれを見舞いとして渡してもらったのである。
そして、先ほど流れたのは、入院中の彼――イズルから、返事として受け取った映像だった。

「…へへ、イズルのやつ、思ったよりも元気そーじゃん」

軽い調子で、仲間の一人、スルガが口を開く。
その声色は、軽口とは裏腹にほっとしたような様子だった。

「うんうん、一緒に送った塩辛効果なのらー」

それに続くように、今度はタマキがしたり顔で頷いた。

「いえ、塩辛はどうでしょうか……」

彼女の発言に同意しかねるようにアンジュが被せる。
それから、やはり前の二人のように、若干の喜びの見える表情のまま、

「ですが、イズルさんは相変わらずのようで、その、よかったです」

と言葉を締めた。

「そうね。よかった…」

アンジュの言葉に、ケイがとても大切なモノを眺めるような目で、デバイスに視線を落とすと、軽く息を吐いた。
映像が再生されるまでの間、どこか落ち着かない様子でいた彼女であったが、こうしてイズルの普段通りのような姿を見ることができて、安心したのだろう。

アサギはケイと同じようにデバイスに目を移して、それから、ぐるりと仲間たちを見回してみた。

最初の頃は、誰一人として知らない、赤の他人だった彼ら。
それが今は、こうしてここにはいない一人のことについて、それぞれの考えの中、一緒になって想っている。
何だか不思議な感覚だな、と彼は感慨深げに思う。

初めて会ってから少ししたときは、彼らとはきっと仲良くなどなれないと思っていた。
まとまることもなく、互いに重たい空気のままに、共に戦場へと行くのだろう、と。

しかし、結果はまったく違った。
皆に影響を与えた、彼がいたから。

「イズル……」

その名を口にしながら、アサギは思う。

今になると、よく分かる。
イズルが――弟がいたから、ここまで皆来れたのだ。

とんちんかんで、どこか危なっかしくて、頼りないところもあるけれど。
それでも、イズルは皆を引っ張ってくれた。

そして、自分を見つめなおすきっかけをくれた。

昔は、皆のヒーローになりつつある彼を羨み、少しの妬みを感じることもあった。

今は、違う。自分にしかできないことがあることを知ったから。自分にとって守りたいことが、存在ができたから。

皆のヒーローになるのではなく、大切な家族のヒーローになる。
たった一つの、自分だけにしかなれない、自分だけの目標ができたのだ。

弟が――イズルがいてくれてよかった。そう、彼は思った。

と、そう考えているうちに、仲間たちはさらに話を続けた。

「ったく、イズルのやつ、早く戻って来いよなー」

「そーそー。こっちだって言いたいことがたくさんあるのにー」

「来週には検査は終わるそうですから……迎える準備をしないといけませんね」

「私、とりあえずケーキ焼くわ。イズル、食べたいみたいだし」

「や、食べたいとは別に言ってないよーな…」

「何か?」

「何でもないです……」

仲間たちの平和なやり取りを眺めながら、アサギは小さく微笑んだ。
赤の他人から、戦友、そして――『家族』になった彼ら。
そんな彼らのいる風景に、弟が入ってくる光景を思い浮かべて。


イズル、皆もお前に会うのを楽しみに待ってる。早く帰ってこい。
お前は、皆のヒーローで――俺たち皆の『家族』なんだから。

おしまい。今年もどうぞよろしくお願いします。
ではまたいつか。

お久しぶりです。また始めたいと思います。

先輩の先輩と先輩と後輩

スターローズⅡ――食堂

キャスター『――次のニュースです。本日、日本時間で午後一時の会見にて、謎多き侵略者たち、ウルガルとの戦争が終結したことがGDFより公式に発表されたました』

ピッ!

キャスター『――敵の残党に対する警戒はまだ解けてはいないとのことではありますが、長かった戦いにも終わりが見えてきたようです』

ピッ!

キャスター『――今回の戦いの一番の功労者であるMJP機関、その中でも大きく勝利に貢献したチームラビッツに対し、環太平洋・インド連合は勲章授与を発表し――』

プツッ!

