ビスケット「ここは……どこだ?」(26)




鉄血のオルフェンズ×灰と幻想のグリムガルです。

ちょっとした交流みたいなものだと思ってください。




ビスケット「…………」

ビスケット(なんだか……不思議な場所だ)

ビスケット(地面の様に見えるけど ふわふわした踏み心地の草原)

ビスケット(空は……青くなく曇っている?)

ビスケット(いや……白い空なのか?)

ビスケット(…………)

ビスケット(……まさか……僕は……)

???「……おや?」

???「新入りさん……かな?」

ビスケット「!」

ビスケット「君は……?」


???「俺の名前はマナト」

マナト「君は?」

ビスケット「僕は……ビスケット」

マナト「ビスケット?」

マナト「なんだか美味しそうな名前だね」 クスッ

ビスケット「ほっといてくれ」

ビスケット「それよりもここは何なんだ?」

マナト「さあ……俺もわからない」

マナト「でも、ひとつ言えるのは……」

マナト「死んだらここに来ていた」

ビスケット「!!」


ビスケット「ウ、ウソだ!」

ビスケット「僕は……死んでなんかいない!」

マナト「…………」

マナト「……そうか」

ビスケット「君だってここに居て、生きて、しゃべっているじゃないか!」

ビスケット「さあ言え! どうやってここから出るんだ!」

マナト「お、落ち着いてくれ」

ビスケット「!」

ビスケット「す、すまない」

マナト「いや……いいんだ」

マナト「君みたいな人、何人か見てきたし」

ビスケット「え……」


マナト「単なる俺の想像でしかないけど……」

マナト「ここは……自分の『死』に納得できない」

マナト「あるいは生前心残りが有る人が死んだら来る場所じゃないかと思う」

ビスケット「だ、だから……」

マナト「俺もここに来た時」

マナト「それなりに歩き回って、いろいろ調べたんだけど」

マナト「ふと、自分の体の異変を感じた」

ビスケット「異変?」

マナト「どれだけ歩き回っても時間が経っても疲れないし、眠くもならない」

マナト「この『場所』に関しても昼とか夜とかの変化も無いし」

ビスケット「…………」


マナト「ウソだと思うのなら しばらく自由に過ごしてみるといい」

ビスケット「……ああ、そうさせてもらう」

マナト「…………」

―――――――――――

ビスケット「…………」

マナト「やあ、ビスケット」

マナト「また会えたね」

ビスケット「…………」

ビスケット「……とりあえず」

ビスケット「君の言う通りだった」

マナト「…………」

ビスケット「ひとつ聞きたい事がある」

マナト「何だい?」


ビスケット「君が『会った』という人たちは、どこへ行ったんだ?」

マナト「…………」

マナト「俺にもわからない」

マナト「ただ――」

ビスケット「ただ?」

マナト「気がついたら居なくなっていた」

ビスケット「…………」

     ストン…

ビスケット「…………」

マナト「…………」

ビスケット「君は……マナトは」

ビスケット「どのくらいここに居るんだ?」


マナト「どのくらいかな……」

マナト「ずいぶん長い間のような気もするけど」

マナト「具体的にどのくらいかは分からないな」 クスッ

ビスケット「そうかい……」

ビスケット「…………」

マナト「…………」

マナト「ビスケット。 君はどんな最……いや」

マナト「ここへ来る前の一番新しい記憶はどんなのだい?」

ビスケット「…………」

ビスケット「……敵の攻撃を受けて、乗っていたモビルワーカーの」

マナト「モビルワーカー?」

ビスケット「え?」


ビスケット「まさか知らないのか?」

マナト「ああ……乗っていたという事は乗り物なのか?」

ビスケット「まあ……そんなものだ」

マナト「ふうん……」

ビスケット「ともかく、僕は乗っていたモビルワーカーの下敷きになって」

ビスケット「たぶん……オルガの……ああ、仲間の名前なんだけど」

ビスケット「そいつに手を握られて……意識を失った」

マナト「……そっか」

ビスケット「マナト。 君は?」

マナト「俺はゴブリンに弓矢を」


ビスケット「ゴブリン?」

マナト「ああ、ゴブリンっていうのはモンスターの事でね」

マナト「俺が居た場所は……ゴブリンだけでなく、様々なモンスターが居て」

マナト「それを倒すのが俺達……記憶を失って彷徨って」

マナト「路頭に迷っていた俺達のみに課せられた唯一の仕事」

