海未「ティッシュ箱を投げつけられました。」【ラブライブ!SS】 (40)

前作、海未「カルポスソーダにしてしまいました。」【ラブライブ!SS】海未「カルポスソーダにしてしまいました。」【ラブライブ!SS】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453991292/)
の続編で、世界線などは同じのつもりです。是非、そちらを読んだ後にお読みください。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1454592465


穂乃果「んん....海未ちゃん?」

海未「あ、起きましたか?」


今日はバレンタインデーの次の日で日曜日です。

穂乃果のおうち、穂むらにいます。

穂乃果に貰った、あんこ入りの和風チョコレートを、目の前で食べようと思っていたのに、私に寄りかかってお昼寝をしてしまっていたのです。

本当は勿体なくて食べたくないのですが、悪くなってしまっても嫌なので、穂乃果が入れてくれていたお茶と一緒に食べてしまいました。

それに、穂乃果がプレゼントしてくれた、昨日発売の好きな小説家さんの新作を読みながらだなんて、こんな幸せな時間、穂乃果も寝ないで、私の感想を聞いてほしかったなぁ、なんて思ったり。

まぁ、最近は疲れなども溜まっていたのでしょう。

それでも今日は、照れや恥ずかしいという反応より、私も穂乃果も「お友達のような」という言葉が似合う感じの状態です。

いや、元々お友達なのですが、それよりもベッタリと、そして少しぎこちない、それでも初々しくないお付き合いになっていて、告白から1日後とは思えないくらい理想的です。

「お友達のようなお付き合い」には、昔から憧れがありましたから。

「お友達」は文字通りお友達で、「ような」は、若干恋愛に慣れてない、見ててドキドキするような感じ。


穂乃果「ごめんね、寝ちゃってた....重くなかった?」

海未「重い?ああ、全然気になりませんでした。寝顔、可愛かったですよ」

穂乃果「え、あ、あはは、いびきとかかいてたらどうしよ」


私がニコッと笑いながら不意打ちをしたら、穂乃果は、目をそらして、顔を赤らめながらそんな事を言いました。

いびきなんてかいていませんでした。

すぅ、すぅ、と、鼻息が可愛らしくて、むしろいびきを聞いてみたいくらいです。


穂乃果「あ、チョコ、食べてくれたんだね」

海未「はい、とても美味しかったですよ」

穂乃果「えへ、良かった」

海未「ふふ」



でもやっぱり。

流石に告白から1日後、お付き合い1日目なので、少し気を緩めると、好意に悩んでいた時と告白した時のことを思い出してしまって、お互い恥ずかしくなることはあります。


穂乃果「自信、あったから」

海未「やはり和菓子屋の娘ですね」

穂乃果「それなら雪穂に教えてもらったから、雪穂の方が素質はあるんだと思う」

海未「そんなの、いくら誰が教えたからって、結局作ったのは穂乃果でしょう?」

穂乃果「あ...うんっ」


私がそう言うと、穂乃果は笑顔で返事しました。

そして、少しの間の後。


穂乃果「その、さ、頑張って作ったから」

海未「はい」

穂乃果「自信もあってね」

海未「はい」

穂乃果「だから、ね、頭....っ」

海未「んっ....」


そこまで言いかけて止めてしまいましたが、私にはなんとなくわかりました。

ですが、今度は穂乃果の不意打ちに、私はドキッとしてしまいましたよ。


海未「えっと、よ、よく頑張りました。本当に、最高に美味しかったですよ」

穂乃果「わっ、ぅぅ」


優しく頭を撫でながら、甘い声で褒め言葉。

それには、穂乃果も座り方を直し、モジっとしながら赤くなりました。

私は普段の元気な姿も好きですが、こういう、不意に見せる女の子より女の子っぽい仕草なども大好きで。

少し長く撫でてしまいました。



穂乃果「も、もういい!」

海未「わっ、すみません」

穂乃果「あっ、違っ」

海未「え?」

穂乃果「怒ったんじゃなくて....えっと....」

海未「どうしたんです?」

穂乃果「あのまま続けてたらおかしくなっちゃいそうだった、から」

海未「ぅっ」


胸にキュッと手を当てながら、穂乃果はそんなずるい事を言ってきます。

顔からも体からも、心臓の鼓動が凄いことになっているのが、私にもわかりました。

そして私も同じです。

こんなにずるいなんて、私には勿体ないくらい可愛くて。

頭を撫でてほしいというのは、少女漫画を読む穂乃果ですから、最近よく耳にする頭ぽんぽんなどに憧れたのかもしれませんが。

おかしくなっちゃいそう、だなんて。

少し破廉恥なその反応で、しばらく穂乃果の目を見ることが出来なくなりました。


穂乃果「えっと、う、海未ちゃんにも」

海未「え....?」

穂乃果「お返し、みたいな」


急でしたが、穂乃果が、片手は私の膝に乗せ、ぐいっと寄ってきました。

そしてもう片方の、小さく柔らかい手が、私の頭をなでおろします。

しばらくそのまま抵抗できずに。

あぁ、本当だ、気持ちいい。

優しく大事にしてくれてるって、特別な感情を貰ってるって、多分感じています。

キュンとするってこういう事なんですね。

胸もドキドキしてしまって、どこかふわふわして。



穂乃果「うふふ、海未ちゃん可愛い」

海未「か、可愛い、ですか?」

穂乃果「うんっ。なんだか、いつもは....くーるびゅーてぃー?って感じだけど、照れたりした時はすっごく可愛い!あ、いつも可愛いんだよ?でも、その前にかっこよくて....って、穂乃果何言ってるんだろ」


