グラハム「私は……かつて、マスターと呼ばれたこともある男だ」 (98)


 
――西暦2312年――

――――


 けたたましいサイレンの音で、目を覚ます。
 見慣れた殺風景な個室の中、非現実的なディスプレイの草原でそよ風がのんきに若草をなびかせている。
 ゆっくりと重い身体を持ち上げる、血潮とともに意識は抜身の鋭さを取り戻していく。
 盲た右目が疼いた。失った右腕が、鈍く痛むのを感じた。
 また、戦いが始まる。


「艦長、状況報告を」

『! お目覚めですか、ミスター』

「敵襲か?」

『哨戒に引っかかったようです。このルートは定期コースから外れていたはずなのですが……』

「張られていたか」

『脚が速い奴が混じっています。どっちの奴かはまだ不明ですが、その可能性は高いかと』


 私が出る、そう一言告げて部屋を飛び出した。
 無重力の廊下を、突き出たガイドレールに捕まり泳いでいく。
 途中、透明なガラスを挟んで宇宙の景色に飛び込んだ。
 昔は、0Gの感触にさえ文句を垂れていたというのに。
 今はまだ穏やかなその風景に、混沌をもたらしに行く自分が、酷く汚らしく思えて見えた。


ネフェル「あぁ、来た!」

イェーガン「おはようございます、隊長!」

「状況は?」

ネフェル「アヘッド1、ジンクス2、RGMが3。【アロウズ】の任務遂行部隊だね」

イェーガン「RGMは全体的な速度からⅢのC型と予想されます。デブリを避ける機動から、恐らくは生ですね」

「SFSを用いずに追ってきたか……母艦が近いか、支援機が待機しているな」

「マスラオはどうだ?」

ネフェル「本体はほぼ仕上がってるってさ。出るんかい?」

「無論だ。時間がない、真っ向から叩いて潰す」

「ネフェルは右後方から火砲支援。イェーガンは私の後ろにつけ、背中は任せる」

ネフェル「何時も通り、ってことね。りょーかい」

イェーガン「隊長が出るぞ! ハッチ開け!」

『戦果を期待します、ミスター』

「安全運行で頼む、艦長。【彼女】はまだ夢の中だ」

『仰せのままに、従者殿(Mr.サーヴァント)』


 着の身着のまま、コクピットへとこの身を投じる。
 締まったシートに背をあてがえば、瞬く間に情報がモニターを埋め尽くし、照らしあげていった。
 また、戦いが始まる。
 操縦桿を握る両の腕、各々違う感触に心が乾いていった。


「マスラオ、【ニ刃型】で出る! 換装!」






SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1456504675




――宇宙空間・デブリベルト――


 六機の編隊がそれをセンサーに収めたのは、正体不明の機影を追跡しだしてから十分弱、といったところだった。
 拡大した映像を共有した瞬間、兵たちに動揺が広がるのを隊長は確かに感じ取った。
 古代の東洋人が身に着けた、鍬形の甲冑兜に似た頭部。
 特徴的な朱黒の塗装が成された装甲に、サングラスのような赤色バイザー。
 見まごうことの出来ぬその威容……いや、異様というべきか。
 とかく、その姿こそ彼らの追うものが最優先目標である証だと、声高らかに隊長は宣言してみせた。

 辺りを埋め尽くすアステロイドの残骸を縫い、一気呵成に猛進してくる赤黒のMS。
 モニターの照準が敵機を捉える音が、一斉砲火の合図となった。
 六機の持つビームライフルから放たれた圧縮粒子の光線が、次々に相手めがけて襲いかかる。
 確かな精度と追尾性を持った最新型のFCS、その照準から彼が消えたのは、本当に一瞬としか言いようのない刹那であった。


『ぎゃっ!?』


 瞬く間の出来事だった。
 一瞬、姿を消したと思われた赤黒のMSは、部隊の真横に突然食らいつき、RGMタイプを攫ってまた消えてしまった。
 次の瞬間、小さな叫び声を残しロストする友軍の反応。
 デブリの隙間から姿を見せた赤黒のMSの手には、二本の片刃実体刀が紅い粒子の軌跡を残しながら揺らめいていた。


『クナイだ! 近寄らせるな!!』


 隊長が叫ぶ。
 同時に、センサーにもう一つの反応が飛び込んできた。
 先ほどまで彼がいた方角から接近する機影、青と白の塗装が施されたもう一機のMSのそれだった。
 回避、そう叫ぶ間もなく、新手のMSから浴びせられる無数の砲撃。
 およそ単騎から放たれたとは思いがたい、濃密なミサイルの嵐が一帯を覆い尽くした。

 部隊の混乱とは裏腹に、隊長の駆るアヘッドは無尽の活躍でこれに応対した。
 滲む汗も拭わず、バルカンとライフルで次々にミサイルを叩き落としていく。
 だが、隊員の悲鳴で視線は自ずと後方確認モニターへと吸い寄せられてしまう。
 また、奴だ。
 この弾幕の中を躊躇なく飛び込んだ機影は、一直線にジンクスⅢに食らいつき、頭部と両腕を寸断していったのだ。


「あと、四機」

『お、のれぇぇぇ!!』


 ジンクスの成れの果てを蹴り上げ、敵機はデブリめがけて高速で飛翔。
 そのまま角度をつけて岩壁を蹴りつけると、加速を兼ねて急速転換し、また一直線に此方を狙い飛びかかってくる。
 もはや対抗可能なのは自身のみと判断したのだろう、隊長機のみが猛然と接近するそれへと向き直る。
 ビームサーベルを右手に構え、最大速度を以って紅い悪魔へ突進した。


 
 



 その時、遠方からの粒子ビームが味方機を穿つのが見えた。
 スナイパー、そう叫ぶ副官が、青白のMSの射撃に晒され恐慌の叫びを上げた。
 隊長の耳には、もう何も聞こえてはいなかった。
 研ぎ澄まされた感覚と生存本能の任せるまま、目の前の存在のみを見据えていた。

 迸るライフルの精密射撃、螺旋軌道で回避する機影目掛け最高速のビームサーベルが突き出される。
 身を翻した赤黒のMS、すれ違いざまにGNクナイの刀身が凶器の光から身を守った。
 カーブする互いの軌道、デブリを蹴った赤黒の機体が僅かに早くアヘッド目掛けその方向を修正する。
 だが、それを見る前にえぐるような軌道に変わるアヘッドの動き。
 当てる気だ。赤黒の機体がクナイを収める。
 アヘッドが盾を捨てたのが見えた。決める気だ。
 互いに譲らぬ最大戦速のぶつかり合い。
 大気の無い宇宙が、揺らいで見えた。


『あぁああああああ!!』

「おおおおおおぉ!!」


 交差した実体刀にぶつかる二本の粒子剣、一切の後退のない切り結びが火花とEカーボンを散らせていく。
 振り上げられた右のサーベルを左のGNニードルが受け止め、返す右のクナイを左のサーベル柄がはたき落とす。
 ぶつかり合う衝撃にお互い弾かれ、またフルスロットルのバーニアが両者の距離を詰める。
 刃が刃を、装甲が装甲を。
 魂と魂がぶつかるせめぎ合いは、二十数合まで続き。

 ――そして、三十合に届くことなく、唐突に終わりを告げた。


「シィッ!!」

『ッ?!』


 懐へねじ込むように繰り出された右の刺突。
 受け止めたのは、右腕による横からの刃だった。
 お互いまたぶつかり合うだけのはずの二機は、赤黒のMSの後退によりもつれ込むように変わっていく。
 それは、アヘッドの予期せぬ回転運動へと変わっていき……

「はぁぁッ!!」


 ――独楽のように弾けて離れる瞬間、回転運動をそのままにクナイを構えたMSが数瞬に及び一閃を浴びせ倒す。
 止まったアヘッドには、もはやサーベルを持つ腕も、機体を動かすバーニアも、頭部も脚部もなく。
 全て粉々に破砕され、漂うのみであった。


『おの、れ……カタロンの……猟犬……め……』

「……否定はせんさ」

『貴様らは……所詮【袖付き】と同じ……薄汚いテロリストにすぎん……!』

『殺せ……さもなくば次は……貴様が……死ぬ番だ……!!』

「断る」

『……!』

「無益な殺生はしない。我々は……カタロンは」

「正義の味方、なのだからな」



 自嘲気味の言葉を最後に、通信は切られた。
 部隊の面々は、結局二機のMSに散々に叩かれたらしい。
 だが、そのいずれもが、無力化のみに留まって、命だけが奪われずに済んでいた。


「だが、我々も貧乏でね」

『!?』

「そのGNドライヴ……テロリストらしく、頂いていく!」

『うおおぉ?!』


 いきなり再開した通信も切れたかとおもいきや、耳をつんざく金音がコクピットを襲う。
 なんと、赤黒のMSが実体刀で無理やり背を切り開き、GNドライヴをもぎ取りだしたのだ。
 あまりの出来事に耳を塞ぐ隊長。
 恐怖のあまり言葉も出ずに、ただ成り行きに身を縮めているばかり。
 そうやっている間に、あの三機はいつの間にか何処かへ消え去っていて。

 彼ら、アロウズ特殊任務遂行部隊は、待機させていた母艦の友軍が来るまでの間、ただぼんやりと宇宙の闇に漂うばかりであった。


 ・ 
 ・ 
 ・



「艦長、こちらマスラオ、応答求む」

『こちらペンドラゴン、戦果はどうです、ミスター?』

「いきなりご挨拶だな。無事かどうか聞かんのか」

『ははっ、我らカタロンの誇るワンマンアーミーが、あれしきの部隊に手こずる訳がありますまい?』

「褒め言葉、なのだろうな」

ネフェル『ちょっと! もうワンマンじゃあないでしょう?』

イェーガン『俺達も、忘れてもらっちゃ困るよな。ねえ隊長?』

「……ふっ、そう、だな」

「ペンドラゴンを確認した、帰投する。ビーコンは出すなよ!」

『了解!』


『Mr.ブシドーのご帰還だ!! ハッチ開け!!』





――バージニア級級大型輸送艦作戦遂行型【ペンドラゴン】――


 コクピットから降りた男、Mr.ブシドーがヘルメットを外す。
 汗一つかかず、熱を逃がすように息を吐く、その顔には仮面が装着されていた。
 古代日本の【面頬】に酷似した仮面、その右側には、それでも隠し切れない火傷痕が広がっている。
 目元には、奥の分からぬ色付きグラスがはまっていて、時折右眼側だけが淡い光を放っている。
 クセのある金髪から見ても日系人ではないことは分かるが、その異様に意見をいうものはもはやこの艦内に皆無であった。


Mr.ブシドー「整備班! 土産だ、管理しておけ」

《おぉーっ!!》

Mr.ブシドー「お前らの戦果は?」

ネフェル「GNランスが一本と、グレネードが二個」

イェーガン「ビームガンが一丁、サーベルが二本。上々でしょう?」

《サーベルはRGMの弱装型じゃねえか!! もっといいもん持ってこいよな!!》

イェーガン「うっせえ! 文句言うな!!」


 艦内放送で叫び倒す整備班長に怒鳴り返すイェーガン、それを呆れた様子で横目に見るネフェル。
 文句は言うが、ドックの隅に積み上げられたジャンクの山から独創的な兵器を生み出す彼に反論可能な人物は、一人しかいない。
 彼女の扱うスナイパーライフルなど、もう一体どれほどのジャンクを組ませたか分からない魔改造品に仕上がっているのだ。
 こうしてくれといえば、それ以上に組み上げる兵器の錬金術師殿。
 彼の矛先は、唯一同格のワンマンアーミーに向けられた。

《アヘッドのはどうしたよ、ミスター!!》

Mr.ブシドー「粉々にした」

《はぁぁ?!》

Mr.ブシドー「代わりのドライヴだ、火消しは済ませてあるから配線と外装を組み直して予備に回しておいてくれ」

《しょうがねえな……貸しはこれでチャラな》

Mr.ブシドー「そのつもりだ」

《手直ししたGNクナイの具合はどうだい? 実体刀の可動域を180°にまで広げてみたんだけどさ》

Mr.ブシドー「いい塩梅だ、任せて良かった」

キッド《当然だろ? このキッド様の手にかかりゃ、どんなガラクタも芸術品に仕上げてやるってね……っと》

キッド「……で、どうだ、義手の方は。あんまり具合が良くないんだろ、それ」

Mr.ブシドー「問題はない。使い勝手までは変わらんさ、ただ少し付け根がな」


 キャットウォークに飛び上がってきた整備班長、若干17歳の天才を並べて歩き出すMr.ブシドー。
 話を進める過程で、思うような眼差しを右腕に寄せる少年。
 その気遣うような視線に応え、接合部の付け根を撫でる。
 

キッド「細かいとこは俺の専門外だ、特に生体部品はお手上げさ」

キッド「もしそれ以外でやれそうなことがあればいつでも言ってくれよ、時間はかけねえからさ」

Mr.ブシドー「……助かる、班長」

キッド「水臭えこというなよ、んじゃあな」

キッド「……マスター」

Mr.ブシドー「……」
 





 誰にも聞こえない、小さな小さな一言だった。
 それはかつて彼を英雄たらしめていた称号。
 それは、かつて彼を人として支え続けた絆。
 
 それは、今や彼を苛み苦しめ続ける絶望の過去。

 キッドがそう告げたのは、忘れてほしくないだけなのだと知っていた。
 暖かで、優しかった、あの頃の記憶。
 彼もまた、かつてのことを風化させたくないと自分に言い聞かせてもいた。

 だが、その都度、己の浅はかさを、愚かさを、ただただ呪うばかりであった。

 かけがえなき戦友を

 殺したのは

 他でもない、自分なのだと

 無二の盟友を

 失ったのは

 何を隠そう、己の不手際のためだと


 愛した女を

 死なせたのは

 何者でもない――この私なのだと


Mr.ブシドー「……マリーダ……」


 盲た右目が、疼いた。
 失った右腕が、鈍く痛むのを感じた。
 まだ、戦いは終わらない。
 もう、戻れないあの日々に、思いを馳せるのはもう止めた。
 歩み始めた先に、仲間たちが手を振っているのが見えた。

 たとえ、行先が血で薄汚れた偽善の道であったとしても。

 今はただ、進むしか無いのだ。


――To be continued――


 

ただ一言、済まん
いきなり二部からなので分からんとこばかりだけど、いずれあそこからもちゃんとやります。
なぜこうなった、かも

ではまた

追記

このSSは【マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」】の続編となっています

未完であり、この作品の時系列より先の場面からとなりますが、いずれ必ずこれの続きもやります



続き
このマスラオ、実はクッソ弱いです……



――西暦2312年――


 世界は、統一とは程遠い二分の混沌に陥っていた。
 きっかけは四年前、【袖付き】と称された独立武装集団による大規模蜂起、それからまもなくして誕生したコロニー連合国家【ネオ・ジオン】の存在であった。
 発足しつつあった地球連邦政府、そしてそれを裏で操る存在。
 それらとの迎合を拒否された、または自ら拒んだ国家が、宇宙に生まれたこのコロニー国家と連立し、対抗する道を選んだのだ。
 
 この混乱には、多くの要因が存在し、また多くの謎があった。

 四年前に発生した大規模テロにより生まれた[ピザ]リベルトが太陽光を遮り、発電力が大きく落ちてしまったこと。
 連邦政府の打ち出した政策のいずれもが、先進国家の優位な立場を不落にするためのものに過ぎなかったこと。
 いつの間にか、各国が生み出したコロニーに根回しをして、連合を組むまでの間、誰にもリークされることなく終えてみせたネオ・ジオンの手腕、諜報力。
 その手腕を評価してもなお疑念の尽きない、最新鋭のMSを開発できる科学力と工業力の出処。
 
