菫「冷たい別れ」 (382)

・菫「ファイト!」
 菫「ファイト!」 - SSまとめ速報
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・残酷な表現あり

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1360597156

 
午前10時26分

—あわい城・裏門前—


照「行って参ります」

淡「うむ。武運を祈らせてもらおう。——受け取れ」

照「これは……」

淡「五宝剣の一つだよ。私の本気の度合いをわかってもらおうと思ってさ」

照「私にはまだ扱いきれません」

淡「国最強の剣士には相応しいと思うけどね。お守りとして使いたまえ。そいつを振るのは最終手段だな」

照「しかし、淡様にもしものことがあれば……」

淡「五本も身体の中にぶっ刺してたんだ。一本ぐらいなくても問題ないさ」

照「……」

淡「それにこいつは饗宴と飢餓を孕んでいる。庇護を得るには戦場のほうが合ってるんだよね」

照「必ずお返しします」

淡「おう。清艶なるカントーの剣士に祝福あれ」


菫「よく見たら君にも尻尾がついてるんだね」

小蒔「うう……あんまり見ないでください……」

菫「なんで?」

小蒔「私の、霞ちゃんや初美ちゃんに比べて短いんです。だから恥ずかしくて……」

菫「小ぶりなのも可愛いと思うよ」

小蒔「みんなそう言うんです。だけど、竜人の尻尾は長ければ長いほど美しいという価値観があって、」

菫「その価値観を知らなかった私は?」

小蒔「えっと……」

菫「少なくとも、私は君へ慰めの言葉として使ったわけじゃないけどな」

小蒔「……ありがとうございます///」

玄「ちょいまてい! なに自然と落とそうとしてんだよ!」

菫「え……? そんなつもりはないぞ。ただ心からそう思っただけだ」

玄「天然かよ……」

 
玄「せっかく見送りに来たのにこうも見せ付けられちゃうとなー。今からお姉ちゃんを助けに行こうってのに、なにやってんだか」

菫「だから誤解だって」

玄「そーいうの! ……直したほうがいいよ。じゃなきゃ帰ってきたらお姉ちゃんにちくってやる」

菫「それは困るだろう。元いた私が」

玄「ずるいなぁ……」

玄「……助けてもらうんだから、ちょっとぐらいのオイタは見逃してあげるか」

菫「玄さんは優しいな」ナデナデ

玄「んん〜〜〜〜〜。……あっ」

小蒔「……」ジトー

玄「こらっ。菫ちゃん。頭のことは何度も言ってるでしょ!」

菫「ふふふ。そうだったな」

小蒔「……///」チョイチョイ

菫「ん、なに?」

小蒔「す、菫さん……。私もなでなでしてもらえないでしょうか……」

玄「ファッ!?」

 
玄「いいとこのお姫様なんでしょ!? はしたないぞっ!」

小蒔「あなたもしてもらっていたじゃないですか!」

玄「それは菫ちゃんが勝手に……」

小蒔「不可抗力だって言うんですか? それにしては気持ち良さそうでしたけど」

玄「むぅ〜〜。とにかくダメなの!」

ガオー! ガオー! ポコッ ア、ブッタナー ポコポコ イタイタタ ポコポコ


霞「小蒔ちゃんに友達ができてうれしいわ」

初美「玄なら誰とでも仲良くなれますよー」

霞「にしても菫さん、嫁ぎ先として良い物件だと思わない?」

初美「あの方は別世界の人ですよー。それに性転換の体組織変換なんて悪趣味ですー。悪趣味ババアですー」

霞「あらら?」尻尾ブゥオン

初美「あべしっ」ドゴゥ

 
照「お前らは一体何をしてるんだ」

玄「小蒔ちゃんが先に」ハァハァ

小蒔「玄ちゃんのほうですっ」ハァハァ

照「お守りは何をしていた」

菫「……私か!?」

照「仲裁ぐらいしろ」

菫「冗談だろ? この二人、本気で殴り合ってたぞ」

玄「そんなことないよ。ちょ〜〜〜〜っと強く叩いてただけだもん。小蒔ちゃんすぐ泣いちゃいそうだし」

小蒔「泣かないです! 私だって手加減してましたよ!」

菫「あれに巻き込まれたら体が無くなる」

照「そのための治癒魔法だ」

菫「このためではないだろ」

照「……そうだな」ニヤ

玄(わ、笑った!?)ガビーン

 
菫「じゃあな。ちゃんと大人しく待ってるんだぞ」

玄「待ってますう」

霞「小蒔ちゃん、頑張って」

初美「ですよー」

小蒔「はいっ。必ずや成功させてきます」

照「出発するぞ」

玄「ばいばい……」

パカラッ パカラッ パカラッ…



玄「……」ボー

初美「玄? どうしたんですかー?」

玄「なんだかもう、会えないような気がして……」

初美「何言ってるんですか。縁起が悪いですよー」

霞「……」




 
菫「商人を装い女三人で旅か……」

照「……」ヨミヨミ

菫「本を読みながらよく運転できるな」

照「馬車をひくのは楽だ。こいつらは頭がいい。余計なことをしなければ勝手に道に沿って歩く」

菫「そういうもんか」

照「……」ヨミヨミ

菫「何読んでるんだ?」パシ

照「あ、こらっ」

菫「創作菓子のいろは……?」

照「返せバカ!」パシ

菫「……」

照「……なんだその目は」

菫「意外」

 
照「……ふんっ」

菫「かわいいところもあるじゃないか」

照「私だって常日頃剣を振ってすごしているわけじゃない」

菫「魔法学の研究もしているんだろ? それに部下の剣術指南も」

照「それを除けばいくらだって時間はある。静穏な世の中で血を吐きながら国へ従事するやつなんてそうはいないぞ」

菫「静穏か……」

照「お前の世界に比べれば、争いごとは多いかもしれない。だがな、歴史と比べれば今が最上だ」

照「……そのせいで宥の誘拐も防げなかったのだがな」

菫「手口は分かってないのか?」

照「ユーチャーは人見知りが激しいから容易には気を許さない。変装しようにもそれなりに複雑な変異・装飾・幻術魔法でない限り騙し通すことは不可能だ」

照「よって知り合いに扮し、不意打ちを狙った誘拐の線は消えた」

照「次に想定されたのが身内による暗躍」

照「そこで、まず疑われたのが菫だ」

続きをずっと待っていた
支援

 
菫「……? なぜ?」

照「玄を除けば宥と最も親密な関係だからだ」

菫「ますますわからん。公安にでも目を付けられていたのか?」

照「コウアンという意味はわからないが、国の執行部隊の要注意者リストのトップにあがっていた。菫による国を脅かす計画……、」

照「……末端都市を利用した自治区宣言とそれに伴う実行支配だ。宥は菫に誘われ、計画発動まで一時的に身を隠したのだと思われた」

菫「つまるところ危険人物じゃないか」

照「あらゆる面で能動的な性格がやつらの直感に触れたらしい。宥さえ説得すれば玄もついてくることは確実だしな」

菫「ふーむ」

照「菫は見つけ次第拘留された。暴れる菫を抑えるのに私も加わったが、骨が折れたよ」

照「その後すぐにナガノで任務中のスパイから、宥とおぼしき竜人を発見との念号が幾人かを経由して届いた。そうして潔白が証明され、ようやく釈放」

照「結局手口は謎のままだ。対竜人用に育成された兵士を数人のバックアップのもと、力任せに誘拐……これが脳位の連中が出した答えだ」

菫「照はそれで納得しているのか?」

照「いや……、あらゆる面でリスクが高い。そこから得られるメリットも想像しにくい」

照「責任と云う名のサイコロの出目に、自分の名が書かれていることを嫌がった能無しどもの妄想だ」

 
菫「……」ジー

小蒔「な、なにか……?」

菫「昨日みせてくれた幻術魔法。アレなら可能なんじゃないかって……」

小蒔「……もしかして、私を疑ってる……」

菫「い、いやそうじゃないんだ。ただ、」

小蒔「……」ションボリ

菫「小蒔さんを疑ってるわけないじゃないかっ。まずやる理由が無いし、それにこんないい子が、なぁ?」

照「私に振るな。……、そうだな、竜人であれば竜人を連れ去ることはできる」

菫「お、おい」

小蒔「……っ、」ジワ…

照「ただ、あれだけ幻術を行うために魔法濃度を高くすればそれに対して淡様や玄が気付ける。竜人、というより神代が加担した可能性はない」

菫「だって! ほら、だからもう」

小蒔「……」ポロポロ

菫「泣かないでくれ、頼む」

照(……いい気味だ)

 
小蒔「あたま」

菫「……えっと、な、撫でろって?」

小蒔「……」コク

菫「……」ゴクリッ

ソー  ナデナデ

小蒔「///」

菫(は、恥ずかしい!)


        しゅるるるる


小蒔「……」

小蒔「!っ、」バッ

菫「あれ? もういい?」

小蒔「へび」

 
菫「?」

菫「……へ、蛇?」

小蒔「ふぁ……、今私なんて……、」

小蒔「あう……、申し訳ありません、寝てしまっていました」

菫「寝てた?」

小蒔「悪い癖で、時折お昼の間でも睡魔に負けてしまうんです。何か私、失礼を……?」

菫「それは大丈夫。……一体いつ頃から寝てたの?」

小蒔「出発したあたりで記憶がないです」


照(……蛇……)

照(始祖……)チラッ

小蒔「お恥ずかしいところを……」モジモジ

菫「いや、ホントなにもなかったから」アセアセ

照(ありえるのか、そんなことが……)

今日はここまでです
こんな感じでゆっくりやっていきます
よろしくお願いします

咲SSでもやっぱり異色だなこれ
頑張ってくれ

北か

楽しみにしてる

頑張ってください〜
支援

 
◇◆◇◆◇◆

午後1時10分

—あわい城—

淡「宮永照」

照「はい」スススッ

淡「なんだその返事は! 気合がはいっとらん!」

照「はいっ!」

淡「ふふふ。……早口三唱!」

照「生ゴミ生米生たまろ! 生ゴミ生こみ生なまろ! 生ゴミ生ゴミ生ゴミロ!」

淡「ひっでえ……」ククク

照「申し訳ありません! 土下座するであります!」ドゲザー

淡「あひゃひゃ……もうだめ、」プルプル

照「この胸甲……おっぱいが邪魔できついであります」

淡「ぎゃあっはっはっはっはっ!!」

照「ぷぷぷ……淡ちゃん笑いすぎ」プルプル

 
淡「流石はクロだね。完璧な変異魔法だ。どっからどう見ても照にしか見えない」

照(玄)「でもほんとおっぱいきついよ……」

淡「我慢してくれ。そいつは照の分しか用意されてないんだ」

照(玄)「んんん〜」むにゅむにゅ

淡「身長は少ししかいじれないんだな。まぁ、フードを被ってれば分かりづらいし、ばれないだろ」

淡「さて、それじゃあ我々も出発するか」






 
照(玄)「馬車なんて久しぶり〜」

淡「竜人は飛んでけるから楽でいいよな」

照(玄)「あれって意外と疲れるんだよ?」

淡「玄が下手なんじゃなくて?」

照(玄)「淡ちゃんてまず私の否定から入るよね!?」

淡「そーかな。ぬけてるクロが悪いんだよ」

照(玄)「ほらそうやって。……友達やめちゃおっかなー」

淡「悲しいこと言うなよ」

照(玄)「にやにやされながら言われても」

淡「この顔は元から……。私の友達はクロしかいないんだ。だからやめるなんて言うな」

照(玄)「そ、そこまで言うなら続けてあげてもいいかなっ」

淡「……ふふ、ありがとうクロ」

照(玄)「……///」ウツムキ

淡「……ん」ノビー

照(玄)「……」ジー



照(玄)「……淡ちゃんてさ、」

 
淡「ん?」

照(玄)「その……昔からずっと一人……?」

淡「どうだろ……。物心ついたときから勉強漬けの毎日で、」

淡「……そうだね、友達なんてやつはほとんどいなかった」

照(玄)「へぇ、」

淡「街へ降りてもさ、やべぇ血筋だって知られてるから誰も近づいてこなかったな」

淡「先代とその取り巻きが“謎”の集団失踪を起こすまで私はずっと一人だった。皇帝の椅子に着くまでずっと」

照(玄)「(集団失踪……)」

淡「……ちょっとでも人気が欲しかったから、国民のためならなんでもしようとした」

淡「徐々に私の人気が出てきたとき、ナガノからある一家が移住してきたんだ」

照(玄)「照ちゃんと、」

淡「サキ。……今思えばあの子は初めての友達だったかもしれない」

淡「お城の近くの魔法専門の学校で出会ったのが最初。……だったような気がする」

淡「サキもぼっちでさあ、ナガノから来たってだけでいじめられてたんだ。ま、そこで皇帝淡が人肌脱いだわけよ」

照(玄)「……その話長くなる?」

 
淡「あと三時間は語れるぞ」

照(玄)「んじゃあまた今度聞くよ」

淡「なんだよひでぇなー」ハハハ

照(玄)「帰ってきたらちゃんと聞いてあげる」

淡「おう」




照(玄)「(だって淡ちゃん、)」


照(玄)「(悲しい顔してたんだもん)」


 
◇◆◇◆◇◆

午後5時3分


小蒔「そろそろ、ですね」ドキドキ

菫「うん」ドキドキ

照「神代。最初で最後の仕事だ。失敗するなよ」

小蒔「は、はははいっ」

菫「余計なこと言うな!」

照「この程度で失敗されたら困る」

菫「いやまぁそうだけど」

照「査証へのサインがほしい。方法は任せる」

小蒔「えーっとじゃあ、査証の文字と私達の姿を誤魔化す方向でよろしいですか?」

照「可能であれば」

小蒔「わかりました」フンス





 「次、入れ!」

照「……カントーの行商です。査証と許可証を、」スッ

 「……女三人か珍しいな。荷物を検めさせてもらうがよろしいか?」

照「ええ」

菫(幻術にかかっているのかいまいちわからないな。小蒔さんは指向性と言っていたが)


 「——おいっ!!」


菫「!」

小蒔「!!」

 「なんだこいつは」

照「20年物のウイスキーですよ。それがなにか?」

 「15年以上貯蔵した酒は交易酒煙法にひっかかる。それを……」

照「……承知の上です」

 
 「もしや……」

照「はい。ここは穏便に」

 「何本だ」

照「2本でどうでしょう。丁度戦乱前に造られたレアものですよ」ニッコリ

 「なるほど、わかっているな。それでも儲けは出るのか?」

照「ナガノでは酒造が少ないですからね。差し引いたところで利益に問題はありません」

 「ふむ。……通行を許可する」ポン

照「ありがとうございます」

 「これからもこの検問所を利用しろ。私であれば必ず通してやろう」

照「では上への連絡は、」

 「ああ、何があっても伝えない。そうしなければ私の首が飛ぶからな」ハハハ

照「ご好意、忘れません」

菫(そのためのウイスキーだったのか)ホッ

照「それでは失礼します」



 「………………ちょっと待て」

 
照「はい? まだ何か?」

 「お前ではない、奥の」

小蒔「わ、私ですか?」

 「ああ」



 「その尻に生えたものはなんだ?」



小蒔「!!!!」

照(……マヌケが)

小蒔「こ、これはですね、」

 「おかしいぞ。この査証には人間と書かれている。そもそも現在ナガノは竜人の入国は断らせてもらっている」

菫(まずい、)

照(思念操作が効かない、神代の幻術に押しつぶされてる。……かくなるうえは)チャキッ

小蒔「これは……、こういうものです」

 
スポン

 「おお?」

小蒔「付け尾というやつです。最近流行っていて……」フルフル

 「はははっ、なんだそういうことか。いやあ失礼した」

 「しかし、竜人の尾にそっくりだな。あまりナガノでそういった物を付けて闊歩するのは感心できんぞ」

 「なんていったって反竜人国だからな。没収はせんが隠しておきたまえ」

小蒔「はい。申し訳ありませんでした」フルフル

 「よし、引き止めて悪かったな。……商売がうまくいくことを祈ってるよ」

照「ええ、それでは」ニコッ

菫(……)ドキドキ

小蒔「失礼をば」ペコ

菫(小蒔さん、……血が……)





 
パチン

小蒔「あうっ」

照「とんだヘマをやらかしてくれたな」

菫「……照」

照「あいつが馬鹿でなければ検問にいた連中は皆殺しにしていた。わかっているのか?」

小蒔「はい……」ポロ

菫「照!!」

菫「……わかってるんだろ? この子が自分で尻尾を切ったこと」

照「それがなんだ」

菫「竜人は尾が長ければ長いほど美しいそうだ。それを、き、切り落としたんだぞ!」

照「私は人間だ。そんなこと知ったことではない」

照「原因は抜けていたこいつだ。そのための処置として自分で選んだんだ」

菫「だったら、」

照「それを知ったうえで叩いた。文句あるか?」

菫「てめぇ……!」

 
小蒔「菫さん、」

小蒔「照さんのおっしゃる通りです。全ての非は私にあります」

菫「……っ、」

菫「その尻尾……、治癒でくっつけられないのか?」

小蒔「出血を免れるため、傷口を塞いでしまったので、もう……」

菫「……そうか」

照「……」

小蒔「私は、お二人が、ご無事であったので、大丈夫ですっ」ニコニコ

菫「そんなこと言うなよっ」

小蒔「悲しい顔なさらないで。できればこれ」スッ

菫「?」

小蒔「竜人の尻尾は古い言い伝えだとお守りになるそうです。防腐の魔法を済ませてあるので、よろしければ」

菫「……」

菫「……ありがとう……」

 
小蒔「それでは私はここで、」ペコ

菫「また検問所を?」

小蒔「ええ。同じ要領で出て行きます」

菫「……」

菫「私たちのために、ありがとう」

照「……」

小蒔「はい。お二人の御武運をお祈りします」


ザッ ザッ …


菫「ちっ……」ギロ

照「……お前は甘い」

菫「なんだと……?」

照「あれでは成長しない。甘やかせては何の意味も無い」

菫「十分だろうが!!」

 
照「ここは仮にも作戦上敵国。つまらん慰めで油断して捕まりでもしたら、意味が無いと言っているんだ」

照「死んだら元も子も無い。殴られて鼻水垂らしてすむだけならそれでいい」

菫「くそっ……」

照「……いくぞ。計画が圧している」

菫「……」

照「……」

照「……『死して屍拾うものなし』」

菫「あ?」

照「昨日、思い出した。意味は、任務で死んだ人間はいないものとする。つまりは隠密に従事する人間に葬式はない、」

照「……死んだらそれで終わり」

照「あいつはそれを、『必ず生きて帰る』という意味合いを込めて弓に刻みこんだ」

菫「……」

照「必ず生きて帰るんだ。わかったか」



菫「……わかった」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
                 元世界
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


照「ふぁ」ビクン

咲「zzz」

照「……寝てたのか、」

照「昼の12時……」

照「……」ゴソゴソ

照「……」ヌクヌク

咲「zzz」スピー

照「……」

照「……」ナデナデ

咲「んん……」

照「……」ピタ

照「どこだあいつ」

 
◇◆◇◆◇◆

—駅前—

菫「〜♪」

菫(昨日の服代とケイタイデンワ代か)

菫(三万エンと言っていたな)

菫(照の家は裕福そうには見えない。どうにかして返さないと)
 

ジャラジャラジャラ


菫「……」ジー

菫「けたたましい店だな……」

菫「おい、お前」

 「本日は新だ——、はい?」

菫「この店は何を商っている」

 
 「ふつーのパチンコ屋ですよ? あ、お姉さんもしかして外国の人? ずいぶん日本語達者だけど」

菫「パチンコ?」

 「玉を出して、物品と交換。そしてそれを、……となりの景品交換所で買い取るというカタチなんですよ」

菫「ずいぶん回りくどいやり方だな」

 「色々あるんですよ。どうです? 今日は新台キャンペーンで出やすくなってます」

菫「ギャンブルか……。血が滾るな」

菫「よし、やろう」





 
菫(玉が出て穴に入れる)

菫(すると、真ん中の絵が動く。同じ数字が並べば“大当たり”)

菫(理解したぞ)

ジャラジャラジャラ

 <デデドン

菫「きた!」

 <デデドン

菫「確変? なるほどなるほど〜」

 <デデドン

菫「なんだ私は。神に愛されてるとでも言うのか」

ピロロロロ♪ ピロロロロ♪

ジャラジャラジャラジャラ

菫「大量大量♪」

 
◇◆◇◆◇◆

照「……」prrrrr

照「出ない……」prrrr

咲「んー?」モゾ

咲「……、あれ、弘世さんは?」

照「書置きが」ピラ


<世話になりっぱなしも悪いので金を持ってくる 弘世菫>


咲「わぁっ、達筆……。でもどういうこと?」

照「さ、さあ……」

照(不安しかない。しかも携帯出ないし)

グゥ〜

咲「///」

照「お昼にしよっか」

 
◇◆◇◆◇◆

菫「一玉4円だから……4万エンほどか。まあ、こんなもんでいいだろ」

菫「おい、換金しろ」

 「えっと換金ではなく……」

菫「ああ、そうだったな。面倒くさい」





ジャラジャラジャラジャラ

 「あざしたー」

菫「さてこれからどうしようか」

照・咲「あっ」

菫「おおう、奇遇だな」

照「……」ズカズカズカ

グイ

菫「こら何をする」

 
照「こっちの台詞! 何やってたの」ヒソヒソ

菫「ぱちんこ」

照「未成年はダメなんだよ! 補導でもされたら……」ヒソヒソ

菫「ほれみろ。金が手に入った。昨日の分を返そう」スッ

照「〜〜〜〜〜〜っっ、話を聞けっ!」

菫「」ビクッ

照「今あなたはこの世界の弘世菫なんだよ!? それなのにパチンコしている姿を誰かにでも見られたら、帰ってきた菫が迷惑すんの!」ヒソヒソ

咲「二人で何の話してるの……?」

照「——ああ、これはだ、その、」

菫「いや、このあたりで催してな。ちょうどトイレを借りに入ってたんだ。それを照が勘違いされるから止めろと」

照「そ、そういうこと」

咲「でもお金がどうって……」

菫「実家から金を持ってきた。丁度昨日切らせていて照に借りていたんだ」

咲「そういうことですか。私てっきりパチンコで稼いできたものだと」

菫「そんなわけないだろ? マージャンブ元ブチョウのこの私が」ワハハ

 

照(わかったことがある)



菫「二人はどうしてここに?」

咲「弘世さんを探すのも兼ねて、お昼だから外食しようということで」



照(こいつは嘘をつくのが得意だ。表情一つ崩さず平気で作り話をする)



菫「私もご一緒させてもらってよろしいかな」

咲「もちろんですよ」

菫「ありがとう」ニコ



照(咲を近づけさせてはいけない。そう囁くんだ、私のゴーストが)



菫「人が多いから手を繋ごう。離れないように」

咲「え、わ、私t 照「はいはいストーップ」

 
照「さっき言ったよね」

菫「人通りが多いから手を繋いで離れないようにする。何かおかしいか?」フフン

照「咲は私と手を繋ぎます。ほら、半径1メートル以内に近づかない」

菫「嫌われたもんだな」

照「その態度がおかしいって言ってるの」プンスカ

菫「そうだな。ちゃんと妹を守ってやれよ」

照「言われなくとも」

菫「……」ムフー

照「その満足げな表情はなに」

菫「いやあ、別に?」

照「何考えてんだかいまいちわからない……」

今日分終了です

おつかれさまです

菫だけ原型留めてねえな

たらし菫すき

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
                魔法世界
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


