フレデリカ「アタシPンコツアンドロイド」 (169)

とある宮本ありすssに惹かれ、デレステを始め、フレデリカをアベニューしたとき、気付いたら既に書き始めていました。
紳士です。よろしくお願いします。

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4月15日、時刻は、13時5分51秒。
その日は、春なのに夏のような、そんなちぐはぐな気温の日だった。
事務所そのものも熱に浮かれているようで、喉がずっと渇いていたのを覚えている。

しかし、時期尚早なことと、今は不在の、ある事務員の目もあって冷房は禁止されていた。
彼女曰く、節約はできるときにする、だそうだ。

特に節約が必要なほど金銭的に余裕がないわけではない。
が、会社の経理の一切を担う彼女に頭があがるはずもない。

恨み言の一つでも言いたくはなるが。

自慢ではないが事務所は広い。
優に100人を越えるアイドルと、それぞれの担当が所属しているのだから当然と言えば当然なのだが。

プロデューサーのデスク正面に位置する給湯室に、隣り合うように置かれたスケジュールボードの混み具合からも、それは読み取れる。

渋谷凛ーーー渋谷開催、フラワーフェスティバルのサプライズ出演
北条加蓮ーーN○K歴史特番〈北条政子~その素顔とは~〉のナレーション収録
安部菜々ーー〈アイドルが君の高校へやってくる! JKアイドルと学ぶ7つのこと〉
etc.etc...

「……次はどんな企画を出そうか……。〈たかが牡蠣と侮るな! 高垣が挑む牡蠣料理346種作るまで帰れません〉……ありだな」

我ながら会心の出来だ。

パソコンに早速企画案を立ち上げつつ、なんとなくソファーへと目をやった。

「フンフンフフーン♪ フンフフー♪ フルコンボ~♪」

ソファーでうつ伏せになりながら、軽快に携帯で遊ぶパリジェンヌ。
たまたま今日は仕事がなかった彼女は、足をパタパタ動かしてご機嫌のようだ。

黒のストッキングを透視したところ、チュニックに色を合わせた、フリルつき薄ピンクのショーツ。

パリジェンヌに相応しい、気品ある下着だとプロデューサーは納得し、静かに勃起した。


「ご機嫌だな、フレデリカ」

「んー? 機嫌ご機嫌、大気圏~♪
晴れ女のフレちゃんは~年中無休で太陽サンサンだよー」

「そりゃまいった。オゾンでガードしなきゃ日焼けしてしまう」

「なんと・なんと☆ フレちゃん 太陽はー紫外線なっすぃんのセーフティ仕様なのだ♪ ゼロ距離でも安心! ね? プロデューサー☆」

「ははは。んじゃ事務所の太陽にお願いがあるんだが、聞いてくれるか?」

「おっす☆おっす☆」

「諸星フレデリカさんよ、冷房をかけてくれないか?」

プロデューサーが冷房をつければ文句の一つでも言われよう。
が、しかし目に入れても痛くないほど可愛いアイドルがつけたとあれば、千川も何をいわんや(反語)。

「えーアタシは暑くないんだけどなー」

「頼むよ。ちひろさんに小言言われて凹む担当プロデューサーが見たいか?」

携帯画面を見ながら、頬に人差し指を当てて悩むフレデリカ。
プロデューサーからは表情は窺えないが、その可愛らしい仕草だけで股ぐらは更にいきり立った。

「見たくなくなくなくなくなくなくもないかもしれないかもしれないかも」

「おれの辞書には、パリジェンヌは優雅で優しいって載ってるんだがな」

「古い版だね~水瓶座の乙女は気紛れを追加しなきゃ♪ 訂正お願いしるぶぷれ? 」

「まったく……重版にならないよう気を付けるよ」

「にゃはは~☆ あ、でもでもお願い聞いてくれたらつけてあげなくもなくないかも?」

悪戯を思いついた無邪気な笑顔。
すすっと指を動かして、携帯画面を動かしていく。
すると、特徴的なメロディーが二人きりの事務所へと溢れていった。

「ふむ、アタポンか」

「いえーす♪ フレちゃんmasterまだクリアできてないのだー。
プロデューサーが合いの手いれてくれたらできると思うんだよね?
ワクワク♪」

「合いの手って……どういうことだ?」

「ちっちっちー。鈍いなぁ~。
勿論サビサビ! 夏の陽気を吹っ飛ばして裸になっちゃえ♪」

夏ではなく、春だ。
一応、訂正をしておく。
つまりは、歌に合わせて〈裸になっちゃえ♪〉と言うだけのこと。

20台後半が歌うにはなかなか絵面的に厳しいものがあるが、気分だけでも涼しくなっちゃえという、フレデリカなりの気遣いなのかもしれない。

「OKOK。 こんなおっさんの合いの手でよければ、いくらでも」

「フンフンフフーン♪ それじゃ、よろしく♪」

アタシポンコツアンドロイドーーー特有の出だしが、曲の始まりを告げる。

それと同時に、ゆっくりとだが凄まじい量のノーツが、降ってくる。

成功したことがないといいながら、プロデューサーに聞こえてくるのは、指で弾かれた小気味いいperfectの群。

俺の合いの手なんて必要ないだろうに、自由だな。
フレデリカの弾む心を表したかのように、パタパタと動く足に連動して、形のいい挟みたくなる二つの桃山が揺れるのを眺めながらプロデューサーは思った。

シミ1つなく、春雪のように透き通るその尻は、プロデューサーの透視も相まって、かじりつきたくなるほど魅力的に映った。

「……ふむ、撫でるか。舐めるか。
いややはりここは素肌を見られているという自覚のない美麗が、無防備に晒す恥態こそが至高か……。たが、俺自身の嗜好としては、ハニーフレッケツにしてかぶりつきたいのもまた事実。
悩ましい」

欲望の汁が先走るのを感じるが、しかし彼はプロデューサー。
担当アイドルに手を出すことは……けしてない。

あるとしても、助手席にのせ、マンションの鍵を開け、食を共にし、体を清め合い、同禽するだけだ。
鉄の意思と鋼の強さを持った心〈ココロ〉は決して欲に呑まれることはない。

むずむずむずむずどきどきーーー。
と、プロデューサーが丁度むずむずむずむずと珍歩十徳を整えていた時、サビの寸前がやって来ていた。

ぱちんっ、とフレデリカのすらりと伸びた足が合図を送る。
ならば答えねばなるまい、とプロデューサーは勢い椅子から立ち上がった。

そして、二人きりの混声合唱が始まらんとしていたーーー

「はっだっかーになっちゃおっかなー♪」

〈なっちゃえーーー〉

季節外れの夏のような、うだる暑さの中、アイドルとプロデューサーの仲睦まじい昼下がり。

沈黙を惑わせし深麗なる美少女と、金と玉を併せ持つ1本太い芯のそそり起った爽やかなる青年が、絆を確認するように互いの声を震わせあったときーーー

おもむろにプロデューサーの服がーーー












弾けとんだ。




時刻は、13時19分37秒。
奇しくも〈69〉を刻むその時、♂〈オトコ〉の精子を賭けた戦いが正に今始まらんとしていたーーー。

とりあえずここまでです。

また溜まったら出しに来ます!

こんなにもレスを……やはり紳士が多いようですね……謝謝。

宮本志希で始めたので混ざった可能性……。

Rとの間を飛びまわる全力紳士で頑張ります。

少しだけですが、出します。

例えば、笑顔が本来攻撃的な意味を持つのと同じように、無防備とはある意味ーーー〈備え〉。

逆説的な意味を内包するが、しかし矛盾はしない。
つまりは、人はその身を覆う衣によって、表明しているのだ。
私は自然体である、と。

だからこそ、社会の規範は強制の意味を帯びる。
無害であることを強いる。
そう、服という〈世界の楔〉によってーーー。

であるならば。
種としてではなく、個としての自由とは、〈全裸〉であることになんの疑いの余地もないではないかーーー。

ーーー以上が担当アイドルと二人きりにして、たった7メートルという珍と玉のように近く、棒と穴のように遠い距離を置いて全裸に追い込まれたプロデューサーの刹那の自己弁護であった。


もしほんの一秒でも転回が遅れていたならば、全身から液体という液体を放出し、珍棒に常備している媚薬をフレデリカに飲ませて、二人は幸せな性夜して終了していただろう(社会的に)。

これこそが、プロデューサー。
あらゆる場面において狼狽えない。

千川の悪戯ともいうべき、この状況においても萎れることなくますますの硬度を保ち、天へ向かう彼の身の分身もそれを証明していた。

「……プロデューサー?」

と、フレデリカの呼び掛けで我にかえる。
時刻は、13時19分41秒。
アタポンが始まってから1分8秒経過している。

「もーっ。 合いの手くれないからgreatになっちゃったよー! all ぱーふぇくつの夢がぁ~」

「すまんすまん。ちょっと……」

と、ここでプロデューサーに電流走る。

(1分、8秒……?)

ペンと腕時計。
ただ二つ弾けなかった物の片割れを見て、気付く。
アタポンは合計2分4秒。
既に峠を折り返しているーーー。

「ちょっと? little small minimum のちょっと? アタシ的には、㍉めーたーがお薦めかな☆」

「……おれはマイクロ派だな」

「わぉ! プロデューサーってば大胆だね♪ 今日の運勢で、マイクロ好きのあなたはしがらみから解放されるって言ってたよ♪ フレちゃんラジオ提供だけど☆」

ぶるん、と棒が大きく跳ねる。
勢いに釣られ、滲み出していたスペルマータがパソコンに画ん射するが気にしていられない。

(気付いているのか、フレデリカ……! お前のプロデューサーが今、興奮の絶頂と藍子さん並の絶壁に挟まれているということに……!
牽制、いやそれがお前の〈責め〉なのか……!)

角度的にフレデリカからプロデューサーは見えない。

しかし、ほんの少し振り向くだけで、パリジェンヌの美しき緑玉の鏡面に、推定19cm越えのパリジャン
(注:お前の股間まるでパリじゃん!のパリジャン)が挿し込まれてしまうのだ。

(聡いフレデリカのことだ、合いの手が途切れた瞬間に、おれの方を窺った可能性もある……くっ意識が一瞬飛んだのが仇となったか……!)