 そしてなにより、四年前より発生が確認され出した、連邦政府に【第三の脅威】と称される存在の出現が、最大の要因にして混乱の源泉と成りつつあった。

 結論から言って、世界は一触即発の状況の一歩手前、いつ爆発してもおかしくない火薬庫の隣での平和を謳歌している状態と言わざるを得ず。
 
 連邦も、ネオ・ジオンも、【第三の脅威】の存在、自国の地盤の軟弱さから、全面戦争に踏み出せずに小規模的な代理紛争に留まっているのが現状。

 言い換えれば、いつ互いに泥沼へと引きずりあって戦禍のまっただ中に日常が飛び込んでしまっても、何もおかしくなど無いということだった。

 そんな坩堝の中で、新たに存在を表す二つの組織がいた。

 一つは【袖付き】の下部組織から独立し、双方からあぶれた構成員、自ら独立した人員などを同じ境遇の国家が支援して誕生した非合法組織【カタロン】。

 もう一つは……五年前、全ての始まりにして旧時代の終わりを演じ続けた、地球連邦の前身である三大国家によって殲滅されたはずの私設武装組織、【ソレスタルビーイング】。

 世界はまた回り出す。

 運命という名の輪の中で。

 そして、かつて全てを失った男の運命もまた、軋みつつも前へと歩み出す。


 一人の、可能性の少年と出会うことで――



――アロウズ・本部――


マネキン「聞きましたか、大佐」

セルゲイ『あぁ、聞いているよ。また出たのだろう?』

セルゲイ『Mr.ブシドー……例のカタロンの傭兵が』

 かたやマネキンの執務室、かたやセルゲイの自室にて行われる秘密の会合。
 モニター越しであるとはいえ、彼らのこうした会話はもう五年来のものとなる。
 特に近年、セルゲイの力を借りねばならない事案が多発していることも有り、回数は減ることもなく。
 他愛無い世間話の割合ばかりが減っていくのが、双方の悩みでもあった。


マネキン「Mr.ブシドー……カタロンの最高戦力と噂される最強の傭兵」

マネキン「出自不明、来歴不明、本名その他一切不明……ただただ、その圧倒的なMS操縦の腕前だけが知れ渡る生きた伝説」

マネキン「二年前、【袖付き】の下部組織に過ぎなかった時期に突如として戦線に現れ、処刑人(クリーナー)として名を轟かせると」

セルゲイ『そのまま連邦、いやアロウズの特殊作戦を嗅ぎつけては襲撃し失敗に追い込む、裏の厄介者としてその名を不動のものとした』

セルゲイ『独立した今となっては、双方の大規模作戦や基地攻略作戦、テロ行為などに武力で介入する、ソレスタルビーイングの真似事を支える無二の戦力として台頭、か』

マネキン「あくまでカタロンの一部の、ですが。あの組織は生まれた理由が理由ですので……」

セルゲイ『烏合の衆の集まりという認識が抜けんのも致し方あるまい。逆に言うなら、彼のその回り以外は、雑魚と言わざるをえんからな』


 カタロン、という組織は、連邦とネオ・ジオン、双方から何らかの理由で弾かれた存在が行き着く掃き溜めのような組織。
 その中には、連邦から脱走した兵士、ネオ・ジオンですら手に余る誇大妄想の狂信者、あわよくばどちらかに手土産をと狙う情報ハゲタカなどが綯い交ぜになった、地球圏の魔女の釜の底なのだ。
 それらの中には分離・独立主義を掲げるテロリストが大半かと思わされた矢先、現れたのがこの男。
 味方であるカタロン所属の者まで手にかけている様子の写真を見て、セルゲイは唸り、マネキンは口元を抑えた。
 どうあれ、こいつは危険な存在だ。
 この二人をしてそう考えさせるほどに、この【ワンマンアーミー(たった一人の軍隊)】は強すぎたのだ。



マネキン「先の小惑星強襲作戦にて改めて存在が確認されました。アロウズも、網を張って待ち構えていたようですが……」

セルゲイ『獲物の活きが良すぎたようだな。よもや、新型二個小隊が食い破られるとは』

マネキン「大佐は、あれとやり合ったことがあると聞きましたが」

セルゲイ『あぁ、私がまだタオツーに乗っていた頃、相手もティエレンの時にな』

セルゲイ『凄まじいものだったよ……なんとか持ちこたえてはみたが、私とピーリス以外であれだけティエレンを操れる男がいるとはな』

マネキン「本当に【Mr.】かどうかも怪しいところですが……ね」

セルゲイ『ははは! あれだけの技量を持った女性となると……』

セルゲイ『……あぁ……』

マネキン「あ……!」


 マネキンが慌てて立ち上がったのを、セルゲイが手のひらで制した。
 ゆっくりと座り直す彼女の顔は、沈痛な面持ちに変わっていき、セルゲイもまた同じ表情を浮かべていた。
 彼女たちに共通する友人、かつて一人の男とともに世界を飛び回った少女の記憶。
 今は亡き、彼女の記憶が呼び起こされたためであった。


マネキン「……すみません……」

セルゲイ『気にしないでくれ、私も君も分かっていることだろう』

セルゲイ『あの子と、あいつの記憶を……我々友人の間だけでは、タブーにしたくないんだ』

マネキン「……」

マネキン「私は……私は、未だに信じられません……!」

マネキン「あのグラハム・エーカーが……マリーダを、仲間を裏切る……なんて……ッ」

セルゲイ『……私なぞ、再三の追求を咎められてこのザマさ……』

セルゲイ『それでも、弁は変えんつもりさ。あの男は、そんな卑怯者ではない』

セルゲイ『誰よりも真っ直ぐで、豪胆で、正直な……私達の大切な友人だ』


――――


ソーマ「大佐?」

セルゲイ「! ピーリスか」

マネキン『……話も途中では有りますが、私はこれで』

セルゲイ「あぁ、そうだな」

セルゲイ「また機会があれば、一献といこう」

マネキン『夢のある話、ですね』


 紅茶を持って現れたのは、ソーマ・ピーリス。
 五年という月日を経て、彼女はすっかり大人びた一人前のレディの姿へ成長していた。
 セルゲイとは、親子同然の生活を続けている。
 よく笑うようになり、友人も多く、かつての頂武特務部隊在籍者とは今でも懇意にしているくらいだ。

 そんな彼女が、あの日、どんな顔で、声で、慟哭を表したか。
 グラハムの死を、オーバーフラッグスの壊滅を、何よりマリーダの死を聞いて。
 どれほど悲しんだかを、セルゲイは否応なく思い出していた。


ソーマ「……マリーダ中尉のお話ですか?」

セルゲイ「隠し通せんな。ああ、かいつまんだ程度だが」

セルゲイ「どちらかと言えば、現状報告の方が比率としては大きかった。例のカタロンの傭兵の話だ」

ソーマ「…………」

セルゲイ「……済まん、思いださせるつもりはなかったんだが」

ソーマ「いいえ、良いんです。大佐とだけ、なんです」

セルゲイ「ん……?」

ソーマ「優しかったあの人達の話が出来るのは……私には、大佐だけなんです」

ソーマ「だからそんなこと言わないでください、大佐。私も……忘れたくないのです」

セルゲイ「……んん……」


 先ほどマネキンへ告げた言葉を、そのまま返された。
 気恥ずかしい以上に、彼は嬉しかった。
 他でもない彼女が、同じことを思っていたことが。
 
セルゲイ「……あぁ、そういえば……例の話は、考えてくれたかな」

ソーマ「!」

セルゲイ「いきなり言い出したことで困惑させてしまったかもしれないが……」

セルゲイ「君を正式に養子に迎え入れたいという気持ちは、堅いつもりだよ」

セルゲイ「もっとも……君の中の【彼女】が、何と言っているかは分からないが」

ソーマ「マリーは!」

セルゲイ「!」

ソーマ「マリーは……大佐の申し出には、は、反対する理由がないと……言っております」

ソーマ「ですが……もう少し、もう少しだけ、考える時間を、いただけたらと……だめ、でしょう、か」



 言葉に詰まるソーマ・ピーリス。
 それを見上げながら、彼はただ微笑み、黙って頷いた。
 本当は、違うのだ。
 マリーは芯から大佐を信頼しており、この話なんて急かすほどに承諾をしてくれている。
 ただ、怖いのだ。
 幸せすぎる、こんな平穏の中の自分が。何処かで望んでいた【夢】の距離が、こんなにも近くにあることが。


ソーマ(マリーダさん……)

ソーマ(志半ばで果ててしまった貴女の代わりに……私などがこんな幸せ……)


 そのくすぶる想いが、胸の中でちりちりと熱を込める中。
 もしかしたら、その不穏な光がそれを引き寄せてしまったのかもしれない。


ソーマ「!」

セルゲイ「ん?」


 家のチャイムが一回、小さく余韻を残して鳴らされた。
 何故だろう。
 胸騒ぎとともに、ドアを開けて出迎えた。


「やあ、久し振りだね。ソーマ・ピーリス」

「迎えに来てやったよ。おいで……【アロウズ】に」

「【ライセンサーズ】に――ね?」


 待っていたのは、どうしようもなく冷淡な【現実】だった。



――――




――カタロン基地・所在地不明――


「ミスターブシドーが襲撃された?」


 隠匿された地下基地。かつてセカンド・ヴェーダの演算の下、【袖付き】が秘密裏に建造したものの一つ。
 その中の最奥、司令室と呼ぶには設備も飾り気も機能性も無いその一室で、コーカソイドの男は怪訝そうに呻いた。
 彼の言葉に頷くのは、この基地の責任者にしてカタロンの実質的ナンバー2、シーリン・バフティヤールだった。


シーリン「ええ。衛星基地レゾルスの防衛と撤退を支援したあと、ペンドラゴンで移動中にね」

シーリン「会敵したのはアロウズの二個小隊、例の専用量産機もいたみたいね」

「結果は?」

シーリン「キッドが浮かれてたわ、新型のGNドライヴが手に入ったってね?」

「はは、だがいい知らせだ」


 その答えは、最低限彼らの安全は保証した内容であった。
 安心したように息を吐く男は、先程まで見ていた旧式PCのモニターに目を戻した。
 仮想コンソールを叩き軽く作業を再開したかと思えば、また小さく唸って手を止める。
 シーリンにはわかりきっていた反応だった。
 彼らの、特にミスターブシドーの安否を気遣って、集中できていない。彼らしい反応だった。


「……シーリン、その……なんだ」

シーリン「問題無いわ。ミスターブシドー以下部下二名は無傷、ペンドラゴンにも被害はない」

シーリン「でも、もし私達の同行を察知されているとしたら……プラウドでの作戦は延期すべきではなくて?」


 回答とともに投げかけられた提案。
 彼は微笑を浮かべ、首を横に振る。
 でしょうね、貴方はそういう人だから。
 シーリンは苦笑で返した。
 この男、カタロンの幹部にして彼女ら第三中東支部及び第一宇宙支部の長クラウス・グラードは、多少のことで意見を変える男ではない。
 故に、あのミスターブシドーすらも味方についているのだ。


クラウス「レゾルス襲撃の前後の動きから見て、【大佐】は傍観を決め込むだろう」

クラウス「撤退と再集結は今を除けば規模を小さくせざるを得ない、だったら今しか同志たちの救助に出る猶予はないよ」

クラウス「それに、彼……ミスターブシドーは我慢弱い。作戦を延期したら、また一人で乗り込みかねないよ?」

シーリン「はぁ……本当、どうしてこうなったのかしらね」

シーリン「いいわ、作戦は日時を早めて開始するように連絡を。他には?」

クラウス「【ライセンサーズ】に新しいメンバーが加わるそうだ。それと、現在の面子で正式に専用機体を受領するところまでいっている奴がいるという」

シーリン「強敵がまた一人……嫌な情報だわ」

クラウス「今作戦にも奴らが出てくる可能性は十分に有り得る。警戒を怠らぬようにと伝えてくれ」

シーリン「了解」


 クラウスはまたモニターを見やり、指を走らせる。
 拡大された秘匿回線経由の映像を拡大させ、鮮明化させていく。
 そこに映しだされた人物、金髪の青年の姿を眺める。
 現在、【ライセンサーズ】の中で能力を認められつつある、この青年。
 このことを彼に知らせるべきか否か。
 いずれ分かることとはいえ……


クラウス「ブシドー……君は彼と戦うことが出来るのか……?」


 答えは出ないまま、モニターにまた新たな秘匿情報がスライドしてくる。
 彼には一つのことにのみ集中する時間すら与えられていない。
 懸念を飲み込みつつ、メールを開く。


クラウス「……!!」


 宛名は【グリフォン】

 それは、今彼がもっとも求めていた者からの返答であった。



――ラグランジュ4近辺――

『マスター』


『……はい、改めて宜しくお願い致します。マスター』


『マスター?』


『ですが、マスターのなさることにいちいち驚愕していては身が保たない事には気付いております』


『マスター!』


『ですからマスター……私は、貴方が知りたい』


『マスター……』


『今の私は……空虚な人形ではない。貴方の隣に立つ、フラッグファイターです』


『マスター』

『マスター』

『あつい』

『くるしい』

『いたいよ』

『ねえ、ますたー』


『なぜ』


『わたしを』



『 み す て た の ? 』



 ――見慣れた、殺風景な部屋。
 今や天井も壁もディスプレイの輝きも、真っ赤な血の滲みに沈んで、歪んでいる。
 いつもとは桁の違う発作は全身を灼けつくような熱で覆い、特に右腕の付け根には全ての毛細血管にカミソリを通したかのような激甚の痛みをもたらしていた。

 呼吸さえままならない。
 開いた汗腺が土砂降りの雨に打たれたように身体を濡らす。
 寝床をのたうち回りながら、枕元のサイドポーチに必死で手を伸ばした。


Mr.ブシドー「ッ……!……ッ!!?」


 届いた注射器をひったくると、勢いを殺す間もなくそのまま右首筋に突き刺し、トリガーを引く。
 ナノマシンの封入された特殊薬液が浸透し切っていく冷たい感触、痛みと熱は一分と発たずに氷解していった。
 汗だくの身体を動かすことすら出来ず、力無く注射器をベッドの脇へと投げ捨てる。

 そう滅多に来ないとはいえ、このレベルの発作はもう何度目になるだろう。
 この痛みと付き合う二年半、これと残りの一生を共にせねばならないとは。
 
 いや、もしかしたら、これこそ自分が望んだ贖罪なのかもしれない。
 あの夢……少しでも熟睡すれば現れる、自身を苛む影の夢。
 それと同じ、私に相応しい末路の彩りなのだろう。


Mr.ブシドー「はッ……はぁッ……ッ……ぁ……」
 

Mr.ブシドー「……あれは……彼女では、ない……ッ」


 そうだ、彼女はもう、そんなことさえ言ってはくれないのだから。
 自分の罪悪感と自己嫌悪、そして未練がましい欲望の生み出した偶像。
 それがあの醜くも美しい肉塊の正体だ。

 そのことに気づくまで、あのような人の形を成さないものですら、逢うのが愛おしかったことさえある。
 妄執の産物で己を慰めるだけの器用さがあれば、もう少し生きやすくもあったかもしれない。
 今となっては、もう、何も言えない。

 時計は、眠りについた頃からちょうど一時間を過ぎた辺り。
 今日はもう十分に眠った。
 呼吸を整えてから、ゆっくりベッドから立ち上がる。
 
Mr.ブシドー「……艦長」

『! もうお目覚めですかミスター……まだ寝ていても』

Mr.ブシドー「分かっている、私が起きていることだけは伝えておこうと思っただけさ」

『はあ……』

Mr.ブシドー「済まんな。いつも気を遣わせる……」

『なんの、我々が普段どれほどの苦難を強いているかに比べたら、これしきのこと』

『支部長から連絡です。例の作戦、開始日時を早めるようにと』

Mr.ブシドー「……では、【予定通り】に」

『ミスターの言ったとおりになりましたな。こうなることを予測しておられましたか』

Mr.ブシドー「アイツとは付き合いも長い、作戦の傾向も思考も読めるさ」

『心眼、というやつですか。流石ですなあ……』

Mr.ブシドー(何だそれは……?)
 