午後5時40分

—国境前—


照(玄)「……」

淡「……」

照(玄)「——っ」

淡「?」

照(玄)「今、ノイズ走らなかった?」

淡「いや?」

照(玄)「気のせいかな。最近多いんだよ。頭痛みたいな感じで」

淡「……最近って?」

照(玄)「二日前あたりから」

淡「二日前……。酒飲んだ?」

 
照(玄)「少々……」

淡「それじゃないの?」

照(玄)「かなあ。頭痛とまではいかないからそこまで気にしてないんだけどさ」

淡「……」


コンコン

 「女皇」

淡「ああ、」

淡『玄、今から私と二人きりになるまで一言も喋るな。返事も頷くだけでいい。文句を言われたら睨み返せ』

淡『それと何があってもキレるな。ユーのことも。自制が効かなくなったら強制的に外へ飛ばす。いいか』

照(玄)「……」コク


ガチャリ


淡「とうちゃーく」ストン

 
 「お待ちしておりました」

淡「へー、密会だってのにこんなところまで出向いちゃって」

 「最上の賓客を出迎えるのに、ここまで足を伸ばすのも苦ではありませんから」

淡「そういってくれるとここまで来た意味があるってわけさ」

 「ええ。ではこちらの馬車に」

淡「その前に、少し防壁を張らせてほしい。生身で行くほど愚かではない」

 「変わりませんね」


淡「そうさ。君は抜け目無いからね。原村和」

和「お褒めの言葉として受け取っておきます。カントー皇帝閣下」

淡「ふふ、なーにが閣下だよ、信州領姫サマ」

和「敬称を用いるのは特別ではありませんよ?」フフフ


照(玄)「(似てるなあ、この二人)」

 
◇◆◇◆◇◆

午後6時32分

—ナガノ南部—


桃子「補足したっす。ブルズアイ方位230、12キロメートル。こちらからでは肉眼不可っすね」

ゆみ「ルート361か。久の情報は正確だな」

桃子「感知域は……。うーん」

ゆみ「無理しなくていいぞ。今の使い魔は狼か?」

桃子「そうっす。周りを一度走らせたんすけど、40メートルあたりで一度歩くのをやめて尋常じゃない“濃霧”を出しました」

ゆみ「それは宮永照のほうか?」

桃子「いえ、弘世菫のほうっす。散布のせいで狼が侵入しようとすると妨害がおきるっす」

ゆみ「濃度だけでジャミング……。本物のようだな」

桃子「確認はとれたっす。いくっすか?」

ゆみ「ああ。どちらかの頭部さえ回収できればいい。作戦企画部はそう判断した」

桃子「じゃあ、」

ゆみ「一筋だけ落とす」


 
桃子「その前に森のみんなを避難させるっす」

ゆみ「……モモは優しいな」

桃子「そうっすか? 動物さん達が死んじゃうのは可哀想っす」

ゆみ「やっぱりお前はこの部隊に向いてない」

桃子「大きなお世話っすよ」

ゆみ「そういうことじゃない。私は、おまえ自身を評価している」

桃子「……?」

ゆみ「この作戦が終わったら、ナガノを離れて旅をしないか?」

桃子「!!っ、それって、」

ゆみ「……こ、告白だと、思っていい」カァァ

桃子「先輩!」

桃子「ちょーーーーーー好きっす!!!!!」ガバッ

ゆみ「わっ……、まったく……」ナデナデ

桃子「せんぱーい」ゴロゴロ

 
ゆみ「位置情報をコンマ1秒刻みで送信してくれ」

桃子「了解っす」ダキ

ゆみ「なぜ抱きつく?」

桃子「私の伝達技術じゃ遅延が生じるっす」

ゆみ「本当か……? 念話も念号送信も成績はトップだったじゃないか」

桃子「……そのへんは察してください」

ゆみ「はは、いじわる言って悪かった」

ゆみ「それでは、巨弾槍・イ号の安全解除」

ゆみ(宮永照、弘世菫……、君らには何の恨みも無いが……すまない)



ゆみ「投擲」

 
◇◆◇◆◇◆

菫「狼はいなくなったか……?」

照「ああ。私の感知域はな」

菫(狼……、渋谷は今どうしてるだろう)

照「集中しろ。六感が閉じてるぞ」

菫「……すまない」

照「考え事なら終わった後好きなだけさせてやる。今は救出の手順だけ考えてろ」

菫「了解」

照「……おかしいぞ」

菫「どうした?」

照「このあたりの動物達が私達の周りから離れていってる」

菫「お前が先ほど出せといって、硬直魔法を混ぜたアレのせいじゃないのか?」

照「違う、急にだ。これは、」

照「!!」ハッ

照「歯を食いしばれぇっ!!!」

 
菫の視界が回った。地面に叩きつけられてようやく照に投げ飛ばされたのだとわかった。

馬車から飛び出した照がこちらへ走り出す。そして、彼女はめくれあがる土と爆音の中に消えた。



———————————

——————————

—————————

菫「て——!」

——————

—————



菫「照!!!」

照「こっち……だ」ゲホ

菫「今の、爆発、」

照「……見つかっ、」

 
周囲の木はなぎ倒され、元いたその場所は半径30メートルのクレーターが広がっていた。

菫「腹から血が……」

照「服を、脱がして……くれ、」

菫「わ、わかった、今止血して、」カチャン

菫「…………内臓?」


菫「——うああああああああああああ!!」ドサ


照「黙れ……、早く、修復を」

菫「こんなの、私にはどうしようもないっ」

照「昨日、教えた、ことを」ゴボ

菫「照、死んじゃいやだ……」ポロポロ

照「手で、私の腸を押し込め……、そして修復しろ……」

照「飛んできた、石で、腹を割いた、だけだ。お前なら、できる」

菫「」ガクガク

照「……早く!」

 
ヌチョ

菫「うぁっ、」

照「押さえたら、腹の中に、右手ごとつっこめ」

菫「ふぅー、ふぅー」

ズリッ

照「うぅぅぅううう」

菫「わ、悪い、痛かったか!?」

照「……いいから、」

菫「死なないでくれ、お願いだ……」

照「集中、」

菫(そうだ、集中、集中!)


キィィィィィン


菫「よ、よし! 治り始めてる!」

 
照(四肢が吹き飛ばなかったのは不幸中の幸いか)

照(それよりも、菫が無事で……)

照「手をゆっくりと抜きながら治していけ」

菫「楽になってきたか?」

照「……お前のおかげだ」

菫「でも、私を助けたせいで、照がこんな目に……」ポロポロ

照「泣くな。現状に満足しろ」

菫「……さっきのあれは?」

照「……」

照「……昔見たことがある……、確か」


——テルー、私もあれ欲しいなー


照「神の杖、モールストライカー、巨弾槍……名称はいくつかある」

 
照「長さ5メートルの槍を地上から15〜25キロメートルの位置に相対固定の魔法で常駐させ、術者の指示で目標地点へ落とす」

照「あの爆発は全て運動エネルギーによるものだ」

照「ナガノの軍部が開発した高度兵器。私が知るのはそれだけだ」

菫「ってことは、私達の存在が、」

照「ああ、見つかっていることになる。……しかも、投擲にまるで躊躇がなかった。完全に侵入者扱いだ」

菫「早く逃げよう!」

照「待て。どちらにせよ、射手との戦闘は避けられない。おそらく射手は準備の必要な第二射よりも短期決戦を選ぶ。爆心地へと出向きケリをつけるはずだ」

菫「兵士がいっぱいきたら……?」

照「これは賭けだ。予想が正しければ、射手は観測手との二人一組、森の生き物を使役して私たちの位置を掌握した」

照「情報を可能な限り漏らしたくはないのだろう。我々を殺すつもりだが、その死を知られたくない」

照「相手は手練。追いかけまわされるのはこちらが不利。——よって、」

照「……迎撃がベストだ。殺してやる」


菫(照が怖い)

 
◇◆◇◆◇◆

ゆみ『目標地点まで2キロメートル。180秒後にクロス』

桃子『こちら3キロメートル。いまだ動物さんによる確認はできてないっす』

ゆみ『了解。先行は私が。久が言うには硬直魔法が初手、』

桃子『私、あの女嫌いっす』

ゆみ『私情を挟むな。とにかく、使われるとわかっていれば怖くはない。久には感謝しないとな』

桃子『……ふーん』

ゆみ『全く、もう……』



——加治木さん、今年の新人に東横さんているでしょう?


——あの子、少々問題が……。成績はいいのに周りと協調できなくて組む相手がいないの


——もし、あなたがよければ、……うん。様子を見てだめだったら私にまた言ってね



ゆみ(どうやら、私のベストパートナーだったようだぞ、久)

 
◇◆◇◆◇◆

照『今から念話を使うな。二人以上を確認したら同時に束縛しろ』

菫「……」コク

照『全員私が切り殺す。お前はこの下から出てくるな』

照『私が死んだら、即座に逃げろ』

菫「……」フルフル

照『……ならば戦士として最後まで私と戦うか?』

菫「……」コクコク

照(——馬鹿が……)

  
ザッ

照・菫「!」


ゆみ「……」

 
ゆみ(死体がない……。しくじったか?)

ゆみ(二射の準備……、いや、モモの支援を待とう)

ゆみ(そろそろ平常心を取り戻した狼が戻ってこれるはず)

ゆみ「……」チリチリ

ゆみ『モモ、死体が発見できない。支援を要請する』

桃子『了解っす。狼くんを使って匂いを辿らせるっす』

ゆみ『モモは今どこにいる?』

桃子『そこから1キロメートル離れた一本杉の上っす。加治木先輩の姿は視認できてるっす』

ゆみ『流石だモモ。獣操士としてはもったいない働きだぞ』

桃子『あとでもっと褒めてください!』

ゆみ『ああ、……念話を切る』

ゆみ「……」チリチリ


菫(一人……)

照『少し様子を見よう』

 
ゆみ「……」ジッ


照(全く動く気配がない、あいつは射手ではないのか?)

菫「……」

菫(女の子だ、私と同じぐらいの、でも、)

菫(あの子は敵なんだ。敵……私達を殺そうとした、敵)

グググ

照『おい、菫? どうした?』

菫「……」

照『問題ないなら、首を縦にふれ』

菫「……」コク…

照『やつは何かを探っている。観測手は確認できないが、もしかしたら特殊な人間なのかもしれない』

照『私が合図したらやつに硬直魔法をかけろ』


ゆみ「……」キョロ

照『やれ』

 
桃子『匂いが追えないっす』

桃子『たぶん動いてないのかもしれ——』


きゅいいいいいいいいいいん


ゆみ「つぁっ!」ズサ

照「覚悟」

ゆみ「ぐっ」


照の踏み込みにあわせ、ゆみは短槍で向かいうつ


照「!?っ」

照(硬直が効いてない!?)

菫「なんで、」


きゅいいいいいいいん


ゆみ「クソ!」ブン

ゆみ(普通じゃない! 防壁を三枚もぶちやぶりやがった!!)

 
照(発動音が聞こえるほど強力だったのに……、こいつ、)

照「らぁっ!!」ヒュン

二歩後退したゆみの右足をすくう。ゆみは丹田を軸に身体を強引に曲げ、宙を舞った。照の返しの一撃を鼻先でかわす。

照(硬直魔法回避に全力で防壁迷路を張り巡らせたのか。菫の本気を弾くほどの)

照(しかも、短槍の振り抜きから見て、白兵戦に自信あり)


ゆみ(残りの防壁は十二層)

桃子『せんぱい!』

ゆみ『来るな、弘世菫が確認できない!』

桃子『いやっす!』

ゆみ(……引くか? それとも——)


菫「て、照……どうしよう、効かない……」ガクガク

照『喋るな、一瞬で終わらす』


ゆみ「!!」

 
ゆみ『弘世菫は宮永の後方4メートルの落ち葉と土の下だ』

桃子『——了解』

ゆみ(こいつをこちらに)


ゆみがまた一歩引く。照はそのタイミングを見逃さなかった。
相手の軸足に体重が乗り切る前に、全力の跳躍。瞬速の詠唱。背筋が膨れ上がり、愚直に剣を振りかぶった。

短槍使いの射撃手は目の前の剣士に臆することなく、真鍮で覆われた柄を合わせ、刃を滑らせてからの後の手を狙う。
天性の槍術を持つゆみの行動は限りなく正解であった。上半身だけでふり下ろす剣の重さなどたかがしれていたからだ。

対する相手が小手先を無視した魔人の一振りという点を除けば、である。


ゆみ(重——)

金属の爆ぜる音を立て、短槍はゆみの右肩を巻き込んで真っ二つに切り落ちた。


ゆみ「——っ!!」

ゆみ(——身体をずらさなければ正中ごと持っていかれてた)


ぶしゅっ

ゆみ(……これは、助からないな)


ゆみ「はァーっ、ハァーっ」ドクドク

照「言い残すことは?」

ゆみ「何も、ない」

ゆみ『モモ、この場から離れろ』

桃子『せんぱい!!!!』

ゆみ『泣くな』

桃子『いやっす。私を残して逝かないでください!!』

ゆみ『聞け、巨弾槍全てを今から私の周りに落とす。ここいらをまっさらにしてやる』

桃子『先輩が、たすからっ、』

照「一瞬で済む」スッ

ゆみ『こいつらの死体を持って帰れ。私はお前が——



——最近どう? 彼女

——今までで最高の相棒だよ。これからも。



桃子「せんぱあああああああいいいいっ」

 
——ザシュ

菫「……っ、」

照「……終わった」ヨロ

菫「、」

菫「お、おい、お前また血が……」

照「傷口が少し開いた、すまない」ヨロ


——。


菫「……くる」

照「……?」

菫「照、」ガバ

照「え?」ギュ

菫「逃げるぞ」

今日分終了です
旅行へ出かけるので三日ほど空きます

乙です
待ってます

ゆみちん……

そういや未だに宥姉出てきてないんだな

前回、「次回はたくさん死にます」って>>1が言ってたこと思い出した
いっぱい死ぬのか……

宥姉ヒロインポジションなのにいつでるんだろう

もう死んでるかもよ
捕まって犯されて殺される展開はよくあるし、この1ならそれくらいやるんじゃね

いやそれは流石に…
ないよね?

ありだね

こっちに移ったと聞いて
続き楽しみに待ってるゾ〜

おつ

 
◇◆◇◆◇◆

午後7時48分

—ナガノ中央府—

淡「お、ここのステンドグラス替えたんだねぇ」

和「三年も前の話ですよ。よく覚えてらっしゃいますね」

淡「そりゃあまぁ。初めての国外旅行だったわけだし」

和「お互い若かりし頃ですね」

淡「今でもガキだろ。でもま、そっちよりはマシな立ち居地かな?」

和「傀儡であると?」

淡「それは私もだよ。自由度と言えばいいか。私は周りにイエスマンしか置かないからねぇ」

和「人形のいう事を聞く人形使いですか」クスクス

淡「ん、今そんな面白いこと言った?」

和「ええ」クスクス

 
淡「私が内政に力入れてるせいかもしれないけど、未だ大きな反発は見られないしね」

和「知らないうちに革命は起きるのですよ。だから“見られない”んです」

淡「ほー、やっぱり内戦国は言う事がちげえや」

和「……ナガノは既に平和の道を歩んでいますよ」ニコ

淡(お?)

淡「竜人待遇やら、移民政策も疎かじゃない」

和「火種を喜んで受け入れる国はないかと」

淡「そりゃあ貧弱な国力が全てを賄えてないからだろ」

和「……密会だからって少し口が過ぎませんか?」

淡(変わらないなこいつは)

淡「失礼した。とんだ失言であったな」

和「……いいです。それよりも、宮永少佐を傍に置かずに、」

淡「ああ、いいんだ。宮永はこの時間魔法学の学習をしている。友好国の敷地を味方なしで歩いても問題ないだろ? それともここは危険か?」

和「確かに。我が国の信用を否定する言葉でした。訂正させてもらいます」

 
淡「もちろん信用してるよ。さっきの夕食だって、宮永よりも先に私が口をつけたっしょ?」

和「……」ムカッ

淡(顔に出すぎだってんだよ……)


スタスタスタ


淡「おっとこっちは……」

和「申し訳ありませんが、そちらは外部の者を通すことはできません」

淡「隣国の皇帝でも?」

和「はい」

淡「愚鈍で人気取りが生きがいの小娘でもか?」

和「!っ……、はい、できないものはできません」

淡「ふーん、一体何があるんだか……」

淡(公邸に作戦支部か? ありえなくもないけど、レベルで言えばもっと上だ)

淡(これだけ中央政府に近いとなると……。うちんところの執行部隊みたいなもんか)

淡(転送位置の保存でもしておこ)シュン

 
ガチャン 

淡「む?」


 「……」


 「……」ペコ


淡(あいつどこかで……。帽子に隠れていたが橙で肩まで伸びる髪、なかなかの美人)

淡「んー?」

和「……どうかなされました?」

淡「んにゃ、なんでもないよ」

淡(記憶にはない。誰かからの伝聞……。というかあれ、思いっきり軍部のカッコウしてたな。そんなやつに知り合いになんかいないか)

淡「領姫殿、私は部屋に戻るよ」

和「それでは、明日の朝7時に使いをよこします」

淡「ほい。頼んだ」

和「……一人で大丈夫ですか?」

淡「たりめーだ」

 
◇◆◇◆◇◆

照(玄)「(頭痛い……)」ズキズキ

照(玄)「もう……」ズキズキ

コンコン

照(玄)「どうぞ……」

淡「どうよ、調子は」

照(玄)「ひどいと顔色悪くなるぐらい」

淡「そうか。ちょっと待ってて。この部屋全体に攻性防壁張るから」

照(玄)「悪いね……」

淡「……いいってことよ」


淡「こんなもんか」

淡「変装、解いていいよ」

ぼんっ

玄「……」ポケー

淡(こいつやっぱ胸でけえ)

 
淡「竜人の謎。巨乳率の高さ」

玄「……初美ちゃん」

淡「あれは栄養失調だろ。好き嫌い多いし、ろくに食わねーしで」

玄「お魚嫌いだからか……。あ、楽になってきた」

淡「長時間の装飾は相当きつい。明日も大丈夫そう?」

玄「うん。ま、お姉ちゃんに任せときなさい」

淡「……」

玄「なんか言ってよ」

淡「頼んだ」

玄「うむ」

淡「あ、竜人で思い出した。スミレのルーツについて」ポイ

ボスン

玄「うおう。古い本だね。どうしたのこれ」

 
淡「ここの書庫にちょいとお邪魔してね。無断で複製してきたわ」

玄「ふ、複製!? 淡ちゃん大丈夫? 死んじゃうよ?」

淡「ああ、魂のことなら人一人吸ってそいつの死体を元にして作ったから問題ない」

玄「それって」

淡「ここの司書。忍びこむとき邪魔だったから首だけ飛ばしてやったよ」ハハ

玄「っ、」ゾクッ

淡「いまさらびびるもんでもないでしょ。『作戦上必要な死だった。』これでいい?」

玄(淡ちゃんのこういうところ苦手だ……。私が言えることじゃないけど、味方以外には何一つ情がわかないんだ)

玄「そのへんの処理は大丈夫なの?」

淡「血一滴残らず再利用して死体はない。そいつがいないで騒ぎ出すのは明日以降だし、そんときゃノドカが私の足に頬ずりしているだろうさ」

玄「……」

玄「で、菫ちゃんのルーツって?」

淡「そいつの250ページ。異類婚姻譚のところ」

 
玄「……」ペラペラ

玄「神話の諸説かー。昔お姉ちゃんからよく聞かされたよ」

淡「その2ページ先、竜蛇末裔の章」

玄「……」

玄(読めない漢字多い……)

淡「おバカなクロちゃんに説明させてもらうと、竜人のご先祖様は異種姦をやらかした人間である」

玄「むっ……。でもそんなの今更珍しい説じゃないよ。私でも知ってるぐらいだし」

淡「その相手が蛇ってのは?」

玄「うん、有名な御伽噺だよね。八つ頭の蛇を殺して最後に白蛇の美女と結婚するやつ」

淡「白蛇は元々絶大な魂を持つ。神の遣いと云われるぐらいだから。……そしたらその変態共が生した子も、なかなかのなかなかだと思わない?」

玄「ありえん」

淡「なんでよ」

玄「人間と蛇とじゃ交尾できないじゃん」

淡「だから白蛇は人間に化けてヤったんだろ。そのへんは察せ」

 
玄「いまいち言いたいことわからないな。菫ちゃんに何の関係も……」

淡「あるだろ? あの中途半端にやべえ魂の源泉と学習能力がさ」

玄「神話の子が菫ちゃん……? ありえないよ。お母さん蛇になっちゃうじゃん」

淡「直接の子じゃない。何十世代も前の……。あいつが生きてきた世界は我々の世界と別方向へ進みまくっている。八つ頭の蛇なんてオカルトの域だろうさ」

淡「だけど言ってたっしょ? 『私の世界にもこの程度の科学力だった時代があった』って。ということはあるタイミングまで並行に事象が進んでいた」

玄「それ、自論?」

淡「そうだよ。別世界を確認したのは、多分だけど世界で私が最初だからね。天才ゆえしょうがないね」

淡「……ま、もしかしたらって話。スミレはあちらの世界の蛇の遺伝子を持ってして生まれた突然変異種かもしれん」

玄「納得いかないなぁ。魔法が存在しなかったのに蛇の末裔だなんて……」

淡「こっちに来て覚醒したんだ。魔法の元は竜人のみ理解する竜道。竜人の存在しないあっちでは開発のしようがない。そう考えるのが自然でしょ?」

玄「じゃあ、竜人が生まれなかった理由はなに? 始祖は存在するのにさ」

淡「さあ?」

玄「うーん、この」

淡「なにさ」

玄「ちょっと不確定部位が多すぎて、偉そうにのたまうことじゃないねっ」

淡「なんだとこの〜」モミモミ

 
玄「く、くすぐったいよ〜」

淡「何食ったらこんな乳ができあがるんだよー」モミモミ

玄「霞ちゃんに聞いてよっ」

淡「ありゃやりすぎ。デカ過ぎて需要が無い。200年も生きてるせいで新しい価値観に追いつけないんだねぃ」

玄「あ、ちくってやろーっと」

淡「はぁ? 私がまだカスミにびびってると思ってんの?」

玄「違うの?」

淡「……ごめんなさいびびってます。ちくらないで」

玄「えー、どうしよっかなー」






蛇……ちからもち、回復はやい、魔法がとくい、クモが天敵

 
◇◆◇◆◇◆

午後6時42分

地を揺らす爆音が四度鳴り響いた。一つ目は500メートルも離れてない。二つ目と三つ目は音がほとんど重なっていた。最後は——


桃子「せんぱい……」グスッ

桃子「どこすか……。返事してください」

桃子「なんで、なんで……」



桃子「あ、


おぞましいほど巨大な穴のふちに、上半身だけの、首と右肩がない死体があった



桃子「…………っあ、…………せんっ、」

桃子「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛……」

桃子「……うそ、……こんな…………」

桃子「……ナガノ、出てっ、旅するって、」

 
桃子「……」ポロポロ

桃子「……」グシ



桃子「……空、綺麗だなぁ」




桃子「先輩、ほら今日もお月さまがまんまるっすよ」

桃子「……明日も晴れるといいっすね」

桃子「釣り教えてくれるって言うから、わざわざムシに慣れといたっす」

桃子「釣竿もちゃんとしたの買ったっすよ」

桃子「ねぇ、だから」

桃子「……」





桃子「もういいや」




 
桃子『森のみんなに頼みがあります』

桃子『私の魂を全てあなた達へ差し出します』

桃子『宮永照と弘世菫を殺して欲しい。それだけっす』


アオオオオオオーーーン


桃子「はは、律儀っすね。こんな私の言う事を聞いてくれるなんて」

桃子「私の体も食べちゃって……、ください……」

桃子「先輩……、私もすぐそっちに……」



桃子(願わくば、生まれ変わっても、先輩を好きでいたい——っす)

 
◇◆◇◆◇◆

午後7時5分

菫「はっ、はっ、はっ」

菫(爆撃から逃げたと思ったら、狼の大群が出てきやがった)

菫(硬直が間に合わないっ)

照「——」

菫(照も意識がないし、くそ!)

菫「照! おい!」

照「……」

菫(どうしよう、どうしたら逃げられるんだ)


アオン ハッ、ハッ、ハッ


菫「こいつら……!」

菫(疲れて足を止めるのを待っているのか?)

  


ザー ザー


菫「!!」

菫「川が、」

菫(山岳部の雨のせいか。こんな濁流じゃあ……)


ウー グルル ウー


菫「『止まれ』!」

グルルル

菫「……埒があかない……」

照「すみれ……」

菫「っ、大丈夫か!?」

照「……とびこめ」グググ

菫「お、おい!」

照「……ねがい」ボソ

グラ

菫「うあっ!」

 
菫(落ち——


ドボン


菫(!!!??)

菫(これ、やばい、)

菫(照、)

菫(なんで、)



菫(息が、)







すみれちゃん。だいじょうぶ?

