風花「猫耳で恩返し」 (56)


風花は猫耳! このみさんは犬耳(たれ耳)!
未来は文鳥! ふぉおおぉおお! あっ鳥って耳ねぇ! いやあるけど特徴ねぇ!

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奥から引っ張り出してきたニット帽を手で軽く叩き、鏡の前でかぶってみます。
真っ白なニット帽はクリーム色のトレンチコートと合っていて、
私の洋服選びのセンスもまだまだ捨てたものじゃないなと思えました。

かぶっているニット帽をポンポンと叩いて形を整えると、手のひらに柔らかな抵抗感。

風花「うぅ……どうしてこんなことに~」

鏡の中のニット帽は私のくせっ毛と猫耳をしっかりと隠してくれていました。
……少し形が王冠みたいになっていますけど。


・・・・・・・・・・・・・・・


風花「サンタさんの衣装で撮影、ですか?」

P「うん。雑誌のグラビアだってさ」

ソファーに座りながら、プロデューサーさんから次のお仕事の説明を受けています。
ガラス窓は結露していて、
事務所と外の温度差はすごいんだろうなーと関係ないことを思ったりもしていました。

P「明日の午後一から撮影予定だってさ。まぁあそこは時間押すから読めないけど」

風花「午後一ってことはお昼は……?」

P「お腹まわりをむちぽよ~で行きたいなら食べていいよ?」

風花「うぅ……抜きます」

いただいた資料に書いてある雑誌は、どこかで名前の聞いたことのあるような青年誌でした。

P「明後日はラジオの収録。ほら、映画の感想を喋るラジオあったろ? 少し前に出させてもらったやつ」

風花「『そうだ、これ借りよ』ですよ」

P「そうそうそれそれ。前の回が好評だったからまた出て欲しいってさ」

風花「それはうれしいですね♪」

P「うん。こうやって仕事が増えていくのはいいね。俺も嬉しいよ」

手帳にペンを走らせながら、プロデューサーさんが笑いました。
私は目が線みたいになるプロデューサーさんの笑い方が好きです。
私もつられてほほが緩みます。


P「それじゃあそんな感じで」

手帳をパチンと閉じると、プロデューサーさんが席を立とうとします。

風花「あっ」

P「ん? どうかしたか風花?」

風花「あ、いえあの……えっとい、衣装はどんな感じなんでしょうか?!」

P「安心していいぞ。ちゃんと男性諸氏のハートをわしづかみに出来るやつらしいから」

風花「あ、安心できませんよぉ!」

言いたかったこととは全然違う言葉が口から出ていました。
うぅ……違うのにぃ。

P「大丈夫大丈夫。いつぞやのハロウィンみたいなことにはならないから」

風花「あ、あんなのセクハラです! セクハラ!」

P「わっはっはっは」

プロデューサーさんがひげダンスのようなステップで席から離れます。

風花「あっ! に、逃げないでくださいプロデューサーさーん!」


・・・・・・・・・・・・・・・


風花「渡せなかったなぁ……」

ため息のようにつぶやくと、真っ白な空気がオレンジ色の空に溶けていきました。
カバンの中には映画の招待チケットが2枚。
少し前に頂いたもので、今週末なら。

風花「お休みが合ったのになぁ……」

事務所からの帰り道をとぼとぼと歩きます。
冬の刺さるような風が吹くと、どこからかカーンカーンとさみしげな音が聞こえてきました。

風花「あ、ここの廃ビル取り壊すんだ」

見上げると、骸骨のような五階建てのビルに重機が乗っていました。
風に吹かれて何かがぶつかってあのさみしい音を立てていたのでしょう。

ぼーっと立っていると、妖怪に見下ろされているような、そんな気分になります。


にゃー


風花「猫ちゃん?」

目の前の廃ビルから猫ちゃんの鳴き声が聞こえました。
気付いたら、廃ビルの中に足を踏み入れていました。

風花「猫ちゃ~ん、どこですか~」

周りの建物のせいで廃ビルの中には陽光が届かず、なんだか薄暗く、
ところどころに雑草が生えていてさみしい感じがしました。
それでも、あんまり怖さは感じず、誰もいない教室のような静けさがありました。

