両津「なにィ! コテハンだと!?」 (54)

両津「なに? 美少女ゲームの攻略法を教えてくれだと?」

左近寺「うむ。ゲームのタイトルは『アイドルライブ☆プリンセスマスター・ゼノグラシア』だ」

両津「やけに長いタイトルだな……」

左近寺「母校の危機に立ちあがった女子生徒達がアイドルとなり、姫を目指しながら巨大ロボに乗って戦うという壮大な物語でな」

両津「ゲテモノじゃねぇか……。なんでも混ぜりゃいいってもんじゃねぇぞ」

左近寺「そこが従来の路線と違っていいんじゃないか!」

両津「そ、そうか……。それで、そのゲームの何が問題なんだ?」
 
両津「今のご時世、ゲームの攻略なんぞちょっと調べればすぐ分かるだろ」

左近寺「実は、ゲームの発売日が5日後でな」

両津「まだ発売前のソフトか!? しかも5日後!?」

左近寺「そうだ。問屋側から裏ルートを使って直接入手したんだが、プレイ途中で詰まってしまってな……」

両津「フラゲは犯罪だぞ……。しかし、美少女ゲームか。うーむ。わしは美少女ゲームはほとんどプレイ経験がないからなぁ」

左近寺「それでもだ両津。発売前のゲーム攻略など、お前にしか頼めんのだ」

両津「いや、しかしだな」

左近寺「頼む! この通りだ!!」ズイッ

両津「ぬおぉ!? 近い! 顔が近い! 分かった、分かったから! 一応調べるだけ調べてやるから!」

左近寺「おお! さすがは両津! 頼んだぞ!」ズイッ

両津「だから近い!」




――派出所。



両津「……ってなわけなんだが、どうしたものか」

中川「それはまた、大変ですね先輩も……」

両津「格ゲーやRPG、STGにスポーツゲームにとかなら、すぐにでも攻略なんぞしてやれるんだがなぁ」

中川「先輩は美少女ゲームにはあまり興味がありませんものね」

両津「二次元なぞどうでもよろしい。女は三次元に限る」

中川「そ、そうですか」

両津「それはともかく、お前は何かいい案はないか?」

中川「うーん。先輩の知り合いに、その手のゲームに詳しい人は?」

両津「本田くらいかな……」

中川「では、本田さんに相談してみては?」

両津「あいつは今、本庁の方で新型の白バイを使った80時間耐久レースに参加しておるので連絡が取れん」

中川「は、80時間ですか!? 8時間ではなく?」

両津「うむ。本庁のお偉いさんが鈴鹿の8耐に触発されたらしくてな。どうせならもっと盛大にやろうということになったらしい」

中川「あの人も災難だなぁ……。でも、それじゃあ仕方がないですね」

両津「うむ。だから困っておるのだ。どうしたものかな……」

中川「こうなったら、ネットで聞いてみてはどうでしょう?」

両津「ネットで? しかし、まだ発売前のソフトだぞ?」

中川「左近寺さんのように入手できている人がいるということは、他にもきっとソフトを手に入れた人がいるはずですよ」

両津「ふーむ。言われてみればそれもそうか……」

両津「可能性を信じて、ダメ元でネットで攻略法を聞いてみるか」

両津「とりあえず、ゲームのタイトルと攻略の単語でググってみよう」カタカタッ

中川「あ、掲示板がヒットしましたね」

両津「なになに……。おーぷん2ちゃんねる……だと?」

中川「おーぷんですか。なるほど」

両津「知っているのか?」

中川「ええ。先輩も2ちゃんねるは聞いたことありますよね?」

両津「わしを馬鹿にするなよ。2chと言えばなんか問題ばっかり起こしてる匿名掲示板だろ」

中川「ま、まぁ、そういう側面もあるのは否定しませんが……。とにかく、おーぷんはそこの掲示板の亜種ですね」

両津「ふーん。どう違うんだ?」

中川「簡単に言えば、本家2chが記事の転載を禁止しているのに対して、おーぷんでは記事の転載を許可しているんですよ」

両津「記事か。どうでもいいな」

中川「先輩が聞いてきたんじゃないですか……。それで、どうするんです?」

両津「そうだった。ゲームの攻略を聞かねば」

中川「ニュー速VIPという板のスレッドの1つに、該当するゲームの話題を扱っているところがあるようですね」

両津「よし。閲覧してみるか……」

両津「ふむ……ほぅ……ほほぅ」

中川「これは……!?」

中川「当たり前のように、まだ発売前なのに攻略情報が飛び交っていますね……」

両津「どうやら、中川の読みは当たったようだな」

中川「そのようです」

両津「左近寺に頼まれて攻略情報も仕入れたし、戻るか……ん?」

中川「先輩、どうしました?」

両津「なんか変なやつがスレに来たぞ」



拓男@馬鹿の月◆e5te9dDe「発売前のゲームの攻略をするなんて犯罪だごん! こんなとこ荒らしてやる! 
             ばーかうんこうんこ!!」
             うんこうんこうんこうんk!!!!!」  