スルガ「あーやめやめ。ったく、どこも同じことしか言ってねーや」

タマキ「ねーねー、くんしょーっていつもらいに行くのー?」グデー

ケイ「さぁ…そのうちスズカゼ艦長かペコさんが教えてくれるでしょ」

イズル「こうやってニュース眺めてると、ホントに終わったんだー、って感じするね」

アサギ「実際はこれからの方が忙しいと思うけどな」

イズル「へ? 何で?」

アンジュ「勲章授与に始まって、いくつかの式典などに引っ張りだこになるんじゃないでしょうか」

スルガ「あと、あれな、よその経済圏は間違いなくこっちの技術に探りを入れてくるだろうから、それに対してある程度スケープゴートにされたりとか」

アサギ「事実、近い将来にグランツェーレの方に何人か交換留学生を送る、って話になってるらしい。俺たちでその連中の相手をして、適度に技術の流出を防ぐんじゃないか?」

アンジュ「一番アッシュの技術に近いですからね。パイロットである私たちがそういう人たちの相手をすれば、多少は向こうも納得するでしょう」

スルガ「で肝心の技術には近づけないでおく、と」

イズル「ふーん…なんか、大変そうだね」

アサギ「一応だけどお前がリーダーなんだからな? 先陣切って矢面に立つのはリーダーのお前だぞ」

イズル「あ、そっか」

スルガ「ホントに大丈夫なのかねー、コイツで」フー

タマキ「そーいうのスルガの方が向いてそうなのらー。ほら、いつもの早口でてきとーにアッシュの説明でもしてさー」

イズル「確かにそうかも」アハハ

ケイ「…ま、まぁ。今はいいじゃない、そんないつかも分からない将来のことなんて。こほん、そうだ、これ私の新作ケーキなんだけど…」ガサゴソ

アサギ「お、俺は遠慮しておくよ…もう食えないし」

スルガ「お、俺も…」

タマキ「もー塩辛でいっぱーい……」

アンジュ「わ、私も、ですかね…」

イズル「あれそう? じゃ、僕はいただこうかな」

ケイ「そ、そう? せ、せっかくだから皆に食べてもらおうと思ってたんだけど、そういうことならしょうがないわねええ。はい、イズル」

イズル「うん。いやぁ、前よりもなんていうか、ケイのケーキ美味しくなったよね」ニコリ

ケイ「本当? それならよかったわ」ニコニコ

スルガ「(アイツどうしちまったんだ? 前は食べられはしても俺たちくらいにはしんどそーだったのに…)」コソコソ

アンジュ「(突然変異なんじゃないでしょうか? ほら、身体の異常がまだ治まっていないとか…)」ヒソヒソ

タマキ「(イズル、まだビョーキなのら?)」コソコソ

アサギ「(お前らウチの弟を何だと思ってんだよ…)」コソコソ

イズル「うん。あまーい♪」モグモグ

ケイ「それはそうでしょ、ケーキなんだから」クスクス

アサギ「(……まぁ、いいんじゃないか? 本人は問題無さそうだし)」

スルガ「(ま、それもそうか)」

???「あ、先輩方ー!」

アンジュ「あ、皆…」

アン「や、アンジュー」

クリス「ど、どうもっす…」

ユイ「こ、こんにちは…」

セイ「お、お疲れ様です、先輩方」

アサギ「ああ、君たちは確か…」

アンジュ「チームフォーンですよ。元々は私もいたチームです」

ユイ「そ、その、ご一緒させていただいてもよろしいですか? ちょうど私たちもお昼休憩でして…」

スルガ「もちろん! ここ空いてるから座るといいぜ! ほら、せっかくだし同じ型の砲戦機体を扱う先輩としてのアドバイスを…」ヘヘヘ

ユイ「あ、アサギ先輩、よろしければお隣いいですか? フォワードについて、いろいろとお伺いしたいことがありまして」

アサギ「え? あ、ああ。いいけど」

スルガ「あ、アーサーギィィィィ……」グヌヌ

タマキ「そんな見え見えの態度取るからなのらー」クスクス

クリス「タマキ先輩、お隣失礼します!」

タマキ「んー、えっとー」

クリス「クリス・ソルフェーノです! 前にも話しましたけど、よければ今度一緒に飛んでもらえませんか?」

タマキ「えー、別にいいけどー」

クリス「やったー! じゃあ細かい日時は…」

???「あらら、さっそくナンパってわけかしら?」

タマキ「あ! パトリシアさん!」タタッ

パトリシア「あらら、タマキちゃん。熱烈ねー」ギュー

クリス「……」

チャンドラ「まぁ、そうガッカリするなよ。あの子、自分に向けられる感情に疎いんだ」ポン

クリス「…うっす」

アンジュ「あ、チャンドラさんたちも。休憩ですか?」

チャンドラ「ああ。量産アッシュ部隊にようやく警戒任務が引き継げてな。やっと地球に降りれるよ」フッ

アサギ「ああ、そうか。チャンドラさん、婚約者さんに会いに行くんですね?」

チャンドラ「まぁね。落ち着いたことだし、そろそろ身を固める頃だと思ってね。その話をしに行くのさ」

アンジュ「なるほど」

セイ「あ、あの。イズル先輩、ケイ先輩」

アン「こんにちは、イズル先輩、ケイ先輩!」ニコニコ

イズル「あれ? あ、君たちは確かこないだの…」

ケイ「」ムムッ

セイ「セイ・ユズリハです。あの、お隣、いいですか?」

アン「アン・メディクムです! 私も隣いいですか?」

イズル「うん、いいよ」

ケイ「……まぁ、どうぞ」

イズル「あ、そうだ。君も食べる? ケイのケーキ」

セイ「え、いいんですか?」

イズル「もちろん。僕一人じゃ余っちゃうし。ね、ケイ?」

ケイ「…イズルが、言うなら。はい」

セイ「あ、ありがとうございます」

イズル「アン、さんもどう? ケーキ」

アン「あ、いえ! 私はエンリョしておきます…」アハハ…

イズル「そう?」モグモグ

アン「」ジー

イズル「? どうかした?」

アン「いえ。憧れの先輩に会えて感激してるんです」

ケイ「憧れ?」

アン「はい! こないだのグランツェーレ防衛戦も、ちょっと前の戦いでも、イズル先輩の戦ってる姿、すっごくかっこよくて! 私、すっごく憧れてたんです!」

イズル「ホント? 何か嬉しいなぁ」アハハ

ケイ「よかったわね、イズル」ニコリ

イズル「うん」

アン「イズル先輩にはいろいろと教えてほしいこと、たくさんあるんです! よかったら後でお話を…」

イズル「え? まぁいいけど」

ケイ「! ……」ムムッ

アン「やった! じゃあ、後でご連絡しますから! …アンジュー!」タタッ

イズル「あはは、元気な子だね」

ケイ「そ、そうね…」

セイ「…やっぱりケイ先輩のケーキはうまいなぁ」モグモグ

イズル「あ、分かる? やっぱり君もそう思うよね」

セイ「これでもかというほどの、脳を突き抜けるような甘さが実にいいです」

イズル「そうなんだよね。前よりもずっとすごくなってるんだよ」

ケイ「……そう」

セイ「あ、あの」

ケイ「何かしら?」

セイ「お、俺。同じコントロールの機体を扱ってて、それでその、ケイ先輩には前から憧れてて、ええと、その、感激です」

ケイ「…そう」

セイ「は、はい。そうなんです…」

タマキ「気にしなくていいのらー、ケイってばすっごい人見知りさんだからー」

ケイ「た、タマキ! そういうのは言わないでよ」

イズル「あはは、確かに、ケイって初めて会ったときはすごいぶっきらぼうだったよね」

ケイ「い、イズルまで……」

セイ「い、いえ。大丈夫です。その、ただ、感激したってことだけ言いたくて」

ケイ「……ケーキ、まだあるけど、その、食べる?」

セイ「は、はい! 喜んで!」

イズル「うんうん。あ、僕も食べるよ」

アンジュ「それで? 言いたいことは言えた?」

アン「うん! イズル先輩っていい人なんだねー」ニコニコ

スルガ「イズルがいい人ねぇ」

タマキ「ただの天然ボケなのにー。どこがいいの?」

アン「えー、優しくってかっこいいじゃないですか」

アサギ「かっこいい、ねぇ」

アンジュ「まぁ、アンは感性が独特なところがありますから」

ユイ「確かにそうね」

アン「えー二人ともひどくない?」

チャンドラ「まぁしかし、イズルもリーダーとしてはだいぶ成長したものだな」

イズル「え、そうですか?」

スルガ「あー、確かに。前に比べりゃもうちょいリーダーっぽくはなったのかねぇ」

アサギ「最初の頃は皆勝手だったしな。今はイズルが中心でよくなったと思うけど」

タマキ「一番勝手だったアサギに言われたくないのらー」

アサギ「う……」

ケイ「ま、まぁ。とにかく、イズルもリーダーらしくなったってことじゃない」

アンジュ「そうですね。イズルさんはチームラビッツのリーダーですよ。間違いなく」

クリス「それって最初からそうなんじゃないのか?」

ユイ「そういう意味の言葉じゃないでしょ」

セイ「リーダー……」

イズル「? どうかした?」

セイ「あの、イズル先輩。リーダーって、どうすればいいんですか」

イズル「へ?」

セイ「いえ、その…今回の作戦、俺、敵を通さないように、って頑張ったけど、失敗しちゃって…どうすれば、もっとうまくいったのかな、って」

パトリシア「そんなに気に病むことはないわよ。今回の初陣だって、しっかり指示できてたと思うよ?」

セイ「そ、そうでしょうか」

チャンドラ「ああ。私とパトリシアで保障しよう」

イズル「うーん。リーダー……あ、そうだ」

セイ「は、はい」

イズル「これは、その、人から教えてもらったことで、僕の言葉じゃなくて悪いんだけど、でも、たぶん大事なことだから」

セイ「大事なこと、ですか?」

イズル「うん。――決断する、諦めない、仲間を信じる。これが、皆と戦う上で大切なことだよ」

セイ「決断する、諦めない、仲間を信じる…」

イズル「うん。これを教えてくれた人はね、とっても頼りになって、まさにリーダーって感じの人だったんだ。その人の言葉を信じて、僕は皆と一緒に頑張ってきた。君は、仲間のこと信じてる?」

セイ「それは…もちろん。皆、それぞれ操縦技術は高いし、連携だって…」

イズル「じゃあ大丈夫! 君はきっといいヒーローになれるよ」

セイ「え? ひ、ヒーロー、ですか?」

イズル「うん! だって、僕もヒーローになれたからね!」

アサギ「ヒーローになってどうするんだよ。その子はリーダーになりたいって言ってんだろ」

イズル「あれ? あ、そっか」

スルガ「まったく、やっぱリーダーとしちゃまだまだだねー、ウチのヒーローは」

タマキ「ホントなのらー」

チャンドラ「決断する、諦めない、仲間を信じる、か」

パトリシア「? どうかした? チャンドラ?」

チャンドラ「いや。このチームの前のリーダーは、ガッカリなだけではなかったらしいことが分かって、な。少しだけホッとしたよ」

パトリシア「……ああ、そういうことだったの」

イズル「ええと、まぁ、とにかく。これからも頑張ってね!」

セイ「…はい。俺、イズル先輩に負けませんから」

イズル「へ? …そっか。君もヒーローになりたいんだね! 僕も負けないよ!」

セイ「いえ、あの、そういうことじゃなくて…」チラッ

ケイ「……あの、ホントにいらない? 結構自信作なんだけど…」

ユイ「い、いえ。私、今お腹いっぱいで…」

パトリシア「あら、じゃあ私がいただこうかな♪」

タマキ「ぱ、パトリシアさん! それより塩辛一緒に食べる約束だったのら!」

イズル「? ケイがどうかした?」

セイ「い、いえ。何でもないです」

チャンドラ「…ふむ、新しい世代、か」

アサギ「どうかしましたか?」

チャンドラ「いや、この先も地球は心配なさそうだと思ってな。正直、君たちのような存在が出てくるまで、私たちくらいしかまともに戦える人材がいなかった頃を思うと、不思議な感覚だよ」

アサギ「…でも、まだまだチャンドラさんみたいな先輩がいないと。俺たちも、後輩なんてどうすればいいか分からないですし」

チャンドラ「ああ、いや、引退しようってわけじゃないんだ。ただ、イズルのようなやつがいて、よかったと思ってね」

アサギ「そう、ですね。アイツがいたから、俺たち、ここまで来れましたから」

チャンドラ「願わくば、イズルにはあのガッカリリーダーのように、あとから来る者たちを引っ張ってほしいものだ」フッ

アサギ「ええ。きっとできますよ、イズルになら」フッ

イズル「お兄ちゃん! ケイのケーキ一緒に食べない?」

パトリシア「ううっ…チャンドラー、ちょっと助けてー」ウヘー

タマキ「だから言ったのにー…」

チャンドラ「ご指名のようだぞ? お兄ちゃん?」

アサギ「チャンドラさんまでそれはやめてください…ああ、食べるよ。……ちょ、ちょっとだけ、な」

チャンドラ「……」

ラビッツ「」ワイワイ

フォーン「」ワイワイ

チャンドラ(見てるか、ランディ、パトリック。俺たちだけで頑張ってきたあの頃とはだいぶ変わったぞ。だから、安心して休んでいることだ)

パトリシア「チャンドラー……」

チャンドラ「ああ、今行くよ。…まったく、ただのケーキで何をそんなに……」ヤレヤレ

おしまい。レンタルの方は知りませんが、劇場版マジェスティックプリンス、ブルーレイ発売おめでとうございます。
劇場では見れなかった方も今頃劇場で見てきた人たちと同じ興奮を味わっていることだと思います。
では、またいつか。よければまたネタふりしていただけるとありがたいです。

どうもお久しぶりです。また始めようと思います。

目の前で敵の機体が激しい明滅と共に大きな爆発音を響かせ消失したその瞬間、私は思わずブリッジの席で立ち上がっていた。

圧倒的な戦力を以て、直属の部下である教え子たちを苦しめていた敵だった。
今行われた、決死の一撃で本当に倒せたのか、教え子たちは無事だろうか、といろいろな要因で焦っていたのだ。

戦場の中継映像が爆発で埋まっていたのが一転、見慣れた富良野の青空に変わってから、やっと私は呆然と映像を見守っていたところから意識を戻し、オペレーター二人に声を掛けた。

