魔王「田植えの季節だ!」 (37)



魔王「なんという田植え日和!かんかん照りだ!」

魔王「今年は三区画に植えるぞ!」



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魔王「エリザベスカラーっぽいお婆ちゃん帽子オッケー!」

魔王「首巻きタオルオッケー!」

魔王「袖が落ちないカバーオッケー!」

魔王「もんぺよーし!」

魔王「地下足袋…うーん…どうせ私有地だからなぁ」

魔王「大して石も落ちてないだろうし…」

魔王「よし!裸足で行こう!」ポイポ-イ

魔王「今日は暑いからな!水田であるし気持ち良さそうだ!」



魔王「それでは失礼して…」ソロォ

魔王「おふぅ!土もいい感じに水を吸ってねちょねちょだ!」グチョグチョ

魔王「これは期待できる!」

魔王「まずは紐と棒を繋いで…」

魔王「できた!これを田んぼの端と端に立てて…」

魔王「どうだ!これで植える目安ができたぞ!」

魔王「ちゃんと苗を植える間隔の目印つきだ!」



魔王「苗を適当に一束ずつ取って…」

魔王「印に沿ってズブリ!」

魔王「おおぅ、この感じ…懐かしい!一年振りだ!」

魔王「おや?苗が倒れてしまった…感覚を忘れているのだな」

魔王「まあ一年振りだしな…仕方ないだろう」

魔王「まだまだ苗はたくさんあるのだからそのうち思い出すだろう!」



魔王「とりあえず植え直して…っと、よし!」

魔王「カニ歩きで横に移動して…歩き辛い…」

魔王「また印に沿ってズブリ!」

魔王「おお!今度はうまく行ったぞ!」

魔王「この調子でいけば日暮れまでには終わるだろう!」

魔王「フハハハハ、待っていろ苗ども!すぐにお水たっぷりの天国へ送ってやるからな!」



魔王「とりあえず一列終わったか…」

魔王「棒を刺し直すところからだが…」

魔王「反対側の端がなぁ…」

魔王「遠いなぁ…」

魔王「側近たちがいてくれれば…ハッ!」

魔王「いかんいかん!今はいない者たちのことを考えてどうする!」ブンブンッ



魔王「さぁ、こちら側の棒を動かしたら反対側に行き、また植えるぞ!」

魔王「よいっしょっと」

魔王「待ってろ反対側の棒よ!すぐに場所を移動させてやる」バシャバシャバシャバシャ



魔王「おう、走りにくいがこれはなかなか楽しいぞ!」バシャバシャバシャバシャ

魔王「人間たちが田植え前の水田でスポーツするのも頷けるわ!」バシャバシャバシャバシャ

魔王「はーっはっはっはっはっ!」バシャバシャバシャバシャ

にゅるんっ

魔王「!」

べちょんっ

魔王「」ドロドロ



魔王「…こけた…」グスン

魔王「泥とは…随分滑りやすいのだな…」グスン

魔王「さらに適度な固さもある…」グスン

魔王「腹からこけたから、腹がジンジンする…」グスン

魔王「もう走らない…」グスン



魔王「さあ、気を取り直して棒を移動させるぞ!」シャキン!

