忍「クジラっておいしいのですね」アリス「」 (27)

~大宮家~

母「二人とも、夕ご飯できたわよー」

忍「はーい、今行きます」

アリス「もうおなかペコペコだよ。今日の献立は何かな」

忍「アリスは何が食べたいですか?」

アリス「やっぱり和食がいいかな」

忍「私が洋食がいいですね」

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アリス「わーい、お刺し身だ」

忍「良かったですね、アリス」

「「いただきまーす」」

忍「柔らかくておいしいですね」

アリス「うんっ」

母「竜田揚げもあるわよ」

忍「揚げたてでサクサクですねー」

アリス「ほんとだ、とってもおいしいよ」

勇「初めて食べたけど、思ったより臭みもないし悪くないわね」

母「お父さんが取引先からお土産でもらったそうなのよ。いっぱいあるからたくさん食べてちょうだい」

アリス「勇、これって何の刺し身なの?私も初めて食べたけど」

勇「クジラだそうよ」

アリス「」

忍「へえ、クジラですか。クジラっておいしいのですね」

アリス「」

母「私が小学生くらいのときには学校の給食に出てたのよ。竜田揚げとか大和煮とかね」

忍「そうなのですか?」

勇「あら、アリスどうしたの。箸が進んでないようだけど」

アリス「わたし、もう、お腹いっぱいで……」

忍「遠慮しなくてもいいですよ。ほら、竜田揚げにレモンをかけておきました。召し上がれ」

アリス「にゃあああああああああああああああっ!!!」

~学校~

忍「……ということが昨日ありまして、あれからアリスがご機嫌斜めなんです」

陽子「そっかあ、そりゃ困ったな」

綾「いや、それは機嫌も悪くなるわよ」

忍「うう……私が勝手にアリスの竜田揚げにレモンをかけてしまったばっかりに!」

陽子「ってそっちかよ!」

綾「絶対そっちじゃないわ!」

忍「えっ、違うのですか?」

陽子「違う違う」

綾「もっと分かりやすい理由があるじゃないの」

陽子「そうそう。お腹いっぱいなのに無理やり食べろって言われたら、そりゃ怒るよ」

忍「はっ、なるほど。そうだったのですね」

綾「ってそれも違うわ!」

陽子「え、違うのー?」

忍「そ、そんな……分からない。アリスの気持ちが……まったく分かりません」

綾「いや、要するに、クジラだからでしょ」

忍「はい?」

陽子「え、クジラが何か問題あるの?」

綾「私も食べたことないけど……クジラってイギリスの人は食べないのよ。だから苦手なんだと思う」

陽子「そうなんだ。ま、私も食べたことないけど」

忍「ですが、アリスは日本の料理が大好きなんですよ。辛い物は苦手ですが」

陽子「それに『おいしい』って言ってたんだよね?怒る理由なくない?」

綾「うーん、何て言うか……これって凄くデリケートな問題だと思うんだけど、クジラを食べるのは――」

カレン「Whale?クジラがどうしたデス?」

綾「っ!カレン」

陽子「それがさ、昨日アリスが」

綾「待って陽子!」グイ

陽子「ん、何だ綾」

綾「こういう話は文化の違いとかいろいろあるからカレンの前では……」

忍「アリスがクジラを食べたら、急に怒ってしまったんです」

カレン「Oh」

綾「ちょ、ちょっとしの」

カレン「クジラなら私も食べたことありマス」

陽子「お、あるんだ」

綾「え、でも……イギリスじゃ食べないんじゃないの?」

カレン「あれはノルウェーに旅行に行ったときデシタ。おいしかったデスよ」

綾「そうなの。ノルウェーでは食べられてるのね」

忍「えっと、ノルウェーってイギリスのどのあたりでしたっけ?」

陽子「さあ」

綾「カレンは、クジラを食べるのに抵抗感とかないの?」

カレン「てーこう?何故デス?」

綾(うーん、カレンはアリスと違ってハーフだから考え方が違うのかしら)