「敵は?」

「……反応、消失しました。グランツェーレに敵の残存戦力は確認されません」

「……こちらもチームフォックスから入電です。宇宙の残党の方も片付いた、と。センサーにも敵の残存戦力は確認されていません。……勝利、ってやつですね」

私の質問に、オペレーターたちはそれぞれに答える。
それから、立ち上がった私に向かって、何やら言いたげに意味深な微笑みを浮かべた。

「やったわね、リンリン」

その意味を考える前に、隣からレイカが喜びの声を上げる。
そうだ。まさしく今、これまで長く続いた戦争の、ちゃんとした終局を、私たちは目の前にしているのだ。

「ええ……っ、チームラビッツは?」

レイカに頷いてから、私ははっとしてもう一つのことを尋ねた。
敵がいなくなったことはいい。教え子たちは、彼らは無事なのだろうか。

すると、ジュリアーノは笑みを崩さないまま、何でもなさそうにあっさりと答える。

「全員の生命反応が確認できてますよ。何なら通信も繋ぎますか?」

「……そう」

その言葉にようやく私は力を抜くと、そのまま脱力感と共にすとんと席に倒れこむように座った。

……皆無事で、本当によかった。

安堵感やら達成感やら、生徒たちの成功への誇らしさなども感じつつ、私は大きく息を吐いた。
アサギの撃墜、まだまだ体調の万全ではないイズルの出撃、もはや打つ手の無いような状況の、ギリギリの賭けのような攻撃。
正直、気が気でなかった。

「ふふ、よかったわねー、リンリン?」

「え、ええ……?」

何故か少し、というか大いにからかうような笑みを浮かべて、レイカは私の顔を覗き込んだ。
戦いに勝って、笑みを浮かべるのは分かるけれど……さっきから何故、このブリッジクルーたちは私に意味深な笑顔を見せるのだろうか。

と、そう思っていると、レイカは続けてこう言った。

「帰ったら抱きしめてあげたらー? もう、そんなに心配しちゃってさー」

「そうですねぇ。それがいいんじゃないですか? 何というか、母親みたいで」

「おいおい、そう言ってやるなよ。スズカゼ艦長は本気で心配していらしたんだぞ?」

レイカたちの声を聞いて、ようやく彼らの、私に対するおかしな様子の理由に気付いた。
さっきから私が、生徒たちに対して思い切り私情を態度に出していて、それがおかしかったのだ。

イズルが出撃する時に、私、何て言った?
私情に流されないように? それはどの口が――

その事実に気付いた途端、私は急激に顔の辺りから頭のてっぺんまで熱を感じて、言葉に窮した。
たぶん、とんでもなく人に見せられないような顔をしていたことだろう。
恥ずかしさのあまり、目尻に少しの水分を感じてしまった。

とはいえ、黙っているわけにもいかない。

「――あ、あなたたち! 私は上官なんだから、からかうのはやめなさい!」

とりあえずどうにか口を突いて出てきたのは、そんな言葉だった。

「はーいスズカゼ艦長ー」

「いやはや失礼しました、つい艦長の様子につられてしまいまして」

「すみません。勝利の喜びで口が滑ったんでしょう。見逃してください」

やれやれ、と言わんばかりに彼らは私にテキトウな調子で答えを返すと、それぞれに仕事に戻った。
ここで言い返すと何だか負けた気がしてしまい、私も何も言わず、状況を改めて確認する。

作戦は終了。とにもかくにも、終了したのだ。これからは事後処理の時間。
まずは現場の確認を――

と、そこですべきことを考え、私は指示を飛ばした。

「チームラビッツに連絡は取れるかしら?」

「はい。他の機体は覚醒状態の消耗が激しく装備に問題がありますが、レッドファイブの通信はまだ生きています」

「では繋いで」

「了解しました。画面、出ます」

オペレーターたちはすっかり仕事をする顔に戻り、私の命令に従い、彼らのリーダー――イズルへと通信を繋ぐ。
少しの間を置いて、モニターに先ほど問答をしたばかりの少年が、明るい笑顔で現れた。

『こちらレッドファイブ! ゴディニオン、聞こえますか?』

屈託の無い笑みだった。まるで体調が万全ではないことを窺わせない、彼らしい。
そのことに内心でまた軽く息を吐きながら、私は答えた。

「こちらゴディニオン。レッドファイブ、そちらの状況を――何?」

と、そこで隣からレイカに肘で突かれて、言葉が途切れる。
見ると、彼女は呆れたような顔をしていた。

「まずはちゃんと褒めてあげなさいよ。リンリン、堅苦しすぎ」

「何言ってるのよ? 今はまだ作戦行動中なんだから――」

「いいじゃないのよ、ちょっとくらい。もう戦いは終わったんだしー。イズルちゃんだってさー、少しはリンリンに褒められたら喜ぶわよ?」

レイカの非難するような細まった目を見つめながら、私は反論しようとして、言葉に詰まった。
いくらでも返す言葉はあるのに、不思議とそれが喉元から出てこない。

『? 艦長? スズカゼ艦長?』

私の返答が途切れて、イズルが不思議そうに首を傾げているのが横目でチラリと確認できた。
レイカはもう一度、私の脇を肘で突くと、小さくウィンクした。

……わ、分かったわよ。言えばいいんでしょ、言えば。

イズルの無事、作戦の成功、私情を挟まないように、イズルの無事……様々な言葉がめくるめく葛藤と共に、私の脳内を駆け回るのを感じながら、私は、こほん、と咳払いを一つした。

『艦長?』

「な、何でもないわ。全員、無事ね?」

『はい! 僕、今度は約束を守りましたよ!』

私の質問に、イズルは誇らしそうに、嬉しげな笑みを向けてくる。
その姿はまるで、母親にいいことをした、と褒められた幼い子供のようだ。
そんな彼の純粋な反応に、私は、なおさら彼を褒めなくてはならないな、という気持ちに駆り立てられてしまった。

「そ、そう。……その、イズル」

『はい?』

私の呼びかけに、イズルはどうしたんだろう、というように、私のどこかおかしな様子に感づいているのか、怪訝な声を上げる。

……言え、言うのよ、スズカゼ・リン。これくらい、簡単なことでしょう。ちょっと二、三言、告げるだけでいいんだから。

伝えたいことを、どう表現するか必死になって頭を捻る。捻りに捻って、そして。慣れない言葉を、口にした。

「――よく、やったわね」

たった一言だけ、漏らすように告げた。
頭の中ではいろいろと考えていたのに、出てきたのは、そんなシンプルな言葉だけだった。

また顔が熱くなってきたように錯覚して、私は顔をイズルから背けた。
逸らした方向では、レイカが笑っている。
さっきのようなイジワルな笑顔ではない。眉尻を下げて、見守るような温かな笑みを浮かべていた。

そして、言われた方のイズルはといえば、

『え? ……ええっと、ありがとうございます!』

特に私の葛藤など知る由もなく、彼は、ただ言われた言葉を素直に受け止めて、満面の笑顔でこちらを見ていた。

……その真っ直ぐさ、羨ましいわ。

そう思いながら、私は少しだけ心が落ち着いてくると、こほん、ともう一度咳払いした。
ここからは、ちゃんと仕事をせねばならない。

イズルにいくつかの指示を出してから、チームフォックスにも命令を与え、ラビッツととりあえず合流させることにした。
その間に、グランツェーレの方にも通信を繋ぎ、同期のスギタに若干の八つ当たりじみた説教と、それから事後処理の相談をした。
さらにはGDFで現場の指揮を取るアマネ、MJPの司令であるシモン司令にも連絡をし――

「……では、これよりゴディニオンは向かっているスターローズⅡとの合流をします」

『ああ。合流後はチームラビッツ、およびチームフォーンのメディカルチェックをまず行うように』

シモン司令との通信を終え、私はそこで肩の力を抜いて、座っている席に身を預けた。
これで、とりあえずは一通りの連絡は終えたはず。

「おつかれ、リンリン」

「ええ……」

労うレイカの声に、雑な返答をしながら、私はぼうっと艦のモニターを眺める。
いろいろと連絡を取っている間に、どうやらチームラビッツたちが宇宙へと上がってくるようだ。
他にもいくつかの情報が映っていたけれど、私の目はその情報から離れないでいた。

「そろそろウサギちゃんたち戻ってくるって。見に行きましょ?」

「いや、まだ事後処理が……」

レイカの誘いに乗りたかったのは事実だけど、まだまだやるべきことがたくさんある。
今回の作戦の被害の確認、補填、それから――

「残りは事務仕事ですよ、それぞれ数字が出るまでまだ時間はあります」

「ちょっとした計算なら、我々だけで十分です。出てきた数字に対する行動は、艦長の仕事ですけどね」

と、気遣うような調子で、オペレーター二人がそれぞれ連携して声を掛けてくれる。

「いや、しかし――」

「いいじゃないの、ここはありがたく任せなさいな」

「レイカ……でも」

諭すようなレイカの言葉に、私は反論しようとした。
しかし、それよりも早く、彼女は私の唇に人差し指を押し当てると、片目を閉じた。

「それにさー。そんなそわそわした様子で仕事なんて、手につかないでしょ? ここは一回、ウサギちゃんたちに会って、落ち着きなさいって」

「う……」

見抜かれていたか、とぎくりとしながら、私はそっと目を逸らした。
逸らした先で、オペレーター二人が親指を立てていた。……どうやら、皆お見通しらしかった。

「……お願いね、ジュリアーノ、ジークフリート」

素直に負けを認めると、私はゆっくりと立ち上がった。
隣ではレイカが、それでよろしい、と言いながら、先にブリッジから出て行く。

オペレーター二人の、行ってらっしゃい、という声を背に、私もそれに続いた。




スターローズⅡに合流した艦から出ると、私とレイカは格納庫へと向かった。

イズルに関しては、レッドファイブプラスの大気圏突入能力のテストと整備も兼ねて、彼だけ機体で宇宙に上がってもらったが、他のチームのメンバーはそうはいかない。
イズル以外の機体はボロボロになっていたし、一部を除いて宇宙に上がることはできないので、彼らはシャトルを使って地上からスターローズⅡへと合流する手はずになっていた。

まだ新造のスターローズⅡには軌道エレベーターもなく、当然のことだった。

そして、そんなスターローズⅡの格納庫は、私とレイカが辿り着く前に、大盛況だった。
どうやらピットクルーたちが、無事に帰ってきた彼らを温かく出迎えているらしかった。