既に見た上でのスルー、可能性としては充分ありえる。
だが!
逆に言えば、見た上での流しならば、それはもはや見ていないと同義。

(まさにフレディンガーの猫……いや、この場合はタチか。 動作の有無ではない。 どちらにせよ、〈見ていない〉という意思表明は成されている……ならば)

乗り越えるべき第一の障害は、およそ48秒先。
アタポン終了と同時に、フレデリカが空調をつけるという事実。

そして、空調のスイッチは、フレデリカの真後ろーーープロデューサーの斜め右前に存在するという、圧倒的現実。


(回避せねば……! けして、けして二十歳になるまでは手は出さない! 例え、風呂場でくんずほぐれつ洗いっこしようが、互いのうなじに顔をうずめ匂いという匂いを鼻腔に這わせながら寝ようが、耳の垢を奥の奥まで嘗め取られようが、おれの愚なる息子は見せない! 紳士に敗北は、ない!)

覚悟、完了ーーーこれより死恥へとゆらり参ろう。

重なる合いの手、近づくその時。
♂〈オトコ〉は決めた。
そして、♀〈ナオン〉はーーー

「ーーー女の子なんです♪ じゃんじゃん♪」

出しきるのが早いですね……。

ちなみにやっと〈起〉が終わりました。
遅lowではありますが、お突き合いください。

ところで、何故橘さんはあんなに可愛いのでしょうか?
宮本とセットにせざるを得ない……

溜まったので出します!

「えっへへー♪ふるこんぼ~。
フレちゃんたらもしかしてもしなくても、天才? いやーん、志希ちゃんが妬いちゃうにゃー☆ 」

再び、パタパタと動く足。
その度に、淫靡に歪み擦れ、その顔を天岩戸から見せる泡を冠する貝。
いつもならば、自身を奮い起たせるその魅惑がプロデューサーにとっては苦痛に等しかった。

紳士であれ。
百人を越すアイドルそれぞれについているプロデューサー達の紳士会〈シンデレラプロジェクト~如何にしてアイドルと同棲するか~〉の名誉会長を務める彼にとって、紳士とは絶対。

しかしそれも服という縛りによって、保たれた楔。
解き放たれた紳士は、天使の誘惑と、そして再び楔を打ち込むための戦いに早くも苦しんでいた。

(くっ……! なんという破壊力! 膝枕をねだるフレデリカを宮本力19万とするならば、この状況と相まって軽く69万は越える! ……うっ。…………ふう)

戦いの前から、フレデリカの宮本さんから目が離せない。
透視せざるを得ない。

(これが世界の理だとでもいうのか……! 全裸でアイドルと二人きり! そんな変態じゃない、おれは!)

「う~ん! 指疲れちゃったなぁー。
ぽんぽん痛いかも。 あ、指の腹って意味だよ? んー♪」

「!」

ちょんちょんちょん。
と、素早く操作してから携帯をソファーに置き、天井へとひとのび。
のびる仕草に引っ張られて、動くブラジャー。
ショーツがピンクのみだったのに対し、縁に藍色の刺繍が入っている。
可愛らしさが目立つからこそ、映える扇情的なデザイン。

「のびーるのび~~るフレデリカ~~~♪ はふぅ……」

ごくり、と音をたてて喉がなる。
唾が通ったというのに、未だ喉は乾いたままだ。
飲めよと言わんばかりに、給湯室のヤカンが、かたかたと存在を主張する。

(飲み込みたい……)

今すぐフレデリカの吐いた息を、直接肺に取り込んで潤し、プロデューサー色に染めてから、フレデリカに押し戻したい。
思わずプロデューサーのプロデューサーが欲望を再充電し始める。

本来ならば今すぐにでも目を離し、フレデリカの動きを阻止しなければならないこのシチュエーション。

だが、紳士の怒張は主人の想いとは裏腹にその矛先をぶれさせることはない。

「んにゅー………っハァ。
ねえ、プロデューサー。 フレちゃん肩凝ってるかも。 レッスンの鬼のフレちゃんもトレーナーさんに、優しくしなければいけませんかもしれませんわ♪」

「宮本お嬢様、承知しました。
このPちゃま、その道を極めし、Masterクラスに依頼致しておきましょう」

努めて、冷静に返す。

「さっすがー♪ 桃華ちゃんの真似っこバレちゃった♪ あ、でもでも!
Masterさんだとフレちゃん退治されちゃうかも。 だから吉備団子ちょーだーい☆」

一手先を行かれている。
その思いが拭えない。

ぼう。
ディフューザーが、一息吐いた蒸気がいやに、暑い。

いつもと違って、鼻腔を詰まらせるようなぬめりのある香りが、プロデューサーの脳を麻痺させる。

「ーーーんしょっと。それじゃプロデューサー、エアコンつけるね♪ へへへ。きんきんに冷えてやすぜ、とっつぁん☆」

おもむろに立ち上がるフレデリカ。
プロデューサーの眼は緩慢に宮本尻が揺れる様を見つめるだけ。

紳士として、このまま見られるわけにはいかない。
そう思う頭に反して体は動かない。

敗北ーー諦念ーー性行ーー妊娠ーー結婚ーー昨夜のフレデリカの胸は柔らかかったーー控えめにいって最高ーー。

プロデューサーの脳を駆け抜けた原初風景を表すならばこんなところか。
乾いた脳細胞は運命を受け入れ始めていたーーー

ーーーあぁー喉が渇いてしょうがないーー………喉?

「一番、フレデリカ!行きます!
3回転宙返り~からのー開脚前転!
わぉ♪ スイッチ押すのも優雅優雅ーーー」

あとコンマ数秒遅れていたならば、あとコンマ数秒フレデリカが振り向くのが早かったならば、もしも左向きに振り返ろうとしていなければーーー!

たった二つの、スーツが残した遺物達。
それはプロデューサーにとって、聖遺物に等しかった。

彼の前にあるのはなんだ。
愛しきアイドル? 憎むべき空調?
否。

天より垂らされた蜘蛛の糸。
給湯室で今にも過剰沸騰しそうなーーーヤカンだ。

「しっ!」

小さく、しかし万雷の想いを込めて。
プロデューサーは眼前に存在する救いの仏に向かって、そのボールのついたペン。
いわば、玉ペン。
つまりは、玉棒。

小さな隣人ともいえるそれを、投げた。

想いを宿した彼の者は、美しい直線を描きながら、コンロのスイッチを深く、回した。

ピィーーーーー!!!

けたたましい音をたてて、ヤカンが自身の限界を示す。

「わわっ! お茶沸かしてたのすっかり忘れちゃってた! ヤカンさんがおこだよぉ~」

左へ振り返りかけたフレデリカは、給湯室へと急転回し、慌てて駆け寄る。

勇者はついに、勝ったのだ。
小さな隣人もコロコロと、部屋の隅っこへ転がりながら賞賛を禁じない。

そうして、第一の障害への勝利を告げるファンファーレが、♂〈オトコ〉の戦いを褒め称えるかのように高らかにーーー鳴り響いていたのだ。

ここまでです。

里奈様が宮本のどっぺうげんがーに見えてきました。
台詞入れ替えても通用するのでは?と思う紳士です。

デレステ→書き溜め→デレステ→書き溜め→デレ(ry

永久機関かこれは……。

見てくださる人に感謝を込めて。
出します。

時計を確認すると、時刻は13時25分31秒。
攻防が始まってから未だ6分弱ーー。

これまでは、如何にしてフレデリカの動きを操作するか、いわば〈動〉の勝負。

ここからは、どれだけ音をたてずにいられるか、いわば〈静〉の勝負。

ピッピッ。

時計を外し、ゆっくりとデスクへと置きながらスケジュールボードに目をやる。

(危うい……奏さんはそろそろ〈キス我慢選手権〉が終わり帰ってくる頃。
志希さんも同様。もしも、担当プロデューサー達が彼女らから逃げ切っていたならば、恐らく事務所までチキンレースが行われるはず……。15分といったところか……猶予は、ない!)

第二にして最後の障害は、事務所入り口横に備え付けられた更衣室へたどり着けるか、否か。

入り口は、給湯室とプロデューサーのデスクを正三角形の底辺を形作るとしたならば、正にその頂点。

フレデリカが座っていたソファーのその先にある。

「プロデューサー、折角だしお茶入れたげよっか? フレちゃん特製パリの薫りほとばしる、む・ぎ・ち・ゃ♪」

「そうだな。喉もカラカラだ。冷蔵庫に氷があるだろ? ありったけ入れてきんきんに冷やしてから持ってきてくれ」

「あいあいさー♪ フンフンフフーン、フンフフーン、フレデリカ~♪」

時間稼ぎの目処はたった。
後は、抜き足・挿し足・指ノ媚足。

デスクを回って、給湯室の前を通る。
我慢を重ねる汁が歩く度に零れ落ち、床に模様を刻む様が、幻想的に紳士だ。

お茶に氷を大量に突っ込みかき混ぜながら、リズムにのせて体を左右に揺らすフレデリカ。

「フンフンフフーン♪フフーンフフーン! あ、これ幸子ちゃんだ。間違っちゃった☆」

備え付けのキッチンに立つ姿と、誘うように揺れる双丘。
緊急事態だというのに、つい足を止めて見てしまう。

毎日手入れしているのだろう、毛一本生えていないその裸体は、プロデューサーのフェティシズムをいたく刺激した。

(帰ったら、裸エプロン着せて脇につけ毛つけさせよう。そうしよう)

新たな領域の開花を喜びつつ、名残惜しさを振り払いながら、プロデューサーは興奮冷めやらぬ天国からの脱出路へと、勢いよく足を動かした。

その時だ。

思えば、必然であったのだろう。
しかし、誰が責められようか?

家の中とはいえ、全裸で歩く人間がいるか?
まして職場でなど。
そんなもの変態でしかない。

いわば、処女懐胎にも似たこの非紳士的な状況が、プロデューサーに一つのミスを引き起こしたのだ。

日本人男性の平均チン長は13.5㎝(注:千川調べ)。
パリジェンヌに相応しいパリジャン(注:お前の股間まるでパリじゃん!のパリジャン)を持つプロデューサーは19㎝。

しかもこの特殊な状況下において、それは通常を遥かに越える膨張を見せていたのだ。

魔物。
魔物の雄叫びが、天国を地獄へ変えた。

掌と掌を叩いたとき、何故音が鳴るのかご存知だろうか?