私を褒めながら、自滅していきました。

手の甲を口元に寄せ、下を向いています。

自分で言うのもアレですが、好きな人の前で失敗したからか、じんわりと目に涙が浮かんでる気もします。


穂乃果「あ....そういえば....海未ちゃん、き、今日は久しぶりにお泊ま―」

コンコンガチャッ

雪穂「お姉ちゃん、海未さんに、ご飯食べていかないかってお母さんが。なんなら泊まっていってもいいってさ」

海未「あ、雪穂。本当ですか?....って、穂乃果、今あなたも....」

穂乃果「むむむぅ」

雪穂「ひぃっ!?」


まるで獲物を奪われた犬や熊さんみたいです。

でも、そんな穂乃果を見てると、私は幸せ者だと再度確認することができます。


海未「ふふっ」

穂乃果「むぅ、なんか海未ちゃん笑ってるぅ....」


― 夜 ―


穂乃果「すぅぅ....はぁぁ」


お部屋に海未ちゃんの残り香。

あ、臭いんじゃないの。

不思議だよね、女の子っていい匂いがするの。

穂乃果も、いい匂いするのかな。


穂乃果「海未ちゃんがお風呂から戻ってきたら何しよっかなぁ」

穂乃果「遊ぶもの、何かあったっけ」


テレビゲーム、それともトランプ。

あれ、海未ちゃんと遊ぶ時って何したっけ。

学校のお勉強を雪穂に教えてるうちに、自分もわけが分からなくなっちゃうような、そんな気分。



穂乃果「確か押し入れの中にボードゲームとかあったっけ?」


そう思って、普段使わない方の押し入れを開けてみると、うん、少しごちゃごちゃ。

小さい頃お気に入りだった熊さんのぬいぐるみが入ってるくらい、普段お掃除してない。

他の収納スペースは自分なりに片付けてるつもりだけど、この押し入れだけは不思議と片付ける気になれないんだよなぁ。


穂乃果「生命ゲームとか、あったと思うんだけど」

穂乃果「白髪危機一髪は微妙だし。野球盤なんて女子高生がやるには可愛くないし」

穂乃果「ラジコンまで....これはお父さんが貰ってきた物だったと思うけど、昔は男の子っぽい遊びしかしてなかったのかなぁ、穂乃果」


なんていうのは嘘で、恥ずかしいから後ろめたいだけかも。

だって、今でも恐竜さんのぬいぐるみ抱いて寝るくらい、昔からぬいぐるみが大好きだったし。

まぁ、何か遊び道具を探すのは、ラジコンを見つけたところで諦めました。


穂乃果「でも暇だなぁ....海未ちゃん来るまでネットでも....」

穂乃果「っていうか、ツイットーのフォロワーさんが1万人超えちゃったんだけど、どうしてだろ」


パソコンでインターネットを開いて、ツイットーを見たら、1万人を超えてました。

スクールアイドルってだけなのに、こんなに増えちゃうんだぁ。

そういえば、美味しいプリンとかの画像アップした時、知らない人から沢山返信が来て、全部返すのに時間がかかっちゃって困ってたんだった。

「私も食べて見ます!」とか、「早速買ってきました〜」って言う人がいたり。

ただ、ツイットーをやってるのは穂乃果だけじゃないから、みんなの方が少しフォロワーさんが多いのには、嫉妬しちゃう。

けど、穂乃果にもこれだけ沢山のファンがいて、応援してくれてるんだから、嬉しいことだよね。


穂乃果「ふふ」


気づいたら顔がにやけてました。

例えμ’sが終わりになっても、こういう風に穂乃果を見てくれる人がいるなら、嬉しいなぁって。

と、いうことは、いつも一緒にいてくれて、優しくしてくれる海未ちゃんがいるってことは、言葉にできないくらい幸せな事なんだな。

そんな海未ちゃんは、今お風呂に入ってる。

後でそのお湯に、穂乃果も浸かるんだ。



穂乃果「うぅ、ダメ、変な事考えてたらドキドキしてきちゃったよ」


急いで気を紛らわせるために、好きなぬいぐるみについて調べることにした。

本当に欲しい子しか買わないけど、お気に入りになったらとことん好きになるタイプなの。

今はトリケラトプスさんとブラキオサウルスさんのぬいぐるみが、ちょっと小さいけど大好き。

アモゾンでお買い物をするのは許されてるから、暇な時は可愛い子探して、レビューも見たりして楽しんでます。


穂乃果「あれ、ぬいぐるみじゃなくて着ぐるみ....でもない?何だろこれ」

カチッ

穂乃果「あっ、熊さんパジャマ!?」

穂乃果「かかかっ、可愛い!」


初めて着ぐるみパジャマという物を見て、一目惚れしてしまいました。

そしたら周りのことを完全に忘れて見てて。


ガチャッ

海未「穂乃果、お風―」

穂乃果「にゃあ゛あ゛あ゛っっ!?」

海未「わぁっ!?」

穂乃果「うううっ、うみっ、ちゃん」


着ぐるみパジャマなんて、穂乃果らしくない物を見てたのがすごく恥ずかしくて、変な声を出して飛び跳ねちゃいました。

それには海未ちゃんも驚いて、こっちをじっと見てきます。


海未「えっと、どうしたんですか?」

穂乃果「え、あ、な、何でもないっ」

海未「あっ、あぁ....」


海未ちゃんが急に赤くなって下を向いちゃった。


穂乃果「わぁぁっ!海未ちゃん、えっちなものなんて見てないよぅ!」

海未「こっ、声が大きいですっ!それに、そんなにバタバタしなくてもいいじゃないですか」


ご、ごもっともだよ。

ああ、なんで穂乃果えっちなものって言っちゃったんだろ。

それにあんなにバタバタしてたら余計怪しまれちゃうよぅ。



海未「なら、何を調べていたんですか?」

穂乃果「う、それは....」

海未「んー?....着ぐるみ、パジャマ?」

穂乃果「....はい」

海未「へぇ、可愛いじゃないですか。どうしてそんなに恥ずかしがっていたんです?」

穂乃果「えっ?いやぁ、だって、穂乃果らしくないし」

海未「そうでしょうか。熊さん、穂乃果に似合うと思いますが」

穂乃果「っ、」


海未ちゃんは、当たり前でしょう?と言わんばかりの態度で、そう言ってくる。

可愛い、とか、似合う、とか、女の子の弱い言葉をぽんぽん言ってくるの。


穂乃果「本当に、似合うと思う?」

海未「ん、はい。私が保証します」

穂乃果「そっか....。お小遣いで、買えるんだよね」

海未「そうですか」

穂乃果「も、もし買って着たら、可愛いって言ってくれる?」

海未「っ....はい、もちろんです!」


わぁ、あざとかったよね。

可愛いって言ってくれるかなんて、自分で聞いたらおかしいじゃん。

