肋骨「いい加減、オレを気軽に折るのはやめてくれ!」(29)

肋骨「いい加減、オレを気軽に折るのはやめてくれ!」

肋骨「“戦闘続行可能だけどかなりのダメージ”にオレを使うのはやめてくれ!」

肋骨「肋骨が折れただの、アバラがイカれただの、もううんざりなんだよ!」

肋骨「今日からオレは休ませてもらう! ストライキだ!」

肋骨「これからはダメージ表現にオレを使うのを一切禁ずる! ――分かったな!」

ザワザワ…… ドヨドヨ……



「なんだって!? ダメージ表現に肋骨を使えない!?」

「なんとかならないのか!」

「肋骨は完全にストライキに入ったようだ……代わりを探すしかないな」

「だけど、肋骨に代わるダメージ表現なんてあるのか!?」

「とにかく……色々試してみるしかないだろう」



敵「喰らいやがれっ!」

ドガァッ!

主人公「ぐっ……内臓が破裂してしまったか……!」

主人公「だが、まだやれる!」キッ



悪役「ここまでだな、ヒーロー!」

バキィッ!

ヒーロー「ぬおおっ! 横隔膜がだいぶせり上がってしまったようだ……!」

ヒーロー「しかし、正義の心はこの程度の攻撃に屈しはせんぞ!」



悪魔「人間ごときにオレを狩れるわけなかろう! デビルビームッ!」ビビビッ

ズガァァァン!

ハンター「うぐぐっ……! ビームが直撃し、捻挫を引き起こしたか……!」

ハンター「もはや、動くのがやっと……! どうする!?」



黒格闘家「我が必殺の拳、黒爆破滅拳ッ!」

ドゴォッ!

白武道家「ぐはぁっ! 今のダメージで、生活習慣病になってしまった……!」

白武道家「しばらくは食事の栄養バランスに気をつけなければな……!」

結果――



「内臓破裂って、どう考えても死ぬだろ! 仮に死ななくてももう戦えないだろ!」



「横隔膜がせり上がるってのが、どのぐらいキツイのかよく分からん」



「捻挫って、全然大したことないじゃん! 動くのがやっとってことはないだろ!」



「生活習慣病の改善には食事だけじゃなく、ストレス解消や運動も効果的なのに!」



ファンからは不満の声が相次いだ。

肋骨のストライキの影響は想像以上のものであった。



戦闘シーンからリアリティや緊張感がなくなったという意見が続出し、

漫画やアニメを始めとしたフィクション作品の売上は激減。



その余波は戦闘シーンなどこれっぽっちもない作品にまで及んだ。

さらに、虚構(フィクション)の凋落は現実をも道連れにしてしまう。



娯楽分野が力を失ったことにより、人々の労働に対するモチベーションは低下、

工業や農業、その他の産業にまで不景気は伝染していった。



かつてのバブル崩壊やリーマンショックなど比較にすらならない、

最悪の事態が訪れようとしていた――

「もうダメだ……回復の見込みがまるでない……」

「失業率が50%……55……60……70……どんどん増えていく! 止まらない!」

「ちくしょう、なんでこんなことになった!?」

「ハハハハ、なにもかも終わりだぁっ!」

「この国は……破産……いや、破滅する!」





肋骨「みんな、まだ諦めるなッ!!!」

ザワザワ…… ドヨドヨ……



肋骨「ストライキを起こして、オレはようやく自分の役割の大きさに気づいた……」

肋骨「だからオレはこれから、ストライキを起こしてた時の分まで働く!」

肋骨「みんなも、オレのように粉骨砕身の精神で働くんだ!」

肋骨「そうすれば、きっとかつての豊かさを取り戻せる!」

肋骨「この崖っぷちでなんとか踏みとどまって、絶望的な不景気を乗り越えよう!」



オーッ!!!



主人公「ぐっ……肋骨が折れちまったか……だが、まだやれる!」



ヒーロー「肋骨は折れたが……まだ正義の心は折れておらん! うおおおおっ!」



ハンター「肋骨を二、三本やられたか……しかし、命は尽きていないッ!」



白武道家「ぐぬっ! 今のダメージでアバラ骨を損傷してしまったが……まだまだっ!」

これにより――



「これだよ、これが見たかったんだよ!」



「このリアリティ溢れる戦闘シーン! 緊張感あるダメージ表現! たまらないな!」



「フィクションってなんて素晴らしいんだ!」



「傷ついても立ち向かう主人公たちを見てたら、生きる気力が湧いてきたぞ!」

こうして、肋骨の復帰をきっかけに、国はどん底の不景気からみごと回復した。

そして今も、肋骨を中心に順調な経済成長を続けている。





さて、当の肋骨はというと――

肋骨「ぐっ!」バキボキ

肋骨「がはっ!」ボキィッ

肋骨「うげぇっ!」メキメキッ…



肋骨「あ~、今日もよく折れた折れた」

肋骨「だけど明日もいっぱい折られなきゃならないし、牛乳飲んで回復しないと」ゴクゴク…

肋骨「――ぷはぁっ!」

肋骨「うん! 粉骨砕身ならぬ、粉骨砕骨で働いた後の一杯は格別だ!」







                                     おわり

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