Mr.ブシドー「……では、失敬」


 モニターを切って、またベッドへと戻る。
 窓代わりの巨大ディスプレイの枠に座ると、モニター脇を叩いて農村を宇宙に叩き落とす。
 広がっていく無数の星屑たちを眺めながら、煙草のソフトケースを手に、一本咥え込んだ。
 喫煙室に行かずと吸える、士官用の一室をあてがわれた利点の一つだろう。
 空調がせわしなく呼吸を始める中、作戦までの長い時間、永久に明けぬ夜を紫煙とともに過ごす。
 ずうっと、ずうっと……ずうっと。

 
 
Mr.ブシドー「…………」

 
 
Mr.ブシドー「……煙草臭い口では、キスは嫌がられようなぁ……」



 馬鹿なことを言った。
 でも、もし、もしがあれば、こんなものは吸わなかったろう。
 口当たりの辛くなった一本に、笑んで天井を見上げる。

 頬を伝う雫を拭う勇気もなく……ただ、吸い殻だけが積み重なっていった。



 ・
 ・
 ・
 ・


Mr.ブシドー「――以上をもって、【コロニー・プラウド内収容施設急襲作戦】の作戦概要説明を終わる」

Mr.ブシドー「質問は?」

ネフェル「はーい。今回MSは七機出てるけどさ、あたしら以外の四機は非粒子武装の旧式でしょ?」

ネフェル「万が一を考えたってそもそも役に立つとは思えないし、外周警戒設備ぶっ壊したら回収班に回ってもらった方が良いんじゃない?」

「う……」

「ぬう……」

(悔しいが言い返せん……)

Mr.ブシドー「……一理ある。初期段階終了後の回収班に合流を前提に、装備を組み直そう」

「しかしブシドー!」

Mr.ブシドー「聞かん」

「リアルドでも囮にくらいはなります!!」

Mr.ブシドー「聞かんといった! 命を粗末にするようなら今からでも作戦参加を拒否するぞ」

Mr.ブシドー「同志救出の場であって、諸君らの命を捨てる場ではない。出来ることだけを確実にこなせ」

イェーガン「仲間たちを救うのも立派な仕事さ。な、そうだろう?」

「「「……」」」

ネフェル「同意は得たわね」

Mr.ブシドー「では……これより状況を開始する」

Mr.ブシドー「MSを起動しろ。往くぞ、諸君!」


「「「了解!」」」



今日はここまで
また明日




 工業用コロニー、プラウド。
 各国が宇宙進出にさきがけんと開発していったものが、軒並みネオ・ジオン傘下に入ってしまった現状。
 新たなコロニー開発は、連邦側としても制宙権確保の橋頭堡となる重要案件になっていた。
 そうして資源加工や労働力の集約に彼らが白羽の矢を立てたのが、このコロニー。
 高重力下でしか生み出せない希少金属を生産するための施設が併設されていた、やや旧型のコロニーであった。


 ――だが、その実態は、連邦の暗部を象徴するに足る黒々としたものでもあった。



――プラウド・高重力区画――



 今、ここで行われている作業は、2312年に行われているというには到底信じがたい重労働。
 肉体に数倍の重力がかかる特殊な作業環境、一歩歩くだけでも一苦労という状況の中で、四人一組の男たちは身の丈を越す大型トロッコに積まれた鉱石を素手で押し運ばねばならない。
 すぐ隣では溶鉱炉と蒸気パイプが絶えず空気を熱く歪ませ、立っているだけでも汗が吹き出すサウナのような環境下であった。

 呼吸すら苦しい熱と、動くことすらままならない環境での、平時でも困難極める重労働。
 この二つが噛み合ったとき、それは【労働】から【処刑】と呼ぶべき過酷なものへとその姿を変えていた。
 そう、ここは作業区画に収容所を併設した、一種の処刑場。
 捕らえた反乱分子を体良く働かせた挙句、そのまま死なせてしまおうと言う目的の上に存在する【縄のない絞首台】なのだ。


看守A「おい、そこ。休むんじゃない!」

囚人「 」

看守B「ん……」

看守A「ち、もう死んだのか。予想より2日も早い」

看守B「ははっ、賭けは俺の勝ちだな。ニアだ、半額でいいぜ」

看守A「運んだら払ってやるよ。行くぞ」

看守B「もうけもうけ……へへへ」

沙慈(っ…………)


 すぐ隣で働いていた男が、何も言わぬまま倒れ、涙すら流せず息絶えていった。
 それを見た看守も、それが当然とばかりに談笑を交えて死体をモノのように引きずって通路へ消えていく。
 彼らは高重力対応パワースーツがあるので悠々としていられるが、彼らは一般的な作業用宇宙服しか与えられていない。

 それを目の当たりにしていた青年、沙慈・クロスロード。
 高温多湿の人間蒸し器と化したこの場で、氷柱を脊椎に突き刺されたような怖気に全身を震わせた。
 
 彼は同僚の男性が反政府組織の構成員だったために関与を疑われ拘束され、一切の裁判や異議申し立ての許されぬまま此処に収監された。
 聞けば、同じように冤罪で叩きこまれた人が少なくない数いるのだという。
 何を言おうが、此処を出るにはああやって何も言えなくなるまで働くしか無い。
 それでは元も子もないのだが、彼は諦めることも出来ず、逆らうことも出来ず、ただ不満を口にしつつも耐え続けていた。


看守「よし、お前はここだ。さっさといけ!」

「うぁっ……!!」

沙慈「!」


 
 
 





 そんな沙慈の隣に、パワースーツの人工膂力で突き飛ばされた補充要員が飛び込んでくる。
 慣れない高重力に脚をもつれさせながら向かってくる、白いノーマルスーツの影。
 ぶつかる――!
 とっさに身を投げ出し、沙慈は彼の身体を真正面から受け止めた。


沙慈「うっ……!?」

「あ……っ、すいま、せん……」

沙慈「つぅ……い、いいよ、君こそ大丈……」

沙慈「……!?」

「…………?」


 とっさのことでまともに衝撃を受け、呻く。
 だが、受け止めた対象を見て、言葉を失った。
 若かったのだ。自分より。恐らく、いや明らかに、成人すらしていない。
 少年とも呼べる幼さ残る容貌に、ここの残酷さが頭のなかで木霊する。


沙慈(こんな子供まで……こんなところで蒸し殺すつもりなのか……?!)

「あの……」

看守「おい、いつまでそうしているつもりだ! さっさと仕事に戻らんかッ!」

沙慈「!」

沙慈(まずい……今は、従っておかなきゃ……)


 無言のまま、目線だけで彼を誘導し先程までの業務に戻る。
 途中、残りの二人に睨まれはしたが、何かされることはない。
そんな余裕さえ彼らにはないということを、沙慈は身を以て知っていた。
 少年は一瞬背を押す手に逆らうように止まったが、沙慈の目を見て思い直したのか、ゆっくりトロッコへ向かう。
 その眼は、吸い込まれてしまいそうなほど真っ直ぐで。
 沙慈は、一瞬この熱気と重圧を忘れたような錯覚さえ感じた。

 


やっぱり前のを終わらせるの早めのがいいですかね。
ちょっと調整してみます。
明日また投稿いたしますゆえ、よしなに。

再開。


――――

 その日のうちの作業は、彼が来てから間もなく終わりを告げた。
 何やら上……つまり、本来のプラウドの作業区画であったらしく、妙に看守たちも慌ただしく動いていた。
 おかげで早めに切り上げられ、囚人たちは雑居房に見立てた部屋へと押し込まれていく。
 見立てた、とは、一般労働者が使うような宇宙用居住施設のドアを変えただけの、という意味になる。
 そもそも収容所として造っていない施設だったため、ここだけは少なからずまともな部分といえるだろう。


沙慈「まあ……すぐに出られなきゃ、いずれ体を壊して死んじゃうかもだけど……ね」

「そんな……」

 
 力無く答えた沙慈の言葉に、絶句する少年。
 当然だろう。ここでいつか死ぬまで重労働をしろと言われ、平常であったならそれこそ異常だ。
 二人は他の囚人と同じ部屋に収監されていた。
 壁に埋め込まれたカプセルベッドに、死ぬまでの短い時間を慰める旧式のモニターだけの簡素極まる牢獄。
 与えられる食事も、実のところ一般的な宇宙食。
 ただこれが食べられなくなるほど疲弊したら、そこから先はない。
 そう看守に脅されたときの、あの心地を、沙慈は今でもはっきりと思い出せた。


沙慈「……ねえ、君もいきなり連れてこられたのかい?」

「ッ……はい……でも俺は、ゲリラとかテロリストとか、全く関係ないんです……!!」

「……いきなり警備の人に囲まれて、裁判だってしてなくて……何がなんだか……っ」

沙慈「……僕も同じさ、同僚の人がカタロンだったからって、ここに直行だよ」

沙慈「カタロンとか、ネオ・ジオンとか……僕には関係ないのに……」

「関係ない、か……」

「……俺達が、普通に暮らしてる時にも……」

「俺たちみたいに捕まってた人が……いたんでしょう、か……?」

沙慈「…………」


 疲労こそあったが、こうやって誰かと話していないと、気が狂いそうだった。
 日常も宇宙においては味気ないものだが、それでも未来の中で生きているという感覚が、沙慈は好きだった。
 それに、何より彼には、宇宙で地盤を築かねばならない理由があった。
 ガールフレンドの、ルイス・ハレヴィ。
 彼女を迎える為の、最低限の備えと蓄えを持つ。
 それこそ、仕事は厳しいが給与の高い、プラウド労務に就いた目的であった。

 そう、彼には関係なかった。
 自分の周りでは当たり前の日常が常に回っていて、それを侵害する存在は誰かが自動で排除してくれる。
 警察や軍隊はそのためにいて、誰かの不幸も自分の幸せを損ねるに足るものではなくて。
 ただただ、生まれてから死ぬまで、自分は「正しい」もののままでずっといられる。
 そう、心の奥底から信じていた。
 
 だから、「関係ない」という言葉に反応した彼の表情が、沙慈には少し引っかかって感じられた。
 ――本当に、関係無かったんだろうか?
 そう、自分に、そして、彼自身に問いかけているように聞こえたからだ。
 でも、答える言葉が見当たらず。
 だから、最期まで黙ったまま、有耶無耶にした。


沙慈「……ええと、そういえばまだ名乗ってなかったよね……?」

沙慈「僕は沙慈。沙慈・クロスロード。君は?」


 少し重くなった空気の中で、思い出したように名前を聞いた。
 ここでは名前を聞くのを忘れがちになる。
 すぐに動かなくなっていなくなるか、看守に呼ばれる番号にしか意識が向かなくなるからだ。
 彼もまたそれを思い出したかのようにハッと顔を上げ、それを意識したのが嬉しかったのか、確かに笑って。

 彼の名前を、沙慈にはっきりと伝えた。

――――





「俺は――バナージ」


バナージ「俺の名前は、バナージ・リンクスです!」




―――――

――アロウズ所属・バイカル級航宙巡洋艦:MS運用強化型(D型)――



『本艦はこれより、コロニー・プラウドにおける反政府勢力掃討作戦を開始する』

『アヘッド第一小隊、RGM第一小隊は装備換装完了とともに出撃せよ』

『アヘッド第二小隊、RGM第二小隊は別命あるまで待機。警戒を怠るな』


 静かな、それでいて聞き取りやすく張られたオペレーティングが艦内に響き渡る。
 一本の刀剣のような船体前部が特徴的な、バイカル級航宙巡洋艦。
 その中でもアロウズのみに運用が許可されたMS搭載数強化型の船体は、後部両脇にRGM二個小隊を搭載可能なハンガーが増設されている。
 艦長席に座る、アーサー・グッドマン准将。
 展開していくMS隊員を一瞥した後、愉快そうに口元を歪めた。


グッドマン「聞いたかねジェジャン中佐、今回の【ネズミ捕り】の目標を」

ジェジャン「はい、准将。例の【ワンマンアーミー】だそうで」

グッドマン「とうとう尻尾を掴んだといったところか……レゾルス襲撃の部隊には悪いが、迷い込んだ手柄はしっかり握らせてもらおう」


 ご満悦の彼の手には、戦況予測の書かれたタブレット端末が無重力に踊っている。
 もともとは「反抗勢力を誘い込んでから、囚人ごと新型オートマトンの実験で一掃する」というのが任務であった。
 しかし、掴んだ足取りから、本作戦にカタロンの傭兵【ミスターブシドー】が参加するという可能性が出てから、事態は一変した。
 グッドマンから見てつまらない、ただの実験任務から、まさかの大金星が挙げられるチャンスが転がり込んだのだ。
 

グッドマン「この宙域では、【袖付き】も貧相な旧型ばかり寄越す上、【奴ら】とも滅多に遭わんからな」

グッドマン「些か程度には、楽しめる戦場だといいがな……ふふふ」


 おおよそ、彼を昔から知る人間は、この様を見れば間違いなく顔をしかめることだろう。
 任務を軽んじる、油断することこそ少なくはなかった彼であったが、奪う人命に敬意を見せないどころか、それを命と認識しないような男ではなかったからだ。
 ましてや今回の任務、囚人をまとめて鏖殺するようプログラミングしたオートマトンによるもの。
 これはもはや「殺人」ではなく「処理」。
 それも、機械で淡々と行う、非合法の大虐殺そのものであった。

 長らく副官を務めたジェジャン中佐も、その様子に慣れきっているのか、まゆ一つ動かさずに黙々と作業を続けている。
 かつての任務で苦楽をともにした者は、彼を妹思いの良心的な人物だと口をそろえて讃えていた。
 変わった、という一言に尽きた。
 地位が――任務が――褒章が――名誉が――そして、殺戮が。
彼らを血の通わぬ機械と同じ、心の冷えきった存在にすっかり変えてしまっていた。


ジェジャン「ジニン大尉、聞こえるか」

ジニン『! はい、中佐』

ジェジャン「ハレヴィ准尉は今回が初陣となるはずだったが、作戦内容の変更で見送りとなった」

ジェジャン「もっとも戦える人員が増えるだけのことだ、気にせず戦え」

ジニン『はっ、ご配慮に感謝致します!』

『大尉! 換装はいかがで!』

ジニン『ジニン機はジャベリンでいく! せっかくの支給品だ、使わせてもらうさ』

『了解!』


「やれやれ……浮かれて足元を掬われなきゃいいがね」


 その様子を、艦内カメラを傍受して見つめる影があった。
 専用の小型ステルス艦で彼らをトレースしていたその男。
 傍らには彼の髪の色と同じ、碧色のHAROが転がっている。


緑HARO『作戦継続!作戦継続! ガッデス・リッパー、粒子エネルギー45%! ケイコク! ケイコク!』

「分かっているよ。でも、どうせ戦力差は歴然だ、片手間くらいには相手出来るだろうさ」

「ただ黙って帰るだけじゃあね、僕らの【マスター】にみやげ話の一つくらい包まなきゃ」


 おもむろに回線を開くと、バイカル級巡洋艦の通信回線へ【強制接続】を開始した。
 彼の背後には、暗青色のMS。
 登録名【ガッデス】、彼専用の改修が施された特務MSである。


