<家庭科>
北宮(…………)じーっ
京子「は~い! 京子ちゃんクッキングのお時間です。今日のメニューはなんと!『お野菜とお肉の奏でる愛のハーモニー ~京子ちゃん風~』だよっ♪」
結衣「肉じゃがだよ」
綾乃「早く準備しなさいよ」
北宮(船見結衣……こうして見てると、普通の子……)
―
――
――――
(回想)
南野『二年の船見さん……やっぱり一人暮らしの件は本当だって』
東『あらあら……』
南野『うちの部の生徒が教えてくれてさ。気になっていろいろ調べたんだけど……どうやら親御さんと校長たちの間で直接やり取りがあったみたいで、内密に許可をとったらしい』
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北宮『内密……? 許可が下りてるなら、ちゃんと全教員に説明してくれればいいのに』
南野『それが私も気になってて。なんとなく話を聞いた感じでは、校長は船見さん側に頭が上がらないみたいな感じだったなあ……もしかしたら、船見さんのおうちはすごい立派な家柄なのかもしれないよ』
東『許可したはいいものの、あまり他の人には知られたくないんでしょうね……問題に発展する火種になりかねないし、現状船見さんだけ特別扱いみたいな感じだから、『私も一人暮らししたい!』って他の生徒が出てきちゃうことにも繋がるし……』
南野『うん。家庭環境が複雑だとか、実家が遠くに移ったとかそういうことではないらしいんだ。単なる人生経験のためなんだって……住み込み先も肉親が大家さんをやってるから、親戚の家と大差ないだろうってことで』
北宮『それにしたって、危ないものは危ないじゃないですか……おおやけに公表しにくい事実はわかったけど、せめて教員くらいには知らせてくれなきゃ……もしも問題が起こったときどうするんですか? 助けに向かえる人が全然いない! 何かあってからじゃ遅いのに……!』
南野『……あれ、北宮先生やけにこの話にご執心ですね』
北宮『なっ……! そ、それはほら、やっぱり特殊な事例だから……こういうときこそ教員が協力して、内密を守りつつ生徒の安全を確保してあげなきゃいけないと思って……///』
北宮(私も反抗期真っ盛りだった頃はよく家出したし……危ないことって多いんだよな~本当に……)
南野『……うん、北宮先生の言うとおりだよね。この件は教員全体で共有してサポート体制を作らなきゃいけないと思う。何か起こってからじゃ遅いから、なるべく早急にね』
東『そうね』
南野『そこで相談があるんだけど……誰かが実際に、船見さんの一人暮らし先の様子をチェックしてきてほしいんだ。生活状態はどうとか、現時点で問題はあるかとか……事前にこっちも情報を入れておいた方が議題に上げやすいし、何より……まだ誰もその辺の実態を詳しく把握してないし』
東『うんうん。まずは船見さん本人がどうしてるかを見てみないと』
南野『……北宮先生、行ってくれますか?』
北宮『な、なんで私……!?』
南野『だってさっきからこの件を一番心配してくれてるじゃないですか。それに家庭科担当なんだから、他の教員より問題点に気づいてあげられそうだし』
東『私も適任だと思います。北宮先生』
北宮『そんなこといったって……い、いつ行けばいいんですか』
南野『事前に連絡したら普段の生活部分を隠されちゃうかもしれないので、家にいるタイミングを見計らってアポなしで行ってみた方が良いと思いますよ』
東『休日より、学校終わりでそのまま行った方がいいかも』
南野『お願いします。船見さんのためにも!』
北宮『ん~……わ、わかりましたから。ちょっと見て来るだけですよ』
東『ふふ、さすが北宮先生♪』
南野『頼りになるなぁ』
――――
――
―
北宮(今日は偶然にも船見のクラスで調理実習だし……訪問の日は今日がいいかもしれない)
結衣「遊んでないで、じゃがいもの皮でも剥いて」
京子『い~や~~ん! 丸裸にされちゃう~~!///』
結衣「やかましいわ!」
京子「えい」ずっ
結衣「うわ! 危ない!」
京子「やったことないからよくわかんないんだよ~……じゃあこうか?」ぶすっ
結衣「やめろーー!///」あたふた
北宮(んん……?)