今日分終了です

おつ

待ってるよ?

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
               元の世界
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



照「菫食べすぎ……」

菫「む? 支払いなら私が済ませたじゃないか」

照「じゃなくて気遣ってるんだよこっちは。太らないの?」

菫「体重は増える」

照「そりゃあね」

菫「脂肪は増えない。ほとんど筋肉に変わる」

照「……今体重何キロ?」

菫「半年前量ったとき……92キロだったかな」

照「はぁ!?」

咲「!?」

 
菫「うん。みんなその反応をする。期待通りで嬉しいぞ」

照「だ、だって、見た目ほとんど菫と変わらないのに……、え? 本当に92?」

咲「見た目……?」

照「あ、いや、昔聞いたとき違うなぁーって」アセアセ

菫「あとでお前の家の、あの、浴場前にあった、あれが体重計だろう? ちゃんと証明してやるよ」

照(服を着てれば元の菫と見分けがつかない。それなのに、私の体重の二倍はあるじゃないか)

照「力こぶし作ってみて」

菫「こうか?」ミシミシ

照「おおう……。服の上からわかるレベルで盛り上がってる……」

咲「かあっこいい……」ウットリ

照「腹筋割れてたのにはびびったけど、まさかこれほどとは……」


 
菫「上腕二等筋は最大で三倍ほど肥大化する」

照「きもい」

菫「ひどいな」ハハハ

菫「……そうだ。一部だけ脂肪がつくぞ」

照「どこ?」

菫「胸」ニヤ

照「……っ」プルプル

咲「……」ペタペタ





 
咲「……」モジモジ

照「どうしたの?」

咲「ご、ごめん! ちょっとトイレ行って来るね!」

照「うち、そこだけど」

咲「ううう〜、間にあわなそう」

照「じゃあそこのコンビニに、」

咲「うん」スタタタタタ


菫「……かわいい」

照「あ?」

菫「怒るとこかそれ。……! おい、あれっ」

照「あ、たい焼き屋さんだ」

菫「私は、アレを、食べたい!」

照「しょうがないな」

 
照「つぶあん一つ、抹茶クリーム二つ」

 「あいよ! 照ちゃん久しぶりだねぇ」

照「おじさんがここにくるの久しぶりなんだよ」

 「あー、そっか。最近は駅前のほうでうちも商売できる場をとれたんでね。もっぱらそこで開いてるよ」

照「なるほど。買いに行く」

 「ありがとねー。ま、照ちゃんが来て欲しいっていうならここでも店開いたるよ?」

照「お願いします」

 「はははっ。ほれ、抹茶二つとつぶあん一つ。あわせて650円」

照「ぴったり」チャリン

 「確かに受け取りました。まいどっ」

 
照「……、食べないの?」モグモグ

菫「咲を待ってようと思って」

照「あの子はそういうの気にしない。それに家の前だから入ってから食べるよ。ほら、冷めちゃう」

菫「ならばいただこう」

モグモグ

菫「———Oh!」

照「熱かった?」

菫「あまい」

照「そりゃそうさ」

菫「茶に合うな」

照「うん」モグモグ

菫「……」モグモグ

菫「……」ゴックン

ペロリ ……ジー

照「いる?」

菫「いいのか?」

照「咲のはまた買えばいいし」

 
菫「照!」

照「……ん?」

菫「大好きだ!」

照「ブフォッ」




    「え?」




菫「ん? ——あっ」

 「菫、ちゃん」フルフル

菫「————玄と、宥?」

玄「この!」ブン

パチーン

菫「……」ヒリヒリ

 
玄「今日、お姉ちゃんが遊びに来るって約束、ちっとも覚えてなかったんですか!?」

宥「玄ちゃん……」フルフル

玄「電話に出ない、メールも無視、家へ向かって話を聞いたらっ」

宥「玄ちゃんやめて……」ポロポロ

玄「宮永さんの家へお泊り? どれだけバカにすれば気が済むんですか!!」

宥「くろちゃ、」

玄「お姉ちゃんは黙ってて!! 騙されたんだよ!? こんなのってないよ!!」

照「松実さん、誤解が」

玄「っっうるさい!!」

照「!っ」ビクッ

玄「宮永さんでも容赦しないです。私はお姉ちゃんを悲しませる人間は誰だろうが許さない」

宥「……」ポロポロ

玄「もう行こう」

菫「ちょっと待ってくれ」

 
玄「言い訳なんて聞きたくない」


玄「ケダモノ。一生お姉ちゃんに関わらないで」





照「……」ポカーン

照「……はっ」

照「追いかけなよ! 今なら間に合う」

菫「やめておこう」

照「なんで!?」

菫「玄が興奮しすぎていた。適当な事を言っても余計に突き放してくるだろう」

菫「『別世界から来て状況がわからなかった』では、相手方にとって馬鹿にされているとしか思えない」

照「でも、」

菫「一歩も引く気のない人間を説得するのは私には無理だ」

照「だ、だったらどうするの? このまま放置するの? 自分のせいじゃないからって誤解も解かず元の世界に帰る気!?」

菫「そんなことはしない」

菫さんの体が全く想像できない

 
タッタッタ

咲「お姉ちゃんと弘世さん、お待たせ」

咲「……どうしたの?」

菫「なんでもない……ことはない」

照「人事だからって冷静すぎじゃない?」

菫「……彼女らはどこから来た?」

照「……奈良の……確か、阿知賀ってところ」

菫「変わらないか。今すぐに家へ帰ることは可能か?」

照「そのつもりで来てれば、夜行バスなり新幹線なりで帰れると思う。だけどどうだろ、菫が浮気している前提で来たわけじゃないだろうし」

咲「浮気!? 弘世さん……?」ジト

菫「咲にも説明しなければならないか……。そうだな、少し時間をおいてから彼女らと中立の場で話す」

照「……どうやって連絡とるの?」

菫「ケイタイデンワを使えばいいだろう」

照「相手の番号がわからなければ繋げないよ」

菫「……しまった」

 
咲「あっ、私、阿知賀の大将を務めていた高鴨さんの番号がわかります」

照「……それで聞き出すと」

咲「はい、でも」チラ

菫「……」

咲「本当のことをしゃべってもらえないと、」ジリ

菫「それは後で玄と宥を含め話す」

照「!!」

照(咲のことも……かな……)

菫「照、お前が気にしていることにはならない」

照「そ、そうか」

咲「……」

咲(怪しい)



菫「宥……」

>>108
攻殻機動隊の少佐をイメージしてる

 
◇◆◇◆◇◆

咲「——090、xxxxのxxxx。合ってる? うん。ありがとう」

咲「ごめんね、急に。——ちょっと今は話せない。——またね。うん」ピッ

咲「……番号、わかりました」ピラッ

菫「ありがとう、さて」

菫「こんなところで買ってもらった携帯が役に立つとは」

咲「買ってもらった?」

菫「そのへんも後で、……照、これでいいのか?」

照「合ってる」

菫「よし、」ピピッ

照(躊躇ないな。いくらなんでも落ち着きすぎている。これがたらしの本領か)


菫「……」プルルル

菫「……」プルルル

 『誰、ですか?』

菫「弘世菫だ」

プツッ ツー ツー

菫「おい、宥?」

ツー ツー

菫「あれ?」

照「……見せて。……切られてる」

菫「……ふむ」

菫「もっかい」ピッ

菫「……」プルルル プッ ツーツー


菫「まずい」

照(……おそいよ)




〜15分後〜

照「私、咲、菫の携帯、そしてうちの家電が全て受信拒否されてしまった」

菫「八方塞がりだな」

咲「……なんかショック」ズーン

菫(宥の性格を考えれば、ここまで徹底するはずはないと思うが)

菫「なぁ、私は今までこういうことをしてきたか?」

咲「?」

照「淡尭レポートによれば浮気をしたことはない……はず」

菫「あわたか……? まぁいい。あちらからして見ればこれは初犯ということだな」

照「そうなると思う」

菫(常識的に考えれば初犯故、酌量の余地あり。よって宥の携帯を握っているのは玄の可能性が高い)

菫(手を出してきたのも玄だった。“ここ”でもあいつは姉狂いなのだな)

 
菫「玄を攻める……、か」

菫(口ぶりからしてここでの玄は常識をわきまえてる。“あっち”のバカとは違う)

菫「おい、今口にした淡尭レポートとはなんだ?」

照「……」

菫「どうした」

照「咲、向こうへ行ってなさい」

咲「え?」

照「今から大事な話を菫とします。子供が聞いていい内容ではありません」

咲「大人の話……?」ドキドキ

照「ちょっと想像しているのと違うぞ? 健全だけど、子供が聞いてはいけないのだ。わかったね」

咲「う、うん。寝室で本読んでるね」

トテテ

 
菫「健全なのに子供が聞いてはいけないだと……?」

照「ちょっと待ってて」





照「これがそう」

菫「なんだこの書類の束は」

照「引かないで聞いてくれるか?」

菫「内容によりけり」

照「淡と……もう一人の後輩に任せた菫と宥さんの関係をまとめた報告書だ」

菫「……」

菫「……は?」

照「引いた?」

菫「当たり前だろ!」ドンッ

照「ひっ」

菫「お前、今朝はあれだけ私の私生活をけなしたくせによくもこんな……」フルフル

 
菫「……これを作成する目的はなんだ」

照「奥手な二人を影で応援するために、行動を分析して、さりげなくサポートする」

菫「頭が痛くなってきた……」

照「でもでも! これのおかげで二人はうまくいってるし、ちょっと彼女らの私生活が筒抜けなだけだ」

菫「悪趣味すぎる……」

照「ううっ……」

菫「応援以外に用途は?」

照「もちろんない」ドヤ

菫「なんでしたり顔なんだよ……」

照「心配なんだよ。いつまでたっても二人の仲は進展しないんじゃないかって危惧してたんだ。だからこれが生まれた」

菫「照に心配されるほどのヘタレかよ。どんだけなんだここの私は……。会えたら一発殴っておきたい」

照(うわぁ。めっちゃ面白そう)

菫「とにかくよこせ」

照「口外しない?」

菫「ああ?」

 
照「これを誰にも。もちろん肉親にも」

菫「いいだろう。代わりにこの件が落ち着き次第処分しろ。お前が嫌いになる前に」

照「……嫌われるのはいやだなぁ」

菫「ならやるな」ギロリ

照「……わかった処分するよ。今後後輩にも同じ事をやらせない」

菫(こいつ、ふざけてたんじゃなくて本気で支援目的だったのか)

菫「……」

菫「悪いのはもう一人の腑抜けな私。そういうことにしといてやるよ」

照「ありがとう。……はい」パサ

菫「……」ペラ

菫「『第一章、再会する二人』……」




 
菫(時折現れる玄は、嫉妬心から茶々を入れてくれるものの、基本は二人の関係を容認しているみたいだな)

菫(およそこれを書いた人間の主観だろうが、経過につれて玄はもう一人の私に懐いている)

菫(信用が高すぎたせいの行動だろう。信じていたものにある日裏切られた結果が)



  『ケダモノ。一生お姉ちゃんに関わらないで』



菫「なるほどね」

照「なにが?」

菫「ここの私は、本当に糞真面目な性格なのだろう。それが裏目った」

菫「彼女らの母君は幼い頃に亡くなられている。そこで彼女は私を母親の代わりとして受け入れてたんだ」

照「宥さんが?」

菫「違う、玄だ。……聞くが、親が不倫していたら子はどう思う?」

照「どう思うかはわからないけど……、誰も信じられなくなるんじゃないか?」

菫「そうだな。それが今の玄の心境だ」

菫「問題は宥ではなく玄だ。あいつが宥へ私の電話を拒否させている」

照「……結局それ、わかったところでなんの解決にもなってないような気がするけど」

菫「いや、宥は私の浮気を懐疑している。玄に説得されようが心のどこかでは私の潔白を信じているはずだ」

 
菫「返す」

照「もういいの?」

菫「ああ、不要だ。……ちゃんと捨てておけよ?」

照「うん、約束する」

菫「後は待つだけだ。あっちのほうから連絡が入るだろう」

照「……」

菫「我慢できなくなった宥からな。不幸中の幸いというやつか。“私”が私じゃなくて良かったよ」

照「……?」





 <ナハハ、ンナコトアラヘンヤロ! ドッ!

菫「ははは」

咲(……普通にお笑い番組を見て笑ってる……。解決したのかな)

咲「あのう」

菫「なんだい?」


筋肉見せれば納得するな
宥失神しそうだがwwww

 
咲「先ほど、浮気がどうって……」

菫「ああ、あれか。そろそろだな。暗くなってきたし」

ピンポーン

照「」ビクッ

菫「ほら。……お前は何にびくついてるんだ」

照「え、だって……」

菫「照が出てくれ、私が出ては構えられてたと思われる。できるだけ刺激したくない」

照「うん、わかった」

菫「すまんな。私は遅れて顔を出す」

照(正直怖い……。包丁持って行ったほうがいいかな)


ガチャリ

照「はい、どなたでしょうか」

宥「こ、こんばんは……」

玄「……」

照「こんばんは」

 
照「さっきは、」

玄「私は止めました」ズイ

玄「話しても意味ないって、弘世さんは浮気者で最低なヒトだって、それなのに、」

宥「玄ちゃんお願い、話だけでも聞こ……?」

玄「……」

スッ

菫「宥」

宥「……菫ちゃん」フルフル

菫「会いにきてくれてありが 玄「近づかないで!」ガルル

菫「そうだな。誤解が解けるまでは近づかない。約束する」

玄「誤解……?」ギロッ

玄「二人で仲良くたい焼き食べて、大声で告白までして……!」

宥「玄ちゃんっ」

玄「……わかったよ。話を聞く」

 
菫「照の家で説明するのはフェアじゃないな。君たち、夕飯は?」

宥「……まだです」

菫「そうか、近くのファミレスへ行こうか」ニコッ

宥(あれ……? なんか違う、以前の菫ちゃんと……)

菫「咲ー」

ガタンッ

咲「はひっ」

菫「一緒に行こう」

玄「清澄の……大将さん?」

咲「け、決して影でこっそり覗いてたわけじゃ」アタフタ

菫「そうじゃない。咲も一緒に食べに行こう」

咲(ええ〜〜、この状況で?)

菫「君にも説明しておこうと思ってな」



玄「……」

今日分終了です


投下する機械と化してるな

続きが気になるどころの騒ぎじゃない
楽しみにしてる


こっちきてたのね〜

おつー
やっぱあっちとこっちで落差あるな

続きが楽しみや
ぼちぼち書いていってくださいな

乙乙
VIPでやるかと思ってたからノーマークだった

 
◇◆◇◆◇◆

玄「……」

宥「……」

照「……」

咲「……」

菫「ドリンクバーを五人前。カツどん特大どんぶりとナポリタン大皿で、チーズはナシ。和風キノコグラタンとふんわりオムレツとざるそばをそれぞれ一人前。
  から揚げを三人前。あ、それと……サラダ麺を一つ。これで頼む」

 「繰り返します、ドリンクバーを———

咲(道中誰も喋らなかった……。今も注文以外口を開かないし、……すごく居辛い)

咲(私が来る必要あったのかな)

菫「さて……、」

菫「とりあえず私の“異常”さを理解してほしい。話はそこからだ」

宥「……?」

菫「照、硬貨を貸して」

照「……はい」スッ

 
菫「玄、これは本物か?」

玄(玄……?)「……うん、そうだけど」

菫「見てろ」
 

ぐにゅっ


 「「!!?」」

咲「すごい……。ゴムみたい折り曲げちゃった……」

宥「……」プルプル

菫「以前の私はこんな芸当できたか? 宥」

宥「できなかった……」

玄「……一体これが、なんだって言うんですか」

玄「手品を見せて、」

菫「ただこれから話す内容に対して信憑性を持たせたかっただけだ」

菫「本題。私はこの世界の住人ではない」

 
玄「……」

玄「……は?」

宥「どういうこと?」

菫「私は君らが知っている弘世菫ではないということだ。だから、」


ダンッ


玄「……」スッ

ザワザワ

玄「帰るよお姉ちゃん」

宥「え、え?」

玄「くだらない嘘をありがとう。さようなら」

菫(咲まで連れて来て、周りの目を気遣わせようとしたが、ここまでお怒りだとはな。……しょうがないか)

菫「宥、見てろ」

玄「マジックはもうたくさん。ほら、お姉ちゃん」



パキン

 
宥「ひぁっ」

玄「!!?」

宥「……す、菫ちゃん、なにやってるの……?」ガクガク

菫「小指を折った。覚悟の証ってやつだな」

菫「もう一本いくぞ。どこがいい?」

宥「やめて、もういいから」

菫「っ、」バキ

玄「……」ガクガク

菫「まだ、」

照「バカ! やめろ!」

菫「これでどうだ?」タラー

玄「聞く! 聞くよ!」

宥「菫ちゃん、お願い、もうやめて」ポロポロ

菫(……結構痛いなこれ)

 
玄「病院行かなきゃっ」

菫「こんなもんほっといても一日で治る。私の身体はおかしいんだ。言ったろ?」

咲「……——」ガクッ

照「……咲、咲?」ユサユサ

菫「気を失ってしまったみたいだな。割かしショックだったか」

玄「当たり前だよ!」

 「……申し訳ありませんが、他のお客様に迷惑になりますので店内ではお静かにお願いします」

菫「すまなかった。ほら、玄も座って」

照(いくらなんでもおかしい。痛くないのか?)

玄「あぅ」ストン

宥「……」

宥「……菫ちゃん、痛くないの?」フルフル

菫「全く感じないわけじゃないが、この程度、に、日常茶飯事だ」

菫(がまんがまん)プルプル

 
玄「……別の世界って……」

菫「本当だ。今まで私はくだらない嘘をついたか?」

玄「……ありません」

宥「だから今日の菫ちゃん、ちょっと違うんだ……」

菫「あんな(※淡尭レポート参照)腰抜けとは違う」フンス

宥「腰抜け……?」

菫「ああ」

宥「……訂正して」

菫「ん?」

宥「菫ちゃんは腰抜けなんかじゃないですっ」

菫「そうだな。未だに一途な女、一人抱けないようなやつは腰抜け以下だ」

照(それって自分にも当てはまるような……)

宥「っ、」


——ボスン



菫「——っ、いい右ストレートだったぞ、玄」

 
玄「お姉ちゃんは手をあげちゃだめ」

宥「……」フルフル

玄「偽弘世さん。あなたが弘世さんではないことはわかりました」

玄「なぜ、入れ替わったのか、私達に納得がいくように説明してください。それと、」

玄「弘世さんの悪口を言ったことをお詫びします。だから偽弘世さんも弘世さんのことを悪く言わないでください」

菫「それじゃあ、一体誰が陰口を叩かれているのかわからないな。……まぁいいさ」

菫「……なぜ今入れ替わったとわかった?」

玄「だってそうじゃないですか。元の弘世さんがいなくなって別世界の偽弘世さんが来たというのなら、そう考えるのが自然です」

菫「そうか。……そうだな」

宥「元の菫ちゃんは一体今どうなってるの……?」

宥「す……菫ちゃ——菫さん?」

菫「宥は、魔法の存在を信じるか?」

宥「魔法……?」

咲「ふぁっ」ピク

照「あ、起きた」

 
菫「竜道指南技術を人間は魔法と呼ぶ。定義は多少なりとも違うかもしれないがこの世界でもそう。だろ? 照」

照「所詮ファンタジーの、創作の世界だから人によりけりだけど、合ってる」

菫「それらが存在する世界から来た」

宥「10円玉を曲げたのも?」

菫「あれは私の指の力だ。恥ずかしながら全くの無才で私は魔法を使役できない」

菫「だからさきほどの行動は一種のパフォーマンスだ。ただこの世界に私のような特殊な体質を持った人間がいなければ、少なからず説得力はあったかもしれない。そのつもりでやった」

菫「で、ここの私と入れ替わった理由だが……」

菫「……」

菫「……私が世界移動を使える人間に無理を言って交換してもらった」

照「……」

宥「菫ちゃんはなんて……?」

菫「いや、何も伝えずにだ。彼女は強制的にあちらの世界に飛ばされたことになる」

玄「ひどい」

菫「反省している。大事な用があったとは知らなかった」

 
宥「信じられないけど……、信じたいです」

菫「本当か?」

宥「菫ちゃんはあなたのような適当な人ではありませんから」

菫「っ……、そうだ、な」

玄「弘世さんは無事なんですか!?」ズイ

菫「……もちろんだ。二三日で帰ってくる。今頃ドラゴンに乗って遊んでいるかもしれない」

宥「良かったぁ……」ホッ

咲「ドラゴン!?」

照「ぉおっ! 咲が食いついた」

咲「すごい、すごいです! もっと詳しく話してください!」

菫「あ、ああ。私の話でよければ」




 
玄「むむむ。私とお姉ちゃんがドラゴンになって空を飛びまわってるとは……」

菫「玄は燃焼系の魔法が得意だ。精神介入は下手だが念話やそれにともなう妨害も行える」

玄「なるほどなるほどー」モグモグ

菫「クワガタ戦争という昆虫相撲の5年連続優勝という実績も持ってるぞ」

玄「それは……微妙です」

菫「国別大会でだ。それなりに大金も動く。玄は誇りにしていたけどな」

玄「そうなんですかー」

照「私はええっと、近衛の兵だったか?」

咲「お姉ちゃんかっこいい!」

照「そ、そうかな?」テレテレ

 
菫「風を操り、肉体操作と相まって人外の剣術を扱う。我が国の一流の剣士で、唯一私に勝てる人間だ」

咲「すごいなぁ……。あっ、私はどうなんですか?」

菫「咲は……」

照(やば)

菫「……相当な魔法使いだ。姉とは使える属性が違って戦うことはできないが」

咲「会ってみたい……」

菫(間違ってはいない。咲は秀才だと聞いた)

照「機会があれば、だね」

菫「……」

菫「……少し席をはずす」

 
◇◆◇◆◇◆

—女子トイレ—


菫「……」

菫「はぁー」

照「何ため息ついてる」

菫「!!っ」ビク

菫「……なんだ照か」

照「なんだとはなんだ。心配して来てやったのに」

菫「……」

菫「宥を見たか? 最高の美人だった」

照「それが?」

菫「話を聞かせてから私と一度も目を合わしていない。……完全に拒否されている」

菫「同じ外見だけとは言え、つらいんだ。あそこまで徹底されるなんて」

菫「……先に戻る」

照「待って」

 
照「咲にはともかく、なぜ松実さん達には本当のことを言わなかったの? あれじゃあ菫がただのアホじゃないか」

菫「……こうするのが当たり前だ」

照「なんで」

菫「ここの“私”は私の替わりに向こうの世界へ飛ばされているのだぞ。死のリスクは0じゃない。包み隠さず宥に喋ってみろ」

菫「……気が気じゃなくなるだろう。血眼で何が何でも宥を助け出そうとしていた以前の私のように、足元が見えなくなる」

菫「死の運命に魅入られようと、無理やりにでも降ろされようと、代わりに立てられた者からすれば恨み言を吐かずになんていられない。ましてやその恋人なんて、」

照「……」

菫「もういいか? 戻るぞ。こんなことで宥に詮索されるのは嫌だ」


菫「私だって、本当は……」





 
◇◆◇◆◇◆

—宮永家—


宥「本当にお邪魔してもよろしいのですか……?」

照「うん、居間を使えば二人分寝れるし、私と咲は寝室を使う。菫は家の外にでも寝かせておけばいい」

菫「ははは、冗談きついぞこのー」グイグイ

宥「流石にそれは……」

照「ま、冗談はさておき一番奥の物置になっている部屋を使ってもらおうかな」

菫「物置かぁ」

照「小まめに掃除しているし、一人が寝るぐらいのスペースはある」

菫「クモは出るか?」

照「モリモリでてくる」

菫「……」

玄「苦手なんですか?」

菫「ちょっとだけだ。ちょっとだけ」

玄「弘世さんと一緒ですね」

 
菫「あれはなぁ。どうも目を見てると食われるような気がして……」

照「唯一の弱点じゃないかそれ」

菫「ああ、それと美人に弱い」ニコリ

宥「!っ……、」プイ

菫(ぐほぉっ)

照(……こいつのことがバカに見えてきた)

照「……泊まるところも確保できてないでしょ?」

宥「……はい」

照「女子高生二人が深夜に出歩けるほどここの治安はよくないんだ。漫画喫茶でも犯罪は起こる」

宥「本当、助かります」

玄「ありがとうございます。……それと先ほどは勘違いをしてしまい申し訳ありませんでした」アタマサゲ

照「いいよ。あれは色々とタイミング悪かった。……ね、菫」

菫「うん、そうだな……」

宥「……」ジト

菫「うっ……」

 
◇◆◇◆◇◆

〜深夜十二時〜


菫(眠れん)

菫「……」カチャカチャ

ピー ガシューンガシューン

菫「飽きたなこれも」3DSポイ-

菫「……」

菫「宥」ポツリ

菫(会いたい)

菫(会いたい、会いたい会いたい!)

