ゆき「ねえねえ、みーくん。幸せのサチコさんって知ってる?」 (145)

○がっこうぐらし!×コープスパーティー

●有りそうで無いので試しに書いてみる

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1449254082

【学園生活部・部室】


みき「幸せのサチコさん?いえ、知りませんけれど」

ゆき「えー、みーくん知らないの?ちゃんと本読んでる?」

くるみ「トイレの花子さんの親戚か?」

ゆき「んーと、どうなんだろ。分かんないや。りーさんは知ってる?」

ゆうり「サチコさんねえ。誰のことなのかしら。ゆきちゃん、正解を教えてちょうだい」

ゆき「正解は、これ!この雑誌に載ってる『おまじない』だよ」

ゆうり「これ、オカルト雑誌?どこから持ってきたの?」

くるみ「ああ、それなら。この前購買に寄ったとき、暇つぶし用に何冊か雑誌取ってきたんだよ。たぶんその中の一冊だろ」

みき「ああ、なるほど。私はこういう系の雑誌はあんまり読まないので」

ゆき「というわけで、早速サチコさんのおまじないをしよう!」

くるみ「おいおい、ずいぶん乗り気だな」

ゆうり「いいんじゃないかしら。たまにはこういう遊びも」

みき「私も別に構いませんけれど。これってどんなおまじないなんですか?」

ゆき「うん、幸せのサチコさんにお願いするとね」

ゆき「ここにいるみんながいつまでも一緒に友達でいられるんだって」

くるみ「……」

ゆうり「……」

みき「……」

くるみ「へえー。いいな、そのおまじない」

みき「私も、まあ、いいんじゃないかと」

ゆうり「私も。それじゃ、早速4人でおまじないをしましょうか」

ゆき「えー!りーさんひどいよ~。5人だよ5人。めぐねえも合わせて。ねー、めぐねえ」

ゆうり「あ、そうだったわね。もちろん、めぐねえも一緒にね」

みき「……」

くるみ「じゃ、5人でやるとするか。それで、どうやるんだ」

ゆき「ちょっと待って、まず用意するものがあってだねー。りーさん、紙ない紙?ペンと鋏も」

ゆうり「それなら、ちょっと待ってね。……はい、これでいいかしら」

ゆき「うん、ありがと!」

カキカキ……チョキチョキチョキ……

くるみ「何作ってるんだ?」

ゆき「ふっふっふ、できました!じゃじゃ~ん!」

みき「何です、これ?紙人形?」

ゆき「これをね、みんなで持つの。どこでもいいから。あ、まだ引っ張っちゃダメだよ」

ゆうり「これでいいの?」

くるみ「ほい」

みき「掴みましたよ」

ゆき「おっけー。じゃ、次にみんな目を閉じて、人数分だけ『サチコさんお願いします』って唱えるの。心の中でだよっ」

くるみ「人数分ってことは4……いや、5回でいいんだな」

ゆき「うん。このとき大事なのがね。唱えるときに言い間違えても絶対に言い直したらダメなの」

ゆき「回数を間違えたら、サチコさんが怒り出して大変なことになっちゃうんだって」

ゆうり「大変なこと……」

みき「間違えたらどんなことが起こるんです?」

ゆき「分かんない。それは書いてなかったもん」

くるみ「なんじゃそりゃ」

ゆき「で、唱え終わったら全員でこれを引っ張って千切っておしまい」

くるみ「何だ、結構簡単だな」

ゆき「くるみちゃん、絶対言い間違えないでよ」

みき「くるみ先輩、気を付けてください」

ゆうり「くるみ、大丈夫?」

くるみ「おいこら」

ゆき「じゃ、みんな準備はいいー?めぐねえも、大丈夫?」

くるみ「おっけー。5回だな?うん、5回5回」

みき「いいですよ」

ゆうり「私も大丈夫よ」

ゆき「じゃ、目を瞑って~、はじめっ」

「……………………」




ゆき「みんな終わった?」

ゆうり「私は終わったわ」

みき「私も」

くるみ「よしきた!」


ゆき「じゃ、せーので引っ張るよ」





「せーのっ!」




ビリッ!!!!

ゆき「ふぅー」

みき「終わりました……ね」

ゆうり「これで、成功したのよね?」

くるみ「たぶん。で、この千切れた紙切れはどうするんだ」

ゆき「無くさないように大切に持っておくんだよ。くるみちゃん、無くさないでね」

くるみ「まーた私か。大丈夫、無くさないって」

ゆうり「これで、私達……ずっと友達でいられるわね」

みき「はい……そうなれば……いいですね」

ゆき「もー、みーくん。おまじないは信じないと願いは叶わないんだよ?分かる?」

みき「はいはい、分かりました。ゆき先輩」

グラグラグラグラグラグラグラグラグラグラ……!!


ゆき「わ、わわわわっ!?」

みき「ゆき先輩、危ない!」

くるみ「やつらが攻めてきたか!?」

ゆうり「くるみ、これはたぶん地震よ!みんな、テーブルの下に――」


ギュォォォォオオオオオオオオオオ……

…あれ?これ正しいやり方じゃね?

>>16 全員が5回唱えたとは限らない

ゆき「え、え、何っ!?」

みき「床がっ……抜ける!?」

ゆうり「っ!」

くるみ「みんな掴まれっ!!」


ズゥォォォォオオオオオオオオオ……

【天神小学校・教室】


ザァ――――――


くるみ「うぅーん……」

くるみ「はっ……どこだ、ここ?」

くるみ(……床が抜け落ちたってことは部室の下の階の?いや、それにしては不自然だな)

くるみ(天井にそれらしい穴が開いてないし。周りに床材の破片とかも散らばってない)

くるみ(校舎の内装も、巡ヶ丘とは明らかに違う。あちこちがボロボロなのは同じだけど)

くるみ(どうも、壊されてボロボロになったってだけじゃなさそうだ。なんつーか、古くなってボロくなった感じ?)

くるみ(床も壁も木でできてる。こりゃ相当古い建物だろ。どうなってるんだ?)

くるみ「っと、それよりみんなだ!」

くるみ「ゆきー!みきー!りーさーん!」

くるみ「いるなら返事しろー!」

シ―――――――ン

くるみ「応答なし……か。見たところこの部屋には私一人だし。他所を探すしかないな」

くるみ「……外は」

ザァ――――――

くるみ(雨が降ってる。さっきまで晴れてたのに。結構、時間も経ってるのか?)

