井之頭五郎「ガルガンティア船団の乙女定食とわかめパン」(16)

※「孤独のグルメ」×「翠星のガルガンティア」です。

※「孤独のグルメ」はどちらかといえば原作寄りです。

※料理の内容・味は想像です。


~某日 ガルガンティア船団・オケアノス号にて~


フェアロック「素敵な品々をありがとうございます、イノカシラさん。」

五郎「こちらこそです。重ね重ね、お招きありがとうございます」

そう、まさか直接赴くことになるとは思わなかった。この『ガルガンティア船団』に。


噂には聞いていた。大小様々な船をつなぎ合わせた『航海する都市』の存在を。

遠い世界のことだと思っていたが、一度業者の仲介で品物を送ったのが気に入られ、

船長…いや船団長様直々に商談を依頼された。5割さばければと思って持って

来た品物を全てお買い上げいただいた。陸地では特別珍しくもない品もあったが、

陸に上がったことのない若者達がこぞって欲しがるそうだ。

無論、ふっかけてなどいない。

フェアロック「ところで、この後はどうなさいますか?お泊りになるなら、部屋を手配させますが」

五郎「いえ、夕刻には迎えの船が来ますので。それまで、この船団を歩いてみます。到底、回りきれないでしょうが」

フェアロック「そうですか。短い間ですが、どうぞ我が船団をご覧下さい。

貴方のように古今東西のものに触れてきた方の目に、我々の暮らしぶりがどう映るのか…」


 俺の目を随分買っていただいているようだが、実際評価どころじゃない、圧倒されるばかりだ。

話で聞いてるうちは小さないかだが肩を寄せ合っているのを想像していたが、スケールが違った。

いつぞやの川崎のコンビナートが苔むして、人を載せて動き出したかのような…。

隣接する甲板に広がっているのは牧草地で、牛がのんきに草を食んでいる。

ここが海のど真ん中だということをつい忘れそうになる。

ジョー「オーライ、オーライ、よし、そこで降ろしてくれ!」

ユンボロ「ガションガション」

あの人型の重機たち、『ユンボロ』と言ったか。日本人はロボット好きだしウケるだろうな。

しかしユン「ボロ」は字面が良くない、かといってユン「ロボ」だと語呂が悪いな。

ピニオン「おーい、エイミー!こっち来てくれー!」

「はーい!」

何だ?上から声が…

五郎「うわっ!」

女の子が飛んできた…ハンググライダー?いや、もっと小さいか。

ピニオン「これ手紙、頼んだぜ。おっと、お客さんを驚かせちまったみたいだな」

エイミー「あ、ごめんなさい!」

五郎「いえ、お気になさらず…」

あのハンググライダーと凧の合いの子のような乗り物。『異国の遊具』として持ち帰ったらウケるかもしれん。

自転車感覚で空を飛んで…いや、こういうものは道交法のしがらみがあるか?いや、航空法になるのか?

はは、俺はこの船よりずっと広い所に住んでいるのに、考えることの小ささといったら。

カルチャーショックの影響か…腹が減った。

エイミー「あのー、大丈夫ですか?」


~食堂にて~

エイミーと名乗った少女はさっきのように船団を飛び回りながら配達の仕事をしているそうだ。

余程腹ぺこそうに見えたのだろう、この食堂まで案内してくれた。

ベローズ「おうエイミー、レドを借りてるぜ」

レド「ベローズの、サルベージ、手伝った」モッシャモッシャ

エイミー「お疲れさま。レド、本当にわかめパンが好きだね…」

五郎「すいません、どうも」

おっと、人が一杯だな、どこに座ろうか。

ベローズ「隣どーぞ、商人さん」

五郎「あ、いいんですか?」

ベローズ「アンタ、船団長お墨付きの商人さんだろ?リジットから話は聞いてるよ」

リジットさん、フェアロック氏の側近の眼鏡の女性か。若いが芯の通った仕事ぶり

だった。ベローズさんといったか、目の前の彼女もきっとそうなのだろう。

さて、早速頼みたいところだが、メニューから内容の想像がつかん。うーん…。

ベローズ「エイミー、商人さんが迷ってるみたいだぞ」

エイミー「イノカシラさん、おすすめは『乙女定食』だよ」

五郎「乙女、ですか」

そもそも俺が頼んでいいものなのか?

定食とついてるからにはレディースセットみたいなものだろうが、足りるかな。

ベローズ「腹ペコならわかめパンも追加したら丁度いいんじゃないか?レドもおすすめだ」

レド「コクコク」モッシャモッシャ

五郎「じゃあその、二つで」

流されてしまったが大丈夫だろうか。

わかめパンというのは、彼…レド君が食べているあれか。

レド「モッシャモッシャ」

ううむ、焦げたメロンパンのようなくすんだ色合い…。

彼も無表情だし、本当においしいと思っているのだろうか?

レド「?」

目が合ってしまった。

ベローズ「レドが気になる?面白いヤツだよ、コイツは」

五郎「あ、そうなんですか」

エイミー「イノカシラさんと同じでね、遠くから来たんだよ」

五郎「へえ…」

言われてみれば片言だし、一人だけ色白で、服の意匠も違う。

留学生か?

五郎「どちらから、この船団に?」

レド「遠い、空の…向こうから。チェインバー、一緒に」

五郎「ほほう…」

なかなか詩的だな…。チェインバー、とは友人か?

