【オリジナル】JK「怪獣退治」3(71)

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【オリジナル】JK「怪獣退治」
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【オリジナル】JK「怪獣退治」2
【オリジナル】JK「怪獣退治」2 - SSまとめ速報
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・登場人物名有りです。
・人によりグロ、エロ、非道徳的などと感じられる描写や表現があるかもしれません。
・実在する人物や団体、特定の思想信条等とは一切関係ありません。

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田所「日曜日に司令部まで来てもらってすまないな、悦子君」

JK「いえ、別にいーですよ」

田所「どこかへ遊びに行ったりしたいのだろうが、仕事をさせてしまっとる」

JK「平気です。どうせ暇だし」

山本「えっちゃん、現役の女子高生がそんなことでいいのか?」

JK「何が」

山本「男とデートの予定くらいないのか?」

JK「……」

山本「ああそうか、それ以前にそうする相手がいないんだったな」

JK「……」

山本「どうした」

JK「今後、そーゆーセクハラ発言はガン無視に決めました、ってことでヨロシク」

山本「じゃあお前は普段、休日に何をしてるんだ。服を買いに行ったりしないのか?」

JK「服? そんなのこの制服で十分。第一、あたしはそーしなくちゃいけないもん」

田所「うむ。いつ怪獣が現れるか分からんからの」

JK「制服着てなくちゃいざって時に飛べません」

田所「せっかくの日曜日だから本当はおしゃれをして遊びに行きたいのだろうが、申し訳ないな」

JK「そんなの博士が謝ることじゃないですよ」ジロ

山本「何だ。どうしてそんな目つきで俺を見るんだ」

JK「本当に謝らなくちゃいけない人がそーしないのに、博士が謝ることなんかないですよ」

山本「俺のことか。だがえっちゃんは今の仕事を、何もかも納得の上でやっているはずだろう」

JK「それはそーだけど」

山本「それなら俺が謝る必要などない」

JK「だからさぁ、山本さんはそーゆーところが優しくないんだよ。自分で分かんないの?」

山本「じゃあ俺に口先だけでいいから謝れというのか? そんなことに何の意味があるんだ」

田所「まあまあ二人とも、いつもの夫婦ゲンカはそのくらいにしたまえ」

JK「ちょっ…夫婦? 何言ってんですか博士? やめてくださいよ///」

田所「ほっほっほっ。ケンカするほど仲がいいというからの」

山本「何だえっちゃん、俺とそう呼ばれるのは不満か」

JK「……///」

山本「どうした」

JK「セクハラ発言は無視って言ったでしょ///」

山本「どうして赤くなってるんだ」

JK「う、うっさい。そんなこといーから早く今日の用件を言ってよ。一体何の用なのよ」

田所「その用件だがの、そろそろ来る頃だろう」

山本「そうですね」

JK「来る? 何が?」

田所「悦子君へ会わせたい人がいるのだよ」

山本「これが今日、えっちゃんにここへ来てもらった理由だ」

JK「会わせたい人? 博士、今日ってまた何か実験するんじゃないんですか?」

田所「無論、その後で超能力について実験を行なう」

JK「今日はいつもの実験場じゃなくて、こんなとこに連れて来られたから…」

山本「様子がおかしい、と思っていたか」

JK「ここってただの会議室だよね。小さめの」

山本「ああ。この部屋で今から来る人に会ってもらう」

田所「その後、実験場へ移動して君の超能力について実験を行なう」

JK「……」

田所「いや、正確には君たちの超能力について、だな」

JK「“君たち”?」

野崎「──野崎です」コンコン

JK「あ。りょーこさんだ」

山本「入れ」

野崎「失礼します。3佐、こんにちは」ガチャ

JK「こんにちはりょーこさん」

JK(え…?)

JK(りょーこさんの後に付いて入って来た人……)

JK(この人…ううん、この子が、山本さんたちがあたしへ会わせたい人?)

JK(あたしと同い年くらいの女の子じゃん)

JK(カッコいい女の子だなぁ……)

JK(すっごく背が高い。体が痩せてスラッとしてる)

JK(髪がすごく短い。あたしも短い方だけどもっと短い)

JK(何だか男の子みたい……)

JK(それに何だろ、この服)

JK(ビキニの水着みたいな、でも体操着みたいな……お腹が丸見え)

JK(そのお腹、余分な肉が全然ないじゃん。すげー、腹筋が割れそう)

JK(この服、どっかで見たことある。どこで見たんだろ……)