菫(くっそ! なぜ私では……、いやわかっている、だけど……!)

菫「……」ブツブツ

菫「……明日また淡様に聞いてみよう」ブツブツ

菫「お……、お絵かき機能……?」

菫「タイトル……Y・U・U……宥……、よし」

 
〜10分後〜

菫「神童菫は絵の天才でもあったか……。ふふふ。いい出来だ」

コンコン

菫「もうちょっと腰周りを引き締めるかな」キュッキュ

菫「面倒だ。剥いてしまう」ケシゴムケシー

コンコン

菫「……誰だ」

 「……宥です」

菫「怪しいな。本物なら六芒星外円の無限数を12進数に置き換えて45桁まで暗唱できる。やってみろ」

 「ろ、ろくぼうせい……?」

ガチャリ

菫「冗談だ。どうしたこんな夜中に」

宥「……ト、トイレに……」

菫「え?」





 
ジャー

ガチャリ

宥「ごめんなさい、ついてきてもらっちゃって」

菫「あのエイガのせいか?」

宥「……はい。恥ずかしながらホラーものって苦手で……」

菫「見なければいいじゃないか」

宥「でも、私だけが見ないってのも、」

菫「君もあれだな。自己主張が弱い」

宥「うう……」

菫「私の声が聞こえなかったらどうしてたんだ?」

宥「日が出るまで、我慢してました」

菫「……、まぁ人にはいろいろと苦手なものがある」

宥「あの、このことは誰にも言わないでください。お願いします」

菫「よし、じゃあ一つ付き合ってくれ」

宥「?」

 
◇◆◇◆◇◆

—宮永家玄関前—

菫「寒くないか?」

宥「はい、これだけ着込めば」モコモコ

菫(丸い)

菫「階段で転んだら下まで転がっていきそうだな」

宥「これでようやく寒さを凌げるんです」

菫「君も、寒がりなんだね」

宥「……はい」

菫「同じだな……」

宥「……」

宥「……指、大丈夫ですか?」

菫「ほら」クイクイ

宥「え、……治ってる!?」

 
菫「見た目はね。筋が完全には繋がってないが、痛みは無い」

宥「触ってもいいですか……?」

菫「どうぞ。好きなだけ」

宥「本当だ……すごい」クニクニ

宥「……」クニクニ

宥「あっ、ごめんなさい、ついに夢中になっちゃって」

菫(……)

菫「先ほどはすまなかったな。君の恋人を侮辱してしまった」

宥「……あれ、本気じゃないですよね……?」

菫「なぜそう思う?」

宥「なんとなくですけど、嫌われようとしているのかな、と」

菫「……それは気のせいだよ」

宥「嘘をつくの、わかるんです」

 
宥「必要以上に目線を合わせませんか?」

菫「さあ、あまり嘘をついたことがないから(大嘘)」

宥「ほらまた。並んで歩いているのにこちらに目くばせしたでしょう?」

菫「……む」

宥「菫ちゃんと一緒。言い出せないことで小さな嘘をつくんです。菫ちゃんだけが悲しむことを、私のために平気で被る」

菫「それでは君の重荷にもなっているだろう」

宥「かもしれないです。辛いことがあればもっと言って欲しい。せっかく恋人になれたのに……」ウツムキ

菫「」ムラッ

菫(まずいまずいまずい! このタイミングで劣情はまずいぞ!)

宥「あ、自販機ありましたよ」

菫「……ああ」

菫(尻ぐらい触っても……。いやいや、向こうに行った私に示しがつかない……。でも、これだけ厚着してるし、ちょっと触ったぐらい……)

宥「硬貨をこの穴に入れて、ほら、光りましたよね。そして押すんです」ピッ

菫(耐えろー。耐えるんだスミレー)

 
宥「はい」ニコ

菫「ありがとう」ススッ

宥「?、 コーヒーで良かったですよね?」

菫「うん。そうだヨ」





宥「東京でもこれだけ星が見えるんですね……」

菫「私の世界ではこれの数倍は多かったが」ズズズ

宥「光のせいです」

菫「……?」

宥「建物や照明灯の光が空気に反射して、星の光が埋もれてしまっているんです」

菫「んー……、ピンとこない」

 
宥「電気がないのなら……そうかもしれませんね」

菫「確かに明るすぎる。真夜中だってのに、これでは寝付きが悪いのもしょうがないな」

宥「特にここはそう。人が多すぎるから」

宥「……」

菫「……ここの私とはどこまでいった?」

宥「な、」

菫「……なんとなく興味が」

宥「……しました」

菫「なんて?」

宥「……エッチしました……」カァァ

菫「………………」




菫「は?」

 
宥「だから! エッチを 「あー、わかったわかった」

菫「嘘、じゃないよね、」

宥「ほ、本当ですっ」

菫「まじか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

宥「なんなんですか! しちゃいけないって言うんですか!」プンプン

菫「いつ、どこで」

宥「先月、私の実家に遊びに来てくれたときに、祝い事だったからお酒が入って、な、なりゆきで……、」

菫(淡尭レポートには、直前で甲(菫)がヘタレだして未遂って書いてあったのに)

宥「——てぇっ! 何言わせるんですかぁっ」

菫「そっかぁ。進んでるなぁ」

宥「……へこんでます?」

菫「うん……」

宥「あぅ……、ごめんなさい、私なんかと……」

菫「そういうわけじゃないよ。君を抱けた“菫”が羨ましいんだ」

宥「そ、そんな……///」

菫(腰抜けは私一人だったのか。くそぅくそぅ)

菫「さっきの発言は訂正する。彼女は立派な勇者だ」

宥「あ、でも、誘ったのは私のほうですし……。菫ちゃん、奥手だから」

菫「やっぱ腰抜けだわ」

 
宥「……あのとき、お酒入ってから、菫ちゃん覚えてないかも……」

菫(あのとき……)ムラムラ

菫「もったいねぇ……」ボソ

宥「え?」

菫「実は私も、想いを寄せる女性に手を出せていない」キリッ

宥「胸を張られて言われても……」

菫「一度アプローチをかけたら窓から突き落とされてな」

宥「ええ!? ひどい方ですね。やりすぎですよ」

菫「……それが好きになるきっかけだったから、なくてはならない壁とも言い切れないが……うーん」

宥「順序間違ってると思います」

菫「きみの恋する菫とは違い、私はクズだからね。恋愛なんてうっとおしいものなど排して、肉欲が果たせれば誰でも良かったんだ」

宥「……サイテーです」

菫「その気持ちでいてくれるとありがたい」

宥「?」

菫(好きになられても困るからな)

 
◇◆◇◆◇◆

菫「夜遅くに付き合ってもらい、感謝する」

宥「いえ、私こそ。お話できましたし」

宥「……でも、本当のことは言ってくれないんですね」

菫「すまない」

宥「……これ以上は聞きません」

菫「そう言ってくれると助かる」

 
宥「これだけは教えてください……、菫ちゃんは無事に帰って来れますか?」

菫「それは、」

菫(また嘘をつかなければならないのか)

菫「……、」

菫「約束する。絶対、無事に帰す」

宥「……ありがとうございます」ペコリ

菫「おやすみ」

宥「はい、おやすみなさい」



そうだ、


菫「……」


私は、何をしているんだ


菫「……」


遊び呆けて……、宥が無事かもわからないのに、もう一人の私だって……


菫「……」




菫「帰らなくちゃ」


淡様を脅してでも、絶対に

今日分終了です

乙!
ホントにこの菫さん肉食系っすね

修正です

>>157の十四行目

宥「先月、私の実家に遊びに来てくれたときに、祝い事だったからお酒が入って、な、なりゆきで……、」

宥「二週間前、私の実家に遊びに来てくれたときに、祝い事だったからお酒が入って、な、なりゆきで……、」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
               魔法世界
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 「おうおう。こいつはなかなかの上物だじぇ!」

 「フゴフゴ!」

 「京太郎もそう思うか。ここにいたら狼の餌になっちまうな」

菫「かはっ」ゲホゲホ

 「お、こっちの姉さんは生きてるみたいだじぇ。ショートのほうは……、あ、こらお前は心音を聞こうとするなっ」

 「フーフー!」

 「そんなんだから呪いをかけられちゃうんだじぇ」

菫「おえぇっ」ビチャビチャ

 「やばそうだじぇ。応援呼んでくるか。京太郎はこの二人を見てな」

 「フゴッ!」

 「おう。手ぇだすなよっ!」ダダダダダ

 




 「なんじゃあ、また面倒なもんを……」

 「お礼をがっぽり貰うんだじぇ!」





 「なかなか、起きないじぇ。……あ、まこちん、それ」

 「ぬり薬じゃ。悪くはならんじゃろ」

 「フゴフゴ!」

 「お前にはやらせんっ!」





菫「————…………っ」

 「お目覚めかな?」

 
◇◆◇◆◇◆

午後11時49分


菫「……」ズズズ

まこ「あったまったか? 昨日取れたしょうがで淹れた湯じゃけぇ」

菫(清澄の……まさかこんなところで……)ズズ

まこ「見たところ行商人のようじゃが……、言葉はわかるかの?」

菫「……ああ、お礼を言ってなかったな」

菫「助けてくれてありがとう」

まこ「催促したわきゃあないよ。ただ言葉の壁ちゅうんは色々面倒やて」

まこ「……治療費。そんぐらい持ち合わせてるじゃろ?」

菫「金なら、」

菫「……あっ」

まこ「……」

 
菫「確かこのへんに……」ゴソゴソ

菫(……流されたようだ)

まこ「……ありゃーせんか……」ハァ

菫「待ってくれ」ゴソゴソ

ポロ

菫「あ」

まこ「お? こいつぁ」ヒョイ

まこ「……竜人の尾か? 珍しい」

菫「……」ビクビク

まこ「その反応もしや」

菫(うっ)

まこ「密輸入専門か」

菫「そ、そうです……」

まこ「認めるか普通……」

 
バタンッ

優希「起きたようだなっ、旅人よ!」

菫「……は、はい」(清澄の先鋒……)

優希「まこちん、びびられてるじぇ?」

まこ「あー、ちょいと面倒なことになってな」

優希「んん?」

まこ「ほれ」ポイ

優希「……白龍の尾。てことは……」

まこ「うむ、密輸入者じゃ」

菫「……」チヂコマリ

優希「うえー、マジかぁ。……」

菫「……」

優希「本当はお縄なんだけどなぁ。お姉さん、なんだかいい人そうだし……」

まこ「なんじゃその判断基準は。面倒ごとを押し付けんでほしいわい」

待ってました

 
まこ「わしゃあ寝るぞ。ちゃんと責任持って突き出しときんしゃい」

ガチャリ

菫「……あの、」

優希「まこちん、ああ言ってるけどお姉さんたちを兵隊さんに突き出そうとは思ってないじぇ」

菫「?」

優希「ここは旅人の宿で、少なからずそういった人間は紛れこんでもいる。いちいち調べ上げてたら不評を買ってお客も少なくなる」

優希「ま、口止め代ぐらいは貰うじぇ?」

菫「手持ちは本当になにも……」

優希「白龍の尾で十分だじぇ」

菫「それは……その……」

優希「流石にこちらもリスクはあるじょ。そこんところ考えて欲しいなっ」

菫「……わかった」

優希「交渉成立♪」ニコ

 
優希「京太郎!」

キョウタロウ「フゴ!」

菫「カピバラ?」

優希「こいつ、元人狼でな、西の魔女に手を出したらこんな姿にされちゃったんだじぇ」

菫「……魔……女」

優希「ハヤリンとかいうこわーい魔女なんだじぇ。お姉さんも気をつけるといいじょ」

菫(人狼……魔女……はやりん……? ダメだ、頭が痛くなってきた)

優希「とんでもないスケベで……、私というフィアンセがいるのに、」

キョウタロウ「フゴゴ」フルフル

優希「なんだとー!」

菫「言葉がわかるのか?」

優希「なーんとなくだけどな。……」

菫「……む?」

優希「こいつ、巨乳に弱いんだじぇ」

菫「///」

 
優希「そっちのお姉さんはなかなか起きないんだじぇ……」

照「……」スー スー

菫「ああ、でもただ寝てるようだし、……君たちには言葉だけでは礼が尽くせない」

優希「お代はもらったじぇ」ヒョイ

菫「そうだったな……」

優希「この人がゆうって人なんか?」

菫「ち、ちがう! そもそもなぜその名を……」

優希「ずうーっと呻いてたんだじぇ。『ゆー、ゆー』って」

菫「……」

優希「別に恥ずかしがらなくてもいいと思うじょ。死に際に頼れるのは最も信頼した相手なんだじぇ。これ、ばーちゃんの言葉」

菫「死に際か、ははっ、死にかけていたんだな私」

優希「……どうしたんだじぇ?」

菫「槍が降ってきて、狼に追われて、濁流に飲み込まれて…………————」



菫「……ふっっっっざけんなっっっ!!!」

優希「!!?っ」

 
菫「なんで私が、こんな目にっ」

菫「悪いことしたかよ! 人に迷惑かけたかよ……!」

菫「普通に生きて、それなりにいい人になろうとして、この間だって落ちた財布わざわざ届けて……、そんな私がっ」


——菫ちゃん。ごめんね


菫「くっそぉぉおおおおぉぉおお…………」

優希「……落ち着いて」アセアセ

菫「殴ってやる」

優希「へ?」

菫「“私”を、全部ほっぽり投げた馬鹿野郎をぶんなぐってやる」

優希(……岩にでも頭ぶつけたんかな)

優希「おねーさん、何があったか知らんが今日はゆっくりしていってほしいじぇ」

菫「……ああ」

優希「回収できた荷物は部屋の隅に置いといたから。確認しといてほしいじょ」

菫「わかった」

 
優希「一つ言っておくじぇ」

菫「え?」

優希「お金が欲しかったらおねーさんの服を漁って、おねーさんたちはポイだじぇ」

菫「あ、ああ……」

優希「そっちのおねーさんが、昔の友達に似てた……、ま、そんだけだじぇ」

菫「……」

優希「ちゃんと寝とけよっ」

キョウタロウ「フゴ!」

バタン


照「すー……」スヤスヤ

菫「妹、だろうな」

菫「お前にあんなよくできた友達がいてたまるか」

照「……」zzz

 
菫(寝るか。計画では野宿している時間だし、問題ないはず)

菫(寝よう)

菫(寝ないと、)

菫(この憤りをどこに向けたらいいのかわからない)

菫(……やるって決めたんだ)

菫「……」

菫「……すぅ」



照「……」





 
ギィ ギィ

菫「んあ?」

照「起きたか」

菫「ああ、今、えっと」ゴソゴソ

菫「あれ? 携帯電話?」パカッ

菫「……3時だぞ?」


照「もう出るぞ。長居はできない」

菫「そんな急がなくても……血?」


照「どうした?」キョトン


菫「その頬についたのはなんだ」

照「……、本当だ」グシ

菫「『本当だ』じゃない。何だと聞いている」

 
照「わかっているはずだ」

菫「わからないから、」

照「隠密は知られてはならない。しょうがないことだと」

菫「………………嘘だろ?」

照「嘘をつく必要なんてない」

菫「殺したのか」

照「邪魔だったから」

菫「邪魔って……命の恩人になんてことを!!」

照「どうでもいい」

菫「……!」

照「殺すとき泣いていた」

菫「、」



照「不満があるならお前も殺す」

 
菫「寄るな」

照「斬撃に重要なのは力の解放」

菫「お前おかしいよ」

照「骨を切らねば得物をうばわれるだけ」

菫「おい、」

照「さよならだ。弘世菫」

ヒュン




———————

—————

———

菫「寄るなあああああああっっ」ガバッ

照「!!っ、」

菫「はっ、はっ、はぁっ…………?」

照「……日が昇る前に出発するぞ」カチャ


最終日・午前3時56分

 
菫「ひどい夢を見た」ゲッソリ

照「らしいな」

菫「壊れそうだ……。お前が鬼に見えて、」

菫「……ふぁっ」

照「……」

菫「……ここの人たちに手を出してないよな?」

照「そこまでの鬼畜ではない。むしろ助けてもらったことに感謝している」

菫「良かった……」ホッ

照「記憶はいじらせてもらった。丸二日分すっぽり抜けているはず」

照「それと……、忘れ物だ」ポイ

菫「小蒔さんの、」

照「金の代わりに差し出したつもりだろう。そいつの価値を知っているか?」

菫「いや」

照「この辺りなら山が買える。薬になり研究の資材としても優秀」

照「そして運命石。濁流に巻き込まれたぐらいでなら生き残ると思った」

菫「だからあのとき無理やり川へ落としたのか……」

照「薄ら目で見たお前はいい流れを持っていた。戦いで磨耗した防壁の中で真の姿が見れたよ」

照「お前は死なない。約束する」

 
◇◆◇◆◇◆

 「東横桃子、加治木ゆみと思われる死体を確認しました」

久「念号、読んだわ」

 「……失礼を」

久「いえ……、教えてくれてありがとう。彼女達の遺体は?」

 「ツルガの調査部による検死が済み次第、こちらへ輸送される予定です」

久「智美はなんて?」

 「副部官は永訣の辞を送られました」

久「嘘。それだけじゃないでしょう」

久「こんな無茶な作戦に推薦した私に、流石の智美でも笑って済ませれるかしら」

 「……、私の口からはとても……」

久「これで私の努力は水泡に帰したわね。ゆみを引っ張ってくるのに上層部に、そして彼女を殺しツルガにも敵を作った」

久「そして私は友人を失う。……ねえ、この作戦は本当に意味はあったの?」

 「それ以上は加治木と東横への侮辱となります……!」

久「堅いわねえ、あなた」

 
久「——カントーでの任務で気付いたことがある」

 「おやめください」

久「竜人はそれほど悪くない」

 「少尉!」

久「肉親に必死になれるのはそう、人間と変わらないわ。……人間以上かもしれない」

 「反逆を匂わす発言は見逃せません。逮捕します」

久「不満不平を漏らす上官は嫌い?」

 「軍規の基礎です」

久「……わかった。今までのは全部冗談! これでいいかな?」

 「同期の友人が亡くなった悲しみは私にも理解できます。しかしながら、そのような態度に我々は納得がいきません」

久「そう、かしら。……傷心に浸って弱音を吐くのも可愛いもんだと思って欲しいな」

 「思えません」

久「あらら。ま、そんなところよね。——あ、そうだ聞いたかな。作戦企画部の連中、次段階へ進むって」

 「はい」

久「私、徴集かかってるの。知ってる?」

 「それは……存じませんでした」

 
今回の作戦、それは全て竜人誘拐から今の今まで全ての事象が同一のシナリオにまとめられていた。
カントー陣営のもくろみは手のひらの上の戦いであった。ここまでうまくいくとは誰が思っていただろう。
計画の“遊び”は加治木チームによる暗殺のみ。ただの失敗に終わったところで、彼女達はその役目を果たしていた。
加治木と東横は負け戦であり、可能であれば殲滅。死体として、隣国の凶行を訴える物証が出れば万々歳なのだ。

竹井はそれを知っていた。ただ、彼女らであれば殺しきれると信じていた。
紹介料という建前の、不釣合いな報酬に目が眩んだわけではない。捨て駒と化した彼女らには、後々旅の賃金として渡すつもりだった。
上層部の鼻を明かす。ツルガの兵士の信用を得る。ついでに自分の地位も格上げ——。
リスキーな賭けに出た末路。竹井を待っていたのは企画部の暗い笑い声だけだった。

そうして、上層部は竹井を帰還率4割を下回る特殊戦へと送り込んだ。
毎日が死と隣り合わせだったカントーの隠密任務から帰ってきた竹井に、ねぎらいの言葉はなかった。


久「そろそろね。行ってくる」

 「花を用意しておくつもりは、……ないです」

久「困るわ」

 「生きて帰ってきてください」


戦争の火種なんて嘘一つで事足りるわね。そのくせ何人の血で消し止められるのやら。竹井はそう言い残した。
現在、作戦指揮の3トップを失ったカントーは簡単に軍を動かせない。例え二回りは違う規模のナガノ軍でさえつけいる隙が生まれるほどに。


後は証拠と共に目障りな身内を排除するのみである。

事の発端であり最後の道、龍門渕へと竹井は向かった。

 
◇◆◇◆◇◆

—ナガノ—

午前7時45分


和「……おはようございます」

淡「おはよう」

照(玄)「……」ペコ

和「朝食はお口に合いましたか?」

淡「まぁ」

和「それはそれは」

和「……早速ですが、ここに足を運んでもらった目的を果たしましょう」

淡「ああ」

和「中庭で、どうでしょう?」

淡「いいね。青空の下。立会いには宮永を置くがよろしいかな?」

和「もちろん。こちらも近衛の者をつかせます」

淡「ほーい」



 
淡「これで2対2だね。我々が望んでいた状況を作ることができた」

淡「そこでより『フェア』な——というよりは前提のお話をしよう」

和「……ええ、」

淡「まず、この国には竜人が存在しえない。そうだよね」

和「ですね。間違ってはいません」

淡「なるほど、ならば 和「手短にお願いします」


淡「こ……」

淡「これから行うすべての取り決めの拒否権をこちらのみ有するものと願いたい。理由は貴国が企てた国家規模の竜人誘拐への賠償。以上」

和「…………」

和「拒否します」

淡「ほう。わが国への挑発として受け取るけどいいかな?」

和「お言葉ですが、妄言を語るのは寛大な部下へなさるのが利口かと」

淡「妄言……、言うねぇ、妄言か。……ナガノ国南領、龍門渕邸へ軟禁されている賢竜ユーチャーへの弁解を要求する」

和「いったいなんのことでしょう」

 
淡「」ピク

淡「怒らせるなよ。原村和」

和「挑発を繰り返しているのはそちらでしょう。いったいいかなる理由で賢竜を誘拐などと?」

淡「シラを通すか。私も、実力行使という言葉は嫌いなんだがね」

照(玄)『淡ちゃん!』

淡『黙ってろ!!』

和「武力で威圧など、貴殿がなさることではないでしょう。それほどせっぱつまっているように見受けられますね」

淡「……」イラッ

和「証拠を提示なされば私はそれに従います」

淡「いいのか? 後悔するぞ?」

和「そうですね、ならばこちらも一つ面白い話を」

和「他国から侵入した兵士二人を昨夜捕らえました」

照(玄)「!!」

淡『表情に出すな』

照(玄)『でもでも!』

 
淡「それが?」

和「それだけです。一体どこの国の兵士やら」

淡(これは……、ぬるいな。脅しとは言いづらい)

淡(兵士二人と言ったか。するとコマキは知られていない)

淡(予想の範疇として突発的な戦闘はありえた。こいつは探っている。ほぼ黒としてだが)

淡「どうせ、山菜を採りに来たギフの連中だろ。まさか我が国に属する者とでも?」

和「いえ、ただ貴国であれば、いい取引材料になりえたと思いましてね」

淡「殺すつもりか?」

和「貰い手がなければ処刑は免れないでしょう」

淡「ふ〜ん」

淡『聞いた? こいつ脅すの下手』

照(玄)『何馬鹿なこと言ってんの! 照ちゃんと菫ちゃんが、もしかしたら、殺されちゃうんだよ!?』

淡『判断を下すのは早い』

和「……要求を変えませんか?」

淡「当たり前」

 
和「わかりました。こちらが折れましょう」

淡「は?」

和「宮永照、弘世菫は捕らえられてません」

淡「……」

和「しかし、こちらが軍勢を送れば勇敢に戦い、そして死ぬでしょう」

照(玄)『ば、』

和「ねぇ、松実玄さん?」

照(玄)「あぅ……」


————気のせいかな。最近多いんだよ。頭痛みたいな感じ


淡(情報の漏えい……、不可解な頭痛……)

