とあるスマートフォン向けオンラインゲーム「5O5D（ファイブオー・ファイブディー）」は、それなりのユーザー人気を得て流行していた。

各プレイヤーは攻撃デッキカード5枚・防御デッキカード5枚を操り、クエストやレイドボス戦・対人バトルを繰り返してアイテムやカードを増やし、陣営を強化していくのがゲームの主な目的だ。

それぞれのカードにあてがわれたキャラクターのデザインに性格・セリフ、特殊能力の多様性も優れていて、自分のデッキのカードに感情移入するハードゲーマー層も一定数いるようだった。

ゲーム運営会社は特定の大手出版社の後ろ盾があるわけでもない単独のベンチャー企業で、それゆえに人気が出てからはあらゆる版権作品とのコラボを依頼され、さらにファンを増やしている段階にあった。

そんな中、コアなゲーマー層の間で、１つの興味深い噂が広がる。
来る大型アップデートに先んじたベータ版テストが予定されているらしい、という噂だ。

アップデートの目玉は２つ。１つ目は、今まではカードデッキを通した対戦やレイドバトル、仲間同士の簡単な挨拶しかできなかったプレイヤー間のやり取りに、大幅な自由度が加えられること。

もう１つは、バトルフィールドの概念の強化。
今までは「氷属性のフィールド。毒耐性のないカードには毎ターン一定ダメージ」のようなシンプルな属性しかなかったが、建物や障害物に天候など、よりリアリティのある設定に加え、全フィールドが連続して繋がるという一元性を持たせるらしい。

噂の内容は尾ひれを増して広がっていったが、運営会社からのアップデートについての公式の情報は一切なく、ユーザーのほとんどは「デマ」だと流していたが、一部の廃人層は、内部からの意図的なリーク情報だと信じて疑わなかった。

20xx年4月1日0時、俺のスマホに一通のメールが届いた。
送り主は「5O5D：運営事務局」。
緊急のメンテナンス時や、定期メンテナンスの24時間前に送られるメールと同じだ。
タイトルは「【必ずお読みください】緊急メンテナンスのお知らせ」。
「また緊急メンテかよ…」
残業が長引き会社から終電で帰る途中、メールチェックしていた段階でまだ5O5Dにログインしていなかったため、被害はなかったが、煩わしいものだ。

「あれ…？」
ふと、感じる違和感。
件名に【必ずお読みください】との表記かされたことはあっただろうか？
いつもは未読のまま既読扱いにしていた緊急メンテ告知のメールだが、この時はなぜか指先が自然とメール開封に動いた。
「あれ、開いちった…」
開封前に微かな胸騒ぎを感じたがもう遅い。
長ったらしい文章に目を走らせる。
そこには……

5O5D運営事務局です。
4月1日0時より、緊急メンテナンスのため全ユーザーを強制ログアウトさせていただいております。
ご迷惑をおかけして誠に申し訳ございません。
この度のメンテナンスの内容についてですが……」
「はぁ…」
特にいつもと違いはなさそうだ。
メールを閉じようとした瞬間、電車内の斜向かいのあたりに屯していた学生たちからの声に意識がいった。

茶髪「あーっ！強制ログアウトって、また緊急メンテかよー！」
小太り「ほんとだー。最近多いねー」
メガネ「あれ？このメール…」
茶髪「お前律儀だな（笑）いちいちメンテメール読んでんのかよ」
小太り「さすが村田、真面目だなー」
メガネ「いや違うんだって。なんだよこの内容！」
茶髪「はあ？んだよ……あっ、わかった、0時過ぎたからエイプリルフールか？そんなんに騙されねーよ（笑）」
小太り「くっそ俺騙されたわwいつもの内容じゃねーかww」
メガネ「ちげーって！これ見ろよっ！！」
小太り「はぁ？何だこりゃ？お前さては返信画面で追記しただろww」
茶髪「おいおい古い手だな（笑）」
メガネ「いやいやよく見ろよ！」
小太り「必死だなw…ちょっとまてこれ本物か？」
茶髪「おい何だよ俺にも見せろよー」
俺「……」

小太り「ベータ版テストユーザー候補に選ばれました！？ちょっとまて俺も見てみる…いや俺のはやっぱりそんなん書いてねーぞ…」
茶髪「マジかよ…俺も開いてみっか…やっぱ普通のバグ対応としか書いてねーぞ！」
メガネ「じゃあやっぱり、俺が選ばれたってことなのか…？」

※書きため分おわり。以降超遅筆です。