はぁ、何もかも穂乃果らしくないと思えてきちゃう。

あれ?けどもしかしたら、こういう穂乃果が、本当の穂乃果なのかな。


― 就寝 ―


穂乃果「海未ちゃん、起きてる?」

海未「すぅ....すぅ....」

穂乃果「寝ちゃった?」


海未ちゃんはお布団に入ってから寝るまでが早いなぁ。

穂乃果はお昼寝しちゃってたから、寝れるか心配だけど。

ベッドを降りれば、下に敷いてあるお布団で、海未ちゃんが寝てる。

隣に、すぐ近くに、無防備な好きな人がいる。

どうしよう、最近ドキドキしすぎてて、もしかしたら死んじゃうかも、なんて思えちゃう。

そして、あの柔らかな甘い匂いを近くで嗅いでみたいって。

体が勝手に動きました。


穂乃果「海未ちゃん....本当に寝ちゃってるの?」

穂乃果「お、おーい」


囁きながら体を少し揺すっても、起きる気配は無い。

綺麗な唇は少し浮いてて、サラリと長い髪の毛は枕元に広がってる。

起きてる時には出来ないけど、近くであの匂いを嗅ぎたい。

ふんわりと部屋に残る、あの残り香を、直接嗅ぎたい。


穂乃果「海未ちゃん....」

穂乃果「すぅぅ....」


海未ちゃんの長い髪の毛を、手で持って....。

鼻に近づけて、匂いを嗅ぐ。

まるで海未ちゃんが体の中に入っていくみたいで、どこか、むずむずしちゃう。

相変わらず胸のドキドキは収まらないし、頭はぽわぽわしてきた。


穂乃果「いい匂い、いい匂い」

穂乃果「海未ちゃん....いい匂い」

穂乃果「はぁ、海未ちゃん」



意味もなく名前を連呼して、海未ちゃんの存在を実感してる。

起こさない程度の声量で、何回も何回も。

一昨日まではありえなかった。

自分の部屋に、好きな人が無防備で寝てるなんて。

でも、必ず冷静になる瞬間は来てしまう。


穂乃果「....穂乃果....何してるんだろ....」

穂乃果「ごめん....ごめんなさい....」


穂乃果がしてる事は愛じゃない、自分の欲望を満たすための変態行為だ。

そう考えちゃって、胸の鼓動がおかしくなる。

最低だ、本当に何をしてるんだろう。

好きだから触りたくて、匂いや声を感じたくて。

でも穂乃果は....こんなこと....海未ちゃんが起きてたら出来ないくせに。

それに、もし起きてたなら、絶対に嫌われる。

だって、気持ち悪いでしょ。


海未「....穂乃果?」

穂乃果「え?」

海未「ふわぁあ.......寝ないのですか?」

穂乃果「っごめん、起こしちゃったね」

海未「....あれ?穂乃果、何故泣いてるのです」

穂乃果「な、泣いてないよ」

海未「でも....ん、暗いから見間違えたのでしょうか」

穂乃果「うんうん、そうだよ。よし、寝よっ。明日は開校記念日だからお休みだけど、早起きはなんたらの得って言うからね」

海未「は、はい....」


ほんっと、穂乃果らしくない。

ほら、海未ちゃんだって、何も覚えてない。

穂乃果が髪の毛を触ってたこと。

罪悪感が酷い。

ごめんね。


― 翌朝 ―


海未「今日はいい天気ですね」

穂乃果「うん〜」


穂乃果はまだ起きて間もないので、ふらふらしてます。

それにしてもよく晴れた。

雲ひとつない青空に、少し感動です。

こういう日はお出かけしたくなりますよね。


海未「穂乃果、今日はデートをしましょう」

穂乃果「ぬぁっ!?」


唐突に放った私の「デート」という言葉に、穂乃果は驚いている様子です。

意地悪だったでしょうか。


穂乃果「ま、まぁ....海未ちゃんとお出かけ出来るなら、嬉しい....よ」

海未「では決まりですね。着替えてしまいましょう」

穂乃果「うん」

海未「えっと....」

穂乃果「お互い反対側向こうね?約束だよ?」

海未「はい」


なんだか最近、穂乃果が色気づいてきたといいますか、ちょっとした行動や言動が、前よりも「女の子」になったと思います。

実際に今も、着替えるときは反対側を向こうと。

前までは、私やことりがいても普通に着替えていましたのに。

恋をすると可愛くなるというのは、本当みたいですね。

私も、前はクローゼットの中の手前にある服を適当に着たり、髪型なども特に気にしなかったのですが、最近は自分でも変化がわかるくらいに気を使っています。

でも、穂乃果は穂乃果自体が変わったというか、とにかく可愛いんです。

自分をより可愛く見せたいという、女の子のちょっとした想いですかね。

それとも、これが本当の素の穂乃果なのか。


穂乃果「今日はこれ着ようかな....お父さんがプレゼントしてくれたスカート....」

海未「あ、そういえば私、服を持ってきてませんでした。後で一旦帰って着替えてきますね」

穂乃果「あぁ、うん、わかった」



パジャマは借りましたが、流石に私服までは借りられませんね。

穂乃果のクローゼットの中身は初めて見ましたが、練習着や、部屋着の肩出しの服などとは違う、可愛らしいものが沢山入っていました。

ことりから貰った服や、そもそもことりの影響なのか、やたらセンスのいい服、そしてかっこいい系の服、意外とお洒落です。

そんなことを考えていると....。

ポフッと。

穂乃果がパジャマを脱いで、どこかに置いた音です。

その音の方へ、反射的に目が行ってしまいました。


海未「ぁっ」


そこには、下着姿で、着ていたパジャマを畳む穂乃果がいました。

いけません、と思って目をそらすものの、フリルの付いたパステルイエローの下着。

細く伸びる、白い腕と脚。

さらに、当然見られてないと思い油断してる後ろ姿が、とても綺麗で、スラッとした背中、首筋、膝裏、そして下着から少しはみ出たお肉が、頭から離れなくて。

首がいうことを聞かずに、どうしても穂乃果の方を向いてしまいます。

それが自分の本当の意思だと気付き、顔が物凄い勢いで熱くなります。

それで黙っていたので、当然怪しまれました。


穂乃果「ん....?海未ちゃん、いない....の.....................?」

海未「あっ」

穂乃果「ひぃっ....」

海未「ち、違うんですっ!」

穂乃果「ぁ....ぁぁぁ....」


こちらを振り向いた瞬間は、キョトンとしていました。

ですが、私は哀れな言い訳しか出来ずに、それを見ている穂乃果も口をパクパクさせて戸惑っています。