それは、互いの掌に包まれた空気が瞬間的に閉じ込められ、行き場をなくした結果、僅かな隙間から瞬間的に出ていくからだ。
その時に、出ていく空気の押す力が空気を伝わり、鼓膜を揺らすのだ。

早く、そして押し出す体積が多いほど音は大きくなる。

だからこそ。

バ、チインッーーー!

三十路に近付いたことで若い頃はけしてありえない角度をつけて、体の動きに引っ張られた珍宝が、プロデューサーの腹を打ったのだ。
通常の1.5倍程も肥大化した第3の足はけたたましい音をたてた。

(ま、不味い……! おれの平均チン長を5.5㎝も凌駕する巨大なムスコが……! くっデカさが仇になるとは……! ふ、フレデリカは……?!)

今一度、フレデリカへと目を向ける。
やはり、反応し振り向かんとしているーーー!
と、止めなければ……!
しかし、どうする?
プロデューサーに悩む暇はない。

「……なぁに今の音、プロデューサーーー」

「フレデリカ!」

「んひゃっ?!」

振り向こうとしたフレデリカを、大声で圧し、止める。
乗り切るには話術しかない。
これまで培った技術、すべてを使う。
最新ーー最強ーー最善ーー最良。
現在最も進化したプロデュース〈オリジナル〉。
もうここで、終わってもいい。
その覚悟で、挑む。

まずは、〈待ち〉。
振り向かれるというリスクを孕みつつ、待つ。

「………」

「……どしたの、プロデューサー?
フレちゃんびっくりしちゃったよ?
それとも、何かの合図なのかな~。
はっ!もしや、アタシのためのサプライズ?! やんやん、フレちゃん幸せ死んじゃう♪」

「………実はな」

次は、〈揺さぶり〉。
重い口調で相手に気づきを促す。

「あ、ちょっと待って。お真面目な話かなー? ……はいっ切り替えたよ、せぼーん。続けてお願いしるぶぷれ?」

フレデリカは氷とお茶をかき混ぜながら、口調そのままに声色を少しだけ落として言う。

つい、頬が緩む。
プロデューサーは知っている。

フレデリカは一見、何も考えていないように見えるが違うのだ。
誰よりも場の空気を読み、かき混ぜて、プラスへともっていく。
時に、破壊とも呼べるその行為は、彼女の思慮深さの表れなのだ。

正に慈愛の化身。
プロデューサーの肌を透過して、その体を流れる血液の最後の一滴までM波が浸透していくようだ。

彼女をアイドルにできて良かったと思う。本当に。

だからだろうか。
口先三寸、超絶舌技で切り抜けようとしていたはずなのに。

全裸でフレデリカの裸エプロンを想像して断続的に股間から無駄撃ちを続ける自分に、優しく棒を握るように包み込むフレデリカを裏切ることなどできようか。

プロデューサーの口は、まるで何のしがらみもないかのように、原始のアダムのような純粋さで本心を語り始めていた。

「……少しだけ、後悔しているんだ。
フレデリカをアイドルにしてしまったことを」

「んーーどして? 」

「アイドルははっきり言って、先の見えないマラソンみたいなものだ。
そこにゴールがあるのか、いやむしろちゃんとコースを走っているのかさえ、わからない」

五里霧中。
暗中模索。
服脱葉付。

プロデューサーは止めようもなく、続ける。

「フレデリカが始めてオーディションに来たときは正直軽い気持ちだった、だろ?」

「まぁ、そうかも。友達と盛り上がっちゃって、勢いばんばんばーん! て感じだったし」

「はは。だよなぁ。でも俺はそんなフレデリカに、一目惚れしたんだ。ああ、この子は規格外だってな」

紡ぐ言の葉が溢れて溢れて。
規範という重力からの解放は、プロデューサーの心をも解き放っていた。

「フンフンフン。フレちゃんJASも認定不可noな規格むり品だもんね~。へへ」

「その分苦労もしたけどな。 大御所さんの鬘でお手玉したときは流石に処刑台を覚悟したよ」

「あれはゴメンて言ったじゃん。も~。お陰で気に入られたしもーまんたいだったのにー」

「はは。もうああいうのは勘弁してねしるぶぷれ?」

「あーっ! アタシのとっちゃダメ~。 でもプロデューサーなら、まいっか? それともそれともプロデューサーもパリジェンヌになりたいのかな? じゃあアタシがパリジャンになって~わお! 最高に究極かも!」

互いに、少し笑う。
乗ってくれているのはプロデューサーが話しやすくするためなのだろう。

「まあ、なんていうか……なんだっけ?」

「フレちゃんの真似っこ? んー控えめに言って100点! 10点満点の♪」

「限界越えてるじゃないか。……あーなんだ。 フレデリカの夢はデザイナーになること、だろ?」

「そだねー。 フレちゃん印のきゅーとでぽっぴぃでセクスィなモノ、沢山届けたいかな」

フレデリカは短大でデザインを学んでいる。
フランス・パリはブランドの宝庫。
彼女に流れる故郷の血が、やはり惹き付けて止まないのだろうか。

そう言えば外人は毛の手入れに気を使うから生えてないように見えるのだったか、と洋モノ解説ビデオを思い出しつつプロデューサーは語る

「アイドルを続けることは、その夢から離れているんじゃないだろうか。そう俺は思うんだ。短大でデザインを学ぶ。でも、それは他の子達に比べて短い。アイドルに時間を費やしているからだ」

プロデューサーの中で、フレデリカが売れていくほどに仕事が多くなるほどに溜まっていったしこり。
オナ禁した精子が一週間で入れ替わるのとは違って、それは袋にたぽたぽに溜まり続けていたのだ。

「プロデューサー会議でよく思う。みんな沢山の企画をフレデリカに出してくれる。それは認められているのと同義だ。嬉しいことだ。だが、その分だけフレデリカの夢へ向かう時間を奪っているんじゃないのか? 俺の我が儘で、いや、独占欲で俺はフレデリカにーーー」

言葉が止まらない。
傷つけてしまうとではと恐れながらも、処女膜に浮かれた童貞のような浮わつきがプロデューサーを捉え、腰を振らせる。
膜再生かも、しれないのに。

けれどそんな男〈♂〉の愚かさを祓うのはいつだって、強い女〈♀〉だ。

「プロデューサー」

すぅ……と、萎みかけた魔羅をしゃぶって膨らますような、優しいフレデリカの声音。

互いの顔は見えない。
しかし、それでも互いにどんな表情をしているかはわかっていた。

「アタシってさ。ちょこーっとだけおふざけな所があるんだけど、結構みんなおっきく受けとめちゃって。『フレちゃんってこうだよねー』とか、『フランスは自由の国だもんね』とか」

「ああ……そうだな。みんなフレデリカを誤解してる」

「だからアタシも、『宮本フレデリカ』はこうじゃなきゃって、『宮本フレデリカ』ならこうするって。なんとなく意識して動いてた。オーディションだって、友達が薦めてくれたら、二の句もなくOKするのが『宮本フレデリカ』だったから」

「………」

「だから、オーディションで『君が欲しい。その自由の中の憂いが俺を掴んでやまないんだ』なーんて♪ わお! 気分はまるでシンデレラ☆ 〈プロデューサー著:フレデリカの初恋〉の始まり始まりなのでした」

そう、たくさんのことがあった。
語りきれない多くのことが。
泣き、笑い、揉み、喘ぎ。
それはけして色褪せない二人だけの宝物。

「事実は小説よりも奇なりってな……。ジョージェットヘイヤーの本より何倍も刺激的だった」

「ふふん。 それからあれよあれよ、芸能界の荒波にもみもみ。シキちゃんにハスハス。 シューコちゃんともぐもぐ。 カナデちゃんにchu☆chu☆ ミカちゃんとテレテレ。 他にもいーーーーっぱい面白い子達と出会っちゃって。 偽物なんか演じてる暇なくなって」

それは告白だ。
プロデューサーからフレデリカへの。
フレデリカからプロデューサーへの。
鎖の契れたこの今だからこそ、現れ出でる。

83のバストのように柔らかく、そして拘束具の長きにわたる締め付けによって整った乳房のような。
そんな希望。

「何よりプロデューサーに会ったから。 アタシなんかよりず~~っとフリーダムなプロデューサー。 アタシの楔を解いてくれたのは、魔法をかけてくれたのはプロデューサー」

「そんな大した男じゃない。おれは。どこにでもいる28の紳士だ」

「フフ。 その紳士っていうのも聞きすぎちゃったかも。 アタシが憧れて、アタシが求めて、アタシが外したげたくなった、新しい夢のひとつ。たくさんの夢の中の、大切なひとつ」

「………何の話だ?」

「ねぇ!プロデューサー! 夢ってさ。 叶わないから夢なんじゃなくって、叶えてやるー!って思えることが、夢だとアタシ、思うんだ」

プロデューサーから見えるのはフレデリカの背中だけ。
だけれど、それでも。

「アタシ、プロデューサーのせいでほんとにフリーダムになっちゃった♪ そりゃあ、デザイナーにはなりたいよ? というかなる! なるべくしてなるのだ! フレデリカ宮もーとは! あらもーと!」

突然、宣誓のようにフレデリカが大きな声をあげる。
そこには戦に向かうヴァルキリーのように、処女めいた美しさがあった。

「でもでも! それだけじゃないの! フランスでパパとママを呼んでライブもするし! でもってフランスの国民的アイドルにもなって! あ! でもフレちゃんハーフだ! ど、どうしよプロデューサー?!」

「に、日本でも国民的アイドルになればよろしいんじゃないでしょうか……?」

「わお! やっぱりプロデューサーって天才かも♪ うん、そうだね。 なっちゃう。 フレちゃん世界のフレちゃんになる! あ、なんかカッコいい。 よくない? よくなくなくない?」

捲し立てるように言葉が次から次へと出てくる。
これはフレデリカの宣戦布告だ。
自分と世界と。
そして何より、愛しき人への。

「だから、夢はひとつじゃないのプロデューサー。 プロデューサーが奪ったのは時間じゃないよ。 アタシを止めてた楔。 プロデューサーがフレちゃんをほんとのフレちゃんにしちゃったの。 だから」