格納庫の外からでも聞こえる元気な声に、私はぽつりと感想を述べた。

「……皆、嬉しそうね」

「当たり前でしょー。あの子たちは、家族みたいなものなんだから」

「家族、か……そうよね」

入口の隔壁の前で立ち止まって、私はその言葉の意味を深く考えようとした。
あの子たちに本当の家族など、例外を除けばいない。だけど、こうして迎えてくれる人々がいる。

私には、ああやって温かく迎えるようなことは、きっとできないだろうな。

……と、いろいろと頭に考えを浮かべたけれど、特に意味はない。
単に、温かく盛り上がっている空気の中に、今さらになって踏み込むのがちょっと躊躇われただけだ。
これまで厳しく接してきた私が、あんな風にできるのだろうか、と。

しかし、そんな私の考えなどお見通しなのか、レイカが私の肩を叩く。

「ほらほら、リンリンも混ざりに行きましょ」

「ちょ、やだ、押さないでよ」

とん、と背中を押されて、私は若干のつまずきを感じながら、反応して開いた隔壁を潜り、彼らの前へと出た。

「あ、スズカゼ艦長!」

輪の中心にいたというのに、少年――イズルはあっさりと私の姿を人々の間から見つけると、すぐに近付いてきた。
それにつられるように、彼の仲間たち――アサギ、ケイ、スルガ、タマキ、アンジュ――皆が、嬉しそうに歩いてくる。

「あ……その、ええと……」

目前にやってきた彼らの姿を確認して、私は何か言おうと頭の中で言葉を作ろうとする。
が、どれも浮かんでは泡となって弾けて消えてしまい、どれ一つとして、発することができない。

どうしよう、言いたいことがたくさんあるのに。何も喋れない。
心の中で勝手に混乱しながら、私はただ前を見ていた。
目の前では、私の生徒たちが、私が何を言うのか、と言葉を待っていた。

その様子を見て、なおさら混乱が増していく。
落ち着け、と必死に冷静になるように自分に呼びかけても、まったく効果がない。

「――んもう、もどかしいんだから!」

え。

突然に衝撃を背中に感じて、私はまた、前へと押し出された。
チラリと後ろを見ると、両の手を無駄に大きな胸の前で突き出している、親友の姿が確認できた。
しかし、その認識も一瞬で。

「わ、艦長、危ない!」

と、イズルの声が、すぐ近くで聞こえた。
それと同時に、飛び出した私の身体に、一つの感触がした。
床ではない。温かくて、少しだけ硬かったけど、柔らかい感触。

――人間の、感触だった。

「あ……」

勢いで投げ出された腕が肩を掴み、そこに身体が預けられる。
頭がポスン、と埋まってしまう。誰のなんて、考えなくても分かる。
収まったところから顔を上げてみれば、心配そうなイズルの顔があった。

「ご、ごめんなさい。ありがとう」

言いながら、私はイズルの顔を見上げた。
たぶん、私は眉を寄せて、困ったような顔をしていた。

……レイカ、後で覚えときなさいよ。

そう思った私は、しかし、先ほどまでの混乱が治まってきていることにも気付いていた。
……やっぱり、後でお礼を言おう。

それから、私は一度イズルの肩に乗せた手を離し、少し距離を取った。
イズルは苦笑しながら、私のことを、出撃する時と変わらない、真っ直ぐな瞳で捉えていた。

そうだ。イズルはずっと、真っ直ぐに行動してきた。
迷いも躊躇いも振り払って、ずっと。

なら、私もそうやって応えよう。

するべきことを認識し、私は決心すると、迷いなく行動に移った。

目の前の少年に、手を伸ばす。
今度は人の力なんかじゃない、自分の力で。

伸ばした手は肩を越え、背中に回る。
イズルはただ、私を見ていた。

私は背中に回した手に力を込めた。
この気持ちを、伝えるために。

そして――


私は、そのままイズルの身体を引き寄せ、強く、抱きしめた。

身体と身体が触れ合う。胸元からは心臓を伝わって、生命の鼓動が伝わる。
物理的な感覚だけではない。気配、と言うだろうか。

イズルがそこにいることを、私の身体は余すことなく伝えてくれていた。

周りにたくさんの人がいることも気にかけず、私は抱きしめた彼の耳元へと口を近付け、ただ、一言、告げた。

「――お帰りなさい、イズル」

なるべく私なりに優しく伝えたつもりだった。
何よりも言いたかった、大切な言葉を。

私の声を耳にしたイズルは、びくりと身体を少しだけ震わせた。
それから、ゆっくりと自らの手を伸ばして、私の背に当てて、同じように力を込めて引き寄せた。

「――はい、ただいま、スズカゼ艦長」

私の胸の中で、イズルがそう返したのを聞いて、今度は私の身体がびくりと震えた。
その震えは足元を伝わって、身体を上っていき、そして、脳へと到達した。

必死にその感覚を抑えようとしているのに、脳は聞いてくれず、むしろそれを助長していた。

目に、唇に。顔全体へと震えは伝わり続けて。

その感覚が、私の瞳から一筋の液体を、零すように流させていく。

それがいったいどういうことか、分からないわけはなかった。
しかし、今は。

私は誤魔化すようにイズルの頭に顔を埋めた。
今はただ、この温もりを確かめていたかった。

何よりも失うのが怖かった、大切な生徒の――

おしまい。映画でもリンリンはヒロインでありおかん枠でした。
それはそうと最近、残り三百レス近くが埋まる気がしなくなってきました。
もしかしたら急に終わるかもしれませんがそのときはそのときでお願いします。

ではまたいつか。

どうも。今日は若干遅れましたが季節ネタを一つ。

笑う門には福来る

スターローズⅡ――食堂

タマキ「待機任務飽きたー…いつまでここで過ごすのー?」グデー

ケイ「さぁ…上の人たちが必要ないって決めるまでじゃない?」

スルガ「機体が壊れちゃ困るからって特に訓練もなし、自主トレ以外はメシ食ってダラダラ過ごして…」

アサギ「勲章授与とかは決まったけど……それも結局、完全に戦いが終わったって宣言されるまではお預けだしな」

アンジュ「とりあえず、このまま戦いがないことを祈るばかりですね……」

タマキ「っていうかイズルはー?」

ケイ「検査ですって。まだ身体が本当に大丈夫かは分からないから」

スルガ「ふーん……お、噂をすれば」

イズル「皆、ただいま」

ケイ「お帰りなさい。どうだった、検査?」

イズル「うん。とりあえず今のところは大丈夫だって。…何の話してたの?」

タマキ「退屈ー、って話ー」

スルガ「特に何のイベントもねーまま、ダラダラ過ごすのに飽きてるっつーことだな」

イズル「ふーん…じゃあトレーニングでも」

タマキ「やーだー。もっと楽しいことがいいのらー」

アサギ「楽しいことねぇ……」

イズル「何かあるかな?」

シオン「おっす! なーにダラついちゃってんの?」

スルガ「お、お姉さん! ああ、戦いばかりで荒んだ僕の前に現れたお姉さんはまさしく、窮地の補給ぶっし!?」ゴーン!

シオン「はいはい……で、どーしたの? 我らが英雄、チームラビッツが、何をそんな悩ましげにしてるの?」

イズル「や、実は……」




シオン「ふーん…退屈ねぇ」

タマキ「何かないー?」

シオン「……」ウーン

アサギ「あ、いや、無理に付き合わなくても…」

シオン「そーだ!」ピーン!

タマキ「おお、なになにー!」

シオン「今日ね、日本だと節分の日なの。よかったら豆まきでもやらない?」

タマキ「ほえ? せつぶん?」チラッ

アンジュ「節分というのは、日本の特別な暦日のことですね。各季節、つまり春夏秋冬の前日の区切りの日を元々は意味していますが、今はだいたい立春の前日を指します」

アサギ「豆まきっていうのはあれだな、その日に行われる行事の一環で、厄払いの願掛けなんだとか」

ケイ「昔は、季節の変わり目に邪気が現れると言われていて、それを退治するためにいり豆を投げたのだそうね」

タマキ「ふーん…何で豆なのら?」

シオン「その昔、豆を使って悪い鬼を退治したっていう伝説があるんですって。ゲンかつぎみたいなものね」

イズル「へぇ…何だかおもしろそうですね! マンガにも使えるかな?」キラキラ

アサギ「それは分からないけど…まぁ、とにかくちょっとした願掛けみたいなモノだよな、無病息災とか、そんな感じの」

ケイ「それはいいわね。私、やりたいわ」

タマキ「ケイがそう言うならやるのらー。楽しそーだし」

スルガ「そういうことなら俺も」

アンジュ「わ、私もやります」

シオン「じゃ、決まりね。場所は……」

イズル「お兄ちゃんの部屋にしましょう! お兄ちゃん、今回だけでかなり悪い目に遭ってるし」

アサギ「おい!」

スルガ「確かにそれがいいや。アサギ、お前一回そういうのやっといた方がいいって」

タマキ「それもそうなのらー」

アンジュ「そうですね、アサギさんが一番ひどい目に遭いましたし」

ケイ「そうね…ついでに私たち皆の分も願掛けしましょう」

アサギ「お、お前らな…」

シオン「あはは、じゃあ決まりね。私、豆を持ってくるから。ええと、節分の準備は…」

アンジュ「あ、私がやります。多少知識はありますから」

シオン「じゃ、お願いね。後でー」タタッ

スルガ「……うし、じゃ行くか」

イズル「うん。…ようし、皆でお兄ちゃんの厄払いをしよう!」オー!