「にゃ」

風花「あっ猫ちゃん!」

気付けば足元に白猫ちゃんが私のブーツにすりすりしていました。

風花「あれ? なれてる?」

「にゃー」

しゃがみこんで手を差し出すと、匂いを嗅いでほほをすりすりしてくれました。

風花「ん~かわいい~。よし、君は白猫だからユキちゃんだ!」

「にゃ」


風花「よしよ~し。あ、そうだ。ユキごはん食べる?」

カバンから、お昼に食べきれなかったおにぎりを取り出します。
ユキは「待ってました」と言わんばかりに目をランランと輝かせておにぎりを見つめています。

風花「ユキは現金だなぁ」

ラップを取り、一口大に手でおにぎりをちぎってあげます。
ユキは小さな口でおにぎりをがつがつと削っていきます。
豪快な食べっぷりに見とれているともうおにぎりはありませんでした。

風花「もうおしまいで~す」

手を開いて何もないことをユキに伝えると、ユキは納得したのか短く、

「にゃ」

と鳴いて暗闇へ消えていきました。

風花「またねー」


・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・


そして翌朝。目が覚めたら私に真っ白な猫耳が生えていました。


この真っ白な猫耳は私の意志とは関係なく動くみたいで、
どんなに手で押さえつけても次の瞬間にはピンと立ってその存在を強調してきます。

風花「うぅ、隠れてくださいー」

猫耳を隠せるように髪をセットしても、「いやだ」と言わんばかりに猫耳はピンと立ちます。

引っ張ったら取れないかな? と思い引っ張ってみましたが残念ながら取れませんでした。
ちょっと強めに猫耳をつまむと、お腹や足の裏をくすぐられたような感触があったのでここは敏感みたいです。
……今度から猫ちゃんの耳を触るときは気を付けようと思います。

猫耳を隠すために悪戦苦闘していたら、携帯電話が鳴っていました。
ディスプレイに表示されている着信相手はプロデューサーさんでした。

風花「はい、風花です」

P『おはよ風花。今日はいつもより遅いけどなにかあった?』

「なには」は間違いなくありましたよと思いながら時計を見てみると、
短針はいつもならもう事務所にいる時間をさしていました。

風花「あっ! す、すいませんすぐ行きます!」

そして私は去年の冬に買ったニット帽を取り出して、かぶってみることにしました。


P「珍しいね。風花から話があるなんて」

息を切らして事務所に来た私に、プロデューサーさんは「まぁまぁ」と言いながら暖かいココアをいれてくれました。
それをゆっくりと飲みながら私の中の覚悟を決めて、
プロデューサーさんに声をかけられたのは私が家を出てから一時間後でした。

風花「わ、笑わないで見てもらえますか……?」

プロデューサーさんを社長室に呼び出して、応接机を挟んで向い合せに座ります。
事務所だと、他の人に見られないで二人っきりになれる場所はここしかないので。
社長さんは今日もどこかへお出かけみたいです。

P「うん。笑わない笑わない」

どうぞとプロデューサーさんがうながしてくれます。
私はニット帽を取りました。


P「えーっと、なんていうか……猫耳だね」

風花「はい……猫耳なんですよ」

私のくせっ毛をかき分けるように、真っ白な猫耳は朝と変わらずそこにありました。
なくなってればよかったのに。

P「えーっと、今後はそういう路線で行きたいですって話? アベさんとかマエカワさんみたいな感じで」

風花「ち、違うんですよ! 朝起きたら生えちゃってたんです!」

P「……あぁ、昨日猫の恩返しでも見た?」

風花「見たことはありますけど違います!」

プロデューサーさんがソファから立ち上がって私の方に近づきます。

P「エイプリルフールにはまだまだ早いぞふう……すごいリアルな作りしてるなこれ」

風花「だから作り物じゃないんですよ~……」

プロデューサーさんが私の猫耳を凝視すると、私の視界はプロデューサーさんのネクタイで埋まりました。
すこしくたびれたワイシャツからのお洋服の匂いに、ちょっと男性の匂い。
こ、この距離は初めての距離でわ、私の精神衛生的によよよろしくありません。