と、言葉を少し途切る。
そうしてフレデリカは頬に小さな桜を咲かせ、眉尻を少し下げて困った顔をして。








「そんなプロデューサーがそゆこと言うの、ちょっとヤ。かな」

カチリと、氷が寂しく鳴った。







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いい話してるけどPは全裸なんだよな……

「あちゃー。最後なんかちょっと湿っぽかったかな? 晴れ女がしとしとあめあめなんちゃって……えへへ」

「フレデリカ」

気付いたら、抱き締めていた。

今にも萎れてしまいそうなフルール・ド・リスをたおらないように、優しく包み込む。

肩を抱き、顎をのせ、腰を引き、股を離す。
およそ人体の間接機構からはありえない角度ではあったがプロデューサーは成した。

社会?規範?楔?
そんなものは問題ではない。
愛するアイドルの為に、人智を越えられない者など。
プロデューサーであるものか。

何より、自身の言葉で、愛する女を傷つける男など、紳士ですらあるものか。

「……………あーお外でえっちぃのはダメなんだー。 そういうのはお家に帰ってからだよ~ブリオッシュ~デ・ロワ」

「ああ、そうだな。……ありがとう」

沈黙。だが、互いに密着した体から響いてくる、隠しようもない想いの鼓動が感情をより高ぶらせる。

形のいい、ピンクローズを思わせる花弁がゆっくりと言葉を紡ぐ。

「…………ねえプロデューサー」

「なんだ?」

「この部屋にフレちゃんのこと。好きな人、いる?」

つい、鼻で笑ってしまう。
つねられた手の甲の痛みすらも、今は怒張を硬くする。

「好きだけでいいのか?」

「……大好きな人?」

「愛してるじゃなくていいのか?」

今度はフレデリカが笑う。
とびっきりの答えを返さないと許さない。
我が身を抱く腕をそっと握る彼女の手がそう、訴える。

「ふふ……ジュテームしるぶぷれ?」






















「Pour toujours」

「Moi aussi Je t'aime」



ーーーカキンッと、氷がその体を縮こめて二人を非難した。
熱すぎる。 二つの花弁が重なる熱で、氷は今にも溶けてしまいそうなのだった。

「あーあ。 ほんとはもっと欲張るはずだったのになぁ……フレちゃんたら自分でもわかんないくらいプロデューサーのフリーダムに影響されてたみたい。折角皆に協力してもらったのに……」

「………? どういうことだ?」

「んー。 内緒☆ 綺麗を保つ秘訣は秘密をたっくさん持つことなんだよ? ほらほら、プロデューサー。 お茶作ってる途中だから、れっとみーふり~」

「あ、あぁ……」

「早くしないと、見えル・ミエール♪ なんちゃって~☆」

しっしっ、とフレデリカに追いやられるプロデューサー。

どことなく違和感を感じつつも、フレデリカの柔らかな感触を掌から股間へ撫で付けながら本来の目的を思い出す。







行こう、服を着に





まるで心が羽になったようだ。
体には一切の縛りがなく、天まで昇るようなこの晴れやかさは、フレデリカの部屋で一糸纏わず〈メルヘンデビュー〉を踊ったときに匹敵する。

こんな気持ちになれるのなら、服が弾けてよかったかもな。

なんて、おどけながらプロデューサーは更衣室へと向かっていく。

あとはあの扉のノブを捻り、手前に引くだけ。

この解放感は名残惜しいが、フレデリカとまた深く繋がれたことで良しとしよう。やっと終わるーーーー















ーーーーなんて。
この時のプロデューサーは思っていたのだ。

『事実は小説よりも奇なり』
彼が発した言葉だ。

だからこそ、彼にも『奇』が待ち受けていないなどと言えるはずもなく。

地獄の釜の蓋が再び開かないなどと、どうして思えたのか。

「ーーーーもう、本当にプロデューサーは意気地無しなんだから。あんまり乙女を待たせるものじゃないわよ? 私が本気で唇をあげる人なんて、あなたしかいないのだから」

「ーーーとか言っちゃって奏ちゃん、この前プロデューサーにキスされたとき3時間はトリップした癖に~♪ 今日逃げてくれて助かったって思ってたりたり?」

「なっ! 志希、一体誰からそのことを……!」

「にゃはは☆ 黙秘権をこうししま~す♪」

「……ねえ、あなた? あなたよね? 黙ってるって言ったわよね? 覚悟しなさい。 今夜は眠れると思わないことね……!」

入り口から聞こえてきたのは。
絶、望。
プロデューサーの頭の中を駆け抜けたのはその、二文字。

(ば、ばかな! 早すぎる! はっ……! ま、まさかフレデリカと話しすぎたのか?! あまりに匂いが良すぎてついボルトをナットにインサートしそうになったが、時すらも忘れたというのか?!)

壁にかかった時計に急いで目をやる。
13時30分26秒。
奇しくも、攻防の始まりし〈69〉と同じ。

(た、たった5分かそこらしか経っていない……?! あ、ありえない! こんなこと仕事が終わって直帰でもしない限り不可能だ! 志希さんと奏さんが直帰?! 何をしたのだ、担当プロデューサー共よ……!)

閃光のように疑念と困惑がピンク色の脳細胞駆け巡る。
思考がまとまらない。

ーーーガチッ。

もし、更衣室の扉が手前に引く形式でなければ。
もし、入り口の扉が外から手前に引く形式であれば。
もし、フレデリカを抱き締めず目的のみを追っていれば。

人は、完璧なる絶望に追い込まれたとき『if』を願う。

そして、その願いは叶わないからこそ『if』なのだ。

(お、おれは……! 最初から何一つ動けていない! し、紳士は、紳士は……! う、うおぉおおおぉおおお!?)

戦いはまだ、終わらない。
大気を操る叡知の結集。
生命を産み出す皮かむりの魔物。
天地を震わす至上の孕女神。

三つの障害を乗り越えしプロデューサーの前に最後に立ちはだかるは、『社会』。

紳士という誇りを守るため、変態というレッテルを回避するために宮本フレデリカを愛するプロデューサーは、死力を、尽くす。


>>68 そこに気付くとはやはり紳士か……。


もう少しだけ続きます。
最後まで紳士的な気持ちで書こうと思うのでよろしくお願いいたします。

>もしも、担当プロデューサー達が彼女らから逃げ切っていたならば、恐らく事務所までチキンレースが行われるはず……

この事務所のP達は皆、綱渡り性活を強いられる運命なんですかね……


おかしい……紳士的なはずなのに……。

まだまだ紳士的な描写が続きます。

完結はまだですが、一応話自体の終わりまで溜まったので、出していきます。

ガチリ、と扉が開き、一ノ瀬志希、速水奏、そしてそれぞれのプロデューサーが帰ってきた。

事務所を見回し、フレデリカを見つけると奏は声をかけた。

「ただいま……あら、フレデリカ。なに? 目が赤いわよ。 あなた泣いてるの?」

「うへぇ?! ほっほんとに? う~フレちゃん不覚なり……ハム太郎さんの気持ちになるですよ……くしくし」

目元を擦りつつ顔を背けるフレデリカ。
奏はそんな様子をいぶかしみながらも疑問を口にする。

「フレちゃん、プロデューサーさんは一緒じゃないの? あなた一人のようだけれど……」

「あり? さっきまで一緒に……ってうー思いだしたら……ぼんっ! フレちゃん大爆発かも!」

顔を真っ赤にしてくねくねと体をよじる。
謎は深まるばかり……奏もお手上げだ。
と、担当プロデューサーの匂いならば、たとえ全身ハチミツ漬けだろうとかぎ分ける志希の鼻が異臭を感じ取った。

それは床に点々と続く白濁液。
既に乾きかぴかぴになった億千もの死骸と、未だぬめりをなくさない新鮮な無駄撃ち。


「ん~なんか変な匂いがするにゃあ~? あ、この白いのかな? ……ペロッ。はっこれは精産精え」

ぱしんと、志希プロデューサーが志希の頭を叩く。
拾い食い、ダメ絶対。
志希を正座させながら彼は説教を始めた。

「……いつものことだが、拾い嗅ぎ拾い食いはやめなさい。 Sドリンクなら今朝渡しただろう?」

「え~志希ちゃんもう飲んじゃったー。 ……はいっ先生! わたくし追加支給を申請します! それか今から経口摂取させて~♪ あ、なんなら結合摂取でも……」


再び、頭をはたかれる。割りと強めに。
性なるギフテッドである一ノ瀬志希は、既に常人の領域を遥かに越え、高みへと達している。

呆れた様子でそれを眺めながら、奏は志希が弄っていた床の白濁を観察する。

「……ふうん 」

指に掬い、匂いを嗅ぎ、粘度を確かめる。

「間違いないわね……これは……」

そして、彼女のプロデューサーへと、向き直り高らかに宣言する。
名探偵のように、誇りを持って、猛々しく!


「水のりよ!」

速水奏、通称〈狂悦なる口蛇の魔性〉(クレイジーリップ)。
事務所随一の、口技上手を自称する彼女。
本人は預かり知らぬことだが、性感体のおよそ9割が舌に存在するため(注:担当プロデューサー調べ)、ひとキスで失神・失禁・絶頂する。

はっきり言って、処女ヶ崎を優に越えるうぶなねんねなのだが、事務所の皆はなまら温かい目で、彼女とプロデューサーの行く末を見守っている。

頑張れ速水。負けるな速水。
舌以外感じないためマグロという確定の未来が待っているが、きっと大丈夫だ。


「………」

無口な奏プロデューサーは静かに頷き、奏の肩を叩く。
気を良くした奏は鼻息を荒げて、興奮しつつ捲し立てる。

「ふふ……あなたもそう思うかしら? こうして点々と続いているのはきっと、蓋がとれてから転がっていったのね。 つまり、この跡を追っていけば、水のり本体に出会う」

白濁液の周りを、やはり死体の周りを歩く名探偵のように歩きつつ指を振る。

その度に指先の絶滅体が飛び散り、奏プロデューサーに当たりそうになる。
しかし、脳が体に送る電気信号の速度を超越する彼は難なく避けていく。

「乾く前に蓋をしてあげなきゃ……ね♪ あら? 謎を解いた名探偵にご褒美はくれないのかしら? 報酬は……勿論、く・ち・び・る、ね?」

「…………」

す、と一瞬で奏との距離を詰め、また一瞬で離れる。
知覚不可能な触れるだけのキス。
憐れむほどに敏感な口を持つ奏だからこそ、それを感じ取れるのだ。

「あら、これだけ? 恥ずかしがりやなのね……あなたは。 良いわ、志希の件もあるし、今夜は覚悟しなさい。
たっぷりその唇にお返ししてあげるわ……」

「………」


17歳とは思えない、妖艶で男を誘う色香を醸し出す速水処女。
今夜もベッドは黄金色に、床で寝ることが確定し、若干辟易としつつも、奏プロデューサーは頷いた。

「ところでフレちゃん。 その様子だとプロデューサーさんと何かあったんでしょう? 彼はどこ? 仕事の報告を済ませたいのだけれど」

「うぅ……うん! フレちゃん復活! フレちゃん復活! フレちゃん復活!
アベニューなーう! と、ごめごめ♪ ほんとにさっきまで居たんだけど、カナデちゃん見てない?」