「その作戦……僕も参加させてもらっても構いませんね?」

グッドマン『!? 誰だ……回線に割り込んで?!』

ジェジャン『ッ、まさか……!!』


「失敬、ご挨拶が遅れました……」



ゼロ「【ライセンサーズ・No.4】、ゼロ・ムラサメ……本作戦に独自介入させて頂く」


 翠の髪に金色の瞳を持った、美青年の姿がモニターに映し出される。
 その時初めて、彼らの表情が変わった。
 ライセンサーズ。そう名乗った彼の目には、闘争への渇望がささやかに燃えていた。


――――
 


今日はここまで
次は木曜日に来ます
ではまた

再開

【RGMって?】

外見参考

RGM :ジムカスタム
RGMⅡ:ジムⅢ
RGMⅢ:ジェガン


ジンクスの支援用の汎用MSとして、リボンズが【サルベージ】したデータを元に組み立てた量産型MS。
要はジムシリーズのGN粒子駆動バージョン。

機体のエネルギー、全ての武装を内部コンデンサで補う為、そのコストは初期型ならジンクスに比して五分の一となっている。
その後、機体の駆動レスポンスの調整と改良された粒子兵装技術の研究用にRGMⅡが少数開発される。
このⅡにより蓄積されたデータと、キュリオスからもたらされたガンダムの技術が統合され、現在主流のⅢが開発されている。
本編ではRGMという名称はⅢを指す。


もともと、ガンダムタイプによく似た構造(当然ではあるが)であるがゆえの【追加兵装による能力の特化・多様化】が容易であるということはRGMの特性の一つであった

ジンクスは兎にも角にも量産体制の確立と世界各地への拡散が急務であったため、デチューンまで施し運用性とローコスト化を進めていった。
だが、逆にRGMはジンクスが持ち得なかった単騎の選択肢の多様化が考慮に入れられつつ改良が加えられたため、性能的にはⅢの時点でジンクスと横並びになるに至った。


結果、五倍のコストパフォーマンスもなくなり、GNドライヴ以外のコストでほぼ同等という結果に陥っている。
代わりにバックパックや粒子バランスの変更、OSの切り替えだけで性能と武装選択を変更可能。
ジンクスやアヘッドを隊長機に据え、その支援用に適切な換装を施すという現在のRGMの基本運用が確立することとなる。
これらの装備換装は非常に高速での導入が為されたため、グラハムを始め少なくない人物の猜疑を招いた。


ただ、この【換装による多様化】を好む熟練パイロット専用に、とうとう【GNドライヴ搭載型RGM】なるものが開発されてしまう。
こうなってくると、RGMの元々のコンセプトである【安い・多い・まあまあ強い】がちぐはぐになってきてしまい、これからの開発が迷走していくのではという危惧が広がっていく。
それにジンクスと比較して必要な部品や整備の手間も多く、数合わせのMSにこんなに必要なのか、という現場の声も見受けられる。

現在確認されている太陽炉搭載型RGMは、エース部隊:トライスターの【ジェスタ】がもっとも有名で、連邦軍所属ながらアヘッドにさえ戦術的優位を持つ高性能MSである。
水中特化、寒冷地特化、デブリ帯特化などの特殊地形特化型などには一部ジンクス以上の適性性能を発揮するのを理由に特殊部隊が形成され、現地で多くの戦果を挙げている。

そしてライセンサーズの初期適正判断用にも、特別なGNドライヴ搭載型RGM【零式】が採用されている。


なおRGMのような【GNドライヴを完全に内蔵して、粒子を各部から放出する機構】は、換装の際のレーダー・FCSの微細な粒子障害を考慮して採用された。
つまりRGMⅢ以降はトライコーン型スラスターではなくランドセル型である。


 ――プラウド――


 カタロン第一宇宙支部、母艦総数四隻。
 うちミスターブシドー専用母艦【ペンドラゴン】が一隻、という事実は、カタロンの苦しい懐事情を如実に表しているといえよう。
 ラグランジュ4、付近に敵影無し。コロニー・プラウドは武装も少ない工業用コロニーである。
 即座にMSが展開され、放射状に軌跡を残しコロニーの警戒システム排除に移った。


ネフェル『ゼク・アイン、第二種装備! ネフェル・ナギーブ、出るよ!』

イェーガン『イェーガン・クロウ、ゼク・アイン第三種兵装。出撃する!』


 少し遅れて、二機が展開し所定の位置につく。
 二人の乗ったMSは、青い装甲のモノアイ型GNドライヴ搭載MS【ゼク・アイン】。
 ネフェルは遠距離狙撃仕様・第二種兵装。長大なビームスマートガンを構え、左肩のレドームが濃密な粒子の中でも敵機を見逃すことはない。
 イェーガンの第三種兵装は、大型GNコンデンサを肩に装着し、大型ビームマシンガンを始め多くの装備を担いだ重武装仕様だ。
 二人の持つ長物は、共通してビームバヨネットと安定用サイドグリップ、円形シールドが付いた魔改造品。
 傷ついた装甲表面が、激戦を抜けたエースの駆る名機であることを暗に告げている。


ネフェル『着いたよ、見晴らし良好!』

イェーガン『右に同じ! 隊長、いつでもどうぞ!』



 外周デブリの壁面に取り付いたその場所は、コロニーを守るような位置取り。
 警戒システムの排除に入った四機のリアルドも、迅速果断に任務を遂行している。
 ペンドラゴンに登場したハッカーが、プラウドの重力生成システムにハッキング、システムをシャットダウンさせた。

 ペンドラゴンが、プラウドの艦船ドックへ強行接続を開始。
 このまま混乱に乗じて全ての収容された囚人たちを開放する。
 それが今回の救出作戦の概要、クラウスが今を置いて他にないとした大規模な任務であった。


Mr.ブシドー「では、行ってくる」

『作戦の成功を祈っております、ご武運を。ミスター』


 重力の有無に使用を制限されない、粒子稼働特殊ホバーバイク【ワッパ】に乗り込むブシドー。
 目指すは収監されている雑居房エリア。最奥にあるため、危険度は一番だろう。
 次々に飛び出すワッパの中に紛れ、驚き逃げる職員を避けながら内部へと侵入していく。
 いかなる問題があろうとも、今はただ駆けるのみ。
 握ったハンドルが、熱くなるのを感じた。

 
 





 
『Aブロック、クリア』

『Dブロッククリア!』

『Gブロック……クリア!』


 先行したカタロン宇宙支部隊員が、占拠したブロックの報告を無線で告げていく。
 ワッパの唸る音が、身体から鼓膜に届く。
 作戦は怖いくらいに上手くいっている。
 これなら被害軽微で……そう、思っていた矢先。

 事態は、あっさりと最悪の方向へと転がり落ちていった。


『Eブロック……く、クリア……?』

『Fブロッククリア……おい、どうなってんだ!?』

『Bブロック……誰もいないぞ!!』

『何が起きている!? さっきから、職員がほとんどいない!!』

Mr.ブシドー「何……?!」

『ミスター!! 』

Mr.ブシドー「艦長、どうした!?」

『悪い知らせが3つあります! まず、これは罠です! 職員から話を聞きました、ここは放棄される予定で退避命令が下っています! 囚人は我々を招き入れる生き餌です!!』

Mr.ブシドー「ッ……!!」

ネフェル『二つ、行きに落としたセンサーボットの反応が途絶えた! もうそこまでアロウズの奴らが来てる!』

イェーガン『目視範囲にはまだ来てません、デコイが利いてるんでしょう……ですが、時間の問題ですね……!!』

Mr.ブシドー「分かった、私はすぐに戻る。救助作戦は可能な限り継続して……」

『3つめ……』

Mr.ブシドー「……?」

『済みません……!! 【お姫様】が脱走しましたぁ……!!!』

Mr.ブシドー「んなっ……?!」

ネフェーガン『『何いいいいっ!!?』』

 最悪だ。
 まさかここで、このタイミングで癇癪を起こされるとは。
 ワッパを急停止させ、右義眼のオーグメント・モニター(拡張現実の仮想映像)に送られてきた映像を重ねる。

 彼女だ。
 多数のワッパの中の囚人移送用コンテナに紛れ込んで、そのまま中に入っていくのが見える。
 最悪だ……
 やらねばならない仕事が、ここで増えるとは。

Mr.ブシドー「……艦長、施設の通気口のマッピングを転送してくれ」

Mr.ブシドー「私が探しに行く。ネフェル、イェーガン。時間稼ぎを頼む」

ネフェル『あいよ……!』

イェーガン『お気をつけて、隊長!』


 またワッパのエンジンを稼働させる。
 彼女の行動範囲を予測し、最短で捕まえに行く。
 間に合わなければ、最悪全滅だ。
 
 だが見捨てるという選択肢だけは、最初から用意していなかった。
 もし、彼女を見捨てなどすれば。
 自分は本当に【ミスターブシドー】から戻れなくなる、そう確信があったからだ。


Mr.ブシドー(間に合うか……!!)


 時計とにらみ合いながら、ハンドルを回す。
 身体が粒子特有のふわりとした機動に浮かぶ、その時だった。

 ――四つ目の、悪い知らせが飛び込んできたのは。




 ――宇宙――


ジニン『見えた、プラウドだ!』

ジニン『作戦は予定通り行う。各機、ミスターブシドー他二名のものと思われるMSには注意せよ』

ジニン『ここで世界統一の憂いを断つ! 奮起せよ!!』


 ジニンの啖呵に、部下達の一斉の呼応が応える。
 うるさい、と思っても口にしないだけの処世術を、ゼロ・ムラサメは最近ようやく獲得しつつあった。
 アヘッド1、ジンクスⅢ2、RGMA装備(標準的なライフルとシールド装備)が3。ありきたりな編成だ。

 そして彼の駆るガッデスの横には、一切マニュアルの挟まらない単調な動きのジンクスⅢが着いている。
 援護、ではない。初陣なのだ。
 ゼロにお守りをさせるためだけにあてがわれた、とある資産家の令嬢崩れ。
 つまらないお荷物ではあったが、彼女のことはたまたま知っていただけに、断りきれなかった。

ゼロ「ハレヴィ准尉、起きているかい?」

ルイス『! は、ハイ……ゼロ大尉』

ゼロ「それは良かった。しっかり前を向いておきなよ」

ゼロ「戦場ではいつ敵が出てくるか分からない。よそ見していると、即死してしまうかもね?」

ルイス『……!!』

ジニン『ゼロ大尉、ハレヴィ准尉を脅すのは止めていただきたい。彼女はまだ若いのです』

ゼロ「失敬、でも嘘はいってないよ」

ゼロ「――来るよ、全機シールド展開。散開させな」

ジニン『何!?』

ルイス『えっ……?』


 注意を促した矢先、遠方から光の束が一直線に飛来してくる。
 構えが甘かったジンクス二番機が左肩から下をもぎ取られ、小さな爆発を起こした。
 粒子砲狙撃、それもこの距離から決めてきた。
 装備にもよるだろうが、かなりの手練であることが伺えた。
 
ジニン『全機散開! 二番機、無事か!?』

『何とかっ!』

ゼロ「下がらせなよ、そいつはもう役に立たない。基幹ユニットから爆発してた、基部の粒子が本体を痛めつけてる」

『勝手なことを……!』

ゼロ「親切で言ってやってるんだ、死にたいなら別だけどさ」

ゼロ「手伝ってやるよ、大尉。ハレヴィ准尉にそいつをカバーさせろ」

ジニン『…………』

ジニン『了解した、ライセンサーズのお手並み、拝見させていただく』

ゼロ「物分りがいいね、好きだよ。そういう奴は」

緑HARO『トツゲキ! トツゲキ!』


ゼロ「サイコミュ起動、粒子圧縮濃度、レベル3を維持」

ゼロ「【ガッデス・リッパー】、目標を寸断する!」


 突出したガッデスめがけ、粒子ビームの狙撃が二発、撃ち込まれる。
 それをジグザク回避で対応、後方の部隊から一気に距離を離し猛接近していく。
 背面には、コアファイターを改造し戦闘用に作り変えたブラスターユニット。
 両の肩と腰につけた巨大な端末は、円盤に三基のビームサーベルファングを接続した大型無線誘導端末。
 それは、原型となるガッデスが戦闘に不向きだと、これを見て思うことなど不可能であろう攻撃的な専用MSであった。


ネフェル『速い……イェーガン!!』

イェーガン『足を止めれば!』

ゼロ「発想だけはまともだね、出来ないことを除けばさ!」


 ゼク・アインが両手に構えたシュツルムファウストを発射。
 その弾頭が爆発し生み出す小さな太陽の如き熱球を縫うように、なおもガッデスは前進する。
 背面から伸ばしたツインブラスターユニット、両腕にそれぞれ構えた垂直二連砲身から圧縮粒子が数発、二機めがけて放たれた。
 二人の居座る大型デブリを削り、破片が二機を襲う。
 それでも地を蹴り、互いの砲身をゼロへと向け飛翔したネフェルにイェーガン。

 二人の身体は発汗と緊張で張り詰めていた。


イェーガン『ネフェル……こいつは!』

ネフェル『分かってるよ、まさかこっちに来るとはね』

ネフェル『【アルストロメリアの蒼影】……ゼロ・ムラサメ!』

イェーガン『ライセンサーズの古株、強化人間がお相手かよ!!』

ゼロ「そう焦るなよ、お前らのボスが来るまでは……遊んでてやるからさッ!」

イェーガン『隊長が来るまでは、意地でも通さねえっ!』

ネフェル『舐めんじゃないよ、小僧がさぁっ!!』


 二対一、互いにベテランとエースの激しいぶつかり合いが、プラウドの影に光を当てる。
 二機のビームバヨネット、ビームピストル、ライフルにミサイルに至るまで、ことごとく回避していくガッデス。
 だがガッデスからのブラスターもまた、盾で受け、寸前で回避し、致命打を避け食い下がっていく。
 そんな二機を抜けて、アヘッドがコロニーへと接近していく。
 目標地点へと、【死】を落とすために――
 

今日はここまで
ではまた明日

今北区一行
申し訳ない、次回は木曜日になります

投下はまた夜に。
少しお聞きしたいことが。

考えてみたのですが、前作はまた同じ名前でしっかり立てて再優先で終わらせて、その間此方は少しずつ進めていく感じのほうがいいのかと思うようになりました。

「こっちで書いちゃえばいい」
みたいな意見ありましたら、お伝え下さい。

行き当たりばったりですませぬ、ではまた

とりあえず一週間ほど意見募ってみます
なんつうか、エグいので、続けざまで書くの怖いかなとは思って聞いてみました
構想的にはあの頃と同じはずなんですけどね

では続きを


 ――――


 それは、投げ込まれたカートリッジコンテナの中から、真空の無音とともにわらわらと這い出てきた。
 Eカーボン製の黒い六角柱のボディ、昆虫を思わせる広がりを見せる四本の板状の脚。
 高さは2mを優に超え、胴体下部には円形の二連装対人機関銃と高性能動体知覚センサー各種を揃えている。
 【オートマトン】、と呼ばれる、AIによって動く無人機械端末。
 その存在自体はこの24世紀においてありふれたものであり、医療、災害救助、警備や暴徒鎮圧に至るまで幅広く活躍する文明の利器であった。
 
 だが、それの動き。
 知る者、見たことのある者からすれば、驚愕の機動性をそれは披露してみせた。
 速い。そして、軽い。あまりにも軽快な挙動。
 軍用の堅牢な装甲と重武装をまるで削らずに、下部の噴射システムで浮いてさえいる。
 GNコンデンサによる質量の軽減と、慣性の制御。
 それが、この新型オートマトンの新型たる所以。
 より強く、より速く、より賢く成った、完璧なる人類の奉仕者であった。