風花「……ぷ、プロデューサーさん。あ、あのぅ……」

P「……えい」

風花「うにゃ!」

P「うぎゃっ!」

風花「あっプロデューサさん大丈夫ですか?!」

P「い、いいアッパーだ」


猫耳を触られて思わず飛び上ったら私の頭がプロデューサーさんのあごにあたってしまいました。
プロデューサーさんは片手でごめんごめんとしながらもう片方の手であごをさすっています。

風花「だ、誰か診てくれる人を探してきます!」

P「それはお前だろ」

風花「はっ! そうでした!」

P「大丈夫大丈夫。急に触ってごめんな」

「痛ててっ」とつぶやきながらプロデューサーさんはいたずらっ子のように笑います。
本当に子どもみたいなこの笑い方をされると大抵のことを許せちゃうから不思議です。

P「猫耳は性感帯って設定で行くんだな?」

風花「だから作り物じゃないんですよ~ってなんですかせいか……うぅ」

P「ん? 聖火?」

風花「なんでもないです」

私がそっぽを向くとまた「ごめんごめん」と片手でジェスチャーをしました。
最近、プロデューサーさんは私の反応を見て楽しんでるんじゃないかって気がしています。

P「急には触らないからその猫耳が本当に作り物じゃないかどうか見てもいい?」

風花「や、優しくしてくださいよ……?」

P「そういわれると乱暴にしたくなるのが男の性待って律子を呼ぼうととするのは待って冗談だから冗談」


私がソファーに座って、その後ろにプロデューサーさんが立っています。
手を両膝の上に乗せていると、手のひらが少し汗ばんでいるのを感じました。

……もしかしなくても今の状況ってちょっと、

P「よく見ると少し動いてるのな猫耳」

風花「わ、私の意志とは関係なく動くみたいです」

P「なるほど。じゃあ触ってもいい?」

風花「ど、どうぞ」

言ってから、プロデューサーさんが前にいなくて本当に良かったと思いました。
今の私は絶対に信号機よりまっかっかになっているはずです。真冬に冷房を入れて欲しいくらいに顔が熱いです。

P「えい」

風花「うにゃっ! ひ、引っ張るのダメです! ダメ!」

P「いや、取れないかなーと思って」

風花「それで取れなかったから困ってるんですよぉ」

プロデューサーさんは「なるほど」とつぶやいて猫耳を指でなぞります。
見えていないからか、他の人が触っているせいなのかはわかりませんけど、
外耳をなぞられると背中やわき腹あたりがぞくぞくするようなふわふわするような。

風花「んっ……」

P「」サワサワ

風花「……ぃ」

P「」サワサワ

風花「……んっ!」

P「やめよう。俺の理性が持たない」

風花「は、はいぃ……」


P「でもあれだな。本当に生えてるんだな」

そういいながらプロデューサーさんは私の猫耳の裏側をさすります。
まるで子供の頭をなでるような優しい手つきで猫耳の裏側をなでられると、ものすごく安心して心地よくて。
そういえば大人になってから頭なんて初めてなでられたなーなんてことも思ったり。

風花「はにゃー」

P「だいぶ猫になってるけど大丈夫か?」

風花「だいじょばないですー」

P「そうかそうか」

さすさすと大きな手でなでられるとなんだか眠くなってきました。

P「風花はご両親のどっちかが猫だったりしたの?」

風花「ちがいますー」

P「そうかそうか」

ねむいですー。


・・・・・・・・・・・・・・・


結局、私に猫耳が生えた理由は分からず、プロデューサーさんの「寝たら生えたのなら今日寝たら引っ込んでるかも」
ということになりました。
どういうことかはよくわかりませんけどそもそも生えた理由もよくわからないので仕方ないです。
適当に対処しようとのことでした。