マナト「義勇兵の仕事……という事だったんだ」

ビスケット「…………」

マナト「で、そのゴブリンに背中を弓矢を打たれて、ハルヒロ……俺の仲間の名前だけど」

マナト「彼の腕の中で意識が途切れた」

ビスケット「…………」

マナト「意外に驚かないんだな」

マナト「俺が居た場所は、どうにも変わったところみたいで」

マナト「ここで出会った人は、みんな驚いていた」


ビスケット「……境遇としては、僕らも似たようなものだからね」

ビスケット「物心ついた時から大人たちの無茶な命令で戦わされ」

ビスケット「散っていった連中を大勢見てきた」

マナト「そうなのか……」

マナト「苦労してきたんだな、ビスケット」

ビスケット「ああ、して来たさ」

ビスケット「そして、これからもしていく」

ビスケット「幼い妹たちを学校に入れてやって、兄さんの分も生きて」

ビスケット「幸せになる為に……って」

マナト「…………」

ビスケット「…………」


ビスケット「……マナトは」

ビスケット「何が心残りなんだ?」

マナト「…………」

マナト「俺は……俺を看取ってくれたハルヒロって仲間に後は頼むって言い残して」

マナト「ここへ来た」

ビスケット「…………」

マナト「ハルヒロは……少し臆病で一歩引いてみんなと接していたけど」

マナト「誰よりも仲間内の和を乱さないよう勤めてくれてた」

マナト「本当はもっと言いたいこと言って、自分をさらけ出してくれたらな、と」

マナト「いつも思っていたけど……いずれ時間が解決してくれると考えて」

マナト「先延ばしにしてしまっていた」

ビスケット「…………」

ビスケット「……それがマナトの心残りか」


マナト「ううん、そうじゃなかった」

ビスケット「え?」

マナト「俺は自分の『死』については納得している」

マナト「いや、もっと言うと納得している『つもり』だったんだ」

ビスケット「…………」

マナト「俺はここまでで終わってしまったけど」

マナト「ハルヒロがみんなを引っ張るリーダーになってくれたら安心だし」

マナト「きっと上手くやってくれる」

マナト「そう思って、ハルヒロに託した」

ビスケット「…………」


マナト「でも本当は……気がかりでしょうがなかったんだ」

マナト「ハルヒロが俺の思う通りに行動してくれなかったら?」

マナト「仲間が俺の代わりを入れずに行動してしまったら?」

マナト「俺の代わりなんて、本当に居るのか?」

ビスケット「マナト……」

マナト「…………」

マナト「……厳しい世界だったけど」

マナト「あの仲間と居た時間は……俺にとって、とても大切で」

マナト「掛け替えの無い貴重なものだったんだ……」

ビスケット「…………」

ビスケット「そうか……」

マナト「……だけど」

ビスケット「ん?」


マナト「俺の仲間は……しっかりと歩き出したよ」

ビスケット「え?」

ビスケット「どうしてそんな事が分かるんだ?」

マナト「その内に分かると思う」

マナト「自分が居なくなった後、仲間がどう過ごしているのか」

マナト「時々頭の中に見えてくるんだ」

ビスケット「頭の中に……見える??」

マナト「こればっかりは体験しないと分からないと思う」 クスッ

マナト「言葉にすると、本当にそんな感じなんだ」

ビスケット「……自分の願望が見えてるだけなんじゃないのか?」

マナト「……確かにそうかもしれない」

マナト「でも、分かるんだ」

マナト「ああ、そうだよな、って……」


ビスケット「…………」

マナト「その証拠に……ほら」

     チャラ…

ビスケット「……タグ?」

マナト「これは正式な義勇兵の団員証」

マナト「ここへ来た時、見習い義勇兵だった俺は持っていなかったモノだ」

ビスケット「どういう事だ?」

マナト「俺の仲間……みんなで少しずつお金を出し合って」

マナト「俺の分の団員証まで買って、俺の墓に供えてくれたんだよ」

ビスケット「…………」


マナト「言っておくけど」

マナト「これを作るの、結構高いんだ」

ビスケット「…………」

マナト「正直」

マナト「もっと仲間の装備とかにお金を使ってくれていいのにとか、考えもしたけど……」

マナト「同時に、ああ、仲間のみんならしいなって、感じて」

マナト「やっぱり嬉しかった」

ビスケット「…………」

マナト「今……仲間に会えるとして」

マナト「いや、俺の言葉を伝えられるのなら」

