【ラブライブ!】花陽「誕生日の過ごし方」 (45)

それは私小泉花陽にとってとても重要な日。

そう、誕生日である。

いつもより早く目が覚めた私は、
いつもどおり私より早起きなお母さんにホットミルクを入れてもらう。

あら、今日は早いのね。

なんて、わかってるくせに。

この冬は暖かい日が多かったけど、
最近になって冷え込んできている。

ホットミルクを飲むことで、
体の温度を心の温度に近づける。

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「はぁ……あったまるなぁ」

なんてのんびりしていたら、
いつの間にか家を出る時間が近づいていた。

朝の数分は、とても貴重なのです。

「いってきます!」

いってらっしゃい。
と、お母さんは姿は見せずに返事をした。

洗い物でもしてるのかな。

「ううっ、寒いよぉ」

ぶるぶる。

ぶるぶる。

携帯が鳴っている。

こんな朝になんだろう?

『ごめんかよちん!! 寝坊しちゃったから先行ってて!』

凛ちゃんからだった。

最近は寝坊せずに起きれてたのに、
寒くなってきたせいかな。

『急ぎすぎて事故に遭わないようにね!』

凛ちゃんは言われたことは守る子だから、
こう言っておけば心配ないんだ。

あれ、もう一件メールが来てる。

『今日は一緒に行けないわ(・∀・)』

真姫ちゃんだ。

この顔文字は、
感情が読み取れないからあまり好きじゃないんだよね。

『わかった! また後でね(・∀・)』

とりあえず同じ顔文字を返しておく。

「今日は一人で登校かぁ……」

いつもは三人で歩く道を、
今日は一人で歩いている。

寒さが三倍増しだよぉ。

そういえば、

「お母さん、おめでとうって言ってくれなかったな……」

距離も普段の三倍に感じる通学路を歩ききり、
やっとの思いで学校に到着。

暖を取るために、急ぎ足で教室へ向かう。

「あれ?」

席にカバンが置いてある。

凛ちゃんも真姫ちゃんももう来てるみたい。

ゆっくり歩きすぎたかな。

自分の席について、ふたりを待つことにした。

「小泉さん」

「は、はいっ」

声をかけてきたのは、
特別仲がいいわけではないクラスの子。

「今日、部活は休みだって」

急に体温が下がったような気がした。

「さっき部長さんが来て、伝言を頼まれたの」

「そうなんだ。ありがとう」

要件を伝えると、
彼女はどこかへ言ってしまった。

なんで休みなんだろう。

雪が積もってて屋上を使えないのかな?

今日はみんなに会えないのかな……

そんなことを考えている間に、
ホームルームの時間になった。

「おはようかよちん!」

「おはよう、花陽」

「おはよう凛ちゃん、真姫ちゃん」

そこでやっとふたりが帰ってきた。

自然と顔がほころぶ。

先生が教室に入ってきたので、
それぞれ自分の席に帰った。

「それでね、ほのかちゃんったらひどいんだよ!」

「それはあなたも悪いわよ」

「真姫ちゃんひどいにゃ~」

「よしよし。真姫ちゃんはひどいねー」

「ヴぇえ!?」

昼休み、いつものように三人でお昼ご飯。

ふたりとも、今日が何の日なのか知らないのかな。

真姫ちゃんはまだしも、
凛ちゃんが知らないなんてはずはないけど。

毎年毎年、朝一番に

『かよちん、おめでとうにゃ!』

って言ってくれてたのに。

祝ってもらえるのが当然なんて思わないけど、
やっぱり期待はしちゃうよね。

でも自分から言うのもなんだか恥ずかしいし。

何より悲しい。

「今日、練習休みだって聞いた?」

「練習がないと退屈だにゃー」

「凛は勉強をするチャンスじゃない?」

「またひどいにゃ~」

「勉強はしないとねー」

「にゃ!?」

なんだかうまく話をそらされたような。

……気のせいかな。

本日二度目のホームルーム。

寒くなってきてるから、風邪をひかないように。

先生は最近そればっかりだ。

チャイムが鳴る。

終業のチャイムじゃなくて、
放送のチャイムだった。

『一年○組、西木野真姫』

『一年○組、星空凛』

『放課後、生徒会室まで来なさい』

お前らなにしたんだ?

