結衣「明日があるさ」 (34)

結あか、地の文多めです。
それでもよければご覧下さい。
次から始まります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1448628272


ーーー
「ごめんね、待たせちゃったかな?」
「そんな事ないよ、それより急ぐぞ」
短く会話を交わすと、私達は通学路を急ぎ足で歩き始めた。

「あれ…京子ちゃんとちなつちゃんは?」
目の前の少女…赤座あかりはここにいない2人を探し、キョロキョロと辺りを見回す。

「あの2人なら先に行っちゃったよ」
「そっかぁ…あかりがお寝坊さんだから仕方ないよね。」
俯いたその顔は寂しげで、なのになぜかとても可愛らしかった。

「結衣ちゃんも先に行っててよかったのに」
「そしたら、あかりがひとりになっちゃうだろ…」
呟くような小さな声で、あかりに答える。

適当にはぐらかしてもよかったのだが、寂しそうなあかりの顔を見るとつい本音がこぼれた。


「えへへ、結衣ちゃんあかりの事待っててくれてありがとう!」
花が咲いたように笑うあかり。
その笑顔が眩しくて、恥ずかしくて。

「い、いいから行くぞ!」
「わー!置いてかないでよー!」
つい恥ずかしくなって走り出した私を、慌てて追いかけてくる。
そんなあかりだから、いつからか私は恋心を抱いていた。

だが、この気持ちを本人や他の誰かに打ち明ける勇気はまだ無い。
私が臆病なうちは、こんなやり取りで十分だ。
明日があるさ。
また、明日がある。
そう自分自身に言い聞かせるのであった。


ーーー
「おーおー、降ってるねー」
「ですねぇ、朝はあんなに晴れてたのに…」
ちなつちゃんの言うとおり、朝は雲一つない晴天だった。
天気予報でも雨は降らないと言っていたが、所詮は予報なのであまり気にしていなかったが。

「はぁ、走るしかないなー…」
「ふっふっふっ、私はこんな事もあろうかと置き傘を用意していたのだ!」

「それただ持って帰るのを忘れてた傘だろ」
「結衣は厳しいなー、そんな厳しい結衣は傘に入れてやんないからな!」

「はいはい」
もともと入れる気もなかっただろ、と心の中で突っ込みながら折り畳み傘を広げる。

「結衣先輩!私結衣先輩と入り…」
「ちなつちゃんは私の傘に入るのー!!」
そんなやり取りの末、京子が無理矢理ちなつちゃんと腕を組んで雨の中に消えていった。
ちなつちゃんは最後まで抵抗してたが、まんざらでもなさそうだった。


そう言えばあかりはどうしているのだろう。
ちなつちゃんは日直の仕事が長引いている、と言っていたが流石にもう終わっているだろうと思い、あかりを探してみる。

ごらく部に来ていなかったのでまだ学内にいると思ったが、下駄箱に靴がなかった。
準備の良いあかりのことだから、きっと折り畳み傘でも持ってきていたのだろう。

そう思って私も帰ろうとした時、学校の入口に赤いお団子が見えた。

「あかり…まだ残ってたのか…」
誰に言うでも無く呟く。
あかりの手に、傘は握られていなかった。
あかりはまだ私に気付いていない。

声をかけ、自分の傘に入るように言えば相合傘で帰ることが出来る。
そんな事を考えると、傘を持つ手に自然と力が入る。
心臓がうるさい、それになんだかじんわりと汗ばんできた。

心を落ち着かせ、あかりの元へ行こうとした時。
「あれ?あかりちゃんどしたの?」
「赤座さんも傘をお忘れでしたの?」

私はなぜか隠れていた。
あの2人は確かあかりのクラスメイトで生徒会の大室さんと古谷さん…だったか。

「あ、櫻子ちゃんに向日葵ちゃん。そうなんだよぉ、今朝は晴れてたし天気予報でもお日様マークがあったから…」

「じゃあ私の傘貸してあげる!」
「ええ!?櫻子ちゃんはどうやって帰るの!?」
「私が傘を持ってますから、心配無用ですわ」

「そっかぁ。それじゃあ、悪いけど傘借りるね。ありがとう櫻子ちゃん」

そこまで聞いて、私は走り出し、敗北感を味わいながら家に帰った。
大室さんが羨ましかった。
同時に恨めしかった。
あのタイミングで出てこなければ、なんて考えてしまう私自身も許せなかった。