京子「やれっつったりやめろっつったり……わがままさんだなぁ」
北宮「としの~~」
京子「??」
北宮「お前はこっちで特別授業な?」ずるずる
京子「あ~~れ~~……」
綾乃「……なんか連れてかれちゃったんだけど」
結衣「しょうがないよ……あいついない方が捗るし、今のうちに進めちゃおう」
綾乃「そうね」
~
北宮「いいか、じゃがいもの剥き方はこうだ」
京子「お~!」
北宮「こうすれば手が切れる心配はない。やってみろー」
京子「ようっし!」しゅりしゅり
北宮(歳納は船見と仲がいいみたいだな……よしっ)
北宮「歳納、ちょっと船見のことで聞きたいことがあるんだけどな……?」
京子「ほぇ?」
北宮「噂に聞いたんだけど、あいつ一人暮らししてるんだって? お前はその家に行ったりしたことってあるか?」
京子「もちろん、めっちゃめちゃ遊びに行きますよ! よく泊まるし!」
北宮「そう……で、お前から見てどう思った? 何か困ったことがあったりしてそうか?」
京子「ん~……特にないですよ? 結衣は家事もうまいし。困ったことといえば……虫が家の中に入ってきたときに怖くて対処できないくらいじゃないすかねー」
北宮「ああそう……じゃあ基本的には大丈夫なんだな?」
京子「はい! 結衣も私ほどじゃないけど、年の割にはちゃんとした女の子ですからね~」
北宮「お前のことは置いといて……ちょっと安心したよ、ありがとな。もう戻っていいぞ」
京子「いぇーい!」たたたっ
北宮(うん……特には大丈夫そうなんだな。船見のことあんまりよく知らなかったけど……問題児ってわけじゃなさそうだ)
北宮(となればやっぱり今日あたり、ぱぱっと行ってぱぱっと見て来ちゃおう……)
――――――
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――
―
<夕方>
北宮「ここが船見の家か……中学生のくせに、結構いいとこ住んでるな~」
北宮(船見の部屋はあの階のあの部分……うん、電気も点いてる。ちゃんと帰ってきてるみたい)
北宮(それにしても……ここの管理も親戚がやってるっていうなら、いいとこのお嬢様説はあながち間違ってないのかもしれない……)
北宮「ええと……この部屋か」ぴんぽーん
『…………』
北宮(……あれ?)
北宮(帰ってきてるはずなのに……おかしい……)ぴんぽーん
『…………』しーん
北宮「う、嘘でしょ……まさか本当に何か起こってるんじゃ……!?」がちゃがちゃ
北宮(カギ開いてるし!!)ばっ
北宮「ふ、船見っ!!」だっ
北宮「えっ」
結衣「ん……くっ、ぁ……あぁぁ……///」くちゅくちゅ
北宮(えええぇーーーーーーーっっ!!?///)がーん
結衣「ぃ、いく……んんぁぁぅ……っ……!」ころん
北宮「あっ」
結衣「…………あぇぇええええっ!? あーーー! うわあああああああ!!?」びっくうっ
北宮「ご、ごめん……なさい……///」かああっ
結衣「うっ、嘘っ……だ、だれ……? 先生……!?」
北宮「あ、あの……家庭科の北宮です……」
結衣「っ~~……!///」ばくばく
北宮「しー、しーっ、静かに……ちょっと慌てて入ってきたから、ドア閉めてくる……」
結衣(びっくりした……びっくりしたぁぁ……なんで北宮先生が……)
結衣(しかも……完全に見られたっ……!!///)
~
北宮「…………っていうわけで、私が先生を代表して抜き打ちで様子を見に来たんだ」
結衣「…………」
北宮「ああ……ごめんね? 急に入ってきちゃって……」
結衣「…………」
北宮「ちゃんとインターホン鳴らしたんだよ? 二回……まあ、イヤホンしてたから聞こえなかったんだろうけど……」
結衣「…………」
北宮「んんん……ほら、問題があったら困ると思ってきたわけだから、余計心配になっちゃってて……お風呂で溺れてたらどうしようとか、いろいろ考えちゃうからこっちは。ね?」
結衣「…………」
北宮「あの……鍵はなんで開いてたの? ……単なる閉め忘れ?」
結衣「…………」こく
北宮「そっか……それはほんとに、ちゃんと戸締りしないとだめだよ? 最近はなにかと物騒なんだから……一人暮らしの女の子は特に気を付けなきゃいけない」
結衣「…………」
北宮「…………」
結衣「…………」