淡(……、 そうか、なぜ気付けなかったんだ)

淡(クロのやつ、『虫』を仕込まれていやがった)

和「竜人は強大すぎる……。それを知って、部下に変装させてまで入国させたのですね。ここまでくると条約締結に優先権が発生するのはこちらのはずでは?」

 
淡『クロ、最近何か……、誰かに取り入れられるようなことしたか? 禁術を施されたり、眠らされたり』

照(玄)『——、あ、酒場のギャンブル……!』

淡『……クロ、我々はかまされたようだ』

照(玄)『わ、私のせいで……』オロオロ

淡『落ち着け』

和「ずいぶんと大人しくなりましたが、どこか具合が?」

淡『送るぞ』

照(玄)『え?』

淡『今からできるだけお前を南へ飛ばす。そのまま、龍門渕へ行き二人に合流しろ』

照(玄)『それじゃあ淡ちゃんが危——


——シュン

 
和「あら、松実さん、どうかなされたのですか?」クスクス

淡「トイレにでも行きたかったんでしょ」

和「皇帝のみが使えるという転送魔法で?」

淡「……もうガキの喧嘩は十分」

和「では侵犯した両名の存在を認めますか?」

淡「ああ……、だが、ユーチャー救出任務という名目上、そちらに非があることは第三国視点から見て明らかだ」

和「私は、賢竜誘拐に対して否定する姿勢は崩しません」

淡「本当にいいんだな。今なら拒否権だけで済ましてやる」

和「そちらこそ……、わかりました」


和「咲さん、来てください」


淡「あ?」



咲「……」ペコ

 
淡「サキは、死んだはずだ」

和「死霊術というのはご存知でしょうか」

淡「てめえ」ガタッ

 「お座りください」

淡「黙れ」


淡に触れた近衛兵は腕だけを残して消え去った。


和「部下がとんだ失礼を」

淡「サキを返せ」

和「はて。彼女の遺体の所有権はナガノにありますよ?」

淡「家族はこちらだ。理解しろ、悪趣味女」

和「とんだ言い草ですね。……咲さん、命令です。宮永照、弘世菫、松実玄の三名を拘束してきなさい。可能であれば、」

淡「おい!!!」

 
和「——抵抗するようであれば処刑もやむなし」

淡「こんの畜生が……!」

和「姉妹での殺し合い、さぞ凄惨でしょうね」

淡「……わかってて言ってるのかよ」

和「お互い、作戦を認知しなければいい。部下の思い込みで起きた暴走。すべてはそれで形がつきます」

咲「了解しました」ペッコリン

淡「サキ、お願いだ、行かないでくれ」

淡「友達だろ? ようやくお前を取り返しにきたんだ。なのに、」

咲「以前の私は死にました」

淡「サキぃっ!!」

咲「……」



咲「さようなら」

中庭を囲む4メートルの壁を一跳びで越えていった。人間離れした身のこなしは、淡が知っている咲の姿ではなかった。

 
淡「……どーいう了見だよ」

和「咲さんですか?」

淡「死霊術には……大量の魂が必要だ。そいつらをすりつぶして生成する」

淡「お前は一体何人の魂をあいつの器に流し込んだ」

和「ざっと千人ほど」

淡「……!!」

和「全て罪人の命です」

淡「そんな汚ないもんを……っ」

和「咲さんは大切な友人でした。そして彼女が亡くなったとき魂を捕まえることはできなかった」

和「あなたのせいでね」

淡「……」

淡「知ってる。そのぐらい」

和「だからカントーへなんかに行かせたくはなかった。私が止めていれば、あなたとさえ出会わなければ……!」

淡「殺人人形に改造して、姉と殺し合わせようとしているやつが何をほざいている」

和「咲さんは負けません」

 
淡「テルとスミレとクロを相手に? 申し訳ないけど、クロに至っては面識がないんでね。躊躇すらしない」

和「……対竜人の魔法を使えます」

淡「……」

淡「…………っ、」

淡「わかったぞ。……サキを利用して、ユーを誘拐させたのか」

淡「——ユーが抵抗しなかった理由はそれか。本当に汚いな、ナガノのお姫様はよぉ」

和「たとえ国内で貴国の賢竜が遺体で発見されようと、ナガノは関知しません」

淡「あーはいはい。そういうスタンスでしたね」

淡(……今すぐにでもこいつの首と胴体を分離させてやりたいところだけど、流石にここはマズイ)

淡(作戦ではユーを救出しだい即時撤退)

淡(こちらを誰かに向かわせたい。カスミかハツミに……無理か)

和「二時間です」

和「それまでに全ての決着がつきます」

淡「……私の部下を嘗めるな」

和「さて、正しい言い分が証明されるのはどちらでしょうか……」

淡(後悔させてやる……!)

 
◇◆◇◆◇◆

—ナガノ南部—

午前6時2分


パカラッ パカラッ

照「お前も律儀だな」

菫「ああ、尻尾?」

照「わざわざ記憶を消してやったというのに」

菫「助けてもらったのは事実だろ? 薬も貰ったし、馬も勝手に借りてきちゃって」

照「返す気はないぞ」

菫「知ってる」

照「……」

菫「お前だって、感謝していたじゃないか」

照「常識があればな。だからと言ってわざわざ証拠になるような物を置いていこうとは思わない」

菫「…………あ」

 
照「なんだ? 不安になってきたか?」

菫「いや、思いだしたことがあって」

菫「お前、ナガノの出身か?」

照「だとしたらなんだ」

菫「宿屋の女の子が、私達を助けた子、彼女がお前を見て昔の友達似てると」

照「…………咲の友達だ」

菫「やっぱり」

照「咲は……」

照「……っ、」

菫「べっ、別に無理しなくてもいいぞ!?」

照「逝ったのは知っているか?」

菫「う、うん……」

照「遺体が……まだこの国にあるんだ」

 
照「事故があって……、療養のために咲だけがこの国に戻ったとき、丁度ナガノとカントーの関係が険悪になった」

菫「それって、グンマの蜂起か」

照「……死に目に会えなかった。私は国へ入ることすら許可されず、咲の存在は抹消された」

照「長くはないのはわかっていたが、まさか、」

菫「て、照!! 前向け!」

照「……」

照「咲が亡くなっても遺体は返ってこなかった」

菫「……」

菫(聞かなきゃよかった)

菫(ど、どうしよう)

照「心配するな。咲には未練はない」

菫(嘘付けよ……)

 
菫「……そうだ、私達を襲ったやつがいたろ」

照「ああ」

菫「思ったんだが、この国って侵入者はとりあえず殺しておくのか?」

照「…………」

照「いや、」

照「襲撃を受けた当初、私は神代が捕まり私達の計画を吐いたのだと考えた」

菫「!!」

照「慌てるな。たぶん、違う」

照「それなら宿屋にも兵が送られるはずだ」

照「考えたくはないが、この作戦が筒抜けである可能性が高い」

菫「それはそれでまずいだろ……」

照「しかしそれなら軍勢を送り抹殺したほうが確実だろ? 違和感がある」

照「敵は一枚岩ではない。中途半端なやり口から見て、いくつかの思惑が絡みあっているはず」

菫「ど、どんな?」

照「わからない。だが、私達は前へ進むほかないのも事実だ。——引き返すか?」

 
菫「いやだ」

照「死が怖いくせに女のために必死になれるのか」

菫「悪いかよ」ムスッ

照「悪くは……ない」

照「ただ理解できないだけだ」

菫「お前も淡の言う事にいちいち従ってるじゃないか。一緒だよ」

照「違う。主従関係だからだ」

菫「……それこそ私には解らない」

照「お前の世界に王は存在しないのか?」

菫「いるけど……、崇拝したり、とかそういうのはない。昔は神様みたいな扱いだったけど」

照「自由だな」

菫「自由だよ」

空は紅蓮に染まっていて、そろそろ日の出が見える頃だ。

照「飛ばすぞ。口を閉じろ」

菫は何かを言いかけたが、照に制止され、口をつぐんだ。菫自身すぐに忘れるほどのたいした内容ではなかった。

 
◇◆◇◆◇◆

—龍門渕邸—

ドンドン

一「おーい、宥さん、ご飯だよー」

宥「あ……おはようございます」

一「おはよう。食事が済み次第、衣様のお部屋へ連れて行きますね」

宥「……はい」

一「……」カチャカチャ

宥「あのぅ……」

一「はい?」

宥「私、いつまでここにいればいいのですか……?」

一「そのことは……僕にはわからないです。しょせんは召使なので」

宥「そうですか……」

宥「……ふぇ、」

一「……」

 
宥「玄ちゃん……、菫さん……」

宥「会いたいよぉ……」

一「ぼ、僕はこれで。何かあったら呼んでください。廊下に一人立たせておくので」

宥「……っ、」ポロポロ

一(うううっ、勘弁してくれー)

ガチャ

宥「待って」ガシ

一「あっ」

宥「私を、どうかここから逃がしてもらえませんか? あなたは私に襲われたことにして、そうすれば、」

一「ご、ごめんなさい」パシ

バタン ガチャリ

宥「————…………ぁっ、あああぁあああっ」グスグス

 
一「ふーっ、」

純「明日代わりに俺が行こうか?」

一「いいよ。僕の仕事なんだ。それに、純君は邸内警備もやってるから疲れてるでしょ?」

純「これぐらいなんてことはないよ。それに竜人に襲われたら国広君、抵抗できないだろ」

一「彼女は……そんなことしないだろうし、襲うのであれば既にやられてるよ」

純「あー、確かに」

一「いい人なんだ。たぶん」

純「あんまりいれこみすぎるなよ?」

一「わかってる。どうせ相容れないから」

純「……じゃあ、ちょっくら水道橋のほう行ってくるわ」

一「落ち葉掃除なら昨日僕がしたよ」

純「いや、ハギヨシさんから頼まれごとがあってさ。あそこの警備を森に移してほしいんだって」

一「……? わかった。気をつけてね」

純「ああ」

 
◇◆◇◆◇◆

—龍門渕までおよそ200メートル—


照「聞いたとおりだな」

菫「ああ」


龍門渕の豪邸は絶壁の谷に沿って建てられ、その対岸へは上水用の水道橋がかけられていた。
二人の横を流れる人工の小川は、異物排除の柵をいくつか挟んで石で敷き詰められた橋へと続く。
水道橋は雪落としのアーチ状の屋根が組まれ、横5メートルほど。侵入経路としては優秀だ。菫の目からもわかる。


照「おかしいと思わないか?」

菫「警備の兵がいない……」

照「やはり罠か……しかも見え見えの」

菫「私達をおびきだして橋を落としたりとか……」アワワ

照「まさか。いくら龍門渕が貴族五指の一角とはいえ、そこまで金銭的に余裕があるわけじゃない」

照「大量の兵で両側から挟み込んで圧殺しようとするのが関の山。しかし、それは我々にとって好都合だ」

菫「まぁ、囲まれるよりは私もやりやすいな」

 
照「そういうことだ。狭い水道橋の中で剣を振ると味方に被害がいく」

照(そこまでの考えなしだとは思えないが)

菫「でも、そこまでばれていたら宥はもうここにいないんじゃ……」

照「隠密の出す念号からは移動したという情報はない。確信はないが、行くしかない。だろう?」

菫「う、うん」

照「今から常時六感を覚醒させろ」

照「油断も躊躇もなし。動くものは全て硬直だ」

菫「……」コクコク




照「——行くぞ。全ての方をつけにな」

今日分終了です
書き溜めにおいついてしまったので、次に再開するのは、今月中になりますが少し間を置きます
のんびり待ってもらえればと思っています


気長に待ってます

久と玄のギャンブルって、あれ伏線だったんだな


咲さん…


咲さんこわい
いや、千人の魂を使ってうんぬんしたのどっちこわい


楽しみにしてます
 

乙乙

おつー

こっちにいたのか
楽しみです

>>1です
もうちょっと遅れます

のんびり待ちます

待ってるよー

これはおもしろいわ
期待せざるを得ない

 
水道橋の内部は石材が抜かれた窓が点在する。
視界良好とまではいかないが、東の太陽が差し込む朝方であればそう暗くはない。
水面に反射する光がゆらめき、窓の対面に位置する苔生した禄楼石へ天使の輪を描く。
綺麗だとは思う。しかしそれも見飽きた。六感半径2キロメートルで動く全ての物体を感知していては、とてもじゃないが精神が磨り減っていくばかりだ。
だがその憂鬱の時は終わる。水路へ降り立ち微動だにせず一時間、ようやく客賓がやってきた。
水道橋の丁度真ん中には、龍門渕邸へ下る階段が高さ調整のために挟まれていた。そのため、端から端へはどうしても天井と階段に視線が阻まれてしまう。

既に戦いは始まっていた。
全ての迷彩魔法をオフにして、わざと自分の存在を知らしめる。存在を隠すことなど、龍門淵執事ハギヨシにしてみれば造作もないことであった。

————。

念話の感覚。自分の存在に気付いたのだとハギヨシは理解した。
瞬時に魔法濃度が上昇。詠唱前の予備動作にしてはずいぶん高密度だな、と感心する。
コンマ5秒後、第一波が襲来。


「雲散霧消」


ハギヨシの言葉通り、目に見えない魔法の流れは空中で散らされた。

間髪入れずに第二波が襲い来る。焦ることはなく積重詠唱にて拡散。まだ視界に映らない敵二名の動揺を体中で感じる。
面白い相手だと思った。ここまで強力かつ高速で硬直魔法を使える人間がいるとは。


照『今回は防壁ではない……、あれは』


人間じゃない。


照『瞬唱使いだ。魔法に合わせてそれを“打ち消した”』

照(詠唱中にそれが何かを読み取った……だと?)

菫『もう一度……』グググ

照『待て、相手は——』


菫「止まれぇっ!!!」




 「お返しします」


時が止まる。そんな感覚だった。
菫は微塵も体が動かせないことに理解するまで少しばかりの時間が必要だった。
呼吸ができない。声が出せない。詠唱ができない。
酸素不足で脳みそが悲鳴をあげパニックに陥ろうとも、もがくことすらできない。

 
菫『照……助け、』

照『……』

菫『て……、』

照「役立たずが」

菫『え、』

照「死ぬまでそこで寝てろ」


照の拳が鳩尾へ突き刺さった。
一瞬で頭の細部にまで伝わる絶望を経て、視界は暗転し、訳を問うことすらできず菫の意識は消えていく。


照「出て来い。邪魔者は排除した」


パシャン パシャン パシャン…


ハギヨシ「宮永照様でお間違いないでしょうか」

 
照「ああ。お前は? 名乗るぐらいしろ」

ハギヨシ「龍門渕に勤める名も無き執事でございます」

照「ふむ。そうか」

ハギヨシ「あなたを愚弄するわけではありません。私が名乗るに値しないというだけです」

照「……」

ハギヨシ「では、一戦、手合い願います」ペコ

照「待て」




照「私、宮永照はナガノへの亡命を希望する」


 
◇◆◇◆◇◆

透華「お待ちしておりましたわ」ニコッ

宥「はぁ」

宥「衣ちゃんは?」

透華「まだ寝ております。ですが、お気になさらず」



衣「ぅ」

宥「あっ」

衣「んにー?」ゴシゴシ

宥「ご、ごめんなさい、起こすつもりは無くて、」

衣「……おはよう、宥」

宥「あぅ……おはようございます」

衣「あっ、また手錠つけてる! 透華!!」

透華「何度も言いますが、それは衣のためですのよ」

衣「なぜだ! 宥はお客様なんだぞ!?」

 
透華「わかりましたわ……」

カチャン

透華「では……」

宥「はい」


ぽわわ〜ん


衣「宥の手はあったかいなー」

宥「ふふ」ナデナデ


透華『それではよろしくお願いします』

宥『わかりました』

透華『しつこいようですが……』

宥『はい。秘密を喋らない。ですね』

 
衣「宥、膝の上へ乗せてくれないか?」

宥「どうぞ」スッ

衣「では失礼」

ポスン

衣「宥……」

宥「なんでしょう」

衣「今すぐ逃げろ」ボソッ

宥「ええっ!?」

衣「声が大きい」シッ!

宥「ごめんなしゃい……」

衣「宥が金銭のためにわざわざ出向いたわけじゃないだろう?」

衣「衣にもそのぐらいわかる」

 
宥「……」

宥「でもまだ、今日の分の魂の転送が終わってないし……」

衣「阿呆なこと言うな。今ならハギヨシは近くにいないから逃げ切れる」

宥「でも!」

衣「でもじゃない。……気付いたんだ。衣は、——衣はもう助からないんだ……」

宥「衣ちゃん……」

衣「それに先ほど一を脅して逃げようとしていたではないか」

宥「っ、もしかして……!」

衣「“使った”」

宥「なんで! 透華さんに駄目って言われてたじゃない!」

衣「声が大きいって」

宥「うっ……」キョロキョロ

衣「宥がいくら衣に流しこんでも、器が直らなければ意味が無いんだ」

衣「それに、宥にも宥の世界がある。……違うか?」

宥「……違わないよ」

 
衣「ここに来て何日だ?」

宥「今日で二十日目かな」

衣「そうか。短い間だったが楽しかった。宥は寒がりだが、衣にとっては温かかったぞ」

宥「……うん」

衣「なぜ、悲しい顔をする?」

宥「衣ちゃんが、天江の子でなければ、ナガノが竜人排斥でなければこんなことにはならなかったんだって……」

衣「それも運命だ。私が国外へ出て治癒を受けることも、表立って竜人を招き入れることもできない。国の顔を潰すことはできないんだ」

衣「ハギヨシが魂の転送を不得手としなければ、なんてことは思ったことはあるがな」ハハハ

衣「天才は短命であるべきだ、とどこぞの凡人はのたまった」

衣「衣は喜んでその言葉を受け入れる」

衣「だから、そんな顔をするな、宥」



宥「……うんっ」ギュ

 
◇◆◇◆◇◆

騎士道精神とはなんたるか、口八丁な師は常日頃に照やその他教え子へ刷り込んできた。

まぬけだと思う。
照の認識はその程度で、正々堂々真正面での切り合いなど愚策の他なく、勝利以外に求めるものなどなかった。少なくとも、戦いの場では。


ハギヨシ「もう一度、よろしいですか?」

照「私はナガノへの亡命を希望する。既に貴方とは敵同士ではない」

ハギヨシ「……」


ハギヨシは渋い表情を浮かべた。
自身に匹敵する技を目の前にして、高ぶった感情は恐ろしい早さでしぼんでいった。


照「この作戦を放棄する所存だ。そこに寝転がる奴は好きにしろ」

ハギヨシ「あなたは……大国カントーの上級兵と聞きましたが」

照「間違いない」

ハギヨシ「剣の誓いを立てた者が裏切りを?」

照「元々私は忠義などない。そして生まれはナガノだ」

 
一言だけ言いたかった。
ふざけるな。
ここまでお膳立てしといて亡命?
いったいその血肉は何のためにあるのだと問いたい。
強者を振舞うために生まれた肉の壁なら、犬畜生となんら変わらないではないか。
すぐさま殺してやりたい。が、本気で亡命を望んでいるのであれば、彼女は貴重な戦力となる。軍へ引き渡せば龍門渕の手柄となり、衣の国外治療の手助けとなるかもしれない。

ハギヨシの怒りは限界ギリギリで押さえ込まれ、あるじへの忠誠と自身の欲望がぶつかりあっていた。


照(こいつ……竜人か)

照(一対一を好み、自分以外の兵を下げ、異常な迷彩と唱和技術。まさかとは思ったが)

照(ナガノに竜人はいないはず。龍門渕とは言えど……)


ハギヨシ「……わかりました」

ハギヨシ「受け入れましょう」

照「ではそちらに、」

ハギヨシ「その前に」

ハギヨシ「——あなたの『相方』をあなた自身で手を下してください。それがあなたの誠意です」

照「いいだろう」


照「近くにこい」

ハギヨシ「……なぜ?」

照「でなければこいつの生死が確認できない」

ハギヨシ「わかり——


両脚が動かなかった。



照が嗤う。

 
硬直魔法だと気付くのに二秒かかった。
そして確信する。宮永照は勝つためにプライドを捨てるのだ。いや、そもそもそんなものは持ち合わせていなかったのかもしれない。
真顔で嘘八百を並べて時間を稼ぎ、水中に魔法因子を流し込む。冷水に晒した足首より下は五感を麻痺させ、いつのまにやら足全体にからみついていた。

視線をつま先から照に向けたとき、何かが飛んできていた。

横一文字の、

身体をのけぞり地に手をついて避けきる。
浮いた前髪を少しだけ切っていった。派手な装飾が目に付き、そいつのおかげでそれが何だったのか解った。
剣。
あんな細い身体でどうやって投げたんだと、どうでもいい思考が脳を支配している間に、水の跳ねる音が三度して、ようやく顔をあげると——
宙に浮く照がいた。仕込み針を中指と薬指の間から光らせながら、こちらへ飛び掛る。
振り下ろされた腕は受け止めようとした両手をすり抜け、仕込み針が肩につき刺さった。体重の乗った一撃は脚で衝撃を緩和することができずに、石畳は衝撃で水を散らしながら数センチ陥没。膝から乾いた音が響く。
膝と肩から鈍い痛みが脳内麻薬の分泌を促す。一撃離脱で瞬時に逃げようとする照の胸倉を、強引に伸ばした腕で掴んだ。
力の限り引き寄せたそのとき、体を丸めた照の膝蹴りが鼻先へとめりこんだ。


勝った。
力の抜けた彼の手がそう教えてくれた。
照は仰け反るハギヨシに渾身の蹴りを入れ、その反作用で後ろへ飛退く。
5秒待った。硬直魔法の解けた両脚は曲がった胴体の重さに耐え切れず、清流に流されるように倒れこんでいった。
長身の男は仰向けに寝そべり、水面に小刻みな波紋を作り、そして動くことを止めた。


照「菫!! おい!!」ユサユサ

菫「……げほっ」

菫「う……生きてる……?」

照「すまなかった」

菫「…………ばかぁ」ウルウル

 
菫「倒した、の?」ゴホッ

照「頭蓋を砕いた」

菫「そう……」

照「お前の硬直魔法が役に立ったぞ」

菫「ほんと?」

照「気絶している間に流れでていたソレを利用させてもらった」

菫「なんで、お腹、殴ったの?」スンスン

照「お前の魔法でお前が危なかったんだ。それとあいつを油断させるためだ」

菫「ほんと怖かった。動けないのに、照、目が怖くてっ」

照「私は誰も裏切らない」

菫「……?」

菫「……」

照「どうした……?」

菫「生きてる……」

照「あ?」

菫「あれ」


振り向いた照の顔の前で石の塊が制止した。
水平方向への力を失った拳サイズの石は、自由落下が始まり、水の中へと落ちた。
遅れて、あの執事が起き上がっていたこと、音を置く早さで石が飛んできたこと、それを菫が止めたという現実が一気に頭の中に入ってきた。

菫「大丈夫か!?」

照「あ、ああ」


ハギヨシ「fdsdft」


菫「顔が……治っていく……」

照「硬直魔法だ」

照「早くっ!!」


きぃぃぃぃぃいいん


ハギヨシ「—————huagsdagosda」

照「あの状態で除去できるのか……」

照(このままじゃジリ貧……)

照「私の合図でもう一度あいつに硬直魔法をかけろ。解呪させられる前に一発食らわす。お前はそのまま宥を助けに行け」

菫「私一人で!?」

照「お前の大切な女だろ!!!」

照「——こいつはなんとかする。宥を見つけたら死ぬ気で二人で逃げろ」

菫「わっ、」

照「やれ!!」


可視域にまで増した硬直魔法の使役光が青白く閃光する。
走り出した菫にあわせて、飛針を構える。4秒の硬直後、ハギヨシは顔も禄に修復されてないくせして、菫の動きに反応し身体を向けた。
菫と最も接近したその瞬間、ハギヨシが伸ばしてきた腕を照の飛針は射抜き見事弾き飛ばした。


菫「ぜ、絶対助けに来るから! 死ぬな照!!」

 
◇◆◇◆◇◆

宥「衣ちゃん? どこ行くの?」

衣「ハギヨシが……、あの愚か者……」

バタン

透華「こ、衣……?」

衣「透華、ハギヨシはどこだ?」

透華「ハギヨシは今、街へ使いに出かけてますわ」

衣「嘘をつくな。宥が手錠を外しているのに、ハギヨシがいなければ誰が止めると言うのだ」

透華「衣っ……!」

衣「言わないなら“走査”を使う」

透華「おやめなさい!! あなたがそれを使って、明日を生きる魂が無くなってしまう! それぐらい、」

衣「知ってる」

————、

透華「……っ、水道橋、です。でも、誰も近づけるなと、たとえ私や衣であっても」

衣「竜人の気を感じた。ハギヨシのやつ化けるぞ」

透華「!!」

 
宥「あ、あの……」

透華「あなたは黙っていてください!」

宥「あぅぅ」

衣「あいつは今何をしているのだ?」

透華「そ、それは……」

衣「侵入者の排除か……」


宥「……!」ハッ


宥「——菫さん……?」

ダッ

透華「あっ、お待ちなさい!!」


宥(菫さんだ……! 菫さんが助けに来てくれたんだ!!)