くるみ「……雨」

タッ

くるみ「そういや、雨の日って『やつら』が濡れるのを避けて建物の中に入ってくるよな」

くるみ「とりあえず外の様子を見て確かめた方がいいか」

ガッガッガッ

くるみ「あれ、窓が開かねえ……立て付け悪りいのか。だったら」

ガツンッ!!

くるみ「うおっ!?」

ドサッ

くるみ(嘘だろ。シャベルをぶつけたのにビクともしないどころか……こっちが弾き飛ばされちまった)

くるみ(強化ガラス?いや、どう見ても普通のガラスだ。あちこちヒビも入ってるし)

くるみ(どういうことだ?)

くるみ「……考えても仕方ないか」

くるみ「とりあえずシラミ潰しに試してみよ」

ガッガッガッガッガッガッガッガッガッ
……ガシャンッ!

くるみ「お、ビンゴ。廊下側の窓は何とか……ってか、出入口フツーに開いてる……」

くるみ「はー、無駄に頑張って損したぜ……」

スタスタ

【廊下】


くるみ「おーい!ゆきー!ごはんだぞー!」

くるみ「みきー!りーさーん!元気かー!」

くるみ「私はここだぞー!」

くるみ(返事がないな。もしかして、さっきの私のようにどこかで気を失ってるのかも)

くるみ「ん!」

くるみ(向こうに人影が。ゆき達なら、私の声に応えてるはず)

くるみ(だとしたら、……『やつら』か)

くるみ(周りが暗くて視界が利かない。ここは慎重に前進して『やつら』の出方を伺おう)

ジリジリ……

くるみ(動きがないな。ここまで近づいてみても……一切反応しない。ということは――)

ジャリ……

くるみ「やっぱり、死体か」

くるみ(白骨化してるな……。結構長い間ここに放置されてたんだろう)

くるみ(でも……白骨死体なんて見るのは初めてだな)

くるみ(『やつら』に噛まれた人間は死なないんだから骨にもならないだろうし)

くるみ(とどめを刺したらすぐに埋めるか燃やすかしてたし)

くるみ(となると、こいつはどうやって死んだんだ?少なくともやつらにやられたワケじゃないとなると)

くるみ「!!」

くるみ「餓死……とかも考えられるな。『やつら』に追われてこの学校に立てこもったけど食糧が尽きて……とか」

くるみ「うわ……ひとごとじゃねえ」

くるみ「……はあ。で、何でそんな他所の学校に私はいるんだっつーの……」

くるみ「あーもう、わっけわからーん!誰か説明してくれー!」


『説明シよう』

くるみ「えっ。今、どこからか声が……」

ボゥ……

幽霊『私ダ』

くるみ「うおおおっ!?ひ、ヒトダマ!!?」

幽霊『幽霊ヲ見たくらいで、そんなに驚クほどのことカ?死体を見ても平然トしていタくせに』

くるみ「そりゃ驚くって!幽霊だぞ幽霊!幽霊と会話とかありえないから!私レーカンなんてねえし!」

幽霊『こノ学校に閉じ込められた人達ハ、まず恐怖にのた打ち回り、徐々に平常なココロを失ってイった……』

幽霊『そして皆死ニ、朽ち果てていク。ボクもそんな死者ノ一人』

くるみ「あ、うん。マジで幽霊なのか……あんた」

幽霊『ソウ。だが、キミは違う。今まで監禁されてきた人間ニはない……強サのようなものを感ジる』

幽霊『せめて、足掻いてクれ。この怨霊たちが支配する呪われた小学校――天神小学校で』

くるみ「え、何て?天神小学校??」

幽霊『何の抗いモ叶わず死ニ絶えたボクのような――そんな無念サは……キミには――イヤ、キミ達4人には――味ワって欲しくはなイ』

幽霊『健闘ヲ……祈る……』

シュゥゥゥゥゥ

くるみ「あ、おいちょっと待て!もうちょっと詳しい事情を教えてくれよ!おーい!」

シ―――――――ン

くるみ「返事がない……ただの屍のようだ」

くるみ「はあ……『やつら(ゾンビ)』は出るわ『幽霊』は出るわ……どうなってんだろな……この世の中」

くるみ「よっと。まあ、とにかくここが『天神小学校』っていうとこだってことは分かった」

くるみ「そんでもって幽霊サンの話だと、ほかの3人もこの学校の中にいるっぽいし」

くるみ「とりあえず、探すしかないな――先に進もう」

「世以子ぉぉぉおおおおおおおおおおっ!!」




くるみ「!!」

くるみ(今、確かに叫び声が聞こえた。上の方からだ)

くるみ(人の声、いや、幽霊だったり?)

くるみ「あーもうどっちでもいいや!」

くるみ「行くぞ!!」

ダッ


                                    (つづく)

ストーリーうろ覚えなので再現度低いかも。
いい結末が想像できない。

【階段の踊り場】


くるみ「間違いない、この上だ」

ダダダッ

くるみ(クソッ!あちこちで床が抜けててなかなか進めねえ)

くるみ(ジャンプ力には自信あるけど、下に落ちたらひとたまりもないし)

ギシッ……ギシィ……

【3階】

くるみ「この階だな!」

バシャーン!

くるみ(……何だろ、水をひっくり返すような音!)

くるみ「あっちか」

タッ

くるみ「……うっ!」

くるみ(何だこりゃ……血と……人間の内臓が……ぶちまけられてる)

くるみ(うぇ……ウジも湧いてるし……すげえニオイだ)


「いやぁぁぁああああああああああっ!!」

くるみ「!……この部屋の中から声が!」


【女子トイレ】

ザッ

くるみ「!」


直美「世…………以……子……」

直美「どうして…………何で……」


くるみ(幽霊じゃない。『やつら』でもない。生身の人間だ)

直美「一緒に……帰ろうって……言ったじゃない…………」

直美「なのに……何で…………」

くるみ「お、おい。あんた、大丈夫か!」

直美「何で自殺なんかするのよぉぉぉおおおおおおっ」

くるみ(自殺……?)

チラリ

くるみ「ひっ……」


世以子「――」

ブラーン……ブラーン……
ピチャ……ピチャ……

くるみ(トイレの個室で首吊って……ダメだ。これはもう……死んでる)

直美「う、うぅ……ひっく…………」

くるみ「おい、あんた!」

直美「!!……だ、誰っ!?」

くるみ「……事情は知らねえが、とりあえず……落ち着きなよ……」

直美「そ、そんな……こと……言われても」

直美「だって……だって世以子が……こんな……なって…………う、うぁぁ」

くるみ(……この状況で落ち着けってのが無理な話だな)

キャハハハハ……
アヒャヒャヒャ……

くるみ「子どもの笑い声?今度は何だよっ」

アハハハ……ウフフフフ……

直美「ひっ」

くるみ(青白く光って……これは幽霊か)

くるみ(でも、さっき廊下で出会ったやつとは雰囲気が違うぞ。何ていうか……直感的にだけど、こいつらはヤバイ)

キャハハハハハハ!

