老人「おやすみ……ワシの古時計よ……」 (27)


ある日の真夜中――

一人の老人がベッドの上で静かに息を引き取ろうとしていた。



老人「おやすみ……ワシの古時計よ……」



彼が目をつぶると同時に、彼を百年間見守ってきた古時計も動かなくなった。


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翌朝――

近所に住んでいた息子たちが、老人の亡骸を発見する。



父「昨晩、胸騒ぎがしたから駆けつけてみたら……親父……」

母「お義父さん……」

青年「おじいちゃん……」

嫁「おじい様……」

赤子「ばぶぅ、ばぶぅ」


父「残念だけど……大往生だったよ」

母「ちょうど百歳……だったかしら?」

父「ああ……今日が誕生日だった。親父らしい、いい最期だ」

父「同居の誘いも断って、最後までこの家で一人で暮らしてさ……立派だった」


青年「だけど、せっかく産まれたひ孫をもう少し抱かせてあげたかったな」

嫁「そうね……」

赤子「だー、だー」

嫁「だけど、おじい様の強い意志は、きっとこの子にも伝わってるわよ」

青年「うん……きっとそうだ!」


父「ところで、あの古時計も止まってるな」

母「あらホント、百年いつも動いてたらしいのに……」

青年「たしかおじいちゃんが産まれた日に買ってもらったんだっけ?」

父「ああ、親父はいつもあの時計と一緒だった。嬉しい時も悲しい時も……」

父「俺が子供の頃、あの時計にふざけて蹴り入れたらメチャクチャに怒ったもんさ」

青年「そりゃ怒るって」

嫁「フフフ……」


青年「今、こうして止まっちゃったのは……きっと……」

嫁「おじい様が亡くなられたから自分の役目も終わった、と悟ったからかも……」

父「ああ、きっとそうだ」

母「ロマンチックな話ねえ……」

父「今頃、親父は古時計を抱えて天国に旅立って、お袋に再会してるに違いないさ……」


青年「――ん?」

青年「この古時計、よく見ると電池式なんだね」

父「え、そうなのか?」

青年「単三電池四本で動くみたい」

母「それだけの電池で百年動くってすごいわねえ」

青年「今、俺ちょうど電池持ってるし、入れ替えてみようか」

嫁「……でもなんだか無粋じゃない?」

青年「なあに、おじいちゃんだってもっと時計に動いて欲しいに決まってるさ」

父「親父の性格なら、そういうだろうな。動かしてみろよ」

青年「オッケー」


青年「入れ替えて、と」カチッ




ボーン…… ボーン……

チクタクチクタク




青年「お、動き始めた!」


老人「フォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」



父「親父!?」

母「お義父さん!?」

青年「おじいちゃん!?」

嫁「おじい様!?」

赤子「キャッキャッ」



老人「おおっ、みんな!!! ひっさしぶりじゃなあ!!!!!」


老人「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

老人「みなぎるッ! みなぎるぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

老人「天国で婆さんとも再会してきたし、まだまだ生きてやるぞおおおおおお!!!!!」




どうやらこの爺さん、あと百年は生きそうである。







― おわり ―

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