「いいえ、事務所に入ったときからあなた一人だけよ?」

「おっかしーなぁー。 ……はっ! もしかしたらフレちゃんと交わした熱いベーゼが原因で、天国に行っちゃったとか?! うぇーん、プロデューサー死んじゃヤだぁ~。 あ、アタシも行けばいいのか。 70年後だけど☆」

「………へぇ。 あなた、今夜は今までにないくらい激しくいくから覚悟しなさい」

「……」

大人の階段を一歩も二歩も先を行く友人に嫉妬しつつ、奏は恋人を睨む。

当の本人は、おむつを穿かせることを真剣に検討しつつ、そのアブノーマルさに悩んでいた。


「ねぇ~、プロデューサー。 経口も結合もダメなら、どうすればいいの~。 志希ちゃんエネルギー切れで死んじゃうかも~。 そしたらバクテリアに分解されて炭素とか諸々になって、可愛さしか残らないんだよー?」

「それで死んだら速水さんはもう何度も転生してます。 ベルトを引っ張らないでください。 股間に顔を押し付けないでください。 犯しますよ」

「かもんっ! あたしのボルチオはいついかなるときもプロデューサーの肉欲棒太郎を受け止める準備おっけー! さぁはぐはぐしよー♪」

床にへたりこみながらも、全力で担当を脱がそうとする志希。

改造による改造を重ね、自己を極限まで高めた志希の力は、鬼を背中に飼う志希プロデューサーと互角である。

倫理観を完全に欠如した攻防が繰り広げられる横で、再び奏名探偵は動いていた。


「さぁ、水のりを探しに行くわよ! 助手1号! 助手2号!」

「あいあいさー! キャプテン! 潜航を開始します!」

「………」

どこから取り出したのか虫眼鏡を用いつつ、奏は聖なる雫の跡を辿っていく。

ーーーーーそれは決して、開いてはいけないパンドラの箱。
その底に希望などは詰まっていない。
暗黒の深淵よりも尚も深い、闇の縁。

点々と続く先、それは事務所の入り口と急騰室の間に存在する隅っこ。

今まさに新たな染みが作られ続ける、命の湧水。

一体、いかにしてフレデリカプロデューサーが羞恥を回避したのか。

彼はその身体能力の全てを使い、事務所の扉が開いたその瞬間に隅へと飛び、そして蜘蛛男よろしく壁へとはりついたのだ。
その万力のような力を使って。

だがしかし、衆目にさらされるその時はそう、遠くはないのだ。

(ま、不味い……! 何故こんなときに限ってあんなものを用意しているのか……! 虫眼鏡だと?! それは探偵ごっこに使うものじゃない! フレデリカの唇の皺の一つ一つを観察しスケッチするためのものだろうが……!)

性癖の不一致に怒りを覚えつつ、プロデューサーは焦っていた。

この状況、紳士とはいえ同僚のいる場で全裸でいるという性的興奮。

そして見つかったときの社会的信頼の失墜という恐怖が相まって、恐ろしいほどの緊張を彼の股間にもたらしていた。

それはちんこというにはあまりにも大きすぎた。
大きく。太く。 皮かむり。
そして大雑把過ぎた。

それは、正に肉塊だった。

肉塊はごぷりごぷりと、蛇口の壊れた水道のように止めどなく生を産み出している。

プロデューサーの意思とは関係なく、ただ二つの黄金の御心に従って。

(何故だ……いったいどうしたというんだ、我が魂よ?! 28年、病めるときも健やかなるときもお前は俺と共にいた! 共にフレデリカに純潔を誓った魂の友ではないか!)


((……だからだよブラザー))

(右ふぐりのフランク! 左ふぐりのアンディ! お前たち、一体どうして!?)

二つのふぐり。
プロデューサーの人生において、紳士たるを誓ったその日、神の御技によって降臨せし二大天使。

いかなるときもプロデューサーを、棒を左右から支えた友が赤裸々に語り始めた。

((俺たちは28年、お前と共に歩み過ごし、そして見守ってきた。 生まれた瞬間に精通を覚え、自身の肉欲、業の深さを悔いたお前が、愛を知るまで紳士たるを誓ったあの日から))

懺悔か。
それとももっと別の。


((そうしてお前はフレデリカちゃんに出会った。 彼女を一目見た瞬間に達していたな、あのときのお前は))

(ああ。 人生で最も気持ちよかった。 彼女に全てを捧げてもいいと思えるほどに)

((そうだ。 そしてそれから彼女を慈しみ、時には叱咤し歩んできた。 ふふ……出会った日から、己に制約を交わしオナ禁したお前は輝いていたぞ ))

(……ありがとう)

ふぐりが笑うようにぷるんと、揺れた。


((いつしか彼女もお前を愛し、そして結ばれた。 ……ふふ、同棲しながら手を出さないお前の強情さ、いや紳士さには参ったがな))

(当たり前だ。 二十歳になるまで手は出さない。 おれは自身の魂に、二つのふぐりと一本の棒にそう誓ったんだ)

((………それが彼女を苦しめるとしてもか))

告白。
プロデューサーのちんこがどきりと、上下する。

(どういう意味だ……。 おれの紳士が間違っていると……?)


28年連れ添った友との始めてのぶつかり合い。

童貞をひた隠す青少年と違って紳士な彼は偽らない。
それが誇りであり、礼儀なのだ。

((お前がいかに紳士であろうと。彼女は普通の女の子だ。 ましてやお前がコスプレだの。 マットプレイだの。 裸エプロンだの。 むしろ処女なのにビッチという恐ろしいレールを走っている))

(ふざけるな! フレデリカはわかってくれている! それにあれは全て夫婦になったときの予行演習だ! けしてやましい気持ちは……)

その時、ふぐりが勢いをつけて棒を殴り付けた。

プロデューサーは内蔵が直接痛みを受けたような衝撃に、生まれたてのバンビのように足を震えさせた。


((……教えてやる。 フレデリカちゃんはな。 お前が寝静まった後、いつも一人で……うぅ。 自分を慰めているんだぞ!))

(!)

ガツーン。
ドラマとか映画とかで血が飛び散ったり首が吹っ飛んだりするより、断然衝撃的。

自身の紳士たるという思いが、愛が、最愛を傷つけていたという事実。

(………そんな……おれは、紳士は。 いったい)

((わかっただろう……お前のそれは独り善がりの偽善なんだ。 聞くがいい))


『『プロデューサーのル・ズィズィがル・ペニスしてフレちゃんのフェーブをムールしてフォントしてるのぉおお! あ、来る来るきちゃうううぅぅぅぅ! オランジェットおぉおぉぉぉぉオオオ!』』

ふぐりによるフレデリカの再現はあまりに酷い出来であったが、今のプロデューサーにとっては最高のおかずであった。

((だから、もういいじゃないか。 皆に見つかって、紳士じゃなくなれば、彼女と正々堂々と出来るだろう? お前はよくやったよ。 誰に憚ることもない。 俺が、俺たちがお前を讃えるさ))

(アンディ……フランク……)

((だから、ほらあそこを見ろよ。 もうすぐそばまで彼女達が来ている))


促されるまま顔を向ければ、奏とそのプロデューサーが此方に向かってきているところだった。

幸いにして目線よりも高い位置にいるため、真下まできて、生命の泉の源泉を見つけぬ限り気付きはしないだろう。

そして、彼女も。

(ああ……フレデリカ……)

ちょこちょこと、奏の後をついていきながらいつもの鼻唄を歌っている。
愛しのパリジェンヌ。

最早全身ひん剥かれ、逆レ寸前の志希プロなど、プロデューサーの視界には映らない。

世界には今、自分と彼女だけだった。



((……さぁ、楽になれ。 呼べよ愛しの人を))

(………あぁ、おれはーーーー)

そうして欲望に屈し、口を開きそうになったプロデューサーの脳裏に、瞬く光。

(……なんだ?)

それは夜空に小さく光る、星のようで。
消えそうな、しかしけして失われないその輝き。

(あぁ……これは……)

思い出す。あの日をーーーー

『ねぇ、プロデューサー。 アタシって魅力なかったりするのかな?』

『……なんでだ』

『わわっ怒んないでよ、もぉ~。 ……だってフレちゃんに手ださないんだもん。 心配だし……』

『付き合う日に言っただろ? 俺は紳士だ。 君が成人を迎えるその日まで、けして手を出さないと誓うと』

『ぶぅ~……ほんとに出さないなんて思わないし』

『すまないな。 だがこれは俺なりの女神に手を出した罰なんだ』

『……わぉ。フレちゃんてば女神様? 』

『ああ。 俺にとって、この世の全てを天秤に掛けてもまるで釣り合わない、史上の女神だ。 君がくれたこの腕時計を見るたびに、女神の寵愛を感じてる』

『………』

『顔が赤いぞ。 どうした?』

『………ほんとズルいかも。 じゃあ女神に手を出した悪い悪~い紳士様。 代わりに毎日、じゅてーむしるぷぷれ?』

『あぁ、永遠に。 俺の魂に誓って』

ーーーー走馬灯のように、その映像は流れていった。

あぁ、何故忘れていたのだろう。
いや、きっと当たり前過ぎて思い出さなかったのだ。

(こんなにも大事なことだったのにな……)

((お前……どうした?))