 そんな彼らが行う、虐殺という名の奉仕活動。
 その渦中に、彼は投げ込まれていた。
 

バナージ「はぁッ……はぁッ……!!」

「早く、走れ走れ走れ!!」
「こっちだ、頑張れ! あと少しだ!!」

 
 
 高重力の足かせが無くなったのもつかの間、彼らが目の当たりにしたのは、殴りこみをかけてきた反政府勢力の一団だった。

 ホバーバイクの一種と思える機械に跨がり、疲弊しきった囚人たちへ声をかけ、次々に後部のコンテナへと導いていく。
 先ほど沙慈の隣りにいた男性が、【君たちは運がいい】と漏らしていたが、どうやらそのことだったらしい。
 今、彼は、自らの血だまりの中で事切れている。
 カタロンの面々が現れてすぐ、頭上から、奴らが現れたからだ。

 
 
バナージ「うっ……!?」


「うぉっ?!」
「しまっ……!」

「「ぎゃあああああ!!!」」


 バナージの目の前に突如として降り立ってきた、漆黒の機蟲。
 背を向けたまま、今まさに彼へ救いの手を差し伸べていたワッパを乗り手ごと蜂の巣へと変えていく。

 目の前で踊るように弾丸の掃射を受け、瞬く間に身体をちぎり取られていく、人だったもの。
 バナージ本人は、その有様からすぐに眼を背けていた。
 本能的な反射行動だった。
 きっとそのまま直視していたら、彼らの脳漿が撒き散らされた辺りで思考を停止していたことだろう。

 センサーが、何かを捉えるようにちかちかと光る。
 それが、自分を探していることはすぐに解った。
 そうして、ゆっくりと、しかし確かに彼を捕捉しながら振り向いていく、殺戮者の手先。
 声にならない小さな悲鳴を上げて、バナージは近くの倒れたコンテナ裏へと飛び込んでいった。


 逃げ込んだ陰で、何かを踏んだ。
 それが、倒れた人……だったものだと分かると、喉の奥から酸めいた何かがこみ上げてくる。
 今、吐くわけには行かないと思った。
 口を無理やり抑えこみ、必死になって抑えこむ。
 じわりと、人だったものから紅い液体が広がっていく。
 いや、もう、あたり一面が真っ赤に染まっていた。
 
 ここから目の届く範囲、おびただしい人の成れの果てが血の海を作り上げている。
 力無く掲げられた腕、引きちぎれて転がる脚。
 乾いて歪んだ瞳と目が合った。もう塞がることのない、開いた口から声が聞こえる。
 生き残っているのは、自分だけなのだろうか。
 沙慈とは、混乱の中ではぐれてしまった。
 彼もこの中にいるのか?
 だが、他人を案じる余裕なぞ、今のバナージには欠片も残されていなかった。

 これから、自分もこの中に加わるのだと、頭の何処かで理解してしまったからだ。


バナージ「ッ…………!!」


 震えが、止まらない。
 空気の暑さとは裏腹に肌は酷く冷たく、骨からじわじわと冷やされていくかのよう。

 
 
 足音がする。

 重々しいボディからは想像もできない、軽い音だ。
 とっさに口をふさいだ。
 意味があるかも、分からない。するしか無かった。

 自分を探している。
 見つけて、殺すために。
 涙が滲む。怖くて、悲しくて、抗いようのない感情が、身を揺さぶる。

 センサーが、赤い光を辺りに散らす。
 高性能センサーは、人間の体温だけを正確に察知し、必ず目標を殺傷する。
 音に、生々しい音が加わった。
 人を、さっきまで生きていた人たちを、踏みしめる音。
 自分もそうなるんだという、妙に冴えた考えが、鼓膜から天辺までを通り抜けた。

 
 
 もうすぐまで、【死】が迫っている。


 バナージの身体は、底が拔けるような感覚とともに、真っ逆さまに落ちていった。


 ・ 
 ・
 ・
 ・


 センサーが、先程まで熱を感知していた場所を覗き込んでいる。
 そこには、点検用のダクトの入り口が、ぽっかりと口をあけている。
 流れる犠牲者たちの血潮は、彼の残滓を覆い隠そうというのか、下へ下へと滴り落ちていく。
 やがて、演算により誤認と解釈したオートマトン、次の獲物を探して再び動き出す。
 その重厚な殺意を、沙慈ともう一人が、物陰からただ呆然と見つめていた。


――――



-――――


「我々は敵母艦を叩く!」

「脱走者もろとも宇宙の塵にしてやれッ!!」


 ネフェルとイェーガン、そしてライセンサーの攻防を抜けた残りのアロウズ部隊。
 数は4。いずれも粒子稼働の強力な最新MSだ。
 対するMSは4。全機リアルド、武装は旧式のリニアライフルとソニックブレイド。
 母艦も外見は従来のバージニア級改装艦と何ら変わらない。
 おまけに現在、頭から港内へ突っ込んで搬入作業のまっただ中。
 疲労困憊の囚人を満載したコンテナを携え、ワッパが次々艦内へ飛び込んでいる以上、移動さえままならない現状。

 にも関わらず……ペンドラゴンの艦長は、笑みさえ浮かべて彼らアロウズに対峙した。


『さぁて、皆の衆。ミスターのご帰還までに片付けておこう』

『潜水艦乗りの戦い、アロウズの若造どもにたっぷり教授してやろうじゃないか』


 艦長の啖呵に、にやりと笑う艦橋の乗組員。
 敵FCS、母艦を捕捉。
 センサーが感を発する中、後部ハッチが開き、複数の発光体が発射される。
 動かぬ艦体めがけ、敵MSの容赦無い一斉掃射。
 だが、引き金より早く爆発した発光体から撒かれたGN粒子、その煙幕の如き濃密な粒子の残影が、そのいずれもを拡散反射させ到達を許さない。


「粒子撹乱幕だと!? 小癪な……ッ」

『そおら、次は接近戦、だろう?』

「だったら直接叩き潰すまでっ!!」

『はは、お利口さん!』

『リアルド隊、しっかり狙えよ。GNミサイル、コンテナスプレッダー、順次射出!』


 ペンドラゴン全体を覆う撹乱幕は広範囲を覆い尽くす。
 これでまず一般的なジンクスなら射撃武器の殆どを無力化出来る。
 RGMは装備の幅が大きく怖い存在だったが、さきのネフェルの哨戒でA装備ということは判明していた。
 つまり、たったこれだけで相手は遠距離戦闘が不可能になったわけだ。

 ジンクスを先頭に、各々盾を構えて一直線に向かってくるアロウズ隊。
 無鉄砲、とも言えないのが悲しきかな、もしジンクス一機だけでも本来カタロン側がやすやす掃滅されて終わる過剰戦力差だ。
 
 同後部ハッチから、今度は小型GNミサイルが発射される。
 巣から散らされたハチのように大量にばらまかれるミサイルは、一発一発がMSを損壊させるに至る破壊力を持つ。
 だが、撹乱幕のセンサー障害をもってしても、4機を止め切るには至らない。
 情けない話かもしれないが、少ないのだ。それこそ湯水のように吐き続けてようやく、というのがこの時代のミサイルの悲しき性だ。

『――だから、こうする!』



 立て続けに発射されたのは、何の事はない、金属製の直方体。
 普段彼らが運搬用、保管用に活用しているコンテナである。
 ただこのコンテナ、とある人物が好き勝手に弄くり、弄び、すげ替えたりして遊んだ代物。
 その名を、キッド・サルサミル。
 【リトル・マッドネス】の異名を持つ、ユニオンきっての怪童の意欲作だ。


アラッガ「!?」


 二台、左右少し開き気味の角度で射出。
 粒子撹乱幕内部にいる彼らからは何も出来はしない。
 そして、コンテナの薄い金属板が自ずから剥がれ落ちて、ようやくそれが何なのかが知れ渡る。
 
 プチモビ……作業用の小型ロボットの背中にミサイルコンテナを満載させた、リモコン式の砲撃端末。
 それらはアロウズのMSを挟むような形でミサイルを全弾発射、X軸からの十字砲火を4機に浴びせたのだ。


「回避……ぐぁっ?!」

「なっ……!」


 それですら、防ぎきる可能性があるのがアロウズの精鋭部隊たる所以。
 ダメ押しとばかりにリアルドたちが満を持して現れる。
 その手にはコードの繋がった長大なリニアライフル。
 高初速、弾頭も200mmの、本来MA用に造られた存在。
 艦内大型センサー直結、スマートガンと呼ばれる種類のこの武装は、この濃密なGN粒子の中においても敵の姿を見逃しはしない。

 当たっても致命打にはならない、が、その衝撃は殺しきること能わず。
 無論、命中したMSの動きは怯み、鈍る。
 四方八方から襲い来るミサイルとともに、高速の電磁誘導弾頭四門の砲狙撃。
 
 敵機は即座に踏み込むことを避け、回避運動に徹する。
 それでもRGMの一機が盾にライフルを受け、左右のミサイルを腰部に同時に喰らい爆散。
 爆風に体勢を崩したもう一機は左脚関節にまともにリニア弾を浴びて、そのまま喪失してしまう。

 ジンクスのみが無傷で済むという奇跡を成し遂げたが、突っ込んだうち二機を喪失、一機は中破という結果。
 これほど抵抗ができる艦船がカタロンにはいなかった、故の油断、故の金星であった。
 

アラッガ「ただのバージニア級じゃないぞ、コイツ……!!」


『驚いてくれたらしいな、よし、第一印象は上々』

『外部警戒システムのロックを解除、目標を書き換えたままで動かしてやれ!』

『それとミスターのマスラオの【火入れ】をしておけ、場合によってはリモートで最寄りの壁面まで飛ばす!』

『まだ油断はするなよ、【奥の手】も取っとかなきゃな……』

ネフェル『ドライゼ! そっちは大丈夫かい!?』

ドライゼ『! ネフェルか、ああ、問題はない、しのげている!』

ネフェル『そうかい……ならいいんだ、けど、さッ!!』



 
 無線に飛び込んできたネフェルの声、切迫した状況がそれだけではっきりと分かるものだった。
 いつの間にか加わったアヘッドがガッデスに加勢し、同数での戦闘となった搭載機同士の闘い。
 ガッデスの機動力に翻弄されるイェーガン機と、豪快に圧すアヘッドに防戦一方のネフェル機。

 
 

ゼロ「やるじゃあないか、なかなか筋が良いよ、テロリスト!」

イェーガン「っ、嬉しくねえお褒めだな全くよ……!」

ジニン「だが、貴様らがカタロンの重要な戦力であることは十分理解している!」

ジニン「ここで落とす! 貴様らの首もまた、世界統一に欠かせぬ柱だ!!」

ネフェル「くぅっ……!」


 盾を頼みに強引な踏み込み、詰まった瞬間右手のサーベルを突き出してネフェルの長物を安定させぬようがむしゃらにかき乱す。
 距離を取れない以上スナイパーにとっては何よりいやらしい攻め口。
 それに、このアヘッドの挙動は粗さから繊細さへ何度も行き来し、一歩の踏み込みさえ彼女に許さない。

 重火力を押し付け攻めるイェーガンのゼク・アインもまた、ガッデスの舞うような動きを捉えきれずにいた。
 当たらねば意味が無い、を地で行くような徹底的な回避運動。
 マシンガンの粒子放射を巧みに交わし、銃剣の位置にまで来るとサーベルと脛の粒子フィールドで弄ぶように刃を受け流す。
 踏み込めば分かっていたというように引かれ、誘い込めば出足を差し込まれ止められる。
 手加減をしているのか、何か狙いがあってのことか。
 強く攻めこまないがゆえに、はっきりとその力量が際立つのが、イェーガンには感じられた。


イェーガン『つええな……ライセンサー!』

ドライゼ『そっちに応援を送る余裕はない、すまんが耐えてくれ……!』

イェーガン『気にしなさんな、もとからそのつもりさ、なあネフェル』

ネフェル『来たって殺されるのがオチさね、お断りだよ……っ!』

ゼロ『クぁ……さぁて、そろそろ来るかな? 例のワンマンアーミーは』

ジニン『後がつかえているのでな、いい加減決めさせてもらおう!!』

ネフェル『舐めてくれるじゃないのさ……!』

イェーガン『まだ第一ラウンド、ゴングには遠いぜアロウズ!!』


 ジニン大尉の気合とは正反対の、ゼロの呑気なあくび。
 聞こえているわけではないが、本気ではないのが伺えるだけで彼らの矜持が逆撫でされた。
 再びの激突、粒子光の輝きが照らす、コロニー壁面の正反対。

 彼らは気付かなかった。

 彼らの駆る擬似粒子とは違う、緑の輝きが、主に呼ばれて瞬いていたのを。

 
 



「こっち!」

「次は……こっち!」

「つ・ぎ・はあ~……どっちだろ?」

『コッチ! コッチ! タブン!』

「わかった! じゃあ、こっちにする!」

バナージ「そ、そんなんでいいのか!?」

「なによう、あたしとプルハロの感覚がおかしいって言うの?」

バナージ「そうじゃないけどさ……っ」


 アリの巣のような上下左右に入り組む通路の中、二人と一基が、のどかな逃避行を続けていた。
 本来ここは、整備や点検を行う専用の小型オートマトンを通すためのもの。
 人間が入るのは一応考慮されているとはいえ、難儀することには変わりなかった。
 しかし、それ以上に、バナージは焦っていた。
 当然であろう。今も、彼ら生きた人間を探して、殺人マシーンが通路を闊歩しているのだ。
 一刻も早く、安全な場所に逃げ込みたいという感情は、当然のものといえる。
 
 焦るバナージを先導するのは、セミショートのオレンジ髪を揺らす、10歳ほどの少女であった。
 着込んでいるノーマルスーツは、一般的な白い子供用のもの。
 しかし、手や足の部分は通常より大きく膨らんでいる、可愛らしいデザインだ。
 この殺戮のコロニー下部に、何故こんな子がいるのか、バナージには皆目検討もつかず。
 しかし、ときおり抱えている大型の黒いハロと会話しては、まるで分かっているかのように迷宮のようなダクトを突き進んでいく。
 そして、段々と、彼女がどこにいこうとしているか分かり始めている、自分をも、図りかねつつあった。


「大丈夫、もうすぐお兄ちゃんの所に着くわ」

「そうしたら、あんな怖いのやっつけてくれるんだから!」

バナージ「お兄ちゃん……その人も、此処に来ている、のかい?」

「そうよ。お兄ちゃんはすっごく強いんだから!!」


 ――先ほど、オートマトンに捕捉されかけた瞬間。
 彼女が真下から点検用ダクトを開けてくれたおかげで、バナージはすんでのところで脱出することが出来た。
 突然のことで少し、いや結構な勢いで腰を強打したが、贅沢はいっていられないとも思っていた。
 モノ言わぬ機兵の銃座にコマ肉にされるより、どう見てもマシなのだから。
 

バナージ(もし……彼女が来てくれなかったら)

バナージ(俺は間違いなく、殺されていた……)

バナージ(あの人達のように……床の朱に、溶けて、潰されて……)

バナージ(ッッ……!!)