野崎「3佐、紹介します。この子は結城さやかちゃんです」

結城「結城さやかです。こんにちは、はじめまして」ペコ

JK「こんにちは」ペコ

野崎「さやかちゃん、こちらは紹介するまでもないね」

結城「はい、小野寺悦子先輩!」

JK「えっ?」

結城「本当に小野寺先輩ですね! すごい! やっと本人に会えました!」

JK「せ、先輩?」

野崎「3佐、さやかちゃんは高校1年生なんです」

山本「お前は2年生だからこの子の先輩ということだ」

JK「……」

田所「そしてほかの意味でも、だの」

JK「ほかの意味?」

山本「そうだ」

JK「何? それって」

山本「分からないか? さっき博士は何とおっしゃった?」

JK「博士が? ……あっ!?」

田所「分かったようだの、悦子君」

JK「まさか…」

田所「うむ。その“まさか”だ」

JK「さっき、博士が言ったこと…」

田所「わしはこう言った。“君たち”の超能力、と」

山本「だから、ほかの意味でもお前は先輩なのだ」

JK「ほかの意味……この子は、後輩……」

結城「はい。私は小野寺先輩の後輩です」

山本「この子は、結城さやか。第二の超能力少女だ」

田所「野崎2尉、結城君。座りたまえ」

野崎「はい。さやかちゃんは小野寺3佐の隣に座って」ガタ

結城「分かりました。失礼します」ガタ

JK「いたんだ……超能力者……」

山本「……」

JK「あたしの、ほかに……」

山本「気を悪くしたか? えっちゃん」

JK「え? 何で?」

山本「俺たちが結城のことを黙っていたからだ」

JK「そんなの、別に……」

田所「悦子君。結城君はずっと、能力を開発中だったのだ」

田所「いうなれば“研修中”だの。怪獣の駆除作業について研修をしておった」

田所「その結果次第では、作戦への参加を見送ってもらう可能性もあったのだ」

田所「しかし超能力の運用レベルが一定の水準に達した。だから君へ会わせることにしたのだよ」

山本「それまでお前に、結城のことをあえて伝える必要がなかったのだ」

JK「うん、いーよそんなこと。気にしてないよ」

山本「そうか」

JK「それより、あたしはこれから結城さんと一緒に…」

結城「先輩」

JK「うん、何? 結城さん」

結城「名前に“さん”なんか付けないでください。私は後輩なんですから」

JK「あ、そっか。じゃあ……さやかちゃん、って呼んでいーかな」

結城「はい」

JK「あたしはこれから、さやかちゃんと一緒に駆除作業をすることになるんだね」

山本「そのとおりだ」

結城「よろしくお願いします、先輩」

JK「うん、こっちこそよろしく」

結城「実戦でうまく超能力を使えるかどうか、まだ分かりませんけど」

JK「さやかちゃんはどんな能力を持ってるの?」

結城「先輩とほとんど同じらしいです」

山本「体をバリアで包み、超高速で空を飛べる」

田所「そのバリアは防御にも攻撃にも使える。触れるものを全て崩壊させる」

結城「まだ先輩みたいに速く飛べないし、バリアの攻撃力も弱いみたいですけど」

田所「だが既に実戦への適応能力は十分だ。作戦に参加可能な水準へ達しておる」

山本「だからこれからは、二人で共同して駆除作業に当たってもらう」

田所「そのため、作戦での連携に関する実験や訓練が必要なのだよ」

山本「今日はその1回目、ということだ」

JK「分かった……」ジー

結城「……先輩?」

JK「……」ジー

結城「先輩、どうしたんですか?」

JK「うん……」ジー

結城「そんなに見られると恥ずかしいんですけど」

JK「うん、ごめん。でもさやかちゃんの、その服…」

結城「あ、この恰好ですか。いきなりこんなので現れたらやっぱり変に思いますよね」

JK「それって何の服だったかな、って……見たことあるはずなんだけど」

結城「これは陸上競技のユニフォームです」

JK「あっそーか!」

山本「やかましい。いきなり大きい声を出すな」

JK「それ、陸上部の人たちが着てる服だ! やっと思い出した!」

結城「私は高校で陸上部にいて、中長距離をやってるんです」

JK「そっかぁ、だからそんなにスラッとしててカッコいいんだね。走ったら超速そう」

結城「でも私、陸上部員のくせに走るのが速くないんですよ」

JK「ありゃ?」

結城「もう笑っちゃうくらい遅いです。ほかの運動部にいる人たちの方がよっぽど速いです」

JK「そーなんだ。見掛けによらないってゆーか……」

結城「私、遅いくせに走るのが好きなんですよね。だから陸上部にいるんです」

JK「でもどうして今、そのユニフォーム?」

結城「それは、先輩が高校の制服を着てるのと同じ理由です」

JK「え…?」

田所「この点も君と同じなのだよ、悦子君」

JK「じゃあ…」

結城「はい」

JK「それを着てないと、能力を使えない……?」

結城「そのとおりです」

結城「さっきも言いましたけど、私は陸上部員のくせに走るのが速くないんです」

結城「でもある日、いきなり速く走れるようになったんです」

結城「その時の私は部活の最中で、このユニフォームを着てました」

結城「私はいきなり、誰と走っても勝つようになったんです。部の先輩たちにも勝ったんです」

結城「あんなに遅かった私が全勝したんです。ほかの部員たちはその様子を驚いて見てました」

結城「そのうちみんながザワザワし始めたんです」

結城「“結城は走ってない”“走る恰好をしてるだけ”とか言ってるんです」

結城「私は何のことなのか全然分からなくて、みんなに訊いたんです」

結城「そうしたら全員が、“結城は空を飛んでる”って答えたんです」

結城「ますます何のことなのか分かりません。私はちゃんと走ってるのに」

結城「人間が空を飛ぶなんてあり得ない。それならもう一回やってみる、って言って走ったんです」

結城「でも今度は自分で分かりました。確かに私は走ってない。足が地面に着いてない」

結城「走る動作をしてるけど、実は、地面の少し上に浮いて高速で移動してる」

結城「みんなが私へ言った、空を飛んでるってのは本当だったんです」

結城「地面の上を足で走るより速いのは、当たり前ですよね」

結城「しかも私が飛んだ後には、グラウンドに何か残ってる」

結城「私が飛んだ跡が残ってる。少し削られたみたいになっちゃってる」

JK「それって、バリア…」

結城「はい。それはバリアの跡だったんです」