透華「一!! 純!!」

一「む、むむむむ無理だよ!!」

純「しゃあないっ」

 
純「待ちやがれ!!」ダッ

宥「……」チラ


ぼぼん


ユーチャー「がおーーーーー!!!」

メキメキメキ

純「ちっ……」

ユーチャー「怪我したくなかったら離れてください!!」

透華「はわわ」ステン

ユーチャー「私、本気ですっ!!」

衣「……宥」スッ

ユーチャー「こ、衣ちゃんでもだよ!?」

衣「壁に挟まれて、苦しいだろう」

ユーチャー「お願い、こないで!!」ガオー!

衣「すまない。ハギヨシの危機は免れたいんだ」


ドン

ユーチャー「は——!?」

ユーチャー(身体が重いっ!!)

 
衣「拘留の枷だ」

透華「——っ」フラ

一「とうか!」

衣「全く、透華は心配性だな。……この程度、造作もない」

衣「衣は水道橋へ行ってくる」

一「待ってください! ああ、もう、純君!」

純「衣様についていけって?」

一「……」コクコク

ユーチャー「が、がおー……」フルフル

衣『宥……ごめん。もし、侵入者がハギヨシの敵だとしたら衣は』

ユーチャー「……」ポロポロ


衣「待っていろハギヨシ。化け物なんかにならないでくれ」

 
◇◆◇◆◇◆

ハギヨシ「……」ムクリ

ハギヨシ「……久しぶりです。ここまでやられたのは」

照「……」

ハギヨシ「あなたの——作戦には少々参りました。まるで嘘をついてるようには見えませんでしたから」

照「褒めているのか?」

ハギヨシ「ええ。感服いたしました。私が驕っていたようですね」

照「ふむ。まぁ仕方のないことだ。竜人には真っ向から挑んでも勝ち目は薄いからな」

ハギヨシ「勝ち目なしの間違いでは?」

照「それはない。現に今、私は勝つ気でいる」

ハギヨシ「自身を犠牲にして……?」

ハギヨシ「……修復中の私に手を出してこなかったのは、つまりは一か八かの勝負から逃げた、ということでしょう」

照「どうだろうか」

ハギヨシ「共倒れを防ぎ、とにかく弘世さんを逃がして、こうして私をこの場へ引きとめ続けている」

ハギヨシ「死ぬ気ですか?」

照「少なくとも、私は生きて帰るつもりだ」

ハギヨシ「ますます理解できません。それもあなたの次なる作戦でしょうか」

 
照「時間稼ぎが嫌ならかかってくればいい。菫を追うなら背後から襲わせてもらう」

ハギヨシ「……」

ハギヨシ「質問が」

照「なんだ」

ハギヨシ「生まれはナガノと申しましたね。本当ですか?」

照「それは嘘じゃない」

ハギヨシ「宮永……なるほど、」

照「ならばこちらも一つ」

照「お前、竜人ではないな。脳の一部を破壊したつもりだったが死ななかった。竜人は多少の損傷で即死だ。そして頭蓋の固さも竜人と比べ柔だった」

ハギヨシ「あなたのお察しの通りです」

照「半竜……!」

ハギヨシ「ええ。珍しいですかね」

照「ああ。殺すのが惜しいぐらいに」

ハギヨシ「あなたのその自信、好きですよ」

照「……人間の下につくしかないわけだ」

 
◇◆◇◆◇◆

—ナガノ中央府近郊—

玄「——ないよ!!」シュンッ


玄「……っ!!」ハッ





玄「淡ちゃんの、ばかっ」

玄(一人じゃ何もできないくせに、虚勢ばっかりで、弱虫なのに)

玄「……」ブツブツ

玄「菫ちゃんと照ちゃんを助ける。そんで淡ちゃんを向かいに行く」フンス

玄「やってやろうじゃないの! 女皇様の命令通り!」


ぼぼん


クロチャー「がおーーーー!!」バサバサ




 
◇◆◇◆◇◆

—ナガノ南部—

 「竹井久」

久「はい」

 「特殊戦へようこそ」

久(クソボケが)

 「君の少尉という階級は今をもって失われる」

久「……はい」

 「作戦が終わり次第、二階級特進だ。それまで、居ない者として扱われる」

久「了解」

 「誓いの言葉を」

久「使命を全うする所存です。例えこの身が失われても、行き着く先に後悔はしない」

 「よろしい、それでは」


智美「その言葉、本気かー?」ワハハ

久「!っ、」

智美「久しぶりだなー」

久「智美……!」

 
久「あんた、なんでここにいるの……」

 「彼女は志願兵だ。適正検査を受けている」

智美「そういうわけだ」ワハハ

久「自推ってわけ? 馬鹿じゃないの?」

智美「ああ、私は馬鹿だなー」

智美「ちょっとこいつ借りてくぞ。出発まで15分だっけか?」

 「逃亡は重罪だぞ」

智美「するわけないだろー?」ワハハ





久「……」

智美「ゆみちんとモモを推薦したの久なんだってな」

久「……そうよ」

智美「作戦の全てを教えてくれ」

久「無理言わないで」

智美「……それぐらいいいだろ」

智美「親友二人殺されて腹の虫がおさまらないんだ。味方殺しだけは避けたい所存だ」ワハハ

久「……っ、」ゾクッ

智美「教えろ竹井」

 
久「……いいわ。どうせ死ぬもの」

智美「……」

久「どこから知っているの?」

智美「龍門渕と政府の密約。龍門渕有する武器製造の技術と支援費の代わりに中央府は竜人を差し出したんだろ?」

久「……なんだ。知ってるじゃない」

智美「竜人が、なんだっていうんだ。それだけの価値があるのか」

久「龍門渕のお姫様は二人いるの」

智美「天江の娘か」

久「あの子、もうすぐ死ぬわ」

智美「もしかして、延命処置のため……?」

久「そうね、苦肉の策よ。龍門渕は金銭支援と引き換えに魂の供給ができる竜人を求めた。それで全て丸く収まるはずだから」

智美「だからって、カントーの賢竜をか!?」

久「そこまでがフェーズ1。中央府の本戦はここから」

久「フェーズ2」

久「賢竜なんて撒き餌よ。現皇帝淡は表立った抗議はせずに、この状況に乗っかってくると予測した」

久「だからわざわざ密談を用意して相手の思惑を最大限まで引き出したの」

智美「まさか、お前ら……」

久「ええ、首脳連中を失ったせいで軍を動かせないカントーへ攻め入るわ」

 
智美「なら、なんで特殊戦は龍門渕へ向かっているんだ」

久「わかるでしょう?」

智美「証拠隠滅、」

久「そう。竜人誘拐を有耶無耶にし、侵入した二名を排除後、龍門渕邸の人間を皆殺しにして彼女らに濡れ衣を着せる」

智美「……!!」

久「……こうなるわ。侵犯と虐殺を行ったカントー兵の報復としてナガノはカントーへ宣戦布告」

久「少なくとも、西トウキョウは制圧できるわね」

久「こちらは女皇のおまけつき。……現状、進行表通り」

智美「……なんだって?」

智美「ゆみちんとモモが……死ぬのも計画の一部なのか……?」ワナワナ



久「そう」


バキッ


久「っ、」ドサ


智美「ゆみちん、友達ができたって言ってた」

 
智美「中央府のやつで、ちょっと危なそうなやつだけど、中身はいいやつで」

智美「ああいうやつならツルガとも関係が元に戻せるなって」

智美「わざわざこっちの士官学校に赴任してきて、」

久「……」

智美「全部利用するためだけだったのか」

久「あなた何も知らないのね」

智美「……知るためにここにきたんだ」

久「特殊戦、150名の中隊に加われることが不思議じゃなかった?」

智美「適正は受けた」

久「言っちゃ悪いけど、教官としての能力はここでは意味が無いの」

久「あなたは加治木ゆみと近しい関係だった」

久「入隊できた理由はそれ。どういうことかわかる?」

智美「……」

久「捨て駒よ。宮永照、弘世菫、そして龍門渕の執事を相手に損失を無視した作戦になるわ」



久「本当の特殊作戦部隊はね、傀儡廻しって呼ばれてるの」

 
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
               元の世界

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


宥「……」

宥「んんーーーー」ノビー

玄「あ、お姉ちゃんおはよう」

宥「……」ボー

玄「相変わらず、朝は駄目なんだね」

宥「うん、おはよう」

玄「……」

玄「夜更かししてた?」

宥「っ、」ビク

宥「そ、そんなわけないよっ」

玄「え……、別に責めてるわけじゃないけど……」

宥「う……」

玄「偽弘世さん?」

宥「……うん」

玄「何か言われたの? ——あ、セクハラされなかった!?」

宥「されてないよ!? 玄ちゃんちょっとおかしいよ」

玄「だって心配なんだもん。それにあの人、目つき怪しいときあるし、お姉ちゃんの胸とかお尻とか眺めてるような気もするし」

 
宥「そんな……、悪く言っちゃだめだよぉ」フルフル

玄「やっぱり、何かあったんだ」

宥「ちょっとお話しただけだよ?」

玄「ふーん」

玄「お姉ちゃん、嫌なことがあったら私が言ってあげるからね」



ドタドタドタ!

ガチャ

宥・玄「!!っ、」

玄「ど、どうしたんですか?」

照「……咲が、」

宥「咲さん?」

照「咲と菫がいないんです、知りませんか?」

宥「いえ、何も……」


宮永母「たらいまー」

宮永母「おーい」

宮永母「あり?」

照「あ、お母さん、おかえり!」

宮永母「水ちょうだい水」

照「自分でやって!」

宮永母「親不孝もんがぁー」

ジャー

宮永母「朝っぱらから何騒いでんだか——んん?」

宥「お、おはようございます」オズオズ

玄「お邪魔させてもらってます」

宮永母「弘世さんは……」

照「お母さん! 帰ってくるとき咲と菫に会わなかった!?」

宮永母「咲ぃ? 何? あの子東京来てるの?」

照「言わなかったっけ?」

宮永母「初耳」ゴクゴク

照「ほら三日前……ああ、そっか酔っ払ってたか……」

 
宮永母「言ってたような……、で? それで弘世さんと違う女の子二人連れ込んで何やってるの?」

照「ああもうその話は後で! とにかく咲を……」

玄「電話しても繋がらないんですか?」

照「駄目だった。菫も」

宥「私からしてみますか?」

照「お願い」

prrrrr

prrrrr

prrr——

宥「繋がらないです……」

照「……」ボーゼン

照「さ、さささささ咲咲さ」ガクガク

宮永母「この子どうしちゃったの?」

宥「えっと、それは——

照「菫のやつに犯されるぅうううう!!! 咲が!!! 咲の純潔があああああ!!!!!」

宥・玄「」

 
宮永母「落ち着きなさい!」ペシッ

照「うう……っ」

宥「菫さんは、そんなこと……しないです」

玄「!!?」

玄「お姉ちゃん、昨日と言ってること違う!」

玄「たらしこまれたんでしょあの変態に!」

宥「違うよ、あの人は……いい人、だよ」

照「うわあああ咲ぃいいい」


宮永母「地獄絵図だわ……」


ピロリンピロリン♪ ピロリンピロリン♪

照「電話! だっ!」ダッシュ

照「咲……!」

ピッ

照「もしもし!?」

 『あー照か?」

 
照「菫!? どこにいんだよ殺してやる!」

 『咲、借りてくぞ。無事に帰すから』

照「——え? は!? あ!!?」

 『すまない。——じゃあな』

ツー、ツー、

照「………………え?」

照「」

宥「……菫さんですか?」

照「借りてく、って」

玄「借りてく?」

照「助けに行かなきゃ」ヨロヨロ

宮永母「こらこら。その格好はまずいでしょ。そもそもどこ行くの?」

照「……どこ?」

照「わかんない」

宮永母「はぁ? ちょっと頭冷やしなさい」


◇◆◇◆◇◆

そのちょっと前、白糸台高校前

淡「まぁったく、部活が休みだってのに……」

淡「あ、きた……、え?」

菫「おはようございます淡様」

淡「おはよう……、それ、サキ?」

菫「はい。『アンテナが必要』とのことだったので」

淡「いや、無理だって説明するためのもので……」

菫「朝方、お電話したときはそれさえあれば可能であるかのような口ぶりでしたが」

淡「言ったよ。言ったけどさ、サキはまずいよ……。てか、それだとサキが……」

菫「『お互いの世界が存在しない魂が呼び合い、それが道しるべになる』、ですよね」

菫「宮永咲は私の世界には存在していない。既に死んでいる」

淡「……!」

菫「この子の魂は向こうへも引き寄せられているはずです。ですから咲がいれば、転送も可能。淡様の説明となんら矛盾はしていないです」

菫「私ともう一人の私の入れ替わりを起こしたのも、その現象を利用したものですよね」

淡「…………」

 
淡「なんでサキを巻き込むの?」

菫「安全な場所はあります。それに咲はすぐに送り返してもらいます」

淡「戻ったところで、スミレは死んじゃうかもしれないのに……」

菫「元々死ぬ人間でした。……あとは直感です。“菫”が無事に帰ってこれるとは思えないんです」

淡「そんなこと言われたって、ごめん。やっぱり私にはできないよ」

菫「あなたには責任の一端がある。もし拒否するのであれば」ススス

淡「ちょっと待って! 暴力反対!」

菫「首を縦に振るまで土下座します」ドゲザー

淡「それもやめてー! 校門前だよ! あんた元部長さんだよ!」

咲「んぅ……?」ゴシゴシ

咲「ふぁあああ。……淡ちゃんだ」ムクリ

淡「ひ、久しぶり……」

咲「えっとこの状況は? というよりここどこ? ……寒っ」ブル

淡「白糸台の  菫「咲」

菫「私の世界へ行ってみたくはないか?」

咲「へ?」

 
菫「魔法は見たくないか? ドラゴンに触りたくはないか?」

咲「え? え、その」オロオロ

淡「お、おいおい!」

菫「昨日の夜、興味津々だったよな?」

咲「行ってみたいですけど……、お姉ちゃんに、」

菫「そっかそうかぁ! 許可を取ればいいんだな? ちょっと待ってろ」

ピポポポピピピポ

淡(指はえぇっ!)

菫「……あー照か? 咲、借りてくぞ。無事に帰すから」

咲「……淡ちゃんこれって、」

菫「じゃあな。——よし許可取れた。淡様!」

淡「本当に!? 本当に取ったの!?」

菫「問題ないです」

咲「お姉ちゃんがいいなら、行ってみようかな」

淡「サキ!?」

 
菫「ドラゴンは触ると暖かいんだぞ?」

咲「触ってみたい……」ポワワ

菫「もしかしたら咲なら魔法が使えるかもしれない」

咲「私、行きます!」

菫「というわけで、」チラ

淡「うう〜」

菫「頼みます。今生の願いです」

淡「……わかったよ」

淡「ただし、絶対無理しないようにっ! スミレに何かあったら向こうの私に怒られるからさ、」

淡「それにユウさんも悲しむし……」

咲「?」

菫「了解です。咲、こっちに」ギュウ

咲「あう///」

淡「集中……」ゴゴゴ

咲「え、淡ちゃん……?」

淡「『転送』」

——シュバン

今日分終わりです。また日が開きます
遅筆でも申し訳ないです


楽しみにしてる

楽しみにしてるよー

乙!
松実姉妹のがおーが萌える(*´ω`*)
のんびり待つよー

続きが楽しみすぎる
乙です

次から戦闘描写が多くなるので地の文だらけになります。
会話文でもできるだけわかるようにしたので、読みにくければ飛ばしても大丈夫です。たぶん


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
               魔法世界
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


クロチャー「…………」ゴォオオオ

クロチャー「……!」

クロチャー「なんだあいつら……、ナガノの兵士?」

クロチャー(方向は龍門渕……、そうかあいつらが)


クロチャー「やんなきゃいけないんだ、やんなきゃ」



クロチャー「ふぁいあーーーーーー!!!」ボボボボボボ


 「おい、あれ……ドラゴン?」

 「嘘だろ? 相手は人間だって」

久「どうした!?」

 「ドラゴンがっ!!」


クロチャー「ふぁいあーーーーーー!!!」


ボボボボボボボボ


 「ぎゃああああああ」

 「砲手、カントーの竜人だ! 早く落としてくれ!!」

智美「ワハハ、これはやばそうだな……」

久「何言ってんの! さっさと逃げるわよ!!」

智美「敵前逃亡は死罪だぞ?」オイオイ

久「人間が竜人に勝てるわけ無いじゃない!!」

智美「だからって……、お前国から逃げるつもりだな」

久「ええそうよ! もうこんな無茶苦茶な作戦も国も軍部もうんざり! 私はこ、」ドス


智美「……」

久「あ、あんた……」ヨロ

智美「楽になろう竹井。私達は呪われていたんだ」

久「ふ、ふざけんじゃないわよ、ま、まだ、死にたく」

智美「喋るな。痛むぞ」

久「おぇっ」ビシャ

智美「天国へ行ったらゆみちんとモモに謝ってくれ。あいつらは許してくれるはずだから」

久「やっ」

ドシュ


クロチャー「がおーーーーー!!!」ボボボボ


智美「ワハハ、私もすぐに行けそうだぞ」ブルッ


智美「ぁああああああああ!!!」ダッ



 
戦いは混迷を極めた。
空から自由に攻められるとはいえ、敵の数はざっと百以上。油断をすれば即座に死が待っている。
焼いて、払って、潰して、かみ殺して、また焼く。
もちろん、敵も黙ってはいない。近づけば槍に突かれ、五尺を超えるでかい矢だって飛んでくる。

肉を喉に通すことだけは避けて、殺意を向けてくる有象無象を殺して殺して殺していった。




十五分の死闘。黒ずんだ世界には一匹のドラゴンが佇んでいた。

クロチャー「…………」ハァハァ

クロチャー(倒した、……殺しきったんだ)

クロチャー(初めてだこんなに殺したの……。こいつらすごく強かった)


ぼぼん

玄「あぅうううっ」

玄(そっか、翼穴開いちゃったから……。こんなんじゃ当分変身できないな)

玄「いってえ……」



咲「そうなんだ」



玄「!!!っ」

隣には少女が立っていた。
草木が焼けただれ、黒こげになった死体が転がる地獄にあどけない表情を浮かべる一輪の花。
殺気も、六感で感知できる気配さえわからなかった。


玄「シィッ!!」ヒュン

いいようもない恐怖にかられ一気に距離を離す。

玄(気付けなかった!? つーかこの子……)

玄「兵士……ぽくないね。こんなところで何してんの?」

 
咲「追ってきました」

玄「は?」

咲「あなたと、宮永照と弘世菫」

玄「!!」

玄(敵っ!!)

玄「…………っ」

玄「私が今まで何してたかわかんない? 怪我じゃすまないよ」

咲がゆったりと玄へ近づく。
裸足の咲が歩いた地には異常な早さで雑草が生い茂り、そして枯れていった。

玄(生命付与!?)

咲「これ、いい剣ですよね」ヒョイ

咲は死体から小剣を剥ぎ取ると、日光に照らして刃筋を眺める。

玄「知らないよ」

咲「そうですか? あなたを倒すのにうってつけだと思いますよ」

玄(地面に触れる時、花まで咲かしてる。人間のできることじゃない。でも、竜人でもなさそうだし……)

咲「でも竜人でもなさそうだし?」

玄「……頭ん中入られてたか」

咲「ええ、虫を利用させてもらいました」

玄「名前、言いなよ」

咲「宮永咲です」

 
ちょっとだけ油断した。
というよりは狼狽に近い。
死人が目の前にいたら誰だってそうなる。

玄「ぎぃっ」

遅れた意識は咲の剣先を避けることができなかった。防いだ二の腕から血が噴出す。
痛い。キレそうになった。だから横っ腹を思いっきり蹴っ飛ばしてやった。


玄「くそっ」

ぶしゅぅ

玄「なんだこれ」

ぶしゅう

玄「——っあああ!!」

竜人の再生を待っていた玄は驚愕した。傷の周りがみるみるうちに変色し、
ぼとりっ

玄「うわああああああ!?」

玄の腕は腐り落ちた。
涙が出た。今まで、こんなことはありえなかった。
身体の一部が無くなるなんて、生きているうえで初めてで、

咲「逃げるんですか?」

腐食が続く残りの肉も引きちぎって、玄は咲とは逆のほうへ走り出した。

 
——戦闘において重要なのは激昂しないこと。不利を感じたら退くんだ。特攻かましても無駄に死ぬだけだぞ。

 ふむふむ。じゃあ菫ちゃん、お昼にしようよー

——さっき食ったろ。まったく、お前から訓練に参加したいと言ってきたからこうやってだな、

 あ、お姉ちゃんだ

——宥!? ど、どこだっ

 にひひ、撤退開始〜〜


一年ぐらい前の記憶。賢竜として国に仕えてから剣を振ってみたくてしょうがなかった頃。
あの時、菫からちゃんと教え込んでもらえばよかったと玄は思う。
杉の大木に背中を預けて、咲の気配を察知するために全神経を集中させていた。

呼吸は整った。状況を整理しよう。
宮永咲は玄を追ってきたと言った。隠れ続けても無視せずこのまま追ってくるだろう。
宮永咲は生命付与の魔法が使える。腕が腐り落ちた理由は竜人の回復量に魔法が相乗して起きた結果だ。
宮永咲は、

死んだはずだ。

確かに似ている。宮永照に。

なぜだかわからないが嘘だという気もしない。

だったらあいつは一体なんなのだ。

あいつは——



後方15メートルで花が咲いた。

 
杉の幹に血文字で呪印を書き込む。

後方5メートルでまた花が咲いた。

詠唱完了。

後方2メートル、

玄は脚力に物を言わせ、逃げ込むように飛びのいた。


音が無くなり、周りが白い光で埋め尽くされた。
遅れて爆風、爆炎、そして鼓膜がやぶれるほどでかい爆音。
玄は杉の木を発生源に、自身の持つ最強のパイロテクニクスをぶちこんでいた。

吹き飛ばされ、転げ周り背中に火が付いて、その熱さで呻いてようやく身体を起こす。
自慢の長い髪は肩より下は焼け焦げ、右足の膝から骨が突き出ていた。

玄「……やったぜぃ」

あの爆発で生きられるわけがない。

人間も竜人もだ。もし仮にも無事に立っていたら、

玄「嘘でしょ……!?」

そいつは悪魔か神だ。


杉の木が元あった場所のちょっと向こうに、卵の形をした人が入れるほどの青白い繭が生えていた。

 
玄(逃げろ逃げろ逃げろ!)

ザクっ

繭の頂点からひびが入り左右に崩れるように割れると、繭を満たしていた大量の樹液と共に裸の咲が現れた。

玄(『物質転換』! あんなのに勝てるわけ無い!)