綾「ねえ、カレンは……捕鯨問題についてどう考えてる?」

カレン「ホゲーッ」

陽子「って何だそのポーズ!」

綾「ちょっとまじめに聞いてるのに!」

忍「ほげー問題?」

陽子「何だ、そのぼけーっとした感じの問題は?」

カレン「初めて聞いたデス」

綾「えっと、私もあんまり詳しくはないんだけど。クジラを捕まえて食べるのに反対の国と賛成の国があって、いろいろ揉めてるのよ」

陽子「マジで?」

綾「それで、イギリスやアメリカは捕鯨に反対の立場なの」

カレン「知らなかったデス!」

綾「日本は賛成の立場で、反対している国との間で対立している……だいたいこんな感じかしら」

忍「そ、そんな……!」

忍「私とアリスは……引き裂かれる運命だったのですね。うぅ」

陽子「大丈夫だ、しの!私が力を貸すよ。運命に負けちゃダメだ!」

忍「陽子ちゃん」

カレン「そうデス、私が日本とイギリスの懸け橋になるデス!だからシノとアリスも仲直りしてみんな平和に!」

忍「カレン。二人とも、ありがとうございます!」

陽子「一緒に頑張ろう」

カレン「頑張るデス」

「「「エイエイオー!」」」

綾「え、何これ……話が壮大になり過ぎてない?」

陽子「とりあえず、アリスを探してちゃんとお互いの気持ちを話した方がいいんじゃないか」

カレン「話せば分かるデース」

忍「そうですね」

綾「でもそんなに簡単ではないと思うわ。こういうのは難しい問題だし……」


アリス「シノ」


忍「!……アリス」

陽子「お、アリス」

カレン「アリス、どこに行ってたデス?」

綾「ア、アリス。その……私達、あなたに話が」

アリス「シノ!」

忍「アリス!」

ダダダダ

アリス「シノォォオオ!」

忍「アリスぅぅうう!」

ギュゥゥゥゥ

アリス「シノ、ごめんね!わたし、あんなにつれなくしちゃって」

忍「いいんですよ、もういいんですよ、アリス」


陽子「……」

綾「……」

カレン「……」

陽子「よく分からないけど、仲直りできた感じ?」

綾「え、ええ、たぶん」

アリス「私、小さい頃、商業捕鯨を批判する番組を見たことがあるんだ」

忍「アリスは今でも小さいですよ?」

陽子「しょーぎょーほげー?」

綾「商売のためにクジラを捕まえることね」

アリス「その番組の中で、たくさんのクジラやイルカが捕まえられて、殺されて、青い海が血で真っ赤に染まってて」

忍・綾「「ひいいっ!」」

アリス「あの光景を思い出すだけでも……」

フラリ……バタッ

アリス「」

忍「」

綾「」

カレン「アリス!シノとアヤヤまで」

陽子「おいショック受け過ぎ!」

忍「それで、あんなにへそを曲げてしまったのですね……」

アリス「うん……」

綾「でも、それは仕方ないわよ。私だってアリスの立場だったら……」

陽子「確かにそういうの見ちゃうとキツいよな」

忍「もうクジラは食べられそうにないです……」

綾「そうね。クジラを食べるなんて……残酷すぎるわ」

忍「アリス、これからは私、捕鯨反対派に回りますね!」

アリス「えっ?」

綾「一緒に戦いましょう!」

陽子「いったい何と戦うんだ?」

カレン「でも、それなら牛肉や魚を食べるのはどうなるデス?そっちは残酷じゃないのデスか?」

忍「そ、それは確かに」

綾「クジラだけじゃないわ……やっぱり動物を食べるのは残酷よね」

忍「では、野菜を食べればいいのですね」

綾「ベジタリアンね。それなら動物を殺したりしないから大丈夫だわ」

陽子「でも植物を殺してることになるんじゃない?」

忍「そ、そんなっ……もう食べる物がないじゃないですか」

綾「もうっ!だったら私達はどうすればいいの!死ぬの?」

陽子「普通に食べればいいんじゃないかな?」

カレン「大丈夫。お菓子を食べれば問題ないデスよ」パクパク

アリス「カレン、お菓子も原材料は植物や動物由来なんだよ」

カレン「Really!?」

アリス「それとね、話を戻すけど、私は捕鯨反対ってわけじゃないんだよ」

忍「そうなのですか?」

アリス「さっきまで図書室に行ったり社会科の先生に聞いたりして調べてたんだ」

陽子「アリスは勉強熱心だなー」

アリス「捕鯨反対派は、あの番組のように『クジラが可哀想』っていう感情論を喧伝する場合が多いし」

アリス「『クジラが絶滅の危機に瀕しているから』っていう理屈も、日本の調査捕鯨の対象になっている種類のクジラには当てはまらないんだって」

アリス「逆に賛成派は『クジラの数が増えすぎるとクジラが食べる分だけ水資源が減少してしまう。クジラを一定頭数捕獲することで水資源の急減を防ぐことができる』って主張してて」

アリス「この指摘は確かに理に適ってると思う。それに、それぞれの国の伝統的な食文化を守るべきだって考え方も大事だと思うし」

忍「ふむふむ、なるほど。……??」

陽子「なるほど分からん」

アリス「えっと、だからね。クジラを食べる人も食べない人もそれぞれに言い分はあるけれど、それを相手に無理やり押し付けちゃダメだってことかな」

綾「文化相対主義ってことかしら。お互いの気持ちをよく理解し合うのが大事っていうような」

アリス「たぶん、そんな感じ」


キーンコーンカーンコーン


カレン「おや、もうこんな時間デス」

陽子「結構長くなったなーこの話」

綾「そろそろ、帰る?二人も仲直りできたことだし」

忍「そうですね、帰りましょうか。アリス」

アリス「そうだね。……ねえ、シノ」

忍「何です?」

アリス「私、日本に来て、シノと一緒に暮らしだしてもう二年になるけれど」

アリス「これからもちゃんとシノの気持ちを考えて、お互いのことを分かり合えたらなって思う。シノは?」

忍「私も、これからもアリスの気持ちを大切にします。一緒にもっともっと仲良くなりましょうっ」

アリス「うんっ」

~大宮家~

母「ごはんの準備できたわよ。今夜はお鍋にしたわ」

「「はーい」」

グツグツ

アリス「お鍋大好き~」

忍「温まりますねえ」

アリス「私達の命の源になる食材に感謝だね」

忍「はい。農家の人や漁師さんにも感謝ですね」

勇「あら、どうしたの?改まって」

母「でもまあ、感謝の気持ちって大切よ、何事もね」

忍「それでは」

アリス「手を合わせて」


いただきます。


                                         (おしまい)

ふとこんなネタが思い浮かんだんで書いたけど
きんモザで扱う題材にしては重かったかも

きんモザSSもっと増えてー


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