両津「なんだこいつは? 小学生の悪口大会か?」

中川「掲示板荒らしですね。まぁ、よくあることですよ」

両津「荒らしてるのは分かるが、ここは匿名掲示板だろう?」

中川「えぇ、そうです」

両津「なんで匿名で話し合う場所で名前付けてんだこいつ」

中川「ああ。これはコテハンですよ先輩」

両津「コテハンだと? なんだそりゃ?」

中川「固定ハンドルネームの略です」

中川「まぁ、ネット上で固定して使う通り名のようなものと思っていただければ」

両津「ふーん。で、なんだって匿名の場所で名前を付ける必要があるんだ?」

中川「HN(ハンドルネーム)は、匿名性の高いネット上で、特殊なスキルや特技を持つ人を称えるため――」
   
中川「周囲の人達の側からその差別化のために、称号のような形で付けられたのが始まりですね」
   
中川「無論、何かしら能力に自信のある人が自分から付ける場合もありますが」

両津「なに!? ということは、アホな小学生みたいなこいつも、凄い能力を持っているのか!?」

中川「いえ、それはないかと」

両津「なんでだよ!? お前の説明では、なんかスキルを持った人が付けるのがHNなんだろ!?」

中川「えぇと……。そうですね。では、ちょっとこの人の他のスレの書き込みを見てみてください」

両津「主な書き込み先は『拓男軍団総合スレ』だと? ……軍団ごっこって、ますます小学生かよこいつは」

両津「ちょっとスレに書き込んでやろう。お前は歳はいくつなんだ……と」



拓男@馬鹿の月◆e5te9dDe

「無能名無しが来た! ぼくは小学生だごん! 死ね!! アフリカ! うんこ」

両津「……なんだこいつ。まともに会話もできんのか。しかも、やはり小学生なのか」

中川「先輩先輩。今日は平日ですよ」

両津「それがどうした?」

中川「しかもまだ午前中です」

両津「だからなんだ?」

中川「過去ログを見てください。レスの日付も毎日時間を問わず大量にあります」

中川「平日の昼間からネット掲示板に書き込みできる小学生なんていません」

両津「……つまり、小学生を自称してる無職とかの大人か?」

中川「恐らく、それに近い者かと」

両津「……で、HNを付けてるってことは、結局こいつは何か能力を持っているのか?」

中川「ですから、持ってませんよ」

中川「見ての通り、無職らしき成人男性が掲示板を荒らしているだけですので」

両津「つまり?」

中川「悲しいことに、今ではなんの能力もない目立ちたがり屋ばかりが――」

中川「ただ、自分をアピールするためだけにHNを付けているのが現状です」

中川「なんとも、嘆かわしい話ですね」

両津「ふーむ……。アピールか」

中川「先輩?」

両津「ふむ……」

中川「先輩、聞いてますか?」

両津「ん? おお、すまんすまん」

両津「しかし、こいつのスレ。やたらと書き込みが多いな」

中川「本当ですね。同じようにHNを付けている人が大勢いるようです」

中川「しかも、聞いてもないのに自分達は中学生だの高校生だの」

中川「学校生活がどうだのと、やたらと自己紹介してますね」

両津「ガキばっかりかよ! なんでそんなやつらがHNを付けてネット掲示板に書き込むんだ?」

中川「そうですねぇ……。今、ネットでは動画投稿サイトが流行ってるじゃありませんか」

両津「Youtubeやニコニコ動画とかだろ。わしもよく利用しとる」