衣服は全て爆炎を防ぐ繭生成のための原料となり、咲は完全に裸体を晒していた。そして一糸纏わぬその姿は、玄にしてみれば超魔術師級の魔法を使う、でたらめな力を持った化け物に他ならなかった。

感覚のない片足を引きずり、懸命に逃走を図る。
初めての圧倒的な敗北。絶対に勝てないという直感がプライドの塊と言われた玄の精神を押しつぶし、目尻から涙を溢れさせた。

玄(死にたくないよ、お姉ちゃん)

玄(嫌だ、もう会えないなんて)

玄「誰か助けてぇ!」


咲「逃げるな」


玄「ひっ」

咲は玄の足首を狙って、急成長させたネナシカヅラの蔦を這わせる。
震える喉が詠唱を妨害して豪火を生成することは叶わず、小さな火花が宙を舞った。

玄「嫌、」

小水が溢れ出た。
蔦は太ももを覆い隠すまでに巻きつき、抵抗する力を上回って咲の方へと引っ張っていく。

玄「いやああああああっ」

 
咲は感情の色を浮かべず、年相応に泣き喚く玄を見下ろした。

咲「黙って」

ドス

玄「っ!?」

玄の胸部に小剣が突き刺さる。

咲「死なないんですね。すごい」

玄「……っ」ポロポロ

咲「死ぬ前に言いたいことは?」

玄「助けて、」

咲「それは無理です。ごめんなさい」

玄「やだよっ……。死にたくない」

咲「こちらの兵をあれだけ殺しておいて、ですか? 理解できません」

 
——————————————

『玄ちゃん本当に良かったの?』

うん、だってお姉ちゃんと一緒に働けるんだもん。

『厳しい規律とか怖い人もいるよ?』

大丈夫。もうそんな子供じゃないよっ。

『そう……。私もね本当はうれしいんだ。全然会えなかったから、寂しかったんだよ』

ホント!? じゃあずっとここで働く!

『ありがとう玄ちゃん。二人で一緒に頑張ろうね!』

うん!

——————————————


玄「…………お姉ちゃん、」

咲「……」

玄「お姉ちゃんに会いたい」

咲「……」





咲「わかりました」






 「終わったか?」

咲「!」

咲「……特殊戦の方ですか?」

 「ああ」

咲「全滅したものだと」

 「あれは末端の連中だ。本部とは別のただ手足だった」

咲「手足を失ったのでは、作戦に支障をきたします」

 「だから我々が実行することになった。こちらの命は賭せないが、お前が参加すれば問題ないだろう」

咲「命令は受け付けません。わが主は原村様のみ」

 「命令のうちに弘世菫と宮永照の処刑が含まれているはずだ。それを実行してくれればいい」

咲「そうですか。それならば」


 「ちょっと待て、そいつはなんだ」

咲「遺言を聞いてしまったので」

 
 「意外だな。感情はあるのか」

咲「人並みには持ち合わせております」

 「しかしだ、お前がやっていることは気違いの所業だ」

咲「こうする以外に彼女の願いは叶えられませんので」

 「……そうか。とにかく服を着ろ」

咲「繭にしてしまいました」

 「特殊戦に参加した一人にお前の背丈ほどの女がいた。頭を潰されて死んでいたが、衣服は綺麗だ」

咲「はい」

 「龍門渕へ向かう準備ができたら私に一声かけろ。それ以上は何も望まない」

咲「わかりました」






 
◇◆◇◆◇◆

—龍門渕水道橋—

距離およそ20メートル。
半竜人の男が一人。魔術師級の使い手で、尚且つ自信の表れか、周囲には得物は見当たらない。
格闘術はほぼ互角。再生力は言うまでも無く、やつのほうが上だ。
対面して五分足らずに得た全ての情報だった。

ハギヨシ「仕込み針では、私には適いませんよ」

間違いではない。
投擲した剣と合わせて、ようやく同じ土台に立てると言うもの。
しかし、

照「確かにな」

照は解鎖の呪文を唱えた。
右手を胸の前に差し出すと掌が光り輝き始め、まるで貫かれたように刀身が浮き出てきた。

照「召喚」

現れたのは一本の剣。淡黒と深緑に怪しく輝く両刃の大一振りだった。

ハギヨシ「宝剣……ですか?」

照「そうだ。これが貴国の暴挙に対する回答だ」

ハギヨシ「しかしそれでは、私に通用しません」

 
先に動いたのはハギヨシだった。
肩に突き刺さった照の仕込み針を引き抜き、渾身の力で投げぬける。

——避ける、弾く、それとも受け止めるか。
極限に引き伸ばされた体内時間。
心拍数は正常時の三倍に達し、状況に合わせたベストな行動を選択しろと脳の中枢が身体全体を奮い立たせる。
照の五感解放は伊達ではない。凡人との圧倒的な差を持つ反応速度と処理性能は的確な解答を導き出した。

剣先をハギヨシへと向けると、針との接触の瞬間に天井へと跳ね除け、最小の力で弾く。
火花を散らし、軌道は上方へとずらされ照の真上の石材に突き刺さった。
一秒足らずの出来事である。粉雪のように埃が降り注ぐが、照は瞬きをしない。
一切スキを与えず、矛先を正中にあわせ続けるその技術は、文字通りカントー最強剣士の名にふさわしかった。

不足なし。
ハギヨシは、無視できない死の可能性を恐れるのではなく喜びとした。

そんな気などいざ知らず、不可解な笑みを向けられた照は脇を締める。
ハギヨシの戦術が知りえてない現状、長距離戦に発展した場合割を食うのは照だった。
精神介入、パイロテクニクス、物理操作、視界異常、……とにかく属性すら断定できていなければ碌な対策をとることはできない。
従って、こちらへ走り出したハギヨシに照は内心安堵していた。
自分と同じ、剣技の間合いを得意とするのだ。瞬唱技術は全て敵への防護策で基本は殴り合いとなれば、最良の相性であると言える。

 
残り5メートル。
一歩踏み込み、迎撃に向かう。
搦め手の脚を狙った掬い落としにハギヨシはなんなく反応し、翻した身の回転をそのまま利用した裏拳を放った。
ハギヨシのリアクションすべてを完全に読んでいたわけではないが、無策で飛び込んでくるはずもないと知った上での『誘い』だった。
上半身を捻り、迫りくる拳を避けるのと同時に下段に置いた刀身を一気に振り上げた。

水道橋の端にまで届く斬激音が木霊した。
二人は床を蹴ってお互いに距離を置く。

ハギヨシの右手は手首より先が裂け、照の左耳は上半分を失っていた。

ハギヨシ「楽しい」

化け物め。

ハギヨシの回復を待たず、すぐさま照は襲い掛かる。
横一閃になぎ払うも、紙一重でかわされる。
続けざまに切る。
切る。
切る。
間合いの維持に集中し、唱和のスキを与えない。
避け続けるハギヨシの柔和な表情に対して焦りは感じなかった。相打ちの際、負傷の度合いが単純な力量差だと理解していたからである。
いつかは疲弊し、致死級の一発を食らわせられる。修復が追いつかず、血液を垂れ流し続ける右手がいい証拠だ。

剣の切っ先がハギヨシの顎を捉えた。

この戦いの勝利を確信した。


ハギヨシの呪詛が照の心臓をすり身にするまでは。

 
◇◆◇◆◇◆

—水道橋出口—

菫(ここは地下があって、牢屋がある。そこに宥は閉じ込められている……はず)

菫(ここも見張り番はなしか……。よかった)コソコソ


メキメキメキ ガオーーー


菫「!?」

菫(上からだ。あれは、あの声は)


菫「宥!!」


 「誰だ!!」


菫「やばっ」

 「侵入者!! おい誰か来てくれ!」

菫「『黙れ』」

 「っ!?」

 
菫は走った。
本能的に筋力増大の魔法呪文を口ずさみ、上水門、裏口、エントランス、大階段、そして応接間の前を抜けて、動くものは全て「止めて」いった。
宥へ続く道順なんてわからない。詳しい場所なんてなおさら。勝負師としての直感だけで、宥を求めて走り続けた。
そして、

菫「止ま——!」

衣「!!」

菫(龍門渕の……!!)

衣「お前がそうか」

菫(なんで、なんでこいつなんだ)

菫(私はこいつを知っている……!)

去年度のインターハイ、直接は争わなかったものの、長野の新星として一躍有名になった少女を知っている。
天江衣。映像を通して知ったままの姿だった。
できれば、手を出したくはない。

純「衣様、お下がりください!」

衣「待て」

純「え!?」

衣「話がある」

菫「……、」

衣「ハギヨシはどうした」

 
菫「??」

衣「お前がここにいるといことは……、ハギヨシを打ち斃したということ、だろう?」

菫「……あの執事か?」

衣「そうだ」

菫「まだ、私の仲間と戦っている」

衣「ほ、本当か!?」

菫「お互いに無事かどうかはわからない」

衣「……提案がある。今すぐ停戦してほしい、さすれば竜人は返す」

菫「なんだと……? む、虫が良すぎるぞ!!」

衣「そうだな。謝罪する」スッ

純「!!っ、お立ちください!」

菫「……そんなことしたって、既に決着はついているかもしれない。私の味方は止めろ言われて止める様な性質じゃない」

衣「それでも……、お願いだ。ハギヨシが助かるのであれば、私の命をくれてやってもいい」

純「やめてください……! 透華様に何と申せば……」

菫「だったら、宥に会わせろ……!」

衣「そこの廊下の曲がった先だ。……“解呪”」


 「わわっ」

菫「!!っ、……宥!」ダッ


 「菫さん、——菫さんだ」

菫「……ぁっ、宥……なのか……?」

ユーチャー「会いたかったよぉっ」ダッ

メキメキメキ

一「わあああああ!!!」

菫「ちょっ、んぐっ!?」

ユーチャー「寂しかったんですっ。ずっと、ずっとっ」ギュー

菫「もがが」

ユーチャー「うあああああああん」

衣「宥、戻れ」ピシッ

ぼぼん

宥「……あぐっ、絶対助けにっ、来てくれるって信じてました……」グスグス

衣「水を注すようで悪いが……、念話は使えるか」

菫「……ああ」

菫『——照!! いますぐ戦いを止めろ、終わったんだ。全部』

菫『……照?』

菫『おい!』



菫「照の、反応が……ない」

 
衣「……」

衣「恨むか?」

菫「嘘だっ、こんなのっ!」

宥「照さん……?」

衣「逃げてくれ。私にはそれしか言えない」

菫「嫌だぁっっ!!!」

衣「ハギヨシが戻ってきたら……、お前も殺されてしまう」

菫「だったら、」

衣「衣はもう、誰にも死んでほしくない」

菫「!!っ」

菫「何言ってるんだ……!? ——全部、お前が、お前らのせいだろうがぁ!!!!」

スッ

一「こ、こ衣様に近づくな!」

純「消えろと言ってるんだ、わかってくれ」

菫「……————」



菫「殺す」

激情は腐りかけていた蛇の秕を開花させた。

 
◇◆◇◆◇◆

胸が押しつぶされ、体中の筋肉が動きを止めた。
一瞬何が起きたのかわからなかった。

思考をめぐらそうとしても、押しつぶされた心臓は脳へ血液を送ることができずに、宮永照は初めての死を迎えた。


ハギヨシ「ふー」

ハギヨシ(なんとかなりましたね)

手首の治癒のため、修復の魔法を唱えた。
血が止まり完全に治しきると、剣を振り上げたまま口から血を流し硬直する照の姿を見て、安堵の息が漏れた。

ハギヨシ「強かった……」

照の心臓を破壊したそれは黒の魔法。
流れ出る血液を戦いの合間に照の身体に付着させ、詠唱なしで内部から破壊する高等技術だった。

ハギヨシ(少し時間がかかりすぎました)

ハギヨシ(早く、追わなければ)



 
 「ごほっ」


ハギヨシ「!」

剣は空を切り、足元のタイルに刺さった。

ハギヨシ「生きてる!?」

手ごたえはあった。だったらなぜ——

照自身、この状況についていけてはいなかった。
糸の切れる音と共に感覚は途切れていたはずだったが、眠りから醒めるように気が付けば意識を取り戻していた。

目の前には驚愕の表情を浮かべる長身の男、そして両手に持った大剣。
両刃の片側が真っ黒に染め上がっていることに気が付いた。
庇護の色は黒と緑。宝剣『饗宴と飢餓』はハギヨシの放った黒魔法を取り込んで、強引に心臓を修復させていた。

 
奥の手を使ったハギヨシにとって、照との対峙は既に負け戦だった。
死ぬのは怖くない。しかし、ここで倒れれば衣や透華が無事に済むはずもない。
ドラゴン・ユーチャーを見つけ次第ここから出て行ってくれるだろうか。殺戮を好む連中ではないことは知っている。
だが、意志の固い透華は抵抗するだろう。

兵を下げた自らの判断を呪う。
額からは汗が流れた。

正念場である。


照「もう少し遊んでもらう」


間を詰めようと歩み始める照。

答えが出せずに身動きができないハギヨシ。


ハギヨシ「待——


ハギヨシの言葉をかき消すように、轟音が鳴り響いた。

照「!!」

ハギヨシ「っ、」


こちらに背を向けて龍門渕邸へ向かったハギヨシに、照は切りつけることはしなかった。
嫌な予感がした。
占術は下手だが、こういう悪い直感はだいたい当たる。宝剣を体内にしまいこむと、ハギヨシの背を追うようにして邸内へと走り出した。

 
◇◆◇◆◇◆

衣「っ、」ビクッ

菫「……」

衣(こいつ、竜人のような眼をしてる……)

純「さ、三対二だぞ!?」


しゅるるるるる


純「蛇……?」


ドン

純「がっ!?」

魔法の手助けもなしに180センチメートル近い純を片手で弾き飛ばした。
宥はその姿に恐怖した。
有鱗目特有の立て割れの瞳孔を覗かせて病的に白く澄んだ肌の、見たことの無い菫がそこにはいたからだ。

一「純君! ——お前っ!!」

衣「……っ」

宥「止めて!」ギュ

菫「……なぜ」

 
宥「その人たちは悪い人じゃないっ」

菫「……」


——じゃあ誰がこの状況を引き起こしたんだよ。

——照が死んだんだぞ? 誰が償えばいいんだ。

——私が悪いのか?


菫「あ——」ズシン

衣「大人しくしろ」

菫「身体が……重いっ……」

衣「お前が今すぐここから消えてくれるのであれば、解除してやる」

菫「宥……助けてくれ」

宥「っ、」オロオロ

菫「宥、私は気が済まないんだ」

菫「私は、親友を失ったんだぞ……!」ポロポロ

衣「早く出て行く約束をしろ!!」


咲さん魔王過ぎワロエナイ…

 
透華「衣……あなたは一体……」

一「あ、あっ、透華様」

透華「賊は、この方ですの? 今すぐにでもハギヨシを呼ばなければ」


一が心配そうに駆け寄り透華の手をとった時、二人の真上の天井に亀裂が入った。
そして、何かが突き破り、二人の周囲を巻き込みながら床を円形に抜いていった。

菫には見えた。昨日の夜、自分と照を襲った巨大な槍が、一と透華を押しつぶして下の階へ突き抜けていく光景を。

埃が舞って視界は何も映らない。
落ちつくと、衣の足元には誰かの左手が落ちていた。


衣「——か、」

衣「とうかぁああああああ!!!」

純「今のは——?」



咲「龍門渕の開発した『巨弾槍』です」



菫「……咲?」


衣「透華、…………ぅあ、……」

 
純「なんだって、そんなもんを……。軍部の連中はトチ狂ったのか!?」

咲「龍門渕関係者全員に暗殺命令が出ています」

純「は……?」

咲「私はあなた方を殺すことはできません」

菫「お前、死んだはずじゃ……」

咲「弘世菫ですね。あなたは私の指令に含まれています」

菫「……なに?」

咲「それと、松実宥はいらっしゃいますか?」

宥「ふぇっ……?」

菫(なんだあれは……)

咲「松実玄の遺言で届けにきました」


菫「!!? ——宥、目を瞑ってくれ」


咲「『松実玄』です」ポイ


ドン ゴロゴロゴロ…



菫「宥っ、それを見るなぁっ!!」



咲「ごめんなさい、頭部しか持ってこれませんでした」



宥「玄……ちゃん?」

赤く染まった白い風呂敷から、生気の抜けた玄の頭がこちらを見つめていた。

今日分終了です。
阿知賀ネタバレが怖いので12日までネットを断ちます。次の更新はそれ以降です。

お、乙

マジキチですわ…


すごい…
すごいんだけど…
読んでてツラくなった


自国人殺してまで戦争おっぱじめたいのか…

すげえことになってんじゃんねえか……続き楽しみにしてます

玄ちゃんは助かると思った
甘かった
やはり>>1だった

もう誰も幸せにならないパターンや…
クロチャー…

投下中にコメントすんなよ・・・
>>1は乙
続き期待

宥「え?」


咲「?」


宥「これ、玄ちゃん?」


咲「はい」

菫「……っ、」


宥「……」ヒョイ


宥「本当だ。玄ちゃんだぁ」ナデナデ


宥「く……ろ……ちゃ」ナデ…


宥「————っ」


眉一つ動かさない咲は、かすれた声で妹の名を呼び続ける宥を見つめていた。
菫はこの状況から逃げ出したかった。
怖い。
頭を持ち運びそれを肉親に投げ渡す親友の妹が、死ぬほど怖かった。
現に衣の拘留魔法がなければ、今すぐにでもへたりこむ宥の首根っこをつかんで一目散に逃げだしていただろう。
物言わぬ重圧に菫の開花は収まり、殺意を垂れ流す蛇の因子はいつの間にか消えうせていた。

乾いた口から言葉が出ない。言葉が出せない。


咲「どいてください」

咲は進路を妨げる宥を文字通り一蹴した。
宥の小柄な身体はくの字に曲がって、軽々と壁に叩きつけられた。


菫「やめろぉおおおおおお!!」

親友の妹から憎むべき最悪の敵に成り下がった瞬間、菫は絶叫した。

区切りが悪かったので1レスだけ追加


咲さんマジ魔王

この咲は現実世界にいた咲なの?


この咲さんはクローンの方じゃないや


この咲さんはクローンの方じゃないの

咲さんと言うよりピンクがド畜生

続き気になるな

淫ピはのた打ち回って死ぬべき

クローン咲さん記憶は無くても感情は持ってるのか…

褒め言葉として受け取ってもらいたいんだけど
咲でやる必要がないな。二次創作じゃなくて普通に読み物として面白い

>>308
分かったからあげるな

ようやく救助が来たのに妹の生首渡された挙句、蹴り飛ばされるとか不憫すぎる
ハッピーエンドになるんですかね…

昨日の宥姉監禁SS書いたのって>>1

発売したからもうすぐ来るかな

同世界に二人の菫が存在し、大変わかりにくくなるので、
魔法世界出身を【菫】と表記します。

—菫照組の龍門渕邸侵入より二時間前—


ツンツン

——菫さんだ……、この子は誰だろ

ツンツン

——起きてくださーい


【菫】「!!」ビクッ

尭深「ひゃ」

【菫】「……」キョロキョロ

【菫】「戻ってきた……?」

咲「zzz」スピー

尭深「菫さん……ですよね?」

【菫】「……う゛っ」



尭深「え」

【菫】「お゛ぇっ」

ビチャビチャ

尭深「きゃあああああ!」





【菫】「あー」キモチワリ

【菫】(転送酔い、久しぶりだな。淡様の遊びに付き合ったとき以来だ)

尭深「これ、よろしければ」

【菫】「……ありがとう」ゴクゴク

尭深「……」

【菫】「名前」

尭深「え?」

【菫】「名前呼ばなかった?」

尭深「は、はい。先日はとんだ失礼を」ペコ

【菫】「?? ……以前私と会ったか? あ!」

【菫】「もしかして、ヤった子? 酒入ってたせいで記憶ないとか」

尭深「やった、とは?」

【菫】「あ、違うんだ。じゃあ……」

尭深「竜人様に私が包丁で……それをあなたが止めてくださいました。覚えありませんか?」

【菫】「竜人……もう一人の、だな」

 
尭深「あのう、菫さんですよね?」

【菫】「ああ。君が知っている菫とは違うが。……咲、起きろー」ユサユサ

咲「ん、あと五分……」

【菫】「こいついつも寝てるな……。おい」

尭深「は、はい」

【菫】「カントー国あわい城に行きたい。ここからどのくらいだ?」

尭深「北へ歩いて半日ほどです」

【菫】(40キロほどか。走れば一時間ほどでいける)

尭深「もしよろしければ、先日のお礼にお茶でも、」

【菫】「その誘いは大変嬉しいが今は時間がない。また今度伺おう。名前は?」

尭深「渋谷尭深と申します。て、あれ……?」

【菫】「……」

【菫】「ちょっと失礼」グイ

尭深「え、あの、えっと……」オズオズ

【菫】「処女?」

尭深「——へ?」

【菫】「なるほど……。髪をほら、こうやって分けたほうが可愛い」

 
尭深「」

【菫】「いいもの持ってるんだから大切にしないと。君、ここいらで一人で住んでるの? 大変だね」

尭深「あ、あぅ」

【菫】「……そうだ。もしよろしければだけど、その馬を貸してもらえないか?」

尭深「ふぇ?」

【菫】「いいかな? 急ぎの用で足が要るんだ」

尭深「は、はい……///」

【菫】(こういう子もいいな。街の派手なやつらも飽きたし)

【菫】「家、近い?」

尭深「すぐそこです……」ギュ

【菫】(一生“これ”は治らないだろうな……。まぁいいか)

【菫】「はい、担保」ジャラ

尭深「……! 騎聖十字錨!?」

【菫】「詳しいんだね。普通は出回らないはずなんだけど」

尭深「こんな貴重なもの、受け取れません!」

 
【菫】「私の誠意だ。馬が返ってくるかわからないんだからさ」

尭深「だからって……、先日のお礼もしたいんです。馬だって菫さんがよろしければ受け取ってほしいぐらいです」

【菫】(何したんだよ、もう一人の私は……)

【菫】「騎士の性分ってやつだ」

尭深「……わかりました。必ずお返しします!」

【菫】「ああ、こちらからちゃんと出向くからさ、待っててくれ」

咲「んにゅ……?」

【菫】「やっと起きたか寝ぼすけさん」

咲「……」ゴシゴシ

咲「ん、」

咲「ここ……!」

【菫】「ようこそ私の世界へ」

尭深「ということはこの方も、」

【菫】「あれ、知ってるんだ。……そうか、そういうことだね」

咲「えっと、渋谷さん……?」

尭深「どこかでお会いに?」

【菫】「この流れさっきやったぞ」





馬「ヒヒヒン!」

【菫】「腰に手を回して。そう。それで正座するみたいに——、これで落ちにくくなるんだ。辛い体勢かもしれないが、大丈夫か?」

咲「はいっ、……お馬さんに乗るの初めてだから、ちょっと緊張してます」

【菫】「飛ばすから舌噛まないように口は閉じて。あと絶対に離さないように。何が何でも私から離れるな」

咲「っ、」ギュウ

尭深(いいなぁ)ジー

【菫】「渋谷尭深」

尭深「ひゃい!?」

【菫】「君の厚意に感謝する。この礼はいつか必ず。幸運を祈らせてもらおう」

尭深「ありがとうございます」ペコ

【菫】「……理不尽なしがらみに捕らわれたままでは、いつか全てを失ってしまう」

尭深「え?」

【菫】「解放しろ、尭深。天はお前を見捨ててはいない」

尭深「——!」

【菫】「またな」


さよならの言葉は聞こえなかった。
猛り狂う雄馬がはじく蹄の音にかき消されて、尭深のつぶやきは空へと霧散していった。

 
◇◆◇◆◇◆

あわい城

小蒔「あ、それ、ダウトです!」

初美「ちぇー、バレバレでしたか」

霞「あらあら」

初美(お互い禁術施行しているはずなの全然姫様に勝てないですよー)

初美(装飾かまして解いちゃおっかなー)

霞「初美ちゃん……?」ゴゴゴ

初美「ひぇっ……。冗談ですよー」

小蒔「?」

初美(つーか、なんで心の声バレてんすかねえ……。流石は二百年生きてるだけあって、魔法なしで……)

霞「……」ゴゴゴ

初美「!!、……霞ちゃん、魔法使ってないですかー?」

霞「この額の青線が目に入らない?」

初美「いやまあ、そう、ですけど……」

 
小蒔「もう一戦やりましょう!」フンフン

初美「……」

初美『霞ちゃん』

霞『あら駄目じゃない、禁術解いちゃ』

初美『……って、そっちもじゃないですかー! 嘘つき!』

霞『流石にね、六感だけじゃ警戒は手薄だから……、“走査”も使ってるのよ』

初美『こんな平和な国に賊なんかいませんよー』

霞『そうかしら……。で、何? 言いたいことがあって、小蒔ちゃんの前で不正を働いているんでしょ?』

初美『むっ。……姫様、やっぱり……』

霞『尻尾のこと?』

初美『それを忘れようとして、トランプに夢中ってわけですか?』

霞『昨日はあれだけ泣いてたからねぇ。おもらし癖の治らないまだちっちゃかった小蒔ちゃんを思い出すわ』

霞『……それはさておき、理由はあの二人にもあるわよ。特に菫さんにはほの字みたいだし?』ババーア

初美(表現古っ……)