くるみ「!――取り囲まれる!」

くるみ「おい、あんた、こっから逃げるぞ!」

直美「逃げる?でも、私……っ……」

くるみ(!――足に布が巻かれてる。怪我してるのか)

アハハハハハハハ!

くるみ「しゃーない!」

ひょいっ

直美「えっ」

ダダダダッ

【階段】

ダッ

くるみ「落ちないように腕回して摑まってくれ!」

直美「……は、はいっ」

くるみ(とりあえずできるだけ遠くまで離れるんだ。何とか振り切らないと)

直美「あ、あのっ、大丈夫ですか?」

くるみ「ん、何が?」

直美「私結構……重いかも」

くるみ「平気平気、体は鍛えてる!こいつも持ち歩いてるしな」

直美(これ、……シャベルよね)

直美(シャベルと一緒に私を抱えて……この速さで走れるなんて)

くるみ(いろいろ話を聞きたいところだけど……今は後回しだ。とにかく、逃げる!)

【廊下】


ギシ……ギシ……


みき「ゆき先輩ー、くるみ先輩ー、悠里先輩ー」

みき「どこですかー」

みき「……」

みき「誰かいませんかー!」


シ――――――ン


みき(やっぱり、この次元にはゆき先輩達は……いないのかな)

みき(さっきの人魂の話だと……この多重閉鎖空間に閉じ込められた人間は、異なる次元間を行き来できないみたい)

みき(ということは――……私はまたひとりぼっちに)

みき「……っ」

みき(ゆき先輩達に助けられて、学園生活部に入部して、一緒に暮らすようになって)

みき(あんな状況の中でも……希望を持って前へ進もうって。そう思えるようになってた)

みき(それなのに……どうしてまた……こんなことに……っ)

みき「……だめっ」

みき(悪く考えたらだめだ。前に進まなきゃ。まだ私は生きているんだから)

みき(あのときのように――あの狭い部屋から一歩踏み出したときのように)

みき(生きることを諦めなければ、きっと道は開けるはずだよね)

みき(ねえ、圭)


グラグラグラグラグラ……!!

みき「!!」

みき(また地震!?)

みき「っ」


グラグラグラグラグラグラ……!!

……シ――ン


みき「収まったみたい……」

みき「あれっ」

みき(廊下が……。突き当りまで歩いていたのに……両側に伸びてる?)

みき「目の前には保健室。さっき通り過ぎたはずなのに」

みき「!!」

みき(保健室の入り口から廊下の奥まで……血痕が。さっきはこんな跡なかったのに)

みき(この血の跡は先には……何が)


ギィ……ギィ……


みき「うっ」

みき(壁一面が真っ赤になってる……周りには内臓が……)

みき「ぉ……うぇ……っ」

みき(死体はもう見慣れてきたと思ってたけど……これは……)


コツ……コツ……コツ……


みき(!……足音?)

みき(幽霊……じゃないよね。確かに近づいてる)

みき(先輩たち?)

みき(ううん、そうとは限らない。物陰に隠れて、様子を伺った方がいいかな)

サッ

みき「!」


森繁「……」


みき(男の人だ……。制服を着てるし……同じ高校生くらい?)


ごそ……ごそ……


みき(何だろう。あのぐちゃぐちゃな死体の前にしゃがみ込んで……何かしてる)

森繁「綺麗だなぁ」

森繁「やっぱりこの死体が一番綺麗だ」

森繁「もう一枚撮っておこう」


カシャッ


みき(な、何……あの人)

みき(死体の写真を撮って……笑ってる)

みき(気持ち悪い……)

【本館・昇降口】


悠里「『○○くんの ちも にくも ないぞうも ぜんぶ たべた』」

悠里「『おいしかった』」

悠里「『にんげんの からだって こんなに おいしいもの なんだ』」

悠里「『また おなかが すいた』」

悠里「『にんげんを たべに いこう』」

悠里「『ごめんなさい』」

悠里「『ごめんなさいなさいなさいなさいなさいなさいなさいなさいなさいなさいなさい
なさいなさいなさいなさいなさいなさいなさいなさいなさいなさいなさいなさい』」

悠里「いや……いや……」


ぐしゃっ


悠里「どうしてよ」

悠里「どうして……どうしてなのよ……」

悠里「……何で……こんなことになるのよっ……」

悠里「返してよ……返して……!!」

悠里「私の居場所を返してよっ……!!」

悠里「学園生活部を返してっ……!!」

悠里「ねえっ……返してっ……!!」


ドンッドンッドンッ


<うぅううう……ぐすっ……ひっく……

悠里「!……この声」

悠里「ゆきちゃん?」

悠里「ゆきちゃんなのね?」


>うぅ……どこ……どこぉ……


悠里「待っててね、ゆきちゃん」

悠里「今そっちにいくわ」

【渡り廊下】


ザァ――――――――


由香「うぅ……お兄ちゃん……どこなの……」

由香「どこなの……ねえ、どこ行っちゃったの……」

由香「由香を置いてかないで……お兄ちゃーんっ」


ジャリ……


悠里「ゆきちゃん」

由香「えっ……?」


ぎゅううっ


由香「え、あ、あっ……」

悠里「ゆきちゃん……良かった。こんなところにいたのね」

由香「お、お姉さん……だあれ?」

悠里「心配してたのよ。大丈夫だった?けがはない?怖い思いしなかった?」

由香「あ、あの……私……」

由香(知らない制服……違う学校の人だよね。きっと私達と同じように……ここに閉じ込められて)

由香(私のこと……他の人と勘違いしてるのかな……)

由香「私……『ゆき』じゃなくて……持田由香っていいます。あの、人違いしてるんじゃ……」

悠里「あとは、くるみとみきさんね。二人ともしっかりしてるから大丈夫だと思うけれど」

悠里「早く見つけ出して、みんなで帰りましょ」

由香(だめ……何だか……通じてないみたい)

由香「あ……」

悠里「あら、どうしたの?」

由香「そ、その……おトイレ……ずっと我慢してて」

悠里「あら、それはいけないわ。どこか……トイレを探さないと」

由香「うん、でも……校舎に戻るのも……怖いし」

悠里「大丈夫よ。私がついているから。心配しないで」

悠里「さ、行きましょ」

由香「は、はい」

                                    (つづく)