穂乃果「や、ややや約束したのにっ!ううっ、海未ちゃんのえっちぃっ!!!」

海未「あだっ....ごっ、ごめんなさい!」


案の定「えっち」呼ばわり。

近くにあった、ティッシュ箱を投げつけられました。

ただ、こういうアクシデントも、内心アリなのかな、と思ったりもします。

こんな反応、前の穂乃果は見せなかったので、新鮮ですしね。

怒り顔の穂乃果は、毛布にくるまって睨んできます。



穂乃果「み、見たよね?」

海未「え....いや....」

穂乃果「鼻の下伸びてたし」

海未「わっ!」

穂乃果「いくら恋人同士だからって、まだそういうのは....自信ないし、恥ずかしいから、ね?」

海未「ぅぐ....はい、わかっているつもりです」

穂乃果「じゃあ....許したげるから、今度はちゃんとあっち向いててね?」

海未「はい」


嘘みたいです。

私が怒られる側になっています。

今まで寝坊や宿題忘れ程度で叱っていたバチが当たったのでしょうか。


― (番外編)にこの家 ―


にこ「今日は海未ちゃんとお出かけ!たぁ〜っくさん遊ぶぞ〜♪リツイット25いいね59」


なによ色気づいちゃって。

でも....穂乃果、どうしていきなり....。

穂乃果は、海未が好きだったのね....私バカだから気づかなかったわ。

ん....。

なんなのよ....もう。


希「どうしたん?黙り込んで」

にこ「何でもないわよ」

希「ふぅん....。あ、それ穂乃果ちゃん?」

にこ「そう」

希「へぇ、元気そうで何よりやね」

にこ「あぁ、そういやこの間貧血で倒れたんだっけ?」

希「うん。まぁ、いろいろあったんよ」

にこ「いろいろねぇ」

希「で、にこっちは、穂乃果ちゃんに想いを伝える前に海未ちゃんに取られて嫉妬かな?」

・・・・・・

にこ「はぁっ!?」

希「むっふふ、図星やな」

にこ「なっ、あっ、あんた何言って―」

希「うししし〜」

にこ「っ....ほ、本当にあんたは何でも知ってるわね....怖くなるわ」

希「周りを観察するのには慣れてるからね」


少し悲しそうな顔を見せた。

そうね、この子も私と同じで孤独を知っている。

穂乃果と出会って、何もかも変わったけど。


にこ「ねえ」

希「なぁに?」

にこ「先輩が後輩を、女の子が女の子を好きになるっておかしいのかしら」

希「さぁね」

にこ「ちょ、真面目に聞いてるんだけど」

希「なら、にこっちはどう思ってるん?」

にこ「え....私はおかしくはないと思ってる。けど、レズってさ、気持ち悪い....でしょ?」

希「それじゃあ、そうなんやない?」

にこ「希は気持ち悪いって思ってるの?」

希「思ってないよ。愛の形は人それぞれだと思うし、周りを気にせずにその人だけを愛すことが出来るなんて、素敵やと思うけど?」


希、あんたはいいヤツだわ。

もしかしたら私を傷付けないように嘘をついているのかもしれない。

けど、私には今のががあんたの本音に聞こえたし、その優しい声に安心する。


にこ「そう」

希「なぁにこっち」

にこ「なに?」

希「もし、ウチが先輩後輩、同性愛に反対したら、にこっちはその意見を自分の意見にするん?」

にこ「....」

希「しないよね?にこっちはウチに、いい方に賛成してもらって、安心したいだけ」

にこ「そう、なのかもね」

希「にこっちは穂乃果ちゃんを諦められる?」



そんなの、わからないわよ。

今まで何もしなかった私が悪い。

そして、さっきの穂乃果の文を見るだけでも、2人とも幸せそうなのがわかる。

私はその2人を繋ぐ太い糸を切ることが出来るのか。

出来ないわよ。

どんなに私があの子のことを愛しても、穂乃果の持つ海未への想いと、海未の持つ穂乃果への想いに勝てるわけがない。

で、穂乃果は優しいから、そんな穂乃果に、面と向かって「ごめんなさい」って言われるのが怖い。

きっと、最初から叶わぬ恋だったんだ。

こんなに考えて....私は....。


希「にこっち....おいで?」

にこ「ふぅっ....ぅっ」


何がおいで、よ。

そんなに優しくされたら、行くしかないじゃない。

我慢しようとしてたモノが、一気に溢れ出る。


にこ「うぐっ....うわぁぁぁぁん」

希「うんと泣きぃ。ウチしかおらんから」

にこ「ひっ、ひくっ、のっ、希ぃっ....あぁぁぁん」


初めて恋をした。

相手は太陽みたいな女の子。

そんな空高いところにある太陽に、ちっぽけな私の手が届くわけがないのに、ずっと追いかけてしまった。

そして、太陽は、いつも通り海に沈んでいって、私よりも大きな大きなその海と結ばれた。

悲しいよぅ....悔しいよぅ....叶わぬ恋だなんて、分かってたはずなのに。

涙が、止まらない。


にこ「ひっく....ぇぐっ、うっ、はぁ....んっ」

希「辛いなぁ、よしよし。にこっちは強いよ、我慢、しようと頑張ったんやから」



だから、そんな優しい事言わないで。

余計に涙が溢れてくる。

ただでさえ初めて知った失恋の痛みに耐えられないのに。

....私は今、太陽を失った暗い世界にいる。

そこは海も無い寂しい世界。

けど、微かに明るい。

ちょろちょろと水が流れてくる。

太陽とも海とも繋がりを持つ、微かな明かり。

それは月明かり。

優しげな、柔らかい光が、私を励ます。

いつも目立たなかったお月様が、何もなくなったからこそ目立ってくる。

綺麗な花の横で、美しい音色を聞きながら猫が寝ている。

その音で小鳥は歌い、誰かは踊っている。

こうして太陽がくれた輝きは、繋がりは、まだ残ってる。

太陽が無ければお月様は光らないし、花も咲かない。

太陽が無い世界で生きていける人なんていないんだ。

太陽は、まだどこかで私を見守ってくれている。

けど。


にこ「希ぃぃ....辛いよぅ....ぐすっ」

希「にこっち、まだ穂乃果ちゃんを失ったわけやない。だから頑張らんと。多分、好きな気持ちは消えてないのかもしれない....でもな、自分を見失ったらダメなんよ」

にこ「ひくっ....ぐっ....うっ....」

希「今は真っ暗なところに閉じ込められてる気分なのかもしれんけど、辛い気持ちを振り切って、新しいスタートを切らないといけないんや。穂乃果ちゃんの優しさで傷つきたくないのはわかるけど、前を向いて、ウチらがいることも忘れないで」