「大丈夫、だよ」

バナージ「!」

「あなたは生きてる。あの怖いロボットも、此処には来れない」

「もう大丈夫。死んだりなんかしないわ、もう、誰も……」

バナージ「君……俺の考えを……?」


 大丈夫、そう繰り返す彼女から、全幅の信頼と暖かな好意が香ってくるようであった。
 それを向けられているのは、恐らく、お兄ちゃんと呼ばれる人なのだろう。
 やがて、本当に大丈夫なような、波長が合っていくような気持ちに変わって行くのがわかった。
 それと同時にバナージは、日頃から感じていた【ずれ】が、少しずつ戻っていくような錯覚を感じていた。
 彼女、この天真爛漫な少女との会話を通じて、自分の中の何かが目覚めていくような気がしたのだ。
 

バナージ「なあ、君……」

「あたしは、君って名前じゃないの!」

プル…?「あたしはプル! エルピー・プル!」

プルHARO『アタシプルハロ! ヨロシクネ、ヨロシクネ』

バナージ「……おれは、バナージ。バナージ・リンクス」

プル「わぁ、素敵な名前ね! あたし、バナージとお友達になったげる!」

バナージ「はは……ッ?!」

プル「きゃっ!?」


 ささやかな談笑は、耳をつんざく金属音と、再びの落ちる感覚で強制的にお開きと相成った。
 またか、という呑気な考えは、【それ】が見えてすぐにバナージの脳髄から消し飛んだ。
 【それ】……彼女らのいたダクトを、回線コードをかき分けアームで掴み、引きずりだした存在。
 殺人兵器、オートマトン・キルモードである。


バナージ「ぁっ……!!」

プル「――――!!」


 支えることすらままならず、転げ落ちる二人と一基。
 強かに身体を打ち付け、呻くバナージ。
 そこはどこかの通路、ありふれた白い壁の続く一本道。
 顔を上げたとき、真っ赤なセンサーの瞬きがすぐ目の前で顔を照らしてきた。

 真っ先に眼にしたのは、落ちた衝撃に小さな肩を震わせるプルの姿。
 そして、オートマトンのセンサー前で火花を出しながら丸い身体をぶつけるプルハロのそれも見えてきた。
 


 逃げないと。 
 でも、何処に?
 殺される。
 死にたく、ない!

 そんな考えは、三拍ほど間を置いてから、急ぎ足で本能に擦り寄ってきた。
 その時、自己防衛を差し置いて、真っ先にこの少年が思ったこと。
 先程まで身を裂くような死の恐怖に晒されたばかりの少年が、何よりもまず思い浮かべたこと。


 ――駄目だ!

 ――死なせない!!

 ――――もう、誰も――!!

バナージ「死なせる……もんかッ!!」


 



 バナージが、彼女の小さな身体に駆け寄り、盾となるよう覆いかぶさった、次の瞬間。
 彼の頭上を、何かが猛スピードで突っ込み、通り過ぎていった。
 そして、響き渡る衝撃と轟音。
 バナージが振り向いた先には、予想もしていないことが起きていた。


ブシドー「……!!」

プルハロ『ハロ! ハロ!』
  

 ワッパ……バナージが先ほど見ていたものと同じモノが、オートマトンに突撃し壁際まで押し込んでいる。
 フルスロットルの粒子ホバーが唸りを上げ、対するオートマトンもまた、全力で以って押し返さんと四本足を踏ん張っている。
 そして、ワッパに乗っている人影……金髪の男性が立ち上がり、ワッパ前部に乗り上げると。


ブシドー「はぁぁッ!!」


 右腕に備え付けの重機関銃を構え、オートマトンに引き金を引いたのだ。
 如何に対人用の強固な装甲も、対物用の大口径銃の連射には耐え切れず。
 次々にその黒々としたボディに穴が空き、各所から火花が飛び散りだした。
 猛烈な発射音が消え、薬莢の撒き散らされる小気味良い音が聞こえてくると、続けて重々しいオートマトンの崩れ落ちる音が聞こえて。
 伏せていた顔を上げると、いつのまにか、【彼】が此方を見下ろしているではないか。


ブシドー「……大丈夫か、少年。怪我はないか?」

バナージ「え……あ……は、はい」

ブシドー「それは重畳。では、済まんがそこを退いてくれないか」

ブシドー「彼女は私の連れでね。それでは起き上がれない」

バナージ「?! す、すみませんっ」

プル「……! お兄ちゃん!!」

ブシドー「プル……!!」


 仮面をつけた男は、バナージを見下ろしながら飛びついてきた少女を抱きかかえた。
 飛び上がったハロを、プルが丁寧に抱え込んで、抱きしめる。
 そして、バナージにも、ブシドーは手を差し伸べた。
 

ブシドー「来たまえ、ここから脱出するんだ」

バナージ「……たすけて、くださるんですか……?」

ブシドー「わが子同然の姫を救った英雄を見捨てられるほど、私に通った血は微温くないつもりだ」

ブシドー「急げ、事態は一刻を争う」

ブシドー「ここから出るぞ、少年」


 この手をとった瞬間を、バナージはこれから幾度と無く思い出すこととなるだろう。
 この瞬間、何かが噛み合った感覚が、確信的なものに変わったからだ。
 この時こそ、新たに始まったのだ。

 バナージ・リンクスを加えて、新たな一歩を、この男が踏み出したのだ。

ここまで。
また一週間後のこの日に。

前スレで「予想はタブー」と書いていただいてたりしましたが、個人的には結構好きです。
言い当てられても方針変えるほど腕もないですし。
お好きなように、どうぞ。

ではまた。

ガンダムバルバトス「納得行かねえ……!」ガンダム「ああん?」


かきました
まだあるとおもいます
インフルエンザですがもくようびにはかならずとうこうします

今日の夜にまた来ますが、>>53に意見ある方いらっしゃればよろしくお願いします。
熱は引ききらないのですが、どう考えてもあれのせいです。シット

では、後日に【マリーダ「了解、マスター」グラハム「マスターとは呼ぶな!」】を立てて、そちらで改めて過去編を完結させていきたいと思います。
此方は長いスパンで取り合えす落とさないようにだけして、完結と同時に本格的再開を目指していきます。
なので「過去編で出てきてないのに当然のようにこっちに出てきてる新キャラがいる」みたいなことがまれによく発生すると思います。
ゆるして




――プラウド外壁――


ブシドー「艦長、戦況は!」

ドライゼ『ミスター……! お待ちしておりました、此方は全機健在です』

ドライゼ『機体はいつでも出せます、リアルドに護衛させミスターの信号地点まで飛ばさせます』

ブシドー「そうしてくれ」

 
 外壁の搬入ドックから通信を飛ばす。
 宇宙の片隅から見上げた反対側の風景は、戦禍の迸る地獄が続いていた。
 二人はスペースランチに載せ、マトンの追ってこない外周まで避難させている。
 後は、私の仕事だ。
 力を込めた手のひらに、血が通っていく。


ドライゼ『それと……ミスター、緊急事態です』

ブシドー「! なんだ、新手か?」

ドライゼ『新手……なのは確かですが、アロウズでもネオジオンでも、ましてや【奴ら】でもありません』

ブシドー「な……に?」

ドライゼ「現在我々に加勢してアロウズと交戦中です。一騎のみです、ミスター」


 ――その言葉に篭った感情を読み取るのは、容易かった。
 まさか、そう呟いたのは無意識のうちだった。
 粒子撹乱幕が自分のいる宙域に張られた。
 その中を突き進んでくる、漆黒と朱に塗られた我が愛機。
 こい、早く、早く来い!
 このMSに乗ってから、そう願ったのはもしかしたら初めてかもしれなかった。


ブシドー「……!!」


 到着したMSに乗るやいなや、一気にペダルを踏み込む。
 逸ったのが分かった。乱暴な加速に愛機がへそを曲げたのか、明らかにバランスを崩す。
 それを正すのも面倒で、くるりと機体が翻っていく動きだけを制御し、更に加速した。
 そして、撹乱幕を抜け、センサーがようやく使い物になった、モニター中央部。

 彼が、いた。

 戦っていた。


刹那「はあぁ!!」

ジニン「ええい……!」


 蒼と白の装甲、見まごうはずもない緑色の粒子光。
 先端は折れて欠けていたが、かつて戦った威容を未だ残した右腕のGNソード。
 かつて剣で削り飛ばした右顔面は、違うMSのカメラアイが移植され。
 左腕……自身がかつて斬り落とした部位は、RGMのそれと思われる装甲の無いむき出しの腕部と、直結されたビームガンらしきものが、マントのようなカバーに隠されていた。
 膝には研磨されたEカーボン製の尖った刃のようなパーツも外付されている。

 間違いない。
 

ブシドー「少年……!!」


 ガンダムが、かつて戦った宿敵が、あの時の面影を残して、なおも戦っていた。


刹那「新手……いや、あれが例の【ワンマンアーミー】……!」

刹那「なら今集中すべきは……!」

ジニン「舐めるなよ、ガンダム!」


 GNソードの重心の偏りを利用した、独特の回転戦術。
 アヘッドの手には斧のようなビーム刃を発した長柄が握られていたが、それを振らせまいという苛烈な剣撃を上下左右へ繰り出していく。
 あの時の戦いを思わせる、真っ直ぐな戦いぶり。
 わき起こる感情が、嫉妬であると気づくのには、幾ばくの間があった。


「ああ、ようやくお出ましかい? ミスターブシドー」

ブシドー「!?」


 そのとき、刺すような視線を感じて、機体をその場から飛び退かせた。
 視線の先から放たれた、無数の粒子ビームが影をかすめ、残像を射抜いていく。
 並の瞬発力なら粉々にされていただろう。
 正確な照準に、背筋が冷えたのを感じた。


ゼロ「やあ、はじめまして、ミスターブシドー」

ブシドー「! 指向性回線とは余裕だな、こそこそ隠れまわるものとばかり思っていた」

ゼロ「位置がバレようが構いはしないさ、どうせコイツはそういう機体じゃない」

ゼロ「ゼロ・ムラサメ……No.4、ライセンサーだ。君とはかねてから会ってみたかった」


 指向性回線によって割り出された位置に、それはいた。
 暗青色のボディに、異質な兵器を積み込んだ専用機。
 何度か相まみえた機体だが、どれも性能は大きく異なっていたことを思い出す。
 これも、間違いなくそうだろう。

イェーガン『隊長!』

ネフェル『あたしらも……!』

ブシドー「手出しは無用だ、お前たちはペンドルトン護衛に回れ、撤退する!」

ブシドー「イェーガン、指定座標にスペースランチが待機している。回収を頼む」

『『了解!!』』


 止めていた回線を繋ぎ直す。
 モニターは切ってあるが、声で相当若いことは伺える。
 そんなもの、何の優勢にも繋がりはしないが。


ブシドー「【アルストロメリアの蒼影】、直々のお出ましとは痛み入る」

ゼロ「へえ、知られていたとは恐悦至極」

ブシドー「【研究用コロニー:アルストロメリア】を襲撃したネオ・ジオン麾下の部隊と第四の脅威相手に、零式単騎で戦力比20:1を覆してみせた叩き上げの精鋭、ニタ研(ニュータイプ研究所)の生んだ傑作強化人間」

ブシドー「傭兵を名乗っておいてその名を知らぬといえば、そいつはモグリだろうよ」

ゼロ「半分以上は勝手に潰し合ってくれたんだけど、まあ名を挙げるにはちょうどいい戦闘だったかな?」

ゼロ「でも、此処最近つまらない任務と作戦ばっかでね……」

ゼロ「そろそろ邪魔者も遠のいたろう、いいかい?」

ブシドー「……いいだろう」


 ライセンサー、かつての栄光の証。
 今となっては衆愚の陰で暗躍する殺戮者の名札にすぎない。
 だが、コイツを相手にできるのは自分しかいないのも、事実。
 二人には既にペンドルトン護衛に向かっているようだ。
 サイドバインダーから、ニ振りのGNビームカタナを引き抜く。
 このMSの唯一の正式武装にして、最強の装備。
 相手にするに不足はない。


ブシドー「マスラオ――推して参る!!」


ゼロ「ガッデス・リッパー……目標を両断する!!」


 抜いた柄から粒子の刃が生み出され、機体を赤く照らし上げる。
 粒子加速と発進速度向上を兼ねた特殊GNビーム刀。
 この機体の最高速、反応を鑑みた調整のなされた必殺の【一刀】。

 対するガッデスは、肩と腰の巨大な端末を解除し、ビームを発振させる。
 扇を広げたような形状から、等間隔に広がった三基のビームサーベルファング。
 みるみるうちに円盤状のビーム刃を形成し、四機のビームソーサーがかの機体の周囲を回り出した。


ブシドー「おおおぉッ!!」

ゼロ「ハアッッ!!」


 二体同時、一直線にお互いの機影めがけて刃をかざし突撃。
 のしかかるGの感触が頬を歪ませ、恐怖を笑みに変えていった。

また今夜。
今夜のでしばらく向こうに専念します
最低限プラウド戦は終わらせないと

【ガッデス・リッパー】

・GNツインブラスター*2
・脳波連動誘導兵器【リッパーファング】*4
・脛部フィールド発生器*2
・GNスピア
・粒子拡散グレネード
・ビームサーベル
。GNバルカン


ゼロ・ムラサメ用に開発されたガッデスの改修機体。
元々偵察用に造られ、戦闘力自体は他の二機に劣っていた本機だが、NT専用のサイコミュを積みこむのに他機より適していることから全面的に改修。

そんな本機も、あくまでゼロ用のMSデータがサルベージ可能になるまでの繋ぎにすぎない。

本機は脱出用コアファイターが改造されており、上下二連ビーム砲【ツインブラスター】とデュアルバーニアを左右に接続した背面ユニットとして生まれ変わっている。
ツインブラスターはガルムガンダムのメガランチャーを参考に、後部バレルが回転することで機構を変えビームサーベルを片方の砲身から発振可能。
UC系列の「ビームガン兼ビームサーベル」が如何に頭おかしいチート機能であるかが伺える。

ビーム射撃も一般的なビーム圧以上かつ、速射可能という本機の要の武装。
トンファーのように構えて使う遠近両用武装だが、サーベル機構の代わりにメガランチャー発射機構を廃している。
この武装のためにGNカッターとバルカンは外されており、胸部に二門の埋込み式バルカンが採用されている。

ガッデス・リッパーの最大の特徴【リッパーファング】は、原型機のビームサーベルファングを三基、皿形のユニットに接続した大型誘導突撃端末である。
大型のため七基あったファングも四基まで(両肩と両腰に一基ずつ)しか装備できない。

等間隔に展開し円状にビームを発生させ、旋回性能と小刻みな変則機動を可能とする【ソーサーモード】
三基を横に並べて一本の巨大ビームサーベルを発生させ、直線速度と溶断力を大きく上げる【タスクモード】
三角形にビームを発生、フィールドを作り上げ射撃ビームを曲げることを目的にした【デルタモード】

この三形態を使い分け、戦闘を優位に進めることを目的にしている。
大型であり粒子使用量も多いが、基本的にビーム発振範囲が広いため、ソーサー・デルタにおいては標準的なビーム攻撃などでは破壊できない程度の防御性能を有する。

タスクにおいては前面のみになるが、簡易ビーム防御装甲やコンデンサ仕様の旧式MSのサーベル程度は真っ向からぶち抜く破壊力を有し、よって迎撃も相応のものでなくては困難である。
ただ本武装の運用だけでも多量の粒子が必要で、燃費も悪く充電時間も長い。

考えて使用しないと途中で使用不可能になりがちで、多大な慣れと戦術的視野が必須になる。
このため本武装を使用した場合、肩部大型コンデンサを加味しても本機は稼働時間自体は平均的なレベルである。

原型機ではファング操作のために使っていたヒートサーベルは、内部サイコミュでカバーしうるので廃止。
代わりに対フィールド用実体槍を背面ユニットに懸架可能。
ビームサーベルも太腿部に存在するが、装備の都合上まず滅多に使わない。