【本館・教室】


くるみ「なるほど。おおまかな事情は掴めた。幸せどころかとんだ死逢わせだな、このおまじない」

直美「ええ……」

くるみ(私ら4人、めぐねえのぶんを含めて5回まで唱えたんだもんな。おまじないのやり方をミスってる)

くるみ(大変なことになるって、まさかこんなことになるなんて……)

くるみ(軽い気持ちでやるんじゃなかった……怖いな、おまじないって)

直美「でも、くるみさん。あなたたちのいう元の世界って、『やつら』っていうゾンビみたいなのが大量発生してパニックになってるんでしょ?」

くるみ「ああ。自分の学校に立て篭もってもう数ヶ月になる。あんたの言うような平和な世界なんてもはや有り得ない状況だったんだ」

直美「それってどういうことなのかな。巡ヶ丘って街だけでゾンビが発生してて、ほかの所は平和ってこと?ニュースじゃそんなパニック、全然報道されてないし」

くるみ「巡ヶ丘だけなら、とっくに救助が来てておかしくないと思うんだ。いくら『やつら』が這い回ってるったって、私らみたいな高校生でも何とか生き永らえてきたんだ」

くるみ「重装備した自衛隊とか軍隊なら、街ひとつくらい制圧できるはずだと思うしな」

直美「それも……そうよね」

くるみ「……」

直美「……」

くるみ「……悪いね。大切な友達を失くしたばっかりだってのに、何だかんだと喋りかけて」

直美「う、ううん!全然いいから。くるみさんが助けてくれなかったら、今ごろ私、あの子どもの幽霊に殺されてたかもしれないし」

直美「世以子のことは……うぅ……本当に私のせいで…………」

直美「あの子の気持ち……分かってたのに……私を元気づけるために……明るく振る舞って頑張ってくれてたのに」

直美「それなのに……私……自分勝手で……あの子のこと……突き放しちゃって」

くるみ(何か慰めの言葉の一つでも掛けれたら、とは思うけど。何言ってもかえって気持ちを逆立ててしまいそうだ)

くるみ(この直美って子とすでに死んだ世以子との間柄なんて、さっき出会ったばかりの私にゃ分からないし)

くるみ(黙って聞いておくくらいしかできることはないな)




くるみ(あのとき――……先輩を失くしたときの私は)




ユラリ


直美「……」

くるみ「あ、おい。どこ行くんだ?」

直美「3階の女子トイレ」

くるみ「え、でも……そこはさっきの」

直美「首を吊ったままじゃ苦しいだろうから降ろしてあげたいし。……もう一度、世以子にちゃんと謝りたいの……ちゃんと」

くるみ「ああ。それはその通りだと思うけど……でも、さっきの子どもの幽霊がまだ近くにいるかも知れないだろ。危ないって」

直美「うん、危ないのは分かってる。でも、私……どうしても……行きたいから。くるみさんにはほんと感謝してます。ありがとうございます」


ペコリ


くるみ「お、おい待てって直美!私も行くよ!」

直美「え、でも……危ないんだから、私だけで……」

くるみ「どのみち私も友達3人を探してあっちこっち周らないといけねえし。危険は元の世界から慣れっこさ」

くるみ(ここまで関わっておいて放っとけるわけないだろ。それに、私だって一人は心細いんだ)

くるみ(今、こいつを一人したら後追い自殺とかしてもおかしくない。この学校の呪いって、人間をそういう負の気持ちにもっていく作用があるんだろ)

くるみ「だからあんたが私を気に掛ける必要はないから。私は私で3階を探索するんで、たまたま同じ方向に向かうってだけさ」

直美「そうですか……分かりました」

【本館・保健室前の廊下】


森繁「……ふ、ふふふ」


ゴソ……ゴソ……


みき(あの人は……危ないひとだ。何ていうの、死体愛好家っていうのかな)

みき(ある意味、『やつら』よりもタチが悪いかも)

みき(関わりたくないし、早くここを離れて……)


ガタンッ


みき(あ、しまった!)


森繁「!……誰か、いるのか?」

みき(どうする?逃げたら逃げたで……追いかけられたら怖いし)

みき(この学校、外には出られないからまた鉢合わせってことも)

みき(……よし)


スタッ


森繁「!」

みき「あ、えっと。あなたも、サチコさんのおまじないでここに連れて来られたんですか」

森繁(……人間か。他校の生徒のようだ。前に見た生徒のように錯乱している様子はないな)

森繁(写真を撮っているところ、見られたか?)

森繁「ああ、そういうことになる。一緒に来た連中とは、今のところ会えていない」

みき「そうですか。私も同じです。……『部活』の仲間4人でここに来たんですけど」

森繁「そう。こっちは9人で来てる。4人だったら、まだ全員再会できる可能性もあるだろう」

みき「ええ、そうですね。ならいいんですけど」

森繁「……。この壁のもそうだけど、あちこちに死体があって、嫌になるね」

みき「……そうですね」

森繁「幽霊も出るし。そういえば、青系統の人魂は善い魂で安全で、赤系統のは凶暴で危険らしいよ」

みき「そうなんですか。覚えておきます」

森繁「――それじゃ、こっちはこっちで仲間を探すから」

みき「あ、はい。お互い、元の世界に戻れたらいいですね」

森繁「……ああ」


ギィ……ギィ……

みき(……あれ?話してみると、意外と普通っていうか、別に危ない感じのひとじゃなかった)

みき(案外、さっき死体を見て笑ってるように見えたのも、私の勘違いだったり?)