 
初美「霞ちゃんは気にしないんですかー?」

小蒔「え?」

初美「あ」

霞「……」

小蒔「……、初美ちゃんの番ですよっ。数字は6!」

初美「そ、そうでしたー」

霞(まったく……)

霞「小蒔ちゃん。ごめんなさいね、あなたに内緒ではっちゃんと念話をしていたわ」

初美「ほげっ」

小蒔「……はい」

霞「二人が心配なのはわかる。だけど、これは安保上の作戦関係なの」

小蒔「深入りはするなと?」

霞「いえ、ただ……、最悪の場合でもあなたはその事実に受け入れなければならない」

小蒔「最悪……」

霞「泣いちゃ駄目」

小蒔「わかっています。神代の次期当主として、私はどんな結果でも糧にしてみせます」

霞「ふふふ、その意気よ」

初美「……」

 
初美は気付く。霞の口ぶりの端に黒い影がちらついていることに。


摂政として国の機関のトップに立っていた霞には相応の見返りとそれに準ずる自由を奪う枷があった。
永水“の”霞。そう呼ばれて何年たったか。殺人級の仕事量をこなし、部下の育成もそつなくこなす霞は、唯一無二の人材だった。
だがそれもあと少しだ。解放を手に入れるのはそう遠くない未来だと、初美は思った。

初美は今年で百と三つになり、半生のほとんどを神代名家の一員として国に関わる祭礼を執り行ってきたが、仮面を脱いだ霞の本性を知ったのはここ最近のことであった。
十七年前の春。神代小蒔は十時間の難産の末、この世に生を受けた。子宝に恵まれなかった神代家の跡継ぎとして神の子のように扱われ、一族の誰もが喜び勇んだ。
当然霞もその輪に参加していたわけで、表面だけを見れば彼女がもっとも小蒔の出生を祝っていた。
だがそれは、六十年続いた霞の君主政治は終わりを告げられていることに、その本人が手放しに祝杯をあげているのであって、初美からすれば不気味以外に言い表せる言葉はなかった。

その日の夜、祭り騒ぎも春先の肌寒い夜風に流され、神代の豪屋敷は普段の落ち着きを取り戻していた。
そんな月が笑う丑三つ時、離れにて巴と酒樽を漁っていた初美はふと催して、そこから一番近い厠へと足を運ぼうしていた。
内庭をぬけ、そろりそろりと廻り廊下を忍んでいると奥方の間から光が漏れていること気がついた。
別段珍しいわけではない。警備の者が、確認のために一時的に蝋を灯して部屋を見回るのだ。
初美はさっさと用を足して酒注の続きをしようと再び歩み始める。

霞の声がした。

今でも思う。あれさえ聞こえてなければ、と。
初美のいたずら根性は暴走し、神代へ向けての使役が見つかれば極刑間違いなしとまで言われる、複合魔法“思念走査”をすぐさま展開した。
六感解放の上位互換である“走査”に加え、対象者の思念までも読み取る一級難課題の極意魔法である。
カゴシマで自分と霞以外に扱えないことに普段から巴に自慢していたが、実践する場面がなかった。
だから今だ。今しかない。アルコールで支配された脳みそは損得勘定など全てを無視して、奥方の間へと指向を集中させる。
感覚は襖を越えて、正座して向かいあう二人の女性を捕らえた。口が開く、

「退くか続けるか、二者択一です。それ以外に私に選ぶ道はありません」

拾えた言葉はそれだけ。だけど十分だった。
荷を背負わされていた霞の悲痛な本心。
初美にとって霞は天上人であり、そして目標である憧れの上司だった。

 
主張を続けていた尿意も引っ込んで、複雑な感情を押さえつけるように顔を下げる。
何も考えたくなかった。霞は無敵なんかじゃなかった。
どうしようもない負の了知に初美は意識が揺らぎ、気付けば離れの前にいた。
引き戸に手をかける。建てつけが悪く、一発では開かない。ぐっと力を込めたその時、

巴「うぎゃあああああ!!! お化けだぞおおおおおお!!!」

化け物が、否、べろんべろんに酔いが回った上半身裸の巴が飛び出してきたのだ。
そして、

じょろろろろ

初美、齢八十六にして小便を漏らす。

初美「ばっ——」

巴「はっちゃんが漏らしたー」ギャハハハハハ

初美「か、このっ!」

全力の氷結魔法を使役。
巴、上半身をむき出しのまま3メートル大の氷漬けとなり、二日後に人里離れた山中にて仮死状態で見つかる。
未だに屋敷へ押し入った賊の仕業とみなされ、巴もその時の記憶は戻っていない。




「退くか続けるか——」

正直に言えば、あの時の言葉の真意を完全に理解しているわけではない。
それでも霞は一線を退くだけでなく、全てを神代に受け渡す——と言うよりは押し付けようとしているぐらいは分かる。
霞が小蒔の育成に精を出す理由が、自由な時間を手に入れたいという霞自身の身勝手な私意だとすれば、これほど歯がゆいことはない。
だけども、霞の右腕として文句を垂れつつ共に仕事をこなすのは楽しかった。
その事実のせいで、霞を否定することができなかった。
初美はバリバリ仕事をこなすかっこいい霞が好きなのだ。
思い出から現実に戻ると、いつの間にか霞と小蒔はスピードを始めていた。もちろん小蒔が劣勢。

霞「はっちゃんどうしたの?」シュババババ

初美「いえ、なんでも」

霞「珍しく呆けちゃって。ふう、私の勝ちね」シュバ

小蒔「わ、私まだ、半分も出してないのに……」

霞「これも修行のうち——」

 
——チリッ

霞「南から時速50キロでこちらに何か近づいてるわ」

初美「——……馬?」

霞「そうね。そう。二人乗ってる」

慌てて小蒔も六感を解放する

小蒔「えーっと、」

小蒔「……菫さんです!!」

霞「ほんと。しかし後ろに乗っているのは誰かしら?」

初美「照さんに似てるけど、違う」

小蒔「すごい抱きついてる……」

霞「南からということは正門のほうね。到着まで30秒ほどかしら」

初美「作戦が終了してたら菫さんと照と宥が一緒に帰ってくるはずですよー」

霞「……ふんふむ」

初美「?」

霞「私が顔を出してくるわ。あなたたちはここに残って」

小蒔「わかり——」

初美「なんでですかー? 出迎えなら三人で行きましょうよー」

 
霞「もし菫さんに化けた侵入者だったら危ないでしょう?」

初美「それこそ三人で行くべきですよー」

霞「私は十指の一人。嘗められちゃ困るわね」

初美「嘗める?」ギロ

小蒔「喧嘩は止めてください……」

霞「はっちゃん、あなたはここで小蒔ちゃんの護衛をしていて。これ、命令」

初美「……」

霞「それじゃ、行ってくるわ」

バタン


小蒔「あ、あの……」オロオロ

初美「はァー……、クソババアが……」

小蒔「っ、」ビクッ

初美「しょうがないですね……。何かトランプでやってましょうか」

小蒔「神経衰弱やりましょう、……初美ちゃん」

初美「はい?」

小蒔「霞ちゃん、悪気があったわけじゃないです。初美ちゃんのことを思っての命令だと……思います。……たぶん」

 
純粋すぎる。

初美(こりゃあ気苦労しますねー)

初美「ま、命令通り姫様をお守りしますよー」

小蒔「じゃあ、神経衰弱を……」

初美「姫様はもう少しブラックになったほうがいいです」

小蒔「ぶらっく?」

初美「いや……、今のは忘れてください。失言でしたよー」

小蒔「あ、はい。早速やりましょう」フンス





今日分終了です

備考として、永水のほうは西洋文化ではなく中世日本みたいな文化を展開してます
霞さんは200歳以上です。はっちゃんも100歳越えてます。巴さんははっちゃんより若いです。姫様は原作通り17です。

おつおつ


ババーアってwwwwwwwwいやホントにそうなのか

読みやすくて楽しいよー

はるる…

ロリババアじゃねえか!

【菫】さんはたかみーに何を感じたんだろうか

—あわい城前—


【菫】「すごい久しぶりのような気がする」

咲「金ピカって」

【菫】「いい趣味してるだろ? 全部淡様の設計なんだ」

咲「あっ……(察し)」

【菫】「慣れりゃ都さ。最初は私も引いたが、……うん、今でもちょっとアレだな」ハハハ

咲「でもすごいです、本当にお姫様だなんて」

【菫】「姫じゃなくて皇帝。国の長だ」

咲「そ、そうでしたね」

【菫】「さて無策に来てみたが、どうしようか……。淡様になんて言えば、」

咲「……! 永水の大将さん」

霞「あらあら?」

【菫】「ん?」

霞「お久しぶりね、菫さん」

【菫】「ああ!?」

霞「ああ、じゃないわよ。一年ぶり?」

【菫】「なぜあなたがここに……、関鹿安保でも発令されましたか?」

霞「うん」

【菫】「そんな大事になっていたのですか。決行はいつですか?」

霞「昨日」

【菫】「!!?」

 
【菫】「実行者は!?」

霞「“菫”さんと照さんよ」

【菫】「嘘だろ……」

霞「……その反応、知らなかったみたいね」

【菫】「てっきり私を作戦から外すために異世界に送りこんだだけだと、——……くっそ!」

咲「弘世さん、どうしたんですか?」

【菫】「それは……、」

霞「その子、誰?」

咲「宮永咲って言いますっ。 弘世さんがいた世界に……、この弘世さんじゃなくて、向こうの弘世さんで、ええっと、」

【菫】「あなたが理解している前提でお話しますが、私が飛ばされた世界の照の妹です」

霞「……生きてたの?」

咲「え?」

【菫】「その話は勘弁してください。咲、ちょっといいか? 今から御屋形様と話がある」

霞「その呼び名はやめなさい。あなたは私の部下ではないわ。それに態度が付随していないわよ」

【菫】「申し訳ない。霞様、でよろしいですか?」

霞「ええ、——少し歩きましょうか」

【菫】「ごめん咲。すぐ終わるから」

 
【菫】「担当直入に申し上げます。いますぐ私をナガノに連れて行ってほしい」

霞「前から思ってたけど、あなたちょっとイカれてるわね」

【菫】「淡様に会ったら最後、また違う世界に飛ばされてしまうんです。どうか、お願いです」

霞「女皇なら今不在よ」

【菫】「なぜ?」

霞「あの子もナガノへ密会にね」

【菫】「……、」

【菫】「……そういうことか」

霞「察しがいいわ。でもお姉さんそういう子嫌い」

【菫】「お姉さん?」

霞「そこは流してほしいんだけど。とにかくあなたを繋ぐ首輪はないわよ。どうする?」

【菫】「もちろん向かいます。そしてあなたのお力を貸してください」

霞「竜人霞の背に乗ろうと? すごい発想ね」

【菫】「関鹿安保発令中ならば問題ないはずでは?」

霞「いやいや、そうじゃなくてプライドの問題よ」

【菫】「承知の上です」

 
霞「はー、流石ね。巴も惚れるはずだわ」

【菫】「!!っ」ギクッ

霞「あなた、あの子に手を出したでしょう。貞操観念の強い巴が先々月の合同訓練後、雌の顔して帰ってきたの忘れないわよ」

【菫】「!!!」ギクギクッ

霞「弘世菫のいいところベスト10を聞かされたわ。馬鹿じゃないかしら。あの子は石灯篭聖龍よ。あなた、なに考えてるの?」

【菫】「……そ、」ゴクッ

霞「そ?」

【菫】「それは、勘違いかと……」

霞「あなたも顔を青くすることもあるのね。まぁいいわ。不問としましょう。そしてナガノへも連れて行ってあげます」ニコリ

【菫】「恩に着ます……。もちろん、条件は、」

霞「あるわよ」

【菫】「っ」ゴクリ



霞「あなたの子が欲しいわ」



【菫】「……はいぃ?」

霞「子が欲しいの」

【菫】「正気ですか?」

 
霞「もちろん」

【菫】「……」

【菫】「まず、私には男根がありません」

霞「体組織変換でどうにでもなるわよ」

【菫】「……立場が違いすぎます。あなたには然るべき相手がいるはず。私よりも立派な役職を持った竜人の男性が」

霞「立派? 竜人なんてボンクラばっかりでうんざりする」

【菫】「なにより、竜人と人間の合いの子は世間から迫害されています。それはご存知ですよね」

霞「……どこか、島にでも移り住んで余生を過ごすわ。もうね、疲れたのよ」

【菫】「私との子を理由に現職からわざと追い出されるつもりですか」

霞「そう」

【菫】「そのために……そんな理由なら私じゃなくてもいいでしょう」

霞「あなたがいいわ。あなたとしたい。孕まされたいの」

【菫】「……」

霞「一線を越えるのが怖い? 他の女に手を出して宥ちゃんを大事にしているって聞いてたけどただのヘタレじゃない」

【菫】「宥は関係ない」

霞「関係あるわよ。だって助けに行かなきゃいけないんだから」

霞「あなたに選択権はない。首を縦に振りなさい。あなたは私を抱くだけで竜人の力を使えるの」

【菫】「子供……、私の——」

霞「絶対にあなたの子を幸せにする。約束するわ」


【菫】「——呑みます。その条件」

短いですが、今日分終了です

おつおつ

ハッピーエンド頼む…

異世界サイドはもうハッピー望めんでしょ……現にいっぱい死んでるし

クロチャーの事とピンクのせいでもうどうしようもないな…

咲さんが無事に帰れるのかも怪しい

少なくとも元の世界の菫はトラウマばっちり刻まれて戻った後も苦しめられそう
咲もこの後どんな転がり方しようが少なくとも楽しい体験にはならないだろうし不安しかないな

いっぱいしにますでクロチャーが死ぬのは考慮しとらんよ…

ひさびさにファンタジー読んでる気分で楽しいぜ

>>346 ガオーとか言ってるとこから首ちょんぱとか予想出来ねえよな…

【菫】さんが好色すぎるとおもったら霞さんも大概だった

>霞「あなたがいいわ。あなたとしたい。孕まされたいの」

こんなこと言われて理性を保てようか

子供をダシに何かやらかそうと企んでるんじゃないかと思えてならない
子供は幸せにするとは言っても妊娠云々に関して菫に迷惑は掛けないとは言ってないし

やっと生まれた世継ぎの小蒔ちゃんをわざわざ危険な、しかも極秘作戦にねじ込んでるしなぁ


すごく楽しみなんだけど、これほど好きなキャラが登場しませんようにと願うssは初めてだwwww

最後は7つ集めたドラゴン牌でみんな生き返るから……

異世界はもうこれ菫と宥は無事助かり一緒に幸せに暮らしましたとさにはならないだろうなぁ

残りの十指は全員出番があるのか

 
小蒔「この方が照さんの」

咲「ううう」

初美「怖がらなくて大丈夫ですよー」

小蒔「初美ちゃんが強引に連れてくるから……」

初美「だって異世界住人ですよー!? 興味ビンビンに決まってるじゃないですかっ」

咲「あの……、神代小蒔さんと薄墨初美さんですよね……?」

初美「おお! うすずみという姓は持ち合わせていませんが、初美は合ってますよー。もしかして面識あり?」

咲「インハイで私とは戦っていませんが、二回戦で……」

初美「いんはい? 淫杯?」

咲「麻雀というテーブルゲームを行う大会です。この世界にはないんですか?」※若干説明不足(インハイ≠麻雀大会)

初美「聞いたことないですねー」

咲「そうなんだぁ」チラリ

咲「……っ」ゴク

小蒔「?」

咲「耳、それ、ほ、本物ですか?」

小蒔「耳?」ピク

咲「」

サワサワ

小蒔「ふぁっ///」

初美「ファッ!?」

咲「あ、手が勝手に、」

 
初美「こらあ! あなたの世界では礼儀ってもんがないんですかー!」ペシ

咲「ごめんなさいごめんなさい!」

小蒔「びっくりしたけど平気ですよっ。触ってもらっても、ほら」

初美「はしたないですよ! まったく……」

霞「はしたないのはどちらかしら……?」

初美「は……!? なぜここに、走査じゃまだ外庭に、」

初美「……! これ、ダミーだ……」カタカタ

霞「私、昔ね、一度だけ思念走査を這わされたことがあるの」

初美「」

霞「犯人はぜんっぜんわからないんだけど……、その時から常に攻性迷彩かけて、こちらの術中へハメようとしてるわけ」

霞「『二度目』はないわよ。初美」

小蒔「……」ブルッ

初美「——ずるいです」

霞「……」

初美「私に黙って……。霞ちゃんは、お仕事が嫌いでしたかー……?」

霞「聞いてたのね」

初美「私なりに頑張ってきたつもりです。手を抜いたことなんてないですよ」

霞「知っているわ」

 
初美「でもでも、もっと仕事を回してもらっても、私できます」

霞「……」

初美「右腕として、いや、ボロ雑巾みたいに扱われたって私っ……」

霞「私の支配は、長すぎたの」

初美「そんなっ」

霞「どれだけ公正に執り行っても不変の組織は緩やかな死を迎えるわ」

初美「腐敗が怖いんですか? だったらなおさらです! 霞ちゃんがいなくなったら誰が一族を取り仕切るんですか!!」

霞「私は神代の血が濃いわけじゃない。だからいつまで経っても“永水の霞”なの。続柄の姓を得られるなんて考えたことはないわ」

霞「そんな私が、一族の長なんて、ねぇ? ちゃんちゃらおかしいと思わない?」

小蒔「霞ちゃん……」ジワッ

霞「ごめんね、きついこと言って。小蒔ちゃんは悪くないわ。悪いのは保守的なカゴシマの血統政治だもん」

初美「じゃあ私は、何を目標に生きていけばいいっていうんですか……」

咲「……」ゴク

咲(私、最近よく修羅場に巻き込まれてる気がする……!)

霞「ねえ、咲ちゃん?」

咲「……はい?」

霞「向こうの私は、どんな名前だった?」

咲「石戸、霞です。石に戸棚の戸で石戸」

 
霞「あらら、すごい偶然。通名と一緒なんて」

初美「……っ、」

霞「そんな顔しないで。これで終わりってわけではないから。小蒔ちゃんを一人前にしたらよ。それに私がいなくなってもサポート役は考えている」

霞「ほら、この前営業に来たボインの女の子二人、春ちゃんと良子ちゃん。小蒔ちゃんと年も近いし仲良くなれるわよ」

霞「だから、ね? わかってほしいの」

初美「——くそ」


初美「くそばばああああ!!」ダッ

タッタッタッ

霞「あらあら」

小蒔「初美ちゃんも十分年とってます……」

霞「それ誰のフォローにもなってないわよ」


ドンッ  「ぐぁっ、おい」


【菫】「……なんだよ」ヒョコ

【菫】「初美のやつどうしたんだ? 泣きながらどこか走ってたぞ。ぶつかったのに謝りもしないし、」

霞「それはね、まぁあの子もまだ子供ってことで」

【菫】「百歳の子供ですか。それなら私は胎児か?」

咲「あ、その格好」

【菫】「ああ。これ? 私の一張羅」

 
一言で表すなら白。
フードの付いた純白の、巡礼者が着るようなローブ。膝上で切り詰められ、脚の動きの邪魔にならないよう、真横と残後に深い切れ込みが入っている。
胸の下まで包む胴当てには短剣が二本差し込んであり、栗色の生地に朱の刺繍が施されていた。
肩から逆半身へ繋がるベストは上半身を引き締め、寒冷地用の厚手のズボンの上に履いた無骨な皮ブーツと相まって男性のような凛々しさを感じさせた。
そして、からくりの仕掛けられた両腕の手甲と背に担いだロングボウ。
これでは、

咲「暗殺者……?」

【菫】「騎士鎧は好きじゃないんだ」

霞「準備はいい?」

【菫】「ええ。お待たせしました」

咲「どこへ?」

【菫】「もう一人の私は今、作戦に従事している。それを今から助けに行く」

咲「作戦……? だって弘世さんは、遊びに来たって」

【菫】「咲、君と弘世菫の関係は?」

咲「……お姉ちゃんの友達、です」

【菫】「それだけか? 特別な感情を抱いていないか?」

咲「それ以上は何も」

【菫】「そうかありがとう」

霞「難儀な性格よね。普段は軟派なクセして事ある毎に責任を背負込んで、結局一人で解決してしまう。ずっとその繰り返し」

咲「どういう意味ですかっ!? 作戦って!?」

 
【菫】「私の身代わりに照と二人で、誘拐された宥の救出任務へナガノへ潜入している」

霞「それで合ってるわ」

咲「うそっ……」

咲「——だ、だって言ったじゃないですか! 弘世さんは今頃ドラゴンにでも乗って遊んでいるって、心配することは何もないって!」

【菫】「全て嘘だ。真実を話して君の世界の照や宥から責められるのが怖かった」

咲「!!……っ、」

霞「ちょっと待って咲ちゃん、この子馬鹿だから」

グイ

【菫】「……」

霞「いい加減、全部自分のせいにするのは止めなさい。あなたを飛ばしたのは淡ちゃんの独断でしょ? なぜそんな誤解を招く言い方をするの」

【菫】「不甲斐ない私のせいです。私が強ければ問題なかった。私が死の運命に直面しなければ」

霞「主君をたてるその心意気は結構。だけどね、あなたの自嘲は行き過ぎていて、はっきり言って気持ち悪い」

【菫】「……否定しません。ですが、私は淡様を責めることができない」

 
霞「もういいわ。勝手にしなさい」

【菫】「そうさせてもらいます」

霞「……」ジー

【菫】「まだ何か?」

霞「死線は消えてる」

【菫】「……ありがとうございます」

【菫】「小蒔様、後は頼みます」

小蒔「任されましたっ」

【菫】「咲、私達が無事に帰ってこれたら照と会ってくれ」

咲「お姉ちゃん、ですか?」

【菫】「ああ。絶対に喜ぶから」

咲「それって——」


【菫】「期待させてすまなかった」


【菫】「この世界は死で溢れているんだ。——私達も、もう会えないかもしれない。さようなら、咲」

今日分終了です

竜人は「チャー」だの「チャン」だのがついてんのが本名だと思ってもらえれば
神代のみ人間と同列の苗字で、他の方は勝手に名乗ってるだけです。松実もまた然り
という設定です。説明不足で申し訳ない

おつおつ

ハッピーエンドが見えてる…?

ハッピーって何だっけ・・・

死に際にいい人生だって思えればそれがハッピーだよ
うん…

アルタイル菫

宮永姉妹が会えるのを祈ってるよ…

霞さんナガノに行く前に姦っとかないと
【菫】さん氏んじゃうよと思ったら死線は消えたのか

体組織交換で済むなら姦る必要無いのではと思ったけど
気分の問題とか儀式的な何日があるんだろう
そしてその場面を30レスくらいで描写してもらおう(興奮)

死線は消えている(大嘘)

だろ…

体組織変換じゃね
はっちゃんが趣味悪いって言ってたから要はふたなり…

お前ら霞さんのイメージどんだけ悪いんだよ

霞菫、悪くない

>>1です
一旦ここでスレッドをHTML化させてもらう旨を報告します
理由は単純にモチベーションの低下で、二ヶ月以内に再開できるかわからないからです
トリップは『照「咲の地球儀」』と同じですので本人確認はそこでお願いします

次の再開時までには書き溜めを終わらせて、すぐに終了できるよう務めます
勝手な理由ながら申し訳ありません
ご理解よろしくお願いします

『照「咲の地球儀」』をそろそろ書き始めます。そっちも良かったら読んでみてください


了解です
待ってます

生殺しwwwwwwww

あと、プロットはできているので、完結まではこぎつけます
連絡以上です

乙乙

ああ、あのアンチ向けのクソSSか

>>380
自分が気に入らないだけでアンチ向けとかおめでたい頭してんな

>>1を信じて待ってる

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