結城「私は飛べるようになるのと同時に、バリアも展開し始めてたんです」

結城「練習はすぐ中止になって、私の親が学校へ呼ばれました」

JK「……」

結城「私はお医者さんへ連れて行かれました」

JK「……」

結城「いろいろな病院へ行きました。大きな大学病院にも行きました」

結城「でも原因なんて誰にも分からない。病院をたらい回しにされました」

田所「そうして最後に辿り着いたのが、わしの研究所だったのだ」

結城「田所博士に診てもらって、やっと、これは超能力の一種だって分かったんです」

結城「博士にいろいろ調べてもらって、私が能力を使えるのは…」

田所「この陸上部のユニフォームを着ている時だけ、ということが判明した」

結城「これが、私が今この服を着てる理由です」

JK「ふーん……」

結城「先輩の制服のこと、聞きました。それと同じ理由なんです」

JK「……さやかちゃん」

結城「はい」

JK「質問があるんだけど……訊いていーかな」

結城「はい、何ですか?」

JK「寒くないの?」

山本「…」ガク

JK「何よ山本さん。どうしてズッコケるのよ」

山本「お前……質問をするならもっと、本質的なことを訊かないのか?」

JK「ホンシツテキ? 何それ」

山本「だから、もっとこう……超能力に関する詳しい内容とか」

JK「何訊いたって別にいーじゃん。それより、そんな水着みたいな服で寒くないか心配なんだよ」

山本「……」

JK「女の子はお腹冷やしちゃ駄目なんだから」

結城「私、寒いのは大丈夫なんです。暑いのは苦手ですけど寒いのは平気です」

JK「でもそんなにお腹出してるのに。手も足もそんなに出てるのに」

結城「もう慣れちゃってますから」

JK「ふーん……そーゆーもんか」

山本「では二人とも、俺から少しいいか」

JK「何?」

結城「はい、山本さん。何でしょう」

山本「階級についての話をする」

結城「階級、ですか?」

山本「今日から結城には、作戦に関係した活動へ本格的に加わってもらう」

結城「はい」

山本「それに当たって、お前へ階級を与える」

結城「……」

山本「結城。お前は今から特駆隊、司令直属特任1尉だ」

結城「1尉っていうのが階級ですか」

山本「そうだ。しかしこう言われても、すぐにはピンと来ないか」

結城「はい……」

山本「野崎、説明しろ」

野崎「はい。結城1尉、ほかの人との比較で分かりやすく説明します」

結城「え? 野崎さん?」

野崎「例えば私は2尉です。結城1尉は私より階級が上です」

結城「野崎さん、どうして急にそんな話し方…」

野崎「そして小野寺3佐より階級が下です。1尉とは、2尉と3佐との間に位置する階級です」

結城「どうして私へ敬語で喋るんですか? どうして“さやかちゃん”って呼ばないんですか?」

野崎「当然のことです。1尉はたった今から、私にとって上官ですから」

結城「上官……」

野崎「階級が上のかたへ、今までのような話し方などできません」

結城「……」

JK「さやかちゃん」

結城「はい、先輩」

JK「あたしのときもそーだったの」

結城「先輩のとき…?」

JK「あたしのときも階級が付く前、りょーこさんはあたしを“えっちゃん”って呼んでくれてた」

結城「話す時も、今みたいな敬語ではなく…」

JK「うん、タメ口だった。でも階級が付いたらいきなり敬語になっちゃった」

野崎「3佐、1尉。それは当たり前のことなんです。お二人は私にとって上官ですから」

結城「……」

JK「でもさ」

結城「……」

JK「やっぱ、寂しーよね」

結城「はい。野崎さんって、この大人ばっかりの自衛隊の中で、すごく優しくしてくれるから…」

JK「……」

結城「私、お姉さんみたいに思ってたのに……」

JK「うん、あたしもそーだった。でも階級が付いた途端にこうなっちゃうの」

野崎「急によそよそしくなったと感じるでしょうね。でもこれが、ここでは普通なんです」

結城「これが、普通……。これが、自衛隊……」

JK「自衛隊全体のことは分かんないけど、こうなってるのはそこにいる人のやり方なんだよ」

山本「俺のことか」

結城「山本さんのやり方、って?」

JK「この特駆隊で一番偉いのは、もちろん司令の山本さん。階級は1佐」

JK「次に偉いのが副司令の三村さん。階級は2佐」

JK「その次は誰だと思う?」

結城「1佐、2佐の次……3佐の先輩ですか?」

JK「うん。そんでこの特駆隊には、1佐も2佐も3佐も一人ずつしかいない」

結城「私は1尉だから、その次ってこと……」

JK「前線本部責任者のおじさんが1尉だったはず。その人と同じ偉さだね」

結城「私より偉い人が3人しかいない。いきなりそんな上の階級に……」

JK「こーなってるのは、山本さんのやり方なんだよ」

山本「結城。説明を受けて、自分の階級について理解できたか」

結城「はい……」

山本「今後、お前へ馴れ馴れしい態度を採る隊員がいたら、速やかに俺へ報告しろ」

結城「……」

山本「俺がその隊員をすぐさま処分する。決して許すな。必ず俺へ報告しろ」

結城「でも私、まだ高校生で……隊員の人たちは全員、大人で……」

山本「お前へ高校生だから、子供だからと見下した態度を採る隊員は、俺がすぐさま処分する」

JK「要するにさ、あたしたちの階級はただの飾りなんだよ」

結城「……」

JK「ほかの人がガキのあたしたちをナメないようにする、ただの飾りなんだよ」

結城「……」

JK「第一、階級が上がれば上がるほど、部下がたくさんできるはずじゃん」

結城「あ、そうか…。私たちには…」

JK「あたしたちにそんなのいない。あたしたちが命令や指揮をする部下は一人もいない」

結城「……」

JK「もちろん、ほかの隊員の人に何か細かいことを頼む場合はあるけど」

結城「逆に、私たちへ命令を下す人は…」

JK「山本さんと田所博士。すごーくたまに三村さん。そんだけ」

結城「何だか変わった立場なんですね……私たち」

JK「変わったことは、もっとあるよ」

結城「もっと?」

JK「そーでしょ? 山本さん」

山本「俺への言葉遣いのことか」

JK「うん。さやかちゃんの場合はどうすんの?」

山本「結城。俺はお前へ、俺に対して敬語を使うなとこれまで何度も言ってきた」

JK「ふーん。やっぱあたしへ出したのと同じ指示をしてるんだね」