みき(周りも薄暗いし、目の錯覚とか……あるよね)

みき(よし。私も私で、探索を続けよう。あの人の言う通り、4人くらいなら運よく巡り合えるかも知れない。頑張らないと)


スゥ――――――


『かえ……して……』

【別館】


ギシ……ギシ……


ゆうり「ここのトイレはだめね。床がほとんど抜け落ちていて入れないわ」

由香「うん」

ゆうり「ゆきちゃん、この校舎の他の階のトイレはもう探したの?」

由香「ううん、まだ。棚が倒れたりしてて、先に進めないの」

ゆうり「そうなの」


スタスタ


ゆうり「本当ね。これじゃ通れないわ。ゆきちゃん、そっちの端の方を持ってくれる?」

由香「あ、はいっ」

ゆうり「せーので持ち上げるわよ。せーの!」


グググググ

由香「ん、んぐぐっ……重いぃ」

ゆうり「んっ……!」


グィィ


由香「あ、も、持ち上がったぁ!」

ゆうり「まだ力を抜いちゃだめよ。ゆっくりと、そっちに移動させましょう」


ズズズ……ドスッ


ゆうり「ふぅ……何とか通れるようになったわね」

由香「お姉さん、力持ちですね」

ゆうり「そんなことないわ。二人で協力したからできたのよ」

ゆうり「でも、『お姉さん』って。かしこまってどうしたの、ゆきちゃん?」

由香「え、えと……」

由香(もう一回説明したほうがいいかな。私は『ゆき』って人じゃないって……)

ゆうり「まあ、ゆきちゃんがそう呼びたいんだったら、別にいいのよ。でも同級生に『お姉ちゃん』って呼ばれるのはちょっぴり不思議な感じ」

由香「う、うん……えへへ」

由香(ゆきさんはこの人と同級生なんだ。お兄ちゃんと同じ高校生くらいかな?)

ゆうり「でも、どうしてかしら。あんまり違和感はないわね。ゆきちゃんって、まるで妹みたいな雰囲気あるもの」

由香(そういえば、このひとの名前、まだ聞いてないな。でも、私のこと自分の知り合いだと思ってるみたいだし……私が聞くのも変だよね)

由香(どうしよう、このお姉さん、いい人そうだけど……私もはぐれちゃった哲志お兄ちゃんを探さなきゃだし)


もじもじ……


由香(あぅぅ……その前に早く……おしっこ)

ゆうり「妹…………いもうと…………イモウト……」

由香「どうかしました?」

ゆうり「う、ううん……何でもないわよ」

ゆうり「さ、早くトイレを探しに行きましょ。足場が悪いから気を付けて」

由香「あ、はいっ」

由香(まずトイレに行ってから……。それから説明しよう。お姉さんもきっと分かってくれるはず)


ジャリ……ジャリ……

【??】


私ね、学校が大好きなんだ。

どうしてって?

だって、学園生活部のみんながいるんだもん。

学園生活部ってのはね、学校で寝泊まりしながらみんなで遊んだり、おしゃべりしたり、ご飯作ったり、探検したり、色んなことをする部活なんだ。

楽しいよ~。
りーさんの作るごはんはおいしいし、くるみちゃんは運動得意で頼りになるし、みーくんは頭良くて可愛い後輩だし。

それにね、めぐねえがいるもん。

めぐねえって誰かって?
私達の部活の顧問の先生でー、私のクラスの担任だよ。勉強は嫌いだけど、めぐねえの授業は大好き!

ん、何、めぐねえ。えーっ……補修は勘弁だよー。部活の時間がなくなっちゃうよ。
うん、はぁい……わかったよ。もうちょっと勉強頑張るから。

え、おうちには帰らないのかって?
そだね、たまに部活のこと忘れて帰りそうになっちゃうけど。
でも、みんなのことが好きだから。みんなとずっと一緒にいたいから、帰んないや。

あ、そろそろ部活の時間だ。

みんなを探しにいかなくちゃ。今日の部活は何しようかなぁー。

ねえ、めぐねえは何がいい?

球技大会とか、写生大会とか、音楽室でピアノ弾いたり、理科室で実験したり、貸し切りのプールで泳いだり。
夜の学校で肝試しなんてのもいいよね。何をやっても面白いよ。だってみんなとやってるんだから。

それじゃ。私、そろそろ行くね。またいろんなお話しよ。

失くしちゃったお人形、早く見つかるといいね。私も注意して探しておくよ。


ばいばーい、おじさん。


「ゴ・メ・ン・ナ・サ・イ」


                                     
                                           (つづく)

【本館3階・女子厠】


ストン


世以子「――」

直美「世以子、ごめんね……ほんとにごめんね……」

直美「……お休みなさい」

くるみ「……」

くるみ(私らと違って、いきなりこんな極限状態に置かれたんだ。自殺を図るくらい追い詰められるのも……無理ないか)

くるみ(あの子どもの幽霊はもういなくなったみたいだ。とりあえず、ひと安心)


>……………っ!!

くるみ「!!」

くるみ「直美、今何か聞こえなかったか?」

直美「……え、ううん……私には何も聞こえなかったけど」

くるみ(気のせいか?――いや、確かに聞こえた。今度は下の階か。直美も、一応気持ちの整理はできただろうし、大丈夫だよな)

くるみ「ちょっと見てくるよ」

直美「あ、はいっ」


タッ

直美「……わ、私は」


オイテカナイデ


直美「……え……?」


オイテカナイデ


直美「何……この声って……」


ワタシタチ ズット イッショダヨ

ネエ ソウダヨネェ ナオミィ

オ イ テ カ ナ イ デ ェ

【2階】


くるみ「たぶん、この辺りから……」

くるみ「うっ……」

くるみ(壁いっぱいに……死体が。まるで圧殺されたような……)

くるみ(位置的には、ちょうどこの壁のある当たりから聞こえたと思うんだけど……)

くるみ(!……この死体の幽霊の声か。有りうるな……紛らわしい)


>あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ


くるみ「この声は――みき!!」


ダッ

くるみ「おい、みき!どこだ!!」

くるみ(いない!)

くるみ(クソッ……次元が違うってのか?)

くるみ(別の次元に存在するみきの声だとしたら、……私には手出しできねえ)

くるみ(直美の話だと、声が発せられたのが過去のことか未来のことか……それとも現在進行形なのかも、この歪んだ空間の中ではハッキリしないらしい)

くるみ(みきに危険が迫っていたとして、それがもしかしたら過去の出来事で……最悪の場合すでに)

くるみ「やめろッ!悪いほうに考えるな!」


ユラーリ

くるみ「!?」

くるみ(今、何かが通り抜けていったような……)

くるみ「あ!」


少女『……』


くるみ(向こうの壁際に……子供がいる。さっきの幽霊たちじゃない)

くるみ(赤い服だ。また幽霊なのか?髪に隠れて顔は見えないけれど、それにしてははっきりと姿を確認できるし、普通の人間?)


少女『……』

タタタッ


くるみ「あ、おい!待ってくれ」

タッ

【本館2階・廊下】


男の子『がえしてっ……』


みき「!」


男の子『ぼくのひは……かえひてっ……』


みき(う、後ろに……誰かがいる)

みき(い、いや……何、この悪寒)

みき(振り向かないほうが……いいかも知れない)


男の子『ぼくのひは……!!』


みき「ひっ!」


ダ――ッ

みき(な、何……今の――子どもの幽霊!?)