タマキ「おー!」

アンジュ「お、おー…」

アサギ「お前までこいつらに感化されなくていいからな、アンジュ……」イガー




スターローズⅡ――アサギの部屋

アサギ「……で? これは何だ?」

スルガ「何ってお前、鬼のお面だよ」

アサギ「んなこた言われんでも分かる。何で俺に被せたんだって聞いてるんだよ」

タマキ「アンジュがさっき言ったのら。誰か鬼役の人を用意して、豆をその人に投げる、って」

アサギ「それが何で俺なんだよ!」

イズル「や、だって、お兄ちゃんが一番運が悪かったわけだし」

ケイ「アサギが鬼になることで、その鬼を完全にアサギの中から追い払おう、ってことね」

アサギ「……何か、理不尽なんだけど」

アンジュ「あの、そういうことでしたら代わりましょうか?」

アサギ「い、いや、いい。さすがに後輩にやらせるのもな」

シオン「お待ちー。お、アサギくんが鬼役?」プシュッ

アサギ「はい…何かよく分からんうちに」

アンナ「アサギが鬼で大丈夫かー? すげぇヘマしそうな鬼だなー」

アサギ「あのう、何でこいつもいるのでしょうか?」

アンナ「シオンとそこで行き会ってさー。何か楽しそうだし」

シオン「いいじゃなーい。アンナちゃんにもアサギくんの厄を落としてもらいましょ?」

アンナ「おう! 私がアサギを災難から守ってやるぜ!」

アサギ「ははは……ドウモアリガトウ」

イズル「ええと、じゃあ、始めようか」




シオン「それじゃまず、鬼から!」

アサギ「が、がおー。鬼だぞー」

スルガ「アサギー、もっとやる気出せよー」

タマキ「そんなんじゃ迫力足りないのらー」

アンナ「そーだそーだー」

アンジュ「仮にも鬼なんですから…」

アサギ「あーうるせーな! 分かったよ! ……がーっ! 鬼だー! お前ら全員不幸にしてくれる!」

イズル「ようし、お兄ちゃんに巣食う悪い鬼は、ヒーローとして僕が退治するよ!」

ケイ「がんばって、アサギ! 私たちでアサギの悪い運をどうにかするから!」

アサギ以外「鬼はー外ー!」パラパラッ

アサギ「ぐわっ! お、おのれお前ら!」

タマキ「もっと投げるのらー!」

アサギ以外「鬼はー外ー!」パラパラッ

アサギ「いてっ、お、おい。もうちょい加減しろよ! …え、ええい、覚えていろ!」プシュッ

シモン「む?」バッタリ

アサギ「あ」

シモン「……」

アサギ「……」

シモン「……節分、か」

アサギ「」カァッ

アサギ「あ、あの、いえ、これは、その……」

イズル「あ、司令! 司令もご一緒にどうですか? 豆まき」

シモン「いや、遠慮しておこう。…ではな」カツカツ

スルガ「クールだねー司令は。……ん? どしたアサギ?」

アサギ「い、いや……も、もういいだろ、鬼は」

シオン「んー、そうね。じゃ、次は皆で部屋の中に豆をまきましょう」

タマキ「何で? 鬼にぶつけるんじゃないの?」

アンジュ「いえ。中にまくと今度は福を呼び寄せるんだそうです」

タマキ「ふーん…」

イズル「じゃ、まこうか。悪いことはなくなって、いいことが起きるように」

シオン「うんうん。じゃ、行くわよー」

全員「福はー内ー!」パラパラッ




シオン「いやーお疲れ様。久しぶりだわ、豆まきなんて」ポリポリ

タマキ「ねーなんで豆を年齢より一つ増やした数食べるのら?」ポリポリ

アンジュ「詳しくは分かりませんが、身体が丈夫になって病気しなくなるそうですよ」ポリポリ

イズル「へぇ……じゃあ僕、ちゃんと食べないと」ポリポリ

ケイ「そうね…あんなことが、もうないようにするためにも」ポリポリ

スルガ「願掛けはいーけどさー……豆十七個はけっこー飽きるな」ポリポリ

アサギ「そうだな…水が欲しくなる」ポリポリ

イズル「来年になったらもう一個増えるんでしょ? 三十歳くらいになったら大変そうだね」

アサギ「確かに…正直しんどいだろうな」

アンナ「めんどくさがらずに食えよアサギ! これだけで運がよくなるならいいじゃんか!」ポリポリ

アサギ「ホントに効果あるのかねぇ……」

イズル「ダメだよお兄ちゃん! せっかくアンナちゃんが心配してくれるんだから」

アサギ「はいはい…あとお兄ちゃんはいい加減やめろって」ポリポリ




テオーリアの部屋

テオーリア「ダニール、準備はよろしいですか?」

ダニール「は。問題ありません」

テオーリア「では…鬼はー外ー!」パラパラッ

シモン「……」パラパラッ

テオーリア「福はー内ー!」パラパラッ

シモン「……」パラパラッ

テオーリア「…ふぅ。これで終わりなのですか?」

シモン「はい。後は、豆を年齢に一つ足した数を食べれば」

テオーリア「まぁ。それだけでお腹が膨れてしまいそうですね」ポリポリ

シモン「そういう慣例ですので」ポリポリ

テオーリア「どうして急にこれを教えてくれたのですか?」

シモン「いえ……人がしているのを見かけて、思い出したものですから」

テオーリア「なるほど……誰なのか何となく分かりました」ホホエミ

シモン「……ご想像にお任せします」




イズル「来年もやろうね、豆まき!」

アサギ「とりあえず次は鬼役は勘弁してくれ…」

ケイ「そうね、アサギももう十分悪い運が落ちたでしょうし」

アンナ「えー、じゃあ次は誰がやるんだ?」

アンジュ「あ、じゃあ私がやりますよ」カブリ

タマキ「あはは、アンジュがやっても怖くないのらー」

アンジュ「……誰が怖くないって?」

スルガ「へ?」

アンジュ「おらおらお前ら! 鬼様のお出ましだ! おとなしく豆を寄越せ!」ウガー

イズル「うわっ、急に始まった!」

アサギ「鬼が豆を所望してどうすんだよ! っつかどこでスイッチ入ったんだ!?」

ワイワイガヤガヤ…

おしまい。勢いで思いついたままでした。
コタツを囲んで豆を食べてる子ウサギを思い浮かべてもらえば幸いです。
ではまたいつか。

どうも、お久しぶりです。始めたいと思います。

新宇宙暦八十八年。宇宙へと進出を始めた地球人類は、謎の侵略者ウルガルによって、未曾有の危機にさらされていた。
地球にはまるで存在しない圧倒的な技術を誇る強大な敵に対して、地球側は、ある禁忌へと手を染めて対抗を始めた。
遺伝子改造による、人体の強化だ。

私――パトリシア・ホイルは、その研究の一人として、生まれた後に肉体に手を加えられ、通常の人間よりも強化されて、現在地球の兵士として戦っている。
私と同じような人間はたくさんいて、MJP機関というところで養成された。
第二世代、と位置づけされるらしい私たちは、MJPの士官学校を卒業した後、全地球防衛軍――GDFに配属され、地球のために戦う兵士として日々を過ごしている。

が、私は今、少しばかり休養中だった。
最近行われた大きな反攻作戦――ケレス大戦、とか公式には呼ばれている――で、敵の弾に被弾し、ちょっとした怪我を負って、GDFの医療施設で治療に励んでいるところだ。

怪我のおかげ、というと、今も命がけで戦う仲間たちに申し訳ないけれど、とにかく、私はそういう理由で、危険な前線から遠く離れていた。
日々を治療とリハビリに捧げ、あとは精々が遠い戦地からの戦況報告を眺めているだけで、私は戦時中だというのに平和な時間を過ごしていた。

もちろん、個人的にはいい気分じゃない。しかしながら、ろくに動かない身体で戦場に出たところで、役に立つわけもない。
だから大人しく、私はひたすらに治療に励んだ。幸いなことに、私はまだ生きている。
これまで、過酷な戦いの中で、多くの仲間たちは私のように治療することもなく、死んでいったのだ。
無理をして彼らの仲間入りをしてしまっては、それこそいなくなった彼らに申し訳ない。

話が長くなってしまったが、とにかく、私は毎日毎日、施設のベッドの中で怪我からの回復を待ち続けていた。
歩けるようになってからは、身体を動かすようにいくらかリハビリを続けた。

たったそれだけの、特筆するようなこともない日々だったけれど、唯一、特別なこともあった。
弟との、通信だ。

弟といっても、大して年は離れていない。双子なのだ。
だから弟というのも少しばかり不思議だ。ちょっと生まれるのが早かっただけなのだから。
しかしながら、事実として彼は弟らしく私のことを姉として慕ってくれているし、私も、そんな彼を弟として受け入れている。

だから、まぁ特に問題はないのだろう。

弟も、私と同じくGDFで一士官として戦っていた。
同じGDFの中でも、エースチームとして活躍していて、その噂は私にもよく届いていた。
誇りに思える、いい弟だ。少しだけ天然で抜けてるところもあるけれど、優しい、本当なら戦いなんて無縁そうな子だった。

彼は入院している私を心配し、時間ができては通信をしてくれた。
その度に、私はまるで彼が見舞いに来てくれているようで嬉しくて、何もない生活にも少しの潤いというのか、味気というのか、そういうものが出ていた。

彼とは、様々なことを話していた。実家の両親のこと、弟の同僚で、先輩でもある二人のこと、戦いのこと。
いつもいつも、時間ギリギリになるまで話をした。
そこが唯一、戦時中でも存在した、大切な姉弟の時間だったのだ。

ある日、私は普段のように弟との通信を始めた。
今日も今日とて、また彼の日々のことを聞かせてもらうことになるのだろう。先輩たちとの何気ない会話や、最近遂行した作戦のこと。
そんな聞き慣れた話題で、姉弟二人、気軽に笑い合う。そう、思っていた。

しかし、その考えはまったく予想していなかった言葉で、裏切られた。
弟の、ある告白によって。

――姉さん、姉さん、聞いてる?