山本「ああ。しかし何回注意しても、こいつは敬語で話すのをやめない」

結城「山本さん、それはやっぱり無理です。大人の人に向かってそんな言葉遣いするなんて」

山本「気にするなと言っているだろう。何も気にせず、何でも喋れ」

結城「私は中学からずっと運動部で、上下関係が厳しいのに慣れちゃってるんです」

山本「小野寺3佐を見習え。ちゃんと俺の指示どおりの話し方をしているぞ」

JK「マヂでわけ分かんないよね。りょーこさんとかはあたしたちへ敬語で喋るのに」

結城「司令の山本さんは、自分へ敬語を使っちゃ駄目って言う……」

山本「えっちゃん。お前はその状況にうまく適応してるじゃないか」

JK「だって山本さん、あたしへ気遣ってくれないじゃん。そんな人に気遣ったって無駄じゃん」

山本「結城、小野寺3佐のこの態度を見習え。俺はこれでいいと思ってるんだ」

結城「そんなこと言われたって……」

山本「いいか結城、よく聞け」

結城「はい……」

山本「これは任務遂行上、必要なことなのだ」

結城「……」

山本「作戦行動中には迅速かつ円滑な意思疎通をせねばならん」

結城「分かってます……」

山本「そのために普段から敬語など使わず、何でも言いたいことを言い合う習慣を身に付けるのだ」

結城「……」

山本「考えたことや思い付いたことを俺へ即座に、率直に言う。そうした習慣を身に付けるのだ」

結城「……」

山本「無論、田所博士へ対する時は態度を弁えろ。博士は我が部隊の最高権威だ」

結城「はい」

山本「田所博士に対して礼を失することがあってはならん。だが俺へは敬語など使わなくていい」

JK「さやかちゃん。よく分かんないけどさ、これがこの人のやり方なんだよ」

結城「……でも……」

山本「……」

結城「……私は、やっぱり……」

山本「……分かった」

結城「すみません……」

山本「だが、俺へ言いたいことを何でも言え。これだけは忘れるな」

結城「はい」

山本「要望や提案はもちろん、文句、愚痴など何でもいい。俺へ言いたいことを素直に何でも言え」

結城「分かりました」

JK「さやかちゃん、逆にそーした方がいーよ。遠慮する必要なんかないよ」

結城「逆に?」

JK「だってこれから嫌ってゆーほどこの人にこき使われるんだもん」

結城「……」

JK「この人が言いたいこと言えって許可してんだから、そーしなかったら損だよ」

田所「ではそろそろいいかな」

山本「ええ。じゃあ二人とも、実験場へ移動するぞ」

JK「はーい」ガタ

結城「分かりました」ガタ

JK「わぁ…!?」

結城「どうしたんですか? 先輩」

JK「さやかちゃん背高ーい!」

結城「あ、背ですか」

JK「立って並ぶと高さがよく分かる。何センチあんの?」

結城「170ちょうどです」

JK「高1で170センチ……。あたしなんて160もないのに」

結城「先輩くらいの方が可愛いと思いますよ」

JK「えー? そーかなぁ」

結城「私、“可愛い”って言われたことって一度もないんです」

JK「……」

結城「褒められるときは大抵、“カッコいい”って言われるだけなんですよね」

JK「ふーん……背が高いと、それはそれで悩みがあるのかぁ」

結城「別にカッコ良くなんかなくていいんです。女の子なんだから可愛いって言われてみたいです」

JK「でも羨ましーなぁ」

結城「大抵の男の子はこんなデカ女よりも、先輩みたいなちっちゃい人を好きですよ」

JK「あたしなんてチビで、ガリで……これから成長してほしーんだけどさぁ」

山本「これから成長? お前が?」

JK「……」

山本「どうした」

JK「さっき無視って言いましたー。さ、行こうさやかちゃん」

山本「俺はまだ何も言ってないぞ」

JK「この後出るのはセクハラ発言に決まってまーす。無視無視ー」

──実験場──


JK「さやかちゃんはもちろん、ここへ来たことあるよね」

結城「はい、もう何回も。いつ来てもすごいなあって思います」

JK「すごい?」

結城「はい。こんな大きな物が地下にあるなんて」

JK「あ、そーだね」

結城「ニュースとかで大きさを説明するとき、ドーム球場何個分の広さって言い方をしますけど…」

JK「ここってどのくらいなんだろね」

結城「世間の人たちはこれが地下にあるなんて、思いもしないですよね」

JK「うん。まさか富士山の近くの、地下の深いとこにこんな物があるなんて」

山本「おいえっちゃん」

JK「何?」

山本「野崎から聞いたぞ」

JK「何を?」

山本「お前は先日の沖縄決戦の際、学校の教室で怪獣の出現地点を喋っちまったそうだな」

JK「……」

野崎「ごめんなさい3佐。私には司令へ報告する義務があるんです」

JK「うん、気にしないでりょーこさん。悪いのはあたしだから」

山本「以後注意しろ」

JK「ごめんなさい」

山本「そのくらいならまだ、仕方ないで済まされるレベルだが…」

JK「分かってる。ここのことは誰にも、絶対に喋らない」

山本「富士山麓のここに特駆隊の拠点があることは、自衛隊の内部でも極秘なのだ」

JK「うん」

山本「司令部や、超能力者と怪獣に関する研究施設がある場所について…」

JK「分かってるよ、それって自衛隊の重要機密。それだけは絶対、家族にだって話さない」

山本「それならいい。結城もだ、分かっているな?」

結城「はい、山本さん」

田所「では君たち、実験を開始するぞ」

JK「今日ってどんなのやるんですか?」

田所「二人が同時に参加する初日だからそれほどハードなことはせん。超能力者たちの接近実験だ」

結城「接近実験……」

田所「複数の超能力者が同一空間に存在した場合、どのようなことが起きるのかを見る」

田所「まず、能力を発現した上で離れた場所にいてもらう」

田所「次に、相互の距離を短くしていく。お互いにゆっくり接近してもらう」

田所「この過程で何が起きるかを見る。異変が生じないか、危険なことが起こらないかなどを見る」

田所「大雑把にいえばこんなところだの」

JK「分かりました」

田所「えらく回りくどいことをするように思うだろうが…」

山本「確実な連携を可能にするため、こうして得られるデータを慎重に検証する必要があるのだ」

結城「はい」

田所「二人とも準備はいいな」

JK「はーい」

結城「はい」

田所「では結城君から頼む」

結城「分かりました。バリア展開」


ブゥゥウウン…