風花「あっ! で、でも今日は撮影がありますよね? その時どうしましょう?」

P「かわいいからいいんじゃない?」

風花「か、かわっ?!」

P「大丈夫大丈夫。かわいいは正義。おっぱいは力。正義なき力は暴力」

……適当過ぎるのもどうかと思います。


カメラマンさんも「かわいいからオッケー」と言っていました。
……適当なのはよくないと思います。

衣装はビキニでした。なんかもういろいろと間違ってる気がしますけど適当だからいいことにします。


・・・・・・・・・・・・・・・


事務所のドアを開けると、外の冷気が髪をさらいました。
ニット帽をゆるくかぶり直して岐路につきます。

あいかわらず外は寒くて、風は昨日より強く吹いていました。
雲がせわしなく、オレンジの空をかけています。

今日の朝、猫耳が生えていた時はどうしようかと思ってましたけど、
今日、こんなにプロデューサーさんにかまってもらえたならそれはそれでいいかなーとも
まだぼんやりとした頭で考えていました。

あいかわらず廃ビルはお化けみたいで、さみしげな音も昨日より景気よく鳴っていました。
さみしげなのに景気よくってなんだかおかしいですけど。

きっといつか私に猫耳が生えているのが当たり前になったら、
プロデューサーさんも今日のようにはかまってくれなくなるかもしれませんけど、
それまではこのおかしな現象を楽しんでおけばいいかなぁ。

そうだ。もしこれがユキにごはんをあげた恩返しだったらユキにごはんあげないとなー。
……なんてのんきなことを考えながら帰りました。


その日はユキに会えませんでした。
そして今日の朝。目が覚めたら真っ白なしっぽが生えていました。


・・・・・・・・・・・・・・・


風花「ぷぷぷプロデューサーさん!」

P『おはよ風花。どうかした?』

風花「わわわ私猫ににゃっちゃいます!」

P『うん風花、まずは落ち着こう。状況が分からない』

風花「しっぽ! しっぽが! 隠せませんっ!」

P『……ミニスカートで来るしかないな!』

風花「行けませんよぉ!」

P『じゃあどんな服装だったら尻尾を隠せると思う?』

風花「え? ……ロングスカートとかワンピースとか?」

P『じゃあその恰好なら大丈夫だね。他に変なところはない?』

風花「えーっと……あっ! 耳が動かせるようになりました。しっぽも動かせるみたいです」

P『それじゃあ隠しやすくなったってことだ。だよね?』

風花「そ、そうかもしれません」


朝っぱらからの電話でも、プロデューサーさんはいつもの調子で、
その声を聴いているとなんだか半分寝ぼけていたような頭の中がすっきりしてきて少し冷静になってきました。

P『とりあえず今から車出して風花の家の前まで行くから、そこまでは来れる?』

風花「だ、大丈夫です」

P『30分もあれば着くと思う。対策はそこで考えよう』

風花「はい。……すいません」

慌ただしくかけてしまった電話を切ると、部屋にはいつもの静けさが戻ってきました。

風花「……うん。今出来ることをやろう」

私が今慌てふためいても耳もしっぽも取れないのですから、
大人の女性として冷静に対処をするべきなのです。きっと。

風花「……まずは」

……プロデューサーさんが来る前に外に出る準備をしないといけません。30分で。

風花「髪まとまるかなぁ……」

ベッドから跳ね起きると、バネが聞いたことのないような音を立てました。
……わ、私が勢いよくはねたせいですよね? 体重のせいじゃないですよね?


プロデューサーさんから「着いたよ」と電話がかかってきたのは私が電話をしてから20分後でした。
いつもの社用車にいつも通りプロデューサーさんがいるとそれだけで少し安心できました。

P「おはよ風花」

風花「おはようございますプロデューサーさん。さっきはすいませんでした。取り乱しちゃって」

P「大丈夫大丈夫。とりあえず乗って」

「失礼します」と言いながら助手席に座ります。
少しくたびれたクッションがもふっと包んでくれます。

フロントミラーには茜ちゃん人形(独眼竜)が取り付けられていて、車が振動するたびにぷらぷらと揺れています。


風花「……プロデューサーさん寝起きですか?」

車を運転するプロデューサーさんの横顔に、無精ひげが生えているのを見つけました。
よく見ればワイシャツも昨日のままのような?