北宮(……耐えられないよ~この空気~……///)はぁ
結衣「……っ……///」ぐすっ
北宮「あっ、あああ……泣くな泣くな……」なでなで
結衣「……っ……ぅぅ……」ぽろぽろ
北宮「ごめん、ほんとごめんこれは……私が悪かった……謝る……」
北宮(恥ずかしいよな~こんなの……私だって誰かに見られたことなんか一度もないし……///)
北宮「あの……イヤホンはなんでしてたの? なんかそういう……音声的なものを流してたの?」
結衣「ぁ……ぅぅっ……///」めそめそ
北宮「ああっ、ごめんごめん……言いたくないよね、そうだよね」
北宮(くぅ、こんなことになるとは思わなかった……これだったら保健の南野先生の方が絶対適任だろ……///)
北宮「い、イヤホンはあれだ、せめてインターホンとか電話の音が聞こえるくらいの音量にしないとだめだぞ?」
結衣「……のぃ……ん……」
北宮「ん?」
結衣「のいっ、ず、きゃんせりんぐ……///」しくしく
北宮(なにそれ)
北宮「ま、まぁあの~……いいんだ。そういうことをする年頃だってのはわかるから。他の生徒からもそういう相談を受けたりもするからさ……気にやまないで」ぽんぽん
結衣「…………」ぐすっ
北宮「それより、生活の面で何か困ったりすることってないのか? 一人暮らしは何かと大変だろう」
結衣「……とく、には……」
北宮「うん……そっか。私も授業でお前を見てて、なんとなく大丈夫なんだろうなとは思ってたから。ざっと見たところ問題もなさそうだし……他の先生たちにもそう言っといてあげる」
結衣「…………」こく
北宮「炊事洗濯、特に問題なし……あ、栄養面は気を付けてね。今は特に大事な時期なんだから……あとは戸締りも。今度からはちゃんと気を付けるように」
結衣「…………」
北宮「あー、あれか! 今日はむしろいい経験になったんじゃないか? 戸締りの大切さが身を持ってわかっただろ?」
結衣「う……うぅぅ……///」しくしく
北宮「ごめんごめんごめん……! 泣かないで……」
北宮(何言っても駄目だ……苦手だこういうの~……!///)
北宮(……って、そんなこと言ってる場合じゃない。もっと教師として生徒の気持ちにならなきゃいけない……!)
北宮(特にまずいのは、これがトラウマになって船見の中で性に対する認識が歪んでしまうことだろう……誰にも性の相談ができなくなって、将来もし痴漢被害にあったりしたときに言い出せなくなったりしたらどうするんだ……! それも私のせいで!)
北宮(叱ったり、あんまり恥ずかしい気持ちにさせちゃだめなんだ。もっと違う方向から行かなきゃ)ふぅ
北宮「船見……寂しくはないのか?」
結衣「……?」ぐすっ
北宮「中学生にして一人暮らしなんて……なにも無理にすることはないのに。ホームシックになったりはしたことはないの?」
結衣「……少しだけ、最初の頃は……」
北宮「なるほどね……徐々に慣れてきて、今はそんなこともないのかもしれないけど……でもお前は中学生だ。まだ一人の寂しさを知る年じゃないだろう」
結衣「…………」
北宮「歳納に聞いたけど、友達もよく遊びに来てくれるんだろう? それはいいことだと思う……でもだからこそ、友だちがいないときは時間を持て余してしまうんじゃないかな」
北宮(自分でも気づいてないのかもしれないけど……そういった寂しさを紛らわせるために、一人で事に及んでしまっているのかもしれないんだからな……)
北宮「船見は……もう少し、人を頼った方がいいな」
結衣「先生……」
北宮「お前の周りはいい人ばっかりだ。親御さんもいい人だし、友だちも良い人だし。南野先生たちだって、みんな船見のことを心配してたんだ。お前は色んな人に想われてるんだよ」
北宮「それは船見がいい子だからだと思う。中学生でこんなに大人っぽい子はいない……でも、無理に大人になろうとしなくたっていいんだぞ? 周りの期待に応えるためにしっかり者になろうとしなくていい。まだまだ子供なんだから……もっと甘えていいんだよ」
北宮「困ったことがあったらすぐ誰かに相談。寂しかったら素直に友達を呼べ。たまには家にも帰ること。みんなみんな受け入れてくれるよ。もちろん私に相談してくれてもいいんだからな?」
結衣「……!」