JK「わぁ…!」

山本「どうした」

JK「超能力を持ってる人がバリア展開するのって初めて見る!」

山本「ああそうか。えっちゃんにとってそれを見るのは初めてだな」

JK「すごい! ねぇ山本さん、人が床から浮いてるよ!?」

山本「今さら何を言ってるんだお前は」

田所「悦子君も普段やっとることではないかね」

JK「さやかちゃん。さやかちゃんのバリアって青っぽいんだね」

結城「はい。先輩のは薄いオレンジ色ですよね」

JK「あ、知ってるの?」

結城「先輩が戦ってる場面とか、実験を記録した映像を幾つも見せてもらってるんです」

田所「結城君。ここから実験場の床に直線が伸び、100メートル離れた地点に標識がある」

結城「100メートル地点の標識……あ、あれですね」

田所「あそこへ飛んで待機してくれ。なお以降は無線での会話となる」

結城「了解です」


ギュゥゥウウン…


JK「わー! 山本さん今の見た!? さやかちゃんが空を飛んでったよ!?」

山本「やかましい。さっきから何を今さら驚いてるんだ」

JK「だってすげーじゃん! 人が空飛ぶなんて! あたし初めて見た!」

山本「分かったから静かにしろ。仕事中にはしゃぐんじゃない」

JK「博士」

田所「何かね」

JK「さやかちゃん、手や足を動かして走る恰好しなくても飛べるんですね」

田所「うむ、いいところに気が付いたな」

JK「さっき、部活で走ってるうちに飛んじゃってたって話してたから」

山本「あいつは当初、そうした動きをしなければ飛行できなかった」

田所「だが訓練を続けることでその動作は必要なくなったのだ」

山本「お前と同じように、体を静止状態にしたまま飛ぶことができる」

JK「次、あたし?」

田所「取りあえずこの場に浮いてくれたまえ、悦子君」

JK「はーい」


ブゥゥウウン…

田所「では実験の手順を説明する」

田所「今からわしが合図をする度に、床の直線上を10メートルずつお互いに近寄ってくれたまえ」

田所「直線へ5メートルおきに目印がある。距離はそれで測ってほしい」

田所「移動の速さは地上を歩く程度。そして移動したらその場で待機」

田所「再び合図したらまた10メートル、相互に接近。これを繰り返すのだ」

JK「了解」

結城『了解』

実験場オペレーター「計測機器は正常に作動しています。各数値安定、準備よし」

田所「最初の10メートルだ。始めてくれたまえ」

JK「了解」

結城『了解』

オペレーター「各数値に変化無し」

田所「次の10メートル」

オペレーター「変化無し」

田所「更に次の10メートル」

オペレーター「変化無し」

田所「次」

オペレーター「数値に変化」

田所「む…」

オペレーター「御覧ください、微弱な変化をし続けています」

田所「もう一度やって確認しよう。二人とも、最初の位置へ戻ってくれたまえ」

JK「了解」

結城『了解』


ギュゥゥウウン…


田所「今度は移動距離を5メートルおきとして細かく経過を見る。では最初の5メートルだ」

──30分後──


田所「どうかね。5回目の試行だ」

オペレーター「やはり異常な数値が検出されます。しかしおそらく、単なるノイズでは…」

田所「わしもそう思う。だが原因を究明しないまま実験を先へ進めることはできん」

オペレーター「実験場だけでは処理能力が限界です。司令部の主電算機を援用しましょう」

田所「実験結果を転送するか。既存データの参照を並行させるので少々手間が掛かるな」

山本「解析にどのくらいの時間を要するでしょうか」

田所「どうかね、君。場合によってはプログラムの妥当性も確認せねばならん」

オペレーター「最大で30分、いえ、40分ほどが必要です」

山本「博士。今、二人を近くの椅子で待機させていますが…」

田所「何かね」

山本「いつもと違う地道な実験なので、あいつら、もう飽きてダレちまっています」

JK・結城「「…」」ポケー

田所「普段の実験や訓練では飛び回ることが多いからの。今回のは退屈に感じてしまったか」

山本「データ解析に時間が掛かるのであれば、その間、二人を自由にさせてやりましょう」

田所「そうだな。その方がいいかもしれんな」

山本「あいつらは会ったばかりです。二人だけで話をさせてやるいい機会だと思います」

田所「うむ、では山本司令に彼女たちを任せる。わしは異常数値の解析に専念しよう」

山本「分かりました。おいえっちゃん、結城」

JK「何~?」ポケー

結城「何ですかあ」ポケー

山本「実験を再開するまで少し時間がある。その間、ここを離れても構わんぞ」

JK「えっホント!?」

結城「いいんですか?」

山本「二人とも飽きちまったみたいだからな。外の空気でも吸ってこい」

JK「やったー! もう休憩だー!」

山本「えっちゃん」

JK「何?」

山本「結城に外の飛び方を教えてやれ」

結城「あ、そうですね。是非お願いします、先輩」

JK「さやかちゃんってあんまり外飛んだことないの?」

結城「はい、この司令部の近くしか…」

JK「じゃあさ、散歩に行こうよ。空を散歩しよう!」

結城「空を散歩? 行きましょう!」

山本「二人とも通信機を見ろ。既に相互の直通回線が設定済みだ」

結城「先輩との直通回線……あ、本当です。確認しました」

山本「二人で話でもしながら飛んで、1時間後に帰って来い」

JK「1時間ね、了解」

山本「それから、まだ接近実験の最中だ。能力を発現している間は…」

JK「分かってる、お互いにあんまり近寄らないようにするよ。行こうさやかちゃん!」

山本「結城、落ち着いて小野寺3佐へ付いて行け」

結城「分かりました!」

JK・結城「「いってきまーす!」」

田所「出掛けたかね、二人は」

山本「大喜びで飛び出して行きました。今までダレていたのが嘘のようです」

野崎「3佐は結城1尉と初対面なのに、早速いい先輩ぶりを見せていましたね」

山本「結城もすぐ打ち解けてくれたな」

野崎「二人とも人見知りを全然しないし、初対面の人でも物怖じしません」

山本「大人の俺たちが感心するほどだ」

田所「明るく積極的で、社交的。こうした性格は超能力者たちに特有であったりするのかのう」

野崎「ふふふ」

田所「どうしたかね野崎2尉」

野崎「あの二人がそろって、そういう素敵な性格をしていること…」

田所「うむ」