P「気付いたら事務所で寝てたよ」

風花「ちゃ、ちゃんとお休み取らないとダメですよ……?」

P「年の瀬だから少しくらい忙しいのはしょうがないよ」

プロデューサーさんがハンドルから片手を離してあごをぽりぽりとかきます。
路面のでこぼこで車が少し揺れて茜ちゃん人形が左右に振られました。

P「そういう風花だって芸術的なはね具合じゃないか」

風花「こ、これは急にプロデューサーさんが来るから!」

結局20分ちょっとだけじゃ簡単なお化粧くらいしかできなくて、
私のくせっ毛はいつも以上にもしゃもしゃのままで。

風花「うぅ……手で押さえても爆発しちゃうんですよ……。矯正しちゃおっかなぁ」

P「えーもったいない」

風花「プロデューサーさんみたいに髪の毛がまっすぐな人にはわからない悩みなんです」

腹いせに指先で茜ちゃん人形をはじきます。
ぴんっとはじくと向こうにいって戻ってきて。……なんだか楽しい。


ぴんっ。ぴんっ。

P「それで、猫化の方はどう? 朝の電話だと大分深刻そうだったけど」

ぴんっぴんっ。

P「……風花?」

ぴんっぴんっぽんぽんっ。


P「風花!」

風花「えっあ、はい! どうかしましたプロデューサーさん?」

P「……」

風花「急に大きな声出すからビックリしちゃいました。……プロデューサーさん?」

P「……いや、大丈夫大丈夫」


・・・・・・・・・・・・・・・


ちょっと間抜けな音を立てて車が事務所裏の駐車場に停まりました。
車内の暖かい空気から真冬の空気の差はあまりに大きくて、思わずぶるっと震えてしまいます。
昨日よりも風が強いのも悪いです。

二階の窓が開いていて、律子さんの頭が出たり引っ込んだりしています。
なんだか人形劇を見ているみたいですこし面白いです。

P「行くぞ風花」

風花「はい。えっわわっ」

ぐいっと私の右手をプロデューサーさんが強くつかんで引っ張ります。
もちろんプロデューサーさんに手を握られるなんて初めてのことで。

風花「ぷ、プロデューサーさん?」

少し冷たく感じるプロデューサーさんの手からは、
私を逃げないように捕まえておきたいという意志が感じられるような握り方で。
準備なしで掴まれた右手はプロデューサーさんの大きな手で握られて少し。