みき(赤い色の魂じゃなかったけど……友好的な幽霊とは明らかに雰囲気が違う!)

みき(逃げなきゃ!どこか隠れる場所は!――あの部屋に!)


バタンッ!!

【保健室】


みき「はぁ……はぁ……」

みき(ベッドが二つ……さっきの保健室のところまで戻ってたみたい)

みき(これを扉の前に運んで塞げば……って、ダメじゃない)

みき(相手は『やつら』じゃなくて幽霊なんだから、すり抜けて入ってこれるだろうし)

みき(とにかく、ここで息を殺して過ぎ去ってしまうのを待つしか……)


ぞわぁ……


みき(え、何……この感じ)

パラパラパラパラ

みき(!……机の上に置かれている本のページが……ひとりでに捲れて)


『ユル……サナイ……』

ズズズズズズ……

みき(何これ……黒い霧のようなものが……人間のかたちに!)


『ユルサナイ……!!』


みき(ここもだめだ……逃げないと!)

みき「!?」

ガタッ……ガタガタッ

みき(出入口の扉に大量の髪の毛が絡みついて……開かないっ……閉じ込められた!?)

みき(うっ……気持ち悪い……体が何かに浸食されるような……は、早く何とかしないと)

みき(この髪の毛をどうにか……何か切るものは?ううん、いちいち切ってたら間に合わない)

みき「!」

タッ

みき「マッチが落ちてる!これで燃やせば」

みき(……でも、髪の量が多いから時間がかかりそう。いい燃料がないと!油とか……でも保健室にそういうものが)

みき「あった!」

カパッ

みき(戸棚の中にアルコール瓶!大丈夫、使えそう――早く!)


バシャッッ……シュポッ
ボワッ!!


みき「燃えた!」

『ウ……ウゥゥ……』


みき(うっ、でも扉が熱くなって触れない。ダメ!ぐずぐずしてもいられない、蹴り飛ばすしか)


『…………さっ……ちゃん…………』


みき「それっ」

ドンッ!


……ドサッ


みき「はあ……はあ……、出られた…………」

みき(あの黒い霧……保健室の外までは追ってこないみたい)

みき(さっきの子どもの幽霊とは別物みたいだし)

みき(もし捕まっていたら……)

みき「……行こう。早く先輩たちを見つけてこの学校から脱出する方法を探さないと」

みき「このままじゃ……」


スゥ――――


女の子『おねえひゃん』

みき「!!」

みき(な、体が……動か……金縛り!?)

女の子『ねぇ』

みき(また幽霊……今度は女の子の……)

みき(この子……片目が抉られてる)

女の子『わたしの眼球……がえして』


ギラリ


みき「は、鋏……?」

女の子『返せええぇ!!』


ザクッ


みき「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ」



                                    (つづく)

【教室】


みき「う……ううん」

みき「はっ……ここ……どこ……」

みき(私は……確か……片目のない女の子の幽霊に襲われて)

ズキィィィ

みき「うぐっ……!!」

みき(ひ、左目が……そうだ、突き刺されたんだ……)

みき(!……包帯?……誰かが……手当てしてくれた?)

ポゥ

みき「!そういえば、この明かりは――蝋燭?」

「体の一部を見つけるっていっても……どうするんだよ。手掛かりもなにもないだろ」

「七星さんの話だと、犯人の幽霊の動きには行動パターンがあるらしいの。何かその場所に未練があるんだと思う」

「じゃ、そのあたりを重点的に探すか」

「その前に、まず調べて分かったことを整理しておかない?」


みき(!……人の声)


ガラッ


あゆみ「あっ……気が付きましたか!」

みき「あななたちは……私を助けてくれたんですか?」

良樹「ああ、叫び声を聞きつけてな……篠原が突っ走っちまったから」

みき「……うぐッ」

あゆみ「目の方はバイ菌が入らないように応急処置をしたけど……」

みき「……ありがとうございます。えっと」

あゆみ「私は篠崎あゆみ。如月高校高等部の二年生」

良樹「岸沼。篠崎とは同級生だ」

みき「直樹美紀です。巡ヶ丘学院の二年生です。……さっきの幽霊はどうなったんですか」

良樹「この水晶塊をかざしたら消えた。割れちまったけどな」

あゆみ「今は近くにいないみたいだから、今のうちに何とかしないと……」

みき「さっき廊下で、二人で話してましたよね。体の一部をどうって」

あゆみ「ええ。あの三人の子どもの幽霊を浄霊するために、彼らが奪われた体の一部を探しているの」

みき「……浄霊、ですか。あの、詳しく教えてもらえませんか」

みき「私、早く先輩達――仲間を見つけてこの小学校から脱出したいんです」

みき「あなたたちは、何か……脱出するための糸口を掴んでいるんじゃないですか?」

みき「私もできることは手伝うので、教えてください!」

あゆみ「分かったわ」

良樹「だがよ、篠崎。今ゆっくり話してる余裕は……」

スクッ

みき「もう……大丈夫……ぐっ……歩けますから。目的地に向かいながらでいいので、説明してください」

あゆみ「え、でも……まだ安静にしておいたほうが」

みき「いいえ、大丈夫です。痛い思いや辛い思いは……元の世界でもずいぶん経験してますから」

あゆみ「元の世界でも……?」

良樹「……」

みき「お願いです、教えてください」

あゆみ「――発端は、三十年前に天神小学校で起きた事件なの」

みき「事件?」

あゆみ「児童連続誘拐殺人事件」

【別館】




死体『キィィザァァミィィィィ――!!』




由香「ひゃっ!お姉さん……この死体(ひと)……何だか」

ゆうり「大丈夫よ、私がついているわ。怖いものなんて何もないのよ」

由香「う……うん」


グラグラグラグラ……!!

メリメリメリ!!

由香「わああっ!?」

ゆうり「危ない!」

ガシッ

由香「う……はあはあ……」

ゆうり「床が抜け落ちちゃったわね。危うく下に落ちる所だった……」

由香「はあ……はあ……助けてくれてありがとうございます」

ゆうり「さ、急ぎましょ。安心して。ゆきちゃんは――私が守るわ」

【本館】


くるみ(見失っちまったか)

くるみ「はあー、さっきから動きっぱなしだ。さすがに疲れてくるな」

くるみ(水道からは水が出ない。水が溜まってても腐ってとても飲み水には使えない)

くるみ(ましてや食糧なんて望むべくもない)

くるみ(本格的にヤバいな、ここ。食糧の備蓄があるだけでも元の世界の方がマシだ)

くるみ(そもそも、元凶はあのおまじないだ――幸せのサチコさん)

くるみ(ゆきがあんなおまじないしようなんて言いださなきゃ……)

くるみ「いやいや!」

くるみ(ゆきに悪気はないんだ。それに私だって賛成したんだし、誰が悪いってわけじゃない)

くるみ「あ、そうだ。そういや、あの紙切れ……」

ごそごそ

くるみ「あれ……ないぞ…………」

くるみ(ずいぶん走り回ってたから……どっかで落としちゃったか?)