脛部にバーニア兼フィールド発生器を仕込んでいる。
全身はカバーできないが下半身や前面をカバーする程度には広い範囲を防護可能。
上半身にのみ攻撃兵器が集中しているので、下半身である程度防御をすることで長期作戦時の損耗をコントロールする狙いがある。
射撃も手数で攻める系統のもののため安定性を高める意味でも有用視されている。
もともと追加装甲に同じ機能を加えたものを採用しようとしたのだが、結果、脚に装着するブースターユニットの接続が悪くなったため、内蔵式に変更している。

やだ>>75【ペンドルトン】じゃない【ペンドラゴン】だよ恥ずかしい
アーサー王が服になっちゃった

つづき



 ―――――


 紅の軌跡が二つ、宇宙の闇に浮かび上がってはぶつかっていく。
 かたや二振りのビーム刀、かたやブラスター内蔵のサーベル二基。
 触れれば断ち切る粒子の刀身、MS近接戦は如何に早く繰り出すかという戦いに自ずと変遷していった。
 それとは真逆を往く、重々しい一閃のぶつかり合い。
 かつての中世のそれを想起させる剣撃の交錯が、そこにはあった。
 

ブシドー「ずぇあッ!!」

ゼロ「っはぁ!!」


 飛び散る火花は、ガッデスのサーベルから発せられていた。
 近くから見れば、かち合った部分が抉れたように揺らいでいるのがわかるだろう。
 ブシドーの駆るマスラオの、GNビームカタナの特性によるもの。
 高速流動と発進速度の加速がもたらす、尋常ならざる【切断特化】の機能による当たり負けであった。

 ……が、刃の交錯の度、マスラオは飛びのき、跳ね上がり、回避運動を余儀なくされていた。
 今も、真上から切り込んですぐにバーニアを全開にして宙返りを打って機体を離す。
 その直後、彼のいた場所を四基の影が左右斜めから交差し通り過ぎた。

 【リッパーファング】、そう命名された脳波誘導刃形端末である。


ゼロ「ははっ、惜しい!」

ブシドー「ちぃッ……」


 デブリに着地し、頭上へ再びの吶喊。
 後退しつつブラスターを放つガッデスへ猛スピードで追いすがっていく。
 その横合いへ切り込んでくるリッパーファング。
 ときにデブリを蹴り、ときに刃で弾き、ことごとくを回避していく。


ブシドー「捉えた……!」

ゼロ「速い……!?」


 デブリ密集地帯に差し掛かったとき、好機と見たか一気に加速するマスラオ。
 本来なら障害であるはずのデブリを渡り、蹴りつけ、加速さえしてガッデスへと接近する。
 後方への砲撃は精密ながら、右へ左へ大きく動くマスラオの機動性は完璧には狙わせず。
 回りこむ軌道ながら、回避しながらもガッデス以上の速度を保っていた。
 そして、速度においてリッパーファングを超えての直線移動は、その連携を崩す悪手とも言え。
 大きな小惑星を迂回しようとガッデスが速度を緩めた、その瞬間をマスラオは逃さない。


ブシドー「見えたぁぁッ!!」

ゼロ「!!」


 

 刃を交差し、ボディを一直線にガッデスめがけ突っ込む。
 リッパーが追いすがれない、ブラスターでも対応出来ない、防御と攻撃の両用を成した突撃。
 振動を伝えぬ宇宙が震えた。
 ガッデスもろとも、マスラオが小惑星へと矢のように突き刺さっていった。


ブシドー「……ッ!!」

ゼロ「はっ、強引だね。男に押し倒される趣味はないんだけれど?」


 だが、それは決め手になり得なかった。
 ガッデスは膝を屈してマスラオの一撃を、と同時に挟まれ叩きつけられたはずの小惑星への衝撃をも防ぎきっていた。
 半球形の、椀のように形成されたGNフィールドによって、それらは完全に受け止められていた。
 脚部の内蔵式GNフィールド発生器、見落としていたガッデスの隠し機構。
 決めきれなかったマスラオの目の前に、ブラスターが二丁、突きつけられた。


ゼロ「じゃあ、次は俺の流儀を味わってもらおうか……!」

ブシドー「う?!」


 立て続けのビームブラスター掃射、刀身をフィールド代わりに受け止め、離れた。
 デブリを蹴って得た加速は振り出しに戻り、読まれたように蹴れる位置にそれには近寄らせてさえもらえない。
 思考を読まれている、という感覚。
 焦りが芽生え、汗を吸い不安の土壌に大きくなりつつある。
 決めきれぬことは、このマスラオには命取りになる。

続いてマスラオへ追撃を始めるリッパー。
 四基がそれぞれ交互に変則的機動で追尾する。
 挟むように襲ってきた二基をカタナで払い、残りの二基を潜るように動いてかわす。
 その軌道を反対から塞ぐように、ブラスターの乱射が降り注ぐ。
 刃が当たる度に歪み、まばゆく散った光が目を刺激する。
 何とかしてその弾幕から抜け、小惑星を盾に回り込んでいった。

 が、粒子ビームは彼を追い立てるかのように、決して途切れなかった。


ブシドー「何ッ?!」

 


 彼の背後に光る、それ。
 三角形の光るヒトデとでも言おうか、先程まで追っていたものとは明らかに違う形状の端末兵器。
 それがビームをフィールドによって無理矢理に弾き返し、死角へのビーム攻撃を可能にしていた。



ブシドー「ッ……」


 当てずっぽうではない、反射こそ乱暴でも此方の位置を掴んでいるかのような狙いがあった。
 サイドバインダー装甲面を向け、背後からのブラスターの跳ね返りを受けつつ、彼は小惑星上部へ急ぐ。
 遠距離攻撃を持たない今のマスラオでは、離れている以上やられ放題だからであろう。
 しかし、向こう側が見えるか、際の位置まで来た瞬間。

 見えたのは、四門の砲へ蓄えた粒子をマスラオに向ける、ガッデスの姿。
 

ゼロ「やあ、おかえり――!!」

ブシドー「くぅ、ッ!?」


 迸る一撃が、一面に真紅の光をまばゆいほどに飛散させる。
 それだけではない、更に幾重にも重なる紅い影の追撃が、一箇所に何度も何度も突撃を繰り返す。
 
 散った圧縮粒子がデブリのあちらこちらを焼いて、黒い焦げ跡を残す。
 数十の執拗な集中搏撃。
 並のMSなら消し飛んでいるだろう攻撃は、母艦【ペンドラゴン】のドックからも垣間見え。
 圧倒的な性能差に圧されつつある、ガンダムエクシアからも確認ができた。

 誰が見ても不穏を心に彩らされる、不吉の紅であった。



――――

 
ネフェル『隊長……!』

イェーガン『ランチ、運びこむぞ。追跡や探知の類、確認してくれ』

バナージ「ッ……仮面の人……大丈夫かな?」


刹那「あの光……まさか……?!」

ジニン『やはり若くともライセンサーか、迅速かつ確実に戦果を挙げてくれる』

ジニン『ではこちらもそろそろ仕舞にしようか、ガンダム!』

刹那「!?」

刹那「動きが……変わった……!!」

ジニン『彼の邪魔をせんよう立ち回らせてもらっていたが、もう不必要だ』

ジニン『貴様らの時代は、もうとうに終わっているッ!!』


――――
 



ゼロ「……流石だね全く、今ので死なないとは」

ゼロ「あぁ……流石は【元ライセンサー】」

ゼロ「孤高の死に損ないといったところかな?」


 デブリに乗せた脚が擦れた跡を残し、ビームの直撃を受けたカタナの刀身が崩れた形を取り戻しつつある。
 次々に牙を剥いた誘導兵器のマルチアタックも、どうやら刃の成り損ないのままで全て打ち返したようだ。
 避けきれない余波や削れた刃の屑に焼かれた装甲、脛や肩、胸やバインダー、ほぼ前面全てが泡立って今にも剥がれてしまいそうで。
 それでもあれだけの暴威を全て防ぎきった男の姿に、ゼロは初めて忌々しげに顔を歪めた。


ブシドー「……徹底的にこちらの【一手】を呼んでくる、やはりニュータイプ相手はやりにくい」

ゼロ「君もニュータイプだろうに、そりゃ嫌味かい?」


 右目を細め、左目を見開く。毒づいた言葉に返答はない。 
 ゼロは粒子残量に目を向けた。もう、残りに猶予はなかった。
 ハロは回線を繋いでからは黙らせている。
 下手に喋られては敵に何を聞かれるか分かったものではないからだ。

 マスラオの刀身が、消える。
 それの意味するところをゼロは知らないが、時間稼ぎに好都合だった。
 ファングを戻し、懸架して粒子の再充填を行う。
 敵は動かない。
 何を狙っているのかはわからなかったが、諦めているはずはないと最初から決めてかかっていた。
 
 そういう男なら、あの日、あの場所で、あのとき殺せていたはずだったからだ。


ブシドー「強化人間差別は趣味ではない、力と本質の狭間を誰が決められるというのだ?」

ゼロ「うそぶくなよ、君のことはよく【彼女】に聞かされた」

ゼロ「――惚れた女が強化されてたから、ただそれだけだろう?」


 我ながら痛いところをつけた、と彼はほくそ笑む。
 感じていた脳波にも、僅かな波を感じたからだ。
 この男……ニュータイプと言われていたはずだが、感じるものは非常に弱々しく、頼りない。
 何かがあったか、察せるほど感じられてはいないが、とも。


ゼロ「!」


 マスラオが、二刀の柄を目の前で合わせた。
 片方が展開し、薙刀の如く長大な一本の柄となる。
 何の意味があるかはよく思い出せなかった。
 ろくに聞いていなかったのは確かだが……どうあれ、この自分が負けるはずがない。
 そういった傲慢をこの期に及んで秘められるほど、ゼロ・ムラサメは勝ち続けてきていた。
  

ブシドー「……だからこそ、お前たちと私に何の違いがあるかと問うている」

ゼロ「一緒にされたくないな、偽善者」



 マスラオの上体が沈む。
 また突撃か、馬鹿の一つ覚えめ。
 ゼロは知らない内に口元が釣り上がり、笑っているのが自分でも分かった。
 勝てると確信したとき、狂信的な信念ほど馬鹿らしく思えてならないものだから。
 そういう奴ほど、偉ぶっていても自分のためにそう考えているだけなのだから。


ブシドー「なら、教えてやる……!」

ゼロ「この期に及んで……もういいよ、さあ、終わりにしよう」


 踏み込む瞬間、粒子の放出から加速までが、ゼロにははっきり見て取れた。
 一本に揃えたカタナじゃ、むしろ粒子防御範囲が狭くなって効果は薄い。
 リッパーファングで真正面から止めて、その隙を撃ちぬいて、終わり。

 このときまでは、そう、考えていた。


 踏み込んだ、予想通り。
 一気に加速した、想定内。
 両腰部リッパーファング分離、ソーサー展開、前進、加速。
 ブラスターを構え、狙いを定める。
 予定調和。

 リッパーファングが、両断された。

 二つ、同時に。

ゼロ「な……に?」


 予想、外。

 とっさのことだった。
 粒子フィールド発生器をスラスターに、一気にその場から後退した。
 突っ立っていたら、胴を薙ぎ払われていたであろう、粒子の軌跡。
 断ち切られたリッパーファングが力無く飛んでいき、爆発した。


ゼロ「何だ、それは……!?」


 マスラオの握った一振りの粒子刀、まず見えたのは、その長さ。
 長大に過ぎる、その異様。
 ニ振りの時も10mを少し越すほどの長さだったが、今のそれは倍でも足りない。
 50m以上はあろう、馬鹿でかい粒子の巨刃が確かに奴の手から放たれたのだ。


ブシドー「驚いてくれたらしい、ニュータイプの成り損ないもまだ捨てたものではないな」

ゼロ「ッ……舐めた真似を……!」

ブシドー「だが、まだ早い」

ゼロ「!?」

ブシドー「往くぞ、若造」

ブシドー「受けきってみせろよ、【現ライセンサー】!!」


 今、奴の手にある刃は15mがせいぜいだろう。
 何をした? そういう間も無く、クラビカルアンテナが長い柄の中ほどに刺さっていく。
 
 瞬間。
 刀身は20mほどにも伸び、粒子の放出は燃えるかのように荒々しくなっていく。
 これは、知っている。
 このミスターブシドーの駆る、マスラオの、最大火力形態。


 加速したマスラオ相手に、ガッデスは前に出た。
 先ほどの一撃が来たなら、中距離で逃げまわる先ほどの戦い方は危険極まるためだろう。
 残りのリッパーファングを三角形の防御形態に変え、盾のように扱いながら、サーベルと実体槍を構えてぶつかっていく。
 マスラオの一振り、斜めから下へ打ち据える一撃。
 避けはしたが、小惑星をやすやす砕きつつ粒子を散らす破壊力が、警戒心を研ぎすませた。

 一歩、ガッデスは踏み出すのを止めた。
 直後、反対側の発振器からビームを生み出したマスラオの斬り上げが襲った。
 左側に回り込みながらブラスターを放つ。
 揺らぐ刀身の炎はそれそのものがフィールドに等しいのか、弾かれ終わった。



ブシドー「無いのだ、何も!! 違いなど、いくら探しても見当たらん!!」

ブシドー「お前も、私も! 人間だ!! 強化されようが、人は! 人なのだッ!!」

ゼロ「ッ……猟犬に成り下がったお前に! その言葉を吐く権利があるのかよ!!」

ゼロ「グラハム・エエカアァア!!!」


 袈裟に切り込まれたそれを、ファングが抑える。
 懐目掛けて撃ち込んだが、また刀身を両方に発して防いだ。
 マスラオが飛び、くるりと身を翻して見せる。
 ガッデスが最大戦速で、退いた。
 まるで独楽のように回ったマスラオが持つ、40mにすら届く長刀。
 迫る粒子の暴力を、幾度も斬り込まれる一撃を、いなし、かわし、捌く。

 突如、粒子刀が消え失せる。
 一瞬で掻き消えた真っ赤な世界が、逆にゼロの思考へ楔を刺した。

 マスラオが、一瞬足を止めたガッデスの真上に、飛び上がっていく。



 振りかざされた一撃が、頂点へ打ち込まれた。

【ミス】
>>86はこちらが正しい】


とっさのことだった。
 粒子フィールド発生器をスラスターに、一気にその場から後退した。
 突っ立っていたら、胴を薙ぎ払われていたであろう、粒子の軌跡。
 断ち切られたリッパーファングが力無く飛んでいき、爆発した。


ゼロ「何だ、それは……!?」


 マスラオの握った一振りの粒子刀、まず見えたのは、その長さ。
 長大に過ぎる、その異様。
 ニ振りの時も10mを少し越すほどの長さだったが、今のそれは倍でも足りない。
 50m以上はあろう、馬鹿でかい粒子の巨刃が確かに奴の手から放たれたのだ。


ブシドー「驚いてくれたらしい、ニュータイプの成り損ないもまだ捨てたものではないな」

ゼロ「ッ……舐めた真似を……!」

ブシドー「だが、まだ早い」

ゼロ「!?」

ブシドー「往くぞ、若造」

ブシドー「受けきってみせろよ、【現ライセンサー】!!」


 今、奴の手にある刃は15mがせいぜいだろう。
 何をした? そういう間も無く、クラビカルアンテナが長い柄の中ほどに刺さっていく。
 
 瞬間。
 刀身は20mほどにも伸び、粒子の放出は燃えるかのように荒々しくなっていく。
 これは、知っている。
 このミスターブシドーの駆る、マスラオの、最大火力形態。