お…きたきた来ましたよ。

~乙女定食~

「揚げ魚の餡かけ」…鯛のような魚が丸ごと一匹。付け合わせには海藻のサラダ。

同じ皿に貝殻焼きも。

「貝のスープ」…あさりぐらいの大きさの貝がたっぷり。色はコンソメ風。

「薄焼きパン」…パニーニのような薄さ。半月状のものが4枚。

「柑橘類のサラダ」…レモンのような果物が乱切りにしてある。赤い木の実がその上に。

~わかめパン~

見た目は平たい焦げたメロンパン。表面にわかめが目立つ…。

ううむ、わかめパンはともかくとして…乙女定食はどれも美味そうだ。しかし…

ベローズ「いつも思うが、乙女定食はどこが乙女なんだ?乙女、ってボリュームじゃないだろう、これは」

…やはりそう思われていたんだな。

エイミー「い、いいの!乙女だって食べたいときはあるの!」

レド「エイミー、ムキになる、なんで」

さて、まずは餡かけから…うむ、この味付けは醤油ベースか?いや、魚醤かな。

とにかく、日本人好みだ。魚自体も白身で淡泊かと思いきや、味が濃い。

この薄焼きのパンとも合うが…やはり白飯が欲しい味だ。

スープは…いい出汁だ。あさりの酒蒸しとブイヤベースと中間といったところか。当然パンとも合う。

ピニオン「おうレド、ここにいたか。ちょっとブリキ野郎を貸してくんねえか?」

ベローズ「横入りすんなよピニオン。先約はアタシだ。次の潜水が終わるまで待てよ」

ピニオン「固いこと言うんじゃねえよ、なあレド?」

レド「チェインバー、今は無理。魚を獲っている」

パンを全部食べてしまった。となると、こいつの出番か。

ううむ、小麦が穫れるなら、わざわざわかめを混ぜ込む必要は無いと思うんだがなあ…

レド「…」ジー

エイミー「レド?イノカシラさんをじーっと見て…どうしたの?」

ベローズ&ピニオン「??」

五郎「はぐっ」

!これは…

五郎「うまい」

レド「イノカシラは、仲間!」

ベローズ「ああ、同好の志が欲しかったんだな…」

なんだ これは!磯臭くて塩辛いのを想像していたが、

わかめのヌメりがもちもち感を引き出しているのか…表面がカリッとしていてメリハリも利いてる。

俄然、食が進むぞ…!

五郎「もぐはふむしゃ…」

エイミー「ここの食事、気に入ってもらえたみたいだね」

ピニオン「よく食うオッサンだぜ」

~数分後~

五郎「ふう。うまかった…」

『レド少尉。間もなく私の任務が完了する。合流を求む』

レド「了解だ、今行く」ガタッ

ピニオン「おっ、ブリキ野郎んとこ行くか」

エイミー「イノカシラさん、良かったら来ませんか?チェインバーにも会ってもらいたいんです」

五郎「ああ、はい」

チェインバー、レド君の友達か?魚を獲っていると言っていたが…。

~数分後、漁船上にて~

レド「もうすぐ、海から上がってくる」

五郎「海から?」

素潜り漁だったのか。

ゴゴゴゴゴ…

?何だこの音は

バッシャーン!!!!

五郎「うわっ!!」

何だ!?海水の渦が宙に浮き上がって…

五郎「いてっ!」

頭に何か当たって…魚が降ってきた!

渦から出てきたのは…黒いロボット!?

チェインバー『超、大漁』

ピニオン「おおー!やるじゃねえか!」

何だこれは…ユンボロは空も飛ぶのか…この魚、半分すり身じゃないか…。

レド「おい!このやり方で前失敗しただろチェインバー!?」

チェインバー『問題ない。今回の収穫物は当初より、すり身に加工して運用する予定』

ベローズ「いや…下ごしらえしてすり身にしたほうが絶対美味いだろ…」

エイミー「これじゃ生臭くて食べられないよ…」

チェインバー『…』

レド「何とか言え」

チェインバー『…貴官らの論理に破綻は無い』

俺は…夢でも見ているようだ…。

~夕刻、帰りの船にて~

あの後、ベロースさんとピニオン(と言ったか、あのロカビリー風の若者)

がチェインバーの取り合いでじゃれ合ったり、

エイミーさんとレド君に船を案内してもらったり。

見送りまで、随分良くしてもらった。

五郎「おや、あれは…」

チェインバーが海面近くを飛んでいる。セイルボードには…エイミーさんか。チェインバーの中にはレド君もいるのだろう。

五郎「お、エイミーさんが、飛んでった…」

あのハンググライダー、セイルボードに変形するのか。

五郎「…平塚や茅ヶ崎あたりに持っていったら、サーファー達にウケるかもしれん…」

…夕日が差す船内で、俺は想像する。

あの船団と共に世界中を旅しながら、

引き揚げられた調度を売る生活というのは、どうだろうか。

あの賑やかな若者達との距離を測りながら、

湿気と悪戦苦闘しながら…。そんな人生は、重いのだろうか。軽いのだろうか。

〈完〉

短いですがお付き合いありがとうございます。

最近リリースされた両者の新作に触発されました。

『孤独のグルメ 二巻』と『翠星のガルガンティア -遥か、邂逅の天地- 上』は好評発売中です。

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