くるみ(……所詮験担ぎや気休め程度だけど……あれを持ってたらずっと一緒でいられるはずなんだよな)

くるみ(探した方が……いいかな)

カランッ

くるみ「ん?上から何か落ちて……階段の方か?」

タッ

くるみ「これ、携帯電話?」

ジャリ……


くるみ「!――だ、誰だッ!」

哲志「おわっ!」

くるみ「わっ!」


哲志「……」

くるみ「……」

哲志「えっと、幽霊……じゃないのか?」

くるみ「……そっちこそ」

ヴーヴーヴーヴー

くるみ(あ、携帯鳴ってる)

哲志「!――それ、直美の携帯じゃないか」

くるみ「!――直美のこと知ってるのか?」

哲志「同級生なんだ。俺たち、9人でおまじないをして、気が付いたらこの学校に」

くるみ「こっちも同じだ、人数は4人だけど。直美とはたまたま出会ってさ、さっきまで一緒にいた」


『タ・ス・ケ・テ・ク・レ』


くるみ「!?」

哲志「!?」

くるみ(携帯から音声がひとりでに――何だ、この気味の悪い呻き声は)


プツッ

くるみ(!またどこかに繋がった)

『ねえ直美!お母さんよ……お願いだから……返事をしてちょうだいっ……』

くるみ「……もしもし!直美のお母さんか。直美は今――」

『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~』

くるみ「……こっちの声が聞こえていないみたいだ」

哲志「直美は今どこに……?」

くるみ「たぶん、上の階に。移動しているかも知れないけど」

くるみ(ちょっと、イヤな予感がする)

くるみ「行こう!3階の女子トイレだ!」


―――――― 
―――― 

【本館3階・女子トイレ】


くるみ「おーい、直美!」

哲志「悪い、入るぞ……ここにいるのか?……うっ」


世以子「――」


哲志「篠……原……」

くるみ「個室で首を吊ったらしい。さっき直美と降ろしてあげたんだが」


ガタッ……


哲志「!」

くるみ「!」

くるみ(今の音――個室から!まさか)

哲志「!――ここか!」


ギィィィ

直美「あ・・・ぎぎ・・・・あがぁ・・・・・・・・」

哲志「直美ィ!!」

くるみ「まずい!首が締まってる!早く縄を緩めねえと!!」

哲志「縄……!そうだ、肩車すれば……!」


グィッ


直美「がっ・・・・・ぐ・・・かはっ・・・・・・」

哲志「よし!息は確保できた」

くるみ「縄は任せろ。私がほどくよ」


スルスルスルスル


くるみ「よしっ」

直美「が、・・・ゲホゲホッ・・・・かはっ・・・はあ・・・はあ・・・」

哲志「大丈夫か?ゆっくり深呼吸しろ」

直美「はぁー……はぁー……、……哲……志?」

哲志「大丈夫か?あんまり心配させるなよ」

直美「うっ……うううう……うわあああっ……」

ぎゅううっ

哲志「直美……」

直美「馬鹿……もっと早く来てよぉ……うぅ」

哲志「間に合って……よかった。何で……自殺なんか」

直美「よく……覚えてない。でも、世以子をひとりぼっちにできないって思ったら……そしたら世以子の声が聞こえてきて……」

直美「う……うぅう……っ……私のせいで……世以子が」

哲志「大丈夫だ、直美のせいじゃない。篠原だって――」

二人の会話はしばらく続いた。


くるみ「……」


直美が無事でよかった。最初は確かにそう思ったはずだ。

だが、いつの間にか私の心の中には別の感情が生まれていた。

直美には、危ないところで助けに来てくれるひとがいる。

二人のやり取りを見ていてすぐに察した。直美はこの哲志ってひとのことが好きなんだ。
そんな好きな人が、この極限の状況下で――多重次元の閉鎖空間の中で――奇跡的に駆けつけて、助けてくれた。

私には――
こんなひとがもういない。

好きなひとが、ドラマチックに助けに来てくれることなんて――絶対に、ない。

だって、先輩はもう死んでしまったのだから。
私が助けられなかったのだから。


私が――殺してしまったのだから。

哲志「直美、そろそろ……」

直美「あ、ごめん。嫌だよね、こんな、くっついたりして」

哲志「いや、そんなことはないけど、さ」

くるみ「……」

直美「あっ、く、くるみさん!」

哲志「くるみさん……っていうんだ。ありがとう、直美を助けてくれて」

直美「あの……二度もあたしを助けてくれて」

くるみ「いいっていいって。いやーでも、良かったじゃん、直美。カッコいい彼氏さんが助けに来てくれて」

哲志「えっ」

直美「ち、違っ……!哲志は別にそういうのじゃ……」

くるみ「――それじゃ、私はそろそろいくよ。お二人さんの邪魔はしたくないし」

直美「え、でも……くるみさん」

哲志「この学校じゃ、なるべく一人にならないほうがいい。一緒に探索したほうが」

くるみ「私は、大丈夫だから。じゃあな」


ダッ


直美「くるみさんっ!」


ダ――ッ


くるみ「ッ!」

くるみ(何だ……何だ……この気持ち)

くるみ(直美が助かったんだぞ……)

くるみ(友達の一人とも再会できて、良かったんじゃないか。なのに、何で素直に喜べないんだ)

くるみ(私は……)

くるみ「……張り紙」

せんぱい
どうして
どうして私を置いていっちゃったの
私達ずっと一緒だっていってたじゃない
嫌だ
嫌だよぉ
ひとりで死ぬのは怖いよぉ


た す け て 


くるみ「うっ……」

くるみ「やめろ……やめろよ……」

くるみ「やめろおおおおっ――――!!」


ボワァ……


少女『クス……きひヒひヒひ』





                                   (つづく)

【本館・廊下】


あゆみ「この新聞記事に事件の概要が載っているわ」


ジャリ……ジャリ……


みき(児童4名・連続誘拐殺人事件)