     ありがとう

マナト「この一言しかない」

ビスケット「…………」


マナト「と、同時に……」

マナト「俺は上手くやれてたんだな」

マナト「みんなは、ちゃんと歩き出せたんだなって」

マナト「ええと……俺との区切りがつけられたんだと」

マナト「やっと納得した」

ビスケット「……そんなの」

ビスケット「寂しすぎないか……?」

マナト「…………」

ビスケット「自分無しでも仲間のみんなが歩き出せたなんて」

ビスケット「怖くないのか?」

ビスケット「忘れられたみたいで嫌じゃないのか?」


マナト「……まったくないって言えばウソになるけどね」

マナト「でも」

マナト「俺の事を引きずって、いろいろゴタゴタしているのを見たりもしたから」

マナト「前向きになってる仲間の姿の方が、俺は安心できてるよ」

ビスケット「だ、だけど!」

マナト「ビスケット」

ビスケット「!」

マナト「今なら……ここで出会った人たちの」

マナト「突然居なくなった人たちの気持ちが分かる気がする」

ビスケット「…………」

マナト「ビスケットも今の俺を見てくれ」

マナト「俺は今、どんな顔をしている?」

ビスケット「…………」


マナト「……俺は」

マナト「自分も負けていられないな、と思ってる」

マナト「どうすればいいのかなんて、もちろん分からないけど」

マナト「前へ進みたい」

マナト「大切な時間をくれた仲間たちと同じ様に」

ビスケット「…………」

ビスケット「……僕は」

ビスケット「僕たちはどうなるんだ……」

マナト「不安なのは分かるよ」

マナト「居なくなった人たちがどうなったのかなんて、俺も知らないし」

マナト「でも」


マナト「俺でいいのなら、許される限りずっとここに居るよ」

ビスケット「!」

ビスケット「本当か?」

マナト「ああ。 もちろんさ」

ビスケット「助かるよ」

ビスケット「本当は怖くて怖くて……仕方ないんだ」

マナト「そうか……」

マナト「それじゃ、何か別の話でもして気を紛らわせるか?」

ビスケット「いいね」

ビスケット「そうだ、マナトの仲間の事を教えてくれないか?」

ビスケット「僕も後で自分の仲間の事を教えるから」


マナト「それは楽しみだな」 クスッ

マナト「じゃあハルヒロ……の事はもう話したな」

マナト「今度は女の子の仲間の事を話すとしようかな」

ビスケット「……女の子までモンスターと戦ってるのか?」

マナト「俺も酷いと思うよ」 クスッ

マナト「仲間の女の子は二人居て……」

マナト「一人はユメという名前の女の子で、活発な娘だった」

マナト「もう一人はシホルという名前の女の子で」

マナト「こっちは逆に大人しい感じの控えめな娘だった」

マナト「でもすごい巨乳」

ビスケット「どこを見ているんだ……」

マナト「俺も男の子だからなぁ」

マナト「ついつい、ね」 クスッ


ビスケット「ははは、まあ……気持ちは分かるよ」

マナト「二人とも可愛いんだ」

マナト「で、ユメはハルヒロといい仲になるんじゃないかな、と思ってる」

ビスケット「ふうん」

マナト「シホルは……ランタにいじめられそうでちょっと心配だな」

マナト「あ、ランタっていうのは……」

ビスケット「…………」

ビスケット「……?」

ビスケット「どうした? マナト?」

ビスケット「っ!?」

     スクッ!

ビスケット「マナト!?」


ビスケット「マナト!!」

ビスケット「…………」

ビスケット「ウソだろ……マナト……」

ビスケット「こんな……突然……」

ビスケット「…………」

ビスケット「…………」

ビスケット(……君は……マナトは)

ビスケット(どんな気持ちだったんだ……?)

ビスケット(ここから居なくなるというのに)

ビスケット(どうして……あんな優しい笑顔だったんだよ……!)

ビスケット「……っ」

ビスケット「あああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」





     ……きっと



     いつか君にも分かる時が来るよ

     その時まで

     またな、ビスケット……






     おしまい

書きながら何故か目から水が……読んでるとそうでもないのに。
お粗末さまでした。

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