野崎「それを研究されるのは田所博士の御専門じゃありませんか」

田所「おお、そのとおりだのう。ほっほっほっ」



ギュゥゥウウン…


結城『先輩』

JK『何?』

結城『いい天気で良かったですね』

JK『うん』

結城『もっと速くてもいいですよ、先輩』

JK『そう? じゃあもう少しスピード上げるね』


ギュゥゥウウン…


JK『さやかちゃん。あたしたち、これからどこ行こっか』

結城『先輩、思い切って…』

JK『うん』

結城『東京まで行ってみませんか?』

JK『東京かぁ。それならもっと速く飛ばないと1時間で帰って来られないかも』

結城『私、今よりスピード出せます。大丈夫です』

JK『分かった。じゃ頑張ってそこまで行ってみよう』

結城『はい。先輩、わざとゆっくりにしないでください。付いて行きますから』

JK『いーの? じゃあもっと速くするよ』

結城『はい』

JK『東京はあっちだね。飛ばすよ』


ギュゥゥウウン…


結城『私、まだ東京へ行ったことないんです』

JK『そーなんだ。さやかちゃんってどこ住んでるの?』

結城『大阪です』

JK『大阪? 実は関西人だったのかぁ』

結城『先輩はどこですか?』

JK『東京……って言っても端っこの方で、埼玉がすぐ近くなんだけど』

結城『えっ。それなら今、東京へ行くと…』

JK『うん、まるでうちへ帰るみたいになっちゃう』

結城『やっぱりやめますか? 別の場所にしますか?』

JK『ううん、いーよ。さやかちゃんが行きたいとこへ行こうよ』

結城『すみません』

JK『全然いーよ。それより前方に小型プロペラ機がいるね』

結城『はい、見えます』

JK『民間の小型機。あーゆーのは一番気を付けなくっちゃ』

結城『どうしてですか?』

JK『あたしたちを見て、めっちゃ驚いて変な動きをしちゃったりするの』

結城『……』

JK『高度を上げて回避しよう』

結城『了解』


ギュゥゥウウン…

結城『先輩はこうやって普通に飛んでる時に、危ない目に遭ったことってありますか?』

JK『……』

結城『駆除作業中が危険なのは当たり前ですけど、現場へ行く最中とかの、普通に飛んでる時に』

JK『うーん……特にないなぁ。飛行機やヘリに近付いちゃったことって、ない』

結城『そうですか』

JK『そーゆーのは大きいから遠くにいてもすぐ分かるの。回避しやすい』

結城『それなら反対に小さい物、回避が難しい物って何でしょう』

JK『鳥とかの、動物』

結城『あ……』

JK『可哀想なことしちゃったのは、何回かある』

結城『……』

JK『鳥って飛行機とぶつかっちゃうこともあるんだってね。バードストライクっていうみたい』

結城『……』

JK『鳥とかの動物って小さいから分からないの。急に視界へ現れる』

結城『それだと、どうしても避け切れない……』

JK『うん。あっ!?と思った時はもう、バリアに当たってバラバラになっちゃってる』

結城『……』

JK『何回か、そーゆー可哀想なことしちゃったのはある』

結城『……』

JK『でも、どうしようもないの』

結城『そうですね……』

JK『もうあんまり気にしないようにしてる』

結城『避けようがないですよね……』

JK『東京の上空へ来たよ』

結城『うわあ……やっぱり大きな街ですね』

JK『あれが東京都庁、新宿の高いビルが幾つもあって…』

結城『その近くにある大きい森みたいなのが皇居ですか?』

JK『ううん、皇居はもっと向こう。もっと大きい』

結城『……』

JK『さやかちゃんが今言ったのは何だったかなぁ。明治ナントカ…』

結城『明治神宮? 初詣の人数がいつも全国トップの』

JK『あ、それだ。あたしよりよく知ってるじゃん』

結城『そんなことないですよ』

JK『これが赤坂御所。そんで、皇居はあれ』

結城『東京の真ん中にこんな大きい森があるんですね』

JK『この上は飛ばない方がいーよ』

結城『え?』

JK『警察が怒るから』

結城『警察が?』

JK『皇居ってあたしたちみたいな、普通の人が絶対入れない所じゃん』

結城『そうですね』

JK『だからあたし、中ってどうなってんだろと思って…』

結城『はい』

JK『この上を低い高度でゆっくり飛んで、どんな物があるのか見ようとしたことがあったの』

結城『そうしたら?』

JK『警視庁のヘリが出動して来ちゃった』

結城『ひゃあ……』

JK『山本さんから通信が来て、今すぐ戻れってキレられた』

結城『その後、司令部でお説教ですか』

JK『二度とやるなって言われた。警察が自衛隊へ文句言ってきたみたい』

結城『……私も気を付けます』

JK『皇居と赤坂御所、この二つの上は飛んじゃ駄目』

結城『先輩、そろそろ…』

JK『何?』

結城『どこかへ降りてみませんか?』

JK『あ、そーだね』

結城『降りて、少し休んで…』

JK『それから司令部へ引き返そう。そーすればちょうど1時間で戻れるかな』

結城『どこへ降りますか?』

JK『……』

結城『先輩、どこかお勧めの場所ってありますか?』

JK『……よし、あそこにしよう!』

結城『あそこ? ……あっ、あれですか!?』

JK『うん、東京スカイツリー!』

結城『スカイツリー! 行きましょう!』


ギュゥゥウウン…

JK『あのてっぺんって降りられるんだよ』

結城『え? でも…』

JK『てっぺんの形をよく見て』

結城『形……何だか太い。足場みたいな物も付いてる。塔の先っぽだから尖ってると思ってました』

JK『それはあっちにある東京タワー。あそこのてっぺんはトゲトゲしたアンテナしかない』

結城『スカイツリーの上は…』

JK『あたし、前にネットで調べてみたことがあるの。平らになってて意外に広いんだよ』

結城『あ……本当です、人が歩けるくらい広い! こんなふうになってるのか!』

JK『ここなら降りて一休みできるよ。眺めも抜群!』

結城『さあ、来ました!』

JK『地上634メートル!』

JK・結城『『到着ー!』』


ストン ストン

結城「うわあ……いい眺め」

JK「ホントにいい天気で良かったね」

結城「はい、ずうっと遠くまで見えます」

JK「でも風が少し強いなぁ。寒くない?」

結城「大丈夫です」

JK「それなら良かった」

結城「何だか……不思議ですね」

JK「不思議? 何が?」

結城「飛んでる最中、もっと高い場所からいい眺めをたくさん見てるはずなのに…」