先生の問い掛けに、二人は首をかしげるだけ。

「ごめんねかよちん。先に帰ってて!」

そんなこと言わないで。

助けを求めるように真姫ちゃんを見る。

真姫ちゃんは何も言わず頷く。

その顔は心なしか不機嫌そうだ。

「わかった……」

「また『明日』。凛ちゃん、真姫ちゃん」

結局、凛ちゃんも真姫ちゃんも
「おめでとう」とは言ってくれなかった。

急に自分が恥ずかしくなってくる。

浮かれて早起きしてしまった自分に。

一人で登校した自分に。

「おめでとう」
と言ってもらえると思っていた自分に。

そしてなにより、
祝いの言葉一つもらえない自分に

恥ずかしくて、悲しくて。

ほんの少し腹が立った。

冬は日が落ちるのが早い。

朝はあんなに元気だった太陽も、
今は寂しげに悲しげに沈んでいる。

行きの三倍の長さの帰り道。

吐く息は白いけど、
心の中は真っ黒。

オレンジ色の空だけが、
私を励ましてくれているみたい。

「家、帰りたくないなぁ」

こんなに早く帰って、お母さんはどう思うだろう。

誰にも祝ってもらえなかった娘を見て、
哀れに思うだろうか。

家を出た時から荷物が増えていない娘を見て、
悲しく感じるだろうか。

それとも

「お母さんも、忘れてるのかな」

口に出して、泣きそうになる。

朝とはまた別の熱いものが、
胸の奥から溢れそうになる。

冷たいのに熱いものが。

卑屈な自分が嫌になる。

なんでこんなことばっかり考えちゃうんだろう。

もうやめよう。

……アイドルらしくないよね。

「よしっ!」

今日は寄り道しちゃおう。

「あ! 今日は人が少ない!」

いつもは行列ができているスイーツ屋さん。

時間のせいか、いつもより人が少ない。

『期間限定! 白米ムース!!』

これは食べなきゃいけませんよね!

ね!

少しだけ並んで、なかに入れた。

注文はもちろん白米ムース。

自分への誕生プレゼント!

「お待たせしました。白米ムースです」

「わあっ」

おいしそう!

「いただきます!」

はむ。

「ほう……」

はむ。

「ほうほう……」

はむはむ。

「……」

ピンポーン

「お待たせしました。どうなさいましたか」

「白米ムースをもう一つお願いします」

おいしかった……。

今年一番だね。

まだ二週間ちょっとしか経ってないけど。

みんなにも教えてあげないと。

みんなにも……。

「はぁ……」

帰ろう。

時間的にもちょうどいいかな。

携帯を取り出す。

あ、サイレントにしてたの忘れてた。

着信がきてる。

『着信:50件』

「うぇえ!?」

真姫ちゃんみたいな反応をしてしまう。

驚いていると、さらに着信が来た。

『星空凛』

凛ちゃんから、なんだろ?