中川「そこで動画を投稿する人達が、芸能人やアイドルのような扱いをされているんですよ」

両津「ああ! なんか見た覚えがあるぞ!」

両津「ヒキカンだかヒカキンだかモヒカンだかというやつのCMをテレビで見た!」

両津「あいつら、自分を撮った動画だけでそんな扱いになってたのか!」

中川「ええ。それも、下手なアイドルより人気があったりするんですよ」

中川「企業もそれを利用して、バンバンCMに出していますし……」

中川「そういった存在に憧れて、とりあえずネットを使って手軽に有名になろうとしている子供が増えているんです」

両津「その入り口的なものが、能力もないのにHNを付けることに繋がるというわけか」

中川「HNを付ければ、誰かに名前を覚えてもらえるかもしれないという気持ちなんでしょうね」

両津「なんとも甘い考えだな。狭いコミュニティ内で無能がバカやっても、周囲からは邪魔にしか思われんというのに」

中川「そういう分別が付かないからこそ、まだまだ子供なんでしょうね」

両津「で、そいつらを率いているのが、いい歳こいた無職だかニートだかの大人なのか」

中川「世も末ですね……」

両津「中高生を大量に集めて何をやるかといえば、ガキの遊びたいな軍団ごっこだけか……」

中川「あ、ちなみにさっきの動画投稿の余談なんですが」

両津「ん?」

中川「最近発表された情報によると、Youtubeのとある動画投稿者は14億円ほど稼いだそうです」

両津「なんだとッッ!?」

中川「再生数に応じて広告収入が貰えたりしますからね」

両津「14億……」

中川「先輩?」

両津「……14億? ホントに?」

中川「はい。スウェーデンのとあるユーチューバーが、広告収入だけで年収14億を突破したそうです」

中川「新しいビジネスモデルの1つとして、今後も動画投稿はますます増えていくでしょうね」

両津「……」

中川「先輩、どうしました?」

両津「コテハン……有名……」ブツブツ

中川「先輩……?」

両津「子供……集客……再生……」ブツブツ

両津「広告……フフフフフ……」

中川「せ、先輩? どうしたんですか?」

両津「中川君!!」ガシッ

中川「は、はい!?」

両津「本官はちょっと重大な用事を思い出したのでここで失礼する!!」

中川「え? まだ勤務時間ですよ!?」

中川「先輩? せんぱーいッ!?」

両津「さらばだ明智君! また会おう! わははははは!!」

――1ヶ月後。



ニュースキャスター

「現職の警察官がネット掲示板で、ホンジャマカ教の教祖を名乗って子供達を大量に集め、
 動画投稿サイトでの広告収入を目当てに、投稿した動画をひたすら再生させるという行為をして逮捕されました。
 なお、捕まった本人は当初、警察官ではなくただの中学生であり、神の意志に従っただけだと話しており――」

大原「両津のバカはどこだ!! どこに行った!?」ドガシャ

中川「アイドルをプロデュースすると言って廃校を探しに行きました!」








おしまい

以上です

短い間ですが、お付き合いありがとうございました

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年11月04日 (水) 22:14:03   ID: U9aFKFVh

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