JK「うん」

結城「いい景色なんて、見慣れてるはずなのに…」

JK「うん」

結城「こうやって足で立って景色を見ると、やっぱりいい眺めだなあって思っちゃうんですね」

JK「そーだね。どうしてなんだろね」

結城「こういう時…」

JK「何?」

結城「超能力者になって良かったなあ、って思います」

JK「……」

結城「空を飛べるようになって良かったなあ、って思います」

JK「うん」

結城「……でも、先輩」

JK「何?」

結城「私はまだ、駆除作業をしたことがありません」

JK「うん」

結城「やっぱり、怖いですか?」

JK「……」

結城「怪獣と戦うのって、やっぱり怖いですか?」

JK「うん、怖いよ」

結城「……」

JK「あたし最初、怖くて怖くてたまらなかった」

結城「……」

JK「でもいつの間にか慣れちゃった」

結城「そうですか」

JK「超しょーもない言い方かもしれないけど…」

結城「何でしょう」

JK「慣れだよ、慣れ」

結城「……」

JK「さやかちゃん、トカゲを手で掴むのってできる?」

結城「トカゲ? 手で? 触ったことないですけど……多分、平気です」

JK「蛇は? 手で掴める?」

結城「蛇? 少し気味が悪いけど大丈夫です。でも先輩、トカゲとか蛇とか何の話ですか?」

JK「怪獣って要は、ものすごくデカいトカゲや蛇なの」

結城「あ…そうですね。そんな形ですね」

JK「トカゲや蛇を手で掴むことができるなら、大丈夫だよ」

結城「……」

JK「さやかちゃんもきっと、すぐ慣れるよ」

結城「……よく分かりませんけど…」

JK「……」

結城「そういうものなんでしょうか」

JK「うん。そーゆーもんだよ」

結城「……先輩って、何だか…」

JK「何?」

結城「うまく言えないですけど……強いんですね」

JK「強い? あたしが?」

結城「考え方が単純で…今言ったのはいい意味の“単純”ですけど…強いんですね」

JK「あたしは頭が悪いから物事を難しく考えないだけだよ。そーゆー意味で“単純”なんだよ」

結城「私、訓練で駆除作業の模擬体験を何回もしたんです」

JK「うん」

結城「実際にやる攻撃を、映像で疑似的に体験する訓練です」

JK「うん。あるね、そーゆーの」

結城「私、怖くて、気持ち悪くて……」

JK「……」

結城「目の前に怪獣の姿が映し出されて、それがどんどん大きくなる」

JK「目標を攻撃する時に自分が見るものを再現してるんだよね」

結城「そうして目の前にあるのが、怪獣の体の表面だけになる」

JK「で、目標へ直撃…」

結城「自分が体の表面を突き破って、中にある物を破壊しながら進んで行く」

JK「……」

結城「いろいろなグチャグチャ、ドロドロした物の中を通り抜けて行く」

JK「……」

結城「もちろん私、バリアで自分の体が守られてるって分かってます」

JK「うん」

結城「でも、耐えられませんでした」

JK「……」

結城「私、何回も訓練の最中に吐いちゃいました」

JK「初めのうちってそれが当たり前だよ。そーなるのが当然だよ」

結城「最近やっと、慣れてきたかなって思えるようになったんですけど……」

JK「それなら問題ないじゃん。やっぱ慣れだよ」

結城「でも私、夢に見るんです」

JK「……」

結城「訓練の映像を、夢に見るんです」

JK「……」

結城「私、やっと慣れてきたのかもしれないけど、まだ怖くて、不安で……」

JK「うん」

結城「先輩の足を引っ張っちゃうかもしれないって、不安なんです」

JK「……」

結城「先輩の足手まといになっちゃうかもしれないって、不安なんです」

JK「……」

結城「先輩。私なんかでも、先輩みたいにできるんでしょうか」

JK「さやかちゃん」

結城「はい」

JK「さやかちゃんが自衛隊の仕事を引き受けようって、決心した時」

結城「決心をした時?」

JK「その時、誰かに反対されなかった?」

結城「反対ですか……。されました」

JK「反対されたのに、この仕事をするって決めたんだよね。反対を押し切ったんだよね」

結城「はい……」

JK「それを思い出せばいーんじゃないかな」

結城「……」

JK「多分さやかちゃんは、そんなのやめろとか、女の子のやることじゃないとか言われたと思う」

結城「……」

JK「でも、この仕事をしようって決心した。その決心を貫いた。そのくらい強い気持ちを持ってた」

結城「はい……」

JK「その強い気持ちがあれば大丈夫だよ。さやかちゃんだってやっぱ強いんだよ」

結城「そうでしょうか……」

JK「うん。反対を押し切った時みたいな強い気持ちがあれば、大丈夫だよ」

結城「先輩。先輩の場合は…」

JK「あたしの場合はお母さんがガチで反対した」

結城「お母さんが…」

JK「親父は何も言わなかった。弟は心配してるみたいだったけど、反対しなかった」

結城「……」

JK「お母さんがガチで大反対した。でもあたしはこの仕事をするって決めた。決心した」

結城「はい」

JK「だから特駆隊と家族とで話し合った時、変な感じだったよ」

結城「仕事を引き受ける前の話合いですね。私のときも何回もしました。でも“変な感じ”って?」

JK「山本さん、りょーこさん、お母さん、それからあたしで何度も話し合ったんだけど…」

結城「はい」

JK「話合いの最後の方は、反対するお母さんをほかの3人が説得するみたいになっちゃった」

結城「……」

JK「さやかちゃんの場合は?」

結城「私のときは、家族はあまり反対しませんでした」

JK「そーなの?」

結城「もちろん、すごく心配されましたけど……」

JK「親は? お父さんとお母さんって反対しなかったの?」

結城「仕方ない、みたいな感じでした」

JK「……」

結城「この国へ怪獣が来るようになった。そんな時に私は超能力者になっちゃった」

JK「……」

結城「もう自衛隊の仕事をするのは仕方ない、みたいな感じで認めてくれました」

JK「でも誰かに反対されたんでしょ? きょうだいとか?」

結城「私は一人っ子です。私の場合、反対したのは家族以外だったんです」

JK「家族以外?」

結城「はい。彼氏です」

JK「ええっ!?」

結城「え? 先輩?」

JK「あ……」

結城「どうしてそんなに驚くんですか?」

JK「う、ううん……]