風花「ちょ、ちょっと痛いです、プロデューサーさん!」

P「え? あ、あぁごめんごめん」

風花「あ、いえ、えっと……大丈夫ですけどどうして急に」

離された手を少しもったいないなと思いながら問いかけると、
私の手の前にプロデューサーさんの大きな手が差し出されていました。

P「……なんか、繋いでないと逃げ出しそうだったから」

風花「そんなぁ。猫ちゃんじゃないですよ私?」

ちょっと冷たく感じるプロデューサーさんの手を握りながら、照れ隠しのような冗談で答えます。
思わずスキップしたくなるような軽やかさが胸の中にありました。


P「おはようございま寒っ! 青森より寒っ!」

風花「おはようご寒い!」

事務所は少し暖かいかなーと思って入ったら窓が全開で外と同じ風が服で隠れていない足や顔に刺さります。
うぅ、今日は本当に寒いです。

律子「換気中ですからねー」

このみ「二人ともおはよう。アツアツのお二人さんにはちょうどいいんじゃない?」

このみさんが私たちの手を見てちょっとにやにやしながら言いました。

風花「え、えへへっ」

P「これには諸事情がありまして。ちょっと社長室借りますよ」

律子「換気中なので閉めないで下さいねー」


バタンと重厚な木製のドアが閉まると、社長室は少し暖かくなったような気がします。
昨日より少し綺麗で、きっとお二人が掃除してたんだろうなとわかりました。

P「昨日気になって少し調べた」

風花「何をですか?」

P「明月記、南総里見八犬伝、徒然草、あと俺の地元の民話にも少しあった」

風花「えっと……なんの呪文でしょうか?」

プロデューサーさんの口から呪文のような言葉がすらす

P「人が猫になる話だ」

風花「……え?」

P「人語を理解して人語を話す。人を食い殺しその人に”成り代わる”。そんな妖怪がいるんだよ。……風花、最近妙な猫に会った?」

風花「ゆ、ユキのことですか?」

P「そいつがきっと猫又だったんだよ」

P「こっから先は憶測でしかないんだけど、猫又は尻尾が二つある化け猫だ。
  もしかしたらその”成り代わる”対象に自分の尻尾を分けるんじゃないか?」

風花「ユキはそんな子じゃありませんよ!」

P「その尻尾。ユキって猫と同じような尻尾なんじゃないか?」

風花「違いますよ! ほら!」


律子「ちょっとプロデューサー。ドア閉めないでって……」

P「あっ」

風花「えっ? ……あっ」


ちょうどその時、私はプロデューサーさんにしっぽを見せようとしてドアの方に向いていました。
しっぽはちょうど尾てい骨あたりから生えているので、下着はずらして履いていました。
スカートをたくし上げてプロデューサーさんにお尻を向けているその姿はきっと、その……うぅ。


律子「な、なにさせてるんですかプロデューサー!!」

P「させ?! いや違う! させてないから!!」

風花「うぅ……うわーん!!」

律子「詳しい話は警察って風花さん?!」

P「あっ! ちょっと待って風花! 誤解を解いて!」


・・・・・・・・・・・・・・・


風花「うぅ……もういやぁ」

事務所を飛び出してあてどなく彷徨っていた私は、気付けばあの廃ビルの中で体育座りをして震えていました。
風をさえぎるもののないここはひどく寒くて、おしりには雑草がチクチクと刺さる感触まであって。
まるで警告音のように鳴る金属同士のぶつかるさみしげな音に責め立てられているような気分になってきました。

風花「どんな顔してプロデューサーさんに会えばいいの……」

服が汚れるのも気にせず、雑草のベッドの上に寝転ぶと私の視界がむき出しのコンクリートで埋まりました。
耳元ですとんと誰かの足音が聞こえました。

「にゃー」

風花「……うん久しぶり」

ユキは真っ白なしっぽを左右に振りながら、私に話しかけてくれます。

「んにゃあ」

風花「大丈夫じゃないよ……」

寝転んでいる私とユキの目線は全く同じで、「猫になったらこんな目線になるんだなぁ」なんてことを考えていました。

風花「ねぇユキ、私猫になっちゃうの?」

「んにゃ」

風花「もうすぐわかるよって何がわかるの?」


「にゃ」

風花「え? 外?」

ユキに言われて体を起こして外を見ると。

P「おーい風花ーどこにいるー?」

思わずまた体を伏せて隠れてしまいました。

風花「ぷ、プロデューサーさんだよ!」

「にゃー」

風花「い、「いってらっしゃい」っていってらっしゃれないよ!」

体を柱の陰に隠して歩道をのぞき見ながらユキに答えます。
プロデューサーさんは私たちのいる廃ビルにだんだんと近づいてきています。
何故か手には猫じゃらしと、私の宣材写真。それに……ツナ缶?


P「あ、すいません。この辺でこの女性を見かけませんでしたか?」

「いや? 見てないね」

P「そうですか。ありがとうございました」

どうやらプロデューサーさんは私がどこにいるのかを聞き込みしながら探しているようです。
……猫じゃらしとツナ缶はいらないんじゃないですか?

