縁「ゾンビハンター唯ちゃん」唯「はい?」 (32)

―教室―


唯「縁、いきなり何だよ。それ」

縁「んー、ひょっこり出てきた感じ?」

ゆずこ「物陰からひょっこり出てきてゾンビ狙ってる感じ?」

唯「武器は?」

ゆずこ「十字架とニンニク」

唯「それ吸血鬼だろ。ゾンビ倒せないって」

ゆずこ「じゃ戦車で」

唯「でかい!物陰に隠れられない!」

ゆずこ「大丈夫、模型だから。手のひらサイズね」

唯「やっぱりゾンビ倒せんわ!」

縁「あはははははっ」

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唯「で、何で唐突にゾンビなんだよ」

縁「んー、何でだろ?」

ゆずこ「縁ちゃん、昨日のロードショー観たんじゃない?」

縁「あ、それだぁ。ゾンビ映画やってて、それで何となくー」

唯「そういうことか」

縁「こうね、ぱんぱかぱーんって感じで、ゾンビ殺してた」

唯「それはおめでたい殺し方だな……」

ゆずこ「唯ちゃんはもしかして観てない?」

唯「あー、昨日はずっと文庫本読んでたから、観てないな」

縁「そっかあ」

ゆずこ「そっかあ」

唯(あ、流れ切っちゃったか)

縁「ゾンビって、何で人間噛むんだろー?」

ゆずこ「何でだろうね」

唯(お、敢えて映画の中身に触れない)

ゆずこ「やっぱアレ?噛み付きフェチ?」

縁「ドS?」

唯「噛まれたら痛そうだな」

ゆずこ「大丈夫、甘噛みだから」

縁「わぁー、ソフトなほうだね」

唯「歯型残んないな」

ゆずこ「でも感染する」

唯「感染源どこ?」

ゆずこ「唯ちゃんはどっち派?甘噛み派?本格派?」

唯「いやそもそも噛まれたくないし」

縁「じゃ、やっぱり唯ちゃんハンター役だね」

唯「あー、うん、まあ」

ゆずこ「じゃ、私ゾンビ役ね。クワッ……!」

唯「こら!噛もうとするな」

ゆずこ「えー、唯ちゃんドMなんだからほんとは噛まれたいんでしょ?」

唯「なっ……違う!」

縁「じゃあ、私甘噛み役ね。あ~~~ん」

唯「ゾンビなのか?人間なのか?撃っていいのか?撃つぞ?」

ゆずこ「でも何で噛んだら感染するんだろうね」

唯「歯から何か出てるんじゃないか?」

縁「ゾンビウイルス?」

ゆずこ「虫歯持ちのゾンビに噛まれたら虫歯菌も移っちゃうね」

縁「えーそれやだなあ……歯が痛くなるよ」

唯「その前に歯で噛まれて痛いけどな」

ゆずこ「……」

縁「……」

唯「ん?」

ゆずこ「唯ちゃん、今上手いこと言ったって思ったでしょ」

唯「別に思ってないって」

ゆずこ「じゃ、おいしいとこ持っていったぜって感じ?」

唯「別に感じてないって」

縁「でも歯が痛いとおいしく感じないよね」

唯「そうだな」

ゆずこ「そうだね」

縁「……」

唯「……」

ゆずこ「……」

縁「あれー、何の話だっけ?」

ゆずこ「歯は大切にしましょうって話」

唯「健康講座かっ」


きーんこーんかーんこーん

―情報処理部・部室―


【今日の部活 テーマ・ゾンビ】


唯「なになに、ゾンビとは、何らかの力で死体のまま蘇った人間のことである」

ゆずこ「何らかの力って何だろうね」

縁「こう、操作する系?」

ゆずこ「ああ、ありそう。電気的なやつ。ウィーン、ガシャ!ウィーン、ガシャ!」

唯「それゾンビというよりロボットだろ」

ゆずこ「ゾンビって死んでるし関節曲がらないんじゃない?動こうとしたら普通にカクカクになりそうだけど」

唯「んー、まあ確かに」

縁「転んじゃったら起き上がれないね……」

唯「起き上がれないな」

ゆずこ「でも大丈夫、足の裏から何か噴射して空飛べるし」

縁「おおー、ゾンビさん空飛べるんだ」

ゆずこ「ロケットパンチも撃てるよ。関節外れて発射するよ」

縁「曲がらなくても安心だね」

唯「もはやゾンビの原型留めてないんですが」

ゆずこ「映画史における最初のゾンビの登場は1932年の『恐怖城』だって」

唯「結構古いんだな」

ゆずこ「最初の頃は脇役ポジだったけど、時代とともにゾンビが主役の映画が増えていったみたい」

唯「へえ」

縁「ねえねえ、ゾンビってどんどん増えるでしょ」

唯「ああ、うん」

ゆずこ「人類は減るけどね」

縁「地球が全部ゾンビだらけになっちゃったら、どうなるんだろ?」

唯「そりゃ、人がいなくなるんだからもう襲わなくなるだろうな」

ゆずこ「仕方ないから仲間を噛むのかな」

縁「ふぇぇ、共食い?」

ゆずこ「でもみんな死んでるから永久に噛み続ける」

唯「うわ、救いようないな」

ゆずこ「でも甘噛みだよ。微笑ましいよ」

縁「ううー、でも何か」

唯「絵面が怖いわっ」

ゆずこ「あのさ」

ゆずこ「例えば世界がゾンビに侵略されて、私達3人が最後の生き残りになったとするじゃん?」

唯「そりゃまた極端な状況だな」

縁「うえーん、皆ゾンビになっちゃったのー」

ゆずこ「そうだよー、……おかーさんもゾンビになっちゃったよ」

縁「おかーさーん……」

唯(ゾンビになった先生……いまいち想像できない)