『かよちん!!!!!』

「り、凛ちゃんどうしたの?」

『どうしたのじゃないにゃ! 今どこにいるの!?』

「もうすぐ家に――」

ぷつっ。

携帯の電池が切れちゃった。

50件も電話がきてたんだから、無理もないか。

凛ちゃん、すごく焦ってたみたい。

何かあったのかな……。

早く帰って携帯を充電しないと。

もし凛ちゃんに何かあったら……。

胸がざわつく。

鼓動が早くなる。

走って帰るために、足に血を送っているみたい。

私は全力で走った。

そこの角を曲がれば私の家。

凛ちゃんの家に向かおうかとも考えたけど、
私の家の方が近い。

ずっと全力で走りっぱなしだから、
体中が悲鳴を上げている。

『ダレカタスケテー』

そんな声が体の節々から聞こえる。

無理やり押さえつけて、走り続ける。

家が見えてきた。

あれ――

「凛t「かよちん!!!」」

「なんで電話に出てくれなかったの!!」

「どこに行ってたの!!」

「なんで急に電話切っちゃうの!!!!」

「凛、かよちんに、何か、あったのかって……」

「っ……心配でっ」

「ごめんね、凛ちゃん」

愛しい幼馴染を、強く抱きしめる。

「花陽は大丈夫だよ」

「うぇえええええええん!!」

何度も頭を撫でてあげる。

何もなくてよかった……。

本当に良かった。

状況はまだ飲み込めてないけど、
凛ちゃんの姿を見て安心した。

「花陽ちゃん!!?」

「あれ、ほのかちゃんも」

「花陽!!」

「う、海未ちゃん!?」

二人だけじゃないみたい。

「かよちゃん!!」

「ことりちゃんまで……」

なんでみんないるんだろ。

よく見るとみんな肩で息をしている。

「まったく、人騒がせよね」

「そんなこといって、一番心配してたくせに」

「ちょっと希!」

「なにはともあれ、無事で良かったわ」

「絵里ちゃん、なんでみんないるの……?」

私の家の前にμ'sが全員集合。

これは一体。

「実はn「花陽ぉ!!」」

後ろから叫び声。

「真姫ちゃん?」

振り向くと、ぷるぷる震える真姫ちゃん。

お、怒ってるのかな。

うつむいたままずんずんとこっちに近づいてくる。

「花陽!!」

「は、はいぃ……真姫ちゃん?」

真姫ちゃんも泣いていた。

「……心配かけちゃったね、ごめん」

「し、心配なんて……」

真姫ちゃんも、力強く抱きしめる。

「ちょ、ちょっと花陽!」

顔を赤くしながらも、抵抗はしない。

「真姫ちゃん泣いてるにゃ~」

「泣いてるのはあんたでしょ!!」

目の周りを真っ赤にさせた凛ちゃんと、
目からこぼれそうなほど涙を蓄えた真姫ちゃん。

そんなふたりがたまらなく愛おしく感じて、
もう一度強く抱きしめる。

「うちの子が迷惑かけてごめんなさいね」

お母さんが家から出てきた。

「とりあえず、みんな家に上がって」

「お邪魔します!!」

「ほのか、靴を並べなさい!」

「おじゃましまぁーす」

みんな続々と家に上がっていく。

花陽も家に入ろうとすると、
凛ちゃんに引っ張られる。

「凛ちゃん?」

「もうちょっとだけ……」

表情はよく見えなかったけど、
耳は真っ赤になっていた。

「仕方ないなぁ」

なんて言いながら、ふたりと抱き合う。

私は別にっ、真姫ちゃんはそう言っていた。

でも、やっぱり抵抗はしなかった。

「いつまでそうやってんのよ!」

にこちゃんの声で三人とも我に返る。

照れくさそうに顔を見合わせて、
手をつないで家に入る。

玄関は、いつもより狭く感じた。

廊下は、いつもより暖かかった。

リビングは――

「「「誕生日おめでとう!!」」」

破裂音が鳴り響き、
キラキラしたものが宙を舞う。

色とりどりのわっかが連なった天井。

みんなの笑顔。

どこからとりだしたのか、
凛ちゃんが三角帽をかぶせてくる。

「え……? どういう……」

「かよちん誕生日おめでとうにゃ!!」

「誕生日……」

「おめでとう、花陽」

やっと状況が整理できた。

それと同時に、気持ちの整理が追いつかなくなる。

鼻の奥が熱くなる。

目の奥が熱くなる。

顔があったかくなる。

心が、真っ白になった。

表情が変わるよりも先に、涙が出た。

雫がフローリングに落ちて初めて、
私は心から泣いた。

嬉しくて、恥ずかしくて。

みんなを疑ってしまった罪悪感。

自分を責めることからの解放感。

そして、幸福感。

いろんな感情が一気に溢れ出して、
小さな私の器には収まりきらずに、
涙や声になって外に漏れてしまった。

「かよちん大丈夫!? どこか痛い?」

私があまりにも激しく泣いたから、
みんなにはまた心配かけちゃった。

しばらくしてから落ち着いて、
みんなにお礼を言ってから謝った。

「だから私は辞めようと言ったのです」

私の頭を撫でながら、海未ちゃんは言った。

「「ごめんなさい……」」

誤っているのは、凛ちゃんとほのかちゃん。

「勝手に放送まで流して……先生に説明するの大変だったのよ?」

絵里ちゃんは絵里ちゃんで大変だったみたい。

「まあまあ二人とも、凛ちゃんは良かれと思ってやったことやし」

「そうやって甘やかすからダメなのよ!」

「ごめんねかよちゃん、よしよし」

「あっ、今私が……撫でて……」

なぜか落ち込む海未ちゃん。

「花陽」

「どうしたの? 真姫ちゃん」

「これ」

「これって……」

「プレゼントよ」

「開けてみて、いい?」

「かよちんおはよう!!」

「おはよう、凛ちゃん」

「おはよう、花陽」

「真姫ちゃんもおはよう」

「あの、花陽……」

「どうしたの?」

「そr「そのリボン似合ってるにゃ!」わよ」

「にゃ……」

「凛……あんたねぇ……!」

「真姫ちゃんが怒ったにゃ!?」

「待ちなさい!」

「かよちんバリア!!」

「卑怯よ凛!!」

「ダレカタスケテー」

これで終わりです。
ありがとうございました。

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