忘れないわよ。

あんた達だって、私の大切な仲間なの。

こうして励ましてくれる希も大好きで。

ギュッと抱きしめるその温もりが大好き。

こんなに辛いのに、また頑張れそうになる。

また穂乃果と仲良く出来るか心配だけど。

海未のことを怖い目で見ないか心配だけど。

これも、残り少ない高校生活の、最後の思い出なのかもしれないって。

甘くない、とても苦い思い出。

だけど、私をもっと強くしてくれた気がする。

希、ありがとう。

直接言うには恥ずかしすぎるけど、ありがとう。

あんたが、私の新しい光になった。

もう辛くないなんて言ったら嘘になるけど、心が落ち着いた。


希「....落ち着いた?」

にこ「....うん....ひくっ....少し」

希「にこっちは笑顔が似合うよ。一緒に頑張ろ!」

にこ「うん....頑張る」


穂乃果、海未、幸せになってね。

私からのささやかな願いよ。


― 外出先 ―


穂乃果「ふふんふん♪」

海未「楽しそうですね」


うん、楽しい。

まだ並んで歩いてるだけなのに、すごく楽しくて、勝手に鼻唄が。

冬の寒さなんて忘れちゃう勢いでね。


海未「さて、と。穂乃果は行きたいところとかありましたか?」

穂乃果「行きたいところ?うーん、海未ちゃんとならどこでも楽しいけど....上野に来たってことは....」

海未「わかりましたか?そうです、動―」

穂乃果「科学博物館かな?」

海未「....え?」

穂乃果「あれ、海未ちゃん行きたいって言ってなかった?」

海未「あぁ、言ったことはありますが、穂乃果は動物園とか、行きたくないですか?」

穂乃果「どっ、動物園!?」


そっか、動物園かぁ。

パンダさんとかいるよね。

勝手に、穂乃果より海未ちゃんが行きたそうなところを考えちゃってて、全然頭に浮かんでこなかった。


穂乃果「行く行く行くっ!行きた〜いっ!」

海未「ふぅ、よかったです。穂乃果は動物が好きだと思っていたので」

穂乃果「あ、でも....」

グゥゥゥ

海未「あら」


自分で言う前に、お腹が鳴っちゃった。

お腹が鳴っちゃうって、ちょっぴり恥ずかしいよね。


海未「確かにそろそろお腹の空く時間ですね。近くの喫茶店に行きましょうか」

穂乃果「うん、あそこにスターダストバックシャインコーヒーがあるよ?....でもスタバ高いしなぁ」

海未「あぁ、それなんですが....」


海未ちゃんがバッグを開けて、中から何かを取り出しました。

茶色い封筒です。



海未「実はですね、これ....」

穂乃果「なぁに、それ?」

海未「穂乃果のお母様から預かってきました」

穂乃果「え、5000円入ってる....けどまって、何で海未ちゃんに?」

海未「デートするならお小遣いをあげるわ、と」

穂乃果「いやだから、どうして海未ちゃんに渡したの?」

海未「無くしそうだから....だそうです」

穂乃果「ェー、ヒドイ」


お母さんらしいけど、穂乃果流石にお金を無くすことなんてないよぅ。

でも、けちんぼなお母さんがお小遣いくれた。

親って、自分の子供に恋人が出来たら嬉しいのかな。

それが女の子同士だとしても....。


海未「まぁ、えっと、とりあえずお店に入りましょう。....ほら、手、冷たいじゃないですか」

穂乃果「わっ、ごめん。手袋忘れちゃったから」


ビックリしたぁ。

いきなり手を握ってきて、海未ちゃんったらこういう不意打ちが多くて、心臓がくたびれちゃうよ。

でも、いつかは普通に手を繋いで、普通にちゅうして....。


穂乃果「っ!」

海未「どうしました?」

穂乃果「ななななななっ、ななっんでもないっ!」


ちゅうなんて、まだまだ先のことだよ。

うわぁ、恥ずかしい。

手を握るのも慣れないのに、絶対無理無理。

もう〜、どうしてこんなにドキドキしなきゃいけないの。


― 動物園 ―


海未「猿も意外と可愛いんですね」

穂乃果「何言ってるの、当たり前。お猿さんは動物園の隠れたスターなんだよ?」


隠れたスターなのかはよく分かりませんが、2人で猿山に釘付けになっていました。

ぴょんぴょん跳ね回ったり、人間みたいに温泉に浸かったりする猿。

穂乃果も、小さい赤ちゃん猿を見つけると、蕩けるような甘い声で、可愛い可愛いと連呼していました。


穂乃果「ねねっ、穂乃果パンダさん見たい!」

海未「あ、それじゃあ見に―わわっ!?」

穂乃果「早く早く〜」

海未「ちょっ、まっ、引っ張らないでください〜」


まったく、小学生みたいにはしゃいでいます。

そんな穂乃果も、可愛いんですけどね。

私が手を握ると恥ずかしがるくせに、今は自分から引っ張っていきます。

穂乃果の柔らかい手、この感触、大好きです。

そのまま引っ張られて、パンダ舎まで来ました。

が....。


穂乃果「パンダさん???」

海未「あらら、こっちを向いてくれませんね」

穂乃果「あぁう....やだー!顔見たいよ!」


確かにここの人気者の顔を見れないのは悔しいです。

少しでもいいから振り向いてくれればいいのですが。

そう思っているのに、パンダの方は知らんぷりで、笹をむしゃむしゃ食べています。


海未「穂乃果....」

穂乃果「は、はは....世の中そんなに甘くないよね」

海未「そ、そんなに落ち込まなくても」

穂乃果「だってパンダさん見たかったんだもん!」


さん付けと語尾のもん!が可愛いすぎて、私はそれだけで満足しそうでした。



穂乃果「はぁ、もういいや。他見に行こ」

海未「え、ええ....」

穂乃果「うん?海未ちゃん、行こ?」

海未「ですが―あっ、ああっ、穂乃果、こっち向きましたよ!?」

穂乃果「えあぁ!?本当だぁっ!」


急だったのでビックリしましたが、少しねばって良かったです。

本当に気まぐれなパンダで困ってしまいますね。


穂乃果「はわぁ、可愛いなぁ」

穂乃果「お腹もプニプニしてそう♪」

穂乃果「あっ、見て!笹もしゃもしゃしてる!」


止まらない穂乃果の興奮に、少しついていけませんが、幸せそうで何よりです。

私は、パンダよりも、横から穂乃果のキラキラした目、ぴょこぴょこはねる髪の毛、大きく開いた口をじっと眺めていました。

無意識のうちに人を引きつける能力に、私はずるいとしか言えません。

でも、パンダに夢中になりすぎて私を忘れるなんて、寂しいです。

いえ、やっぱりそんな事はないかもしれません。

一緒にここにいるという事実が大切なんですよね。


― 夜の街 ―


海未「....」

穂乃果「....」


今日は動物園に行ったり、最近話題の映画を見たり、とても楽しい1日になりました。

気がついた時にはもう、あたりは暗くなっていて、イルミネーションや街灯を見ていると寂しくなってきます。

楽しかった今日も、もうおしまいなんだなぁ、と。

そのせいで、穂乃果ともお話できずに、しんみりとした空気の中、歩いています。

夜になって更に冷えるので、改めて冬を感じて余計に寂しくなります。


穂乃果「今日は楽しくてあっという間だったなぁ」


いつもの明るい声とは反対に、おとなしい声で、穂乃果はそんな事を呟きます。

お友達ではない、初めての恋人としてのお出かけ、デートが終わってしまうことが、こんなにも寂しく感じるなんて知りませんでした。

って、寂しい寂しいだなんて、私らしくないですね。


穂乃果「ここ、海未ちゃんがチョコくれた所だよ」

海未「はい、一生忘れないでしょうね」

穂乃果「穂乃果、おかしくなっちゃってて、すぐ泣いちゃってたよね」


まだ2日しか経っていないというのに、もう過去のことのように。

クスクスと笑いながら言います。

お付き合いを始めた事で何か吹っ切れたのでしょうか。


海未「明日は学校ですから....お泊まりはできませんね」

穂乃果「そうだね、もう少しでお別れ」

海未「それだとなんだか、ずっと会えなくなるみたいですよ」

穂乃果「うん....でもどうしてかなぁ?前まではまた明日ねーって、すんなりお別れしてたのに。穂乃果、今日は海未ちゃんから離れたくないの」

海未「楽しかったから....ですね」

穂乃果「....動物園に行ったり、海未ちゃんと本当に2人っきりでさ、馬鹿って言われそうだけど、言葉にできないほど幸せで....海未ちゃん、今日は本当にありがとう」