「はぁ…」
また次がある。
だけど、次の雨の日は、絶対。

SUKIYAKIの人の方か
期待


ーーー
帰り道、気付いた時には私はあかりを後ろから付けていた。
第三者から見れば立派なストーカーだが、この際気にしない。

ごらく部で特に何をするでもなく、だらだらと過ごした後、別れ際に
「また明日」
と、あかりに言われてからあかりと離れるのが無性に嫌になった。
もっとあかりといたい、遊びたい、傍に居たい。

なら家に遊びにでも行けばいいじゃないかと、京子あたりに言われそうだが、あかりを恋愛対象として見るようになってから恥ずかしくて言い出せずにいる。

「あかりちゃん」
「うわぁ!!びっくりした…さ、櫻子ちゃんのお姉ちゃん!?」

「覚えててくれんだ、今帰るところ?」
なにやらあかりが美人なお姉さんに話かけられているようだ。
それに、お互いやけに親しそうだ。


そんな光景を見ているとなんだか、胸が、痛くなる。
刺されるような、締め付けられるような。

「そうですよぉ。櫻子のお姉ちゃんもですか?」
「撫子でいいよ。私は夕飯の買い物、今日の当番は櫻子なんだけどいつまでたっても宿題が終わらないから」

痛みが限界になり、逃げるように走り去った。
恋人でもないのに、こんな感情をむけて、あかりが知ったらどんな顔をするだろう。
気持ち悪いと思われるだろうか。
軽蔑されるだろうか。

「クソッ…!」
私の頬を伝った涙の理由を、私は知らなかった。
悔しいのか、怒っているのか、悲しんでいるのか。
明日は、もうないかも知れない。

>>6
ごめんなさい別人です


ーーー
その日の夜、私は電話の前で立ち尽くしていた。
あかりの家に電話して、あかりと遊ぶ約束をする。
たったこれだけの事だ、なんともない。

なんとも無いのだから、頼むから、震えないでくれよ、私の指。

「情けないなぁ」
嘲るように、自分に言い放つ。
いつから私はこんなにも弱くなったのだろう。

小さい時はあかりや京子を守っていたのに。
おやびんはいつから弱虫になったのだろう。

「はぁ…」



「…あかりぃ」


恋とはこんなにも苦しいことだったのか。
ここのところ寝ても覚めても、頭の中はあかりのことでいっぱいだった。

苦しいと言えばあの帰り道。

美人なお姉さん。
はにかむあかり。

あかりの笑顔は見慣れているはずなのに。
あかりが微笑んだ名前も知らないお姉さんに、嫉妬していた。

嫉妬。

その感情を認めると、京子やちなつちゃんにも妬みの炎が燃え上がる。
もちろん私にもあかりは微笑んでくれる。

だが、それではダメなのだ。

あかりを自分だけのあかりにしたい…。



そんな狂気に満ちた思考を張り巡らせていると、ふと我に返った。
さらさらの赤毛、大きな潤んだ瞳、艶やかな唇、慈愛に満ちた性格。
こんな子を周りが放っておくはずがないのだ。


もし、もしあかりが他の誰かのものになった時、私は耐えられるのだろうか。

耐えられるはずがない。
きっと私は発狂してしまうのではないだろうか。

あかりに不名誉な効果音をつけた時も、無意識のうちにあかりを周囲の目から消させて、独り占めしたかったのでは。


「あかりが、取られる…」


そんな事は絶対にあってはならない。
取られる、と言う言い方は正しくないが、今はそんな事はどうでもいい。

脳が体を突き動かす。
さっきまで震えていた指先は驚くほど力強くアドレス帳のボタンを押し、画面に映し出された赤座あかりの文字を迷いなく選択した。

1コール、出ない。

2コール、出ない。

3コール、出な…
「もしもし?」
「こんばんは、あかり。私だよ。あのさ、次の日曜…」

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom