輝子「今日も……一人、フヒッ」 (13)

モバマスSSです。

初投稿なので至らぬ点などあると思いますが、
よろしければお付き合いください。


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「すまん! 相手方がどうしても緊急の用事がということでな。すまないが時間を遅らせて欲しいということなんだ」
「い、いいよ。プロデューサーが、取ってきてくれた……仕事だし」
「本当にすまん。その間、どこかで時間を潰していてくれるか?」
「うん、大丈夫。ゆっくり、してるから」

 ……それが今朝のやり取り。
 お仕事が朝からあった予定だけど、相手の都合で夜に変わったらしい。
 それもさっき突然、電話で。プロデューサーの慌てようはそのせいだったのかな。

「フヒッ……はあ、やっぱり、私いらないから、後回しにされてるのかな。
 今日に限って、誰もいない。……キノコーキノコーボッチノコーホシショウコー♪」

 なんて心配事をポツリと漏らしてみる。
 シーン、と事務所が静寂を返してくる。胸に去来するもの寂しさ。

「……なんだか虚しい。今日に限って誰もいない」

 アイドルになれて、せっかく楽しくなってきたタイミングで、こんなアクシデント。
 神様は私を見捨てたのだろうか。

「いいよ。私にはいるから、ずっと一緒の友達が」

 今日はエリンギ。昨日はシメジ。明日は誰にしよう。
 いつだって持って歩けば私の側にいてくれる。……せっかくだ、今日は街をぶらつくことにしよう。

 町中は人で溢れていた。
 正直、人見知りする自分にとっては少々きつい人混み。だから人でごった返す前に出てきたんだけど、結果はもっと悪い方向に写ってる気がする。
 一人、町中でこうしていると、一人だけ浮いた感覚に陥る。
 逃げるように人通りの激しい道から逸れて、この時間賑わいのない公園へ。それもベンチに座らず、ベンチの裏を背もたれに、人の目に触れない死角に体育座り。

「はぁ……」

 ため息しか出ない。せっかく軌道に乗ってきたのかな、と思った矢先の出来事。

「やっぱり私、巡りあわせ、悪いね……フフ」

 そうだね、でも心配しなくても平気だよ。と目の前の親友は応えてくれた。
 今日は珍しく事務所に誰もいなかった。
 最近仲良くなれた(気がする)子も、今日は姿がなかった。
 ソロ活動、しているのか……それとも今日はオフだったのか。

「フヒ……実は、何も知らない」

 同じ事務所の子のスケジュールを把握してなかった。
 これじゃボッチって言われても仕方ない。ボッチノコー。

「星さん? こんなところで何されてるんですか?」
「フヒッ!?」

 誰!? 見つからないと思ってたのに。
 頭上から聞こえた声に反応して頭を上げると、逆光に照らされて表情はよく見えなかったけど、見覚えのある人の顔がそこにあった。

「こ、輿水さん……」
「何してるんですか? 座るならちゃんとベンチに座ったらどうですか?」

 輿水さん、私と同じ、シンデレラガールズ・プロダクションのアイドルの一人。
 一つ年下だけど、私より先輩。立派にアイドルをこなしている。
 私なんかよりすごいアイドルらしい。
 輿水さんは二人用のベンチの片方に座っている。ちらりとこちらを振り向いた後、開いたもう片方を見た。
 私は恐る恐る輿水さんの隣りに座った。……見た目だけなら、友達?

「仕事時間が変更になったので少し時間を潰そうと思ったら、星さんの姿が見えたので」
「え、見えた……?」
「あれで隠れてたつもりですか? 意外と丸わかりでしたよ」

 ボッチ、実は無視されるので、本当に隠れられてるかどうか分からなかった。

「こ、輿水さんは、仕事の時間変更って……」
「ああ、相手の都合で変更になったんですよ。まあ、ボクはカワイイので今回だけは許してあげましたけど」
「もしかして……」

 私が仕事の名前を告げると、「同じですよ。というか、気づいてなかったんですか」と返ってきた。
 自分のことで精一杯で、周りのことなんて気に留めていられなくて……。

「ごめんなさい」
「あ、いや、その、別に謝って欲しい訳じゃなくてですね」

 申し訳ない気持ちでいっぱい。
 こんなとき、なんて答えたら輿水さんは許してくれるのだろう。教えて、親友。
 ………。
 こんな時に限って何も応えてくれない。これが親友の応えなんだろうか。だとしたら、ちょっと手厳しい。

「ああもう! 星さん、少しボクと付き合ってもらえますか?」
「付き合う……?」
「ええ。どうせ暇ですよね? それならお茶でもして待ちましょうということです」

 私の返事を待たずに歩き始める輿水さん。
 慌てて後を追いかける。
 すると輿水さんはちょっとだけだけど歩調を緩めた。

「あっ……」
「どうしました?」
「歩く速さ、一緒……フフ」
「っ。ふ、ふん! ボクと同じ歩調とはなかなかやりますね!」

 ……輿水さんって、実は良い人かもしれない。
 親友のエリンギも柄を曲げてカサを垂れて頷いていた。





「ここはボクの奢りです。なんでも好きなものを頼むといいですよ!」
「で、でも、私の方、が……年上」
「アイドルでは先輩です。気にしないでください」

 ……お言葉に甘えてキノコグラタンとドリンクバーを注文。(ちなみに親友はお店の脇にあるプランターの側に置かせてもらってる)

「星さんって、キノコが好きなんですよね。いつも持ち歩いてますし」
「うん、親友。ここから、でも……声が届く、よ。フヒッ」
「そ、そうですか……」

 朝ごはん食べて来なかったから、実はちょっと……だいぶお腹空いてたり。
 フフ……キノコは愛でてよし食べてよし友達によしの三拍子。

「……美味しそうに食べますね」

 輿水さんはドリンクバーとトーストとサラダセット。女の子らしい食べ合わせ。自分とは大違い。

「……食べる?」
「んー、まあ、いただけるなら……あ、やっぱりいいです。そんな今生の別れみたいな顔されたら食べられないですよ。というか、無理やり食べないですから」
「フ、フヒ……そんな表情、してた?」
「ええ、思い切り」

 そ、そんな気はなかったんだけど。
 それに、友達を好きになってくれるなら、涙を呑んで譲ることだって。

「……親友までいなくなったら、ボッチッチー」

 フ、フヒ……笑いさえ出てこない。

「変な人ですね、あなたは」
「や、やっぱり、変なんだ……」

 こんなんじゃ、友達なんてできやしないんだ。
 アイドルなんて、やっぱり……。

「まあ、ボクはそんな個性的なあなたのことを認めてあげてもいいですよ。面白いですし」
「……フヒ?」
「いいじゃないですか、個性的で。それくらいじゃないとアイドル務まりませんよ」
「あ、ありがとう……」
「まあ、理解するのがちょっと大変かもしれませんが……」
「……ガーン」

 思わず口に出すくらいにショックを顕わにする。
 やっぱり理解されにくいんだ。

「ボクは優しいので、星さん……いえ、輝子さんを理解してあげますよ。フフン」
「な、名前……」
「イヤでしたらやめますけど」
「そ、そんなことない。……嬉しい。嬉しすぎて……ヒ、ヒャッハー! わ、私にも友達! できた! フヒ、フヒヒヒアッハッハ!」

「ご、ごめんなさい。ち、ちょっとテンション上がっちゃった」
「聞いてはいましたが、今のがライブ中の輝子さんのテンションなんですね」

 お店の人に声をかけられそうになったところを、輿水さんに助けてもらった。
 わ、私一人じゃ、きっと何も言えずにごめんなさいするだけだった。

「あ、ありがとう……こ、輿水さん。う、ううん、幸子、ちゃん」

 こ、こっちも勢いで名前で、呼んでみたり。
 は、反応がなくて、ちょっと怖い……。

「……ごめ、ごめん。やっぱ、り、今の無し……で」
「いいじゃないですか。そのほうが友達らしいですし」
「と、友達……ヒ、ヒャッ——!」
「騒ぐのは禁止ですよ」
「フヒッ……ごめんなさい」

 それから幸子ちゃんとは色々話せた。アイドルになった理由とか、プロデューサーがいつも生意気だ—とか。
 プロデューサーは、良い人、だと思うけど。友達、だから。

「結構話し込んでしまいましたね」
「ホントだ……もう、こんな時間」

 お日様が南中に昇る時刻、店内もごった返して、きた。
 ひ、人がこんなにいっぱい。気づかなかった。友だちとお話、恐ろしい……フフ。
 でも、こんなにいっぱいの人に囲まれてると……。

「今すぐ、ボッチになりたい……」
「ちょっ、どうしていきなりそんなテンション下がるんですかっ」

 それは、だって人前は……ねえ?
 テンション上がり切っちゃえばそうでもないけど、今は親友もすぐ側にいないし。

「ああ、もう。いい時間ですし、事務所に戻りますよ」
「え? あ、あの、まだ言われた時間じゃ……」
「いいんですよ。さっきプロデューサーから連絡ありましたから」
「連絡? もしかして、さっき携帯、いじってたのって……」
「ああ、メールが来てたんですよ。準備ができたって」

 準備? 現場に向かう準備かな?
 ここから事務所までは歩いて二十分くらい。
 その間、幸子ちゃんとは他愛無い話で盛り上がった。
 一番盛り上がったのは、やっぱり、プロデューサーの話。
 友達の友達が、友達だったりすると、話の種に、なるよね。
 事務所に着いた。 ……でも違和感がそこにあった。
 この時間、真昼間なのに、静まり返った事務所。逆に不気味。
 あ、親友はさあ入ろうって言ってる。
 なんか、いつもと違うから、入りたく……ないんだけど。

「さあ、行きますよ」

 幸子ちゃんが先に入ってしまったので慌てて後を追う。
 事務所は電気もついてなかった。暗闇……親友が喜ぶ、フフ。

「輝子さん、どうぞ」
「え……?」
「開けてください」
「あけ、るの? ……すごい、開けたら何かが待っていそうな、雰囲気」
「いいから、早くどうぞ。後が支えてるんですから」

 後ろに回った幸子ちゃんが背中を押してくる。
 恐る恐る扉を開けると、部屋はやっぱり真っ暗で、そのまま不思議に思ってまんま家辺りまで行く。なんにも見えない。

『ハッピーバースデー!』
「っ!?」

 突如鳴り響いたクラッカー音。
 暗かった部屋の電球に明かりが灯される。
 暗闇に慣れたせいで表情は見づらかったけど、私の目の前にいるのは、プロデューサーだ。逆光でよく表情が見えないけど、少し楽しそう。

「誕生日おめでとう。こんなサプライズしか用意できなかったけど、楽しんでくれ」

 そこで初めて気がついた。
 今日、もしかして仕事があったなんて実は真っ赤な嘘で……。
 そうなると、幸子ちゃんが私に付き合ってくれたのも実は今まで事務所に寄り付かないようにしていただけなんじゃないかと思った。

「ボクはそんな器用な真似はしませんから」
「………ゴ、ゴートォーヘヴーンッ!」
「って、いきなりテンション上げないでくださいよっ。嬉しかったのはわかりましたから!」

これでおしまいです。まとめすぎて?レス少ないですがご了承ください。
掌編でしたが、お楽しみいただけたなら幸いです。

HTML化は後ほどお出しします。

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