北宮「一人暮らしの大変さとかは友達に聞いたってわからないんだから、先生たちの方が話が合うと思うしな。今度職員室に遊びにおいで。みんな船見と改めて話してみたいって思ってるよ」
結衣「……は、はい……///」
北宮「あんまり人にはいいにくい相談とかも……わ、私でよかったら聴くし」
結衣「えっ……?」
北宮「さ、さっきは恥ずかしかったでしょ? ごめんね……私だって船見と同じ状況になったら、きっと耐えられない……」
北宮「でも逆に言えば、親しい人じゃなくてよかったね。これが友達だったりしたらもっとほら……あれだろ? 家庭科の授業ぐらいでしか会わない私でよかったと思え、な?」ぎゅっ
結衣「っ……」
北宮「言わないだけで、みんなも同じことをやってるんだよ。ぶっちゃけた話……私だって昔は……してたさ。だから変なことじゃない」
北宮「ゆっくり時間をかけて、大人になればいい」ぽん
結衣「……はい」
北宮(なんだ……やっぱりいい子じゃないか……///)よしよし
北宮「よしっ。じゃあ私はそろそろ帰るとするか……明日も学校なんだから、夜更かしはしないようにな」
結衣「あ……はいっ」
北宮「あ、そうだ…………これ、私の携帯の番号。困ったことがあったり、ちょっとした相談とかでもかけてきてくれていいよ。いつでも出てあげるから」
結衣「……! わ、わかりました……///」
北宮「それじゃまた学校で。戸締りしっかりしてね」がちゃっ
結衣「……あっ、あの」
北宮「?」
結衣「あの……ありがとうございましたっ」ぺこっ
北宮「ふふ……気にすんな。じゃあ」ぱたん
北宮「…………」てくてく
北宮(……っああぁ~~、疲れたぁ~~……!)はぁぁ
北宮(なんだこの精神の疲労具合は……頑張った私、頑張った……先生っぽいことしたな~久しぶりに……)
北宮(船見結衣……問題児でもなんでもないや。ただの可愛い……普通の女の子だよ)
北宮「よっしゃ……今日は帰って、ちょっとだけ飲んでから寝ようかなっ」ぐぐっ
――――――
――――
――
―
<後日・スーパー>
京子「買い出しの荷物持ち手伝ってあげるから、その代りお菓子買っていい?」
結衣「はぁ……まあいいか。一個だけな」
京子「うわーい!」
結衣「ふふ……///」
「ふーん……夫婦と言うより、親子だな」
結衣「え……うわあっ!///」びくっ
北宮「買い出しか? 一緒に友達が来てくれるあたり、羨ましいねえ」
結衣「せ、先生……びっくりした……///」
京子「うおっ先生!? なんでここに!?」
北宮「なんでって食材買うために決まってんだろー、先生は忙しいから休みの日に済ませないとなの」
京子「先生も買い物とかするんだー」
結衣「そりゃそうだろ……」
北宮「お前たちは今日一緒に遊んでるのか? 買い出しまで一緒に来てくれるなんて、歳納もいいとこあるな」
京子「まあね~ん♪ というか結衣が私の食べたいものでメニュー決めるっていうから、私がいないと何作るか決まんないんだよねー」
北宮「歳納~……お前船見の食生活に介入しすぎだろ。あんまり一人暮らしの子にたかるなよ?」
京子「だって結衣が作ってくれるって言うんだもーん」
北宮「ったく……」
京子「えへへ……それにお菓子も買ってくれるし。せっかく会ったんだし、先生も何か買ってくれるよね?」
北宮「買わん!」
結衣「なんか、すみません先生……」
北宮「……ふふ、いいんだ。楽しくやってるようで何よりだよ」ぽん
結衣「まあ、はい……///」
北宮「……で、話は少し変わるんだけど……お前しょっちゅう歳納をあの家に呼んでるみたいだな」
結衣「え……まあ」
北宮「まさかとは思うが……その、歳納と一緒に……慰め合ったり的なことはしてないよな……??///」
結衣「は、はあっ!?///」ぼーん
北宮「ほう……? その反応じゃ大丈夫そうだな。安心安心」
結衣「へ、変なこと言わないでくださいよ先生~~……!///」
北宮「いやー、一人でする分にはいくらでも構わんが、誰かと一緒にされたらさすがに教師として見過ごせないからさ」
結衣「もう……!///」
京子「あれー、どったの結衣? 顔赤い」
結衣「な、なんでもないよ! 早くお菓子選んで来い!」
京子「なんで怒られた!?」
~fin~
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