先程から震えた声で、私と同じ思いを語ってきます。

当たり前、が、大切、になって。

初めて感じた特別楽しいという気持ち、離れたくないという気持ち、どれも新鮮で戸惑いもあります。

傍から見たら本当に馬鹿らしいかもしれませんが、明日の学校までの数時間会えないだけなのに、泣きそうになっています。

思えば思うほど、穂乃果を感じたくて。

手をギュッと握りしめました。



穂乃果「海未ちゃん....」

海未「手、やはり冷たくなっています」


そんな言い訳をしながら。

お互いの指を組むように、大好きな穂乃果の手を握りしめます。

すると、ぴとっ....と。

穂乃果がくっついてきます。

今だけは恥ずかしいという言葉を忘れて、ベッタリとくっついて。


海未「穂乃果、温かいです」

穂乃果「海未ちゃんも温かい」

海未「....寂しいなら、約束をしましょう」

穂乃果「約束?」

海未「はい。また明日、絶対に元気な笑顔で会いましょう。そして、今はこの温もりで....」

穂乃果「うん、そうだね....約束だ」


また、私らしくない、約束....なんてして。

なのに寂しさが薄れてきて。

握る手の力が強くなります。


海未「帰りましょう」

穂乃果「うん」


また明日会えるのが嬉しくて、明日はどんなお話をしましょう、なんて、今度は楽しくなってきて。

キラキラと光に照らされているのに暗い、家までの道を歩きました。


― (番外編)希の家 ―


希「うん、頑張ってるよ」

希「えへへ、見てくれたの?私なんて穂乃果ちゃんや絵里ちとは比べ物にならないと思うけど」

希「そうだね、ありがと」

希「うんうん、卒業式で会えるの、楽しみにしてるね」

希「はーい♪またね、お母さん」


ウチの本当の話し方って、どっちなんやろ。

でもやっぱり、お母さんとお話すると安心する。

お正月とかも会えんかったけど、こうして電話できるだけでも嬉しい。

1週間に2、3回くらいの至福の時。


希「パンダさん!可愛い〜(*´˘`*)....か」

希「へぇ、穂乃果ちゃんたち、動物園に行ったんやね」

希「本当だ、可愛いなぁ♪上野動物園かな(っ'ヮ'c)....送信っと」


それにしても、今日はにこっちが大変やったなぁ。

失恋って、ウチは経験したことないけど、にこっちを見てると辛さがものっそい伝わってきた。


希「恋、かぁ」


ウチは人を観察するのには慣れてる。

だからいろんなことを知って、穂乃果ちゃん達のことも、にこっちのことも知ってた。

だからどうしても、人の話に首を突っ込んでるみたいになってしまう。

助けになってるなら、いいんやけど。

こうやって最近は人の恋愛を見てきたけど、想い方とかは皆違う。

穂乃果ちゃんみたいに、恋煩いになるまで悩んだり、海未ちゃんみたいに冷静に相手を見守ったり。

にこっちみたいに、想うだけで終わってしまったり。

ウチにも、好きな人がおるよ。

でも、そんな人を今日励ましたばかり。

自分のことは後回しにしてしまう悪い癖。

周りだけ見て、自分でもわかってるはずなのに。


希「次のお休みに、たまには一人で焼肉行こうかな」


― 翌日 ―


穂乃果「海未ちゃ〜ん!帰ろっ」

海未「おっとと....ふふっ、帰りましょう」


部活もお休みで、早く帰れるからテンションが上がってます。

ホームルームが終わって、海未ちゃんに突撃。

よろけながらも、しっかり受け止めてくれた。

昨日手を繋いだりしてたせいか、少しスキンシップに慣れた気がします。

それにしても海未ちゃん、いい匂い。


穂乃果「すぅぅ....はぁ....」

海未「うん?背中に何か付いてますか?」

穂乃果「すぅぅ....」

海未「穂乃果〜?」

穂乃果「ぁい?」

海未「私の背中で何をしているんですか?」

穂乃果「え....あ、あぁぁぁ!何でもないっ!!」


どうしよう、欲望を抑えられなかった。

大好きな匂いを嗅ぎたくて、体が勝手に。

バレてないかなぁ、嫌われちゃうかなぁ、って心配になる。


海未「ふむ....今日は体育があって沢山汗をかいてしまったのですが....」

穂乃果「....え」

海未「さぁ、今日も穂むらにお邪魔する約束でしたね」

穂乃果「え、あの」


バレてたのかな。

汗臭くなんかない、とても甘い匂い。

さり気なく解き放たれた言葉に、少し安心してる穂乃果もいて。

なんだか不思議な気持ち。



穂乃果「いつから、気づいてたの?」

海未「何のことでしょう」

穂乃果「とぼけないでよ」

海未「....私も、穂乃果の匂いが大好きです」

穂乃果「なっ、そうじゃなくて!」

海未「うふふ」


少し意地悪な笑顔。

なんとなくわかったけど、この間のお泊まりの時のも、きっとバレてる。

でも怒らないで、穂乃果の匂いも好きって言ってくれる。


穂乃果「ふ、ふんだ。海未ちゃんの意地悪」

海未「意地悪をした覚えはないですよ。むしろ、こうしてくっついてくるあなたの方が意地悪なのでは?」

穂乃果「あぁぅ....嫌、だった?」

海未「いいえ、くっつきたいですよ。好きでたまらないのに、こんなにベッタリと人前でくっついてくる可愛さに、意地悪と言ってるんです」

穂乃果「よ、よくわからないけど....もう今日はくっついてあげないもん」


ものすごい勢いで顔が熱くなった。

よく見れば、海未ちゃんも顔が赤かった。

なにさ、こういうのがあると、お話できなくなるじゃん。

お互いの知らぬ間の不意打ちが重なり合って、その度にドキドキして。

中学生のカップルみたい。


海未「くっついてあげない、ってことは」

穂乃果「な、なぁに?」

海未「私からくっつくのは....いいんですよね」

穂乃果「ひゃっ」