 加速したマスラオ相手に、ガッデスは前に出た。
 先ほどの一撃が来たなら、中距離で逃げまわる先ほどの戦い方は危険極まるためだろう。
 残りのリッパーファングを三角形の防御形態に変え、盾のように扱いながら、サーベルと実体槍を構えてぶつかっていく。
 マスラオの一振り、斜めから下へ打ち据える一撃。
 避けはしたが、小惑星をやすやす砕きつつ粒子を散らす破壊力が、警戒心を研ぎすませた。

 一歩、ガッデスは踏み出すのを止めた。
 直後、反対側の発振器からビームを生み出したマスラオの斬り上げが襲った。
 左側に回り込みながらブラスターを放つ。
 揺らぐ刀身の炎はそれそのものがフィールドに等しいのか、弾かれ終わった。



ブシドー「無いのだ、何も!! 違いなど、いくら探しても見当たらん!!」

ブシドー「お前も、私も! 人間だ!! 強化されようが、人は! 人なのだッ!!」

ゼロ「ッ……猟犬に成り下がったお前に! その言葉を吐く権利があるのかよ!!」

ゼロ「グラハム・エエカアァア!!!」


 袈裟に切り込まれたそれを、ファングが抑える。
 懐目掛けて撃ち込んだが、また刀身を両方に発して防いだ。
 マスラオが飛び、くるりと身を翻して見せる。
 ガッデスが最大戦速で、退いた。
 まるで独楽のように回ったマスラオが持つ、40mにすら届く長刀。
 迫る粒子の暴力を、幾度も斬り込まれる一撃を、いなし、かわし、捌く。

 突如、粒子刀が消え失せる。
 一瞬で掻き消えた真っ赤な世界が、逆にゼロの思考へ楔を刺した。


ブシドー「切り捨て……ッ!」

ゼロ「?!」


 マスラオが、一瞬足を止めたガッデスの真上に、飛び上がっていく。


ブシドー「御免ッッ!!!」


 振りかざされた焔の一撃が、ガッデスの頂点へ打ち込まれた。



ブシドー「…………」

ゼロ「……」

ゼロ「……ふん……やるじゃないか」

ゼロ「そうでなくちゃ、楽しめない」


 真上からの一撃、連結状態のGNビームカタナの刃を、六本のビーム刃が受け止めていた。
 ブラスターからの二本、デルタモードのリッパーファング二基、そしてビームサーベルが二本。
 実体槍を投げ捨て、大腿部のそれを抜いて防御に当てたのだ。
 リッパーファングは、真向から受け止めたせいで二基ともに真っ二つに裂かれて落ちていく。
 もしそのまま槍で受けていれば、間違いなく彼は両断されていた。

ゼロ「カッコ悪いね……両断してやるって意気込んでこれだもの」

ゼロ「言い訳はしない、まだまだだね、俺も」

ブシドー「貴様……本調子ではなかったな」

ゼロ「どうしてそう思う?」

ブシドー「その態度が何よりの証だ……片手間でやれると高をくくられていたか」

ゼロ「はっ、結果勝てなかったんだ、何もおかしくはないだろう?」

ブシドー「そうやって次の慢心を誘うか、姑息だな」

ゼロ「お固いねえ……」


 ビームの弾ける光。
 二人は離れ、睨み合う。
 その緊張を拭うかのように、遠方から強大な圧縮粒子の砲撃が輝いて見える。

 刹那が、ガンダムエクシアが戦っていた方角だ。


ゼロ「へえ、ソレスタル・ビーイング……今更動き出したのか」

ゼロ「どうやら奴らも【箱】が欲しくて仕方ないみたいだね?」

ブシドー「…………」

ゼロ「ここは水入りといこうか、ミスターブシドー」

ゼロ「その調子でまだやりたいんなら……アヘッドの方にいっておくれよ?」


 そう、カメラアイが光ってみせる。
 マスラオの関節は火花が散り、装甲は己の粒子刀の余波に耐えられず一部欠け、焼け落ちている。
 彼の機動に耐え切れていないことは明白。
 対して、ガッデスは本体自体は全くの無傷であった。


ブシドー「……」

ゼロ「賢明だ、尊敬するよ先輩殿」


 刀身を分離し、収納するマスラオ。
 それを見て、ガッデスはすぐさまアヘッドたちの方角に飛翔していった。


 見届けてから、ブシドーも機体をペンドラゴンへ向けて動かしていく。
 熱に焼かれた身と、癒えぬ古傷が痛みを発し彼を苛む。
 その痛みだけが、今の彼に【生】を実感させてくれていた。


――――


ゼロ「ジニン大尉、どうした?」

ジニン『ライセンサー! ガンダムです!! それと、奴らの一味らしき擬似太陽炉のMSも……!』

ゼロ「追うんじゃないよ、奴らも退いたみたいだしね」

ゼロ「残存兵力を集めて撤退しよう。俺がカバーに入る、ジニン大尉は一緒に殿を頼むよ」

ジニン『ミスターブシドーは……!』

ゼロ「殺しきれなかった、いや殺されかけたかな? ふふっ、【タスクモード】が使えなかったのはやっぱり痛かったね」

ジニン『整備不良……ですか?』

緑ハロ《粒子不足! 粒子不足!》

ゼロ「そういう君は? 手負いのガンダム一機、しっかり手柄にしてきたんだろうね?」

ジニン『……逃しました、申し訳ありません』

ゼロ「なんだ、お互い様か。残念だけど、命があるだけマシかな……くくっ」

ゼロ「……次はないよ、ミスターブシドー。必ず、八つ裂きにして宇宙にばらまいてやる……!!」


――――


刹那「……あの機体、アロウズの特務機……」

ティエリア『刹那・F・セイエイ、無事か?』

刹那「済まない、助かった。ティエリア・アーデ」

刹那「それと……生きていたんだな、ヨハン……トリニティ」

ヨハン『君こそ無事で何よりだ、刹那・F・セイエイ』

ティエリア『急ごう、追っ手が来る可能性は少なくない』

ヨハン『誘導する、ついてきてくれ』

ヨハン『トレミーが、君の仲間たちが待っている』

刹那「……了解」

刹那「刹那・F・セイエイ、トレミーへ帰投する」

ティエリア『ふ……』

ヨハン『……うむ……』


――――


その日の出来事は、三国、宇宙、全てに瞬く間に広まった。


【ソレスタル・ビーイング、復活】


それは、かつてのゼロサムゲームに打ち込まれた楔のごとく、再び世界に変革を促すのか。


それとも、新たに芽生えた悪意の餌食に成り果てるか。

蘇った悪夢の手のひらに、可能性諸共に堕ちて潰えるか。


今はまだ、誰にもわからない。



――――


フロンタル「そうか……彼らは現れてくれたか」

ジンネマン「ここまでは大佐の予測通り……ですが、奴らがそのままでいてくれるかどうかは別でしょう?」

フロンタル「それは必然のなせる業とでも言おうかな」

フロンタル「私の願う願わざるにかかわらず……世界は、人々は私を器として必要とした」

フロンタル「ならば、総意として私自らが開け放ってやらねばならんのだよ……【箱】という、悪魔の寝床をね」

ジンネマン「…………」

フロンタル「キャプテン、任務を開始してくれ」

フロンタル「【No.12】の起動を承認する。彼女の力は役に立つだろう」

ジンネマン「ッ……了解……しました」



フロンタル「さて……問題は、この男」

フロンタル「カタロンとクラウスを私の手から放ってくれたイレギュラー……彼女は私からの手向けだ」

フロンタル「喜んでくれると……いいのだが。ふふふふ……」


――――

リボンズ「現れたね……ソレスタル・ビーイング」

「ちょいと厄介かな? やつらのことだ、あたし達を優先的に狙ってくるだろう?」

リボンズ「フロンタルに取り込まれるような連中なら、その程度と割り切れもするのだけれどね」

「欲しいかい? オリジナルの太陽炉が……」

リボンズ「さて、ね」

リボンズ「計画は未だ僕の手の中だ、あれはイオリアの計画の中核」

リボンズ「今更あれがどうなろうと……」

「リボンズ」

リボンズ「ん……!」

「…………ん……ふふ、欲しいなら私に言えばいい」

「獲ってきてやる……私はそのためにいるんだ」

リボンズ「……」

リボンズ「……服ぐらい来たらどうだい、まだ髪が濡れているよ?」

「どうせ見るやつなんか居るものか」

リボンズ「淑女以外、僕の膝はお断りさ」

「あぁ、それは困るな。仕方ない」

リボンズ「全く……16にもなって、情けない」

リボンズ「そんな体たらくで、よくライセンサーズ筆頭が成り立つものだよ」


リボンズ「【No.0:マスター・プルツー】」


プルツー「何故かって? 決まっているだろう」

プルツー「この私が、一番強いからさ。【恐るべき妹達計画】によって産まれ、お前が仕上げた最高傑作、それがプルツーだ」

プルツー「さあ、命じろよリボンズ」

プルツー「そうすればお前を勝たせてやる!」


リボンズ「ふふ……」



リボンズ「プルツー、ライセンサーズを全員召集しろ」

リボンズ「ネオ・ジオン、ソレスタル・ビーイング、そしてカタロン」

リボンズ「【袖付き】の手の中で踊らされる不穏分子は、速やかに抹殺されなくてはならない」

プルツー「――了解、マスター」


 その日の内に、全ライセンサーズに通達が入る。


【グリプスの野獣】

【アルストロメリアの蒼影】

【三架の番犬】

【超兵】

【黒騎士】


 リボンズの配下であるイノベイター以外の全員が、一堂に会することとなる。

 命令は、ただひとつ。

 ガンダム抹殺指令。

――――


――日本・カタギリ別宅――


ホーマー「……そうか……お前にも、召集がかかったか」

「はい、専用機受領も兼ねて、これから出向くつもりです」

ホーマー「済まんな……今の私では、何もしてやれん……」

ホーマー「ライセンサーとしての活躍、期待している……」


リディ「お任せください、ホーマー司令」

リディ「隊長自ら穢した部隊の汚名……必ずや、晴らしてみせます」







 



――――


――ペンドラゴン――

 『ミスターのご帰還だ! ドックあけろー!!』


ブシドー「……ふう……」

キッド『かーっ、相当やられたなブシドー!関節とフレーム結合部がぐちゃぐちゃだぜ』

ブシドー「済まん、キッド。全力で立ち向かわねば撃墜されていたやも知れん」

キッド『それはいいさ、どちらにせよ【インダストリアルセブン】には立ち寄る、補給もできるハズさ』

キッド『騙し騙し使ってきたパーツが、最後まで保ってくれたってだけのことよ』

キッド『それと、さっさと顔を見せてやってくれ』

ブシドー「どうし……ああ、分かった」

キッド『例のお姫様が助けた坊主だ、ずっと待ってたみたいだぜ』



バナージ「!」

ブシドー「少年、怪我はないか」

バナージ「はい……おかげで、助かりました……」

ブシドー「無理はするな、疲れているはずだ」

ブシドー「無重力は疲労を癒やすのにもちょうどよかろう、ゆっくり休むといい」

バナージ「ッ……!」

バナージ「教えて下さい、俺の知らないところで、何が起きているんですか!?」

バナージ「ネオ・ジオンの独立と不戦協定が結ばれてから、まだニ年と少ししか経ってない……でも、こんなこと、おかしいですよ!」

ブシドー「君は……」

バナージ「バナージです、バナージ・リンクス!」

バナージ「俺の目の前で、何人も死にました……重労働で、食事も取れなくなって……それに耐えたのに、機械に虫みたいに潰されて!!」

バナージ「あんなの……人の死に方じゃあ……っ……ぅ……」

ブシドー「…………」



ブシドー「少年、君は選ぶことが出来る」

バナージ「っ……?」

ブシドー「全て見なかったことにして、顔と名前を変え、辺境でまた【日常】に戻るという道」

ブシドー「……そして、またあのような死と隣り合わせの世界で、あくまで自分を貫いて、生きるという道」

ブシドー「前者は、安全だ。少なくとも我々が救った幾人かはそうやって彼らの不当な検挙から逃れ、生活している」

ブシドー「後者は……止めておいた方がいい。選んでしまえば、君は君の命を自分で背負わねばならない」

バナージ「…………」

ブシドー「それを覚悟して、来るというのなら」



ブシドー「君に真実を話そう。私が知る、全てのことを」




to be continued...


ミーナ「……んぁ……」

ミーナ「あー……もうこんな時間……」

ミーナ「ほら、起きるわよぉ……」

ミーナ「……ちょっと……起きなさいってば」

ミーナ「おーきーてーよぉ…………」

ミーナ「……んもう……」



ミーナ「起きろぉぉぉぉ!!! リーサ・クジョオオオオオオ!!!」バッサァァァ

スメラギ「にゃあああああ!!??」



ここまで。
過去完結メインで進めますのでこちらはかなり長いスパンになるかと思われます。
なので色々詰め込んどきました。

ではまた。

【BMS―005 マスラオ】


ビスト財団が用意したMr.ブシドー専用MS。太陽炉はサイドバインダーに二基搭載。
かつて使用していた専用機たちから得たデータを元に、更なる性能向上と専用化が行われた近接戦闘特化型MS。
総合性能はアヘッドと同等ながら、そのキャパシティを速度と反応に大きく割り振り、接近戦においてはアヘッドを圧倒するコンバットレベルを実現している。
しかしFCSの調整から最高でも中距離以内での戦いを強いられる上、専用機であることを加味しても非常にピーキーな仕上がり。
バイオセンサーが組み込まれているものの、肝心のMr.ブシドーのNTレベルが大きく衰えている為そこまでの改善は果たせず、現状は本人の操縦技量を補う形で乗りこなしている。

原点のマスラオと比較した場合、総合性能においては大きく下回っていると言える。
当然盟友が作りし奥義もない。
背部のユニオンの意匠はなく、すっきりしているため接続装備などを用いることが可能。

近接に特化している理由としては、そうまでしなければ仮想敵である【ライセンサーズ】に対抗出来ないこと、NTレベルの低さから射撃戦では分が悪いと判断されたことに由来する。
専用武装は多く、その大半がキッド・サルサミルの作製した現地改修の非正規品である。
これらはOSに使用するためのモーションデータがまばらにしか組み込まれておらず、ブシドー以外ではまず満足に扱えない代物と化している。
原因はMr.ブシドーがそれらの大半をマニュアルで動かしてしまい、その際機動の補填にしかデータを使っていないためである。(いちいち組んでいたら面倒くさい&別にマニュアルでも使えるから)

一刀構(いっとうのかまえ)

唯一の初期から考案された装備。これ以外は全部現地で奪ったものをキッドが改造したものである。逆に言えばこれしか装備がなかった。
大型のビーム刃を形成する二本の【GNビームカタナ】を装備する、それのみの基本形態。
このビームカタナは柄頭で合わせクラビカルアンテナと接続した場合、最大刀身50mにもなる高出力大型ビーム刀に変形することが可能。
二本あるのに一刀なのは、そのためである

粒子許容量が多く、更に分厚くした刀身の発振速度を増すことで通常のビームサーベル以上の溶断性能を得ている。
通常時でも出力の弱いビーム兵器や脆い実体剣なら押し切る事ができ、大型刀状態に至っては、ビームサーベルや小型のフィールド程度なら真っ向から斬り伏せるほどの威力を得られる。
一時的にバイオシートの感応力を限界まで上げて、かつての【切り札】も再現可能。
サイドバインダーに収納可能となっているので他換装時にも持ち込めるはずだが、改造のせいで場所がなくなって持ち込めない時もある。

頭部クワガタ・アンテナブレードの粒子変換機能により、ブレード部分の粒子をフィールド変換して前面ならカバーする事ができる。

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