がらっ


頼子「みんな、元気ー?」

ゆずこ「おかーさん……」

縁「おかーさん先生……」

唯「……」

縁「おかーさん。お願い、生き返って」

頼子「え?」

ゆずこ「私、おかーさんになら……噛まれてもいいよ」

頼子「はいー?」

唯「おーい、調子乗るな」

・・・・・・

頼子「ふーん、ゾンビの話をしてたの」

ゆずこ「おかーさんはゾンビから逃げきれそう?」

唯「……」

頼子「んー、そうねえ。先生、怖いのはちょっと。逃げ遅れちゃうかも」

縁「噛まれちゃったんだね」

ゆずこ「どこ噛まれたのかな」

縁「どこだろう」

じー

頼子「えっと、二人ともどこ見てるの?」

ゆずこ「おかーさん、甘噛みだから大丈夫だよ。痛くないよ」

縁「噛んだらちょっとこりこりしてそう」

頼子「ええー……」

唯「ゆずこ、縁。そのへんにしとけって」

頼子「それじゃ先生、職員室に戻るから。あんまり帰り遅くならないようにね」

唯「はい、分かりました」

ゆずこ縁「「はーい」」

ばたんっ


カタカタカタカタ……

ゆずこ「ゾンビが発生する原因っていろいろあるみたいだね」

唯「ウイルスとか呪いとか魔法の力とか幽霊の憑依とか……いろいろ出てくるな」

縁「ねえ、唯ちゃん」

唯「何だ、縁」

縁「もし私がゾンビになったら、唯ちゃん私のこと助けてくれる?」

唯「ん。そりゃ、助けたいけど。ウイルスの特効薬とかあったら助ける」

ゆずこ「じゃあさ、私と縁ちゃんが同時にゾンビ化したとして」

ゆずこ「特効薬が一人分しかなかったとしたら……どっち助ける?」

唯「えっ」

唯「……そんな、どっちって。選べるわけないだろ」

縁「え、じゃあ……唯ちゃん二人とも見捨てちゃうの?」

ゆずこ「唯ちゃん……ひどいっ」

唯「見捨てないって!絶対助けるよ」

ゆずこ「でも二人のうち一人しか助けられないよ?」

縁「どっち助けるの?」

唯「うう……それは……、決められない」

ゆずこ「いつ決めるの。今でしょ!」

唯「ネタが古い!」

縁「先送りしちゃうのー?」

ゆずこ「それじゃいつまでたっても法案成立しないよ!」

唯「決められない政治家か!」

ゆずこ「ねぇー、どっち助けるの~唯ちゃん」

縁「答えてー、唯ちゃん」

ゆずこ「助けて唯ちゃーん」

縁「唯ちゃん助けてー」

唯「う、……あたしは」




―――を助けると思う。



きーんこーんかーんこーん

ゆずこ「お」

縁「おー」

唯「……もう日も陰ってきたな」

ゆずこ「……そうだね、じゃ、今日はこのへんで切り上げますか」

縁「……さんせー」

唯「ゆずこさん、まとめお願いします」

ゆずこ「よしきた!」

〈ゾンビまとめ〉

あまがみ
痛いけど痛くない


唯「今日は甘噛みのごり押しだったな」

縁「ゆずちゃん、痛いけど痛くないってどういう意味?」

ゆずこ「甘噛みだから噛まれても痛くはないけど、感染して致命的だから社会的に痛いってこと」

縁「おお、なるほどー。ゆずちゃん、上手いね~」

ゆずこ「いやー、それほどでも~」

唯(社会的?)

―――――― 
―――― 


佳「お、情報処理部。今帰り?」

唯「うん、そっちも?」

千穂「うん。今日は委員会早めに終わったから」

ゆずこ「そうなんだ」

縁「ふみちゃんも部活終わったの?」

ふみ「佳が一人で教室に残ってさみしそうに校庭眺めてたから、早めに切り上げたんだ」

佳「なっ!なわけあるか。こっちはこっちで用事あったんだよ」

ふみ「えっ。帰宅部に放課後の用事なんてあるの」

佳「おう、やるか?」

千穂「岡ちー、まあまあ」

縁「まあ、まあ、まあー」

ゆずこ「今日は夕焼け綺麗だね」

千穂「そうだね。明日も天気良さそう」

佳「どっか寄ってく?放課後、買い食いとかしたりする?」

縁「私?するよー、唯ちゃんとゆずちゃんと一緒に」

ふみ「私ら今から屋台のクレープ買いに行くんだ。一緒に行く?」

縁「おお、クレープいいねー。行く行く」

ゆずこ「クレープ屋って商店街の手前の?」

佳「そ」

唯(平和だな)

千穂「櫟井さん?どうしたの」

唯「相川さん?」

千穂「あ、ううん。その、何か考え事でもしてるように見えたから……」

唯「考え事……。まあ、考えるほどのことでもないけどさ」

唯「究極の選択なんて、生涯することないだろうし」

千穂「究極の選択?」

ゆずこ「おーい、唯ちゃん、あいちゃーん」

佳「こっちこっち」


唯「あ、うん。今行く――さ、行こっか。相川さん」

千穂「あ、うんっ」




大切な友達と一緒に送る

こんなありふれた毎日が

これからもずっと続きますように



                                   (おしまい)

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