机に広げた端末の、画面越しに掛けられた声に、私は、はっとぼんやりしていた意識を向けた。
すっかり聞くだけに集中していたはずなのに、考え事に気を取られていた。

「ごめんごめん、えっと、もう一回さっきの聞かせて?」

謝りながら、私はもう一度同じ内容の話を通信相手の弟に尋ねた。
そもそも、弟の話の内容が意外すぎて、考え事に耽ってしまったのだ。

私の声に、弟は、しょうがないなぁ、と言いながらしかし、どこかその内容をもう一度告げられることを嬉しそうにすると、朗らかに告げた。

『ですから、好きな人ができたんです。僕』

やっぱり私の耳に聞き間違えは特になかったらしい。
そう思うと同時に、内心の驚きも少しは軽減されたようだ。
さっきよりは考え事に気を取られないで済んだ。

「……へぇ。どんな子? 年上? 年下?」

とりあえず興味を持ったので聞いてみることにした。
あの弟――パトリックが、恋だなんて。何だかふわふわした態度で、正直まだまだ幼い印象の弟だったけれど、もうそんなことを考えるようになったのだ。
いや、齢二十二にもなって、そんなの当たり前のことだとは思うけれど。
私も少しばかり、過保護が過ぎるのかもしれない。ちょっとだけ反省した。

そんな私の心境など知らずに、パトリックはそれを聞かれて、待ってましたと言わんばかりに語りだす。

『年下です。ええっと……七つ下かな?』

「へ? じゃ、十五歳?」

『はい』

「あんた、そんな年下の子がタイプだったっけ?」

『いやいや、年齢なんて関係ないですから! 僕が好きになった子が偶然年下だっただけですから! たとえタマキちゃんがものすごい年上だろうと、僕は彼女が好きになってましたよ!』

私の追及に、弟は急に慌てふためく。
その様子がちょっとだけかわいらしくて、私はこっそりと笑みを零した。

「よく聞く言い訳ねぇ……ま、いいわ。どんな子なの?」

私が改めて問うと、弟は嬉々としてその女の子のことを話す。

自分たちの後輩であること、最近パイロットとして正式にグランツェーレの士官学校から上がって、同じ兵士となったこと。
その子は噂のチームラビッツの一人らしく、何度か面倒を見てきてあげたこと。
そして、今は逆に助けられることもあって、その助けられたときに、惹かれてしまった、ということ。

相変わらず単純なんだから、なんて思いはしたけれど、彼が純粋にその女の子――タマキちゃん、というらしい――を本気で好いている、ということは彼の語り口から理解はできた。
ただただ弟の話を聞いていると、彼は更に、そのタマキちゃんなる人物への新たなアプローチの仕方を語りだした。

『それで、今度彼女の好きな物を取り寄せて、プレゼントするんです』

「ふーん。……ランディの入れ知恵?」

言いながら、弟の所属するチームの、軽薄なリーダーのことを思い浮かべた。
女のことは任せておけ、とかなんとか豪語してるけど、実際に彼がナンパに成功しているところをあまり見たことがない。

『違いますよ! 僕なりに、どうすれば喜んでもらえるか、考えたんです』

「そっか」

真剣なのね、と弟の気持ちを理解しながら、私は小さく呟いた。
男の子って、いつの間にかこうやって大人になるのかしらねぇ、なんて思いながら、嬉しいやら寂しいやら、私は特に返す言葉を見失ってしまった。

もちろん決して悪いことなんかじゃない。応援してあげたいくらいだ。
ただ、ちょっと感慨深いモノが、何となくあったのだ。

どう表現すればいいのか分からない感覚が、胸の中を渦巻いていた。
でも、まぁ。こんなご時勢に、そんな戦いなんかから遠い、普通の人みたいなことがあるのは、良いことに違いなかった。

「……ね、パトリック」

『はい、姉さん』

「こんな世の中だし、大変だけど……そのタマキちゃんって子。大事にしなさいよ?」

何か言おうとして口を開いて出てきたのは、そんな月並みな言葉だった。
でも、姉として言える、一番いい言葉だとも思った。

『はい! 今度、ちょっと大きな任務に出るんです。それが終わったらプレゼントしますから、結果はその後に報告します!』

弟は、はっきりとした口調でそれだけ言うと、一度ニコリと笑みを私に向けると、時間だから、と通信を終えた。
画面から弟の姿が消えても、私は特に動かず、瞼の裏に焼きついていた、告白をしたときの弟の表情を思い浮かべていた。

少しだけ恥ずかしげで、でもそれを口にするのが、言い表せないくらい幸せそうで。
見てるこっちまで幸せな気分になれそうな、そんな顔だった。

そういう弟が惚れたのだ。きっと、そのタマキちゃんという子はステキな子なんだろう。
そう確信して、私はそっと端末を仕舞って、リハビリ施設へと向かった。
いつか、そのタマキちゃんに弟から紹介される日に備えて、身体をしっかりと動かせるようにしないといけない。

がんばろう。そう、私は決意を新たにしていた。――パトリックの戦死の知らせが届いた、あの日まで。




弟の訃報が届いてから数日後、私はようやく完全に怪我の治療を終えていた。
しかし、その時には、既にウルガルへの一大反攻作戦が始まっていて、私は結局、蚊帳の外に置かれていた。

ただ何もできずに、私は宇宙の、新たに建設中だった宇宙ステーションの警護に当たりながら、地球側の勝利を祈っていた。
そして、その祈りが少しは届いたのか分からないけれど、作戦は成功し、地球は勝利した。

しかしその喜びを噛み締める余裕もないらしく、敵の残党を倒し、前線へと向かった部隊への補給をするため、私にある命令が下った。
その宇宙ステーション――スターローズⅡの、前線への移動に随伴し、護衛すること。
ようやく、私にも戦いに参加する機会が与えられたのだ。

任務の説明を受けるべく、私はできたばかりのブリーフィングルームへと向かう。
そこには、私と新たにチームを組む仲間がいた。
弟と同じチームに所属し、唯一生き残った、チャンドラという男だった。

――パトリシア、か。

彼は私の姿を確認すると、まっすぐに私を見つめてきた。
いつも冷静であった彼の瞳には、若干の揺らぎが見て取れた。
たぶん、昔からの知り合いじゃないと、気付けないくらいの。

私はそれにあえて触れず、彼にかける言葉を探しながら、話しかけた。

チャンドラ……その、ランディたちのこと、残念だわ。

いいんだ。それよりも、私こそすまない。君の弟を、私は……。

そう言うと、チャンドラは頭を下げた。
本当に申し訳なさそうに、深く、深く。
私は頭を下げる彼に、慌てながら言葉を返す。

いいっていいって。あの子だって、覚悟できてたはずだもん。それより、任務でしょ?

本当は、たぶん割り切れていなかった。
でも、取り乱している場合じゃなかった。そんな風にしてるくらいなら、弟が守ろうと頑張った意味を無駄にしないためにも冷静に戦わなくてはならない。
泣くなんて、後になっていくらでもできることだ。

チャンドラもきっと、同じはずだ。
これまでずっと共に戦ってきた仲間を失った、彼だって。
私だけ泣き言を言うわけになんか、いかない。

チャンドラは目を細めながらも、小さく頷いた。
私の気持ちを理解してくれたのか、それ以上はそのことについて何も言わなかった。

その後、私とチャンドラは、スターローズⅡの責任者であるコミネ大佐の指示を受けて、ライノスに乗り込んだ。
どうやら目的地では、例の残党の攻撃に前線部隊が遭っているらしく、彼らを支援するため、前線に到達すると同時に出撃することになっていた。

そして、出撃の時はすぐにやってきた。
機体の調子を確認すると、私はチャンドラと共に出撃する。

……さて、行こう。君は初めてだったな? チームラビッツは。

うん。ね、例の『タマキちゃん』がいるんだよね?