みき(3人の児童たちの死因は職場で逮捕された『教員』の手に握られていた……大きな裁ち鋏により舌を切り取られたことによる失血または窒息死と判明)

みき(うち1人は殺害後に首を切り落とされるなどの死体損壊を受けた……)

みき「……ゴクリ」

あゆみ「この3人の被害児童が、天神小学校の異空間をつくり出している元凶で、彼らの霊を安息に弔ってあげれば」

あゆみ「異空間は消滅し、私達は現世に帰ることができる……はず」

みき「そして、その安息に弔う方法が……」

あゆみ「『犯人の懺悔』と、『死体の一部の返還』」

みき(私が直に見た子ども幽霊は、眼球と舌を奪われた女の子・管乃雪と、舌を奪われた男の子・吉沢遼。記事の写真の子に間違いない)

みき(もう一人の舌と頭部を奪われた辻時子という子は見てないけれど、この子も学校の中を彷徨っているんだ)

みき「それで、幽霊たちは『返して』と言っていたんですね」

あゆみ「ええ。ずっと探し回っているんだわ。あの子たちだって被害者なのよ……でも、それでも……私は……許せないっ」

ギリ

みき「篠崎さん……」

良樹「オレ達のクラスメイトの一人がそいつらに殺された。見なかったか、保健室の外の廊下の壁……あれが」

みき(あのぐちゃぐちゃになった死体……この人たちの友達だったんだ……)

みき(ゆき先輩達も……もしかしたら)

みき(急がなきゃ!……早く何とかしないと)

みき「まずやるべきことは、3人の幽霊の体の一部を探すことですね。もう一つの『犯人の懺悔』というのは?」

あゆみ「犯人は教師よ。名前は『柳堀ヨシカズ』――天神小学校の校長の息子」

良樹「そいつもこの学校の中にいて、生徒たちを襲っているらしい。頭蓋骨が陥没した死体を見ただろ?たぶんこいつの仕業だ」

みき「つまり、犯人を見つけ出して懺悔の言葉を引き出す……と?」

あゆみ「けれど、事件に関する周囲の人の証言によると、ヨシカズは病気で言葉がほとんど話せなくなっていたらしいの」

あゆみ「七星さんは、ヨシカズが肌身離さず持っていた『文化人形』を見つけることが懺悔を引き出すカギになるだろうって言ってた」

あゆみ「私達は、『体の一部』と『文化人形』を探す必要があるということよ」

良樹「そういうことだ……な」

みき「……。それで、いろんな情報を提供してくれた七星さんというのは」

あゆみ「女子高生作家で霊能師の冴之木七星さん。私もファンなの」

あゆみ「『幸せのサチコさん』のおまじないも七星さんがブログで紹介してて知ったわ」

みき(ゆき先輩が雑誌で見た記事も…このひとが書いていたものなのかな)

みき「その人が、なぜここに?」

良樹「なんでも、ここに調査に来て死んじまったらしい。オレ達が会ったのはその霊能師とやらの幽霊だ」

あゆみ「死後も天神小学校についていろいろ調べてて、分かったことを教えてくれたの」

みき「なるほど……」


良樹「ん?――おい、あれ見ろよ!」

みき「!」

あゆみ「!――これ……人形?」


ひょい

良樹「オイオイ、見るからに気味悪りぃ人形だな」

みき「あっ。この人形、名前が縫い付けてあります。……ヨシカズって……!!」

良樹「篠崎!これ、探してた文化人形じゃねえか!」

あゆみ「こっちも見て。文化人形の近くに、帽子がおちているわ」

良樹「何だ、これ?変わった帽子だな。ネコみたいな耳がついてる」

みき「それ、見せてください!」

パシッ

あゆみ「直樹さん?」

みき「これ……!……ゆき先輩の帽子だ……。私と一緒に来た人の持っていた物なんです。さっきまで、こんなところになかったのに」

良樹「近くに……いるのかもな」

あゆみ「分からないわ。死体や物は他の次元でも認識できるようだし。でも、可能性はあると思う。探しましょう」

みき「はい……ぐっ……」

フラリ

良樹「おい、大丈夫か?」

みき「……大丈夫です」

みき(片目だけだと……やっぱり厳しいかな。でも……それでも)

あゆみ「!――見て、文化人形が」

人形『ゴ・メ・ン・ナ・サ・イ』

【別館・廊下】


グラグラグラグラグラ……!!


森繁(また地震……もう収まったようだな)

森繁「く……はは」

森繁(もう沢山だ。死体を見て優越感に浸るくらいしか精神を保つ方法はないだろ)

森繁(だから……冷静でいられるんだ。自分は……こうはならない)

カチッカチッ

森繁「何度見ても……この死体の写真はキレイだ。く……ふふ」

ヴーヴーヴー

森繁「!……電話?」

『見ないでぇ』

森繁「……え。この声……繭……」

『繁兄ぃ……私の内臓……見ないでえ……』

森繁「……こ、の死体……繭……」

『見ないでぇ…………』

森繁「う……う……あああっ……!」

【別館・女子トイレ】


ようやく見つけた女子トイレの個室には、先客があった。

すべての個室の中に、首を吊って無残にも死に絶えた死体がぶら下がっていた。

絶望に支配された苦悶の表情で。



由香「う……うぅ、お姉さん……ここも、使えない」

ゆうり「……」

由香「お姉さん」

ゆうり「もうイヤああああああああああああああああっ!!」

由香「ひっ……」

ゆうり「いや、いや、いやああああっ!!」

ガリガリガリガリッ

【??】


ダダダッ


ゆき「はぁ……はぁ……はぁ……」

ゆき(おじさんのお人形、せっかく見つけたのに落としちゃった……)

ゆき「もう・・・・・・追ってこないよね」

めぐねえ『しっ……静かに』

ゆき「!」


ギシ……ギシ……


めぐねえ「近づいて来るわ。声を出しちゃダメよ、いいわね、ゆきちゃん」

ゆき(うん)


ジャリ……


「どこに行ったんだい?」

「大丈夫だよ。強い兄さんが守ってあげるから、さあ、出ておいで」


バキィ!!


ゆき「ひゃっ……!」


「見つけた。もうかくれんぼは終わりだよ」


ゆき「あ……あ、ああ……」


「さあ、おいで」


めぐねえ『ゆきちゃん、こっちよ!早く!』

ゆき「う、わあああっ!!」


ダッ


「今度は追いかけっこかい?」

「ラン!ラビット!ラン!あはははははははははははははははははははっ」




                                          (つづく)

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