魔王「よいっしょっ…ととっ!」

魔王「泥が重たいが…これくらいどうということはない!」

魔王「さあ棒め!待っていろー!はーっはっはっはっはっ!」バシャバシャバシャバシャ



魔王「……」サクサクサクサク

魔王「……」サクサクサクサク

魔王「……」サクサクサクサク

魔王「……」サクサクサクサク

魔王「…ふぅ」ゴシゴシ



魔王「ん?もう太陽があんなところに…」

魔王「そろそろ昼だな」

魔王「半分はできたし、午前はこんなものだろう」

魔王「とりあえず用水路で手と足の泥を落として…」バシャバシャ

魔王「そうだ、ついでに顔も洗っておこう」バシャバシャ

魔王「泥だらけでは折角の男前が台無しだからなっ!」キリッ



魔王「んむ…」フキフキ

魔王「さあ飯だ!」

魔王「今日のご飯はシンプルにおにぎり!」バ-ン

魔王「たくあん!」ババ-ン

魔王「冷やしすまし汁!」バババ-ン

魔王「極め付けは…」

魔王「よっく冷やした麦茶!」ド-ン

魔王「いただきまーす!」



魔王「……」モグモグ

魔王「……」モグモグ

魔王「……」モグモグ

魔王「……」モグモグ

魔王「……っ」ゴクン

魔王「…ん、…ん」ゴクゴク

魔王「ぷっはー!労働の後の飯は美味い!」



魔王「塩加減も完璧!さすがだ!自分で作ったからよく好みがわかってる!」

魔王「焼き海苔に醤油をつけて巻くのもいいが、個人的には味海苔に醤油派だ」ムシャムシャ

魔王「塩分濃度なんて気にしない」モグモグ

魔王「すまし汁も美味しいなぁ」ズルズルズルズル

魔王「たくあんは二切れしかないからな」モグモグ

魔王「最後まで取っておくんだ」ゴクゴク



魔王「おにぎりとすまし汁完食!お待ちかねたくあんターイム!」

魔王「あーん…」ポリッ

魔王「………」ポリポリポリポリ

魔王「………」ポリポリポリポリ

魔王「………」ポリポリゴクン

魔王「はぁ…美味いなぁ…」

魔王「いつかたくあんもつけてみたいものだ…」ヒョイ



魔王「あーん…」ポリッ

魔王「………」ポリポリポリポリ

魔王「………」ポリポリポリポリ

魔王「………」ポリポリゴクン

魔王「はぁ…たくあんがなくなってしまった…」

魔王「いつも思うのだが、なぜ大根を漬けたらあんなまっきっきになるのだろう…?」

魔王「世の中には不思議な術もあったものだなぁ」



魔王「おっ、いい風…」ソヨソヨ

魔王「………」ソヨソヨ

魔王「あと数ヶ月もすれば、あの苗たちは背が伸び、稲となり、米となるのだな…」ソヨソヨ

魔王「…できることなら、側近たちと共に…」ウトウト

魔王「いかんいかん!田植えの続きだ!」

魔王「動かねば昼寝してしまう!」

魔王「はっ!そうだ!」パンッ

魔王「ごちそうさまでした!」



魔王「半分終わったとはいえ、まだニ区画あると思うと少し気が重いな…」サクサクサクサク

魔王「まあ今日中にこの区画が終れば、一区画一日でできるということだ」サクサクサクサク

魔王「そう思えば、三日。たった三日頑張るだけでいいのだ」サクサクサクサク

魔王「完成した暁には縁側で昼寝をしてやろう…」サクサクサクサク

魔王「城の縁側は高台にあるからな、田んぼの様子もよく見えるし、なにより風が気持ちいい」サクサクサクサク

魔王「ああ、楽しみだな」サクサクサクサク



魔王「……」サクサクサクサク

魔王「……」サクサクサクサク

魔王「……」サクサクサクサク

魔王「……」サクサクサクサク

魔王「…ふぅ」ゴシゴシ

魔王「そろそろ腰が限界だな…」セノビッ

魔王「だがあと4分の1といったところか…」ン-

魔王「あともう一踏ん張りだ!やるぞ!」



魔王「……」サクサクサクサク

魔王「……」サクサクサクサク

魔王「……」サクサクサクサク

魔王「……」サクサクサクサク

魔王「…ふぅ」ゴシゴシ

魔王「終わった…」

魔王「むっ、すっかり夕方であるな」

魔王「とりあえず用水路で手足と顔を洗って…」

魔王「はぁ」バタン



魔王「あー…草の匂い…」ソヨソヨ

魔王「夏だなぁ…」ソヨソヨ

魔王「………」ソヨソヨ

魔王「側近…どこへ行ったんだ…」ソヨソヨ

魔王「いなくなってどれほどの時が経ったと思ってる…」ソヨソヨ

魔王「このままだと、全部植えてしまうぞ…」ソヨソヨ