ああ。

そっか――楽しみだよ。

ただそれだけの、短いやり取りを終えると、私とチャンドラはスターローズⅡに随伴して噂のウサギたちを迎えた――




敵の残党との戦闘を他の部隊に引き継ぐと、私たちチームドーベルマンはすぐに別の作戦へと召集された。
今度は、地球の方へと敵が進軍し始めているらしかった。

急いで誰かが行かないと、地球が大変なことになってしまう。
私たちは、チームラビッツとの合同作戦の元、敵を迎撃することとなった。

そして、今。私はスターローズⅡのブリーフィングルームで、噂の彼女を含む、まだ見ぬ後輩たちが現れるのを待っている。

ちょうどいい機会でもあった。
実際に会ってみれば、きっと、パトリックがどれほどにその子に惹かれていたのか少しは理解できるに違いない。
せめて、弟の守りたかった人のことくらい、知りたい。

それが、残された私にもできることだと、そう信じていた。

落ち着くように心がけながら、私は待った。

いったい、タマキちゃんはどんな子なのだろう。私を見てどんな反応をするんだろう。
私にはまるで予想がつかない。それ故に楽しみなような気もしたし、少しだけ不安なような気もした。

しかし、そうやってそわそわする時間も、すぐに終わった。

シュッ、排気音と共にドアが開いて、私とチャンドラのいる部屋にメガネの男の子が一人、突然に入ってきたのだ。
彼は当初、部屋を軽く見回すと、私とチャンドラの姿を確認し――

「って、うわあっ!?」

私を見るや軽い悲鳴と一緒に、その場から逃げた。

「えー……」

思わぬ反応に私は不服を感じながら、チャンドラに視線をやる。
彼は私の視線を受けて、まぁ、察してやってくれ、とそんなことを言った。
気持ちは分からないでもない。死んだ人間(にそっくりな人間)が目の前にいるのだ。何も知らないと当然だろう。

……まさか、タマキちゃんにも同じ反応されないよね。

私はここにきて、嫌な予感を感じながら、もう一度、ドアの開く音を耳にした。
今度は、メガネの男の子以外にも何人かの子がそこにいた。

やっぱり彼らは驚いたような目で私を見ていた。
何なら、パトリックさん!? と声にまで出している。
まぁそうなるのか、と私は当たり前といえば当たり前の反応だと思いながら、一歩前に出て説明しようとした。
と、そのときだった。

「――――パトリックさーんっ!」

一人だけ、反応の違う声を、私は確かに聞き取った。
驚きはしても、それよりも、パトリックが生きていることが何よりも嬉しそうな、その声を。
そう認識すると同時、前に立っていた子たちを押しのけて、一人の女の子が前に出てきた。

もしかして、この子が――

私はすぐに直感した。きっと、この幼い印象の、人懐っこそうな女の子が、パトリックの――

そう思っているうちに、快活で、人の全てを明るく包んでくれるような甘ったるい声と共に、彼女は私の元へと、駆け寄ってきた。

誰よりも喜びを露にして、どんどん進んでくる彼女を正面に、私は迎えるように、小さく微笑んだ――

おしまい。

一つお知らせしたいと思います。
これまでたくさんのネタで書いてきましたが、次のネタで、おおよそ私が書きたいことが全て終わってしまいました。
ので、次の投下でこのスレを終了としたいと思います。
埋まるまでがんばると言っておいてこうなってしまい申し訳ない気持ちです。

早ければ今日のまた深夜にでも最後のネタを投下したいと思います。では、ありがとうございました。

どうも。若干のながらですが、最後の投下を始めたいと思います。

戦いが終わった。
僕たちが生まれた理由だった、戦いが。

生まれてから何もない僕だったけれど、長いような短いような戦いの中で、僕はいろいろな物を手に入れて、失って。

戦いの先に、僕は何を得たんだろうか。目指していた、ヒーローになれたんだろうか。
その答えを知るのは、戦いが終わって、それなりに時間が過ぎてからだった。

「――はい、これでもう検査は一旦終わりよ。これまでお疲れ様、イズルくん」

「ええと、ありがとうございました、ルーラ先生」

新造大型宇宙ステーション、スターローズⅡ。
まだできたばかりの医療施設の一室で、僕――ヒタチ・イズルは検査着のまま立ち上がると、主治医であるルーラ先生に一礼して、着替えのためのスペースへと向かった。

のんびりと着替えながら、僕は肩の荷が下りた気分のまま、ぼうっと考え事に浸る。

あのジアートとの戦いから目覚めて、これで五度目。でも、これが最後の検査だった。
今のところ、僕の身体に起こっていた異常がぶり返す気配はないらしい。
機体の覚醒以来、僕を襲っていた症状もすっかり見る影がない。

ディオルナとの戦いの後、僕は宇宙に戻ってから、検査をしては自室待機をする日々を送っていた。
まだまだ病み上がりだからと、以前は皆でやっていた訓練もさせてもらえず、僕はただ部屋でマンガを描くだけだった。
別にマンガが久しぶりに描けるだけ、十分文句はないといえばその通りなんだけど、習慣みたいになってた訓練がないと、ちょっと味気なかった。

味気ないと感じるのは、他の皆に会う時間が、圧倒的に減ってしまったのもあるだろう。

検査をしては自室で過ごすだけの僕と違って、他の皆は何だか忙しそうだった。
ウルガルの残党がまだいるかもしれない、油断はできない、ということらしく、交代で警戒任務に就いているんだ。

そのせいで、チームラビッツ全員が揃うのは戦いに勝ってから一度やったパーティーのときくらいで、その後はずっと、僕を含めた全員が揃うことはなかった。
もちろん、別に皆と会えない、ってわけじゃない。交代で任務をしているから、休息を与えられてるメンバーと食堂で会うこともある。
でも、それで会えるのは二人とか三人で、誰一人欠けることなく集まるってことはなかったんだ。

と、そうこうしてるうちに着替え終えて、僕は部屋を出ようと歩き出した。
そういう寂しい生活も、もう終わりだ。だって、今日で検査は終わりだから。
それはつまり、自室待機から解放されて、堂々とチームの仲間のところに行っていいという許可をもらったことになる。

もちろん任務については上官のスズカゼ艦長から言われない限りは行けないだろうけど、出撃前の皆に会いにピット艦に行くことくらいはいいだろう。
そうやって考えれば、これからは皆に会いに行けるんだ。何も悪いことなんかない。
前向きに考えると、僕はウキウキした調子でルーラ先生に挨拶して、部屋を出た。

これで自由に過ごしてもいいけれど、あまり無理はしないように、なんて先生は僕の背中に釘を刺すように言っていた。

はーい、とだけ、気が気でない僕はテキトウな返事をすると、一歩進んだ。
さて、どうしようか。ようやく他の誰かの部屋に行けるようになったことだし、さっそくお兄ちゃんのところにでも――

と、そのときだった。僕を待っていたかのように声をかけてくる人が現れたのは。

「イズル!」

「あ、ケイ」

部屋を出てすぐ、廊下に設置されたソファから立ち上がった彼女に気付いて、僕は反応した。
彼女――ケイは、僕に近付いてくると、微笑みながら僕の隣に並んで、一緒に歩き出した。
どうやら検査を終えた僕が出てくるのを待っていてくれたらしい。

「どうだった、検査?」

「うん、もう大丈夫だろう、って。……もう、ようやく他の人の部屋に行けるよ」

「……そう。よかった」

僕の答えに、彼女は心から安心したように、胸を撫で下ろしていた。
まるで自分のことみたいだ、と僕は何となくその姿にそんな印象を抱いた。

ホント、ケイってば心配性だなぁ。

そんなことを思いながら、僕は隣を歩く彼女を横目で窺う。
僕が自室待機しているときから、彼女はちょくちょく僕を訪ねてきていた。

新しいスケッチブックを持ってきたり、他の皆は最近どうしてるだとか話してくれたりして。
どうも空いた時間を見つけては僕のところへと来てくれているらしかった。

もちろん、それだけ僕を気遣ってくれてるってことだし、彼女の存在は素直に嬉しかった。
何というか、お姉ちゃんができたみたいで。

「うん。ありがとう」

心の底から湧き出る気持ちのままお礼を言うと、彼女はただ微笑み返して、それからある用件を告げた。

「ねぇ、イズル。アサギの部屋に来ない? 実は、皆待ってるの」

「え、ホント!?」

思わず身を乗り出して、僕は彼女に聞き返した。
皆が集まってるだなんて。
それが本当なら、行きたいに決まっている。

落ち着いて、とケイはくすくすと笑いながら勢い余りそうな僕を宥めると、ゆっくりと説明してくれた。

「さっきね、新しく追加の部隊が来たのよ。その人たちが警戒任務を引き継いでくれる、って」

なるほど、と僕は頷いた。
ちょうど僕と同じように、皆もやっとちゃんと休めるようになったんだ。
なんていいタイミングなんだろう、と僕は幸運な自分を喜ばしく思いながら、はっと気付いた。

「……って、そういうことなら急ごうよ! 僕、待ちきれなかったんだ、皆に会うの!」

渡りに船、といった感じに僕は急ぎ足に切り替えて、すいすいと廊下を進む。
検査生活が始まって、もうかれこれ二週間は経つ。
そこに皆が揃うということを聞かされて、僕はすっかり気分が高揚してしまっていた。

「ちょ、イズル、走っちゃダメじゃ……もう」

後ろでケイが僕を止める声がしたけれど、僕は止まらなかった。
だって、しょうがないじゃないか。待ちきれないんだから。

そんなはやる僕の気持ちを分かってくれたのか、ケイはそれ以上は何も言わず、ただ僕を追ってきてくれた。
そうして二人で急ぐこと、数分。僕らは目的の場所へと着いた。

ドアの前に立ってから、僕はケイの方を見た。ホントにここに皆がいるんだよね、と、事実を確認するように。
僕の視線に気付くと、彼女は苦笑しながら頷いて、一歩下がる。

譲られるまま、僕はうずうずした気持ちのままドアの方へと一歩踏み出し、反応して自動で開いたドアを潜って、部屋の中へと進んでいった。

「おー、イズル!」

「イズルーっ!」

「イズルさん!」

「イズル……久しぶりだな」

ドアを越えた先、そこには僕を待ち構えていたかのように、チームラビッツの皆――スルガ、タマキ、アンジュ、それにアサギお兄ちゃん――がいて、出迎えてくれた。
まだたったの二週間かそこらのはずなのに、ここにチームラビッツが集合できたんだと思うと、何だかひどく懐かしかった。

「うん! ただいま、皆!」

飛び切りの笑顔で、僕は返した。嬉しくてしょうがなかった。
こうして皆と一緒に、またアサギお兄ちゃんの部屋に集まれた。
たったそれだけのことが、僕には何だか、とてもとても大きなことのように思えたんだ。