結城「?」

JK「な、何でもない……」

結城「私の場合…」

結城「彼氏が反対したんです」

結城「彼がすごく心配して、猛反対しました」

結城「“さやか、お前正気か?”とか“死ぬ気か?”って何度も言われました」

結城「何回もケンカして、別れそうになったりもしました」

結城「だけど彼も、ちゃんと分かってました」

結城「今、この国に起こってること」

結城「今、超能力者になった自分の彼女にできること」

結城「彼もちゃんと分かってました。最後は親と同じように、仕方ないって認めてくれたんです」

JK「……」

結城「先輩の言うとおりかもしれませんね」

JK「……」

結城「私、どんなに彼から反対されても、仕事を引き受ける決心は絶対変えないって思ってました」

JK「……」

結城「その強い気持ちがあれば……あれ?」

JK「……」

結城「先輩?」

JK「……」

結城「先輩、どうしたんですか?」

JK「リア充だったのか、この子……」ボソ

結城「え? 何か言いましたか?」

JK「な、何でもない。……さやかちゃん」

結城「はい」

JK「彼氏が、いるんだ……」

結城「はい。同学年で、もう何年も付き合ってます」

JK「……」

結城「付き合い始めたのが中2の時でした」

JK「中2……」

結城「先輩。何だかボーッとしちゃって、どうしたんですか?」

JK「な、何でもない……」

結城「彼氏がいるのなんて別に珍しくないですよね?」

JK「そ、そーだね……」

結城「先輩だって彼氏、いるでしょう?」

JK「い……いない」

結城「あ、そうなんですか」

JK「……」

結城「でも今まで、いたことあるでしょう?」

JK「な……ない」

結城「あ、そうなんですか。……ふうん」

JK「……」

結城「先輩、まだ男の子と付き合ったことないのかあ。……ふうん」

JK「な、何よその態度……」ボソ

結城「え? また何か言いましたか?」

JK「……何でもない」

結城「でも大丈夫ですよ。先輩ってちっちゃくて可愛いんですから」

JK「……」

結城「彼氏くらい、すぐできると思いますよ」

JK「何よその上から目線……」ボソ

結城「こんなデカ女の私にだって彼がいるんだし」

JK「そのデカい身長みたいに、立場もあたしより上みたいになっちゃって……」ボソ

結城「先輩、さっきから何ブツブツ言ってるんですか?」

JK「さやかちゃん、あんたって背デカいから…」

結城「はい?」

JK「彼氏、ちょっと可哀想だったりしない?」

結城「可哀想? どうしてですか?」

JK「だって女の方が背高いと…」

結城「ああ、そういうことですか。彼は私より身長ありますけど」

JK「う……」

結城「180センチ超えてます。まだ高1だからもっと伸びるかも」

JK「……」

結城「部活はバレー部です。その身長ならもう、バレーかバスケやるしかないって感じですよね」

JK「高身長カップル……リア充爆発しろ……」ボソ

結城「先輩、さっきから何ボソボソ喋ってるんですか?」

JK「……何でもない」

結城「でも、彼にこの仕事するのを認めてもらったのはいいんですけど…」

JK「……」

結城「悩みがあるんですよね」

JK「悩み?」

結城「はい。こうして実験や訓練があるから、二人で会える時がちょっと減っちゃったんです」

JK「何よその贅沢な悩み……」ボソ

結城「前って週に1回は必ず会ってたんです」

JK「……」

結城「でも今は、月に3、4回くらいになっちゃったんですよね」

JK「それって別に回数減ってなくない……?」ボソ

結城「だけどそうなって、逆にいいこともありました」

JK「いいこと?」

結城「会うのが久し振りになるから燃えるんです。今までよりも」

JK「ええっ!?」

結城「どうしました?」

JK「燃える、って……それ、まさか…」

結城「はい、エッチのことです」

JK「……」

結城「先輩。また、どうしてそんなに驚くんですか?」

JK「ううん……な、何でも…」

結城「これも別に普通ですよね?」

JK「……」

結城「先輩の友達にも経験済みの人、いるでしょう?」

JK「う、うん……いるみたい……」

結城「私たち、中学生の間は受験とかもあるから我慢して…」

JK「……」

結城「高校生になったらしようね、って決めてたんです」

JK「“しようね”って///」

結城「だって何もしない方がおかしいですよね。こんなに長く付き合ってるんですから」

JK「エッチ、ってさ…」

結城「はい」

JK「最初は痛いって聞いたけど……」

結城「そうですね。痛いです」

JK「……」

結城「私は最初の時、すっ…」

JK「……」

結城「ごく、痛かったです」

JK「……ホントにマヂ痛そう」

結城「もう息が止まるくらい痛かったです」

JK「どんな痛さ…?」

結城「体を無理矢理、押し広げられてるみたいな」

JK「何そのナマナマしー言い方///」

結城「先輩、どうして赤くなってるんですか?」

JK「エッチってやっぱ、痛いのか……」

結城「はい。でもそんなのすぐ慣れますよ」

JK「……」

結城「慣れです、慣れ」

JK「……」

結城「あ、これってさっき先輩が言ったのと同じですね」

JK「なんかもう完全に立場が逆……」ボソ

結城「痛いのって初めのうちだけ。すぐに慣れて気持ち良くなりますよ」

JK「“気持ち良くなる”って///」

結城「だから先輩、どうして赤くなってるんですか?」

JK「だってすげー恥ずかしーじゃん///」

結城「話してる私は別に恥ずかしくないですけど」

JK「これが経験者の余裕か……」ボソ

結城「誰でもやることなんです。先輩だって彼氏ができたらやるんです」

JK「そんなに何回もヤるって言わないで///」

結城「あ、もうこんな時間。そろそろ戻りましょうか」

JK「……」

結城「先輩?」

JK「えっ? あ、ああそーだね! もう戻ろう! 1時間で帰れなくなっちゃう!」

結城「先輩、どうしたんですか? さっきから何だかボーッとしちゃって」

JK「……な、何でもない」

結城「ひょっとして今の話、先輩には刺激が強過ぎました?」

JK「……///」

結城「まだ男の子と付き合ったことのない先輩には、ちょっと刺激的だったでしょうか」

JK「リア充特有の上から目線……」ボソ

結城「でも先輩もいつか、今の話みたいな経験をするんですよ?」

JK「……///」

結城「だけど大丈夫です、先輩は強いんですから。痛いのだって平気です」

JK「あんまり関係なくない……?」ボソ

結城「さあ行きましょう。通信機を相互直通回線にして…」

JK「うん……」

結城「バリア展開、出発!」

JK「出発……」


バシュッ バシュッ


ギュゥゥウウン…


JK『あたしたちスカイツリーのてっぺんまで、一体何しに来たんだろ……』ボソ

結城『先輩、何か言いましたか?』

JK『……何でもない』

結城『司令部へ帰ったら今の退屈な実験、早く終わらせちゃいましょうね』

JK『あたしこれから、このリア充の後輩とうまくやっていけるのかなぁ……』ボソ

結城『先輩、また何か言いましたか?』

JK『……何でもない』

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