海未「また手袋、忘れたんですか?おっちょこちょいですね」



違う、昨日みたいに手を握ってもらいたくて、わざと忘れてきてたの。

緊張して、穂乃果は手汗をかいてるけど。

指を絡めてきて、恋人同士の繋ぎ方。

でも、それはすぐ止めちゃった。

どうしてだろうって思ってたら。

今日はすごく大胆に。

腰に手を回して、自分の方へと寄せてきた。


穂乃果「ぇあ....はぁ、はぁ....ちょ....」

海未「少し、恥ずかしいですね」


今までのドキドキに重なって、我慢出来ずに呼吸がおかしくなった。

はぁ、はぁ、って疲れたわけじゃない、本当にドキドキして息を切らす。

この道は、見知った人はいないのに、周りの目が気になっちゃって。

頭は真っ白、目はぐるぐる。

海未ちゃんの顔なんて当然見れなくて、えっちな事じゃないのに緊張しちゃって。

マフラーに顔を埋めて、一生懸命、顔を隠しました。


穂乃果「ぅはぁ、はぁ、い、家、遠い、ね」

海未「そう、感じなくもないですね」

穂乃果「あはは....」


困ったなぁ、まるではだかんぼの時に縛られて動けなくなってるみたいな感じ。

そんな恥ずかしいところをいろんな人に見られたら。

こうなっちゃうよね。


穂乃果「う、ぅみ、ちゃん....やっぱり恥ずかしいよぅ」

海未「も、もう着きましたよ?」

穂乃果「えっ、あっ、そっか....あ、あはは....」



あれから家までの距離、ずっとドキドキしてたんだ。

未来にタイムスリップしたみたいに、時間の感覚がおかしかった。

気づいたら、家。

そしてまた嵐が。


雪穂「あれ?今日は早いんだね」

海未「あ、雪穂。こんにちは」

雪穂「はい、海未さんこんにちは。って....お姉ちゃんラブラブ〜♡」

海未「ゆ、雪穂、お姉さんをからかうのはいけませんよ」


海未ちゃんのフォローが余計に....。

体の力が入らなくて、プルプルしちゃう。

心臓がくたびれて死んじゃうよぅ。

誰か助けてぇ〜。


― 穂乃果の部屋 ―


穂乃果の柔らかい脇腹の感触が、まだ手に残っています。

どうして好きな人の前では、自分らしくないことをしてしまうのでしょうか。

評価を上げたいからなのか、可愛く見せたいからなのか、自分でもさっぱりです。


穂乃果「ふぇっくち」

海未「大丈夫ですか?」

穂乃果「うん、ちょっと鼻がむずむずしちゃって」

海未「あらら、ティッシュどうぞ」

穂乃果「ありがと〜....ズビィィ」


可愛らしいくしゃみを聞いて、この間投げつけられた例のティッシュ箱を渡しました。

あの時よりもティッシュがかなり減っているのは少し気になりますが。

くしゃみの仕方で人柄が分かりますよね。

一番わかりやすいのは、教室で周りの人を気にせず大きなくしゃみをするような人は、大体ガサツな感じがします。

けれど、穂乃果は素だったみたいなので、これが動画だとして、1人で視聴していたなら、パソコンの前で可愛さに悶えているところです。



コンコン

穂乃果「....」

海未「....」

穂乃果「あれ?はーい、誰ー?」

ガチャッ

雪穂「私だよ」

穂乃果「なぁんだ。いつもなら返事待たずに入ってくるのに」

雪穂「いやぁ、だって....ねぇ?」


すぐ入ってこなかった理由がわかってしまったことが辛いです。

まだ中学生の雪穂に、そんな気遣いされてしまうなんて、恥ずかしくて。


雪穂「まぁ、そんな事より。皆でお買い物してくるね。お姉ちゃん達は行かないでしょ?」

穂乃果「あ、うん」

雪穂「それじゃあね。あ、カーテンは締めるんだよ?」

ガチャッ....バタン

穂乃果「....っあ」


ようやく雪穂の気遣いに気付いた穂乃果は、あたかもトマトのように真っ赤です。

そして、私も。


穂乃果「ま、まったく、雪穂ったら....」


私達はまだそんなのしたことがないのに。

大体、お付き合いを始めてからまだ数日なので、キス....すらしていません。

どうしましょう、雪穂の事は、穂乃果はイタズラとしか思っていないようですが、私は変な考えが頭の中でグルグル回って。

体をクネクネ、変なところをモジモジさせて、落ち着きのない子みたいになってしまっています。


穂乃果「海未ちゃん?」

海未「ひぁぃ....なんでもないですぅ....」


こういう時、冷静になれるタイプだと思っていましたのに。

今、おうちには、私達以外誰もいないという事ですよね。

いけません、いけません、破廉恥です。

そう自分に言い聞かせているのに、頭の中には、雪穂の気にしていた行為が頭に浮かんできてしまって。

キスとか、憧れでもある、そういう行為が。

頭から全然離れていかなくて。



穂乃果「....」

海未「....」

穂乃果「....」

海未「....」


沈黙が続きます。

本当は穂乃果も同じようなことを考えているのでしょうか。


海未「....今、おうちには―」

穂乃果「穂乃果達しかいないよ」

海未「です....よね」

穂乃果「う、うん。な、なんか暑い....なぁ」


暑いわけがない、真冬です。

なのに、体が火照ってしまい、会話もぎこちないです。

ゴクリ....と、唾を飲む音が聞こえるくらい静かで。

ですが、穂乃果はこういう時に限っては、積極的になれないはずです。

私が頑張らないと、一つ上のステップに行けないくらい分かっています。

けど....。


穂乃果「....えっと....」

海未「あ....」

穂乃果「海....未ちゃんはさ、その....」

海未「はい?」

穂乃果「ううん、なんでもない」

海未「そうですか」


口元を手で隠して赤くなっている。

穂乃果、今何を言おうとしたのですか。

....普通なら男の人がキスを迫るのでしょうか。