そうして僕らは久しぶりの集合を喜びながら、いろいろな話をした。

これまでの任務のこと。
僕が検査生活を退屈に過ごしていたこと。
新しくできた後輩たちやチームドーベルマンのこと。

他にもたくさんのことを、とめどなく話し続けた。
話題は尽きることなく、僕らはひたすらに語り続けた。

単にお喋りしてるだけだったっていうのに、不思議なことに、大好きなはずのマンガを描いているときよりも、僕はずっと充足感に満たされていた。
それほどに、きっと僕はチームラビッツという場所に飢えていたんだろう。
僕にとって、皆のいるここが、帰る場所なんだから。

そうしてかれこれ二時間は経っただろうか。さすがにその頃には、口を動かすのも一度止まって、僕らはちょっとだけ喋るのを止めた。

だけどそうしながら、次は何のことを話そうかな、と僕はその間に考え始めた。

まだまだ話し足りなかったんだ。二週間分、もっともっといろんなことを話していたい。
いや、話さなくてもいい。とにかく、皆とここにいたかった。

そう思いながら、僕は一応話題を考えた。何がいいだろう。最近描いてるマンガのこと? それとも――あ、そうだ。

と、そこで。ふと、僕はあることを思いついて、尋ねることにした。
本当は戦いが終わってからすぐにでも、聞きたかったことを。

「ねぇ、皆。一つ聞きたいことがあるんだけど」

「? どうした?」

僕の一声に、お兄ちゃんが不思議そうに反応する。

それから、皆が一斉にお兄ちゃんと同じような顔をして僕を向く。
五つの視線を感じながら僕は頷くと、一度息を吸って、喉元まで来たそれを口にした。

「あのさ、僕って、ヒーローになれたと思う?」

それは、僕にとってすごく大事な質問だった。

こうして戦いが終わったということはつまり、マンガとかで言うなら物語の終わりなわけで。
僕の知っているヒーローというモノは、物語が終わるその時に、道行く人たち皆から、ヒーローだって認められる。
そうやって、お話が終わるんだ。

そしてその理屈で言うと、戦いが終わったんだから、僕がヒーローになれたかどうかも、もう決まったことになる。

これまでの戦いで、僕は結局ヒーローになれたんだろうか。
いろいろと落ち着いた今になって、それがとても気になっていたんだ。

僕は真剣な面持ちで皆を見回して、反応を確認する。

どうなんだろう。皆は、なんて言うんだろう。

僕はどきどきしながら、皆からどんな答えが飛び出すかを想像しながら待った。

と、次の瞬間。

「はぁ?」

「えー?」

「ええと……」

何故か、皆は僕のことを奇怪なモノでも見るみたいな目で見返していた。

あれ? 僕そんなにおかしなこと聞いたかな?
結構マジメに質問したつもりなんだけど……。

と、そう思っていると、今度は少しの間を置いてから皆は顔を見合わせると、急にくすくすと笑い始めた。

ええ……。笑われるくらいおかしかったかな。うーん?

一人で理解できない状況に困っていると、お兄ちゃんが含み笑いのまま、皆に向かって言った。

「まったく、自覚がないんじゃ、ヒーローなんて呼ばれてる意味ないな?」

「え、ヒーロー?」

思わず僕は尋ねた。
いつ、僕がヒーローなんて呼ばれたんだろう。

ますます理解できなくて僕が首を傾げると、今度はケイがゆっくりと僕に歩み寄ってきた。
それから、笑みを崩さないまま、小さな情報デバイスを渡してきた。

「そうよ、ほら。見て?」

言いながら、彼女は僕の隣に立つと、僕が受け取ったデバイスに指を伸ばして操作した。
すると、一つの映像が画面に浮かんできた。

そこには、画面外から差し出されたマイクに答える、小さな男の子と、お姉ちゃんらしき女の子の姿があった。
男の子の方が、マイクに向かって喋る。

『僕ね、大きくなったらレッドファイブになりたい!』

『バカね、機械になれるわけないでしょー?』

男の子の言葉に、女の子は呆れ顔で言った。
だけど男の子は、そんな女の子の言葉を意にも介さない調子で、ニコリと笑った。

『じゃあパイロット! レッドファイブが地球を守ったんでしょ? 僕、あんな風になりたい!』

その目は、まっすぐに輝いていて、そう言ったことに対してまるで迷いを感じなかった。
男の子が本気でそう言ってくれてるんだということが、僕にははっきりと伝わる気がした。

それで、映像は止まってしまった。
たった二、三言だけの会話が流れる、短い映像。
でも、それだけで。僕は皆が言いたいことが分かってしまった。

僕が顔を上げて、皆を見てみると、どこかしたり顔で僕を見て笑っていた。

「へへ、驚いたろ? お前みたいになりたい、だってよ?」

「正直あたしはどーでもいいけどー、イズルが喜ぶだろうからってケイとアサギがさー、検査終わるまで内緒にしといたの」

「イズルさん、マンガは……ともかくとしてですね、その。イズルさんは、ヒーローですよ。私も、そう思います」

「イズル。私ね、あなたのこと、誇りに思うわ。だって、あなたはなったんだもの。あの日、初めてアッシュに乗る前に言った通り、ヒーローに」

「そうだな……イズル、お前はちゃんとヒーローになれたんだよ。兄貴として、俺が保証する。お前は、この地球の、たった一人のヒーローだ」

皆の言葉を聞きながら、僕はもう一度映像の方に目をやった。
それから、皆に言われた言葉と映像の子の言葉とを噛み締めて、その意味を理解する。

皆、僕のことをヒーローなんだって、そう認めてくれたんだ。

「皆……僕、僕は……」

返す言葉を考えながら、僕は口を開こうとして、ろくな音が出てこないことに気付いた。

おかしいな。嬉しいのに、どんどん涙が溢れて、止まらなくて、頭の中がぐるぐるとして、胸が苦しくて、でも、気分は悪くなくて。
僕はどうしようもない混乱を抱きながら、皆の前でただ、泣いていた。

そんな僕に、皆はそれぞれ反応をくれた。

「お、おいおい。泣くのかよ」

スルガは、泣き出した僕に驚いたのか、身振り手振りをしながらちょっとだけ慌てて、

「もー、だらしないのらー」

タマキは、僕のことを呆れたようにしながら、でも優しく微笑んでくれて、

「……せっかくいい感じだったのに、ザンネンですね」

アンジュは、ちょっとガッカリそうな顔で笑みを浮かべて、

「それくらい嬉しかったってことよ……ふふっ」

ケイは、ちょっとだけ涙目のまま、おかしそうにくすくす笑って、

「まったく……しょうがない弟だな」

お兄ちゃんは、目を細めて、僕を見守るようにしていた。

「あ、あはは……ごめん。何か、急にさ。そんなつもりなんて、全然なかったんだけど、勝手に出てきちゃって」

どうにかこうにか思いついた言葉で取り繕いながら、僕は必死に自分を落ち着かせていた。
その甲斐あってか、少しずつ、涙は引っ込んでいって、気付けば、僕は渡された端末の画面をもう一度じっと見つめていた。
一時停止された映像の中で、小さな男の子が、お姉さんらしい子と一緒に笑っていた。

それだけで、僕は一つ納得した。ああ、僕はこういうものを守ったんだ、って。
初めてアッシュに乗ったときから、ずっと変わらずに。僕は――

「そっか、僕、ヒーローだったんだ」

そうだ、僕はヒーローになってたんだ。
結論なんて、とっくに出てた。
自分でも気付かないうちに、自然と僕は目指していたモノになっていたんだ。

「何だそりゃ」

皆、口を揃えて、呆れたような視線と一緒に、僕にそんなことを言った。
それに対して、特に僕は説明しようとしない。
別にいいんだ。皆に今気付いたことが伝わらなくても、僕が納得したんだから。

改めて、僕は皆をぐるりと見回した。
スルガ、タマキ、アンジュ、ケイ、アサギお兄ちゃん。
僕がヒーローになるのを、ずっと見てくれた人たち。
僕と一緒に歩いてきてくれた、記憶を失ってからずっと、僕の小さな世界の中にいる、僕の初めての仲間。

ヒーローだけじゃない。

僕という人間にとって、何よりも大切な存在。

「ありがとう、皆。皆がいてくれて、よかった。生まれてから何もない僕だったけれど、今は皆がいる。ヒーローとかマンガとか、それだけじゃなくて、もっと大切なモノに、僕は出会えたんだ」

僕は大きく息を吐いて、とびきりの笑顔を作った。
皆も、同じように笑ってくれた。それだけで、僕の味気なかった世界が全部反転して、何もかもが変わっていく。そんな気がした。

僕はそのときに感じた気持ちを、ずっと忘れないだろう。
何よりも大切な、その感覚を。

そう確信しながら、僕はこれからもそれが続くことを祈って、その言葉を力強く、口にした。

「――――これからもよろしくね、皆!」

おしまい。映画の中で一番心にきたのは、正直なところあの子供たちのところです。イズルがヒーローとして認められたみたいですごく嬉しかった。

これにてこのスレはいったん終わりです。一番最初のスレが立ってからおよそ三年経ちました(間がかなり空いたので書いたのは実質一年くらいでしょうが)。
読んでくれた皆さんには感謝してもしきれません。そして、これだけのネタで書くことができたマジェプリという作品の厚さにも驚くばかりです。
一度マジェプリで書くのは終わりですが、また思いついたら単発でスレを立てたいと思います。

最後に、よければ今後の参考にしたいので、これまでのスレの中でおもしろかったと思うネタを教えていただけると幸いです。
ここまでありがとうございました。マジェプリ二期が始まることがあれば、同じようなスレを立てます。そのときはまた読んでやってください。
では、またいつか。

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