(アンディ、フランク。 ありがとう。 お前たちはこれを思い出させるために来てくれたんだな。 忘れていたよ。 俺はあの日、世界に誓ったんだ。 彼女をこの世の全てから守ってみせると。 ……ははっ金玉袋に感謝するなんて、俺も紳士が回ったかな)

清々しい、正月に新品のパンツをはいたときのように、まっさらな気分だ。

そう、フレデリカがたとえ自身を慰めていたとして、それがどうしたのだ。
彼女は自分を信じているからこそ、そうしているのではないのか。


精と愛。
二つの液で結ばれた、こんなにも原始的な。

(これが、愛か)

((……いや全然違うぞ))

否定。
そして、ふぐりの告白が始まる。

(なに? ならば、お前たちはなんのために出てきたんだ?)

((もうね、限界なんすわ))

(は?)

((毎日毎日、キスだのローションプレイだの、ふざけるなぁ! こちとら精を溜めて吐き出す器官やぞ!? なんのために体危険にさらしてまで外に出とる思とんねん?! ナオンとずっこんばっこん、いちゃこらするためやろが! それがいうに事欠いて紳士? ヘドが出るわ! こないに優秀なちんぽこつけといて、28年童貞をとか、貴様フレデリカちゃんが成人するときには魔法使いにジョブチェンジでもするつもりかぁあああ!?))

精子は一週間で入れ替わる。
それは確かなことだ。
だがしかし、ふぐりに溜まる、機能を果たすことの出来ない憂鬱はいったいどうして替わることができようか。

()

((てゆーかぶっちゃけ、もう無理! 犯りたいの! フレデリカちゃんをズボズボしたいのぉぉぉオオオ! フレちゃんのフレちゃんにボンジュールしたいのおおおぉぉぉお!))

(こんのクズがぁああああ!?)

所詮、ふぐり。
人体において最も雌を孕ませることに特化した器官が、崇高なる意思など兼ね備えているわけがなかった。

怒りに燃えたプロデューサーは、もはや裏切りの人体など必要ないと断ずる。

(お前らのような、非紳士たる我が一部など必要ないわ!)

ぐわし、と掴み。
性転換を心に決め、引きちぎらんとしたその瞬間。

((ーーーーーいいのか?))

(あ?)

((くくく……暑くなりやがって、下を見てみな))

(下、だと……。 ま、まさか!)

目線を珍と玉からさらに下げ、*よりも下方をうかがった時、死地が見えた。


「……ふむ。 どうやら痕跡はここまでのようね。 そしてこの粘度……まだ新しい。 どうやら犯人は新品のまま蓋が外れたようね……」

「………」

「はいはいはーい! フレちゃんも虫眼鏡みたーい♪ カナデちゃん、貸しちくり?」

名残惜しそうに、本当に名残惜しそうに、嫌々、嫌々フレデリカに虫眼鏡を渡す奏。

フレデリカは手をブンブンさせて、まずは手始め、床の周りを見ようと隅っこを歩き回っていた。

そして傍らには、完全に搾り取られ残りカスと成り果てた志希プロと、下腹部をいとおしそうに撫でる志希がいた。

その光景に、ふぐりはにやりと皺を歪める。


((そういうことだ……お前が俺に暑くなっている間に既に状況はここまで来ていたのさ))

(ば、馬鹿な……! こ、これでは引きちぎったところで、血が飛び散って気付かれる?!)

((フハハハハハ! その通り! さっさと俺たちの目論見に気づけなかった貴様の敗北なのだ! 貴様は既にチェスで言うチェックメイトにかかったのだ!))

アンディとフランク。
狡猾なる二人の罠が、プロデューサーを追い込んだ。
逆転の目は、いかに。

((無駄無駄無駄無駄ァ! 両手、両足! ふぐり! 貴様に残されたのはその憐れなぼうっ切れ1つのみよ!))

(くっ……こ、これではどうしようも……!)

ぎらり、とふぐりの目が光る。
更なる一手。
完璧をより完璧に。
油断など欠片もないダメ押しの一手。

((更に! 貴様を追い詰めるダメ押しの一手というやつを見せてやろう!))

(何を……?! はっ! まさか!)

唐突に、ふぐりがマグマのような熱を帯びその器官を回転させ始めた。

作られる命、溜まる魂。
それは全て発射口へと送られる。
まさに死のデスロード。


((これから、噴火を行う! 最早貴様にはどうしようもないぞ! 肉体の支配権は我が方にある! 玉の縮むような、不足の事態でも起こらぬ限り、止められはせぬ! フハハハハハ! 神にでも祈れ! 我が宿敵よ! そしてようこそ! 薔薇色の未来!))

(か、神に祈るだと……?)

((そうだ! それとも紳士にどうにかするかぁ……? あぁん? できるものならなぁ! さぁ、見せてやる! 命のシャワーだッッッ!))

奏、奏プロ、そして宮本フレデリカ。
彼らの頭上でガラスならぬ精液のシャワーが炸裂する。

その寸前。
完全に追い詰められ、後のないはずのプロデューサー。

だが、しかし。
彼の者の表情は、輝ける黄金に満ち満ちて。
光指す未来をまっすぐと見つめていたのだった。


((な、なんだあこいつぅ……? 絶望でぐちゃみその表情を見せる思ったが……ちっ! くだらねぇ! そうして斜に構えてろ! いくぜぇえええ!))

(神といったな。 アンディ。 フランク)

((ああ……?))

(残念だが。 俺に祈る神はいない)

((なんだ、絶望で頭がおかしくなったのか?))

そこで、ふぐりは見た。
爽やかに、こんな状況にもかかわらず、紳士そのものといった安らかな表情で笑うプロデューサーを。

(思い出せよ。 仮にも俺の一部だったのなら。 俺が仕掛けた一手を)

((……? なんの、話だ?))

(なぁ……どうして俺は全裸なんだ? どうして、おれはなにも持っていないんだ? ペンは? 時計は?)

((それはお前がペンを投げて、時計を外したからーーー))

ふっ、とプロデューサーの顔に失笑。
ふぐりは優位を貶されて、プライドを痛め付けられたことに怒りを覚える。

((なんだっつーんだよぉ! てめぇが、音をたてないために、時計を外したんだろうがよぉ! それ以外になんの意味がーーー))

(歩くときに、時計が音を立てるか?)

((そ、それはサイズがあってなかったりしたら……))

(フレデリカが俺にプレゼントしてくれた時計にサイズミスなどあるものかよ。 不足の事態といったなアンディ。 フランク)

びしり、と二つのふぐりに宣戦布告の指を突きつけて、プロデューサーはいい放つ。

(覚悟はいいか? 俺は出来てる)

ピーッ! ピピピピピピピピピピピピ!!!

瞬間、プロデューサーのデスクから激しいアラーム音。

「わっ! 一体なに? 驚いて水のりに尻餅ついちゃったじゃない!」

「………?」

「……ん、じゅぽ。 じゅぽ。 ちゅるじゅるるるる! ……ゴクンっ。 むぇ、なにこりぇ……」

「……し、き……」

耳ざわりな電子音、意識が一斉にデスクへと集まる。
その瞬間、プロデューサーは自身の棒をわし掴む。

発射口さえ押さえてしまえば、弾は出ない。
むしろ、逆流して自滅と言うリスクすら伴う。

アンディとフランクは完全に隙をつかれたのだ。

((お、お前、まさか! 時計を外したあのとき! 既にここまで読んでーーー?!))

(いいや。 俺が読んでたのは奏達の帰還。 そして、その時の為の保険さ……。 お前たちを止められたのは、玉玉さ)

((そ、そんな運任せみたいなことを?! 時計は外さないほうが間違いなく様々なことに使えたはず! みすみすそれを! お前は!))

常識の放棄。
全裸と言うイレギュラーに際して、自身の武器を一つ捨てると言う暴挙。
いかにして、女を孕ませるか。

合理的にそれにのみ、特化したふぐりにとって、思い付きもしない策。

思考の外からの、不意討ちーーー。

(いいや、運なんかじゃないさ)

音の発信源を止めようと向かっていく奏達。

余裕を持って、着地したプロデューサーは、紳士そのものといった態度で、ふぐり達に言った。


(俺には神なんかいない……俺についてくれてるのは、宮本フレデリカ。 幸運の、女神様さ)

Full comboーーーーー
完全なる勝利を手にし、自身の肉体、そう〈人社会〉という雄の理さえも打ち倒して、プロデューサーは終わりへ踏み出したーーーーー








ーーーーーそのはず、だった。


『if』。
そう、『if』だ。
人と人の出会いが重力であるのと同じように、この世は偶然でできている。

結局のところ、ネットに弾かれたボールがどちら側に落ちるのかわからないように。

服の弾けたプロデューサーが、どちらに堕ちるかなど、誰にもわからないことなのだ。

結末は、いつだって。

そうけして劇的じゃあない。

だってそうじゃないか?

誰がぐるぐる眉毛に意味があるなんて思う?

誰がMrプリンスが伏線だなんて思う?

誰が役目の終えた、舞台から既に退場したはずの、ボウ・ルペンなど気にとめるだろう……。

そう言った意味では、速水奏はまさしく名探偵だったのだ。

彼女は立派に役割を果たした。

ただ、『本物の名探偵』に謎を解き明かす手掛かりを渡す『前座』としてだがーーーー




宮本フレデリカは、その奔放でしかし繊細な性格が産み出した、ある種神憑りな運命力によって、プロデューサーが投擲し、そして給湯室からはじかれて『隅』へ転がった愛しの彼のボールペンを、虫眼鏡によって見つけていたのだ。