魔王「他の魔族どももだ…」ソヨソヨ

魔王「連絡もなしに…みんな一斉にいなくなってしまった…」ソヨソヨ

ーーーーーッ

魔王「なにがいけなかったのだろう…」

ーーーードッ

魔王「人間の領土に頼らない、自給自足制の導入がいけなかったのだろうか…」

ーーーッドッ

魔王「いやそもそも人間との協定がいけなかったのかもしれぬ」

ーードッドッ

魔王「しかし、あのまま戦争を続けていても、ただいたずらに民たちを傷つけるだけであったしなぁ…」ウ-ム



ードッドッドッ
ーーオ-ーー

魔王「それとも、…あれか?勝手に闘技場を田んぼにしたからか?」

ドッドッドッドッ
ーーオ-サー

魔王「だってもう闘技場いらなかったじゃん…ほとんどかくれんぼの会場扱いだったし…」

ドッドッドッドッ
ーーオ-サマ-

魔王「にしてもさっきからこの地鳴りはなんだ?」

ドッドッドッドッ
マオ-サマ-!

魔王「西の方…人間の領土から…なにか…?」

ドッドッドッドッ
マオ-サマ-!マオ-サマ-!

魔王「…逆光で見えぬ…」

魔王「いや…あれは…!」



側近「まおーさまー!」ドッドッドッドッ!

魔王「…!側近…!側近ではないか!」

側近「まおーさまー!」ドッドッドッドッ!

魔王「側近ー!側近ー!」タッタッタッタッ

側近「まおーさまー!あっ」ドッドッドッガウンッ!

魔王「」チ-ン



魔王「自分で自分に蘇生術かけるとか初めてだよ…」

側近「魔王さま自ら轢かれに来たんじゃないですか」

魔王「というかその馬はなんだ、鳴き声は可愛くないし、なんだか硬いんだが…」サスサス

側近「馬じゃありませんよ、ク○タ電機製ラク○ェルです」

魔王「」



魔王「えっ…えっ?」

側近「いわゆる自動田植機です」

魔王「えっ?」

側近「あれ?魔王さま、田植えして下さってたんですか?」

魔王「そ、そうだぞ!側近がいないから一人でだな…!」

側近「今日自動田植機に乗って帰りますと、書状を一月ほど前にお送りしたはずですが」

魔王「」



側近「読まれてなかったんですか…」

魔王「郵便受けに入ってるものはダイレクトメールだけだと思ったんだもん…」

側近「そんなわけないでしょう…」

魔王「だっ、大体お前らが勝手にいなくなるから…!」

側近「みんなそれぞれ農業を学びに人間の領土に留学してますよ」

魔王「」



側近「お伝えしましたでしょう?」

魔王「…!それならそれで、みんな使い魔とかで連絡をしてくれれば」

側近「人間の領土では使い魔が出せるほどの瘴気がないのをご存知で?」

魔王「」



側近「だからみんな手紙を送ってるはずですが?」

魔王「」

側近「はぁ…それでは、とりあえず城へ帰りましょう」

側近「ほら、魔王さま」

魔王「ん?」

側近「二人乗りくらいはできるので乗ってください」

魔王「お…おう!」



魔王「はーはっはっはっ!これはなかなかどうして。良い乗り心地ではないか!」ドッドッドッドッ!

側近「はいはい」ドッドッドッドッ!

魔王「側近!運転してみたい!」ドッドッドッドッ!

側近「あー、じゃあ明日の田植えの時にお教えしますね」ドッドッドッドッ!

魔王「よし!楽しみにしてるぞ!」ドッドッドッドッ!

側近「はいはい」ドッドッドッドッ!



魔王「…!側近、田んぼを見ろ!」ドッドッドッドッ!

側近「なんですか…、あ」ドッドッドッドッ!

魔王「夕日が…反射して綺麗だな…」ドッドッドッドッ!

側近「…そうですね」ドッドッドッドッ!



魔王「…よしっ!帰るぞ我が城へ!」ドッドッドッドッ!

側近「それじゃあ発進しまーす」ドッドッドッドッ!

魔王「うわっ!」ズルッ

側近「えっ?」ドッドッドッガウンッ!

魔王「」チ-ン

側近「…まあ、帰ってからの蘇生でいいか…」ヨイセッ

側近「………」ドッドッドッドッ!





魔王「田植えの季節だ!」 おしまい

初めてSSを投下しました。
ほのぼのと言っていただけて嬉しかったです。
書き出したきっかけはテレビで田植え体験をした小学生のニュースを見たから。
田植え自体は一度しかしたことありませんが、魔王のように一人でやるものではないと思っています。

それでは、また稲刈りの季節にでも。

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