う、どう考えても穂乃果の方が女の子っぽいじゃないですかぁ。

無理です、私にこんな破廉恥なこと無理です。

でも、したいから、無理だと思いつつも考え込んでしまうのでしょうか。

私はそんな破廉恥な女の子じゃないはずなのに。



穂乃果「....隣に行ってもいい?」

海未「えっ、はっ、はいっ!」


隣って、今私の横に来るんですか。

なぜ、どうして、あの穂乃果が自分から、こんなに積極的に。

私、誘われているのでしょうか。

やっぱり、キスとかってしたいものなのでしょうか。

穂乃果も、そう思っているのでしょうか。

私は....本当はしたい。

大好きなあなたとなら、したい。


穂乃果「ねぇ、海未ちゃん」

海未「はい」

穂乃果「海未ちゃんって....」

穂乃果「ちゅう、とかしてみたいって....思ったりするの?」

海未「っ!」


ベッドに寄りかかっていた私の隣に来た穂乃果は、体育座りで、足をモジモジさせながら聞いてきました。

私が鈍いからだったのか、穂乃果がちょっぴりエッチな子だったからなのか、それともこれが普通なのかは分かりませんが。

やはり、誘われています。


海未「えっと....」

穂乃果「....はぁ....はぁ....」

海未「ぁ....」


今、ある事に気づきました。

穂乃果が、じんわりと涙を浮かべていること。

そして、呼吸が荒くなっていること。

きっと穂乃果は、ものすごく大きな覚悟でいるんだと思います。

私以上ドキドキしていて、緊張している中で、自分から「キス」という大きな扉への鍵を開けたこと。

私はどうすればいいのか、こんがらがってしまって。

何故だろう、今さっきまで、自分のことで手一杯だったのに、穂乃果のことを考えてしまうようになってきました。

このまま私からキスをしに行っていいのか。

まだ早いのではないか、って。

本当はしたいのに、要らないことが頭に浮かんできてしまう。

こうしているうちに、何秒も時間が過ぎていく。



海未「ほ....穂乃果」

穂乃果「うん....」


弓道の大会や、遊園地の絶叫マシンなどでも経験したことのないこのドキドキ。

ドクンドクンと、もう爆発してしまうのではないかと思うほど暴れる心臓。

段々と何も考えられなくなってくる。

本当に何も....ただ、欲望だけがふつふつと湧いてくる。

大好きなあなたとキスがしたい。

小さくて柔らかそうな唇を私の物にしたい。

髪をなでおろしながら愛の言葉を囁いた時の反応が見たい。

何もかも、奪いたい。

ダメ、息が苦しくなってきた。

呼吸がまともにできない。

次は私からのお願い。

穂乃果、穂乃果。



海未「穂乃果っ」

穂乃果「ぁっ」


自分を制御できなくなって、体当たりするような勢いで抱きつきました。

すぐに壊れてしまいそうなくらい柔らかくて、それなのにどんどん力を入れてしまう。


穂乃果「っはぁ、海未ちゃんっ、苦しっ」


本当に壊れちゃうというSOSサインのような、か弱い声を出す穂乃果。

もういっそ、私の手で壊してしまいたい。

好きで大好きでたまらなく可愛くて。

重なる心臓が、ドクドクっとぶつかり合う。

私、今度こそは我慢出来ない。

この抑えようと頑張ってきたドキドキが、辛さに変わってきて、ここにいるのに手が届かないようなもどかしさに涙が出てくる。

穂乃果、あなたが、こんなにも可愛いからいけないんですよ。

私をこんな気持ちにさせたのは、あなたなんですからね。


海未「穂乃果」


穂乃果の顔を自分の目の前に持ってくる。

顔を隠す、長く伸びた横髪を、勝手に耳の後にやって。

もう目を瞑っている穂乃果に、もう何も言葉をかけずに....。



海未「んっ」

穂乃果「はふぅ....ん....」


お互いの唇が重なり合い、これで本当に繋がれたんだって。

初めての感覚を噛み締めて。

ぶつかる鼻息が少しくすぐったいけれど。

大好きな穂乃果の、柔らかい唇が気持ちよくて。

もっともっと気持ちよくなりたい、穂乃果を感じたいって。

唇をはむはむしていたつもりなのに、気づけば舌でこじ開けていました。


穂乃果「んぁぁ....んっ」

海未「はぁ、んっ....穂....乃果」


ぴくぴくと震える穂乃果を、もっと強く抱きしめながらぐいぐいと攻め続ける私を、穂乃果も抱きしめてくる。

舌で繋がっている....。

言葉にできない幸せと、それ以上の気持ちよさ。

舌を吸ったり、前歯の裏を舐めたり。

初めてなのに止まらない。

とうとう、頭が蕩けてきました。


海未「はぁ....はぁ....穂乃果ぁ....」

穂乃果「好きだよぅ....好き好き、しゅきぃ....海未ちゃん好きぃ....♡」


キスをやめた途端、舌足らずな甘い声でそう言いながら、ぷにぷにのほっぺたを、スリスリしてきます。

驚くほど積極的で。

シャンプーのいい香りも感じて。



穂乃果「もっと....ぎゅってしてほしいな」

海未「わか....りました」

穂乃果「もっと....もぉ〜っと」


攻めていたくせに情けないほどとろとろになりながら、穂乃果のお願いに答えます。

あぁ、なんて幸せなんだろう。

幸せすぎて、幸せだとしか言えない。

何分もそのままで。

愛を感じて。

穂乃果も、隠れないで私の匂いを嗅いでくる。


海未「穂乃果....もう一度....」

穂乃果「海未ちゃ.....んっ」


長い....長い....そして、甘い....甘い、放課後を過ごしました。


おしまい。

最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。
※続編は気分次第で書きます

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