彼女は、時計のアラームになど目もくれず。

拾ったボールペンを見つめて。

そして、今まさに眼前に堕りたった、生涯最愛の紳士ーーー否、『元』紳士の全裸を余すことなく見つめて。

そして、その美しき緑玉に、永久に消えぬ楔を挿し込んだのだった。

そうして、不意に、吸い込まれそうなそのエメラルドグリーンの瞳が、崩れ落ちそうな憐れな男の瞳と視線を交わしたーーーーーー





ーーーーー死線を明確に引いて。





「あ……な、ぐ……な、なんで……」

言葉がでない。
人は緊急時、動けない。
脳味噌が思考を放棄するよりも早く、体が拒否するのだ。

人生の終わり、意思の終わり、紳士の終わり。

そういった全ての否定に対して、体が首を垂れるのだ。


「……ち、ちが、これは。フ、フレデリカ。 い、いきなり服が弾けて……」

「………」

意味をなさぬ言葉。
一言発するたびに空気が冷え込んでいく。

最早、地獄の蓋はとれてしまった。
後は堕ちるのみ。

「……お、おれは戦ったんだ。 紳士に恥じぬように……。 お、お前との約束を破らぬように……」

「………」

「あ………あぁ………」

プロデューサーにとって、これは生涯の否定。
産まれ落ちて28年。
一生を賭けた、自身の制約の破綻。

彼の者の絶望はいかほどであろうか。

いついかなるときも硬度を失わなかった逸物が、女神の前では見る影もなく……。

例えるならば、塩をかけられたナメクジ。
例えるならば、干からびたミミズ。

ああ、愚かなりプロデューサー。
そは正におのが首を処刑台に置いた罪人よ。

断罪のときをただ待つだけの囚人。


「………」

「あ……!」

フレデリカの手が伸ばされる。
動けない。動けない。動けない。

ナニも出来ない。
生娘のようにただ震え。

そして、崩壊の指先がプロデューサーへと触れでりかーーー




それは、優しい。
優しい手つきだった。
プロデューサーの体の震えはぴたりと止まり。
フレデリカに握られたちんこは、先程までの極寒のような責めからは、はるか彼方にいた。

プロデューサーは始め、ナニをされたのかわからなかった。
だが、萎んだ魔羅が徐々に硬度を取り戻すにつれ、自覚していく。

暖かさ。
これは、母の胎内にいたときのような。

羊水の暖かさだーーー


そう錯覚するのも無理はなく、それほどまでに悠々と、フレデリカはプロデューサーの死線を横切ったのだ。

今や、プロデューサーのプロデューサーは高く高く、さながらバベルのように立ち上がった。

恐れなどない。

フレデリカの握る手に力が入る。
プロデューサーは、股間を固くしてそれに応える。

ゆっくりと、二人は歩く。

言葉はなかった。

あれほどまでに遠く感じた更衣室の扉が今はこんなに近い。

「………」

プロデューサーは開けない。
怖いのだ。
この先の未来が。

扉を開いた先に待ち受けているものが。


コスッ。

フレデリカがプロデューサーの鬼頭を撫でる。

怖くないよ。
そう言っているような。

ああ。

その手に先走り液を塗り返して、プロデューサーは扉を開いた。

何てことはない。
ただの部屋だ。
変わらない。

だが、入室者は既に以前の彼とは別人。

不意に、フレデリカの手が離れているのに気付く。

振り返って見てみれば、扉の前に彼女は立っていた。

その唇が紡ぐ。













「プロデューサー、服着なよ」








最愛の笑顔、慈愛に満ちたその顔と共に閉じられた扉。

頬を伝うものがどこから来るのかわからない。
プロデューサーは泣いた。
声をあげて泣いた。

それは慟哭に似て、悲しい調べを纏いながら、晴れ晴れとして。

そうだ。

これは死ではない。

誕生。
新たなる生誕なのだ。
宮本フレデリカという胎内を通して、『紳士』であらねばと十戒を受けて産まれたプロデューサーの。

そうだ。

今日弾けたのは服などというちんけな楔ではない。

もっと大きな、『愛』と云うべきものがーーー





ーーーー大きな輝きと共に産まれた、聖誕祭なのだーーーーー

ーーーーー翌日。
何事もなかったのように、プロデューサーは出社した。

パソコンへと企画を打ち込む。
変わらない。
いつもの日々。

「……っと、これでよし。〈輿水幸子が行く! ~ボクより可愛いを5432人に言うまで終わりません~〉 ふぅ~自分の才能に惚れ惚れするぜ」

ガチャリ、と。
事務所の入り口が開く。

宮本フレデリカだ。
その小麦畑のような黄金色の髪を振り撒いて、仕事から帰ってきたのだ。

「たっだいま~☆ フレちゃん隊長のご帰還です♪ 語尾の後には、ボンジュールマダムをつけろ! このフレンチクルーラーめ!」

「お帰りボンジュールマダム。 どうだった?」

「んー控えめに言って~1000点かな?」

「10点中の?」

「残念♪ 10000点中でした~。 地球は回ってるんだよプロデューサー♪ 昨日と今日のアタシは別人なのだ!」

「おいおい、ダメなんじゃないか。 全く」

そう、変わらない日々。
しかし、変わったものもある。

そう思いながら、プロデューサーは立ち上がった。

時刻を見る。
19時30分47秒。
逆転の〈96〉を刻む時計に、プロデューサーは笑みをこぼす。

「もう遅いな。 帰ろうか、フレデリカ」

「んーそだね。 実家へ帰らせていただきます、旦那様」

「ほんとに?」

ぐぐっと、屈んで力をためて、近づいてきたプロデューサーへと飛び込む。

首に手を回し、体を預ける。
全幅の信頼、プロデューサーも姫を抱き抱えるようにして応える。

「プロデューサー次第かな♪」

「……そうか。例えばどうすればいい?」

「この部屋に、フレちゃんが好きな人は~……やっぱなし! ノーヒントですわ旦那様♪」

楽しそうに、プロデューサーを見つめるフレデリカ。

姫の無茶に付き合うのは、紳士の、いや男の努め。

プロデューサーは自分の心の、新たな芽生えを楽しみつつ応える。

フレデリカの耳に唇を近づけ、鼓膜を震わせるように、囁く。

「……今夜は、寝かさないぞ、パリジェンヌ」


「………ぼんっ! あーあーあー。 いっけないんだープロデューサー♪ まだ成人してないのにアタシ♪ おフランスの伊達男になっちゃったかにゃ?」

「四捨五入すれば二十歳さ。 パリジャンは細かいことに拘らないもんだ。 それに」

ちょっとだけ恥ずかしいそうに頬を掻いて、プロデューサーは笑った。

「……フレデリカのフリーダムさに俺も影響受けたからな」

「………わーお。 効果覿面。 予想の大気圏越えかも。 もう、ダメだよ。 プロデューサーは一生。 フレちゃんだけのプロデューサーだからね。 逃がさないからね」

「サーイエッサー。 フレちゃん隊長」


変わらないものも、変わるものもある。
そうして地球は回っていく。

愛しいパリジェンヌを抱いたまま、プロデューサーは軽い足取りで、出口へ向かう。

運命の更衣室。

もう振り回されることもない。
何故ならもっと手のかかるお姫様が、これからずっと傍らにいるのだから。

出口、いや新たな門出か。

ドアノブを捻って、これからの明日に心踊らせながらプロデューサーは踏み出していったのだ。





ーーーと、事務所を出る寸前、フレデリカは視線を移す。
その先は、ぽふぽふと息を放つディフューザー。

「せんく、ゆ~ディフュちゃん♪」

「ん? なにか言ったか?」

「秘密~☆ 女の子は秘密を抱えて可愛くなるのよ♪」

「……今夜はフレデリカを丸裸にしてやる」

「きゃ~ケダモノ~♪ ……優しくお願いしるぶぷれ?」

ゆっくりとドアが閉まる。
明かりが消え、人気のなくなった事務所でディフューザーだけが滞りのない呼吸を繰り返していた。

これで一旦、終わりです。

後は二三、後日単……の予定。

一応、登場人物と伏線(?)で推察は可能とは思うのですが。

人によっては納得出来ない可能性。
……これ読むのはみんな紳士だから大丈夫なはず。

>>84 設定としては、公私をはっきり分けている事務所のつもりです。

淑女代表千川様の御力により、プライベートと事務所の中は治外法権なので。

また溜まったら出します。

あと奏紳士様すみません。

この奏は恐らくイメージを多いに破壊する淑女です。

次回作は彼女の初夜の話にするつもりですが、紳士的でないので先に謝ります。


すみまsex

レスありがてぇ……!ありがてぇ……! 圧倒的感謝……!

気づけば夜です。
一日書くとかありえないんですけど……。

ところで、なんで里奈様は二人だけなんですかね……?
微課金に姉御は遠すぎるんですが……。
紳士ちょっとわかんない。

残り汁ばばっと出して終わります!

夕暮れ、事務所の中が朱に染まる時刻。

珍しくも、事務所にプロデューサーはいない。
千川さんもいない。

多くのアイドルも出払って、たまたま示し合わせたように3人のアイドルがソファーで隣り合っていた。

志希、奏、フレデリカ。

奏に寄りかかるようにしながら仲良く3人並んでいたのだ。

「……フレちゃんクーイズ」

「いぇーい。 ぱふぱふー」

「何故フレちゃんはしょんぼりモードあらもーとなのでしょうか~」

「ちくたくちくたくちくたく♪」

「……プロデューサーさんが居ないからでしょう?」

「ぶっぶー。 正解は、お腹が空いた、でしたー。 カナデちゃんマイナス20フレポイントー。 マイナス100ポイントで、大親友から超親友に格下げになりまーす」

「あら、残念。 てっきりプロデューサーさんが居ないから、待ってるんだと思ってたわ。 私の勘違いね」

「わーお。カナデちゃんてばいつのまにユッコちゃんに変身したの? はっ、もしやユッコちゃんがカナデちゃんでカナデちゃんがユッコちゃんなのかー。 大事件のにほいがハスハスしますぞー」