聞き込みをしながらプロデューサーさんが私たちのいる廃ビルの前で止まりました。
目の前には風船を持った子どもとそのお母さんがいて、お二人にも聞き込みをしています。

風花「……ねぇユキ。プロデューサーさんは私が猫になっても、いっしょにいてくれるかなぁ?」

「にゃん」

風花「準備して? なんのこと?」


今まで吹いていた風が一瞬止んだ次の瞬間、まるで台風のような強い風があたりをさらっていきました。
カーンカーンとなっていた音が止んで、大きなペットボトルがつぶれるような嫌な音が頭の上から聞こえました。

きっと、私とユキだけがこの次になにが起きるのかを理解していました。
でも私のやろうとしていることが私に出来るのか。そう考えると足が動かな

「そのために猫にしてあげたんだよ」

ハスキーな声でした。
ユキ、男の子だったんだ。

私は足に力を込めて雑草だらけの地面を蹴ります。

風花「うにゃー!!」


P「風花?!」

プロデューサーさんを左わきに。
お母さんとお子さんをを右わきに。

向かいのごみ捨て場まで10mくらい! 飛べ私!!

風花「にゃー!!!」


・・・・・・・・・・・・・・・


風花「けほっけほっ」

ごみ捨て場に背中から突っ込んだ私の上に、ほこりのシャワーが降ってきます。
もう、このお洋服は着れないかなぁ。

二人は呆然としながらさっきまでいた場所を見ています。
お子さんは私の頭についている猫耳を珍しがっていますけど。

「おねーちゃんねこさんなの?」

風花「うん。お姉さんは猫さんヒーローフウニャンなんだよ」

「ジバニャンのなかま?」

風花「ちょっと違うかな」

強風で落ちてきた貯水槽はその落下の衝撃そのままに電柱にぶつかって動きを止めています。
三人がいた場所のコンクリートがえぐられて、小さなクレータになっていました。
みんな無事で良かったです。

P「えっと、その、風花?」

風花「はい。なんですかプロデューサーさん?」

P「えーっと……いろいろ言いたいことがあって何から話せばいいのかわからないけど」

P「ありがと」

風花「どういたしまして」


・・・・・・・・・・・・・・・


次の日、目を覚ましたら猫耳もしっぽもなくなっていました。


P「あれはなんだったんだろうなぁ」

事務所でお仕事の打ち合わせをしていると、プロデューサーさんがぽつりと独り言のようにつぶやきました。
視線の先には皆のもらった表彰状やトロフィーに交じって、私がもらった感謝状が飾られていました。

風花「一飯の恩返しですよ」

私は警視庁さんから依頼のあった一日署長のお仕事のスケジュールを見ながら答えます。

あれからユキには会えていません。
プロデューサーさんの言った通り、ユキは不思議な力を持った猫ちゃんで、
私はユキから踏み出す勇気をもらったんだと思っています。

風花「プロデューサーさーん」

P「どうかした風花?」

風花「……この婦警さんの衣装、ちょっと丈が短い気が」

P「文句は婦警さんの衣装を決めた警察に言ってくれ」


べーっとしながら私は自分のスケジュール帳にお仕事の予定を書き込みます。先の予定までびっしりです。
少し先のカレンダーを見ると、行きつけの猫カフェのポイント2倍デーがお休みになっていました。

風花「プロデューサーさんプロデューサーさん、次のお休み一緒にいつもの猫カフェ行きましょうよー」

P「えー、休日は引きこもって寝てたい」

ユキからもらった踏み出す勇気。
お財布の中に大事にしまってある映画の半券のことを思い出しながらプロデューサーさんに一言。

風花「に、握ってないと逃げちゃいますにゃ?」


風花! 風花! 猫耳風花! うわぁああぁああ!
……ふぅ。風花とにゃんにゃんする話を書くつもりだったのにどうしてこうなった。

ネコ耳風花さん見たい
乙でした

>>2
豊川風花(22) Vi
http://i.imgur.com/bNa4NXX.jpg
http://i.imgur.com/7AVR6mC.jpg

>>35
秋月律子(19) Vi
http://i.imgur.com/BOOpSRh.jpg
http://i.imgur.com/2h6GElr.jpg

馬場このみ(24) Da
http://i.imgur.com/oz6p1Po.jpg
http://i.imgur.com/lwNDWen.jpg

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