「ちくたくちく、ちーん! 時間切れでーす! 志希ちゃんタイマーが午後5時0分2.12536452365876秒をお伝えしまーす」

「いつも正確ね。 ありがとう志希」

「にゃはは☆ お礼にハスハスを所望しますぞ♪」

なんてことはない、いつものやり取り。

けれど、ほんの少しだけ違っていた。

それは、プロデューサーの服が弾
けたあの日からフレデリカに起きていた変化だった。

「……フレちゃん最近元気ないね~心トリップするフレグランスあげよっか~? 月までひとっ飛びだよだよ?」

「んぅー。 フレちゃんは太陽さんだから月はのーせぼんかも。 はふぅ……」

「重症ね……。 プロデューサーさん絡みかしら?」

こくり、と頭だけで返事する。


「……話してみなさい。 フレデリカ。 この〈狂悦なる口蛇の魔性〉があなたの悩みをねぶってあげる」

「奏ちゃんの良いところってそういう憚らないところだよねー色々と。 1度、成分実験してみたいにゃあ☆」

「乙女の秘密は明かさないからこそ、良いものよ」

「……そうなんだよね~。 その乙女の秘密。 それがフレちゃんの悩みの元栓なのだ」

ぐでーん、とソファーに背中を完全に預けるフレデリカ。

志希は奏の膝の匂いを嗅ぎながら、奏が髪を鋤くのに任せている。

「あんまり意識してなかったんだよね~。 いわゆる、お花が散るって言うのかな? たおられちゃったフルール。 もしくは……淑女レディ=フレデリカ?」

「………志希、私には荷が負けすぎる問題のようよ。 助手3号として噛み砕くことを許すわ」

「えーっと。 まぁ~なんていうかにゃあ……。 大人の階段のーぼるー君はもう、ぐらじゅえいとシンデレラ。 みたいな?☆」

「……フレデリカ。 あなた……」

「………うん、カナデちゃん……」

志希の髪で三つ編みを作りながら、真剣そのものといった表情で、奏はフレデリカに、向き合った。

ああ、アタシにはこんなに親身になってくれる親友がいるーーー。
感動を覚え、らしくなく涙が浮かんでくる。

「妊娠したのね!」

「うん! …………うん?」

「あちゃ~奏ちゃんにはまだ早かったかぁ……」

これまた珍しく、頭を抱えるギフテッド、一之瀬志希。

浮かんだ涙は悠久の彼方へと、尻を叩きながら消え失せてしまった。

「そうよね……熱いベーゼだなんて……。 キスすれば妊娠する可能性があるもの……それをフランス仕込みのベーゼだなんて……はっ! 赤飯は炊いたのフレデリカ?! 結婚式には呼んでね?! 仲人は任せて!」

「うん。 さっきまでは呼ぼうと思ってたけど、急に悩みが増えちゃったかなー」


「見た目はぱーぺきなのにねー。 いやぁ、人は見かけによらない事象の筆頭かも」

「失礼ね。 赤ちゃんは愛深くキスした男女の元にコウノトリさんが運んでくるんでしょ? 常識よ志希。 志希にも知らないことがあるのね」

「うんうん。 そうだね奏ちゃん。 お馬鹿なあたしは事務所の深窓令嬢様に負けまくりだにゃ……」

コウノトリを信じる少女に、無修正のポルノ見せたいって気持ちがわかった気がするなあー。

物騒なことを呟きながら、志希は現実逃避のはすはすへ戻る。

奏は止まることはなく、フレデリカへ詰め寄る。 ちなみに三つ編みは3本目に突入だ。

「まずはちひろさんに相談ね。 アイドルが妊娠だなんて、きっと世間が放っておかないもの。でも、ちひろさんなら安心だわ。 親身になってくれるはず。 ううん、それどころかマタニティアイドルとしてデビューもできるかも!」

「そうだね。カナデちゃん。 でもフレちゃんの方からちひろさんにはお話ししたいから、黙っててくれるかなー?」

「ええ、勿論よ。 だって私たち親友じゃない」

「そうだねー。 フレちゃんポイント絶賛上がってなくもなくもなくもないないけど親友だよー」

慈愛の笑みを浮かべ、奏の手を握り返し、頷くフレデリカ。
その仕草を志希が戦慄しつつ見つめる。

「おおう。フレちゃんが遠いところに……。 少女から大人へ……自伝出して印税生活かも。 あ、他伝か」

「それで? フレちゃん、式はいつにするの? デキ婚だなんて揶揄されたくないだろうし、早いほどいいわ。 明後日はどう? 私行くわ。 仕事なんてしてられないもの」

「そだねー。早いほどいいねー。 でもちょーっとシキちゃんとお話ししたいから、カナデちゃんは三つ編みに、集中しててくれるかな?」

「わかったわ」

志希の髪を編み編みする作業へ集中し、熱意の方向を変える。
手を振り振り、志希がフレデリカへ労いの合図を送る。

「んで? フレちゃんどったの? なんとなーく察しはついてるけどねん♪」

「へへへ。 まぁね~。 シキちゃんには直接お願いしたもんね」

「にゃはは☆ 流石のあたしも、フレちゃんプロの服だけ弾け飛ぶ?
軽い催淫効果のあるフレグランスをお願いされたときは、お目めくるくるぽわっぽわだったけどにゃ♪」

「そんな都合いい香水作れちゃうなんて、シキちゃんは天才だよね♪ あ、最近わかったんだけどアタシも天才なんだ☆」

「Wao! だぶるギフテッド? バンド組む?」

「私も忘れないで欲しいわね」

「三つ編み何本め?」

「5本よ」

「あと10本ね」

「わかったわ」

もくもくと三つ編む速水処女。

「それでね。 なんやかんやのかんやなんやで上手くいったんだけどー。 ちょっと後悔? プロデューサーごめんなさい? みたいな? あ、そだ。 メールしたとき早く帰ってきてくれてありがとね、シキちゃんカナデちゃん」

「フレちゃん隊長の命令とあらば、1失踪分の働きはするであります! ボンジュールマダム! 」

「……? よくわからないけど気にしないで。 私たちフレちゃんが大好きだから」

「ありがと☆ フレちゃんもジュテームだよ♪」

「ところでもういいかしら?」

「何本め?」

「7よ」

「あと3本ね」

「はい」

慈しみはあっても、妥協はない。
レディ=フレデリカはスパルタなのだ。

「それでね。 フレちゃんの我が儘でプロデューサーの心を変えちゃったから、ちょっと……思うところがないかもしれないの」

「……ふーん。 アタシは他人をどうしうようが自由だと思ってるから、それでいいと思うけどねー。 変えられる方が悪いのだ☆」

「ふふ。 シキちゃんもシキプロに影響受けてるかも♪ それはお互い様かなぁ」

「そうそう。 弱肉強食なんてやばーんなことを教えて、ケミストリさせちゃった悪い悪いプロデューサーは、あたしにナニされても仕方ないのだ♪ 言うなれば還元反応♪」

猫のように瞳を細めて、志希は屈託なく笑う。

マッドなサイエンティストは今や、マッドマックスなのだ。

「それにさ。 フレちゃんほんとは嬉しいんでしょ? やっぱり最後は肉体なんだよねー。 アタシたち人間も原始からは逃れられぬカルマ!」

「もー! フレちゃんを丸裸にしていいのはプロデューサーだけなのに~。赤面爆発しちゃうかもっぼんぼんボンジュール♪」

「あら、私には裸のフレデリカを見せてくれないの? 私の唇はこんなに赤裸々なのに」

「何本め?」

「10よ」

「乙乙~♪」

「ありがとう志希。 三つ編み可愛いわよ」

ドレットヘアのように複雑に編み込まれた三つ編みは志希を完全にアウトサイダーへと、変えていた。
汚物は消毒しそうな、そんな雰囲気。

「だからぁ、マリッジブルーならぬ、ヴァージンブルー? あ、もうロストしてたっけ♪ 延長戦不可能かなー?」

「フレ様たらおはしたのうございますわよ♪」

「ごめん遊ばせシキ様♪」

「ふむ……興味深いわね」

「……ねね、奏ちゃん。 奏ちゃんの方はどなのかにゃ~? 一昨日仕掛けるって息巻いてたけど、結果は? 一之瀬博士が分析してさしあげよう♪」

「………だったわ」

「んー?」

「……………気付いたら、パジャマが変わっててベッドシーツが新品で、プロデューサーが床で寝てたわ」

志希の顔がかつてないほどげんなりとした。
髪型も相まって、完全に世界観を間違えている。

「…………。 奏ちゃん、ラシックスあげよっか? アタシが調合した強烈なやつ。 奏プロさんが悲劇に見舞われるのだけは避けられると思うんだけど……?」

「遠慮しておくわ。 志希のお薬でろくな目にしか、あったことないもの」

「そっかー。 かつてないほど残念だよー」

奏プロの再びの悲劇が確定したところで、志希がまた興味の矛先をフレデリカへ移す。

「でもさー。 結構意外だったんだよあたし? フレちゃんって寛容だし、アタシの実験にも付き合ってくれるけど、使う側に立つとは思ってなかったから。 あくまで被験者って感じで」

「うーん……」

「そうね。 普段お茶らけてる時は攻めの姿勢だけれど、ライブの前だとか皆を鼓舞してる時は一番緊張してるもの」

「あははー。 バレてたかー。 結局、丸裸にされてたねー」

仲間。
それは何も言わずとも互いのことを理解し、そして語れるもの。

フレデリカは少なくとも、二人もの竹馬の友を得ていたのだった。

「でもね。 やっぱりアタシはアタシだよ? 少しだけ勇気を出して切っ掛けを、作ってみただけだし。 ディフューザーの調子が悪くならなかったのは幸運だったけど♪ やっぱり幸運の女神様なのかなー?」

少しだけ。
ほんの少し彼の心を溶かすために、心の楔を抜いてくれた彼の仮面を外すために。

シンデレラはガラスの靴を落としてみたのでした。
今回は、結局のところそんな話だったのだ。

「………にゃは。 フレちゃんすっごいいい笑顔してるかも。 素敵な香りが分泌中~」

「全くね……嫉妬しちゃう。 吸い込まれそうな笑顔だわ。 くすっ♪」

と、事務所の階段を上がる靴音。
聞き間違えるはずかない、愛しい王子様。
パリジェンヌはさっと立ち上がって、ドアへと駆けていく。

「ご主人様のお帰りに反応だなんて、アンドロイドみたい♪ 型番ゼロ号=フレドロイド?」

「ーーーそうね。 でもきっとポンコツじゃないわ。 恋する乙女。 プロデューサー専用の、Pンコツかしら?」

ーーーとドアの前でくるりと、踊るように回ってフレドロイドは告げるのだ。

「それに、パリ~ぬおフランスは恋のくにだよ♪ アタシはフランス生まれの日本育ち、ハイブリッドなフレちゃんなのだ☆ オトコの人にリードさせなきゃ。だってーーー」









ドアが開く。
まだまだ12時にはほど遠い。
解ける魔法では、ないけれど。














「パリジェンヌだもん♪」






終わりです!
多分後日単が一番紳士でない。


流石の紳士もデビュー戦(?)は緊張して玉が縮み上がりましたが、多くのかたのお陰で書ききれました!


次回は、
奏「赤ちゃんはコウノトリが運んでくるんでしょ?」

もしくは

志希「激走~アタシと鬼のアメリカ逃走記」
のどちらかになる予定です。

恐らくどちらも紳士度は低め。
いい意味↑と悪い意味↓で。


ムラムラしたらまた、書きにきます。
謝謝。

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